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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら19泊目
- 1 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2014/03/03(月) 18:15:32.53 ID:eTkUNJ9V0.net
- このスレは「もし目が覚めた時にそこがDQ世界の宿屋だったら」ということを想像して書き込むスレです。
「DQシリーズいずれかの短編/長編」「いずれのDQシリーズでもない短編/長編オリジナル」何でもどうぞ。
・基本ですが「荒らしはスルー」です。
・スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
・荒れそうな話題や続けたい雑談はスレ容量節約のため「避難所」を利用して下さい。
・レス数が1000になる前に500KB制限で落ちやすいので、スレが470KBを超えたら次スレを立てて下さい。
・混乱を防ぐため、書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップをつけて下さい。
・物語の続きをアップする場合はアンカー(「>>(半角)+最後に投稿したレス番号(半角数字)」)をつけると読み易くなります。
前スレ「もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら18泊目」
ttp://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1324047634/
PC版まとめ「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」保管庫@2ch
ttp://ifstory.ifdef.jp/
携帯版まとめ(PC版も有り)「DQ宿スレ@Mobile」
ttp://dqinn.rasny.net/
避難所「もし目が覚めたら、そこがDQ世界の宿屋だったら」(作品批評、雑談、連絡事項など)
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/40919/
ファイルアップローダー
ttp://u1.getuploader.com/ifdqstory
お絵かき掲示板
ttp://atpaint.jp/ifdqstory/
- 2 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/03(月) 19:08:46.01 ID:lhzaNDFHO.net
- もう一回寝る
- 3 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2014/03/03(月) 19:44:08.69 ID:eTkUNJ9V0.net
- 想像の勇者
目が覚めるとそこはドラクエ世界の宿屋。
メモ帳にそう一行書いたら、実際にドラクエの宿屋で目が覚めた。
どうして書いただけでこうなったかわからないが、ドラクエで遊ぶたびに不満や疑問があった。
自分なら絶対にもっと良い振舞い方が出来る─そういった想像ばかりしていた。
実際この世界へ入り込んだのは驚きだけど、夢か想像だろうしどうせだから思い通りにしてやろうと思った。
男は宿屋を出てまず城へ向かう。
ゲームなら勇者として僅かな道具を与えられほとんど着のまま外へ出されるはず。
その部分をまず正そうと思ったのだ。
「いや、お前を招いた覚えはない」
が、思い通りにいかなかった。
そもそも宿屋で突然現れ目覚めた男であって、勇者でもなんでもなかった。
衛兵にあっさり追い返される、名も知られていない一人の男であった。
いきなり計画を折られ途方に暮れていると、後ろから声がした。
「おーい。あんた、宿の代金もらってないぞ。さあ払いなさい」
宿屋の主人だ。
どうも急いできたらしく息が上がっている。
男は急いでポケットを探したが何一つ持っていない。
あれ、おかしいぞ、などと言ってみるが宿屋の主人はちっとも待ってくれなかった。
「衛兵さん。この男、金を払わず宿に泊まったんだ。捕まえて牢に放り込んでくれ」
「なんて大胆なやつだ。こっちへこい、逃げようとしても無理だぞ」
こうして、想像では与えられる僅かな道具を上手く言って良い物にしてやろうという企みは失敗に終わる。
金を持たず宿に泊まった代償は、じめじめした地下牢での三日間。
男は忘れていた。
城へ招かれるのは勇者だけだという事を。
- 4 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2014/03/03(月) 19:51:48.32 ID:eTkUNJ9V0.net
- 朝日の眩しい街へ釈放される。
なにせ地下牢というくらいだから本当に真っ暗だった。
食べ物は粗末だし、布団はただの藁だし良い事なんて一つも無かった。
ああ散々な目にあった。
俺もうかつだったな。前提として勇者じゃなきゃいけなかったんだ。
宿屋から始まる勇者がいても、いいと思うんだけどなあ。
仕方がない、王様から良い物をもらうのは諦めて、モンスターを倒しに行ってみるか。
ゲームだとスライムごときに苦戦したりするけど、きっとそうはならないはず。
男は心が高鳴っていた。
一番の目的はモンスターとの戦いだったからだ。
カラスやスライムなんて本当に雑魚で、獣だって剣や盾があれば敵ではないと想像していた。
町の外へ出て周りを見回す。
山と海と、それ以外にはなにも見当たらない。
そういえば町から出る途中、宿屋の主人に睨まれたが男は堂々と主人の前へ行きこう言った。
「今からモンスターを倒して山ほど金を持ってきてやる」
男は忘れていた。
王からもらう些細な道具には、武器があったという事を。
- 5 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2014/03/03(月) 19:55:23.52 ID:eTkUNJ9V0.net
- あっ、いたた…石ころを踏んでしまったぞ。
装備はボロと藁草履か。武器になる物を忘れてしまったな。
だけどなんとかなるだろう。想像通りなら体力が尽きるまで無傷で戦い続けられるはずだから。
なるべく平らな道を選びながら進んでいると目の前にスライムが二体、あらわれた。
想像より大きく、目はゲームより尖って鋭い。
口の中にはキバが見え知っている姿とずいぶん違った。
男は少したじろいだが、それでも果敢に襲い掛かった。
武器は無いから握りこぶしで殴りかかった。
が、腕を振り回すだけで何にも当たらない。
当たらないばかりか、横から背中から激しい攻撃を受けている。
スライムは基本的に体当たりばかりだったが、時折その歯で噛み付いた。
ものの数分で男は血だらけになりうずくまって動けなくなった。
意識がもう、ふらふらだ。
想像だともっと動けたはずだけど、俺は普段デスクワークだから体力が無いんだった。
それに、思ってたよりスライムは素早い。
やっぱりボロと武器無しじゃ無理があったかなあ。
ああ胸が苦しい。きっと肺や内臓が潰れてしまったんだろうなあ。
目の前のスライム、あいつの次の攻撃で俺はたぶん死んでしまう。
でも、死んでもまた教会からやり直せばいい。
次はちゃんと装備を揃えて─
二体のスライムが同時に体当たりし、鋭い歯で男の喉を食いちぎる。
消えていく意識の中で、男は生き返った後の事を繰り返し想像した。
だが二度と、ゲームの中から目覚める事は無かった。
男は、忘れていた。
教会で生き返る事が出来るのは、神の加護を受けた勇者とその仲間だけだという事を。
- 6 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2014/03/03(月) 19:58:00.89 ID:eTkUNJ9V0.net
- おしまい。
新スレ記念に数年ぶりに書いてみた。
またスレが活気付きますように。
- 7 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/04(火) 02:51:23.17 ID:4kxm6Y5CP.net
- >>6
乙です!
今アラサーの俺が、このスレ始まった時たしか高校生くらいだった
スレ落ちちゃって寂しいなと思ってたのでタカハシさんが戻ってきて感無量
また読ませてもらいます!
- 8 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/04(火) 14:11:59.69 ID:x8Bzl+Ms0.net
- つづきオナシャス
- 9 :タカハシ ◆2yD2HI9qc. :2014/03/04(火) 17:23:07.04 ID:1BE0NFXC0.net
- >>6
ありがとう。
このスレも初代1さんから数えて9年。歳を感じますよね。
でも、ドラクエはもっと続いていて、今後も展開していくと思うとすごい事です。
当時とは環境が変わりすぎてコンスタントに投下する事は難しいですが、当時の理想をいつか描ければと思います。
>>8
残念ながらこの主人公の冒険はここで終わったようです。
初代7さんを真似てみようと話を考えてみましたが、とても難しかったです。
書き出しは本当に悩むものですね。あえて言えばエンディングよりも。
いつか、新しい物語を続けられれば。
繰り返しになりますが、ここからまた新しい物語が語られることを祈っています。
- 10 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/12(水) 22:39:54.32 ID:7S3p7nzVO.net
- ☆age
- 11 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/16(日) 13:53:33.62 ID:0t6dUIZ80.net
- 保守
- 12 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 21:45:31.47 ID:AOSd79I9O.net
- 投下します。携帯なので改行が変かと思いますm(_ _)m
- 13 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 21:48:16.34 ID:AOSd79I9O.net
- (はて、面妖な…)
目覚めた老爺は部屋を見回し、そう思った。
昨夜は箱根の宿(しゅく)に宿をとり、供の者とともに温泉に浸かり
床に就いた筈…。
当然、旅籠の一室の中、畳の上に敷いた夜具にくるまれて
目覚めるべきなのだが。
着物は宿で出された浴衣ではあるが、部屋の様子は旅籠とは似ても似つかぬ、
何と言うか、長崎で見た南蛮屋敷の様な部屋である。
畳も無く、板張りの床の上に、これまた南蛮屋敷で見た
寝台の様な物の上で目覚めたのであった。
- 14 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 21:50:42.66 ID:AOSd79I9O.net
- (これは…。狐か狸にでも化かされましたかな?)
寝台の上に半身を起こし、再び部屋を見回してみる。
「ふうむ。起きてみたら肥溜めの中、という訳でも無い様ですな…」
寝台を軽く叩いてみ、床に降り立ち足を踏み鳴らして木の感触を確かめ、
そう呟いた。
何処かの草っぱらや打ち捨てられたあばら屋、ましてや肥溜めの中でもなく
ちゃんとした建物の中の様だ。
尤も見知らぬ南蛮屋敷(?)の中ではあるのだが…。
- 15 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 21:52:48.84 ID:AOSd79I9O.net
- 其処(そこ)へ…
「て、大変(てえへん)だー! 御隠居様ーー!!」
どたばたと、供の者の一人が息急ききって駆け込んで来る。
現れたのは、丸っこい体つきにこれまた丸っこくて人の良さそうな顔の、
小太りの男。
着物を端折って股引きを履いた、商家の手代が旅姿になった風である。
汗だくで肩で息をしながら部屋に飛び込んで来た途端、
その場にへたり込み
「てえへんなんですよう、御隠居様あ〜…」
と、半泣きで訴えかける。
- 16 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 21:55:05.05 ID:AOSd79I9O.net
- 「またお前さんの『大変だあ』ですか。狐にでも化かされましたかな?
少し落ち着きなさい」
老爺が笑いを噛み殺す。
「御隠居様は落ち着き過ぎですよぅ…。けど、外の様子を見れば
さしもの御隠居様も吃驚仰天…」
「(腰を抜かすどころかそのままポックリ…)」
「む、何か言いましたか!?」
最後の方は聞こえぬ様に口の中で呟いたのだが、
しっかり聞こえていたらしい。
この老爺、割と地獄耳である。
- 17 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 21:57:12.33 ID:AOSd79I9O.net
- 「へっ!? いえいえ、おいらは何も…」
言ってませんよ、と慌てて誤魔化す小太り。
「そうですか? まあ、そういう事にしておきましょう」
小太りが少しホッとする。
「そ、それより御隠居様! ほ、ほ、本当に大変なんですってば!」
どもりながら訴える小太り。
「まあ、少し落ち着きなさい。お前さんの言う『大変だあ』が何なのかくらい、
大体の見当は付きますよ」
と、小太りの慌てぶりに対し、老爺は余裕綽々である。
- 18 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 21:59:18.40 ID:AOSd79I9O.net
- 「ほ、本当ですかい!? 流石は御隠居様だ! そいつが判っててその余裕とは、
おいらにゃ到底真似出来ねえや!」
先程の失点を挽回しようと、やや大袈裟に老爺を持ち上げる小太り。
「ほっほっほっ。何事も平常心が肝心ですぞ」
と、白髭を撫でながら相好を崩す老爺。
この老爺、割と単純である。
「ところで、他の者達はどうしましたかな?」
と、老爺が訊ねる。
- 19 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:01:58.69 ID:AOSd79I9O.net
- 「へい、それが少し外の様子を見て来るって…。
みんな豪胆なんだか鈍感なんだか」
と、小太りが話している処へ…
「誰が鈍感だって」
そう言いながら、一人の男が部屋に入って来た。
「ひえっ!? あ、ああ、お帰りなさいやし」
のっそりと入って来たのは厳つい顔付きの大男。
小太りと同じ様な出で立ちで、やはり商家の手代風だ。
だが、筋肉隆々たる鍛え上げられた体である事は、着物の上からでも見て取れる。
- 20 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:04:23.68 ID:AOSd79I9O.net
- 大男は太い眉の下に鎮座する、ぎょろりとした目で小太りを一瞥すると、
それ以上頓着する事もなく老爺の方へ向い
「御隠居、お目覚めでしたか」
と、頭を下げる。
「うむ、して外の様子は」
「は、それが…」
大男の話によれば宿の中だけでなく、街の様子も箱根の宿場町とは一変して居り、
まるで南蛮にでも来たかと思うばかりだという。
「それに町人も皆、南蛮人のようですな。不思議と言葉は通じるようですが」
- 21 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:06:47.44 ID:AOSd79I9O.net
- 「ふうむ、益々もって奇っ怪な事ですな」
と、老爺は思案顔。
「こ、こりゃあ、あれですよ。ばてれんの妖術かなんかで南蛮に
拐(かどわ)かされて…」
小太りが震え出す。
「妖術なぞと言っても所詮、手妻で人を驚ろかすもの。
そんな事は出来はしませんわい」
老爺が一笑に付す。
「この奇っ怪な有り様、やはり狐が化か…」
そう老爺が言い掛けた処へ残りの供の者二人もやって来た。
- 22 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:08:59.67 ID:AOSd79I9O.net
- 「御隠居、お目覚めですか」
「お早うございます、御隠居様」
一人はやはり商家の手代風だが、小太りや大男とは違い、
すらりとした体躯に涼やかな目元の、なかなかの二枚目。
もう一人は女で、旅支度の町娘といった風情である。
尚、余談であるが、どこからどう見ても若い町娘に見えるこの女、
実はとうに還暦を過ぎているのであった。
正に妖怪とは女の事である。
- 23 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:11:39.53 ID:AOSd79I9O.net
- 「おお、二人とも参りましたか。して、何か判りましたかな」
二人の話によると、此処は“こなんべりい”という町で、
町の外には魔物が出るらしい事。
更に最近、近くに在る灯台に強い魔物が居座って船の航行を邪魔し、
町民一同難儀しているとの事。
だが、判ったのはそれくらいで、
何故老爺一行が箱根の宿からこの見も知らぬ場所へ一夜にして運ばれたのかについては、
何の手掛かりも得られなかった、という事である。
- 24 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:13:54.16 ID:AOSd79I9O.net
- 「ま、魔物ですかい!? こりゃあ、その魔物の祟りじゃあ、ありやせんか?」
またぞろ震え出す小太り。
「かっかっかっ! お前さんは先刻から妖術だ、魔物だ、祟りだと、
この年寄りより余程迷信深いと見えますな!」
またもや老爺が一笑に付す。
「妖術も魔物も祟りも有りゃしませんわい! これはですな…」
「これは…?」
一同、固唾を飲んで老爺の次の言葉を待つ。
- 25 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:16:24.76 ID:AOSd79I9O.net
- 「これは、狐 が 化 か し て い る に相違ありません!」
妖術や魔物や祟りは信じなくても、狐が化かす事は信じる老爺であった…。
小太りがおおっ! と目を見張る。が、他の三人は思わず顔を見合わせた。
魔物というのは大方、灯台を根城に悪事を働く輩が
余人を寄せ付けぬ為に流した噂であろう。
三人はそんな具合に考えて居たからだ。
- 26 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:18:43.16 ID:AOSd79I9O.net
- 「き、狐の仕業ですかい!」
小太りは合点が入った、という風に何度も頷く。
「狐ですと?」
ぎょろりと目をむき、疑り深そうな大男。
「狐…ねぇ」
やれやれ、といった風情の二枚目。
「狐でごさいますか?」
呆れ顔の町娘。
三人の頭に『呆け老人』の言葉が浮かんだのは秘密だ。
尚、繰り返しになるがこの町娘(に見える女)、
とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
- 27 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:20:56.50 ID:AOSd79I9O.net
- 「まあ、狐でなければ狸か狢(むじな)の類でしょうな!」
と、老爺は自説に自信満々である。
小太り以外は納得しかねるといった顔だが、
さりとて他にこの異様な有り様には説明が付かない。
現状を打破する方策の見当も付かず、取り敢えず狐のせいにしておこう、
と暗黙の了解が成り立った。
狐も迷惑な話である。
「では御隠居、その狐を探しに…」
と、二枚目が気乗りしない様子で言い掛けた時てある…。
- 28 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:23:38.20 ID:AOSd79I9O.net
- 皆が集まっていた老爺の寝台、
その木の枠へ空気を切り裂く音とともに何かが突き刺さった!
「あっ! 親分だ!!」
小太りが嬉しそうな声を出す。
見ると、木の枠には一本の風車が突き刺さっているではないか。
そして風車には一枚の紙切れが結ばれている。
これは矢文の風車版であろうか。
果たして老爺がその紙を抜き取り開いてみると、それは手紙であった。
ふむふむと手紙を読む老爺。
「御隠居、その文には何と?」
大男が訊ねる。
- 29 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:25:49.66 ID:AOSd79I9O.net
- 「皆の衆、やはり狐は灯台に在り、ですぞ!」
老爺がにんまりとする。
「本当ですかい!? 流石は親分だ!」
小太りが小躍りする。
(小太りが小躍り…メモっておこう)
「はあ、良うごさいましたな…」
二枚目が気の無い返事をする。
大男は仏頂面で黙っている。
「では御隠居様、これから早速…」
町娘も嫌そうであった。
尚、しつこい様だがこの町娘(に見える年増)、還暦をとうに過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
- 30 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:27:59.67 ID:AOSd79I9O.net
- という訳で一行は狐退治に出掛ける事と相成ったのである。。
さて、参るとしますかな、と老爺が音頭を取った、正にその時!
ぐうううぅ〜〜…
なんと、小太りの腹の虫が盛大に鳴った!
「御隠居様、御隠居様、その前に朝飯にしましょうや!」
何故か小太りは嬉しそうである。
「またお前さんの食いしん坊が始まりましたな」
老爺が顔を綻ばす。
何のかんの言って、小太りは老爺に目を掛けられているらしい。
- 31 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:30:06.52 ID:AOSd79I9O.net
- 「腹が減っては戦は出来ぬ、と申しますな」
と、大男が同意する。
「急いては事を仕損じる、とも申します」
二枚目も賛同する。
「朝餉抜きは美容にも悪うごさいます」
と、町娘。
どうやら小太り以外の三人は、事を出来るだけ先延ばしにしたい様子。
尚、くどいと思われるかもしれないがこの町娘(に見えるオバはん)、
とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
- 32 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:32:35.15 ID:AOSd79I9O.net
- 「御隠居様、この南蛮風の旅籠、二階が泊まり部屋で一階が飯屋になってるみたいですよ!」
こういう事に関しては目敏い小太り。
という事で旅支度を終えた一行は一階へ降りてみる事にした。
近隣の住民が朝餉を摂りに来ているらしく、飯屋の席は半分程埋まっている。
住民達はぞろぞろと降りて来た奇妙な風体の一行を見て目を丸くする。
中には子連れの客も居て、その子供などは
「うわー、ガイジンだー!」
等と此方を指差して居る。
- 33 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:37:19.74 ID:AOSd79I9O.net
- 「ねえ、御隠居様、ガイジンって何でしょうね?」
キョトンとする小太り。
「恐らく、異人という様な意味でしょうな」
と、老爺が応える。
「へっ!? 異人ですかい? そりゃこっちじゃなくて、そっちだろうに!」
小太りが素っ頓狂な声を上げる。
「おいおい、向こうからすれはば、こっちが異人だろう」
二枚目の言葉に一同が笑った。
「あ、そりゃそうだ」
小太りが額をぴしゃん、と叩き更に笑いが起きる。
- 34 : ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/17(月) 22:39:49.41 ID:AOSd79I9O.net
- 本日はここまでです。お目汚し失礼しましたm(_ _)m
- 35 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/17(月) 23:14:01.31 ID:aDEXw0+K0.net
- また独特な世界観ですね。
江戸時代風?のご隠居さん一行なのかな
楽しみにしてますよー
- 36 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/18(火) 13:07:42.82 ID:cwY5MR4/0.net
- ほぼまんま某越後のちりめん問屋のご隠居一行だwww
お銀は妖怪、ここ試験に出ます
- 37 : ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/19(水) 22:34:11.29 ID:tBw4UTqxO.net
- >>35
どうもです。
過疎ってるし、保守代わりにと書き始めただけなので、余り期待はしないで下さいw
>>36
まんま縮緬問屋の御隠居さんですw
女は化ける…w
- 38 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/19(水) 23:57:15.34 ID:tBw4UTqxO.net
- >>33の続き
そんな普段と変わらぬ遣り取りを交わしていると、店の者が注文を取りに来た。
と言っても、この様な処で何を頼んだら良いのか皆目判らない。
が、案ずるより生むが易し、この刻限では
朝の定食の様な物しか出していないらしい。
その“もうにんぐせつと”なるものを人数分注文した。
運ばれて来たのは魚と野菜がたっぷり入った汁、ぱんと呼ばれる南蛮饅頭に
牛酪(バター)を塗った物、牛の乳、それに果実を絞った汁であった。
- 39 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/19(水) 23:59:57.67 ID:tBw4UTqxO.net
- 食べ物の味付けが口に合うか危ぶまれたが、そうでも無かった様である。
港町らしく魚は新鮮で、野菜も旨い。
魚汁の味付けは後に赤茄子と呼ばれるトマトと塩胡椒であるが、
トマトが本邦に入って来るのは御一新後であり、
一行は未だ知らなかった味に舌鼓を打つ。
牛酪も牛の乳も抵抗なく口に出来た。
小太りは予想通りと言うか当然の如くだが、老爺も旺盛な食欲を見せる。
実はこの老爺、国表では牛肉を焼いた物や牛の乳、清国風の蕎麦等をこっそり食べて居る。
- 40 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:02:23.36 ID:IzIW3U+eO.net
- 余談であるが、かのジョン万次郎が仲間と共にメリケン船に助けられた折り、
肉のスープを出されたそうだ。
が、旨い旨いと食べたのは万次郎だけで、仲間達は『脂臭くて適わん』と、
殆ど手を付けなかったと云う。
鮪のトロでさえ、脂が敬遠されて畑の肥やしになっていた時代の人である。
南蛮風の食事に慣れている老爺や、何でも食べそうな小太りだけでなく、
全員が全て平らげたのは驚くべき事かも知れない。
尤も主菜が獣肉ではなく、魚だった事も幸いだったのかも知れぬ。
- 41 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:04:43.34 ID:tBw4UTqxO.net
- 食後にはホヲピ(コーヒー)が出された。
「へえ、これが南蛮人が良く飲む、ホヲピってやつですかい?」
小太りが早速口にするが
「うわっ! あちちっっ! にがっっ! あちっ! にがっ!」
と、大騒ぎだ。
「これこれ、そんなに慌てなさんな。これはこうして…」
老爺が乳酪(クリーム)と砂糖を入れてみせる。
「は〜、ひぬひゃとほもいひゃした…」
と、舌を火傷した小太りが言う。
これは『は〜、死ぬかと思いやした』であり、
決して『は〜、ひんぬー社とホモ居やした』ではない。
- 42 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:09:28.16 ID:IzIW3U+eO.net
- さて、ひんぬー社と云うひんぬー好きが集うふざけた社中が実在するかはさて置き、
その場に【踊り:ひんぬー社中の皆さん】は居なくてもホモは居たかも知れないので一応念を押してはみたが、
しかし当時本邦に男色を指してホモと言う語彙は未だ無かった筈であり従って小太りがホモなどと言うわけもなく、
これは余計な蛇足だったと気付いたが後の祭り、
しかも余計な蛇足などと馬から落馬みたいなお約束の突っ込み待ちをかましてはみたものの大して面白くも無い、
という後の祭りのダブルブッキングでもある、はは。
- 43 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:12:17.20 ID:IzIW3U+eO.net
- 皆、老爺に倣(なら)ってホヲピに乳酪をと砂糖を入れ、
その香りと甘さを味わい、心なしかほっとする。
小太りのどじっぷりも何時もと変わらぬ日常風景の様で心和んだ。
何だかんだと、やはり気を張っていたのだろう。
暫しの静寂が流れた後
「御隠居、件の狐めの事ですが」
頃は良し、と二枚目が口を開く。
老爺は無言で頷く。
「この在りようが狐の仕業かどうかはさて置き、
私めにはただ単に化かされているだけとは到底思えませぬ」
- 44 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:14:48.67 ID:IzIW3U+eO.net
- 「今食べた物にしろ、雑草やら馬糞やらをそう見せ掛けているのではなく、
確かな物でした」
「周りの町人どもも幻などではなく、本物の人であると思われます」
「この場所も始めは南蛮かとも思いましたが、
書物に記された様子とは違うように思います」
「これは何者かが手を下したかは存じませぬが、私どもの知らぬ理の場所へ
連れて来られたのではないかと」
そう二枚目は具申した。
大男と町娘は我が意を得たりとばかりに大きく頷く。
小太りは腹が膨れたせいか眠そうだ。
- 45 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:17:18.69 ID:IzIW3U+eO.net
- 黙って聞いていた老爺はゆっくりと口を開く。
「私も先刻よりそう思い始めていた処でしてな」
「狐のまやかしにしては余りにも真に迫って居りますからな」
「お前さんの言う通りまやかし等ではなく、
何処か別世界に連れて来られたのやも知れませんな」
「しかも裏には狐よりもっとタチの悪い輩が居て、糸を引いていると見ました」
老爺の言葉に二枚目、大男、町娘は顔を見合わせ頷き合う。
「そして、その裏に潜む黒幕は…」
老爺の言葉に息を飲む三人。
小太りは鼾をかいている。
- 46 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:20:15.67 ID:IzIW3U+eO.net
- 「狐の妖怪、即ち妖狐!」
つくづく狐が好きな老爺である。
三人はもう諦めた顔をしていたが、いたずら狐を懲らしめる暢気な狐退治から
妖狐討伐に格上げ(?)された分、老爺も少しは用心深くなるだろう、
と無理矢理自分を納得させる。
小太りは鼾をかきながら、なんかにやにやしている。
「では御隠居、いよいよ妖狐討伐ですな?」
大男が訊ねる。
「うむ、では参るとしますかな」
四人は一斉に立ち上がった。
小太りは鼾をかきながらなんかにやにやしながら涎を垂らしている。
- 47 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:22:39.58 ID:IzIW3U+eO.net
- ♪デッデレデデッ デレデデッ デレデデッデッデッ…
(ふいるど曲:あゝ人生に涙あり)
妖狐(?)討伐に出発した老爺一行、目指すは矢文にあった灯台。
町民から魔物が出ると聞かされてはいたが、そんな気配も無く、
天気も良く辺りには長閑(のどか)な風景が広がっている。
自然、話が弾む事となった。
「ねえ御隠居様、何でこんな事になったんでしょうね?
やっぱりゆうべ泊まった旅籠の名前が悪かったんでしょうかね?」
小太りが陽気に話し掛ける。
「旅籠の名前ですと?」
老爺が応える。
- 48 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:25:05.71 ID:IzIW3U+eO.net
- 「へい、“ひょっとこ屋”なんて、なんだか妙ちきりんだと思いませんか?
なんでそんな旅籠に決めたんですかい?」
「お前さんは、ひょっとこの由来を知らぬと見えますな」
ひょっとこ屋に決めた張本人の老爺は少しムッとしつつも、
小太りに話して聞かせる。
「火男がなまってひょっとこ、そして火男は竈(かまど)の守り神。
何とも有り難い名前でしょうが」
「ひょっとこ様を侮るとバチが当たりますぞ!」
と、老爺が半ば脅しにかかる。
- 49 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:27:32.36 ID:IzIW3U+eO.net
- 「ひえっ!? そいつぁ御勘弁を…ひょっとこ様ひょっとこ様、どうかお許しを〜、
なんまんだぶなんまんだぶ……」
小太りが真剣に祈り始める。
「おいおい、神様になんまんだぶは無かろう。それじゃあ仏様だ」
大男が突っ込み、一行に笑いが起こる。
笑いながらも先に立っている大男と二枚目、それに一番後ろから着いて来る
町娘は警戒を怠らない。
尚、馬鹿の一つ覚えと思われるかも知れないが、
この町娘(に見えるお婆さん)、とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
- 50 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:29:56.08 ID:IzIW3U+eO.net
- だが、そんな暢気な雰囲気の中、突然がさがさと傍らの草村が揺れた。
素早く腰の道中刀を抜く二枚目。
大男は腰の物は抜かず素手で身構える。
そして俊敏な動きで後ろから前に出て匕首(あいくち)を逆手に構える町娘。
三人とも町人を装っているが只者ではない。
二枚目は一刀流免許皆伝の武士。
大男は柔術と拳法の達人でやはり武士。
町娘に至っては忍びの女頭領であった。
尚、虚仮(こけ)の一念と云う言葉が有るが、この町娘(に見える婆さん)、
とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
- 51 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:32:41.13 ID:IzIW3U+eO.net
- 草村から蛇が飛び出して来た!
たかが蛇と侮る無かれ、かなり大きな蛇である。
しかも頭には鶏冠の様な物が生えていて、正直気持ち悪い姿であった。
毒も持っていそうだ。
*魔物の群れが現れた!
*とさかへび 四匹
「むっ! 現れおったな!」
「こいつらが魔物とやらか!」
「毒が有りそうですよ!」
前衛が三人三様に叫ぶ。
「妖狐の手下の狐どもが化けているのかも知れませんな!」
飽くまでも狐に拘る老爺。
この老爺、かなり頑固者である。
「うひゃぁああ〜!」
老爺の影に隠れる小太り。
お前は一体、何の役に立つと言うのか…。
- 52 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:35:38.72 ID:IzIW3U+eO.net
- 蛇が一斉に飛び掛かって来た。
二枚目は難なく刀で一刀両断! 見事に蛇を縦に真っ二つにする!
その体躯からは想像も出来ぬ敏捷さで蛇をかわした大男は、二匹同時に尻尾を掴み、
側に立つ木の幹に蛇の頭を叩き付ける!
頭を何度も叩き付けられた二匹は直ぐに動かなくなった!
トンホを切って蛇よりも更に高く跳ね上った町娘は
何時の間にやら取り出した苦無(クナイ)を投げ、蛇を地面に貼り付けにする!
そして降り立ちざまにのた打つ蛇の頭を踏み潰し止めを刺した!
戦いは呆気無く終わった。
尚、もうお忘れかと思うがこの町娘(に見える遣り手婆ァ)、
とうに還暦を過ぎている。
正に妖怪とは女の事である。
- 53 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:37:50.81 ID:IzIW3U+eO.net
- 「やりましたね!」
小太りが嬉しそうに三人に駆け寄って来る。老爺も満足そうだ。
と、不思議な事に今し方倒した蛇から霧の様なものが立ち上り、
あれよあれよと言う間に消えてしまった。
「ありゃあ? 消えちまいましたよ!」
小太りが不思議そうに首を傾げる。
「ううむ、これはやはり狐のまやかしに相違無さそうですな」
もう意地でも狐の仕業にしたいらしい。
倒した三人は蛇がやられたふりをして何処かに潜んでいるのかと、
辺りを警戒している。
- 54 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:40:00.18 ID:IzIW3U+eO.net
- が、何処にもその様な気配は無い。
「あっ!? 御隠居様、銭が落ちてますよ!」
小太りが蛇の消えた辺りで銭を目敏く見付け、拾い上げて老爺に見せる。
見ると、朝に宿代と飯代を支払ったおり、小判と両替した銭と同じ物の様だ。
此処での主な通貨は“ごをるど”というそうだが、
地方によっては別の物が流通している事もあるらしい。
“ぎる” “まっか” “ぺりか” “がばす”等々…。
その為、多くの旅籠は両替商も兼ねて居て、金、銀、銅貨の純度を計る
特殊な薬液を用意している。
- 55 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:42:38.03 ID:IzIW3U+eO.net
- 小判は純度が高く、しかもあまり見た事の無い珍しい金貨だとして、
多少の色を付けて両替して貰えた。
因みに
小銅貨 壱ごをるど
中銅貨 伍ごをるど
大銅貨 拾ごをるど
小銀貨 弐拾伍ごをるど
中銀貨 伍拾ごをるど
大銀貨 百ごをるど
小金貨 百ごをるど
中金貨 伍百ごをるど
大金貨 千ごをるど
となるそうだ。
「今の狐が落として行った物でしょう。店で使った途端に木の葉に変わって、
偽金使いとして役人に厳しく吟味されるかもですぞ」
はいはい、お空が青いのも狐のせい、狐のせい。
- 56 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:45:05.09 ID:IzIW3U+eO.net
- 「本物のようですよ」
小太りが銭を噛んでそう言った。
老爺はまだ疑り深そうだったが渋々
「むう…。此処では路銀が尽きても国表から送ってもらう訳には行きますまい。
拾っておけば多少の足しになるでしょう」
と、取っておく事にした。
「合点でさあ!」
ホクホク顔で小太りは銭を財布に仕舞う。
「しかし驚きましたな。倒したと思ったら、たちまち消えてしまうとは」
ぎょろりと目を剥いて大男が言う。
「それに銭を落として行くとは。」
二枚目も苦笑いだ。
- 57 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:47:30.76 ID:IzIW3U+eO.net
- 「蛇が一体何を買うつもりだったんでしょうねえ」
町娘も可笑しそうだ。
「仔蛇に水飴でも買ってやるつもりだったんじゃねえですか」
小太りが真面目な顔で言う
「はっはっはっ! 母親の幽霊が残した赤子に買ってやる怪談が有りましたな」
小太りが真面目な顔で言ったので老爺が大笑いする。
あっさり蛇を倒してしまい、魔物(老爺にとっては狐)恐るるに足らず、
と云う雰囲気になっている。
得てしてこう云う時にこそ火の粉が降りかかるもの…。
- 58 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:50:04.93 ID:IzIW3U+eO.net
- 好事魔多し、案の定、大きな木の直ぐ近くを通りかかった時、それは起きた。
「グオオオオッ!!」
凄まじい吠え声が頭上から浴びせられる。
と、同時に木の上から降り立つ五つの影。
*とらおとこ 五匹
*魔物はこちらが身構える前に襲い掛かって来た!
…なんて事はなく、影が降り立つや否や後方から町娘の煙玉が飛ぶ。
忍びの女頭領の本領発揮である。
ぼ〜ん!
煙玉は虎男達の足元で炸裂、もうもうと煙が上がる。
*魔物は驚き戸惑っている!
- 59 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:52:26.27 ID:IzIW3U+eO.net
- 魔物達が文字通り煙に巻かれて右往左往しているのを見て取り
「うおおおおっ!」
今度は逆に大男が雄叫びを上げ、煙の中へ突進する。
同士討ちを避け、二枚目は抜刀したまま油断無く身構える。
魔物が怯んでいるのに勇気付けられたか、
今度は小太りも拾った棒切れを及び腰で構える。
町娘は着物を脱ぎ捨てた!
「おおっ!」
と老爺が目を輝かせる!
しかし町娘は一瞬のうちに忍び装束に変わっていた…。
老爺はがっくりと肩を落とす。
この老爺、割と助平である。
- 60 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:54:27.80 ID:IzIW3U+eO.net
- 煙が薄らいで来た。
どうやら大男が手当たり次第に暴れまくっている様だ。
その内、一匹の虎男を両の腕に抱え上げ、此方に投げて寄越す。
すかさず二枚目が斬り伏せ、絶叫と共に虎男壱(仮)は絶命した。
更に煙が晴れて来たので二枚目と町娘も参戦する。
小太りは老爺を守るつもりか、棒切れを構えて老爺の盾になっている。
老爺はまだ残念そうだ。
しかし戦いの渦中に居る三人の戦い振りの凄まじさよ!
さんざんに殴りつけた後、虎男弐(仮)の背後を取った大男が
魔物の首を締め上げる。
- 61 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:56:54.32 ID:IzIW3U+eO.net
- その内、ぼきっと嫌な音がして虎男弐(仮)の首が折れた。
虎男参(仮)がなんとかその爪で二枚目を引き裂こうとする。
が、二枚目は涼しい顔で虎男参(仮)をいなしている。
そして疲れて動きが鈍った魔物は頭に真っ向唐竹割りを受け、倒れた。
町娘は両手に苦無を持ち、目にも留まらぬ早さで虎男四(仮)を翻弄する。
魔物は何度も切り付けられ全身傷だらけである。
やがて喉笛がぱっくりと裂け、大量の血を吹き出しながら崩れ落ちた。
- 62 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 00:59:29.45 ID:IzIW3U+eO.net
- 虎男伍(仮)は適わぬと悟ったらしく、小太りと老爺の方へ迫った。
そちらの方がまだ与(くみ)し易しと見たか、
先程の蛇とは違い多少の知恵は有る様である。
「うわーっ! うわーっ! うわーっ!」
小太りが棒切れをめちゃくちゃに振り回す。
それを見た虎男伍(仮)が不気味な笑いを浮かべて更に迫って来る。
と、ごく自然な感じで老爺が魔物の目の前へ進み出た。
虚を突かれ、ほんの一瞬動きの止まった魔物の鳩尾に
老爺が手にしていた杖が突き入れられた。
この老爺、割とただの助平ではない。
- 63 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 01:02:15.25 ID:IzIW3U+eO.net
- 魔物は息も出来ず硬直している。
その延髄へ町娘の放った苦無が突き刺さり、虎男伍(仮)に止めを刺した。
終わってみれば正に鎧袖一触、蛇に引き続き完全勝利である。
「あっはっはっはっ! 皆、魔物魔物と恐れておるが、何の事も無し。
これはやはり狐が変化したものでしょうな!」
もうあんたは狐うどん専門店でも始めて下さい。
「いやあ御隠居様、本当に弱い奴らでしたねえ」
小太りは先程までの及び腰は何処へやら、一緒なって高笑いだ。
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
- 64 : ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/20(木) 01:05:14.92 ID:IzIW3U+eO.net
- 本日はここまでm(_ _)m
- 65 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/20(木) 22:09:51.28 ID:8vQiyt1z0.net
- をつ
- 66 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 21:30:36.92 ID:rrtAJ5O/O.net
- >>65 ども
>>63の続き
二人の高笑いは未だ終わりそうにない。
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
「御隠居、余り大きな声を出されますと、
魔物どもが寄って来るやも知れませんぞ」
大男が進言する。
「それもそうですな。いや腹が痛い腹が痛い、久方振りに大笑いしました」
老爺は漸く高笑いを止めた。
「あっはっはっはっ!」
小太りは未だ笑っている。
「お前は何時まで…」
笑っているのだ、と二枚目が言い掛けた時である。
ごうん… ごうん… ごうん…
頭上から奇妙な音が鳴り響いて来た。更に日光を遮る巨大な影。
すわっ、魔物か!? と、一行は身構えながら空を見上げる。
- 67 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 21:32:03.84 ID:rrtAJ5O/O.net
- 其処には見た事も無い巨大な“もの”が浮かんでいる。
更によくよく見ていると、何となく船の様な形をしている気がして来た。
それはゆっくりと頭上を通り過ぎて行く。
「ややっ! 狐め、
此度(こたび)はまた大掛かりなまやかしを…」
もういいです、勘弁して下さい。
「いえ御隠居、あれは恐らく…」
二枚目が町で聞いたと云う話では、この辺りには時々
“ひくうてい”なる空を飛ぶ乗り物が飛んで来るそうだ。
そして船乗り(?)達が食べ物等を買い込んでは
また何処かへと飛び去って行くという。
「なんと、空を飛ぶ乗り物ですと?
ううむ、狐の仕業では無かったとは…」
老爺は町娘の裸体を見損なった時よりも残念そうに見える。
- 68 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 21:37:08.85 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「私めもこの目で見るまでは信じられませんでした」
と、言いながらも二枚目は“ひくうてい”から目が離せない。
勿論二枚目だけではなく、その場の全員が口をあんぐりと開けて
“ひくうてい”に見入っている。
「あっはっはっはっ!」
一人を除いては。
やがて“ひくうてい”は一行の近くに降りて来た。
- 69 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 21:44:08.03 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「もっと近くに寄って見てみましょうかな」
興味津々な感じで老爺が言う。
「危のうございませんか?」
忍びである町娘は、まだ警戒を解いてないらしい。
「なに、普通に町で買い物をする者達が乗っているのです。大事有りませんよ」
と、老爺は先頭に立って歩き出す。
供の者達は慌てて老爺の後を追った。
「あっはっはっはっ!」
………。
やがて“ひくうてい”の傍まで来た。
皆、『はあ…』とか『ほお…』などと言葉にならず、
しきりに感嘆の溜め息を吐いている。
- 70 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 21:53:34.01 ID:rrtAJ5O/O.net
- と、出入り口らしきものが開き中から人が降りて来た。
先ず若い男。若者と言うよりまだ少年の様だ。
手に大振りの剣を持ち、南蛮風らしいが、それとはまた微妙に
異なっている様な格好をしている。
しかも左右で長さの違う洋袴を穿いた珍妙な姿だ。
次にその少年と同い年くらいの少女。
こちらは着物に袴、と言いたいが、
これまた微妙に違う気がする。
何より下駄や草履ではなく、南蛮風の靴を履いていた。
長い杖を手にしている。
最後に妙齢の美女。これまた着物の様な、
そうで無い様なものを着ている。
頭には花魁の様に、これでもかと沢山の簪(かんざし)を
刺していた。
何やら人形の様な物を抱えている。
- 71 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 21:55:22.55 ID:rrtAJ5O/O.net
- いきなり少年と少女が此方の方へ駆け寄って来た。
思わず身構える一行。
だが二人は一行の傍らをすり抜け、十数歩程行って立ち止まる。
そして…
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
腰に手を当てて高笑いを始めた!
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
小太りも加えて高笑いの三重奏である。
否、これはもう高笑いでは無く馬鹿笑いであろう。
呆気にとられている一行の脇を妙齢の美女が申し訳無さそうに、
そして恥ずかしそうに軽く会釈をしながら、しずしずと通り過ぎる。
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」
- 72 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 21:58:18.63 ID:rrtAJ5O/O.net
- 馬鹿笑いの二人に追い付いた美女に促され、
馬鹿者二人は美女と連れ立って町の方へ歩いて行った。
後に残されたのは何がなんだか判らぬ、と云った体(てい)の老爺達…。
と馬鹿笑いする馬鹿者ひとり。
「あっはっはっはっ!」
- 73 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:05:45.91 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「ねえ御隠居様、あいつら一体何だったんでしょうねぇ」
小太りが老爺に話しかける。
「お前さんが言いなさんな!」
と、叱り付ける老爺。
小太りは『あっはっはっはっ!』と笑って誤魔化そうと思ったが、
慌てて思い留まった。
触らぬ神に祟り無しである。
“ひくうてい”を四半時(約30分)程見物し、
再び灯台を目指しだした老爺一行である。
「しかし御隠居、良いものが見れましたな!」
と、大男。“ひくうてい”の事である。
「珍しいものが見れました」
これは二枚目の言葉。馬鹿笑いする馬鹿者達の事である。
- 74 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:07:24.55 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「うむ、確かに珍しく、しかも良いものでしたな!
見ましたか、あの美しさを!! あの大きさをっ!!!」
老爺はかなり興奮している様だ。
「はい、本当に立派で美しうございました」
町娘が応える。これは“ひくうてい”の事である。
「そうでしょうそうでしょう、あの見事な形、大きさ!!
それに…」
老爺が続ける。
「柔らかそうな事と言ったら…」
「やわらか…?」
一同、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔になる。
「あの後から来た妙齢の女性(にょしょう)、
あれほど形良く大きな乳の持ち主はそうそう居りませんぞ!」
この老爺、結構助平である。
- 75 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:08:55.19 ID:rrtAJ5O/O.net
- 老爺の好色一代男っぷりはさて置き、そろそろ日が西に傾く刻限になって来た。
「この分では灯台の妖狐と対決する時分には夜になっていそうですな」
もう直ぐ逢魔が時でもある。
老爺の言葉に一同身を引き締めた。
その時、周りの空気が変わった!
まるで辺り一面、ぐにゃりと曲がった様な感覚。
草も木も地面も空も、周りの空間全てが曲がったかの様な
異様な感覚。
そして目の前の一点に、ばりばりと音を立て四方八方から
雷が落ちる。
いや、この場合、落ちると言うより収束して行く、と言うべきか。
「おおっ!?」
それを見て思わず老爺が声を上げる。
そして雷の収束点から…
- 76 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:10:20.97 ID:rrtAJ5O/O.net
- *アクマが現れた
*ヤマ・サキュバス 1ヒキ
「おおおおおっ!!??」
再び老爺が(嬉しそうな)声を上げる。
※18歳未満の夜魔サキュバスの画像検索は法律で禁じられています
*アクマは話しかけてきた
「アナタ、アクマを殺して平気なの?」
「おおっ! 見なさいっ! 良いおなごですぞ、これはっっ!!」
*だが老爺は
*アクマの話を聞いていなかった
「ちょっと、ヒトの話を聞きなさいよ!」
*だがアクマは人ではない
「ほんの少し、ほんの少しでいいから、その手を外してみてくれんかのう!」
*この老爺
*かなり助平である
- 77 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:11:46.03 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「 だ・か・ら ヒトの話を聞きなさいって言ってるでしょっ!!」
*しかしアクマは人ではなかった!
「むおっほっほっ、“ひくうてい”のおなごとどっちがええかの〜ふ♪」
*老爺は全く人(ではないけど)
*の話を聞いていない
「アクマをナメてると痛いメ見るわよ?」
*アクマは怒っている
「な、舐め、舐めめめめ…っ! 舐めてもええのか!? ええのんかっ!?」
*御隠居
*相手は魔物ですぞ!
*と大男が言った
「狐だろうと魔物だろうと、良いおなごは良いものです!!」
*しかし正体を暴けば
*何百年も生きた
*しわくちゃ鬼婆あという事も…
*と、二枚目も何とか諫めようとする
- 78 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:14:16.18 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「黙らっしゃい! こう見えてもおなごを見る目は確かですぞっ!!」
*そうですよ、何十年経とうと
*良い女というものは変わりません
*何故か老爺の援護に回る町娘
*御隠居様
*そろそろ腹が減って来やせんか?
*ちょっとお前は
*黙ってろ!
*いいえ、黙りません!
*女は幾つになっても
*女なんですよ!
*いや、お前ではなくて
*そっちのお前がだな…
*は? あなたにお前呼ばわり
*される覚えはござんせん!
「…なんかツマンナーイ。じゃアタシ帰るね、バイバーイ」
*アクマは呆れて帰っていった…
- 79 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:15:38.94 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「おおおおぉ……」
がっくりとうなだれる老爺。
呆れて帰りたくなったのはサキュバスだけでは無いであろう…。
その後は何事も無く、と言っても普通に出て来た普通の魔物を
普通に倒しながら、ではあるが漸く灯台まで辿り着いた。
既に陽は沈みかけている。
「これが灯台のようですな…」
老爺が見渡しながら言う。
そして一階部分の入り口辺りを不審そうに見つめる。
「は、そのようですな。しかしこれは…」
二枚目も戸惑っている。
何故か入り口の上部には派手な看板が架かって居り、また入り口の周りにも
色とりどりの装飾がなされていた。
- 80 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:17:01.37 ID:rrtAJ5O/O.net
- 看板には
【GAME CENTER ARASHI】
と書かれていたが無論の事、一行には読めない。
警戒して周りの様子を調べているうち、すっかり陽は沈んでしまった。
と、いきなり入り口の看板や装飾がぴかぴか光り出す。
ただ光っているだけではなく、点滅したり流れる様な動きを
繰り返したりもする。
「な、何ですかい、こりゃあ!? 魔物の使う妖術ですかい?」
小太りが驚愕している。
「いや、妖狐の妖術でしょうな!」
狐うどん専門店【助平爺】近日開店!
他の者達は目を皿の様にして看板や装飾を見つめて居るだけで、
言葉も出ない。
そこへ突然入り口が開き、中から人が飛び出して来た。
- 81 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:18:26.33 ID:rrtAJ5O/O.net
- 大荷物を背負った髭で巨太りの男である。
巨太りは此方に気付くと一目散に駆け寄って来た。
「ひいひい… み、水…を下……さい…」
巨太りはがっくりと膝を着き _| ̄|○ ぜえぜえ言っている。
『み、水』と言われてミミズを渡す間違いを犯す事もなく、
巨太りに水の入った竹筒を渡した。
「いやー、こんな事態なのに灯台まで来る人がいるとは…。
助かりましたよ!」
一息ついた巨太りが話し始める。
巨太りは旅の武器屋で、海を渡って次の地へ行きたいのだが、
魔物のせいで船が出せない。
そこで自ら魔物退治にやって来たのだが…
「いやはや、灯台の中の魔物が強いのなんの…」
- 82 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:19:42.15 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「私も商売柄、少しは腕に自信は有ったたのですが…」
こりゃ適わんと這々の体(ほうほうのてい)で逃げ出して来た、と言う。
「で、皆さんはなんでこんな所まで?」
と、訊くので理由を話してやると
「本当ですか! そいつは有り難い!!」
巨太りが小躍りする。
(巨太りが小躍り…イマイチだな)
「それはそうと皆さん、何か必要な物とか有りませんか? 勉強しますよ!」
この巨太り、商人(あきんど)の鑑である。
「ねえ御隠居様、おいらにも何か得物を買って下さいよ!」
小太りがねだる。
「そうですな、この先何があるやも判りませんからな。
お前さんでも居ないよりましでしょう」
- 83 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:21:07.11 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「そりゃ無いですよお、御隠居様あ〜」
と、小太りは口を尖らせるが、どこか嬉しそうなのは無理もない。
今まで長い間一行と共に旅をして来たが、初めて拾った棒切れ以外の
まともな武器が持てるのだ。
「さようですね、アナタが装備出来そうな物は…」
巨太りが背中の大荷物を下ろし、中を引っかき回す、
のを小太りが目を輝かせて覗き込む。
「これなんかどうでしょう? なんと! ひのきの棒!!」
「…今までに拾った棒切れの方が強そうですぜ……」
小太りが巨太りを軽く睨む。
「えー、そうてすかあ? うーん、じゃあこの皆殺しの剣とか?」
巨太りが見るからに不気味な剣を取り出す。
「いやいや、なんか祟られそうですぜ」
- 84 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:22:17.77 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「注文の多いお客さんだなー。じゃあこれ、黄金の爪!」
「あっ! こりゃあぴかぴか光って中々粋じゃねえですか!
御隠居様、これを買って下せえ!!」
「ふむ、いかほどですかな」
「はいはい、これは一歩毎に魔物を引き寄せる効果が有りますから、
稼ぎにはピッタリですよ! 大負けに負けて50万ゴールド!!」
「……止めておきなさい」
「へい…」
結局、『拾った棒切れと大して変わらないんじゃ…』とぶつぶつ言う小太りを
老爺が灯台の中に棒切れが落ちてるとは思えない、と宥めて
棍棒を買う事になった。
*小太りはこんぼうを手に入れた!
- 85 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 22:23:28.26 ID:rrtAJ5O/O.net
- さて、小太りと一緒に巨太りの荷物の中を覗いていた老爺、
底の方に何か惹かれる物を見つけた。
「む、ご主人、これは何ですかな?」
と、引っ張り出して広げてみる。
「ああ、それは“えっちなしたぎ”ですね」
「ほうほう、“えっち”とやらがどういう意味かは判りませんが、
何やら心踊る響きですな!」
「残念ですがこれは女性専用の鎧なんですよ」
「ううむ、それは残念…」
と、老爺は手にした物を元に戻そうとした。
が、巨太りの次の言葉を聞いてぱっと顔が明るくなる。
「ても“伝説の(ある意味)勇者”なら男でも兜として
頭に装備出来るそうですよ!」
「おおっ! 先程から何故かわしが“えっちなしたぎ”に惹かれていたのは…」
- 86 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 23:56:06.42 ID:rrtAJ5O/O.net
- 老爺は震える手で“えっちなしたぎ”を頭に被ってみようとした!
なんと、“えっちなしたぎ”は老爺の頭から顔面にかけてをすっぽりと覆った!
「おおっ! まさしくアナタは伝説の(ある意味)勇者!
こんな所で出会えるとは!!」
「いいでしょう、伝説の(ある意味)勇者に敬意を表し、
特別に100万ゴールドでお譲りしましょう!」
*老爺は“えっちなしたぎ”を手に入れた!
老爺はいそいそと“えっちなしたぎ”を懐に仕舞う。
「あれ? 装備しないんですか?」
「いやいや、これは大事な伝説の(ある意味)勇者の証し。
それに百万ごをるどもしましたからな!
大切に取っておいて時々眺めるだけにしますわい」
「はあ…、まあご自由に……」
- 87 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/24(月) 23:58:46.02 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「さて、他の皆さんは何かご入り用の物はございませんか?」
揉み手をせんばかりの巨太り。
「いや、俺には必要無い」
と、大男が力こぶを作ってみせる。
「俺もこれで充分だな」
二枚目が腰の道中刀をぽんぽん、と叩く。
「あたくしも使い慣れたもので良うござんす」
懐から苦無を出して見せる町娘。
巨太りは
「そうですか…。うーん…」
と、町娘に目を止め
「そこの娘さんは武闘家タイプとお見受けしますが、
この鎧なんかどうでしょう?」
荷物から何やら取り出す巨太り。
「なんだい、鎧とか言って、ただの布切れじゃないか」
小馬鹿にした様な町娘。
- 88 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/25(火) 00:01:15.50 ID:rrtAJ5O/O.net
- 「いえいえ、お若い娘さん、これは魔法のビキニと言って、
防御の呪文を封じ込んである逸品ですよ!」
「へえ、そりゃ大したもんだ」
「しかも打撃や斬撃などだけではなく、呪文によるダメージも減らしてくれる上、
動き易いので女性の武闘家に大人気なんですよ、
お若くて綺麗な娘さん!」
「でも高いんだろねえ」
「私もこんなお若くて綺麗でピチピチの娘さんのお肌に傷が付くなんて
耐えられませんからね、思い切って200万ゴールドまで勉強しましょう!」
*町娘は魔法のビキニを手に入れた!
「じゃ、早速着替えてみようか」
町娘が着物の帯を解き始めたので老爺が目を輝かせる。
が、次の瞬間には着替え終わっていた。
- 89 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/25(火) 00:01:29.39 ID:SJInmzXo0.net
- トルネコたん保守
- 90 :好々爺世直し道中妖狐譚 ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/25(火) 00:02:47.15 ID:Xx+bhcRPO.net
- 老爺はさぞがっかりした事であろう……
と、思われるだろうがさに非ず。
「これはこれでまた…」
と、ホクホクしている。
「では皆さん、私は町で吉報を待つ事にしましょう…
そうだ、中で100ゴールドの小金貨が沢山要り用になると思いますが
両替しましょうか? 特別に手数料は取りませんよ」
と、巨太りが言うので手持ちの小判や道中で魔物が落とした銭を
全て百ごをるど金貨に替えて貰う。
「では私は本当にこれで…」
巨太りは町へ向かって歩き出した。
が、数歩行った所で振り返り
「そうそう、買った武器や防具は装備しないと
役に立ちませんからね! 気を付けて下さい!」
と、何故か当たり前の事を言って去って行った…。
- 91 : ◆DL4wQ2JZtQ :2014/03/25(火) 00:05:00.99 ID:Xx+bhcRPO.net
- 今回はここまでm(_ _)m
- 92 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/25(火) 13:18:34.91 ID:Xx+bhcRPO.net
- >>89
見てる人がいたw
途中でさるさんが来たので暫く放置しちゃいましたm(_ _)m
- 93 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/03/30(日) 09:15:06.63 ID:JhZuPT2TO.net
- ☆
- 94 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/04/06(日) 05:27:01.20 ID:EnOZiJ5j0.net
- 「今夜はお楽しみでしたね」もできますか
- 95 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/04/16(水) 21:07:05.64 ID:+GOohUb90.net
- お!
新スレ立っていたんですね。
遅まきながらすれたて乙でした。
- 96 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/04/20(日) 00:40:09.72 ID:Z0fV/ask0.net
- ほしゅ
- 97 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/04/25(金) 01:13:55.88 ID:zGxMwkGF0.net
- ほ
- 98 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/05/02(金) 00:25:43.24 ID:tEusdsbR0.net
- 投下期待ほしゅ
- 99 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/05/08(木) 12:11:26.20 ID:V5/9s6J60.net
- 100
- 100 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2014/05/13(火) 22:13:34.59 ID:8BfZQga50.net
- 乙
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