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雪穂「ハムナプトラへの招待」 絵里「ハラショー」

1 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:43:35.24 ID:O5uQ9rt3.net
偉大な祖国はグレートブリテンの詩人バイロン曰く、事実は小説よりもB級なり

これは実話に基づいた、驚くべき冒険の奇譚である

2 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:45:05.17 ID:O5uQ9rt3.net
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――紀元前エジプト 第19王朝 生者の都テーベ


マリィ「シャイニー☆ みんなおはラー!今日もマリィと太陽(ラー)を崇めてね〜」


時のファラオ、マリィ1世が治めるこの美しい都を一望できる宮殿で、

今宵、危険な逢瀬が行われようとしていた。

3 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:47:15.93 ID:O5uQ9rt3.net
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尼僧「ミナリンスキー様がいらっしゃいましたずら」

 
ウミホテップ「…」コクッ


配下の尼僧からの報告に無言で頷くは、大神官ウミホテップ。


彼女は死者を支配する冥府の王オシリスの代理人であり、

ファラオの忠実な助言者であり、また密かに背信を犯した大罪人でもあった。

4 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:48:22.48 ID:O5uQ9rt3.net
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ミナリンスキー「会いたかった。愛しのウミチャン」

ウミホテップ「私もです、コッティー」


互いの愛称を囁き合いながら、想い人の身体に触れようとしたウミホテップはそこで、

目の前の女性が文字通り一糸纏わぬ裸体だというのに気が付いた。


ウミホテップ「これは…」

ウミホテップ「ふっ、ふふははははっ! 成程そういうことですかファラオよ!」


ネメス頭巾の如くカットされた羊毛色の長い髪が胸元に垂れていることを除けば、

ミナリンスキーの美しい肢体を隠すものは何もなかった。


その全身には金と胴と黒の彩色がくまなく施され、喉元、腕、腰、足首には黄金の装身具が嵌められ――

それらは彼女が偉大なる時の権力者の所有物であることを示していた。

5 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:49:36.88 ID:O5uQ9rt3.net
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ウミホテップ「王以外は何人もあなたに触れるべからず。俗物の考えそうなことです」

ミナリンスキー「毎日三時間もかけて色を塗られるの。もううんざり」

ウミホテップ「今しばらくの辛抱です。じきにご老体が亡くなれば、あなたはこの屋敷と自由を手にする。その暁には…」

ミナリンスキー「あのね、我儘なのは分ってるんだけど。でも、もう自分の気持ちを抑えられる自信がないよ」


ミナリンスキー「ウミチャン。私は、今すぐにでも…」スッ


ウミホテップ「駄目です」

6 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:50:40.60 ID:O5uQ9rt3.net
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ウミホテップ「分かっているでしょう。ここであなたに触れてしまえば、今夜の密会が王の知るところとなってしまいます」

ミナリンスキー「…そう、だよね」シュン

ミナリンスキー「ごめんなさい、私…」

ウミホテップ「ですが」


唐突に、ウミホテップは恋人の身体を力強く抱き寄せると、その両肩を掴んだ。


ウミホテップ「それがいったい何の関係があるでしょうか」

ウミホテップ「愛しています。この世でも、あの世でも、来世まで」

ミナリンスキー「ウミチャン…」


そこから先、言葉は必要なかった。

ただただ情熱的に互いを貪る二人はこの恋に、命を懸ける覚悟だったのだ。

7 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:52:37.18 ID:O5uQ9rt3.net
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尼僧「あとはお若い二人に任せるずら…」ギィィ


 バ タ ー ン !


いそいそと、テニスコートほどの広さがある控えの間の重い扉を閉めようとした尼僧は、

それを遮った者の顔を見て仰天した。


尼僧「げぇ!? あなた様は!」


マリィ「あなたたち、ここで何をやってるのかしラー?」


 
公用で遠出していたはずのファラオが何故ここに?


優れた騎乗の才を持つ王は、かねてよりの疑惑の真偽を確かめるべく、

自ら馬を駆って宵の内にテーベまで引き返してきたのだ。


その勢いはまさしく疾風怒濤、側近たちや親衛隊すら置き去りにしてしまうほどだった。

8 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:54:18.92 ID:O5uQ9rt3.net
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ミナリンスキー「お帰りなさいませご主人様。まあ、そんなに息を荒くなされて。何があったのです?」


激情に身を任せた一陣の突風となって、レースのカーテンを乱暴に翻して愛の間に突入したファラオを前に、

出迎えた愛人はすまし顔だった。


マリィ「その肩、やっぱりゴシップは真実だったのね」

ミナリンスキー「……」

マリィ「言って、誰にその肌を許したの!?」


――シャキン!

ウミホテップ「私です、王よ」

マリィ「!? リビング・デイライツ、冗談でしょ…」

マリィ「ウーミホテップ、あなたなの? マリィの忠実な大神官…マリィの親愛なるフレンド…」

ウミホテップ「……」

9 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:55:39.09 ID:O5uQ9rt3.net
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驚愕に眼を見開いた主人を前に、ウミホテップは剣を振り上げた姿勢のまま硬直するも。

しかし、王の背後にいる女性は違った。


ミナリンスキー「やああああああああっ!」

 ザシュッ

マリィ「い゛っ…ぎゃあああああああああああっ!!??」

ウミホテップ「…これも愛の為。御免!」


染み一つない純白のカーテン生地に深紅の液体が飛び散り、現人神とそれを討たんとす叛逆者二人のシルエットを投影する。

神殺し。その行為のあまりの恐ろしさに、見張り役の尼僧たちは顔を背け、ただひたすらに祈りを唱えることしか出来ないでいた。


――然るに、遅れてやって来たファラオの親衛隊は何の障害もなく控えの間の入口に到達したのである。

10 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:57:09.60 ID:bHg3E3/q.net
つまんね

11 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:57:28.70 ID:O5uQ9rt3.net
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 ガンガンガンッ アケロー! トビラヲヒラケー!


ミナリンスキー「!」

ウミホテップ「ラズァイ…番犬どものお出ましですか」


尼僧「ウミホテップ様ぁ〜! 逃げましょう!」

ウミホテップ「無駄です。すぐに追いつかれましょう」

ウミホテップ「捕まれば引き離されて死罪。それならいっそここで…」

ミナリンスキー「それはダメ」


ミナリンスキー「ウミチャンだけでも逃げて。私が残るから」

ウミホテップ「死んでも行くものですかっ」

ミナリンスキー「ウミチャンは生きて! だって…」


ミナリンスキー「あなたなら、私を蘇らせられるでしょ」


ウミホテップ「!」

12 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 19:59:15.56 ID:O5uQ9rt3.net
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ウミホテップ「あなたは自分が何を言っているか分かっているのですか? それはつまり…」

尼僧「ウミホテップ様、時間がないずらっ。さ、さ、速く!」

ウミホテップ「ええい、放しなさい! コッティー!」


ミナリンスキー「ハムナプトラで、また会おうね。私、いつまでも待ってるから」


ウミホテップ「必ず、必ず貴女を生き返らせます! そのためなら私は…!」


雷鳴の轟きにも似た大扉の開閉音に、恋人たちの会話は遮られた。


ウミホテップらが宮殿のバルコニーからほとんど転落するように地上へ逃れるのと時を同じくして、

寝室に雪崩れ込んできた親衛隊は、床に倒れ伏した主とその返り血で真っ赤に染め上げられた愛妾の肢体とを交互に見比べた。


ミナリンスキー「私はもう、籠のイビスじゃない」


―――――――――――――――――――――――


ウミホテップ(ミナリンスキー…)


早急に宮殿から立ち去るウミホテップの耳に、届くはずのない呻きが――

神殺しの短剣で自ら心の臓を突き刺した想い人の断末魔が、しかし確かにはっきりと聞こえ、

それが彼女にさらなる禁忌を犯す決意を促すのだった。

13 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:00:13.41 ID:O5uQ9rt3.net
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それから四十の昼と夜とが過ぎ――


ウミホテップ「はぁっ!やぁやぁ!」ピシピシッ


防腐処置の完了したミナリンスキーの亡骸を強奪したウミホテップは、

部下たちを率いて砂漠の果てへと逃走していた。


ウミホテップ「いざ、死者の都(ハムナプトラ)へ!」


ウミホテップ(ハムナプトラ――死者の番人だけがその位置を知りえる、死せる王族たちの安住の地)


ウミホテップ(エジプト中の財宝と共に、生と死を司る禁忌の術を記した書が眠る場所)


ウミホテップ(あそこへ行けば、我が愛しのミナリンスキーを…!)

14 :名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:00:42.98 ID:Lr3RJOZL.net
ハムナプトラ懐かしいな
1しか見てないけど

15 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:01:37.94 ID:O5uQ9rt3.net
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――愛のため、全てを捧げる覚悟などとっくに出来ている。


幾多の仕掛け扉と罠を乗り越え、ハムナプトラの最深部へと侵入したウミホテップは、

その神をも恐れぬ豪胆さで、封じられていた『黒の死者の書』を奪取した。


復活の儀式の間で、祭壇の上に横たえられたミナリンスキーの亡骸は、

今でも息をのむ美貌と鮮度を保っており、すぐにも息を吹き返しそうに見えた。


ウミホテップ「ソシテ・ワタシタチハメグリアウ――」


祭壇を取り囲んだ尼僧たちが身体を揺らしながら呪文を詠唱し、

その輪の中心で、ウミホテップは黒曜石から削り出された漆黒の禁書に刻まれた秘術を読み上げる。


すると――

16 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:02:59.21 ID:O5uQ9rt3.net
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  ゴポッ

        ゴボゴボボボ…


祭壇の周囲に穿たれた溝に満たされたどす黒い液体が、俄かに泡立ち始める。

それはあの世から漏れ出した亡者の残滓が、儀式の間に流れ込むナイルの水に溶け出したものであり、

この事象はすなわち、ここと冥界の扉とが繋がったことを意味していた。


  ボッゴン!!!


         ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ―――


尼僧「ひいっ」


沸騰し、溝から溢れ出した腐臭のする液体が寄り集まって人の形を作ったのを見て、

尼僧らだけでなくウミホテップまでもが目を見張った。


ウミホテップ「…お還りなさい、ミナリンスキー」

17 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:04:54.76 ID:O5uQ9rt3.net
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冥土より呼び戻されたミナリンスキーの魂(バー)は天女を思わせる軽やかさで宙を舞い、

やがて、元の躰に折り重なるようにして一体化した。


ミナリンスキー「…!!」ビクンッ


ウミホテップ「ああ…嗚呼…この時をどんなに待ち望んだことか」


ミナリンスキー「…!……!」パクパク


ウミホテップ「…はっ、舌がないので上手く喋れないのですね」


ウミホテップ「安心してください。あなたの臓器を納めたカノプス壺はここにちゃんと揃っています」


ウミホテップ「少しだけ我慢してくださいね。これで、あなたは完全に復活します」


今一度、彼女の躰を切り開いて臓器を元の場所に戻そうと、短剣を振り上げたウミホテップの腕を何者かが押さえた。


ウミホテップ「!」


儀式に夢中になっていた彼女は気付かなかったのだ。

ミナリンスキーは恋人の背後に迫る危機を警告しようとしていたことを!

18 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:06:14.08 ID:O5uQ9rt3.net
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 ≪キ ィ ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!≫


乱入してきたファラオの親衛隊によって、儀式は中断された。

おぞましい悲鳴と共に、ミナリンスキーのバーは再び冥府と繋がった黒い川の中に還り、

たちまち幾多の亡者たちと混ざり合ってしまった。


ウミホテップ「あああああああああ!!!! ミナリンスキぃぃぃぃ!!!!」


悲痛な叫びが虚しく反響する。

しかし、それは絶望のプロローグに過ぎなかった。

19 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:08:13.18 ID:O5uQ9rt3.net
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尼僧「や…やめっずあああああああ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ッ!!!!」


ウミホテップの部下たちは、生きながらミイラにされた。


自身を崇拝し、ここまで付き従ってくれた忠実な尼僧たちが意識あるまま防腐処置を施され、

臓器と脳髄を取り出される様を、ウミホテップは何時間もかけてまざまざと見せつけられた。


抗うことなど不可能だった。


 
――そして、彼女の番が来た。

20 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:09:19.70 ID:O5uQ9rt3.net
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ウミホテップ「んーっ!むーっ!」


手始めに、彼女は舌を抜かれた。

もはや悲鳴を上げることも叶わなくなった神への冒涜者を待っていたのは、『ホム・ダイ』という刑罰。


これは、数多存在する古代の呪いの中でも飛びぬけて最悪のもので、

そのあまりの惨さと危険性から、一度とて執り行われたことのない外法の儀式だった。


 「喜べ。貴様は身に余る大罪を犯したが故に、身に余るこの栄誉を受けることとなるのだ」


親衛隊『ラズァイ』の長は抑揚のない声でそう告げると、亡者の黒水を染み込ませた包帯でウミホテップの全身を拘束させた。


身動きのとれぬまま、自らの終身の住まいとなる木棺に横たえられた包帯女の上に、

ジャッカル頭の神官はその手に抱えた大瓶の中身をひっくり返した。

21 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:10:38.48 ID:O5uQ9rt3.net
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ウミホテップ「ん゛ん゛ン゛ン゛!! う゛う゛ぅぅー!!!」


蟲、蟲、蟲。瓶より降り注いだのは、黒光りする糞甲虫(スカラベ)の大群。

悪臭を放つこの偏食家たちは、あっという間に生ける屍となったウミホテップの全身に群がり、

その肉を食らいながら何百何千年と生き続けることだろう。


そして、彼女自身も―――


ホム・ダイによって不死の呪いをかけられたウミホテップは、死ぬことも、まして生きることも出来ずに、

永遠の苦しみを友として未来永劫、地中深く眠るのだ。


厳重に封印が施されたその棺は、ハムナプトラを監視するアヌビス像の足元に葬られた。

彼の者が二度と復活することの無いよう、深く、深く――何十トンもの砂の下に。

22 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:11:30.50 ID:O5uQ9rt3.net






闇の奥底で、醜悪な同居人たちに全身を蝕まれる痛苦に発狂しながら、それでもウミホテップは確信していた。


いつの日か、自身を解放する者が現れたその時には――


気の遠くなるような年月は邪悪な力を蓄えさせ、不死の呪いは彼女の味方となる。


ウミホテップは歩く災厄となって人々に災いと疫病を振り撒き、この砂漠を――ひいては全世界を征服せしめるのだ。


たとえ肉体が滅びようとも添い遂げることを誓い合った、愛しのミナリンスキーと共に…

23 :名無しで叶える物語(関東・甲信越)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:12:29.44 ID:LNNyQGaq.net
そろそろ本編?

24 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:13:40.67 ID:O5uQ9rt3.net
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そして、三千年の歳月が砂となって堆積し、ハムナプトラを埋没させた。

25 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:14:26.55 ID:O5uQ9rt3.net
#1「リビアン硝子の墓園(摂氏52.5度)」

26 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:15:37.81 ID:O5uQ9rt3.net
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――西暦1924年 ハムナプトラ


絵里「総員配置に着きなさい! 敵はすぐ目と鼻の先よぉぉぉぉ!」


三千年。

悠久の時を経て荒廃し、残骸となり果てた死者の都の砂場を駆け回る部下たちの尻に怒号を浴びせつつ、

すっかり背の低くなったアヌビス像の胸元で、黄土色の下士官服の膨らんだ胸ポケットを弄りながら、

エリー・アヤセ伍長は舌打ちした。


希「どーしたんエリち? もしかしてウチのワシワシのし過ぎでB地区とれちゃった?」

絵里「……遺書を持ってきちゃったのよ」

希「へえ、生真面目なエリちにしては珍しいポカやね。そーいうところは抜け目ないはずなのに」


強い日差しの下で悪戯っぽくカラカラと乾いた喉を鳴らして笑って見せるのはトージョー二等兵。

雑多な人々が結集したこの愚連隊で、絵里を伍長と呼ばず不思議な愛称とキツい訛りの英語でからかう友は彼女ただ一人。


絵里「だって本当に見つかるとは思わなかったし。どうせすぐ引き返すと思ってたのよ」

絵里「ま、いいか。基地に置いてきたところで、どうせ読んでくれる人は誰もいないし…」

27 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:17:56.08 ID:O5uQ9rt3.net
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繰り返すが、三千年――人々は飽くことなくこの地で争いを繰り返してきた。

足元に、邪悪な存在が埋まっているとも知らずに。


今回ハムナプトラに侵入したのは、フランス外人部隊という規律ある軍隊の皮を被った無法者の集団で、

大隊長がふとした切っ掛けで入手した宝の地図に導かれ、彼の伝説の地に辿り着いた喜びも束の間、

地平線の向こうから大挙して押し寄せて来たトゥアレグ族の騎兵の姿を見て、レイダースは一人残らず腰を抜かした。



絵里「こっちは二百人。少なく見積もっても、あっちはその十倍はいるわ」


希「なあエリち。たった今ウチの信奉する神さんの一人から下った啓示があるんだけど、聞く?」


絵里「一応」


希「おほん。ではでは…二人して銃捨てて、あっちの大将さんの前で土下座するといいでしょう」


絵里「そしてそのまま馬に踏み潰されるでしょう。ハッピーエンドね」


絵里「それにあいつらみんな同じ顔してるから、どれが大将かなんて分からないわよ。無駄無駄」


希「あー差別発言。いーけないんだ、ぐーんそーに言ってやろ〜」


絵里「どうぞご勝手に」


希「あら真顔で返されちゃった」


希「だったらこっちも真面目に言うと、白人サマはそうやって蛮族を見下してかかるから、いっつも痛い目にあうんよ」


絵里「私はこう見えて四分の三は貴女と同じ東洋人なんだけど。これ前に何度も話してるじゃない」

28 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:19:27.20 ID:O5uQ9rt3.net
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絵里「それに、あなたの言う蛮族の持ってるライフルと刀の方が、我らが時代遅れのルベル小銃よりよほど高性能だわ」


絵里「…せめて機関銃が数挺あればねぇ」


希「ないの?」


絵里「ないわ。もれなくスネに傷持ちの使い捨て部隊には贅沢すぎるんですって」


希「くっは〜騙されたぁ!三年前のパリ、新兵募集所に駆け込んだあの日まで時を巻き戻したくなるよ。でもあん時は他に選択肢なかったしなぁ」


絵里「よく覚えてるわ。あなた、何故か金の仏像を背負って、息を切らして走り込んできたわよね」


絵里「で、こう叫んだの。“ここに来れば今までの罪がチャラになるて、カードに出てたんやけど!”って」


希「うわっ恥ずかし。んもーそんなこといつまで経っても覚えてるなんてエリちのいけずぅ」


希「ま、その日にウチとエリちは運命的な出会いを果たしたわけやし。いうなれば二人の記念日ってとこかな?」


希「愛し合う二人の全ての始まりの日。なーんて、きゃはっ♡」


絵里「愛じゃなく悪友との腐れ縁の始まり、でしょ。正しくは」

29 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:20:29.26 ID:O5uQ9rt3.net
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絵里「それで、お得意のカード占いは今回なんて言ってるのよ」

希「ほいほいちょっと待っててー……はい、出ましたー!」

希「えーっと…おお、こりゃ凄い」

希「喜べエリち、近いうちに大出世できるって。曹長、小隊長、いや大隊長にだってなれるかも!」

絵里「ふーん、そりゃ光栄ね。となると今の隊長たちは皆戦死するかどこかへ飛ばされるのかしら……あら?」


絵里「ねえちょっと待って。隊長たちが、本当にどこにも見当たらないんだけど」キョロキョロ


絵里「……」


絵里「まさか」


絵里「全員逃げ」  


 ポンポン


絵里「!…隊ちょ」クルッ


希「昇進おめでとうエリち」

30 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:22:44.58 ID:O5uQ9rt3.net
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希「やっぱウチの占いは的中率抜群やね。こんなに早く効果が出るなんて」ウンウン

絵里「ちょ、ふざけないで! 希、あなた本当は気付いてたんでしょ!?」ガシッ

希「ぐえ!? く、苦しいよ、エリちってば…」

絵里「そうやっていっつも自分の言葉じゃなくカードや神のお告げってことにするんだから! この卑怯者!」

希「ぃ、いやぁそんなことなぃよ? ホント」


絵里「へえ…? じゃあカードはあなたにどんな審判を下したの? 教えてくれない?」

希「それはぁ…ええっと……そう、自分の信じる上官について行けって!」

絵里「ホント?」

希「サー!地の果てまでも!サー!」

絵里「よろしい。あなたは逃げないでよね」スッ


希「ぅゲホゲホ…! 全く酷いなぁ、ウチがエリちを裏切るわけないやん」

絵里「その言葉、過去の自分に聞かせてあげたら? ご自慢のスピリチュアル・パワーとやらで」

希「この戦いが無事終わってからね。そしたら結婚しよ」

絵里「そうね……て最後のは何よ」


 
絵里「――よぅし、全員持ち場に着いたわね!? これからは私が指揮を執ります!」


絵里「構え……狙え!!」

31 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:25:09.26 ID:O5uQ9rt3.net
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┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


トゥアレグ族「「「「「ウー・ララララララララララララ!!!!!」」」」」


今や騎兵たちは死の壁となって絵里たちの視界を埋め尽くし、その蹄が引き起こす地鳴りと鬨の雄叫びが粗末な砂の砦を揺さぶっていた。


 
希「天にましますウチらの父よ。というか誰でもいいから、どーか穢れなき二人を救いたまへ。天照の御心のままに。はらったま〜きょったま〜」

絵里「まだ撃っちゃ駄目よ! 狙い続けてっ!」


希「……駄目」

絵里「そうよ、まだ撃たないで。狙えーーーっ!!!」


希「ねえエリち、ウチは信じる上官についてくって言ったよね?」

絵里「まだよぉぉ!!! ……えぇ、それが?」


希「………ごっめーんで東條! ウチが信じてるのは逃げ出した隊長さんたちの判断なのっ!」


言うが早いか、その場でくるりと踵を返し、


希「というわけで大隊長ー!待ってくださぁぁぁい!」ポイッ


こちらが口を開く前に、ライフルを放り捨てた“親友”は、あっという間にハムナプトラの神殿の迷路へと駆けて行ってしまった。

32 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:27:25.92 ID:O5uQ9rt3.net
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絵里「…」ポカーン


絵里「ハラショー…逃げ足速いのね」


絵里「って、知ってたわよ! 何度目よこの展開! また私を一人にしてぇ! もうウンザリよぉ!!」


絵里「ああもう次会ったら絶っ対に殺してやるんだからっ! それまであなたも死ぬんじゃないわよ希ぃ!」


絵里(こうなったら、前に彼女が話してくれたあの戦術でいくしかない…!)


絵里「バトルオブナガシノスタイルよ! 奇数兵、射撃よぉーい!!」


 


絵里「もう少し引き付けて…! スリー…ツー…」


 

絵里「……てぇぇぇーー!!!」


 
 BLAM! BLAM!BLAM!BLAM! BLAM!BLAM! BLAM!BLAM!BLAM!……

33 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:28:53.17 ID:O5uQ9rt3.net
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百挺より少し多い銃声が一斉に轟き、それに合わせて数十の蛮族が馬から転落した時には、臨時の大隊長は次の攻撃命令を発していた。


絵里「偶数兵、てぇ!!!」BLAM!


二度の斉射で積み上がった死体の障害物で、後続の騎兵たちが派手に躓き七転八倒する。そこにさらなる銃撃が雨あられと降り注ぐ。


絵里「さらに撃て!!」


 BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM! BLAM!BLAM!BLAM! BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!


絵里「もっと撃て!どんどん撃て!馬賊共の足を止めるのよッ!!」BLAM!ガチャコン!BLAM!


 
ボルトアクションライフルは射撃と射撃の合間の隙こそあれど、それも数百年前の火縄に比べれば微々たるもの。

しかも二段撃ちの戦法によって、絵里たちはその僅かな隙すらも相手に与えることを拒否していた。

一切の反撃の間を許さぬ異教徒の攻撃に、大混乱に陥ったトゥアレグ族の前衛は片端から撃ち倒され、血煙が大地を満たす。


絵里(いける…! いけるわっ、このまま押し通せれば!)

34 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:30:21.85 ID:O5uQ9rt3.net
.
だが、そう考えていたのは向こうも同じ。


トゥアレグ族「「「「「「「「「ララララララララララララララララララララララララッ!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」


灰色の砂塵の内より、先の三倍にも及ぶ馬の鼻面が一斉に躍り出て来たのが見えた。


絵里(なんて奴らなの…! 損害に全く怯んでないッ)


こうなったら、どちらかが全滅するまで続けるしかない。

そう思って引き金に指を掛けた絵里が聞いたのは、空の薬室で虚しく撃針が前進するカチッという音だった。


絵里(しまっ…!)

35 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:31:38.25 ID:O5uQ9rt3.net
.                                        
                                       BLAM!
          BLAM!
 BLAM!
                  BLAM!        BLAM!

    BLAM!                                  BLAM!

            BLAM!            BLAM!


 
自分たちのものとは違う、まばらで散発的な銃声が砂埃の向こう側から轟き、味方の隊列のあちこちから苦痛の悲鳴が上がる。

それに対して応射できた者は皆無。


絵里のとった戦術の長所と短所は、部隊の攻撃と弾切れのタイミングが同じであること。

36 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:33:10.54 ID:O5uQ9rt3.net
.

絵里「くっ…!」ガチャガチャ


 
  BLAM!           BLAM!
 
          BLAM!                 BLAM!

                       BLAM!



   「ぎゃあ!」      「ごふうっ!」         「ぱいる!」


 
ボルトを操作し薬室を開放している間にも、周囲で不運な兵士たちが次々倒れ伏していく。

不規則で断続的な死の絶唱が、弾帯から弾を抜き取る指先を震えさせ、


 
絵里(間に合わない…!)


自分の隣でライフル内の弾倉に必死で弾を押し込んでいた部下が倒れた時、彼女は悟った。

37 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:34:34.49 ID:O5uQ9rt3.net
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絵里「各自で撃って!」


叫びながら薬室に一発だけ滑り込ませた銃弾を即発射し、またボルトを引いて装填動作。

言われなくても部下たちはとっくに各々勝手に射撃、または尻尾を巻いて逃げ出していた。


――その背中に、蛮族の投げた湾刀が回転しながら突き刺さる。


絵里(もうそんな至近距離まで!?)


絵里「後退ッ!! なるべく固まるのよ! 白兵戦は避けて! 互いに装填の隙をフォローしぁっつ!」


目まぐるしく変化する戦況を把握しながら矢継ぎ早に指示を飛ばし。

同時に手元を見ずに次の弾薬を押し込もうとした絵里の指先に、

薬室から勢いよく飛び出した熱々の空薬莢が触れて火傷、思わず次弾を取り落とす。


 
絵里「もうっ…! だから熱いのは苦手なの…!」


迫りくる熱狂的な死の群れを前にして、氷の伍長はほとんど融解寸前だった。

38 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:36:50.35 ID:O5uQ9rt3.net
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 ウラララララララララッ 
                     blam! blam!   blam!

            ギャーッ


 
希「」イソイソ


希「」ガリガリガリ


 ポロッ

希「あはっ♡ とれた。ちっこいけど正真正銘のリビアングラス」


希「帰ったらパワーストーン風のペンダントに加工してもらおっと」


希「これで前世のカルマも浄化されるかな…はぁ」


 
――


―――――


―――――――――

39 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:38:47.85 ID:O5uQ9rt3.net
.
――1ヶ月後 エジプトの首都カイロ 


【カイロ考古学博物館】


あんじゅ「あーダメ、信じられない。偉大なるアラーよ、どうか私を救いたまえ」

あんじゅ「どうしてちょっと目を離した隙に、資料庫の本棚が全部倒されてるワケ?」


雪穂「か、館長……その、これにはナイル川よりも深〜いワケがありまして」

あんじゅ「何が深〜いワケギよ。どーでもいいけど貴女のナイルは水深も青春も浅そうよね」

雪穂「はぁ?」


あんじゅ「ねえ、十の災厄って知ってるかしら」

雪穂「無論ですっ。出エジプト記に記された、ヘブライの人々を救うために神がエジプトにもたらしたとされる災いのことですよ」

雪穂「一つ、エジプト中の水が血に変わる。二つ、カエルの大発生。三つ、ぶよの大発生、四つ目も」


あんじゅ「はいそこまで。じゃあ今度は貴女の知らないことを教えてあげる」

あんじゅ「たった今十一個目の災厄が追加されたの。クラッシャー・ユキホっていう名のね」

雪穂「うっ」

あんじゅ「出来れば私の中のバイブルから貴女の存在を永久に抹消してやりたいわ。今すぐに!」

40 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:40:33.33 ID:O5uQ9rt3.net
.
雪穂「それでも、私をクビにはしない…ですよね?」

あんじゅ「ふん」

雪穂「なぜなら私は古代エジプト語の読み書きが出来ます。聖刻文字(ヒエログリフ)や神官文字(ヒエラティック)の解読もどんと来い!」

雪穂「…それにこの滅茶苦茶になった蔵書の目録をキチンと整理できるのも、毎日ここで作業している司書の私以外にはいないですよ、うん」

雪穂「ということで、分かっていただけたでしょーか…? 私の重要性を」


あんじゅ「いいえ全く。完っ全にフルハウスの反対」

雪穂「あの、失礼ですが完っ全に意味明白の反対です。もっと学者らしく論理的な話し方でお願いできますか」

あんじゅ「おだまり! 貴女みたいな一見しっかりしてそうだけど実は抜けてて! 落ち着いてるようでそそっかしくて!」

雪穂「うぐっ」

あんじゅ「礼儀正しい風だけど毒吐きで!ひんそーひんにゅーちんちくりんな子を縁故採用し続けてるのも貴女のご両親、コーサカ夫妻がうちの最大の金ヅ…パトロンだったからよぉ」

あんじゅ「お二人は貴女と違って、慎ましく物静かな素晴らしい方々だったわぁ……今は天国におられるけど」トオイメ

あんじゅ「それを貴女と来たら! 少しはお二方に申し訳ないと思わないの?」

雪穂「返す言葉もございません…」

41 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:41:45.31 ID:O5uQ9rt3.net
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雪穂「」シュン

あんじゅ「…フン」


あんじゅ「金の切れ目が縁の切れ目って言うけど、五十年分くらい先払いされちゃってるからねー仕方ないわー」

あんじゅ「私との関係を修復したくば、まずはここを元通りにしておくこと。どんなに時間がかかってもいいから」

雪穂「…はぁい」


あんじゅ(やれやれだわ。しおらしい姿を見せられちゃうとね。私も甘い甘い)

雪穂「あ、それでこの前申請したベンブリッジへの推薦状のことなんですけど(あれが通ればこんな所とはオサラバだもんね)」

あんじゅ「当然却下よ」ニコッ

42 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:42:56.14 ID:O5uQ9rt3.net






雪穂「さて」

雪穂「これホントにどうすりゃいいのさ。間違いなくひと月はかかる大仕事だよ」

雪穂「……聞こえてる? そろそろ出てきなよ、お姉ちゃん」


穂乃果「あれ? バレてたー?」ヒョコッ


穂乃果「折角隠れて脅かそうと思ってたのにーあっははは」

雪穂「酒臭っ…隠れるも何も、さっき私が乗ってた梯子を後ろから揺らしたのお姉ちゃんでしょ。お陰でこのザマなんだけど」

穂乃果「いやーすごかったねー本棚がドミノ倒しみたいにばたばたーってあはははっ」


雪穂「」ブチッ


雪穂「ふっざけんなぁああ!!!」

43 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:44:29.97 ID:O5uQ9rt3.net
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穂乃果「うごおおおっ雪穂ぉ…二日酔いに腕挫十字固めは…その、吐きそ」オエッ

雪穂「お姉ちゃんのせいでベンブリッジ考古学研究所への推薦状を書いてもらうチャンスがふいになっちゃった。どう落とし前つけてくれんの」ギチギチ

穂乃果「ぅぎぎ…それさぁ、前も駄目だったじゃん。穂乃果の責任じゃな」

雪穂「反省なし。死刑確定ね」ゴキッ

穂乃果「あぎゃあああ!!ギブギブ!! 私が悪うござんした!お願いやめてぇ中身出ちゃいそうだから!」


雪穂「はぁ、はぁ…全く」

穂乃果「いや、マジな話ね。腕折れたら困るんだよ。私今、世紀の大発掘の真っ最中なんだ。コーサカ家の跡取りとして、家名に泥を塗らないようにさぁ」

雪穂「嘘つけ山師と書いてペテン師のくせに。どーせまたロクでもないことにお金突っ込んでるんでしょ」

雪穂「いつまでもそんなこと続けてると、一度しかない人生棒に振るよー? いやもう振ってるか」

穂乃果「あはは、キツイなぁ。いつか大金持ちになる夢はさておき、こうして実りのない日々を続けてられるのも、可愛い妹がいてくれるお陰なんだけどなー」

穂乃果「お母さんたちは飛行機事故でぽっくり逝っちゃったし。今やユッキーだけが穂乃果の全てだよ…たはは」

44 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:46:01.16 ID:O5uQ9rt3.net
.
雪穂「…ふん」


穂乃果「嬉しかった?」


雪穂「…ちょっとね」


雪穂「あっ」


穂乃果「」ジーッ


雪穂「な、なによ…」


穂乃果「……」


雪穂「……」


穂乃果「ふっ」


 
ほのゆき「ぷっ、あははっ」

45 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:47:08.05 ID:O5uQ9rt3.net
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穂乃果「ゆきほー」

雪穂「なにーおねーちゃん」

穂乃果「図書室の件は悪かったよ。謝る。ごめん」

雪穂「資料庫ね。当り前だよ。けどいいや」

雪穂「どうせ毎日資料整理しか仕事ないんだよね。結局やることは変わんない。はぁ」


穂乃果「ふっふっふ」

雪穂「なぜ笑う」

穂乃果「そんな乾いた日々を送るミイラ仲間の雪穂にとっておきのプレゼントがありまーす」

雪穂「けっ、どうせ干物女ですよー。館長曰く私のアクアリウムは干ばつ期のナイル川より干からびてるそうだから」

穂乃果「そこまで言ってたっけ…? ていうかいつまでこの体勢続けんのさ。ホラ、さっさとアームロックしてる私の掌を開いてみて」

雪穂「んー? 何これ、箱? まーた適当なお土産売り場でとってきたんじゃ」


雪穂「……」


雪穂「…お姉ちゃんこれ、どこで拾ってきたの」

46 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:49:59.02 ID:O5uQ9rt3.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                            


 
Next:#2「ハラ処ー刑務ショー」               ラブライブ!× ハムナプトラ -失われた砂漠の都- 

47 :名無しで叶える物語(らっかせい)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:51:23.27 ID:MUBToUqb.net
期待

48 :名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 20:58:19.79 ID:Lr3RJOZL.net
おつ
エイリアンの人かな?

49 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 21:20:40.28 ID:2Gweaf2R.net
おもしろい支援

50 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 21:35:31.05 ID:2JZvtIau.net
http://imgur.com/fuSkoC9.png
確かにアンタのいってることは正しいよ あいつは赦されるべき存在ではない それでも俺には無理だ 女の子が死刑になってそれから笑って生きていくことなんて無理だ

http://imgur.com/fuSkoC9.png

51 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:19:44.17 ID:O5uQ9rt3.net
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あんじゅ「テーベの発掘現場で見つけたですって?」

穂乃果「」コクコク

あんじゅ「古い物には違いないけど、こんな掌サイズの八角形の小箱。一体何の役に立つっていうの? 職人が気紛れで作ったガラクタじゃなくて?」

雪穂「と、思いますよね。ところがここにあるスイッチを押すと」カチッ


 ガチャリ  パカッ

あんじゅ「箱の上蓋が…展開した?」

穂乃果「花を咲かせる〜にっこり笑顔は〜♪」

あんじゅ「確かに形は花みたいだけどぉ」

雪穂「で、中にこの地図が入っていたんです!」

あんじゅ「地図ぅ…?」

52 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:20:55.07 ID:O5uQ9rt3.net
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雪穂「これは凡そ三千年前のものと思われます。ほら、根拠はここのカルトゥーシュ。これはマリィ1世が公に用いたもので間違いありません」

穂乃果「ちょい待ちタンマ。雪穂、マリィ1世って?」

雪穂「ああ、彼女はね…」

あんじゅ「ちょい待ちトンマ。あなた、仮にもコーサカ家の人間なのにそんなことも知らないの?」

穂乃果「昔から勉強は中途半端で」テヘヘ

雪穂「一言でいうと、チョー大金持ちの王様」

穂乃果「よっしゃ! バッチシ理解できたよっ」

53 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:21:58.14 ID:O5uQ9rt3.net
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雪穂「この中で私が特に注目したいのは、ここの神官文字の記述です」

あんじゅ「どれどれ、よく見えないわぁ。もっとロウソクに近付けて」


雪穂「これは“ハムナプトラ”です」

穂乃果「ハメ…なんだって」

雪穂「お姉ちゃんマジで言ってる?」

穂乃果「ウッソー流石に知ってるよ。チョー有名だもん」


穂乃果「死者の都ってやつでしょ。地下に歴代の王族の財宝をかき集めたでーっかい宝物庫があるんだってね」

穂乃果「聞くところによればスイッチ一つでお宝ごと砂の下に沈んじゃうんだとか。だから誰もその正確な位置を知らないって」

雪穂「そそっ正解正解えらいえらい」ナデナデ

穂乃果「ふふん。こう見えてお宝に関してはプロフェッショナルなの」

あんじゅ「バカバカしい」ハァ

54 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:23:56.26 ID:O5uQ9rt3.net
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あんじゅ「つまり、あなたはこの地図が、そのハムナプトラへの道を示していると?」

あんじゅ「バッカねー。あれは旅行者を喜ばせるための現地人の作り話よ。本気にしちゃダメ」

雪穂「そりゃ私だって、ハムナプトラは生けるミイラに守られてるーとか呪いの土地だーとかの科学的根拠のない迷信は信じてません」

雪穂「でも、その存在だけは別です。これは独自に文献を調査した結果ですが、ハムナプトラの神殿は実在した可能性が非常に高いと私は考えています」


あんじゅ「やれやれね。どーしてアメリカ人ってのはこう、夢見がちな生き物なのかしら。動物園から獏を連れて来てあげましょうか?」ボッ

雪穂「ケッコーです。姉はともかく、私は現実主義の英国淑女ですから……ん?」

穂乃果「どしたの」

雪穂「なんか臭い」

穂乃果「誓っておならはしてないよ」

雪穂「違うよ、もっとこう…何かが焦げてるみたいな」


ほのゆき「」チラッ


あんじゅ「ん?」メラメラ


ほのゆき「火事だぁぁぁ!!!」

55 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:25:21.45 ID:O5uQ9rt3.net
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あんじゅ「わっ、わっ、わっ」ゴォォォ

穂乃果「地図がぁぁぁ! 穂乃果のハムナプトラが燃えてるううううう!!!」

雪穂「早く消して! おしっこでもなんでもいいからっ」

穂乃果「よっしゃ!」







  シュウウウウウウウ…


穂乃果「……都の位置を示す部分が燃えちゃった」

雪穂「それにかなり黄ばんじゃったね…」

穂乃果「それは元からだよ」


あんじゅ「あら〜ごめんなさぁい。ついボーッとしちゃって」

雪穂「ちょっと館長!流石にこれは…」

あんじゅ「でも良かったじゃない」

穂乃果「はぁ? なんでさっ」

56 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:26:21.91 ID:O5uQ9rt3.net
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穂乃果「ついボーッとじゃないよゴォーッて燃えちゃったよ弁償して弁償! 穂乃果なんて小便までしたんだからさぁ!」

あんじゅ「昔から多くの馬鹿な男たちが、夢とロマンを追いかけて未亡人を量産してきたわ。これはその類のシロモノよ」

あんじゅ「下らないデマに踊らされて、結局誰もハムナプトラを発見できなかったどころか、そのまま砂漠に埋もれちゃった人も大勢」

あんじゅ「私たち学者の専門は宝探しじゃないの。そういうのはさっき言ったようなクズ共に任せておけばいい。人生を無駄にすることないわぁ」


穂乃果「私は学者サマじゃないんですけどぉ〜クズで悪うござんしたね〜」

あんんじゅ「そうね。だからお詫びと言っては何だけど、その小箱を買い取らせてもらおうかしら」

穂乃果「えっ、ホントに?」

雪穂「駄目、これは売り物じゃない」サッ

穂乃果「ちょっと雪穂ぉ! どうして? それは穂乃果の」

雪穂「行くよ、お姉ちゃん。あといい加減ズボン上げなよ」

57 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:27:47.73 ID:O5uQ9rt3.net
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雪穂「一つ分かったのは」

雪穂「あんじゅさんは口だけ達者な頭空っぽ権威主義学者の典型だったっていうこと。これを私たちの業界では老害(ミイラ)と呼びます」

雪穂「なによ、人のこと散々おっちょこちょいとか言ってくれちゃって。どっちがだっつーの」

雪穂「どうせ自分だってその見てくれで一芸採用されたに決まってるよ。まず間違いないね」

穂乃果「本当だよねっ。穂乃果も前々からそう思ってたよ!」プンスコ

穂乃果「ハーレムに住んでる妻妾でーすって言われても驚かないよ。きっと裏じゃ男を何人もくわえ込んで、たくさん春を売ってるんだ。何が縁故だこのエンコー女!」

雪穂「そこまで言ってない」


雪穂「とにかく、案内してくれる?」

穂乃果「ほえ? どこに」

雪穂「この箱を見つけた発掘現場に決まってるでしょ。何か新しい手がかりが見つかるかも」


穂乃果「あーそのことなんだけどさ」

穂乃果「実は発掘現場ってのは私の勘違いで……これはカイロのとある宿で知り合った外国人のお客から譲り受けたものなんだ」

雪穂「ちょっと!どーしてそれを早く言わないの!? その人!まだこの国にいるの!?」

穂乃果「あ、うん。多分しばらくはずーっとここに留まるんじゃないかな。もしかしたらそのまま骨をうずめる気かも」

58 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:29:26.04 ID:O5uQ9rt3.net
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亜里沙「ようこそカイロ刑務所へ! 私が所長のアリサです。汚い所ですがどうぞゆっくりしていってくださいね」

雪穂「おねーちゃん?」

穂乃果「嘘は言ってないよ。ここだって住めば都だよ」

亜里沙「ハラッセオ!おねーさんの言う通りです。失礼ですがお二人は姉妹なんですね。あんまり似てないですねー」

雪穂「こんなサギ師に似なくて良かったよ。身内まで騙すなんて」

穂乃果「雪穂は私のペテンの練習台だよ。ほら、家族ならお金かからないし」

雪穂「当てようか。譲り受けたってのも嘘だね。ホントはいつもみたいにスリ盗ったんでしょ」

穂乃果「人聞きの悪い! ちょっと拝借しただけだもん」

雪穂「所長さん、今すぐ姉を立件できます? 罪状は窃盗と詐欺、ついでにすかしっ屁の常習犯」

穂乃果「あーほら見て雪穂! 回し車の中で人が走ってるよ! ハツカネズミみたいで可愛くない?」

雪穂「お姉ちゃんも一緒に回ってみたら? 頼むからこれ以上生き恥晒す前にくたばってよ…」

穂乃果「ごめんだね。図太く末長く生きるよ私は」

亜里沙「ハラショハラショ!! お二人ともすっごく仲良しで羨ましい限りです! アリサもお姉ちゃんと妹が欲しかったなぁ」

亜里沙「あ、因みにここではスリと詐欺は重罪です。逮捕されますと、鼻を削ぐ罰が待ってますから注意してくださいね?」

穂乃果「よし、さっさと用事済ませて帰ろうか」

59 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:31:20.10 ID:O5uQ9rt3.net
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雪穂「それで、そのエリーチカって人はどうしてここに?」

亜里沙「さあ? アリサもついさっき初めて聞いてみたんですけど」

雪穂「ど?」

亜里沙「何を聞いてもただオウムみたいに“楽しい場所でイイコトしてきただけ”としか言わないんです」

雪穂「それって、本当に罪を犯したんですか? 罪状もはっきりしてないなんて、ちょっと問題だと思いますけど」

亜里沙「いーや、アリサには分かります。あれは間違いなくタラシのロクデナシですよ」

亜里沙「産んだ親の顔が見てみたいわ。あ、出てきたみたいです」


 ガチャッ 


 「ちょっ、放しなさい! 汚い手で触らないでよ!」 


看守(ヒデコ)「うるさい、お前の方が汚いわっ!」ドカッ

60 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:33:19.90 ID:O5uQ9rt3.net
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穂乃果「さあ、お友達とのご対面だ」

亜里沙「あ、因みに面会時間は三十秒です」

雪穂「は? ちょっと、いくら何でも短すぎ! 折角こんな所まで来たっていうのに!」

亜里沙「ごめんなさい、でも規則なんです。囚人は何をするかわかりませんし」

亜里沙「外から脱獄の手引きをする輩もいます。どうかご協力よろしくお願いします」

穂乃果「これ(一ポンド札)で何とかならない?」ピラッ

亜里沙「ハラショ、では特別に十分差し上げます。鉄格子にはあまり近付かないように」


 
ヒデコ「おら、行ってこいゴキブリ野郎!」


 ガシャン!


 
雪穂「」ビクッ


 

 「フーッ、フーッ…」


 
絵里「アナタたち誰よ」

61 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:35:49.20 ID:O5uQ9rt3.net
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穂乃果「初めまして! 私たちは幸せを広める伝道師です。今日はあなたに福音を届けに来たの」


絵里「それなら間に合ってるわ」

絵里「……どこかで見た顔ね。本当に初めて?」


穂乃果「いや〜よく言われるよ、ほら私ってどこにでもいる顔立ちだから」

穂乃果「あ、私は穂乃果で、こっちがプリチーな妹の雪穂」

雪穂「どうも」


絵里「ふーん…」ジィィ

絵里「お姉さんの方はともかく、あなたはまだまだね。素材は悪くないけど。その髪、ヘルメット被ってるのかと思ったわ」


雪穂「なっ」


ヒデコ「おらっ!」バキッ

絵里「ぐっ…!」


亜里沙「ワンペナルティです。時間の延長は有料ですけど、こっちはサービスなのでガンガン利用してくださいね♪」

62 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:37:15.81 ID:O5uQ9rt3.net
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穂乃果(雪穂、この人が死んじゃう前に早く箱のこと聞いて)ヒソヒソ

雪穂「あのっ、実は私たち、あなたのパズルボックスを偶然拾いまして。そのことでお話を伺いに来たんです」


絵里「思い出したわ」


穂乃果「何を?」


絵里「さては、あなたたちハムナプトラのことを聞きに来たんでしょ」


雪穂「!」  穂乃果「わーわー!声がデカいよ」


絵里「ならもっとこっちに近付いて」


雪穂「どうしてあれがハムナプトラに関係あるものだと?」


絵里「ハムナプトラであれを見つけたからよ」


穂乃果「その話詳しく」ズイッ


絵里「もっと顔を近付けて。耳を貸して」

穂乃果「うんうん」


 バキッ!


穂乃果「ごへぁ!!?」ズザザーッ


絵里「よくも私から箱を盗んだわね」

63 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:39:00.97 ID:O5uQ9rt3.net
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雪穂「あの、本当にハムナプトラに行ったんですか」


絵里「あなたお姉さんが殴られたのに気にしないのね」


雪穂「いい気味です」

亜里沙「アリサは気にしますよ。看守」クイッ


 ドガッ!


絵里「ふぐ…っ、っ」

絵里「ペッ……所長、あなたロシアの血が混ざってるわね? でなきゃこんな酷いこと出来るはずないですもの。同胞にも容赦しないなんて…」


亜里沙「人類皆平等がアリサのモットーです。ただし黒んぼとあなたは除く」

64 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:39:48.31 ID:O5uQ9rt3.net
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雪穂「二人ともロシアの混血なんだ――よくよく見れば結構似てるかも? ひょっとしてあなた達生き別れの姉妹とか」

亜里沙「ご冗談をミス・ユキホ! あ、これがブリティッシュ・ジョークってやつですね、分かります」

雪穂「いや冗談じゃなく割と本気で」

亜里沙「…ちょっと向こうの様子を見てきますね。すぐ戻ります」


雪穂「? あの人なんで急に不機嫌になったのかなぁ」

穂乃果「イテテ…そりゃあんなお化けみたいに髪の毛ボサボサシラミで真っ白の何週間もお風呂入ってないようなカビ臭い人に似てるなんて言われたら穂乃果だって怒るよ」

穂乃果「もしかして伝説のハムナプトラってここのことじゃない? ほら、生ける屍が目の前に」


絵里「全部聞こえてるわよーあなたも同じようにしてあげましょうか?」

65 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:43:34.78 ID:O5uQ9rt3.net
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雪穂「ごめんなさい脱線しちゃって。とにかく、ハムナプトラに行ったっていう証拠があれば是非見せてほしいんですけど」

穂乃果「他に何か見つけたりしなかったの? 具体的には財宝とか秘宝とか」


絵里「砂よ。たくさんの砂」


雪穂「え?」


絵里「一ヶ月前、私の部隊は死者の都に辿り着いて、半日と経たないうちに私を除く全員がそこの仲間入りを果たした」

絵里「私が持ち帰れたのは、そこでの苦く乾いた思い出だけ」


雪穂「……一体何があったんですか」


絵里「あんまり愉快な話じゃないわ。でも、そうね…どうしてもというなら」


穂乃果「聞きたい聞きたい!」

雪穂「話してくれますか?」


絵里「……」


絵里「そう、あれは丁度今日みたく燦々と容赦ない陽の光が降り注ぐ日だった」

66 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:45:13.66 ID:O5uQ9rt3.net
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大勢の犠牲を払いながらもハムナプトラを見つけた私たちに砂漠の民、トゥアレグ族の騎兵隊が突如として襲い掛かってきたの。

やつらの目的は今でも分からない。戦利品目当てでないことは確かよ。

何か気付かないうちにやつらを怒らせることをしたのか、それとも……


十倍以上の戦力差に圧倒され、陣地を突破された私たちは、ハムナプトラの廃墟に退却しながら決死の抵抗を続けたわ。

もはや部隊の統率なんて無いも同然だった。皆が自分の身を守るのに必死だったから。


この私も――

67 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:47:29.44 ID:O5uQ9rt3.net






絵里「ふんっ」BLAM!


咥え煙草のように銃弾を唇に挟み、天然の遮蔽物から顔を出すと同時に発砲する。

素早く吐き出した次弾を薬室に押し込み閉鎖、射撃。


次なる遮蔽物を探しながら、弾帯から二発まとめて弾を抜き取り、同じように一発を薬室へ、一発を口元へ。


一見すると無意味なこの動作も、蛮族がライフルから刀剣に持ち替え、馬上から兵士たちを次々斬りつけているこの状況では、

生存率の上昇に大いに貢献していた。


既に大規模な白兵戦に移行した戦場では、コンマ単位の動作の判断が生死を左右する。

誰もが極力無駄な動きを避け、装填時間を短縮しようと躍起になって、その残り少ない命を燃やしていた。


――悲しい哉、そのほとんどは徒労で終わろうとしているが。


絵里たちは既に追い詰められる所まで追い詰められていた。

68 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:48:52.83 ID:O5uQ9rt3.net
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トゥアレグ族「ルー・ララララララッ!!!」


絵里「!」


発砲を終えたばかりの絵里に、曲刀を振り回しながら騎兵の一人が迫る。


絵里「馬上から見下してんじゃないわよっ!」ブンッ


無駄に長く重量のあるルベル小銃の欠点がここでは生きた。

リーチのある固い銃床で蛮族の顔面を思い切り打ち据え相手は落馬。


その間に装填を試みるもやはり間に合わず、立ち上がって向かってきたそいつを再びストックで殴りつけて顎をカチ割ってやる。

もうライフルの長射程も威力もたいして役には立たない。ならば……


絵里(こっちも近接戦闘用の武器に切り替えるまでっ)


小銃を投げ捨て、両足のホルスターから引き抜いた官給品の仏製リボルバー拳銃を二挺同時に構えると、


絵里「下士官の特権よ!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


目に映るもの全てを滅茶苦茶に撃ちまくる。

もはや照準の要らない距離まで、蛮族たちは殺到してきていた。

69 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:50:10.87 ID:O5uQ9rt3.net
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絵里「…!」カチカチッ


六発と六発の回転弾倉はあっという間に空になり、絵里はそれも投げ捨て、


トゥアレグ族「クッ・スーーーーン!!!」


絵里「ちっ、次から次へと…」


奇声を上げながら突進してきた蛮族の戦士に、ベルトに挟まった二挺のロシア製リボルバーを抜いて応戦する。


絵里「人気者は辛いわねっ!」BANG!BANG!BANG!BANG!


近付いてきた敵は片端から皆殺し。


一人だけ連続射撃音を奏でる金髪の戦士は嫌でも注目を集め、

屈強なターバン男たちは愛馬の手綱を引き、その鼻面を揃って彼女の方へ向ける。

70 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:52:02.19 ID:O5uQ9rt3.net
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絵里「ああもうっキリがない!」BANG!BANG!…ガチッガチッ


トゥアレグ族「ミモッ! エー・ミーツン!!」


またしても弾切れ――我先に獲物を嬲ってやろうと迫り来る民族衣装の死神らに、

背に隠していた二挺のアメリカ製自動拳銃で対処しながらひたすらに後退。


 
トゥアレグ族「ソラマル・ハ・アヒルグッチー!?」


絵里(なんだかんだ結局アメリカ製が一番使い易いのよね)BANG!BANG!BANG!


亡き戦友たちの形見を振り回しながら、一人万国拳銃博覧会を続ける絵里は退路を求め、

今一度死体で埋め尽くされようとしているネクロポリスを駆ける、駆ける―――

71 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:53:14.21 ID:O5uQ9rt3.net
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穂乃果「それで、それでどうなったのっ!?」


絵里「フフ、慌てないで。ここからがいいところなんだから」


雪穂「あのーちょっといいですか」

雪穂「私が知りたいのはハムナプトラについてのお話で、あなたの武勇譚じゃないんですけど」

雪穂「戦いのことだけ延々五分もくっちゃべって、この話さっきから意味あるんですか?」


絵里「なによう私カッコいいでしょ? かしこいカッコいいエリーチカ。それで十分じゃない」


雪穂「でも負けて帰ってきたんですよね」


絵里「……」


絵里「ええその通り。私はあの場所で何もかも失ったわ」


絵里「地位も、名誉も、仲間も、ついでに友情もね」


――


―――――


―――――――――――

72 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:55:49.44 ID:O5uQ9rt3.net
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トゥアレグ族「「「ウー!!! チッチッチッチッチッチッチッチッ!!!!」」」


絵里「やっば…!」


いつの間にか、周囲で戦っていた仲間たちは皆大地に横たわり――しかしこちらを包囲する敵の数は少しも減っていなかった。


十名ほどの騎兵集団に目をつけられた絵里はたまらず背を向け、倒壊した石柱を乗り越えて隠れる場所を探しながら右往左往し

――と、数メートル先に見えたのは。


 
希「エリち…?」


絵里「希? あなたまだ逃げてなかったの!?」


希(いや〜石と遺品漁りに夢中になってーあはは、なんて口に出したら殺される…!)


希「てかエリち! 後ろ!後ろッ!!」


絵里「知ってるわよ!走って!逃げなさーい!」


希「言われなくてもぉぉぉ!!!」ダッ


絵里「そこに神殿への入口があるわ! 中に入るのよッ!!」

73 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:56:58.16 ID:O5uQ9rt3.net
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希「はっ…はっ…!ははっ助かったぁ…」


絵里「よーしいいわよ希! すぐ私もそっちに行くわ! 中に入ったら扉を」


希「ふぎぎぎぎっ…ふぐぐぐ」ギィィィ


絵里「ちょ…まだ閉めないでよ! もうちょっと待ってってば!」


希「ごめんエリち、それじゃ間に合わないぃぃぃ」ゴゴゴゴゴゴ


絵里「まだ閉めるなあ! 希ぃぃぃ!!」

74 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:57:58.76 ID:O5uQ9rt3.net
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希「………」


希「……っくぅ、分かったもうちょい待つから早よ! 扉押さえてるから…アレ?」ギギギギギギ


希「これどうやったら止まるんだろ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


希「………ゴメン、やっぱ無理みたい」テヘッ


絵里「ちょっとおおお!!!」


希「ごめん…本当にゴメンね…これ、ウチだと思って大切に使って」ポイッ


絵里「希いいいいいいいいいい」ビタンッ!


潰れたカエルのように、ゴールした絵里が扉にへばり付いたのと、

神殿への開口部の扉が閉じ切ったのはほぼ同時だった。


絵里「うっ」


足元には、希のものだった二十六年式回転拳銃が。


絵里「裏切り者おおおおおおおおお!!!!」

75 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:59:11.74 ID:O5uQ9rt3.net
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半ベソをかきながら、それでも拾い上げた拳銃をベルトにねじ込み、勝ち目のない逃走を再開する。


トゥアレグ族「「「「「ラー・アララララララララ!!!!!」」」」」


絵里「はっはっはっはっ…!!!」


トゥアレグ族「「「ウー・ラー!!!」」」 


その行く手を遮るように姿を現した新たな騎兵の群れの前で方向転換し、最後の悪足掻きを。


弾帯を剥ぎ取り、下士官服の上着を脱ぎ捨て、プライドもへったくれもない、無様でも構わない、

ただ生き延びたい一心で、涎を垂らしながら絵里は喘ぎ走った。


絵里(足が…痺れて、感覚が、もう…っ!)


よたよたとみっともなく上体を揺らし両足を動かし続けながら、振り向きざまに何度か希の拳銃で反撃を試みるも、

疲労のせいか照準が狂っているのか、一発も当たることはなかった。

76 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/30(火) 23:59:54.85 ID:O5uQ9rt3.net
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絵里「ゼーッ…ハァーッ…もう、ムリ…」


気が付けば、最初に希と呑気な無駄話を交わしたアヌビス像の所まで戻ってきていた。


絵里(ここまでか…)


亡き戦友たちの遺品も、もう底を尽きた――いや、まだ一挺だけ残っているか。

そいつは死んでないけど。


絵里「…」スッ


半ば忘我の境地で、最後の一発を残しておいた希の拳銃を自分の頭の高さに持ち上げ――


絵里(やっぱやめた。自殺なんて性に合わない)


適当に、前に出てきた蛮族の一人に撃ち込んでやった。

77 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:02:29.76 ID:7eWoTF2t.net
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しかしその弾丸は騎馬の轡に当たって跳ね返され、ボトリと砂の上に落下する。


トゥアレグ族「!?…????」


撃たれた蛮族自身、自分や愛馬に傷一つ付いてないことに困惑している様子だった。


絵里「ぷっ…ふくくくっ」


何だか無性に可笑しく、むやみに哄笑したい気分になって、絵里は親友からの餞別を投げ捨て、


絵里(あーあ、何だったのかしらね。私の人生)


騎兵たちがライフルを構え操作する金属音。それらが数秒後に自分の命を終わらせる。

同胞を何十人も殺した女だ。むしろ一思いにあっさり殺してくれるだけ慈悲深いと言える。


絵里(おばあさま…)


最後に、遠い昔に亡くなった祖母のことを考え、ぎゅっと目をつむり――――


しばらくして自分は暗闇を恐れていたことを思い出し、反射的に目を開けると。

78 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:03:49.14 ID:7eWoTF2t.net
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絵里「あ、ら……?」


 
絵里(誰もいなくなってる…)


 

絵里「…どうして」


 


 ビ ュ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ……


 


絵里「!?」

79 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:05:22.83 ID:mSuG/wNr.net
いい

80 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:06:12.11 ID:7eWoTF2t.net
.

     オ オ
   オ    オオ
 ゴ         オ
            ッ  


 
絵里「わっ!なっ何!!?」


                      オオッ!!!
         ブ        オオオ
           オ オ   オ
               オ   


 

絵里(足元の砂が…! 何これ、生き物みたいに動き回って…!)


 

絵里「え…? あ……」


 

 ≪オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛!!!!!!!≫


 

絵里「きゃあああああああ!!!!」

81 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:08:10.08 ID:7eWoTF2t.net






穂乃果「でっかい砂の顔を見た!?」


絵里「ええ、あれは確かに顔だった。それも酷く歪んだ…まるで苦しみにもがいているような」


穂乃果「むむぅ。やっぱり噂のとーり、ハムナプトラは呪われた地だったってことかぁ」

雪穂「生まれた時から専業ペテン師のくせに、簡単に信じないでよ」

雪穂「私はそんな与太話じゃ誤魔化されないよ。もっと決定的な証拠を見せてもらうまでは」


絵里「話はこれで終わりよ。そこまで言うなら、後はもうあなた達が行って確かめてくるしかないわね」


雪穂「じゃあ、どうやってあそこに行けばいいか教えてくれませんか? 正確な…位置がわかるように」


絵里「地図があるでしょう」


雪穂「あーー地図は……えっと」

穂乃果「私たち姉妹揃って方向オンチなんだよ」

雪穂「そうそう、地図があっても自信がなくって」


絵里「本当に知りたい? そのためなら何でもする?」


雪穂「…!」コクコク

82 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:09:44.43 ID:7eWoTF2t.net
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絵里「ここは聞き耳を立てているやつが多いわ。もっと顔を近付けて」


雪穂「まさか、私まで殴ったりしませんよね」


絵里「まさか、理由がないわ」


 

雪穂「…」ソーッ


絵里「もっとよ……あのね」


 


 チュッ

83 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:11:19.66 ID:7eWoTF2t.net
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雪穂「んん!?」


穂乃果「おぉ」ヒューッ


 
雪穂「なっ!なななないっいいいい今わっ私の唇に…!!???」

絵里「チュウしちゃった」


 
亜里沙「ああっ!何て羨ましい! 看守、ぶちのめして!」


穂乃果「あ、戻ってたんだ」

84 :名無しで叶える物語(SB-iPhone)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:11:21.06 ID:3S8NGClD.net
クロスSS作者って人様の考えた話を丸パクリして自分の手柄にして恥ずかしくないのかね

85 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:12:25.93 ID:7eWoTF2t.net
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ヒデコ「おら来いこの無差別キス魔め!もう捕まってるのいいことにやりたい放題しやがって、これで一体何人目だ? ええっ!?」


絵里「雪穂ちゃんだっけ? 私をここから出して! そして皆で冒険に出かけましょう!」


絵里「私はエリー・アヤセよ! 二人とも、会えて楽しかったわ!」


 
 ガチャガチャ バタン! 「頼んだわよー!」

86 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:15:26.61 ID:7eWoTF2t.net
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穂乃果「はぇ〜嵐みたいな人だったねえ」

雪穂「う、うん…」ドキドキ


穂乃果「それで〜? 初チッスのお味は如何でしたか〜?」ニヤニヤ

穂乃果「レモン味した? それとも甘ったるいイチゴ味? 穂乃果にも教えてよ、ねえねえ??」


雪穂「……」


雪穂「あの人、唇の端に毛が生えてた。歯ぁ磨けてないみたいで口臭も凄かった。思い出したら泣けてきた、うがいしたい」


穂乃果「……ご、ご愁傷さまです」


亜里沙「あの女、今度ばかりはやり過ぎましたね。アリサの素敵なゲストにセクシャルハラショーとは」

雪穂「あの、やっぱり罰を受けるんですか」

亜里沙「はい、とびっきりのを」

穂乃果「それって…」


亜里沙「絞首刑ですっ」フンス


雪穂「ええーっ!?」

亜里沙「すぐに執行します。お望みでしたら特等席をご用意しますよ?」

87 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:17:46.70 ID:7eWoTF2t.net
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囚人ズ「「「「「 ワ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア 」」」」」


 
亜里沙「どうです? いい眺めでしょ?」


亜里沙「この刑務所の構造は古代ローマのコロッセオ!を模してるんです。広場の真ん中で吊るし首になる時、牢屋の全員がショーを見物できるように」


雪穂(悪趣味…)


雪穂(……あ、絢瀬さん)


 
絵里「……」


絵里(雪穂ちゃん、エリーチカはあなたを信じてるわよ)


絵里「」ウィンク


 
雪穂「っ!」ドキッ


雪穂「ん…ん゛ん゛っ」セキバライ


雪穂「……百ポンド払いますから彼女を自由にしてくれませんか?」

88 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:19:05.92 ID:7eWoTF2t.net
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亜里沙「ハーラッショショショ!!! あの女の処刑を見るのにアリサも同じ額払いますよ」

雪穂「分かりました二百」

亜里沙「執行して―」

雪穂「三百!」


 
執行人(フミコ)「何か言い残すことは」

絵里「縄解いて」

フミコ「ですってー」


 
亜里沙「バーカ!冗談も休み休み言って! 誰がお前なんか助けるもんか!早く吊るしちゃえ!」

雪穂「五百出すから!」

亜里沙「やっぱりちょっとタンマー!」

89 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:20:54.84 ID:7eWoTF2t.net
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亜里沙「…他には?」

雪穂「は?」

亜里沙「さっきも言った通り、アリサは寂しがり屋なの」


亜里沙「もしユキホが、アリサのお姉ちゃんと妹になってくれるなら…」サワッ

雪穂「片方ならともかく、両方は響きが怪しいから無理」パシッ


亜里沙「執行!」


 
 /ガコンッ\

    
絵里「がっ!!?………ぅぐるぁぁぁ!!」ジタバタ


 
雪穂「絢瀬さん!」

亜里沙「ハラショー……首の骨が折れなかったのは初めてです」


亜里沙「とことん運の悪い人。苦しみに苦しみに苦しみ抜いて死ぬんです」

90 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:22:56.46 ID:7eWoTF2t.net
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囚人ズ「「「「「 KKE! KKE! KKE! KKE! KKE! KKE! 」」」」」


亜里沙「絞首で苦しめエリーチカ!!!あそれそれっ!!」


 
絵里「ごっ、がっ……ぅぐううぅ」ブラーン


 
亜里沙「見てくださいあのパンパンに張った膨れっ面。連続キス魔の死因が窒息なんて皮肉ですねー」

雪穂(ヤバい、このままじゃ)

雪穂(くっ、これは言いたくなかったけど)


雪穂「……あの人にハムナプトラに連れていってもらう約束なんです」

亜里沙「そういえばそんなこと話してましたね。どうせナンパの口実でしょ?」

雪穂「本当よ! 宝の在りかを示した地図もあります! 彼女がそこに行って取ってきたの!」

亜里沙「ホントのホントに?」

雪穂「ホントに本当のホント! 今すぐロープを切ってくれれば、初回特典として分け前の1割をプレゼント!」

91 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:24:56.88 ID:7eWoTF2t.net
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亜里沙「少ない、5割」


雪穂「2割で」


亜里沙「4割5分」


雪穂「おまけして2割7分5厘!」


亜里沙「譲歩して3割9分7厘5毛!!」


 
絵里(ゆ…き……は、やっ…)ギチチチ


 
亜里沙「3割3分1厘1毛1糸、2忽、9…えーっと、微?」


雪穂「3割1分4厘1毛5糸9忽2微6繊5沙3塵5埃8渺9漠!!!!」


亜里沙「円周率かよ!? もう3割でいいよ!」ガビーン


亜里沙「……あっ、やっぱ今のな 雪穂「契約成立!」


亜里沙「ハルァショアアアーッ!!! こんなの認められ」


雪穂「契約の不履行、つまり詐欺を働いた場合は鼻削ぎでしたっけ?」


亜里沙「うぎぎぎぎ………おろしてっ!」

92 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:26:38.76 ID:7eWoTF2t.net
.

フミコ「せーのっ」ブチンッ


 ドサッ


絵里「ぅぐぇ! くぅ…はぁはぁ…ぅゴホゲホッ!!!」


 
 ブーッ! ブーブーッ!! ブゥゥゥゥゥゥゥーーーーーー……


 
雪穂(絢瀬さん、約束は守りましたよ。今度はあなたの番です)


 
絵里「ケホッ……はぁ……はぁ」


絵里「…」クスッ

93 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:31:31.69 ID:7eWoTF2t.net
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――3日後 ギザの港 


穂乃果「手痛い出費だったなー」

雪穂「まあね。お父さんたちの残してくれた遺産も少ないし」

穂乃果「これでこの旅に全てを賭けるしかなくなったかぁ」

雪穂「勘違いしないでほしいんだけど。私はお姉ちゃんと違って、学術的な目的のために行くんだよ」


雪穂「まあそれはそれとして」

雪穂「なんであなたがここにいるんですか」


亜里沙「ズドラーストヴィチェ! いい朝ですね、絶好の船出日和です!」

94 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:32:33.70 ID:7eWoTF2t.net
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亜里沙「まさかアリサの出番があれだけと思いました? しっかり旅の最後までお供させてもらいますよ」

雪穂「ついてくる気なの!?」

亜里沙「アリサへのギャラが公正に支払われるかどうか監視しとかないと。イギリス人が紳士淑女なのは口先だけですからねー」

亜里沙「現地でボーナスも期待できますし♪ ではお先に船に乗り込んでまーす」


穂乃果「…ありゃ相当のゴーツク張りだね。ロクな死に方しないよ」

雪穂「お姉ちゃんが言えた義理?」

穂乃果「私は節度ある欲かきだもん」

雪穂「どーだか……ん?」

穂乃果「どしたの。また何か燃えてる?」

雪穂「いや、赤いのには違いないんだけど」


雪穂「ほら、あそこにいる真っ赤な日傘差して真っ赤な帽子被った赤毛のトマトみたいな顔の人」

雪穂「なんか見覚えある気がするんだよね」

95 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:34:16.26 ID:7eWoTF2t.net
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真姫「やれやれ、酷い目にあったわ。あー思い出しただけで腹が立つ。何なのよあの物乞いたち!」

真姫「こっちがお情けで十ドル放り込んでやったら、たちまちアリの群れみたく殺到してきて!!」

真姫「お陰で新品の帽子がヨレヨレよ。全く失礼しちゃうっ。土人でも最低限の礼儀くらい知らないのかしら」プンプン

にこ「やれやれ、これだから世間知らずのお嬢様は…」

凛「ああいう手合いは無視するに限るにゃ〜」

花陽「でもちょっと危なかったよね勢いが凄くて。アラモ砦を思い出しました」

真姫「あなた幾つよ」

にこ「ま、でもマッキー自身は怪我してないでしょ? にこたちがちゃーんとお仕事したお陰で」

凛「うんうんっ」

真姫「当然デッショー。払った分はしっかり働いてもらうわよ。私の可愛い下僕(ボディガード)さんたち」

96 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:36:31.47 ID:7eWoTF2t.net
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にこ「とーこーろーで! 花陽ーさっきのは何? 私と凛にばかり撃たせて、あんたは後ろに隠れてコソコソやってたみたいだけど」

花陽「あれは…! ちょっと45オートの調子が悪くて、その…」

にこ「フン、ほら見なさい! やっぱり自動拳銃なんてアテにならないわ!」


にこ「命を預けるならどんな時でも作動するリボルバー一択よっ! さらに言うならS&Wのを使いなさい」

にこ「使ってみれば分かるけど、S&Wの方がコルトより細かいトコで気が利いてる優れモノなのよね〜」

にこ「それなのにどいつもこいつもコルトコルトコルト!ブランドに騙されるニワカばっかりね。挙句の果てに自動拳銃なんていう物珍さだけの玩具にまで手を出すなんて」


花陽「そ、それは違うよ! たまたま私の整備が不十分だっただけで……リボルバーだってちゃんと清掃しないとジャムるのは一緒ですっ」

花陽「私も使ってるコルト1911ピストルはそれまでのリボルバーに変わって米軍に採用されてから十年経ちました。現場でも好評だそうです。これからは間違いなく自動拳銃の時代が来ます!」

花陽「それにS&Wも自動拳銃作ったんだよ。あんまりパッとしなかったけど…」


凛「凛は武器オタなかよちんも好きにゃ〜」

にこ「凛ー? あんたからも何か言いなさいよ、同じリボルバー使いとして」

凛「凛のピースメーカーもコルトだからS&W信者のにこちゃんとはライバル同士だね」

にこ「けっ、今時シングルアクションオンリーの骨董品使ってるやつの気が知れないわ。いつまでカウボーイ気取りのつもり?」

凛「凛はかよちんとピーメが好きなの。あとボーイじゃなくてガールだよ間違えないで」


真姫「はぁ、心底どーでもいい。撃てれば豆鉄砲でも何でもいいじゃない」


にこりんぱな「よくない!!! ピストルの弾は45口径でないと!!!」


真姫「う゛ぇ!?」ビクッ

97 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:37:59.41 ID:7eWoTF2t.net
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穂乃果「うわぁ如何にもアメリカンヤンキーって感じの人たちだぁガラわるそーでも年中楽しそーでいいなー」

雪穂「ウマが合いそうだからって関わらない方がいいと思うよ、ああいう荒くれ共には」

穂乃果「私たちにもそういう友達が出来たじゃん」

雪穂「絢瀬さんか…確かに」


雪穂「館長の言ってたこともあながち間違ってないね。冒険者っていう人種はもれなく、不潔で粗野で礼儀と命知らずのゴロツキ」

雪穂「でも一番許せないのは不誠実なこと。待ち合わせ時間はとうに過ぎてるのに、あの人やっぱり逃げたんだ!」


 
 「あの人って誰のこと?」


 
雪穂「あっ…」

98 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:39:23.21 ID:7eWoTF2t.net
.
穂乃果「ひゅーっ、見違えたね」

絵里「お陰様でね。遅れてごめんなさい、道具の調達に時間がかかっちゃって」

穂乃果「あらためて、道案内ヨロシクっ。これは親愛の証の握手だよ」ギュッ

絵里「おおっと。そうやって油断させてまた盗まないでよ。今の私は財布すらないけど」

穂乃果「心配しなくても友達からは盗らないよ。ね、絵里ちゃん?」

絵里「ふふ、こちらこそよろしく穂乃果」


雪穂「…」ポーッ


絵里「さっきからこちらのご婦人はどうしてフリーズしたままなの?」

穂乃果「多分自分が助けた檻の中のドーブツと同一人物だって分からないんだね」

穂乃果「ねえ雪穂ーしっかりしてよ。こちらエリー・アヤセちゃんだよ、ねーってば!」ユサユサ

雪穂「はっ…!」

99 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:41:42.79 ID:7eWoTF2t.net
.
雪穂「あっああの、エリー・アヤセさんですよね、初めまして…」

穂乃果「全く優秀な妹で鼻が高いよ。絵里ちゃんの変貌ぶりを一行で説明してくれた」

絵里「クスクス、あなた達面白いわね」


雪穂「……絢瀬さん、疑ったことは謝罪します。でもここで今一度、私の目を真っ直ぐ見て誓ってもらえますか」

雪穂「もうペテンは姉だけで十分です。本当にハムナプトラに連れて行ってくれるんですよね? もし嘘なら…」


絵里「ええ、誓うわ」ズイッ

雪穂「っ…///」プイッ


穂乃果(むむっ、ユッキーがペースを乱されるなんて珍しい。やるねこの人)


絵里「それより、あなたの方こそ覚悟は出来てる?」

絵里「ここから先は婦女子お断りの野蛮で危険に満ちた血と砂の世界」

絵里「たとえ目当てのものを見つけられても、大抵の場合それを持ち帰る前に無意味でくだらない死に様を晒す羽目になる」

絵里「とてもあなたのようなレディが好き好んで足を運ぼうとする場所じゃない。引き返すなら今のうちよ」

穂乃果「ねえ穂乃果は? ねえ?」

雪穂「……馬鹿にしないでください。私はもうそれくらいの分別はつく大人です。それでも抑えきれない知的探求心が私をあの場所へ誘うんです」


絵里「よろしい! 分かってるならいいの。それじゃ早速出発しましょ」


雪穂「あの…! そこまで言うならあなたは何故もう一度あの場所へ? それこそ逃げてもよかったのに」


絵里「何故、ですって?」


 
絵里「…負けっ放しは嫌いなの」

100 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:43:49.33 ID:7eWoTF2t.net
.
凛「ねーねーかよちん、あの人たちさっき“ハムナプトラ”って言ってたような気がしたよ」

花陽「ホントに? 奇遇だね、一緒の船に花陽たちと同じ目的の人たちが乗ってるなんて」

真姫「聞き違いじゃないの? もし本当だとしてもそれを公言するような馬鹿はいないでしょ、近くに競争相手がいるかもしれないのに」

にこ「競争相手ねぇ…一時期ブームになったけど誰一人辿り着けなかったせいで、近頃は夢見る冒険者の間でもその存在を疑問視する声が大勢よ」


花陽「でも、私たちは違います。なにせ」

凛「凛たちには心強い協力者がいるもんねー」

にこ「で、肝心のそいつはどこよ?」

真姫「大分前に到着して先に船に乗ってるらしいわ。何でも顔を合わせたくない人がいるんですって」

凛「ねぇ、凛たちも早く乗ろ乗ろっ。どうして大冒険の前ってこんなにもワクワクが止まらないのかな!?」

にこ「バッカねぇそんなの当り前でしょ? そんでもってその果てに待ってるお宝はぜぇーんぶにこたちが掻っ攫うんだから!」

花陽「お、おー!」


にこりんぱな「いざ、ハムナプトラに向けてしゅっぱーつ(にゃー)!!!」


真姫「バカ! しーっ!しーっ!」

101 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:46:01.67 ID:7eWoTF2t.net







 「――まるでフック船長だな」


宵の青白い月明かりに照らし出されたナイルの岸辺。

その穏やかな水面にさざ波を立てて進む粗末な小舟に乗り込んでいるのは、黒装束を纏った集団。


同胞の一人が右手に装着した鉤爪を見て、集団の長が漏らした率直な感想に、

マアトの羽に見立てた髪留めでシニヨンを結った鉤爪女は、聖刻文字のタトゥーを刻んだ顔に疑問符を浮かべた。


鉤爪女「誰なのそいつ? 奇ッ怪だけど、素敵な響きね。ぞくぞくしちゃう」


うっとりとした顔付きで爪先を撫ぜる女は、義手代わりのそれを“イタく”気に入っていた。

彼女に言わせれば、神経なぞ通っていないはずの鉤爪が時々疼くことがあるらしい。

102 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:47:29.14 ID:7eWoTF2t.net
.

 「巷で話題の戯曲に登場する人物だそうだ。私も話でしか聞いたことはないが」


鉤爪女「まあ、長は外界に興味がおありのようね。掟を忘れた?」


 「まさか。偶々耳にしただけのこと。それ以上の意味はない」      


鉤爪女「注意することね。たとえ長といえども…」


 「言われずとも分っているさ。我ら『ラズァイ』の使命は、あの者が復活せぬよう時の陰より監視を続けること」


 「それを脅かす存在、招かれざる客は、強硬な手段でもって出迎えよう」


 
 「「「「ハムナプトラへ近付く者には死を」」」」

103 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:48:37.58 ID:7eWoTF2t.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                            


 
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104 :名無しで叶える物語(ほうとう)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 00:50:25.89 ID:DtmiIe2k.net
ちょうど追いついた
ハムナプトラ懐かしい

105 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 12:43:32.31 ID:TlbTqHvC.net


106 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 17:51:20.79 ID:KnnmZ7rR.net
ほしゅ
ザ・グリードといいエイリアンといい原作への造詣が深いな

107 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:40:10.34 ID:7eWoTF2t.net
 
――同時刻 ナイル川を航行中の客船『イビス号』の船上


 
穂乃果「それではいざ尋常に……勝負!」


 
凛「凛はQのスリーカード」


にこ「こっちはAのスリーよっ」


穂乃果「ハニー・フラッシュ!」


花陽「フルハウスですっ!!」


 
穂乃果「くあ〜〜やられたっ!!」バンバン


にこ「くぬぬぬぬぬっまた花陽の勝ちね、これで五連続…」


凛「かよちんの勢いがとまらないにゃ〜」


かよちん「えへへ…みんなごめんねぇ」ドッサリ

108 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:41:06.54 ID:7eWoTF2t.net
 
真姫「…」チラッ

真姫(あんな小金のやり取りで一喜一憂して、何が楽しいのかしら)


穂乃果「真姫ちゃんも一緒にやろーよ!」

真姫「オコトワリシマス。私はこの本を読むのに忙しいの」

穂乃果「えーそう? さっきから何度もこっちのテーブルをチラチラ見てくるから混ざりたいのかと」

真姫「…そんなことしてないわよ」プイッ


にこ(ちっ、折角カモを増やせそうだったのに)

凛(ねー)

花陽「イw(´ヮ`ハ」メガネフキフキ 

109 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:42:55.24 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「ハァイ、盛り上がってるみたいね」

穂乃果「ぅ絵里ちゃん! ここ座りなよ、丁度もう一人のサイフを募ってたんだ」

にこ「花陽、いつまでも眼鏡拭いてないでさっさとカード配りなさいよ」

花陽「チョットマッテテー。眼鏡が曇るといいカードが見えないんです」フキフキ


絵里(……この子、イカサマしてるわね。大人しそーな顔して)

絵里「言ったでしょ、財布は持ってないって。それに命は賭けても金は賭けない主義なの」

にこ「ふーん、聞いてた話と違うわね。折角どっちが先にハムナプトラに着くか、二百五十ドルの賭けをしようと思ったのに」(※現在の貨幣価値で約三千五百ドル)

絵里「あなた達ハムナプトラへ行くの?」

凛「あなた達も、でしょ?」

絵里「いつ誰がそんなこと言ったかしら」

にこ「こいつ→」  穂乃果「うん?」

絵里「ちょっとあなた…」ジトッ

穂乃果「〜♪」ヒューヒュー

110 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:44:39.51 ID:7eWoTF2t.net
 
にこ「で、乗るの? 乗らないの?」

絵里「……いいわ、やりましょう。どうせなら賭け金を倍にしない?」(※因みに当時五百ドル=百ポンド)

にこ「オッケー、受けて立つにこ」


真姫「…あなた、エリーだっけ? 相当自信があるみたいね。よければ根拠を聞かせてもらえる?」

絵里「そっちこそ。どう見ても五百ドルなんて大金持ってなさそうなこのおチビさんが、何故こんな無謀をふっかけてきたの?」

にこ「うっさい! チビは余計よっ」

花陽「私たち、そこに行ったことのある人をガイドとして雇ったんです」

絵里「!…」

穂乃果「そりゃ奇遇だね、実は私もぉぎゅあ!!?」

絵里「穂乃果〜? 私は用事を思い出したからこれで失礼するわぁ」モギュウウウ

穂乃果「き、極まってる極まってる…! チョークスリーパーはマジでやばいって…」


絵里(あと、イカサマしてるわよ。三人とも)ヒソヒソ

穂乃果(四人だよ。穂乃果もやってるけどそれでも勝てないんだ〜って声がでな゛い゛ぃ゛ぃ゛)

絵里「健闘を祈るわ。それじゃ御休み」チュッ


  ゴキンッ☆

穂乃果「ぅ゛こ゛お゛ぉ゛お゛お゛や゛す゛み゛〜」バタッ


 
花陽「やったぁ! フォーカードです!」

にこ「ロイスト」

凛「ファイブカードにゃ!」

111 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:48:26.50 ID:7eWoTF2t.net
 
――同船上 甲板


雪穂「…」


雪穂「…」ペラッ


 
ドサッ!


雪穂「!?」ビクッ


絵里「失礼。読書の邪魔したかしら」


雪穂「……ええ。出会った時からびっくりするほど失礼な人で驚きっぱなしです」

112 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:49:24.17 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「ひょっとしてまだ怒ってるの? あの時チュッとやったことに」

雪穂「チュッと、ですって? あんなの、私はキスと認めてないからっ」

絵里「当然よ。チュウとキスは別物だもの」


雪穂「っ…ああもぅこのズック袋はなんですか!邪魔臭い!」

絵里「今朝中古市で仕入れた発掘道具よ。あなた達に恵んでもらった旅費で」


 バサッ


雪穂「……これは」

113 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:50:28.56 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「リボルバー拳銃二挺、散弾銃と象撃ち銃一挺ずつに各種弾薬。携帯シャベルにツルハシ、ハンティングナイフ、バタフライナイフ。それとダイナマイトが半ダース」


雪穂「絢瀬さん…あなた戦争にでも行くつもりなの?」

絵里「アメリカ人のグループにはもう会った? 彼女たちも似たようなものだったわよ」

雪穂「…まさか、あの人たちも」

絵里「だって♪」

雪穂「そういうことか…リーダー格の赤毛の人に見覚えがあったの」


雪穂「マキ・ニシキノ博士。ニューヨークのトマトナポリタンミュージアムに勤務している私の同業者」

雪穂「彼女の両親も考古学者だけど、発掘品を売りさばいて財を成した不届き千万な一族の末裔なの」

雪穂「そんな人たちと一緒の船に乗り合わせてしまうなんて、なんて巡り合わせが悪いんだろ私…」

絵里「あなたも運命論者なの? 私は別に運命も宿命もサンタクロースも信じてないけど……それでも一つだけ確信してるのは」


絵里「あそこには“何か”があるってこと。砂の下に、“何か”が…」

114 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:51:31.08 ID:7eWoTF2t.net
 
雪穂「そうですね、何か見つかるといいんだけど……これは何?」

絵里「それはスリケンっていう、日本の投げナイフよ」

雪穂「ふーん…変な形、持ち手がついてないなんて」

絵里「ほら、危ないから寄越しなさい。元あったとこにしまって。それで、あなたも目当てはお宝?」

雪穂「それはうちの残念なお姉ちゃんです。いっつもそれしか頭になくて……何度あのバカ姉の頭のネジを締め直してやりたいと思ったことか」

絵里「あの様子じゃ手遅れっぽいわね。とっくの昔にネジ山ごとバカになっちゃってるんじゃない?」

雪穂「ですね、はぁ…。私はこの通り、本が好きなんです……絢瀬さんは、何があると思ってるんですか」

絵里「邪悪なものよ」

115 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:55:06.43 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「知ってるかしら。ハムナプトラっていうのは現地部族の言葉で『地獄への道』って意味なの」

雪穂「より正確には『冥界への道』ですよ」

絵里「それも本で読んだの? 言っておくけど、邪悪については本からだけじゃ学べないわよ」


雪穂「絢瀬さん。私は呪いの類は信じてないけど、ハムナプトラにはきっと考古学史上有名な一冊の本が埋まっていると思ってるんです」

雪穂「『アメン・ラーの書』。古王国時代の秘術やまじないについて記されていると言われてる書で、なんでも当時、死者の魂を冥界に送る儀式に用いられたとか」

雪穂「全部父からの受け売りなんですけど。小さい頃、姉と二人でこの話を聞かされて、それでこの国に興味を持つようになったんですっ」

雪穂「いつか絶対アメン・ラーの書を見つけようって、二人で意気込んで! 今でも、この書の所在について研究することが私のライフワークで、それで」


絵里「アメン・ラーの書は丸ごと純金で出来てるそうだけど」

絵里「その様子じゃあなたにはどーでもいいんでしょうね、そんなことは」

雪穂「ちゃんと歴史を知ってるんですね!」

絵里「財宝専門だけどね」

116 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:57:38.34 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「…フッ」

雪穂「何が可笑しいんです?」

絵里「いやね。こんなに利発そうな女の子には初めて会ったものだから、つい」

雪穂「ジェンダーについて議論する気はないです。 もうキッチンにこもる時代じゃないですよ、絢瀬さんだってそうでしょ?」

絵里「気を悪くしないで頂戴。そういう意味で言ったんじゃないのよ」

雪穂「じゃあどーいう意味?」ジトッ

絵里「そうねぇ…」


絵里「簡潔に言えば、本を読むときだけ眼鏡をかける女の子は素敵よねってこと。キュンときちゃうわ」


雪穂「!…」メガネハズシ


雪穂「っ、っ、おやすみなさいっ」ガタッ


絵里「はーい♡」

117 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 20:58:53.91 ID:7eWoTF2t.net
 

雪穂「…」モジモジ


絵里「どうしたの? そこに突っ立って寝る気?」


雪穂「……あ、あの」


絵里「なーに?」


雪穂「最後に一つ、聞きたいんですけど…」


絵里「うんうん」


 
雪穂「……あの時。ほら刑務所で会った時に、どうして、その……キ、キスを?」


絵里「……」


絵里「それはね」


雪穂「う、ぅん…」ドキドキ


 

絵里「ほら、死刑囚って最後の晩餐を頼めるじゃない」

118 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:04:55.28 ID:7eWoTF2t.net
 
雪穂「〜〜〜ッ!!!」カァァ


雪穂「最ッ低! なんて失礼な人っ!」


絵里「あ、ちょっと…」


雪穂「もう知らないもん!」


 タッタッタッ…


絵里「あらら…ちょっとイジワルし過ぎたか」


絵里「でもついついそうさせちゃうあの子が悪いのよ――って私もちょっとマジになってるのかしら」



 

 「きしし、相変わらずやねエリちは」


   
絵里「ん?」


    
 「あ、ヤバ…」


     
絵里「……」


   
 「………ン、ンメェェェェェェ〜〜」
 

   
絵里「…」スタスタスタ


   
 ガシッ チャキッ


 「う、うわっ! いきなりそんな物騒なモン突きつけといて〜! エリちとウチとの仲やん!?」

119 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:06:34.67 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「あらあらアルパカだと思ったら大親友の希じゃない。へー生きてたんだぁ」

希「そっちこそ!いや〜よかった!ずーっと探してたんよもう〜それはそれは心配したんだからっダーリン♡」

絵里「言い残すことはそれだけかしら」ガチャリ

希「わー!わー!待って、ウチにはエリちとの間に出来たベビちゃんが!」

絵里「女同士じゃビョーキにはなってもママにはなれないわよふざけないで」

希「いや、でもいずれはね?」

絵里「その前に殺してあげる」

希「やめてよ…憐れなウチを許したって。ハムナプトラからすかんぴんで帰ってきたのはこっちも同じやん」

希「部隊からは脱走兵扱いで、このままじゃ国にも帰れなくて……そんな時、丁度あそこへ行きたがってる真姫ちゃんたちにツアーガイドを頼まれてこれ幸いと」

絵里「それで今度は何を企んでるわけ? また彼女たちを砂漠のド真ん中で放置して自分だけ逃げ帰るつもり?」

希「そーしたいとこだけど……アメリカ人ってのはウチより狡っ辛くて」

希「前金はたったの一割。残りはハムナプトラで見つけた財宝で支払う約束だから、逃げられないの」

絵里「へえ、かしこい判断ね。次の選挙では彼女たちに投票しましょう」スッ

希(フーッ、やっと銃をしまってくれた…)

120 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:08:55.88 ID:7eWoTF2t.net
 
希「ね? 分かったでしょ。のぞみんには止むに止まれぬ事情があってのことなのだ」

絵里「あの時私を見捨てたのもその“止むに止まれぬ”ってやつ?」ギュッ

希「アイタタタ…もうそのことは言わないで。ウチも必死だったんよ、あの灼熱の地獄で…」


希「そう、地獄。ウチはお金のために今一度そこへ戻らなきゃいけない。でもエリちは?」


希「エリちのことはよーく知っとるよ、お宝に目がくらむタイプじゃない。あの時だって最初から乗り気じゃなかったし。ねえ、どうしてなの?」


絵里「負けっ放しは性分じゃないのよ。それに…」


 
希「…もしかして、さっきの子のためか」


絵里「――ええ、そうよ。彼女に命を助けられたの」

121 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:10:23.42 ID:7eWoTF2t.net
 
希「確かに、可愛らしい子だったよね? 喩えるなら…そう、学校の先生みたい!」

絵里「それ、褒めてないでしょ」

希「どんな宝石だって最初からピカピカなワケじゃないんよ。原石を磨いてく楽しみってのもあるわけで」

希「それにしてもなぁ、まさかエリちがあんな――くくっ、いや失敬」

絵里「あによ」

希「ちょっとね。元カノとしては意外だったというか…あぁあの子名前なんて言うの?」

希「色々アドバイスしてやりたいなぁウブそうだったし。精々泣かされんように気を付けてって……ん? おおっ?」ヒョイッ


希「どしたん急にウチをお姫様抱っこなんかして。あ、もしかしていつかの続きを」


絵里「そうね、この前の続きをしましょう」


希「おっと気を付けてエリち、そっちの柵から落ちたら川に」


絵里「ダスビダーニャ、希」


希「へ? おやすみじゃなくてぅわあぁああああーーーー!!!???」ヒューーーン

122 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:14:02.27 ID:7eWoTF2t.net
  


  ザバアアアアァァァ!!


絵里「偶には水泳も悪くないでしょう? 砂漠と違って熱くないしね!」


   
 「ごぼっ…! エリち知っとるー!? 東洋人ってのは…大半が泳げないのー!」バシャバシャ


    
絵里「…初めて聞いたわよそんなの。私も身体の半分だけが溺れないよう、精々用心するわ」


     
 「エリちー!堪忍して〜!! どうかご慈悲をーーーごぼごごっ」


    
絵里「……」


   
 「アカンよこれ本気でゴブッ溺れ…!!!」ブクブク


      
絵里「……ほらこの浮き輪を使いなさいっ」ブンッ

123 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:20:15.73 ID:7eWoTF2t.net
 


 「やたっ! やっぱエリちはウチの天使……って!!! なんでそんな遠くに投げるのーー!!??」


   
絵里「それだけ叫ぶ元気があれば大丈夫そうね! 溺れたくなきゃ死ぬ気で泳いで取りに行きなさーい!」


    
 「ひーん!!! エリちの鬼―!!悪代官ー!!チェキストー!! 人に優しくせんと地獄に堕ちるんよー!!?」ジャボジャボ


   
絵里「どの口が…あなたはそのせいで川に落ちてんでしょーが」


   
絵里「やれやれ、甘ちゃんね…私も」


絵里(………てかあの子、普通にスイスイ泳いでいってない?)


絵里「あっ」


絵里(ひょっとして一芝居うたれた?――私が助けるかどうか試したの?)

124 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:21:35.82 ID:7eWoTF2t.net
 

絵里「ちぇ、相変わらず食えないやつ……掌で転がされてるみたいでなんかすっきりしないわね」


絵里「…まあいっか。さてと、旧交を冷やかしたことだし、そろそろ部屋に戻ろうかし…ら?」


絵里(あれって……いつの間にか小舟が私たちの船に接舷してる)


絵里(浮き輪を投げるのに思い切り身を乗り出さなければ気付かなかった…! 舟はロープで繋がれたまま、乗員の姿はなし。ということは)


絵里(やっぱり。甲板に濡れた足跡が残ってる。こちらの船に上がってきたのはついさっきだわ)


絵里(足跡の数から推測するに最低でも六人。いえ、その倍はいると考えておきましょう)


絵里(足跡の行き先は……客室の方へ!)


   
絵里「くっ…!」ガチャガチャ

125 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:22:36.11 ID:7eWoTF2t.net
 
――雪穂の船室


雪穂「ジョージ・ベンブリッジは、1860年――じゃなかった」


雪穂「ベンブリッジは…1865年に……」ブツブツ


雪穂「う〜っなんなの!?」バシッ


先程から本を片手に、自室を端から端までうろうろ行ったり来たりを繰り返す彼女は、

あの後から一ページも読み進められていないそれを思わず床に投げ捨てた。


雪穂「あんなキ、チュウのこと! いつまでも気にしてる場合じゃないでしょ雪穂っ」


声を張り上げつつ、ちらりと鏡の方を見やる。

白い薄手のキャミソール姿の自分。今、眼鏡はかけていない。


――道理で本の文字が見にくいと思ったら。


雪穂「もう、何やってんだろ私…」

126 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:23:16.56 ID:7eWoTF2t.net
 
雪穂「……」


雪穂(そりゃ自分のことを絶世の美女なんて思えるほど自惚れてないけどさ)


雪穂(でも、酷いブ女ってほどでもないよね…?)


雪穂(――もちっと髪伸ばしてみようかなぁ)


赤茶の毛先を弄りながら、しばし長髪になった自身の姿に想いを馳せ――

ふと、ついさっき愛書家としてはあってはならぬことをしてしまったのを思い出して。


雪穂「ゴメンね。痛かった?」


恭しく、父の愛読書だった考古学本を拾い上げ、再び鏡に視線を戻したその時。



 「動くな」

127 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:25:15.16 ID:7eWoTF2t.net
 
雪穂「誰――むぐっ!?」


   
 「大きな声を出さない。でないと殺す。まだ煉獄の炎で焼かれたくないでしょ?」


鏡に映る自分の喉元に、いつの間にか背後に出現していた黒装束の人物が右腕と一体化した鉤爪を突きつけていたのだ。


    
雪穂(な、何!? どうなってるの!!? この人は一体…)


   
謎の闖入者――声色から判断すると女性――は全身を漆黒のローブで包み、ぎらぎら光る目元だけを露出させたその姿は、

極東の諜報・暗殺者集団であるニンジャを想起させたが、彼女の下瞼に刻まれた聖刻文字を見て驚愕が雪穂を襲う。


――それは遥か古代に消え去ったと信じられてきた土着の特定宗派が使用していたとされる、失われた言葉だったから。

128 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:27:22.28 ID:7eWoTF2t.net
 
鉤爪女「邪教の者よ。忌むべき地への道標を渡しなさい。そうすれば命はとらないであげる」

雪穂(忌むべき地への道標……ハムナプトラへの地図のこと? この人たち、もしかして)

鉤爪女「早くなさい。 ヨハネは気が短いの。喉を掻っ切るわよ?」

雪穂「ヨハネ…って預言者の?」

鉤爪女「早く! 神への供物になりたいの!?」シャキン

雪穂「うわわわわかった。ほっほら、地図はそこのテーブルの上に」


あたふたと、火の灯った燭台の脇で台上に広げられた地図を指さす。

隣には、例の八角形パズルボックスをすっぽり収納した小物入れも置かれていたが。


鉤爪女「よろしい。けどそれだけじゃ足りないの」

鉤爪女「鍵よ。封じられた呪われし者を再び呼び覚ます混沌と終末への扉を開く鍵。あれはどこにある?」

雪穂「鉤? それならあなたの腕についてるじゃない――ていうかあなたの言葉イチイチ装飾過剰…」

鉤爪女「黙りなさい…! しらを切り通すなら今すぐその首切り落とす!」ギラッ

雪穂「ひぃっ」


   
――バタンッ!


    
 「ユキちゃん!」

129 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:29:57.49 ID:7eWoTF2t.net
 
雪穂「その呼び方、お姉ちゃ…じゃない!?」


勢いよく開いた扉の向こうから、透き通るような金髪に一滴の汗を光らせて姿を現したのは。


絵里「逢瀬の現場、てわけじゃなさそうね。よかった出歯亀にならないで」チャキッ


雪穂「こんな時に言ってる場合ですか! お願い何とかして…」

鉤爪女「くっ…! 動くなっ!!」サッ


絵里の手にした二挺拳銃の銃口の先には、咄嗟に雪穂を盾にした鉤爪女が。


   
雪穂「絵里さぁん…」


   
絵里(さて、どうする――!)                 ボォッ


    
一髪千鈞を引く睨み合いが続く中、不意に視界の隅で燭台の炎が揺らめく。


それは、新たな襲撃者の到来を告げる風――

130 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:31:32.48 ID:7eWoTF2t.net
 

 バタムッ!


不意に開いた窓からにゅっと突き出た二挺のモーゼル拳銃。


   
――BANG!BANG!BANG!BANG!



雪穂「きゃっ!」             


黒装束A「ギャアアアッ!!!」  


    
それらが火を吹く前に、絵里は黒装束の射手を穴だらけにしていた。


    
 ガシャァァァン! ゴォォォォォォッ


     
一切の遠慮と呵責のない銃撃が襲撃者以外の壁や窓にも弾痕を穿ち、

跳弾で砕け散った灯油ランプが落下して室内のソファに引火、炎上する。

131 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:33:07.77 ID:7eWoTF2t.net
 
鉤爪女「んなっ…」


あまりにあっさりと同胞が撃ち倒されたことに、敵は一瞬動揺した素振りを見せ、


雪穂(今だッ――!)


反射的にテーブル上の燭台を引っ掴むと、先端を無我夢中で背後の人物の顔目掛け押し付ける!


   
鉤爪女「ぅわちゃぁつ!!? あっ熱うううううううううう!!!!!」


絵里「今よ! こっち来て早く!」

雪穂「ひぃっひぃぃ」

絵里「私の後ろに隠れてッ!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!  


   
黒装束B「アイエェェエエエッ!!??」


再び窓枠の外から姿を現した二挺拳銃の黒装束に、弾倉に残った全弾を撃ち込みながら、

瞬く間に灼熱地獄と化し始めた船室からしめやかとは程遠い脱出!

132 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:34:01.60 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「おととい来やがれってのよッ」BANG!BANG!BANG!…

雪穂「もうこんなに延焼しちゃってる…! この船は駄目だ、逃げましょう!」

絵里「火を見るより明らかね。さ、行きましょ」

雪穂「あー!駄目っ!戻らないと!!」

絵里「なに、突発的な自殺衝動でもあるの?」

雪穂「地図が…! 部屋にハムナプトラへの手がかりが」

絵里「安心なさい。この私が地図よ」

絵里「全部頭(ここ)に入ってるわ」トントン

雪穂「ああ…頼もしい。それならよかった…」

133 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:35:55.01 ID:7eWoTF2t.net
 

 ゴオオオオオオオオオッ


   
鉤爪女「ぅぐううううううううっ目がぁ〜〜〜」


    
 ガシャン!  ドシャリ


   
燃え盛る部屋の中、顔の傷を庇いながらよろよろと闇雲に前進したはずみでテーブルをひっくり返し、

拍子に床に落ちた小物入れの中身がぶちまけられる――その中に、鉤爪女は目当てのものを見出した。


    
鉤爪女「!…鍵よっ鍵がある」


鉤爪女「ツイてるわぁ。今宵のヨハネにはアラーの御加護が」 「雪穂―!今の音はなっうおわぁぁぁまた火事ぃ!!!?」


  ドカッ☆


鉤爪女「あ」 穂乃果「お?」

134 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:37:36.42 ID:7eWoTF2t.net
 
またもや突然開かれた入口の扉は屈んでいた鉤爪女の尻を直撃しその身体を突き飛ばす。

憐れ不運な女はそのまま煉獄のソファへと一直線、紅蓮の業火に頭からダイブ。


鉤爪女「あぎゃアアアアアア!!?? お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」ジタバタ


穂乃果「うわわわわっごめんなさいってか何がどーなってんの!?……あ!」


穂乃果「私のパズルボックス…!」


混乱した状況に頭が追いつかぬまま、取るものも取り敢えず床に転がった八角形へと手を伸ばし――


  ガキンッ


鉤爪女「これはヨハネたちのものよぉぉぉ」ゴオオオオオオオ


フックの先端が小箱を引きずり、炎上する自身の懐にそれをしまい込んだ鉤爪女は、

次いで目の前にいるこちら目掛けて爪先を振るう!


鉤爪女「禁域に踏み込む者には死をおおおおおお」SWISH!FWISH!


穂乃果「ひいいいいいいっ、この人燃えながら襲ってくるううううう」


たまらず部屋から飛び出した穂乃果の背中に「待てええええええ」と執念深そうな声が追いすがる。

135 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:42:54.66 ID:7eWoTF2t.net
 

船上は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


船長「さっさと逃ィげるんだヨォォォォーーッ!! この船は沈むでソーーローー!!」ドボォォン


鉤爪女の仲間たちはイビス号のあちこちに火を放ったようで、今や真昼より明るくなった甲板は、

先ほどまで各々の娯楽に興じていた船客たちがパニックに陥って右往左往する大喧騒の渦中。

またそれに混じって、畜舎の中に取り残された馬やラクダといった家畜たちの悲鳴も轟いている。


――その甲板に通じる左舷側通路に出るための曲がり角で、先刻から絵里と雪穂は釘付けにされていた。


   
              BLAAAM!!! バリィィン ボォォ  


雪穂「ひっ…!」


    
二人を狙った頭上からの射撃が、曲がり角の先の壁に掛けてあったランプを破壊し、新たな小火を発生させる。


    
絵里「大丈夫よ。あの角度からじゃギリギリ当たらないはず」


絵里(とはいえ、膠着状態なのは事実。この状況を打開するには…)

136 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:44:57.39 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里(向こうの船首からライフルを持った敵が一人、私たちを狙い撃ち。ここからじゃこちらの拳銃の弾は届かない。向こうの弾も当たらないけど)

絵里(急いで助けに行ったから、象撃ちライフルその他諸々入った道具袋は甲板のテーブルに置きっぱなし)

絵里(つまり相手を倒すには、リボルバーを使うにしろライフルを使うにしろどの道甲板に出る必要がある)

絵里(思い切って撃ちまくりながら飛び出すのも手だけど、甲板に他の敵が待ち構えてない保証もない。私だけなら何とかなるかもだけど)


雪穂「お姉ちゃん逃げれてるかな…」

絵里(この子もいることだし無茶は禁物よね)


   
          BLAAAM!!!


再び、ライフルの着弾音。今度は少し左に逸れた。


雪穂「ねえ、ちょっと…」

絵里(何か他の手を…)


正面はライフル。左は壁。右は船室エリアに逆戻り。

そして背後には鳴き喚く家畜たちを満載した畜舎が。

137 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:46:53.56 ID:7eWoTF2t.net
 
  
  ≪ヒヒィィィィィン…≫  ≪ンヴオオオオオ!!≫


絵里「分かるわ。あなたたちも今すぐ逃げ出したいでしょうに……あ、そうよ!」


     BLAAAMM!!!!


ほとんど耳元で、凶悪な咆哮が壁を抉り取って木屑を飛ばしたその音も、今の彼女には全く届いていなかった。


絵里「閃いたっ!」 雪穂「危ないっ!」グイッ


 BLAAAAMMM!!! パラパラ…


絵里が冴えたアイディアを思いつくのと、その身体を咄嗟に雪穂が引っ張ったのはほぼ同時。

先まで自分の頭があった場所を削り取ったリンゴほどの大きさの弾痕を見て、絵里は呆けたように目を丸くする。


絵里「あ、ありがと…」

雪穂「確かに、ギリギリ当たりませんでしたね」


その皮肉にニヤリと返し、平時のリラックスした調子を取り戻すと、後ろの畜舎の開閉柵の錠に銃口を向け、


絵里「さあ、こっちの番よ!」BNAG!

138 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:49:02.34 ID:7eWoTF2t.net
 

黒装束C「アイエエエエ!!? ナンデ!?」


眼下の通路に堰を切ったように飛び出してきた畜生の群れに、船橋に陣取った狙撃手は困惑した。

その嵐に巻き込まれた同胞たちが、蹄の下敷きになって悲鳴を上げたり海に突き落とされるのをしばし呆然と見守りながら、

やがてこれは混乱に乗じた陽動だと気付くと、慌ててもう一度曲がり角へ向けて狙いをつけ直すも、


絵里「そこから降りなさぁあい!!」BANG!BANG!BANG!


既に二人は解放された家畜らに紛れて甲板に到達しており、

雪穂は絵里の、絵里はヒトコブラクダの後ろに身を隠しながら、銃だけを突き出して反撃。


黒装束C「くっ、異教徒が舐めくさりおって…!」ガチャコン

黒装束C「大体なんだよその寸詰まりの格好!うちの国じゃそれだけで投石モンなんだよっ代わりにこいつを喰らえ!」BLAAM!!!


負けじと敵も撃ち返してくる。

強烈なライフルの発射音にラクダたちが驚き、即製の遮蔽物は散り散りに四散。


   
絵里「ッ!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!


それでも絵里は怯まない。この距離なら、二挺持ちのこちらに幾らかの分があると信じて。


絵里の連射が相手を捉えるのが先か、六発ずつしかない回転弾倉の弾が尽きるのが先か、

勝負の行方は――

139 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:51:37.36 ID:7eWoTF2t.net
  

 ドボオオオオォォォン


鉤爪女「ぷっはああ゛あ゛ーーーーき゛も゛ち゛い゛い゛い゛…」シュウウウウウ

鉤爪女「やっと消せたわっ……今日は厄日よぉ」


 「ホア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ーーーッ!!!!」


鉤爪女「ん? このウィルヘルムめいた叫びは…」


顔を上れば今まさに、撃ち落とされた仲間の狙撃手が悲鳴を上げながら落水したところだった。


甲板上に目を凝らすと、同胞たちを相手に二挺拳銃を振り回して大暴れしている金髪女と、その背に隠れて

自分の片目を開かずに変えた憎き赤茶髪が至近距離の銃声に怯えオロオロしているのを発見する。


   
鉤爪女「あいつら…!」ギリッ


鉤爪女「見てなさい。このヨハネを怒らせたことを奈落の底まで後悔させてあげるんだから…!」

140 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:53:23.17 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「粗方片付いたわね。もうこれ以上のカオスは御免こうむりたいわ」


ショルダーホルスターに双銃を収めながらまずは一息。

だが敵の姿が見えなくなったとはいえ、甲板上は我先に川へ逃れようとする客と

言うことを聞かない暴れ馬とでごった返しており、火の勢いが増したこともあって事態はますます混迷の一途を辿っていた。


絵里「これ以上ここに留まるのは危険よ!」


そこで雪穂のキャミソールの裾にちらと視線を泳がせると、


絵里「泳げる?」


雪穂「馬鹿にしないでもらえますか。こう見えていざって時には」


絵里「今がその時よぉぉぉぉ!!!」

141 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:57:44.37 ID:7eWoTF2t.net
 
有無を言わさずプリンセスハグからの放り投げ。


   
 「きゃああぁぁぁぁああぁぁ」ザバアアアァァァン!!!


悲鳴のドップラー効果を体感する間もなくその身体は船底の波間に派手に着水、飛沫をまき散らす。


   
 「もぅ酷い! いきなり投げるなんてぇ!!」バシャバシャ


    
絵里「遠くの岸を目指して泳ぎなさい!」


絵里「……今にして考えると希は運が良かったのね」


     
先刻同じようにブン投げ、結果的にこの難を逃れた悪運の強い悪友の顔を思い出して自嘲気味に口元を歪めながら、

しっかり回収しておいた道具袋を肩にかけ、自分もこの混乱から脱出しようとした矢先――


     
鉤爪女「誰の運が良いですってえええ!!?」

142 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 21:58:58.76 ID:7eWoTF2t.net
 
欄干の向こうから突然這い上がってきた女の振り回す鉤爪を避けるため、咄嗟に絵里は身体を後ろに投げ出す。


鉤爪女「このッ…! たっぷりお礼はさせてもらうわ…よッ!!」SWISH!SWISH!

 
絵里「くっ…!」


猛然と唸りをつけて襲い掛かってくる銀の軌道をなんとか見切りながら、右左と回避行動を続ける絵里。


鉤爪女「ほらほらほらァ!! 避けるのにイッパイイッパイって感じねぇどーしちゃったわけ?」


鉤爪女「銃が使えないとなーんにも出来ないんでしょ!これだからアメリカ人は…ぅおッ!?」ドテッ


興奮しすぎて足元が疎かになったのか、甲板の木板の隙間につま先をとられて蹴躓いた隙を見逃さず、


絵里「私は…ッ!」ブンッ


死角となっている側面に回ると、わき腹に強烈な右フック一閃。


絵里「祖母がロシア人の」ガッ


鉤爪女「ぐぼっ!!?」


絵里「クォーターよ!!」ドゴオッ!

143 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:01:48.48 ID:7eWoTF2t.net
 

脳を揺さぶるアッパーカットが相手を半回転させ、

そのがら空きの背中に全体重を乗せたミドルキックを叩きこむ。


「うげぇ!」と潰れたウシガエルのように呻きながら、

吹っ飛ばされた女の身体は勢い余って船内へ通じる扉を突き破り、


    
 ガシャァァン! ゴ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ !!!! ≪ほぎゃああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーッ!!!≫


   
離れていた絵里も思わず顔を庇うほどの熱風。

バックドラフトを起こして吹き出してきた火の玉の向こうから、ウィルヘルムめいた断末魔の叫びが。


   
絵里「ハラショー…」


絵里「なんて口開けてる場合じゃないわね。グズグズしてたら私もネグロイドの仲間入りよ」


     
亜里沙「エリーさん!エリーさぁん!」

144 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:03:23.73 ID:7eWoTF2t.net
 
絵里「所長!そういえばあなたもいたわね…」

亜里沙「いました!さっきまで心地よい夢の世界に!で、起きてみれば何なんですかこのデッドマン・ワンダーランドは!アリサインナイトメアですよ!」

絵里「心中お察しするわ。それはそうと、そのネクタイ似合ってるじゃない。もちょっとキツく絞めてやりたいけど」

亜里沙「まあ皮肉がお上手ですこと! こんな状況ですお互い過去の遺恨は水に流しましょー!」

亜里沙「はっ!ウォーターといえばカナヅチのアリサどうすればいいんですかぁ……お願いです、同じロシアンクォーターのよしみで助けてください!」

絵里「分かった、そこを動かずにいなさい。すぐに救援を呼んでくるから」

亜里沙「はいっよろしくお願いします…!」

絵里「大人しく待ってるのよ」


 ヒョイッ


 ザバアアアアァァァン

145 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:06:42.84 ID:7eWoTF2t.net
 


亜里沙「よーし、アリサは信じて待ちます」


   
乗客A「逃げろ逃げろ! 船首まで火の手が来たぞ!」


 ≪ヒヒィィィン…!!≫


    

亜里沙「こう見えてアリサは忍耐強いんです」


   

  タスケテェーーー   ザブーン!   
            
                        
                 bang!bang! bang! ニッコニッコニー!


    
亜里沙「おばあちゃんが言ってました。こういう状況でこそ冷静になるべきだって」


     

乗客B「もうラクダは諦めろっ…何でアルパカがここに!?」


 ≪ンメェェェェェェ!≫

 
     

 ワー! ワー! ワー!!


     
亜里沙「……」


     

亜里沙「って殺す気ですかああああ!!!待てえええええ!!!」ドボーン!

146 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:08:29.96 ID:7eWoTF2t.net
 
――その頃、絵里たちとは反対側の船尾。


穂乃果「はぁ…はぁ…! いっ…!?」


火災とパニックから逃れようとここへ辿り着いた穂乃果が目にしたのは、


   
にこ「一番先に当てた人が五十ドルよっ!」BANG!BANG!BANG!BANG!


凛「にゃはっ! この勝負いっただきー!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


花陽「ま、負けないよっ…!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


真姫「う゛ぇぇ…」ビクビクッ


積み上がった荷物や木箱、十分ほど前までポーカーをしていたテーブルに椅子を遮蔽物とし、

その陰から突き出した六つの銃口をひっきりなしに明滅させ、嬉々として射的ゲームに興じる女ガンマンたちの姿。

147 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:10:41.75 ID:7eWoTF2t.net
 
穂乃果「うはーっ流石アメリカ人。ここだけ開拓時代みたい」


見れば軽く二十メートルは離れた船首近くの畜舎の影から、黒装束の一人が健気に撃ち返してきている。


絵里が躊躇したように、拳銃という極々至近距離を狙うことを想定した武器では、この程度の距離でも中々当たるものではない。

少なくとも落ち着いてじっくり狙うべきところだが、ヤンキー女たちはお構いなしに口笛を吹いたり故郷の唄を大合唱しながら、

両手の二挺拳銃でやたらめったら好き放題の滅茶苦茶に撃ちまくっていた。まるで撃つことそのものを楽しんでいるように。


   
にこりんぱな「愛してるばんざーい!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


にこりんぱな「ここでよかーった!!!私ーたちの今がここにあるー!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


真姫「う゛ぇ!う゛っう゛ぇ!!? う゛っ」


にこりんぱな「さあ!!!大好きだばんざーい!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


にこりんぱな「まけないゆうえすえー!!! 私ーたちは今を楽しもうーー!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


真姫「う゛っう゛ぇぇぇう゛っう゛ぇええう゛う゛う゛ぅぅええ…」ポロポロ


     
心底楽しそうな三人の後ろでは、赤毛の学者が発砲の度に仰天して珍妙な呻き声と共に身を震わせる合いの手を。


     
穂乃果(こっちはなんか可哀そー…)

148 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:14:36.45 ID:7eWoTF2t.net
 

 ≪コ オ オ オ オ オ オ ォ ォ オ オ オ ォ オ オ ≫


穂乃果「!!?」


その牧歌的で能天気な空気に、突如として割り込んできた禍々しい気配に思わず後ろを振り返る。


そこでは地獄の扉が開いていた。


   
 ≪かああああああぎいいいいいいいい≫


   
それはもはや人の形を成していなかった。
 

灼熱の園へ叩き込まれ、なおも強烈な執念で歩を進め獄炎の渦中を彷徨ううち、

満身を焼き包むそれと一体化して現世に帰還した業火の化身。


    
 ≪ちずちずちちずみずみずずずずみけしずみず……≫


     
穂乃果「あああのっダイジョブ? すっごくファイヤーだよってカンジだけど…」


     
 ≪この程度の試練(アンラッキー)…地獄の釜底で転生したニューカマーヨハネにはどぉってことなくてよおおおお≫


     
穂乃果「うひいいいいいいいぃぃぃ」


その振り上げられた右腕はもはやどこまでが肘先なのか分からない松明の灯と化していたが、

数秒後には罪人を一直線に切り裂いて断罪しようとする意図だけはこの上なく明白で――

149 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:16:05.05 ID:7eWoTF2t.net
 

花陽「避けてくださいっ!!!」


途切れることを知らない銃火の轟音に負けない警告が響く。


「ささっ」と脇に退いた穂乃果の真横で花陽の放つ45口径の銃撃を浴び、

背中より吹き上がる炎の翼から赤橙の鱗粉を振り撒いて、鉤爪女はその場で独楽の如くくるくると回転。

150 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:16:35.82 ID:7eWoTF2t.net
 
凛「凛も加勢するよ!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


口火を切った親友に続いてこちらも新たな標的目掛け愛銃の引き金を絞る。


遥か西部は開拓時代より編み出されたファニングショットの技巧で、

瞬く間に六発の弾丸が吸い込まれるように女の胴へ。その歩を大きく後退させ。

151 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:17:45.37 ID:7eWoTF2t.net
 
にこ「んでもって最後はやっぱりこの私よね〜ほぅら笑いなさいっにっこにっこにー!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


仲間たちの前で大口を叩くだけあって彼女の腕前も生半可ではなく。


   
 ≪アク……バル……ッ≫


    
精密な弾道のつるべ撃ちという一見矛盾した芸当により、胸部に弾痕でスマイリーフェイスを穿たれ終わる頃には、

既に精も根も燃え尽きた女の身体はそのまま舷側の手すりから、


   
穂乃果「おっとその前にこれは返してもらうよ」サッ


パズルボックスを掠め取られた直後真っ逆さまに墜落し、使命に殉じたその魂はナイルの緩やかな流れに飲み込まれた。

152 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:18:47.66 ID:7eWoTF2t.net
 
凛「やったねかよちん鎮火せいこ〜イェイ☆」


真姫「ナニソレイミワカンナイぃぃぃ…」


花陽「お怪我はありませんかー?」


穂乃果「う、うんっありがとやったね!悪は滅びたっアメリカ万歳! いや〜いいもの見せてもらったよ。銃の国は伊達じゃないね」


にこ「自由の国よ。まああんまし変わんないけど」


にこ「あんたらに変わって世界を盗るのはこの私たちよ。精々今からもみ手の練習でもしとくことね」


穂乃果「たははっ面目ない。ホノカ・コーサカ、エゲレス代表として情けない姿を見せちゃいました」


穂乃果「でもね、英国淑女だってやる時にはやるんだよっほらこの通り」キラン


にこ「袖口焦がしてまでそのちっぽけな箱を取り返すのがそんなに大事だったわけ?」

153 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:20:20.46 ID:7eWoTF2t.net
 

お喋りはそこまでだった。


鉤爪女を煉獄の悪魔に変えた火炎流が今度は穂乃果たちをも飲み込もうと唸りを上げて

最後の安全地帯だった船尾にも溢れ出し、慌てて両者はそれぞれの祖国がある方角へ飛び込んだ。
 

   
  ザボンッ               ドボドボドボンッザバァァン


   
凛「よーし岸まで競争しよー? 最後の人バドワイザーひと箱奢りぃ〜♪」


真姫「よくそんな元気あるわね…」


     

154 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:24:17.97 ID:7eWoTF2t.net
 

    ジャバッ   ジャバジャバ…


雪穂「全部無くなっちゃった…私の発掘道具…私の服…私の本…なにもかも」


絵里「まだ命が残ってるわ。あと、いい加減離れなさいよ所長」


亜里沙「しょっしょっしょっしょ…どうして砂漠の夜と川と人はこんなにもアリサに冷たいんでしょーか」ブルブル


   ザバァァァァ
 

穂乃果「ホノカ・コーサカ一等兵只今帰還しましたぁ!みんな、また会えて嬉しいよ」


雪穂「こっちの岸に上がったのは私たち四人だけか。他はみんな反対側に」


穂乃果「無視かーい。もっと再会の喜びを分かち合おうよ」


亜里沙「あっちの方が近かったですもんね当然よ。アリサたちをここまで泳がせたのは嫌がらせ?」


穂乃果「ねえ見てこれ。穂乃果命懸けでパズルボックス取ってきたんだよほら」


     

 『おおおーーーーーーーい         エリちいいいいいいいーーーーーーーーーー』

155 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:26:49.79 ID:7eWoTF2t.net
 

 『おおおーーーーいっ            そっちも無事上陸できたみたいねーーーーーー』


   
雪穂「誰?」


絵里「例の、素晴らしきわが友ってやつよ」


    
 『でもねーーーーやっぱりウチって、生来霊的(ボーントゥスピリチュアル)なラッキーガールみたーーい』


   
 『どうやら馬もラクダもぜぇーんぶこっちが一人占めしちゃったみたいなんよーーーーホントにごめんねーーーーー』


    
絵里「構わないわよーーーーーそっちは目的地と反対の方角だしーーーーーーお互い頑張りましょーーーーーー」


     
 『………ありゃりゃ』


     
絵里「それとーーーここにおられるカイロ刑務所の所長さんがぁ、あなたの脱走について関心があるそうよおーーー」


     
 『ひえええええええっそれは勘弁して〜〜〜   ほなまたねーーーーハムナプトラで会おーーーーーーー』


     
絵里「私としては二度と会わないことを祈ってるわぁーーーーーーーーーー」

156 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:29:40.50 ID:7eWoTF2t.net
  
絵里「さて、目下の目標は失くした道具と足の確保ね。それに」チラッ

雪穂「……あっあんまり見ないでくださいこのエロシア!」

絵里「凍え死なないように暖の確保も必要よ。酷く嫌われちゃったみたいだけど、あなた私と添い寝出来る?」

雪穂「…い、いざって時には」ブルッ


絵里「今がその時よぉぉぉぉ!!!」ガバッ


雪穂「きゃああああ!!! もぉそーやってすぐにおちゃらけるんだからああ」


   
  ワーワー  キャー 


穂乃果「うーむ、心なしか妹が知らずのうちに大人の階段を垂直に昇らされようとしているような。喜ばしいようなちょっと寂しいような」

亜里沙「ペリメニ食べます?」モグモグ

穂乃果「うん…」


穂乃果「…ふやけてる」

亜里沙「ペリメニですから」

穂乃果「そっか、ペリメニだもんね」


ほのあり「……」モグモグモグ

   

157 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:31:03.38 ID:7eWoTF2t.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                            


 
#3「幽覧船でどこまでも」                   ラブライブ!× ハムナプトラ -失われた砂漠の都-  

158 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/08/31(水) 22:32:42.21 ID:7eWoTF2t.net
章の途中ですが指が疲れたので休憩します

全然関係ないことで恐縮ですが、昨年のスレで話題にしたエイリアン2の
吹替全部入りBDが昨日やっと発売されました

ついでに言うと明日の午後ローでは3が放送されます

159 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 00:44:23.79 ID:toIvoEEw.net
いい感じの軽さだ

160 :幕間 ※元ネタ:ハムナプトラ2のイジー(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:20:10.72 ID:CW8L3JNg.net
 

――イビス号に乗り込む直前の一幕


 「ところで、その眼帯はなんだ? いつの間に目を無くしたんだ」


鉤爪女「……」


 「お前まさか…」


鉤爪女「おっと、注意することね。たとえ長といえども、ここから先の深淵を覗こうとするなら覚悟が必要よ?」


鉤爪女「この下にある邪眼の魔力に魅入られしものはヨハネと契約、すなわち我が眷属としぁ痛っ!?」パチンッ


 「おイタはここまでしておけ。これから戦闘になるかもしれんというのに、自ら視野を狭めるうつけがどこにいる。これは没収だ」


鉤爪女「ちょっと!返してよぉ私のアイパッチぃ〜」


   
まさかこの後本物の眼帯が必要になるとは夢にも思わないヨハネだった。


     
 幕間 終

161 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:21:18.77 ID:CW8L3JNg.net






亜里沙「はー身体の節々が痛い。全然疲れが取れてませんよ。アリサ屋根のないところじゃ眠れないの」

絵里「その割にはぐっすりだったわよ」

穂乃果(結局昨晩の添い寝の組み合わせは私と雪穂。絵里ちゃんは寝つきの悪いアリサ所長に一晩中子守歌代わりの関節技を極かせ)

穂乃果(そうして朝、上陸地点から数キロほど歩いたところでオアシスを発見した私たちは、現在その交易場で必需品の値段交渉に臨んでいるところなわけですが)


穂乃果「どうしてノミの巣みたいなラクダ四頭がこんなに高いのさ! 黄金のうんちでも出してくれんの? こんなのインチキだボッタだサギだよサギ!」

絵里「もーいいから、お金払いなさい。私たちには彼らが必要よ」

穂乃果「んもーしょーがないなぁ……足元見てくれちゃって、ドケチ…ていうか財布持ってるのが私だけってどういうことなの…」ブツブツ

絵里「死に物狂いで財布を死守したのはあなただけだったみたいね」クスクス

亜里沙「ミス・ユキホがいればもっと値切ったでしょうけど」

絵里「タダでもらうって手もあったわよ。彼女を質に入れて」

穂乃果「はは、少しそそられる提案だ」

162 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:24:01.65 ID:CW8L3JNg.net
 
絵里「――ええ、そそられるわね。とっても」

穂乃果「ん?…おお、これは」


   
雪穂「あの…新しい衣装買ったんだけど、どうかな」シャラン


    
亜里沙「ハラショ……いい」

穂乃果「ばっちし!」

絵里「似合ってる…本当に」



雪穂「えへ…」

163 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:25:13.86 ID:CW8L3JNg.net
 
――

――――

――――――――

穂乃果「さばくあきたー!!!」


雪穂「…その言葉も聞き飽きた」


穂乃果「もう何時間も見渡す限り砂砂砂ばっかり! まだハタチそこそこぴちぴち花盛りのぴゅあらぶハートまで枯れて萎びちゃうよー!」


雪穂「それはお姉ちゃんの視野が狭いの。砂漠にだって、楽しみはたくさんあるんだから」


穂乃果「たとえば?」


亜里沙「食べることとか」ムグムグ


絵里「そういえばラクダのこぶは美味しいそうね」


穂乃果「なら今すぐ味見してみよっか。ほら雪穂あーん」


雪穂「もうっそういうことじゃなくてさ。見なさいこの雄大な眺め」


穂乃果「どこが。砂と石だらけでぺんぺん草の一本も生えてないのに」


雪穂「ちっちっ甘いよ甘いそんな想像力じゃ」


雪穂「砂丘の陰影に砂紋の芸術、その上に点々と刻まれた何かの生き物の足跡。蜃気楼の幻影に落日の空と地平のコントラスト」


雪穂「時間帯によって砂漠は刻々とその表情を変化させているの。一時だって目が離せないんだから」


穂乃果「ほぁー楽しそうで何よりだよ。百万ドルの眺めってやつ? 思い出はプライスレスってか」


雪穂「拝金主義者には理解できないかもね。どうして人々が昔から砂漠にロマンというか、一種の憧憬を感じていたかってことが」


穂乃果「私だってロマンは感じるよ? この広い砂の下に埋まってる一獲千金のチャンスのことを思うと」


雪穂「はぁ…またそれだ」


絵里(ふっ、つくづく似てないというか、正反対の姉妹ね)

164 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:27:32.55 ID:CW8L3JNg.net
 

  ≪ン゛ウ゛エ゛エ゛エ゛…≫


穂乃果「それにラクダ! 私この子好きじゃなーい」


雪穂「そお? 私は可愛いと思うけど」ヨシヨシ


穂乃果「汚い臭いツバを吐く、さっきなんて噛まれかけたよ」


亜里沙「ぺっぺっ」


穂乃果「……」


亜里沙「アリサが吐いたのはナツメヤシの種です」


雪穂「お姉ちゃんはさっきから文句吐きだね。この貴重な体験をもっと楽しんだらいいのに」


穂乃果「昔の何も考えてなかった脳天気な私なら出来たかもしれないけど。大人になるって辛いことなんだよユッキー」


雪穂「今もノーテンキラキラな遊び人のクセによく言うよ」


穂乃果「……あー暑っ」ダラダラ


絵里「そのせいかもね。怒りっぽくなってるのは」


絵里「日が沈んだら一旦テントを張って休みましょう。そうして日付が変わったあたりにまた出発するの」


絵里「夜は涼しいというか寒いくらいだし、ラクダの上でも寝れないことはないわ。また明日この日差しの中を行くよりはいいでしょ?」


穂乃果「異議なーし」


絵里(多分このペースでいけば、明け方には目的地へ到達できそうね)

165 :名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:29:02.37 ID:oiiySto6.net
超面白い

166 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:29:30.81 ID:CW8L3JNg.net
 
―――――――――――――――

――――――

――


  ≪ヒヒィィィン!≫


にこ「だーかーらー、こいつらはともかく、しっかり調整したサラブレッド連れてくれば馬の方が速いわよ」


花陽「どうでしょう。普段はのろく見えるけど、ラクダも最高で六十キロ出せると聞いたことがあるよ。それに砂地って条件なら普段から場馴れしてるアドバンテージもあるし」


凛「凛もかよちんの意見にさんせー」


にこ「は〜っ二人ともカウガールとしてのプライドはないわけ? あんな下品でブッサイクなやつの肩を持つとか…それともなに、どっちが速いか賭けましょうか?」


凛「前はカウガールのこと馬鹿にしたくせに…」


 
にこりんぱな「やいのやいのやいの」


   
真姫「あの三人は年から年中小銭の取り合いばっかりしてるわね…」


希「仲良しでええやん」


真姫「あの賭けのことだけど。まあラクダでしょうね。力持ちだし飲まず食わずで何日もいられるし、砂漠じゃラクダに乗るのが最適解よ」


真姫「だから一頭しかいないラクダをあなたにあてがったの。責任もってしっかり案内してよねガイドさん」


希「そりゃどーも。そういう真姫ちゃんもちゃっかり一頭しかいないラバに乗っとるけど。それにも何か学術的な根拠が?」


真姫「……この子かわいいんだもん」ナデナデ

167 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:32:38.39 ID:CW8L3JNg.net
 
 プ〜ン ブブブブ

亜里沙「しっしっあっち行って! これはアリサのです、一口だってあげないんだから」


穂乃果「ハエもうざったいよねぇ。ずーと顔の周り飛び回って。羽音聞いてるだけでイライラする…」


亜里沙「本当ですよ……むぐむぐ、ナツメヤシの実おいし♪」


絵里「くすっ、アリサ所長はそれが気に入ったのね」


亜里沙「うん!アリサ甘いのだーい好き!――あっハラショ!あんなところにナツメヤシの森が!!アリサちょっと木の方に行ってきますね〜」


雪穂「待てい。それは蜃気楼ですらない幻覚だ」


亜里沙「シンキロー? 薪水給与令なら出てますけど。だからジャップ共にはアリサたちに食料と水を支給する義務があるんですっ!ロシア船打払令なんて認めませんよ」


絵里「彼女には何が見えてるというの」


穂乃果「暑いのが悪いよー暑いのが」


雪穂「確かにこの暑さは参るけど」


穂乃果「雪穂はいいよねーひとりだけ通気性のよさそーな涼しげな服でさ」


雪穂「お姉ちゃんもケチらず買えばよかったのに」


穂乃果「……あー」


穂乃果「なんかもうそうすれば良かった頭はたらかないもん、とろんとして」

168 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:36:00.43 ID:CW8L3JNg.net
 

 パッカ パッカ

 

   
穂乃果「……」


雪穂「……」


    
絵里「……」


亜里沙「」モグモグ


     

穂乃果「たんちょーだね、さっきから」


     

雪穂「……」


     
絵里「……」


     
穂乃果「……」


   
亜里沙「」モグモグモグ


    

穂乃果「なんか喋ろうよ…」


   
 ≪ン゛ウ゛オ゛ォ゛ォ゛…≫


   
穂乃果「…いや、キミじゃなくてさ」

169 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:38:03.71 ID:CW8L3JNg.net
 

穂乃果「……」


   
絵里「……」


   


雪穂「…!」


   
絵里「」コクッ


   

穂乃果「ん?」


     

穂乃果「……あ」


     

穂乃果「日が沈んでく…」
     

170 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:39:26.37 ID:CW8L3JNg.net
 

亜里沙「ハラショ…」


   

穂乃果「……」


   

雪穂「……」


   

絵里「……」


    


――


――――――


     
―――――――――――――――

171 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:40:08.65 ID:CW8L3JNg.net
 


真姫「――それでね、私たちが乗ってきた船の名前にもなってるイビスは鴇のことなの」


真姫「古代エジプトでは聖鳥とされ、特に頭部の黒いクロトキはトート神の化身と見做されて手厚く保護されたの」


真姫「死後もミイラにされて葬られるくらい大切にされてたのに、今のこの国じゃ数十年前に絶滅して姿を消しちゃったのよね」


希「ふむふむ、やっぱり学者さんといると勉強になるね」


希「思えばこの国にも一年ちょっといたけど、そーいう文化的なことはさっぱりやん」


真姫「あなたここに来る前は何をしてたの? その口ぶりだと世界中を回ってるみたいだけど」


希「まー色々あってね。各地を転々と逃げ…飛び回ったなぁ」


希「大都会シカゴで警察とギャングの両方に追っかけられたと思えば、どこか分からんジャングルの奥地で土人にお尻をかじられかけたり」


希「地図にのってない孤島に流れ着いたこともあったっけ。ハンガリーでは指名手配されるし、大戦中は逃げに逃げて果ては南極まで…」


真姫「ん? 希って南極探検隊に参加してたの?」


希「あ…今のはほんの軽いジョークよ。忘れて忘れて」


真姫「ふーん…? で、その成果がその首にぶら下げた大量の護符ってワケ? 欲張りさんね。あなたその中で本当に信じてる宗教はいくつあるのよ」


希「もちろん全部よ。ウチの故郷には八百万の神って考え方があるんだけど、真姫ちゃん知らない?」


真姫「さあね。どれ見せなさい――キリストの十字架に仏教のお守り、ヒンドゥーにイスラムときてユダヤまで。ホント節操ないわねこのバチ当たり」


希「まあこれでいいこともあるんよ。日常会話くらいなら、のぞみんはこれらの宗派の言語を不自由なく喋れる程度にマスターしているのだ」


希「これなら死んだ時どこへ飛ばされても、そこにいるあの世の鬼と交渉出来るでしょ?」


真姫「……日本人ってのは皆こうなの?」

172 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:41:24.45 ID:CW8L3JNg.net






 パッカ パッカ パッカ


穂乃果「ぐごー…ずぴー…」

亜里沙「うぅん、うるさいれす……ぐー」


絵里「……」

 コツン

絵里「?」

雪穂「すー…すー…」

絵里「ふふ…」ナデナデ

雪穂「…ふぁ」


雪穂「……はっ!体重増えた?」

絵里「そんなことないんじゃない? ほら、こんなに軽いのに」

雪穂「あっ…近!? やだ私、まさかずっとそっちに体重預けて…」

絵里「ラクダから落っこちるよりはマシでしょう」

雪穂「うぅ…すみません」

絵里「謝る必要なんてないわよ。全然悪い気分じゃなかったし」

173 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:43:30.45 ID:CW8L3JNg.net
 
穂乃果「ゆきほー…わふぁひがふいてるから…」モギュウ

亜里沙「さむい……アリサをひとりにしないで…」ギュウウ


絵里「くすっ…夢の中とはいえ、穂乃果とアリサ所長はすっかり仲良しって感じね」

雪穂「それ…」

絵里「ん?」

雪穂「所長のこと、名前で呼ぶことにしたんだ。あんなに毛嫌いしてたのに」

絵里「…まあね。何をされたか忘れたわけじゃないけど」


絵里「あなたの言うこの広漠な景色に感化されたのかしらね。ここじゃ人間の活動なんて、足元にどこまでも広がる砂の中のさらに細かい一粒のようなもの」

絵里「なーんてね。ちょっぴり詩的で謙虚な気分にさせられたのよ。まあ、砂に流してやらんでもないってね」

雪穂「絢瀬さんも分ってくれますか、この気持ち」

絵里「それ」

絵里「折角だから私のことも名前で呼んでほしいな。船で一回だけしてくれたみたいに」

雪穂「……覚えてたんですか。ならあの時なんで私のことをユキちゃんって…」

絵里「愛称はこの上ない親愛の証のつもりなんだけど。因みにこれは私を裏切って見捨てて置き去りにした大親友からの受け売り」

雪穂「ぷっ、何それ…大した親友もいたものですね」

174 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:44:58.53 ID:CW8L3JNg.net
 
雪穂「…船で私たちを襲った人たちのことだけど」

絵里「何か心当たりが?」

雪穂「どうでしょう。彼らのしていたタトゥーが古代の宗教に関わるものってことぐらいしか」

絵里「目的はハムナプトラの地図だったみたいだしね。これは厄介な相手よ」


雪穂「また襲ってくると思いますか…絢瀬さんは」

絵里「十中八九。今もどこかで私たちのことを見張ってるかも」

雪穂「まさか…」

絵里「そのまさかよユキちゃん」

175 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:46:21.11 ID:CW8L3JNg.net
 


 「………」


   
稜線の遥か向こう側から、間もなく禁じられた土地へ足を踏み入れようとしている四頭の姿を見つめる一団があった。


    
 「あの顔、見覚えがあるな」


   
薄明の青白い世界で、豆粒ほどに映る先頭の金髪に目を凝らし、ぽつりと呟く。


   
 「前にもここに来たやつだ。生きていたとは」 


     
 「…しぶといな。厄介だ」

     

176 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:48:42.39 ID:CW8L3JNg.net
 

亜里沙「う゛ーっ酷い夢を見ました……森の中でグリズリーにベアハッグされて背骨をへし折られるなんて」


穂乃果「穂乃果も……大蛇に巻き付かれて丸呑みにされたよ…」ゲッソリ


絵里「クスクス…」


   

 ドドドドドドドド…


    

雪穂「ねえあれ…」


     
雪穂「馬だ、こっちに向かってやってきます!」
     

177 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:49:55.56 ID:CW8L3JNg.net
 
雪穂「どうしよ…きっとタトゥーの人たちだ。二十頭はいる…」


絵里「慌てなさんな。一番先頭にいる人の顔をご覧なさい」


絵里「あれは希たちのグループよ。後ろにいるのは現地で雇ったアルバイトの作業員たちね」


穂乃果「お金持ちはいいなぁ」


亜里沙「アリサたちもこれからなりますよ」

178 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:51:36.61 ID:CW8L3JNg.net
 

希「おはよーさんさん、いい朝やねエリち」


絵里「そっちも相変わらずの調子で安心したわ」


    
一同、ハムナプトラ経験者の二人を筆頭に、地平線の彼方に臨むよう、

レースの開始地点の如くぞろぞろと轡を揃える。


     
真姫「これからどうするのよ」


希「まーまー真姫ちゃん、もうちょいお待ちを」


   
にこ「ねえあんたたち、賭けを忘れてないわよね」


雪穂「賭けぇ? 初耳なんですけど」


凛「先にハムナプトラに着いた方が五百ドルの約束だよ。即金でね」


雪穂(うはー五百どころか五ドル残ってるかどうかすら怪しいのに。しーらないっと)


花陽「あの、希ちゃんも参加してください。こちらが勝ったら百ドル出します」


希「……悪くない話やね」


穂乃果「よーしっやるったらやるぞー!」

179 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:54:07.65 ID:CW8L3JNg.net
 
絵里「覚悟はいい?」


   
雪穂「…何が?」


    
絵里「もうすぐ日の出よ。そしたら現れる」


   
亜里沙「現れるって…」


    
希「もう、そこにあるんよ。本当はね」


     

 パァァァァァ


     
薄茜色の空の下、顔を出し始めた太陽がスカイラインを歪曲させ、歪みは波紋のように伝播していく。


地平ではなく水平線の向こうから昇る陽を見ている気分だった。


一行の眼前にはさざ波立つ風景の湖面が広がり、さながら空と大地に幻惑のカーテンがかけられている様。


     
穂乃果「綺麗…」

180 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:55:52.29 ID:CW8L3JNg.net
 
希「驚くのはまだ早いよ」


薄笑いから零れ落ちた一言に、大自然の奇術師はそのベールを脱ぎ捨て始めた。


   
真姫「嘘でしょ…」


    
それは蜃気楼でもなければ幻でもなく――


失われし砂漠の神殿が、そのシルエットを宙に投影していた。


   
じりじりと、勿体つけた奇術披露(プレステージ)の最終段階。


初めからそこに実存するタネが、あたかも突然現出したかの如く像を結ぶ。


   
にこ「何がどーなってるのよ…」


凛「あはっ☆」


花陽「ハムナプトラ…」


     
とうとう姿を現したのは、小高くそびえる黒い台形の陸標――死火山。


こちらに向けて口を開いたそのカルデラ内に、古代人は死者の都を築いたのだ。
     

181 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:57:35.06 ID:CW8L3JNg.net
 

絵里「……」


希「……」


どちらからともなく、視線を交錯させていた。

曖昧模糊となった物理法則の事象を前にし、後ろで口々に喚き立てている人々の喧騒も遥か遠く。


初めて見る彼女らが夢中になって目を奪われるのも致し方ない。

重要なのは目の前の超常的な光景ではなく、自分たちがこの瞬間ここにいるという感慨を噛みしめることなのに。


得意の悪戯っぽい笑みを湛えた表情に、恐らく鏡があれば自分も同じ顔で応えているのが分かっただろう。


先駆者の特権。二人だけが知っていた秘密の墓園(はかぞの)。


今、この感覚を共有している両者は間違いなく世界で只二人きりの一瞬を独占していて――


   
そんな二人だからこそ、誰より早くそのことに気付いたのだ。
   

182 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 01:59:44.05 ID:CW8L3JNg.net
 
絵里「やあっ!」ピシッ


希「ハイヨーッ!」ダッ



雪穂「!…チーチーチーッ!!!タクタクタク!!!(それそれそれ!!!)」


穂乃果「いけっいけー!!」


亜里沙「あっ待ってくださーい!!」


   
にこ「ちぃ、出遅れたっ! 私たちも行くわよ!?」


凛「かよちんいっくにゃー!」


花陽「うん…!」


    
真姫「にこちゃんたちに続きなさい!ハムナプトラはすぐそこよっ!!」


     
アラブ人労働者「「「「 ワアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」

183 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 02:01:46.30 ID:CW8L3JNg.net
 
 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド !!!!!!!


絵里「いやぁ! はぁ!」


希「はっ…!はっ…! あはっ」


絵里「フッ…」


   
花陽「はっはっ…やっぱりラクダ速いよ追いつけない」


にこ「くぬぬぬぬぬぬぬっもっと飛ばしなさーい!!」


凛「希ちゃーん任せたぁ!」


   
希「ガラにもなく期待されちゃってるよ、どうしよ」


絵里「応えてあげればいいんじゃない? 出来るものならね」


希「なあエリち、ウチにいい考えがあるんだけど」


希「このまま二人同着でゴールしちゃお。そして賭け金は山分け。ウチらは仲直り。どうよ?」


絵里「…魅力的な提案ね」

184 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 02:06:18.87 ID:CW8L3JNg.net
 
絵里「でも、ね?」


希「ん――?」


絵里「勝つのは私たちじゃないわ」


   
雪穂「チーチーチー…ぅわおっ!? 急に速く!??」ドドドッ


   
希「――あの子、追い上げてきて」


絵里「悪いわね希。ダスビダーニャ」グイッ


   
希「ぉわとあ!!? また落ちるやあああああぁぁぁぁん――――」ゴロゴロゴロ


    
絵里「これで貸し借りはチャラにしてあげるっ!」

185 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 02:09:08.04 ID:CW8L3JNg.net
 

希「…イチチ、フラれちゃったかぁ」ボロッ


希「エリちには敵わんね……あの子にも」


   
雪穂「やぁ! もうちょっとよ頑張って!」


絵里「上手い上手い、乗馬の才能も中々のものよ。ラクダだけど」


雪穂「そおかな? えへっお先―」


絵里「……」


絵里(何かしら――)


絵里(今一瞬、彼女のことが本気で可愛く見えたような)


絵里(少なくとも、これまで相手にしてきた一泊二日の女の子たちとは明らかに違う、こんなタイプは初めて)


    
雪穂「ぃやっほぅ〜!!!」


   
穂乃果「いけー雪穂ー!!そのまま一番乗りだぁ〜!!!」


    
絵里「!…速度を落としなさい!! 入ってすぐの所に砂丘がぁあ間に合わなかった…」    



     

雪穂「わぷっ…けほっ、ぺっ…ぺっぺっ」


 ザザッ


絵里「手を貸しましょうかお嬢様? ハムナプトラへようこそ」


     
絵里(――とにもかくにも、目が離せないのよねこの子は)

186 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 02:09:41.86 ID:CW8L3JNg.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                            


 
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187 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 02:15:32.08 ID:q7uQK8pb.net
更新乙

188 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 12:59:48.56 ID:4q0kqWCT.net
保守

189 :名無しで叶える物語(湖北省)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 13:26:50.77 ID:M0pciWeL.net
ハムナプトラってこんな面白い話だったか

190 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 20:22:41.57 ID:pCpcitkx.net
地の文がセンスあっておもしろいわ

191 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:24:37.57 ID:CW8L3JNg.net






穂乃果「むふっ、むふふふふ」

絵里「ゴキゲンね」

穂乃果「いやーさっすが私の妹! 賭けは大勝、今夜は祝杯だぁー!」

雪穂「五百ドルか…ここに着く前に欲しかったかも」 

穂乃果「なーに浮かない顔してんのさ。もっと喜びたまえ五百だよ五百!ほら見なさい」

雪穂「ならそっちもあれを見なよ」


雪穂「アメリカ人グループの張ったテントの山!」

雪穂「二十人以上の現地労働者を収容できるキャパに、全員分の食事と発掘道具ついでに娯楽まで完備してる」

雪穂「あの人たちとの差は五百ドルぽっちで縮まるものじゃない。浮かれ気分にはなれないね」


穂乃果(うわっ…発掘のこととなるとカリカリしてるなぁ)

絵里「まあ、気にせずこっちはこっちのペースでやればいいんじゃないかしら」

穂乃果「そうそれ、私もそれ言おうとしてた」


雪穂「…そう、ですね」

雪穂「それに、向こうは端からこちらなんて眼中にないみたいだし」

192 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:25:35.14 ID:CW8L3JNg.net
 

労働者ズ「「「「マキチャン、マキチャン、マキチャン、マキチャン――」」」」


   
真姫「遺跡にはなるべく傷をつけないようにして。そこ、きびきび動く!日当十ドル払ってるのよもっと蝶のようにキリキリ舞いなさい」


凛「そーにゃそーにゃ弛んでるにゃあ」


真姫「凛、高みの見物は雇い主の特権よ。今すぐあなたもあそこに混じって、その弛んだ根性を引き締めてきなさいな」


凛「えぇ〜っ!? なんで凛がそんなこと」


真姫「あなた達には彼らの百倍以上出してる上に、賭け金が払えないからって給料の前借までしてあげた。だのにその態度は何よ?」


凛「あはは…真姫ちゃん、過ぎたことだよ。凛、過去は振り返らない主義だから」


真姫「さっさと行って来いこの給料ドロボー!!」


凛「うわーん、自分だって墓ドロボーのくせに〜!」

193 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:27:27.01 ID:CW8L3JNg.net
 
にこ「バッカねー凛のやつ沈黙は金って言葉知らないのかしら」

にこ「お上には逆らわず黙って口閉じてりゃ沈金(ちんぎん)貰えてハッピー世は事もなしよ」


真姫「にこちゃん? 言っておくけどあなたたちも立場は同じなのよ。下に降りたら?」


にこ「ぎくっ…いや遠慮するにこ。にこはぁ、えーっと……そう、ここで風を読んでるの。カウガールの嗜みにこ」

にこ「ああ思い出すにこぉ…遥かな故郷カンザスで、パパと一緒に風を切って馬を走らせた日々を」


凛「分かった! ここって凛が住んでたネバダに似てるんだっ!」

凛「ほら、砂漠以外に何もないけど、鉱山の土の中に埋まってる金とギャンブルで一獲千金出来るところとかそっくり!」


真姫「あなたは口じゃなくて手を動かす」

真姫(ニューヨークもあと一万年くらいしたらこんな感じになるのかしらね……全てが、砂の下に)


 グゥゥゥゥゥゥゥゥ…


真姫「……」


花陽「ごっごめんなさい…!みんなが故郷の話をするから、私も思い出しちゃって」

花陽「はぁ、カリフォルニア米が恋しいです…」


真姫「……この人たちダメかも」

194 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:28:36.73 ID:CW8L3JNg.net
 
にこ「そ、そんなことないわよ! ねえ花陽、あんたはさっきから何を見てるの?」

花陽「あ、ちょっとね。向こうのグループの様子が気になって」

にこ「穂乃果たちの?」

花陽「うん。さっきから凄く熱心に作業してるし、何か見つけたんじゃないかなぁと思って」


真姫「まさか。向こうのリーダーは名前も聞いたことがない小娘よ」

真姫「何の実績もない、学者ごっこをしているだけの人に何が出来るっていうのよ」


にこ(自己紹介ご苦労様にこ)

花陽(親の七光りって言われるのが嫌で、自力で伝説のハムナプトラを発掘して歴史に名を残してやるーって大見得切って飛び出してきたんだもんねぇ)


真姫「……何よ、言いたいことでも?」


にこ「いえ、なんでも」

花陽「ありません」

195 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:29:48.23 ID:CW8L3JNg.net
 
雪穂「あそこに見えるのがアヌビス像です」

絵里「お久しぶりワンちゃん。元気してた?」

雪穂「ベンブリッジの学説によればあの像の足元にはアメン・ラーの書を隠した秘密の小部屋があるということなんだけど」

絵里「今や体の半分近くが砂の下なのよね」


雪穂「というわけで、まずは埋もれている神殿内部に侵入し、そこからアヌビスの足を目指します」


雪穂「そして神殿への入口は――ここです」


絵里「……私には地面に開いた只の穴にしか見えないけど」

雪穂「恐らく天然のものをそのまま利用したんでしょう。下は洞穴になっていて、私の考えが正しければそこが霊廟。あとは芋づる式に」

絵里「なるほど。しかしよくこんな隠し抜け穴みたいな入口を見つけられたわね」

雪穂「ああ、それなら簡単ですよ。分かりやすい目印があったから…」


穂乃果「雪穂―! 言われたもの見つけてきたよー」

196 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:30:57.48 ID:CW8L3JNg.net
 
亜里沙「ふぅはぁ、意外とヘビーです…」ズルズル

雪穂「二人ともお疲れさまー。まだあると思うからまたよろしくね」

亜里沙「ハラショ!?」


絵里「その小汚い鉄板みたいなのは?」

雪穂「古代の鏡。紀元前のエジプトには既に金属を用いた鏡が作られていたんですよ」

雪穂「隠し穴の近くにもこれがあったので。あ、所長、その鏡はよく砂を落としてから太陽の方に向けて設置して」

絵里「分かった。反射させた光を洞穴内部に送り込もうって寸法ね。でも広い地下を照らすには些か光量不足じゃないかしら」

雪穂「両方とも正解。ですが、古代人の知恵は時として私たちの予想を遥かに凌ぐことがあるんです」

雪穂「ふふ、まあ楽しみにしててください♪」


絵里(生き生きしてる…好きなことに夢中になってるって顔。冷めているようで熱い子なんだ)

絵里(そのギャップが凄くチャーミングで……あの顔をこっちに向けさせたくなっちゃう)

197 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:32:25.99 ID:CW8L3JNg.net
 
絵里「あ、あのね。これ、良かったら使って」

雪穂「何ですかこの袋…?」

絵里「向こうのアメリカ人に頼んで貸してもらったの。こっちは汚いのじゃなくて……ちゃんと、ぴかぴかのがあるといいと思って」バサッ

雪穂(あ、発掘道具一式…)


絵里「えーっと、ほら」


絵里「必要じゃなかったらいいのよ、その……それじゃ私は穂乃果を手伝ってくるから」


亜里沙「むーっ」

絵里「…何見てるのよ」

亜里沙「別に、なんでもありませんっ」


絵里(何やってるのよ私は。見たいのはアリサ所長の顔じゃなくて彼女の喜ぶ顔だったのに)

絵里(歯切れの悪いまま会話を打ち切っちゃって、今更振り返るのも恥ずかしいし……ああんもうっいい歳してティーンエイジャーかっつーの)


雪穂「あのっ」


雪穂「ありがとうございます! とっても嬉しい…!」


絵里「!…」


絵里(訂正、今の声だけで十分だわ)


絵里(彼女がどんな顔しているか、目に浮かぶような…)

198 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:34:37.94 ID:CW8L3JNg.net
―――――――――――――――――


―――――――――――


――――


 
 パラパラ…


 「そのまま降りて来て。暗いから足元に気を付けて」


 「よっと。ホントだ真っ暗ー」


 「そういえばさ、鏡探してる時に気付いたんだけど」


 「遺跡の裏手の方に荷物を背負ったラクダの群れがいたんだけど、あれって穂乃果たちのじゃないよね。どこから来たんだろ」


 「きっと私たちのだわ、一ヶ月前の。可哀想に……置き去りにされたまま、まだここを離れていないのね」


 「アリサだったらこんな場所、一刻も早く離れたいです。この臭い、刑務所なんかよりずっと酷い…」


 「三千年分の埃とカビの積み重ねだね。ほら、クモの巣おすそ分けー」ネバァ


 「ちょ、やめてくださいよもうっ! 虫と蛇は大の苦手なんです」


 「私は暗闇が苦手よ……思った通り、松明の明かりがないとお互いの顔も見えないじゃない」


 「三人とも、さっきからどーでもいいことばっかり。私たちは三千年ぶりにここに足を踏み入れた人間なんだよ? もっとこう、感じるものはないの?」


 「暗いチカ、正直怖いチカ。どーでもよくないチカ」


 (チカ…?)


 「変なところでヘタレなんですね……もういいよ、嫌でもカンドーさせてあげるんだから」


 「これならどうだ。光あれ」グイッ

199 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:37:34.94 ID:CW8L3JNg.net
 
                 パ
               ァ
             ァ
           ァ
         ァ


絵里「眩し…」

亜里沙「わぁ凄い、一瞬で明るく…!」

穂乃果「どういう仕組みで……あ、ここにも鏡がたくさん」

雪穂「ふっふっふっ恐れ入ったか。これが古代エジプト人のトリックだよ」


雪穂「室内に計画的に配置された鏡がパスルートを作って、地上からの光を反射リレーしてるの。照明なしでもこの明るさ。太陽は偉大なのだ」フフン

絵里「もう私ずっとここにいていいかしら」

雪穂「それにしても驚いたよ。この部屋サーネイチェだ。多分、王族の」

穂乃果「雪穂―私たちにも分かるように」

雪穂「平たく言うと処置室。死後の世界に入っていくための準備の間」

亜里沙「それってつまり…」

穂乃果「ああ、ミイラ作るとこね。昔お父さんに習ったっけそういえば」


 ガチャリ


穂乃果「絵里ちゃん…? どったのさ、いきなり銃取り出して」


絵里「い、いいじゃない別に。さあ、先を急ぎましょう」ブルブル


雪穂「……」


穂乃果(うーん、意外な弱点発見だなぁ)

200 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:40:37.85 ID:CW8L3JNg.net
 

  ズリズリ…


絵里「確かアヌビス像はこっちの方角だったはず」


穂乃果「けほっ、こんなの通路じゃないよ。這わないと通れないなんて」


雪穂「こんな所でおなら出さないでよね。松明に引火して洒落にならないことに……ん?」


   


   カリカリ…   

              カリカリカリ…


    

絵里「何、この音…」


   


  テケリ――リ テケリリテケリリテケリリテケリリ……


    
   ザザザザザザ ザザザザザザ   ザザザザザザザザザザザザ
     

201 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:42:18.59 ID:CW8L3JNg.net
 

雪穂「何かたくさんのものが蠢いているような――――虫?」


亜里沙「や、やだぁ!こんな身動きとれない場所で出てこられたら…」


絵里「さっきから鳥肌が止まらないんだけど…」ぞわわっ


穂乃果「止まらなくていいから前進してよ。私たちも先に進めないじゃん」


雪穂「今更虫の百匹や二百匹にビビってどうすんですか。さっきからエリーチ株の暴落が止まらないんですけど」


亜里沙「なんて逞しい姉妹なの…」


絵里「ほんとにね」


雪穂「二人が情けないだけだよ」


穂乃果「ほんとにね」

202 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:44:43.00 ID:CW8L3JNg.net
 
 ズズズズ


         パラパラパラ…


絵里「やっと出口よぉ」


絵里「あーなんという開放感。もう狭くて暗い所はこりごり」

穂乃果「ここも広いとは言い難いけどね。あのおっきな石が邪魔だなぁ」

雪穂「石じゃない、これはアヌビス像の足だよ!」


雪穂「地震か経年劣化で天井が崩落して一緒に落ちてきたんだ。なるほど、やけに背が低くなってると思ったらそういうことか」

雪穂「思ったより下に行かなくていいかも。というかこの近くに秘密の隠し部屋があるはず」


   
  ジャリッ…


    
絵里「!」


亜里沙「また虫…」


   

   オ゛オ゛…       ウ ォ゛ォ゛ン


     

絵里「…いえ、虫はこんな風に鳴かないわ」
     

203 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:47:56.73 ID:CW8L3JNg.net
 


  ――シュタン         
                   ガシャンナ
          ニャル…       


   
雪穂「木霊…? 何かの声が、反響してるの?」


亜里沙「これってまるで人の…」


穂乃果「ねえ皆、ハムナプトラの伝承って何だっけ」


雪穂「生きたミイラが守る呪われし土地……いや、まさかそんな」


絵里「ユキちゃん、松明持ってて。ここは二挺持ちでいくわ」ジャキン


絵里「あなた達も、銃は持ってる?」


亜里沙「もちろん。レディの必需品ですよ」チャキッ


穂乃果「私も、ポーカーする時の必需品ならある」チョコン


雪穂「……何それ、玩具?」


亜里沙「アリサ知ってます。デリンジャーですよね。ギャンブルで負けそうになった時、対戦相手をテーブルの下から狙い撃ちするための銃です」


穂乃果「まあ大体あってるかな。他にも色々使い道はあるんだけどね」


絵里「それじゃ虫も殺せないわ。次からはもっと大きいのを用意なさい」

204 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:49:22.26 ID:CW8L3JNg.net
 


   オ゛オ゛……ァ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ア゛……
  

   
絵里(音が近付いて来てる…像の裏側に何かが)


絵里(みんな、用意はいい?)


穂乃果「っ…」


亜里沙「」コクコクッ


雪穂「」ドクンドクン


    
     ハァ      …ァ゛ァ゛ア゛


   
絵里(呼吸のリズムが変わった――こっちに気付かれた?)

205 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:50:40.79 ID:CW8L3JNg.net
 

   スン…

 
        スンスン…


雪穂(やだ、もぅ何なのぉ)


絵里(――覚悟を決めましょう)


絵里(スリーカウントするから、皆で銃を撃ちながら飛び出すのよ、いい?)


穂乃果(ちょい待ちタンマ。それって1、2、3の3と同時に飛び出すの? それとも3の後で?)


絵里(1、2、3じゃないわ、スリートゥーワンゼロのゼロと同時よ)


亜里沙(本当ですか? 裏切らないですよね信用しますよ!?)


絵里(いえ、やっぱりゼロの後に何か掛け声合わせましょうか。そっちの方が勢い出そうだし)


雪穂(いらんわっ、漫才じゃあるまいし真面目にやってくださいよ)


絵里(私はいつだって大真面目よ。いくわよтридва …」


穂乃果「ロシア語じゃどこが境目が分からないよ…」 


 「あのー」


穂乃果「ぅおおわぁ!!??」ジャキッ


 「ぴゃああああ!!?」ジャキン

206 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:52:40.27 ID:CW8L3JNg.net
 

花陽「……」


穂乃果「……」


   
凛「……」


亜里沙「……」


    
真姫「……」


雪穂「……」


   
希「……」


絵里「……」


   
労働者ズ「マキチャン…」


     
にこ「なーんだあんた達だったの。びっくりさせないでよね、心臓が止まるかと思ったじゃない」チャキ…


絵里「こっちも、あやうくそっちの心臓止めちゃうとこだったわ」チャッ…
     

207 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:53:36.63 ID:CW8L3JNg.net
 
雪穂「ふーっ無駄に冷や汗かいちゃった…」


花陽「あ…!」

花陽「その緑の袋、失くしたと思った私の発掘道具入れ…!」


雪穂「へ?」

絵里「いえ、これは彼女のお父様からの借り物よ」


花陽「え? いやでも、そんなはずは…」オロオロ

凛「かよちんが困ってるにゃ、返してよ!」


絵里「どこかにこの子の名前でも書いてあるの?」


凛「ッ…!!」ジャキン


絵里「」ジャキッ 
亜里沙「」チャッ 
穂乃果「」チャキッ 


にこ「」ジャキン 
希「」チャキン

208 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:54:36.15 ID:CW8L3JNg.net
 
花陽「わ、分かりました…! 私の見間違いです、また目が悪くなったみたい……だからみんな銃を下して」


絵里「ふぅ…」

雪穂「えっと、じゃあ問題も解決したみたいなんで、私たちは発掘に戻りますね。そちらも頑張ってください、よい一日を〜」


真姫「待ちなさい。何しれっと終わらせようとしてるの」

真姫「ここを最初に目をつけてたのは私たちよ。つまり、ここは私たちの発掘現場、お分かり?」


雪穂「早い者勝ちですよ。私たちのです」


真姫「それなら私たちの方が早かった」


   
絵里「」ジャキッ 
亜里沙「」チャッ 
穂乃果「」チャキッ 


にこ「」ジャキン
凛「」ジャキッ
花陽「」チャッ 
希「」チャキン
    

209 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:55:45.23 ID:CW8L3JNg.net
 
絵里「この像は私たちのものよ、おねーさん方」


にこ「あら、どこにもあんたの名前は見当たらないけど? おばさん」


絵里「あなたの血で書かせてもらうわ、おチビさん」ビキビキ


希「まーまーエリち、そうカッカしないで冷静にこの状況を見ようか」

希「そっちは四人。だけどウチらは後ろのバイト君も入れて十五人なんよ? いくらエリちかて勝ち目は薄い…」


絵里「あ?」ギロッ


希「て、さっきカードが言ってたの、うん。戦いはあんまりオススメせんよーって」


絵里「ならそのカードに言ってやりなさい」

絵里「撃ち合いになったら真っ先にあなたを捨て札にしてやるって」ガチャッ


希「いっ」タラ…


亜里沙「多勢に無勢は慣れてます。アリサはいつも一人でしたから」

穂乃果「うんうん、私も! 最後に頼れるのは自分だけ!」


にこ「どうやらそっちはやる気満々みたいねぇ」ガチャリ

花陽「っ…」ゴクッ

凛「しゃー…」


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
   

210 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:58:27.33 ID:CW8L3JNg.net
 
雪穂「はぁ、やめてよね。バカらしい」

雪穂「こんな狭いとこで撃ち合ったらお互い無事に済まないの、小学生でもわかるよ」

雪穂「私たちは大人なんだから、子供っぽい争いはやめて譲り合いの精神を発揮しなきゃね」


雪穂「ということで、この場はあなたたちに差し上げます」

亜里沙「でもユキホ、ここにはお宝が…!」

雪穂「だって、他にも掘る場所はたくさんあるから。ね? 絢瀬さんも…」スッ

絵里「…分かった。雇い主にそう言われちゃ断れないわ」チャッ…


希「……どうやら、一件落着のようやね」

花陽「ほっ」

真姫「ヒヤヒヤさせてくれるわね、マッタクー」

凛「命拾いしたね」

穂乃果「そっちこそ」

にこ「ぬかすわね」

亜里沙「……」

雪穂「ほら行くよ、三人とも」

211 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 21:59:57.69 ID:CW8L3JNg.net
―――――――――――――――


――――――


――


 
 ガツン!ガツン! ガリッ 
               パラパラ…


雪穂「で、象形文字によればここがさっきいた所の真下」


雪穂「あの時、部屋の床に裂け目を見つけて。そこに小石を蹴り込んだら地面にぶつかる音が聞こえて、それでここの存在に気付いたの」


絵里「あの一種触発の空気の中でよくそんな余裕あったわね…」ガツン!


穂乃果「雪穂はそーいうとこ図太いんだよ、私よりも」


雪穂「つまり、現在私たちの直上にアヌビスの足裏があるわけで」


絵里「天井の柔らかい所を掘り進めば、その秘密の部屋にぶち当たる道理ね。本当に足の下にあると仮定した場合だけど」


雪穂「絶対ありますって。あのヤンキーどもが見つける前に、下からかっさらわなきゃ」ガリガリガリ


絵里「したたかなやり口よね。イギリス人は恋愛と戦争に手段を選ばないって言われるわけだ」ガッ!


穂乃果「忘れがちだけど絵里ちゃんてどっちかっていうと日本人なんだよね。だったら私たち日英同盟じゃん!絶対お宝見つけるぞーえいえいおーっ!」


絵里「その同盟もう失効してるわよ。しかもそれって対ロシア用の…」


穂乃果「そだっけ? ……あれ、そういえばもう一人のロシアンクォーターの姿が見えないけど」


雪穂「所長…?」

212 :誤字(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:02:17.81 ID:CW8L3JNg.net
×一種即発
○一触即発

213 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:05:46.54 ID:CW8L3JNg.net
 

亜里沙「はぁ、ふぅ…」


件のクォーターは今、松明を片手にクモの巣だらけの地下通路を一心不乱に這い進んでいた。


   
亜里沙「確かにっ、ミス・ユキホの言う通りっ、探す場所は他にいくらでもありますからっ、ねっ!」


苦手な虫に出くわすのではないかという恐怖と不快さは、別の感情によって一時的に塗り潰されていた。


    
亜里沙(エリーさんばっかりズルい! アリサだってユキホに名前で呼んでもらいたいのに)


亜里沙(あの二人、徐々にだけど着実にいい感じになってる気がする。アリサだけ置いてけぼりで…)


亜里沙(でもそんなことで諦めるアリサじゃありません。こうなったら自力でお宝を見つけて)


亜里沙(そして発掘道具なんて目じゃないプレゼントを渡してユキホを驚かせてやるんだから)


   
そんな想いを胸に秘め、あの後それとなく三人から離れ、こうして一人別のルートを開拓したわけだが…


その際、誰も自分がいなくなるのに気付かなかったことにも――見つからないようひっそりと移動したことの

当然の帰結にも拘わらず――亜里沙は無意識のうちに不満を覚えていた。


    
亜里沙「いいもん、どうせ一人は慣れてますから」


乙女心はどんな古代文字の解読より難解で、そのうえ天邪鬼ときていた。

214 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:08:36.59 ID:CW8L3JNg.net
 
不愉快な探索の代価は数分で姿を現した。


自身の松明以外の光源――前方より僅かに届く鈍い輝きに引き寄せられ、亜里沙が辿り着いたのは、

人工的にならされた壁の一面に古代の職人の手による精巧な装飾が施された一室だった。

   
「ほああ…」と自分の読みが正しかったことに感嘆する間もなく、彼女は壁に彫刻された古代人の身体のあちこちに

紫の光沢を煌めかせる宝玉が埋め込んであることに気付いた。


亜里沙「これって――ブルーダイヤだ!」


宝玉は文字通り、壁画に穿たれた窪みにぴったりと嵌め込まれていた。

試しに一つ、ナイフで抉って壁からくりぬいてみると、見た目よりもずっしりとした重みと透き通るようにすべすべとした感触が、

素人の自分にもこれが本物だという確信と達成感のようなものを与えてくれて、にんまりと口元が歪む。


亜里沙「ハラショ…ってこれ何回言ってるんだろ」


亜里沙「アリサがただのリアクション担当じゃないってことを証明してあげるんだから」

215 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:09:27.46 ID:CW8L3JNg.net
 

亜里沙「それは〜それは、遠い〜夢の、カケラ〜だけど愛しいカケラ〜♪」ガリガリ


一つ、また一つと、夢中になって宝玉を外しては腰に下げたポーチに放り込んでいく彼女は、

それが自分の苦手な虫に似た形状なのも特に気に留めてはいなかった。


亜里沙(ぷぷっ、壁画の人変なポーズ。これにどんな意味があるのか、後でダイヤを渡しがてらユキホに聞いてみよっと)


薄暗闇の中では、随分と薄汚れ判別し難くなった壁画の表していることも、

その周りに刻まれた象形文字の警告も、亜里沙は理解できなかった。


両腕を間抜けな形に振り上げ、まるで天を仰いでいるようにも見える壁画の人物はその実、

全身を宝玉の糞甲虫――古代のスカラベに貪られる責め苦を受けている姿だということに。

216 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:11:01.62 ID:CW8L3JNg.net
 
亜里沙「この辺にしておこうかな……最後にもう一個だけ」


 ポトッ…


亜里沙「取れた……もひとつ、えへへ」


   
輝かしい宝石とそれがもたらす未来に目がくらんでいた彼女は気付かなかった。

ポーチに仕舞う際、砂だらけの床に一つだけ取り落とした宝玉虫の表面にパキンと亀裂が入り、それが小刻みに振動し始めたことに。


   
やがて、その固い表面を突き破って産声をあげた何者かが、今度は目の前の革靴を、

さらにその奥にあるものを突き破らんとし、前進を開始したことに、当の本人が気付いたのは――


   
亜里沙「これでアリサも…!」
    

217 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:12:36.57 ID:CW8L3JNg.net
 
凛「大金持ちだよっ!」

真姫「待ちなさい!」


嬉々としてアヌビス像の足元に発見した正方形の継ぎ目にバールのようなものを突っ込みかけた凛を、真姫が鋭く制した。


真姫「古代人てのは皆が凛みたいに単純だったわけじゃないの……ま、私はそういうところも含めてあなたを気に入ってるけど」

凛「照れるにゃ〜」クネクネ

真姫「と、とにかく、私が言いたいのは何か罠が仕掛けられてるかもってこと」

凛「でも、そこのピエロなんとかにはここにお宝があるって書いてあるんでしょ。だったらどっちにしろ誰かが開けなきゃ」

希「凛ちゃん、別にそれをやるのはウチらである必要はないんよ?」

凛「……あ、そっかぁ」

花陽「私も、ここは真姫ちゃんや希ちゃんの言う通りだと思います…」

にこ「そーいうわけでー、出番よアンタたち」


    
労働者ズ「「「マ・キチャン…」」」
   

218 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:14:03.31 ID:CW8L3JNg.net
 


雪穂「古代エジプト人にとって、死は新たな人生への旅路のはじまりだったんです」


再び、真姫たちの足元にいる絵里たちの作業場。


一向に埒が明かない開通工事に業を煮やした三人は手を休め、穂乃果は柄の長いハンマーをクラブ代わりに小石を飛ばす即石ゴルフに興じ。

その脇で、絵里は踏み台にしていた山犬姿のアヌビス座像に腰かけ、隣に座る雪穂の熱心な講釈に耳を傾けていた。


雪穂「オシリス神が復活して冥界の王になった神話になぞらえて、神の化身たるファラオやそれに匹敵する権力を持った大神官はミイラに」

雪穂「いつか魂が再び肉体に宿って復活する際に困らないよう、遺体を完璧な状態で保存しておく必要があったの」

雪穂「中王国に入ってからは流石に現実を見つめるようになったのか、復活するのは現世でなくあの世にある楽園でって解釈になったみたいだけど」

雪穂「どうやらこのハムナプトラが建設された古王国時代は、まだこの世に復活できると考えられていたようなんです」


穂乃果「現実ってのは死体より冷たいからね〜」

穂乃果「千年経っても誰も復活しないもんだから、ミイラはあの世で蘇るんだって死生観に変わっちゃったんだっけ――おっ、ナイスショット」カコンッ


雪穂「へぇ、お姉ちゃんにしてはよく覚えてるじゃん」


穂乃果「その時代のミイラ職人はそこに商機を見出して一般下々ピーポーのミイラ化も始めたんでしょ。しかもコース・オプション別料金でさ」

穂乃果「渡る世間は金だより〜ってね。結局、信じられる価値観はお金だけってその時気付いたんじゃないかなぁ。凄く共感できるから印象に残ってたんだ」


絵里「ふっふ、流石穂乃果ね」

219 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:18:37.62 ID:CW8L3JNg.net
 
絵里「それはそれとして、ミイラがなんで包帯グルグル状態なのかやっと合点がいったわ。そこまで丁重に死体を保存したかったからなのね」


雪穂「まあ、いわば梱包と箱詰めですよね、亜麻布に包んで棺という容器で保管すると。実際の保存作業のキモはその前段階なんですけど」


絵里「というと?」


雪穂「防腐処置ですよ。これぞ古代人の職人芸、一種の魔術と言えるでしょう。まず洗浄した遺体のわき腹を切り開いて内臓を」


絵里(あっ、これひょっとして聞かなかったほうが良かったパターン?)

220 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:20:00.09 ID:CW8L3JNg.net
 
雪穂「そうやって取り出した四つの臓器をカノプス壺という容器にそれぞれ納めるんですあ心臓は別ですよこれは冥界でも使う重要な臓器なので体内に残しておくんですそれから」


穂乃果(いや確かに“キモ”の話だけどさー。絵里ちゃんドン引いてるじゃん。でもこーなった雪穂は止まらないからなー)


雪穂「そうだ脳の取り出し方はどうやると思います? 古代エジプトだと脳はさほど重要な器官とは思われていなかったようで」


穂乃果「雪穂ぉ…そんなこと教えなくていいから」


雪穂「熱々に熱した真っ赤な鋭い鉄棒を鼻からグイッと突っ込んで、そのまま脳を引っ掛け掻き回して、ズルズルって孔からほじくり出すの」

絵里「うげぇ…もし私がここで力尽きても頼むからミイラにはしないでね。死ぬほど痛そう」


穂乃果「私もー」

221 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:22:56.61 ID:CW8L3JNg.net
 
雪穂「二人ともお馬鹿なんだから。仮にミイラになるとしても死んだ後なんだよ? 痛みなんてあるわけないじゃん」

絵里「限度ってものがあるわよ。話を聞く限り、そんなことされたら死人だって目を覚ましそうじゃない」


穂乃果「そーそー、絵里ちゃんの言う通りっ! と」カツン!       


穂乃果「おぉ…これまたナイスショ」                           

                            パキンッ
   

                                   ガ         
                                 ラ
                              ガ
                            ラ
                        !!

  ドシャアアアアアアアン!!!
 

222 :1です(禿)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 22:34:00.94 ID:uwId1pTm.net
改行しまくったせいか規制に引っ掛かりました

しばらく時間おいてみますがもし駄目そうだったら別のところで

223 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 23:15:08.08 ID:lc+jMPTG.net
規制ドンマイ
ハムナプトラもはやほとんど覚えてないし面白いわ

224 :名無しで叶える物語(ほうとう)@\(^o^)/:2016/09/01(木) 23:30:05.08 ID:q+S1XTP2.net
空白3行以上で規制されるんだっけ
今はいろいろ厳しいよね
気長に待ってますん

225 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:33:54.47 ID:Y218z4JO.net
 
  パラパラパラ…   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


穂乃果「やっべ…」


雪穂「うっゴホごほっ!!」

絵里「ゲホッ…大丈夫?」

雪穂「は、はぃ…上から何か落ちてくるなんて」

絵里「まさに死者も目覚める大音響ってやつね、穂乃果」


穂乃果「」ダラダラ

穂乃果(マズい…歴史的な遺跡を悪ふざけで破壊したかどでまた雪穂にどやされちゃう)

穂乃果(よし、ここは精一杯二人を気遣ってる様子を見せて誤魔化そ)


穂乃果「二人とも、無事!? 怪我はない? 痛むところがあったら」

雪穂「お姉ちゃん」

穂乃果「は、はいっ」ビクッ

雪穂「ナイスショット」

穂乃果「ぅえ?」

226 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:35:10.82 ID:Y218z4JO.net
 
雪穂「今落ちてきたのは石棺だよ。信じ難いことだけど…」

絵里「棺? とするとこの中にミイラが…」

雪穂「ええ。絢瀬さんの言う通り、お姉ちゃんが封じられていた死者を呼び覚ましたんだ」

穂乃果「私って昔から変なところで運がいいからねー」

雪穂「その悪運が何を呼び寄せたんだろ…」


雪穂「アヌビス神の足元に葬られてたってことは、死してなお栄誉を与えられたよほどの重要人物だったか」

雪穂「もしくは、とんでもない極悪人だったか。死後も監視させる必要があるほどのね」

穂乃果「じゃあ早速確かめてみようか。内張りが黄金とかだといいんだけどなーツタンカーメンみたくさ」

雪穂「はてさて誰の棺なんでしょーか、答えはこの後すぐ」フーッ


筆と息とで堆積した土埃を払い、やがて棺の表面に顔を出した象形文字を、神妙な顔付きになって雪穂は睨んだ。


雪穂「『――この者、名を封じられしものなり』」

227 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:36:53.56 ID:Y218z4JO.net
 
穂乃果「よーするにジョン・ドウ様(身元不明の死体)ってこと?」

雪穂「いや、この書き方だとわざと名前を奪ったって感じかな」


雪穂「古代エジプトにおいて名前は魂と同じくらいその人を構成する重要な要素として扱われていたの」

雪穂「政敵の名前を削り取ったり、罪人に悪しき名を付けたりっていう死後の嫌がらせがあったんだけど。最初から記すことを禁じたっていうのは初めて見たかも」

雪穂「当時、名前を忘れ去られるってことは、その人がこの世に存在した証が無くなってしまうのと同義って考えだったから…」

絵里「なんだかとっても寂しいわね、それ」

穂乃果「これの中身はよほどの嫌われ者だったんだね。偽名とかで何とかならなかったのかな」

雪穂「多分、歴史上の痕跡そのものを根本から抹消しようとしたんじゃないかな。書物とかでも、この棺の人の存在は意図的に編纂されて消されてる可能性が高いね」


雪穂「見てよここの部分、ここまでテッテーしてると思わず貰い泣きしちゃいそう。この人は文字通り封じられたんだ」

絵里「なに、星形の…窪み?」

雪穂「棺のここだけブロンズで作られてる。これは恐らく回転式の錠だと思います。内からも外からも棺を開けられないように、鍵をかけたんだ」

穂乃果「ひぇ、だってさっきの話じゃないけど中身は死人でしょ?誰が開けるっていうのさ」

穂乃果「棺桶にわざわざこんな分厚い錠前付けるなんて、やっぱり中にはお宝が眠ってる可能性が…うへへ」

絵里「でも鍵が掛かっているとなると、この封印を解くのにひと月はかかるわよ」

228 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:37:51.25 ID:Y218z4JO.net
 
穂乃果「鍵かぁ…でもこの形どっかで見たことあるような」

雪穂「鍵……カギ……はっ」


ほのゆき「そうか、鉤だ!!」


絵里「カギが、どうしたの…?」

雪穂「船で襲ってきた鉤爪女! あいつが鍵を寄こせって――このことだったんだ」

雪穂「ほら、絢瀬さんのパズルボックス。ここを押すと丁度錠の窪みと同じ形に展開するの」カチッ

穂乃果「あー!それ穂乃果のなのに」

雪穂「ちょーっとお借りしますよ」ガチャリ…


雪穂「…ほらね、ぴったり」

絵里「わーおわーお、一ヶ月越しの伏線回収とはね。こーいうのも運命の歯車が噛み合ったってやつなのかしら?」

穂乃果「すごいすごい、早く開けてみようよ!」

229 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:39:50.87 ID:Y218z4JO.net
 

  ガッ!  ガツン! ガツン!!


   
真姫「ダー・リン、ベイベイベ! ダー・リン!!」


    
凛「早く、開けなさいよ!早く!!」


   
労働者ズ「「「マ・キ・チャン、マ・キ・チャン、マ・キ・チャン……」」」ガッガツンガリガリ


    
真姫「ド・ンウォーリ…ド・ンウォーリ…アユ、レディ・ゴーゴー」


     
凛「大丈夫よ心配しないで…古代の呪いなんてあるワケないじゃない…薔薇には棘なんて迷信なんだから」


にこ「勝手にアテレコすんなっつーの」パシッ


凛「にゃはっ、だってタイクツなんだもーん」


花陽「私も現地の言葉は分からないけど」


花陽「厳しくしたりなだめすかしたり……何となくだけど、アメとムチを使い分けてるんだろうなってことは雰囲気で伝わってくるね」


     

希「うん、大体それで合っとるよ」
     

230 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:42:31.94 ID:Y218z4JO.net
 
にこ「そういえばあんたは言葉が分かるんだっけ――で、どーしてそんな離れた所にいんの」


   
希「ほら、一応の用心として、ね?」



にこ「はんっ、ビビリね〜だっさーい。にこの故郷じゃあんたみたいなのはチキン野郎って呼ばれて蔑まれるのよ」         


    
凛「そーにゃそーにゃ腰抜けだにゃ」


   
にこ「……なんであんたもさり気に腰が引けてんのよ」


    
凛「いやちょっくら後ろ向きに歩く練習を…」ソロソロ


花陽「同じく…」イソイソ


     
にこ「ちょ、待ちなさいよ!リーダーのにこを置いてくつもり!?」シャカシャカシャカ


花陽「いやあああ!!?」


凛「速っ!後ろ歩きで急接近してこないでよ!? 変な擬音出てるんだけど!!?」


     
真姫(騒がしいわね…)イライラ
     

231 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:44:53.14 ID:Y218z4JO.net
 
希「ねえねえ、そんなことやってる間にもうちょいで土台が開きそうよ?」


   
   ガッ…!


労働者ズ「「「マキ・チャン…!!!」」」


    
真姫「ダー・リン!!」


   

凛「あと少し…!」


花陽「頑張れぇ…」ハラハラ


    

  ガッ、ガツン!!


     
真姫「ダリ! ダー・リン!!」


     

にこ「…」ゴクリ


     

真姫「ダー・リングッ!!!」
     



  ガコンッ…!

232 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:46:30.60 ID:Y218z4JO.net
 

 ぎ ゃ あ あ ぁ あ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ ぁ あ あ あ あ


   


   

                           ひ ぃ い い い い ぃ ぃ い い い い い ィ ィ ィ …


    


 

233 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:48:54.61 ID:Y218z4JO.net
 

雪穂「!?」

   
穂乃果「今の悲鳴…」


絵里「聞いたことがある声ね…!」ガチャッ


雪穂「アリサ所長…?」


    


    ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ


   

絵里「こっちよっ!」


雪穂「っ!」ダッ


穂乃果「おっと、鍵鍵っ!」サッ
    

234 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:52:58.31 ID:Y218z4JO.net
 

絵里(迂闊だった…! 休憩の後にでも探しに行けばいいと思って――)


絵里(よくよく考えなくてもここは聖なる神殿で私たちは招かれざる侵入者だっていうのに!)


絵里(何かの罠にかかったのかしら!? それとも…)


雪穂「見つかりました!?」

絵里「いえ、でも声は確かにこっちから」


   

       ボオッ…


    
亜里沙「…」ユラ〜


   

雪穂「アリ……サ…?」


    

亜里沙「きし……きしし…」


     

穂乃果「何だか様子が変だよ…?」


     

亜里沙「…………ぅれしぃ」ボソッ


     
亜里沙「……やっと、名前で呼んでくれました」


     
亜里沙「ねッ!!!」ガツン!
   

235 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:55:49.35 ID:Y218z4JO.net
 

雪穂「ひゃっ!?」


   
亜里沙以外の誰もが固まっていた。

突然、彼女が通路の固い壁面に側頭部を力いっぱい打ちつけたのを見て。


    
亜里沙「出ていけ……アリサは悪い子……悪いの、頭の中から出ていけ……」ブツブツ


   
つつ、とこめかみを伝う赤の滴を拭おうともせず、代わりに両手で亜麻色の髪束を乱雑に掻き毟り始める。


    
亜里沙「………ぁぁぁぁぁああああああああっ!!!」ガリガリガリガリガリガリ!!!


     
その勢いは頭皮ごと引き千切ってしまいそうな鬼気迫るもので。


     
絵里「やめなさいっ!」


     
亜里沙「いあ!いあ!はすたあ!」ブンブンッ


     
 ドガッ!


   
絵里「ぐえっ!? なっ……何を」
    

236 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 01:57:46.69 ID:Y218z4JO.net
 

亜里沙「…………きひっ!」


   
身体を正面に向けたまま、脹脛より下だけを捩じったかと思えば、

見えないハンマーに横からぶん殴られたかの如く、その身体は地下通路の壁に勢いよく叩き付けられる。


    
亜里沙「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!!」


   
落下した汚い地面で痛みにのた打ち回った直後、瞬時にネックスプリングで飛蝗類を思わせる機敏さをみせて跳ね起きる。


一連の動作の異様さ――自らの意志でなく、透明な操り糸に引っ張られているかのような彼女の動きの不気味さに、

助けようと駆け寄った絵里と穂乃果の動きも止まる。
   

237 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:02:03.88 ID:Y218z4JO.net
 

亜里沙「ふーっ……ふーっ…!!」ダンダンダンダンッ


   
血まみれの髪を振り乱して、乱れた息を整えようとする上半身に反して、右足だけがその場で忙しない地団太を

四方八方支離滅裂なリズムで刻んでいる様は、奇怪なタップダンスを踊っている風にも見えた。


    
穂乃果「あ…悪魔にでもとり憑かれちゃったの…?」


   
亜里沙「つまんねー事言うなよ! アリサは入れないっていうの…? ねえ、なんでいつも仲間はずれにするの…」ダンダンダンダンダン


亜里沙「えっ? 目と肌の色が違うからって……? そんなのどーしようもないじゃん……アリサは悪くない…アリサは…」ダンダンダンダンダンダンダンダンダン


亜里沙「悪い子でした!お願いやめて!お婆さまやめてっ!アリサを……アリサの頭を中から打たないで!真面目に練習するからっ!二度と口答えもしません!」ダンダンダンダンダンダンッ!!!


     
絵里「彼女には何が見えてるというの…?」
     

238 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:03:57.15 ID:Y218z4JO.net
 

亜里沙「…きっちゃちゃ!! あぶぶぶっ!!!」ガクガクガク


絵里「いけないっ! 穂乃果、押さえるわよ!」


口角から泡を吹きだし、涙を流しながらも引き攣った笑みを浮かべるその表情の凄絶さに恐怖を覚えながらも、

それを押し殺して絵里は彼女を捕まえようと駆け寄った――このままでは舌を噛み切ってしまう。


    
亜里沙「ひゃっ………!」ダッ


   
絵里「あ……?」


    
何が起きたかを理解するのにはしばしの時間を要した。


絵里と穂乃果の眼前から亜里沙の姿が一瞬のうちに消失した――否。
     

239 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:05:52.52 ID:Y218z4JO.net
 

雪穂「二人とも、後ろッ!」


   
亜里沙「けせらせらせら!!!」ガッガッガクガク


    
すとんと音を立てて、困惑する二人の背後に彼女が着地する。


   
雪穂(い、今一瞬…)


    
少し離れた所から成り行きを見ていた雪穂の瞳はその一部始終を捉えていた。


有り得ない跳躍力をみせた亜里沙がそのまま天井に逆さにへばり付き、

今度はブリッジの姿勢をとって落下したのを。
     

240 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:07:29.82 ID:Y218z4JO.net
 

何かが、亜里沙の頭の中で、神経回路のスイッチを滅茶苦茶に弄り回して暴れていた。


   
亜里沙「おきょきょきょきょきょっ!!!!」バッバッバッバッ


    
言葉にならない奇声を反響させながら、狂ったバレエダンサーと化した彼女は全身を痙攣させ、

目にも止まらぬバク転宙倒を繰り返して通路を暴走し――


   
絵里「危な…」


    
ゴツン


と、決して派手ではなく、しかし重々しくも鈍い激突音。


先までの勢いが嘘のように、行き止まりの壁に跳ね返された亜里沙はあっさりと地面に倒れ伏して微動だにしなくなる。
     

241 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:09:37.41 ID:Y218z4JO.net
 

絵里「アリサ…!しっかり!」


   
亜里沙「アリサも……仲間に、入りたかったの…」


    
それが最後の言葉だった。


   
絵里「……」


    
耳から血を流し、それっきり喋らなくなった彼女の虚ろな両眼を、優しい手つきで閉じさせてやる。


それだけで、孤独の絶望と恐怖に歪んだ表情が、幾分か和らいだように見えた。


     
絵里「馬鹿ね……あなたはお馬鹿さんよ」


     
後方ではあまりの出来事に雪穂がぺたんと尻餅をついて項垂れ、流石の穂乃果も言葉を失って立ち尽くしている。


こうして絵里たちの初日の発掘は、一つを得て一つを失う形でその幕を下ろした――
     

242 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:11:52.12 ID:Y218z4JO.net






死者の都で迎える初めての夜。


風化という試練を辛うじて耐え抜き倒壊を免れている神殿やオベリスクの残骸が点々と残る広場の中心を我が物顔で占拠し、

盛大なキャンプファイヤーを催しているガールスカウトたちとは遠く離れた端の風下で、

コーサカ陣営は四つから三つに減ったテント場の近くに起こした慎ましやかな焚き火を囲んで身を寄せ合っていた。


 
雪穂「どうして突然おかしくなっちゃったんだろ…」


パチパチ爆ぜる火の粉の舞を見つめたまま、ぼそりと呟く。


穂乃果「食あたりかな…ナツメヤシとか変なものばかり食べてたし」


大真面目かつ真剣な口調と顔付きで姉。


絵里「或いは何かに食べられた、とかね」ガチャリ


分解整備していた象撃ちライフルの機関部に60口径の銃身をはめ込みながら、絵里。


絵里「遺体を埋葬したとき気付いたんだけど、彼女の右足に穴が空いていたの」

243 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:13:51.16 ID:Y218z4JO.net
 
穂乃果「穴って…毒蛇とかの咬み傷じゃなくて?」

絵里「私も最初はそうだと思ってたんだけど。でも穴だったの、直径二センチくらいの。かなり深い傷だったわ。一体何があったのやら」

雪穂「どっちにしろ酷い目にあったのには違いないよ。可哀想に…」

絵里「アメリカさんも今日は猛吹雪に見舞われたそうよ」

絵里「雇い人が三人、溶けたんですって。強酸のブリザードを浴びてね」

雪穂「とけた……って、えぇっ!?」

絵里「アヌビスの股下を無理やりこじ開けようとしたら、割れ目からブシュッと。骨も残らなかったそうよ。古代の覗き対策ね」

雪穂「初日なのに四人も…」


穂乃果「…やっぱり呪われてるのかなぁ」ボソッ


   
   ビ ュ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ……

    

244 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:15:32.15 ID:Y218z4JO.net
 


雪穂「……」


穂乃果「……」


絵里「……」


   
雪穂「ちょっと二人とも! たまたまタイミングよく突風が吹いたからって黙りこくらないでよ」

絵里「……あなたはそーいうの、全然恐れてないんだったっけ?」ブルッ

雪穂「最初から信じてないもん。目に見えて触れて、科学的に立証できるものしか信じないって決めたの」


穂乃果「雪穂がこうなったのにはワケがあるんだ。もし機会があれば本人の口から聞いてみなよ」

雪穂「ちょっとお姉ちゃん、余計なこと言わないでいいから!」

絵里「事情はよく分からないけど、エリーチカは武器を信じてるわ。目に見えるものなら、これで何とかなるはず」


穂乃果「…さてと、所長は何を信じてたのか見てみよっか」ガサゴソ
   

245 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:17:32.58 ID:Y218z4JO.net
 
雪穂「…それアリサ所長のポーチでしょ」

穂乃果「うん、そーだけど?」


雪穂「」ワナワナワナ


穂乃果「あ、あれ…? 私また何か雪穂を怒らせるようなこと」


雪穂「十二分にしたよっ! どーしてそんな恥知らずなマネを…! よくもヘーキな顔してこんなこと出来るね? 死者の尊厳とか考えたことないの!?」


穂乃果「お、王様の墓に土足で踏み入ってる穂乃果たちが尊厳とかボートクとか言えた立場じゃないんじゃないかな…」

雪穂「それでも…!さっきまで生きていた人のをさ!信じらんないっ」

穂乃果「やっぱ怒るよね…」

雪穂「当り前でしょ?」


穂乃果「所長…アリサちゃん、短い間だったけど一緒に旅した仲間だもんね」
   

246 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:21:11.32 ID:Y218z4JO.net
 
雪穂「第一印象はお世辞にもいいとは言えなかったよ?」

雪穂「でもさ、一緒にいるうち結構お茶目なとこもあるんだなって思えてきて」


絵里「……」


雪穂「絢瀬さんを処刑しかけたりお金にがめつかったり、善人とは言い難い人だったけど」


雪穂「でも、あんな死に方をしなきゃいけないような悪い子でもなかったと思うの…」ジワッ


穂乃果「まあね。アリサちゃんでこれなら穂乃果なんて…」


絵里「でも、それが冒険の代償というやつよ」


絵里「大衆向けのダイム・ノベルやサイレント活劇みたく誰一人欠けずハッピーエンドとはいかないの。船に乗る前に言ったはずでしょう」


   
雪穂「…はい」グスッ

247 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:22:14.95 ID:Y218z4JO.net
 
雪穂(まさか、こんなことで今一度覚悟を促されるなんて、思ってもみなかった…)


絵里(優しい子ね。他人のために涙を流せるのは簡単なようでやり方を忘れてる人が意外と多い)


絵里(私は…どうなのかしらね)


   
穂乃果「それにしても、人生ってのは皮肉の連続で出来てると思う時があるよ」


穂乃果「私たちと来なきゃアリサちゃんは安全な場所で分け前を手に入れられたけど、ただのヤなやつで終わってたわけだし」


穂乃果「けど一緒に冒険したからこそ、あの子の違う面も知ることが出来て」


穂乃果「もうちょいで帰ってからも友達になれそうだったんだけどな…」

248 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:23:03.12 ID:Y218z4JO.net
 
雪穂「きっと、この国やそれ以外の場所で、古代から復活や輪廻の思想が尊ばれた根本には、残された人たちの死者への想いがあったからだよね」


雪穂「生きてる時よりも、死んでからの方がその人のことを考える時間が長くなる……今の私たちみたいに」


絵里「……それが、その人にとって真に幸福なことかどうかは一考の余地があるんじゃないかしら。でも、忘れ去られてしまうよりはいいと思う」


絵里「昼間の話で言ってたわよね。名前を忘れ去られることは、その存在すら無かったことにされるって」


絵里「彼女は身寄りがいないような口振りだったし。私たち三人だけは、彼女のことを憶えていてあげましょう」


雪穂「うん…」


穂乃果「あとでアリサちゃんに乾杯しよっか。その前にこっちの中身を確信してからだけど」ゴソゴソ

249 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:24:01.32 ID:Y218z4JO.net
 
雪穂「…で、結局そこに行きつくわけだ」


穂乃果「土の中の微生物にくれてやるよりは、穂乃果たちに貰われた方がアリサちゃんも喜ぶよきっと」


雪穂「口八丁なんだから…」


穂乃果「これやけに重いんだよね。中に岩の塊でも入ってるような」ガサッ…


絵里「気をつけなさいよ。何が潜んでるか分かったもんじゃないわ」


穂乃果「心配ないって、まさかこんな所にも古代の罠が仕掛けられてるなんてことは―――ぁ痛ッ!!?」
   

250 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:27:48.47 ID:Y218z4JO.net
 
雪穂「…大丈夫? でっかい声あげて」


穂乃果「いったー指切った…」


絵里「何が入ってたのよ?」


穂乃果「…酒瓶だ」


穂乃果「口の方が欠けてたんだね。よし、どれどれラベルを拝見」


穂乃果「……グレンリベットの12年」


穂乃果「へえ〜ロシア人ってのはウォッカしか飲まないイメージだったけど、案外いい趣味してるじゃん」


穂乃果「また一つ見直したよっ…んぐ」ゴクゴク


穂乃果「っあ゛〜〜サイコー」プハーッ


                                                         ィ ィ ン
絵里「―――!」                                 
   

251 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:29:57.92 ID:Y218z4JO.net
 
絵里「ちょっとこれ持ってなさい」ズイッ

雪穂「へ…? わわ、重っ」ヨロッ


突如、弾かれた様に立ち上がった絵里に象撃ちライフルを押し付けられ、困惑の表情を見せる雪穂の鼻面に、

「二人ともここにいなさい」と念を押し、武器の入ったズック袋を引っ掴むと、アメリカ人の領土の方へ脱兎の如く駆け出していく。


   
雪穂「待って! どうしたんですか急に? ちゃんと説明してよ!」ダッ


穂乃果「あー雪穂ダメだよーきっとお花摘みに行ったんだって、絵里ちゃんに恥かかせる気?…ヒック」


    
穂乃果「……しょーがないなぁ私も行くよ。待って二人とも〜」


   
穂乃果もまた、ウィスキーの大瓶を抱えたまま言うことを聞かない妹の後を渋々追いかける。


その手から放られた亡き所長のポーチがどさりと音を立てて落下し、

開いた口から大量の砂が零れ出て地面のそれと混ざり合ったことに、誰も気付かなかった。
    

252 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:32:17.62 ID:Y218z4JO.net
 
それは百点満点の完璧な奇襲だったと言える。


広大なハムナプトラの敷地の外れで一人、いそいそとお花摘みに勤しんでいたにこは、

闇夜の静寂の中に突如として上がった複数の鬨の雄叫びと馬蹄の音が、矢庭に三十以上の明かりを伴って

自身目掛け急接近して来たことに大小便を漏らす勢いで飛び上がったが、生憎出すものは残っていなかった。


   
にこ「ぬわっぬわによぉぉぉアレ、いつの間に…!」


震天動地、砂の上を転げ回り、慌てて花摘みを終えたばかりの尻に帆をかけて逃走する。


半ばパニックに陥りながら、それでも両足を馬力全開で動かし、同時にズボンを上げようとするも上手くいかず、

不格好な姿勢では思うように速度が出ない。


と前方に、何故か日傘を差しながら走り難そうなお嬢様フォームでよたよた駆ける影が一つ。


    
にこ「真姫!?」


真姫「う゛ぇ? その声にこちゃん?」

253 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:33:58.74 ID:Y218z4JO.net
 
真姫「何やってるのよこんな所で!?」

にこ「それはこっちの台詞にこ! どうして皆の所にいないのっ!?」


真姫「そ、それは……ちょっと高嶺の御花(フラワー)摘みに行ってたから」ボソボソ

にこ「はぁ?お花摘みぃ?嘘おっしゃい、こんな不毛の土地に花も糞もないわよっ!大方用便の最中だったんじゃないの?下手な嘘ついてもバッレバレなんだから!」


真姫「バ…あなたねぇ! 私は正直に答えてるわよっこの学無し能無しデリカシーレス! そーいうにこちゃんの方こそっ」

にこ「はっ…ち、違うつーの! ほら、えっと、アレよ。今日は星がよく見えるから、にこは夜空を眺めてたの。カウガールの嗜みにこ」


真姫「下半身丸出しで? 嘘つけええ!!」

にこ「本当だってっ! カウガールはうんちなんてしないんだからあああ!!!」


底冷えする砂漠の寒空の下、延々生産性のないやり取りを続けている間にも、

後ろからは襲撃者たちが一斉に迫り来る濁流のような轟きが、逃げ惑う二人を今にも飲み込まんとしていた。
   

254 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:37:06.75 ID:Y218z4JO.net
 
真姫「そう言えばあなたちゃんとお尻は拭いてきたの?……やだ、ちょっと近付かないで!」

にこ「あによその顔は!にこのプリチーヒップを汚いものを見るような目でぇ! いいわ、明るくなったら嫌というほど見せつけて」


   
 「「「「ア・ラララララララララララララ!!!!!!!!!!」」」」


    
にこ「!」

真姫「ダメ、このままじゃ追いつかれて…殺される――!!」


にこ「ッ―――!!!」


真姫の視界から、隣で揺れていたツインテールが俄かに消失した。


振り返れば、鉄砲水よろしく押し寄せる騎馬の軍勢を前に(暗くてよく見えなかったが)自慢のヒップをこちらに向け仁王立ちするにこの背中が。


その両手には鈍い輝きを放つ愛用のリボルバー拳銃がすでに抜き出されていた。
   

255 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:39:15.14 ID:Y218z4JO.net
 


真姫「にこちゃん!?」


にこ「立ち止まらないで! あんたはそのままキャンプに戻って花陽たちに守ってもらいなさい!私がここで時間を稼ぐから!」


真姫「そっ」


にこ「ウダウダ口動かす前に足動かす!あんた何のためににこたちを雇ったの? それに雇い主に死なれるとこっちも困るのよ、給料未払いなんて許さないんだからね!?」


   
真姫「っ…絶対戻って来るのよ!」ダッ


    

にこ「はんっ、言われなくてもすぐ戻るっつーのマジで死にたくないし。金と命を天秤にかけた上でのギリギリの判断よ」


   

にこ(て、誰に言い訳してるんだか。精々三十秒弱…二十五秒ってとこかしらね)


   

――そして、彼女の人生で最も長い二十五秒間が始まった。
     

256 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 02:39:54.49 ID:Y218z4JO.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                              


 
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257 :名無しで叶える物語(ほうとう)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 04:44:46.98 ID:Abs45U+Y.net
規制解除されてたか
よかったよかった

258 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 09:35:17.56 ID:ZbuN8Nfq.net
ほしえん

259 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 11:56:19.18 ID:GBo9ekLE.net
中の人ネタとかの小技が細かいな
ホ・シュ

260 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 22:07:12.96 ID:W4Jv9gP1.net
保守

261 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:11:17.52 ID:Y218z4JO.net
 

にこ(この状況で出来ることなんて限られてる)


松明を掲げた二名を先頭に突撃してくる正体不明の襲撃者たちを目先に悠長に思考している暇などなく、

脳内を駆け巡るのはこれまでの経験則を元にした反射に近い。


にこ(敵の数――少なくとも三ダース以上。明かりを持っていない奴の姿も見えたから、ざっとその倍はいるかも)


にこ(目的はあくまでいくらかの時間稼ぎだから、最初の数人を返り討ちにして奇襲の出鼻を挫いてやれば上出来)


にこ(両手の45口径リボルバーの装弾数は六発ずつ)


にこ(予備の弾薬は特注のフルムーンクリップで一まとめにしてあるから再装填には二秒とかからないけど、相手がそんな猶予を与えてくれるはずもない)


にこ(十二発で二十五秒――)


加えて、典型的なアメリカ人らしく彼女は45口径弾のストッピングパワーを信奉していたが、かと言って妄信もしていなかった。


45口径は確かに強力だ――が、戦闘時に於ける人体が時に驚くべき頑強さを発揮するところを幾度も見てきた。


胸や顔に数発撃ちこまれようと、向かって来るときは向かって来るのが人という生き物。


頭が半壊しているやつに撃ち返されたことだってある。故に最低でも一人頭三、四発はぶち込んでやらないと安心できない、それが実戦でのセオリー。


そうなると圧倒的に弾数が足りない――百万発くらい入る弾倉を持ったリボルバーが欲しいニコ。
   

262 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:11:58.18 ID:Y218z4JO.net
 
ならば人でなく馬の方はどうか。


数百年前、鉄砲が登場したばかりの頃は、その発射音だけで馬は平静を失い騎馬隊はその威力を削がれたというが、

自らも小銃で武装した現代の騎兵にそんなことを期待するのはナンセンス極まりない。


では実際に何頭か痛い目に遭わせて(相手は綺麗な二列縦隊だ)後続に恐怖を与え、足を止めさせる――そんなに都合良くいくか?


にこ「くっ…!」


銃を構えた両腕を振り上げながら、それでも悪足掻きの思考は止めない。

こうなったら得意のハッタリ、出まかせの話術で翻弄して――にこには二百五十人の手下がいるニコ!――無理。

酒場や賭場でならともかく、ここは既に戦場。軽口は叩いても敵とコミュニケーションを取ろうとする輩などまずいない。

そもそも話を聞いてくれるようなら戦闘に発展してないし。


にこ(なら得意の死んだフリ――それじゃ時間稼ぎにならない! 地形を利用しようにもこんな開けた場所じゃ隠れることすら覚束ないし!)


なれば残されしは奥の奥の手、ヤザワ家に代々伝わりし秘伝の最終奥義を――それも今からでは遅すぎるか。


ここに至るまで凡そ二秒半、遂に拳銃の射程圏内に踏み込んで来た騎馬戦士の正体が、

船で自分たちを襲撃した黒装束、その同胞だと視認出来た時点で、彼女は腹を決めた。

263 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:12:56.50 ID:Y218z4JO.net
 

にこ(結論――普段通り、馬鹿みたいに撃つ!)


細かいことごちゃごちゃ考えるのは止めた。

実際、考えてもこれ以外に思い付かないのだから仕方がない。


まずは右の騎馬の前足に二発。


   
  ≪ブモオオオアアアア!!!!≫


バランサーを粉砕され、己の運動エネルギーを制御仕切れなくなったそいつは勢い余ってつんのめり、

ほとんど半回転しながら騎手ごと派手に地面に叩きつけられる。

左も同じように乗り手ではなくその足を狙い――こちらは一撃で崩れ落ちてくれた。

264 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:13:53.71 ID:Y218z4JO.net
   
にこ(そのまま仲良くクラッシュしなさい――!?)


後続がもがく二匹に躓いて大規模な玉突き事故を起こすことを狙ったものだが、すぐに想定が甘かったことを思い知らされる。


 
  ≪フンッ…!!≫       ≪イイイイン!≫


左の二番手は突如現出したハードルを軽々飛び越え、右の方も苦も無く脇に舵を切り、障害物を回避。

先方が撃破されることなど、最初から想定内だと言わんばかりの身のこなしで。

265 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:14:38.93 ID:Y218z4JO.net
 
にこ「ちっ…!」BANG!BANG!BANG!BANG!


間髪入れず左右の騎手に二発ずつ撃ち込んで鞍から叩き落とす。

後から起き上がって来るかもしれないが、今はとにかく一時的にでも数が減ってくれれば――


「アイエッ!」と短い悲鳴が上がる。勢いよく砂の上を転がる黒装束を、すぐ後ろにいた仲間の騎馬が踏み潰した。
   

266 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:15:02.99 ID:Y218z4JO.net
   
にこ(あ、これ無理かも――)


発砲を続けながらも、頭の片隅には諦観という名の死神が。

こちらの射撃の精細さを見せつけた後も、やつらの進撃は止まらない。

馬も騎手も、自らの死というものを微塵も恐れていないのだ。

十名ほど犠牲になるかもしれないが、それもやむなし――これが自分たちの先祖を苦しめた蛮族特有の思考なのか。

267 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:16:40.37 ID:Y218z4JO.net
 
――BLAM!


にこ「ぐッ!!!」


熱いものが腕を掠め、意思とは関係なく上体が揺らぐ。

そのまま両膝をついたにこの脇をすり抜けて、騎馬の一頭が野営地の方へ。


にこ「いかせないわよッ」


そちらを見ようともせず、捻った両腕をクロスさせ前後同時に照準した二挺を撃発。

後方から上がった呻き声と落馬の音が盲撃ちの成果を教えてくれるも、

無理な姿勢での射撃の代償として、負傷した腕に激痛が。

268 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:17:33.48 ID:Y218z4JO.net
 
にこ「くぅ…ッ!!」


思わず利き手の銃を取り落とす。


傷口を庇い胎児のようにうずくまった自分の周りを、砂埃を巻き上げ騎兵が次々駆け抜けていく。


苦痛を堪え半分砂に塗れた顔を上げれば、丁度目前に迫った騎馬戦士が地に這い蹲った手負いの獲物に止めを刺さんと蛮声を上げ。


その手に握られた曲刀の刃先が半月弧を描きながら振り下ろされる軌道がゆっくりと、実にスローモーに彼女の目に映り。


   
にこ(えっ、これってまさか)


それに相反して、これまでの人生劇場がパラパラ漫画をめくるかの如くダイジェスト形式で脳内上演を始めていた。


にこ(文字通りの、走馬刀ってやつ? ――なんちゃって言ってる場合じゃないのに!)

269 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:18:42.87 ID:Y218z4JO.net
 
この黒暗でも妖しく煌めく片刃刀が自分を真っ二つにするまであと二尺半ほど。

不思議なことに、後悔する時間はたっぷりとあった。


にこ(ぬわんであんな大口叩いちゃったかな)


結果を見れば十秒もたなかった。

トロいお嬢様が無事仲間たちの下へ辿り着けたかどうかは神のみぞ知る。自分はこれから死ぬ。


にこ(よくよく考える前に手と口が出ちゃうの、まあ生まれながらの性分だから仕方ないわよね)


しかし――下半身を出しっ放しで打ち果てるのだけは無念ニコ。欲を言うならズボンを上げる時間が欲しかった。

270 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:19:39.39 ID:Y218z4JO.net
 
にこ(さっきは思わず汚い誤魔化しに使っちゃったけど、砂漠ってのは本当に夜空がキレイなのね…)


透き通るような天空のキャンパスに所狭しと浮かぶ無数の星々はあまりに光の密度が高すぎてこちらの目が眩む。


空は鏡面で、この砂の大地に眠っている宝物の在りかを反射しているのではないかとすら思える。


既にこの世のものとは思えぬ光景は距離感覚を狂わせ、手を伸ばせばすぐにもその発光体に届きそうな錯覚を引き起こした。


   
にこ(ん…?)
    

271 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:20:28.73 ID:Y218z4JO.net
 
にこ(錯覚、じゃない!?)


今際の際の幻覚でもない――にこの目と鼻のすぐ上を、銀色の流星群が緩やかに、

しかし迫り来る曲刀の刃先よりも先んじて死の間合いを切り裂きながら前進し、遂にはその使い手の胴にずぶずぶと沈み込んでいく。


   
 「グワッ…!!???」


鮮やかな紅花を満身に開花させながら、にこの目線の高さまで転落してきた赤装束がその目だけで驚愕を訴えていた。

そいつが地面に触れるより一拍早く轟いてきた号砲が、全ての感覚を正常に引き戻す。

272 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:21:32.41 ID:Y218z4JO.net
 

 DOOM!!! DOOM!!!

   
至近距離で大砲弾が炸裂したのかと思える爆音が、さらに二名の断末魔を掻き消した。


レバーアクションで排莢された空のショットシェルが朱を散らして宙を舞い、鮮烈な発火炎の向こうからもう一人の鉄砲玉、

こちらも考えなしに飛び出してきた金髪クォーターの姿が浮かび上がる。


絵里「立って!ズボンを履くぐらいの時間なら稼いであげる」DOOOM!!!
    

273 :※クォーター=25セント(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:22:50.23 ID:Y218z4JO.net
 
にこ「ちっ、変なのが来たわ…」

絵里「酷い言い草。折角クォーター仲間として助けてあげたのに」DOOM!!DOOM!!

にこ「………は?」


にこ「――てぇ!そういうことかっ! 言っとくけどにこの名前はそんな安っぽい由来じゃないわよ!? 訂正なさいッ!」

絵里「それだけ噛みつく元気があるなら十分ね。走るわよ、来て!」


にこ「ケツにキスしろエリーチカ! いい?この名前はねぇ、うちのパパとママが初デートで訪れた見世物小屋で」

絵里「その続きは私の尻を追っかけながらよ。れっつランナウェイ」

274 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:25:01.16 ID:Y218z4JO.net






真姫「凛、花陽! 起きてぇ! 敵襲よ敵襲ッ!! イチャイチャ終わり、パンツ上げ、お尻をまくって戦闘準備!!!」


 
花陽「ふわぁ…どうしたのぉこんな夜更けに」


   
真姫「まだ九時よおばあちゃん!」


   
花陽「んん…?」スチャッ


   
ようやくピントの合い始めた視界と頭が、慌てふためく雇い主の真後ろに恐ろしいものを見て取った。

275 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:26:44.24 ID:Y218z4JO.net
 
黒装束A「ア・ラララララ!!!」  

黒装束B「キエエエエエ!!!」  

黒装束C「ウー、ラー!!!」
 

   
真姫「ゼェハァ、ぅ゛え…!!!」


   
花陽「真姫ちゃんその人たちは…!!?」


   
真姫「少なくとも友達じゃないの、見てわからない!? お願いだから何とかしてぇ!」


   

 「りょーかい!」
     

276 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:29:36.49 ID:Y218z4JO.net
 

――BBBANG!!!


小銃のものにしては慎ましく、しかし拳銃のものにしては姦しすぎる撃発音が死者の都に響き渡る。


   
花陽「この音、スリーバーストショット…」


    
真姫「う゛ぇ…?」         ドサッ…   ドサドサッ!!


   

銃声一発。真姫の真後ろで黒装束の三人ともが糸の切れた操り人形の如く馬上から滑り落ちたことで、

隠れていたその後景、月の光を背に神殿の屋根に佇むガンスリンガーのシルエットが大写しとなる。


    

凛「女三人寄ればかまめし…だっけ?」シュウウウウ


     

花陽「ほわぁぁぁ…決め台詞以外全て完璧。美味しすぎだよ凛ちゃん…!」

277 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:31:34.19 ID:Y218z4JO.net
 
真姫「凛…? 今あなた一発で三人を……というか何でそんな高い所に?」


   
凛「星を数えてたんだ! 少しでも近くの方がやりやすいと思って!」


    
真姫「……あー、あなたが言うと説得力あるわ、それ」


真姫「というか、それならこいつらの接近にも気付けたんじゃなくて?」


   
凛「全然ー! とにかくカウントに夢中だったの! あ、今から敵の数カウントしよーか?」


    
真姫「カウント伯爵かおのれは……まあいいわ。とにかくそこから降りて、それからにこちゃんを」


――BLAM! BLAM!


黒装束D「アソコ、イタ!」  

黒装束E「ウテッ!」 

黒装束F「ッ!」BLAM!BLAM!

278 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:33:19.48 ID:Y218z4JO.net
 
凛「わっ、とっと」


四足獣めいたバネ仕掛けの鋭い飛び退きを見せた凛の周囲で跳弾の火花が踊る。

新たに出現した三人の騎兵は横並びになって、まずは高所に陣取った狙撃手を片付けようと彼女に狙いを定めた。


凛「ひぃ、ふう、みい、丁度三人」


凛(よーしさらに磨きをかけた凛の得意技、見せてあげるっ)


しかし専らコルトS.A.A.ピースメーカーを用いた早撃ちを頼みとする凛は、逆に標的との距離を詰めに掛かる。


真姫「えっ…!?」

279 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:34:12.58 ID:Y218z4JO.net
 

凛「とりゃあーー!!」ガツッ


躊躇など微塵もない、屋根の縁に蝙蝠の如く逆さまにぶら下がったかと思えば、

間髪入れず足場を蹴って斜め前方に跳躍――その勢いを利用して宙で体勢を捻りつつ落下しながら、

腰だめに保持した愛銃は標的を正確に捕捉し続けていた。


――BBBANG!!!



                    BLAM!BLAM!BLAM!―――
   

280 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:34:51.42 ID:Y218z4JO.net
 
猫を思わせるしなやかさで、凛が鮮やかな着地を決めるのと同時に、

黒装束の射手たちも頭から無様に着地、一人残らずぴくりとも動かなくなる。


凛「二人とも〜ケガしてない?」


花陽「カンドーしましたっ!一度も撃ち漏らさずに六人を倒したのは花陽の知る限り初めてです…!」


真姫「驚いたわ凛、あなたひょっとして魔法使いの末裔か何か?」


凛「あ、えっと、あれはね」


花陽「今のは魔法でも奇術でもなくれっきとしたテェクニックなんです!」

281 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:36:02.39 ID:Y218z4JO.net
 
花陽「バーストショットといって、凛ちゃんの柔軟かつ素早い手捌きはコンマ数秒で撃鉄を都度二回コックし、初弾と合わせて瞬間的な三点射を可能にするんです」

花陽「あまりに速すぎて銃声が重なるから一発にしか聞こえないの。ここまでは練習を積めば出来ないこともないけど、反動を制御して狙い通りの場所に当てるとなるともう至難の業」

花陽「さっきの凛ちゃんは照準のブレを極限まで抑えて、瞬時に同じ弾道に三発の弾を送り出したんです。するとどうなるか」


真姫「……まさか、私の後ろにいた三人が同時に倒れたのって」


花陽「イグザクトリィ! 一直線に並んだ三人の心臓に弾丸列車のトンネルがまとめて開通したのです!」

花陽「これぞ早撃ちに向いた設計のピーメと凛ちゃんの天性の才覚が合わさってこそ可能な達人中の達人技!! 名付けてだんがん3兄弟!!!」

花陽「こんな凄い凛ちゃんは私の自慢で誇りの大親友なんです!! もう一生ついていきますからっ!!!」


凛「えへへ、かよちんには何度褒められても嬉しいな。でも勢い余って変な技名付けるられるのはちょっとフクザツにゃ」


真姫「フーン、スゴイノネー」


真姫「……もし弾が三人目も貫通してたら私に当たってたってことよね、それ」


凛「さっすが真姫ちゃん、頭良いから興味ないことでも呑み込み早いね」

282 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:37:57.44 ID:Y218z4JO.net
 
花陽「さ・ら・に! 凛ちゃんの真価はこれで終わりじゃありません」

花陽「ついさっきの横っ飛び撃ちを見ましたか? 私は凛ちゃんの背中に羽が見えました」

花陽「そう、縦ではなく横並びの三人をなぎ倒したミラクルショット!」

花陽「あれも基本はバーストの応用ですが、静止していない分難易度は数倍に跳ね上がって」

凛「凛はこっちのかよちんも大好きだけど、そろそろ平常運転に戻ってほしいかな」


   
 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


   
真姫「この地鳴り…やつらが来るわ」

凛「ちょっとマズいかも…ここにいるのはほとんど丸腰の人たちなのに。向こうの数も多すぎるよ」


 黒装束D「ウウッ…」   黒装束F「カハッ…!」


真姫「しかもさっき倒した奴まで起き上がろうとしてるじゃない! 大人しく死んでないさいよもーっ」

凛「うーん、やっぱりワンショットワンキルはムズかしいなあ。もっと精進しなきゃ」

真姫「花陽、あなたもさっさと武器の用意を…!」


花陽「うぅ、分ってます……あれ? あれぇ?」ガサゴソ

花陽「私のコルトが一挺ない…」

283 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:39:06.76 ID:Y218z4JO.net
 
――BANG!   


黒装束G「アラァァイ!!?」


穂乃果「うおっ、痺れる〜」ジンジン


強烈な反動で思わず手の内からすっぽ抜けそうになったコルトの銃把を握り直す。

まるで今すぐ主人の下へ帰りたいとでも言わんばかりだ。


穂乃果(おっきいのを使えって絵里ちゃんの言いつけだし、今回は大目に見て花陽ちゃん…!)


彼女のこともキチンと考え拝借したのは一挺だけ、それに片手は既に先約で埋まっているし。


穂乃果「クセがないからついつい飲んじゃうなぁこれ……ん゛、今日もお酒がうまいっ」グビッ


穂乃果「……それにしてもなんだかエラいことになってるような」


酒瓶片手にほろ酔い気分で廃墟の影に身を潜める穂乃果には、

次第に凄惨な戦場へと変貌しつつある野営地の様子をつぶさに観察する余裕があった。


穂乃果「ヒック…こんな時に雪穂はどこ行っちゃったんだー?」

284 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:41:24.40 ID:Y218z4JO.net
 
黒装束H「裏切り者は片端から斬り捨てろ!テントは燃やせ!!」BLAM!BLAM!

黒装束I「キエエェェエッ!!!!」SLASH!

労働者「マキチャ…!」ブシュウウウ


   
真姫「ああ、カンジャたちが…!」

凛「かんじゃ? あの人たちは病気なの?」

花陽「この国の言葉で、人夫とか作業員って意味だよ」

凛「それよりかよちん、凛の予備を貸したげる」

凛「レインメーカーとライトニング、サンダラーにD.A.フロンティア、どれにする? やっぱり一番大きいやつ?」

花陽「全部のせで! 今は何挺あっても足りないよ…!」

285 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:42:38.26 ID:Y218z4JO.net
 
野営地のあちこちでパチパチとオレンジ色の閃光が瞬き、それに合わせて誰かの生命も火の粉となって弾け飛ぶ。


焼き討ちにされたテントから転がるように這い出し、憐れに逃げ惑うカンジャたちの背中を、

黒装束は馬上から容赦なく斬り付けライフルで狙い撃った。


罵声、銃声、悲鳴、刃が肉を裂き、何かが燃焼する音に、猛り狂うペイルホースが唄う死のコーラス。


サーカスとクリスマスとアポカリプスがいっぺんに来たような大混乱のるつぼの中には、

重い象撃ち銃を抱えてふらつきながら右往左往する雪穂の姿もあった。


   
雪穂(ヤバいよ…どこにも絢瀬さんの姿は見えないし、これじゃ戻るに戻れない。私、どうしたら)


黒装束J「ウ、ララララララララ!!!!」


途方に暮れる彼女の背中に、まるでデスサイズのような見た目のシックル・ソードを振りかざしながら

雄叫ぶ死の御使いが迫る――!
    

286 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:46:04.92 ID:Y218z4JO.net
 

絵里「さてと」チャキッ


弾の尽きたショットガンを背負い、イマイチ使い心地の悪いユーズド品のリボルバー二挺に持ち替える。

敵の本隊は既にキャンプへの襲撃を開始したようだ。

最後尾にいた四頭だけが、標的を絵里たちに変えて追撃の銃弾を撃ち込んでくる。


 BLAM! BLAM! BLAM!


にこ「わわっ、ちょっとアレ何とかしなさいよ!」


絵里(向こうはライフル、このままじゃ分が悪いわね)


絵里(腕をケガしてるこの子は戦力としては期待できない。ここは自分一人で何とかしないと…)


絵里「仕切りの影へ!」


進行方向右手側にそびえる石壁の崩壊した裂け目を飛び越え二人はその内へ。

即席の遮蔽物を横目に、野営地を目指して脇目も降らずひた走る。

287 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:54:50.21 ID:Y218z4JO.net
 
にこ(後を追ってこない?)


追撃者たちは壁の裂け目から飛び込んでくることはなく――しかし蹄の音はやかましく轟いている。


にこ(壁の向こうで並走してるんだ。撃ってこないのはどうせ当たらないと思ってるから?)


にこ(あっ)


にこ「絵里! やつら一足先にゴール地点で待ち構える腹よ!!」


絵里「えっ、何?」BANG!BANG!BANG!BANG!


にこ「だーかーらー!先回りされるって!」


絵里「よく聞こえないッ!!」BANG!BANG!BANG!BANG!

288 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:55:44.39 ID:Y218z4JO.net
 
ありったけの銃弾を十時方向の壁に叩き込んだ後、澄まし顔で絵里は答える。


絵里「ここの壁って見た目より脆くなってるの」


その言葉通り、銃撃の貫通地点は悉く崩れ去って新たな破れ目となり彼女たちを出迎えた。

予想以上に頼りなかった遮蔽物が途切れるとそこには、主を失い所在なさげに後ろ足で地面をかく四頭のアラブ馬が。


にこ(壁越しに全員撃ち落としたのか…馬に乗って移動してるやつらの位置を先読みして?)


にこ「…いい腕ね、アンタ」


絵里「武器(アームズ)の性能がいいだけよ。私自身はあなたと同じくらいかな」


にこ「なら十分よ、自慢していいわ。謙遜はあんたら日本人の悪癖よ」


絵里「そこまでハッキリ言い切られると反論する気も失せるわね」

289 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/02(金) 23:58:59.82 ID:Y218z4JO.net
 

凛「キリがないねっ」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!

花陽「こっちは弾幕を切らしちゃ駄目です!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!

真姫「どうするのよ…これじゃにこちゃんを助けにいくどころか、ここから動くことすら」


 DOOM!! DOOM!!


絵里「探し物はこちらでいいかしら?」 

にこ「にごぉ…ショットガンの銃口に吊るすのはヤメロ」プラーン


凛「にこちゃん!」

花陽「大変、右腕から血が…!」


にこ「っ、カスリ傷よ…! 私も戦うわ」

絵里「三人とも聞いて。私にいい考えが」


    
――ZDOOOOOOOOOOOOOOOMMMMMMMMMMM!!!!!
   

290 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:00:34.57 ID:7R/HaOL8.net
 
この騒乱の中、誰かが発射した野砲の轟音が先の言葉を掻き消した。


真姫「な、なん――」


誰もが一瞬呆気にとられて、耳鳴りのする頭を振りながら爆音と衝撃波の出所に目を凝らす。

見る前からそれが象殺しの炸裂音だと分かっていたのは絵里だけだった。


   
黒装束J「ホア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーッ!!!」


雪穂「うわあああああああああああああ!!!??」


    
そのまま信仰する神の御許まで飛んでいけそうな勢いで、

黒装束の身体が藁くずのように宙を高く高く舞っていた。


腰だめにライフルを構えた姿勢のまま同じ勢いで後方に吹っ飛ばされ、

ごろごろ地面を転がる射手の姿が両者の受けた衝撃と反動の凄まじさを雄弁に物語っている。


破滅的な60口径ニトロエクスプラスの暴君は、樽ほどある騎馬の胴を真っ二つにしたばかりか、

その乗り手すらも余勢だけで絶命せしめ何処へ突き抜けていった。


後にはその食い残し、ヘモグロビンの赤を帯びた雨と臓物性降下物が

びちゃびちゃマナーの悪い音を散らかして聖地の砂を汚していく。

291 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:01:48.85 ID:7R/HaOL8.net
 

絵里「あの子ったら、お転婆にも程があるわよ…」


にこ「随分と嬉しそうね?」

絵里「んなわけないでしょ。これでまた面倒事が増えたのに」

絵里「私は一度向こうに行ってくる。あなた達はここで戦って。バラバラになると各個撃破されるわよ」


   
にこ「いや、それならアンタはどうなる――おいっ、無視して行くなぁ!」

花陽「どうするの…?」

にこ「……言われた通りにするのは癪だけど、でも他に手もないし」


にこ「とりあえず真姫を三人で囲んで、ここが私たちのアラモ砦よ!」

凛「それだと全滅にゃ」

292 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:03:47.86 ID:7R/HaOL8.net
 
希「うわぁ…人が空飛んでる」


希(こうしちゃおれんね。こっちにもいつ流れ弾が飛んでくるか分かったもんじゃないし)


希(前に逃げ込んだ神殿の隠し扉、確かこの辺だったはずなんだけど……記憶違い? あの時は昼間だったしなぁ)


絵里「ハイ希、あなたも探し物?」


希「やあエリち、何を隠そうキミを探してたのだ」


絵里「あらホント♪」


希「騎兵さんたちが突っ込んでくるのが見えたのを知らせようと思ったんだけど、中々見つからなくて」


絵里「世話をかけるわね。お互い色々あったけど、あなたはまだ私のこと友達と思ってくれてるの?」


希「モチのロンよ。生まれる前からの大親友でしょ? そういう運命なんよ、ウチらは」


絵里「ありがとう希……こんな時に何だけど、仲直りの握手してくれる?」


希「ん? いいけど…」ガシッ


絵里「よし。友情が復活したところで、一緒に私たちのお友達を助けに行きましょう」


希「あーやっぱそうなりますよねー」ズルズル

293 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:08:05.63 ID:7R/HaOL8.net
 
希「ねえ、エリち」


絵里「何かしら」


希「これは前から薄々思ってたことなんだけど」


希「エリちはどんなに勝ち目が薄くてもギリギリまで身体を張って戦おうとするよね、今みたいに」

希「よく臆病とか卑怯って呼ばれるウチだけど、逆にエリちのは度を超してる気もするんよ」


希「これまで二人で戦場を色々回って、この人は他人を助けるために自分が死にそな目に遭うのも厭わない」

希「どうして無謀な賭けを勝ちにいけるんだろって、どんなスピリチュアルよりずっと不思議だったの」


希「今回もあの子たちの、仲間のためって言い張るのは簡単よ」

希「でも時々、エリちは戦いそのものが好きなんじゃないかって思える時もあって…」

294 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:13:08.28 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「……」

希「ゴメン、なんか一方的に勝手なことズケズケと。ウチらしくないね」

絵里「いえ、むしろハッとさせられたわ。自分じゃそんなこと、考えたこともなかったけど」


絵里「……多分、その両方ともなんでしょうね」

絵里「私は仲間と一緒に戦って、冒険して、困難を乗り越えて」

絵里「昔からそういうのが好きなのよ。誰かと繋がってるって実感できるから」

絵里「だから、その絆を守るために命を賭けてでも大好きなあの子たちを助けたくなるの。これでどう?」


   
希「…そっかぁ。うん、色々納得した」


希(私が、キミから逃げ出したくなる理由も…)


   
希「……冷たいね、エリちの手は」


絵里「そういう希は温かいわ」


   
希「…そうね」
   

295 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:17:13.63 ID:7R/HaOL8.net
 
希「それで、ウチは何をすればいいの?」

絵里「あら、今夜はやけにさっぱりしてるじゃない。変な物でも食べた?」

希「昼間のお天道様に頭をやられたのかもね。さあ早く気が変わらんうちに」


絵里「武器庫の管理をお願い」ドサッ


絵里「いい?また昔みたいに 一心同体の相棒になりましょう」

絵里「私が射手で、あなたが装填手。近くにいるから、撃ち終えた武器をこまめにリロードしておいて」


絵里「まずはこのリボルバーね、うちの隊でも使ってたやつだからやり方は知ってるでしょ」

希「これ装填がえらいメンドーなやつじゃん。なんでわざわざこんな旧式のを…」

絵里「これしか買えなかったの。言っとくけど、あなたのことは高く買ってるわよ。期待を裏切ったら承知しないんだから、二等兵?」


希「…イエッサ、努力するであります伍長殿ー」

絵里「頼りにしてるわよ? 今度こそあなたのことを信じさせて頂戴」
   

296 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:18:13.08 ID:7R/HaOL8.net
 
瓦礫が積み重なって出来た天然の防壁の影に希を残して、

装填済みの散弾銃を手にした絵里は手近なオベリスクの台座によじ登った。

石柱にへばり付いて身を隠しながら、広場に残してきたアメリカ人たちの様子を窺う。


   
絵里(思った通りの展開になってるみたい)


一箇所に固まって唯一といってもいい反撃を敢行してくる異教徒の三人組は襲撃者たちの注意を一身に集め、

徐々に優先的な攻撃の対象になりつつあった。

297 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:20:48.77 ID:7R/HaOL8.net
 
この戦いはひと月前のトゥアレグ族の襲来の再現だ。

しかも有難いことに大幅にスケールダウンしている。


――三人は云わば前回の自分で、実際に絵里と同程度の技量を持つアメリカ人たちは、

軽々に黒装束らの挟撃を寄せ付けないでいる。


花陽は自身のコルトと凛から借りた四挺の改良型ピースメーカーを次々持ち替えながら弾幕を展開し、

その足元では赤毛の学者がおぼつかない手つきで使い終わった銃の再装填を手伝っていた。

298 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:22:11.90 ID:7R/HaOL8.net
 
凛もまた速射の技能を存分に駆使して次から次へと空の鞍を量産していたが、

元来その身体能力と早撃ちを三次元的に融合させたアクロバティックな攻めを得意とする彼女は

足が地に着いた状態での防衛戦では今一つ真価を発揮しきれないようで、

その居心地の悪さが射撃のキレを若干鈍らせているのがここからでも見てとれた。

   
いわんや腕を負傷しているにこは言うまでもなく、本来の半分ほどの戦闘力しか出し切れないことに苦戦の表情。


いくら三人が優れた銃士とはいえ、形勢の天秤は僅かに不利な方へと傾きかけていて――
   

299 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:23:36.16 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里(そこで私の出番よ)


今なら敵の注意は完全に向こうに集中している。

石柱の影から広場を荒らし回る騎兵に照準し、


絵里「悪い子には……お仕置きよッ!」DOOM!!


全く予想していなかった方向からの不意撃ちに、

少し離れた所からにこ達に狙いを付けていた黒装束が間抜けな断末魔と一緒に吹き飛ばされた。

300 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:24:27.44 ID:7R/HaOL8.net
 

絵里「次ッ…!」ガシャコン


今度は四人の背面から突貫する騎馬戦士の姿を見とめた。

丁度テントの影になっていて彼女らは気付いていない。

少しリードをとって発砲。

どこから撃たれたのかも分からないまま、ボロ雑巾となったそいつの上半身が愛馬の背に力なくもたれかかる。


元々鳥類を撃ち落とすために発達した散弾はその名称とは裏腹に、

数十メートルの距離でも思いのほか拡散せず正確に標的を撃ち抜く。

実質彼女はこの高台から広場のほぼ全域を有効射程圏内に収めていた。


絵里(あの時は一人だった――でも今は援護し合える仲間がいる。今度は負けないんだから)

301 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:25:05.77 ID:7R/HaOL8.net
 
とはいえこの戦法は一方的ににこたちを囮役に使っているようなもの。


だが三人が自分の思惑通りその場に留まったのを見るに、彼女たちもまた無数の騎兵を相手に

戦えない真姫を連れ回しながらのヒット&アウェイは厳しいという結論に落ち着いたのだろう。


なればこそ、自分は全力で三人のサポートに徹するのみ。

彼女たちの撃ち漏らしや水面下の脅威を目ざとく捕捉し、実害が及ぶ前に確実に排除していく。


代償として、本来なら第一に優先すべき自分の雇い主たちの安否確認が後回しになっているが。

そもそも二人が飛び出してきたのも絵里の計算外だった――今はあの姉妹の悪運に賭けるしかない。

二人がいるのは戦場の外れも外れで、何より一刻も早く戦いを終結させることが安全への一番の早道なのだから。

302 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:26:09.06 ID:7R/HaOL8.net
 

 ≪ヒヒィィン!!!≫


黒装束K「うおおおおおおおお!!!!」


絵里「――!」


自分の存在に気付いた騎兵の突撃。

(思ったより早かったわね)と、舌打ちがてら台座を蹴って飛び降りる。

いずれこちらの位置がバレるのも無論想定の内。その前にあと二、三人は葬っておきたかったが。


しかも間の悪いことに丁度弾切れだ。


   
絵里「くっ――!」ガシュン


何時ぞやの時と同じく、瞬時に一発だけを薬室に滑り込ませると、そのまま発砲。

多少無理な姿勢だったが、照準は正確だった。

303 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:26:57.42 ID:7R/HaOL8.net
 

黒装束K「ちぃっ!」


 ≪イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン゛!!!≫


なんと敵は咄嗟に馬を嘶かせ、自身の身体を覆い隠す盾とした。


   
黒装束K「うおお!!?」


絵里が正面から見舞った散弾は全てその腹で受け止められ、

苦痛に喘いで転倒する愛馬から投げ出される代わりに一命を取り留める。

304 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:28:08.74 ID:7R/HaOL8.net
  
絵里(防がれた――ッ!)


すぐにもう一発装填しトドメを――


   
黒装束L「ラララララララッ!!!!」


絵里(いえ、こっちが先――!?)


黒装束M「キエエエエ!!!」


    
気付かぬうちに挟まれていた。

正面から新たな騎馬が、背後からは刀剣を振り回して走り込んでくる剣士が。


そして足元には――

305 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:28:58.51 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里(こんな所まで吹き飛ばされていたの?)


虚ろな表情で天を仰ぐ黒装束の射殺体――大型肉食獣に食い散らかされたような銃創の悲惨さから見て、

象撃ち銃の犠牲となった不運なあいつで間違いない――の腰から白銀の鎌剣を引き抜くと、

いち早く接近してきた騎兵の斬撃をすれ違いざま、なんとか受け流してみせる。

306 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:29:54.65 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「ッ…く゛っ!」ガギィィン


たっぷりと勢いの乗った重い一撃にバランスを崩しかけながら、

逆手にこん棒よろしく銃身を握った散弾銃を遠心力任せに振り回して、

むざむざ近寄ってきた背面の敵の顔面をその銃床がカウンター気味に打ち据える。


黒装束M「アイテエエッ!!!」ブシュウウウ!


固いウォールナットの底部が鼻骨を砕いて顔面を陥没させ、まずは一人――!

307 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:31:15.41 ID:7R/HaOL8.net
 
黒装束L「オオオォォ!!!」ドドドドド


絵里(また来た…!)


今度は馬鹿正直に正面から受け止めようなどとは考えなかった。


   
絵里「はああああああ!!!」


逆にこちらから距離を詰めて相手の想定を裏切り、そのまま足元へスライディング。

騎兵の剣先は空を斬り、絵里の鎌剣はその湾曲部に敵の足首を引っ掛け鞍から引きずり落とす。


    
黒装束L「グア…アッ!?」


一瞬で何が起きたのか理解できず目を白黒させる相手の喉笛に刃を突き立て串刺しにし、

その光が消え確実にこと切れたのを確かめると、絵里は最後に残った敵の方へ向き直った。


   
黒装束K「『見事也。只今の攻防、敵ながら天晴れだ』」
   

308 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:32:17.32 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里(どうして攻撃してこなかったの。私を仕留めるチャンスはいくらでもあったはずなのに)


黒装束K「『剣技の心得もあるようだな。敢えて飛び道具を捨て近接戦を挑む心意気やよし。久々に気骨のあるやつだ』」


絵里「……」


黒装束K「『申し遅れた。自分はツルギ、ツルギ・カドタ。三千年の古来より続く秘密結社『ラズァイ』が一員』」


黒装束K「『だがそんなことはどうでもいい。一人の剣士としてこの場で貴様に立ち合いを申し込む』」


黒装束K「『いいか、誰も手を出すなよ! これは私の闘争だ、何人も邪魔立ては許さぬ』」


黒装束K「『さあ構えろ異国の戦士よ。いざ尋常に仕合おうぞ』」


絵里「…」ジリッ


黒装束K「『来ないのか? ならこちらからゆくぞっ!』」

309 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:33:44.79 ID:7R/HaOL8.net
 

黒装束K「イヤアアアアアア!!!」


希「エリち、パス!」ヒュッ


絵里「」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


黒装束K「ヘェアッ!??」


絵里「遅いじゃない」BANG!


あっけなく倒れ伏した黒装束の眉間にトドメの一撃を叩き込んでから、不満げに頬を膨らます。


絵里「こういう場合は私に投げるよりあなたが撃った方が早いでしょ」

希「ごめんごめん。ウチあんまりそーいうのは好きくないというか、一応平和主義者だし。ほらピース、ぶいっ」

絵里「まあそっちの方が正常なんだけど、あなたが言うとどうもね……いいわ、引き続き装填の方ヨロシク」

絵里「それにしてもこの敵は急に棒立ちになったかと思えば何を喚いていたのかしら。希、あなたなら言葉分かったんじゃないの」

希「あー、聞かない方がいいと思うよ。お互いの名誉のためにも、知らん方が幸せなこともあるやん」

絵里「そうなの…? 蛮族の考えることはよく分からないわね」


希(エリちは変なトコで抜けてるからなあ。相手の人かわいそ…)

310 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:35:49.14 ID:7R/HaOL8.net
 
労働者「ハァハァ…」


黒装束N「キエエエエ!!!」


   
――BANG!BANG!


    
黒装束N「ギャアアア!!!」


労働者「マキチャン…?」


   
穂乃果「こっちこっちー」


殺意と軽蔑をむき出しにした騎兵に追い立てられ、命からがら逃げ惑うカンジャを援護し手招きする穂乃果。


彼女が身を隠す廃墟は今や武器を持たないカンジャたちの避難所の役目を果たしており、

穂乃果もいい感じに酔いが回っていたことも手伝って、走り込んでくる彼らをどうこうしようとはせず、

気つけと称して酒瓶を回して元気付けるなど何かと世話を焼いていた。

311 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:37:14.98 ID:7R/HaOL8.net
 
穂乃果「お疲れーキミも飲む?」


新たに駆け込んで来たカンジャに差し出した酒瓶を、横から伸びてきた誰かの手が引っ手繰った。


希「ウチにもちょうーだい!」


穂乃果「あなたは…希ちゃん、だっけ?」

希「そーそ、飲まんとやってられんよ。皆よく素面で戦えるなぁ」

穂乃果「さっきまで絵里ちゃんのサポートしてたみたいだけど。こんなことで油売ってていいの?」

希「大丈夫やと思うよ。もう大分頭数は減らしたし、今エリちはにこっちたちと合流したから」

312 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:39:01.48 ID:7R/HaOL8.net
 
彼女の言う通り、戦いの趨勢はほぼ決しつつあった。


あれほどいた騎兵たちが、今では乗り手を失いとぼとぼ彷徨う馬の数の方が多い有様で、

広場は屍山血河、カンジャと黒装束の死体が折り重なるように山積みになっている。


その中心で今も新たな屍をこさえている四人の銃士たちは未だ健在、

絵里の指揮で、襲撃者の残党を追い払う攻勢に転じている。


穂乃果「確かにね」

穂乃果「あの調子で絵里ちゃんたちが暴れてくれてるうちはここは安ぜ 希「ぶーーーーーーーっ!」ビシャアアアアアアア
   

313 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:40:44.66 ID:7R/HaOL8.net
 

のほほんと楽観的な展望を語る穂乃果の顔面に、飲みかけのウィスキーを思い切り吹きかけて仰天する希。


   
 「うおあああああああああああ!!!!!」


    
言った傍からこちら目掛け、鬼のような覇気を振り撒きながら突進してくる騎馬が一頭。

慌てて酒瓶を穂乃果に突っ返し、ズック袋を抱えた希は一人廃墟から転がり落ちる様に抜け出すも、


    
 「おおおおおおおおおっ!!!!!」
 

   
希「ええーっ!?なんでこっち来るのー?」


     
 「あああああああああああ!!!!!」


     
希「いやーん、しつこいっ! 助けてエリちいいいいいいい」

314 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:42:17.36 ID:7R/HaOL8.net
 

 ≪ヒヒイ゛イ゛イ゛ン゛!!≫


希(アカン、追いつかれる…)


 「おおおおおおお――――ッ!」バッ


出し抜けに、その騎兵は不可解な行動をとった。

上体を逸らし、自ら馬上よりその身を投げ出したのだ。


   
絵里(ちっ、躱された…!)シュウウウウ


驚異的な反射神経と勘の良さだ――初弾を外した絵里は素早く狙いをつけ直して二の矢三の矢を。

315 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:43:52.79 ID:7R/HaOL8.net
 

 「ッ――――!」バッバッ


敵も受け身をとって着地するなり休む間もなく身を翻し横っ飛びに回避行動。

計数十発の散弾の嵐を難なく避けると、腰の新月刀(シャムシール)を

引き抜き構えるその姿には一分の隙も感じられない。


絵里「……いいわ。お望み通り“これ”で一騎打ちといこうじゃないの」シャキン


弾切れの散弾銃を放り捨てると、こちらもハンティングナイフを抜いて応じる構えを。


 「おお――ッ!!」


一拍の間を置かず、黒の暴風が一直線にこちらへ――!

316 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:45:14.59 ID:7R/HaOL8.net
 

 「――ッ?!」ブォン


 ガキィン!


斬り合いに乗ったと見せかけ、微塵の淀みなく正面に投擲されたスリケンは敵の意表を突いたものの、

それでも反応速度の鋭さは向こうが一枚上手だった。


目にも止まらぬ刃の一振りで彼方に弾き飛ばされるスリケン。だが狙いはその一瞬を稼ぐこと。


絵里(もらった――!)


 BANG! ガキィィン!


本命はリボルバーでの不意撃ち――反射的に盾にされた刀が真っ二つにへし折れ、跳弾が肩を掠める。

落馬の際に外れかかっていたターバンの内より紫がかった長髪が溢れ出し、武器を失った敵の両眼が驚愕に見開かれる。

317 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:47:27.01 ID:7R/HaOL8.net
 

黒装束O「この外道が!」


間髪入れずトドメを刺そうとした矢先、両者の間に別の戦士が割って入る――まるで紫髪の女を庇うように。


絵里「邪魔ッ!」BANG!BANG!BANG!BANG!  黒装束O「ぐああアア!」  


容赦なく穴だらけにしたそいつが倒れるより早く、死体の向こうから長髪を振り乱し

新たな曲刀を手にした女が躍り出て鋭い突きを。


絵里「くッ――」ガキィィン!


今度は絵里の手から得物が弾き飛ばされ、即座に襲い来る追撃の一閃を紙一重で躱しながら彼女は怒号する。


絵里「希! 武器を!」


希「ほいきたっ」


斬撃の緩急の隙を見て、絵里に投げ渡されたのは一本のダイナマイトだった。

318 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:49:08.96 ID:7R/HaOL8.net
 

 「――!」


絵里「…」シュー…ジジジ…


轟々と燃え盛るキャンプファイヤーの脇に立ち、着火済みのダイナマイトを掲げる絵里の姿に、

たとえ言葉が通じずともその意図を察した紫髪の女は押し黙ったまま、やおらに後ずさった。


絵里「希、ズック袋を持ったままこっちに来なさい」


希「え…でも」


絵里「早く!」


希「はいはい、分かりましたよ…」


絵里「今から言うことを通訳して」


   
絵里「ねえ、紫の人。あなた達にどういう事情があるのか、私には分からない」


絵里「でも一つはっきりしてるのは、ここで矛を収めてくれないと全員死ぬってことよ」


女の整った、中性的ともいえる研ぎ澄まされた顔立ちが険しいものに変わる。

頬と額に刻まれた怪しげな聖刻文字のタトゥーさえなければ、

どこぞの舞台か映画で看板女優としても十分通用する容姿だった。

319 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:50:29.62 ID:7R/HaOL8.net
   
絵里「彼女の抱えてる袋の中身はこれ(ダイナマイト)と同じものが二ダースは入ってるの」

希「げっ…! エリちまさか」

絵里「もうどこにも逃げ場はないわ。あと少しで、ここにいる全員が死の破片を浴びることになる。さあ、どうする?」


もう誰も戦っている者はいなかった。

広場の全員の視線が彼女たちに集まり、各々冷や汗を浮かべた緊張の面持ちでその動向を見守っている。

320 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:54:02.03 ID:7R/HaOL8.net
   

 「一筋縄ではいかない相手だと思っていたが…」


僅かに苦笑しながら、紫髪の女はぎこちない発音で錆びついた英語を喋った。


 「まさか自分もろとも人質にとって皆殺しとはな」

 
 「負けたよ、これ以上血を流したくない。ここは引き下がろう」


 「…だがこれは警告だ。すぐにここを立ち去れ。でなければ君らは一人残らず死ぬ」


にこ「それ、脅してんの?」


意地っ張りのツインテが脇から余計な憎まれ口を挟む。


にこ「また返り討ちにしてあげるわよ」


じろりと、女はそちらを睨みつけた。


 「お前たちに手を下すのが我々だけだと思ったら大間違いだ」


まるで物覚えの悪い子供をたしなめるような口調だった。

321 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:55:27.32 ID:7R/HaOL8.net
 
希「ね、ねえ…もうそれ消しちゃってよくない? 敵さんも退くって言ってることだし」

絵里「ん…? ああ、そうね」


あと一歩で燃え尽きるところだった導火線を根元から引き千切って破棄する。

代わりに新たなダイナマイトを取り出し火元に近付け、いつでも二本目を着火できるぞという意思表示も忘れない。

そんな絵里の方を見ようともせず、騎馬に跨った長髪の女は来た時の半分以下に減った同胞に撤退の指示を叫んでいた。


 「一日だけ待とう」


敗走の将とは思えぬ尊大かつ威厳ある口振りで、女は短く言い放つ。

それ以上話すことはないとばかりに踵を返したその背中に、絵里はかねてよりの疑問を投げかけた。


絵里「あなたたちは何者なの?」
   

322 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:58:13.56 ID:7R/HaOL8.net
 
 「……」


短い沈黙の後、女が口を開く。


 「我々は古よりハムナプトラを監視してきたファラオの護衛団『ラズァイ』」


 「私はその一族の末裔、エレナ。この集団を率いる長だ――君は?」


    
絵里「エリー・アヤセ。どこにでもいるただの冒険者(アウトロー)よ」


   
英玲奈「そうか…」


英玲奈「思えば侵入者と互いに名乗り合うなど初めてだ。意味がないからな。文通相手じゃあるまいし」


   
言葉尻は淡々と硬く生真面目な調子だが、どこか諧謔的な皮肉めいた語り口で言い捨てると、蹄の音だけを残して彼女は去っていく。

323 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 00:59:40.42 ID:7R/HaOL8.net
 

希「ふぃ〜助かったぁ…」

絵里「……」


決して、隣の希のように大げさに安堵することはなかったが、

その実内心では同じくらいにほっと胸を撫で下ろす自分がいた。


絵里(蛮族ってのはこっちの理屈が通じない偏屈なやつばかりと思ってたけど)

絵里(意外と話せそうな相手だったのが幸いしたわ)


絵里「さてと…」

324 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:01:30.38 ID:7R/HaOL8.net
 


   
雪穂(あ、流れ星…)


象撃ち銃を抱えた姿勢のまま、雪穂は今の今までずっと仰向けで倒れていた。

転倒時に頭を打ったためか、どこかぼんやりで曖昧となった意識で星を数えながら。

そんな姿は死体と違いなく映ったのか、広場の隅の方で微動だにしない彼女を気に留めるものは誰もいなかった。

一秒前までは。


雪穂(星が綺麗だなぁ)


ふと、突然その星空が自分に近付いてきて。

一秒の後には、すぐ目の前に自分を助け起こした絵里の顔があった。


絵里「大丈夫…?」
    

325 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:02:35.93 ID:7R/HaOL8.net
 
心配そうにこちらの瞳を覗き込んでくるその顔は、汗と泥と硝煙の香りの化粧で薄汚れていたが、

先程まで眺めていた夜空とは違ったある種の鮮烈な美を備えていて。


その対比もあってか、雪穂は目の奥がくらくらするような奇妙な感覚を味わった。


雪穂「ええ、大丈夫です……多分」

絵里「ホントに? 何だかふらついてるけど、どこか痛むところはない?」


べたべたと無遠慮に全身をまさぐってくる彼女の手つきは、しかし自分の身を案じての優しいもので。

強引に口づけする時のように親指で顎を持ち上げられたのも、顔や首に怪我がないか確認するためだった。


本当に、そのままキスされても――それはそれで悪くないんじゃないかと思うのは、朦朧とした気分が抜けきらないせいだろうか。


心地よい眠りに落ちる直前の微睡みにも似た、あの何とも言えないふわふわとした快感。


こういう時って余計な見栄やプライドとか何もかもどうでもよくなって、自分にすっごく正直になれるもんね。

じゃあこれが私の本音だったりするのかな――などと、頭の片隅で冷静に分析している学者の自分がいる。
   

326 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:03:50.95 ID:7R/HaOL8.net
 
真姫「間違いないわ!」


自信を帯びた強い口調でそう断言する同業者の声に、はっと我に返り。


雪穂「いや、まだそこまではっきりしてるわけじゃないんですよ。ほら、もしかしたら吊り橋効果ってやつかもしれないし…その」

真姫「?…あなたは何を言ってるの」


真姫「私が言ったのは、これでこの場所にマリィ1世の財宝が眠ってることが証明されたってことよ」

にこ「でなきゃ、こうしてにこたちを襲う理由がないもんね……痛ぅ」

花陽「大丈夫? 救急箱取ってくるね」

にこ「そんな大げさなもんじゃないわよ。壊れたわけじゃない、ちゃんと動くわ」


真姫「私は傘が壊れちゃった…お気に入りだったのに。帽子も飛んでいっちゃった…」

凛「大損害だよねー。こうなったら絶対お宝を見つけて埋め合わせをしてやるんだから」


空薬莢を排莢しながら、斜め上に顔を向けた凛がどこか他人事のように言う。
   

327 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:06:35.36 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「私は納得がいかないわ」

絵里「ここまでの損害を出して、彼らが財宝を守る価値は?」


にこ「どうしてよ。この上なく分かりやすい理由じゃない。にこだって同じことをやるわ」

絵里「彼らは砂の民よ。ここに暮らすものにとって、黄金よりも尊ぶべきは水。金をかじっても渇きは癒せないもの」


凛「そりゃそうだけど…でもここには井戸なんてないよ? オアシスはずーっと向こうの方にゃ」

絵里「そうね。だから納得できないのよ」


   
真姫「…もしかして」


絵里「ん? どうしたの」


真姫「いえ、何でも」


    
真姫(“アレ”が、ここに…?)
   

328 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:07:44.33 ID:7R/HaOL8.net
 
花陽「さあにこちゃん、怪我を見せて」

にこ「っ……悪いわね」


にこ「そしてあんたも…一応礼は言っとくわ」

絵里「私?」


にこ「まああんなやつらの百人や二百人、にこ一人でも何とか出来ましたけどー」

にこ「ほんのちょっぴりヤバかったのも事実だし……手を貸してくれてありがと」ボソボソ


絵里「ふふ、どーいたしまして」

にこ「ふん」プイッ


絵里「あら照れてるの? あなた案外可愛いのね」

にこ「ちょーしに乗んな。いちいち一言余計なのよあんたは」


にこ「それににこが可愛いのは当たりま 凛「あー寒い寒い、もっと薪をくべなきゃ」

329 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:08:44.37 ID:7R/HaOL8.net
 
凛「それにしても絵里ちゃんって凄いね! 戦いながらてきぱき指示を出したりさ」

凛「上手く言えないけど、凛たちこんな賢そうな戦い方したのは初めてだったよ」


花陽「私たちって、いっつも基本的にはひたすら撃ちまくるだけだからね…」

にこ「それの何が悪いってのよ? 戦いは火力でしょ!?」

真姫「時と状況によるでしょ…こんな脳筋よりエリーを雇えばよかったかしら」

にこ「マッキーまで!」


凛「昼間は銃向けたりしてごめんなさい。凛たちライバルだけど、これからはもっと気持ちよく競争しよー?」

絵里「ええ、こちらとしても望むところよ」


花陽「あのー…それで提案なんですけど、発掘に関係ないところではなるべく協力し合いませんか?」

花陽「また襲撃があるかも分かりませんし、寝床は一箇所に固めて……お互いに見張りを立てるとか」


絵里「だって。どうするリーダー?」

雪穂「それは…拒む理由は無いんじゃないでしょうか」

330 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:09:48.93 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「大家の許可も下りたところで早速……いえ流石にもう今夜は襲ってこないだろうから、明日からそっちに引っ越すわ」

絵里「万一のために見張りは立てるけどね。あなた達の方も色々と大変でしょう」


真姫「そうね…カンジャたちの死体を埋めないと」

雪穂「手伝いしましょうか?」

真姫「いえ、気持ちだけもらっておくわ。これは私たちの仕事よ」


希「死体といえばさ」

にこ「なんだ希、あんたいたの」

希「子供の頃よく同じこと言われたわ。よっぽど影が薄かったんやろね」

絵里「それが逃げ足の速さに通じたわけね。いつの間にかいなくなってるんだから」

希「言いたい放題言ってくれてるけど、みんなもう一人誰かのこと忘れてない?」

絵里「?」


希「穂乃果ちゃん、向こうで大の字に伸びてるんだけど、あれ生きてるのかな」
   

331 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:12:39.53 ID:7R/HaOL8.net
 

穂乃果「」


雪穂「何てこった! お姉ちゃんが死んでるっ」


穂乃果「んが…おほしさまがきれいらぁ…」


絵里「どこか遠くに行ってるみたいね」


希に教えてもらった廃墟の側で、酒臭い寝息と寝言を垂れ流す穂乃果はどう見ても只の酔い潰れで、

足元に弾の尽きたコルトを投げ出しながらも、三分の一ほど中身の残った酒瓶だけはしっかりと胸元に抱いていた。

(変なところで似てる姉妹ね…)と思いながら、まだ熱の残るピストルを拾い上げる。

332 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:13:13.07 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「これ、後で花陽に返しておかなきゃ。彼女が探してたわよ」


自分も昼間彼女から発掘道具をガメた張本人なのだが、「ここに来てから持ち物がどんどん無くなるんです…う゛ぅ」と

さめざめと語る花陽の悲壮な表情には良心の呵責を禁じ得ないものがあった。

それだけ自分と彼女たちとの距離が縮まったということでもあるのだろうが――


絵里「雨降って地固まるか…」


今夜の襲撃も、悪いことばかりではない。ごく自然に肩を抱いていた雪穂の横顔を見ながら絵里は思った。


絵里「さ、向こうで飲み直しましょうか」
   

333 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:13:57.50 ID:7R/HaOL8.net






雪穂「じゃあ、いきますよ…」


絵里「…ええ、来て」


絵里「もっと上よ…そう、そこ」


雪穂「えいっ」


 パシッ


絵里「おおっと、今のは中々よかったわ。じゃあ次は左ね」


雪穂「ええいっ!…うわっとっと」
   

334 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:15:49.18 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里からボクシングの構えの手ほどきを受けていた雪穂は、打ち込みの際に勢い余って彼女の手の中に倒れ込んだ。

護身のためという建前ではあったが、お互い酒が入っていたこともあってほとんど戯れの延長、はっきり言えばじゃれ合いとそう変わらない。


雪穂「あははははははっ。こんなに楽しいのは久しぶりかも」

絵里「私もよ。あともうちょっと高めに構えた方がいいわね、こんな感じに」スッ


雪穂「はれ……エリーチカさん手首にタトゥー入れてるんだ。気付かなかった」

絵里「ああこれ…普段はリストバンド嵌めてるから。刺青してる女はキライ?」

雪穂「んー…普段だったらイキッてるみたいで良く思わないんだけど……今はなんか格好よく見える!」


雪穂「これ、面白い図形ですね。ピラミッドの真ん中にホルスの目……絡みついてるのはウラエウスかな?」

絵里「意味はよく分からないわ。色々あって、一時期カイロで孤児してたことがあってね。その時保護者代わりになってくれた人に入れられたのよ」

雪穂「孤児…苦労を重ねて来たんですね……ああ、KKEってそういう…」

絵里「いや違うわよ? さ、ツマンナイ話はおしまいにして、もう一杯飲みましょうか」
   

335 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:17:25.74 ID:7R/HaOL8.net
 
雪穂「駄目ですよぉ…私あんまり飲めないの。だからお姉ちゃんと違って、勧められてもきっぱりノーって言える女だもん」


言いながら脇のボトルスタンド――寝息を立てる穂乃果の腕から酒瓶を引っ手繰って一口飲むと、また戻す。


絵里「……確かに。あなたはお姉さんと違って、分かりにくい人ね」

雪穂「ああ、分かります。かしこいかわいいエリーチカさんが何を考えてるか分かりますよぉ。こう思ってるんでしょ?」


程よく出来上がった酔っ払いに特有の微妙に支離滅裂な調子で、身体を揺らしながらとりとめなく喋り続ける。


雪穂「私みたいな場違いな女が何でここにいるのーって? それはですね……私にもエジプトと冒険家の血が流れてるから」

絵里「へえ?」

雪穂「お父さんは物静かな考古学者で、お母さんは快活な探検家」

雪穂「二人ともイギリス人だけど、それぞれサムライとエジプト人の血がちょっとずつ混ざってて」

雪穂「そうそう、二人はあのツタンカーメンの発掘にも貢献したんですよ?」

雪穂「その後すぐ事故で死んじゃったから、散々呪いだーとか書き立てられたけど。そんなはずないじゃんバーカ」


絵里「成程ね…色々合点がいったわ」

336 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:18:48.23 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「そんなご両親から生まれたのがあなた達。ある意味必然よね」

雪穂「あはは! 馬鹿にしてるんですか? ギャンブル狂のサギ師と、資料整理しか仕事のないネクラ女ですよ」

絵里「いえ、そういうわけじゃ…」


雪穂「そりゃ確かにぃ! 私は探検家でも、冒険家でも、トレジャーハンターでも」

雪穂「ましてや女たらしのガンマンでもないです。エリーチカさん、あなたのようなご立派さんじゃないですけどぉ!」

絵里「いや知ってる? 世間では私みたいなやつをロクデナシって言うのよ」

雪穂「でもぉ、そんなの関係ない、いいんですぅ。私は、私の仕事に誇りを持ってますから!」

絵里「そうなんだ。で、あなたは何者なの?ユキホ・コーサカさん」


雪穂「私は…私は……司書!」


雪穂「そう、世界一の司書だ! 毎日ホコリまみれの! うわはははは」


絵里「ついでに酔っ払いのね、うふふ」

337 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:20:19.51 ID:7R/HaOL8.net
 

雪穂「あっははははは………はぁ」


雪穂「………ねえ。突然なんだけど、急にしたくなっちゃった」


絵里「…何を? トイレなら付き添うけど」


雪穂「分ってるくせに。キス、したくなっちゃったの。チュウじゃなくて、キス」


絵里「ホントに突然ね。まあこっちの準備は出来てるけど」


絵里「あなたは、後悔しないの?」


雪穂「もう決めたの。今からエリーチカさんにキスするから、逃げないでね」


絵里「それ、ちょっと変な感じ」


絵里「エリーって呼んで。一生に一度の、シリアスな場面だし」


雪穂「うん、わかった。エリー…エリー…絵里さん」


何度も名前を囁きながら、彼女はゆっくりと顔を近付け…


雪穂「んん〜」パタリ


唇と唇が触れ合うすんでのところで、崩れ落ちるように絵里の胸に顔を埋め、のんきな顔ですうすうと寝息を立て始める。


絵里「フ…」


名残惜しさを感じつつも、絵里は残された最後の三大欲求に従って、彼女を抱きすくめたまま眠りに落ちた。

338 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:20:58.94 ID:7R/HaOL8.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                              


 
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339 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 01:28:36.17 ID:pZPq/0h0.net


えりゆきとは珍しい
ことうみの出番に期待

340 :名無しで叶える物語(ほうとう)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 02:01:30.28 ID:irws8M32.net
えりゆきにも目覚めそう
描写が丁寧で読んでて飽きないわ

341 :名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 03:42:22.11 ID:a8I8/q05.net
めっっちゃ面白い
えりゆき可能性感じます

342 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 04:24:38.56 ID:Or3+9E6D.net
おつおつ
更新スピードも素晴らしいな
頑張ってくれ

343 :名無しで叶える物語(プーアル茶)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 05:10:52.10 ID:q6RGl/wo.net
すげーなよく書けるなこんなの

344 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:02:46.10 ID:7R/HaOL8.net
 
―――――――――――――――


――――――


――


   

 「うああああああああああああ!!!!!」


    
目覚めは突然に、そして乱暴に訪れた。


   
 「ぎゃああああああああああ!!!!!!」


    
その寝起き顔の凄まじさに、自分の周りで誰かが絶叫していた。


     
 「ああああああああぁぁぁああ!!!???」


     
三千年ぶりの娑婆の空気。


しかしそれを満喫するには、足りないものが多すぎる。


肺も心臓も無い、空っぽの胸で“それ”は考えた。


真の覚醒までは、あと幾つ――?
     

345 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:04:55.75 ID:7R/HaOL8.net
 


時間は少し巻き戻って――


   
雪穂「ああ、どうしよ興奮する! 目の前で棺を開けるなんて!」

穂乃果「雪穂ーあんま大きい声出さないで…頭に響くから」


    
もう二日目の夕方に差し掛かろうという頃なのに、コーサカ陣営の収穫は

未だラッキーショットで撃ち落としたネームレス・ワンの棺だけ。


遅めの起床の後、二日酔いとそれに伴う記憶障害に苦しみながら、

重い重い石棺の蓋をどうにかこうにかこじ開け除けるのに数時間。


中から粗末な作りの木棺(これもブロンズ製の錠付きだった)が姿を現すと、

いよいよ雪穂のはしゃぎっぷりはクリスマスの朝の子供のそれと変わらなくなった。


   
雪穂「だってだって、お姉ちゃんも知ってるでしょ。私はこの瞬間に立ち会うのが小さい頃からの夢だったの!」

絵里「きっと変な子供だったんでしょうね」

穂乃果「そうなんだよ、分かる?」


蜘蛛の巣と埃しか装飾品のない棺を見て、姉の方は心なしか気落ちしているよう。

しかし妹はそんなことお構いなしといった様子で、素手でそれらを掃いながら熱心に木蓋の表面を撫でまわした。


雪穂「――ない」

346 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:10:01.17 ID:7R/HaOL8.net
 
雪穂「蓋に刻まれてるはずの、聖なる祈りの呪文が全部削り取られてる…」

絵里「また嫌がらせ? 古代エジプト人ってとことん陰湿だったのね」

雪穂「ここまでやるなんて……陰湿を通り越して、むしろ恐れを感じます。彼らはこの中身を畏怖していたんでしょうか」


雪穂「本来ここには、棺の死者を護って来世に導いてくれる象形文字があるはずなの」

雪穂「それすら奪われてるってことは、この人はこの世でもあの世でも有罪、ずうっと罪人の判決を下されたんだ」

絵里「泣けるわね」

穂乃果「懲役三十世紀かぁ。息の詰まりそうな話」

絵里「じゃあそろそろこの中身に新鮮な空気を吸わせてあげましょう。鍵を開けるわよ」ギギギ…ガチャ


 プシュウウウ…!


穂乃果「うわくっさ!ミイラの吐息くっさ!ネガティブが溢れ出してるよ!」

絵里「何かが引っかかってるみたい。蓋がちょっとしか開かないわ」

雪穂「絵里さんは右、お姉ちゃんはそっちを持って。あとは力任せにこじ開けるしかないね」

穂乃果「どーか金の枕と銀のパジャマと胴のオムツが入ってますよーに…」


絵里「いくわよ、いっせーの」グググ


雪穂「…」ドキドキ


穂乃果「ふぐぐぅ」ギギィィ


   
 ギギ…キィィィィィ―――


    

              バカアアアアアアアアアア!!!!!!!
   

347 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:13:47.82 ID:7R/HaOL8.net
 


   
花陽「げほっげほっ」

にこ「ごほっ…ほらね、私の言った通りなんにもなかったでしょ?」


一方で、その真上――アメリカ人グループの発掘も、順調かといえばそうでもなく。


もはや片手で数えられるほどの人数を残すのみとなったカンジャらの説得に半日を費やし、

どうにか契約の続行を了承させたものの。

今にも逃げ出してしまいそうな彼らの手でアヌビスの足元から

恐る恐る取り出された正方形の櫃が床に降ろされると、まるでそれを避ける様に周囲の砂と埃が舞い上がった。



凛「罠は昨日ので最後だったみたいだね」

真姫「いえ、油断は禁物よ」


希「そうよ。十分用心せんと…」


花陽「希ちゃん…? 震えてるの?」

凛「ここ暖房ついてないからねー」


希「ウチには分かるんよ……嫌な予感がする。きっとその櫃は呪われてる」

348 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:17:32.17 ID:7R/HaOL8.net
 
にこ「へんっ、今時そんなメーシンにひっかかるやつがいるもんですか。レーカン商売は別の所でやってくれない?」


希「古代の呪文や祈りを馬鹿にしたらいかんよ…?」

希「こういう神聖な場所では、今なおそのスピリチュアルな効力が生きてることが多々あるの」


にこ「あーはいはい、分かったわ。真姫、その蓋に何て書いてあるのか訳してくれる?」


真姫「……『この櫃を開けしものには速やかに、死が翼を広げて襲い掛かるであろう』」



   

 ……クオオオオオオオオオ―――キキッ…

                           コゴゴッ…


    

労働者ズ「マキチャン!?」


真姫「今の音は――?」


   

  ―――ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!
   

349 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:18:56.13 ID:7R/HaOL8.net
 
労働者ズ「マキチャン! マキチャアアアアアン!!!!」ダッ


花陽「あ、ちょっと」


   
  ダッダッダッダッダッ…


    
凛「行っちゃった…」

にこ「ふ、ふん…何よビビリ共。私たちだって風を読めるんだから、風が空気を読むことだってあるでしょうに」

真姫「……あなたっていっつもどこかズレてるわよね」


真姫「おかしいと思わないの? 地下で突風が吹くなんて」

にこ「…!」


希「やっぱり呪いよ……それは呪われてる……ここにいたらいけない」
   

350 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:20:25.64 ID:7R/HaOL8.net
 
真姫「続きを読むわね…『封印されし彼の者死者に非ず、不死者なり』」


花陽「アンデッド…?」


真姫「『もし目覚めることあれば、聖なる掟によりこの呪いを完結する』」


凛「じゃあ起こさないようにしなきゃ」


真姫「『不死者は櫃を開けたもの全てを取って喰らい、その内臓と体液を貪るだろう』」


にこ「!?」


真姫「『――さすれば彼の者再生を果たし、もはや不死者でもなくなる』」


真姫「『すなわち、災厄そのものとなって、この世に終わりのない悪疫をもたらすであろう――』」


   

  グルルルルル……


                ――オオオオオオオオオオオオオオオ…!!!!
    

351 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:22:03.60 ID:7R/HaOL8.net
 
にこ「にっこにっこにー!!!!」

花陽「にこちゃん?」

にこ「バーカ! どこの誰が演出してんのか知らないけど、無駄よ無駄!! いい加減観念なさい!!!」


にこ「既に身ぐるみ全部ひん剥かれて、残ったパンツ一枚を死守するためにその表面に精一杯の脅し文句が書いてある。これはそういう状況よ」

花陽「にこちゃんの言う通り、私たちも手ぶらじゃ帰れません。これは何とかしてもらっていかないと」

凛「手ブラって…裸なのは向こうだよかよちん」


希「……駄目」


真姫「希?」


希「呪いよ……もう駄目、恐ろしくてここにいられない……呪いに気を付けて」


にこ「ちょっと、アンタ私の話聞いてた?」


   
希「警告したからね!? ウチもう知らんよーーーーーー!!!!」タッタッタッタッ…
    

352 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:23:13.83 ID:7R/HaOL8.net
 
にこ「ちっ、小心者…」

花陽「それで、本当にもう罠は無いんでしょうか」

真姫「この呪い自体が罠よ」


真姫「これはあなた達の銃の安全装置と同じ。ひとたび解除してしまえば、あとはもう撃発するのみ。その引き金はこの蓋を」

凛「だったら安心だね」ガッ!


最後まで言い終える前に、真姫の脇から凛がバールのようなものを櫃の継ぎ目に突っ込んで蓋をこじ開けてしまった。

彼女の銃にセーフティなどついていないのだ。


  ブフォア!!!!


あっという間もなく櫃の内から大量の白い噴煙が吹き出し、四人の身体を包んだ――
   

353 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:24:59.78 ID:7R/HaOL8.net
 

雪穂「うああああああああああああ!!!!!」


穂乃果「ぎゃああああああああああ!!!!!!」


絵里「ああああああああぁぁぁああ!!!???」


雪穂「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


穂乃果「おわあああああああぁぁぁぁぁ……はぁはぁ」


絵里「叫ぶのにも疲れたわ…」


穂乃果「死体にびっくりして寿命が縮んでちゃ世話ないよね」


絵里「で、なに。これが……ミイラ、なの?」

354 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:26:28.96 ID:7R/HaOL8.net
 
“それ”は、棺の蓋が開くと同時に飛び出してきた。


弁当箱の裏蓋にくっついた海苔よろしく、“それ”の全身にへばり付いた黒く粘り気のある包帯の切れ端が

棺の上蓋にも張り付いて中身を引きずり出したのだ。


古のビックリ箱と真正面からご対面した雪穂は、生っぽく水気のあるその中身とあわやキスする寸前だった。


   
雪穂「何か色々と、とんでもなく間違ってるよこれ…」

雪穂「だって、三千年前のミイラなんだよ? それなのにこれ、これ…」


ほのえり「ジューシー?」


雪穂「うん、言いたいことは分かる。焼く前のハンバーグ肉みたいだ、べちゃべちゃに湿ってて…」

雪穂「まだ腐敗してる最中って感じ。とても信じられないことだけど」

355 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:27:53.54 ID:7R/HaOL8.net
 
改めて、まじまじとその“名無死体”を観察してみる。


通常、天辺から爪先まで丸ごとカラカラに乾燥した干物標本であるはずのミイラの肉体は、

無数の枯れ枝を編んで形作った骨格に、湿り気のある肉の残滓がこびり付いているような有様になっていた。


詰まる所、全身スカスカの虫食いだらけなのだ。


これではミイラというより、肉の切れ端で出来たぼろきれを纏った骸骨である――

鼻をもぎ取ってしまいたくなるフレッシュな腐臭を放ち続けているというオマケつきの。


右頭頂部は大きく欠損していた。

生前、何かの事故に遭った遺体の線も捨てきれないが、奇妙なことに断面の骨は外側に向けて反っていた。

まるで内部から破裂でもしたように。


普通は安らかな眠りを連想させるようにミイラの瞼は閉じられているものだが、

この超黒歴史級の嫌われ者の両眼は見開かれ、その中は虚ろな空洞となっている。


その形相は凄まじく、こちらもまた限界まで全開になっているばかりか、

あり得ない方向へひん曲がってほとんど外れかけている下顎が、

雪穂には死してなお、この遺体が苦しみに叫喚し続けているように思えた。

356 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:32:50.54 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「ねえ、中身もいいけど蓋の内側も凄いことになってるわよ」

穂乃果「うわっ、金の内張りどころか至る所血の痕でいっぱいだ。それにこの亀裂みたいなのは…」

雪穂「…爪で引っかいたんだと思う」

雪穂「こんなにボロボロになるまで……この人は生き埋めにされたんだ」

絵里「……」


穂乃果「そーいえば絵里ちゃん、こういうのは平気なの?」

絵里「こちとら戦場帰りだからね。酷い死体はいくつも見てきたわ…流石にあんなのは初めてだけど」

絵里「私が怖いのは目に見えないものよ。霊魂とか死者の念とかそういう……ああやだもう、話したくない」ブルッ

穂乃果「まあ安心してよ。穂乃果もアマチュア考古学者の端くれだからミイラとは仲良しなんだけどさ、この子たちが動いたところなんて見たことないね」

穂乃果「この前も雪穂を脅かそうと思って博物館の棺に潜り込んだんだけど、気が付いたらミイラの隣で一緒に寝ちゃってて…」


雪穂「そんなのどうでもいいからここ見て、ほら。引っかき傷でメッセージが刻んである」

穂乃果「へえ〜これが。で、意味は? 辞世の句? それとも自分をこんな目に遭わせたやつの名前を書いたダイイングメッセージかな」

雪穂「聖刻文字じゃなくて神官文字で書いてある…なになに」


   
雪穂「『――死は、単なる始まりに過ぎない』」
    

357 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:34:00.49 ID:7R/HaOL8.net
 
――

――――


   
  シュウウウウウウウウウウ……


    
花陽「ゲホッゲホゲホッ…!また、埃が…!」


凛「分かった…! この埃で凛たちを病気にして殺す気なんだよ……数十年後に」


にこ「呪いの正体なんてそんなものよね――で、何が出てきたのかしら」


真姫「これは…」


   
真姫「――本よ」


にこ「本んっ!?」


真姫「凄い、本当にあったんだ…!“黒の死者の書”!!」


凛「……それで、お宝は?」


真姫「あなた達にはこれの価値が分からないの? これこそが宝よ!」

358 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:36:04.53 ID:7R/HaOL8.net
 
花陽「と、言われましても…」

にこ「私たちが欲しいのはもっとこう、分かりやすいお宝よ。金とか宝石とか、とにかく光り物」


凛「ねえこの箱。底の方にまだ何か入ってるんじゃない?」

花陽「確かに。本の厚さと櫃の大きさが釣り合ってないよね。調べてみる価値はあるよ、何かで底蓋を外して…」


にこ「んな面倒なことしなくても、手っ取り早くこうすればいいのよ」ブンッ

真姫「あ、ちょっと…!」

359 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:36:53.71 ID:7R/HaOL8.net
 

 ガツッガツン! パキン…!


昨晩の負傷で包帯を巻いた腕の代わりに、にこの足で乱暴に櫃の側面に穴が空けられ、そこから顔をのぞかせたのは。


   
凛「……わぁ」


にこ「ほぅら見なさい。思った通り」


人、山犬、狒狒、隼を模り、アラバスタ―製の本体に無数の宝玉を散りばめたカノプス壺一式。

宝の隠された秘密の小部屋とは、この台座に収められた櫃そのものを指していたようだ。

360 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:38:13.27 ID:7R/HaOL8.net
 
凛「丁度四つあるから、ここにいる凛たちで山分けできるね」


否、正確にはもう一つ。

櫃の真ん中に、獅子の頭と割れた底部だけが残った五つ目の壺の残骸があった。

宝玉が埋め込まれているはずの胴体部分とその中身は、櫃をひっくり返しても見つからなかった。


にこ「これ、希に持っていってあげようかしら」


小馬鹿にするように、獅子の頭を掌にのせて転がすにこ。

それを横目に見ながら、真姫は至って真剣にその正体を考察していた。


真姫(妙ね、普通内臓を納めるカノプス壺の数は四つと決まっている)


真姫(胃に小腸、肺と肝臓。壺が五つ入ってたなんて聞いたことがない…)

361 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:39:03.40 ID:7R/HaOL8.net
 
真姫(もちろん、黒の死者の書と一緒に見つかったんだから、これが前例のない大発見だってことは承知してる)


真姫(わざわざ壊れた中身のない状態で入っていたのも気になるわ。これの意味するところは…)


真姫(封印された悪しき者の臓器……もし私が古代の神官なら、この壺に何を納めようとする?)


にこりんぱな「あそぼー初めましてのハッピチュン♪ あそぼー君と僕とがであう〜♪」


真姫(また肩組んで歌ってる。これだから田舎者って……嬉しいのは分かるけど、今はちょっと静かにしてもらえないかしら)


にこりんぱな「始まる―よおいで、リッスントゥマイハート〜♪」


真姫「…!」


真姫(ハート…まさかね)

362 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:39:38.32 ID:7R/HaOL8.net
 
真姫(古代エジプトでの心臓はまさにハート。脳ではなくここでものを考え、感情を司り、魂すら宿るとされていた最重要器官)


真姫(あの世で転生できるかどうかを決めるオシリスの審判を受ける際に必要だから、取り出されずにミイラの体内に残されていた)


真姫(もし…もしもだけど、死ぬほど蘇らせたくない人がいたとして、手っ取り早い方法は…)


真姫(あらかじめ心臓を除去して、そのまま破棄してしまうこと。やだ私天才? いやそうなんだけど、これだと面白いように全部辻褄が合っちゃう)


真姫(壺の頭が獅子なのも――セクメト。ライオン頭の死と破壊を司る殺戮の女神)


真姫(不吉の象徴……本当に呪われし者の臓器なのね。希の言ってたことも、あながち間違いじゃ…)ドクンドクン

363 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:41:28.97 ID:7R/HaOL8.net
 
花陽「真姫ちゃん…? 顔が真っ赤だけど、どうしたの?」

真姫「え…ええ、平気よ。ちょっと汗かいちゃって…」


凛「トマト食べる?」

真姫「そうね…トマトを食べると心拍が落ち着くし、血圧も下がる……気がするわ」

にこ「興奮するのも無理ないけど、こんな所で心臓発作でも起こして倒れてちゃ損よ。まだまだお宝はあるはずなんだから」


にこ「そんでもって、私たちは帰ったら大金持ちってわけよ!」

凛「ねー?」


真姫「……」
   

364 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:42:37.83 ID:7R/HaOL8.net






 パチ…パチパチ ボォォォ


にこ「ってワケでぇ、にこたちは幸先のいいスタートを切ったわ」

にこ「あー早く明日にならないかしら。更なるお宝を掘り当てるのが待ち遠しい…」


花陽「♪」ゴシゴシ…キュッキュ

凛「かよちんずっとそれ磨いてるにゃ」

花陽「ふふっ、凛ちゃんは後でね」


穂乃果「いいなぁ…いいなあ」

にこ「欲しいわよね? でもダメー。流石にこれ盗ろうとして撃ち殺されても文句言わないでよ」


凛「そういえば穂乃果ちゃんたちもミイラを見つけたんでしょ。濡れ濡れだったんだって?」

にこ「乾かせばマキ代わりに売れるわ。良かったじゃない」


絵里(すっかり浮かれ気分ね…無理もないけど)


穂乃果「そういえば真姫ちゃんは?」

希「キャンプに戻ってからずっと自分のテントに籠ってるんよ。あの石で出来た本を開こうとして悪戦苦闘してるみたい」


花陽「黒の死者の書、でしたっけ。花陽も触らせてもらったけど、表紙が閉じたままうんともすんとも言わないんです」

花陽「蝶番があるから、開くように設計されてるとは思うんですけど…」

365 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:45:01.03 ID:7R/HaOL8.net
 
雪穂「私もちらっと見せてもらいましたけど……あれを開けるには鍵が必要だと思いますね」

にこ「鍵…? 何か知ってるの?」

雪穂「……あ、いえ。単なる憶測で、それ以上のことはないですよ」


雪穂「それと、私たちが棺の中で見つけたものはもう一つあるんです」ジャラッ

凛「何それ、石?」

雪穂「に、見えますよね。これ、スカラベの死骸。虫ですよ、石化した」

穂乃果「雪穂それ持ってきたんだ…」


花陽「その虫知ってます。ファーブルさんの本に載ってましたけど、でもそこで見たのとは大分形が…」

雪穂「超古代のスカラベですからね。私たちの知ってるのとは姿が違って当然かな」

雪穂「このスカラベは糞じゃなくて肉を食べるんです。これが沢山棺の中に入ってたということは…」

花陽「ひっ」

にこ「死体の肉を食べさせてたの? 酷いことするのね」

絵里「いえ、それがどうもまだ生きてたらしいの。棺に入れられた時点では」

花陽「ひゃあああ」

凛「えげつねえにゃ」

絵里「よっぽど人に好かれる人間じゃなかったみたいなのよ…誰かさんみたく」


穂乃果「でもスカラベには好かれる……くふっ、ぷぷぷ」

凛「ちょっ寒にゃ。誰かもっと木の枝とってきてー」

希「そんな人間にはなりたくないわぁ」

366 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:46:35.23 ID:7R/HaOL8.net
 
にこ「一体何をどうしたらそこまでの人気者(アイドル)になれるのかしらね。参考までに教えてくれない?」

絵里「王様の女に手を出したんじゃないの」

希「それはエリちの場合でしょ」

絵里「はは、こいつめ」ワキワキ

希「い、今ワシワシはあかんて…みんな見てるのに」


雪穂「」ムスッ

雪穂「…経緯は分からないけど、棺には“ホム・ダイ”の刑に処されたと刻まれてました。これがヒントになるかも」

穂乃果「なーんか私が死んじゃいそうな名前だね…」

雪穂「これは神々や神聖なものに対する許し難い冒涜を働くという最悪の罪を犯した者に対する極刑中の極刑で……ホントだ、お姉ちゃん当てはまるじゃん」

穂乃果「これからは展示品のミイラで遊ぶのやめます、はい」

雪穂「でもね、実際に行われたっていう記録は発見されてないんだ。今まではね」


絵里「そりゃこれだけ惨ければね…気軽にやるもんじゃないわ」

雪穂「理由はそれだけじゃないの。この刑は呪いを伴う禁断の儀式でもあったから……古代の人はそのリスクを恐れたんだ」

希「人を呪わば穴二つ。まあ順当な話やね」

雪穂「もしホム・ダイに処された者がそれを耐え抜いて再び目覚めるようなことがあれば、エジプトに十の災厄(わざわい)をもたらす怪物となって再生するんだって」

367 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:55:24.24 ID:7R/HaOL8.net
 

絵里「…」ブルッ

雪穂「なーんて、よくある呪いの脅し文句だけどね。死者が蘇えるなんてまず有り得ないっつーの」


花陽(ねえ、今の話って)ヒソヒソ

にこ(真姫の言ってたあれのことよね)ヒソヒソ

凛(この壺の中に入ってるのがそのミイラの肝ってこと?)ヒソヒソ


雪穂「あれ? 皆さんどうかしました?」

希「ん。こっちの話よ……おっ。そろそろええ感じに焼けてきたわ♡」パチパチ

雪穂「さっきからそれ、何を焙ってたんです?」

絵里「…ネズミよ。砂漠じゃ最高級のタンパク源だわね」

雪穂「ふーん……後でちょっとわけてもらってもいいですか? お腹ぺこぺこで」


穂乃果「雪穂…立派に成長して」ウルッ

花陽「えぇ…」

にこ「……凛、あんたも食べたら?」

凛「全力でのーせんきゅー!」


絵里「さて、いい感じにテンションダウナーとなってきたところで今夜は解散にしましょうか」
   

368 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:57:04.02 ID:7R/HaOL8.net
 


――それから数時間経って、誰もが死者のように寝静まった頃。


林立するテントの中でもひと際大きい、サーカス風の形状かつちょっとした小屋ほどの広さがある赤い寝床で、

一人かすかな寝息を立てている真姫に近付く影があった。


不用心にも(それとも自分の手から放したくなかったのか)右手に狒狒のカノプス壷。

そして左手には大判でずっしりと重量のある死者の書を抱えたまま、無防備な寝姿を晒している彼女から、

こっそりと素早く、実に鮮やかな手並みで“お宝”を取り上げたその影は、

足早に自分のテントの近くに熾した焚き火の所へ駆け戻ると、

服が汚れるのも構わず砂の上に胡坐をかいて、逸る気持ちに身を委ねながらその膝に戦利品を載せた。

369 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 16:58:46.05 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「そーいうのは泥棒っていうのよ」


雪穂「!」ビクッ

雪穂「…起きてたんですか」


絵里「見張りを立てるって言ったでしょ。私の番よ」

雪穂「ああ成程…でもこれはちょっと借りたってやつです。後でちゃんと返しますから」

絵里「イケナイこと教えちゃったみたいね」


雪穂の太ももの上では姉とライバルの学者から拝借した二品。

すなわちパズルボックスの鍵と死者の書が、

興奮を抑えきれない彼女の内心に感応して小刻みに揺れていた。


雪穂「表紙にある八角形の窪みには、絶対これが嵌るはず……ほら、ビンゴ」カチッ

絵里「それ、アヌビスの足元で見つけたのよね。でもどう見たって、お目当てのアメン・ラーの書には見えないわ」

雪穂「黒の死者の書とか言ってましたけど。聞いたことがないです……重要なものには違いないけど」

370 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:00:48.24 ID:7R/HaOL8.net
 
絵里「物騒な名前ねぇ…またオカルト関係? 怖い話はやめてよね」

雪穂「えーっと、まず普通死者の書っていうと、遺体と一緒に埋葬されてる葬祭文書のことを指すんですけど」

雪穂「絵と聖刻文字とで、死んだ後あの世へ行って、それから楽園に至るまでの道のりが描かれてる、まあ日本でいうお経みたいなお供え物のことです」

雪穂「書っていうけど実物はパピルス製の巻物なの。でもこれは黒曜石から削り出されてる…この時点で普通のものじゃないって分かるよね」


絵里「案外見られると恥ずかしいことが書いてある本だったりしてね。厳重に鍵をかけるくらいだし」

絵里「例えばそうね…ファラオのナンパした女の子リストとか」

雪穂「…もう、絵里さんって年中そんなことばかり考えてるの?」

絵里「冗談よ。拗ねないで」コチョコチョ

雪穂「わっぷ、鼻をくすぐらないで…くはははっ」


絵里「で、やっぱりそれ開けちゃうのよね。私は、出来ればよした方がいい気もするんだけど」

雪穂「だって、只の本ですよ? ちょっと読んでみるだけです…ちょっとだけ…」ギギギ…パチンッ

雪穂「よいしょっと…表紙が重いなんて不便な本だなぁ」パタン


   

   ビ ュ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ……
    

371 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:02:05.44 ID:7R/HaOL8.net
 
雪穂「………」


絵里「……風が騒がしい夜ね」


雪穂(心なしか、表紙を開いた途端中から風圧を感じた気もするんだけど……疲れてるのかな)


絵里「あら、焚き火が消えちゃったわ」


雪穂「――ミツメテイタイノ・マイニチアナタヲ。ミツメテイタイノ・アサカラヨルマデ」


絵里「読み聞かせされても、古代エジプト語はさっぱりよ。何言ってんのか分かんない」


雪穂「今のは昼と夜について書かれた言葉です」


絵里「ふーん…」


雪穂「ムカシノ・ムカシノモノガタリ、デンセツノキュウーデンデ…」
   

372 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:06:34.92 ID:7R/HaOL8.net
 
――

――――


――――――――


   

  『コイシタ・コイシタトノガータ』


    

  『アアーッカエラナイー・サダメナノヨ』


   

  『コヨイノ・コヨイノモノガタリ…』


   

  『デンセツーガ、ヨミーガエル……』


     


     
  ≪――――ウ≫


     


  ≪ ヴ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ ォ゛ ォ゛ ォ゛ ォ゛!!!!!!!!!≫
     

373 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:08:30.98 ID:7R/HaOL8.net
 

えりゆき「――!!??」


   
雪穂「絵里さんも――今の叫び声聞こえました!?」


絵里(何、今の、まるで肉食獣…ライオンの咆哮――こんな砂漠にライオンが? 馬鹿な…)


   

 「駄目ええええええええええええええええ!!!!!」


   

雪穂「真姫さん…?」


   

真姫「それを声に出して読んじゃ駄目なのよおおおおおお」
     

374 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:10:28.19 ID:7R/HaOL8.net
 
希「はっ――何、この悪寒は!?」ガバッ


希「何か、とてつもなく悪いことが起きてる感じがする…」


   
穂乃果「んごっ……ん゛ーーなんの騒ぎだよぉもう」


    
労働者ズ「マキチャン…?」


   
凛「……真姫ちゃんの声が聞こえたよ」ゴシゴシ


にこ「変な夢でも見て飛び起きたんでしょ……でっかい声出しちゃって、大げさなんだから」


花陽「あの……まだ何か聞こえない?」


   

――ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


     

雪穂「地鳴り…? また黒装束の人たちが来たの?」


絵里「いえ、地面が振動してるわけじゃないわ。でもこの感覚…」


絵里「空気が揺さぶられている…」

375 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:12:34.33 ID:7R/HaOL8.net
 

 ヴヴヴウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン


   
                               キチキチキチキチキチキチキチキチ……!!!!


    

にこ「な、何よぉ…飛行機でも飛んでるの?」


   

 シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ


    

花陽「いや、この音…もっと生っぽいっていうか」


     


真姫「………死よ」


     

真姫「死が翼を広げてやって来たのよ…!」
     

376 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:14:58.00 ID:7R/HaOL8.net
 


真姫「あれを見なさい!!!」


   
絵里「……!」


    

  シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
    ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
 シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシギギギシリシリ
  シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
 シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
    シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
   シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
  シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリキチチチチチチチチチチチシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
   シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
  シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
   シリシリシリシリギギギギシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
 シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ


     
真姫が指さした方角の空を、その言葉通りの凶兆を翅に乗せた暗黒の軍勢が覆い尽くしていた。


   
不毛の世界で唯一豊穣に満ち満ちた星空の宝石箱をも貪欲に喰らい尽くして広漠とした砂漠色に塗り替えるだけでは

まだ足りず、そのままの勢いで死者の都の分厚い正門を乗り越え、広場に大津波のように押し寄せる厄災の先達。


    
穂乃果「イ……イナゴの群れだあああああああ!!!!」
     

377 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:17:56.69 ID:7R/HaOL8.net
 

希「ひっ、ひえーーーーーーー」


絵里「みんな走って! 神殿の中に逃げるのよ、早く!!」


   
真っ先に逃げ出した希と、ほぼ同時に雪穂の手を引きながら強引にひた駆ける絵里、少し遅れて穂乃果が。

にこ凛花陽も我先に神殿の入口を目指し無我夢中、その後を雇い人たちが縋るように追従していく。


    
 「マキチャアアアアアアアアア!!!!!!」


   
駆け出すのが遅かったカンジャが二人ほど、つぶての様に降り注ぐ虫害の渦に飲み込まれて、すぐに悲鳴もろとも翅音の中に消え失せた。


そんな周囲の惨禍などどこ吹く風といった様子で真姫は一人、皆とは逆方向によろよろと歩み出て、

広場に放置された開きっぱなしの死者の書の下へ辿り着くと、その表紙を静かに閉じた。


    
真姫「もう、手遅れよ…」
     

378 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:19:37.71 ID:7R/HaOL8.net
 
長閑やかだったつい先刻までを懐かしむように、

黒の禁書とカノプス壷を胸に抱きすくめて地蔵よろしく硬直した真姫の全身には、

忽ち無数の死を運んできたものどもが纏わりついて、彼女を新たな住処にしようと侵入経路を探し始めた。


一度解き放たれてしまった冒涜の群れは何をしても止められない――


   
   ザッ…


    
真姫「……ぅ゛っおおェ!!ゲボッゲボッ!!!」   


   
鼻孔の内を犯そうとする幾多の前肢の蠢く触感に思わず咳き込む彼女は、

すぐ背後に迫る新たな闖入者の黒い影に、寸前まで気付くことが出来なかった。
    

379 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:21:45.93 ID:7R/HaOL8.net
 
―――――――――――――――


――――――


――


   
絵里「どっから湧いて出たのよあのイナゴ軍団!!」

雪穂「違います…!正確にはイナゴじゃなくてバッタ!あれは砂漠に生息するその名もサバクトビバッタという種だよ!」

穂乃果「そんなのどっちでもいいよぉ! それより私たちこれからどこを目指せばいいの!?」

絵里「とりあえずひたすら下に降るのよ! 何とか虫をやり過ごさないと」


    
絵里「ここから先は地下道で暗くなってるわ。穂乃果、松明をつけて。でないと私進めない…」

穂乃果「へいへい。こんな時でも絵里ちゃんはマイペースで安心するよ」

絵里(見張り番だったから武器を全部持ってきちゃって重いったらないわ。両手も塞がってるし)

雪穂「イナゴじゃなくてバッタ……蝗害……?」ブツブツ


絵里「……ねえ。ひょっとしてこれが、寝る前に話してた十の災厄ってやつだったりするの?」
   

380 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:24:12.30 ID:7R/HaOL8.net
 
穂乃果「十の災いって聖書のあれでしょ? 日曜ガッコで習うやつ」

穂乃果「全部は覚えてないけど、イナゴだかバッタだかが飛んでくるやつは確かにあった気がするよ」

絵里「やっぱり、あのヤバそうな本を読んだことが関係してるのかしら…」

穂乃果「ん? 何の話?」

雪穂「そんなはずないです! たまたまこの時期バッタの大量繁殖シーズンだっただけですって!」

絵里「そ、そうよね……そうであることを祈ってるわ」

雪穂「現に、十の災いだってそのほとんどが科学的に説明できるんだから……きゃっ!?」


   
  ドツン…!

                      グラグラグラグラ…


    
絵里「揺れてる…! 今度こそ地震?」


穂乃果「ね、ねえ…あそこ見て! なんか地面の砂がどんどん盛り上がっていってるんだけど…!?」


   
 テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!

 
    
絵里「お次は何だっていうの…?」
     

381 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:25:02.14 ID:7R/HaOL8.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                            


 
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382 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 17:31:03.14 ID:LgKj0Oau.net
マキチャン......

383 :おまけ(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 18:45:37.29 ID:7R/HaOL8.net
 
#5で花陽だけ活躍シーンがなかったので


   
凛(かよちんは、凄い子なの)


凛(普段から、かよちんは凛やにこちゃんに比べて自分一人だけが弱い、トリオの足を引っ張ってるって、申し訳なさそうに言う)


凛(でも凛はかよちんのイイトコロをいっぱい知ってるよ)


凛(日常のちょっとした可愛い仕草から、もちろん銃の扱いだって、そんじょそこらのガンマンじゃ相手にならないんだから)


凛(昨日の襲撃の時だって、凛たちに負けず劣らず大暴れしてたんだよ?)

384 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 18:47:02.62 ID:7R/HaOL8.net
 
花陽(私は射撃が下手くそです。花陽の銃弾は全然当たりません)


花陽(私の裸眼は近視、遠視、乱視の三重苦)


花陽(でも眼鏡をかけていてもやっぱり当たらないので、単純に私の腕がへたっぴなんです)


花陽(だから少しでも当たる確率を上げるためにこうして二挺持ちしてるんだけど)


   
黒装束「ウララララララッ!!!!」


    
花陽「ひいいいいいいいいっ!!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


   
黒装束「ララララララ――――ッ!!!!」


    
花陽「ソレデモヤッパリアタラナイヨォー!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!
     

385 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 18:48:25.30 ID:7R/HaOL8.net
 
花陽(凛ちゃんやにこちゃんは他の相手に手いっぱい、あの敵は私がなんとかしないと――!)BANG!BANG!…ガチッ


花陽(弾切れ――補充を、隠れる、敵、避けなきゃ、どこに??)


   
にこや凛なら咄嗟の決断でもまずまずの解を出している局面だが彼女の場合はそうもいかない。

運動神経の鈍い花陽には考え、それを実行に移すに充分な時間が必要、そして今はその猶予がない。


頭を使わずに動くのは苦手な花陽が転がり込んだのは、あろうことか自分のテントの中――


   
黒装束「フン!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


   
そんな所に逃げ込むとは愚かの極みなり、蜂の巣にしてやろう。

至近距離まで近付いてきた敵の二挺拳銃が火を吹き、テントは忽ち穴だらけになる。


一瞬の静寂。
    

386 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 18:50:03.70 ID:7R/HaOL8.net
 
――BANG!BANG!BANG!


黒装束「!?」


花陽「わあああああああっ!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!


   
ぼろぼろの帆布の内より反撃が返ってきたことに敵は驚愕と同時に応射を。


    
黒装束「ヌオオオ!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


花陽「やあああああああああ!!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


黒装束「オオオォォォ――!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


花陽「ぴゃあああああああああ!!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


黒装束「カハッ――!」


   
やがて、その出鱈目な射撃の流れ弾が黒装束の眉間を捉えて血の花火を吹き上げる。


花陽「はぁ…!はぁ…!はぁ……ふーっ…」


上手かろうが下手だろうが数撃ちゃ当たる――今、この場でその法則が適用されたのは花陽だけ。
     

387 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 18:51:36.94 ID:7R/HaOL8.net
 


にこ「花陽の凄いところ? そうねぇ…」


にこ「真っ先に思い浮かぶのは声のデカさよ。いいえ、よく通る声って感じかしら。銃声に負けないくらいのね」


   
花陽「ぴやああああっ!!!ダレカタスケテー!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


花陽「わーっ!わあああ!!! 凛ちゃん、にこちゃーん!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


    
にこ「どんだけドンパチの音がうっさくてもあの子の悲鳴だけは聞こえてくるからねー」


にこ「あと何故か花陽には敵の弾が当たらないのよ。少なくとも一緒に組むようになってから、彼女が被弾したところを見たことないわ」


凛「逆ににこちゃんはよく貰うよね。この前なんかお尻にさー」


にこ「黙らっしゃい。で、わーわー泣き喚きながら銃ぶっ放してるうちに、相手の方が先に倒れるわけよ。敵からしたらたまったもんじゃないでしょうね」
   

388 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 18:53:02.77 ID:7R/HaOL8.net
 

花陽「ひあァーーーー!!! いやああアアーーー!!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


花陽「なんでぇー! こんなに撃ってるのにどうして当たらないのォ!!??」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


花陽「もォォォーーーー!! ギュうううううううううう」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


花陽「ううーーーッ!! 当たってええええええええええ」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


花陽「はっ…リロード忘れてた」


花陽「うぅっ、どうしていつもこう鈍臭いんだろ私…」カチャカチャ


   
凛(リロードはこまめにしないと、正念場で弾が無かったら命とりだもんね――て、かよちんは几帳面なオタクらしい意見を言う)


凛(でもたまに、かよちんがリロードを忘れてるんじゃなくて、かよちんの銃が自分の装弾数(キャパシティ)を忘れてるんじゃないかって思う時がある)


凛(かよちんの銃の弾倉はかよちんの胃袋と同じでシツリョー保存の法則?を無視してるのかな…)


凛(とにかく、こんなかよちんが弱いとか言うならその人の目は節穴だね。目の玉かっぽじってよく見てってよ、凛の一番の親友を!)


    

 やれば出来る子!――次回、かよちんの活躍に括目せよ
   

389 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 19:35:05.77 ID:pkWTJQpv.net


話ごとのサブタイトルも良いね

にこりんぱながコメディポジで良い味出してる

390 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/03(土) 23:57:56.59 ID:7R/HaOL8.net
 


にこ「うぎゃああああああああっぬわによこれえええええええええええ」


   
狭い地下通路にアメリカ人たちの悲鳴が木霊する。


自分らに馴染みの出入り口――絵里たちは例の隠し穴、にこたちは正面エントランス――から神殿内部に逃げ込んだ両組は、

当然ながら別々の逃走ルートを開拓しているわけで、そこにはそれぞれ違った種の災厄が待ち構えていた。


    
凛「やだやだやだやだやだ何これもおおおおおおおおおお」グチャグチャベチャッグチャ!


   
彼女たちの選択した進路上の床一面を、何かぬめぬめとした柔らかな塊が隙間なくびっしりと埋め尽くしていた。


その正体が数えるのも馬鹿らしくなるほどのカエルの大群だと気付いたのは通路を中ほどまで駆けた時。


何しろ夜空を覆い隠すバッタの嵐から必死に逃れるべく全力疾走の真っ最中。


足元に気を配る余裕などなく、靴底の感触に嫌悪感を覚え始める頃には既に引き返せない状況。


    
花陽「ぴゃあ!ぴゃっ!ぴゃあ!!ぴゃあああっ!!!」グチャグチャブチョブチョベチャリ!


     
飛び跳ねる様にしてカエルから逃れ、逃れた先でまた新たな生命を蹴飛ばし踏み付け、もう立ち止まることなど出来ない。


とにかくこの不快な絨毯が途切れる地点まで逃げ切るしかない――しかしどこまで行っても嫌がらせのように

カエルは通路いっぱいにみっちりと配置され、ゲロゲロ喧しく湿り気のある鳴き声を漏らしていた。
     

391 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:00:21.70 ID:eXdEIRMC.net
 


花陽「ぴゃあっ!! ぴやああああ…うわっ!!?」ズルッ


   
そんなこの世のぬめり気と粘り気を全てかき集めて凝縮したような足場に、

三人の殿を走っていた花陽が足を滑らせすっ転んだことに、

気が動転していた他の二名は気付くことなく駆けていってしまったのも無理からぬことで。


    
花陽「ひゃあああああぁぁ……メガネ……メガネはどこ?」


   
下敷きにしたカエルたちのおぞましい感触もさることながら、この状況で不明瞭になった視界に彼女は強いストレスを感じ、

気持ち悪いのも構わず必死にカエルの海を弄って、何処かへ飛んでいった眼鏡を探した。


    
花陽「凛ちゃん……にこちゃあん! 誰かいませんか!? 私のメガネ、近くに落ちてるはずなんです…!」


     
 「マキチャアアアアアアアアン!!!!」


     
自分と同じくらいパニックに陥っているカンジャたちが、すぐ近くまで殺到してくる音が聞こえる。


     
花陽「お願い…! 誰か、誰か助けて…」


     
 「マキチャン!マキチャン! マキ・チャーン!!」パキンッ


   
花陽「……!」


   
そして、その中の誰かがガラス製のレンズを踏み潰して走り去っていく音も――
   

392 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:08:06.62 ID:eXdEIRMC.net
   


 TEKELI-LI!TEKELI-LI!TEKELI-LI!TEKELI-LI!TEKELI-LI!TEKELI-LI!TEKELI-LI!TEKELI-LI!


    
絵里「来る…!」


絵里たちの眼前で、隆起した地面から間欠泉の如き勢いで湧き出してきた黒い塊。


雪穂「蟲…古代のスカラベだ!」


それらはあっという間に大群をなし、三人の足元目掛けて洪水となって押し寄せた。


絵里「こんなのは聖書に載ってなかったわよ!?」


穂乃果「逃っげろおおおおおっ雪穂早く走って!」


   
   カサカサカサカサカサカサカサカサ  カサカサカサカサカサカサカサカサ  カサカサカサカサカサカサカサカサ  カサカサカサカサカサカサカサカサ   
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絵里「くっ…!」DOOM!!ガシャコン DOOM!!


     
絵里の発射した散弾が蠢く人喰い蟲の先頭集団を吹き飛ばしたが、焼け石に水だった。


撃退を諦め、三人は死者の都の奥深く、未踏のエリアへと追い立てられるように駆け下りていく。
     

393 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:11:36.46 ID:eXdEIRMC.net
 


花陽「はぁ……はぁ……」


   
絶対的な孤独の中に、花陽は取り残されていた。


    

花陽(駄目なの……私は、眼鏡がないと…)


   

壁伝いに立ち上がるだけでも大変な労力だった。


   
極度に劣化した彼女の視力では、目と鼻の先すら霞がかった五里霧中の世界。


     
右も左もわからない、今の花陽は閉廊した古代のギャラリーに一人置き去りにされた幼子と変わらなく。


     
只でさえ覚束ない足元が、焦燥から来る恐怖に戦慄く。


     
こんな状態ではとても先に進むことなど――でもこんな場所からは一刻も早く抜け出したい。


     
花陽「……っ」


   
意を決して、彼女は勇気の一歩を踏み出した。
   

394 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:14:27.31 ID:eXdEIRMC.net
 

ぶちゅり、という破裂音。


   
花陽「うぅ……くっ……」


   
彷徨える亡者めいて片腕を突き出した花陽は、二度目の転倒を防ぐためにもすり足での歩行に切り替える。


   
もう一方の手を壁に添えると湿っていた。


   
泥汚れが滲んだような視界の中、カエルどもがゲコゲコ規則正しく喉を鳴らす不愉快な合唱だけが響いている。


     
感触といい、環境音といい、とても乾燥した地下通路にいるとは思えない。どこぞの沼地に放り出された気分だ。


     
花陽「――!」


     
だしぬけに、背後に何かの気配を感じ取って反射的に振り向く。


     
花陽「り、凛ちゃん…?」


   


  キュ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ――………


   

通路の奥で、風の音とも人の呻き声ともつかぬ切なげな旋律が渦を巻いていた。
   

395 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:18:34.86 ID:eXdEIRMC.net
 


花陽「にこちゃんなの……? 返事をして!」



         

                          ハァ――!!
   


呼び掛けに答えるものはなく、代わりにまたしても背後の通路を、

今度は絶対に何かが横切ったのを確信した。


     

花陽「だ、誰…!?」チャキッ


     


――ガウッ!!


     


花陽「誰なのぉ…!」クルッ


     

                        バウッ!!!
   


   
猛獣が獲物を威嚇するような唸りが、前後から代わる代わる反響して彼女を弄ぶ。


   

花陽「ううぅ…!! ッ…くっ!!」


    

前後不覚に陥った花陽は涙目で銃を構えながら、その場で幾度も回れ右するのを繰り返した。


     
靴底の不快な感触がいつの間にか無くなっていることに気付く余裕もなく――
     

396 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:21:20.02 ID:eXdEIRMC.net
 


花陽「はぁ……!はぁ…!」


   
呼吸は荒く、視界は乏しく。


   
眼鏡さえあれば。


テントの中に置いてきたスペアの眼鏡があれば。


   

だが、すぐに彼女が視力の心配をする必要はなくなった。


    

  グチャリ…


     

花陽「…!?」


     

銃を握った手の甲が、振り向いた先にいた何かに当たってその泥濘に沈み込んだ。
     

397 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:22:26.11 ID:eXdEIRMC.net
 

カエルたちが居なくなって乾きを取り戻した通路の中で、“それ”だけは未だ湿りぬめった存在だった。


   
花陽「あ………あああぁぁぁぁ……」


   
思い出したように鼻孔の奥へと飛び込んで来た饐えた臭いが、自分が一体何に手を突っ込んでいるのかを

彼女に自覚させるまでに、さほどの時間は掛からない。


   
花陽「ぴゃあ――――むぐっ!!!????」


   
悲鳴を上げようとする口を、おぞましい接吻が塞ぐ。


まるで肥溜めを啜っているような汚濁の食感に嘔吐しかける花陽の舌を、

ぎざぎざとした固いものが上下から挟み込んで――
     

398 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:23:54.38 ID:eXdEIRMC.net






雪穂「食べられるのは嫌ぁ!」


岩で出来た坂道を駆け上がりながら、泣き言を叫ぶ。

腹を空かした糞甲虫の群れはいよいよその勢いを増し、三人の靴の踵に触れる一歩手前。


 
絵里「高台に飛び移って!」


   
坂の途中、その両脇に降って湧いた安全地帯が。

左手に坂とは別の独立した足場が丁度二つ。右手には壁をくり抜いて作られた一段高い台座のような窪みが。


    
穂乃果「よっ、ほっ……!」


   
絵里と穂乃果が左、雪穂が右に一斉にジャンプ。
   

399 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:30:23.37 ID:eXdEIRMC.net
                        
                       カサカサカサ
                    カサカサカサカサカサカサ
                      カサカサカサカサカサカサ
穂乃果「助かったぁ…」      カサカサカサカサカサカサカサカサカサ        雪穂「はぁ、はぁ……」カチッ
                 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
                  カサカサカサカサカサカサカサカサカサ 
絵里「……」         カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ              
                  カサ カサカサカサカサカサカサカサカサ 
                     カサカサカサカサカサカサカサカサカサ
                       カサカサカサカサカサカサ     
                         カサカサカサカサカサ カサ         
                          カサカサカサカサ             
                            カサカサカサカサ
                             カサカサ
                               カサ   カサ
                                カサ
   
乱れた呼吸を整えながら、黒山の虫だかりが過ぎ去っていくのを呆然と見送る。

400 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:31:28.95 ID:eXdEIRMC.net
 
ややあって、最後の一匹が坂の向こうの通路へ消えるのを確認してほっと一息。


   
絵里「行ったみたいね……」


穂乃果「……雪穂?」


絵里「え…」


穂乃果「雪穂ぉ! どこ行っちゃったの!?」


    
この場から居なくなったのが蟲だけでないことに、残された二人が気付いたのは直ぐのことで。
   

401 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:33:15.06 ID:eXdEIRMC.net
 

絵里「この壁、継ぎ目がある……仕掛け扉だわ」

穂乃果「雪穂―! そこにいるの? 返事してよ!」


―――――――――――――――――――――


雪穂「あっ…あれ? 何これ…」


雪穂が体重を預けて寄り掛かった壁は内側に開き、彼女はその中へと転がり落ちた。

起き上がる頃には、壁は音もなく元通りに閉じ、静寂と暗闇が支配する空間に彼女を置き去りにする。


   
雪穂「お姉ちゃん! 絵里さん…」


   

  ウウゥ――

              ウウッ…


   
雪穂「!」ビクッ
   

402 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:35:07.47 ID:eXdEIRMC.net
 


雪穂(なっ何か、いる…!)ドックンドックン


   


   アアアゥ…


                 ァ…ゥ……


    

雪穂(今度は何が出るっていうの…? もう嫌ぁ)


   


 「ぐすっ………うううううぁぁぁ………」


   


蜘蛛の巣だらけのカタコンベの裂け目から差し込む一条の月明かり。


その下に、誰かが膝を抱えてうずくまっていた。


     

雪穂「……良かった。人がいたんだ」
     

403 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:38:25.16 ID:eXdEIRMC.net
 

一気に押し寄せる安堵の気持ち。


そのくすんだ金のショートボブの後ろ頭に近付いたところで、

雪穂は先程から聞こえていた幽鬼さながらの呻き声の正体が、

その人物がすすり泣く声だということを理解して。


   
雪穂「あの……大丈夫ですか? どこか怪我を…」


   

 「め…が………ね……」


   

雪穂「花陽さん…? 眼鏡を無くしたんですか? 一緒に探しま」


    

雪穂「――!」


     

花陽「う゛ぅ゛……め……めふぁ…」ドロォ


     

振り返った彼女の両眼から、血涙の筋が垂れていた。


     

雪穂「ひっ…!」


     

眼窩の周りにも、血の花が咲き乱れている。


その中に、目の前で恐怖に歪む雪穂の表情を映し出す瞳は残されていなかった…
   

404 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:40:46.28 ID:eXdEIRMC.net
 

雪穂「あ……あああああぁぁ……あっ、あ…」


   
既にショックで声も出せなくなっている雪穂の脇から、

追い打ちをかける様に新たな恐怖が姿を現す。


   

 ≪…………グルルルルルルルルルルルルル≫


   

闇の中に、爛々と光る紫の双眸が浮かび上がった。


ほどなくその全身像も、漆黒のベールの内より顕わになる。


それは両眼を抉り出された花陽よりも、もっと恐ろしくおぞましい見た目で。


   

 ≪ハァァァァァァ―――――――クゥ……≫


     

腐臭をまき散らし、ほとんど骸骨に、

今にも崩れ落ちそうな腐肉が辛うじてこびり付いている状態。


その躰で生気を感じるのは、ぎょろぎょろと動かす度、

隙間から目脂代わりの蛆がはみ出す眼窩に収まった二対の瞳だけ。


否――閉じ方を忘れたように斜めに半開きになった顎の中で、

真っ赤な、ピンクを通り越して血塗れの紅い舌がうねっていた。
     

405 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:43:27.35 ID:eXdEIRMC.net
 

花陽「わ…わらひのめとひた……と、と、と、とっとられひゃったぁ……」


   
起き上がろうとするも叶わず、ぺたんと尻もちをついた花陽が、そのままの姿勢で後ずさっていく。


   
花陽「に、にへなきゃ……にげふぇ……」


   
雪穂「待って…! お願いだから置いてかないで……!」


   
 ≪フゥゥ………ア…ァ…アア……≫


     
今にも崩壊しそうな肉体を引きずるように動かし、ふらふらとこちらに迫るその姿は話に聞く亡者そのもので。


     
雪穂「ひぃ…! ひいぃぃ…」


     
恐怖に魅入られ、身体の動かし方を失念した雪穂は、辛うじて這いつくばってその場から逃れようとし。


一方の相手も、まるで盲目の老人めいた千鳥足で、あちこちに躰をぶつけながら、しばしみっともない追いかけっこを続けた。


     
雪穂「やめて……助けて…」


   
やがて、壁際まで追い詰められた雪穂は、祈るように懇願し――


その顔を品定めでもするようにまじまじと覗き込み“それ”は目を細めて呟いた。


   
 ≪ミナghrwリンスloipキー……?≫
   

406 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:45:34.88 ID:eXdEIRMC.net
 

  ガッ――ガツン!


絵里「駄目だわ、びくともしない」

穂乃果「隠し戸なら、どこかにスイッチとかあるんじゃない?」


   
――うわあああああああああああああ!!!!!!


    
ほのえり「!!?」


   
 ダッダッダッダッダッ…


   
凛「ヤバいヤバい!! 来たよ来たよあいつらが来るうっ!!!」


     
穂乃果「凛ちゃん…?」


     
にこ「馬鹿っ! あんたらも命が惜しかったら早く逃げなさーい!!」


労働者「マキチャーン!」
     

407 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:52:59.79 ID:eXdEIRMC.net
 
転がるように坂を駆け下りて来たにこと凛に、たった一人の雇い人。


何故花陽や他のカンジャの姿が見えないのか、絵里たちはすぐにその理由を察することとなった。


   
  カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ 
    カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ 
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絵里「またスカラベ!」

穂乃果「もーっせっかくやり過ごしたのにぃ! 変なの連れてこないでよぉ!!」

408 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:53:16.15 ID:eXdEIRMC.net
   

労働者「マキチャ…!」ドテッ


一番後ろを走っていたカンジャが、坂の中ほどで蹴躓いた。


     
絵里「…!」


反射的に助けようと後ろを振り返った時にはもう、手遅れだった。


     

 「マ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーーッ!!!!!!」


     
忽ち群がってきた蟲のカーペットの下から、金切り声に混じって金属同士が擦れ合うような異音が。


その後はもはや正視に耐えなかったので、踵を返して走り出す。


何百という微小なノコギリが人体を切断する音を聞かされながら、絵里たちは再び地下神殿の迷路へと。
     

409 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:55:15.44 ID:eXdEIRMC.net
 


 ≪『――アイタlbcカッタ&…ズットdsアナタnghダケk……』≫


   
雪穂(古代……エジプト語…)


   
 ≪『――サアrイキマwmショvqpウ。jワタ:#シノxx+イトシイ]ztヒト』≫


   
そう言って一層目を細めると、そのほとんど骨しか残っていない腕を恭しく差し出してくる。


     


しかし雪穂の手を取ったのは、脇から飛び込んで来た別の人物で。



絵里「あなた、ここにいたの!」


雪穂「うわっ!? え、絵里さん?」
     

410 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:56:41.67 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「かくれんぼはおしまいよ。またあのクソ蟲共が来るわ。さっさと逃げるわよ」


雪穂「いや、あの」


絵里「大丈夫、穂乃果たちもいるから」


雪穂「こ……怖くないんですか…?」


絵里「怖いわよ! こんな場所からは一秒でも早く抜け出したいわ。だから一緒に来て!」


雪穂「だか…違っ」


絵里「なに? はっきり言って」


雪補「前方、注意…」


絵里「は? 前がどうしたって」


   
 ≪ガ ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ……≫


   
絵里「!!?」
   

411 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 00:58:58.58 ID:eXdEIRMC.net
 

穂乃果「雪穂ー!! よかった……うおわああああああ!? なっなななななななな」

にこ「何よこいつぅ!? お、お化けぇ!?」

凛「にゃああああああ!!? ミ、ミイラが立ってるよ!?」


誰もが目にしながら信じられないでいたことを、とうとう口に出してしまった。


   
 ≪ヴ オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!≫


   
その瞬間、生けるミイラは自身の存在をアピールするよう限界まで開口した大口で咆哮!


   
絵里「きゃあああああああああああああああああああっ!!!!!!」


    
絵里の我慢と膀胱も限界だった。


そして、象撃ち銃が両者の絶叫を掻き消す強烈な撃発音で怒号――!
     

412 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:01:36.61 ID:eXdEIRMC.net
 

 ≪ウ ォ エ ア ア ア ア ア ァ ァ ァ !!?!??!!?≫


   
辛うじて崩壊を免れていたミイラの肉体が、この一撃で臨界点を突破した。

ぼろぼろの胴体は千切れ吹き飛び、回転しながら宙を舞う。

下半身はその衝撃だけで骨という骨が砕け散って崩れ落ち、包帯の切れ端が肉骨片の上にはらはらと被さった。


   
絵里「は…はっは!! そら見なさい! 銃でぶっ飛ぶ奴なんて怖くないわ!!」

絵里「さあ、行くわよ!」グイッ

雪穂「あ痛っ、そんなに強く引っ張らなくても」


穂乃果「ねえ今の見た? 雪穂、あれって私たちが見つけたミイラだよね!? なんで生きてるのーっ?」

にこ「知るわけないでしょ!? 誰か脈でも測りなさいよ!」

凛「オコトワリシマス!」


   
一目散に部屋から脱出する彼女たちは気付いていない――


半身だけになったミイラが、古代語で呪いの言葉を呟きながら起き上がろうとするのを…
   

413 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:04:27.70 ID:eXdEIRMC.net
 

絵里「…」チラッ


絵里「」ウシロバシリ


絵里「」ガチャコン


   
――ZDOOOOOOOOM!!!!


    
雪穂「絵里さん!? なにしてるの?」


絵里「死体撃ち」DOOM! ガチャコン DOOM! ガチャコン DOOM! ガチャコン…


雪穂「早く逃げるんじゃなかったんですか?」


絵里「いや、これちょっと動いた気がして……念入りに殺しておこうかと」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


雪穂「気のせいですって! もう死んでますよ!」


絵里「分かってる…これだけ木っ端微塵にすれば大丈夫よね…」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


絵里「よし…今度こそ行きましょう」ジジジ…ポイ





絵里に手を引かれて通路に出た途端、後ろから発破音の衝撃と煙が。

ダイナマイトの爆発で崩落した室内からは、それ以上何の音も聞こえてくることなかった。
   

414 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:09:50.91 ID:eXdEIRMC.net
 
――――――

――


 ビュウウウウウウウウウ…


穂乃果「はぁ…はぁ、悪い夢でも見てるのかな……誰か穂乃果の頬っぺたつねってよ」


雪穂(バッタが消えてる…あれだけいたのに一匹残らず) 穂乃果「イダダダダダダ、雪穂もういいから!!」


凛「休んでる暇はないよ、かよちんを探さなきゃ!」

にこ「マッキーもね。どこではぐれたのかしら…」


   
 「二人ともここにいるぞ」


   
絵里「!?」


    
  ジャキッ! チャキチャキ チャキン ガチャリ


     
闇夜に溶け込んでいた者たちが、手にした武器をわざとらしく操作したことで初めてその存在を認識する。


     
英玲奈「ここを立ち去れといったはずだ」
     

415 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:11:08.58 ID:eXdEIRMC.net
 
こちらに向け銃を構える黒装束たちの表情は皆一様に険しく――中でもその長は最たるものだった。


英玲奈「取り返しのつかないことをしてくれたな。お前たちは我々が三千年もの間封じてきた邪悪なものを起こしてしまった」


絵里「安心して。もう私があの世まで吹っ飛ばしてやったわよ。弾(そうぎ)代はツケといてあげる」


英玲奈「馬鹿め。この世の武器ではやつを殺せん。やつと我々では住む世界が違っている」


英玲奈「一体誰が禁忌の呪文を唱えた? 赤毛の女は自分ではないと言う。誰だ?」


雪穂「……私です。ユキホ・コーサカです…」


英玲奈「コーサカ……コーサカ……コーサカ!」


英玲奈「知っているぞ。君の両親は、ツタンカーメンの呪いを解き放った愉快で愚かな馬鹿者共の一員だった」


穂乃果「ちょっ何それ、お母さんたちを悪く言わないでよっ」


英玲奈「そして今、その娘が今度は世界を滅ぼそうとしている。この呪いは地球全土を覆い尽くすまで止まらない」


英玲奈「全く、大した一族だよ君たちは。自覚なしに振り撒かれる悪意ほど性質の悪いものはない」


絵里「そこまでにしておきなさいよ。言い過ぎじゃなくて?」


英玲奈「フン、これを見てもそう言えるか?」
   

416 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:12:12.56 ID:eXdEIRMC.net
 

真姫「う゛ぇぇ…」


にこ「真姫!」


花陽「う゛ぅ…」ヨロヨロ


凛「かよちんしっかり! 何があったの!?」


英玲奈「二人とも幸運だった。赤毛の方はかすり傷一つ負ってないし」


凛「かよち――!?」


英玲奈「金髪も眼と舌を盗られるだけですんだ」


花陽「うぁ……ひんちゃ…はぁはぁ」


雪穂(花陽さん…)


にこ「瞼ごと千切り取られてる……こんなのって」


凛「やり過ぎだよ…っ! いくら何でもここまでしなくても…!」
   

417 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:13:57.88 ID:eXdEIRMC.net
 
英玲奈「勘違いも甚だしいな。私たちは彼女を助けたんだぞ。もっと酷いことをされる前に」


凛「そんな…そんなの…かよちん…」


英玲奈「やつは…人喰いの悪鬼はお前たち全員を狙っている。皆殺しにされる前にここから出ていけ、すぐにだ」


英玲奈「我々はやつを探す。そして何とか倒す方法を見つけねば…」


絵里「だから、私が殺したって言って」


英玲奈「思いあがるなよ。そう信じたいのだろう?」


英玲奈「いいか、あいつは死そのものだ。食べもせず、眠りもせず、絶対に止まりもしない。そしていつの間にか、君たちの後ろにいる…」


絵里「っ…」


英玲奈「ゆめゆめ忘れるな。アラーと共にあらんことを」


   
  ザッザッザッザッザッ…


   
穂乃果「ど、どうする…?」


にこ「どーするもこーするもないわよっ、ここはヤバいわ。 全員揃ってるし、早く帰りましょう!」


絵里「……誰も言わないなら私が言うけど」


   
絵里「誰か希を見た人は…?」
   

418 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:16:28.66 ID:eXdEIRMC.net






コーサカ一家とアメリカ陣営がそれぞれ異なる逃走コースを選択したように、

希もまた、神殿の隠し扉から内部に避難し、彼女たちとは別種の災厄に見舞われていた。


日頃からラッキーガールを自負する彼女が引き当てたものとは――


 
 ≪グルルルルルゥゥウウウウウ……≫


   
希「あ……ああああぁぁぁ…」パクパク


   
災厄の根源――名前のない怪物との対面だった。
   

419 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:18:12.74 ID:eXdEIRMC.net
 
彼女には知る由もないことだったが、つい先ほど絵里の執拗な追撃で骨一本残らず粉々にされた怪物の肉体は、

花陽から奪った眼と舌を含め、棺の中で眠っていた時と寸分違わないまでに再生を果たしていた。


ただし、現状ではこれ以上の回復は望めない――完全復活には、もっと多くのパーツが必要だ。

そのためにも…


   
 ≪『……dチガurウ%』≫


   
希(しゃ、喋った…?)


   
 ≪『アナ$gタ……チガウk>\gタベテモmm*;タシニナラzzbナイ…』≫
 

   
 ≪『………デモ&(torイタダ/キマ@ス』≫
     

420 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:21:02.64 ID:eXdEIRMC.net
 
古代の言語は分からなかったが、むき出しにされた歯茎が攻撃的なものであることは分かる。


   
希(ひぇ、ひゃえいいい!! あかんアカンよこっち来るっ肉食動物が獲物見つけた時の目ぇして!)


   
自身の運命を悟った希は、それでも何とか生の可能性にしがみ付こうと、無我夢中で首の護符をまさぐり始めた。


圧倒的な恐怖と絶対的な死を前にして、藁にも縋ろうともがく彼女を誰が攻められようか――


   
希「しゅ、主よ。私をお救いください……羊飼いの群れを守るよーに…」


   
 ≪『……ナニ+fソレ"reハ』≫


     
希「だ…ダメか。吸血鬼じゃないもんね…」ポイッ


   
使えない十字架を放り捨て、二秒後にはイスラム教に改宗していた。


   
希「偉大ですっごい強くてモテモテのアラー様、どうかその御力で目の前の悪魔を焼き尽くしてっ。アッラーフ・アクバル!」


     
 ≪………………≫


     
希「あ、そ…これもダメ……オッケー、次は…」ジャラジャラ
     

421 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:23:47.46 ID:eXdEIRMC.net
 
希(日本人なんだから、本来の仏教徒に立ち返るのが一番なはず…!)


希「はらったま〜きよったま〜第六感で危機回避、今なら厄除けパワー100パーセントで商売繁盛、良縁爆発…? クラトゥ・バラダ・ニクト!」


言葉を話す相手なら、交渉できるかもしれない――自分でも何を喋っているか分からなくなるほどに希は必死で。


そんな彼女がいい加減鬱陶しくなってきたのか、突き出された護符を払いのけると、

怪物は腐り切った腕を希の顔に伸ばす――言葉にするのも恐ろしいことをするために。


   
 ≪『クハァァァァァ……アutxキラメナ{サイlz#ウンガワktwルイト…』≫


   
希(あああああ殺されるぅぅぅまだ死ぬのは嫌…!)


   
もはや一刻の猶予も残されていない中で、最後に選んだのはユダヤ教、ダビデの星。


   
希「あなたのしもべです! あなたのしもべですッ!」


     
 ≪……!≫


     
 ≪『ヘブラpイ=gfドレイ)ノコトバ………イイデr~faシuョウc』≫
     

422 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:27:14.27 ID:eXdEIRMC.net
 

 ≪ワガ3ナ15ハ ウミホ÷テップ。ワレ76ニ ツ588カエナ0サイ…イヤシ1キ6モノ≫


希(た、助かった…?)


 ≪ヨクハ15タラケバ ミカエ9リハ……スバ62ラシイ モ9ノ201デス3×ヨ≫


かつてのエジプト人の奴隷、ヘブライの言葉を喋りながら、不死者――ウミホテップは片手に黄金の装飾品を、

もう一方の手には、割れた獅子頭のカノプス壺を取り出して見せた。


 ≪コノ19メハ ジ86ャクシ。アル6クコト2モ ムズ8+カシイ。ハヤ2011ク カラ112ダ≠トリモ3ドサネバ≫


 ≪ダカラ20アナタ−ガ ワタシ14ノメトナル。アンナイ≒カノプスツボ42ノモトヘ…!≫
 

希「ひっ…! は、ははぁぁぁぁぁ、お仕えしますウミホテップ様…」


   
希にとって、この“話の通じる死体”との出会いは幸か不幸か。


いずれにせよ、彼女には最早運命を選択する余地など残されてはいなかった。
   

423 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:28:44.19 ID:eXdEIRMC.net
 

穂乃果「やっぱり希ちゃんどこにもいないよ」


にこ「どうせまた一人で逃げたのよ! 探すだけ時間の無駄だわ」


絵里「確かに…その可能性は高いけど」


花陽「うぅ…っ…く」


凛「大丈夫だよかよちん。凛がついてるから」


にこ「…花陽を早く医者に見せないと。体力も落ちてるし、出発は早い方がいいでしょ」


真姫「どうして…こんなことに…」ブツブツ


雪穂「……」


絵里「分かった…行きましょう」


絵里(……希)
   

424 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:30:40.14 ID:eXdEIRMC.net
 

ラクダと馬を駆り、すみやかにハムナプトラの舞台を去っていく一同。


   
やがてその廃墟が豆粒ほどにしか見えなくなる距離にまできた時、

夜の漠沙にこの世ならざるものの咆吼が轟いた。


   
まるで、ステージから降りた気になっている彼女たちに、

恐怖は始まったばかりだということを告げるように。
   

425 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:31:19.84 ID:eXdEIRMC.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                              


 
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426 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 01:39:58.80 ID:LKmg30sg.net
支援

427 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 02:12:16.35 ID:y386h+P0.net
支援

かよちん…

428 :名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 02:59:03.90 ID:XFlBUPhn.net
続き楽しみ

429 :名無しで叶える物語(四国地方)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 06:06:53.64 ID:1D2gevnb.net
園田、ついに神話生物の仲間入り

430 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 19:27:12.47 ID:KSmUqzXa.net
保守

431 :名無しで叶える物語(りんご)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 20:25:14.91 ID:xLaTO/bj.net
原作通りだと希の運命は...

432 :名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 20:27:13.35 ID:j3N4mkwb.net
皆大好きB級映画モノきてたー

433 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 21:51:42.40 ID:eXdEIRMC.net
 
――数日後 カイロ 


【英国軍駐屯地 ノーブランド砦 雪穂の部屋】


絵里「ここに留まるですって? あなた気は確かなの?」


雪穂「この建物はイギリス軍の統治下にありますし、大きな塁壁に兵隊さんもたくさんいます。ここで呪いを止める方法を考えるんです」


絵里「あら、呪いの類は信じてないんじゃなかった?」


雪穂「全部はね。でも古代のミイラが蘇って歩いてるのは事実です、自分の目で見たものは信じますよ」


絵里「信じなくていいから忘れなさい。ほらそこ退いて。あとそっちの服とって。あなたも荷造りなさい」ドサドサドサ


絵里「荷物をまとめて、とっととこの国にさよならを言いましょう……ん?」


  ≪ナーオ……ゴロゴロゴロ≫


絵里「まあ、可愛い猫ちゃん。ずっとトランクの中にいたの?」


雪穂「ナオボーっていうんです、私の飼い猫。さっきお姉ちゃんが家から連れてきてくれて」


雪穂「じゃなくて! さよならなんてとんでもない! ちゃんと責任取らなきゃ!」


絵里「責任って何よ? 私たち、まだそこまで深いことはしてないはずだけど」


雪穂「その話でもなくて! 私たちが目覚めさせた呪いのことだよっ」
   

434 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 21:52:47.10 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「私“たち”ときたか。あれは二人の共同作業じゃなくて、あなたのワンマンプレーでしょうが。私はやめた方がいいって言ったわよね?」


雪穂「あーそうです私のせいです!だから私が何とかしなきゃ」


絵里「どうやってよ。この世の武器じゃ殺せないんですって。希風に言えばスピリチュアルなやり方でも試す?」


雪穂「それだっ! スピリチュアルな武器を探しましょう。私たちで」


絵里「また私たちって……あのねえ、あのミイラが何考えてるか知らないけど、放っておけばいいのよ」


雪穂「駄目です、英玲奈って人の話を聞いたでしょ? 呪いは世界を滅ぼすって」


絵里「そんなことしたら自分だって住めなくなるじゃない。別に地球がなくなるわけじゃないのよ、勝手にやらせておきなさい」


雪穂「人類全体の問題なんだよ!?」


絵里「私たちの問題じゃないわ……あら、可愛い下着。これも詰めといて」


雪穂「これは私のブラ! 私は帰らないってば!」
   

435 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 21:54:40.25 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「ねえユキちゃん…あなたは私の命の恩人よ。あの時助けてもらったお礼に、ハムナプトラまで案内する契約を結んだわ」


雪穂「ふーん、つまり私たちの関係は契約だと。仕事が終わったらはいさよならってことか。今まで捨ててきた人たちみたいに」


絵里「最後まで聞きなさい…! あなたには死んでほしくないのよ。どうして分かってくれないの…」


雪穂「絵里さんこそ何で分かってくれないんですか! 一緒に戦ってほしいんです…絵里さんの助けが必要なの」


絵里「……」


絵里「整理しましょう。選択肢は二つに一つ。しっぽを巻いて逃げ出すか、ここに残って世界を救うか」


絵里「エリチカはおうちに帰るわ、一緒にどう?」


雪穂「…ばか」


雪穂「ばかばかばか! もう知らない!」


絵里「私はあなたのためを思って…」


雪穂「早くこの国を出ればいいじゃないですか! まずは私の部屋から出てって!」ポカポカポカ


絵里「あっ、くすぐった…ちょっと」


    
 ガチャッ バタン!


   
絵里「…まいったわね」
   

436 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 21:56:14.53 ID:eXdEIRMC.net
 


穂乃果「痴話喧嘩は終わったー?」


絵里「穂乃果……別にそんなんじゃないわよ」


穂乃果「驚きだね。あそこまで子供っぽい雪穂は久しぶりだよ」

絵里「そうなの?」

穂乃果「うんうん。雪穂って普段はクールっていうか、私相手にはツンツンしてる感じでさー」


穂乃果「大人になって可愛げがなくなっちゃったと思ってたけど、今のを見る限りそーでもないみたい」

穂乃果「てかそれだけ絵里ちゃんに気を許してるってこと? お姉ちゃんちょっとフクザツ」

絵里「お義姉さん、仲直りのコツとかあります?」

穂乃果「ないこともないけど。うちの雪穂は手強いぞー」


穂乃果「長くなりそうだから、下のバー行こっか」
   

437 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 21:57:42.83 ID:eXdEIRMC.net
 
 
 ガヤガヤガヤ ワイワイ


穂乃果「あ、ツバサさんだ。オーキャプテン、マイキャプテン!」ビシッ


ツバサ「あら、穂乃果さんに……エリーじゃない」


絵里「穂乃果、ツバサと知り合いなの?」

穂乃果「絵里ちゃんこそ」


ツバサ「酒場に来る人はみんな私のお友達よ」


絵里「…ああ、そういえばそうだったわね」


絵里「彼女、いつどこのバーに行っても必ずいるのよ。妖怪の類かと思って一時期本気で怖かったの…」

穂乃果「バーの守護霊ならぬ酒豪霊ってか、くふっ」


ツバサ「それもこれも戦争が終わっちゃったせいよ」
   

438 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:04:09.28 ID:eXdEIRMC.net
 

ツバサ「私はここに駐屯してる英国空軍最後の一人よ。他の仲間はみんな空で死んじゃった」


ツバサ「いい人たちだったわ……今は砂の下だけど」ジャバジャバ


ツバサ「ん? 冷たいわね」


穂乃果「ツバサさん、そこ噴水の中」


ツバサ「……酔っ払いが酒をこぼしたのね。拭いといてよ全く」ザバァ


ツバサ「で、どこまで話したっけ。そうそう、刺激が足りないのよ」


ツバサ「空を飛ぶことしか能がない私には、今の平和な時代は生き辛くってね」

ツバサ「戦争やってた頃は毎日が輝いてたわ。仲間たちと果敢に空を飛び回って、敵を撃ち落として…」

ツバサ「エリーなら分かってくれるでしょ? 安心より冒険! そう、私たちみたいな女には冒険が必要なのよ」


絵里「ん、まあね。でもあなたの場合は」


ツバサ「ああ、出来ることならみんなと一緒に炎に包まれて」

えりツバ「名誉の戦死を遂げたかった」

ほのツバ「こんな所で怠惰と酒だけの日々を送るよりは〜♪」ラララー
   

439 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:05:44.43 ID:eXdEIRMC.net
 
ツバサ「…驚いたわ。二人とも私と同じ気持ちだったのね」

穂乃果「何度も聞かされてるから覚えただけで、自分には英雄願望も燃え尽き症候群もないでありまーす」

ツバサ「素晴らしい!さあ、乾杯ましょ」

穂乃果「聞いてないし…」


絵里「まあ、悩みは人それぞれよね。はい、乾杯」トクトク

ツバサ「チアーズ♪」ヒョイ

穂乃果「あ、それ私の」

ツバサ「ぷはぁ〜…御馳走さま。じゃあねーお二人さん、そろそろ勤務に戻るわ。アッハッハ!」


穂乃果「仕事ないんじゃなかったの」

絵里「また別の酒場に繰り出すんでしょ」


ツバサ「やーねぇ、また誰か小便漏らしたのかしら。床が濡れてるわよ」ジャバジャバ
   

440 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:07:15.02 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「それで、あなたの妹のことなんだけど…」

穂乃果「あ、にこちゃんに凛ちゃんだ。おーい!こっちこっちー」

絵里「…はぁ」


穂乃果「おいーっす二人とも、まあ座りなよ。みんなで一杯やろ?」

にこ「聞いてよ。こっちの荷造りはとっくに済ませてチケットもとってあるのに、船は明日まで出ないんですって」

にこ「乗客の数が少ないとこの国の連中は仕事しないそうなのよ。ふざけてるわ」

穂乃果「じゃあ二人とも明日には帰っちゃうんだ。残念ー」


凛「……穂乃果ちゃんは気楽でいいよね。歩く死体にストーキングされてる人の気持ちは分からないでしょ」


絵里「花陽の…具合はどうなの?」


にこ「……」


凛「……眼と舌を抜かれちゃったんだよ。いいわけないじゃん」サッ


にこ「あ、ちょっと。どこ行くのよ」


凛「外で風にあたってくる」
   

441 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:08:43.45 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「…ゴメンなさい。気に障ったみたいね」

にこ「いえ、あんたの落ち度じゃないわ」

にこ「凛は花陽と付き合い長いから……くっ」

にこ「私だって思うところはあるわよっ。あんなのって……惨すぎるでしょ?」

にこ「出来るなら今すぐやったやつを私の手でぶっ殺してやりたいけど…」

穂乃果「ミイラだよミイラ! 死体なのに生きてるって。わけわかんないよね」

にこ「悪夢だわ。真姫も帰ってきてから部屋に籠りっきりだし」


にこ「……飲んで忘れましょう」

絵里「酔っぱらう前に聞いておくけど、花陽も今部屋で休んでる感じなの?」

にこ「あ、そうそう。さっきお医者様を呼んだのよ。今頃診断を受けてるはず」

にこ「何でも東洋から来た、独自の治療法を使う人なんですって」
   

442 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:16:28.25 ID:eXdEIRMC.net






 「こんちわー♪」


   
 「そのこふぇ……のひょみひゃん…?」


   
 「うんウチだよ、東條希ー」


   
 「どほひて…」


   
 「ウチね、今新しい人に雇われてるの」


 「ウミホテップ先生。花陽ちゃんが呼んだお医者さんだよ」


   
 「……」


   
 「あ、びっくりたしたよね? ウチもハムナプトラに置き去りにされた時はどーしよって思ったけど」


 「でもたまたま先生に拾われて、そのまま仕えることになっちゃったの。人生何があるかわからんねー」


 「じゃお邪魔するね。ささ、先生もどぞどぞ」

 
 『…………』
 

443 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:20:09.75 ID:eXdEIRMC.net
 


 「お、おはいでひて、うえひいでふ…せんせ」スッ


   
 「おっと、握手はダーメ。東洋だと相手の身体に軽々しく触るのはNGなんよ。ごめんね」


    
 「あっ……こ、こひらこそごめんなふぁい。わたひ、ひらなくて…」


   
 「はの、おひゃをようひしたのふぇ、よはったら……あふっ!」ガシャン!


   
 「あ、大丈夫、ウチが拭くよ。目が見えないと大変よね」


   
 「ふいまへん…」      カサカサ…


   
 (!? 今の感触は…)


   
 「どっかから虫が入ってきたみたい。こら、しっし、あっちいけ」


   
 『…………フゥ』


     
 「……さて、そろそろ本題に入ろっか」
     

444 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:22:33.53 ID:eXdEIRMC.net
 

 「ウミホテップ先生は花陽ちゃんに深ーく同情してるんよ」


   
 「なにせ先生の目もあまり良くないの。だから気持ちはよく分かるって」


   
 「は、ふぁ…」


   
 「先生はあなたのもてなしにも大変感謝してるの」


    

 「眼と……舌をありがとうって」


   

 「!?」


   

 「でもね…ヒジョーに申し訳ないんだけど、まだ足りないの」


   

 「だから、残りを頂きに来たんよ」
   

445 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:25:33.47 ID:eXdEIRMC.net
 


 「ひや…そんな…」


   
恐怖に駆られ、闇雲に振り回した手が何か硬いものに触れる。

もぞもぞと動き回るそれが、ひっくり返ったティーカップではなく例の人食い虫なのは今や明白だった。


   
 「やめ…やめふぇ」


   
 「ごめんな…でもこれは仕方ないことなんよ」

   
 「花陽ちゃんたちが、ウチの忠告を聞かずにあの櫃を開けるから」

    
 「ウミホテップ様をここに招いたのはウチじゃなくて花陽ちゃんの自業自得なの」


   

 「やめふぇ! もうこへいひょう、わはひからとはないふぇえええ!!!」


   

恐慌状態に陥った花陽の目の前で、全身ローブを纏った人物がその顔に着けたマスクを外す。


その裏側に張り付いたスカラベたちが一斉に彼らの住処――ウミホテップの穴だらけの頭蓋の中に

戻っていく気味の悪い光景を彼女は見ずに済んだ。


不死者の眼窩の中で腐敗の影響を受け、紫から黄褐色に濁り変色した彼女の両眼は、

最期に自分自身の姿を見ていたのだから。
   

446 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:31:46.28 ID:eXdEIRMC.net
 
―――――――――――――――

――――――

――

穂乃果「えーそれでは……私たちの輝かしいミイラ、じゃなくて未来に乾杯!」チン

にこ「あんたそれワザとやってるでしょ…」

絵里「二人とも幸運を」グビッ


   
ほのにこえり「ぶーっ!!!!!!」


    
穂乃果「ぺっぺっぺっ、なにこのお酒…」

にこ「この味に匂い……まるで血じゃないっ。くおらぁバーテン! 誰がドラキュラ用の酒注文したってのよ!」

絵里「…いえ、私たちだけじゃないみたいよ」


   
客A「ぶっブーーーー!!! ですわっ!!! 何ですのこれ! 水割りじゃなくて血割りじゃないですか!」


客B「うぇぇぇぇぇぇぇみゅ、みゅず、水水水………ぴぎゃぁぁぁぁぁ!! これもぉ!!??」
 

   
  ザワザワザワザワ…


にこ「噴水から……血が湧き出てる…?」


穂乃果「『――エジプト中の川と水は赤く染まる。』……まさか、十の災いの?」


絵里「輝かしい未来なんかじゃない……朽ち果てたミイラがやって来たのよ…」
   

447 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:34:36.12 ID:eXdEIRMC.net
 

 ピシャァァン ゴロゴロゴロ…


   
凛(一雨きそうな音…)


凛「はぁ…かよちん」


凛「可哀そうなかよちん……国に帰ったら、凛が全力で面倒を見てあげるから」


凛「でもかよちんは優しいから、凛に悪いとか思って遠慮するんだろうなぁ…はぁ」


    
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ――ピシャアアアン!


   
凛(グレーな空模様は、まさに今の凛そのものだよ)


   
凛(ん……? グレーというより…赤?)


   
凛「いてっ…!!」


   
凛(頭に固いのが当たって……何、これは)
   

448 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:36:35.58 ID:eXdEIRMC.net
 

雪穂「……雹? なんでこの時期に雹が降るの…?」


   
絵里「ユキちゃーん!」


雪穂「あ、絵里さ……ふんっ、まだいたんですか?」

絵里「細かい話は後よ!早く建物の中に!」グイッ

雪穂「え、うわわわっ」


雪穂「あ、あの…心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっと大げさじゃ」   ドゴォォォォォォオオオオオ!!!!


言いかけた直後、すぐ目の前のヤシの木が斜め上より飛来した球状の塊の直撃を受け、中ほどからへし折れた。
    

449 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:37:26.56 ID:eXdEIRMC.net
 
雪穂「へっ…」


続けざま、天より次々と降り注ぐオレンジの球体が、中庭の植物や彫刻、

ついでに警備の軍人までもを見境なく炎上させ、あっという間に阿鼻叫喚の灼熱地獄に変える。


雪穂「な、なんじゃこりゃああああああっ」


さながら大戦時のドイツ軍によるロンドン空襲。

いやそれよりずっと酷いものだということを、二人はすぐに理解することとなる。
   

450 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:39:29.17 ID:eXdEIRMC.net
 

雪穂「ああ、嘘でしょ…」


二階のバルコニーまで避難した二人の目に飛び込んできたのは、

カーニバルのフィナーレを飾る打ち上げ花火の渦にも似た荒れ模様となったエジプトの空。


雹に混じって落下してくる砲弾クラスの火球が、ギザのピラミッドや、

マムルーク朝時代の遺産であるモスクにミナレットといった歴史的建造物に

容赦なく風穴を空け冒涜的に破壊していく――恐らくエジプト全土でこれと同じことが起きているのだ。


雪穂「やめてよ……古代の英知の結晶が」

絵里「だから熱いのは苦手なのよ…」ドツン!


 「あたっ! もー気を付けてよ、こっちは急いで…」


階段を駆け下りてきた人物が絵里にぶつかり――何故かそのまま踵を返して戻ろうとするその首根っこを捕まえる。


絵里「希! あなたやっぱり生きてたのね」
   

451 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:41:53.37 ID:eXdEIRMC.net
 
希「や、やあエリち…前もこんなことあったね」

絵里「今度はどうやって生き延びたのよ。それに今なんで逃げようとしたの?」


   
  グ オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!


    
                 ――ピャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!


えりゆき「!!?」


絵里「この悲鳴と唸りは…」


希「ひぃぃぃ、聞いてられない」ダッ


絵里「あ、待ちなさいよっ希!」


   

  オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛………


    
絵里「……自分で確かめるしかないみたいね」チャキッ
   

452 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:44:32.85 ID:eXdEIRMC.net
 


絵里(声は、この部屋から…)キィィ


   
 カサカサカサ…


雪穂「スカラベ!? 何でここに…」


絵里「まさか…!」バタンッ


   
何とも形容しがたい異臭が、飛び込んだ室内に充満していた。


思わず眉間にしわを寄せ鼻をつまんだ絵里の横で、雪穂の脳裏には何故か姉と野を駆け回った少女時代の記憶が去来する。

姉の虫籠にぎっちり詰め込まれたカブトだかクワガタだかゴキブリだかが、ひっくり返ってわしゃわしゃ脚を動かしもがく様はグロテスクだった。


この臭いは、あの時と同じ――


   

  バキバキ…メキョ! サァァァボキゴキッ グニュウウウウウウウウウ…


   
 『オッ、ォ、ォ、ォ―――ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛!!!』


   

絵里「なんてこと……ミイラがいるだけでもヤバいってのに」


雪穂「か、身体が回復してる…?」
    

453 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:46:13.27 ID:eXdEIRMC.net
 
暖炉の前に仁王立ちした不死者の骨格の上に、筋肉の赤い花が次々と開花していた。


貧相だった躰に巻き付いた包帯が波打ち盛り上がり、毛細血管の葉脈が網目状にじんわり伸び広がって

朽ちた全身に新鮮な養分を行き渡らせていくのが透けて見える。


腹腔では太く長い腸が陸揚げされた海洋生物よろしく激しくのたうって正常な位置に収まり、

その上に土気色の皮膚が形作られていく。


大きく欠損した頭頂部の内では、黒く粘ついた何かが所々に蜘蛛の巣のようにへばり付いて邪悪な生命の脈動を。

だが、未だむき出しのままの平らな胸郭の隙間からは、その中身が空っぽであるのが見通せた。


   
 『ハァァぁァァぁぁァァ……チカらガミナぎっていマす。イマなラ……ダレにもマけルキがしまセん…!』


   
そう言って振り返った不死者の顔付きも――顔筋と神経の大半が露わとはいえ――幾分肉付きが良くなっている。


随分と滑舌がはっきりするようになった唇の奥で、欠損していた永久歯が数本まとめて飛び出し生えてくる様は、

蛇口から勢いよく吐き出される水流の束を思わせた。



絵里「マズくない? これ…」
   

454 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:48:27.77 ID:eXdEIRMC.net
 


 『ふゥううウウゥぅ…!!』


   
再生した外鼻からの鼻息も荒く、不死者は回復した視力と肉体と自信とを伴って、真っ直ぐこちらへ突っ込んできた。


   
絵里「ッ……! ッ!!」 BANG!BANG!BANG!BANG!


   
  バリィィン! ドンドンッ!! ガシャァァン!


幾許かの生気を取り戻した屍の躰を二挺拳銃の銃弾が貫通し、背後にある小物に当たって一緒に砕け飛ぶ。


しかし不死者の進撃は止まらない――!
   

455 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:50:45.19 ID:eXdEIRMC.net
 
穂乃果「こっちこっち! 二人とも急いで!」

凛「誰が撃ってるのー!?」

にこ「花陽の部屋よっ……ぎゃー!! またミイラ!?」


   
絵里「みんなも撃って!」BANG!BANG!BANG!BANG!


   
凛「…にゃあああああっ!!!」BBBANG!BBBANG!


いち早く腰だめに抜かれたピースメーカーが激昴する。

怪物のわき腹がごっそりと削り取られ……た傍からみるみる再生していく。


   
にこ「うっそぉ!?」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


   
絵里「Блин!」BANG!BANG!BANG!BANG!


   
発砲発砲発砲――再生再生再生。


   
 『ムダでス』


   
吹き飛んだ直後には新たな肉と皮が生成される。

もはや拳銃弾程度では、やつの皮膚に傷をつけることすら――
   

456 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:53:13.60 ID:eXdEIRMC.net
 

 『フン…』


五月蠅い小バエを払い除けるように、不死者は平手で絵里の顔面を打ちのめす。


   
絵里「ハラアアアァーーーーー!!??」ヒューン


    
にこ「ちょっ」

凛「こっちに来」

穂乃果「どわあああああああっ!!!」


   
それだけで彼女は回転しながら後方に弾き飛ばされ、

穂乃果たちを巻き込み仲良く転倒、銃が手から離れ床を滑っていく。


   
 『ム…』


一方で、その掌を不思議そうに不死者は見つめた。

今しがた再生した皮膚が、絵里に触れた箇所だけ骨が露出するまでに腐り落ちたからだ。


 ボトボトボト…ベチョッ!


   
雪穂「ひゃっ…」


   
 『――!』
   

457 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 22:58:18.43 ID:eXdEIRMC.net
 

 『あナタは…』


雪穂「うあああぁぁ来ないで…」


 『ナルホど、こンドハみチガえマセんヨ。あなタがワタしヲよみガエラせタのデすね』


   
絵里「うぅっく……はっ、ユキちゃん逃げなさい!」


   
 『ワたシはウミホテップ……カンシゃしまス、ウンめイにエラばレシみガワりノモのヨ』


雪穂「へ…?」


 『ミナリンスキー…ワタしハアなタを…』スッ


   
絵里「やめてええええええええ!!!!」


   
不死者が雪穂の顔に触れようとするのを前に、為す術もなく叫ぶ絵里。


   
――そこに、意外な援軍が到着した。
   

458 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:01:37.36 ID:eXdEIRMC.net
 

 ≪ミャーオ…≫


   
 『ッ…!?』ビクッ


   
雪穂(ナオボー? どうしてここに…)


   
 ≪フシャーッ!≫


飼い主の危機を察知し飛び込んできた白猫は、全身の毛を逆立て牙をむき出し、


    
 『ヒいッ…!』


驚いたことに、銃火器では全くひるまなかった不死者がこの威嚇に心底おびえた表情を見せた。


   

――ゴオオオオオオオオオオオオオ!!!!


   
雪穂「う゛っ…!?」


   
開きっぱなしの窓から、自身の躰を瞬時に微粒子レベルにまで分解した不死者が

砂嵐(ハムシーン)となって飛び出していったのは、残された者たちに二重の驚きを与えた。


ぱたりと、ご丁寧に窓が閉まり、呆気にとられた室内は静寂に包まれる。


   
絵里「これは……いよいよ洒落にならなくなってきたわね」
     

459 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:03:16.13 ID:eXdEIRMC.net
 
凛「ぁあ…! かよちんが…!」


部屋の隅で上がった悲痛な呻きが、おおよその事態を察せてくれた。


穂乃果「…花陽ちゃん、なの?」


来客用テーブルの椅子に、かつて花陽だったものの残骸が寄り掛かっていた。


体液という体液を吸い尽くされ、枯れ木の如く萎んでいるそれは、

まるで誰かが花陽そっくりの着ぐるみを作って、無造作に脱ぎ捨てたように見える。


眼と舌だけでなく、内臓もいくつか持ち去られたのだ。

彼女の取り分だった肝臓入りのカノプス壺と一緒に。

日頃から体型を気にしていた彼女だが、骨格の形が分かるほどに搾り尽くされることなど望んでいただろうか。
   

460 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:03:51.61 ID:eXdEIRMC.net
 
凛「うぁぁぁかよちぃぃん……ひぐっ」


にこ「呪いよ……畜生、にこたちマジで呪われてるんだわ…」


絵里「……」


穂乃果「…で、呪いから逃れるためには?」


雪穂「……」


雪穂「あそこになら、何か手掛かりがあるかも」
   

461 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:05:16.71 ID:eXdEIRMC.net
 
【カイロ考古学博物館 展示室】


英玲奈「むっ」


ほのえりにこりん「あっ」


雪穂「あなた!」


 ジャキン! チャキチャキチャキガシャン!


あんじゅ「あら〜皆さん揃いも揃っていらっしゃあい。丁度客人をもてなしていたところなのー」


あんじゅ「それでー…いざ呪いの蓋を開けちゃってから、焦って間抜けな雁首と銃口並べに此処に来たわけ?」


雪穂「その口ぶり、最初から全部知ってたんですか…!」


あんじゅ「クスクス、知らないなんて一言も言ってないわよぉ」


絵里「ならこれも知ってる? 私たち手を組むことにしたの。今なら特別にあなた達も仲間に入れてあげないこともなくってよ、どう?」


英玲奈「傲慢な白人ども……銃を突き付けながら言う台詞か?」


あんじゅ「まあまあ英玲奈。今に始まったことじゃないわ」


あんじゅ「とりあえず皆落ち着いて、座って美味しいケーキでもいかが? お紅茶もあるわよ」


あんじゅ「誰かさんのせいでちょーっと色が濃くなり過ぎちゃってるけど…うふふ」
   

462 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:08:54.80 ID:eXdEIRMC.net
 

雪穂「それで、事情を話してもらえませんか? 館長と英玲奈さんはどういう関係なんです」


あんじゅ「端的に言うとぉ、私もラズァイのメンバーなの」


穂乃果「そうなの? 見た感じあんまりそういう風じゃないけど……顔のタトゥーもないし」モグモグ


あんじゅ「ラズァイは三千年前からずっと続いてきた秘密結社で、構成員は選ばれし十二の部族から代々選出されてる」

あんじゅ「でもそれ以外に多数のシンパが財界や政界に考古学会、この国の至る所に浸透しているの」

あんじゅ「何としても呪われし者、ウミホテップの復活を阻止するためにね」


英玲奈「君たちのせいでその努力も水の泡だがな」


穂乃果「元はと言えばそっちがヘンテコで手の込んだ殺し方するから…」ムグムグ


英玲奈「君らが櫃の封印を解いたのが悪い」


絵里「私たちじゃなくて、アメリカ人たちよ」


凛「棺を開けたのはそっちにゃ…」ボソッ
   

463 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:10:02.31 ID:eXdEIRMC.net
 
雪穂「館長だったんですね。地図と鍵のことをチクって、私たちを船で襲わせたのは。関係ない人が沢山巻き込まれたんですよ」


あんじゅ「あら、矛先を私に逸らす? 私は最初に穏便なやり方で警告したわよぉ。それに…」


英玲奈「無辜の血がいくら流れようとも、やつの復活を防げるなら」


えれあん「いいの!!」


にこ「うわぁ野ばーん。この人たち怖いにこぉ」


穂乃果「ブフォアッ! この紅茶も血の味がするっ」ゲェェ


あんじゅ「……こんな感じで警告に耳を貸さない阿保が多いから、私たちが苦労するのよ」
   

464 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:11:44.63 ID:eXdEIRMC.net
 
穂乃果「げほげほっ……そーいえばあのミイラ、ウミホタテだっけ? 猫にビビってたんだけど、なんでか分かる?」

凛「凛みたいに猫アレルギーなのかな…」


あんじゅ「ウミホテップよぉ…猫は聖獣で、悪霊を打ち払う力があると言われてるわぁ」

絵里「そりゃいいわね。今度から銃弾の代わりに猫を投げつけてやりましょう」

英玲奈「だがそれもやつが悪霊であるうちだけだ。完全に再生すれば災厄そのものとなった彼女は無敵になる」


あんじゅ「どうやって身体を再生するか分かる?」

にこ「見たわよ…壺を持ってる私たちを殺すんでしょ」

凛「そして生気を吸い取っちゃうんだ! それでかよちんは枯れちんに…! 凛たちも…」

にこ「凛、落ち着きなさい」

絵里「というか待って、さっき“彼女”って言った?」


穂乃果「えっ、ウミイラって女の子なの!?」
   

465 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:13:16.08 ID:eXdEIRMC.net
 
あんじゅ「問題。そこに展示してある金髪の人形、誰のものでしょう」

雪穂「答えはマリィ1世です、第19王朝の2代目ファラオで」

あんじゅ「はいそこまで。じゃあここからは貴女の知らないこと」


あんじゅ「マリィ1世の墓は盗掘にあって、ミイラも未発見だから死因は今もって不明。公式にはね」

あんじゅ「でも私たちは真相を知っている。彼女は殺害されたのよ」

雪穂「その犯人がウミホテップなんですね……そしてホム・ダイの呪いをかけられた…」


あんじゅ「彼女はファラオの愛人、ミナリンスキーという女性を愛してしまったの。そして二人で共謀して王を殺した」

穂乃果「痴情のもつれってやつか。ドロドロしてるなぁ」

にこ「ん…? 三人とも女なの?……確かに、教科書には載せられないわね」


雪穂「ミナリンスキー……ミナリンスキー……どこかで聞き覚えが」


あんじゅ「…?」


雪穂「そうだ、さっき花陽さんの部屋で。ミイラが私のことをそう呼んだの。他にも身替りがどうとか…」


英玲奈「おい、あんじゅ」

あんじゅ「ええ…もしや」
   

466 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:15:20.22 ID:eXdEIRMC.net
 
雪穂「思い出した、ハムナプトラで初めてミイラが私を見た時も。確かにミナリンスキーって」

雪穂「それに、き、気のせいかな……さっき私に近付いた時、その…キ、口付け…しようとしてきたような…」カァァ

絵里「なんですって!?」ガタッ

絵里「どういうことよ? あれはあなたのことを襲おうとしてたんじゃなくて? ねえ?」

穂乃果「まあ、間違ってはないね」

英玲奈「どうやら三千年経っても彼女への愛は消えていないらしい。その間、拷問に等しい責苦を受けてなお」

あんじゅ「時を超えた愛、か……見た目は腐っても根は一途なのね」

穂乃果「それいいね。演劇か映画にすれば大ヒット間違いなし。今度売り込みに行っていい?」

英玲奈「その前に世界が滅ぶ。分かったのは、やつを動かしてるのはただただ愚直な愛ということだ。それだけに性質が悪い」

雪穂「ねえ、ロマンチックな話だとは思うけど、私はそのミナリンスキーって人とは無関係だよ?」

英玲奈「いや、そうも言ってられなくなった」

英玲奈「恐らく彼女は恋人をも蘇らせる気だろう。カノプス壺を集めているのがその証拠だ」
   

467 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:17:12.35 ID:eXdEIRMC.net
 
にこ「?…?…どういうことよ、これの中身ってあいつの内臓なんでしょ?」

英玲奈「少し頭を働かせて考えてみろ。ウミホテップは生き埋めにされたんだぞ」

雪穂「あっ…」


あんじゅ「まず間違いなく、それはウミホテップじゃなくミナリンスキーのカノプス壺よ」

英玲奈「同じ神殺しの罪人として、死者の書と共に臓器を封じられたのだ」


凛「紛らわしいなぁ…下着みたいに自分の名前書いといてよ」

にこ「…え?」 穂乃果「うんうん」


凛「それじゃあさ、この中身だけあいつに渡しちゃえば」

あんじゅ「無駄でしょうね。復活には生贄が必要よ。ウミホテップの場合は櫃を開けた貴女たち」


英玲奈「そしてミナリンスキーの場合は」


えれあん「…」チラッ


雪穂「……わ、私?」


穂乃果「雪穂ぉ…なんで変な人にばっかりモテるのさ」


あんじゅ「私たちにとっては却って好都合よ。彼女を倒すための時間稼ぎが出来るかも」


英玲奈「ああ、だが急いだ方が良さそうだ…」
   

468 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:19:07.12 ID:eXdEIRMC.net
 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


   
絵里「あ、明かりが…」ギュッ


雪穂「絵里さん…また?」


穂乃果「部屋の明かりじゃないよ…太陽が」


凛「隠れてく…」


雪穂「『――彼が天に向かって手を差し伸べると、エジプト全土を暗闇が覆った。』」


にこ「皆既日食、てやつなの?」


あんじゅ「そんなレベルじゃない。永遠の闇よ」


英玲奈「黒い太陽…やつの力が刻一刻と増している証拠だ」


絵里「……彼女を倒す理由がまた一つ増えちゃった」
   

469 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:20:17.60 ID:eXdEIRMC.net
 
英玲奈「ミナリンスキーが復活した後に待ってるのは文字通りの二人だけの世界だろう。そんなことになる前にやつを止めねば」


英玲奈「今やラズァイの実働部隊は壊滅状態だ。半数は君たちに、残った者もあの死食鬼(グール)にやられた」


英玲奈「我々はここに残って文献を調べる。そちらも何か当てはあるか? この際、味方と情報は少しでも多い方がいい」


    
雪穂「………真姫さんなら、何か知ってるかも」


絵里「ひとまず砦に戻りましょうか」
   

470 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:21:15.87 ID:eXdEIRMC.net
 
――再び、ノーブランド砦 雪穂の部屋


絵里「というわけで『第一回ウミホテップ完全復活対策会議-光を取り戻せ-』を始めたいと思います」


穂乃果「い、いえ〜?」ドンドンパフパフ


絵里「古代エジプトと萎びたミイラをこよなく愛するユキホ・コーサカさん。忌憚のないご意見をどうぞ」


雪穂「ぶっちゃけて言えばこれ以上彼女にエサをやらないことですね。仮定の話ですが、もし生贄の皆さんが速やかに自決でもした暁には…」


にこ「ぶっちゃけすぎだろ! あんたも狙われてるってこと忘れてないわよね!?」
   

471 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:22:31.15 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「一応確認しとくけど、櫃を開けたときその場にいたのは」


にこ「にこでしょ、凛に真姫、もちろん花陽も」


にこ「そんでもって希のやつは直前になって逃げ出したわ。あんの紫レズ…チキンでチビのチャイニーズめ」ギリリッ


絵里「……彼女は日本人よ。(それにあなたの方がチビでしょーが、ついでに言えば無自覚のバイセクっぽいし)」ナデナデ


にこ「今なんで頭撫でた!?」


絵里「別に、可愛いなーって思っただけで他意はないわ」


  ガチャッ


凛「ダメ、真姫ちゃんの部屋もぬけの殻だったよ。壺も、例の本も無くなってた」
   

472 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:23:39.79 ID:eXdEIRMC.net
 
穂乃果「一人で逃げ出したの?」

雪穂「それとも、やっぱり何か手掛かりを知ってて自力でそれを…」

にこ「あのお嬢様、変なところで協調性がないんだからっ。早く連れ戻さないと…!」


絵里「よし、まずは彼女を探しましょう。誰か彼女の行きそうな場所に心当たりのある人ー」

にこ「真姫はこの町に事務所をもってるのよ。もしかするとそこに行ったのかも」

絵里「オッケー、じゃあ私が見てくる。穂乃果、車を出して。他の人はここで待機ね」

凛「はぁい… にこ「ちょーっと待ちなさいよぉ!」


にこ「私も行くわ!大体なんであんたが仕切ってんの!?」
穂乃果「悪いけど穂乃果じゃ足手まといなんじゃないかな。他の人がいいって絶対」
雪穂「私を除け者にしないで! そうやって自分一人で勝手に決めないでください、何様のつもりなの!?」


絵里「……」


ほのにこゆき「やいのやいのやいの」


絵里「……あーっもう」
   

473 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:25:01.02 ID:eXdEIRMC.net
 

雪穂「何でも思い通りにいくと思ったら大間違…ひゃっ!?」ヒョイッ


足元からすくい上げるように雪穂を担ぎ上げると、絵里は無言で寝室の方へと向かう。


雪穂「いやっ、降ろして! お姉ちゃーん、助けて!」ポカポカ


穂乃果「あー無理。多分私が百人いても今の絵里ちゃんには敵わなそう…」


雪穂「この意気地なしっ、誰かぁ!!」


   
ドサッ、とベッドの上に雪穂の身体を放り投げると、鼻が触れそうなほどギリギリまで顔を近づけ真顔で囁く。


絵里「あんまり我儘言うとまたチュウしちゃうわよ」


雪穂「っ……ぅ、っ///」


絵里「そこでいい子にしてなさい」


初心な乙女のひるんだ隙に、絵里は寝室の扉に外側から鍵をかけると、にこを手招きした。
   

474 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:26:56.51 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「いいこと。この鍵を預かって。あなた達二人はこの客間で見張りをお願い」


絵里「あの子が何を言っても絶対に扉を開けないこと。もし守らなかったら」


絵里「私があなたのことを食べちゃうわよ?」ズイッ


にこ「や、やれるもんならやってみなさいよ……にこは絶対に屈しないんだからぁ」


絵里「(二秒で陥落しそうな顔してからに…)あのね。ここに残れってのは、ちゃんと理由があって言ってるの」
   

475 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:27:35.38 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「まず一つ。死者の書を狙ってるウミホテップも真姫を探してるはずだから、この先でエンカウントする可能性は高い」


絵里「あなたはミイラのおやつなのよ? 獲物の方から出ていってどうするの」


絵里「それに……凛のこともあるわ」チラッ


   
凛「はぁー…猫になりたい」


   
絵里「彼女、さっきから大分まいってるみたいだし、一人でここに残しておくのは不安よ。親友のあなたがついていてあげて」


にこ「……」


にこ「…分かったわよ。真姫のこと、ちゃんと引っ張ってきてよね」
   

476 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:28:52.05 ID:eXdEIRMC.net
 
絵里「事務所の住所は?」

にこ「ハーン・ハリーリの市場地区(バザール)の何処かってことしか」

絵里「ありがと。後は自分で調べる」


絵里「さて穂乃果、行きましょう」

穂乃果「いや〜絵里ちゃん、さっき言った通り私は」

絵里「穂乃果」

穂乃果「はい」


    
穂乃果「ふーっ」ヤレヤレ


にこ「いやそんな目で見られても」


穂乃果「オーケー、腹をくくるよ。じゃあちょっくら世界を救ってくるね。二人とも妹をヨロシクー」


にこりん「いってらー…」
   

477 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:29:49.69 ID:eXdEIRMC.net
KKEスペシャル                               
ドキュメンタリー【ハムナプトラへの招待〜ミイラ再生〜】                               


 
Next:#9「MUSEUMで動死体?」               ラブライブ!× ハムナプトラ -失われた砂漠の都-  

478 :名無しで叶える物語(らっかせい)@\(^o^)/:2016/09/04(日) 23:33:46.90 ID:dPb7XiD1.net
サブタイわろた

479 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 01:21:46.69 ID:fzEXvYkO.net


これまでのサブタイ
#1「リビアン硝子の墓園(摂氏52.5度)」
#2「ハラ処ー刑務ショー」            
#3「幽覧船でどこまでも」            
#4「Guilty Name, Guilty Night」
#5「Guilty Knight, Soldier Game, and Guilty Kiss?」
#6「サイヤクノトビラ」
#7「孤独なグル眼」
#8「君らのLIFE=僕のLIVE」
Next:#9「MUSEUMで動死体?」               ラブライブ!× ハムナプトラ -失われた砂漠の都-

微妙にラブライブ!ネタとB級映画感の混ざったサブタイ    

480 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 03:00:19.48 ID:kcjFvGFV.net
更新乙支援

481 :名無しで叶える物語(四国地方)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 03:57:29.05 ID:qhjGvDCD.net
大作すなあ

482 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 04:23:16.03 ID:c1aFZhuh.net
なかなかエグい部分もあるのに楽しく読めるこの感じがサブタイにも現れてるな

483 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 04:24:13.27 ID:srQYhhw+.net
追い付いた

ハムナプトラ知ってる奴がこの板にいるとは

484 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 04:55:55.29 ID:IQbBO0yh.net
ハムナプトラなんて昔ジブリばりにテレビでやってたやんけ

485 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 05:48:55.41 ID:srQYhhw+.net
やってたところで見てるとは限らないし

486 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 08:50:41.36 ID:jJtToijx.net
正直インディーより好き

487 :名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 20:43:30.05 ID:hkB9coSS.net
かなり面白い

488 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:43:36.67 ID:vR0VTKC1.net






真姫「はぁ、はぁ、はぁ……!」


太陽を失ったカイロのバザールは暗く、活気も失せていた。


光の射さない、細く曲がりくねった路地を一人駆けていると、

まるで世界に自分だけが取り残されてしまったような気持ちになる。


真姫(私のバカ…! こんなことなら……でも…)


頼み込んででもにこ達と一緒に来るべきだったのでは――


余計なプライドと、自身の発見が引き金となって呪いの扉が開かれ、

彼女らの一人に重傷を負わせてしまったことの負い目が邪魔して、

結局こうして独りぼっちだ。
 

489 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:44:31.45 ID:vR0VTKC1.net
 
両手には、自分が独力で成し遂げた発掘の成果である死者の書とカノプス壺が。


つい先刻、事務所に忍び込もうとする何者かの気配を感じた真姫は、

咄嗟にこの二点を引っ掴むと、転がるように逃げ出した。


だが、もっと大切なものがあったのではないか――?


事務所の机の上には、不死者を打ち倒す手掛かりになるかもしれないものが残されている。

自分が成すべきだったのはそちらを持ち帰って、にこや絵里たちに託すことじゃないのか?


今更両親や周囲を見返すための発掘品に何の意味があるだろう。

自分は天才なのに――どうしてこう、いつも選択を間違ってしまうのだろう。


真姫(お願い神様…! どうか…このまま)


もし、無事に戻れたらその時は――もっと人に頼っても、いいのかもしれない。
   

490 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:45:55.83 ID:vR0VTKC1.net
 
ほのえり「あっ」


希「げっ…」


バザールの通りに面した事務所二階の入口で、火事場泥棒よろしく大風呂敷を背負った希と絵里たちは鉢合わせした。


もはや何も言わず背を向け室内の窓に向かって駆け出した彼女の後頭部に、

絵里は部屋中に飾られている真姫を写した写真立ての一つを無造作に掴んで投げつける。


    
  ゴツッ☆  「あだっ!」
 

穂乃果「ナイッショ」


バサバサと音を立てて、転倒した希の風呂敷から彼女が持ち去ろうとしたものが溢れ出した。

いくつか金目のものも混じっていたが、大半は何かの書類や書物のようだった。


絵里「これはこれは希ぃ、この世の終末が来るからって大掃除でもしてたの?」


彼女によって荒らされ尽くした室内の散らかった床を大股で歩きながら言う。
   

491 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:47:31.71 ID:vR0VTKC1.net
 

 ドツンッ!


希「がっ…」

絵里「どうやらまた宗旨替えしたみたいね」


本棚に身体を押し付けると、胸元のネクタイを引っ掴んで息がかかるほどに顔を近付けさせる。


絵里「お陰で新しいお友達も出来たみたいだし」

希「ウ…ウチの友達は今も昔もエリちだけ……これは本当よ」

絵里「ならどうしてあんなやつとつるんでるの…!」

希「し、仕方なかったの…! そうでもしなきゃあの時殺されてた…」
   

492 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:48:16.35 ID:vR0VTKC1.net
 
希「ミイラの右腕になる方が、その通り道にいるよかマシでしょ……災いへの免疫もらえるし、御守買ったみたいなもんやん」

絵里「ふざけないでっ」ガツ!

希「かはっ……エリちも、こっちに来て……今なら、間に合うから…」

希「エリちは、あいつのディナーの献立には載ってない。大人しく雪穂ちゃんを差し出せば」

絵里「そんなの認められるわけないでしょ!」グググッ

希「ぐっ、はぁ…! やっぱり、やっぱりあの子のことが大事なんだね…? エリち…キミって人は…」
   

493 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:49:23.93 ID:vR0VTKC1.net
 
絵里「フーッ、フーッ…」

希「…どうしたの? もっと痛めつければ? 獣みたいに呼吸荒くしちゃって…」

絵里「……」

希「ははっ、そんなに顔を近付けるとチュウしちゃうよ? なんちって」

絵里「………そうね、じゃあそうしましょうか」

希「へ……? うおっ、ぉぁぁぁああああああ!!!??」


 シュインシュインシュインシュインシュイン……


希の爪先がたっぷり三十センチは地面から浮いていた。


平時では有り得ないような馬鹿力を発揮した絵里が彼女を持ち上げたのだ。

希の鼻先スレスレに、高速で回転する天井扇の羽が冷ややかな風を送り込む。


絵里「プロペラにキスしたくなかったら、知ってることを洗いざらい話しなさい!」

希「ほ、本を探してるの! 壺と一緒に出てきた黒の書を!」
   

494 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:51:57.15 ID:vR0VTKC1.net
 


   
真姫「……あ…れ……ここ、事務所の前…」


   

真姫「………なんで」


   


おかしい、何もかもが変だ。


    
さっきから同じ道を何度もぐるぐる回ってしまっている。


   


通り慣れているはずのバザールの街角は、


   
どこまでも薄暗く同じような路地が延々続く迷路となって


   
真姫を惑わしていた。
   

495 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:54:24.23 ID:vR0VTKC1.net
 

真姫(落ち着け……落ち着くのよ、私)ドックンドックン


   
真姫(気が動転してるんだわ……深呼吸して……動悸を鎮めて……)


   


  ビ ュ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ


   

真姫「――!?」


   

生暖かな風に乗せられて、目の前に何やら黒い塊が飛来する。


   

真姫「………これ」


    

真姫「ハムナプトラで無くした私の帽子…」


   

 『たしカニおカえシしマシた。つギはわタしノモのをかエしテモラいマすよ…』


   

真姫「!―――」
     

496 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:55:34.60 ID:vR0VTKC1.net
 

真姫「んん゛! むぐう゛う゛ぅぅ…!!」


   


腐臭のする唇が、彼女のファーストキスを奪った。


   
口内に、ニュロニュロと蠢く何かが侵入してくる。


   


元は花陽の舌だったそれは、別のものに形を変え、


   
真姫の喉奥の、さらにその向こうにあるものを求めて――
   

497 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:56:55.22 ID:vR0VTKC1.net
 
希「死んだ彼女を復活させるために、死者の書と生贄が必要なの! ウチはそれを探してこいって命令されて」

絵里「それくらいとっくにこっちも知ってんのよ。まだ何かあるんでしょ」

希「これで全部だって……あとは何も」

絵里「ならあなたがネコババしようとしたこの資料は? 隠すと身の為にならないわよっ」グイッ


 シュインシュインシュインシュインシュイン!!!!


希「わーっ!! 本は二冊あるの!! 黒の書と、黄金の書!!」

穂乃果「黄金…アメン・ラーの書だね?」

希「そうそれっ! 何でか知らないけど、あの人は両方欲しがってるんよ。それで」

希「事務所の机に丁度ハムナプトラ関連の書物が山積みになってたから、手掛かりになるかもーと思って」

希「ホントにこれで全部! 全部話したから下して…」
   

498 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 22:59:52.82 ID:vR0VTKC1.net
 
直後、望み通りに彼女の身体はストンと床に落ちた。


しかし絵里の意志ではない。


   
 「う゛え゛え゛え゛え゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…」


   
表から聞こえた、黒板を引っ掻いたような超高音域の絶叫に驚き、反射的に手を放してしまったのだ。


――その隙を見逃す希ではない。


   
希「さいなら!」バリィィン


   
窓枠を突き破って、運の良い彼女が落下したのはたまたま開かれていた果物屋のテントの上。


絵里「希!」


窓から通りを見下ろす頃には、彼女の姿は既になく――代わりに

悲鳴を聞きつけ恐る恐る顔を出した群衆が、遠巻きに何かを見守っているのが見えた。
   

499 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:01:14.34 ID:vR0VTKC1.net
 

絵里「あれは…」


路地の真ん中で、仕立ての良さげな服を着た誰かが、萎びた手足を投げ出し倒れている。


血色の失せた骸骨のようなその抜け殻は、もはや人体の基礎を構成するパーツ群にまで還元されてしまっていて、

元が誰だったかを判別するのは困難に思えたが、その胸の上に載せられた赤い帽子だけは見違えようもない。


穂乃果「真姫ちゃん…?」


その呟きが届いたのか、遺体の脇に立つローブを纏った人物がこちらに振り返る。


右手に死者の書、左手にカノプス壺。

そしてその口から大海蛇の如く肥大化し飛び出した舌の上には、熟れたトマトのように真っ赤な臓器が。


絵里「心臓を手に入れたんだわ…」
   

500 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:02:14.88 ID:vR0VTKC1.net
 
ズルズルと、真紅の臓器を“掴んだ”舌が、不死者の口内に収まっていき、

それを飲み込まんと彼女は顎が外れるほど大口を開け――実際に外れてしまった。


 『んぐッ…………ふゥ』


そのままほとんど無理やりに嚥下してしまうと、外れた下顎を玉袋のように揺らしながら

復活にまた一歩近付いたウミホテップは、邪魔者二人に鋭い視線を投げかける。


実際、病的なほど白い真皮がむき出しとなった肌と左の頬に空いた大穴を除けば、

彼女の顔は人間だった頃の面影を取り戻しつつあった。


絵里「へえ、中々凛々しいじゃない」

穂乃果「顎が外れてなきゃね」
   

501 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:04:19.15 ID:vR0VTKC1.net
 


 『コォォォォォォォォ……はぁァぁぁッ』


   
顎を元に戻そうともせず、不死者は大きく息を吸い込んでから、


   
 『カァァァァァァァァァァァ!!!!!』


   
可動域の限界を超えた大口から黒い何かを大量に吐き出した。


絵里「やばっ…!」


咄嗟に鎧戸を閉める。隣の穂乃果も同じことをしていた。
   

502 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:05:13.57 ID:vR0VTKC1.net
 

 バズバズバズバズバズ!!! ドタンドタンドタン!!!!


その判断は正解だったらしい。


木の扉に何かが次々ぶつかる音がした。それも尋常でない数が。

黒いものの正体が何にせよ、良くないものであることは間違いない。


   
絵里「これで犠牲者は二人。二つのキーアイテムも奪われて、残りも二人」

穂乃果「その次は雪穂だ…すぐに砦に引き返さなきゃ」

絵里「急ぎましょう。希の置き土産を持ってくのを忘れずにね」
    

503 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:06:23.89 ID:vR0VTKC1.net
 


 「キャアアアアアーーーーー!!!!」


 「うわっなんだこいつ! 離れろ!あっちいけー!!」



バザールは悲鳴と混乱の大安売り会場と化していた。


歩く災厄が体内より吐き出したのはアブとブヨの黒い雨。


彼らは路地に集まった人々を手当たり次第に噛み刺し終えると、

次なる犠牲者を求めてエジプトの暗黒の空へ飛び立っていく。


そしてウミホテップもまた次の目的地へ向かうため、自身を砂に変えて舞い上がるのだった。
   

504 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:08:20.56 ID:vR0VTKC1.net
――――
――


にこ「…」トントントントン

凛「……」


    
にこ「…絵里たち遅いわね。何を手間取ってるのかしら」

凛「そうだね…」


にこ「……きっと道が混んでるのね。急に夜になっちゃったもんだから皆慌ててるのよ」

凛「そうだね…」


にこ「……」


にこ「凛、あんたってタマついてる?」


凛「そうだね…」


にこ「っ〜〜〜」フルフル
   

505 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:09:46.48 ID:vR0VTKC1.net
 
にこ「そだっ、退屈しのぎになんかゲームでもしましょうよ。カードは持ってきてないから」


にこ「しりとり! しりとりでもしましょっ、最初はしりとりのりー」


凛「りん」


にこ「んがぁあっ!」


にこ(ダメ、そろそろこっちの心も折れそ……でもこのまま二人っきりで気まずい時間を過ごすのも御免被りたいし)


にこ「……下に行ってお酒買ってくるわ。あんたも何か欲しい?」


凛「……」


にこ「今なら特別にこの私のおごりだけど?」


凛「……………バーボン、ストレートで」


にこ「ふふん、おっけーにこ」
   

506 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:10:50.90 ID:vR0VTKC1.net
 
凛「…あとロック、ダブル。もちろんバーボンね」


にこ「りょーかい」


凛「それとチェイサー用のバーボンも」


にこ「分かった分かった! 店にあるバーボン全部買い占めてくるわよっ」


にこ(全く…落ち込んでるかと思ったら変なところで図々しいし。ホント、猫みたいに読めないやつ)


   
にこ「……そうだ、何で思いつかなかったのかしら」


にこ「あの子の飼い猫! どこ行ったのか知らないけど、あれを厄除け代わりに手元に置いとけばいいじゃない!」


にこ「にこってあったまいいー! お酒買うついでに探して連れてくるわ! そこで待ってなさいよーっ」ガチャッ


   
 <ニコプリ!ニコニコ!ニコプリ!イエーッ♪…


   
凛「……ドアは開けたら閉めてよね。寒いでしょ」バタン
   

507 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:13:21.83 ID:vR0VTKC1.net
 
凛「それに凛が猫アレルギーだってこと忘れてるよね。本気で連れてこられるとミイラに襲われる前にお陀仏だよ」

凛「はぁ、なんでこんな体質に生まれちゃったんだろ。ついてなさすぎ…」

凛(凛はちっちゃい頃から猫が好きで、仲間になりたくて仕草なんかを観察して真似っこしてたのに)

凛「心と身体がバラバラなのは辛いことだよ…」


凛「……」

凛「にゃ、にゃーん」

凛「凛は猫、猫は凛、凛は猫さんだよ、ふしゃーっ……っ」

凛「なーんて、昔はよくやってたっけ」


凛「…………はぁ、本当に猫になれればいいのに」

凛「猫には九つの命があるっていうよね。そしたらもう怪物を恐れることなんてないのに」

凛「………」

凛「なーお……ぬぁーお……ぬにぇぁ〜ぇお……」

――――
――
   

508 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:14:49.60 ID:vR0VTKC1.net







 「いいか、よぅく見てろよ」


りん「うん…」


 
――B A N G !


   
りん(いつ聞いても、パパの早うちは一ぱつのじゅう声にしか聞こえない。そのかわり、音がものすごいけど)


りん(そしてひょうてきには、あなが六つあいてるんだ)


 「よし、同じようにやってみろ」


りん(って言われても、出きるわけないんだけど)
   

509 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:18:52.92 ID:vR0VTKC1.net
 

 BANG! BNAG! BANG! BANG! BANG! BANG!


 「遅い遅い遅すぎだ。見ろ、欠伸にハエがとまったぞ。うちの爺様のフ○ックの方がまだ腰と気合いが入ってらぁ」


りん「…ふぁっくって何?」


 「気に食わんやつを泣いたり笑ったり出来なくしてやることさ。お前もそうなりたいか?」


りん「…」フルフル


 「…続けろ。酒をとってくる」
   

510 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:19:34.30 ID:vR0VTKC1.net
 

りん(りん知ってるよ。パパのきびしさはきたいのうら返しだって)


りん(パパはこのへんで……ううん、た分このくに一ばんのガンマン)


りん(パパのガン・ショーは、いつどこでもおきゃくさんでいっぱい。きっとりんにも同じことをさせたいんだろうな)


りん(でも、たぶんりんはどんなにがんばっても、パパみたいになれないってことも分かるの)


りん(ほん気になったパパはすごい。あんなのだれもまねっこ出きないよ)
   

511 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:20:43.21 ID:vR0VTKC1.net
 

りん(ピースメーカーで早うちしようと思ったら、フツーはりょう手をつかう。かた手でじゅうをもって、もうかた手をハンマーにそえて)


りん(でもほん気を出したパパのりょう手は二ちょうのピーメでふさがってる。もちろんこれでもうてるけど、早うちなんて出きっこない)


りん(パパいがいには。パパのズボンのポッケはいつもだん丸でパンパンにふくれてる。すぐたまがなくなるから)


りん(どうやってるの?ってなんべんも聞いた。パパは一こと、なれれば手はひつようないって)
   

512 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:21:40.86 ID:vR0VTKC1.net
 

 『いいか。お前は人じゃない、銃のパーツの一部だ。腕を銃と一体化させろ』


 『そのためのコツを特別に教えてやる。自分以外の何かになるにはそいつの、銃の気持ちになって考えるのが手っ取り早い』


りん『じゅうって何をかんがえてるの?』


 『バーカ、銃は生き物じゃねぇんだ。何も考えてねぇに決まってんだろアホ』


   
りん(りんはバカでアホだから、パパの言ってることがよく分かんない)


りん(ただひたすらパパを見て、まねっこをつづけるしかなかった)
    

513 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:23:59.66 ID:vR0VTKC1.net
 

 「おう、やってるな」


りん「パパ…」グウウウ


 「そこの弾丸、全部撃ち終えたら夕飯な」


 「今日はママ特製のターコイズチキンだぞ。色が変わらんうちに来いよ、ハハ」


   
りん(ターコイズ……じゃあ行かなくていいや)


   
りん(…………でもおなかすいた)


   
りん「あと何はつあるんだろこれ…」


   
りん(しずんでいく太ようを見ながら、とほうにくれるのがりんの日っかだった)
   

514 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:24:53.72 ID:vR0VTKC1.net
 

 ≪PURR…≫


   
りん「あ、ねこちゃん…」


   
 ≪PURR……MEOW,MEOW!≫


   
りん「……はぁ、どうしたらキミみたいになれるかな」


りん「すばしこくて、やわらかで、じゆうなキミに」
   

515 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:27:47.11 ID:vR0VTKC1.net
 

――BANG!BANG!BANG!


   
 『お前が銃になれば、両手なんて必要ねぇんだよ』


    
りん(うでは、ひつようない…?)


   
 BBBANG! BBBANG!


           PURR…PURR…MEOOOOW…
          

   
 『そいつの気持ちになって考えるんだ』


   
りん(……かんがえてみれば、ねこってはだかだよね)


   
りん(だからあんなにはやく動けるのかな…?)
   

516 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:28:56.36 ID:vR0VTKC1.net
 

 『PURR……PURR……PURR…』


   
りん(………)


   
りん(そいつの気もちになってかんがえるには、こうやってかんがえてちゃダメ)


   
りん(……パパの言ってたいみが、やっとわかった気がする)
   

517 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:29:45.66 ID:vR0VTKC1.net
 


――そうだ、あの日   小っちゃい凛はどうした?


   


……思い出したよ


   


物理的に近付けないなら、精神的に近付けばいいんだ!
   

518 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:30:47.37 ID:vR0VTKC1.net
 
――

―――――


   
 『MEOOOOW……MEOOOOW……MEOOOOOOW…!』


    
猫を初めて家畜化した古代エジプト人にとって、同時に彼らは信仰と崇拝の対象でもあった。


闇の中で光る猫の目は、夜になって眠りについた太陽を悪しきものから守るため、

ラー自身が地上を監視するために利用しているからだという。


すなわち、猫は悪霊を監視する聖獣であり、その目には魔除けの力が秘めれている…という理屈である。
   

519 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:32:34.54 ID:vR0VTKC1.net
 

 『PURR…PURR……MEOW…?』


警備の数を平時の三倍に増強したノーブランド砦の一室で、ひたすらに喉を鳴らし続ける彼女もまた、

外の暗黒の内より接近する邪悪の気配を敏感に察知した。


 『S P I I I I I I I I I I T!!!!!』


テーブルの上から窓際にジャンプし、背を丸めた威嚇のポーズをとりながらガラスを睨み付ける。


愛に生きるあの悪霊の天敵が恋と音楽を司る女神とされるバステト神の化身、すなわち猫というのも皮肉なものだ。


やつは自分に指一本触れることすら出来ずに尻尾を巻いて逃げ帰ることだろう。


彼女が本物の猫になれたのなら――
   

520 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:34:04.87 ID:vR0VTKC1.net
 

  ガシャアアアアアアアアアアン!!!!


窓ガラスごとぶち破って、雪穂の部屋の客間に侵入してきたのは

生き物のように意志を持ったうねる砂の暴風。


それは無秩序な喧騒を好まないウミホテップの性格を反映し、音もなく室内で渦を巻いて吹き荒れた。


塵旋風の只中にいながら、テーブルやその上に畳まれて置かれた衣服に下着、

銃の収まったホルスターやカノプス壺は何の影響も受けることはなかった。
   

521 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:34:48.25 ID:vR0VTKC1.net
 


 『MEOOOOOOO お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…』


   
猫になろうとした凛だけが、砂のミキサーに生命を搾り取られ、

元よりスレンダーだったシルエットがぺらぺらとなって壁に叩き付けられる。


全てが終わった時、そこに立っていたのは一層の人間らしさを回復させたウミホテップだった。
    

522 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:35:40.42 ID:vR0VTKC1.net
 

ウミホテップ『………』


その肌は生前のみずみずしさを完璧に取り戻し、九割九分復元された顔の端整な造形は

この時代でも街を歩けばすれ違った男女がこぞって振り返ることだろう。


 カサカサカサ…


その頬に未だ空いたままの穴に、喉元の露出した筋肉の束をかき分けて

中から這い出してきたスカラベの一匹が入り込む――と、
    

523 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:36:52.43 ID:vR0VTKC1.net
 

ウミホテップ『』バリ!ボリベリ…


口直し代わりにそれを噛み砕いて再び体内に送り込みながら、不死者は床に転がる全裸体のミイラに一瞥を。

この女がそんな恰好で何をしていたのか今となっては知る由もないが、別に知る必要もない。


異なる時代、異なる民族の風習なぞ本当に知ったことではなく、

しかもこいつは財宝目当てに自ら呪いを解放して自分にその身を差し出した者だ。


三千年経っても人の浅ましさは変わらず、真に尊ばれるもの――愛は得難いものらしいことに、古代の大神官は嘆息し。

それでも一応の礼儀として食後の合掌を済ませると、自身が破壊してしまった窓に近寄り静かに鎧戸を閉めた。
   

524 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:38:04.15 ID:vR0VTKC1.net
 

ウミホテップ『さて、どうシたものでしょう…』


手に入れたばかりの心臓の高鳴りを感じる。


この部屋の閉ざされた扉の向こうに彼女がいるのだ。


愛しのミナリンスキーの身替りとなるべく選ばれた彼女が。


   
肉体は全く別のものだし、魂については言わずもがな。


ウミホテップ自身、何故想い人の替わりがあの女性なのか明確な解は持ち合わせていない。


もしかすると前世で自分たちと何らかの因縁があった魂の器なのかも――


いずれにせよ、初めて会った時から彼女にミナリンスキーと近しいものを感じているのは事実だ。
    

525 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:39:44.87 ID:vR0VTKC1.net
 

ウミホテップ『ミナリンスキー…』


ローブの裾を引き摺り、吸い寄せられるように寝室の入口へと。

鍵のかかったそれを先のように騒々しく蹴破ることは、礼節を重んじる彼女の本意ではない。


ウミホテップ『ふむ…』


一時逡巡した後、人差し指を鍵穴に差し込むように密着させる。

その先端が溶けて砂と変わり、さらさらと内側へ流れ込み始めた。
   

526 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:41:22.09 ID:vR0VTKC1.net







雪穂「あれ…」


 
ここはどこだろう。


   
意地悪な絵里さんが自分を閉じ込めた狭い寝室じゃない。


   
それよりもずっと広く、照明が強すぎるのか目を明けていられないほどに眩しい場所。


   
いや、違う。ここに照明なんてなかった。


    
天井に床、その上に配置された調度品の数々。その全てが金張りされていて、目も眩む贅沢な輝きを放っている。


   
自分が手にしている武器も。


   
――武器? 何故自分が武器を?
   

527 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:42:42.45 ID:vR0VTKC1.net
 


 「やぁああっ!!」


   
雪穂「――!」


すぐ眼前には金のマスクと胸当てをした細身の女性が。

その両手の短剣を振るい、しなやか且つ流麗な刺突の連撃を繰り出してきた。


雪穂「わッ」


咄嗟に黄金の釵でこれを受け流そうとし――捌き切れず弾き飛ばされた。


勢いに負けて転倒した自分の首筋に、短剣の切っ先が冷ややかな感触と共に突き付けられる。


……この短剣は古代のエジプトで用いられていたものだ。
    

528 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:46:04.07 ID:vR0VTKC1.net
 


 「ブラボー! おおブラボー!」


   
雪穂「……!?」


   
 「二人ともお疲れさま。いや〜いいもの見せてもらったよ」


   


   
雪穂「………お姉ちゃん?」


   
 「こらユッキー、公的な場ではホムラス大王と呼びなさい」


    


こちらに歩み寄ってきた、全身金ピカで姉にそっくりの女性は、自らを王だと言う。


自分は今、古代エジプトの王の間にいる――? でも…


   
雪穂「ホムラス大王って誰?」
   

529 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:47:35.73 ID:vR0VTKC1.net
 
ホムラス「ガビーン!? 自分の姉のこと忘れちゃったの? エジプト第19王朝に君臨する歴代一の富と権力を誇るこのホムラス2世を!」


ホムラス「この即位名はラー・ホルアクティから取られてるんだよー。私は文字通りエジプト全土を照らす太陽神なのだーわははっ!!!」


雪穂「いや聞いたことないし。それに古王朝時代随一の金持ちファラオって言ったらマリィ1世でしょーが」


ホムラス「ちょい待ちタンマ。ユッキー、マリィ1世って?」


雪穂「知らないの!?」


ホムラス「ぜーんぜん。1世とか付いてるけどそんなファラオ歴代にいないよ? ユッキー本当に大丈夫? 頭の打ちどころが悪かったとか…」
   

530 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:48:59.81 ID:vR0VTKC1.net
 

  ザワザワザワ…


ホムラス「あ、皆ごめんねー? 妹にはあとでよーく言っておくから」


ホムラス「えーおほん! それでは気を取り直して」


ホムラス「この御前試合の勝者ミナリンスキーを、我が守護者に任命します!」

 
雪穂「えっ!? ミナリンスキー?」


   
  パチパチパチパチパチ…


   
 「…」ペコリ


   
先ほど自分を追い詰めた短剣の使い手が、マスクを取り去って見物人たちに一礼する。
   

531 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:50:10.58 ID:vR0VTKC1.net
 
この人が、ミナリンスキーなのか。


羊毛色の長い髪が美しい、女の自分でも一瞬見惚れてしまうような妖艶さを内に秘めた愛くるしい顔立ち。


なるほど、王やその側近の神官を虜にしてしまうのも納得の美貌と雰囲気の女性だが…


   
ホムラス「ついでに発表しちゃうけど、彼女は私の未来のお嫁さん候補なんだー。可愛いよね?でしょー?」


雪穂「ってお姉ちゃんもかーい!」


ホムラス「負けちゃったユッキーは……そうだなぁ、アヌビスの腕輪の守護者でもやっててー」
   

532 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:51:05.27 ID:vR0VTKC1.net
 

ミナリンスキー「ねえ」


雪穂「あ…は、はい? なんでしょうか…」


ミナリンスキー「今回は私が勝っちゃったけど、かなり際どい試合だったよ? 前にやった時とは別人みたいで、びっくりしちゃった」


雪穂「はぁ、そりゃどーも……えーっと、ミナリンスキーさんも流石のお手前で」


ミナリンスキー「えへっ。私には優秀な先生がついてるから」
   

533 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:52:32.97 ID:vR0VTKC1.net
 
余興が終わり、王の間からぞろぞろと人々が退出していく。


ファラオの親衛隊に侍女たち、その中にいくつか見覚えのある顔が混じっている気がする。


そして多数の尼僧を引き連れた大神官――


ホムラス「バイバイ、ウミチャ…じゃなかったウミホテップよ。今日もお勤めに励んでくれたまえ」


ウミホテップ「はっ」ペコリ
   

534 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:53:27.02 ID:vR0VTKC1.net
 

雪穂「あれが、ウミホテップ…」


しめ縄を思わせる形状に結われた特徴的な黒髪に、きりりとした黄褐色の瞳。

顔立ちの端整なのは言うまでもない。


   
ウミホテップ「…」チラッ


   
その彼女が部屋を去り際、一瞬ミナリンスキーの方へ目配せしたのを見逃さなかった。
   

535 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:56:34.69 ID:vR0VTKC1.net
 
―――――――――――――――

――――――

――


雪穂「はぁ、どーなってんだこのエジプトは」


夜。自分は今、生者の都テーベを一望できる王宮のバルコニーにいる。

どうやら姉が王というのも、自分がその妹だというのもここでは歴然とした事実であるようで。


   
雪穂「私の知る歴史と全然違う世界じゃん。ユッキー王女って誰よ勘弁してよねー」


雪穂「……そか、これ夢だ」


雪穂「私の頭が史実と支離滅裂とをごっちゃにして生み出した、架空のエジプト」


雪穂「ああ、だとしてもここまで間違いだらけなのは気持ち悪いや。早く覚めて……ん?」


雪穂「あれは…」
   

536 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:58:15.18 ID:vR0VTKC1.net
 

向かいのバルコニーで、覆い用のカーテンが風にそよぎ、中の様子が垣間見えた。

――ミナリンスキーがあの大神官、ウミホテップと熱い抱擁を交わしている!


雪穂「うわっ大胆。誰か見てるかも―とか思わないのかな…」


雪穂「……」


そう、このハチャメチャな夢の世界で、唯一自分の知識と合致するのはあの二人の存在だ。


そしてその関係も。


その場合、これから何が起きるのか。


ホムラス2世を名乗る自分の姉は、ミナリンスキーを未来の嫁だと言った。


もし、もしもこの世界での姉の役割が、史実のマリィ1世と同じだとしたら――


   
雪穂「いけない、お姉ちゃん…!」
    

537 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/05(月) 23:59:35.26 ID:vR0VTKC1.net
 


 「コッティー♡」


   
その推測を裏付けるように、能天気な姉の声が向かいから聞こえた。


対照的に、密会の最中だった二人は慌てふためき、ウミホテップは物陰へと身を隠す。


   
 「今夜もいっぱい御本読んだり、一緒に羊の数数えたりしよーね」


   
雪穂「やばい! 今入ってきたら…!」
   

538 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:03:05.94 ID:3grryIQB.net
 

「ん? どしたのコッティー? 様子が変だよ」


どこまでも呑気な姉の背後から、ほの暗い殺意を募らせたウミホテップが刀剣を手に忍び寄るのが見える。


   
雪穂「近衛兵! 誰かぁ! 誰か姉を助けてっ!!」


騒ぎを聞きつけた親衛隊が何か怒鳴っている声がするも、もう手遅れだった。


   
 「ウミチャン、あなたなの? ホムラスの忠実な大神官…ホムラスの幼馴染で大親友のあなたが…!」


   
 「…これも愛の為。御免!」


   
 「い゛っ…ぎゃあああああああああああっ!!??」


   
雪穂「お姉ちゃあああああああああん!!!」
   

539 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:04:42.80 ID:3grryIQB.net






恐慌の末にバルコニーから転落したところで、悪夢の世界より帰還する。


ここではないどこか別の世界の苦々しい記憶から、同じくらい苦々しい現実へと。


 
ウミホテップ『ミナリンスキー…この子を使ッてあなたを必ず…』


すぐ目の前に、夢で見たのと同じウミホテップの顔があった。


ウミホテップ『これはその誓い印です…』


雪穂「ん゛ん゛――?」
   

540 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:05:40.46 ID:3grryIQB.net
 
今度こそ、雪穂の唇にウミホテップのそれが重なった。

苦味が口いっぱいに広がる。


それもそのはず。

生者に触れたことで、未だ悪霊である不死者の肉体は崩壊し、

口元やその周りの皮膚が腐り落ちて骨が露出し始めたのだ。


雪穂(いっ、いやあああああああーーー!!!)
   

541 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:07:30.54 ID:3grryIQB.net
 


  バ タ ー ン !


    
ウミホテップ「――!?」


逢瀬のひと時を邪魔する扉の開閉音に、三千年前の苦い記憶を呼び覚まされたウミホテップは振り返る。


   
絵里「その子から離れなさいこのロリコン! 何千歳年離れてると思ってるの?」


穂乃果「そーだそーだっその腐った顔をうちの妹に近付けるな! せめて歯ぁ磨け―!」


   
雪穂「二人とも…!」


ウミホテップ『まタあなた達ですか…いい加減目障りでスよ』ジュルジュル
   

542 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:10:22.13 ID:3grryIQB.net
 
穂乃果「よしっ絵里ちゃん任せた、やっつけちゃって!」

絵里「いや簡単に言わないでよ。相手は銃弾が効かない化け物よ?」

穂乃果「え、なんか策があったんじゃないの? 自信満々に扉蹴破ったからてっきり…」

絵里「格好良く扉蹴破るやつが後先考えてるわけないでしょ。こういうのは出たとこ勝負なのよ」


   
ウミホテップ『何を二人でごちャごちゃと…』ボトボトビチャビチャ


   
穂乃果「ひええええっ? 何か色んなもの垂らしながらこっち来たよ絵里ちゃん!?」

絵里「くっ…こっちは冷や汗タラタラよ。何か手は」


   
 「とーどーけ魔法〜♪ 笑顔の魔法、みんなを幸せに〜♪」ガチャッ

543 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:11:26.27 ID:3grryIQB.net
 

にこ「にっこにっこにー! お待たせにこ―っ、お酒と猫持ってきたわ……よ…」


   
穂乃果「……」


絵里「……」


ウミホテップ『……』


   

にこ「…ぉ」


   


穂乃果「で、でかしたっ! にこちゃん、ナオボーをこっちに投げて!早く!」
   

544 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:14:58.94 ID:3grryIQB.net
 
にこ「ッ…!!」


 ≪ヌァーオ!!≫


ウミホテップ『ッ…その生き物をさがらせなさい!』


穂乃果「ほれほれほれ〜」つ≪フシャーッ!≫


ウミホテップ『っくゥ……やめろと言ッてるのですっ』


   
絵里(!? ――どういうこと? 前より効き目が…)


穂乃果「うりゃうりゃー猫パンチだぞ〜」つ≪シャッ、シャー!≫


ウミホテップ『ええいッ鬱陶しい! この距離なラば…』


   
絵里「いけない穂乃果っ、もっと猫を近付けて!」


穂乃果「や、これ以上近寄るのはちょっと」


絵里「貸して!!」つ≪ギニャッ!?≫

545 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:16:33.62 ID:3grryIQB.net
 

絵里「うあああああああああ!」つ≪ゴロロロロロロ…!≫


猫を腰だめにしっかりと構え、半ば捨て身の突進を――!


   
ウミホテップ『クっ…!』


   
流石に狼狽えた表情と共に、不死者はローブをマントのように翻し全身を庇う。


そして高速で旋回――
   

546 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:17:33.86 ID:3grryIQB.net
 

 ビュオアアアアアアアアアアア!!!!


絵里「わぷっ…」


超局地的な竜巻のグラウンド・ゼロと化したウミホテップは、

その内に秘めたエネルギーを爆発的な勢いで砂と変え、弾けて四散した。


絵里「きゃあああーーー!!!」


竜巻は絵里と猫を巻き上げ天井まで吹き飛ばすと、そのまま寝室の窓から

冷え込み始めた夜の外気に入り混じって逃亡した――律儀に鎧戸を閉めていくのを忘れずに。
   

547 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:18:46.26 ID:3grryIQB.net
 

雪穂「ハァ、ふーっ…」


絵里「っくゼェはぁ……大丈夫だった…? 怪我はない?」


自らも床と天井を一往復するというダメージを受けながらも、

絵里は真っ先に雪穂の身を案じて優しい言葉をかけ、


穂乃果「いやーなんとか。何度見てもビビるよねぇ、もー心臓バクバク」


絵里「……」


にこ「大丈夫じゃないわよぉ…」
   

548 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:19:42.02 ID:3grryIQB.net
 
こちらは情けない声で呻きながら、

ガサガサに肌荒れして黄色くなった凛の傍らにへなへなと崩れ落ち、


にこ「ご凛終にごぉ…次は私の番よぉ」


本人が聞いたら凍死しそうな台詞を絞り出すと、自分がガタガタ震え出す。


   
雪穂「こっちもだ…」つ≪……ーォ…≫


部屋の隅で、飼い猫を抱きかかえる雪穂の瞳は涙に潤んでいた。


天井に叩き付けられた際の衝撃がこの小動物には致命傷となったのか、

彼女の手の中でぐったりとしたその瞳の光は、ほとんど消えかけていた。
   

549 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:22:20.22 ID:3grryIQB.net
 
穂乃果「なんてこった……最後の切り札が…」


絵里「いえ、さっきの彼女は前ほどその子を恐れていなかった」


絵里「完全復活が近付いてる証拠よ。多分もう、次会う時には猫はアテにできない…」


にこ「凛を食ってパワーアップしたってこと? …そうだ真姫は」


絵里「…」フルフル


にこ「っ…ぐ、っ…」
   

550 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:22:51.91 ID:3grryIQB.net
 
絵里「…早急に猫に代わる新しい武器を見つける必要があるわ」


雪穂「私もそれは前々から考えてました……けど、現状では何のヒントも掴めてなくて」


絵里「穂乃果、あれを」


穂乃果「じゃじゃーん、これなんだと思う? って、穂乃果たちも分からないんだけどさ」ドサッ


絵里「真姫の事務所で見つけたの。希が、アメン・ラーの書の手掛かりだとか言ってたんだけど」
   

551 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:24:09.59 ID:3grryIQB.net
 
雪穂「凄い…これ全部ハムナプトラに関する資料だ。ベンブリッジの研究論文に古代の碑文の写しやらなんやら」


雪穂「本当に凄いよ、マニアの私が全然見たことないものまである……流石真姫さん、ありとあらゆる関連文書を片っ端からかき集めてたんだ…」


絵里「ここからは推測になるんだけど、彼女は何か私たちの知らないことに気付いたんじゃないかしら」


絵里「危険を冒してまで事務所に戻ったのは、その資料があるからと考えると説明がつくわ。そうまでする理由がその中にあるってこと」


雪穂「私も同意見です。ただこの資料、量が膨大過ぎてどこから手を付けたらいいのやら…」
   

552 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:24:54.48 ID:3grryIQB.net
 
穂乃果「私たちじゃ役に立てなさそうだよね」


雪穂「古代エジプト語で書かれた碑文の写しも多いし。この辺りにいる私以外の専門家は」


絵里「館長とラズァイの彼女ね」


雪穂「今すぐ博物館へ向かいましょう」


にこ「……この砦、いくら高い壁があっても糞の役にも立ちゃしないしね」
   

553 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:33:29.19 ID:3grryIQB.net
字数規制がシャレにならなくなってきたので次スレに移ろうと思うのですが立てれませんでした

スレタイ:雪穂「ハムナプトラへの招待2」絵里「黄金のハラショー」

雪穂「ハムナプトラへの招待」 絵里「ハラショー」
http://karma.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1472553815/の続き

で代行お願いできる人か場所ってありませんでしょうか

554 :名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:39:27.22 ID:ldWXrdAU.net
おつです
したらばとか?

555 :名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:39:51.98 ID:OfChVvm1.net
>>553
http://itest.2ch.net//test/read.cgi/lovelive/1473089973/l50

556 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:44:00.44 ID:3grryIQB.net
>>555
代行感謝です
http://karma.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1473089973/
PC用のアドレスも張っておきます

557 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:50:18.32 ID:hMS4/OgM.net
イッチは書かないんか?

558 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 00:52:30.81 ID:giuYPj/8.net
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
http://i.imgur.com/Osf6qfA.jpg

559 :ここまでのChapter(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 01:55:06.53 ID:3grryIQB.net
 
プロローグ「私たちはミイラのハゲ」 >>2

#1「リビアン硝子の墓園(摂氏52.5度)」 >>25

#2「ハラ処ー刑務ショー」 >>51

#3「幽覧船でどこまでも」 >>107

#4「Guilty Name, Guilty Night」 >>191
   

560 :ここまでのChapter(もんじゃ)@\(^o^)/:2016/09/06(火) 01:55:46.65 ID:3grryIQB.net
 
#5「Guilty Knight, Soldier Game, and Guilty Kiss?」 >>261

#6「サイヤクノトビラ」 >>344

#7「孤独なグル眼」 >>390

#8「君らのLIFE=僕のLIVE」 >>433

#9「MUSEUMで動死体?」 >>488
   

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