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梨子「彼女と楽園に堕ちた日」

1 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 19:48:37.14 ID:BDYEwVFL.net
ルビィ『久しぶりだねえ花丸ちゃん!』


花丸『うんっ!!』

ルビィ『えへへ……どうだった? お仕事平気?』


花丸『つ、辛い……機械が……パソコンが』

ルビィ『あはは……』


花丸『それにしても楽しみだな……久しぶりにみんなで集まれるんだもん』


ルビィ『最後に集まったのはいつだったっけ?』


花丸『うーん……一年前くらいかな?』

ルビィ『そんなに前だったっけ』

花丸『みんな忙しいからね』

ルビィ『千歌ちゃん達は……梨子ちゃんのところに行ってるの?』

花丸『東京だって、好きだね千歌ちゃんも』

ルビィ『おねえちゃんと果南さんも鞠莉ちゃんのこと空港まで迎えに東京行ったし、旅行も兼ねてだけど』

花丸『……私たちは梨子ちゃんのところには行けないし、じゃあさ』

ルビィ『うん』

 

花丸『――一足早く、善子ちゃんの所に行こうか』

2 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 19:49:56.28 ID:BDYEwVFL.net
◇――――◇


梨子「暑くなってきたからね、気をつけないとだめだよ」


善子「平気よっ!」

梨子「平気じゃないからふらふらしてたんでしょ」

善子「あ、あれは……魔力を使い過ぎただけっ」

梨子「そっか」ナデナデ

梨子(……可愛いな)


善子「な、なによ子供扱いしてっ!」///

梨子「子供扱いなんてしてないよ」


善子(と、というか……ふたりきりに、なれた……)


梨子(……)

善子(べ、別に普通だし……なに考えてるんだろ……)


梨子「はいこれ、私が口つけたのでよければ」


善子「……え///」

3 :名無しで叶える物語(浮動国境)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 19:52:08.37 ID:eZUOOFFv.net
とりあえずC

4 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 19:52:14.17 ID:BDYEwVFL.net
善子「じ、じゃあいただくわ///」

梨子「///」

善子「ごく……」

梨子「それ飲んだら、みんなのところに戻ろうね」

善子「言われなくてもわかってるってば」

梨子「そっか、そうだよね」

善子「ね、ねえ……」


梨子「?」

 

善子「また今度……ふ、ふたりで、遊びに……行かない?」


梨子「え?」

梨子「う、うん……いいけど///」

善子「ほ、ほんと?」


梨子「うん、どこに行こっか」


善子「そうねえ」ワクワクッ…

5 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 19:53:54.95 ID:3Bc5aXAU.net
よしりこなんです?

6 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 19:54:48.49 ID:BDYEwVFL.net
◇――――◇


 好きな人から、ふたりきりで遊びに行こう、と誘われる。

 こんなに幸せなことって、あるのかな。こんなことがあったら、普通の女子高生なら、周りの友達に相談したりして……脈ナシだとかアリだとか、あなたは最近どうなの、とか……色んな話をするんだと思う。

 私だって、普通だったら……千歌ちゃんとか曜ちゃんとか……そういうのに詳しそうな鞠莉さんとか、相談できる相手はいるはずなのに。

 

 私は、自分が普通じゃないってことを知っている。私の恋愛対象は、小さな頃から女の子で……それでも周りには、好きでもない男の子の名前を出したりしていた。


 
 それがどれだけ辛くて……虚しいことかを知ってからは、好きな人はいないって言い続けてきた。今だって、そう。

 自分のためだけじゃないの、相手にも、迷惑がかかってしまうんだもん。だから、私はこの気持ちを絶対に……表に出すわけにはいかない。


 お姉ちゃんみたいって、慕ってくれる、女の子のことを……傷つけないために。私も、恋愛感情なんかじゃなくて、妹みたいって思わなければならない。


 どうして――善子ちゃんのことを好きになっちゃった、のかな。


 最初は変な子だなって、思ってたけど……根はかなり真面目で、可愛くて……なぜだか私にくっついてきて……。そうだね、自然にって言うのが一番正しいかもしれないね。普通すぎて、つまらない、けど。

7 :名無しで叶える物語(浮動国境)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 19:57:55.25 ID:eZUOOFFv.net
よしりこなのですか!?

8 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 19:58:43.24 ID:BDYEwVFL.net
 ピロリン、と手元の携帯電話のバイブレーションが響く。それは今まさにメールをしている、善子ちゃんからの返信があった合図。どこに行こうかって、話し合っている最中。


 好きな人とこんなメールが出来るだなんて、どれだけ幸せなんだろう。どれだけ甘酸っぱくて、心がきゅぅと締め付けられるんだろう。


 そう、普通……だったら。


 普通じゃない私は、この気持ちの罪悪感と……後ろめたさと、もどかしさと、辛さと……色々な感情がごちゃごちゃになってしまった挙句、涙が溢れる。抑えきれない想いが、世間から見れば汚い想いが……涙となって、溢れ出る。


 でも、いいの。これで私の中の気持ち悪い、であろう感情が、少しでも薄れてくれるのならば。でも……この気持ちは薄れることなく、膨らみ続ける。善子ちゃんと特別な関係になりたいって、暴れ続ける。

 

 そんな気持ちを、気持ち悪いって……言い聞かせて……私は返信のメールを作り始めるのだった。

9 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:00:37.36 ID:BDYEwVFL.net
◇――――◇

善子「ふふっ……」


 梨子って、こんなこと考えてるんだ。馬鹿みたい。こーやって安定志向だから地味とか言われちゃうのよ。

 私は地味とは思わないけど、ていうか……見た目だけならかなり可愛いと思うし……。そいえば聞いたことなかったけど、彼氏とか……いる、のかな。


善子「……聞いてみよ」


 一瞬躊躇う指を、どうして躊躇うんだってブンブン首をふって、押し込む。そうよ、こ、恋バナ? って言ったら女子高生の醍醐味みたいなとこ、あるみたいだし。そ、そんなのしたことないから……こんな感じの切り口でいいのかな。

 ちょっと躊躇って送ったメールは、1分もしないうちに帰ってきた。


 ――いるわけないよ、どうかしたの?


 その字面を見た瞬間、胸が、高鳴った。不自然な高まりに、顔が熱くなってサイレンが鳴り響いたみたいに、身体の中で何かが反響する。

 そう、これはドキドキ……?


 な、なんでドキドキしてるのよっ! り、梨子に彼氏がいないから、なん、だっていうのよ。


 枕に顔を勢いよく沈み込ませて、私は恋バナなんてなかったかのように、違うメールを送りつけた。どうしてそんなことをしたのか、恋バナをしたかったはずなのに……自分でもよくわからなかった。

10 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:02:01.57 ID:BDYEwVFL.net
◇――――◇

梨子「おはよう善子ちゃん」

善子「おはよ」

梨子「昨日のメール、どうかしたの?」

善子「昨日?」


 昨日……善子ちゃんから送られてきた、彼氏がいるのか、というメール。それは、私のことを、大きく揺さぶった。どうして、そんなことを聞いてきたんだろう、それを聞くより早く、善子ちゃんは話題を変えてしまった。その間の私は、善子ちゃんが好きな人でも出来たのか、それとも彼氏が出来て、私にそのことを相談しようと思ったのか……悶々として、眠気が覚めてしまった。


 だから、今回訊いたことも……私にとっては必死で、それなのに……。


善子「別に、なんとなくよ」


 善子ちゃんはいつも通り、朝は弱いみたいで眠そうな目をこちらに向けることもなく……答えてくれた。


梨子「そ、そうなんだ……好きな人でも、出来た?」

善子「えっ////」

梨子「……え?」


 

 善子、ちゃん?


 
千歌「――なになに? 善子ちゃん好きな人がいるの!?」

11 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:03:31.27 ID:BDYEwVFL.net
善子「い、いるわけないでしょ!?///」


 千歌ちゃんが乱入してきたことにより、私はそれより先を聞くことは出来なかった。


 でも……今の反応で、なんとなくわかってしまった。私は人の目ばかり伺って生きて来たから……わかっちゃうんだよ。……好きな人、いるんだね……。


 当然だよね、善子ちゃんは可愛いし……私と同じように、善子ちゃんの真面目な部分に触れた男の子と仲良くなることも、あるのかもしれない。


 だとしたら、見守って、あげなきゃね。相談してくれるかな……だとしたら善子ちゃんの話を聞いてあげて、どんな風にアタックしたらいいか、とか……二人で話し合うのかな。


 なんだか他人事のように思えたのは、それにまだ直面していないからだろう。もし、善子ちゃんが顔を赤くしながら好きな人が出来たんだと、言って来たなら……。


 

 ――想像すらも、したくなかった。

12 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:05:06.69 ID:BDYEwVFL.net
◇――――◇

 週末。善子ちゃんと二人でお出かけをすることになった。前々から言っていたことで、二人でどこにいこうかなって、話し合いをした結果……カラオケに行こうって、話になったんだ。


 そもそもどこかへ行こうっていう話をするのがおかしい気もしたんだけど、深く考えることはなかった。


 善子ちゃんはね、とっても歌が上手いんです。歌っている姿と声はとても凛々しくて……かっこいいな、って思ってしまう。

 ふたりだけの空間で、まるで私のためだけに歌ってくれているようで。


善子「ふふ、魔界が震えてるわ」

梨子「?」

善子「私の歌声にっ!」


梨子「そうかもね、本当に上手いと思う」


善子「当然ねっ!」


梨子「善子ちゃんの歌聞いてると、なんだか……楽しくなるっていうか、元気になるっていうか……ああもう、なんて言ったらいいのかな……」

善子「///」

13 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:11:46.28 ID:BDYEwVFL.net
善子「梨子はさ、わ、私と二人で遊んで……楽しい?」///

梨子「え?///」

 突然なにを言い出すの!?

梨子「う、うん……すっごく楽しい」

善子「ほ、本当?」

梨子「うん、どうかした?」

善子(楽しい……楽しいんだ)エヘヘ…


 な、なんか……善子ちゃん可愛い。ちょっと恥ずかしがるような……もしかして不安なのかな。善子ちゃんあんまり友達いなかったらしいし、二人で遊ぶのとか……慣れてないって言ってたし。


 だとしたら……私が善子ちゃんの不安を無くしてあげたい……そう、私が善子ちゃんと会う理由は、それだよ、ね?

善子「ねね、聞いてよっ!」


 善子ちゃんは、なんだか嬉しそうな表情を浮かべながら私に携帯の画面を見せてくる。ああ……また堕天使。

 でも……それが楽しいの。善子ちゃんとふたりきりで、女の子同士のただの雑談がとたも、楽しいの。そう、それだけ。

14 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:12:29.86 ID:A81Q/BCS.net
鬱エンドになるって言ってたやつだろ
ふたなり書いてるおにぎり

15 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:14:29.81 ID:WpCmUYHO.net
今回もふたなりなのか?

16 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:15:09.71 ID:BDYEwVFL.net
◇――――◇

 カラオケに行ったあとは、服が見たいらしくて善子ちゃんと駅前の服屋さんに足を運んだ。今日の服装は、また黒をベースにしたまのだった。日焼けしたくないって言って、夏だっていうのに……薄いとはいえダウンジャケットなんて着ちゃって……もう、汗かいてるよ?


 そう言っても堕天使だからっ! の一点張りで、まあ予測は出来てたから今日は善子ちゃんに夏らしい爽やかなのを着てほしいなっねことを言ったら、何故かわからないけど快く受け入れてくれた。


  白と青を基調にしたマリンコーデ、私はあんまりしないんだけど……それを二人で選んで着てもらったら、本当に可愛くて……。


 こんなことをするの、なんだか恋人みたい。そう、一瞬でも思ってしまった、汚い私がいた。ただの友達同士で楽しく服を見るなんて、誰でもやるよね……それなのに、私は善子ちゃんに汚い感情を抱いてしまっている。消そう消そうって思うのに、善子ちゃんの可愛くて純粋な笑顔を見るたび、私の中の汚物が、暴走しそうになる。

 

 独り占めしたい、私だけに笑って私だけに喋りかけて私だけに――。

17 :名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:15:29.50 ID:/rRFiz9y.net
期待機

18 :名無しで叶える物語(神都グランドカナン)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:16:26.10 ID:x1mPj4iO.net
善子梨子に絶対

19 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:17:15.37 ID:BDYEwVFL.net
>>16
ダウン→ライダース

20 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:18:03.91 ID:BDYEwVFL.net
 自分が、歪んだ感情を待っていることに目を瞑りながら、そのあとは二人でファミレスに行って、また喋って……。本格的に暗くなったあたりで、ちょっと名残惜しかったけれどファミレスを後にした。


善子「ふふふ、あーなんかすっきりしたかも今日は!」

梨子「ストレスでも溜まってたの?」


 バスを待つベンチに二人で座って、雑談の続きをする。善子ちゃんはちょっと話し足りなかったみたいで、私につられるようにバス停までついてきてくれた。私ももっと話しかったし、帰らなくていいのって言葉が自然に出て来なくて……結局待ち時間も、付き合って貰っちゃってる。


善子「ストレス……は、溜まってないわ」


 私の質問を受け止めた善子ちゃんは、少しだけスカートの裾を握りしめた。


善子「ね、ねえ梨子――女の子同士の恋愛ってどう思う?」

梨子「――は……?」


 なに、言ってるの?


 善子ちゃんは私と目を合わせないで、頷いたまま、顔をあげない。


梨子「ど、どうしたの? 善子ちゃん……」

善子「いいから……こ、こたえてよっ」

21 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:21:40.36 ID:BDYEwVFL.net
梨子「……」

 善子ちゃんは顔をあげると、私を貫くくらいの真剣な眼差しを向けてきた。今まで見たことがないくらい、真剣な眼差し。……そこで私の中に一つの可能性が生まれる。もしかして、善子ちゃん……女の子のことが好き、とか?

 そ、そんなわけないっ! そんな異常な人、私みたいなおかしな人は、なかなかいないはず……。

 それとも、まだ、迷ってる?


梨子「――いい、んじゃないかな」


 でも、それでも――わたしは、善子ちゃんを、否定出来なかった。

善子「え」

 もし女の子が好きなんだとしたら、私を好きになってもらえるかもしれない。特別な関係になれてしまうかも、しれない。


 そう囁く私の中の悪魔が、汚物が……囁く。


 胸が苦しい、酸素を取り込めない。私は、善子ちゃんをこっち側に引き込もうとしている。

22 :名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:38:13.36 ID:/rRFiz9y.net
保守

23 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:38:31.35 ID:BDYEwVFL.net
梨子「好きになった相手が女の子でも、それは仕方ないん、じゃないかな……わたしは、いいと思う」


 何が、いいの? 辛いよ、辛いんだよ。周りに女の子が好きだなんて言えるわけなくて、言ったとしたら奇異な目で見られてあの子は女の子が好きだから、で片付けられる。音ノ木にいた時も、そういう友達が一人いた。最初はみんな気にしていないようだったけれど、少しずつ少しずつ噂が広まって……結局その子は、孤立していた。


 私は、それを見て声をかけるわけでもなく……自分がそうならないように、この気持ちを、押し殺した。誰にも言わないようにしようって、普通に男の子を好きになったふりをして、出来れば結婚をして、お母さんを安心させて……それで最後まで。


 善子ちゃんに、こんな気持ちを味わって欲しくないのに……善子ちゃんは私に相談してくれてるのに、信頼、してくれてる、のに……。本当だったら、絶対だめって、言ってあげないとなのにっ……。

善子「そ、そう思う?」


梨子「うん。もし対象が女の子でも、想いを伝えてみたほうが、いいと思うな」


 ごめん、ね。こんな、人で……わたし、善子ちゃんが思ってくれるほど、綺麗な人じゃ、ないみたい……っ。


善子「……り、梨子」

24 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:39:04.11 ID:BDYEwVFL.net
梨子「うん?」

善子「彼氏、いないのよね」

梨子「い、いないよ?」///


善子「ぅ……えと」

善子(ど、どう……しよ……わたし、やっぱり梨子のこと、好きだ……)

善子(お姉ちゃんみたいって思ってたけど、このドキドキは、やっぱり……)

善子(でも、言ったら、どうなるかな……。好きになった人には告白しろって、色んなところで聞くし……)


善子(女の子同士、だけど……わ、わたしっ!!)


善子「――す、好き……」


梨子「うん?」


善子「わ、わたしっ……あ、あなたのことが……好きなのっ!!!」

25 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:41:05.98 ID:BDYEwVFL.net
 凪いだ風が、善子ちゃんと私の髪の毛を巻き上げて、宙で触れ合う。ふわりと善子ちゃんのシャンプーの香りと一緒に、彼女の想いが、私を切り裂いた。

梨子「え……うそ、だよね?」

善子「ほ、ほんと、よ……。一緒にいると、楽しいし、気がついたらあなたのことばかり、考えてるし、ふたりでいると、ドキドキ、するし……あ、あああのっ、だから……わ、私と――契約、してよ……」

 なに、これ。

 善子ちゃんは身体の正面を向けて、真っ直ぐ私の目を見てくる。言葉はしどろもどろで、顔は真っ赤で、そしてちょっと涙目で……それでも、私を捉える赤い瞳は、揺るがない。


梨子「ま、前から女の子のこと、が?」

善子「ううん、梨子と一緒に遊び始めてから」


 私の、せいか……。私が、善子ちゃんを……こんな、道に……。ごめん、ね。

 


梨子「――きっと、勘違いだよ」

26 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:42:40.28 ID:BDYEwVFL.net
善子「え?」

 私は燃え盛るような赤い瞳から、目をそらす。善子ちゃんは本気だ、本気の心が瞳から伝わってきて、私の心まで焼けおちてしまいそうだ。でもその本気の心は、間違ってる。良いって私が言ったくせに、いざ、言われると……だめなんだって、強く訴えかけてくる。本当は、本気の善子ちゃんを受け止める自信がない、だけ。


梨子「女の子を好きになる人ってあんまりいないし、さ……ほら女子校だから男の子と関わる機会とかあんまりないでしょ?」


梨子「だから善子ちゃんは勘違いしちゃってるんだと思う。善子ちゃんは可愛いから、きっとかっこいい男の子と話して、デートとかしたら……その気持ちも、すぐに無くなって――」


 
善子「――無くならないっ!!!」


善子「……わたし、本気、なの」


善子「リリー……ひどいよ」ウルッ…


善子「ううん、ごめんなさい……やっぱり、気持ち悪いわよね。あなたが女の子のこと、好きなわけ、ないし……」

27 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:44:25.34 ID:BDYEwVFL.net
 善子ちゃんにはまた下を向いて、震えていた。スカートを握りしめた拳に、ぽたぽたと、涙が零れ落ちる。

 ぁ、ああ……わたし、ひどいこと、した。本気なの、分かってたのにそれを受け流すようにして……逃げてしまった。結局――深く、傷つけて、しまった。


善子「で、でも……私、まだあなたと遊んだりしたい。普通に、今まで通りで、いいから――嫌いに、ならないで……」


 日は沈んで、それと一緒に消えてしまうんじゃないかと思うくらい、小さく、掠れた声を善子ちゃんは精一杯言葉に変えた。


 震えたまま俯く善子ちゃんに何か言わなければ、このままだと……善子ちゃんは長い間、この傷に悩まされてしまうかも、しれない。


 どう、すればいい? わたしは、一体。


 きゅぅと唇を噛み締めた時、既に到着していたバスの運転手さんが私達に乗らないのかと声をかけてきた。私はその問いに、大丈夫ですと、きっぱり答える。


善子「かえ、らないの?」

28 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 20:45:59.95 ID:BDYEwVFL.net
 バスの自動扉がゆっくりと閉じて、エンジン音を上げながら内浦まで向かってゆく。


梨子「ごめんね、善子ちゃん……」

梨子「実は私ね――善子ちゃんのこと……好き、なんだ」

善子「え……?」


 ごめんなさい。結局わたしは、こうするしか、ありませんでした。人と違うってことが、どれだけ辛いか、よくわかってないはずの善子ちゃんを、巻き込んでしまいました。もっと優しい言葉で、説得して、普通の道に進ませてあげることも出来たはずなのに。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


梨子「契約っていうのは……恋人として付き合うってことで、いい、んだよね?」

善子「え、う、うん……あの、わけ、わかんないんだけど」

梨子「……ごめんね」

梨子「善子ちゃんの気持ちを考えないではぐらかそうとしちゃって」


善子「ほ、本当に……梨子は女の子の、ことが?」

梨子「……うん」


梨子「昔から、ずっと……そうだったんだ」

29 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 21:08:12.53 ID:M/UAEC7t.net
期待

30 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 21:08:19.89 ID:ntIM5sVw.net
 そう、昔から。

梨子「善子ちゃんのことも、気がついたら好きになってた。ふたりで遊ぶのも楽しくてメールも電話も、いつもドキドキしてた」


善子「////」

善子「じゃあなんで、さっき、あんなにはぐらかすみたいなこと言ったのよ」

梨子「……善子ちゃんには、こっち側に来て欲しくなかった」

善子「こっち側?」

梨子「善子ちゃんが女の子を好きになるのは、私が初めてなんだよね? ……善子ちゃんは、女の子を好きになるってことがどういうことなのか、よく、わかってないんだよ」

善子「……」

梨子「居場所がなくて、好きでもない男の子のこと気になってるって嘘ついて……未来の希望もなくて、好きでもない人と結婚するか、結婚もしないで一人で生きていくか……そんな風に考えちゃうの」

梨子「……肩身って、想像以上に狭いんだよ。私も、人に言うのは、初めてだもの。親にだって言えない、言ったら……どうなるかもわからない」

31 :名無しで叶える物語(禿)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 22:36:54.19 ID:r6Iwtq25.net
みてるぞ

32 :名無しで叶える物語(湖北省)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 23:04:15.91 ID:sEyT2sBV.net
ほう

33 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2017/03/18(土) 23:14:43.57 ID:IN5FPT7p.net
ヘテロノーマティヴィティがキツすぎる

34 :名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 00:04:48.22 ID:5NHNVUrJ.net
保守

35 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 00:09:14.30 ID:sz2tb6Ve.net
梨子「周りからは親不孝だって言われて、あそこの娘さんは同性愛者だって笑われて……きっと、そんな未来が待ってる。……わたしは、善子ちゃんにそうなって欲しくなかった。ただの勘違いだって、思って欲しかった!!」


梨子「ごめんね、こんな人で……。私も、善子ちゃんのことが好きだったから、独り占めしたかったから……善子ちゃんのこと、正しい方向に進ませて、あげられなかった」

善子「っ……」


善子「――なにそれ、本当に、迷惑なんだけど」


善子「そんなことばかり言うから地味って言われるのよっ!!!」


 善子ちゃんは立ち上がって、ベンチの上で私に指を突きつける。い、いきなりどうしたの? そんなこと、言わなくても……。


善子「正しい正しくないなんてどうでもいいのっ!! わたしはね、私が思った通りにしか生きてくつもりないから! 千歌に言われたように、好きなものは好きで、それでいいじゃない!!」



善子「私は堕天使よっ!! むしろ、禁断のことに手を出す方が、しっくり来るってこと!!!

36 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 00:10:46.22 ID:sz2tb6Ve.net
梨子「善子ちゃん……」

善子「……か、確認なんだけど……私達……恋人ってことで、いいの?」


 静かに座り込んで、さっきよりも私の近くに身体を寄せて来る。今回は身体を横に向けて、私のことを気にするように、ちらちら覗き込んでくる。暗くてもわかるくらい善子ちゃんの頰には赤が差し込んで……そんな、いつもとちがう様子に心が高鳴る。


 さっきは契約って言葉で濁してたけれど、善子ちゃんも不安だった、んだよね。でも善子ちゃんは、人の目を、気にしなくなったようだった。堕天使をやめるって言って、千歌ちゃんに説得されたことが、ここでこんな結末をもたらすだなんて。千歌ちゃんのプラス思考が、善子ちゃんを良い方向に導いたかどうかは、まだわからない。でも善子ちゃんみたいに、生きられたら幸せそうだなって思うの。


 善子ちゃんのひんやりした手の甲側から、私の手の平を重ねる。びくっと身体が跳ね上がる、緊張してるんだね。



梨子「契約、よろしくお願いします」


 

 ――私は今日、堕天使と契約をした。

37 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 00:18:19.32 ID:hEjVd81Z.net
冒頭とタイトルがすでに不穏でびくびくしてる…

38 :名無しで叶える物語(湖北省)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 00:42:10.74 ID:YJ7cFKeP.net
いいですわぞ

39 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 01:09:02.29 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇


鞠莉『ただいまー!』ギュッ


果南『はいはいおかえりなさい』

ダイヤ『おかえり』


鞠莉『あー、果南お化粧上手くなってる!』

果南『そ、そうかな?』


ダイヤ『そうだと思いますよ。全く……逆に言えば今までが無頓着すぎたのです』


果南『まあね、流石にもう誰が見たって大人だし、これくらいはね』

鞠莉『もお、それじゃ男の人にモテモテね?』


果南『うん、彼氏みたいなの3人いる』


鞠莉『え゛!!』


果南『うそだって』


鞠莉『もー!!!!』


果南『千歌達がさ、先に梨子ちゃんのとこ行ってるから、合流しようか』

40 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 01:10:28.26 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇

 意外とサイズって適当でも大丈夫だよね。


 善子ちゃんが普段使っているらしいパジャマを見にまとうと、想像以上にしっくり来て、そんなことを思った。

 ベッドにふたりで腰掛けながら、なんとなく流れてるバラエティ番組をふたりで眺めていた。


 結局私は帰る足を失ってしまって、迎えに来てもらおうかって思ってたんだけれど、善子ちゃんの鶴の一声……いえ、堕天使の一声によって、本日は泊まらせてもらうことになりました。


 善子ちゃんの部屋に来たのは2回目で、初めてはなんだか見せたい悪魔グッズがあるとかなんとか言った時だったのをよく覚えている。


 善子ちゃんの部屋はなんだか本格的なカメラと、よくわからない水晶玉や悪魔グッズなどが部屋のどこを見ても存在している気がする。うーん、好きなのは構わないんだけれど、かなり新鮮な気分。


善子「――付き合ってるってこと、周りに言わない方がいいの?」


 善子ちゃんは不意にそんなことを言った。思えば、善子ちゃんはふざけている時でも急に真面目になったりする。


梨子「……うん、言わない方がいいと思う」

41 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 01:16:31.88 ID:P+jqMRHu.net
 そう、言ったら、終わりだ。優しい人もいると思う、でも優しくない人もたくさんいるんだ。

梨子「……堂々と言えれば、いいのにね」

善子「言う?」

梨子「それはダメだよ、こんなこと言いたくないけど……善子ちゃんは、わかって、ない。優しい人ばかりじゃ、ないんだよ……?」

善子「……ごめんなさい」

善子「やっぱり今まで、辛かったの?」

梨子「うん……今でも、これで良かったのかわからない」

梨子「善子ちゃんのこと、大好きなの。好きで好きで……でも、こんな気持ちに従うだけじゃ」


善子「すぐそんなこと言うんだから。周りの目なんか気にする必要ない、そりゃ、学校とかでは気にした方がいいと思うけど……ここは私の部屋だし……」


梨子「……うん、善子ちゃんて強いよね……」


善子「昔本気で堕天使だって信じてたのよ、周りの目なんかもう気にならなくなったの」

梨子「くす……そうなんだね」

42 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 01:22:55.96 ID:P+jqMRHu.net
善子「梨子だって、私の虜になっちゃったリトルデーモンなわけでしょ? 主人に任せてあなたは何にも気にしなくていーの!」


 善子ちゃんは自信たっぷりで、笑顔を見せてくれた。女の子同士でも気にしないって、本気で思ってて、その後ろめたさも、私より全然なくて……真っ直ぐだ。羨ましかった、そんな風に思えるのってすごいことだと思う。私はすぐ後ろ向きに考えてジメジメして、うぅ、これじゃ歳上失格だね。


梨子「じゃあそうさせてもらおうかな?」

善子「ふふっ、ヨハネに任せなさい」

善子「あ、ヨハネって呼んでね」

梨子「え……本気?」

善子「本気よ、契約内容にあったわよ」

梨子「な、ないよ! 善子ちゃんじゃだめ?」

善子「やだ!」

 ぅ、うう……じゃあどう呼べばいいの? ヨハネちゃん……それもいいのかな? 恋人同士のあだ名って、感じ? それでもヨハネは……。

梨子「――あ、よっちゃんて呼ぶの、だめ?」

善子「よ、よっちゃん……な、なんか締まらないけど――」

梨子「ちょっと、恋人っぽくないかな?」

43 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 01:23:53.81 ID:P+jqMRHu.net
善子「そ、そうかも///」

 ちょっと目を逸らして頬を赤らめる善子ちゃん……ああ、可愛い……。本当に、こんな会話をする日が来るなんて。

 恋人になれるって、すっごく、幸せなんだね。

善子「じゃあ私はリリーって呼ぶから!」

梨子「り、リリー? それは、ちょっと……」

善子「いいでしょ、リトルデーモンリリーね!」

梨子「うぅ、ま、まあ……仕方ない、のかな」

善子「この呼び方も二人きりの時だけ?」

梨子「……うん、出来ればそうしよう?」

善子「リリーが言うなら、そうするわ」

善子「そ、その代わり」

善子「二人きりの時は……こ、恋人っぽく、がいい……」


 胸がきゅぅうっと締め付けられる。今までのような苦しい締め付けじゃなくて、とても、とても心地良い締め付け。よっちゃんの可愛さに心が悲鳴をあげている。急に訪れた幸せに、心が対処仕切れていない。

44 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 01:28:36.96 ID:P+jqMRHu.net
 もじもじと恥ずかしそうにするよっちゃんの姿はとても愛おしくて、可愛くて……食べちゃいたくなるほどだった。

 それを堪えて、冷静さを失っていないフリをして、歳上のお姉さんのプライドを少しでも保とうと、よっちゃんの撫でやすい頭に手を添える。ナデナデされるのが好きみたいで、手を当てると静かに目を閉じて動かなくなった。まるで猫さんみたいだね、黒猫、かな?

善子「……ん」///ドキドキ

梨子「これじゃ、前と変わらないかな?」

善子「じ、十分よ」

梨子「そっか」

梨子「そろそろ、眠ろっか?」

善子「そうね」

 我慢、しなくていいんだ。私とよっちゃんは恋人……ふたりきりのこの空間では、思い切りイチャイチャしても、いい、んだよね?

 で、でも……こ、恋人になって1日目で……一緒に眠りたいなんていう提案、おかしいかな? わたし、勿論恋愛したことないし、でもでも、こういうのはリードしなきゃだと思うし、ああでも――。


善子「り、リリーに命ずるわ! わ、私の眠りを、一番近くで、し、守護しなさいっ!」

梨子「う、うん?」

45 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 01:29:35.83 ID:P+jqMRHu.net
 えっと、本当によくわからない。善子ちゃんは私にびしっと人差し指の腹を見せつける。私が少し考える間を開けると、我慢できなくなったかのように声をあげた。

善子「な、なによっ! わかる、でしょ」

梨子「ごめん、眠りって……。あ、一緒に寝ようって、こと?」

 ぼんっ、と音が聞こえたような気がした。

善子「そ、そうしたいなら、構わないわ! ヨハネの元で魔力を回復しなさいっ、私の命令をいつでも聞けるようにっ!」

 一緒に、眠る……このよっちゃんのベッドで?

 そういう展開、何回も一人で想像したけれど、いざ……言われると、恥ずかしくて死んじゃいそう。心臓がばくばく言い出して、余裕を保つ力が失われていく。

梨子「うん、私もよっちゃんと一緒に眠りたい、かな」

善子「あ、あっそ……ぅぅ」///

善子「さ、先に寝るから!」

 勢いよくベッドの中に潜り込んで、背中を向けてしまった。善子ちゃん、恥ずかしいんだね。その気持ち痛いほどわかるし、それでも善子ちゃんは……どんどん私に近づいて来てくれる。私が踏み出せない一歩を、何回も踏み出してきてくれる。

46 :名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:01:50.22 ID:lFx51Huh.net
よしりこイケるな...

47 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:03:27.41 ID:P+jqMRHu.net
 ふふっと背中に笑いかけて、私は善子ちゃんの部屋の電気のスイッチ、であろう場所をそっと押す。照明が消えて、部屋には先程から流れているバラエティ番組の明かりと音だけが存在感を残していた。目の前にあるリモコンのボタンを押せば、そこは――。

 ぶつ。

 しん、と静まり返った部屋の中で、善子ちゃんの背中が一瞬びくんと跳ねたのがわかった。

梨子「……し、失礼します」

 夏前だからか、ちょっとだけ薄くて軽い掛け布団をめくり、そこに足を侵入させる。

 今までとは全然違う感覚に、胸が焼け焦げそうだ。善子ちゃんと距離がどんどん近くなって、どんどん善子ちゃんのパーソナルスペースの壁をはねのけていく、そんな感覚。

 足が両方とも入って、身体も入れて……仰向けの状態になったら、掛け布団を首元まで持ってくる。

 眠る前だっていうのに、酷く鼓動が激しい。この状況を処理しきれない。私は今、善子ちゃんと同じベッドに、入って……眠ろうとしている。

 善子ちゃんは相変わらず背中を向けちゃって、こっちを向いてはくれないけれど、その背中はリラックスとは程遠いように思えた。どこか強張っていて、私とおんなじ気持ちになってくれているのかなって、ちょっとだけまた親近感を覚える。

梨子「よっちゃん」

善子「な、なによ」

梨子「もっと、くっついてもいいかな? 枕から飛び出ちゃう」

48 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:04:41.63 ID:P+jqMRHu.net
 枕が一つとはいえ、善子ちゃんはとても大きな枕を持っていた。私とよっちゃんが二人で眠るには十分な大きさで、詰める必要もほとんどない。だから、私がよっちゃんともっとくっつきたいっていう、ただの理由。我慢しなくて、いいんだもんね、よっちゃんのこと、好きって気持ち……つ、伝えてもいいんだよね?


善子「べ、べつに構わないけど」


 ちょっとぶっきらぼうにもごもご言うよっちゃんは、照れてる証拠です。チャンスとばかりにぐいっと身体を寄せて、よっちゃんの体温を肌で感じることができる距離。


梨子「よっちゃん、ありがとね」

善子「なに、が?」


梨子「……私が怖がっていた一歩を、踏み出してくれて。よっちゃんが恐れないで私に近づいてくれたから、こんな風に慣れてるんだよ。よっちゃんが何もしてくれなかったら、私は何もできなかった」

梨子「ありがとう、これからよろしくね」

善子「え、ええ」


梨子「こっち向いてよ」

善子「な、なんでよ」

梨子「よっちゃんの顔が見たいな」

善子「見てどうするの」

梨子「恋人だもん、ずっと見ていたいって思うの、変かな?」

49 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:06:12.79 ID:P+jqMRHu.net
 自分でも、少し大胆だったかなとか、おかしなこと言っちゃったなって思うけれど……これくらいがちょうどいいのかもしれない。よっちゃんは結構大胆だし、やられっぱなしも嫌だしね?


善子「べ、べつに変じゃないけど」

 くるりと態勢を変えて、私の目の前、寸での距離に……愛おしい人の顔が向けられる。長い睫毛に、強気なのにどこか可愛い目、すっと高い鼻に真っ白な肌……見た目も、中身も、好き。


 赤い瞳に吸い込まれそうになりながら、私は笑みが零れてしまった。

善子「な、なによっ!///」

梨子「よっちゃん、可愛いなって」

善子「ぅ……リリーも、なかなかだと、思うわ」

梨子「そんなことないよ、ね、もっと近づいて?」

善子「ぅぅ……い、いきなりこういうこと、難しいって、いうか」

梨子「?」

善子「こんな、恋人っぽいこと……」

梨子「一緒に眠りたいって言ったのはよっちゃんだよ?」

善子「わかってる、でも……ほら、いざこうなると」


梨子「ふふっ、そうだよね。私も……すっごくドキドキ、してるよ」

善子「……///」


善子「リリー……あり、がと」

50 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:07:18.18 ID:P+jqMRHu.net
梨子「ん?」

善子「高校のクラスでも友達出来たし、部活のみんなは、大切だし……それだけでも私は満足してるつもりだったのよ」

善子「それなのに、こんな……好きな人も出来て、付き合えて……」

善子「ひょっとして、こ、これすごいリア充じゃない!?」

梨子「……ふふっ、そうかもしれないね」

善子「高校半年間でこんな急展開なんだから、きっとあとの二年で世界征服よ!!」

梨子「え、ええ?」

善子「あ、それとも――」


 ベッドに入ってからも、夜は長いみたいです。

51 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:08:14.84 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇

 ふたりきりのベッドの中で話していた時間は二時間を超えていた。ふたりではなしているだけで時間の概念から切り離されたような錯覚を覚えてしまうほどには、私たちはお話が好きみたい。よっちゃんの魔力のせい、かな? くす、私もリトルデーモン化が1日で進んじゃったみたいだね。


 よっちゃんが眠る前の時は何か言いたそうにしながら瞼が少しずつ閉じて言って、まだリリーと話したいって言ってすぐに、小さな寝息を立て始めたの。私は消えてしまいそうな可憐さに魅せられて、余計に20分くらいはぼんやりと見惚れてたと思う。


 まるで夢みたいだねって、ふたりで言い合ったのが印象に残っている。それは良い印象でもあり、悪い印象でもあった。このまま眠ってしまったら私は一人で、よっちゃんは隣に居なくて、全て私の妄想で……結局、私たちの好きの形は、通じ合っていなかった……なんて言う展開が起こるんじゃないかとさえ、思った。


 ふたりきりの世界で誰にも邪魔をされずに過ごした一夜が幸せすぎたんだと思う。私たちの好きの形が、世間の全てに許されたようなそんな感じが、して。


 朝起きると、よっちゃんが私のことを、見ていた。よっちゃんはそれを認めないで、誤魔化してたけれど、私は知ってるもんね。よっちゃんも私のこと、好きでいてくれてるんだっていう確認になったよ。一夜を超えても、私たちの好きの形は、確かにそこにあるんだって。

52 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:09:03.77 ID:P+jqMRHu.net
 午前中で帰ろうかって思ったけれど、よっちゃんのゲームを見ながらふたりでお話をしていたら、お昼を超えちゃってた。お昼ご飯もよっちゃんの家でご馳走になっちゃって……。よっちゃんのお母さんってとっても綺麗で本当に似てるんだよ、なんだか出来る女の人って感じ。
 よっちゃんもOLさんになったら、すごく人気が出そうだよね。人気が出るのはいいけれど、私のことも見てくれないと、少し、寂しいなって思うけど。


 おでかけしようかって話にもなったんだけれど、今日はふたりきりで居たい気分だったし、ものの1分もしないうちに違う話題に切り替わっていった。いくら話しても、足りない。私はそんなにお喋りな方じゃなくて、ガールズトークとかも得意じゃないんだけど、よっちゃんはお話が好きだからそのお話を聞いてるだけで面白いんだよね。


 たっぷりふたりで話して、今日はバスに乗り遅れないように夕方になったらバス停へ向かった。


善子「じゃあね、また明日」


梨子「うん、明日からの練習も、頑張ろうね」

53 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:10:03.96 ID:P+jqMRHu.net
 バスへ乗り込む時も、本当に付き合う前と変わらず何気ない会話だった。よっちゃんは切り替えが上手くて、メリハリがあって……なんだかいいなって思っちゃう。私がちょっと切り替えとか苦手なタイプだからっていうのも、あるんだろうけど。


 考えるのはよっちゃんのことばかりだった。バスの窓から山の向こうへ堕ちてゆく太陽を眺めながら、よっちゃんならどんな風に言うのかなって。


 ああ、ダメダメ、切り替えないと。明日から新しい曲を作るんだって、千歌ちゃんが言ってたもんね。新しい曲、か。今度はどうなるのかな。


 よっちゃんのこと、大好きだけど、他のことに影響が出ちゃったらダメだもんね。人前でベタベタが出ないし、制限もちょうどいい、のかも。


 女の子同士っていうのも、少しはプラスに捉えることも出来るのかな。こんな風に考えることが少しでも出来るようになったのは、愛おしい人の影響なんだと強く実感することが出来た。


 悪い結果ばかり予想して、怖がって居たけれど、今は世界が明るく見えた。よっちゃん、私は幸せだよ。ありがとうね。

54 :名無しで叶える物語(湖北省)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:21:07.24 ID:syBcn7Z8.net
ほっほう

55 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:23:57.05 ID:8y2M/r2o.net
レズが普通じゃないSS好きだわ

56 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:26:53.83 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇


千歌「恋愛の曲がいいのっ!」


 そこまでこだわる必要はないのではないか、というダイヤさんの指摘に、千歌ちゃんはぶんぶんと首を横に振りながら立ち上がる。机から身を乗り出してダイヤさんに訴えかける目は、並々ならぬ情熱を持ち合わせているようだった。

 ダイヤさんは少々たじろぎながらも、ため息で千歌ちゃんの情熱に答えたようだった。

千歌「なんでそんなおっきなため息つくんですか!」

ダイヤ「いえ……千歌さんの気持ちはわかります。でも、先週までに歌詞を完成させると言いましたよね?」

千歌「ぅ、そう、だけど」

ダイヤ「恋愛の歌だから苦戦しているのではありませんの? そこまで、拘らなくても……」

千歌「むぅ……で、も」

鞠莉「アイドルと言ったら恋愛! らしいじゃない?」

ダイヤ「恋愛禁止が定石なのに?」


ダイヤ「そもそも千歌さんは男性と交際したことがありますの? 好きになったことが、ありますの?」

57 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:28:52.09 ID:P+jqMRHu.net
千歌「……ない、けど」

千歌「少女漫画とか、持ってるし……お姉ちゃん達から、彼氏の話とか、聞くし……」

千歌「彼氏……そっか、彼氏作れば、恋愛の曲が作れるんだ!!」

ダイヤ「どうしてそうなるのよ。まあアイドルとは違って、スクールアイドルですから……恋愛禁止とは、言えませんけど」

果南「彼氏作るってはりきるのもいいけどさ、候補はいるの?」

千歌「……」

果南「中学の時の友達にでも連絡するくらいしかないんじゃない?」

千歌「でも全然会ってないし、というか連絡先も知らないし……携帯持ったの、高校生からだし」

果南「てことは、現在の男の子の友達はほぼゼロ……」

千歌「ぅ……」


ダイヤ「諦めた方がいいみたいね」


千歌「なんでなんでっ! うぅ……そ、そうだ、ここに九人もいるんだからだれか恋愛の歌詞書けそうな人いないの!?」

58 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:30:19.34 ID:P+jqMRHu.net
「……」


千歌「――よ、曜ちゃんは!? 中学の時結構告白されてたでしょ?」

曜「うぇぇ……」

果南「あぁ、そんなこともあったね」

梨子「へぇ……」

梨子(まあ可愛いし明るいしね……)


善子(……なにそれ完全にリア充じゃない)


鞠莉「あら、意外とやり手?」

ルビィ「やり手?」

ダイヤ「変なこと教えないで」


曜「そんなんじゃないってばー! でもなんか、どうしてそうなったのか……だから結局断っちゃったし」

果南「曜は明るくて誰にでも愛想いいから男の子はきっと勘違いしちゃうんだよ」


曜「そうなのかなあ……」


ルビィ「それがやり手?」

59 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:31:46.99 ID:P+jqMRHu.net
ダイヤ「違います、いつか正しい意味を教えるからそれまで待っていて」

ルビィ「……はい」

千歌「曜ちゃん、書けない?」

曜「む、無理だよ恋愛の歌詞なんてっ!」

千歌「そこをなんとかっ!」

曜「うぅ、あっ、梨子ちゃんはどうなの?」


梨子「――へ?」


千歌「あー! 確かにっ、女の子っぽいしモデルさんみたいだし、モテたでしょ?」

千歌「もしかして彼氏何人もいましたー! とか?」

善子(っ……)

梨子(彼氏……)


 千歌ちゃんのその問いには、なんの悪意も込められていないことくらい、誰にでもわかること。でも、それでも……その悪意の無さが、私の心を抉った。


 彼氏がいたかどうか、男の子が好きなことが当然として、そう聞いている。私が女の子のことが好きだなんて微塵も思わないで、千歌ちゃんの赤い瞳が輝いている。無邪気な問いで、私は少し夢見心地だった昨日の海から、強引に釣り上げられてしまったみたいだ。

60 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:34:21.00 ID:P+jqMRHu.net
 中学生の時……私は、記憶の引き出しを開けてみる。

梨子「――彼氏はいなかったけど、私も中学生の時、告白、されたことなら」

善子「――え!?!?」ガタッ!!

花丸「善子ちゃん?」

善子「ほ、ほんと?」

梨子「う、うん……そこまで仲も良くなかったし……私も、断っちゃったけど」

 少しずつ、当時の光景が蘇ってくる。あの時私は、告白されて……。今思えばその時が転機だったのかもしれない。

 小さな頃から女の子が好きっていうのはわかっていたけれど、中学生にもなると周りでも付き合う人が増えてきた。

 そんな中での男の子からの告白。

 今思い出しても、その人は背も高くて、かっこよかったと、思う。でも……全然ドキドキしなかった、私が彼の隣で心から笑っている姿を想像することが出来なかった。彼は悪くない、私が悪かったんだ。


 その時私は……自分が異常なんだっていうことに、確信を持ったんだ。


 
善子「よ、よかった……」

鞠莉「……?」

梨子「てことで、ごめんね。私も無理、かな」

千歌「はぁぁ……みんなして告白されててさ、むぅ……」


ダイヤ「とりあえず恋愛の歌はお預け、ということね」


千歌「はぁぁ」

61 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:36:55.33 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇


善子「ね、ねえ……」

梨子「うん?」

善子「――ちょっとだけ……ふたりきりに、なりたい」

善子「空き教室、いこ」

梨子「どうしたの?」

善子「いいから、お願い」

梨子「う、うん……」

◇――――◇


空き教室



善子「男の人に告白されたことあるって、ほんと?」

梨子「か、隠すつもりはなくて……」

善子「……わかってる」

梨子「どう、したの?」

善子「……なんか、わかんない」

善子「けど、やな、感じ……」モヤモヤ

善子「わ、私たち……恋人、よね?」


梨子「うん……」


善子「……恋人」

62 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:37:47.12 ID:P+jqMRHu.net
善子「わ、わたし……リリーのこと、絶対……一番好きな自信あるからっ。リリーに告白した男の人よりもっ!」

梨子「////」

梨子「……不安、だったの?「

善子「へ」

善子「ふ、不安ていうか、なんていうか///」

善子「り、リリーは……び、美人だし、絶対……男の人にもモテるし///」ボソボソ…

梨子「そ、そんなことないよぉ……//」

梨子「よっちゃんだっておんなじだよ……ほんとに可愛いし、わたしで、いいのかなって……//」

善子「わ、わたしが可愛いのは、と、とーぜんだし……このヨハネがあなたを選んだんだから、ち、ちょっとは自信持ちなさいよ」

梨子「う、うん……///」

善子「ぅぅ……」


梨子「や、やめよっか……こういうの、なんか、キリがない気がする……」//

63 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:51:26.33 ID:51Q2vhnj.net
こういうのが見たかったんや

64 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:55:51.84 ID:P+jqMRHu.net
善子「あなたのせいでね」

梨子「ええ……?」

善子「と、とにかく……あ、あの」モジッ

梨子「?」

善子「い、今は他の人のこと見ちゃ……やだから」

梨子「////」キュンッッ

梨子(か、かわいい……ぁぁ、うぅ、し、自然にニヤケちゃうよ……今の私、ぜ、絶対気持ち悪い顔してる……幸せ……)

善子「に、2回目は言わないんだからねっ、わかったのリリー?」

梨子「う、うん……よっちゃんもだからね」

善子「当たり前でしょ」

梨子「――だ、抱きしめて、いい?」

善子「は、はあ!?////」

梨子「ご、ごめんなさいっ……!な、なんかよっちゃんが可愛くて……」

善子「な、なによそれ……」//

梨子(ま、まだ早いよね……ぅぅ、早まっちゃったよ……ずっと好きだったから、わたし)

梨子「じゃあ、みんなのところに戻ろうか」クルッ

善子「……」

ギュッッ

梨子「ふぇ……///」

65 :また。(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 02:56:46.20 ID:P+jqMRHu.net
善子「……あ、あなたばっかりそういうことしようとするの、き、禁止っ! 私だって……」

善子「正面だとちょっと恥ずかしいけど、これなら……」

梨子「///」ドキドキッ

梨子(よ、よっちゃんに抱きつかれてる)///

善子「……こ、これはあなたを今天界の者共から守ってあげてるんだから///ヨハネがこうやって、だ、抱きしめてなかったら……い、一瞬で蒸発しちゃってるんだからね」

梨子「……うん///」

ガタッッ

善子「ひっ」


千歌「――ふたりとも、なにしてたの?」

善子「な、なななにもしてないわよ!?」

千歌「――抱きついてた?」

善子「!?」

善子「なんかり、リリー、腰が痛いっていうから確かめてただけ!!!」

千歌「……リリー? 腰?」

善子「ぅ……」

梨子(な、なんか色々ぼろが出そう……)

梨子「ちょっと、痛めちゃったかも……」

千歌「平気なの?」


梨子「練習しながら様子を見てみるね?」

千歌「うん」


梨子「行こっか、"善子ちゃん"」

66 :名無しで叶える物語(カナダ)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 03:14:09.65 ID:91jXTDzg.net
よい…

67 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 03:14:31.24 ID:yOSEkIGT.net
不穏な空気が…

68 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 08:43:21.09 ID:risedGuo.net
梨子ちゃんの「ところ」

69 :名無しで叶える物語(湖北省)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 09:12:47.90 ID:jw6cQsh1.net
凄く好き

70 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 09:24:25.35 ID:icbLABEf.net
最高

71 :名無しで叶える物語(黒酢)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 11:06:49.14 ID:hMHNCwcC.net
つらい…

72 :名無しで叶える物語(プーアル茶)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 12:00:23.05 ID:QZeUy/bj.net
>>71
くっさ
しね

73 :名無しで叶える物語(たこやき)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 12:01:13.48 ID:5NHNVUrJ.net
保守

74 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:22:27.36 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇

二週間後


 今日はお泊りです。よっちゃんと特別な関係になってから、3回目の週末。恋人になってから二週間くらいしか経っていないんだけれど……私は自分の心が、日に日に高鳴るのを感じた。端的に言うと、よっちゃんはとても、可愛い。素直な時は素直だし、素直じゃない時は、全然素直じゃない。


 甘えてくる時は堕天使モードじゃなくなって、私にくっついてくるの。それは基本的にふたりきりになって、とてもいい雰囲気になった時だけで……それ以外は堕天使モードで私をリードしようって、頑張ってくれるんだ。よっちゃんのさせたいようにするときもあれば、私がリードしちゃう時もある、でもどちらの場合でも、心に油が注がれたみたいに燃え盛るような感覚でいっぱいになる。

 ずっとこんな風に、好きな人と一緒にいられるのに、憧れていたんだ……。


 いつもより少しだけ長い時間、バスに揺られて沼津に到着する。ここからちょっと歩くと、よっちゃんとふたりきりになれて、なんにも気にせず接することが出来る。よっちゃんが甘えてくるのも基本的には、お互いの家にいるときだけだった。


善子「ねーもっと早く」

75 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:23:36.68 ID:P+jqMRHu.net
 ぷくって、小さく頰を膨らませて、少しだけ見上げてくる。よっちゃんは私にもうちょっとだけ早く歩いて欲しいみたい。多分それは、早く部屋に行って、ふたりきりに、なりたいから。


梨子「どうして?」

善子「ま、魔力が切れそうなのっ!」

梨子「うーん……」

梨子「私はよっちゃんと二人で、こうして並んで歩くの好き、なんだけどなあ」

 や、やば……言った後で、顔に熱が集まってきて、ちょっとだけ俯いてくすりと笑って見せる。

善子「///」

 ぴたり、そういう擬音が聞こえて来るかのように、善子ちゃんの足取りが止まる。


梨子「ど、どうしたの?」

 善子ちゃんは小さく震えた後、真っ赤になった顔を向け、私に手の平を、差し伸べてきた。


梨子「?」

 どうしたんだろう?


善子「わ、私の手を取り、現世を、あ、案内することを許可するわっ////」

76 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:25:29.02 ID:P+jqMRHu.net
梨子「へっ///」

 思わず、素っ頓狂な声が漏れてしまう。待って、ヨハネ語の変換……えと、つまり、手を繋ぎたいって、ことかな? ほ、本当に!?

 よっちゃん、今は素直じゃないから……そういいたいんだよね?

 よっちゃんは手を向けたまま私を真っ直ぐに見つめてくる。綺麗な唇がきゅぅと閉められ、微かに震えているのは、さっき言った言葉に極度の緊張感を持っているからなんだと思う。もう何回か正面からのハグはしているけど、手を繋ぐのは、初めてだったり、する。

 え、繋いで、いいの? でも……人の目が……女の子同士で、こんな外で手を繋いだら……。

善子「い、いやなの……?」///


 目が泳いだ後、よっちゃんが甘えてくる時によく使う、上目遣いで私の心が一瞬にして高まりの極限まで上り詰めたのを感じる。顔が赤く熱くなるのはもちろん、緊張もしてきて、状況がよくわからなく、なってしまう。

77 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:27:18.50 ID:P+jqMRHu.net
梨子「え、あ、いやっ、いやじゃないけど、そのっ///」

 上手く言葉が出てこない。転校してきた初日もこうやって、緊張して、肝心なところで自分の口が動かなくなってっ。

 私は首をぶんぶんふったり手を顔の前で振り切ってみせたり、とにかく余裕の無い有様をよっちゃんに見せつけてしまっている。

 そんな私の手を――よっちゃんが掴んで、優しく手の平同士を、重ね合わせた。


梨子「え///」


 よっちゃんはちょっとだけそっぽを向いて、繋いだ手を引いて、家に向かって歩みを進み始めた。


善子「い、いやじゃない、んでしょ」////

梨子「う、うん……」


 沈黙時間20秒を切り裂いたのは、ちょっとだけぶっきらぼうなよっちゃんの一声だった。

78 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:28:32.82 ID:P+jqMRHu.net
 また、私はよっちゃんに踏み込んで貰ったんだ……。私は余計なことをたくさん考えて、手を繋ぎたいのに繋げなくて言い出せなくて……。よっちゃんは素直じゃなくても、自分の気持ちにはとっても素直で、正直だ。私と手を繋ぎたいって思ったから、手を繋ぐ……きっと、それだけ。


 それだけのことが出来ることが、なにより羨ましくて、私は歳上の威厳なんてもう無くなってしまってるんだって感じてしまう。

 引かれるかたちで歩いていた私は、徐々によっちゃんに歩幅を合わせて、横一線に並んで歩き出す。

 こうやって時々、リードしてくれて……かっこ、いいな……よっちゃんの横顔はなんだか強くて、輝いて見える。

 わたし、この人を好きになって良かった。本当に、そう思う。

 手に感じる汗の湿り気と、温もりが、心を暖かくしてくれる。これが幸せ……たった三週間だけれど、私は幸せって気持ちがわかった気がした。


梨子「ふふっ」

善子「な、なに?」


 よっちゃんと一緒に歩いていると、自然に笑みが溢れてくる。

 うん、よっちゃんの家に言ったら、またいつもみたいに、お姉さんとして、思い切り甘えさせてあげよう。

79 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:30:49.84 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇

 口数がちょっとだけ減って、まるで猫さんみたいにすり寄ってくる。それがよっちゃんの甘えたいサインで、それが始まると私は優しく抱きしめてあげる。

 最初はすっごくドキドキしたんだけれど、今は良い意味で慣れたのかなって思う。サラサラの髪の毛を撫で付けて……華奢な肩を抱き寄せる。

善子「……リリー」

梨子「なあに?」

善子「呼んだだけ」

梨子「そっか」

 こうやって抱きしめて、ふたりでベッドに入って、ふたりで眠るのが……最高なの。次の日の朝も隣によっちゃんがいるって思うと、ふふって自然に笑みが溢れる。

梨子「そろそろ眠ろっか?」


善子「ええ」

80 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:31:16.26 ID:P+jqMRHu.net
 自然に抱きしめていた手を離して、もぞもぞとよっちゃんがベッドの中に潜り込んでいく。

ブブブッッ

善子「? メールだ」

梨子「?」

 メール、メール、か……。

善子「ねえねえ見てよリリーずら丸また変なメール送ってきたっ」

 なんだかとても嬉しそうに花丸ちゃんから送られてきたメール画面を私の眼前に、突きつけてくる。文字がぐしゃぐしゃになったメールだった、機械が苦手なせいなんだと思う。

善子「まったくなにを打ってるんだか」

 よっちゃんはそう言って、花丸ちゃんへの返信メールを作成し始めた。

81 :名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:56:45.87 ID:qLW+EXTK.net
これは…

82 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:58:31.32 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇


 もう、ふたりで眠るはずだったんだけどな。

 よっちゃんが花丸ちゃんとメールを開始してから30分くらいが経った。

 私といつもみたいに会話をすることは変わらないんだけれど、そこに携帯電話でメールをしていることで、なんだか、第三者が介入してきているようで、モヤモヤする。

 花丸ちゃんが悪いわけでも、よっちゃんが悪いわけでもない。


 つまり――よっちゃんを独占したいって気持ちが芽生えてしまった今の私が、悪いんだ。


 で、でも……わたしと二人きりでいるのに、ずっとメールなんて……おかしいよ。寂しいよ……。


善子「リリー?」

梨子「……」

善子「どうかした?」

83 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:58:52.84 ID:P+jqMRHu.net
梨子「あ、あの……こ、こんなこと言うの、本当に悪いと思うんだけど……」


梨子「――せ、せっかく二人きりなのに……携帯電話ばっかりは、ちょっと、寂しいかなって……」

 言っちゃっ、た……。


梨子「な、なんかね花丸ちゃんばっかり構ってるような気がしちゃって……。ち、違うんだよ、わかってるんだけど……なんか、あの……」


 そう、嫉妬だ。とても、とても醜い、感情だ……わたしは心の炎の色が変わっていくのを、感じる。口に出せば、それが現実になって……自己肯定感を生み出して……罪悪感が薄れていく。


善子「えと、つまり……不安、なの?」

梨子「そう、なのかな……」


善子「……ごめんね? リリー、そんな風に思ってたなんて」

梨子「う、ううん、悪いのは私だし……」

84 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 14:59:20.58 ID:P+jqMRHu.net
善子「――確かにリリー、私とふたりでいるときはメールしたりしないわよね。……気がつかなくて、ごめんなさい……」

善子「これから気をつける」

梨子「う、うん……っ」


 気をつける……よっちゃん、私とふたりきりの時は――メールしないでいてくれるんだ……嬉しい。……独り占めして、いいんだよ、ね?


梨子「私はふたりきりの時はね、よっちゃんしか見てないから。……好きだよ」ギュッ


善子「……も、もう。私も……」

梨子「もう眠ろう? 明日も、どこかへ行こうよ」

善子「うんっ」

85 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:00:03.51 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇

ファミレス


梨子「……」

善子「?」

善子「あ、メール……ごめん」

 

梨子「……」



梨子「誰としてたの?」

善子「ルビィと……」

梨子「そっ、か」

善子「リリー……ごめんね、リリーのこと不安にさせたくない」

梨子「うん……」


 よっちゃんは、そう言って携帯の電源を落とした。
 よっちゃんがメールをしているのを見ると、心のどこかがざわざわとしてくる。嫉妬の嵐が、心に渦巻いているんだ……。顔に出さないようにしようって、思っても……出てしまってるんだと思う。

86 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:01:03.00 ID:P+jqMRHu.net
 だって、悲しいもん。恋人なんだよ? それなのに、目の前の恋人を見てくれないで、メールの向こう側の人のことを考えてるなんて。


 ――独り占め、したい……。よっちゃん、私のことしか、考えないで欲しいよ……。でも、だめだよね、わたしっ、こんな自己中な人だったなんて……っ。


 なんとなく、わかっていた。昔から好きになった人のことばかり考えて、その人が自分だけ見てくれたらってことを、ずっと思ってた。でもそれが叶うことはなくって、積もりに積もったこの独占欲が……よっちゃんに向けられてしまうのかもしれない。


 お姉さんだもん、そんなのだめ。余裕を持って……見守ってあげなきゃ。


善子「さ、リリー何頼む?」

梨子「えーっとね」


 よっちゃんはワクワクしながら、メニュー表を開いて、無邪気に笑う。

 ああ…」よっちゃん、私のこと、考えてくれてる……。私もよっちゃんのことしか、考えてないよ。これ、なんだかすっごく、恋人っぽい……。

 

 心の奥底に染み付き始めている、この甘美な幸福感は、私の何かを、狂わせていった。

87 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:06:41.82 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇


二週間後

善子「はいこれ……携帯」

梨子「ありがとう」

 渡された善子ちゃんの携帯のパスワードをアンロック、メールやLINE等連絡ツールに目を通していく。

梨子「うん」

 今日も特に変わったことはないみた……うん?

梨子「……花丸ちゃん達とお買い物に行くの?」

善子「ええ」

梨子「そっか……」

善子「?」

梨子「これ、私とじゃだめなの……?」

善子「そ、そういうわけじゃ……」

梨子「ごめん……困らせたよね、いいけど……何があったかちゃんと私に、話してね?」

88 :名無しで叶える物語(湖北省)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:08:22.48 ID:dhJa1Xdb.net
何かがこわれてく…

89 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:08:38.84 ID:P+jqMRHu.net
善子「うん」

 週末はよっちゃんに予定が入っているみたい。はぁ、デートしたかったのに……。なんで他の人と……。

 よっちゃんの携帯電話を見せて貰うようになってから約一週間。最初はちょっと抵抗があるみたいだったけれど、それで私が不安にならないならって言って、快く見せてくれるようになっていた。


 よっちゃんの全部が知りたい。よっちゃんが他の人とやりとりするのを見るのはちょっと辛いけれど、知らないより、全然いい。

 私だけ見せて貰うのは申し訳ないから、よっちゃんに携帯を渡すんだけど私のには興味ないんだって……。どうしてかな、私のこと、知りたくないのかな……。寂しい……。


梨子「じゃ、もう七月になったし……よっちゃんの家で期末テストのお勉強しよっか」

善子「え!?」


善子「な、なんでせっかくリリーとふたりなのに勉強なんてっ!!」


梨子「私とふたりだから、だよ。私が見てあげれば他の人と勉強する必要なくなるし――いいでしょ?」


善子「……」ゾクッ…

90 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:11:50.44 ID:NZ3heIkh.net
あかん……

91 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:12:31.31 ID:P+jqMRHu.net
 よっちゃんが一年生のみんなと勉強するっていうのも素敵だけど……どうせだったら、2人きりの方がいい。


善子「みんなと勉強するっていうのは……」

梨子「え……?」

梨子「わ、私とじゃ嫌?」


梨子「……ごめんね、そうだよね。おせっかいだったよね……」ウルッ…

善子「ち、ちょっ……違うからっ!」


善子「リリーとふたりで勉強するの好きだし、でも……」


善子(なんか最近のリリー、変……)


梨子「……」

善子「わかったわ、花丸達とお買い物したら、リリーの家に行く。そこで勉強しましょ?」

92 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:16:16.51 ID:P+jqMRHu.net
 自分勝手なくせに泣き出しそうになってしまう私を見兼ねて、よっちゃんは優しく抱きしめてくれた。耳元で囁かれるその声はとても柔らかくて、違う意味で泣きそうになってしまう。


梨子「ごめんね……私、よっちゃんのこと好きで……他の人と話してるだけで、不安になっちゃって」


善子「リリー……ごめんなさい、そんな風に思ってたんだ」


善子(……リリーには私がついてないと)

梨子「ううん、私のせいだもん」


善子「じゃあリリーが不安にならないように、私も頑張る。それでどう?」


梨子「うん……ありがとう。――好きだよ」


善子「私もよ、リリー」ギュッ…

梨子「うん……////」

93 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:17:27.03 ID:P+jqMRHu.net
◇――――◇


善子「ふー、花丸達とご飯も食べて、夜はリリーの家に行って……完全にリア充ね……ふふっ」

善子「花丸達はもうちょっと沼津にいるって言ってたし、私はバス停に行って、と……」

 

梨子「――よっちゃん!」

 

善子「え……?」

善子「リリーなんでいるのっ!?」


梨子「買い物してて……夕方来るって言ってたし、このくらいのバスかなって」

善子「わざわざ来てくれたの?」

梨子「あ、でも買い物もしたかったから。ほんとはよっちゃんと買い物行きたかったんだけど……」

善子「ご、ごめん」


善子「じゃあ……」ギュ

梨子「ち、ちょっと、こんな人がいる中で手なんて繋いだら……」

善子「ちょっとくらい平気よ」

梨子「そ、そうかな」


善子「バス停まで行きましょ」

94 :名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:19:28.43 ID:6lQF8jOg.net
ヒエッ…

95 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:20:04.93 ID:P+jqMRHu.net
梨子「う、うん///」

スタスタ

梨子「ま、周りに見られてない?」

善子「気のせいじゃない?」


 やっぱり……強いなあ。私なんかとは、大違い。


 周りの視線が気になる中、私たちはバス停に向かって歩みを進めていく。少しずつ日が落ちていくと共に、よっちゃんが握る手は強くなっていく。……周りからは見えているのに、夜になったら……どうなるのかな。


梨子「いつものバス停じゃないけどいいの?」

善子「リリーの家に行く時間は変わらないし、こっちの方が人の目も少ないし」


 バス停のイスに腰を下ろすと、白い歯を見せながら私のすぐ横に座った。私と違って人の目を気にしないで、屈託のない笑顔を見せるその姿はさながら天使のようで……私の中のジメジメした部分が浄化されていくようだった。


 バスが来るまで、しばらくそこでよっちゃんのお話を聞いていた。いつも通りの他愛もない話から、今日花丸ちゃん達と何をして何を食べて何を話したのか。それを聴くのは、とっても、辛かった。私とふたりでいるのに、他の人の話を楽しそうにするよっちゃんを見ているのが辛くないはず、ない。

96 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:22:44.87 ID:P+jqMRHu.net
 でも聞きたかった。私がいないところで何を考えているのか、知りたいんだ。不安で押しつぶされそうになる私の心を癒してくれるのは、よっちゃんの綺麗な唇から溢れて来る言葉だけ。

 その言葉が、他の人のことを語るとき、それは私を突き刺すナイフとなる。ぐさり、ぐさり……花丸ちゃん、ルビィちゃん……いい子だけどよっちゃんの口からは私の名前しか聞きたくない。
 わかってる、バカみたいにワガママだってことくらい。
 よっちゃんは最初はノリノリで話をしていたけれど、私の表情が曇るのを察したのか……特に何もなかったわよって今日の話を締めてくれた。

 よっちゃんのその言葉は、全て本当だった。

 

 

 ――だって、ずっと後ろで、見てたしね。

 嬉しい……本当のこと、言ってくれる。でも、私は疑って……。


梨子「ごめん……」

善子「なにが?」

 面倒な人で最低な人で、ごめんなさいっ……。

 やっぱり私なんかが……よっちゃんの恋人なんて……。

 よっちゃんのことを独り占めしないと満足出来なくなってしまったワガママで身勝手な自分が嫌で、小さくため息を吐きつける。


善子「リリー」

97 :名無しで叶える物語(鮒寿司)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:24:15.10 ID:G4DqjYQF.net
こわいよ……

98 :名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 15:27:11.87 ID:+gvPi08W.net
梨子ちゃん…

99 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 16:19:40.94 ID:P+jqMRHu.net
 不意にその声が、耳元で囁かれていた。腰をぐいっと引き寄せられ、肩まで手を回されて……抱きしめられていた。

梨子「よ、よっちゃん……」

善子「日が落ちて来たわね」

 よっちゃんは、私のことを不安にさせないようにしようとしてる。私がバカみたいに、すぐ不安になるから……こんなこと、よっちゃんにさせてしまっている。

 よっちゃんの肩甲骨の辺りに手を伸ばして、私からもぎゅぅっと引き寄せる。本来なら家でふたりきりの時にするようなことだけど、今は周りに人がいないようだったし……驚くほど大胆になれた。

 
善子「ねえ」

 私を貫くような、赤い瞳。真っ直ぐ、そこに映り込んだ私はどこか惚けたように、見つめ返している。


梨子「なあに?」

 一瞬、唇を引きむすんで、そして――。

善子「んっ……///」


 肩を優しく引き寄せられ、よっちゃんの唇が私に、重ねられた。

100 :名無しで叶える物語(おにぎり)@\(^o^)/:2017/03/19(日) 16:20:26.71 ID:P+jqMRHu.net
梨子「っ……」


 一瞬の出来事、瞬きすら許されない間のはずだった。でも、よっちゃんの唇の柔らかな感触、肩を掴む手に力が入っていること震えていること、微かな反応すらも脳みそに入って処理されていた。


 ゆっくりと見つめ合うと、途方も無い多幸感が全身に流れる。


 冷静に感じられたのは、よっちゃんのことを見たかったから、知りたかったから。


 ただ、キスが終わった後に見つめ合うとそんな冷静さは直情さによって全て洗い流されていった。


 ぼんっ、と心が破裂する。顔にこれまで感じたことのないような熱量が走り出す。


 ――キス、された。き、キス……。

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