2ちゃんねる スマホ用 ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50    

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ほーほーほー

1 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/01/30(土) 02:26:03.12 .net
って鳴く鳥がいる、怖い

20 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/06(火) 19:16:11.79 ID:KBsJMnLp.net
二年前ある人の使に帝国ホテルへ行った時は錠前直しと間違えられた事がある。
ケットを被って、鎌倉の大仏を見物した時は車屋から親方と云われた。
その外今日まで見損われた事は随分あるが、まだおれをつらまえて大分ご風流でいらっしゃると云ったものはない。
大抵はなりや様子でも分る。
風流人なんていうものは、画を見ても、頭巾を被るか短冊を持ってるものだ。
このおれを風流人だなどと真面目に云うものはただの曲者じゃない。
おれはそんな呑気な隠居のやるような事は嫌いだと云ったら、亭主はへへへへと笑いながら、いえ始めから好きなものは、
どなたもございませんが、いったんこの道にはいるとなかなか出られませんと一人で茶を注いで妙な手付をして飲んでいる。
実はゆうべ茶を買ってくれと頼んでおいたのだが、こんな苦い濃い茶はいやだ。
一杯飲むと胃に答えるような気がする。
今度からもっと苦くないのを買ってくれと云ったら、かしこまりましたとまた一杯しぼって飲んだ。
人の茶だと思って無暗に飲む奴だ。
主人が引き下がってから、明日の下読をしてすぐ寝てしまった。

21 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/06(火) 19:26:35.54 ID:KBsJMnLp.net
それから毎日毎日学校へ出ては規則通り働く、毎日毎日帰って来ると主人がお茶を入れましょうと出てくる。
一週間ばかりしたら学校の様子もひと通りは飲み込めたし、宿の夫婦の人物も大概は分った。
ほかの教師に聞いてみると辞令を受けて一週間から一ヶ月ぐらいの間は自分の評判がいいだろうか、悪るいだろうか非常に気に掛かるそうであるが、おれは一向そんな感じはなかった。
教場で折々しくじるとその時だけはやな心持ちだが三十分ばかり立つと奇麗に消えてしまう。
おれは何事によらず長く心配しようと思っても心配が出来ない男だ。
教場のしくじりが生徒にどんな影響を与えて、その影響が校長や教頭にどんな反応を呈するかまるで無頓着であった。

22 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/06(火) 19:27:24.70 ID:KBsJMnLp.net
現在、「三」の途中。

23 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/07(水) 17:46:00.88 ID:EvgNOv5B.net
おれは前に云う通りあまり度胸の据った男ではないのだが、思い切りはすこぶるいい人間である。
この学校がいけなければすぐどっかへ行く覚悟でいたから、狸も赤シャツも、ちっとも恐しくはなかった。
まして教場の小僧共なんかには愛嬌もお世辞も使う気になれなかった。
学校はそれでいいのだが下宿の方はそうはいかなかった。
亭主が茶を飲みに来るだけなら我慢もするが、いろいろな者を持ってくる。
始めに持って来たのは何でも印材で、十ばかり並べておいて、みんなで三円なら安い物だお買いなさいと云う。

24 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/07(水) 18:03:35.08 ID:EvgNOv5B.net
田舎巡りのヘボ絵師じゃあるまいし、そんなものは入らないと云ったら、今度は華山とか何とか云う男の花鳥の掛物をもって来た。
自分で床の間へかけて、いい出来じゃありませんかと云うから、そうかなと好加減に挨拶をすると、華山には二人ある、一人は何とか華山で、一人は何とか華山ですが、この幅はその何とか華山の方だと、くだらない講釈をしたあとで、どうです、あなたなら十五円にしておきます。
お買いなさいと催促をする。
金がないと断わると、金なんか、いつでもようございますとなかなか頑固だ。
金があつても買わないんだと、その時は追っ払っちまった。
その次には鬼瓦ぐらいな大硯を担ぎ込んだ。
これは端渓です、端渓ですと二遍も三遍も端渓がるから、面白半分に端渓た何だいと聞いたら、すぐ講釈を始め出した。
端渓には上層中層下層とあって、今時のものはみんな上層ですが、これはたしかに中層です、この眼をご覧なさい。
眼が三つあるのは珍らしい。
溌墨の具合も至極よろしい、試してご覧なさいと、おれの前へ大きな硯を突きつける。
いくらだと聞くと、持主が志那から持って帰って来て是非売りたいと云いますから、お安くして三十円にしておきましょうかと云う。
この男は馬鹿に相違ない。
学校の方はどうかこうか無事に勤まりそうだが、こう骨董責めに逢ってはとても長く続きそうにない。

25 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/07(水) 23:37:06.21 ID:naqUTms5.net
┌─┴─‐┐          ─◇
│| ̄ ̄ ̄|│              /
│|___|..|  __   ♪       
└────.'´ 、`ヽ ホ〜〜ホ〜〜♪ホ〜タル来い〜〜〜〜♪
       i  人ヽリ)  ♪
  ♪   イw( ´ヮ`ハ __    __
        !`つ¶トi. /\_\ |[l O |
   ♪   ((く/_i_i_>) \/__/. |┌┐|
          し'ノ    __ll__  |└┘|
 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

26 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/09(金) 15:12:31.47 ID:2PhFmWVA.net
そのうち学校もいやになった。
ある日の晩大町と云う所を散歩していたら郵便局の隣に蕎麦とかいて、下に東京と注を加えた看板があった。
おれは蕎麦が大好きである。
東京に居った時でも蕎麦屋の前を通って薬味の香いをかぐと、どうしても暖簾がくぐりたくなった。
今日までは数学と骨董で蕎麦を忘れていたが、こうして看板を見ると素通りが出来なくなる。
ついでだから一杯食って行こうと思って上がり込んだ。
見ると看板ほどでもない。
東京と断わる以上はもう少し奇麗にしそうなものだが、東京を知らないのか、金がないのか、滅法きたない。
畳は色が変ってお負けに砂でざらざらしている。
壁は煤で真黒だ。
天井はランプの油烟で燻ぼってるのみか、低くって、思わず首を縮めるくらいだ。
ただ麗々と蕎麦の名前をかいて張り付けたねだん付けだけは全く新しい。
何でも古いうちを買って二三日前から開業したに違いなかろう。
ねだん付の第一号に天麩羅とある。
おい天麩羅を持ってこいと大きな声を出した。
するとこの時まで隅の方に三人かたまって、何かつるつる、ちゅうちゅう食ってた連中が、ひとしくおれの方を見た。
部屋が暗いので、ちょっと気がつかなかったが顔を合せると、みんな学校の生徒である。
先方で挨拶をしたから、おれも挨拶をした。
その晩は久し振に蕎麦を食ったので、旨かったから天麩羅を四杯平げた。

27 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/09(金) 15:29:22.75 ID:2PhFmWVA.net
翌日何の気もなく教場へはいると、黒板一杯ぐらいな大きな字で、天麩羅先生とかいてある。
おれの顔を見てみんなわあと笑った。
おれは馬鹿馬鹿しいから、天麩羅を食っちゃ可笑しいかと聞いた。
すると生徒の一人が、しかし四杯は過ぎるぞな、もし、と云った。
四杯食おうが五杯食おうがおれの銭でおれが食うのに文句があるもんかと、さっさと講義を済まして控所へ帰って来た。
十分立って次の教場へ出ると一つ天麩羅四杯なり。但し笑うべからず。と黒板にかいてある。
さっきは別に腹も立たなかったが今度は癪に障った。
冗談も度を過ごせばいたずらだ。
焼餅の黒焦のようなもので誰も賞め手はない。
田舎者はこの呼吸が分からないからどこまで押して行っても構わないと云う了見だろう。
一時間あるくと見物する町もないような狭い都に住んで、外に何にも芸がないから、天麩羅事件を日露戦争のように触れちらかすんだろう。
憐れな奴等だ。小供の時から、こんなに教育されるから、いやにひねっこびた、植木鉢の楓みたような小人が出来るんだ。

28 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/09(金) 17:31:41.42 ID:2PhFmWVA.net
続き

29 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/09(金) 17:41:24.60 ID:2PhFmWVA.net
無邪気ならいっしょに笑ってもいいが、こりゃなんだ。
小供の癖に乙に毒気を持ってる。
おれはだまって、天麩羅を消して、こんないたずらが面白いか、卑怯な冗談だ。
君等は卑怯と云う意味を知ってるか、と云ったら、自分がした事を笑われて怒るのが卑怯じゃろうがな、もしと答えた奴がある。
やな奴だ。わざわざ東京から、こんな奴を教えに来たのかと思ったら情なくなった。
余計な減らず口を利かないで勉強しろと云って、授業を始めてしまった。
それから次の教場へ出たら天麩羅を食うと減らず口が利きたくなるものなりと書いてある。
どうも始末に終えない。
あんまり腹が立ったから、そんな生意気な奴は教えないと云ってすたすた帰って来てやった。
生徒は休みになって喜んだそうだ。
こうなると学校より骨董の方がまだましだ。

30 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/10(土) 15:05:59.20 ID:oDqJGteX.net
続き

31 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/10(土) 15:27:49.36 ID:oDqJGteX.net
天麩羅蕎麦もうちへ帰って、一晩寝たらそんなに癇癪に障らなくなった。
学校へ出てみると、生徒も出ている。
何だか訳が分らない。
それから三日ばかりは無事であったが、四日目の晩に住田と云う所へ行って団子を食った。
この住田と云う所は温泉のある町で城下から汽車だと十分ばかり、歩いて三十分で行かれる、料理屋も温泉宿も、公園もある上に遊郭がある。
おれのはいった団子屋は遊郭の入口にあって、大変うまいと評判だから、温泉に行った帰りがけにちょっと食ってみた。
今度は生徒にも逢わなかったから、誰も知るまいと思って、翌日学校へ行って、翌日学校へ行って、一時間目の教場へはいると団子二皿七銭と書いてある。実際おれは二皿食って七銭払った。
どうも厄介な奴等だ。
二時間目にもきっと何かあると思うと遊郭の団子旨い旨いと書いてある。
あきれ返った奴等だ。
団子がそれで済んだと思ったら今度は赤手拭と云うのが評判になった。
何の事だと思ったら、つまらない来歴だ。
おれはここへ来てから、毎日住田の温泉へ行く事に極めている。
ほかの所は何を見ても東京の足元にも及ばないが温泉だけは立派なものだ。
せっかく来た者だから毎日はいってやろうという気で、晩飯前に運動かたがた出掛る。
ところが行くときは必ず西洋手拭の大きな奴をぶら下げて行く。
この手拭が湯に染った上へ、赤い縞が流れ出したのでちょっと見ると紅色に見える。
おれはこの手拭を行きも帰りも、汽車に乗ってもあるいても、常にぶら下げている。
それで生徒がおれの事を赤手拭赤手拭と云うんだそうだ。
どうも狭い土地に住んでるとうるさいものだ。

32 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/11(日) 17:47:17.15 ID:BAfl/ZSP.net
https://i.imgur.com/UKaIITz.jpg

33 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/12(月) 09:10:35.41 ID:vMOnH781.net
続き

34 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/12(月) 09:28:54.16 ID:vMOnH781.net
まだある。温泉は三階の新築で上等は浴衣をかして、流しをつけて八銭で済む。
その上に女が天目へ茶を載せて出す。
おれはいつでも上等へはいった。
すると四十円の月給で毎日上等へはいるのは贅沢だと云い出した。
余計なお世話だ。まだある。
湯壺は花崗石を畳み上げて、十五畳敷ぐらいの広さに仕切ってある。
大抵は十三四人漬ってるがたまには誰も居ない事がある。
深さは立って乳の辺りまであるから、運動のために、湯の中を泳ぐのはなかなか愉快だ。
おれは人の居ないのを見済しては十五畳の湯壺を泳ぎ巡って喜んでいた。
ところがある日三階から威勢よく下りて今日も泳げるかなとざくろ口を覗いてみると、大きな札へ黒々と湯の中で泳ぐべからずとかいて貼りつけてある。
湯の中で泳ぐものは、あまりあるまいから、この貼札はおれのために特別の新調したのかも知れない。
おれはそれから泳ぐのは断念した。
泳ぐのは断念したが、学校へ出てみると、例の通り黒板に湯の中で泳ぐべからずと書いてあるには驚ろいた。
何だか生徒全体がおれ一人を探偵しているように思われた。くさくさした。
生徒が何を云ったって、やろうと思ったことをやめるようなおれではないが、何でこんな狭苦しい鼻の先がつかえるような所へ来たのかと思うと情なくなった。
それでうちへ帰ると相変らず骨董責めである。

35 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/14(水) 16:38:15.99 ID:IY7okpzH.net
続き

四の始めから

36 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/14(水) 16:56:35.79 ID:IY7okpzH.net
学校には宿直があって、職員が代る代るこれをつとめる。
但し狸と赤シャツは例外である。
何でこの両人が当然の義務を免かれるのかと聞いてみたら、奏任待遇だからと云う。
面白くもない。月給はたくさんとる、時間は少ない、それで宿直を逃がれるなんて不公平があるものか。
勝手な規則をこしらえて、それが当り前だというような顔をしている。
よくまああんなにずうずうしく出来るものだ。
これについては大分不平であるが、山嵐の説によると、いくら一人で不平を並べたって通るものじゃないそうだ。
一人だって二人だって正しい事なら通りそうなものだ。
山嵐は might is right という英語を引いて説諭を加えたが、何だか要領を得ないから、聞き返してみたら強者の権利と云う意味だそうだ。
強者の権利ぐらいなら昔から知っている。
今さら山嵐から講釈をきかなくってもいい。
強者の権利と宿直とは別問題だ。
狸や赤シャツが強者だなんて、誰が承知するものか。
議論は議論としてこの宿直がいよいよおれの番に廻って来た。
一体疳性だから夜具蒲団などは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。
小供の時から、友達のうちへ泊った事はほとんどないくらいだ。
友達のうちでさえ厭なら学校の宿直はなおさら厭だ。
厭だけれども、これが四十円のうちへ籠っているなら仕方がない。
我慢して勤めてやろう。

37 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/16(金) 16:25:55.08 ID:qGdgZCih.net
続き

38 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/16(金) 16:40:08.39 ID:qGdgZCih.net
教師も生徒も帰ってしまったあとで、一人ぽかんとしているのは随分間が抜けたものだ。
宿直部屋は教場の裏手にある寄宿舎の西はずれの一室だ。
ちょっとはいってみたが、西日をまともに受けて、苦しくって居たたまれない。
田舎だけあって秋がきても、気長に暑いもんだ。
生徒の賄を取りよせて晩飯を済ましたが、まずいには恐れ入った。
よくあんなものを食って、あれだけに暴れられたもんだ。
それで晩飯を急いで四時半に片付けてしまうんだから豪傑に違いない。
飯は食ったが、まだ日が暮れないから寝る訳には行かない。
ちょっと温泉に行きたくなった。
宿直をして、外へ出るのはいい事だか、悪るい事だかしらないが、こうつくねんとして重禁錮同様な憂目に逢うのは我慢の出来るもんじゃない。
始めて学校へ来た時宿直の人はと聞いたら、ちょっと用達に出たと小使が答えたのを妙だと思ったが、自分に番が廻ってみると思い当る。
出る方が正しいのだ。
おれは小使にちょっと出てくると云ったら、何かご用ですかと聞くから、用じゃない、温泉へはいるんだと答えて、さっさと出掛けた。
赤手拭は宿へ忘れて来たのが残念だが今日は先方で借りるとしよう。

39 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/16(金) 16:48:45.35 ID:qGdgZCih.net
それからかなりゆるりと、出たりはいったりして、ようやく日暮方になったから、汽車へ乗って古町の停車場まで来て下りた。
学校まではこれから四丁だ。
訳はないとあるき出すと、向うから狸が来た。
狸はこれからこの汽車で温泉へ行こうと云う計画なんだろう。
すたすた急ぎ足にやってきたが、擦れ違った時おれの顔を見たから、ちょっと挨拶をした。
すると狸はあなたは今日は宿直ではなかったですかねえと真面目くさって聞いた。
なかったですかねえもないもんだ。
二時間前おれに向って今夜は始めての宿直ですね。ご苦労さま。と礼を云ったじゃないか。
校長なんかになるといやに曲りくねった言葉を使うもんだ。

40 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/17(土) 12:27:55.59 ID:q4BxaD2m.net
続き

41 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/17(土) 12:40:46.94 ID:q4BxaD2m.net
おれは腹が立ったから、ええ宿直です。宿直ですから、これから帰って泊る事はたしかに泊りますと云い捨てて済ましてあるき出した。
竪町の四つ角までくると今度は山嵐に出っ喰わした。どうも狭い所だ。
出てあるきさえすれば必ず誰かに逢う。
「おい君は宿直じゃないか」と聞くから「うん、宿直だ」と答えたら、「宿直が無暗に出てあるくなんて、不都合じゃないか」と云った。
「ちっとも不都合なもんか、出てあるかない方が不都合だ」と威張ってみせた。
「君のずぼらにも困るな、校長か教頭に出逢うと面倒だぜ」と山嵐に似合わない事を云うから「校長にはたった今逢った。暑い時には散歩でもしないと宿直も骨でしょうと校長が、おれの散歩をほめたよ」と云って、面倒臭いから、さっさと学校へ帰って来た。

42 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/17(土) 12:51:00.11 ID:q4BxaD2m.net
それから日はすぐくれる。くれてから二時間ばかりは小使を宿直部屋へ呼んで話をしたが、それも飽きたから、寝られないまでも床へはいろうと思って、寝巻に着換えて、蚊帳を捲くって、赤い毛布を跳ねのけて、とんと尻持を突いて、仰向けになった。
おれが寝るときにとんと尻持をつくのは小供の時からの癖だ。
わるい癖だと云って小川町の下宿に居た時分、二階下に居た法律学校の書生が苦情を持ち込んだ事がある。
法律の書生なんてものは弱い癖に、やに口が達者なもので、愚な事を長たらしく述べ立てるから、寝る時にどんどん音がするのはおれの尻がわるいのじゃない。下宿の建築が粗末なんだ。
掛ケ合うなら下宿へ掛ケ合えと凹ましてやった。

43 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/17(土) 15:04:49.69 ID:q4BxaD2m.net
この宿直部屋は二階じゃないから、いくら、どしんと倒れても構わない。
なるべく勢よく倒れないと寝たような心持ちがしない。
ああ愉快だと足をうんと延ばすと、何だか両足へ飛び付いた。
ざらざらして蚤のようでもないからこいつあと驚ろいて、足を二三度毛布の中で振ってみた。
するとざらざらと当ったものが、急に殖え出して脛が五六カ所、股が二三カ所、尻の下でぐちゃりと踏み潰したのが一つ、臍の所まで飛び上がったのが一つーーいよいよ驚ろいた。
早速起き上って、毛布をぱっと後ろへ抛ると、蒲団の中から、バッタが五六十飛び出した。
正体の知れない時は多少気味が悪るかったが、バッタと相場が極まってみたら急に腹が立った。
バッタの癖に人を驚ろかしやがって、どうするか見ろと、いきなり括り枕を取って、二三度擲きつけたが、相手が小さ過ぎるから勢よく抛げつける割に利目がない。
仕方がないから、また布団の上へ坐って、煤掃の時に蓙を丸めて畳を叩くように、そこら近辺を無暗にたたいた。

44 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/17(土) 15:16:09.60 ID:q4BxaD2m.net
バッタが驚ろいた上に、枕の勢で飛び上がるものだから、おれの肩だの、頭だの鼻の先だのへくっ付いたり、ぶつかったりする。
顔へ付いた奴は枕で叩く訳には行かないから、手で攫んで、一生懸命に擲きつける。
忌々しい事に、いくら力を出しても、ぶつかる先が蚊帳だから、ふわりと動くだけで少しも手答がない。
バッタは擲きつけられたまま蚊帳へつらまっている。
死にもどうもしない。
ようやくの事に三十分ばかりでバッタは退治た。
箒を持って来てバッタの死骸を掃き出した。
小使が来て何ですかと云うから、何ですかもあるもんか、バッタを床の中に飼っとく奴がどこの国にある。間抜め。と叱ったら、私は存じませんと弁解をした。
存じませんで済むかと箒を椽側へ抛り出したら、小使は恐る恐る箒を担いで帰って行った。

45 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/17(土) 16:18:46.51 ID:q4BxaD2m.net
おれは早速寄宿生を三人ばかり総代に呼び出した。
すると六人出て来た。
六人だろうが十人だろうが構うものか。
寝巻のまま腕まくりをして談判を始めた。
「なんでバッタなんか、おれの床の中へ入れた」
「バッタた何ぞな」と真先の一人がいった。
やに落ち付いていやがる。
この学校じゃ校長ばかりじゃない、生徒まで曲りくねった言葉を使うんだろう。
「バッタを知らないのか、知らなきゃ見せてやろう」と云ったが、生憎掃き出してしまって一匹もいない。
また小使を呼んで、「さっきのバッタを持ってこい」と云ったら、「もう掃溜へ棄ててしまいましたが、拾って参りましょうか」と聞いた。
「うんすぐ拾って来い」と云うと小使は急いで駆け出したが、やがて半紙の上へ十匹ばかり載せて来て「どうもお気の毒ですが、生憎夜でこれだけしか見当りません。あしたになりましたらもっと拾って参ります」と云う。
小使まで馬鹿だ。
おれはバッタの一つを生徒に見せて「バッタたこれだ、大きなずう体をして、バッタを知らないた、何の事だ」と云うと、一番左の方に居た顔の丸い奴が「そりゃ、イナゴぞな、もし」と生意気におれを遣り込めた。
「箆棒め、イナゴもバッタも同じもんだ。第一先生を捕まえてなもした何だ。菜飯は田楽の時より外に食うもんじゃない」とあべこべに遣り込めてやったら「なもしと菜飯は違うぞな、もし」と云った。
いつまで行ってもなもしを使う奴だ。
「イナゴでもバッタでも、何でおれの床へ入れたんだ。おれがいつ、バッタを入れてくれと頼んだ」
「誰も入れやせんがな」
「入れないものが、どうして床の中に居るんだ」
「イナゴは温い所が好きじゃけれ、大方一人でおはいりたのじゃあろ」
「馬鹿あ云え。バッタが一人でおはいりになるなんてーーバッタにおはいりになられてたまるもんか。ーーさあなぜこんないたずらをしたか、云え」
「云えてて、入れんものを説明しようがないがな」

46 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/20(火) 17:39:07.19 ID:ewl83pmK.net
続き

47 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/20(火) 17:55:59.18 ID:ewl83pmK.net
けちな奴等だ。自分で自分のした事が云えないくらいなら、てんでしないがいい。
証拠さえ挙がらなければ、しらを切るつもりで図太く構えていやがる。
おれだって中学に居た時分は少しはいたずらもしたもんだ。
しかしだれがしたと聞かれた時に、尻込みをするような卑怯な事はただの一度もなかった。
したものはしたので、しないものはしないに極ってる。
おれなんぞは、いくら、いたずらをしたって潔白なものだ。
嘘を吐いて罰を逃げるくらいなら、始めからいたずらなんかやるものか。
いたずらと罰はつきもんだ。
罰があるからいたずらも心持ちよく出来る。
いたずらだけで罰はご免蒙るなんて下劣な根性がどこの国に流行ると思ってるんだ。
金は借りるが、返す事はご免だと云う連中はみんな、こんな奴等が卒業してやる仕事に相違ない。
全体中学校へ何しにはいってるんだ。
学校へはいって、嘘を吐いて、胡魔化して、蔭でこせこせ生意気な悪いたずらをして、そうして大きな面で卒業すれば教育を受けたもんだと癇違いをしていやがる。
話せない雑兵だ。

48 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/20(火) 18:02:45.80 ID:ewl83pmK.net
おれはこんな腐った了見の奴等と談判するのは胸糞が悪るいから、
「そんなに云われなきゃ、聞かなくっていい。中学校へはいって、上品も下品も区別が出来ないのは気の毒なものだ」
と云って六人を逐っ放してやった。
おれは言葉や様子こそあまり上品じゃないが、心はこいつらよりも遥かに上品なつもりだ。
六人は悠々と引き揚げた。
上部だけは教師のおれよりよっぽどえらく見える。
実は落ち付いているだけなお悪るい。
おれには到底これほどの度胸はない。

49 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/27(火) 22:59:55.00 ID:ElV+O4Zo.net
ホーホーッホホー

50 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/27(火) 23:00:07.41 ID:ElV+O4Zo.net
フクロウ

51 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/29(木) 06:58:55.26 ID:2OzHFehy.net
続き

52 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/29(木) 07:16:02.39 ID:2OzHFehy.net
それからまた床へはいって横になったら、さっきの騒動で蚊帳の中はぶんぶん唸っている。
手燭をつけて一匹ずつ焼くなんて面倒な事は出来ないから、釣手をはずして、長く畳んでおいて部屋の中で横竪十文字に振ったら、環が飛んで手の甲をいやというほど撲った。
三度目に床へはいった時は少々落ち付いたがなかなか寝られない。
時計を見ると十時半だ。
考えてみると厄介な所へ来たもんだ。
一体中学の先生なんて、どこへ行っても、こんなものを相手にするなら気の毒なものだ。
よく先生が品切れにならない。よっぽど辛防強い朴念仁がなるんだろう。
おれには到底やり切れない。それを思うと清なんてのは見上げたものだ。
教育も身分もない婆さんだが、人間としてはすこぶる尊とい。
今まではあんなに世話になって別段有難いとも思わなかったが、こうして、一人で遠国へ来てみると、始めてあの親切がわかる。
越後の笹飴が食いたければ、わざわざ越後まで買いに行って食わしてやっても、食わせるだけの価値は充分ある。
清はおれの事を欲がなくって、真直な気性だと云って、ほめるが、ほめるならおれよりも、ほめる本人の方が立派な人間だ。
何だか清に逢いたくなった。

53 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/29(木) 07:33:06.15 ID:2OzHFehy.net
清の事を考えながら、のつそつしていると、突然おれの頭の上で、数で云ったら三四十人もあろうか、二階が落っこちるほどどん、どん、どんと拍子を取って床板を踏みならす音がした。
すると足音に比例した大きな鬨の声が起った。
おれは何事が持ち上がったのかと驚ろいて飛び起きた。飛び起きる途端に、ははあさっきの意趣返しに生徒があばれるのだなと気がついた。
手前のわるい事は悪るかったと言ってしまわないうちは罪は消えないもんだ。
わるい事は、手前達に覚えがあるだろう。
本来なら寝てから後悔してあしたの朝でもあやまりに来るのが本筋だ。
たとい、あやまらないまでも恐れ入って、静粛に寝ているべきだ。
それを何だこの騒ぎは。
寄宿舎を建てて豚でも飼っておきあしまいし。
気狂いじみた真似も大抵にするがいい。
どうするか見ろと、寝巻のまま宿直部屋を飛び出して、梯子段を三股半に二階まで踊り上がった。
すると不思議な事に、今まで頭の上で、たしかにどたばた暴れていたのが、急に静まり返って、人声どころか足音もしなくなった。
これは妙だ。
ランプはすでに消してあるから、暗くてどこに何が居るか判然と分らないが、人気のあるとないとは様子でも知れる。
長く東から西へ貫いた廊下には鼠一匹も隠れていない。

54 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/30(金) 14:16:10.83 ID:psVL8YRz.net
続き

55 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/30(金) 14:29:43.59 ID:psVL8YRz.net
廊下のはずれから月がさして、遥か向うが際どく明るい。
どうも変だ、おれは小供の時から、よく夢を見る癖があって、夢中に跳ね起きて、わからぬ寝言を云って、人に笑われた事がよくある。
十六七の時ダイヤモンドを拾った夢を見た晩なぞは、むくりと立ち上がって、そばに居た兄に、今のダイヤモンドはどうしたと、非常な勢で尋ねたくらいだ。
その時は三日ばかりうち中の笑い草になって大いに弱った。
ことによると今のも夢かも知れない。
しかしたしかにあばれたに違いないがと、廊下の真中で考え込んでいると、月のさしている向うのはずれで、一二三わあと、
三四十人の声がかたまって響いたかと思う間もなく、前のように拍子を取って、一同が床板を踏み鳴らした。
それ見ろ夢じゃないやっぱり事実だ。
静かにしろ、夜なかだぞ、とこっちも負けんくらいな声を出して、廊下を向うへ駆けだした。
おれの通る路は暗い、ただはずれに見える月あかりが目標だ。
おれが駆け出して二間も来たかと思うと、廊下の真中で、堅い大きなものに向脛をぶつけて、あ痛いが頭へひびく間に、身体はすとんと前へ抛り出された。

56 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/30(金) 15:47:58.50 ID:psVL8YRz.net
続き

57 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/30(金) 16:10:50.64 ID:psVL8YRz.net
こん畜生と起き上がってみたが、駆けられない。
気はせくが、足だけは云う事を利かない。
じれったいから、一本足で飛んで来たら、もう足音も人声も静まり返って、森としている。
いくら人間が卑怯だって、こんなに卑怯に出来るものじゃない。
まるで豚だ。
こうなれば隠れている奴を引きずり出して、あやまらせてやるまではひかないぞと、心を極めて寝室の一つを開けて中を検査しようと思ったが開かない。
錠をかけてあるのか、机か何かを積んで立て懸けてあるのか、押しても、押しても決して開かない。
今度は向う合せの北側の室を試みた。
開かない事はやっぱり同然である。
おれが戸を開けて中に居る奴を引っ捕らまえてやろうと、焦慮てると、また東のはずれで鬨の声と足拍子が始まった。
この野郎申し合せて、東西相応じておれを馬鹿にする気だな、とは思ったがさてどうしていいか分らない。
正直に白状してしまうが、おれは勇気のある割合に智慧が足りない。
こんな時にはどうしていいかさっぱりわからない。
わからないけれども、決して負けるつもりはない。
このままに済ましてはおれの顔にかかわる。
江戸っ子は意気地がないと云われるのは残念だ。
宿直をして鼻垂れ小僧にからかわれて、手のつけようがなくって、仕方がないから泣き寝入りにしたと思われちゃ一生の名折れだ。
これでも元は旗本だ。
旗本の元は清和源氏で、多田の満仲の後裔だ。
こんな土百姓とは生まれからして違うんだ。
ただ智慧のないところが惜しいだけだ。
どうしていいか分らないのが困るだけだ。
困ったって負けるものか。
正直だから、どうしていいか分らないんだ。
世の中に正直が勝たないで、外に勝つものがあるか、考えてみろ。
今夜中に勝てなければ、あした勝つ。
あした勝てなければ、あさって勝つ。
あさって勝てなければ、下宿から弁当を取り寄せて勝つまでここに居る。
おれはこう決心をしたから、廊下の真中へあぐらをかいて夜のあけるのを待っていた。

58 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/04/30(金) 16:22:44.22 ID:psVL8YRz.net
蚊がぶんぶん来たけれども何ともなかった。
さっき、ぶつけた向脛を撫でてみると、何だかぬらぬらする。
血が出るんだろう。
血なんか出たければ勝手に出るがいい。
そのうち最前からの疲れが出て、ついうとうと寝てしまった。
何だか騒がしいので、眼が覚めた時はえっ糞しまったと飛び上がった。
おれの坐ってた右側にある戸が半分あいて、生徒が二人、おれの前に立っている。
おれは正気に返って、はっと思う途端に、おれの鼻の先にある生徒の足を引っ攫んで、力任せにぐいと引いたら、そいつは、どたりと仰向に倒れた。
ざまを見ろ。
残る一人がちょっと狼狽したところを、飛びかかって、肩を抑えて二三度こづき廻したら、あっけに取られて、眼をぱちぱちさせた。
さあおれの部屋まで来いと引っ立てると、弱虫だと見えて、一も二もなく尾いて来た。
夜はとうにあけている。

59 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/07(金) 10:24:33.31 ID:g7g9Hh5V.net
続き

60 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/07(金) 10:30:49.79 ID:g7g9Hh5V.net
おれが宿直部屋へ連れてきた奴を詰問し始めると、豚は、打っても擲いても豚だから、ただ知らんがなで、どこまでも通す了見と見えて、けっして白状しない。
そのうち一人来る、二人来る、だんだん二階から宿直部屋へ集まってくる。
見るとみんな眠そうに瞼をはらしている。けちな奴等だ。
一晩ぐらい寝ないで、そんな面をして男と云われるか。
面でも洗って議論に来いと云ってやったが、誰も面を洗いに行かない。

61 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/07(金) 10:34:52.45 ID:g7g9Hh5V.net
おれは五十人あまりを相手に約一時間ばかり押問答をしていると、ひょっくり狸がやって来た。
あとから聞いたら、小使が学校に騒動がありますって、わざわざ知らせに行ったのだそうだ。
これしきの事に、校長を呼ぶなんて意気地がなさ過ぎる。
それだから中学校の小使なんぞをしているんだ。

62 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/07(金) 10:49:48.45 ID:g7g9Hh5V.net
校長はひと通りおれの説明を聞いた。生徒の言草もちょっと聞いた。
追って処分するまでは、今まで通り学校へ出ろ。
早く顔を洗って、朝飯を食わないと時間に間に合わないから、早くしろと云って寄宿生をみんな放免した。
手温るい事だ。
おれなら即席に寄宿生をことごとく退校してしまう。
こんな悠長な事をするから生徒が宿直員を馬鹿にするんだ。
その上おれに向って、あなたもさぞご心配でお疲れでしょう、今日はご授業に及ばんと云うから、おれはこう答えた。
「いえ、ちっとも心配じゃありません。こんな事が毎晩あっても、命にある間は心配にゃなりません。授業はやります、
一晩ぐらい寝なくって、授業が出来ないくらいなら、頂戴した月給を学校の方へ割戻します」
校長は何と思ったものか、しばらくおれの顔を見つめていたが、しかし顔が大分はれていますよと注意した。
なるほど何だか少々重たい気がする。
その上べた一面痒い。蚊がよっぽと刺したに相違ない。
おれは顔中ぼりぼり搔きながら、顔はいくら腫れたって、口はたしかにきけますから、授業には差し支えませんと答えた。
校長は笑いながら、大分元気ですねと賞めた。
実を云うと賞めたんじゃあるまい、ひやかしたんだろう。

63 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/07(金) 12:14:34.72 ID:OMCkV2Sg.net
派遣2ヶ月目で仕事でようやく仕事を覚えた所、ルールを守れ!そのやり方は違う!次からは禁止だから!と叱られる
こうやってやれと教わったんだけどな〜と思いつつも、正しいやり方を教わる

3日後、叱った本人が叱られる原因となったやり方で普通に仕事をしている
俺があの〜そのやり方は禁止のハズじゃ・・・と言ったら
喧嘩売ってんのか?誰に向かって指図してるんだテメーと殴る蹴る暴力。周りの人は見て見ぬフリ

怖くなって課長に報告、翌日その本人から証拠はあるのか?次やったら弁護士を雇って訴えるからね!覚悟しろよお前!
とまた殴られる。周りの人たちはまた見て見ぬ振り。解ったか?

部長が直接来て解雇にされました。理由は言う事を聞かなくルール無用の仕事をしているとかで
今時こんな企業が存在する事に驚きです

64 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/13(木) 15:57:41.94 ID:T8zdsTOf.net
続き



65 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/13(木) 16:01:58.52 ID:T8zdsTOf.net
君釣りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた。
赤シャツは気味の悪るいように優しい声を出す男である。
まるで男だか女だか分りゃしない。
男なら男らしい声を出すもんだ。
ことに大学卒業生じゃないか。
物理学校でさえおれくらいな声が出るのに、文学士がこれじゃ見っともない。

66 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/13(木) 16:13:02.65 ID:T8zdsTOf.net
おれはそうですなあと進まない返事をしたら、君釣をした事がありますかと失敬な事を聞く。
あんまりないが、子供の時、小梅の釣堀で鮒を三匹釣った事がある。
それから神楽坂の毘沙門の縁日で八寸ばかりの鯉を針で引っかけて、しめたと思ったら、ぽちゃりと落としてしまったがこれは今考えても惜しいと云ったら、赤シャツは顋を前の方へ突き出してホホホホと笑った。
何もそう気取って笑わなくっても、よさそうな者だ。
「それじゃ、まだ釣りの味は分らんですな。お望みならちと伝授しましょう」
とすこぶる得意である。
だれがご伝授をうけるものか。
不人情でなくって、殺生をして喜ぶ訳がない。
魚だって、鳥だって殺されるより生きてる方が楽に極まってる。

67 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/17(月) 09:14:29.29 ID:WgEgnQHf.net
続き

68 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/05/17(月) 09:27:29.08 ID:WgEgnQHf.net
釣りや猟をしなくっちゃ活計がたたないなら格別だが、何不足なく暮している上に、生き物を殺さなくっちゃ寝られないなんて贅沢な話だ。
こう思ったが向うは文学士だけに口が達者だから、議論じゃ叶わないと思って、だまってた。
すると先生このおれを降参させたと疳違いして、早速伝授しましょう。
おひまなら、今日どうです、いっしょに行っちゃ。
吉川君と二人ぎりじゃ、淋しいから、来たまえとしきりに勧める。
吉川君というのは画学の教師で例の野だいこの事だ。
この野だは、どういう了見だか、赤シャツのうちへ朝夕出入して、どこへでも随行して行く。
まるで同輩じゃない。主従みたようだ。
赤シャツの行く所なら、野だは必ず行くに極っているんだから、今さら驚ろきもしないが、二人で行けば済むところを、なんで無愛想のおれへ口を掛けたんだろう。
大方高慢ちきな釣道楽で、自分の釣るところをおれに見せびらかすつもりなんかで誘ったに違いない。

69 :名無しさん@毎日が日曜日:2021/06/01(火) 13:26:40.36 ID:qhB7MrXD.net
続き

総レス数 69
43 KB
掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
read.cgi ver 2014.07.20.01.SC 2014/07/20 D ★