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【TRPG】ブラック魔法少女4

1 :名無しになりきれ:2014/06/05(木) 23:58:06.14 0.net
前スレ
【TRPG】ブラック魔法少女3
http://nozomi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1356364230/

雑談所
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16418/1383356545/

Wiki
http://wikiwiki.jp/blackmagical/

2 :名無しになりきれ:2014/06/06(金) 01:06:29.23 0.net
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

3 :名無しになりきれ:2014/06/06(金) 07:31:52.25 0.net
>>1-2
もう立てんなよカス

4 :坂上南雲 ◆CO7zDJ...Y :2014/06/08(日) 23:46:58.41 0.net
>「――今私に。斬る理由は、無い。君たち全員に。だ。だから。君たちと敵対する理由は。無い。
 だから。……私は。もう少し。帰るのを待っていても。良い」

南雲の提案した『ちょっとお話していかない?』に対し、真言は即答ではないにしても応諾した。
初めて遭った時から強く印象として残る、あの、真剣で細切れに刻んだかのような言葉達で。
業物で腑分けされたそれらの欠片は鋭利に尖っていて、しかしその表面は滑らかだ。
佐々木真言の精神性そのものと言っても良い、『直角』の言葉達。

(鉄面皮の直角女……だと思ってたけど、意外や意外、結構顔に出るタイプなのね)

臨戦時の真言は、ただ一振りの鋭利な刀であった。
鋼で被膜し、信念で武装したその表情は、途方もなく凛々しく、他者への拒絶に満ちていた。
だが、いまこうして刀を納め、日常に片足を浸す彼女からは、硬質な印象を感じない。
そこに笑顔はないが、剣呑さもない。

代わりに、覆い隠されていた感情が表情となって顕れていた。
南雲や理奈ほどに表情豊かではないが、というか目が死んでる萌よりも微細な変化ではあるが。
それでも眉や、唇や、眼差しが、確かに彼女の内面を少しだけ映しとっていた。

南雲達にはそれで十分だった。
佐々木真言は、無感情に剣を振る機械ではない。
交渉の余地はあるし――仲良くなれる可能性だって、あるのだ。

>「……まあ、そういうことだね。先ほどの君が私を『どういう対象として認識していたか』はさておき、
 この世界では建前も重要なんだよ――佐々木真言さん?」

苗時がこっちをチラ見する視線に言外の意を含ませながら、いつもの微笑みでまとめた。
南雲も微笑み返し、中指を立てて苗時への返答とした。

>「本音の話をしよう。君にはまだ我々『楽園派』の無実を証明してもらう必要がある。
 その為にはここにある犯人の死体と併せて遺品――縁籐きずなの魔法核が必要となる。そこで提案なんだが……」

苗時の提案。
真言の持つ、エルダーから渡された『縁籐きずなの魔法核』を、別の等価の魔法核と交換する。
これは楽園派にとって最も重要な措置と言える。
隠形派からかけられた縁籐殺しの嫌疑を解くために、仏の記憶の宿る魔法核が必要なのだ。

対して真言にとっては特に得でも損でもない取引だ。
真言がかけられている疑惑もまた縁籐殺しだが、それは南雲達との戦いに勝利したことで強制解除されている。
このまま持ち続ければ隠形派から疑いをかけられるかもしれないが、まだ顔の割れていない彼女は逃げ続けることができる。
だから、ことこの取引に関しては、真言の良心に裁量を委ねるほかない。
苗時の言うとおり悪い話ではないが、別に良い話でもないのだ――。

(まあ、大丈夫だとはおもうけどさー)

これまで何度も面を突き合わせてきて理解した。
真言はコミュ力にこそ問題はあるものの、本質的には善良な人間だ。
少なくともこの取引を盾にさらなる要求をしてくるような性悪な――苗時のような――人柄ではないはずだ。

(大丈夫……だよね……?)

南雲は緊張と楽観の入り混じった視線を真言に向ける。
真言は掌を垂直に組み合わせて『T』の文字をつくった。

>「ちょっと。……タイム」

(……大丈夫かな!?)

なぜここでタイム。
もしかして得のない取引には応じられないということなのだろうか。

5 :坂上南雲 ◆CO7zDJ...Y :2014/06/08(日) 23:47:49.64 0.net
これはいよいよ、苗時に交渉材料の上乗せを要請するか、よっぽど南雲も身銭を切らねばならないかもしれない。
楽園派のいざこざに赤字を出してまで関わる必要はないっちゃないが、
乗りかかった船だし、なにより真言に粉かけたのは南雲だ。
そんな一瞬の逡巡を置き去りにするように、直角女はシンキングタイムを終了した。

>「了承。する。私への疑惑を解く術にもなるだろう。……ただ。もし。良ければ。だが。
  坂上。奈津久。猪間。にも。……魔法核を。その。……いくつか分けて。あげて。ほしい。
  迷惑料。だけど。迷惑受けたのは。私だけじゃ。無い」

結論は了諾。交渉は成立した。
そして、思ってもみない余録の提案が真言の口から飛び出してきた。

「え……良い、の……?」

南雲達、真言と戦った者達にも、魔法核の分配を。
確かに、苗時が『真犯人』と戦って得た魔法核30個分から南雲達の分を捻出することは可能だろう。
どのみち苗時が氏族の長である以上、彼女の戦利した核はその傘下、楽園派の面々へと行き渡る。
建前上楽園派の尖兵として動いてきた南雲達にも、その恩恵に与る道理はあるはずだ。
名目はそう、縁籐殺しにまつわる今回の一件の報酬として。

(ここは――全力で乗っかる!!)

「そうだよ苗時さん!こちとら腕やら拳やら吹っ飛んでるんだよ!労災降りてもいいんじゃないの!」

中身の無い袖を振り回しながら南雲は苗時に抗議した。
実際のところ、経緯はどうあれ30個の魔法核を手に入れてきたのは、それを持つ強敵を倒した苗時なのだから、
南雲がその分配についてあれこれ口を出す権利はないっちゃないのだが、彼女は思いっきり便乗した。
やり込められ通しの苗時に一杯食わせられる好機と睨んでいた。

結局――苗時は真言の要請を呑んだ。
この若きエルダー(矛盾表現)の中で如何なる天秤が傾いたのか、
南雲、萌、麻子ともに魔法核を得ることとなった。

何も得るところのないと思われた昼間の一悶着も、蓋を開けてみれば、
魔法核の獲得と――何にも代えがたい佐々木真言という戦力とのコネクションを得たという意味では、
大収穫と言っても差支えはなかった。
腕一本を犠牲にした対価と思えば、十分すぎてお釣りがくるレベルだ。

なによりも。

「ありがと、真言ちゃん。いい娘だねあんた!」

残った方の腕でべしべし真言の背中を叩きまくる南雲は上機嫌であった。
なにしろ、さっきまで自己嫌悪やらなにやらで布団があったら入りたいぐらいだったのだ。
南雲の判断ミスで、テンダーパーチが襲われた。理奈が殺されかけた。南雲や、萌は四肢を欠損する苦痛を得た。
真言はそれらの大迷走に、報酬というかたちで意味を与えてくれた。
自分もまた南雲達と命の取り合いをしていたにも関わらずだ。(実際は真言がかなり手加減していたわけだが)

これは完全に真言のおかげだ。
彼女という戦力を手放さないために、苗時が呑まざるを得なかった要求だ。
和解したとは言え、相変わらず厄介事を持ち込んでくるいけ好かないあの女をギャフンと言わせてやれた。
自分でもびっくりするぐらい器の小さい話だが、南雲の真言に対する好感度はうなぎのぼりだった。
ぶつ切りのあの喋り方も、懸命に言葉を伝えようとしていると思えば愛しささえ感じる。

「それじゃ、行こうか。目立ちゃんの嫌疑を晴らすため……隠形派との引き渡し交渉に」


【報酬として魔法核を獲得。真言ちゃんへの好感度UP】

6 :◆G.vg4o/Z7Q :2014/06/14(土) 02:46:12.07 0.net
ころり転げ出てきた遺体をよくよく見て、間違いないと太鼓判を押す。
こうして真言による"首実検"はあっさりと終わった。謝辞を述べて背を向ける。
投げかけられた言葉が聞こえないのか、聞こえたが無視したのか、そのままゆるやかに歩み去って――
――それ以上に緩やかに戻ってきた。

>「財布。忘れた。……定期無いと。帰れない」
「見た目に腕前じゃまだ不足で笑いの神まで下ろす気かチクショー」
だいぶ動揺しているのか目をぐるぐるさせながら裏口に佇む真言を見て、萌はつぶやく。
天はニ物を与えずというのは本当だ。
なにか"持って"いる人間は二物ではすまないことがほとんどなのだから。

>「――今私に。斬る理由は、無い。
>君たち全員に。だ。だから。君たちと敵対する理由は。無い。
>だから。……私は。もう少し。帰るのを待っていても。良い」
引き止める南雲にしたがって留まる真言。
萌は何も言わなかったが塩でも投げつけたそうな表情をしている。
だってメイン盾は二枚もいらないから。

考えてみよう。
いや、考えるまでもない。
もちろん思考戦術の違いはあれど、大きく括ればば両者とも前陣。
その観点からすると萌が真言に勝っているところといえば
コミュニケーションが円滑に取れるくらい。
能力、外見ともに大きく水を開けられているのである。

容姿は関係ないだろうと思う方もおられるかもしれないが、
顔形はともかく体格の大きさは重要だ。
常人であれば体格が大きいということはおおよそリーチや力に優れるということで、それが有利に働くことも多い。
だがそれが魔法少女同士であればどうか。

固有魔法の傾向を置けば、大体のところ核の多寡で能力が決定される。
それさえ同じであるなら極端な話、全身麻痺でも先天的な四肢欠損でも、
元が健常な魔法少女との間に運動能力の差は無くなる。
リーチ差は生成した武器や念動力的なもので十分に補えるわけで、
つまり体格の大きさは的の大きさに直結してしまうのだ。

盾としては大きいほうが良い面も多かろうが、被弾の可能性もまた増える。
仲間をかばわねばならない局面で先にダウンしていては話にならない。

南雲が引き留める理由はそれだけではなかろうが、一方で戦力向上になるのもまぎれもない事実。
それもわかっている萌は表情は変えず、しかし奥歯からギロのような音を放ちつつも口を出せずにいる。
そんな萌に麻子は目配せをしたが、気づかれないのがわかると肩をすくめて壁に背を預けた。

7 :◆G.vg4o/Z7Q :2014/06/14(土) 02:53:23.49 0.net
他方、とても睦まじくキャッキャウフフしている者もいる。
>「本音の話をしよう。君にはまだ我々『楽園派』の無実を証明してもらう必要がある。
> その為にはここにある犯人の死体と併せて遺品――縁籐きずなの魔法核が必要となる」
留まる真言に対し声をかけた苗時と、南雲である。
その様子からは、間に針やら刺やらが飛び交っているのが見えそうなほどの昵懇さがうかがえた。

続いて苗時が持ちかけた、証人としての報酬――魔法核10対10の大型トレード――に、真言はほんの一瞬目線を伏せる。
そしてその手が動く。
(えっまさか×を……!?)
>「ちょっと。……タイム」
Tだった。

(まあ損はしないわけだし……)
>「了承。する。私への疑惑を解く術にもなるだろう」
いささかの間があって出てきた言葉は予想通り。
(……まー、フツーそうするよね)

事情を知りながらなお縁藤きずなの魔法核を渡さないということは、
次にマトにかけられるのが真言になるということだ。
そうなった場合、苗時は一瞬もためらわずに真言を売るだろう。
通常の思考力があればそれは理解できるはずだ。

しかし、続く言葉はなかなかに予想外のものだった。
>「……ただ。もし。良ければ。だが。
> 坂上。奈津久。猪間。にも。……魔法核を。その。……いくつか分けて。あげて。ほしい。
> 迷惑料。だけど。迷惑受けたのは。私だけじゃ。無い」

それに対して萌が何かを言う前に南雲が声を上げる。
>「そうだよ苗時さん!こちとら腕やら拳やら吹っ飛んでるんだよ!労災降りてもいいんじゃないの!」
南雲は話に乗るらしい。

「そーだー、労災隠しは犯罪だぞー」
萌もまた、一瞬の遅滞もなく追従する。
流された血、被った痛み、奢ったレディボーデンの代償くらいは得たいのだ。

結果から言えば交渉は成功した。一同幾許かの核を得る。
――この調子で"次"の交渉も成功させねばならない。
>「それじゃ、行こうか。目立ちゃんの嫌疑を晴らすため……隠形派との引き渡し交渉に」
そう、これこそ今回の事件の最終局面だ。

だが――
「えー、今すぐじゃなくてもよくねー?」
ホールに出て、銃弾のおかげで背もたれの通気性が高まった椅子に腰掛けながら萌がこぼす。
早々に片付けてしまいたい案件ではあるのは確かだが、しかし隠形派がどう出てくるのかわからない。
物証は用意出来たがそれでもごねられる可能性も残る。

できうる限りコンディションを整えておきたいのだ。
たとえ交渉の場になんにもしないでただいるだけの可能性が高かろうと。
「ちっとだらけよーぜー」
だからといって完全に緊張を解くのもどうだろう。

「そういやそれ何聞いてんの?」
椅子の上で器用にくるりと前後を入れ替え、背もたれに腹を預けながら萌が言う。
見ているのは真言がかけっぱなしのヘッドホンだ。
ちなみに萌の予想は落語である。

【しばしご歓談】

8 :坂上南雲 ◆CO7zDJ...Y :2014/06/19(木) 07:48:24.92 0.net
【深夜・中心街のとあるビルの屋上】

夜半に入った繁華街の、悲喜入り混じった極彩色の光が夜を地表へと縫い止めている。
地上、街中は喧騒に溢れているが、ほんの50メートルほども上空へと至れば、世界は静寂に包まれている。
夜風のカーテンを突っ切って下から届く音はごくわずかだ。
クラブの客引きが景気良く値引きをする声、酔っぱらいが吐瀉する悲鳴のような呻き、族仕様のスクーターのマフラー音……。
わかりやすい夜の街の風景の中に、そのビルは身を寄せ合うようにして建っている。

コンビニや居酒屋、果ては風俗店から弁護士事務所までテナントに入った、どこにでもあるような雑居ビル。
取り立てて高層というわけでもないが、それでも繁華街の中では一番背の高いビルの、最上階よりさらに上に、複数の人影があった。
魔法少女同士が秘密の会合を持つ場合、取引の機密性や安全性を考慮して選ばれるのは、このようなビルの屋上だ。

セキュリティが生きていて、施錠などで隔離された、人の立ち入ることのできない空間。
そして、『魔法少女だけは立ち入れる空間』。
それは単純に、人目を忍んで会合するのに都合が良いというだけではなく、
人の力で立ち入れない以上、侵入しようとすれば魔法を使わざるを得ず、
魔力波長で乱入者の存在を気取りやすいという理由によるものだ。
なにかあった時に飛び降りるだけで逃げられる、というのもポイントが高い。

テンダーパーチの魔法少女達と楽園派頭目・エルダーウィッチ苗時静、同構成員目立零子、そして無所属・佐々木真言。
彼女たちが指定されたビルの屋上へと辿り着いた時、時刻は既に10時を回っていた。
結局あの後、流石に戦闘後即行動とはいかず、閉店後の店内で今後の方針の決定と十分な休養を行った。

損耗した魔力は自然回復で完調まで持って行くことは難しく、苗時の力を借りることとなった。
具体的には、エルダーの指示の下楽園派の非戦闘系魔法少女達が生成した食物の摂取である。
物体生成によって作られた食物は、食べてもカロリーになることはないが、魔力として体内に還元されることになる。
それは他者の生成したものでも同様で、消化吸収の良いゼリーやスープなどであれば小一時間ほどで補給を完了できた。

隠形派から指定された一週間という期日までにはまだ時間があった。
その期間を限界まで使って策を練ることもできたが、間を空けて都合が良いのは向こうも同じだ。
何らかの作為を疑われる余地を潰すためにも、余計な段階を挟まずとっとと厄介事を消化してしまおうという方向で意思は固まった。

そして深夜――全ての準備が完了し、彼女達は引き渡しの会合へと向かった。
場所の指定と会合のセッティングは夜宴によるものである。
運営側としても、規約違反(所属氏族同士の野良試合禁止)に関わる事態であるので、我関せずとはいかなかったのだろう。
彼らは両氏族に話をつけ、ビルの屋上に念のための人払い結界と、これも念のためのカメラを一基設置して引き上げていった。

セキュリティの万全なビルの中を南雲達が如何に隠密下に移動し、鍵のかかったドアを通って屋上へ達したか、
この際詳細な描写は割愛しよう。魔法少女にとっては今更特筆するようなことでもない。

「一応、狙撃や奇襲に対する警戒はしておいて」

屋上へと通じるドアを突破する段になって、既に変身を済ませた南雲は同行者達にそう告げた。
流石に夜宴の設けた席で堂々と襲ってくることはないだろう……が、因縁など後付でいくらでもつけられる。
ましてやここはビルの屋上。何も遮蔽物のない空間は、どこからでも狙いたい放題だろう。

こういう哨戒や精査は感知に長ける南雲の仕事だ。
実際、ステルス化した紙飛行機を何機かビルの上空で旋回させているが、今のところ狙撃範囲内に魔力の反応はない。
だが、このドアの向こう……屋上には既に複数の魔力が存在していた。

9 :坂上南雲 ◆CO7zDJ...Y :2014/06/19(木) 07:48:51.60 0.net
「真言ちゃんレベルの魔力反応が二つと、もうひとつは、なにこれ……?」

ドア越しに感じる魔力。
二人分の魔法少女の気配は確認できたが、その傍らにもう一つ、形容しがたい反応が存在する。
魔法少女のものではない。魔力を込めた物体……あるいは魔法そのものに近い印象だ。
判断はつかない。だが判断をつけたところで、このドアを開けて会合に出席せねばならないことに変わりはない。
南雲は最大限の警戒を促して、『斬り落とされた右手で』ドアのノブを握って捻った。

既に解錠された鉄扉が、錆の浮いた蝶番を軋ませながら開く。
初冬の冷えた風が滑りこんでくるのに逆らうようにして、扉の外――屋上へとまろび出た。

「夜分遅くにこんなところまで御足労いただいてすみません。どうぞこちらへ」

澄んだ鈴の音のような、角のない声が飛んできた。
見れば、屋上の対面の手すりに腰掛けるようにして、月明かりの中に一つの人影があった。

「時間ぴったりですね。私たちもさっき来たばかりです」

少女の声だ。南雲は無意識に目で声のする方を追って、声の主の姿を認め、ぎょっと身体を硬直させた。
フリル付きのセーラー服を来た少女だった。
髪は肩口で揃えた黒、生徒手帳に模範例として記載されているような、非の打ち所のない髪型。
だが、黒髪の下にあるはずの、少女の顔がなかった。
かわりに、駐禁の道路標識――青地に赤抜きの斜線付き円の描かれた鉄板が顔面を覆っていた。

「……それ、魔装なの?」

南雲は思わず聞いてしまった。
駐禁仮面は首を傾げる仕草をして(斜線部分が傾いたようにしか見えない)、またあの鈴のような声で笑った。

「そうですよ?防御力、高そうでしょ」

「そういう問題かなあ……」

そもそも前が見えているんだろうかアレ。
少女は勢いをつけて手すりから飛び降りると、これも学校指定のようなローファーで床に着地した。

「自己紹介をしますね。私は『隠形派』の渉外担当。仲間からは"緑虫"って呼ばれています。
 そちらは『楽園派』のみなさまですね。なんとお呼びしたらいいですか?」

無論、本名を聞いているのではないだろう。
あくまでこの会合のみにおいて通じる、個人を識別する為の符号のようなものだ。

「アダ名みたいなものかな……うーん、本名とかけ離れていて、かつ一言でわたしと結びつくような名前。
 まk――先輩、なんか良い案ある?」

横にいた麻子に振ると、彼女は鼻で笑いながら答えた。

「ザ・バイオレンスとかピッタリじゃねえの」

「否定できない……」

南雲が肩を落とすと、緑虫は手をぱんと叩いて了解の意を示した。

「わかりました!ちょっと長いので略してバイさんとお呼びしますね!」

「信憑性のある誤解を招くからやめて!」

10 :坂上南雲 ◆CO7zDJ...Y :2014/06/19(木) 07:49:44.21 0.net
南雲に続いて、面々はそれぞれ適当な偽名で自分を紹介することになるだろう。
それらがひとしきり終わってから、緑虫は標識の面を傾けて視線を横に移した。
南雲達が入ってきた屋上の入り口と、緑虫がもたれていた手摺、
両者からちょうど二等辺三角形を描くような位置に、一つの人影があった。

「今回、立会人として中立的な立場にある人に同席してもらいました」

北方の狩猟民族が羽織るような、分厚い毛皮のコートの下、民族感のある細身の衣装に身を包んだ少女。
なかなかの長身だが、その身の丈ほどもある細身の長槍を斜めがけに背中に負っている。
少女はこちらの視線に応えるように、片手を挙げて気さくに挨拶してきた。

「"九倍段"って呼んでくれ。あたしは隠形派の人間じゃあない。夜宴所属の別氏族……『鉄血派』ってところの魔法少女さ」

「鉄血派は、この地域の氏族の中でもとりわけ戦闘に積極的な、純武闘派氏族です。
 当然、血の気の多い人がたくさんで……"夜宴狩り"の被害を最も多く受けた組織でもあります」

("夜宴狩り"……?ああ、そんな風に呼ばれてるんだ、あのエルダー)

緑虫が紹介を引き取るようにして説明した。
南雲も鉄血派という名前には見覚えがある。
夜宴の運営しているデータベースの、総合ランキング上位の常連氏族だ。

鉄血派だけでも二十人を数える魔法少女が常に代表戦闘員として登録され、マッチングリストに乗っている。
その中には、いま名乗った九倍段という名前も、確かに記載されていた。
本当に目の前の槍女が九倍段本人ならば、近接戦闘で負けなしの相当な実力者ということになる。

「すでに十人近い仲間が、夜宴狩りと思しき殺り方で――原型留めないぐちゃみそになって殺されてる。
 それもみんな十個以上の魔法核を持つ、中堅以上の魔法少女ばかりがだよ。
 夜宴狩りが捕まったって聞いて内心穏やかじゃないうちの隊長、鉄血派エルダーの命でこうして立ち会わせてもらいに来たのさ。
 まあー楽園派さんとことを構えるつもりはないから安心してくれ。『不可侵規約もあることだしね』」

(えげつなー……)

言葉の最後を強調した九倍段の発言に、南雲は内心で肩を竦めた。
その不可侵規約を順守するかしないかについてこれからの交渉が始まるというのに。
隠形派は、既に氏族間で根回しを行っていたのだ。

一見無関係の他氏族をこの交渉の場に引っ張りだしたことで、彼女たちを証人に仕立て上げた。
なんの証人かと言えば、それはつまり『楽園派が約束を違えたから不可侵規約を乗り越えて攻撃しても良い』という大義のである。

そもそも、なぜ隠形派に夜宴狩りの身柄を引き渡さねばならないかと言えば、
縁籐きずなを殺した犯人=夜宴狩りの正体が楽園派の目立零子であるという推測に基づくものである。
実際、『縁籐が殺された際にその場に目立が居た』という状況証拠だけで言えば隠形派の主張は一応の筋は通る。

夜宴狩りが夜宴の相互不可侵規約を無視して他氏族を攻撃したとなれば、その報復に規約無視の氏族間攻撃を行う正義はある。
隠形派がその正義を手に入れる為に、『やはり犯人は楽園派だった』と、わかりやすく他氏族にアピールしているのだ。
南雲はなるべく動揺を気取られぬように――こちらはちゃんと成果を持ってきたのだから――緑虫へと視線を戻した。

11 :坂上南雲 ◆CO7zDJ...Y :2014/06/19(木) 07:50:59.93 0.net
「鉄血派さんが立会に来たっていうのは分かったけどさ。『もう一人』いるよね。そっちの紹介はしてくれないの?」

南雲はさっき扉越しに感じた三体目の魔力の主について問うた。
緑虫が目を見開いたような気がしたが駐禁で隠れているので全然そんなことはなかったかもしれない。

「あれ、わかります?実体化を解いて、結構深度の強いステルスをかけさせといたんですけどね」

真言の計らいで魔法核を獲得して、感知能力も相応に向上しているのだろう。
南雲の指摘を受けた緑虫は虚空に何らかの合図を送り、その返答は存在感の発露によって行われた。
緑虫の隣。何もなかったはずの空間が歪み、透明の鱗が剥がれ落ちるようにして何かがそこに現れた。

長身の――九倍段よりも更に背の高い――女だった。
巨大な体躯を血の海みたいな赤のワンピースで覆い、見上げなければ目線も合わない頭の上には幅広の帽子。
唇や鼻筋は整った造形をしているが、双眸は帽子の鍔に隠れて見えなかった。

「うちのボス、隠形派エルダーの戦闘用"式神"・『護法六式』です。
 ボスは基本うちの本拠から出てこないので、私の護衛用に借りてきました」

「なにこれ。八尺様?」

「モチーフはそっちじゃなくてアクロバティックサラサラっていう妖怪らしいです。
 ああもちろん本物じゃなくて、マイナーな怪異怪談をモデルとしたただの使い魔ですよ?
 戦闘用に、相応の改造を施してはいますけれど。たぶん本物とも良い勝負しますよ」

護法六型と呼ばれた使い魔は、長い身体を折りたたむようにして一礼すると、再び闇に溶け込んだ。

「ご紹介はこんなところです。それでは早速、うちの縁籐を殺した犯人の身柄を申し受けましょう。
 そのスーツケースの中身をこちらに渡していただけますね?」


【隠形派との"縁籐殺し"引き渡し交渉開始】
【状況:全員魔装状態で繁華街の雑居ビルの屋上に集合。
 楽園派:テンダーパーチと楽園派の面々、佐々木真言
 隠形派:渉外担当"緑虫"(駐禁仮面)、エルダーの使い魔"護法六式"(八尺様もどき)
 鉄血派:戦闘員"九倍段"(民族風槍女)】

12 :名無しになりきれ:2014/06/23(月) 00:27:32.75 0.net
文章が多くてよくわからないね

13 :名無しになりきれ:2014/06/28(土) 19:44:09.64 0.net
かもしれない

14 :名無しになりきれ:2014/07/13(日) 13:01:47.67 0.net
hoshing

15 :名無しになりきれ:2014/07/27(日) 20:57:40.38 0.net
保守

16 :神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm:2014/08/04(月) 12:13:30.21 ID:FbRT6dixc
【苗時】「どうだろう? 悪い話では無いはずだが……?」

苗時さんの周囲から微かな冷気を感じる。
確かにこれは真言さんにとって悪い話ではないけれど、良い話でもなかった。
真言さんがこれを拒めば、苗時さんはきっと別の手段を以て押し通すつもりだろう。

遠まわしな暴力の気配に、私は眉をひそめた。

ふいに真言さんが両手を動かした。萌さんの表情が強張る。
はたして真言さんがとったサインは『T』の文字。体育の時間で見たような気がする。何の競技が忘れちゃったけど。

【真言】「ちょっと。……タイム」

この人、意外とおちゃめなのかも……(=∀=;)
南雲さんが心配そうに見つめる中、真言さんはしばし黙考した後、静かに口を開いた。

【真言】「了承。する。私への疑惑を解く術にもなるだろう」
【静】 「ありがとう。実に賢明な判断だ」

冷気が消えた。瞳を閉じ、穏やかな表情を浮かべる苗時さん。しかし、真言さんの言葉は続いていた。

【真言】「……ただ。もし。良ければ。だが」
【静】 「…………」
【真言】「坂上。奈津久。猪間。にも。……魔法核を。その。……いくつか分けて。あげて。ほしい」

――――真言さん。

【真言】「迷惑料。だけど。迷惑受けたのは。私だけじゃ。無い」
【南雲】「え……良い、の……?」
【静】 「ふむ…………ん?」

さしもの苗時さんも真言さんの口からこんな要望が出るとは思わなかったみたいで、首を傾げた。

【南雲】「そうだよ苗時さん!こちとら腕やら拳やら吹っ飛んでるんだよ!労災降りてもいいんじゃないの!」

中身の無い袖を振り回しながら南雲さんが前に出る。

【萌】「そーだー、労災隠しは犯罪だぞー」

萌さんが畳みかける。


【続きます】

17 :神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm:2014/08/04(月) 12:15:23.75 ID:FbRT6dixc
そこへ――――

ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち

厨房に響く、高らかな柏手の音。音源の先に目を送ると、屋守さんがテーブルの上で激しく手を叩いていた。
口元に下弦の月のような笑みを貼りつかせた姿がとっても不気味です。
冷静に考えてみるとみんなが戦うことになったのはこの悪魔の一言が原因だったわけで……でも、屋守さん自体は別に嘘はついてなかったわけで。
あははっ、自分でもわけわかんないやっ!
柏手の音は大きくなっていた。いつの間にか麻子さんも手を叩いている。続いて叔母さんも。折角なので私も叩く。

ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち

【静】「………………」

四方八方から向けられる音と視線を超然と受け止める苗時さん。平静を装ってはいるけれど、その目元と口元がわずかに震えているのを私は見た。

【静】「わかった……わかったから諸君、『静粛に』頼むよ――――『静粛に』ね」

わざわざ固有魔法使ってまで音を消さなくてもいいのに……

【静】「佐々木さん、君の主張を受け入れよう……。
    残りの20個分は坂上さん、奈津久さん、猪間さんの三人で分けるといい。取り分の内訳は君たちで決めたまえ」

言いつつ、苗時さんは近くにいた麻子さんに残りの核を手渡した。

【静】『仕方ないね。今回は私も、それなりに危なかったのだけど……』

念信を通じて苗時さんが呟いた。隣にいる目立さんが微苦笑を浮かべている。
お気持ちはわかりますけど、貴女の負けです。苗時さん♪


【南雲さん、萌さん、麻子さん、合計20個の魔法核を獲得!】【Intervalに続きます】

18 :神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2014/08/11(月) 11:27:45.82 0.net
【苗時】「どうだろう? 悪い話では無いはずだが……?」

苗時さんの周囲から微かな冷気を感じる。
確かにこれは真言さんにとって悪い話ではないけれど、良い話でもなかった。
真言さんがこれを拒めば、苗時さんはきっと別の手段を以て押し通すつもりだろう。

遠まわしな暴力の気配に、私は眉をひそめた。

ふいに真言さんが両手を動かした。萌さんの表情が強張る。
はたして真言さんがとったサインは『T』の文字。体育の時間で見たような気がする。何の競技が忘れちゃったけど。

【真言】「ちょっと。……タイム」

この人、意外とおちゃめなのかも……(=∀=;)
南雲さんが心配そうに見つめる中、真言さんはしばし黙考した後、静かに口を開いた。

【真言】「了承。する。私への疑惑を解く術にもなるだろう」
【静】 「ありがとう。実に賢明な判断だ」

冷気が消えた。瞳を閉じ、穏やかな表情を浮かべる苗時さん。しかし、真言さんの言葉は続いていた。

【真言】「……ただ。もし。良ければ。だが」
【静】 「…………」
【真言】「坂上。奈津久。猪間。にも。……魔法核を。その。……いくつか分けて。あげて。ほしい」

――――真言さん。

【真言】「迷惑料。だけど。迷惑受けたのは。私だけじゃ。無い」
【南雲】「え……良い、の……?」
【静】 「ふむ…………ん?」

さしもの苗時さんも真言さんの口からこんな要望が出るとは思わなかったみたいで、首を傾げた。

【南雲】「そうだよ苗時さん!こちとら腕やら拳やら吹っ飛んでるんだよ!労災降りてもいいんじゃないの!」

中身の無い袖を振り回しながら南雲さんが前に出る。

【萌】「そーだー、労災隠しは犯罪だぞー」

萌さんが畳みかける。


【続きます】

19 :神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2014/08/11(月) 11:29:41.46 0.net
そこへ――――

ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち

厨房に響く、高らかな柏手の音。音源の先に目を送ると、屋守さんがテーブルの上で激しく手を叩いていた。
口元に下弦の月のような笑みを貼りつかせた姿がとっても不気味です。
冷静に考えてみるとみんなが戦うことになったのはこの悪魔の一言が原因だったわけで……でも、屋守さん自体は別に嘘はついてなかったわけで。
あははっ、自分でもわけわかんないやっ!
柏手の音は大きくなっていた。いつの間にか麻子さんも手を叩いている。続いて叔母さんも。折角なので私も叩く。

ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち

【静】「………………」

四方八方から向けられる音と視線を超然と受け止める苗時さん。平静を装ってはいるけれど、その目元と口元がわずかに震えているのを私は見た。

【静】「わかった……わかったから諸君、『静粛に』頼むよ――――『静粛に』ね」

わざわざ固有魔法使ってまで音を消さなくてもいいのに……

【静】「佐々木さん、君の主張を受け入れよう……。
    残りの20個分は坂上さん、奈津久さん、猪間さんの三人で分けるといい。取り分の内訳は君たちで決めたまえ」

言いつつ、苗時さんは近くにいた麻子さんに残りの核を手渡した。

【静】『仕方ないね。今回は私も、それなりに危なかったのだけど……』

念信を通じて苗時さんが呟いた。隣にいる目立さんが微苦笑を浮かべている。
お気持ちはわかりますけど、貴女の負けです。苗時さん♪


【南雲さん、萌さん、麻子さん、合計20個の魔法核を獲得!】【Intervalに続きます】

20 :Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2014/08/17(日) 05:58:42.58 0.net
【麻子】(さて――妙な事になったな)

これまでの経緯を眺めていた猪間麻子が胸中で呟く。
壁に背を預けた楽な姿勢で、目は半眼に見開きつつ室内のやりとりを考察する。
彼女の視線の先にいるのは苗時静と佐々木真言、そして……萌だ。

佐々木は意外な事に今回事件に関わった自分たちにも魔法核を譲渡するよう苗時に申し出てくれた。
結果、南雲・萌・麻子の三人は合計20個分の魔法核を取得することとなる。
苗時が件のエルダーをカバン詰めで持ってきたときは公園での激闘が徒労に終わるのかと内心ヒヤリとしたが、これで骨折り損ではなくなった。

【南雲】「ありがと、真言ちゃん。いい娘だねあんた!」

……本当に、ありがたい話だ。
公園での闘いにおいて、南雲と萌は実によく戦い、そして傷を受けた。
固有魔法の性質や経験上、中衛・対多数を得意とする麻子にとっては仕方の無いことだが、やはり先の戦闘で積極的に戦えた自覚はない。
理由はあった――――色々と。南雲も萌も、そのあたりの事情は織り込み済みだ。

問題はそこではない。
一度の対戦と二度の共闘を通じて、二人との連携はかなり形になってきたように思う。
だが、それ故の負い目もある。魔法核や魔力の総量に比して今回の自分の損耗はあまりに軽かった……と、麻子は感じている。
何故か? 単純だ。『前衛であること』、その一言に集約される。
飛び道具のある南雲はまだいい。
しかし、基本戦術を格闘に置いている萌はこの点においてより苦労を強いられることになるだろう。
真言が加わってくれることは大いに心強いが、この先の戦いで萌が壁役をするならば高い回復力とその下地となる魔力量の増強は必須だ。

【静】「取り分の内訳は君たちで決めたまえ」

苗時が20個分の魔法核を麻子に手渡した。
20人分の魔力。
20人分の願い。
20人分の絶望。
ゲーム感覚ではあったが……かつての自分がこれ一つを得る為にどれだけ苦労したかを思い出すと、身震いがする。
夜宴狩りのエルダーが持っていたものなら、かつて自分をつけ狙った『あいつら』の分も含まれているかもしれない。
目の前にいる女が何を考えてコレを譲ってくれるのかはわからないが、いずれにせよ今の自分たちに必要なモノであることは間違いなかった。
これまでも。これからも。
それがこの世界におけるブラック魔法少女という名の現実だ。つくづく、ドス黒い。


【1/2】

21 :Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2014/08/17(日) 05:59:31.51 0.net
【麻子】「南雲と萌が8つずつ。あたしは……とりあえず4つくれ――」

此度、猪間麻子が意図しているものは戦力の平均化であった。
魔力量の底上げを行うことで各自の生存率や回復力を高める事が出来る。
何より腕を失った分、南雲や萌が自分よりも多くの核を取得したほうが公正だろうという考えが麻子にはあった。

【麻子】「……で、これはお前の分だ」

麻子は取り分のうちの2個を理奈に手渡す。

【理奈】「い、いらないよ……」

受取ろうとしない理奈。予想通りの反応に麻子は大仰な溜息をついた。

【麻子】「いいからとっとけ。死にそうな目にあっただろ?」
【理奈】「でも私…………何もしてない」
【麻子】「それ≠熏桙ンで、だ。これはお前の為だけじゃない、あたしらの為でもあるんだ。だから――」

そこから先は言わなかった。否、言えなかった。くだらない意地だと押し切ってしまえばそれで済む話なのに、それが出来ない。
何故なら自分は、そのくだらない意地に救われたから。己の判断は正しいはずだ。けれど、無理強いをすれば理奈の覚悟を嘘にしてしまう……

【麻子】(――どうすりゃいいんだ?)

麻子は鼻を鳴らして手を引っ込めた。自分だけで決められる話では無いと思った。
何とかしてやりたいと思う反面、理奈の意志を尊重したい気持ちも多少はある。
実のところ……このまま核を自分のものにしたい、という思考も、無くはないのだ。

そのとき、ふとした疑問が麻子の脳裏をよぎった。
すべての始まりであると同時に自分たちの終わりを決める、根本的な疑問。

【麻子】「…………あのさ」

自分たちが戦う意味に対する、具体的な解答。

【麻子】「そう言えばあたしらって、どれだけ核を集めたら願いが叶うんだ?」

麻子にとって、それは自分の生活を支えてきたこの能力を手放す事を意味する。が、同時にこの迷路からの出口を示すことと同義であった。
それはこの場にいるすべての魔法少女にも言えることだろう。
知っているものはいるのだろうか? 少なくとも、あがりを迎えた魔女が一人、都築ゆりかがいることは確かだが、その基準が全員に当てはまるとは限らない。
猪間麻子は自分が今どこにいるのかを知らなかった。

いったい、あと何人の絶望を背負えば、自分の願いは叶うのか――――を。


【2/2】【魔法核:南雲さんに8個。萌さんに8個。麻子さんに2個支給】【残りの2個は現在保留】【麻子さんからみなさんに質問】

22 :名無しになりきれ:2014/08/31(日) 23:59:39.67 0.net
保守

23 :名無しになりきれ:2014/09/09(火) 23:48:59.11 0.net
保守

24 :名無しになりきれ:2014/09/16(火) 14:38:34.28 0.net
保守

25 :名無しになりきれ:2014/10/04(土) 11:52:04.75 0.net


26 :Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2014/10/07(火) 01:51:59.66 0.net
麻子の問いかけに答える者はいなかった。
答えなかったのではない。
答えられなかったのである。

麻子はひとまず自分の知っている情報を頭の中で整理することにした。

『夜宴』のクラス分けによると魔力量6000を超える魔法少女はエルダーと呼ばれている。
魔力量の総数を倍増させる『同調』が無ければ、この数字は通常『魔法核×100』という式で計算される。
つまり、エルダーまで登り詰めた魔法少女は最多で60個の魔法核を所持しているということになる。
『夜宴』のようなシステムに関わらない限り、多くの魔法少女にとってこれは途方もない数字だ。

苗時がどれだけの魔法核を所持しているのかわからないが、エルダーにもなっている彼女が未だに『あがり』を迎えていないのは一体どういうことなのだろうか?


ここで、先に改めてこの世界における魔法少女のルールを再確認しておく必要がある。


【魔法少女とは?】
・叶えたい願いを持った人間が【悪魔】と『契約』する事で変身できる存在
・魔法少女は他の魔法少女の『魔法核』を奪うか、魔法少女を殺す事でその力を増す
・魔法核を奪われた魔法少女は、3日以内に魔法核を取り戻さなければ廃人となる
・死んだ魔法少女の肉体と魂は悪魔に食われる
・魔力か魔法核を集める事で、その魔法少女の願いを一つだけ叶える事が出来る
・叶える願いの難しさによって必要となる魔法核と魔力の総量は変わる
・願いを叶えない限り、魔法少女をやめる事は出来ない


以上は猪間麻子が坂上南雲や奈津久 萌、神田理奈らと出会う前に知っていた情報……そして巷で囁かれていた噂≠ナある。
噂≠煌ワんでいる以上、聞いてはいたものの実際の状況とかなり食い違っている部分が多々あった。


【ブラまほのおさらい その1】

27 :Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2014/10/07(火) 01:53:14.55 0.net
――――例えば一つ目
>・魔法少女は他の魔法少女の『魔法核』を奪うか、魔法少女を殺す事でその力を増す

魔法少女が他の魔法少女の『魔法核』を簒奪することによって魔力を増すのは事実だ。
しかし、後半が違う。相手を殺害したところで自分の魔力量は上昇などしない。
魔法核がある限り肉体を修復し続ける事が出来る*v@少女を完全に殺害するなど至難の業だ。
順序が逆なのだ。
相手を戦闘不能の状態にしてから『魔法核』を奪って止めを刺す。殺傷行為はその為の手段に過ぎない。
極端な話、『魔法核』さえ手に入れてしまえば必ずしも自分で相手を倒す必要など無いとも言える。

因みに、滅多に聞かないが『魔法核』を破壊されてしまった魔法少女は、その瞬間に絶命してしまうらしい。
ある程度の魔力を有した魔法核は銃弾でも破壊出来ない強度を持つらしいが、集中的に狙われると弱点になりうるということだ。
しかし、一度砕けてしまった『魔法核』は拾っても使い物にならないらしく、この方法が好まれることは無いだろう。


――――二つ目
>・魔法核を奪われた魔法少女は、3日以内に魔法核を取り戻さなければ廃人となる

これは麻子もかつて何度か見てきた。
『魔法核』を奪われた魔法少女は2通りの末路を辿る。

1つは死んでしまうパターン。戦闘時に致命傷を受け、そのまま再生出来なかった場合だ。
茅野いずみや神田理奈のように『魔法核』が無い状態で死亡しても、周りにいる誰かが本人の『魔法核』を身体に触れさせることで、蘇生させることは出来る。
ただし、蘇生出来るタイミングにも限度があり、死後ある程度の時間が経過して肉体が腐敗してしまうと元に戻らなくなってしまうようだ。

もう1つが廃人になってしまうパターン。こちらは生きた状態で『魔法核』を奪われてしまった場合だ。
若干の個人差はあるようで、『魔法核』を失って即意識を失う者とそうでない者がいるようだが……結果はどちらも変わらない。
まず口数が減っていき、眼から光が消えていく。やがて思考力が無くなってくると呼吸以外の動作をしなくなり、そして最後には意識を失って昏睡状態となる。
誰かがそばにいれば一命を取り留めることはできるが、場所が悪ければ事故死あるいは自殺と見紛われる様な死に方をしてしまうのが大半である。

しかし、ここ数日の間にこのルールは書き換えられてしまった。
『亡者』の出現である。
魔法核を奪われた彼・ないし彼女らが発症≠キると、それなりの魔法を使える状態で復活し、核を持った魔法少女に誰彼構わず襲いかかる。
この現象が一過性のものなのか否かは麻子には判断出来ないが、なりたての魔法少女達にとってこのような復讐者《アヴェンジャー》の存在はかなり厄介であろう。
実際に『亡者』と対峙したことのある南雲・理奈・萌の話によると。
@説得によって一度は鎮めることが出来た。
A眉間を撃たれた後、そのまま死んだ。
と、いうことらしい。人命の尊さについて考える部分も少しあるが、弾丸一発であっさり死んだという話はすぐに理解できる。亡者は魔法少女と違い『魔法核』を持たない。
一方の「説得が通じた」というのはどうなのだろうか? 麻子には判断がつかなかった。事実そうだったのかもしれないし、そう思いたいだけだったのかもしれない。
いずれにせよ、その亡者――駆走知史という元・魔法少女が普通の人間に戻れる可能性は皆無だろう……と麻子は結論づける。
仮に『亡者』化が治ったとしても、『魔法核』の無い人間が再び廃人になってしまうのは間違いないのだから。


【ブラまほのおさらい その2】

28 :Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2014/10/07(火) 01:56:45.45 0.net
――――三つ目
>・死んだ魔法少女の肉体と魂は悪魔に食われる

……これについての真偽は不明だ。
少なくとも、猪間麻子はそんな現場を目撃したことがない。
『東京喰種』じゃあるまいに、喫茶店でタダメシをたかってくるような連中がわざわざ人間の死体を食糧にする意味がわからないし、魂が何処にあるのかすらもわかっていない。
おおかた禍々しさを演出するため噂話に尾ひれ背びれがついて大袈裟に表現されているだけだろう。
悪魔との契約が原因でたいていの魔法少女が魂を擦り減らされている、という意味ではあながち間違ってないのかもしれないが。
まあ、魔法少女に限らず労働の契約とは得てしてそういうものなのだろう(暴論)。

【麻子】 『なあ、ゆりか』
【ゆりか】『え? どうかしたの?』
【麻子】 『なんでもありませぇーん』

ただ……これについて麻子にも1つ気になることがあった。無論、契約の問題ではない。
魔法少女の戦いで出てきてしまった遺体の行方≠セ。
麻子自身は誰かを殺した事が無いので、その点についてがよくわからない。
『夜宴』の撮影者……ミサワに一度聞いてみたことがあるものの「はははははwww」と笑って誤魔化されただけだ。
今回苗時が運んできたエルダーの死体のように、みな自分たちで処理しているのか。
あるいは――――悪魔やそれを生業としている連中≠ェ動いているのか。


――――四つ目
>・魔力か魔法核を集める事で、その魔法少女の願いを一つだけ叶える事が出来る
>・願いを叶えない限り、魔法少女をやめる事は出来ない

これについては先日都築ゆりかの発言によって立証されている。
そして、『あがり』を迎えた後の【3つ選択肢】についても。

1.願いを叶えて、魔法少女に関する全ての記憶を失い日常に戻る
2.願いを叶えて、魔法少女に関する記憶を維持したまま日常に戻る
3.願いを叶えず、もっと大きな願いを新しく魔法核に祈り直して魔法少女を続行する

そう――――『魔法核』を集めれば、願いは、叶う。
願いを叶えない者は魔法少女をやめられない。
1つ間違いを正すとすれば、どんなに魔力を高めても願いを叶える足しにはならない≠ニいうことだ。
飽く迄決められた数の『魔法核』を集めなければならない。自分の望みに必要な数だけ、他人の願いを奪わなければならない。
それが具体的にいくつなのか……麻子にはわからなかった。


――――そして最後に
>・叶える願いの難しさによって必要となる魔法核と魔力の総量は変わる

もう一度確認するがどんなに魔力を高めても願いを叶える足しにはならない=B
ただ、叶える願いの難しさと必要となる魔法核の多寡が比例するということは事実のようだ。
まあ当然だろう。
もし仮に「胸を大きくしたい」と願った魔法少女がいたとして、「人類の支配者になりたい」と願う魔法少女と必要な魔法核の数が同じだとしたら……どうだろう?
バカくさいにもほどがある。麻子は半眼で溜息をついた。


【ブラまほのおさらい その3】

29 :神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2014/10/07(火) 02:33:00.20 0.net
【麻子】「南雲と萌が8つずつ。あたしは……とりあえず4つくれ――」

苗時さんから受け取った魔法核を、麻子さんが分けていく。

【麻子】「……で、これはお前の分だ」

突然、麻子さんは自分が受け取った4つのうち2つを私にくれると言いだした。

【理奈】「い、いらないよ……」

当然のように断る私。麻子さんは溜息をついた。

【麻子】「いいからとっとけ。死にそうな目にあっただろ?」
【理奈】「でも私…………何もしてない」

そうだ。
南雲さんに加勢するわけでも真言さんの肩を持つわけでもなく、ただここに残って、店を壊したエルダーを追いかけて……
それで、返り討ちにあって苗時さんに助けてもらっただけだ。――みんなに心配させただけだ。

【麻子】「それ≠熏桙ンで、だ。これはお前の為だけじゃない、あたしらの為でもあるんだ。だから――」

だから――その先の言葉を、麻子さんは飲み込んだ。
これから戦い続けていくには、やっぱり力がいる。生き残る為の魔力が……魔法核が。
私の持っている二つの魔法核が少しだけ疼いた――――ような気がした。
茅野いずみさん。郷原 桃ちゃん。
ふたりとも私の在り方≠、魔法少女≠認めてくれた……そんな人たちでした。
そんな人たち以外の核を使うなんて……やっぱり、私には出来ないよ。

けれど、実際の私は確かに無力だと思う。
ううん、違う。これは……ただの事実。覆せない現実。吹き払えない、闇だから。
闘う力の無い人間は、生き残れないから――――

口元が震えてきた。胸が圧迫されたように苦しくなって、襟元を握りしめる。
どうして……どうしてだろう。
何で私たちは誰かを蹴り落としたり、見捨てたりしなきゃ生きていけないんだろう?
自分がそうされるのは、ものすごく辛いはずなのに…………いつだって、誰かに救ってもらいたいはずなのに!

【麻子】「…………あのさ」

麻子さんが私に差し出していた魔法核を引っ込めた。何かを思い出したように、周りを見て、続ける。

【麻子】「そう言えばあたしらって、どれだけ核を集めたら願いが叶うんだ?」


【理奈、2個分の魔法核を保留中】【続きます】

30 :神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2014/10/07(火) 02:34:01.83 0.net
【理奈】(……えっ?)

麻子さんの突然の問いにみんなが顔を見合わせる。答えられる人はいなかった。
……かく言う私もそうなんだけど。ううん、そもそも『自分の願いを叶える』って発想が抜け落ちてた。
ここしばらくいろんな事があり過ぎて、落ち着いて考えてる余裕も無かったし……( ̄∀ ̄;)ニャハハ

【静】「その疑問はもっともだね。悪魔は基本的にそこまでのことは詳しく言わない。
    特定商取引法の例を挙げるまでもなく、この国の人間ならば通常対価の公示は契約の前に行うもの――――なんだけどね?」

あからさまな皮肉を込めた苗時さんの視線を受け、屋守さんが肩をすくめる。

【屋守】 「あたしはちゃんと教えてやったぜ? ……ま、契約したのはアタシじゃなくて先輩だったから、最初は知らなかったみたいだけどナ!」
【静】  「私が知ったのも随分後のことだったよ。一応――――目安となる数は決まってる……そうだね、都築?」
【ゆりか】「ええ――――」

苗時さんに促され、叔母さんが頷いた。私たちは次の言葉に耳を傾ける。


【ゆりか】「――――100個よ」


・・・・・・ひゃっこ?

一瞬、場が凍りついたような気がした。しかし、苗時さんは何もしていない。

えーっと・・・聞き間違い、かなぁ・・・?


【ゆりか】「―――――― 1 0 0 個 よ 」


…………ざんねん。ちがったみたいですorz...

【麻子】 「……嘘だろ?」
【ゆりか】「事実よ。そしてそれがどんな願いであっても、『魔法核』が100個あれば必ず叶う」

私はみんなの表情を見た。それぞれが思い思いの反応示す中で、麻子さんが呟いた。

【麻子】 「納得、できねー……」
【ゆりか】「そうかしら?」
【麻子】 「だってそうだろ? 100個だぞ!? 
      くっだらねー奴の! 
      くっだらねー願いに巻き込まれて!
      自分の魔法核使われてみろよ!! 死んでも死に切れねーよ! そんなの…………理不尽過ぎんだろ」
【ゆりか】「今更ね。だいたい世の中そのものが理不尽極まりないじゃない?
      予期せぬ災害で家族を失う人がいれば、犯罪者の気まぐれで殺されてしまう人もいる。
      仮にこの世界を創ったのが神様だとして、そんなものがルールだと言うなら私は悪魔に魂を売ってもいいと思った。
      世界の理《ことわり》に抗う事が出来るから、魔法は魔法と呼ばれるんじゃないかしら?」

麻子さんはそれ以上何も云わなかった。ただ、横を向いて舌打ちしている。これまで信じていた何か≠裏切られたような……そんな表情で。


【衝撃の真実】【続きます】

31 :神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2014/10/07(火) 02:36:05.89 0.net
【理奈】 「叔母さんも集めたの……100個?」
【ゆりか】「そうよ」
【理奈】 「どうして?」
【ゆりか】「どうしても叶えたい望みがあった。それだけよ」
【理奈】 「それは――沢山の人を犠牲にしてもいいぐらい、大きな願いだったの?」

私の質問に対し、叔母さんは目を丸くした。それから小さく頷き、寂しげな微笑を浮かべてこう答えた。

【ゆりか】「願いにはね、大きいも小さいも無いの。唯、それを叶える為にどれだけ何かを捨てられるか。
      どれだけ必死に突き進んでいけるか――――それだけよ」
【理奈】 「………………」
【静】  「エルダーになってもあがりを迎えられない人間がいるのはそういう理由があるんだよ。
      達成条件があまりにシビアなのさ。100個揃える前にほとんどの者がどこかで脱落してしまう。
      それにね、これだけの魔力を持つと本来の願いを叶えるよりも、逆に『魔法少女であり続ける事』のほうが、恩恵が大きかったりするんだ。
      ……守るものも増えてきたりね。
      やめることが出来ないから生き残る為に続ける。

      手段としての魔法少女=\―――と言うわけさ」

叔母さんの言葉を補完するように、苗時さんが締めくくる。

【静】「さて、この話は以上だ――『穏形派』との交渉には勿論私も行くが、悪いけど今から仕事があってね。集合は夜になる予定だ。
    後は君たちに任せるよ」

※   ※   ※

【南雲】「それじゃ、行こうか。目立ちゃんの嫌疑を晴らすため……隠形派との引き渡し交渉に」
【萌】 「えー、今すぐじゃなくてもよくねー?」

その後、萌さんの提案(?)で私たちは夜まで休息をとることにした。一方で、私は――――

【理奈】「麻子さん……」
【麻子】「どうした?」
【理奈】「さっきの魔法核……やっぱり頂戴」
【麻子】「いいのか?」
【理奈】「……うん」

麻子さんから二つ分の魔法核を手渡され、手のひらの中で自分の持つそれと融合させる。これで……5つ。
魔力が高まっていくのがわかる。これで前よりは戦える。南雲さんにもう心配なんてさせない。
……自分の選択に後悔は無かった。また二つ、誰かの願いを背負うことになってもかまわない。
強くなれたその分だけ、他の誰かを守れるようになってみせる。私はそう念じた。


背負うと誓ったその願いに蝕まれてしまう事など、この時はまだ、考えもしなかった――――

【理奈 魔法核2個獲得 900→1500】【ひとまず以上です】

32 :Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2014/10/19(日) 10:44:18.22 0.net
【『穏形派』と交渉する夜までの間、苗時がTender Perchを出る前】


【静】  「(前略)後は君たちに任せるよ」

【静】  「よし、じゃあ都築」
【ゆりか】「いやよ」
【静】  「まだ何も言ってないんだが?」
【ゆりか】「冷凍庫は使わせないわ」
【静】  「しかし、このままでは腐ってしまうよ」
【ゆりか】「あんたが夜まで冷やしてくれればいいじゃない」
【静】  「冷気を維持するのは結構大変なんだよ」
【ゆりか】「さっきも言ったけど、うち飲食店なんだけどっ!?」
【静】  「袋で包んでアルコールを吹っとけば衛生上何の問題も無い。へーきさ(ごそごそ)」
【ゆりか】「ちょっと……! そんなもの入れないで! やめてってばっ!!(半泣)」

結局、夜までもつ程度のドライアイスと防腐剤を物体生成することで話がまとまったそうな。

33 :名無しになりきれ:2014/11/06(木) 11:41:21.15 0.net
保守

34 :名無しになりきれ:2014/11/17(月) 12:10:16.81 0.net
保守

35 :名無しになりきれ:2014/11/26(水) 00:30:46.37 0.net
保守

36 :大饗いとり ◆Ri2CECVC6w :2014/11/30(日) 18:28:34.10 0.net
所変われば品変わる。
一面の事実ではあるが、その一方で万国共通の決まり事というものも確かに存在する。
「宮中晩餐会にはフレンチのフルコースを用いる」というのもその一つだ。その起源は西暦1533年までさかのぼることができる。
とある女性がフランス国王との結婚に際してテーブルマナーとコース料理の形式を伝え、それが大評判になったのが始まりだそうだ。
そして、その古くて新しい伝統は、現代に至るまで全世界の王宮で脈々と受け継がれている。
そう、現代のあたしの宮殿でも。



あたしの先導であたしたち3人が向かったのは小さめの個室だ。
小さ目って言っても、一般のご家庭のリビングルームぐらいの大きさ。
天井からは、そこそこのサイズのシャンデリアが一つ、部屋全体を照らす。
クリーム色を基調とした内装の中央に鎮座するのは、まっ白なテーブルクロスがかかったテーブルだ。
その周りには、背もたれつきの木製椅子が3つ。奥に一つ、手前側に二つ。
私はためらい無く、一番奥の席に向かった。

「ささ、二人ともどうぞ座って。……ああ、別に罠とかはないよ。念のために言うけど」

二人がなんだかんだで座ったのを見届けると、私はぽん、と手を叩いた。

「とりあえず、色々話もあると思うんだけど。まずは」

私達が入ってきたのと反対側の入り口から、ぞろぞろと使用人達が入ってくる。
彼らが押してくるワゴンには諸々の食器と、3人分の手拭き用濡れタオル。そして、最後のワゴンには中くらいのサイズの土鍋が。

「大饗さんちのおもてなしフルコース、堪能していってね。
 ……まあ、もちろん嫌なら食べなくてもいいけど。長い話になると思うし、腹ごしらえしておくに越したことはないと思うよ?」

というわけで、夜宴のお二人はフレンチフルコースで歓待。
もちろん、参加者の好き嫌いやアレルギーには完璧に対処した品々を用意しました! シェフが!

(続きます)

37 :大饗いとり ◆Ri2CECVC6w :2014/11/30(日) 18:40:20.65 0.net
次々に出されてくる料理。ショフの腕は今日も冴え渡ってるようで、あたしの肥えた舌も唸らせる品々が繰り出されてくる。

最初のアミューズ(シェフにお任せの軽いおつまみ。日本語でいうと『突き出し』かな)には、定番の海老とホタテと野菜のテリーヌ。
入れ物の土鍋(元々はこれがテリーヌって名前なんだよね)ごと出すのが正式らしいけどそれだと食べにくいから、
今回は使用人に取り出して切ってもらう(その場で取り分けるサービス付き)。
ほんとは食前酒と一緒に出したいところだけど、参加者三人中二人が未成年だからお酒はなし。酒呑み話の空気でもないしね。

オードブルはタラバガニのクレープ包み。東京の方のスペイン料理店で出してたのをうちのシェフが再現した奴。
わざわざ真似するだけあって確かに絶品。噛むとじゅわっと蟹の味が出てくる。
ソース(中濃ソースを連想した人正座)がラタトゥイユ風に野菜たっぷりで健康にもいい感じ。

お次はフカヒレとアワビをじっくりことこと煮込んだスープ入りのパイ包み。シェフは今日は魚介類推しらしい。
パイのさくさく感をスプーンで楽しんでもらった後はスープに浸して食し、暖まってもらう。
濃厚な味わいと適度な温かさが幸せな空間を演出する……なんか美食マンガみたいな描写になっちゃったな。


スープを食べ終わって一息つく。この後は本来、魚料理が出てくる頃合いだ。
が、あたしが軽く手を挙げて使用人達に合図すると、彼らは会釈して部屋から出て行った。
怪訝な顔をする二人に、あたしはにっこり笑いかける。

「お腹も適度に埋まっただろうから、そろそろお話に入ろうかと。
 余計な耳は無い方がいいでしょう? 心配しなくても、残りは後でちゃんと出すよ」

二人の反応を笑顔で受け流しつつ、言葉を継ぐ。
そう、ここまでは正に前菜。メインディッシュはこれからなのだ。お互いにとって。
これまでを見る限り、この魔法少女は油断ならない相手だ。食べ応えのあるメインディッシュになるだろう。

(まだ続きます)

38 :大饗いとり ◆Ri2CECVC6w :2014/11/30(日) 18:41:02.63 0.net
……さて、第一段階での採点結果は、及第点やや上、といったところ。
こちらの手札を相当数伏せた段階でのものとしては、なかなか優秀だといえるだろう。

採点者はあたし。採点を受けているのは眼前に座る魔法少女と青年の二人。
魔法少女の名は草枕夜伽。男の名は……ま、後で聞けばいいや。

この二人のことを、食事の時間を利用してあたしは値踏みしていた。
これからやろうとすることを考えると、相手が適度な間抜けであることは望ましいが、
逆にただの間抜けであっては困るのだ。

組織において、ただの間抜けに権力を与える奴は普通は居ない。
普通でなく与えられるパターンはいくつかあるが、今回は考慮しなくとも問題ないだろう。
(余談だが、その「普通でないパターン」で最も多いのが「世襲」だったりする。あたしとしては耳の痛い話だ)
つまり現状において、この二人の所属組織における潜在的な権力……影響力と言い換えてもいい……は、
間抜け度合いに反比例する、可能性が高い。
こちらもガキの遣いをさせるわけでは無いのだ。伝達役にもある程度適切なランクというものがある。
そういう意味では、この魔法少女、草枕夜伽は適任と言えた。
魔力が低すぎず高すぎず。そして魔法に対する恐れも驕りもない。何より頭の回転が速い。
恐らく、『料理の大半が共用容器から取り分けるものだった理由』なんかもお見通しだろう。

さて、始めよう。大饗いとり、一世一代の大立ち回りを。

「お二方にご足労願ったのは他でもないんだ。あたしは、あなた達と相互協力体制をとりたいと思ってる」

(もうちょっと続きます)

39 :大饗いとり ◆Ri2CECVC6w :2014/11/30(日) 19:03:52.20 0.net
一拍おいて二人の反応を見て、言葉を続ける。

「さっきそこのお兄さんが言ったけど、あたしの親父殿……もっと言うとうちの家系はこの辺りに顔が効いてね。
 その関係で、あたし自身もだいぶ楽にさせてもらってる。こんな高いところに住まいを構えられるのもその一環。
 で、出来ることも知ってる事も多いんだけど、わからない事もある。それが、魔法のいろは」

やれやれ、と肩をすくめるポーズ。適度なジェスチャーは、伝達を円滑にするコツだ。

「残念ながらあたし、そっち方面ではいい師匠(メンター)に恵まれなくてね。概ね独習なんだ。
 それだとなんだかんだで限界がある。あたしが知らない事、やり方も多いはず。
 何より、魔法少女界隈の口コミには個人じゃ触りに行けない。
 だから、あなた達と協力して、お互いに知らない事を教え合おうって訳」

一拍おく。
疑問が彼らの中に浮かび上がるタイミングと、それが具体的に形になるタイミング。
その二つの間隙を突くように、ふたたび口を開く。

「こっちが教えられる事って何? って顔だね。色々あるよ。
 たとえば、あたしが掴んでる魔法少女のカタログスペックと、大雑把な現状の所在地、とか」

にこり、と笑みを浮かべる。
笑みと言うのは便利なもので、相手の内心によっていかようにも解釈が可能な表情なのだ。
二人は私の背後に、鬼か仏か、どちらか見たいものを見ていることだろう。

「4番班長には会ったよね。あたしの魔法は、ああやって端末……そっちだと使い魔って言うんだっけ?
 それを作り出すことを可能にする。それも、具体的にはいえないけど結構な数ね。
 その辺を利用して集めた情報が、まあ結構な量あるんだ。あたしが活用するために調整してあるけど、
 あなた達にも有用な物だと思う。相手を選べば特にね」

慎重に言葉を継ぐ。手札を開示しつつ、伏せ札の存在を示唆。さらに、こちらの手札の総数は気取られぬよう……。

「4番班長から聞いたかな。縁藤きずなさんと交戦した魔法少女の情報。
 あたしには、それを提供する用意がある。たぶん、あなた達にはすごく有用な情報だと思うけど」

言って、あたしは二人の返答を待った。

【いとり:OMOTENASHI。そして情報提供】

40 :名無しになりきれ:2014/12/14(日) 22:06:57.08 0.net
保守

41 :佐々木 真言 ◆EDGE/yVqm. :2014/12/21(日) 23:12:47.88 0.net
>【静】「佐々木さん、君の主張を受け入れよう……。
>    残りの20個分は坂上さん、奈津久さん、猪間さんの三人で分けるといい。取り分の内訳は君たちで決めたまえ」

「感謝する。よ。私の。財布は。傷まないけど」

苗時がそう答えると同時に、平常時は常にへの字を描いている口が、僅かにVの字を描いてコンマ数秒後には元に戻る。
口下手なのにもかかわらず、言わなくても良い事をつい付け足してしまうのは恐らくコミュ障だからなのだろう。
そして、3人に魔法核という形であの戦いに対する何らかの見返りが手に入るこの状況。
己との戦いは無駄にならなかっただろう。無用な理由での無用な戦いに対する、多少なりともの詫びの気持ちは、苗時によって実現することとなって。

「ん」

僅かに目を細めて、猪間と視線を合わせる。そして、深い黒色の瞳で視線を1秒に満たぬ時間交わし、逸らす。
考える。この先己はどうすれば良いのか。未だ見せぬ、己に同調する一つの魔法核は、人と組む事で真価を発揮するそれ。
彼女らの多彩な固有魔法は、切り裂く事のみを己の信条とする佐々木としては、極めて利用価値が或るとも言えるもの。

>「ありがと、真言ちゃん。いい娘だねあんた!」

「……っ。……昔は。いい子。って。良く。言われ。ていた」

南雲に背中を叩かれた瞬間、一瞬己の手元で魔力が渦巻いた。が、それを刃金にはしない。
抜刀癖は魔法少女になった頃からの生活で染み付いたものだが、悪意なき接触に刃を振るうほどに染み付いては居ない。
そして、僅かというには些か長い時間を置いてから、返すのはいつもどおり微妙にズレた返答。
嘗て、良い子と言われていた頃を思い出す。ふと、己の右手に視線を落とす。
ごし、と何かを拭い取る様に制服のスカートで右手を擦り、そして視線を落として黙りこむ。

>「そういやそれ何聞いてんの?」

「今流れてるのは。PYGの、花・太陽・雨。
昔の。バンドの曲。祖父が。レコード。持ってた。から」

真言が聞くのは、祖父が持っていたレコードの曲ばかり。
同年代とカラオケにいく事も無いのだから、流行りの曲を聞く必要もなくて。
自然、真言の音楽プレイヤーには、演歌と歌謡曲とグループサウンズばかりがひしめき合う事になっていた。
僅かに俯く。己の趣味の話等をする事は得意でなかった。否、そうではない。
事務的な会話以外のもの。所謂、雑談というものを此処数年、殆ど悪魔以外と行っていなかった。
そうして、佐々木のこの対人能力(戦闘以外)は、培われていったのだ。

僅かに、ごくわずかに気まずそうな雰囲気を漂わせる。
それは、僅かに痙攣する右腕や、細めて斜め前を漫然と見つめる様から放出されていた。
別に話したくないわけではない。ただ、何を話せば良いのか、何が普通なのかが、よく分からないだけだ。

結局、振られた話にはそう答えるのみで。
あとは俯いて、ポケットから取り出した小さな羊羹をちびちびと齧り始める事になった。ひとしきり羊羹をかいじり終えれば、彼女らは動き出すこととなる。
――事件の幕引きへと。隠形派との、接触へと。

【佐々木コミュ障。昔は良い子】

42 :佐々木 真言 ◆EDGE/yVqm. :2014/12/21(日) 23:13:36.07 0.net
佐々木は思考していた。黒いビロードの様なコートの裾を揺らしながら。
己がこの魔装を纏い、戦い続ける日々が終わる、明確な線引について。思考を巡らせていた。

(100個の魔法核。それを集めれば、私の願いは叶う。
100個。明確な指標。私の手元には、今20個。あと80人分の願いを、命を奪う必要がある。
……良かった。ゴールが。見えて)

先のテンダーパーチでの会話、魔法少女のゴール地点の話。それを聞いた佐々木は、声を荒げる事はなく沈黙を保っていた。
怒りでも、驚愕でもなく、佐々木が抱いたのは安堵。100という途方も無い数字であったとしても、少なくとも100揃えれば良いのだ。
ならばやるだけだ。出来るかどうかではない、やると決めてやる覚悟で魔法少女になった。だから、やるしか無い。
己の覚悟を確固としたものにし、心を構えた佐々木。
また、身体、魔力面においても魔法で生成された日本茶と和菓子をしこたま詰め込んだ佐々木の体制は万全であった。
歩むのは繁華街。安っぽい光、身を売る女性たちが男を誘う声、綺麗でない世界だ。
横目にそれらを見ながら、佐々木は右手を静かに握りしめた。雑居ビルが、眼前に現れる。

会合、というものを佐々木はしたことがない。
それも、誰かと連れ立って他の魔法少女と接触するなど、己が魔法少女になってからの1年間以来。
だが、佐々木は腹芸や交渉を得意としない。だからこそ、出来る事は一つだけだった。右手の鮫皮に包まれたそれを、静かに再度握りしめた。

>「一応、狙撃や奇襲に対する警戒はしておいて」

「感じたら。斬る」

既に和服に『とんび』にコンバットブーツの装いはいつも通り。
瞼を薄く瞑り、息を吸う。薄い胸が膨らみ、そしてまた平らになった。
瞼を開けば、瞳からは容易く感情が読み取れない程度の落ち着きを、手に入れていた。
自己に閉じこもりがちな性格の真言の弱点はコミュ障だが、それは長所でもある。即ち、己の考えを読まれづらい事。
交渉は得意ではないが、少なくとも揺さぶりや何かを受けないように、己を頑なにしてみせる程度はしてみせよう。そう、思っていた。

南雲に続いて、佐々木も歩む。
屋上に存在する複数の魔力。そして、その魔力の主の一人が声を発した。

>「時間ぴったりですね。私たちもさっき来たばかりです」

目を細める。あの顔を覆う鉄板は確かに固そうではあるが、あれごと頭蓋を叩き切れるか判断。
問題ない。そう結論づけると佐々木は息を意識して固定のリズムに保ち、影のように一歩後ろに佇み続けた。
佐々木は己の魔力を覆い隠す事を得意とする。鴉のような姿と影の薄さで、取るに足らない存在にも見えることだろう。

>「自己紹介をしますね。私は『隠形派』の渉外担当。仲間からは"緑虫"って呼ばれています。
> そちらは『楽園派』のみなさまですね。なんとお呼びしたらいいですか?」

「あ。え。……さ――」

呼び名を問われて、つい反射的に己の本名を口にしてしまいそうになる。
が、その直後、南雲が口を開く。そして、口を噤む。

>「アダ名みたいなものかな……うーん、本名とかけ離れていて、かつ一言でわたしと結びつくような名前。
> まk――先輩、なんか良い案ある?」

そうか。本名ではいけないのか。静かに心の中で首肯する。
バイさん。そういう適当な名前で良いのか、と思考。そして、どう名乗ればよいものか、考えこむ。
のそ、と僅かに前に出て、唇を湿らせて口を開く。一瞬咳き込んで、掠れた声で、己の偽名を口にした。

43 :佐々木 真言 ◆EDGE/yVqm. :2014/12/21(日) 23:14:11.74 0.net
「っ。私。パンダ=Bです」

佐々木。ささき。笹き。笹=パンダ。
それ以上でも以下でもなかった。それだけを口にして、音もなく後ろに下がる。
本人はこれで良かったと思っているようだった。そしてまた、影のように佇む事を選ぶ。

>「"九倍段"って呼んでくれ。あたしは隠形派の人間じゃあない。夜宴所属の別氏族……『鉄血派』ってところの魔法少女さ」

(――槍か。槍。穂先、切り落として。切り上げて。リーチが厄介)

夜宴については、ある程度情報を集めていた。そして、目の前の九倍段≠フ名前も知っている。
少なくとも、正面から突撃して何事も無く戦いを終えられる相手ではないと、思う。
そう思いつつ、九倍段≠ゥら語られるあのエルダーの仕出かした事を聞き、あのエルダーが倒されて良かったと、心から思った。

(……楽園派、隠形派、鉄血派。私。色々、揃い踏み。
言葉で。ボロ。出さないようにしなきゃ……)

縁籐殺しについて、かなり深く関わっているのは佐々木。
それも、下手人として一度は疑われてすら居た身だ。いくら気配を消そうと話題に出るのを避ける事は出来ないだろう。
恐らく、証人として色々と聞かれる事があるだろう事は、流石に理解できていた。
これだけ多くの人の前で確りと話すことが出来るのか、正直自信は無い。
だが、出来る事であれば出来る限り実行しよう。そう思考を固めると、直角の思考と鉄面皮をもつ魔法少女は、厳然と前を見据える事となった。

【佐々木自己紹介。通り名はパンダ=z
【基本的に影に徹しているが、いざという時のための戦闘的考察を実施中】
【己に話が振られる事を想定し、精神統一中】

44 :◆G.vg4o/Z7Q :2015/01/17(土) 12:52:41.61 0.net
>「今流れてるのは。PYGの、花・太陽・雨。
> 昔の。バンドの曲。祖父が。レコード。持ってた。から」
「へー、知らねー」
自分から聞いておいて薄めのリアクションを返す萌。
まあ大体の場合はこれで簡単なイントロダクションが貰えるものだが、
しかし真言は視線を俯けてしまった。

(……あれ、まさか……なんか辛い思い出でも!?)
上記が、その様子から"話し難さ"を感じ取った萌が導き出した結論である。
いささか無遠慮に距離を詰める過ぎたかと一歩引いた心持ちになったが、
少し考えてみればそんな思い出が残る曲をわざわざ持ち運んでまで聞く理由などあるかという話で、
すなわちえらい勘違いをしていると分かりそうなものだ。
勘違いをされた真言の方はといえば羊羹などを齧りだす始末で、つまり向こうもこれ以上踏み出す気はない。

かくして――
戦いとなれば臆さず前へ出る二人はお互いが間合いを掴み損ね、失敗が確定した見合いのような空気で場を満たす。
そしてそれは変化を迎えることはなく、ただ時間だけが過ぎた。


    ―
        ―

>「一応、狙撃や奇襲に対する警戒はしておいて」
>「感じたら。斬る」
セキュリティを真正面からすたすたと踏破してたどり着いた雑居ビル最上階の踊り場。
すでに魔装を纏った南雲と真言が言葉を交わす。
萌は通常のままだ。
理由は単純かつ切実。変身後の姿では、とてもドアを潜りづらい。

捻られたノブは音もなく回り、反して扉が幽かな悲鳴を上げる。
開けた南雲がそのまま外へ踏み出し、次いで真言。
他を促して中央を進ませ、萌自身は殿に。
実のところ、今この瞬間にはこうまで警戒する必要を萌は感じていないのだが。

この事態は各氏族間で結ばれた協定の不履行が原因であるとされている。
つまり"こちら"と"あちら"だけの話ではなく、確実に他氏族にも注目されているのだ。
あまり性急なことをすれば不審の目は隠形派に向くだろう。
狙われるとすれば――会合の後。
こちらの不実を以って交渉が決裂したという体で口火を切る。
向こうに"やる"気があるならそうなるはずだ。

萌は扉を抜け、咥えていたゼリー飲料のパックを無造作に脇へ放った。
マナーにもとる行為に見えるが、これは苗時の手配した魔法少女による生成物だ。
もちろんアルミやプラスチックではなく、魔力というカーボンフリーの極致のような素材で出来ている。
(みんな魔法少女になれたら、かえって幸せなのかもね)
少しだけ厭世的な気分のこもった目で行方を追う。
パックは床に落ちるか落ちないかで塵となって消えた。

>「夜分遅くにこんなところまで御足労いただいてすみません。どうぞこちらへ」
かけられた声に、先に出た南雲が絶句している。
その視線の先に駐車禁止の標識が"居た"。

(あっ、触んないほうがいいやつだこれ)
萌は即座に判断して追求をやめた。
考えるべきことがあるとすれば――
(――触らなきゃならなくなった時にぶち破れるか、か)

45 :◆G.vg4o/Z7Q :2015/01/17(土) 12:55:31.03 0.net
魔法少女が纏っている武器装束が、見た目そのままの強度であることはまずない。
もしそうであるなら、今までくぐり抜けてきた戦いでとてもひどいことになっていたはずだ。
具体的に言えばをんな蘇民祭、それで分かりづらければ大破これくしょんである。

どれほどの攻撃を受けても肝心な部分だけは覆われている衣服、などという情景は創作作品でよく目にするはずだ。
逆に言えば肝心ではないどこかしらは結構な範囲で破れているということでもある。
対して萌には、例えば南雲の大殿筋(シノニム)や理奈の前鋸筋(隠語)を目撃した記憶はない。
自分の胸骨(詩的表現)などに関しても同様だ。

これはつまり、無意識の防御反応の現れと考えられる。
見えたら(社会的に)まずいという今までの人生で培われた常識や道徳観が、肌を傷つけることよりも晒すことを拒むのだ。
これをもし明確に意識、イメージして増幅できるのならGUNDAMと書いた段ボールで隕石を止めることすら可能だろう!

(……んなわけねーな)
などと自分の思考を打ち消したところで標識が動く。
>「自己紹介をしますね。私は『隠形派』の渉外担当。仲間からは"緑虫"って呼ばれています。
> そちらは『楽園派』のみなさまですね。なんとお呼びしたらいいですか?」

反射的に真言が言葉を発しかけて口ごもる。
南雲が麻子に話しかけた。
>「アダ名みたいなものかな……うーん、本名とかけ離れていて、かつ一言でわたしと結びつくような名前。
> まk――先輩、なんか良い案ある?」
>「ザ・バイオレンスとかピッタリじゃねえの」

返す麻子の言葉を聞いて、緑虫が朗らかな様子で手を一つ叩いた。
>「わかりました!ちょっと長いので略してバイさんとお呼びしますね!」
>「信憑性のある誤解を招くからやめて!」
「全くだ、コイツはGa-Chi-Re-Zだぞ!なめてかかったら心に傷を負うのはそっちだからな!そうっスよね先輩!」
萌は緑虫に指を突きつけ宣言する。
こんな場だもの。ハッタリくらいは必要じゃない。
それで被る風評被害は萌にはないので気にしなくてもよい。よいのだ。

>「っ。私。パンダ=Bです」
そんなやりとりの間に考えをまとめたらしい真言が自分の偽名を告げた。

(いらないって言ったらキレられるのかな)
外国のチーズのCMを思い出した萌だが、先に考えるべきことがある。
「――で、あたしかぁ」
萌も名乗らなくてはならないのだから。

46 :◆G.vg4o/Z7Q :2015/01/17(土) 12:56:30.68 0.net
と云われてもさっと浮かぶものではないが、とにかく考える――考える――考える――
(違う!変身後のイメージは消せ!ありのままの自分を好きになれ!)
どうも"ハガー"とか"アームストロング"と言った名前しか浮かんでこなかったらしい。

「んあー、えーと……あ、じゃあジーナ!ジーナで!」
3秒ほど悩んだ末に"美人"女子格闘家、ジーナ・カラーノのファーストネームをそのまま持ってくることにした。
標識の鉄板よりもなお顔面の皮膚が肥厚化しているようだ。
全くの余談ではあるが、ジーナは萌を少しウェイトアップしたくらいの体格でバックボーンもムエタイである。

他の面々も名乗りを終えていよいよ本題、の前に……
>「今回、立会人として中立的な立場にある人に同席してもらいました」
もう一人の紹介が残っていた。
現れた、いや元からそこにいた人物に注目が集まる。
彼女は"鉄血派"所属、九倍段と名乗った。
剣道三倍のさらに三倍ということか、と背に負った槍を見て萌は考える。

>「鉄血派さんが立会に来たっていうのは分かったけどさ。『もう一人』いるよね。そっちの紹介はしてくれないの?」
南雲の指摘に標識が瞬きをした。
むろん多分に萌の心象的な光景であって実際にはその鉄板の表面には歪み一つ無い。
>「あれ、わかります?実体化を解いて、結構深度の強いステルスをかけさせといたんですけどね」
そう答えた緑虫の手振りに応じて、虚空から何者かが現れた。

>「うちのボス、隠形派エルダーの戦闘用"式神"・『護法六式』です。
> ボスは基本うちの本拠から出てこないので、私の護衛用に借りてきました」
長身の女性の見た目を持つ"式神"を見上げながらアヒル口を作る。
("ボス"の"戦闘用"ねえ――)
少なくとも単体で考えれば隠形派の最強戦力と同義であろう。
そんなものをここに持ってくる理由はほんとうに護身だけだろうか?
萌は否と考えるし、他の面々も同様だろう。おそらく、"向こう"も。

>「それでは早速、うちの縁籐を殺した犯人の身柄を申し受けましょう。
> そのスーツケースの中身をこちらに渡していただけますね?」
ようやく今度こそ本題だ。

「……あたしが」
苗時の脇に進み出た萌がスーツケースのキャリングハンドルに手をかける。
ここまで来て、いや状況がどこにあろうと引き渡しを拒む理由はない。
車輪をガラガラいわせて引っ張り、緑虫の前へ。
「ま、一応検めてくださいな」
ケースの向きをくるりと180度変えてそれから一歩引く。
右手を腰に置いて、左手はぶらりと垂らす。
風で、掌の汗が冷えた。

【つまらないものですが……】

47 :名無しになりきれ:2015/02/08(日) 14:08:16.47 0.net
保守

48 :名無しになりきれ:2015/02/22(日) 17:52:37.58 0.net
保守

49 :名無しになりきれ:2015/03/24(火) 23:13:07.43 0.net
hossing

50 :名無しになりきれ:2015/04/19(日) 23:53:11.54 0.net
保守

51 :名無しになりきれ:2015/05/08(金) 15:13:27.97 0.net
hohoho保守

52 :名無しになりきれ:2015/06/15(月) 01:58:35.88 0.net
保守点検

53 :名無しになりきれ:2015/07/21(火) 15:23:55.42 0.net
保科

54 :名無しになりきれ:2015/09/02(水) 22:17:34.46 0.net
ふはは保守してやろう

55 :名無しになりきれ:2015/11/09(月) 23:27:25.94 0.net
愛建の魔法で社員が消える、いきなり冤罪が出来上がる
でっちあげで解雇。

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