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短編怪談

93 :名無し百物語:2016/07/31(日) 12:25:24.62 ID:5TKATK84.net
「坊主のせがれ」

俺の家は代々坊さんで、地元じゃ結構有名な寺だった。
将来俺も坊さんにならなきゃいけないんじゃないかと、不安になったりはしなかった。
俺のオヤジはテレビに出てくるようなツルッパゲの坊さんとは全然違ったからだ。

オヤジは修行なんてまったくやっていなかった。お経を唱える?座禅をくむ?
そんなすがた客がいないところでは一度もみたことがない。
夕方になると近所のスナックにいったきり朝まで帰ってこないのがザラだった。

子供の俺が心配になるほど適当に坊主やってたオヤジだったけど、寺は立派な作りだし、
弟子は大勢いたし、なにより坊主という職業が風格を保ってくれていたみたいで、
近所では徳の高い人として通っていた。
オヤジみたいに楽してメシが食えるなら坊主も悪くないなと、俺が考えるのも当然だった。

だけど将来俺は坊主にならないと思う。なぜかっていうと、俺には坊主になる才能があるからだ。
坊主は死んだ人間を相手にする商売だ。だったらまず死んだ人間が見えなきゃいけない。
俺のオヤジは確実に見えていない。もちろん弟子たちもだ。
見えているのなら寺の横に墓地なんて作らないし、寺に住んだりなんかできっこない。

毎晩墓地から聞こえてくる泣き声や怨みつらみのこもった嘆きが、安眠をことごとく妨害するんで
うるさいときは早朝だろうが真夜中だろうが墓地までいって、霊の話をきいてやらなきゃいけない。
ある程度話を聞いてやると、霊はしばらく静かになるけど
成仏なんて滅多にしない。怨みや後悔の根源を絶たない限り霊は一生この世にとどまる。
お経なんかなにも意味がないんだ。

霊ひとりの話を聞くだけでも1〜2時間はかかる。生きている人間の比じゃないほどの
怒りやストレスを抱えているからな。場合によっては徹夜できかないと静かになってくれないやつもいる。
そんな霊を墓地や寺に数百人ほど集めて面倒みるなんて、とてもじゃないができっこない。
俺が小学校のころから、ほとんどじいちゃんの家で寝泊りしているのはそういう理由があるからだ。

まぁそんなわけで、俺は坊主にならないし霊に関することに関わらずにに生きようと
決めていたんだが、たまに避けたくても避けられないときがあるんだ。
誰だってあるだろ、道に迷った外国人を案内してやったこと、重い荷物を背負ったお婆ちゃんに
力を貸してやったこと。目の前に困ってる人・・・困ってる霊がいたら救いの手を差し伸べたくなるよな。

今から話すのは、俺の些細な親切が生み出した厄介ごとの歴史だ。

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