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【特務機関:怪人運用支援局TRPG】

1 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/04(土) 21:10:17.06 0.net
ジャンル:バトル、現代ファンタジー
コンセプト:超能力なし、最大の武器は己の肉体
期間(目安):特になし

GM:あり
決定リール:相談の上で計画的に
○日ルール:5日。相談の上で延長可
版権・越境:なし
敵役参加:なし
避難所の有無:今後次第

2 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/04(土) 21:11:06.00 0.net
テンプレ
名前:
性別:
年齢:
性格:
外見:(容姿や服装など)
戦闘方法:(どんな戦い方をしますか)
志望理由:(なんで支援局に就職したの?)
備考:(その他のアピールポイントはこちら)

3 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/04(土) 21:12:13.71 0.net
 
 
 
もしも自分の腕を刃物に変形させる事が出来たら、全人類の半分ほどは、興奮を禁じ得ないだろう。
鋼鉄よりも硬くなったり、竜に化けたり、指先から炎を放てたら、気分はもう主人公だ。
だけどそれは、自分一人がそうだったら、の話だ。

もしそれらの事が自分だけではなく隣人も、または自分には出来なくて隣人だけが出来るとしたら。
クラスメートや会社の同僚に一人だけ、鋼鉄より固くて、腕を刃に変形出来る人間がいたとしたら。
それはもう、恐怖の種でしかないだろう。

世界は今、そんな状況だった。
人類は『常人』と『怪人』に分かれてしまった。
原因はわかっていない。だがそんな事はどうでもいいのだ。
問題は、互いが互いに殺されるのではないかと恐怖したり、劣った生物だと見下しあっている事だ。

それだけでは飽きたらず、どちらか一方を根絶やしにしてしまいたい連中もいる。
放っておけば、世界は終末の日を迎えてしまうだろう。

幸いな事に、君達は『出来る』方の人類だった。
『怪人』である君達は、自分の身体を意のままに作り変える事が出来る。
念動力や瞬間移動は使えないが、強化された腕力や刃は念動力よりずっと簡単に敵を殺せる。
上手く工夫すれば、爆発や冷気を操る事だって出来る筈だ。

内務省特務機関、怪人運用支援局は、いつだって優秀な人材を求めている。
特に、救いようのない馬鹿が多いこの世の中で、そいつらを掃除する実働部隊は何人いても損はない。
世界の破滅を引き起こしたくてたまらない狂人や、過激な差別主義者達を叩きのめすのが彼らの仕事だ。

思う存分に暴力を振るいたいか、或いは世界平和に興味があるか。
はたまた差別のない職場が欲しいのなら、君達にとってそこは天職だ。



内務省特務機関、怪人運用支援局、実働部隊の採用条件は非常に簡潔だ。
一つは、社会に対して有害でない事。
暴力的な傾向のある者でも、その欲求が犯罪者に向けられる限りは、部隊員として適格とされる。

もう一つは、強力である事。
現代社会において、戦闘経験のある怪人はそれなりにいる。
平穏に暮らしたくても、火の粉がどこからでも降り掛かってくる世の中だからだ。
その為、部隊の門戸は広く開かれている。
警官や自衛官であろうが、民間人であろうが、構わず採用されるだろう。

さて、物語を始める前に、まずは君達の生い立ちと人柄を述べて欲しい。
生い立ちと人柄とはつまり、どんな力を持っていて、どんな思想をしているのか、だ。

4 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/04(土) 21:13:29.02 0.net
主な設定

怪人について:
怪人は、見た目はただの人間です。
しかしその遺伝子配列は同一の個体であっても検査の度に変化しているなど、明らかに人間とは異なります。
何故彼らが誕生したのかは不明です。ウィルスや放射能による突然変異だと推測されていますが、確証はありません。
彼らは身体の組成を意のままに操る能力を持っています。

怪人運用支援局について:
怪人運用支援局は怪人の適切な運用方法を示し、社会にとって(常人と同程度に)安全かつ有益である事を証明する為の特務機関です。
表向きは怪人の能力を様々な分野に転用する研究をしていたり、犯罪への対処や災害救助に使用している、という事になっています。
ですが裏では、常人と怪人の対立を極端に深めかねない危険人物や組織を事前に排除するなどの暗躍もしています。
れっきとした行政機関の一部なので、望みもしない人を実働部隊に配属したりはしません。
ただし出世や待遇に関して露骨に言及されたりはするかもしれません。

怪人の能力について:
怪人は『肉体強化』『肉体変化』『性質変化』の三つの能力を持っています。誰もが持っています。
   
肉体強化を極めた場合、あなたは100mを走り抜けるのに三秒とかかりません。
筋肉の部位や感覚など、更に特化した強化も可能です。
が、肉体の強度の変更は肉体変化の範疇だという事を忘れるとひどい事になるでしょう。

肉体変化を極めた場合、あなたの身体はまさしく変幻自在となります。
タングステン鋼のドリルをマッサージ器代わりに使えるくらい固くなる事も可能です。
ですが、変化するのはあくまで構造や硬度であって、あなたは生身のままです。つまり燃えたり、感電したり、薬物の影響を受けたりします。

性質変化を極めた場合、あなたの身体は現代科学を超越します。
青酸カリをドリンク代わりに飲用し、プルトニウムを主食にして、胃の中で核分裂を起こす事だって出来るでしょう。
ただし、その際に生じるエネルギーに身体が耐えられる事は期待しない方がいいでしょう。

三つ全てを極める事は出来ません。
一つの能力を極める為に必要なリソースが10だとすれば、一人の怪人が持っているリソースも同じく10です。
特化型かバランス型か二極型か、それらは本人の気質と訓練によって変わってきます。

例えば炎を放つ能力が欲しければ、肉体に燃料のような性質を持たせ、更に液化させたり、噴射、着火する為の機構を作る必要があります。
そこまでした場合、もう肉体強化には多くのリソースを割く事は出来なくなるでしょう。
それに燃料を噴射するという事は、つまり肉体の一部を自ら切り離しているという事です。
当然、ただ肉体を強化して攻撃するよりも燃費は悪くなるでしょう。

またスポーツ選手がどんなスポーツでも一流の腕前でこなせる訳ではないように、怪人の能力も万能ではありません。
身体を燃料に変えて、十分な威力を発揮する為にはそれなりの訓練が必要です。その他どんな変化でもそれは同じです。
つまり、あまり多様な変化を全て実用化する事は怪人には困難という事です。
硬くなる変化を好む怪人は、軟化したり有機的な物に化ける事を苦手とするでしょう。逆も然りです。

怪人は常人よりも多くのエネルギーを体内に蓄える事が出来ます。
また彼らの回復力は常人とは比べ物にならないほど強力です。
しかし決して、どちらも無限大ではありません。

5 :名無しになりきれ:2014/10/04(土) 21:25:51.56 0.net
ちょっと面白そうじゃないか

6 :名無しになりきれ:2014/10/04(土) 22:15:04.91 0.net
ひさびさに良スレの予感

7 :名無しになりきれ:2014/10/05(日) 01:44:29.90 0.net
なんかいつもと違う感じ

8 :名無しになりきれ:2014/10/05(日) 01:45:12.64 0.net
まずGMがキャラ作成例を見せてくれよ
どこまでやってええかわからんがな

9 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/05(日) 02:24:46.03 0.net
>>8
>>4に記された性質の範囲内であればどんな能力でもOKです!
例えばサイコキネシスはNGですが、例えば肉体変化と性質変化を併用して
『背中からこっそり生やした触手(肉体変化)を透明化(性質変化)してあたかも念動力に見せかける』ならOKです

同じようにリーディングは禁止ですが『嗅覚や聴覚を強化する事で生理反応から嘘や意識の傾向を見抜く』のはアリです
色々と工夫して能力を作ってみてください!
具体的な例は

名前:鳴上雷花(なるかみ らいか)
性別:女
年齢:23
性格:堅物
外見:長身、黒髪、黒スーツ、任務の際は背中に翼が生える
戦闘方法:体細胞に発電、蓄電、帯電可能な性質を与え、攻防一体の翼を作り出す
       反面、肉体強化には殆どリソースを割けていない
志望理由:自分がバケモノ、頭のイカれた連中だという目で見られるのが我慢ならず、世の中を矯正したい為
備考:翼を生やすのは非常に真面目な判断であり、不用意に笑ったりするとすごく怒ります

こんな感じです。彼女の場合リソースの配分は「1:4:5」ってところでしょう

10 :名無しになりきれ:2014/10/05(日) 11:53:12.73 0.net
リソース配分もテンプレで明示化した方が良いかもね
最強厨対策にさ

11 :名無しになりきれ:2014/10/05(日) 13:04:07.16 0.net
怪人化は生まれつきですか?
それとも後天的に怪人化するんですか?

12 :ニキシー ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/05(日) 20:05:42.46 0.net
名前:NM4-01『ニキシー』
性別:女
年齢:発生時より3年 自認年齢は17歳
性格:ド素直
外見:後述の投影物に依存する。怪人としての容姿は栗色の直髪、童顔、真空管型の髪飾り

戦闘方法:電子統制のされている兵装を自在に操ることができる。
     任務内容によるが、戦闘機や戦車を操縦して戦う。
     屋内戦では汎用インターフェイスとしてセグウェイに銃器を積んで投入。
     また情報戦が得意の為、前線部隊に同行して支援を行うことが多い

志望理由:ネットワーク上を荒らしまわっていた所を支援局に摘発され、
     『本体』であるマザーデータの入ったHDDを差し押さえられた為。
     もともと行き場もなく、司法取引の一環でそのまま就職することに

備考:三年前までちょっと内向的なところのある普通の女子高生だったが、
   スマホのながら歩きで信号無視し、曲がってきたダンプに撥ねられ死亡。
   しかし魂だけは肉体から飛び出して弄っていたスマホに乗り移り、電脳怪人となった。
   もともと魂を情報体として操る能力をもった怪人として生まれたのか、
   それとも事故の瞬間に後天的に怪人性を獲得したのかは、不明。
   
   身体が肉体ではなく電磁波や磁気に似た『情報体』で構成されており、
   通常の生物とは異なる新陳代謝…情報を摂取しゴミデータを排泄することで生命活動を維持している。
   身体が情報でできている為、普通の三次元空間では生きられず、情報媒体の中にしか存在できない。

   逆に情報媒体であればどこにでも存在することができる。
   PCやスマホはもちろん、テレビやラジオ、新聞やメモ帳、シャツの柄、噂話など、
   情報をやりとりする媒体であればそこに記録された情報を書き換えて自分を投影することができる。

   肉体を情報に変化させた、肉体変化特化型の怪人。リソースは0:0:10。

   なお媒体同士を自由に行き来できるわけではなく、ネットワーク上を経由する必要がある。
   電子機器間を移動する場合は有線や無線で接続する必要があるし、
   新聞やノートなどの筆記媒体はそれを見る第三者の視線を使って移動する。
   任務前のミーティングには、支援局支給の小型汎用端末に自分を表示させて参加する。
   同行する者に端末を携帯してもらって任務に赴くこともある。

   上記の特性から、彼女は自分のことを『怪人』ではなく『怪談』の類だと称している。

   情報生命体であり、情報を喰らい排泄する存在である為、情報改竄の能力を持つ。
   転じてはプログラムを書き換えて電子機器を自在に支配し、
   強固なセキュリティをものともせずあらゆる情報にアクセスできる。
   (支援局のセキュリティは対怪人の特殊なものであり、また手を出せば厳重な罰則があるため彼女はなにもできない)

   マザーデータは支援局に管理されており、任務の際に出撃するのは彼女の複製個体である。
   複製個体には規定日数を過ぎると自壊するようプログラムが付されており、逃げ出すことは実質不可能。
   複製個体が任務から帰還してマザーデータにフィードバックされることで、自己連続性が保たれる。
  
   『NM4-01』のNMはNetwork Modification(改竄する者)の略であり、4-01は第四種電脳怪人の1番目という意味。
   第四種はそれまでのカテゴリに該当しない新種、珍種に設定される種別のこと。
   NMの銘を持つ電脳怪人はそれなりにいるが、戸籍のある肉体が死亡していることから第四種扱いに。
   『ニキシー』は彼女を人格のある生き物として扱う際に呼称されるコードネーム。
   生前の名前はもちろん別にあるし、そもそも彼女は日本人である。
  
   生命活動の為に否応なしに情報を食い荒らす彼女は、第三者から見れば悪質なワームのような存在である。
   そのため長らくネット上では蛇蝎の如く嫌われており、底深い孤独を抱えている。


【>GMさん 参加したいと思います、テンプレはこんな感じで大丈夫ですか?
  経験が浅く、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、なにとぞよろしくおねがいします!】

13 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/08(水) 02:36:55.39 0.net
>>12ですが、スレのコンセプトと違う感じがするので別キャラで参加します。
ニキシーというキャラはなかったことにしてください!ややこしくてすみません!


名前:流川 市香(ながれかわ いちか)
性別:女
年齢:19
性格:即物主義
外見:セミロングの色素薄い髪
   支援局の制服をウエットスーツ型に改造したものを着用
   ホルスターに無理やり差した鉄パイプを常携
戦闘方法:鉄パイプでの近接戦闘、奇策としてパイプ内に自分の身体を詰めて防御したり攻撃したり
志望理由:支援局で働く以外に活かしようのない怪人特性だったから

備考:高校卒業後支援局に就職した実働員。
   人としての意識を保ったまま、肉体を完全に液体化、気体化、固体化することができる。
   それぞれ液化気化している時は、自分の意思で自由な形状をとることができ、その鷹揚で蒸発や霧散を防いでいる   
   また己の肉体を変化させた液体・気体は、自分の意思で自在な科学的性質を持たせることができる。

   液化気化している時に吸い取られるなどして肉体を失った場合、人類の構成水分である70%までは失っても耐えられる。
   水分補給などで回復できるが、肉体の体積の70%以上を失うと、自己を維持できなくなり死亡する。

   リソースは肉体強化2:肉体変化4:性質変化4
   
   鉄パイプは中空になっていて、液化した肉体の一部を流してリーチを伸ばしたり、
   肉体の一部を気化させて内圧を高め、鉄砲のように内容物を飛ばすのに使用する。

   一見清楚な見た目で物腰も丁寧かつ勤務態度も真面目だが、
   現金と権力が大好きで頭のなかは俗っぽいことでいっぱいな女の子。
   最終的には自分さえ良ければ良いが、人から感謝されるのもそれはそれで気持ちが良いタイプ。
   環境によって善人にも悪人にもなりうる、典型的な小物。


【あらためて、よろしくお願いします!】

14 :名無しになりきれ:2014/10/08(水) 02:51:13.93 0.net
ありゃりゃ、面白いキャラだったんだけどねぇ……

15 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/08(水) 20:59:18.57 0.net
怪人運用支援局の採用面接は、その日程と会場を事前に開示しないようにされている。
不特定多数の怪人を一箇所に集めたり、集まる可能性を作るのは、どう考えても治安上よくないからだ。
それが公的機関に関わる事なら尚更だ。

支援局は簡単な事前調査の後、志望者の元へ案内人を送る。
会場は幾つも用意され、一つの場所に多くの志望者を集める事はしない。
そうすれば万が一相手や第三者がよからぬ事を企んでいても、被害は最小限に抑えられる。

「……つー訳で、今から面接会場に来てもらいます。延期は出来ません。
 ホントは出来るけど、また来んのダルいから来ない場合は辞退されたって事にするんでよろしく」

君達の元に訪れた案内人は身分証を提示するや否や、そう言った。
安物のスーツを着たその男はいかにも浅薄そうな風貌と振る舞いをしていた。

「あ、よく聞かれるから先に言っとくけど、詐欺とかじゃないぜ。俺はモノホンのエージェント。
 詐欺だったらこんな舐めた態度取らねーし、それに支援局に電話すりゃすぐ分かる事だ。あ、名前は雨場造利(あめば ぞうり)な」

君は彼を信頼してもいいし、電話確認を行ってもいい。
結局の所、彼は本当に支援局の案内人だ。
彼の運転する車に乗せられた君達が行き着く先は、東京都内の陸上自衛隊駐屯地だ。

「わりーけど、面接は屋外でやる事になってんだ。能力を見せてもらわなきゃなんねーし、
 腹ン中に爆弾隠し持ってたり、等身大の爆弾になったりする奴がちょいちょいいるんだよなぁ。
 ま、お互いの為って事で納得してくれよ」

君は屋外の訓練場に案内された。そこには、造利がもう一人いた。

「よう、お疲れさん」

「おう、んじゃ後よろしく」

二人の造利は気軽にそう言い交わすと互いの右手を顔の高さで打ち合わせる。
瞬間、君を案内してきた方の造利が衣服だけを残して消えた。
優れた動体視力を持つ者なら、彼がもう一方の彼に吸い込まれていく様が見えただろう。

16 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/08(水) 21:01:30.45 0.net
「……あー、なんだ。驚いたかもしんねーけど、気にしないでくれ。これが俺の能力なんだ」

それから暫くすると、黒いスーツを着た背の高い女性がやってきた。
背中には、どうした事か翼が生えている。

「……気になるかもしれないけど、ノータッチな。ありゃ極めて真面目にやってんだ」

「雨場、面接を始めるぞ。何を吹き込んだのかは知らんが、余計な事はするな」

黒スーツの女性は、名を鳴上雷花(なるかみ らいか)といった。
彼女の肉体は発電、蓄電、帯電と、電気に対して高い親和性を有していた。
またその副次効果として、電気の動きを直感的に察知する事が出来る。

「知っての通り、怪人運用支援局、実働部隊の採用条件は非常に簡潔だ。
 社会に対して有害でない事。能力が強力である事。この二つだけだ。
 だからまずは君達の志望理由を聞かせてくれ。嘘は吐くなよ。私は見破るぞ」

雷花は嘘を生体電流の変動として知覚する事が可能だった。
彼女の白い翼、それを構成する羽根の隙間に青白い光が走った。
もし君が嘘を吐いたのなら、どうなるのか。非常に分かりやすい説明だった。
帯電した翼が小刻みに震えてさえいなければ、完璧だっただろう。

さておき志望理由を述べれば次は、能力の開示だ。

「いよっし、誰も黒焦げにならずに済んで俺ぁ嬉しいよ。お次は、能力のお披露目だ。
 的は……この俺だ、ビビんなよ。ちゃんと使い物になるのか、証明してみせな」



【導入部です。
 >>流川さん、よろしくお願いします!】

17 :名無しになりきれ:2014/10/08(水) 23:18:10.69 0.net
アメーバ ゾウリムシ

ああ、なるほどね

18 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/09(木) 00:44:52.02 0.net
流川市香は怪人である。
怪人に生まれたからには、その特殊能力を活かした職につきたいと考えるのは自然だ。
自分にはそれしか誇れるものがないのだから。

例えば素晴らしい運動神経を備えるアスリートや、頭脳明晰な研究者は、
それぞれの持つ才能を活かした仕事で活躍することができる。
怪人の持つ特異体質というのは、本質的に言えばそれらの才能と同じ類のものだ。
「他人にはできないことができる」か、「人類にはできないことができる」かの違いでしかない。
むしろ、己の天分が生まれた時から可視化されている怪人の方が、
人生の選択をミスることがなくてお得だとさえ市香は考えている。

だから、せっかく怪人に生まれたのだから、怪人でなきゃできない仕事をしようと思った。
怪人である以外には、特に秀でたところのない、ごく平凡な女子高生である自分が、
唯一他人よりも優れていると自信を持って言える部分は、やはり怪人であることだけだ。

……というようなことを、面接で言おうと思っていたのだけれど。
向こうから歩いてくる面接官の姿を見た途端にそのあたりの小奇麗な志望理由は全部吹っ飛んだ。

>「……気になるかもしれないけど、ノータッチな。ありゃ極めて真面目にやってんだ」

市香をここまで連れてきたリクルーター(B)が頬を掻きながら紹介する。
面接官は女性だった。背が高く、黒髪には艶があり、棒を呑んだかのように整った姿勢に黒のスーツが良く映える。
いわゆる、文句なしの、十人十色も残らず頷く、クールビューティだ。
そしてその背中には、堕天使の如き黒い翼が一対生えていた。
スーツを着込んだ堕天使が、背筋をピンと伸ばして佇んでいた。

なにあれ超カッコイイ――!(失笑)

吐息を漏らしそうになって市香は即刻自分の頬を平手で張り倒した。
怪人は基本的に普段はヒトの姿そのままに生活している。
また肉体の形状は、物理限界はあるが思いのままに変化させることができる。
ということは、あの趣味感全開な翼は当人の判断で自分で出しているというわけで。
かっこいいと思ってやってるんじゃなければ狂人だ。
かっこいいと思ってやってるなら上級者すぎて市香にはついていけない。

>「雨場、面接を始めるぞ。何を吹き込んだのかは知らんが、余計な事はするな」

面接官はアメバと呼ばれたリクルーターを一瞥すると、襟に落ちた黒髪を掻き上げて風に流す。
その所作は本当に麗人といった感じで堂に入っているが、一緒に羽根もバサァっとやるのでぶち壊しだ。
彼女は面接を始める旨と一緒に、鳴上雷花というらしい自分の名前を名乗った。

>「知っての通り、怪人運用支援局、実働部隊の採用条件は非常に簡潔だ。
 社会に対して有害でない事。能力が強力である事。この二つだけだ。
 だからまずは君達の志望理由を聞かせてくれ。嘘は吐くなよ。私は見破るぞ」

19 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/09(木) 00:45:47.45 0.net
応じるように堕天使ウイングがビッカァーと青白く光を放った。
畳み掛けるようなセルフ後光に市香の腹筋は限界だ。
同様に面接に参加した者達が、それぞれ支援局へ志望した理由を答えていく。
嘘の効かない、つまり話を盛れない面接は足早に進行し、市香の番はすぐに来た。

「あの、桜ヶ丘女子の流川市香と申します。志望動機は、えっと、その……」

どうしよう。嘘は見抜くと言われた。
現にこちらの動揺を感じ取ったのか、電気ウイングが燐光を纏いながらゆらゆら揺れている。
電気を扱う怪人は何度か見たことがあるが、あれほど純度高くエネルギーを集約させることのできる者は一握りだ。
出オチのような見た目でも、国家機関の正規職員である彼女は、エリート怪人なのだ。
この際理由を飾るのはやめよう。それで駄目なら縁がなかったと思うしかない。

「約束された高給と、手厚い福利厚生、何より同級生に自慢できる国家公務員というステイタス。
 フツーなら一流大学出ないと手の届かないそんな身分に、ただ怪人に生まれただけで挑戦できるんですよ!
 そりゃ志望しますよむしろこんだけ恵まれた条件揃ってて志望しない人馬鹿なんじゃないですかっ!?
 履歴書出すだけならタダなのに!そりゃ危険な仕事ですけど、その分ここの保険めちゃくちゃ条件良いですよ!?」

言ってしまった。盛大に本心をぶち撒けてしまった。
本当なら『怪人の社会貢献を内側から提唱したい』とかそれっぽい綺麗な理由を用意してきたのに。嘘だけど。
市香は肩で息をしながら、どうにかこの場を収集する方法を必死に考えていた。

「はーっ、はーっ……次、能力をお見せします、ね!」

市香は身体の力を抜いた。
そのまま脱力し、四肢が溶け肉体が重たい水になるイメージ。

「――!」

バシャっと水音のあと、市香の姿が消えた。
彼女のいたはずの場所には市香が着ていたはずの桜ヶ丘女子の制服が脱ぎ散らかされて落ちている。
そして、水はけの良いグラウンドの地面に、黒く水の染みた跡が残っている。
その染みが、市香の声で喋った。

「わたしは自分の肉体を、意識を保ったまま相転移させることができます。
 いまは液状化していますけど、気化したり、逆に固体に戻るのも自由自在です。
 この状態のわたしには物理攻撃が殆ど効果がないので、簡単には死にませんよ」

染みはゆっくりと地面を泳ぐように、あるいは影が滑るように移動し、鳴上の足元まで寄ってきた。

「だから鳴上さん。この状態だからこそ、貴女に言わせてほしいことがあります」

地面の染みは、たっぷりと数秒の間を置いてこう言った。

「――わたしの志望理由は怪人の社会への貢献を、怪人コミュニティの内側から訴えかけることです!」


【ナチュラル煽り】

20 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/12(日) 15:30:19.56 0.net
もう2,3日ほど経ったらシナリオを開始しようと思います
それまで少々お待ちください

21 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/12(日) 16:21:08.44 0.net
>>11
回答が遅れてすみません

怪人はある日を境に突然発生しました
それまで普通に生きてきた人間の中にも、突然変異のように目覚める形で怪人化する者がいました
それ以降は先天的に怪人として生まれてくる者もいます
「ある日」以降も後天的に怪人の能力に目覚める者はいます

22 :十崎 健吾 ◆A7C.Gfvp1Q :2014/10/15(水) 23:12:38.89 0.net
名前:十崎 健吾(じゅうざき けんご)
性別:男
年齢:27
性格:面倒くさがり
外見:やや長めの黒髪で、前髪で目を隠している。髪に隠れた瞳は戦闘時になると緑色に変色する
   ダサい文字の書かれたシャツと、丈夫なだけが取り柄のジーンズ。その上に白衣を羽織っている。
   
戦闘方法:能力によって自身の視力を超強化した上での近接戦を得意とする。
     可視光線域の拡大から、動体視力の超強化に至るまで、非常に高い性能を持てる様になる
     昆虫の複眼や望遠レンズ、暗視カメラ、ハイスピードカメラの良い所だけを寄せ集めた様な能力である。
     リソースは肉体強化4:肉体変化5:性質変化1 程
   
志望理由:借金の返済、及び復讐の遂行の為

備考:元高校教師。教師時代は明るく面倒見の良い人物であったが、
   担任を持って二年目に担当したクラスの生徒、その殆どが目の前で怪人に惨殺される事件に遭遇し、自主退職。
   事件の1年後に怪人として目覚める事となった。
   基本的にやる気が感じられないダメ人間であり、事件の際に出来た借金5千万を抱えている。
   カップ麺が好物。

【参加希望です。問題があればガシガシ指摘してやってください】

23 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/15(水) 23:17:21.33 0.net
>>22
非常に正統派な能力でいい感じだと思います!
シナリオの開始は延期いたしますので、導入の投下をお願いします!

24 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/16(木) 00:29:33.00 0.net
>>22十崎さん

よろしくおねがいしますね”

25 :十崎 健吾 ◆A7C.Gfvp1Q :2014/10/17(金) 01:00:17.04 0.net
十崎健吾は金が無い。

それはもう、日々の食事にすら困るレベルで金が無い。
コンビニで貰った廃棄弁当を食って飢えを凌ぎ、公園の水で喉を潤す毎日を過ごす。
そんなレベルで、十崎健吾には金が無い。

金がない理由は、それはもう簡単だ。『借金』である。
それも、100万や200万といった単位ではない。

――1億5000万9120円。

それが十崎の背負っている借金の総額であり、その利子や支払いの滞納諸々。
様々な要素が十崎から金と言う金を毟り取っていき、それが故に彼は食うに困る程に金が無いのだ。

当然、金が無くては余裕も無く、余裕が無ければ心無くなる。
特に、ここ数日はお世話になっているコンビニの店長が風邪をひいたお蔭で廃棄弁当すら手に入らず、
水と塩しか食べていなかった十崎は『怪人』としての生命力を持ちながら命の危機を感じ始めていた。

だから、この馬鹿馬鹿しい悲劇が起きたのは、必然であったのかもしれない。

>「……つー訳で、今から面接会場に来てもらいます。延期は出来ません。
>ホントは出来るけど、また来んのダルいから来ない場合は辞退されたって事にするんでよろしく」

「……いや、違うから。これ、違うから」

大家を伴って十崎の住むボロアパートの鍵を開けた、国家機関のエージェント。
彼は目撃してしまった。

十崎が、茶碗の上に格安のドッグフードを盛り付け、それを口に入れようとする瞬間を。

>「あ、よく聞かれるから先に言っとくけど、詐欺とかじゃないぜ。俺はモノホンのエージェント。
>詐欺だったらこんな舐めた態度取らねーし、それに支援局に電話すりゃすぐ分かる事だ。あ、名前は雨場造利(あめば ぞうり)な」

「オーケー分かった。信じる。確かに前に通知も届いてたから、俺はお前を信じる。だからお前さんも俺を信じよう。
 何事も無かったかの様に淡々と話すのよそうぜ?せめて目を合わせようぜ。目を。な?」

……エージェントと怪人の邂逅。それは、本来こんな間の抜けた演出ではない筈だ。
実に不幸な事である。十崎にとっても、雨場にとっても。

――――

26 :十崎 健吾 ◆A7C.Gfvp1Q :2014/10/17(金) 01:00:50.25 0.net
なんやかんやあり、雨場に車に乗せられ面接会場へとやって来た十崎。
履歴書まで出したのだから、てっきり屋内で面接でも行うのかと思っていたが、
驚くべきことに辿り着いたのは東京都内の陸上自衛隊駐屯地であった

>「わりーけど、面接は屋外でやる事になってんだ。能力を見せてもらわなきゃなんねーし、
>腹ン中に爆弾隠し持ってたり、等身大の爆弾になったりする奴がちょいちょいいるんだよなぁ。
>ま、お互いの為って事で納得してくれよ」

「……了解だ。そりゃいるわな、犯罪組織にとっちゃ屋内面接なんてボーナスステージみたいなもんだろうし」

雨場の後ろを付いて歩きながら、説明を聞いた十崎はうんうんと頷く。
と。そこで十崎は正面から一人の男が歩いてきたのに気づく。

「……あ?」

そして抱く、強烈な違和感。
当たり前だろう。正面から歩いてきたのは、十崎の前を歩く雨場とそっくり――――いや。まるで双子の様に瓜二つな人間だったからだ。
こいつは双子なんだろうかと、十崎がそう思った直後、彼は更に驚愕する事と成る。
二人の雨場が、ほんの僅かの間に一人になったからだ。

>「……あー、なんだ。驚いたかもしんねーけど、気にしないでくれ。これが俺の能力なんだ」

「……へいへい、能力、能力ね。随分と変わった能力だな。せめて、前振りでもしてくれると驚かずに済んだんだが」

十崎は、一人の雨場がもう一方の雨場に吸い込まれて消えていく姿がはっきり見えていた為さほど驚かずに済んだが、
初見の人間なら混乱する事請け負いだろう。
……いや。『もう一人の雨場』に連れてこられた、パッと見清楚っぽい見た目の女が驚いていない辺り、
この怪人が繁茂するご時世では二人が一人になる事なんていうのは、そうそう驚く事ではないのかもしれないが

それから暫くの間、その場で雨場につまらない質問をしつつ待機していた十崎だったが、
一人の女が正面から歩いてきた事でその会話は途切れる事となった。
その歩いてきた女は、美しい黒髪に怜悧な美貌を纏っていたが……それらを霞ませるほどの特徴を有していた

「なあおい、なんか羽付けた変なコスプレしたねーちゃんが紛れ込んでき」
>「……気になるかもしれないけど、ノータッチな。ありゃ極めて真面目にやってんだ」

女の背に生えた翼を見て良からぬ事を言いかけた十崎だが、雨場に遮られて口を紡ぐ。
翼の女が面接官であると気づき、雨場の様子から言い切ってはいけないと判断した為だ。
最も、9割方言い切っていたので手遅れかもしれないが。

>「雨場、面接を始めるぞ。何を吹き込んだのかは知らんが、余計な事はするな」

そんな十崎の言葉に気付いていないのか、それとも気付いた上で無視しているのかは判らないが
女――鳴上雷花(なるかみ らいか)と名乗った女は受験者に志望動機を述べる事を指示した。
その羽に青白い電気を流しつつ、である。

かくしてここに物理的な圧迫面接が始まった――――

27 :十崎 健吾 ◆A7C.Gfvp1Q :2014/10/17(金) 01:04:08.74 0.net
……まあ、そうはいっても。ようは嘘を付かなければいいだけの話であり、
十崎の順番が回ってくるまで受験者が消し炭になる様な事態は起きなかった
この様子なら、自分も普通に面接を受けきれるだろうと思い、内心ホッとしていた十崎であったが、
十崎の順番の直前で、それは起きた。

>「あの、桜ヶ丘女子の流川市香と申します。志望動機は、えっと、その……」

先程のパッと見清楚っぽい外見をした女が

>履歴書出すだけならタダなのに!そりゃ危険な仕事ですけど、その分ここの保険めちゃくちゃ条件良いですよ!?」

盛大に

>「――わたしの志望理由は怪人の社会への貢献を、怪人コミュニティの内側から訴えかけることです!」

やってくれた。

(おいおいおい、この嬢ちゃん何してくれてんだ!?なんで面接官煽りに言ってんだよ!?)

ヒクヒクと口の端を痙攣させながら、十崎は女……流川市香の動向を考察する。

(いやいやいや、待て。何か考えがあるのかもしれねぇ……生身で盛大に本音をぶちまけて、
 自身が安全な状態になってから面接向けの理由を言う理由が必ず――――って、んなもんあるかっ!!)

見れば、鳴上の帯電が若干強くなった様な気がする。流川は攻撃が効かないと言っていたが、
果たして強力な電撃を流されて完全に無事である保障などあるのだろうか。
最悪の事態を想定し普段はローギアで動いている脳を珍しく活性化させた十崎は、なんとかこの場を収める方法を思考するが
そんなものが簡単に出てくるわけも無い。結果、彼に出来た事は一つだけだった

「俺は十崎健吾!27才の無職だ!しかも借金が1億5000万ある!
 志望理由は給料が良いから借金の返済に充てたいのと、借金取りから逃げる為だっ!!
 ちなみに、ここの面接に受からなかったら10年くらい地上に戻れない系の仕事に就く事になる――――以後お見知りおきを!!」

鳴上と、液状化した流川の間に割り込むようにして入っての絶叫。
その言葉に嘘が無い事は鳴上が見れば一目瞭然だ。

「ゲホッ、ゲホッ……ちなみに怪人としての能力は、視力の強化だ。
 ここから見える監視カメラの位置を全部当てられる位には精度が良い。
 後は……そうだな、面接官さん。あんた昨日夜更かししたな?目の毛細血管が細かく断裂してるぜ」

絶叫を終えた十崎は、咳き込みながらそう続ける。
大変失礼な言動ではあるものの、流川の行動のインパクトを薄める一助になった事だろう。
現に、それを言い切った時の十崎の表情は――――とても、やってしまった的なものだったのだから。

【十崎:やっちまった】

28 :十崎 健吾 ◆A7C.Gfvp1Q :2014/10/17(金) 01:05:12.94 0.net
>>23
>>24
お二人とも宜しくお願いします!
初回はレス長めでしたが、次回以降は短めになると思います!

29 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/20(月) 02:13:27.77 0.net
>「あの、桜ヶ丘女子の流川市香と申します。志望動機は、えっと、その……」
>「約束された高給と、手厚い福利厚生、何より同級生に自慢できる国家公務員というステイタス。
  フツーなら一流大学出ないと手の届かないそんな身分に、ただ怪人に生まれただけで挑戦できるんですよ!
  そりゃ志望しますよむしろこんだけ恵まれた条件揃ってて志望しない人馬鹿なんじゃないですかっ!?
  履歴書出すだけならタダなのに!そりゃ危険な仕事ですけど、その分ここの保険めちゃくちゃ条件良いですよ!?」

「あー……なんだ。確かに嘘は吐くなって言ったけどさ。別に本音を洗いざらし吐けって訳じゃないんだぜ。……もう遅いけど」

長口上を一息に述べて息を切らせた市香に、雨場は決まりが悪そうにそう言った。
支援局側がこの面接で確認したいのは、相手にこちらを騙す意図があるかないか、それだけだ。
要するに、テロリストの類が局内に潜り込むのを避けたいだけなのだ。
間違っても、眼前の少女が腹の底に隠した欲望がいかに煩雑で、膨大であるかが知りたかった訳ではない。

「……ふむ、よく調べているな。現実的で、方向性はどうあれ生真面目な気質……部隊員として好ましいぞ」

しかし雷花の態度は極めて平静だった。
怪人運用支援局は、思想の善悪など問いはしない。
辛うじて大規模な対立は免れているとは言え、社会は未だ不安定なまま。選り好みしている余裕はない。
むしろ思想と実利を区別して考える事の出来るのなら、その人物は賢く、有用だと判断する。

>「はーっ、はーっ……次、能力をお見せします、ね!」

とは言え、半ば捨て鉢で本音をぶち撒けた市香にそんな事を察する余裕はまだないだろう。
と、不意に小さな水音を伴って、市香の姿が消えた。
中身を失って崩れ落ちた制服を、その場にいた皆が目で追い、そして地面に生じた黒い水溜りを発見する。

「……もしかして、市香ちゃん?」

雨場が恐る恐るといった様子で、水溜りを相手に問いかけた。

>「わたしは自分の肉体を、意識を保ったまま相転移させることができます。
  いまは液状化していますけど、気化したり、逆に固体に戻るのも自由自在です。
  この状態のわたしには物理攻撃が殆ど効果がないので、簡単には死にませんよ」

かくして答えは返ってきた。
耳も口も形を留めていない状態だが、どうやら五感は保たれているらしい。
市香は地面を這うようにして雷花の傍へと移動した。

>「だから鳴上さん。この状態だからこそ、貴女に言わせてほしいことがあります」

そして、数秒の沈黙。

>「――わたしの志望理由は怪人の社会への貢献を、怪人コミュニティの内側から訴えかけることです!」

「……なんだ、それは?脳みそまで液状化した副作用か何かか?」

水溜りを見下ろす雷花の両眼が怪訝そうに細った。
まさかこの状況で自分をおちょくる人間がいるとは思えない。
とは言え、彼女にとってそんな事はどうでもよかった。

「まぁ、動機はどうあれ、それは嘘だな。そして私は嘘を吐くなと言った」

雷花の翼に走る雷光が一際激しさを増す。
そして――

30 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/20(月) 02:16:37.52 0.net
>「俺は十崎健吾!27才の無職だ!しかも借金が1億5000万ある!
  志望理由は給料が良いから借金の返済に充てたいのと、借金取りから逃げる為だっ!!
  ちなみに、ここの面接に受からなかったら10年くらい地上に戻れない系の仕事に就く事になる――――以後お見知りおきを!!」

今にも雷撃を放たんとした彼女の眼の前に、一人の男が立ちはだかった。
十崎健吾――今回の志望者の一人だ。
いかに雷花の頭が固いとは言え、彼が自分の前に躍り出た理由くらいは分かる。

>「ゲホッ、ゲホッ……ちなみに怪人としての能力は、視力の強化だ。
  ここから見える監視カメラの位置を全部当てられる位には精度が良い。
  後は……そうだな、面接官さん。あんた昨日夜更かししたな?目の毛細血管が細かく断裂してるぜ」

見た目によらず根性がある――それに便利な能力を持っている、と雷花は評価した。
眼が良いという事はそれだけ対応力に長けるという事だ。
任務によって様々な状況に置かれる事になる実働部隊にはお誂え向きだ。

「ふむ、やや向こう見ずだが見知らぬ他人の為に身を投げ出せる勇気は評価出来る。
 素晴らしい兵士になれるだろう。経験を積む前に死ななければだが。
 能力も良いぞ。どんな状況下でも一定の戦術価値を保てるだろう。だが……」

瞬間、風切り音と紫電が走る。

「それはそれ、嘘は嘘だ。見逃しては示しがつかん」

雷花はどうしようもなく堅物だった。
水溜りの中央に、青白い光を帯びた羽根が突き刺さっていた。
電磁力によって発射されたそれは、例え怪人であろうと全身の細胞を蹂躙し、死に至らしめる必殺の鏃だ。
勿論、今回は間違っても殺してしまってはいけないので威力を加減してあるが。

「……だが、なるほど。簡単に死なないと言うのは嘘じゃなさそうだ。面白い。そして実に有用だ」

けれども市香の生体電流――生命反応は依然、健在だった。
いかなる論理によってかは分からないが、彼女は電撃を無力化したのだ。

考えてみれば、彼女は液状化した状態で意識や随意運動を保てている。
つまり、彼女の体内では特異的な電気信号の伝達が行われているという事だ。
電撃が通用しなかったのは、それが関係しているのだろうと、雷花は推察する。

運動エネルギーによる攻撃に強い怪人は幾らでもいるが、化学的な攻撃に強い怪人はそう多くない。
化学的な攻撃とは例えば、熱、電気、毒物などだ。だが市香にはそれらの多くが通じないだろう。
攻撃能力はまだ未知数だが、便利な能力だ。

「しかし……その性質変化。科学研究部の被験体を志望した方が良かったんじゃないのか?
 週に一度、スプーン一杯ほど体組織を提供するだけで何一つ不自由のない暮らしが出来たろうに。
 科学技術の飛躍的な進化の立役者として、国家公務員などとは比べ物にならない名誉も望めた筈だが……」

液化、気化した状態で意識を保てる市香の身体組成は、科学的に見ても非常に有用だ。
液状ストレージを始めとした様々な科学技術の進歩の、まさしく呼び水となれた筈だ。

「いや、無粋な話はよそうか。君は己の成功と名誉よりも、社会への素朴な貢献を選んだ。
 素晴らしい事だ。文句なしの採用だよ、流川市香」

雷花が邪さの滲む笑みを浮かべる。
彼女の視界の外で、雨場がご愁傷様と言いたげに頭を振った。

31 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/20(月) 02:17:53.07 0.net
「君もだ、十崎健吾。借金返済の為と言ったのは嘘ではないだろうが……君はそれだけの人間ではないようだ。
 さっき見せてくれた勇気と行動力、そして……いや、とにかく期待しているぞ」

雷花は生体電気の気配を感じ取れる。
その第六感は、朧げにではあるが十崎が嘘は吐いていないが、全てを告白してもいない事を感じ取っていた。
だが、追求はしない。少なくとも敵意は感じなかったし、彼は語らなかった。それが全てだ。

「さぁ、すぐに入局、入隊の手続きをしようか。それが終わったら、早速だが任務に就いてもらおう。
 何、そんな難しい任務じゃない。君達の小手調べと言ったところだ」

駐屯地の基地内へと歩き出した雷花は、そう言うと一度立ち止まり、君達を振り返る。

「君達には福島へ付いて来てもらう」

また言うまでもない事だが、彼女の翼は小さく収納されたものの、未だ生えたままだ。


【福島県某所】

『――いいか。この区域に民間人はいない。いるのは第三次世界大戦の火種になりたい馬鹿だけだ』

支給されたインカムから、部隊長――鳴上雷花の声が聞こえてくる。
君達にはインカムの付属品としてスロートマイクが支給されている。
喉に巻きつける事で、囁くような声でも十分な音量で通信が可能になる装備だ。
肉体を強化した怪人は聴覚も鋭敏になる。音による発見の危険性を少しでも下げる為の措置だ。

君達は今、薄夕闇の中、荒廃した住宅地にいる。
そこは治安が今よりも酷かった頃、警察組織の拠点が遠く、無法地帯化した為に放棄された区域だった。
今では過激な思想を持つ怪人達の活動拠点の一つとなっているようだった。
こういった拠点は全国各地に点々と存在している。

ここにいる連中は過激派怪人の中でも一等厄介だ。
奴らは『放射能』を信奉しているのだ。

放射線信奉者、通称ラディスチャンと呼ばれる彼らは、怪人が誕生した理由を放射線による遺伝子の変質だと信じている。
その為、放射性物質をなんとかして手に入れようと常に目論んでいるのだ。
原子力発電所への不審な接近も一度や二度ではない。

『制圧に際して、奴らの生死は問わん。いや、むしろ積極的に殺すべきだ。奴らを野放しにし続ければ、
 いずれ私達怪人は放射線を有難がるイカれた存在だと皆が思うようになるだろう。
 それは実に不愉快だ。そう思わんか?』

怪人の出現と治安の悪化以来、原子力発電所の防備はどこも非常に強固になっている為、大事には至っていない。
しかし、ここの連中が一線を超えた行動を起こすのは時間の問題だ。
故に支援局は彼らを制圧すべきだと判断した。

『……待て、様子が変だ。……奴ら、また何かやらかしに行くつもりだな。それも大人数だ。
 まったく、ろくでなし共め。奴らの準備が整う前に全て終わらせるぞ。行動開始だ』

作戦内容は至って単純だ。
ラディスチャン達の潜伏区域を包囲し、殲滅しながら住宅街の中心地を目指す。それだけだ。

『言うまでもないが、隠密行動を心掛けろ。
 所詮は烏合の衆……数の差など気にはならんが、取り逃すと面倒だ。
 それと万が一に備えて、可能ならば奴らの足に細工をしておくんだ』

「……とは言ってるけど、まぁ気楽にやれよ。どうせ隊長の性質変化がありゃ、残党狩りなんてすぐ終わるんだ」

雨場が君達の背中を軽く叩く。
君達は彼と共に、住宅地の南方からの攻略を任されていた。

32 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/20(月) 02:19:36.17 0.net
移動が開始される。
雨場は指先を細く伸ばし、その先に眼球を作り出して、周囲を確認しながら進んでいく。
どうやら彼は肉体変化にそれなりの適性があるようだ。

そうして何度目かの曲がり角に差し当たった時、雨場が左手で止まれと合図した。
その手の甲に文字が浮かび上がる。
「角を曲がった先に三人。背後が取れる」との事だった。

どうやらその三人の内、一人は車に荷物を積み込んでいて、残る二人は談笑しているようだ。
君達に大雑把でない肉体変化が可能なら、その様子が確認出来るだろう。

雨場は「初仕事が簡単で良かったな。俺が先に行くから、残りは任せる」と、手の甲を介して君に伝えた。
傍に落ちていた小石を拾い、軽く上へと放り投げ、すぐさま近くの石塀に登る。
小石が地面に落ちて、硬質な音を立てた。

敵の注意がそちらへ逸れて――雨場が跳びかかる。
彼の右手が一人の胸に触れ、あり得ないほど滑らかに深くめり込んだ。
攻撃は明らかに心臓、脊椎にまで達している。が、怪人にとってはこれでもまだ致命傷とは言えない。
それでも再生が完了するまでは動きが鈍る。

間髪入れず、左の掌底を放つ。まるで泥を掻くかのように、敵の頭部が抉れた。
これでやっと致命傷だ。脳を大きく損壊して生きていられる怪人は、殆どいない。

残った二人は、呆気に取られている。
彼らが声を上げ、そして一人を仕留めたばかりで隙だらけの雨場に襲い掛かるには、まだほんの僅かにだが猶予があるだろう。



【バックスタブかますだけの簡単なお仕事?】

33 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/20(月) 23:23:18.94 0.net
>GMさん

質問です!
面接から任務は即日ですか?期間が開いていますか?
また、インカム以外に支給されている装備はありますか?(武器含む)

34 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/21(火) 02:09:38.04 0.net
>>33
即日です。雷花曰くテロリストは待ってくれないだそうですが
待ってくれない度合いで言えば雷花の方が遥かに上です

装備は怪人の特性上、必要な物がまるで違うので、規定の物は通信機器くらいです
ですが要求すれば余程手の込んだもの以外は用意してくれます

35 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/22(水) 07:29:20.03 0.net
>>34
了解しました!
ありがとうございます!

36 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/24(金) 00:52:21.22 0.net
地面の染みこと流川市香が放った『建前』を受けて、その場は暫し凍りついた。
雨場は口を開いたまま唖然としているし、並んで面接を受けていた男は口端を痙攣させ明らかにドン引きだ。
そしてなにより、無自覚な煽りをくらった鳴上は、氷で出来た能面のような表情で静かに目を細めている。

>「……なんだ、それは?脳みそまで液状化した副作用か何かか?」

(あわわわ、やっぱり激おこでいらっしゃる……!!)

彼女は『嘘が見抜かれる』というこの状況にあって、"嘘をつかない"という真っ当な対応ではなく、
"如何にして嘘をつくか"という方向へ腐心することを選択したのだ。

鳴上は面接官だが、いわゆる『面接の場で志望者と話をする人』という位置づけの面接官には採用決定権はない。
無論、小規模な組織や最終面接ではその限りではないだろうが、曲がりなりにも支援局は親方日の丸の官公庁だ。
確か組織的には内務省の下役にあたるはずだから、実際の人事は内務省人事課か内閣人事院が担当するはず。

鳴上はいわば、志望者と話をして、その人となりや受け答えを情報として記録して報告する立場に過ぎない。
彼女は支援局に雇用されたエージェントであって、支援局を運営するオフィサーではないからだ。
無論、実働員として共に働きたいか否かの所感を現場の目で判断する役割もあろうが、
実質的には、鳴上は『虚偽の受け答えをする者』を撃退してふるいに掛けるためにいるのだろう。

ならば、例え鳴上に嘘を見抜かれたとしても――
建前の志望動機を答え、なお鳴上からの攻撃に耐え切り面接を続行することができれば、
鳴上の面接を突破したという事実をもって記録上『真実の志望理由を述べた』ということになり、
前もって用意しておいた小奇麗な理由が心からの信念として採用権を持つ幹部達に伝わることになるのだ。
ほかならぬ鳴上の能力が、その虚偽看破の実績に対する信頼が、市香の戦略を裏付けている。

と、そんな思惑だったのだけれど。
鳴上の背から生えた性質変化、通称堕天使ウイングが纏う高圧電流は市香の想像を絶していた。
目論見自体に穴はなかった。ただ単に、想定が甘かった。
流石に国家機関のエージェントが、まだ民間人である市香を殺傷するレベルの攻撃を放ってくるわけがないと。
そう甘く……現実に比してみればとんでもなく甘く、見積もっていた……!

(あれ……これ、ヤバいんじゃ……)

怒りに我を忘れているのか、それとも初めから民間人の殺戮程度許容されている組織なのか。
青白く輝く翼は当初の二倍近くに膨れ上がり、表面を這い回る紫電が大気を叩く音がいやに聴覚に響く。
液状化している今ならちょっとやそっとの電撃なら耐えられると踏んでいたが、
ちょっとマジで死ぬかもしれない。

鳴上の翼が嘶き、覚悟の決まらないまま市香が目(だった液体)を瞑りかけたその時!

>「俺は十崎健吾!27才の無職だ!しかも借金が1億5000万ある!

両者の間に割って入るように飛び出してきた男が絶叫した。
十崎と名乗ったその男、よく見れば同じ面接に来ていた志望者の一人である。
彼は己の窮状と、それを打開せんとする為の志望理由を早口に述べる。
流石に面食らったのか鳴上の双眸に満ちていた怒気が少しだけ引っ込む。

>「ゲホッ、ゲホッ……ちなみに怪人としての能力は、視力の強化だ。

(もしかして、助けてくれた……?)

十崎が面接の手番を引っ手繰ってくれたお陰で、市香を糾弾する空気が霧消していくのがわかる。
天然ではあるまい。彼は明確に、市香のピンチを悟って仲裁してくれたのだ。

37 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/24(金) 00:53:42.35 0.net
>「ふむ、やや向こう見ずだが見知らぬ他人の為に身を投げ出せる勇気は評価出来る。

ほら、なんかウイングさんも市香を救った十崎の行動にグッジョブ言ってるし。
場の雰囲気が十崎を中心に和やかな方向にまとまりつつある!

>「それはそれ、嘘は嘘だ。見逃しては示しがつかん」

――と思ったが、違った。
ピシャアアアン!と耳をつんざくような轟音と共に青白い稲光が大気を貫き、市香(汁)を打ち据えた!

「あぎゃぎゃぎゃやっぱりーーーッ!?」

紫電は市香の肉体へ着弾すると、速やかにその全組織を駆け巡り、蹂躙した。
汁怪人はもはや声すら出ない。瞬きすら追いつかないほどの一瞬で、全ては終わった。
彼女は沈黙し、名実ともにただの地面の染みに成り下がった。

>「……だが、なるほど。簡単に死なないと言うのは嘘じゃなさそうだ。面白い。そして実に有用だ」

「"簡単に死なない"ってのは、楽に死ねないって意味じゃないんですよ、鳴上さん」

やがて、地面の染みはゆっくりと移動し、脱ぎ散らかしていた桜が丘女子の下に潜り込む。
染みが地面から盛り上がり、砂や土が剥がれ落ち、先ほどの逆再生を見るように市香の肉体が人のものに戻る。
制服はおろか、下着まできっちり付け直していた。

「ほんとにしぬかとおもった……」

深く溜息をつく市香の身体は、どこも焦げていないしダメージを負った様子もない。
確かに雷撃を直撃した彼女がどうやって難を逃れたかと言えば、単純に、深く地面に潜ったのだ。
ここ、陸上自衛隊駐屯地は、戦車などを運用する都合上、通常よりも地盤を強固にする必要がある。
造成の際、グラウンドに土を入れる前に、鉄筋コンクリートで基礎を強化しているのだ。
市香は肉体を細く伸ばし、地中の奥、その鉄筋に触れたところで電撃を喰らった。

38 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/24(金) 00:54:14.69 0.net
雷に当たったり、感電することでダメージを受ける原理とは、
あまり電流の流れない(抵抗値の高い)物体を強引に通過することによって起きる、『絶縁破壊』と呼ばれる現象だ。
その威力は絶大であり、木々に当たれば幹を引き裂くし、コンクリ建築ですら焼け焦げ砕け散る!
逆に、電流をよく通すものに雷があたった場合、大抵はそのまま素通りして破壊は起こらないッ。
避雷針に雷があたっても無事なように! 電線の中を高圧電流が流れても電線が灼けることがないように!!

御存知の通り、不純物の混じった水は抵抗値がほぼ0に近い高電導体だ。
そして人間の肉体とは、70%を水分で構成している、まさに不純物の混じった水である!
市香は己の肉体をアース代わりにし、地中の鉄筋へと高圧電流を受け流したのだッ!!

対策を思いつき、地中深くにある鉄骨を見つけ出すのに2分かかった。
それは、十崎が体を張って稼いでくれなければ捻出しようのない時間だった。
紛れも無く、十崎がいなければ――鳴上に殺意がなくとも――市香は無事では済まなかった。
その事実を思い、市香の背中は冷や汗で滝のようだ。

>「しかし……その性質変化。科学研究部の被験体を志望した方が良かったんじゃないのか?

「えっ……そうなんですか?」

そんな、喰って寝て、ときどき細胞を提出するだけでお金が貰えるなんて、都合の良い商売があるのだろうか。
マジで?ほんとに?この肉体にそんな価値が?
危険な職場で身を粉にして働くよりもずっと素晴らしい人生がわたしを待ってる!

「あの、すいません、採用の話ちょっと保留とか……」

>「いや、無粋な話はよそうか。君は己の成功と名誉よりも、社会への素朴な貢献を選んだ。
 素晴らしい事だ。文句なしの採用だよ、流川市香」

「で、ですよね、あはは、そーなんですよ、まいっちゃうな、もう!」

鳴上の微笑みには有無を言わせぬ圧力があった。
というか今、採用って言った?採用権あったんだ!?
助けを求めるように雨場を見る。彼は臨終した患者を見るような顔で静かに首を振った。

「まいっちゃうな……」

もう。

――――――――

39 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/24(金) 00:55:05.45 0.net
入隊が決定し、速やかに手続を済ませ、新規入省者向けの法令遵守に関する簡単な研修を終え、
市香たちは最初の任地である福島県の原発へ向かう公用車の中にいた。
隣には同じく採用になった十崎もいる。

「福島ですか。わたし、出身は千葉の方なんですけど、埼玉より北に行く用事が思いつかないんですよね」

せいぜい大洗であんこう鍋か、宇都宮で餃子を食べに出るぐらいだろうか。
仙台は逆に都会すぎて、わざわざ関東から出てまで行くような場所でもないと思っている。
特に原発事故があってからこっち、栃木以北はまともに鉄道も動いていなくてますます寄り付かなくなってしまった。
最も、鉄道が不通なのは放射能云々よりも、大陸系のならずもの怪人が野盗まがいの強奪行為をはたらくせいだが。

「ね、十崎さん。さっき言い損ねちゃいましたけど、あの時はありがとうございました」

シートに腰掛けながら身体を折りたたむようにして前のめり、
隣に座っている十崎の顔を覗きこむようにして見上げる。
見るからに覇気のないアラサー男であるが、鳴上と対峙した際、確かに彼は市香の身を案じて行動してくれた。

「あなた、いいひとですねっ。借金が一億五千万もなければ、求愛してたかも」

市香は溜息をついて身を起こし、座席に深く身を預けた。

「本当に、借金さえ一億五千万もなかったら……」

だが市香の将来の伴侶を決める条件として、借金のある男はNGだ。
なにか事業をやっていて、回収の見込みのある借金ならともかく、十崎のはナチュラルローンだ。
年収が一億五千万あったら即刻求婚して絶対逃さないけど。

「何したらそんな、9桁も借金できるんですか。というかよく借りられましたね?
 よっぽど信用度が高く無いとそんな巨額の融資なんて受けられないでしょ」

サラ金でもそんな額は貸さない。
あまりに膨大な額すぎると、債務者が諦めてしまって回収できなくなるからだ。
ギリギリ払える額を、常に貸し続ける……というのが、闇金融の融資の鉄則だ。

(もしかしたら、借金抱える前はよほど社会的にステイタスの高い職だったとか……?)

それならば、高い信用度で高額融資を受けられるのにも納得がいく。
であれば、こうして借金に追われて支援局に駆け込んできたのもあくまで仮の姿。
前職に復帰さえ叶えば、本当に年収一億五千万だって夢じゃないかもしれない。

「き、キープするだけならタダですもんね……!」

十崎に見えない角度で悪い顔をする市香であった。

やがて公用車は任地――原発を擁する土地の市街地に到着した。
既に実働服への着装を済ませた市香達は劣化したアスファルトに順番に降り立っていく。

「地震の時に割れたっぱなし……放棄区画ですか」

ここは市街地だが、既に街としての機能を果たしていない。
環境や治安の悪化により、住民が放棄していって久しいこのような区画は、今や日本中にいくつもある。
生活感の途絶えて久しい寂寞とした雰囲気が、夕刻の薄闇と相まって底冷えを感じさせる。
人の手で開拓されながら、人を失った街は、日本にぽっかりと開いた蟻の穴のようだ。
その数は年々増えていっていて……やがて日本は穴だらけになってしまいそうな、悪い想像が市香を過ぎる。

40 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/24(金) 00:55:33.37 0.net
>『――いいか。この区域に民間人はいない。いるのは第三次世界大戦の火種になりたい馬鹿だけだ』

インカムから鳴上の声が聞こえてきた。
彼女は別働隊として動いているが、こちらの指揮も平行しておこなうらしい。

鳴上の話を掻い摘むとこうだ。
この市街地には、原発制圧を目論む過激派の怪人組織が巣食っているらしい。
彼らがそのその計画を実行に移す前に、先んじて強襲をかけて潰すのが我々の任務だ。
どうにもきな臭い動きがあるらしく時間に余裕はないとのことだった。

>「……とは言ってるけど、まぁ気楽にやれよ。どうせ隊長の性質変化がありゃ、残党狩りなんてすぐ終わるんだ」

「まあ、そうでなければ新人にいきなり任せるなんてことないですよね」

もちろん別働隊は他にも――ベテラン隊員達が――動いているだろうが、
この区画を担当するのはつい先程採用されたばかりの市香達だ。
雨場の監督があるとはいえ、ずいぶん思い切った采配だと思う。

「というか雨場さん、また貧乏くじ引かされます……?」

初対面では飄々とした印象を受けたこの男だが、意外と苦労人なのかもしれない。
新人の子守はともかく、あのウイング女と四六時中一緒にいるのは腹筋が持ちそうにない。

とまれかくまれ、雨場小隊は夕闇の中を身を低くして駆け抜ける。
市香も流石におしゃべりをやめて、雨場の尻を至近距離で追いかけるのに集中した。
何度か辻を曲がったところで、雨場がハンドサインで止まれと命じる。
その掌の皮膚が蠢いて、文字を記し始めた。怪人の肉体変化だ。

>「角を曲がった先に三人。背後が取れる」

「らしいですよ、十崎さん」

市香は振り向いて十崎を仰いだ。
視覚特化型の十崎なら、もっとディティールに富んだ情報がわかるかもしれない。
それが必要かどうかはともかく。

>「初仕事が簡単で良かったな。俺が先に行くから、残りは任せる」

雨場は簡潔にそう言い残すと、小石を拾って放り、自分は角の塀に登って滑るように駆け出す。
小石に気を取られた敵怪人の一人に跳びかかり、あっという間に頭を抉り取って殺してしまった。
何らかの肉体変化を用いたのだろう、まるでバターをナイフで取るような鮮やかな手際だった。

残り二人。
市香はすでに動いていた。
腰のホルスターから棒状の物体を引き抜く。
極めて一般的な形状の鉄パイプ。一本の筒に、L字の継手がついている。
これが、市香の怪人特性を最大に活かす、彼女の専用武器――銘は『ブルームスター』。

41 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/24(金) 00:56:06.30 0.net
「流川、戦闘開始します!」

狙うは仲間の殺害に呆気にとられている二人のうち、壁に近い一人。
壁の根本には排水用の側溝がある。蓋が閉まっているが、取水口は開いている。
市香は自分の身体を液状化し、側溝を伝って敵の背後に回り込んだ。

「っ!」

側溝の取水口から盛り上がるようにして市香は人の姿に戻る。
その手には側溝を経由したにもかかわらず、鉄パイプがしっかり握られている。
この鉄パイプは市香が自分の血液から鉄分を集めて生成した鉄で鋳造したもの。
市香は鉄パイプを自分の肉体の一部として認識することができ、よって鉄パイプ自体も液状化が可能なのだ。

固体化した鉄パイプを、こちらに気付いていない敵怪人の後頭部めがけて、目一杯フルスイング!
ガァン!と鈍い音が響いて、びりびりと手応えが市香の手に伝わる。

「あれ」

しかし、狙った後頭部に鉄パイプは届いていなかった。
敵の腕が、振りぬかれるパイプを受け止めていた。
腕は表面が鋼鉄のような光沢をもち、鉄パイプに当たり負けしない硬度をもっていることがわかる。

(肉体を硬化させた――鉄の性質をもたせた?どっちにしろ、しくじりました!)

仲間の死から奇襲を受けていることを理解し、間一髪でこちらの攻撃に気付いたのだろう。
そしてすぐに防御行動に入った。わかりきっていたことだが、敵も素人ではない。

「この時期に半袖なんか着てる意味を考えるべきでした……!」

腕を変化させて戦うスタイルなのだろう。だから袖が邪魔なのだ。
こういう、相手の服装から戦術を類推するのも、立派な戦闘センスの一つだ。
市香にはまだ高度すぎる領域だ。
硬化怪人は鉄パイプを握りこみ、余裕をもってこちらを振り向いた。
そしてこちらの姿を認め、暫し目を見開いてから、ぼそりと口を開いた。

「そう言うてめーはなんで全裸なんだ?」

市香は服を着ていなかった。
服は液状化できないから当然である。
だが、それを白状してしまえば、こちらの怪人特性をわざわざ教えるようなものだ。
だから市香は建前を喋った。

「好きなんですよ――服を脱ぐのがっ!!」

鉄パイプが液状化して敵の手の中からこぼれ落ちる。
市香はそれを回収して再びパイプに戻しながら距離をとった。
敵怪人はすでに上半身の殆どを鋼鉄化させていた。
じりじりと距離を詰めては離れるように動きながら、市香は頭を回転させる。

42 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/10/24(金) 00:56:39.31 0.net
奇襲に失敗した。この時点で逃げるべきだった。
市香の能力が攻撃に向いていないのは、奇襲に頼っている時点で相手に割れている。
それでもなお敵が単に攻めてこないのは、こちらの手札が完全にはバレていないからだ。
カウンター系の能力を警戒しているのだろう。

対してこちらは、相手の能力は把握したが、それ意外が最悪だ。
敵に比べて市香は非力で、鈍足で、戦闘センスもなく、おまけに全裸である。
相手が攻めあぐねていることだけが唯一命を拾っている要因に過ぎない。

そして――付け入るスキがあるとすればそこだ。

「ふっ!」

市香は小さく息を吐き、速やかに覚悟を決めた。
鉄パイプを腰だめに構え、大股で踏み込み、敵怪人めがけて大振りに横薙ぎの一閃――!
怪人とはいえ、そもそもの身体能力で大きく劣る市香の一撃。
敵怪人は硬質化した掌でたやすく受け止め、完全に運動エネルギーを殺しきった。

敵の表情がニヤリと歪む。
ここからだ。勝利を確信した時、人は自ら奈落へ一歩進む。
油断という名の奈落へ――!!

市香の鉄パイプは、先端にL字型の継手が嵌っている。
その継手から、凄まじい勢いで蒸気が吹き出した。
ただの蒸気ではない。市香が気化させ、鉄パイプの中に流し込んだ彼女の肉体だ。
液体は気体に相転移する際、体積を実に1700倍にも膨れ上がらせる。
仮に鉄パイプ一本分の容積の水分を全て気化させた場合、パイプの中は1700気圧、
数字に直すと約2万ヘクトパスカル――これは蒸気機関車のボイラー内と同じ圧力である。

何百万トンもある鉄の塊を時速100キロで走行させるほどのエネルギーが、市香の持つ鉄パイプに内在している。
そして鉄パイプは密閉空間ではない。パイプとは気体や液体を素通しするための"道"だ。
あとは圧力の行き場を、片方の穴を塞ぐなどして調整してやれば――
鉄パイプのL字継手から吹き出す蒸気が、その推進力が、鉄パイプそのものを流れ星(ブルームスター)に変える!!
蒸気によって先端部を加速させた鉄パイプは、敵怪人の腕とせめぎ合い、やがて押し込み始める。

「るぅぅぅぅぅぅぅあああっ!!!」

蒸気のパワーを借りた、市香のフルスイングは、敵怪人をガードごとふっ飛ばした。
あっけなく地面は置いてきぼりをくらい、強烈な運動エネルギーを注ぎ込まれた怪人は宙を舞う――飛翔する。
巨体は20m近く放物線を描いて飛び、通りの向こうのブロック塀へ激突し、崩壊に飲み込まれて見えなくなった。

市香はその場でぐるぐる回りながら余剰の運動エネルギーを使い切り、ふらふらしながら雨場へピースサインをした。
そして、雨場のものすごく微妙な表情を見て、自分のやらかしに気付いた。

「あ、隠密行動……」


【全裸で迷惑行為】

43 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/30(木) 15:02:23.74 0.net
あー、戸崎さん、生きておいでですか
とりあえず区切りよく今月いっぱいまで待とうと思いますので連絡お願いします

44 : ◆PyxLODlk6. :2014/10/30(木) 15:15:41.63 0.net
十崎さんです。タイプミス失礼

45 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/02(日) 06:40:24.67 0.net
うーん、とても残念ですが応答してもらえそうにありません
今日からレスを書き始めますね

46 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/07(金) 02:32:43.94 0.net
一人目を仕留めた雨場はすぐに残る二人の方へと振り向く。
二人の注意はこちらへ向いている。隙だらけだ。
そして雨場は見た。側溝を通じて敵性怪人の背後を取る流川の姿を。

鉄パイプが振り下ろされ、しかし響くのは硬質な金属音。
流川の一撃は防がれていた。

敵は想定よりも優秀だった。
奇襲を認識した瞬間、眼前の脅威である雨場のみではなく、まだ見ぬ新手の存在にまで警戒を抱いたのだ。
加えて雨場の様子からも違和感を読み取ったのだろう。
仲間を殺した二撃はどちらも決して素早い動きではなかった。
にも関わらず雨場は三人の中に飛び込んできた。何故か――助かる当てがあるからだ。

(やべえ!アイツ、場慣れしてやがるな!)

見たところ能力自体は平凡そのもの。
だが目の前で仲間が殺された瞬間でも冷静さを保っていられる気性が備わっている。
国と社会に楯突き、平穏から遠くかけ離れた悪党であるが故に培われたものだ。

これが初任務である流川には荷が重い。
雨場はそう判断し、加勢に入ろうとして――しかし思い留まる。
流川の眼の光は、無策な弱者に宿るものではなかった。
だからこそ鉄化の怪人も今一歩攻めに踏み切れていないのだろう。

(勝算あり……と見ていいんだよな?)

それに流川の特性とこの地形なら、逃げに徹すれば殺される事はまずない。
倫理ではなく戦術的な見地から言えば、流川への援護は後回しでもいい。
雨場の視線は彼女から、もう一人の新人、十崎へと移る。

彼もまた、敵性怪人と対峙していた。
だが様子がおかしい。彼は手傷を負っていた。
敵の怪人が腕を変化させた刃に斬り付けられた為だ。

彼らの動きは雨場には恐ろしく速く見える。
しかし十崎の眼なら容易に見切れる筈なのだ。
なのに何故――その理由はすぐに分かった。

彼は明らかに竦んでいた。
顔色は蒼白で、攻撃を捌く手付きも足取りも覚束ない。
原因は――雨場には心当たりがあった。

言うまでもなく、彼が十崎の目の前で披露した殺人だ。
十崎は教職時代、自分の生徒を目前で皆殺しにされている。
面接の前段階として行われる素性調査で明らかになった事だ。
その経験故に彼が殺人に強い拒否感を覚えるのは、何も不思議ではない。

「くそっ!」

雨場は己の浅慮に悪態を吐きながらも、振り下ろされる刃と十崎の間に割り込む。
怪人の膂力を以って放たれた斬撃は、彼の頭蓋骨に容易く沈んだ。
切り口から血が溢れ出す。

敵性怪人の表情がにやりと歪んだ。
脳を破壊されて生きていられる怪人は、殆どいない。
彼は完全に勝利を確信していた。

故に次の瞬間、自分の横面に迫る雨場の手のひらに、何の反応も出来なかった。
雨場の手の動きは打撃とは言えないほど緩やかだった。
だがそれが触れた瞬間、敵性怪人の頭部はまるで水菓子を匙で掬うかのように抉れた。

47 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/07(金) 02:34:03.79 0.net
「あー……畜生。めちゃくちゃ痛え。あ、十崎さん、怪我はねえっすか」

雨場造利は生きていた。

脳を破壊されれば大抵の怪人は死に至るが――同時に大抵の怪人は身体変化の能力がある。
身体変化に多少の素養があれば脳の形や位置を変化させる事が可能だ。
頭を割ったからと言って、脳が破壊出来たとは限らない。
もちろん、単純に能力的に脳の破壊が生死に直結しない場合だってある。
端的に言って敵性怪人は、油断し過ぎていた。

「ま、事が事っすからね。最初から出来る奴ばかりじゃねーっすよ。気にしなくていいですから」

割れた頭部を再生しつつ制服の袖で血を拭い、雨場はそう言った。
と、不意に彼の背後でとんでもない破壊音が響いた。
慌てて振り返ると、何故だかふらふらの流川と、その奥で盛大に崩れたブロック塀が見えた。
雨場は思わず表情筋がひくつくのを感じた。

>「あ、隠密行動……」

「……まぁ、なんだ、気にすんな。俺が色々読み違えたせいだ」

『らしいな。なんださっきの音は。私の方まで聞こえてきたぞ』

「げっ……!いや、その……ちょっとしくじっちゃいまして」

『……まぁいい。蜂の巣を突いたような騒ぎだが、幸いお前達以外は発見されていない。
 どうやら奴らはお前達を袋叩きにするつもりらしいぞ。
 殆ど全ての敵性怪人がそちらへ向かっている。つまり……』

雷花の語尾が弾んだ。
無線機越しにも、彼女が獰猛な笑みを浮かべていると理解出来るほどに。

『連中を一網打尽にするチャンスという訳だな。雨場、奴らを当区域の中心部にまで引き連れて来い』

「あー……本気で言ってます?こっちにゃ流川と十崎も……」

『あぁそうだな。だが考えてみろ。この状況でただ逃げるだけか、それとも多勢に無勢で戦うか。どちらが楽だ』

雨場は答えない。
そしてこの場合、沈黙は何よりも雄弁な肯定だ。

『そういう事だ。流川、十崎、聞こえたな。死ぬ気で逃げろよ。
 奴らは捕らえた敵の腹を掻っ捌いてウランを詰め込む風習があるからな』

それが果たして冗談なのか本気なのか、聞き返している暇はない。
民家の屋上から君達を見下ろす二人分の人影があった。

その内の片方が右手を顔の前に掲げる。
手のひらが火にかけた餅のように膨れ上がり――握り拳ほどの楕円球が出来上がった。
男は右腕を振りかぶって、その球を君達へと投げつけた。

何かは分からない。だが間違いなく危険だ。
雨場は咄嗟に君達の前に出て、投擲された楕円球を叩き落とさんとする。
瞬間、爆音が響いた。

強烈な眩しさに逆らって視界を保てたなら、君達は雨場が火達磨になっている様を見る事になるだろう。
叩き落とそうとした楕円球が爆発したのだ。

火炎は多くの怪人に対して有効な攻撃手段だ。
物理的な攻撃と違い特別な性質変化が無ければ防御のしようがない上、再生の効率も悪いからだ。

48 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/07(金) 02:34:57.72 0.net
「が……あ……走る……ぞ……中央部まで、逃げるんだ……」

眼と口のみを真っ先に再生させた雨場がそう言って、大きな手振りで君達を促した。






「もっと速く投げろよな、下手くそ」

「うるせえ。俺の能力はおめーと違って繊細なんだよ」

屋根の上の二人は君達を追ってきていた。
焼夷弾を作り出した男を、もう片方が肩に担いで移動している。

「はぁ、畜生め。なーにが悲しくて野郎担いで走んなきゃいけねーんだ、クソが」

「俺だって野郎に担がれて移動したかねーよ。おら、次おめーが投げろよ」

再び君達目掛けて焼夷弾が放たれる。
その弾速は、先程とは比べ物にならないほどに速かった。
ただし狙いは今ひとつのようで、焼夷弾は君達の側のブロック塀に直撃し、爆ぜた。

「ちゃんと狙えよ、下手くそ」

「うっせえ。もっとでけーの作れバカ」

「腹が減るんだよ、仕方ねえな」

焼夷弾が立て続けに放られる。
十崎が殿となり、落ちている小石やブロック塀を砕いた破片などで迎撃はしているが、
それでも弾けて飛び散る炎までは防げない。

そして何より、回避や迎撃に手間を取られる分だけ移動速度が落ちる。
焼夷弾の爆音は他の敵性怪人に君達の居場所を知らせるには十分過ぎるほどに騒々しい。
もたもたしていれば完全に包囲されてしまう。

「このままじゃマズいな……奴らを始末したい所だが、もたついてる暇はねえ。お前ら、どうしたらいいと思う?」

粗方の再生が終わった雨場が君達に問う。
酷い状況だったが、彼にはまだ余裕があった。
新人二人の教育を意識出来る程度には。

さておき君達はこの状況を打破しなくてはならない。
速やかに敵を始末するか、最低でも他の敵性怪人に包囲されない程度の移動速度を確保する必要がある。

49 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/10(月) 01:22:38.12 0.net
>「……まぁ、なんだ、気にすんな。俺が色々読み違えたせいだ」

市香の出した騒音に対し、他の敵性怪人の始末を終えたらしい雨場は微妙な顔でフォローを入れた。
首元が血に染まっている。それは一人目との戦闘の際にはなかった色だ。
おそらく、十崎のフォローに回って被弾したのだろう。
肉体変化で再生できるとは言え、痛みを完全に遮断することはできないはずだ。
身を切り裂かれる激痛をおくびにも表情に出さない雨場は、やはりプロの戦闘員ということなのだろう。

>『らしいな。なんださっきの音は。私の方まで聞こえてきたぞ』

しかし現場指揮官がフォローを入れてくれても、その上のもっとおっかない人は看過してくれなかったらしい。
雨場が冷や汗かきつつ状況報告するのを、市香は実働服に袖を通しつつ聞き、両手を合わせて頭を下げた。
どうやら市香のぶちまけた音は、『別働隊から意識をそらす為の陽動』として好意的に解釈されたようだ。

>『連中を一網打尽にするチャンスという訳だな。雨場、奴らを当区域の中心部にまで引き連れて来い』

(また貧乏くじ!)

上司からの無茶ぶりに雨場の胃袋の上げる悲鳴が市香にも聞こえた気がする。
ふっ飛ばされた頭を再生することはできる怪人でも、現代社会のストレスは如何ともし難いらしい。
はたらくって大変なことなんだな、と市香は今更ながらに実感した。

>『そういう事だ。流川、十崎、聞こえたな。死ぬ気で逃げろよ。
 奴らは捕らえた敵の腹を掻っ捌いてウランを詰め込む風習があるからな』

「そんな、イヌイットの伝統料理じゃないんだから……」

放射能好きが極まると、ウランで漬物でも作って美味しくいただけてしまうのだろうか。
冗談でもなんでもなく、鉱石を咀嚼して栄養にできる身体をもった者など珍しくもなんともないこの怪人社会だ。
市香はげんなりした顔で言った。

「ウランは嫌ですね……体重が増えちゃう」

腹に詰め込んでくれるなら、女の子なのだし美味しいケーキでも欲しいところだ。
いや、イエローケーキとかそういうことではなく。

50 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/10(月) 01:23:46.51 0.net
とまれかくまれ、今後の行動方針は決まった。
音に惹かれてやがて集まってくる敵性怪人の一団を、中央部までトレインして範囲攻撃で始末してもらう。
ただ逃げるだけの簡単なお仕事となれば、ここぞとばかりにはりきるのが流川市香という女である。

「行きましょう雨場さん!『わたしが』陽動した敵を隊長のところまで!」

自分の手柄を強調しながら雨場・十崎両名の手を引く市香は、重要なことを失念していた。
彼女たち雨場小隊は奇襲によって敵3名に対し勝利を収めたが――
奇襲をできるのはなにも自分たちだけではないということに。

ヒュオ……と風切り音が耳に届き、市香を庇うように音源へ向けて雨場が一歩前に出た。
次の瞬間、鈍い音の連続とともに、雨場の身体が炎に包まれた!

「雨場さん!?」

悲鳴に近い声を挙げながら、市香は状況に理解が追いついていなかった。
しかし、風切り音と雨場の行動を思い返し、何か投擲物を直撃した雨場が炎上したのだと因果関係を把握する。
同時、ヒビ割れたアスファルトに目をやれば、雨場を中心に放射状に地面が燃え上がっている。

(飛沫状の炎……引火性の液体……火炎瓶?)

思考がそこまで追いついたところで、第二射が仮借無く放たれる。
それはコントロールを外れたらしくすぐ傍のブロック塀を燃やし、一部始終を市香は見ることができた。
楕円球の形をした、引火性の液体に満ちた弾頭――

「――ナパーム弾!!」

これが怪人特性によるものであるなら、性質変化で体液に引火性質を持たせ、肉体変化で弾頭を創りだしたのだろう。
肉体変化はともかく性質変化の方は化学式がかなり複雑で、つまりそれを連射できる敵怪人は相当の使い手だ。
市香は投擲元に視線を走らせる――いた。二人組の怪人が屋根の上からこちらを見下ろしている。

>「が……あ……走る……ぞ……中央部まで、逃げるんだ……」

迎撃に動こうとした市香を、焼け付いた声が制した。
大火傷を負った雨場が、痛みのもとである皮膚や筋肉よりも、口の再生を優先させてまで、
無策の市香が突撃するのを止めたのだ。
その意気を、言葉でなく心で理解して、市香は静かに頷いた。

「了解です。雨場さん、肩を!」

市香は炭化した雨場の身体を支え、十崎に殿を任せて駈け出した。

51 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/10(月) 01:24:31.34 0.net
肉体変化のオーソリティ、雨場の身体はしばらくして自走できる程に回復した。
流石は戦闘職のエリート怪人、伊達に死線をくぐっていないということだろう。
だが状況は悪化の一途をたどるばかりだった。

現在、市香達は中央区に向かって撤退戦を繰り広げている。
とはいえ実情は遁走に近い。追いすがってくる敵に対し、こちらは逃げ惑うことしかできないのだ。
追走者は二人、片方が片方を担ぎ上げ、移動と焼夷弾による砲撃を完全分業している。
つまり敵は、進行速度を殺すこと無く好き放題攻撃を行えるという寸法だ。
そのうえ、向こうには地の利がある。ここは敵のホーム、市香達は角を曲がる度に地図とにらめっこだ。

「ひぃぃぃぃ、距離縮まってきてますよぉ!」

こちらの逃走速度も決して遅くはないが、敵の方が身体強化のリソースが多いらしく足が早い。
さらに、焼夷弾が飛んでくる度に十崎に撃ち落としてもらっている為、逐一足を止めざるを得ない。
このまま追いつかれるのも恐怖だが、敵は奴らだけではないのだ。

>「このままじゃマズいな……奴らを始末したい所だが、もたついてる暇はねえ。お前ら、どうしたらいいと思う?」

「それをわたし達に聞きますかぁ!?」

ほとんどべそをかきながら市香は叫んだ。
叫んだところではたと気付く。
この状況を生んだのは誰のせいなのか。
元はといえば、市香が命令無視して馬鹿でかい音立てて敵を倒したことが発端だ。

(怒られる!鳴上隊長に怒られる……!!)

怒られるだけならまだ良いが、最悪命令違反で粛清されるかもしれない。
あの電撃を生身で、いやさ液状化していてもまともに喰らえば今度こそお陀仏だ。
そしてそれよりもっと最悪のケースは、今回の失態で出世の道が閉ざされることだ。
多少の減棒は良い。
だが、今後の昇進査定に響くのは間違いなく将来に重たく暗い影を落とす。

三度の飯より現金と権力が好きな女、流川市香!
(社会的に)追い詰められた彼女の精神が、思いがけない冒険を思いついた!

「あいつらを黙らせればいいんですよね……」

市香は踵を返すと、雨場達とは反対方向――追ってくる敵へ向かって走りだす。

「十崎さん、次弾の軌道予測お願いします!」

十崎がその怪人特性で読みきった軌道、そこへ向けて市香は両腕を全開にしながらジャンプ。
ちょうど、迫り来る焼夷弾を胸で受け止める格好だ。
アメフトのパスみたいに放物線を描いて飛んできた弾が、市香の上半身へ着弾する!

「っ」

瞬間、市香の身体を焼夷弾が貫通した。
ビシャア!と水音を立てて市香の胸の一部がはじけ飛ぶ。
液状化させた胸部を、焼夷弾が潜り、突き抜けたのだ。

「十崎さん!」

貫通した焼夷弾が向かう先で、十崎が白衣を両手で広げて待ち構えていた。
市香の液化した肉体を潜り、運動エネルギーを大きく削がれた焼夷弾を、白衣をクッションがわりに受け止める。
焼夷弾は燃え上がることなく十崎の腕の中に収まった。

52 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/10(月) 01:25:35.55 0.net
焼夷弾とは、ぶちまけられた引火性の液体に着火することで液体の降り掛かった範囲を焼却する兵器である。
原理として最も単純なのはいわゆる火炎瓶であり、その威力の根源は『ぶちまける』ことにある。
となれば逆説、中身をぶち撒けさせさえしなければ、焼夷弾は実質脅威とはならない。
割れない火炎瓶が意味をなさないように。
衝撃によって飛散する焼夷剤を、やさしく受け止めることで無力化したのだ。

とはいえ、これが兵器として流通している焼夷弾ならば信管などで動作の信頼性を上げているはずだ。
そこはやはり怪人製だけあって、数を投げる為に構造を単純化してあり、信管の類は見当たらなかった。
最も、信管がついていたとして、十崎の眼ならば見抜いて外すことなど造作もないだろうが。

そして市香は既に、上半身を生身に戻して次の行動に移っていた。
着地と同時、腰の鉄パイプを抜き、怪人特性で液状化。
再構築された鉄パイプは、いつも彼女が振るっているものより径の太い大型パイプだった。
性質変化の応用で液状化させた鉄パイプを、今度は肉体変化の応用で形状を変えたのだ。

「弾頭装填!」

市香が肩に担いだ大型パイプの、握りこぶしほどの径の筒内へ、十崎が鹵獲した焼夷弾を入れる。
弾頭はパイプの中ほどまで押し込まれ、再び肉体変化でパイプの片方が塞がれた。
開いている方の口を、市香は迫り来る敵怪人二名へ向けて構える。

「――発射!」

瞬間、鉄パイプの中へ、気化させた肉体蒸気をこれでもかとぶち込んだ。
爆発的に高まった鉄パイプ内の圧力が、『栓』である焼夷弾を押し出し、砲塔内で加速させ、砲口から解き放った!
ボッ!と気圧の抜ける音と、真っ白い蒸気を伴って、楕円形の弾頭が恐るべき初速で吐き出された。
同時に閉じた方の口に小さな穴が空き、そこからも蒸気が吹き出して反動を抑制する。

――流川市香お手製の、焼夷無反動砲。
砲塔内に刻まれたライフリングで強烈な錐揉み回転を与えられた焼夷弾は、狙い過たず追いすがる敵怪人へ飛来する!

焼夷剤という複雑な化学性質変化を、敵はほとんどインターバルをおかずに連発してきた。
それを可能とするには、いちいち体液を弾頭に集めて性質変化……という手順を踏んでる暇はない。
おそらく、予め自身の体液を性質変化させて体内にストックし、弾頭型に集めて焼夷弾を生成しているはずだ。
であれば。

「敵の身体は火気厳禁のはずです……!!」

引火性の液体に満ちた肉体は、炎に炙られればよく燃えることだろう。
だからこそ、焼夷弾という形で、遠距離攻撃に特化することで自分自身には火が近づかないようにしているのだ。

仮に市香の推測が的外れで、本当に逐次使用する分だけ性質変化させているとしても――
それはそれで、敵が己の創りだした焼夷弾の威力を、その身で味わうことになるだけだ。


【焼夷弾を一発鹵獲、鉄パイプ砲でお返し】

53 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/16(日) 19:39:28.13 0.net
もうすこしじかんをください

54 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/11/16(日) 21:43:03.40 0.net
名前:伏見 狂華(ふしみ きょうか)
性別:女
年齢:26
性格:享楽的
外見:コックコートに黒いエプロンを着用  長身
   黒いロングヘアー、首輪型投薬装置
戦闘方法:愛用の包丁を使っての接近戦
志望理由:『怪人』としての価値を上げる為
備考:元死刑囚
死刑執行時に怪人として覚醒、見事に死にぞこなう。
その後、死ねなかったことと自身が「怪人」という犯罪者予備軍にくくられたショックで傷心していたところを支援局員からの助言と勧誘に乗り、支援局へ
普段は支援局内の独房に隔離されており、そこで尋問官として活躍してたりする。
ときたま戦闘員として借り出される場合があるらしい。
能力は「不死身」
撃ち殺されようが、首を切られようが、内臓を食われようが頭をつぶされ様が絶対に死ねない
肉体が破損している場合、「食事」をすることで短時間で再生することが出来る。
(このとき、口や内臓が無くても再生される。自分の血肉を食べても再生はしない)
また、彼女の血肉を他者が摂取した場合、一時的に彼女と同様に不死身化する。
不死身とはいえ、神経毒や電気、炎等々の耐性は人並みに加え身体能力も常人に毛が生えた程度のもの
リソースは肉体強化2:肉体変化7:性質変化1でいいんですかねぇ

55 :名無しになりきれ:2014/11/16(日) 22:51:33.75 0.net
チキタキチ

56 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/17(月) 10:05:54.94 0.net
>「それをわたし達に聞きますかぁ!?」

「そりゃ、お前は火消しにゃ打ってつけだしな。うら、どうすんだ。
 言っとくけど、そう何度もお前の代わりに黒焦げになってやるつもりはねーからな」

走りつつ、後頭部に目玉を一つ作り出して背後を確認。
敵は肉体強化に長けた怪人と、性質変化に長けた怪人の二人組だ。
後者の能力は、肉体に強い可燃性を付与する事だろう。
着火装置は――人体を構成する鉄分やリンを用いているのか。
或いは可燃性だけでなく酸化性も強化してあるかと言ったところか。

そして、その能力で生成された簡易焼夷弾を、肉体強化を持つ怪人が投擲する。
単純な構図だが、互いの能力が見事に足し算されている。

加えて位置関係も最悪だ。
敵は高所に陣取り、自分達はそれを追い落としている暇はない。

(つくづくひでえ状況だな。さて、お前達はどう『組み立て』る?)

怪人同士の連携は、既存の軍隊や特殊部隊のそれとは毛色が異なる。
例えば雷花と健吾が共闘するとして、両者が自分の能力を完全に活かそうと思ったらどうなるか。
雷花は遠距離から放電を行い、健吾は眼力と身体能力に頼った接近戦を行う。
結果は――酷い有様になるだろう。

だからこそ『組み立て』が重要なのだ。
お互いの能力を十全に活用しつつ、同じ戦闘に共存する為の計算式が。

>「あいつらを黙らせればいいんですよね……」

敵の焼夷弾を数発凌いだ頃合いで市香が小さく呟き、足を止めた。

「あぁそうだ。何か閃いたみたいだな。頭を柔らかくするのはお手の物ってか」

返事はなく、代わりに返ってきたのは地を蹴る硬質な音。

「>十崎さん、次弾の軌道予測お願いします!」

援護要請――彼女が何をしようとしているのか、健吾は即座に察した。
彼の眼がしかと見開かれる。
肉体変化によって肥大化した眼球は彼の視野を著しく拡大させる。
屋根の上に立つ怪人の視線、重心、筋肉の動き、その全てが健吾には見えていた。
自分の前を走る市香のそれらもまた同じくだ。

「右に二十度!三歩目で飛べ!」

健吾が叫び、市香がその通りに跳躍。
一瞬の間もなく彼女目掛けて焼夷弾が飛来し――そして激しい水音を立ててその胸部を貫通した。

>「十崎さん!」

そして勢いを削がれた焼夷弾は、健吾の腕に収まった。

(おぉ、大したもんだ。ちゃんと組み立ててんじゃねえか。だが……そこからどうする?
 見たところあっちのゴリラの方が筋力じゃ上だ。仮に投げ返したところで避けられちまったら意味がねえ)

雨場は頭部のそこここに増やした眼球で周囲を警戒しつつ、正面の双眸で流川達に刮目する。
焼夷弾を受け止めた健吾は、それを手にしたまま流川へと駆け寄った。
そしてその流川はと言うと――電柱ほどの太さにまで肥大化した鉄パイプを肩に担いでいた。

57 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/17(月) 10:07:04.42 0.net
>「弾頭装填!」

瞬間、雨場は流川の作戦を理解した。
敵性怪人も同じく察しがついたらしい。
慌てて身を翻すが――既に遅い。

>「――発射!」

蒸気に押し出された焼夷弾は敵性怪人との距離を瞬きよりも速く渡り切った。

「敵の身体は火気厳禁のはずです……!!」

直後に凄まじい爆音が響き、屋根の上に火柱が上がる。
苦痛と怨嗟の断末魔が響き、肉と脂肪の焼ける臭いが風に乗って君達の元にまで届いた。

「……どうやらその通りだったみたいだな。よし、先を急ごうぜ」

そうして君達は住宅街の中心部に辿り着いた。
周囲を見回せば屋根の上にも地上にも、大勢の敵性怪人が集まってきている。

「……隊長、着きましたよ。早くやっちまって下さいよ」

雨場が小声で隊長に助けを乞う。

『いや、まだだ。もう少しまとまってからの方が確実だからな。
 そこで三十秒持ちこたえろ。お前達の能力ならやれるだろう』

しかし返ってきたのは冷たい声と酷薄な命令だった。
だが抗議している暇はない。

「あー……聞いての通りだ。やるしかねえぞ」

言葉と同時、屋根の上から敵性怪人が雨場に飛びかかる。
刃に変形した右腕が再び彼の頭部を割り、そのまま胴体の半ばまで斬り裂く。
そして敵性怪人が腕を振り切った時――その肘から先が無くなっていた。

58 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/17(月) 10:07:53.62 0.net
「い……ってえな畜生!日に二度も頭かち割りやがって!」

反撃の掌底が敵性怪人の頭部を抉る。
雨場の腹部には、たった今殺害された怪人の腕が残っていた。
それが周囲の肉に溶け込むようにして消えていく。
彼の怪人特性によるものだ。

雨場の体組織は通常の細胞に比べて遥かに多くの物質やエネルギーを『貯め込む』事が出来る。
彼の掌底に、敵の肉体的強度は関係ない。
敵がタンパク質で構成されているのならば、それらは全て彼の細胞の『捕食対象』なのだから。

加えて多くのカロリーを保有出来る彼は他の怪人よりも高い再生能力を有しているし、
脳の電気信号を保存した細胞を体内に点在させておけば、頭部が損壊しても生存を続けられる。
リクルーターとしての彼が複数人存在したのは、その擬似脳細胞に多大なカロリーを与え、自分として再生させたからだ。

(まぁ、肉体強化はからっきしだからな。タネが割れりゃ死ぬまでぶっ殺されちまう。
 三十秒くらいなら問題ねえが……むしろ心配なのは流川と十崎さんだな。
 乱戦になっちまったら、庇うに庇えなくなっちまうだろうし、それに何より……)

と、敵性怪人が一斉に動き出し、そこで雨場は思考を中断。迎撃の体勢を取る。
敵は所詮ゲリラだ。強力な怪人をそう何人も有している訳はない。
もしそうなら、もっと早くに支援局の撃滅対象になっていたに違いないからだ。
敵の殆どは単純な肉体強化や肉体変化しか能力を持たない雑兵だった。

にも関わらず、雨場の表情は切迫していた。
何故か――理由はすぐに分かった。

不意に宵闇を縦に切り裂くように、幾つもの青い光条が走った。
その着弾点には、電光を帯びた白い羽が刺さっている。
雷花のものだ。

雷が空から地上に落ちるまでには、三つの段階がある。
まず雲から地上へ伸びる先駆放電。
次にそれを地上から迎えるように放たれる線条放電。
そして最後にそれらが結んだ道を大量の電荷が走る主雷撃だ。

つまり――今打ち込まれた羽は、雷花が雷のメカニズムを再現する為の第一手なのだ。
雷は一度地上に落ちた後、羽と羽の間を幾度も駆け巡るだろう。
それは日中、流川に用いた攻撃よりも狙いが簡単で、代わりに防御も回避も困難。
広範囲を殲滅するのに非常に有用な攻撃手段だった。
無論、味方だけを避けて放つような事は出来ないが、巻き込まれるようならば隊員として不適格――というのが雷花の判断らしい。

「やっぱそうなるか!流川!十崎!何とかして身を守れ!あの人は誤爆を気にするようなタマじゃねえぞ!」

雨場が叫び声を上げた。
そうしている内にも、雷花の翼から先駆放電が伸びる。
雷が君達の周囲一帯を蹂躙するまで、もう猶予は幾許もないだろう。



【雑魚ラッシュ→雷花による広範囲攻撃。無防備でいたら巻き込まれます。
 今回『周囲にあってもおかしくないもの』は、あるものとして利用してしまってOKです】

【>>伏見さん
 よろしくお願いします!次のターンから場面を変えますのでそこで合流しましょう!
 あとなんか雨場の能力がちょい被ってる感じになっちゃいましたが、
 シーン変更と同時にNPCを別のものに交換するので気にしないでください】

59 :名無しになりきれ:2014/11/22(土) 20:48:17.21 0.net
誰待ち?

60 :流川:2014/11/22(土) 21:56:38.42 0.net
私待ちだと思います
今日中に書きます

61 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/23(日) 15:17:44.66 0.net
市香と十崎の連携攻撃、無反動焼夷砲は見事敵怪人に着弾。
見立て通り、可燃性の体液に満ちた片割れに引火し、肉体という高密度の爆発物が誘爆した。
ボッ!と周囲の酸素を一気に使い潰すが如き豪炎と、遅れてやってきた爆風が市香の髪を根こそぎ巻き上げる。

>「……どうやらその通りだったみたいだな。よし、先を急ごうぜ」

「わ、もう回復してる」

このわずか十数秒の間に肉体を再生仕切った雨場に促され、市香たちは中央へと到達した。
雨場の支援要請と、それに対する隊長――エレキフェザー鳴上の返答はこうだ。

>『そこで三十秒持ちこたえろ。お前達の能力ならやれるだろう』

「はああああああっ!?」

市香は唖然と絶望とで、開いた口が塞がらない。
ナパームマンとの撤退戦ですら命からがらだったというのに、こんなところで三十秒も殿を努めよときたものだ。
スパルタとはわかっていたが、もしかして面接の件を根に持っているのだろうか。

>「あー……聞いての通りだ。やるしかねえぞ」

「雨場さん、出るとこ出たほうがいいですって、絶対!」

諦めるの早すぎな雨場も雨場だ。
抵抗しても無駄なのはその通りなんだが、せめて抗議ぐらいして欲しい。
結果、雨場が折檻を受けるには違いなかろうが、痛い思いをするのは市香じゃないし。

……と、そんな邪な思いを浮かべていたら、雨場の頭が吹っ飛んだ。

「雨場さん!?(二回目)」

>「い……ってえな畜生!日に二度も頭かち割りやがって!」

続々集まってくる敵怪人との交戦に入る雨場。
どうにも頭難の相の出ている彼だが、逆に言えば狙われやすい頭をデコイに置けるということであり、
それもまた雨場の戦闘者としての強みなのだろう。

市香もまた鉄パイプを抜き放ち、白兵戦へと備える。
十崎は既に敵集団の右翼に切り込み、応じるように市香も左手へ散会した。

62 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/23(日) 15:18:36.21 0.net
(固まってたら飛び道具の餌食……混戦の中に飛び込むしか!)

あのナパーム怪人のような特性持ちがもういないとも限らない。
集団戦で最も避けるべき愚は、ひとまとまりになって一網打尽にされることだ。
混戦に入り、敵を盾とすれば、とりあえず飛び道具による一方的な攻撃は回避できる。
あとは、白兵戦がどれだけ持つかの問題だ。

「ブルームスター!」

腰だめからの横薙ぎの一閃。
向かってきた敵怪人は、こちらの間合いに入る直前で歩幅を縮め、チェンジ・オブ・ペース。
こちらの一撃をやり過ごしてから間合いに潜り込んで打撃する心算だ。
だが、間合いをチェンジできるのは敵だけではない。

「――っつぉりやぁ!」

横薙ぎが敵の鼻先を掠めて空振ろうとした刹那、鉄パイプが『伸びた』。
ご存知、流川市香の肉体変化により、サイズを上方修正した鉄パイプが、敵の顎を撃ち抜き、意識を刈り取る。
トドメは刺さなくて良い。なぜなら――

「三十秒……!」

経った。
宵闇の向こうから、青白く白光する何かが飛来し、手近なアスファルトや瓦礫に突き立つ。
羽根だ。その色と、纏う紫電に、見覚えがあった。

来る。鳴上雷花を支援局実働隊長にまでのし上げた、必殺の対地雷撃!

「ってあれ?わたし達まだここにいるんですけど!?」

>「やっぱそうなるか!流川!十崎!何とかして身を守れ!あの人は誤爆を気にするようなタマじゃねえぞ!」

「嘘でしょぉぉぉぉぉぉっ!?」

冗談だと思いたかった。が、雨場の顔を見てその可能性は儚く砕け散った。
どうやら鳴上はマジらしい。マジで部下ごと敵を滅却するつもりらしい。

「支援局が万年人不足な理由って"これ"ですかぁ!!」

電流を逃がせるような金属構造物は、見える範囲に存在しない。
電線ははるか頭上、届くような足場もない。
羽根で囲われたエリアに取り残されれば、雷の餌食。

63 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/23(日) 15:19:07.33 0.net
とにかく動かねばと市香は踵を返す。市香よりもエリア奥にいた十崎なんかは既に行動を開始している。
悪いがお互いに助けあっている暇はないだろう。ここが今生の別れになるかもしれない。
もしかしたらあの世で再会するかもだけど……。

「ぜったい……帰還ったら労災もらってやる……!!」

市香は駆ける。だが絶望的に遅い。
身体強化のリソースを20%しか振っていない市香は、常人に毛の生えた程度の運動能力しか有していない。
その常人というのは、市香の場合『普通の女子』である。
ただでさえ学生時代に運動を殆どしてこなかった彼女は、圧倒的に身体面で他に劣っていた。

範囲外まで残り10m。
叫ぶような祈りとは裏腹に、無慈悲にも雷槌は降ってくる。
背後で電圧の高まりを感じ、背筋がびりびり震えてくる。

「死んで……たまるかぁぁぁぁぁ!!」

市香は鉄パイプを抜く。
それを抱きしめるようにして抱え、体を丸めて衝撃に備える。
鉄パイプの下端、市香から見て足元に向いている方の口から、再び蒸気が吹き出した。
鉄パイプと、それにしがみつく市香の体が、爆発的に加速する!

その姿は、未熟な魔女が箒の速度を制御できずに振り回されるかのよう。
いまの市香にはそれが限界で――ここから脱出するにはそれで十分だった。
一個の蒸気ロケットと化した流川市香は、アスファルトに体のあちこちをぶつけながら、曲がりなりにも飛翔した。

刹那、背後ではちきれんばかりに膨張していた電圧が弾け飛んだ。
ズドン!と肚の底に響くような轟音。
それを背にした空中疾走はほんの一瞬で終了し、墜落した市香はごろごろ転がりながら慣性を使い切る。
振り向くと、エリア端を示す羽根の向こう、市香が先ほどまでいた場所が、紫電で埋め尽くされていた。

「ひええ……」

もう市香は溜息しか出ない。
助かった、という安堵だけが心を埋め尽くし、次いで体のあちこちに負った擦傷の痛みが蘇って、
もう指一本動かせる気がしなかった。

こんなところを敵に見つかったら嬲り殺しだな、と思ったが、すぐに考えなおした。
こんなところに敵などいない。いるとすればその敵は、この羽根の向こうで、黒焦げになっているのだから。

「とんでもないです、支援局……」

本当に、心の底から、実直な感想として、そう思った。


【脱出成功】
【遅くなってすみませんでした!】

64 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/11/23(日) 21:26:46.13 0.net
>>58
返事が遅れましたが、よろしくおねがいします。
合流の流れはそっちにおまかせしますえ
>流川
よろしくお願いします

65 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/23(日) 21:50:52.86 0.net
>>64
よろしくおねがいします!

66 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/28(金) 02:25:11.51 0.net
雷の檻が雷花の眼下を焼き尽くす。
紫電の瞬きが継続したのはほんの数秒だった。
だがテロリスト共を根絶やしにするのに、それ以上の時間は必要なかった。
強烈な電流は脳機能と神経伝達を阻害し、また電熱によって細胞組織に不可逆な破壊をもたらす。
その現象に肉体的な強度や再生能力は関係ない。
つまり雷花は、怪人が常人を縊り殺すかのように、怪人を殺せるのだ。

「さて……おい雨場、どこにいる?お前か?それともこっちか?」

屋根の上から降りた雷花が、そこら中に転がる黒焦げの死体に蹴りを入れていく。
それを何度か繰り返すと、不意に「いてっ」と小さな悲鳴が上がった。

「就業中だぞ。何を寝ている」

「ぁ……、あー……あーあー、よし……いや、勘弁して下さいよ。
 『溜め込む』にも限度があるんですから。『アイツ』と違ってまともに食らったら普通に死にますよ、俺」

雨場の細胞は熱や電気と言ったエネルギーを溜め込む事が出来る。
が、それに特化している訳ではない。
故に先程の焼夷弾や雷花の電撃などは、貯蓄し切れずに細胞が破壊されてしまう。

それでも雨場が生存出来ているのは、彼が擬似脳細胞を腹部にて大量の脂肪で包んでいたからだ。
脂肪は人体の中でもっとも通電性の低い組織である。
それと骨を交互に層にして擬似脳を守る事で、電流と熱による細胞破壊を免れたのだ。

「今更だな。どうせお前も私がこうする事くらい分かっていただろう。
 いなかったのなら……学習能力の欠如は特殊部隊員として非常に不適格だ」

雨場は反論しない。
するだけ無駄だと既に学習済みだからだ。

「それで……流川と十崎はどこだ?」

雷花は周囲を見回す。
その視線の高さは地上に転がる死体を視野に入れていない。

十崎は雷撃の範囲外で、壁にもたれかかった息を整えていた。
格別の動体視力を持つ彼は誰よりも早く雷花の羽を視認し、それが持つ意味を察していた。
その判断の早さが、身体強化の使い手としては並である彼を生存へと押し上げたのだ。

「流川は……」

生体電気は感じ取れる。流川もまた十崎同様に生きている筈だと雷花は振り返る。
だが姿が見えない。自身の第六感は確かに流川がそこにいると告げているのにだ。
と、そこで雷花は流川の能力とを思い出す。
面接の時のように液化する事で難を逃れたのかと視線を下ろし――そして鉄パイプを抱きしめて地面に横たわった流川の姿が視界に入った。

「……まぁ、なんだ。支援局は社会にとって有用であれば思想は問わん。
 性癖もな。だが次からはせめて物陰で事に及べ」

それだけ言うと雷花はすぐに踵を返し、懐から手のひら大の無線機を取り出す。
インカムよりも通信範囲に優れた、本部との連絡用の物だ。

「雷花隊より本部へ。『収穫』がありました。『彼女』の手配をお願いします」

手短に通信を終え、部隊を集合させる。
そうして集まった面々の中に、来た時には無かった顔が三つ並んでいた。皆、拘束を受けている。
それらはラディスチャンの一味だ。ただし周囲の黒焦げ死体とは少々趣が違う。
逃げようとしたのだ。周りが皆、闖入者である流川の排除に向かう中で、彼らだけが逃亡を図った。

67 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/28(金) 02:25:46.79 0.net
一体何故か。ただ臆病風に吹かれただけなのか。
それとも何か、どうしても逃げねばならない理由があったのか。

「おい、ラディスチャン。お前達がただの臆病者でない事は分かっているんだ。
 お前は何か隠し事をしている。だが残念な事に私に分かるのはそこまででな。
 だから……お前が自分の口で言え。そうすれば楽に死ねるぞ」

捕縛した内の一人の胸ぐらを引っ掴み、雷花が問う。
一拍の間を置いて、その男の顎を下から殴り上げた。
悪意の気配を感知したのだろう。

「馬鹿が。言っておくがな、楽に死ねると言うのは脅しでもなんでもないぞ。
 ウチには『そういうの』が大の得意な奴がいる。心変わりをするなら今の内だ」

結果として――捕縛された三人は誰一人として口を割らなかった。
それはつまり、雷花が手配した『彼女』の出番という事だ。
支援局屈指の尋問官、伏見狂華の。



怪人運用支援局の本部は東京都新宿区に所在しており、実働部隊員の営舎もその敷地内にある。
君達はそこで待機を命じられていた。
尋問の結果次第では連続して出動する必要があるからだが――雷花がそれを正しく説明するかと言えば答えは否だろう。

「――今から二時間後、小名浜港に使用済み核燃料が密輸入されるそうだ」

マスターキーによって予告もなくドアを開けた雷花は、開口一番にそう言った。
それは捕縛されたラディスチャンが尋問に堪えかねて吐いた情報だった。

「三十分後に出動だ。準備しておけ。事の次第によっては激しい戦闘になる。
 さっきの任務で消耗したなら食堂で補給をしておけよ」

支援局実働部隊の営舎には、収容される人数に対して随分と大きな食堂がある。
怪人の能力は人によって千差万別であれども、体が資本である事は共通しているからだ。
十分な栄養とエネルギーがなければ、どんなに優れた能力も機能しない。
もっとも、この状況下で食事を満足に楽しめるかと言えば疑問を禁じ得ないところだが。

さておき、君達は小名浜港へと移動を開始する事になる。

今回、雨場は捕縛した三人になりすまして密輸業者と接触する任務がある。
先の戦闘で何度かほぼ全身を再生している事を鑑みると、あまり多くの分身体を作るのは危うい。
その為、伏見狂華が強襲部隊として駆り出される事になった。

「つーか隊長。いい加減、戦闘員としては伏見の方を常用して下さいよ。
 今日だけでもう二回頭をかち割られてて、多分これからもっと増えるんですよ?
 馬鹿になっちまいますよ、俺」

「安心しろ、任務が始まる事には日付は変わっている」

移動中の車内で雨場が切り出した懇願に、雷花が返した答えは甚く残酷なものだった。

68 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/28(金) 02:28:21.38 0.net
とは言え――戦闘員としては伏見の方が有能である事も確かだ。
雨場は保有可能なエネルギーが多い分、他人よりも再生能力を濫用出来る。
しかし伏見は違う。彼女はまさに不死身なのだ。

一体どのようなメカニズムなのかは彼女を実際に殺す必要がある為、多くは解明されていない。
が、戦闘時に確認された限りでは切断による失血、頭部の破壊、毒物による汚染、燃焼、感電では彼女を死に至らしめる事は出来なかった。
一度死んで蘇生しているのか、それとも脳や心臓を失っても生命維持が継続していたのかは不明だが。

とにかく、彼女には雨場と違って『限界点』がない。
どれだけ酷使しても決して死なない――理想の兵士像と言っても過言ではなかった。

「……ま、考えておいてやろう」

それらの事を踏まえ、雷花は改めて、まったく温情の伴わない回答を述べた。



怪人の出現によって社会が世界的に乱れて以来、運輸業は大きく衰退した。
能力によって多様化し過ぎたテロへの対応が追いつかなかったのだ。
最早、海運業と航空業は国家が厳密に管理している物以外、機能していない。
かつては福島県屈指の観光地でもあった小名浜港は面影もなく寂れ、深い夜闇に飲み込まれていた。

「……よし、行け雨場」

「「「あい了解」」」

雨場達は他の隊員とは違う、擬装用の自家用車に乗っていた。
軽い口調で答える彼らの首元に、スロートマイクはない。インカムもだ。
肉体変化によって体内に埋め込んでいるのだ。

「……周囲に生体反応は全部で十。敵は七人か。随分と少ないな。……まぁいい。私達も移動するぞ」

取引の場所は港内にある二階建てのレストランだ。
無線機から聞こえる会話から察するに、雨場は既に中に入っているようだ。
入り口には念の為か見張りが二人立っていたが――紫電が二本閃くと、それらは音もなく崩れ落ちた。

「あと五人だな。全員、屋上へ登れ。静かにな」

例え身体強化が得意でなくとも、能力を使いこなせば二階建ての屋上へ登るくらい、怪人ならば容易い事だ。
雷花ですら肉体変化によって翼を伸ばし、鉤縄のようにして屋上へと登れるのだ。絵面の良し悪しは度外視するとして。
どうしても不可能であれば雷花が翼を伸ばしてロープ代わりにしてくれるが、色んな意味で好ましくないだろう。

ともあれ全員が登り終えると、雷花は屋上の五ヶ所に羽を打ち込んだ。
それから十崎に持たせていたバックパックを受け取り、中から小さな板切れを取り出して皆に投げ渡す。

「敵はその羽の下にいる。その指向性爆薬を使えば屋根板と天井をぶち抜いて奇襲が出来るだろう。
 それにこちらの側面は一面ガラス張りだ。そっちを使ってもいい。
 まぁ、要するに……全員始末しろ、やり方はどうでもいい」

そして君達が屋上に登り終えた頃、雨場達はその下のレストランにいた。
真ん中の雨場は核燃料の対価である金――偽札を詰めたジュラルミンケースを提げている。

「やぁ、よく来てくれたね。どうだい君も一切れ。核燃料の浄化水から取れた塩に漬けたハムだ」

窓際の席で海を眺めていた男が振り返り、指に刺したハムの塊を雨場に見せた。
男は極度の肥満体だったが、怪人にとってそれは戦闘能力の不足を意味しない。
屋上の雷花は、男から手練の気配を感じ取っていた。

ちなみに浄化水とはつまり、汚染水の事である。

69 : ◆PyxLODlk6. :2014/11/28(金) 02:29:35.15 0.net
「……いや、とてもじゃないがそんな気分じゃない」

「ふぅん……ただの取引だ。ウチは年に何十件と同じ事をしてる。緊張するような事じゃない」

『雨場、こちらの準備は完了した。お前が最初の一人をやれ。だがその窓際の男は手強い。他を狙え。
 伏見、流川、窓際の男はお前達がやるんだ。
 殺す前に色々聞き出せそうだが、そうなると私では勝手が悪い』

「了解」

極小さな声で雨場は返答し――直後に動いた。
最も手近にいた一人に三人がかりで掴みかかり、そのまま『捕食』。
心臓と頭部を抉り取られた相手は声を上げる間もなく即死した。

「今だ、突入しろ」

君達は指示された目標のみを狙ってもいいし、手始めに周囲の邪魔者を始末してもいい。
しかし窓際の男は、一筋縄では倒せないだろう。
襲撃を察知した瞬間、男の表皮は著しく硬質化し、体内では弾性を得た肉、脂肪、骨が幾重もの層を作り出していた。
様々な攻撃手段に対応可能な防御を、僅か一瞬で構築したのだ。
その肉体変化の精密性と速度は一流のものだった。



【ブリーチング。敵の内、一人は相当に手強い模様
 捕縛された三人への尋問はお好きなようにやってください】

70 :流川:2014/11/29(土) 00:50:36.18 0.net
【レス順はどうしますかっ?】

71 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/11/29(土) 11:30:32.26 0.net
先に書けた順でいいと思います。

72 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/11/30(日) 00:05:51.19 0.net
【書けたんで先にいかせてもらいます】
『理想どおりの死に方』なんて願いは一体何番目ぐらいの願いだろう?
どうせトップテンに入っていないのは確かだ。
シビアな話をするなら、高年齢層からの票を得て、ぎりぎり100位県内に収まれば御の字ぐらいが妥当な願いか
まぁ少なからず、私はこれから其れを叶えにいく訳だが・・・

 超 楽 し み で 仕 方 が な い

私、伏見狂華はこれから死刑を受ける。
主な罪状は「殺人」、時に衝動的に、時に計画的に、芸術的に、作業的に、ありとあらゆる方法で数多もの人命を奪ってきた。
理由?だからさっきも言ったじゃん、目的は『死刑』だって、でも、『殺人』も面白かったけどね。
わかりやすく言うなら、人生の目標ってのが『死刑』で『殺人』は趣味ってところかなぁ
しっかし、まぁ時間がかかると思ったら三日で死刑執行とか、いやいや法務省も中々やるもんだねぇ
「あぁ教誨師とか面倒だからいらないよ。でもケーキだけじゃなく紅茶もほしいかなぁ」
気さくにそう話しかけても刑務官たちは言葉もなく、血走った目で私を睨みつける
そうだろうねぇ、君たちは私のために神経をすり潰してこうしてる訳だし
それに、異例のスピード処刑な訳だから、きっとそういう優遇なんてしなんだろうなぁ

73 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/30(日) 02:31:59.55 0.net
【>伏見さん 了解です!】

中央区はさながら爆心地の様相を呈していた。
アスファルトはくまなく焼け焦げ、あたりにはタンパク質の灼けた異臭が漂い、そこら中に炭化した死体が転がっている。
この地獄を、たったひとりの怪人の性質変化によって引き起したというのだからつくづく正気度の下がる思いだ。

「鳴上さん……激、強……」

これが支援局実働部隊の隊長格たる者の実力。
己の特性の全てを戦いの為に練り上げた怪人の能力は、既に人ではなく兵器の範疇である。
自身の属する組織の頂点。その威力を目の当たりにした新兵の胸には、ただ純粋な畏敬があった。

そして。
地面にズサーして動けない市香に、一仕事終えて良い顔の上司が声をかけてきた。

>「……まぁ、なんだ。支援局は社会にとって有用であれば思想は問わん。
 性癖もな。だが次からはせめて物陰で事に及べ」

「な、なん……」

市香は絶句した。ショックのあまりである。
公然に鉄パイプとまぐわう変態扱いされたこともだが、何よりそれを翼生やしてドヤ顔の奇人に言われたのが一等堪えた。
言うだけ言って何事もなかったかのように本部と連絡を取り始める上司の脳天に、
蒸気加速MAXの鉄パイプを叩き込んでやりたい衝動に猛烈にかられた。

その辺で消し炭めいた感じになってる雨場もきっと応援してくれるはずだ。
そう思って彼の姿を探すと、目と口だけ再生した消し炭が沈痛な面持ちで首を振った。
中間管理職の悲哀みたいなものが言葉でなく心で理解できて(二回目)、市香は頭を抱えて衝動を呑み込んだ。

「せめてタッチダウンと言ってください……」

……この後、捕虜となった敵性怪人の一人が稚気ほどに込めた害意を鳴上が看破するのを見て、
雨場の判断が完膚なきまでに正しかったと市香が理解したのはまた別の話。

74 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/30(日) 02:32:35.93 0.net
<支援局・実動部隊営舎>

福島から帰投した折、そのまま十崎と共に待機を命じられた市香は、ソファに腰掛け静養をとっていた。
静養というのは、つまりは泥のように眠ることである。
今日一日で色んなことがありすぎた。鳴上からの圧迫面接(物理)、初陣での敵怪人との戦闘……。
彼女が一番ダメージを受けたのは鳴上の空爆から逃げるときに負った擦傷なのだが、閑話休題。
常人よりも強力なタフネスを誇る怪人とて、流石に疲れ果てて、いつの間にかこんこんと眠ってしまっていた。

「   」

市香は眠りの中で最初、『将来大成して追抜き出世した鳴上を顎で使う自分』を夢想していたのだが、
一日で刻みつけられた鳴上に対する根源的な畏怖が邪魔をしてまったくイメージが固まらず、
飼ってる獣がでかく育ちすぎて機嫌を伺いながら給餌している自分というビジョンで落ち着いてしまった。
もちろん猛獣は鳴上であり、あげてる餌は雨場の形をしていた。

>「――今から二時間後、小名浜港に使用済み核燃料が密輸入されるそうだ」

バァン!と甚だ無遠慮に扉を開けて(当たり前のようにノックなしだ)、鳴上が入室してきた。
十崎に肩を揺すられて覚醒した市香は、鳴上の顔を見た途端に竦み上がった。

「ひいいい!?やっぱりずっと同じ餌(雨場さん)じゃ飽きて――っ!?」

ツカツカと歩み寄ってくる鳴上に不用意な発言を聞かれなかったのは僥倖と言う他あるまい。
市香は速やかに夢の残滓を振り払うと、十崎から先ほどの上官の通達をカンニングして話を合わせた。

「原発の燃料棒……放射能大好き怪人達が放射線浴する、ってわけじゃないですよね、多分」

使用済み核燃料は成分を抽出すると核爆弾の材料となるウランとプルトニウムが採れる。
放射線を浴びてゴジラになりたい願望があるならともかく、テロリストの用途としてはこっちだろう。
もしかしたら放射能信奉者達が燃料棒をご神体に祀り上げてみんなで拝むのかもしれないが。

>「三十分後に出動だ。準備しておけ。事の次第によっては激しい戦闘になる。
 さっきの任務で消耗したなら食堂で補給をしておけよ」

「了か――三十分後ですか!?タイトスケジュールにも程がありますよ!」

市香の上申など鳴上が意にも介さないのは最早常態化しているが、
これはもうあらゆる意味でデスマーチだ。リアル死と隣合わせの行進である。

ともあれ、疲れと眠気のあまり後回しにしていた栄養補給は行っておかねばならない。
流川市香の怪人特性『相転移』は、気化液化した肉体が摩耗するリスクを常に負っている。
液化すれば飛沫や蒸発で幾分かの肉は散るし、蒸気加速を使えば気化させた分の肉体は還元できない。
よって市香が能力を使い続ける為に補給すべきはまず水分、次いで良質なタンパク質である。

「了解しました。食堂に寄ってからロビーに集合します」

市香は十崎と伴って、営舎二階にある隊員食堂へ向かった。

75 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/30(日) 02:33:08.43 0.net
<食堂>

時間帯が深夜なのと、出撃まで時間がないのは先方にも伝わっているらしく、注文した品はすぐに出てきた。
豚骨ラーメン、焼き茄子入りカレーライス、白ごはんに納豆とたらこ、生卵に赤だしの味噌汁。
ずらり並んだ品目を、市香は平行して食べ進めていく。
ラーメンを小皿にとり冷ましつつ、カレーに卵をぶち込み、納豆を混ぜ、味噌汁を啜る。
向かいで牛丼をつついていた十崎が、げんなりとした様子で声をかけてきた。

「あんだけ死ぬ思いした後でよくそんなにものが食えるなぁ。俺は正直食欲がねえよ。
 ――まともな人間様の食い物なんて一週間ぶりに食うのにな」

「どんな食生活してたんですか十崎さん……」

十崎は肉体の大幅な変形を伴う特性ではないから、そこまで腹は減らないのかもしれない。
が、それを差し引いても、おそらく彼にとって慣れぬ鉄火場は相当に精神に堪えたのだろう。
市香はご飯に載せたたらこの薄皮を破って中身をしごきながら、努めて明るく食事を奨める。

「でも食べなきゃ体保たないですよ。それにここの食堂、食事がやたらに美味しいんですよね」

「……確かに。米はいつまで経ってもモッチリ瑞々しいし、煮染めた牛肉も柔らかくてコクがあるな」

「支援局って言ったら怪人の巣窟ですから、例えば体液を万能調味料に変化させる特性、
 なんてのも使われてるんでしょうねっ」

「体液を料理に入れてるってことか?やめろよ、なんか汚えな……」

「そうですか?例えば美味しいステーキの肉汁だって、つまりは牛さんの体液なわけじゃないですか」

「人間と牛と一緒にすんなよ!」

「人間じゃなくて、"怪人"ですよ」

「…………」

十崎は閉口してしまった。
市香としては、別に潔癖だとか衛生観念について言及したかったわけではないのだ。
ただやはり、市香のような生来からの怪人と、後天的に怪人化した十崎とでは意識に違いがあるようだ。
市香は基本的に、常人と怪人は別種の生き物と考えている。
姿形は同じだし、同じ社会に生きているが、それでも特性という隔たりは間違いなく大きい。

極端な話、市香は常人の男と口づけしたってなんとも思わないだろう。
ペットを溺愛する者が、犬猫とチューするのと同じくらいの感想しか抱かない。
思春期を過ぎた流川市香にとって、常人の男というのは恋愛の――ひいては生殖の対象にならないのだ。

「わたしが高校生の頃、友達にまさにその体液を調味料に変える性質変化の持ち主がいまして。
 彼女が握ったおにぎりは、手汗が混入していてそれはもう美味しかったんです」

「……まさかその友達ってのは、ここの食堂で働いてたりしねえだろうな」

「いえ。――卒業前に、怪人同士の抗争で亡くなりましたから」

「……すまん」

十崎が頭を下げるのを見て、市香は逆にあたふたした。

76 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/11/30(日) 02:35:00.86 0.net
「あ、いやいや、別にそんな深刻な話のつもりで言ったんじゃないんです!
 確かにその娘は亡くなりましたけど、それは彼女が自分の意思で抗争に参加した結果なんですからっ!」

「でも、友達だったんだろ?」

眉をハの字にする十崎に、市香はなんとなくお互いの気構えのギャップを理解した。
怪人として生まれた市香にとって、怪人同士の戦闘というのは殆ど日常茶飯事だった。
戦闘向きの能力を持つ怪人は中学あたりから番を張って他の中学と殺し合いを演じていたし、
市香自身、巻き込まれる形で初めて戦闘に参加したのは中二のときだ。
高校に上がる頃には、こちらを殺そうとしてきた怪人の命を奪ってさえいる。

だが、十崎健吾のいた世界、常人の世界では、諍いはあっても学生同士が殺し合うなんてことはなかったのだろう。
だから、命の奪った奪られたを軽薄に語る市香の世界観がことさらに異質に映るのだ。
十崎は人間でもなければ怪人にもなりきれない、どっちつかずの存在なのかもしれない。
でもそれは、人間と怪人、双方の価値観を理解できることでもあるのだ。

「なあ流川、お前、もしかすると悲しいのかもしれないぜ」

「友達が死んだのが、ですか? そんな、人間みたいな……」

人間みたいに――いちいち他人の死を悲しんだりしない。
そう言い切ってしまいたかった。
たまたま、妙に美味しいここのご飯に、故人の能力を思い出して言及しただけなんだと。

「人間みたい、じゃねえ。体の中身を自由に弄れる怪人にだって、一つだけ人間とまったく同じ構造の部分があるだろ」

「なんですか、それ」

「――怒ったり泣いたり笑ったりする部分。心って奴だな」

「ダサいです……」

「んだとお!?」

アラサー男の凄まじい加齢臭漂う発言に、市香は頭を垂れた。
まさかこの期に及んでそんな黴の生えたような道徳訓話をされるとは思っていなかった。
市香は通っていた高校の中年教師の顔を思い出して一瞬箸が止まったが、すぐに再開した。

「ほらもう時間ないですよ、さっさとその牛丼流し込んで!」

既にラーメンを汁まで飲み干し、白米と味噌汁を平らげ、残るはカレー半分となった市香は、
ぶつくさ文句を垂れる十崎とほぼ同じタイミングで空になった皿を置いた。

「でも、ちょっと嬉しかったり」

ディスペンサーの水で口の中のカレーを洗い流してから、市香は俯いて零す。
何が、と十崎が問うので、心の中にある感情を丁寧に紐解いて解読した。

「――もう一度、あの娘の料理が食べたいと思ってたんです」

だから。
死んだ友達と同じ特性持ちがこの食堂にいて、故人にまた会えたような気がして、嬉しかったのだ。
十崎の言う"心"に去来したあたたかみの正体を、市香はそう結論づけた。


【次任務までの補給。 続きは後日書きます(タイミング的には伏見さんが本筋に合流されてからかな?)】

77 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/11/30(日) 05:07:12.41 0.net
案の定、私の処刑には教誨師も最後の食事も用意されず、部屋に入るなり処刑の仕度が始まった。
目隠し、拘束、そして、縄
すべてが滞りなく刑務官の連携作業によってスムーズに行われる中、私の背筋に寒気が走った。
この期に及んで怖気づいたとかそういうんじゃない。
ただ妙な確信が頭をよぎってしまったのだ。
《この程度じゃ死なない》
んなぁこたぁない、人ならざる所業はしてきたが、私とて人間だ。
斬れば血も出るし、首を締め上げれば顔面蒼白になって泡を吐く、首が折れればあっけなく死ぬ
そう絞首刑で十分死ねる。
「最後に何か一言あるか」
所長が事務的な口調で尋ねる。
「さっさとやっちゃってよ」
私は満面の笑みで返した。
その瞬間、処刑は執行された。

《私は一生死ねない》

はずだった。
「あんれーなんで生きてんの〜」
宙ぶらりんのまま、私はそう呟く
いや苦しいし、首もすんげー痛いよ
なのに、意識ははっきりしているし、体も動く
脳みそだけが一人歩きしているのかと思ったけど、まわりが阿鼻叫喚になっているところを見ると・・・そうか

死刑は失敗しちゃったのか

===================================
営舎自慢の食堂にて担当局員たちが世話しなく働いている厨房の壁一枚隔てたその奥が、私の独房(へや)であり、仕事場だったりする。
内装は・・・まぁざっくばらんに言うと・・・厨房だ。
表側の厨房をスケールダウンさせたのがそこにある訳だ。
違いがあるとすれば、さりげなく拷問器具等々がさりげなく並んでいるぐらいか
もちろん、風呂、トイレ、寝室も小さいながらちゃんと備えていたりするトンデモ独房である。配管的にも厨房の近くにあったほうが都合がいいって訳
いやー、どうせならと思って要求したけど、ここまで通ると逆に怖いなぁ
「ってことで君たちを担当することになった伏見狂華でーす。よっろしくー」
今回のお客であるラディスチャン3名に対し、私は満面の笑みで自己紹介をしてやった。
返事は無く、三人とも口から血を垂らしながら私を睨んでいる
三人の口から垂れている血だが、それは彼らのではなく、私の血だ。
実は私の不死の能力にはもう一つ特性があって、それは、私の血肉を摂取させたものを一時的に不死かさせるという人魚じみた特性がある。
普段は、私の肉を調理して知らぬ間に食わせてから始めてるんだけど、雷花ちゃんからせっつかれているので、今回は血を飲ませたって訳
話は変わるけど、地獄では体を八つ裂きにされようが、原型が無くなるまで微塵に潰されようが亡者は死なないし直ぐに元に戻るんだってね♪
何が言いたいかって?今から始まることはそういうことだってこと

78 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/11/30(日) 05:09:31.42 0.net
====================================
「あ゛〜マッズぅ〜い」
小名浜港に向かう車中の中、私は先ほどのラディスチャンの肉で作ったから揚げを食べていた。
感想は・・・リアクションの通り、超不味い
時間が無かったからロクな下処理とかしてなかったのもあるんだろうけど、不味い
とにかく臭い、苦い、エグいことこの上ない、あいつ等普段何食ってんの?
と私はこんな感じだけども、車中は張り詰めた緊張感でいっぱいだった。
まぁ原因は私なんだけどねー。
死刑になった殺人鬼と一緒にドライブとか、そりゃ警戒して当然だわな。

こうして、一向はそんな空気のまま小名浜港に到着しましたとさ

到着後、ブリーフィング通り作戦は始まった。
取引相手に扮した雨場sのあとを追走し、たどり着いたのは港内のレストランだった。
ここが営業していたなら、今の私の格好で十分まぎれこめれそうだけど、まぁ営業してたならこんなとこでそんなもん受け渡したりしないよね。
我々強襲部隊はどうやらそこの屋上から仕掛けるつもりらしいけど・・・
「え〜ちょ・・・マジでぇ〜」
他の面々が能力を使ってよじ登っていく最中、私は苦虫を潰した顔で立ち尽すしかなかった。
私の能力は不死、応用も糞もない能力である。
言えば引っ張ってくれるかな・・・いや、雷花ちゃんってキツくあたってくる節があるからなぁ
「あ・・・もぅしょうがないなぁ」
私は腰に差してある二本の包丁のうちの1本である洋出刃包丁(刃渡り45cm)を抜くと、私の腹を掻っ捌き、腸を引きずり出し、それを振り回すと、屋上に向かってそれを投げた。
運よく引っかかってくれたので、そのまま、自分の腸をロープ代わりにして登る。
痛くないかってそりゃ痛いよ、でも、慣れれば案外たいしたことなかったりするんだよね。

なんとか登りきった私は、すぐさま自分の腸をしまい、先ほど残したラディスチャンのから揚げに口に詰め込んだ。
そのままでも、勝手に傷は塞がるのだが、自分の肉以外の食べ物を摂取したほう治りが早いからね…でも、不味いわ

雷花ちゃんによって敵の位置情報が割り出され、各々が配置につく
窓際担当になったのは私と新米局員の流川ちゃんだ。
「あっはぁ、よろしくねぇん」
爆薬をセットしながら私は話を続けた。
「そんなに怖がらなくてもいいんだよ〜今は殺すのは仕事のときだけって決めてあるからさぁ
 あと、私が先にしかけるからさぁ、流川ちゃんはケースバイケースで動いちゃってよ」
余計なお世話かもしれないし、信用もされないだろうけど、まぁとりあえず言えるだけいっとかないとね。
準備が完了すると、即座に雷花ちゃんがGOサインを出す。
爆音と共に床は抜け落ち、そのまま私はレストランへ突入していく
すぐさま目標を視認し、洋出刃を振り下ろす。
狙いは肩、厳密に言えば皮や肉で守れない関節部分
「!?」
妙な手ごたえを感じる・・・駄目だこれ、シクったかも
瞬時に奇襲をしくじったのを理解すると、そのまま着地して転がるようにして間合いをあけた。
「どうも、出張料理人でーっす、今日のおすすめは・・・福島産ラディスチャンのフルコースを予定しておりまーす」
失敗したことを悟られぬよう、私は目の前の相手に向かって余裕たっぷりに話しかける

79 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/11/30(日) 05:10:57.09 0.net
【伏見、強襲失敗・・・おとりのつもりでラディスチャンを挑発】
【途中でサーバーエラーやら、ばいさるやらで間が空いてしまって申し訳ないです】
【ちなみに、伏見が現在所持している包丁は洋出刃とマグロ包丁です。】

80 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/12/01(月) 01:40:54.34 0.net
再び福島の地へ降り立った市香達は、尋問によって得た情報から核燃料取引に先回りすべく小名浜港へ向かった。
かつての観光地としての栄華はすっかりなりを潜め、いまは政府管理の一部埠頭のみが機能しているばかり。
手放され、二度と進水することのなくなった小舟の屍達が、ゆっくりと錆びついていくのだけがここに許された変化だ。

「都心から200Kmも離れてないんですよね、ここ……」

時刻は日付が変わったばかり、潮風吹きさらしのこの街は見た目以上に底冷えをする。
市香も状況開始までは身体を冷やさないよう、官給品のコートの襟を立てて指示を待っていた。
海運業がボロボロになっているのは、近海を商船がまともに航行できない治安状態にあるからだ。
リアル海賊――水棲系に秀でた特性をもつ怪人の武装集団なんかがこのあたりには出没するらしい。
太平洋側はまだマシな方で、日本海側は大陸系の海賊の独壇場なんだとか。

打ち上げられて干からびたであろう、夥しいヒトデの死骸が埠頭を覆っていた。
釣り人が来なくなると、清掃する者もいないために、フジツボやヒトデの繁茂が留まらないそうだ。
不意に寒気に襲われた市香は温かい缶コーヒーでも買おうと自販機を探したが、殆どが破壊され略奪され尽くしていた。
辛うじて生き残っているのは、表紙の褪せてしまった有害図書や、『明るい家族計画』の販売機ぐらいなものである。

>「……周囲に生体反応は全部で十。敵は七人か。随分と少ないな。……まぁいい。私達も移動するぞ」

「アイ・アイ、マム」

取引現場は市場に併設されたレストランだった。
閉ざされた一階のシャッター部には営業時間が書いてあるが、ちゃんと定刻通りに開店しているかも怪しい。
看板は潮風に晒されて錆びついたまま手入れをされておらず、十人中七人くらいはここを廃墟と判断するだろう。
いまにも落ちてきそうな庇の下で、敵勢力と思しき怪人二人が立哨していた。
鳴上の遠距離からの紫電が一閃、次いで一閃。

>「あと五人だな。全員、屋上へ登れ。静かにな」

(すご……バチバチ音立てないんだ)

放電の際に電圧が大気を叩くあの鋭い音が、鳴上の攻撃からは発生しなかった。
強力な雷撃を、完全に自身の支配下に置いている確たる証左である。
上官の練度の高さを再確認しつつ、市香は屋上への登攀を開始する。

蒸気でジャンプすればこの程度の壁はよじ登れたが、今度こそ隠密行動は絶対だ。
よって市香はしばらく考え、右の手のひらを壁につけた。

「っ」

怪人特性を発動、手のひらのみを液状化――即座に固体化。
液状化した肉体が壁に隙間なく密着し、ちょっとやそっとじゃ離れない吸着力を得た。
ちょうど、濡らした布を壁に叩きつけると張り付くのと同じ原理である。

市香は同様の所作を両手と両足それぞれに施し、三点で体重を支えながら一点ずつ着実に壁をよじ登る。
ヤモリの如く、3分ほどの時間をかけて、彼女は静かに登攀を成功させた。
他の連中はどうするだろうか――市香は屋上から下を見て、目玉を取り落としそうになった。

同じく実働隊として出撃した女性、伏見狂華が自分の腹を掻っ捌いて腸を引きずり出していた。

(えええっ?なんでこんなところで切腹!?)

暗君を諌める忠臣でもあるまいに、こんなところで臓物ひけらかされてもなんて言えばいいのやら。
ステキな色ですね!なのか、お酒飲み過ぎじゃないッスか?なのか。
突如の事態に市香がぐるぐる思考していると、伏見は臓物をこちらに放り投げてきた。

「ひぃ」

81 :流川:2014/12/01(月) 15:19:55.51 0.net
ぶん投げられた腸は市香の足元すぐ近くにべちゃっと着陸。
そのまま屋上の手摺に引っかかった。なんと、伏見はそれを伝って登ってきたではないか!
数いる怪人の中でもトップクラスにエキセントリックな行動である。

「い、いたくないんですか……?」

市香は隣に降り立った伏見に思わずそう問いかけた。
使った腸を腹に戻しながら彼女が言うには、どうやら慣れればそうでもないらしい。
普通の人は慣れるほど割腹したら死んじゃうのだけど……。
脳味噌を隔離できる怪人もいれば、自分のはらわたを出し入れ自由な怪人もいるんだろう。
世の中って本当に広い。

>「敵はその羽の下にいる。その指向性爆薬を使えば屋根板と天井をぶち抜いて奇襲が出来るだろう。
 それにこちらの側面は一面ガラス張りだ。そっちを使ってもいい。まぁ、要するに……全員始末しろ、やり方はどうでもいい」

(わお、ざっくばらん!)

鳴上から放られた爆薬に、市香は手早く信管をセットして起爆スイッチのコードを引いた。
この手の工作は中学ぐらいの頃に所属していた女子グループで散々教わったものだ。
女子たるもの、アジとC4の三枚おろしは必須科目である。

>「あっはぁ、よろしくねぇん」

爆薬を弄くる市香に、先ほどの腸投げ女こと伏見が声をかけてきた。
腹の傷はとっくにふさがっているが、さっきからもぐもぐやってる唐揚げみたいなのから赤いものが滴っている。
ろくに血抜きもせずに調理したらしく、全然噛みきれていない。

「あ、新人の流川です。ヨロシクオネガイシマス……」

市香は先刻の伏見の凶状に、かなりショックを受けていた。
端的に言うと、ドン引きしていた。
そのせいでまともに顔も見れていなかったのだが、挨拶されたからには目を合わせなければなるまい。

(あれ?この人、どこかで見たような……)

会ったことはない。だが、その顔には見覚えがある。
脳裏に鳴上色の電流が走り、市香の海馬はわりと早くその情報を引き出しからもってきた。

(思い出した!伏見狂華、シリアルキラーの!!)

少し前までワイドショーが連日大賑わいだったのを覚えている。
伏見狂華。年号が変わってからの犯罪史において、おそらく最も多くの人間を、惨殺してきた殺人鬼だ。
その殺戮に因果はなく、思想もなく、ただ享楽的に、悦楽的に、人を殺し、殺し続けた最悪の連続殺人犯。
異例の即刻死刑判決でお茶の間で目にすることはなくなったが……。

(なんでそんな大犯罪者が支援局に!?)

>「そんなに怖がらなくてもいいんだよ〜今は殺すのは仕事のときだけって決めてあるからさぁ
 あと、私が先にしかけるからさぁ、流川ちゃんはケースバイケースで動いちゃってよ」

市香が身構えた気配を察したのか、伏見は目を細めて微笑んだ。
笑うという行為は本来攻撃的なものである的な解説が脳裏を過った。

「わ、わかりました……お任せします、伏見さん」

市香はその提案に従うほかなかった。
異存などないし、現役の殺人鬼に逆らう度胸などもっとあるはずもない。
予定通り、屋根に突き刺さった羽根の傍で、号令あるまで待機。

82 :流川:2014/12/01(月) 15:20:55.59 0.net
>「今だ、突入しろ」

イヤホンから上官の指示が飛び込むと同時、市香は爆薬の信管を起動した。
ズン!とくぐもった音がして屋上の床が抜け、開いた穴へ伏見が飛び込むのに続く。
下階へ着地すると、瞬間的に周囲の位置を把握。

雨場の扮する三人の男が敵怪人一人を殺害。
先行した伏見が窓際の取引相手に飛びかかっている。
突然の強襲に対応できていない男が二人、固まって唖然としていた。

(大物は伏見さんに任せて――まずは周りの連中を片付ける!)

伏見は口ぶりからするに戦闘員としても経験の深い支援局のベテランだ。
その彼女が先に仕掛けると言うのだから、連携の甘い市香が下手に加勢して足手まといになる法もない。
市香は二人組のもとへと疾駆、鉄パイプを抜く。

「野郎!」

二人組の片割れが硬直から立ち直った。
懐から車のボンネットも貫けそうな、ゴツくて分厚いナイフを抜き放つ。
次の瞬間、市香は既に鉄パイプをフルスイングする体勢に入っていた。
敵が受け止めんとナイフをパイプにかち当ててくる。それは失敗だった。
全力でバックステップするなどして、市香の鉄パイプを"回避"することに意識を注ぐべきだった。

「ブルームスター!」

呼び声に応えるように、鉄パイプが蒸気加速。
ぶち当たったナイフを粉砕し、敵怪人のあばらにパイプがめり込む。まだ加速する。
そのまま、すぐ傍でようやく硬直を解いたもう一人の敵ごと、まとめて二人をフルスイングでふっ飛ばした。
二人組は手近な壁に人型の跡をつけて叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。

「あと2人!」

うち一人は雨場に距離が近い。彼に任せておけば大丈夫だろう。
もうひとりは仲間を見捨ててレストランの出入口から退散しようとしていた。
距離が離れている――だが、敵は背中を向けている!

市香は実働服のポケットから数個の金属球を取り出した。
パチンコ球ほどの大きさのそれは、転がり軸受に使われるボールベアリングだ。
ホームセンターでも購入できる鉄の塊を鉄パイプの中に装填。

「そ――れっ!!」

蒸気加速によって撃ちだされたベアリングは、まさに巨大な散弾である。
逃げる背中へ向けて殺到した金属球のうち、二発ほどが肺のあたりにヒットして、逃走怪人は転倒した。
鉄の固まりであるベアリング球が高速で衝突した衝撃は凄まじく、骨に当たれば骨折、肺に当たれば絶息は必至。
特に逃走によって酸素を多く必要としていた肉体に、急激に呼気が供給されなくなって、敵は酸欠を起こし、卒中した。

「これであとは――伏見さんっ!!」

巨漢と対峙する伏見の集中力を削がぬよう、最低限の言葉で、『露払い完了』を伝えた。


【露払い。一部撃破未確認】

83 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/05(金) 00:32:49.24 0.net
敵の気配を掻き消す爆音、視界を妨げる粉塵――直後に肩に走る鋭い衝撃。
核燃料の密売人フルスターリは一瞬顔を顰め、しかしすぐに笑みを取り戻した。
弱いのだ。己の肩に突き込まれた一撃は、硬質化させた皮膚を貫くだけの威力を持ち合わせていなかった。

>「どうも、出張料理人でーっす、今日のおすすめは・・・福島産ラディスチャンのフルコースを予定しておりまーす」

「……やめておけ。君達日本人は食の安全を重んじると聞くが……私はロシア人だ。腹を壊すぞ」

フルスターリは余裕の態度を示しながらも、警戒は解いていない。
眼の前にいる女、伏見の戦力そのものは恐れるに足りない。
不意を突いた最初の一撃をあえて仕損じる理由などなく、即ち対手の攻撃能力は自分の防御を貫けない。

だが、その言動――ラディスチャンを揶揄し軽んじた発言が、引っかかった。
襲撃の直後は、金を用意出来なかった取引相手が馬鹿な手段に出たかと思ったが、違う。
敵はもっと組織的で、強力な、狩人達だ。
迂闊に防御を解く事は躊躇われた。

(結果として諧謔一つで、敵に後手を取らせた訳だ。狙ってやったなら大したものだが……)

屋根の上で戦況を伺っていた雷花が心中で独りごちた。
下に降りないのは、閉所での連携が彼女には困難だからだ。

>「これであとは――伏見さんっ!!」

「おや、いいのかね。君のお友達が一人、滅多刺しにされている最中だが……」

「前……見てろよ流川!こんな奴どうってこたぁ……ねえ!」

雨場の言葉は、しかしその声色とは明確に矛盾していた。
彼は今、窮地に陥っている。

敵は最初の一撃で雨場の攻撃方法を見抜き、対応してきた。
肉体変化によって指先を変形させ、刃のようにして、まずは三人の足を一纏めに薙いだ。
後は全身を隈なく突き刺しつつ、脚の再生を定期的に妨げる。それを延々と繰り返されていた。

攻撃に接触が必要な事、肉体強化は殆ど使えない事。
そして更に、三人が同一の能力を持っている事まで見抜かれている。
敵は単純に強く、冷静で、なおかつ対怪人戦闘に覚えがある。雨場にとって相性は最悪だ。

「……しかし参ったな。以前から使えない部下だとは思っていたが、まさかこれほどとは。
 これだから軍人崩れは駄目なんだ。以前の常識が今でも第一線で通用すると思っている」

顔中の穴から脳漿を垂れ流して死んでいる壁際の二人を視界の端に入れて、フルスターリは吐き捨てるように言った。

怪人同士の戦闘において、従来の戦闘理論はむしろ足枷となる。
ちょうどナイフで敵の攻撃を防ぎ、あわよくばそのまま刃を滑らせ指を落とそうとした先程の敵性怪人のようにだ。
元々の才能にもよるが、常人であった頃に戦闘に長けていた者ほど、その足枷は重くなる。

84 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/05(金) 00:34:16.23 0.net
「ルゥカ、ソイツはもういい。上にまだ何匹か残っているようだ。そちらをやれ。生かしておくのは一匹でいいぞ」

フルスターリは雨場を滅多刺しにしている部下へと視線を移すと、そう指示を出した。
ルゥカと呼ばれた男は無言で頷くと、窓辺へと寄り、屋上の縁に刃物化した指を引っ掛けて飛び上がった。

『……雨場、階段から落ちた一匹はまだ息がある。一応確保しておけ』

「げっ……ごぼ……は……了解……」

肺と気道を再生した雨場が血のあぶくに溺れながら返事をした。

強力な再生能力を持つ怪人にとって負傷は戦闘不能を意味しない。
時間と程度に誤差はあれど、ただの足止め以上にはなり得ない。
故に怪人の確保は、その方法が限られてくる。

鉄をねじ切る程の力を発揮出来る怪人と、肉体の液状化が可能な怪人を等しく拘束出来る手段など、そうはない。
確実性が高いのは電撃や薬物などで気絶させるか――または再生能力が使えなくなるまで重傷を負わせ続けてから拘束するかだ。
『捕食』という雨場の攻撃方法は、後者の手段と相性が良かった。

しかし――雷花は本来、窓際の男、つまりフルスターリを情報源にすると発言していた。
にも関わらず雨場に雑兵の確保を命じた理由は――単純だ。
事の次第によっては、フルスターリは自分が殺さなくてはならないと彼女は判断したのだ。
つまり、君達には荷が勝ちすぎるかもしれない、と。

『十崎、ソイツはお前がやれ。息の根を止めてやるんだ』

無線機から屋上での会話が聞こえてくる。

『……面接の時は聞かなかったが、お前にはもう一つ動機がある。そうだろう?
 お前の名前で検索すれば、インターネットですら簡単に調べがつく。
 やるんだ、十崎。上手く出来れば……お前の知りたい事を教えてやる』

だが、その内容に君達が意識を割いている余裕はない。

フルスターリの体に変化が生じていた。
全身から、着衣である黒のスーツすら突き破って、無数の棘が飛び出している。
それらが一体何なのか、君達が直感する事はそう難しくないだろう。

次の瞬間、フルスターリを中心として放射状に、超高速でその棘が飛び散った。
無事に残っていた何枚かの窓ガラスが一斉に割れ、床、壁、天井に無数の穴が刻まれる。

肉体変化の応用だ。
硬質化した棘を一方向へと高速で伸ばし、直後に分離させる事で発射したのだ。
襲撃を察知した瞬間に防御を完成させる超高速、高精度の肉体変化だからこそ実用に足る攻撃手段だ。
その威力は棘の一本一本が5.56ミリのライフル弾にすら匹敵するだろう。



【見た目的にはドリアンが大爆発】

85 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/12/10(水) 21:12:59.06 0.net
「マジぃ!あっぶなぁ〜ー、あと少しで産地偽造だったじゃぁ〜ん!」
まさか自分から国籍言っちゃうとかね、儲け儲け・・・って訳じゃないか
そこまで言っちゃうってことはつまりアレだ…完全にナメられてるってことか
まぁ初撃ミスってんならそうなるか
包丁を構えつつ、私は口を開く
「ねぇねぇ、ロシア人って家庭じゃボルシチにマヨネーズぶち込んで食うぐらいマヨラーってマジなの?」
そんじゃあ、もうちょいナメられてよう。そんだけ油断させられる訳だし
何より・・・相手が肉体変化寄りって時点で分が悪いしね
「てことはさぁ、かえってそっちのほうがよかったりするんじゃね?」
おそらく強化2の変化と変質が4:4っぽくはないかな、まだ人の形をしてる訳だし
今のところ3:5ぐらいで見積もっておくかな
>「これであとは――伏見さんっ!!」
そんなやり取りしている間に、流川ちゃんはザコ掃除を終えたようだ
よしよし、流川ちゃんの手が空いたってことは、当然先に仕掛けてた雨場sも
>「おや、いいのかね。君のお友達が一人、滅多刺しにされている最中だが……」
絶賛フルボッコな訳ですよ。
ちょっと勘弁してよ、その戦術私にも有効だからね!不死身って言っても達磨にされ続けてたら文字通り手も足もでないからね

86 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/12/10(水) 21:20:32.05 0.net
>「ルゥカ、ソイツはもういい。上にまだ何匹か残っているようだ。そちらをやれ。生かしておくのは一匹でいいぞ」
と内心、頭を抱えもんどりうってる私を尻目にオッサンは『ルゥカ』という名前の刃物野郎を屋上に行かせた
その光景を目の当たりにした私は思わず笑みが出る。
そりゃそうだ、思惑通りに事が進めば、誰だってそうなる。
>『……雨場、階段から落ちた一匹はまだ息がある。一応確保しておけ』
上には当局自慢の「雷神」雷花ちゃんがいる、あとついでに目がすごくいい十崎ってのも・・・
「アッハッ・・・ハァッ゛!?」
さっきと言ってることが違うんじゃね?コイツから情報を得るとか言ってなかった
アララララ…もしかして、雷花ちゃんもこの状況を不利と判断しちゃってたりするわけぇ?
「るぅかわちゃ〜ん、私たちどうやら期待されてないっぽいよぉ」
とそんな愚痴をこぼしている場合ではない、奴さんハリセンボンのように膨らみ始めちゃってる。
まさか、その状態で突っ込んでくる気ぃ?それはそれで芸がなさす・・・
「カヒュッ」
気がついたときには体中に穴が開き、そのまま勢いで後ろへ倒れていた
まいったね・・・まさか全方向へ撃ちだすとは考えてもいなかった。
おかげでこのざまだわ・・・でも、これでいい
大なり小なり、相手は「一人仕留めた」と錯覚している訳だ。
まぁ錯覚していようがいまいが関係なかったりするんだよね。
何故なら今そこにアンタの攻撃を凌いだ奴がいるんだからさぁ〜、口だけのザコAに気をつかってる場合じゃないっしょ?
「でもざぁんねぇん、ザコAはホラー映画の怪物でした!」
相手の意識が完全に外れた瞬間、私は即座に起き上がり肉薄し、洋出刃を振るう!
んなもんきかねぇよアホが、とか思った?思うよね?私もそう思う。
だから、今度は刃先(斬る)じゃなく刃元(カチ割る)でやる。
加えて、狙いは間接以上にガードも強化もしにくい『目』、たとえ斬れなくても一時的に視力は奪える・・・かもな訳よ!
【死んだ振りからの目潰し
 なんか規制食らっちゃったみたいなんで、避難所的な何かが欲しいです。】

87 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/11(木) 12:54:09.74 0.net
http://jbbs.shitaraba.net/internet/21967/

投下乙です。早速ですが避難所です

88 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/12/14(日) 23:05:24.26 0.net
>「おや、いいのかね。君のお友達が一人、滅多刺しにされている最中だが……」

「雨場さん!?」

日付が変わっているので本日一回目、毎回恒例のアレ。
例によって雨場(×3)は敵怪人の一人にボコボコにされていた。
足を刈られ、転倒した所を『殺し続け』られている。

>「前……見てろよ流川!こんな奴どうってこたぁ……ねえ!」

「でも……!」

雨場の言う通り、市香は自分の心配などしている場合ではなかった。
伏見が苦戦している――支援局のベテランですら手を焼く相手が、まだ一人残っている。
事前の『インタビュー』で明らかになっているのは取引相手の所属国家と名前だけ。
ロシアの非合法商(イリーガル)、フルスターリ。

>「……しかし参ったな。以前から使えない部下だとは思っていたが、まさかこれほどとは。
 これだから軍人崩れは駄目なんだ。以前の常識が今でも第一線で通用すると思っている」

「手厳しいよぅ……」

フルスターリの指摘通り、市香がこうも容易く勝ちを拾えたのは、完全な奇襲であることに加え、
敵怪人が"怪人同士の戦闘"に慣れていなかったことに起因する。
おそらくは後天性怪人。そして、怪人化する前から戦闘の場に身をおいていた者達だ。
軍人の戦闘技術というのはあくまで人間を相手にする為に練り上げられたものだ。
それに精通していればするほど、ビックリ人間博覧会みたいな怪人同士の戦闘に自身をうまくアジャストできない。
市香のような、生まれながらの怪人で、大抵の奇行に慣れきった者には遅れをとる。

>「ルゥカ、ソイツはもういい。上にまだ何匹か残っているようだ。そちらをやれ。生かしておくのは一匹でいいぞ」

ルゥカという名の刃物怪人は、雨場をザクザクするのをやめて屋上へと向かっていった。
ザクザクされた方の惨状は最早見ずとも想像に難くはない。

>『……雨場、階段から落ちた一匹はまだ息がある。一応確保しておけ』

――そんな状態で更に任務を仰せ付かった中間管理職の悲哀は言わずもがな。

>「アッハッ・・・ハァッ゛!?」

「な、なに!?」

快活に笑わんとした伏見が突如としてむせた。
市香も時々歯磨き中にオエってなることがあるが、まさにそんな感じの声だった。

>「るぅかわちゃ〜ん、私たちどうやら期待されてないっぽいよぉ」

「ながれかわです!って、それどういうこt――」

ルゥカわ改め流川市香の疑問はそこでぶつ切れになった。
対峙していた敵怪人フルスターリの身体が膨れ上がり――無数の棘を形成、射出した。
ドガガガガ!と工事現場で耳にするような鈍い音が破壊の合図だった。

「やば」

咄嗟に巨大化させた鉄パイプを盾として構える。
金属の拉げる音が連続して響き、ほんの数秒でパイプがぶち破られた。
棘の嵐を喰らった市香は、弾丸の慣性を無数に叩きこまれてふっ飛ばされた。

89 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/12/14(日) 23:06:12.80 0.net
「っあ……!」

叩きつけられた先に配膳テーブルがあったのは僥倖だった。
一瞬で瓦礫とかしたテーブルは、しかしそれでも市香を護る壁の機能を果たす。
強烈な激痛に一瞬だけ意識がブラックアウトし、次に目に飛び込んできたのは、砕け散った蛍光灯の基部であった。
市香は仰向けでレストランの床に転がっていた。

「っは、」

息は吸える。パイプを盾としたお陰で、胴体はどうにか護ることができた。
だが、右太腿と左肩にそれぞれ一発ずつ被弾し、動脈から透き通った鮮血が噴き出している。
それ以外にも、四肢は余すところなく裂傷が刻まれ、血に染まっていた。

「まともに……喰らっちゃった……」

なけなしの再生能力で、致命傷になり得る動脈出血二箇所を止血。
だがそこ止まりだ。燃費の悪い市香の怪人特性は、雨場のような強力な再生能力を備えていない。
相転移の際に副次的に傷を塞ぐことはできるが、失った血や肉を補填するものではないのだ。
回復ではなく、あくまで悪化を遅らせる程度のものでしかない。

「血は止まったけど……もっかいアレ喰らったらマジ死にですよね……」

フルスターリは強い。
鳴上を見た後だからどうにも霞んでいたが、間違いなく一線級の戦闘怪人だ。
奇襲への即時対応力、伏見の刃が通らない防御力、そして怪人二人を相手取って一歩も引かない攻撃力。
対して市香の能力は、フルスターリのような攻防一体の強者に対して極端に相性が悪い。
蒸気加速で鉄パイプとて、それをものともしない鉄壁の防御にはどうすることもできない。
積み上がっていく『勝てない』の方程式は、市香の戦意を折るのに十分だ。

それでも。
市香は立ち上がった。
再構築した鉄パイプで、杖のように身体を支えながら、蒼白な顔で瓦礫の山から顔を出す。

「死んだら……労災が降りないんですよっ……!」

2階級特進?遺族年金?糞食らえだ。
墓をどれだけ豪奢に飾ったってその下で眠っている故人には関係ない。

「密売人さん、あなたはどうして核燃料を売るんですか?お金が欲しいからですか?
 わたしは欲しいです。この世紀末伝説な世界で、明日死ぬかもしれない身で、たくさんのお金が欲しいんです」

流川市香の存在証明。
それは、生きて、稼いで、美味しいご飯とうきうき権力ライフを享受することに他ならない。
明日の糧さえ知れぬこの暗黒の世界で、なお人間性を手放さないための、それは道標であった。

「神戸屋のステーキ定食。プラダの新作のブーツ。新しいiPhoneケース。江戸前の生うに丼。
 MacのノートPC。腹筋ローラー。来年の水着。吉祥時への引っ越し。大洗のあんこう鍋」

まだ全然食べてないし、買ってない。
その欲望を全部叶えるまでは、何が何でも生きてやる。
市香は、その血まみれの腕を伸ばし、爪の浮いた指先で、フルスターリを真っ直ぐ指した。

「あなたの理想とわたしの欲望……ここで雌雄を決しましょう」

90 :流川:2014/12/15(月) 00:37:50.28 0.net
市香は瓦礫を乗り越えてフルスターリへと跳びかかった。
無策での突撃ではない。あれだけの質量をぶち撒けた後だ、同じ範囲攻撃はそう連発はできないだろう。
仮にできたとしても、不意打ちのさっきと違い今度は覚悟を決めている。
護るべき場所、捨ててもいい場所は選定済み、一撃を耐えて近づける!

>「でもざぁんねぇん、ザコAはホラー映画の怪物でした!」

そして――伏見もまた起き上がっていた。
これには市香もぎょっとする。より近距離で散弾を受けたにも関わらず、彼女は生きていた。
市香以上に、四肢の至る所に大穴が開いて、所々骨すら見えているが、なお伏見は得物を振るう。
その洋出刃の根本、じゃがいもの芽を穿ったりする部位で、フルスターリの眼球を狙う。

「伏見さん、そのままっ!」

市香はパイプを蒸気加速。
ただでさえ失血気味な肉体が蒸気に変換されて磨り減り、限界を感じて視界が軋む。
市香は無視してパイプを振り抜いた。
鉄同士がぶつかり合う劈音と共に火花が散る。

洋出刃は牛骨をかち割ったりするために刃が分厚く鍛造された包丁だ。
その峰は、畢竟他の包丁に比べて幅が広い。
市香の鉄パイプはそこにぶち当たった。
釘を金槌で打つように、眼球を狙った包丁は峰に加えられた衝撃と加速度で、刃先を深く深くパイルバンクした

91 :流川:2014/12/15(月) 00:39:08.92 0.net
「伏見さん、無事だった……わけじゃないみたいですね!?」

フルスターリから距離をとり、瓦礫の奥に伏見を引っ張りこんでから、市香は変な声を挙げた。
伏見の惨状たるや酸鼻極まるものがあった。
四肢から胴体に至るまで穿ち尽くされ、細切れになった内臓がどろどろとこぼれ出ている。
こんな状態で生きているのが不思議だった。
もしも市香が同じ目にあっていたら、さっき食べたカレーの匂いが充満しているだろうなと不謹慎にも思い至る。

「ふ、伏見さん……なんで生きてるんですか……?」

内臓をめちゃくちゃに破壊されても死なない怪人だっているだろう。
しかし、そんな状態でああも動けるのは怪人の常識からも逸脱していた。
市香は頭を振って切り替える。今は伏見の不死身(駄洒落じゃなくて)について言及している場合じゃない。

「伏見さん、あいつの装甲、めちゃくちゃ堅いです。わたしのパイプでも砕けません」

さっきの一撃は包丁の鋭さと鉄パイプの質量打撃、そして構造的に脆い部位がうまく組み上がったからこそ叩き込めた。
しかし、洋出刃の刃渡りでは、敵の頭蓋を貫通して脳まで刃を届かせることは困難であろう。
せいぜいができてあのような目潰し、それも数十秒あれば回復できるレベルの損傷だ。

「あの装甲、少しでも穴さえ空けば、わたしに一案ありなんですけど……」

だが、その攻略法を実行するには、無敵のフルスターリアーマーを僅かにでも切り開かねばならない。
考える市香の視界が霞んできた。本格的に失血による失調が始まっている。
震える指で唇をなぞると、驚くほど手先が冷たくなっていた。
短期決戦は必須だ。市香の命が尽きるのは時間の問題。そして……

「……あいつの眼が治る前に、強襲をかけましょう」

【伏見さんの目潰しに便乗して包丁杭打ち→瓦礫の向こうへ伏見を連れて退避。作戦会議。死にそう】

92 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/18(木) 23:45:37.01 0.net
フルスターリの肉体強化は、伏見狂華の予想通りで微々たるものだ。
彼は自分の放った棘の軌道を目視する事も出来ない。
見えるのは結果のみだ。

眼前の敵が一瞬の内に血まみれになり、吹き飛び、倒れる光景。
もう幾度となく見てきた光景だ。

伏見狂華の予測は完全な正解ではなかった。
フルスターリの怪人特性は極僅かな肉体強化と、肉体変化のみの特化型だ。
彼はとても速く、とても固く、変化出来る。

能力はただそれだけ。ただそれだけが、強い。
人間が自動車に打ち勝てないように、銃弾の前に無力であるように、固くて重くて速い物は強いのだ。
怪人同士の戦闘であってもその理論は覆らない。

フルスターリの初手は、エネルギー的な効率は決してよくない。
怪人にとって殆どの遠距離攻撃は自分の血肉を削って行うもので、よって濫用は下策だ。
にも関わらず彼が全方位への射撃を行ったのは、それが篩だからだ。
全世界の怪人の内の半分は、この手を前に為す術もなく死んでいく。
大抵の場合は手っ取り早く、そうでない場合は絶好の小手調べとなるのだ。

>「まともに……喰らっちゃった……」

「……おっと、そっちはまだ生きているのか」

起き上がってきた流川の様子を、フルスターリは観察する。
光源が外から差し込む月明かりのみで、室内は薄暗い。
傷は塞がっているようだが、鉄パイプを杖代わりにしなければ立っていられないような体だ。

(恐らく肉体変化と性質変化の二極型。それにしては火力があったが……まず間違いないだろう。そして)

この分では次の一撃は防げない。
詰将棋のように最小限の手数で、確実に仕留められるとフルスターリは判断した。

>「密売人さん、あなたはどうして核燃料を売るんですか?お金が欲しいからですか?
  わたしは欲しいです。この世紀末伝説な世界で、明日死ぬかもしれない身で、たくさんのお金が欲しいんです」

故に流川の問いに対して、問答無用の追撃を加えなかった。
代わりに伏見狂華を一瞥する。
先ほどの一撃を振り返るに、仮に息絶えていなくても問題ないと断じてから、流川に向き直った。

>「神戸屋のステーキ定食。プラダの新作のブーツ。新しいiPhoneケース。江戸前の生うに丼。
  MacのノートPC。腹筋ローラー。来年の水着。吉祥時への引っ越し。大洗のあんこう鍋」

>「あなたの理想とわたしの欲望……ここで雌雄を決しましょう」

「……言われなくとも。だが、そう死に急ぐ事も無かっただろうに」

フルスターリは勝利を確信している。
流川は遅い。打撃の速度に限ればフルスターリには見切れない程だったが――予備動作はその限りではない。
鉄パイプという得物に火力面で依存している流川の動きには、明確な前兆が伴う。
負ける要素はない。フルスターリは右手を前に突き出すと、指先に棘を生やし――

>「でもざぁんねぇん、ザコAはホラー映画の怪物でした!」

同時に、彼の視界の端で伏見狂華が跳ね起きた。
その勢いのままに振るわれた横薙ぎの包丁が目元へと迫る。
フルスターリは一瞬面食らい、だが遅い。防御するまでもなく撃ち落とせる。

93 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/18(木) 23:46:58.30 0.net
>「伏見さん、そのままっ!」

筈だった。
直後に、激しい金属音が響く。
流川の鉄パイプが、狂華の包丁を強打し、加速させたのだ。

フルスターリの両眼に、包丁の刃が食い込んだ。
だが彼は怯まない。怯めば不利が更に加速するだけだと知っている。
咄嗟に伸ばしていた右腕を折り畳み、裏拳を放ち伏見狂華を跳ね除けた。
まだ気は抜けない。耳を澄まして着地音を聞き取り、おおよその方向と距離を推測。
迎撃用の棘を腹部に生やし、それから目の再生を開始する。

>「伏見さん、無事だった……わけじゃないみたいですね!?」

敵――流川達は、追撃を仕掛けてこなかった。
策を練っているのだろう、とフルスターリは推察する。
後から起きてきた女はともかく、鉄パイプ女が重傷を負っているのは間違いない。
死なずに自分を殺すには、猪突猛進では叶わない。

(まぁ、策を練った所で叶わない事に変わりはないのだがね)

フルスターリの口元に笑みが浮かぶ。

「……私が何故、核燃料を売るのか。まだその答えを聞いてないだろう、君は。
 あぁ、別に時間稼ぎという訳じゃない。仕掛けたければ、いつでも構わんよ。
 その時は……今度こそ君は答えを聞かず仕舞いで死ぬ事になるが」

虚栄の気配はない。
一切の視界が利かないこの状況下でもなお、彼は自分の優位を確信している。

「まぁ、そんな大層な理由じゃない。私はただ……デカい面がしたいんだよ。
 私の機嫌を損ねまいとビクビクしている連中の面を見るのが好きなんだ。この稼業ならそれが多く見れる。それだけだ。
 だが……君達はなかなか肝が座っているな。物怖じしなくて、実に残念だ。……そうだな」

一拍の間を置いて、フルスターリは言葉を続ける。

「私がまだ本気も奥の手も隠していると聞いたら、少しは怖気づいてくれるかな?」
 
言葉と同時、彼の背中から数本の触手が飛び出した。
彼の怪人特性は高速かつ、限界硬度の高い肉体変化。
何も体の一部を切り離さなくては攻撃出来ない訳ではない。

「……好きだろう?こういうの。君達日本人は」

触手には無数の棘が生えており、まるでそれ自体が独立した生き物であるかのように揺れている。
留意すべき点は二つある。
一つは、今度の攻撃法には消耗がない事。

もう一つは、防御がより困難である事だ。
今度の攻撃は線ではなく面の軌道を取る。
即ち制圧範囲が広いのだ。

これがフルスターリの確信の理由だ。
目が見えなくとも彼は固く、重く、速い。君達は柔で、軽く、遅い。
最初の全方位射撃で足元が荒れ果てた部屋の中、足音が聞こえた瞬間に無造作に触手を薙ぐ。
それだけ一切の接近を封じ、君達に致命傷を与えられる

――と、彼は思っている。

【触手】

94 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/12/22(月) 22:54:10.25 0.net
驚きはすれども防御はせず・・・ってところを見ると十分対処できるってとこ?
挙動を見る限り八割方それっぽいかな、二度目の奇襲としては上々だと思ったんだけどなぁ
とそんな反省が頭をよぎる
>「伏見さん、そのままっ!」
激しい金属音と共に私の洋出刃は急加速し、そして、アイツの両目に突き刺さった。
「あっは♪ナーイスバッティ〜ング」
アドリブでここまでやるとか流川ちゃんってけっこう面しr…
衝撃と共に視界が揺れた。
マジでぇ、両目をつぶされたってのに殴り返してくるとか…てかそれどこじゃないや、脳震盪起こしちゃってるわ
とのたうち回る私を即座に流川ちゃんが物陰に引っ張っていく
物陰に隠れるころには、私の脳震盪もなんとか治まった。
>「伏見さん、無事だった……わけじゃないみたいですね!?」
「いや、無事だよ?これが私のデフォルトだけど」
開口一番の言葉にそう返してやった。
こんな状態であんだけ動き回ればそりゃそう言いたくなるかな?
>「ふ、伏見さん……なんで生きてるんですか……?」
「それ言われんの飽きた、違う話をしようよ」
>「伏見さん、あいつの装甲、めちゃくちゃ堅いです。わたしのパイプでも砕けません」
>「あの装甲、少しでも穴さえ空けば、わたしに一案ありなんですけど……」
「穴ならもうあいてんじゃん、直通が三つにちょっと抵抗があるのが一つ」
そういって私は、自分の口と鼻を指差して続ける。
「よくいうじゃん?体の硬い奴ほど内臓は柔らかいってさ
 流川ちゃんの能力なら体内に入ることなんてけっこう・・・まぁその状態じゃ楽じゃないか」
今気がついたけど、流川ちゃんけっこう消耗しちゃってんじゃんか!
私はてっきり液化なり気化なりして凌いだとばかり思ってたけど・・・案外不意打ちには弱いほうなのね。
状態から察するにそこそこ危ないみたいだね。
まぁ私の血を飲ませりゃどうにかなる問題だけどさぁ・・・それはあんまり好きじゃないんだよね
なんてーの?緊張感がなくなるというかさ
>「……あいつの眼が治る前に、強襲をかけましょう」
こういう捨て身の覚悟をしたって顔を見るのが好きってのもあるんだけどね
流川ちゃんの覚悟も決まったようだし、私もそれなりに気合入れなおさないとね
そう意気込み、私は辛うじて残ったから揚げを口にへ放り込む。
外傷は治ってはいないがさっきよりもまだマシになった実感はある。
>「……私が何故、核燃料を売るのか。まだその答えを聞いてないだろう、君は。
 あぁ、別に時間稼ぎという訳じゃない。仕掛けたければ、いつでも構わんよ。
 その時は……今度こそ君は答えを聞かず仕舞いで死ぬ事になるが」
こっちの準備が整ったのを見計らったようにアイツの声が聞こえる。
ちょっと図に乗らせすぎたかな?いい加減ムカついてきたかも
>「まぁ、そんな大層な理由じゃない。私はただ……デカい面がしたいんだよ。
 私の機嫌を損ねまいとビクビクしている連中の面を見るのが好きなんだ。この稼業ならそれが多く見れる。それだけだ。
 だが……君達はなかなか肝が座っているな。物怖じしなくて、実に残念だ。……そうだな」
>「私がまだ本気も奥の手も隠していると聞いたら、少しは怖気づいてくれるかな?」
そういうとアイツは背中から触手を出してきた
>「……好きだろう?こういうの。君達日本人は」
「うっせぇこのHENTAI!日本人がみんな北斎と同じ性癖を持ってるわけねぇだろタコ」

95 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2014/12/22(月) 22:55:15.67 0.net
あまりにも直球すぎたもん見せられたせいで思わず声が出ちゃった。
だってキショい上にあのドヤ顔がムカつくったらありゃしないんだもん
もうガマンできない、プライドごとアイツをへし折ってやんなきゃ気がすまなくなってきた。
私は物陰から体を出し、アイツと対面する。
「ずいぶんとえらそうに語った割りには、内容がただのコンプレックスってのは面白味にかけるなぁ
 よっぽど下積み時代に苦い思いでもしたの〜?」
そう言いながら私は腰に差してあるもう一つの包丁、マグロ包丁を抜いた。
最小限の動きのみでマグロを解体する為に研ぎ澄まされたコイツは数ある包丁の中でも飛びぬけた切れ味を持っている。
さきほどのような豪快な一撃は出来ないが、それ以上の斬撃は期待できるはずだ
「正直迷惑なんだよねぇ〜あんたみたいなくっだらない奴がさぁ〜くっだらない事件尾起すせいでさ
 せっかく私ががんばって殺ってきた功績が霞んじゃうんだよね〜だからさぁ」

「 死 ね 」

ありったけの殺意を一言にこめて放った瞬間、詰め寄ろうと足を出す。
即座に反応する触手たちを交わしてはみるけど、やっぱり接近は難しいかな。
「とでも言うとおもったぁ?」
走りながら私はマグロ包丁を逆手に持つと、刃の自分の腹に押し当てた瞬間、私は自分自身を真っ二つに切り裂いた。
切り離した下半身は血を噴出しながら無軌道に走り、一方残された上半身である私は下半身から零れ落ちる瞬間、マグロ包丁を突き立てそれにしがみ付く
そして、自身の体重で包丁を撓らせると、上半身の筋肉をフルで使い、カタパルトで飛ばされた岩のようにアイツ目掛け突っ込んでいく。
「ぶった切れろぉ!!!」
突っ込んでいく最中、私は血と臓物をばら撒きながら回転し、そしてアイツを斬りつけた。
【テケテケ】

96 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2014/12/23(火) 19:05:49.42 0.net
名前: 大鳳 勇(おおとり いさみ)
性別: 女
年齢: 22歳
性格: 豪放磊落
外見:ブロンドのロングヘア 絢爛豪華に装飾されたワインレッドのドレス
戦闘方法: 豪快な打撃やプロレスじみた投げなどの周囲の目を引く格闘
志望理由: 弱者を守る為 ついでに独立の為の人材確保

備考:名門の家系に生まれ何不自由ない生活を送っていた才女。
   だがいつからか怪人の驚異に怯え何も行動を起こさない両親に不満を覚え
   実動員として支援局に就職。将来は民間の支援局を作るための人材発掘にご執心。
   その派手な見た目と戦闘スタイルから専ら陽動担当に回されることが多い。
   
   自身の肉体の強化全般を得意としており、一部の器官に特化した能力者に比べれば劣るが
   瞬時に特定の部位、感覚を強化・弱化することができる。
   
   リソースは肉体強化:8 肉体変化:1 性質変化:1

   派手な見た目の下は絶えることのない生傷と包帯によって痛々しく彩られており、
   それを隠すための衣装とも言える。とはいえそれは羞恥からくるものではなく、
   他者に不安を与えない為という彼女なりの気遣いである。

97 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/12/23(火) 21:05:29.72 0.net
>「……私が何故、核燃料を売るのか。まだその答えを聞いてないだろう、君は。

瓦礫の山の向こう越しで、盲目のフルスターリは語る。
伏見との打ち合わせを終えた市香は瓦礫の隙間から液化させた肉体を染み出させてそれを見た。
市香の肉体は液化すると、臓器や神経、筋肉などの分別がない『肉体の素』みたいな状態になる。
それは言わば蛹の中身、まだ各器官へ分化する前の、万能細胞の塊だ。
肉液はあらゆる肉体機能を代替することができる。いまこの時のように、瓦礫越しにものを見ることも。

>「まぁ、そんな大層な理由じゃない。私はただ……デカい面がしたいんだよ。
 私の機嫌を損ねまいとビクビクしている連中の面を見るのが好きなんだ。この稼業ならそれが多く見れる。それだけだ。」

(似たような立ち位置の人がすごーく近くにいるような……)

本人がどう思っているかは知らないが、支援局の誇るパワハラ上司が聞いたら嬉々としてやってきそうだ。
態度のでかい者同士が交差したとき、いかなる物語が始まるのか、市香はすごく見てみたい。

>「だが……君達はなかなか肝が座っているな。物怖じしなくて、実に残念だ。……そうだな」

フルスターリの背中から触手が出現した。

>「私がまだ本気も奥の手も隠していると聞いたら、少しは怖気づいてくれるかな?」

「うっそぉ……」

数本の触手は無数の棘を生やしていて、先端はぬらぬらと湿った光沢を放っている。
市香は今度こそ悄然とした。血の気のない顔が更に青くなる。
倒せても居ない魔王が第二形態にチェンジしたのだ。手の中の筒状の聖剣がどうしようもなく頼りない。
ただでさえ刃の通らない鉄壁要塞が、触手によって制空権まで確保していた。

>「……好きだろう?こういうの。君達日本人は」
>「うっせぇこのHENTAI!日本人がみんな北斎と同じ性癖を持ってるわけねぇだろタコ」

隣で伏見が気炎を吐く。市香もまったくの同意だった。
似たようなジャンルの有害図書ならここへ来る途中自販機に見つけたが、こんなところに愛読者がいたとは。

閑話休題、戦況はジリ貧に追い込まれつつあった。
こちらは二名とも重傷、時間をかけるほどに旗色は悪くなる。
敵方は逆に、ミドルレンジに強い触手を展開してこちらを近づけさせない算段だ。
粘れば粘るほど、負傷――潰された両目が再生する時間を稼がせることになる。

98 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/12/23(火) 21:05:57.24 0.net
>「ずいぶんとえらそうに語った割りには、内容がただのコンプレックスってのは面白味にかけるなぁ
 よっぽど下積み時代に苦い思いでもしたの〜?」

状況の切迫は伏見も理解しているのか、彼女は瓦礫から出てフルスターリを挑発する。
膠着はそれだけで相手の思うつぼ。市香も先輩に乗っかることにした。

「そーだそーだ、触手は同人誌にかーえれっ!」

己に鞭を入れるようにして、叫んだ伏見がまず動いた。
瓦礫を飛び越え、床に一歩一歩を叩きつけるかのような疾走。
だが、触手のほうが早い。

強靭な筋肉によって構成された捕食器官は、獲物を捕らえる蛙の舌のように俊敏だ。
それでいて、なぎ払うような一撃は回避が難しく、確実な足止めの役目を果たしている。
まさに奥の手、怪人フルスターリの肉体変化の真骨頂!
地を走る他なき伏見には、この迎撃の制空権を突破する術はないッ!!

>「とでも言うとおもったぁ?」

瞬間、伏見の胴から上と下が分かたれた。
市香の目には、打ち込まれた触手の一撃が、伏見を真っ二つにしたように見えた。
息を呑む。時間が止まる。どうにか絞り出した声は、血しぶきの向こうの同僚の名。

「伏見さん!!」

腰から下だけがコントロールを失って斬首された鶏のように走り続ける。
腹から上は、手に持っていた解体包丁をバネ代わりにして跳躍。

>「ぶった切れろぉ!!!」

「ぶった切れてるっ!?」

ぶった切れているのに。伏見は止まらない。
上半身と下半身を分かたれながら、彼女はなお叫び、そして刃を手放さなかった。
気圧されている場合じゃない。びっくり人間ショーは怪人同士の戦闘ならいちもの事だ。

そして瞬間的に理解する。伏見の行動の意味。
敵は盲目、足音でこちらの接近を感知し全自動で打ち据えてくる。
――ならば、足を囮にすれば良い。
伏見はおそらくそう判断して足とそれを繋ぐ腰を切り落とし、デコイとして制空権に叩き込んだのだ。
本命である上半身は、足がないので畢竟足音も立たず、迎撃網を突破できる。

(これがプロの戦闘……!)

彼我の損耗状況と敵の戦術を読み、己の特性を最大限に発揮する戦術の構築。
何よりも、そこに『常人らしさ』を微塵たりとも混在させていない。
正気の沙汰では、怪人には勝てない。
市香は瞬き一つで思考をスイッチ。驚愕による硬直を頭の中から完全に締め出し、疾走を開始。

99 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/12/23(火) 21:06:34.20 0.net
「タコっていうのは昔からぁぁぁ――」

フルスターリの触手のうち、伏見の迎撃に割かれなかった複数本が市香の足音にも反応する。
風切り音のうなりを上げて飛んできた棘付きの豪腕を、市香は上半身の捻りだけで回避。
床へ叩きつけられた触手へ、先端を鋭利に形成したパイプを蒸気加速でぶち込んだ。

「磔にして天日干し!」

――触手は確かに強力だ。
棘の射出と比較すれば、連発が効き、持続性があり、範囲内を蹂躙する速度と威力を持っている。
しかし、棘射出よりも劣っている点も確かにあるのだ。

例えば速度。
ライフル弾は照準さえ合っていれば弾の軌跡まで目で追う必要はないが、触手はそうではない。
己の意思で完全に操作できるからこそ、自身の目で判別できる速度を越えることはできない。
たとえ先端が音速を超過しようとも、その軌道を司る手元の部分は目で追える。

さらに、いまフルスターリは足音による自動迎撃を行っている。
足音のしたどの地点の、どの高さに触手を震えば相手の首を落とせるか……それは対峙する市香にも類推可能だ。

そして、持続性があるということは、触手は使い捨てではなく引き戻して再利用するということである。
引き戻せないように磔にしてやれば、それだけ敵の攻撃手段を潰すことができるのだ。
棘と違い触手は自在に動かす為にある程度の柔軟性が必要――市香のパイプでも容易に貫ける。

市香はぶち込んだパイプのうち、触手を磔にするのに必要な最低限の分量を残して折り去り、
飛んできた二発目の触手も躱して再構成したパイプを打ち込む。
瞬く間に二本の触手を無力化して、市香は伏見を追うようにして跳躍。

「奥の手があるのは貴方だけじゃないですよ……!」

出血多量のうえに蒸気加速を使いすぎて身体が悲鳴を上げている。
血圧の急降下に意識が何度も飛びそうになるが、歯を食いしばってそれに耐える。
おそらくこれが最後の蒸気加速。
手元に残った鉄パイプで噴射口をつくり、市香は空中で速度を上げた。

伏見が斬り付け、切り開いた、フルスターリの装甲のわずかな間隙。
そこへ向けて、流川市香は飛び込むようにして液体に相転移した。

ビシャア!と水音を立ててフルスターリの胸板に市香汁がぶち撒けられた。
名状しがたき色をした液体は重力に逆らって、粘液のように装甲の表面に張り付いている。
それは切り裂かれた装甲の割れ目から、するりと中に入り込んだ。

物体を構成する固/液/気の三態のうち、液体の最も重要な特徴とは、『浸透』することである。
ほんのわずかな隙間さえあればそこから内部へ入り込むのに抗う術はない。
フルスターリのような、甲殻と脂肪等を張り合わせた複合装甲を構築する者には殊更に覿面に浸透する。
そうしてフルスターリの装甲の内側へと入り込んだ市香は、己の怪人特性を解き放った。
気化である。

ズボシュウ……!と熱したフライパンに雫を落としたような音がレストラン内を埋め尽くす。
流川市香の52kgある体積の全てを、液体から気体へと変換する!
おびただしい量の市香色をした蒸気が、装甲の割れ目から吹き出した。

100 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2014/12/23(火) 21:09:34.69 0.net
液体が気体へ変わる時、相転移に必要なエネルギーとしてその場から熱を奪っていく。
いわゆる気化熱、蒸発熱と呼ばれる現象である。
その消費量は凄まじく、わずか14gの水分が蒸発するだけで6畳間の部屋の気温が1度下がることになる。
では、52kgある怪人流川市香の全肉体を一気に気化させた時、必要なエネルギーが消費されると?

――平均気温の六畳間が-37,000℃になる。
無論これは理論値であり、絶対零度は摂氏で-273℃だからそれ以上下がることはない。
だが、六畳間(9m四方)で-3万7千度ということは、単純計算で300km四方を凍りつかせる冷却能力があるということだ。

これが流川市香の奥の手。
己の肉体に限り自在に操作することのできる怪人だからこそ可能な、科学法則のグレーゾーン。
いかにフルスターリが多重な脂肪層で護っていても、脂肪ごと凍らせるのが市香の必殺だ。

「ぷはっ」

吹き出した蒸気が収束し、虚空に全裸の市香が結実。
還元し切れなかった肉体の分だけ損耗した彼女の肉体は、任務開始時より明らかに背が低くなっている。
市香は凍てついた床に裸足で着地して――そのまま崩れ落ちた。

「あ、れれれれ……?」

膝をつくことすらままならず、全裸のまま床に激突する。
指一本どころか、自発呼吸すら止まりそうなほどに弱々しく、酸素を求める魚のようにぱくぱくと口だけを動かしている。

「ギリギリアウト、だったかも……」

フルスターリとの激しい戦闘によって、市香の身体は損耗しきっていた。
血を流し過ぎ、肉体を蒸気に変えすぎた。
そこへ駄目押しのように使った奥の手の負担で、生命の維持すら困難な状態にまで追い込まれていた。
何度も飛びそうになりつつも持ちこたえていた意識が、今度こそ幕を降ろさんとしている。

「立たなきゃ……まだ、終わってない……」

奥の手を食らわせたとは言え、フルスターリを完全に倒せたかどうかは確認できていない。
仮に敵がまだ戦闘可能だとすれば、身体が半分になった伏見だけでそれに対応しなければならなくなる。
同僚を放棄して戦線離脱とは何事かと、また鳴上隊長に怒られてしまう……。
死に瀕していても、市香の脳裏には上司の叱責ばかりが懸念として蟠っていた。

「伏見さん……」

最後に先輩の名を呼んで、市香の意識はそこで終わった。


【奥の手をフルスターリに食らわす。出血多量と蒸発のし過ぎで瀕死】

101 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/26(金) 23:54:17.35 0.net
>「うっせぇこのHENTAI!日本人がみんな北斎と同じ性癖を持ってるわけねぇだろタコ」

「……なんの事を言ってるんだ?日本のコミックは、こういう後出しの応酬が流行りなんだろう?」

フルスターリの声色は純粋な疑問で占められていたが――それはこの状況下では詮ない話だ。

>「ずいぶんとえらそうに語った割りには、内容がただのコンプレックスってのは面白味にかけるなぁ
  よっぽど下積み時代に苦い思いでもしたの〜?」

「くっ、ははは……だったら、君の幼少期はさぞや可愛らしい天使のよう、だったのかな。違うだろう?」

>「正直迷惑なんだよねぇ〜あんたみたいなくっだらない奴がさぁ〜くっだらない事件尾起すせいでさ
  せっかく私ががんばって殺ってきた功績が霞んじゃうんだよね〜だからさぁ」

>「 死 ね 」

直後に足音――何も精密に聞き分ける必要などない。
吹き荒れる嵐を人間は決して躱せない。
速さに物を言わせた滅多打ちで十分迎撃出来る。

「青い、青いなぁ。君、それで本当に楽しいかね?いや、楽しくないだろう。
 成果を上げて認められる事は勿論大事だが、それ自体を目的にすると人は己の本懐を忘れてしまうものだ。
 まずは楽しむ事だよ。……今の私がそうしているようにね。ふふふ」

フルスターリの口調は軽い。
伏見は触手の第一波を躱してのけたが、それ以上は踏み込めないでいる。
後は体勢を崩してとどめを刺すだけでいい。

>「とでも言うとおもったぁ?」

と、伏見が更に強く踏み込んだ。
愚かだ、とフルスターリはほくそ笑む。
愚直に接近してくる足音目掛けて触手を薙ぎ――しかしそれらは空を切る。

「なっ……」

思わず声が零れた。
触手は確かに伏見の頭部があるべき場所を穿った。
なのに手応えがない。フルスターリの表情に動揺が浮かぶ。
百戦錬磨の彼からしても、伏見の取った戦法はあまりに常識外過ぎた。

頭部を失った足の不安定な走りと血飛沫の飛び散る音が、更に彼を困惑させる。

>「ぶった切れろぉ!!!」

そして次の音が聞こえた時には、既に遅い。
慣性と遠心力を帯びた洋出刃が彼の腹部に食い込んでいた。

だがそこまでだ。
下半身のない伏見には刃を満足に引く事が出来ない。
そこから更に斬り込む事は叶わない。

「ぐ……ぬ、ううううん!」

苦悶を押し殺すような咆哮と同時、一本の触手が伏見を掬い上げるように突き刺した。
これで残るは一人。
足音は――聞こえている。

102 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/26(金) 23:54:45.41 0.net
>「タコっていうのは昔からぁぁぁ――」

触手を振り下ろす。手応えは――ない。

>「磔にして天日干し!」

直後に衝撃音。それと微かな痛み。
何をされたのかはすぐに分かった。
触手が動かない――床に突き刺し、縫い止められたのだ。

音だけを頼りに攻撃を繰り出す触手の動きは速さこそあっても単調になる。
そんな事はフルスターリにも分かっていた。
彼にとって最大の誤算は、流川の胆力だ。

掠めただけでも命に至る猛威を前に、なお一歩踏み込む精神力。
それは例え怪人であっても誰もが持っているものではない。
ましてや半死人の少女が、そうやすやすと絞り出せるものではないのだ。

更に一本、触手が封じられる。
読み違えたか――と、フルスターリの顔に焦りが浮かんだ。

>「奥の手があるのは貴方だけじゃないですよ……!」

そして市香は跳んだ。 間合いはもう幾許もない。
今、流川のいる地点が、迎撃可能な最後の防衛線。

残る全ての触手を同時に放った。
網目のように軌道を交差させる触手群を躱す術は市香にはない。
ただし――それは交差が完成した後ならばの話だ。

噴射音――市香が手元に残った鉄パイプから蒸気を噴射して空中で加速したのだ。
触手の網が完成する前の隙間を、彼女は潜り抜けた。

防衛線が突破された。
フルスターリがようやく再生した双眸を開く。
彼の視界に映ったのは、眼前にまで迫った流川がまさに液体へと相転移する瞬間だった。

肉体の三態を変化させる。それが彼女の怪人特性――理解した時にはもう遅かった。
液化した流川が、伏見に付けられた腹部の傷に染み込んだ。

そしてほんの僅かな間隙の後、今度はその傷から蒸気が噴き出した。
内圧に耐え切れず脂肪の鎧と硬化した皮膚に亀裂が走る。

フルスターリは咄嗟に傷口を肉体変化によって拡大。
破裂を免れ、安堵の笑みを浮かべ――しかし流川の狙いはそんな事ではなかった。

傷口が、縁から急速に凍り始めている。

フルスターリの思考が加速する。
凍結、一体何故。いや、知っている――これは気化冷却だ。
だが分かった所でどうする。この段に至って、どう対処すれば――

>「ぷはっ」

霧散した蒸気が再び空中で集結して、流川の姿が構築された。
それはつまり、彼女の奥の手が完遂された事を意味している。

103 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/26(金) 23:55:23.13 0.net
>「立たなきゃ……まだ、終わってない……」

出血と蒸発によって肉体を極度に損耗した彼女は瀕死の体だった。
対するフルスターリは――

「ふ、ふふ……流石にロシアの冬でも……これほど寒かった事は……ないな……」

まだ生きていた。
体の前面は完全に凍り付き、上半身と下半身は完全に断裂している。
それでも、生きていた。

一体どのようにして――彼は触手で自らの腹を掻っ捌いたのだ。
いや、薙ぎ払ったと言うべきか。
肋骨よりも下の硬化を解き、触手で自ら切り離し、肉体変化によって出血を止めた。
そうする事で生命維持に不可欠な臓器の喪失と、それによる脳の機能停止を免れた。

結果として彼は上半身だけになってしまったが、生命維持に支障はなく――触手もまだ残っている。
流川市香はもう動けない。
伏見狂華は不死である事を除けばただの人間だ。
それに加えて、

「勘違いしてもらっては困るな。私の奥の手は……これだよ」

フルスターリが不敵に笑う。
右手で銃を模り、指先を流川へと向けて――影も形もなく、音も風すらも伴わずに、鮮血と脳漿が弾けた。

流川が蹴散らし、雨場の保護していたフルスターリの部下達の、頭からだ。

「――私の負けだ。降伏する」

そして極めて堂々たる態度で、フルスターリはそう宣言した。

「……言うまでもない事だと思うが、私の背後には巨大な組織がある。
 私は……ただの中間管理職に過ぎん。だが色々と喋れる事はあるぞ。
 なんでも聞いてくれ。なんでも話す」

つまる所――彼の取った行動は、自分以外の情報源を確実に抹消するというものだった。
上半身のみの状態で君達と敵対すれば、どう足掻いても長くは生きられない。
そうなるくらいならば、唯一の情報源として生き長らえる――それが彼の判断だった。

と、直後に激しい衝撃音と共に、天井の一部が落ちてきた。
雷花が電熱を帯びた翼で足元を焼き切って降りてきたのだ。
何故わざわざそんな事をしたかと言えば――指向性爆薬で開けられる穴では翼が引っかかるからだ。

104 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/26(金) 23:56:04.27 0.net
「伏見、流川の介抱をしろ」

雷花は開口一番にそう言うと、自分は伏見の洋出刃包丁を拾い上げる。
そしてフルスターリへと歩み寄り、その口元を斬り付けた。
鮮血が壁に途切れ途切れの線を描く。

流川の蒸気加速を以ってしても破れなかった皮膚が、容易く斬り裂かれていた。
フルスターリは肉体変化を使わなかった。
もし使えば叛意ありと見なされ、殺されると悟っていたからだ。

「肉体変化が得意なんだろう。使いたければ使え」

フルスターリは口から血を垂れ流したまま、ただ雷花を見上げていた。
再び包丁が振り下ろされ、再生したばかりの右眼が縦に斬り付けられた。

「……ふん、使えばいいものを」

雷花は吐き捨てるようにそう言うと、包丁を伏見の方へと投げて返す。

「血を止めろ。極めて不本意だが、お前を情報源として扱ってやる」



ふと――雷花の開けた天井の穴から差し込む月光が、遮られた。
もし君達がその穴を見上げたのなら、十崎と目が合うだろう。
肉体変化によって眼球が異様に巨大化し、返り血に拳を濡らして、一切の表情を失った十崎と。
彼は人間をやめ切れず、怪人にもなり切れていない。どっちつかずの存在だ。

だからこそ、彼は何にでもなれる。
人間と怪人、両方の価値観を理解出来る、何よりも優しい存在にも。
人間と怪人、どちらの側にも寄り添う事の出来ない、本物の怪物にも。

105 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/26(金) 23:58:07.27 0.net
 
  

――雷花が聞き出したい情報は何よりもまず『船の所在』だった。
ほぼ間違いなく、フルスターリは船を使ってここまで来た筈だ。
だが運輸業が壊滅状態である今日の世界情勢の中、他所の船や飛行機に便乗しての密輸は難しい。
専用の運送手段、要するに船が必要なのだ。

フルスターリの話では、密輸船は外洋に停泊しており、彼はそこから搭載艇のモーターボートを用いて上陸したらしい。
そのボートはレストランの裏手の岸壁に係留してある。

「ただ、乗り込むつもりならあまり時間はないな。君達が来たのが丁度、取引の時間だったから……。
 ラディスチャン共がゴネたと嘯くにしても、あと十分以内にはここを発たねば不自然だろう」

「なるほど、道理だ。つまりお前の命もここまでだな」

「……私はまだ組織については何も語ってない。利用価値は残っている筈だ」

雷花は無言で数秒ほどフルスターリを睨み、その顎を蹴り上げる。

「雨場、車を持ってこい。補給用のレーションが積んである。ここまで運べ」

跳ね上げられたフルスターリの視線が自分へ戻るのを待ってから、もう一撃。

「お前に食わせる分はないぞ。腹が減ったなら海水でも飲んでいろ」

「……だが、どうするつもりだ。私をここに置いていく訳にも行くまい。連れていくのも同様だ」

だからと言って雷花がここに留まる訳にもいかない。
けれども雷花以外ではフルスターリの抑止力として心もとない。
だが雷花は、そんな事はお前に心配されるまでもないと言わんばかりに鼻を鳴らした。

「密輸と聞いた時点で船がある事は予想していた。後詰めは呼んである。……非常に気乗りはしなかったがな」

それから数分後、車を取りに行った雨場が帰ってきた。
君達は二台の車でここまで来たが――ヘッドライトは三組見える。
二組は雨場とその分身が運んできた車のもの。

残る一つは――真っ赤なオープンカーのものだった。
運転手が車を降りて、君達の方へと歩み寄ってくる。
雨場の車のヘッドライトが逆光となって、君達にはまだその姿が見えないだろう。

「あー、クソ……面倒くせえ。テメェのヤマくらいテメェでなんとかして欲しいもんだなぁ?鳴上隊長よぉ」

声と同時、雨場がヘッドライトを切った。
君達の眼の前に立っていたのは――細身ながらも筋骨逞しい体に網シャツを纏い、サングラスを掛けた茶髪の男だった。
男は雷花への悪意を隠そうともせず彼女を睥睨し、皮肉を吐く。

「ふん、安心しろ。喝堂隊長。どうせ頼むのはお前にも出来る程度の事だけだ。
 そこの男を見張っていろ。そうだな。とりあえず三時間程でいい」

雷花も応じるように罵言を返す。

「あ゛ぁ?」

喝堂と呼ばれた男が歯を剥き、額に青筋を浮かべた。

「……流川。とりあえず、これ。あとちょっと引きずるぞ。ここは近い」

雨場が二人の視界には決して入らぬように気を使いつつ、流川に補給用のレーションを届けた。

106 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/26(金) 23:58:57.45 0.net
「殺されてえのかテメェ。手柄は俺が貰ってやっから大人しくそこのゴミとよろしくやってろ。
 そもそもなんだ?その羽。四六時中生やして歩きまわってっけどよ、頭おかしいんじゃねえの?」

「馬鹿め、これは私の剣であり鎧だ。そんな事も分からん奴が隊長を任されているとは嘆かわしいな。
 そもそも、お前こそなんだそのイカれた格好は。よくも平然と生きていられるな。私なら腹を切る」

「世間じゃイカれてるってのは、背中から剣と鎧生やして歩き回ってる奴の事を言うんだぜ。知ってたかよ」

数秒の沈黙。
そして――十にも及ぶ数の雷花の羽が紫電と共に放たれた。
肉体変化と電磁力によって射出されるそれは、一切の予備動作もなく、超高速で標的へと至る必殺の鏃だ。

その鏃が全て、喝堂の右手の指先――そこから突き出した骨の刃に挟み止められていた。
同時に左手にも刃が生え、切っ先は雷花の腹部へと伸びている。
雷を帯びた翼が既の所で彼女を包んだ為に、腹を掻っ捌く事は叶わなかったが。

「……そもそも船に乗り込むのにテメェの羽は邪魔だろうが。
 狭い船内で満足に能力を使えるのか?え?
 死にかけた部下ひっ連れて舐めプかますたぁ恐れ入るぜ」

喝堂は舌打ちをして、そう言いながら、受け止めた羽を無造作に放り捨てる。
言うまでもない事だが帯電は未だ健在だ。触れたら死ぬ。

ともあれ――雷花は眼光こそ微塵も緩んでいない。
だがその口は真一文字を結んで、それ以上の言葉を発そうとはしなかった。

「……よし。つー訳で、雷花隊の指揮権はこれより俺が引き継ぐ。
 あー確か、雨場……君と……君は新人なんだって?少し険悪な所を見せちゃったね。ごめんごめん。
 挨拶とかは後でいいからさ、まずはゆっくり再生してよ。雷花隊長は気遣いが出来ないから、今まで大変だったでしょ」

喝堂は身を翻して君達に向き直ると、白い歯を見せて笑顔を浮かべた。
その理由が全裸の流川である事は言うまでもない。
もっとも服を着たら彼女も「テメェ」に格下げだ。

「後は……伏見か。おいテメェ。仕事長引かせやがったら手足固結びにして海に沈めっからな」

それから喝堂の視線が、自分のオープンカーへと移る。

「それともう一人、同行してもらう子がいてね。彼女は……多分……俺の部下の、あー……はい、自己紹介して」

ここでいう彼女とは――つまり大鳳勇の事だ。
実際の所、大鳳が喝堂の部下であるかはまだ不明だ。
喝堂はたまたま見かけた彼女を拉致もとい召集しただけで、それが自分の部下かどうかなど気にはしないのだから。

「――よし、じゃあ改めて俺も。俺は喝堂……」

「おい、ここでモタモタしている暇はないぞ。分かっているのか?」

君達の自己紹介が済んだ頃、苛立ちを隠そうともせずに雷花が問いを放った。
言葉を遮られた喝堂が爽やかな笑顔を崩して舌を鳴らす。

「ったく、うるせえなぁ。おいテメェら、さっさとボートに乗れ。作戦は移動中に話す」

「待て。それと……十崎は置いていけ。ソイツには話しておく事がある」

「十崎ぃ?……あー、あー、いいぜ。構やしねえよ。どうせ俺一人いりゃどうにでもなるんだ」

107 : ◆PyxLODlk6. :2014/12/26(金) 23:59:35.16 0.net
ともあれ君達はボートに乗って密輸船へと向かう事になった。
乗り込む際に、喝堂は雨場に命じて幾つかの物を積み込ませていた。
偽札の詰まったケースの他、小型の酸素ボンベにダイビング用の足ひれ。
フルスターリの部下から鹵獲した野戦服。
そして核燃料の運搬容器――に似せて雨場が肉体変化で作ったハリボテだ。

「帰還が遅れた理由は、ラディスチャンが正当な代金を用意出来ず、核燃料の強奪を図ったからだ。
 で、お前は連中を皆殺しにして、核燃料と、ついでに迷惑料を持ち帰ってきた。これで筋は通る。分かったな、雨場」

喝堂は操舵中の雨場の頭を小突いてそう言うと、今度は君達へと向き直った。

「つー訳で、作戦会議だ。あのデブの話じゃ密輸船は、元はロシアの輸送艦らしい。
 乗員は百弱。で、全員怪人と。まぁ……俺が手を出すまでもねえな。
 テメェらに決めさせてやるよ。ステルスとダイナミック、どっちがいい」

軍隊の装備をテロリストが使用する事は現代ではそう珍しくない。
怪人の出現は全人類に新たな対立軸を打ち込んだ。
今まで一つの塊として存在していた筈のあらゆる社会に、見えない切れ目が刻まれてしまったのだ。
当然、その塊はもう元の形を保てない。幾つかの新たな塊に分離してしまう。
その時に抜け落ちていくのは、人だけではなかった。

「つまり、このボートは船の傍まで辿り着いたらクレーンで吊られて甲板に上げられる筈だ。
 普通は……甲板のど真ん中にな。
 当然顔見りゃ俺達が別人だなんて事はすぐバレて……クソめんどくせえ乱痴気騒ぎは避けらんねえわな」

そう語る喝堂の顔には邪悪の色が浮かんでいる。

「それが嫌なら……頭数は雨場に揃えさせて、俺達は海にドボンだ。
 そんで船まで近付いたら船尾辺りから甲板に出て……後はまぁ、好きなようにやりゃいい。どの道カス共は皆殺しだ」

喝堂がボートの進路を見遣った。
濃密な宵闇の奥に、うっすらと密輸船の輪郭が見える。

「ここらで一旦止めろ。で、どうする。細部にアドリブを入れるのは構わねえが、大筋は今挙げた二つのどちらかだ」



【作戦会議】

108 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2014/12/30(火) 03:27:50.21 0.net
何一つ不自由ない生活、最高の英才教育、望むものは全て手に入る。
世間を見回しても上位に入るであろう幼少期を過ごし、
将来は家督を継ぎ栄華の限りを尽くしていただろう勇を変えたのは、一本の特撮だった。
偶然寄ったホビーショップで気まぐれに買った一本から、
私は引き込まれるように一本、また一本と作品を鑑賞していき、様々なものに感化されていく。
正義の味方という象徴、ヒーローの葛藤、苦悩。仲間との友情、そして人々を守るという使命。
それらは勇の持っていた知識と混ざり合い、次第に一つの願いへと昇華された。

弱きものを守る盾になりたいと、弱者を虐げるものを貫く矛でありたい、と。

そう思い立ち、密かにトレーニングを重ねること数年、世界が私に応えるかのように、彼女は力に目覚めた。
勇は歓喜に震え、私の秘めた願いを、目覚めた力の事を両親に話した。
今までも自身のやることを快諾してくれた両親だ、
今回も笑顔で送り出してれるに違いない、そう思っていた。
だが現実は違った。

「そんな真似して何になるの?」「馬鹿げている」「危険な事は止めなさい」

初めての拒絶だった。今思えば、我が子の身を案じる親ならば当然の言動だが
当時の勇にとってはその言葉が、ひどく矮小なものに思えた。
私利私欲の為に暴れまわる犯罪者に怯える人々を尻目に、自分の周りだけが安全であれば良い、
そんな言葉に思えてならなかった。
両親に猛反発された結果、彼女は家を飛び出しその足で支援局へと足を運び、今へと至る。

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営舎の一角にあるトレーニングルーム、支援局所属の怪人達が日々の鍛錬に励む中、
白く煌くシルクの手袋にナチュラルファー長袖のうえ豊満なバストから足元まですっぽり包むようなドレスという異様な格好で
トレーニングに励んでいた。
初見のものがいればぎょっとするような光景だろうが、
それが当たり前であるかのように違和感なく溶け込んでいることが、日夜通いつめ凌ぎを削っていることに他ならない。
……肉体強化特化型、他の二つの特性に比べれば地味であり、あくまで他の二つの補助として見られることも多い。
そんな能力に特化している彼女にとって、日々の鍛錬は欠かせないものである。
実際、怪我などの理由で意識が吹き飛んでいる日を除けば彼女が鍛錬を欠かしたことはない。
何故なら格闘術、歩法や呼吸法に至るまで、彼女が学び習得しようとしているものは枚挙に暇が無い。
このような日々の積み重ねがあるからこそ、戦場での彼女の活躍があるのだ。
そうやってトレーニングを続けている最中に、唐突に網シャツの男に声をかけられた。

109 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2014/12/30(火) 03:29:28.38 0.net
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「全く……、この私をエスコートするには少々乱暴じゃありませんこと?」
オープンカーの助手席で勇はぼやいていた。鍛錬の最中に突然「任務だ」とか言われて連れてこられたのだ。その感想は真っ当である。
(ですが、強引であるということはつまりこの私が必要。であるならば望むところというもの)
(有事の為に磨きに磨いたこの身体、それが使われる。そんなに嬉しいことはないですわ!)
実際のところ偶然目に付いたからだという理由であろうが、持ち前のポジティブシンキングでその行動を肯定している。
そうやって自分の脳内で勝手に悦に浸ること幾時間、ようやく車が止まり、彼女を拉致した張本人-喝堂が降りていく。

何やら悶着を起こしているようではあるが、ふと見えたあの顔にあの電気の翼は噂に名高い鳴上雷花のものだろうと判断し、
それならば大事には至らぬと解釈した。
それよりも重要なことがある。そう、とても大事なことが、それは……。


>「それともう一人、同行してもらう子がいてね。彼女は……多分……俺の部下の、あー……はい、自己紹介して」

その言葉を聞いた瞬間に、オープンカーのドアを盛大に跳ね開き、彼女は福島の地に降り立つ。勢い余ってドアが吹き飛んだが気にしない。
「満を辞して……この私、大鳳勇。 降 臨 ですわ」
両手を大きく広げ、宣言するかのように言い放ち、彼女は続ける。
「鳳凰の如く熱く!激しく!流麗に、勇武を振るう私が来たからにはもう何も心配いりませんわ!
名のとおり大鳳に乗った気分でいらっしゃいませ!」
言葉を紡ぎ終え、全力でドヤ顔をかましながら彼女は心の底からこう思った。

…………決まった……!!! と

何よりも大事なこと、それは自己紹介である。初対面の方がいるからこそ、ファーストコンタクトは何よりも優先される。
それ自体に間違いはない。だが、残念ながらその方法がトチ狂っていることに彼女は気づいていなかった。

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各々の自己紹介が済み、密輸船に向かう途中喝堂が船を止めるよう指示を出す。


>「テメェらに決めさせてやるよ。ステルスとダイナミック、どっちがいい」
>「ここらで一旦止めろ。で、どうする。細部にアドリブを入れるのは構わねえが、大筋は今挙げた二つのどちらかだ」

「無論、ダイナミックですわ!コソコソするのは性に合ってないですもの」
彼女の性格を考えれば当然である。どうせなら派手に、どうせならかっよこくが彼女のモットーだ。
それにドレスの下に包帯をミイラのように巻いている彼女にとって、海でビショビショに濡れるのは割と痛い。
「どうしてもステルスで行くのであれば、私が囮として一人で向かいますわ。そういう役目は慣れておりますので
 囮は最低限の数で最大限の注目を浴びることが出来、なおかつなるべく長い間相手を引き寄せることができる私がうってつけですしわよ」

かくして傍からすれば死ににいくような提案を、彼女は当然のように自ら言ってのけた。

【ど真ん中から突撃案に賛成。もしくは自分が囮になってもいいですという提案】

110 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/04(日) 00:15:23.36 0.net
「あっは♪ビンゴ」
確かな手ごたえを感じる!
やっぱり『補えて』なかったね。
結局のところ、怪人の根本は人間な訳だし、いくら訓練をしたところで今さっき失った『視覚』を他の感覚で完全に補うのは肉体強化でもしない限り無理でしょ?
現にこうして一撃食らわせているのが確かな証明だろ!
でも、まぁ・・・誤算があるとするなら
「…浅いなぁ」
いくら遠心力で勢いをつけてもきりつけた瞬間に勢いが弱まるのは必然
ようは振り子ギロチンに殺傷能力がないのと一緒ってこと
次の瞬間、やつの触手が腹を抉る。
「ざぁんねぇん」
私の仕事はもう終わってるっての、それに自分から真っ二つになる奴の腹を抉ったって何の効果もないでしょ
触手で貫かれた私の背後から液化した流川ちゃんがぶちまけられる。
触手に振り回され乱れる視界の中、私は流川ちゃんが私の斬りつけた隙間に入っていくのが見えた。
「あっは、次は何をするのかなぁ?」
流川ちゃんの行動に期待しつつ、私も私なりに行動しようか
と言ってもやることは単純『力ずくでこの状態を脱する』ことのみ
触手は腹の下から背中へ突き抜けるよう突き刺さり、先端には返しをあしらい簡単に外せないようにしている訳だけども・・・所詮はその程度だ。
例えるなら映画「SAW」シリーズの問題程度の話、要するに
「こんなの躊躇わなきゃ出来るんだよ」
遠心力と腕力でもって触手を引っ張る。当然、かえしが体に食い込むけど、当然それでやめるつもりは無い
血を流し骨を軋ませて踏ん張っている最中、私は壁に叩きつけられた衝撃で触手が外れた。
正確に言うなら背中とその他諸々が千切れたんだけどね。
そのまま私は床に落下、それと同じくして異音と共にフルスターリの体から蒸気が噴出す。
「だぁぁぁぁ!床がつめたーい!!!」
何で蒸気出てるのにこんな冷たいの?訳わかんない
やばい、床に引っ付く前に動かなきゃ
そんな異常事態の中、必死こいて床を這いまわっていると、流川ちゃんが元の姿へと戻った。
どうやらおわったっぽいね。
でも、さっきのあれは損耗が激しいようだね、ありゃ明らかに満身創痍だわ
それでも立ちあがろうとするのは…素晴らしいというかなんというか
「疲れたら疲れたって言っていいんだよ、一応国家公務員なわけだしさー」
と立ち上がった流川ちゃんに言ってやるけど、あぁ駄目だわ飛んでるわ
え・・・あ・・・ちょ!ちょっとタンマ!タンマァ!!!
「フンギャ!」
まさか面積の少ないところに倒れこんでくるとわね。
胸はそこそこあるほうだけど、やっぱこの程度じゃ重力に身を任せたヘッドバットは防ぎきれなかったか

111 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/04(日) 00:16:18.58 0.net
・・・とふざけている場合じゃなかった。アイツは?アイツはどうなった
>「ふ、ふふ……流石にロシアの冬でも……これほど寒かった事は……ないな……」
「人の真似してカッコつけんな!お前にはプライドがないのかぁ」
私と同じ状態でまだ生きてた・・・上等だよ!真のテケテケが誰か決めようぜ
ってアレ?そういえば洋出刃はどこいっちゃったっけ?
>「勘違いしてもらっては困るな。私の奥の手は……これだよ」
そうしている間にもフルスターリが銃を構える。
銃ぐらいで私は怯まないけど、気絶してる流川ちゃんに当たったことを考えると恐ろしい。
身を挺して耐えしのぐってのもありだけど、銃弾って意外と予想外の動きをするからなぁ
そんな感じで躊躇している隙に奴が発砲した。狙いは私でも流川ちゃんでも雨場でもなく
さっき雨場が拘束した奴の部下だった。
>「――私の負けだ。降伏する」
・・・まぁ結果オーライってことでいいのかな?
うん・・・当初の予定はコイツを情報源として確保するつもりだったし、私は・・・まぁこれでいいかなって思うけど…
事が済んだ瞬間、衝撃音と共にご機嫌斜め気味の雷神様が光臨していらっしゃった。
>「伏見、流川の介抱をしろ」
「え・・・パっと見私のほうが重sy・・・ハイ、すいませんやります」
これ以上もたついていると電流が飛んでくる!ヤバいさっさとやらないと
というわけで、すぐさま流川ちゃんの手当てを始めるわけだけど…うん、マズい
虫の息の一歩手前だわ、普通の手当てじゃまず助かりっこないぐらい手遅れ
…まぁ、だから私が手当てする訳なんだけどね
「正直不本意なんだよねぇ〜未調理の自分を食わせるってのはさ」
そういいながら私は内臓を弄る、さっきの触手のお陰で内臓のところどころがちょうどいい感じで切れてるっぽいね。
これなら喉にも詰まりにくいからいいね。
「失血にはやっぱ肝臓でしょ」
そういって肝臓をひっぱり出すわけだけど・・・ここまで来ると脳内麻薬のお陰で微塵もいたくないから心配の必要は無いからね〜
と余計なことしている場合じゃなかった。
消化吸収しやすいよう握りつぶしてペースト状のそれを口につっこみまーす。
「生レバーなんてシャバでも食えないんだから贅沢いわずに飲み込んじゃってよ」
抵抗しないよう口を抑え飲み込ませる。
これで処置は終了、流川ちゃんは燃費が激しいほうだから、あとは体のほうが速やかに血と肝臓ペーストを消化吸収して、おおよそ10分程度の無敵タイムに突入してくれるはずだ。
その間にはそこそこに動けれる程度には回復しているだずだ。
そうしている間に雷花ちゃんは気の向くままにフルスターリを切り刻んでいた。
それ私の仕事!と文句が出掛かったが、あの勢いのままこっちにまで来そうだし下半身を拾いに行こうっと

112 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/04(日) 00:17:18.73 0.net
フルスターリがいろいろゲロっている最中、私はさっき切り離した下半身をくっつけてた。
わざわざこんなことしなくても再生できるんだけど、それだと結構時間もかかるし相当量の食料が必要になっちゃうからね。
こうして使える部分は極力繋げてるって訳
話が終わるころには、私もなんとか動けれる程度まで回復することが出来た。
>「雨場、車を持ってこい。補給用のレーションが積んである。ここまで運べ」
「ごめん、あと車のトランクに包丁セットと調味料セットが入っているからそれもお願いしまーす♪」
車を取りに行った雨場に私はそう頼むとフルスターリと雷花の下へ近づく
>「お前に食わせる分はないぞ。腹が減ったなら海水でも飲んでいろ」
「んじゃ、私は太ももの辺りをもらうけどいいよね?」
私の目的はこっち、こう見えても私もけっこう血とか内臓とか諸々減ってるからね。
何かしらで補給しなきゃな訳だけど、レーションよりもその辺に転がってる死体等を食べたほうが手っ取り早いからね。
嘘です。私もレーション食べたい・・・当たり外れが激しい人肉よりも安定したクオリティのレーションがいいです。
そう言って以前レーションを食ってたら、いつの間にかレーションごと黒ずみになってたからね。うん、つまりそういうこと
フルスターリと雷花ちゃんとのやり取りに耳を傾けつつ私はフルスターリの下半身の処理を始める。
慣れた手つきで太ももを切り取り、皮を剥いで、骨から肉をそぎ落としていく
さっき流川ちゃんが凍らせてくれたお陰で肉の状態は半解凍状態で処理もらくちんだわ
>後詰めは呼んである。……非常に気乗りはしなかったがな」
「イってッ…後詰めってまさかアイツ読んじゃったんですか」
あまりにも唐突なバットニュースに思わず指切っちゃったわ
私にだって関わりあいたくない人間はいる、その中で雷花ちゃんも気が乗らない相手ともなると該当人物は一人しかいないはずだ。
私の誤算がない限りはその人物があと数分でくるそうだ。

113 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/04(日) 00:18:16.85 0.net
「あぁやっぱり来た」
真っ赤なオープンカー、高圧的なものの言い方、チンピラのような態度
間違いない、あいつだ。喝堂だ。
>「……流川。とりあえず、これ。あとちょっと引きずるぞ。ここは近い」
「なんであの変態はいっつも雷花ちゃんに突っかかるかね?好きなの?愛情の裏返しなの?」
雨場と共にレーションを引きずりながら私も離れる。
その間にも相変わらず二人は火花を散らしあう、まったくここにはロクな人間がいないぜ
そんなこんなでいつものやり取りを済ませ、早速仕事の話に移る
>「後は……伏見か。おいテメェ。仕事長引かせやがったら手足固結びにして海に沈めっからな」
「別にやってもいいけどさぁ…責任とれるわけ?」
漁船の網に死刑になったはずの凶悪犯が掛かり、なおかつ元気でいらっしゃる。
・・・逆に面白いね。是非やってほしい
>「それともう一人、同行してもらう子がいてね。彼女は……多分……俺の部下の、あー……はい、自己紹介して」
とまぁそんな冗談は置いといて、どうやら喝堂が誰か引き連れてやってきたっぽい
絶対部下じゃない、まず部下を従えれる器じゃないからね。さてさて、拉致られた運の悪い奴だ誰だろうね。
>「満を辞して……この私、大鳳勇。 降 臨 ですわ」(以下中略)

……
………
「馬鹿がアホをつれてきた」
運が悪いのはどうやら私だったみたい。

「さしすせそとマヨとケチャとわさびとからしがあるから好きに使っていいよ」
船に揺られて目的地へ向かう最中、レーションを食べてる流川ちゃんに雨場にもってこさせた調味料セットを渡してあげる。
いくら私でも血は補えても塩分はどうしようもないからね。
一方私は、先ほど捌いたフルスターリ肉を山葵マヨを合わせて食べてます。
山葵醤油で『人刺し』でもよかったんだけど、なんかgdgdになりそうな気がしたから山葵マヨ和えに変更したのはどうでもいい秘密だ。
味はまぁ急場ごしらえとはいえそこそこ、やっぱロシア人とマヨの親和性は高いな
さすがマヨラーの国だ。この際だからロシア肉をある程度確保しとこう。
「一応、あの二人がどういう人物か説明しとこうか?っつっても大雑把な感じになるけどね」
食事がてら流川ちゃんにあの二人について話してあげよう
余計な懸念があっては満足に食事も出来ないからね。
「まず、あの変態からね。ぶっちゃけいうと何で隊長なの?ってぐらい自己チューな奴だよ
 …終わり。あっは、ごめん思った以上にざっくばらんだった?
 いやさぁ…アレだよ。好きの反対は無関心って奴ぅ?それぐらい私はアイツが嫌いです(^^#)」
テンプレが無いから語りにくいって訳じゃないですよ。
「次に大鳳ね。苗字からわかるとおりあの『大鳳家』の人だね
 道楽かなんか分かんないけど、家を出てここの局員になったんだってさ
 バッググラウンドがアレだし性格もアレだからさ、みんな始めは小馬鹿にしてたけど
 今じゃ『超人』って呼ばれているぐらいの実力者だよ
 通り名どおり能力は肉体強化の極振り…まぁ文字通りの脳筋だわな
 ちなみに私は彼女のことが苦手です(^^#)」
最上の悪人としての死を願った私と英雄症候群のアイツ…ソリが合うわけないでしょ
あぁ…もっといい気分のときにこれが食べたかったなぁ
複雑な心境を抱えながら、私は山葵マヨ和えをかっ込んだ。

114 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/04(日) 00:18:46.74 0.net
目的地を目の前にして喝堂が船を止めて作戦の確認をする。
>「テメェらに決めさせてやるよ。ステルスとダイナミック、どっちがいい」
>「ここらで一旦止めろ。で、どうする。細部にアドリブを入れるのは構わねえが、大筋は今挙げた二つのどちらかだ」
相変わらずざっくばらんだ。
雷花ちゃんはその辺きっちりしているから心置きなく仕事が出来るんだけどなぁ
>「無論、ダイナミックですわ!コソコソするのは性に合ってないですもの」
>「どうしてもステルスで行くのであれば、私が囮として一人で向かいますわ。そういう役目は慣れておりますので
>囮は最低限の数で最大限の注目を浴びることが出来、なおかつなるべく長い間相手を引き寄せることができる私がうってつけですしわよ」
駄目だ。この調子だとこの二人のペースに持ってかれる!
そもそも殺人鬼に真っ向からの戦闘よりも、不意打ちとか奇襲とかバックスタブをとってからどうこうするほうが向いてるっていうか好きなんだけどなぁ
「あのさ…皆殺しっていったけど船長的な奴とか確保しなくて言いわけ?
 そりゃ情報源はさっき確保したわけだけど、役職によっては情報の質は変わるからさぁ…評価も変わってくると思うんだよねぇ
 私個人としてはステルスがいいと思うなぁ、早急に機関室と通信室をつぶして逃げることも仲間を呼ぶことも出来なくしてからやったほうが効率がいいと思うんだよね」
とりあえず喝堂が食つき易そうなワードをぶら下げて提案してみるけど…怪しいなぁ
せっかく狭所での戦闘を想定して、刃渡りの短いブッチャーナイフとチョッパーナイプに持ち替えたってのにこのまんまじゃ突撃するかも
【ステルス推し】

115 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/09(金) 08:07:00.64 0.net
死に瀕したとき、てっきり死に別れた故人の顔でも浮かぶものかと思っていたが、市香の場合は違った。
浮かんできたのは馴染みの焼肉屋の顔だった。

この焼肉屋というのが、お客の満足の為にわりと法的にグレーな営業をしているところで、
法規制された生レバーを、『加熱用』と書いてゴマ油かけて出してくれるので、彼女はよく利用していた。
臭みで敬遠されがちな肝臓だが、腑分け直後の本当に新鮮なものは絶品の一言。
ぷるりとした光沢のある切り身は殆ど噛まなくても喉を落ちていき、濃厚な滋味には溜息しか出ない。
冷製料理なのに脂の甘みを味わえるという矛盾を成立させられるのは大トロと生レバーだけだと市香は思っている。

……で、なんでその焼肉屋を思い浮かべたかと言えば。
目覚めた市香の口の中に、強烈なレバーの味が広がっていたからに他ならない。

「げっほ、げっほ……なぁ!?」

全裸の上に毛布をかけられた市香が覚醒したのは、怪人戦闘の爪痕瑞瑞しきレストランの一室だった。
天井がより大きく切り抜かれていて西向きの月明かりが差し込み、その下には鳴上の姿があった。
月光の中、青白く輝く翼で天を指す彼女の姿は、どこか神々しささえ秘めている。

(お迎えが来た……とかじゃないですよね)

こんな禍々しい見た目の天使がいてたまるか。
地獄の使者が這い上がってきたとか言われたほうがまだしも納得できるというもの。
まあ地獄に落ちる理由に心当たりなんてマジでないから、やはりアレは鳴上隊長なのだろう。

「生きてる……」

大量の失血と肉体の摩耗で、呼吸すらままならない状態だった。
自分でもあそこまで追い込まれたのは初めてだが、感覚的に、命が途切れるまで秒読みだったはずである。
それがいまは、虚脱感が消え、視界も鮮明に映っている。
これはどうしたことかと首を傾げる市香の元へ、レーション入りのバックパックを担いで雨場がやって来た。

曰く、市香は現在伏見の特性によって一時的に死なない身体になっているとのこと。
そしてそれはあくまで『不死身化』であって回復や再生ではないため、効果が切れる前に補給を行わなければならない。
雨場がレーションを持ってきたのはそういう意図だ。
口元を拭うと、市香のものではない血液が手の甲に移った。

怪人・伏見凶華の特性『不死身』。
その真骨頂は、己が死なないだけではなく――血肉を介して不死身を伝染させられることにある。
絶命寸前だった市香に伏見は自身の肉を摂取させ、彼女を死の淵から救ったのだ。

救命主たる当人は鳴上と共にフルスターリの尋問を行っている。
市香はその背中へ向けて、深々と頭を下げた。
震えは安堵と一緒に来た。

(助けてもらえてなかったら……助からなかった)

プロテイン・バーの封を切って齧り付きながら内省する。
市香が死にかけた原因は、攻撃を受けすぎたことはもちろん、負担の大きな奥の手しか攻撃手段がなかったことにある。
仮に敵を倒せたとしても、自分が死んでしまえば意味が無い。
学生時代のような、感情に任せて力を振るっていればよかったアマチュアとはもう違う。
市香はプロなのだ。

ベテランの先輩――伏見の戦い方を見て市香にも感じるところはある。
はじめて組んだ格上とのツーマンセル、伏見は終始こちらのサポートに回ってくれていた。
己の特性の最も活きる戦場を組み上げ、敵を撃滅し、未熟な後輩まで生還させてのけた。
これこそがプロの仕事なのだ。

116 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/09(金) 08:07:57.82 0.net
場馴れしているつもりの市香でさえ、自身の増長を痛感させられる、圧倒的な実力差。
彼女が登り始めたプロという山峰の、頂は高く、あまりにも遠い……。

新しい戦術が必要だった。
一発撃ってぶっ倒れるような奥の手なんて切り札にはならない。
戦いに勝ち、生き残る為の新しい発想が、市香には不可欠だ。

ふと、十崎のことが気にかかった。
あの、どこか牧歌的な甘さの抜け切らない、自身を半端者と自嘲する同期は、どうなったのだろう。
ルゥカと呼ばれたフルスターリの仲間と一戦交えていたはずだ。
視線を天井に移すと、月明かりを背にした十崎の姿があった。
その顔を見た瞬間、市香は悪寒が背筋を走り抜けるのを感じた。

十崎の拳が赤に濡れていた。白衣は返り血で染まっていた。
特性によって眼球の肥大した、頼りなくも愛嬌のある笑みを湛えていたその顔に――表情がなかった。

「十崎さん……?」

言葉に出したつもりの名前は、しかし音になることはなかった。
水分の失われた喉がはりついてろくに声が出なかった。
だが、仮に声が出たとしても、市香の問いに十崎が応えることはなかっただろう。
そう思わせるだけの隔絶が、断絶が、彼女たちの間には横たわっていた。



>「密輸と聞いた時点で船がある事は予想していた。後詰めは呼んである。……非常に気乗りはしなかったがな」
>「イってッ…後詰めってまさかアイツ読んじゃったんですか」

フルスターリから船の所在を聞き出した鳴上が、心底忌々しそうに吐き捨てる。
それを聞いた伏見があからさまに動揺というか、げんなりした顔をするのを市香は怪訝そうに見ていた。
そして、二人のその反応の根拠は、港の方から四輪駆動でやってきた。

ドゥン、ドゥンと空きっ腹に響くような重低音を引き連れて、真っ赤なスポーツカーが闇を切り裂いて走ってくる。
あれが鳴上の言う後詰であろうことは、伏見の口端の下がり様を見ていればわかった。
しかし市香はスポーツカーの方に目が釘付けだった。

「支援局がバブリーって話、ほんとだったんだ……」

公道じゃ確実に無用の長物と化すであろう、ガッチガチのスポーツ仕様。
玉の輿に乗る為、車種で男のステイタスを判断すべく勉強していた市香にはわかる。
このスポーツカー、中古でも800万はする超絶高級外車だ。

>「あー、クソ……面倒くせえ。テメェのヤマくらいテメェでなんとかして欲しいもんだなぁ?鳴上隊長よぉ」

当たり前のように左ハンドル、運転席から人影が一つ、逆光の中降りてきた。
人影はチンピラ然とした肩で風を切る歩調で、ふてぶてしくこちらへ歩み寄る。
後ろの車のヘッドライトが消えて、顔が見えた。

117 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/09(金) 08:08:30.85 0.net
「……んん!?」

市香は血の流し過ぎで視覚に異常を来したかと思った。
やってきた人影は、細身ながらよく鍛えられた彫りの濃い肉体の男。
――それが一瞥しただけで分かったのは、男が網シャツ一丁の姿だったからだ。

言うまでもなく今は深夜で、ここは東北で、吐く息が白くなる程度には冷える時期だ。
全裸毛布の市香が言うのもなんだが、スッカスカの防寒性の欠片もなさそうなシャツ一枚で来るなど正気の沙汰ではない。
というかそれ以前に網シャツはれっきとした夏用紳士『肌着』である。
この男、パンツ一丁で往来を出歩いているに等しい――!

(乳首が見えてますけど……?)

実働部隊が頭のおかしい人間の寄せ集めだという風評が、いよいよもって真実味を帯びてきた。
ライトウィング鳴上を遥かに凌駕する圧倒的なファッション上級者の登場に、治ったばかりの腹筋が崩壊しそうだ。

>「ふん、安心しろ。喝堂隊長。どうせ頼むのはお前にも出来る程度の事だけだ。
 そこの男を見張っていろ。そうだな。とりあえず三時間程でいい」

(隊長なの!?)

わかった。よくわかった。
魔を喰い魔に喰われる支援局のエクストリームな環境が彼らをここまで追い詰めたのだ。
ホント隊長格は御洒落キチガイばっかだぜ!

>「……流川。とりあえず、これ。あとちょっと引きずるぞ。ここは近い」
>「なんであの変態はいっつも雷花ちゃんに突っかかるかね?好きなの?愛情の裏返しなの?」

「え。一体なにがはじまるんです――」

か。と言い終わらぬうちに閃光が弾けた。
雨場が退避させてくれなかったら確実に巻き込まれていたであろう距離で、鳴上が放電したのだ。
うわちゃー、やっちゃった!と市香は今さらながら両目を手で覆う。
直前まで鳴上と言い争っていたあの喝堂とか言う網シャツ男が犠牲になったのだろう。
南無三、市香は両手を合わせるべく目隠しを解除する。

「あれ」

哀れ黒焦げになっていると思われた喝堂は、しかし傷一つなく生存していた。
では鳴上が脅しをかけただけか?いやそれはない。絶対にないない。あの女はやると言ったら確実に殺る。
事実、鳴上は帯電羽根を飛ばしていた――それを、喝堂が一つ残らず掴み切ったのだ。
手のひらから生える骨の刃で巧妙に絶縁し、しかももう片方の手から伸びた刃は鳴上の腹部を捉えている。

「すご……速……!」

喝堂が行ったのは、骨の形状を変えるごく単純な肉体変化だ。もしからしたら絶縁性質も付与しているかもしれないが。
いずれにせよ刮目すべきはその特性の、完成までの速度。
鳴上のあの電磁鏃の広域版を一度見ている市香には分かる、アレはわかっていておいそれと躱せるものではない。
いわんや、喝堂は鳴上の速度に反応しただけではなく――それを上回るスピードで自身の肉体変化を完成させたのだ。

118 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/09(金) 08:09:00.31 0.net
一見地味に見える両者のやり取りが、如何に高度な怪人戦闘であったか、少し前の市香には理解が及ばなかっただろう。
曲がりなりにもプロの世界に入門して、実戦を経験して、初めてその技量の凄まじさを実感する。
これが隊長。これが実働部隊のトップに君臨する怪人同士の業前なのだ。

>「……よし。つー訳で、雷花隊の指揮権はこれより俺が引き継ぐ。
 あー確か、雨場……君と……君は新人なんだって?少し険悪な所を見せちゃったね。ごめんごめん。
 挨拶とかは後でいいからさ、まずはゆっくり再生してよ。雷花隊長は気遣いが出来ないから、今まで大変だったでしょ」

(アメとムチの使い方が下手すぎるよぅ……)

どうやら市香はこのまま喝堂隊に編入されることになるらしい。
臨時の上官となった喝堂が、爽やかな笑顔で優しく声をかけてくれる。
さっきのやり取りを見た直後じゃ如何わしさしか感じない。
それ以前に、網シャツの変態に声色使われても全然まったくグっとこないのは市香のせいじゃないはずだ。

>「それともう一人、同行してもらう子がいてね。彼女は……多分……俺の部下の、あー……はい、自己紹介して」

喝堂が背後に水を向けた途端、オープンカーの助手席が派手に吹っ飛んだ。
超高級外車の、ぴかぴかに磨き上げられた板金が、凄まじい音を立ててアスファルトに転がった。

「ああっ、80万!(修理見積もり)」

助手席から這い出てきたのは一人の女だった。
真っ赤な外車によく映える、真紅のパーティドレスに身を包んだ、いかにも淑女といった具合の女性だ。

>「満を辞して……この私、大鳳勇。 降 臨 ですわ」

「雨場さん、支援局ってあんなんばっかなんですか!?」

あんなん、もとい大鳳と名乗った女は、おそらく決めポーズらしきジェスチャーで己を示す。

>「鳳凰の如く熱く!激しく!流麗に、勇武を振るう私が来たからにはもう何も心配いりませんわ!
 名のとおり大鳳に乗った気分でいらっしゃいませ!」

この上なく良い顔をしながら大鳳は口上を述べた。
市香はその光景をどう形容しようか非常に迷った。
網シャツの部下。車のドアふっ飛ばし。戦闘任務にドレスで参加。謎の決め顔で自己紹介。
いや、すごくピタリと当てはまる言葉があるのだけど、しかしそれを言ってしまうのはすごく憚られる。
隣で半目の伏見が呟いた。

>「馬鹿がアホをつれてきた」

「言っちゃったよ……」

申し訳ないが、同感である。



119 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/09(金) 08:09:27.41 0.net
>「一応、あの二人がどういう人物か説明しとこうか?っつっても大雑把な感じになるけどね」

フルスターリから聞き出した停泊船のもとへ向かうボートの中、伏見がこう切り出してくれた。
市香は塩分とカロリーの補給に敢行していたマヨチュッチュを中断し、傾聴する。

>「まず、あの変態からね。ぶっちゃけいうと何で隊長なの?ってぐらい自己チューな奴だよ
 …終わり。あっは、ごめん思った以上にざっくばらんだった?
 いやさぁ…アレだよ。好きの反対は無関心って奴ぅ?それぐらい私はアイツが嫌いです(^^#)」

「きっちり嫌いなんですね……」

好きの反対どころか思いっきりヘイトである。
市香もだいたい共感できる。実力が確かなので、プロとしては尊敬せざるを得ないが。
しかしじゃあ鳴上と喝堂、上官にするならどっちと言われるとすごく迷う。
どっちも嫌すぎる……。

>「次に大鳳ね。苗字からわかるとおりあの『大鳳家』の人だね

「大鳳家!超絶セレブじゃないですか!」

大鳳家と言えば財閥一歩手前ぐらいの超ハイソサエティに位置する資産家の名だ。
市香は趣味で見ている長者番付で何度もその姓を見たことがあるし、Wikipediaにも乗ってるレベルの名家である。
そんないいとこのお嬢様がなんだってこんな死神とマブダチになれそうな部隊に?
どういう経緯かは知らないが、しかし彼女もまた相当な実力者なのだと伏見は言う。

>通り名どおり能力は肉体強化の極振り…まぁ文字通りの脳筋だわな
 ちなみに私は彼女のことが苦手です(^^#)」

「だとは思ってました……」

性格からして対極にある二人だ。
まして、片やハイソな資産家令嬢、片や大量殺人鬼である。
むしろよくいままで一緒に仕事ができたなとさえ思ってしまう。
伏見は溜飲を飲み下すようにして器の中身をかっこんだ。
それが何の肉だったのか、市香には怖くて聞けない。

120 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/09(金) 08:10:53.77 0.net
揺られること数十分、停泊船が見えてきた。
そこでボートのエンジンを一旦切り、喝堂からブリーフィングが入った。

>「つー訳で、作戦会議だ。あのデブの話じゃ密輸船は、元はロシアの輸送艦らしい。
  (中略)テメェらに決めさせてやるよ。ステルスとダイナミック、どっちがいい」
>「無論、ダイナミックですわ!コソコソするのは性に合ってないですもの」
>「あのさ…皆殺しっていったけど船長的な奴とか確保しなくて言いわけ?

大鳳は言うまでもなくダイナミック、伏見はステルスを希望。
やはりここでも正反対の二人だ。では市香は?
もちろんステルスで!と言いたいところだったが、市香にはのっぴきならない事情がある。

「あのわたし、その、海水に浸かるのがどうしても苦手でして」

通常の状態でウエットスーツでも来て入る分には問題ない。
しかし、一旦戦闘状態に突入して、液状化でもしたらさあ大変だ。
浸透圧の関係で身体の水分をガンガン持っていかれるし、海水の組成は体液と似ていて、
長く浸かっていると海中のどこまでが自分でどこからがそうでないのか曖昧になってしまうのだ。
昔、敵対する怪人組織に捕まったとき、塩水を頭から被らされて死にそうになったことは今でもトラウマだ。

「ダイナミックエントリーで行きたいです。
 それに、こういう複雑な構造物の破壊や制圧は、わたしの怪人特性の最も活きるところですから。
 正面から突入するならわたしを連れて行くと色々便利ですよ」

液化すれば排水口、気化すれば換気ダクトを伝って船内を自由に行き来できる。
密閉空間なら気化しても還元できる効率が高くなるのもポイントだ。

「鍵開けとかもできますよ!
 一般的なシリンダー錠なら1秒かかりませんし、ディンプルキーでも3秒あれば解錠可能です!」

だから海にドボンはやめて。
必死に自己PRする言外に含めたその意図を、汲み取ってくれる者はいるだろうか。


【工兵としてダイナミックに同伴を希望】

121 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/14(水) 02:10:09.17 0.net
>「無論、ダイナミックですわ!コソコソするのは性に合ってないですもの」

「おーおー、そう言うと思ったぜ。いいよなぁダイナミック。スカッとするぜ。
 ……テメェが嬲り殺しにされてくれりゃ尚更な」

喝堂は笑いながら同意を示した後で、最後の一言は海へ向けて小声で吐き捨てた。
大鳳が愛車のドアを吹き飛ばした件は、彼の怒りを買うには十分過ぎたらしい。
もっともあのスポーツカーは支援局の経費で購入した物だったが、そんな事は関係ないのだ。

>「どうしてもステルスで行くのであれば、私が囮として一人で向かいますわ。そういう役目は慣れておりますので
  囮は最低限の数で最大限の注目を浴びることが出来、なおかつなるべく長い間相手を引き寄せることができる私がうってつけですしわよ」

「はっ、流石『超人』様は言う事が違えな。だが一人じゃ流石に荷が勝ちすぎるだろ。
 裏方仕事は俺に任せとけよ。テメェらは全員で正面から……」

>「あのさ…皆殺しっていったけど船長的な奴とか確保しなくて言いわけ?
  そりゃ情報源はさっき確保したわけだけど、役職によっては情報の質は変わるからさぁ…評価も変わってくると思うんだよねぇ
  私個人としてはステルスがいいと思うなぁ、早急に機関室と通信室をつぶして逃げることも仲間を呼ぶことも出来なくしてからやったほうが効率がいいと思うんだよね」

喝堂の言葉を遮るように伏見が提案を述べる。
露骨な舌打ちが響いた。

「おいおいおい、伏見ちゃんよぉ。そんなのはテメェが気にする事じゃねえんだよ。なぁ?
 死なねえだけが芸のテメェに敵の生け捕りなんざ期待してねえし、
 それにこの大海原の一体どこから仲間が来て、どこに逃げられるってんだ?」

>「あのわたし、その、海水に浸かるのがどうしても苦手でして」
>「鍵開けとかもできますよ!
 一般的なシリンダー錠なら1秒かかりませんし、ディンプルキーでも3秒あれば解錠可能です!」

「おぉっと、そりゃ大変だ。鳴上隊長の可愛い部下をこの暗い海に放り出すなんて、俺にはとても出来ねえなぁ。
 これで作戦は決まりだな。テメェら全員、真正面から突っ込め。命令違反は俺がこの手で……」

「鳴上隊長は昨日今日と、一人も部下を死なせてませんよ」

不意に、雨場が横槍を入れた。

「……だからどうしたってんだよ、雨場」

「鳴上隊長と喝堂隊長は、確かに実力は伯仲していますが、隊長としての采配は……」

ごきん、と硬質な音が響いた。苦悶の呻きが続く。
喝堂が雨場の背骨を一椎抜き取ったのだ。

「続きを言う前に一つ、訂正しねえとなぁ雨場君。俺とアイツの実力は伯仲してるんじゃねえ。俺が上だ。
 あらゆる面でな。俺がアイツに劣る事なんざ何一つとしてありゃしねえんだよ」

「……証明してみせて下さいよ」

額にびっしりと脂汗を浮かべながらも、雨場はそう言った。
数秒ほどの静寂が流れる。

「……ふん、下らねえ挑発だが乗ってやるよ。おいテメェら、作戦は決まりだ」

喝堂は隊員達を見回してから、ブリーフィングを開始した。

122 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/14(水) 02:10:40.41 0.net
>「無論、ダイナミックですわ!コソコソするのは性に合ってないですもの」

「おーおー、そう言うと思ったぜ。いいよなぁダイナミック。スカッとするぜ。
 ……テメェが嬲り殺しにされてくれりゃ尚更な」

喝堂は笑いながら同意を示した後で、最後の一言は海へ向けて小声で吐き捨てた。
大鳳が愛車のドアを吹き飛ばした件は、彼の怒りを買うには十分過ぎたらしい。
もっともあのスポーツカーは支援局の経費で購入した物だったが、そんな事は関係ないのだ。

>「どうしてもステルスで行くのであれば、私が囮として一人で向かいますわ。そういう役目は慣れておりますので
  囮は最低限の数で最大限の注目を浴びることが出来、なおかつなるべく長い間相手を引き寄せることができる私がうってつけですしわよ」

「はっ、流石『超人』様は言う事が違えな。だが一人じゃ流石に荷が勝ちすぎるだろ。
 裏方仕事は俺に任せとけよ。テメェらは全員で正面から……」

>「あのさ…皆殺しっていったけど船長的な奴とか確保しなくて言いわけ?
  そりゃ情報源はさっき確保したわけだけど、役職によっては情報の質は変わるからさぁ…評価も変わってくると思うんだよねぇ
  私個人としてはステルスがいいと思うなぁ、早急に機関室と通信室をつぶして逃げることも仲間を呼ぶことも出来なくしてからやったほうが効率がいいと思うんだよね」

喝堂の言葉を遮るように伏見が提案を述べる。
露骨な舌打ちが響いた。

「おいおいおい、伏見ちゃんよぉ。そんなのはテメェが気にする事じゃねえんだよ。なぁ?
 死なねえだけが芸のテメェに敵の生け捕りなんざ期待してねえし、
 それにこの大海原の一体どこから仲間が来て、どこに逃げられるってんだ?」

>「あのわたし、その、海水に浸かるのがどうしても苦手でして」
>「鍵開けとかもできますよ!
 一般的なシリンダー錠なら1秒かかりませんし、ディンプルキーでも3秒あれば解錠可能です!」

「おぉっと、そりゃ大変だ。鳴上隊長の可愛い部下をこの暗い海に放り出すなんて、俺にはとても出来ねえなぁ。
 これで作戦は決まりだな。テメェら全員、真正面から突っ込め。命令違反は俺がこの手で……」

「鳴上隊長は昨日今日と、一人も部下を死なせてませんよ」

不意に、雨場が横槍を入れた。

「……だからどうしたってんだよ、雨場」

「鳴上隊長と喝堂隊長は、確かに実力は伯仲していますが、隊長としての采配は……」

ごきん、と硬質な音が響いた。苦悶の呻きが続く。
喝堂が雨場の背骨を一椎抜き取ったのだ。

「続きを言う前に一つ、訂正しねえとなぁ雨場君。俺とアイツの実力は伯仲してるんじゃねえ。俺が上だ。
 あらゆる面でな。俺がアイツに劣る事なんざ何一つとしてありゃしねえんだよ」

「……証明してみせて下さいよ」

額にびっしりと脂汗を浮かべながらも、雨場はそう言った。
数秒ほどの静寂が流れる。

「……ふん、下らねえ挑発だが乗ってやるよ。おいテメェら、作戦は決まりだ」

喝堂は隊員達を見回してから、ブリーフィングを開始した。

123 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/14(水) 02:11:35.23 0.net
「時間がねえ。手短に言うぞ。中にいるのは四人だ」

君達が足場に登ろうとしていると、その頭上から声がした。
喝堂だ。
君達を放り投げた筈の彼が、君達に先んじてそこにいた。

「空調が稼働してんな。室外機は裏手だ。窓は強化ガラス、ドアは施錠されているが……まぁ無えも同然だな。
 生け捕りは無理に狙わなくていい。その代わり機材は壊すなよ。
 そんじゃ、やれ。細けえ所は任せるが、ミスったら背骨ごと首を引っこ抜くぞ」



【密輸船/ボートダビット付近】

先程までいた筈の、フルスターリに同行した部下がいない。
代わりに、何か異質な存在がいる。
甲板の船員達はすぐにその事に気が付くだろう。

大鳳勇――君が制圧するべき相手は喝堂の言葉通り、五人だった。
その五人の内、最も君に近い一人が動いた。
重心を落とし、踵で甲板を強く蹴り、左拳によるジャブが閃く。

踏み込みと打拳の鋭さは紛う事なき一級品。
だが予備動作の速度は常人並みで、軌道も直線的だ。

肉体強化に長けた怪人の最大速度と、知覚や思考の速度は必ずしも釣り合わない。
筋肉の出力が図抜けていても、思考や動体視力がそれに付いていけるとは限らない。
逆に十崎のように知覚がいかに鋭くとも、筋肉がそれに対応出来るかはまた別の話だ。

故に初動の遅延や動作の単純化が起こり得る。

もっとも、力任せに暴れるだけでも勝てる相手には勝ててしまうのが肉体強化型だ。
早い話、生半可な変化能力では時速200km超のラリアットには手も足も出ないのだ。
最短距離で、最速の攻撃を放った敵の判断は間違っていない。

その拳を向けた相手が、大鳳勇でなければの話だが。
不断の鍛錬によって『力』のみならず『技』を修めた君の前には、獣の拳はあまりに安いだろう。


【伏見、流川:ステルスエントリー。機材を壊さず、かつ警報を鳴らすなどの行動を許さず始末しましょう
 大鳳:甲板にて雑魚×5。1ターンキルOK】

124 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/01/15(木) 13:55:33.91 0.net
>「おい大鳳。囮なんてヌルい仕事はさせねえぞ。目についた奴は確実に、いいか?確実に、殺せ。
 甲板には今、五人集まってる。全員テメェと同じ肉体強化型だな。ま、カスばかりだがな」

「フッ、この私ならば造作も無いことですわ。例え強者であろうとも百人掛りだろうとお役目を見事完遂させてみせましょう!」

相も変わらない過剰なまでの自信は一体どこから出てくるのであろうか。胸を張って返答しつつ別行動となる二人へ声をかける。

「狂華さん、そちらは任せましたわよ。なぁに貴女程の者なら恐らく造作も無いことでしょう。
 それよりもこの仕事が終わったら食事でもどうかしら?貴女とはもっと親睦を深めたいと思っていますの、
 どうにもお互いの予定が合わないことが多いですし」
伏見から嫌われている勇ではあるが、彼女本人は伏見の事が嫌いではなく、むしろ好いている方だ。
嫌味ったらしく聞こえるような台詞も食事の誘いも本心であり親愛を込めた行為であるのだが
如何せんその行為が相手からの不信感を買っていることに気づいてはいない。

「それと、市香さんでしたわよね。貴女も同席してもらえると嬉しいですわ。親愛を深めるにはやはり食事ですもの。
 貴女のこと、もっと私に聞かせて欲しいですもの。」

なにかにつけて食事に誘いたがるのは彼女の癖である。無論、交渉しようなどとは毛ほども思っていない純然な好意である。
腹を割ってお互いに交遊を深めたいだけであり、それは初対面の相手であっても代わりはしない。

125 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/01/15(木) 13:56:41.20 0.net
そうして軽い会話が済んだあと、一人船に残りクレーンで引き上げられていく。
その間彼女は精神を研ぎ澄まし、自分のやるべき行動を脳内で反芻する。
(甲板の五人を制圧……全員肉体強化であるのなれば、下手な小細工は無さそうですわね)

そうして考えがまとめ終わると同時に、引き上げられた船体が甲板へと降り立つと同時に、
彼女は大仰な素振りを見せつつ彼らに宣言をしようとする。

「今宵はパーティの招待感謝しますわ。私ダンスは苦手なので少々お見苦し―――」
それを言い終える前に、彼女の体めがけて一筋の凶拳が襲いかかる。

(全く、堪え性の無い方ですわ、ねッッ!)

予備動作の段階でそれを見越していた彼女は、当たる直前に相手よりも更に身を屈めそれを躱す。
それと同時に、足の筋力を強化し、相手の股間を目掛けて膝を蹴り上げる。
ブチャッ、という破裂音と同時に男が崩れ落ちるが、それを確認するまでもなく勇は次の標的目掛けて駆けていく。
先ほどの男とはまるで違う初速で二人目の男に詰め寄り、その加速を生かしつつ右腕に能力の出力を割き、その顎めがけアッパーを見舞う。
「呆けてる暇は無いですわよ!!」
言うと同時に相手の顎が砕け鈍い破砕音が周囲に響き渡る。多少出力が落ちても、瞬時に全身のあらゆる箇所をを強化できることが彼女の強みだ。
更に足りない出力を自力と伸び代で補っているのだ。そんなもので急所を打たれては如何に怪人といえど死は免れない。

ここまでやって、彼女は一息付き残り三人に向きなおった。
「別に、銃火器を使っても構わないのですわよ」
彼女の言葉に反応し、反射的に銃に手をかけた者が二人、その二人目掛け再び彼女は駆け出し、その二人の首を掴む。

「相手の言葉に惑わされるなど、戦士としては二流ですわよ」
獰猛な笑顔と共に放たれたその言葉が相手に届くことはなく、哀れな獲物はその頭を力なく垂れていた。

126 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/01/15(木) 13:57:25.21 0.net
「さて、後は貴方一人ですわね」
瞬く間に同胞を葬られてなお、最後の一人は戦闘の構えを崩さなかった。仲間を殺された恨みか怒りか、憎しみの籠った目で彼女を見つめる。
男のその行動に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「てっきり怯え竦んで腰を抜かしているかと思ったのですが、思ったより骨があるようですわね。貴方が敵であることが残念でなりませんわ」
だがそれも一瞬のこと、すぐに獲物を狩る狩猟者の顔に戻っていた。
「貴方のその心意気に敬意を評して、私のとっておきの一つにて葬って差し上げますわ」

その言葉に反応し、身構える相手に向かって彼女は突進していく。

――大鳳勇が格闘術を学ぶ上で参考にしたものは、何も格闘術の教本ばかりではない。
当然ながら怪人として覚醒した者は、常人では到底不可能なことさえ可能である。
つまるところ、漫画やゲーム、フィクションの世界の技でさえ実現できる。
元々特撮好きであった彼女があたりも参考にしたのは言うまでもなく、
今ではそう言った技を自身の体で再現しようとするのが、実益も兼ねた彼女の趣味となっていた。

閑話休題、相手との距離を詰めながら力の一部を足から両腕に回し、そのまま相手の腕に対しそれを打ち込むやいなや
すぐに足に力を戻し相手の顎を蹴り上げる。相手の身体が浮き上がるのを待たず蹴り上げたままの足を下ろし踵落としにてその体を地に引きずり下ろす。
そうして地にひれ伏しつつある相手の顔をすくい上げ、近くの壁まで運んでいく。

「これぞ!大鳳流葬兵術ゥ!」「活殺大噴火ですわッッ!!」
もはや意識があるすら危うい相手そう言い放ち、その後頭部を全力で壁に叩きつけた。

そうして出来上がった人の原型をとどめていない「人間であったなにか」から手を離し、
相手の返り血でコントラストが出来上がったドレスについた肉片を軽く払い落とし、あたりを見回す。
そこには先ほどまでの戦闘、というには一方的な虐殺の騒音は既に無く、波風が静かに吹いているのみだった。

「やっぱりエフェクトが出ない分地味になりますわねぇ。まあそれは仕方ないとして、お役目はしかと果たしましたのですが……」

「増援が来るやもしれませんし、ここで待機していましょう」

そう言って仁王立ちしている様はまさに『超人』であった。
【雑魚ぶっころ、後は合わせます。】

127 :名無しになりきれ:2015/01/19(月) 17:03:04.99 0.net
名前:向路 深先(ムロ ミサキ)
性別:男
年齢:21
外見:ツーブロックにした黒髪をオールバックに纏めたベビーフェイス。
タイト且つ身軽な装束を好み、それは戦場に置いても変わらない。
身長は170cm程で痩躯だが、体重は見た目より重め。
志望動機:極端に特化した能力を生かす場が欲しいから。
戦闘方法: 超瞬発を用いたヒット&アウェイによる敵の撹乱、若しくは奇襲。
備考: 強化の方向を体のバネに特化させたことによる、極短距離に限ればテレポートと見紛うほどの速度での移動を得意とする。
反面、特化が行き過ぎスターターがなければ100Mを走らせても7秒は掛かる。長距離ともなれば市民ランナーに毛が生えたようなものになってしまう。
肉体変化は体の保護に、性質変化は主に血中物質の変化に向けられている。
速度自体が武器になるため、携行するのは主にチタン合金のナックルガードと爪を備えたグローブ。また、ブーツのつま先と踵にも同じようにチタンが使われている。
肉体強化7 肉体変化2 性質変化1。
この歪な能力は向路 深先が極端にネガティブ且つ負けず嫌いであったためにピンポイントで特化したことに因る。
座右の銘は不撓卑屈。

128 :向路 深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/01/19(月) 17:05:29.57 0.net
酉を忘れてた

129 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/20(火) 02:25:41.05 0.net
>>128
いらっしゃいませ、歓迎します

時に現在、参加キャラクター達が所属する隊は輸送艦へと舞台を移してしまいました
なのでどうにかして合流せねばならないのですが
向路君が合流する理由と方法に何かお考えはありますか?
もしそれらをGMが用意する場合は

理由に関しては、向路君が喝堂隊の隊員であり、彼に招集を受けた為
多少の遅れがあるのは、喝堂が小野浜港に向かう途中で
「やっぱアイツも呼んどくか」と向路君に連絡したから

方法は無難に総合支援課が水上スキーを用意してくれた

といった感じになります
もし他に案がありましたら、これらは気にしないでください

その他、支援局に務めるに至った経緯や勤続年数などはご随意にどうぞ
それと、もしよろしければ避難所(http://jbbs.shitaraba.net/internet/21967/)の方にもお越しください

130 :向路 深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/01/20(火) 11:33:01.16 0.net
向路深先は先天性怪人であった。
しかし、能力の発露が遅く、それまでの間散々にからかわれおちょくられ馬鹿にされて来たために、性格はすっかり歪み捻くれて絵に描いたようなネガティブ怪人となっていたのだった。
能力が強く現れてからはとにかく他人に自身を認めさせるために能力を磨くことに専念した。自身の傾向が他人との差違が付けにくい肉体強化に向いていたことに絶望しつつもオンリーワンを目指した結果……とにかく使いにくい怪人となる。
仕事もがないのでは食い扶持も稼げないと、多くの怪人を抱える支援局へ頼ったのが3年前。
そのまま支援局へ勤めることとなり、この職場にも大概慣れたと言ってもいいだろう。
しかし、まだ上司の気まぐれは読めない。

「肉体強化は二人もいらないとか狭い船じゃいても邪魔だとか言っておきながら、やっぱ来いってのは……酷いよなぁ」

現在、向路は福島の海を水上バイクで横断している。途中合流になったために喝堂らのボートに間に合わなかったためだ。
運転は支援課の職員がしてくれているが、彼はとても無口で道中一言も発しないためひどく気まずい。
とにかく冷える海上で返事を得られぬ独り言をこぼしながら戦闘に備え携行食をかじる。これからのことを考えるとカロリーはどれだけ採っても足りないことはないだろう。

「ここらが限界かな……。あー、ごめんなさいねこんなクソ寒いのに送って貰っちゃいまして」 

職員が徐々に速度を緩め水上バイクを停止させたのを確認すると背負っていた筒を降ろしライフジャケットを脱ぐ。
筒を再び手に取り、船の船首側へ向けて後部のつまみを引くと船に向けてワイヤーが撃ち出された。
それが手すりに絡みついたのを引っ張って確認出来たら、職員へと別れの挨拶を。そして遺書も渡しておく。
……これで準備は出来た。さて、乗り込もう。
筒を背負い直し、ワイヤーを腕で手繰りながら水上バイクとおさらば。このまま登っていけば甲板に出て誰かしらと合流する筈だが……。
船はイヤに静かだ。あの隊長がいて何故こんなにも静かなのだ。……もしや自分は騙されていて、一人でテロリストの群に突っ込まされているのではないだろうか。
それなら送りの職員が抜群に愛想が悪かったのも説明が付く。

「僕嫌われてたかぁー…」

うなだれたままワイヤーを登る。
この先に待っているのは大量のテロリスト怪人なのだろう。なんだか嫌になってきた。
嗚呼どうせならサティスフィクションバーなどではなく、おいしいものを最後に食べたかった。

【海上から乗り込み。おそらく大鳳さんと合流。】

131 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/21(水) 13:51:59.02 0.net
>「おいおいおい、伏見ちゃんよぉ。そんなのはテメェが気にする事じゃねえんだよ。なぁ?
> 死なねえだけが芸のテメェに敵の生け捕りなんざ期待してねえし、
> それにこの大海原の一体どこから仲間が来て、どこに逃げられるってんだ?」
「可能性はゼロじゃないっしょ?そんなんだからアレなんだよ」
近くに仲間の潜水艦が潜航してたり、それこそ海中で行動できる別働隊が水面下で待機してるかもしれないじゃん
そんなことよりマジでコイツ嫌いだわー
つか、さりげなく私ら全員囮にして裏方仕事に回ろうとするあたりが嫌いだわー
んな訳で流川ちゃん、ダメ押しの一言をお願い

>「あのわたし、その、海水に浸かるのがどうしても苦手でして」

「…oh」
そっかぁ海水はNGかぁ〜まさかこういう仕事でもアレルギー等々の体質に足を引っ張られちゃうのね。
「んまぁ、体質だもんね〜」
残念そうに呟く私とは裏腹に喝堂はイキイキと話を進める。
そうなりゃもう覚悟を決めるしかないかなと腹をくくろうとしたその時だった。
>「鳴上隊長は昨日今日と、一人も部下を死なせてませんよ」
まさかの雨場からの一言に空気がピリつく
あぁでも今日流川ちゃんが死に掛けたけどねーとか水を挿すことは言わないよ
>「鳴上隊長と喝堂隊長は、確かに実力は伯仲していますが、隊長としての采配は……」
>「続きを言う前に一つ、訂正しねえとなぁ雨場君。俺とアイツの実力は伯仲してるんじゃねえ。俺が上だ。
 あらゆる面でな。俺がアイツに劣る事なんざ何一つとしてありゃしねえんだよ」
「暴力に訴えるなんて認めてる証拠じゃんか」
采配に関しては雷花ちゃんのほうが上手だ。
見てのとおり喝堂もそれは自覚している。
>「……証明してみせて下さいよ」
>「……ふん、下らねえ挑発だが乗ってやるよ。おいテメェら、作戦は決まりだ」
そこで雨場からの挑発、もしかして、それが狙いだったりするの?
中々体張ったことするじゃん
こうして作戦は見直され、私と流川ちゃんはステルス、大鳳がダイナミックに分かれて行動することになった訳で。

132 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/21(水) 13:52:32.07 0.net
>「狂華さん、そちらは任せましたわよ。なぁに貴女程の者なら恐らく造作も無いことでしょう。
> それよりもこの仕事が終わったら食事でもどうかしら?貴女とはもっと親睦を深めたいと思っていますの、
> どうにもお互いの予定が合わないことが多いですし」
船に接近し、いざ侵入って時に大鳳がいつもの食事の誘いをしてきた。
TPOをわきまえないというか、回収されなさそうな死亡フラグほど味気ないものはないよね。
「だからいっつもいってんじゃん?あんたがまな板か皿の上に乗るなら考えるってさ」
つまりはお前が死ぬまでお断りと遠回しに言っているつもりなんだけどね
イマイチ伝わってないというか、まさか言葉通り皿かまな板に座って食事をすればいいなんて思ってたりして
…とんち比べをした覚えはないんだけどなぁ
もしマジでやったんなら仕方ない、諦めて席につくしかないか
そんなどうでもいい諦めがついたところで、先ほど喝堂に渡されたロープによって体が上がっていく
ここから先は数秒のロスも許されない状態になる。
まぁ…でも大丈夫かな、そんなの人間だった時は日常茶判事だったしね。
そうしている間に喝堂が突入ポイントへ私たちを放り投げた。
「あっは♪流川ちゃん大丈夫?生きてる?」
流川ちゃんの無事を確認してから私は船上へ上がった。
>「空調が稼働してんな。室外機は裏手だ。窓は強化ガラス、ドアは施錠されているが……まぁ無えも同然だな。
> 生け捕りは無理に狙わなくていい。その代わり機材は壊すなよ。
> そんじゃ、やれ。細けえ所は任せるが、ミスったら背骨ごと首を引っこ抜くぞ」
「んじゃ流川ちゃん、開錠よっろしく」
私は流川ちゃんにそう頼み、ドア付近で待機する。
間もなくドアが開いたの確認し同時に侵入した。
中の四人は甲板に気をとられていて気が付いてない…絶好のカモだね。
気づかれる前にさっさと片付けちゃおうかね
「シッ」
一気に間合いを詰めて、背後からチョッパーナイフを振り下ろす
分厚く重いチョッパーナイフの刃は容易く相手の頭をかち割った。
いくら怪人とはいえ、いきなり頭を真っ二つにされれば一溜りもないっっしょ?
とドヤ顔している場合じゃない
間髪を入れず、近場にいた奴にも斬りかかる。
相手は状況を把握しきれていない、すれ違いざまにチョッパーナイフで首をはねてやった
「あっは♪こうなっちゃもうどうしようもないっ…しょ!」
まだ意識の残っているうちに刎ねた首にそう吐き捨て思いっきり蹴り飛ばしてやった。
さて、こっちはこんな感じで二人片付けた訳だけど、流川ちゃんのほうはどうだろうね。
まさか視線を向けたら、残りの二人がまだ残ってるってことはないとは思うけどね。

133 :向路 深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/01/23(金) 20:20:58.93 0.net
「降伏しまぁ〜す……あることないこと喋りますので殺すのだけは勘べっ……あれ?
 誰もいな、イッ!?」

船への進入を果たした向路の目前にいたのは、大挙するテロリストではなかった。戦場に似付かわしくないこのドレスこの金髪……同じく支援局へ勤める、大鳳勇が血溜まりの中そこにいた。
隊長の言っていた二人の肉体強化型怪人の自分ではない方が、大鳳さんのことだったとは……!
向路にとって、大鳳勇は憧れと羨望の対象だ。限りなく高められたしなやか且つ強靱な肉体強化。恵まれた家柄ながら慢心しない気高い意志。
彼女の持つものは自分のヒネた能力や性格では辿り着くことの出来ない境地にあるようで、出来うることなら眺めるだけで良い、近付きたくない人物。
彼女の側にいると輝きが眩し過ぎて消えたくなるし、自分が彼女に影を落とすような真似もしたくない。
先程とは違う意味で、来なければ良かったと思い始めた。

「…………お久しぶりです大鳳さん……向路です……。
 いやぁ大鳳さんがいらっしゃるなら僕来なくても良かったかもー…なんてー…。
 ……えっと、隊長と、鳴上さんの隊は……?スミマセン僕如きが大鳳さんに質問なんて……」

目線は地面を滑り、足は右へ左へ落ち着かない。あからさまな挙動不審者っぷりだが、平常運転である。
ライダースジャケットに革パン、黒髪はオールバックと見た目だけは硬派だが、中身は怯える小動物であった。

【すみません、描写追加で…。
 不都合ありましたら無かったことにしていただいて結構ですので】

134 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/25(日) 16:20:01.17 0.net
<太平洋沖>

>「んまぁ、体質だもんね〜」

「うぅ……すみません」

市香の泳げません宣言に、ステルス推しの伏見は露骨に肩を落とした。
命を救ってもらった手前液状の良心がザクザク痛んだが、体質なもんはしょうがない。

>「おぉっと、そりゃ大変だ。鳴上隊長の可愛い部下をこの暗い海に放り出すなんて、俺にはとても出来ねえなぁ」

喝堂は心底愉快そうにダイナミックエントリーを決定づける。
ベテラン肉壁二人と新米一人を弾避けにつかい、強行突破を立案する。
伏見が辟易とした様子で口端を下げるのを市香は見逃さなかった。

(こういうの、初めてじゃないって感じですか……)

幾度と無く喝堂の盾役として現場に放り込まれてきたのだろう。
伏見の死なないという特性は、裏を返せば普通死ぬような環境でガシガシ酷使できるという意味でもあるのだ。
そして今回、市香もまたその酷境へと連れだされようとしている――!

>「鳴上隊長は昨日今日と、一人も部下を死なせてませんよ」

覚悟の決まらない市香があわあわしていると、押し黙っていた雨場が不意に口を開いた。
喝堂が目だけを動かして雨場を睨めつける。
ニブチンの市香にもすぐにわかった。雨場は喝堂のワンマン采配に異を唱えてくれているのだ。
おそらくは、市香や伏見達に対する助け舟として。

(……ん?あれ?一昨日とその前は!?)

二日間死人が出ないことが特筆事項な鳴上隊、そして喝堂隊はそれ以上のブラック部署なのか!
命の大安売り過ぎる……。
と、一触即発の雰囲気は過熱し、ついに喝堂が雨場の背を刺した。

「ああっ!本日一人目!?」

雨場が苦悶の表情で膝をつく。
対する喝堂の右手は血に染まっており、その指先には白い円柱状の物体があった。
背骨の一節である。ほんの刹那の一合で、怪人の肉体から正確に骨を抜き取ったのだ。

>「……ふん、下らねえ挑発だが乗ってやるよ。おいテメェら、作戦は決まりだ」

黄色く透き通った脊髄の滴る骨を放って、喝堂は吐き捨てるように言った。
作戦の概要はこうである。
大鳳がボートごとクレーンで吊られて甲板に辿り着き、そこでひと暴れする。
その騒ぎに乗じて市香、伏見、そして喝堂が艦橋へ潜入し、最上階を制圧する。
とりあえず海に落ちる心配はなさそうだ。

135 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/25(日) 16:20:28.22 0.net
「流川、了解しました。ロープをください」

雨場が用意したロープをを握る。
そのまま肉体変化を行い、肉の中に沈め、骨に引っ掛けるような状態で支持する。
これで、たとえ気絶したってロープを手放すことはないだろう。

>「狂華さん、そちらは任せましたわよ。なぁに貴女程の者なら恐らく造作も無いことでしょう。
 それよりもこの仕事が終わったら食事でもどうかしら?」
>「だからいっつもいってんじゃん?あんたがまな板か皿の上に乗るなら考えるってさ」

(わぁ、死亡フラグの応酬だぁ)

この二人本当に仲悪いんだろうか。
大鳳が一方的に伏見に構っている感じではあるが、伏見の方も鬱陶しげにしつつ、憎まれ口でも返答しているあたり、
本当に蛇蝎の如く嫌っているというわけではないんじゃないかと思う。

>「それと、市香さんでしたわよね。貴女も同席してもらえると嬉しいですわ。親愛を深めるにはやはり食事ですもの。
 貴女のこと、もっと私に聞かせて欲しいですもの。」

「わたしも大鳳さんのこともっと知りたいです!具体的には独身のお兄さんか弟さんがいるのかどうかとか!
 この際お父さんとか、飼ってる犬とかでもいいですよ!!」

高給狙いで支援局に入った市香だが、玉の輿に乗れるのであれば機会を逃すつもりはない。
大鳳家。長者番付で毎回顔と連ねる名家中の名家に編入できるなら、犬に嫁入りすることだって厭わないのが流川市香である。
閑話休題、ボートが船に横付けされ、クレーンが降りてくる。

>「行動開始だ」

洋上ライトがこちらを照らし出す前に、喝堂は跳躍、船の側面にへばりついた。
妖怪網シャツイモリとロープによって繋がれた市香達の身体もまた、牽引されてボートから投げ出される。

「ひぃ」

ロープの長さ分だけ喝堂より下にぶら下げられた市香の、足元すれすれに海面があった。
なんとか海から意識を引き剥がして上を見ると、喝堂が静かに登攀を開始したところだった。
滑らかに、しかし緩やかではない速度で高度を上げていく。
あっという間に船縁に両手がかかった。

「ここからどうするんですか?流石に艦橋に入ったらバレますよ」

甲板からの目は遠ざけることができても、艦橋には未だ多くの船員の目がある。
いかに大鳳が大立ち回りをして目を引いたとしても、まったくバレずに最上階まで上がるのは不可能だ。
……そんな市香の心配は、杞憂に終わる羽目になった。
ぐん……と内臓を引っ張りあげられるような慣性と一緒に。

136 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/25(日) 16:21:04.78 0.net
「あれ――!?」

気付けば市香は空中にいた。
同じく上空に放り出された伏見と目が合うが、彼女はもう慣れっこといった感じで冷静だ。
そして最後に下を確認して状況を理解する。喝堂が思いっきりロープで市香達をぶん投げたのだ。

(二人で100kgありますけど――!?)

心のなかで盛大に体重をサバ読みながら、重力に引っ張られて慣性が消失。
そこは丁度ブリッジ最上階の足場だった。即座に手を伸ばし、手摺にしがみつく。
ごおごおと耳鳴りがするのは、風のせいだけじゃなく、心臓が高速で脈打っているからだ。

>「あっは♪流川ちゃん大丈夫?生きてる?」

「な、なんとか。余裕ですね、伏見さん……」

埋め込んでいた命綱代わりのロープを外し、市香はようやく人心地ついた。
伏見はこともなげに、愉快そうに、市香の隣にふわりと降り立った。
バランス感覚云々というより、単純に場慣れしているといった風情だ。
いやな場慣れもあったもんである。

「あの網シャツ……帰ったら絶対訴えて――」

>「時間がねえ。手短に言うぞ。中にいるのは四人だ」

「か、喝堂隊長!……す、ステキなクールビズですね」

下で市香達を放り投げたはずの喝堂がいつの間にか同じ足場に立っていた。
なるほど、怪人二名を放り投げる膂力があれば、自分自身を同じ高度に持ち上げることも容易なのだ。
恐るべくは、物音を一切立てずにここに着地したその精緻な挙動制御。
思えば市香達も正確に慣性の消えるタイミングで足場に到達したし、これぞ隊長格の練技である。

>「空調が稼働してんな。室外機は裏手だ。窓は強化ガラス、ドアは施錠されているが……まぁ無えも同然だな。
 そんじゃ、やれ。細けえ所は任せるが、ミスったら背骨ごと首を引っこ抜くぞ」

>「んじゃ流川ちゃん、開錠よっろしく」

「了解です……その前に」

市香は指先を液状化させ、ドアの隙間から向こう側へ流し込む。
液化細胞の先端に極小の眼を作り出し、内部の様子を確認する。

「敵4人の内訳は……操舵席に一人、通信機で艦内に支持を出してるのが一人。
 向かって左の壁際で武器を手に立哨してるのが二人……全員甲板の様子に釘付けです」

甲板では既に大鳳の陽動が始まっていた。
一瞬で5人の敵を制圧した彼女の苛烈極まる戦技は、見た目の派手さも相まって周囲の視線を独占している。
味方の市香でさえ、眼前の鍵に意識を戻すのに少なからぬ集中力を割いた。

137 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/25(日) 16:21:32.42 0.net
(あれが、近接格闘特化型の怪人戦闘……)

鳴上とも、伏見とも違う、まったく別のベクトルでの『強者』。
大鳳勇、"超人"、心技一体の戦闘者。その強さに、市香は心惹かれるものを感じる。
多分彼女は、自分に足りない何かを持っている。それを得なければ怪人としての市香に先はないと、予感がする。
だが、いまは目の前の仕事を片付けなければなるまい。

市香は瞬時に思考を切り替え、もう片方の指を液状化させて鍵穴へと注ぎこむ。
感覚機能を残した液化細胞が、錠前の中を満たし、その形状を皮膚感覚で理解する。

(形状は一般的なピンタンブラー錠……ピッキング対策に複雑化してるけど、わたしの敵じゃないっ)

世の中の錠前には、大別して2つの種別がある。
機械施錠と、電子施錠だ。
うち機械施錠は最もポピュラーであり、ピンタンブラー錠とも呼ばれる方式である。

錠前の中には複数の『閂』が存在し、鍵を差し込むことで全ての閂が押し上げられて外れ、解錠されるという仕組みだ。
閂はそれぞれ長さが異なり、対応する溝を刻まれた鍵を差し込まなければ全ての閂が外れない寸法である。
市香の液化細胞は、その閂を全て適切な位置に押し上げることができる。
一般的なピッキングに要する時間と手間に比べ、遥かに素早く、容易くだ。
解錠に伴う金属の擦れ合うガチャリという音は、液化細胞が吸収してくれる為に、無音で鍵は無効化された。

「……開きました。伏見さん、左の二人をお願いします」

蝶番にも液状肉を纏わせて沈黙化し、音もなく扉が開かれた。
甲板に釘付けの四人は無音の侵入者に気づかない。一歩踏み込む、まだ気づかない。

>「シッ」

ようやく気配を察したのか一人が振り返る頃には、伏見のチョッパーナイフが振り下ろされた所だった。
脳天からかち割られた立哨が血しぶきをまき散らしながら崩れ落ちる音が、戦端を開く合図となった。
伏見が二人目の犠牲者へ肉迫する。その裏で市香もまた戦闘行動を開始した。

通信機で指示を出していた敵怪人が伏見の強襲に驚き、しかし冷静さを取り戻して戦闘態勢をとる。
右手人差し指を銃のように構えて伏見に向ける――しかし彼はその特性を解き放つことはなかった。
天井からぶら下がった全裸の市香によって口と鼻を塞がれたからである。

138 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/01/25(日) 16:22:01.67 0.net
「ッ!?」

伏見が部屋の中に突入すると同時、市香は管制室の裏手へ回り込んだ。
そこで服を脱ぎ、自身の肉体を低密度の液体――霧に変換。
室外機経由で通気ダクトを通り、室内に侵入したのだ。
通信機は精密機器であり排熱も多く、通気ダクトの真下に設置してあった。
その傍で操作をしていた敵怪人もまた、通気ダクトからの強襲に真っ先に晒されることとなった。

「大人しくしててください――ねっ」

汁怪人によって鼻と口を塞がれた敵怪人は、しかし窒息の苦しみでのたうち回ることはなかった。
彼は呼吸ができたのだ。ただし、吸い込んだ気体は流川市香100%のガスである。
敵怪人は急激な酸欠状態に陥り、そのまま白目を向いて昏倒した。
即座に通信機の艦内放送をOFFに切り替える。

「まず一人!」

そのまま勢いで操舵席の敵怪人にも飛びかかった。
周囲の機材を傷つけないよう、鉄パイプは今回使わない。徒手空拳での暗殺だ。
操舵手は鋭利に研ぎすませた貫手で迎撃してきたが、フルスターリ戦とは勝手が違う。
市香は既に胸部を液状化させていた。貫手は市香の生乳を貫通し、向こう側の虚空を虚しく抉った。

「冥土の土産にラッキースケベをどうぞっ!」

操舵手の懐に潜り込んだ市香は、その頭部を両側から手のひらで挟み込んだ。
そのまま掌から耳の穴へ高圧蒸気を噴射。
注ぎ込まれた上記は敵の耳腔内を暴れ回り、三半規管を中心にめちゃくちゃに破壊し尽くした。
操舵手は鼻と涙腺から血と脳漿の混じった液体を垂れ流しながら痙攣し、床に頭から倒れこんだ。

同時、伏見が切り飛ばした最後の一人の首から上が床を転がる音が響いた。
室内にいた四人の敵怪人は、ドアが破られてからわずか数秒で、全員が沈黙していた。

>「あっは♪こうなっちゃもうどうしようもないっ…しょ!」

伏見が捨て台詞を吐きながらこちらを顧みる。市香は全裸サムズアップでそれに応えた。
艦内放送がONになっていないことを確かめてから、部屋の外の臨時上司を伺う。

「喝堂隊長、指揮官っぽいのを一人生かしておきました。どうしましょう」

通信機の前であれこれ指示を出していたからおそらく指揮官であろうと判断し、市香はこの船員を殺さなかった。
急性酸欠で深く昏倒しているが、強心剤か何かで血圧を上げてやれば意識を取り戻すはずだ。

「あ、伏見さん伏見さん、甲板に変化ありです。戦闘体勢でない何者かが大鳳さんに接触してます」


【敵怪人を一名殺害。指揮官と思しき船員を一名捕縛。甲板注視】

139 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/26(月) 22:21:56.40 0.net
「不意を突くだけのちょろい仕事とは言え……まぁ、よくやったな。顔面クールビズは勘弁しといてやるよ」

制圧の終わった操舵室へと踏み入った喝堂は、室内の状況を確認するとそう言った。

>「喝堂隊長、指揮官っぽいのを一人生かしておきました。どうしましょう」

「あぁ?……あー、そうだな。とりあえず……」

そして流川の指す男の傍まで歩み寄り、片足を上げる。
と――その膝から先が陽炎のように、一瞬揺らいだ。
同時に無数に重なった破砕音が響く。

「こうしとけ」

男の全身の関節が外れ、骨が蹴り砕かれた音だ。
砕けた骨の破片は最早体組織ではなく、肉体と繋がりのない異物である。
それを排出、または再利用して再生を始めるには複数の高度な能力が必要だ。
戦闘用の能力に長けた怪人ほど、その状態から自力での復帰は困難になる。

「コイツはテメェの手柄だ。雨場に預けて処置させとけ。金星一つだな……生きて帰れたらの話だが」

喝堂はそう言いながら甲板を見下ろす。
大鳳はとうの昔に五人の敵を制圧し、待機していた。
と、不意に甲板の手すりに、下からフックが絡みつくのが見えた。

>「あ、伏見さん伏見さん、甲板に変化ありです。戦闘体勢でない何者かが大鳳さんに接触してます」

「アイツは……伏見、説明しとけ。それと全員、一旦甲板に集合しろ」

喝堂はインカムを用いて隊員に指示を飛ばした。
そうして全員が甲板に集まると、傍若無人の足取りで君達へと歩み寄る。

「遅えぞ向路。テメェどこで道草食ってやがった」

開口一番に恫喝が放たれた。
喝堂が向路に連絡を入れたのは自分が高速道路に進入した後だったが、そんな事はお構いなしだ。
向路の取った電話口からは清々しいほど激しい走行音が聞こえていた事だろう。

「いいか、今日はマジでやる。ヘマしやがったら泳いで帰らせるからな。俺が手足をへし折った後でだ」

サングラスの奥から獣のような眼光が向路を、そして周囲の隊員を刺した。

「隊を分けるぞ。向路と伏見、雨場に付いて機関室を押さえろ。ぶっ壊すんじゃねえぞ。
 追い詰められたカス共が船を沈めようと考えるかもしれねえ。それを防ぐ為だ。
 大鳳と流川は……」

ふと、喝堂が言葉を止めた。
それからボートダビットにこびり付いた赤黒い汚れを見遣り、眉を顰め、次に艦橋へと視線を移す。

「……一人、船倉から上がって来るな。耳の利くカスがいやがったか。仕方ねえな。暫く待機しろ」

そう言うと喝堂は甲板を蹴り――次の瞬間には艦橋二階の足場にいた。
艦橋一階と甲板を繋ぐ出入口を見下ろし――扉が開く。
姿を現したのは、黒いコートを纏った、黒髪の男だった。

140 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/26(月) 22:23:14.01 0.net
「フルスターリ、勘弁してくれ。向こうで何があったのかは知らんが、甲板でそう騒がれると中に響いて敵わん……」

男はそう言って甲板を覗き込む。
だがそうして目にしたのは見知らぬ闖入者と五つの死体。
その光景に、男の動きと思考が一瞬硬直する。
故に背後から聞こえた着地音に対する反応が僅かに遅れた。

男が振り返り――喝堂は既に彼の懐へ潜り込んでいた。
甲板を踏み締め、強く蹴り、屈めた体を跳ね上げる。
その勢いを乗せて放たれた左拳が男の肋骨を捉え、打ち砕いた。
尚も拳は止まらない。そのまま無造作に振り抜かれる。
男の体が宙に投げ出され、君達の遥か頭上を超えて、甲板に音を立てて落下した。

「よし、雨場班。機関室へ向かえ。操舵室の設備を見るに、当直はいねえ筈だ。艦橋からまっすぐ下だ。行け」



【→流川、大鳳】

「――あぁそうだ。大鳳、流川、油断すんなよ。そのクソコート、まだ生きてんぞ」

雨場班が機関室へと向かったのを見届けると、喝堂はそう言って君達を振り返った。
その視線の先を追ってみれば、まさに今、黒コートの男がよろめきながらも立ち上がろうとしていた。

「……支援局、とやらか。船の位置は……フルスターリが吐いたのか」

「フルスターリ?……あぁ、あのデブか。まぁ、そうかもな」

「いや……アイツはそういう奴だ。アイツはお前達と取引をして……生きているんだろう?」

男の浮かべる苦悶の表情の中に笑みが紛れ込む。
喝堂はそれを見ると数秒ほど思案して、口角を僅かに吊り上げた。

「何寝ぼけた事言ってんだ。いるじゃねえかよ、そこに」

そう言った喝堂の指が差す先には――流川がいた。

「何を……」

「ソイツはウチの新人でよぉ。燃費がクソ悪いんだ。さっきもあのデブ相手に死にかけちまった」

男の怪訝そうな声を遮って、喝堂は続ける。

「……で。怪人同士が殺しあって、一人が死にかけて、だが生きてる。ピンピンしてる。
 どうしてだろうなぁ?えぇ?分かんねえかよ。「そこにいる」んだぜ、あのデブは」

愉悦と邪悪に染まった笑みを前に、男の目が目開き、ふらついていた足がしかと甲板を捉えた。

「……外道が!」

怒りが男の激痛を忘れさせていた。
憎悪と激憤の宿った眼光が、流川を射殺さんばかりに突き刺している。

「よし、そんじゃ……大鳳、流川。コイツの制圧はテメェらがやれ」

喝堂はその様を見てにやりと笑うと――そう言って身を翻し、艦橋へ向けて歩き出した。

141 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/26(月) 22:23:51.65 0.net
「俺は船倉をさっさと押さえる。今の発砲音でカス共も流石に勘付いただろうからな。
 ……言っとくがな、ソイツ結構出来るぞ。俺に比べりゃカスってだけでな」

次の瞬間には、喝堂はもう艦橋の入り口前にまで移動していた。
どうやら本気で、大鳳と流川のみにこの場を任せるつもりらしい。
しかし異議を申し立てるだけの時間はない。

黒コートの男――グラッチが動いた。
彼の両手がコートに潜り、再び現れる。
肉体強化で視覚を強めていなければ、動作があった事すら認識出来ないほどの速さだ。

しかしその前後での変化は明確だった。
グラッチの両手に拳銃が握られている。
照準は既に流川を捉え、引き金に指が掛けられていた。

銃声が立て続けに八つ響く。
流川と大鳳へ向けて、それぞれ頭と心臓に二発ずつ。
怒りの形相とは裏腹に、その狙いは極めて冷徹だった。



『――喝堂隊長!なんですか今の音!』

甲板から響いた銃声に、雨場が緊迫した声を上げた。

『あぁ?聞きゃ分かんだろ。銃声だ』

『そうじゃなくて……何やってんですか。流川と大鳳は、どうなってるんです』

『甲板で戦闘中だ。肉体強化型の銃手だな。ありゃなかなかやるぜ』

『援護は……』

『する訳ねえだろ。俺は船倉を制圧する』

『マジでやるんじゃなかったんですか。何考えて……』

『俺はマジだ。俺に貸そうとしなかったって事は、鳴上はあのガキが気に入ったみてえだな。
 だが……つー事は遠からず、あのガキは死ぬ。だろ?どうせ死ぬなら、情が移る前の方がいい』

『……本気で言ってんですか』

『しつけえな。大マジだ。いいか、大鳳が付いてんだぞ。それでもまだ死ぬなら、見込みが無かったってだけだろ』

142 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/26(月) 22:25:26.23 0.net
【→伏見、向路】

『とにかく、テメェらは機関室を確保しろ。さっきの銃声でカス共が動き出した』

喝堂がそう言って無線を終了させると同時に、君達は機関室に到着した。
雨場が手の甲に「突入」と文字を浮かべる。
艦橋から全ての設備の制御が可能な近代艦船の機関室には、やはり当直は一人もいなかった。

『もう一度言っとくが、そこにある機材は何一つとして壊すなよ。
 大抵の場合、機関室の下には燃料タンクがある。もしそれに引火すれば……粉々に吹っ飛ぶか、船もろとも海の底だ。
 まぁ、もししくじっても無線が通じりゃ助けには行ってやるよ。……でねえと俺が嬲り殺しに出来ねえからな』

船内の慌ただしさが徐々に増していく。

『……カス共がそっちに向かってんな。八人だ。迎撃しろ。
 船が吹っ飛んで困るのは奴らも同じだ。そうそう馬鹿な真似はしねえだろうが……気を抜くなよ』

機関室の中央には大型のエンジンがあるが、それだけではない。
ボイラーやタービン、配水用ポンプ、造水器、発電機など、様々な機材の他、
修理用の工具やバーナーが常備された工具棚などがある。
その為、非常に見通しが悪かった。

「ま……防衛向きの地形ではあるな」

雨場が入り口に最も近い死角に身を隠して呟いた。
そして機関室の扉が僅かに開き――何かが投げ込まれた。
軽快な金属音が何度か響く。

「クソ、マジかよ!」

それが何かを確認するよりも早く雨場は動いていた。
投げ込まれたそれに飛びつき、体を広げて覆い被さる。
直後に彼の腹の下から炸裂音が立て続けに爆ぜた。
ナインバンガー、九連続で閃光と爆音を放つ閃光手榴弾だ。
閉所でまともに喰らえば、一分は視覚と聴覚を奪われていただろう。

143 : ◆PyxLODlk6. :2015/01/26(月) 22:25:54.10 0.net
直後に敵の部隊が機関室へと踏み込んできた。
床に突っ伏した雨場の頭に投擲されたナイフが突き刺さる。

敵部隊は肉体強化型のみで構成されているようだった。
火災は敵にとってもご法度のようで、武装はナイフのみだ。
敵は手分けして死角をクリアリングしていくが――所詮は雑兵だ。
君達はそう苦労する事なく彼らを返り討ちに出来るだろう。
ただし――

「いてて……。あぁ、クソ、火傷は治りが遅いから嫌なんだ……もう終わったのか?流石に速いな。
 えっと、ひい、ふう、みい……待て、七人しかいないぞ」

最後の一人を除いて、だが。

「二人とも気をつけろ。あと一人……」

直後に、警句を最後まで紡ぎ終える事なく雨場の首が飛ぶ。胴体の心臓部にも刺傷が生じていた。
床へと落下していく彼の頭部が、空中に浮いたままの「自分の血痕」を見た。
そして理解する。最後の一人の能力は『透明化』だと。

恐らくは肉体変化と性質変化の二極型。
光が完全に透過する性質を全身に付与し、肉体変化で消音と攻撃を行う。
その予想は殆ど正しかった。幾つかの欠点さえ既に見当が付いていた。

しかし首を落とされた彼にはそれを伝える為の声を発する事が出来ない。
皮膚に文字を浮かべようにも、そういう場合に使うのはいつも手のひらか甲だ。
顔を使うなんて事はまずしない。しないという事は、慣れていない。故に出来ない。

だから雨場はただ宙空の僅かな血痕を凝視し、君達が気付いてくれる事を祈るしかない。
宙に浮いた血痕が床に落ちた。
肉体変化で血の付いた部分を限界まで細めたのだ。

そして極小さな風切り音のみを伴って、君達の首にも完全不可視の刃が迫る。

144 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/01/30(金) 13:03:12.22 0.net
甲板にて、警戒を崩さない程度に悠然と構えていた彼女に、一人の男性が話しかけてきた。

>「…………お久しぶりです大鳳さん……向路です……。(以下略

「あら、深先ではありませんか。増援が来るという報告は聞いていませんが
 貴方が来ると言うならば心強いですわ!」
そう言って屈託のない笑みを浮かべながら、向路の登場を歓迎していた。
深先本人が思っていることとは真逆に、彼女は彼が増援に来たことを真に喜んでいる。
同じ肉体強化の特化型であり、自分にない能力を持っている彼のことを素直に評価しているからだ。

「とはいったものの……今は特に何もすることがないのですよねぇ。
 もっとも、すぐに事態は動くでしょうし、しばし二人でゆっくり、できないようですわね」

そう言おうとした大鳳に喝堂からの連絡が入った。
----------------------------------------------------------

「市香さんに凶華さん!無事でなによりですわ!!」
ひとまず無事に合流できた二人に対し、彼女はその無事を全力で労った。
そうやっている内に、喝堂がなにやら言ってきたが、別段気にすることもなく聞き流していく。

>「……一人、船倉から上がって来るな。耳の利くカスがいやがったか。仕方ねえな。暫く待機しろ」

では私が始末する、そう言おうとした時既に喝堂は動き出していた。
(相変わらず人のお話を聞かない方ですわねぇ)
自分のことを盛大に棚に上げ、心の中でぼやきながら喝堂が敵を始末するのを見ていた。

145 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/01/30(金) 13:04:23.53 0.net
>「――あぁそうだ。大鳳、流川、油断すんなよ。そのクソコート、まだ生きてんぞ」
「あら、貴方ともあろう方が仕損じるとは、油断でもしていらっしゃったのかしら?」
喝堂が一瞬こちらを睨んできた気がしたが知ったことではない。
ちょっとぐらいからかってみただけである、遊び心というやつだ。

(それにしても、相変わらずどっちが正義なのかわからないような会話ですわね)
何も知らない者に喝堂とグラッチの会話を聞かせたら、確実にグラッチが善玉に見えるであろう。
もっとも、正義だの悪だのの立ち位置に関しては、頓着しない主義の大鳳にとってはどうでもいいことなのだが、
このままでは流川が狙われやすくなりそうでそれが不安でならないのだ。


>「よし、そんじゃ……大鳳、流川。コイツの制圧はテメェらがやれ」
「貴方の尻拭いですか……上等ですわ!市香さん。何かあったら私が守りますわ。萎縮せず存分にいきますわよ!」
そう言いうと新たなる敵―グラッチを見据える。
(さて、どうしますか)
そう考える間もなく八つの銃声が甲板に響く。うち四発は大鳳を、残り四発は流川を狙っている。
(攻撃を受けてなおこの速さでの発砲。流石ですわね!ですが……)
その凶弾に対し、彼女は敵を見据えたまま左方へと飛び退きそれを回避する。
「生憎と、見えていますわよ!!」

武芸の達人ともあれば、相手を見据えさえすればその初動を見切ることができるという。
どんなに鍛えても、癖か習慣からくる相手の体の動きや衣服の動きを見れば、それに対応することができるのだ。
たとえ肉体強化を用いた神速の抜き打ちだとしても、それは例外ではない。
あとは簡単な読みである。怪人を確実に仕留める為に打つのであれば頭部、動きを止める牽制も兼ねているのなら胴体を狙う。
それさえわかってしまえば回避は容易だということだ。
…………無論、この一連の動作を一瞬のうちの行うということは並大抵のことではないが
それを可能にする普段からの鍛錬こそが彼女の強みだ。

(市香さんも無事ですわね。しかし、参りましたわね……)
避けたははいいものの、彼女は悩んでいた。
相手の獲物は銃器、つまり中〜遠距離での戦いを主体とするタイプだ。対して大鳳はコテコテの近距離型、相性は極めて悪い。
大鳳一人であるのなら負傷覚悟で距離を詰めればいいのだが、今回はそうもいかない。
流川の能力上、ただの銃器では致命傷を与えることは難しいであろうが、相手の武器が拳銃だけとは考えにくい。
『何かあるかもしれない、もし市香に何かがあったら』そういった考えが頭によぎる。

大鳳は仲間がいるとそれに対し些か過保護になる癖がある。
鳴上や喝堂クラスの実力者であればそこまで気にかけたりもしないが、今回はまだ経験の浅い流川なのだ。

本人も自覚しているが、これが彼女の弱点でもある。

(こういったとき、すぐにサポートに回れる深先の力があれば……というのは我が儘ですわね)

そうやって数瞬の間思考を巡らせた結果、彼女は一つの結論に至る。
(考えてもどうにもなりませんわね。それならば、相手の真価が分かるまで、いつもどおり囮になるだけですわ!!)
「さあ!行きますわよ!!」
その決意と共に、彼女はわざと相手が見切れるであろう速度、転じて相手の行動にいつでも対応できる速度で敵に目掛けて突貫していった。

【目立つくらい足音をたてて敵に向かって突撃】

146 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/01/30(金) 13:05:18.92 0.net
>「――あぁそうだ。大鳳、流川、油断すんなよ。そのクソコート、まだ生きてんぞ」
「あら、貴方ともあろう方が仕損じるとは、油断でもしていらっしゃったのかしら?」
喝堂が一瞬こちらを睨んできた気がしたが知ったことではない。
ちょっとぐらいからかってみただけである、遊び心というやつだ。

(それにしても、相変わらずどっちが正義なのかわからないような会話ですわね)
何も知らない者に喝堂とグラッチの会話を聞かせたら、確実にグラッチが善玉に見えるであろう。
もっとも、正義だの悪だのの立ち位置に関しては、頓着しない主義の大鳳にとってはどうでもいいことなのだが、
このままでは流川が狙われやすくなりそうでそれが不安でならないのだ。


>「よし、そんじゃ……大鳳、流川。コイツの制圧はテメェらがやれ」
「貴方の尻拭いですか……上等ですわ!市香さん。何かあったら私が守りますわ。萎縮せず存分にいきますわよ!」
そう言いうと新たなる敵―グラッチを見据える。
(さて、どうしますか)
そう考える間もなく八つの銃声が甲板に響く。うち四発は大鳳を、残り四発は流川を狙っている。
(攻撃を受けてなおこの速さでの発砲。流石ですわね!ですが……)
その凶弾に対し、彼女は敵を見据えたまま左方へと飛び退きそれを回避する。
「生憎と、見えていますわよ!!」

武芸の達人ともあれば、相手を見据えさえすればその初動を見切ることができるという。
どんなに鍛えても、癖か習慣からくる相手の体の動きや衣服の動きを見れば、それに対応することができるのだ。
たとえ肉体強化を用いた神速の抜き打ちだとしても、それは例外ではない。
あとは簡単な読みである。怪人を確実に仕留める為に打つのであれば頭部、動きを止める牽制も兼ねているのなら胴体を狙う。
それさえわかってしまえば回避は容易だということだ。
…………無論、この一連の動作を一瞬のうちの行うということは並大抵のことではないが
それを可能にする普段からの鍛錬こそが彼女の強みだ。

147 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/01/30(金) 13:06:33.08 0.net
申し訳ありません。少々誤爆してしまったので、>>146は飛ばして下さい。

148 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/31(土) 01:34:36.98 0.net
言うほど心配する必要はなかったね。
一人生かしておいているみたいだけど、まぁその辺はアイツが適当にやっとくでしょ
>「あ、伏見さん伏見さん、甲板に変化ありです。戦闘体勢でない何者かが大鳳さんに接触してます」
促されて甲板に視線を移した。てか…いくらダイナミックとはいえ大分暴れてるね
その惨状の片隅に大鳳と硬派な見た目に反して弱腰な挙動の男が居た。
「ベーコンアスパラ君じゃん…え…何?援軍がくるとか聞いてないんだけど」
>「アイツは……伏見、説明しとけ。それと全員、一旦甲板に集合しろ」
「…はいはい」
色々言いたいことはあるけど、どうやらこのタイミングでの合流はアイツも予定外っぽいみたいだね。
まぁ彼もアイツに振り回されてこっち着いたんだと思うし、これ以上は言わないでおこうかな
「と言うわけで道すがら彼の紹介でもしとこうか」
甲板に向かう道中、早速ベーコンアスパラこと向路深先の紹介を始める
…なんか最近そういう役回りになってない?今考えることじゃないか
「アイツの名前は向路深先、さっき私が言ったとおり「ベーコンアスパラ系男子」な訳だけど…流川ちゃんはイケるほう?」
ちなみに私はあそこまで酷いのはパスだ
「ちなみに彼も肉体強化寄りの怪人だね。ただ大鳳と違って『瞬発力』だけ強化してるっぽいね。手数で勝負するタイプって印象が強いかな
 あとは…特に言うことはないかな」
なんだかんだ言っている間に甲板へ到着、すぐさま大鳳が
>「市香さんに凶華さん!無事でなによりですわ!!」
「いちいち大げさなんだよ。初めてのおつかいじゃあるまいし」
いつもどおり適当にあしらいムロ君へ視線を向ける。
>「遅えぞ向路。テメェどこで道草食ってやがった」
「遅れるなら遅れるって言うのがマナーっしょ?まぁ…何があったかは察するけどね」
とりあえずフォローのつもりでムロ君の肩を叩き声をかける。
どういう職種であれ、上にあぁいう奴がいる時はフォロー役がいないとね。

149 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/31(土) 01:35:33.08 0.net
>「隊を分けるぞ。向路と伏見、雨場に付いて機関室を押さえろ。ぶっ壊すんじゃねえぞ。
> 追い詰められたカス共が船を沈めようと考えるかもしれねえ。それを防ぐ為だ。
>大鳳と流川は……」
班を再編成している最中、喝堂が言葉を止めた。
大体察しはつく大方
>「……一人、船倉から上がって来るな。耳の利くカスがいやがったか。仕方ねえな。暫く待機しろ」
「だと思った。いくらダイナミックだからって加減ぐらいしろっての」
ここまで暴れといて…いやそりゃ暴れる前提な訳だけども、周囲に響くぐらいの大技をぶっ放すから嫌なんだよね
大鳳に文句を言っている間に甲板の様子を見に来た男は喝堂の手で始末された。
>「よし、雨場班。機関室へ向かえ。操舵室の設備を見るに、当直はいねえ筈だ。艦橋からまっすぐ下だ。行け」
「ほんじゃ行こうかムロ君」
もう一度ムロ君の肩を叩き、私は雨場の後を追う様に機関室へと向かった。

150 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/01/31(土) 01:36:53.75 0.net
「緊急用の肉も渡しとけばよかったかな」
インカムに向かって叫ぶ雨場を見てふとそんなことを思った。
っても食べ過ぎると戦闘に支障をきたすからね。回復アイテム感覚で渡すのも考えようかな?
私の肉はある一定量を食べると能力操作に障害を発生させる副次作用があったりする。
尋問の時はその副次作用のお陰でただ死なないだけの怪人が一方的に暴力を振るえるってわけ
「まるでとってつけたような話だけどね」
マジで申し訳ないと思うわ。
そんな訳のわからない独り言を言っている内に機関室へ到着、すみやかに突入する。
喝堂の言ったとおり、機関室には誰もいない…なんだあっけな
>『……カス共がそっちに向かってんな。八人だ。迎撃しろ。
 船が吹っ飛んで困るのは奴らも同じだ。そうそう馬鹿な真似はしねえだろうが……気を抜くなよ』
くもなかったね。
「さぁてと、忙しくなってきたかなぁ」
さっそく物陰に隠れて様子を伺う。
真っ向から言ってもいいんだけどね…その辺は慎重に行かないと
そうしている間に相手が動く
「軍隊上がりかな」
体を張って閃光手榴弾を抑えた雨場を見ながら見当をつけた。
敵はそのまま雪崩れ込んでくる、挙動等から肉体強化型だと判断できる。
「軍隊上がりで肉体強化型…ね。正直鴨だわ、どうする?どっちが仕留めたか競争でもしようか」
インカムでムロ君に誘いをかける、まぁ答えなんて聞いてないけどね
敵も近づいてきている訳だし
「そんじゃよ〜い…ドン!!!」
物陰から飛び出し、一気に敵に接近する
「まず一人」
ブッチャーナイフを振り上げた瞬間、即座に胸にナイフを突き立てられた。
…で、それがどうかした?
構わずに振り下ろしたブッチャーは敵の首を跳ね飛ばしてやった。
「二人目めぇ!!!」
その後ろに控えていた奴に視線を向けた瞬間、視界の半分が消える
ほう目を潰した訳ね…んじゃお返しに腕を叩ききってやった。
正直、肉体強化型は肉体の欠損が戦力低下に直結するから他のタイプと比べて殺りやすいイメージがある。
まぁどこぞのお嬢様のような例外で埒外なのもいるんだけどね
そんな訳で二人目もあっさりと始末した。
恐怖に顔を引きつらせた三人目は、ブッチャーとチョッパー、肉を切り骨を絶つことに特化した二つの包丁で切り刻んでやった。
近場の敵の掃除を終え、ふいに雨場のほうへ視線を向けた
「はぁ!?」
思わず声が出る。
いや…ちょっと、なんで死んでんの?死んでないのはわかってるけどさ
「ちょっとちょっと、さすがに殺されすぎなんじゃないの」
雨場の頭を回収するための雨場に近づくけど、何か様子がおかしい
何かに視線を向けさせようと何度も視線をそらし、声が出ないのに仕切りに口を動かしたりしている。
「しゃべれないならモールス信号ぐらい使ってく…」
雨場に文句を言おうとした瞬間、聞き覚えのある風切り音に思わず体を逸らした
いささかタイミングが悪かったせいか、頚動脈が斬られ血が噴出す。
「透明化とか…なんて芸のない奴ぅ」
流れる血を気にも留めず、私は雨場の首を体へと放り投げた
「ってことなんでムロ君、大至急消火器持ってきて」

151 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/01(日) 23:19:20.29 0.net
>「あぁ?……あー、そうだな。とりあえず……」「こうしとけ」

市香の捕縛した指揮官(仮)の処遇を問われた喝堂が行ったのは、極めてシンプルな処置。
すなわち、手足をへし折って放置である。
しかしその速度と方法は市香の常識を突破していた。

(膝から下が見えない……!)

超高速のストンピング。
まるでミシンの往復運動のように繰り出されたそれが、敵怪人の四肢を砕き、地面へ縫い止める。
粉砕骨折は強力な再生能力を持つ怪人にとっても重傷だ。
それは命に関わるというよりも、回復に時間がかかるという意味での重篤で、捕縛と制圧にうってつけのバッドステータスである。

>「コイツはテメェの手柄だ。雨場に預けて処置させとけ。金星一つだな……生きて帰れたらの話だが」

「うーん、敵ながらに気の毒すぎる……」

市香は脱ぎ捨てたウェットスーツをいそいそと着こみながらうへぇと嘆息。
酸欠で意識が飛んでいたのが救いといえば救いかもしれない。

>「ベーコンアスパラ君じゃん…え…何?援軍がくるとか聞いてないんだけど」
>「アイツは……伏見、説明しとけ。それと全員、一旦甲板に集合しろ」

「え、あれ、お知り合いなんですか」

大鳳に近づく未確認人物について、喝堂と伏見は妙な納得を形成していた。
あれが支援局の隊員?うっそ、まさか、あんなまともそうな格好した人が?
市香の失礼にもほどがある驚きをよそに、ステルス組は一旦甲板へと集合する。

>「アイツの名前は向路深先、さっき私が言ったとおり「ベーコンアスパラ系男子」な訳だけど…流川ちゃんはイケるほう?」

「わたし主体性のない男のひとはちょっと……」

将来稼げそうにない男はパスで。
しかしベーコンアスパラとの伏見評がその通りなら、あんな野味溢れる見た目で草食系なんだろうか。
女共の容赦の無い酷評にさらされた向路なる喝堂隊の一員は、大鳳の三歩後ろにしずしずと控えていた。

「大和撫子ですか!?」

あのツラで?
いやいや、あんまり顔のことでいじるのはよくあるまい。
怪人は肉体変化の応用で外貌をある程度変更することができる。
生まれて持ったナチュラルな『常態(デフォルト)』はあれど、大抵の怪人は衣服で着飾るのと同じように顔貌にも彩りを添える。
つまり、怪人の顔とは主義主張の現れなのだ。
自分で「これが良い」と自信を持って選んだ容貌をディスられるのは、ある意味生まれつきの顔を貶されるよりも根が深い。
トラブルにもなりやすい。鳴上雷花とか言うハイレベルな傾奇者を相手にしてきた市香にはよく分かる!

>「ちなみに彼も肉体強化寄りの怪人だね。ただ大鳳と違って『瞬発力』だけ強化してるっぽいね。
 手数で勝負するタイプって印象が強いかなあとは…特に言うことはないかな」

「解説ありがとうございます。あと欲を言うなら年収とか、家族構成とか知りたかったです」

支援局の隊員という時点で高収入はクリアしているし、あとは次男か三男ならベターだ。
長男は将来義親と同居しなきゃかもだし、あんまり上に兄弟が多すぎても甘ったれに育ってそうで嫌である。
アスパラな中身がまさにとっちゃん坊やだと言うなら市香のお眼鏡からはやはり外れそうだ。

>「市香さんに凶華さん!無事でなによりですわ!!」

近づくこちらの姿を認めた大鳳が顔を輝かせた。
イブニングドレスを鮮血に染めた物々しい外見に似合わぬ子犬のような反応に市香は少し面食らう。

152 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/01(日) 23:20:40.41 0.net
>「あぁ?……あー、そうだな。とりあえず……」「こうしとけ」

市香の捕縛した指揮官(仮)の処遇を問われた喝堂が行ったのは、極めてシンプルな処置。
すなわち、手足をへし折って放置である。
しかしその速度と方法は市香の常識を突破していた。

(膝から下が見えない……!)

超高速のストンピング。
まるでミシンの往復運動のように繰り出されたそれが、敵怪人の四肢を砕き、地面へ縫い止める。
粉砕骨折は強力な再生能力を持つ怪人にとっても重傷だ。
それは命に関わるというよりも、回復に時間がかかるという意味での重篤で、捕縛と制圧にうってつけのバッドステータスである。

>「コイツはテメェの手柄だ。雨場に預けて処置させとけ。金星一つだな……生きて帰れたらの話だが」

「うーん、敵ながらに気の毒すぎる……」

市香は脱ぎ捨てたウェットスーツをいそいそと着こみながらうへぇと嘆息。
酸欠で意識が飛んでいたのが救いといえば救いかもしれない。

>「ベーコンアスパラ君じゃん…え…何?援軍がくるとか聞いてないんだけど」
>「アイツは……伏見、説明しとけ。それと全員、一旦甲板に集合しろ」

「え、あれ、お知り合いなんですか」

大鳳に近づく未確認人物について、喝堂と伏見は妙な納得を形成していた。
あれが支援局の隊員?うっそ、まさか、あんなまともそうな格好した人が?
市香の失礼にもほどがある驚きをよそに、ステルス組は一旦甲板へと集合する。

>「アイツの名前は向路深先、さっき私が言ったとおり「ベーコンアスパラ系男子」な訳だけど…流川ちゃんはイケるほう?」

「わたし主体性のない男のひとはちょっと……」

将来稼げそうにない男はパスで。
しかしベーコンアスパラとの伏見評がその通りなら、あんな野味溢れる見た目で草食系なんだろうか。
女共の容赦の無い酷評にさらされた向路なる喝堂隊の一員は、大鳳の三歩後ろにしずしずと控えていた。

「大和撫子ですか!?」

あのツラで?
いやいや、あんまり顔のことでいじるのはよくあるまい。
怪人は肉体変化の応用で外貌をある程度変更することができる。
生まれて持ったナチュラルな『常態(デフォルト)』はあれど、大抵の怪人は衣服で着飾るのと同じように顔貌にも彩りを添える。
つまり、怪人の顔とは主義主張の現れなのだ。
自分で「これが良い」と自信を持って選んだ容貌をディスられるのは、ある意味生まれつきの顔を貶されるよりも根が深い。
トラブルにもなりやすい。鳴上雷花とか言うハイレベルな傾奇者を相手にしてきた市香にはよく分かる!

153 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/01(日) 23:23:09.44 0.net
【二重投稿になってしまいました。>>152は脳内削除お願いします!】


>「いちいち大げさなんだよ。初めてのおつかいじゃあるまいし」

同じく帰り血まみれの伏見は慣れっこのようですげなく好意を手で払う。
見た感じの物騒さなら今宵のトップツー同士が男子中学生のようなやり取りをする傍で、小動物の如く怯える男が一人。

>「遅えぞ向路。テメェどこで道草食ってやがった」
>「遅れるなら遅れるって言うのがマナーっしょ?まぁ…何があったかは察するけどね」

(あー、この人喝堂隊の"そういうポジション"なんだ……)

雨場あたりと意気投合しそうではあるし、市香もものすごく共感できる。
支援局の人間は鳴上を筆頭とした頭のおかしい連中と、雨場を始めにその被害者ポジションに大別される。
市香はどっちだろうか。 どっちも嫌過ぎる……。

>「いいか、今日はマジでやる。ヘマしやがったら泳いで帰らせるからな。俺が手足をへし折った後でだ」

(へし折るだけで済むのかなあ……?)
つい先程敵怪人の四肢を粉砕してきたばかりの男の言うことだ。
ウェットスーツなしで夜の海にドボンぐらいは平気でやるに違いない。確信できる。

>「隊を分けるぞ。向路と伏見、雨場に付いて機関室を押さえろ。ぶっ壊すんじゃねえぞ。
 大鳳と流川は……」

ようやく隊長っぽい指揮を執り始めた喝堂だったが、物音が言葉を輪切りにした。
船倉――甲板の下に残っていた敵船員がこちらに登ってくる音だった。
市香が身構えるよりも先に、喝堂の姿が消える。仰角高めに跳躍したのだ。
同時、艦橋の扉が開いて中から一人の男が出てきた。

>「フルスターリ、勘弁してくれ。向こうで何があったのかは知らんが、甲板でそう騒がれると中に響いて敵わん……」

刹那、背後に着地した喝堂が密着状態でワンインチパンチを叩き込む。
胴体を痛打された男は放物線を描いて甲板にべちゃりと叩きつけられた。

「もう驚きませんよわたし……」

喝堂の思い切りと行動の早さはもう十分体験した。
他隊長の部下にすら即断で背骨ぶっこ抜くような男が、敵性怪人に容赦をするわけもない。
喝堂は何事もなかったかのように雨場以下二名に指示を出して、市香は張っていた肩を落とした。

>「――あぁそうだ。大鳳、流川、油断すんなよ。そのクソコート、まだ生きてんぞ」

伏見と向路が雨場について船倉へ降りていった直後、動くもののないはずの甲板で物音がした。
ぎょっとした市香が振り返ると、黒コートの男が苦悶の表情を浮かべつつも立ち上がっていた。
黒コートは仲間――フルスターリの安否を問う。
勝手知ったる戦友なのだろう、彼の予測は的中していた。
フルスターリは生きて、情報提供源となっている……鳴上の管理下にあるのが死ぬより辛いことまでは知らないだろうが。
しかし喝堂は、フルスターリの生存を肯定しなかった。
邪悪な笑みで顎をこちらに振る。

>「……で。怪人同士が殺しあって、一人が死にかけて、だが生きてる。ピンピンしてる。
 どうしてだろうなぁ?えぇ?分かんねえかよ。「そこにいる」んだぜ、あのデブは」

「えっ、えっ?」
状況の飲み込めない市香が「!?」を頭の右上に浮かべていると、黒コート――グラッチはこっちを見て犬歯を向いた。
憎悪の篭った双眸でこちらを居抜き、そして吐き捨てた。

>「……外道が!」

154 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/01(日) 23:25:14.27 0.net
(ああっ、そういう……!)

そこで市香にも得心がいった。
とどのつまり、フルスターリは市香に美味しくいただかれて血と肉になって貴方と再会しましたよ、というわけだ。
知らない間に外道認定されてしまった市香は、しかしこの際だから喝堂のブラフにノることにした。
自分にできる最大限の邪悪な笑みを浮かべ、指先で唇から顎にかけてなぞりつつ、言った。

「なんならわたしのお腹掻っ捌いて見てみますかぁ?遺影ぐらいならまだ撮れるかもしれませんよ。
 なにしろ硬いわ筋張ってるわで……ろくに噛まずに流し込みましたからねぇぇぇぇえええっ!」

けらけらけら!と甲高い耳に障る哄笑で挑発追加。
別に喝堂の露悪趣味に同意したわけじゃない。
だけど、市香が見てきた最初の『戦闘巧者』……伏見凶華の戦術的挑発は、確かに意味のあるものだった。
ただの猿真似にすぎないかもしれないが、それでも市香の得るべき戦闘センスの一つなのだ。

>「よし、そんじゃ……大鳳、流川。コイツの制圧はテメェらがやれ」
>「貴方の尻拭いですか……上等ですわ!市香さん。何かあったら私が守りますわ。萎縮せず存分にいきますわよ!」

「流川了解……すぐに再会させてあげますよ、わたしのお腹の中でね!!」

うわーめっちゃ怒ってるよ黒コートの人、と市香が思うより早く、グラッチの両腕が閃いた。
その両腕には黒光りする自動拳銃が握られている。
怪人の筋力、神経の精密動作性を極限にまで高めた二丁拳銃のクイックドロウ。
瞬く間に放たれた計八発の弾丸は、それぞれ大鳳と市香に4発ずつ、しかも頭と心臓を正確に狙って飛来した!
とてもじゃないが回避の間に合う隙はない。市香は何もできずに4発の弾丸をその身に受けた。

「――不意打ちはこれで二度目です」

ボボシュ!と大気の揺れる音と共に、弾丸の貫通した市香の肉体が揺らめいた。
穿たれた穴からは向こうの様子が見えるが、血は一滴も噴出せず、やがて塞がり元に戻ってしまった。
グラッチが立ち上がるずっと前、喝堂が『待機』を命じたその瞬間から、市香は肉体を霧状に変化させていたのだ。
余った体積のほどんどは足元で水たまりを作っている。

フルスターリ戦では、まったくの予備動作なしに放たれた棘弾で重傷を負った。
その反省から、敵の飛び道具、特に『初見殺し』を警戒した市香は、霧状にした肉体でデコイを用意した。
たとえ敵の攻撃が眼で追えなくても、そもそも本体にさえ当たらなければどうということはない。
挑発によって敵の攻撃を誘発したこの状況だからこそ活きる戦術だ。

「大鳳さんっ、こっちは大丈夫です!」

大鳳にこちらの無事を叫びながら、同時に彼女は驚嘆することになった。
市香がまったく察知できなかった早撃ちを、あろうことか大鳳は『見てから躱した』のだ。
この場合特筆すべきは弾丸を見切る動体視力ではない。そんなものは十崎にだってできる。
だが十崎には、放たれた弾丸を見ることができたとして、それを躱す動きに肉体を追従させることはできまい。
弾丸の飛翔速度は音速――音より早く肉体を動かすのは、如何に肉体強化特化とて至難の業だ。
大鳳がそこまでの高速移動をしたようには見えなかった。

(見たのは射手の方ですか……!)

弾丸は音速でも、それを操る撃ち手の肉体に限界があるのは同じことだ。
大鳳はグラッチの挙動を見切り、その狙いを一瞬のうちに読み、肉体を操縦したのだ。
おそるべきはその精密な挙動、そして瞬き一つ分の瞬間判断力!!
これが喝堂隊の近接戦闘特化型怪人、大鳳勇の戦闘センスだ!

(でもこれわたし、おもっきし足手まといじゃ……?)

敵の攻撃を回避できるとはいえ、霧状のままでは肉体変化によるゆったりとした動きしかとることができない。
かといって霧化を解けば、今度は認識不可のクイックドロウで今度こそ致命傷だ。
すなわち、このままでは市香にできることはここでのほほんと戦況を見守ることだけである。

155 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/01(日) 23:26:50.54 0.net
だが、それだけで打ち倒せるほど敵が甘いとは思えない。
あのフルスターリと同格だとすれば、グラッチもまた怪人特性を極めた手練だ。
見たところ肉体強化特化型、しかしただの強化一辺倒ではない。
早撃ちの高速化という、『一定の方向性』を持たせた強化は、その方向において他の追随を許さない。
同じ肉体強化に100%のリソースを振って極めた怪人同士においてさえ、早撃ちは敵の急所を捉えるだろう。

(わたしにも、なにかできることがあるはず……!)

このまま先輩に任せて観戦するのは簡単だ。
だが、強力な格闘特化の大鳳とて、敵の早撃ちを完全に見切っているわけではない。
一回でも読み違えたり、あるいは何らかのブラインド越しに打ち込まれたら――敵の狙撃は正確だ。
その一瞬のボタンの掛け違えで、大鳳は殺されるだろう。
そうなったとき、『なにもできなかったからしなかった』で、市香は自分を納得させられるのか?

それに――自分より強い者におんぶにだっこでは、いつまで経っても市香は金魚の糞だ。
故にこれは試金石なのだ。市香がこれからも護られるだけの側か――大鳳と肩を並べて戦っていけるかの。
市香はのし上がるために支援局に入ったのだ。

(大鳳さんだって!将来的にはわたしが顎で使うんですから――!!)

そして絶対、良い縁談を紹介してもらう。
その時まで死なれては困るし――その時まで失望されるわけにはいかないのだ!
市香はグラッチと大鳳が火花を散らす戦闘領域から肉体変化でゆっくりと足元の水たまりごと移動する。
たどり着いたのは甲板に置かれクレーンの鈎がついたままのモーターボートだ。

市香はその影に隠れながら、クレーンで固定するための金具を全てはずした。
直接戦闘じゃどっちにしろ割って入れない。
なら市香がやるべきことは、工兵としてできる最大限の援護だ。

固定が外れてフリーになったボートに身体を這わせるようにして乗り込む。
その甲板との接地面に、液化させた肉体を注ぎ、潤滑剤代わりにする。
そして、二分割した鉄パイプをボートの尾部にそれぞれスクリューと平行に突き立てる。

「せーーーのっ!」

二本のパイプから肉体蒸気を噴射した。
1700気圧の推進力は、潤滑されたボートを容易く押し出し、加速させ、張り付いた市香ごと高速で滑走する!
滑走方向は二本のパイプの噴射量で制御!
2トンはあろうかという巨大なボート(with市香)が、甲板を凄まじい速度で滑っていく!!
その舳先には――大鳳と交戦中のグラッチ。

「大鳳さん!――トラックに跳ねられても大丈夫なひとですか!?」

返事を聞くより先に、ボートは交戦領域に突っ込んだ。
これが市香の出した答え。
グラッチの早撃ちは初めから回避不可能なものと割り切り、ボートを盾にしての特攻。

ボートは座礁に耐えるよう堅牢かつそこそこ柔軟なつくりになっている。
対物ライフルならともかく、拳銃弾程度であれば貫通することはない。
それでいてボディには柔らかさもあるから、跳弾で不用意な方向に弾が逸れることもない。

わざわざ攻撃手段を拳銃に頼っているからには、敵の機動力自体は脅威ではないはずだ。
怖いのは固定砲台としての狙撃力と迎撃力。
だからまずは、そこを潰す、物理的に。

「――挽き肉になぁーれっ☆」


【乗ってきたボートを鹵獲し、蒸気加速+潤滑で陸上走行。グラッチを跳ね飛ばしにかかる(大鳳ごと)】

156 :向路 深先 ◆Nt3Ldz4skY :2015/02/02(月) 00:27:58.93 0.net
>「あら、深先ではありませんか。増援が来るという報告は聞いていませんが(略)しばし二人でゆっくり、できないようですわね」

にこやかに挨拶を返す大鳳に曖昧な返事をしながら周囲に目をやる。
恐らく人だったものも数えるなら、ここには5人の戦闘員がいたらしい。彼女はどのようにしてこの戦闘員を打ち倒したのだろうか。
彼女の戦闘技法は到底真似できるものではないが、間やフェイントのテクニックならばどうにか参考に出来るものも多い。
大鳳さんとタイマンで合流になるならもう少し早く着けていたらな、などと思っていると、通信と共に別働隊だったらしい喝堂達がやってきた。

>「大和撫子ですか!?」


見たことのない顔だ。鳴上隊の新入りだろうか。
彼女は突然声を上げたがそんな人がここにいるようには見えない。……どうやらまた変わった子が入ったみたいだ。

因みに流川の疑問に答えると、向路の顔は能力の発現が遅かったために外見なんて後回しにした結果の100%ナチュラルフェイスである。
更に家族構成は父母姉二人妹一人の長男坊である。
姉二人はむしろ向路の卑屈化に一役買っていたのだが、まあこの辺りのことはひとまず置いておこう。


>「遅えぞ向路。テメェどこで道草食ってやがった」

「……隊長から電話来てすぐ支援課に跳び土下座で突っ込んでここまで連れてきて貰ったんですよ。
 敢えて言うなら特別緊急車両扱いで出して貰って法定速度完全無視して来たんですから……」

>「遅れるなら遅れるって言うのがマナーっしょ?まぁ…何があったかは察するけどね」

「……伏見さんも一緒だったんスね……すみませんでした、次からは気をつけます……。」

喝堂と共にやってきた伏見に肩をパシンと叩かれビクリと体を縮める。
別に痛かったわけではない、ビビっただけだ。

>「いいか、今日はマジでやる。ヘマしやがったら泳いで帰らせるからな。俺が手足をへし折った後でだ」

「僕マジでそのまま沈んでくんで勘弁してください……」

やっと合流した隊長は当然のように非をこちらのものにしてきた。
どう考えてもあのタイミングで呼び出されてこの時間に現場に着いているのはかなり頑張っている筈なのだが……隊長はご不満らしい。
パワハラにパワハラを重ねる容赦のない言動も慣れたとは言え、彼の脅しは脅しで終わらないために始業早々胃が痛い……。

>「隊を分けるぞ。向路と伏見、雨場に付いて機関室を押さえろ。(略)」

この組分けはよかった、……とも言い切れない。
何故ならバディに死刑囚がやってきたのだ。
彼女の性格自体は殺人鬼であることを除けば仲良く出来そうなのだが、その殺人鬼というのが、元死刑囚という看板が向路に恐怖を与えるには十分過ぎた。
付け加えて言えば、彼女が人肉をむしゃらくしゃらと食べるのがどうにも受け付けられない。
なんてったって人肉である。自分も彼女にしてみればただの家畜なのだと思うと気が滅入る。
もし彼女の前で死ぬようなことになれば
、ぱっくりもぐもぐとされてしまうのだろう。

任せられた仕事だが、このメンバーならばこういう割り振りも仕方あるまい。
伏見さんは驚異的な継戦能力を持つが破壊力は低い。こういう縛りプレイにはうってつけだ。
大鳳さんもタフネスはあるが、パワープレイが基本である以上勢い余って機器を壊す可能性が無いとは言えないので……候補から外れる。
僕が大鳳さんと組んでもうま味が少ないため、そうなればあちらの子と併せて自動的に配置は決まる。
僕も周囲に気をつかって戦うのは特別上手くもないのだが、配置された以上は頑張るしかないのだ。ないのだ……。

「雨場さん伏見さん、お手柔らかにお願いします……」

また肩を叩かれ、ビクリと身を縮めた。

157 :向路 深先 ◆Nt3Ldz4skY :2015/02/02(月) 00:28:54.56 0.net
>『とにかく、テメェらは機関室を確保しろ。さっきの銃声でカス共が動き出した』

喝堂からの無線を受け、先行していた雨場からゴーが出る。
この先は無人らしいが、しかし覗き見える室内は生き物の体内のように入り組んで兎に角見通しが悪かった。
こんな破壊不可オブジェクトまみれの戦場だと体が縮んでストレスが貯まる。
……自分と違い他二人は擬似不死と完全不死なので奇襲に備えて前と後ろを任せ、そろそろと侵入。

と、喝堂から通信が入った。
内容は追加の脅しに……接敵を報せるもの。前者は兎も角後者は問題だ。
八人も来るとなると狭くなるなぁイヤだなぁ、なんて思っていたらこつんこつんと音を立てて異物が。
前方を哨戒していた雨場はすぐに放り込まれたソレに飛びついた。
そして間を置かず響く炸裂音……こちらを無力化するつもりで放ったスタングレネードだったらしい。
雨場は特殊体質であるとはいえ、無茶をする……到底真似できない。
ああいう事がしたいわけではないが、出来てしまう特異性が羨ましい。
所詮自分は、潰しの利く肉体強化怪人なのだ。

>「軍隊上がりで肉体強化型…ね。正直鴨だわ、どうする?どっちが仕留めたか競争でもしようか」

回復待ちの雨場に目もくれず、伏見は殺人鬼らしい提案を投げるといいえともノーとも言う前に敵陣へと突っ込んでいった。

「相変わらずエキセントリックですね……」

エキセントリックが褒め言葉になるかは知らないが、いきなり胸にナイフ突き立てられにいくんだからエキセントリックと言うに他無いだろう。
……さて、人のことばかり見ていられない。
ナイフを構えて走り寄る一人目に対しサイドステップで一歩回り込むように横をとれば、側頭部へ拳を叩き込む。
やったことは似非ボクシングだが、相手の目線からでは何が起きたか理解できるだけの時間はなかっただろう。
超瞬発を用いれば、軽いステップも手打ちのジャブも、不可視の殺人拳と化すのだ。
二人目、三人目が連携を組んでいるのが見て取れたので、跳躍し通りすがり様にグローブに備えた爪先を使って仲良く二人の首の肉ごと動脈を抉り切る。
四人目に行こうとしたところ、まだ息のある二人目と三人目に脚を捕まれた。戦意喪失くらいしてくれてもいいものを。
回復よりも僕を動けなくして四人目に確実に殺らせるつもりか。
予想通り、四人目が頭をかち割ろうとでもしているのかナイフを大振りさせて迫る……が、切っ先は届かない。
またも似非ボクシング、スウェーだ。背筋を一気に反らして一旦ナイフから距離をとり、今度は腹筋する要領で振り下ろされつつあるナイフを潜りながら上体を起こす。
……そして上体を起こした勢いのまま、四人目のがら空きの顎に拳をぶち込んでカウンターとする。
呆然としながら脚にしがみつく二人へ止めの拳を叩き込んだところで、敵の姿は見えなくなった。
伏見や雨場のような怪物じみた怪人に既存の戦闘技法は通用しないが、こういう手合いならば逆に相手にしやすい。

158 :向路 深先 ◆Nt3Ldz4skY :2015/02/02(月) 00:29:57.38 0.net
>「いてて……。あぁ、クソ、火傷は治りが遅いから嫌なんだ……もう終わったのか?(略)二人とも気をつけろ。あと一人……」

「伏見さん、僕四人なんで引き分けみた……いじゃないみたいですね……」

伏見へ声をかけながら、雨場に手を貸そうとそちらへ歩を進めようとして……なにやら異変が。
言葉を切らした雨場へ目を向け、見えたのは鮮血。
吹き飛んだ雨場の頭部を見つけて、それが切断された雨場の首からのものだというのが分かる。
まあ恐らく生きているだろうから心配はしないが、知り合いの首が飛ぶのをみるのは気分のいいものではない。

一体どうした……と思うより早く、自身の体が後ろへ跳んだ。
二メートルほど下がった地点に着地してからやっと首元に違和感を覚え、目の前に点となって散っている血が自身のものである事を理解する。
脳が認識するより早く脊髄反射で回避行動をとってしまった為に首筋を刃が滑っていったようだ。見かけ上の出血は多いが傷は浅い。
しかしその刃はどこから……。

>「透明化とか…なんて芸のない奴ぅ」
>「ってことなんでムロ君、大至急消火器持ってきて」

同じように襲撃を受けたらしい伏見が雨場の頭をボールのように投げながら指示をくれる。
……成る程。相手の能力の看過も対応も早い。なにのとは言わないが、場数を踏んでいるだけある。
とりあえずすぐさま入ってきた際に見かけた消火器の元へ跳ぶ。
一応種類を確認すると、化学泡系のもののようだ。こういうところではてっきりガス系かと思ったが。
……こんな密室でガス消火剤なんてまき散らしたら視覚も呼吸器官もやられてしまうか。

「……さて、早速ですがいきますね。
 かかったら……すみません、先に謝っときますんで許してください」

元の地点に戻り、消火器のピンを引き抜く。
見通しが悪いこの場所で闇雲に撒いたのでは、相手を視覚化することに100%の効果は望めないだろう。
しかしそれは相手が万全の状況なら、だ。
仲間が七人やられた状況で、自分が追い込まれる状況にいるとなれば冷静に努めるつもりでも焦りは確実に現れる。
相手は透明化を持っていながら逃走し増援を呼ぶことをしなかった。
こちらを殺す気満々というわけだ。僅かに隙を晒してやれば、相手はそれを僥倖と見て食いつくだろう。

「うわ、泡の消火器って実は初めて使ったんスけどすごいっスねコレ」

まず出入り口付近に消火剤を。
そのまま満遍なく消火剤を散布するように見せて、他に比べカバーの薄い地点を作る。
そこへ逃げ込めばエンジンを回り込むようにしていくことで向路の背後を取れるようになっていることに敵は気付くだろうか。
気付いてしまえば、あとはドツボだ。
泡の散布面積が増え続けることが思考を更に浅くさせる。普段ならば罠だと断じ、到底やらないような危うい賭けをさせてしまう。
透明化に消音というステルス性能を持つことが、要らぬ自信を補強する。






「…………ッッ!!」

首に冷たい感触。回避を堪え刃が肉に食い込む感触から入刀角度をおおよそ逆算し……上体を回すようにして裏拳を振るった。
極端にバネに寄った怪人特性はその神経接合すら瞬発化。常人では不可能な反射速度で攻撃に転じる。
あまり得意とは言えない裏拳だが、相手の怪人特性上防御は紙の確率が高い。
捉えれば骨の一本くらいは持っていける自信はある。

【床泡まみれ+炙り出しからのカウンター狙い】

159 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/03(火) 23:36:48.75 0.net
>「生憎と、見えていますわよ!!」
>「――不意打ちはこれで二度目です」

超高速の早撃ちは、しかし流川と大鳳の命には届かなかった。
しかしグラッチの表情に変化はない。ただ静かな怒りのみを湛えている。
仮にもフルスターリを殺した相手ならばこの程度は想定内――という事だろう。

だが肉体強化によって鋭敏化した視覚は確かに捉えた。
弾丸は仇敵――流川の体には触れていない。
頭部と胸に開いた穴は弾を避けるように――風に煽られるように生じていた。
加えて足元の水溜りだ。察しがつかない方がどうかしている。

肉体の三態を操る。それが流川の能力だ。
ならば殺す方法はある。

>「さあ!行きますわよ!!」

が、当然邪魔が入る。
初弾を避けたその身のこなしと先読みから、彼女が一流の格闘者である事は既に分かっている。
そして――中遠距離での銃のアドバンテージを潰すべく、距離を詰めてくる事も。

「あぁ、そうするしかないだろうからな」

グラッチの二丁拳銃、その銃口が大鳳を睨む。
照準器を用いずとも狙いは正確――それは怪人特性ではなく、彼の『技』である。

しかし大鳳の前進は最高速ではない。
真正面から突っ込めば銃弾の餌食になる事は彼女も分かっている。
故にグラッチの狙いに対応して、機動を変えられるように備えていた。
銃声が二つ響き、しかしいずれも虚空を貫くのみに終わる。

大鳳がグラッチを間合いに捉えた。

「だが生憎だ」

しかし――彼女が飛び込んだ先には、既に打撃が置いてあった。
拳銃を保持したままのグリップによる殴打だ。
防御や回避が出来ないタイミングではないが、グラッチに万全の一撃を打ち込む事は叶わない。

敵が銃使いなら距離を詰めればいい。間違いではない。
だが――正攻法過ぎる。その程度の対策はグラッチとて幾度となく受けてきている。
そして打ち破ってきたのだ。

両者の距離は既に互いの打拳が届く程にまで縮まっている。
そこは大鳳の得意とする距離だ。

にも関わらず――君は勝負を決め切る事が出来ないだろう。
拳は真芯を捉えられず、手負いである筈の敵の打撃がその身に届く。

「俺はこの距離でも強い。お前よりもな」

何故か――理由は、グラッチの怪人特性と戦術にあった。
彼は肉体強化型の怪人だ。
それも動体視力と聴力、ハンドスピードの強化と精密化に特化している。

「邪魔をするなら……まずはお前から始末する。俺は怒りに燃えているが……しかし冷静だ。お前は、厄介だ」

つまり――肉弾戦はお手の物という事だ。
驚異的な動体視力で敵の攻撃を見切り、超高速の手捌きで弾き、いなし、反撃が出来る。

160 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/03(火) 23:37:27.45 0.net
そこから更に強さを積み上げる為に、彼は銃を持っているのだ。
強化されたハンドスピードによる早撃ちは生半可な肉体変化よりもずっと強力だ。
フルスターリの「篩」である棘弾と同じく、惰弱な怪人は最初の銃撃で仕留められる。

また銃撃を見切り、躱せる怪人が相手だったとしても――射線をもって敵の動きを束縛する事が出来る。
弾道が読めるからこそ、それを避けさせる事で、近距離戦闘においても優位に立てるのだ。

射線を急所に向けられれば、敵は避けねばならない。避けなければそのまま撃つまでだ。
そして避けた先には――既に超高速の打拳が置いてある。
例え大鳳でも、それらを短時間で攻略する事は出来ないだろう。

しかし、それでも大鳳勇は強い。
グラッチもまた、勝負を決め切れないでいた。

フルスターリを殺した――とされているもう一人の敵、流川はまだ何も仕掛けてこない。
そちらへの警戒もしなくてはならないが――液化した彼女は艦載艇の陰に隠れたきり、出てこなかった。

「……不意を突けなければ逃げ隠れる事しか出来ない、という訳か。
 哀れだな、女。お前はあのような卑怯者を守る為に戦い……そして死ぬ訳だ」

グラッチが左の拳銃を大鳳に突きつけ、引き金を引いた。
十三発の残弾を全て使い切り――それを牽制に後ろに跳び、大鳳から距離を取った。
たった一歩だけ。距離はそれで十分だった。

飛び退きざま、グラッチは左手でコートを掴み、翻していた。
それによって右手は完全に隠されている。
すなわち――射線が読めない。

(この一歩は……お前があの女を気がけていなければ、埋まっていた一歩だ。
 実に哀れだが……どの道、侵入者だ。死んでもらうぞ――!)

距離は格闘の間合いの一歩外。逃げるには近く、詰めるには遠い。
射線をコートに覆い隠しての精密射撃。
グラッチを今日まで生かしてきた必殺の一撃が、大鳳の頭部と心臓に不可逆な破壊を齎す。

>「せーーーのっ!」

その直前に、大きな掛け声と蒸気の噴射音が甲板に響いた。
グラッチが咄嗟にそちらへ視線を逸らし、

>「大鳳さん!――トラックに跳ねられても大丈夫なひとですか!?」

艦載艇が甲板を滑り、迫り来る様を目の当たりにした。

「くっ……!」

怒りに支配されていた表情に焦りが生じた。
艦載艇は既に完全に加速している。グラッチの脚力では避けられない。

不意を突けなければ逃げ隠れる事しか出来ない――そこまで分かっていて、不意を突かれた。
痛恨のミスだった。

「だが……浅いな」

グラッチの両腕が揺らぎ、その手から拳銃が消えた。
代わりに握られていたのは――梱包爆薬とその起爆装置だ。

グラッチが二丁の拳銃を愛用するのは、それが印象深いからでもある。
つまり『拳銃使い』である事が際立ち――他の技量に対する警戒が薄れるのだ。
大鳳は彼の『格闘技術』を低く見積もり、そして流川は彼に『元軍人としての技術』がある可能性を忘れた。

161 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/03(火) 23:38:15.85 0.net
梱包爆薬が艦載艇の下へと投げ込まれる。
直後に爆音が轟いた。

艦載艇は甲板の上方へ吹き飛ばされていた。
破壊には至らず、原型は保たれている。
本来は肉体変化型を仕留める為の物である為、爆薬量が少なかったからだ。

流川は自発的に退避したか、さもなくば急上昇に対応出来ずに甲板に投げ出されているだろう。

しかし――君達はすぐに気付く事になる。グラッチの姿が甲板にない事に。
一体どこへ消えたのか。
答えは――上空だ。

「これでいい。さぁ、次はどうやって不意を突く。いや……不可能だ」

グラッチは梱包爆薬を起爆する直前、艦載艇の先端に指を引っ掛けていた。
そして上へ打ち上げられた艦載艇と共に、自分自身も飛び上がった。
突出した動体視力とハンドスピードがそれを可能にしたのだ。

「ぐっ……」

とは言え、彼も無傷とは言えない。
彼の脚力では、艦載艇の直撃を避ける為には至近距離で梱包爆薬を爆破する他なかった。
その余波は、喝堂から受けた一撃と相まって、彼に凄まじい激痛をもたらしていた。

故に、彼はコートの内側から拳銃ではなく、再び梱包爆薬を取り出した。妥協したのだ。
起爆装置の周波数を操作し、起爆可能な状態にしてから、それを甲板の君達へと投げる。
後は確実に殺傷可能な位置に爆薬が到達した瞬間に、爆破するだけだ。



【格闘戦はてきとーにでっち上げて書いちゃって下さい】

162 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/04(水) 00:14:50.12 0.net
一人目は首を落とし、心臓を貫いた。
にも関わらずまだ生きているようだ。

(いや、それだけなら珍しくもねーけどさ。頭も胴体も生きてね?アレ。おかしいだろ)

二人目の首は切断には至らなかったが、頸動脈は完全に断ち切った。
しかし相手は平然と一人目――雨場の首を拾い、胴体に返している。

>「透明化とか…なんて芸のない奴ぅ」

(いやいや、動じなさすぎだろ。なんでそんな平然としてんだよ。怪人だって失血死くらいするだろ?
 あとさらっと種明かししやがって。なに見切ってくれちゃってんだよ。早すぎだろ)

三人目は、確かに首を落とせる軌道で攻撃を仕掛けた筈だった。
だが切れたのは薄皮一枚――いつの間に回避されたのかすら、見えなかった。

(いやいやいや、こっちもこっちで速すぎだろ!まったく目で追えないって事は、グラッチさんと同等か……それ以上か?
 しかも手だけじゃなくて全身動かしてそのスピードって、ヤバすぎだろ)

見えざる八人目の敵、プロズラは姿を隠したまま頭を抱えていた。
まさか一人も仕留められないとは思っていなかったのだ。

>「ってことなんでムロ君、大至急消火器持ってきて」
>「… …さて、早速ですがいきますね。
  かかったら……すみません、先に謝っときますんで許してください」

(ま、そうなるわな。けどさぁ……こっちも生まれた時からこの能力を使ってきてんのよ。
 分かる?弱点なんて俺が一番よく知ってる訳よ。当然……)

床に撒き散らされた泡には明らかな作為が宿っていた。

(その程度の対策はさぁー、もう何百回と受けてきてる訳よ。
 いや、何百は盛りすぎか。まぁいいや、とにかく……)

プロズラは刃化させた腕を振りかざし――向路の後頭部へと振り下ろす。
先程は、やはり焦りがあったのだろう。風切り音が生じてしまった。
今度はそんなミスは犯さない。

いくら罠を張り警戒しているとは言え、いつ仕掛けるかのタイミングは自分が自由に決められるのだ。
反応出来る訳がない。気付いた時には頭と胴体が泣き別れしている。
そう確信を持って斬撃を放った。

そして――気が付けば腕が吹き飛んでいた。

「い……てえええええええええええええええええ!
 クソ、あり得ねーだろ!どんな反応速度してんだ畜生!」

思わず、悲鳴が上がった。
それは機関室の中では反響して、プロズラの位置を特定する材料にまではなり得ないだろう。
しかし問題はそこではない。

向路は斬撃の角度から『敵がいる筈の位置』を割り出し、攻撃した。
だが捉えられたのは腕のみ。もっとも、それも目視は出来ないが。
とにかく――プロズラの肉体変化は人体の原型から大きく乖離出来るという事だ。

163 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/04(水) 00:15:27.64 0.net
「だが……へへへ、今のが最後のチャンスだったな。
 もうテメーらには何一つチャンスは与えねえ。
 俺の『非物質化』を捉える事は、誰にも出来やしねえのさ」

非物質化――などと言うのは、無論ブラフである。
そんな事は例え性質変化を極めたとしても不可能だろう。

(……ふう、落ち着け。落ち着けよ。今のも別にケツから仕掛ける必要なかったろ。
 逆に前からかませば良かったんだ。思ったよりも焦ってんぞ、お前)

どう攻めるべきか。プロズラは思索を巡らせる。
敵の目的は破壊工作ではなさそうだ。
出血も肉体変化で傷を塞いで止めた。長期戦に不都合はない。

(ま、いつも通りだわな。この地形ならやりやすいぜ)

プロズラが君達を「詰み」にするべく準備を始め――同時に雨場が起き上がった。

「あぁ、クソ。いっそ頭と首に鉄板でも埋め込むか。マジで……っと、向路、少し待て。動くなよ」

そう言うと近くにあった死体の手首を『捕食』し、千切れた手を乱雑に放り投げる。
手は浅い放物線を描いて飛び――そして宙空にあった見えない刃に食い込んだ。

「やっぱそう来るよなぁ。おっと、もう首は落とさせないぜ。お前の特性はもう見切ってる」

そう言って雨場は姿勢を低くして物陰に隠れる。
ただそれだけで――彼への追撃は訪れなかった。

「……敵は恐らく肉体変化と性質変化の二極型だ。
 肉体変化は消音の為の軟化と、斬撃の為の硬化、そして変形の三つがメイン」

雨場は不意に立ち上がり、移動を始めた。

「結構多岐に渡ってるから、そんな難しい事は出来ねーだろ。
 配置出来る刃は……四肢の四か、両手の指の十か、そこに両足足して二十ってとこか。
 そんでもって性質変化の方は……ここまで完璧に見えないって事は『光の透過』だな」

物陰から物陰へ、緩やかに動き続ける雨場の頭が――不意に、真っ二つに割られた。

「だが完全に透過しちまったら網膜に光を捉えられない。
 それじゃ自分も何も見えない。つまり……お前は「ここ」が見える位置にいるって訳だ」

だと言うのに、雨場の言葉は止まらなかった。
声はややくぐもって、彼の服の下――胸の辺りから聞こえていた。
首を繋げて再生を終えた直後から、雨場は胸部に口の作成を始めていたのだ。

そして――君達は見つけるだろう。
壁際で、宙に浮くようにして静止している一対の眼球を。

「やっべ……だが、だがよぉ!それがどうしたってんだ!どの道テメーらにゃ俺の刃は見えやしねえ!
 串刺しになるか、ぶった斬れるか、選びやがれってんだ!うひゃひゃひゃひゃ!」

不可視の触手が一本ずつ、君達の頭上から迫る。
脳天から心臓まで一突きにするつもりだ。
加えて周囲には見えざる刃が、雨場の予想が正しければ十七枚展開されている。
運だけで避け切って、プロズラを叩くには多すぎる数だ。



【見えない刃のトラップ&触手による脳天串刺し】

164 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/06(金) 22:50:49.32 0.net
>「だが生憎だ」

大鳳がグラッチを間合いに捉え、彼にその拳を叩き込もうとした。
だがそれは彼の拳銃に阻まれた。但し、それは銃弾ではなく、拳銃のグリップによる打撃。
防御こそできるものの、その一撃は大鳳の身体を捉え彼女の攻撃をタイミングを確実に削いでいた。
どれだけ攻撃してもその攻撃の殆どが潰され、やっと通った打撃もグラッチに対して有効打を与える事は敵わない。

喝堂に手傷を負わされて尚この強さ、そして射撃だけでなく近距離での戦闘もこなせる銃捌き。
現実では滅多にお目にかかれない戦法、ガン=カタを使いこなす戦闘スキル。
拳銃を使うからと言って接近戦に持ち込めば有利と判断したしたわけではないが、
流川にかまけてその本質を見誤っていた。
グラッチの本領はハンドスピードの強化、
それならば鍛錬を積むことで接近戦にも対応できるのは容易いことだ。

>「俺はこの距離でも強い。お前よりもな」
認めざるを得ない。――この男は、自分よりも強い。

そもそも彼女の能力は全身を万遍なく強化することができる故に、
その強化の限界点は特定部位にリソースを割いた肉体強化相手には分が悪い。
だからこそ、並ならぬ鍛錬を重ねて能力の底上げをしているのだが、
こういった高い戦闘技術を持つ相手との戦いではどうしても不利に為らざるを得ないのだ。

(まずいですわね……、このままだと千日手ですわ)
相手の攻撃を捌ききるだけならなんとかなる、だがここから決定打を与えるとなると話は違ってくる。
なにせ大鳳達の目的は時間稼ぎではなく、相手の撃破である。

ただでさえ相手が格上であり、その上今の大鳳は流川が気になってしょうがないのだ。
確かに大丈夫とは言われたものの、心配なものは心配なのだ。

>「……不意を突けなければ逃げ隠れる事しか出来ない、という訳か。
哀れだな、女。お前はあのような卑怯者を守る為に戦い……そして死ぬ訳だ」

「私の、友人を馬鹿にするのは許せませんし死ぬ気もないですわ……ッッッ!!」

相手の言葉に反応してしまったが為、一瞬グラッチの銃撃への反応が遅れた。
それ故に相手の後退を許してしまった。
その瞬間、彼女はグラッチの翻したコートによりその身体の大部分を見失っった。
相手の動きからその銃撃を読み取っていた彼女にとって、それは致命的と言える
「マズッ……!」

165 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/06(金) 22:51:31.48 0.net
いくら足を強化したところで、体勢を崩したこの状況からでは間に合わない。
最早ここまで――、脳裏によぎった死のビジョンから彼女を救ったのは、
他ならぬ流川の声だった。

>「せーーーのっ!」
>「大鳳さん!――トラックに跳ねられても大丈夫なひとですか!?」

「市香!?」
その声と共に唸る蒸気の轟音を見ると、そこから巨大なボートがこちら目掛けて突っ込んできている。

「助かりましたわ!!……ハァッ!」
驚きと喜びの入り混じった声を上げ、大鳳はすぐさま脚部を強化しその場を離れる。
そしてそれと同時に、グラッチが爆薬を取り出す動作を見逃さなかった。

「やはり持っていましたわね!!」

とはいえこの距離ではどうすることもできない。
その直後に起こる爆発とそれによって出来上がった煙幕によって、彼女はグラッチの姿を見失った。

「市香は……って流石にここで探してる余裕はありませんわ。そ・れ・よ・り・もッッ!」

仮に爆発で海に落とされでもしたら一大事だが、今はそんなことを言っている余裕は無い。
短時間に二度同じ間違いを起こすほど大鳳は平和ボケしていないのだ。
そうしてグラッチを探す。周囲に人影は無く、相手に高速で移動する手段も無い。
ならば答えは一つ。

「上ですわね!!」
視覚を強化して上空を見れば、グラッチの身体が空高く舞い上がっているのが見えた。
どうやったかは詳しくは分からないが恐らく爆風に乗ったのだろう。
その手にはさっきと同じく爆薬が握られていた。
確かにあの高さから投げいられた爆薬を起爆されたら、防ぎようが無い上に、こちらからの攻撃も届かない。
「成る程、私たちに対しては呆れるほど有効な戦術ですわね……」

先ほどと同じく、ほぼ詰みの状況。だが、決定的な違いがそこにはあった。
一瞬のうちに起こる銃撃と違い、投げて起爆するという動作が必要な分だけ―――遅い。
たった数秒の違いだが、彼女にとってはそれこそが勝機だ。

166 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/06(金) 22:52:04.87 0.net
(未完成のとっておき、こんな中盤にありがちな王道展開。やってやりますわ!)
グラッチの姿を見据えながら覚悟を決め、息を整える。

(いち……)
そうしてイメージを脳裏に浮かべる。大事なのはイメージ、失敗は許されない。
脳内へ、そのリミッターへ力を及ぼす。だが強化はしない、する必要がない。
ならばどうするか、答えは簡単だ。脳内のリミッターを『弱化』することによって外れた状態にするのだ。
弱化するだけならば、強化するよりも容易い。とはいえ、本来ならばそんなことする必要がない為、見向きもされないのだ。
だからこそ、彼女はそこに目をつけた。目をつけざるを得なかった。

(に……)
そうすることによって、圧倒的な処理能力を得た脳を用い、次の段階へと移行する。
……本来、怪人の能力というものはどんなにリソースを割いたところで80%だ。
残り20%二つの能力に割り振られる。これがあるからこそ、どの怪人もある程度の回復力を持ち、
身体にエネルギーを蓄えられる。最低限の力は確保される。
ならば、それを捨て去りさえすれば可能一極集中は100%は可能なのか。

答えは可能である。

怪人の生命力を頼みに脳内の処理能力を上げ、怪人のリソースを肉体強化に100%注ぎ込む。
これに関してはやりようによっては他の怪人にだって可能な者はいるだろう。だがそこまでする必要がある怪人は少なく、
そもそもリスクとリターンが釣り合っていない。
何故ならこれは非常に短い秒間しかできない上に、頼みの生命力を瞬くまにすり減らしていく行為に他ならないからだ。
今まで自室で隠れて鍛錬してみても、10秒持つか持たないかだ。
同時にこれを使った直後から最低12時間は怪人としての回復力を失い、体力も一般人、よしんば鍛えたアスリート並までに落ち込んでしまう。
肉体強化の能力自体は使えるものの、使うためのエネルギー貯蔵量を考えれば、長時間使うことは出来ない。
それでも彼女は、それに縋る他無かった。

彼女の能力は、あらゆる箇所ある程度を強化・弱化することができる。
だがそれは言い換えれば器用貧乏、広く浅くしか強化できない。
それは、極点特化し鍛え上げられた能力者には勝てないということを意味する。
それでも力を望むからこそ、彼女は禁忌の扉をこじ開けた。

毛細血管に至るまでくまなく血液が循環し、身体がが赤く紅く燃え上がるように充血する。
グラッチから受けた打撃や今までの訓練で治りきっていない傷から血液が流れ包帯までも赤く染める。
そんな身体でなお、彼女は勝利に繋がる道を模索する。
そして、彼女はそれを見つけた。

「さあ、10秒間だけ付き合ってもらいますわよ!!」
(深先ほど早くは移動できなくとも!!)
彼が爆弾を投擲するとほぼ同時に、今ある全力で脚部を強化、
近くの壁目掛けて助走をつけて跳躍する。、
そのままその壁を蹴り、自由落下を始めているグラッチへと飛び上がる。

もしかしたら敵に反撃されるかもしれない、だが構うものか。
ここで手傷を負わせることさえできれば、仕留めそこねても後は流川がやってくれる。
だからこそ、確実に一撃を叩き込む、それだけである。

「ライジングゥゥ……クリムゾォォォンッッッッ!!!!!!」

獣のような咆哮と共に、渾身の踵がグラッチの身体に振り下ろされた。


【起死回生の打ち下ろし蹴りをぶちかまそう】

167 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/02/08(日) 00:22:27.24 0.net
>「……さて、早速ですがいきますね。
> かかったら……すみません、先に謝っときますんで許してください」
さすがにアイツの下で働いているだけあって仕事が速いねぇ
あぁいうタイプの上司ってのはそういう人材を育てるのが上手いからねぇ
まぁ、パワハラ紛いの恐怖政治の賜物なわけだけどもね。
そんなんだからブラック企業ってのは一向に減らないんだと思うんだよね…私には関係ないけどもさ
>「うわ、泡の消火器って実は初めて使ったんスけどすごいっスねコレ」
「そだね。私てっきりは粉末の消火器だと思ってたから輪をかけて驚いてるよ」
そんなこんなでムロ君は消化剤を散布していくわけだけど…ちょっとムラが出てんじゃない?
そんなんじゃ後ろから襲われちゃうよ?
『うっかり』をやらかすような奴じゃないと思ってたけど、案外そういうところもあっちゃったりするタイプだったのかな
とそう思った瞬間だった。
>「…………ッッ!!」
「あぁ…そういうことね」
案の定仕掛けられた攻撃に対し、ムロ君は見事にカウンターを打ちはなって見せた。
ムラを出したのは背後からの攻撃を誘ってたって訳ね。
>「い……てえええええええええええええええええ!
> クソ、あり得ねーだろ!どんな反応速度してんだ畜生!」
奴さんも驚いているみたいだね…だけど、そこまでかな
敵の様子とムロ君のあの感じを見るとそこまでのダメージは与えきれてないっぽいね
>「だが……へへへ、今のが最後のチャンスだったな。
> もうテメーらには何一つチャンスは与えねえ。
> 俺の『非物質化』を捉える事は、誰にも出来やしねえのさ」
「あっは、そうなの?それにしてはこんなちゃちな泡に警戒しちゃうんだね」
なんて適当なこと言っては見るけど、どうしたらいいかな
そんな中、雨場が起き上がり淡々とネタバラシをしていく
なるほどね、指を伸ばして攻撃してたのか…だからさっきのカウンターの効果も薄いって訳ね
>「だが完全に透過しちまったら網膜に光を捉えられない。
> それじゃ自分も何も見えない。つまり……お前は「ここ」が見える位置にいるって訳だ」
「あ〜なるほどね。そこで高見の見物って訳ね」
雨場が示した先にいたのは宙に浮いた二つの目玉、つまり、そこに奴が確実に居る証明

証明?
相手は透明化っていうアドバンテージがありながら態々指を伸ばして攻撃したり
工夫次第でどうにでもなる泡を避けて、背後から攻撃してくるほど慎重な奴だよ?
そんなのが自分の弱点をほっぽって置くかな
>「やっべ……だが、だがよぉ!それがどうしたってんだ!どの道テメーらにゃ俺の刃は見えやしねえ!
> 串刺しになるか、ぶった斬れるか、選びやがれってんだ!うひゃひゃひゃひゃ!」
ほらあそこまで自信満々ってところを見ると、もしかしたら、あれさえもデコイかも知れない
ってことなら、もう手は限られてくるね
「ムロ君…勝ち越しちゃってもいいよ」
一言そう告げて私は奴に向かって突撃する。
夥しい数の刃が私を切り刻んでくる、大丈夫、まだ予想の範囲内だ
血と内臓と体液を周囲に撒き散らしながらただひたすら前進する。
目的は見えない刃を可視化する…ことじゃない。
「あっはっはぁ!!!ヌルいよ!ヌルす…アガァ!!」
後数歩であの目玉を間合いに入るところで脳天から串刺しに突き刺された。




 そ れ を 待 っ て ま し た !
「ざぁんねぇん、ほんっとざぁんねぇん」
私は即座に触手を掴み、方向転換する。
その先にあるのは発電機だ。
「いくら透明でもここまでされちゃどうにもならないっしょ!!!」
発電機に体当たりをした瞬間、私の体に電流が奔った。
致命傷は負わせられたかはわからないけど、それなりの効果はあるはず!
【触手を掴んで一緒に感電】

168 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/08(日) 04:16:54.17 0.net
>>167:行動判定】

伏見が発電機に触れた瞬間、先程よりも更に大きな、意味を成さない悲鳴が機関室に響く。
同時に君達は落下音を耳にするだろう。
振り向いてみれば、向路がばら撒いた消火器の泡が一部、不自然に飛び散っていた。

多少の勘が働くなら、察する事が出来る筈だ。
プロズラは最初からずっと天井にいたのだ。
機関室の天井には様々な配管が走っている。
そこに変化させた体部位を引っ掛ければ、張り付き続ける事はそう難しくない。

手足の指を伸ばすように、プロズラは肉体変化によって眼球を眼窩の外へ移動させる事が可能だった。
『能力』のみではなく『人格』を見抜かなければ、この事は看破出来なかっただろう。

プロズラがいる位置は――最早確定している。
彼は最後の抵抗として触手による攻撃を敢行するだろう。

169 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/09(月) 17:12:51.37 0.net
市香の敢行したモーターボートでの特攻(ブッコミ)。
大鳳と死闘を繰り広げるグラッチとの間に割り込むようにしてぶちかました市香渾身の一撃は、
しかし敵を轢殺するに至らず。

>「だが……浅いな」

突如の爆音。
煽られるようにして艦載艇の船首が跳ね上がり、推進力がめちゃくちゃに暴れまわって横転する。
重たい家具を引きずるような音を立てながら甲板を滑る艦載艇から、たまらず市香は投げ出された。

「ふぎゃあっ!?」

甲板に強かに背中を打ち付け、それでも勢いを殺せずごろごろと転びまろぶ。
そのまま甲板の手摺にぶち当たって、金属の格子をたわませて、ようやく彼女は停まった。
ほんの一枚柵を隔てた先には、暗く深い夜の海が広がっている。

「げほっ……ひいっ」

肺の中身が全部吐き出されて、気管支の激痛に喘ぎながら、市香はなんとか両目を開けた。
艦載艇の船底が焼け焦げ、煤塗れになっている。

「爆弾……!二丁拳銃だけじゃなかったんですね」

炸裂範囲、爆発音、爆心地の様子、更に周囲に漂う燃焼臭から、おおまかに使用された爆薬の種類にあたりをつける。
可塑性炸薬をナイロンか何かで包んだ梱包爆薬だ。
構造物の爆破解体や対戦車肉迫攻撃の他、食べると意外に美味しいので工兵のおやつとしてもマストなアイテムである。
市香も学生の頃によくガム代わりに噛んでいた。閑話休題。

恐るべきことにあの敵は、交戦中に二丁拳銃から爆薬に持ち替え、起爆装置を設定してあまつさえ正確な位置に投擲したのだ。
手先の器用さには市香も自信があったが、最早これは神業などというレベルではあるまい。
グラッチ。その高度に融合された怪人としての戦闘能力と工兵としての熟練技術は、疑いようのない強者のものだ。
その強者だが、ボートを爆破したっきり甲板から姿を消していた。

跳ね飛ばされた?そんなはずはない。
人を轢いた手応えぐらい市香には分かるし――何より傍にいた大鳳が臨戦態勢を解いていない。
であれば、どこに?

>「上ですわね!!」

大鳳の指摘に弾かれるように振り仰ぐ。
果たして敵はそこにいた。夜空に抱擁されるかの如く、黒コートに風を孕みながら、上空に存在していた。
空を飛べる怪人特性――ではない。グラッチは飛んでなどいない。
今現在この瞬間をもって、彼は未だ『跳躍』を続けているのだ。垂直跳びの最中なのだ!

「どうやってあんなところに……!」

グラッチにあれだけの跳躍を可能とする脚力があったとは思えない。
そんなものがあるなら、大鳳のように艦載艇の突撃を跳んで躱せばいいのだから。
いや――なにも跳躍に脚を使わなくちゃならないという法もあるまい。
彼は上半身、特に両腕の強化に特化した怪人である。
例えば適当なハシゴや、あるいは跳ね上がったボートの船首だっていい。
どこかしらに掴まって、思いっきり懸垂をすれば、その勢いで身体を直上に打ち出すことだって不可能じゃあない。

170 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/09(月) 17:13:29.15 0.net
いずれにせよ、グラッチ危機一髪の作動原理について考察している場合じゃないのは確かだ。
重要なのはこの状況、この位置関係がまったくもって市香達に不利であるということだ。
大鳳も市香も、この距離の敵に対して有効打をとれる手段を持っていない。
そしてあざ笑うかのように、グラッチは食用爆弾の第二弾を取り出した。

「うっそぉ……」

市香は自分の頭から血液が総退避していくのをまざまざと感じた。
拳銃弾なら何発食らったって、霧化さえしていれば怖くなどない。
だが、爆風はそんなものお構いなしに全部吹き飛ばしてしまう。水たまりの市香本体もだ。

>「成る程、私たちに対しては呆れるほど有効な戦術ですわね……」

「冷静ですね、大鳳さん!?」

こんなときに無駄な漢っぷりを発揮しないで欲しい。
みっともなく足掻けとは言わないが、共に窮地に立たされた同僚との温度差に市香は泣きそうだ。
死にたくない。こんなところで死にたくない!

「死ぬならせめて石油か金鉱石の出るところで――!」

お供え物カウントであの世に持っていけそうなものを一瞬で計算しながら、市香は足掻きのように頭を抱えてしゃがみこんだ。
その傍で、大鳳もまた同じように屈み込む。
だが、市香とは違いその双眸に諦めは微塵も滲んでいなかった。

「大鳳さん……?」

彼女は応えない。極度の集中状態にあるのが傍から見ても分かる。
そして傍目に分かるもう一つの変化があった。

(身体が……紅く――!?)

体表の毛細血管の隅々が充血し、紅潮――などというレベルではない強烈な赤が迸る。
それどころか、身につけているドレスや包帯すらも鮮やかな朱に染まり始めた。
それは開いた傷口からの出血によるものだったが、市香の眼にはこう映った。

「満開の、紅華……」

仄暗い空を背景に、その存在感を一際に輝かせる紅の花。
見事な満開咲きの赫華は、囁くように、しかしよく通る声を上げた。

>「さあ、10秒間だけ付き合ってもらいますわよ!!」

そこから先は、市香には眼で追えなかった。
気づいた時には陣風だけを名残に大鳳の姿が消え、次の刹那、艦橋の壁が轟音と共にひしゃげていた。
大鳳が足場にして跳躍したのだと気づいた時には、彼女は既に直上の空で月を背にしていた。
グラッチが放った梱包爆薬が落ちていくのとすれ違って、大鳳は一瞬で敵の高度を上回った。

>「ライジングゥゥ……クリムゾォォォンッッッッ!!!!!!」

171 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/09(月) 17:14:02.99 0.net
爆弾が誘爆しそうなぐらい芯に響く咆哮は大鳳のもの。
その裂帛の気合に劣らぬ強烈な踵落としが、滞空中のグラッチにぶちかまされた。
パァン!と破裂音は音速超過の証であろうか。あまりの衝撃に大気が残らず震わされた。

身体強化特化型の怪人が、更に限界を突破した渾身の一撃。
その運動エネルギーを余すとこなく叩きこまれたグラッチの肉体は、最早爆風を背に受ける砲弾の如し。
自らの投下した梱包爆薬を追い越して下方向に『飛翔』し、甲板へと叩きつけられた。
その破壊力はグラッチという"柔らかい砲弾"を用いたにも関わらず、鉄と堅木で造られた甲板にクレーターを刻む。
砲弾に使われたグラッチ自身の命運などもはや論ずるまでもない。
衝撃の余波はこちらの頬を容赦なく叩く。市香は髪の毛全部巻き上げられてボサボサの頭でへたり込んだ。

「すご……速……ってそんな場合じゃ!」

空を仰ぐと、起爆状態の爆弾が落ちてくる真っ最中。
そしてその更に向こうの上空で、踵落としのフォロースルーもままならぬ大鳳の姿があった。
如何に人外の膂力を持つ怪人とて、寄る辺なき虚空ではどう動くこともできない。

このままでは市香も、そして大鳳も甲板の爆発の巻き添えだ。
爆弾をどうにかするか?――否、敵にどうにかできるような爆弾をグラッチは使わないだろう。
海に捨てるにしても、解除処理をするにしても、一度爆弾に触れなければならない。
しかし市香が爆弾に触れる時はこれすなわち爆弾が起爆する瞬間である。

(遮蔽物になりそうなのは……ひっくり返った艦載艇と……艦橋!)

手投げ爆弾の殺傷能力は、殆どの場合同梱された鉄片などの破片の飛散によるものである。
銃弾と同じ速度で広範囲に撒き散らされる破片は確かに脅威だが、裏を返せば重量の分銃弾よりも貫通力はない。
今すぐ艦橋に飛び込んで鉄扉を閉じれば、市香だけは助かるかもしれない。

「――ッ」

もう迷っている時間はない。
ほんの一瞬だけ市香は逡巡して、そして駆け出した。
降ってくる爆弾を背に――落ちてくる大鳳の方へ。
恐怖を追い出すように、市香は大声で叫んだ。

「縁談んんんんんんん!!」

途中、ひっくり返った艦載艇の側面に生き残ってた救命浮き輪を引っ手繰る。
工兵である市香にはわかる。グラッチは爆薬を全力では投擲してこない。
あまりに高速で投げれば加速度で信管が動作不良を起こしたり、下手をすれば爆発前に甲板に叩きつけられて壊れてしまう。
信管は発火式にしろ通電式にしろ、作動から起爆までにわずかだがタイムラグがある。
榴弾と違って、手投げ爆弾は弾着より一瞬早く起爆する必要があるのだ。
そのラグを計算に入れて投擲するのは工兵にとって常識。
だからその点を考慮してはじき出した市香の見立てでは、爆弾が起爆するまで残り――2秒。

「大鳳さん!これを!!」

空中の大鳳へ向かって命綱付きの浮き輪を全力――怪人の全力で投擲。
大鳳が浮き輪をキャッチし強化膂力で引っ張れば、自由落下よりかは素早く下方向への推進力が生まれるだろう。
同時に、市香は金属製の手摺を踏み、跳躍した。

172 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/09(月) 17:14:46.54 0.net
――足元の寒々しい浮遊感、その眼下には夜の海。
市香は甲板の外へと飛び出していた。
残り1秒。
市香は自由落下の虜になった。

「ぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

右手には大鳳へ投げた浮き輪の命綱。
そして左手には、艦橋へ飛び上がる際に使った雨場謹製のロープが握られていた。
先端には尖らせた鉄パイプを括りつけてある。
これはもともと、艦載艇を動かす際に使った鉄パイプの回収を容易にするために準備してあったものだ。

市香は重力に引っ張られるままに、夜の海へと落下した。
ぐんぐん迫る真っ暗な水面に、目をつぶり南無三を口の中で唱えた瞬間、甲板で爆発が起こった。
爆炎がクレーターのできた甲板を舐め、夜空をオレンジ色に照らす。
爆風と一緒に瓦礫が甲板を追い出されて市香を追い越し水面に着水する。
彼女はその様子を、鼻先数センチの部分で静止しながら音に聞いていた。

「怖い怖い怖い怖い怖いいいい……!」

市香は船壁の水面ギリギリの所で宙吊りになっていた。
ロープに括りつけられた鉄パイプが手摺に引っかかって、彼女の命綱となったのだ。
そうして、彼女は甲板から飛び出すことによって、爆発から自らを救ったのであった。
大鳳も同様に浮き輪と命綱を用いれば、甲板の爆発からは逃れられるはずである。
ともあれこれで、鳴上隊3日ぶりの殉職者にならずにすみそうだ。
胸にこみ上げてくるものがあって、市香は三途の川の向こうで手を降っている故人に振り返した。

「なんとか今日も生きてるよ……みっちゃん……」

べきべき、と嫌な音が頭上でした。
冷や汗が凄まじい勢いで流れるのに逆らって上を見ると、命綱を付けた手摺から上がる悲鳴だった。
爆風で大部分がひしゃげ、千切れ、唯一無事な根本さえも市香(と大鳳)の重さで折れかけている。

「わ!わ!わ!待って!痩せます!頑張って痩せますから!!」

市香の今年の抱負が届いてか届かずか、無慈悲にも手摺は根本から破断した。


【甲板の外に懸垂下降で退避】

173 :向路深先 ◆oZsbQCU.ko :2015/02/11(水) 06:14:08.03 0.net
>「い……てえええええええええええええええええ!(略)どんな反応速度してんだ畜生!」

「……ビビりなんで、気が張っててさ」

ダメージは与えたが、有効打足り得なかった。捉え損ねた……だけではなさそうだ。
相手はなにかしらの肉体変化で形態を変化させているらしく、人体に対するものとは異なる感覚が拳に残った。
敵はうだうだとなにか喋っているがブラフに興味はない。挑発などわざわざ聞いてもしょうがない。
首半周に渡って出来た赤いチョーカーをさすりながら次の対策を練る。……軽傷で済んでいるが、首からの出血は気分が良くない。
まあ雨場さんのように飛んでいかなかっただけ良かったけど……なんて思っていたら回復した雨場が立ち上がった。

>「あぁ、クソ。いっそ頭と首に鉄板でも埋め込むか。マジで……っと、向路、少し待て。動くなよ」

今までの苦労を伺わせながら、雨場が死体から腕をむしり取ってこちらへ投げつける。
それは目の前の、何もないように見える空中で張り付けられたように静止した。
ここに敵がいると察知した訳ではあるまい。
ここにいるのなら、この距離にいながら仕掛けてこなかったのは不自然だ。
敵が攻撃を罠に切り替えた、ということだろうか。

>「やっぱそう来るよなぁ。おっと、もう首は落とさせないぜ。(略)」

雨場はまるで動じずにそう宣言すると室内の移動を始め、相手の能力を詳らかに明かしていく。
能力の応用性耐久性故に幸か不幸か様々な任務を行ってきたことからくる知識の蓄積。
向路は、自分の能力よりよっぽど強力だ、などと思いながら聞き耳を立てる。
途中で肉が落ちる音が聞こえたが、雨場の論説は淀みなく続く。
雨場の言わんとしたことを朧気に察し、頭だけ動かして周囲を探れば……あった。

>「やっべ……だが、だがよぉ!それがどうしたってんだ!(略)うひゃひゃひゃひゃ!」

宙に浮かぶ眼球というなかなかイカしたディスプレイ、アレが敵の所在を示している。
しかし敵はそれでも余裕綽々、よほど能力に自信があるのだろう。雨場の予想通りなら非常に優れた能力だ、当然か。

> 「ムロ君…勝ち越しちゃってもいいよ」

そんな余裕を見せる敵に対して伏見は一言言い残すと、文字通り身体を削りながら突き進んでいく。
壮絶な光景だ。しかし、まだ動かない。
わざわざ伏見がああ言ったのは、この行動が囮になるとかその程度の意味じゃないことを示すためだろう。
彼女の持つ感性が……なんのとは敢えて言わないが、雨場には掴めなかったなにかを察知して、まだ一手足りないと感じたのだ。
だから彼女は本当に詰みにするために自ら捨て身の攻撃を行ったのだ……なにをするのかは分からないが……。
頭にチクリと刺さったなにかを白羽取りの要領で押さえ込み、機を待っていると、

>「ざぁんねぇん、ほんっとざぁんねぇん」
>「いくら透明でもここまでされちゃどうにもならないっしょ!!!」

「ちょぉっ……!!」

進路を変えた伏見の先にあるものは発電機、今の向路にもちょっと洒落にならない。
手の中の触手のような奴を慌てて放り投げ……直後。
耳障りな絶叫に紛れて異音。
音の正体を探して辺りをみれば、舞う泡と何かが落下したような跡。
……成る程、先程の威勢もブラフだったと。

174 :向路深先 ◆oZsbQCU.ko :2015/02/11(水) 06:15:57.89 0.net
「伏見さん……帰り、飯行きましょうか」

雨場も誘いたいところだが、すぐ鳴上隊長に引っ張られていきそうだから無理だろう。

さて、今度こそ、本当に詰みというわけだ。
ボクシングでいうところのピーカブースタイルよろしく腕を前に構える。
慎重に慎重を重ねるような奴だ、見えないトラップにすべての手指を使っていたとは限らない。
……薄い盾だが急所を守れればいいのだ。

「……逃げようなんて、思うなよ」

逃がすつもりもありゃあしないが。
向路は屈伸するように膝を曲げ、更に腰背中までを小さく折り丸め……次の刹那には姿を消した。
その直後瞬きをするよりも早く、鈍い衝突音が重く響く。
室内だというのに風が巻いたその先には、宙を漂う泡と身体の各所から血を流す向路。

「……視覚から消えても、物理有効じゃあな。
 …………まあ、僕もだけどさ」

どこから貰ったか解らないが幾つかの裂傷を貰った上、右腕は思い切り抉られてしまった。
脚は返り血か何か解らないものでぐっちゃぐちゃになっているのに見た目はどうも変わっていないのが気持ち悪さに拍車をかけてくれる。
跳躍の勢いを乗せた蹴りを左右で二発くれてやり、どちらも芯に当ててやった確信があるが……身体を変形させる上に透明では倒した確信が持てないのが嫌だ。

「ま……多分、僕の勝ち越しッスかね、伏見さん」

【全身に大小切り傷、敵撃破宣言。但し未確認】

175 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/13(金) 00:04:44.34 0.net
グラッチの投げた梱包爆薬は、大鳳の脚力ならば回避する事は可能だろう。
だがそれは彼にとって問題ではないのだ。流川さえ殺す事が出来れば、それでいい。

グラッチにとって良くない展開は、大鳳が流川を抱えて逃げ出すか、梱包爆薬を投げ返してくる事だ。
無論、それをしようとしても叶わず、かえって大鳳が被害を受ける速度で投擲しているが。

(お前にとっての最適解は『一人で回避する事』だ。だが……お前は違う選択をするだろうな。
 『自分を犠牲にしてその小娘を助ける』だろう……それも無駄な事だが。死ぬ順番が、少し変わるだけだ)

しかし――大鳳の取った行動は彼の予測とは違った。
前触れもなく、彼女の肉体が赤熱したかのように赤く染まる。

>「さあ、10秒間だけ付き合ってもらいますわよ!!」

大鳳が甲板を蹴った。
俊敏と言うよりはむしろ、怪力をもって体を跳ね飛ばすように荒々しく。
才を持たざる者が足掻くかのごとき、無骨な挙動。けれども、

「速い……!」

それはグラッチを図らずも驚嘆させるほどに速かった。
彼の反応が一瞬遅れた。
一瞬――肉体強化型の怪人同士の戦いの中では、大きすぎる隙だった。

大鳳は既にグラッチの上を取っていた。

>「ライジングゥゥ……クリムゾォォォンッッッッ!!!!!!」

稲妻と見紛わんばかりの踵落としが振り下ろされると同時、グラッチの両手がコートに潜る。
取り出されたのは――銃弾だ。
銃も弾倉も伴わない、剥き出しの弾頭が、人差し指の腹と親指の先端に挟まれていた。

弾丸をただ全力で、指で弾く。それがグラッチの最速の攻撃だった。
機械に一切頼らない、純粋な肉体強化のみによって発揮される速度は、限界を超えた大鳳を更に上回る。

グラッチが奥歯を噛み締め、親指を弾く。
狙いは大鳳の眉間。
弾丸が指先から離れる――その刹那に、彼の肋骨を砕かれた脇が、鋭い痛みを生んだ。
指先の動きが、僅かに乱れた。

それによって弾道は僅かに逸れ――大鳳のこめかみを抉るのみに終わった。
そして――直後に鉄槌のごとき踵が、グラッチの肩を捉え、そのまま胸部にまで減り込んだ。



――強襲部隊に支給されている無線機は、君達が思っている以上に高性能だ。
任務に必要な装備は怪人特性によって変わってくるが、無線機だけはどんな怪人でも必要になる。
体を液状化させられる怪人だろうと、意図的に雷を呼び起こせる怪人だろうとだ。つまり、

『おいテメェら。隊長を働かせといて自分達は海水浴たぁいい度胸じゃねえか。
 今すぐ甲板に上がるか、俺と後から水遊びをするか、選ばせてやるよ』

海に落ちたくらいでは、無線機は問題なく機能するという事だ。
そこから聞こえてくる喝堂の声は、平時よりも一層不機嫌そうだった。

『とりあえず……さっさと上がれ。水ん中じゃ血が止まんねえ。流川、ヤバそうなら大鳳に手ぇ貸せよ』

流川が鉄パイプが引っかかった手すりは根本から折れているが、千切れてはいない。
外側に折れ曲がった分だけロープの位置が下がっただけだ。再び上る事は可能だろう。
そうして君達が甲板に上がって、一呼吸置いた頃合いで、再び無線が入る。

176 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/13(金) 00:05:35.22 0.net
 


二度立て続けに響いた破裂音。
それを境目に、機関室に静寂が訪れた。

>「ま……多分、僕の勝ち越しッスかね、伏見さん」

「そりゃまぁ……今ので死んでないとは思えないが……既に一回外してるからなぁ、俺。ちょっと待ってくれよ」

そう言うと雨場は敵性怪人が持っていたナイフを探し、拾い上げる。
分厚い刃を左手首に強く押し付け、鋭く引いた。
動脈が斬り裂かれ、鮮やかな赤色の血が噴き出して、床に撒き散らされる。

「おっ、いたいた。あー……こりゃ、どうなってんだ?」

血で輪郭の浮かび上がったプロズラの死体は、完全に人の原型を留めていなかった。
頭部と胴体がそれぞれ、例えるなら爆ぜた水風船のように成り果てている。
例え脳を体内の何処かに移動させていたとしても、無駄だっただろう。

「……とりあえず、念には念を入れとくか。あー……伏見『も』食うか?これ」

雨場の手首が捻じれ、細り、千切れる。
床に落ちた左手は、独りでに動き出してプロズラの死体を『捕食』し始めた。

『――おいコラ向路』

と、不意に君達の無線機に一等不機嫌そうな喝堂の声が届く。

『テメェ任務中に飯の話なんざしてんじゃねえぞ。それとも何だ、魚の餌になりてえなら素直にそう言えよ』

通信はまず最早お決まりとも言える恫喝から始まった。

『とは言え……仕事の方は上出来だな。よくやった。帰りは同じ乗り物を使ってもいいぜ。
 それと……伏見、テメェもご苦労』

しかしすぐに、労いの言葉が続いた。最後はやや苦々しげだったが。

「……向路の奴ぁ、どうしてああもウジウジしてやがんだ?
 アイツが俺に舐めた口の一つでも利けりゃあ……チッ、まぁいい。とりあえず……」

喝堂は一度無線を切り、小さくそうぼやいた。

177 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/13(金) 00:07:04.32 0.net
 


『――喝堂隊、船倉に集合しろ』

船内には敵性怪人の死体が散乱していた。
死に様から、どれも一撃で屠られている事が分かるだろう。
どれも首から上が失われているか、胴体に一つ穴が空いているだけだ。
急所を的確に破壊されている。肉体変化でそれらを移動させていただろう怪人さえもだ。

「そら、見ろよ雨場。ちゃんと生きてんだろ」

君達が船倉に到着すると、コンテナの上で寝転んでいた喝堂が上体を起こし、笑った。
その下には数十の死体と血痕が散乱している。
だというのに、彼の体には返り血一つ付いていなかった。

「代わりに大鳳が死にかけてんじゃないですか。それとも、それも計算の内ですか?」

「あー?……あぁ、そりゃそうだろお前。部下を信じてやるのも隊長の務めって奴だぜ」

まるっきり今思い付いたといった口調で喝堂は嘯く。

「ま……正直感心してるぜ。ぜってー死ぬと思ってたからな、ソイツ」

それから流川を一瞥してそう言うと、コンテナから飛び降りて、顎で「付いて来い」と君達に促した。
彼が歩く先には、何の変哲もないドアがあった。

「この船の船倉は二つに区切られてる。ま、積荷の殆どはここに積まれて、向こうは船員用って訳だ。
 とにかく、この奥には俺にビビって逃げ出しやがったとびきりのクソが詰まってる。数は丁度三十だ」

喝堂が君達へ振り返る。

「大鳳、ちょっと掃除してこい」

雨場の表情が見る間に強張った。

「……そう言われて、出来ねえようじゃいくら勝っても意味がねえぞ。
 目先の一戦を制しただけじゃ勝ったとは言えねえ。俺達はな、百戦先まで勝てるように勝って、初めて勝ちなんだ」

けれども彼の抗議よりも早く、喝堂はそう続ける。

「テメェはまだまだ足りてねえよ。もっと練り上げて、研ぎ澄ませ。分かるか――」

直後に、第二船倉へ続く扉が蹴り開けられた。

その奥で待ち構えていた敵性怪人の姿が露わになる。
丸腰ではない。武装している――ロシア製の自動小銃だ。
銃火が閃き、毎分900発の速度で銃弾が放たれる。

対する喝堂は――その場から一歩も動かなかった。
ただ右手の指先に骨刃を作り出し――彼の右肩から先が、陽炎の如く揺らいだ。

喝堂の怪人特性の主軸は、言うまでもなく肉体強化である。
そしてそれは、いくつかの方向に特化されていた。

一つは瞬発力――強化する筋肉を速筋に絞る事で、ただの肉体強化とは段違いの俊敏性を発揮出来る。
次に皮膚感覚――鋭敏化された皮膚は目よりも耳よりも多くの情報を、全方位から捉えられる。

178 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/13(金) 00:07:37.62 0.net
そして最後に――神経細胞だ。
伝達速度の強化ではない。強化するのは、機能だ。
彼は全身の末梢神経が、中枢神経――脊髄や脳と同等の働きを示す。

人間の反応速度の限界は、およそ0.1秒と言われている。
しかし脊髄反射では――膝蓋腱反射ならば、約20ミリ秒。つまり0.02秒だ。
膝から脊髄までの距離でも、それほどまでに速いのだ。

皮膚で情報を捉え、末梢神経で反応出来る喝堂の反応速度は――限りなく、ゼロに近い。

幾重にも重なった金属音が響き――不意に、悲鳴が上がる。
銃手の頭部に小さな穴が穿たれていた。
喝堂が弾いた銃弾を左手で掴み、指で弾いたのだ。

「――こうやんだよ」

そのまま第二船倉へ悠々と踏み入り、喝堂は残り二十九人の敵性怪人を見回す。

「おい、どうした。さっさとかかって」

彼の上方から白閃が迫る。
天井に潜んでいた変化型怪人による強襲だ。

「俺がまだ喋ってんだろうがカスが。礼儀を知らねえクソは死ね」

だが喝堂は平然と、襲い来る刃を見向きもしないままへし折り、投げ返す。
すぐに死体が落ちてきたが、裏拳で小突き、跳ね飛ばした。

そこから先はただの虐殺だった。
喝堂はあらゆる攻撃を、あらゆる怪人特性を、知覚してからほぼゼロ秒で対処出来る。
並のテロリスト程度では例え三十人が同時に攻撃を仕掛けても彼には届かない。
殺めた敵の返り血の飛沫さえもだ。

そして同様に、喝堂はあらゆる防御を、知覚してから対応出来る。
生半可な防御や回避は、彼の前ではまるで無意味だ。
三十人の敵性怪人は、ものの十秒足らずで一人を残して殲滅されていた。

「よう、テメェはなかなか出来るな。仲間を上手い事遮蔽物にして俺から逃げ回ってやがった。
 隙があればそのまま逃げるつもりだったな。
 ま、そこはお生憎様だが……そのずる賢さに免じて一つチャンスをやるよ」

そう言うと喝堂は右手の人差し指のみを立てた。
それから一瞬だけ、君達へと視線を向ける。

「コイツで相手してやる。俺に一発当てられりゃ、重要参考人として『確保』してやるよ」

敵性怪人は、無言で拳を握り、床を蹴る――大鳳ほどではないが、十分な訓練を感じさせる跳躍。
右拳が唸る。相手が使うのは人差し指一本――その事が男の気を大きくさせた。

喝堂は溜息を吐いて――右手を前に伸ばした。
人差し指を畳み、そこに親指を被せる。
その構えは――紛う事のないデコピンだった。

しかしただのデコピンではない。
喝堂の人差し指は恐ろしく硬質化していた。
皮膚のみではない。筋組織は肉体変化によって速筋に再構築され、更にその弾性も著しく向上されている。

今この瞬間、人差し指一本に、喝堂の怪人特性の全てが注ぎ込まれているのだ。
敵が拳を放ち、振り抜くまでの、一瞬にも満たない間に。

179 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/13(金) 00:08:11.10 0.net
喝堂の人差し指と敵性怪人の拳が衝突し――骨のひしゃげる音が響く。
敵性怪人の右腕が、元の半分ほどにまで潰れて縮んでいた。
一拍遅れて悲鳴が上がる。

「今のは……当てたとは言えねえよなぁ」

喝堂の指先に骨刃が生え、横薙ぎに一閃。
最後の一人の首が切り落とされた。

「ま、これくらいは出来るようになってもらわねえとな。
 それじゃあテメェら。積荷を確認するぞ。片っ端からコンテナ開けろ」

喝堂は身を翻してそう言った。
そうして君達は暫し、コンテナの中身を検める作業に勤しむ事になるだろう。
積荷はその大半が武器弾薬の類だった。

だが――そうでない物もあった。

喝堂が一際大きいコンテナの扉に指を食い込ませ、カレンダーのように破り捨てる。
その中には、円筒形の容器が並んでいた。

容器内には――何らかの液体と、呼吸器に繋がれた赤ん坊が浮かんでいた。

「……『愛玩人間』か。下らねえな。……おい雨場、積荷目録は見つかったか」

「えぇ、こっちです」

喝堂の問いに、分裂した雨場の内の一人が答えた。

「よし、よこせ。喝堂隊、撤収するぞ。後は支援課の仕事だ。甲板に出ろ。既に迎えは呼んである」

君達が甲板に出ると丁度、支援局の汎用ヘリが接近してくるのが見える。

「……大鳳、鎮静剤だ。うだうだ言わずに黙って飲め。
 考える所はあるだろうが、帰ったら一晩は医務課で安静にしろ。トレーニングはその後だ」

ヘリの中で、喝堂は大鳳にそう言った。明確な命令口調である。

「いいか、すぐにまた任務が始まる。とびきりクソッタレな奴がな」

そうして大鳳が鎮静剤の効果で眠りに就いてから、今度は向路へと視線を向けた。

「向路、次の任務は……今回みてえにはいかねえ。愛玩人間って事は、恐らく『羽持ち』が関わってくる。
 奴は一度、鳴上の翼を落としてる。流石に俺でも手こずる相手だ。
 大鳳はいつも「ああ」だからな。テメェがしっかりやるんだ。分かるな?期待してんだぜ、俺は、テメェに」

180 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/13(金) 00:08:39.36 0.net
 


「次の任務、テメェんとこの隊長は参加出来そうにねえな」

ヘリが支援局のヘリポートに着陸し、機体から降りた後、喝堂が伏見と流川、雨場に声をかけた。
手には、雨場が見つけた積荷目録がある。
そこには『愛玩人間』の送り先も、受取人も書かれていた。

積荷目録が流川に手渡された。
愛玩人間――送り先は岐阜県のとある町。
そこまでしか記されていない。それだけで十分だからだ。

「その町は恐らく『癌化地域』だ。
 つまり一度治安の悪化によって住人が激減して、それから悪性怪人が流入した地域。
 町としての体は保たれているが……中身はクソ共の温床だ」

喝堂はそこで一度溜息を零す。

「だがいきなり取り囲んでドンパチ……って訳にもいかねえ。最終的にはそうなるんだが……。
 潜入捜査が必要だ。場合によっては実力行使も取れる強襲課でな。つまり」

それから両手を広げ、大仰に左右に広げてみせてから、続けた。

「アイツじゃ目立ち過ぎる」

そして流川達が実働部の寮へ向かうと――その門前に、鳴上雷花がいた。
腕組みをして、翼から雷光を瞬かせて仁王立ちしている。
しかし君達――と言うよりも流川の姿を見るや否や、稲光の勢いが目に見えて萎んだ。

その表情から、彼女が何を考えているのか察するのは容易いだろう。
それは、流川が生存出来るとは思っていなかった、という顔だった。

「……雨場、何があった?」

どう説明しようか言葉に迷う雨場を、後ろから喝堂が押し退けた。

「何もクソもあるか。マジメにやってやったんだよ、ボケ。おら、どけ」

そして鳴上に対して道を開けろと顎で示す。
鳴上は数秒ほど喝堂を睨み返したが、やがて無言でその場を退いた。

「次の任務は、恐らく潜入任務になる。テメェの出番はねえ。ソイツと伏見は黒野にでも貸し出せ。
 アイツなら借り物を壊すような真似はしねえ。クソが付くマジメ野郎だからな」

喝堂は寮門を潜ると、一度足を止めてそう言った。

「ちったぁマシになって帰ってくんだろ」



【第一章終了です。二章開始まで任意でエピローグや日常描写を投下して下さい】

181 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/15(日) 00:56:25.73 0.net
グラッチの指から拳銃を介さず直接打ち出され、大鳳の眉間を貫かんとする弾丸。
それすら意に介さず、彼女は特攻を続ける。
弾丸はこめかみを削り、踵は肩を抉る。

「ギリギリでしたが、仕留めましたわよ!!」

彗星の如く甲板へと堕ちたグラッチより少し遅れて、大鳳の体も船上へと落下を始める。
さて、どうするか。先の一撃に全力を尽くした彼女に落下の衝撃を防ぐ余裕も無い。
よしんば落下の衝撃から身を守れたとしてもその次には爆発が彼女の身体を襲うのだ。
そんな状況にあっても、彼女は至って冷静だった。
もとより死は覚悟している、それに加え倒すべき敵――グラッチは確実に仕留めた。
だから問題は何もないのだ。
それならな、そう自らの最期を受け入れ、力なく落ちていく。

>「大鳳さん!これを!!」

だが流川は、彼女は大鳳に救いの糸を投げかけた。

(まったく、私のことなんて放って生きることを考えればいいですのに。ですが……!!)
彼女が大鳳を助けようとしている、それだけで生きようとするには十分な理由だ。
だからそれに彼女は応え、流川の投擲した浮き輪を掴み、残された力を使い全力で引っ張る。

「でぇぇええいい!!」

次の瞬間、大鳳は海面へとその身体を落としていった。

182 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/15(日) 00:58:32.82 0.net
>『おいテメェら。隊長を働かせといて自分達は海水浴たぁいい度胸じゃねえか。
 今すぐ甲板に上がるか、俺と後から水遊びをするか、選ばせてやるよ』
浮き輪と共に海面に浮上した大鳳に聞こえたのは、喝堂からの通信だった。
「はいはい、わかってますわよ」
不機嫌そうな喝堂の声をよそに、自分の身体を確認する。
全身が軋むように痛み、傷口に海水が染みて更に痛みを加速させているが、五体満足。
「うん、上出来ですわ」
元より限界を超えて身体を酷使していたのだ。
身体のどこかに不全をきたしていてもおかしくはなかったのだが、自分が思っているように身体は頑丈だったらしい。

>『とりあえず……さっさと上がれ。水ん中じゃ血が止まんねえ。流川、ヤバそうなら大鳳に手ぇ貸せよ』
「むっ、いくら手負いとはいえ、それくらい自分でできますわよ……」
本当はもう動きたくないほど辛いのだが、後輩の見ている前で弱音を吐くわけにはいかない。
心配そうにこちらを見ている流川に笑みを見せ、やせ我慢をする。

「これくらいいつものことですわ、ですから先に上がって下さいな。私も続きますわ」
そう語り、流川が船上へと上がりきった後、自身も軋む身体に鞭打ち上がっていった。




船上に上がると、そこには喝堂含め別行動していた面々が揃っていた。
「凶華に深先、それと造利も無事でなによりですわ」
海に浸かりことさら血が流れフラつきながらも、仲間の無事を確認しそれを喜ぶ。

>「代わりに大鳳が死にかけてんじゃないですか。それとも、それも計算の内ですか?」
>「ま……正直感心してるぜ。ぜってー死ぬと思ってたからな、ソイツ」


「フッ、これくらい余裕でなんともないですわ」
「それに、私が付いている以上死なせるなんてことありえませんわよ」

とは言うものの、誰がどう見てもやせ我慢なのはわかりきったことである。
今もまだ血がダクダクと流れ出して足が笑っているものを見てやせ我慢だと分からない方がどうかしている。
そんな風に会話をしていると、喝堂がついてこいを大鳳達に指示を出した。

183 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/15(日) 00:59:09.55 0.net
「分かりましたわ。ああ、ですが包帯だけ貰えます?歩きながら血だけ止めますので」
雨場に包帯をもらい、おぼつきながらも巻けるだけ包帯を巻きながらついていくと、喝堂が扉の前で止まった。
どうやら残存戦力を殲滅するらしい。

>「大鳳、ちょっと掃除してこい」
>「……そう言われて、出来ねえようじゃいくら勝っても意味がねえぞ。(中略)」
>「テメェはまだまだ足りてねえよ。もっと練り上げて、研ぎ澄ませ。分かるか――」

言われなくても。そう言葉を吐き出そうとした時、すでに喝堂は扉をぶち抜き、敵を殲滅し始めていた。
その戦いぶりは圧倒的に強く、大鳳には未だ敵わないものだ。

(言われなくても、そんなことわかってますわ……)
吐き捨てるように心の中で吐き出し、唇を噛み締める。

喝堂は強く、大鳳は未だ弱い。
どれだけ研鑽を重ねても、届かないとすら思える喝堂の、隊長格の強さ。
百戦先まで勝てるように勝って、初めて勝ち。喝堂の言葉が頭をよぎる。
今の自分には到底無理な話だ。自分より格下相手ならば可能ではある。
だが戦場はそこまで都合がよくできてない。グラッチのような強敵との連戦すら有り得てしまう。
そんな中で自分が生き残れるのか、そんなことを考えてしまう。
隊の者が喝堂の虐殺に見入る中、大鳳は一人頭を垂れ、力なく拳を握り、己の弱さを噛み締めていた。




>「……大鳳、鎮静剤だ。うだうだ言わずに黙って飲め。
 考える所はあるだろうが、帰ったら一晩は医務課で安静にしろ。トレーニングはその後だ」

あらかた捜索を終え、いよいよ撤収という時、喝堂が鎮静剤を渡してきた。
精一杯の力でそれをひったくるように受け取り、無言でそれを飲み込む。
乱雑な性格の癖に、こういう時に全てを知ったように接してくる喝堂が、彼女は嫌いだった。

ほどなく薬の効果で眠りにつく直前、大鳳は流川を呼びこっそりと耳打ちをした。
「すみませんが、先の戦いでのアレは、皆には黙っておいてくれませんか?あまり人に知られたくないので」

それだけ言うと、彼女は深い眠りに就いた。

184 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/15(日) 01:01:57.54 0.net
次に目が覚めた時、そこは医務室のベッドの上だった。
まだ身体は痛むが、傷は回復の兆しを見せていた。
怪人としての回復力が戻ってきたのだろう。つまりかなり長い時間眠りについていたことになる。
そんなねぼけた頭を覚ます為、点滴の繋がれた腕を伸ばし電子時計を手に取る。そこに写っているのはまごう事なきMonの文字。
「えっと、今は……げつようの朝八、じ……月曜?!?!って、いたた……」
あまりの衝撃に時計を持ったまま上体を跳ね起こしたせいで全身に痛みが走る。
それほどのショックだったのだ。
「確か前の任務は週末だったはず……どんだけ寝込んでたのよ私……」
その動揺は普段の口調すら忘れるほどだ。
「まさか、そんな……私が、ニチアサ見逃す……なん、て……」
彼女が特撮に目覚めて以来、一度も欠かすことなく日曜の六時半には起きていた。
どんな過酷な任務の後でもそれは変わらず、止むに止まれぬ時にはワンセグなりで必ずリアルタイムで見ていた。
それだけに、この衝撃は計り知れなかった。
「マジかー……マジだぁ……やらかしたぁ……」
それから大鳳は悲しみと虚脱感に苛まれながら、ブツブツとうわごとを繰り返しながら
呆然とした表情で昼まで寝込み、見舞いに来た流川や向路を大いに驚かせたという。

【エピローグは終わり。日常は別で投下します。
 日常でほかの方がよければ食事会ネタやりたいのですがどうでしょう】

185 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/15(日) 21:25:42.85 0.net
結論から言うと、市香は海には落ちなかった。
一足先に入水し、浮き輪で漂っていた大鳳の頭の上に尻から落ちたからだ。

「ぎょわっ!? し、失礼しました……」

そこまで高度が下がったところで手摺の崩壊が停まった。
大いにひしゃげた船縁であったが、なんとか皮一枚で全壊を免れたようだ。
人心地ついた市香の無線機から、つかの間の上官の仮借ない声が聞こえた。

>『おいテメェら。隊長を働かせといて自分達は海水浴たぁいい度胸じゃねえか。
 今すぐ甲板に上がるか、俺と後から水遊びをするか、選ばせてやるよ』

「そろそろアメが欲しいんですけお……」

ムチ重点のまったくブレない労使姿勢な上官に敬服さえ感じながら、市香は応答した。
しかし尻の下では大鳳が負傷したままだ。
これを甲板まで引っ張り上げるのは、やはり当たり前のように下っ端の仕事だろうか。
とまあそういう何様な思考の果てに眼下の大鳳をチラ見すると、先輩は力強いウインクで応えた。

>「これくらいいつものことですわ、ですから先に上がって下さいな。私も続きますわ」

『重傷の大鳳を気遣っている』と、もの凄く好意的に解釈されたようだった。


「伏見さん!無事――じゃないみたいですね!?(二回目)」

機関室の制圧に向かっていた伏見、向路、雨場の三人とは甲板で合流した。
一体何があったのか、伏見の四肢はあちこちが焼け焦げ、炭化した皮膚がボロボロとこぼれている。

「ベーコ……向路さんも、大丈夫ですか?」

伏見と組んでことにあたっていた向路もまた無傷とは言いがたい状態だった。
首筋からは浅く切り裂かれて血を拭ったあとがある。死線をくぐった何よりの証拠だ。
そしてなにより――

「……雨場さん、またですか?」

流石の市香も昨日今日で雨場の死にっぷりは十分確認した。
見飽きたと言っても良い。やはりというかなんというか、彼の服の首から下は自身の血で真っ赤だ。

>『――喝堂隊、船倉に集合しろ』

別働隊と無事を喜び合っていると、再び喝堂から通信が入った。
梱包爆弾によって撒き散らされた破片がいくつも突き刺さる鉄扉を開き、船倉へ続く階段を降りる。

「うわ」

思わず声が出てしまうぐらい、船内は地獄絵図だった。
もとの床が何色だったかわからない程に、血と脂肪と脳漿と吐瀉物と――無数の死体が散乱していた。
犠牲者の数は船倉へ近づく度に増えていき、最後の扉を開けた途端、むせ返るような血臭が吹き込んできた。

>「そら、見ろよ雨場。ちゃんと生きてんだろ」

死体の山の上で、喝堂が犬歯を剥いて笑っていた。
何人いたのか数えるのも気が遠くなりそうな酸鼻極まる惨状のなか、しかし市香は驚きを隠せない。

186 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/15(日) 21:26:15.05 0.net
(返り血が……)

ついていない。
ご自慢の網シャツの替えを持ってきたとかなら納得だが、そんな様子もない。
つまり喝堂は、これだけの人数を相手に一方的な殺戮を、返り血一つ浴びずに成立させたということだ。

>「ま……正直感心してるぜ。ぜってー死ぬと思ってたからな、ソイツ」

喝堂は市香を一瞥して、何かを噛みしめるような顔をした。
死ぬと分かりきっていても特に手助けしないのは、鳴上も喝堂も同様のスタンスなのだろう。

「ぜってー死ぬもんかって思ってましたけどね、わたしは」

市香は最大限の皮肉のつもりでそう返した。
喝堂は部下の不遜ともとれる発言に怒ることはなく――それを嘲笑いもしなかった。

さて、喝堂の案内によれば、船倉の奥の方のエリアにはまだ敵がいるらしい。
その数30。とてもじゃないが連戦明けの市香が飛び込んでいける修羅場じゃない。
これから始まる残業をどういう言い訳で辞去しようか頭をフル回転させていると、喝堂は神妙な顔をした。

>「……そう言われて、出来ねえようじゃいくら勝っても意味がねえぞ。
 目先の一戦を制しただけじゃ勝ったとは言えねえ。俺達はな、百戦先まで勝てるように勝って、初めて勝ちなんだ」

「耳がいたいです……」

フルスターリ戦で奥の手を強行してぶっ倒れた市香にはことさらに響くお説教だった。
それは大鳳にしても同じなのだろう、メインで説かれた彼女は目を伏せ、唇を噛んでいる。
部下たちに反省の時間をじっくり与えた網シャツ男は、誰にも援護を命じることなく最後の扉を解き放った。

>「――こうやんだよ」

そこから先は戦闘ではなく、虐殺でもなく、ひたすらに無感動な『掃討』だった。
喝堂がやっているのは、襲い掛かってくる敵の刃が届く前に相手の急所に一撃を叩き込み、確殺する、それだけ。
それを、二人相手に、四人相手に、十人相手に、一切の遅滞なくねじ伏せている!

「うっそぉ……」

市香は本日三度目の感嘆を漏らした。
あの網シャツに返り血が一滴もつかない謎は目の前の殺戮を見れば氷解だ。
ようは返り血さえも攻撃と同じように躱しているのだ。
そして敵から跳んでくるのは返り血だけではなく……銃弾も当たり前のように混じっている。

十崎は弾丸を見切ることができるが、それを躱す動きに身体がついていかない。
大鳳は射手の動きから射線を予測して回避することができるが、弾丸よりも早く動くことはできない。
だが喝堂は――発射された弾丸を見てから避けることができる。
彼は撃たれてから動いているにも関わらず、その尋常ならざる反応速度で、強引に辻褄を合わせているのだ!

これが隊長格。
平均死亡率30%を越える支援局の実働官において、今日まで生き残り、殺し続けてきた者の実力。
鳴上の落雷を見た時と同じ感慨と、気の遠くなるような先の長さが、市香にはよくわかる。

187 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/15(日) 21:27:09.72 0.net
そして、あっという間に――本当に唖然とする間もなく――掃討は完了した。
最後の敵怪人の首が胴体から離れるのと同時、喝堂はやはり血痕一つない網シャツ姿で踵を返した。

>「ま、これくらいは出来るようになってもらわねえとな。
 それじゃあテメェら。積荷を確認するぞ。片っ端からコンテナ開けろ」

「……あ、アイ・アイ、サー」

終始圧倒されていた市香はようやく硬直を解くと、血だまりを踏まないようにそろりと船倉を歩く。
コンテナの林の中を、積み荷のタグと中身を検めながら順番に確認していく。

「ロシア製の銃器ばっかですねぇ……武装してる船員が多いわけです」

こつ、とつま先で蹴ってしまった、撃鉄が降りたままの自動拳銃を拾い上げる。
おそらく持ち主はその辺に転がっている死体の誰かだろう。
市香は艶消しの銃身を手に取り、マガジンキャッチを押して弾倉を掌に落とす。
マガジンのない拳銃のスライドを引き、弾丸がついたままの薬莢が吐き出されたのを空中でキャッチ。

「無刻印のフルメタルジャケット……こんなの怪人相手に持ちだしたってしょーがないのに」

フルスターリの言っていた、軍人上がりの怪人の練度不足とはまさにこのあたりのことなのだろう。
被鋼弾のような貫通力の高い弾は、ボディーアーマーを着込んだ常人相手になら素晴らしく効果的だ。
なにせ常人は太い血管が損傷するだけで死ぬし、身体に穴が空いたら一月は安静にしなくちゃならない。
だが怪人にその常識は通用しない。肉体変化の応用で、ちょっとした銃創なら簡単に治せてしまう。
そして貫通力の高い弾丸による銃創は、貫通するが故の、規模の小さい『ちょっとした銃創』になりがちだ。

怪人を仕留めるなら、できるだけ大口径で、先端が丸く柔らかい鉛製のものが良い。
運動エネルギーがあますことなく標的に伝わって、肉体を"貫く"のではなく"吹っ飛ばす"為の弾丸だ。

撃発の危険を排除した自動拳銃を放って、市香は再び積み荷の調査に戻る。
しばらくして、奥の方を調べていた喝堂からお呼びがかかった。
駆けつけた先、大きなコンテナの中には、透明な容器とその周辺機器。そして――

「なに……これ……」

市香はそれを見た瞬間、グラッチの爆弾よりも嫌な味の汗が額にびっしりと浮かぶのを感じた。
液体の中に、生まれて間もないと思しき乳児が浮かんでいる。
死体ではない。呼吸器によって生命を維持された、生きた赤ん坊だ。

>「……『愛玩人間』か。下らねえな。……おい雨場、積荷目録は見つかったか」

喝堂は無感動にそう吐き捨てると、雨場から受け取った目録を検める。
市香は青い顔をしてすぐに赤ん坊から目を背けた。
バタバタバタ……と上からヘリのローター音が聞こえる。
喝堂が呼んだ支援局の迎えだ。

>「いいか、すぐにまた任務が始まる。とびきりクソッタレな奴がな」

ヘリの中で、喝堂は苦虫を噛み潰したような顔で言った。
大鳳が鎮痛剤を服用するための水をいそいそと用意しながら市香はそれを聞いた。
この表情、喝堂はなにか知っているのだろうか。あの赤ん坊は一体?
様々な疑問は浮かぶが、しかし負傷した先輩の看護も市香にとっては重要だ。
女子力の高いところは見せておいて損はない。縁談的に考えて。

188 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/15(日) 21:27:43.42 0.net
「これ持ってますから、ゆっくり飲んでください。……あんまり無理しないでくださいね」

揺れるヘリの中で水を飲み下すのは至難のワザで、市香は大鳳の口元にタオルを添える。
口元がタオルで隠れた途端、大鳳は市香にしか聞こえない声量でこっそりと呟いた。

>「すみませんが、先の戦いでのアレは、皆には黙っておいてくれませんか?あまり人に知られたくないので」

アレとは、つまりグラッチ戦で見せた彼女の奥の手のことだろう。
満開の紅蓮と見まごう荒々しくも美しいあの姿は、しかし彼女にとって伏せておきたいカードの一つなのだろう。
市香はその事情を理解して、しっかりと一度頷き、快諾した。

「わかりました。"黙っておきます"――大鳳さん」

その時の市香の顔は、皆からは死角で、大鳳は睡魔に落ちる直前だったから、誰も見てはいないだろう。
見られなくて良かった。きっと縁談も裸足で逃げていきそうな、壮絶なゲス顔をしていただろうから。
名家、大鳳家の跡取り娘、大鳳勇。
その、他人に最も知られたくないことの一つであろう秘密を、握った――!!

グっとガッツポーズする市香を見てか見ずか、喝堂は話を続けている。
大鳳に薬を飲ますのに使った水がもったいなかったので、市香はラッパ飲みしながら耳を傾けた。

>「向路、次の任務は……今回みてえにはいかねえ。愛玩人間って事は、恐らく『羽持ち』が関わってくる。
 奴は一度、鳴上の翼を落としてる。流石に俺でも手こずる相手だ。

おもいっきり吹き出した。

「ぶはっ……!? な、鳴上隊長……アレを!?」

ライトウィング鳴上の電磁翼は、喝堂とは別ベクトルで攻防一体、最強の盾と矛だ。
それを、『落とした』――片翼でも引剥がせる怪人がこの世に存在するというのか。
鳴上が今も健在ということは(惜しいことに)命までは奪われなかったということであろうが、
とどのつまりそれは、『羽持ち』とやらが鳴上と同等の――隊長格の実力者だということではないか!

次の任務。
市香は今度こそ遺書を書かなきゃダメかもしれない。

189 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/02/15(日) 21:28:09.92 0.net
>「次の任務、テメェんとこの隊長は参加出来そうにねえな」

夜を徹して飛び続けたヘリは、登り始めた朝日を背に東京新宿――支援局のヘリポートに到着した。
まだ始発も動いていない時間だが、支援局には当直もいるし、貫徹中の研究官もいる。
オフィス群の中でも特に眠らないビルの屋上で、喝堂からファイルを放られた。
お手玉しながら受け取ると、それはコンテナの集荷目録だった。
件の『愛玩人間』の発注元と発送先が、そこには書いてあった。

「岐阜県……って、どこですか?静岡の下あたり?」

市香は素で疑問した。
無理もない、関東圏の者にとって影の薄い県トップ3に入る県だ。
ちなみに正解は愛知県の北で石川の南、ちょうど日本の東西の境に位置している。
山梨、鳥取と並ぶ『行く用事を思いつけたらスゴイ』県の一角である。

>「その町は恐らく『癌化地域』だ。

癌化地域。
悪性細胞が食い荒らすかのように、ならず者の巣窟となってしまった自治体のことだ。
市香の出身である千葉西部にもいくつかあるが、地方都市になるほどその割合は大きくなる。
岐阜のような、ベッドタウンとしても中途半端な田舎は特にその傾向が強い。
信じられない田舎の割に新幹線は通っているが、かえってそれが地元民の名古屋への流出につながっているという、
本当にもうどうしようもない田舎だからこそ、官吏の眼が届きにくくテロリストが巣を貼るのに都合が良い。

>「だがいきなり取り囲んでドンパチ……って訳にもいかねえ。最終的にはそうなるんだが……。
 潜入捜査が必要だ。場合によっては実力行使も取れる強襲課でな。つまり」

喝堂は両腕をひろげてバサバサやるジェスチャーをした。
それが誰を表しているのか、市香にはすごくよく分かってしまう。悪いけど。

>「アイツじゃ目立ち過ぎる」

網シャツ男も目立ち具合では変わんないんじゃ……という指摘はなんとかして口の中に留めた。
伏見たちと談笑しながら隊員寮に戻ると、朝っぱらから羽広げている頭のおかしい女がいた。

(なるほどこりゃ目立つわ……)

市香の本来の上官、鳴上が腕組をして立ちはだかっていた。
歩いてくるこちらの姿を認めた途端、全開ビリビリだった羽の光がしぼんでいく。
……ちょっと待って。ってことは帰投連絡を受けてからずっと門の前でこうしてたってこと?
近所迷惑というか、なんというか……。

>「……雨場、何があった?」
>「何もクソもあるか。マジメにやってやったんだよ、ボケ。おら、どけ」

「そうそう、真面目にやってたんですよ。だから生きて帰ってこれたんです。
 それより鳴上隊長、わたし達が帰ってくるって知ってこうして待っててくれたんですか?
 やっだもー!隊長ったら素直じゃないんだか――すいません嘘です調子こきましあぎゃーーーっ!?」

黒焦げになって市香は死んだ。ウイング(笑)


【初任務終了、無事帰還】

190 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/02/18(水) 23:32:36.93 0.net
>「伏見さん……帰り、飯行きましょうか」
あらやだ、めっずらしいこともあるもんだね。
「あっは…別にいいけどさ、別の日にしようよ」
どうせこの時間帯に開いている店なんてたかが知れてるしね
どういうつもりかは知らないけど、元死刑囚の凶悪殺人鬼をご飯に誘った勇気には
やはり、それなりのグレードのものじゃないと見合わないっしょ
そんな事を考えているうちにムロ君が奴に止めを刺した。
>「ま……多分、僕の勝ち越しッスかね、伏見さん」
「そうだね。じゃあ、特別にお寿司をおごってあげよう」
>「そりゃまぁ……今ので死んでないとは思えないが……既に一回外してるからなぁ、俺。ちょっと待ってくれよ」
確認のため雨場が血で奴の死体を浮かび上がらせる。
>「おっ、いたいた。あー……こりゃ、どうなってんだ?」
浮かび上がった死体は人間の形をなしていなかった。
最後の一撃でこうなったのか、それとも初めそうなっていたのか
今はそれを知る方法はない、まぁでも
「そんなことに興味ないけどね」
そんなことよりも今は回復しないとね。ぶっちゃけ、今は起き上がるのに精一杯だし次に何が起こるかわからないからね
>「……とりあえず、念には念を入れとくか。あー……伏見『も』食うか?これ」
「もういただいてるよ」
雨場が捕食を始める前に、私は頭に突き刺さった触手を抜きそこからバリバリと食べていた。
目に見えない肉ってのは視覚的には斬新だと思ったけど、まさか無味無臭とはね
正直、ツライわ
>『――おいコラ向路』
>『テメェ任務中に飯の話なんざしてんじゃねえぞ。それとも何だ、魚の餌になりてえなら素直にそう言えよ』
「ムピィッ!!!」
突然の無線に咽た!!!
喝堂の声にビックリしたのもあるし、寿司の件も聞かれたってのも要因のひとつかな
アイツのことだ。「何なまいきに寿司食ってんだぁ?俺にも奢れよ」とかいいながら恫喝してくるにって
>それと……伏見、テメェもご苦労』
「おェ!ゴッホゴホ!」
珍しいこと言われた気がしたけど、喉に詰まらせた肉を吐き出すのにいっぱいわかんないや

191 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/02/18(水) 23:33:32.35 0.net
>『――喝堂隊、船倉に集合しろ』
その後なんやかんやあって私たちは喝堂の指示で船倉へと向かった。
「やっぱ腐っても隊長格だねぇ、仕事が速いや」
散乱する死体を蹴飛ばしながら声を漏らす。もちろん、聞かれないために無線機は手で覆うことを怠らない
そんなこんなで船倉へ到着、ごきげんな喝堂の他にも別行動していた大鳳と流川ちゃんもそこにいた
>「そら、見ろよ雨場。ちゃんと生きてんだろ」
>「代わりに大鳳が死にかけてんじゃないですか。それとも、それも計算の内ですか?」
>「あー?……あぁ、そりゃそうだろお前。部下を信じてやるのも隊長の務めって奴だぜ」
「嘘つけ、どっちがマジで死掛けてたら私のことミンチにするつもりだったろ!」
とってつけたような言葉に思わずツッコミいれたけども、前にも似たようなことをされたからね
気がついたら腕が穴あきチーズみたいになってたのは衝撃だったわ
そんなことには気にも留めず喝堂は何の変哲もない扉へ向かう
>「この船の船倉は二つに区切られてる。ま、積荷の殆どはここに積まれて、向こうは船員用って訳だ。
 とにかく、この奥には俺にビビって逃げ出しやがったとびきりのクソが詰まってる。数は丁度三十だ」
>「大鳳、ちょっと掃除してこい」
>「……そう言われて、出来ねえようじゃいくら勝っても意味がねえぞ。
 目先の一戦を制しただけじゃ勝ったとは言えねえ。俺達はな、百戦先まで勝てるように勝って、初めて勝ちなんだ」
「…いやぁ耳が痛い話だわ」
私は百戦先まで戦っても死なない自信はあるけど、勝つってなるとね
やっぱ火力とか色々と足りないんだよね
まぁだから、普段は拷m…尋問とかやってるわけだけども
とかそんなことを考えている間に、喝堂のごみ掃除が始まった。
戦力の差は歴然、特に心配もする必要もないでしょ
…正直羨ましいよ。そこまでの暴力性と残虐性、まさに劇中の怪物と言っても過言じゃない
それに比べて私はただ死なないだけ…人類の夢とかあーだこーだ言われるけど
私からしてみりゃただの呪いだっつーの
…まぁ、そのお陰でこうやって大人しく生活できているわけだけども…
そんなこと考えている間に喝堂の掃除は終わった。
すぐさま積荷の確認作業が始まる。
「どれ見ても銃器ばっかだねぇ、てっきり核絡みの何かがあるとでも思ったけど、今回注文したのはラディスチャンだけだったっぽいね」
大方の確認が終わりかけたそのとき、喝堂に呼ばれ、一際大きいコンテナの元へ集められた。
喝堂が力ずくで扉を開けた。そのさきにあったのは
「あっは、はじめて実物を見たかも」
『愛玩人間』だった。
逮捕前、カニバリストの知り合いに話を聞いたことがあったけど…なるほどねぇ
「確かに薬臭そうだわ」
まぁ食べることが目的の商品じゃないみたいだし関係ないか
積荷の確認も終わったことだし、足早に撤退を始めた。

>「次の任務、テメェんとこの隊長は参加出来そうにねえな」
「んなこと言われたって雷花ちゃんなら有給取ってでも殴りこみにいくんじゃない?」
話でしか聞いたことないけど相手が因縁深い『羽持ち』ならそれぐらいやりかねなくもない
>「その町は恐らく『癌化地域』だ。
 つまり一度治安の悪化によって住人が激減して、それから悪性怪人が流入した地域。
 町としての体は保たれているが……中身はクソ共の温床だ」
>「だがいきなり取り囲んでドンパチ……って訳にもいかねえ。最終的にはそうなるんだが……。
 潜入捜査が必要だ。場合によっては実力行使も取れる強襲課でな。つまり」
>「アイツじゃ目立ち過ぎる」
「んじゃ喝堂さんから隊長に伝えといてくださいよ、私は流石に短スパンで感電したくないんで」
とそういい残してそそくさと寮へ戻ろうとした瞬間、足が止まった。
なんで雷花ちゃんがそんな不機嫌さMAXでそこに立っているんですかねぇ
とビビッて立ちすくむ横を流川ちゃんが抜けていく…とその瞬間、雷花ちゃんの機嫌がいささか収まったように見えた。
あぁなんだ、雷花ちゃんも気になってたんだね。
はいはい、そんじゃあこの場に不釣合いな元死刑囚は自室に戻りますよッー
> やっだもー!隊長ったら素直じゃないんだか――すいません嘘です調子こきましあぎゃーーーっ!?」
「ほげーなんで私もーーーー!!!」
【とばっちりEND】

192 :向路深先 ◆XpLn/51P2E :2015/02/19(木) 09:30:30.19 0.net
>「あっは…別にいいけどさ、別の日にしようよ」
>「そうだね。じゃあ、特別にお寿司をおごってあげよう」

「え、……あ、ご馳走になります。すんません……」

今回は随分援護を貰ったのでその詫びにと思って食事を誘ったが、うっかり賭けのことを口にしてしまったために奢って貰えることになってしまった。
今更言い出すのもなんだか不躾なのでこの礼はまた別の時にするとしよう……。
……しかしやはり生系の肉系なのだな、なんて思ってしまうのは失礼か。

>「そりゃまぁ……今ので死んでないとは思えないが……既に一回外してるからなぁ、俺。ちょっと待ってくれよ」 
>「おっ、いたいた。あー……こりゃ、どうなってんだ?」

半不死身怪人故の無茶によって初めて可視化された敵のシルエットは、なかなかに前衛的なものだった。
変形能力が高い敵だったがこうまで変わるものなのかとなぜか感心してしまう。
雨場と伏見はそのまま透明怪人を捕食していくが、如何せん食べている肉が見えないのでどこかシュールだ。
あからさまに肉をかじられるよりかは幾分マシ──……

>『――おいコラ向路』

通信機からの声に背筋が跳ねた。
低い声から繰り出される脅しに生返事気味に謝りながら息を落ち着ける。

>『とは言え……仕事の方は上出来だな。(略)それと……伏見、テメェもご苦労』

「ありがとうございます……。
支援課の人もういないのでそうして貰えると助かります……」

喝堂隊長は色々と良い上司とは言えないところも多いが、人が悪いわけではないとこういうときは思う。
単純に不器用なのだろうな……と、噎せていた伏見が傷から出血する勢いでちょっと凄い感じになっているので慌てて背中をさすりに向かった。

>『――喝堂隊、船倉に集合しろ』

息を落ち着けた伏見らと共に、船倉へと到着する。
死屍累々の中で戦闘前と変わらぬ姿でくつろぐ喝堂をコンテナの上に見留、思わず溜息を吐いた。
隊長格というのは規格が違うのだと認識させられる。
まもなく別隊の二人とも船倉で合流となった。
何故かびしょびしょだが、とりあえず生きて再会できて良かった。

>「ベーコ……向路さんも、大丈夫ですか?」

「ベーコ?……まあ、僕は不死身二人に守って貰ったんで大したこたぁないっス。
 そちらは…………」

そういえば、向路は彼女の名前をしっかり聞いていなかった。
いや、会話の中で聞いてはいたが、もし呼び掛けて間違っていたらいきなり悪印象……危険は避けるべきだ。

>「凶華に深先、それと造利も無事でなによりですわ」

「無茶したんですね……大鳳さん」

大鳳へ話を振って、誤魔化す。
彼女のナリを見たら身を案じた言葉を掛けたくなったが、きっと彼女はそんなものは払いのけるだろう。
それが分かっているから余計な言葉は接げやしない。

>「この船の船倉は二つに区切られてる。(略)数は丁度三十だ」
>「大鳳、ちょっと掃除してこい」

と、おもむろに喝堂はコンテナから降り大鳳に無慈悲な指示を出す……と言っても、本気ではないようだが。
敵がいると分かっていながら各班の集合まで放置していたことからも、ここからは喝堂による指導タイムなのだと分かる。

193 :向路深先 ◆XpLn/51P2E :2015/02/19(木) 09:35:09.97 0.net
> 「……そう言われて、出来ねえようじゃいくら勝っても意味がねえぞ。(略)……初めて勝ちなんだ」
>「テメェはまだまだ足りてねえよ。もっと練り上げて、研ぎ澄ませ。分かるか――」

扉を蹴破り、喝堂は残存戦力の殲滅を開始した。
喝堂の怪人特性は自分と近いものの、彼のものはより“丸い”。マイルドという意味ではなく、対応力のことだ。
繰り出される殺戮の中でも一滴の血も浴びない姿は合成かスタントを見ているようだ。
先程の透明怪人相手でも、喝堂なら血の一滴も落とさず確実に一発目で殺せるのは間違いないと改めて分からされる。
その戦い方はその怪人特性があってこそ故に、全くを参考にすることは出来ない。
しかし喝堂がわざわざ自身の戦いを見せているのだから、なにも学べなかったでは後が怖い。
食い入るようにその動きを、流れを見入る。
……まもなく戦闘とすら言えない一連の殺人が終わり、喝堂は30人を相手にしたとは思えぬ平静さで積み荷の確認を指示した。
向路が担当した区画は特別特殊なものはなかったが、すべてがそうではなかったようだ。

>「……『愛玩人間』か。下らねえな。……おい雨場、積荷目録は見つかったか」
>「よし、よこせ。喝堂隊、撤収するぞ。後は支援課の仕事だ。甲板に出ろ。既に迎えは呼んである」

「……趣味が悪い、じゃあすみませんね」

撤収の最中にちらりと見えたコンテナの中身。
愛玩人間という呼び名に、人を人として扱わぬ所業に胃がムカつく。
自然と、甲版へ向かう足が早くなった。

>「いいか、すぐにまた任務が始まる。とびきりクソッタレな奴がな」
>「向路、次の任務は……今回みてえにはいかねえ。(略)期待してんだぜ、俺は、テメェに」

「……大鳳さんの足を引っ張るな、ではないんですか?
 今回は雨場さんと伏見さんにかなりアシスト貰っただけですから……、買い被らないで下さい。
 今回みたいに大鳳さんがボロボロにならないように頑張りますが……それで精一杯ですよ」

ヘリに乗り込み、既に喝堂は次の任務へと意識を切り替えているらしい。
薬で眠った大鳳を横目に見て、向路は背を丸め伏し目に、口元を笑みの形に歪めて喝堂へ返す。
本当にそう思っているのか、謙遜かは表面上分からない。

「……でも、鳴上隊長の羽落とした奴ってのは……見てみたいですね」

俄に顔を上げた向路の双眸に宿る鈍い光。口をますます歪めて、呟くように向路は言う。
その顔は先程と違い、一つの感情を明確に示している。表れているのは、明確な闘争心。

……帰還後、向路は一人トレーニングルームへと向かった。
今回は雨場と伏見がいなければこの程度の軽い怪我で済まなかった。もっと強く。
喝堂に期待されたのだ。もっと強く。
次の任務で大鳳にあんな怪我をさせないために。もっと強く。
人を軽んじる屑を殴り飛ばすために。もっと強く。
鳴上の羽を落とした隊長格級の敵。もっと強く。
より速く、よりしなやかに、より狡猾に、より鋭く、より強く。
その日、朝が来てもトレーニングルームから物音が止むことはなかった。

【俺の戦いはここからだend】

194 : ◆qwXY9mi/bQ :2015/02/20(金) 07:12:47.14 0.net
申し訳ないです、ちょっとテストをば…

195 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/21(土) 00:07:16.94 0.net
密輸船への強襲作戦から数日が過ぎた。
岐阜県にある『癌化地域』と思われる町には、既に諜報課員が斥候として送り込まれている。

「おい、今から10分後に第一ブリーフィングルームに集合しろ」

寮の部屋のドアを蹴り開けて、喝堂は君達の部屋に踏み入ってそう言った。
それから君達の返事も待たずに身を翻し、歩み去る。
別の隊員の部屋に向かったのだ。

君達がブリーフィングルームに到着すると、ホワイトボードの前には既に人影があった。
髪は光沢を帯びるほどかっちり固めた七三分けに、細く遊びのない銀縁眼鏡をかけ、黒のスーツを身に纏った若い男だ。
彼の名は、黒野昴。元喝堂隊で、今では強襲課の隊長の一人だった。

会議机の上には既に人数分の椅子と、お茶と、何かの書類が用意されている。
もし君達がそれらに手を触れようとすれば、黒野は露骨な咳払いによってそれを牽制するだろう。
室内には流川が見た事のない喝堂隊、黒野隊の隊員もいた。

「おう、全員集まったな。んじゃ、始めるぞ。説明は……」

「説明は私、黒野が務めさせて頂きます。まずお手元の資料を御覧下さい。
 そちらは今から一時間前に帰還した諜報課員からの情報を……」

「テメェがやるとクソまどろっこしくなるから俺がやるって言おうとしたんだよ、ボケ。
 割り込んでくるんじゃねえ。いいか、結果はクロだ。クロ、分かるな。
 俺たちゃめでたく名前も聞いた事ねえクソ田舎にピクニックだ。
 分かったら準備を始めろ。三十分後に出動待機室に再集合。以上だ。解散」

そう言ってブリーフィングルームを去ろうとした喝堂の肩を、黒野が掴んだ。

「喝堂さん。説明は、私がすると言いました。あなたも席に着くんです」

「喝堂隊長、だろ?黒野。お前が頭を下げてお願いすりゃ、一分くらいは割いてやっても」

黒野の手を払い、喝堂が振り返って――その眼前に、不意に一本のナイフが現れた。

喝堂の指先が即座にそれを挟み、止める。
だが――首がほんの僅かにだが反っていた。
それは、ほぼゼロ秒の反応速度と神速の瞬発力を持つ彼が、手の動きだけでは間に合わないと判断した何よりの証だ。

「黒野隊長、ですよ」

「……いい度胸してんじゃねえか」

喝堂と黒野は一触即発の緊迫感の中、暫し無言で睨み合う。

「……あの!」

雨場が慌てて大声を上げて、その場の空気を変えた。
隊長二人の眼光が彼に突き刺さる。

「現地入りが早いに越した事はないですし、とりあえずは準備を始めませんか?
 俺らの装備なんて大体いつも決まってるし、移動時間も長いでしょ。資料を読む暇は十分ありますよ」

隊長達は再び相手に視線を戻したが――やがて喝堂が舌打ちを鳴らし、黒野がこれ見よがしに溜息を吐いた。

196 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/21(土) 00:08:34.03 0.net
「まぁ、それもそうですね。では……解散としましょう」

その台詞を聞いた雨場が、深く安堵の溜息を零した。
さておき、黒野が用意した資料の内容は、要約すれば以下の通りだ。

捜査対象である町の名は有塚町。
癌化地域は通常、周辺地域への侵略や野党の出没などが起こる為、判別は非常に容易い。
だが有塚町にそのような兆候は一切なく、この事から非常に高度な統制が取られていると推測出来る。
故に表面上は何の変哲もない田舎町である。
しかしその実、外部から訪れた人間に対する監視の目は畏怖を感じるほどに鋭い。

諜報課、犬走は京都から下呂への旅行の道中で立ち寄ったという体で潜入したが、
町に唯一ある宿泊施設ではさり気ない世間話を装い、その真偽を確認された。
宿の管理者は老婆の姿をしていたが、犬走によればその容姿は肉体変化によるもの。
恐らくは何らかの感覚に特化した『ポリグラファー』であるとの事。
幸い犬走の嗅覚はポリグラファーの感覚を上回り、
事前に「探り」を入れられる事を察知出来ていた為、自然体を強く保ち、看破されるには至らなかった。

犬走は本来の予定では興味本位の観光を装い町内を探るつもりだったが、
至る所から監視の『臭い』を感じた為、実行には移せなかった。
しかし宿や移動出来た範囲内で見かけた常人からは皆、強い恐怖や諦観の臭いが嗅ぎ取れた。
有塚町が『愛好家』達に支配された癌化地域である可能性は非常に高い。

そして先日、喝堂隊が回収した赤子が浸かっていた薬物には、成長ホルモンの分泌を抑制する性質があった。
定期的に赤子に摂取させる事で、恐らく半永久的にその姿を保たせる事が可能らしい。
諜報課は最近、愛玩人間の『新商品』が出たという噂を掴んでいたが、まず間違いなくこの事だろう。
極めて非人道的な所業で、決して許せるものではなく、一刻も早く阻止する必要がある。

その為、有塚町では『愛好家』のネットワークを暴く為の情報源の確保が最優先事項となる。
また、愛玩人間の新商品が大量に仕入れられている事から、本案件には『羽持ち』の関与が強く疑われる。
十分に警戒し、隊長は不要な戦闘を出来る限り避けるよう心がける事。

「つまり……警戒が強いから一工夫しろって事だろ。いちいち回りくどいんだよ」

「……確かに、喝堂さんも読むんですからもっと易しい内容にすべきでしたね」

「あぁ?」

出動待機室では既に隊長達が待っていた。
君達がドアを開くと、二人は無言で君達へと視線を移す。

197 : ◆PyxLODlk6. :2015/02/21(土) 00:09:17.17 0.net
「……来たか。資料はもう確認したか?してねえなら……別にしなくていい。
 まずは……今回は編成が少し特殊になる」

「具体的には流川君と……向路君。君達は黒野隊に付いて動いてもらいます。
 もし隊を分ける場合……流川君は向路君に委ねます。君は私の同期だ。十分任せられる筈です」

「伏見、テメェはこっちだ。隊を分ける場合は……大鳳と組んでもらう。
 つまり……その場合は必然的に大鳳が班の要になる訳だ。勝手にぶっ壊れんじゃねえぞ」

さて、と喝堂が一呼吸置いた。

「次にだ、どうやら今回潜入する有塚町は、外部の人間に対して極めて懐疑的らしい。
 オマケに、さっきも言ったがクソが付くほどの田舎だ。
 昨日の今日で立て続けに旅行者が立ち寄るような土地じゃねえ」

「かと言って住民に一切見つからず町を探るのは困難です。さて……皆さんなら、どのように潜入しますか?」

「……割り込んでくるんじゃねえってさっきも言ったよなぁ、オイ。任務前だからって俺が加減してくれると思ってんのか?」

隊長同士の喧嘩の巻き添えを食らいたくなければ、君達は急いで提案をした方がいいだろう。

【早速ですがターンは隊ごとに分けて回しましょう】

198 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/02/23(月) 07:54:26.82 0.net
>197
> 「かと言って住民に一切見つからず町を探るのは困難です。さて……皆さんなら、どのように潜入しますか?」
> 「……割り込んでくるんじゃねえってさっきも言ったよなぁ、オイ。任務前だからって俺が加減してくれると思ってんのか?」
二人の体長が一触即発の状態になったその時、出動待機室の扉を誰かが3回ノックした。
間もなく部屋に入ってきた一人の若者が、二人の体長の前に立ちサッと敬礼をする。
「申告します!
 新免岩男は、本日付をもって、内務省特務機関、怪人運用支援局、実動部隊隊員に任命され、
 黒野隊配属を命ぜられました!
 よろしくお願いします!」

彼の名前は新免岩男(しんめんいわお)、元警察官である。
現在の警察では怪人の脅威に対応できないと考えた彼は、
流川と十崎と同じ日、別の場所で採用面接を受け、支援局に着任したのだ。
ただ、その後すぐさま実戦を行った二人とは違い、彼にとっては今回が初陣である。

「…よろしくお願いします!…よろしくお願いします!」
岩男は律儀には部屋にいた全員に頭を下げて回った。
トレンチコートにソフト帽といういかにも古い刑事風な出で立ちで、いかにも官憲らしい態度である。
人によっては癪にさわるかもしれないが、岩男はお構いなしだ。

ところで、同性である向路に対してはなんということもなく普通に挨拶をした岩男だったが、
女性陣に対しては外から見てわかるほど緊張しているような様子だった。
流川に敬礼した時は、まだそれほどでもなかった。
しかし大鳳に敬礼した時はかなりギクシャクしていた。
彼女の赤いドレスとブロンドヘアは、彼の目には眩しすぎるらしい。
最後に敬礼をした伏見に対しては、また違う意味で動揺の色を隠せなかった。
(この人どこかで………ハッ!?)
岩男の脳裏に浮かんだのは、あの凶悪な連続殺人犯である伏見狂華のことだった。
曲りなりにも警察官であれば彼女の事を知らないはずがない。
そして、もしも岩男が彼女と目を合わせても物怖じしない人間であれば、
すぐに目の前の彼女がその人物だと気づいただろう。
しかし、岩男にはそれができなかった。彼女の顔をまっすぐ見れなかったのだ。
(…いや、伏見狂華は死刑が執行されたはずだ。この場にいるはずがない。よく似た別人だろう。)
岩男はそう心中で結論づけた。
無論、まさか「殺人犯の伏見狂華さんですよね?」と聞くわけがない。

199 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/02/23(月) 08:18:56.32 0.net
>「おい、今から10分後に第一ブリーフィングルームに集合しろ」

「え、ぁ……あ、はい。了解」

トレーニングルームから戻り、シャワーを浴びてさっぱりしようと思っていたところに喝堂。
すぐに部屋を出ていったが、他の隊員のところにも行ったのだろうか?
人を使わず自分の脚で回る辺りマメだ……なんてことを考えつつ、トレーニングウェアを脱ぎ捨てて浴室へ飛び込んだ。
この汗臭いまま行くのも嫌だが、移動時間も考えれば時間はカツカツ。
……命は惜しい、1分も無駄に出来ない。

────────────────────────────────────

>「おう、全員集まったな。んじゃ、始めるぞ。説明は……」

……結局はこうして時間にギリギリ間に合ったものの、その服装はロンTにタイトジーンズ、スニーカーと限りなくラフなモノだった。
公務員の割に服装にはゆるい職場だけれど……黒野君には嫌な顔をされそうだな、などと思いながら眼前のきっちりスーツ七三眼鏡をみる。
以前は喝堂の下、同輩として切磋琢磨していたが……いつの間にか彼は隊長にまで上り詰めていた。
今では隊長も板に付いたようで、すっかり差を付けられたなぁ、などと感傷に浸りそうになる。

>「説明は私、黒野が務めさせて頂きます。(略)諜報課員からの情報を……」

>「テメェがやるとクソまどろっこしくなるから俺がやるって言おうとしたんだよ、ボケ。(略)解散」

………集合早々、雲行きが怪しい。
以前もこういったことが無かったわけではないが、あの時は一隊員と隊長だった。
今はどちらも、隊長だ。衝突すれば譲らないだろう……否、譲らなかった。やはり。

>「黒野隊長、ですよ」
>「……いい度胸してんじゃねえか」

立場上、仲介に行きやすいはずなのだが、あの間には入りたくない。
どうしたものかと考えていたら、雨場が一声、割って入った。

>「現地入りが早いに越した事はないですし、とりあえずは準備を始めませんか?(略)資料を読む暇は十分ありますよ」
>「まぁ、それもそうですね。では……解散としましょう」

雨場は半ば不死身だからと色々なモノを負担しようとし過ぎていないだろうか。
聞いたところでは前回の任務でも喝堂に意見して骨を抜かれているというし、いい人過ぎて不憫だ……。
……お陰で助かったのだが。

200 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/02/23(月) 08:19:24.63 0.net
さて、荷造りをして再び集合する。
下は先程と同じタイトジーンズ、上は以前とは異なる、ボルドーのライダーズジャケット。
靴は戦闘用のブーツをそのまま履いているが、流石に露骨に凶器らしいグローブははめていない。

ザッと資料に目を通したが、諜報課職員でも殆ど探りを入れられない土地に行くことになるとは頭が痛い。
行って殴って終わり、ならばいいのだが今回はそうはいかない。……はぁ。

>「……来たか。資料はもう確認したか?(略)まずは……今回は編成が少し特殊になる」
>「具体的には流川君と……向路君。君達は黒野隊に付いて動いてもらいます。(略)十分任せられる筈です」

てっきり鳴上隊を黒野が率いるものと思っていたが、そういうわけでもなかったようだ。
長期任務になりそうであることを考えるとこの班分けは有り難いのだが。主に自分の精神衛生に。
ながれかわ、流川、……なるほど、よし。鳴上隊らしく特殊体質型で肉体を液体として扱うことが出来るという怪人。
特徴のある能力で羨ましい。が、それよりも、

「……黒野隊長、同期と言われましても実力差は如何ともし難いものですし……、
 何より僕、鳴上隊長に殺されたくないんですけれど……」

流川の監督責任を預かるということは、万が一があったとき雷が物理的に降ってくるということだ。
通常任務ならいざ知らず、今回のような危険度の高い任務では普段より……まぁ、殉職の可能性も上がるのは道理。
当然みすみす敵に殺されるようなことにするつもりはないが、つもりだけでやっていけるわけもない。
……隊分けがなされないことを祈るのみだ。

>「次にだ、どうやら今回潜入する有塚町は、外部の人間に対して極めて懐疑的らしい。(略)昨日の今日で立て続けに旅行者が立ち寄るような土地じゃねえ」
>「かと言って住民に一切見つからず町を探るのは困難です。さて……皆さんなら、どのように潜入しますか?」
>「……割り込んでくるんじゃねえってさっきも言ったよなぁ、オイ。任務前だからって俺が加減してくれると思ってんのか?」

ああ、もう、どうして隊長格は互いに同調しようと言う気にならないのか。
また雨場に助け船を出させたら、今度こそ体のどこかしらを持ってかれかねない。

「ぁー…ええと、相手にポリグラファーがいる以上普段からかけ離れたことを言うのは危険ですよね。
 我々は比較的若年層ですし学生グループとしてサークル活動の一環で訪れたという形を取るのがやりやすいのではないでしょうか?
 上下関係の雰囲気なんかは誤魔化せると思いますが……。
 サークルの内容は……そうですね、自然派カメラ同好会みたいなものなら知識が無くても誤魔化しやすいのでは?」

取りあえず、今必要なのは内容ある提案よりも隊長二人の興味をひとまず逸らす発言だろう。
というわけで言ってみたものの、我ながら雑なアイディアだ……。
向路が自らの杜撰なアイディアに溜息を吐こうとしたところ、突然、すぐ横のドアがノックされ、扉が開いた。

>「申告します!(略)よろしくお願いします!」

現れた青年の発言に吐きかけた溜息を思わず飲み込んだ。
本日付で配属された新人をこんな危険な任務にぶち込むとは一体人事はどういうつもりなのだろう……。

>「…よろしくお願いします!…よろしくお願いします!」

「……こちらこそ、よろしくね」

新免と名乗った青年へ挨拶を返しつつ、これからのことを考える。
新人という意味では流川もそうだが、実際に戦場へ出た経験の有る無しは大きい。
……いや、戦力が増えたことを喜んでおこう。
配属早々こんな任務なのは気の毒だが、逆に言えば帰ってきたときには大きくレベルアップしている……筈。

【提案、学生ごっこ】

201 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/02/24(火) 22:42:23.72 0.net
事はいつだって急に始まる。
そう例えば、私が尋問用の串かつを仕込んでいる最中でも始まるときは始まる。
>「おい、今から10分後に第一ブリーフィングルームに集合しろ」
「…独房ってこんな簡単に出入りしていいもんなの?」
ここまでガバガバだと逆にこっちが疑問を持たざるを得ないんだけど…おっとっと、そんな場合じゃないな
私はすぐさまトレーに入っていた串かつと肉(自前)と玉ねぎを冷蔵庫にしまってブリーフィングルームへと向かった。
喝堂がやってきたってことは多分アレだね。こないだの「愛玩人間」の件かな
そんなことを考えている間にブリーフィングルームに到着した。
ブリーフィングルームの中はある意味予想通りの状態だった。
「…相変わらずこういうとこまできっちりしてるよね」
適当に空いているところに座り置いているお茶に手を伸ばす。
色香りからして安物だ…うん、期待はしてなかったよ
黒野がわざとらしく咳払いするけど、だったら置くなよって思うのは私だけ?
そうこうしている間に召集をかけられた隊員達が集まってくる、みんな急に呼ばれたからかなりプライベートをさらけ出したような格好をした奴もいる
まぁたまにそういう日常の断片を見て、いろいろ考えるのって案外面白いよね?
ってあれ?なんかひとつだけ空いている席があるんだけど…
>「おう、全員集まったな。んじゃ、始めるぞ。説明は……」
           (中略)
>「……いい度胸してんじゃねえか」
なんで喝堂が絡むとここまで拗れるかなぁ…といっても今の場合はこの間の雷花ちゃんとのやり取りとはちょっと違うと思うんだよね。
黒野の場合は喝堂の下についてたってのがポイントかな
自分とは180°違う人種の上司の下で働くストレスってのは尋常じゃないからね
彼の出世への原動力もそこからくるとこもあるんじゃない
んで、結果同等の立場になったからこその今みたいな反抗があるわけだ。
誰だってそうなる。私だってそうする。
んでゆくゆくは今以上に出世して僻地に飛ばせばハッピーエンドってなぐあいかな
>「……あの!」
>「現地入りが早いに越した事はないですし、とりあえずは準備を始めませんか?
> 俺らの装備なんて大体いつも決まってるし、移動時間も長いでしょ。資料を読む暇は十分ありますよ」
さっすがミスター貧乏クジ、こういうときに頼りになるのがあんただ!
>「まぁ、それもそうですね。では……解散としましょう」
ともかく、各々の準備のため一旦解散となった。

202 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/02/24(火) 22:44:09.95 0.net
「やばい…どうしよう」
独房に入ってからの第一声はそれだった。
仕事の内容があーだとか何かしらの予定とかそういうので発した訳じゃない
「着ていく服があんまりないよぅ」
今回の仕事は潜入がメインってことはいつものコック着姿でいくのは論外ってことでしょ?
こないだ飯喰いに行ったときみたいなラフな格好でいけばいいか…それはそれでいやだわ
部屋着…コック着以上に論外だわ
昔買ったスーツで行くか?いや、駄目だ機能的じゃない
…いっそアレにしようか、ゆくゆくは捨てようと思ってたし、あれなら多少の重ね着もいけるだろうし
そういって私は箪笥の奥底に封印していたソレを取り出すことにした。後々後悔すると思うけどそれしか選択示が見つからなかったんだからしょうがないよね

203 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/02/24(火) 22:44:34.33 0.net
「ヤバイ…脱ぎたい」
今日のコーディネイトは一言でいうなら白黒のゴスロリ☆
体系にクッソ似合わないぞ♪ちなみにその下にはいつものコック着を重ね着しているからいつでもキャストオフできるぞ
ちなみにいつも着ているコック着は私の髪の毛を素材にしているからどんな目にあってもお色気な展開にはならないぞ
「はぁ…ふざけている場合じゃないっしょ、ちょっと深呼吸して落ち着こう」
ちなみに今回の凶器は使い勝手を優先して前回使ったブッチャーナイフを二本持っていくことにした。
よし、気持ちも落ち着いたし行こうか
>「……来たか。資料はもう確認したか?してねえなら……別にしなくていい。
 まずは……今回は編成が少し特殊になる」
>「伏見、テメェはこっちだ。隊を分ける場合は……大鳳と組んでもらう。
 つまり……その場合は必然的に大鳳が班の要になる訳だ。勝手にぶっ壊れんじゃねえぞ」
…リアクションがないってのも案外つらいもんだね。
まぁ騒がれないだけマシっていうか
「コイツと組むんですかぁ?」
と文句を言ってみるけど、アレだ。
目立つ者同士で組み合わせておくって魂胆だな
>「次にだ、どうやら今回潜入する有塚町は、外部の人間に対して極めて懐疑的らしい。
> オマケに、さっきも言ったがクソが付くほどの田舎だ。
> 昨日の今日で立て続けに旅行者が立ち寄るような土地じゃねえ」
>「かと言って住民に一切見つからず町を探るのは困難です。さて……皆さんなら、どのように潜入しますか?」
>「……割り込んでくるんじゃねえってさっきも言ったよなぁ、オイ。任務前だからって俺が加減してくれると思ってんのか?」
とか言っている間にまたやり始めた。仕方ない、行け!ミスター貧乏クジ体を張って仲裁するのだ
>「申告します!
 新免岩男は、本日付をもって、内務省特務機関、怪人運用支援局、実動部隊隊員に任命され、
 黒野隊配属を命ぜられました!
 よろしくお願いします!」
と雨場が動く前に新免岩男と名乗る男が割って入っていった。
「やばい…弩級のバカが来た」
大鳳と同じいや、下手したらそれ以上かも知れない
その証拠にさっきの挨拶だけでよかったのに空気も読まずに挨拶周りを始めている!!
おい、後ろを見てみろ喝堂がキレそうな雰囲気でお前を睨んでいるぞ
そうしている間に新免君は私の近くまで来ていた。
…柄じゃないんだよなぁ、人を叱るのはさぁ
新免君が私に挨拶をした瞬間、私はおもいっきり机を叩いた。
「いきなりで悪いけどさぁ、3つほど言いたいことがあるんだけど」
なるべく声のトーンを下げていかにも不機嫌って感じを出す
「一つ、君さぁさっきブリーフィングの時いなかったよね?遅れることを黒野に伝えたとしても…第一声はあんな自己紹介じゃなくとりあえず『遅れてすいませんでした』じゃないの」
いついかなるときも基本はソレだ。
「二つ、今は君の歓迎会じゃないしそんな政治家みたいに挨拶に回る必要は一切ない」
もう十分さっきのインパクトでお腹いっぱいです、
「そして、最後、顔もロクすっぽみずに挨拶とかふざけるなよ
 人として…いや、怪人だけど、最ッッッッ低限の礼儀でしょうが」
アドバイスじゃなく叱った最大の要因はここ
まぁ別に私個人に対してはどんな態度でも見過ごすけどさ、大鳳にも同じ感じ挨拶してんだもん
そりゃ言わざる終えないでしょう
「もう殺人鬼にこんなこと言わせないでよね『警官崩れ』君…」
そう言って新免君から視線を外し、喝堂のほうを見やった。
うん、怒りのベクトルがこっちに向いてるね。
上司よりも先んじて叱ることも後輩を守るための手段ってね。
ひと段落ついたところで話を戻そう
「うん、まず色々言う前に一つ案を思いついたから言わせてもらっていい
 こっちのメンツって片田舎だと結構目立つ面々が揃っているよね
 いっそのことさぁワザと敵に捕まんない?
 もう過去の人かも知んないけどさ私は全国的に知られてるじゃん?
 親子の縁とかそういうのはわかんないけどこいつは家が有名でしょ?
 普通に潜入するって無理だと思うわけよ
 なら向こうからちょっかいをかけさせるよう仕向けるしかないと思うんだよね。
 より一層警戒が強まって他の隊員を危険にさらすリスクをさけるなら
 私がコイツを誘拐して有塚町に逃げ込んだ体でもいいし、私の不死を計り売りしたいとか言って商談を持ちかけるのもあるかもね」

204 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/02/24(火) 23:07:19.82 0.net
【捕まるか、逃げ込むか、取引か】

205 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/27(金) 05:14:16.42 0.net
先の任務から帰還して数日、とはいったものの傷を癒すために眠り込んで数日、
その結果起きた悲しい出来事により寝込んでさらにほぼ半日。
いざここ数日の憂さ晴らしも兼ねて筋トレしつつ映画でも見ようかと思った矢先のことだった。

>「おい、今から10分後に第一ブリーフィングルームに集合しろ」
唐突に入ってきた暴漢もとい、喝堂隊長によりそのささやかなリフレッシュの機会は藻屑と消え去る。
「全く休んだ気がしませんわ……」
彼女には珍しいがっかりとした表情を浮かべつつ、のんびりと指定された会議室へと向かった。




会議室に到着すると、喝堂隊の面々や、元同僚のであり今は隊長である黒野、そしてその部下が既に待機していた。
(相も変わらず完璧に公務員してますわね)
同じ隊にいた頃から何も変わってないのを思い出すと、少し懐かしさに思いを馳せた反面
改めて隊長に昇格したということを感じ、少々複雑な気持ちになる。
そんな気持ちを飲み込むかのように、彼女は席に座り置いてあったお茶を口にした。
その際黒野が露骨に咳払いをしたが、大鳳は風邪でも引いたのかという的外れな心配をするのみである。

>「おう、全員集まったな。んじゃ、始めるぞ。説明は……」(一連の会話以下略
(相変わらず仲の良いことですわ)
どうにも昔から反りの合わない黒野と喝堂であるが、なんだかんだ言ってもバランスは取れていた。
その事を知っている彼女はあわや一騒動起きるのでは事態が目の前でも起きても、のんびりとお茶を啜っていた。

(それにしても、やはりお強いですわ。隊長に昇格しただけはありますわね……)
喝堂の首元を狙う黒野を見て改めて実感する。黒野もかなり強くなったと。
なにせあの喝堂に避けることを強要したのだ。それだけで十分な証拠になる。
果たして自分はあそこまで強くなれるのか、先の戦いでは無様を見せた自分がそこまで極められるのか。
そんなことを考えながらなおお茶を啜っていると、ようやく雨場が場の収拾をつけていた。

二人の隊長が互いに悪態をつくのを見て、羨ましい。そう思った。

206 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/02/27(金) 05:15:13.69 0.net
>「まぁ、それもそうですね。では……解散としましょう」
各隊員は準備に向かったのだが、こと大鳳に関しては準備と言えるものは殆ど無い。
強いて言うならば医務室から替えの包帯をもらいスカートの下に忍ばせておいたくらいだ。
服装に関しては普段着含めド派手なドレスしか持ってない上に、武器というものを所持していないからだ。
武器が使えないわけでなく、元々一通りの武器術を修めてはいるのだが、本心の気質からなのか
そういったものを積極的に持つ気になれないのだ。

ともあれ準備を終え歩きながら資料に目を通していると、本日二回目の陰鬱な表情を浮かべる。
なにせ潜入任務である。普段の仕事とはほぼ真逆であるし、
だからこそというべきか潜入に向いている服飾なんてもちあわせていない。
(まぁ、なんとかなりますわよね)

呑気に考えつつ喝堂たちが待つ待機室に到着すると、そこでは隊の編成について話がなされていた。

>「伏見、テメェはこっちだ。隊を分ける場合は……大鳳と組んでもらう。
 つまり……その場合は必然的に大鳳が班の要になる訳だ。勝手にぶっ壊れんじゃねえぞ」

二度あることは三度あるというが、またしても大鳳の顔が曇る。
伏見と組むということは問題ない。
ならば何故か、自分が要ということ、そして喝堂の忠告である。
まるで彼が大鳳のやろうとしてることをわかった上でそれに釘を刺してきている。
それがどうにも虫が好かないのだ。

>「コイツと組むんですかぁ?」
そんなことを考えていると、伏見が文句を言いだした。
「あら、凶華は私と組むのが不満?それにしても貴女にそんな趣味があったとは」
さっきからずっと考え事をしていたせいか目に入らなかったが、
改めて見ると伏見の格好はいつもとまるで違ったゴスロリを着ていた。
「いいセンスですわ。こういう服がお好きなのでしたら言ってくだされば私も提供できましたのに」

心なしか高揚した気分で伏見に話しかけていると、その裏でまたもや隊長たちが悶着を起こしている。
「やれやれ、ほんとに仲がよろしいことで」
呆れつつもその悶着を横目で見ていると、岩男と名乗る男性が部屋に入ってきた。どうやら新人らしい。
>「…よろしくお願いします!…よろしくお願いします!」
一人一人挨拶して回る彼だったが、大鳳を前にするとその言動がかなりぎこちなくなっていた。
(そりゃあ緊張しますわよね)
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですわよ、肩の力を抜くといいですわ」
初任務というのであれば緊張しない方がおかしい。
(かくいう私も初任務ではかなり緊張しましたわねぇ……)
そのせいでこんな口調が染み付いたことを思い出しながらしみじみしていると、伏見が彼に対し怒鳴りはじめた。

>「そして、最後、顔もロクすっぽみずに挨拶とかふざけるなよ
 人として…いや、怪人だけど、最ッッッッ低限の礼儀でしょうが」
彼女がこんなにも怒鳴ったところをみたことが無かった為、流石の大鳳も驚愕した。
とはいえどんなに自分のことを貶されてもヘラヘラしている伏見が彼女自身のために怒鳴るとは考えにくい。
(これは、まさか……ついに彼女も私たちに心を開いてくれたのですわね……!)
そんなあっているのか間違っているのか分からない解釈をして一人感動している大鳳をよそに伏見が立案をはじめた。

>「うん、まず色々言う前に一つ案を思いついたから言わせてもらっていい
 こっちのメンツって片田舎だと結構目立つ面々が揃っているよね(以下略)」

至極全うな正論である。元々ドレス+ゴスロリの女性二人組が辺鄙な田舎町で目立つなというのが無理な話だ。
「でしたら私が凶華を連れ出して、その不死の量り売りをしてコネを作りに来たという体でいくのはどうでしょう。
 自分で言うのもおかしな話ですが変に身分を隠しても私の身なりやらで照合されたら間違いなく一発で引っかかりますわ
 それならば敢えて晒した方が何をするにしても動きやすいでしょう」

【取引に一票】

207 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/01(日) 08:26:33.53 0.net
支援局のそびえる新宿から、首都高速と京葉自動車道を40分ほど東進した先に、千葉県習志野市・津田沼という街がある。
流川市香の地元であり、彼女が命がけの任務から帰還する度に訪ねる場所も、そこにある。
谷津干潟を南に臨む、小高い宅地の最奥に広がる『津田沼霊園』――墓地である。

通常、怪人の遺骨が常人と同じ墓地に納められることは殆どない。
研究材料、希少素材、怪人の遺体は単品でも十分に有用な資源になり得る。
墓荒しの被害が後を絶たないのだ。
だから普通は専門のセキュリティの行き届いた霊園に納めることになるのだが、
市香の参る故人は例外的に、怪人だったにも関わらずこの何の変哲もない墓所に眠っていた。
だがそこに、特別な事情など何もない。――死体が殆ど残らなかっただけだ。

林立した石の林の中、辿り着いた墓地には真新しい献花と線香を燃やした跡があった。
市香は燃え滓を丁寧に取り除き、墓石を掃き清め、買ってきたガーベラの花を献花の束に突っ込んだ。
今日は"彼女"の月命日だ。家族か、友人か、誰かに先を越されたのだろう。
鉢合わせにならなくて良かった。市香は葬式に呼ばれていないし、納骨に立ち会うことさえできなかった。
遺族がそれを許してくれなかったからだ。

線香に火を灯し、寒風の吹くなか、両手を合わせて黙祷する。
傍の墓碑にはこの下に眠る者達の俗名が羅列してあり、一番左が最後に墓に入った者の名だ。

【七草味蕾 没十八歳】

二年前まで、千葉県西部のこの街にはとあるレディースチームが存在していた。
暴走、暴動、暴力行為に軽犯罪から、関東制覇を賭けた他チームとの大抗争まで、若気の至りの限りを尽くした。
市香は高校生の頃、中学からの親友とそのチームに所属し、共にその終焉まで立ち会った。
そしてチームは解散し、市香は鑑別所送りになり、親友は死んだ。

その顛末を、自業自得だと言う者がいる。
市香もだいたいその通りだと思う。
彼女たちは納得づくで戦いに参加し、生き残ったのも死んだのも、殺し合いなのだから当然の結果だ。

だが、それなら志半ばで死んだ親友の人生は、まったくの無駄だったのか?
なにも成せていない、なにも残せていないただの死は、無意味なものなのか?
そうは思いたくない。

故人に対する最大の弔いは、その死に『意義』を見出すことだと市香は思う。
それは添えられた花でも良いし、葬儀に参列した者たちの涙だって良い。
その死によって何らかの影響を周りに与えられたなら、意味のある死だったと言えるだろう。
そしてそれは大きいほど良い。

だから市香はのし上がることを望んだ。
友達が死んだのだ。その死に、たくさんの意味があって欲しい。
その意義や意味をつくっていくのは、他ならぬ遺された市香たちなのだ。

日を置かず、また新しい任務が下されるだろう。
危険で命がけかもしれない。だが市香に死ぬ気は毛頭ない。

死んだ甲斐があったねと、いつか墓前でふてぶてしく言ってのけるために。

208 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/01(日) 08:27:04.37 0.net
<任務当日>

喝堂が自室のドアを蹴破って侵入してきた時、市香はちょうど風呂あがりだった。
意を決して乗った体重計の数字が本年度の記録をめでたく+方向に塗り替え、
次の健康診断までに絞らなきゃいけないウェイトの目標値をすみやかに下方修正することを決意した瞬間だった。
喝堂は全裸で体重計につま先立ちしている市香を無感動に見下ろして、何事もなかったように通達した。

>「おい、今から10分後に第一ブリーフィングルームに集合しろ」

「ここ女子寮なんですけお!?」

硬直していた脳味噌がせめてもの抵抗に言葉を捻り出した頃には、既に喝堂の姿はロスト。
蝶番の吹っ飛んだ扉から吹き込む寒風と一緒に、他の部屋のドアもぶち破られた音が届いてきた。
もはや慣れっこなのか、寮の廊下でおしゃべりしている諸先輩方はそちらを見ようともしない。
市香はのろのろとバスタオルを巻いて、深く溜息をついた。

あの歩くパワハラが新作の網シャツを見せびらかしに来たのでなければ、これは任務への招集だ。
直々に部隊員の元を訪って号令をかけるとはマメなことだが、それより先に身につけるべき常識があると思う。
所在の確認と逃亡の防止をワンアクションでこなす上官の有能ぶりに涙が出る。

「行きたくないなぁ……」

つい先日死にかけたばかりだというのに、厄介事の匂いがプンプンする。
それでも自分は行くのだろう。ドアの犠牲を無駄にはできないから。


準備の時間が足りなかったので、適当に引っ掛けてあった内勤服を着ていった。
まあブリーフィングぐらいならこれでいいだろう。
網シャツやらなにやらキワモノ超会議に一人だけフォーマルなカッコで行って浮いたらヤだし。
なんなら全裸で出席するまである。

で、追っかけつっかけブリーフィングルームに行くと、既にホワイトボードの前に誰かいた。
男だ。そしてその服装は、スマートな眼鏡にかっちりスーツ、どこに出しても恥ずかしくない普通のチョイスだ。
つまり実働隊の人間ではない(名推理)。

「……間違えましたぁ!」

市香は速攻で部屋を出た。
危ない危ない、なんか偉い人の真面目な会議に紛れ込んでしまったっぽい。
しかし部屋の表示を見ると、ちゃんと喝堂の名前で予約をとってある。
もう一度部屋を覗くと、スーツの男の傍でふんぞり返っている網シャツ野郎の姿があった。
支援局にもいたんだ……まともなファッションセンスの人が。

市香は滑りこむようにして再入室すると、伏見の隣に腰掛けた。
机に置かれた書類とお茶は、まるで定規で測ったかのように等間隔に整列している。
なんとなくそれを崩すのが憚られて、市香は手を付けずに会議の開始を待った。

>「おう、全員集まったな。んじゃ、始めるぞ。説明は……」
>「説明は私、黒野が務めさせて頂きます。まずお手元の資料を御覧下さい。
 そちらは今から一時間前に帰還した諜報課員からの情報を……」

209 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/01(日) 08:27:52.76 0.net
ピシィ!と空気をムチで打ったかのような音のない衝撃が走った。
それが黒野と名乗ったスーツ男と喝堂との視線のぶつかり合いによるものだとわかった時には、既に互いの臨戦態勢が完了していた。

(あ、あのひと!命が要らないの!?)

他隊の部下でも容赦なく背骨引っこ抜くような喝堂相手に、話の腰を折るなど逆鱗を舐めまわすようなものだ。
間違いなく血を見ることになるだろう。市香は早速巻き添えを防ぐ為に逃走経路の確認を開始。
ボードの前では大の大人が二人、ぎゃあぎゃあと諍いあう。
いやもっぱらぎゃあぎゃあ言ってるのは喝堂だけなのだが、黒野に引く様子はない。
やがてヒートアップした争いを一方的に打ち切って喝堂がその場を辞そうとした瞬間。
振り返った喝堂がかざした指の間にナイフが生えた。

「ひぇ――っ!?」

市香には逆上した喝堂があの瞬発力でナイフを抜いたようにしか見えなかった。
しかし、出現したナイフの切っ先は『喝堂の方を』向いていた。
そして黒野の腕はなにかを投げた後のように、悠然とフォロースルーの姿勢を漂わせている。
――ナイフを抜いたのは、黒野の方だ。そして間髪入れずに喝堂へ投擲した。
一連の動きが市香には見えていない。だが喝堂の常に獲物を探すような前のめりの重心が、僅かに後ろに下がっていた。
超高速の反応速度を誇る喝堂に、防御態勢を――『防ぐための努力』をさせた、黒野というこの男。

>「黒野隊長、ですよ」

やはり隊長格――!
そして市香の胸の裡に、戦闘技術への感嘆とは別の驚きが満ち溢れていた。

(この人、隊長格なのに――服装がまともだ!!)

今まで見た隊長達は、ライトウィング鳴上に透け乳首の喝堂と軒並み頭湧いてるとしか思えぬセンスの持ち主だった。
だがこの黒野という隊長は、一見したところ本当に遊び心の欠片もないフォーマルスーツだ。
背広の中がカオスなのかと思ったが、見える範囲じゃ普通に上等なワイシャツである。
まだ実働隊菌に脳が侵されてない正常な判断力の持ち主ということだろうか。

>「現地入りが早いに越した事はないですし、とりあえずは準備を始めませんか?
 俺らの装備なんて大体いつも決まってるし、移動時間も長いでしょ。資料を読む暇は十分ありますよ」

実働隊の良心こと雨場がたまったヘイトを散らすように提案した。
勇気ある犠牲に市香は内心で敬礼したが、意外にも(マジで)隊長たちはすんなりと矛を納める。
30分後の出動に向け、隊員達は各々の準備の為に散っていった。

210 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/01(日) 08:28:26.68 0.net
<自室>

市香の準備はすぐに終わった。
もともと実働隊員はスクランブル招集にも対応できるようある程度装備を整えてある。
加えて特別な武器などを持たない市香はいつもの鉄パイプさえあれば結構なんとかなってしまう。
更に標準装備のバックパックと、通信機器一式、500mlのボトル水を何本か追加で用意した。

今回は潜入任務とのことで、市香は昔懐かしい高校時代の制服を引っ張りだした。
幸いなことに体型はそんなに変わってなかったので昔通りにすんなり着れた。
鏡の前で一回転すると、まあ若干荒んだ感はあるがもともと童顔なのでそこまで違和感はない。
一年前まで普通に来ていた服なので、当たり前っちゃ当たり前だが。

「ちょっと派手すぎるかな……」

市香はいわゆる素行の正しい生徒ではなかったので、制服には若干の改造を施してある。
桜が丘女子は標準的なブレザーとプリーツスカートのスタイルだが、スカートはかなりミニだ。
丈は膝の上までしかなく、靴下もハイソックスなので相当な部分が生足である。
リボンタイは対照的に、標準と比較してかなり長い。
タイは長ければ長いほど粋とされ、当時は競いあうようにして長いタイを着用していたものだ。
爬虫類の求愛行動並の安直さである。

学生の頃はどうとも思わなかったのに、卒業してからもう一度着るとすごいビジュアル的にキツい気がするのはなんでだろう。
19にもなってこんな格好して、親に対する申し訳無さがふつふつと沸き上がってきた。

「ま、まあ!わたし最近キャラ薄いし、ここらで一発ガツンとかましておかないとね!」

自分では結構ケレン味のある性格のつもりだったが、支援局は想像以上の魔窟だ。
気を抜いていたらあっという間にキャラを喰われて背景と同化してしまう。
舐められたら終わりだ。このきっついきっつい制服姿で、連中の鼻を明かしてやる。

絶対、オシャレ上級者なんかに負けたりしない――!!キッ

211 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/01(日) 08:29:00.43 0.net
<出動待機室>

「ゴスロリには勝てなかったよ…………」

そして再集合した出動待機室。
まさかのゴスロリ様の登場に全市香が震撼した!
しかもそれを着てきているのが"あの"伏見という超ド級の取り合わせに話題は全て持って行かれた!!

「うそでしょ……なんでそんなの持ってるんですか伏見さん……」

市香は敗北感に打ちひしがれ、両膝を床についた。
隣で大鳳がめっちゃいい顔で伏見のゴスロリを称賛している。
相変わらずド派手なドレスで潜入任務に行こうとしているこの女も大概だが、伏見までそっち側に行っちゃったか……。

>「ヤバイ…脱ぎたい」

「家族を人質にでも取られてるんですか伏見さん」

ゴスロリ強要ってどんなプレイだ。
しかも伏見は長身、すらりと伸びた手足にロリータファッションは市香の制服以上に違和感の塊だ。
おそるべし実働部隊菌。
なんなの。ゴスロリ着用を制約と誓約にした念能力者か何かなの。

>「……来たか。資料はもう確認したか?してねえなら……別にしなくていい。
 まずは……今回は編成が少し特殊になる」

喝堂はそんな伏見のジョグレス進化に一切突っ込まずに話を始めた。
まあ乳首透け透けマンに常識的な服装検査を求めてもアレっちゃアレだけれど。
逆に黒野の方から指摘が入らないというのも既に病巣が拡大しつつある証左に思えてならない。
市香もいずれこうなっちゃうんだろうか。嫌すぎる未来だ……。

>「具体的には流川君と……向路君。君達は黒野隊に付いて動いてもらいます。
 もし隊を分ける場合……流川君は向路君に委ねます。君は私の同期だ。十分任せられる筈です」

黒野の指示で、市香は向路とバディを組むことになった。
喝堂隊のベーコンアスパラ系男子こと向路は、赤い革ジャンにジーンズと幸いなことに落ち着いた組み合わせだ。
まだ実働隊菌に罹患していない――伏見が手遅れな以上――貴重な常識人である。

>「……黒野隊長、同期と言われましても実力差は如何ともし難いものですし……、
 何より僕、鳴上隊長に殺されたくないんですけれど……」

「だ、大丈夫ですって!ヘマしたら殺されますけど、何もしなくても結構な確率で殺されますから!
 どうせ殺られるなら納得できる理由で殺られておいたほうがお得ですよ!よろしくお願いしますね、向路さん」

数少ないまともな怪人を逃さぬよう、市香は早速外堀を埋めた。
黒野隊長と同期とのことだが、つまり向路も結構なベテランだ。
これまで生き残ってきた彼もまた、相応の実力者であるはずなのだ。
輸送船の戦いではその戦闘を見ることはできなかったが、今回の任務で多くのことを学ばせてもらえることだろう。

>「次にだ、どうやら今回潜入する有塚町は、外部の人間に対して極めて懐疑的らしい。
>「かと言って住民に一切見つからず町を探るのは困難です。さて……皆さんなら、どのように潜入しますか?」

組み分けの通達が終わり、潜入方法についてのミーティングが始まった。
向路が速攻で建設的な意見を出してくれて市香としてはマジで助かる……と思ったその刹那。

>「申告します!

待機室のドアをノックして入ってきた男が、敬礼と共に大声で挨拶した。
銀縁眼鏡にソフト帽と、昭和時代からコピーアンドペーストしてきたかのような出で立ちの若い男だ。
新免岩男と名乗った彼は、本日付で実働隊勤務となる新入隊員らしい。

212 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/01(日) 08:29:47.48 0.net
つまり、市香の後輩だ。
扱い上は同期だけど。

>「…よろしくお願いします!…よろしくお願いします!」

「ど、ドーモ新免=サン、流川です」

勢いに押されるようにして市香はお辞儀を返した。
アイサツは大事だ。古事記にもそう書いてある。
新免は一人ひとりに頭を下げていく。男衆を経て、市香、大鳳、伏見の並びにあいさつ回りをしているが……
明らかに市香と他の二人とで対応が違う。
顔が真っ赤だが、女性に免疫がないのだろうか。あれ?じゃあ市香は?

いや、というか大丈夫かこの新人。
出撃前の重要なミーティングに遅刻してきて、しかも話を遮られたのはあの喝堂だ。
いまでもほら、青筋ピクピクではちきれんばかりの怒りのはどうをかんじる……

>「いきなりで悪いけどさぁ、3つほど言いたいことがあるんだけど」

そして爆発した。
バァン!と机を叩いて新免を咎めたのは――意外にも伏見だった。
ゴスロリ女は昭和男に、一つ一つ噛んで含めるように言動の不備を指導する。
でもそれ、喝堂隊長の怒りのやり場がなくなって矛先が伏見さんに向くんじゃ……。

(もしかして、間をとりもってくれてる?)

新人にも絶対容赦しない喝堂の怒りを代弁することによって、比較的マイルドな指導で済ませているのだ。
いやほんと、喝堂の指導はこんなもんじゃ済まないから。説教で終わるだけマシだから。
伏見もそれを分かっているから、あえて新人への指摘役を買って出ている。
市香の中の凶悪殺人鬼・伏見狂華の印象がどんどん更新されていく……。

>「うん、まず色々言う前に一つ案を思いついたから言わせてもらっていい
 こっちのメンツって片田舎だと結構目立つ面々が揃っているよね
 いっそのことさぁワザと敵に捕まんない?

伏見の提案に、呼応したのは大鳳だ。

>「でしたら私が凶華を連れ出して、その不死の量り売りをしてコネを作りに来たという体でいくのはどうでしょう。

確かに、辺に身分を偽って入り込むよりかは、ボロが出にくいという点で有力だ。
しかも伏見の不死は本当に『切り売りできる』。商材としての性能は真実なのだ。
つまり、仮に潜入中に目的が達成できずとも、普通に商談を終わらせて見送られて帰還することができるというわけだ。

「フルスターリさんってまだ生きてますよね?あの人に委任状書いてもらって、愛玩人間の売り手になるのはどうですか。
 商品の一環として、不死身の怪人も人身売買してるってことにして。
 単なる運び屋の方がボロは出にくいかもですけど、納入業者としてなら市場の深くまで切り込めると思います」

あの輸送船は積み荷ごと支援局が回収したのでいずれ商品が顧客に届かず騒動になるだろう。
そうなる前に、『フルスターリの仲間』として現地に商品ごと乗り込めば、"なり代わり"はうまく行くはずだ。
ある程度フルスターリから情報を吸い上げて口裏を合わせておく必要があるし、
場合によってはリアルタイムでフルスターリに確認しつつ動かなきゃならないかもしれないが――
なんならあいつを達磨にしてコンパクトに収納して、現地に連れて行ったって良い。

「ぞろぞろ団体で商談に乗り込むのが不自然なら、向路さんと一緒にわたしたちは観光客ってことにしても良いかもです。
 旅行客が来るのも珍しいド田舎ですが、それがかえって本命(=伏見班)をごまかす陽動になりますから」


【提案:フルスターリに委任状を書かせて仲間を装う。それが難しければ、第二案として観光客を装い陽動】

213 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/04(水) 21:33:49.54 0.net
>「申告します!
  新免岩男は、本日付をもって、内務省特務機関、怪人運用支援局、実動部隊隊員に任命され、
  黒野隊配属を命ぜられました!
  よろしくお願いします!」

「おいおい……黒野、『隊長』よぉ。テメェんとこの新人、なんだありゃ。おちょくってんのか?え?」

突然の闖入者に対して、喝堂は露骨に不機嫌な様子を見せた。
黒野に皮肉を一つ浴びせると、それきり口を噤み、据わった眼で岩男を睨む。
右手を準備運動のように握り、開き、それを数回繰り返す。
あと十秒待って黙らなければ、その瞬間に岩男の頭を引っ掴み、そのまま折り畳む。
喝堂はそういう気配を発していた。

>「…よろしくお願いします!…よろしくお願いします!」

しかし――岩男の自己紹介は終わりそうにない。
喝堂は深く溜息を吐くと、彼に向かって一歩踏み出し――直後に、ばん、と大音響が爆ぜた。
待機室の薄っぺらい机を、伏見が割れんばかりに殴りつけた音だ。

>「いきなりで悪いけどさぁ、3つほど言いたいことがあるんだけど」

そしてそのまま岩男に対する教育的指導が始まる。

>「もう殺人鬼にこんなこと言わせないでよね『警官崩れ』君…」

一方で喝堂は眉間に皺を寄せ、歯を剥いて、眼光の矛先を伏見へと移していた。
十秒の我慢を無駄にされた事も、伏見に機先を制された事も、彼にとっては非常に不愉快な出来事だ。

>「うん、まず色々言う前に一つ案を思いついたから言わせてもらっていい」

しかし――伏見の提案を聞き終わった喝堂は、ただ舌打ちを一つ鳴らすだけだった。

隊員の教育の一環として潜入手段を募りはしたが、隊長二人は当然、既におおよその骨子を組み立ててある。
その上で隊員が好ましい提案をすれば、それを既存のプランに組み込む予定だった。
が、伏見の提案は喝堂が想定していたものと殆ど一致していた。

つまり――言う事なしという訳だ。
喝堂が黒野の用意した資料を丸めて、ゴミ箱へ放り投げる。
難癖をつける口実がなかった為、仕方なくそれで溜飲を下げたようだ。

「……で、大鳳。テメェは。なんかねえのか」

>「でしたら私が凶華を連れ出して、その不死の量り売りをしてコネを作りに来たという体でいくのはどうでしょう。
  自分で言うのもおかしな話ですが変に身分を隠しても私の身なりやらで照合されたら間違いなく一発で引っかかりますわ
  それならば敢えて晒した方が何をするにしても動きやすいでしょう」

喝堂は君達に背を向けて、別の部下に視線を合わせた。
それから顎で隣の部屋へのドアを差す。
それだけで部下はおおよその意図を察したらしい。
装備の予備などが保管されているロッカールームへと消えていった。

「……大鳳家の人間が裏稼業の取引に、か。まぁ……悪かねえ。
 だがよぉ……テメェにゃ『超人』なんて大層な渾名が付いちまってるだろ。
 初っ端からバレるかバレねえか、ギャンブルかます訳にはいかねえな」

喝堂はそう言いながらグラサンを外し、網シャツを脱いで、まとめて傍にあった長椅子に放る。
同時にロッカールームから戻ってきた部下が、綺麗に畳まれた背広風のジャケットを手渡した。
それを地肌の上からそのまま着込み、最後に髪を掻き上げる。

214 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/04(水) 21:34:25.33 0.net
「つー訳で、テメェら二人共商品な。せめてこんくらいはしねえとな。目立ってんなら、逆手に取りゃいいんだよ」
 
すっかり別人のように変貌した喝堂は、待機室から屋外に続くシャッターへと歩み寄る。
爪先でそれを蹴り上げると、事前に手配されていたのだろう、大型のトラックが停めてあった。
荷台の扉が開かれる。そこには輸送船で見た物と同じ、赤ん坊の詰められた容器が並んでいた。

「テメェら商品は有塚町までコイツらとお喋りしてろ。たかゆき、ソイツらにアレ渡しとけ」

「うす。んじゃ、大鳳、伏見さん、ちょーっと失礼するッスよ」

人懐っこい感じの、ややしゃがれた声が聞こえた。
背の高い、黒の長髪を真ん中分けにした男が、歯を剥き出しにした笑みを浮かべて君達に近寄ってくる。
彼は喝堂隊の一員であり、大鳳の同期――麦原たかゆきだ。

「二人は今回は商品って事なんで、コレ、装備して欲しいッス。勿論今じゃないッスけど」

そういって彼が見せたのは、拘束具だ。
構造は単純で、四肢に装着すると筋組織や関節に刃が食い込むようになっている。
それによって再生と行動を阻害する為、肉体強化型の怪人には比較的有効だ。

「ま、これはこうやって刃を捻ると……ほら、根本から折れ曲がるようになってるッス。
 バネ仕掛けだから外した時にバレる心配もないッスよ。鍵もちょっと力込めて肘曲げれば外れるッスから。
 あと、コレ付けた後に血糊ぶっかける事になるッス。服汚しちまう事になるけど、申し訳ねーッス」

たかゆきはサイズ確認の為に一度君達の手足に拘束具を合わせ、小さく頷く。
それから拘束具は荷台に放り込み、次にポケットを漁って、米粒ほどの肌色の楕円球を取り出した。

「そんでコレはえーと、超小型……は見ての通りなんスけど。まぁ、イヤホンッス。
 今回はヘッドセットとか装備出来ないッスからね。これを特殊な接着剤で耳の奥にひっつけるッス。
 こっちの糸がアンテナになるらしいッス。えくすて?みたいな感じで髪の中に紛れ込ませるようにって話ッス」

アンテナに関してはよく分からないので自分でやって欲しい、との事だ。

「あと、反対側の耳には小型マイクを仕込むッス。
 これは通信用っつーより、隊長が状況を知る為ッスね。
 どうしても何か言いたかったら、相手の耳に入ってるのを使うといいッス」

ピンセットを用いて、君達の耳孔内に通信機器を仕込めば、それで準備は完了だ。
たかゆきは運転席へと向かって歩き出して、ふと足を止めて君達を振り返った。

「あ、あとその赤ん坊は支援課で作ってもらったニセモンッス。あんま気にしないで欲しいッス」

そしてにかりと笑って、そう言った。

「……たかゆきテメェ、なんで言っちまうんだ」

助手席の窓から喝堂が顔を覗かせて、溜息を吐いた。
それからバックパックをたかゆきに投げ渡す。中身は簡素な照明機器と食料品だ。

「ソイツも荷台にブチ込んどけ。おい黒野、テメェが運転しろ」

「では喝堂さんは周囲の警戒をして下さいね。荷台の上で」

二人はまたも暫し睨み合い――しかしやがてお互いの提案を飲んだ形で移動した。
それが最も安全な配置だと分かっているからだ。
そうしてトラックは発進して――それから数時間が経過した。

215 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/04(水) 21:34:53.61 0.net
「――おい、商品組。もうじき岐阜県に入る。そろそろ拘束具を付けて商品っぽくしててもらうぜ」

トラックが一旦停止して、たかゆきが君達の手足に枷を掛ける。
それから更に一時間ほどが経って、トラックは二度目の停車を迎えた。

「おやおや、お客さんとは珍しいねえ。どうしたんだい?ガソリンならもう少し先に」

真っ暗な荷台の中で、君達は嗄れた老人の声を聞くだろう。

「依頼の品をお届けに参りました。こちらがフルスターリさんの委任状です」

「……ここをまっすぐ行くと歩道橋がある。そこを左に曲がると学校が見える。そこに届けろ」

その声が、不意に若い男のものに変わった。
肉体変化によって老人に変装し、来訪者を見張っていたのだろう。

「それと、実は追加で買い取って欲しい物があります。ウチも最近、こちらの業界に手を伸ばそうと思っていまして」

「……困るな、そういうのは。ウチは仕入れは間に合ってるし、客を譲るつもりもない」

「まぁ、そう言わずに。まずは商品をご覧になって下さい」

荷台の扉が開かれる。
君達は久しぶりの光に暫し目が眩むだろう。
そしてその状態が回復する暇もなく――喝堂の手によって地面に転がされる事になる。

「大鳳家の一人娘と、死刑になった筈の殺人鬼。生憎常人ではありませんが……買い手は幾らでも付くでしょう。
 死刑囚の方は怪人特性も面白い。それについては後で説明しますが……要は、私達には『商品』がある。
 ですがそれを売る為の『場所』と『繋がり』がない」

黒野が見張りの男に歩み寄る。

「ボスはそちらで構わないんですよ。ほんの少し手を貸して頂ければ、こちらはさっさと商売が始められる。
 そちらは労せず新たな事業が開拓出来る。いい事尽くめじゃないですか?」

「……ソイツらは、本物なのか?」

男が乗ってきた――黒野の口元に、本職顔負けの悪辣な笑みが浮かぶ。

「血統書はありませんがね。ですが確かめる方法ならありますよ。少し、お耳を失礼……」

それから暫くして――商品二人は目隠しをされて、別の車で何処かへと運ばれていった。
暫くすると車が止まって、誰かに担ぎ上げ、更に移動は続く。
不意に、足音が変わった。反響や空気の具合から、洞窟のような場所に運び込まれたのだと分かるだろう。

黒野の用意した資料には、有塚町は元々鉱山の町だったと、簡潔にだが記述されていた。
君達は坑道に連れて来られたのだ。

216 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/04(水) 21:35:28.84 0.net
「……あんな商品あったか?」

「いや、急にレア物が入ったとかじゃないか」

「ふぅん……広告どうすんの。打ち直す訳?」

「いやぁどうだろうな。流石に次回に持ち越すだろ」

目隠しはされていても、耳は正常に働く。
君達は耳を澄ませば『鳥籠』の構成員達の会話や、大型の機械の駆動音、絶え間ない呻き声などを聞き取る事も出来るだろう。

と、前触れもなく君達の体が放り出された。
そして数秒の落下を経て、床に衝突する。
その衝撃で目隠しが僅かにズレた。君達は高さ数メートルの縦穴に落とされたらしい。

坑道の中の深い穴だったが――呼吸は問題なく出来た。
よく見れば細いパイプが壁面を走っている。

「よう、お嬢ちゃん達。そこはウチのスイートルームだ。後でルームサービスもくれてやるぜ」

穴の上から下卑た声が聞こえる。

「やめろ。ソイツはとんでもない値打ちモンかもしれないらしい。下手な真似すれば『羽持ち』様に殺されるぞ」

「……なんでぇ、つまんねえなぁ」

どうやら君達は『高価な商品』として認識されているらしい。
それに加えて、買い取りはまだ決定事項ではない。
つまり――『何かあっても、簡単に殺してしまう訳にはいかない』という訳だ。



【愛好家の拠点と思しき坑道跡に監禁状態
 自由行動タイムです】

217 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/06(金) 01:42:37.23 0.net
>「ぁー…ええと、相手にポリグラファーがいる以上普段からかけ離れたことを言うのは危険ですよね。
  我々は比較的若年層ですし学生グループとしてサークル活動の一環で訪れたという形を取るのがやりやすいのではないでしょうか?」

「……なるほど。ポリグラファーは分泌物の臭いや心音などで、言わば雰囲気を見分けているに過ぎない。
 普段と似た振る舞いをすれば、その感覚を誤魔化す事は確かに可能です
 ふむ……それを踏まえた上で、流川君。何か意見は……」

>「申告します!」

黒野の言葉を遮るように、待機室の空気が震えた。

>「…よろしくお願いします!…よろしくお願いします!」

露骨な咳払いが何度か響くが、岩男の耳には届いていない。
やがて黒野は項垂れて大きく首を横に振った。

喝堂は間違いなく彼を痛い目に遭わせる。それこそ任務への同行に差し障るほどに。
だが、むしろその方が好ましいのかもしれない、と黒野は判断したのだ。
この右も左も分からない新人に、今回の任務は荷が重い、と。

しかし――伏見の機転によって岩男は危機を免れた。
となれば、今度こそ相応の対応が必要になる。

「ありがとうございます、伏見さん。……岩男君、君のその我の強さは、私は嫌いじゃないです。
 ですが使い所を間違えれば、それはただの毒だ。君にとっても、隊にとっても。
 そして……私達が成すべき大きな目的にとってもです」

黒野はそう言いながら、岩男に歩み寄る。

「もしその毒が、君から溢れて、私の隊を……任務の成功を危ぶませるなら。
 私は隊長として君を守れなくなる。分かりますね?
 彼女に叱ってもらえたのは、君にとって非常に幸運でした」

そして再び流川へと向き直って、改めて問いを発する。

「さて……それでは今度こそ、流川君。先程の向路君の提案を踏まえて、何か案はありますか?」

彼女は暫し考え込み、一度喝堂隊の方へ視線を向けてから、黒野と視線を合わせた。

>「フルスターリさんってまだ生きてますよね?あの人に委任状書いてもらって、愛玩人間の売り手になるのはどうですか。
 商品の一環として、不死身の怪人も人身売買してるってことにして。
 単なる運び屋の方がボロは出にくいかもですけど、納入業者としてなら市場の深くまで切り込めると思います」

「……いい発想ですね。実にいい」

その言葉と同時に、外へ続くシャッターの開く音がした。
既に手配されていた大型トラックと、新商品の贋作が見える。

「その案で行きましょう。人数に関しては、今回の荷物の貴重さを考えれば不自然ではない筈です」

そうして君達は支援局を発ち、数時間の移動を経て、岐阜県の有塚町へと到着した。

「――さて……ところで、すみません。どなたか、この町の案内を頼めませんか?」

商品二人がどこかへ運ばれた後、不意に黒野が『鳥籠』の構成員にそう尋ねた。

218 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/06(金) 01:43:07.81 0.net
「あぁ?どうかしたのか?」

「もし良ければ、ここの業務を見学させて欲しいのですが」

「……そりゃ、何の為だ?」

「勿論、仕入れの為ですよ。まずはどのようなターゲットにニーズがあるのか、知っていない事には始まりません」

黒野は淀みない口調で、にこやか過ぎるほどにこやかに答えた。
男の表情には、警戒の色が強く浮かんでいる。

「安心して下さい。こちらとしても、あなた方との戦争は望ましい事ではない」

男が危惧しているのは――商売の仕組みと客を盗まれる事だ。
その気配を感じ取った黒野はあえて、その疑念を補強した。
そうする事で、自分達の正体に疑惑を向けさせられないようにしたのだ。

「……いいだろう。付いてきな」

「ありがとうございます。では向路君、流川君、新免君。行って来なさい」

「三人だけでいいのか?」

「えぇ、私達はあの商品をお買い上げ頂けるかどうか、返答を待たせて頂きますよ。
 ですから、せめてこれくらいは人数がいないと。万が一の為にね」

「……なるほど、分かった。じゃあ……ついて来い。
 アンタ達も、すぐに宿に案内させよう。小さな部屋しか残ってないが、勘弁してくれ」

男はそう言うと君達に背を向けて、歩き出した。

『向路班、聞こえますか』

直後に、君達の耳孔内にも仕込まれていた通信機に黒野の声が届く。

『私も、そう何度も通信を行う訳にはいきません。基本的には君達の判断に任せますよ』

そうして君達が案内されたのは何の変哲もない学校だった。
一階の一部を除いた殆どの窓に、白い板が打ち付けられている事を除けばだが。

「ここは商品を総合的に管理する場所だ。俺達は『ファーム』と呼んでる」

案内人はそう言うと、しかし校舎を素通りして、体育館の方へと向かっていった。

「俺達は商品の事を便宜上は愛玩人間と呼ぶが、人間の用途は何も愛玩だけには限らない」

そして外階段を使って二階へ上がり、館内へのドアを開ける。
瞬間、濃密な血の匂いが漂った。

一階では二人の男がひたすら素手で殴り合っていた。
何の怪人特性も見られないただの殴り合い――二人は正真正銘ただの人間だった。
一人は極度の肥満体、もう一人は不健康そうな痩せ型だ。

「例えばこうやって殺し合わせて、見世物にしたりな。
 今戦ってるのは他の用途には使えそうにない粗悪な商品だが、
 ちゃんとそれ用の人間同士を戦わせると怪人の俺達でもなかなか楽しめる」

壁や床にはうっすらと血痕が残っている。
幾度となくこの見世物が行われてきた証拠だ。

219 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/06(金) 01:44:02.58 0.net
「ま、それでもこうやって殺し合わせて、今度は勝った者同士をぶつけるとな、前座くらいにはなる。
 後に自分でいたぶって逃げ回らせたり、怯えさせるのが好きな客もいるから、そういう層に格安で売ったりもしてるな」

案内人は身を翻して体育館を去り、次に校舎へ向かった。

「ここには人間を飼育する為の設備が揃えてある。勿論上物を仕入れられればそれが一番なんだが、
 実際にはそれだけじゃ品が足りん。愛玩、闘人、食用、業務用、大抵の用途は仕込めるようになってる」

そう言いながら、男が向かった先は屋上だった。
そこから周囲を見回してみると、見晴らしのいいグラウンド以外の三方には厳重にフェンスが貼られているのが見える。

「たまにいるんだ。脱走を図る馬鹿な奴がな。そういうゲームとしてわざと逃がす時もあるが、
 そうじゃない限りは面倒事でしかない。山に逃げ込まれるとそれなりに時間と人が必要だしな。
 そんな訳で一応、屋上には見張りがいる。が……」

見張りらしき男は床に座り、壁に背中を預けて俯いている。

「あまり機能してるとは言えんな」

案内人は見張りに歩み寄っていく。
その足取りが一瞬停止して、それからすぐに、今度は駆け足になった。
案内人が見張りの肩を揺すると、その上体が力なく床に倒れた。

側頭部には小さな鎌が突き刺さっていた。
案内人が弾かれたように屋上の縁から周囲を見回す。
そして北側のフェンスに開いた大穴を見つけた。

「靖夫がやられてる!脱走だ!北のフェンスからだ!」

案内人はそう叫ぶと、君達を振り返った。

「悪いがここで待っていてくれ。なるべく早く戻る」

言うや否や、案内人は屋上から飛び降りた。

さて、この状況で、君達は何をしてもいい。
今現在、校舎の中の警備は薄くなっているだろう。
まだ殆ど案内はされていないが、何かありそうな部屋を特定する術はある筈だ。

また屋上の見張りがやられ、フェンスが破られていたという事は、この脱走には恐らく協力者がいる。
もし『鳥籠』の構成員よりも先にそれと接触出来れば、任務の助けになる――かもしれない。

校舎の北方面は、フェンスを出てすぐの所に道路がある。
その更に奥は、山だ。見上げるほどの山がある。
加えて近くには浅い川も流れていた。

もっとも見張りの死体を検める余裕があったのなら、君達はその頭部から流れた血が乾き始めていた事に気付くだろう。
つまり脱走からそれなりの時間が経っている。
脱走者達はもう目視可能な範囲内にはいない。追跡する為には一工夫、必要になる。



【愛玩人間の管理施設内にて自由行動タイムです
 今回、どちらのチームにも追加でレスを加えるかもしれません。ご了承下さい】

220 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/03/06(金) 21:54:02.50 0.net
時は出発前まで遡る。

挨拶をしてまわった岩男に対する反応は様々だった。
> 「……こちらこそ、よろしくね」
と向路。
「はい!よろしくお願いします!向路先輩!」
黒野から聞いていたのか、岩男は向路の事を把握していた。
そのノリは古きよき体育会系のソレである。
> 「ど、ドーモ新免=サン、流川です」
「よろしくお願いします!…あれ?君、学生なの?」
制服姿の流川を見て岩男が疑問を口にする。
> 「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですわよ、肩の力を抜くといいですわ」
と大鳳。
「は、はぁ………」
岩男は大鳳の顔をまともに見れなかったので視線を少し落とすが、
そうなると今度は彼女の豊満なバストに視線が行ってしまうため、岩男は猫背になった。
もしも次の機会に彼女と話す時は、天気の話をした方が良いのかもしれない。

最後に、そうとは知らないまま、挨拶をしたのは伏見狂華だった。
> 「いきなりで悪いけどさぁ、3つほど言いたいことがあるんだけど」
彼女が突如机をおもいきり叩いたものだから、岩男は背中に定規を押し当てられたかのように硬直してしまった。
「あっ、ハイ!!何でしょうか?」
> 「一つ、君さぁさっきブリーフィングの時いなかったよね?遅れることを黒野に伝えたとしても…第一声はあんな自己紹介じゃなくとりあえず『遅れてすいませんでした』じゃないの」
まったくその通りだ、と思った岩男はそのまま三角定規を押しつけられたように頭を下げた。
「ハイ!申し訳ありませんでした!」
> 「二つ、今は君の歓迎会じゃないしそんな政治家みたいに挨拶に回る必要は一切ない」
「ハイ!すみません!」
岩男の背中に押しつけられた三角定規が、30°から60°になった。
ところで、着任早々に叱られるのがショックではないと言えば嘘になるが、
前の職場で女性に叱られる経験は皆無だったので、岩男はちょっと嬉しいような気がした。
しかし、そんな気持ちもこの時までである。
> 「そして、最後、顔もロクすっぽみずに挨拶とかふざけるなよ
>  人として…いや、怪人だけど、最ッッッッ低限の礼儀でしょうが」
「ハイ!……いやぁ、すみません。なんだか女の人と顔を合わせるのは照れくさくて……」
とは言っても注意された以上、彼女の顔を直視しないわけにはいかない。
90°に曲がった岩男が少し顔を上げた直後、彼はアッ!と小さく叫んで後ろに退いた。
> 「もう殺人鬼にこんなこと言わせないでよね『警官崩れ』君…」
「俺は新免です!そういうあなたは…伏見狂華……!!」
岩男は口にするのも憚るように彼女の名前をつぶやく。
「そんなかわいい格好をしても、俺の目はごまかせれないぞ!
 伏見狂華!どうして死刑になったはずのあんたがここにいるんだ!」
岩男は丸腰だったが、まるで武士が腰にさした刀をまさに抜かんとするような構えをとった。
この行動は彼にとっては必然だった。
いみじくも彼女自身がそう言った通り、伏見狂華は殺人鬼であり、
岩男にとってそういう人間は宿敵であり、そしてこうして二人は出会ってしまったのだから。
しかし、黒野の介入により、丸腰の岩男が刀を抜くことはなかった。
> 「ありがとうございます、伏見さん。……岩男君、君のその我の強さは、私は嫌いじゃないです。
>  ですが使い所を間違えれば、それはただの毒だ。君にとっても、隊にとっても。
>  そして……私達が成すべき大きな目的にとってもです」
「黒野隊長!どうして………!?」
岩男は黒野が伏見をかばったように見えた。
岩男の困惑とは裏腹に黒野は淡々と岩男に言い聞かせる。
> 「もしその毒が、君から溢れて、私の隊を……任務の成功を危ぶませるなら。
>  私は隊長として君を守れなくなる。分かりますね?
>  彼女に叱ってもらえたのは、君にとって非常に幸運でした」
「俺が…幸運だって…!?」
黒野の言葉は、岩男にとって理解しがたいものだった。
一つだけハッキリしているのは、今伏見狂華に手を出すことは許されないという苦い事実があることだけである。
(俺が…幸運……?)
岩男はその言葉と伏見狂華の顔を反芻し、気持ちが晴れないまま他の隊員達と共に出動の準備にとりかかった。

221 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/03/06(金) 21:55:30.85 0.net
そして現在。

岩男は向路と流川の二人と共にトラックの中で揺られていた。
今回の作戦では、大鳳と伏見はいわゆる“売り物”として潜入するため別行動となる。
まだ気持ちの整理がつかない岩男にとってこれは福音だった。
「流川君…って言ったよね」
岩男が流川に話しかけた。
「君はもしかして未成年じゃないのか?君の家族は、君の仕事を知っているのかい?
 家族は、君のことをすごく心配しているんじゃないか?」

岩男は出発時からずっと膝の上に乗せていた箱を開いた。
中に入っていたのは警察官に支給される5連発のリボルバーだ。
とはいえこれは岩男が巡査時代から使っていたソレではない。
開発部が研究用に保管していたものを岩男が出発直前に拝借したのである。
岩男はずいぶん無理をしてもらったと心配したが、開発部にとってはやぶさかでもなかったようで、
「そんな装備で大丈夫か?」と心配してもらった上、グロックという見たことも聞いたこともない銃を勧められた。
しかし、岩男はその申し出を丁重に断った。
弾がたくさん入るとか、使いやすいとか、そういうことが問題ではなかったからだ。
岩男が官給品のリボルバーの弾倉を確認すると、弾はご丁寧にもきっちり5発装填されているのが見える。
岩男はそのうちの1発だけ抜き取り、その弾をトレンチコートのポケットの中へ無造作に入れた。
これは儀式である。少なくとも、今の岩男にとっては故人と自分とを繋ぐ儀式だったのだ。
戦うための儀式を終えた岩男は、リボルバーをショルダーホルスターにしまった。

「向路先輩、向路先輩はどうして戦うんですか?」
岩男が唐突に向路に聞いた。
「俺は、この世の中の悪と戦うために警察官になりました。
 だけど、本当に悪いやつらが警察内にもいることがわかって、そして気づいたんです。
 今のままでは、本当に悪いやつらを倒すことができない、って。
 だから支援局に入ったんです。……この仕事が綺麗事で済まないのは承知しているつもりです。
 だけど、向路先輩!俺は、俺は今度こそ、信じてもいいんですよね!?」

数時間の旅が終わり、岩男達は『鳥籠』の構成員に接触した。
黒野が構成員に“業務見学”を依頼する様子を岩男は一歩引いた位置から見ていたが、
岩男は黒野のように、にこやかに男と話すのは真似できないと思った。
きっと今の自分の顔は怒りと嫌悪で眉間に皺を寄せているに違いない。
だから男に案内される時、岩男はあまり顔が見えないように最後列を歩くことにした。

222 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/03/06(金) 21:58:07.72 0.net
案内されたのは何の変哲もない学校だった。
有塚町の雰囲気そのものがそうだが、そこは岩男がかつて通っていた田舎の小学校を連想させた。
岩男は小学生の頃、人間にいじめられていたので必ずしも良い思い出ばかりがあるとはいえない。
しかし人間にいじめられていた自分を救ってくれたのもまた人間だった。
だから岩男にとって小学校の記憶はとても大切な宝なのである。
そのため『鳥籠』の悪事の一端を垣間見せられた岩男は、自分の心を土足で踏みにじられた気分になった。
体育館に入った岩男がハンカチを口に押し当てたのは、むせるような血の匂いに吐き気を催したからではない。
狂気を狂気とも思わない目の前にいるこの男が、自分と同じ怪人であるという事実に吐き気を催したのだ。
人間と怪人が平和に暮らしていける世の中にするためには、こんな奴らは一刻も早く皆殺しにするべきだ。
岩男は改めてそう思った。

その時、事件が起こった。
>「靖夫がやられてる!脱走だ!北のフェンスからだ!」
靖夫というのは屋上で見張りをしていた男の名前らしい。
その男が側頭部に小さな鎌を突き刺され息絶えていたのだ。
案内人だった男が屋上から飛び降りるのを見届けた後、
岩男は自分の左手首から伸びた鋼の棒のようなものを右手で引き抜いた。
そこから現れたのは刃渡り約73センチ程度の反りの無い長剣だった。
手刀に切れ味を持たせるとか、肘から鉤爪を出すとか、そういうレベルの能力ではない。
直接、手で柄を持ち遣うことのできる鋼の武器を作り出す。それこそが岩男の能力なのだ。
岩男はしゃにむに屋上から下の階へ降りようとした。
彼が何かしようとしているのを向路も流川も察しないはずがない。
「何をするって?決まっているでしょう!
 俺達はここにいる悪党共を倒すために来たんだから!
 人間の命を大切にしないような奴らは、この俺が皆殺しにしてやる!」
岩男がこうして焦ったのには理由があった。
先ほど軍鶏のように戦わせられる人間を見たということもあるが、
この学校に本来通っていたであろう生徒がどうなったのか不安になったからだ。
しかしだからといって岩男が突撃しても良い結果になるはずがない。
岩男は隠密に向いていないし、感情を押し殺して敵にとり入るほどクレバーでもない。
真正面から突撃しても返り討ちにあうのが関の山である。
だから本来岩男がやるべき事は、警察官としての経験を活かして息絶えていた見張りの男を検死することなのだ。
見張りとはいえ曲りなりにも『鳥籠』の構成員である。もしかすると有益な情報が得られるかもしれない。

【出発前:伏見に襲いかかりそうになるが黒野に諌められる。
 移動中:雑談と官給品リボルバーの確認
 現地到着:案内人がいなくなった後に突撃しようとする。】

223 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/03/09(月) 17:25:13.42 0.net
>「……大鳳家の人間が裏稼業の取引に、か。まぁ……悪かねえ。(以下略)
>「つー訳で、テメェら二人共商品な。せめてこんくらいはしねえとな。目立ってんなら、逆手に取りゃいいんだよ」

「有名というのも罪なものですわね。ですがそれくらい甘んじてお受けしますわ」
元々大鳳自身普通に潜入することに対しては無理があると感じてた。
だからこそこの商品扱いでの潜入という案に対してはすんなりと受け入れたのだ。

その後喝堂の後につき、屋外のトラックへと足を運びその荷台の容器が目に映ると、眉を潜めた。
「あの時は意識していませんでしたが、大層悪い趣味ですこと」
そうやって露骨に顔を歪めていると、同期であるたかゆきが彼女達に近づいてきた。

>「二人は今回は商品って事なんで、コレ、装備して欲しいッス。勿論今じゃないッスけど」
>「そんでコレはえーと、超小型……は見ての通りなんスけど。(略

拘束具やイヤホンの説明、そして装備の装着を済ませ、荷台へと踏み入れようとする。
「居心地悪いことありゃしないですわ……」
>「あ、あとその赤ん坊は支援課で作ってもらったニセモンッス。あんま気にしないで欲しいッス」
にかりと笑うたかゆきの言葉に少しばかり安心していると、喝堂が恨めしそうなため息を吐いていた。

「もっとも、そうだと分かっていても趣味が悪いことに変わりはありませんけど……」
荷台の適当な場所に座りツンツンと赤ん坊の容器をつついていると、トラックが目的地に向けて発進した。

224 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/03/09(月) 17:26:32.98 0.net
>「――おい、商品組。もうじき岐阜県に入る。そろそろ拘束具を付けて商品っぽくしててもらうぜ」
荷台であぐらをかきながらうたた寝していた大鳳に、たかゆきが声をかけ枷を掛けていく。

「準備が終わったならもう一眠りしますわ」
その小一時間後、寝転んでまた一眠りしていた大鳳の身体が乱暴に地面に転がされた。
唐突に眠りを妨げられたイラつきからか、とてもガラの悪い人相で周囲を睨んだ。
傍から見れば無理やり連れてこられても反抗的な目を向け
あくびを噛み殺す仕草も唇を噛み締め悔しさに震えているように見え
さぞ虐め甲斐がある女性に見えたことだろう。

(とりあえず着いたみたいですわね……任務とは言え、これは癪ですわね)
イラつきながら任務の為沈黙を続けていると、取引相手と黒野が邪悪な笑みを浮かべながら交渉をしていると
商談が纏まったらしく、伏見と共に目隠しをされまた移動が始まった。

自分の身体をいいように動かされる不快感につい枷を壊しそうになる衝動を抑えていると
突然自分の身体が宙に浮いた感覚、そしてその直後身体に衝撃が伝わった。

>「よう、お嬢ちゃん達。そこはウチのスイートルームだ。後でルームサービスもくれてやるぜ」
頭上から下品な声が聞こえる方を、目隠しの隙間から覗くと、自分たちが穴にでも落とされたのだと嫌でも認識した。

「全く……レディの扱いがなってませんわ」
見張りがこちらから目を離したことを確認すると、早々に枷を外し伏見の方を向く。
「それで、これからどうします?私としてはさっさと外に出たいのですが」
事実これくらいの縦穴なら壁蹴りをしながら登れるのだ。ただし今回は伏見がいる。
「あなたにも色々考えがあるでしょうし、そちらの意見を聞いてからでも動くのは遅くないですわ」
何よりこういう任務に関しては伏見の方が要領良く作戦をまとめることができるだろうと思ったからだ。

【伏見に相談。こちらとしてはさっさと見張りを無力化して探索へ向かうことを希望】

225 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/09(月) 18:37:26.49 0.net
> 「いきなりで悪いけどさぁ、3つほど言いたいことがあるんだけど」(以下略)

新免と名乗った新人を叱り飛ばす伏見に感嘆の目を向けつつ、同時に恐怖を覚えた。
こうして常識人振りを発揮していることが、死刑を逮捕後即執行されるまでの殺人を犯したことの異常性を際立たせている。
その服装がゴッスゴスのフリッフリなのも拍車を掛けているのかもしれないが。
……なんにせよ彼女は同僚で、しかも能力、メンタルともに非常に頼れる。
いざ、もしも、というときの為にもこの苦手意識はどうにかしなければ……とは、思うのだが中々消しきれない。

一方で、伏見がああして指導しているのは見習うべきなのだが、
それが次に生かされるかはわからないのに、と思ってしまうところもある。
次を思うなら、ここで隊長に力で叩き伏せられていた方が良かったのでは、とすら。
何故なら彼はまだ任務経験すらない。素人に毛が生えたような状態だ。
配属された職員は初回任務で耐えきれず強襲課を外れることもあるし、それで済むなら良い方で当然のように殉職だってある。
いきなりこんな癌化地域へ飛び込む危険な任務では……さもありなんというものだ。
また、初回任務参加者の離課率から、必要以上に接触を持ちたくないという我が侭な思考も向路にはあった。

>「もしその毒が、君から溢れて、私の隊を……(略)彼女に叱ってもらえたのは、君にとって非常に幸運でした」
>「俺が…幸運だって…!?」

新免は伏見に続いて、直属の上司である黒野から念押しを言いつけられている。
しかし、黒野の言葉の意味もいまいち理解できていない様子に、溜息を吐きそうなるのをぐっと飲み込む。
経験を積んで、視野を広く持つようになればマシになってくる筈だ。
……そうならないなら、死ぬだけだろう。

>「フルスターリさんってまだ生きてますよね?(略)…納入業者としてなら市場の深くまで切り込めると思います」
>「……いい発想ですね。実にいい」
>「その案で行きましょう。人数に関しては、今回の荷物の貴重さを考えれば不自然ではない筈です」

……新免に思考を持ってかれているうちに、作戦が纏まったらしい。
喝堂等と共に、船の連中に成り代わって有塚村に入り込むプランになったようだ。
伏見、大鳳は商品として。自分達は運び人側として行動するらしい。
恐らくこちらは斥候として敵地へ入り込むのだろう。
敵に姿を晒して立ち回る以上、挙動一つで商品組、ひいてはこの任務自体を危険に晒しかねないわけで……。

>(「だ、大丈夫ですって!(略)よろしくお願いしますね、向路さん」)

恐らく隊分けも必須、先程流川に言われたフォローにならないフォローがリフレインする。
……ああ、胃が痛い…………。

226 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/09(月) 18:38:37.71 0.net
──────────────────────────────────────────────────────

>「向路先輩、向路先輩はどうして戦うんですか?」
> 「俺は、この世の中の悪と戦うために警察官になりました。(略)俺は、俺は今度こそ、信じてもいいんですよね!?」

有塚村に向かう車内で、唐突に新免に話しかけれドキリとした。
これが、はい/いいえで答えられるものならそれで終わりにしたのだが……面倒な質問をされた。
いや、質問自体は単純、支援局へ勤めることになった経緯を言えばいいだけだ。
問題はその質問をした動機……どうやら新免という後輩は中々どうしてロマンチストらしい。
……そういうのは、あと5歳若い内にマヤカシだと気付いて欲しいものなんだが。

「別に、進路相談に支援局何回か行く内にそのまま勤めることになっただけだからな。
 敢えて言うなら、怪人特性を生かす為に戦ってるよ。
 ……もし、今から会いに行くような奴らに誘われてたらそっちに行ってたかもしれないな」

最後の一文は嘘だ。
嘘だが、新免の理想とやらを砕いておかねば……黒野の言う毒が溢れる前に。

「新免、なにを期待してんのか知らないけどさ、僕ら……強襲課なんてところは公的殺人集団なんだぜ?
 悪とか正義とか信じるとか、そんなもん無いよ。
 行って殺して帰って寝るのが仕事の、神も仏もない仕事さ」

口悪く言って、それっきり向路は口を噤んだ。
向路としてはこれで新免が意気消沈することを期待したのだが、効果は殆ど見られなかったようだ。
わざわざ職員達も課も下げる言い方をして、向路の心がささくれるだけに終わった。
──────────────────────────────────────────────────────

>『向路班、聞こえますか』
>『私も、そう何度も通信を行う訳にはいきません。基本的には君達の判断に任せますよ』

黒野からの通信に無音を答えとしながら、案内の男についてやってきたのはどうやら学校施設のようだった。
今はその機能は失われ、監獄のような様相になっているが。

>「ここは商品を総合的に管理する場所だ。俺達は『ファーム』と呼んでる」

……監獄のよう、というより監獄そのものだったらしい。
このまま管理中の商品紹介でもしてくるのか、と思ったが、校舎へ入るつもりはないようだ。
そして向かった先は体育館。 👀

227 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/09(月) 18:41:18.49 0.net
>「俺達は商品の事を便宜上は愛玩人間と呼ぶが、人間の用途は何も愛玩だけには限らない」 >「例えばこうやって殺し合わせて、見世物にしたりな。(略)…ちゃんとそれ用の人間同士を戦わせると怪人の俺達でもなかなか楽しめる」

そこでお披露目されたのは、商品の実演兼生産の様子だった。
悪趣味極まるその行いには反吐が出る思いだが、それを顔に出しはしない。無差別級ですか、なんて下らないことを言って口角を上げる。
……そうしなければ、口がへの字になってしまいそうだからだ。

>「ま、それでもこうやって殺し合わせて、…(略)…そういう層に格安で売ったりもしてるな」
>「ここには人間を飼育する為の設備が揃えてある。(略)愛玩、闘人、食用、業務用、大抵の用途は仕込めるようになってる」

案内の男が喋るのに合わせて適当な相槌を入れながら、延々と階段を上がる。
先程のような光景を見せられ続けるのもたまらないが、これはこれで分かることが少なすぎる。

>「たまにいるんだ。(略)が……」
>「あまり機能してるとは言えんな」

男が三人を連れてきたのは屋上だった。
初めに体育館、そして屋上。……メイン棟の校舎内は見せる気はないらしい。
居眠りしているらしい見張りへと駆け寄る案内人を横目にこの学校施設を囲む環境を確かめていると、何故か案内人が激しく立ち上がり、キョロキョロと周囲を見渡しだした。

>「靖夫がやられてる!脱走だ!北のフェンスからだ!」
>「悪いがここで待っていてくれ。なるべく早く戻る」

案内人はそう叫ぶと屋上から駆け降りていった。狙い澄ましたようなイベント発生。
ただの人間、それもここで捕らえられている、怪人への恐怖を叩き込まれているであろう人間に怪人殺しが出来るとは思えない。
自分達より先に潜入した怪人がいたのか、なんらかの罠か……兎に角、監視がない今は好機のあるはずだ。
一端校舎内に戻ろう、そう言おうとして向路は我が目を疑った。
新免が武器を手にしているのだ。

228 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/09(月) 18:42:24.04 0.net
>「何をするって?(略)人間の命を大切にしないような奴らは、この俺が皆殺しにしてやる!」

「ッッ…………クソが」

車内での答えは悪手だったらしい、逆に新免を焚きつけてしまったようだ。
……皆殺しにしてやる、なんて警官になろうと思っていた奴が言って良い言葉ではないだろうにと、
向路は自分の発言の軽率さに舌を打った。
……兎に角、分隊長としてはここでウダウダしていられない。

「……悪い、流川、そこの死体の検死頼むわ。
 もし、アレが生きてるなら新免が言ったの聞いちまってるだろ。
死んでるって確信出来なけりゃそう思えるまで殺してくれ。
 それが終わったら……校舎内、だけでいい。思うように見てきてくれ。
 『鳥籠』の連中に怪しまれないようにだけ気をつけてな。
 僕は……ちょっと行けねェわ。
 ……あともう一個、耳借りる」

いつ頃コトが起きたのかの確認と、罠の場合被害を最小にするために検死を頼む。
本当にアレが死んでいるならそれで良い。そのまま探索に向かってもらう。しかし悪い方も考えておかねば。
先程案内人はわざわざ声を張り上げていた。この施設の連中は通信機の類は使用していない、と考えるのは楽観的だろうか。
しかしもう言ってしまったことは仕方がない、これ以上悪くしないことが大事なのだ。
アレだけが聞いたのなら、アレだけを殺せばいい。
あの見張りを殺したことを咎められたら、先程の拳闘を見て高ぶり
死体でも殴りたかったとでも言えばいい。
小声で、且つ早口で流川に指示を出すと、おもむろに流川の頭を傾げさせその耳元に口を寄せる。

「……黒野隊長、すみません。先に謝っておきます。悪いことになるかもしれません」

向路は苦々しげにそれだけ言うと流川の耳から顔を離し、ぐっと身を下げたかと思うと一陣の風を残してそこから消える。
そして、次の瞬間に校内へ通じる扉の前に現れた。

「新免……、今すぐそれぶっ壊して流川について偵察行くのと、今ここで死ぬの、選ばせてやるから3秒で決めな」

折り畳み、シルバーアクセサリーに偽装してベルトの両サイドに留めているグローブへ手をやりながら、新免へ言い放つ。
……これではい分かりましたと言うタマならば、そもそもこんなことはしないよなぁ、なんて思ってしまうが、脅して従うのならそれで良い。
力付くにでも、彼の心を折ってでも、新免を制御する。それがまず目標だ。
今、任務を乱されることより悪い結果にはならないだろう。

【流川へ指示出し/新免へ脅しつけ。場合によっては武力行使】

229 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/03/09(月) 23:05:21.23 0.net
自分の背後で向路が流川に何か支持しているのを意に介さず、
岩男は校舎内に通じる扉へと迷わず歩いて行く。
その時、一陣の風がふき、まるで瞬間移動でもしたかのように目の前に人影が現れた。
誰であろう、背後で話していたはずの向路である。
> 「新免……、今すぐそれぶっ壊して流川について偵察行くのと、今ここで死ぬの、選ばせてやるから3秒で決めな」
> 折り畳み、シルバーアクセサリーに偽装してベルトの両サイドに留めているグローブへ手をやりながら、新免へ言い放つ。
それが何を意味するか、理解できないほど岩男は鈍感ではなかった。

岩男は向路の目をまっすぐに見た。
しばし睨み合い、そして岩男は手にしていた剣を鞘に収めるように、
ゆっくりと左手首に挿入し、自分の体へ還した。
「向路先輩、教えて下さい!
 さっき車の中で話していたことですが……
 もしも先輩が『鳥籠』に誘われていたら、やつらの仲間になっていたかもしれないって言ったのは…
 あれは先輩の本心なんですか!?」
岩男は懐から拳銃を抜いた。向路を撃つためではない。
その証拠に、銃口を天に向けたまま岩男はゆっくりと地面に置き、
床の上を滑らせるようにして流川の方向へと放った。
そして、向路に対して半身になり、空手らしき構えをとる。
「あなたを倒さないと先に進めないというのならば!俺はそうさせてもらう!」
岩男の体に、ちょうど向路が装備しているグローブとブーツによく似た、
鋼鉄の籠手と膝から下を覆う具足が現れた。
決して岩男は向路を侮辱しているわけではない。
徒手で戦う向路に対して剣や銃を向けるのはフェアではないと岩男が思ったからである。

「やあああああああっ!!」
雄叫びを上げながら岩男が向路に襲いかかった。
鋭いパンチと蹴り、それはどれも体育館でみた二人の男と比べられないくらい洗練されていた。
だが、それはせいぜい普通に鍛えた人間として見るならば、である。
身体強化型の怪人である向路にとっては、児戯に等しい技に見えるだろう。
「向路さん!正義も悪も無いならば、生きるってなんですか!?
 神も仏もいないなら、命って何なんですか!?」
岩男の攻撃は向路にかすりもしないだろう。
だがそれでも岩男は攻撃をやめない。
「俺はあなたを悪人だなんて思いたくない!俺を…信じさせてくれええええッッッ!!」
岩男は向路に向かって捨て身の飛び蹴りを放った。

【剣と銃を武装解除する。なぜか銃は流川の方へ放られる。鋼鉄の籠手と具足を装備して向路に襲いかかる】

230 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/03/10(火) 23:06:46.81 0.net
まさか何となく思いついた案が通るとは思ってもいなかった。
まぁよくある話の一つな訳だし、八つ当たりに殺されるよりかはマシかな
という訳で、私は大鳳と偽愛玩人間と共に荷台に詰まれた。
「…ッ!」
車が動き出した瞬間、思わず壁を叩く
これはただ単なる八つ当たりだ。
「あぁ〜あいつ超むかつく」
せっかく庇ってやったってのに何なのあの態度、黒野さんが止めてなかったら間違いなく手を出してきたよね。
そりゃ私は殺人鬼だったけどさ、TPOぐらいわきまえろって感じだわ
まぁああいうバカはほっといても勝手にやめるか殉職するだろうけどさ
せめて流川ちゃんとムロ君には迷惑をかけないことを祈るわ
そんじゃ、やることもないし一眠りでもしようかな

>「――おい、商品組。もうじき岐阜県に入る。そろそろ拘束具を付けて商品っぽくしててもらうぜ」
「…あいたたた、やっぱり変なとこで寝るもんじゃないな」
そんなことを言っている間にたかゆきが手際よく枷をつけていく
せめて、背伸びぐらいさせてほしいよ
とその時、車が止まった。
多分目的地…というよりも、連絡係あたりと落ち合ったと見ていいか
会話の内容はよく聞こえないが、特に目立ったトラブルも無さそうだね。
「うぉ…まぶしっ」
不意にあけられた扉から差す光に目がくらんだ瞬間、乱雑に地面に転がされた。
車のライトかなんかわからないけど眩しくて辺りの様子が見えない
とりあえず、声のするほうに視線を向け、微笑んで見せる。
>「……ソイツらは、本物なのか?」
「あっは、ならこの拘束を外してよ、ここにいる全員『で』私が私であることを証明してあげるからさぁ」
とか言ってみるけど、うん誰も構ってくんないや
まぁいいや、それっぽく見えたろうし後は流れに身を任せるだけだ
その後、私と大鳳は目隠しをされ、やつらのアジトっぽいところへ連れてかれた。

「あいたたた…随分と乱雑だねぇ」
尻を擦りながら私も枷を外した。
「こりゃ…まるで羊たちの沈黙だね」
まぁ映画では穴にいれられていたのは議員の娘だったけどね。
>「それで、これからどうします?私としてはさっさと外に出たいのですが」
>「あなたにも色々考えがあるでしょうし、そちらの意見を聞いてからでも動くのは遅くないですわ」
「せっかちだなぁ…ちょっとは深呼吸でもして落ち着いたらどうなのさ」
余裕がないってよりかは若干イラついてんのかぁ?
好き勝手にどうぞ…なんて冗談でも言えないわ
「そうだねぇ…とりあえず、まずは情報収集かな?」
ここがどこで、何をする場所で、敵がどれだけいて…と知っておかなきゃいけないことがそこそこあるわけで
おもむろに視線を穴の上に向けた。
「ねぇ…お腹すいたんだけどルームサービスはまだなの!?」
あえて呼びつけるようなことを言ってみる。
「早くしないとさぁ…取り返しのつかないことになるけどいいの?
 ほらぁ、よくある展開じゃん、ガチガチ固めた拘束が外れてって奴ぅ…」
見張りが大慌てで来る最中、大鳳に耳打ちする
「見張りが来たら穴に引きずり込んで情報を聞き出す、まずはそれからってことで…あとそれっぽく叫んでほしかったりして」

【見張りを穴に引きずり込んで尋問】

231 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/12(木) 23:15:27.57 0.net
>「ねぇ…お腹すいたんだけどルームサービスはまだなの!?」

「あぁ?ねえよんなもん。テメェも怪人なんだろ。だったら飯くらい食わなくたってそうそう死にやしねーしな。
 ……ま、ただの人間だろうと飯はねーんだけどな。その方が静かになっていいからな」

見張りは顔も見せずに、小馬鹿にしたような口調でそう答えた。

「ま、どうしてもって言うなら水だけはやってもいいぜ。俺達が催した時だけだけどな」

下品な笑い声が岩壁に反響する。

>「早くしないとさぁ…取り返しのつかないことになるけどいいの?
  ほらぁ、よくある展開じゃん、ガチガチ固めた拘束が外れてって奴ぅ…」

「なぁに馬鹿な事言ってんだ。出来るもんならやってみろよ」

二人の見張りはまるで伏見の言う事に取り合おうとしない。
だが大鳳の――彼女の演技力が未知数とは言え、悲鳴が聞こえれば確認しない訳にはいかない。
彼らは慌てて、或いは怪訝そうに縦穴を覗き込む。

伏見と大鳳が二人の見張りを穴に引きずり落とすのは容易い事だろう。
肉体強化に長けた大鳳は勿論、手足が自由なら伏見でも登って出られる程度の突起が壁面にはある。
でなければ保管した商品を取り出す際に手間だからだ。

彼らは丁度よく、恐らくは懲罰や脅しの為に用いる山刀を持っていた。

さて、そうして引きずり落とされた二人の見張りの内――生かしておくのは一人だけで十分だ。
両方生かしておく事によるメリットは、騒ぎ立てられて今後の行動に支障が生じるリスクに釣り合わない。
早々に殺される事になる一人は――恐らく幸運なのだろう。

「――ま、待て。妙な真似はよせ。どうせここからは出られない。
 それにお前らはレア物として出品されるんだ。金持ちのコレクションとして、安全に生きていける。
 無駄な抵抗をして五体不満足にされたってしょうがないだろう?な?」

生かされた方の見張りは、君達の言葉を待たずしてそう言うだろう。
だがそれから加えられる尋問の程度によっては、更に幾つかの情報を語る筈だ。

例えば今いる場所が元は坑道で、現在は改装され監獄として使われている事。
収容されているのは出品予定があり従順にしておきたい商品や、素行不良の商品。
また鳥籠に反発的だった怪人と、親しかった者である事。
ここに家族や友人がいる為に従わされてる怪人も、鳥籠内にはいる事。

その性質上、ここには警備が不可欠で、交代制で常に十人以上の怪人が待機している事。
今は特に多くの警備が配置されている事。

坑道の内部構造は複雑で、口では説明が困難な事。
しかし少なくとも警備用の待機室、調理室、機械室、囚人達の監房がある事。
待機室は複数あり、その内の一室は坑道の出入口の前にある事などだ。

「な、なぁ、分かっただろ?ここから逃げ出すんなんて出来っこねえんだ。
 もし出来たとしても、山ん中から町の外まで、どうやって逃げる気だ?
 無理なんだよ。だから、もう勘弁してくれよ。頼むよ」

君達は引き続き何を目的に行動してもいい。
坑道内は複雑な構造をしているが、目当ての部屋がどちらにあるのか。
まるで推察出来ない訳ではない筈だ。

232 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/13(金) 17:13:13.70 0.net
動き始めるまでにたっぷり三秒使ったが、新免が武器を仕舞う動作をとったことに向路は安堵しかけた。
だが、新免の目には諦めた様子がまるでない。……どうやらまだ気を治めるつもりはないようだ。

>「向路先輩、教えて下さい!(略)あれは先輩の本心なんですか!?」

「……さァ、どうだろうな。好きに解釈しろよ」

敵陣の真っ直中でなんてことをデカい声で……。
それにこういうノリでは、いやあ冗談でしたとは言えまい。
曖昧に濁しながら、向路は両手で開き、閉じを繰り返しグローブを手に馴染ませるフリをする。
とりあえずは武器を仕舞い、問答を求めてきたのだから必要以上の血を見ずに解決できるだろうか。
向路は一瞬そう考えたが、それはすぐに裏切られる。

>「あなたを倒さないと先に進めないというのならば!俺はそうさせてもらう!」

この瞬間に、新免は個人としての向路の神経を逆撫でした。
あたかも向路を倒せるのが前提とでも言うような新免の口振りに、向路の目から温度が消える。
ワザワザ懐に仕舞っていた銃まで捨てて、徒手空拳のスタイルを取ったこともだ。
こんな右と左どころか、自分が立っているのか座っているのかも分かっていないような未熟者が、自分を舐めていると言うのなら、

「……見せてみろよ、ド新人」

ねじ伏せる。

>「やあああああああっ!!」

新免の拳に右手を添え、勢いを反らして空振りさせる。体の末端たる手足にこんな重量物を身に着けていれば、軽く去なすだけで大きく崩れる。
そんな崩れた姿勢からの蹴りは既に死んでいる。出が遅い、連動がない、なにより狙いが散漫だ。
軽く左手で受け止め、その手で弾き落とす。
警官をしていたと言うだけあって出来ないわけではなさそうだが……はっきり言って手緩い。

233 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/13(金) 17:15:22.75 0.net
本来ならば、怪人同士の戦闘において攻撃を受けるというのは悪手である。
高温、放電、毒の分泌や瞬間的な肉体変化など、攻撃の接触時に受けるリスクは多種多様だ。
また、向路含め肉体強化型怪人は防御力をそれほど底上げできない。
故に、どんなものであっても攻撃には回避行動を取るのが最善なのだが……、今回ばかりは、その全てを潰していく必要がある。
大鳳のように、正面からより大きなパワーを持って押さえ込むようなことは難しいが、向路の怪人特性でもやりようはある。
瞬発力を持ってして攻撃の出始めに反応、途中段階で崩し、不発状態にすることで無力化するのだ。
「避けられなければ勝てたかもしれない」なんて言う温い期待も持たせはしない。
ここで思い知って貰わねばならない。

>「向路さん!(略)神も仏もいないなら、命って何なんですか!?」

「……生きるのに正義も悪もあるかよ。
 神仏なんてそんなもん、縋りてェなら縋りゃいいじゃねえか。命と関係ねェだろ」

新免の打撃を受け、去なし、弾き、叩き、反らしながら、身も蓋もなく冷たく言い返す。
二十歳まで行っているのなら、こんなことを聞くのも止めて欲しいと思うが……まあ、いい。

>「俺はあなたを悪人だなんて思いたくない!俺を…信じさせてくれええええッッッ!!」

「そんなもん好きにしろや、馬鹿野郎が」

攻め倦ねていることにじれたのか、一旦距離を取った新免は叫びを上げながら跳躍する。
手足に重しをつけてよくだな、などと思いながら、手を前に構え迎撃姿勢を取る。
破れかぶれの跳び蹴りなど、カウンターしてくれと言っているようなものだ。

「手に詰まってやることじゃあ、ねェな」

こんな大味な攻撃は身を一歩引くだけで威力は半減し、隙は倍になる。しかし、これも正面から打ち落とす。ここで、折ると決めた。
飛び込んでくる足を掴んで下に押し込む。崩れたバランスを取ろうと背が丸まり上体が起き上がってくる。
同時に向路は懐に入るように一歩踏み込み、手を新免の胸が来るであろう位置に緩く構え、フッと短く息を吐いた。

「ッ……!」

新免の胸に掌が触れる瞬間、全身の筋肉を引き絞る。
足から腰へ、肩へ、肘へ手首へと向路の持つ瞬発力が伝播する。これは打撃ではない。衝撃そのものを叩き込む。
所謂、寸勁と呼ばれる中国武術の奥義を怪人向路深先のバネを持って無理矢理に再現しているのだ。
形は未熟であっても、全力ならばその身体から放たれる衝撃は人を殺すには十分過ぎる。
今回は肺を潰さぬよう加減してはいるが、肋くらいは折れたかもしれない。
新免の体は一瞬宙で静止し、まもなく床へと墜ちていった。

234 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/13(金) 17:15:54.79 0.net
「未完成なりに、悪かァないか。……オラ、寝てんじゃねェぞ新免」

超接近戦の他、打撃の通りにくい怪人と相対したときのために磨いている技だが、まだ目指す域には到達していない。
まあ、今はそれほど威力が必要だったわけではないのでいいのだが、実戦で使うにはもう少し練り上げる必要がありそうだ。
と、閑話休題。

「いい歳して青い鳥探ししてんじゃねェよ。
 まだくだらねェこと言うようなら、次は全力でかます」

新免の眼前に手を伸ばし、これ見よがしに拳を握り込む。
その目つきは明らかにヤる覚悟を持っているように見えるが、内心向路は溜息の吐き通しだった。
結局、新免を物理的に倒しはしたが、彼の心にブレイクスルーを起こせていない。
これでは一旦新免を諦めさせても、問題の芽は残り続けるだろう。必死に頭を捻り、言葉を絞り出す。

「……新免、正義だとかそんなもんはなァ、他人が勝手に決めんだよ。そいつのエゴが自分の側なら正義、逆なら悪だ。
 だから新免、てめェは悪だ。僕基準でな。そして『鳥籠』連中と、とっ捕まってる連中にとってもそうだろうな。
 てめェのエゴを満たしたいだけなら、誰の迷惑にもならない所でやってくれ」

……これで、良いのか悪いのか。
新免をとことん否定して、現在の価値観を破壊出来たとしても、それが再構築できなければ彼の今後に関わるだろう。
別にそこまで気にしてやらなくても良いのだが……代理であっても隊を預かっているのだからそれなりの姿勢を見せなくては。

「ま、折り合いがつかねェなら大鳳さんと話してみろや。
 あの人が『超人』っつー呼ばれ方をすんのは単に強いからだけじゃねェ。
 ……ただ、初対面時みてェなフザケた態度はとんなよ」

……他人に任せるのも、アリなはず。

235 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/03/14(土) 04:41:13.26 0.net
<「せっかちだなぁ…ちょっとは深呼吸でもして落ち着いたらどうなのさ」
「うっさいですわよ……」
図星を指された大鳳が頬をぷっくりと膨らませていると、
やれやれといった様に伏見が案を出し、すぐさまそれを実行すべく上の二人に声をかけた。
だが、監視者達はそれに取り合うことはなく、ただただ嘲笑しているだけだ。
>「(略)まずはそれからってことで…あとそれっぽく叫んでほしかったりして」
「仕方ありませんわね。演技というものには自信がありませんが……」

大鳳は自分の喉元に右手を被せ、大きく息を吸い込む。
「う”っ、んっ」
少し喉を整えたのち、彼女は右手で自らの首を締め、叫んだ。
「え"え"え"ア"ア"ア"ア"アァァァヴぇえ"え"え"え"え"エ"エ"エ"ェェェェ」
死にかけのカエルのような、聞くものを不安にさせる声と読んでいいのかすら怪しい代物が洞窟内に木霊する。
とはいえ、上の二人が寄ってくるには十分な『音』には間違いなかった。

二人が穴に近寄ってくる足音を確認すると、伏見の方へ顔を向け、グッとサムズアップを決める。
「それではもう一仕事してきますわ」

二人が穴を覗き込む直前に、大鳳は足の筋力を強化し、壁をジグザグに蹴り上げ穴の上へと跳ぶ。
それにより、丁度穴を覗き込んだ二人と横の軸が合致する。
「穴の中まで、エスコートして差し上げますわ!それと凶華!少し隅に寄ってくださいませッ!!」

言うやいなや大鳳はスカートを翻しながら身体を地面と水平方向になるように捻り、見張りの一人の首に自分の膝裏を引っ掛け、
もう一人の腕を掴むと、空中で身体を起こしそのまま自由落下し、大きな音を立て着地した。
幸か不幸か膝に首を挟まれた男の首は落下の衝撃をフルに受け止めねじ切れていた。
「地獄の断頭台、やってみれば案外すんなりできるものですわね」
もはや動かなくなった男の肢体をよそに、掴んでいる生き残りを眺める。
もう片方といえば、突然の事態に動転し、まともに声も出ないようだ。

「さて、それでは後は任せますわ。拷問尋問は得意でも趣味でもございませんので」
そう言って大鳳は男を伏見の方へと放り投げる。
戦闘において相手を蹂躙することはあっても、戦闘以外でそういったことをするのが苦手な大鳳は
男が何かしないか監視する程度にして、後は伏見に任せた。

――――――――――――――――――――
伏見が情報を引き出し終えたと判断したところで、

「……どうします?私としては囚われている方々を開放できたらと思うのですが。
実際ここを守る怪人の強さが未知数ですし、そもそもこんなところで手間取るよりは混乱させたほうがいいと思いますし」
そうやって案を切り出していると男が命乞いをし始めた。
>「な、なぁ、分かっただろ?ここから逃げ出すんなんて出来っこねえんだ。(以下略)
「情けない。男なら覚悟を決めるなり腹括るなりするところですわよ。」
呆れ顔になりつつもこの男の処遇を考える。
「で、この男はどうします?ほっておいても厄介ですし、いっそのことここで始末してしまった方がよろしいのではなくて?
正直私はこういう策を巡らすのは不得手ですし、凶華の方が心得ているでしょう?」

【囚人開放を提案。混乱に紛れてなんやかんやする。男の処遇はここで始末?】

236 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/16(月) 01:59:28.56 0.net
>「その案で行きましょう。人数に関しては、今回の荷物の貴重さを考えれば不自然ではない筈です」

どうやらそれぞれの提案のいいとこ取りでプランはまとまったようだった。
伏見と大鳳がそれぞれ拘束具をつけて商品を演じ、市香と向路と新免が黒野について業者役。
素肌に背広着たオールバックの喝堂が……なんだコレ?
待機室から車庫へ続くシャッターが開かれ、既に暖気状態のトラックが鎮座していた。
これで現地まで赴くらしい。

「えー新幹線使わないんですか?羽島のれんこん天丼楽しみにしてたのに!」

なんだかんだと市香は初めて行く岐阜県にノリノリであった。
生憎と岐阜は大した名産もないが(マジで)、新幹線の停まる羽島駅周辺は蓮根料理がオススメらしい。
あとは朴葉味噌と鮎ぐらいなものだが、鮎は時期じゃないし、朴葉味噌はその場でパクつくものじゃない。
内陸県は食事がマズいという定説が一気に信ぴょう性を帯びる今日このごろである。
かと言って特に見るべき文化財もせいぜい合掌造りしかなくてさるぼぼ?は?なにそれ?みたいなもう最悪。

>「ソイツも荷台にブチ込んどけ。おい黒野、テメェが運転しろ」
>「では喝堂さんは周囲の警戒をして下さいね。荷台の上で」

再びビシイッ!と見えないムチが空気を叩く。
市香は慌てて両者の間に挟まった。

「あ、わたし助手席でナビしますよ!地図持ちます!」

これから始まる高速使って数時間の旅、一体何人胃潰瘍になるやら。


【有塚町・『鳥籠』保有施設】

「おしりいたい……駿河丼……かきあげおそば……」

トラックが目的地で停車した頃、市香は必要以上に疲弊していた。

理由その1。車内の空気が最悪。
黒野は他所の上官でコワイし、向路もおしゃべりな感じじゃないし、新免はなんか暗いし。
まだ仲悪い連中がそれぞれ車室と荷台に分かれていて不幸中の幸いだ。

理由その2。休憩なし。
途中サービスエリアに1、2度寄っただけで、それもトイレとガス入れの5分だけ。
トラックの運転席は想像以上に揺れて、エコノミークラス症候群待ったなしである。

理由その3。これが一番つらかったのだが――ご当地グルメを目の前にしての生殺し。
前述のとおり殆ど休憩を入れず、昼食も予め積んであった冷えた弁当だけだったが、
新東名高速のSAには数々のB級グルメののぼりが出ていて――静岡入ってからは特に――市香の心に突き刺さった。
しかし流石に黒野相手にちょっと寄って美味しいもの食べましょうよとは具申できず、涙をのんで見送った。
まあ荷台に乗せた商品組を乗せ降ろしするのは目立つから、しゃあないっちゃしゃあないのだが。

>「君はもしかして未成年じゃないのか?君の家族は、君の仕事を知っているのかい?
 家族は、君のことをすごく心配しているんじゃないか?」

道中、新免がぼそりとそう零した。
あまりにもナチュラルに呟いたので、最初市香は自分に話しかけられてると気付けなかった。

「そりゃ親も姉も知ってますよ、自慢しましたもん。
 ノンキャリとは言え、国家公務員ですよ?人生安泰じゃないですか――死ななければ」

手の付けられない跳ねっ返りで前科一犯の市香の思わぬ社会復帰に両親は微妙な顔で祝福してくれた。
実働隊の殉職率は一般人でも少し調べれば分かるが、市香に就ける最大限まともな職だと理解していたのだろう。
逆に大学生の姉はすごく喜んでくれた。
身内に前科持ちがいるせいで閉ざされていた将来が、市香の就職で開かれたのだ。

237 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/16(月) 02:00:01.87 0.net
そうして市香の雑な回想と共に、トラックは西へとノンストップで走り続けた。

「背骨バキバキですよぉ……まあわたし骨とかないんですけどね」

あるにはあるが、液状怪人流川市香にとって内骨格などなきに等しい存在だ。
むしろ筋肉とかと組成が違いすぎて相転移するときに変換が面倒になるまである。
……とまあ、市香は最大限みんなの雰囲気が朗らかになるよう話題を振っているのだが、
誰一人として笑わず――向路は愛想笑いしてくれたが――市香はトラックからまろぶように降り出た。

>「――さて……ところで、すみません。どなたか、この町の案内を頼めませんか?」

トラックの荷を『鳥籠』構成員達が検めるのを見送りつつ、黒野が話をつけた男のもとへ向かう。
どうやら中を案内してくれるらしい。

>「……いいだろう。付いてきな」

「すみません。お手数おかけしますが、よろしくお願いします」

市香は慇懃に頭を下げて男の後ろについた。
男は制服姿を見て眉をしかめ、『世も末だな……』と呟きながら踵を返した。
どっちの意味だ。まあどっちの意味でも正解だけど。

>「ここは商品を総合的に管理する場所だ。俺達は『ファーム』と呼んでる」

職務に忠実らしい男は、非常にわかりやすく施設の解説をしてくれた。
どうやらここは、『愛玩人間』を飼育したり仕分けしたり調教したりする場所のようだ。
まず初めに訪れた体育館では、常人が二人殴りあっていた。

>「例えばこうやって殺し合わせて、見世物にしたりな。

男は軽く言うが、やってることは常軌を逸していた。
まるで古代の剣闘士が流行ってた時代に先祖返りでもしている気分だ。
殺し合いと言っても、戦っているのはお互いに素手の者達だ。
これがナイフの一本でも持っていれば簡単な話かもしれないが、素手で常人が人体を殺傷するのは困難だ。

結果、とてつもない泥仕合になる。
指先で眼を抉り、爪を喉に突き立て、首を極め、しかしそれでも最後には拳で殴り続けるしかない。
自分の拳の皮が剥け、肉が削げ、骨が見えるまで殴って、初めて相手を『殴り殺せる』。
当然、そんな拳で連戦など不可能で、今度は敵に同じように死ぬまで殴られるのだ。

いまこのときも、終わりの見えない戦いを続ける両者の顔には、底なしの絶望が張り付いていた。
彼らはどうして戦っているのだろう。助命を条件にされたのか、家族でも人質にとられているのか。
これまで命を奪ったことは愚か暴力沙汰と無縁に暮らしてきたような人間たちの、出口のないマッチファイト。
しかし、どれだけ腰の入っていないテレフォンパンチであろうと――相手は死ぬ。
いつかは。そして、必ず。

>「ここには人間を飼育する為の設備が揃えてある。勿論上物を仕入れられればそれが一番なんだが、
  実際にはそれだけじゃ品が足りん。愛玩、闘人、食用、業務用、大抵の用途は仕込めるようになってる」

あくまで事務的なスタンスを崩さない男の解説に、市香の中で燻る一つの感情があった。
義憤ではない。悪辣の所業に怒れるほど、市香は清廉な生き方をしてきたわけじゃない。
彼女だって学生時代は不良グループに属し、深夜の暴走行為や、他チームとの抗争で社会に迷惑をかけ続けてきた。
違法改造したバイクの下痢便みたいなマフラー音で安眠妨害された人間は数知れない。
抗争で公共物が巻き添えで破壊されたり、通ってる高校自体が世間から白い目で見られたりなど日常茶飯事だ。

だから、これは怒りじゃない。
ただの、強烈な、嫌悪感だ。

238 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/16(月) 02:01:26.13 0.net
仕入れ、と彼らは言った。つまりあの愛玩人間たちは、どこかから連れて来られたということだ。
拉致されたのだろうか。平和な日常を突然破壊され、明日をも知れぬ地獄へ引きずり込まれたのだろうか。
彼らには、帰りを今も待ち続けている家族や友人がいるはずなのだ。
『鳥籠』がやってることは、被害者とそこに連なる全ての人々を、底なしの不幸と絶望に叩き落すにほかならない!

「――――ッ」

市香は無意識のうちに、右手を人差し指と親指だけ立てて銃を模した握りにしていた。
その指先を案内の男の後頭部に向けそうになって、土壇場で冷静さを取り戻した。
こいつ一人を血祭りにあげてもなにも解決しない。ちゃんとわかってる。

最後に向かった屋上では、背の高いフェンスに囲われた場所に見張りが一人座っていた。
背をフェンスにあずけて眠ったように動かない。
案内の男が呆れながら起こそうと近づき――様子がおかしいことに市香も気がついた。

>「靖夫がやられてる!脱走だ!北のフェンスからだ!」

見張りは事切れていた。側頭部に鎌が突き立てられている。
仲間の死、それも確実に他殺とわかって、案内の男の対応は即座であった。
他の仲間に緊急事態を知らせ、客人である市香たちを振り仰ぐ。

「一体なにがあったんですか」

>「悪いがここで待っていてくれ。なるべく早く戻る」

案内の男は質問に答えず、屋上から飛び降りていった。
どうします向路さん、と指示を仰ごうと振り向くと、新免がどこからともなく剣を抜いていた。

「ちょっ、何してるんですか新免さん!」

>「何をするって?決まっているでしょう!俺達はここにいる悪党共を倒すために来たんだから!
 人間の命を大切にしないような奴らは、この俺が皆殺しにしてやる!」

「気持ちはわかりますけど!落ち着いて!落ち着いてください新免さん!――班長!」

まだ敵の規模も組織構造も把握できていないし、施設の地理すら一部しかわかっていないのだ。
無策の突撃が、新免一人の命を散らすだけならまだ良い。
しかしここで彼が暴走すれば、共に来た市香たちの潜入までわやになる。

>「……悪い、流川、そこの死体の検死頼むわ。(中略)……あともう一個、耳借りる」

「え。わっ」

頼みの綱の向路班長は舌打ちと共に市香へ指示を出すと、市香の頭をぐっと引き寄せた。
耳元で何かをつぶやく。市香の――耳の奥の通信機越しの黒野へ。
息が耳にかかりまくってつま先立ちになる。なにするんですか、と抗議する前に向路の姿は消えていた。

>「新免……、今すぐそれぶっ壊して流川について偵察行くのと、今ここで死ぬの、選ばせてやるから3秒で決めな」

刹那、市香からかなり距離のある屋上入り口の前に向路が現れた。
彼より入り口に近かった新免を差し置いてだ。

(あれが向路さんの怪人特性……)

向路深先の特性『超瞬発』については、パーティを組むにあたって既に(伏見から)聞いていた。
瞬発力特化型の肉体強化怪人で、短距離ならば瞬間移動にも見まごう機動力を誇ると言う。
そしてその名に恥じぬ超速機動はたった今見たばかりだ。

239 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/16(月) 02:02:02.02 0.net
対する新免は、抜身の剣を再び身体の中に埋め込んで向路と相対した。
剣は明らかに新免の腕よりも長かった。つまりはそれが彼の怪人特性だ。
肉体に貯蔵した鉄と炭素で金属製の刀剣を構築する、『鍛造』の能力者。

剣では分が悪いと判断したのか、新免は懐から銃を取り出した。
いよいよもって一触即発、どうにかして止めねばと市香が身構えた途端、新免はあろうことか銃をこちらに寄越してきた。
床を滑るように放られたのは、小型のリボルバー拳銃。お巡りさんが持ってるヤツだ。
銃は市香のつま先に当って止まる。彼女がそれを拾い上げるのが合図だった。

>「あなたを倒さないと先に進めないというのならば!俺はそうさせてもらう!」

前方、新免が弾かれるように疾駆した。
その四肢には、怪人特性で鍛造したと思しき具足が出現している。
ガシャッ、ガシャッとやかましい音を立てながら肉迫した新免は、機敏な動きで向路へ格闘戦を仕掛ける。
だが拳も蹴りも、尽くが向路に届く頃には力ない手打ちに変わる。

(いなしてる……あの連撃を!)

決して新免の打撃が惰弱なわけではない。
重い具足をまとっているとは思えぬ鋭い連撃は、彼が武術を高い水準で修めている証左だ。
そして具足の重量が、その威力を何倍にも引き上げている。

だが、向路に対して決定打となっていない。
当ってはいるのだ。なのに、まるで暖簾に腹パンかましているみたいにソフトタッチになってしまっている。
木の葉を相手に拳を振るうような、つかみ所のない所作。
向路が全ての攻撃を見切り、出鼻に合わせて受け手を用い、威力を尽く殺しきっているのだ。
業を煮やした新免が飛び蹴りをぶちかます。

>「手に詰まってやることじゃあ、ねェな」

その大きな、致命的な隙を向路が見逃すはずもない。
蹴りを危なげなく躱した向路の腕が伸び、新免の上体を抑えた。
次の瞬間、ズドンと大気を震わす音が響く。向路の、肉体強化怪人の、渾身の震脚!
全身のバネをもって増幅された威力が、必殺の掌底となって新免の上半身へ叩きこまれた!!

「うひぃ!」

その衝撃を想像した市香は思わず目を瞑って飛び上がった。
目を開けた時には、既に床で伸びている新免と、静かに拳を引く向路の姿があった。
完全に、格の違いを見せつけられた格好となった。それは新免だけじゃなく、市香にもだ。

「これで隊長になれない実働隊ってなんなの……」

いや本当に。
同期で先に隊長になった黒野は、これよりスゴイということなのか。

>「いい歳して青い鳥探ししてんじゃねェよ。まだくだらねェこと言うようなら、次は全力でかます」

青天の新免へ、向路が手を差し伸べて――拳を握った。
スゴイ!最後まできっちり容赦ねえ!!なんで隊長になれないんだこの人!!!
ともあれ、であればフォロー役は同期である市香の役割なのだろう。

「銃、あんな扱いかたしたら埃入っちゃいますよ」

リボルバーの銃身に歪みがないかを確認しながら、市香は仰向けに伸びる新免に手を差し伸べた。
オートマチックに比べれば雑な扱いも許容できるリボルバーだが、埃や砂は銃器の大敵に違いない。
整備不良で弾倉が回らなくなって死んだ仲間を市香は知っている。

240 :流川市 ◆S2.yZpBpBOYI :2015/03/16(月) 02:02:36.95 0.net
「正義が何かっていうのは人ぞれぞれ答えがあって良いものだと思いますけど……。
 わたし的には、結局は自分が"これで良い"って決められるかどうかだと思いますよ。
 納得出来ない正義より、自分で選んだ悪……ってのはちょっと極端かも知れないですけどね」

うまく言葉にならなくて、市香はごまかすようにはにかんだ。
ともあれ、一悶着が片付いたところで、一行は建設的な目標に向かって行動しなければならない。
市香は見張りの死体に目線を合わせてその状況を検めた。

「大丈夫です向路さん。脈なし、呼吸なし、瞳孔収縮なし。完全に死んでます。
 死因は……見たまんまですが側頭部貫傷による脳挫滅。
 出血と眼球が殆ど乾いてます。死んでから結構時間が経ってますねこりゃ。
 背中にフェンスが擦れた跡がないってことは、もともと居眠りかなんかしてて不意打ちで殺されたのかな。
 あんまり真面目な勤務態度ではなかったみたいです」

市香は立ち上がって指先で顎を叩いた。

「見張りが死んだ状態で長く放置されてたってことですよね。
 実際、案内人が来なければこうしてことが露見することもなかった……。
 長時間交代がなく、応答がなくても居眠り常習犯でなあなあで済まされていた。
 ここの警備というか立哨はかなりザルみたいです。脱走の計画も立てやすかったことでしょう」

そして、ろくな武器ももたない常人が怪人を秘密裏に殺害できるとは思えない。
脱走者には、『武器を持った常人』か、『怪人の協力者』がいるはずだ。

「ここまで用意周到だと、安直にフェンス破って山に逃げたってのも怪しいですね。
 案外このフェンスの穴はフェイクで、他の被害者を助けて逃げるつもりでまだ潜伏しているのかも」

可能性はいくら考えたって足りないぐらいだ。

「もうすこし情報を集めましょうか」

市香は屋上の隅まで歩くと、排水口の傍でしゃがみ込んだ。
そしておもむろにバックパックから500mlのペットボトルを取り出すと、その中身を飲み始めた。
喉を鳴らして飲み干したのは、市販のミネラルウォーター。
そして、飲んだ分だけ市香の右の耳たぶが水風船のように膨らんでいく。

「っ!」

膨らんだ耳たぶが肉体変化によって形状を変え、水飴のようにうねって排水口へ飛び込んだ。
排水管はいくつもの支流と合流しながら地上へと伸びている。
支流は各階の部屋の排水口につながっていて――市香の耳は全ての支流へ枝分かれして伸びた。

液体は空気よりも遥かに『吸音性』と『伝播性』が高い。
大量の水を"肉体の一部"として伸ばした市香の耳たぶは、各階各部屋の排水口から部屋内の物音を収集する。
集めた音は排水管に張り巡らされた『水糸』を通して糸電話のように市香の耳に音を届けるのだ。
同時、耳たぶの根本から二本の水管が伸びて向路と新免の耳にそれぞれ入り込んだ。

「わたし一人で解析まではできません。
 お二人にも聞こえるようにするんで、重要そうなワードを拾ってください」


【死体を調査。更に『聞き耳』アクション。階下の各部屋で脱走者について重要な会話があればそれを拾います】

241 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/03/17(火) 20:33:43.97 0.net
「…2つほどツッコミたいところがあるけど、まぁいいや」
何あのウシガエルの断末魔的な声、あと地獄の断頭台…ってどっちかって言うならキン肉ドライバーとかビックベンエッジ的な正義超人の技にしろよ
とそれどころじゃないや
>「――ま、待て。妙な真似はよせ。どうせここからは出られない。
「うるさい黙れ」
まず手始めに顔面への前蹴り、これで相手を怯ませ状況を理解させる。
一呼吸おく間に落ちた山刀を拾い刃を確かめる。
普段あんまり使ってないのかな?言うほど刃が立ってない
まぁそっちのほうが都合がいいんだけどね
「はーい、じゃあこれから尋問をはじめまーす。聞かれたことに五秒以内に答えなかった場合は」
挨拶代わりに山刀で腕の肉を少し削ぎ落としてやった。
ただでさえエグい仕打ちに加え、なまくらで無理やり切られるのだから痛みは格別だ
「こうなるので直ぐにゲロってね。当たり前だけど気に食わない発言や態度とかとったらもっと悲惨なことになるからね」

(尋問中)

>「な、なぁ、分かっただろ?ここから逃げ出すんなんて出来っこねえんだ。
「まぁ…こんなもんでいいかな」
得るべき以上の情報は得られたかな、個人的には収容されている怪人についての情報がデカいね
これってつまり、レジスタンス的なことをしている怪人組織が存在しているかもってことでしょ?
上手くいけば思わぬ協力者が得られるって訳だ。

242 :伏見狂華 ◆ei6R4.AG.s :2015/03/17(火) 20:34:52.45 0.net
>「……どうします?私としては囚われている方々を開放できたらと思うのですが。
実際ここを守る怪人の強さが未知数ですし、そもそもこんなところで手間取るよりは混乱させたほうがいいと思いますし」
>正直私はこういう策を巡らすのは不得手ですし、凶華の方が心得ているでしょう?」
「はぁ!?あんた殺人鬼に何期待してんの?」
私だってそういうの得意じゃないし、将棋とか弱いし
基本スタンドプレーで生きている人だと自負してるつもりなんだけどなぁ
「まぁアレかな?ただ闇雲に混乱を生じさせてもかえって逆効果になるかも知れないんだよね
 ここって元坑道でしょ?んじゃあ、損失覚悟でここにいる全員生埋めにすることなんて容易いと思うんだよね」
点在する待機室に秘密裏に爆弾を仕掛け、何かしらのトラブルが発生した際は一斉に爆破させ、崩落を起こして全て土の下へ埋める
フィクションだとよくあるシチュエーションだよね。
そのことを表で働かせている奴らに話せばクーデターのリスクの減るわけだし
「囚人を解放して混乱を起こすなら、私らだけである程度制圧しなきゃね
 確かに警備兵の数はそこそこいるだろうし、実力は未知数ってのは認めるよ
 ただ、そいつらが一挙に押し寄せてくる訳でもない」
顎でさっきこっちに引き込んだ二人を差す
「ここは結構複雑な構造の上、坑道を改造して作られているんなら道幅も広くはない
 ってことなら警備だって恐らくこういう二人一組で行動している可能性が高いってことでしょ
 たとえ鉢合わせになっても2:2な訳だし、不利じゃないはずだし
 たかが二名の脱走に他の商品ごと生埋めって真似はないっしょ」
あくまでも私ら含め、ここに捕らえられている奴の大半は金を生むガチョウだ
将来得られる利益と今現在の損失のバランスを維持し続ける限りは全滅は避けられるはずだ
「それとも、何?『超人』様は臆しているのかなぁ?
 わかった、それなら折衷案で、即戦力になりそうな奴だけ解放する
 そうすれば実質的な戦力を補えるでしょ、それで決まりってことで」
そんじゃ早速行動開始ってとこだけど、一つ忘れてたわ
「そういや、家族を人質に取られている連中がいるって言ったけどアンタもそのクチなわけ?」
スカートの下に隠していたブッチャーナイフを取り出しながら見張りに最後の質問をぶつける
答えなんてどうでもいいんだけどね
「あぁそうなんだぁ〜でもざぁんねぇん、小便飲ませるって言った時点で殺すつもりだったんだよ…ねッ!!!」
一撃で首を刎ね飛ばしてやった。
水ぐらい出していたなら考えてたんだけどさ、小便ってのはねぇわ
加えて質問をぶつける前から大鳳に見捨てられていたってのもポイントだね
「んじゃ、ボチボチ行きますか」

穴から脱出し、大鳳が行動を始める前に声をかける
「監禁部屋なんだけどさぁ、ちょっと心当たりがあるんだよね
 このパイプなんだと思う?」
足元にあるパイプを指差して見せる
「これさぁ実はさっきの穴の壁に張り巡らされてたパイプの続きなんだけどね
 おそらくは送気管の類だと思うんだけどさ、これ監禁部屋用だと思うんだよね
 ちょっと根拠が弱いんだけど、商品の出荷の時とか暴れてどうしようもない時とかに催眠ガス的な何かを送れるようにしているんじゃないかなーってさ
 その証拠にここパイプには穴が空いてないんだよね」
まぁ自信はないんだよね
「とりあえず、これを辿っていけば監禁部屋か機械室か当たりにいきつくと思うんだよね」

【パイプを辿って監禁部屋か機械室に行こうぜ】

243 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/17(火) 21:02:54.96 0.net
【→向路班】



屋上での騒動が一段落し、流川による諜報活動が開始した頃。
階下では三つの会話が交わされていた。

「ここもだ。鍵が壊されてる。……おい人間、点呼を取る。理由は分かるな。今すぐ5人ずつで列になれ」

「なぁ……さっきからなんだか騒がしくないか?……やっぱり、バレちまったんだよ、アイツら」

「……まぁた共生派の奴らがちょっかい出してきたか。この忙しい時に面倒臭え。
 つーか見張りが死んだって、奴らにそんな出来る奴怪人いたのか?」

「……ここも全員いるな。今んとこ、逃げ出したのは殆どが食用か」

「だから言ったんだ……逃げ切れる訳ねえって……捕まったら酷い目に合うってのに……」

「いや、死んだのは靖夫だ。アイツは……だからな。やる気がなかったんだろ」

「あと確認してないのは愛玩用だけか。あっちも多分何匹か逃げてるだろうな」

「アイツらだけならまだいい……有輝の時は俺達まであんな事……」

「また俺達の手で制裁をやらされるのか?畜生、奴らイカれてるんだ……」

「あぁ、靖夫か。アイツいっつも暗い顔してっから正直うざかったんだよな。まぁ、アイツらは皆そうか」

「まともなのは岩倉くらいだな。アイツは真面目だし、怪人特性も強い」

「やめろ、誰かに聞かれてたらそれこそお前を制裁する羽目になる。もう忘れよう」

「ま、こっちに来なかったって事は、どうやら明日の事については何も知らないらしいな」

「待てよ……でも奴らがどこに逃げたか、彼らに教えた方がいいんじゃないのか?
 そうしないと俺達まで奴らを見過ごした罰を受けるかもしれない」

「こっちが動き回ってたからとりあえず仕掛けてみたってとこだろ。
 しかし、今回は問題なかったが、ここだけ窓が開いてるのって防犯上問題じゃね?」

「それも……そうだな。アイツらは……ええっと、なんて言ってた?急な事で、俺はあんまり覚えてないんだが……」

「俺達も人間共と同じ環境で暮らしたいですって要望出すか?俺は嫌だぞ。
 そもそも、奴らが攻め入ってきたところで負けないだろ俺達」

どうやら君達が利用可能な情報源は二つあるらしい。
だが、その両方に当たっている時間はない。
もたもたしていれば脱走した人間とその協力者は逃げ切るか、或いは捕縛されてしまう。
逆に脱走者達を追って帰ってきた後では、校舎内の人数も元通りになってしまっている。

またどちらの情報源を利用するにしても、敵性怪人との接触は避けられないだろう。



【今回は多分追加でレス入ります】

244 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/03/17(火) 23:49:55.19 0.net
(どうして俺の攻撃が通用しないんだ!?)
それが向路との戦いにおいて、岩男が最後に考えた言葉だった。
飛び蹴りをいなされた次の瞬間、岩男の胴体に爆発するような衝撃が走る。
「エアァッ!?」
向路の擬似寸勁をくらった岩男は肺の中にあった空気を全て吐き出し、そして気を失った。
新免岩男のあまりに無謀な挑戦はこうして幕を閉じた。

> 「未完成なりに、悪かァないか。……オラ、寝てんじゃねェぞ新免」
向路に起こされた岩男は仰向けに倒れたまま本能的にファイティングポーズをとる。
しかし間もなく岩男は自分が地面を背負っている事にきづいた。
自分が倒れる前の出来事が走馬灯のように今の岩男の脳裏を駆け抜けていく。
「くそーっ!俺の負けだーっ!!」
そう悟った岩男の手足についた籠手と具足が彼の体へ還っていった。
> 「いい歳して青い鳥探ししてんじゃねェよ。
>  まだくだらねェこと言うようなら、次は全力でかます」
> 新免の眼前に手を伸ばし、これ見よがしに拳を握り込む。
そんな向路の態度よりも、岩男は今自分がどこか向路に止められた事に対して、
ホッとしている気持ちがあることに気づいた事に悔しさを覚えた。
「どんなことがあろうと、俺は絶対に妥協しない……!」
それは向路に対してと同時に、自分自身に対する改めての宣言だった。
悪を倒すためならば、命なんて惜しくはない!
岩男はそういう人間になりたいと思っているのだ。

「あ、流川君…」
仰向けに倒れていた岩男に流川が手を差し伸ばしたことで、
向路との二人きりの時間に没頭していた岩男の意識が彼女を再認識した。
>「銃、あんな扱いかたしたら埃入っちゃいますよ」
「?そうだな、借りているものだしな」
岩男はちょっとズレた返答をしつつ、流川がトラックの中で話した事を思い出した。
彼女には彼女の帰りを待つ家族がいるのだ。
彼の顔から、徐々に殺気が失せていった。
> 「……新免、正義だとかそんなもんはなァ、他人が勝手に決めんだよ。そいつのエゴが自分の側なら正義、逆なら悪だ。
>  だから新免、てめェは悪だ。僕基準でな。そして『鳥籠』連中と、とっ捕まってる連中にとってもそうだろうな。
>  てめェのエゴを満たしたいだけなら、誰の迷惑にもならない所でやってくれ」
「認めたくないけれど、あんたの言う事も一理あるかもしれない」
岩男は渋々そう言った。
>「正義が何かっていうのは人ぞれぞれ答えがあって良いものだと思いますけど……。
> わたし的には、結局は自分が"これで良い"って決められるかどうかだと思いますよ。
> 納得出来ない正義より、自分で選んだ悪……ってのはちょっと極端かも知れないですけどね」
「流川君、俺に気をつかうことはないよ。
 冷静に考えたら、俺があのまま突入したら、君にも危険がおよんだかもしれない。
 もしもそうなったら、俺は今よりもっと後悔していただろう」
岩男は流川の目をまっすぐに見て言った。
「君は絶対に死なせない……!」
このセリフは流川の「(前略)死ななければ」に対する言葉であり、特に他に含むところはなかった。
> 「ま、折り合いがつかねェなら大鳳さんと話してみろや。
>  あの人が『超人』っつー呼ばれ方をすんのは単に強いからだけじゃねェ。
>  ……ただ、初対面時みてェなフザケた態度はとんなよ」
向路にそう言われた岩男は、真っ赤なドレスの裾を思い出した。
岩男の顔が同じような色になった。

245 :岩男 ◆jWBUJ7IJ6Y :2015/03/17(火) 23:53:24.78 0.net
気を持ち直した岩男は捜査活動(?)を再開した。
流川がすでにガイシャの検死を終えていたので、岩男は凶器の方を調べる事にした。
それは小さな鎌である。岩男はにわかに信じがたい気がして死体の傷口に指を突っ込んでみたが、
どうやら間違いなくこの鎌によって犯行が行われたらしい。
「いくらここが“ファーム”だからって農作業をしているとは考えにくいけど、
 学校だから草刈り用の鎌があることは不思議じゃない。
 しかし追い詰められた人間が手近な武器をとってやった犯行にしては手口が鮮やかすぎるのだ」
岩男も流川と同様に『怪人の協力者』がいるはずだと思った。
> 「ここまで用意周到だと、安直にフェンス破って山に逃げたってのも怪しいですね。
>  案外このフェンスの穴はフェイクで、他の被害者を助けて逃げるつもりでまだ潜伏しているのかも」
「後でフェンスの方も調べてみよう。
 バリ(切断口)を見ればホシの思惑がもう少しつかめるかもしれない」
岩男は流川にそう言いながら、小さな鎌の刃の部分にハンカチを巻いて懐にしまった。
証拠品の押収は基本である。後々何か重要な事に気づくかもしれない。

> 「もうすこし情報を集めましょうか」
その流川の言葉に何気なく肯定して岩男は、しかし一瞬彼女が何をしようとしているのか理解できなかった。
> 「っ!」
彼女の耳たぶが水飴のようになって排水口に飛び込んだ時も、やっぱり岩男は何事なのか理解できなかった。
「向路先輩!?流川君の耳が、耳が、一体どうなってるんですか!?」
驚きを隠せない岩男は向路にそう尋ねる。
「あっ…!」
突然自分の耳の穴に女の子の体の一部が入った岩男は、
この未知の体験に思わず変な声を出してしまう。
> 「わたし一人で解析まではできません。
>  お二人にも聞こえるようにするんで、重要そうなワードを拾ってください」
どうやらこれは糸電話の応用らしいぞ、とやっと理解した岩男は心と耳の中にくすぐったさを感じつつも
聞こえてくる音声に意識をなるべく集中させた。

「共生派?」
岩男の心にまず引っかかった言葉がそれだった。
その名称は、人間を弱者として踏みつけ自分の欲求を満たす『鳥籠』とは正反対な気質を思わせた。
しかも、彼らはどうやら怪人の集団らしい。
「向路先輩、俺にいい考えがある。
 向路先輩は鳥籠のフリを、俺は逃げ出した人間のフリをする。
 向路先輩は俺をまんまと捕まえたフリをして、監禁されている人間達の部屋に放り込んでくれないか?
 そうすれば、きっと俺は彼らから協力が得られるはずだ」
岩男は不敵な笑みを浮かべながら続ける。
「幸い、俺はあんたにイイのを一発おみまいされているから演技に信憑性がある。
 それに俺のせいで大切な時間を無駄にしてしまったんだ。
 危険は承知の上です、やらせてください…!」
岩男は最後に燃えるような顔つきで向路に提案した。
もしもこの案が採用された場合、どの人間の部屋に潜入するかは流川と向路の判断に任せるつもりである。
また、もしもその部屋の近くに本当の鳥籠メンバーがいたら、それを排除するのは流川の仕事になるだろう。

246 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/20(金) 23:11:58.60 0.net
洞窟内に壁に走るパイプは、まさしく伏見が予想した通りの送気管だった。
坑道を改築して作られたこの監獄は出入口が一つしかない。
故に空気を循環させる為には機械による補助が必要なのだ。

パイプは屋外にある送気装置から空気が送り込まれ、随所に開いた穴からそれを坑道内に供給する。
排気は送り込まれた空気による圧力で自然に行われる。
そして囚人達が収容される場所は、袋小路という構造上どうしても淀んだ空気が溜まりやすい。
つまり換気の回転率を高く保つ必要があり――そうなるとパイプの終着点は自然とそこに繋がっていく。

もっとも待機室や機械室に繋がっているパイプもあるにはあるが、坑道内には今もなお悲痛な呻き声が響き続けている。
パイプの太さや悲鳴を判断材料に進んでいけば、監禁部屋に辿り着く事は容易い。

二人が坑道の奥へと進んでいくと、やがて小さな横穴に白い格子を掛けた檻の並んでいる通路を発見するだろう。
格子に鍵の類は付いていない。それらは肉体変化によって構成された骨で出来ていた。
解錠はそれを作った怪人のみが行える。勿論破壊する事は不可能ではないが。
とは言え囚人の殆どはひどく痩せ細っている。
常人はこの環境に耐えられないし、怪人には特性を封じる為、徹底した食事制限が課されているからだ。

しかし――坑道内に響く悲鳴はもう少し奥から聞こえているようだ。
二人は道中、見張りと遭遇せずに進んでこれたが、最早理由は明白だ。
その悲鳴は僅かでも正常な感覚があれば聞くに堪えず、異常な精神を持つ者とっても耳障りな程に大きかった。
皆、出来るだけ離れた待機室に避難しているのだろう。
どうせ出入口前には必ず通らなくてはならない待機室がある。脱走の心配など誰もしていないのだ。

「……ねーえー、さっさと吐いちゃった方がいいんじゃないのん?」

坑道の最奥部には扉のない部屋があった。
そこには拷問用の様々な凶器や器具と、二つの人影があった。
一人は気丈そうな少女だ。長い髪を鎖に結び付けられて、宙吊りにされている。
もう一人は男だ。筋肉質な体躯と形のいい坊主頭が特徴的で、少女を見上げてる。

少女の腕や顔には僅かな擦過傷しか見られない。
しかし表情には強烈な苦痛の色が浮かんでいる。

「素直にゲロっちゃえばぁ、アンタだけは殺さずにおいてあげるわよん?
 だって、こんなに可愛い顔してるんだもの。殺しちゃうなんて勿体ない」

男は甘ったるい口調で少女にそう語りかけ――しかし返ってきたのは答えではなく血混じりの唾だった。

「……駄目よん、そんなはしたない真似しちゃあ。折角の可愛い顔もそれじゃ台無し」

男の声色に変化はない。
ただ静かにゆっくりと、右手を少女の体へと伸ばす。
途端に少女の表情に強い恐怖が現れた。

直後に、坑道中に響き渡るような悲鳴が上がった。
男の足元に何かが続けて落ちる。
赤い円形の何か――それが少女の脚が輪切りにされた物だと、伏見達が気付くのにそう時間はいらないだろう。

と、不意に男が君達の方を振り返った。

「あら、こっちに来ちゃったのね。……ま、いいわん。それより、ねえ、これ、アナタの血なんですってねん」

男はそう言って、伏見に内側に薄赤色の膜が残った小瓶を見せた。
中に入っていたのは彼が言った通り、商品のサンプルとして黒野が提供した伏見の血液だ。

247 : ◆PyxLODlk6. :2015/03/20(金) 23:12:51.25 0.net
「いいわね、これ。すっごく面白いわ。でも……試供品として貰えた分はもう使い切っちゃったのよね。
 ズルいわよ、こんなの。だってあちらさん、ホントはアンタを売るつもりなんてないんでしょ?
 ホントの目的はこれの宣伝……まったく、効果抜群だわん」

男は頬に手を当てて、悩ましげに首を傾げる。

「でもん……助かっちゃうわぁ。アナタが脱走してここに来ちゃったって事はぁ。
 アタシ、アナタを止めなきゃいけないわよねん?
 アナタみたいな超の付くレア物、逃しちゃいましたなんて言ったら大変な事になっちゃうもの」

男の右腕が変形して刃の形を取った。

「だから、間違っても逃げられないようにしてあげなきゃ。
 ここが血の海みたいになるまで、念入りに……ねん」

男はその腕を左側へ、体の前面に巻きつけるように大きく振り被る。

「そっちのアナタは……ホントは傷つけちゃマズイんだけどん……。
 アナタもとってもキレイな顔してるわねえ……アナタならきっと、最悪お金で解決出来るでしょうし……」

男は悩ましげな表情で大鳳を品定めする。そして、

「うん、アナタも一緒にやっちゃおうかしらん」

「――『開閉』だ!気をつけろ!ソイツの、たいし……」

鎖に吊るされた少女が、悲鳴の上げすぎで枯れた喉で咄嗟に叫んだ。
直後に男――鍵山華為の右腕が伸びた。
より厳密には『開いた』のだ。スライド式の携帯のように前方へ。

伸びただけではない。それと同時に刃は弧を描いて君達へと高速で迫っていた。
これもやはり腕は『開いて』いる。本を開くような動きだ。

『開いて』『閉じる』。
その二つの動きに限り高度な燃費、力、速度を発揮出来る。
それが鍵山の体質だった。

刃は二人の足を薙ぐ軌道を取っている。
まずは相手の機動力を削ぎ、それから甚振るつもりなのだ。



【情報源?発見】

248 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/23(月) 00:35:13.61 0.net
>「くそーっ!俺の負けだーっ!!」
>「どんなことがあろうと、俺は絶対に妥協しない……!」

倒れながらも未だに元気そうな姿を見ると、もっと強く打っても良かったかもしれないなどと思ってしまう。
が、流石に敵陣の中でウィークポイントを晒すのは悪手過ぎる。これで良いのだと頭を振る。

>「認めたくないけれど、あんたの言う事も一理あるかもしれない」

流川の援護もあり、新免はひとまず落ち着いたらしい。
……態度は悪いままだが。
志が高いのは結構だが、扱い難いことこの上ないので早いところ現実と見つめ合って欲しいと思うのは冷たいだろうか。

>「大丈夫です向路さん。(略)あんまり真面目な勤務態度ではなかったみたいです」
>「見張りが死んだ状態で長く放置されてたってことですよね。(略)脱走の計画も立てやすかったことでしょう」

グローブを外しながら流川の推測を元に状況を考える。
杜撰な体制でも問題が起こらなかったのは恐怖による支配が成立していたからだろう。
ここに捕らえられている人間は相手が怪人というだけで戦意を喪失させられるだけの仕打ちを受けたのだ。
上と下、自分がどちらなのか。その垣根は越えられるのか。そこを分からされた時、人は人でなくなる。
それは上の側も下の側もだ。なんとか監獄実験だったか、そんな話があった。
ここが元々学校であったのが質の悪い皮肉に思えて思わず溜息をつく。
……しかし、競争の生まれない環境で温く上をやっている集団は、果たして侵略者に対しても今までと同じでいられるのだろうか?
今の価値観を、打ち砕かねば。

>「ここまで用意周到だと、…(略)…他の被害者を助けて逃げるつもりでまだ潜伏しているのかも」

この脱走劇は内部から……と言うわけではないだろう。武器があろうと人間がするには大それ過ぎている。
だとしたら中と外で連携を取るために何らかの連絡手段があるはずだ。
それが人でもなんでも、見つけて接触できれば様々な益がもたらされるだろうが……とにかく、

「現状、憶測でしかモノ言えねェからな……」

今の状況は渡りに船ではあるが、もっと情報を集めなければ……と、それに呼応するように流川が動き出す。

>「もうすこし情報を集めましょうか」

ペットボトル一本を即座に飲み干した流川の肉体に変化が現れる。
それを見て新免が騒いでいるが向路だって流川と組むのは初めてでなにをするのか分からないのだ。無視を決め込む。
流川の耳に出来た水風船のようなソレは穴でも開いたかのように細く水をこぼし始めた。
途切れることなく水は排水溝へと飲み込まれていき……流川の耳は糸のような透明の水が垂れている以外は常人と同じ状態に戻る。
都市伝説に聞く耳たぶから出てくる引っ張ってはいけない糸とやらはこんな見た目なのだろうか、などと場違いに考えていたら、それはこちらへも伸びてきた。

249 :向路深先 ◆qwXY9mi/bQ :2015/03/23(月) 00:37:37.95 0.net
>「わたし一人で解析まではできません。(略)…重要そうなワードを拾ってください」

「……さっき耳借りたの、ちょっと怒ってる?」 

耳に水が入る独特の感覚に悪寒を走らせながら先程の行動を省みる。
アレもコレも必要に駆られてなので責められる云われもないし責めることも出来ないが、奇妙な感覚につい軽口を叩いてしまう。
……と、そんなことを言っている場合ではなかった。何かが聞こえてきたことで慌てて耳をそばだてた。

───────────────────────────────────────────────────────────────

>「向路先輩、俺にいい考えがある。(略)そうすれば、きっと俺は彼らから協力が得られるはずだ」
>「幸い、俺はあんたにイイのを一発おみまいされているから演技に信憑性がある。(略)危険は承知の上です、やらせてください…!」

ある程度聞いたところで新免が作戦立案を申し出る。どうやら先程のことを気にしているようだが、

「……『鳥籠』の連中は互いに面識があるみてェだから成りすますのは無理があんだろ。
 第一てめェを放り込んだ後どうすんだ?脱出方法は?人間連中はどうする。
 まさかこの期に及んで監視もなにも全部殺して出ますなんて言わねェよなァ?」

なにかしたい、という気持ちだけが前に出過ぎ他のことを置いてけぼりにするのが新免の悪癖だと、短い付き合いながら理解する。

「でもまァ、人間連中の方に行くのは賛成だ。
 今回のことの裏を聞きてェのと、『鳥籠』の奴らがこれから回ってくるってのがイイ。
 監視の奴らが帰ってこなくても詰め所の奴らは人間に制裁してるとでも思ってくれんだろ、多少の時間は誤魔化せる」

二種類の人がいるところの方が、得られる情報が多いのは道理。
『鳥籠』と自分達どちらが先に辿り着くのかは分からないが、やることは決まっている。

「愛玩用っつってたか、そこの人間達から話を聞くのと、見回りの敵性怪人を捕らえて尋問ってところか。
 どっちが先になるか分からねェが、やることは変わらねェ。
 出来りゃあさっさとやって、詰め所みてェなとこにも行きてェもんだが……まあその辺は後だな」

【荒っぽく二兎を追うことを提案。
 流川さんのレス次第ではGMさんとの間にもう1アクション挟むかもしれません。】

250 :大鳳勇 ◆GK5cYgPwtw :2015/03/25(水) 20:33:24.52 0.net
>「とりあえず、これを辿っていけば監禁部屋か機械室か当たりにいきつくと思うんだよね」

伏見の推察は見事に的中していたらしく、その証拠にパイプを辿っていけば行くほどに
ひどい悲鳴が大鳳の耳に響き続いてる。
それとは別に道すがらにある檻を覗いてみれば、生気の無い顔がそこかしこに見て取れた。
「ひどい有様……。これでは外に出しても意味はなさそうですわ」
檻を破ること自体は可能だろうが、そんなことしてもこの様子では囮にすらならないだろう。
無為に犠牲者を増やすだけになることは、火を見るより明らかだった。

(流石に私もこれだけの人数守りながら動けるほど強くはありません。
 歯痒いですが、どうしようもないですわ)

自身の中で心の整理を続けながら、道を奥へ奥へと進むと先程から聞こえる悲鳴がより鮮明に聞こえてくる。
それと同時に、猫を撫でるような男の声も聞こえてくる。

>「……ねーえー、さっさと吐いちゃった方がいいんじゃないのん?」

忍び足で様子が見える範囲まで近づくと、そこには坊主頭の男と拷問にかけられているであろう少女がいた。
二人の問答が終わり、男が少女に手を伸ばす。すると途端に少女の悲鳴が部屋をこだましたのだ。

「あの男、何を……ッ!!」
少女の足元に落ちた物体の正体がわかった途端、大鳳は自分の頭が沸騰しているような憤りを感じた。
こともあろうに無抵抗な少女の脚を、足首から上へ上へと輪切りにしていったのだ。
怒りに満たされた大鳳が突っ込もうとしたその時、男が大鳳達の方へ振り返った。

>「あら、こっちに来ちゃったのね。……ま、いいわん。それより、ねえ、これ、アナタの血なんですってねん」
そう言って見せたのは、伏見の血液が入っていた小瓶だ。

「貴方、まさかそれを彼女に飲ませて……!」
大鳳のその言葉を肯定するように、男は喜々として語り始める。

その言葉を聞いていくうちに、怒りがふつふつと増し身体を震わせていた彼女だが
ふとその体の震えが止まり、いつしか相手の言葉すら耳に入ってこなかった。
(あぁ……人間って本気でイラつくと逆に冷静になるって、ほんとですわね)
自分に声をかけられたことも気づかず、少女の叫びすら届かない。
「貴方は……」
だが、男――鍵山の凶器とも言えるその手が迫る瞬間、大鳳はそこにいなかった。
足への集中強化により刃の迫り来る方向へと跳び、その刃を飛び越えた。
鍵山が足元を狙っていた為、その刃を飛び越えるのはそこまで難しいことではない。
「5分ですわ」「5分以内に貴女を助けます。だから、少しだけ待っていて下さいまし!」
繋がれた少女を勇気づけるようにそう宣言し、
大鳳は姿勢を可能なまで低くし鍵山へと怒りをぶつけようとその拳をぶつけていった。

【脳筋的に相手に突貫。少女助けて色々聞き出そう】

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