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FFDQバトルロワイアル3rd PART19

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:17:07.13 ID:B1nZ++VF0.net
━━━━━説明━━━━━
こちらはDQ・FF世界でバトルロワイアルが開催されたら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。
参加資格は全員、
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

sage進行でお願いします。
詳しい説明は>>2-15…ぐらい。

前スレ
FFDQバトルロワイアル3rd PART18
http://wktk.2ch.net/test/read.cgi/ff/1377534553/l50

720 :Idolatry 5/13:2021/03/31(水) 02:11:00.87 ID:k6HVn+ljB
「今更話すこともないですが、お互い生きていて良かったですね。
 人助けしたいならさっさと北の方へ行って、セフィロス退治に協力したらどうですか?」

(う わ あ)
サボテンダーもビックリな、刺々しい言葉をオブラートに包みもせず言い放つ。
無論演技だということはわかっているけれど、『……演技だよね?』と確認したくなってしまう。
ソロもバッツと同様、困惑を隠せないまま立ち尽くすばかりだ。

「そういう言い方はないだろ」

見かねたのか、ヘンリーが前に歩み出た。
腹芸は俺に任せとけ、と言わんばかりに片手を振り、つらつらと言葉を紡ぐ。

「アンジェロの遺体は無くなってるし、誰が戦ってるのかもわからん。
 仮にもしケフカとセフィロスがやり合ってるだけだったら、加勢しに行くだけ無駄だ。
 だからこそ、誰が無事でどういう事態が起こってるのか確かめに来たんだぜ?
 待っててくれたのは嬉しいが、つまらないケチをつけるのは止めてくれ」
「別にお二人を待っていたわけじゃありません。
 錯乱したアーヴァインを追っていったギードさん達と、もう一度合流したかっただけです」
「ああそうかい、だったら――」

ヘンリーが何かを言いかけた、その時だった。
彼の服のポケットから、大音声が響き渡ったのは。

『あーあー、聞こえますかー! 聞こえてるよな!!』

一度聞けば忘れられない特徴的すぎる声。
バッツがその正体に思い至るより早く、状況を察したラムザが"タバサ"の口に左手を当てる。
そして右手の人差し指を自分の口に翳し、バッツに目配せする。
ひそひ草の持ち主であるヘンリーと同行者のソロ以外は黙れ、ということだ。
一方、ラムザの思惑を知る由もない声の主――ケフカは、矢継ぎ早に彼らの現状をまくし立てる。
ヘンリーは「なんだって!? どういうことだ、何があった!!」と相槌を打ちながら、ラムザを見やった。
視線とジェスチャーでの完全なる黙談である。
無論、バッツには二人の意図などさっぱりわからないので、"タバサ"と一緒に静かにしていることしかできない。
そうこうしているうちに、ひそひ草から今度はロックの声が聞こえ始めた。

『ったく、勝手なことばっかり言いやがって……
 ソロ、ヘンリー! 二人とも無事か!?』
「ロックか! こっちは無事だ、っていうか……」
『ああ――信じられないだろうが、ケフカが最初に言ったことはだいたい合ってる』

721 :Idolatry 6/13:2021/03/31(水) 02:13:24.19 ID:k6HVn+ljB
(合ってるんだ……マジか〜……)
さしものバッツも、頭を抱えざるを得ないぐらいには最悪の状況に陥っている。
それからリュックが話し始めたり、ケフカが再度煽ってきたりしたけれど、良いニュースは一つもなかった。
あえて言うなら死人が出ていないことぐらいだろうか。
それだって、アーヴァインを利用して良からぬことをするための時間稼ぎとしか思えない。
やがて会話も終わり、静かになったひそひ草をザックにしまい込んでから、ヘンリーは大きなため息をついた。

「はぁあ……というわけで、状況は最悪中の最悪だ。
 言い争ってる時間も惜しいから、お前らだけでも次の世界へ行ってくれ」
「言われなくてもそうします。
 ケフカさんの言葉通り、あの銀髪鬼に"タバサ"ちゃんを利用されることこそ最悪ですからね。
 どうせお人よしの貴方達は他の皆を助けに行くつもりなんでしょう?」
「まあな。ソロ、お前もそれでいいだろ?」
「は、はい。それは、もちろん。
 サイファー達を見捨てることも、セフィロスさんやケフカを見過ごすこともできません」
「ご立派な事ですね」

険悪な口調は崩さぬまま、ラムザは小さく微笑む。
ともすれば嘲りにも見える表情だが、その本心は、揺るがぬソロの意志力に安堵したのだろう。

「一応聞いておきますが、僕とバッツさんの持ち物で必要なものはありますか?
 さすがにあの銀髪鬼を相手にするというなら多少は融通しますよ」
「いや、十分だ。
 武装なら俺も十分すぎるほど持ってる」

知ってる。
バッツは喉から出かかった言葉を飲み込む。

「なら、せめて鎧ぐらい着こんでおいた方がいいですよ。
 セフィロスの強さの根幹は、何よりも神速の動きと太刀筋です。
 一瞬で間合いを詰めて数多の斬撃で切り伏せてくる以上、それを防ぐ手立てこそ重要かと」
「そうか。……つっても刃の鎧と、クッソ重くて着れない鎧と、鎧みたいな変な服しかないんだよな」
「変な服?」
「これこれ」

そう言ってヘンリーがザックの中から取り出したのは、純白の服だった。
彼の言葉通り、確かに布で鎧を作ろうとしたようなデザインだ。
不思議なことに汚れも傷も何一つついていないが、今まで誰も袖を通さなかったのだろうか?
首をひねるバッツの横合いからラムザがそっと手を伸ばし、生地を触る。
その眉間に小さな皺が寄った。

722 :Idolatry 7/13:2021/03/31(水) 02:15:06.96 ID:k6HVn+ljB
「……色や意匠は全く違いますが、質感や魔力が僕の知っているローブによく似ています。
 何人も傷つけられぬ、穢れ無き君主の法衣ローブオブロード……
 恐らくこれも、同等かそれ以上の……間違いなく伝説級の品かと」
「伝説級? そんな良いやつなのか?
 だったらこれ着とくよ。刃の鎧だと、下手に動くと自分にぶっ刺さりそうだし」

服を受け取りなおしたヘンリーは、早速着込もうとし――その手を途中で止めた。
気づいたのだ。
"タバサ"がいつの間にか近づいていて、微かに身を震わせながら、ぎゅっと拳を握りしめていることに。

「ヘンリーさん……
 こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、でも……
 ……私と一緒に、来てくれませんか?」

「え?」と全員が声を上げる。
予想外の申し出――というわけでは無かった。
少なくとも本物のタバサであればそうしたかもしれない、という行動の範疇ではある。

「あっちには、悪い魔物が……私を襲った魔物がいるんです。
 きっとあいつは他の人たちも殺してヘンリーさんも殺します。
 ……それは嫌なんです。
 ヘンリーさんが死んだら、悲しむ人たちがいっぱいいて、……私も、そんなの、嫌なんです」

眦に涙を浮かべ、鼻をすすりながら訴える姿は、紛れもなく心優しい少女のソレだ。
思わず絆されたバッツは、どうにかヘンリーも同行させられないかと声を上げようとした。
だが、その言葉が喉から出てくることはなかった。

気づいてしまったのだ。
"タバサ"を見つめているヘンリーの、感情の欠片もない能面のような表情と、黒い靄に。

けれど瞬きした次の瞬間には消えていた。
靄などどこにもなく、ヘンリーは寂しげな眼差しを湛えながら"タバサ"の頭を優しく撫でる。
実の親が、子に、そうするように。

「タバサちゃん。悪いけど、それはできない。
 おじさんはリュカの親分だからね。
 タバサちゃんを狙ってる悪者を倒さないと、タバサちゃんもリュカも安心できないだろう?
 大丈夫、おじさんはそう簡単にやられたりしないからさ」
「でも……!」

それでも食い下がろうとする"タバサ"を安心させようと、そっと抱きしめて。
ヘンリーはソロに視線を移し、胸を叩いた。

「大丈夫だって。
 こっちには天空の勇者サマがついてるんだからさ」
「ええ、ヘンリーさんのことはきちんと守りますよ」

ソロも大きく頷き、天空の剣を地面に突き立てる。
その躊躇いなき誓いに、"タバサ"も諦めざるを得なかったのだろう。
ゆっくりとヘンリーから離れ、ソロの視線から逃げるように、ラムザの後ろに隠れる。

723 :Idolatry 8/13:2021/03/31(水) 02:16:09.88 ID:k6HVn+ljB
「……わかりました。
 でも、本当に、気を付けてください。」

その小さな呟きを受けるように、ラムザが言葉を繋ぐ。

「全くですよ。ソロさんはまず自分の身を心配した方がいいと思います。
 無理も無茶も通用しないけれど、理不尽だけはまかり通るのが現状なんですから」

今ここで仲直りするのも不自然だと思ったのだろう。
演技を続けるラムザの言葉は相変わらず皮肉に塗れている。
けれど、"タバサ"以外は皆知っている。
吐き捨てるように言った台詞に紛れた本心を。

「一応、御武運だけは祈っておきます。
 あとはせいぜい、死なないように立ち回ってくださいね。
 ――では行きましょうか、バッツさん」
「あ、ああ」

"タバサ"の手を引くラムザを追いかけようとしたバッツは、しかし途中で足を止めた。
これが今生の別れになるかもしれない。
そうなってほしくはない。
だから、叶うかどうかもわからない約束を口にする。

「えーっと、あのさ、ラムザは多分普通にソロのこと心配してると思うんだ。
 だから、次の世界でまた会おうな!」

そんな彼の気持ちを察したのだろう。
二人は笑いながら、大きく頷いた。

「はい、バッツさん!」
「おーおー、タバサのことは俺の分まで任せたからな!
 二人とも気を付けて、そんでまあ――また会おうぜ!!」

724 :Idolatry 9/13:2021/03/31(水) 02:19:09.01 ID:k6HVn+ljB
祠の中へと消えていく三人の姿を見送ったソロは、絨毯をくるくると巻き上げた。
どの地点にセフィロスがいるかわからない以上、ここより先は全てが死地だ。
幾ら便利であっても、目立ちすぎる乗り物は使えない。
とりあえずヘンリーが持っているザックのどれかに仕舞いこんだ方がいい。
そんなことを考えていたソロの手が止まったのは、聴こえてしまったからだ。
怒りと憎悪に満ちた、小さな呟きが。

「クソすぎるだろ、アイツ」

声の主はヘンリーだった。
もしかしたら彼自身、口に出す気などなかった言葉だったのかもしれない。
服を着こみ終え、やるせない様子で後ろ髪を掻きむしり――
やがて目を開いたまま固まっているソロに気づいたヘンリーは、バツが悪そうに顔をそむけた。

「……ああ、悪い、お前に言ったんじゃない。
 単純に、セージの奴が死ぬほど気に食わないってだけだ」

ああ、とソロは得心した。
"タバサ"として振舞い、本物の彼女に近づくよう努力していても、ヘンリーはその正体を知っている。
そして本物のタバサがどうやって死んでいったのかも――誰よりも、知ってしまっている。
それでも"タバサ"をタバサとして受け入れなければならないのだから、心労も苦痛も相当に募り積もっているだろう。

「ヘンリーさんの気持ちもわかります。
 ただ、セージさんはきっと、タバサちゃんを蘇らせたい気持ちが強すぎて自分を見失ったんだと思います。
 アーヴァインが――」

アーヴァインが召喚獣としてティーダを蘇らせたように、どんな形であってもタバサを引き止めたかっただけ。
そう言おうとしたソロの口を、張り手のように飛んできたヘンリーの掌が塞いだ。
一体何故? と首をひねりかけた矢先、ティーダ達のことは夢世界でのみ知ったことだったと思い至る。
そしてヘンリーもソロの失言をフォローしようとしたのだろう、半ば喚くような調子で一気にまくし立てる。

「あーあーそうだなアーヴァインだ、あいつがタバサを死なせたからややこしくなったんだよ!
 それは確かにそうなんだけど、俺にしてみりゃアーヴァインの方が数段マシなんだよな!」

「ええ?」と塞がれた口の端から声が漏れた。
親友の娘を蘇らせたいと願う人物が許せなくて、親友の娘を殺した張本人の方が許せるなんて、さすがにおかしい。
あるいはこれも演技の範疇で、死なせるわけにはいかないアーヴァインを助けるための方便なのだろうか?
頭の中に疑問符を浮かべるソロの心情を察したのか、ヘンリーは肩を竦めながら喋り始める。

725 :Idolatry 10/13:2021/03/31(水) 02:21:39.83 ID:k6HVn+ljB
「ああ、もちろんアーヴァインもたいがいクソ野郎だよ。
 ただそれはそれとして、タバサが死んだ時に限っては、本当にどうしようもない状況だった。
 何せタバサ自身正気を失ってて、傍から聞けば意味の分からない妄言を話してる。
 ターニアもタバサに対して怯えてた様子があったらしいし、ピサロですら初手から匙を投げてた」

ソロの口から手を放し、丸めた絨毯をひったくるように受け取って、ヘンリーは歩き出す。
希望の祠から離れるように、北へと。

「ピエールの奴に仲間を殺されたのはリルムも同じだって言うし、あの子もたいがい毒舌だろ?
 で、仮にも魔王のピサロがいて、怯え切ったターニアがいて、スコールの偽物までいた。
 その上肝心のタバサが発狂してて、お前相手にすら一方的に攻撃を仕掛けるような有り様だ。
 あの全方位地雷原っぷりじゃあ、アーヴァインがいなかったとしても爆発するに決まってたし――
 ……――『タバサが本当に誰かを殺す』なんて事態にならなかっただけ、きっと、マシだったんだ」

足取りは、少しずつ早くなる。
それでもソロが追いつけなくなる程ではない。
すぐに真横に並んで、歩調を合わせる。

「タバサの仇として責める相手がいるとしたら、それはタバサの心を殺した奴だ。
 あの子を孤独に追い込んで、現実から目を逸らさせた張本人。
 ……まあ十中八九ピエールとリュカがやらかしたんだろうし、二人とも死んでるんだからどうしようもない。
 どうしようもない、はずなんだが……思っちまうんだよ」

ヘンリーの独白は止まらない。
ソロも止めようとは思わなかった。
ただ、代わりに前に進み出て、進路をずらして茂みがある方へと向かう。
先にセフィロスに気付かれないよう、少しでも姿を隠すためだ。

「リュカがいない間、ずっと近くで守っていて、蘇らせたいほど大切に思っていたっていうならさ。
 どんなことがあってもしがみついて、離れないようにすれば良かったんだ。
 ――それを諦めて、そのせいであの子は孤独の果てに心を壊して、狂ったまま俺の腕の中で死んでいったってのに。
 肝心な時に傍に居もしなかったクソ野郎が、一体どういうわけでその子の死も生も踏みにじってんだ?」

怒りと憎悪。ソロの知るヘンリーらしからぬ、暗い感情。
けれどそれこそが本心なのだと知ってもらいたいのだろう、ヘンリーは淡々と話し続ける。
セフィロスとの遭遇戦まで残された時間はきっと僅かで、だからこそ聞いてほしい。
その気持ちを否定することなど、ソロにできるはずもない。

「アイツがこのまま成り代わって、俺が死ぬようなことがあれば、本当のあの子の居場所は誰にもわからなくなる。
 本当のあの子はこんな場所で寂しく眠ってるってのに、誰にも悼まれなくなって、誰もが本物のあの子の存在を忘れていく。
 そしてアイツが成り代わったタバサがタバサとして認められて、他人の記憶に残っていくって考えたらさ。
 知らない男が化けた偽物の王女が、グランバニアの歴史に刻まれて、リュカの血筋として扱われて……そう考えたらさ」

726 :Idolatry 11/13:2021/03/31(水) 02:22:42.66 ID:k6HVn+ljB
ぎり、と歯を食いしばる音がした。
固く握りしめた拳はぶるぶると震えていた。
それでも静かに、けれど思いの丈を込めるように、ヘンリーは吐き捨てる。

「悍ましいったらねえよ。
 あいつの傍にいるぐらいなら、アーヴァインを助けてやったほうが数億倍マシだ」

ソロは、何も言えなかった。
恐らくセージはタバサを蘇らせたいだけで先のことなど全く考えていないだろうとか、タバサが狂った原因を彼に求めるのは酷ではないかとか、思う事がないわけではない。
けれどヘンリーには言えない。
タバサがどんな少女だったのか、彼女が何故死ななければならなかったのか――それを誰より良く知っているのは、セージではなくヘンリーなのだから。
そしてタバサをタバサとして蘇らせるのではなく、自ら"タバサ"に成り代わろうとしているのは、紛れもなくセージの過ちなのだから。

(……天空の勇者、か)

ふと、ソロは思い出す。
つい先ほど、ヘンリーが"タバサ"に言った言葉を。
そして本物のタバサと会った時、彼女はソロにどういう反応を示したのかを。

――ああ、そうだ。
本当に"タバサ"がタバサであったなら、兄以外の天空の勇者がいると聞かされたところで安心するはずがない。
今ならわかる。
ヘンリーは確かめたかったのだ。
もしかしたらティーダのように、強い想いに繋ぎ留められて。
あるいはウネやピサロのように、天性の魔力で自分自身の魂を保っていて。
そんな奇跡が、偽物の"タバサ"を本物のタバサに変えているかもしれないと――彼だって少しは期待していたのだ。

(……僕の眼には、セージさんは前よりずっとタバサちゃんに近づいているように見えた。
 でも……どれほど努力しても、きっと、『近づいている』だけなんだ)

ティーダ。ウネ。ピサロ。
三人に共通しているのは、最初から『本人』だったということだ。
本人しか知らないことを知っていて、本人にしか出来ないことができて、仲間や友人から見ても本人だと理解できて、疑う余地など欠片もない。
何故か?
問うまでもない、本人は本人なのだ。
近づくも遠ざかるも何もない。努力など必要ない。
仮に彼らが本物かどうか疑う人物がいたとしても、あの三人ならば口を揃えてこう断言するだろう。
『疑うなら勝手に疑えばいい、自分は自分だ』と。

727 :Idolatry 12/13:2021/03/31(水) 02:24:04.18 ID:k6HVn+ljB
だが、"タバサ"は違う。
モシャスか何かで姿を真似て、タバサが遺した【闇】と思い出をかき集めて、必死で本物のタバサに近づけようとしている、セージの努力の産物だ。
その根底にあるのはセージの意志であって、本物のタバサの意志ではない。
だから、近づけなければ近づかない。
真似ようとしなければ似せられない。
この先どれほど"タバサ"がセージの思い描くタバサになったとしても、永久に本人には成り得ない。
だってセージにとって、タバサの存在は我が身を捧げたくなるほどに輝かしいものだろうから。
心を壊したりなどしない、狂気に飲まれることもない、絶対的に正しい完全無欠の少女だろうから。

(……ラムザさんなら、上手くやれるんだろうか。
 セージさんにもう一度現実を見せて、元に戻すことが出来るんだろうか)

今、考えることではないのかもしれない。
カッパ化が解けた上にアーヴァインを連れ去っている以上、セフィロスと話し合う材料などないし、十中八九戦うことになる。
無論ヘンリーの身は守り切るつもりでいるけれど、いくら覚悟があろうとそれだけで勝てる相手ではない。
ラムザ達やセージと再会するどころか、この世界に屍を晒すことになるかもしれない。
でも、もしも生きて次の世界に辿り着けたなら、絶対に解決しなければいけない問題だ。

「あー、まあ、セージのことは後で考えりゃいいことだ。
 今はまずセフィロスを止めて、アーヴァインを助けることだけ考えようぜ。
 大丈夫、お前がいりゃあ絶対勝てるからな!」

ソロの思考を見透かしたように、ヘンリーはわざとらしく明るい調子でおどけてみせる。
その手にはいつの間にかキラーボウが握られていて、ベルトに吊り下げられたナイフも一本から三本に増えていた。
さすがにサイファー達をまとめて圧倒するセフィロス相手に、大剣での接近戦は自殺行為だと考えたらしい。

「ええ、そうですね。
 僕もヘンリーさんがいれば百人力ですが――誤射だけは気を付けてくださいね」
「え? お前も俺を誤射王扱いすんの?
 流行ってんの? そのマスタードラゴン直伝天空ジョーク」
「いやジョークも何も本気で心配してるんですが……」

ヘンリーの反応に困惑しながらも、ソロはそっと天空の剣を握り締める。
救わなければならない。
ヘンリーも、アーヴァインも、セージも。
無論、できることならその中にセフィロスの名前も加えたい。
けれどセフィロスにはセフィロスの選択があるのだろうとも思う。
馴れ合いや安寧よりも、果てなき死合いの果てで孤高の極みに一人立つ――
利ではなく、狂気でもなく、誇りゆえの選択が。
ならばいつまでもソロの理想を押し付けるわけにはいかない。
真正面から立ち向かい、阻み、打ち倒す。
それこそがたったひと時といえど行動を共にした、誇り高き英雄への礼儀だ。

携えた武具にも、賢者の力を宿したその瞳にも。
心にすら曇り一つなく、天空の勇者は前に進む。
その後姿が眩しいとでも言わんばかりに、ヘンリーは目を細めながら、後を追った。

728 :Idolatry 13/13:2021/03/31(水) 02:24:53.83 ID:k6HVn+ljB
【ソロ(MP2/5 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
 第一行動方針:セフィロスを止めてアーヴァインを救出する
 第ニ行動方針:仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:ケフカを倒す
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー
 所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、魔法の絨毯、リフレクトリング(E)、銀のフォーク、
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ、メガポーション
    ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
    リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
    レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:セフィロスを倒してアーヴァインを救出する
 第二行動方針;仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:セージを何とかする
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:希望のほこら北西、茂みと草原の境界線→北へ移動】



【セージ(MP2/5、人格同居状態)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
     イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
 基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
 最終行動方針:"タバサ"に復活してもらい、自分は淘汰される?
 "タバサ"(人格同居状態)
 第一行動方針:次の世界へ行く
 第ニ行動方針:ギードたちに協力して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
 基本行動方針:セージを助ける
 最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】
【バッツ(MP1/5、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得、左足微傷)
 所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
     マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:ソロ、ギードたちと再合流する
 第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(MP9/10)
 所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
     スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
 第一行動方針:ソロ、ギードたちと再合流する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:新フィールドへ】

729 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/03/31(水) 06:38:45.67 ID:SVeUGa0Hf
投下乙です!

これは・・・
これは・・・

自分を引き留めるタバサを見て、ヘンリーが真顔になるとこ、読んでるこっちの心が締め上げられるでしょ
タバサの真偽かかわらず、ヘンリーの心の地雷がどこにあるのか気づく手段がないから、
彼/彼女が何かすればするだけ、ヘンリーの心を踏みにじることになるという関係性、本当に救いがなくてつらすぎる


満身創痍の4人に恩を売って取り入り、絶体絶命の大ピンチですらチャンスに変えるケフカの手並み、
こいつ本当に煮ても焼いても食えないなあ
本当に信用できないのに切り捨てるには大義が足りないという、ものすごく嫌なポジションを確保してて
全体の利をはかる裏で自分の欲望をちゃっかり潜ませてるのも、なんというか、後で絶対に災厄招くだろって思えて怖い

730 :にア おいのりをする 1/5:2021/04/01(木) 00:55:32.38 ID:pw1bKcvHj
事の発端は、例によってティーダの奴だった。
突然現れた夢の扉から転がり出るように飛び込んできたと思えば、わけのわからないことを喚きたてたんだ。

「頼む、みんなアービン達を助けてくれ!!
 セフィロスが襲ってきてて、俺も戦おうとしたんだけどアービンがユウナと話してこいって――
 そんでユウナは説得できたんだけど、女の怪物が襲ってきて、召喚が途切れて!!
 アービンのこと呼んでも、返事がないんだ!!」

意味わかるか?
俺には無理だったねッ! ああわかってたまるかこんな戯言ッ!!
無論、他の連中も首を傾げるしかできなかったさ。
約一名を除いて、な。

「ふむ、筋道立てて考えるとこういうことでしょうかね。
 アーヴァインさんはサイファーさん達と一緒にセフィロスと交戦していて、それでティーダさんを召喚した。
 そしてユウナさん由来の【闇】がセフィロスを強化していることに気づいたので、影響を弱めるためにユウナさんの意志を浄化することを優先した。
 しかし途中でセフィロスの意志がアーヴァインさんの意識を乗っ取ってしまい、ティーダさんの召喚を強制解除してしまった――」
「そう! そうそうそう、それそれ多分そうッス!!!
 だからアービンもサイファーもきっとみんなピンチでだから!!」
「早急に手立てを打たないとまずい、ということですね」

ちょび髭生やした小男のプサン、もとい異界の竜神マスタードラゴン。
こいつの翻訳と、ティーダがぶんぶん首を縦に振ったことで、ようやく事態の把握が可能になる。
要するに最悪の方向に事態が転がったということだ。
それでも、というべきか、さすが、というべきか、いち早く動いたのはスコール。
攻略本を素早くめくり、セフィロスについて記載されたページを広げる。
素早く上下に瞳を動かし、やがて一か所に指を止めた。

「……アーヴァインに呼びかける方法はないか?」

そこに書かれていたのは、セフィロスの強さの根幹たる、ジェノバという怪生物について。
自在に分裂し、他者の記憶を読み取って油断を誘う姿に擬態し、隙を見せたものに寄生し、やがて一つに再統合する――実に不気味で悍ましい生態だ。
しかしスコールはその記述に何らかの逆転の目を見出し、プサンやザンデも意図を汲んだらしい。

「ウネだな」
「ロザリーさんですね」

上がったのは別々の名前。
婆さんは何故か得意げに胸を張り、桃髪のエルフはきょとんと赤い目を見開く。
大男と小男は顔を見合わせ、各々の論拠を述べ立てる。

731 :にア おいのりをする 2/5:2021/04/01(木) 00:57:11.07 ID:pw1bKcvHj
「そこの小僧は召喚者の夢によって魂を繋ぎ留められた召喚獣だ。
 夢を支配するウネならば、繋がりを利用して呼びかけることもできよう」
「ロザリーさんの祈りは現実と夢の境界を超えて、遠く離れた場所に鮮明なイメージを届ける力があります。
 つまりお二方の力を合わせれば、よりスコールさんの思惑通りに事を運べるかと」
「は、はあ……」
ロザリーは曖昧に微笑みながらうなずく。
多分、会話の意味がわからず困惑しているだけなのだろう。
そんな彼女の手を、妙にはりきっているウネが引っ掴む。
「任せておおきよ! さあさロザリーにティーダ、こっちに来な!!
 あとザンデ、あんたも手伝うんだよ!!」

正直に言うが、俺にはこいつらが何をやろうとしているのか全くわからないし理解する気もない。
だが、あれよあれよという間にウネとザンデが魔法陣を作り上げ、中央にロザリーとティーダを据えた。
後は周囲に集まって祈るだけでいいらしい。
婆さんに促されるまま、スコールが手を組んで祈り始め、リルムとマッシュ、プサンが後に続く。
当然俺は協力しない。
スコールの手前、さすがに口に出して茶化したりはしないがな。
さっさと死んだほうがいい『化物』がわざわざ助かるように祈る?
冗談じゃないッ!!
――そう心の中で吐き捨てながら、他の連中と距離を取る。

光り輝く魔法陣。
老婆の詠唱と共に舞う赤い鳥。
中央で祈るエルフの少女と召喚獣。
その周りを取り囲んで祈る人々。
何も知らなければ幻想的で、いっそ美しいとさえいえる光景だ。
だがその全てはあの『化物』の為なのだから、どうしようもない。
ドブ川の流れを眺めている方がよっぽど有意義だ。

……ああ、断っておくが、スコールについては仕方ないだろうさ。
化物に成り果てようと知人は知人だろうし、捨てられない感情ってものがあるということは理解できる。
これでティーダみたいに取り乱したり、化物一人のためにハイリスクな手段を選ぼうとかいうなら諫めもするが――
ただ祈るだけで事が済むというならそりゃあ乗るだろうし、俺だって止めやしない。

ロザリーについても、あまりどうこう言う気はない。
祈ることで遠く離れた他人に夢のメッセージを届けるなんて異能を持ってるのは彼女だけだ。
力を貸してくれと乞われて、その頼みを引き受けているだけなのだから、俺が口を挟むのはお門違いだろうよ。
…………それに、下手に文句や因縁をつけると面倒なお守がいる、というのもある。
何故か夢の世界には姿を見せていないが、呼び出せないと決まったわけじゃないからな。

ウネの婆さんも……まあ、ああいう婆さんだ。
良くも悪くも、出来ることなら無条件で協力するタイプの善人。
そして良くも悪くも、自分の中で答えが出ていることに対しては周りが何を言っても聞かない頑固者。
『どこの世界にもいるんだな』としか言いようがない、典型的な老人だ。
どうせ俺みたいな若造が何か言ったって、百万倍の言葉で言い返してくるに決まってるのだから、これはもう割り切るしかない。

732 :にア おいのりをする 3/5:2021/04/01(木) 00:58:35.16 ID:pw1bKcvHj
納得いくのはこの三人ぐらいだ。
あとは呆れるしかない馬鹿――

ティーダ。貴様だよ貴様ッ!!
前々からそうだと思ったが今度こそははっきりわからされたよッ!!
こいつに関心を割くこと自体が無駄だってなッ!
召喚されたってのにロクな戦果を上げないわ、説明もまともにできないわッ!
プサンがいなかったら誰も事態を把握できなかったぞッ!
誰か俺に教えてみろよッ、こいつのどこをどう評価すればいいのかをッ!!

それにマッシュ!
他の連中と一緒になって化物のために祈ってやるとか、一体何を考えてるんだ?
どう考えてもお前はあの化物の被害者側だろ?!
奴に殺されたうちの一人はお前の仲間だって攻略本に書いてあったんだが?
ユウナが発狂してお前の兄貴を殺した原因だって、どう考えてもティーダとあの化物が一枚噛んでるはずだがッ!?
スコールやリルムに付き合って祈ってるだけなのか?
だとしても俺には理解できないなッ!

もちろんリルムの奴も馬鹿枠の一人だ。
『化物』やらピサロやらに平然と懐いて、ティーダと一緒になってぎゃあぎゃあ騒ぐ馬鹿ガキッ。
こんな奴が優秀な魔導士だってんだから、本ッ当に世の中狂ってやがるッ。
いや優秀な魔導士だからこそキワモノに懐くのか?
わからないしわかりたくもないがなッ。
せいぜいそのまま祈り続けて一生黙っていろッ!

はあ、本当にこいつら、視界に入るだけで気が滅入る。
聴こえないよう小さく舌打ちしつつ、俺は残りの二人にも視線を向ける。

魔王を自称する魔導士……というにはあまりにも体格が良すぎる魔人、ザンデ。
俺以外では唯一祈りの輪に加わらず、いつの間にかスコールの広げた本を勝手に読み始めているが――それはもともと俺の攻略本なんだがな?
いつ人の本を読んでいいと許可した?
それに自分が祈る気もないのなら、最初から人員の推薦だの魔法陣の準備だのをしなければこんな茶番は始まらなかったんだが?
………と、色々問い詰めたいところだが。
さすがに、面と向かって口を出す気にはなれない。
こういう何を考えているかわからん手合いとは下手に関りを持たない方が無難だろうしな。
………怖いからじゃないぞッ!! 断じてッ!!

それから異界の竜神の化身、プサン。
胡散臭いという点ではこいつが断トツだ。
存在自体がグレバドスの教えに反してるってのもあるが……いや、その点は目を瞑るとしても。
今の騒動で、俺は確信したね。
絶対にこいつは隠し事をしているってなッ。

だいたいおかしいんだよッ。
なんでティーダの説明をまともに翻訳できるんだ?
何度でも言うが、ティーダの説明はこれだぞッ?!
『セフィロスと交戦中にユウナを説得しようとして女の怪物が襲ってきて召喚が途切れた』、だぞ?
これがどこをどうしたら、
『セフィロスと交戦中にティーダを召喚したけれど、セフィロスを強化しているユウナ由来の【闇】の排除を優先した。
 ティーダは上手くユウナを説得したが、セフィロスの干渉が強まって召喚を打ち切られた』になるんだッ?!

733 :にア おいのりをする 4/5:2021/04/01(木) 00:59:24.84 ID:pw1bKcvHj
なあ。明らかに情報が飛躍してるよなッ?
【闇】がセフィロスを強化していたとかどこから判断できるッ?
"女の怪物"とやらはどこへ行ったッ?!
それに再召喚しない理由だって、単純に"サイファー達がセフィロス撃退に成功したから召喚する必要がなくなった"って可能性もあり得るだろうッ!!
そして一番おかしいのは、ティーダの奴が一切訂正や反論をしなかったことだッ!!
いくら筋道立てた推論だとしても、元々の説明が意味不明な妄言なんだぞッ!!
粗が無いはずがないだろうがッ!!

――ああ、もちろん他にも根拠はあるぜ。
攻略本に書いてあったんだよ。
マスタードラゴンという竜神は、本来天空の城に座しながら地上全てを見守る神だと。
しかしプサンの姿では、強力な魔力の痕跡を通じてそこにまつわる過去を見通す程度がせいぜいだと。

過去とはいつだ?
決まっている。現在でない、過ぎ去った時間全てだ。
一時間前も一分前も一秒前も、体感できぬほどの刹那であっても、現在より以前であれば等しく過去だ。
そして強力な魔力の痕跡というならば、現在進行形で繋がっている魔力経路はどうだ?
魂を持つ魔力の塊である召喚獣と、それを現実世界に呼び出す召喚士。
ロザリーやウネの補助があるとはいえ、メッセージを送り付けられるほどの繋がりがあるというなら、同じように辿れるんじゃないのかッ?
限りなく現在に近い過去を見通して、的確な助言を下すことだってできるんじゃないのかッ!?

何度でも言ってやる。
俺は確信してるんだッ!
この異界の竜神は隠し事をしているッ。
化物とティーダの繋がりを利用して、一人だけ現実世界の動向を監視してるとなッ!
他の誰にも説明しないままにッ!!

……だが、同時にわかってもいるさ。
このことを問い詰めたところで徒労に終わるだろうってことは。
何せ、俺の手札は全て根拠となりえる情報であって、明確な証拠ではない。
『貴方の意見が推論であるように、私もただ知りえた情報から話が通じるように推論を述べただけですが』と言われれば、それ以上追及しようがない。
そして逆に、プサンがすんなり認めたとしても――
『知る必要のないことまで伝えても要らぬ混乱を招くだけです』と主張するに決まっている。
実際に喚きまくっているティーダとリルムがいるのだから、スコールも他の連中も反論することはできないだろう。

結局、俺にできることは不信感を燻ぶらせ、不安を募らせることだけ。
だからといって化物相手に祈りを捧げるなんて――あああ、全く冗談じゃないッ!!
だがしかし、化物が化物以上の怪物に使役されるなんざ、それこそ笑い話にもならないッ!
せめてソロ達に情報が送れれば……
クソッ、なんでティーダのやつ、あの化物としか召喚契約を結んでないんだッ!!
ソロにヘンリーにラムザに20歳児ッ!! 四人もいて一人も召喚士がいないとかふざけてるのかッ!!
全く本当にどいつもこいつも無能揃いで反吐が出るッ!!
おかげで俺まで、最低最悪の事態でないことを祈るしかないなんてなッ!!

734 :にア おいのりをする 5/5:2021/04/01(木) 01:05:25.59 ID:pw1bKcvHj
【スコール (首輪解除)
 所持品:(E)ライオンハート、エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、ファイアビュート、写真、Gメガポーション×9、メガポーション×10
 第一行動方針:脱出計画の準備/対セフィロス戦のサポート手段を考える
 基本行動方針:ゲームを止める】

【プサン(HP4/5、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
 所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、水のリング、炎のリング、命のリング、ミスリルシールド、メガポーション
 第一行動方針:脱出計画の準備/現実世界の監視????
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【マッシュ(HP1/2、右腕欠損、首輪解除)
 所持品:エリクサー、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3
 第一行動方針:脱出計画の準備/スコールに協力する
 最終行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルガスの夢の世界→会場外・コテージへ】

【リルム(右目失明、HP9/10、MP1/2、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、フラタニティ、不思議なタンバリン、エリクサー、レーザーウエポン、グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:脱出計画の準備/スコールとティーダに協力する
 最終行動方針:ゲームの破壊】

【ザンデ(睡眠)
 所持品:ドライバーに改造した聖なる矢、静寂の玉、メガポーション
 第一行動方針:スコールに協力する
 基本行動方針:ゲームを脱出する】

【ロザリー(首輪解除)
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、しっぽアクセ(E)、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン、メガポーション、Gメガポーション×5
 第一行動方針:脱出計画の準備/スコールに協力する
 最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※【闇】の残り魔力は少量です。

【アルガス(左目失明、首輪解除)
 所持品:E.インパスの指輪、E.タークスの制服、E.高級腕時計、草薙の剣、ももんじゃのしっぽ、カヌー(縮小中)、天の村雲(刃こぼれ)、ウネの鍵、メガポーション、コテージ×3
 第一行動方針:アルティミシアを監視する
 第ニ行動方針:派閥の拡大
 第三行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】

【現在位置:会場外・コテージ/アルガスの夢世界】

735 :Paranoid Doll 1/7:2021/04/01(木) 01:25:05.43 ID:pw1bKcvHj
体が、勝手に動く。
歩きたくもないのに、足が交互に草を踏みしだいていて。
見たくもないのに、風になびく銀髪の一本一本が視界と思考に刻み込まれていって。
そのくせ張り上げたい叫びは、壊れ果てた喉に引っかかって出てこなくて。
このまま先に進んでしまえば待っているのは破滅だとわかっているのに、立ち止まることさえできない。

いつだってこうだ。
いつだって僕は肝心な時に役立たずで、無力だった。
魔女との決戦の時だって、僕はその結果を見届ける前に力尽きてた。
レーベでのバトルもそうだ。万全を期したはずの作戦はあっけなく破られて、絶望に沈むことしかできなくなって。
記憶と引き換えに得た、別の道を歩むチャンスも、自分が納得できないからなんて理由で投げ捨ててしまった。
そんな身勝手と無力さの果てが"コレ"だ。
なりたくもないものに成り果てて、自分よりもおぞましい怪物に利用しつくされて、餌として死んでいくだけの未来。

わかってる。
どんなに無駄でも、足掻かなきゃいけないんだってことは。
自分が頑張らなきゃ、何もかもおしまいになっちゃうってことは。
でも、できないんだ。
ティーダに助けを求めようとしても、うまくできない。
頭と胸を貫くような激痛が走って、『止めろ』ってセフィロスの声が響いて、それで――
それで、……ティーダ、てぃーだ……

――頭が、痛い。

助けて。
誰か助けて。
声が響くんだ。
ユウナの声。セフィロスの声。死んだ人の声。殺した誰かの声。
止めて。いやだ。助けて。
頭の中がぐちゃぐちゃで、サイファーが目の前で石になって、『お前は私の人形だ』って笑い声が響くんだ。
殺したはずのタ**が目の前にいて夢の中でユウナが僕を何度も撃って街が光に飲み込まれて消えて
ゼルが死んで僕が※※※の首を切り落としていてテ※ナの吐いた血が腕にかかって
テ※ーが殺されてティーダが死んだって聞こえて目の前が真っ暗なのに闇の奥から赤い目が赤い目が赤い赤い赤い赤い赤い銀色の――

"流されちゃダメ!"

唐突に響く、誰かの声。
それで、幻覚と妄想に囚われてた僕の意識は現実へと立ち戻る。
もちろん体は相変わらず勝手に動き続けていて、我に返ったからといって何かできることもない。
ただ、ぼやけた記憶を手繰って、思い出せないことを理解するだけ。

736 :Paranoid Doll 2/7:2021/04/01(木) 01:26:00.27 ID:pw1bKcvHj
(……でも、聞き覚えはあるんだ……
 ………あれは、誰の、声だったっけ?)

知っているはずで、忘れていいはずがなくて、何度も隣に立っていたはずの、誰か。
ユウナじゃなく、セ※※ィじゃなく、リルムでもなく、キス※ィ※でもない女の子の声。
なんで思い出せないんだろうか。
ティーダが薬をくれたのに、あの時無くした記憶は全部戻ってきたのに、どうしてまたわからないことが増えていく?

"しっかりしなさいよ、この薄情者!"

げしっ、と膝裏を蹴り飛ばされた気がした。
――いや、それこそ体が覚えていた『記憶』だったのかもしれない。
"彼女"が生きていたらきっとそうしただろうという、僕に残された正気が呼び起こした幻覚。
それともあるいは……あるいは、彼女も僕が取り込んだ【闇】の中にいる誰かなのだろうか?
ゼルが居たみたいに彼女も居て――嫌だ。
それはダメだだって彼女がいるべきなのはそこじゃない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う彼女は誰?
僕は何を知っている?
わからないといけないはずのことがわからない。
記憶の輪郭が曖昧になって、現実で自分が何をしているのかもぼんやりとしていて、
ここにいる僕が本当に僕なのか、それさえもどんどんわからなくなっていって……

"あーもう! しっかりしなさいって言ってるじゃない!
 聴こえないの!? みんなの声が!!"

……声?
みんな、の?

彼女の言葉に導かれるように、僕は左手の先を見つめた。
白い羽のようにふわりと舞い上がる、七色の光の欠片。
ティーダの気配を感じると同時に、世界が揺らぐ。
心の奥底から流れ込んできた光景が、現実を塗り潰しながら視界いっぱいに広がって――

737 :Paranoid Doll 3/7:2021/04/01(木) 01:34:30.59 ID:pw1bKcvHj
 『どうか、私達の祈りを聞いてください。
  皆の想いを、願いを、受け取ってください』
 『感じるんだよ、わからなくとも!
  耳を澄ませるように心を澄ませて!
  夢を超える祈りと思いを感じ取るんだ!』

桃色の髪が虚空になびき、真っ赤なオウムが飛んでいく。
ぼんやりとした景色の中、長い睫毛を伏せて、尖った耳を小刻みに動かしながら何かを願っている少女。
その向かいには、ティーダがやはり固く目を瞑りながら祈っていて。
オウムがぐるぐると二人の周りを飛び回り、舞い散る羽と共に複雑な光の軌跡を残していく。
五芒星や六芒星を思わせる模様と得体のしれない文字の組み合わせ、そして数多の円形で構成された光のドーム。
それが何を意味しているのか、理解する余裕なんて無い。
いくつもの聞き覚えのある声と、様々な景色が、ぶわっと頭の中に流れ込んできたからだ。

『ごるぁーー!! カッパなんぞに負けてるんじゃねーぞモヤシヤロー!!
 そんな体たらくじゃティーダもテリーもゼルもがっかりするだろ!!
 ヘンな似顔絵描かれたくなかったら、絶対! 生きて戻ってこーーい!!』

必死になってるのが嫌でもわかる、甲高い女の子の喚き声。
そして、爆ぜる焚火と泣いている棒人間の絵。

『あああ、全く冗談じゃないッ……化物が化物以上の怪物に使役されるなんざ笑い話にもならないんだよッ!
 せめてソロ達に情報が送れればまだどうにか……
 クソッ、なんでティーダのやつ、あの化物としか召喚契約を結んでないんだッ!
 ……どいつもこいつも無能揃いで反吐が出るッ!! 最低最悪の事態でないことを祈るしかないなんてなッ!!』

焦燥と憎悪と苛立ちでいっぱいの、壊したいほど不愉快な男の声。
そして、抉った眼球と指先に絡みついた血。

『祈るってもなあ、……いや、どんな奴でも生きてた方がいいに決まってるよな。
 ティーダもだけど、スコールやリルムだって悲しむわけだしさ。
 あー……あんま気の利いた事思い浮かばないけど、とにかく生きろ! な!!』

割り切れない嫌悪と、誰かへの気遣いと、切り捨てられない同情がぐちゃぐちゃに入り混じった、大人の声。
そして、少女の亡骸が変じた淡く輝く不思議な石。

『星の寄生体メテオパラサイトその中でも擬態能力に秀でた変種ジェノバ。
 ノアすら知らぬ稀少な魔物。実に興味深い是非とも我が目で解析したい。
 ロザリーの力も素晴らしい"祈り"という形に限れども現実と夢の境界を超える力。
 ティーダの存在も面白い死者の夢より生まれ、他者の夢によって蘇った召喚獣。
 千の夜を費やそうとも決して知りえぬ異世界の存在知識技術――
 しかし現状において最も解析し甲斐がありそうなのはやはりあの小僧。
 夢を通じての解析では精神面しか測れぬ肝心なのは様々な要因に汚染された身体の方。
 しかし今行っている儀式もあくまで机上の理論。
 我らの思念をウネとロザリーの力で束ねティーダを通じて投射し擬態能力を逆用して自我と人格を安定化させる。
 理論上問題はないはずだが果たしてどこまで上手く行くものか結果を知りたいがそこの神とやらならばわかるのか』

……あまりに早口すぎて何言ってるかわかんないけど、やたら解析したがってることだけはわかる謎の声。
そして、数多の水晶の欠片に映る、僕が殺した人達の死に顔。

738 :Paranoid Doll 4/7:2021/04/01(木) 01:35:46.35 ID:pw1bKcvHj
『流れを見る限り上手く行っているようですが……どうにか聞こえてはいるようですね。
 アーヴァインさん。貴方の置かれている状況はおおよそわかります。
 きっと自分が誰かわからなくなりかけて、自分の意志で体を動かすことすらできなくなっているのでしょう。
 ですが、こうして我々の声を聞いている貴方は、間違いなくアーヴァインという人間です。
 姿形がどう変わろうと、我々がそうだと信じている限り、貴方はアーヴァインという人間なのです。
 だから、自分の意志をしっかりと持ってください。
 一歩でもいい。一歩、踏み出す気力を取り戻すのです』

不気味なほど全てを見透かしてる、優しいのにどこか身震いしたくなる重圧を秘めた不思議な声。
そして、誰かを轢きかけながら爆走する何かの車の運転座席。

それから――

『アーヴァイン』
『アービンッ!!』

大切な、友達の、声。
僕のために祈ってくれる、二人の姿。

『助けに行けなくて、済まない』
『ごめん!! 俺のこと、呼べなくなってるぐらいピンチなのに、自力で助けに行けなくて――』

どうして謝るのかな。
らしくないったらありゃしない。
どうして泣きそうな声してるのかな。
いつもそうだ、泣いてほしくないから頑張ってるのに。

『どうにか……何とか、時間を稼いでくれ。
 今朝、サイファーとヘンリーが夢の世界を出て行ったのは同時だった。
 だからソロ達が近くにいるはずだ。
 例え先回りして希望の祠に到着していたとしても皆と合流するために待つだろうし、激しく戦っていたなら音や光で絶対に気づくはずなんだ。
 だから――』
『俺にできることは少ないけど……それでもできることはする!!
 祈りが届くなら幾らだって祈るし、忘れさせられそうだっていうなら何度でも思い出させてみせる!!
 そんで、絶対助けに行く!! 無理でも、無茶でも、絶対に助けてみせる!!
 だから――』

そんなに必死になって叫ばなくてもいいよ。
二人が何言いたいかなんて、予想、つくよ。
どうせ、諦めるな、だろ?

『『だから、諦めるな!!』』

ほらね。
わかってるよ。
心配しなくても……忘れさせられても、忘れたり、しない。
二人のことだけは、きっと。

 『私達の祈りよ、どうか届いてください。
  そして願わくば……ピサロ様、私たちに力をお貸しください。
  アリアハンで起きた悲劇を繰り返さぬよう、皆様に力をお貸しください』

桃色の瞳からルビーの涙が零れ落ちる。
その輝きは床に落ちる前に砕け散って、七色の光に変わる。
ぶわっと舞い上がった光は、僕の視界を再び覆いつくし――

739 :Paranoid Doll 5/7:2021/04/01(木) 01:37:00.07 ID:pw1bKcvHj
気が付けば、目の前にあるのは代わり映えのない光景。
暗い空に湿った草原、見たくない男の背中を追いかける自分の体。
全ては白昼夢だ。
ティーダとスコールが、夢世界のみんなの力を借りて、僕を助けようと見せた夢。
一瞬だったのか、数分経ったのか、そもそも歩かされるようになってからどれぐらいの時間が過ぎたのか、何もわからない。
それでも、今何をすべきかだけははっきりわかる、

狙撃手は独りぼっちだ。
でも、僕は一人じゃない。
黒いコートを狙い撃つだけの余力はない。
でも、一歩踏み出すことなら。
皆が背中を押してくれている今なら、きっとできる。

意を決して、勝手に歩く足に力を込める。
止める必要はない。向きを変えることだってできなくていい。
ただ、少しだけ強く、踵で地面を蹴りつける。
それさえできれば、奴との距離は自動で開く。

ガチリ、と足元から起動音が響く。
竜騎士の靴――今まで何度も役に立ってくれた支給品。
その靴底に仕込まれた装置が僕の体を空中へと打ち上げる。
軽く蹴るだけでも3階建ての建物に楽々登れるけれど、全力で蹴りつければもっと高みまで行けるのは実践済み。
それだけ距離を取れば、あいつの意志の影響も薄れ出す。
そして、僕にはスコールがくれた武器がある。
パンデモニウムのアビリティ、"さきがけ"。
時間の流れを局所的に歪めて引き起こす先制攻撃。
一回こっきりではあるけれど、アルティミシアですら覆せない絶対のアドバンテージ。

思い出せ。
薄れた記憶じゃない、体に染みついた経験を。
思い出せ。
激戦の最中で幾度も覚えたあの時。
静止した世界で一人ショットを打ち続ける、あの感覚を。
肺いっぱいに息を吸い込んで集中しろ。
振り向こうとしている標的。風になびく銀の髪。
銃を手に取って、引き金だけを引け。
引け。
引け。
動け。
動かせ。
撃ちたくないなんて幻覚だ、撃てないなんて気のせいだ。
僕は僕だ僕は僕だあいつじゃない撃てる撃てる撃てる撃てる撃つんだ!!
思考を止めろ息を止めろ心臓を止めろ時を止めろ指だけを動かせいつものように撃てるだろ!!
まま先生を撃った時のように指を引くだけだ!!
僕は僕だ。僕は人間だ。僕は狙撃手だ。
僕は馬鹿なバトル野郎だ。僕は狂った殺人鬼だ。僕は恩知らずの化物だ。
それで、それで、僕は――ティーダの友達で、スコールの仲間なんだ!!!
だから!!!

740 :Paranoid Doll 6/7:2021/04/01(木) 01:38:14.46 ID:pw1bKcvHj
「――――!!!」

ありったけの気合を込めて、引き金を引く。
引く引く引く引く撃つ撃つ撃つ撃つ。
銃口は確かに下を向いて、幾条もの閃光が地上に向かって降り注ぐ。
なのに――

「無駄な抵抗は楽しいか?」

気づいた時には、人形のように端正な顔が目の前にあって。
鳩尾に重い衝撃が走る。
何が起きたのか理解するより前に、冷酷に耳元で囁く声が、僕の意識を再びぐちゃぐちゃにかき乱す。

「諦めろ。お前は私の人形だ」

違う、と言いたかった。
口が動かない。
体が落ちていく。
空中だった。
届かないはずだった。
靴の力を借りてやっと辿り着けるはずの高みに、どうやって飛んできた?
浮かんだ疑問の答えは、勝手に頭の中に流れ込んでくる。
何故ならソレはジェノバの末裔だから。
星を喰らい宙を旅するものだから。
重力は枷にならず、片翼でも飛び立てる。
分かれて地に満ち、集って飛び立ち、永遠に虚空を流浪する。
知らない知識。僕のものでない感情。わかりたくない情報。
喉元に激痛が走る。
指が食い込むほどの力で締め上げられ、息ができなくなる。
地面への自由落下が始まる中、もがく右腕に連動して視界が目まぐるしく回る。
溶岩を照り返す岩肌の空。
草原の向こうに佇む希望の祠。
跡形もなく破壊された城の残骸。
石化したサイファーを囲んでいる皆。
生い茂る草むらをかき分けて走る誰かと誰か。
暗い場所に囚われてるユウナ。
【闇】の向こうに佇む不気味な仮面をつけた人影。
ぐったりとした犬を抱えた空色のワンピースの女の子。
そしてこちらに向かって必死に手を伸ばそうとする―――ああ、誰、だっけ?

『しっかりしろ!!』
"しっかりして!!"

誰の声?
誰の言葉?
思い出し切れないまま、指だけが動く。
左手の人差し指。
握りしめたままの引き金が再度引かれ、当たるはずのない光条が雑草を数本穿ち抜く。

741 :Paranoid Doll 7/7:2021/04/01(木) 01:38:51.76 ID:pw1bKcvHj
ぼんやりとした思考をよぎっていったのは、いつか、どこかで聞いた言葉。
『外してもいいから撃て』って――そう、誰かの、声。

あれはいつの話だっただろう?
何で外していいんだろう?
思い出の中の誰かと目が合う。
雨のように深い青。
違う。
太陽が照らす空の色。
違う。
濁った緑と縦長の瞳。
違う。
違わない。
違う。
だって、赤い。
飛んでくる、赤い炎。
草原を切り裂いて――違う、これは現実?――

「いつまで足掻くつもりだ」

地表に激突する寸前、絶望そのものとしか言いようのない呟きと共に、首筋を掴む力が一際強まった。
体が勢いよく振り回されて、背中に衝撃が走る。
焦げる臭いと不快な熱さ、肉に食い込む激痛。
そのまま叩きつけるように身体を投げ出されて、ぽきりと音がして、痛みがさらに深く押し込まれた。
矢だ。見覚えのある。
燃やされながら飛んできた、何かの、矢。
なんで?
誰が?
二人。走ってくる。緑の髪。白い鎧。緑の髪。白い服。
視覚情報を頭が処理するより早く、意識が暗闇に溶けていく。
わからないことも、わかるはずのことも、忘れたくないことも、知りたくないことも、思い出そうとしたことさえも。
握りしめていたはずなのに、掌の中から零れ落ちるように消えていく。
だけど、それでも――――微かに過ぎる、あの声。
あの時の言葉。
暗い空の下で聞いた、誰かの……――

 ――外してもいいから撃て――
 ――俺たちに任せればいい――
 ――ただの合図だ――

ねえ、****。
撃ったよ。
外しちゃったけど。
でも、合図にはなったのかな。
誰だっけ。
誰への、何の、合図だったっけ。
思い出せないや。
思い出せない、けど……

あとは、まかせて、いいよね?

742 :Paranoid Doll 状態表:2021/04/01(木) 01:39:44.23 ID:pw1bKcvHj
【セフィロス (HP:1/5、右腕喪失)
 所持品:E正宗、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
     スコールの伝言メモ
 第一行動方針:希望のほこらでアンジェロの蘇生を試す
 第二行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉をくぐる
 第五行動方針:首輪を外す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

【アーヴァイン (気絶、HP3/4、MP1/4、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、アレイズ×1
 第一行動方針:????
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣


【ソロ(MP2/5 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
 第一行動方針:セフィロスを止めてアーヴァインを救出する
 第ニ行動方針:仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:ケフカを倒す
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー
 所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ、魔法の絨毯、リフレクトリング、銀のフォーク、
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ、メガポーション
    ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
    リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
    レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:セフィロスを倒してアーヴァインを救出する
 第二行動方針;仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:セージを何とかする
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】

【現在位置:希望のほこら北の平原】

743 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/01(木) 07:17:30.09 ID:WKIvF20b3
投下乙です。

英雄たちは、希望や祈りが最後に結実するまで生き抜いてきて、祈りに希望を見出せるのに、
一般人で現実主義者のアルガスだけは祈りなんて通じないことが身に染みているので、悪態をつくしかない。
アーヴァインへの好感度もあるのだろうけれど、英雄と一般人の差が如実に表れてて残酷だなあ。
しかもアーヴァインに内心届いちゃってるのは笑いどころかな?


アーヴァインのほうの状況は、もう満を持してセフィロスとソロが激突したとしか言いようがないなあ。
魔女狙撃で見せた孤独と、それでも寄り添ってくれる人たちがいることを自覚したシーンに絡めてくるのが秀逸すぎるし、
ほぼ全員の応援を一心に受けているとかアツすぎるでしょ。
脱出組だけじゃなくて、読者としても応援したくなってしまう構成がお見事です。

744 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/06(火) 21:59:13.43 ID:laP0a2MoM
投下乙です
久しぶりに読んだら大分話が進んでいて驚いた
今年入って既にこんなに投下があるとは……昨年末にユウナ関連が解決したと思いきやの怒涛の展開に舌を巻く……

たった一手で全ての状況をひっくり返すセフィロスがひたすらに強すぎて、数的不利もなんのそのでサイファー一行を的確に追い詰め、
自分の思惑は遂行し、スコールのメモ含むアイテムまで回収、死者を出さずとも物理的にも精神的にもガッツリ傷跡を残していくのが見事すぎる強すぎる……。
死者を出さない、ア―ヴァインの意識を残すなど、そのあたりのさじ加減にすら思惑があり、完遂するのが完全にしてやられた感があり素晴らしい。
残されたギードやリュックたちの無力感でいっぱいの会話が胸に残った。
直前のティーダとユウナのようやくの再会と希望ある展開……と見せかけての思わぬ一手からの最悪に最悪を重ねた展開に、ひたすらドキドキさせられた。面白かった……。

頑張って演技するソロが、本人は真面目なのに読み手としては少し和んで笑ってしまった。
苦笑で返すヘンリーの顔が目に浮かぶ……お互いを理解しているこの二人やっぱりいいなあ。1日目からの絆を確かに感じてしみじみとしてしまう。
弔おうとするソロがどこまでも勇者として一貫していて……。
緊迫感はありつつも、行動を共にし続けた二人の会話に心地よさをおぼえる話だった!

ケフカは所謂純粋な対主催ではないのにその場その場での動きがかなり的確かつ手回しや画策にも余念がなく頑張ってて応援してしまう。
自身にとっても最悪としか言えない状況でも、次を考えて様々な手を打っているのは流石の一言。抜かりない。つよい。あと言葉選びが愉快すぎて楽しい。
かなりここの4人組の内側に入り込んでしまっている状況でのケフカの企みがどうなるのか、本当に目が離せない……!
あとリュックのアーヴァインへの言葉は、時間としては短いかもしれないけど、
共に狂言の担い手になり、変貌を目の当たりにし、何度も心を寄せたこの一晩の出来事が思い出されて涙ぐんだ……。

バッツがローグのことを思い浮かべてるのが、彼との時間が確かにロワ内であった出来事だと思わせてくれてすごく好きだ。
ひとまずケフカの言うようなセフィロス+アーヴァイン+"タバサ"の状況にはならないようで一安心……はまだ早いか。
二つ前の話でもそうだけど、ずっと行動を共にしていたソロとヘンリーの会話がいいなあ……そりゃあヘンリーは複雑だよ……。
ソロの視点とはまた異なる、ヘンリーにしか感じ得ないセージへの言葉の数々に胸が締め付けられた。
細かい描写にキャラらしさやこれまでの道筋、それぞれの感情の機微を感じられてとても良かった。

745 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/06(火) 22:00:00.39 ID:laP0a2MoM
アルガスの物言いはクセになる良さだな〜と登場する度に感じてしまう。
心の中でとはいえ、ティーダの支離滅裂な訴えやらプサンの超翻訳やら各キャラクターの動向やらにつぎつぎ切り込むのは気持ちよさすらあって、
アルガス一人称視点はその意味でとても楽しい。彼のセリフ自体にこっちがつっこみを入れられるのも含めてたのしい。
「化物」に対する祈りでなくても、状況に対して彼も同じ様に祈らざるをえないというのが、全体の展開を綺麗に纏めててすごいなあ。
こういう状況で呼びかける方法として、文字通り別世界別さ区品のウネとロザリーの2人の名前が挙がり、
両者の力を合わせて展開していくのが、このロワの醍醐味を感じて個人的に好き。

そしてとうとうセフィロスコピーとして操られることになったアーヴァイン視点の話。
直前の話から連なる、様々な感情が入り交じったそれぞれの祈りと記憶の断片の描写に、
ここ最近の話だけじゃなくてこのロワの過去のあらゆる話が実際に脳裏に浮かんで、まるでアーヴァインの見ている光景の追体験をしているような気分だった。
そして行き着く「僕は一人じゃない」の答えに感無量……。
一歩踏み出した彼の、思い通りに行かない身体を動けと命じる、悲痛で必死な心の叫びにこちらまで手に汗握って頑張れ!という気持ちでいっぱいになった。
全体を通して、原作でアーヴァインというキャラクターにとって大きな意味を持つシーンと重ね合わせる演出がアツすぎて、自然と涙がでてしまった。
同じ世界の仲間のリノアがずっと呼びかけてくれるのもすごくよかった……。
最悪の状況でなんとか稼いだ時間でつかみ取ったソロ・ヘンリーとセフィロスの相対。続きがあまりにも楽しみすぎる。

あまりの面白さに感銘を受けた勢いに任せて、今年投下分だけでもと感想をしたためたらちょっと長くなってしまった。申し訳ないです。
放送後からも状況が動きまくり加速しまくりで、誰がどう動くのか全く想像がつかなくて本当に面白い。面白すぎる。面白すぎる……。
今後どうなるか本当に楽しみです。一読み手ながら応援しています。

746 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/17(土) 23:10:36.89 ID:6kwsfQGso
容量関係で投下できなかった場合は以下に投下します
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/22429/1115085648/l50

747 :いたずら王子のメソッド 1/10:2021/04/17(土) 23:17:41.39 ID:6kwsfQGso
あらゆる『決め』において必須なのは、落としどころをどこに持っていくか、だ。
一対一の話し合いですら、その準備が欠けてしまえば、決裂という結果に終わる。

まして、政治の世界においては、あらゆるステークホルダーが満足するような政策をおこなえることはまずない。
利益を享受するのが最も利害関係の強い者であるべきか、最も多くの国民であるべきか、
……それとも関係者全員が薄く不利益を被るものの、決定的に排除されるものが現れないように調整するか。
いずれに決定するせよ、不利益を被る側から激しい非難の嵐にさらされてしまう。
結論を明確にしないまま立法に臨めば、朝三暮四の回答に終始してしまい、
絶対王政の王兄という立場にあってすら、簡単に追い落とされてしまうだろう。


セフィロスに対峙するにあたって、何を目的にするのか。
時間はないが、必ず決めておかなければならないことだ。

仲間たちに尋ねれば、『そんなもの決まっている』と答えが返ってくるかもしれない。
だが果たして、それが同じ答えであるのか?
同じ答えであることは、まずない。


たとえばの例を挙げる。

仮に、サイファーに聞けばどんな答えが返ってくるだろうか。
『セフィロスのクソ野郎をぶっ殺してアーヴァインを救出するに決まってんだろうが!!』あたりだろうか。

では、アルガスであればどうだろう。
『隙を見てアーヴァインを殺せッ! セフィロスの強化を確実に妨害できる方法を取らないバカがどこにいるッ!!』といったところか。

そして、隣にいるソロであれば、どう結論付けるだろうか。
『アーヴァインを救い出し、セフィロスを無力化します』というところか。


本人が本当にそう言うかはともかくとして、仲間であることと、一枚岩であることとに因果関係はないのだ。

748 :いたずら王子のメソッド 2/10:2021/04/17(土) 23:18:48.02 ID:6kwsfQGso
仮に先ほどの草案に、アルガス案、サイファー案、等々、仮の名をつけるとしよう。

アルガス案は最悪の最悪を防ぐためのロスカットだ。
コンティンジェンシープランとして脳の片隅に置いておく意味はあるかもしれないが、この案を採用した時点で敗北だ。


では、サイファー案はどうだろう? セフィロスを殺せるか? 無力化できるか?
ヘンリーがセフィロスの実力を見たのは一度きり。
忌まわしい成り代わり――セージが襲撃してきた一回のみだ。

あのとき、ヘンリーはセフィロスに気を向ける余裕など皆無であった。
ただ、"タバサ"の自称イオナズンを凌ぎ切る身体能力、そして一時の隙を見逃さずにギードの監視から逃れる判断力を垣間見せたことは覚えている。

あらためて、セフィロスを殺せるか? 無力化できるか?
俺には無理だ。そう、ヘンリーには断言できる。
殺すことすら無理だ。無力化など、夢物語だ。

ソロのような剣技はない。セフィロスと一発切り結べられれば御の字、ナイフを三本投げて一発でも当たれば大金星だ。
アーヴァインのような狙撃の腕もない。貴族の嗜みとして、狩猟をおこなえる程度の腕前しかない。
リュカのような回復呪文もない。マヌーサ、メダパニ、ルカナン……あとは低級の攻撃呪文を少々。通用するのはせいぜい一度だ。
ラムザのように盾となることもできない。君主の聖衣と水鏡の盾を信じて、一回肉盾になれるかどうかといったところだ。
それでいて、アーヴァインが洗脳されて逆らえないために、セフィロスをなんとか排除するしかないという最悪の状況だ。


ヘンリーの目的は、アーヴァインを救出すること、だ。
ただ、アーヴァインが洗脳されている以上、セフィロスを倒して排除するしか方法が思いつかないというだけだ。

ゆえに、決定打を与える役割はヘンリーには果たせない。
ソロの邪魔にならないようにひたすらサポートに徹し、
ソロのモチベーションを下げないように虚勢を張るしかない。
ソロにすべてをまかせるしかないと腹をくくって臨んでいた。

749 :いたずら王子のメソッド 3/10:2021/04/17(土) 23:20:12.01 ID:6kwsfQGso
けれども、状況は刻一刻と変化する。
目の前の光景はどういうことだ?
アーヴァインは決死の表情でセフィロスに抗っている。
洗脳され、傀儡になっているようには見えない。
生をあきらめていない。


最大限の準備をしたうえで、不測の状況に直面することだってあるだろう。
それに伴って、方針を変えることは恥ずべきことではない。
よく言えば柔軟で臨機応変な対応、悪く言えばその場凌ぎの根無し草な対応。
どちらの言葉を使うのが正解なのかは、結果が出るまでは分からないが、決断ができることは重要だ。


「ヘンリーさん……!」
「ああ、俺にも見えてる。
 ケフカのやつ、何が『セフィロスがアーヴァインを支配している』だ。全然違うだろ!」
「……きっと、仲間の祈りが届いたんですよ」


『祈りを捧げれば救われます』という考え方はヘンリーも聞いたことはある。
職業柄かお国柄か、それとも光の教団のせいか、あまり好きではない考え方だ。

けれども、今回に限れば、それは信じられる。
ソロが確信をもってそう発言している。
そして何より、ヘンリー自身がティーダを見てきたのだ。

こんなピンチに、ティーダが駆け付けないはずがないのだ。ティーダが何もしないはずがないのだ。
なのに、ここにはティーダの姿がなく、けれども洗脳されていたはずのアーヴァインが自我を取り戻し、セフィロスに逆らっている。

ティーダは夢の存在だ。言い換えるならば、精神の世界の住人だ。
ティーダが『夢』の中で、現在進行形で、アーヴァインの心を救っているのなら――


『現実』でアーヴァインの肉体を救うのは自分たちだ。


セフィロスをその武技で打ち倒すのがソロの役目なら、
手持ちの道具、武装をフルに使って、誰も犠牲にしないための最適解を導き出すのはヘンリーの役目だ。

750 :いたずら王子のメソッド 4/10:2021/04/17(土) 23:21:01.32 ID:6kwsfQGso
「ソロ! アーヴァインを救い出すぞ!
 1分でいい、セフィロスを引き付けられるか!?」
「任せてください!」

ソロに声をかければ、打てば響くような、心地よい程の快諾が返ってくる。
その反応にある種の手ごたえすら感じ、しかし慢心を諫めるように気を引き締め直す。

「よし、任せた!!」
ソロへの回答は、これ以上なくシンプルな信頼の言葉だ。



セフィロスがアーヴァインの喉元に指を食い込ませ、地面に叩きつけようとしている。
牽制の意味を込め、ヘンリーは自動弓につがえた矢をセフィロスに向けて撃ち放つ。
こちらに注意が向かせ、続きはソロが引き受けてくれるはずだ。

カシュンという無機質で鋭い音を立てる弓に、空気をビリビリと引き裂くように飛んでいく矢。
セフィロスが振り向く。
そこまでは狙い通りだったが……。

「げっ!!」
思わず声を漏らしてしまうヘンリー。
それもそのはず、セフィロスは地面を抉るような軌道でアーヴァインの身体を振り回し、彼を盾に矢を受け止めてしまったのだ。
セフィロスは右肩でアーヴァインを担ぎ直す。


出鼻をくじかれたとしか言いようのない状況だ。

「狙い自体は正確でした。アーヴァインの急所にも当たっていないようですし、あとは僕に任せてください」
「いや、本当にすまん……」
かける言葉が見つからないながらも、ソロが懸命にフォローをおこなうが、いたたまれなさは変わらない。
いきなり高い代償を支払うことになったが、しかしそれでもここで立ち止まることはできない。

751 :いたずら王子のメソッド 5/10:2021/04/17(土) 23:22:09.59 ID:6kwsfQGso
「誰かと思えばお前たちか。ソロ、得意の対話はどうした?」
セフィロスはソロへと問いながら、アーヴァインの背中に刺さった矢を引き抜いている。
ヘンリーには一瞥をくれただけで、視線はまたソロへと向く。

「アーヴァインを今すぐ解放してくれれば、何時間でも付き合いますよ」
「済まないが、私用を済ませるのが先だな」

言葉を発しながら、セフィロスは肩にかけていたアーヴァインの身体を地面へどさりと置き、正宗を引き抜く。
長大な刀を突き付け、威圧を隠さずに問いかけるセフィロス。
天空の防具に身を包み、その威圧を涼しく受け流すソロ。
自らへの関心のなさを自覚しつつ、ヘンリーはセフィロスに問いかける。

「私用、ね。で、そのときアーヴァインのやつはどうなってんだ?」
「さて……お前たちについていくか、自らの意志で私と共に行くことを選ぶかは、コピー次第としかいいようがないな」
「つまり、論外ってことだろ」
「クックックッ、元より私の回答を聞くつもりはないのだろう?
 意味のない問答は辞めたらどうだ? 時間稼ぎがしたいのか?
 残念だが、私は雑談に付き合っている暇はないのだ。
 コピーの分際で、この局面で足を止めるなどという愚行を冒し、足を引っ張っているのでな」

セフィロスの返答は、平和的解決とは程遠い。
アーヴァインを助けるには、セフィロスから引きはがすしかないのだ。


「時間がないのは僕たちだって同じですよ。
 アーヴァインが自我を失う前に……。
 セフィロス! 貴方を打ち倒し、アーヴァインを解放させてもらいます!」

752 :いたずら王子のメソッド 6/10:2021/04/17(土) 23:23:07.16 ID:6kwsfQGso
天空の剣に白銀のオーラを立ち上らせ、地を這うようにセフィロスへと肉薄するソロ。
竜を模した白銀の鎧の神々しさと併さり、本物の白竜が襲い来るようにセフィロスは幻視する。
正宗の長大なリーチを生かした先制攻撃は、しかし堅牢な竜鱗のような盾に弾かれ、その内側にある肉を斬り裂くことはかなわない。
次の瞬間には、ソロは正宗のリーチの内側にまで潜り込み、強烈な踏み込みからの鋭い斬り上げを繰り出す。

「ほうッ!!」
まるで竜が、重力をものともせずに飛び立つ様を彷彿させるような力強い斬り上げだ。
不動のまま受け止めるには、いささか重すぎる一撃だ。
顎を引き、上体を反らすも、額の薄皮と銀髪の数本が切り裂かれ、暗き舞台に紅と銀が舞い散る。
当然、その一撃だけで終わるはずもない。
竜の牙が下から、上から同時に襲い来るように、斬り上げから即座に斬り下ろしへと繋ぐソロ。
それを読み、大きく後退してあぎとそのものから離脱するセフィロス。

一瞬の攻防だが、セフィロスとアーヴァインの距離は大きく離れた。
同時に、それは確かにセフィロスがアーヴァインから注意を逸らさざるを得ない瞬間でもあった。


「イオ!」

ヘンリーが扱える最強の攻撃呪文。
地に限りなく近い位置でおこった爆発によって、乾いた土砂が巻き上げられ、砂塵となって空中を漂う。
その上に生えていた草がぱらぱらと舞い散り、緑交じりの茶色い煙が辺りを覆う。
仮にこの呪文が通じてくれるのであれば万々歳だが、そのような期待ははじめからしていない。
これは、セフィロスの視界から切り札を遮るための、ただの目くらまし。

ジェノバ細胞によって肥大化したアーヴァインの肉体を抱えて、旅の扉までの数百メートルの距離を走り抜けることはヘンリーには不可能だ。
たとえそれが可能なだけの膂力を持っていたとしても、セフィロスに追われながら完走することはできないだろう。
ところが、すべてを可能とする切り札がある。
使用者本人のチカラは要らず、ブオーンですら運ぶことができ、歩くよりもずっと速く駆け抜ける魔法の道具。
そう、幾度となく世話になった魔法のじゅうたんだ。

753 :いたずら王子のメソッド 7/10:2021/04/17(土) 23:24:02.59 ID:6kwsfQGso
「奴隷業仕込みのレッドカーペット3秒セット術!ってな」
丸めたじゅうたんを勢いに任せて転がし、土煙が晴れないうちに地面に広げる。
アーヴァインの隣に絨毯が広がりきるまで三秒もかからない。
あとはアーヴァインを転がして、じゅうたんの上に寝かせれば準備は完了だ。


「後ろでこそこそと何をしている?」

セフィロスはソロの猛攻にさらされながらも、ヘンリーの動向を視界から完全に外したことはない。
何かを広げていることだけが分かれば、対策を打つにはそれで十分だ。

「そのまま燃え尽きろ」
セフィロスはヘンリーの小細工を叩き潰さんと、核熱の魔法、フレアを放つ。
ヘンリーに当たればそれで終わり、避けられたとしても、広がった絨毯を燃やし尽くすなどあまりに容易い。
だが、それをソロがやすやすと見過ごすはずがない。

「盾よ!」
「ナイスだ、ソロ!」
天空の盾を構え、ソロが射線に割り込む。
盾から放たれる魔力の霧は、フレアを構成する魔力を霧散させ、ヘンリーにまで届かせない。
その隙に、ヘンリーはアーヴァインを絨毯の上へとごろんと転がした。


ふん、とセフィロスは鼻を鳴らし、大きく跳躍する。
黒翼の機動力を以ったその跳躍には、さしものソロも追いつけない。
猛禽類のように、ヘンリーを目がけて急襲する。

「イオラ! ヘンリーさん、上です!」
セフィロスとヘンリーを結ぶ直線状にソロが一発呪文を放つ。

「どういう動きしてんだよ、あいつ!」
ヘンリーは悪態もそこそこに、考え、行動する。


「イオ!」
絨毯が浮かぶ。大地が爆発する。その身で熱風を感じ取る。
イオラの爆発がセフィロスの推進力を弱め、そしてイオが魔法の絨毯の推進力を高める。
焼け石に水とも言うべき、しかしながらわずかながらでも生存率を上げるための一発だ。
そして、アーヴァインのザックからのぞく道具を目にし、考え付く限りの保険をかけておく。

爆発を切り裂くように、一陣の風となってセフィロスが突き進んでくる。
しかし、ターゲットを目視したセフィロスの勢いが、一瞬だけ弱まった。

そのミリ秒は、運命の分かれ目だっただろう。
二人の『アーヴァイン』を乗せた魔法の絨毯は、紙一重の差でセフィロスの一陣の範囲から脱出した。

754 :いたずら王子のメソッド 8/10:2021/04/17(土) 23:25:33.37 ID:6kwsfQGso
アーヴァインのザックからのぞいていた変化の杖。
アーヴァインがそういう道具を使っていたことをヘンリーも知っていた。
ダメ元で振ってみればしっかり効力を発揮してくれた。

あるいは、その杖を制御していた精神寄生体のおかげだろうか。
彼の弟の精神に住まい、彼自身も一度宿主とし、今はアーヴァインの仲間の精神に住まい、
そして今まさにジェノバに脅かされるその存在が、少しだけ気まぐれにチカラを貸してくれたのだろうか。
それは、分からない。


それに、保険ではあるが、効果は大きくはない
見破るのもすこぶる容易。
ピンピンしているアーヴァインが偽物。
絨毯の上でぐったりしているアーヴァインが本物だ。
すでにセフィロスはヘンリーを見据えている。

「私の虚を突いたのは褒めてやる。
 が……安堵するには少し早かったな?」


着地した、ほぼノータイムでセフィロスは魔法を放つ。
氷結の封印魔法、フリーズだ。
フレアを使えば絨毯ごと、アーヴァインを燃やし尽くしてしまう可能性がある。そうなれば、さすがに少々惜しい。
そんなことをしなくとも、フリーズならば、地と絨毯を凍らせてつなげ、枷にすることで、完全に機動力を奪えるのだ。


「くそっ! せっかくうまく行ってたってのに!!
 ……なんてな」
ヘンリーが腕を突き出せば、その指にはまったリフレクトリングがルビーの光を放つ。
先にソロがフレアの魔法を防いでくれたからこそ、ここで切れる切り札だ。

そして腕を突き出したのは、フリーズを跳ね返すため、だけではない。
「特別プレゼントだ、ぜひ受け取ってくれよ! マヌーサ!」


よくも悪くも、このゲームに巻き込まれて四日目だ。
おおよそ一日に一度の割合で生死の境をさまよった結果、いい加減、自分の領域も強みも明確になってきた。

元、ラインハット王国のいたずら王子だ。二段・三段構えのいたずらなど日常茶飯事。
当時から、自分よりもずっと強くて頭のまわる者たちを知恵を絞っておちょくった。
今だって、到底勝利しえない存在を相手に、ギリギリでペースを握り続けることができている。
仮にゲームに乗っていたとしても、その性質は変わらず、そして大物を殺害して実績をあげるのだろう。
それが彼の領域であり、強みなのだから。

755 :いたずら王子のメソッド 9/10:2021/04/17(土) 23:28:29.26 ID:6kwsfQGso
変化の杖による偽物に加え、幻影が跋扈し、セフィロスの視覚の有用度が大幅に下がった。
ジェノバの本能的なつながりからたどることはできるが、高速で移動する絨毯によって位置がブれ、追走するソロの気迫が集中を乱す。
あやつるのマテリアももうない、コピーはセフィロスの言うことを聞かない。
チカラを得るにも、鏃に付着した血液数滴ではあまりに心もとない。
目的を目近に控えたこのタイミングでの思わぬ邪魔に、ギリリと歯を食いしばり、セフィロスはヘンリーを追う。
そして、ヘンリーたちを旅の扉の向こうへと逃がすべく、ソロが追撃する。



旅の扉までおよそ700メートル―――/直線距離でおおよそ1分半―――
ヘンリーとセフィロスの距離、おおよそ10メートル―――

ここからは撤退戦、そして追撃戦だ。

魔法の絨毯を操り、追ってくるセフィロスから逃げきれるか。
ソロとヘンリーの妨害をものともせず、アーヴァインを奪い返せるか。

地の底にて、地獄のカーペット・チェイス――追走劇が始まった。


【セフィロス (HP:1/5、右腕喪失)
 所持品:E正宗、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
     スコールの伝言メモ、アーヴァインの血液が付着した矢
 第一行動方針:ヘンリーを追う
 第ニ行動方針:希望のほこらでアンジェロの蘇生を試す
 第三行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第五行動方針:旅の扉をくぐる
 第六行動方針:首輪を外す
 第七行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

756 :いたずら王子のメソッド 10/10:2021/04/17(土) 23:29:49.44 ID:6kwsfQGso
【アーヴァイン (気絶、HP3/4、MP1/4、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、アレイズ×1
 第一行動方針:????
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣

【ソロ(MP2/5 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
 第一行動方針:セフィロスを止めてアーヴァインを救出する
 第ニ行動方針:仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:ケフカを倒す
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】

【ヘンリー
 所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、魔法の絨毯、リフレクトリング(E)、銀のフォーク、
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ、メガポーション
    ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
    リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
    レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:セフィロスを撒いて旅の扉を目指し、アーヴァインを救出する
 第ニ行動方針:セージを何とかする
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:希望のほこら北の平原】

757 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/17(土) 23:56:07.77 ID:6kwsfQGso
まだ書き込めるかテスト

758 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/18(日) 01:32:40.49 ID:tp5QsdR5r
投下乙です!
ヘンリーがめっちゃまともに活躍してる…!!
相手がセフィロスだから全く安心できないけど、それでもこの2人ならワンチャンありそうな気がしてくるし
みんながんばれーって応援したくなってくる
続きが楽しみです!

759 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/18(日) 02:06:00.63 ID:niCEtLrcm
投下乙です!
ソロのように最前線でばりばり戦えないヘンリーだからこそ考えることを止めず
出来ること使えるものを最大限利用して戦う様がかっこいい!
互いの役割を理解して信頼しているからこその連携だなあと胸が熱くなった。
ヘンリーとソロの間の絆だけじゃなくて、夢世界のみんなとの絆も伺えて、
それまで築いてきたものが実を結んでいる感じがしてすごくいい……4日目、4日目か……。
まだまだいくらでもひっくり返る状況で、やっぱり展開の想像がまったくつかない。
続きが楽しみすぎる……! 応援しています!

760 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/20(火) 22:10:12.39 ID:y9aTrGOTG
>>754、文章がだいぶおかしくなってたので訂正します

> 彼の弟の精神に住まい、彼自身も一度宿主とし、今はアーヴァインの仲間の精神に住まい、
> そして今まさにジェノバに脅かされるその存在が、少しだけ気まぐれにチカラを貸してくれたのだろうか。
> それは、分からない。


> それに、保険ではあるが、効果は大きくはない
> 見破るのもすこぶる容易。



かつて彼の弟の精神に住まい、彼自身を一度宿主とし、
今はアーヴァインの精神に住まい、そして今まさにジェノバに脅かされているその存在が、少しだけ気まぐれにチカラを貸してくれたのだろうか。
それは、分からない。


もっとも、保険がはたらいたとはいえ、その効果は長続きしない。
本物を見破るのはすこぶる容易。

761 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/05/15(土) 08:08:56.16 ID:DiI0T7u43
FFDQ3  756話(+ 5) 19/139 (- 0) 13.7

762 :Dead Heat Heart Beat 1/16:2021/06/09(水) 21:51:56.60 ID:g0znu/HZu
魔法都市カルベローナの遺産、魔法のじゅうたん。
ボロボロに汚れ、擦り切れつつあっても、その力は未だ衰えていない。
少なくとも荷台を引いた馬車よりはずっと速く空を駆け、勇者ソロの足をもってしても追いすがるのが精々だ。
だが、今回ばかりは相手が悪い。
ロザリー達が誰よりも危険視した男であり、もしこの殺し合いが賭け事であるなら間違いなく『本命』に値する殺人者、セフィロス。
そして時に事実というものは動かしがたく、残酷だ。

つまり10m先を行く時速30キロの乗り物に対して、時速45キロで走る人間が追いつくまでの時間は――


*****************


「ふっ!!」
瞬きすら許さぬ刹那、一歩強く踏み込み払い抜く。
切り捨てたのは霧に映し出された幻影。
しかし刃の先には僅かに赤い色彩がこびりつく。
掠めたのは頬か、腕か。
考える暇すら惜しいと踏み出した足、しかし。

「ギラ!」

ソロの叫びと共に草原を切り裂く閃光、瞬時に燃え上がる炎壁。
無論この程度の妨害に右往左往するわけもない。
「下らん!」
空気もろとも炎を斬り、進むべき道をこじ開ける。
既に先行く絨毯の繰り手は焦りも露わに魔法を放つ。

「イオ!」

小規模な爆発が鼻先で炸裂する。
しかし怯むには至らず。
いかに範囲が広くとも所詮は低級攻撃魔法、避けることが不可能ならばただ突っ切る。
紫の霧は未だ晴れず、小細工を弄しようにも通用する魔法はない。
追跡者と逃亡者、双方からの攻撃を身体能力のみで凌駕するしかない以上、迷う余地などどこにもない。
幸い、絨毯の速度はほぼ一定。
全速力の自転車や市街地走行のバイクと同程度、追いつくこと自体は容易い。
故に、取るべきは速攻。
距離を離されぬうちに、更なる策を重ねられないうちに、さっさと捉えて切り捨てる。

「そこか?」
ジェノバの気配と風の音を頼りに地を蹴り、一閃。
「くっ!」
ギイン、と響く金属音。
盾で防がれたか、と舌打ちしつつ、そこにいるか、とほくそ笑む。
続きざま、振り下ろす――その手を止めたのは、聞き覚えのある言葉。

763 :Dead Heat Heart Beat 2/16:2021/06/09(水) 21:53:21.20 ID:g0znu/HZu
「ライデイン!」

瞬間、天が蠢き雷鳴が轟く。
忌々しい女や亀が振った剣に呼び寄せられた雷雲と規模はさして変わらない。
とうの昔に見切った技だ――が。
「ちィッ!!」
此度ばかりは余裕など見せていられない。
正宗を投じて雷を散らせども、その動き自体が大きな隙。
リフレクトリングに守られているヘンリーには雷は届かず、数秒間は否応なく逃走を許してしまう。
右腕が使えれば村正を取り出して投げつけることもできたが、それを恨む暇すら無い。
無防備に受けるよりはマシだと歯噛みしながら、せめて射角を希望の祠へと向け、愛刀で雷雲を射抜く。
拡散する雷の雨。
その隙間を縫うようにコピーの気配が遠ざかる。
ご丁寧に正宗の着地点を見切り、そこから距離を取るように、だ。
いっそのこと希望の祠に先回りしてやれないかとも考えたが、それをすれば恐らく奴らは逆行してサイファー達に合流することを選択するだろう。

サイファー達には付け入る隙があった。
カッパの姿に対する侮り、ケフカという異分子、明確な連携不足、干渉を受け付けたコピー。
だが、ソロ達と連中が合流すれば?
元の姿に戻った私を侮るはずもなく、ケフカがいくら策を練ろうとも魔法を無効化すれば恐るるに足らず。
ソロの腕ならサイファーと息を合わせることもできるだろうし、コピーは生意気にもこちらの指示を跳ね除け続けている。
認めたくはないがそうなってしまえば私が不利、故にこの不愉快極まりない鬼ごっこに勤しむしかない。
地面に落ちきる前に正宗を受け止め、ソロの位置とコピーの気配を確認して針路修正。
面倒なことにソロもきちんと追いすがってきている。
直接切り結べる距離まで詰められてはいないが、魔法での妨害はまだまだ可能だ。
しかしながらソロを先に始末するというのは、いかに私といえども非現実的。
サイファーのように攻めに特化し守りが疎かな使い手であれば崩しようがあるが、ソロは明らかに守りにも長けている。
そしてコピーに追いつかねばならぬことも考えれば、今であれば交戦に割ける時間は三十秒程度――賭けに出るにはあまりにも分が悪い。
やはり、狙うべきはヘンリー。
妨害魔法は多少厄介だが、ソロに比べれば御しやすい。
ゴールまで残り600メートル弱、およそ一分と十数秒。
それまでに懐に飛び込み首を撥ねればいいだけの話なのだから。


*****************


いやいや無理無理何これなにこれ何だこれ?!
おかしいおかしい全てがおかしい、足にはぐりんでも付けてるのかそれとも人型はぐれメタルかお前はってぐらい速い!!
おまけにやたらめったら強くてヤバイ、たぶんはぐれキングとかはぐれメタルキングとかそういうアレ!
きっと倒したら経験値いっぱい貰えるんだろうなあってこんなん倒せるかバカヤロウ!!

(落ち着け)、と誰かがツッコミを入れてくれた気がしたが、そう言われたって冷汗が止まらない。
何もかも全てが規格外。
そりゃサイファーとリュックとロックとギードが手玉に取られてケフカまでもが協力しようとしてくるワケだよ。
いやだからおかしくない? フツーその五人に袋叩きにされたら負けるのが筋だろ? 全員俺の数倍は強いんだが?
もう既に『あーぜつぼうてきだ』って天を仰ぎたい気分でいっぱい、それでも逃げ出すわけにはいかない。
いや現在進行形で逃げ惑ってるわけだけど、そうじゃなくてアーヴァインを見捨てられるかって話だ。

764 :Dead Heat Heart Beat 3/16:2021/06/09(水) 21:55:15.20 ID:g0znu/HZu
一応覚悟はできてる。これでも。
できてるんだが――それはそれで、これはこれ。
マヌーサが効いてなかったらまさかの開始3秒で即落ち即死、そんなレベルの相手からどう逃げる?
一撃目はかすり傷、二撃目はどうにか盾で受けきれたけど、あくまでもそれはマヌーサありきの結果。
便利な呪文だが万能でも永続でもない、幻影には影が映りこまないし魔力が切れれば霧も晴れる。
間違っても一分以上持つわけがない。
そしてソロの呪文も足止め以上の役を果たせてはいない。
そりゃあ果たしてくれるだけでもありがたいのは確かだけれど、ライデインなんて伝説の呪文で5秒も足止めできないってどういうことだよ?
大抵の相手は気絶するか死ぬかするだろ? 回避なんてできるもんじゃないだろ?
勇者の雷だぞ雷。いや実はライオネックも覚えるよってリュカが言ってた気もするけど。
――なんてどうてもいいことを考えている間にも煌めく銀髪が迫ってきていてとにかく何とかするしかないという状況。
本当に何かなんか何とかしないと――あ、そうだ。
「メダパニ!」
今まで使っていないことを思い出し、唱えてみた呪文。
相手が『一度見た技は通用しない』理論の使い手であっても、見たことのない技なら通用するだろうという目論見。
星に似た眩惑の光が瞬き、セフィロスがたたらを踏んで僅かに体勢を崩す。
やった効いた、そう思った瞬間には長すぎる刀が器用に閃いた。
瞬きすればそこには全く速度を落とさない人型はぐれキング、もといセフィロスの姿。
なるほど自分を浅く斬って混乱を解除したんだなーすげー、などと納得する時間はない。
ソロも追いすがってきてはいるが、――全身フル装備で振り切られないのもすげえよな、さすが天空の装備with天空の勇者――次の呪文は完成していない。
つまり、次のセフィロスの攻撃はなんとかかんとかどうにかして自力で回避するしかない。
(出来るか?)
自問自答したところで『無理』なんて選択肢は取れない。
一応案はある、理論上はいけるが成功するかは話が別、だけどやれるやれないではなくやるしかない、自信がなくてもやるしかない。
幸いセフィロスは右腕を失っていて軌道だけなら予測はつく。
(攻撃が届く範囲は当然左腕側の方が広い、だから後ろから右側に回り込んでくるはずだ)
思考を高速大回転、無慈悲に迫る影、走馬灯のようにやけにゆっくりと流れていく刹那。

(――今だ)

瞬間、我ながら異様なまでに冷静な声が合図を送る。
俺は斜め右後ろへ振り向き、アーヴァインの身体を押さえつけながら意識を集中させる。

"『前』に進め!!"

魔法のじゅうたんは、結局のところ絨毯だ。
馬車には誰がどう見ても前と後ろがある。
荷車にもある。
天空城だってマスタードラゴンだって、それこそ噂の空飛ぶ学校とやらだってスコールの飛空艇だってそうだろう。
だが、絨毯は違う。
座った人間が前と思えばそれが前、後ろと思えばそれが後ろだ。
そして、絨毯には車輪などない。あるはずがない。

「!?」

セフィロスが眼を見開いたのは、空を薙いだ刃に対してか、それとも理外の軌道に対してか。
仮にも乗り物が、方向転換もせずスピードも落とさず全くの同速で斜め後ろへ進む――
さすがにこいつは対処しきれる動きじゃないだろう?
頼むからそうであってくれ、と祈りつつ、振り落とされないようしがみつきつつ、セフィロスの死角に回り込み全速前進。

765 :Dead Heat Heart Beat 4/16:2021/06/09(水) 21:56:35.26 ID:g0znu/HZu
希望の祠への直線コースからは外れるが仕方がない、今は銀髪はぐれキング野郎からの距離を稼げなければどうしようもない。
これで少しでも立ち止まってくれればと思った途端、ソロの声と共に大気を揺るがし響く轟音。
半ば反射的に背後を見やれば――

「――ははっ」

そこにあったのは、それこそ俺の理解を遥かに超えた光景で。
思わず乾いた笑いが出た。
そして数秒後、すぐに俺は自分の過ちを悟る。
ひそひ草でロック達と話した時、俺たちは土下座してでも『急いで助けに来てくれ』と頼むべきだったのだと。


*****************


何が起きた?
正宗が空を斬り、走り続けていた足はそのまま前に数歩進む、だがそこに獲物の姿はない。
どうやって?
混乱する思考、けれどそこに割くリソースはない。
どこにいる?
とっさに後ろを振り向く、絨毯の影が視界の端を横切る、しかしそれを追わせないと言わんばかりに剣を振りかざす忌々しいソロの姿。

「光よ! 仲間を救う刃となれ!!」

わずかに垣間見た一撃の記憶が蘇る。
恐らくはソロが使い得る中で最大最強の技。
ただの雷ならば金属で散らせる、ただの剣ならば刀で受け止められる。
ならば、雷光束ねた巨大な刃はどう受ける?
回避、相殺、可能な手段、全力で思考を巡らせ閃いたのは神羅での記憶、編み上がるのは机上の空論。
賭けるに足るか検証する時間すらない。
飛び退きざま、マテリアから星の知識を引きずり出し一気に魔法を完成させる。

「――ギガソードッ!!」
「――フレアッ!!」

瞬間、膨大な熱量が大気を焦がし、閃光が網膜を焼いた。
盾の代わりに生み出した超高熱のプラズマ球が収束し、雷剣とぶつかり合う。
甚大な破滅をもたらすはずの異なる二つの光は、しかしお互い喰らい合うように炸裂し、霧散する。
レーザー誘雷の原理。人為的に生み出したプラズマを稲妻の通り道とすることで安全な場所に放電させる。
神羅の技術力でようやく実現に至るような科学の理論だ、ソロには到底わかるまいが、さりとて優越感に浸る暇もない。
いつの間にか厄介な霧は晴れている。空を駆ける絨毯の影は一つきり。

「行かせない!」

若造の分際で、か、若造であるが故に、か。
装備に見合わない素早さで間合いを詰めてきたソロ、その重い一撃を正宗の峰で滑らせ、逆に懐に飛び込む。
刀の束を手放し、軸足を払って転ばせ、崩れ落ちきる前に左拳で顎を撃ち抜く。
無論素直に受けてくれるはずもなく、クリーンヒット寸前に僅かに角度をズラされる、が、脳を揺らし動きを止めるには十分。

「ぐっ!?」
「大人しくしていろ」

既に稼がれた時間は十数秒。止めに割く時間すら惜しい。
ソロを捨て置き走り出す、同時に正宗を拾い上げベルトに固定する。
ザックから"コピー"の血が付着した矢を取り出し、乾ききっていないソレを舐めとる。
リユニオンと呼べるほどの量もなく、望む進化に至るはずもないが、"闇"を吸収したジェノバ細胞が含まれていることは確か。
ほんの少しでも私の能力を強化してくれればそれでいい。
それに私が本当に必要としているのは"矢そのもの"だ。
念のため、他の折れた矢も取り出し、足を止めずに"下準備"をする。

766 :Dead Heat Heart Beat 5/16:2021/06/09(水) 21:58:13.48 ID:g0znu/HZu
「……――待てーーっ!!」

背後から投げかけられるソロの叫び声。
この短時間で立ち直るか。
想像以上に面倒だが、ソロの速度や魔法の射程範囲はおおよそ見切った。
このまま走り続けさえすれば追いつかれることはない。

教え込まねばならない。
ソロにも、ヘンリーにも、出来損ないのコピーにも。
私は連中が思っているほど簡単に出し抜ける相手でもなければ、みすみす取り逃がすほど優しくもないのだと。


******************


「ああああああああああああああああああああああもっと速く走れええええ!!!
 がんばれ魔法のじゅうたん、お前ならもっと風になれる!!!!
 フレ―フレーファイトーーーいっぱーつ!! 走れ走れもっとスピード出してええええ!!」

いやーこんなん叫ぶわ、叫ぶしかないわー。
何だアレ。勇者と魔王の戦いか? これが最後のラストバトルか?
冷汗が止まらないどころか絞りつくされて出てこなくなったんだが?
リュカとミルなんたらだって、それこそソロとピサロだって、あんな大技ぶつけ合っちゃいないだろ。
あー逃げたい逃げたいメチャクチャ逃げ出したい。いや逃げてる真っ最中だけどさ。

――だけど、それでも。

「う"、あ……ぐうっ……」

こんな苦しみ方をしているアーヴァインを見捨てるという選択肢だけは有り得ない。
顔色は蒼白を通り越して薄紫、髪はほとんど銀色に染まっていて茶色の部分を探す方が早いほど。
開けた薄目から除く光彩も濁った緑に変色していて、揺らめく赤光を宿す瞳孔もいつの間にか縦長にひび割れている。
身体も以前の自己申告通り、どっからどう見てもモンスター。
一応左半身は人の形を保っているけど、それがどうしたという話。
(人殺しの裏切者、自業自得)――そんな風に言われても仕方のないことをしてきた奴だってことは重々承知しちゃいるけれど。
同時に、殺し合いに乗ったおおよその理由も、記憶を無くした時の全方位土下座姿も、
ティーダやリルムを助けてきたことも、首輪の解除に協力したことも、全部知ってるんだ。
だから断言できる。
こんな姿にさせられなきゃいけないワケもなければ、あんなはぐれキング野郎に利用されていいわけねえ! ってな。
助ける理由はそれで十分。
問題は――そう、根本的かつ致命的な問題は、助けられるだけの実力が俺に備わってないってこと。

セフィロスがこちらに向けて駆けだしてくる。
ソロが全身全霊を賭けて稼いでくれた距離が瞬く間に溶けていく。
祠までの距離はもうちょっとで半分を切るかどうかというところ。
言い換えればあと半分以上は、……ソロが振り切られつつある今、俺が、稼ぎ切らなきゃいけない。

「イオ!」
進路妨害。
「マヌーサ!」
目くらまし。
全身全霊の早口で成し遂げた俺に出来る最大級の高速詠唱も大した効果を上げることはなく、迫る影は左手から何かを投じる。
矢だ、と理解するより先に身体が盾を振り上げる。
バギン、と音を立てて弾かれ落ちる、その横を、妙に短い矢が掠め飛ぶ。
「あぐっ!?」
しまった、と振り向いた時には、半ばから折れた矢がアーヴァインの足に突き刺さっていて。
同時に気付く――視界の端に映りこんだ、絨毯の上に落ちた一本目の矢にこびりついた、真っ赤な色彩。

767 :Dead Heat Heart Beat 6/16:2021/06/09(水) 22:00:11.46 ID:g0znu/HZu
「う"あ"あああ"アァあ"ああああああアアア"ア"アぁあああ!!!」

眼を見開いたアーヴァインの喉から絶叫が迸る。
撃ち込まれたからだ。
矢じりに付けられた液体を――セフィロスの血を!
それがわかったところで俺に出来ることは、あまりにもわずか!

「アーヴァインッ!! しっかりしろ!! 耐えろ、耐えるんだ!!」
「ぎぃいいあ"ああ"あ"あああ"ああああっ、あ、や"、た、だす、たす"け"、いぎぃい"い"いいい!!」
「助けてやる! 助けてやる、絶対助けてやる!! だから!!」

バタバタともがく異形の翼に邪魔されながら暴れる身体を抱きかかえ、押さえつけながら耳元で叫ぶ。
そんなささやか過ぎる俺の努力を嘲笑うように、アーヴァインの脇腹から伸びた数本の触手がザックをまとめて薙ぎ払い、ぶち撒けられた武器が絨毯の上に転がる。
「う"う"うぎぃうううううううう"うううあ"あ"あ"ああ!!!」
苦し気な叫びと共に、アーヴァインの左手が二振りの剣を俺の手元へ弾き飛ばす。
同時にどこか見覚えのある槍を数本の触手が絡めとり、大きく振り上げる!

「させるか!!」

アーヴァインの意図、必死の抵抗を理解した俺は、滑り込んできた武器の片割れ――ピサロが使っていた剣を拾い上げた。
あとはもう、一瞬。
触手が地面に槍を突き立てる、引きずられて浮かび上がりかけるアーヴァインの身体を抑えつけながら全力で斬り払う、コンマ数秒の攻防。
さすがに無我夢中だった。
気づいた時には冷汗だらだら流しながら絨毯の上にひっくり返っていたぐらいだ。
それでも最悪の事態は避けられた、と思ったのは苦痛に満ちた絶叫がすぐ耳元から聞こえたからで。
いやこれは割と最悪だろ、と気づいたのは、脇腹から血を溢れさせガタガタと痙攣するアーヴァインの姿が視界に映ったからで。
最悪の事態だ、と悟ったのは――後方に見えるものが槍に絡みつきうねる触手と、その向こうから走ってくるソロの姿しかなかったから。

「諦めはついたか?」

その言葉を聞くまでもなく、時は既に遅く。
見たくもない姿と、長大な刃は、すぐ真横。

「冗談だろ」

強がりですらない本心が口から零れる。
あくまでも"どんだけ速いんだよ大概にしろ"って感情しかこもってないコメントだ。
だがセフィロスには別の意味に聞こえたらしく、不愉快そうに、そして見下すように鼻を鳴らし、アホみたいに長い刀を腰だめに構えた。
生存本能が脳をフル回転させ知覚する世界をスローモーション化、コンマ数秒後の未来をシミュレート。
呪文は間に合わない。
距離がありすぎてソロの助力も望めない。
盾を構え直そうにも、多分俺の腕が動くより先に胴体が真っ二つ。
半ば頭が真っ白になりつつ、(奥の手を――)、なんて、なんか奇跡が起きないかと剣を強く握りしめた、その時。

『調子こいてんじゃねえぞセフィロスゥウウウウウウウウウウ!!
 ぼくちんをコケにした罪、思い知りやがれ!!』

マジで奇跡が起きた。

768 :Dead Heat Heart Beat 7/16:2021/06/09(水) 22:02:11.89 ID:g0znu/HZu
「ッ!?」
後方から響いた特徴的過ぎる怨嗟の声がセフィロスの動きを完全に止める。
もちろん周囲にそいつの姿はない。
俺にはからくりがわかった。が、セフィロスからしてみれば――

『お前だけは許さん、もう一度虫けらみたいなカッパになって死ね!!
 くらえカッパーーーー!!』
「ケフカァアアアアアアッッ!!」

自分の姿を消す魔法、相手の姿を変える魔法、転移の魔法、倍速の魔法、どれもこれも操れる恨み骨髄の外道魔導士。
そいつの叫び声が聞こえてきたのだ、隠れ潜みながら近くに迫ってきていた可能性を否定することなど到底できないだろう。
俺だってできない。だってケフカだぞ、それこそ本当に近くまでテレポートしてきたかもしれないじゃん?
故にセフィロスも足を止めて声の方角を切り払う、その時間が、俺たちの命を繋ぐ。
俺がどれほど冷汗を流そうとも、セフィロスが何をしようとも。
魔法のじゅうたんは変わらぬスピードで飛び続け、希望の祠へ向かっていく。

「ぅえ"、う……ヘン、リ"ーさ…………い"、さ……お"………」

浅い呼吸の合間に呻き声を挟みながら、アーヴァインが縋りついてくる。
いくら魔物化しているといったって身体の一部を斬られたんだ、そりゃ痛いだろうし苦しいだろう。
だが悠長に治療している時間はない。

「大丈夫だ、言っただろ、助けてやるって。
 旅の扉を潜ったらなんとか治療してやるから」
「う"ぁ……う……」

眼を閉じ、頷く、その頭を軽く撫でてやる。
瞬間、風が舞い上がって、シャボン玉のような虹色の光がふわりと浮かんだ。
同時に不思議な光景やらメッセージやらがドババババと頭に流れ込んでくる。
そう、祈ってるロザリーとティーダ、それにマスタードラゴンやスコール達の声が――

"私達の祈りよ、どうか届いて下さい"

(……届いているとも)
口に出すまでもない、言葉にするまでもない。
アーヴァインを助ける、セフィロスの野望を阻む、どっちも果たしてみせる。
皆の想いを無駄にするわけにはいかないからな!
――と、決意も新たに、気合十分。
まあ手足はめっちゃ震えてるし、眩暈はするし、心臓はバクバク鳴ってて息も上がる寸前だけど大丈夫大丈夫ヘーキヘーキ。
それに希望の祠まで残り100mを切った、ゴールはもうすぐそこだ。
……なんて、甘い考えを抱いた時だった。
アーヴァインが不意に「う"ああっ」と唸り声を上げ、天を仰いだまま頭を抱える。
何が起きた、と尋ねる前に、空を横切る黒い影に気付いた俺は反射的に振り向き――

「――」
はぁ? と言わなかっただけ俺は偉いと思う。
何を言ってるんだと思うかもしれないが、そうとしか言えないんだから仕方がないし、状況を分析する余裕もない。
頭は絶賛オーバーヒート、焦りと混乱で沸騰どころか、煙もくもく水蒸気爆発。
誰が何を言ってるのかすら全く聞き取れない有り様だけれど、それでも俺に出来ることは――
――否、俺がすべきことだけは、握り続けていたピサロの剣が教えてくれた。

「……やってやろうじゃねえかよ」

その、たった一つの"やるべきこと"を果たすために。
俺は忌々しいはぐれキング野郎の姿をしっかりと見据え、震える手で剣を構え直した。


*****************

769 :Dead Heat Heart Beat 8/16:2021/06/09(水) 22:03:50.03 ID:g0znu/HZu
――失策。

振り抜いた剣に手ごたえはなく、腕や体に変化は起きず。
ひそひ草のことを思い出した時には、しぶとく追いかけてきていたソロが魔法を放っていた。
「イオラ!」
私と奴の間にはまだまだ距離がある、それ故に命中精度の問題をカバーできる広範囲爆発魔法を選んだのだろう。
しかし一度見た技、範囲外にまで退くことは容易く、私の足を止めるには至らない。
そう、至らないのだ。本来は。

『アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! セフィロスくん、今のお気持ちはどうでちゅか〜?
 きっと僕ちんに気を取られてくれたと思うけど、永遠に答えられなくなってるととても嬉しいでーーす!
 だいたいドッカンドッカン煩いんだよ! 俺様への当てつけか?! そういうのは私の専売特許だってケフカ憲法第五条に記載されてるんだけどォー!!?
 判決は死刑以外ありえないからサクッとバシっとクリティカル、にんじんで首を撥ねられて死にやがれーー!!』

どこまでも忌々しい声は止むことなく、ソロと共に追いかけてくる。
あんな屑まで利用するか――と失望に近い感情が湧いてくるが、それさえつまらない八つ当たりでしかない。
ソロがひそひ草を持っているのは当然で、深手を負ったケフカと有象無象どもが協力体制を築くのもまた必然。
想定してしかるべき状況、それを考慮しなかったのは私自身。

何故私は奴に止めを刺さなかった?
決まっている、私自身のプライドのためだ。
私が味わったものと同じ屈辱と無力感を刻み込み、その上で私が遥か高みに至る様を見せつけ、勝利する。
そうしなければならなかった。
侮られ、茶番に付き合わされ、あまつさえソロごときに同情と憐憫を寄せられた私の苦痛を晴らすには他に手段などなかった。
その結果がこの様だ。
悔やんでも悔やみきれないが、しかして後悔や反省に回す時間はない。
希望の祠、即ち旅の扉までの距離はあと僅か。
コピーを奪い返すチャンスは次が最後となるだろう。
ならば悩む理由はない。
全身の細胞に集中する、呑み下した僅かな血の一滴が【闇】と共に広がる感覚を意識する。
今、必要なものはジェノバの力。
私が夢見る星の箱舟、遥かなる宙の彼方へ飛び立つ母のように、黒翼を広げ、重力の軛を断ち切り飛翔する。

「――」

呆けた口を開け、地上から見上げる二対の瞳と目が合った。
同時にコピーから僅かな思念が流れ込む。

"皆に言われるまでもない、あんな輩を放っておけるか。
 協力してもらうぞ。嫌でもな"

それがコピー自身の認識なのか、ヘンリーが実際に口にした言葉だったのかはわからない。
知る必要もなければ理解に費やす時間もない。
私がすべきことはもはや決まり切っている。
私自身の希望を掴み取るために、這うように進む絨毯を一気に追い越し、祠の入り口へと降り立つ。
あとはただ、切り伏せるだけだ。
無謀に向かってこようとも、小癪に退いてみせようとも。

「――斬る」

その呟きが、果たして聞こえたのか。

「――やってやろうじゃねえかよ」

ヘンリーは立ち上がり、剣の切っ先を私に向けた。


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