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FFDQバトルロワイアル3rd PART19

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:17:07.13 ID:B1nZ++VF0.net
━━━━━説明━━━━━
こちらはDQ・FF世界でバトルロワイアルが開催されたら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。
参加資格は全員、
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

sage進行でお願いします。
詳しい説明は>>2-15…ぐらい。

前スレ
FFDQバトルロワイアル3rd PART18
http://wktk.2ch.net/test/read.cgi/ff/1377534553/l50

2 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:18:23.35 ID:B1nZ++VF0.net
+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員に、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン>が支給される。
 また、ランダムで選ばれた<武器>が1〜3個渡される。
 <ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る。
・生存者が一名になった時点で、主催者が待つ場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。

+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
 この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
 または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・日没時に発表される『禁止技』を使うと爆発する。
・日の出時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても爆発する。
・魔法や爆発に巻き込まれても誘爆はしない。
・首輪を外しても、脱出魔法で会場外に出たり禁止魔法を使用することはできない。

+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。

3 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:21:00.60 ID:B1nZ++VF0.net
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
 X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
 ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
 その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。

+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ

+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイアルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。

現在の舞台は闇の世界(DQ4)
ttp://www43.atwiki.jp/ichinichiittai?cmd=upload&act=open&pageid=16&file=%E9%97%87%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C.PNG

地図CGIはこちら
ttp://r0109.sitemix.jp/ffdqbr3/

━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。

4 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:21:55.32 ID:B1nZ++VF0.net
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。


書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

5 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:23:03.84 ID:B1nZ++VF0.net
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
 (今までの話を平均すると、回復魔法使用+半日費やして6〜8割といったところです)
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。


+修正に関して+
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、
 「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
 「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」
 以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。

6 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:28:24.98 ID:B1nZ++VF0.net
+議論の時の心得+
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
 強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』

+読み手の心得+
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・嫌な気分になったら、モーグリ(ぬいぐるみも可)をふかふかしてマターリしてください。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。

7 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:33:41.23 ID:B1nZ++VF0.net
参加者名簿(名前の後についている数字は投票数)

FF1 4名:ビッケ、スーパーモンク、ガーランド、白魔道士
FF2 6名:フリオニール(2)、マティウス、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:ナイト、赤魔道士、デッシュ、ドーガ、ハイン(2)、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス(2)、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス

DQ1 3名:勇者、ローラ、竜王
DQ2 3名:ローレシア王子、サマルトリア王子、ムーンブルク王女
DQ3 6名:オルテガ、男勇者、男賢者、女僧侶、男盗賊、カンダタ
DQ4 9名:男勇者、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン(2)、主人公(2)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、王子、王女、ビアンカ、はぐりん、ピエール、マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー(2)、ミレーユ、主人公、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア(2)、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ

FF 78名 DQ 61名
計 139名

8 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:37:09.98 ID:B1nZ++VF0.net
生存者リスト (名前に※がついているキャラは首輪解除済み)

FF1 0/4名:(全滅)
FF2 0/6名:(全滅)
FF3 0/8名:(全滅)
FF4 0/7名:(全滅)
FF5 2/7名:バッツ、ギード
FF6 4/12名:リルム、マッシュ、ロック、ケフカ
FF7 2/10名:ザックス、セフィロス
FF8 3/6名:※スコール、アーヴァイン、サイファー
FF9 0/8名:(全滅)
FF10 0/3名:(全滅)
FF10-2 2/3名:ユウナ、リュック
FFT 2/4名:※アルガス、ラムザ

DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 0/3名:(全滅)
DQ3 1/6名:セージ
DQ4 2/9名:ソロ、ロザリー
DQ5 2/15名:ヘンリー、プサン
DQ6 0/11名:(全滅)
DQ7 0/5名:(全滅)
DQM 0/5名:(全滅)
DQCH 0/4名:(全滅)

FF 15/78名 DQ 5/61名
うち首輪解除済み 2名
計 18(20)/139名

9 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:41:24.76 ID:B1nZ++VF0.net
■過去スレ
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1099057287/ PART1
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101461772/ PART2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1105260916/ PART3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1113148481/ PART4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1119462370/ PART5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1123321744/ PART6
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1128065596/ PART7
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1130874480/ PART8
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142829053/ PART9
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1143513429/ PART10
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1157809234/ PART11
http://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1179230308/ PART12
http://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1208077421/ PART13
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1218211059/ PART14
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1249315531/ PART15
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1295278544/ PART16
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1348887405/ PART17

FFDQバトルロワイアル裏方雑談スレPart14
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1225283405/

※part13以前の裏方雑談スレログはまとめサイトに保管されています

10 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:45:03.06 ID:B1nZ++VF0.net
■現在までの死亡者状況
ゲーム開始前(1人)
「マリア(FF2)」

アリアハン朝〜日没(31人)
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」
「マリベル」

アリアハン夜〜夜明け(20人)
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」「ラグナ」「エーコ」「マリア(DQ5)」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」

アリアハン朝〜終了(6人)
「アイラ」「デッシュ」「ランド」「サリィ」「わるぼう」「ベアトリクス」

浮遊大陸朝〜日没(21人)
「フライヤ」「レオ」「ティファ」「ドルバ」「ビアンカ」「ギルダー」「はぐりん」「クジャ」「イクサス」「リノア」
「アグリアス」「ロラン」「バーバラ」「シンシア」「ローグ」「シド」「ファリス」「エッジ」「フルート」「ドーガ」
「デール」

浮遊大陸夜〜夜明け(19+1人)
「テリー(DQ6)」「トンベリ」「ゼル」「レオンハルト」「ゴゴ」「アリーナ2」「わたぼう」「レナ」「エドガー」「イザ」
「オルテガ」「フリオニール」「ユフィ」「リュカ」「ピエール」「ハッサン」「ビビ」「ブオーン」「ジタン」「ライアン」

浮遊大陸朝〜終了(7人 ※うち脱落者1人)
「アルス」「ギルガメッシュ」「ウネ」「ウィーグラフ」「マティウス」「アリーナ」 ※「ザンデ」(リタイア)

闇の世界朝〜日没 (13人)
「サックス」「タバサ」「テリー(DQM)」「ルカ」「パパス」 「フィン」「ティーダ」「スミス」「カイン」「ピサロ」
「ターニア」「エリア」「サラマンダー」

闇の世界夜〜 (1人)
「クリムト」

11 :テンプレここまで:2015/10/27(火) 20:46:35.49 ID:B1nZ++VF0.net
■その他
FFDQバトルロワイアル3rd 編集サイト
http://www.geocities.jp/ffdqbr3log/
FFDQバトルロワイアル3rd 旧まとめサイト
http://www.geocities.jp/ffdqbr3rd/index.html
1stまとめサイト
http://www.parabox.or.jp/~takashin/ffdqbr-top.htm
1st&2ndまとめサイト
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/
携帯用まとめサイト
http://web.fileseek.net/cgi-bin/p.cgi?u=http%3A%2F%2Fwww.geocities.jp/ffdqbr3log/
FFDQバトルロワイアル保管庫@モバイル(1st&2ndをまとめてくれています)
http://dq.first-create.com/ffdqbr/
番外編まとめサイト
http://ffdqbr.fc2web.com/
1stまとめ+ログ置き場 兼 3rdまとめ未収録話避難場所
http://www11.atwiki.jp/dqff1st/


保管庫
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/2736/1201201051/
したらば
http://jbbs.livedoor.jp/game/22429/
あなたは しにました(FFDQロワ3rd死者の雑談ネタスレ)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/22429/1134189443/
ロワらじ
http://jbbs.livedoor.jp/game/22796/
お絵かき掲示板
http://www16.oekakibbs.com/bbs/FFDQ3rd/oekakibbs.cgi

現在の舞台は闇の世界(DQ4)
ttp://www43.atwiki.jp/ichinichiittai?cmd=upload&act=open&pageid=16&file=%E9%97%87%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C.PNG

12 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 20:47:54.20 ID:B1nZ++VF0.net
以上でテンプレは終了です。
>9と>10を入れ違えてしまいすみませんでした。

13 :思い出にしないために 1/19:2015/10/27(火) 21:40:15.64 ID:B1nZ++VF0.net
八方を塞ぐのは本棚の壁。
水晶の床から伸びているのは、やはり本棚で出来た柱。
天井は遥かな高みにあるのかそれとも最初から存在していないのか、暗闇に融けている。
しかし周囲が暗いということはなく、読書に困らない程度の光量は確保されている。
光源らしいモノは見当たらないのだが……やはり"夢の中だから"の一言で片付けるべきなのだろう。
ここにバッツがいれば『すっげー!』などと言いながら本を読み散らすのだろうか?
それとも今の俺や隣に居るティーダのように、気圧されて身を固くするのだろうか?
そんな下らない疑問の答えを見つける前に、『夢の主』の声が響き渡った。

「ライブラ」

ワイヤーフレームで出来た箱のような光条が俺に向かって収縮し、回転する。
「あんたも飽きないねえ」と視界の隅でウネが眉をひそめ、「まーたそれッスか」とティーダがぼやく。
分析の魔力は無遠慮に俺の身体を調べていたが、十数秒ほどで霧散する。
「ふむ」
中空に浮かんだ水晶製の椅子に腰かけながら、『夢の主』――ザンデは唇の端を吊り上げた。
その手にはいつの間にか一冊の本が握られている。
しかしザンデはページを手繰ることなく本を放り投げ、ティーダへと視線を向ける。
宙を舞った本は物理法則を無視した予測不可能な軌道を描きながら本棚の空きスペースに収まり、二度目のライブラは予想通りティーダを捉えた。

「やれやれ、あんたもその子の事を疑ってるのかい?
 気持ちはわからなくもないけど、大丈夫だよ」

ウネは肩を竦めながら、ちらりと俺の方を見やる。
俺が彼女を呼び出しティーダを調べさせたのは、この夢に来る前の事。
その時も彼女は「ちょいと小難しく考えすぎだよ」と呆れていた。

「本当に魔女の影響なんてのを受けてたら、この目で見れば一発でわかるってもんさ。
 夢の世界を形作るのは夢見る心とそれを支えてる魂なんだからね」
「わかっている」

14 :思い出にしないために 2/19:2015/10/27(火) 21:42:12.47 ID:B1nZ++VF0.net
ウネの言葉に耳を傾けているのか聞き流しているのか、厳めしいだけの表情からは判別できない。
そもそもザンデという男、攻略本には『魔王を名乗る魔導士』と書かれていた。
しかし外見だけを言えば本職の格闘家であるマッシュにすら劣らぬ筋骨隆々とした偉丈夫だし、
青黒い肌と上半身の筋肉を誇示する為なのか、服装もプロレスラーを思わせる半裸マント。
そのくせ夢の中は本だらけの図書館で、噂通りのライブラ狂。
良く言えば文武両道を究めた結果なのかもしれないが、正直に言えば変人の類だ。
あるいは天才というものは常人の理解が及ばないが故に変人に映るのかもしれないが――
俺はぼんやりとオダインやラグナの顔を思い浮かべながら、ザンデの手に視線を向けた。
太い指で手繰っているのは、たった今出現したばかりの本のページ。
先ほどの本といい、ライブラで得た情報が具象化したのだろう。
現実では絶対に有り得ないことだが、何せここは彼の夢の中だ。何でも有りに決まっている。

「ウネよ。お前の主義主張はともかく、判断を疑うつもりはない。
 だが、ならばなぜこの小僧は夢の世界に己の心と魂を留め置けた?
 他の落命した有象無象と小僧の違いは何か、気になるのは当然ではないか」

ザンデがじろりとティーダを見やる。
当然の指摘だ。
ウネのような力を持っていなさそうなティーダが、どうして夢世界に存在できているのか。

「俺が元々夢だからじゃないッスか?」

……本人はそれで納得しているようだが、俺には全く分からん。
ティーダの言葉の意味も含めて、だ。

「この子が言っている通り、生まれが原因じゃないかね?
 あたしみたいに後から夢の世界を統べる力をもらったわけじゃなく、最初からそういう存在なんだからね。
 それにこの子の事を強く夢見続ける友達だっているんだ」

ウネが答える。
少しは納得できる説明が出てくるかと思ったが、全くもってそんなことはなかった。
ティーダを夢見続ける友達と言うのはアーヴァインの事なんだろうが……
アイツ一人が夢で見ている、その程度の事で、夢世界に存在できるのか?
そんな事でいいなら、俺は――俺は…………

脳裏に、いつか見た花畑と中央にたたずむ小さな人影が過ぎる。
けれど俺の追想を遮るようにザンデの声が響いた。

15 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 21:54:59.36 ID:kqrffd3hB
 

16 :思い出にしないために 3/19:2015/10/27(火) 21:47:59.36 ID:B1nZ++VF0.net
「なるほど。しかし、それはお前の知る夢の世界の理だ。
 魔女に支配されたこの世界で通用する理ではなかろう」
「どういうことだい?」

我に返った俺の横で、ウネが首を傾げる。
それにつられたのか、ティーダが俺にすがるような視線を向ける。
けれども俺だって話の内容なんか理解できないし、できるわけもない。
そんな俺達をぐるりと見やったザンデは、ひどくつまらなそうに息を吐くと、ウネに問いかけた。

「お前も夢の世界を渡り歩いたならば理解しているはずだ。
 夢の世界に、お前とこの小僧以外の『死者』が何人存在していた?
 死んだ者は百人以上いるが、夢として残る事が出来ているのは片手で数えられる程度――
 ……いや。この場に連れてきていない時点で、ゼロということではないのか?」
「それは……」
「憎悪と疑心に満ちた状況では生者に死後の安寧を夢見られる事など難しい、か?
 だが私が出会った人間どもは、ことごとく仲間の死を嘆き悲しみ、冥福を祈る程度の感性を保っていたがな。
 小僧ども、貴様らとてそうだろう?」

だからなんでこっちに聞くんだ。
この中で一番門外漢なのは間違いなく俺だろう。
急に話題を振られたって困る。というかティーダですら困惑しているじゃないか。
返答に窮している俺達を見たザンデは、こちらを見下しながら補足する。

「家族。恋人。仲間。友人。
 死せる者はみな、天国で幸せに暮らしていればいい。
 その程度の事は願わぬか?
 無論、己の眼に映る現実しか信じぬほど達観しているならば話は別だが……
 貴様らの年頃ならば青臭い夢の一つや二つ見ていよう?」

……ああ。そういうことか。
言わんとすることは理解できた。
それはティーダも同様だったらしく、俺よりも先に口を開く。

「それはまあ……安らかに眠ってほしいとか、家族と再会できればいいとか、思ったりはするけど。
 でも生きているのが一番だし、天国でどうこうよりも……とにかく生きててほしかったって気持ちの方が強いッスよ。
 スコールだってそうだろ?」
「ああ」

脳裏に、俺が守れなかった『彼女』の姿が過ぎる。
いつも着ていた青いワンピース、その背に描かれた小さな羽。
魔女の力で白翼など背負わなくても、俺達を振り回す傍らで皆を気に掛ける彼女は誰よりも天使のようだった。
だが、だからと言って――

17 :思い出にしないために 4/19:2015/10/27(火) 21:50:29.52 ID:B1nZ++VF0.net
「確かに天国が存在して彼女が見守ってくれているというなら、心強いものがある。
 だがそんなことを願うより、俺は……」

――ああ、そうだ。
天国が実在しようがしなかろうが、そんなことはどうでもいい。
俺は彼女に生きてほしかった。
最早過去形で言うしかない言葉が、喉に詰まる。
それでも俺は、彼女に生きていてほしかった。
だが彼女はもういない。
もう会えない。
リノアはもう、どこにも居てなどくれない。
声を聞くことも。顔を見ることも。
あの身体を背負って歩く事すら出来やしない。

過去形だ。何もかも。
俺は彼女に生きていてほしかったし、俺は彼女を守れなかった。
生きていてほしい、でも。
彼女を守りたい、でもなく。

認めたくなどない。
だが、逃げたって現実は変わらない。彼女の事を嘆こうとも何も変わらない。
俺にはまだ、やることがある。
やるべきことも、やらなければいけないことも。
ここまで付き合ってくれた仲間の為に、俺を信じてくれた仲間の為に、俺のせいで死んでいった仲間の為に。
俺がしなければいけないことが。
助けなければいけない人たちが。
倒さなければいけない敵が。
――何もかもが、たくさんありすぎる。
だからまだ足を止めるわけにはいかない。
考える事を辞める事も許されない。

こんな後悔と未練が愛だというなら、俺は確かに彼女の事を愛している。
だが、今は……今は、これ以上を考えるわけにはいかない。
これ以上彼女の事を考えたら、俺は立ち止まってしまう。

考えるな。
彼女の事を考えるな。
思い出は心の奥に仕舞え。
記憶を、感情を塗りつぶせ。
黒く。ただ、黒く。

――黒くなれ。

18 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 21:56:53.05 ID:kqrffd3hB
 

19 :思い出にしないために 5/19:2015/10/27(火) 21:55:05.50 ID:B1nZ++VF0.net
「――……スコール?」

やけに沈んだティーダの声が俺を現実に引き戻す。
顔を上げれば罪悪感たっぷりといった様子のティーダに、怪訝な表情を浮かべるウネ。
そして、相変わらず厳めしい面で睨んでいるザンデが視界に映る。

「あの、その、ゴメン。
 聞いちゃいけない事……だったよな」
「どうしてそう思った」
確かに快く答えられるような話などではないが、だからといって腫れ物扱いされるのも少々不愉快だ。
だいいち元々話を振ったのはザンデであってティーダじゃない。
なのに、なんで謝ってくるんだ。

「どうしてって……だって、その。
 ゼルとアービンから、あんた達の事聞いてたしさ」

……そういえば。アイツだけじゃなく、ゼルとも一緒に居たんだったな。
この場にはいない仲間とこの世にいない仲間の顔を思い浮かべ、納得する。
あの二人が揃っていたなら、俺とリノアの関係ぐらい、道すがら知り合っただけの相手にもペラペラと喋るだろう。
実際、俺の趣味まで面白おかしく喋ってたみたいだしな。カードマニアだのバトルジャンキーだの。
もちろんその程度の事で文句を言う気もないし、そもそも片方については最早文句を言う事もできやしない。

「それに……」
「止めろ」

ティーダは目を逸らしたまま何かを言いかけるが、俺が先に制する。
話の内容なんか聞くまでもない。
アーヴァインがリノアを埋葬したという話は本人から聞かされたし、リルムからも裏を取った。
こいつも少し手伝ったらしいから、それで必要以上に気にしているんだろうが……
何度も聞きたい話ではないし、ティーダが謝るべき事じゃないだろう。
どちらかといえば俺の方が、リノアに変わって感謝しなければならないはずだ。
……だが、言いたくない。
『リノアの墓を作ってくれてありがとう』だなど、口が裂けたって言いたくない。
だから俺は代わりにこう告げる。

「少し思考を整理していただけだ。
 あんたが思っているような事を考えていたわけじゃない。
 だいたい、その程度の事で謝られてもこちらが困る」

20 :思い出にしないために 6/19:2015/10/27(火) 21:56:53.79 ID:B1nZ++VF0.net
「だけど、俺」

なおも食い下がるティーダに、俺は思わず顔を背けながら吐き捨てた。

「謝らなくていいと言っている。
 それともあんたは自分の気持ちを納得させたくて、俺に懺悔を聞いてくれというのか?
 だったら壁にでも話してろ。俺は教師や宗教家になった覚えはない」

「言いすぎだよ、スコール!」
さすがに聞きとがめたのだろう、ウネの叱咤が飛ぶ。
さらにバサバサと激しい羽ばたきが響き渡ったかと思うと、頭に鈍い痛みと衝撃が走った。
とっさに片腕で庇いながら頭上を見上げれば、そこにはウネが連れていた赤いオウムが「ヒドイヒドイ!」と嘴を振り上げている。

「一番悪いのはデリカシーの欠片もないザンデであって、ティーダじゃないだろう?
 心の傷に触れられて苛立つのは仕方がないけれど、当たる先が違うさね!」

……言われなくてもわかっている。
俺のしている事は八つ当たりだ。ティーダが悪いわけじゃない。
だが、ウネの言っている事も間違いだ。
一番悪いのはザンデでも、他の誰でもない。
リノアを守れなかった俺自身なのだから。

「好き勝手に言うものだな」
ザンデが呆れたように呟く。
分析魔のこの男の事だ、俺の青臭い心情などとっくに見抜いているのだろう。
しかしそうは思っていないらしいウネが、オウムと一緒になって騒ぎ立てる。

「あんたが好き勝手やってるから、こっちもそうせざるを得ないんさね!
 ああ、本っ当に昔っから変わりゃしない!
 いつもあんたが派手にやらかして、ドーガとモーグリ達が慌てて頭を下げて、最後にあたしとノアが尻拭い!
 人としての命を貰っても時間を止めて千年過ごしても、肝心な部分がまるで成長しやしないんだから!」

21 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 21:58:47.18 ID:DCVxvVuz0.net
 

22 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 21:59:52.88 ID:DCVxvVuz0.net
しえん

23 :思い出にしないために 7/19:2015/10/27(火) 22:03:14.47 ID:B1nZ++VF0.net
「……人の命など何になる。短命の呪いだ。お前が思っているような成長の糧になどなるものか。
 それに魔道を究める以外に肝心な事など…………そう、あるはずがない」
「ああ、ああ、まだそんなこと言ってるなんて呆れちまうよ!
 ギルダー達の輝きを、魔竜の呪いを打ち破った光の心を見て、何も感じなかったというのかい!
 ノアもギルダー達もサラ姫もシドもデッシュもアルス王もアムルの村のじいさん達も!
 あたし達を上回る事ができたのは、みんな、みんな人間だったじゃないか!」
「たまたま我が目論見を覆すだけの才能を持ち得た人間がいたというだけだ。
 人間であるから才能が宿ったわけではあるまい」
「才能? そんな都合の良い言葉で片付けるなんて、あんたの分析眼も衰えたもんだね!」

ウネとザンデが言い合いを続ける中、ティーダがおろおろと口を開く。

「あ、あのさ……そんな喧嘩してないで、本題に戻ってくれないッスかね?
 そりゃあんたらには時間とか余裕があるだろうけど、俺達には無いっつーか」
「ん? ……ああ、悪いねぇ。
 年甲斐もなく熱くなっちまったよ。全くザンデときたら……」
「あーあーストップストップ! もうダメ、痴話喧嘩は禁止ッス!
 そんなことより、俺がここに居られて他の人たちが居られない理由って何なんだよ?!
 俺、まだ助けなきゃいけない奴らがいるんだ! もし急に消えるようなことになったら……!
 何かわかったんだったら教えてくれよ! なあ!!」

……そう言えば元々はそんな話をしてたんだったな。
正直、それですら俺が望んでいる本題とはかけ離れているのだが。
だが彼の心情を考えれば聞きたがるのも当然だし、俺としても少しは気になる。
ティーダの剣幕に思う所があったのか、ウネは「やれやれ」と肩を竦めながらも引き下がる。
ザンデもザンデで不服そうな表情を浮かべていたが、やがて軽く咳払いしてからティーダに向き直った。

「要らぬ心配をせずとも、貴様はそう簡単には消滅せん。
 結論から言えば、強大な三種の力が貴様という存在を保護している。
 一つはあの白魔道師姿の小僧に由来しているようだが、残り二つは光に属するという事以外判断しきれんな」

白魔導師……アーヴァインのことか?
アイツにそんな力があるとは思えないが。

「あの坊やの事はアルガスの話と夢しか知らないけど、そんな力なんてあるもんかねえ……
 【闇】の影響かね?」
「いや。我々の世界のソレとは似て非なる、特殊な幻獣の力が影響しているようだ。
 スコールといったな。貴様も同種の力を利用しているようだが、何か知らんのか?」

24 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:03:22.60 ID:DCVxvVuz0.net
支援

25 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:05:50.48 ID:DCVxvVuz0.net
しえ/ん

26 :思い出にしないために 8/19:2015/10/27(火) 22:06:35.37 ID:B1nZ++VF0.net
なるほどな。GFの影響か。
以前使っていたディアボロスにしても今貸しているパンデモニウムにしても、
魔法エネルギーを取り扱ったり使用者の身体にジャンクションしたりする能力は備えているからな。
俺はガーデンの授業を思い出しながら、ざっと説明する。
所詮一学生でしかない俺の知識などたかが知れているはずだが、ザンデにとっては興味深い情報だったらしい。
俺が喋っている間はひたすら「ほうほう」と頷き続け、話を終えると同時に高笑いを始めた。

「ファファファ……素晴らしい!
 実体を捨て精神寄生体として進化を遂げた幻獣が存在するとは!
 しかし考えてみれば、召喚獣として使役される為だけに一度殺され冥界に魂を送られるのが幻獣共の常よな!
 ならば最初から精神のみの魔力体として存在し、繁殖に必要な生命力や移動手段は召喚士から搾取すればいい!
 ああ、実に効率的な回答だ!」
岩のような顔に喜色満面の笑みを浮かべ、やたらと高いテンションで独り言を呟くザンデ。
その言葉に、ティーダが首をかしげる。
「え? 召喚獣って祈り子の夢じゃないんッスか?
 一度殺されるとか、幻獣って……いや、そりゃ祈り子はみんな死んでるみたいなもんだし、俺だって一度死んだけどさ」
「ほう? その話も興味深い。
 聞かせろ」
「え、……あ、ああ」

グローブでもつけているんじゃないかと疑いたくなるぐらい太い指にがっしりと肩を掴まれて、逃げ場がないと悟ったのか。
ティーダはしどろもどろと祈り子や召喚獣について喋り始める。
それはやはりわかりにくい説明であったし、俺の知る常識からかけ離れた話だったが――
祈り子がどのようなもので、何故ティーダが自分を『夢』と称するのかについては、辛うじて理解できた。

「ふむ。冥界に行くべき魂を用いて人工的に力持つ魔物を作り上げ、召喚が容易になるよう呪法で縛り付けているわけか。
 サロニアのオーディンに似ているな。
 しかし幻獣の名前には一部と言えど共通点があるというのに、ここまで原理が異なるとは。
 もしや幻獣が幻獣として存在している世界の方が少ないのか?
 だが、ロック達の世界では幻獣達が種族として存在していたようだし……」
「はいはい、そこまでにおしよ」
自分の世界に没頭するザンデを見かねたのだろう。
ウネがため息をつくと同時に、彼女のオウムがぱたぱたと舞い上がりザンデの頭を小突いた。

27 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:08:13.95 ID:DCVxvVuz0.net
sien

28 :思い出にしないために 9/19:2015/10/27(火) 22:08:46.15 ID:B1nZ++VF0.net
「ティーダが言ったばかりだろう、この子達には時間がないんだよ。
 この子が魔女の影響下にないことはあんたも十分確かめた。
 あたしだってその点に関してはお墨付きをあげるし、あんたの性格はともかく分析結果を疑う気はないよ。
 だからそろそろいい加減、本題に入るべきさね。違うかい?」
「ああ」
「そ、そうッスね。
 オッサンの居場所とか、脱出に必要なものとかも聞きたいし、スコールだって聞きたい事あるだろうし」

ウネに続いて俺とティーダが答えると、ザンデは「フン」と鼻を鳴らしながらも片手を振った。
すると瞬く間に図書館の光景が崩れ去り、代わりに宇宙のような空間が広がる。
無数に煌く星のような光と点在する水晶の塊、そして果てのない暗闇。
上を向いてもやはり天井はなく、下を見れば床すらない。
しかしどういう仕組みか、落下する事も倒れる事もなく、俺達は全員真っ直ぐに立ち続けている。

「現実の私が存在する空間を投影した。
 小僧。脆弱な人間にすぎぬ貴様には落ち着かんだろうが、慣れろ」

軽く言ってくれるが、少しばかり無茶だ。
宙に浮いている感覚があるわけでもなく、眼を閉じればどこまでも落ちていきそうで、しかし視界は動かない。
何も踏みしめていないのに立っているという矛盾が強烈な違和感となって本能的な不安を呼び起こす。

「なんか……すっげぇ落ち着かないッス、コレ」

ちらりと横を見れば、ティーダが冷や汗を流しながら足を交互に動かしている。
明らかに『あるべき床』を突き抜けて虚空を切っているはずなのに、倒れる様子はない。

「少し過ごしやすいように調整してあげたらどうかね?
 あんたの夢なんだから、何も現実の環境に拘る事はないだろう」

助け舟を出してくれたウネの言葉に、ザンデは少しばかり眉根を潜めながらも指を鳴らした。
星空の光景はそのまま、巨大な水晶で出来た床だけが現れる。
人心地がついたと言わんばかりにティーダは胸を撫で下ろしつつ、呆れ半分同情半分の視線をザンデに向けた。

「はー……オッサン、こんな所に居るのかよ。
 どうやって寝てるんだっつーか」
「生命体の生存を考慮した空間ではないといえ、空気はある。
 生きている以上、睡眠を取ろうと思えばいくらでも取れるわ」
「いやそういう問題じゃなくて……やっぱいいッス。
 もう本題入ろうって、本題」
どう聞いても軸のずれた回答しか帰ってこないと悟ったのだろう。
ティーダはやれやれと肩を竦めながら、俺の方をチラりと見やった。

29 :思い出にしないために 10/19:2015/10/27(火) 22:10:58.61 ID:B1nZ++VF0.net
「えっと……そもそも、この場所ってどこなんだ?
 それとあんた、魔女に見つかってたりしないのか?」

どうも、彼なりに俺が聞きたい事を考えてくれたようだ。
初対面から今までの印象が悪かったせいで――何せひたすら混乱していて支離滅裂な説明しかせず、しまいには一人泣き喚く有様だ――、
リュック同様かそれ以上に『理屈を放棄して感情で動くタイプ』だとばかり思っていたのだが。
現在の様子を見るに、落ち着きさえすれば多少は場を仕切る能力があるらしい。
合理的な視点はあるが協調性皆無のアルガスと足して割れば、案外丁度いいリーダーになるかもしれないな。
二人の性格上、まともに手を組むなどほぼ不可能だろうが。

「私が死んでいないという点で、魔女は私の居場所を把握していないと判断する他ない。
 そして、この場所が何処かという問いだが……実のところ、私にも正確な回答はできん。
 推測であれば幾つか挙げられるが、断定するには情報が足りぬ」
「じゃあその推測って奴を聞かせてくれよ。
 もしかしたらピンと来ることがあるかもしれないしさ」

そんな簡単にピンと来ないとは思うが……せっかくティーダが聞き出そうとしているのに水を差しても仕方がない。
俺は黙って会話の成り行きを見守る。

「よかろう。だがその前に伝えるべき事がある」

ザンデはおもむろに手をかざし、きらきらと輝く光の一つを招きよせた。
遠目で見ると星のように見えるソレの正体は、発光している結晶体の破片だ。
燃焼しているわけではないらしく、顔を近づけても熱さも冷たさも感じない。
所詮現実ではなく夢だから、とも思ったが、ザンデのような人物が中途半端な再現をするとも思えない。

「なんなんッスか、これ?
 割れたガラスか水晶……そうだ、そこらへんにある水晶の破片みたいだけど」
「ほう? 存外勘が良いな。
 中を覗くように見つめてみるがいい。そちらの小僧もだ」

俺とティーダは目を瞬かせながらも、ザンデの勧めに従い結晶に視線を注ぐ。
すると――

30 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:11:16.11 ID:DCVxvVuz0.net


31 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:11:20.54 ID:LMJhgLf70.net
___

32 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:12:22.75 ID:DCVxvVuz0.net


33 :思い出にしないために 11/19:2015/10/27(火) 22:14:33.21 ID:B1nZ++VF0.net
   赤い赤い辺り一面の血の海。
   身動きも息も出来なくなるほどに、胸に満ちる苦痛にも似た絶望感。
   視界に映り込む引き裂かれた女の腕と脚と金色の髪。
   崩れ落ちる膝、響く慟哭、喉に走る本物の痛み、有り得ない方向に歪む視界。
   悲しみ、悔しさ、罪悪感。
   脳裏に過ぎる青髪の青年と金髪の少女、赤髪の騎士と二人の少年。
   戻りたい、戻れない、還らない、帰れない。
   最後に思い出したのは明るく微笑む三つ編みの女性と、勝ち気そうな金髪の姫君。
   残せたのは意味のない足掻き。
      『お、俺には……クハッ、まだ……価値が……』
   それらすべてを塗りつぶすように聞こえた、悪意に満ちた女の嘲笑――

      『な い よ、そ ん な の』
  

「うわぁああああああああああああああああああああああ!!」

響き渡った悲鳴に、俺は反射的に顔を上げた。
周囲を見ればそこは星と水晶が瞬く暗黒空間。血だまりもなければ死体もない。
前を向けば平然と佇むザンデがいて、結晶を覗きこんでいるウネがいて。
横を見れば、尻餅をついてあわあわと叫ぶティーダがいる。

「なんで!? なんであのストーカー女が!?
 アイツもう死んだはずだろ!? 放送で、名前だって!!
 それに、あれ、あの城の!!
 ……あれ? あの城?」

一体何を思い出したというのか、急激に喚き声のトーンが下がった。
腕を組んで唸り始めたティーダに、俺は思わず尋ねる。

「心当たりがあるのか?」
「心当たりっていうか、今のって……今朝、旅の扉見つけた部屋みたいっつーか?
 あんなに生々しくはなかったけど、……うっぷ、……惨状が、その……」

なるほど。前の世界で通過した部屋だったのか。
今の光景が現実で起こった事であるなら、死体も一つではなく二つに増えているだろう。
あんな状況では血が多少乾いたところで臭いなど消えないだろうし、まっとうな人間なら見ただけで足がすくむはずだ。
そんな部屋に旅の扉を用意するなど悪趣味極まりないが、実にあの魔女がやりそうなことでもある。

34 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:15:30.93 ID:DCVxvVuz0.net


35 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:16:02.30 ID:LMJhgLf70.net
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36 :思い出にしないために 12/19:2015/10/27(火) 22:17:59.36 ID:B1nZ++VF0.net
「これは……死者の記憶の欠片かね?
 終わりに出てきた女は分身のアリーナのようだけれど」
「死者……?」
一人ごちるように呟いたウネの言葉で、俺は今の幻覚の中に見覚えがある顔があったことを思い出した。
赤髪の騎士サックス――ウルで出会い、俺達を裏切った男。
今のが死者の記憶だというなら、元の世界でのアイツの仲間だったのだろうか。
別にサックスに対して良い感情など抱いていないが、こういう風に見せつけられると少し気が滅入る。

「分……身?」
俺の感傷を知る由もないティーダは、純粋に困惑した様子で首をかしげている。
どうやらアリーナが二人いるという話を知らなかったようだ。
俺だってパパス達やソロのような、信頼に足るとわかる人物に伝えられなければ――
……そう、例えば最初に情報を持ってきたのがラグナやバッツだったら絶対に信じなかっただろう。

「他の連中から聞いた話だが、アリーナという人物は本物と偽物がいたらしい。
 本物は良くも悪くもリュックを単純にしたみたいな性格で、偽物は凶暴かつ残虐凶悪だったとか」
端的に説明すると、ティーダはますます腕組みを深くし「うーんうーん」と唸りはじめる。
「なんスかそれ……
 あ、でも、アービン達がぶっ倒れてる時にちょうどロザリーがアリーナのこと庇ってたんだっけか……」
すっかり『今明かされた衝撃の真実についていけない』といった様子だ。
ぶつぶつと一人ごちるティーダを置いておいて、俺はザンデに尋ねる。

「この空間にある光や結晶すべてが死者の記憶だというのか?」
「うむ。あらかた調べ尽くしたが、間違いない。
 この空間は、死者の記憶や経験を――【精神】を保存しておるのだ」
「精神……?」

ふと、攻略本に載っていたコラムが頭を過ぎった。
【精神と魂】というそのままの題で、幽霊やアンデッド・生物の魔物化といった比較的なじみのあるテーマを扱っていたので、
一字一句とまではいかないがそれなりに正確な内容が頭に残っている。

「精神とは知覚や認識を処理する機能を指すんじゃないのか?
 記憶や経験・感情は、『精神』というよりも『精神が処理する情報』だと思うのだが……」

俺の言葉に、しかしザンデは「フン」とせせら笑う。

37 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:21:39.00 ID:LMJhgLf70.net
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38 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:22:18.57 ID:DCVxvVuz0.net
しえしえ

39 :思い出にしないために 12/19:2015/10/27(火) 22:22:20.94 ID:B1nZ++VF0.net
「ならば小僧、貴様に問うが。
 無垢な赤子を白い部屋に閉じ込め、音も文字も匂いも食物も何の情報も与えず、ただ最低限の生命力だけを与え生かし続けたとして――
 その赤子に精神と呼べるものが育つと思うか?」
「それは……」
極端な仮定を持ち出され、思わず返答に詰まっていると、ザンデは滔々と語り出す。

「精神とは『意識』だ。
 経験によって育まれ、感情によって方向性を得て、記憶によって同一性を保つモノ。
 知覚や認識を処理する機能というのも間違いではないが、それはある程度成長した精神が持つ一側面にすぎん。
 記憶を失えば精神は変容する。感情を失っても精神は変容する。
 そう――それこそ、例の白魔導師の小僧など良い例ではないか」

瞳の無い黄金の目がティーダに向かう。
冷徹な視線が発する気配を察したのか、ティーダははっと面を上げ、「えっ何!? 何スか?!」と慌てふためく。
しかしザンデは彼に声をかけることもなく、すぐに振り向き直して言葉を継いだ。

「もちろん、貴様の解釈が全て間違っておるとは言わぬ。
 少なくとも我が現実の世界に存在するのは、あくまでも『記憶及び感情の結晶』よ。
 ウネやそこの小僧、あるいはG.F.のような『独自に思考しある程度の自立行動を取れる精神体』ではない。
 故に対話などは不可能であったし、奴らが夢を見る事もない。
 先ほどのように一方的に情報を引き出すのがせいぜいだ」

その口調は極めて淡々としていたが、心なしか虚しさや徒労感が滲んでいた。
考えてみればザンデにもウネという知人がいるわけだし、他の協力者だっていたはずだ。
中にはそれなりに馬が合う相手もいたかもしれない。
そういう連中が先に死んでいった挙句、断片的な記憶だけが囚われた空間に自らも閉じ込められた――
……ああ、こうしてみると中々にぞっとしない話だ。
少なくとも俺だったら、リノアやラグナ、ゼル、マリベル、エーコ、アイラ……
皆の死の場面さえも含んだ記憶を見る事しかできない状況に追い込まれたら、一日持たずに発狂する自信がある。

「貴様らに理解できるよう砕けた表現をするならば、『精神の死体置き場』というのが適当よな。 
 本来は肉体が死したとて、精神が同時に死ぬとは限らんものだが……
 あの世界では、【肉体】の死が即座に【精神】の死を引き起こすよう呪法を施してあるようだ。
 最も、集めた者の力量を考えれば当然の処置ではある。
 命を失った程度で諦める輩の方が少数だろうということは、貴様らどころか火を見るよりも明らかだ。
 何も策を講じなければ、今頃は魔女に刃向うアンデッドの群れで溢れ返っておったであろうよ」

40 :思い出にしないために 14/19:2015/10/27(火) 22:24:05.51 ID:B1nZ++VF0.net
ザンデは能面のような表情のまま手の内の結晶を眺めたかと思うと、一気に握り潰した。
傍らで「それにしたって悪趣味だねえ」とウネが呟いたが、
その言葉はもちろん彼ではなく、アルティミシアに向けられたものだろう。

「でもさ。記憶とか感情とか、そんなモン集めてどうなるんッスか?
 魂とか命とかならまだわかるけど……いや、それでも意味がわかるってだけで理解なんかしたくないけどさ」

結晶の一つをつつきながらティーダがぼやく。
"記憶を集めて何が出来るのか"
俺も同じ疑問を抱いたし、彼も何気なく口にしたのだろうが――何故かザンデは答えず、ギロリと睨み付けた。
そんな反応が返ってくるとは予測していなかったのか、ザンデの表情に気付いたティーダは「えっ!?」と身を竦ませる。
青い瞳が助けを求めるように俺とウネを交互に見やったが、そういう目を向けられても非常に困る。
何を言えばいいのか考えあぐねていると、ウネが堪えきれなくなったようにカラカラと笑いだした。

「ああ、ティーダ。心配しなくていいよ。
 ザンデは見ての通り頑固で、プライドばかり一丁前だからねえ。
 "自分の知識じゃ欠片もわからないことがある"って認めたくないだけなんだよ」
「ウネよ! たまには言葉を弁えろ!
 理解できないなどとは一言も言っておらん!!
 現状では挙げられる可能性が多すぎて結論が出せんだけだ!!」
「へえ、ならその可能性の一つでもあたしに教えておくれよ。
 魔道において重要なはずの魂をそこらに放りだし、死んだ精神だけを集める理由なんて、あたしには一つも思いつかないのさ。
 ましてその放りだされた魂のせいで半分魔に堕ちた子がいて、その子の力で首輪解除が出来ちまったんだからねえ」

ともすれば嫌味にしかならない強烈な煽りだが、ウネの口調と表情はあくまでもこざっぱりとしたものだ。
ザンデもザンデでギリッと歯噛みをするだけであり、激怒するような素振りはない。
喧嘩するほど仲がいい――というよりも、気心が知れた相手との軽いじゃれ合いのようなものなのかもしれない。
俺はいつかのキスティスとサイファーのやりとりを思い出しつつも、横から口を挟んだ。

「あんた達には悪いが、俺としてはアルティミシアの目的などどうでもいい。
 どうせロクな事じゃないに決まっているし、そもそも目的を達成する前に倒す事が理想だからな。
 それよりも聞きたいのは、ザンデ。あんたの居場所についてだ。
 より具体的には、あんたの居場所はアルティミシアの居場所に近いのか否か。それを知りたい」

俺の言葉にザンデは「よかろう」と頷いた。
彼としても話題転換が出来るのは好都合だったのか、あっという間に機嫌を直して語り始める。

41 :思い出にしないために 15/19:2015/10/27(火) 22:27:54.22 ID:B1nZ++VF0.net
「現状、提示できる仮説は二つある。
 一つは、この空間が今まで我々が通過した世界の跡地であるという仮説。
 即ち死せる肉体は偽りの大地や他の物質体と共に消滅し、【魂】は生存者に依り憑かせて旅の扉を潜らせ、
 虚無の空間に残った死せる【精神】を結晶化させて保存する――
 そのような一連の機構が、全ての前提として組み込まれている場合だ。
 これならば私の居る空間に【精神】しか集められていないことにも納得が行く。
 そもそも【魂】から得られる力に比べれば遥かに劣るというだけで、【精神】からもある程度の魔力や技術は抽出できるからな。
 最も強い【肉体】を選出すると同時に蠱毒の術式で【魂】の質を高め、さらに集めた【精神】のエネルギーを利用してアビリティを強化する。
 単純に強い生命体を作るための大掛かりな儀式魔術であるならば、非常に理に適っていると言えるだろう」

「……」
長い。
こうも一気に説明されると、退屈な教師の授業を聞いている気分になる。

「だが、この説には非常に大きな問題がある。
 明らかに"イレギュラーであろう事態が多すぎる"のだ。
 殺し合いが終了していない、即ち儀式が完遂していないにも関わらず数人の生存者が【魂】に由来する強化を発現する。
 魔法陣やデジョンの影響があったといえ、私やロザリーがこの空間に入り込めた。
 あまつさえ、ウネやそこの小僧が呪法の影響を逃れ、精神体として行動できている。
 ――この殺し合いが完成された儀式魔術であると仮定するなら、いずれも決して起きるはずがない」
 
そこまで語ると、ザンデはパチンと指を鳴らし、夢の光景を書き換えた。
豪奢な広間の中央に鎮座する漆黒の結晶。
アルガスが見た夢に出てきたのと同じ風景だ。

「今一つは、魔女の夢に出てきた黒いクリスタルの内部であるという仮説だ。
 本来【魂】を収集する為の機構を、魔女が無理に改造・流用して【精神】のみを収集しようとした。
 その結果行き場を失った【魂】が偽りの大地に溢れ、魔女の意志や負の思念に染まりながら生存者に寄り憑いた、というわけだ。
 こちらの説の方がイレギュラーについてはある程度説明がつく。
 【魂】を集める器で【精神】を集めるなど、匙で肉を切りナイフでスープを啜るようなものだ。
 ほころびなど幾らでも生まれよう。
 しかしこの説では、完全な会場外かつ侵入されてはならない空間に居るにも関わらず私の首輪が爆破されていないことが不自然だ。
 それにやはり、目的が如何とも判断できん。
 【魂】を捨てて【精神】を集めることに何の意味があるのか……」

42 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:28:03.07 ID:DCVxvVuz0.net
しん

43 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:29:36.61 ID:LMJhgLf70.net
慈円

44 :思い出にしないために 16/19:2015/10/27(火) 22:30:34.15 ID:B1nZ++VF0.net
どうにもこうにも気になって仕方がないらしく、ザンデはぶつぶつと呟きながら思索に没頭しはじめる。
「……」
この時俺の頭に過ぎったのは、一体のGF。
かつてアルティミシアが俺の記憶と感情から作成した――"俺の考えた最強の存在"。
それと似たような、しかし遥かに強力なGFを皆の絶望や恐怖から作成するつもりではないだろうか?

……だが、それを口に出せばザンデは喜び勇んで食いついてくるだろうし、俺の問いなど後回しにするだろう。
ただでさえ寄り道と脱線が続き、今も冗長な話を聞いている。
どこまでいっても推測しか出来ない事柄で時間を取られるのは、俺にとって極めて不都合だ。
さっさとザンデを現実に引き戻すべく、俺はあえて思いつきを伏せて声をかけた。

「現状、可能性として高いのは後者なのか?」
「ん? ああ……いや、何とも言えぬな。
 二つの仮説が複合している可能性も有るし、認めたくはないが私が気付いておらん全く別の可能性も有り得るだろう」
「複合?」
「黒いクリスタルの内部に偽りの大地と私の居る空間を含んだ亜空間が展開されているのやもしれん、ということだ。
 最も一から亜空間を創造維持するぐらいなら、その魔力で次元の狭間に同じ機能を持つ隔離空間を作った方が早いがな」

なるほどな。
とにかく、どの仮説にしても理屈に合わない部分があると言いたいわけか。
俺としては黒いクリスタルの内部という可能性が一番高く感じるが、説明する時間が惜しい。
だが、これでは俺が思い描いているような計画を実行するのは難しいか……?
……いや。素人考えで判断を下すのも早計だな。
望みが薄かろうと、確認は取っておこう。

「……なら、あんたの仮定のいずれかが正しいとして。
 それぞれの場合において、アルティミシアの居場所に向けて脱出する方法は存在するのか?」

俺の質問に、何故かティーダが目を丸くする。
しかしそれもつかの間のことで、彼はすぐに首を傾げ、肩を竦めた。

「ザンデのオッサンに先に脱出してもらおうってのか?
 そんなのさすがに無理じゃないッスか?
 つか、出来るんだったら最初からそうしてるだろうし」
「うむ。存在しないとは言わんが、いかに私といえども手が足りぬ。
 そもそも私が通れるだけの通路を作成するとなると、我が力を大きく上回る魔力が必要となる」

45 :思い出にしないために 17/19:2015/10/27(火) 22:35:07.81 ID:B1nZ++VF0.net
と、ザンデはティーダの言葉を首肯しながらウネの方を見やった。
「私が夢の世界かノアの魔力を継いでいたならば、そこにいるウネを召喚して活用してみせたのだがな。
 生憎、師が私に残したものといえば人間としての命のみだ」

あからさまな皮肉に満ちた口調に、ウネはわざとらしく首を横に振る。
元から皺だらけの顔にさらに皺を寄せ、呆れたようにため息をつく表情は、
"まーだそんなこと言っているのかい"というセリフを刻んでいるかのようだ。
けれどもそれを言葉にしようとしないのは、先の口論があったからだろう。
彼女には悪いが、俺としても余計な茶々を入れられて話がこじれるのはゴメンだ。

「例えばあんた以外の、魔法使いでない人間を脱出させるとして、協力者が何人いれば可能なんだ?」
「私以外の人間を、か?
 そうよな――最低を述べるならデジョン及びテレポが使える魔道士一名と、魔力の増強や補助に使える道具だ。
 確実性を高めるならば、旅の扉か特定個人の探査能力を持つ道具が欲しいところだな。
 理想を言えば召喚士の補佐もあると良い」
「一人でいいのか? 三人以上必要だとか、そういう話は?」
「あれはあくまでも旅の扉に干渉し、行先の変更と固定をするために必要な人員だ。
 今回はもっと単純に、空間に穴を穿つことが主眼となる。
 どういう仕組みを用いていようと、魔女の居城と我が居場所が同一空間内に存在しておらんことだけは間違いないからな。
 最初に空間と空間を隔てる壁を破らなければ乗り込みようがない。
 しかし、最初に私とロザリーが入り込んだ時点で大きな歪みが発生しているはずだ。
 貴様らの居る大地へ戻る歪みは私が今も保持しているが、それとは別の歪みも存在する可能性がある。
 それを発見して利用することができれば多少は労力が削減できる。
 無論、そうして穴を開けただけでは魔女の居城に乗り込める可能性は低いが……
 こちらには死人共の【精神】、【記憶の結晶】があるのでな。
 特定領域への転移魔法を習得している者の記憶を利用し、魔女への城への転移を発動すれば良い。
 ただ、これで脱出させることが出来るのは多くても三人が限度であろうな。
 人数が増えると転移魔法の制御精度が落ちるだろうし、空間に開ける穴の大きさや維持時間もネックとなる」

………長い。
だが、なるほど。
ピサロが代案として考えていたという、ルーラを利用する脱出方法と似た理論だ。

46 :思い出にしないために 18/19:2015/10/27(火) 22:40:38.08 ID:B1nZ++VF0.net
「ちょ、ちょっと待てよ。
 協力者って、どうやって連れてくるんだ?」

思考が追いついていないらしいティーダが声を上げる。
「ああ、それは――」と俺が説明するよりも早く、ザンデが答えた。

「簡単だ。必要な人員を貴様らの夢に呼び込んだあと、ウネの作った鍵を私に貸せば良い。
 首輪さえ外れておれば死ぬこともなかろう」
「あっ―ー!」
やっと気づいたようだ。
まあ、俺だってアルガスの実験や言葉が無ければ思いつかなかっただろうし、
初めから居合わせたわけじゃない彼に気付けというのは酷な話でもあるが。

首輪が無ければ夢世界に生身で入り込める。
夢の存在に限るが、夢世界で鍵の貸し借りが出来る事も確認している。
ならばアルガスが眠って鍵の力を使い、生身の俺達を夢に招き入れ、
その上で夢のザンデに鍵を貸し、ザンデが現実世界に俺達を戻せば……
俺達は、ザンデの元に移動できるのだ。

「旅の扉は1日に1度しか開かない。
 それを利用するならば、儀式途中での殺人者や狂人の乱入を防ぐ必要がある。
 だが、その『邪魔者の排除』を担当する仲間が行動不能になったり、合流不能になっている。
 アルティミシアの性格からして、こちらに余裕が無ければ無いほど手出しをしてこないと踏んでいるが……
 まだ余力があるうちに他の手段での脱出方法を確立しておかないと、魔女の干渉の有無以前に手詰まりになりかねない」

俺は言葉を紡ぎながら、サイファーとアーヴァインの事を思い浮かべた。
色々と理屈を並べたてたところで、結局、俺はあの二人を見殺しにしたくないだけだ。
これ以上知り合いを思い出にしたくないだけなんだ。

「それに、夢の世界を使えばアルティミシアが寝ている時間を突き止められることはアルガスが実証済みだ。
 あの魔女に気付かれないうちに城に潜入し、部下のモンスターを倒して首輪の制御装置を止めることができれば、
 一つ一つの首輪を解除をせずとも生存者全員の命を安全圏に置ける」

もちろんそんなことをすれば魔女とて静観しないだろう――が。
首輪が完全停止すれば生存者同士で殺し合う意味はなく、ほぼ確実に全生存者VS魔女という図式を作り上げることができる。
そうなれば殺人者だろうと異常者だろうと魔女を攻撃するしかない。
理性を失った狂人は流石にどう動くかわからないが、それにしたって大人しく魔女に従うことだけは無いはずだ。
そもそも首輪を外したところで、最後にやることといえば生存者全員で魔女の城に乗り込んで戦いを挑むだけ。
なら、首輪を停止した結果魔女がこちらに乗り込むことになったってさほど変わりもしない。
むしろ脱出に使う魔力が節約できるだけ有利かもしれない。

47 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:46:17.19 ID:DCVxvVuz0.net
マダレムシエン

48 :思い出にしないために 19/19:2015/10/27(火) 22:46:30.67 ID:B1nZ++VF0.net
「制御装置を止めるって、そんなことが出来るのか?」
「俺の――SeeDの本業は潜入破壊工作だ。
 ガルバディア軍の機材がベースになっているのならいくらでもやりようがある。
 それにアルティミシアの部下の弱点は把握済みだ。
 よほどの魔改造を施されていない限りは、俺一人でもある程度は対処できる」
「え?」

ティーダが目を瞬かせ、ウネも眉を潜める。
聞き間違いだとでも思ったのだろうが、俺の言葉は変わらない。

夢の世界を提供し、仲間の輸送や道具の受け渡しを行うアルガス。
俺が失敗した時に首輪を外してもらうためのバッツとラムザ。
近くにいる仲間で唯一魔法が得意な――つまりザンデの補佐に回せるリルム。
この四人には明確な役割がある以上、危険に巻き込むわけにはいかない。
そしてマッシュは重傷者だ。個人的にも人道的にも彼を死地に連れて行きたくはない。
少しずつではあるが俺の体調も回復してきたし、カーバンクルがあれば戦闘も可能と言う事はアーヴァインとの殴り合いで実証できている。
だから――

「俺一人でアルティミシアの城に潜入し、首輪の制御に使われている機材を破壊する。
 その上で可能であれば旅の扉を解放する。
 旅の扉の解放が不可能であれば部下を撃破して魔女の戦力を奪う。
 以上がこちらの計画だ。どうか協力してほしい」

俺の考えた最善の選択を実行しよう。
これ以上、誰かを過去形で呼ばないために。
俺の携わる最後の計画になったとしても。



【スコール (微度の毒状態、手足に痺れ(ほぼ回復)、首輪解除、睡眠中)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング、ウネの鍵、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)
 第一行動方針:アルティミシア城に潜入し、首輪制御装置を破壊する
 第二行動方針:旅の扉を常時解放させる/アルティミシアの配下を殲滅
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】

【ザンデ 所持品:無し
 第一行動方針:スコールに協力する??
 基本行動方針:ウネや他の協力者を探し、ゲームを脱出する】
【現在位置:????】

49 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 22:46:57.44 ID:B1nZ++VF0.net
以上、投下終了です。
支援ありがとうございました!

50 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/27(火) 23:25:16.44 ID:9v8vhjQd0.net
スレ立て&重厚新作がいちどきに...これは奇跡か……・゚・(ノД`)ノ【マヂデゥレシィ・・・】.+゚*。:゚+
書き手さん&支援さん(慈円てw)ありがとう!超絶乙です!

久々に登場のザンデ、相変らず元気にライブラ狂で何より
終始仏頂面ながら「あっという間に機嫌を直して語り始める」のにワロタ
ウネとの痴話喧嘩もなんか微笑ましいな

分析マニア魔王と判断力ピカイチ班長の邂逅で一気に脱出計画が具体的になったね
現実は混沌を極めてるけど脱出組も横槍組も頑張れ〜

51 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/28(水) 00:47:35.89 ID:CqnjC0yo0.net
乙です!
ギルダーの最期の思考が二股そのものだったことを今更明かされて、笑っちまったよ。

52 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/28(水) 01:55:22.16 ID:xY48HqRQ0.net
投下乙です
すげえ、考察が一気に進んだ!
GFとかの要素からクロスしててめっちゃニヤニヤした
最期はスコールがかっこいい

53 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/28(水) 13:11:12.65 ID:LW9wMFN80.net
     .'´ ⌒ ヽ  |ヽ ̄ン、     
    ' /ノノ`ヾ_/`´__ヽ      
ピュー (((*゚ ヮ゚ノ  |从*´∀`) ̄  <スレ立て&投下乙!
    (y)ヾ-〃  ソノ斤川ヽ 
  =〔~ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∪ ̄ ̄〕
  = ◎―――――――◎

このロワは進行こそ凄い遅いが、確実は進んでいる感はあるなw

54 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/28(水) 13:43:28.03 ID:YFUKnb9u0.net
投下おつ!
ザンデ君は自重をしましょう(通知簿
そんでは、班長……一人で行くだなんてそんな……
すごくいやな予感がしますな……

55 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/29(木) 18:33:41.60 ID:ES+rIigjy
投下乙です

死後(リアルタイムで)10年経って最期の光景をウネやドーガに見られるとはギルダーも思うまい
しかし改めて思うけどこのロワでのザンデは本当にいいキャラだなぁ

56 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/10/31(土) 22:31:41.74 ID:holuZ+4W0.net
保守

57 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/05(木) 22:53:10.80 ID:LuxozKMEh
hosyu

58 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/10(火) 18:40:18.55 ID:KKhymCDx.net
hosyu

59 :復讐と孤独の柵 1/10:2015/11/11(水) 00:14:10.90 ID:MezmrD0R.net
何かの本で読んだ記憶がある。
『人生において、幸運と不運を足せば最終的にはゼロになる』と。

何かの本で読んだ記憶がある。
『不幸な人間ほど不運に愛され、幸福な人間ほど幸運に愛される』と。

かつて人間として生きていた時は前者の方が正しいと思い込んでいた。
しかし今、私の経験に照らし合わせれば後者の方が正しいと判断するほかない。
あの忌々しい道化師ケフカに貶められて以来、蔑む人間に情けをかけられ、自ら作り上げたコピーには逃げ出され、
再びケフカと相まみえるも取り逃がし、しまいには薄汚れた着ぐるみ女に翻弄される始末。
もちろん幾つかの事象は運の問題というよりも私自身の実力不足や見識の甘さに基づいているのだが、それ故に性質が悪い。

――だから、目の前の小僧がうわごとのように私の名を呼んだ事に対しても。
真っ先に浮かんだ感情は驚きでも殺意でもなく、不快感とそれを上回る自嘲だった。

「君は……
 ……貴方が、セフィロス……なんですか?」

躊躇うような問いかけとは裏腹に、その表情に宿るのは紛うことなき確信の色。
小僧の傍らでくたばった爺いが死に際に伝えたのか。
あるいは出会った生存者に基づく消去法と私の行動から総合的に判断したのか、私の知らぬ力で見破ったとでもいうのか。
そんなことは考えるまでもなくどうでもいい話だ。
どれほど無様で滑稽な醜態を晒していても、私自身が自らをセフィロスであると認めていたい以上、真実は一つしか存在しない。
何を以って判断したにしろ、ソロという小僧は真実に行きついた。
それだけの話。

けれど……
けれども、だ。
私は何と答えれば良い?
刀も持てずにカーカーと泣き喚き、【闇】を自力で手中に収める術も持たず、
人を侮る気狂い共に一矢たりとて報えず、小僧や老いぼれの機転だので命を拾う、そんな存在がセフィロスであると公言しろと?
それとも私自身たる矜持すら捨てて無力で無害なカッパになりきり、こんな小僧如きに媚を売れと?

「カー」

『ふざけるな』。
意識せずとも胸中に渦巻く感情が口からこぼれる。
ソロの表情が強張るが、知った事か。
こんな若造一人が敵に回ろうが、一対一であればいなす自信はある。
懸念するとすればケフカが横槍を挟んでくる場合だが、
そんな意志や魔力があるなら着ぐるみ女がメテオもどきを放った直後に私を狙っているだろう。

60 :復讐と孤独の柵 2/10:2015/11/11(水) 00:16:09.29 ID:MezmrD0R.net
どうでもいい。
目の前の小僧一人の思惑など、本当にどうでもいい。
私は単純に、肯定も否定もしたくないだけなのだ。
百歩譲って人間の言葉や価値感を持たず、不当に見下しも敬いもしないアンジェロのような存在なら知られても構わないが――
これ以上『人間』に侮られることだけは我慢ならない。

「……すみません」

何をどう受け取ったのか、ソロはきまりが悪そうに視線を外し、頭を下げる。
緑色の髪が、天上より照り返す溶岩色の光を浴びながら揺れた。

「貴方が誰であれど、僕の窮地を救い、クリムトさんの手当をしようとしてくれた。
 それに対する感謝も言わず、ただ疑いを向けるなど無礼が過ぎました。
 申し訳ありません。それと……ありがとうございます」

愚直なお人よし。そんな単語が脳裏を過ぎる。
悪気など欠片も見当たらない真摯な態度と常人とは異なる髪色に、いつか殺めた女の影が重なった。

「カー」
――『嫌味か?』

この小僧にその手の意図はないと薄々わかっていながらも、吐き捨てずにはいられなかった。
いっそ敵対心も露わに襲いかかってきていたのなら仕留める気も起きたのだが、現状を鑑みれば口止めや人減らしは悪手。
私自身に直接【闇】を吸収する素質が無い以上、ソロを殺したところで残った【闇】は他者の元に届くだけ。
近くに居る生存者が誰かを考慮すれば、ケフカの手に【闇】が渡ってしまうことも十分考えられる。
それにアンジェロとの約定も破る事になるし、あの犬の協力が期待できなくなればそれもケフカにとって有利に働く。
どう考えても、ソロを殺す不利益こそあれど利も理もない。
向こうに戦意がなく、話し合いで方を付けられる可能性が高い以上、戦闘回避に動くのが上策ではある。
さすがに今の言葉を聞きとがめられていたら問題があるだろうが、所詮人間、こんな間抜けなカッパ語などわかるまいし――

「そんなつもりはないのですが……いえ、何を言ってもただの言い訳にしかなりませんね。
 本当にすみませんでした」

……。

「……カーカー(こんな鳴き声でこちらの言葉がわかるのか?)」
「何となくですが、わかります。
 クリムトさんが僕に力を残してくれたみたいで、その、姿も……それなりにはっきりと見えます」

61 :復讐と孤独の柵 3/10:2015/11/11(水) 00:18:01.15 ID:MezmrD0R.net
ふざけるな。
マテリアも何も使わず死に際に他人に力を与える? どんな異能だ、それは。
物体に命を吹き込むインスパイアの亜種か?
しかも姿を見破るだけでなく言葉まで聞き分けるなどどういう効果だ。
オートでみやぶるを発動できるようになったということか?
老いぼれめ……手当てなどせずに止めを刺しておくべきだったか……?

「……貴方はまだ、殺し合いに乗るつもりなんですか?」

感情など表情に出したつもりもなかったが、そこは異能の力の賜物か。
ソロは私の内心を見抜いたらしく、拳を握りしめながら問いかけてくる。
ユウナとの戦いで奴が振るっていた装飾過多な剣はすぐそこの床に転がっているし、
そもそも背負ったザックの中にティーダの形見とやらの青い剣が入っているはずなのだが、装備しようとはしない。
一瞬、徒手空拳でも私に勝てるという侮りの表れかと思ったが……
あくまで話し合いに臨む上での礼儀として武器を取らずにいるのだろう。
こいつはそういうタイプの人間だ。
別に嫌う意味はないのだが、いちいち好感を抱きたくもない。

「カー、カーカー
 (乗らない、と言えば信じるのか?)」
「信じます」

吐き捨てるように問いかけてみれば、即答が戻ってくる。
字面以外の歪んだ解釈を許さない、躊躇いも曖昧さもない返答に、さしもの私もやや面食らった。
少なくともアリアハンで私が成したことに関しては、サイファーが口やかましいほどに主張していた事なのだ。
それを踏まえていて一体なぜ――と考えたところで、忌々しいほど丁寧に向こうから説明してくれた。

「あなたが本当に邪悪な心の持ち主であるなら、油断している僕らの隙をついて殺すことなんていくらでも出来たはずだ。
 そうしないで僕達と同行してくれていたこと、どのような理由であろうと僕達を助けてくれたこと。
 ……殺す事、それ自体が目的でないのなら、きっと話し合えると思いました。
 それに……何より、アンジェロも貴方に対して心を許していたように見えたんです。
 動物に好かれる人は、根っからの悪人じゃありません」

「……」
馬鹿か、こいつは。

貴様らを仕留めなかったのも、渋々助けてやったのも、アンジェロが私に交渉を持ちかけてきたのも、私がそれを受けたのも。
何もかも全て単なる打算だ。
こいつが考えているような安っぽい善意などありはしない。
わけのわからない先入観に囚われた曇った眼しか持たないくせに、人の理解者を気取るつもりなのか?

――下らない。

62 :復讐と孤独の柵 4/10:2015/11/11(水) 00:20:32.24 ID:MezmrD0R.net
失望と苛立ちが胸に広がる。
ああ、だが、人間とは元来このように愚鈍で無知なくせに全知全能を目指し千識万能を気取る下種な生き物だった。
己がどれほど無力であるかすら知ろうとせず、過去にも未来にも目を向けずに日々星を喰らい潰すだけの愚かな生命体。
そのくせ自分達が賢しく善良な存在だと思い込み、加害者の分際で被害者面をしながら生きているだけの虫けらども。
ザックスも、クラウドも、宝条も、ガストも、こいつも。
誰も彼も、結局は人間という種族の枠を超えられはしないのだ。

ケフカに抱いているモノとは似て非なる、しかし同等の不愉快さが心に湧き上がる。
こんな頭の中が花畑で出来ているような小僧の尺度で推し量られた挙句、勝手に善人認定されかけているのだ。
苛立たないでいられるか。

「カーカー。カーカーカーーーァ。カカカーァカーカカーー。
 (ほう、随分と安い信頼があったものだな?
 この殺し合い、最終的な椅子は一つきり。
 ならば一人二人と追いかけて殺していくよりも多人数をまとめて始末する方が上策だと思わないか?)」

現状、殺す意味どころか戦う意義さえないことはわかりきっている。
だがつまらん幻想を少しでも砕き、その小憎たらしい偽善者面を剥がしてやりたくなった。
それ故の虚勢。それ故の挑発。
けれどソロは真剣な表情を崩しもせず、凛とした口調で応じる。

「椅子が一つしかないと言っているのは魔女一人。
 僕らの手で隠されている椅子を見つけ出せば、殺し合う必要などありません」
「クァックァックァッ……カーカー。カーカカー?
 (クックック……実に理想的な話だな。
 絵に描いたパンを取り出して食えると本気で信じているのか?)」
「絵のモデルになったパンを探せば食べられます。
 モデルが存在しないというなら、絵に似たパンを作ってしまえばいい」

……存外に口が減らない小僧だ。
だが、思い返してみれば私を警戒していたサイファーに対しても色々と言い包めていたな。

「カカー。カーァカカアーカー。
 (下らん詭弁だ。
 それとも貴様には首輪を外し全員で魔女を倒し各々の世界に帰還する秘策があるとでも?)」
「いいえ。今はまだ、いくつかの手掛かりを掴んでいるだけです。
 ですが殺し合いに乗って一人で生き残ったとして、魔女が生存者を解放するとは思えません。
 現に最初の広間で説明があった時、魔女や魔女の僕は『生き残った人物を元の世界に返す』とは一言も言っていませんでした」
「……カーカーカカー。
 (……魔女を仕留めてその力を奪えばいいだけだ)」
「そう簡単に奪える力があるとも思えないんですが……
 いえ、その点は差し置くとしても、首輪を外せなければどのみち魔女を倒す事は不可能です。
 貴方の目的があくまで生還にあり、殺し合いが手段に過ぎないというのなら」
「……カー、カー?
 (協力しろ、と?)」
「はい。貴方を含めた全員が、帰るべき場所へ帰れるように」

63 :復讐と孤独の柵 5/10:2015/11/11(水) 00:22:47.17 ID:MezmrD0R.net
ソロの革靴が僅かに前へ動き、ざり、とひびわれた床をこすり上げる。
私の半分も生きていないような小僧のくせに――あるいはその若さ故、か。
こちらを恐れる様子もなくずけずけと踏み込んでくる厚顔無恥さ。
こういう奴は以前にも居た。
例えばアンジール、ジェネシス、ザックス。
武器を取ればこちらに追いつき追い抜こうと奮迅し、戦場を離れれば次の休日の予定を聞いて下らない約束をねじ込もうとした連中。
誰も彼も私の理解者足りえなかったが、しかし、一時だけは確かに友と認めていたこともあった。
あるいはクジャ。
傲慢と尊大を形にしたようなあの男を懐かしむ気はないが、他を寄せ付けぬ力と傲慢なまでの自信は本物だった。
奴とアリアハンで出会った時、私の理解者足りうる可能性を感じたのは事実だ。
だからこそ手を組んだ。だからこそ、……信じた。

だが、結局はどうだ。
アンジールもザックスも、クジャさえも。
ジェネシス以外は皆、人間に組する事を選んだ。
母を拒絶し、母を封じ、母を利用し、母を傷つけ続けた、忌々しい人間共の為に生きることを選んだのだ。

この小僧も同じだ。
人間の味方。人間の仲間。
人間だけを守り、それ以外を排除する、人間の為の『英雄』。

「………」

『断る』と口にできたらどれほど心地良いだろう。
私の願いは母の悲願を果たすこと。
私の望みは母がかつてそうしたように、星を巡り星を喰らい永遠に栄えること。
ジェノバとしてではなく、母の血を引く子として、星の命さえも超えた神となること。
人間ともセトラとも決して相容れぬ未来こそが私の夢。
何も理解しようとしないまま、母や私を排除するような種族の手など取りたくもない。
しかし、しかし、しかし……

「協力できるほど僕達を信用できないというのなら、停戦でも構いません。
 僕は命ある限り、魔女を倒して生還する手段を探します。
 そのために、僕と僕の仲間達に時間を与えてほしいのです」
「……、カァーカカー、カーカーカカー? カーカーーカーカー?
 (……、24時間誰も死ななければ首輪が爆発して死ぬ、そんな説明があったはずだが?
  実を結ぶかどうかもわからない努力に期待して貴様らと仲良く爆死するリスクを犯せと?)」
「それでも……今から一日分の時間は保障されているはずです」

緑色の瞳が躊躇いがちに揺れ動きながら老いぼれの死体へと向けられる。
正確な時刻こそ弾き出せずとも、ソレがいつ命を失ったのかは明白極まりなかった。

64 :復讐と孤独の柵 6/10:2015/11/11(水) 00:24:25.34 ID:MezmrD0R.net
【闇】を手にしようと思うなら、今ソロを殺すべきではない
ケフカを倒すためには、今ソロを殺すべきではない。
元の姿に戻る方法や首輪を外す方法を未だ見つけていない以上、今ソロを殺すべきではない。
あらゆる要素がこの小僧の言葉を飲めと強いてくる。
状況が、現状が、感情のままに動くことを許さない――

……ああ、まるで。
まるでこれでは神羅のソルジャー1stのようではないか。
社内の誰よりも強いと認められながら、地位と職務と人間関係に縛られて自由を許されない兵士。
戻れと言うのか。
あの頃に。
この私が。
この私を。
この私に。
今更、ソルジャー1stとして生きる人間セフィロスのように振る舞えというのか。

「……カー(嫌だ)」

私は、私のまま、母の子として存在したいのだ。
母の子として、母の為に人間への復讐を果たしたいのだ。
そうでなければ、私は――私は……!

「……そう、ですか」

ソロの唇が動き、強張った声が零れ落ちる。
しかしさすがに予測の範囲内だったのだろう。
必要以上に狼狽える様子などは見せず、こちらを真っ直ぐ見つめたまま問いかける。

「せめて、理由を聞かせてもらえませんか?」
「カー(断る)」

こればかりは即答するしかなかった。
この胸に渦巻く感情は『私』という人格と存在を構成する核であると同時に、決して曝け出せぬ弱点でもある。
ソロに限らず、例え尋ねたのがアンジェロだったとしても、口になど出したくない。

「どうしても、ですか?」

ソロは歯を食いしばり、念を押すように聞いてくる。
この平和主義者の小僧のことだ。
本当に、純粋に、私と戦いたくないし殺したくもないのだろう。

・・・・・
だからこそ不愉快極まりない。

65 :復讐と孤独の柵 7/10:2015/11/11(水) 00:28:08.79 ID:MezmrD0R.net
私が首を縦に振ったとして、それでこの小僧は何をするか。
わかりきった話だ。
どうせ美辞麗句を並べたてながら私を矢面に立たせ、こちらの意志を顧みる事無く自分達に付き従わせるのだろう?
神羅という企業がそうだったように、私の心情も、理想とやらのために切り捨てられ取り零される存在も見て見ぬふりをし、
大義のための尊い犠牲として勝手に祭り上げながら、その実は単なる道具として使い潰していくのだろう?
そしていざ私が私自身の願いのために戦おうとすれば一方的に『裏切り者』と罵るのだろう?
『信頼していたのに』と嘯きながら剣を向け、被害者面をして襲いかかってくるのだろう?

今更、誰が利用されるか。
誰が手を組むものか。
私はもうソルジャー1stではない。
私は英雄と呼ばれる操り人形ではない。
私は――私は、最初から人間などではない!
私は私だ!
私は、私が、私こそが――!!


 "さっきからカアカア、カアカア。
  何言ってんのかわかんなぁいんだよ、ブァーーカ!!"


――……。

頭に血が上りきったせいだろうか。
瞬間、脳裏にケフカの姿と言葉が過ぎった。

"ここで小僧の手を払えば、笑うのはあの道化"
そんな当たり前のことを再確認し、急速に思考が平静さを取り戻す。
そもそもソロに限らず、ケフカも魔女も人間である事には変わらない。
三者三様に全くもって気に食わない思考回路をしているが、現状停戦することが可能でその価値があるのはソロのみ。
そもそもあの道化の不愉快な笑い声は一分一秒とて聞いていたくないし、
下らん三文芝居の脚本を書いた挙句人の醜態を眺めているだろう魔女にはケフカ以上に後悔と絶望を送らなければ気が済まない。
紆余曲折の果てに思考はぐるりと一周し、元の結論を指し示す。
即ち――

「……カー。
 (保留させろ)」

「え?」
更なる説得の言葉を探していたらしいソロが顔を上げる。
そのきょとんとした表情が、一瞬、どこぞの『子犬』と重なった。
私は反射的に視線を逸らしながら言葉を続ける。

66 :復讐と孤独の柵 8/10:2015/11/11(水) 00:31:15.44 ID:MezmrD0R.net
「カーカー、カカーカーカー。カーカァーカー。カァーカーァー。
 (貴様は気に入らんが、ケフカのやり口と存在はそれ以上に気に食わん。
 だいたい奴は貴様らにとっても邪魔だろうし、話し合うなどと寝言をのたまう気もないだろう?)」
「……そう、ですね。
 確かにあの道化師にはエビルプリーストと同様の気配を感じました。
 生きるためではなく、【闇】に冒されたわけでもなく、ただ己の欲望のために破滅をまき散らす邪悪さを」

邪悪の基準などどうでもいいが、ケフカについてはきちんと『倒すべき存在』として認識しているようだ。
アレに対しても安っぽいラブアンドピースを謳うようならばさすがにここで始末する他ないし、
それはそれで堂々とうっぷん晴らしが出来る理由に成りえたのだが。
『残念だ』と言うべきか、『命拾いしたな小僧』と言うべきか悩ましいところだ。
まあいい。

「カーーカーカカーーー。カーカーカー。
 (今ここで貴様と潰し合ってもケフカを喜ばせるだけだ。
 奴を仕留めるまでは停戦する。その程度の約束で良ければ承諾してやる)」

出来る事ならばケフカは私一人の力で倒したい。
だが相手が白マテリアを持っていて連続で発動できるとわかった以上、話は別だ。
戦うにあたり、最低でも奴の攻撃を一手に引きつける盾役の存在は必須。
その一点だけで評するならソロの性格はむしろ都合が良い方だろう。
色々と気に入らないがな。

「……わかりました。
 その間に少しでも貴方の考えが変わるよう、努力します」

『とっかかりが出来ただけマシ』とでも考えたのだろうか。
ソロは強張った表情のまま、しかしどこか安堵したように息を吐いた。
取るに足らない若造一人の努力で他人を変えられると思うのも、やはり若者特有の傲慢さか。
鼻につくが、さりとてわざわざ指摘してやるほどの義理もない。

「しかし、あの道化師はどこに行ったのでしょうか?
 まさかこの城を後にして、他の場所に居る人達を殺しに行った……?」
「カー、カァーカーカーカー。カカーァカーカ、カアカーカーァ。
 (いや、城からは離れんだろう。
 根拠は話せないが、恐らく奴はこの城自体に用があるはずだ)」

67 :復讐と孤独の柵 9/10:2015/11/11(水) 00:32:46.83 ID:MezmrD0R.net
そもそもケフカが私をカッパに変えたのは、魔法の解除をエサとして他の参加者を殺させるためだった。
あれからほんの数時間、掌を返すにはあまりにも早すぎる。
私を始末することが私を利用する以上のメリットに繋がる、そんな『何か』を発見したに違いない。

真っ先に思いつくのは【闇】、そして【進化の秘法】。
例えばどこかで先ほど作ったコピー――アーヴァインを見つけ、何らかの手段で情報を聞き出した。
例えばどこかでここの城主だったという男・ピサロと出会っていて、話を聞いていた。
例えば私のように、自力で得た情報とプサン等から得た話を合わせて導き出した。
いずれにしても有り得る話だろう。

「……まさか、進化の秘法?」
私と同じ結論に至ったらしいソロの表情が、あからさまに曇る。
そういえばこの小僧は進化の秘法について多少の知識があるのだったか。
問いただせるものなら問いただしたいが、聞いたところで答えるとは思えないし無駄に警戒させるだけだろう。

「カーカー。カーカカカーカーカー。
 (そのまさかだろうな。
 面倒な事になる前にここで潰す。貴様の話はその後で改めて考えてやろう)」

私はあえてソロの言葉を肯定し希望を持たせてやりながら、あたりをぐるりと見回す。
ケフカの気配は感じられない。
が、どこに隠れていようと逃がす気はない。

奴だけはここで殺す。
必ずだ、ケフカ――!!

68 :復讐と孤独の柵 10/10:2015/11/11(水) 00:34:18.94 ID:MezmrD0R.net
【セフィロス (カッパ 性格変化:みえっぱり 防御力UP HP:????)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ 筆記具
     ドラゴンオーブ、スタングレネード、弓、木の矢28本、聖なる矢14本、
     ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、波動の杖、コルトガバメントの弾倉×2、E:ルビーの腕輪
 第一行動方針:ケフカを殺す
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

【ソロ(HP3/5 魔力1/8 マホステ状態、真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 ひそひ草
      ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
     フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) ティーダの私服
 第一行動方針:ケフカを倒す
 第二行動方針:セフィロスを説得する/サイファー・ロック達と合流し、南東の祠へ戻る
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】

69 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/11(水) 00:53:28.76 ID:BYHQtIfT.net
投下乙です
セフィロス、大分鬱憤と屈辱たまってたんだな……。
でもごめん、言ってることはすごい憤り感じたのにカーカーでワロタ
そっからソルジャー時代絡めてきたのはにはうおおってなった
それを今も引きずってるのが逆にすごい人間らしいよ、あんた

70 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/12(木) 21:03:23.52 ID:aJFDMQOr.net
また半年くらいじっと我慢の子かと思ったらまさかの新作降臨とは!書き手さん乙です!

やばいよソロ死にそうだよ

なんか大丈夫かも

やっぱ死にそうかも

殺伐とした世界でも揺るがないソロのまっすぐ勇者っぷりは頼もしいけど
まっすぐすぎるが故になんか危ういな…

カパロスはシリアスになればなるほど笑いを誘ってしまうという悲劇w

71 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/17(火) 02:53:11.80 ID:8RHHTd6o.net
ほしゅ

72 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/19(木) 14:13:03.81 ID:Jsynnhrb.net
おつ!ソロははやくいてつく波動かけてやれよww

73 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/20(金) 03:55:59.52 ID:G4fD922W.net
 

74 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/25(水) 17:33:55.75 ID:WF0PAguw.net
支援

75 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/26(木) 07:39:47.49 ID:t8neZ4ba.net
リノア=アルティミシアという説は成り立ちません。
イデア曰く「アルティミシアは自分の何代も後の魔女」なのにリノアはイデアの次の代。

グリーヴァの召喚:スコールの心にイメージされたグリーヴァをG.F.として実体化
↑ソースはFF20thアルティマニア
http://wikiwiki.jp/ffex/?%A1%DA%CB%E2%BD%F7%B9%CD%BB%A1%A1%DB  
『ファイナルファンタジー 20th アニバーサリー アルティマニア File:2 シナリオ編』において「スコールの心にイメージされたグリーヴァをG.F.として実体化」と説明されています。

グリーヴァ召喚時のアルティミシアの台詞
「おまえの思う、最も強い者を召喚してやろう」
「おまえが強く思えば思うほど、」
「それは、おまえを苦しめるだろう」

76 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/11/30(月) 21:44:27.17 ID:y7hY7KAr.net
支援

77 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/01(火) 19:38:35.83 ID:NU5j1tZ9.net
リノア=アルティミシアという説は成り立ちません。
・イデア曰く「アルティミシアは自分の何代も後の魔女」なのにリノアはイデアの次の代。
・グリーヴァ召喚:スコールの心にイメージされたグリーヴァをG.F.として実体化させた。 ←ソースはFF20thアルティマニア

78 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/02(水) 14:02:31.16 ID:klcp0q1Q.net
支援

79 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/03(木) 12:49:04.31 ID:3HDpCZJg.net
このスレまだあったのかよwww
始まったの10年前じゃね。

80 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/03(木) 12:53:52.31 ID:HoJhQKKz.net
DQ8とFF12が発売される前に立ったスレだからなぁw
DQロワも3rdになってここに追いついてしまったよw

81 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/03(木) 19:46:29.10 ID:h/C7fJWz.net
 

82 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/09(水) 23:48:39.18 ID:RwZ4e9DX.net
ほしゅ

83 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/19(土) 00:51:46.21 ID:ZpWpydoQ.net
保守

84 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/25(金) 23:11:00.56 ID:eolyaYLr.net
ほしゅ

85 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2015/12/30(水) 14:18:00.60 ID:m9bCnf78.net


86 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/06(水) 18:04:58.45 ID:7+zyjiku.net
DQロワに抜かれないように頑張れ

87 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/08(金) 17:37:05.09 ID:3faDdcMh.net
名ロワと思ってるので完結待ってる
…けど書き手さんも忘れていてもおかしくないほど時間経過してしまったな

88 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/08(金) 21:50:33.54 ID:jgVut5po.net
ぶっちゃけこのペースだと完結まであと10年掛かる。冗談抜きで。
東京五輪開催のころに闇の世界編が終わるくらいやろなあ・・・このままだと

89 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/09(土) 20:28:28.53 ID:5AUHVLNR.net
何年かかっても待ち続けるし読み続ける心づもりである。

90 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/19(火) 02:56:11.30 ID:rThzE6iQ.net
保守

91 :Stand by you 1/11:2016/01/20(水) 00:44:19.41 ID:QvTjqKTn.net
未来は常に現在の先に存在する。
ならば現在起きた出来事全てを把握できれば、未来を見る事は可能であるのか。
数百年前までの、天空の城に座していたマスタードラゴンならばその問いに頷いただろう。
しかし"三人"の勇者に出会い、只人に紛れて数十年間の日々を送った彼は首を横に振る。

未来は常に、生きとし生けるものの意志によって揺れ動く。
不透明にして不確定、不定形にして不明瞭。
だからこそ、ただ一人の努力が千年に一度の奇跡を呼び覚ます。
だからこそ、ただ一人の欲望が万人に不幸を齎す。
そしてだからこそただ一人の希望が絶望へと裏返り、ただ一人の絶望が――

「……ああ、本当に。
 こういうのは幾つになっても堪えますねえ」

ぽつりとこぼれた呟きは、数歩先を行くエルフの耳にさえ届く事はなく。
掻き分け踏み拉かれてゆく葉擦れの音に飲み込まれて消えていく。
もっとも、二人が足を止めていたとしても遠雷のように響く銃声に気を取られて聞き逃すだろうが。

絶望の果てに己を見失ったであろう青年。
嫉妬に狂わされたであろう女性。
彼らの本質が悪ではないことなど、神としての権能を振るわずともわかりきっている。
ただ他人よりも、自分よりも、少しだけ大切な人間がいた。
ただ他の誰よりも自分を気に掛けてほしかった、そんな相手がいた。
本来であれば一時の悲しみで終わるであろう、それだけの話。

エルフの娘は言った。
女性が抱くソレは偽りの愛でしかないと。
その言葉が完全に間違っているとまでは言わない。
愛を捧げる相手すら否定する感情など愚かしいにも程がある。
人間よりも遥かに生命を尊ぶエルフであれば尚更に怒りを感じるはずだ。

ああ、だが、だが。
プサンの胸中で消えぬ疑問が渦を巻く。
確かに先の言葉はエルフの価値観としては正しい。
しかし、だ。
"ロザリーの言葉"としてはあまりに似つかわしくない。
何故なら――……

92 :Stand by you 2/11:2016/01/20(水) 00:48:10.88 ID:QvTjqKTn.net
「……プサン様?」

思考に沈むプサンの視界で、ふわりと何かが翻った。
面を上げれば、そこには薄汚れたドレスの裾を抑えながら小首をかしげるロザリーの姿。
どうやらプサンの走る速度が遅くなっている事に気づき、労りの声をかけてきたようだ。
肩口の傷と足を交互に見やり不安と心配を湛えるルビーの瞳からは、邪悪さなど欠片も感じられない。

「大丈夫ですか?」
「……ええ、大丈夫です」

人間ならば激痛で気絶しているかもしれないが、彼の本性は曲がりなりにも竜の神だ。
「そりゃ本音を言えば今すぐベッドの上に寝転がって休みたいですがね。
 南東の祠に辿り着けば一息つけるでしょうし、そのために歩くのだと思えば歩いていられますよ。
 それに……」

"今の貴方から目を話して何かあったら取り返しがつかない"という言葉を飲み込み、プサンは別の台詞を継ぐ。

「……それに、ザンデさんやピサロ卿、ギードさん達、ザックスさん……
 彼らの意志や心意気を無駄にするわけにはいきませんからね。
 どうにか頑張ってみせますよ」

少しずつだが徐々に遠のいていく銃撃音。
それはザックスとアンジェロがデスキャッスル方面にユウナを誘導しながら戦っている証左だ。
逃げていくプサン達に凶弾が届かぬように、南東の祠の生存者達に累が及ばぬように、彼らは命を賭している。

「そうですか。……そうですね。
 肩をお貸ししますから一緒に頑張りましょう」
どこか陰りのある微笑みは、プサンが数百年前に見たものと同じもの。
恋人の身と共に人間達の命を案じた心優しいエルフの娘と何ら変わらない。
……けれど、けれども、どうしても。
その影に『彼女でない誰か』の姿を覚えずにはいられない。

「ありがとうございます。
 でも、今はお気持ちだけで十分ですよ。
 本当に歩けなくなったらその時にお願いいたしましょう」
「わかりました……ですが、遠慮せずに仰ってくださいね」

ロザリーの申し出を断りながら、プサンはほんの数分前の光景を思い出す。
殺戮を『愛する人の為』と答えたユウナ。
それを『偽りの愛』と真っ向から否定したロザリー。
果たして前行く彼女は――あるいは彼女に憑りついたソレは気付いているのだろうか。
ユウナが抱えた感情は、彼女が抱えてしまった愛は、かつて魔族の王ピサロがロザリーに注いだ愛と『本質的には同じ』だという事に。

93 :Stand by you 3/11:2016/01/20(水) 00:53:24.91 ID:QvTjqKTn.net
ただ一人のために人間を滅ぼす。ただ一人のために生存者を殺す。
恋人の心情を思いやる事なく目的のための殺戮を優先し、その結果恋人を死に追いやる。
愛する人の今際の言葉にすら耳を傾けず。己の罪科を自覚する事もなく。
最後には身も心も思い出さえも投げ捨てて、世界さえも巻き込む破滅の道を突き進む――
他人も自身も全てを生贄とし、現実に非ず己が幻想の恋人に捧げる愛。
支配欲を根源とし絶望と悲しみで喉を潤す、闇の化身たる太古の魔王や魔神を祖とする魔族本来の愛の形。
あるいは闇に魅入られ魔に歪められた、哀れで悲しき愛の形。

確かに人間やエルフのような地上の生物には理解しがたいだろう。
過程を見れば愚かしく、結果を見ても死しか残らない。
しかしどれほど空虚であってもそこにあるのはやはり愛なのだ。
この世にある何よりも、この世にある全てよりも、ただ一人を求めたが故の暴走なのだ。

「………」

踵を返して歩き始めたロザリーの後を追いながら、プサンは思う。
もしもロザリーが何者に冒されることがなく、彼女本来の優しさと聡明さのままに言葉を選んでいたならば、
今のユウナにも届く言葉を紡いでいたのではないかと。
ピサロの愛を受け入れると同時に心から彼を愛し、しかしその非道だけは確固たる意志で否定したロザリーならば。
ユウナの想いが偽りなきものであると認めると同時に、彼女の非道のみを正すことができたのではないかと。

無論、確信や確証があるわけではない。
人の身では未来など見通せないし、予言を下すことすらできはしない。
だがティーダが死んだ今、ユウナの理解者足りえる素質があったのはロザリー以外に存在せず。
『進化の秘法を逆行させる』などという神すら成し得ない奇跡を起こしたのも彼女以外に居はしない。
自分を含めた他の生存者ではユウナを正気に戻せる確率など0%だろうが、彼女だけは幾ばくかの可能性を持っている。

……いや、"持っていた"。

過去は過去でしかなく、覆すことなど出来はしない。
結局、ロザリーの口から出た台詞はユウナの感情の完全否定。
それが彼女自身の穢れなき本心から出た偽らざる言葉だからだ――とはプサンにはどうしても思えない。
だいたいあの状況でユウナを否定し挑発する行為がどれほど危険かなど論ずるまでもないし、
それでもあんな台詞を返せるとすればそれは己の死を覚悟した人間か、ユウナの攻撃をいなす自信がある実力者だけだ。
平和主義者かつ臆病で、自身の力量も為すべき事もきちんと弁えているロザリーが選ぶ言葉ではない。

では誰の言葉かと考えれば、思い浮かぶのはただ一人。
死でさえも断てぬ愛をロザリーに注ぐ存在。
命尽きようとも魂だけでロザリーを守るだけの力量を持つ者。
鏡姫に狂愛を注いだ古き魔術師のように、愛する者の為ならば世の理すら否定する男。

魔王ピサロ――彼以外に誰がいるものか。

94 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/20(水) 00:53:33.46 ID:isLe+lg0.net
支援

95 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/20(水) 00:55:24.29 ID:u6N+nPK2.net
支援

96 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/20(水) 00:55:45.52 ID:2LymDjrQ.net
 

97 :Stand by you 4/11:2016/01/20(水) 00:56:30.25 ID:QvTjqKTn.net
彼ならば人間であるユウナの愛など、いくら形が似ていようともロザリーを窮地に追いやるという一点だけで認めないだろう。
彼ほどの能力があれば狂人の一撃からロザリーを守り抜けると慢心してもおかしくないだろう。
彼ならば激昂したユウナがロザリー以外の誰を殺めようとも気にかけないだろう。

無論、神の力を封じたプサンには真実を見抜くことなど叶わない。
今の彼が持ちえるのは人の身と、幾千幾万の昼と夜を超え世界を見守り続けた記憶のみ。
言わば憶測や勘、あるいは思いつきの範疇でしかない。
だが証拠がなかろうとも、状況が雄弁に物語っている。
そもそもこの世界はピサロの領域を模したものであり、彼の能力が最大限に発揮される空間なのだ。
さらに言えばアーヴァインを通じて事前に【闇】の存在や性質を知り得ている。
これでどうしてあの魔王が何の手も打たずに死ぬというのか。
例え突然の死に見舞われようと、魔族の王として君臨するに相応しい魔力を以って散りゆく思念を留め、
身体を失おうとも魂のみでロザリーを守る。
カルベローナの民でさえ同じような事ができるというのに、その祖たる大魔女バーバレラに匹敵する才能と知識を持つピサロにできない道理がどこにある。

推察は既に確信へと代わっている。
けれども断言も口外もできはしない。
ロザリー本人に罪はなく、憑いた存在も直接悪を為そうとしているわけではない。
『ピサロが【闇】になって貴方に憑りついている』と指摘したところで、ロザリーがどうにかできるわけもない。
むしろ下手に自覚を持たせればピサロへの依存心が生まれるだけだ。
そうなれば確実に症状は悪化するだろうし、……最悪、他の【闇】までも取り込んで第二のユウナになってしまうかもしれない。
それだけは避けねばならない。
結界術の素質を持ちザンデから情報を受け継いだロザリーは、脱出の鍵を握る存在。
全生存者にとって希望の灯だ。
いかなる理由や事情があろうとも、死人の妄執に消させていい光ではない。

ならばどうすればいい?

考えるまでもない。
ピサロの意志が表出せずとも済むような安全な環境にロザリーを連れて行く。
ロザリーに為すべきことをさせ、責任感と自立心を強く持たせることで【闇】の影響を抑える。
要するに『早急に南東に辿り着いて保護してもらい、脱出計画を推し進めればいい』。
それ以外に出来る事などないし、そうすることは他の生存者の利にも繋がる。
考えるまでもない、選択肢は一つだけ。そのはずなのだ。
だが――どうしても不安が拭えない。

本当に今のロザリーを南東に連れて行って大丈夫なのか?
ロザリーに憑いている【闇】にピサロの意志が残っているならば、かつてのようにその殺意が罪なき人間にも向けられはしないのか?

98 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/20(水) 00:57:51.11 ID:2LymDjrQ.net
さえ

99 :Stand by you 5/11:2016/01/20(水) 00:59:30.10 ID:QvTjqKTn.net
脳裏に浮かぶ最悪の光景を否定できる要素はどこにもない。
しかし、それが現実になると断言できるだけの要素もこれまた存在しない。
ロザリーの強さを信じるか信じないか、彼女に憑いている【闇】に真っ当な意志と理性が残っているかどうか。
迷いは足取りを重くする。
状況は決断を急がせる。
そんなプサンの思考を打ち破ったのは、彼方から響いた声だった。

「おーーーい!
 そこのあんた、もしかしてロザリーさんか!?」

この生い茂る草むらでどうして先にこちらを見つけたのか。
その疑問は顔を上げた途端に氷解した。
数十メートル先に物理法則を無視して浮かぶボロボロの絨毯があり、その上には見覚えのある青年がいたからだ。

「ヘンリー王子!?」

ぱちぱちと目を瞬かせながら叫んだプサンの声に気付いたらしく、ヘンリーは絨毯からひらりと飛び降りる。
そして浮き続ける絨毯を引っ掴むとそのまま真っ直ぐ駆けてきた。
「マス……じゃない、プサン様も御無事でしたか!
 良かった! 猫耳つけたピンク髪が見えなかったら見過ごすところだったぜ!」
「あっ」
ヘンリーの言葉に、ロザリーは何故か顔を赤く染め猫耳アクセサリーを抑える。
「あの……そんなに目立ってますか?」
「え? ああ、まあ、空からだとわかりやすいな。
 でも空飛べる奴とか道具なんてこの絨毯以外はそうそう無いだろうし、猫耳より髪の色の方が目立ってたし……
 気にしないでいいんじゃないか? 可愛いは正義って言うしさ」

明らかにそんな言葉で片付けていい状況ではない。
が、装飾品は外せば済むが髪色はどうにもならない。
草を編んで被るぐらいしか実践可能な対処方法がなく、そんなことをする時間があるなら急いで祠に向かう方が合理的だ。
あるいはヘンリーもそこまで勘案した上で発言したのかもしれないが――

100 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/20(水) 01:02:50.60 ID:u6N+nPK2.net
私怨

101 :Stand by you 6/11:2016/01/20(水) 01:02:51.96 ID:QvTjqKTn.net
「それより他の連中はどうしたんですか?
 俺の気のせいじゃなければ、向こうでドンパチやらかしてる奴らがいるみたいですけど……
 ソロやザックスが誰かと戦っているんですか?」
「あちらでザックスさんとアンジェロがユウナさんの足止めをしています。
 ソロさんや他の方々の安否はわかりません。
 もし城に向かうつもりなら……」

ヘンリーの質問に手短に答えながら、プサンは彼の出で立ちや装備品を見やる。
耳にはアラームピアス。周囲の生命に反応する探知魔導具。
指にはリフレクトリングと命のリング。魔法反射の指輪と、生命のエネルギーを司り魔界の門を守護する指輪。
それから腰に下げた拳銃と、背に負った大剣にボウガン。
そこそこ重武装だが、胸や腹部に相当量の出血や傷の痕が見える。
一瞥した限りならば元気に見えるが、恐らくそれは命のリングの加護あってのこと。

「……少し迂回して、ユウナさんに見つからないように行く方がいいでしょう。
 貴方の腕前ではユウナさんとは渡り合えないし、ザックスさんと共闘しようにも足を引っ張りかねません。
 銃やボウガンなんか使った日には思いっきり誤射しそうですしね」
プサンはあえて率直な意見を述べる。
万全の状態ならまだしも、痛みを押し殺し傷を庇いながらの戦いでは動きに限度が出来てしまう。
それにユウナの本領は遠距離戦で、ザックスの本領は接近戦。
ならばザックスは極力間合いを詰めて戦うことを選んでいるだろう。
そこに割って入るには相応の腕前とザックスとのコンビネーションが求められるし、
狙撃で援護するにはそれこそアーヴァイン並みの能力と集中力が必要だ。
元々"そこらの兵士よりは強いがリュカ一家とは到底比べられない"程度の実力しかないというのに、
傷ついているヘンリーにそんな能力が発揮できるか――
考えるまでもない話だ。
けれど本人としてはそこまで悪し様に言われると思っていなかったのだろう。
ヘンリーはしばし呆気にとられていたが、すぐに頭を横に振った。

「ちょっ……! そりゃ確かに俺もブランクがありますし使い慣れてない武器が多いのは確かですけどね?!
 よりによってリアル神様にそこまでキツイ言い方をされるとヘコむんですが?!」
「きっぱり言わないと、貴方の場合迂闊に特攻して死にそうじゃないですか。
 アーヴァインさんに撃たれた傷もまだ回復しきってないようですし……
 それに貴方の目的は多分ソロさんの安否を確認して合流するとかそういう事でしょう?
 まさか私を探しに来たということもないでしょうし」
「なんでそんなことまでわかるんですか?!
 もしかしてマジでドラゴンオーブ持ってるんですか!?」
「持ってたらさっさと元の姿に戻って空飛んで南東に行きますし、その前にユウナさんの邪気を祓って止めてますよ……
 貴方がソロさんと意気投合したという話は聞きましたし、過去視に限ればこの姿でも出来ますからね。
 貴方が撃たれたところまでは見てたんです。本当に、怪我人が無茶してはいけませんよ」

などとプサンとヘンリーが言い合う横で、おずおずとロザリーが口を開いた。

102 :Stand by you 7/11:2016/01/20(水) 01:04:40.53 ID:QvTjqKTn.net
「あの……リアル神様とか元の姿とはどういうことですか?
 プサン様、もしやマスタードラゴン様と同じぐらい尊いお方なのですか?」
「あっ」

指摘されてようやく口を滑らせた事に気付いたプサンは目を泳がせる。
その横でヘンリーは頬を掻きながら、
「ようなっていうか尊いっていうかマス「おおっと手が滑りました!」
……ロザリーに説明しようとするも、プサンが素早く背後に回り込み両手で口を塞いだ。
そして代わりと言わんばかりに矢継ぎ早に捲し立てる。

「いやあほら、私これでも天空人なので!
 別に偉くも尊くもないんですがマスタードラゴンの近くにいる事は確かなので!
 ヘンリーさんのような地上人から見れば神様っぽい何かに見えるんじゃないですか?!」
(その誤魔化し方は無理があるんじゃないですかね……?)
あまりにも苦しい言い訳を聞きながら内心でため息をつくヘンリー。
しかし彼の予想とは裏腹に、ロザリーはぽむっ、と可愛らしい仕草で手を打った。

「まあ、天空の使いの方だったのですか!
 そういえばドランさんはお元気なのでしょうか……」

(納得するのかよ! つーかそんな事聞いてる場合かよ!)
そんなヘンリーの心情など聞こえるはずもなく、プサンは「はっはっは」と笑うのみ。
「また懐かしい名前ですねえ。
 だいぶ前に成竜になって巣立って行きましたが、それまでは元気すぎたぐらいです」
「えっ? ドランさんはまだ子竜のはずですが……」
「ああ、私やヘンリーさんは貴女が生きた時代の数百年後から召喚されてるんですよ。
 私はこれでも長く生きているので、貴女やピサロ卿のこともソロさん達のことも知っていますがね」
「そう……なのですか?」
今一つピンと来ないのか、ロザリーは不思議そうな表情でプサンとヘンリーを交互に見やる。
その眼差しに宿る輝きが僅かに陰ったことに気付いたのはプサンだけだった。

「――それが本当なら、貴方は我々の運命を存じていたのですか?」

ロザリー本来の口調とはわずかに異なる鋭さを帯びた問い。
『神たる者が異世界人とはいえニンゲンの暴挙を見逃し、何の手も打たずにロザリーを危険に晒したのか?』――
そんな恨み言を背後に感じながら、プサンは首を横に振る。

103 :Stand by you 8/11:2016/01/20(水) 01:07:56.57 ID:QvTjqKTn.net
「残念ながら知らなかったのです。
 私の知り得る過去では、ロザリーさんとピサロ卿はロザリーヒルで幸せに暮らし子孫を残して人生を終えました。
 その血筋は人間やエルフと混ざって非常に薄くなりましたが、我々にとっての現代まで続いています」
「ん? それっておかしくないか?
 幸せに暮らすも何も……」
ロザリーの変化に全く気付いていないヘンリーは、何の躊躇いも遠慮もなく彼女に視線を注ぐ。
プサンは軽くため息を吐きながら答えた。
「長くなるので詳しい説明は省きますが、端的に言えば私の知るロザリーさんとここにいるロザリーさんは同じ性格と境遇の別人なんですよ。
 平行世界――ほんの少しの誤差から分岐する、とても良く似たもう一つの世界という奴なのですが。
 我々にとってここにいるロザリーさんは平行世界の過去の住人で、ロザリーさんにとって我々は平行世界の未来の住人なのです」
喋りながらもプサンはロザリーを観察し続ける。
無論、この程度の説明でヘンリーやロザリーが理解しきれるはずもない。
ただピサロに生前同様の知識が残っているならば――暗黒回廊を用いた召喚術を得意とし異世界の常識に通じる彼の魔王であれば、納得すると思っていた。
その予測を裏付けるように、ロザリーの瞳から剣呑さがかき消える。

「……すみません。良くわかりません」
「俺も俺も」
緊張感の欠片もない仕草で答える二人を見やり、プサンはほっと胸を撫で下ろす。
「構いませんよ、知ったところでどうにかなるわけでもありません。
 とりあえず私の知る歴史は何の役にも立たないし、誰が生き残るかもわからない、という点だけ理解していただければ十分です」

プサンはいつものように笑顔を作りながら、現状を鑑みる。
今までの反応からして、ロザリーに憑いているピサロには相応の思考能力が残っているようだ。
そして彼女を危機に晒す存在に対しては敏感に反応するが、それ以外の事柄については行動を起こす素振りがない。
こうなると【闇】というよりは、ゼルやアーヴァインから聞いたG.F.――それも自立型のG.F.とやらにだいぶ近いように思える。
ならば不要に警戒する必要などなく、予定通り南東へ急ぐべきではないのか。
そこまで考えてから、彼はヘンリーに向き直った。

「ところで、我々は南東の祠に向かうつもりで逃げてきたわけですが……
 一応お伺いしたいのですが、我々の護衛などお願いできませんか?」
いくらロザリーがルビスの剣を持っているとはいえ、雷撃が通用する相手ばかりとは限らない。
勇者の裁きたる天の雷といえども、雷撃無効装備には無効化されるし雷撃吸収装備ならそのまま吸収される。
無論そんな装備はプサンの世界には存在しないが――使い手が限られすぎて研究のしようがないからだ――、
異世界では普通に量産品として店売りされている、という知識はある。
だから出来る事なら自分達よりかは戦い慣れしていて、攪乱の呪文を数多く習得しているヘンリーに同行してほしい。
そういう考えがあったのだが。

104 :Stand by you 9/11:2016/01/20(水) 01:10:14.36 ID:QvTjqKTn.net
「うーん。何も無けりゃ文句なしに引き受けるところなんですけどね。
 俺としては、やっぱりソロの安否をこの目で確かめておきたいんです。
 ……でもなー、うーんうーん」

別に目的があるヘンリーは、当然のように頭を抱えて悩み始める。
もちろんその反応はプサンの予測の範囲内だ。
彼はわざと少しおどけた仕草を取りながら発言を翻した。

「いや、そういうことならやはり無理強いは止めておきますよ。
 貴方が悩むということは、道中で危険人物に出会わなかったということでしょう?
 もし出会っているなら我々に付き合って下さったでしょうし、そもそも最初に忠告してくれたでしょうしね」
ヘンリーの性格からして、明らかに危険な状況であったならば迷うことなく弱者の味方をするだろう。
そうしないで自分の都合を優先したがっているのは、むしろ道中が限りなく安全に近いからだ。
だが聡いヘンリーは同時に最悪の可能性をも模索している。それ故に悩んでいる。

「俺が敵に出会わなかったってだけです。
 このピアスの探知範囲外に誰かいたかもしれないし、そいつが危険じゃないって証拠もない」

可能性を挙げればキリがない。
だが実際に起きてしまえば手の打ちようが限られる、そんな『考えられる最悪の事態』。
どうやって、どこで妥協すべきか――というのはプサンの中で既に決まっていた。

「ならばその魔法の絨毯を貸していただけませんか?
 目立つことは事実ですが、この草むらでは視界も遮られることでしょう。
 現に先ほども我々よりヘンリー王子の方が先に気付かれましたし……
 それに何より、我々二人が走るより絨毯を使う方が素早く移動できますからね。
 戦う前に逃げてしまえば敵がいてもどうってことありません」

この程度の頼みならヘンリーも承諾するだろう。
ここからならばデスキャッスルの方が近く、南東の祠は未だ遠い。
索敵についてはアラームピアスがあればどうにかなるはずだ。
そんなプサンの思惑通り、彼は簡単に首を縦に振る。

「なるほど、わかりました。
 ……つーか、絨毯だけでいいんですか?
 武器とか防具とか持ってるんですか?」
「武装に関しては御心配なく。
 大きな声じゃ言えませんが、ロザリーさんがちょっとした業物を持っていますのでね。
 通用するかどうかはわかりませんが、通用しなかったとしても目くらましにはなるでしょう。
 あと先に断っておきますが指輪系統も不要ですよ。二つとも、どう考えても貴方が持っていた方がいい」
「ですが……」

105 :Stand by you 10/11:2016/01/20(水) 01:13:27.58 ID:QvTjqKTn.net
ヘンリーはロザリーに見えないようにプサンの傍らへ回り込むと、薄紅色に輝く指輪を外して彼の前にかざした。
命のリング。
「こっちはピサロから借りた奴なんです。
 奴の恋人だっていうロザリーさんに返した方が……」
ひそひそ声で伝えられた事情を聴けば『なるほど』と頷きたくなる。
しかし溢れる生命力で傷を癒す力を持つリングは、ヘンリーにとっても生命線に等しいだろう。
ついでに言えば、今のロザリーに命のリングを渡せば【憑いているモノ】が過剰な生命力を浴びて妙な形で活性化しかねない。

「……気持ちはわかりますよ。わかりますけどね。
 本気でそう思うなら、全て終わった後に返してあげれば良いでしょう?
 貴方がすべきことは生き急ぐことでも死に急ぐことでもないはずですよ」

半分は紛れもない本心、しかし半分は上辺をとりつくろうための言葉。
けれどもプサンの心情やロザリーの事など知るよしもないヘンリーは、ただ真正面から受け止める。
「……ご尤もです」
父親に諭された子供のように頭をぽりぽりと掻きながら、ヘンリーは指輪をはめ直した。
蚊帳の外に置かれていたロザリーはきょとんとした表情で首をかしげていたが、男二人を問い詰めようとはしなかった。

「では、お気を付けて。
 いいですか? 間違ってもザックスさんやアンジェロに加勢しようとして誤射しないでくださいよ?
 そんな事になったら貴方を誤射王ヘンリーという名で歴史に語り継ぎますからね」
「止めてくださいよ! 色々な意味で洒落になりませんよソレ!?」
「はっはっは、半分は冗談ですよ。ちょっとした天空ジョークです」
「半分は、って……神様がそんな下らない冗談なんか言っていいんですかねぇ……?」
「他の世界には一発ギャグとステテコダンスが得意な神様もいますよ?」
「はいはい、どうせ笑いの神様ってオチでしょう? 芸人パノンの伝説なら間に合ってますよ」

そこまで言い放ってから、ヘンリーは踵を返して背後へと向き直る。
翡翠色の視線の先には――

「ロザリーさん」

曖昧な微笑みを浮かべて成り行きを見守っていたエルフの娘は、急に名を呼ばれてぱちくりと瞬きする。
その愛らしい仕草にどんな感傷を覚えたのか。
ヘンリーはどこか悲しげに眼を細め、両の掌で彼女の右手を包むように握った。

106 :Stand by you 11/11:2016/01/20(水) 01:16:46.60 ID:QvTjqKTn.net
「俺は……俺はピサロとそこまで長い間一緒にいたわけじゃない。
 でも、アイツがどれほど深く貴女のことを愛していたかはわかってるつもりだ。
 アイツの分まで――って言うには力不足だろうが、一刻も早くこんな殺し合いからオサラバして貴女が幸せな生活を送れるよう努力する。
 俺だけじゃない。ソロも、南東にいる仲間達も、間違いなくみんな同じ気持ちでいるはずだ。
 希望はまだ消えてない。味方だってたくさんいる。……だから、どうか、無事に南東まで辿り着いてくれ」

それはピサロに命を救ってもらった恩義と、ピサロを仲間だと信じる心が紡がせた台詞。
嘘偽りのない言葉はロザリーの心に――そして恐らくは彼女を守ろうとする者にも届いたのだろう。

「すみません……ありがとうございます、ヘンリーさん」

頭を下げるロザリーの姿にその影を見とったのか、ヘンリーの瞳がわずかに揺れ動く。
けれどヘンリーは彼の名には触れず、言葉を継いだ。
「……礼を言われるにはちょっと早すぎるかな。
 そういうのは、全部終わって平和な世界に戻れるって決まった時に取っておいてくれ。
 みんなで『ありがとう』って言い合う方が嬉しいし、素直に喜べるからな」
「ふふっ、わかりました」

そうして二人と一人は微笑みを交わしあい、別れを告げた。
異なる道の行く末に、先の見えぬ未来に、それぞれの希望を見出す為に。


【ヘンリー(HP3/5、リジェネ状態)
 所持品:アラームピアス(対人)、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、命のリング(E)、ひそひ草、筆談メモ、スタングレネード×1
 第一行動方針:デスキャッスルに向かい、ソロ達を助ける
 第二行動方針:仲間と合流し、事情を説明する
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置;デスキャッスル近辺(デスキャッスルへ移動中)】

【ロザリー
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:南東の祠へ向かう
 第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【プサン(HP1/3、左腕負傷のため使用不能)
 所持品:魔法の絨毯、錬金釜、隼の剣、メモ数枚 風魔手裏剣(1)
 第一行動方針:南東の祠に向かい、脱出方法を伝える。
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【現在位置:東部草原から南東の祠へ向かって移動】

107 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/20(水) 01:17:04.64 ID:QvTjqKTn.net
投下終了です。支援ありがとうございました。

108 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/20(水) 13:43:05.94 ID:xAA1Ppca.net
投下乙です!
ロザリーにピサロが、っていうのは確かに納得できる解釈だ……
魔石化やティーダの件もあるし、あり得なくはないんだよな……
そんな不安なところにヘンリーが和やかにしてくれたのはホントにGJ!

109 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/20(水) 13:48:58.48 ID:FA5gTI6Fw
今年初の投下、乙です
ゲームの中では全然意識してなかったけど祠から城までの道のりがこんなに険しいとは…

110 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/21(木) 21:36:04.97 ID:lKnrFNuk.net
新作乙です!
誤射王ヘンリーwww
さすがマスタードラゴン、言葉選びのセンスがいい
情勢は緊迫してるけどなんかほっこりする話だった
ヘンリー(ベテランバイト)ロザリー(新人バイト)プサン(お忍びで店に来た会長)みたいで
台詞だけでもそれぞれのキャラの特色と関係性がよく描かれてるね

それにしても闇ピサロか...
ピサロの守護と言えば心強いけど、ロザリーちゃんの意思とは正反対の方向に働く可能性もあるあたり、危ういなあ

111 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/29(金) 15:43:15.91 ID:XG2iOdH+.net
ほしゅ

112 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/31(日) 01:22:40.72 ID:Vcev70bF.net
テスト

113 :EVERLASTING(1/4):2016/01/31(日) 01:51:01.78 ID:t89+CSlJ.net
血走った目、荒い呼吸、呪詛を吐く声。
憎しみを露わにするその姿は、ザックスの知っているユウナとはかけ離れていた。
何があったのかは気になるが、それを聞くには彼女を止めなくてはならない。
だが、そんな生温い事を言っている場合では無い。
ユウナから貰った一撃は、ザックスが思っているより深い傷を残している。
正直、立って剣を持つのがやっとな程だ。
ユウナを生かしたまま無力化させる余裕など、あるわけもない。
殺す気でなければ、こちらが殺されてしまう。
深呼吸を一つして、状況を整理する。
まず念頭に置くべきなのは、ユウナの姿が変わっていること。
手に持っている武器も銃から剣へと変わっている。
魔法による奇襲ではなく、いきなり接近戦を仕掛けてきた事を踏まえ、ザックスはユウナが遠距離戦を仕掛けて来る可能性を頭から外す。
唯一、考えられるとすれば、片方の剣に纏われた雷による攻撃だろう。
では、それにどう対応すべきか。
使い慣れた武器と、あまり見慣れない聖剣と、手裏剣と、機械と、小振りの斧と、古めかしい銃。
少し心許ない装備かもしれないが、自分には共に立ち向かってくれる相棒がいる。
孤独ではないし、死ぬ気など毛頭ない。
出せる全てを使って、ユウナを止める。
それが今の自分に課せられたコトなのだから。

「アンジェロ、行くぜ」

小さく呟いた声に、アンジェロは頷いて返す。
同時にザックスは、剣を構えたユウナへと駆けだしていく。
持っていた袋から、ありとあらゆる武器をまき散らしながら。
それを不審に思いながらも、ユウナは突っ込んでくるザックスへと意識を向ける。
ユウナとて無駄な時間を割いている場合ではない、この場を早々に切り抜け、『      』を殺しに行かなくてはならないのだから。
だから、ザックスの一撃を凌ぎ、一発で沈める。
その為に、両手に持った剣先へと、意識を向ける。
そして、ユウナの間合いに入り込んだザックスは、構えていた剣を振り上げる。
襲い来る一撃に備え、ユウナの意識がザックスの剣へと向いたその瞬間。
ザックスは、持っていた愛剣を天高く放り投げたのだ。
予想外の行動に、ユウナの目が見開かれる。
生まれたほんの一瞬の隙、それだけで十分であった。

「魔晄ッ――――」

その一瞬で、ザックスは力強く一歩踏み込む。
全身をバネにするように、足から体へ、体から腕へ。
伝達させた全ての力を注ぎこんで。

「ストレィッ!!」

ユウナの顔面を、一気に殴り抜いた。
想定もしていなかった攻撃を、ユウナは防御するヒマも無く受けてしまう。
脳味噌が揺さぶられる感覚の後、体が大きくよろめく。
無防備なユウナに、ザックスは畳みかけるように攻撃を加える。
回転と共に矢のように鋭く繰り出した蹴りが、ユウナの腹部へと深く突き刺さる。
柔らかい肉の感覚がザックスの足に伝わると同時に、ユウナはくぐもった声と共に血を吐き出しながら大きく吹き飛ぶ。
地面をバウンドしながらも、なんとか止まったユウナは、慌ててその場から起きあがろうとする。
そこに降り注ぐのは、無数の手裏剣。
下手な鉄砲数打ちゃ当たるとはよく言ったもので、素人同然の物投げでも、数が多ければ十分脅威となりうる。
ザックスの力によって速度だけは確保されていた手裏剣の内、一つがユウナの顔面をめがけて一直線に飛んでいく。
それを認識した頃には既に遅く、ユウナの片目を抉るように深々と突き刺さっていた。

114 :EVERLASTING(2/4):2016/01/31(日) 01:51:34.89 ID:t89+CSlJ.net
 
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!」

怒りに満ちた痛々しい声で、ユウナが叫ぶ。
悶えたいほどの痛みを奥歯で噛み殺し、突き刺さった手裏剣を雑に引き抜く。
残された片目で、ザックスの姿をしっかりと捉え、ユウナはゆっくりと立ち上がっていく。
そして、再び剣を構え、ザックスへと向かおうとした時。
どすん、と鈍い音と共に、ユウナの体が大きくのけぞる。
彼女の背に文字通り突き刺さっていたのは、アンジェロの姿だ。
それも、ただの体当たりではなく、ザックスがばらまいた斧を口にくわえての体当たりだった。
加速からの跳躍、その力を全て込めた渾身の一撃は、ユウナの背にしっかりと刻み込まれていた。
背中側に大きく仰け反るユウナを見て、ザックスは一気に駆けだしていく。
撒いておいた聖剣を道中で拾い、隙だらけの彼女へと詰め寄っていく。
最初で最後かもしれない、大きなチャンスをモノにするために。
ユウナを斬り捨てんと、ザックスは聖剣を振り抜こうとした。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!」

それを拒むかのように、ユウナが叫ぶ。
同時に彼女は、持っていた両手の剣を、深々と地面に突き刺した。
考えあってのことなのか、本能がそうさせたのか。
どちらにせよ、その行動は結果として彼女の命を繋ぐこととなる。
突き刺さった剣の一瞬の輝きに呼応するように、無数の雷がその場を包み込んだ。
逃げ場などあるわけもなく、ザックスとアンジェロはその雷に貫かれる。
それも一度や二度ではなく、何度も何度も二人の身を焦がしていた。
そして、その無数の雷に守られるようにユウナの元へと舞い降りた、一つの光。
それは、聖なる裁きの光。
雷とはまた違う白い輝きが輪を作り、辺りを一瞬にして包み込み。
ゆっくり、ゆっくりと、弾け飛び、光の柱となって、昇っていった。

晴れていく光の中、ユウナは両の足を地に着けて、そこに立っている。
残された片目で、倒れ伏したザックスの姿を一瞥する。
魔法は遠距離戦で用いられるもの、という思い込みが彼の敗因だった。
そんな彼にユウナから向けられるのは、無関心だった。
今のユウナを突き動かすのは、憎しみと怒り。
偽りの愛だと笑いながら言い放った、あの女を殺すまでは。
そして『      』をこの手で殺すまでは。
他の何がどうなろうと、知ったことではないのだ。
ゆっくりと身を翻し、ユウナはロザリー達が走り去った方を向く。
体中に走る傷の痛みを気にすることなく、その足を一歩踏みだそうとした時。
ユウナの耳に届いたのは、弱々しい鳴き声だった。
視線をずらせば、そこに立ちはだかっていたのは、一匹の犬。
雷に身を焼かれ、傷つきながらもユウナを止めんとしている。
その姿を見て、ユウナは小さくため息を吐いて、剣を構える。

「そんなに死にたいなら、殺してあげる」

走る必要などない、狙いを定める必要などない。
ただ近づき、剣で斬りつける、それだけのこと。
ユウナは一歩ずつ、ゆっくりと向かっていく。
程なくして、剣を振り下ろせば届く間合いまでたどり着く。
特に難しいことなどない、後は小さな子供でも出来るコト。
込めるのは力だけ、感情など必要ない。
ユウナはただ、剣を振り下ろす。

115 :EVERLASTING(3/4):2016/01/31(日) 01:52:17.32 ID:t89+CSlJ.net
 
「アォオォォォォォォォオオオオオン!!!!」

その時耳を貫いたのは、吠えると言うより咆哮と呼ぶに相応しいアンジェロの声だった。
間を置かず、アンジェロは空高く舞い上がる。
そんな力など、どこにも残っているはずもないのに。

「アォオォォォォォォォオオオオオン!!!!」

空に舞い上がった彼女は、再び大きく吠える。
疎ましい目でその姿を見たユウナが、少しだけ後ずさる。
見えるはずがない、そこにあるはずがない、丸く輝く月。
それが、彼女の目に映っていたからだ。
新たな攻撃の予兆か、と、ユウナは慌てて剣を構える。
だが、幾ら待っても何も襲いかかってくる事はなく、ただ、アンジェロが力なく地面へと落ちていっただけだった。

「何、よ」

恨めしげに言葉を吐き捨て、ユウナはロザリーの元へと向かう。
踏み出した足、くしゃりと潰れる草の音が、二つ。

「まだ、生きてたの」

感じ取った気配の方を振り向けば、そこに立っていたのは、倒れ伏したはずの男、ザックスだった。

「俺は寂しがり屋でな、一人で地獄に行くのはゴメンだからな」

愛剣を構えながら、ザックスは笑う。
アンジェロ同様、体力など残されているわけもなく、立つ事すら難しい筈だ。
焦ることはない、と自分に言い聞かせ、ユウナは剣を構える。
死にかけの人間が振るう剣をいなし、そのまま斬り捨てるだけ。
たったそれだけで、今度こそ終わるのだから。

「だからよ、一緒に地獄に行こうぜェェェッ!!」

その叫びと共に、ザックスはユウナの元へと駆ける。
防御もへったくれもない走りで、がむしゃらに、一直線に向かう。
それを迎え撃つために、ユウナはその場にじっと待つ。
徐々に詰まる間合い、走るザックス、待つユウナ。
そして、互いの間合いにザックスが踏み込んだとき。
ユウナは、力を込めて両手の剣を振り抜いた。
その刃は、血の花を咲かすことはなく。
ただ、無意味に一本の弧を描く。
驚愕の表情を浮かべるユウナは、知ることもないだろう。
それは、アンジェロによって齎された、月の加護であるという事など。
その間に、ザックスは更に一歩踏み込み、ユウナの胸ぐらを掴む。
それからふっと笑い、ユウナの体を軽く突き飛ばしていく。

116 :EVERLASTING(4/4):2016/01/31(日) 01:52:51.21 ID:t89+CSlJ.net
 
「俺のとっておき、見せてやるぜェェッ!!」

渾身の叫びと共に、彼は限界を突破する。
目にも留まらぬ早さで、振り抜かれる剣。
それは、"超"の三連撃。
それは、"究"の三連撃。
それは、"武"の四連撃。
それは、"神"の一撃。
それは、"覇"の三連撃。

「おおおおおォォォォォァアアアッ!!」

そして、"斬"の一撃。
全てが、ユウナの体に刻み込まれる。
もう、声など出ない。
もう、前など見えない。
もう、剣など握れない。
立ち向かうことも、突き進むことも、出来ない。
そして、ザックスに咲かせるはずだった赤い血の花を咲かせながら。
ユウナは、ゆっくりと血溜まりに倒れ込んでいった。
それから間を置かずに、ザックスもその場に倒れ込む。
想定外の事は沢山あったが、ユウナを止めることには成功した。
ソルジャーとしての面目は、守られたのかもしれない。
叶うことなら自分もアンジェロも、そしてユウナも生きていることがベストだったが。

「あー……」

弱々しく声を漏らしながら、空に向けて手を伸ばし、何かを掴み取るように握り拳を作る。
意味ありげにふっと笑った後、握り拳のまま腕を落とし、まるで眠りにつくかのようにゆっくりと目を閉じる。

そして、ソルジャークラス1st、ザックス・フェアは死んだ。

【ユウナ 死亡】
【アンジェロ 死亡】
【ザックス 死亡】

※東部草原(サラマンダーの死体のあたり)に下記アイテムが放置されています
 銀玉鉄砲(FF7)、官能小説3冊、天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
 スパス ねこの手ラケット  ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 バスターソード 風魔手裏剣(最大10) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
 デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ 風のローブ リノアのネックレス

117 :EVERLASTING(7/4):2016/01/31(日) 01:58:10.94 ID:t89+CSlJ.net
(NGワード規制で書き込めないので一部を避難所に投下しました、荒らしっぽくなって申し訳ない)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/22429/1115085648/221
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/22429/1115085648/223

例え肉体が滅びようと、彼女の憎悪は尽きることはなかった。
誰よりも、何よりも、強く、激しく、ただ憎み続けた。
焼き付いた怨嗟の声は止まることなく、憎しみを増幅させていく。
憎しみより生まれた零の存在も、憎しみの権化である魔王も、その憎しみを超えることは出来ないだろう。
ユウナという一つの存在の肉体が朽ち果てようと、ありとあらゆるものを憎み続ける心は失われることはなかった。
そして"憎しみ"は、"闇"へと姿を変え、クリスタルへと注がれる。
絶え間なく注がれる大量の闇は、これまでの闇を優に超え、一瞬にしてクリスタルを黒へと染め上げてゆく。
だが、クリスタルが"闇"に染まりきった後も、"闇"は生まれ続けた。
終わることなく続く"永遠の闇"は、次第にクリスタルから溢れ出し。
やがて、クリスタルという小さな器を、内側から粉々に破壊したのだ。

言い表しようのない、どす黒い何かが、どこかを埋め尽くす。
人の心をゆがませ、果てには架空の人格さえも生み出す力。
その力を受ける器さえも砕いてしまうほど大きくなったその力が生み出したもの。
「……殺す」
それは、かつてユウナと呼ばれた一人の女。
いや、違う。
終わらない憎しみを抱え続ける、"闇"そのものと化した存在だった。

【ユウナ? 所持品:なし 行動方針:皆殺し】
【現在位置:????】

118 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/31(日) 02:00:30.48 ID:Vcev70bF.net
投下終了です。NGワード規制とは……

119 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/01/31(日) 07:31:25.17 ID:HNN2qVFr.net
投下乙……って、クリスタル壊れとる!
ザックスとアンジェロの死と、ユウナの肉体の死でここまで動くとは
これがどう影響するのか今から楽しみです

120 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/01(月) 01:44:24.68 ID:+Hl+Naw6.net
投下乙
ついにザックスとアンジェロが死んでしまったか…今までお疲れ
そしてユウナがどえらいことになっとる

どうでもいいけどまた官能小説が3冊揃ったwww

121 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/01(月) 10:56:39.08 ID:9bagnYcu4
投下乙です。
生き残るのは難しいとは思ってたけどやっぱり死んでしまったか、ザックス…インビジブルムーンを発動させて力尽きたアンジェロも併せて熱い最期だった、お疲れ様
そしてユウナもいよいよ退場か…と思いきやロワの進展に大きくかかわる展開が
これからどうなるのか、楽しみに待っています

それにしても避難所に投下されたレス…確かに知らない人が見たら荒らしとしか思えないw
恐るべきユウナの怨念

122 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/01(月) 21:08:44.78 ID:cPvUPquR.net
乙です!
暴走機関車がようやく止まった…と思ったのに止まってない><
そしてこの突発闇スポットにのこのこヘンリーが向かってる><

絶望まみれながらも熱い闘いであった
ザックスのジュウザすぎる台詞にちょっとわろたけど
わろてる場合じゃないなこりゃ

人格ある存在としてのユウナを失ったティーダはこれからどうするのか
アンジェロの死で味方を減らしたカパロスもどう動くのか
闇ユウナがどう影響してくるのか(人を識別できるの?それとも「殺す」の一念だけ?)
いろんな種が蒔かれたなあ

123 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/05(金) 06:03:46.31 ID:zOx38BxC.net


124 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 1/15:2016/02/09(火) 21:39:29.34 ID:5INvnzgO.net
「うわーマッシュー! しっかりしろー!」
(うわー……すげー棒読みだなぁ)
(もうこれからこいつのこと演技へたっぴマンって呼ぼうかな。
 アスピルでMPと一緒に演技力も分けてもらえたら良かったのに)
「マッシュさん! マッシュさんッ!
 気を確かにもってください! 貴方にはまだやることがあるはずだッ!!」
(で、こっちは逆に迫真すぎて怖いぞ……俺、ホントに死なないだろうな?)
(話術師っていうより役者ってジョブなんじゃないの?
 オペラ座のダンチョーさんに売り込んで新しい絵筆買ってもらおうかなー)
「マッシュー! うわーーー!」
「マッシュさぁあぁぁんッ!! くそっ、くそっ、くそっ!!
 なんで……なんでこんなに僕は無力なんだッ!!
 どうして誰も救えないんだーーーーッッ!!」
(あ、首輪外れた。本当にこんなんでいいのか。
 有難いんだけど……二人の演技がアレすぎて、いまいち有難味がなぁ……)
(そういやしばらくマッシュと話できなくなっちゃうんだっけ。
 ラムザと演技へたっぴマンと三人ってビミョーなんだけど……
 寝てようかな? でもあのインケンヤローに会いたくないしなー)

**********************

ある者は為すべき事をしていた為に何も気づくことはなく、

**********************

「くさむらこえて〜、やまをこえて〜、あしあとつづく〜、みちのさき〜♪
 なにがあるかな〜、なにもないかな〜、どちらでもいいやぼうけんしよう〜♪
 ぼうけーんたんけーんどこまーでも〜♪ なかまをさがしてにしひがし〜♪
 ぼうけーんたんけーんとおくーまで〜♪ まおうをたおしにきたみなみ〜♪」
(――"わたし"の身体の傍に残っていた足跡のうち一つだけ山の中に向かっていた。
 きっとそれが『"わたし"を傷つけようとした悪い人』のはず。
 だって"わたし"を撃つような人と他の人が一緒に行動するなんて考えられないもん!
 最終的にはみんなやっつけなきゃいけないんだろうけど、やっぱり悪い人からやっつけなきゃ!
 だって"わたし"は勇者の妹で、本物の賢者だもんね!)

**********************

ある者は些事を気に留められるような精神状態ではなかった。

**********************

125 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 21:41:15.30 ID:lH3HpLI7.net
 

126 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 2/15:2016/02/09(火) 21:41:27.80 ID:5INvnzgO.net
「あの、プサン様……
 先ほど、あちらの崖の方に、誰か小さな子がいたように思えたのですが……」
「……」
「プサン様?」
「……ロザリーさん。
 もうリルムさん以外に生き残っている子供はいないのです。
 そして彼女は南東の祠に匿われているのですから、こんな所に居るはずがありません」
「そう、ですよね……なら、あれは幽霊でしょうか?
 ですが――"私には生きている人間に見えたのですが"」
「……亡霊だとしても、妄執に憑りつかれた生者だとしても。
 いずれにしてもかつての理性や正気など失われているのでしょうし、力なき我々が関わるべきではありません。
 南東へ向かっているならば対処する必要もあるでしょうが……
 不幸中の幸いと言うべきか、『彼』が向かっているのはデスキャッスルや希望の祠の方角ですからね。
 ヘンリーさんなら……魔法の指輪をつけている限り、殺される事だけはないでしょう」
「彼……? あの、私が見かけたのは女の子……だと思うのですが。
 金髪に緑色のリボンをつけていたようでしたし、着ている服もピンク色でしたし……」
「………………」
「プサン様?」

**********************

ある者は他の異変に気を取られ、

**********************

「なぁ〜〜〜〜んかヤ〜〜〜〜な予感がしますねェ。
 まあ、レーダーに映ってる光が一個増えた時点で嫌な展開フラグバリバリなんですがね?
 だがしかし魔力の流れがあからさまに変わるっていうのはおかしいんじゃないですか!?
 おかしいおカシいおいしいお菓子……そういやぼくちん今日のおやつ食べてナーイ!
 なんてことだ! そこのお前ら早くぼくちんの前におやつもってくるんだじょー!
 …………。
 ……そういや未だにぼっちプレイ続行中なんですっけね。いやん私ってばうっかりさん☆
 まあウザったらしい青クサいコンビに見つかってないだけマシと考えるべきか、
 魔力的に有効打を撃てない状況を嘆くべきか悩ましいところですねェ。
 でもまあそこらへんの詳しいところはぼくちんオンリーステージでおいおい述べるといたしまして、
 まずはこのイカにもカニにも何か起こりそうな雰囲気に事前対処すべきでしょうねえ。
 とりあえずレビテトは鉄板としてプロテスとシェルを二枚張りするべきですかね。
 しかしそうするとますます魔力が減っちゃって、後でゲロマズゥ〜〜〜くなる悪寒がします!
 どーしましょどーしましょ、ケフカちゃんドーシマショー?」

**********************

ある者は僅かな異変を感じとり、

**********************

127 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 3/15:2016/02/09(火) 21:42:20.84 ID:5INvnzgO.net
「あー良かった、ホントに本物のロックだ!」
「やっと納得したか……つーか何回質問するんだよ……」
「だってタイミングが悪すぎるっていうか良すぎるっていうか〜?
 本物が都合よくやってくるなんて、そりゃ〜不安にもなるってば。
 ……ん? あれ?」
「どうした?」
「いや、なんか急に【闇】がしゅーっと消えてって……」
「消えただぁ? そんなことが――」

**********************

ある者は予兆を捉え、

**********************

(こんな場所で雷が落ちまくって、しかも急にぱったり止んだ……?
 まさか!)

**********************

ある者はその切っ掛けとなる出来事に至ったが、



誰もそれを止められなかった。



立場も思考も居場所も異なる生存者十余名。
だがその日その時、彼らが体験した事象と脳裏に浮かんだ感想は全てが等しく、

**********************


(――地震?)


**********************

けれど、それが意味する真実に至ったものはいなかった。
勇者も英雄も魔人も賢者も、神でさえも。

128 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 21:43:48.74 ID:lH3HpLI7.net
 

129 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 4/15:2016/02/09(火) 21:44:48.58 ID:5INvnzgO.net
無数の世界から人々を召喚し、ただ殺し合いを行わせるためだけに存在するとしか考えられぬ悪夢めいた異次元の機構。
その中枢に据えられた黒いクリスタルがどのような役割を担っているか、
その中枢に据えられた黒いクリスタルがどのような状態に陥っているか、どうして舞台上の生存者達が知り得るだろう?
時の流れぬ城に繋がれた永遠の虜囚に等しき主催者の想像に応え、偽りの大地を創り出すシステムの一部が破損する。
それは例えるならば、
狭間の世界と夢の世界を実体化させていた大魔王デスタムーアが魔神ダークドレアムの手で突然滅ぼされるようなものであり、
ザナルカンドを維持するためにシンの内部で祈り続けていたエボン=ジュがいきなり消滅するようなものであり、
もう少しミクロな話をするならばガーデンスクエアを運営・提供するサーバの電源を何の処置もせず物理的に引き抜くようなもの。
ならば、それらの行為に類する現状がどのような事態に繋がるか。

その答えこそが、根幹を失い揺らぎに揺らぐ偽りの地下世界。
唸るような地響きはすぐにまともに立てぬほどの鳴動へと変わり、生存者達を等しく襲う。

かくしてただ一人の殺意によって世界は崩壊へと向かい、遊戯は破局に至る。
盤上に留まっている少数は犠牲になるが、遍く世界に生きる無辜の人々が殺し合いの舞台に招かれることは二度となくなるだろう。
皮肉な事に、『彼女』の行為は結果として"永遠のナギ節"に等しい平和を齎す。
正義を為す気などなくとも。
殺意しか残っておらずとも。
大召喚士ユウナであった過去をなぞるかのように、『彼女』は殺戮と破壊という名の異界送りを以って世を正す。
"それが運命だ"、と言わんばかりに。

――だが。
遊戯の支配者たる魔女が、そんな言葉と結末を受け入れるはずもない。



**********************



オメガウェポン。
最終兵器の名に違わず、ソレは魔女アルティミシアが従えた魔物の中でも最強の力を誇る存在である。
しかし時に主すら凌駕しかねない強さ故に、ソレはある条件の元でしか実体化できないよう封印を掛けられていた。
かつては礼拝堂の鐘が鳴り響く間のみ。
そして現在は、不埒な侵入者が殺し合いの根幹たる"中枢機構"を安置している広間に足を踏み入れた時のみ。

"中枢機構"の中央に輝いていた黒いクリスタルが砕けた、その瞬間。
魔女が施した封印は広間内部に生じた気配を瞬時に感知し、即座にソレを実体化させた。
白銀の魔獣と融合した破壊の魔人は、敵を探すことすらせずに咆哮を上げる。
ただそれだけで、頭上の空間に巨大な亀裂が走った。
その裂け目から降り注ぐのは雨という表現すら生易しい隕石群。
疑似魔法ではない、創造主ハインの権能に連なる真なる魔法のメテオである。
無論、魔女がその力で保護している"中枢機構"やそれに付随するモノには破壊は及ばない。
それを熟知しているからこそ兵器はさらなる攻撃を重ねる。

130 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 5/15:2016/02/09(火) 21:46:12.01 ID:5INvnzgO.net
全てを圧殺する重力空間を展開し、同時に巨獣の口から空間をも破壊する光線を四方に吐き出す。
間髪入れず両の手から光の矢を十数発立て続けに撃ち、究極の名を関する攻撃魔法を躊躇いもせず解き放つ。
人間であれば……否、魔王ですら生存を許されない規格外の破壊が広間を満たす。
もしもオメガウェポンに人語を話す能力があれば、こう呟いていたことだろう。
"他愛なし"――と。

それを傲慢と笑うのは愚かであろう。
魔女が結界を張っていなければ広間どころか城全てを更地に変えて余り有り、
地面に大穴を穿ってもまだ足りぬほどの火力で以って蹂躙したのだ。

誰が想定できるというのだ。

「  こ ろ す  」

誰が想定できるというのだ。

オメガウェポンの眼が捕えた光景は極めて単純だ。
圧倒的な光の奔流からゆっくりと歩き出てきた人影が呪詛のように短い言葉を呟き、右手らしきものを上げた。
ただそれだけだ。

誰が想定できるというのだ。

ただそれだけで、圧倒的な耐久力と破壊力を誇るはずの兵器は跡形もなく"消え去った"。
瞬きする暇すら与えず、影のように厚みすら持てぬほど完膚なきまでに押し潰され、構成する原子までもが完全に破壊されたのだ。
異変を察知して駆けつけたアルティミシアのしもべ――コキュートスとガルガンチュアは有り得ぬはずの光景に言葉を失う。

「こ ろ す」

二匹の魔物の前で、"それ"は壊れた機械のように同じ呪詛を繰り返す。
元は女だろうということしかわからぬ影。女の姿をした【闇】。
「ころす コロす コロス 殺 す」
その言葉には使命感も闘志も宿らない。
そこにあるのは字面通りの解釈しか許さない、一片の曇りもない殺意だけ。
人間であれば気絶どころか即死するであろうほどの恐怖を前に、しかし魔女のしもべは広間の扉を塞ぐように立ちはだかる。
魔女の意を守ることだけが彼らの存在理由であり、そこに自由意思など介在していないからだ。
だが、オメガウェポンですら足止めにならぬというのに彼らで止められるはずもない。
『彼女』は今度は左手をかざす。
その掌から放たれた漆黒の波動は呆気なくガルガンチュアを捉え、跡形もなく消滅させた。
コキュートスは宝石の身体を強張らせながらも、せめて一矢報いようと鋭利な爪を振り上げる――

131 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 6/15:2016/02/09(火) 21:47:13.29 ID:5INvnzgO.net
パチ、パチ、パチ、パチ……

その、透き通った身体の背後からだった。
か細く、しかしはっきりと場違いな拍手の音が響いたのは。

「中々の見世物だ。
 塵芥が形を取り、よもや私の手駒を破るとは」

銀糸の髪と深紅のドレスを優雅になびかせて、魔女はくっくっと喉を鳴らす。
その眼差しに宿る底無しの悪意さえなければ誰もが淑女と称えるだろう美しさ。
けれどもそんな事が『彼女』の足を止める理由に成りえるはずもない。

「アルティミシア様! 御下がりくだ――」

『彼女』から主を守らんとコキュートスは叫ぶ。
だが。

「出張るな無能共が。いつ誰が近衛を命じた?
 お前達は駒の監視だけを務めていれば良い」

冷たい一言と共に、主の手の一振りがコキュートスの身体を無造作に弾き飛ばした。
受け身を取る事も叶わず壁に激突した魔法生物に、『彼女』の狙い澄ました一撃が飛ぶ。
それがオメガウェポンを消滅させたものと同じ攻撃だと理解する前に、コキュートスもまた二体の同胞と同じ運命をたどった。

「ギガグラビトン――……
 『シン』だったか?
 お前の世界に実在した人造の災厄、夢という重力に縛られた有象無象の魂の成れの果ては」

何の感慨もこもらない声音で魔女はぽつりと呟く。
その音声に反応した『彼女』は四度手を翳した――が、何も起こらない。
魔女が相殺したのだ。攻撃の正体が超重力であることを見抜き、同規模の反重力を発生させることによって。

「殺 す」
「妄執に囚われるあまり自我を無くしたか?
 死の間際、我が手元に捕えた闇を召喚し、同化するという奇跡を成し得た末路がそれとはな。
 最も、愛を騙る愚者には相応しい結末かもしれないけれど……フフッ」
「殺 す ――殺 す 殺 す 殺 す!!」

嘲笑う魔女に、『彼女』は舞うように両手を振り上げる。
指先から放たれた【闇】は見る間に翼を広げる巨竜を象った。
闇の竜は『彼女』を庇うように床を踏みしめ、咢を開く。

132 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 7/15:2016/02/09(火) 21:49:21.28 ID:5INvnzgO.net
「残念だが、"それ"は通じない」

今にも解き放たれようとする破壊の光線を前に、魔女はパチリと指を鳴らした。
どこからともなく現れた無数の白い羽と暖かな光がふわりと竜を包みこむ。
――それは死者を冥界へと送りこむ心無い天使の導きであったのか。
闇の竜は苦しむように悶えたかと思うと、光に融けて消え去った。

「ア"アァア"アアア"ア"アアアアアアアアアアア!!
 殺 す! ころすゥッ!!」
絶叫と共に破壊の波動が舞う。
魔女は静かに手を翳し、広間や"中枢機構"を守っているものと同じ防護結界を展開する。
「盤上から落ちて割れた駒の破片が、随分と威勢よく吠えるものだな。
 駒らしく、遊戯の主たる私の支配を受け入れる気はないのか?」
「コロスコロスころすコロスゥウウウウウウウウウウウウウ!!」
「……そう」

魔女は「つまらない」と呟いた。
その声が『彼女』に届いたかどうかはわからない。
だが攻撃は確かに苛烈さを増した。
そして、それでも魔女には届かない。

「私の言葉を素直に聞き入れるならば盤上に戻してやっても良かったのだけれど。
 見境もなく策すら弄さない破壊者など面白味の欠片も無い。
 他の駒を一致団結させて、無意味に潰されるだけの悪役。
 ――そんなつまらない存在、私の遊戯には必要ない」

魔女はもはや『彼女』に視線を向けていなかった。
金色の瞳に映っているのは"中枢機構"。
【闇】の回収容器にして装置の動力源である黒いクリスタルが破壊されて、既に数分が過ぎた。
とっさに魔女自身の魔力を用いて"中枢機構"を稼働させ"舞台の崩壊"を遅らせているが、それにも限度というものがある。
早急に動力源を用意して繋ぎ直さなければ"中枢機構"は完全に機能を停止し、生存者の命同様に魔女の企みも水泡に帰すだろう。
それだけは許されない。
魔女は"中枢機構"の奥、壁に埋め込まれた棺を見やる。
荒れ狂う破壊の嵐の最中、水晶の板に遮られて眠っているのは前主催者たる仮面の男。
既に命果てた体に相応しい魂と力を与え、彼を己が騎士と変えて永遠を生きる。
その願いを掴む為には、殺し合いという遊戯を続行する為には、最早『彼女』という存在は排除すべき障害でしかない。
故に魔女は躊躇うことなく力を振るい、断罪を実行する。

「永遠の闇。暗闇の雲。完全暗黒物質。破壊の神。暗黒の化身。狭間の闇。
 時の流れを紐解けばお前と似たような存在はいくらでもいる。
 そして私は時さえも支配する魔女アルティミシア。
 あらゆる過去、あらゆる現在が私の力」

時間圧縮によって得た彼女の世界を構成する全ての歴史。
そして黒いクリスタルに選ばれたことで取り戻した、前主催者と共に眺めた数多の殺し合いの記憶。
人の身には過ぎる膨大な知識と魔力を、しかし魔女は息をするように使いこなす。

133 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 21:49:26.71 ID:lH3HpLI7.net
 

134 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 8/15:2016/02/09(火) 21:50:42.38 ID:5INvnzgO.net
「その身を以って知るがいい。
 時は全てを押し流す――夢も絶望も、愛さえも!」

詠唱と共に手を振り上げた、その刹那。
クリスタルの破片四つが宙に浮かびあがり、光を放つ。
その脅威に気付いたのだろう、『彼女』は魔女に向かって波動を放つが……
「遅い」と魔女は嘲笑った。

「時の輪廻に組み込まれし理よ、我が盤上にて屍を晒した敗者達よ。
 今一度過去の姿を与えてやろう!
 光を騙り闇を圧する運命とやら、映画のごとく再現してみせるがいい!」

魔女の言葉に従うように四つの破片が形を変える。
一つは嵐に翻弄される風車のように回りながら羽帽子を被った赤魔道士へ。
一つは燃え盛る炎のように揺らめきながら赤い髪を持つナイトへ。
一つは大地に根差す大樹のように外へと出でながら鍛え上げられた肉体を持つモンクへ。
一つは流れる水のように形を変えながら着ぐるみをかぶった白魔道士へ。
血肉の通わぬクリスタルの肉体を与えられた彼らは躊躇うことなく『彼女』へと奔る。

聖剣すらも凌駕する、鍛え上げられたモンクの拳が『彼女』の腹に突き刺さり。
白魔道士の魔法は聖なる矢となって『彼女』の胸を貫き。
反撃しようとする『彼女』を遮るように赤魔道士が雷撃魔法を放つ。

そこに彼らの意志はない。
殺意も敵意もなく、記憶も人格さえもない。
ただ"闇を破る光の四戦士"という役割を求められて召喚されただけの人形。
だからこそ『彼女』の知己であったナイトでさえ、嘆きも恨みも声すらかけずにその手の槍で『彼女』の頭を貫く。
けれども――
既に死せる身である『彼女』を止めるには足りない。

「ゴォオオ"オオオロスゥウ"ゥウウ!!
 ォオ"オオオオオォオオオオオオ"オア"ァアア"アアアアアア!!
  ■■■■■■ッ―――!!」

居もしない男の名を叫びながら、狂乱する『彼女』は姿を変える。
人としてのシルエットはそのまま、背から五枚の翼を伸ばし、咲き誇る花のように虚空へと舞い上がる。
その手から放たれるのは炎、氷、雷、水、息もつかせぬ魔法の乱舞。
偽りの四戦士はその身を焼かれ、砕かれ、貫かれ、水晶の砕片へと戻っていく。
しかし魔女はくすりと嘲り笑って呟いた。

「四人程度では物足りぬか?
 ならばもう一組追加してやろう。
 ――残念ながら、こちらは四人揃っておらぬがな」

135 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 21:51:33.19 ID:lH3HpLI7.net
 

136 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 9/15:2016/02/09(火) 21:53:17.27 ID:5INvnzgO.net
その言葉と共に。

『メテオ』『フレア』『ホーリー』

三つの詠唱が響き渡り、時空と黒と白の最強魔法が『彼女』に襲いかかる。
クルル、ファリス、レナ。
希望も勇気も労わりも宿らない傀儡に成り果てた三戦士の同時攻撃に、さしもの『彼女』も動きを鈍らせる。
その隙に魔女は先の四戦士達を修復し、再度差し向ける。

「さあ、お前達が憎む闇を封じるがいい!
 私の死を願い、我が遊戯の破壊をも望む闇を!
 我が遊戯を続ける為に! お前達の仲間が悉く死に絶えるまで、死して尚殺し合え!
 光と闇の幻想に閉じこもり未来永劫舞い続けろ!!」

その嘲笑に応え、偽りの光の戦士達は各々が持つ全力の一撃を叩き込む。
拳と聖光で貫き、槍で切り裂き、冷気で凍てつかせ、
時を止めて隕石の雨を二度降らし、海竜の嵐と不死鳥となった飛竜の炎で焼き尽くす――

「がぁああああああああああああああああああああああッッ!!
 ■■■■■■ッッ、■■■■■■――ッ!!!!」

殺意は高まり続けども、猛攻が『彼女』の自由を奪い膨大な力を削ぐ。
「哀れな影」
絶叫がこだまする中、魔女はぽつりと呟いた。

「お前が真なる闇であったならば。
 全てを無に還すためだけにある存在であったならば、あるいは私に勝ち得る未来もあったかもしれない。
 けれどお前は下らない妄執と私の魔力の残滓から生まれた紛い物。
 私の力に照らさなければ存在すらし得ない、壁に映っただけの影法師。
 ――だが、お前が私に勝てないのはそんな理屈ではない」

魔女は優雅に指を鳴らす。
するとたちまち七戦士の身体がクリスタルの欠片へと戻り、『彼女』の身体を取り囲んだ。
欠片は薄く広がりながら融合し、数秒もしないうちにシャボン玉のような透明の被膜となって『彼女』を包み込む。

「私はアルティミシア。
 遥か過去から現代まで、世界に生きた全ての人間と運命に死を願われた魔女。
 二百にも満たぬ人間共が三日で積み上げた程度のちっぽけな殺意で、この私に届くと思うな」

「ッ―――!!」

『彼女』の咆哮は、もはや音にならなかった。
魔女が己が言葉を言い終えると同時に、クリスタルの膜が縮小し、『彼女』を封印してしまったのだ。
大元のクリスタルとは違い、球体――オーブとなって転がるソレを、魔女は難なく拾い上げて掌に載せた。

137 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 21:54:24.33 ID:lH3HpLI7.net
 

138 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 10/15:2016/02/09(火) 21:54:55.09 ID:5INvnzgO.net
「私の力とクリスタルを媒介にした光の結界……
 これならそう簡単には抜け出せまい?
 お前という存在もその殺意も、この装置を動かす糧になればいいわ」

魔女は唇の端を吊り上げ、オーブを"中枢機構"の中央に据えて魔力の流れを繋ぐ。
そして"機構"が正しく動作することを確認すると、腹心の部下であるティアマトを召喚した。

「何用でしょうか、我が主」
「中枢に異常が生じ、木偶の棒が数体消滅した。
 私手ずから処置はしたが、既に舞台にも地震などの影響が出ているだろう。
 生存者どもに余計な情報を与えぬよう、即座に放送を行って取り繕え。
 ただし定刻ではない故、死者の名や旅の扉の位置を伝える事は許さぬ。別の内容にせよ」
「拝命致しました。必ずやご期待に添えてみせましょう」

放送の前に地震が起こる。
それは絶望を知らせる合図として、今まで魔女が故意に行っていたことだ。
故に今、即座に何らかの放送を流してしまえば。
何も知らぬ生存者達は"今回の地震=異常事態"ではなく、"今回の地震=今までと同じ放送前の合図"と解釈するだろう。
主君の意を組んだティアマトが広間を後にするのを見送ってから、魔女はふっと息を吐いた。
そして先ほどの戦いで使わなかった、床上に飛び散ったままのクリスタルの砕片を拾い上げる。

「脆い器。
 ……こんなものを壊す為に、貴方は何百年かけていたのかしらね」

何百回と殺し合いを行わせ、幾万もの命を【闇】に変えて注ぎ続けてなお砕けなかったはずの器。
だが、それは愛に狂った女一人の妄執に耐えきれなかった。
そしてその幾万の命を凌駕する妄執は、光を名乗る戦士の力を借りる事であっけなく封印される。

万の努力と犠牲を嘲笑う、一の奇跡。
理屈を超えて齎される、反吐が出るほどに理想的な結果。

"それが運命だ"――

「……下らない。
 下らない、下らない、下らない……!」

魔女の脳裏に一人のSeeDの姿が浮かぶ。
時間圧縮すら乗り越えて、同じ時代に生きた数十人のSeeDと数千倍の兵士を皆殺しにした魔女の前に現れた"伝説の戦士"。
"未来に生まれる邪悪な魔女アルティミシアを倒した"、その功績を歴史に刻むことで幼き日の魔女に迫害と絶望を与えた張本人。
彼の存在こそが魔女にとって避けられぬ"死"であり"運命"だった。

139 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 21:56:40.00 ID:lH3HpLI7.net
 

140 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 11/15:2016/02/09(火) 21:56:52.79 ID:5INvnzgO.net
だが、魔女は黒いクリスタルによって救われたし"伝説のSeeD"は仲間に裏切られて舞台上で果てた。
運命など最早意味がないはずだ。
そのはずだ。
そのはずだ。
そのはずなのだ。

「……」

魔女は唇をきゅっと結んだまま、中枢装置の裏側に回り棺の蓋に手を触れた。
水晶越しに男の口元をなぞり、寄りかかるように顔を近づける。

「私が自ら定める運命なんて決まっている。
 殺戮遊戯の支配者として、貴方と共に永遠の時を過ごす――
 それ以外の運命なんて、認めるものですか……!」

無限の殺意と怨念を動力として稼働し続ける呪わしき装置。
かつてはその犠牲者の一人であった女が呟いた言葉は、誰の耳にも届かぬまま消えていった。




**********************



" 殺 す ”

”殺 す 殺してやる ■■■■■■ "

【闇】は絶望と憎悪から生まれる不定量・不定純度のエネルギーだ。
そんなものを動力とする以上、"中枢機構"には様々な過負荷対策が施されている。
殺し合いによって生まれた【闇】を回収し、黒いクリスタル内部に蓄える。
そして稼働に必要な量だけを残し、過剰な【闇】を定期的に舞台上に放出する。
放出された【闇】は生存者の魂に吸収され、その生存者が死ぬことでより高純度の【闇】となる。
薬草から上薬草を、上薬草から特薬草を、特薬草から超万能ぐすりを作るように。
万能薬から万能薬改を、万能薬改からエリクサーを、エリクサーからラストエリクサーを作るように。
塵のような百を束ねて金に等しい一とする。

故に。
オーブとなって繋がれた『彼女』を構成する【闇】が封印されてなお再現なく増殖しようとも。
"中枢機構"はただただ機械的にソレを舞台上へと放出し、何の故障も異常もなく稼働を続けた。



**********************

141 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 21:58:01.46 ID:lH3HpLI7.net
 

142 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 21:59:06.22 ID:lH3HpLI7.net
 

143 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 12/15:2016/02/09(火) 22:00:37.75 ID:5INvnzgO.net
「ザックスに、ユウナ……か」

戦場の痕。
【闇】を見る事の叶わないヘンリーには、その異常な状況に気付けるはずもない。
もし彼が何の加護も持たずに善意から二人の墓を作ろうなどと考えていれば、間違いなく弟と同じ末路を辿っただろう。
だが極めて幸運な事にヘンリーは先を急ぐ身であったし、
それ以上に魔王の配慮と神の打算によって【闇】に対抗しうる力――命のリングを身に着けていた。
溢れる生命の輝きに守られた彼は、何の悪影響も受けることなく二人のザックを回収し、見開かれたままのユウナの眼を閉ざす。
そして少し離れた場所に倒れていたアンジェロの首からネックレスを預かると、ザックスの隣に横たえた。
二人が握りしめたままの大剣と拳銃を守り刀に見立て、彼らの魂が安息に包まれるようにと十字を切る。
ザックスはともかく、ユウナの形相は憎悪に歪み安息など程遠い有様だったが、他に出来ることもない。

ソロの無事を確かめる為に。
仲間と共に南東に戻り、ロザリーとスコールにザックス達の勇姿と最期を伝える為に。
そしていつかユウナを案じていた二人に彼女の形見を渡す為に。
彼には未だ為すべき事があり、希望がある。
だからこそ、魔城に向かい足を進める。


"もしも彼があと少しだけ足を止めていたならば"
それは、問う者のいないif。
問う意味さえない可能性。
けれど未来を知り得たならば、誰もが問うたことだろう。

もしもヘンリーが彼らの墓を作ろうと足を止めていたならば。
十数分かけて穴を掘り、二人と一匹の身体を横たえて、祈りをささげて土を被せたその時に、
『彼女』に出会っていたならば――


**********************


「うわあ、ひどい……
 さっきの雷、やっぱりこの人達が悪い人と戦ってたんだ!」

ヘンリーが立ち去って十数分。
彼方で轟いた雷鳴に気を引かれ、崖から降りてきた少女――否、少女になりきった青年は、
"心優しい少女ならば犠牲者を弔うだろう"という思考の元、ユウナの遺体に近付いて血まみれの身体に触れた。
その拍子に、切り裂かれた着ぐるみの懐から漆黒に染まった球体が転がり落ちる。
オーブにしては小さく宝石の類にしては大きいソレを、少女は"純真無垢な子供がそうするように"拾って覗き込む。
すると――

144 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 13/15:2016/02/09(火) 22:02:13.54 ID:5INvnzgO.net
「ひゃっ!?」

突然球体が漆黒の霧に変じ、瞬く間に少女の身体を包んだ。
四肢に絡みついた霧はすぐに血のように赤い羽衣へと代わり、足元や背中に広がった霧は何に染まる事もないまま黒い花弁を形作る。
そして頭上を守るように広がった花弁から、孔雀の尾羽を思わせる縁取りの曇った鏡が三枚具現化する。

「わぁ……すごい、女神さまのドレスみたい!」

フロラフルル。
本来であれば大地の恵みを受けて咲き誇る自然の力を象徴する、青の花弁に彩られた純白のドレスである。
だが少女の身体を飾るソレは殺意と憎悪に染まった魂の結晶。
かつてユウナだったものから生じ、"中枢機構"によって放出され、ドレスフィアという憑代に流れ込み続ける無限の【闇】そのものに他ならない。
そんな呪わしきドレスを纏ってなお少女が異変を覚えないのは、とうの昔に身も心も【闇】に染まりきっているが故――ではない。

そもそも賢者とは悟りを開いた者だ。
己の内に宿る迷妄を捨て去ることで万象通じる真理に至る。
数多の呪文を使いこなすのは、真理に至った結果として会得する知識の副産物にすぎない。
そして、賢者となるべく悟りの書を読み解くには相応の素質が必要となる。
即ち――魔道を修める天運の元に生まれた規格外の器。
魔女と同じく紛れもない神に選ばれし才能。
"運命"に等しい、万人を凌駕する理不尽なまでの魔力と能力。
それを生来備えていたのが賢者セージであり王女タバサであった。

賢者セージは己を信じきれずに迷いに憑りつかれ、結果として【闇】に心を砕かれた。
王女タバサは悟りに至る前に【闇】に憑りつかれ、その命を終えた。
だが、ここにいるのはどちらでもない。
賢者セージが"誰よりも賢者に相応しい"と信じ、己を捨てることで生まれた『賢者タバサ』である。
故に、どれほど際限なく流れ込もうと、【闇】より生じる殺意や憎悪に飲み込まれることなどない。
そんな妄執から最も遠い存在が賢者であり、セージが信ずるところのタバサであるからだ。
死者の嘆きも絶叫も、賢者タバサには届かない。
あらゆる絶望に屈さずどこまでも前向きでひたむきな少女こそ、セージが望むタバサであるからだ。

ただ一つ問題があるとすれば――……
セージが"タバサ"のために選ぶ道は、【闇】に宿る意志と何ら変わらないということ。

「よおし! がんばって悪い人をやっつけてグランバニアに帰ろう!」

殺す。殺す。ただ殺す。
愛する者のために己を含めた全てを捧げ、数多の死と破滅を経て虚構に至る。
それが"運命である"かのように、『彼女』の意志は一人の青年が夢想する旅路となって続いていく――

145 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/09(火) 22:02:45.98 ID:lH3HpLI7.net
 

146 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 14/15:2016/02/09(火) 22:02:54.94 ID:5INvnzgO.net
**********************

※アルティミシアのしもべのうちガルガンチュア・コキュートス・オメガウェポンが消滅しました。
 現在確定で生存しているしもべはティアマト・ウルフラマイター・アリニュメン数体です。

※ユウナ?がアルティミシアによって封印されました。
 アルティミシアが戦闘不能になった場合、封印が解けるかもしれませんし解けないかもしれません。

※黒いクリスタルが破壊され、代わりにユウナ?を封印した黒いオーブが設置されました。
 現状の舞台である闇の世界の維持については問題ありませんが、
 旅の扉の設置数や安定性、次フィールドの規模などで何か問題が起こるかもしれません。

※アルティミシアの消耗率は不明です。

※闇の世界で大規模な地震が起きました。
 建築物及び建築物内にいる生存者は何かダメージを受けたかもしれません。

**********************


【マッシュ(HP1/8?、右腕欠損、精神的に疲労、首輪解除)
 所持品:なし】
 第一行動方針:スコール&アルガスと合流する
 最終行動方針:ゲームを止める】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4?、MP1/2)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 ミスリルシールド、スタングレネード×1
 エクスカリパー、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、黒マテリア
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:首輪を解除し、脱出に協力する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【リルム(HP2/5?、右目失明、MP1/9)
 所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【バッツ(HP3/5? 左足負傷、MP0、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)
      マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 第一行動方針:MPが回復したら自分の首輪を外す
 第二行動方針:祠の警備/機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)


147 :残酷なりし万象の支配者、その名は―― 15/15:2016/02/09(火) 22:04:14.22 ID:5INvnzgO.net
【ヘンリー(HP3/5、リジェネ状態)
 所持品:アラームピアス(対人)、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ グレートソード、
デスペナルティ、ナイフ、命のリング(E)、ひそひ草、筆談メモ、スタングレネード×1、リノアのネックレス
     ザックスのザック(風魔手裏剣(10) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃
             デジタルカメラ デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
     ユウナのザック(官能小説2冊、天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
            スパス ねこの手ラケット  ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 第一行動方針:デスキャッスルに向かい、ソロ達を助ける
 第二行動方針:仲間と合流し、事情を説明する
 第三行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置;デスキャッスル近辺(デスキャッスルへ移動中)】

【"タバサ"(MP1/2、元セージ、職業:賢者?、ドレス:フロラフルル?)
 所持品:ユウナのドレスフィア(フロラフルル?)、ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子
     イエローメガホン、英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:悪い人を倒してグランバニアに帰る。悪い人の定義は不明。
 基本行動方針:セージではなくタバサが生きているという正史≠紡ぐ。手段は問わない。
 最終行動方針:不幸にも死んでしまったセージ≠フ分まで生き、脱出する。手段は問わない】

*バスターソード、銀玉鉄砲、風のローブはザックス達の遺体の傍に放置されています。


****
投下終了です。支援ありがとうございました。

148 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/10(水) 00:38:11.52 ID:i5xKo4Ke.net
投下乙です。
がつんと盤面が動き始めた……
光の戦士によって闇が封じられるって言うのが、なんか皮肉に思えてしまう……
そして地震、デスキャッスルば大丈夫なのか!? 多分ダメだろうなあ……

149 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/10(水) 23:06:06.36 ID:lrr5QYSf.net
うをを…思わず音読した
驕慢と虚無感の入り交じるアルティミシアの台詞が素晴らしいな
しかしダークユウナの生成と消滅がここまでロワ世界を揺るがす事態になろうとは…!
主催者の意図を明かしつつ参加者全員に影響する話、英断にしてGJ!

150 :乗るしかない。このビッグギャンブルに。:2016/02/11(木) 23:32:56.20 ID:W9bI6GRp.net
「……うむ」

ティアマトは、自らに化せられた無茶ぶり≠ノ一度は頭を抱えていたが、それも一寸の間のみであった。
何せ彼とて魔女の右腕。冷静沈着なる大幹部の一人なのである。

「これくらいのことが出来ずして、何が私か」

与えられたミッションはただ一つ。それは放送によって場を納めること。
大丈夫、自分ならば出来る。ティアマトはそう自身に言い聞かせながら、放送の準備を始める。
そして同時に、彼は念のために≠ニ殺戮遊戯の舞台がどういった状況に置かれているのかを確認した。

「そうだ、このティアマトは……このティアマトこそが……!」

だがその慎重な行動が、彼に不幸を撒き散らすこととなる。


□ □ □


巨大な地震によって、多くの参加者が現状を訝しんでいる中、ラインハットの元王子ヘンリーも何事か≠ニ周囲を警戒していた。
何せここは、今は亡き親友リュカの土産話にあった危険な魔界≠ネのだ。
太陽が存在せぬ常夜の世界にて突如地震が発生したとあれば、何が降ってくるか分かったものではない。
それに地震が収まれば、始まるのは貴重な情報源である中間放送である。何が何でも死ぬわけにはいかないのだ。
そもそも放送前の出来事で命を落としてしまいました≠ナは仲間に申し訳が立たないにも程がある。

「……乗り切ったか」

果たして日頃の行いがよかった故か、ヘンリーは地震の被害者とはならなかった。
こうなれば後は殺気を撒き散らすものが周りにいないかどうかに気を配りながら、放送を聞くのみである。
だが、

「……ん?」

地震の後に訪れたのは、静寂であった。
当然ヘンリーは疑問を抱く。地震の後には放送が来る。そう思い込んでいたからだ。
思わず「何があったんだ?」と呟くヘンリー。
だが、彼は更なる異変を感じ取ることとなる。

「……魔界に、輝きが?」

天ではなく周囲へと視線を向けた瞬間、ヘンリーは遠く向こうから光の粒子が天に昇っている様子を目撃したのだ。


□ □ □

151 :乗るしかない。このビッグギャンブルに。:2016/02/11(木) 23:35:26.25 ID:W9bI6GRp.net
「どういうことだ、ティアマト」
「け、結論から申し上げますと……」
「結論から言うと?」
「……地震は、更なる異変の予兆に過ぎませんでした」

自分が人間であったならば、恐らく今の自身は全身汗だくなのだろう。
などと現実逃避気味な考えを脳裏に浮かべながら、ティアマトは目の前の魔女に現状を報告していた。

「放送を行う直前に確認致しましたところ、遊戯の盤上が……端から徐々に崩壊しております。特に、崩壊が著しいのは北方面で……」
「何故だ」
「恐らくはクリスタルの破壊による事故と、ユウナとやらから漏れ出す闇……そしてアルティミシア様が光の力によって結界を構築されたために、光と闇の均衡が崩れたことが……!」
「この私の失態だというのか! 仮にそうであるとしても、私はそれを繕うために放送を行えと命令したというのに!」

しかし、ああ、南無三。主アルティミシアは、憤怒の表情を崩そうとしない。
やはりこうなるか。放送を諦めた瞬間から、ティアマトはそう考えていた。
恐らくこのままでは、自身の首すら容易く跳ねられることだろう。

「アルティミシア様! おそれながら申し上げます!」

故に、一世一代。その様な単語を頭に思い浮かべながら、ティアマトは吠えた。

「もはや放送のみで取りつくろうことは不可能であると考えます!」
「貴様……っ!」
「ですが、他に方法がございます! 盛大な賭けではありますが!」
「賭けだと? ティアマトよ。この期に及んで何を……!」
「光と闇の均衡を戻すことで……謂わば闇の輝き≠再び手中に収めるのです!」

ティアマトは己の掌から血がにじみ出しているのも構わず、叫び続ける。

「アルティミシア様は先程一人足りぬ≠ニ仰いました! そう、足りぬのです! あの男が!」
「……バッツ・クラウザーか。読めたぞ。さては貴様、心に光を宿す者達を自ら殺害し、均衡を取り戻すつもりか」
「まさしく! そうでなくては、あの女は完全に封印出来ません!」
「ならん!」
「何故です!?」
「その様な愚策、ただ事ではないと教えるようなもの! 許可出来るはずもない!」
「ですがこれを成し遂げねば、そもそもの遊戯が完遂出来ません! それでもよろしいと!?」
「……バッツ・クラウザーの魂を手中に収めてもなお、崩壊が止まらなければどうする?」
「ならば再び、別の者の魂を刈り取るまで。それで光が強まれば、次は手ずから闇を土産と致しましょう!」
「……おのれぇっ!」

歯を食いしばった魔女が、細腕で壁を殴りつける。
ティアマトはそれが賛成≠フ合図であると感じ取り、話を纏めにかかった。

「アルティミシア様! 旅の扉の使用許可を願います! 行き先は当然、バッツ・クラウザーの根城です!」
「いいだろう、その申請を許可する……」
「では!」
「しかしだ!」

だがここで、アルティミシアの血走った目がティアマトをすくみ上がらせる。

「SeeDの殺害は許さん、絶対にだ。そして貴様の策という名の賭けが成らず、この遊戯自体を崩壊させることとなれば……!」
「……は、はいっ。私の首など、いくらでも……」
「いや、貴様だけではない! ここにいる使えぬ部下全員の首を……貰う!」
「…………お、お戯れを!」
「本気だ。では征け! 精々、死にものぐるいで賭けに勝つのだな!」
「アルティミシア様! お待ちを! アルティミ……っ!」

そうしている間に、ティアマトの足元には旅の扉が出現。
彼は最後まで言葉を言い終えることなく、魔界へと旅立っていった

152 :乗るしかない。このビッグギャンブルに。:2016/02/11(木) 23:37:11.06 ID:W9bI6GRp.net
□ □ □


そして、光溢れる異常な魔界に二度目の地震が起こる。
だがそれも当然、放送を行う前触れではない。
この地震は、空を支配する巨竜が降り立った証である。


魔龍降臨。


魔女の右腕ティアマトは、多くのリスクを背負いながら、盤上へと繰り出した。



【ヘンリー(HP3/5、リジェネ状態)
 所持品:アラームピアス(対人)、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ グレートソード、
デスペナルティ、ナイフ、命のリング(E)、ひそひ草、筆談メモ、スタングレネード×1、リノアのネックレス
     ザックスのザック(風魔手裏剣(10) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃
             デジタルカメラ デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
     ユウナのザック(官能小説2冊、天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
            スパス ねこの手ラケット  ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 第一行動方針:デスキャッスルに向かい、ソロ達を助ける
 第二行動方針:仲間と合流し、事情を説明する
 第三行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置;デスキャッスル近辺(デスキャッスルへ移動中)】


□ □ □


※ティアマトが南東に出現しました。

153 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/11(木) 23:37:36.86 ID:W9bI6GRp.net
投下終了です。

154 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/11(木) 23:53:39.86 ID:W9bI6GRp.net
申し訳ございません。
前話と矛盾している箇所があるほか、問題点が浮かび上がったので>>150-152は破棄とさせて頂きます。
大変お騒がせ致しました。

155 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/12(金) 13:34:05.99 ID:xGJbvM1Z.net
オメガウェポンこんな簡単に消滅していいんかい

156 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/12(金) 17:52:35.92 ID:bhyOqwaX.net
ありゃま残念

157 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/12(金) 19:49:56.42 ID:gAAxc6AE.net
>>155
ゼル一人で片づくしこんなもんじゃない?

158 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/13(土) 22:06:15.24 ID:lRBVUaxJ.net
最近思うのは、そろそろこういう既存の作品のキャラを使ってバトロワする作品が
商業誌で漫画などで普通に描かれる可能性があるなと
10年前ならまずあり得なかったけどね
今の出版業界見てるとなりふり構ってられない感じ

159 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/15(月) 16:19:42.34 ID:ULJVj38N.net
避難所に投下しました、特に問題なければ近日中に本投下します。

160 :古城崩壊の序曲 1/7:2016/02/16(火) 09:51:02.83 ID:9+gjXGXz.net
「うわ、ガメゴンだ」

開口一番、城に着いた俺の言葉はそれだった。
ピコンピコンとアラームピアスが誰か居るのを告げてくれてはいたが、流石に予想してない。
しかも規格外にデカい、とにかくデカい、デカァーーーーーーイ!! って言いたくなるくらい。
鶴は千年、亀は万年とか聞いたことあるがにしてもデカイ、万年どころじゃない。
リュカから「ガメゴンロードっていう上位種がいるんだよ〜」なんて聞いた事はあったが、もうそんなレベルではない。
けれど、出くわしてしまったその姿を「ガメゴン」以外で表現する言葉は、生憎と持ち合わせていない。
どこからどう見てもガメゴンだし、デールやコリンズ、マリアが見ても「ガメゴン」と即答するだろう。
断言してもいい、自他共に認めるラインハットでガメゴンと一番戦った男である俺が言うのだから間違いない。
しかしまあ、ここに来て魔物に出くわすなんて、本当についていない。
ここまで生き残っているということは、恐らく強大な魔物なのだろう。
ひょっとすれば、もう何人もの血を吸っているかもしれない。
もしかしなくても、とてつもなく危険な状況に置かれているのか?
いやいやいや、待て、落ち着け。
このガメゴンマスターヘンリーなら、ガメゴンのことならなんでも知っている。
特徴、習性、弱点、守りの種を隠し持ってる場所、たまにかわいい声を出すところ。
うっかり声を出してしまって気づかれたかもしれないが、大丈夫だ。
ガメゴンは人の言葉を理解できない、いや、ガメゴンじゃなくても魔物は人の言葉を理解できない。
俺は魔物使いなんかじゃないから、魔物と話すことなんて出来ない訳だし、問題は無い。
落ち着け、落ち着け俺、デカイし色が変とはいえガメゴンはガメゴンだ。
そう、ガメゴンはガメゴン、ガメゴンはガメゴン、ガメゴンはガメゴン……

「ハァ、ここまで来るとそのガメゴンとやらに会ってみたくもなるな」

思わず飛び跳ねからの二回転半経由上体捻り側宙、おまけに完璧な着地を披露してしまう。
いやいやいやいやいやいや、喋った、いま喋ったって、ほら、喋ったって!!
考えないだろ!? 人の言葉を理解するとか通り越して喋るとか考慮しねえよ!? まさかのヒューマンコミュニケーションじゃん!?
ひょっとしてアレか、上位種とか突き抜けた神とかなんとかついちゃうアレか?
言うなればガメゴンレジェンド? レジェンドガメゴン? 生きるガメゴン伝説?
そういうレアな奴引くのはオラクルベリーのカジノだけにして欲しいよな、いやホント!
なんにせよヤバい、だって人の言葉を話すって事は俺の言葉も理解してるって事。
つまり魔物側に俺の事が気づかれてるって事だし、もしかしなくても一触即発ヤバい状況!?

161 :古城崩壊の序曲 2/7:2016/02/16(火) 09:51:30.06 ID:9+gjXGXz.net
ま、まままあ、おおお、お、落ち着けヘンリー。
そんなんだからプサンのオッサンに言いたい放題ドッカンドッカン言われるんだよ。
ったく今度は俺の番だっつの、ツイてるのはドラゴンオーブだけにしてくれ。
……にしても、プサンのオッサンってなんか韻踏んでるよな。
じゃなくて、じゃなくて、じゃなくて、だ。
それはそれ、これはこれ、今は今。
対ガメゴン用コミュニケーションを取らなきゃいけないんだよ。
つーか、魔物と話すとか初めてなんだけど、大丈夫かな、出来るかな、不安だな、あはぁ〜ん、助けてリュカ〜〜!!
……いや、いない奴頼ってどうする。
この場をどうにかできるのは俺しか居ないし、俺がやらなきゃいけないんだ。
出来る、出来ないじゃない、やるんだよ!
よし、やるぞヘンリー!! ガメゴンなんざ怖かねぇ!!

「ハ、ハーイ。ナ、ナイストゥミーチュー?」
「落ち着け、何も取って食いはしない」

口から出たのは、どこの世界のどこの国の言葉か分からない言葉。
俺自身、何の言葉か分からない、いや、本当に分からないんだ、信じてくれ。
ていうかガメゴンに呆れられてない? 今ため息ついたよね? ね?
人として生まれて(プライバシー保護)年!! よもやガメゴンに馬鹿にされる日が来るとは!!
馬鹿にされるのはマスターナントカだけで十分だっての! ひょっとするとコイツはマスターガメゴン!?
マスターガメゴンvsガメゴンマスター!! 亀と人、エライのはどっちだ!?
現状10:0なんですけど!? 馬鹿にされっ放しなんですけど!?
っていうか人の言葉喋るガメゴンってセコいだろ!? じゃあ俺にもガメゴンほどの守りをくれよ!!

「緑髪の青年……なるほど、お主がヘンリーか」
「な、なんで俺の事知ってるのォ!?」

バク宙三回転半からの海老反り逆反りインドラ橋で時は来た、再び完璧な着地。
芸術点は審査員も納得の10点オールで見事一位です、おめでとうございます!!
優勝商品として新しい思考回路を進呈しましょう! ワーイ助かった! 今まさに思考回路がショート寸前!
マジ無理、リュカぁ……今すく会いたいよぉ……泣きたくなるよぉ……。
もうこの際誰でもいいよぉ……誰か助けてェ……。

162 :古城崩壊の序曲 3/7:2016/02/16(火) 09:52:25.66 ID:9+gjXGXz.net
 
「プサンから少し聞いていたが……なるほど、落ち着きの無い青年だ」
「あのオッサンそんなことまで言ってたのかよ!? 風評被害甚だしいだろ!!」

怒り爆発、あッたま来た、怒髪天どころか天空城を貫く勢い。
神が一人の人間をそこまで見下していいと思ってんのか! やっぱりさっき一発くらい殴っとけばよかったか!?
人生で一番怒ってる、間違いない、俺怒ってるからな!!
大体人間の姿なのをいいことにあのオッサンはある事無い事ピーチクパーチク…………あれ?

「プサンのオッサンと知り合い? って事は?」

ふと、我に返る。
そうだ、プサンのオッサンの名前が出てくるって事は、そういう事じゃないか。
なんだ、そういうことなら早く言ってくれればいいものを、変なこと考えて損したぜ。
そういえば誰かに聞いたことあるような無いような、ええい頭の中の情報がごちゃごちゃして纏まらない。
とにかく、だ。なあガメゴン、俺とお前なら仲良くなれるよな……おいおい、そんな難しい顔するなよ。

「まずい! ここから逃げるぞヘンリー!!」
「へ?」
「話は後だ! 走れ!!」
「え、えぇー!?」

ちょっと待ってくれ、状況を飲み込ませてくれ。
ってかメッチャ早いな!? 亀だろ!? いや伝説のガメゴンならそれくらい出来るのか!?
そんな事を考えながら、とりあえず後を着いて行こうとした時。
大きな地鳴りの音と共に揺れた地面に、俺は足を掬われた。

163 :古城崩壊の序曲 3/7:2016/02/16(火) 09:53:22.93 ID:9+gjXGXz.net
 


「いや、ホントに弱りましたねェ」

たった一人の部屋の中、ぼくちんは珍しく腕を組んで考え込んでいます。
進化の秘法、天空人と魔族の歴史、ついでにマスタードラゴンについて大まかに理解したところで、ピンチ到来です。
え? あの散らかりまくったゴミ・オブ・ザ・ゴミの山だった空間から、何時の間にそんな資料を手に入れたのかって?
アレか? 何から何までミッチリやらないと気がすまないユーモア欠乏症の患者さんですか?
ぼくちんの涙ぐましい努力の結晶とも呼べるお片づけについていちいちメニュー→しらべるとかやんなきゃ納得できないビョーキの方ですか?
天才たるぼくちんはお片づけの方法も天才! あの程度のゴミの山なんてちょちょいのちょい〜なんだよ!!

……そうだよ! 一つ一つ丁寧に真心込めて選り分けしてたわ! バカタレ!!
中には「進化の秘"宝"」とか「進化の"悲報"」なんてバッタモンの資料をちぎっては投げちぎっては投げした苦労をいちいち言えって言うのか!!
いくら天才的な振る舞いとはいえお片づけの内容を事細かに報告されてみろ!! 正直しんどいだろ!!
それでも納得できないって言う頑固な頭のオバカサンはボナコンと間違えられて燃やされちまえ!!
なんだったら半笑いで「無いでしょ」って言われながら切り捨てられちまえ!!
はーっ、はーっ……まあ、いいでしょう。
この怒りは誰もが群がりおひねりを投入する大人気のステージで、ぼくちんのさわやかスマイルを世のチビッコに振りまくことで収めることにします。
え? 何? ぼくちんがまだ居ない? そのうち「アップデート」ってのが来てぼくちんの出番が来るんだよ!! え、来るよね?

……えー、話がメチャクチャ逸れました、が。
ともかく、断片的ですが手がかりは掴む事は出来ました。
分かったところで早速実践! ぼくちん進化〜〜〜〜!! メタルぼくちん!! なんて訳にもいかないみたいで。
どーやら何かが必要みたいなんですよ、具体的に言うと【闇】を増幅させる物体。
まあ、物体じゃなきゃいけないのか、はたまた純度の高い【闇】さえあればいいのか……まだまだ懸念点はたくさんあります。
やっぱりピサロとアーヴァイン君のお話が進化の秘法なんじゃないかしら、どうでしょ、頭の隅ぃ〜〜っこに置いとくか。

んで、それが分かったあたりで、あからさまに魔力の流れが変わった訳ですよ。
なんていうか、こう、あちらこちらそちらどちらから微かに【闇】が零れ出してるような。
完全な世界が、複製された不完全な世界になったというか、なんていうんでしょうかねえ、あー気持ち悪い。
天才魔導士のぼくちんだからそれを読み取れるわけですが、ついでに何の予兆なのかも分かるんですヨ。
言うなれば地殻変動? ぼくちんがむかぁーーーーーーしにやった粉砕玉砕大ハカーーーーーーイ!! の時みたいな感じ。
いやぁ、でも破壊、いいですよね。清清しい気持ちになりますよ。ぼくちん大好き。
でも、今そんな事をされると結構困るわけで。ったくあのケバケババァ空気読めませんね。毛穴が毛羽立って死んじまえっての。
てな訳で君子危うきに近寄らず、目ぼしいお宝にはありつけたし、スタコラサッサのホホイノホーイでオサラバしますかね!
何かが起こる前に逃げちゃえば、プロテスもシェルもいらないんだじょ!! アーヒャヒャヒャヒャヒャ! アーーヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!
でも、念のためレビテトはかけて……と。

164 :古城崩壊の序曲 5/7:2016/02/16(火) 09:54:37.86 ID:9+gjXGXz.net
 
「クァーカカカッ、カカカクァークァ(この城に随分と詳しいんだな)」

ん? この声……カッパ?

「忘れるわけ無いですよ、この城を」

ゲゲゲゲゲェーーーーーーッ!! クサクサクッサァ〜〜〜〜の青臭コンビの青臭い方、ソロ君じゃないですか!!
ってかどんどん近づいてくる!! 何で!? 何で!?
しかもよりによって何でカッパと仲良くしてるの!? どういうことなの!?
頭オカシ過ぎてカッパと仲良しこよしのヨホホイホイなの!? シンジランナーーーーーーイ!!
いや、マジでやばいじゃん、どうするぼくちん、ノコノコ現れるわけにもいかんでしょ。

「進化の秘法、ケフカがそれを求めているのだとすれば……」

なんかソロ君に色々バレてません? えっ、割とマジで何で?
カッパとお話できるアビリティ? そんなの聞いたことないし! チート! チートだじょ!
え〜〜ん!! ケバケバおばちゃ〜〜ん!! ソロ君がズッコしてま〜〜す!! いけないと思いま〜〜す!!
……ふざけてる場合じゃないですね、真剣にマズいです。
でもどうしたらいいんでしょ、ここ、出入り口一つしかないし、ってことは。

「……ここしか、ないですから」

そんなこんなでタイムアップ、青臭ソロ君ついでにプリティーカッパちゃんとご対面。
目と目が合う〜〜瞬間好〜〜きだと、気づ〜〜いた〜〜ってんなわけあるか! キライキラーーーーイ!!
とにかく、どうにかしなきゃいけないんです、ぼくちんの頭脳をフル回転させて最適解を――――

そんな時ですよね、ぼくちんの見える景色がぐらりと揺れたのは。
ガタガタ震えた本棚から本がこぼれる音も聞こえます、ああぼくちんの努力の結晶が。
でも? そんなに大きくユサユサ揺れてるってことは……もう分かりますよね?
ソロ君とカッパ君が、まともに立っていられるわけが無いんです。
ふらつきながらバランスを取ろうと必死なカッパとオバカ! 嗚呼、ユカイユカイ!!
でもぼくちんは宙に浮いてるから問題ナッシン、いつもどおり動くことが出来ます。
あー、レビテトかけててよかった、ほ〜〜んと良かった。
ケバケバ星人も珍しく空気を読みますね、癪ですが感謝しましょう。
とにかく、これは恐らく二度と来ないチャンスです。
ぼくちんの居場所を当てる事が出来たお二人に、ケフカ様の魔力をふんだんに使った特別賞をプレゼントしてあげましょう。
ホントーは脱出用テレポの魔力を残しておきたいんですが、それは微かに溢れ出してる【闇】を使えば何とか出来るでしょう、たぶん。
それよりこのチャンスを逃すほうがシャレになりませんし、セフィロスだけでもぶっ殺しておきたい所です。
てな訳で、どんな道具を持っていようが、どんな技術を持っていようが防げない、とびっきりの奴をそろそろお見舞いしてやりましょうか。
ハカイだハッカイ♪ あ、そーれ。




「「アルテマ」」



ヒャ。
ヒャヒャヒャ。
アーーーーーーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!



ウザったらしいピサロのおうちは粉みじん。
瓦礫のガの字も残らず、綺麗さっぱりお掃除完了。
これで他の奴に進化の秘法の手がかりも渡らないし、ばっちり完璧。
あとはセフィロスの奴がくたばってるのを確認できれば良かったんですが。

165 :古城崩壊の序曲 6/7:2016/02/16(火) 09:55:04.51 ID:9+gjXGXz.net
 
「――――ホントーに不愉快ですね、キミは」

どーして、ソロ君は傷一つない状態で、ぼくちんに剣を向けているんでしょうか。
アルテマすら無効化するとは、いくらなんでもチートが過ぎるでしょう。
こんなことなら、瓦礫をわざと残して押しつぶしてしまったほうが良かったかもしれません。
ちょっと後ろに男と亀も増えてますし、これはちょっと面倒くさい状況。
お空ではオバサンの手下がなんか喋り出していますが、今はそれどころではありません。
ボコボコのリンチにされるのはイヤなので、【闇】に干渉してみてテレポを試みるべきでしょーか。
後々の事を考えてソロ君をなんとか説得し、セフィロスにキッチリとトドメを差しておくべきでしょーか。
それとも……?

……サテ、ドウシマショウカ?

【ケフカ (MP:0?)
 所持品:ソウルオブサマサ、魔晄銃、魔法の法衣、アリーナ2の首輪、やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
 リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
 サイファーのザック(ケフカのメモ)
 レオのザック(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:現状対処
 第二行動方針:セフィロス・ユウナ・ソロ・クリムトを初めとする、邪魔な人間を殺す
 第三行動方針:アーヴァイン達に首輪を解除させる
 第三行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】

【セフィロス (カッパ 性格変化:みえっぱり 防御力UP HP:???? 重傷)
 所持品:村正、ふういんマテリア、いかづちの杖、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、スタングレネード
     弓、木の矢28本、聖なる矢14本、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、波動の杖、コルトガバメントの弾倉×2、E:ルビーの腕輪
 第一行動方針:ケフカを殺す
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

【ソロ(HP3/5 魔力1/8 マホステ状態、真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣)、天空の盾、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、水のリング、天空の兜
     フラタニティ、青銅の盾、首輪、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ティーダの私服
 第一行動方針:ケフカを倒す
 第二行動方針:セフィロスを説得する/サイファー・ロック達と合流し、南東の祠へ戻る
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】

166 :古城崩壊の序曲 7/7:2016/02/16(火) 09:55:36.01 ID:9+gjXGXz.net
 
【ギード(HP3/5、残MP1/8)
 所持品:首輪
 第一行動方針:エクスデス(=ホーリーやメテオを使った存在)を倒す
 第二行動方針:ソロ達と合流して南東へ向かう
 第三行動方針:首輪の研究と脱出方法の実験をする】

【ヘンリー(HP3/5、リジェネ状態)
 所持品:アラームピアス(対人)、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード
     デスペナルティ、ナイフ、命のリング(E)、ひそひ草、筆談メモ、スタングレネード×1、リノアのネックレス
     ザックスのザック(風魔手裏剣(10)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃
             デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、ミスリルアクス、りゅうのうろこ
     ユウナのザック(官能小説2冊、天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー、雷鳴の剣
            スパス、ねこの手ラケット、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)、水鏡の盾
 第一行動方針:ソロ達を助ける
 第二行動方針:仲間と合流し、事情を説明する
 第三行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:デスキャッスル跡地】

167 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/17(水) 21:16:27.49 ID:3pF07X1m.net
新作乙です!
ヘンリー騒々しいw
ほとんど毎行可笑しいけど特に

>ってかメッチャ早いな!? 亀だろ!?

ここ何度読んでも笑う
しかしリュカの名前が出て来るとなんかしんみりしてしまうのう
死者スレでもネタになってたけど、リュカ周りはみんなわりと悲惨な運命を辿ったによって

ギードはガメゴンガメゴン言われすぎてもはや悟りの境地に達したか、さすがは賢者

ケフカ・オン・ステージはいつも楽しいな〜
第四の壁超えまくりな話し振りでも違和感ないのはケフカならではだね
ソロとヘンリーだけだったら舌先三寸でコロッと丸め込まれそうだけど
ギードがいるから一筋縄では行かないだろうし、カパロスの状態も不明だし
けっこう切り抜けるのが難しい状況なんじゃないかこれ

168 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/02/23(火) 19:38:18.59 ID:ULqA2ej6.net
hosyu

169 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/02(水) 15:29:40.07 ID:D9x5iymk.net
保守

170 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/04(金) 02:22:14.96 ID:onUf4A/F.net
 

171 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/05(土) 15:32:09.39 ID:bs7DBLgG.net
板の設定が変わって、二日書き込みがないと落ちるようなので、本スレでじゃんじゃん雑談していきましょう。
過去に振り返っての感想とかでもいいと思うの

172 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/05(土) 16:38:31.79 ID:EcfKS6ll.net
面倒なことになったな。まあそういう雑談するにはいい機会か

173 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/06(日) 23:42:03.19 ID:r6OGfE6W.net
保守ついでに十年前の読み手に言っても信じてくれなさそうなこと
・まだ完結してない
・セフィロスはカッパになる
・アルガスはまだ生き残ってる

他に何かある?

174 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/07(月) 00:43:23.23 ID:pwGGcYD4.net
ユウナのヤンデレ化だろうか
何かいきなりヤンデレになった様な印象があるが、前後ほとんど覚えてないな。今度見直すかw

175 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/07(月) 07:46:20.74 ID:DxXY09wH.net
セージ多重人格化もそうかな
序盤じゃそんな気配すらないし

176 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/07(月) 08:57:23.88 ID:JpxkiY7L.net
完結してないってだけなら2ndもそうだったしそこまで驚くことでもない
企画自体が止まったわけじゃなく投稿は続いてるのに完結してないって言われたら驚くだろうなw

177 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/07(月) 09:17:46.50 ID:X7lTfoK2s
ロワ内の出来事じゃないけど
・ザックスが主人公の外伝が発売
・FF4の後日談のストーリーが発売
・KH未参戦作品もしっかり登場するFFのお祭りゲーが発売
・DQ7が携帯機でリメイク

178 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/08(火) 00:17:39.29 ID:6CJ+97d+.net
今から十年後の未来の読み手が「まだ完結してない」って言ってくる可能性が…

179 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/08(火) 10:48:11.47 ID:SD7UolCL6
他ロワでも共通用語として通用する程度にはネタにされてたサラマンダーの再評価の流れも当時の住民には信じられないかも
結局殺せたのはショタ二人だけとは言え最後辺りになると「闇に染まる事のない精神的強者」みたいな扱いだし

180 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/09(水) 20:50:48.03 ID:SJCt+hsE.net
印象的だったセリフを挙げてみる
「君のは、愛とは、違う」

181 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/09(水) 22:04:05.75 ID:1H6Ycb4h.net
ソロのギガソードの時かなー
途中まではスコールよりソロのが主人公してたわ

182 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/09(水) 22:17:33.96 ID:2knwMw82.net
ソロと言えば天空の盾とかいう有能すぎる防具

183 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/11(金) 21:31:39.07 ID:edVYRBGm.net
二日

184 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/12(土) 22:54:35.65 ID:jASp1Uag.net
天空の盾の大活躍っぷり&ラミアスの剣のなんだかんだで活躍っぷりに比べると天空の鎧の出番のなさが悲しい

185 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/13(日) 21:35:44.59 ID:VC+qNK1Q.net
鎧系は全体的に出番と存在感が少ないけどナッツンスーツだけは別格

186 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/15(火) 21:19:46.18 ID:2PGh9jFy.net
二日

187 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/17(木) 15:55:44.14 ID:Df4nik5g.net
ほっしゅほっしゅ

188 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/18(金) 23:46:37.35 ID:u4F9B5Sz.net
ギルダーAAで保守しようと思ったけど探すのが面倒保守

189 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/20(日) 13:46:14.66 ID:Xo64jy1x.net
サラマンダーとビビのAAもあったね

190 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/21(月) 00:48:03.21 ID:GT43mGnx.net
     .'´ ⌒ ヽ  |ヽ ̄ン、     
    ' /ノノ`ヾ_/`´__ヽ      
ピュー (((*゚ ヮ゚ノ  |从*´∀`) ̄  ギルダーとビアンカのAAなら見つけた
    (y)ヾ-〃  ソノ斤川ヽ 
  =〔~ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∪ ̄ ̄〕
  = ◎―――――――◎

191 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/22(火) 02:21:34.99 ID:JlMT55E+.net
ギルダーは死者スレへどうぞ(テンプレ

192 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/22(火) 21:42:52.38 ID:tvN4CkqI.net
しかし二日って酷いな
せめて一週間くらいの猶予があってもよかろうに

193 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/23(水) 23:42:06.28 ID:/KJbnt7v.net
二日はつらいが一週間だとうっかり忘れて落ちる率上がりそう

194 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/25(金) 01:09:32.54 ID:Kk0V5ipI.net
セーブほしゅ

195 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/25(金) 20:37:36.31 ID:Z4glF0sK.net
バトロワ3rdしりとりでもするか?

ひょんなことから凶悪な分身を作ってしまったアリー「ナ」


196 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/27(日) 01:11:36.02 ID:SlqujN0C.net
名無しキャラ唯一の生存者にしてどうしてこうなったセーz…タバ「サ」

197 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/29(火) 00:12:14.22 ID:kQDDkHm65
サックス

198 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/29(火) 00:14:21.15 ID:G02Izy/2.net
サックス って書きこんだらミラーの方だった
危ない危ない

199 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/30(水) 22:43:58.53 ID:OPZY6Z+R.net
スコッシュ

登場時からほぼずっと同行してるってすごいよな

200 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/03/31(木) 16:06:27.90 ID:0dZETXQzK
「シュ」で始まるキャラはいないので「ユ」で
ユウナ

正直エドガー殺害回書いた人も彼女がここまで堕ちるとは思ってなかったに違いない

201 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/01(金) 14:47:30.92 ID:G/aJOes+.net
U奈様が見てる保守

202 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/03(日) 00:25:27.42 ID:dIUoY+Ph.net
ほしゅ

203 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/04(月) 03:33:50.10 ID:zcIEPVji.net
ルカとハッサンは死に様カワイソスだった

204 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/05(火) 20:16:31.44 ID:9qKiu4vl.net
ハッさんといえば指輪のインパクトが強くてな…
どうやって死んだんだっけ

205 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/05(火) 20:29:48.74 ID:jwayC4kW.net
爆発の指輪を指ごと切ってもらおうと頼んだら、クシ刺しにされたんだったかな

206 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/05(火) 21:56:00.48 ID:wX7n74Vi.net
あの指輪殺傷能力高いよな

207 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/06(水) 23:01:54.72 ID:dUhxI360.net
爆発の指輪の存在感は圧倒的だけど血のエンゲージリングも相当だと思う
出典ありそうでないオリジナルなのか実は何か元ネタがあるのか未だにわからない点まで含めて

208 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/08(金) 14:49:21.29 ID:trq1IrwX.net
ほしゅ

209 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/09(土) 10:10:56.73 ID:pNl/MaU2.net
ルカは多分何が起きたのかもわからないまま死んだだろうから、まだマシではなかろうか

210 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/10(日) 16:13:15.48 ID:t/zwfidr.net
ツイートしまくれ!貼りまくれ!
アメリカの4chにも!

0040 名無しさん@1周年 2016/04/10 15:48:31
これを海外に拡散よろしく

日本は今報道規制されてます。
まるで外国で起こったことのように報道しています。
規模は2位にも関わらず自国の危機とは報道していません。
我が国の国民は養豚場の豚と同じです。
特に30代40代の世代は氷河期世代と呼ばれパナマ文書にのってる企業や
個人による犯罪の被害者です。

Japan is now reporting regulations .
As if it has been reported as of the things that happened in a foreign country .
Scale is not reported to the country's crisis despite the second place .
Japan's people is the same as the pig farm pig .
Especially 30's 40's of the generation companies Ya you are riding in Panama document is referred to as the ice age generation
We are the victims of crimes committed by individuals . 👀 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:55e787040b07f9ca8824427c31a04279) 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:55e787040b07f9ca8824427c31a04279)


211 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/12(火) 01:34:12.64 ID:pvMCnSPw.net
ほしゅ

212 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/13(水) 12:27:23.01 ID:5TB4idRH.net
安倍政権、本当の支持率。
http://blog-imgs-84.fc2.com/k/a/l/kaleido11/20160330-1.png

213 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/14(木) 06:17:27.24 ID:kqUoMVR4.net
ほしゅん

214 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/14(木) 13:50:39.20 ID:A2p+OWqml
ソロが敬語キャラってのが地味に新鮮で好き

215 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/16(土) 00:20:19.63 ID:GFdPIDjd.net
ほっしゅる

216 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/17(日) 13:37:07.65 ID:yta0SHem.net
ほしゅほしゅ

217 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/17(日) 17:04:18.58 ID:gWOTDZmz.net
        - -―- 、     .
      /...::::::::::::::.. ヽ
    / ..:::::::::::::::::::/\ ヽ
    /..:::/::::/::::// ノ l:. l.
    l:::::!::::/●)  (●)|:: |   返して!
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    ヽ:i::!、 (⌒ーァ ノノ'   払う必要のなかった消費税を返してよ!
     _ ` l\`ー‐'/
.    /::::::::::::\ ̄./::ヽ〆ヽ
   /:::::,:::::::::::。| |::::::|ヾ_ノ,
.  /:::::::| ::::::::::::。| |::::::|::i:::::|
  i::::::/ i:::::::::::::。| |:::::」ゝ::ノ

218 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/19(火) 21:07:16.65 ID:ueyngyrw.net
ほしゅ

219 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/21(木) 00:11:38.35 ID:rZujjLnL.net
ほっしゅほしゅ

220 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/23(土) 00:18:20.24 ID:nFzdulTK.net
ほしゅ!

221 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/24(日) 23:13:20.56 ID:T0tBQZUi.net
保守

222 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/26(火) 18:24:22.67 ID:ETM0rQhJ.net
ほーしゅ

223 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/28(木) 13:42:06.05 ID:7NttRCxh9
ほしゅ

224 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/28(木) 23:54:08.15 ID:enw63STa.net
hossyu

225 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/04/30(土) 22:38:07.05 ID:6omoCqS9.net
ほっしゅる

226 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/05/09(月) 18:26:39.09 ID:SCHaQzNc5
ほしゅ

227 :メッキの心に爪を立て 1/21:2016/05/10(火) 23:03:24.29 ID:0G/1nmx7c
「「ホントーの本当にロックなの〜?」」

一人はうずまき模様の瞳を丸くして、もう一人は自分の事を棚に上げて訝しんでいる表情を向け。
どちらにしてもあからさまに不信が滲み出た二人揃っての問いかけに、俺は思わず額に手を当てる。
『ケフカが俺に化けていたと聞いた』――
サイファーはそう言っていたが、この様子だと被害を受けたのはこいつらという事なのだろうか?
発狂して殺人鬼に戻ったはずのアーヴァインがやけに大人しくしているのも、そこらと関連があるんだろうか?
推測しようにも情報が足りない。
それじゃなくても城が吹っ飛んだりセージが一人芝居しながら襲って来たり、
何が何だかわかりゃしないことが立て続けに起こってばかりで、そろそろ思考がショートしそうだってのに――

「ホントに本物のロックだったら、ウルでザンデに着いて行こうとしたの誰だかわかるよね?」

リュックの言葉に、はぁ、と口からため息がこぼれた。
どうやらまーだまだまだこっちの質問ターンは回ってこないらしい。
諦めと呆れを噛みしめながら、俺は記憶の糸を手繰る。
「ソロだけど、ピサロが引き留めて代わったんだよな。
 でもそれケフカも知ってるかもしれないぞ? 少なくとも昨日の夜まではピサロ達にくっ付いてたわけだからな」
「あ〜、そういやそんな話してたらしいね〜。
 ティーダが……ゴホッゴホッ、……僕がノビてる間に、ピサロ達と情報交換したって言ってたし」
酷く咳き込みながらもアーヴァインが呟いた。
風邪でも引いたんだろうか? それにしちゃ顔色は良さげなんだけどな……?
そんな俺の疑問を余所に、リュックは「むむむ」と唸る。
「なら……えっと、そうだ!
 さっきサイファーに膝カックンしたのが誰か言えるよね?」
「おい!」
『人の失態をダシにするんじゃねえ』と言わんばかりに、サイファーはジロリと彼女を睨み付ける。
けれどもリュックは涼しい顔で「だってこれならケフカには答えられないでしょ?」とウインクする。
「プサンのオッサンだろ? 忘れるかよ」
あのオッサンがあんな身軽に動けるとは思わなかったしな――と俺が口走るよりも早く、
「ブフォッ……!! マ、マジで!? 何そのオモシロNG珍百景!
 ずっこいずっこい、僕も見たかった〜!」
と、アーヴァインが吹き出しながら食いついて能天気に騒ぎ出す。
20歳過ぎに見える老け顔と長身に似合わない無駄に子供じみた仕草や反応は、まるっきりティーダやテリーと一緒にいたころのコイツだ。
もしかして……いや、もしかしなくても、また殺人を犯した時の事を忘れているんだろうか?

「ブチ殺すぞクソガルバディア野郎」
サイファーがキレる。残念ながら当然だ。
「え〜、僕じゃなくたって似たような反応すると思うけど?
 キスティスも爆笑してシュウに話しに行くレベルっていうか……ぷぷっ、ゲフォッ、ゴホゴホ」
吹き出すのか咳き込むのかどっちかにしろよ。
だいたいキスティスとシュウって誰だよ?
――と一瞬首を傾げたが、すぐにこの二人は元の世界からの知り合いだったとかいう話を思い出す。
あれほどアーヴァインを殺すと息巻いていたサイファーが見逃しているのも、そのあたりの情が原因なのだろうか?
でも、それにしたって……

228 :メッキの心に爪を立て 2/21:2016/05/10(火) 23:05:27.47 ID:0G/1nmx7c
「無駄に器用な笑い方してんじゃねえよ。
 マジでブチ殺すぞクソガルバディア野郎」
「はいはい。そこまでにしときなさいって、もう」
「テメェがそもそもの発端だろうが!
 いいか、二度とその話をするんじゃねえぞ!
 テメェだけじゃねえ、ロックもクソ野郎もだ!」
「ごほごほ……クソ野郎って言うの止めてくれたら考える〜」
「なんか言ったかクソ野郎」
「アーヴァインって呼んでよって言ったんだよ、バラムの風紀委員長サマ」

睨み付けるだけで済ませて憎まれ口を叩きあう。
友達同士でやってるなら自然なやりとりかもしれないけど、相手は仮にも友人を殺した張本人じゃないのか?
記憶を無くしていようが何だろうが、起こった事が変わるわけでもないだろう?
こんな下らないからかい方をされて手を上げる事すらしないなんて、どういうことなんだ?

「あーもー、ホントにストップストップ!!
 アーヴァインはいい加減に喧嘩売らない、からかわないっ!
 あとサイファー、むかつくのはよーくわかるけどあんまり汚い言葉使わない!」

ようやくリュックが釘を刺したけれど、それにすらアーヴァインを強く謗るニュアンスは感じられない。
下手に刺激してアーヴァインが再発狂しないよう、怒りをコントロールして抑え込んでるんだろうか?
あるいはアーヴァインの凶行は【闇】のせいであって本人に罪はないと割り切ってるのか?
二人で協力して正気に戻したから、アーヴァインではなくお互いに対して気を使ってるだけなのか?
それにしたって甘いというか、優しすぎやしないか――

「は〜いはい、もうやめるしハンセーしてま〜す。
 ……でも、本物のロックみたいだね〜。
 ケフカってヤツだったら……ケホケホッ、今頃二人の後ろから襲いかかってただろうし〜?」

人が当事者三人組よりもやきもきしている横で、アーヴァインが悪びれもせず言い放った。
一瞬、真意を飲み込めなかった俺はぽかんと顔を上げる。
それと同時に、視界の端に映ったサイファーが「チッ」と大きく舌を打った。

「テメェも人をダシに使ったのかよ」
「そりゃ、こっちには"さきがけ"があるし〜?
 あんたも"けいかい"使えるんだから、マジで不意打ちされてもどうにでもなるだろ?
 いくらロックしか知らないハズのことったって……ゴホッゴホ、本物のロックから情報を搾り取ってれば答えは言えるしね」

……ああ、そういうことか。
もしも俺が偽物だったら、アホみたいな騒ぎ方をして隙だらけな精神お子様トリオをほっとかないだろうって理屈か。
言われてみればわからなくもない。
こっちをケフカかもしれないと疑ってるのだから、カマをかけるのもむしろ当然だ。

229 :メッキの心に爪を立て 3/21:2016/05/10(火) 23:08:28.23 ID:0G/1nmx7c
「疑りすぎだろって言いたいけど、ケフカならそれぐらいやるだろうな。
 だからって『そこまで読んであえて襲わなかった』とか言い出されても困るけど」
「そこまで読んであえて襲わなかったかもしれないから、最後に一つだけ聞かせてほしいな〜。
 昨日、山の中でケフカが拾った道具ってなーに?」

……え?
なんだって?
昨日? ケフカが? なんか拾ってた?

「は、はぁあああ!!? なんだそりゃ!!!
 そんなの知るワケないだろ!!? 俺、ロザリーの夢見て飛び起きて話するので精一杯だったんだぞ!?
 つかアイツ何か拾ってたのか!? 何を隠し持っていったんだ?!
 なんでそれ皆に知らせなかったこのバカ!! アホ!! 間抜け!!!」

"あの"ケフカがわざわざ回収するような道具なんてロクなものじゃないに決まってる!
絶対に何か企んでるに違いないけど、ギードもテリーもティーダもユウナもそんな話はしてなかった。
それはつまりこの馬鹿でアホで面倒くさくて掛け値なしにキチガイで厄介でろくでなしの記憶喪失系鳥頭のドアホ野郎が
知ってて何故か黙ってたってコトで――

「……知らねえ、で正解なのか?」

あ。

「正解だよ〜。割とどうでもいいと思って、なんとなーくピサロにしか話さなかったことだから。
 だって偽アリーナがつけてた首輪なんて、どう考えたってよからぬ企みに使えるような道具じゃないからね。
 ゴホッゴホッ、多分……ゲホッ、一人で首輪を解析して勝ち逃げしようと思ってたんじゃないかな?」

ジト目で睨むサイファーと真顔で答えるアーヴァインの会話で、俺はようやく質問の真意を悟った。
ついでに、掛け値なしの"割とどうでもいい代物"で安心した。
「なんだ……」
と、俺が息を吐いた横で、リュックが「じゃあ……やった!」とはしゃぎだす。
「あー良かった、ホントに本物のロックだ!」

おい。おいおい、おいおいおいおい!!
やっとかよ! そんなに信じてなかったのかよ!!
俺は全身から力が抜けていくのを感じつつ、投げやりにぼやいた。

「……やっと納得したか……つーか何回質問するんだよ」
「だってタイミングが悪すぎるっていうか良すぎるっていうか〜?
 本物が都合よくやってくるなんて、そりゃ〜不安にもなるってば」

まあ、そりゃそうかもしれないけどさ……
もう少し早く信じろよ。疑われる方としちゃ溜まったもんじゃないんだぞ?
そう、口にしようとした矢先だった。

「……ん? あれ?」
急にアーヴァインがきょろきょろと周囲を見回し始める。
「どうしたんだ?」
「いや、なんか急に【闇】がしゅーっと消えてって……」
「消えただぁ? そんなことが――」

230 :メッキの心に爪を立て 4/21:2016/05/10(火) 23:10:03.63 ID:0G/1nmx7c
怪訝な表情を浮かべたサイファーが問いかけた、その時だった。
ぱらぱらと天井から何かが落ちてきたのは。
それが埃だと認識するよりも早く、激しい揺れが部屋全体を襲う。
デスキャッスルで吹っ飛ばされる直前に起きた地震のように、いやそれよりもさらに強い勢いで!

「うわっ!?」
「きゃあっ!!」
「な、何!? クエイク!?」

世界全てが引き裂かれようとしてるんじゃないかってぐらい、縦にも横にも不規則に揺れ続ける視界。
逃げ惑う事も立ち続ける事も座り続けることすらロクに出来ず、俺達全員、床に叩きつけられるように転ぶ。
置かれていたランプが倒れて割れ、めいめいが悲鳴を上げる中、トドメとばかりに急激に視界が真っ暗になった。

「な、なにー!? なによこれ!」
「っ……下手に騒ぐな! ケフカか、じゃなきゃ、イカレ青髪の襲撃かもしれねえ!!」

リュックの声にサイファーの叱咤が飛ぶ。
セージはともかく、ケフカがクエイクをぶっ放してきた可能性は確かに高い。
真っ暗闇になった理由はわからないが、もしあの野郎の仕業だとしたら下手に騒いで居場所を悟られるのは危険だ。
俺は口を手で押えながら、揺れが収まるのを待つ。
クエイクだろうとそれ以外の魔法だろうと、永遠に続くモノなんてない。
しばらくすれば止まるはずだ――
そんな推測通り、やがて揺れはピタリと止んだ。
暗闇の中、はぁはぁと響く息遣いに既視感を覚えながら、俺は小声で呟く。

「……治まった、か?」
「みたい……だな。
 少なくともG.F.は反応してねえ。
 これ以上の要らねえサプライズは無さそうだが……」
独り言のつもりだったが、律儀にもサイファーが言葉を返した。
多分、『索敵能力に引っかかってないからもう大丈夫だ』と言う事だろう。
「おい、全員無事か?」
「俺は平気だ。ちょっと転んだけどな」
「あたしもヘーキへー……あいちちち。やっぱちょっち痛いかも」
「どっか打ったか? それとも転んで足でも捻ったのか?」
「ドッスンドッスン揺れたせいでお尻打っちゃった」
「ツバでもつけとけ」

リュックとサイファーのやりとりを聞きながら、俺はなんとなく周囲を見回す。
持っていたザックは地震の衝撃にうっかり手放して、そのまま見失ってしまった。
当然ランプは手元にない。
そんな状況で真っ暗な室内を見ようとしたって何も見えるはずもないのだが――

(……なんだありゃ?)

少し離れた場所で、俺の目線と同じぐらいの高さに、豆電球よりもか細い赤光が二つ左右に揺れ動いている。
光源にするにはあまりにも弱々しく、とりあえずなんか光が灯ってるって事しかわからないような状態だが……
なんだありゃ?

231 :メッキの心に爪を立て 5/21:2016/05/10(火) 23:12:22.91 ID:0G/1nmx7c
俺が首を傾げていると、光のある辺りから「ぼわんっ!」と妙な音がした。
リュック達もようやく異常に気付いたのだろう、下らない言い合いがぱたりと止まる。
一体何が起こるのか? いやむしろ何が起こっているのか? もしやあっちにいるのが襲撃者の正体なのか?
俺は息を呑んで身を固くし――

「ゲホッゲホッ、あー、びっくりしたなあも〜う!」

……。
こっちの警戒心と予測を見事に裏切る、間延びした馬鹿の声が響いた。
そういや、アイツの眼って森の中で発狂しかけた時にも赤く光ってたっけな――
って、それ全然安心する要素じゃないな。
でもあの時と違って、背筋が凍てつくような強い殺気は感じない。

「え〜と、とりあえず僕は無事だけど?
 てゆーか誰も怪我してないし、誰も襲ってきてないみたいだけど〜?
 サイファー、クエイクの取り扱いとか間違えたりした?」
「ンなわけあるかバカ野郎!
 そんなモン持ってたらテメェにぶっ放してるってんだよ!!」

うん。見えないけどはっきりわかる。
わざとらしく空とぼけてるアーヴァインと、こめかみを痙攣させながらガチ切れしているサイファーの表情が……
ああ、俺の手元に胃薬があったらサイファーにくれてやってるところだ。

「それよりなんで急にこんな真っ暗になっちゃったの?
 ここ、電気とかマキナとか使ってなかったよね?」
リュックの言葉に、アーヴァインが「え?」と声を上げる。
「真っ暗? 少し薄暗い程度でフツーに見えるけど?」
薄暗い程度って、どこがだよ?
「おいおい……良く見えるな。
 俺だって夜目には自信がある方だけど、こんな真っ暗闇じゃ足元だってわからないぞ?」
俺が思わず口走ると、アーヴァインは少し困惑したように呟いた。

「あー……そうなの。
 じゃあ僕がオカシイだけかもね」
「テメェがおかしいのは今に始まったことじゃねえだろうが!
 はぁ……マジで見えてるならさっさとランプつけろ!」

サイファーが呆れ半分のぼやきをこぼす。
けど、ランプと言っても――
「ランプったって……ゴホッゴホッ……割れてるよ?」
アーヴァインの言葉にサイファーは「はあああ?!」と叫ぶ。
どうやら地震の最中に割れてしまったことに気付いていなかったらしい。

232 :メッキの心に爪を立て 6/21:2016/05/10(火) 23:14:28.99 ID:0G/1nmx7c
「アレ一個しか残ってなかったのにどうすん……いや、ロック、テメェ持ってるか?」
「持ってるっちゃ持ってるけど、たった今ザックごと見失ったんだよなぁ」
「役に立たねえな。
 まあいい、アーヴァイン。ロックのザックを探して――
 ……いや、その前に、玉座の近くに宝玉みたいのがねえか?
 アレがこの祠の動力源だったから、明かりが消えた事とも関係があるかもしれねえ」

動力源? こんな古びた遺跡みたいな建物に、そんな設備があるのか?
あ、でも、似たような作りだったデスキャッスルにも何故かエレベーターがあったっけな……
見かけによらず結構ハイテクな世界なんだろうか。
まあさすがに地中に潜航する城とかクレーンとかはないだろうけどさ。
……ないよな。ないよな?

「宝玉……これかなぁ?」
"こつん"というかすかな物音と共に、アーヴァインが困惑の呟きをこぼす。
けれど何度でも言うが暗闇なので、俺がアイツの方を向いていたとしてもわかるはずもない。
当然、サイファーも苛立ちを露わにして声を荒げる。

「見えねえってんだろ!
 はぁ……パンデモニウムの力で直せそうなら直せ!
 ダメそうなら俺達全員の手を掴んで地上まで案内しろ!」

さすがに真っ暗な建物の中で夜明けまで過ごすという選択肢はないようだ。
まあ、そりゃそうだわな。
ケフカやら何やらに襲撃された時の事を考えたら、ちゃんと視界を確保できる場所にいる方が安全だ。
――そんな俺の考えを余所に、アーヴァインは「ゲホゲホ」と咳き込みながら呟く。

「う〜ん……えっと、これなら魔力を繋ぎ直せば直りそうなカンジだけど〜……
 サイファー、ロックにどこまで話したの?」

……? どういう意味だ?
俺が首を傾げていると、サイファーが吐き捨てるように答えた。
「何も話してねえよ。
 テメェを保護したってことと、ケフカの野郎に化けられてたってことだけだ」
「だったらさ〜。
 ロックにちょっち……ゴホッゴホッ、反対側、向いててほしいんだけど」
「え?」

反対側も何も、真っ暗闇なのに?
意味がわからないぞ。
つーか、何度でも言うけど今までの件でわかる事の方が少ないぞ。

「僕が今使ってる杖、パンデモニウムの力で制御してるからさ〜。
 こっちを修理するとなると、その間は杖の方の制御を切らないといけないんだよね。
 そうすると、その……ゴホッゴホッ。
 明かりがついた瞬間、僕のカッコがモロバレになるわけでさ。
 それってちょっとしたホラーじゃな〜い? お化け屋敷もびっくりっていうか」

本人は説明してるつもりなんだろう。多分。
現にリュックは納得したらしく、「あ〜」と短い溜息が響く。

233 :メッキの心に爪を立て 7/21:2016/05/10(火) 23:16:20.24 ID:0G/1nmx7c
「何かあったのか? ホラーって何なんだ?」
「後で教えるってば。
 どうせ……隠し通せることじゃないなんて、………わかり、きってるし」

沈んでいく声音に、ふと、背筋がぞくっと冷えた。
敵意とか殺気とかじゃない。
ティナが氷漬けの幻獣と反応を始めた時や、魔大陸から逃げ出そうとした時に覚えたのと同じ――
ただひたすらに純粋な"不吉さ"、そいつが俺の第六感を盛大に刺激する。

「いきなり『ドギャーン!』って見られるより、段階を踏んで説明した方があんたの精神衛生的にいいだろうってだけだからさ。
 だから、……ゲホッ。今だけは、向こう向いてて。マジで」
「あ、ああ……」

気圧された俺が生返事をすると、わずかに安堵の息が聞こえた。
そして一拍遅れてまたもや"ぼわんっ"という謎の音が響く。

「いちいちうっせぇな、その杖。
 妙な煙も出やがるし、変装用の道具の割に目立つってどうなんだ?」

どうやらサイファーは音の正体を知っているらしく、ぶつくさと文句を言う。
変装用の道具? ……杖が?

「んー。でも効果がすっごいから仕方ないんじゃない?
 服も声も体格も全部変わるってトンデモないし」
これまた平然と話すリュックに、俺はとうとう痺れを切らして口を開いた。
「おいおい、ちょっと待てよ。
 変装と全部変わるとか、なんでそんな道具使ってるんだ?!
 実はとんでもない大怪我してるのか!?」
「えっと、怪我っていうか……その、見た目がヒドいから?
 あと、杖を使ってる間は声がフツーに出せるからって」

答えになってるようで全く答えになってない。
ていうか見た目がヒドいってなんだ。
アーヴァイン自身も"ホラー"とか言ってたけど、怪我じゃないなら何なんだ?
やたら咳き込んでるし、おたふく風邪でも引いてたのか?
まさか天然痘みたいなものすごく性質の悪い伝染病ってことはないだろう?
いくらなんでもそんなんだったらリュックもサイファーも傍にはいないだろうし。
でも……そうだとしても、病気や怪我なら回復魔法で治せるだろう?
なんで変装用の杖だとかで誤魔化す必要があるんだ?

「はぁああああ?!
 テメェがちったぁ回復魔法で治したとかじゃねえのか!?
 道理で相変わらず咳してると……いや、治してもいねえのにガンガン喋るとかどんだけ馬鹿なんだ!!?」

俺の心情を代弁するかのようにサイファーが怒鳴り声を上げる。
するとまたまた"ぼわんっ"と杖の音が響き、アーヴァインが矢継ぎ早に捲し立てた。

234 :メッキの心に爪を立て 8/21:2016/05/10(火) 23:18:15.70 ID:0G/1nmx7c
「声帯自体が変形してるっぽいから魔法で治そうとしても無理だ、って断ったの〜!
 っつーかゲホゲホッ、道具使えば喋れるんだから貴重なリソース使う必要とかないだろ!?
 それに勝手に体調決めつけられて、ゴホゴホッ、変に心配されるの、嬉しくな〜ゲホゲホゲホッ!」

散々咳き込みながら言いたい事だけ言い切ってすぐに杖を再発動させたらしく、例の音が鳴る。
けど、魔法で治せないレベルで声帯が変形って、何をどうしたらそうなるんだ。
本当にわけがわからない。
こいつらが説明する気になるまで考えるのを辞めた方がいいんだろうか。
だいたいそれ以前に、こいつら本当に真面目に説明する気あるんだろうか……?

「だったらせめて……!
 ――いや、いい。もう勝手にしやがれ馬鹿野郎ッ!」

匙投げたいのは俺の方だよ、と口元まで出かかった言葉を飲み込む。
リュックやアーヴァインが言ったなら俺も我慢しなかったけど、サイファーだもんな。
今までの様子からして、絶対一人だけ苦労と心労で胃痛不可避になってるよな。
――なんて考えていると、急にパッと周囲が明るくなった。
どうやら動力源とやらの修理に成功したらしい。

「あ、直った!」

リュックの声に思わず振り向きそうになったが、肝心のアーヴァインがまだ何も言っていない。
俺は素直に階段の方を見つめたまま、許可が出るまで待機する。
最も、待たされたのはほんの十数秒ほどだった。
例の効果音が響いて、すぐにアーヴァインが機嫌よさげに喋り出す。

「よ〜しオッケー、もうこっち向いていいよ〜。
 ……って、あれ?」

俺が振り向くと、アーヴァインは青い目をぱちくりさせながら、中腰の姿勢で周囲をきょろきょろと見回していた。
「どうした?」
サイファーが尋ねる。
デジャヴュと表現するまでもなく地震直前の光景を繰り返しているかのような行動。
けれどさっきと違い、アーヴァインは急に視線を一点に止めた。
サイファーでも、俺でも、リュックでもなく。
何もない壁に。

「……なん、で?」

一体何を見たのというか、ぺたんとその場に座り込む。
見開いた目、震える唇、強張った表情――
圧倒的な絶望を前にふてぶてしい笑顔の仮面を無理やり引き剥がされた、怯えきった人間の顔。

235 :メッキの心に爪を立て 9/21:2016/05/10(火) 23:21:38.97 ID:0G/1nmx7c
「おい? どうした?」
重ねられた問いかけにも答える事はなく。
アーヴァインは「あ……あああ……」と呻き声を漏らしながら、ずりずりと後ずさる。
「ちょ、ちょっと、どうしたの?」
リュックが駆け寄る。
自分を案じた仲間の姿に何を感じたというのか。
あるいは――"何の影が重なった"、というのか。

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!
 あああああああああああああああ、―――――――――――――ッ!!!」

すさまじい絶叫を上げながらアーヴァインは杖を取り落とし、その直後"ぼわん"と音が鳴る。
同時に煙がもわっと舞い上がり、悲鳴が不自然に掠れる。

「ッ! ロック、階段上がれ!」

いち早く事態を飲み込んだのだろうサイファーが俺の襟首を引っ掴む。
だけど俺が足を動かすよりも早く、煙が晴れ始める。

「――え?」
首を抑え、今にも泣き出しそうな――涙が枯れ果てて流せなかっただけかもしれない――表情で、
虚空に向かって声にならない叫びを放つそいつの姿を、俺は見た。

見てしまった。

「ロォオオオオック!!」

サイファーが怒号を上げて俺を力任せに引きずり上げる。
俺は抵抗しなかった。
出来なかった、と言う方が正しい。
とにもかくにも、頭が現状の理解を拒んでいた。
だってそうだろう?
いくら生意気でやかましくてそのくせ勝手に思い詰めてふらってどっか行くような馬鹿だとしても、
魔女の意志やら死者の怨念やらに操られて人を殺したり襲ったりするようなロクデナシだとしても、
昨日の夜から今朝まで一緒にいたそいつはティーダやテリーやギードとつるんでわいわい話してた普通の人間で、
そりゃあ確かにアリーナに襲われた時の怪我やら何やらでそれなりに血だらけだったし顔色もそんなに良くなかったけど、
いくらなんでも羽なんて生えてなかったし、腕もあんな膨れ上がってなかったし、
あんなぶっとい血管だって浮き出てなかったし、人間の腕が目玉だらけなはずないし、
ハラワタ外にぐねぐねさせてまともに動ける人間がいるはずないし、でも実際蠢いていて、……

「ロック!! 後で説明するからここで待ってろ!!
 俺が良いっていうまで降りてくるんじゃねえ! いいな!?」

一方的に怒鳴ったサイファーが階段を駆け下りていく。
絶賛オーバーヒート中の脳みそでどうにかその言葉の意味を理解した頃には、アイツの姿は見えなくなっていた。
代わりに視界に入るものといえば、陰鬱な色合いの壁と床と薄気味悪い人形の群れだけ。

236 :メッキの心に爪を立て 10/21:2016/05/10(火) 23:26:19.57 ID:0G/1nmx7c
「………後で、って、ずっと後回しじゃないかよチクショウ」

苦し紛れに呟きながら、俺は床に座り込む。
階下からはリュックとサイファーの声が断片的に響いているけれど、何を話しているかなんて到底聞き取れない。
そもそもアレは何なんだ?
何があればああなるんだ?
脳裏に浮かぶのはトランスしたティナの姿と、封魔壁の洞窟やエボシ岩の洞窟をうろついていたアンデッド達。
だけどどちらもしっくりこない。
元から幻獣の血を引いてたなら魔石要らずで魔法がバンバン使えるはずなのに、アイツは自力じゃ魔法なんて使えないと言っていた。
ケフカ辺りに何かされてアンデッドに転生させられたってなら、馬鹿騒ぎどころか会話も思考もできなくなってるはずだ。
わからない。わからない。
この数十分で一体いくつわからない事が増えたのか。
数える気にもなりゃしないが、とにもかくにもこんなんわかるか!
ああ、くそっ!
いつまで蚊帳の外に放り出されてりゃいいんだよ!
いくら俺だってそろそろ怒る――

「おい」

急に間近で声がして、俺ははっと我に返る。
腕組みを解いて顔を上げれば、苦虫を噛み潰した表情のサイファーが思いっきり目の前に立っていた。
結構早く戻ってきたな、と俺が間抜けなコメントをするよりも早く、彼は眉間の皺を増やしながらこっちに問いかける。

「ロック。テメェ、さっき、はっきり見たのか?」

何を、と聞き返すまでも無い。
俺が恐る恐る首を縦に振ると、サイファーは大きくため息をつきながら腕を組み、つま先で床を蹴り鳴らした。
「どっから話せばいいんだかな」
ぼやきながらも彼はボロボロになったコートのポケットから手帳を取り出す。
アーヴァインが日記帳代わりに使っていたものだと気付くのに、時間はいらない。
「さっき、テメェに化けたケフカにちょっかい出された奴がいたって話はしたよな?」
「ああ。……やっぱ、その、アイツが犠牲者なのか?」
どう考えたってそれ以外に答えが無い。
俺の言葉にサイファーは軽く歯噛みし、何故か手帳を開いてペンを走らせながら返答する。
「そうだ。催眠術かけてアイツから情報搾り取った挙句、魔法の力だか魔導の力だかをぶちこんで逃げてった」
「ま、魔導の力!?」
予想の範囲内――なワケがない。
確かにケフカならやりかねないことではあるが、それにしたってヤバすぎる。
そもそも当のケフカ自体が魔導の力を流し込まれて精神崩壊した結果のアレだし、幻獣だって元を辿れば魔導の力を浴びた生き物の成れの果てだ。
そんなことをされたら、そりゃ人間辞める結果になっても仕方がないだろう。
腑に落ちた――と思ったが、それすら俺の早とちりでしかなかった。

237 :メッキの心に爪を立て 11/21:2016/05/10(火) 23:28:27.16 ID:0G/1nmx7c
「だが、あのクソピエロの寝言は置いとくとしてもだ。
 アーヴァインの奴を信じるなら、あんなことになった原因はセフィロスらしい。
 ほら、城でリュックが話しただろ。カッパがアイツを攫ってったって。
 そのカッパの正体がセフィロスで、アーヴァインを自分の代わりに殺し合う手駒に変えようとした結果があの有様なんだとよ」

……は?

んん?

えっと?

「その、なんだ。ちょっと待て。
 ちょーっと待ってくれ、そろそろ頭がウニかスパゲッティになりそうなんだが、つまり、なんだ?
 カッパがセフィロス。ああ、うん。それはいい。
 だってセージがアレでケフカが俺に化けてたなら、そりゃカッパの中身はユウナかセフィロスしかいないわけだろう?
 ユウナがカッパの中身ならお前らについていくより俺達がいる城に来るだろうし、
 万が一彼女がマジで発狂してたとしたらお前が無事なわけないから、カッパの中身はセフィロス。
 うん。それはわかる。わかる。
 それはいいんだけど、なんだ? 人間をあんな魔物にできるってどういうことなんだ?
 つかアーヴァインの話だとしても信用していいのか? ケフカに操られてる可能性は?
 なんつーか、めちゃくちゃ胡散臭いんだが?
 いやお前が信用できないわけじゃないんだが、ドッキリ大成功って書いた看板出されても今なら許せるぞオイ?」

今明かされた衝撃の真実どころか、理解という単語が裸足で逃げ出すレベルの超展開に、さすがの俺も思考の処理が間に合わない。
頭に浮かんだ言葉が整理もできずに片っ端から口に出てこぼれていく。
そんな俺を見て、サイファーは額に手を当てながらため息をついた。

「ああ、言いてぇ事はわかる。よーくわかる。
 セフィロスもド外道だがケフカも全く劣らねえクソだしな。
 だが、とにかくアーヴァインが極端に反応するのはセフィロスの方なんだよ。
 あの"銀髪野郎"の名前を聞いただけで苦しんだりな」

乱れた前髪を掻き上げて撫でつけながら、サイファーは俺の頭に視線を移す。
その瞳に映るのは、当然ながら俺の"銀髪"だ。
……ああ、なるほど。
だからサイファーは真っ先に俺を上の階へ――アーヴァインの眼が届かない場所まで引っ張り上げてきたのか。
ようやく一つ納得が行く。
最も、そんな程度でてんこ盛りに積み上げられた疑問の山が無くなるはずもない。

「で、でも、セフィロスって超強い剣士ってだけのヤツなんじゃないのか?
 少なくともギード達はそういう説明しかしてなかったんだが」

ギードもテリーも仲間に隠し事をするような性格じゃない。
いつか倒すべき殺人者が人を魔物に変える危険な技を持ってるっていうなら、俺達にも教えてくれているはずだ。

238 :メッキの心に爪を立て 12/21:2016/05/10(火) 23:30:35.21 ID:0G/1nmx7c
「切り札は最後まで取っておくもの――なんて珍しくもねえ。
 初日に底を見せるほど馬鹿じゃねえってことだろうよ。
 それにロザリーの恋人の魔王様とやらだって、黙ってりゃ人間に見える背格好してたんだろ?
 あの野郎がそういう類のナマモノだとしても何もおかしくねえ」

どこか自分に言い聞かせるように呟きながら、サイファーは唐突に開いたままの手帳を俺の方にかざした。
まず目についたのは、そこそこ大きな字で書かれた"盗聴されている。迂闊に喋るな"という文章。
そしてそこから下に箇条書きにされた幾つかの細かい文章と、明らかに他人の字で書かれたメモ。
それらに目を通した瞬間――
俺は、"目玉が吹っ飛んだ"という表現がどんな状況を示すのかを心の底から理解した。

「えっと、……新手のドッキリ?」
「テメェは何を言ってるんだ」

とうとう頭が完全に煙を出し始めて的外れな言葉しか返せなくなった俺に、
サイファーはこめかみをヒクつかせながら『盗聴』という文字の辺りを指で何度も弾く。
ああ、そうだな。ピサロもギード達も多少なりとも警戒してた事だし、迂闊に口走るのは良くないな。
それは理解できるし納得してるんだけど、その、なんだ?

アーヴァインが発狂したってのがヤラセで、
リュックが人質のように連れ回されてたのは仲間だからで、
やけに不殺を主張したりサイファーに同行しようと躍起になってたのもそういう裏があったからで、
さっきあれだけ舐めた態度を取っていたにも関わらずサイファーが手を上げなかったのは事情を知ったからで、
メチャクチャ突拍子もない話でも信用できたのは夢の中で会話できるとかメモとか証拠があったからで、
ああ、うん、順序良く考えていくと腑に落ちなかった点が非常にしっくり来るけれど、

「あの、その、なんだ。
 その、………アイツ、ただの被害者?」
「〜〜ッ、今回に限っては被害者枠かもしれねえな!
 それ以前の、"スコールやアルガスに対しちゃ"紛れもなく加害者だがよ!」

俺の言葉をかき消すようにサイファーが怒鳴る。
眉間にしわを寄せた表情は『盗聴されてるっつってんだろ! 頭足りてねえんじゃねえか!?』と言わんばかりだ。
だけど他になんて聞けばいいんだ?
……いや、ダメだ。冷静になれ、俺。
いくら予想の斜め上を錐もみ大回転してゾーンイーターの口の中にシュートインした先にゴゴがいたぐらいの事態といえ、
いつまでも取り乱していたらトレジャーハンターロック様の名が泣くし年長者としても立つ瀬がない。
こういう時は一旦思考を停止して深呼吸。
それから今一番知るべき事は何か、整理する。

「その……えっと、大丈夫、なのか?
 アイツ、錯乱してたけど、リュック一人で」

なんだか変な言い回しになってしまったが、こればっかりは大目に見てもらうしかない。
だけど今心配すべき事はアイツの容態と、階下に残っているリュックの安否であるはずだ。

239 :メッキの心に爪を立て 13/21:2016/05/10(火) 23:32:43.64 ID:0G/1nmx7c
「マジで大丈夫だったらあんなナリになっちゃいねえし、錯乱なんざしねえよ」

吐き捨てながらもサイファーは剣で肩を叩き、つま先で床を蹴る。
城で話した時も同じ仕草をしていたが、どうやら苛立っている時の癖らしい。

「とりあえずあの馬鹿が暴れるような様子は無かった。
 なんつーか……見えない"何か"に怯えてるような感じだな。
 その"何か"が何なのかはわからねぇが、俺のGFの"けいかい"に引っかかってねえ以上、十中八九幻覚の類だろう。
 それに万が一実体が無いだけで存在する"何か"が居たとしても、あの馬鹿が急に暴れ出したとしても、リュックだってガキじゃねえんだ。
 ヤバいと思ったら叫ぶぐらいはするだろうよ」

言いながらもサイファーは階段へと歩き出し、五段ほど下りたところで腰を下ろした。
少しでも異変を感じ取ったらすぐに下の部屋に駆け付けられるように、という事なのだろう。
俺も彼に習い、二つほど上の段に腰掛ける。

「……【闇】が消えたとか沸いたとか言ってたけど、そっちと関係があるのか?
 それに今の地震も」
「無関係ってこたねえだろうが、……何とも言えねえな。
 アイツが地震恐怖症って話は聞いたことねえし、【闇】なんざそもそも見えねえから判断つけようがねえ。
 ただ――セフィロスやケフカとは別口なんじゃねえかと思う」
「別口?」
「言っただろ? "見えない何か"に怯えてるような様子だったってな。
 仮にクソ野郎どもがちょっかい出してきてるってなら、"洗脳されそうな自分"か"俺達"のどっちかに怯えるはずだ。
 それにあの連中の目的を考えりゃ、それこそもっと派手に暴れ出すはず――」

その台詞が途切れたのは、部屋全体に響いた大声のせいだった。
だけど、その音源は階下からじゃない。
頭上からだ。

『――定刻ではないが我が主がお許し下さったため、これより臨時放送を行う!
 我が主の御心を解さぬ愚者どもよ、清聴せよ!』

聞き覚えがあるようでないような重苦しい声に、俺はぽかんと口を開ける。
一体全体あと何回、俺はこうやって呆然とすりゃいいんだろうか――
そんなどうでもいい事を考える傍らでサイファーが訝しげに呟いた。

「臨時放送……だと?」

その言葉に答えるかのように、"放送者"は怒声を張り上げる。

240 :メッキの心に爪を立て 14/21:2016/05/10(火) 23:34:14.62 ID:0G/1nmx7c
『我が主が貴様らに命じたのは何であったか、よもや忘れたなどと口にする者は居らぬだろう!
 今日の夕刻に至るまで百余名が殺し合い、生贄に捧げられた!
 そこまでは良い! だが、定期放送以降の貴様らの体たらくは惰弱の極み!!
 弱者同士で集まり、馴れ合い、仲間を気取り、我が主が貴様らに課した使命を放棄するなど!
 愚かしいにも程がある!』

言いたい放題だ。
だけどまあ、主催者側の放送だってならそういう言い分も出てくるだろう。
……と、そこまで考えたところで声の主が説明役をやらされていたバハムート似のドラゴンだと気が付いた。

『貴様らは我が主のためだけに一時の生を許された遊戯の駒、反抗など許されぬ!!
 我が主は仰った!
 この不甲斐ない状況が夜明けまで続くようならば相応の処置を取ると!
 即ち首輪爆破までの猶予の短縮、あるいは禁止魔法の増加!
 あるいは第二の見せしめとして生存者の一人を無作為に選び処刑することも有り得る!』

な、なんだってー!?
俺達がごくりと唾を飲み込んだのもつかの間、

『しかし安堵せよ! 我が主は寛大である!
 貴様らの努力次第で、数時間に及ぶ怠惰と愚行をお許しになられるだろう!』

その台詞で、要するに単なる脅しだと気付き、ほっと息を吐いた。
そんなこっちの安堵を見透かすかのように、放送者はまたもや険しい声音で畳みかける。

『だが、ここに至り努力を惜しむ者がいるならば、今告げた処置のいずれかを――
 改心せぬ愚者の人数によっては三つ全てを実施する!
 心せよ! 貴様らに自由などなく、生存する権利もない!
 理解せよ! 我が主が望むのは貴様らが醜く殺し合うその姿のみ!
 それを踏まえてなお生きたいと願うならば――隣にいる者を殺せ!
 最後の一人になるまで殺しつくせ! それだけが貴様らに残されたただ一つの運命である!』

そこまで一気に言い切ると、ぱたりと静かになった。
俺はサイファーと顔を見合わせ、数秒ほど首を傾げる。

「ええと……偉そうな御託ばっか並べてたけどさ。
 要するに、『殺し合いしろって言っただろ!? 真面目にやれ!』ってことだよな?」

俺の言葉に、サイファーは「まあ、そういうことだったな」と疲れたように頷いた。
それからおもむろに立ち上がり、階段を下り出す。
アーヴァインとリュックの様子が気になったのだろう。
俺も後を追おうかと思ったが、自分の銀髪を見てアーヴァインを刺激する結果になったらマズいと考え直し、待つことにした。
それでも気になる事は気になるし、会話だけでも聞けないかと耳をそばだてる。

241 :メッキの心に爪を立て 15/21:2016/05/10(火) 23:40:28.86 ID:0G/1nmx7c
「……大丈夫か?」
「大丈夫だよ!
 なんか言ってたけど、どーせどうでもいい嫌がらせを好き勝手言ってるだけだもん、ね?」
リュックの声。
アーヴァインに同意を求めたようだけど、当然のようにアイツの返事は聞こえない。
それでも多分首を縦に振ったんだろうというのは、サイファーの言葉で察しがついた。
「……さっきよりかは落ち着いたみてぇだな。
 無理に喋る必要はねえが、元の姿に戻れるなら戻っとけ。
 その方がテメェも楽だろ?」
しばしの沈黙。けれど一分もしないうちに、例の「ぼわん」という音が響く。
ただ、さすがに騒ぐ余裕は欠片もなかったらしく、結局「ゴホゴホ」という咳以外のアイツの声は聞こえなかった。
「無理に喋らなくていいってんだよ。
 幾つか質問するからイエスなら首を縦に振れ。ノーなら横に振れ。
 いいな?」

視界の外で始まった尋問に興味がないわけじゃない。
むしろ俺だって知りたいけど、知りたい事だらけだけど、参加していい状況じゃないってことは弁えてる。

「地震の後、俺を見て怯えたのか?
 ――じゃあ、ロックを見て怯えたのか?
 ――ケフカを見たのか? ――テメェの嫌いなヤツを見たのか?
 違う……? なら、単純にテメェが殺した連中の幽霊でも見たってのか?
 ………はあ? じゃあもっと単純にホラームービーみたいな化物か?
 だったら何なん……! ……ああ、キスティスや伝令女が殺される場面でも見たのか?
 ――はあああ?! じゃあ何なんだよ! ティーダが死ぬ場面か!? それとも件のユウナってか!?」

一体、ティーダとユウナのどちらの名に反応したのか――
答えはすぐに提示された。
サイファーの代わりにリュックが叫んだからだ。

「な、なんで急にユウナの幻なんて見ちゃうの?
 まさかユウナに何かあったとかいうワケないっしょ?」

最もな疑問だけど、そんな事アーヴァインに聞いたってどうしようもないだろう……
――そう思った矢先だった。サイファーが吐き捨てるように言ったのは。

「そんなもん決まってんだろ?
 あの魔女の仕込みだ。
 今の放送といい、痺れを切らしたってことだろうよ」

「え?」とリュックが呆けたような声を上げた。
さっきの台詞は発破や励ましとかじゃなくて、本当に右から左に聞き流していたってことだったのか……

242 :メッキの心に爪を立て 16/21:2016/05/10(火) 23:41:46.40 ID:0G/1nmx7c
「おい、アーヴァイン。
 ロック呼んでも平気か?」
「……い、じょ、……。
 ……が、だいじょ……、か、わかんな………」
「――良いってよ。降りてこい、ロック」

やっと許可が出た。
念の為にバンダナをキャップ風に巻き直し、髪をある程度隠してから降りていく。
立っていたのはサイファー。
座っていたのはリュックと、最初に見たのと同じ普通の人間の姿をしたアーヴァイン。
ローブも顔も綺麗だし、紫色の肌とか羽とか目玉だらけの腕とか全部俺の見間違いだったんだと思いたかったけれど、
奴が抱え込んでいる緑の杖と絶望しかないその表情が甘い考えを否定する。

「ロック。テメェ、今の放送聞いた後に言ったよな?
 『要は殺し合いをしろ、真面目にやれって事だろ』ってな」

俺が「ああ」と頷くと、サイファーは視線を俺からアーヴァインに移す。
そして芝居がかった仕草で剣を振り回しながら滔々と語り出した。

「いいか? 向こうがわざわざ発破掛けてくるってことは、向こうの思い通りに行ってねえ証拠だ。
 つまり放送以降、何時間も経ったってのに誰も一人も死んでねえってことなんだよ。
 何せクソ銀髪野郎はコイツ以外にゃ大人しいカッパを演じてるし、ケフカはカッパ潰しに乗り気だ。
 で、ガルバディア野郎、テメェが正気に戻ってるんだから、残ってるのはセージとユウナ。
 これでもしユウナがソロあたりに説得されて我に返ってたとしたら、だ。
 セージ以外誰も殺し合いに乗ってねえっていう、主催側には到底歓迎できねえ状況になってるわけだ」

なるほど。
アーヴァインを再度発狂させて殺し合いに乗らせるために、ユウナが死ぬような場面の幻を見せたってわけか。
俺としては納得できたし、リュックも何となくわかった様子で「あー、ああー、うん」と頷いている。
ただ、当のアーヴァインだけがぼんやりと虚空を見つめたまま口を動かす。

「……にせ、もの?
 ………あれが?」

一体、どれほどリアルな幻影を見せられたというのか。
その疑問の答えは尋ねる前に返ってきた。

「そりゃ、確かに、顔なんて、わからなかったけど……
 顔も、服も、全部、【闇】みたいで……血塗れで……床から……
 だけど、あの声……!! 僕を許さないって、殺してやるって言ったあの声!!
 それに、あの手……あの手、今、僕の首、絞め……絞めた、手……!
 偽物なんかじゃない! ユウナ、僕を許さな――………! ……!!」

杖ごと身体を抱きかかえていたのもつかの間の事。
幻影の『声』を思い出したんだろう。
アーヴァインは両手で自分の耳を塞ごうとし、そのせいで杖が手元から離れ変身が解ける。
思わず顔を背けながら、俺は――
……俺は、テリーとティーダが見なくて良かった、などと不謹慎な事を考えてしまった。

243 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/05/10(火) 23:43:12.94 ID:Jy+llqXjC
しえん

244 :メッキの心に爪を立て 17/21:2016/05/10(火) 23:44:29.19 ID:0G/1nmx7c
「落ち着いて! そんなの全部偽物だってば!
 誰も首なんか絞めてないし、ユウナの声だって聞こえたりしてないよ!
 あたしの耳、半径10メートルぐらいならユウナの声は一言も聞き逃さないんだからね!」
それ割と普通じゃないか? なんて感想を抱く余裕もない。
何も言えないまま固まる俺の横で、リュックは必死に言葉を届けようとアーヴァインの手首を優しく掴む。
サイファーもサイファーで、彼女に追随するように大声で吐き捨てた。
「俺も何も聞こえなかったし、血だらけの幽霊なんざ見てねえ。
 どう考えたって100%幻覚だ。騙されるんじゃねえ!」
「ほらね、ほらねー。あの性格悪そうなケバいおばさんのことだもん。
 あんたが一番見たくないこと、見せようとしただけだって!
 大丈夫! ユウナは今頃元のユウナに戻って、ソロと一緒にカモメ団EXTRAを結成してるよ!」
「テメェはテメェでいい加減そのカモメ団シリーズをやめろ!
 いくつ作れば気が済むんだ!?」
「まだまだ、もーっとたっくさん作ってスピラ以外にもカモメ団の輪を広げるかんね!
 ソロの世界にもあんた達の世界にもカモメ団支部を作って、全世界カモメ団計画、始めちゃうよ!」
「アホか、勝手にやってろ!
 あとガルバディア野郎、テメェもさっさとしっかりしろ!
 こんなアホな能天気女の従姉妹が、マジでテメェ一人に粘着するほど陰険根暗なワケねぇだろ!!」

酷い言い方だ。
というかリュックは何をしようとしてるんだ。
慰めなのか励ましなのかこれもうわからないぞ。
緊迫した状況に反するツッコミどころの多さに、俺はもう理解と発言を諦めることにした。
が、当の相手――アーヴァインからすれば、リュックのフリーダムな明るさとサイファーの強引さは救いになったのかもしれない。

「……ゥ"、ァ………ァ"……」

潰れた喉でうわごとのように何かを呟いたかと思うと、ぎゅっと両目をつむり、投げ捨てた杖を拾い上げた。
次の瞬間には例の煙を舞い上げて、人間の姿へと戻る。
「………ユウナ、じゃ、ない?
 ほんとうに、ユウナ、じゃない?」
もし地獄の底で天に至る蜘蛛の糸を見つけた罪人がいたら、やっぱりこんな表情を浮かべるのだろう。
絶望に叩きのめされながら、信じるに足るかどうかもわからぬ儚い希望に縋らずにはいられない、痛々しいだけの表情を。

「あたりまえ! トーゼン! ユウナはそんなことしーまーせーん!
 だいたいあんた自分で言ってたでしょ? ワリーナに襲われた後、ユウナが助けてくれたって!」
「……ワリーナ?」
「悪いアリーナ、略してワリーナってね。
 あ、命名はヘンリーだから勘違いしないよーに! あたしのセンスじゃないから」
「テメェのネーミングセンスもどっこいどっこいかそれ以下だろ」
「うっさい!
 ……と、とにかく。ユウナがホントにあんたのこと嫌ってるなら、助けるわけないじゃない?」
「ああ、その点に関しては俺も同意だな」

ようやく俺が口を挟める展開になった。
ティナの件でのわだかまりは多少残っちゃいるが、だからといって告げるべきことを告げないのは良くないしな。

245 :メッキの心に爪を立て 18/21:2016/05/10(火) 23:46:23.53 ID:0G/1nmx7c
「今朝方お前が発狂しかけた時、ティーダが持ってた薬を飲ませたのはユウナの提案があったからだぞ。
 ティーダの奴、自分が薬持ってたことすら忘れかけてた様子だったしな。
 あの時ユウナが何もしなかったら、俺はお前を殺してた。……殺すしかなくなってたはずだ」

俺の言葉に「ほーらね!」とリュックが胸を張る。
それでようやく少しは実感が湧いてきたのか、アーヴァインはゆっくりと俺へ視線を向けた。

「ほんとう、に……?」
「こんなことで嘘なんかつくかよ。
 それになんで俺がお前を気遣って良い嘘をついてやる必要があるんだ?
 お前ときたら夜中に騒ぐわ、一人で転びまくってギードの世話になるわ、散々人を偽物扱いするわ、良い思い出なんか一個もないぞ?」
「………ご、ごめ、……ごめん、な、さい」

元々が面の皮の厚い奴だから冗談で収まる範囲の嫌味ぐらいスルーするだろうと思ったが、さすがに無理があったようだ。
本当に言いたかった"諸々の悪い思い出"は全て伏せたというのに、今にも泣きそうな顔で顔を伏せ、カタカタと歯を鳴らしながら謝り出す。
「ロ〜ッ〜ク〜?」
リュックが睨み付けてくる。うん、当然の反応だな。
「ああ、うん、悪い、ちょっと言い方が悪かった。
 本当に悪かった、反省する。
 でも嘘ついてないのは本当でユウナの話もマジだから、そこらはちゃんと信じてくれよ」
「信じるよ、信じるケドさぁ……もうちょっとデリカシーとかTPOとか考えなよね」
「テメェがそれを言うのかよ」
「何よー!」
サイファーの茶々にリュックが頬をふくらませる。
けれどサイファーは意にも介さず、代わりにアーヴァインに向き直った。

「アーヴァイン。テメェはもう休め。
 青髪は吹っ飛ばしたし本物のロックも確保できた、今なら少しは安心して休めるはずだ」

明らかに今までとは一線を画す、落ち着いた声音だった。
恐らくは彼なりに優しい口調になるよう努めたのだろう。
けれどもその言葉を一体どう解釈したのか、アーヴァインは「ひっ」と息を呑んだ。
それからすぐに顔を引きつらせながら口角を僅かに上げ、光の消えた瞳をサイファーに向ける。

「ご、ごめん、大丈夫、だ、だいじょうぶだから!
 ぼく、ヘーキ、まだがんばれる、てか、がんば……ゲホッゲホゲホッ!!
 が、がんばれるから! ヘーキだから!! 心配しなくて大丈夫だから!!」

絶対嘘だ。近年稀に見るあからさまな嘘だ。
何故そんなことを言い出したのかは簡単に想像がついたが。
無論サイファーもアーヴァインの誤解に感付いたようで、一気に機嫌を損ねた様子で後ろ髪を掻きむしりながら吐き捨てた。

246 :メッキの心に爪を立て 19/21:2016/05/10(火) 23:48:22.00 ID:0G/1nmx7c
「馬鹿が、普通に寝ろって意味だ!
 永遠に休めなんて誰も言ってねえし言う気もねえよ!!
 テメェがもう目覚めたくねえっって言うなら話は別だがな!!」
「や、ヤだ! 止めて! ごめ、ごめっ、ごめんなさい!!」
何だかんだ言っても一度は殺し合いに乗る事を決意した奴だ。
どれだけ苦しくても、死にたくない気持ちの方が勝ってしまうのだろう。
アーヴァインは必死で首を横に振り、サイファーから距離を取ろうと後ずさる。
普段のアイツならそれがさらにサイファーの神経を逆撫ですると思い至ったかもしれないが――
「だから殺さねえって言ってんだよ!
 テメェから頼んでくるか、俺達に噛みつきでもしない限り!!
 テメェを殺ればクソ野郎どもが両手叩いて大喜びするってわかってるのに、殺すわけねえだろ!」
「サイファー、ただでさえコワい顔なのにそんな大声で怒鳴ったらもう全然説得力ないってば……」
リュックがぼやく。直球ストレートな言い草だが、実際俺から見てもかなり怖いから仕方がない。

「うっせえな、そもそもハナから俺のガラじゃねえんだよ!
 こういうのはスコールの仕事だ!
 なんで俺がこいつのケアなんざしなきゃいけねえんだ!!」
「ご、ごめ……」
「謝るなッ!! 神経細いチキン二号の分際で無理して図太い真似なんかすんじゃねえよ!!」
 だいたいテメェはガキの頃からそうだ!
 根っから気が小さいくせに、他人に合わせるためだけに空元気張って強がりやがってよ!」
「お、落ち着けって!
 なんか違う話になってるぞ!?」

今にも殴りかかるんじゃないかという勢いで責めたてるサイファーに、俺は半ば反射的に羽交い絞めをかける。
サイファーはギリギリと歯ぎしりをしたが、俺の言葉と身体を丸めながら震えるアーヴァインを見て少し我に返ったようだ。

「ケッ、もうさっさと寝ろ! そんで夢の中でテメェのオトモダチと仲良くやってろ!!
 リュック、スリプルでもかけとけ!」
言いたい事だけ言うと、サイファーは俺の腕を振りほどき、アーヴァインからだいぶ離れた場所へ座り直す。
名指しされたリュックはしばらくおろおろとサイファーとアーヴァインの顔を交互に見つめたけれど、
結局サイファーの言い分に理があると判断したのだろう、彼の言に従って眠りの魔法を唱えた。
それでも一発で恐怖で縛り付けられた神経を鎮めることは叶わなかったらしく、結局二回詠唱する。
ゆっくりと横に倒れ込んだアーヴァインはかすれた寝息を立てながら、握りしめていた杖を取り落とした。

「ああ、クソ、面倒くせえ。マジ面倒くせえ!
 どいつもこいつも好き勝手言って余計な真似ばかりしやがって……!」

サイファーが舌打ちしながらぼやく。
誰に向けた怒りと言葉なのかは判断しきれない。
アーヴァインかもしれないし、ケフカやセフィロス、アルティミシアかもしれないし、
もしかしたらスコールって奴のことかもしれない。
俺は誰より先にセージに対して言ってやりたいけどな。

247 :メッキの心に爪を立て 20/21:2016/05/10(火) 23:52:48.31 ID:0G/1nmx7c
「でも、サイファー。
 あのケバ魔女おばさんがこんなに色々やってくるってことは、もしかして……」
リュックが不安げに呟く。
思いっきり途中で口を噤んだけれど、スコール達のことがバレたんじゃないか、って言いたかったんだろう。
そんな彼女を一瞥し、サイファーは天井を睨み付けながら答える。
「それこそ考えすぎだ。
 もし"そう"なら、もっと大々的に宣伝してるってんだよ」
リュックを安心させるためだろう。魔女を嘲笑うような、軽い口調ではあった。
が、それでも、彼の中には僅かな疑念があったのかもしれない。
息を吐きながら顎に手を当て、俺、リュック、階段と、視線を順繰りに移す。
「……ま、あんなうっとおしい女や口だけ達者なトカゲはどうでもいい。
 それよりロック、テメェ、これからどうするつもりだ?」
「俺か? そうだな、一応ここに残ろうと思ってるぜ。
 そりゃギードは心配だけど、万が一セージやケフカが舞い戻ってきたら大変だしな。
 それに情報交換だって中途半端というか、俺側の事は殆ど話しちゃいないだろう?」
ついでに言えばアーヴァインも多少は心配だし、こんなヤツのお守りをしてる二人がもっと心配だ。
俺の返答に幾ばくか安堵したのか、サイファーは少しだけ表情を緩めた。
それからリュックに視線を移しつつ、アーヴァインに向けて顎をしゃくる。

「リュック、テメェも寝とけ。
 ロックが残ってくれるなら見張りは問題ねえからな。
 "下らねえ心配事"が気になって仕方なくても、一眠りすりゃ忘れちまうだろ」

スコールの生死が気になるなら確かめろ、って事なのだろう。
彼の意図を汲んだらしいリュックは微笑みながら親指を立て、ウインクする。

「オッケー、そうする!
 おやすみ〜!」

そう言ってリュックは硬く冷たい床にごろんと横になり、瞼を閉じた。
元気に振る舞ってはいても実は寝不足だったのか、それとも元々有り得ない程寝つきが良いのか、
二分もしないうちに「すぴーすぴー」と規則正しい呼吸音が聞こえ始める。

「悪いな、勝手に決めちまって」
おもむろにサイファーが呟いた。
俺も眠りたかったんじゃないかと案じたのだろう。
実際は杞憂だけどな。ピサロの城にいた頃に多少なりとも寝ておいたし。
「問題ないって、気にすんな。
 それよりちゃんとお互いの手持ちを整理して、今後の予定でも考えておこうぜ。
 俺達は良いように踊らされてばっかりの駒じゃないって、魔女にもケフカにも思い知らせてやりたいしな」
「……そうだな」

俺の言葉にサイファーは頷き、乱れた前髪を掻き上げた。
その眼に宿る鋭い光は、かつてコルツ山で帝国への反撃を口走った時のエドガーに良く似ていた。

248 :メッキの心に爪を立て 21/21:2016/05/10(火) 23:54:15.25 ID:0G/1nmx7c
【リュック(パラディン、MP9/10、睡眠)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、破邪の剣、ロトの剣
 第一行動方針:眠ってスコール達が生きているか確認する
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【アーヴァイン
 (変化の杖@人間時の自分、変装中@白魔服、MP1/8、半ジェノバ化(中度)、
 右耳失聴、一時的失声、混乱(軽度)、睡眠、呪い(たまに行動不能or混乱)←NEW!
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、空き瓶×1
 第一行動方針:本当にあのユウナ(?)は幻なのかな…?/寝る/可能なら首輪を解除する
 第二行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・理性の種を服用したことで記憶が戻っています。
    ・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します←NEW!】
【サイファー(右足軽傷+疲労)
 所持品:G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗、スコールの伝言メモ
 第一行動方針:情報交換をする
 基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ロック (HP7/8、MP2/3、左足負傷、疲労)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 死者の指輪、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:真面目に情報交換をする
 第二行動方針:できればギード、リルム達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在地:南西の祠】

249 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/05/11(水) 09:27:35.17 ID:edw/16C71
投下乙です!
ユウナ恐ろしすぎませんかね……?
ロックはロックでてんやわんやだし、サイファーもかなり疲れがたまってるみたいですね……
リュックが癒しなのが救いかな?

250 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/05/11(水) 14:01:39.52 ID:8w+KEh5az
投下乙です!
うわぁ……アーヴァインには確実に影響出ると思ったが、こうなったか…….ステータス異常がえらいことに
ロックの混乱っぷりもえらいことにwww
サイファーの不慣れな優しさと気遣いがいいなあ
リュックとの掛け合いは総じて和むけど、ユウナの死を知った時を考えると……

251 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/05/12(木) 20:57:01.67 ID:NWvtMx3rc
あ〜面白かった!投下乙です!
ロックはちょっと個性に曖昧な所があるキャラだと思うけど
軽さと暗さと真面目さとわたわた感がうまくバランスされて、よく描けてるなあ
状況に振り回されがちで若干ヘタレな所もロックらしいw
おかげでサイファーのブチ切れ芸もますます冴え渡ってるし
「カモメ団シリーズ」とかなにげに面白いこと言いだしたし、リュックとの会話が夫婦漫才みたいになってきたな(いいぞもっとやれ)

決して頭脳チームというわけじゃない祠組ですら放送のこけおどしぶりに気付いたとすると
主催者側でのトラブル発生を察する参加者もいるかもしれんね
ダイレクトに化けて出る闇ユウナは怖すぎだけど、会場とミッシーとの間にある種の通路ができたということなのか?
あるいは平均的に蔓延する闇は消えたように見えながら、闇ユウナの想いが極端に偏在する闇スポットができちゃったとか?
それとも闇の急激な変動によってアーヴァインがますます壊れちゃっただけとか...
いずれにしてもアーヴァイン哀れ

それにしてもこう長く続いてると物語の時間と現実の時間の乖離が激しくて
書かれたのは数年前でも話の中ではついさっき、という恐ろしいことになるのな
誰がいつどこで会ってたかも分んなくなってくるけど、そういう所の整合性をばっちり付けて来る書き手さん、ただ者じゃないな

あと
>ゾーンイーターの口の中にシュートインした先にゴゴがいたぐらいの事態
こういう淡々と読ませつつオチのつく文章、大好き

252 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/05/13(金) 01:05:25.39 ID:nmGG6s/Ku
>>251
わかる

頭の中で情景思い浮かべながら読んでたらそこも綺麗に脳内再生されてワロタ

253 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/05/15(日) 16:49:55.65 ID:cAEdMmu4h
>>252
自分の脳内ではゴゴが正座して待ってた

254 :愛の幻影(1/3):2016/06/09(木) 00:43:11.79 ID:IvFyWLRjr
 空気が、重い。

 先ほどロザリーの問いかけを押しきってからと言うものの、二人の間に会話はない。
 急いでいるからというのもあるが、それだけではない。
 彼女の言っていた少女――――いや、一人の男も、闇の持ち主だ。
 その闇の濃度は、ユウナに勝らずとも劣らない。
 そんな人間に、今のロザリーを出会わせればどうなるかは、火を見るよりも明らかだ。
 魔王、ピサロ。
 彼がもし本当に"闇"として、ロザリーに憑依していると言うならば。
 ロザリーがそれに飲み込まれてしまうのは、時間の問題なのかもしれない。
 現に、いい例とも呼べる人間を二人見ている。
 何がきっかけで「そうなる」かは分からない。だからこそ、怖いのだ。
 いつ、ロザリーが「そうなる」か、わからないのだから。
 ロザリーがロザリーであるうちに、そして希望を潰えさせないために。
 だから今は、ただひたすらに南を目指す。
 一刻も早く、そこにたどり着くために。
 幸い、ヘンリーから譲り受けた魔法の絨毯のお陰で、特に難なく進むことができている。
 後は何もないことを、ただ祈るだけだ。

 そう、上手くいっていた。
 だから、プサンはそれに気づくのが遅れてしまった。
 もし魔法の絨毯を譲り受けていなければ、揺らぐ大地と共に危機感を抱くことが出来ただろう。
 もしロザリーが気にかけていた少女の方へ向かっていれば、それが起こることを予測できただろう。
 もし、もし、もし……。
 ああ、もはやそんな話はどうでもいい。
 もう、それは起こってしまったことなのだから。

「……ロザリーさん?」

 ふと、そんな言葉がプサンの口から出た。
 感じ取った違和感、それが会場ではなく彼女にあると言わんばかりに。
 返事はなく、空気は重いまま。
 この至近距離だというのに、ロザリーの反応はまるで自分の言葉が聞こえていないかのようであった。
 もう一度声をかけるべきか、と口を開いた時。
 ロザリーは、ゆっくりとプサンの方を向いた。
 ほっ、と一息。

255 :愛の幻影(2/3):2016/06/09(木) 00:43:37.58 ID:IvFyWLRjr
 
「――――未練がましいですね」

 つこうとした息を、プサンは飲み込む。
 振り向いたロザリーの顔は、ロザリーの顔ではない。
 それは、先ほどユウナと対峙していた時の「誰か」の顔。
 突き刺さるような殺気、何かを見下す鋭い眼光、そして「魔王」のような風格。
 感じ取ったそれで、プサンは確信する。
 彼女の中には間違いなく、彼がいることを。

「邪魔なんですよ」

 それを理解したと同時に、一筋の雷光が迸る。
 捉えたのは、何もない虚空。
 そこにいつの間にか構えていた剣を向けながら、ロザリーは口を開く。

「這いつくばって、呪詛の言葉を吐いて、人間を憎んで」

 何度瞬きしても、剣の向く先には誰もいない。

「そして人を殺し続けることが、貴方の愛だというのですか?」

 だがロザリーは、まるでそこに「誰か」がいるかのように言葉を投げ続ける。

「もう一度いいましょうか、貴方のは"愛"ではない」

 そう、そこに居るのが。

「ただの、自己満足なんですよ」

 "ユウナ"だと、言わんばかりに。

256 :愛の幻影(2/3):2016/06/09(木) 00:44:14.11 ID:IvFyWLRjr
「ロザリーさん!!」

 叫びと共に、プサンはロザリーの肩を掴む。
 非力ながらも強めに握りしめ、爪を肌に食い込ませていく。
 そして、彼女ではない彼女の顔を、正面からじっと見つめ続けた。

「……あれ?」

 少しして、プサンがよく知っている"声"が戻ってくる。
 ぱち、ぱちと瞬きをした後、「ロザリー」はプサンの顔をまじまじと見つめる。
 そして、ロザリーが知らないうちに握りこんでいた剣を見て、ひっと息を呑んでから、ロザリーはプサンへと問いかける。

「私、何を……?」
「いいんです、気にしなくて」

 状況を理解できていないロザリーを宥めるように、プサンは言葉をかける。
 説明しようと思えば説明できるが、説明する訳にはいかない。
 下手に話して彼女にそれを自覚させたせいで、症状が悪化しないとは限らないのだから。
 そうですか、と言って再び絨毯に座り込んだロザリーを尻目に、プサンは考える。
 落ち着いた今だから感じ取れる、もう一つの違和感。
 魔力の流れ、空気の感じ、何かが偽物に変わる感覚。
 いや、偽物というよりは、何もかもが生まれ変わったと言うべきか。
 ともかく、それがプサンにとっても不快であることには変わらない。
 何もなければいいのだが、さっきのロザリーの様子を見る限り、"闇"が違和感に関わっているのはほぼ確実だろう。
 嫌な予感は、拭い切れない。

「急ぎましょう、もう、目の前ですから」

 言い表せない不安とともに、プサンは目前に迫った祠を見つめる。
 胸に抱いた焦りの気持ち、拭い切れない不安。
 それが何を生み出すのかは、まだ分からない。

【ロザリー
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:南東の祠へ向かう
 第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:アーヴァイン同様、ユウナ?由来の【闇】の影響を何らかの形で受けています】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。

【プサン(HP1/3、左腕負傷のため使用不能)
 所持品:魔法の絨毯、錬金釜、隼の剣、メモ数枚 風魔手裏剣(1)
 第一行動方針:南東の祠に向かい、脱出方法を伝える。
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【現在位置:南東の祠付近】

257 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/06/10(金) 20:40:14.88 ID:uzeHJuLtR
投下乙です!
無事に南東組と合流できそうなのになんか素直に喜べない展開に><
ピサロはロザリーちゃんを守りたいだけならまだしも
どう見ても煽ってるしロザリーちゃんの意思は無視だし
これプサンのおっさんは虚空に向かって小一時間くらい説教垂れてもいいと思う

それでもプサンが出て来る話はわりと安心して読めるな
闇落ちは絶対にしないだろうし、振舞いが大人だし
がんばれ、残された貴重なおっさん枠!

258 :虚言の戈と人の為ならざる盾 1/16:2016/07/12(火) 20:28:04.77 ID:kbA/vFb/J
もう思い出す意味もないほど昔の話です。
はっきりとした記憶など欠片も残ってはいませんが、当時の私は『賭け』というものが好きではなかったと思います。
少なくとも端金のために大金を投げ捨てるなど狂気の極みだと蔑んでおりましたし、、
下らない浪漫を求めて一度しかない人生を無駄にする阿呆は嘲笑の対象でしかありませんでした。
けれど、私を知る者は口を揃えて言うでしょう。
他ならぬ私こそ『野心に溺れて力を求め、破滅と隣り合わせのギャンブルに手を出した愚か者』だと。
『地位を得るために未熟な技術の実験台に志願し、博打に負けて心を壊した人間のナレノハテ』だと。

さて――本当に愚かなのは誰なのでしょうかねぇ?
道徳、良識、超自我、人格、etc.etc.……
まさかまさか、まーさーかー! そんな鼻水噛んだ後のちり紙以下のゴミに価値があると思ってるんですかァ?
尊い尊いカッコ涙カッコトジってカンジで拝んでるんですか?
ちょっと性根が腐ってますよアナタ、クサイ人はエアロガでファブっときましょうねー。
……って、ぼくちん今MP切らしてるんだった。
うーん残念無念、世の中ってホント上手く行きませんねえ。
まあ諸君が腐ったリンゴになろうがカビたオレンジになろうが、ぼくちんには関係ないのでどうでもいいです。
コホン。
とにかく、ですよ。
ゴミ箱に捨てる時間の方が勿体ないガラクタと、選ばれし者のみが扱える物理法則を超越した神の力を交換する――
それのど・こ・が、な・に・が! 『賭け』なんですかぁ!?
ぼくちんにはチョーオトクなスーパーディスカウント販売としか思えませんがね!
だ・い・た・い、この神域の天才たる俺様を!
77BARで自滅したりジハード召喚して自滅するどっかの馬鹿ギャンブラーと一緒にしないでほしいでしゅ!
大事な手札を握りしめたまま負ける可能性がある勝負に挑むなんて、馬鹿オブ馬鹿なサル頭どもの専売特許なんですよ!
勝てる勝負と負けない試合にしか手を出さず!
逃げ道をちゃんと用意して! ちょっと地味でも文句言いながら適当に頑張る!!
それこそが成功の秘訣ゥウウウ!
ハイ、とっても当たり前ですね!
え? 何?
思ってたより真面目な意見すぎて俺様っぽくないだって?
うるちゃいうるちゃい! ぼくちんを馬鹿にするなー!

……ハイ。と、いうわけで。
ツマラン前置きはここまでにして、ちょっくらクダラン現実を見据えましょうか。

目下にはこちらに剣を向ける青々としたパセリ頭。
そのすぐ傍には、どっかの誰かさんに庇われでもしたのか中途半端に炙られてズタボロになってる生焼けカッパ。
どっちも今にも飛びかかってきそうなコワーイ形相ですが、その割には先に動く素振りは見取れませんね。
大方、現在進行形でトカゲが喚いてるだけの中身スッカラカンな放送にそこそこ気を取られてるんでしょう。
もしくはぼくちんの出方を見てからカウンターを狙うつもりかもしれません。
実際モンダイ、どっちもそんな芸当が出来る能力と余裕があるのは確かです。
なにせ片方は魔法反射かつ無効のチートアビリティで、片方はボス補正と設定補正と思い出補正もりもりのチートステータス。
ぼくちん自慢のホーリーに、ユウナちゃん特製メテオもどきに、リミットゲージ満タンから放った超必殺技アルテマのフルコースをしのぎきるだけのことはあるわけで……

……。

259 :虚言の戈と人の為ならざる盾 2/16:2016/07/12(火) 20:30:49.59 ID:kbA/vFb/J
……。

アーヤダヤダ! ズルだよこんなの!
コイツら絶対乱数調整とか改造コードとかリセマラとか上上下下左右左右BAとか使ってるって!!
こんなチートども、ぼくちんの手には負えまっしぇーん!!

―−ですので。
ここはひとつ、策を弄すると致しましょう。

「わっかりましたよ、降参です」

放送が途切れるタイミングを見計らい、ぼくちんは両手を振り上げながらザックをドサドサドサっと落とします。
余計なモノを持ったままでツマラン因縁を付けられてもメンドーくさいですし、二番煎じの展開なんて飽きが来ますからね。

「もう煮るなり焼くなり刺身にするなりスキにしてチョーダイ。
 あ、タタキは御免こうむります。ワサビは染みるからイヤッ! ってね」

とりあえずくねくね身をよじらせてポーズを取り、敵意が無いことをアピールします。
しかし当然ながらレオ将軍並みに性格根性どっちも最悪のソロくんには通じません。

「どういうつもりですか?
 今更そんな戯言が通用するとでも?」

あ〜〜あ、イカにもカニにも『僕はキメ顔でそう言った』ってモノローグついてそうな表情ですね!
これだから緑髪のハデハデしい厨二病患者は青クサくて嫌なんだ!
いい加減にそういう勇者ごっこなんか卒業して、黒歴史にしたらどうなんですかァ!?
そしたらぼくちんが今までの勇姿を全世界に配信して差し上げますし、皆さんの反応を逐一報告してやりますよ!
きっと超高評価で拡散待ったなしですよ!
『わぁスッゴイドヤ顔! キャーカッコE素敵抱いて! 「今更そんな戯言が通用するとでも」キリッ!』
なーんてゲラゲラ笑われながら顔真っ赤にして枕に顔うずめて窒息死してしまえ!

……と、声に出して言い放ってやりたいところで・す・が。
私が今言うべきことは他にあるんですよねえ。

「モッチロン、思って――ませんよォ?」

ぼくちんはマントを翻し、眼からビームを出しそうな勢いで睨んでいるズタボロカッパに人差し指を突きつけます。
しかしソロくんも素早くカッパの前に立ちふさがり、盾を突き出します。
はぁー、本当に余力ありすぎですね、このガキ。
いつまでも澄ました表情しやがってナマイキだじょー!
ぼくちんの秘策で、そのキレイな顔をフッ飛ばしてやるー!

「くらえパセリども! これがぼくちんの奥の手だ!」

260 :虚言の戈と人の為ならざる盾 3/16:2016/07/12(火) 20:34:12.54 ID:kbA/vFb/J
「させるか!!」
おやおや、さすがにソロくんもただ身構えていたわけじゃないみたいですね。
盾から放たれた光が彼の前に広がり、巨大な鏡を思わせる防壁を築きます。
なるほど、さっきもこれで発動したホーリーの一発目と二発目を相殺したんですね。
がんばってくれますねえ。
ま、思いっきり無駄な努力なんですけどね。
なんせぼくちん――今は、魔法なんて唱えてないですから。

じゃあ何をしてるのかって?
そりゃあアレです。ちょっとした手品ですよ。
三つのザックを地上に投げ捨てて、なーんも持ってないはずなのに。
右手をクルリとひねって、そのままフワリとマントを翻しながら一回転して――
アラ不思議。
なんとぼくちんの手に、いつのまにか素敵な道具があるではあーりませんか!

「ッ!?」

天才マジシャンもビックリなあるマジカル光景に、さしものソロくんもオドロキモモノキサンショの木って感じですね。
ネタが知りたい? ダメダメ、教えたら手品師の商売あがったりですよ。
でもぼくちん手品師じゃないからバラしちゃいまーす。
仕掛けは簡単。ぼくちんが元々持ってたザックは四つあったッ! ってだけです。
どうでもいいザックを投げ捨てる時に大事なモノが入ってるザックだけをヒラヒラマントの中に隠しておき、
右手を突きつける事でソロくんたちの意識をそちらに集中させ、その隙に左手でザックの中身を探ってたわけですね。
さあここからは華麗なる俺様の逆転ターンだ!
くらえー!

「さあ、パセリもカッパもハマチもサンマもご清聴ォー!!
 『どうしてそのカッパを庇うんだ!!
  そいつがセフィロスだと知らないのか!?』」

拡声器。
何のハカイも生み出さない、何の力も生み出さない、実にツマラン道具。
だ・け・ど。この状況においては話は別なんですよねえ。
物理攻撃力も魔法攻撃力もないただの言葉だからこそ、回避も防御も不可能な刃となるんですから!

「――ッ!?」

ソロが息を呑んだ。
もっともそれは予想外の大音量に対する一種の反射であり、私の真意など欠片も掴んでいないだろう。

「『私はな、危険極まりないセフィロスとユウナを殺せればそれで十分だったんだ!
 なのにお前とジジイがそいつらを庇うから余計な被害が出たんじゃないか!!
 この偽善者どもめが!! 自己満足に浸りたいなら自分で腹切って勝手に死んでしまえ!』」
「妄言を……!!
 最初から僕やクリムトさん達を巻き込むつもりだったくせに!」

ほらほらほーら、真正面から言い返してきましたですわよ奥様!
頭に血が上ったノータリンじゃ、そういうリアクションが限界だろうねえ。
どうせならぼくちんに攻撃魔法の一発でもぶち当ててほしいんだけど。
まあ痺れを切らすまで煽り続けてやればムキーって襲ってくるでしょ。

261 :虚言の戈と人の為ならざる盾 4/16:2016/07/12(火) 20:38:16.91 ID:kbA/vFb/J
「『それともアレか? お前はセフィロスを手懐けて殺し合いに勝ち残るつもりか?
  ああ、なんてズルいんだ!
  今までは善人面して味方を作ることに専念し、人数が減ったところで殺す側に回るのか!
  脱帽しちゃうね! もうシンジランナーイ!』」
「貴様ッ……!」

アーヒャヒャヒャ、どっかのくたばりかけたレオ将軍みたいに顔真っ赤で手がぷるぷる震えていますねえ!
あと一押しカナー?
……と思ったその時、唐突にカッパが叫びました。

「カー、カカー……カーカーカー!」

何言ってんだかわかんねえよ! このデカ十円ハゲ野郎! と皆様もツッコンだことでしょう。
でもソロくんが「なんですって?!」とか叫んだんで、おそらく何かの警告だったんじゃないでしょうかね。
『待て、ソロ! 奴の目的は挑発ではない!』とか『あんな煽りを真に受けるな!』とか
『落ち着け! 俺は改心したんだ殺さないでちょんまげ!』とかね。
まーどれでもいいんですけどね。
なにせ時すでにお寿司!
ぼくちんの目論見はもはやガッチリハマってビックラポン大当たりですのでェ!

「――ソロ」

ぼくちんが爆笑するより先に、パセリとも一味違ったピーマンみたいな声がソロ君の背後から響きます。
え? 例えが意味わからんちんって?
苦み走ってるオトナのフリしてるけど頭カラッポそうでおまけに青クッサイ声ってこったよ!

「ヘンリーさん……!?」

アーヒャヒャヒャヒャヒャ!!
よーやく気付いたようですねえ、この間抜けなおたんこなすの浅漬けパセリ君も!
そう!
拡声器で大増幅されたぼくちんの華麗なるルナティックボイスは、お前のお仲間にもバッチリ届いたって寸法なんですよォ!
さあさあ、ここからどうやって現状を説明して説得してみせるのか!
実に見ものですねえ!

「ソロ……お前」

ああ〜、困惑と疑心に満ちた表情って良いですねェ。
控えめに言って最高です。
さあさあ争え、もっと争えー!

「ヘンリーさん! 惑わされないでください!!
 あの男は自分に都合のいい嘘を並べ立てているだけです!
 ユウナさん達を狙うだけならあんな大規模な呪文を使う必要なんかない!
 最初から城に居る人を見境なく殺すつもりで大がかりな攻撃呪文を仕掛けてきたんだ!」

おやおや。少しは口ごもるかと思ったんですが、一気に捲し立ててきましたか。
おまけにこちらへの警戒を崩さず、いつでも斬りかかれる体勢をキープしていると。
ケッ! それで大正解だよコンチクショウ。
ちょっとでも隙あらば色々なところから派手に魔力を吸収して回復しーの攻撃しーのしたいところだってのに……
エラソーな態度とか対処とか、何もかもがホントにレオ将軍そっくりで、ぼくちんの堪忍袋も爆発四散寸前だ!!

262 :虚言の戈と人の為ならざる盾 5/16:2016/07/12(火) 20:42:12.93 ID:kbA/vFb/J
「ああ、うん、そうだろうな。
 その点はソロ、お前を信じるぜ」

さすが勇者様の御言葉、ピーマン頭も即落ち2コマで納得お得!
……って、おいおいおい!?
そりゃあいくらなんでも早すぎっていうか有り得ないデショ!?

「『はああああ?! ちょっとチョロすぎじゃないですかァ!?
 冷静に考えりゃ私の言ってる事が嘘じゃないってわかるデショ!?』」

少し成り行きを見守るつもりだったけど、こんなのさすがに口を挟まずにはいられません。
今の残り魔力じゃ二対一でもキツイってのに、四対一とかオーバーキルなんだよ!
きっと今なら天空に連なる七つの星の横に見えちゃいけない星が見えてぼくちんもYOUもSHOCK!
そんなのいやだいいやだい! "お前はもう死んでいる"って言うのはぼくちんなんだい!

「『どうせお前らみたいないい子ちゃんはとっくの昔に13人とか14人とか集まって、仲良く大人数グループ作ってんだろ!?
 ぼくちんとお前ら以外のハブかれぼっちが何人残ってるか確かみてみろー!』」
「そうじゃ、ワシからすれば既に疑う余地がない」

おおっ。さっそくぼくちんに賛同してくれるとは!
素晴らしい! 誰だ君は!
カメだ!!

「先ほどワシはセージ殿に襲われた。
 そしてユウナ殿が別にいたというならば、そこにいるカッパの正体はもはやセフィロスしか有り得ぬ」

なんということでしょう奥様。カメが人の言葉を喋っておりますワ。
シンジランナーイ! 早く水辺にお帰り! 今ならカッパもお付けするわよ!
……って、白々しく言ってみてもツマランだけですね。はい。
今はミスが許されない局面ですし、マジメにやっときましょう。

「『さっすが賢者ギードとかいうカメさん、なんとスバラシイ名推理ィ!
 ぼくちん感服シマシタワー!!
 さあさ、バシッと決め台詞を言っちゃってクダサイ! 真実はいつも一つとか私わかっちゃいましたとか犯人はお前だとか!』」
「いい加減にしろ!」「ちょっと今大事な話してるから黙っててくれ」「カー……!!」
「あっスミマセン」

ギード以外の全員に睨まれた私はきゅっと身を縮こまらせます。
いやーキレやすい若者ってコワいですね。
こんなんだから世の中から凶悪犯罪が無くならないんですよ。
でも責任あるオトナとして勇気を出して立ち向かわなきゃ!
ぼくちんってばエラい! 褒めろ! 称えろ!

263 :虚言の戈と人の為ならざる盾 6/16:2016/07/12(火) 20:44:36.98 ID:kbA/vFb/J
「『でもでもでも! そこのカメの証言でわかったでしょォ!?
  ぼくちん嘘ついてませェん! そのカッパこそセフィロスでーす!
  そういうわけでソロ君、君が真に殺し合いに乗っていないと言うならば!
  そこのカッパを殺してサイファーくんのところにその首持って行くぐらいできるよねェ!?』」
「なっ……!?」
「どういうことだ!?」

拡声器で絶賛ボイス増量中な俺様の主張を前に、ソロが絶句しヘンリーがただでさえ悪い目つきをさらに険しくする。
さて。
いったいぜんたい、誰がどこまで何を知っているのやら。
ここでご都合主義もといタイミングよくぼくちんに封じられし三闘神の全能パワァが解放されればいいのですが、
そんな機械仕掛けの神すなわち私が、緑野菜どもをちぎっては投げちぎっては投げで無双する展開は期待できません。
というかここ明らかに緑率多すぎですよね。
パセリにカッパにピーマンにカメ、まさにキセキのグリーングリーンGreeeen!
もうキミタチ全員二度と帰ってこないパパの後追って遠い旅路に出ていってくれないカナ?
……と、忌憚のない本音をぶちまけたいところですが自重しましょう。
あーあー、ぼくちんホントにホントにエライなーー!!!

「『そもそもです。
 私がカッパ狩りに来たのは、とある理由でサイファーくんたちに助力を仰ぎたかったからなんですよ。
 なんせサイファーくんにとってセフィロスは不倶戴天の敵、仲間の仇、恨みはらさでおくべきか!
 それはそこのカメェェェッー! が、昨日の夜中にザンデくんたちに話していたことですよねェ!』」
「……う、うむ。
 聞いておったのか」

歯切れの悪い返事ですねえ。
まあ、ぼくちんはロックはじめ怪我人の群れと一緒に真剣十代しゃべり場やってたわけじゃないですからね。
少し離れた場所で軽く体操しつつ黙ってアイテム回しゅ……ゲフンゲフン。
無知なる民衆に悟られぬよう異常物品を収容・確保・保護するミッションを行っていたので、
ツマラン恨み言じみたセフィロスとの因縁話をハッキリ記憶しているとは思っていなかったのでしょうね。

「『アーヒャヒャヒャヒャ、知らないんですかァ? ケフカイヤーは地獄耳なんです。
 まあそういうわけで、実に一年ぶりぐらいですが人様の為に一働きする必要があったわけですよ。
 しっくわぁーし! 皆様ご存じの通り、セフィロスは明らかに激ヤバな強さ!
 接近戦の鬼、悪魔、人でなし、魔王、ジョロキア野郎!!
 そんなやつと、非力でかよわい魔導師のぼくちんが真正面から殴り合うなんて、ぶっちゃけありえナーイ!」
「だから僕や他の人をも巻き込んだというのか!?」
「そのとーりでございます。
 『だってマジメに"俺がここを引き受ける!"方式の正攻法で挑んだって、十割死人が出ますよォ?
  てゆーか、初日にそれをやって死人が出まくったからサイファーくんもそこのカメもセフィロス絶対殺すマンになったんでしょ?
  つ・い・で・に・言・う・な・ら。
  いつの間にやらどいつもこいつもアーヴァインで見境なく殺すマンにクラスチェンジしたユウナちゃんもあの城にいたわけでェ!
  二人の殺人鬼を安全な場所からまとめてぶっ潰すって作戦――果たしてそこまで謗られるモノなんですかね?』」
「ふざけ――」
「カー……!」
「……ッ」

264 :虚言の戈と人の為ならざる盾 7/16:2016/07/12(火) 20:47:00.63 ID:kbA/vFb/J
おやおや。
せっかくソロくんがブチキレて馬脚を現すと思ったのに、カッパが止めやがりましたよ。
まあ現状を鑑みる能力があるなら、ソロくんの信用度イコールセフィロスくんの残り寿命だってことは自明ですからね。
『挑発に乗るな』とか『下手に言い返すのは危険だ』とか、その手のアドバイスはするに決まってますか。

「だけど――」
「落ち着け、ソロ。
 お前のスタンスや言い分はよーくわかってるから安心しろ。
 ガメゴ……じゃない、えーとギードだっけ?
 あんたもセフィロスに関してわだかまりはあるみたいだけど、少し俺に話す時間をくれないか」

アラヤダ。ヘンリーまでソロくんのフォローに回るつもりですか。
なんなんですかねえ、こいつら。
友情? 仲間意識ィ? 正義感ン〜?
あー、くっだらない!!
こういうやつらが生徒会長とか風紀委員とか番長になって、自分がルール気取りで弱いモノイジメするんですよねえ!!
こうなっちゃうとかよわいぼくちんは訴えて勝つしかできないのよ。ヨヨヨ。

「ケフカだったな。
 お前が借りたいサイファーの助けってのは何なんだ?」

アラヤダ、いきなりズバッと踏み込んできやがりますねェ。
わざわざ私が言葉を濁した理由、察する頭が無いのか――それともわかっててあえて聞いてるのか。
前者だと決めつけてかかるのは少々舐めプが過ぎますか。

「一つはまあ、単純に肉盾兼戦力ゲットですねえ。
 私、他人様に仕事を強いられるってのが腐ったイワシよりキライでして。
 一億歩譲って利用価値が残ってたころの皺くちゃ犬ジジイやカワイイお人形ちゃんどもならまだしも、
 勘違いしたトカゲや加齢臭ぷんぷんのケバいオバサンにハイハイ従えとか、謙虚なぼくちんでもお断りなんですよ」

まあこれぐらいは拡声器オフにして本音で喋っておきましょう。
嘘を吐く必要も意味もありませんし、盗聴してるであろうトカゲが血管ブチ切れさせて脳卒中で死んでくれると面白いですから。

「それからもう一つは魔力供給とその他もろもろの雑用要員ですよ。
 理由はノーコメントでいいですよね? ギードさんなら察せるデショ?」

そこのカメは昨日の時点でザンデの計画を聞いている。
あとはロザリーやザンデと接触している奴がいれば――

「ふざけるな!
 ロザリーさんとザンデさんを異次元に飛ばしたのは貴様だと聞いたぞ!」

うっわ。
よりによってソロが知ってたんですか。
まあ「ザンデが首輪解除の研究をしてたのにー」とか口走らなかっただけマシですけど。
とりあえず声を大にして反論するとしましょうか、そーれ拡声器のスイッチをポチっとな。

265 :虚言の戈と人の為ならざる盾 8/16:2016/07/12(火) 20:49:08.30 ID:kbA/vFb/J
「『あーあーもー、マイクテスマイクテス、そりゃ誤解ですよゴカイ!
 ありゃザンデが大声で"実験に成功したなりィ!"って言ったから悪いんです!
 主催者サイドに監視されてるかもしれない状態でンなこと口走ったら、
 最悪ピサロもロザリーちゃんもマティウスもぼくちんもザンデもろとも首ちょんぱでポーンでしょうが!』」
「んん?
 だからどっかにザンデを吹っ飛ばしたってのか?」

おやぁ? 意外ですね。
誰よりも真っ先にヘンリーくんが反応しやがりましたよ。
もしかしてこいつもロザリーかザンデと接触してるのかな……?

「『そうですよ!
 ぼくちんが裏切ったフリをすれば脳みそ腐ってるケバケバおばさんは真に受けるデショ!?
 そうすりゃぼくちんは当然、ピサロもマティウスも一人じゃなーんもできないモンってんで助かる公算が高いわけです。
 ロザリーちゃんは奴の魔法で小さくされてポッケの中に入れられてたから、巻き添えになっちゃったケド!
 でもそれやったのはザンデだからぼくちんに文句言われても困りますゥーーーーーー!」
 まあ百万歩譲ってロザリーについて責任問われるのは受け入れてもいいですけど!』……イヤほんとは嫌だけど。
 『ザンデについては一切の謝罪と賠償、ついでに退陣要求と記者会見と給与返還を断固拒否する!』」

ぼくちんのカンペキでムジュンなき主張を前に、利口な大人組は「むむ……」と考え込み始めました。
うんうん。
こういう素直で騙されやすい馬鹿なオトナに限れば、ぼくちんもキライではありません。
十秒ぐらいはね。

「カッ、カー……カーカ、カカー……カー」

あー、なんかカッパが鳴いてますねー。夏だなー。
いいかげんに氷結ジェット噴射とかカッパ取り線香ごと燃やしたいけど、魔力がないから出来ないの。
無論こっちも適当にちょいちょい隙を伺って魔力を【闇】からじわじわ吸収してるんですけどね。
今やっとケアル一回分ぐらいです。
あーあ、少ないなー。悲しいなー悲しいなぁー。
暗黒神の杖とかそんな感じの便利なマジックアイテム、どっかそこらに落ちてませんかねー?

「えっと……ギード、そいつなんて主張してるんだ?」
「いや、ワシに聞かれても困るんじゃが……」
「"惑わされるな。戯言めいた屁理屈を後付けしているだけだ。
 脱出手段を知っている者が少なければ少ないほど、奴の身を保全するための手札として有効に働く。
 そもそも奴のような下劣な人間の考えなど、結局は自己保全と他者の破滅のみ。
 耳を貸すだけ、時間を割くだけ無駄だ"――と言っています」

うわ長っが。

「……お、おう。
 思ったより長いってか、濃いアドバイスだったんだな」

なんと今ヘンリーくんとぼくちんの心が一つに!
よしヘンリーくんそのままソロくんをプチっと殺すんだー!
――って無理ですよね。わかりますん。

266 :虚言の戈と人の為ならざる盾 9/16:2016/07/12(火) 20:52:00.01 ID:kbA/vFb/J
「えーと、とにかく。
 ケフカだったな。とりあえずお前の最終目的は一応魔女の打倒って事なのか?」
「まあ、そういうことですね」

ぼくちんは素直に頷きます。
もちろん嘘だけどネ。
真の最終目的は例によってハカイ、ハカイ、ゼーンブハカイなのでェ!
一人で魔女をプチプチ潰すのがめんどっちいから何人かは後回しにしちゃるってだけでちゅ!

「ヘンリーさん、信じちゃダメです!
 この男は明らかに他人を弄び命を何とも思わない輩です!
 仮に魔女を倒したいというのが偽りなき本音だとしても、その後に必ず僕達全員の皆殺しを企てる!」

うっきゃーーーーーーーーーー!!
ソロのやつ、うるさいうるさいうるさーーーい!!
言ってることがビンゴで一字一句大当たりなのがさらにムカツクんですよォ!!
この厨二病パセリが、オムレツやハンバーグの添え物の分際でいつまでもどこまでも栄養満点優等生気取りしやがって!!
その顔いつか! ぜえーったい! 血と汗と涙と鼻水とヨダレ塗れにして!
バッタのように土下座させながら俺様の靴の砂を払わせてやるんだじょーー!!

「『随分とまあ勝手にレッテル貼りしてくれますねェ!!
 そのくせそのカッパ改めセフィロスを庇いまくるとか!
 お前、本当に正気でモノ言ってるんですかァ!?』」
「当たり前だ! 貴様と一緒にするな!」
「『あーあー、洗脳されてる人間ほどそう言うんですよねェ!
 自分達は正気で周囲や世界がオカシイんだって!!
 ――ねえヘンリーさん、ギードさん!
 今のソロくん、本当にマトモに見えますゥ?』」

急に話題を振られた二人は言葉を詰まらせる。
何せ、カッパの正体は今やはっきりしているのだ。
その上でカッパの言葉を理解できる――即ち正体をわかっていてなおも庇いながら、ぼくちんだけを敵視する。
そんなソロくんのダブルスタンダードな態度はさぞや異常に映るだろう。

「『いいですかァ! サイファーくんたちがぼくちんの交渉に応じたのにも理由があるんですよ!
 一つはセフィロスを抹殺する戦力を期待してのこと!
 そしてもう一つは、直接セフィロスを倒しに行けないような彼氏彼女の事情があったからです!』」
「……どういう、ことだ?」

おやおやぁ?
今、ヘンリーくんの目線がちょっとだけ泳いだような、泳がなかったような。
こりゃ何か知ってるような気が、うっすらぼんやり儚く夢幻のように、
おぼろげに漂っているようないないようなフィーリングで感じますね。
ぼくちんの眼は誤魔化せない設定なんですが、こういう微妙すぎる動きはちょっと判断に困りまちゅ。
どっかにちょちょいっと真実を見抜くパワーが転がってれば以下略。

267 :虚言の戈と人の為ならざる盾 10/16:2016/07/12(火) 20:54:13.66 ID:kbA/vFb/J
「カー……カーカー!」

そこのカッパうるちゃい。鈴虫かセミの真似してるんですか?
ホントのホントに死にぞこないなんだから大人しく永遠に黙るか、喋りすぎて吐血してくたばればいいのにネ。

「『カンタンですよォ!
 サイファーくん達は、セフィロスくんに捕まって洗脳されかけたオトモダチを保護しちゃったんです!
 とってもアワレでカワイソーなその子を守るために、そのまま彼らはセフィロスくんに見つからない場所へダッシュ逃げ!
 そして義憤に駆られたぼくちんは、不浄なるものへの天の裁きをくらわせにお城へGO!
 セフィロスカッパとついでに悪堕ちユウナちゃんは聖なる一撃で吹っ飛ばされ、七夕を彩るWお星さまになってハッピーエンド!
 ――で終わる予定だったのにそこのドアホなクサクサパセリがとことん邪魔した結果がこれなんだよ!
 余計な犠牲は出まくるわ、カッパは生きてるわ、もー絶対そいつセフィロスに洗脳されてます!
 ぼくちんが言うまでもなく間違いナッシング!! 手元にないけどこのカシオミニを賭けてもいい!!』」

私の全力主張を前に、ヘンリーくんとギード氏の表情が曇っていきます。
これなら一気に逆転無罪からの大勝利まで勝ち取れますね!
さあさあ、聴衆のみなさん! はりきって紙吹雪の準備をどーぞ!

「外道が……どこまで人を謀るつもりだッ!
 僕の心は誰にも歪められてなどいない!
 僕が彼との対話を望むのは、アンジェロの想いを汲みクリムトさんの遺志を継ぐため!
 剣を交えるよりも先に、知るべき真実、聴くべき真情があると感じたが故だ!!」

ケッ! この期に及んでまーだ言いかえしてきやがりますか。
しぶといパセリめ、世の中のお子様だけでなくそこの二人にも嫌われちまえー!

「『オッカシイんじゃないですぅ?!
 それならフツーぼくちんともオハナシしようって――』」
「脱出方法の完成が目前に迫ったところでザンデさん達を陥れ、無辜の人を巻き込むと知りながら城を吹き飛ばし!
 それらを虚言で飾り、さも自分が正しいように吹聴する貴様に!
 耳を傾けるべき正義や大義名分があるとは欠片も思わないッ!!
 貴様はエビルプリーストと同じ、己一人の欲望と快楽のために他の全てを踏みにじり虐げる純然たる邪悪だ!!
 天空の勇者の名にかけて、断じて見過ごすものか!!」

くぅ〜〜〜〜〜!!
エっラっそ〜〜〜ーーーーーーーーーーに言いやがって!!
ぬわぁ〜〜〜にがテンクウのユウシャだ!!
そんなにお空が好きならロウの羽でも背負って太陽に近づいて焼かれて墜落してしまえ!!

268 :虚言の戈と人の為ならざる盾 11/16:2016/07/12(火) 20:57:04.73 ID:kbA/vFb/J
「あー、ソロ、落ち着け。
 お前の言ってる事はわかる、わかるんだが」

おい! そこのピーマン!!
何勝手にわかってんだ! 客観的に考えればぼくちんの方が正しいっぽく見えるはずだろうが!!
ちくちょう、ちくしょう、ちくちくちくちくちくしょーーー!
ぼくちんに魔力が残っていれば今こそ連続魔アルテマで全部ボカーンの天丼オチで決着をつけられたのにィ!!
いやソロくんに効かない以上意味ないんだけど!

「悪いが、ケフカの言い分が全て嘘だとは俺には思えない。
 そもそもサイファーがセフィロスを倒す為に行動してたのは紛れもない事実だからな。
 アイツならケフカを利用することを考えたっておかしくない」

あっありがとうございますヘンリー氏!
こちらを援護してくださる気はあったんですね!
ぼくちんのおててが感謝のあまりクルクル回って千切れそうです!
あなたの献身的な弁護に免じてあなたを殺すのは最後の方に回して差し上げます!!
さー、大人代表としてナマイキな若造にバァーンと一発ぶちかましておくんなさいませ!
その間にぼくちん魔力チャージを完了しますので!
なお今の進捗はテレポ一発分にちょっと足りないぐらいです!
ワーイ思ってたよりおそい! がんばれぼくちん! 速さは文化だぞ!

「それに、その、セフィロスが洗脳したヤツがいるってのも気になる。
 突拍子もない話だが、ただでさえ信用の無いヤツがそんな突拍子のない話を根拠も無くするか? ってな。
 お前が言う通りケフカは極悪人なんだろうが……――極悪人ほど、そう簡単に嘘はつかないもんだ」

だーれが極悪人ですか誰が!!
こんなピュアっぴゅあなケフ神を捕まえて極悪人呼ばわりとかシンジラレナーイ!
まあいいです。ぼくちんに超魔導師級の幸運があるならそろそろ……

「そんな、だからって……!!」
「だーかーらー、落ち着けってんだよ!
 いいか?! ケフカを殺してそいつを庇ったらサイファーはどう考えると思ってんだ?!
 マジでお前がセフィロスの言いなりになったと思ってお前を敵視しちまうかもしれねえだろう!?
 俺が危惧してるのは"そういうこと"で、お前を信じないとかお前が操られてると思ってるとかじゃねえんだ!!」
「それは……! だけど、その男は……!」
「ああ、野放しにするには危険だ。
 だから――」


――さて。
彼は一体何と言うつもりだったんでしょうね?
大方、"ヘンリーかギードのどっちかもしくは両方が私の監視につけばいい"ってところでしょうか。
私が生きているなら、カッパが生きていたって単純に"ぼくちんがカッパに接触できなかった"ってだけで話は終了です。
サイファーくんの一行の離反は十分防げるでしょう。
それ以前に、ヘンリーにしろギードにしろそれなりに頭は回る御様子でソースでしょうゆ。
短気で単細胞なサイファーくんを言い包めるぐらい朝飯前のお茶漬けサラサラでしょう。
ぼくちんとしてもアルテミッシー厚化粧オバさんを殺してないのに、ソロくんとカッパ以外のやつをウカツに殺すわけにはいきませんし……
四角い状況をまーるく収めるってェならそれが一番無難な方法なんじゃないですかね。

まあ、そんな話はどうでもいいですけどね。
どうやらタイムオーバーになったみたいですから。

269 :虚言の戈と人の為ならざる盾 12/15:2016/07/12(火) 20:59:14.47 ID:kbA/vFb/J
「――くらえ、悪者め!」


きっと地上を這う虫ケラどもには何が起きたかなんてわからないでしょうね。
ぼくちんも半分ぐらいわからないんですけどね。
とりあえずはっきり言えるのは、でっかいお花を背負ったゾンビとしか思えないおガキさまがいきなり氷魔法をめくら撃ちし出したってことです。
一応狙ってるのはヘンリーくん以外のぼくちん含めた四人のようですが、ってアブなッ!
今でっかい氷柱が服の裾カスりましたよ! ……ってひょえええええ!!?
ど、どーちてぼくちんまで悪者認定されてるノォーーーーーーー!?

「くっ! 一体……!」
「ヘンリー殿! ソロ殿! ワシの後ろに隠れるんじゃ!」

あっいつの間にかリフレク使ってやがるあのカメ!
ずるいぞチクチクチクショー! ぼくちんもリフレク……いやテレポより消費多いから無理だわ。
あとちょっとで肝心要のテレポが使えるはずだから今は華麗なポーズで回避にせんね……
ウヒャーー! アブナイ! 弾幕ごっこチョン避けはニガテだから止めいややばいってぼくちんピンチ!!

「マホカンタ!」

アラマア、あちらもバリア貼りましたよ。
やったね跳ね返った魔法がどんどん消えていくぜ!
……ってふざけんなァおまァー!?
最近なんか魔法無効化魔法が気軽に流行りすぎですよ!?
どんだけぼくちんをオワコンにすれば気が済むんですか! ちゃんと調整しやがれ!
そもそもそれ本当にマホカンタって魔法なんですか!?
私の鋭い勘ですけどなんか全然違う別のアビリティな気がします!

「ヘンリー殿! ヘンリー殿!?
 聞いておるのか!? 呆けている場合では――」
「……なん、で?」

おや? ヘンリーのようすが……
アレですか、Aボタン連打したら進化の秘法使ってこの現状を打破してくれるんですかね。
なーんてツマラン冗談言ってるバヤイじゃなかろうって?
わかってんだよこのオタンコドッコイ!
それにまだ慌てるような時間じゃない!!
この状況、実は! なんと!
ぼくちんの計画に織り込み済みだったんだじょー!

270 :虚言の戈と人の為ならざる盾 13/15:2016/07/12(火) 21:01:47.55 ID:kbA/vFb/J
……。
あっ、みなさん疑ってますね?
メッチャガン見して疑ってますね?
でもよーく考えてみてください。
ぼくちんは、ヘンリー達との会話の最中もたまに拡声器を使ってましたよね。
それが伊達や酔狂や茶目っ気や遊び心だとお思いですかァ?

ンなワケぬわぁーーーーーい!!

いいか? ユウナちゃん(と思われる人物)が吹っ飛ばされてからそれなりの時間が経ってるんだ!
どいつもこいつもアーヴァインなあのユウナちゃんなら、どこまで吹っ飛ばされようが復讐心に駆られるまま真っ直ぐ城に戻ってくるハズだ!
そこで響き渡る、拡声器で増幅されたぼくちんプレゼンツのボイスファンタジア!
内容を理解しようがしなかろうがユウナちゃんの怒りは有頂点!!
全力ダッシュで戻ってくる! 地上にいるソロくんたちが目に入る!
すごい勢いで銃撃バンバン雨あられ! 鉛玉の暴力に緑化軍団全滅!
その隙にぼくちん逃げる! 生き残る!
大勝利! やったぜ!!!
そういう展開を五割ぐらい期待したからこそ!
説得ゲームに見せかけた命がけのギャンブルに挑んでたんですよ私はァ!!

え? 何?
冒頭の語りでギャンブル嫌いとか言ってなかったか、だって?
そうでしたっけ? アーーヒャヒャヒャヒャ!

「悪いモンスターはヘンリーおじさんに近寄るな!」

うわヤッベ。
なんかあちらさんからすっごい魔力の昂ぶりが伝わってきましたよ。
コレはちょいと本当にマズイですね。
何で放送で名前呼ばれたはずのガキんちょが墓の下から甦った挙句にこんなところで大魔法連発してるのかとか
どうでもよくなるようななななな、絶対やばばばばな一撃がががが……

「どういうことだ!?
 何なんだお前は!!」
「ヘンリー殿!!」
「くらえー!! イオナズン!!」
「テ、テレポォ!!」(テレポォー)

――火事場の底力で転移魔法を唱えきったぼくちんが最後に見たのは、"それ絶対イオナズンとかじゃねえだろ"な光線の乱舞。
そしてぼくちんめがけて差し込んだ二条の赤い光と爆発。

……って、イッターーーーイ!!

間に合ってない! 間に合ってないけどテレポは発動したじょ!
それにどうせこの手のオチなら例によって他の奴らもなんだかんだで生き残るんだろ!?
だったらもうパセリとカッパとあのゴスロリ屍人系ガキんちょで潰し合ってしまえ!
ぼくちんは逃げます! こんな場所に居られるか、ぼくちんは一人でガンバルし元の世界に帰ったら神になるんだ!

271 :虚言の戈と人の為ならざる盾 14/15:2016/07/12(火) 21:06:08.02 ID:kbA/vFb/J
……って言いたいけ・ど。
ジョーダンとヘンリーはともかく、ギードにここで落ちられるのはよろしくない!
ぼくちんが知ってる脱出方法を実践することが難しくなります!
もっと言っちゃえばあのクソ生意気なリルムに五体投地して丁重にかしこみかしこみ申し上げないといけなくなります!
そんなのノーセンキューDA・KA・RA!
邪魔者の暗殺もとい意図的な誤射をするためにあえて戦場に舞い戻るのもアリっちゃアリ、むしろ絶賛オススメですけれども!
それをやろうにもまたまたまーた魔力切れちゃったし、さっきの一撃がめちゃんこ痛くてぼくちん泣いちゃうし――

――えっと、ハイ。
前回以上にマジでどうすりゃいいんですかコレ?

えーとえーと、……
よし! こうなったら全世界六千億人の俺様ファンなお前ら!
スンバらしい一発逆転案を書いてぼくちん宛てにハガキ送ってちょーだいな!
十五秒以内に届けてくれた人にはこの靴を磨く権利を……

ダメですか。そうですか。
じゃあちょっと頑張って考えます、ハイ。


【ケフカ (HP:2/3 MP:0)
 所持品:ソウルオブサマサ、魔晄銃、魔法の法衣、アリーナ2の首輪、やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
 第一行動方針:現状対処
 第二行動方針:セフィロス・ソロ・タバサ?を初めとする、邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第三行動方針:アーヴァイン達に首輪を解除させる
 第三行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:デスキャッスル跡地近辺】

272 :虚言の戈と人の為ならざる盾 15/15:2016/07/12(火) 21:10:18.46 ID:kbA/vFb/J
【セフィロス (カッパ 性格変化:みえっぱり 防御力UP HP:???? 重傷)
 所持品:村正、ふういんマテリア、いかづちの杖、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、スタングレネード
     弓、木の矢28本、聖なる矢14本、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、波動の杖、コルトガバメントの弾倉×2、E:ルビーの腕輪
 第一行動方針:ケフカを殺す/????
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【ソロ(HP3/5? 魔力1/8 マホステ状態、真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣)、天空の盾、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、水のリング、天空の兜
     フラタニティ、青銅の盾、首輪、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ティーダの私服
 第一行動方針:ケフカを倒す/現状対処
 第二行動方針:セフィロスを説得する/サイファー・ロック達と合流し、南東の祠へ戻る
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ギード(HP3/5?、MP:微量、リフレク)
 所持品:首輪
 第一行動方針:現状対処
 第二行動方針:ソロ達と合流して南東へ向かう
 第三行動方針:首輪の研究と脱出方法の実験をする】
【ヘンリー(HP3/5?、リジェネ状態)
 所持品:アラームピアス(対人)、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード
     デスペナルティ、ナイフ、命のリング(E)、ひそひ草、筆談メモ、スタングレネード×1、リノアのネックレス
     ザックスのザック(風魔手裏剣(10)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃
             デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、ミスリルアクス、りゅうのうろこ
     ユウナのザック(官能小説2冊、天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー、雷鳴の剣
            スパス、ねこの手ラケット、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)、水鏡の盾
 第一行動方針:?????
 第二行動方針:ソロ達を助ける/仲間と合流し、事情を説明する
 第三行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】

【"タバサ"(MP1/2、元セージ、バリア(魔法無効)、職業:賢者?、ドレス:フロラフルル?)
 所持品:ユウナのドレスフィア(フロラフルル?)、ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子
     イエローメガホン、英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:悪い人(ギード、ソロ、セフィロス、ケフカ)を倒してグランバニアに帰る。
               ※現時点では"タバサの父親の親友"であるヘンリーは「悪い人」から除外。
 基本行動方針:セージではなくタバサが生きているという正史≠紡ぐ。手段は問わない。
 最終行動方針:不幸にも死んでしまったセージ≠フ分まで生き、脱出する。手段は問わない】
【現在位置:デスキャッスル跡地】

273 :虚言の戈と人の為ならざる盾 追記:2016/07/12(火) 21:10:51.11 ID:kbA/vFb/J
※・リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
 ・サイファーのザック(ケフカのメモ)
 ・レオのザック(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)
 これらのアイテムがソロ達の近くに落ちています。


以上で投下を終了します。

274 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/07/12(火) 22:26:36.56 ID:RjA2kG86a
投下乙です。
一転、また一転と転がっていく状況。
でもしつこく粘った結果、状況が更に悪くなってるのは因果か……w
ある種の最終決戦、ただでは終わりそうにないですね。

275 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/07/13(水) 22:47:58.14 ID:qJJSZOkHC
新作乙です!楽しすぎて3回くらい読んでた
二次創作読んでこんなに笑ったの初めてかもしれない
サービス精神満点なケフカの独り語りが笑けるのはもちろんだけど
カッパ語翻訳をギードに求めるヘンリーとか地味に可笑しい

しかしここへ来て拡声機がまさかの活躍を見せるとは...
こんな支給品あることすら忘れてたわ
また使われ方が卑劣すぎて最高じゃのう

勇者らしく清く正しく誠実でカッコいいことしか言わないソロが
悪党目線だとめっちゃうざい奴になるということがよく分ったw
ときにこの書き手さんはパセリに何か怨みでもあるのだろうか

ケフカは今度こそ年貢の納め時かと思ったけど、過去話との整合性をきっちりつけつつ
薄氷の上を見事に渡り切ったなあ(それを感じさせない騒々しさで)

タバサお兄さんの乱入で死人が出ずには済まないような展開だけど
なんかソロ無双っぽいからグリーングリーン四人衆は安泰か?
いやしかしソロに「いたいけな少女」を攻撃することなんかできるだろうか?
MP0でもやたら元気なケフカはまた混ぜっ返しに来るんだろうか?
続きが気になりすぎる!!!

276 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/07/15(金) 00:41:21.95 ID:kaQ6WI2Qr
月報集計お疲れ様です。
FFDQ3   715話(+ 2) 19/139 (-0) 13.7

277 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/10/15(土) 17:10:28.13 ID:ScsHbv6E8
保守
ってどのくらいの頻度でやるのがいいんだろう?

278 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 1/11:2016/10/26(水) 23:21:54.80 ID:yKFHbb/fZ
心臓がバクバクと跳ね動く。
部屋中に響く竜の咆哮は未だに収まる気配を見せない。

『貴様らは我が主のためだけに一時の生を許された遊戯の駒、反抗など許されぬ!!
 我が主は仰った!
 この不甲斐ない状況が夜明けまで続くようならば相応の処置を取ると!』

明らかな憎悪と激怒に満ちた言葉は、しかし俺個人に向けられた死の宣告ではないのだろう。
未だに飛ばない俺の首こそがその証拠。
重ねて言えば、すぐそばで横たわっているスコールも平然と寝息を立て続けている。
そう、奴らは俺達の生存になど気付いていない。
単に放送後に死人が出なかったから焦って地震を起こし、放送をしているだけだ。
そんなことも見抜けないほど俺は間抜けじゃない。

ああ、そうだ。
俺は間抜けになった覚えも阿呆になった覚えもないッ。
だか、だから、だからこそだッ!
いくら頭で理解しようが、理屈で考えようが、恐ろしいモノは恐ろしいし怖いんだよッ!!

わざとらしく空惚けているだけで、本当は魔女どもも気付いているんじゃないか?
俺達はザンデと同じで、あえて泳がされているんじゃないかッ!?
この放送が終わった後に奴らの手駒がやってきて俺達に止めを刺しに来るんじゃないかッ!!?
そんなことはないなんて、――『ない』なんて、だれが断言できるんだッ!!

今すぐスコールを叩き起こしたいッ!
肩を掴んで大声で叫んで頬を張り倒して無理やり目を覚まさせて、この恐怖を否定してほしいッ!!
だが、だが、だがッ!!
実際に敵が襲ってきたわけでもなければ、誰かの首が吹っ飛んだわけでもないッ。
そんな状況になっているならラムザ達だって俺達を守りにくるはずだッ!
理屈で考えれば俺が思い描く最悪の未来予想図など的中するはずがないッ!!
それにも関わらず、ただ怖いからという理由で情けない醜態を晒しスコールの邪魔をすれば、アイツとて俺に見切りをつけるかもしれんッ!!

――ああ、だが、しかし、しかしッ。
サイファーはこう言っていたはずだッ。
このゲームの主催者たる魔女は『お伽噺に出てくるような悪い魔女』だと。
『理屈や常識や合理的な思考などは存在せず、精神を追い詰める嫌がらせを好む女』だとッ!!

「……た、たすけ……」

気付けば歯がカタカタと震え出し、情けないにも程がある言葉が唇から零れ落ちる。
そんな俺の醜態を聴きつけたかのように、どこからともなく"コツン"と物音が響いた。

279 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 2/11:2016/10/26(水) 23:24:06.68 ID:yKFHbb/fZ
「ッ!!」
悲鳴を飲み込む事が出来たのは、上階にラムザ達がいて、寝ているとはいえ真横にスコールがいたから。
そうだ、そうさッ、あの放送内容だッ。
仲間の誰かが様子を見に来てもおかしくはない。
コツン、コツンとゆっくりと近づいてくる。
ああ、間違いようもない、アレは何者かの足音だ。
ラムザかマッシュか20歳児か、誰にしたって仲間だろう?
まさか魔女の足音じゃないだろうッ?
仲間の誰かだ、そうだと言ってくれッ。
誰かそうだと言ってくれッ!

恐怖に心臓を鷲掴みにされている俺の心情を無視して、無遠慮にも"そいつ"はドンドンと扉を叩く。
だが同時に聞こえた声が、喉から出かかった叫びを押しこめた。
「おーい、二人とも無事か?」
マッシュだ――と気付いた時には、奴は既に扉を開けて部屋にずかずかと入ってくる。
そして驚きと安堵で呆けている俺を見つけると、嫌になるほど呑気な表情と口調で問いかけてきた。

「お、無事みたいだな。良かった。
 スコールは……寝てるのか?」

「お、おい!」
そんな迂闊に喋って魔女に聞かれたらどうするんだッ、と言いかけたが、良く見れば彼の首にはもはや何も巻かれていない。
「ああ、心配しなくても大丈夫だ。
 ついさっき、バッツ達に首輪を外してもらったからな」
「……そ、そうか」

今度こそ俺は胸を撫で下ろす。
何のことはない。先の放送なぞただのこけおどし。
魔女は未だに俺達に気付かず、後手に回っているだけ。
わかっていたことだがな――と今更口にできるほど俺は厚顔じゃあないが、ともあれ、あんなことで怯えていたのが馬鹿らしい。

「その……体は大丈夫なのか?」

出来る限り平静な表情を取り繕いながら、俺はマッシュの片腕に視線を注いだ。
例えアマちゃんの熊男でも、出自が王族なら相応の教育を受けていただろうし、
『あの』スコールが二日も三日も同行し仲間として認めるぐらいなのだから能力面は相当優秀なのだろう。
戦力としてカウントできるほど回復しているのなら多少は心強いという気持ちもある。
……が。
体調を訊ねた本当の目的は、単に話題をすり替えたかったからだ。
みっともなく部屋の隅でガタガタ震えてた理由なんざ問い詰められたくなかったし、
こいつみたいなあからさまな怪我人相手なら、急に労わるフリをしたってさほど不自然には思われないだろう。
俺の問いかけにマッシュはしばし目を瞬かせたが、すぐに笑顔を浮かべて答えた。

280 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 3/11:2016/10/26(水) 23:25:17.16 ID:yKFHbb/fZ
「ん? ああ。
 確かにでっかい地震だったけど、天井や床が崩れたりしたわけじゃないからな。
 この通り五体満足ピンピンしてるぜ!」

自虐か? ブラックジョークか? それとも新手の皮肉か?
良く言えば豪快、悪く言えば能天気に笑うマッシュを見ながら俺はどう反応すればいいのか思案する。
マッシュは右肩を上げ――恐らくだが頭を掻こうとしたのだろう――、我に返ったように言葉を濁した。

「あっ、……と、その、……四体満足、だな」
「……そうか」

どうやら自分の身体状態を失念していただけらしい。
馬鹿馬鹿しい話だが、だからといってこの男がとびきりの阿呆だとは思わない。
俺だって"そういうことがある"というのは知っている。
足を無くした奴が歩こうとしてベッドから転げ落ちたり、切り飛ばされた方の腕で反射的に盾を構えようとしたり――
五体があって当然だと頭がいつまでも信じ込んでいるせいで、幻の腕や足がそこにあるように感じ続けるってヤツだ。
いくばくかの憐れみは覚えるが、俺だって片目を無くしているのだし、他人を慮れるほど余裕があるわけじゃない。

「とりあえず今すぐ死ぬってワケじゃなければ、それで十分だ。
 どこかでエリクサーでも調達できれば、……まあ、さすがに腕やら眼やらは生やせないだろうが、
 戦える程度には復帰できるかもしれないしな」

気休めを口にしながら、俺は城のバルコニーに置いてあったふざけたメモを思い出した。
もちろん常識で考えれば殺し合いの会場なんぞにエリクサークラスの高級回復薬なんざあるとは思えない、が……
性根の腐り切った魔女に趣味の悪い手下どものことだ。
緑髪の方の『化物』やセフィロスのような生まれついての殺人者に向けて、ポーションやらハイポーションやらを仕込んでいてもおかしくはない。
マッシュは複雑な表情を浮かべながら、「まあ……そうだよな」とザックから小瓶を取り出した。
この薄暗さでもやけに目を引く、特徴的な色合いの液体がちゃぷんと揺れる。
瓶自体のデザインはともかく、中身に関してはどこかで見たような気をする。
そう、あれは確か……侯爵様お抱えの商人が薬を売り込みに来た時。
フィナス河のモルボルグレイトから作ったとかいう触れこみで持ってきた――

「……おい。待て。ちょっと待て。
 貴様、『何』を持ってるんだ?」
「エリクサー。
 ラムザがくれたんだけど、こういう貴重品って使いどころに悩むよなって」

エリクサー。
ラムザがくれた。
頭の中でマッシュの言葉を反芻してみても呑み下せるはずがなく。
『は』と『?』が増殖し、頭の中を埋め尽くす。
いや、良く考えたらスコールも夢で言っていなかったか?
ティーダのバカに持たせて送れるか送れないかだとか……
バカに言いがかりをつけられて頭に血が上っていたから話半分にも聞いていなかったが、
物の例えか何かではなく、まさか本当にエリクサーを持っていただとッ?

281 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 4/11:2016/10/26(水) 23:26:19.10 ID:yKFHbb/fZ
「は……はあああああああああああああああああッ!!??
 なんでそんなもの都合よくあのアマちゃんが持ってッ、いやそれ以前に何で飲まないんだッ!?
 後生大事に取ってたって死んだら薬なんざ飲めないんだぞッ!!
 アンデッドならともかく、あるなら使えよッ!! それとも俺にくれるってのかッ!!」
「お、落ち着けって。
 今までは使えなかったし、今使う意味は……」
「あるだろッ!!
 青息吐息の怪我人が戦力に数えられるとでも思ってるのかッ?!
 それともお前は俺が白魔導師に見えるのかッ!!
 だいたい今まで使えなかったってどういう言い訳だッ!!
 急にどこからともなくエリクサーが湧いて出たとでもいうつもりかッ!?」
「あー、うん、お前の言い分はわかる。
 わかるから、落ち着いてこっちの話も聞いてくれって。
 こっちも考えなしで飲んでないわけじゃないんだからさ」

本当かよ?
仮にも王族の自分より、生意気なガキの命を優先したがるようなアマちゃんの事だ。
『いつかどこかで死にぞこないが出た時の為に取っておく』ぐらいの浅い考えじゃないのか?
――そう疑りたくなったが、まあ、相手は一応政に携わる立場の人間でしかも年長者だ。
話だけは聞いてやるか。

「フン、そこまで言うからには大層な理由があるんだろうなッ」
「大層ってほどじゃねえけど……」
頬を掻きながらマッシュは言葉を紡ぐ。

曰く、エリクサーはラムザだけでなくリルムも最初から持っていた。
だがあのクソ忌々しい『化物』が"他人に強奪されないように、本当に助けるべき人に使えるように"と口止めをしていたという。
そして初めスコール達の態度や対応が気に入らなかったあのガキは、ご丁寧に『化物』の言いつけを守っていたわけだ。
それにしたって重傷を負った知人を前に薬を使わないと言うのはおかしな話だが……
マッシュの性格からして、リルムに心配を掛けまいと元気なフリをしていたのかもしれない。
あるいはリルム自身が無駄に高度な回復魔法を使えるようだから、エリクサーの事は黙って回復魔法で手当てをしたのか。
ともあれ、結果としてエリクサーの存在が明るみに出たのは首輪の解除方法が判明した後となってしまった。
そうなるとマッシュの身を案じるスコールとしては、逆にエリクサーを使いにくくなる。
何故なら首輪を外せばその人物は死んだと主催者側に伝わる――
――裏を返せば、"死んで当然の状況でなければ首輪を外せない"のだ。
どうせ命に別状がないところまで持ち直しているなら、万全の体調になるよりも半死半生のままでいた方が都合がいい。
だからラムザの合流でエリクサーが増えても今の今まではマッシュには使えなかった、という理屈。

……なるほど、と全面的に頷く事は出来ないが、段階を踏んで説明されれば多少は理解できる。
少なくともスコールの判断に関してはケチをつける気はない。
それ以外の奴らの行動についてはあまり――いいや、かなり納得できんがなッ。
特にリルムと『化物』ッ!! 適当なところでさっさとくたばってしまえッ!!

282 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 5/11:2016/10/26(水) 23:27:36.38 ID:yKFHbb/fZ
「話はわかった。
 で、なんで今飲まないんだ?」
「だって、俺が『今』使う意味ってあるか?
 お前も言ってたけどエリクサーじゃ無くした腕は生やせないし、体力回復するだけなら時間をかけて休めばカバーできるしさ。
 それに殺し合いに乗った奴らが襲撃に来たって、俺達は出ていっちゃいけないんだろ?
 主催者側が直接乗り込んで来たなら話は別だけど……なんか、そんな様子もないしなぁ」

それなら上の奴らに突っ返してくればいいだろう――と口走りそうになったが、寸前で踏み止まる。
よくよく考えてみれば、『俺の手が届く場所に貴重な完全回復薬がある』というのは必ずしも悪い事ではない。
もちろん俺だってエリクサーに頼らなければならない事態なんぞ避けるつもりではあるが、何が起こるかわからないのがこの殺し合いだ。
有事の際の命綱としては、この薬以上に心強いものもない。
……ない、のだが。

「逆に、ラムザ達は入口を守ってくれたり首輪を外したりしてるから、エリクサーが必要になるかもしれない。
 いくらもう一個あるったって、もしもの時に一個で足りるかどうかわからないだろ?
 だからこれは預かるだけにしておこうと思ってな。
 多分ラムザもお前と同じこと考えたんだろうけど、そこは気持ちだけで十分ってヤツだ」
「ああそうかよ。なら勝手にしろッ」

俺は顔を背けながら吐き捨てた。
エリクサーがあるのはいいが、どいつもこいつも嫌になるほど世間知らずのお人よしばかり。
いくら殺し合いの最中といえど、どうして『自分の代わりになる者などいない』という発想に辿り着かない?
己の身を危険に晒して他人を助ける事は何よりも優先されるべき美徳だとでもいうのか?

ふざけるなッ。
死んだら終わりだ、死んだら終わりなんだぞッ!?

確かに俺は幸運にも、そして不幸にもこんな二度目の生を手に入れたがな?
遠い異世界に住まう邪悪な魔女が戯れに甦らせてくれるなんてこと、普通は有り得ないんだよッ!!
俺も三度目はないだろうッ!! だから死にたくないんだッ!!
俺にだって生きてやりたいことが当然あるッ、それ以上に生きてやらなきゃいけないことがあるッ!!
そんなの、他の奴らだって同じじゃないのかッ!?
王族だの英雄だの勇者だの、どいつもこいつも俺よりずっと強くて俺より高い立場にいやがるくせにッ!!
生きて何かを為すべき奴が守る価値も無い屑女やら殺人鬼やらを庇って死ぬ、そのどこが美徳だッ!!
自己満足ですらない欺瞞そのものだろうがッ!!

そうさ。
手段など選ばず生き足掻く事だけが、この状況におけるただ一つの正義ッ!!
俺は間違ってないッ!! 絶対に俺は――

「……悪かったな」

くしゃっ、と頭を撫でられる感触がした。
顔を上げてみれば、マッシュが妙な微笑みを浮かべている。

283 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 6/11:2016/10/26(水) 23:30:46.72 ID:yKFHbb/fZ
「何してるんだッ!」
小馬鹿にしているのかと、俺は頭上の手をひっぱたく。
遠縁の親戚にされたって不愉快に感じることを、全くの他人にされて嬉しいわけがない。
「いや、怒らせたかと思ってさ」
全く悪びれずに言っているから性質が悪い。
「怒り心頭なのは正解だがなッ!!
 人を拗ねた三歳児扱いするなッ!!
 そういうのは上にいるガキ相手だけにしておけッ!!」
「わかったわかった」
そう言いつつもマッシュは頭を下げるわけでもなく、「はっはっは」と笑うばかり。
何でこんな奴がスコールと一緒にいるんだか……
――いや、こいつが一方的についてきただけかもしれないな。
未だに信じがたいがスコールも俺と同年代らしいし、若い奴を一人で放っておけないとでも思ったんだろう、きっと。
その結果お荷物になってりゃ世話が無いがなッ。

「スコールも大変だなッ、まったく」
頬杖をついて呟いた、その時だった。

「う……うう、ん」

当のスコールが目をこすりながら起きあがる。
俺が騒ぎすぎたせいで眠りを妨げてしまったのか?
一瞬冷や汗が背筋を伝ったが、スコールは躊躇う様子もなく立ち上がり、即座に周囲を見回した。

「……異変は……特になしか。
 マッシュも無事のようだな」
「おう! 地震やら放送やらがあった時はビビったけどな」
「地震……放送だと?」

マッシュの返答にスコールは眉をひそめる。
そりゃそうだ。今の今まで寝てたってのにまさか主催者から放送があったなんてわかるはずがない。

「もうそんな時間なのか?」
「いいや全然ッ。夜明けまであと五時間はあるぜ。
 内容もいつもの死人カウントじゃなくて、死人が出ないってんで焦って脅しにきただけだった。
 怯えて損したぜ、まったくッ」
「脅し……」

時計を確かめながら答えると、釈然としない様子でスコールは顎に手を当て考え込む。
まあこんなキリが悪い時間にわざわざ放送を流すなんて不自然ではあるし、疑ってかかるのは当然か。

284 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 7/11:2016/10/26(水) 23:31:43.68 ID:yKFHbb/fZ
「変なタイミングだし怪しいのは確かだけど、考えてわかるような事じゃないからなあ。
 ラムザ達もピンピンしてるし、俺達もこの通り無事なんだ。
 向こうも焦っちゃいるけど、俺達の動向にはまだ気付いてないって事だけ押さえておけばいいんじゃないか?」

こっちはこっちで能天気に構えやがって。
だが腹立たしい事に、考えてわかる事じゃないってのは正鵠を射てやがる。
スコールも俺と同じ感想を抱いたのか、「そう、だな」と歯切れ悪く呟いた。

「それよりそっちはどうなんだ?
 ザンデって奴、信用できそうなのか?」
「……まあな。とりあえず、アルティミシア側の内通者という線は切って良さそうだ。
 あの手の、オダイン並みに独自の世界に生きている男、……いくら魔女でもそうそう洗脳できるとは思えない」

オダインって誰だよ、と思ったが、恐らく後半はほとんど独り言のつもりで口走ったのだろう。
あんな邪悪で怪しい手合いが元の世界での知り合いにもいるというのなら、心底同情するね、全く。

「それより、アルガス……と、マッシュ。
 悪いが、もう少し起きていてもらってもいいか?」
「ん? 俺は別に構わないけど……」

スコールの言葉に、マッシュが俺の方をちらりと見やる。
こんなアマちゃんに気遣われる謂れはないと啖呵を切れれば良かったが……
そろそろ堪忍袋とストレスが限界に達しつつあるし、出来る事なら夢の世界でくつろぎたいというのが本音だ。

「まだザンデのヤツと話す事があるのかッ?
 ヤツが魔女の手下でないのなら、俺とて同席して尋ねたいことがあるんだがなッ」
眠らせてもらえないかと適当な建前をぶち上げてみたが、スコールの返答は芳しくない。
「いや、ザンデともまた話すつもりだが……俺達は無事でも、サイファー達の方で何かあったかもしれないだろ?
 何もなかったとしても俺達の安否を確かめようとするだろうし、……そうなると」
「あ、いい、わかった。それ以上言うな」

スコールの言い分を察した俺は、奴の言葉を遮って首を横に振る。
リュックや、百歩譲ってサイファーまでならまだ我慢もできるが……
あの『化物』が夢世界に来るかもしれないなら、起きていた方が数百倍マシだ。

「ザンデも起きてしまったから今すぐ話すのは無理だが、一時間後にまた接触すると約束してくれている。
 質問があるなら俺が代わりに聞いておくが」
「あ、ああ、そうか」
まさか口から出まかせだとも言えず、俺は即興でザンデに聞くべき事とやらを考える。

「その、アレだ。
 ロザリーが魔女から見逃されて生きている理由だとか……
 あの『化物』を『化物』でなくす都合のいい方法はないのか、とかだ」
「「………」」

285 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 8/11:2016/10/26(水) 23:34:20.98 ID:yKFHbb/fZ
俺の言葉に、スコールとマッシュはどういうわけか二人揃って目を瞬かせる。

「なんだよ、その態度はッ」
そんなに不自然な内容だったろうか。
内心の動揺を隠すべくふてくされた態度を装う俺に、スコールは眉をひそめながら首を傾げる。
「いや、その、……ロザリーはともかく、あんたが"それ"を聞くのか?」
「そりゃ聞くさッ。
 あんな危険な輩を生かしておくなんざ全くもって正気の沙汰じゃないってのに、お前はヤツを殺す気がないんだろうッ?
 それならせめて、無力化なり何なりする手段がないか探っておくべきだろうがッ」
「ああ……なるほど、そういう話か」
「他にどういう話だと思ったんだッ?
 まさかあのうるさく噛みついてくるだけの、恋人とやらの変貌一つ見抜けずに死にぞこなったバカ男に絆されたとでも?」
「そういうタイプじゃないと思ったから驚いたんだ。
 ……そういう理由なら、『アイツ』が夢世界に来ていたらザンデに診せておく。
 どうせ頼むまでもなく勝手に診るだろうが……、……期待はするなよ」

解析までは出来るだろうが、『化物』を無力化する方法が見つかるとは限らないってことだろう。
俺だって馬鹿じゃない、そんな楽観的思考など抱くかよッ。
――だがまあ、俺の真意こそ測れずとも建前上の主張を汲んでくれているのだから、文句をつけるのは筋違いだな。
余計なお喋りは控え、俺は「わかったわかった」と頷き返す。
安堵したのか疲れていたのか、スコールは小さく息を吐くと、「何かあったら起こしてくれ」と言って横になった。
だがすぐに思い出したかのように顔を上げ、マッシュを見やる。

「そう言えば……あんた、エリクサーは飲んだのか?」
「一応貰ったし、アルガスにも聞かれたけどな。
 皆に手当てしてもらったおかげで血もすっかり止まったし、痛みも落ち着いてるから、取っておこうと思うんだ」
「……、……まあ、あんたの身体の事だから、あんたが良いならそれでもいいが。
 …………あまり変な事はしないで、きちんと休んでくれ」

そんなことを言うならマッシュの奴も眠らせればいいだろうに。
スコールらしからぬ矛盾した言動だが、まさか俺一人で起きていてほしくないのだろうか。
ふざけるなッ。
そりゃ確かにエリクサーは欲しいが、仮にも協力者の懐から、逃げ場もないってのにいちいち盗んだりするかよッ!

「そこまで心配するならこいつも寝かせれば良いだろうッ。
 その熊男は俺と違ってあの『化物』に狙われてるわけじゃないんだろうッ?」
「……平気なのか?」
「何がだよッ」
「あんた、さっき定時放送を待ってる時に、現実の世界だと落ち着かないとか……
 話し相手がいないと辛いだとか、散々文句を言っていたじゃないか」

……。
……あ。

286 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 9/11:2016/10/26(水) 23:39:35.47 ID:yKFHbb/fZ
「マッシュなら俺よりはマシな話し相手になるだろうし、あんたも少しは気が楽になるんじゃないかと思ったんだが。
 それにティーダも少しは冷静になってきたとはいえ、"アイツ"の容態次第ではまた取り乱すかもしれないし……
 だいたい"アイツ"とティーダをセットで引き合わせるのも、……………いや、なんでもない」

脂汗が背中をじっとりと濡らす。
なんてことはない、俺の邪推は完全なる的外れ。
スコールはあくまでこちらの心情を気遣いつつ、恐らくはマッシュとティーダとあの『化物』が顔を合わせてエドガー関連の地雷が再発動するのを避けようとしていただけ。
彼らしい遠謀深慮に基づいた采配を、俺は浅薄な考えで誤解した上あわや言いがかりをつけようとしたわけだ。

「……」

まずい。
弁解の言葉が見つからない。
スコールも機嫌を損ねたのか目を背けて押し黙っているし、早く謝らないと……
だがなんて言えばいいんだッ? "ごめん"とか"すまない"で許されるのかッ?
まずい、まずい、まずいまずいまずいッ……

「はっはっは、そんないちいち深刻に構えるなって!」

どん、と背中に衝撃が走る。
我に返って振り向いて見れば、マッシュの奴が無神経にも俺達を笑い飛ばしていた。

「今まで散々寝てたんだ、万全とはいかないが体力も気力も十分戻ってきてる。
 それに俺だって自分の身体をいじめる趣味はないからな。
 釘を刺されるまでもなく、しっかり休むさ」
「……本当か?
 リハビリのつもりで片腕立て伏せ千回とかやらないだろうな?」

そんなことをやる馬鹿がこの世にいてたまるか。
真顔で問うスコールに対しマッシュも俺と同じ感想を抱いたのだろう、苦笑しながら肩を竦めて首を横に振る。
そして「いきなり千回はなぁ。半分なら……」と呟きかけたが、スコールと俺の表情に気付いたのか慌てて訂正した。
「あー、いや、やらない。やらないから安心しろって。
 やるとしたら瞑想とか、チャクラを開いて気を練る練習程度にしとくよ。
 俺、外気功で人を治療するのは得意だけど内気功で自分を治すのはてんでダメだからな。
 ちょうどいい修行の機会だ」

結局修行はする気なのかよ。
それにこいつ、モンクのくせに自分の治療ができないのか?
そりゃスコールもいちいち心配するはずだ。
呆れながらも、俺はどうにか喉の奥と頭の中からスコールへの詫びを絞り出す。

287 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 10/11:2016/10/26(水) 23:40:36.33 ID:yKFHbb/fZ
「あー、……その、スコール。悪かった。
 厄介事が続いた上に空気読まない死にぞこないと喧嘩っ早い馬鹿の世話で、さすがのお前も手一杯だろうと……
 だからこそ、お前が余計な心労を背負い込まないようにすべきだとばかり考えていたんだ。
 それにまさか俺にまで気を遣ってくれるとは思っていなかったしな」

言い訳こそ嘘で塗り固めたが、悪いことをしたという気持ちは紛れもない事実だ。
いくらスコールがただのアマちゃんでないといえ、謝罪は謝罪として受け入れてくれるだろう。
いや、受け入れてくれないと困る。
スコールに見放されたら俺はほぼ完全に詰むんだ。
頼む。
頼むから俺の考えや本心など見抜いてくれるなッ。
珍しく頭を下げて謝ったんだッ。頼む、頼むから……ッ。

「……そうか。
 こちらこそ気を遣わせて悪かった」

目を伏せながら答えるスコール、その口から紡がれた言葉に、俺は心底ほっとした。
それから、今後は下手な勘繰りやら無駄口叩きやらで墓穴を掘らないようにしようと決意する。
ついでに名誉挽回の機会があればそれなりに全力で挑もうと――

「重ね重ねすまないが、アルガスに頼みがあるんだが」
「何だ? 俺に出来る事なら何でもやるが」

思ったそばから当の機会がやってきた。
出来るだけ簡単な頼みごとであることを祈りながら、俺はスコールの言葉に食らいつく。

「夢世界に戻ったら攻略本をこちらに戻すから、強い魔力を持つ道具をリストアップしてほしい。
 特に魔力を増幅するとか、旅の扉や特定の人物を見つけるとか、そういう道具は目立つよう印をつけておいてくれ。
 可能であれば、ラムザ達も含めた俺達全員の持ち物に該当する道具があるかどうか調べておいてくれると有難いが……」
「そんな事か。任せておけッ!」

攻略本を使っていいなら楽勝だ。
それに旅の扉を探す道具なら俺自身が持っているしな。

「あと……ラムザ達にリルムの首輪を外す準備を進めるよう伝言してほしい。
 ……ザンデが立てている脱出計画を進めるためには、やはり魔導師の補佐が必要だそうだ」
「あのガキをか?
 ……まあマトモな魔導師なんざハナからいないし、仕方ないか」

288 :やけにならずに落ち着いて行動しましょう 11/11:2016/10/26(水) 23:44:34.99 ID:yKFHbb/fZ
俺としては、セフィロスに対抗できそうな能力を持つリルムを前線から外すのはあまり賛成できない。
だが俺とマッシュと20歳児とラムザが魔導師として役に立つかと問われれば、リルムを差し出すのが一番マシだという結論に達するのもわかる。
それにセフィロスがここに辿り着くより早く脱出方法を確立できれば、奴をこの世界に置き去りにすることも出来るだろう。
あの恐ろしい銀髪鬼が時間切れによる首輪爆破で勝手に死んでくれるなら、こんなに楽な話もない。

「ザンデともう一度会って、情報を交換し終わったらまた起きる。
 ……確か、夜明けまで残り五時間弱だったな?」
「ああ」
「それなら、一時間……今から二時間後には話を終わらせて起きるようにする。
 特に進展や事件がなければ、残り三時間は俺が見張りをするからあんた達二人で眠ってくれ」

「わかった」、と俺達がうなずくと、スコールは安心したのか僅かに表情を和らげた。
そして眼を閉じ、スリプルを自分自身にかけて眠る。
それから一分も経たないうちに奴の手元が青く輝き、攻略本が実体化する。

「別に寝なくても、もう眠気なんかすっかり吹っ飛んじまったんだけどなー……
 どうせなら何か進展があれば良いよな」

マッシュがぽつりと呟く。
俺もその考えには多少頷けないでもなかったが、あえて何も答えず、攻略本の頁をぱらぱらと手繰った。


【マッシュ(HP1/8、右腕欠損)
 所持品:エリクサー】
 第一行動方針:とりあえず休む
 最終行動方針:ゲームを止める】
【アルガス(左目失明、首輪解除)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:周囲を見張る/魔力を持つ道具の調査と情報整理
 第二行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【スコール (微度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除、睡眠中)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング、ウネの鍵、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)
 第一行動方針:夢世界で情報収集と作戦会議を進める
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/4)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾
 ミスリルシールド、スタングレネード×1、エクスカリパー、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、黒マテリア
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:首輪解除及び脱出に協力する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】

289 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/10/27(木) 23:10:46.70 ID:yxpCRsJgV
久々に投下乙!

ビビりなアルガスは見てて楽しい
マッシュがいい奴ですげー癒される

あと細かいことですまんがマッシュのステータスから「首輪解除」が抜けてるよ

290 :278-288:2016/10/28(金) 15:23:08.23 ID:xRYMp2v9k
>289
感想と指摘ありがとうございます。

>288のステータスを一部修正します。
【マッシュ(HP1/8、右腕欠損、首輪解除)
 所持品:エリクサー】
 第一行動方針:とりあえず休む
 最終行動方針:ゲームを止める】

291 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/10/28(金) 20:22:36.81 ID:HRD7tQkeR
新作乙です!
何だろう、めっちゃうざいアルガス独り語りの中に
マッシュとスコール各々のよさが浮き彫りになってるという不思議

マッシュのおおらかさと落ちついた明るさはほんと癒し
ずっとしんどそうだったから久し振りに明るいマッシュが読めて嬉しい
腕がないのを忘れてるとか、アルガスの頭をよしよしとか、普通に修行しようとしてるのとか
割とすさまじいナチュラルボケっぷりだが、これもらしいといえばマッシュらしいw

アルガスにはもう少し冷静なつっこみ力を磨いてほしい所だ
相も変わらず嫌な奴だけどスコールに仕事頼まれていそいそしてるの笑った

南東組はよそみたいに劇的な活動はない代わりに脱出計画が着々と進んでるのな
条件が揃ったらここから一気に動きそう

あと
>天井や床が崩れたりしたわけじゃないからな
これツェンの子供救出イベント思い出した...

292 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2016/12/04(日) 23:51:24.56 ID:IpHicyjJw
保守

293 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/01/03(火) 14:48:18.32 ID:cDn7j34sH
あけおめ保守

294 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/01/03(火) 21:10:31.36 ID:tMGToyFlh
あけおめ!

295 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/02/04(土) 20:59:18.12 ID:y8uTDUGLs
保守

296 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/02/04(土) 20:59:44.13 ID:y8uTDUGLs
sage忘れたすまぬ

297 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/03/03(金) 00:59:51.47 ID:wVhmFIYeL
ほしゅ

298 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/04/02(日) 16:19:27.73 ID:7ZYzqhmlT
保守

299 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/05/02(火) 01:04:45.59 ID:gJlTBk2h7
ほしゅ

300 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/05/24(水) 20:52:25.16 ID:3blZehkvw
待ってます

301 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/06/19(月) 00:50:41.57 ID:gMoPmcQUx
ほしゅ

302 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/07/10(月) 23:32:01.86 ID:DDi2xQk2d
保守

303 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/08/06(日) 01:22:33.98 ID:m3xPtqs5b
ほしゅ

304 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/08/25(金) 16:33:01.30 ID:EoXgkN0Ec
まだ存在してたことにビックリ・・・
昔ガラケーで夢中になって読んでた

305 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/08/26(土) 17:22:47.71 ID:0LJt/zx4q
続き書いていってもええんやで(にっこり)

306 :君のためにできること 1/16:2017/08/30(水) 23:41:01.57 ID:UqaIZde2j
「何があったんスかね……」

俺は手元に残された小さな鍵を見つめながら呟く。
ザンデとスコールはもういない。
二人とも、少し前に『大きな揺れを感じた』と言って夢の世界から出て行ってしまった。
残っているのは俺とウネだけだ。

「さて、二人が即死するような事が起きなかったのだけは確かだけどねぇ。
 同時に地震が起こるなんておかしいし、さすがにあの魔女が何かしたんだろうさ」

不穏な事を言っているけれど、彼女の表情はやたらとのんびりしている。
なんかザンデとは長い付き合いみたいだし、そう簡単には死なないだろうと信じているんだろうか?
そんな俺の推測を裏付けるように、ウネはオウムの羽を撫でながらにんまりと笑った。

「だけどまあ、あの二人なら多少のことは難なく切り抜けるだろうさ。
 何せノアの手を何度も焼かせた無駄に行動力のある"あの"ザンデと、
 ノアの弟子でも導き出せなかった答えに辿り着いた"あの"スコールだからね!」

カラカラと小気味よく笑い飛ばすウネの言葉通り、確かにあの二人ならなんとかしそうだという印象はある。
けれど『印象』でどうにかなるほど、この殺し合いは生温くないはずだ。
それに――

「そうは言ってもさぁ……
 確かにザンデのオッサンは死んでも死ななそうだけど、スコールの方は大変じゃないか?
 アルガスとかいるんだしさ」

城門前で出会ったあいつの姿を思い返しながら、俺はため息交じりの愚痴をこぼした。
夢の世界ではピンピンしていたけど、現実世界のアルガスは片目を怪我していた記憶がある。
おまけにやたら喧嘩腰のくせに隙だらけだし、一言も二言も多いし、挙動不審だし、性格悪いし……
はっきり言って、スコールの足を全力で引っ張りそうな気がする。

「ああ、そういえばあの子も一緒にいたんだっけねぇ。
 でもアルガスも妙な悪運の強さと頭の良さがあるし、スコールについては相当に信頼を置いてるようだからね。
 ああいう手合いは急場ほど上手くやるもんだよ」
「そんなもんスかね……?」

俺はそこまでアルガスのこと信用できないけど、だからといってウネに文句をつけても仕方がない。
釈然としない気持ちをぐぐっと喉の奥まで押しこめて、代わりにため息を吐き出した。
……だけど。
スコールもだけれど、アービンやリュックは無事なんだろうか。
それにリルムも、プサンのオッサンもギードもロザリーも――

307 :君のためにできること 2/16:2017/08/30(水) 23:42:52.80 ID:UqaIZde2j
「それより、あたしゃあんたの方が心配だよ」

頭を抱える俺を余所に、ウネがぼやいた。
しわだらけの瞼にも隠れない大きな眼に映っているのは辺りの風景だ。

青い空。白い雲。
どこまでも透き通り、陽光を受けてきらめく海。

――と、これだけならウネも何も言わないんだろうけど。

ビサイドの自然を台無しにする、海上を横切るザナルカンド風のハイウェイ。
そこをチョコボと、どっかで見たような軽トラックと、何故かトンベリの人形を乗っけたでっかいギードが爆走してる。
高架橋は高架橋で、『オオアカ屋よろしく』とか『暴れん坊ゼル参上』とか『りるむさまはすごいんだぞ』とか、
変な棒人間達やら金ぴかドラゴンやらの落書きで埋め尽くされてる。
そして空にはファーレンハイトっぽい飛空艇と赤い竜みたいな飛空艇がぐるぐる回って飛んでいる。
陸側は陸側で、何故かサスーン城と見覚えのある映画館が描かれた書き割りが並んでる。
一言で言うならカオス。
二言にすれば、めちゃくちゃカオス。
でもスコールから『夢の鍵』を受け取ったあとにこんな風景になったんだから、きっとこれは俺の夢なんだろう。
……あんまり認めたくないけどな。認めたくないけどな!!

「あんたは良い子みたいだし、過去も今も、友達も恋人も仲間も、全部心配だって気持ちはわかるよ。
 大事な思い出がたくさんあるのも、大切な人がたくさんいるのも良いことさね。
 良いことなんだけど……これはさすがに、優先順位ってやつを考えた方がいいんじゃないかねえ。
 召喚獣だって人間だって、クリスタルの戦士でさえも決して万能なんかじゃないんだ。
 なんでもかんでも見境なしに助けよう守ろうって頑張ってたら、本当に大切な人を取り零しちまうよ?」

ウネの言葉が胸にぐさぐさ突き刺さる。
言い訳すら思いつかない。
それでなくたって、本当に大切なハズのユウナを構おうとしなかった結果が今の俺なワケだし。
でも……ユウナとアービンと、リュックやリルム達とスコール達と、他の皆とで順番をつけるなんて……
……なぁ?

そりゃもちろん、何も無ければユウナが一番大事だって胸張って言える。
さっさと【闇】を追っ払って正気に戻してやりたいし、後悔やら何やらで苦しむだろうから少しでも傍で支えてやりたい。
けど、アービンを助けたいってのも本当だ。
無理言って一緒に来てもらったり、何度も助けてもらった恩を全然返せてないってのもあるけどさ。
だけどそれ以上に、やっぱりアイツは友達なんだ。
"泣いて苦しんでる友達を見捨てる俺"が、ユウナが好きになった"俺"なのか?

――……それは、違うだろ?

308 :君のためにできること 3/16:2017/08/30(水) 23:45:02.52 ID:UqaIZde2j
それにリュックやリルムだって、確かに今は元気みたいだったけど、この先何があるかわからない。
みんなが大怪我するような事があったら嫌だし、そんなことが起きたらやっぱり絶対助けたい。
で、それを言うなら魔女の城に特攻するなんて考えてるスコールが一番危険じゃないかってことになるワケで。
他にもザンデが生きてる事を知ってるロザリーや、スコールとは別に脱出方法考えてるギードだって重要人物だし。
でもやっぱりユウナがおかしくなったままなのは嫌っつーか、絶対、絶対元に戻してやりたい!!
……けど、今のアービン放っておくなんて無理だし……

「やれやれ、頭から煙出すほど考え込むことかねえ。
 ま、アルガスよりかは可愛げがあるけどね」

ポカリ! と音がして、同時に頭に軽い痛みが走る。
我に返った俺を横目で見やりながら、ウネは杖をくるりと回し、大げさな身振りで肩を竦めた。

「ほらほら、お客さんが来たようだよ。
 答えを出すのは宿題ってことにして、早く入れておやりな」
「え?」

指し示された方へ振り向くと、そこにはアルベドのホームで見かけた扉が一つ。
「えーと……リュック?」
おずおずと声を掛けてみると、予想通りの人物が弾丸のような勢いで飛び出してきた。
「わー! ティーダ、おひさ〜〜!」
ぴょいんぴょいんと文字通り飛び跳ねながら俺の手を握る彼女は、紛れもなく、間違いようもなくリュックだ。
でも――アービンに召喚されてチラ見した時にも思ったんだけど、なんかすっげぇ大人っぽくなってる。
身長も少し伸びてるような気がするし、髪はもうカツラでも被ってんのかってぐらいすっげー大増量してるし。
ユウナほどじゃないけど、かなり印象違うっつーか。
……三年って長いんだなって、改めて実感させられた。

「んん? どったの、ティーダ?
 もしかして……あたしに見とれてる?」
「いや、なんか、雰囲気変わったなぁって」
「そっかなー?
 いつものカッコに比べたら、このドレスって昔のあたしの服に近いと思うケド?」

喋りながらリュックは着ている服の裾をつまみ上げた、
白を基調としたカラーリングに金色の鳥を模したエンブレムがワンポイントについたデザイン。
俺が知ってるリュックの服はオレンジ一色だったから、彩りが増えた分派手に見えるんだろうか。
つーか、これより昔の服に似てない『いつものカッコ』ってどんなんだ?
気になって聞いてみると、

「いつもは水着の上にショートパンツ履いてアイテムベルト着けてるんだー。
 動きやすいしそのまんま泳げるし、すっごい便利だよ!
 しかもドレスフィアに記憶させたから、いつでもどこでも早着替えできるし!
 シーフの力も合わさって、まさにサイキョーってカンジ!」

………。
えーと、とりあえず露出度が上がったらしいってことはわかった。
普段着のまま泳ぐとかじゃなくて水着を普段着にすんのか? とか、
服を記憶できるドレスフィアっていったいぜんたい何なんだ? とか、色々ツッコミどころはあるけど。
アルベド族の恰好が変っていうか妙なのは、今に始まったことじゃないしな。

309 :君のためにできること 4/16:2017/08/30(水) 23:46:26.21 ID:UqaIZde2j
「それよりさぁ、スコールはどしたの?
 あとなんかすっごいコトになってるけど、これってティーダの夢の世界なの?
 それとそこのお婆さんは……ティーダの知り合い?」

緊張感なんて欠片もなく、きょろきょろと周囲を見回しながらリュックが尋ねてくる。
こりゃスコール達の危惧も考えすぎっつーか、無駄足踏んだだけっぽいなぁと思いながら、俺は後ろ髪を掻きつつ答えた。

「スコールはザンデのオッサンと一緒に、なんか揺れた気がするってんで飛び起きたッス。
 んでそん時に、もし魔女が何か仕掛けてきてたら大変だってんで、俺に夢の鍵を預けてったんだ。
 だから……あんま認めたくないけど、このヘンテコ世界は俺の夢ってことになるんだと思う。
 で、この人はウネっていって、この鍵を作った人で、ザンデのオッサンの知り合いらしいッス」
「あの人の? へー!」
「おや、あんたもザンデと会ってたのかい?
 変な真似はされなかったかね?
 あいつは昔っから研究馬鹿すぎて、年頃の"れでぃ"ってヤツの扱いをこれっぽっちも弁えてないからねえ」
「とんでもない! 変な真似どころか、レナを助けてくれたんだよ!
 何回あんがとって言っても足んないよ!」

あの偏屈そうなオッサンが人助けを――? って一瞬思ったけど。
良く考えたら、森の中でアービン達が傷ついて倒れてた時も治療を手伝ってくれてたっけ。

「自分から人助けするなんて、あいつがそんな殊勝な真似を……?
 あたしが近くにいない方が真面目にやるのかねぇ?」

俺が何となく納得する傍らでウネが首を傾げる。
ハッスルばあちゃんとライブラ狂の二人がどういう付き合いなのか、イマイチ良くわからないけれど……
さっきの言い争いやコメントを聞いた限りじゃあ、過去に相当ザンデのオッサンに迷惑をかけられたことがあるみたいだ。
だけど下手につついたらメチャクチャ長い愚痴をこぼされそうな感じだし、話を振るのは止めておく。

「ところでさー……」

リュックも俺と同じことを思ったのかどうか、急に話を打ち切って何かを訊ねようとした。
だけどその先の言葉が出てくる前に、俺達三人のど真ん中に青い扉がドーンと現れる。
「ひぇっ!?」
さすがにリュックは大慌てで、ぺたんと尻餅をついてからものすごい勢いで後ずさったけど。
俺とウネはいい加減に慣れたから動じない。

「おやおや、お早いお帰りだね、スコール!
 そっちも何も無かったのかね?」
「ああ」

ウネの問いかけに、扉をくぐって出てきたスコールは相変わらずの無表情で答えた。

310 :君のためにできること 5/16:2017/08/30(水) 23:47:58.03 ID:UqaIZde2j
「どうやら、死傷者が出ない事で魔女側が焦って扇動放送を仕掛けてきたらしいが……
 アルガスは無事だし、マッシュも首輪を外せた。
 ラムザ達が騒いでいる様子もなかったからな。
 ……本当にただのこけおどしのようだ」
「でしょー! でしょでしょ!
 聴く価値ナシ! ってあたしの判断、正しかったでしょ!」

『ドヤァ』って音が聞こえてきそうな表情を浮かべながら胸を張るリュック。
その横でスコールが「……一応放送なんだから聴いておけ」と呆れたように呟く。
けれど当然と言うべきかやっぱりと言うべきか、リュックは苦言に気付いた素振りもなくきょろきょろと辺りを見回した。

「どうかしたんスか? まさかアルガスでも探してるとか?」

俺はスコールに鍵を返しながら尋ねる。
楽天家のリュックと嫌みったらしいアルガス、あんまりウマが合うとは思えないけど……
アイツも一応怪我人だし、リュックなら気にかけることもあるかもしれない。

「アルガスならしばらく起きてもらってる。
 アーヴァインと鉢合わせたら面倒な事になるしな」
「あー、うん、それはわかるんだけど……」

スコールの単純明快な説明に、しかしリュックは表情を陰らせて後ろ髪を掻く。
鍵の持ち主が変わったことで辺り一面がスコールの夢の風景に――
ガラス一枚隔てて青空が広がる飛空艇の操縦席へと塗りつぶされていく中、彼女はぽつりと言葉をこぼした。

「その……アーヴァイン、どこにいるの?」
「え?」

俺とウネは思わずぽかんと口を開けた。
リュックが何を言っているのかわからなかったからだ。
だけどスコールだけは即座に事態を理解したらしく、鍵を握りしめて叫び出す。

「アーヴァイン! アーヴァインッ!!
 何処にいる!! 返事をしろ!!」

その呼びかけが届いたのだろうか。
すっかり飛空艇の景色に変わった夢の世界の真ん中で、黒い靄がゆらめきながら扉を形作り出した。
でも、さっき見た夢の扉とは大分違う。
元の色がわからないほどすっかり錆びついて、歪んで、ふちが削れたように消えかけていて――

311 :君のためにできること 6/16:2017/08/30(水) 23:49:34.76 ID:UqaIZde2j
「アービン!!」
とてつもなく嫌な予感に襲われた俺は反射的に駆け寄り、扉をこじ開ける。
だけど向こう側に広がっていた光景は、いつか見た薄暗い映画館でも、ネオンに彩られた薄暗い都市でもなかった。

暗闇。

それだけだ。

何もない。
何も見えない。
夢の世界において、それが何を意味するのか――

「アービン!! アービンっ!?」

言い知れない不安と焦燥感に追われながら扉の向こうに手を伸ばす。
掴んでほしい、と思った。
こちら側からは見えないだけで、闇の向こうにはアービンがいて、助けを求めているんだと思いたかった。
そんな俺の希望を見透かしたように、誰かの指が俺の手のひらに触れる。
その指はすぐに俺の手を握りしめ、強い力で引き寄せてきた。

「アービ……」

ほっと胸を撫で下ろしかけた俺の呟きを遮るように、忘れようのない声が響く。


" 許 さ な い "

アービンとは似ても似つかない甲高い声。
隠す気のない憎悪と激情が込められた冷たい声。
息を呑む暇もなく、身体が【闇】の中に引きずりこまれる。
左目と足に焼けるような痛みが走る。
"あの時"と同じ感触だ――と死の間際の記憶を思い出す前に、絶叫が鼓膜を焼いた。


" 許さない "" 苦しめ "" 死んでしまえ "
" お前さえいなければ "" 殺してやる "
"  嘘つき "" 魔物め "" よくも弄んだな "


それは紛れもない『彼女』の言葉だった。
俺を殺した時よりもなお強い殺意に溢れた『彼女』の声。
あと数秒でも長く聞いていたら、俺は恐怖と後悔のあまり悲鳴を上げていたかもしれない。
だけど――

「そこまでだよ!」

唐突にウネの一喝が響き渡った。
同時に『彼女』の声や俺の腕を掴んでいた指の感触、それに痛みが霧のように消え去る。

312 :君のためにできること 7/16:2017/08/30(水) 23:50:57.81 ID:UqaIZde2j
「どんな恨みつらみがあろうと、他人の夢を汚すなんて感心しないよ!
 さあさ、出てお行き! どこの誰だか知らないけど、あんたの居場所がそこじゃないのは確かだからね!」

ウネの啖呵に呼応するようにオウムがふわりと舞い降り、激しく羽ばたいた。
瞬間、突風が巻き起こる。
瞬きする暇もなく吹き飛んでいく暗闇――否、【闇】の靄。
その後に残ったのは、壊れたネオンが明滅する夜の街にひび割れたアスファルトの路上。
そして……

「アービン!?」

俺が気付かなかっただけでずっと助けを求めていたのか。
アービンは白いローブを赤いまだらに染めて、左手を扉の方に伸ばしたまま、うつ伏せになって倒れていた。
俺は後先も考えずに扉を踏み超え、ぐったりと横たわる身体を抱え起こす。
びくん、と肩が跳ねたのは状況がわからなくて怖がっているからだろうか?
俺は少しでも安心させようと名前を呼びかけ――そして、気付いた。

きっと、もっと早く気付いて、覚悟しておかなきゃいけなかったんだろう。
ボロボロに朽ちた夢の扉。俺に助けを求めなかった理由。スコールの呼びかけに応じた理由。
『彼女』の声と、今のウネの一喝と、鮮やかな血の染み。
……『彼女』が、俺にしたこと。

アービンは右腕を無くしていた。
肩の少し先、わずかに残った部分も赤く焼け爛れていた。
右足も膝から下が爆ぜるように抉れていて、撃ち抜かれて折れた骨に少しの肉がこびりついているだけだった。
胸やわき腹にも銃創が刻まれていた。喉にはドス黒い手形の痣がくっきりとついていた。
苦痛のせいか絶望のためか、顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていて。
あまりに酷い様相に立ち尽くしていた俺を急かそうとしたのか、後ろからウネの声が響く。

「ああもう、まったくしつこい子だねぇ!
 ティーダ! 早くお戻り!!」

顔を上げれば、そこには再びわだかまり始めている【闇】。
思考はまだショックから抜け出せていなかったけれど、アービンを助けなきゃいけないという気持ちがどうにか身体を動かした。
だけど逃げ出す俺を引きとめるかのように、【闇】の奥から『彼女』が絶叫する。


 " この――この、偽物がぁッ! "


俺は――
……俺は、足を止めるべきだったんだろうか?

313 :君のためにできること 8/16:2017/08/30(水) 23:53:26.16 ID:UqaIZde2j
ザナルカンドを目指すべく真剣な表情で旅に臨んでいたユウナ。
異界送りを舞うユウナ。泉の水に濡れながら泣いていたユウナ。
この世界で再会した時に見た嬉しそうなユウナ。
俺を殺した時の絶望と怒りに満ちたユウナ。
俺の記憶の中にあるユウナが一気に脳裏を過ぎる。

俺は、確かに思ったんだ。
そこにいる『彼女』は――今、そこにいる彼女も、俺が知ってたユウナだって。
俺の無神経さに傷つけられて、そのせいで【闇】につけこまれて歪んでしまったユウナだって。
だから俺は立ち止まらなきゃいけないんじゃないかって。
……そう、思った。

だけど。
それでも、俺は立ち止まれなかった。
そんなこと、出来るわけなかった。
そうすることが、俺がそういう選択をすることが、『彼女』の憎悪を煽るとわかっていても。
アービンを見捨てる事だけは出来なかった。

出来なかったんだ。



オウムが俺の顔を掠めて飛んでいく。
宙を舞う赤い羽、その後を追って扉を潜る。
俺がスコールの夢に戻ると同時に、ウネが何かを叫び、扉を閉ざす。
リュックとスコールが駆け寄ってきて、アービンを二人に預けて――でも、はっきりと覚えているのはそこまでだ。

"ごめんなさい"、と響いた声は誰のものだったのか。
それさえもわからないまま、俺は床に座り込んだ。
どうしてこうなった、とか、こんな結果なんて望んでない、とか。
そんな風に後悔するだけのゆとりも、もう、なかった。
誰かに声を掛けられて、肩を貸されて、勧められるまま椅子に座って、されるがままに誰かに手を握られて。
尋ねられたままにアービンの夢と『彼女』のことを話して。
そうしていたのは確かに俺だったけど、俺の心は別の場所にあって。
誰かの反論も疑問も、推論も考察も説明も、右耳から左耳へ通り抜けていった。
自分がどんなことをどんな風に喋ったのかさえ、ろくに覚えてなかった。

そんな調子だったから、どれぐらいの時間が経ったのかもはっきりとはわからない。
ただ――不意に、掌に強い痛みが走った。
それから微かに耳朶を打つ、ごぽごぽと何かが泡立つ音。
反射的に視線を下へと向けると、いつのまにかベッドがあって、その上にアービンが仰向けで寝かされていて。
「ごぶっ……え"ぐっ、がはっ」
咳とも呻きともつかない声と一緒に、大量の血を口から溢れさせていた。
その衝撃で急激に我に返った俺は、慌ててアービンの身体を左側に倒す。
傷に触れないように気を付けたつもりだけれど、それでも痛かったのか、くぐもった呻きが血の塊と一緒にこぼれた。

314 :君のためにできること 9/16:2017/08/30(水) 23:54:52.06 ID:UqaIZde2j
「大丈夫か?」

スコールの声。
振り向いてみると、想像以上にすぐ傍にいた彼の姿と、ものすごく様変わりした風景が目に入る。
仕切りで区切られた部屋、見るからに固そうなベッド、背の無い丸椅子に座るリュックとウネ。
白いカーテン、陽光と穏やかな風が差し込む窓、隠そうともしていない薬品の匂い。
どこかのスタジアムの救護室……いや、学校の保健室の方が近いか?
どちらにしても、スコールがウネの鍵を使って用意してくれたんだろう。
だけどそれなら回復魔法や薬を使ってくれても――と考えたところで、ここが夢の中だということを思い出した。

「スコー、ル、ごめ……ごふっ!!
 ごほっごふっ、ぅあ"……あ"あ、てぃ、ティーダ……あー、ごめん、ごっ、ごめ、ごほっごぼっ!!」

とめどない涙、それに咳と血をまき散らしながら、アービンは俺達に縋りつくように謝罪の言葉を絞り出す。
スコールが一瞬だけ歯を食いしばったのは、決して俺の気のせいなんかじゃなかっただろう。
それでも彼はすぐにいつもの平静さを取り繕い、「……無理に喋るな」と諭すように呟く。
反論しようと思ったのかアービンは必死に口を動かしたけれど、やっぱり血と喘鳴に邪魔されてまともな言葉にはならなかった。
やるせなさと居たたまれなさで何を言えばいいのかすらわからない俺の代わりを務めたかのように、リュックが尋ねる。
でも、彼女の視線の先に居たのはアービンじゃなくてウネだった。

「ねえ、ホントのホントに大丈夫なの?」
「うーん……さすがのあたしも自信がなくなりそうだけどねぇ。
 でも、さっき言った通りだよ」

皺だらけの顔を少し困ったようにしかめながら、ウネはオウムの羽を撫でる。

「この世界には肉体の死と同時に精神が――夢の身体が死ぬよう、魔女の呪いがかけられてる。
 裏を返せば、夢の世界に身体が残ってる以上は、その子もまだ死んじゃいないってこった。
 精神的にも肉体的にもね」

その言葉を聞いても、俺は全く喜べなかったし、安心も出来なかった。
当たり前だ。
こんなに苦しんでいるのに、死んでないってだけで……嬉しがれるわけ、ない。

「あーもう! 呪い、呪いって! あのケバケバ陰険おばさんめーー!
 殺し合いさせるだけじゃなくて、偽ユウナんの幻見せたり、皆の夢を殺したりって、一体何がしたいのよー!」

そりゃ俺達全員を苦しませるのが目的なんじゃないッスかね。
そんな身も蓋もない意見が頭に浮かんだけど、ますます気が滅入りそうで、到底口に出す気にはなれない――

「俺達を苦しめる為、だろう。
 他の理由があったとしても俺達にはわからない事だし、考えるだけ無駄だ」

………、………。
うん。スコールって割とそういうことズバズバ言う奴だよな。
知ってたとは言わないけどさ。うん、わかってた。

315 :君のためにできること 10 /16:2017/08/30(水) 23:56:07.92 ID:UqaIZde2j
「それに、リュック。
 あんたが認めたくない気持ちはわかるが……偽ユウナとか幻だなどと、下手に決めつけない方がいい」
「なんでよ!?」
「……"最悪の可能性"を覚悟しておいた方が、本当に最悪だった時にダメージが少ないからだ」

可能性。……"可能性"。

俺だって本当はリュックみたいに、『あんなのユウナじゃない』とか『幻だ、偽物だ』って喚きたい。
誰かの――それこそ魔女の陰謀が生み出した、ユウナの姿を真似た邪悪な偽物だって信じたい。
でも………俺の心が、感じてるんだ。
『彼女』はユウナだって。
本当に、本物の、俺が傷つけた、俺が狂わせたユウナ本人だって。

「そんな可能性なんか――」

リュックの気勢が急に弱まる。
きっと俺の表情が目に留まったんだろう。
じゃなきゃ、依然として泣き続けているアービンが視界に映ったのかもしれない。
スコールは「ふう」とため息を吐いてから、もごもごと言いよどんでいる彼女に向かって畳み掛けた。

「もちろんあんたの言う通り、ユウナの意志が介在していない可能性だって十二分にある。
 だが、ウネが言ったはずだ。
 アーヴァインを苦しめているのは『死者の魂と怨念を利用した呪い』だと」

……そういう話、してたんだ。
本当に何も耳に入ってなかった。
でも、やっぱり、それじゃ――

「【闇】の影響を受けて狂ったユウナが死者の魂を利用して呪いをかけているのか。
 どこかで死んだユウナの魂を利用して、アルティミシアが……あるいはケフカなり何なりが呪いをかけているのか。
 どちらにしたって、あんたが期待したい状況じゃないだろう。
 ……それでも希望を持っていたいなら、最低限のことは……認めるべきだ」
「――っ」

ユウナが生きているならユウナは狂ったままで、他人の魂を利用してアービンに呪いをかけている。
ユウナが何かの拍子に正気に戻っていたのだとしたら、ユウナは既に死んでいて魂を呪いに利用されている。
きっとスコールが言っているのはそういうことだ。
リュックは俯きながら拳をぎゅっと握りしめ、歯噛みするように呟いた。

「……ユウナは、本当に、そんなことしないよ」

前髪の奥で渦巻く緑の眼が揺れる。
同時に、ぎゅっ、とアービンが俺の腕を握りしめた。
ああ。わかってる。
俺は、言わなきゃいけない。

316 :君のためにできること 11 /16:2017/08/30(水) 23:59:59.18 ID:UqaIZde2j
「……当たり前、ッスよ」

俺を殺したのはユウナで、俺が傷つけたユウナで。
『彼女』はユウナで、『彼女』にこんなことをさせたのは俺だ。
だけど――だから、言わなきゃいけないんだ。

「ユウナは絶対あんなことする子じゃねーし!
 【闇】だの魔女だのに洗脳されておかしくなってるだけだっつーの!
 ユウナが無事に生きてるかまではわかんねーけど……生きてるなら絶対助ける!
 だから、そのために、さっさと魔女をぶっ飛ばすッスよ!」

きっとユウナはもう死んでるんだろう。
認めたくなんかないけど、狂ったまま誰かに殺されて……いいや、きっと、ソロみたいなやつが命がけで止めて。
それでも俺を許せずに、アービンを苦しめてるんだろう。
でも、そんなこと口にしたって、アービンとリュックが傷つくだけだ。
俺は鈍感で無神経な馬鹿野郎だけど、それでもユウナのガードだから。
……無理でも、笑顔、作って。
言わなきゃ、いけないんだ。
これ以上、ユウナが誰かを傷つける事が無いように。
俺の知ってるユウナは……やっぱり、誰よりも優しい子だから。

「何ができるかわかんねーけど、俺が出来る事ならなんでもやる!
 そんでアービンやリルムや皆のこと元の世界に帰して、リュックもユウナと一緒にスピラに帰すからさ!
 どーんと船とかシパーフとかに乗ったつもりで任せとけって!!」

いつだったかユウナと一緒にやった笑顔の練習を思い返しながら、大げさな身振りで胸を叩いてみせる。
アービンは複雑な表情で俺を見つめるばかりだったけれど、リュックは「うんうん!」と頷きながら表情を輝かせた。

「さっすがティーダ! カモメ団名誉団員なだけあってわかってる〜!
 そうだよね、悪いことばっかり考えるより前向きにガンバル方がいいに決まってるよ!
 スコールもちょっち見習って! 明るく生きなきゃ人生損だかんね!」

いや、そこまで言うのはどうかっていうか、俺としてはスコールの言ってる事の方がだいぶ正しいと思うんだけど。
「………」
あっ。スッゲー『納得いかない』って表情してる。
つーかこれ普通に怒ってね? やばくね?
と、俺が一人で狼狽えていることを察した――わけじゃないんだろうけど、唐突にウネがひょいと椅子から飛び降りた。

「まあ、前向きに行動しなきゃ何も始まらないし始められない、ってのは確かだね。
 最悪を考えずに行動してたら足を掬われるってのも事実だけどね」

相変わらずの達観した口ぶりで二人の意見を肯定しながら、彼女は皺だらけの手をアービンに伸ばす。
何をするつもりなのか問いかけるよりも早く、ウネは何かの魔法を詠唱し、掌から月光のような淡い光を降り注がせた。
すると途端に表情が和らぎ、瞼を閉じてすうすうと寝息を立てはじめる。
あれほど激しかった吐血や咳に苦しむ事もなく眠り始めたアービンを見て、スコールは怪訝な眼差しをウネに向けた。\

317 :君のためにできること 12 /16:2017/08/31(木) 00:02:08.42 ID:DUaDuBJPI
「何をしたんだ? 回復魔法は効果が無いんじゃなかったのか?
 心の傷を癒す魔法なんて無いとあれほど言っておいて……」
「違う違う、今かけたのはただのスリプルさ。
 こんな容態じゃあ、夢を見続けるだけでも消耗しちまうだろうからね」

スリプルって……夢の中で?
ただでさえ寝てるのに、そこからさらに眠らせるなんてこと出来るのか?
いやまあ確かに今、目の前で寝てるけどさ。

「夢も見ないほど深く眠っちまえば、心や体の痛みに苛まれずに済む。
 呪いの影響下でも少しは気力を取り戻せるはずだよ」
「……なるほど。単純に、熟睡した方が回復しやすいということか」

うーん……そういやなんかのレクチャーで聞いた記憶があるな。
はっきりした夢を見るのは眠りが浅くて頭が休んでない証拠だとか、浅い眠りが続くと体に悪いとか。
でも、本当にここで眠っていればアービンは大丈夫なんだろうか。
ウネは今、"呪いの影響下でも"って言っていたけど――

「……あのさ、ウネ。
 ここでアービンを休ませるって、その……呪いは、どうなるんだ?
 スコールに……その、影響出たりしないのか?」

不安に駆られた俺は、すがるようにウネに尋ねる。
もしスコールにまで呪いが――アービンを匿うことで、ユウナの殺意に襲われるようなことがあったら……

「ああ、そりゃ大丈夫だよ」

バッサリ。

「いくら人の魂を使った呪いっていったって、あたしの鍵も特別製だからね!
 それこそザンデ並みの魔力や光の戦士並みの気力がぶつかり合った戦いのエネルギーを、あたしの命を丸ごと使って鍛え上げたんだ!
 鍵の持ち主が自分から呪いを招き入れない限り、絶対に影響は受けないよ!」

ウネは得意げに胸を張っているけれど……
正直、『スゴイ』って気持ちより、『なんでそんな作り方したんだ』って呆れの方が先に浮かんでくる。

「……制作過程はともかく。
 要するに、鍵だから『扉を開けて招き入れる』以外に『鍵をかけて余計なものを閉め出す』こともできる……ということか?」
「そういうことさ!」
「じゃあじゃあ、あのケバケバおばさんが夢の世界に気付いても、その鍵があれば安全ってこと!?
 すごい、それってもうあたし達大勝利間違いなしだよ! 絶対無敵カモメ団だよ!!」
「……あー、……そいつはどうだろうかね」

ちょ、ちょっと。
なんでウネ、そこで言いよどむんだ?
なんで明後日の方向を見つめるんだ?

318 :君のためにできること 13 /16:2017/08/31(木) 00:03:57.54 ID:DUaDuBJPI
「……一応、限度はあるのか」
「まあね……あたしからすれば、魔女の能力は完全に未知数だ。
 あの魔女が『実は夢世界を操る力を持っていた』とか、そういうことがあればね。
 この夢世界を丸ごと自分の夢に引きずり込んで、夢もろとも中にいるあたし達を押し潰す――なんて芸当も出来ちまうだろうよ」

ゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえた。
あの魔女がどれぐらい強いかなんてわからないけど、もし、そんなことが出来てしまうなら……
アービンやスコールやリュック、ザンデ、それに俺やウネはどうなるんだろうか。
……あんまり考えたくない。

「ど、どうにかならないの?」

さっきの勢いはどこへやら、急にしょげ返ったリュックがウネにすがりつく。
でも、どうにもならないものはどうにもならないんだろう。
ウネは肩をすくめて首を横に振った。

「どうにもこうにも、そうだったらどうしようもないわさ。
 だけどまあ、逆にあの魔女が夢世界については素人だって可能性も十二分にあるからね。
 単に膨大な魔力を持ってるってだけじゃあ、ここをどうにかすることはできないはずだ」
「……この鍵を使わずに夢世界に干渉するには、そのための適性と知識が必要だということか?」
「そういうことさ。
 夢に干渉する能力ってのは、本当に特殊な資質が必要だからね。
 あたしはノアから知識ごと資質を譲ってもらったけど――
 魔物も人間もひっくるめて考えたって、一つの世界に何人いるかって話だろうよ」

そういえば、ロザリーの夢で通信する能力、ザンデやマティウスが珍しがってたっけ。
それに他の世界はともかく、スピラじゃ召喚士になれる人はほんの一握りだったワケだし……

「あ! そんじゃさ!
 もしも魔女に夢世界をどうこうする才能が無かったら、こっちが一方的にやりこめたりできるんじゃないの!?
 夢の世界に閉じ込めて起きれなくするとか!」

お?
リュック、それけっこうナイスアイデアじゃね!?

「そりゃ無理さね」

バッサリ、再び。
ガックリ、俺たち。

「アルガスも似たようなこと考えてたし、あいつにも言ったけどね。
 他人の夢に干渉するってのは、自分の夢と相手の夢を繋げて勝手にいじくるってことだ。
 そんなことをすれば――」
「相手を害する時、常に相手もこちらを害することができる。
 外部から対象の夢世界を観測するだけならまだ安全だが、自分の夢世界を出て相手の夢世界に入り込んだらその時点で身を守る術はなくなる。
 だからこそ許可なく他人の夢に干渉することは許されない……だったな」
言葉を継いだスコールに、ウネは驚いたように眉を跳ねあげた。

319 :君のためにできること 14 /16:2017/08/31(木) 00:05:59.26 ID:DUaDuBJPI
「おや、アルガスから聞いてたのかい!
 あいつがきちんと説明するなんて、スコールにはよっぽど懐いているんだねえ。
 その調子でもっと他のみんなにも心を開いていけばいいのに、なんでああも攻撃的なんだか……」
「そりゃ性格が悪いからじゃないッスかね」
俺が呆れながら答えると、今度はリュックが目をぱちくりと瞬かせる。

「ティーダ、アルガスと喧嘩したの?」
「止めろ、リュック。後で俺が説明するから今は触れるな」

無邪気に首を傾げる彼女を制しながら、スコールは俺に目配せを送る。
一方的な悪口にしかならないから俺から話すのは止めろ、って意味か――
……もしかしたらリュックはアルガス寄りの立場なのか。
なんだかんだリュックはユウナ並みに人が良いから、怪我人ってだけでアルガスに同情を寄せてもおかしくはないけどさ。
でも、できればアービンの味方になってやってほしいって思うのは、……俺の、エゴなんだろうか。
それに――

「スコール、結構アルガスの味方してるよな」

胸中に沸いた、むしゃくしゃした気持ち。
俺自身、心の奥に仕舞いこんでおくつもりだった声。
でもそれが普通に口から出てたと気づいたのは、皆の視線が一斉にこちらに向いた後のことで。
やべっ、と思った時には、相変わらず冷静な口調で――だけどどこか不機嫌そうな声音で、スコールが呟いていた。

「あいつは俺達に助けを求めてきた。
 敵でもないやつを見捨てる事が正しいとは思わない。
 ……あんただって、アーヴァインを助けた最初の理由は、そういうことだったんじゃないのか?」

青い瞳が俺を真っ直ぐに見据える。
ああ、スコールの言ってる事は確かに間違ってないだろう。
きっと正しい。
相手がアルガスじゃなければ、俺だって素直に頷いていたと思う。

だけど、一つだけ。
一つだけどうしようもなく間違ってる。

「……ないっつーの」
「え?」
「俺が、アービンを、助けられたことも。
 アービンが、俺に、助けてくれなんて言ったことも……
 どっちも、一度だけ、で。………どっちも、俺が、こうなった、後で……」

助ける側にいたのは、アービンだった。
俺じゃなかった。
本当は俺が助ける側にいなきゃいけなかったのに。

「そうか」

言葉を詰まらせた俺に、スコールは目を逸らしながらぽつりと言った。

320 :君のためにできること 15 /16:2017/08/31(木) 00:08:57.56 ID:DUaDuBJPI
誰かが背後で大きなため息をこぼした。
居心地の悪い、気まずい沈黙があたりを覆う。
そんな中、アービンはすやすやと眠り続けていて、喉に血を詰まらせる様子も苦痛に顔をしかめる素振りも無い。
……でも、そこに救いを見出すには、消えた右腕や爆ぜた右足があまりにも痛々しすぎた。

風に吹かれたカーテンがふわりと揺れる。
窓の向こうに見える空はどこまでも青く晴れ渡っていて、穏やかな日常ってのがどんなものだったのかを無言のまま物語る。
でも、『これが現実であれば良かったのに』――なんて思うには、夢の空はあまりにも遠い。

俺がすべきことは何なのか。
どうすればアービンを助けられるのか。
考えるまでもなく答えはわかりきっている。
だから、考えるよりも早く口が動いていた。

「なあ、スコール。
 ……あのこと、相談した方が、いいんじゃないか」

唐突に静寂を破った俺に、スコールはぱちくりと目をしばたたかせる。
だいぶ言葉足らずな言い方だった、と気付いたのはその後で――けれど俺が補足するより早くスコールは得心したように「ああ、あれか」と頷いた。

「ウネ。
 ここで俺達が話している内容は、アーヴァインにも伝わるのか?
 それとも現実世界同様に、眠っている限りは何も聞こえないと考えて良いのか?」
「ああ、もちろん。誰かが起こさなけりゃ何にも聞こえないよ」

確認を取り合う二人に、ただ一人状況を飲み込めていないリュックは不安げな眼差しを俺に向ける。

「え? ナニ? 何の話?」
「え、えーっと、大事な話ッス」

反射的に言葉を濁してしまったのは、なんのことはない。
話題を振ったはいいものの、実際にどこからどうやって話せばいいのかまでは全く考えていなかったからだ。
そんな俺を見やったスコールは、呆れたように後ろ髪を掻きながら椅子に腰かけ直した。

「……脱出計画についてだ。
 かなり強引な手段になるから途中で反論が出てくるかもしれないが、ひとまず最後まで話を聞いてほしい」

そう前置きする彼の真剣な眼差しに呑まれたのか、リュックがごくりと唾を飲み込む。
スコールは俺とウネにも一瞥を送ってから、普段よりも少し早口で話し始めた。
会場外で生きているザンデと、かつて彼がロザリーと共に行った実験の成果を。
――そして、それらを利用した前代未聞の"単独脱出計画"を。

321 :君のためにできること 16 /16:2017/08/31(木) 00:10:38.04 ID:DUaDuBJPI
【スコール (微度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除、睡眠中)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング、ウネの鍵、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)
 第一行動方針:夢世界で作戦会議を進める
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】


【リュック(パラディン、MP9/10、睡眠)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、破邪の剣、ロトの剣
 第一行動方針:スコール達の計画を聞く
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【アーヴァイン
 (変装中@白魔服、MP1/8、半ジェノバ化(中度)、
 右耳失聴、一時的失声、睡眠、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、空き瓶×1
 第一行動方針:Zzzzz…
 第二行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・理性の種を服用したことで記憶が戻っています。
    ・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
【現在地:南西の祠】

322 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/08/31(木) 17:47:53.96 ID:2vElgrk78
来てたー!!乙!乙!!

323 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/09/02(土) 02:01:04.42 ID:aMNLAlQFG
投下乙です!
段々と希望が見えてきたかな? というところではあるけど、ティーダはつらいな……。
名は体を表すの通りに太陽よろしく輝いていたやつがこうして沈んでる、というのはなかなかクるものがある。
持ち前の明るさだけではどうにもならないのか? それとも全てをはねのけられるのか。楽しみです。

324 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/09/04(月) 22:00:11.36 ID:idBljlt/U
久々に来たぜヒャッハー!乙乙&ありがとう!

「ハッスルばあちゃんとライブラ狂」ワロタww
なんかウネばあちゃんかっこいいなあ
ここへ来てがっつり重要人物になるとは思わなんだ
ザンデの実験も無駄ではなかったか!
アービンもセージもおまけにロザリーの状態もアレだから不安定要素満載だけど
脱出組が頑張ってると素直に応援したくなる
まあ破壊分子も大いに暴れて欲しいけどな

325 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/10/08(日) 00:08:17.51 ID:Q4x8fPJoj
保守

326 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/11/04(土) 11:19:55.71 ID:+kGWyeGeY
ほしゅ

327 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/11/26(日) 20:35:20.47 ID:bGDAGu8m+
保守

328 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/12/08(金) 20:33:40.89 ID:6FTF1QCPK
待つわ

329 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2017/12/29(金) 19:20:25.10 ID:H/glGhSdY
ほっしゅ

330 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/01/13(土) 21:39:38.52 ID:dMcQk1seG
ケフカとセフィロスを見ながら「ああいうのが最後まで生き延びるのですわ」

シャントット=ロワ読者疑惑

331 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/02/03(土) 23:33:51.73 ID:SeaUaKNOo
保守

332 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/02/12(月) 01:46:52.86 ID:+0jh7ThJi
保守

333 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/03/11(日) 00:59:05.78 ID:qzoM6A4ep
保守

334 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/04/07(土) 18:52:02.38 ID:wl+FP5xqx
hoshu

335 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/04/07(土) 18:53:01.99 ID:wl+FP5xqx
hoshu

336 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/04/15(日) 11:20:48.98 ID:t+QgXECUB
DQ8とかFF12とか出る前からやってるんだよなこれ…

337 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/04/15(日) 20:26:57.49 ID:tpaWrdDvv
昔の感想スレ見たら10出るころには終わるだろとか言われてて笑う

338 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/04/17(火) 22:07:37.02 ID:xxPblyr6C
今はフラグとか時間軸とかとは別の難しさがあるよなあ
首輪も脱出路も会場の仕組みも主催者の思惑も見えてきて、
こういうラストにしたいなとかこのキャラには生き残ってほしいなとかいうのがおぼろげながらあるけど、
キャラ一人一人の自然な動きに任せてるとその方向には向かわないんで、
どう動かそうかとかすごく悩む
どいつもこいつもしっかりキャラ立ってるから
変に欲張るとものすごい違和感となって返ってくる

339 :私とは、何者なのか 1/25:2018/05/04(金) 20:28:33.07 ID:gox079EBd
あなたは誰だと問われれば、私は私だと誰もが答えることだろう。
自分の中には他の誰かが入りこんでいて、そいつが私を操っているんですなどと大真面目に主張する人間はそうはいない。
では、「私」とは果たして不変のものであるのか?
否、「私」とは経験と環境によって変化していくものだ。
十年前、現在、十年後、「私」を一所に集めたとき、それが同一人物であるとは言い切れない。
何にも侵されていない正常な環境であっても「私」は変化する。
もちろん、過程をたどっていけば、まわりに影響を受けて変わってしまっただけで、私は私なのだという回答に結びつくだろう。
しかし、倫理も道徳も悪意的にねじ曲げたこの世界であればどうなるのか。
「私」の変化のスピードに、自己の理解が追いつかないことも往々にしてあるだろう。
そこに、他者の意思などが入り混じってくるならば、
もうそれはもう新しい人格が生まれたといっていいのかもしれない。

340 :私とは、何者なのか 2/25:2018/05/04(金) 20:31:31.41 ID:gox079EBd
***


上階は綺麗に吹き飛び、土台がわずかに残るだけと化したデスキャッスル。
そこにダメ押しのごとく、大魔法の追加オーダー。
狂おしい魔力の高まり、そこから放たれる光線の乱舞。

「いかん!!」
咄嗟の判断で、ギードがヘンリーを突き飛ばしていた。
魔力を使った物理攻撃。少なくとも、ギードはそう判断した。
魔法であって魔法ではないこの手の攻撃を反射だけでしのぎ切ることは至難。
シェルをかけようにも、リフレクトリングはそれを跳ね返す。

一方、それまでもヘンリーだけは"タバサ"の放つ魔法の狙いから意図的に外されていた。
であればこのまま自分たちを狙った魔法に巻き込まれて怪我をするより、彼自身が狙われる可能性のほうがはるかに低いだろうとふんでの判断だ。


この世界で広く使われている呪文、それこそ本当にイオナズンであれば天空の盾の力によって反射し、無効化できるだろう。
しかし"タバサ"から放たれたのはイオナズンとはかけ離れた光線の乱舞。
数時間前、雷鳴の剣から放たれる雷が障壁をすり抜けてきたのはソロの記憶にも新しい。
故に、彼もこの未知の魔法に対して全力でガードするしかない。
無数のレーザーが"タバサ"の正面の空間を制圧する。



「ははっ、タバサちゃんってこんな魔法使えたのか……なワケねえだろう。なんだよこれ、誰か教えてくれよ……」
"タバサ"の凶行も突き飛ばされた理由も、何も理解も納得もできないままだ。脳は迫る危険を回避しろと警笛を鳴らすだけ。
生存本能に従い、何かないかとザックに手をやれば、指二本では取り落としてしまいそうなくらいにすべすべした冷たく硬い感触。
他の支給品を押し退けて、取り出すは水鏡の盾。
ヘンリーの世界において人間界には存在しない防具であったが、
勇者の凱旋時、タバサはこの盾を身に付けていたという。
子供でも使えるほど軽く、凱旋で身につけていても恥ずかしくない美しさを保ち、その実態は熱をも通さない頑丈で強力な盾。
衝撃、破壊、そしてそれに伴い襲い来る無数の礫から肉体をガード。
"タバサ"の放った攻撃はヘンリーには襲い来ない。
ヘンリーを意図的に対象から外しているというのは見て取れる。
しかし当の本人は瞬く間に変遷していく展開に脳の処理能力が追いつかず、身を守る以外の行動を起こせない。

341 :私とは、何者なのか 3/25:2018/05/04(金) 20:34:05.85 ID:gox079EBd
「ソロ殿、さすがに自分の身を守るので精一杯じゃ! 何とか凌ぎきってくれ!!」
「問題ありません。むしろ、ヘンリーさんを範囲外に逃がしてくださったこと、感謝します」
圧倒的な暴力を前にして、ギードは冷静に状況を判断し、ソロにも一声連絡をおこなう。
恨みごと一つ言わず、仲間を気にかけるソロの姿勢はまさにプサンの評に違わぬ勇者像そのもの。
精神面だけでなく、これぞ勇者と誰もが称える高い技量も持つ。
ギードはもちろん、他の誰が見ても彼ならばこの状況をも切り抜けることができるだろうと考えるだろう。
その向こうにもう一匹、河童。
見かけこそ少しおマヌケでかわいらしいが、その中身は災厄そのもの。
破壊と殺戮が生き物の形をしていると評するべき恐るべき生物なのだ。
一日目、彼の手によって起こされた惨劇はまだギードの記憶には新しい。
ソロが彼を信用していても、それを根拠に河童が無害だと断ずることはない。
ほんの少しの手違いで手を取り合えたはずの参加者同士が殺し合ってしまう会場だ。
ほんの少しの手違いで悪人が人を救ってしまうことだってあるだろう。
ほんの少しの手違いで何人もの参加者を手にかけた最悪の殺人者を救ってしまうことだってあったのだ。

「貴方はこちらに! 貴方の今の大きさなら、僕の影に隠れればある程度は凌げるはずです」
ただし安易に行動を起こせば犠牲になるのはソロだ。今もすぐ近くにいたあの河童を守ろうという意志を見せている。
本当に倒すべき悪と判断するまでは、たとえ殺人者であっても守り抜こうとする、そこまで徹底しているからこそソロは勇者なのだ。
ギードは河童に干渉しない。積極的に害さず、何か起きても救わない。
それを心に決め、残りわずかな魔力を用いて、最悪甲羅で受けきることも考慮に、光線を迎撃する。

「カッ!」
「そんなことを張っている場合ですか!? なら、せめてこれだけでも!」
お前の助けなど借りる必要はないとでも言ったのか。それともチビ扱いするなと言ったのか。ソロの領域に河童は踏み入らない。
丸腰の河童を見て、ソロがザックから青銅の盾を投げてよこす。
装備ができないというのは薄々感づいているし、到底迫る脅威に耐えられるような頑丈なものではないが、それでもある程度の防御力はある。

セフィロスのままの肉体であれば盾だけでも難なく捌いていたことであろう。
それこそ指輪の大爆発とフレアスターをそれぞれ盾ひとつで捌いた昨日のように。
しかし彼は河童。身体能力こそ落ちてはいないが、技量は格段に下回る。
ゆえに、ザックから取り出したいかずちの杖を――ユウナの繰り出した雷を矢に当て相殺したときのように――光線に投げ当て、
秘められた魔力を爆発させる。
初日にピエールが同じ事をおこなっていたが、今回も同様に二つの魔力は集束し、そして爆発を引き起こした。
稼いだ時間でソロから渡された青銅の盾を蹴り飛ばし、別方向から迫る光線に当て、軌道をそらす。
残り滓は腕を振るってルビーの腕輪に当て、若干の熱エネルギーに晒されながらも軌道の矯正に成功する。
それ以上は何も来ない。

「大丈夫ですか!?」
「カァ? カァ〜……」
天空の盾を構えたソロがいつの間にか近づき、反対側から来る光線の軌道をそらしていた。

342 :私とは、何者なのか 4/25:2018/05/04(金) 20:36:21.80 ID:gox079EBd
セフィロスが人間の幼女風情の攻撃すらいなせないはずがない。
そう見栄を張り、ソロを盾に逃げ隠れるような選択肢はとらなかった。
助けてくれといってはいないし、事実、河童は迫り来る攻撃から自己を守りきっていた。
だから、実際に余計なことだったのだろう。
しかし河童のとった行動は、少なくとも理念はセフィロス本来の行動とはかけ離れたものだ。
どのような行動を取るのかは時と場合によるが、少なくとも見栄や慢心が決断の根底に入ることはなかっただろう。

【闇】すら寄せ付けない、珠のような強き心。そこに付けられたひとつの瑕がわずかながらも確実に彼の心を変質させていた。
欠点だらけの心であれば、ワンポイント加えたところでそれは新たなる個性の芽生えにすぎない。
しかしセフィロスの心は、少なくとも自我の強さにかけてはほぼ完全であった。
そこに加えられたワンポイントは蛇足でしかない。
マスタードラゴンとて、全知全能といっても別世界のすべては知りえない。
「私」が「私」でなくなる数々の存在など、伝えようがなかった。
仮に呼ばれていたのがゼニスであれば、また別の現在があったのかもしれないが。

ともあれ、三者それぞれが攻撃はしのぎきった。
代償として、ケフカを取り逃がし、ギードは浅くはない傷を負い、河童の心にも僅かな傷が刻まれたというだけだ。




***

343 :私とは、何者なのか 5/25:2018/05/04(金) 20:38:04.28 ID:gox079EBd
「魔女の手下が化けてるのか……? それとも無理やり蘇らされて操られてるのか? それとも俺らはもう死んでたりするのか!?」
何が起きているのか、ヘンリーには理解不能。だが、それでも口に出さずにはいられない。ヘンリーは疲労の色を隠さない。

「ヘンリーおじさん、なんかヘンです。
 私が魔女の手下だとか、蘇らされただなんて……。キオクソーシツなの?
 それとも、魔物が化けたニセモノですか?」
"タバサ"は悪びれた様子を見せない。口元に指を当て、眉をひそめ、首を傾ける、そんなかわいらしい仕草。
"タバサ"の視線はヘンリーにだけ向かう。
しかし、鏡のような3つのオブジェクトは、ソロ・ギード・河童をそれぞれ捉えている。

ヘンでニセモノなのはお前の存在じゃないのかとか、記憶喪失はGFとアーヴァインだけでもうたくさんだとか、言いたいことはたくさんある。
それらはヘンリーの頭の中をぐるぐる回り、結局彼の口からは出てこない。
反応のないヘンリーに対し、"タバサ"の態度が若干変質する。

「タバサです。グランバニアの王女、リュカ王の娘のタバサです。
 ヘンリーさんなんですよね? コリンズ君のお父さんのヘンリーさんですよね?」

どこか説明的な発言、疑いの色が浮かんだ瞳。
闇色がさらに深まった、深まり続けている。根拠はなくともそうとしか言えない。
ヘタな受け答えはそのままヘンリーの死に直結しかねない状況だというのに、
「そんな……そんなはずがないだろう。だったら……俺の目の前で死んだのは誰だったっていうんだ!
 俺が救えなかったあの子は一体何者なんだ!?」
思わず放たれた言葉は、王族としての彼らしからぬ、会話ではなく自身の感情を喚き散らすだけの言葉。
彼の疲弊しきった心を象った刺々しい言葉だった。

***

344 :私とは、何者なのか 6/25:2018/05/04(金) 20:39:50.92 ID:gox079EBd
"タバサ"はショックを受けたように大きく目を見開く。
オブジェクトはすべてヘンリーのほうへぐるんと向き直る。
ソロ、河童、ギード、そして言葉を発したヘンリー自身も、どうしようもない決裂を確信。
今度はヘンリーも巻き込んで、再び始まるであろう惨劇の予感に、ヒートアップした感情が一気に冷却される。

「それは違います!」
攻撃ではなく、同じく感情に任せた言葉が"タバサ"から返ってくるのは予想の斜め上、といったところだろうか。
「私は生きてる。生き延びたんです」

姿と声は、ヘンリーの記憶の中に残っている、それと一切違わない。
タバサは生きているのだと、少女は主張する。
それでもその言葉を聞いて、ヘンリーの心を過ぎるのは強烈な違和感のみ。
タバサの命は、ヘンリーの目の前で確かに奪われた。死の偽装などありえない。
"タバサ"の鏡のオブジェクトはかくかくと回転し傾き、どこに狙いをつけているのかも分からなくなっていた。


***

345 :私とは、何者なのか 7/25:2018/05/04(金) 20:47:12.88 ID:gox079EBd
私は私である。他の誰でもない。
言うだけならば自由だ。思うだけならば誰でもできる。
けれども、認めるという事象には、他者が必要になる。
正史をつむぐというのは、ひとりでごっこ遊びに興じるということではない。
私はタバサであるという認定を周りから得て、自らこそが正当なタバサであると証明するプロセスが必要なのだ。

ここにいるのは、タバサ本人だと"タバサ"は確信している。
しかし、ヘンリーからは、タバサは死んでいるという反論が返ってきているのだ。
認めてはならない。タバサは生きている。
しかし握りつぶしてはならない。異なる意見を握りつぶすという行為そのものが、異なる意見を認めると同義。
批判からも中傷からも、逃げずに立ち向かうのがタバサなのだ。
足りない。まだ足りない。まだタバサと認めさせるに至っていない。真実を認めさせるにいたっていない。


"タバサ"こそがタバサであると"署名"してもらわなければならない。
タバサが死んだという事実は真実によって正されなければならない。
そうしなければ、仮に生き残ったとしても、『タバサと称する何者か』が生き残ったのと同義になってしまう。
一人生き残れば誰にも知られない? そんなことはない。すべては"タバサ"自身が知っている。

***

346 :私とは、何者なのか 8/25:2018/05/04(金) 20:49:25.29 ID:gox079EBd
"タバサ"の反応には四者四様。"タバサ"への警戒は緩めないのは全員に共通。
そのうえで、ギードは傷の痛みに耐えながら、この状況に一石を投じてよいものかと逡巡し、一方河童が妙な行動を取らないかを気に留める。
ソロは正体に確信を持つと同時にこれからの展開に考えをめぐらせ、その一方先ほどまで相対していたはずの道化師からのアクションに警戒する。
河童はすぐに第二の攻撃が始まるわけではないと察し、先ほどまで存在していた道化師の姿を見つけようと目を凝らす。
そして、ヘンリーはただ目の前の"タバサ"を観察する。

子供らしく、好奇心旺盛で少し不思議な雰囲気を持つ一方で少しおませな部分もある少女、それがヘンリーのタバサに対する印象。
その印象だけを切り取って貼り付け、しかし内に秘められた激情を隠さない少女、それが今朝再会したタバサへの印象。
目の前にいる少女から感じるのは確固不動たる意志。
そっくりの人間が三人はいるとはいうが、その三人をコンプリートしたのではないかと思うほど、それぞれの印象が繋がらない。
ブラッディレッドを基調にしたドレスはヘンリーも夜会で見たことはあるが、タバサの着るものとは程遠い。それこそ二十年早い。
【闇】が実体化し彼女にまとわりついたのではないかとさえ感じたほどだが、
おそらくそれで間違っていないのだろうという確信に近い推測も立った。

仮に本当に生きていたら、タバサやデール、そしてマリアが今も本当は生き延びているならどんなによかっただろうか。
そして0%の可能性にすがるほど、彼は現実から目を背けてはいなかった。
モシャスの呪文を知っている。分裂の件を知っている。仲間の一人が何かしらの手段で他人の姿を模写した事例を知っている。


会話のボールはヘンリーの側にある。
破棄するのは簡単だ。引き続き喚いてしまえばよい。
お前は偽者だろうと糾弾し、自分の心も"タバサ"の心も壊し、殺し合いが再会するだけだ。
だが、ヘンリーは現役の戦士。肉体における戦いの前線は離れて久しくとも、王室における政治の世界での戦いでは最前線を張っている。
納得できない状況だからこそ、感情的を抑える。冷静であれと努める。
心構えの再確認。ギードや河童の浅くない怪我を認識。
焦りは身を滅ぼすことを肝に銘じ、大きく息を吸い込み、吐き出す。

「悪い、少し取り乱した。俺がヘンリーだ。ラインハットのヘンリーだよ」

***

347 :私とは、何者なのか 9/25:2018/05/04(金) 20:52:11.44 ID:gox079EBd
ヘンリーの目的は殺人者の討伐ではなく、狂人の説得でもない。あくまでもソロの救出だ。
ソロを南東のほこらへと無事に連れてくるまでがミッションだ。

「君はタバサちゃんだというのか?
 俺に……いや、おじさんも歳を取ったから、色々理解が追いつかないことがあるんだ。
 その服がどうしたんだとか、いつからそんな呪文を使えるようになったのかとか、
 いきなり攻撃してきたのはなんでだとか、 おじさんの知ってたころのタバサちゃんとは違う事だらけだ。
 何がどうなっているのか、君の口から答えてくれないか?」

ヘンリーは目の前の存在がタバサであると信じられない。
だが突然攻撃を仕掛けてくるような相手を真っ向から拒絶して逆上させる度胸は持っていない。
不安定な存在にしか見えない相手から得た、振って湧いてきたような話し合いの機会だ。

"タバサ"は自らをタバサであると言い張っている。
だから、タバサと同等の扱いを"タバサ"に向ける。
タバサと話していたときのように、同じ口調、同じ態度で会話をおこなう。
穏便に切り抜けられるなら、それに越したことはないのだ。

そして、"タバサ"もその扱いを『正』と受け止める。
そう、タバサは理由もなく他人を攻撃したりはしない。
仲間であれば、たとえ殺戮をおこなったモンスターであっても最後まで信じようとする高潔な人間なのだ。
くるくるまわっていたオブジェクトがきらりと光り、曇ったかと思うと、以前よりも輝きを増す。


「私ね、さっきのお話聞いてたの。
 極悪人に、緑の魔物に、洗脳された人だって聞こえました。
 覗いてみたらフロッガーとガメゴンロードとエビルマージに囲まれたヘンリーさんがいて、あれはみんな悪者なんだって。
 でも、いきなり殺そうだなんて、私も少し早まりすぎたと思ってます。ごめんなさい」

理由の説明どころか、謝罪すらおこなう。
私の中に私ではない何かがいて、そいつが殺せと言ったんだなどと責任を転嫁するようなことはしない。
殺しの言い訳を仲間に求めるようなことはしない。
自分を守りたいって理由で、自分でない誰かに罪を着せる為だけに、自分でない偽物を創ったりはしない。
なぜなら、仮に間違ったことをしても、それをちゃんと認めて謝ることができるのがタバサで、
それができなかったセージはタバサの代わりに死んでしまったからだ。

「たとえ悪者であっても、手を出すのは、ちゃんと理由を聞いてからにしないといけませんよね」
タバサの死は認めない。タバサであることへの否定は認めない。
けれども、かつてタバサが何を考え、どのように行動していたか?
自身の記憶のほかにも、生前のタバサを知っているヘンリーの認識は積極的に取り入れ、自身の行動と思考に矯正を加えていく。
他人の記憶を取り込んで正しい存在へと昇華させていくのだ。
河童がタバサの内面を認知していれば、ジェノバの在り方、もしくは沼男の逸話を思い浮かべたかもしれない。
オブジェクトは再び、ヘンリー以外の三者へと向く。
悪い相手であれば、確実に断罪できるように。

348 :私とは、何者なのか 10/25:2018/05/04(金) 20:53:40.78 ID:gox079EBd
「そこについては、大きな誤解がある。
 もちろん、『タバサちゃんは』賢くていい子だから、きちんとおじさんの話を最後まで聞いてくれた上で判断してくれると信じてる。
 彼らが今、君をどうにかすることはない。……そっちに行くから少し待ってくれよ」

ザックをその場に置き、戦う意志がないことを示す。
武器は持たず、装備とアクセサリはつけたままだ。
だが、それ以外のザックをソロの前に置く。特に、天空の鎧が入ったザックはソロの目に留まるように。
一瞬だけソロとヘンリーの視線が交差する。
わずかにソロの首が縦に動いたのをヘンリーは見逃さない。


タバサをダシに誘導尋問するようなやり方は、ヘンリーが望んでおこないたいものではないが、
望まない戦いで命を落とすよりずっとマシ。
まだ誰も死んではいない。相手は何を求めているのか? NGワードは何なのか?
思考をめぐらせながらゆっくりと近づく。


***

349 :私とは、何者なのか 11/25:2018/05/04(金) 21:01:11.20 ID:gox079EBd
ケフカを河童のその目で捉えることはできなかった。
山彦による二度のテレポの発動は彼の思うよりも遠くにケフカの肉体を運んでいった。
ヘンリーと相対する"タバサ"に目をやる。
【闇】に憑かれた犠牲者の四例目なのではないかと推測もしているが、
今の状況で、アーヴァインのように手駒とすることも、チカラを奪うこともできないだろうとの結論に至った。
単純に監視の目が厳しすぎるのだ。

"タバサ"自身もそうだが、ギードが河童にも警戒していることはすでに勘付いている。
もちろん、ソロも"タバサ"が早まった行動を取らないように神経を尖らせている。
"タバサ"に対して何らかのアクションをおこしたときに、誰もが何もせずに見逃してくれるとは考えるほど楽観的ではない。

仮に"タバサ"を殺そうとした場合、まず鏡のオブジェクトから反撃が放たれる。
これ自体は河童の技量ならいなせるが、次にアクションを起こすのはギードだ。
さらに、警戒中のソロが"タバサ"を害す前に河童を止める。同時に、"タバサ"の追撃もいなしてしまう。
捕らえようとした場合も同じ。彼自身は認めたくはないが、シミュレーションするとその結果に行き着く。

350 :私とは、何者なのか 12/25:2018/05/04(金) 21:01:54.33 ID:gox079EBd
ケフカがおらず、やれることもそうはない。河童は状況を再度見直す時間を得た。
そこで最初に首をもたげてくるのは、今のパーティの価値だ。
同行するのがソロであれば問題ない。
個人的な好き嫌いは抜きにすれば、ソロの誠実さは河童にも確実に伝わっていた。
ただし、その評価はソロに対してのみおこなわれる。他の二人は話が別。

河童がアーヴァインを手駒としていることはケフカに言われたとおりだ。
これを耳にしたヘンリーとギードの心に疑念か、もっと別の何かが浮かんだのを彼ははっきり目にした。
ヘンリーがケフカの言葉に疑念を抱いたかどうかは断定できないが、
最悪のケースとして、あれは顛末を知っている可能性があると、河童は考えた。
ギードにいたっては、それこそギードがソロ並のお人よしでなければ手を組むことなどできはしないと断言できる。
というよりすべてを知ってなお、河童と行動をしようとするソロが規格外すぎるのだ。
ケフカはソロが河童に洗脳されていると評したが、逆に河童がソロにほだされてしまう可能性すら思い浮かぶほどに。

一日目、アリアハンで彼が取った行為について、一般的にみれば弁解の余地などどこにもない。
たとえソロが弁護しようとも、共に行動した先にサイファー、ラムザ、リルムといった過去の交戦相手がいれば天秤は傾く。
そして、集団の規模を想定すれば、これは仮定ではなく確定で考えなければならないことでもある。
そもそも横槍がなければ、ケフカと河童を拘束する方向に話が進んでいた。
仮に大人しく捕らえられれば、集団の中で裁定をおこなわれ、よくて拘束、悪ければ極刑。
もちろん、大人しくする気など河童にはまるでないが、暴れたところでパーティは決裂する。
それでもソロ個人としては擁護をしようとするかもしれないと思い至るのが恐ろしいが、大方の結論として、同行には利がない。

ケフカを相手にするにあたって、確かに河童とソロが共闘するメリットはあった。
ソロの魔法防御の技量がケフカを追い詰めていたという事実はあった。
だが、ケフカを取り逃がし、敵対的な参加者を含んだ集団となってしまっては、同行のデメリットがそれを上回る。
ケフカを殺すまではソロとは不可侵とするつもりではあったが、環境はそれを許さない。
ギードも"タバサ"も、目を河童に向け続けている。
潮時ということなのだろう。

***

351 :私とは、何者なのか 13/25:2018/05/04(金) 21:03:53.49 ID:gox079EBd
【闇】は目の前の相手を殺せと囁きかけている。
しかしそのような誘惑にはタバサは決して負けない。だから"タバサ"も誘惑を跳ね除ける。
【闇】によって刻み込まれる情動を、【闇】に侵され高まるチカラで遮断するという堂々巡り。
賢者"タバサ"のコアは、いつでもいつまでも清廉なままだ。
外に【闇】がどれだけ集まろうとも、中心は守りぬかれている。
オブジェクトが他者をターゲットに収めようとも、"タバサ"の意志がある限り暴走を許すことはない。

***

352 :私とは、何者なのか 14/25:2018/05/04(金) 21:04:26.44 ID:gox079EBd
「まず、ここ2〜3日で何が起こっているのか、タバサちゃんとおじさんとでずれていたら困る。一度確認しようか」
ヘンリーが提示するのは状況確認。
記憶を失って自分をタバサだと思い込んでいるのか、何らかのチカラで蘇ったのか、何者かによる別の意図があるのか。
タバサの姿をしていること。自身をタバサであると主張していること。
コリンズの名など、同じ世界の人間か、さもなければ主催者サイドしか知りえない情報を持っていること。
本物なのか、それとも何者かがタバサの姿を象ってここに現れているのか、彼の持つ情報ではまだ判断できない。
ヘンリー個人の見立てでは後者に傾いてはいるものの、確定できるように切り分けをおこなう。

「……私たちは悪い魔女に連れてこられて、殺し合いをさせられています。
 だから、やりたくないけど首輪のついてる人たちをみんなやっつけて、元の世界に戻らないといけない。
 合ってますよね?」
「そうだ、その認識で間違いない。ただ、おじさんはタバサちゃんも知ってのとおり、前線を退いて久しいからな。
 たぶん本当に殺し合いをしても生き残ることはできない。だから、なんとか別の方法がないか探っているところさ。
 タバサちゃんだって、家族や仲間を殺すことはできないだろう?」

状況を見誤ってしまえばどうなるのか、ヘンリーの身にはイヤというほど刻まれた。
たとえば魔女によって殺し合いに召喚されているという前提と、お父さんを探して旅をしているという前提がすれ違えば、
修復不能な亀裂を生み、ヘタすれば自分の命まで落としてしまいかねないことは体験済みだ。
状況は共有できている。替え玉妄想か成りすましか蘇ったのか、それとも主催者の息のかかった何者かなのか、これは不明。
何を考えどう行動しているのかも不明。ただ、タバサであるという承認を欲していることは確実だ。
目的が明確になれば、制御とは言わずとも穏便に収めるような落としどころくらいは用意できる。

「うん、ヘンリーさんの言うとおりです。最初にこの世界に放り出されたときにとっても怖くて、
 それに最初にピピンさんの名前が呼ばれたときに、挫けそうになって、セージお兄さんにいっぱい迷惑かけちゃって、
 でもそれを繰り返してちゃいけないから強くならなきゃって……」
タバサのことを知らなければ、そしてタバサと行動していなければ知りえないような、そんな証言が出たことを確認。
もし"タバサ"がタバサ以外の参加者であるのならば、この時点でヘンリーにはおおよその正体がつかめていた。

353 :私とは、何者なのか 15/25:2018/05/04(金) 21:05:28.28 ID:gox079EBd
「お母さんを殺したアリーナみたいなどうしようもなく悪い人や魔物は許せないし、絶対やっつけなきゃいけないけれど、
 そうじゃない人、ヘンリーさんみたいな普通の人はやっぱりギリギリまでは待たないとダメだと思うの」
そして仮定の段階ではあるが、"タバサ"の語る内容も事実だろうという結論に至った。
ビアンカの洗脳、ワリーナの凶行など、ヘンリーの知る情報や事実と一致する部分が多い。
ピピンの死による動揺にしても、納得ができる感情だ。
思いもよらぬところからアリーナの名前が飛び出してきたが、ワリーナのことは既知の情報であるため、ソロの表情が揺らぐことはなかった。

「でも、最後には殺しあわないといけない……。
 お母さん、お兄ちゃん、ピエールもピピンも、みんなみんな死んじゃった。
 お父さんやセージお兄さんは私をかばって死んじゃった。
 でも、だからこそ、私は絶対に生きて帰らないといけないんです。
 できるだけ殺したくはないけど、でもその覚悟はできてる」
"タバサ"の口から語られる行動方針が事実なら、偽者でも説得は可能だとヘンリーは予測する。
一日目の最初に剣を交えた青年……テリーがラムザによって説得され、彼と共に行動していたことをヘンリーは覚えていた。
そして生き残るために殺す、それだけが理由であれば、これに対する解決策は既に手中にある。

事態を共有したなら、まずは誤解を解くのが最優先だ。
少なくとも、敵対関係から中立関係に持ち込んではおきたい。

「タバサちゃんの考えはよく分かった。だから今度はおじさんの話も聞いてくれな。
 まず、おじさんは最初に殺し合いに巻き込まれて、それでソロに出会った。
 出自までは本人のプライベートに関わるから言うつもりはないが、信用できる男さ。
 ただ、とにかくまっすぐなやつだから悪党には目のカタキにされててな、さっきのもその一環だ。
 何もしていないのに、悪いヤツだと広められてる」

出自をはっきりさせることはできない。
ソロが天空の勇者であるということを伝えていいのかどうかは判断できないのだ。
タバサ本人の口から語られた『他の勇者を許せない』という想いが本心なのか【闇】に歪められたものなのかは分からない。
それこそ真実は【闇】のみぞ知ることだ。
ただし、仮に本心であれば、またはそのような行動を取ったことを"タバサ"が知っていれば、彼女は必ずソロを恨むような行動を取るだろう。
本来のタバサが他の天空の勇者を許せないということを知らない、そういう事実がない、それならば問題ない。
しかし天空の装備を見たことがないから判断が付かないだけであれば、敢えて情報を与える必要はない。
ソロは正気であり、悪者ではない、与える情報はそれで十分なのだ。

354 :私とは、何者なのか 16/25:2018/05/04(金) 21:06:01.79 ID:gox079EBd
「それなら分かります。
 ピエールだって、何も悪いことしてないのに、
 セージお兄さんにもジタンって人にも、悪いモンスターだって決め付けられて!
 でも、私はピエールを信じたし、どんなひどい言葉にも負けなかった!」
そして、ソロの話になっても"タバサ"は彼に何も言及しない。
つまり、今の"タバサ"は今朝のタバサには繋がらない。
本人が蘇った可能性も、なんらかの理由で精神が無事であったという可能性も除外。

「分かってる、タバサちゃんが心無い言葉に傷つかないわけがないよな。
 だからこそ、同じようなことを繰り返しちゃいけないわけだ」
これ以上の軌跡を訪ねるのはまずいと判断する。
タバサがセージと決別したのはこの段階で、これ以上突くと整合性の取れない事実が浮かび上がる可能性があるからだ。


「モンスターだって純粋なだけで悪いヤツじゃない、リュカも、タバサちゃんもいつも言っていたことじゃないか。
 ガメゴンロードだって…………フロッガー? だって、敵対してても起き上がって仲間になりたそうに君を見ることだってあっただろう?
 悪い魔物を改心させたことだってあるはずだ」
ギードや河童のほうを見ながら、思い浮かんだ種族名を出す。
自分は異世界でガメゴンと呼ばれる種族なのだろうとギードは割り切ってしまったため、もう何度目にもなるガメゴン扱いにも反論はしない。
河童はなぜそこで言葉を区切るのだと不満げだ。
ガメゴンカッパなんて言葉が浮かんだからなのだが、口に出すとあとで殴り殺されかねない。
フロッガーにいたっては聞いたこともない名前だが、本人がそう呼んでいるのならそうなのだと納得させた。

「むぅ〜〜、それが後ろにいるモンスターなの?」
やや疑いを露にしながらも、"タバサ"はヘンリーの言葉を肯定する。
タバサは魔物は純粋だと語っていた。だからこそ、きっと魔物は純粋なのだろうと"タバサ"は理解した。
絶対に相容れない魔物も存在することを"タバサ"は知らない。
ガメゴンロードやフロッガーを仲間にできる世界など、無数ある世界のうちでたった二つしか確認されていない。
知らないが故に、ヘンリーの言葉を信じた。


果たして、ヘンリー以外も無実であることを証明する取っ掛かりはつかめた。
あの派手なオブジェクトがいつ攻撃してくるのか、という不安は付きまといっぱなしでも、当の"タバサ"からはその意志は見受けられない。
「ヘンリーおじさんの言葉は信用したいです。だから、私にも確かめさせてね。
 悪いことをたくらんでないかは、きっと目を見れば分かるはずだから」


****

355 :私とは、何者なのか 17/25:2018/05/04(金) 21:08:36.86 ID:gox079EBd
"タバサ"はギードのほうにてくてく歩いていく。
目を見れば分かるという言葉にヘンリーは一瞬だけ肝を冷やすも、すぐに平静を取り戻す。
結局のところ、ブラフなのだ。
現在進行形で脱出について隠し、"タバサ"を誘導しているヘンリーに対し、何も指摘をしてこないのが状況証拠となる。


"タバサ"がギードの目を覗き込む。ギードは目をそらすことなく、その瞳を見つめ返す。
「ワシはそなたとは争う気はないよ。
 そなたにとって、ガメゴンがどういう魔物に映っているのかは分からんが、
 罪のない者を一方的に襲うような真似をせんことは断言しよう」
「私はタバサです。ヘンリーさんと同じ世界からやってきたの。
 悪い魔物だと決め付けて、いきなり攻撃しちゃってごめんなさい、謝ります」

他人に化けるという手法はギード自身は扱えないが、知識としては持っている。
エクスデスはタイクーン王になりすまし、バッツたちを欺いた。
エクスデスが使っていた術ならば、【闇】に憑かれた者がこれを使うことができてもなんらおかしくはないという理解だ。
そもそも、元の世界のギードの祠にはそういうモンスターが大量にいたのだ。


ギードが【闇】をはっきりと認知していないとはいえ、"タバサ"が【闇】に憑かれていると仮定すれば、
今朝狂い掛けたアーヴァインをはるかに超えた総量が集っていると結論付けることは容易。
長く接していれば、徐々に【闇】に侵されていくというのはもはや彼の中では疑いようもない。

一方、セフィロスがチカラを求めていることはプサンから聞いている。
誰よりも死と怨念を生み出している者。
そして、この世界で求められるチカラがあるならば、それは【闇】とイコールで結ぶことができるものだとしか考えられない。
仮に手中に収めてしまえば、死を超える存在に変異するという確信があった。

しかしこれを言葉として出すことはない。
疑念を対象の二人に気取られれ、それが図星であれば逃げられてしまうだろう。それとなく他の二人に伝えられる機会を待つしかない。
河童に向ける過剰なまでの警戒心も、セージと先に一度交戦をおこなったことも、周囲に気取らせない穏やかさ。
ヘンリーに言わせれば、さすがはガメゴン族の伝説的存在と賞賛がとび、
それに呼応してギードは諦めたようなため息をつくのだろう。
ギードと"タバサ"の接触では何も起こらない。


****

356 :私とは、何者なのか 18/25:2018/05/04(金) 21:10:32.98 ID:gox079EBd
続いて、"タバサ"はもう一匹の魔物たる河童の目を覗き込む。
「カァ〜〜……」
「よろしくね、小さな魔物さん」
小さな河童と少女がお話しているだけのほほえましい光景だ。
実際は殺人鬼が、死と怨念の塊に観察されているというおぞましい光景なのだが。
場を緊張が支配する。
ギードは河童の行動を注視し、ソロとヘンリーは"タバサ"の行動を注視するが、傍目には特に何も起きない。


本物のリュカやタバサのような、目を見てその人となりが分かるなどという能力は"タバサ"にはない。
エルヘブンの血を引かない"タバサ"に、相手が何を考えているのかを感じ取れるというチカラはない。
代わりに河童の目に、"タバサ"の周囲が歪んで見えた気がしただけだ。


「ああ、タバサちゃん。この魔物はさっき会ったばかりなんだよ。
 何もないとは思うけれども、命令を聞いてくれるかどうかはまだ分からないから、そこは注意してくれよ。
セフィロスの凶悪さについて、ヘンリーは仲間から散々聞かされている。
河童について、改心した魔物だと言い切ってしまうのは非常にまずいと感じ、
拘束などが不自然にならないよう、一言付け加えておく。

「あっ、かしこさが……ううん、なんでもないです」
「カァ? カァカァ?」
「ごめんね魔物さん!」

かしこさが低いうちはということ聞かないんだよとは、タバサから世間話ついでに聞いただけのこと。
最後まで言い切ることはなく口を早々に閉ざし、"タバサ"はソロの元へと向かう。
小娘ごときに気を遣われた見栄張り河童にストレスがのしかかるが、それ以上は何も起こらない。
あの歪みは【闇】であるのか。であればなぜ魂のない自分に【闇】が寄せ付けられているのか。何らかの理由で【闇】を扱う下地を得られたのか。
違和感を自問するにとどまっただけだ。

この会場にセフィロスが家族と思うものもおらず、心の支えにしている仲間もいない。
彼を支えているのは、強烈なまでの自己愛とジェノバとしての使命、そしてそれに付随する母への愛だ。
セフィロスである限り不変のもの。
他者に依らないのだから、どれだけ殺したところで、どれだけ殺されたところで、【闇】に付けいれられるような隙は現れない。
河童が本当にセフィロスであるのならば、【闇】には決して染まり得ない。
会場にいる他者を失ったことで【闇】につけ込まれるような存在には決してなりえない。
一瞬だけ底抜けのお人よしの姿を思い浮かべ、すぐに黒で塗りつぶした。


****

357 :私とは、何者なのか 19/25:2018/05/04(金) 21:11:37.58 ID:gox079EBd
「タバサです。ソロお兄さん、よろしくね」
「ソロと言います。ヘンリーさんにはこの世界に来て以来、ずいぶんとお世話になってます」

河童と"タバサ"に何もなかったとはいえ、じゃあもう安心だとはいかない。
クリムトより受け継いだ、まやかしを打ち破り真実を見通す眼。
幻光虫の投影もモシャスも打ち破り、青髪の青年、セージの姿を捉えている。

ソロとしては、セージがこのまま自分を偽り続けることをよしとするわけではない。
ただし、そもそもの前提として、敵と認定されているうちは、相談も説得もできるわけがない。
愚直に成りすましはいけないよと指摘しても、逆鱗にふれるだけだろうというのはこれまでの態度から推測可能だ。
もうどうしようもないところまで行っているのか、それともまだ引き返せるのかは分からないが、
できれば彼にも正気を取り戻してほしいという願いはあった。
そんなソロだからこそ、目をそらしたり視線を落としたりすることはなく、腰を落とし、視線を合わせ、誠実に"タバサ"と向き合う。

そうして、ソロと"セージ"の視線が交差する。


***

358 :私とは、何者なのか 20/25:2018/05/04(金) 21:13:02.01 ID:gox079EBd
呼び覚まされる。
かつてタバサから、そしてリュカから浴びた、すべてを見通すような眼。
再び体感した。真実はどうあれ、セージはそう自覚した。
"タバサ"を通り越して、セージが"見られている"。真実という偽りを曝け出されている。
"タバサ"がセージというプロテクトを破られ、【闇】に上書きされる感覚。
自分が侵されていく感覚。
「あ……。あ、ああ…………」

「どうか、しましたか?」
ソロが訝しげに"タバサ"を見る。"タバサ"はまるで幽霊を見た少女のようにぶるぶる震えだす。オブジェクトはくるくる回る。
その変化を危険なものと感じたソロはバックステップで距離を取る。
天空の盾を構え、格上のモンスターと相対したときのように、じりじり徐々に後ずさる。
他の三人も同様に、それぞれ距離をとりながら、同時に防御の構えを取る。
"タバサ"に対して、ちょうどひし形のような陣形となって相対。
ソロが"タバサ"には最も近く、ギードが最も遠い。ソロ以外の三人は少し離れた場所にいる、その位置取りだ。

「……これヤバいんじゃないか? ソロ、お前なんかやったか?」
「すみません、僕にも何がなんだか……。心当たりはないわけではないですが……。」
「だよなあ……なんか光った、くるぞ!」
オブジェクトがキラリと輝く。
次の瞬間、"タバサ"とソロの間にある地面から色とりどりの爆風が吹き上がった。

地面からの爆発は予想外……とまではいかずとも、想定の範囲ギリギリの攻撃だった。
ソロは盾を以って直接的なダメージは防ぐも、その勢いまでは殺しきれず、身体が軽く吹き飛ばされてしまう。
そのまま背中から硬い何かに着陸。激突というほどの衝撃はない。
土煙と、体に悪そうなカラフルな煙が立ち上り、三人は向こう側の状況を把握できない。
煙の向こうからレーザーのようなものが来るのではないかと一時だけ警戒するも、新たに加わる喧騒は何もない。

359 :私とは、何者なのか 21/25:2018/05/04(金) 21:14:14.81 ID:gox079EBd
「目くらまし、かの? それにしては派手な目くらましじゃったが」
「派手といえば、ずいぶん派手にぶつかってたが、大丈夫か?」
「ええ、なんとか衝撃はほとんどありませんでしたから」
「人間の身体がぶつかった程度なら平気じゃよ。
 強力な鎧を着けておったらどうなるかは分からんかったがの」
ぎょっとしてソロが視線をおそるおそる視線を後ろに向ける。
彼がぶつかったのは廃墟の壁などではなくギードの甲羅。
もっとも、数百年生きた亀の丈夫な甲羅だ。
天空の鎧を装着していたならばともかく、やわらかい人間の背中程度は受けきれる。
ソロの背中を衝撃は最小限に、配慮は最大限に、アシカがボールを鼻で見事にキャッチするように見事に受け止めた。

「受け止めてくださったんですね。ありがとうございます」
「なに、たいした怪我がないのは何よりじゃよ」

そう言いながらギードは前方への警戒を解き、辺りを見回す。
"タバサ"がいないのは当然のことであるが、
これとは別に、右も左も前も後ろを見ても、もう一匹の緑色の生物の姿がない。

「セフィロス……姿が見えんの」
「いつの間にいなくなった?」
「おそらくは、ついさっきの爆発が起きたときじゃな」
ほんの一瞬だ。
それまでのギードの視界には常にどこかに河童が収めてられていた。
ただ、吹き飛ばされたソロを受け止めること、そしてその後に来るであろう……実際は来なかった追撃をいなすことに集中し、
その一時だけ警戒がおろそかになった自覚があった。

「その隙に逃げたということでしょうか……」
「逃げただけならまだいいんじゃがな」
殺人鬼セフィロスは逃げただけでも十分大事だが、
彼が"タバサ"を使ってチカラを手にしようとしているのならばさらに一大事。
その強さも残虐さもチカラへの執着も、一般的なモンスターなどはるかに超えた次元にある。
"タバサ"を追った可能性は十分に高いとふんでいた。

「連れ戻そうってのはナシだぞ?」
ヘンリーは非戦闘員、ギードの傷も浅くはない、ならば自分が連れ戻すしかない。
口を開こうとしたソロに先んじて、ヘンリーがクギを刺す。

360 :私とは、何者なのか 22/25:2018/05/04(金) 21:17:46.34 ID:gox079EBd
「お前がそういうやつだってのはよく分かってる。お前のそういうところに何度も救われてきたのは事実だ。
 ただな、今優先すべきなのはセフィロスを助けることじゃないし、あの男を正気に戻すことでもない」

ヘンリーの役目はソロを南東のほこらまで連れて行くことだ。
このゲームを潰すのは三つ段階を踏まねばならない。
首輪の解除。脱出路の確保。そして、魔女や舞台装置の破壊だ。
首輪の解除は成功した。脱出路についても確保の目処はついている。
三段階目を達成する計画を練らねばならない。
セフィロスとケフカ、そしてセージを無力化できるのであればそれに越したことはないが、優先すべき事柄ではない。
これは事実だ。
ただ、ヘンリーはウソをついているわけではないが、本当のことをすべて言っているわけでもない。

ソロは、河童を説得し、なんとか仲間として迎え入れられないかと画策していた。
ヘンリーがソロに向けるような仲間意識とまではいかなくとも、
こいつは絶対に裏切ることはないというような一種の信頼関係を作り上げたのも事実だ。
利害の一致があったとはいえ、ケフカと相対したときに何度も逸りそうになる彼にブレーキをかけたのは河童である。
仮に本当に仲間に引き入れることができるのであれば、その戦闘力は対魔女を想定したとき非常に大きいものとなろう。
そこまでなら、ヘンリーもリスクはあっても河童の捜索を拒絶はしなかった。

「ケフカの言っていた、洗脳されたお友達、ということですか……?」

河童がアーヴァインを洗脳し、手駒としようとしていることをヘンリーは知っていた。
【セフィロス】という名前を聞くだけで、アーヴァインの洗脳が進むことを知っていた。
だから、二人は絶対に近づけられない。
アーヴァインは脱出のキーマンの一人で、一方セフィロスは魔女と戦う際に大きな戦力になってくれるかも『しれない』グレーな参加者。
両者を引き合わせるリスクがあまりにも大きいとなれば、片方は切り捨てるしかない。
しかも、これだけでも面倒な事態なのに、アーヴァインの洗脳については夢で得た情報であるため、直接口にするわけにはいかない。
なぜ河童を追えないのか、その根拠をソロにもギードにも説明ができないのだ。

「ああ、そうだ。さっきも言ったとおり、ケフカのアレは事実だろうとふんでる。
 それにソロ、別個の理由でお前は行かないほうがいい。
 "タバサ"ちゃん……もとい、たぶんセージってやつなんだろうが、お前と目を合わせた途端に急に騒ぎ出したからな。
 さっき何が起こったのかはいまいち分からんが、多分ややこしいことになると思うぞ」
だから、"タバサ"の反応を口実に補強をする。
首輪解析の結果を知るヘンリー、一時期エドガーと行動していたギード、二人ははっきりと盗聴の事実は知っている。
だが、ソロは盗聴されているのかもしれないという警戒レベルだ。
首輪をコツンとたたき、言外でないと伝えられないとジェスチャーながら主張する。

連れ戻したいという想いはある。
まだ河童からはほとんど話を聞けていない。
だが、直接いえない事情をヘンリーが抱えているのも分かる。
だからソロは反論できない。



***

361 :私とは、何者なのか 23/25:2018/05/04(金) 21:23:37.86 ID:gox079EBd
「なあギード、一応確認しておくが、アンタに代わりに行けと言ってるわけでもないからな?
 そこは勘違いしないでくれよ?」
ヘンリーの第一目的はソロの救出だが、ソロ以外はどうでもいいというわけではない。
脱出するメンバーとして迎え入れたいという思いはある。

だが、ギードは首を縦に振らない。
「承知の上じゃよ。その上で、ワシはあのセフィロスという男を野放しにするわけにはいかんでのう」

セフィロスの所業については、サイファーを通してソロの耳にも届いている。
一日目のその場にギードがいたということも、そしてギードの所業が結果として一人の人間の死に繋がったということも。

「私怨ですか?」
だからこそ、これだけは確認しておかなくてはならない。
【闇】がどういったものであるのかについて、ソロの持っているのはヘンリーから聞いた情報で全てだ。
恨み辛みを持ったまま戦えば、また【闇】に侵されてしまうと危惧しているのだ。

「ないとは言わん。じゃが、それを差し引いてもやつに【闇】を引き合わせるわけにはいかんのだ。
 いわばワシの役割、使命のようなものじゃと思っておくれ。
 それがなければ、とっくに南東に向かっておったわい」
「仮にセフィロスやケフカ、セージさんに出会ったとしたら、何をするつもりですか?」
「やはり、あの少女はセージ殿、なのじゃな。
 何もなければそれでしまいと言いたいが、セフィロスをお主らの仲間やセージ殿と長く引き合わせれば、まずいことが起こりかねんからの。
 できるだけ、二者とも引き離したいとは思っておるよ。
 あらゆる選択肢を、否定はせんがの」


ヘンリーはふう、と大きく息を吐き出す。
「分かった。ギード、あんたは俺よりもずっと経験豊富なはずだ。行くなとは言わない。
 だけど、せめてこれだけでも持っていってくれ」

「これはひそひ草かな。ワシが持っていてよいのか?」
「ひそひ草のもう片方はソロが持ってる。同じ場所に二つあっても意味ないからな。
 仲間たちの居場所は知ってるし、プサン様とロザリーは拠点に向かってる。
 ユウナとザックスは命を落としたよ。他に居場所の分からない人間はロックだけで、死んでなければ、どっちかの拠点には着いてるだろ。
 だから、ギードが持っておくのが一番いい」

他にも、ソロとヘンリーは支給品からいくつか見繕い、ギードの身体でなんとか使えそうなものを渡す。
りゅうのうろこはギード自身が引き取ることを希望した。
ほかは雷鳴の剣のような直接振るわなくとも魔法が発動するような武器であったり、
またスタングレネードのような保身に特化した道具であり、
ねこの手ラケットのような咥えて使ってもなんとかなる道具だ。
人を探すのであれば持つべきだということで、アラームピアスも手渡した。
ケフカが行方不明ではあるが、
あれほどの魔道士が拡声器で時間を稼ぎ、魔法を使わずに逃げたということすなわち、大技を使う余力はないのだろうとはソロの見立てだ。

河童を見失ってはや数分程度、仮に河童が何かを企んでいれば、悠長に動くことはできない。
準備が整い次第、ギードは早々に河童を追っていった。

362 :私とは、何者なのか 24/25:2018/05/04(金) 21:27:20.84 ID:gox079EBd
"タバサ"とは何者なのか。
事実だけを並べていけば、心が折れてしまったセージがモシャスで化け、そこに【闇】が取り付いた形態、だ。
では、そこにセージの意思は残っているのだろうか。
これも、事実だけを並べるなら、「残っている」。
真実が写し出したのは、紛れもなくセージの存在だ。
では、セージはタバサを演じているのだろうか。
"タバサ"を操っているのは本当にセージなのだろうか。

三日間、【闇】に堕ちた参加者は決して少なくはない。
弱きに付けこむように魂が纏わりつく。
アリアハン大陸の時点で、アルカートにスミス、デールにティファといくつもの【闇】が生まれた。だが、その効能は一つではない。
生存本能だけを残して他を捨て去ったもの、肥大化した欲望のなすがままに行動したもの、幻覚の世界に逃避してしまったもの。
あるいは求めていた【闇】を捨て去り正気を取り戻したもの、魔女の意思に由来する人格が生来の人格を完全に乗っ取ったものも存在する。


基本的には、肉体の主導権を完全に手放さなければ、いずれも取り付かれた当人の願いに呼応する。
ただセージの場合、完全に肉体の主導権を手放したスミスや、
そもそも主導権が存在せずに即時に魔女の意思に染まった分身のアリーナとは少し事情が違う。
セージも自身のすべてを放棄したが、受け入れるのはタバサなのだと方向性を定めた。
魂は染まりやすいもの。悪意にも善意にも、強い意志があればそれに染まる。
だから、河童とは逆に、自己を疑うことを知らない意思が顕現し、
殺しあうだけの下賎な意志や、寂しさを紛らわすためだけの魂は排除された。
厳選した魂、セージの記憶と経験、彼の意志によるプロテクトを併せ持った存在が"タバサ"なのだ。

ソロにセージを呼び起こされたことだけはイレギュラー。
それさえなければ、纏わりつく悪意の問題を除いては、ヘンリーは本当に穏便に事を進められていたかもしれない。
【闇】は【闇】。そこに人の心は存在しない。しかし、"タバサ"にはもうその区別がつかない。
生まれて間もない"タバサ"とセージは、セージへと揺り戻されることを無意識に恐れた。
しかし時が意識をより強固にし、彼女の存在をも強固なものへと変えていくのだろう。
そのとき、真実の眼に映されるのはセージではなく、タバサなのかもしれない。

363 :私とは、何者なのか 25/25:2018/05/04(金) 21:29:22.61 ID:gox079EBd
【セフィロス (カッパ 性格変化:みえっぱり 防御力UP HP:1/4)
 所持品:ルビーの腕輪(E)、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、スタングレネード
     弓、木の矢28本、聖なる矢14本、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、波動の杖、コルトガバメントの弾倉×2
 第一行動方針:ケフカを殺す
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:デスキャッスル跡地から移動】

【ソロ(HP1/2? MP微量 マホステ状態、真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、水のリング、
     フラタニティ、首輪、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー
            スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
 第一行動方針:南東の祠へ戻る
 第二行動方針:サイファー・ロック達と合流する
 第三行動方針:ケフカを倒す/セフィロスを説得する
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー(HP3/5?、リジェネ状態)
 所持品:水鏡の盾(E)、リフレクトリング(E)、命のリング(E)、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード
     デスペナルティ、ナイフ、筆談メモ、リノアのネックレス
     ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃
             デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、ミスリルアクス
 第一行動方針:ソロと共に南東の祠に戻る
 第二行動方針:仲間と合流し、事情を説明する
 第三行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:デスキャッスル跡地から南東のほこらへ】

【ギード(HP2/5?、MP:微量)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(5)
 第一行動方針:セフィロスが【闇】のチカラを手に入れようとするなら阻止する
 第二行動方針:南東の祠へ向かう
 第三行動方針:首輪の研究をする】
【現在位置:デスキャッスル跡地からセフィロスのいるであろう方向へ】

【"タバサ"(MP1/4、元セージ、バリア(魔法無効)、職業:賢者?、ドレス:フロラフルル?)
 所持品:ユウナのドレスフィア(フロラフルル? E)、ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子
     イエローメガホン、英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:タバサの意志を元に行動し、
 基本行動方針:セージではなくタバサが生きているという正史≠紡ぐ。手段は問わない。
 最終行動方針:不幸にも死んでしまったセージ≠フ分まで生き、脱出する。手段は問わない】
【現在位置:デスキャッスル跡地から移動】

364 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/05/05(土) 21:02:35.84 ID:9lPtwpU29
投下乙です!
凄まじい頭脳戦が展開されている。これは一度でも踏み外せば死に至る凶悪な綱渡りだ……!
それでも渡りきったソロやギード、そして作中にて語られたとおり、政治において前線に立つヘンリーが凄い。
だが詰めでやらかしてしまったのは、この先で手痛いしっぺ返しをくらう予兆っぽくてハラハラしますね。
複雑に絡まり入り乱れる展開、お見事です。

365 :私とは、何者なのか(修正) 25/25:2018/05/07(月) 01:23:05.27 ID:kAx1mLMzJ
【ソロ(HP1/2? MP微量 マホステ状態、真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、水のリング、
     フラタニティ、首輪、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー
            スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
 第一行動方針:南東の祠へ戻る
 第二行動方針:サイファー・ロック達と合流する
 第三行動方針:ケフカを倒す/セフィロスを説得する
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー(HP3/5?、リジェネ状態)
 所持品:水鏡の盾(E)、リフレクトリング(E)、命のリング(E)、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード
     デスペナルティ、ナイフ、筆談メモ、リノアのネックレス
     ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃
             デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、ミスリルアクス
     リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
     サイファーのザック(ケフカのメモ)
     レオのザック(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:ソロと共に南東の祠に戻る
 第二行動方針:仲間と合流し、事情を説明する
 第三行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:デスキャッスル跡地から南東のほこらへ】

前話で目の前にザックが落ちてるのを見落としていました。
ソロとヘンリーの所持品を修正します。
これを持っていけるのは最後まで残っていた二人だけなので、内容に変更はありません。
大変失礼しました。

366 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/05/23(水) 23:45:43.47 ID:Zhke31qI+
投下乙です!
やはりソロはタバサの天敵であったか…
果たしてカッパはこの先どうするつもりなのか、緑髪コンビは無事南東に辿り着けるのか、
ギードは本懐を果たせるのか、ケフカはどこに横槍を捻じ込んでくるのか
楽しい腹の探り合いに加えて期待が止まらない展開で、すごい面白かったです!

367 :踏み出せないもどかしさ 1/5:2018/06/02(土) 22:52:29.89 ID:K4dCVTf+S
南東の祠には、何の障害もなくたどり着いた。
祠の入り口で見張りをしていたラムザに発見され、そのまま中へ案内を受けたのだ。
祠に入る際、周囲をしきりに気にしていたのは、主催者に何らかの形で監視されていることへの警戒のあらわれか。
盗聴こそ意識して行動しているとはいえ、我々が持っている情報の価値を考えれば、気を回しすぎるくらいでちょうどいいのだろう。

生存者が集まっているという事前情報はあったものの、予想ほど多くはなく、中にいたのはバッツ、リルムの二人だけ。
ヘンリーには途中で出会ったので、実質ここに集まっていたのは四人ということか。


「こちらにいらっしゃるのは、これで全員なのでしょうか」
あたりを見回しながら、そう尋ねるのはロザリーだ。
奥にも部屋があるようだが、そちらは固く閉ざされている。

「今の時点では、これで全員だと思っていてください。仲間はまだいますが、『外』に出ていますので」
「ヘンリーのオッサンやサイファーが離れてる仲間を集めてくれてるから、もう少し増えると思うぜ」
「ヘンリー様なら、こちらに伺う途中で会いました。ソロ様をお迎えに上がるのだとか」
「私は城でサイファーさんやリュックさんから南東の祠に生存者が集まっているという情報をいただきまして、先行してこちらにお伺いしたという次第です。
 色々共有しておきたいこともありますしね」
共有したいことは山ほどあるが、伝えるべきはまず第一に確立された脱出の手段。
今すぐ実践することはできないが、この忌々しい金属の枷を外すことさえできれば、この研究成果は大いにチカラを発揮するだろう。

「そうですね。……ここに来る途中でユウナ様に襲われて、命からがらこちらまでたどり着いたのです。
 できる限り、祠の守りを固めなければ、と」
ロザリーが会話のバトンを引き継ぐが、『共有しておきたいこと』はそちらじゃない!
いや、そちらも重要だが、そちらじゃないと、指摘したくなるその気持ちをぐっとこらえる。
盗聴されているならこの話題を切り口にするのも悪くはない。
【本人】はもっと別の意図がありそうだが、これでいい。

「オッサンのその怪我も、そういうこと? ユウナ、やっぱりもう……」
左腕の傷が、銃痕と分かるのかはともかく、彼女に襲われたという事実を補強する材料にはなる。
意外に感じるが、リルムの様子は、伝えられた事実を受け入れるという色が強い。
何かしらの手段で、ユウナが狂ってしまったことはすでに伝わっているのか。

「あの方は、もう戻れない領域にまで行ってしまった気がします。
 しばらく行動を共にした身としては心苦しいですが、迷ってはなりません。
 私たちは、彼女の生贄にされるわけにはいきませんから……」
ロザリーが、普段よりも若干強い口調ではっきりと言い切る。
言葉だけを傍から聞けば、狂ってしまった仲間を処断するという決意。
だが、言葉を発するその本音はおそらく別のところにある。
この娘を守れ、決してあの殺人鬼の言葉に耳を傾けるな。
それは彼女の言葉なのか、【魔王】の言葉なのか、それとも二つが混ざり合っているのか。
仮に、彼女が怪我を負いでもしたら、【魔王】はいかなる判断をくだすのか。

368 :踏み出せないもどかしさ 2/5:2018/06/02(土) 22:53:49.00 ID:K4dCVTf+S
一方、茶髪の青年、バッツが怪訝な表情を浮かべたのも気になる。
私はロザリーを知っているために、彼女の違和感に気付いた。
だが、ロザリーとバッツの間に接点があったとは思えない。
接点があったなら言葉ひとつくらいかけるはずだ。
であれば不審に思う点があるとは思えないが……。
まさか今の間で【闇】に気がついたのか?
それとも、バッツ自身が【闇】を飼っていて、同調しているなどがありうるのか?
そのように思いを馳せるも、それを振り払う。それは今考えるべきことではない。
研究成果の共有が優先事項だ。


「ザックスさんとアンジェロさんが殿を務めてくれました。
 仮にこちらに向かっているにしろ、時間はあるはずです。
 情報の共有といきましょう。お互いに何ができるのかを知っていれば、よい考えも思いつくかもしれません」
「そうですね。我々としても、共有しておきたい情報はあります」
「30秒だけ待ってくれ。ラムザ、これいいか? 大事なことなんだ」
話を始めるタイミングで、バッツがラムザに紙を見せる。
一通り目を通した後、
「分かった。考慮するよ」
とだけ応答して、私のほうに向き直った。
どのような筆談がバッツとラムザで交わされていたか、私には知る由はない。

「ロザリーさんも、準備を。
 横槍が入る前に、話を進めてしまいましょう」
ユウナに対処するという名目ではあるが、回りくどくも確実に、何を知っているか、何ができるのかを共有する。

最初に出すのは盗聴注意のメモ。
魔女に聞かせられない話を切り出すことを明示した上で、筆談で会話をおこなうように導くつもりであったが……。
逆に小動物を介した監視への警戒を明示され、思わずあたりを見回してしまう。
バッツはまあ最初はみんなそう思うよなと言いたげな顔をしているが、私自身は魔力を持つアイテムを基点として念視ができるのだ。
魔力と小動物、媒体の違いこそあるものの、遠隔から監視が可能であることは同じ。
なぜ思い至らなかったのかと過去の自分を殴りたい気持ちに駆られる。
幸いなのは、クリムトが盲目であるがために、研究に関する会話をすべて魔力でおこなっていたことだろうか。
会話に用いた魔力は微弱であり、城も崩壊したため、もはや内容を把握することはできない。
ただ、今後は注意しなければならないだろう。
「ではまず支給品の情報交換から、といきましょうか」

369 :踏み出せないもどかしさ 3/5:2018/06/02(土) 22:56:17.08 ID:K4dCVTf+S
***


話に参加しないわけじゃないけど、筆談って時間がかかるんだよね。
書いてる内容と話してる内容が違うと変なところで会話が途切れちゃう。
その間を持たせてくれるのが帽子兄ちゃんことラムザ。

ホント、いつまで話すんだろうと思ったりしたこともあったけど、
盗聴されていると分かった今となっては、ケバケバオバさんを欺くのにこれほど適した能力はない。
物を書くのに集中してる間、ラムザはずっとしゃべり続けてくれるから、
傍から見れば会話が途切れずに成立してるように聞こえてしまう。
今は飛行移動を覚えるためのカエル式訓練法とかいうナゾすぎる話をしてる。
飛行移動を会得するために魔道士も少しだけかじってたって話から脱線して、訓練の話。
ちなみに本当の話はとても重要な話で、脱出路を作り出すために、魔導士となれる人材を探しているんだって。
もちろんリルムは協力するよ。あのオバさんの似顔絵描いてぶっ飛ばしてやらないといけないからね。

話はそれたけど、今は猫耳姉ちゃんもプサンのオッサンもそれぞれの説明の詳細な準備で手一杯って感じ。
なんか推測とかそういうのじゃなくって、かなり本格的な話っぽい。
それならこっちも夢とか首輪の話は共有しておきたいんだけど……。

「ねえバッツ、さっき帽子兄ちゃんに見せてたやつ、あれなんでそう思ったの?」
バッツが何に気付いたのかってところは気になった。

「ん? ああ、ただのカンだよ。経験に基づいたカンってやつさ。
 みんなが気付いているかどうか分からないから、俺が伝えとかないといけないと思った」
『ロザリー、闇に憑かれてる? 会わせるの待て』
と、簡潔に書かれたメモ。

ここに来た人たちを、スコールとマッシュとその他無神経のイヤミヤローに会わせて大丈夫かどうか判断するのもリルムたちの役割。
今回訪れたのは、アウザーさんのお屋敷に飾られてる絵のモデルになってそうなネコ耳姉ちゃんに、街の年季の入った酒場でボトル磨きをやってそうなヒゲめがねのオッサン。
プサンさんとはしばらく行動したことはあるし、雰囲気は変わっていない。
ロザリーさんも特におかしいところはなさそう。ピサロが必死に探してた人で、ケフカのヤローから狙われてるってことも聞いてる。
どことなく、ピサロっぽい雰囲気もするけど、あのイケメン銀髪の彼女ならそういう感じがあっても変なことではないかなって思う。
どっかのモヤシヤローみたいに、うじうじしながら壊すとか殺すとか言ってたら一発で警戒もするけどさ。

370 :踏み出せないもどかしさ 4/5:2018/06/02(土) 23:00:45.08 ID:K4dCVTf+S
「気のせいじゃないんだよね?」
「俺の感覚の問題だからなあ。
 気のせいならかまわないだろ。俺が勝手にそう思ったってだけでこの話は終いだよ」

バッツは表面上の言葉じゃそういうけど、でも確信しているんだと分かった。
感覚って単語を使ってるけど、要するに【闇】を操作する方法を覚えたから、感覚で気付けたということだよね?
だったらその『勝手にそう思った』を信じるほうがいい。
モヤシはなんつーか、理性のタネ?とかいうアイテム使った例外だって聞いた。
だから猫耳姉ちゃんが大丈夫だろとはとても言えない。
でも、脱出方法として書かれてる内容は本格的で、騙そうとしているとは思えない。
少なくともあのいつも寝てるイヤミヤローよりもずっと好感度高い。

【闇】に憑かれてるのが気のせいなら、あるいはバッツやモヤシみたいに【闇】を自由に扱えるのなら、スコールに会わせるべきだ。
でも、もしユウナのように【闇】に振り回されているのなら、少なくともそのまま会わせるわけにはいかない。
疑ってしまえばいくらでも怪しいところなんて出て来るし、でも知ってしまった以上素通しにするわけにはいかなくて……。
もー、こんな面倒なことになるのもこれもそれも全部ケバケバオバさんのせいだ。
脱出したら言いたいこと全部ぶちまけてやるからな。

371 :踏み出せないもどかしさ 5/5:2018/06/02(土) 23:05:24.76 ID:K4dCVTf+S
【ロザリー
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:所持しているメモとザンデのメモの内容を合わせ、脱出方法の詳細を伝える
 第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:アーヴァイン同様、ユウナ?由来の【闇】の影響を何らかの形で受けています】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。

【プサン(HP1/3、左腕負傷のため使用不能)
 所持品:魔法の絨毯、錬金釜、隼の剣、メモ数枚 風魔手裏剣(1)
 第一行動方針:所持しているメモとザンデのメモの内容を合わせ、脱出方法の詳細を伝える
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP4/5)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾
 ミスリルシールド、スタングレネード×1、エクスカリパー、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、黒マテリア
 第一行動方針:情報交換/ロザリーを夢世界に招いていいか見極める
 第二行動方針:祠の警備
 第三行動方針:首輪解除及び脱出に協力する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】

【リルム(HP1/2、右目失明、MP1/5)
 所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:情報交換/ロザリーを夢世界に招いていいか見極める
 第二行動方針:祠の警備
 第三行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】

【バッツ(HP7/10 左足負傷、MP1/8、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)
      マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 第一行動方針:情報交換/プサンとロザリーを夢世界に招いていいか見極める
 第二行動方針:MPが回復したら自分の首輪を外す
 第三行動方針:祠の警備/機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:南東の祠(手前の部屋)】

372 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/06/04(月) 23:08:47.12 ID:bDxPdfDgu
新作乙です!
ロザリーの不安要素、バッツが気付いて良かったのか悪かったのか…
メンバー的にはピサロも安心しそうなもんだし実際ユウナ以外は警戒してないみたいだけど、アルガスと会った時が怖いなぁw
でも緑髪コンビが戻ってきたら安定しそうだし、脱出計画が進むといいなー

373 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/07/07(土) 20:36:42.62 ID:L3NsNvLDf
保守
いつまでも新作を楽しみに待ってるよー!

374 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/07/31(火) 02:04:15.84 ID:7uYHpr+Xn
今更ながら最新作までアイテム追跡表を更新しました。
補助にでもどうぞ。
http://jbbs.shitaraba.net/game/22429/

375 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/08/04(土) 20:09:54.87 ID:QBERsGzME
>>374
まとめ乙です! 各アイテムへの一言コメントが結構好き

376 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/09/01(土) 16:18:20.61 ID:+X5rF6gux
保守
書き手の皆さんいつもお疲れさまです

377 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/10/07(日) 16:12:39.50 ID:lc4cKTZWY


378 :指をくわえて 1/5:2018/10/08(月) 21:43:08.29 ID:UO7z+kC70
チャッチャッチャチャチャ ちゃららっらっら〜 チャチャッチャッチャ ちゃららっらっら〜 チャチャッチャッチャ

全世界六千億人の俺様ファンなお前ら!
さあ、待ちに待ったケフカ様のお悩み相談&ケフカさま おうえんコーナーの時間がきました。
今回もお便りどっさり机はすっきり!
では皆様からの疑問に一つずつ答えていきましょう。


はいはい、最初のお便りは、私の居場所ですか。
目ン玉ほじくりかえせば、私のいる場所から神のオーラがびんびん立ち昇っているのは分かると思いますが、トクベツに答えてあげましょう。
みなさん私の足元にごちゅう〜も〜く! 見えますか? 私の足元でぐつぐつ湧き立っている地面が。

「アッツーイ!!」

こんな闇鍋みたいな色した沼は寛容なぼくちんでもごめん被ります!
毒沼のどっかに溶岩でも流れこんでるんじゃないですかねえ。
いや、さすがに割とシャレになりませんって。

ん? なんで毒沼にいるのかって?
あのね、私も必死だったんです。
極太ビームちゃんたちがキャーケフカさま〜って黄色いオトを上げてこっちに向かってくんの見たら、
そりゃ次の目的地はデスキャッスルの南側の草原ね〜おほほ、とか悠長に考えていられないワケですよ。
本当に行き先考える余裕なんてなかったしね、仕方ないね。
死を覚悟した瞬間に世界がスローモーションになるって言うけど、アレってホントだったんですねえ。
今までで一番長い時間に感じられましたよ。体感だと800日くらい時間が経ったんじゃないですかね。
というわけで今は城の北側な。
さ、次いきましょう。

379 :指をくわえて 2/5:2018/10/08(月) 21:44:50.44 ID:UO7z+kC70
次は次は、ああ、サイファー君との約束ね。
あんの忌々しい干し柿パセリ混入事件さえなければ、カッパをパパっとクッキングして、
サイファー君ちの宅配ボックスにかっぱ巻き一丁ツッコみ、
サイファー君も私も手を取り合ってハッピーエンドだったんですけれどねえ。
しかもどっかのゾンビが崩壊世界ばりに襲ってきたせいで、
最後の砦たるヘンリー弁護人もギード検事もぼくちんを弁護するどころじゃなくなっちゃったし。
このままじゃサイファー君がワタシの事務所に凸してきてしまいます!
もうケフカなんぞに仕事を頼むか、俺たちは勝手にやらせてもらう!
みたいな感じでとっとと脱出進めちゃうんだろうなあ。
あ、ワタシの事務所はベクタ帝国ガレキの塔50Fの社長室でよろしく。

……チクショウ。チクショウ、チクチクチクショー!
これもそれもあれもどれも全部全部ぜ〜んぶ青クサイパセリ野郎のせいだ!
成功は全部俺様のおかげ。失敗は全部無能な勇者か役立たずのカッパのせい。
こんなのこの世界が生まれる前から宇宙の法則レベルで決定してるんだよ!
え? この世界が生まれたのは昨日か今日なんじゃないかって? そんなツッコミはいりません!

……まあ、ちょっくら真剣に考えてみましょうか。

サイファー君とアーヴァイン君に首輪も脱出も全部おんぶで抱っこというわけにはいかんのですよねえ。
あいつらがソロ君とどれだけ仲良しなのかは知らんけど、あのパセリ絶対あることないこと言いふらすでしょ。
そしたら、もうお前は信用できないとばかりにぼくちんだけ仲間はずれにすることは目に見えてます。
ただでさえロックやらリルムやらマッシュやらロザリーやらがぼくちんの悪評を振り撒いているってのに、
尾ひれどころか背びれにシッポまでくっつけられたらたまったもんじゃありません。
それこそ再会する前に逆転の切り札ってやつを用意しておかないといけないんですよ。
あ〜、どっかに首輪の仕組みを全部載せた主催者公式ガイドブックとか落ちてないかなあ。
あるわけないですね、そんなもん。すみません。

実際のところ、昨日キャンプ地で中身の飛び出た首輪を拾ったんで、機械部分だけなら少々知見はあります。
が、アーヴァイン君の役割が繋がってこないから迂闊に手を出せないんですよね。
んー、何とももどかしいかぎりです。

380 :指をくわえて 3/5:2018/10/08(月) 21:48:23.95 ID:UO7z+kC70
さてさて、次の疑問に答えましょうか。結局ギード助けに行くの? 行かないの?
一番はっきりしてほしかったのはこれだろう?
そこをどーにかこーにか実現する案を考えてたわけですが、
ちょっと私の今の状態を整理してみましょうか。

【ケフカ (HP:2/3 MP:0)
 所持品:ソウルオブサマサ、魔晄銃、魔法の法衣、アリーナ2の首輪、やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器

生命力やら体力についてはいいですね。まあ、ビームが一本ぶつかりはしましたが、なんとか致命傷は避けています。
全身ヒリヒリするけどな。
続きまして、MP:0。「MP:0」。『【M P : ゼ ロ】』。
え? しつこい? 重要なことですからね、三回言いました。
そう、さっきのテレポでもう本当に魔力すっからっからんのらん!
魔法の使えない魔導士なんてまさに俎上のハ マ チ!
こうなってはソウルオブサマサもやまびこの帽子も役立てようがない!

さてさて、私が持っているほかの手段を見てみましょうか。
ラミアの竪琴……神で全知全能の私といえども、さすがに竪琴の演奏までは修得していないわけですよ。
神は演奏する側ではなく聞く側。神様はお客様なんです。
役立たずの狂信者どもがワタシに媚びるために必死になって修得したご奉仕活動まで奪うわけにはいきません。
ちゃんと神様やってるでショ?

拡声器……使ったところでひっかかるのはユウナちゃんくらいで、実際にユウナちゃん来たらますますワケ分からんことになりそうだし……。
あのお子ちゃまゾンビ引きつけるにしても、どう言えば来るんですかね?
ユウナちゃんなら「ア」「ー」「ヴァ」「イ」「ン」と五音出しとけば、ばびゅんとすっ飛んでくるのになあ。
今ので来てないですよね? 来てませんね。

魔晄銃……というかまともに運用できるのってこれしかないですよね。
パセリとナマモノとゾンビを隠れて狙う天才狙撃主ケフカ!
脳みそまでキュウリの詰まったナマモノを銀の弾丸でぶち抜く!
撒き散らされるキュウリの浅漬け!
気配すら感じ取れなかった……と呆然と呟くパセリ!
腰を抜かして、死にたく…ないとほざくゾンビ!
そいつらの脳天をも華麗にブチ抜いて、これがバトルロワイアルというものだとしたり顔で語るのはワタシ!

……ムリだじょ。
ワタシ魔晄銃なんて数回しか使ったことないです。普通に魔法使ったほうが楽でしたし。
さらにさらに、あのパセリをパセリたらしめてる反則の魔法無効を貫けるかって言ったら……微妙ですよね?
ゾンビはゾンビで魔法無効のなんらかのアビリティ持ってるし。
魔力ゼロの魔導士を操作して魔法無効のパセリ&魔法無効のゾンビ&ナマモノを倒せ!
ケフカ様の灰色通り越して白銀に輝く国宝級の頭脳でも、こんなの考えるのに時間使ってないでもっと大事なことを考えようと即答するレベル!
またはこっちも裏技! フラッシュレインとまどうバリアーを合成してバリア解除! ……はい、すみません。

おまけにピーマン王子が付けてたあれ、帝国が開発してたアラームピアスじゃなかったですか?
ほんと〜に緑野菜どもはワタシをいぢめるのが生きがいなのかってくらい徹底した嫌がらせをしてきますねえ。


ええい、放置だ、放置!
ギードさん! アナタには悪いですがなんとか生き残ってください!

381 :指をくわえて 4/5:2018/10/08(月) 21:53:07.64 ID:UO7z+kC70
とまあ、のんびり考察しちゃいますが、実際は多少の時間的余裕はあるでしょ。
さっきの爆発以降なんにも戦いの音が聞こえない。
あの派手な魔法なら、今頃どっかんどっかん響いてていいはずなんですが……。
え? まさかあの一発で全員お陀仏しちゃいました?
いやいや、ヘンリー君はともかく、パセリとナマモノはそこまでヤワじゃないでしょ。
というかぼくちんがあれだけ粘っていまだピンピンしてるナマモノが、
死にぞこないの大技一発でくたばるとなったらさすがにぼくちん泣きますよ?

「…の……で死ん……は誰だっ……ていうんだ! 俺…救えなか…たあの子………何者なんだ!?」
ほらね。耳を澄ませば男の叫び声がひびいてきます。

「………違います!」
こっちはゾンビの声ですね。男は誰の声か分からないけど、女の声出せるのは一人しかいません。というかあいつ話通じたの?
もしかして、ソロ君頭おかしすぎてあのゾンビまで仲間に引き込もうとしてるんですか?
ソロ君の行動はユウナちゃん級でぼくちんには理解できません……と全否定することもありませんか。

脱出のカギはアーヴァイン君、進化の秘法、もっというなら【闇】ってやつなんだろう?
さっきも言いましたとおり、どう使うのかはさっぱり分からないけれども、【闇】が必須なことだけは想像つきますとも。
仮にソロのやつがアーヴァインと繋がってるとしたら、首輪を外す方法を知っていてもおかしくはないし、【闇】を見分ける方法を知っていてもおかしくはない。
対峙しているのはゾンビことタバサ。筋肉ダルマのパパスが言ってた孫娘。
黒い霞が立ち上っていたというアイツの言葉、忘れちゃあいませんよ。
黒い霞……これ、ビンゴじゃないですか?
【闇】に侵されたやつが全員ユウナちゃんみたいになるのなら放置が妥当ですが、アーヴァイン君という事例を知ってます。
手元に置いておきたい。そう思うよなあ。
しかも、ぼくちんには及ばない……もとい、『神のチカラを全開にした』ときのぼくちんには及ばないですが、タバサの魔力は相当潤沢なものとみた。
もし手元に操りの輪があるんなら、即頭にかぶせるほどの良物件。
じゃあ、ぼくちんにアレを捕まえられるかというと!

ごめんちゃい、すんごく行きたいけど、やっぱ今すぐにはムリだわ。
そりゃあ両手はがっちり胸の前、目線は仰角45度で誠心誠意お願いすれば5割くらいの確率で話くらいは聞いてくれるかもしれませんよ?
でも、裏の5割引いちゃえばくらえーイオナズンでぼくちん消し炭ばらばら。
対抗しようにもMP0! いや、今必死に回復してますんでMP3! 変わらない!? ポイゾナくらわすぞ?

魔法の法衣を着てれば即死はしないでしょう。
でもですね、法衣なんて神に仕える側が着る服じゃないですか?
身につけるだけでご遠慮願いたいのに、この地面にすそを引きずるようなデザインはなんなんですかね?
というか同じことの繰り返しになりますが、結局あれと接触するにはソロ君とカッパをどうにかしないといけないわけで。

……ソロのやつ、どこまでもワタシの邪魔をしやがって。

382 :指をくわえて 5/5:2018/10/08(月) 21:56:04.59 ID:UO7z+kC70
まー、一発逆転するならあいつらの会話を盗み聞きしてうまいことタバサを引き入れるなんてのもありですが、
誰かに見つかる=大ピンチ確定の法則が成り立ちますね。
ぼくちんの堅実なライフスタイルに基づく行動を取るなら、この山の頂上に行くべきでしょう。
ピサロのおうちで読んだ本には、進化の秘法を使うのはココ! みたいに書いてあったけど、
それなら南西の祠みたいに魔力を溜め込んだ装置くらいあるかもしれんでしょ。
もしかしたら隠れる場所もたくさんあるかもしれないしな。
というか城の北側にいる時点で行き場所っていったら毒の沼地地獄温泉めぐりか活火山登頂ツアーの二択なんですよ。
せめて、誰かに会う前にバニシュかリフレク一回使う程度の魔力は回復しておきたいものです。
やまびこが響いて自分にバニシュ二回かかるなんてマヌケはおかしませんことよ?

ああ、それにしても今の私は目の前でエサのお預けくらった哀れなイヌのよう。
誰かこのかわいそうな神様に施しをいただけませんでしょうか。
無抵抗のタバサあたりを供えてくださるとなつき度が大幅に上昇します。
ソロやカッパの首なんかも受け付けておりますことよ!



【ケフカ (HP:2/3 MP:3)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
 第一行動方針:魔法を使える程度に魔力を回復
 第二行動方針:優位に立ち回るための手札を確保する
 第三行動方針:セフィロス・ソロを初めとする、邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第四行動方針:アーヴァイン達に首輪を解除させる
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:デスマウンテン麓】

383 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/10/17(水) 19:50:12.75 ID:2dO9vLBkE
新作乙です!
ケフカがんばってるけど割と詰んでる感しかないw
なんとかワンチャン掴んで逆転できるといいね(温かい目)

384 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/10/20(土) 13:36:04.44 ID:E8kz81loT
なんとなく今残ってるアイテムの組み合わせで錬金考えてたら6時間経ってしまった
DQのアイテムだけでも軽く60種類はこじつけられそうだけど、
元々弱い武具の強化か、元のアイテムよりも劣化してるかがほとんどだわ

385 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/10/29(月) 23:18:38.67 ID:AFrp0pckv
おおー!新作来てた!投下乙です!
ケフカ視点は毎回とても愉快で楽しい

386 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/11/05(月) 22:45:57.55 ID:9AQIfZbtZ
新作乙です!嬉しいです!
地味にケフカ好きなのでなんとか粘ってほしいですね……
緑髪コンビがずっと一緒に生き残ってるのほんと好き

387 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2018/12/02(日) 14:57:28.09 ID:Ue/cj1vcG
保守

388 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/01/03(木) 01:25:07.39 ID:XgM/u/PU4
新年保守
今年中に四日目までいけるかなあ

389 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/02/08(金) 01:05:38.05 ID:KL8UvH8tJ
もう少し保守

390 :再誕へ続く道 1/21:2019/03/04(月) 00:26:13.67 ID:YyksvsiI9
爆発にて生じた空白の一瞬を見逃さず、私はソロらから離れた。
そのまま、あの場から離脱した小娘の背を追っている。
ギードを含むあのパーティに留まる利はないというのもあるが、小娘を追う理由は他にもある。

あの小娘からは【闇】らしきものを感じ取ることができた。
【闇】であると断言できるほどの、強烈な侵食があったのだ。
仮にソロやギードらに聞いても同様の答えが返ってくるだろう。
ヘンリーが"タバサ"に対して慎重極まりない対応をおこなったのは当然の帰結だ。
だが、【闇】に結びついたエネルギー、ライフストリームの性質に酷似したエネルギーには気がついただろうか。

この会場には別の惑星、あるいは別次元から参加者が集められたと想定できる。
攻略本に第○幻想世界などという言葉が使われていたのは覚えているし、
各参加者やアイテムについても未知の性質を持つものが多かった。
何よりクジャやソロなどの強者がいるならば、私が知らないはずがない。
そもそも旅の扉自体、複数の異なる世界を繋いでいるようにしか思えない代物。
この考えは、それほど的をはずしてはいないはずだ。

そして複数のマテリアが支給されているのは確認したが、
そのすべてに『第七幻想世界の』という見慣れない接頭語がついていたのを記憶している。
黒マテリアだけはいくつかの世界に存在していたようだが……
マテリアというものを系統立てて活用していたのは私の出身世界だけだ。
【闇】と結びついたマテリア、闇マテリアとでも呼ぶとしよう、それが存在するならば、最も活用できるのはこの私だ。
ザックスや、仮にクラウドが生きて闇マテリアの存在を知れば、私がそれを優先して狙ってくるとの結論に至るだろう。

391 :再誕へ続く道 2/21:2019/03/04(月) 00:27:15.60 ID:YyksvsiI9
「クァークァックァ……」
手の届くところに、更なるチカラへと至るカギがある。思わず笑いがこぼれてしまう。
ただし、今のままでは取らぬ狸の何とやら。
カッパの姿のままでマテリアを使うことはできない。


元の姿に戻るためには少々複雑な手順を踏む必要がある。
ひとつはコピーを回収すること、ひとつはコピーに『あやつる』のマテリアを使わせること、
ひとつはカッパーの術者を操らせ、私にカッパーを使わせることだ。

ここで問題となるのが先ほどのケフカの発言。
『サイファーたちがコピーを保護し、私に見つからない場所に逃げた』と確かに言っていた。
他者の言を片っ端から信じるほどピュアな生き方はしていないが、
ケフカの性格を考慮してなお、あの状況ででまかせを言うとは思えない。
実際に、サイファーをはじめとした複数人が護衛としてついているのだろう。
そして、私がセフィロスであるということも知れ渡っていると考えるべきだ。

ケフカは『コピー』の居場所を隠し通そうとしたようだが、肉体はリユニオンする。
本能のまま、分身の呼び声のままに進めばその先に『コピー』はいる。
南西方向に逃げたらしい『コピー』は、今も南西の祠でジェノバの意思に必死に抗っているのだろう。

ただし、今の状態でサイファーらと戦うのは利口とは言えない。
『カッパ』がセフィロスであると気付いていれば、何らかの対抗策は練っているはずだ。
私が逆の立場であれば間違いなくそうする。
たとえば、あの透明になる魔法を使われればそれだけでも相当不利になるだろう。
さらに、邪魔者の皆殺しに成功したとして、コピーを殺されてしまえばまさに骨折り損の結果に終わってしまう。
また、あの道化の聡さを鑑みれば、ジェノバ細胞の性質を見破り、何らかの対処をおこなっている可能性すらある。
小手先の策で無力化させられることはないだろうが、イレギュラーは想定しておくべきだ。

392 :再誕へ続く道 3/21:2019/03/04(月) 00:28:25.30 ID:YyksvsiI9
ところで、元の姿に戻るためにはカッパーを使わせる必要があるが、
『あやつる』のマテリアを使うのはコピー、すなわちアーヴァインでないといけないという決まりはない。
端的に言えば、もう一人コピーを作ってしまえばよいのだ。
ジェノバ細胞の注入は、被験者にとってのメリット、言いかえれば私にとってのリスクが存在する。
ソルジャーと同じ理屈で、相手に強力な戦闘力を付与してしまう可能性があるのだ。

現在生き残っている個体は、大半がソロのような強い肉体と精神力の持ち主だ。
ジェノバの支配を跳ね除けてしまうことは十分考えられる。
だが、その枠から確実に外れるものが存在する。それが【闇】に取り付かれた個体だ。

【闇】に取り付かれるのは心の弱い個体。ジェノバに適合する可能性は非常に高い。
そして【闇】はジェノバを肉体に根付かせるためのエネルギーにもなる。
そもそも【闇】の元は魂だ。ならば、【闇】を与えるのは魔晄エネルギーを与えているのとある意味では同義なのだろう。
話がそれたが、あの【闇】に憑かれた小娘は、第二の手駒とするには十分な素体であるということだ。


城の崩壊に巻き込まれた際の負傷は浅手とはいえない。
当初の想定よりも動けるが、これは姿をカッパに変えられたことによる副作用か。
それでも、仮にソロらが追ってきていると仮定すれば、小娘と長々相対するのは避けるべきだ。
一方で、全力を出して小娘に追いつくのは、これはこれでその後に差し障る。
この先、デスマウンテンは袋小路。曲がりくねった蛇のような、長い一本道だ。
そのため、山頂の玉座前では必ず追いつける。
すれ違う可能性があるとすれば、高所から飛び降りてのショートカット程度。
あの憔悴しきった状態で、自発的にそのような行動を取るとも思えん。


同盟は解消した。ケフカは取り逃がし、そのまま行方不明だ。あの小娘を手駒にした後は素直に休息に費やすべきだろう。
あれが回復魔法を使えるのならなおよし、そうでなくとも次の旅の扉が現れるまで、5時間程度はある。
旅の扉の位置はこれまでの位置から察するに、それぞれの祠とデスキャッスルだ。
ただし参加者の同行を見て手動で設定しているなら、デスキャッスルの南の草原一箇所か、祠への分かれ道部分の数箇所となろう。
ここならば散った参加者同士が鉢合わせ、殺し合いに発展する可能性が高いだろうからな。
複数出現したなら十分な休息の後に飛び入り、一〜二個であればリルムを待ち伏せ、事に及ぶ。
ケフカをこの手で殺害できなかったのは心残りだが、ならば次に奴が現れたときは、以前よりもはるかに力を得た姿を見せ付けてやるとしよう。
カッパとして無力化したはずの相手が、隔絶した力を手にして舞い戻る。
貴様の小細工など何の意味も為さないという現実を突き付けよう。
おおよその予定は組み立てた。すべてを手際よくおこなわねばならない。

393 :再誕へ続く道 4/21:2019/03/04(月) 00:29:00.14 ID:YyksvsiI9
■■■■■■■

ここはデスマウンテン。
【闇】、すなわち進化の秘法を取り入れるために最適化されたパワースポット。

この山に運び込まれた黄金の腕輪を媒介に、進化の秘法が実行された。
憎しみに塗りつぶされた魔剣士ピサロは秘法を以って、究極生物デスピサロへと進化した。
【闇】の力を増幅するこの腕輪は、今となっては頂上の玉座付近に、黄金の残骸となって散らばっているだけだ。
しかし歴史は繰り返すというのか。
今宵新たに【闇】の力を無尽蔵に注ぎ込む媒体がこの山に持ち込まれた。

"タバサ"が『彼女』から取得したドレスフィアは、『彼女』とこの世界との媒介となり、【闇】を引き寄せ持ち主に注ぎ込む。
それは若き『乙女』の魂の成れの果てと直結したアーティファクト。
本来の歴史の道筋から外された怨念を受け、ねじ曲げられた進化すら引き起こしかねない宝玉。
【闇】を増幅する黄金の腕輪と、【闇】を無限に注ぎ込む『彼女』のドレスフィア、
原理は違えども、装着者に大量の【闇】が注ぎ込まれるという一点で大差はない。


少女は必死で山道を駆ける。
彼女は自身が少女の姿をしていることすら認識から抜け落ちている。
翻っていた花のようなドレスは既に外れた。『少女は』使えないはずのピオリムを用いて速度を強化し、
ただ戦火から逃れた無力な少女であるかのごとく、走り、駆け、逃げる。
少女は何かが後ろから追ってきていることは知らない。
少女を追うのは質量のある何かではなく、虚像なのだ。
所詮、お前はタバサのハリボテに過ぎないのだという糾弾を勝手に作り出してしまい、そこから逃げているだけ。
己の弱さが少女、いや、彼自身を追い込んでいるというべきだろうか。
【闇】を取り込んでいるとはいえ、肉体は幼い少女。正体を鑑みるとしても、虚弱な魔道士。
険しい山道をいつまでも走り続けるほどの体力は持ち得ない。
短時間で極度に酷使された肉体はこれ以上の動作を拒み、腿の稼動域は加速度的にさび付いて、一歩ごとに歩幅は狭まり、動きも遅くなる。

ふと気付けば、まわりにソロらの姿はなく、そこにいるのは少女ただ一人。
生き物の声もせず、ごうごうと燃えさかるマグマの音だけがどこからか響いてくる。
余計な音が紛れ込まず、単調な自然音が繰り返されるだけの、ある意味静寂極まりない環境は、
自身の犯した醜態をあらためて振り返り、そして突きつけ直すには十分。
ひざ、腰、腕と、肉体は重力に引かれるままに崩れ落ち、感情は決壊してあふれだす。
四つんばいの体勢となったかと思えば、細い腕は自らの体重すら支えきれず、かくんと折れ、腕に乗っていた胴体も崩壊する。
地面に接着し、武器も持ち物もあたりにバラまいたその様は、まさに墜落といった模様。
頭は垂れ、うずくまり、溢れる涙をせき止める意思もどこかに置き忘れてしまった。

394 :再誕へ続く道 5/21:2019/03/04(月) 00:29:56.07 ID:YyksvsiI9
■■■■■■■

また僕なのか。何度脆さを露呈すれば気が済むんだ。
どこまで僕は"タバサ"の足を引っ張るんだ。
僕の無価値な人生を捨てる? 正しい物語の続き≠紡ぐ?
ああ、それ自体は間違っていないさ。それが正しいことは疑っていないし、そのために僕はすべてを捧げたつもりだった。
ならば、この状況は一体何だ?
亡霊のように"タバサ"に付き纏い、ことあるたびに表出し、"タバサ"を窮地に導いているこの僕は一体何なんだ?


"タバサ"が紡ぎだす賢者の物語を見守る守護霊気取りだったのかな?
"タバサ"が悪い気に侵されないように浄化する神霊を演じてでもいたのかねえ?

結局、『僕が』"タバサ"を導きたかったんだろう?
『セージお兄さんと出会ったことで』"タバサ"は賢者の道を志すようになった。
僕は死んでしまっても、"タバサ"を影から『見守っている』。
どこかでそうありたいと思っていたから、未だに消えないシミのように"タバサ"につきまとっているんじゃないか。
ああ、くだらない。仮に彼女を守護する存在が在るならば、それは僕じゃなくてリュカさんやビアンカさんに他ならない。

他の魂に"タバサ"が侵されないように守っているだって?
そんな綺麗な感情じゃないだろう?

セージはタバサに影響を与えた。
セージ自身はどうしようもない人間だったとしても、それでも彼はタバサの開花に大きく寄与した功労者だ。
僕こそが、他の誰よりもタバサの心の領域を占めている。そんな存在でありたい、
プライドだけは高くて、ナルシストの賢者サマの本心はこういうことじゃないのかな?
承認欲と自己実現欲にまみれた、強欲で未練たらたらの悪霊じゃないか。
こんなおぞましいものが取り憑いていていいはずがないんだ。

タバサは独力で賢者の道を歩んだ。
ひょっとしたら、セージなんていう偏屈者とすれ違ったかもしれない。
けれども、タバサの行く道は変わらない。そういう運命だ。

思い上がるんじゃない。セージはタバサの人生にそよ風ほどの影響も与えてはいないんだ。
僕がいようがいまいが、タバサは賢者としての道を歩んだ。それが運命だ。

395 :再誕へ続く道 6/21:2019/03/04(月) 00:30:37.44 ID:YyksvsiI9
取り落としていた支給品袋。こぼれ出たのは懐かしい物品だ。
ハリセン、赤い羽根帽子、ナイフ、マテリア……
うずくまっていた肉体を起動させ、両腕と両足で体重を支えなおし、散らばったそれらを眺める。

果たして、僕がいなければどうなっていたのだろうか。
そう、僕がいなくても……
ビアンカさんと再会して、彼女を正気に戻して……
彼女と二人で道を誤ったギルダーを正道に引き戻して、和解して……
二人と引き離されても、抜け目なく強かに生き抜いて……
ビアンカさん、ギルダー、二人の死に心折れることもなく……
遂にはリュカさんと再会して……
ジタンと一悶着あったけど、それでも決して折れることはなく、凛とした姿を保ち続けて……
ピエールの凶刃に倒れることもなく、生き抜いて……
そうさ、僕が保護者を気取って出しゃばってただけで、僕がいなくても同じ道をたどっただろう。

今朝までは鬱陶しいと思っていた靄。今となっては、それに身を任せてしまいたいような心持すらある。
あるいは、共鳴しているのかもしれない。
握っていた宝玉……ジタンとリュカさんが交換していた、マテリアという魔法具にも似た宝玉。
あるいは、いつの間にか持っていて、今はそばに散らばっている般若の面。
これらの品に渦巻いているナニカ。
そこにすべて身を任せてしまいたいような、そんな感情。

般若とは智慧の化身であり、一方で嫉妬や恨みの篭る女性の怨霊だと聞いたこともある。
宝玉も、きっと持ち主の影響を受けてそのような恨み辛みを溜め込んだのだろう。
闇の世界すら吸い込んでしまいそうな【闇】色に塗りつぶされた宝玉。
まるで僕を見定めているかのように、黒髪の女性の面がこちらを睨んでいるように思える。
視線を合わせれば、吸い込まれ、同化されてしまいそうだ。

ああ、それでもいいじゃないか。こんなロクでもない疫病神だ。
別の霊が宿っているなら、いっそそれに取り込まれてしまえば、もう表出することもないかもしれない。
宝玉からぶわりと噴出し、そして僕自身を包み込む靄。

温かいお湯や羽毛のベッドにくるまれたように、全身を暖かさが包み込み、意識がとろけだしてしまいそうだ。
もう覚えていないが、胎内というのはこんな感じだったのかもしれない。
僕の存在が消えて、私へと生まれ変わっていく、そんな感覚だ。生まれ変わるといいかえてもいいのだろう。

「本当にさようなら。セージお兄さん」
決別の言葉。まもなく、セージの残骸は【闇】うずまく宝玉に引き込まれるだろう。
まどろみの世界に意識を浮かべる。目が覚めたときには新しい未来が待っているだろう。

396 :再誕へ続く道 7/21:2019/03/04(月) 00:32:49.97 ID:YyksvsiI9
■■■■■■■


「ッッッッ!!」

うとうとしていたところに頭から水をかぶせられたような覚醒。
とつぜん、右の腕にするどい痛みを感じて宝玉を取り落としてしまいました。
近くには見たこともない金属塊、ペン先のような形をした何か。
ぶつかってきたのは平たい側だったようだけれど、それでもこんなの、悪意がないわけないよね。

ころころ。ころころ。

取り落とした宝玉はころころと坂の下へ転がり、地面の凹凸にぶつかっては一定の速度を保ちながら麓へと転がる。
パワースポットの恩恵でも取り込んでいるのか、靄を取りこみ吐き出して、ゆっくりと麓へ転がっていく。

ころころ。ころころ。

ますます離れていっちゃうそれを追いかけようとしますが、まだちょっと疲れているのかも。
それともおかしなタイミングで靄とか色々なものが離れていったのかもしれません。うまく立ち上がれず盛大にすっ転んでしまいます。

こつん。

視線を宝玉にうつし、それを追った先に異質な緑色が映る。
宝玉を拾い上げ、「カー……」と一声鳴いたあと、くつくつと笑っているらしい。
ソロと一緒にいた怪生物。つぶらな瞳ではっきりと僕を見据えている。視線は明らかに僕のほうだ。

「あ……私を連れ戻しに来たの?」
反応はしない。モンスターさんは無言で迫ってきます。
捕食者と被食者、そう表しても過言ではないような違和感が脳裏に過ぎりました。
本能的なカンってやつなのでしょうか。
そもそも、あれは何? 何度か見かけた小鳥さんとは、明らかに存在の大きさが違っています。

397 :再誕へ続く道 8/21:2019/03/04(月) 00:33:50.99 ID:YyksvsiI9
「『僕』が今度こそ消え去れると思っていたのに、邪魔しないでくれないかな?
 ちょっとそこで止まってほしいです……」
声が震えている。
私は僕を捨て去るはずだったのに、中途半端なところで邪魔が入った。
だから、きっと僕の弱い精神がまだ残っていて、相手の害意を敏感に感じ取ってしまっている。
意識の二つが混濁し、ともすれば身体が勝手に動いているようにも感じられる。夢見心地、いや、悪夢のような心地だ。


「カァ? カァ〜、カァカァカァ。カァ?」
(ほう? お前も自我を消し去り、力を得ようとしていたというのか?)

つぶらな眼に宿る光は、決して友好的なものではありません。
たとえモンスターさんと話す力がなくても、この子は悪い敵なのだと確信するでしょう。

「カァ、カァッカァ〜カァ。カァカァカァ〜」
(ならば、いい方法がある。私がお前の願いをかなえてやろう)

「怪物くんが何を言ってるのか僕には分からないけれどさあ……。
 私に危害を加えるのなら容赦はできません!」

魔物と自分を結ぶ空間に無数の氷柱を生成する。
ヒャダルコの呪文だ。低級な魔物ならば一撃で命を刈り取ってしまう程度の威力はあるが、これは足止め用に過ぎない。
狭く、足場の悪いフィールドで、しかも斜面。ついでに気温は高く、氷なんてすぐに溶けてしまう。
氷柱を踏まないように氷のフィールドに足を踏み出したとして、溶けかけて摩擦の少なくなった氷上をまともに移動するのは困難極まりない。
呪文は上級であればその分高い集中力が必要になるし、宝玉の力も準備時間が必要だ。
支給品の英雄の薬を使おうにも、ビンを拾い上げて蓋を開けるなんて手間がかかる。
そんなでかい隙をあのモンスターが見逃すはずがないよね?
次のどの手を選ぼうにも、相手に接近を許してはいけないってわけさ。
仮に飛び越えてこようものなら、空中にいる間は狙い撃ち。
撃ち落してバランスを崩せば、眼下の氷柱に墜落して串刺しだ。

「カァ? カアァァ〜〜……」
(これで足止めのつもりか? ナメられたものだ)

だけど、モンスターさんはそんな私の小細工なんて通用しないとばかりに、走り出します。
踏み込んだと認識したときには、すでに最高速度。流麗。そう形容できてしまいそうな、ムダのない動きでした。
慌ててヒャドで狙い撃つも、子供だましだと言わんばかりの笑みを浮かべて、
身につけている腕輪を当てて鋭い氷柱の先端の向きを変えてしまいます。
勇者もかくやという技量には驚愕しますが、だからといってそのまま好き放題させるわけにはいきません。
バランスこそ崩したみたいですが、その身体はすでに氷刃を飛び越え、前方転回して着地しようとしています。
時間を稼ぐつもりが、むしろこちらがびっくりさせられて後手に回ってしまったかもしれません。

後を考えないで疾走し、酷使してしまった身体も、僅かな休息で多少は動くようになったようだ。
何か即効性のあるものがないかとすばやく辺りを見回し、炎の形をした塊を身体の横方向に確認する。
倒れるように転がり、炎塊……ボムのたましいをつかみとる。
そして魔物に投げつけようとするが……魔物の姿はすでに消えていた。

398 :再誕へ続く道 9/21:2019/03/04(月) 00:34:44.57 ID:YyksvsiI9
「カァ〜。カァ〜カァ。カァカァカァ〜」
(安心しろ、殺しはしない。これから少し私の手伝いをしてもらうだけさ)

「うァッ!」
一瞬でも相手を認識から外したのが失敗だったんだと思います。
死角から現れたモンスターさんの水かきが肘の付け根に触れたかと思うと、
しびれる様な痛みが指先まではしり、塊を取り落としてしまいます。
動きはそこで止まりませんでした。
そのままみぞおちをつまさきで蹴られて、上半身に体重をかけられて踏み倒されて、頭を強かに地面に打ち付けて……。
ブレる景色を何とか呼び戻したときには、既に水かきが喉元に突きつけられ、モンスターチェスでいうところのチェックメイトってやつです。

「カァカァ……。カァーー……」
(恐れる必要はない。不要な感情を切り捨てて、完全な存在に新たに生まれ変わるだけだ)

黒い靄は集まってくるけれど、何が変わるということもない。
むしろモンスターに靄が触れると、そこで吸い込まれるように消えていってしまうようにすら思う。

「カァ? カァカァ〜」
(やはり、これが【闇】か? 何故今になって見えるようになったのか……)

喉元に突きつけられていた水かきは頭部へと移る。
一思いに殺さないのは何か目的があるのか、それともただの戯れなのか。

「カァ〜……カァ、ッカァ!!!」
(まあいい、さっさと終わらせるとしよう……だが)


何かの奇跡が起こったのでしょうか、モンスターさんは私を突き放し、飛びのいてしまいました。
それと同時に炎がモンスターさんのいた位置……私の顔のまん前を通り過ぎていきます。
山頂へ続く道から放たれたそれは、私の作った氷のフィールドに着弾し、溶かしきってしまいました。

「カァ、カァカァカァ、カー!」
(その前に、そこに隠れているやつを殺さねばならんようだな)

「チッ!」

その舌打ちに聞き覚えでもあったのか、魔物は憎憎しげに顔をゆがめると、ザックを手元に引き寄せ、一本の杖を取り出す。
握り具合を確かめ、石突を前方に、杖を振りかぶって……前方の地面へと投擲した。

399 :再誕へ続く道 10/21:2019/03/04(月) 00:35:21.26 ID:YyksvsiI9
あれは凍てつく波動のようなものでしょうか。先端から周辺一帯に広がった波動は魔法効果を打ち消すものだと分かります。
杖から放たれる魔力は、魔法の法衣を着崩したピエロのような人をこの場へと引きずり出した。
ああ、あの人も見覚えがあります。麓でいつの間にかいなくなっていた人ですね。
デールさんが持っていた武器だったかな……銃を構えていますが、先ほどの炎はあれから放たれたのでしょうか。
魔法を放つ武器なのでしょうか。

「げげっ、セフィロス君! 君まで魔法を無効にするなんて反則だじょ!
 君は大人しく攻撃を全ミスしてキュウリのカバ焼きになっていればいるべきだ!
 ほら、そこのおガキ様! 早く君を助けに来たぼくちんに助太刀シナサーイ!」

魔物は騒ぐ道化師の姿を尻目に、筒のようなものを取り出し、取り付けられた取っ手を掴んで引き抜く。
筒が何なのかは分からないが、武器であるのは間違いない。
それを確実に当てるために道化師の姿を引き出したのだろう。

「カァ〜……!」
(またしても……!)
けれども、手がぬるりと滑るのでしょうか、それとも水かきが邪魔なのでしょうか。
きっと、モンスターさんの頭の中ではもっとスムーズに事が運ぶ想定だったんだと思います。
とてもピリピリとしているのが分かります。
もっとも、私のほうも考えるのは後。モンスターさんが私から離れたこのチャンスをムダにしてはいけません。
悪いモンスターさんは、犠牲が出る前に退治しないといけないのです。
マヌーサの呪文をモンスターさんに向けて放ちます。そして間髪いれずイオナズンの詠唱を。
同時にピエロさんのほうでも銃から魔法が発射されています。炎の魔法が発射されていたようです。
加えて、今度はピエロさんとは反対のほうから突風が吹きぬけてきます。他にも誰か来ているようです。

炎、氷、風のエネルギーが魔物へと向かう。
幻に包まれているというのに、三方向から迫りきたそれらに対し、魔物は慌てるそぶりを見せない。
筒を一旦しまいこみ、僕から見て左右から迫る炎と風については後方に跳んで回避を。
そのまま、前方から来る氷刃に対してはサイドステップ、身体を大きくひねってかわす。
見えていたというより、元々の僕たちの位置から逆算して、当たらないであろう位置に避難した、といったところだろうか。
イオナズンの詠唱が完成し、両手を前に突き出すが、そのときには魔物はさらに大きく飛びのいていた。
氷は炎に呑まれ、炎は風に取り込まれ、風は爆風に巻き込まれて増幅し、辺りに熱波を撒き散らす。
しかし魔物はその領域から離れた後。
道化は炎を発射した後、僕を中心点に、魔物を対角として大きく弧をかくように移動している。
あの魔物は力技や搦め手を駆使して尚、簡単に撃退できる相手ではないらしい。
しかし後ろの道化は余裕綽々、魔物は嘴を食いしばって苦々しくこちらを睨んでいる。
と、そこへ巨大な甲羅が乱入、魔物はさらに奥へと追いやられる。

400 :再誕へ続く道 11/21:2019/03/04(月) 00:36:22.36 ID:YyksvsiI9
■■■■■■■

なんで私が少ない魔力を押してカッパの奴を暗殺しようとしたのかって?
透明になってればきっと不意打ちでセフィロスを殺せるだろうと見積もったから、ではありません。
もちろん死んでくれれば手間が省けてよかったんですが、そうはイカんのが世の常ですね。
セフィロス君の身体能力は参加者アンケートをおこなえば満場一致でチートと結論付けられますので、
どうせ『その程度のパワーで俺を殺せると思っていたのか』とかなんとかほざきながら余裕で回避かますに決まってます。

重要なのはレーダーに映る三つの光点。
ソロの奴とヘンリーは頭の色がかぶってるので判別する自信はないですが、今回は分かりやすい三人でした。
崖からちょこっと身を乗り出して観察してみれば、
一人は【闇】をこれでもかと撒き散らしているタバサ。
一人はタバサとちょめちょめしようとしている怪しいカッパ。
一人はカッパかタバサか知らないが、こいつらを追うように走ってきているギード。


私を追ってきたというのはまずありません。
あの状況で私の行き先を断定できるとは思えないですし、
仮に可能だったとしてもタバサとセフィロスとギードがそれぞれ離れているのも不可解。
まあ、セフィロスについては十中八九タバサを追っているんでしょう。

ではセフィロスはソロやギードと繋がっているのか?
少なくともソロがカッパを一人で送り出すことを許すわけがない。
神さまよりよっぽど清く正しい聖人君子ソロ君なら、セフィロス一人で行かせずに自分で追ってきますとも。
仮にソロ君自身が動けなくてももう一人くらいおまけで付けてくれるでしょう。
そしてそのおまけにセフィロス絶対殺すマンのギードが選ばれるなんてありえないよなあ。
以上より、カッパが悪いことするなりタバサちゃんにイケないことを企むなりして、ギードが激怒して追ってきた。
タバサとセフィロスは案の定ドンパチ始めた。
ここで俺様がセフィロスと戦って、俺様は君たちの味方だよアピールすれば、
瀕死のカッパが三対一でボコボコにされるのは確定的に明らか!

ちょっとタイミング早かっただろうって?
いや、カッパが思ったより強くてタバサが死にそうでしたし。
タバサが死んで、手軽に【闇】を確保できなくなるのはそれはそれで困るんだよ。

401 :再誕へ続く道 12/21:2019/03/04(月) 00:37:11.78 ID:YyksvsiI9
「ギードさん、助けに来てくれて助かりましたよ! 次からはもっと早く来ることを要求する!」
「別にそなたを助けに来たわけではないんじゃがな……」
そういいながらも、ずいっと対セフィロスの最前線に陣取ってくれるカメ。
重量級の肉体がカッパとカメの間にでーんと佇む、まさにメイン盾が来たような安心感。これで勝つる。

「いやいやギードさん、ここまで来ておいて、それはツンデレってやつですよ、ツンデレ。
 さあ、協力して真の巨悪セフィロス君を倒そうじゃあ〜りませんか!」

さっきまでいがみ合っていた者同士が強大な敵を前に手を取り合う、おいしいシチュエーション。
別にカメと敵対していたつもりはないけど、ここで共闘してセフィロスを倒したら、ギードさんの好感度MAX!
カッパ巻き大好きのソロ君は激おこでしょうけれど、どうせあいつに好かれる気なんて微塵もないのでかまいましぇん。

「セフィロスは信用できんが、そなたも信用には値せん」
思ったよりも塩対応だなこのカメ。
今回は俺様何にも悪いことしてないのに信用してくれなくて悲しい。
どうせソロかロックあたりに色々吹きこまれたんだろ?
あいつら本当にロクなことしないな!

「とはいえ、"タバサ"殿もそうじゃが、そなたが殺されることも阻止せねばならん」
さすがはカメ! じゃなくてギードさん!
ケツの青い若造の言葉にほだされず、しっかり私を庇護してくれることで、私からの好印象荒稼ぎ!

「一体何が起こっているのかな?
 ちょっと僕にも分かるように説明してほしいんだけど」
おやおや、このゾンビことタバサちゃん、『僕』とか言い始めましたよ?
僕っ娘ですか? 実は男の娘ですか?
インテリぶった生意気そうな口調ですね。

「あの緑のモンスターさんにさっき殺されそうになったんです。
 ギードさん、でしたよね。ソロさんに言われて私を追ってきたの?
 それとも助けに来てくれたんですか?」
「わしはセフィロス……そこのモンスターを追ってきた。
 ソロ殿にもヘンリー殿にも、そなたの動向を妨害しようという意志はない」
「私はあなたを助けに来たんですよ! 私が見るに、アナタは大魔導士となりうる逸材!
 あんなカッパに命をくれてやる義理なんてないのです!」

ちゃんと助けに来たアピールしとかないとな。
察してくれるでショみたいなこと考えてたらまたソロあたりにヘンなこと吹き込まれかねませんし。
それにしてもこのゾンビロリ、なんか今度は『私』になってるしメスガキ口調になってるし。
【闇】でも自分に注入して自我が分裂しちゃったんですかねえ?
魔導の力だって、幻獣やら、はたまた三闘神やらの魂の力って言えないこともありません。
俺様も最初のころは自分の中に自分が三人ほどいるような感覚に襲われたものだ。
もちろん死に損ないなんかに自我を乗っ取られる俺様ではナーイ!
今はTPOに則って『私』と『俺サマ』と『ぼくちん』を使い分けられるように成長しております。

402 :再誕へ続く道 13/21:2019/03/04(月) 00:37:57.29 ID:YyksvsiI9
「セフィロスがそなたを襲ったというのであれば、やはり捨て置くことはできん。
 奴の野望は砕かねばならん」
「だからさ、その野望ってのを教えてほしいんだよねえ。
 殺し合いってのは分かってるけれどさ、事情が他にもあって、僕以外みんなその辺分かってそうじゃない?
 そうなるとなんで付け狙われてるのかは気になるんだよね」

ありゃま奥さん、この子、僕何かやっちゃいました? みたいなこと言っておりましてよ?
ここはビシっと言ってあげないとまたやらかしてしまいますね。

「なんで狙われるのかって、気付いていないんですかァ?
 そこのナマモノだけじゃなくて、みんなお前の力を欲しいと思ってるに決まってるじゃありませんか!
 俺様だって一目見てアナタが膨大なチカラを秘めていることは分かりましたとも!」
「ケフカの言うことはみだりに信用してはならんぞ。
 ……そなたが狙われるのは、その身に宿した【闇】の力に他ならぬ」
「【闇】のチカラ、ですか?」
「カァ〜……!」
どうやら本気で分かっていないようですね。単語が通じてないだけかもしれないですが。
ネタばらしされたのが悔しかったのかな? カッパが射抜くような目でこちらを見つめてきていますよ。

素手で矢を投げてきましたが、狙いが甘い。タバサが使った魔法の効果ですかね。
いずれにしろ、カメが叩き落してくれてますからぼくちんの元には届かない。
まあ一応こう言っておきましょう。ぼくちんこわ〜い。

「……気付いておらなんだのか? いや、そもそも【闇】とは儂らがそう呼んでいるだけに過ぎんか」
「【闇】で通じないなら、進化の秘法でも魔導のチカラでも魂のチカラでも好きに呼ばせればいいんですよ。
 あのカッパは現在絶賛フリーなお前を連れ去って悪いことをさせようとしているんだろうな」
「まあ言ってることは半分くらいしか分からないけどさ、さっき殺されなかった理由は分かったかなあ。
 要するにあの魔物はタバサを連れ去ろうとしているって解釈をすればいいのかな」
「そこまで把握したなら話は早い。ところで、私とてタバサちゃんには是非とも協力してほしいんです!
 そのためには、タバサちゃんだけじゃなく、もう一人のアナタの協力も不可欠!
 ささ、手始めにそこのカッパを撃退して友好の証としようじゃありませんか!」

私にとってはタバサの扱いは死活問題。
ガキに頭を下げるのは癪ですが、脱出のためにも、切り札としても、何としても味方に引き入れなければなりません。
別にセフィロス倒すまでスカウト禁止なんて就活協定は結んでおりません。優秀な人材は他人が手を出す前に囲い込まなければならないのだ!

403 :再誕へ続く道 14/21:2019/03/04(月) 00:43:03.53 ID:YyksvsiI9
おや、ギードさんが苦々しい顔をしていますね。
まさかこのタイミングでヘッドハントするとは思わなかった?
でもでも、ぼくちんみたいな零細グループは大手に囲まれる前に行動しなくちゃならないわけよ。

「カァカァカァ、カァカァ!」
ああ? カァカァ言ってないでちゃんと声に出してしゃべれよヴァーカ!
ちゃんと言葉を尽くして来てくださいって土下座して頼むのがマナーでしょうが。
あっ、そうでしたセフィロス君は言葉をしゃべれないんでしたね、ごめんちゃい。アーッヒャッヒャッヒャ!!
ほら、ほら、怒ったカッパが矢を握りしめてます。ぼくちんをヘッドショットしようとしていますね。

「じゃが、貴様にこれ以上犠牲者を出させるわけにはいかぬ!」
カメがラケットを振り回し、生成した風の弾丸で、降り注ぐ矢を吹き飛ばす。
するどく放たれた矢を前足に着けたツメで矢を叩き落す。
カッパの奮闘空しく、俺様には何の攻撃も届きましぇん。
まさに鉄壁パーペキパーフェクト!

ぼくちんからも攻撃したいけどなー、どうせ当たらない銃くらいしかないからなー。
MPもバニシュ使ってまたゼロですし。タバサちゃんにアスピルしていいかな? まだ仲間になってないからダメ?


「"タバサ"よ、先ほどはすれ違いがあったが、儂らとてそなたに無闇に危害を加えるつもりはない。
 むしろ、利害という意味では協力すらできると考えておる」
「カァー! カァカァカァ!」

おいカメ、ヘッドハンティングは俺様が先だぞ!?
俺様はアナタ方とは違って平和主義者なので、タバサちゃんを仲間にする方法を一生懸命考えていたんだ! 割り込みよくない。
ほらほら早く壁に戻りなさい!
汗水垂らしてカッパの攻撃を防いでくれたら、そうして生まれた貴重な時間で、俺様がタバサを手駒……もとい仲間に加えてあげましょう!

404 :再誕へ続く道 15/21:2019/03/04(月) 00:43:32.91 ID:YyksvsiI9
「ギードさんもカッパもタバサちゃんの有能さに気付いたようですねえ。
 けれども、私はずっと前からアナタと行動を共にしたいと考えておりました。
 実はあなたのお爺様と行動を共にしておりまして、
 彼から幼いながらも高潔な精神を持ち、高い魔力を備えた、次代の大魔導士に相応しい存在だと聞き及んでいるのですよ」
「そこまで持ち上げられると、さすがに怪しいです……。悪い商人さんみたい」

あ〜、詐欺師に疑われて、私は悲しみに暮れています。
褒め言葉を素直に受け取れないガキは将来、根性のひん曲がった偏屈者に成長しますよ。
……まあ実際、あの筋肉ダルマはこんなこと言ってはいませんでしたからね。
けれども、なんかまんざらでもない顔してるのは気のせいでしょうか?
実は嬉しいんじゃないですかね?

「まあ、ちょっくら言いすぎましたが、私とアナタ達で力を併せればそこのセフィロスの撃退だけでなく、
 真の巨悪を討つことすらできるかもしれないんです。
 もちろん私たちの英雄譚にはギードさんも入れてあげましょう! だけどそこの人間未満のナマモノは帰った帰った! しっしっ」
「色々気になるところはあるけれどまあいいや、ひとまずあの魔物を協力して倒せばいいんだね?」
「できることなら生け捕りが「いやあ話が分かる! そうと決まれば、アナタの大魔法を肉体言語でしかコミュニケーションできない低能カッパに見せ付けてやるのだ!」
余計なことは言わなくていいんだよこのカメッ! あの凶暴なカッパを生け捕りなんぞにできるか!
ほら、カメがこっちに注意向けた隙にカッパが色々投げてきてるじゃないか!

「いきます、イオラ!」
タバサちゃんは爆発の呪文を唱えて、幾本かの矢を撃ち落します。
ギードさんも風のラケットを振りぬいて、打ち漏らした矢を吹き飛ばします。
さらに時折風に混じる風魔手裏剣のおまけつき。
ぼくちん? ぼくちんは魔力がまたゼロだからカメさんの後ろで震えてるよ。

タバサちゃんはしっかり説得してぼくちんのお人形さんにする。カメは俺様に協力させて魔力を提供させる。
カッパはいい加減ここで死んでくださって全然OK。
そして首輪の仕組みをなんとか聞き出せば、あとはまあどうにでも動けるでしょう!
死人の振りをしてもよし、首輪を外せていない連中に接触して恩を売ってもよし、仲間として紛れ込んでもよし。
ヒッヒッヒ、どうやって動こうかなあ?

「あひゃ?」

からん。場違いな金属の音。そっとカメの甲羅越しから様子を見れば、タバサちゃんの氷で地面に叩き落された金属性の筒。
「いかん、伏せよ!」

うん、あれが爆弾だってのは知ってないと分からないですよね。
さすがカメ、一瞬で手足も首も引っ込めています。防御ってのをまさに体現したすばらしい姿!
身を呈して私たちを閃光と騒音から守ってくれるってことでしょうか。

それに比べてタバサちゃん、爆弾ってのは導火線とドクロマークのついてる黒くて丸いものだと思ってるんだろ?
爆弾ってのは色々あるんだ。ちゃんと勉強してね。

有効な手をミリ秒で思いつけなかった私は、せめて光でも防ごうと魔法の法衣のすそを目の前に振りかざします。
法衣も閉じた目も突き抜けた閃光は、視界いっぱいに広まって脳を貫き、一方で轟音がダイレクトに私の耳から脳を貫き、揺らしました。

405 :再誕へ続く道 16/21:2019/03/04(月) 00:44:28.27 ID:YyksvsiI9
■■■■■■■

小娘が何らかの魔法を使ったのは分かっていた。
薄い霧がかかって小娘やケフカ、ギードの姿が幾人も映し出されている。
さらに声も反響するように外耳道に響いて、相手の位置をつかみきれない。
もっとも、これがただの幻でしかないことは矢一本で実証済みだ。
ただ相手に斬りかかるだけしか能がないのであれば詰みなのだろうが、
元の位置と矢を投げたときの幻の反応、撃ち落された矢の位置から三者の位置はおよそはつかめる。
解除方法は不明だが、まずあり得るのが術者の意識が途絶えれたときだろう。

位置を正確に把握するために、すばやくいくつもの矢を放出する。
同時にスタングレネードを取り出し、ぬめる手で本体の固定。
信管はもっとも摩擦力の強いクチバシを用いてすばやく抜き去る。
奴らのいる場所に放物線を描くような軌道で投げ込んだ。
ラケットから放たれる風でこちらに戻ってきさえしなければ、一気に無力化できる。
そして目論見どおり奴等の陣地で炸裂したわけだ。

視界の保護もそこそこに、早急に奴等の陣地へと飛び込む。
スタングレネードを使ってしまうのは痛いが、【闇】の力を確保できるのであれば十分おつりが来るだろう。
狙いは"タバサ"。気絶は数秒程度だろうが、十分だ。

立ちはだかるギードの甲羅。スタングレネードを知っていたのか、反射的に甲羅に引っ込んだらしい。
頑強な肉体、頭部や心臓などの急所が甲羅に隠れている。時間制限のある中、これを素手で殺しきるのは骨が折れるが……。

「カァ」
(しばらく寝ていろ)
幻の中から本物にアタリをつけ、感触を確かめ、甲羅を蹴り上げ、ひっくり返す。

「うきゅ!」
カエルが潰れたような汚らしい声だ。そのまましばらく甲羅の下で潰れていろ、ケフカ。後ですぐに殺してやる。
残りの一人、守る者がいなくなった小娘の身柄を確保しようとしたところで、猛烈に嫌な予感が脳裏を過ぎる。
その正体にたどり着くのにかかった時間はコンマ一秒か。
うずくまっている小娘の近くに撃ち捨てられた薬品。元の世界でも目にしたことがあるラベル。

「カァ!?」
(英雄の薬!?)

悪いことに、小娘の瞳は明らかな意思を以ってこちらを捉えていた。
スタングレネードに晒されてうずくまっていたわけではない、単に甲羅の影に隠れて支給品を取り出していたというだけだ。
手に握られているのは、釘バット。英雄の薬は身体能力の大幅な強化をもたらす。脳が大音量で警笛を鳴らす。

406 :再誕へ続く道 17/21:2019/03/04(月) 00:45:03.83 ID:YyksvsiI9
「悪いモンスターさんは、こうやってやっつけちゃうんだからあ!」

足に力を込めて飛びのこうとするも、既に相手は行動に移っている。
しかも、幻が続いているせいで正確な軌道を予測できない。
せめてもと、咄嗟に釘バットの軌道にザックを合わせ、ガード。
その恩恵を受けた肉体からの大ぶりの一撃をまともにくらってしまえば、打ち抜かれた箇所がバラバラに弾け飛ぶのは想像に難くない。
もちろん小娘は手など緩めることなく、渾身の力を込めて釘バットを振りぬいた。

「ガァアア!!」
(がぁああ!!)

まずザックの内部に無数に収納していた矢がばきりと折りとられた。
勢いは止まぬまま、振りぬかれた釘バットは右腕を強打。
打ち付けられた釘はザックを引き裂き、ザックの総面積では守りきれなかった肉体の一部をこそぎとり、
腕輪に散りばめられたルビーにも大きなヒビを作り出す。
強打で身体全体のバランスを崩し、ぐるんと回転して地面に口付けをするハメになった。
ホームランこそ免れたものの、靭帯でも傷付けたのか、右腕が動かない。

「もう一回っ!」
バットをめいいっぱい振りぬいたと思えばすぐに体勢を立て直し、小娘がもう一発大きく振りかぶる。

「カカッ、カァ!」
(調子に乗るな小娘!)
振り下ろされたそれをさらに横方向に一回転して回避し、続けざまに自身の甲羅を軸に、地面に平行に高速回転。
すばやく足を伸ばし、小娘の足を払う。180度ほど回転したその先で地面に足を接触させ、上半身のバネを駆使して強引に立ち上がる。

「あれっ!」
英雄の薬といえども、重さまで増えるわけではない。小娘の体重でふんばることができるはずもない。相対した小娘はすっ転んでいた。
今回は完全に不意をついたはずだが、小娘に驚愕の色はない。まるで人が変わったように冷静な視線で私を射抜く。

407 :再誕へ続く道 18/21:2019/03/04(月) 00:46:14.57 ID:YyksvsiI9
釘バットとは反対の手の指先にブリザドと思われる小さな氷刃を生成しているのを確認。
だが、これ見よがしに作成した攻撃魔法に隠れて、釘バットを握ったもう片方の手に力が込められたのを見逃しはしない。
氷刃自体はブラフと判断し、あえて射程外まで飛びのく。
氷の軌道自体は単純なものだったが、想像以上に速い。
反射のように小ぶりに振りぬかれた釘バットも、おそらくは私の目と鼻の先を通り抜けていったのだろう。
力任せのなかなかに激しい攻撃は、やはり身体能力の上昇を如実に示す。
だが、身体能力の向上だけでは説明しきれない部分もありそうだ。

「カアア、カァカァ?」
(ヘイストの魔法がかかっているのか?)

ギードに目をやれば、ぐらぐらと甲羅が揺れているのが見える。
小娘の確保に手間取ってしまったことで、スタングレネードによる気絶から目を覚ましたのか。
ケフカを挟んだことで完全に逆さになることを免れた甲羅。
そして器用なことにザックから剣を取り出し、これをテコのごとく甲羅と地面の間に差し込んで起き上がろうとしていた。

「あっ、もうあいつ気付きましたよ!
 ぼくちんが殺される前に早くその重い甲羅をどけてくれませんかね!」
「少し待っておれ、これで……」
「重い、重い、ぐわぁ〜!」
ギードが剣の柄を脚で押せば、甲羅が持ち上がりぐらりと揺れる。
牽制のために矢を放つも、揺れてひっくり返った状態からでもくわえたラケットからの風圧とツメで叩き落してしまう。
ケフカにいたっては、ギードの甲羅の阻まれて様子が見えない。
時間経過か、幻こそ消え去ったものの、遠からず正常な体勢に戻り、三対一の状況に戻るだろう。

だが、このような小娘やケフカに傷付けられたままなど、私のプライドが許しはしない。
今度こそ【闇】の力を手に入れ、ケフカに圧倒的な差を見せ付けた上で殺害を果たし、……。
……待て。私は今何を考えていた?

408 :再誕へ続く道 19/21:2019/03/04(月) 00:47:23.99 ID:YyksvsiI9
自身の思考回路に強烈な違和感をおぼえる。
「もう、本当にすばしっこいんだねえ……」
一旦疑問に蓋をして、目前の相手を見れば、釘バットを地面に打ち付けてスライドさせている。
そのまま地面をゴリッと削り、無数の礫を放ってきた。
さすがにすべて防ぐことなどできず、小さいながらも確実なダメージを負う。

どうやら、攫うのは一筋縄ではないようだ。
頭の切り替えの早さもかなりのものだが、身体能力とて大きな差はないと考えざるを得ない。

元々はその小娘を手駒とし、元の姿を取り戻す手筈だったはずだ。
負傷した身体に過度の負担をかけ続けるのは厳禁。
それゆえに肉弾戦は控え、要所を除いては動かずに飛び道具をメインに据えたわけだが、完全に目論見は遠のいた。

ザックは先ほど盾としたことで、中身がぐちゃぐちゃになってしまっている。道具を今使うことはできない。
ケフカもギードも間もなく復帰する。再度戦闘に参加するまで5秒かかるまい。
ギードは私を追ってきたのであれば、何かしらの手札は持っていよう。
ケフカは腹立たしいが、これまでも多種多様な術に翻弄されたのは事実だ。もはや過小評価すまい。
逆風に抗うだけの体力がないのであれば、一度撤退するしかない。

しかしこれは戦略的撤退に過ぎない。
体力さえ回復すれば、必ず目にものを見せてくれる。……。
……だから何を考えているのだ? 私の視界だけでなく、精神にも何かされているのか?


自分の状態も分からぬままに戦い続けるのはまずい。
土礫の雨嵐に、氷魔法を中心とした狙撃。これから逃れるように、崖の淵まで後ずさる。

「もうそれ以上は逃げられませんよね。覚悟してください!」
小娘はこれまでよりも大きな氷塊を作り出し、解き放ってくる。
だが、これはもはや脅威とはならない。崖の地形をすばやく観察。足場になりそうな箇所を見つけ出し、身を躍らせた。
崖の出っ張りを見つけ、そこを足場に下へ下へとくだっていく。数度も繰り返せば一段下の山道へと到達していた。

上を見れば淵の一部まで氷がせりだしているが、高温にさらされ早くも溶け出しているようだ。
そんな脆い氷を足場にすることはさすがにできないようで、こちらを覗く姿は見当たらなかった。
こんなところで悠長に観察している意味もないだろう。
一度身体を本格的に休めるべきだ。
何故自分の意志に違和感を覚えるのか。ケフカか小娘が何かを作用させているのか。それともこれが【闇】の副作用なのか。

409 :再誕へ続く道 20/21:2019/03/04(月) 00:53:04.50 ID:YyksvsiI9
■■■■■■■


結論から言えば、カッパの精神を何者かが攻撃しているという事象はない。
ルビーの腕輪がひび割れたことで、接触不良のごとく断続的に効果が作用したというだけだ。
飛び降りた振動に際して、割れた宝石のカケラもますますこぼれ落ちた。誰にも気付かることなく、効力は完全に停止するだろう。

【闇】がカッパを突き動かすこともない。
外から見ようが自問自答しようが彼は未だにただのカッパだ。
マテリアを取り扱うことも、ドレスフィアを利用することもできない。
ただ、彼自身は変わっていなくても、【闇】が彼を避けなくなった。
そのため身体にめぐるジェノバ細胞の補給効率が上がり、活性化しやすくなった。
リジェネやリホイミといった状態変化に漬かったと言い換えてもいいだろう。
重症といえるほどの傷を負いながら、フロラフルルの魔法を打ち払い、"タバサ"を一度は気絶させ、
釘バットの一撃を受けてなお壊れずに活動できたのはそういうからくりだ。

姿も形も精神すら変わってしまっても、身体構成の原点たるジェノバ細胞が失われることはない。
【闇】とジェノバとの相性がよいことも、アーヴァインという存在によって実証されている。

クラウドやザックスは、【闇】に接近を許しこそすれど、依りすがったことは一度もない。
セフィロスとのけじめを着けるという使命感、トモダチの存在、何より本人の意思の強さが彼らに堕ちることを許さなかった。
宝条は生き延びていたのなら嬉々として自ら【闇】に触れ、取り込みもしたのだろうが、
残念ながら皆殺しの剣の一閃によって、ジェノバ細胞もろとも死滅してしまった。
セフィロスには【闇】は寄り付かなかった。勝利を信じてやまない傲慢なまでの心のあり方が【闇】を拒んだ。
しかし、ふとした油断が綻びとなり、敗北と失敗の連鎖を呼び寄せ、遂には自我にすら疑惑を抱いてしまった。
完全だったはずの精神に綻びが生まれたことで、【闇】を引き込むようになっていたのだ。

もっとも、カッパが今すぐ【闇】に取り込まれることはない。
なぜならば、【闇】といえども、元は魂のエネルギー。ジェノバにとっての食事。
食物が身体を蝕むことはあっても、それは肉体へと昇華されてからの話。
再生速度は一昨日の瞑想時ほどではなくとも、確実に上がっている。
知らず知らずのうちに恩恵を受けながら、カッパは山を下っていく。

410 :再誕へ続く道 21/21:2019/03/04(月) 00:53:51.53 ID:YyksvsiI9
カッパが奪った宝玉は、フロラフルルと呼ばれていたドレスフィアの成れの果て。
天輪のような花びらを抱き、花を模していながらもどこか天使のようにも見えるドレスライン。
クリスタルとダイレクトに繋がった宝玉は、【闇】と同時にユウナの抱いていた感情、記憶、情報を止まることなく流し続ける。
多量に送られてきたそれをジェノバが取り込み、食事とし、分裂、増殖する。
宝玉を通して送り込まれるエネルギー。宝玉に封じられた、六対の花びらを模したドレスの情報。
エネルギーに混じって送られてくる、憎悪に取り付かれるままに命を落とした召喚士の記憶。
送信先に確かに存在する六枚の羽根を有した天使の記憶。
それらが交わるこの地は闇の世界。進化の秘法を実施するために最適化されたパワースポットである。

【セフィロス (カッパ 性格変化:みえっぱり→ふつう HP:1/8、右腕負傷)
 所持品:ルビーの腕輪(E、半壊)、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ
     弓、矢の残骸、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア(フロラフルル?)
 第一行動方針:安全な場所まで移動する
 第二行動方針:ケフカを殺す/カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:デスマウンテンから移動】


【ギード(HP2/5、MP:微量)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
 第一行動方針:ケフカと"タバサ"を監視下におく
 第二行動方針:セフィロスが【闇】のチカラを手に入れようとするなら阻止する
 第三行動方針:南東の祠へ向かう
 第四行動方針:首輪の研究をする】

【"タバサ"(HP:4/5、MP1/10、元セージ、人格同居状態、職業:賢者?)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
     イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン、波動の杖
 第一行動方針:セージを捨て去るため、ケフカたちに協力させる
 基本行動方針:セージではなくタバサが生きているという正史≠紡ぐ。手段は問わない。
 最終行動方針:不幸にも死んでしまったセージ≠フ分まで生き、脱出する。手段は問わない】

【ケフカ (HP:1/2 MP:3)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
 第一行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
 第二行動方針:魔法を使える程度に魔力を回復する
 第三行動方針:セフィロス・ソロを初めとする、邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第四行動方針:アーヴァイン/"タバサ"らを使って首輪を解除する
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:デスマウンテン中腹】

411 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/03/04(月) 21:52:57.01 ID:E6kW8nxWi
けふ…かわ…
何だかんだでカパロス有利なのか?!
むしろ闇ユウナに乗っ取られる兆候か?!
ひとつの意場が四者四様の語りで描かれていて鮮やかにしてがっつりした読み応え
タバサお兄さんが完全にはタバサちゃんになりきっていないという揺れ要素も面白い!
ケフカは子供や善人を味方につけてきた実績があるが、今回も当面は成功しそうな雰囲気があるなあ
面白かったー
新作ありがとう!!

412 :草木も眠る、その刻に 1/2:2019/03/10(日) 13:22:22.50 ID:B1KDKdP5y
闇の世界に空はない。上空を見上げたところで、その目に映るのは、赤い溶岩が照り返して夕焼けのごとく染まった岩盤だけだ。
太陽も月も星も見えない空は、二十四時間同じ様相を呈する。そんな世界でも時計の針は正確に刻まれる。
今は草木も眠る丑三つ時。


「どうした? ソロ?」

静かにたたずむ女性のような影。
はじめは見間違いだと思った。
残る女性はロザリー、リュック、リルムの三人だけ。
セージは女性の姿をしているが、そもそもこちらの方向には来ていないはずだ。

ユウナはヘンリーが死亡を確認している。今そこにいることはありえない。
では、あれは何だ? じっとこちらを見つめる黒い影は何だ?


「……もしかしてケフカのやつが近くに潜んでいるのか?」
今、この目に映っているものについてヘンリーに尋ねる。
進行方向右斜め前、40〜50メートルほど先といったあたりだろうか。

「人影? ……いや、そんなものは見当たらないな」
ヘンリーの視線の先をたどれば、おいでおいでと手招きをする影が確かにそこにあるのだ。
しかしヘンリーはそのようなものはないと断言する。
見えているのは自分だけ、ということなのだろう。

ヘンリーは丸めた手をあごに当て、しばし考え込む。
「俺には何も見えないが、お前がそう言うってことは何かいるんだろう。
 ケフカが何かしら企んで待ち構えているか、あるいは闇が集まる場所があるのか。
 ……ザックスとアンジェロ、ユウナを弔ったのは、この近くだったはずだ」


ヘンリーがひそひ草を通じて語ってくれたアーヴァインの顛末。
この世界にある【闇の力】を見たり、他人に見せたりすることができるようになると同時に狂っていったこと。
友人が死んだショックで、侵食されていったこと。
さらにいえば、この世界は【闇】、ひいては進化の秘法を作り出すのに適したフィールドでもある。
ならば、あれが【闇】が見えるということなのだろう。

果たしてそれは、自分が真実の眼を得たことによって見えるようになったものなのか、
一人手をかけたことで、見るためのトリガを引いていたのかは分からない。
クリムトさんから力を受け継いだ後、見えるようになったのだから、前者のほうが辻褄は合う。
まだ自分は正気を保っていると思いたい。

『お前ら二人とも、憑かれもしなけりゃ、乗っ取られもしないって、断言できるのか!?』
そう語ったのは、今隣に歩いているヘンリーだ。
それが見えたとして、断じて興味本位で近づいていいような代物ではない。

413 :草木も眠る、その刻に 2/2:2019/03/10(日) 13:24:44.51 ID:B1KDKdP5y
「なるほど、見えるってわけか。だが、見えるだけなら悪いことじゃない。
 向こうから寄ってくるわけじゃないんだろ? 思いっきり迂回して無視してやればいい」

ヘンリーは進路を少し変え、彼女らの遺体のある場所を避けるように歩き出す。
視界の端では影がやはり手招きをしている。

思い返すのは、デスピサロのように目の前のすべての命を憎むべき対象に見立て、呪い続けるユウナの姿。
かつてはロザリーのルビーの涙が奇跡を起こし、進化の逆行を引き起こした。
しかし今回は奇跡など起こるべくもなく、ユウナはクリムトの尽力によって転移し、
そして居合わせたザックスが命をかけて彼女の凶行を止めたのだ。

あれはもうユウナではないと思う。
人の魂や意思というより、力、いや、呪いに近い。
死してなお残るそれらが形を取ったものなのではないかと。


スポットを迂回し、祠目指して歩いていく。
影がついてくることはない。何事もなく目的地へと歩を進める。

「ああそうだ、無事に回避できたことを確認したら、ちゃんとギードにも連絡入れとくぞ。
 影の件もそうだが、余計な心配かけさせたりしないためにもな」

最後にちらと後ろを見ると、影は元の位置から動くこともなく、一人さびしくたたずんでいた。


【ソロ(HP1/2 MP微量 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、水のリング、
     フラタニティ、首輪、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー
            スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
 第一行動方針:南東の祠へ戻る
 第二行動方針:サイファー・ロック達と合流する
 第三行動方針:ケフカを倒す/セフィロスを説得する
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー(HP3/5、リジェネ状態)
 所持品:水鏡の盾(E)、リフレクトリング(E)、命のリング(E)、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード
     デスペナルティ、ナイフ、筆談メモ、リノアのネックレス
     ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃
             デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、ミスリルアクス
     リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
     サイファーのザック(ケフカのメモ)
     レオのザック(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:ソロと共に南東の祠に戻る
 第二行動方針:仲間と合流し、事情を説明する
 第三行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東部草原から南東の祠へ移動】

414 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/03/12(火) 20:00:01.86 ID:ZWwDt79ZI
新作乙です!
バラバラに起きた出来事が繋がりつつある感すごい
クリムトの置き土産がちゃんと役立ってるのいいな
しかしこれって闇を利用したい面々にとっては絶好のボーナススポットなのでは…

415 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/04/13(土) 23:08:48.97 ID:2+nIidaU2
保守

416 :想定外はいつも突然に 1/11:2019/05/02(木) 01:15:26.03 ID:54sDqgbZW
プサンたちがこの祠にたどり着いてから既に小一時間が経過したというところだろうか。
けれど、視線の先は小一時間前と同じ景色が広がるばかりだ。
ザックスたちがユウナをうまく他の場所に誘導したのか、それとも相打ちか、あるいはヘンリーが城へと誘導したのか。
勝利したのがユウナにしろ、ザックスにしろ、誰かが来ておかしくない時間だが、未だ来訪者はない。

「どうもどうも、何かお変わりはありませんか?」
声をかけてきたのはプサンのおっさんだ。手には水を持っている。差し入れといったところだろうか。
祠の内部は温度が保たれているが、一歩外に出れば大海溝並の灼熱の世界だ。水は素直にありがたい。

「こっちは相変わらずってところだな」
焦点を遥か先の茂みに合わせるも、茂みもそこに至るまでの平原も、何も異変は見受けられない。

「食料は心もとないですが、水だけなら中央の城から持ってきていますので、遠慮なくおっしゃってくださいね」
「ああ、この祠にはそういうのがないから、助かる。ありがたいぜ」
汗をぬぐい、礼を言ってぐいっと半分ほど飲み干す。

「で、首尾はどうだったんだ? うまく行ったのか?」
「ええ、おかげさまで。西で三回ジャンプ、東で一回屈伸して、西で手を振った。間違っていませんね?」
「ああ、それで間違ってないぜ。しっかり見えてるんだな」
「ええ、一度オーラを追ったことがあるので心配はしていませんでしたが、はっきりと使えることが分かりましたよ」

傍からは何をやっているんだと聞かれそうだが、俺はプサンのおっさんの物見の術の確認に付き合ってた。
媒体は黒マテリアだそうだが、これを通じて現在の状況をリアクティブに逐次通知するんだそうだ。
魔力の痕跡をたどって、過去の軌跡を追跡する術の応用らしい。
ラムザからも話には聞いたが、今もよく分からん。
とりあえず、クリスタルを使って監視するようなものだと理解してる。
原理はおいといて、俺の動きがちゃんと見えるかってのをテストして、実際に中から外の様子が見えたことを確認できた。
それで、首尾は上々というわけだ。

「さて、もう一つバッツさんに一つ確認しておきたいことがありましてね」
「ん? なんだ?」
「我々がこの祠に来たとき、ロザリーさんを妙に気にしていたようですので」

すぐにピンと来た。水がこぼれないように飲み口をしばり、脇に置く。
体をプサンに向け、どんなことが話されても来てもいいように、一呼吸。

417 :想定外はいつも突然に 2/11:2019/05/02(木) 01:18:26.79 ID:54sDqgbZW
「もしかして、一目惚れしましたか?」
「ぶッ、そんなんじゃねえって!」
俺の覚悟を返せよオッサン!
そりゃ美人だと思うし、桃色の髪ってレナと一緒だなあくらいには思ったりするけど、それ以上のことまでは考えてねーよ!

「……ったく、ヘンリーのオッサンの知り合いってのがよくわかったぜ」
「はっはっは、若いですねえ。
 ……あなたが私たちをしっかり見ているように、私たちもしっかりあなた方を見ている。
 命を預けることになるかもしれない相手ですからね。そこで手は抜きませんとも」

ただのアイスブレークってやつか。にしてもカンベンしてほしい冗談だったけどさ。
まっ、お互いに見るとこ見てるのは、そりゃそうだよなあ。

「オッサンのことは元の世界のことも、この世界のことも、リルムやヘンリーから聞いてる。
 さっきも下で話したけど、それにしたって俺たちを騙そうなんて意図は感じられなかった。だから信頼していいと思った」
「恐縮です。しかし、逆にロザリーさんは信用できない……いや、保留中といったところでしょうか?」
こちらの事情も大体割れてるってことなんだな。小細工程度はお見通しだぞってことか。
そういや、ヘンリーが言うには、マスタードラゴンで竜の神様なんだっけ?
これってオフレコか? さすがマスタードラゴン、とか返したらどんな反応するんだろ?

「ああ、オッサンのいう通りだぜ」
今の流れでそれ言いだすと脱線しそうだからやめとくけどな。

「結論から言いましょう。確かに本来の彼女とは似て非なるものが混じっています」
だよな。予感通りの答えだ。
まだ肝心なところは何も伝えてないから、俺たちで食い止めれば悪影響は最小限で済むんだが……。
彼女だって、別に俺たちを騙そうとしてるんじゃなくて、本気で脱出を考えているように感じた。
たぶん、俺が余計なことに気付かなければそのままスコールたちやウネの婆さんに会わせていた程度には信頼がおけそうな相手だ。
どういう風に接していったらいい? どう動くべきか、先の行動を見通せない。

そんな俺の困惑を見透かすように、プサンのおっさんが言葉を続ける。
「懸念は正しいですが、彼女が今すぐ害を為したり、暴走することはないでしょう。
 私とて、彼女が本当に危険な存在であればすぐに伝えます。
 実は、ロザリーさんには内緒で、ラムザさんかリルムさんに話を繋いでいただきたいと思いまして」

プサンのおっさんは内緒話でもするようにトーンを落として、ラムザたちを招集するように言う。
本人に聞かせちゃいけない系の話になるのか?
ただ、ロザリーさんを一人にしておくわけにもいかないから、ラムザが先だろうな。
「分かった。時間を作るように、取り計らっとくよ」

418 :想定外はいつも突然に 3/11:2019/05/02(木) 01:34:21.08 ID:54sDqgbZW
■■■■■

こちらにお邪魔して、一時間は経ったでしょうか。
ギード様やクリムト様の成果、ザンデ様の結論、いずれもリルム様は理解してくださいます。
プサン様の話の巧、著者の皆様の理論の明快さもありますが、彼女の魔法の才が確かなのでしょう。思わず羨んでしまいます。

プサン様が戻ってこられました。
監視の件もうまくいったということでしょうか。

「外の様子はいかがでしたか?」
「何も問題ありません。監視も問題なく動作することが確認できました」
「では、突然襲われることはないのですね」
「その理解で結構です。できれば、天空への塔のように、資格のないものを弾ければよかったのですが、
 今のままでは……おっと、失礼。魔女によって創られた世界では色々と難しいところがあるようで」
天空の使いの方でさえ、あの邪悪な魔女の気にあてられてしまうのでしょうか。
回復呪文と同様に、色々と妨害があるのでしょうね。


「リルム。僕たちはこれから少しの間、下の階で話をしてくる。
 そんなに長くはかからないから、ロザリーさんとの打ち合わせを続けてほしい」
ラムザ様とリルム様の会話が聞こえます。プサン様とバッツ様、ラムザ様のほうで、なにやらお話し合いがあるようですね。
何故か一度私のほうを見ましたが、気を遣われているのでしょうか。

「ちなみに、お話はなんなのでしょうか?」
単純に興味本位でそう聞いたのですが、不自然に間が空きました。
ともすれば、野次馬。はしたない行為だったかもしれませんが……。

「男共だけで変な話する気なんじゃないだろうな〜」
「いやいや、マジメな話だよ。
 下の階の皆を、弔うことができないかって相談したくてね」
「私、神様の傍仕えのような立ち位置ですので。
 ただ、なかなか刺激の強いことになっているとお聞きしまして、どう話そうものかと逡巡しましてね」

「眠っていらっしゃるのは、スコール様にアルガス様、それにマッシュ様でしたか」
お三方とも、それぞれ縁がありました。
スコール様やマッシュ様について、私はすれ違っただけの縁です。
けれども、スコール様に関してはサイファー様を通して色々とお聞きしました。
最も信頼のおけるお方であり、かつ最も頼りたくない、そんな相反する気持ちがサイファー様からは見え隠れしておりました。
もし無事に生きていらしたのであれば、心強い味方となってくださったのでしょう。
アルガス様は、正直あまりよい印象があるお方ではありません。
ただ、きちんと話をすれば分かってくれる方でもありました。
この世界で命を落としてしまわれたことは、素直に悲しいことと思います。

「邪魔はいたしません。ただ、私もこの場から皆様へ黙祷を捧げましょう」

419 :想定外はいつも突然に 4/11:2019/05/02(木) 01:37:59.23 ID:54sDqgbZW
■■■■■■■■■■

この祠の地下は意外と広い。
地下神殿のような神聖さはないが、まあ静謐な雰囲気ってヤツだ。
音だってそれなりに響くんで、また誰かが入ってきたってことはよく分かった。

「この階には命を失った仲間たちの亡骸が安置されています。
 死者の眠りを妨げぬよう、大きな音は立てず、静粛に願います」

はっきりとした、しかしよく通る声でそう言い放ったのはラムザだろう。
それと、いつもながら緊張感のなさそうな声はバッツか。ほかにも誰かいるようだ。
連れに注意してるように体裁を整えているが、その実は俺たちに静かにしてろということなのだろうな。
リルムの首輪を外してほしいというスコールの依頼もあり、上の連中と情報共有はおこなっておいた。
そのときに、プサンっておっさんとロザリーが来てることも聞いている。
そのうちの一人を招いたってところなのだろうが、何をしに来やがったんだ?
リルムのガキがいると話せないことでもあるのか?
たとえば、いよいよユウナが近くに来ていて、殺す算段を立てようっていうのならあのガキは邪魔だからな。

「向こうでお話しましょうか」
「分かりました。ですが、彼らの冥福を祈らせてください」
連れてきたのはプサンのほうらしい。
冥福を祈ると言っているが、プサンもバッツも、必死そうに何か書いてるな。
大方、主催者どもをごまかすための時間稼ぎといったところなのだろう。

プサンの情報は、攻略本で調べさせてもらった。
天空を統べる竜の神の仮初の姿だそうだ。教会の連中が聞いたらひっくり返るだろうな。俺も二度見した。
ここに来る前の俺なら一笑に付しただろうが、今となってはそういう神もいるんだろう程度には理解している。
機械仕掛けの飛空挺なんてものをみてしまえば、大抵のことは受け入れられるもんだ。
しかしピサロと対立する勢力の長とあるが、モンスター同士でもそういうのがあるんだな。
そこのところは、人間もモンスターも同じってことか。

さて、話すなとは言われたが聞くなとは言われていない。
マッシュもチャクラを練りながら、聞き耳を立てているみたいだ。
ちょうど攻略本もある。情報収集に努めさせてもらおうじゃないか。

ラムザのやつ、何を取り出してやがる?
ああ、マッシュから外れた首輪を見せてるのか?
となると、プサンは脱出に誘うに値すると考えていいってことか?

「色々と、すみませんねえ。では先程の話の続きをいたしましょうか」
おっと、話が始まったようだな。

420 :想定外はいつも突然に 5/11:2019/05/02(木) 01:39:22.53 ID:54sDqgbZW
「【闇】については知っていますね?
 アーヴァインさんがしばらくここに留まったと聞いています。
 おそらくは皆さんのほうが詳しいのではないかとは思っているのですが」

いきなりあの『化物』の名前を出すんじゃないッ!
一瞬だけ身が縮こまった。くそ、我ながら情けない。

「あー、すみません、彼の名前はあまり出さないようにお願いできますか。
 彼のしでかしたことはあまりに大きい。色々とトラブルの種になりかねませんので」
「悪いな、ここにいる犠牲者はアイツにやられたんだ。察してくれると助かる」
ラムザがいささか哀れむような口調で、しかしばつの悪そうな表情でそう語る。
バッツはあくまで淡々と話してはいるが、その顔には苦笑の色が浮かぶ。
『化物』の名前なんて聞きたくはないが、このフォローはこれはこれでイラッとくるぞ。
おいマッシュ、肩を叩くな。その『気にするな』とでも言いたそうな顔はなんなんだ。
ガキじゃないんだ、自己管理くらいできるんだよ。

「これは嫌なことを思い出させてしまい、申し訳ない。こちらには触れないようにしましょう。
 話を戻しますが、ロザリーさんの嫌な感じというものは、皆様の言葉では、【闇】に類するものを感じ取ったのではないかと」

おい、【闇】を感じ取ったとはどういうことだ?
まさかこの期に及んで、『化物』の仲間が増えるってことじゃないだろうな?
冗談じゃないッ!

あの女には何かと縁はある。
あの野蛮な彼氏様と違って、礼節を弁えた、理性的な亜人だと認識している。
正気であれば、受け入れるのは吝かではない。

だが、【闇】に憑かれてるなら話は別だ。
そもそもお前ら、【闇】を軽視しすぎなんじゃないのか?
あの『化物』が正気などと口に出すのもはばかられるが、あんなのは例外中の例外だろうッ!

ユウナが澄ました顔して何人殺してきたと思ってるんだ?
アーヴァインだってスコールがいなければ、それこそ2桁殺していてもおかしくないような奴だ。
まさか戦闘力がないから簡単に取り押さえられるとかバカなこと考えてるんじゃないだろうな?
デールを見たことがあるなら元の戦闘力なんざ瑣末なことだってのははっきり分かるだろうさ!

しかもロザリーは夢に干渉できるような能力を持っているはずだ。
ヘタすりゃ夢世界にすら姿を見せかねないってことだぞ!
脱出計画を台無しにする前に殺すべきだッ! それができないなら、今すぐ追い出せ!

421 :想定外はいつも突然に 6/11:2019/05/02(木) 01:40:59.71 ID:54sDqgbZW
「先程の様子を見る限りでは、とてもそうは見えませんでしたが……
 仮にそうであったとすれば、失礼ながら相当危険なのでは?」

ラムザたちの表情は険しいものになっているが、当然だろう。
【闇】が首輪解除のキーになっていようと、
この行為は導火線に火のついた爆弾を持ち込んだようなものだ。

くそ、ここが夢の世界なら今すぐ飛び出して現実の過酷さを説いてやりたいところだが、
あいにくこの世界ではラムザたちの首輪が生きてる。
そのおかげで、反射的に出るはずの言葉は口先まで出かけたところで引っ込んだ。

「皆さんのイメージする【闇】であれば危険極まりない。
 ただ、私の見立ては少し違っていましてね。
 【闇】ではあれど、守護霊に近いものではないかと」
「守護霊……だって? いや、その概念自体は分からなくもないけど、こんな世界で、か?」
「まがい物であれども、この世界はピサロ卿の領域です。
 彼の力量であればそういうことも可能でしょう。
 ただ、この見立てが正しいかどうかを討論するつもりもありません」

なんだ? 話の流れが少し変わったのか?
別に【闇】が守護霊なのかどうかなんてことはどうだっていい。
大切なのは、どうやれば無力化できるのか。それだけだ。
もったいぶった言い回しだが、何か腹案でもあるのか?

「【闇】が顕現するのはロザリーさんの身を守ろうとするときだけでした。
 ロザリーさんが【闇】を求めれば話は別ですが、おそらく彼女は身に宿っているものに気付いていない。
 彼女に意識させずに脅威を取り除くことで、最小限に抑えられると考えています」

脅威ね。……単純に危険人物ってだけなら、ユウナ、セフィロス、ケフカ、セージ、あと『化物』の五人だ。
だがな、一応ルール上は自分以外をすべて殺さなければ自分が死ぬわけだし、
仮に全員殺して勝ち残ったとして、あの魔女が生きて返してくれるなんて思ってるおめでたいヤツがどれだけいるのかねえ?
脅威を取り除く、そのこと自体不可能だろうよ。
そう、今ラムザたちが身振りで示している『首輪を外して脱出し、魔女を倒す』ことを除いてな。
ダメ押しに黒い『クリスタル』なんてものもあるが、これを想像しろってのはさすがに酷な話だろうな。

422 :想定外はいつも突然に 7/11:2019/05/02(木) 01:42:14.67 ID:54sDqgbZW
でだ、ロザリーはめでたく首輪を解除しました。
ロザリーは死者とみなされて、めでたく放送で呼ばれます。
放送で呼ばれたやつが生きていると勘付かれたらマズイので、
先に首輪を外した俺たちと一緒に、魔女共に見つからない場所に隠れ潜みます。
確か脱出するなら旅の扉を使うんだったか? だとすると、それまで最低一日、密閉空間で一緒に過ごすってことだな?

「同じ世界から来たよしみです。そうでなくとも、これ以上死なせるわけにはありません。
 どうかご協力をお願いできませんか」

おい、ふざけるなよ。
首輪が外れていようが、危険なことには変わりないだろうが。
いつ爆発するか分からない爆弾を抱えて一日過ごせって言っているようなもんだぞ?


それにザンデの脱出計画にはリルムの補佐が必要なはずだ。
私情でロザリーの首輪を優先する道理はない。
危険性があるのならそれこそ追い出すのが最適解だ。

なんだ、マッシュ。肩を叩くなと言っているだろう。
首? 首輪か。盗聴、ああ、そうか、そうだな。
少し短絡的になっていたかもしれないな。

そもそも今の話は魔女サマに聞かせるための建前だ。
まったくの妄想なんてこともないんだろうが、すべてを語っているとも思えない。

「狂気に堕ちない限りは、できる限り協力します。これは約束しましょう。
 ですが、一線を超えてしまえば強硬な対応に出ざるを得ません」
実際、ラムザはあくまで反対派寄りの中立って感じの立場を気取っちゃいるが、その手元は忙しない。
どのような密約が交わされているのか、ここからは確認することができない。
今の言葉は本音なのか、建前なのか。あるいは強硬な態度に出て、無事に仲間を『殺す』ための口実として使うのか。

423 :想定外はいつも突然に 8/11:2019/05/02(木) 01:48:53.64 ID:54sDqgbZW
そうだ。ロザリー自身、ザンデとつながりがある。
結界を張ったり、脱出計画を練っていたらしいな。
攻略本には魔力については何も書いていないが、リルム以上に補佐には向いているかもしれない。

ザンデの脱出計画に魔導師の補佐が必要、つまり、ザンデと合流するということだ。
ザンデは首輪がついたままだから、こちらにはこれない。
まさか第三者の夢の世界で脱出計画を実行するわけではあるまい。
そして生身で合流する以上、魔導師がザンデの肉体の傍に行くということだな?
ロザリーを送り、リルムを残すことで脱出計画とセフィロス対策の両輪を回すことができる……なんて計画も立てられないことはない。
であれば、『殺す』口実として【闇】に侵されていると吹聴している可能性もあるのか。
もちろん、こんなのは俺の都合のいい空想でしかない。
事実は筆談の内容を確認しないと分からないが、さっきは一人で先走りすぎたかもしれない。
おい、マッシュ。その『落ち着いたか』とでも言いたげな顔をやめろ。
諫めてくれたのは感謝するが、別にお前の想像ほど取り乱してはいないぞ。

「今すぐ追い出さないでいただけるだけでも感謝します。
 おや、マテリアに反応が……。ソロさんたちが戻ってきたようですね」
プサンは額に手をあて、目を閉じて集中している。
何かの術式か? それとも、夢のでじかめとは言わんが、外の様子を記録するような魔法かアイテムでも使っているのだろうか。

「ヘンリーさんの持っている命のリングは、少々取り扱いに注意しておきたいものでして。
 一度切り上げましょう。お時間を作っていただき、ありがとうございました」
また誰か戻ってきたらしいな。話からすると、ヘンリーがソロを連れて戻ってきたということだろうか。
甘ちゃんだろうが、まともな人間なら大歓迎だ。

プサンとバッツが上階に上がっていく。
ラムザがこっちに残っているってことは、説明してくれるってことか?
ラムザたちがどういうことを話し合ったのか、スコールにも共有しておかないとな。

424 :想定外はいつも突然に 9/11:2019/05/02(木) 01:50:44.36 ID:54sDqgbZW
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「さて、ひそひ草からはいいニュースと悪いニュースが流れてきたわけだが、
 こういう時はどっちを先に伝えるべきだと思う?」

「先に悪いニュースを聞いたほうが気が楽ですが、
 今回は、いいニュースのほうでしょうね」
「そうだ。今回は、そちらが優先だな」

ケフカ、セージを確保したといういいニュース。セフィロスに逃げられたという悪いニュース。
片方しか話せないような切羽詰った状況じゃない。
そして、いいニュースで覆い隠していい情報じゃない。


ひそひ草でギードに連絡を試みたのは、南東の祠への分岐路に差し掛かった頃だ。
残念ながら、向こうからの返事はなかった。
正確にいえば、返事をできる状況ではなかったということだろう。

ソロを連れ戻すきっかけになった件もそうだが、ひそひ草はある程度まわりの音を拾う。
向こうから流れてきたのは、ギードの話し声、幼い女性の声、そして耳障りな笑い声。
おそらく、セージとケフカがその場にいるのだと推測できる。
そして、ギードと思わしき声によれば、
「セフィロスこそ取り逃がしてしまったが、そなたらを放って奴を追うわけにもいかん」とのこと。
タイミングを考えるに、俺たちが呼びかけたのに呼応して、ケフカらに話しかけるという名目でこちらに連絡をよこしてくれたのだろう。

道中でソロにはそれとなく言外に伝えてきたが、首輪の解除方法は確立している。
ここからはどれだけイレギュラーを排し、主催者を出し抜いて全員の首輪を解除できるかの勝負になる。
自由に連絡を取れないことを差し引いても、とても思考を読めないケフカとセージの動向を推測できるのは大きい。

425 :想定外はいつも突然に 10/11:2019/05/02(木) 01:57:01.16 ID:54sDqgbZW
さて、歩き続けて一時間強。ようやく祠が見えてきた。
「ヘンリー様の帰還だ。元気な顔を見せてやるとしようか」
「ヘンリーさんはいつも割と無茶しますからね。きっとみんな心配してますよ」
「ソロ、お前が言うな。いいか、一人で抱え込まずに他人を頼ることを覚えてくれよ。
 じゃないと何かあるたびに俺が出動することになるんだからな」
「あ〜、そうですね。それは確かに気をつけないと」
おいソロ、お前の苦笑いは、僕が無茶すると俺がもっと無茶するから気をつけないといけないな、って意味じゃないだろうな?
軽い冗談のつもりだったんだが、そう思われてるのはちょっとショックだぞ。

バッツあたりに、いつからソロの上司になったんだとでも言われそうだ。
軽口を叩けるのも安全な拠点に帰還できたからだろうか。
そして、こういうときこそ油断をしてはいけないと気を引き締める。イカンイカン。
しかし見張りがいないぞ? まさか全員寝てるんじゃないだろうな?

「ようみんな、今帰ったぞ!」
扉を開け、長い階段を降り、堂々の凱旋。

「あ、ほんとに帰ってきたー! おっさんまず最初にみんなに言うことがあるだろー!」
「まあ、ヘンリー様、ご無事で何よりです」
ロザリーさんとマスタードラゴン様が無事に着いていることを確認し、何も起こっていないことに大いに安堵する。

「おう、リルムただいま。
 ロザリーさんにプサン様も無事にたどり着けたようで何よりだ」
「おかえりー。じゃなくて、一人で飛び出して行ってみんな心配してたんだぞ! あやまれー!」

親戚に駄々をこねるように、服の上からぽかぽかと殴りつけられる。
苦笑しながら周りを見回すが、ラムザとマッシュの姿が見えない。
まあ、奥か最奥の部屋にでもいるのだろう。

「あー、すまんすまん、俺が悪かったよ。だからばしばし叩くな」
「次から外出するときはちゃんとリルム様を通すように。
 それで、隣にいる人が助けたかったって人なの?」
「ああ、そうだ。こいつがソロだ。リルムやラムザは初めて会うんだったか?
 ラムザが見えないが、ひとまず本人から自己紹介してもらおうじゃないか」

腕をソロのほうに伸ばし、手先で指し示して、お膳立て。
ソロの自己紹介が続く始まることを期待していたのだが、後に続く言葉が現れない。

「ピサロ……?」
代わりに発せられたのは、戸惑いと困惑に彩られた短い一言だった。
プサンが、目を見開いたような気がした。

426 :想定外はいつも突然に 11/12:2019/05/02(木) 01:57:49.09 ID:54sDqgbZW
【ソロ(HP1/2 MP1/10 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、水のリング、
     フラタニティ、首輪、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
 第一行動方針:サイファー・ロック達と合流する
 第ニ行動方針:ケフカを倒す/セフィロスを説得する
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー(HP3/5、リジェネ状態)
 所持品:水鏡の盾(E)、リフレクトリング(E)、命のリング(E)、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード
     デスペナルティ、ナイフ、筆談メモ、リノアのネックレス
     ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃
             デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、ミスリルアクス
     リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
     サイファーのザック(ケフカのメモ)
     レオのザック(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東部草原から南東の祠へ移動】

【ロザリー
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:脱出方法の打ち合わせをおこなう
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:アーヴァイン同様、ユウナ?由来の【闇】の影響を何らかの形で受けています】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。

【プサン(HP1/3、左腕負傷のため使用不能)
 所持品:魔法の絨毯、錬金釜、隼の剣、メモ数枚 風魔手裏剣(1)
 第一行動方針:ロザリーの状況を仲間と共有し、【闇】が表に出るのを防ぐ
 第ニ行動方針:脱出方法の打ち合わせをおこなう
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
※黒マテリアは祠の入り口付近に配置。

427 :想定外はいつも突然に 12/12:2019/05/02(木) 01:58:15.78 ID:54sDqgbZW
【リルム(HP1/2、右目失明、MP1/4)
 所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:情報交換/ロザリーを夢世界に招いていいか見極める
 第二行動方針:祠の警備
 第三行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】

【バッツ(HP7/10 左足負傷、MP1/5、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)
      マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 第一行動方針:ロザリーの状況をリルムらと共有する
 第二行動方針:リルムの首輪を外す
 第三行動方針:祠の警備/機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:南東の祠手前の部屋】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP5/6)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾
 ミスリルシールド、スタングレネード×1、エクスカリパー、ドラゴンテイル、バリアントナイフ
 第一行動方針:ロザリーの状況をアルガスらと共有する
 第二行動方針:祠の警備
 第三行動方針:首輪解除及び脱出に協力する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】

【マッシュ(HP1/8、右腕欠損、首輪解除)
 所持品:エリクサー】
 第一行動方針:ラムザから情報共有を受ける
 最終行動方針:ゲームを止める】
【アルガス(左目失明、首輪解除)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:ラムザから情報共有を受ける/魔力を持つ道具の調査と情報整理
 第二行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】


【現在位置:南東の祠最深部の部屋】

428 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/05/15(水) 08:21:25.09 ID:pOB+ff4RR
おつですを

429 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/05/19(日) 21:21:07.81 ID:Ts7BC5DuZ
投稿乙!
じわじわと話が動いていていいな
ヘンリーとソロのこういった会話が久々で和んだ

430 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/05/20(月) 22:51:52.44 ID:B273l9Id2
まさかまだこのスレ残ってたとは
数年ぶりに読み返すか

431 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/05/23(木) 16:21:05.65 ID:wFcmbewB5
トロイ

432 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/06/19(水) 22:19:13.57 ID:sY619Vh72
保守
というか最大何KBまで書けるんだろ

433 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/07/03(水) 20:33:34.91 ID:Zy3N9XvHs
投下しますがすごく長いので
もし容量を超えて投下できなくなったらしたらばに投下します
ttps://jbbs.shitaraba.net/game/22429/#5

434 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 1/33:2019/07/03(水) 20:34:12.57 ID:Zy3N9XvHs
「おいおいソロ、いくらなんでもロザリーさんを見てピサロ……? はないだろ。背格好どころか性別すら違うぞ。
 ああ、みんな悪いな。こいつがソロだ。今はちょっと緊張してるみたいだが、いざって時には頼れるやつだよ」
ソロは目の前の光景を、信じられないという感情を含んだまま凝視してしまった。
いるはずのない男がそこに見え、思わずその名を口に出してしまった。
ヘンリーがソロに提示した情報を丁寧にたどれば、首輪を外せたことは導き出されるのだが、その男はそれに当てはまらない。
確かに首輪はないが、『命』もない。それこそ、道中で見たユウナを模した【闇】のように。
だが、彼はピサロだ。ピサロを模した【闇】ではなく、確かにピサロなのだと、はっきり分かった。

ヘンリーはソロ、そしてプサンらの動揺を見抜き、自己紹介の流れを修正する。
そして、プサンとリルム――表面上はソロと初対面である二人がそれに乗り、流れを引き戻す。
ソロは釈然としない思いを抑えつつ、あらためて自己紹介をおこなう。
プサンは命のリングの件すら頭からすっ飛ばし、自己紹介など聞く余裕すらなく、『最悪』のシミュレーションをおこなっていた。
注目の中心、ロザリーはそわそわと落ち着かないままソロとヘンリーを交互に見やっていた。
ピサロの名が出たとき、横目ながら後ろを確認したが、その先には地下へ通じる扉があるだけだ。
ピサロの影も形もない。

間断なく、ヘンリーが、城のほうで何を見てきたか、外がどうなっているのかを説明する。
四人の危険人物、すなわちセフィロス、ケフカ、セージ、ユウナ、彼ら彼女らが今どこに赴き、何を為し、どういう顛末を迎えたか。
今自分たちの命を脅かす危機。ロザリーに限らず、祠にいる全員が耳を傾けざるを得ない。
ユウナの壮絶な最期にリルムは戦慄し、ロザリーは安堵してしまう。
前者は元のユウナの優しさを知っているが故に、後者はユウナの狂いきった姿が脳裏に焼きついていたが故に。
ケフカとセージの現状に、リルムは不安がり、バッツは一息つく。
前者はケフカの危険さをよく知っているが故に、後者はギードがどれだけ頼れるかを知っているが故に。
傷を負いながらのセフィロスの逃亡にリルムは安堵し、プサンは警戒を強める。
前者はセフィロスの身体能力を間近で確認したが故に、後者はセフィロスの精神力を間近で確認したが故に。
危険人物たちの現状が伝わったところで、クリムト、ザックス、アンジェロという三名の犠牲者の最期を。
彼らの死を悼まないものはいない。ここだけは、全員の想いが一致する。

435 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 2/33:2019/07/03(水) 20:35:06.36 ID:Zy3N9XvHs
ヘンリーが認識したのは、ソロがピサロの名を出したこと、それに対するプサンの動揺。
地味にバッツも挙動不審な動きをおこなっていたため、何か地雷を踏んだということは理解する。
一刻ほど前、ソロは【闇】が見えると言っていた。
それを踏まえれば、おのずと状況の一端は垣間見ることができる。
彼が怒涛の現状説明をおこなったのは、先延ばしと時間稼ぎという裏もある。

「状況は大体こんな感じだ。誰か、他に疑問に思うことはあるか?」
「そうですね……セフィロスですが、彼はどちらに向かったかは分かりますか?」
「彼は浅くない怪我を負っています。
 夜明けまで数時間といった状況ですし、目的がなければこちらまで来る可能性は低いのではないかと。
 デスマウンテンから近く、身体を休めるのに最適な場所ならば、やはり希望の祠ではないでしょうか」
「俺もそこが無難だとは思う。
 ただ、実際にどの方向に向かって行ったかは誰も見てないから、100%安全だとは言いきれないな」

ヘンリーは今の祠の状況が分からない、だから最も分かっていそうなプサンに対応を委譲するしかない。
命のリングの件もピサロに関わりがある以上、迂闊に口に出すことは控えるしかない。

「プサンのおっさん、どこ行くの?」
「少し外に忘れ物をしましてね。セフィロスに拾われては困るので、回収を。
 ソロさん、護衛をお願いできますか」
セフィロスが探していた黒マテリア。
祠でごたごたしている間に回収されましたは冗談にならない。
それを口実として、プサンはソロを連れて一時的にこの場を離れる。

■■■■■■■■■■

436 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 3/33:2019/07/03(水) 20:35:53.80 ID:Zy3N9XvHs
「マスタードラゴン、僕に話があるんですね? ピサロについて、訓告といったですか?」
「連れ出す手口が少々古典的すぎましたかね? お察しの通りです。
 分かるのであれば気になるでしょうが、彼の名を出すのはこらえていただきたいのです。
 ああ、それから今はプサンで構いませんよ」

地上への階段を上りながら、プサンはソロに、ピサロの正体が何なのかということや、何故彼の名を出すのを控えさせようとしているのか、
そして彼が一体何をしているのかを告げる。
ソロは逆に、何故ピサロが見えるようになっていたのか、その経緯を告げる。
真実を見極める力はロザリーの中にいるピサロを映し、そしてプサンをマスタードラゴンとして映し出す。
もっとも、ヘンリーからの前情報があればこそ、落ち着いていられるだけだ。
一階の扉を開ける。セフィロスの気配はない。

437 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 4/33:2019/07/03(水) 20:36:28.76 ID:Zy3N9XvHs
「守護霊ですか。実際に身体能力が向上しているというのであれば、サイファーたちの使っているGFのようにも思えますね。
 しかし、聞いたところでは、何か問題を起こしているわけように思えるんですが」
「ええ、そうですね。過激な言動はありますが、基本的にロザリーさん以外には関心が無いのでしょう。
 しかし、どんなきっかけで影響力を強めるか分かりません。
 それが吉と出るか凶と出るか、そこまでは見当がつきません」

生前のピサロのことを思い浮かべれば、ソロとしても納得できないことはない。
ピサロは冷静なようで激情家、かつ意外と根に持つタイプで、少々といわず過激な行動をおこす面が多々あった。
その成れの果てが進化の秘法による暴走ということを鑑みれば、プサンの心配事も分からないことはない。

「この祠には殺し合いに乗っていない生き残りたちの最後の砦です。
 どう転ぶか分からない不安要素は持ち込むわけにはいきません」

プサンの言い分は理解できる。たとえヘンリーであっても同じような結論にたどり着くだろう。
多数を生かすために不安定な少数はないものとして扱う。いざとなれば切り捨てる。
身も蓋もないことを言ってしまえばそういうことだ。
彼らが特別非情なわけではない。ヘンリーは大国の王族で、プサンに至っては一つの世界を支配する竜神だ。
公人としての経験が豊富であるがために、何を選んで何を捨てるのかを決めることができるのだ。

ソロが思い返すのは、城で少女に扮していた男のこと。
正体に気付かない振りをしたまま腫れ物を扱うように接し続け、まともに話をすることすらなく逃亡されるという結果に終わった。
選択としては間違ってはいない。
自陣を実質被害ゼロで収めることができたのだから、ヘンリーの行動は賞賛こそあれ、非難されるべきものではない。

セージと同じように、ロザリーもピサロが表出しないよう、慎重に接していくのか?
私情を排せば、それが賢い選択であることは疑いはない。
それどころかピサロとて、ロザリーが絡まなければその選択をとることだろう。
だが、ソロは釈然としない想いを抱かざるを得ない。

「プサンさんの意見は正論だと思います。でも、僕はこうも思うんです。
 今のピサロは敵になりかねない存在だと、そういう前提の下で行動していれば、通じるものも通じないのではないかと」

438 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 5/33:2019/07/03(水) 20:37:00.27 ID:Zy3N9XvHs
ソロは勇者だ。政治家ではないし、宗教の指導者でもない。まして、神でもない。
魔族を打ち滅ぼす使命を持ちながらも、人間と魔族の憎しみの連鎖を断ち切ることができないかと行動し続け、
青臭い理想を現実のものと為した男だ。
この世界においてなお、その有り方は変わらない。
狂気に捉われたユウナや、銀髪鬼たるセフィロスにすら、まず対話から入るのがソロという人間の有り方だ。

「ふむ、言っていることは分かります。分かりますが、仮に彼と話が通じなかった場合は、余計に悪化してしまうのではありませんか?」
「仮に彼を排除しようとしていることを知られれば、より大きな反発が生まれます。
 人の心を操ることはできません。だからこそ、互いに協力し、信頼を築くことが大切だと思っています。
 ロザリーさんとて弱い心の持ち主ではありませんし、
 ここがピサロの力を発揮できる世界だというのであれば、それこそ対話の機会は今しかないと思うんです」

黒マテリアを回収しながら、プサンはソロの言葉を反芻する。
正直なところ、プサンの見解としては、ロザリーに期待するはたらきは現状維持でも十分為しえるとの認識だ。

首輪の解除方法については彼女がどうにかできる問題ではない以上、ロザリーに伝えたところで問題は起こりにくい。
彼女の首輪を解除する段階になれば、彼女の死を偽装しなければならない。
本気で殺されると勘違いさせれば、それこそ取り返しのつかない事態を引き起こす。
だから、ラムザやバッツには首輪の解除方法は伝えるべきだと主張し、
主催者に怪しまれずに解除するならどうすべきか、思いつく限りのシチュエーションも伝えた。

一方で、夢の世界への行き来は伝えない予定だった。夢に干渉することができる以上、万が一が起こりうるかもしれないからだ。
彼女の首輪を外した後は、男女別という名目で部屋を分け、一人、二人と減っていくことに気付かせないようにする。
地下に残ったラムザには、既に首輪を解除したメンバーにそう伝えてもらっている。
だからこそ、何もしなければ大きく事が動くことはない。
ユウナが追っているのであればともかく、彼女は既に命を落とした。セフィロスやケフカが現れる危険性は低い。
リスクを取らなければならないほど切羽詰った状況ではないのだ。

439 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 6/33:2019/07/03(水) 20:37:37.83 ID:Zy3N9XvHs
「もっとも、こんな偉そうなことを言えるのは、彼がピサロだと確信できているからかもしれません。
 そうであるから尚のこと、彼をよくないものとして排除しようとするやり方には疑問を覚えてしまうんです」

クリムトから受け継いだという真実を見抜く力。
育ての魔女からの冒険譚にも出て来たそのチカラは、知識としては確かに持っている。

ピサロとしっかり話をつけることで、気を揉まなければならない対象を減らし、想定外の事故を呼び込む機会が減る。
彼と協力体制を取り付けることができるなら、それはアドバンテージにもなるのだろう。

最も注意すべき夢世界のことについてはロザリーにまだ知らせてはいない。
天空の装備を一式身につけたソロなら、何かがあっても徒に被害が増えることはないのではないかとの思いもよぎる。
即興ではあるが、うまくいかなかった場合のシミュレーションを張り巡らせる。


「私は彼の存在を認めようとしていないのは事実です。
 それが一番安全で確実な未来に繋がると考えていますからね。
 ですが、良くも悪くも、貴方たち人間の可能性は私の及びもつかないところがあるのは確かです。
 いいでしょう、やってみてください。ただし、話がまとまらないようでしたら、相応の対応となりますからね」

440 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 7/33:2019/07/03(水) 20:38:38.36 ID:Zy3N9XvHs
ソロは天空城に入城した当時の光景を思い返す。
マスタードラゴンはデスピサロと対話をおこなうなど考えることもなく、その機会を持とうともしなかった。
当時の彼は魔族を滅ぼすことこそが、最も安全で確実に人類と天空人を救えると考えていた。

だが、ソロはマスタードラゴンの言い分にも疑問を持った。
単純にマスタードラゴンへの反発があっただけかもしれないが、
確かにそのときの彼はマスタードラゴンの言葉をすべて信じてはいなかった。
わざわざゴットサイドで地獄の帝王と勇者の戦いを予言として広めたこと、
彼から実の両親を奪い、だが山奥の村という閉鎖的な環境で勇者として育てたこと。
勇者と魔王を対立させるためにマスタードラゴンが一枚噛んでいたのではないかと。

迷いの晴れないまま、勇者の肩書きのままにデスピサロを殺してしまえばどうなるのか、思いを馳せた。
勇者の肩書きに押しつぶされ、誰にも助けを求められないまま自己を塗りつぶす未来を夢想した。
そのときのごちゃまぜになった思考は彼自身思い返すことはできない。


決戦予定日の前夜、ふとアリーナにそのことを漏らしたことがある。
彼女はいつものように即断即決でこう答えた。
「ソロが納得いかないんだったらさ、納得いくまで別の方法を探してみれば?
 やらなかったことを後になって後悔するなんて、わたしはごめんだもの」
彼女なりに深く考えて発言したのか、それともただの思いつきか。
その短い問答が、運命の分水嶺をだったのは間違いない。

世界樹の花を誰に使うのかも悩みに悩んだ。
仮に奇跡が起こり、ピサロが元に戻ったとして、彼を許すことができるのかと。
覚悟を決めないままに世界樹の花をつかい、その結果全てをデスピサロのせいにして世界を恨み続ける自分を夢想した。
山奥の村、シンシアの墓前に足を運んだことも一度ではない。
最終的にピサロと和解し、真の巨悪を討伐したのはソロの選択の結果だ。

441 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 8/33:2019/07/03(水) 20:39:17.64 ID:Zy3N9XvHs
ソロの言葉を、プサンは否定しなかった。
エビルプリーストの野望を打ち砕いて数十年後、人と魔族は友好とは言わないまでも敵対という関係からは変わっていった。
人間と魔族は住む場所は異なっていたが、もはや不倶戴天の敵ではなかったのだ。
仮に人類の敵であれば、マーサの力で人間に転生する魔族など現れなかっただろう。
そもそも、魔王ミルドラースですら元人間だ。
そこにあるのは力の大小であって、魔族と人間の垣根はずっと低くなっているのだ。

ピエールやはぐりん、スラリンやゲレゲレ、コドランにロッキー、ブリード……。
魔王の呪縛を浄化し、リュカが共に旅をした魔物や魔族は数知れない。
創造神とも言える偉大な存在が、歴史は収束し、一個にまとまっていくと発言したという記録がある。
けれども、ソロのはたらきがなければ、そのような友好的な魔物はせいぜい今の半分程度だったのではないか。
彼の功績はそれほど大きく、再度希望を掴み取ることを少しだけ見てしまったのだから。

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442 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 9/33:2019/07/03(水) 20:39:42.25 ID:Zy3N9XvHs
プサンとソロが地上に出ている間に、バッツもラムザを呼び戻していた。
ピサロの名前を出したことで、ロザリーが動揺したことは彼の目にも明らかだった。
彼女の状態を知っているがゆえに、ソロが戻る前に全員そろえておくべきだと判断した。

「あの、ソロ様? 先程の言葉、やはり気になってしまうのですが、ピサロ様がどうしたのでしょうか」
ソロが祠に戻り、ラムザからソロへの簡単な挨拶がかわされる。
その直後に投げかけられた第一声、予想通りの第一声だ。
実は生きているのでは、という言葉がロザリーの脳裏に過ぎるも、それは飲み込む。
彼女はザンデが放送で呼ばれたことを知っているから、口に出しはしない。
けれども、何かを知っているのではないかと半ば確信を持って言葉を投げかけた。

もちろん、答えなど返せない問いだ。
だが、藁にもすがるような想いを包み隠すことはできなかった。

ピサロならばあるいは。
己が最も愛する伴侶。竜の神や異世界の魔王と同格の力をほこる魔族の王ならば、あるいは。

希望を抱いてしまう程度には、彼の力は強大で、彼への信頼も厚かった。
一旦ピサロを意識してしまえば、ピサロが近くにいるような気がしてならない。
すぐ傍でピサロが自分を見守っている、そのように思えてならない。

443 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 10/33:2019/07/03(水) 20:40:06.21 ID:Zy3N9XvHs
「ほら、あれだ。もう深夜だし、ソロは城で一日中戦ってたんだろ? 大分疲れが出てるんじゃないか?」
「そう……ですよね。誰かと見間違えるなども考えづらいですし。
 ソロ様、それならばお休みになってはいかがでしょうか。
 今無理をして、朝に倒れられてはなりませんから」

ヘンリーからの助け舟に乗り、ロザリーはゆるゆると首を振って頭の中からイメージを追い払う。
それでも、ごぼごぼと湧き出す夢想は止まらない。
前を向いて進むと決めたはずなのに、心は目の前にある道をはずれてしまう。
そちらを見てはいけないとわかっているはずなのに、ありえない理想の世界がちらついてしまう。
彼女が選んだのは、そんな焦燥を淑女の仮面で覆い隠し、さも平気そうに振舞うという、彼女自身にとって残酷な所業。


ソロは思い返す。
一日目、アーヴァインは一人で勝ち残るという僅かな希望にすがった。
結果、それがすべて絶望に反転し、記憶を喪失した。
今のロザリーを放置すれば、肥大化した夢想が餌となり、よくないものを呼び寄せてしまうのではないか。
レーベで起きた暴走を繰り返してしまうのではないかと危惧してしまう。

同じ徹を踏ませるわけにはいかない。
もちろん、迂闊にも決定的なスイッチを押してしまったのはソロ自身であるので、その責任も感じてはいるのだが。


ソロはひとときだけ目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。
ロザリーの肩越しに見える魔王の幻影を見据える。
覚悟を決める。
「ロザリーさん、ヘンリーさん、お気持ちはありがたいのですが……。
 僕はロザリーさん、そしてピサロときちんと話がしたい」
ロザリーの目を、そしてその後ろにいる者の目を真っ直ぐに見て、宣言した。

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444 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 11/33:2019/07/03(水) 20:40:31.35 ID:Zy3N9XvHs
「バッツさん、ラムザさん、先程の今で本当に申し訳ないのですが、対応を変えましょう。
 一度、彼に任せてあげていただけませんか」
プサンのいきなりの変遷に面食らう二人。
先程まで、なんとかピサロを顕現させないように協力しようとしていたのだから、戸惑ってしまうのも当然だ。

「ムリだと判断したら、ソロさんはこちらで止めますよ」
ラムザはひとしきり逡巡したあと、
「戦況が変わることには慣れていますから。
 最終的に解決できるのであれば、問題ありません」
静観という立場を選択する。
ピサロを封じ込めるにしろ、ピサロと協力するにしろ、どちらにも対処できるように対策しておくことが重要だと判断した。

「ちょっと、リルム仲間はずれなんだけど?」
「リルムさんにもちゃんと話はしますよ。
 だから、ほっぺを膨らまさないでください」
「大人だけでこそこそするなよなー」
ソロの説得の裏、会話に参加していない彼ら4人も、より良い未来を掴み取れるように、対応を詰めていく。

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445 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 12/33:2019/07/03(水) 20:41:41.34 ID:Zy3N9XvHs
「あの、ソロ様? ピサロ様と話がしたい、とは……?
 ピサロ様は確かに放送で呼ばれました。
 その悲しみから立ち直らせてくださったのは、他でもない貴方なのですが……」
「すみません、いい言葉がなくて、混乱させてしまっていると思います。
 ですが、ピサロの意思が貴方の精神の中で生きていると確信しているんです」
「私の精神……? ピサロ様のことは一時たりとも忘れることはありませんが、そういう意味ではなく、ですか?」
「ロザリーさんは、ガーディアン・フォースを知っていると思います」
「ガーディアン・フォース……サイファーさんの使っていた、あの不思議な力でしょうか?」
「そうです。その正体は人の精神に住み着く、特殊な幻獣だそうですが……」

「ああ、G.F.だってんなら生きているっていうのも分からなくもないな」
ソロの回答に納得するのはヘンリーだ。
彼はレーベでアーヴァインからG.F.の説明は受けているし、実際にジャンクションしてカーバンクルと対話をおこなった経験もある。
G.F.には確かに個としての意思が存在している。
そして、ティーダが召喚獣として生まれ変わったのを大半のメンバーが知っている。
ならば、死後に別の存在に生まれ変わることをハナから否定することもない。
突発的に始まった、ヘンリー先生による特別講義を耳に入れ、ロザリーもソロの説へのイメージを固める。

「ピサロも召喚獣、いや、G.F.になったってことか?」
「プサンさんと僕の見立てではありますが、極めて近い存在になっているのではないかと。
 ロザリーさん、ピサロのことを想いながら、彼がここに現れるように念じることはできますか?
 貴方の呼びかけであれば、きっとピサロは応えるはずです」
「ピサロ様が、ガーディアン・フォースとなって私の中に生きている、ということなのですね。
 ……分かりました、やってみます」

おずおずと腕をつきだす。叫ぶ。
「ドロー!」

446 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 13/33:2019/07/03(水) 20:42:10.18 ID:Zy3N9XvHs
G.F.って、そんなんだっけなと疑問半分納得半分。
心の中でツッコミを入れてくれるSeedも、この光景にずっこける万年Seed候補生もここにはいない。
ヘンリーだけが生暖かい目をして見守っていた。

「そうじゃなくて、出てきてくれ〜って普通に祈るような感じで大丈夫さ」
「あ、はい……」
ヘンリー自身は結局使いこなせなかったとはいえ、レクチャーなら可能だ。
さすがに『僕に力を貸してくれー!』などとそのまま伝えるのは年齢的にも恥ずかしかったので、
細部は彼自身の言葉に置き換えているが。


「ねー、大丈夫なの? なんかすごく黒いのが出てない?」
リルムの目には、ロザリーから黒い靄が発せられて、濃い影を作っているように見える。
表情などは見えないが、びりびりと剣呑な雰囲気だけは伝わってくるのだ。
警戒の色濃く、成り行きを見守る一同。
ただ、プサンだけはまったく動じない。
ピサロを呼び出すとなれば当然この程度のプレッシャーはあるだろうと予感していた。
問題が起こるとすればこの先だ。

「本能的にそう感じてしまうのは致し方ないでしょう。何せ、彼は聖人君子ではなく正真正銘の魔王です。
 もし呼び出される魔王が彼でなければ町ひとつくらい消し飛びますからね」
「脅かすようなこと言うなよ〜!」」
「それは申し訳ない。けれども、私のようなか弱い一市民でも正気を保っていられるのですから、今のところ恐れる必要はありませんよ」
約三名ほど、か弱い一市民というのは天空ジョークなのかと疑うも、聞かなかったことにした。
階下での打ち合わせや、祠の一同の隠し事も考慮しつつ、
どう転んでもいいように準備をしながら、ロザリーがピサロを呼ぶのを待つ。

447 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 14/33:2019/07/03(水) 20:42:44.85 ID:Zy3N9XvHs
「ピサロさま、どうかお応えを……」
ロザリーは真剣を通り越し、どこか必死な様子が見受けられる。
彼ともう一度出会うことができるとの思いが先行し、そしてソロの期待に応えようとしていることが大きなプレッシャーになっているのだ。
「ロザリーさん、ピサロを想うにしても、縋るのはいけないと思うぞ。
 G.F.ってのは対等な立場か、もっと強気にお願いするのがいいらしい」
「弱った姿を見せれば、あいつのことだから、貴方を心配してしまうでしょう。
 もっと自然体のほうが、あいつも姿を現しやすいんじゃないかと思います」
「は、はい……!」
ソロやヘンリーの助言を受けて気持ちを整理し、あらためてロザリーがピサロに呼びかける。
【闇】であろうが、G.F.であろうが、呼び出し方は実は大差ない。
かつてピサロ本人が言っていたように、理論としては召喚獣の実体化と同じなのだから。

そして、彼女がピサロを呼ぶに適した理由はもう一つある。
この世界はもはや、当初の目的であった『魂を集める装置』としては破綻しきった。
楔として位置づけられていたクリスタルは砕け、もはや存在しない。
今の世界は、魔女が己の野望をかなえるという願いのためだけに存在する世界。
楔となっているのはクリスタルの代替物と化した【ユウナ】だ。
それが誕生したときに、ロザリーは直に言葉を交わした。

【タバサ】を通してそれに触れたカッパには、【闇】への親和性がほんの少しだけ生まれた。
ロザリーも、少量とはいえ、然りなのだ。


ロザリーの呼びかけに応じて、霞はより濃くなり、人の形を取っていく。
胴体と手足、頭がついていることが確認できるが、顔のパーツは認識できない。当然衣服等もない。
人の形を取った影としかいえない。どこかおぼろげですらある影。
それでもロザリーにはそれが誰なのか認識することができた。

448 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 15/33:2019/07/03(水) 20:43:08.46 ID:Zy3N9XvHs
「ピサロ様……? ピサロ様なのですか?」
近寄ろうとするロザリーを、影は手で制止する。
おもむろに、ソロのほうへと向き直る。

「ピサロ、僕の見立てが正しければ、その姿でも意識はあるんだろう?」
ソロにしてみれば、明らかに理性を持って自身と対峙する影。
プサンも他の者たちも、それが正しくピサロであるとしか考えられない。

「まず、ロザリーさんに負担を強いたことは謝罪します」
「いえ、そんな負担などと……。むしろ、もう一度ピサロ様と会うことができたのは感謝すべきことです。
 けれども、ソロ様だから目を瞑りますが、今後は控えて欲しいと思っているのです」

一言目にソロへの感謝、二言目に苦言と真っ向から対立するワード。
本当に同一人物の口から発せられたのか疑わしいほど、ニュアンスがかけ離れていた。

「えっ、えっ……? 今の言葉は? 私が言った?」
それに目を丸くするのは言葉を発した本人だ。
脳裏に考えてもいないはずの言葉が浮かび、当然のことのように言い放ってしまった。

ロザリーは平均以下の体力しかなく、魔力もこの場にいる者の中では最低クラスだ。
召喚にあたって、精神的な負担だって小さくはない。今も額にうっすらと汗がにじみ出している。
ただ、負担が大きかろうともピサロを呼び出すと決めたのはロザリーだ。
ソロはあくまできっかけであり、彼に責任を求めたことはない。
だからこそ、ロザリーの脳裏に浮かび、口に出したその言葉が不思議だった。

「ピサロが貴方を借りて言葉を紡いでいるようです。あまり長くは続けないほうがよさそうだ」
「ピサロ様が私を通して……? そういうことなのですね」
ソロは一連の挙動を外から眺めるからこそ、先程の言葉はピサロのものなのだろうと確信した。

ピサロはもう肉体を持ってはいない。
ユウナの呪詛がリュックやロックには聞こえなかったように、
リュカやピエールとタバサの会話がパパスやターニアには聞こえなかったように、
現世の住人に、直接音を伝えることはかなわないのだ。
けれども、ピサロの言葉はロザリーにだけは伝わる。

「きっと大丈夫です」
ソロの心配に対してロザリーははっきりそう言い切った。

449 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 16/33:2019/07/03(水) 20:43:44.18 ID:Zy3N9XvHs
「私はピサロ様に呑まれることはありません、ピサロ様も私を呑みこむことはありません。
 私はピサロ様を信じております。ですから、私のことは気にせず、すべての言葉をぶつけてください」

いつからか胸中に響くようになった彼の言葉を、自身の心から滲み出る弱さだと考えていた。
けれども、自分の中にピサロがいると知覚したことで、逆に気持ちが安定した。

ピサロの愛姫として、常に守られ続けていたのであれば、ピサロの存在に依存して交じり合っていただろう。
けれども、――ピサロが彼女を守ることに固執するため、見誤られがちだが――彼女は元来そのような人物ではない。
恋人の命を奪うことになってでも、自らの死に際しても、恋人が堕ちることをよしとしない、強い意志の持ち主だ。
誤った進化を遂げた恋人を引き戻すために、危険な闇の世界へ赴くほどの胆力もある。
まして、殺し合いに巻き込まれてからはアリアハンという危険な戦場を生き延び、ザンデの助手として研究をおこない、脱出の結果を導き出すという役割を為した。
ピサロを慕う気持ちは褪せないが、一人の独立した人物として、彼にすべてをゆだねることはないのだ。
だから、ピサロをはっきりと知覚した今、ロザリーはロザリーだ。ピサロの人形ではないし、ましてピサロになることはない。

ソロにとって、ピサロは敵対者であり、信頼できる仲間でもある。本音も苦言も遠慮するような間柄ではない。
導かれし者たちにピサロが現世に留まっている理由を問えば、回答は満場一致で導き出されるだろう。

「ピサロ、回りくどいことはなしにしよう。お前がこの世界に留まっている理由は分かってる。
 その上で率直に聞く。三たび、手を組むことはできないだろうか?」

ソロの要求はどこまでもストレートだ。
魔女の討伐こそがここに集う仲間たちの主目的だと、彼は考えている。

ピサロと思わしき影に、表情は存在しない。
だから、彼を見て何かを読み取ることはできない。
けれども、ソロには真実を見る眼がある。
もちろんそのようなチカラのないヘンリーやプサンでも、隣のロザリーを見れば話の感触は伺えるだろう。
当の彼女は驚いたように目をぱちくりさせ、眉尻を下げて申し訳なさそうな表情を作る。

「その要求は呑めない、と」
「それは……、どうして?」
「それは……率直に言えば、この集団を信用しきれない。
 ……だそうです、申し訳ありません」

きっぱりとした拒絶の言葉だった。

450 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 17/33:2019/07/03(水) 20:44:18.51 ID:Zy3N9XvHs
「僕は最後の最後まで足掻く。人も魔物もあれだけの数がいて、もう20人前後しか残っていない。
 あの時無理をしてでも引き留めておけば、あの時話し合っていればと思う人々はたくさんいる。
 だからこそ、仲間を欺くことはしない。犠牲を強いたりはしない」
「ソロ様は、お人好しがすぎるのです。
 たとえこの地にて一日を共に過ごした相手であっても、死が間近に迫れば心変わりして牙を剥いてきます。
 それに、24時間誰も死ななければ首輪が爆発するというのもあります。
 私……いや、ピサロ様がいなくなれば、最初に狙われるのが最も弱い私だろう、とのことです。
 ……私、ロザリーとしては、それでも皆様と協力をすべきだと思っています」
「ロザリーさん、ありがとうございます。
 ピサロ、たとえ笑われようとも、僕は僕の道を曲げることはない。
 24時間の猶予があるなら、その間に方法を見つけよう。
 もし道を踏み外しそうな仲間がいるなら、その腕を掴んで引き戻そう。
 もう意見の対立だとか、立場だとか、誤解で犠牲が出るのはたくさんなんだ」

ソロはどこまでも真正面から思いと信条をぶつける。
それに対して、ピサロも真っ向から反論する。

「ソロさん、一つだけいいですか?」
ラムザが、その口論の間に割ってはいる。

「貴方の言っていることは綺麗事に過ぎません。
 現実は残酷なものです。力及ばず、タイムリミットが来てしまうかもしれない。
 それは、認識されていますか?」
「ええ、すべて分かっています。
 けれども、最後まで諦めるつもりはありません。天空の勇者の名にかけて、最後まで足掻きます」
「そうですか、分かりました」

ラムザの問いに対し、ソロは即答する。
理想論だ。誰も死ななければ首輪が爆破されることなど、彼とて百も承知だ。
けれども、その理想をピサロに正面からぶつけ続ける。理想の旗を振り続ける。
そして、理想を本当にするために行動し続けるのがソロという男だ。
勇者とは最後まで諦めない者であり、最後まで諦めなかったからこそソロとピサロの間には信頼が生まれたのだ。

451 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 18/33:2019/07/03(水) 20:44:43.86 ID:Zy3N9XvHs
「なあ、俺のほうからも聞いておきたい。
 今しゃべっているのはピサロ……でいいんだよな。ソロはあんたを裏切るような奴に見えるか?」
若い勇者が理想を語る。なら、それを支援するのが為政者で、大人の役目だ。

「極悪人や小悪党なんて、元の世界でもここでもごまんと見てきた。そもそもあの魔女だって人間だろうしな。
 だから、この集団や人間のことを全面的には信頼できんってんならまあ仕方ないさ。
 だけどな、ソロも信用にすら値しないやつなのか?」
「私も、ソロ様は信頼できると思います。
 ここに集っている方たちとて、悪い方々には思えません。何故ピサロ様はそこまで頑ななのでしょうか?」

ピサロのスポークスマンとしてではなく、ロザリー自身も意見を発する。
生前のピサロが露骨にソロを嫌っているという素振りはなく、むしろ逆でさえあった。
ピサロとソロの関係は十分に知っている。

けれども、ピサロが答えることはない。
一つは、彼の死因に起因することだが、これは彼にとってもあまりに理解不能すぎたため、補足程度のものでしかない。
もう一つの理由。問いかけに呼応するように、その視線が僅かに逸れたこと、ソロは見落とさなかった。
その視線を目で追えば、プサンと目が合った。

452 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 19/33:2019/07/03(水) 20:45:41.73 ID:Zy3N9XvHs
「私はただの一天空人なのですが、そんなに睨まないでくださいよ」
肩をすくめて、プサンがおもむろに参上する。
マスタードラゴン、魔族の主敵。彼が近付くにつれ、ピサロの威圧が強まる。

「あの、何故プサン様をそれほどまでに嫌っているのでしょうか? ……えっ、本当にマスタードラゴン様なのですか?」
そのようなやり取りがほんの数時間前にあったのは彼女も確かに覚えている。
そのとき神様と言っていた当の本人・ヘンリーは額に手を当てて苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「いやいや、さすがにマスタードラゴンは冗談が過ぎますよ。
 私なんかがマスタードラゴンを騙ったら、不敬罪で処刑されてしまいかねません」
「あの、ですが心当たりもありまして、ここに来る道中でヘンリー様がそのようなことを確かに……。
 ピサロ様は、あの時は黙認したが、確かに聞き逃さなかったと。何を企んでいるのかと……企んでいるなんて、誤解ですよね?」

当時もヘンリーから苦し紛れだと指摘された言い訳ではあったが、再び持ち出されてしまうと観念するしかない。
【ピサロ】という未知の存在を前に、余計な軋轢を生まないようにプサンは自らの出自を隠蔽しようとした。
ロザリーはそれで納得したが、ピサロにはロザリーに対して誤魔化しをおこなうような、全面的には信用できない相手だと捉えられた。
元々お互いに信用しきれていなかったために、少しだけこじれてしまっているのだ。

「ピサロ、ひとつだけ補足させてほしい」
微妙な空気に、今度はソロが割って入る。

453 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 20/33:2019/07/03(水) 20:46:11.26 ID:Zy3N9XvHs
「僕はプサンさんがマスタードラゴンであることは知っていた。
 お前とマスタードラゴンにわだかまりがあるだろうことも知ってる。
 けれども、まだ決定的な対立は起こっていない。だからこそ、互いを知り、誤解を解くには今しかないと思ったんだ。
 お前と話し合おうというのは僕の意思だ。
 その上でもう一度聞かせてくれ。過去の因縁もわだかまりも飲み込んで、魔女を倒すために、手を組めないか?」
「ピサロ様……私からもお願いします。
 プサン様が魔女に対抗すべく尽力しているのは確かなのです。
 ソロ様と手を取り合うことができたように、マスタードラゴン様とも手を取り合うことはできるはずなのです」
ソロもロザリーも、ピサロが首を縦にふることを望み、説得を続ける。

「ああ、悲しいですねえ」
ある種、懇願の雰囲気すら漂うその場において、その声は場違いに明るい。

「これではまるで私が悪者のようではないですか」
ほとんど会話に参加していなかった竜神が、ここに来て演技がかった口調で話し始めた。
ソロもヘンリーも、その挑発にしか思えない言葉に困惑する。

「若人がこんなに必死になっているのです。
 過去の軋轢は一旦水に流してあげますから、ソロさんの言うとおり、ここはお互い協力し合いましょうよ」

普段どおりの、飄々としたつかみどころのない言葉。
言葉にどことなく尊大さが滲み出る。
しかし、態度や表情といった目に見える部分は真剣そのものだ。
その二つが併行することに、違和感を加速させる。

それを受けて【闇】は強まり、目視ができるほどの靄がかかる。


「あの、プサン様? その言い方はちょっと誤解を招きすぎるんじゃないですかねえ?
 一応、ソロとピサロが対話してるんですから、コップの水をひっくり返すような言動は謹んでいただきたいなと」
「別に彼らのお話を邪魔するわけではありませんよ。
 ただ、勝手に悪者にされるというのも不愉快なものですからね。
 もっとも協力してくれるのであれば、言葉ではなく、姿勢で示してくれれば問題ありませんが」
王子の苦言とも取れる発言に対して、竜神は悪びれた様子を見せない。
その言動は虚勢か本心か、はたまた別の意図を覆い隠す隠れ蓑か。

454 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 21/33:2019/07/03(水) 20:46:41.43 ID:Zy3N9XvHs
「なあ、ひとまずプサンのオッサンとピサロに因縁じみたものがあるのは分かったさ。
 別にプライベートまで仲良くしようぜとは言ってないんだ。俺らが間に入れば済むことじゃないのか?」
それまで成り行きを見守っていた風来坊。
このままでは埒が明かないのではと、妥協点を探りに来たとも取れる態度だ。

「俺たちはプサンともヘンリーともソロとも別の世界の人間だ。
 仲良くできるならそれに越したことはないんだが、ドライなことを言ってしまえばこの場限りの関係だ。
 どちらか一方に肩入れなんてしないから、ひとまずはこれで矛を収めてくれないか?」
「それも受け入れられないと……。なぜこうも頑ななのでしょうか」
風来坊の助け舟など意に介せず、魔王は頑なに協力を拒む。

次の一手が見えていない姫に対し、大きなため息を向けるのは、やはり竜神だ。
それは失望か、失笑か、とにかく不快なものであることには間違いなかった。


「なまじ話ができるので、ピサロ卿の意志が残っているのだと思っていましたが……
 どうやらあれは精神の残滓にすぎないようですね」
「え、えーと……?」
辛辣な態度に、まるで助けを求めるかのように姫は視線を泳がせる。
勇者は張り詰めた表情を崩さず、王子は静かに成り行きを見守る。
登場人物それぞれの態度はまさに十人十色、共通するのはいっそう緊張感が漂わせているということだけだ。

「あれにもう意思はないのです。
 己の意思などなく、貴女の意思を侵すだけの存在です」
「そんなっ、私は確かにピサロ様を感じています……!」
「元が彼の魂であれば、当然感じるでしょうね。
 ですが、それはピサロ卿の想いを感じているのではなく、
 貴女の心に侵食しているだけのことです。危ういのですよ」
「言いがかりがすぎます。
 ピサロ様は何者にも歪められません。
 私たちは決して何者にも侵されません!」
「【闇】に魅入られたものは、その囁きを聞いて、徐々に侵されていくそうです。
 傍から見れば、貴女もそのように見えてしまうのですがね」
「っっ!」
姫は言葉を詰まらせる。
害意がないことを訴えようにも、ことごとくを否定で返されて、言葉がもう現れないのだ。

455 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 22/33:2019/07/03(水) 20:47:27.63 ID:Zy3N9XvHs
「ロザリーさん、申し訳ないが【それ】は切り離すべきです。
 ニフラムの呪文なら、貴方に害を為すことなく、追放することができるでしょう」
「理不尽です、理不尽です……。
 私もピサロ様も、悪意など持っていません。なのに、どうしてこのような扱いを受けるのでしょう。
 なぜ引き離そうとするのでしょう」
「ソロさんの顔を立てるべく黙っていましたが、この際はっきり言ってしまいましょう。
 あれはもうこの世界に存在していてはいけない。
 ロザリーさんのことを思うのであれば、あれはここで消えるべきです。
 死者の妄執など、生者にとっては害悪でしかない」
「プサン様、どうしてそこまでピサロ様を拒否するのですか……?
 ピサロ様が疎ましいために、あの方を排除しようとしているようにしか思えません!
 それが貴方の本心なのですか……?」
「私は誰もが最も幸福な結末を迎えられるように、提案をしているだけですよ。
 このまま邪な意思を身に宿すのであれば、ロザリーさんを追放せねばなりません。
 けれども、それだけは避けるべきですからね」

反発すればそれだけ深みに嵌る。
けれども、反発しても肯定しても、着地点を定めようという強い意思がある。
姫は次に何を言えばいいのか、脳の処理が追いつかない。

456 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 23/33:2019/07/03(水) 20:48:08.64 ID:Zy3N9XvHs
「プサンさん、言葉がひどすぎます! その言動は反発を招くだけです!」
「私は敢えて厳しい言葉を使っているのですよ。あれに情を持てばそれだけ性質の悪いことになります。
 アーヴァインさんがよい例だったのではありませんか? ソロさんも分かっているでしょう?
 【闇】に侵された者を救うには、後戻りできなくなる前に【闇】から切り離すしかありません。
 遅きに失したからこそ、アーヴァインさんは半魔物化して犠牲者を増やし続けているのでしょう?」

勇者が苦言を呈するが、竜神は言葉を曲げない。
一度流れができてしまえば、それはもう止まらない。
騎士や風来坊に目線を合わせるも、両者とも、おもむろに首を縦に振る。

「猫耳ねーちゃん、大丈夫? 顔青くなってない?」
「いえ、大丈夫です。少し、悲しくなっただけですから。大丈夫です。大丈夫です……」

彼女の状態を知ってか知らずか、さらに竜神は言葉を続ける。
「ソロさん、ロザリーさんには少し休んでいただきましょう。
 やはり【闇】など呼び出すべきではなかったのです。
 決断してください。
 我々は今生きている者を救わなければなりません!
 死者一人を慮って全員の命を投げ捨てるか、彼を尊い犠牲として全員の命を救うか!
 貴方なら正しい決断をしてくれるはずです!」
竜神は勇者を叱咤する。勇者に決断を促す。
風来坊や騎士も王子も皆、注視する。
その音だけを拾う番人たちすらも、彼の言葉に耳を傾けていた。

457 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 24/33:2019/07/03(水) 20:48:40.81 ID:Zy3N9XvHs
ぱぁん、ぱん、ぱん!

だからこそ、その乾いた異質な音が映える。
共鳴するように続いた、重くて柔らかいものが地面にぶつかる音が映える。

「オッサン!?」
「プサンさんッ!」
「ロザリーさん、何を!?」
「何をといわれましても……。根気よくお話し合いをするだけです……。
 きっと、その身体が邪魔なのです。それが壊れれば、私たちのことは分かっていただけますから……」

輝かしい生命を吸い込むように黒く彩られた漆黒の空間。
もっとも、それは何かを吸い込むためのものではなく、物理的な実弾を吐き出すための空間だ。
指五本だけで容易に命を奪うことができるその引き金に指をかけているのは、
無機質な武器にはもっともそぐわない可憐な女性。

その口調からは抑揚と感情が消え、代わりに無機質なものへ置き変わっている。
自らも当事者であるという意識を持ち、脳裏に響く言葉を解釈し、自身の言葉で伝えていたその印象とはまるで異なる。
ほかの誰かが用意した言葉をなぞるように、ひどくゆっくりとしたスピードで、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
仮に音だけを拾っている者がいるとすれば、その言葉の主を探し当て、納得するのに数秒の間を要するだろう。

「早く! 回復薬があれば……」
ラムザの言葉を打ち消すかのごとく、もう一度乾いた破裂音が響く。
先程との違いは、『重くて柔らかいもの』がぶつかる音が続かない、というだけのことだ。
合図ひとつで、静寂の空間がそこに作られた。

「リルムッ!」
銃口から最も近いところに位置するのは、それまで姫と話をしていた少女。
それだけで、騎士はもう動けない。

458 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 25/33:2019/07/03(水) 20:49:19.85 ID:Zy3N9XvHs
静寂の空間を打ち破るのは、ときおり発せられる人の声と、コツ、コツ響く靴の音だけだ。
生命を容易く奪う毒の弾、その矛先は先程と変わらない。

「や、やめろよ! 猫耳ねーちゃん、どうしたのさ! リルムを傷付けたら、他のみんなが黙っちゃいないぞ!」
「いえ、プサン様とお話し合いが終わるまで、少しお待ちいただけないかというだけです。
 ソロ様は、……分かってくださいますよね?
 ……貴方様も、……きっと壊れても私を守ってくださると信じておりますから……」

ぶつぶつと、無感情にくり出される単語。
王子には大いに聞き覚えがある。仮にここに貴族が聞いたら、もう一度『リフレイン』してしまいかねない。


「ロザリーさん、今すぐ彼女を解放してください!
 貴女の今の行動は見過ごすことはできない!」
「ソロ様……否定なされるのですか……?
 私はただお話し合いをしようというだけなのに……」
話し合いをするために殺害するなど、そんな理論が通じるのは狂人でしかない。
そのような理論を元に言葉を紡ぐのであれば、勇者の言葉も少女の言葉も、届くはずがない。
それ以前に、どんなに説得されても、彼女自身が行動を変えるつもりがない。

「くそっ、アーヴァインの奴と言動が似てきてる!
 早くなんとかしないと、手遅れになっちまうぞ!」
「ニフラムで【闇】を追放するか、あるいはザメハの魔法で彼女を覚醒させるか……」
「そんなことをしているうちに、どれだけの銃弾を打ち込めると思っているんだッ!
 貴方はリルムを犠牲にしようと言っているのかッ!?」
少女という人質は有効に機能する。
昨日の夜、神殿騎士が少女一人で他のすべてを封殺した。今夜もまた、再現される。
弱きを守る騎士である限り、人質を見捨てて行動に移すことはできないという真理を以って。
勇者の説得も王子の搦め手も騎士の反発を招くだけ。
時間はいたずらに過ぎていくのみ。

459 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 26/33:2019/07/03(水) 20:49:55.03 ID:Zy3N9XvHs
張り詰めた空間にさらにヒビを入れるかのごとく、異質な音が再度響き渡る。
今度は乾いた破裂音ではなく、金属の突き刺さる鋭い音だ。
騎士たちの口論を遮り、全員の注意がそちらに向けられた。

特殊な効果などない。本当にただの金属でできた使い捨ての飛び道具だ。
拍子木のように事態を次に進める、ただそれだけの効果しかないのだ。

「プサンのオッサン!?」
間を置かず、風来坊の悲鳴が響き渡る。
生存信号はそれが最後だった。
彼の首輪から発信されるハートビートはそこで途切れ、死亡者のリストに名を連ねることとなったのだ。

一方、彼の悲鳴をトリガとして、膠着した状況が大きく動きだす。
勇者は愛剣を掲げた。少女は騎士の下へと駆け出した。
姫は騎士と少女を見て、勇者を見て、意を決する。

「ニフラム!」
あらゆる魔力を断ち切る波動が放たれる。
天空の波動がその空間を駆け抜け、そこに付与されている魔法をかき消す。
凍てつくような感覚に悶絶しながらも、姫はその手に持った武器を放さず、引き金に手をかける。


「うぁあああっ!!」
「リルム!?」

勇者が次の一手に向けて、言葉を紡ごうとした矢先だった。
三度目の破砕音、それに伴って、今度は少女の幼く、甲高い悲鳴が響く。
騎士の憔悴したような声が響く。

姫から魔王を引き剥がす呪文を使えるのは勇者だけだ。
だから、その悲鳴に引きずられて、その役割を放棄することはできない。
少女のことは騎士にすべて任せ、言葉を紡ぐ。

「ザメハ!」
「……はい! えっと、ソロ様? ピサロ様は?」

意識が覚醒していれば、別の魂に由来する意識が食い込んでくることはない。

460 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 27/33:2019/07/03(水) 20:50:20.29 ID:Zy3N9XvHs
「私は一体何をしていたのですか……?」
本当に何も分からないかのように、きょとんとした顔で周囲を見回す。
姫はこれ以上、立ち回ることはない。彼女の役割はここで終了だ。


「リルム、この指輪をつけるんだ! バッツ! 早く回復を!」
「今やる! ケアルガ!」
「いぎいいぃぃぃ!!! うぅぅ、ふぅ……、はああ……」

風来坊のほうも、役割をひとつ果たした。
少女の痛みを食いしばるがごとき声も落ち着いてきた。
敢えて言うならば小康状態といったところになる。

役割をひとつ果たした。緊張が途切れた。
勇者はふっと小さな呼気を漏らし、緊張の谷間に意識を落とした。
直後に起こる出来事には何も反応を起こさなかった。


騎士がこしらえのよい聖剣を振りかぶり、姫の脳天めがけて振り下ろしたところを眼に焼き付けた。

461 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 28/33:2019/07/03(水) 20:50:53.94 ID:Zy3N9XvHs
猫耳アクセが破壊され、くるくると空を舞い、かちゃりと音を立てて地に落ちる。
「ラムザさん! 何故彼女を! 彼女は正気に戻っていたはずだ!」
「正気!? 正気だって!? あなたの目には、あれが正気に見えたのか!?
 プサンさんを目の前で殺し、そしてリルムを、何の関係もないあの子を巻き込んでおいて!
 それを正気だから見逃せと、あなたは本気で言っているのかッ!!」
「彼女が正気と狂気との狭間で揺れ動いていたのは認めます!
 それでも今の瞬間だけは何者にも侵されていなかった!」
「だから安心だって!? ならば貴方の認識が甘すぎるッ!
 【闇】に呑まれるかどうかは本人の選択だろう! 【闇】を受け入れたのは彼女自身なんだ!
 リルムを傷つけ、プサンさんを殺したのは彼女自身の選択なんだッ!」

騎士は吼える。
一を犠牲にして他を救う、最大多数の最大幸福を盾に、己の行為を正義と為して勇者の甘さを糾弾する。
勇者はすべてを救うその理想を大義に、騎士の行為を咎める。


「この先、彼女を放っておけば再び【闇】に取り付かれる! 新たな死者が出る!
 正気に戻ったから大丈夫、その見込みの甘さは罪だ!
 プサンさんが本当は彼女を救いたがっていたのは知っているさ。
 だけど、僕らは彼女への義理はないんだ!
 アーヴァインを生かして、何人犠牲者が出たのかは聞いている!
 同じ過ちを三度繰り返すわけにはいかないんだッ!」
「だからといって、傷付け合えば互いに憎しみの連鎖を生むだけです!
 あなたはきっと【闇】を恐れたのでしょう!
 けれど、その衝動に任せて彼女を殺害してしまえば、次はあなた自身が【闇】に捉われる!
 これがこの殺し合いのからくりじゃないんですか!?
 彼女を死なせることはできません! そこを通してください!」
「【闇】を恐れただって!? どの口でそれを言うんだ!
 そもそもの原因は、貴方の軽率な発言と平和ボケが発端だろうッ!?
 貴方が自重さえしていれば、僕がこの手を汚す必要などなかった!
 これ以上、貴方のふわふわした理想に付き合う義理はない!」

騎士と勇者の言葉を用いた鎬合い。一触即発のそれは、
「ううぅぁぁ!」
少女の、まるで心臓を掴まれたかのごとく漏れ出した声によって中断される。

「リルムッ!?」
騎士は姫を捨て、勇者との鎬合いを投げ出した。

462 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 29/33:2019/07/03(水) 20:51:20.30 ID:Zy3N9XvHs
少女の唸りにかき消されながらも、もう一つ聞こえるのが、死の淵に瀕した者があげるような呻き。
騎士の一撃を受けて尚、姫ははっきりと意識を保っていた。

「あ…ああ……ピ…サロ…さ…ま……。迎えに…来て…下さったのですね……」
姫の目前に、黒い霞が集まっていく。
それは姫を覆うように、徐々に濃くなっていく。

「ロザリーさん! 気をしっかりもってください! 貴方は生きなきゃいけない人だ!」
「これで……いいの…です。私は、…許されない罪を犯した身。
 それに一度命を落とし……自然の摂理から…一度…外れています。
 元に…戻るだけなのです……」
勇者の必死の呼びかけに、姫は作り笑顔を返すだけだ。
自然体のまま、すべてを受け入れるという意思は揺るがない。

「逝く前に……最期の我がままを聞いてください…。
 どうかどうか……。憎しみを絶って、ソロ様と皆さまで……」
言葉を途中で詰まらせる。
次の瞬間、ぐふっと液体を吐き出し、それっきり声は聞こえなくなった。

「くっ、……くそおおおぉぉぉ!!!!!!」
彼女の首輪の反応が消えてから、五分か十分か。
勇者は地面を殴りつけて絶叫する。

463 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 30/33:2019/07/03(水) 20:52:58.02 ID:Zy3N9XvHs
だが、息つく暇も、嘆く余裕すら与えられない。現実は待ってはくれない。

「ううああああ、くるし、ぐぅじいぃぃぃ!!」
いわば小康状態にあった少女の様子が急変する。
歯を食いしばり、すさまじい形相でのた打ち回る様子を見て、大丈夫だと判断するものはどこにもいないだろう。

「リルムッ!? どうしたんだ!?」
「何がどうなってる!? 回復魔法が効かなかったのか!?」
「バッツ、違う! これは毒だ! あの銃からは毒が打ち出されたんだ!」
「そういうことか! リルム死ぬな! 『ポイゾナ!』 『ケアルガ』!」
回復魔法の言葉を紡ぐ風来坊だが、少女の様子に変化はない。
少女は喉を押さえたかと思うと胸をかきむしる。
毒という侵略者に全身を食い破られているかのようにバタバタと暴れまわる。
「魔法が効いていないのか!? それとも他にも何か理由があるというのか!?」
「ソロ! 手を貸してくれ! 早くしないとリルムも手遅れになる!
 俺は支給品に回復薬がないかを調べなおす、これ以上、もう誰も死なせるわけにはいかないだろ!」

王子がメンバーの支給品をひっくり返す。
釜に指輪、ルビー、剣に盾に謎の機械、鏡に宝玉にモップに液体の入った小ビンに魔石と様々なアイテムが並べられる。
「くそ、薬草も毒消し草もないぞ! ソロ、そっちはどうだ!?」
「それが、声も呼吸も小さくなって……!」
「リルム!? リルムッ!!」
ひときわ大きく騎士の声が響き渡る。
騎士も、少女も、勇者も、王子も、風来坊も、今この瞬間は共通の感情を抱いた。
けれどもその声は弱々しく、小さくなり、そして消える。

464 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 31/33:2019/07/03(水) 20:54:36.29 ID:Zy3N9XvHs
静かに瞑想する勇者。
大きなため息をついてどっかりと座り込む王子。
それを冷めたような目で見つめる騎士。
これからの苦難を思い、胃が痛くなる思いの風来坊。
この場において、言葉を発するものはもはや誰もいなかった。

465 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 32/33:2019/07/03(水) 20:55:10.39 ID:Zy3N9XvHs
【ソロ(HP1/2 MP1/10 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:サイファー・ロック達と合流する
 第ニ行動方針:ケフカを倒す/セフィロスを説得する
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー(HP3/5)
 所持品:水鏡の盾(E)、魔法の絨毯、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード、
     デスペナルティ、ナイフ、筆談メモ、
     ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、ミスリルアクス)
     リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ケフカのメモ)、
     レオのザック(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】

【バッツ(HP7/10 左足負傷、MP0、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)、
     マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP5/6)
 所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
     ブレイブブレイド、ミスリルシールド、スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ
 第一行動方針:首輪解除及び脱出に協力する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:南東の祠手前の部屋】

466 :想いをさらけだして、思いはつつみかくして 33/33:2019/07/03(水) 20:55:34.66 ID:Zy3N9XvHs
【ロザリー(首輪解除)、MP残りわずか
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、しっぽアクセ(E)、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 妖精の羽ペン 脱出経路メモ(再研究メモ+ザンデのメモ+メモ数枚)、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン
 第一行動方針:マッシュたちと合流し、脱出方法の詳細を伝える
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:アーヴァイン同様、ユウナ?由来の【闇】の影響を何らかの形で受けています】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※毒針弾は使い切りました。
※【ピサロ】の残り魔力は少量、召喚終了

【プサン(HP1/3、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
 所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、水のリング
 第一行動方針:マッシュたちと合流する
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リルム(HP1/2、右目失明、MP1/4、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、(E)命のリング、リノアのネックレス、フラタニティ、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、
     不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:マッシュたちと合流する
 第二行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 第三行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】

各々の持つアイテムは再分配されている可能性があります。
【現在位置:南東の祠最深部の部屋】

467 :補足:2019/07/03(水) 21:01:59.31 ID:Zy3N9XvHs
※711話でドライバーがないのに首輪を外せてることに気付きました
 676話時点でスコールがラムザ、バッツへ首輪の外し方を伝授していることより、
 二本あるドライバーの一本をスコールから譲り受けていたことにすれば、状態表の修正のみで本文修正せずに矛盾は解決すると考え、
 その延長で状態表を記載しています

468 :舞台を終えて 1/7:2019/07/03(水) 21:08:15.84 ID:Zy3N9XvHs
「これではまるで私が悪者のようではないですか」
若干おおげさに、演技がかった口調で言葉を紡ぐ。
ソロやヘンリーは困惑と非難が入りまじった表情で私を睨むし、
ロザリーもこの期に及んでどうしてそんなに挑発するような言葉を使うのか分からないと、理解できないものを見る目を向けてくる。
ピサロに至っては、売られたケンカを買おうといわんばかりの強い敵意を向けてくる。

この反応はもちろん想定済み。そういう反応を引き出すための言葉なのだから。
第三者が聞いて、私とピサロは不倶戴天の敵でなければならないのだ。
口調は軽く、飄々と。
態度は真剣極まりなく、堂々と。
ピサロへと見せ付けるは、正規の手順で首から外れた金属の輪。
訝しむのはソロにロザリー、そしておそらくはピサロも。
他のメンバーの困惑は、私が何をしているかというよりも、このタイミングではじめるのか、という意味が強いだろう。


「若人がこんなに必死になっているのです。
 過去の軋轢は一旦忘れて、ソロさんの言うとおり、ここはお互い協力し合いましょうよ」

普段どおりの、プサンとしての口調は崩さない。
盗聴しているであろう主催者向けの外面、といったところか。
第三者から視られれば、得体の知れない警戒に値する男だと評価されるように、演じていく。

言葉はピサロへの挑発。
態度は魔女への反抗のサイン。
私と共に、この祠の仲間たちへ研究成果を伝えたロザリーが、それに気付かぬはずがない。
アーヴァインに対して同じような態度で【闇】について語っていたピサロがこのことを知らぬはずがない。

『正体を隠し、要らぬ混乱を招いたこと、謝罪する』
一筆だ。頭などいくらでも下げよう。

469 :舞台を終えて 2/7:2019/07/03(水) 21:09:11.05 ID:Zy3N9XvHs
私にとって、彼らとの確執は遠い過去の話だ。
そのころは、彼らに色々と思うところもあったが、時の経過と共にいつしか洗い流されてしまった。
ソロやロザリーは驚き戸惑っているようだが、私にとっては既に置いてきた感情だ。
それだけの年月が経ったということだ。

ピサロにどれだけの意思が存在しているのか、引き込むと想定した場合、これが一番のネックだった。
さまようたましいのように断片的な意思しか持っていないのか、
フェイスボールのように妄執に捉われた悪霊と化しているのか、
ゲマのように死者でありながら明確に知恵や意思を持って行動しているのか。

首輪の解除方法までははっきりと伝えると打ち合わせていた。
ソロとの対話の態度もそうだが、私自身への反発や僅かに見せる躊躇を見れば、
理性的な面、感情的な面も含めて、紛れもなくピサロそのものだと判断できる。
ピサロであれば、間違いなく引き込める。
ロザリーの利になる行為に、ピサロが協力しないはずがない。
死の間際まで、彼はロザリーのことを想っていたのだから。


リルムも、ラムザも、バッツも、皆がピサロを注視する。
私に反応したピサロがどう行動するのかを、不安半分、期待半分で見ている。
ピサロが一瞬だけ、ソロに顔を向けた。それを受けて、ソロがうなずいた。
ソロは首輪の件について、正確なことは知らないはずだ。
だが、知らないなりにも感じるものはあるのだろう。真実の力に頼るまでもなく、感じ取れるものがあるのだろう。
それが先程のアイコンタクト。
ピサロとソロ、二人の向く方向は図らずもきっと一致したのだ。

それを受けて【闇】は強まり、目視ができるほどの靄がかかる。
魔力と不純物をブレンドした霞には、『話を聞かせろ』と力強くシンプルな言葉が記されていた。


■■■■■■■■■■

470 :舞台を終えて 3/7:2019/07/03(水) 21:10:15.32 ID:Zy3N9XvHs
あのさ、リルム、首輪外すって話知らなかったんだけど? 段取りなんて今さっき聞いたばっかりなんだけど?
一番大事なことから除け者にするなんて……こーいう子供扱いを改善しろって口すっぱくして言ってるのに。
いつまで経っても一人前に扱ってくれないのって本当にイヤになるよね。後でこーぎしてやる。



首輪を外すとき、その人は死んだことにならないといけない。
リルム、オペラ座のダンチョーさんとも仲いいから知ってるよ。
演技ってのはちゃんとシナリオとかプロットってやつが必要なんだよね。
さっきまでわいわい話してた人がいきなり殺し合いだなんて、セットクリョクに欠けるもんね。

殺し合いするでっかいチャンスをケバケバオバさんが用意してくれたんだけど、不意にしちゃったのはリルムのミス。
臨時放送聞いたときに、『リルムまだ死にたくないよーえーん』とでもいっとくべきだったよなー。
私たちは仲間を殺す『動機』ができて満足、ケバケバオバさんは殺し合いが円滑に進んで満足、win-winってやつ。
台無しにしたのはほんとーにごめんね。全然悪いと思ってないけど。

「なあ、ひとまずプサンのオッサンとピサロに因縁じみたものがあるのは分かったさ。
 別にプライベートまで仲良くしようぜとは言ってないんだ。俺らが間に入れば済むことじゃないのか?」
「それも受け入れられないと……。なぜこうも頑ななのでしょうか」

バッツがどうにか時間稼ぎしようとして失敗してる。
いや、そりゃそうでしょ。猫耳ねーちゃんにいきなりそんなこと聞いたって時間稼げるわけないでしょ。
時間を稼ぐならプサンのオッサンに話しかけないと。だから演技へたっぴマンなんだぞ?


「なまじ話ができるので、ピサロ卿の意志が残っているのだと思っていましたが……
 どうやらあれは精神の残滓にすぎないようですね」
「え、えーと……?」
あ、オッサン話を引き継いだ。
端的にいえば仲悪く行きましょう、みたいな結構ざっくりした指示だったんだけど、オッサンに任せとけばいいかな。
猫耳ねーちゃんは目線泳がせてめちゃくちゃ困ってる。
勇者のにーちゃんも、いかにも気を張ってますみたいな顔してるけど、これ緊張してるだけだな。

471 :舞台を終えて 4/7:2019/07/03(水) 21:12:16.09 ID:Zy3N9XvHs
「ピサロ様は何者にも歪められません!
 私たちは決して何者にも侵されません!
 何故信用してくださらないのですか……?」
おお、乗ってきた。それっぽいね。
プサンのオッサンのほうが上手だけどね。本音じゃねーだろうな?
マスタードラゴン、竜の神さまなんだっけ?
人間のフリして何年も生きてるんなら、そりゃ演技うまくて当然なのかもしれない。
リルムの知ってる竜って、八竜を筆頭とした凶悪なモンスターだし、
神さまは神さまでどうしようもない戦闘狂ってイメージだし、ギャップ大きいよね。

ラムザが静かなのは、魔王と勇者のにーちゃんコンビにより具体的な首輪解除の段取りを説明しているから。
勇者のにーちゃんを間に入れて、トンガリ耳のにーちゃんとコミュニケーションを取ってる。
まずバッツが首輪解除を実演してくれるから、それを見て猫耳ねーちゃんの首輪を外そうって感じ。

ラムザはさっきインケンヤローから安心して殺しを演出できるアイテムリストをもらっているようで、
そこにはリルムの持ってるブラスターガンや、ラムザの持ってるエクスカリパー、スタングレネードが載ってる。
剣やオノで音出さずに斬るのって難しいもんね。
外してもでっかい音が出る武器か魔法じゃないと、攻撃当たってないって分かるかもしれないもんね。
だから、モヤシのインケンヤロー殺人事件では凶器に銃が使われたわけだし。

銃は万が一に当たったらまずいけど、天井を狙って、かつだれもいない方向に撃つなら危険度は低いかなって。
エクスカリパーとかいう思いっきり斬りつけても傷がつかない剣については、
なんで殺し合いにこんなもの入れたんだろうね?

472 :舞台を終えて 5/7:2019/07/03(水) 21:13:17.27 ID:Zy3N9XvHs
「プサンさん、言葉がひどすぎます! その言動は反発を招くだけです!」
大体の段取りを伝え終えて、勇者のにーちゃんが参戦する。

「猫耳ねーちゃん、大丈夫? 顔青くなってない?」
私は猫耳ねーちゃんに近付いて、どうやって『殺す』かを伝える。
「いえ、大丈夫です。少し、悲しくなっただけですから。大丈夫です。大丈夫です……」
まだいける。演技を交えながら、そう伝えてくる。
演技へたっぴマンより経験豊富、ラムザ未満って感じだよね。
見えない観客に訴えかけるのに慣れてるって感じ?
人に『観られる』経験でもあったのかな。

次は【闇】の影響を受けたロザリーが、プサンを殺してしまう、そんなシーンだ。
モヤシの演技の特徴、要するに殺すことを壊すとか言ってればそれっぽいよとか、
一つのことに病的に固執してるとらしいよとか、そんなところを伝えていく。

「何をといわれましても……。根気よくお話し合いをするだけです……。
 きっと、その身体が邪魔なのです。それが壊れれば、私たちのことは分かっていただけますから……」
おお、若干某読みだけどいい感じにそれっぽい意味不明なこと言ってる。
あ、そろそろリルムさまの出番だな。闇堕ちした猫耳ねーちゃんに殺されるかわいそーなヒロインの役なんだよ。
さ、気合入れていこー!


■■■■■■■■■■

473 :舞台を終えて 6/7:2019/07/03(水) 21:14:22.82 ID:Zy3N9XvHs
「ラムザ! お前何を!」

ラムザ様の技量の巧なのでしょうか。
どう見ても本気で放たれた剣技は、猫耳アクセサリーだけを破壊していました。
ガチャンと大きな音を立て、アクセサリーが地面に落ちます。
――ヘンリー様やソロ様も本気で焦っていませんでしたか?
私も本当にこのまま死ぬのではないかと思ったのは内緒です。
あれがピサロ様が使っていた、偽りの聖剣だと理解していなければ、気絶していたに違いありません。

えーと、ここまでやるのは、斬ったというリアリティを出すため、ですよね。きっと。
私も気合を入れなければ……。

「あ…ああ……」
できるだけ、か細く。できるだけ、透き通るような声で。
一度訪れた死を思い出して。

「ピ…サロ…さ…ま……。迎えに…来て…下さったのですね……」
ピサロ様の魂が、私の首輪を覆います。
これが、電波を遮断するということなのでしょうか。
バッツ様が、プサン様を通して実演してくださいました。
もしできなくても、魔力を回復する霊薬があるため、バックアップは問題ないとのことです。
といっても、私には何がなにやら分かりませんので、与えられた役割をこなすだけなのですが……。

「これで……いいの…です。私は、…許されない罪を犯した身。
 それに一度命を落とし……自然の摂理から…一度…外れています。
 元に…戻るだけなのです……」
ソロ様の必死の呼びかけは、まるで私が本当に死んでしまうかのような錯覚を呼び起こします。
このまま首輪が爆発して、私は死に至るのではないかと。
けれども、何も怖くありません。皆様を信じておりますので。
今更ちょっと待ってほしいなどと我がままはいいません。
乾いた喉を潤すべく、一口水を含みます。

「逝く前に……最期の我がままを聞いてください…。
 どうかどうか……。憎しみを絶って、ソロ様と皆さまで……」
……これでも、死の経験者なのです。
演技というか、再現というか。
ピサロ様は、あのときの死別を思い出して怒っていないでしょうか?

でも、今回は状況が違います。
あのときは恐ろしい男たちに囲まれ、いたぶられ、希望など見えませんでした。
今回は信頼できる仲間たちに囲まれています。
ピサロ様がすぐ傍で見守ってくださっています。
何も恐れることなどありません。

474 :舞台を終えて 7/7:2019/07/03(水) 21:14:57.58 ID:Zy3N9XvHs
首輪は本当にあっけなく外れました。
ピサロ様の気配もほとんど感じ取れなくなってしまいました。
私たちの首輪を外すために、魔力を使い切ってしまったのでしょうか。
ラムザ様とソロ様の演目を背後に、地下へと潜ります。
守られてばかりですが、私にもできることはあるのです。

多くの方々の知恵を借り、脱出の理論は確立しました。
この成果が、正しき心を持った人々の希望とならんことを……。


【ロザリー(首輪解除)
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、しっぽアクセ(E)、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン
 第一行動方針:マッシュたちと合流し、脱出方法の詳細を伝える
 最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※【闇】の残り魔力は少量です。

【プサン(HP1/3、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
 所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、水のリング
 第一行動方針:マッシュたちと合流する
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リルム(HP1/2、右目失明、MP1/4、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、(E)命のリング、リノアのネックレス、フラタニティ、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、
     不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:マッシュたちと合流する
 第二行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 第三行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】

475 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/07/03(水) 21:26:13.29 ID:Zy3N9XvHs
本当に投下終了です

476 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/07/03(水) 21:59:47.65 ID:prAbRDxYM
投下乙!
途中までロザリー壊れたとかプサン何考えてんだと思ってすまんかった
脱出研究グループが一気に首輪解除して、色々と話が進展しそう
見事な演技力と文章力、楽しく読めました

477 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/07/04(木) 23:38:46.87 ID:p5FshjgU8
乙!
途中マジでビビったけど見事すぎたわ。面白かった

478 :深夜のハードワークはアットホームな雰囲気で 1/6:2019/07/05(金) 00:26:28.76 ID:9quQC3z+J
夜闇よりも暗く、海の底よりも重苦しく。
いかなる生物をも拒絶する過酷な環境でありながら、
いかなる生物をも受け入れるという矛盾を内包する空間。それが次元の狭間。
だがその空間にも、招かれた者以外すべてを拒む地がある。
漆黒の背景にクリスタルが浮遊する神秘的な地に鎮座する、時の流れぬ城。アルティミシア城。

時が流れぬとはいえ、存在する生命が停止しているわけではない。
今、その広き城内を彼方此方飛び回るものがいる。
竜と機械が混じり合った異形の生物兵器、トライエッジだ。

「連絡モード。連絡モード。ティアマトヨリ連絡アリ。
 礼拝堂ニ侵入者アリ。侵入者ハ、アルティミシア様自ラ対処ナサレ、封印。
 オメガウェポン、ガルガンチュア、コキュートス、以上三体ガ殉職トノコト。
 コノ緊急事態ヲ受ケテ、決起集会ヲオコナウ!」

トライエッジはこのバトルロワイアルの会場を制御する施設をまわり、イレギュラーの顛末を伝えていた。
クリスタルの消失、それに伴う幹部の殉職は、城内を混乱に陥れていた。
機構、盤上こそ修復され、放送によって取り繕われたものの、幹部が消えてしまったことによる動揺は決して軽視できない。
ゆえに、ティアマトはアリニュメンたちを広間に呼び寄せた。
もちろん、このイベントに参加しない不届きな一般機械兵などは存在しない。

「激励モード。激励モード。ティアマトヨリ激励アリ。諸君、一字一句逃サズ聞クヨウニ!」
一糸乱れず整列したアリニュメンの前に、徐にティアマトが参上する。

「今回のトラブルは、我々の忠誠心が試されるよい機会である。
 同胞を三体も失ったのは不幸なことだが、アルティミシア様に我々の働きを存分に示すチャンスでもあるのだ。
 諸君らの努力が、そのまま成長、そしてやりがいへと繋がっていくだろう。
 逆にこの程度の逆境でくじけるような軟弱者は、今後どこにも行けなくなるものと思え。
 諸君ら一体一体がアルティミシア様が何を望むかを熟考し、より一層、己の業務に励むようにせよ」
「以上、激励ヲ終了スル。コレハ、ティアマトノ激励デアル」

幹部を失うという非常事態による動揺を収めるために、結束を促すのだ。
わずかな時間、業務に穴が空いたのは間違いないが、深夜帯であり、参加者の動きは少ないために影響は少ないものと判断。
決起集会はたった三分ほどで解散。各々、業務へと戻る。

479 :深夜のハードワークはアットホームな雰囲気で 2/6:2019/07/05(金) 00:27:39.11 ID:9quQC3z+J
(ガルガンチュア様は戻ってこないということなのでしょうか?)
「ウウム、ドウヤラソウラシイナ。先ホドノ放送モ、ソノ一環トイウコトラシイ。
 我々ハ引キ続キ、与エラレタ職務ヲ果タスシカアルマイ」
決起集会という名前から予測していたとおり、すぐに人員補充がおこなわれるというわけではなかった。
要するに根性で乗り切れよというお達しである。
機械であるアリニュメン、魔法生物であるウルフラマイターや生物兵器であるトライエッジといった面々に根性論など意味はないが、
上の決定なのだから仕方がない。

「奴ノ言ッテイルコトハ気ニスルナ。人員ノ補充ガナイノハ辛イトコロダガ、乗リ切ルシカアルマイ。
 トコロデ、ガルガンチュアノ仕事ハ何ダッタカナ?」
(……一応貴方は幹部なのですから、大枠は把握しておいてほしいでしょう。
 死亡者の確認と、トラブル対処です)
「オオ、ソウカソウカ、トラブル対処カ。引継ギスラオコナッテイナイカラナ。何ヲスレバ良イノカサッパリワカラン。
 ウン、コレハオ前ラニ任セタ」
無茶ぶりが過ぎるとしか言いようがなかった。
アリニュメンのプログラムにも、ガルガンチュアが何をするかなど組み込まれていないのだ。
彼らの仕事範囲は、参加者の盗聴と監視なのだから。

「助言モード。助言モード。ガルガンチュアノ心配性ナ性格カラシテ、手順書カ日程表ガアルト思ワレル。
 速ヤカニ探シダシ、引継ギヲオコナウベキダ」
会場に残っていたトライエッジが、会話に割り込んでくる。
決起集会ではティアマトの尻尾持ちのようなポジションであったが、
彼自体は被造物ということもあり、考え方は割とドライだ。

(ちなみに、誰が引き継ぐのでしょう?)
「……俺様ノデリケートナ肉体デハ、アノ激務ハツトマラヌヨ。
 ヤツノヨウニ骨ト皮ダケニナッテシマウ」
そもそもウルフラマイターには骨も皮もないのだが、聞かなかったことにするのが日常だ。
別にツッコミを入れたところで破壊されたりはしないが、わざわざ言う必要もないのだから。

*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆

480 :深夜のハードワークはアットホームな雰囲気で 3/6:2019/07/05(金) 00:28:29.64 ID:9quQC3z+J
「は〜、受付嬢の朝とは早いものだが、今日はいくらなんでも早すぎではないのかな?」
「真夜中の呼び出しは非常識ではないかね……? まだ午前二時すぎだろう?」
ウルフラマイターの前に立つのは、二体の魔獣。スフィンクスとカトブレパスだ。
ちなみに決起集会は幹部未満が対象なので、二体とも出席していない。休憩中に叩き起こされた格好となる。

(機械といえども、メンテナンスは必要なのですが)
もちろん、メンテナンス時間だったアリニュメン数体も含まれている。

「イワユル緊急事態ダ、許セ。何ガアッタカ、連絡ハ伝ワッテイルナ?」
「コキュートスとガルガンチュアが蒸発したと聞いているね」
「ふん、この大事な局面でいなくなるとは使えないやつらだ……。
 偉大なるアルティミシア様に仕える幹部だという自覚が足りないらしい」
本人が聞いたら割と怒り出しそうな評価を下すカトブレパス。
彼は古来より神の怒りと恐れられてきた落雷を自在に操る魔獣。
知能も高く、それだけにティアマトに次いで態度も尊大だ。

「で、その尻拭いをするのを我々がするというのかね。
 そこのガラクタ共で間に合わせることはできんのか? 雷でも流せば動くのではないのか?」
(カトブレパス様の雷を受けたら、動くどころか大破してしまうでしょう)
喝を入れる程度の気楽さで電気を流そうとするカトブレパスに戦々恐々とするアリニュメンたち。
電力の質も周波数も違うため、安易に流されるとショートするか、最悪爆発してしまう。
できれば近寄りたくもないのだが、言わないと本当に電気を流されてしまうので、しぶしぶ主張せざるを得ない。

「まったく、どいつもこいつもほんと使えないガラクタだな……。
 とはいえ、所詮は使い捨ての機械にすぎんか。我の雷に耐えられないのは仕方ないのかもしれんな」
「ヘタニ扱ッテ壊レタラ我々ガ困ル。ココハ自重シテクレナイカ」
(なんだか理不尽でしょう)
(NO,21、それは仕方ないのです。我々は一戦士に過ぎないのです)
プログラム通りに動いているのに理不尽な要求を受けて、愚痴らずにはいられない。
もちろん、愚痴は共通語ではなく機械語だ。
脳が古来より停止している魔獣たちに言葉が届く道理はない。

「今日カ明日デゲームモ終ワルダロウ、コノ状況ハ長クハ続カヌ」
「休出モード開始。休出モード開始。終ワッタ暁ニハ、代休ヲ要求スル」
結局のところ、人手不足を一瞬で補う魔法の薬など存在しない。
人海戦術をとるしかないのだ。

481 :深夜のハードワークはアットホームな雰囲気で 4/6:2019/07/05(金) 00:30:01.60 ID:9quQC3z+J
「我々の分担だが……」
「では我が次フィールドの構築と旅の扉の操作をしよう。
 この世界を支えるクリスタルを制御する媒体は貴様たちのようなガラクタでは動かし得ない代物なのでな。
 おっと、今はもうクリスタルではなく宝玉生命体がその役割を担っているのだったかな?」
「連絡モード。連絡モード。私ハ引キ続キ、連絡業務ヲ取リ持ツ。コノ業務ハ私シカ行エナイモノデアル」
昼間の担当業務を選択するカトブレパス。
そして人数が少ないからこそ、空を飛べ、機動力に勝るトライエッジの連絡業務は動かせない。
この城に館内放送のような近代的なシステムはついていないのだ。
結果として、どうしてもエントランスで受付をおこなっていたスフィンクスが余ってしまう。
大体幹部の中で貧乏くじを引くのは序列の低い彼女である。

「元の業務を知らないと、こういう時に残り物を引くことになるのだよね。
 そこの付属品、私は今夜、何をすればいいのかな?」
(ガルガンチュア様のおこなっていた業務、すなわち参加者と死亡者の確認に、名簿の更新の担当となるでしょう。
 トラブル対処もありますが、こちらは多すぎるので一体では抱えないほうがよいと思うのです」
「ウム、担当ハ決定シタヨウダナ。ソレデハ済マヌガ、頼ンダゾ」

*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆

482 :深夜のハードワークはアットホームな雰囲気で 5/6:2019/07/05(金) 00:31:08.58 ID:9quQC3z+J
(おそらく、これがガルガンチュア様の業務の手順書でしょう。
 トラブル対応の管理シートや虎の巻もあるでしょう)
ガルガンチュアの個室から、それらしき書物をかき集めてくる。

「ふむ、……………………ほう」
魔導書にはロックがかかっていた。いきなり詰んでいる。

「さて、じゃあ皆に問題だよ。ガルガンチュアがかけたロックのパスワードってなあに?
 答えられない場合は絞め殺しちゃうからねっ」
「分からないことをクイズにしてごまかすのはやめてほしいのです」
「うん、しかし私はこういう仕事をやったことがないからね。この魔道書の開き方も分からないよ?」
人手不足の対処法として手っ取り早いのは人員を増やすことだ。
ただし、このようにまったくの門外漢を配置してしまえば、教育コストがかかってしまう。
終了までがわずかなイベントであれば、必ずしも有効な対策とはなりえないのだ。

(……ロックはなんとか解除しておくでしょう)
「NO,8、ロックを解除できるのですか」
(NO,21、ガルガンチュア様は心配性でしたから、きっとパスワードのメモが机か棚に貼り付けてあるでしょう。
 解除の間、スフィンクス様には盗聴のほうをお願いしたいでしょう)
「同僚の遺品をこじ開けるのか。この私が遺品を荒らすなんて、随分背徳的な行為でそそられるものがあるね。
 それに盗聴か。盗聴……うん、若者たちの会話を盗聴するのは、なかなか楽しみだよ。
 夜のお話といえば、やっぱりコイバナなのかなっ」
(我々は何も聞かなかったのです。慣れない業務に真剣に取り組んでくださるのはすばらしいことなのです)
「そう、私はいつも真剣さっ。
 ただ、それでもニンゲンたちがどんなドラマを繰り広げるのかはやっぱり気になるものなのさっ!」
(ちなみに今何か起こっているのですか?)
「ちょうど参加者の一人が訳の分からないことを言い出して、仲間を殺したところだね。
 ほんっとにニンゲンたちの絆ってのは脆いものだ。
 がんばって首輪解除しようって言ってた矢先に殺し合いだなんて、愚かも愚か、
 これは最後の一人になるまで近いってものだよっ!」

うきうきとした心持ちで両耳に盗聴器を装備し、凄惨な光景を連想して心躍らせる。
序列としては最低、仕事も専門外、けれども幹部は幹部。量産の機械兵とは格が違う。
ただでさえ不幸な事故で同僚が減っているのだ、
物申して幹部の気分を害し、とばっちりを受けるなど非生産的。
お偉方が天下りしてこようとも、気持ちよく業務を遂行してもらえば、皆ハッピーなのだ。

483 :深夜のハードワークはアットホームな雰囲気で 6/6:2019/07/05(金) 00:34:05.89 ID:9quQC3z+J
「ところでどういう条件で首輪を爆発させればいいのかな?
 首輪を解除するぞって言い出したらドカンといっちゃえばいいのかなっ?」
(電波を利用した首輪の仕組みに気付いて外そうとすれば爆破の条件を満たしますが、そこは我々が判断するでしょう。
 スフィンクス様はそのような言葉を聞き取ったら、伝えてくれるだけでよいでしょう)
「まったく、これだから機械は血が通っていない。心というものを理解していないっ!
 なら、幹部命令だ。首輪の爆発ボタンを押すのは私だからねっ、いいかなっ?」
(どうも人員が増えたのに余計に手間が増えた気がするでしょう)


配置転換の結果、エントランスの人員は大幅に減らされる。
クリスタルのある中枢機構は強力な電磁波が作用し、機械兵は近づけない。
当初の予定を超えた個々への作業負担は、余裕を剥ぎ取り、CPUを圧迫し、注意を散漫にする。
もっとも、多少予定が変わろうが、無事に終了しさえすればよい。
ヒヤリハットは散見されても、しっかり対処ができている。
主、アルティミシアに届くのは、問題なく進行しているという情報のみ。
このままいけば三日目も無事に終わることだろう。
ゲームは折り返しを過ぎた。あとはどうやって乗り切っていくかというだけのことなのである。

484 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/07/05(金) 00:40:27.81 ID:9quQC3z+J
投下終了です。
矛盾はないはずですが、場面が特殊で参加者も出てないので、
こういうのよくないよという場合は一方その頃、な外伝程度にしていただければ幸いです

485 :貴方と共にこれから 1/2:2019/07/06(土) 00:26:40.17 ID:51wA5Yqon
それはかつての肉体へと舞い戻っていた。
ロザリーに祓われ、セージに取り入ることができず、ソロは近づくことすらなく、
アーヴァインの元へは馳せ参じたものの、夢から締め出されてしまった。

「カァーー……」

河童がここにたどり着いたのは偶然か。それとも、導かれてしまったのか。
彼は見つける。
噴出した血によって赤黒く染まった黒いきぐるみ。
バスターソードを握りしめ、穏やかに眠るかつての友。
その傍らに横たわる、小さなパートナー。

かつて英雄として精力的に活動していたころの彼であれば、三人を手厚く弔ったことであろう。
星の支配者となるべく邁進し、またこの会場で精力的に戦い抜いていたころの彼であれば、三人とも捨て置いたことであろう。
そして今の彼は目的も果たせず世界をさまようぬけがら。
死者の傍らにたたずむ女性の手招きに応じるように、横たわるパートナーの下にふらふらと向かい、カァと小さな声を上げる。
路傍でくたばっている彼らも、他の有象無象と同じく負け犬でしかない。
それはこの世界の摂理であるというのに、刹那、彼の心を空虚が占める。

力を失い、姿を失い、勝利を失い、誇りを失い、そしてパートナーを失う。
完成された個に裏打ちされていたはずの自信が、今この一瞬だけ、泡が弾けたかのように消失した。
仮にソロがその光景を見ていたのであれば、河童にしなだれかかる女性の影が見えたことだろう。

「カー???」

ふと脳裏に浮かぶのは、ジェノバ細胞を注入した瀕死の青年、アーヴァイン。
何ゆえにそれを思い浮かべたのかは分からない。

プサンを探し出し、約定どおりドラゴンオーブを渡して【闇】を取り扱う下地を固めるか。
"タバサ"をもう一度探し出し、利用するか。
直接リルムを誘拐し、元の姿を取り戻すか。
ケフカを追い、今度こそ殺すか。
それとも朝まで休んでさっさと旅の扉に飛び込むか。
現実的・非現実的を度外視すれば、選択肢は無数にあるはずだが、『コピー』の姿がその脳裏にちらつく。
手っ取り早く血と肉を生成するために、リユニオンの相手を欲しているのだろうか。
おそらくそのような本能的なものだろうと河童は結論付ける。

486 :貴方と共にこれから 2/2:2019/07/06(土) 00:27:53.00 ID:51wA5Yqon
心霊スポットに立ち寄った者が悪霊を招き入れるがごとく、
その現場に立ち入った河童もまた、それを自然と肉体へと招き入れる。
傷ついた心、一度は捻じ曲げられた性格、深刻な肉体ダメージ、何度も刻んだ敗北。
あらゆる要素はしかし、正気を失うには及ばない。
後ろからしなだれかかるそれには決して気付くことはない。

怨霊の手招きに応じ、その身を晒した妖怪の行き着く先は、災厄を振りまく魔天の再誕となるか。
あるいは、すべての死を以って災厄を終わらせる熾天使となるか。
いずれにせよ、ジェノバの末裔として、私こそがセフィロスであるという強い願いがある限り、
彼はその肉体の主導権を握り続けることだろう。

【セフィロス (カッパ HP:3/20)
 所持品:ルビーの腕輪(E)、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア
 第一行動方針:???
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:東部草原】

487 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/07/20(土) 18:17:09.87 ID:UdS1W9N5D
最新話までのまとめ
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488 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/07/20(土) 18:18:57.95 ID:UdS1W9N5D
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489 :シミュレート 1/10:2019/08/13(火) 00:45:50.09 ID:hylg16XT6
南西の祠。かつては無数の番人が配備され、侵入者を拒む造りとなっていたが、今はもぬけの殻……ただの抜け殻だ。
代わりに番人としての役を負っているのは、黄色い羽根を生やした一羽のかわいらしい鳥。
足を折り曲げて休んでいるその造形は、地面からふわっと生えた黄色い草花のようにも見える。
その傍らにたたずむのは、汚れた純白のコートを羽織った金髪の青年、サイファー。
地面にどっかりと座り込み、入り口から正面を睨みつけるように眺めている。

「特に問題はないみたいだな?」
建物の入り口からサイファーに声をかけてきたのはバンダナを巻いた銀髪の男性、ロック。
ひとしきり正面を眺めた後、足を折り曲げて休んでいるボビィに近付き、彼を撫でる。
存分に脱力し、間延びした鳴き声は、まわりの茂みの葉擦れの音に吸い込まれて響き渡ることもない。
ひねった脚も怪我の程度はごく軽く、騎乗にも支障はないようだ。

「ああ、ケフカもセフィロスもセージも、クソ共の姿は影も形も見えやしねえ。
 ボビィのやつも随分落ち着いてる。
 アーヴァインは結局あの後何もなかったようだな?」
「ぐっすり寝入ってる。朝まではあのままだろ。
 随分錯乱してたけど、よっぽど悪い夢でも見てたんだろうな」
リュックが眠ってから数分後、サイファーとロックで情報交換を始めた矢先のことだ。
アーヴァインが半死人もかくやという程の擦り切った声でうめき始めた。
顔色は青白さを通り越して土色に変化し、額には油汗が滲む。
呼吸にいたっては、川で溺れているのではないかと認識してしまうほど、吸気のたびに喉から異音が響き渡る。
二人とも肝を冷やしたが、それも数分のこと。
先程の急変に疑問を呈されるほどに、アーヴァインはすうすうと静かに寝息を立て始めた。
さすがに熟睡している怪我人の隣で荷物を広げてあれこれぎゃあぎゃあ話すわけにもいかず、かといって放置するわけにもいかない。
そこで、ロックが傍で待機し、その間はけいかいを持つサイファーが見張りをおこなっていた。
小一時間、起きる気配はまるでなく、問題ないだろうとの判断の元、ロックも外に出て来たということだ。

490 :シミュレート 2/10:2019/08/13(火) 00:46:44.81 ID:hylg16XT6
「ただでさえ、キチガイ共が襲撃してくる可能性を抱えてるんだ。内部にお荷物抱えてる余裕はねえぞ。
 セフィロスに色々弄くられて大人しくなっちゃいるようだが、あいつが元殺人鬼だってのも紛れもない事実だ。
 ……頭から抜けねえんだよ。ここまで苦しんでるのなら、いっそ楽にしてやったほうがいいかもしれねえって考えがな」
立ち上がり、首輪に指を当てながら、深刻そうに振舞う。
口実だ。既にアーヴァインには、次に正気を失ったら殺すと明言してある。
状況的にも、殺害されるべき適任はアーヴァインをおいて他にはないだろう。
あるいは、アーヴァインが発狂してロックたちを殺すというシナリオもあるが、現実的なのはその二択だ。
サイファーがアーヴァインを殺すか、アーヴァインが誰かを殺すか、
そういうシナリオが進んでいるのだということを、ロックにも伝えておく、そういう意図だ。

「あいつに色々思うところがあるのはそりゃあ俺も同じだけどさ、今それを、俺に言うのか?」
「分ぁってるよ、俺様だって、一人で見張りなんてしてると変な考えがいろいろ浮かんでくるんだよ」
「クェ〜〜?」
「ああ、悪ィ。お前もちゃんと見張りしてるよな」
「クェ!」
ボビィをぽふぽふと撫で叩いた後、再びサイファーは腰を下ろす。

「まあ何も起きなければ見張りってのは退屈だよな。
 なんなら、棚上げになってた手持ちの整理でも再開するか?」
「ああ、いいぜ。やっぱり待機だの見張りだのは性に合わねえ」
「自分で立候補したんじゃないのかよ」
「状況を見極めたうえで、それが最善だと思っただけだ。
 手柄にこだわってチームワークを乱すレベルはもう卒業したんでな」
ため息をつきたくなるような、ほほえましくなるような、微妙な釈明。
ガーデンの生徒や教師がいたら苦笑いを浮かべただろう。
ロックの脳裏にもいろいろと言ってみたいことが浮かんだが、それらには蓋をして、手持ちの支給品を広げた。

491 :シミュレート 3/10:2019/08/13(火) 00:47:26.65 ID:hylg16XT6
「このムチはファイガで、この石はフレア、それでこの指輪はゾンビーか。
 なかなかいいものがそろってるじゃねえか」
「ドローで魔法が取れるのは知ってたけどさ、道具からも取れるとは思わなかったよ」
「普通は取れねえさ。相当強力な力を秘めた道具ってことだろうな」
フレアをドローできる魔石バハムートにゾンビーをドローできる死者の指輪、ファイガをドローできるファイアビュート。
幻獣のチカラをそのまま遺した魔石や、伝説の12の武器の一つとなれば、ドローポイントとして数回機能する程度には魔力が潤沢だ。
G.F.の使い手が二人もいる以上、これらは純粋に戦力アップに役立つだろう。

「ついでに、これの使い方を知ってるのなら教えてくれないか?」
最初から所持していた謎の球体を若干の期待も込めて取り出してみるが、
「知らん」
「クェ〜〜……」
「だよなあ」
にべもなく切り捨てられた。
余談ながら、この宝玉の使い方を知っている者が地下で寝息を立てていたということを知るのはもう少し後のことである。

「こっちは武器は色々あるが、道具のほうはたいしたものは残ってねえよ。
 ケフカの野郎に大体持っていかれちまった」
「またケフカかよ……。はあ、あいつの嫌がらせは今日始まったものでもないし、仕方ないよな」
ケフカからすればこじつけ以外のでもないのだが、
サイファー自身もケフカにいい思いは抱いていないため、ロックの言葉に訂正を挟むことはしない。

492 :シミュレート 4/10:2019/08/13(火) 00:48:29.33 ID:hylg16XT6
「続けるぞ? 武器以外で目ぼしいものはあの変身できる妙な杖と、魔力を回復できるらしい指輪くらいだ。
 俺は擬似魔法しか使えねぇからピンと来ねえが、アーヴァインがティーダを呼ぶときに魔力を消耗するらしいんでな、あいつに持たせてる」
「ティーダを呼ぶ? えっちょっと待て、どういうことだ? あいつは放送で名前を呼ばれただろ?」
「ああ、そういやまだ言ってなかったか。
 ティーダのやつは殺された後、召喚獣として生まれ変わったらしい。理屈は聞くな。俺にも分からん」

ティーダが召喚獣として生まれ変わったという話を聞き、ロックが記憶を思い起こすように遠い視線を向けている。
突拍子もない話をしている自覚はあるため、その反応には意外に思う。

「……疑わねぇのか?」
「ああ、うん。アーヴァインが、そういう話をギードとやってたんだよ。
 無茶なことだとは言われてたけれども、成功させるとはなあ。
 俺が使わせてもらうような道具はなさそうだな」
人間を召喚獣に転生させる方法、ギードから見込みのない手段だと示唆されて、ロックは早々に諦めた。
だが、アーヴァインは友の死に際して、諦めなかったのだろう。
そう思うと、その魔力を回復する指輪を譲ってもらうのは気がひける。

「そういや、お前も魔法を使えるのか?」
「ああ、本職にはかなわないけど、色々と覚えてるぜ。スロウとかリフレクとかクイックとかさ」
「バニシュって魔法はどうだ?」
「そりゃもちろん使えるさ。透明化魔法はトレジャーハンターのロマンだろ。
 そっか、セフィロスのやつはカッパになってるから、バニシュを使えれば相当有利に戦えるもんな」
「……ああ、そういうことだ。
 あの野郎を野放しにしておけば、どれだけ犠牲者が出るのか分からねぇ」
「だったら撹乱とサポートは任せとけ。俺もセフィロスのやつには色々と恨みがあるんだ。容赦はしないさ」

実際は、サイファーがバニシュの有無を聞いたのは別の理由だ。
スコールからは首輪を外す準備をするように指示を受けたが、首輪を外した人物を旅の扉まで送る手段がなく、実践を棚上げにせざるを得なかった。
スコールは攻略本を読んでいたため、ロックがバニシュを使えることを見越していた可能性はあるのだが、
肝心のロックが偽物だったために計算が狂った。
ロックの正式な参入によってこの点が是正される。
建物の中に入り、魔女の監視を振り切ったら、首輪解除の詳細な計画も伝える必要がある。

493 :シミュレート 5/10:2019/08/13(火) 00:49:30.55 ID:hylg16XT6
続いて、お互いの軌跡の共有だ。
とはいえ、サイファーたちのほうに何があったのか、ロックは大体の事情は分かっている。
スコールの伝言メモを読み、しつこすぎる身元確認の理由を聞き、アーヴァインの変化を見て、と大きなイベントは軒並み後追いしてきたのだ。
自然と、ロックたちのほうに何があったのかという話題に移るが、
「あー、あったといえばあったんだが、何が起こったのかは俺も分からない」
「クェ?」
「なんだそりゃ? ふざけてんのか?」
あまりに要領を得ない回答に、思わずサイファーが悪態をついてしまう。

「いや、ふざけてないって。起こったことそのまま言うから、まずは聞いてくれ。
 ソロを探して城の中を走ってたらいきなりでかい地震が起きて、気がついたら建物ごと上空に吹っ飛んでたんだ。
 で、ギードの甲羅に乗ってなんとか脱出してきたんだが、そこでセージに見つかって一戦交えた後、お前とばったり会った」
「クェ〜〜?????」
「テメェはアクション映画のスタントマンにでも起用されたのか?」
サイファーからすれば、ロックの体験はクエスチョンマークが5つほど浮かぶ程度には意味不明なものでしかない。
サイファーに限らず、彼の体験を聞いてなるほどと頷く人間がどれだけいるだろうか。

「スタントマン……? いや、それがなんなのかは分からないけど、ウソはついてないぞ」
「ああ、悪ィな。疑ってるワケじゃねえんだ。
 ただ、あまりに突拍子がなさすぎるんで、思わず言葉に出ちまった。
 しかし城ごと吹っ飛ばすなんて派手なマネをする野郎がクジャ以外にもいたとはな。
 フレアスターか? それともメテオかアルテマでもぶっ放されたのか?」
「フレアスターやメテオではないな。俺が知ってる魔法の中ではホーリーに近いか?
 でもあれだって城ごと吹っ飛ばせるような魔法じゃないし、あの時何が起こったのか教えてほしいくらいだ」

494 :シミュレート 6/10:2019/08/13(火) 00:50:32.60 ID:hylg16XT6
小首をかしげるロックに対し、サイファーの脳裏にはある光景が浮かぶ。
ナッツイーターのきぐるみを着て、この世全てを恨むように笑い続けていた女。
この世界で唯一殺害した相手だ。
「いや、ホーリーで間違いねぇな。この殺し合いには、特定の魔法を異常に増強するアイテムが配られているらしい。
 俺がクソ野郎から回収して持ってたんだが、城から出た後すぐにケフカに奪われてな」
「ケフカ? またあいつか!? でもなるほど、それなら納得だ。
 あいつなら建物ごと俺を殺そうとするのだって不思議じゃない。
 なんなら、俺を殺して俺に成り代わろうとしたってところか?」
実際は変化の杖はアーヴァインの手元にある以上、その推測は間違っているのだが、
別にケフカを擁護する理由はないため、特に口を挟むつもりはない。
ユウナが城にメテオを放ったということは夢の世界経由で聞いていたが、ケフカがその場にいたこともほぼ確定したといっていい。
そして、ケフカがいたのであれば、セフィロスがその場にいた可能性も大きく高まる。

「まああのクソ野郎の思惑なんざどうだっていい。
 次会ったら有無を言わせずぶっ殺すなりひっ捕らえるなりすりゃ済む話だ。
 それよりもだ、犯人がケフカだってんなら、中央の城にクソ共が集まってドンパチやらかしたってのは間違いねえ。
 その割には、誰一人として死ななかったみたいだがな」
「あっ、臨時放送か。城が吹っ飛んだのに誰も死んでないって信じられないけど、
 あんな放送が流れたってことはそういうことなんだよな」
「あるいは、セージ以外の殺人者どもが全員くたばって焦って流したって可能性もあるがよ、それなら次の放送で即座にバレる。
 城に殺人者どもが集まった。誰も死なずに生き残って、かつこっちには誰も来ていない。
 中央の山か南の祠で休息してるか、あるいは東に流れたかってところだろ。
 城が吹っ飛んでもう3時間以上は経ってる。こっちに来るにしてはちょっと遅すぎるな。
 クソ野郎共だってゾンビじゃねえんだ、傷が深くて移動もできないってんなら、わざわざこっちに来ずに大人しく休んでるだろうよ」
すなわち、ここに来る可能性が最も高いのはセージであり、それ以外は中央付近から東に留まっているということが予想できる。
単純に見えない危険人物四人に警戒し続けるよりはずっとやりやすくなる。

495 :シミュレート 7/10:2019/08/13(火) 00:51:28.01 ID:hylg16XT6
色々と話し合ったものの、まだ一時間経っていない。
リュックが目覚めるにはもう少し時間がかかるだろう。
「案外手持ち無沙汰だな。夜明けの動きでも話し合ってみるか?」
「夜明け、ねぇ。次の旅の扉がどこに出るか、ってところか?」
「だな。これまでの傾向を考えれば、この辺なんだろうけどさ」
地図を広げ、東西南北6つの拠点を指し示す。

機械で自動的に旅の扉が割り振られるのなら、その可能性が高いだろう。
最初に設定したとおり、各拠点に旅の扉を出現させ、どこにいようがカバーをする。
これが公平なゲームの運営だ。
「そうだな、あの魔女サマが公平な運営ならそうしてくるだろうよ。だが、それじゃあ面白くない」
「それは俺も同感だ、じゃあ仮に次の扉がひとつだとして、どこに出ると思う?」

「ここだな」
「ここだろ」
二人が同時に指を指す。

一方がデスキャッスル南の草原、もう一方が希望のほこら。
位置こそズレてこそいるものの、二人の回答はほぼ一致していると言っていいだろう。

「俺らは南西に陣取ってる。南東に集まってるメンバーもいる。中央か南にクソ共がいる。
 となれば、このあたりに旅の扉を出しておけば、乗ったやつらが余裕をもって待ち伏せができるってワケだ」
「今は一つで考えてるけど、二つだったとしても、旅の扉の前で襲撃を受ける可能性が相当高いよなあ」
「わざわざご丁寧にも殺し合いをしろと放送してきたんだ、それくらいの嫌がらせはやるだろうよ」

二人の間の僅かなズレは、希望のほこらに唯一の旅の扉を出すという皮肉をより高い優先度としたか、
それよりも全拠点からの等距離というゲーム的な効果をより高い優先度としたか、それだけの話だ。

496 :シミュレート 8/10:2019/08/13(火) 00:52:26.48 ID:hylg16XT6
放送後のことを考えれば考えるほど、今から憂鬱になる。
首輪の解除法が確立したというのに、どうしてこの期に及んで殺し合いを継続せねばならないのか。
いっそ殺人者たちにも首輪の解除法を伝えてしまえば、という考えがロックの頭に一瞬よぎるも、すぐに否定する。
ユウナはまだ疑う気持ちも信じる気持ちも同程度に残っているが、セージはちょっと話し合いが通じる気がしない。
セフィロスにしても、セリスを殺した件やらアーヴァインへの仕打ちやらを思うと、とても意思疎通が図れそうにない。
ケフカは論外だ。元の世界の対立を抜きにしてすら、あれと手を組むなど不可能。
特に城ごと吹っ飛ばそうとした件が大きすぎる。

「旅の扉に乗ってるやつが陣取るってのも大問題だけどさ、それ以上にアーヴァインのやつが大丈夫じゃないよな?
 ただでさえあんだけマイってるってのに、ユウナに怯えてて、その上セフィロスの名前を聞いただけで症状が悪化するんだろ?」
ロックはアーヴァインの症状を詳細に聞いているわけではない。
だが、特定の人物にピンポイントで狙われて、かつ特定の人物に反応して魔物化が進み、
両者のいずれかが待ち構えている可能性を考慮すれば、厄介な事態なのは間違いない。
対策なしで突っ込んだら命がいくつあっても足りる気がしない。

「セフィロスがいた場合、アーヴァインは早急に次の世界へ行ってもらわねえと何が起こるか分かったもんじゃねえな。
 今更バラバラになるってのは避けてえが……。
 バニシュって魔法で気付かれずに通り過ぎるなんてことはできねえのか?」
「それ自体は可能だとしても、透明になってる間はどんな魔法も効いてしまうからリスクがでかいんだよ。
 たとえば、ケフカあたりが潜んでて横からデスだのデジョンだのかけてきたら終わるぞ」
「デスだと? 確かにそりゃ最悪だ」
概要を聞いたときには便利な魔法にしか思えなかったが、即死魔法が確実に効くのはあまりにリスクが大きい。
これだけで全てを解決できる銀の弾丸にはなりえないわけだ。

497 :シミュレート 9/10:2019/08/13(火) 00:53:09.75 ID:hylg16XT6
「バラバラになるのはひとまず置いとこう。要はアーヴァインが無事に旅の扉を潜れればいいわけだ」
「なんかいい案でもあるのか?」
「いい案ってわけじゃないが、斥候役と、場合によっちゃオトリを担おうかと思ってさ。
 俺は自慢じゃないが、オトリやら引っかきまわすのが得意でね。この身一つで大軍を止めたこともあるんだぜ」
「そりゃ引き受けてくれるんならありがてえが、テメェが死んだら意味ねえぞ。
 そこんとこ、分かってんだろうな?」
「ああ、わかってるさ。十分にわかってる。その上で言ってるんだ。
 最善の行動を取るべきだってお前もさっき言ってただろ。ここは俺の顔も立てててくれよ。
 なあに、逃げ出すのは囮以上に得意だ。いざとなったら恥も外聞もかなぐり捨てて逃げ帰ってくるさ」
「敵を連れて戻ってきたらマジで意味ねえだろうが!
 ったく、仮に気付かれたとして、セージの時みたいに後を付けられるのは勘弁してくれよ」
「それは言わないでくれ。あれは割と不本意な結果なんだ。
 今度はそうならないように色々シミュレーションしていくさ。
 考える時間はたっぷりあるんだからな」
「クェ〜〜……」

自ら危険に飛び込むのは愚かしいことだろう。
だが、こんな状況だからこそ、自分以外の誰かのために戦うことが大切なのだ。
皆が自分の役割を見つけて動けば、ゲーム自体を覆すことができる。

アーヴァインたちは首輪の解除法を見つけ出し、脱出に向かって王手をかけた。
彼の功罪を知るからこそ、彼には生き残ってほしいとロックは思う。
よくも悪くも、ロックはこれまで大きな戦闘や反乱の機会からは一歩引いた位置にいた。
ずっと蚊帳の外だった彼にも、これからは機会が回ってくるだろう。

今語り合ってる想定がただの妄想ならそれでいい。
だが悪意ある采配がおこなわれたのであれば、動くべきだと考えた。
放送までまもなく三時間を切る。夜明けは近い。

498 :シミュレート 10/10:2019/08/13(火) 00:53:42.68 ID:hylg16XT6
【サイファー(右足軽傷+疲労)
 所持品:G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗、スコールの伝言メモ
 第一行動方針:夜明けまで休息する
 基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ロック (HP7/8、MP2/3、左足負傷、疲労)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 死者の指輪、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:夜明けまで休息する
 第ニ行動方針:できればギード、リルム達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在地:南西の祠】

499 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/09/07(土) 07:25:01.26 ID:3GVUFMr/S
FF8プレイ中なので保守

500 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/09/14(土) 15:44:18.53 ID:CN7dS1WSO
そういや月報やってるようなので書いとく
FFDQ3   728話(+ 1) 19/139 (- 0) 13.7

501 :保身 1/11:2019/10/05(土) 23:35:50.01 ID:LBkv0LuOM
「リルム! よかった、首輪を外せたんだな!」
「へへーん、リルム様にかかれば、うすのろケバケバオバさんをだますなんてちょー簡単なことだもんね!
 首洗って待ってろよ、これから土下座させて泣くまで謝らせてやるんだからなー!」

おいガキ、首輪が外れて浮かれるのは分からんでもないがな、みっともなく騒ぐんじゃない。
万一上まで声が届いて、まだ生きてる首輪に声を拾われたら取り返しがつかないだろうが。
まだ何も終わってないってことを重々弁えろ!
ここにいるのがあのガキ一人なら、そう声に出していただろう。
ガキが生意気にも立場を弁えずに駄々をこね、ひとしきり口論になっていたかもしれない。
ガマンしているのは俺が丸くなったとかそういう理由じゃない。

「このクマさんみたいにおっきな男の人がマッシュだよ。
 リルムの元の世界からの仲間で、とっても強いの」
「まあ、そうなのですね。はじめまして。ロザリーと申します」
「一昨日は遠目に見ただけだったからな。マッシュだ、よろしくな」

ガキと共に階下に降りてきた二人、特にロザリーの動向が読めないからに他ならない。
あの女が化物になりかけているという情報、出まかせだと思いたかったが、事実らしい。
ラムザたちはそれを踏まえた上でいくつか対応策を練っており、
追放という手段に踏み切った場合を除き、首輪の解除法を伝えることが決定していた。
首輪の解除法などという最重要事項を、化物に知られるのは憚られるが、
隠匿したまま事を起こす危険性を説かれれば頷かざるを得ない。
話の途中でバッツがラムザを連れて行ってからは、何が起こっているのかは感知できない。
いよいよとち狂った化物が来る可能性、想定こそしたものの、上にいる人間を全員殺すなんてことは考えにくいし、
殺しそこなって一人二人逃がしたとすればそちらを追っていくだろう。
俺たちには危害は及ばないと判断した。

念のため、接触するのはマッシュだ。
ロザリーが正気であっても、リルムが変に話をこじれさせるリスクがある。
……俺は攻略本の見直しをおこなおう。ビビっているわけではなく、適材適所を考えて人員を割り振ったというだけのことだ。

502 :保身 2/11:2019/10/05(土) 23:36:31.31 ID:LBkv0LuOM
「スコールはしばらく寝てるぞ。大事な話をしてるから、緊急の用がないならそのまま寝かしてやってくれ」
「インケンヤローは? まーどうせまた逃げてるんだろうけど」
「ははっ、きつい言い方だなあ。
 アルガスは奥で調べ物の最中だよ。呼ぶか?」
「別に呼ばなくていーよ。リルム、あいつのこと嫌いだもん」


俺だって貴様のような立場を弁えない生意気なガキなど、視界に入れるだけで虫唾がはしる。
現在進行形で投売りされているケンカをすべて言い値で買い叩きたい気分だが、短気は損気だ。
少し前にマッシュどころかスコールに対しても失言したところだ、さすがに学習する。
加えて、新たな三人を除けば、首輪を解除したのは俺とマッシュとスコールの三人。
スコールは間もなく魔女の城へと潜入し、しばらくは戻ってこないだろう。
マッシュはどちらかといえば甘ちゃんの部類に入るだろうが、だからこそ、元の世界でリルムと付き合いがあったのは看過できない。
何かあったときにリルムを優先するのは火を見るよりも明らかだ。

リルムのやつは化物やピサロと共に俺を追ってきた。
そしてロザリーがピサロに取り憑かれているとすれば、何を吹き込まれているか分かったもんじゃない。
あのガキの挑発に安易に乗り、他の全員と敵対するのは破滅への特急券。

「私は軽く挨拶しておこうかと。誰も自分のところに来ないのは、それはそれでいい気持ちにはならないでしょうから」
「だいじょーぶ? あいつ本当に性格悪いよ?
 リルムもついていってあげようか?」
「心配には及びませんよ。
 お休みしている方もいますし、大勢で推し掛けるのは憚られます」
「アルガスさんでしたら私も知り合いですし、ご同行させてはいただけませんか?」
「ああっと、リルムとロザリーさんは少し残ってくれないか。脱出の件で重要な話があるからさ」

よし、マッシュ、意図はしてないだろうが、ナイスな引き止めだ。
プサンが向こうから接触してくれるのなら好都合。
プサンは人間ではないが、ラムザとの対談を眺めた限りでは、交渉相手として及第点だ。
神というからには色々考えがあるのだろうが、今すぐ俺を排除しにかかるような行動は起こさないはずだ。
これならしばらくは余計な茶々は入らない。

503 :保身 3/11:2019/10/05(土) 23:37:19.04 ID:LBkv0LuOM
「お久しぶりです、デスキャッスル以来ですね。
 ラムザさんから貴方の事も伺いましたので、まずはご挨拶にと。
 ロザリーさんからも貴方によろしく伝えてくれとの言伝を承っています」

ありきたりな社交辞令。想定通り、俺の事情をラムザに聞いていたようだ。
ご丁寧にも化物の名前を出すなとフォローしてくれてたし、あの時言外にも色々言ってたんだろうよ。随分と気の回ることで。


さて、まず把握すべきは、この男が何を考えているのか、だ。
全面的に信用しているわけじゃない。

もちろん、脱出方法が確立したのは喜ぶべきことだ。
ギードやプサンを支援したのは間違っていなかったと胸を張っていえる。
スコールの作戦の成否を抜きにしても、手段は多いほうがいい。

だが、この男は胡散臭い。
あの攻略本には竜の神の仮初の姿だと書かれていたが、その割に俺に対して随分と下手に出た態度だ。
神ともあろう者が、元々このような性格とは考えられない。
攻略本のことを知らずに無害な中年を装っているだけか、それとも俺の反応を確かめているのか?

それに、何も意図がなければ、まずはガキやロザリーと一緒に大人しくマッシュの話を聞いているはずだ。
裏を返せば、俺のところに来た時点で何かしらの目的があるはずだ。


「たいしたことではありませんよ。
 最初に首輪を外したのは貴方とスコールさんなのです。
 いちはやく接触したいのは当然でしょう?」

確かに、これは真理だ。重要な情報は自分から取りにいかなければならない。当たり前だ。
それに、まだ物の道理も分からないガキが傍にいては、まとまる話もまとまらなくなるしな。

となると、打倒主催グループの中心部に食い込むために、早々に俺に接触して新鮮な情報をもぎ取ろうという魂胆か?
攻略本でこの男の前情報を得ていなければ、それで納得していただろうな。

504 :保身 4/11:2019/10/05(土) 23:38:33.24 ID:LBkv0LuOM
「後は、提携の提案でしょうか」
提携だと? これが本命か? だが、一体何のことを言っていやがる?


プサンに連れられるように奥に進む。
この地下空間は音が響くが、最奥部の玉座の間まで来ればそうそうお互いの声も聞こえはしない。
向こうの三人には聞かれてはいけないような話ということか?

「貴方がロザリーさんに安心して対面できるように、場を取り持とうかと。
 内部分裂からの瓦解などというつまらない結末だけは避けたいので」


おい、手を出してきたのは向こう、もとい、ピサロだぞ。
俺の行動はすべて自衛の結果であり、非難される謂れなどないのは確定的だ。
法だの倫理だの礼儀だのといったものが、この世界では道端の石にも劣るような概念だというのは分かっているがな、
俺から歩み寄らなければならない道理はないだろ。

「ああ、気持ちは分かります、分かりますとも。
 貴方には貴方の、ピサロ卿にはピサロ卿の正義があるのです。
 ですから、私はどちらが悪いと糾弾するつもりはありませんし、まして謝罪や譲歩を求めることはありません」

俺をなだめ、機嫌を損ねないように振舞うプサン。
貴族におべっかを使う商人のような振る舞いだが、その正体を思うと不気味なことこの上ない。
だが、俺の安全に直結する話だ。聞いておく価値はあると感じた。

「ピサロ卿はしっかりとした自我を保っており、会話が可能です。
 我々の首輪の解除に助力いただきましたし、上の階にいた全員の誰に聞いても確かな意思疎通が取れていたと証言を得られるでしょう。
 彼が理性を保っているなら、ロザリーさんに危害を加えないと判断されれば、彼が貴方を害することはありません」

ほう、それはよかった。
ところで、俺の目を奪った化物もしっかりと理性を保っているし、会話もできるらしい。
なら、化物だって安全安心だということか。冗談じゃないぞ?

505 :保身 5/11:2019/10/05(土) 23:39:03.76 ID:LBkv0LuOM
「ふむ……。アプローチを変えてみましょうか。
 他の方はともかく、私が貴方に求めるのは友好ではなく共益です。
 貴方が領土を治める貴族であるというなら、この価値観は共有できるかと」

……おい、分かっててイヤミを言ってるのか? それとも、ラムザのやつが中途半端に情報を渡しでもしたのか?
そんな言い回しをされたら、頷く以外の選択肢なんざあるわけないだろうが。

……ああ、その価値観には賛同するよ。そうでなければ、カインと同盟を結んだりするものか。
どうせ、ラムザを除けば、殺し合いが終わったら二度と会うこともないやつらだ。
友好を深める暇があったら、利用する方法を考えるね。


「私は内部の対立の解消に腐心することなく、脱出に専念したい。
 あなたの希望は、伝聞などからの推測ではありますが、最終的に安全に脱出できることではないかと思っています」
根拠として、ラムザからの情報のほかにも、昨日の朝や初日の夜に見せた脱出研究への支援を挙げてくる。
あれはうまく行けば儲けもの程度の考えだったが、別にそこまで正直に伝える必要もないだろう。

「では、ピサロ卿がいるとすれば、彼の利益はなんでしょうか?」
は? ピサロの利益? んなもん知るかよ。
俺の知ってるあいつの情報なんざ、いけすかない銀髪の魔族で、ロザリーの婚約者ってことくらいだぞ。
ああ、あと魔族の王だったか? この世界がピサロの領土らしいな。
……なんだ? つまり、ピサロの利益ってのは、ロザリーの身の安全ってことか?


よくよく考えてみれば、魔族とはいえ、王だ。王子がいてもおかしくない。
王の失踪など、傀儡政権を狙う後見人の権力闘争や、外国の介入、ヘタすりゃ国が滅びてもおかしくない特大スキャンダル。
そうでなくても、王妃とともに蒸発した王など、歴史にどう記されるか。考えただけでもゾッとするね。
まあロザリーが国王崩御のゴタゴタに対処できる能力があるのかは知らんが、名誉のためにも無事に帰す必要はあるってことか?

「うーむ、私の想定と少々異なりますが、大枠はロザリーさんの身の安全という理解でいいでしょう。
 彼女に危害がなければ、脱出グループの中心にいる貴方に手出しはない。
 そして、我々は元の世界に戻れば、もはや交わることのない存在です。
 忖度しろとは言いません。他のメンバーと同じく、一時的に協力し合いましょうよ」

506 :保身 6/11:2019/10/05(土) 23:39:48.08 ID:LBkv0LuOM
本当に俺の安全は保証されているのか?
のこのこ出て行って、いきなり右目を抉られたりはしないだろうな?
非合理的な念押しの言葉が、無意識のうちに発せられていた。


上には20歳児やラムザがいる。眠っているとはいえ、スコールがいる。すぐ傍にはマッシュがいる。
ピサロと対立する立場であるはずのプサンが、ピサロに首輪を外されている。
俺が重要なポジションを握っている限り、立場的にも向こうは手出しはできない。
すべての状況が俺の味方をしている。


理性で抑えても、心の奥底では俺は【闇】に属するものを恐れている。
だが、念押しの言葉はすぐに訂正した。
必ず益に繋がる件を、疑心に捉われて袖にした結果、成果ゼロというのは無能が過ぎる。
俺は感情のまま泣き喚くだけの、話の分からないバカじゃないんだ。
ああ、いいよ。話に乗ってやるさ。


■■■■■■■■■■■■■■■■■

507 :保身 7/11:2019/10/05(土) 23:40:49.56 ID:LBkv0LuOM
マッシュさんから伝えられた作戦。
夢の世界を通して、ザンデさんと接触しているというのも驚きましたが、
魔女の城へと乗り込む計画も立てているだなんて……。
首輪の件もそうですが、私の知らないところで色々と進んでいたのですね。
断る理由などありません。少しでもお役に立てるのなら、協力していきたいです。

「そんなわけで、ザンデさんの補佐をロザリーさんに任せられないかって話があがってさ」
けれども、肝心なところでお役には立てなさそうです。
私を選んでくださること自体は光栄なのですが、デジョン、テレポ……元の世界で聞いたことがありません。
空間に作用する魔法とのことですが、ルーラやリレミトといった呪文、私は使えません。
もっと言ってしまえば、私自身に利用できるだけの魔力はないのです。


「そんなに気にすることないって。リルムたちの世界だって、魔法が使える人なんてほとんどいなかったもん」
「この案はたたき台みたいなもんさ。スコールにも伝えてないから、気にしなくていいよ。
 それよりも、ザンデさんって師匠みたいな人なんだろう? なら、顔くらいは見せに行ったらどうだ?」

お二人がそれぞれの言葉で慰めてくださいます。

落ち込んでいるということはありません。
ザンデさんの助手であったときも、魔法を使うわけではなく、諸々の雑務が主でした。
あらためて、すべてができるわけではないという現実を見直しただけです。
ただ、お二人のあたたかさに少しだけ心が軽くなります。
演技とはいえ、人に辛辣に接するという慣れない行動を取って、疲れていたのかもしれませんね。


「よーするにさ、リルムがザンデって人のところに行って手伝えばいいんだよね」
「そういうことだな。まあ、いざと言うときには俺もいくからさ」
「……マッシュってそんなに魔法使えたっけ? ビスマルク持ってたくらいしか知らないんだけど」
「大体間違っちゃいないけどさ、いつもビスマルクを持ってたわけじゃないぞ。
 セッツァーと合流するまでは拾った魔石で間に合わせてたこともあったしな」

リルムさんだけでなく、マッシュさんも魔法を使えるのでしょうか。
私から切り出せることは何もないのでお二人のやりとりを眺めていたところ、二つの足音に気付きました。

508 :保身 8/11:2019/10/05(土) 23:41:46.88 ID:LBkv0LuOM
「よ、よお、久しぶりだな。お前も首輪を外したんだな」
ぎこちないながらも、友好的に声をかけてきたのはアルガスさんです。
そういえば彼とは毎日会っていますが、これまでのイメージと、何がとは言いませんが比べるとらしくないですよね……?
友好的な雰囲気の演出に慣れていないのでしょうか。

「出たな〜、イヤミヤロー! どーせまたロクでもないこと企んでるんだろうけど、リルム様には通用しないぞ!」
「まぁまぁリルムさん、ここはひとつ様子見をお願いできませんか」
リルムさんがキッとアルガスさんを睨みつけて挑発しましたが、プサン様のフォローが割り込みました。
アルガスさんも反射的に何かを言おうとしたようですが、勢いを削がれたようです。
お二人の間に何かあったのでしょうが、マッシュさんの苦笑を見るに、あまり深刻なことではなさそうです。
私も、失礼ながら察しました。


「ああ、外野の野次に惑わされずに、理性的に対応してくれるのはありがたいぜ。
 俺が言いたいことは、え〜、あれだ。
 これまで色々あったが、見事首輪を外せたからには、俺たちはもはや一蓮托生。同志に他ならないわけだ」
……なんでしょう、言い回しが少し大げさで、お芝居でも見ているような感覚です。


「ねえ、あいつどうしたの? なんか悪いものでも食べた?」
「諸々の経緯は知ってるけど、あれはきっとアルガスなりに気を遣ってるんだよ。見守ってやろうじゃないか」
「おい外野ども! 少し黙ってろッ!」

あの、お話についていけないです。
マッシュさんの言葉から推測するに、アルガスさんが誰かを罵ってしまったので、
反省して態度を改めているということでいいんでしょうか。
それにしては、プサン様は軽く頭を抱えているようなのですが……。

「今後一切、お前たちを不当に貶めることはしないし、できる限り協力はしてやりたいと思う」
述べられていることは歓迎すべきことなのですが、あの、すみません、困惑しかないです……。

509 :保身 9/11:2019/10/05(土) 23:42:57.75 ID:LBkv0LuOM
「ええと、これは?」
アルガスさんが差し出してきたのは、灰のようなものです。使い道は分かりません。

「友好の証に記念品を贈るのはおかしなことではないだろう?
 このふざけた世界に呑まれないための、魔除けみたいなものさ。呪いを解く効果もあるらしいがな」

魔除け……もしかしてピサロ様には逆に害になるのでは、とは思いますが、
こういう贈り物を受け取らないのは礼を失するのでしょう。
アルガスさんが値踏みするように私を見ているような気もします。

ただ、別の思惑もあるように思うのです。
そう、例えるなら、調度品を破損してしまい、謝りつつもピサロ様のご機嫌を伺うスライムさんのような印象が。


いずれにせよ、拒否する理由はありません。
他の方も見ている以上、彼の顔を立てる必要はあるはずですから。


実際に受け取れば、本人はあからさまにホッとして、表情を取り繕いました……。
まわりの三人を横目で見れば、
リルムさんは困惑しているようで、マッシュさんは感慨深そうで、プサン様は苦笑しているようで。

「彼なりに、これまでの確執は忘れて、ゼロベースで有益な関係を構築していこうと言っているのですよ」
とはプサン様の言葉です。

「ああ、そういうことだ。
 与えられた分だけきっちり清算するってのは俺の主義だが、
 お前らへの仕打ちにはいささか過剰な面もあったかもしれないと思ってな。
 これは、そう、誠意ってヤツさ」

言われていることにまったく覚えがないのが心苦しいところなのですが……。
もしかして、ピサロ様と一悶着あったのでしょうか。
そういえば、浮遊大陸で接触があったはずですよね。

首輪を外してから、ピサロ様の気配は感じ取れません。
消えていないことは確信を持って肯定できますが、私の脳裏に現れることもないのです。
プサン様は、ピサロ様が魔力を用いて意思をつなぎ止めているのだとおっしゃっていました。
首輪を解除するために、多量の魔力を使ったのが原因なのかもしれません。


ともかく、私自身は彼に恨みなどありませんので、友好の返事を差し上げます。
緊張が緩和したような気がするので、これでよかったのでしょう。
もう一度プサン様に目を向ければ、困惑と苦笑の入りまじったようななんともいえない表情をしておりました。

510 :保身 10/11:2019/10/05(土) 23:48:17.68 ID:LBkv0LuOM
■■■■■■■■■■■■■■■■■


「正面からぶつかってみれば、案外道は開けることもあるものでしょう?」
ああ、終わってみれば問題なかったさ。まったく問題なかった。
どこから【闇】だの化物だのが出てくるかと戦々恐々していたが、バカらしくなるくらい平和だった。
一応、呪いを解くという聖者の灰を渡してみたりもしたものの、嫌がる様子もなかった。
俺は何に怯えていたんだと思ってしまうほどだ。


まあ、【闇】に憑かれて目に見えて様子がおかしくなるのなら俺は目を奪われてなんかいないし、
自力で首輪を外している以上、確実になんらかの影響は残っているのだろう。
だが、少なくとも俺に対する悪意は存在していなさそうだ。
こうなってくれば、ティーダのやつが主張していた、アーヴァインが人間だって話……理解できなくはない。
自身に悪意が向かないなら、確かにそういう感想も出てくるだろうよ。
だからといって、当然あの化物に対して気が変わるなんて起こりえないがな。


「おい、リルムさまにも誠意見せろよ〜」
やかましいッ! 誠意ならお前が見せろッ!

「えーん、マッシュ、インケンヤローがリルムをいぢめるんだー」
「あ〜、アルガス、収拾がつかなくなる前にここは一つ、穏便に頼む」
「え〜、そろそろ明日の動きについて話し合いたいのですが」
「ちぇ〜」

さらなる買い言葉は、すんでのところで呑みこむ。
ロザリーが今の調子を保つのであれば、むしろリルムこそが俺の最大の厄介事かもしれないな。
リルムの機嫌を取る気などさらさらないが、他の人間は別だ。
これからしばらくスコールがいなくなる。化物が合流してくる可能性は高い。
だから、代わりのパイプを作って俺の盾を強固にしておかなければならない。

リルムをなだめる三人を観察し、考える。
適切な相手は誰だ? マッシュか、ロザリーか、プサンか。それともこれからやってくる参加者たちか。
どうやればパイプを太くできる? 発言力を高めるか。存在感を示すか、あるいは取り入るか。
生き残るために考え続けろ。考えるのを止めた時、俺は今の立場から転落するだろう。
脱出へのシナリオは固まり始めたのだ、ここまで来て、脱落なぞするものか。

511 :保身 11/11:2019/10/05(土) 23:49:04.79 ID:LBkv0LuOM
【ロザリー(首輪解除)
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、しっぽアクセ(E)、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン、聖者の灰
 第一行動方針:脱出方法、スコールの作戦の共有
 最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※【闇】の残り魔力は少量です。

【プサン(HP1/3、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
 所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、水のリング
 第一行動方針:脱出方法、スコールの作戦の共有
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リルム(HP1/2、右目失明、MP1/4、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、(E)命のリング、リノアのネックレス、フラタニティ、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、
     不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:脱出方法、スコールの作戦の共有
 第二行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 第三行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【マッシュ(HP1/8、右腕欠損、首輪解除)
 所持品:エリクサー】
 第一行動方針:脱出方法、スコールの作戦の共有
 最終行動方針:ゲームを止める】
【アルガス(左目失明、首輪解除)
 所持品:E.インパスの指輪、E.タークスの制服、E.高級腕時計、草薙の剣、ももんじゃのしっぽ、カヌー(縮小中)、天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:脱出方法、スコールの作戦の共有
 第ニ行動方針:派閥の拡大
 第三行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:南東の祠最深部の部屋】

512 :小心者のてのひらの上 1/13:2019/10/27(日) 18:44:02.79 ID:GUT5Yso6J
闇の世界、南東の祠、その地下。
魔王に忠誠を誓っていた魔竜の本拠地は、いまや魔女に歯向かうレジスタンスたちの本拠地。
会議室などなく、円陣を組むような形で着座し向き合う。
いまだメンバー同士の対立はゼロではないが、致命的なすれ違いは取り繕われたために、
あらためて話し合いをおこなっているというのが現状だ。

「結局、誰がザンデのところに行くことになったんだ?」
積極的に取り仕切るのはアルガス。
メンバーの中で最古参であり、それゆえに作戦に精通。
本人も発言力の強化に邁進しており、自然と仕切り屋のポジションとなる。

「当初の予定通り、リルムに頼むことにしたよ」
「魔道士であることが重要だとお聞きしましたので……。残念ですが、私ではお役には立てないかと」
他方、マッシュやロザリーは聞かれたことに答えるという立ち位置だ。
マッシュは、深く考えるよりは身体を動かすほうが性に合っている性質ゆえ。
ロザリーは、情報を開示されたのが直前であり、受身にならざるを得ないという状況ゆえ。

「チッ、まあ仕方ない。当初の予定の通りいくしかないか」
「ふむ、その言い方は、ロザリーさんをザンデさんの元に行かせたかったかのように取れますが」
「そりゃあ……」
「そりゃあ、何さ?」
アルガスに目を光らせるのはプサンとリルムだ。
リルムもプサンも頭の回転は早く、それを生かすだけの情報も取得している。
その上で、プサンは魔女の討伐を切望し、感情を排して最適解を模索している。
一方、リルムはアルガスのことを信用していないという感情的な理由から、彼を監視する。


「ああ、ほら、ピサロと一緒にザンデのところに送り込めば、いい感じに旅の扉を作ってくれるはずだろ」
「理由つけてるけどさ、ほんとは尻尾姉ちゃんのこともモヤシみたいに怖がってるだけだろ?」
「おい、俺がそんな下らない理由で作戦を台無しにする無能だとでも言いたいのかッ!?」
「アルガスさん、落ち着いてください。ケンカはよくありません。ね?」
「リルムも、頼むから挑発はよしてくれ」
リルムが図星を突いてはアルガスが反応し、ロザリーとマッシュが止める。あるいは逆。
対立はあるが、なんとかバランスが取れているのがこの会議の参加者たちだ。

513 :小心者のてのひらの上 2/13:2019/10/27(日) 18:46:23.15 ID:GUT5Yso6J
「ロザリーがどうこうじゃないさ。
 スコールとマッシュには話したことがあるが、元々ガキの似顔絵を対セフィロスの切り札に使おうと考えていた。
 だが、首輪が外れたとなっては、前線に出せないことに気付いた。だからこの話はお流れだ」
セフィロスとケフカは排除すべく策を練って、魔女の監視に引っかかって自分たちの存在が明るみに出るのは愚の骨頂。
これを避けるためにも、リルムは前線に出せない。
マッシュとしては、リルムには安全地帯にいてほしいが、アルガスはそんな事情を考慮しない。
やんごとなき身分の者を除き、能力以外は考慮に値しないのだ。


「そういえば……おいガキ、お前の似顔絵はストックしておくことはできないのか?」
能力以外は考慮しない……裏を返せば、リルムが運用する必要はないわけだが、
「ふん、だ」
リルムにとって、アルガスは鼻持ちならない相手。お前の能力以外はいらないと言われては、面白いはずもなく。
鼻を鳴らし、不機嫌を隠さず視線を背ける。


「大事な話をしてるんだ。気分で仕事に取り掛かるんじゃない」
ある意味正論、一方で冷血とも受け取られかねない言い分。

「アルガスさん、年下の方にものをたずねているのです。ここは年配の方こそ寛容さを示すところなのでは、と」
二人の間を取り持つべく、アルガスの相手をロザリーが引き受け、マッシュに目で合図を送る。
マッシュは頭をポリポリと掻きながら、話を引き継ぐ。

「確か、似顔絵を描き溜めておくことはできないはずだ。そういう風に聞いたことがある」
「……そうだよ。最後まで描いたら実体化しちゃうし、描きかけの絵を引き継いで描けるなんて、物真似師くらいじゃない?」
「分かりました。では、この話は終わりにしましょう」

リルムの代わりがそう簡単に見つかるはずもなし。
彼女を前線に出さずにスケッチをおこなう、そんなうまい話は転がってはいなかった。

もっとも、アルガスにとってのこの案の本質は、『【闇】に侵されたロザリーを遠ざける』ことだ。
解決した以上、リルムの能力の運用はまさに寄り道に過ぎない。
できないと明言された以上、固執する意味ももうない。

514 :小心者のてのひらの上 3/13:2019/10/27(日) 18:47:55.64 ID:GUT5Yso6J
「人員の配置は理解した。次の議題に移るぞ」

アルガスは一枚のドキュメントを取り出す。
紙上には、項目ごとに、小さな文字でずらりとアイテムの名称が記されていた。

「魔力を含んでいたり、増幅させたりする道具、でしょうか?」
「しっかり話が伝わっているようで安心だ。その道具をリスト化してある」
プサンがランプを掲げ、その光に照らし出された文字を全員が食い入るように見つめる。

「浮遊石? ドラゴンオーブ……これは見たことはあるな」
「ライトブリンガー、ルビスの剣……この宝剣は持っています。脱出の魔力供給源として、必要なものですから」
「アダマンアーマーって帽子兄ちゃんが着てるやつだよね? あ、このタンバリンもなんだ」
「炎・水・命のリングですか、まあ当然挙がるでしょうねえ」

魔力のこめられた道具、装着者の魔力を増幅する装具、
一時的なブースト効果を持つもの、空間に穴を空けるものまで、リストに載せられたアイテムは多種多彩。
60種類以上挙がっているが、そのうち1/3ほどが南東の祠に集っていると確認する。

「なるほど、予想以上に集まりそうだな」
必要量は不明ながら、十分あるのではないかと推測。
存在を確認できたものにチェックを付けつつ、アルガスは考えを巡らす。

リストは攻略本から機械的に作成したものだ。その他の考慮は入れていない。
リストにあるからと、ラムザからアダマンアーマーを剥ぎ取って裸で放り出すのは自傷行為に等しい。
光の鎧やスプラッシャーといった、特殊すぎて使いこなせないものもある。
黒マテリアや破壊の鏡といった、強力な魔力を秘めてはいるのだが、扱いが非常に難しいものもある。
静寂の玉のように、魔力はあるが使うと逆効果にしかならないものもある。

そういう諸々の条件を考慮すると、無条件でもっていけるものは意外と限られる。
袋の肥やしとなっていた君主の聖衣や、楽器扱いでしかなかった不思議なタンバリン、
ようやく三つがそろった炎・水・命のリングに、元々触媒として使う予定だったルビスの剣、といったところだろう。

それで足りなければ、夢世界を通してサイファーたちからもアイテムを借り受ける、
あるいはラムザたちの使う武具の一部やロザリーの持つ宝石類を拝借、といった手段をとることになろう。

515 :小心者のてのひらの上 4/13:2019/10/27(日) 18:52:14.96 ID:GUT5Yso6J
「ねえ、はんちょー一人なんでしょ?
 回復アイテムも渡そうよ。怪我したら絶対困るもん」
リルム本人が回復魔法の使い手なのに加え、『回復のマテリア』がリストに挙がっていた。
この提案が出てくるのは必然だろう。

「そりゃ当然だなあ。てか、こんなときこそエリクサーだろ」
もちろん、マッシュも賛同する。
スコールはこの会場で最も長い付き合いのある相棒。
万全の準備で送り出したいと思うのはこれまた当然。

そして、人として自然な人道の概念を持っていたために、反論を考えていなかったのは仕方がないだろう。


「待て。なんでエリクサーなんだ?」
反論は、当然この男、アルガスによるものだ。

「えっ、そりゃ絶体絶命の状態から復帰できるんだから、エリクサーだろ」
「おい、ドケチインケンヤローめ。まさかはんちょーの身ぐるみはいで放り出す気じゃねーだろーな?」
マッシュといえども、アルガスの反論にいい顔はせず、リルムは当然ながら激しく反発する。
それをアルガスは、浅慮な言いがかりだと言わんばかりに鼻先でせせら笑う。

「まあ、落ち着いてください。
 私もスコールさんには万全の準備で出発していただくべきだと思いますが、
 こう言っているからには、彼にも腹案があるはずです」
いい加減挑発をやめろと示唆し、プサンは場が紛糾しないように取り持つ。

「大前提だがな、俺とてスコールにエリクサーを渡すのは吝かではないさ。
 だが、最悪、8人分の首輪を外すことになる可能性は考えているか?」
すなわち、スコールが失敗する可能性だ。
8人ではなく9人だということに気付く者もいたが、
ギードか、ロックか、それとも自力で電波を遮断できる彼か、外された者を探るのはやぶ蛇だろう。

「おいおい、それでもだ、ハナから捨て駒のように扱うのはさすがに看過できないぞ」
「よく思い出せよ。何度も使える回復アイテムがあるだろ」
「適当なことフカしてんじゃねーぞ。
 そんな都合のいいものがあるなら、とっくに……」
リルムが反論しようとして、はたと気づく。
彼女の隣に、まさにその恩恵を受けた者がいる。

「……そう、か。ティナの魔石、か」
まぶたを落とし、回想するかのようにぽつりとつぶやくのは、恩恵を受けたマッシュ本人だ。

516 :小心者のてのひらの上 5/13:2019/10/27(日) 18:56:42.80 ID:GUT5Yso6J
魔石は幻獣ティナを呼ぶものでもあり、彼女の形見でもある。
崩壊に瀕した魔石を使うことは、すなわち消失に近付くことを意味する。
ティナの仲間である二人だからこそ、彼女を真の意味で消滅させかねない魔石の運用は、意識の外へと追いやっていた。

「あの、私はそのティナさんに直接会ったことはないのですが……。
 その方を犠牲にするかもしれないなら、やはりエリクサーでよいのでは……」
魔石からロザリーが連想するのは、今は自分の中で眠っているピサロだ。
仮の話ではあるが、彼の意思を譲渡できるとして、彼を死地へと送り出すように言われたら、いい顔はできないだろう。


だが、アルガスは無知な者に知識をひけらかすかのような、平常を装うも優越感を隠せていない笑みを浮かべる。
それがますますリルムの反発を生むが、自覚していないのか、
それとも完膚なきまでに論破できる未来を思い描いて敢えて煽っているのか。

「俺たちは仲良しグループじゃないからな。
 お前らが反対することも考えたさ。
 だが、魔石にはエリクサーを上回る大きなメリットがある」

顔の前に拳を移動させ、ひとさし指を立てる。
「さっきも言ったように、複数回使えるような代物のはずだな?」

もちろん、一回で崩壊してしまう可能性もあるだろう。
だが、使いきりのものと、一度以上使えるものとでは、明確に上位互換の関係が成り立つ。

続けて、中指を立てる。
「魔石自身に意思があるんだろ?
 となれば、仮にスコールが危機に陥ったとして、スコール本人と魔石、二重の発動基準があるわけだ」
アルガス自身がオートポーションを利用するがゆえの着想だ。
敵地にて、敵の攻撃に対してゼロタイムで発動できる回復手段の有用性は明らかだ。
これでも十分すぎるくらいのメリットだが、さらにダメ押しとばかりに薬指を立ててもう一メリット。

「スコールは魔女の部下たちと戦う。
 魔石を持って訓練すると、魔法を覚えられるんだってな?」
スコールは弱点を把握していると言い切ったが、言い換えれば弱点を突かずに倒せるザコではないということ。
少なくとも、アルガスでは逆立ちしてもティアマトに勝てない。
強力なモンスターとの実戦、これに勝る訓練はない。魔法を覚えられる可能性は高いだろう。

517 :小心者のてのひらの上 6/13:2019/10/27(日) 18:57:58.95 ID:GUT5Yso6J
最低保証一回の回復効果、回復タイミングの冗長性、魔法の修得。いずれも大きなメリットだ。
魔石が崩壊するリスクはあるが、それとてアルガスにとってはデメリット足りえない。

「それから、そこにまだ分かってなさそうなガキがいるようだから、言っておくぞ。
 俺たちの義務は、今生きている人間を生還させることだ!
 考え付く限りの手段を最大限に動員して、最良の結果を導き出すのが課せられた責務だ!
 懸念点を確実に潰し、成功率を最大限に高め、課題を適切な人間に割り当てることこそ、常に意識しておくべきことだッ!
 自分たちなら万事大丈夫だの、最後には全部上手くだの、お友達を犠牲にはできないだの、
 そんな甘ったれた思考は今すぐ捨てろッ!」

分かってなさそうなガキ呼ばわりされたリルム。
苦虫を噛み潰したように表情が歪み、ぐっと声を詰まらせる。
彼女の勘では、アルガスにそこまでの高尚な考えはない。
リルムに一泡吹かせたいからケンカを吹っかけてきている可能性すら考えたくらいだ。
だが、アルガスの言うメリットも、スコールを送り出す側としての心構えも理解できるからこそ、うまい反論ができない。

実際、アルガスは完全回復薬を手元に保持しておきたいという下心がある。彼女の勘は正しい。
スコールにも見抜かれていた通り、アルガスの望みはあくまで『自分が生きる事』であり、利害が絡めばすぐに自己保身にはしる。
だが、そこに付け入る隙をふさぎ、意見を押し通せたのは、圧倒的な情報量の差にほかならない。

半日通して、ヒマさえあれば読み込んでいた攻略本。
アイテムの使い方を理解できるインパスの指輪。
スコールからダイレクトに伝えられてきた脱出計画の詳細。
そして、攻略本に載っていないティナの魔石はリストには挙げておらず、不意打ち気味にリルムらに提示されたという状況。
これだけ材料がそろっていれば、ほかの面々の反論をねじ伏せるには十分足る。だからこそタチが悪い。

518 :小心者のてのひらの上 7/13:2019/10/27(日) 19:00:57.42 ID:GUT5Yso6J
「アルガスさん、ご高説は承りましたが、整理をする時間が必要です。
 実際に何を持っていくにしろ、この話は一度打ち切りませんか」

ここで助け舟を出すのはやはりプサンだ。
リルムとマッシュが反論せず、穴もなさそうに感じられたが、納得できるかはまた別の話。
皆がそろっているこの場で強引に決めてしまえば、間違いなく新たな亀裂が生まれる。
だから、この話は持ち越して、個別に説得しなおすつもりだ。

「まあ、頭を冷やす時間は必要か。
 これまで指導者の義務について考えることなどなかっただろうし、いい機会になったろう」
アルガスも得意げな笑みを隠しきれていないので、これ以上追及してくることはないだろう。
二人のケアをロザリーにも目配せすると、ロザリーは少し疲れた表情で応じる。

身分か、それとも私怨か、アルガスはリルムにやたらと辛辣にあたる。
一方でロザリーやマッシュにはリルムほどあたりは強くない。
仮にロザリーとアルガスが和解をしていなければ、今以上に紛糾していただろう。
直前に多少強引にでも友好を演出したのは間違っていなかったと確信する。

元の姿を取り戻せば、バッツの魔力を満たす程度の用意は可能だ。
だから、エリクサーと魔石、どちらを選べども詰むことはそうそうない。
後は最もティナを知る友人たちの――マッシュ、リルムの判断に任せる。
そう考えて、彼は論議を打ち切った。

519 :小心者のてのひらの上 8/13:2019/10/27(日) 19:02:48.43 ID:GUT5Yso6J
「人員配置、必要な物資については理解しましたが、具体的な実行時間はいつごろですかね?」
「魔女の眠っている時間か? 確認する必要があるが……、昨日と同じならば、タイムリミットは午前11時あたりだな」

「主催者は私たちを監視しているのですよね? 首輪を外していない皆さんの動向次第なのではないでしょうか?」
魔女が小動物の目を用いて、参加者を監視しているのであれば、大規模な戦闘が起きれば当然そちらに興味が移るだろう。
裏を返せば、全員が平和に次の世界に移動すれば、しばらくの間、魔女は興味を失うのではないかという意見だ。

だが、プサンは眉間に薄いシワを刻み、煮え切らない返事をおこなう。
「主催者は死者が出ないことに苛立って、放送をおこないました。
 あの言い分が本当なのかは別にしても、戦闘の回避を期待するのは現実的ではないでしょうねえ」

主催者は、殺し合いを促すために介入できるというのがプサンの見立てだ。
例の放送の内容を素直に解釈すればその見立てにたどり着く。
放送内容はただの建前に過ぎないことは、プサンもいくつかの不審な点――ユウナやザックス、クリムトの推定死亡時刻――から勘付いているが、建前に使うくらいなのだから介入できるのだろう。
たとえば、旅の扉の数と位置を少し工夫するだけいいのだ。
仮に、何もなかったとして、次の世界に降り立った途端にセフィロスが隣に転移してくるかもしれない。
平和な世界移動はないものと考えていいだろう。

520 :小心者のてのひらの上 9/13:2019/10/27(日) 19:04:05.84 ID:GUT5Yso6J
「ちょっと待ってくれ、かなりスケジュールがタイトじゃないか?
 その考えだと、旅の扉はここには出ないんだよな?
 それで午前11時がタイムリミットってのはまずくないか?」

マッシュの呈した疑問は当然誰しもが抱くだろう。
アルガスは待ってましたとばかりに、頬を緩ませ勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。

「無論、それについても考えてある。
 旅の扉には向かわず、ここから直接ザンデのところに行って準備すればいい。
 夢を経由すればどこからでもいけるんだからな」


計画のためにはスコールとリルムは絶対に死なせてはならない。
無論、殺人者たちを除いてできる限り生き残ってもらわないと困るが、それを差し引いても二人は特に優先される。
全員まとめて旅の扉へ向かい、殺人者たちの襲撃に巻き込まれるリスクを負う必要などない。
最初から向こうでスタンバイしていればいい。

「ふむ……もし人数制限がないのであれば、全員でお邪魔してもよいのでは?」
「ああ、そうだな。というより、ザンデ自身に害がないと分かった以上、そうするべきだと思っている。
 バニシュとやらをかけて普通に旅の扉に向かうよりもより安全だからな」

アルガスは当初、ザンデの存在を認知していなかったし、認知後もザンデを信用していなかった。
スコールにザンデの信用を保証されたことで、新たな方法が浮かびあがった。

ヘンリーあたりにウネの鍵を渡し、首輪を外した人物と必要な物資を全て夢に招き入れる。
その後、ザンデに鍵を譲渡し、全員がザンデの元へとわたる。
ザンデのいる場所へ移動したら、あらためてアルガスが鍵を受け取り、
魔女の就寝の監視と連絡役を担うという構想だ。

521 :小心者のてのひらの上 10/13:2019/10/27(日) 19:05:09.57 ID:GUT5Yso6J
「あの……念のためですが、もし旅の扉を使うとなった場合、何に気をつければよいのでしょうか?」
ロザリーがおずおずと尋ねる。
首輪を外した人物が、どのように旅の扉に向かう予定なのかを知らないがための質問だ。

「……そこのガキからバニシュとかいう魔法をかけられたら、身体が透明になるから、そのまま旅の扉に向かえ。
 問題は、次の世界へ降り立った直後だな。まず魔法が切れていないかどうかを確認しろ。
 魔法が切れていたら、急いで他のやつらから離れて、身を隠せる場所を確保するんだ。
 もちろん、次の世界がどんな世界なのか分からない以上、考えられるリスクは無限大になってしまうが……。
 拠点までたどり着けば、あとは今と同じだな」
「ん? なんか色々と注意が足りてなくないか?」
「お蔵入りの案かもしれないからって、肝心なところをテキトーに流したらダメだろー」
説明を求められ、アルガスが答える。
そこに疑問や批判を差し挟むのは、マッシュとリルムの二人。

「は? 今の説明のどこに不備があるってんだ?」
「どこに……って、最初がダメダメじゃん。
 バニシュ使うなら、絶対に魔法に巻き込まれるなとかケフカを見たら急いで離れろとかいろいろあるだろ。
 次の世界で魔法が切れるかもってのも意味不明だし」


バニシュは対象に周囲の景色を投影する魔力をまとわせる。
そのまとった魔力が他の魔法の魔力も引き込んでしまい、抵抗力が格段に弱まるという副作用が存在する。
かつ、余計な魔力を引き込むんだ結果、投影の魔力が霧散してしまう。
すなわち、絶対に魔法を受けてはならないし、ケフカからデスやデジョンでもくらおうものなら取り返しのつかないことになる。
そのことに対する注意喚起が足りないとリルムは主張している。


「何を言ってる? 透明になる魔法だぞ? 魔法が厳禁なんて聞いたことがない」
アルガスのイメージする透明は、高級貴族の令嬢が有事の備えとして身につけるという、セッティエムソンの効力。
香水の成分が視覚に作用するらしく、息を殺して静かに移動する程度ならば視界に映らなくなる。
一方、激しく動いたり怪我を負って動揺することで生じた汗が香水の成分が変化させ、効力が失わせてしまう。
つまり、魔法が極端に効きやすくなったり魔法で透明の効力が切れるという認識はアルガスにはない。

522 :小心者のてのひらの上 11/13:2019/10/27(日) 19:07:11.90 ID:GUT5Yso6J
「それに、旅の扉に入ったことで効力が切れる魔法は存在する。
 俺自身の支給品がそうだったし、攻略本にも載っているんだ。
 今回使う魔法が大丈夫だという根拠こそ、どこにもないと思うがな」
アルガスの支給品は目薬草と地獄耳の巻物だった。
浮遊大陸に降り立った瞬間に、これらの効果がなくなったことで不便な思いをしたのは身に染みている。

ロザリーも口を挟むことはないが、ザックスが今の世界に降り立ってようやく口を開けるようになった件を知っている。
少なくとも勘違いではないことは理解している。


アルガスとリルム、もはや視線でバチバチと火花を散らす二人の間に、またもプサンが割って入る。
「あー、よいですか? おそらく、各々の世界で原理が違っているのでしょう。
 今回はリルムさんの扱う魔法なのですから、リルムさんの注意を聞いたほうがいいか、と」
プサンの結論を聞いて、ご機嫌そうに鼻を鳴らすリルム。
アルガスは不機嫌そうにノドをうならせる。

「ですが、この世界は魔女によって創られたものです。
 実際に世界を移動して魔法が切れたという証言を軽視すべきではありません」
プサンの補足を聞いて、頬を膨らませて口を尖らせるリルム。
アルガスはそれ見たことかと、冷笑を浮かべる。


アルガスの知識は自身の経験を除けば、攻略本とインパスの指輪に依存する。
リルムは魔法の知識は豊富だが、道具の知識は人並みだ。
つまり、二人は得意分野が違っているわけだが、互いに頭を押さえつけようとする。


次点の方法で対立する、犬猿の仲としか表現しようのない二人。
マッシュは天上を見上げて目をつぶっている。
ロザリーは余計なことを聞いたかという自責の念に駆られつつ
「二人とも、ご説明ありがとうございます。
 リルムさんに魔法をかけてもらったら、次の世界の拠点にたどり着くまでは魔法は厳禁。
 仮に魔法が解けてしまったら、魔女に見つかる前に隠れなくてはならない、ということですね」
と、強引にを打ち切る。

魔法を受ける可能性、次の世界で効力が切れる可能性、そして次の世界の地形が分からないリスク。
ロザリーもマッシュも、旅の扉での移動が次善の策となる理由自体は納得した。
ザンデのいる場所に逃げ込むことで、アーヴァインと直接顔を合わせる機会を減らすという小心な打算はついぞ気付かれなかった。

523 :小心者のてのひらの上 12/13:2019/10/27(日) 19:11:18.60 ID:GUT5Yso6J
打ち合わせが終わっても、やることはいくらでもある。
他の面々への案の説明――すなわち、旅の扉での移動を要請される可能性を潰すための説得。
スコールに渡す回復アイテムの調整――つまり作戦を成功に導くための物資配分。
夢における連絡窓口の確立――要は、誰と会おうと考えながら眠れば夢の中に招かれるかの調整。
スコールが作戦に成功したときの連絡手段の確立――支給品を使うか、夢を使うか、誰ぞの能力を使うかの決定。
錬金釜と攻略本がそろったことによる物資の調達――要するに魔女との戦闘を見越した戦力の強化。
ザンデの機嫌を取るための『贈り物』の準備――たとえば錬金釜などの興味を抱きそうなアイテムを『誠意』として送る構想。
万全を期すためには、やるべきことがいくらでも思い浮かぶ。


アルガスの保身がメンバーの安全と利害が一致していたために、彼の意図は白日の下にさらされることはなかった。
ギードのような賢者ではなく、スコールのような英雄でもない彼が生き残るため、彼なりに考えぬいた結果だ。
作戦の本番までに何が必要なのか? 見落としはないのか?
戦場にはじめて配属された新兵のように、何度も何度もシミュレーションをおこなう。

腕時計を確認。放送まで残り三時間を切った。
四日目からは、一気に魔女への反抗が始まるのだろうか。
そう思うと、意識せず身体がぶるりと震えた。

524 :小心者のてのひらの上 13/13:2019/10/27(日) 19:12:27.55 ID:GUT5Yso6J
【ロザリー(首輪解除)
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、しっぽアクセ(E)、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン、聖者の灰
 第一行動方針:スコールの作戦の準備
 最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※【闇】の残り魔力は少量です。

【プサン(HP1/3、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
 所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、水のリング
 第一行動方針:スコールの作戦の準備
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リルム(HP1/2、右目失明、MP1/4、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、(E)命のリング、リノアのネックレス、フラタニティ、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、
     不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:スコールの作戦の準備
 第二行動方針:アーヴァインとティーダにユウナの事を伝え、遺品を渡す/スコールにアンジェロの遺品を渡す
 第三行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】

【マッシュ(HP1/8、右腕欠損、首輪解除)
 所持品:エリクサー】
 第一行動方針:スコールの作戦の準備
 最終行動方針:ゲームを止める】
【アルガス(左目失明、首輪解除)

 所持品:E.インパスの指輪、E.タークスの制服、E.高級腕時計、草薙の剣、ももんじゃのしっぽ、カヌー(縮小中)、天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:スコールの作戦の準備
 第ニ行動方針:派閥の拡大
 第三行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:南東の祠最深部の部屋】

525 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/11/15(金) 01:14:22.27 ID:0230NlaVf
一応保守
FFDQ3   730話(+ 2) 19/139 (- 0) 13.7

526 :訃報 1/10:2019/11/26(火) 23:41:37.20 ID:TOeBl6svE
俺たちは今、バラムガーデンの教室にいる。
正確に表現すれば、バラムガーデンを模した夢の世界ということになる。
ラグナロクの艦内から、ガーデンへと背景を変えたのだ。


アルティミシア城の侵入計画の打ち合わせについて、当初は言葉で説明をしていたが、
ふとモニターやスクリーンがあれば便利だろうなと思った。
アルガスだってハンディムービーカメラを創っていたのだから、機材を持ち込むことだってできるのではないか。
そう考えていたら、ラグナロク艦内からバラムガーデン教室内へと風景が変わり、なじみの机とコンピュータが現れていたというわけだ。
ラグナロクの艦内にもそういう目的の一室こそあったが、やはり俺にとって最も馴染み深いのがこの教室ということなのだろう。


「以上だ。他に質問はないか?」
「う〜、これ根本から覆すようなこと言っちゃうんだけどさ、他の方法はないわけ?」
「もちろん、危険なことは承知の上だ。
 目先の安全策を取るのであれば、他にもやりようはあるだろう。
 ただし、魔女への反抗が露呈するリスクは時間と共に高まっていく。
 魔女の就寝時間にもよるが、動くのであればできるだけ早いほうがいい」
「なんか煙に巻かれてるような気がしなくもないけど……。
 いいよ。ちゃんとサイファーたちにはちゃんと伝えとく。でも絶対に早まっちゃダメだからね?」

リュックの場合、納得8割、懸念2割といったところだろうか。
完全に納得させることはできなかったが、ともあれこちらの案には協力してくれるようだ。

527 :訃報 2/10:2019/11/26(火) 23:42:32.40 ID:TOeBl6svE
計画の進行に関する疑問も出たが、同程度に俺の身の安全に関わる疑問がいろいろと噴出した。
魔女の城の警備をかいくぐることは可能なのか?
魔女の部下の弱点を把握していたとして、それを突く手段はあるのか?
首輪の制御システムは魔女の城のどこにあるのか?
それを破壊できたとして、仲間に伝える方法はあるのか?
本当にチームでなく、単独で敵地に侵入して大丈夫なのか?

やはり図解を交えたことで理解速度が上がったのだろう。
リュックだけでなく、途中から戻ってきたザンデからも意見を受け、都度計画に微修正を加えた。


リュックには現実世界にいるサイファーとロックに結論を伝えてもらう役割もある。
控えめに言って、嫌な役割だろう。
ロックがどう受け取るかは分からないが、サイファーは激昂するのではないか。
だが、首輪解除に成功した生存者が過半数に達すると魔女の介入が起こりうるという予測を立てたのもサイファーだ。
仲間の心情を見透かしたかのような事態の運びには若干の自己嫌悪を覚えつつも、方針は揺らぎない。


「じゃ、あたしもそろそろ起きなきゃね。……っと、その前にティーダにもひとこと挨拶しないとね」
ティーダとウネ、それとアーヴァインはこの教室にはいない。
時計の長針がXIにさしかかったころに、二人にはアーヴァインを担架で保健室へと運んでいってもらった。
別にアーヴァインの容態が急変したわけではない。
隣でてんやわんやしていては眠れるものも眠れないのではないか、という理由もあるし、
俺としても、然るべき場所で少しでも静養してほしいという思いはある。
それから、アルガスとマッシュが万一先行して入ってきた場合に予想されるトラブルを避けるという意味合いがある。


教室の入り口へと移動していたリュックだったが、
「ひゃあっ、ナニコレ!? びっくりしたぁ!」
突如大声をあげ、自然と俺たちの視線もそちらへ向く。
二人がもう来たのかと思ったが、俺の予想に反して彼女の目の前に現れていたのは、
竜の意匠を象った豪華な扉と、両開きの古めかしい重厚な扉だった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

528 :訃報 3/10:2019/11/26(火) 23:43:24.90 ID:TOeBl6svE
「なんだ、ソロじゃ〜ん! よかった、心配してたんだよ」
「リュック? それに、スコールにザンデさん!? 一体ここは……?」


扉から出て来たのは、二人の緑髪の男、ヘンリーとソロ。
初めてこの世界に入ったときの俺、あるいは仲間たちのように、ソロもまた目を丸くし、視線はあっちへこっちへと定まらない。
若干混乱はしているようだが、二人してここに来たということは、安全な場所にいるという証左に他ならない。

「あー、分かるよ〜。ソロも眠ったら空飛ぶ学園みたいな乗り物の中に招待されて、びっくり仰天でしょ?」
「え、学園なんですか? 他の世界では、学園が空を飛ぶんですか……?」

それは他の世界の学校というよりも、シェルターを改造したガーデンが特殊なだけだとは思うが……。

「夢みたいな光景でしょ?
 あ、そうそう、首輪はないから安心してしゃべってだいじょぶだからね!」

色々と衝撃が大きかったのか、首輪がないことにはじめて気付いたようだ。
もっとも他の仲間たちも、言及されてはじめて首輪の件に気付いたのだったか。


「夢みたいというか、ここは夢の世界さ。俺もはじめて来たときは驚いたもんだ」
「夢……つまり、ロザリーさんのチカラのようなもの、ですか。
 スコールさんとザンデさんは首輪を外したから放送で名前を呼ばれた……と」
「私の首輪は外れてはおらぬがな。
 もっとも、魔女の監視から外れたという意味ならそこの小僧と変わらぬか。
 ところで……」
ザンデから挨拶代わりに贈られるのは、もはや様式美と化しているライブラの洗礼だ。
眉を八の字にして困ったような表情を見せるソロ。
呆れたような表情のヘンリーに対し、ザンデは何の発見があったのか、アゴに手を当てて考え込んでいる。

529 :訃報 4/10:2019/11/26(火) 23:44:48.52 ID:TOeBl6svE
「なんか、あっさり受け入れてられてる?」
ラムザたちと比べて、ソロが随分あっさりとこの状況に適応できたことには、リュックだけでなく俺も驚いた。
似たような体験があるのか、それとも察していたのか。もちろん、順応が早いのならそれに越したことはないが。

「夢の世界も理解できますし、僕の世界でもお城が空を飛んでいましたので……。
 どういう原理なのかは全然分からないですけれど、そこは考えてもムダかな、と」
「ファファファ……夢の世界の機械に原理も何もなかろう。
 そこの小僧がこの機械の設計を理解しているにしても、現実のこれは部品一つにいたるまで相当な緻密さを以って組み立てられているはずだ。
 それを再現しようとすれば、一日やそこらでは足りぬわ」
「おう、要は夢だから気にするなってことか。なんか、身も蓋もない回答だな」

ザンデの指摘にヘンリーが苦笑するが……。間違ったことは言っていない。
俺自身、ラグナロクやガーデンがどういう仕組みで動いているのか分からないのだから、細部まで再現できるわけがないだろう。


「そういや、ティーダのやつと、ウネの婆さんはどこにいるんだ?」
「あの二人は保険室。アーヴァインが寝てるから、付き添い。
 いくら夢の中とはいったって、座席で寝るよりはベッドで寝たほうがよく眠れるだろうしね」
「あの、すみません。ティーダにアーヴァイン……ですか?」

呼ばれた名前二つに驚くソロ。
あいつのおかれた状況を知っているならば、少々不自然な反応だが……。
「ヘンリー。ティーダやアーヴァインの件はまだ話していないのか?」
「ああ。それを監視の目なしに話せるように、こっちに連れてきたんでな」

なるほど、まだ情報が満足に行き届いていないらしい。
情報自体は密に共有するようにしているが、それでも個々の理解状況を含めて、おおよそすべてを把握しているのは俺とアルガスだけだろう。
もう少しだけこちらに留まるべきだと考え、研究メモ裏面の余白に延長する旨を書き記し、現実世界へ送る。

530 :訃報 5/10:2019/11/26(火) 23:45:41.84 ID:TOeBl6svE
「ヘンリー、あんたに二人の説明は任せる。
 ソロ。俺はあんたが何をどこまで知っているのかは関知していない。
 だが、すべてを話すにはさすがに時間が厳しい。
 放置する形にしてしまうのはすまないが、承知して欲しい」
「それについては大丈夫です。現実で話せない理由は分かっていますから」
「首輪の仕組みだけは伝えた。さっき向こうで三人分の首輪を外したからな。それとは別件で、城のほうで死者も出た。
 これからどちらも放送で呼ばれるんで、早めに伝えとく必要があると思ったんだよ」

なるほど、向こうは向こうで、俺の眠っている間に状況が進んでいたのか。
ならば、まずはリュックらへと伝えるべき情報――誰が首輪を外したのか、そして死者は誰なのか――を優先すべきだ。
ただ、拠点のどちらも襲撃を受けた気配はない。
死者として候補に挙がる者は自然と絞られる。

リュックもそのことには気付いているのだろう。
身を硬くし、ヘンリーの言葉を待つ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

531 :訃報 6/10:2019/11/26(火) 23:48:12.29 ID:TOeBl6svE
「リュック。大丈夫か?
 つらいようなら、しばらく休んどくか?」

クリムト、ザックス、ユウナ、そしてアンジェロ。
死を予想していた者もいたし、そうでない者もいる。
俺とて、このまま一人で自室のベッドに寝転びたくなるが、それが許される状況ではない。
肘を支えに両手を組み、自席に深く腰を下ろす。


「さっきの、ユウナの呪いってやつね。覚悟はしてたんだよ。
 あれはユウナなんだって、あたしも分かっちゃったんだよ。
 ユウナが人をうらんで呪いをまき散らす様な子じゃないって信じてるからさ、そうすると答えは一つしかなかったんだよ」
「そう、か……。いきなりつらい話をして、すまないな」

ヘンリーが俺とザンデを制し、リュックの話を引き受けている。
妻子持ちの年長者として、人生経験も豊富に積んでいるからか、
俺の身内がユウナに殺されたことを慮っているのか、
あるいは俺やザンデが話を聞いてもややこしくなるだけだと考えて自分で請け負ったのか。

ザンデが俺の隣に座り込む。
座席のコンピュータを起動し、バラムガーデンネットワークを模した作戦ページを開いているようだ。
彼の身内は犠牲者の中にはいないが、誰彼構わずいきなりライブラをかけるような男だ。
ヘンリー自身、さほどいい印象を抱いてはいないらしい。
落ち込んでいる人間に向き合うには、不適格ということなのだろう。


「きっと、ユウナは絶望してしまったんだよ。
 ティーダに想いを伝えられないまま、変わり果てたまま、こんな世界で命を落とすことになっちゃってさ」
「ああ……そうかもしれないな」
「【闇】ってみんなが言ってるやつね、あたしの世界……スピラにも似たようなのがあるんだ。
 それに触れると、絶望が心の中に入り込んできてさ、まわりの人たちを憎むようになっちゃうんだ。
 スピラのはとんでもなく強すぎるから、自分がおかしくなっていくのも分かるんだけどね。
 この世界のは、知らないうちに侵食されてしまうんじゃないかなって」
「んん? 人を殺したとか、そういうのも関係なく、か?」
「その辺はほら、そういう心の隙間に入り込んでるだけなのかもしれないよ。
 といってもスピラのと、この世界のとでは全然違うって可能性もあるんだけどさ」

532 :訃報 7/10:2019/11/26(火) 23:49:39.70 ID:TOeBl6svE
リュックのいた世界にも、あのユウナの呪いのようなものが存在しているらしい。
実際に比較して確かめられない以上、参考程度だろうが、彼女は何かしら確信を持っているようだ。
「ね、ソロ? ユウナんの身体のそばに、女の子の影みたいなものが見えたんだよね?」
「はい。僕はあの影がユウナさんだとは思えなかったのですが……」
「ううん、きっとそれは半分は間違いなんだよ。
 なんて言えばいいのかな……ユウナであって、ユウナじゃないってやつ?
 憎しみとか、哀しみとか、強すぎる想いはひとりでに動き出しちゃう。
 まわりの想いも巻き込んじゃうから、本人が消えたいと願っていても、自分じゃ消えることができないの。
 でも、影は消せる。太陽が照らせば、影は消えるの」


強すぎる想いはひとりでに動き出す、か。
リノアもそうなのだろうか、昨日、聞こえた声はG.F.に宿った記憶などではなく、やはり彼女本人の声なんだろうか。
もしかして、リノアもこの世界に縛られて、どこかをさまよっているのだろうか。
リノアがまわりの人間を引きずりこむようなことはさすがにないと思うが、そんなことを考えてしまう。

アンジェロの死を聞いて、押し込めたはずの想いが表に出てきてしまっているのかもしれない。
風景をガーデンという場所に変えたことで、彼女の幻影を追ってしまうのかもしれない。
あるいは、もっと単純に、時間が多少有り余ったことで、いろんな考えが頭の中によぎるだけなのか。


「ティーダにはさ、あたしから伝えてくる。
 きっと、そうしないといけないと思うんだ」
「分かった、じゃあ、あとはリュックに任せる」
「任された。じゃ、また向こうでね」

リュックに、先程までの沈んだ雰囲気はない。
従来の明るさに、決意の加わったような前向きなイメージを表出している。
肩越しに手を振りながら、正面の扉から堂々と退室していった。

533 :訃報 8/10:2019/11/26(火) 23:51:07.43 ID:TOeBl6svE
「彼女、持ち直しましたね」
「すべて吐き出すことで、心の整理がついたのであろう」
「そういえばヘンリーさん、何も言ってませんでしたよね」
「元々強い子だったんだよ。なら、余計なことは言わずに聞きに徹するのが大人の対応ってもんだ」
ザンデがしれっと会話に混ざりつつ、ソロらがリュックへの所感を述べている。
確かに切り替えは早いが、【闇】の発生するような過酷な世界にいたためだろうか。


「スコール。眉間にシワが寄ってる。
 お前も何か吐き出したいなら、聞くことくらいはできるぞ?」
どうやら表情に出ていたらしい。
昔のように全部一人でできなければならないと主張するつもりはないが、過剰に気を遣われるのは億劫だ。

そもそも、聞くって何をだ。俺の考えていることを全部聞くのか?
リノアやアンジェロのことを吹っ切るために、彼女らのことを話せばいいのか?
できるわけないだろ。絶対に逆効果だ。
……感傷に浸るのはいい加減終わりだ。

「俺は問題ない。それより、あんたたちに今後の動きを説明する。
 ザンデ、事が済んだらひとまずあんたに鍵を預けておく。
 アーヴァインやリュックがまだこの世界に残るようだからな。
 アルガスたちが来るはずだから、放送までなら要員や物資移動のリハーサル等をおこなってもらっても構わない。
 鍵の使い方は知ってるかもしれないが、ぶっつけ本番で使うこともないだろう」
「ふむ……では、使い倒させてもらうとしようか。
 必要な人員にこちらに来るように伝えよ。
 物資の移動の段取りを詰める時間も必要であるはずだ。しばらくはここで待機していよう。
 保健室とやらは作り変えることになるが、ウネがついていれば問題なかろう」

あの宇宙のような空間に初見で対応しろというのは難しいだろう。
俺は術者が作ったゲートを潜るだけだが、感覚を掴むために、一度ザンデの元へ行ってみるのはそう悪くはないはずだ。

時間が経てば経つほど、魔女に露見する可能性も上がるし、犠牲者だって増えるかもしれない。
予定よりも首輪を解除した人数が多く、その内訳は非戦闘員ばかりという不安もある。
感傷を振り払うように、ソロたちにもう一度話をする。

死ぬも生きるも、あと数時間後の本番次第だ。
それまで、ただただ邁進しよう。

534 :訃報 9/10:2019/11/26(火) 23:52:13.81 ID:TOeBl6svE
【スコール (微度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング、ウネの鍵、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)
 第一行動方針:単独脱出計画の準備をおこなう
 第ニ行動方針:首輪解除を進める
 基本行動方針:ゲームを止める】

【ソロ(HP1/2 MP1/10 真実の力を継承、睡眠中)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:休息する
 第ニ行動方針:サイファー・ロック達と合流する
 第三行動方針:ケフカを倒す/セフィロスを説得する
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】

【ヘンリー(HP3/5、睡眠中))
 所持品:水鏡の盾(E)、魔法の絨毯、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、筆談メモ、
     ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、ミスリルアクス)
     リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ケフカのメモ)、
     レオのザック(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在地:南東の祠】


【ザンデ 所持品:無し
 第一行動方針:スコールに協力する
 基本行動方針:ウネや他の協力者を探し、ゲームを脱出する】
【現在位置:????】

535 :訃報 10/10:2019/11/26(火) 23:52:56.54 ID:TOeBl6svE
【リュック(パラディン、MP9/10、睡眠)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、破邪の剣、ロトの剣
 第一行動方針:ユウナの訃報をティーダに伝える
 第二行動方針:皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】

【アーヴァイン (変装中@白魔服、MP1/8、半ジェノバ化(中度)、
 右耳失聴、一時的失声、睡眠、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、空き瓶×1
 第一行動方針:Zzzzz…
 第二行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・理性の種を服用したことで記憶が戻っています。
    ・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
【現在地:南西の祠】

536 :Griever Necklace & ring 1/4:2019/11/27(水) 21:16:41.39 ID:tJNlGHRYL
『最後に一つだけ。起きたら必ずリルムちゃんには必ず声をかけてほしい。
 あなたに渡すべきものがあるから』

ソロから言われたとおりにリルムに声をかけ、手渡されたのは、銀の鎖のネックレスだった。
架空の生物、ライオンを模したレリーフの付いた指輪が鎖に通されている。
リノアが付けていたネックレス。


『元々はティーダさんが持っていたんじゃないかと思います。
 アンジェロが受け取っていたのを目にしましたので』

『そのまま供養する手もあったんだが……、なにせ、ライオンの指輪のついたネックレスだ。
 ペット用の装飾には見えなかったし、もしかしてお前に縁のある人のものかもしれないと思ってな』

『そのネックレスというか指輪? そこに彫られた強そうな動物が気になったからよく覚えてるんだよね。
 最初はゼルがね、はんちょーに責任持って返さないといけないんだって大切に持ってた。
 まあ、最初に回収したのはモヤシなんだけどさ』

何人かの話を総合すれば、やはり類似品などではなく、リノア本人のネックレスに間違いないようだ。
それぞれの話を総合すれば、どのような軌跡をたどってきたのかは分かるが、それにしてもどれだけの奇跡が起こったのだろう。
一時は、二度と戻ってくることはないと思っていたそれをぐっと握りしめる。

537 :Griever Necklace & ring 2/4:2019/11/27(水) 21:18:28.44 ID:tJNlGHRYL
『僕は、個人的には反対なんです。
 作戦内容そのものは合理的なんでしょう。
 けれども、あなたが生き延びることが考慮されていないように感じるんです』
『向こうでの詳細な行動までは詰めきれないからな。そう感じるのは仕方がない。
 ある程度は現場で柔軟に判断するしかないし、そこまで計画を立てようとするといつまで経っても実行できなくなる。
 今回以上に無茶なミッションの経験だってある。心配はいらない』


ガルバディアガーデンとの交戦、リノアが死んだように眠り続けていたあの日、俺の世界から色という色が消えた。
彼女を取り戻すことができるのであれば、得体の知れない国家や、それこそ宇宙であっても、向かう覚悟があった。
彼女が宇宙空間に投げ出されたとき、宇宙の漂流者となってしまうと分かっていても、出て行かずにはいられなかった。
飛空挺ラグナロクでなんとか命を拾ったとき、この先も彼女と二人で生きていきたいと思った。
国を敵に回したとしても、二人で生きて生きたいと思ったのは確かだ。

翻って、今はどうだろう。
Seedとして、魔女は倒さなければならない。
だが、魔女を倒したとしても、その後に残るのはリノアがいない世界。

全力を以って事に当たるのは当然だ。
だが、力及ばずに倒れたとき、俺はそれを受け入れるのではないだろうか。
スコールの犠牲を忘れない、そんな言い方を受け入れてしまうんじゃないだろうか。
サイファーやアーヴァインをはじめとして、マッシュやリュック、バッツ、他にも大勢の頼れる仲間たちがいる。
彼らなら、俺が失敗しても、その後をついできっと魔女を討伐すると確信している。
未練を抱かず、逝ってしまうのではないだろうか。
そう思っていた。


今回の作戦は、いわば捨て身の作戦。
成功した際の効果は比類なく高いが、俺が命を落とす可能性も高い。

言ってくれなければ分からない、そう指摘されることは多々あったが、目は口ほどにものを語ってしまうそうだ。
ソロがどう解釈したのかは分かった。
俺が死に場所を探しているのではないか、と、そう受け取ったのは間違いないだろう。

538 :Griever Necklace & ring 3/4:2019/11/27(水) 21:19:26.67 ID:tJNlGHRYL
ゼル、ティーダ、アンジェロ、アーヴァイン。
皆自分が生きることで精一杯だったはずなのに、皆でこのネックレスを俺の元まで繋いだ。
これが俺の手の中にあるということが、彼らの意志の証だ。
それとも、これはあんたの意志なのか?

このネックレスをひとつで、黒く塗りつぶしていたはずの心が塗りなおされていく。
俺が任務を遂行するにあたっては明らかに不要なはずの、だが手放したくない感情が再び呼び覚まされる。


俺がマッシュから受け取った魔石。
俺の知っている魔石とは桁が違うほどの力を秘めた温かい宝石。
形見どころか、俺たちの仲間そのものだ。
アルティミシア城へ行くのはお使いとはわけが違う。死地に赴くのと同義。

本当にいいのかと念を押して聞いたが、強い肯定と共に渡された。
こんな大切なものを渡されたら、簡単に死ねないだろ。
がんばったけどダメでした、では済まなくなるだろ。

ラグナもこんな葛藤があったのだろうか。
あの男に限ってと思わなくもないが、おふくろの死を知って、なお大統領としての責務を果たし続けたのはそういうことだろうか。


もしこれがあんたの意志なら、俺に何としても生きろと言っているのか?
あの時間圧縮の世界の狭間で、一人行き倒れた俺のもとにあんたが現れたように、
俺が生き続けた先に、あんたが助けを待っているのか?
そんなのは俺の都合のいい幻想にすぎない。そのはずなのに。
それでも、もう少しだけ、生き汚く足掻いてもいいんじゃないかと、そんな想いが俺の心の底に湧き上がった。
グリーヴァが鈍い光を放っていたように見えた。

539 :Griever Necklace & ring 4/4:2019/11/27(水) 21:20:10.56 ID:tJNlGHRYL
【スコール (微度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、ドライバーに改造した聖なる矢、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング、ウネの鍵、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)
 第一行動方針:単独脱出計画の準備をおこなう
 第二行動方針:首輪解除を進める
 基本行動方針:ゲームを止める】

【リルム(HP1/2、右目失明、MP1/4、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、(E)命のリング、フラタニティ、ティーダの私服
     ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、
     不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:スコールの作戦の準備
 第二行動方針:アーヴァインとティーダに遺品を渡す
 第三行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】

【バッツ(HP7/10 左足負傷、MPほぼ0、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ
     マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:南東の祠】

540 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/11/28(木) 00:10:51.47 ID:g0DLlg16X
投下乙!
安定と信頼とライブラ狂でも勇者で天空ハーフのソロはやはり興味深い人材なのかな
そして夢世界とはいえしれっとネット使いこなしてるの、絵面で想像するとワロタ

正直ふて寝したい気分になってるスコールがちょっとかわいいけど、
本当にそういう状況じゃないのが悲しいなあ
ソロの言葉とリノアのネックレスとティナの魔石で色々自覚を持ってくれたことだし、なんとか生還してほしい

それはそれとしてソロはアービンたちの現状を知ることになるだろうけど、カパロスのことはどう考えるのだろう?
今後が気にならざるを得ない

541 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/12/24(火) 00:50:03.10 ID:k1tJ+W89g
放送前におこなうべきイベントは大体消化してそうなので、第六放送のたたき台を保管所においてみました。
OKならすぐに投下するという類のものでもありませんが、ご確認いただけますか。
たたき台なので、もっといいのがあれば書いてくださってもかまいませんし、
今作品を書いてる方、あるいはプロットがある方がいらっしゃれば三ヶ月くらい待てます。

・1レス目、呼ばれるキャラに抜け漏れも順番違いもないはずですが、何かあればご指摘ください。
 アンジェロは呼ばれないはずです。

・2レス目、ルールに関係するので、このレスは丸ごと抜いても話が通じるようにしております。

・3レス目、旅の扉の場所は一例です。
 従来どおり5個くらいあっても問題ありません。
 ちなみに628話より、各ほこら→デスキャッスルまで一時間半なので、距離は問題ありません。

たたき台で問題なく、かつ作品を書く人もいなければ早くて年始くらいに投下しようかと思います。
なお私は今書いてるので、実際は進捗次第になります。
よろしくお願いします。

542 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/12/24(火) 00:51:13.02 ID:k1tJ+W89g
保管所
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/22429/1115085648/243-245

543 :亀裂の埋め方1/6:2019/12/28(土) 20:51:24.34 ID:2RjQEfMPw
緑に囲まれた校舎、その清涼な雰囲気の保健室。
外からは太陽の光が差し込んでいるけれど、時計の短針は3を回って4に近くなっていたころだっただろうか。
アーヴァインをベッドに寝かせて、一息ついていた俺の元に、目を腫らしたリュックがやってきたんだ。
その雰囲気からして、きっといい知らせではないんだろうな、と覚悟はしていた。


なんていうのかな、ユウナには悪いけど、彼女の訃報に対する驚きはなかった。
気力を失うってんのかな、全身の力が抜けていったのは分かったけど、同時にどこか納得してしまったのを覚えている。
少し後に彼女の遺品も渡されて、ユウナの死は揺るがない事実となったけれど、俺の心が折れることはなかった。
スコールの言ってたように、最悪の可能性を覚悟しておいたことで、ショックが和らいでいたのかもしれない。
彼女が生きたまま救われることはもうない、彼女をスピラに帰すことはできないということは、今も心にチクリと刺さるけれど。

『ねえ、さっき言ってたこと、覚えてるよね。
 俺が出来る事ならなんでもやるって、生きてるなら絶対助けるって』
ああ、言った。
空元気みたいに無理やりひねり出した言葉だったけれど、確かに言った。
時間をおいた今でも、訂正する気は微塵もない。

『あの影が本人でも、呪いでも、元はきっとユウナなんだよ。
 解放できるのは、きっとティーダだけなの。
 ユウナはもう生きてはいないけれど、それでも助けてあげてほしいんだ。
 そりゃさ、あたしもできる限りのことはやるよ。
 でも、ユウナが苦しんでるならさ、解き放ってあげられるのはやっぱりティーダなんじゃないかなって』
俺がどれだけユウナを傷付けてしまったかをリュックは知らなかったのか、
それともアービンかあたりから聞いて知った上で言っていたのか、それは分からないけれど。
『ユウナは絶対に助けっからさ。だから、リュックも不安そうな顔、すんなよ』
一体どの口が言ってるんだという叱責が頭に浮かんだけれど、
ユウナのガードとして、大見得を切る以外の選択肢は浮かばなかった。

544 :亀裂の埋め方 2/6:2019/12/28(土) 20:52:55.43 ID:2RjQEfMPw
リュックはうんうん、と頷いて、
『そういえばさ、ティーダがいなくなった後のことさ、聞いてる?』
ふと思い出したように俺に尋ねてくる。
『ユウナからスピラについては少しだけ聞いたけど……そういうことじゃないんだよな?』
『そっかあ、そりゃあ本人から言うワケないか。
 じゃあ、知ってあげてよ。ユウナが、ティーダのことずっと探してたってことをさ。
 スフィアに映ったほんの少しの手がかりから、なんとかもう一度会えないかってスピラ中を飛び回って……』

リュックの口から語られるユウナの姿は、俺の抱いていた印象とは全然違った。
俺を手本に剣を習ってみたとか、ワッカに頼んで水中で動けるように訓練してもらったとか……
言葉遣いまでマネされるとさすがに恥ずかしいんだけど……。

俺がいなくても元気にやってたのかなって、浮遊大陸で再会したときはそんなふうに安心してた。
雰囲気の表面的な変化に流されて彼女のことはしっかり見ていなかったことはあらためて突きつけられた。


『ちなみにさ、そのシューインってやつはどうやって成仏したんスか?』
『1000年来のカノジョに手を握られて説得されて納得してたよ。……もしかして自信ない?』
『いや、そういうこと意識してユウナと接してたってわけじゃないから、むしろその場での雰囲気と勢いっつーの?
 あらためて説得と言われるとどうすればいいのかなってさ』
『だーいじょぶだって。ティーダ、ユウナんのこと嫌いになったわけじゃないんでしょ?
 だったら、ちゃんとティーダの気持ちを伝えてホレ直させるの。
 シンを倒すのに比べたらちょちょいのちょいっしょ』
比較対象がぶっ飛びすぎて思わず納得してしまいそうになるけどさ、結構とんでもないこと言ってないか?
シンを倒すのと比べると、って言うけどさ、よく考えたらそもそも俺が無事じゃなかったし。

ホレ直させるってどうすればいいんだ?
どうやってって、聞くなよなってやつなのか?

545 :亀裂の埋め方 3/6:2019/12/28(土) 20:56:42.28 ID:2RjQEfMPw
「で、それを俺に聞くのか」
「ごめん! 俺一人で考えても全然ダメだし、今この話できそうなのアンタしかいないんだよ!
 アービンは魔物化だとか色々あって今はちょっと相談しにくいし……」

ティーダがロックに頭を下げる。
リュックはとうに夢の世界を去っている。
入れ替わりに休息と、『カギ』を借りてスコールの作戦に必要な物資を運んでくる目的を兼ねて入ってきたのがロックだ。
向こうではリルムやザンデ、ヘンリーやアルガス等、多くの人間が脱出計画のリハーサルをおこなっている。
ロックはゾンビーの魔法をドローできる死者の指輪と、ファイガの魔法をドローできるファイアビュート、この二つを引き渡してきたというわけだ。

今、彼らがいるのは真っ暗なベッドだけの空間。
この場所はザンデの知る時空の歪みのひとつ、エウレカ周辺で観測されたという歪みを模した空間だ。
アーヴァインはそのままベッドに、ティーダとロックは少し離れた場所に移動している。
つまり、カギを持つ者のあいだで、世界の一部の描画をベッドと暗闇の最小限にすると合意を取ることで、
誰がカギを持っても風景が変わらず、アーヴァインの眠りを邪魔することもないようにと考慮した結果である。
ティーダがここにいるのも、アーヴァインが起きたときにいきなり他者(特にアルガス)のところに顔を出さないようにと考えられた結果なのだが、彼らにはそれは伝えられていない。


「そんで、ある程度お前らと付き合いがあって、かつ部外者の俺にお鉢が回ってきたってことか。
 つっても、お前らの関係を何から何まで知ってるわけじゃないからな?」
「ほら、三人くらい告白して付き合ってたって言ってたじゃないッスか。女心ってのかな、その辺は詳しいのかなって思ってさ」
「どこで俺がそんなことを言ったよ……って、そこで寝てるヤツ発祥だったか。
 誤解してるようだから言っておくけどな、そのうちの一人とは恋愛関係ですらなかったからな?
 ……まあ、俺の話はどうでもいいか。相談くらいならいくらでも乗ってやるさ」
「頼むッス」

昨日はなんで自分が指摘しないといけないんだとバカらしくなって放置した彼らの関係。
余計に大きな問題になって降りかかってきたことに若干頭を抱え、はぁ、と彼は小さなため息をつく。
ド鈍い上にマヌケのバカ野郎と叱咤してやろうかという気なぞ、とうの昔にどこかに吹っ飛んでいる。

546 :亀裂の埋め方 4/6:2019/12/28(土) 20:58:46.26 ID:2RjQEfMPw
「つっても、俺だって他人の修羅場をズバっと解決できるほどの経験は積んでないけどよ……。
 お前らの関係を修復するなら、惚れ直させるというよりも謝り倒すのが正しいんじゃないかって思えるけどな」
「謝り倒す……ッスか。やるだけやってみるけど、仮に納得してくれなかったらどうすればいいんスか?」
「相手が納得するまで謝るしかないだろ。一週間か一ヶ月か、言い訳せずに四六時中謝り続けて、
 相手が呆れ果ててもういいよと言ってくれるまで謝るってのが謝り倒すってことだよ」
一ヶ月、という期間を思わず復唱する。
まだ年若い彼は、それほどの長期間謝ったことなどない。
一度壊れた信頼を元に戻すことの大変さを突きつけられる数字だ。

「大体、お前ら、二人とも相手に理想を押し付けすぎだったんじゃないのかってね。
 相手は理想の王子さまやお姫様じゃなくて、人間なんだよ。綺麗なところもあれば、残念なところだってあるだろ。
 ちゃんと互いにコミュニケーション取ってたか?」
「それは……」
ティーダは言葉に詰まり、答えられない。
ただ、苦虫を噛み潰すような表情を見れば、その答えは明白だ。

「それでお互いに盛大にすれ違ったってことなんじゃないのかよ」
ロックに言われるまでもなく、散々突きつけられてきたことだった。

ティーダはユウナの心の叫びを軽視し、より弱い立場にあった参加者を救うことにこだわり続けていた。
ユウナには自分がいなくても平気でやっていけて、かつ自己犠牲の精神に溢れた強い女性であることを求めていた。
ユウナはティーダ本人に気持ちに気付いてほしくて直接的なアプローチは避け続けていた。
理想の男性として、いつかは自分の気持ちに気付いてくれるはずだと耐え続けていた。
最初はほんのわずかな亀裂だった、それが放置しているうちに広がり続け、いつしか二人の間に渓谷のごとく広がっていた。

「とにかく、関係を修復するんなら、ひざを突き合わせて、徹底的に話し合って自分の非を謝り倒すか、
 そうでなければどれくらい相手を大切に思っているのかアピールし続けるか、だろうな。
 くれぐれも、アーヴァインや俺たちを言い訳には使うなよ。お前が、お前の考えを彼女に伝えるんだ」

547 :亀裂の埋め方 5/6:2019/12/28(土) 21:01:11.92 ID:2RjQEfMPw
実際は、ホレ直させるのも一つの解ではあるのだろう。
破局の危機を迎えた恋人同士が様々なトラブルを乗り越えて絆を深める。まさに歌劇にうってつけのロマンだ。
ただし、それにしてもティーダの考え方をちゃんと伝えて、というのが大前提だ。
それが抜け落ちれば、仮にうまくいってもいつか同じようなことを繰り返すのではないか。
何も変わらない、ただのごまかしではないか。ティーダの言葉を返すわけではないが、ロックはそう思う。

泥臭くとも、関係を抜本的に見直して是正するか、それとも亀裂を塗りつぶすほどの体験を提供するか、選ぶのはティーダだ。
彼らの関係については、ロックは見守ることしかできないだろう。
本当に最悪の場合は自分たちの手で始末をつけるしかないが、
ただ、できればいい方向に着地してほしいとは思う。

デスキャッスルでユウナの凶行を知ったとき、彼女を助けたいと思いながらも、結局何もできないまま終わってしまった。
今ふたたび、彼らの力になる機会がもう一度巡ってきた。
昨日なら一蹴していた類の相談に乗るのはきっとそういうことだ。

「なあ、ロック」
「なんだよ?」
「その、訳分からない相談だったと思うけどさ、乗ってくれて、ありがとうな」
「そう思うならさっさとよりを戻してこいよ、バカ野郎」

548 :亀裂の埋め方 6/6:2019/12/28(土) 21:03:42.39 ID:2RjQEfMPw
【リュック(パラディン)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、破邪の剣、ロトの剣
 第一行動方針:皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ロック (HP7/8、MP3/4、左足負傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 レッドキャップ、2000ギル
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:夜明けまで休息する
 第ニ行動方針:できればギード、リルム達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在地:南西の祠】

【スコール (微度の毒状態、手足に痺れ(微度)、首輪解除)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、ドライバーに改造した聖なる矢、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、死者の指輪、ファイアビュート
 第一行動方針:単独脱出計画の準備をおこなう
 第二行動方針:首輪解除を進める
 基本行動方針:ゲームを止める】
【リルム(HP1/2、右目失明、MP1/3、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、(E)命のリング、フラタニティ
     不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:スコールの作戦の準備
 第ニ行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】

【ザンデ 所持品:ウネの鍵
 第一行動方針:スコールに協力する
 基本行動方針:ウネや他の協力者を探し、ゲームを脱出する】
【現在位置:????】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣、ティーダの私服

549 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2019/12/28(土) 21:45:20.06 ID:2RjQEfMPw
書くの忘れてた
放送前に動かすべきパートが最低でも一箇所あるため、通るにしろ通らないにしろ、まだ放送は投下しません

550 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/01/16(木) 01:05:23.53 ID:MYsttycPF
うーん、年始はちょっと無理だった
FFDQ3   733話(+ 3) 19/139 (- 0) 13.7

551 :似たもの同士のデッドロック 1/12:2020/01/25(土) 21:22:35.63 ID:xEsgc4XgE
私はいつ生まれたのか分かりません。
幼いころ、神童と持て囃された記憶があります。
お父さんやお母さんを亡くしたことが悔しくて、がむしゃらに魔道にのめりこんだ記憶があります。
勇者様や盗賊さんのような、魔物によって家族を失うことのない世界を夢見たことがあります。
勇者様たちと火を囲んで話し合い、打ち解けた記憶があります。
書を読み、悟りを開いて、賢者へと大成した記憶があります。
ついには大魔王と戦い、打ち倒した記憶があります。
そして、殺し合いに呼び出され、紆余曲折の後、自分に絶望した記憶があります。
けれども、これらは追体験――私の体験ではないんです。

私が誰なのか、悩む意味はないです。
セージお兄さん――記憶では、タバサはセージお兄さんと呼んでいましたので、私もそう呼ぶことにします――
セージお兄さんは、私に成り代わろうとして、私を降ろしました。
私自身の記憶も、そのころに定着してきました。
きっと、私はタバサなのでしょう。


古い記録によれば、高名な大魔道士が自分の心を二つに分けて、預言者と悪の魔道士という二つの存在に分かれたそうです。
そして悪の魔道士は王様や大臣に憑依して、国を滅ぼしていたそうです。
一人が二人に分かれることも、逆に一人に他の心が入ることもあるんです。
すべてセージお兄さんの記憶と知識の受け売りですけれど……。


元大魔道士、そして今は大賢者のセージお兄さんだからこそ、あるいはそういう素質はあったのかもしれません。
セージお兄さんは私にすべてを任せて、休眠しようとしているのです。

私は身体に馴染んできているのでしょうか。混濁していた意識がはっきりしてきました。
逆にセージお兄さんの存在が薄れて、小さくなっていくような気がします。

セージお兄さんは男の人だったはずなのに、この身体ははじめから今の身体だったかのように錯覚します。
人間が邪悪なチカラで魔物に変わってしまう、このことは、そういうことなのでしょうか。
セージお兄さんはいつしか消えてなくなり、私に置き換わってしまうのでしょうか。

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552 :似たもの同士のデッドロック 2/12:2020/01/25(土) 21:24:00.75 ID:xEsgc4XgE
闇の宝玉に身を任せ、別の意思が僕と交じり合うのを感じた。
そこが原点か、緑のモンスターの横槍が遠因か、はたまた秘薬の副作用か。
タバサの遺体を見つけたときから感じ取っていたもう一つの心は、僕とは明確に分離したらしい。

憑依については、古今東西、様々な記録や伝説が残っている。
強い心が弱い心を塗りつぶすのだ。
古代の魔道士は大国の王に憑依して世界を滅ぼそうとしたらしいし、
もっと身近な実体験でいえば、イシスには猫を乗っ取っていた魔族なんてのもいたしねえ。
弱い弱い僕の心など、吹けば飛んでしまう程度のもの。
なのに、未だに僕が残っているのは……


『ねえ、セージお兄さん。お願いだから、いなくならないでね』

魂に直接響いてくる声。もう一つの心。
僕はとっくに身体を明け渡すことを決めたのに、彼女はことあるごとに僕を引っ張り出す。


『お兄さんが消えるなんてイヤなの』

それはウソだろう? 君の優しさだろう?
君は僕なんていなくてもやっていける。
君は優しくて聡明な娘だからこそ、僕を気にかけて、塗りつぶそうとしないってだけ。
……分かっているのに、君に嫌われることを恐れて、現状に甘んじてしまう僕は滑稽極まりない。


僕が動けば動くだけ、状況は悪化するばかり。
人を救うことも、狂うことも、消えることもできない。
それどころか、僕はセージだという事実が白日の下に晒されてしまった。
だが、今さら死を選ぼうものなら、せっかく生まれ出た君を道連れにしてしまう。
死なないように他人と手を組もうにも、共通の敵であったあの緑のモンスターを倒すことすら失敗。
一糸報いることすらなく、気絶して君に尻拭いをさせるという大失態を晒した。
結局、僕の無能があらためて証明されただけだ。
詰んでいる。


僕はもう、どうあっても再起できないのだ。
けれど、君なら間違えない。
君は受肉して、よみがえる。"タバサ"が完全復活して何もかも元通りだ。
ガメゴンか、あるいはヘンリーさんか、いっそ、あの勇者でもいい。
君に頼られるに値する人物があらわれたとき、僕は君にとって不要のものとなる。
そのときには、僕は忘れさられ、心も消えているだろう。

■■■■■■■■■■

553 :似たもの同士のデッドロック 3/12:2020/01/25(土) 21:25:04.65 ID:xEsgc4XgE
「僕はね、もう何も決めないようにしたんだ。
 ピエロの君の笑顔はうさんくさいけどさ、僕は"タバサ"に頼まれた通りに身体を動かすだけだよ」
「おやおや、うさんくさいとは心外な評価です。
 ですが、私を親の仇のように睨みつけているカメがいますからねえ。
 ピエロは損な仕事です。アッヒャッヒャ!
 カッパを〆に行ってくれればよかったんだがな」
「セフィロスこそ取り逃がしてしまったが、そなたらを放って奴を追うわけにもいかん」
「あっ、失礼なこと言ってごめんなさい。私たちに悪気があるわけじゃないんです。
 ただ、お兄さんは私を守るためにがんばってくれてるだけだから」

"タバサ"は指示待ち人間。ギードは何から何まで塩対応。
ぼくちん、やる気のない窓際部署に配属された理想に燃える新人みたいなかわいそうなポジションになっています。
おまけにこのカメ声だけはやたらでかい。あーやだやだ、年寄りすぎて耳が遠くなっちゃってるんでしょうか?
"タバサ"は"タバサ"で、私を罵倒したその口で今度はごめんちゃいする倒錯ぶり。
えっ? "タバサ"が多すぎて混乱するって?
じゃあ、ブルーな気分を振りまいてるほうを便宜的に青い"タバサ"とでも呼びましょうか。
メスガキのようにあざとくて甲高い声でピーピーさえずるほうは黄色い"タバサ"な。
青、黄とくればそのうち黒い"タバサ"も出てきそうですが、まあどうでもいいでしょう。


「もう、警戒ばかりされるとナイーブなぼくちんは傷ついちゃいます。
 幻獣界に入らずんば幻獣を得ず! って言うじゃありませんか。
 さあ、まずはぼくちんを受け入れろ!」
「ワケの分からぬ言葉で煙に巻こうとするでない、そなたがよからぬことを企んでおるのは割れておる」
「僕は"タバサ"に従うよ。僕はもう何をしても足を引っ張るだけさ。でも、"タバサ"の選択は正しいからね」

カッパくんがいなくなってから大体こんなループです。
奥さん、日常回でもないのにこういう引き延ばしっていい加減うんざりしてきません?
ええいわかったわかった、ここは良心的出演者の私がこの状況に一石を投じようではありませんか!

554 :似たもの同士のデッドロック 4/12:2020/01/25(土) 21:26:11.45 ID:xEsgc4XgE
「仕方がない、ひっっっっじょおぉぉに納得できませんが、一億万他歩譲って私がうさんくさいのは認めましょう。認めますとも!
 ですが、アナタの魔導士としてのチカラはホンモノだ!
 あなたの力があれば、いわば救世主にもなれるかもしれない!?
 救世主になれば世のイケメンたちから求婚されまくり、壁ドンされまくりの夢のような甘い空間が待っている!
 その栄光ある未来を掴むためにも、ここはひとつ、手を組みましょうよ?
 そしてゆくゆくは、魔導帝国ケフカの再誕を目指そうではありませんか!
 ほら、ここはうんって頷くところですよ?」

ほら、譲歩したんだからカメも青も黄色もぼくちんのお人形ちゃんになれ!
え? 何を譲歩したかって?
ぼくちんにお願いしますと言わせるという大罪を大目に見てやってるではないですか。
涙流して寛大な貴方様の言うことに従いますってシーンだろうがここは!


「ケフカの言い分を真に受けてはいかんぞ。
 今の"タバサ"殿は自我が希薄になっておるのではないかね?
 そんな状態でチカラを求めれば、それこそ破滅を招きかねん!」

こぅらカメェ! 他人と他人の会話に割り込んじゃいけませんって学校で習わなかったのか!?
それともボケて全部忘れたのか!?
じゃあ改めて学習しまちょーね。他人の会話に割り込んではいけません! わかった?
黄色いのはこんな暴走老人の言うことを真に受けない!
正しいのは俺様! 俺様は間違わない!
ここはひとつ、勝ち組のメンタルというものを伝授してやるとしましょうか。

「あーあーあー、そんなツマラン意見に乗ってはいけません! ビッグな成功を収めたいなら、自分の勘を信じることこそが近道!
 下級国民どもは、やれ止めておけだの、君のためにはならないだの、否定的な言葉が返すに決まってます。
 な・ぜ・な・ら! そいつらは一度もチャレンジしたことがないからなのだ!
 有象無象の言い分を真に受けて、チャンスを逃すなんてモッタイナイ! 成功者の鉄則ですハイ」
そして情報を都合よく切り取って、ガストラみたいな犬頭どもをその気にさせて動かす俺様こそが真の勝ち組。
ここセンター試験に出ますからね。えっ? センター試験はもう廃止になった? ぼくちん享年36歳ですし……。

555 :似たもの同士のデッドロック 6/12:2020/01/25(土) 21:27:28.55 ID:xEsgc4XgE
もちろん、俺様ともあろうものが、ソロやレオのように感情に任せてテキトーなことを言うわけがない。
『魔女が聞いてる』『口に出すな』『脱出する』『魔導士必要』『協力しろ』
アツい勧誘のかたわら、どこぞのPちゃんのごとく魔力を用いて、
頭が下半身になっていやがる盗聴覗き魔ババアに聞こえないように意思疎通をはかっております。
えっ? そんな方法で会話して大丈夫なのかって?
デスキャッスルに魔力が思いっきり残ってましたよ。もう吹っ飛びましたが。
魔女がこれを読めるならギードの首が飛んでます。
私が城を潰したのは、あの魔力文字を解読されて脱出計画がおじゃんにならないための思いやりでもあったのだー!


まあ、それはどうでもいいのです。
ティナ、マッシュ、エドガー、ロック、リルム、ゴゴ、セリス、シャドウ、レオ……。
こいつらは俺様を貶めることしか考えていない。
崇高な目的――進化の秘法を独占して、俺様が神として君臨するという目的――を邪魔すべく、様々な風評をバラまいているはずだ。
ところがぎっちょん、それを覆い隠す魔法の言葉こそが、表向きの真の目的――『ゲームからの脱出』。
ぼくちんの言葉も私の所作も俺様の勇士も、すべてをそこに補完してくれるすばらしいイベント。
レオ将軍やソロ君やユウナちゃん級の異常者ならともかく、まともな頭をしたやつらなら一度は話を聞いてくれますとも。

実際ぼくちんだっていい加減首輪はどうにかしたいと思っておりますし?
みんなで首輪爆発どっかーんで退場したくはありませんし?
ギード、お前だってそこは理解してるんだろう?
私がリルムを不本意ながら最後まで残そうと考えているように、
お前たちも私と"タバサ"を消すことはできない。


「さあ、さあ、一世一代の大決断! 気になる"タバサ"ちゃんの答えは!?」
さあ、盛り上がってきたところでCM入ります。
とはいえ、結果は分かりきっている。黄色い"タバサ"ちゃんもここでうんと頷くしかないんですね。


「ごめんなさい、ピエロさんはタイプじゃないから」


カメラさ〜ん、ちゃんとCM始まってた? 今んとこ撮ってたらカットね。

556 :似たもの同士のデッドロック 6/12:2020/01/25(土) 21:28:28.69 ID:xEsgc4XgE
「シ、シンジラレナーイ! ここで断るとかありえんでしょ〜〜が! しっかりしろ"タバサ"よ!
 ここはお兄さんよろしくね! って手を差し出すところですよ!
 ギガレアだかレジェンドレアだかランクSSだか知らんがチョーシに乗りすぎなんじゃないですかァ?」
「あっ、ごめんなさい。ピエロさんはタイプじゃないんだけど、これ、どう言えばいいかなあ……むぅ、難しいよう」

黄色い"タバサ"がなにやら悪戦苦闘している素振りを見せたかと思えば、
青い"タバサ"が現れて、魔力を空中に飛ばします。
それを見て、ギードのほうも魔力を飛ばして返信をおこなっていますね。
『協力○ 支援×』
『全員脱出させる 監査させよ』


……え? なんで黄色と青の見分けがつくんだって?
いや、雰囲気違いすぎるから分かるでしょ。
ハツラツ系とヤレヤレ系ですよ?

それにしてもこいつら、俺様があれだけの長文を書いたというのに、
魔力をケチってカタコトで返答しているのがなんとも憎たらしいですねえ。

"タバサ"たちはサイファー君らへの対抗手段に、と考えていましたが、思い通りには進みません。
自我が分裂したのか死にぞこないが取りついているのかは知りませんが、こういうやつが最後までしっかり意識を保ち続けるなんてまずないでしょう。
近くで観察していれば、暴走する機会か、はたまた魔導の力をブチュッと注入してこねこねする機会は必ず訪れるだろうな。
今はこれで仕方なしとしましょうか。


ところで、黄色い"タバサ"ちゃんよ。
君、魔力の文字、ちゃんと読めてたよね? 口に出しちゃダメなものだって理解したうえで、ごまかしたよな?
身体の中にいるお兄ちゃんはごまかせても、先生の目はごまかせませんよ?
それともあれか? わざとわかんないフリしてアコガレのあの子とお勉強会開こうって魂胆か?
ぼくちんのような品行方正な神さまには、頭のフットーしたマセガキのいうことはよく分かりましぇん。

■■■■■■■■■■

557 :似たもの同士のデッドロック 7/12:2020/01/25(土) 21:29:14.50 ID:xEsgc4XgE
「そなた、理性が戻っているのではないか?
 ならば、今は自暴自棄に陥らず、何があったのかを話してくれてもよいのではないかね?」
「えっ、何があったか、ですか? えっと、それは……」

ギードの質問に、"タバサ"は言葉を詰まらせる。
ギードは隠し事があるのか"タバサ"と訝しむが、純粋に何を話せばいいのかを迷っていると解釈する。
【闇】に侵されたものが理性を取り戻すのは、アーヴァインという前例がある。
彼はその後、罪の意識に苛まされていたため、"タバサ"にも似たようなことが起きているのではないかと感じたのだ。


「年寄りのお小言はおつらいですよねえ。ムリに付き合う必要はありませんよ。
 長く生きているだけのデカいカメなど、棒切れで頭をツンツンしていればいいのだー!」
「これ、やめい、やめんか!」
「ヒッヒッヒ……いたいけなメスガ……おんなのこを困らせるようなデリカシーのないカメはこうだ! こうだ!」

まじめな雰囲気で質問するギードに対して、
ケフカはカッパの落し物、波動の杖を持ってポクポクとギードの頭を小突く。
パパスやルカならばこれで点数が稼げた。
だが、"タバサ"は破顔するどころか、ケフカが何をおこなっているのか理解ができないというかのように目の前の光景に困惑する。
ケフカの行動は見なかったことにし、"タバサ"はギードへ回答する。

「あの、ごめんなさい。デリケートなことですから……」
誰に向けてか、一言謝ると、またしても"タバサ"の雰囲気が少し変わる。


「ギード、君は僕に声をかけてるんだろう?
 けれど、僕は君のことを殺そうとしたんだよ? いまさらかばう理由もないはずだ。
 僕なんか放っときなよ。それよりも"タバサ"を気にかけてあげよう」
「そなた、わしのことも覚えておるのじゃな?
 ……セージ殿、ではないのかね?」
「……ああ、僕のほうをセージと認識するのは構わない。ただ、"タバサ"は本当にタバサなんだよ。
 僕は"タバサ"に付着した記憶の成れの果てみたいなものさ。
 僕はもうすぐ淘汰されるからさ、僕みたいなのにかまけるのは時間のムダでしょ?」

558 :似たもの同士のデッドロック 8/12:2020/01/25(土) 21:30:07.05 ID:xEsgc4XgE
まさに取り付く島もない。
口調こそ軟派で気取っているが、自嘲的なトーンがあけすけに表に出されている。
ギードの言葉もケフカの提案も、セージは乾いた笑顔を貼り付けて拒絶する。
それはすなわち、絶望。


「えっと……ね、私も本当は全部知っています。ごめんなさい。
 何度もモンスターさんを騙した私たちだけど、セージお兄さんがどれだけ傷つくのかが分からなくて、私から話すのは避けていました。
 あっ、でも銀髪の盗賊さんはちゃんと逃げ切りましたから!
 今は顔の怖い金髪のお兄さんと一緒にいるはずです」

また、"タバサ"の雰囲気が変わった。
ギードの知識では、今表出している少女の人格こそ、この世界で生まれ出た歪なチカラの産物。
だが、元の人格に随分と気を遣っていることが、ギードには異質に思えた。
【闇】は人に取りつき、人を狂わせる死者の怨念と考えていたが、
目の前の少女は元の人格が消えないように、定期的に呼び出しているようにすら思えた。
ギードには少女の意図は読みきれないが、疑念を表情に表さないようにつとめる。
それに、ロックの情報を聞き、安堵したのは事実だ。


一方、ケフカは内心、憤懣やるかたなかった。
"タバサ"はロックと殺し合いをしておきながらむざむざと逃亡され、よりにもよってサイファーと合流したという。
これが意味することは、"タバサ"とケフカだけであれば、ロックもサイファーも姿を見たとたんに斬りかかってくるということだ。
サイファーはアーヴァインに何もしないうちから斬りかかってくる危ない男。
脱出のために自分たちの魔力が必要だなんて言葉に耳を貸すとは考えられない。
すなわち、必ずギードという衝緩人員が必要になるのだ。
一年生のやらかしで済む問題ではない。
ガレキの党が政権交代を要求するレベルの大失態だ。

けれどもそこはポーカーフェイス。
ここ三日間、ガキや筋肉ダルマ相手に培ってきた演技力はハリボテではない。
初日は演技が苦手だった彼の演技も、それなりに見られるものにはなっている。
ケフカもギードも、心のうちは見せない。

559 :似たもの同士のデッドロック 9/12:2020/01/25(土) 21:31:22.44 ID:xEsgc4XgE
「そう……か。ロックは無事じゃったか。チカラも安定しておるようじゃのう。
 ならば、ワシのほうから敵対する理由はないわい。
 できれば、そなたらが立ち直る一助ができればと思うとるのだが」
「あの、それだったらできるだけお兄さんとお話してくれればと思うんです。
 お兄さんは嫌がるかもしれないですけど、嫌わないであげてほしいんです」
「ヒャヒャヒャ……それならおやすい御用ですよ。
 ぼくちん、そのセージお兄さんにも"タバサ"ちゃんにも大変興味がおありですのよ。
 ということで、【闇】についていろいろと協議しようではありませんか。
 そして、ゆくゆくはベッドでゴロ寝して我々を観察しているであろう年増ババアの化粧を引っぺがしてやるのだー!」
「待て! そなた一人ではどんな危険な使い方を吹き込まれるか分からん!
 これ以上【闇】を取り込ませて自爆したなどということになっては目も当てられんぞ」
「いるんですよね、こういう何かにつけて私を監視しないと気がすまないレオみたいなやつ。
 ほらほら、小うるさいカメはほっといて、徹夜のお勉強会の開催だ!」
「また"タバサ"に君たちの相手をお願いされてるんだけど……。
 君たちには僕程度がお似合いってことなのかなあ。
 "タバサ"はこれからのことを真剣に考えてるみたいだから、邪魔しないであげてほしいんだよね」

表向きは手を組みながらも、互いが互いを牽制し合う関係は変わらない。
"タバサ"はそんな彼らをその瞳に収めながら、思考の海に沈む。


■■■■■■■■■■

560 :似たもの同士のデッドロック 10/12:2020/01/25(土) 21:32:26.41 ID:xEsgc4XgE
セージお兄さんはいつしか消えてなくなり、私に置き換わってしまうのでしょうか。
セージお兄さんである間だけはその心を維持していても、私である間に削れていくように感じます。
遠からず、セージお兄さんの存在は消えてしまうような、そんな予感がします。


ダメです。
そんなこと、許せないです。


お兄さんは自分を大切にしなさすぎです。
だって、世界で一番たくさんの呪文を使えて、
盗賊さんや僧侶さん、商人さんや勇者様にもその知識を頼りにされて、
世界を闇に落とすような大魔王すら退けているんです。
私がお兄さんの家族だったら自慢しちゃいます。


最低だなんて、そんなわけないじゃないですか。
不必要だなんて、どうしてそんなことを言うんですか。

ケフカさんとギードさんがすごい魔法使いだってことは分かります。
良くも悪くも、そんな人たちが一目置いています。
無価値だなんて、そんなことを思っているのはお兄さんだけじゃないんですか。


ジタンさんのお話――彼がどうして、彼のお兄さんを助けようとしたお話を覚えていませんか?
私や私のお父さんがどうしてピエールを助けようとしたのか、その話を覚えていませんか?

そんなことはないですよね。お兄さんが覚えているからこそ、私も知っているんですから。
ジタンさんが死んでからのお兄さんは目を背けたくなるくらいめちゃくちゃでした。
けれども、ぼろぼろのお兄さんを見たときに、どうしようもなく助けたくなるのは悪いことですか?
お兄ちゃんに生きていてほしいと思うのは、おかしなことなんでしょうか。

561 :似たもの同士のデッドロック 11/12:2020/01/25(土) 21:33:28.52 ID:xEsgc4XgE
生まれたばかりの私がこんな気持ちになるのは、おかしなことなのかもしれないです。
けれど、魂に刻まれてるというのかな。
お兄さんを、お兄ちゃんをかけがえのない人に思ってしまうのは、そういうことなんじゃないかって。

その一方で、私がいるだけで、お兄さんは、お兄ちゃんは、ひどく傷付いて、倒れて、消えていく、それがとても怖いです。
白いローブに襲われて、あらゆる尊厳を否定された挙句に、大切な人たちまで巻き込んで、命を散らしてしまう光景が目に浮かんでしまいます。
いっそ何もかも壊してたくなる感覚に襲われる、嫌な光景です。
まるで私じゃない何かがもう一人いるような恐怖があるんです。
こんな恐ろしい本性が私の中に息づいているのなら、
消えてしまわないといけないのは、お兄さんではなくて私のほうなんじゃないかと思ってしまうんです。


私は私自身のことを、お兄さんが言うような、何も間違えない人だなんて思っていません。
私はお兄さんの理想には、きっとなれません。
きっと、お兄さんを理想と現実の狭間で悶え苦しませてしまうだけです。
こんなはずじゃなかった、と後悔するのか、それともこれで正しいんだ、とムリに言い聞かせるのか。
どうなるかは分からないけれど、そんなふうに苦しむ姿は見たくないです。


どうして私がギードさんとケフカさんの提案に乗ったのか、本当のことはお兄さんにも伝えていません。
もちろん、お兄さんの知っている生前の私なら、脱出に協力したんじゃないかとは思います。
でも、それだけじゃないです。


私の中には、きっとみんなが【闇】と呼んでいるチカラも混ざっているんです。
その根源との繋がりを、まだ感じています。

そして……だからこそ、思うこともあるです。
死んだ私が今、こうして存在している。だったら、勇者様や盗賊さん、僧侶さんだっているんじゃないかって。
お兄さんの仲間、家族ともいうべき大切な人たちを探しだしてあげたいって。
お兄さんが本当に頼りにしていた勇者様たちなら、大切な勇者様なら、私が助けてあげたかった勇者様なら、
お兄さんを絶望の淵から引き上げてくれるんじゃないかなって。
本当にお兄さんを救ってくれるそんな人たちと、会わせてあげられたらって。

562 :似たもの同士のデッドロック 12/12:2020/01/25(土) 21:33:57.48 ID:xEsgc4XgE
お兄さんにお願いがあります。
お兄さんを大切に想っていた人たちがきっといます。
お兄さんを救ってくれる人たちがきっといます。
どうか、どうか救われてください。
どうか、どうか自分を許してあげてください。



【ギード(HP1/2、MP:1/5)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
 第一行動方針:ケフカと"タバサ"を監視下におく
 第二行動方針:セフィロスが【闇】のチカラを手に入れようとするなら阻止する
 第三行動方針:南東の祠へ向かう
 第四行動方針:首輪の研究をする】

【ケフカ (HP:3/5 MP:1/5)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖
 第一行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
 第二行動方針:魔法を使える程度に魔力を回復する
 第三行動方針:セフィロス・ソロを初めとする、邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第四行動方針:アーヴァイン/"タバサ"らを使って首輪を解除する
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:デスマウンテン中腹】

【セージ(HP:9/10、MP3/10、人格同居状態)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
     イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
 第一行動方針:"タバサ"が休息を終えるまでケフカたちの相手をする
 基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
 最終行動方針:"タバサ"に復活してもらい、自分は淘汰される
 "タバサ"(人格同居状態)
 第一行動方針:ギードたちに協力して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
 基本行動方針:セージを助ける
 最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】

563 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/01/25(土) 21:38:32.85 ID:xEsgc4XgE
この話が問題なければ、保管庫にあります放送を投下する予定です。
放送前のもう一作投下したいなどなければ、2/1に投下しようと思います。
よろしくお願いします。

564 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/01/26(日) 02:28:37.64 ID:eNOYFYshJ
投下乙です!
黄色タバサが健気でこれは紛れもないタバサですわ
このままセージ救済フラグになるのか、共倒れして黒いタバサ爆誕してしまうのか
どっちに転んでもおいしいところですね

あとガレキの党に草生えた

565 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/01/26(日) 03:12:27.37 ID:uRvhunRmb
投下乙です!
相変わらずケフカの喋り方のトレースが凄い。ふざけてるのに言ってることとやりたいことはしっかり伝わってくるんだもんなぁ。
一方でセージが冷静になってたのはまさかの一言。狂い狂って何かしでかす爆弾へと完全に変貌していたかと思いきやのこの展開は面白い!
三者それぞれの「どちらに転ぶのか」というギリギリの対話や内心での思考も、読んでいて楽しかった。お見事です!

566 :太陽の昇らぬ朝が来る 1/3:2020/02/01(土) 00:01:02.97 ID:Y0DK1IBeB
この世界は闇の世界と呼ばれている。
地殻で覆われ、光源は照り返す溶岩のみ。
日の光がこの地を照らすことは終ぞない、静寂に包まれた世界。

その静寂が、打ち破られる。
この地に立つ十余名の参加者たちを弄ぶかのように地が鳴り、溶岩が波打ち、空気が震える。

「夜が明けた。定刻だ」

何度聞いても聞き慣れぬ恐ろしい声。
地を震わすそれの元をたどれば、デスマウンテンの頂上に映し出された魔女の姿を目視できるだろう。

「闇の中へと命を吸い込まれた哀れな敗者どもの名を読み上げる」

「『クリムト』『ザックス』『ユウナ』『マッシュ』『プサン』『ロザリー』『リルム』
 ――以上、7名だ」

首輪を通して伝わってくるその声なき声は、親しき者が命を落としたことを聞いての慟哭か。
それとも、もはや殺し合いから逃れる術はないことへの絶望か。

「随分と腑抜けていたので臨時放送をおこなったが、ペースを取り戻したようだな。
 性懲りなく反抗を企てる者もいたようだが、その結果を今更語るまでもあるまい。
 貴様らには最後の一人まで殺しあう以外の選択肢はないのだ。
 優勝はもはや貴様らの目の前にある。今更夢想にこだわり続けるのは愚かなことだと思うがな……」

図星を指されたのか、咆哮を噛み殺すような、低い呻きが伝わってくる。
贄たちの打てば響く反応に心地よさすら覚えつつ、魔女は語り続ける。

567 :太陽の昇らぬ朝が来る 2/3:2020/02/01(土) 00:01:43.07 ID:Y0DK1IBeB
「さて、少し目を離せば一つの拠点に篭り続け、殺し合いを放棄しようとする者が貴様らの中にいるのはよく分かった。
 よもや、自分が殺さなくても他の誰かが殺すのを待っていればいい、などと思ってはいまいが、
 どうも痛い目を見なければ自覚が湧かないらしいのでな。一つ、私から餞別を贈ることにした」

餞別という言葉に、困惑した反応がかえってくる。
どれほどの理不尽を押し付けられるのか、戦々恐々とした様子を一通り感じ取り、その反応に魔女は満足する。

「先程の放送でティアマトが告げた通り、相応の処置を取らせてもらおう。
 ――12時間だ。
 12時間経って、一人の死者も出なかった場合、全員の首輪を爆破するようにしよう。
 貴様らの温んだ性根にはこのくらいの荒療治がちょうどよかろう。
 さあ、優勝はもはや貴様らの目の前にある。今すぐ隣にいる者を殺せ。
 さもなければ、貴様ら全員、次の放送を迎えることなく命を落とすことになる」

放送まで待って様子を見るという時間稼ぎはもはや使えない。許されない。
非情な魔女の采配に、声を詰まらせるもの、大きなため息をつくもの、動揺するもの、あるいは鼻で笑うもの。
反応は十人十色だが、少なからず彼らに揺さぶりをかけたのは間違いないだろう。

568 :太陽の昇らぬ朝が来る 3/3:2020/02/01(土) 00:02:39.75 ID:Y0DK1IBeB
「さあ、三たび変革の時が来た。この期に及んで聞き逃す者などおらぬだろうが、念押ししておこう。
 二時間以内に旅の扉を潜り、次の世界へ向かうのだ。
 旅の扉の設置場所を読み上げる。

『希望のほこら』

以上だ。

残り12名に、この世界はいささか広かろう。
そこで、今回は旅の扉を一箇所に設定した。
ともすれば、おおよそ決着がついてしまうかもしれんな。期待しているぞ」

【闇の世界に旅の扉が出現しました】

569 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 1/11:2020/02/01(土) 03:06:39.59 ID:uvCEibuI8
まだ、少しだけ暖かい。

気温、地熱、毛皮。
いくつかの要因が重なって、今の私の体温よりも高い温度を保持していたというだけの話。
頭ではわかっている。
抱き上げたところで意味などない。
名前を呼んだところで返事などあるはずもない。
何故、を問うことさえ無駄なだけ。
それでも醜い鱗で覆われたこの腕は、血で汚れた小さな体を離せないままでいる。

選択肢はいくらでもある。
選ぶ時間も残っている。
本能は"コピー"の回収を訴え、プライドはケフカの抹殺を求め、
理性はプサンかリルムを利用するよう提言し、欲望は"タバサ"の奪還を考え続けている。
それでも、足が動かない。
立ち上がれない。手離せない。
思考とは全く別の、非合理で、理不尽で、無意味で、空虚な感情が。
この縮こまった肉体の全てを支配している。

アンジェロは眠っているようだった。
苦痛の色こそ多少はあれど、満足気に。
もう1人の"子犬"も似たような表情で事切れている。
本人達はやり遂げたつもりなのだろう。

−−ああ、本当に。
無性に腹が立つ。

ソルジャー1stのくせに犬1匹守りきれないのか。
いつも、いつまでも勝手に人のトモダチ気取りでいたくせに、なんだその無様な体たらくは。
女1人だ。
たった1人の敵を仕留めただけだ。
それの対価がお前とアンジェロの命など、どう考えても釣り合っていないはずだ。
犬ぐらい逃がせ。
それが出来なかったと言うのならお前だけでも生きていろ。
そうしたら、お前が死ぬまで殴ることもできた。
たとえ私の口から出る言葉が情けない鳴き声だけで、お前には何も理解できなかったとしても。
それでも、殴ることぐらいは−−

570 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 2/11:2020/02/01(土) 03:10:10.55 ID:uvCEibuI8
……−−わかっている。
わかっているとも。
無駄なだけだ、こんな考えも。

そせいのマテリアなどない。
あったとしても、この体では魔法を使えない。
元の姿に戻れたとしても、この殺し合いという状況下でレイズやアレイズがまともな効果を発揮するはずがない。
もしもその手の蘇生魔法が通じる相手がいるとすれば、それは主催者側の存在か、参加者ではない第三者だろう。
考える意味など−−

………。

参加者ではない、第三者。

アンジェロは爆弾首輪を付けていない。
参加者リストにも乗っていない。
本来の飼い主が放送で名前を呼ばれている以上、土着の生物とも考えにくい。
無論、主催者たる魔女の手下でもない。
明確に魔女の名を理解し、怒りと憎しみを顕にしていたのだから。

ならば、アンジェロはなんだ?

素直に考えるなら支給品だ。
よく訓練された猟犬は下手な武器よりも頼りになる。
そこに転がっている馬鹿が逃がすよりも共闘を選んだのだから、戦闘技術は身につけていたのだろう。
あるいは何らかの手段で紛れ込んだイレギュラーという可能性もある。
アンジェロ自身が言っていたことだ。
彼女の飼い主は、アルティミシアに抗った魔女だったと。
召喚魔法の要領で、身を守るために元いた世界から己の飼い犬を呼び出したーー
そういったケースも否定できない。
どちらにしても、蘇生魔法を試す価値はある。
支給品なら武器の修繕手段として認めている可能性があるし、
存在自体がアルティミシアの想定外だったならそもそも魔法の効果制限などかけられないはずだ。

試す価値はある。

試すことが、できるのならば。

571 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 3/11:2020/02/01(土) 03:11:24.37 ID:uvCEibuI8
「……カァー」

情けない。
自嘲さえ、鳴き声にしかならない。
いつかの"コピー"の言葉が脳裏をよぎる。
『奪われても取り返せるほど強くて、一人でも平気で、自分を惨めに思った事なんてないんだろ!』
ああ、あの時は確かになかった。
独りでいることには慣れていた。
奪われたまま取り返せないものはあっても、己を惨めだと思いはしなかった。
全てを手に入れるだけの強さが私には備わっていると、当たり前のように信じていられた。
だが、今は−−……

……止めろ。
これ以上、考えるべきではない。

客観的に考えれば認めなくてはならない事実だとしても、認めたくない一線はある。
私の体を構成しているヒト細胞部分のルーツのように。
全ての事実に向き合う必要などない。
信じればそれが真実だ。
信じてしまえば、それが−−

「………」

……もういい。
1度、寝よう。

他の生存者の居場所はあらかた割れている。
"コピー"は南西に留まったまま動いていない。
ケフカの言葉を信じるなど馬鹿馬鹿しいが、あの状況で嘘をつくとも思えない以上、サイファーも"コピー"の近くにいると考えていい。
当のケフカはこの後に及んで追ってきていないのだから、タバサとギードの懐柔を優先して山付近に留まっているはずだ。
ソロ達は当然、南東で仲間と合流している。
この状況で、夜明け前に大きな動きが起こるとは思えない。

572 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 4/11:2020/02/01(土) 03:14:07.56 ID:uvCEibuI8
放送が始まれば嫌でも叩き起されるのだし、この場で休んでも問題ないだろう。
それでなくても今日は予想外の事態が起こりすぎた。
万全の体調からこれほど遠ざかれば、この私とて気が滅入ることもあるだろう。

いつものように星の海を夢見よう。
そうすればきっと、この行き場のない感情とも折り合いをつけられる。
こんな姿になる前の、アンジール達のことを思い出す前の私に戻れるはずだ。
神に等しい力を手にして母のように星を旅することだけを考えていた、私自身に−−……
戻れる、はずだ。

座ったまま目を閉じる。
もう、横たわることさえ面倒だ。
腕の中が少しだけ、暖かい。
そういえばアンジェロを抱いたままだった。
別にいいか。
どうせ嫌がりも吠えもしない。
それに、まだ少しだけ、暖かい−−……


−−−−


ごぼり、と音がした。

沈んでいく感覚が意識を刺激する。
どこかライフストリームを思わせる、冷たくまとわりつく水の流れ。
ぼんやりと目を空けると、誰かが私の手を引いて泳いでいることに気づく。
優雅にたなびくドレスと体型は明らかに女のものだが、顔は見えない。
ごぼごぼという水音以外に聞こえるものもない。
ただ、下へ、下へと。
より深く、より暗い、果てしなき水底へ、導かれるままに潜っていく。

やがて、ぽっかりと空いた穴が見えた。
漆黒に磨き抜かれた鏡面としか表現出来ないその穴をくぐり抜けると、急激に視界が開ける。
広がっていたのは、星空にも星の体内にも似た不可思議な空間だった。
虚無の中に大小様々な水晶の欠片が浮かび、
それらの合間を縫うように、黒く輝く光の帯が幾条もうねり流れていく。

573 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 5/11:2020/02/01(土) 03:21:33.91 ID:uvCEibuI8
だが何よりも私の目を引いたのは。
空間の中心に鎮座する、薄い結晶に覆われた漆黒の球体だ。

『出してください』

私の視線をなぞるように、女はそれを指し示す。
黒い髪から墨のような雫を滴らせ、いつかどこかで見た色違いの瞳を私に向ける。

『貴方の求めるものはここにあります。
だから、ここから出してください』

ひどく端正な唇から紡がれる言葉に、嘘はなかった。
女の言葉に従えば、私は間違いなく新たな力を−−
求め焦がれた進化の秘法に繋がるモノを得られるのだろうと、何の根拠もないのに理解出来た。
止めるものがいなければ、私はおそらく女の誘いに乗っていただろう。
ここがどこなのか。女が誰なのか。
何も知らず、何も思い出さないままに。

だが−−

「そこまでだ」

突然、男の声が響いた。
同時に、闇色の刃が女の胸を貫く。
悲鳴を上げる間もなく女の体は崩れ落ち、熱風を浴びた氷のように溶けていく。
残ったのは血溜まり−−そして、いつの間にか見慣れぬ人影が眼前に立っていた。

「いかに換えが効く歯車とて、1つ欠ければ全てが止まる。
 これ以上、彼女の手を煩わせるな」

黒剣を濡らす血糊を振り落としながら、男は黒いローブを翻して私の方へと向き直った。
顔全体を覆い隠す白い仮面に遮られ、表情は読み取れない。
だが、想像するのは容易かった。
こちらに向けられた言葉には、隠す気のない侮蔑と嘲りが宿っていたからだ。

「身の丈に合わぬ力を求めた果てに、下らん女に惑わされるか。
 神羅の英雄とやらも地に堕ちたものだ」

574 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 6/11:2020/02/01(土) 03:25:05.25 ID:uvCEibuI8
「誰だ、貴様は」

間抜けな鳴き声ではない、私本来の声が口をついて出る。
仮面の男はクックッと不愉快な笑いを漏らすと、
2日前の同行者を思わせるおどけた仕草で肩を竦めた。

「さて、ザックスとでも名乗ろうか?
それともクラウドの方が呼びやすいかな」
「ふざけるな」

どうしてその名を出したのかは知らないが、一つだけ分かったことがある。
この男は敵だ。
胸中に殺意が漲り、半ば無意識のうちに左手が愛刀の束を握る。
懐かしい重みーー何故懐かしい?−−を抜き放てば、もはや体は止まらない。
1歩踏み込む、一つ薙ぐ、返す刃で二閃三撃四断と。
一呼吸にて繰り出した震天の斬撃を、しかし男は身じろぎもせずに片腕だけで切り払う。
「やるな」
ならばと真横に回りこみ、死角から胴を狙って切り上げる、が。
ローブの裾を捉えたその瞬間、男の姿が掻き消えた。
同時に背後に現れる虚ろな気配。
振り向きざまに切りつけた正宗の刃を、男の剣が跳ね上げる。
かち合った刀身が火花と悲鳴を散らす。
この私でさえ今まで受けたことがないほどの、重く、鋭く、疾い太刀筋−−

「貴様、何者だ?」

問わずにはいられなかった。
無論、人を喰った答えしか返ってこないだろうとは思ったが。

「ただの燃えさしだ」

予想の範囲外だが、想定の範囲内。
まともに人と会話をする気のない輩は、得てして本人にしかわからぬ表現を平然と使う。
話すだけ無駄ならさっさと切り捨てるべきだ。
そう判断して隙を伺う私の視線に気付かないのか、気づいた上で黙殺しているのか。
男はこちらの神経を逆撫でする笑いを織り交ぜ、益体のない言葉を紡ぎ続ける。

575 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 7/11:2020/02/01(土) 03:27:30.73 ID:uvCEibuI8
「全ては駒にして薪。
殺し、殺され、命を燃やし、魂を焚べる。
炎は歯車を回し、歯車は水晶を輝かせ、水晶は輪廻を生み出し、永劫は完成する。
かつては私の為に、今はすべて彼女のために」

(彼女……?)

血だまりが視界に映る。
男は仮面の奥で不機嫌そうに鼻を鳴らし、おもむろに剣を構えた。

「お前のことではないし、早く諦めろ」

一瞬。
音が遅れて聞こえるほどの速さをもって放たれた突きが、私の肩を掠め背後を穿つ。
振り向けば、先ほどと同じ顔の女が額を貫かれ、瞬きの間に血へ溶け崩れる。
思わず眉をひそめた、その傍らで。

『いいえ、諦めないで』

やはり、変わらぬ女の声が。

『貴方なら私を助けられる』

横からも。

『【闇】を求めているんですよね?』

前からも、響き渡る。
一体何が起きているのかと辺りを見回せば、何人もの女が私達をぐるりと取り囲んでいる。
白いローブ、紫のドレス、奇妙な軽装、青いワンピース−−
誰も彼もが異なる衣装に身を包んでいるのに、寸分違わぬ顔立ちだ。

『貴方なら出来る』
『私なら出来る』
『一緒に叶えましょう』
『貴方の夢を、私の愛を』

576 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 8/11:2020/02/01(土) 03:32:35.18 ID:uvCEibuI8
縋るように、歌うように。
口々に囀る女達を、男は疎ましげに一瞥し、

「お前に出来ることは、彼女のために死に続けることだけだ」

手を振った、と同時に漆黒の雷光が迸った。
轟音と共に大気を灼き、凄まじい突風を巻き起こす、その熱量。
生身の人間が受ければ炭になるどころか影しか残さないであろう一撃だ。
しかし光が収まった時、どういうわけか女達は平然と立っていた。
……ーーいや、違う。
全員服が違っていて、周囲を彩る血溜まりの量も増えている。
現れたのだ。
新しく。

『諦めません』
『何度死んでも諦めません』
『貴方ならわかりますよね』
『夢は、愛は、そういうものだから』

男に切られても焼かれても女達はまた現れ、私の方へとにじり寄ってくる。
ひどく優しい声音で囁きながら、血溜まりを踏みにじり近づいてくる、どこかで見たその姿。
左右で色の違う瞳、奇妙を通り越して異常の域に達する執着、必ず異なっている衣服。
これだけ特徴的なのに、何故思い出せない?
何を忘れている?
疑問こそ浮かべども、肝心の答えにたどり着かない。頭の中に靄がかかっている−−
そもそも、ここはいったい何処だ?

『思い出す必要はありません』
『貴方は求め、私は願う、それで十分です』
『早く助けてください』
『貴方のために、私を受け入れて』

魂の奥底に響くような甘ったるい声が、鼓膜と脳髄を揺らす。
だが、直前に抱いた強烈な違和感が私の足を押し止めた。
私は何かを忘れている。
この女の言葉を聞くべきではない。
理性が必死に鳴らしかける警鐘に従い、私は刀を構える。

577 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 9/11:2020/02/01(土) 03:34:59.16 ID:uvCEibuI8
切っ先を向けられた女達は、呆然とした表情でこちらを見上げ−−
鬼気迫る、醜く歪んだ顔で、一斉に呟いた。

『やっぱり、貴方も■■■■■■の味方をするの』

"コピー"に仕立てあげた男の名。
それを耳にした瞬間、曇っていた思考が一気に晴れる。

思い出した。
はっきりと。
理解した。
ここが何処か。
この女が何者なのか。

「言いがかりは止めろ。
散々襲ってきた女を助ける理由がどこにあると思っている?」

ああ、そうだ。
この女に対しては恨みと憎悪しかない。
ザックスのことはどうでもいいが、それ以外のことは許せない。
百万?譲って、自我も意思も持たない単なる力として私に利用されるというなら、
まだ瞑ってやる目もあったかもしれないが。
【闇】と化してなお、私を利用しようというのなら−−

「その慢心、目障りだ」

一閃にて、断つ。

くぐもった男の笑いが響く。
「それでいい」、と。
宙に舞う、女の首が口の両端を吊り上げる。
甘く、優しげな、どこまでも不愉快で悍ましい囁きが赤く染った唇から漏れて−−


ーーーー

578 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 10/11:2020/02/01(土) 03:37:30.56 ID:uvCEibuI8
唐突に目が覚めた。

すぐに、重い振動が体全体を揺さぶっていることに気づく。
夢を見ていたのか−−と思う間もなく、天から大音声が降り注ぐ。
全くもって眠った気がしないが、定時放送であるならば内容を聞き逃すわけにもいかない。
いつかのように、旅の扉を見つけられずにあわや爆死などという失態を犯すのはごめんだ。
固く強ばってきたアンジェロの身体を横たえなおし、魔女の声に耳を傾ける。

知っていた情報。
知りようのなかった死者。
到底歓迎すべかざる魔女の措置。
その裏に見え隠れしてならない妙な焦りと、やはり禁止魔法には指定されないレイズやアレイズ。

選択肢は狭まった。
そして新しい選択肢が生まれる。
危険を冒してでも"コピー"を手元に回収し、反撃の足がかりを作るか。
誰よりも先に旅の扉を潜り抜け、新天地で現状を打破する手段を探すか。
ケフカ達が私よりも後に到着することとサイファー達に横槍を入れられないことに賭け、
旅の扉の前で何とか罠を張るか。
デメリットを踏まえた上でソロと再度交渉し、ケフカの排除に利用するか。
限界まで隠れ潜み、ソロ達に露払いさせてから1番最後に旅の扉を通るか。

リルムが死に、元の姿に戻る望みが1つ潰えた。
プサンが死に、【闇】を掌握する手段が1つ消えた。
ケフカは今頃ギードと"タバサ"を丸め込んで高笑いしているのだろう。
状況はただただ私に不利になるように転がり続けている。
だが、それでも私は諦めなどーー

" 殺されても、諦めないから "

「……ッ」
まとわりつくように脳裏を過ぎったのは、夢の中で最後に聞いた言葉。
すぐそこで死体になっている狂った女の亡霊が、耳元で囁いたーー
そんな錯覚が私を捉える。

「カーー!」

お前と一緒にするな、と叫んだはずの言葉は、やはり甲高いだけの鳴き声にしかならなかった。

579 :重ねる夢、諦めない罪、歪んだ愛 11/11:2020/02/01(土) 03:44:24.08 ID:uvCEibuI8
【セフィロス (カッパ HP:1/2)
 所持品:ルビーの腕輪(E)、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデター
エッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、コルトガバメン
トの弾倉×1、ユウナのドレスフィア
 第一行動方針:???
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力
を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:東部草原】


訂正:
9レス目の
>百万?譲って、自我も意思も持たない単なる力として私に利用されるというなら、

は、"歩" が?に文字化けしています

580 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/02/01(土) 15:22:38.41 ID:Y0DK1IBeB
新作乙!

大召喚士が触れちゃいけない存在になってきてる気がするけど、
セフィロスが雑念ともども一太刀に切り捨てたのはこれはカッコいい、株が上がる

三者それぞれただでは終わらなそうで、すごい不吉な感じが漂ってるのがすき

581 :The Oath 1/13:2020/02/16(日) 20:34:02.53 ID:5ufj2nAZT
放送までの小一時間は、手持ち無沙汰だった。
毒も手足の痺れも快方に向かっており、普通に動かす限りでは違和感は残っていない。
万全の状態まで休むことが任務と言われれば返す言葉はないが、
生き残ると決めた以上、少しでも生存率を高める方法はないかと思考を重ねた。


そこで目をつけたのが錬金釜だ。
二つから三つのアイテムを用いて、まったく別のアイテムを生み出すことができる支給品。
そして、手元には攻略本がある。

たとえば、隼の剣とスピードのマテリアを組み合わせれば、隼の剣・改を錬金できる。
たとえば、ヘンリーの持つ鉄の盾とロザリーの着けていた猫耳アクセを入れて、
非力な魔道士や女性や子供にも扱えるキャットガーダーという軽い丸盾を完成させた。
ラムザの持っていた穴の空いたミスリルシールドも、他と組み合わせることで再利用できそうだ。

もちろん、試してはいけない錬金、いわば地雷錬金も存在する。
たとえば、カヌーと魔法のじゅうたんから錬金できるホバー船。出力は上がるが、携帯性という点でみれば明らかな劣化だ。
一部のムチなど、強力なアイテムに変化するものの、利用できる人間がいないというタイプのものもある。


現状使い道のないアイテム、その中で特に有用な錬金を探す。
見つかったのが、死者の指輪と聖者の灰。

ゾンビーの魔法目当てに譲り受けた死者の指輪だが、聖者の灰を掛け合わせると、いやしの指輪になる。
つまり、G.F.カーバンクルの回復薬精製と組み合わせて、メガポーションを作り出せる。
回復アイテムの乏しいこの場での価値は値千金。

コテージも30個使うことはそうそうないものの、ザンデのいる空間での待機には重宝するはずだ。
あの上も下も分からない空間でしっかりとした睡眠場所を確保できるのは大きい。


精製を順番におこない、精製物はできたそばからプサンやマッシュに分配を頼む。
各々、使用して深い傷を治療しているはずだ。
アルガスにはコテージを渡し、一足先にザンデの元へと向かってもらった。
続いて、リルムやロザリーにもザンデの元に移動してもらい、計画の準備を進めてもらっている。

そうこうしているうちに、小一時間など、すぐに過ぎてしまった。
世界がぐらぐらと震える。すなわち、放送の時間が来たのだ。

582 :The Oath 2/13:2020/02/16(日) 20:36:23.22 ID:5ufj2nAZT
「……ともすれば、おおよそ決着がついてしまうかもしれんな。期待しているぞ」

反響する魔女の笑い声が消え行くとともに、揺れも収まっていく。
この悪趣味な催しが四日目に突入したのだ。


「タイムリミットの短縮に、旅の扉の数の限定……か」
放送の内容を反芻する。
これまでの放送とは違って、ルールにいくつかの変更が加わっているようだ。

「どう思う?」
俺は傍らにいる、プサンとマッシュに声をかける。
うなるような声で反応を返すものの、明確な言葉は返ってこない。
携帯ランタンの光を受けて壁に映し出される手の影が、ゆっくりと一定のリズムを刻んでいる。
放送の内容を整理しているのだろう。



精製の片手間ではあったが、半日前の放送と同様に、今回の放送にあたっても慎重に慎重を重ねることを考えていた。

死者については大方把握している。旅の扉の情報も、俺たちに限れば関係はない。
禁止魔法の発表こそありうるが、このタイミングで大量に発表されることも考えにくいだろう。
これだけの情報であれば、三人も人員を割かずとも、俺か、あるいは他の誰か一人でも十分だった。
極端な話、首輪を外していないメンバーに後で内容を聞くだけでも問題なかっただろう。

だが、仮にアルティミシアが俺たちの生存に気付いていたのであれば、何かしら手を打ってくると確信していた。


考えられうる限りの最悪手は、ペナルティと称してバッツとアーヴァインの首輪を爆発させる、というものだ。
さすがにこの期に及んでそんな手を打ってこられたら、抜本的な計画の見直しを迫られることになるが……。
そうでなくとも、主催者陣営が意図を持って締め付けを強化するということはありうる。
それが殺し合いの促進なのか、俺たちへの警告なのかは汲み取る必要があると考えていた。

583 :The Oath 3/13:2020/02/16(日) 20:40:53.80 ID:5ufj2nAZT
「うーん……」
リズムを刻んでいたマッシュの手が、停止する。

「なあ、スコール。
 俺もいろいろと可能性は考えてみたんだが、
 放送はスパートをかけただけで、魔女は俺たちのことにはまだ気付いていない、って結論にしかたどりつけないぞ」
マッシュもプサンも、俺と同じ結論だった。
停滞感を打破するために、てこ入れをおこなうのは常道だ。

「俺も九割がた、その解釈で問題ないと考えている。
 首輪の解除に勘付いた上で、圧力をかけているなどの可能性も考えてみたが……。
 可能性としては相当低いだろう」
圧力をかけたところで具体的な成果に結びつくとは言いきれない。
魔女が精神的な嫌がらせを好むといっても、意図と手段が乖離しすぎている。
故に、可能性は低い。

「単にメンツや嫌がらせのためにルールを変更したというのもありえますがね。
 もっとも、メンツだろうがスパートだろうが、我々の基本方針は変更しなくてよいのではないかと……」


結論として、俺たちへの警告は含まれていないと判断した。
仮に本当に圧力をかけていたとしても、俺たちは次の段階へ進んでおり、今回の措置は意味を為さない。

その他、死者についても、ヘンリーから聞いた話とこちらの状況を総合して算出していた内容どおりだ。
良くも悪くも、新たに誰かが死んだということもない。


結果的には杞憂だったということだろう。
次の段階に移ってよさそうだ。

ヘンリーの夢を通して移動するために、暗く長い階段を静かにのぼり、上階へと移動する。
今頃はアルガスも向こうで眠りに就き、夢の接続先として待機しているはずだ。


階段を上りきり、静かに扉を開ける。
地下一階の広間に、バッツとラムザの姿はすでになかった。
リルムの死の遠因たるソロと、ラムザがいつまでも一緒にいるのは不自然だからだろう。
ソロは眠りと目覚めの呪文を使えるため、この場に残る人員として適任だ。
バッツがついていったのは、ギードとの合流という目的もあるからだろうか。
確か元の世界からの知り合いだったはずだから。


ヘンリーとソロはこちらに気付いたようだ。
俺はおもむろに頷き、準備が完了していることを伝える。

584 :The Oath 4/13:2020/02/16(日) 20:44:47.33 ID:5ufj2nAZT
ソロはラリホーマという眠りの呪文を用いる。
相当深い眠りを誘う呪文のようだが、ザメハという目覚めの呪文も使えるため、問題はない。
目覚めるタイミングは、直前にメモ書きでも転送すれば十分伝わる。


ソロやヘンリーの首輪は生きているため、俺たちは言葉をかわすことはできない。
けれども、プサンはまた明日も会いましょうとでも言わんかのごとく、にこやかな表情で軽く手を振っているし、
マッシュはガッツポーズのように拳を強く握りしめて、にかっと笑みを浮かべている。

俺はそういうのは少し苦手だ。普段どおりの表情と真剣さで以ってソロと視線を合わせる。
ソロが俺に向ける視線には、数時間前――俺が死に場所を探しているのではないかと指摘したときのような、険しさはない。
一瞬だけ呆けるような表情を見せ、軽くポリポリと頭をかいたが、
すぐに何かを理解したのか、柔和で穏やかな笑みを見せている。
そうなる心当たりはある。
……俺は気持ちが顔に出るタイプだとは思っていないんだが、ソロは俺の心でも読めるのか?


そして、同時に安心する。
魔女狙撃やミサイルの発射阻止のときのように、今度のミッションでも俺たちは後続の憂いなく任務に集中できる。
向けられた笑みの意味は、信頼だ。
ああ、俺はあんたたちを全員魔女の城まで招き入れよう。
生きて、再会しよう。



準備を終え、静かにフッと息を漏らす。
景色が暗転したかと思えば、そこはもう夢の世界だ。
ヘンリーの夢。中世の王城の貴賓室というべき空間だ。

大勢の人間がいる。
俺と一緒に来たマッシュ、プサン、ヘンリーは当然すぐそばにいる。
ウネがヘンリーのそばで待機していたのは、カギの扱いについての補助要員といったところか。

少し離れた場所では、ザンデやリルム、ロザリーが打ち合わせをしているようだ。
ザンデの首輪はまだ生きている。
盗聴はされていないと思うが、確信は持てない以上、コミュニケーションではこの世界に分がある。
ティーダの姿は見えないが、アーヴァインに付き添っているのか。
あるいはアルガスがいると分かっている以上、不必要には踏み入らないようにしているのかもしれない。

ここまでの人員は予想の範疇だ。
だが、もう一人。

「サイファー?」
予想外の人物がそこにいた。

585 :The Oath 5/13:2020/02/16(日) 20:49:48.46 ID:5ufj2nAZT
ヘンリーはリルムへ挨拶をしている。そういえば、あの二人は割と仲が良かった。
アルガスはプサン、マッシュから放送の内容を聞き出している。事情通を称する以上、放送内容の把握はマストなのだろう。
ザンデ、ロザリーはウネも交えて、打ち合わせを続けているようだ。

必然的に、俺のそばにいるのはサイファー一人となる。


「ケッ、なんだその目は? 俺がいるのがそんなに気に食わないか?」
「いや、あんたはとうに出発したと思っていたからな。予想外のことに、面食らっただけだ。
 もしかして見送りに来てくれたのか?」

冗談のつもりだ。
チョコボがいるならある程度の遅れはカバーできるとはいえ、サイファーがわざわざ俺を見送りに来るとは考えていない。
むしろ、何かまずい自体が起きて報告をしに来たんじゃないかとさえ思っている。

「これから敵陣のド真ん中に乗り込むんだ。
 見に来ても、バチは当たんねえだろ。
 羨ましい役どころだなあ、オイ」


……冗談のつもりだったんだが、本当に見送りに来たのか?
いや、だがリノアの力になろうとテレビ局にまで乗り込んでくるような情に厚い男でもあった。
アレは完全に裏目に出たが……。

逆ならどうだろう。
仮に首輪を外したのがサイファーで、これから魔女の城に乗り込むと言い出せば、
俺も一目見に来るくらいのことはするかもしれない、か?


「そうか……感謝する」
「ああ、別にンなもんはいらねえよ。俺が勝手に見に来たってだけだからな。
 むしろ、さっき届けてくれた回復薬には、こっちが礼を言わねぇとならねえくらいだ」

俺としては素直に気持ちを伝えたんだが、まあひねくれてるのはいつものことだろう。
ただ、サイファーには落ち着かなさがちらちらと見て取れる。
剣こそ持ち込んでいないが、つま先で床を蹴る仕草は、見覚えがある。
考え事をしているとき、あるいは苛立っているときの癖だ。
無意識なのだろうが、そういえば俺がここに来たときからずっとその仕草を取っていた。

586 :The Oath 6/13:2020/02/16(日) 20:54:46.65 ID:5ufj2nAZT
ふと思い出したことがある。
セントラ大陸。俺率いるバラムガーデンと、魔女・サイファー率いるガルバディアガーデンの衝突。


あのときも、今回も、隔絶した戦力差の中、逆転にかけて敵陣に乗り込んだ。
あのときは、リノアのことを諦めかけていた。今回は、俺自身の命を諦めかけていた。
あのときも、リノアはこの場にいなかった。今回は、魔女は向こうにいるがサイファーがこちらにいる。


細かいところを挙げていけばいくらでも違いはあるし、いくらでも共通点もあるだろう。
ただ、メンバーの不安、緊張、期待――この場に漂う空気はあのときと同じに思う。
今のサイファーの様子は、あのときのガーデン生たちの焦燥感を思い起こさせる。
この男に限って敵に尻込みするなんてことはありえないだろうが、たとえば……
俺を送り出して果たして大丈夫なのかという不安と、送り出すべきだという理性がぶつかっているとしたら。
そういえば、サイファーには魔女の城へ乗り込む作戦を、面と向かって伝えてはいなかった。


「なあ、みんな。忙しいだろうが、少しだけ俺の話を聞いてくれ」
全員の視線が俺へと集まる。

サイファーは何をやるつもりだと、訝しげな視線を向けている。
ロザリーは何かあったのかと不安げにしている。
リルムは何の話なんだろうと、ニュートラルな視線を向ける。
ヘンリーは現実に戻ろうとしていたのを止めて、こちらに注目している。
元の世界で為政者の立場にあった何名かは、俺がやろうとしていることを理解しているのかもしれないな。

ガーデンでおこなった放送を思い返しながら、不安を取り除くために言葉を紡ぐ。

587 :The Oath 7/13:2020/02/16(日) 21:00:09.78 ID:5ufj2nAZT
「魔女の元までたどり着くか、それともここから抜け出せないまま終わってしまうか、おそらくは今日が山場になる。
 ここまで進んで来られたのは俺一人の力じゃない。みんなの力があってこそだ」

一度、あたりを見回す。
リルム、マッシュ、プサン、ヘンリー、ザンデ、ロザリー、アルガス、ウネ。
ここにはいないが、ソロ、ラムザ、バッツにギード、アーヴァイン、ロック、リュック、ティーダ、それからボビィだったか。
そして、サイファーと俺自身。
ここまでで生き残った仲間たち。
そして、死んでいった仲間たちの顔と名を一人一人浮かべる。


「これから、それぞれが別々の場所を戦場として戦うことになる。
 白兵戦かもしれないし、情報戦かもしれない。
 そして戦場は異なっても、それぞれに激しい戦いが待ち受けているだろう。
 だけど、これ以上アルティミシアの思いどおりにさせるわけにはいかない。
 もう少しだ。あと少しだけ、みんなの力を貸してくれ」

ロザリーのように、緊張して表情を強張らせる者もいれば、
マッシュのように、心配するなと言わんばかりに表情を綻ばせる者もいる。
サイファーはというと、俺を見極めようとしているかのごとく、静かに話を聞いているようだ。

「俺はこれから魔女の城に乗り込んで、この最低の催しの『核』を破壊してくる。
 考えられる限りの対策はとったつもりだ。
 俺が失敗したときは……なんてことを言うつもりはない。
 俺自身が後悔しないように、そしてみんなを後悔させないように全力を尽くす。
 みんな、今日を生き延びてくれ。俺も今日を全力で生き延びる。
 そして、次に会うときは全員、首輪からも監視からも外れた自由の身となって、再会しよう」


少しだけ、場の温度が上がったような気がする。
長々としゃべったことで、俺が興奮してしまっただけかもしれない。
ヘンリーやプサンは生暖かい笑顔で頷いているし、
リルムなんかはにやにやと笑っている。
ただ、サイファーの例の癖がいつしか止まっていたのは確かだ。

588 :The Oath 8/13:2020/02/16(日) 21:06:33.49 ID:5ufj2nAZT
マッシュがどんと俺の背中をたたき、ロザリーは少し士気が上がったようだ。
アルガスにいたっては、指揮官が作戦の前に味方を鼓舞するのは当然だな、などと評論家じみたことを言っている。
皆が元の作業に戻る中、俺はサイファーに再び話しかける。

「サイファー。あんたもしかして、俺が死ぬ気だとでも考えていたか?」
「ふん、少しでも弱気を見せやがったら、張ッ倒してやるつもりだったんだがよ。
 あいつら、適当なことフカしやがって……何がスコールが危うい、だ。
 死ぬつもりどころか、殺しても死ななそうなツラしてるじゃねえか」

あいつら……それがロックかリュックかは分からないが、
おそらくはソロから話を聞いて、それをサイファーに伝えたのだろう。
であれば、ソロが一瞬見せたバツの悪そうな表情も理解できる。

自分で言うのもなんだが、ソロやサイファーの判断自体は正しかったのではないか。
ただ、喝を入れられる前にリノアらに激励をもらったから、結果的に必要なかったというだけで。


「……心配をかけて、すまなかった」

思わず、言葉が出てしまった。
言葉に出した後で、前後が繋がらないことを口走っていたと気付いた。
サイファーがぎょっとした表情を向ける。


「ああ? 急に卑屈になってんじゃねえ、気持ち悪りィんだよ!
 テメーはいつもどおりスカしてやがれ!」
「……いや、あんたがそんな繊細な心の持ち主だとは思っていなかったんだ。
 そうと分かっていれば、これまでももっと気を遣って会話をすることもできた」
「ハッ、最近までロマンのカケラも理解してなかったような奴が心の繊細を語るんじゃねえ。
 ったく、心配した俺がバカだったよ」


サイファーは不敵な笑みを俺に向ける。
そこに、カシャリとシャッター音が鳴り響く。

589 :The Oath 9/13:2020/02/16(日) 21:10:42.60 ID:5ufj2nAZT
「おい、何余計なものを撮ってやがんだッ!? それは元々俺のものなんだぞ!
 写真を記録に使うのならまだしも、遊んでるだけなら返してもらうからなッ!」
「『俺のもの』じゃないもん、リルムがヘンリーのオッサンからもらったんだもん。
 それに電池だっていっぱいあるんだからい〜だろ、ドケチ! 口だけビンボー貴族!」
「アルガスさん、落ち着いてください。予備はまだあるのでしょう?
 それに、その、写真というものは、元の世界に戻ったときに証拠になりますから……」
「おいおいリルムも、悪口はほどほどにしといてくれよ」

デジタルカメラが本当に支給されていたのは知っていたが、
どうやら、サイファーと会話していたところを、リルムが写真に収めたらしい。
アルガスがその行為をとがめ、ロザリーがなだめ、マッシュがリルムを抑えている。
……勝手に撮るリルムもリルムだが、カメラを使われて怒り出すアルガスもどうなんだ?
そもそもそのカメラ、本当にあんたの支給品だったのか?


「興味があるのは分かるけど、トラブルになるくらいなら預かるぞ」
「ああ〜! マッシュ、リルムがこれからいっぱい名写真を撮るんだぞ!
 いい大人が若者の才能を摘むのはおーぼーだろ!」
「後で返してやるから。今主催者に写真見られたらまずいだろ」
リルムがぶーっと駄々をこねて頬を膨らませている。
彼女がそこまで頭が回らないとは思えないんだが、芸術家として感性をくすぐられたのかもしれない。
マッシュならアルガス、リルムの双方に睨みが効く。動いてくれたのは助かる。


サイファーは興が醒めたようにため息をついた。
「俺は戻るぜ。お前とのツーショットなんざぞっとしねえ」
「あんたが写った写真は俺も持ち帰りたくはないな」
「ふん……もう言うまでもねえだろうが、魔女の城で倒れるなんて醜態はくれぐれも晒すんじゃねえぞ」
「当然だ。あんたに尻拭いをさせたら、リノアに幻滅されてしまうだろ」
サイファーは俺の言葉を一笑に付すと、夢から目覚めるためにヘンリーのもとへ向かっていった。

590 :The Oath 10/13:2020/02/16(日) 21:12:18.85 ID:5ufj2nAZT
それから間をおかないうちに、景色がアンティークな家具をふんだんに用いた邸宅へと変化した。
アルガスへとカギの所有権が移ったのだ。
同時に、ヘンリーの姿もサイファーの姿もかき消えた。


ふと、木彫の美しい机を見ると、現像された写真が無造作に置かれていた。
写真の中では、俺もサイファーと似たような笑みを浮かべているように思えた。
なんとなしに、俺は写真を拾い上げると、それをポケットの中にねじ込んだ。


【スコール (首輪解除)
 所持品:(E)ライオンハート、エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、ファイアビュート、写真、Gメガポーション×9、メガポーション×10
 第一行動方針:脱出計画の準備
 基本行動方針:ゲームを止める】

【プサン(HP4/5、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
 所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、水のリング、炎のリング、命のリング、ミスリルシールド、メガポーション
 第一行動方針:脱出計画の準備
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【マッシュ(HP1/2、右腕欠損、首輪解除)
 所持品:エリクサー、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3
 第一行動方針:脱出計画の準備
 最終行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルガスの夢の世界→会場外・コテージへ】

591 :The Oath 11/13:2020/02/16(日) 21:13:17.43 ID:5ufj2nAZT
【リルム(右目失明、HP9/10、MP1/2、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、フラタニティ、不思議なタンバリン、エリクサー、レーザーウエポン、グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:脱出計画の準備
 最終行動方針:ゲームの破壊】

【ザンデ 所持品:ドライバーに改造した聖なる矢、静寂の玉、メガポーション
 第一行動方針:スコールに協力する
 基本行動方針:ゲームを脱出する】

【ロザリー(首輪解除)
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、しっぽアクセ(E)、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン、メガポーション、Gメガポーション×5
 第一行動方針:脱出計画の準備
 最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※【闇】の残り魔力は少量です。

【アルガス(左目失明、首輪解除)
 所持品:E.インパスの指輪、E.タークスの制服、E.高級腕時計、草薙の剣、ももんじゃのしっぽ、カヌー(縮小中)、天の村雲(刃こぼれ)、ウネの鍵、メガポーション、コテージ×3
 第一行動方針:アルティミシアを監視する
 第ニ行動方針:派閥の拡大
 第三行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:会場外・コテージ】

【ロック (MP3/4、左足軽傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 レッドキャップ、2000ギル、メガポーション×2
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第ニ行動方針:できればギード、リルム達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】

【サイファー (MP3/4、右足微傷)
 所持品:G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗、スコールの伝言メモ、メガポーション×2
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:南西のほこら】

592 :The Oath 12/13:2020/02/16(日) 21:14:30.35 ID:5ufj2nAZT
【ソロ(MP2/5 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第ニ行動方針:サイファー・ロック達と合流する
 第三行動方針:ケフカを倒す/セフィロスを説得する?
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】

【ヘンリー
 所持品:水鏡の盾(E)、魔法の絨毯、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、筆談メモ、
     ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
     リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
     レオのザック(アルテマソード、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)、メガポーション
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東のほこら】


【バッツ(MP1/5、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得、左足微傷)
 所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
     マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(MP9/10)
 所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
     スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:南東の祠から外へ】

593 :The Oath 13/13:2020/02/16(日) 21:15:53.60 ID:5ufj2nAZT
※錬金・精製の内訳
死者の指輪+聖者の灰→いやしの指輪(FF8)→メガポーション(FF8)×20、コテージ(FF8)×30、Gメガポーション(FF8)×20
鉄の盾+壊れた猫耳アクセ→キャットガーダー(DQ9)
コテージ×26→メガポーション×13
メガポーション11個、Gメガポーション6個使用済み

594 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/02/20(木) 01:02:19.35 ID:GVURyKbxH
投下乙です!
スコールが前向きになってくれてよかった!
サイファーも面倒見が良くてかっこいいなあ
こんな状況でも些細なことで喧嘩するリルムとアルガスに癒されてしまう

しかし湯水のような回復アイテム群だけど何話持つかなあ
エリクサー×10って前例があるから何個あっても安心できない不思議

595 :すべてを手にするために 1/4:2020/03/08(日) 00:37:24.10 ID:SoFMbIe2f
負け癖が付くという。
何らかの敗北をトリガーに、その後坂道を転がり落ちるように敗北を重ねてしまう。
万全の状態ではなかったから、勝つことを目的としていなかったから、邪魔が入ったから、相手が悪かったから……。
現実から目を背け、逃げ道を作り、困難を避け、妥協を重ね、いつしか負けることは仕方がないのだという考えが染み付いてしまう。
次に勝てばいいのだと、今は勝てないことを許容してしまう。


なるほど、【闇】が目をつけるはずだ。
まさに心の弱さに他ならない。


敗北に屈した者の前に現れ、受け入れるだけで手軽に強くなれるチカラをかざす。
脆弱な心の持ち主はそれをいとも簡単に受け入れ、新たなチカラを得て思い上がるだろう。
得たチカラに酔いしれているうちに自我を見失い、黒い水の中でいつしか溺れる。
見事に【闇】の傀儡が出来上がるというわけだ。
意図していたのか偶然なのかは知らんが、これに気付かせてくれたことだけは仮面の男に感謝してやってもいい。


原点に立ち戻れ。
私は何を為したいのか?
私を散々コケにし、今もあざ笑っているであろうケフカに復讐したいのか?
高みから見下ろす魔女を引き摺り下ろし、それがどれほど愚かであったかを思い知らせた上で、命を以って償わせたいのか?
【闇】のチカラを手に入れて、神として君臨したいのか?
それとも、人間どもへの憎悪を捨て去り、共存したいのか?

違う。そんなものは過程であり、幻想であり、雑音だ。



―――星という箱舟を得て。
―――母のように星を回る。

―――新しき星で新しき箱舟を得て。
―――永遠に宇宙で栄え続ける。


進化の秘法も【闇】も、欲するものではあるが、手段に過ぎん。
ケフカや魔女も、立ち塞がる障害に過ぎん。
それを一時の激情にとらわれて見誤ったことこそ、目的を見失い、私自身の出自を見失い、想定外のミスを呼び寄せる失策だった。

596 :すべてを手にするために 2/4:2020/03/08(日) 00:38:23.51 ID:SoFMbIe2f
さらなるイレギュラーとして、ソロの存在がある。
あの男は、癪に障る。
ことあるごとに、私が人間だと勘違いしていたころの記憶を思い起こさせる。


手を組むことはできるだろう。
私が譲歩すればいい。
人間の営みと常識を思い出し、それをなぞればよい。
ソロならば、あの男ならば必ず応えるだろう。


ケフカとギードは北、サイファーとアーヴァインは西。
リルムが死んだ以上、明確な敵対関係にある参加者で、東にいる可能性があるのはラムザだけだ。
魔女を倒すまで手を組む。そう譲歩すれば、ソロは必ず私を受け入れる。


だが、それだけはしてはならない。
それは、人間の所業に屈するということだ。

ケフカを殺す。魔女を殺す。ソロと共に、それを為すことは可能だろう。
そして、そうしてしまったが最後、そこから先へは進めなくなる。

古代種は死に絶えた。クラウドもこの手で殺した。
それでなお、ここでもう一度人間の手をとれば、私は人間へと堕ちてしまう。


異なる存在と手を取り合い、立ちはだかる困難を打ち倒すというのは、人間が為すことだ。
知能の低いモンスターに対しては、集団で襲い掛かり、蹂躙し、徹底的に排除する。
知能の高い存在に対しては、あらゆる障害を利用して、人間の領域に組み入れてしまう。
それが人間という集団の怪物。そうして星の支配者の地位を手にしていたのだ。
この私すら、人間の歯車として組み込まれていた。

今もそうだ。ソロならば信頼してもいいのではないかと考えなかったか。
実際に、ケフカと真逆ではあるが、私はあの男の人格を疑っていない。
ケフカや魔女という困難を利用して、この私すらも懐柔しようというのではないのか。

ソロという個体にそのような意識はないだろうが、星の意志ならぬヒトの意志とでも呼ぼうか。
私を構成している人間の細胞は、あの男の手を取るべきだと訴えかける。
先ほど、私を利用しようとしたあの女と性質は同じなのだ。
甘いささやきに乗っ取られ、その手を取ってしまえば、ずぶずぶと組み込まれてしまうだろう。

597 :すべてを手にするために 3/4:2020/03/08(日) 00:39:30.64 ID:SoFMbIe2f
あらためて、状況を確認する。

放送によって提示されたいくつもの選択肢。
いずれを取ろうが、メリットとデメリットはある。

状況を打開するようなものは何一つ持っていない。
元の姿に戻ればいざ知らず、マテリアも武器も、今の私には扱えないものばかりだ。
飛び道具として騙し騙し使っていた矢も、鏃の部分が損傷しており、まともな殺傷力は望めないだろう。
だが、目的を見据えた上で使えぬ選択肢を排し、視野を広げれば、今まで見えてこなかったものが新たに見えてくる。


【闇】を呼び込む闇マテリアとでも呼ぶべき宝玉に、夢と現実を分離するというドラゴンオーブ。
禍々しい負のオーラが目視できる。"タバサ"からこれを奪ったときには、このようなものは見えなかった。

心当たりは、先程の夢。
敗北を重ね、そこの死にぞこないの女に目を付けられたことは忌々しいが、
副次作用として、私自身に【闇】を取り扱う下地ができたのか。
もちろん、だからといって【闇】に取り込まれるほど腑抜けるつもりはないが。


そしてもう一つ興味が湧いたのが、ドラゴンオーブ。
ここだけ、負のオーラがない。
ドラゴンオーブを避けているとでも言えばいいだろうか。
引力と斥力、陰と陽、聖と魔、白銀と漆黒、天と地。
この二つの宝玉に宿っているチカラは、相反する二つの莫大なエネルギーなのではないか。


ドラゴンオーブは、夢と現実の私を分離する手段。
最初はそれ以上の役割は期待していなかった。
取り扱い方など分からない以上、あれこれ悩むより使い方をよく知るプサンに任せるべきだ。
そしてプサンが死んだ以上、この宝玉に秘められた力を引き出すことは簡単にはいかないだろう。


だが、私は既に見ていたはずだ。
コピーとなるはずだった男が、名前を呼ばれた男の魂を操って実体化させたことを。
一時的にとはいえ、私の支配から逃れたことを。


なぜあのような貧弱な男がジェノバの意志に逆らい、逃げ出すことができたのか。
【闇】のチカラだけでそこまでのことができるか?
断じてない。

あの男は確かに【闇】をその身に宿していたが、私の支配を跳ね除けるほどのチカラがあったとは思えない。
そもそも【闇】は魔晄エネルギーに近い。
ジェノバを活性化させることこそあれど、撥ね退けるようなチカラなどあるはずがない。

598 :すべてを手にするために 4/4:2020/03/08(日) 00:40:30.39 ID:SoFMbIe2f
では、なぜか。
このオーブの力を引き出したのだ。
【闇】を撥ね退けるチカラを引き出した――それが意味するのは、ジェノバの活力を排除し、支配を弱めたということだ。
だが、既にヤツの身体はジェノバ細胞が侵食を始めている。
ましてや、母を象るほど、高い適合性を示した。
【闇】のチカラもオーブのチカラも、両方とも御せないはずがあるものか。


思ったとおり、アンジェロの遺体はザックの中に入った。
ソロやケフカなら、尊厳がどうだの、犬ごときに未練がどうだのと言ってくるのだろう。
だが、試しもせずに諦めるものか。
それに、その女の隣に放置していくなど、それこそ尊厳の蹂躙に、冒涜に他ならない。


元の身体に戻る希望は着々と潰えている。
アンジェロの蘇生とて、一度は諦めかけた。
だが、そこの不快な死にぞこないのおかげで、よくも悪くも目が覚めた。
ソロやケフカがいくら喚こうとも、そこで死んでいる女がどれだけ誘惑してこようとも、私は私だ。
私の意志で、すべてを取り戻すのだ。


【セフィロス (カッパ HP:1/2)
 所持品:ルビーの腕輪(E、半壊)、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
 第一行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 第五行動方針:アンジェロの蘇生を試す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:東部草原】

599 :黒色の残響 1/5:2020/03/08(日) 00:41:21.06 ID:SoFMbIe2f
(これは、夢なのかな?
 それとも、過去を眺めているのかい)


色彩を一段階薄くしたような、ぼやけた世界。
印象的な青い長髪の優男の姿が見えた。
何もかもうまくいくと信じていたころのセージの姿だ。
セージにとっては、恥ずべき黒歴史。
それが、目の前に展開されていた。


――本当は何もかも壊すのが楽しくて仕方ないだけなのに……
不思議な声が聞こえた。
あの悪夢のような光景が浮かび上がる。

(…………。)
薄ぼやけた世界でも、その色彩は目に焼きつくほど印象的だ。
朱に染まった髪に、ちぎれた首。上半分だけの顔しかない、壊れた人形のようなオブジェ。
五体が切り離され、それぞれのパーツがひしゃげた、捨てられた失敗作のようなオブジェ。
ビアンカさんに、ギルダーの死体が見えた。


――いっくら頭がおかしくなってるとはいえ、自分の身内に親兄弟を殺させるなんて、とんだ化物だよ!
また声が聞こえた。
今度は、知らない光景が浮かび上がる。


暗い闇の中、わずかな光源によってうっすらと映し出される、後悔と慟哭の念でぐちゃぐちゃになった死に顔。
汚れた緑色の染みに、がらんどうと化した鎧。
リュカさんと、ピエールの死体が見えた。


――あんたより悪い奴なんていないだろ、魔物使いのお嬢ちゃん。
再度、誰かの声が聞こえた。
夢幻のような光景が浮かび上がる。


真っ暗な森の中で、三つの暖かな赤い光が漂う。
光はゆらゆらと近付いてきて、それにともない世界が色を取り戻していく。
けれども、幾発かの銃声と共に、光も色も、すべて失われた。

(ジタン……)

セージにとっての悪い意味での転機。
けれども、その視点は彼らと相対していたもう一人からのものだ。

(……タバサの記憶、なのかい)

600 :黒色の残響 2/5:2020/03/08(日) 00:42:28.45 ID:SoFMbIe2f
――私が、お父さんを殺したの?
――私のせい? 私のせい……?

――有り得ねぇ……有り得ねえよ!
――この子はそんなことをする子じゃない!

――したんだよ。やったんだ。


(この場面は知らない。けれど、この場所は知ってる)

幾人かの声。それに、混じるのは、タバサの声だ。
そして、先程から何度も聞こえた声色が、白ローブの男の口から発せられていた。


もしセージがその場にいれば、その身を犠牲にしてでもタバサをその場から救い出しただろう。
けれども、彼がこの場面に現れることは決してない。
彼は、眺めることしかできない。


――僕からはこんだけだね。残りは地獄でお父さんと緑ぷよに聞きな。

悲しみに浸る暇も与えられず、投げ続けられる罵詈雑言は、やがてやり場のない怒りを引き出し、ついには破滅をもたらす。

響き渡るのは、ジタンが死んだときと同じ銃声。
森でジタンを殺害し、タバサを絶望へ突き落としたのは、この男だったのだろうか。
ヘンリーが銃弾からタバサをかばうも、二人とも血だまりに倒れて行く光景がスローモーションでゆっくりと見えた。

――お父さん、ピエール…一緒に、お母さん達とお兄さんを探そう!

タバサの最期の想いが脳裏に響き渡り、世界はひび割れて霧散する。


(あはは……。こんな肝心な場面に居合わせることすらできないなんて……。
 ほんと、僕ってどうしようもないなあ……)

後に残ったのは、ひたすら自己嫌悪に押しつぶされるセージ。
白いローブの男の表情だけが、なんとなく心の片隅に刻み込まれていた。

601 :黒色の残響 3/5:2020/03/08(日) 00:43:13.03 ID:SoFMbIe2f
――この世界には魔物がいます。
――人の姿を騙って、人の心を踏みにじる悪い魔物がいます。


また声が聞こえた。
真っ暗な世界に真っ黒な人の影。
青と緑の瞳だけが不幸を呼ぶ宝石のように怪しく、そして美しく輝いている。


死者の魂は何度もセージに引き寄せられてきた。
けれども、"タバサ"には相応しくないと、心の中枢からは追い出してきた。
だから、届くのは言葉だけ。
けれど、まともに聞いたのは今回が初めてのような気がする。


――愛をあざけり笑う魔物がいます。
――誰かの姿を騙って、今も愛を踏みにじっています。

――忘れないでください。
――■■■■■■の名を。
――■■■■■■の姿を。

――信じないでください。
――■■■■■■の言葉を。
――■■■■■■の仲間を。

――あの魔物は、私が必ず異界へ送ります。


――■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。
――■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。
――■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。
――■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。


……。
……。
……。

602 :黒色の残響 4/5:2020/03/08(日) 00:44:24.23 ID:SoFMbIe2f
ごとごと。ごとごと。
灼熱の熔岩を突っ切る一本橋を、丸い甲羅に乗せられて下っていた。
乗り物にはおよそ適さない、硬くて丈夫な甲羅。
けれども持ち主の技量か、乗り心地は決して悪くなかった。


「なんでぼくちんが歩かされているのでしょうねえ?
 ランク外はランク外らしく、ぼくちんを敬うべきだろうが!
 ベクタ放送協会、通称BHKにアクセスして『投票結果』→『ボス&召喚獣』を選んでぐぐっと下に引き伸ばして、
 二位の欄を目の玉かっぽじって見てみなサーイ!
 それに引き換えギード君は……おやおや、どこにも名前がありませんことよ!
 さあ、今すぐぼくちん専用の乗り物になっても今までの無礼は見逃してやらんわけですが、
 "タバサ"ちゃんもいつまでも姫プレイしてないで、さっさとその位置を変わるのだ!」


すぐ傍で、相変わらずケフカが訳の分からない基準を以って正統性を語っている。
そして、ギードが首を後ろに伸ばし、セージを一瞥した。


「もうすぐ麓じゃ。
 おそらくセフィロスが待ち構えておる。
 そなたも自分の身は守れるよう、準備しておいておくれ」

一言だけ語り、また前を向いてのしのしと進んでいく。
近くには誰もいない、けれども戦闘前の緊張感は否応にも感じられた。


『セージおにいさん、大丈夫?』
『おはよう。たいしたことない夢を見てただけさ。
 それに僕なんかより、もっと大切な用事があるでしょ?』
『でもね、突然いなくなったみたいで、一人でどこかに消えちゃったんじゃないかって心配になっちゃって……』
『"タバサ"は優しいなあ。大丈夫だよ、心配はさせないって。
 ……ねえ、ところでアーヴァインって人を知ってる?』
『セージお兄さんの知り合い……ではないですよね?
 でも名前は知ってる……? あっ、最初に呼ばれた人ですか?』
『つまらないことを聞いてごめん。聞き逃していいよ。夢の話しだし?』


アーヴァインがジタンやタバサ、ヘンリーを殺したなんて、所詮夢。ただの夢。そもそもヘンリーは生きている。
ただ、その名前……『■■■■■■』は、心の奥底に深く刻み込まれていた。


――■■■■■■。
――■■■■■■。
――■■■■■■。

603 :黒色の残響 5/5:2020/03/08(日) 00:45:05.85 ID:SoFMbIe2f
【ギード(HP2/3、MP:1/4)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第二行動方針:ケフカと"タバサ"を監視下におく
 第三行動方針:セフィロスが【闇】のチカラを手に入れようとするなら阻止する
 第四行動方針:首輪の研究をする】

【ケフカ (HP:3/4 MP:1/4)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第二行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
 第三行動方針:魔法を使える程度に魔力を回復する
 第四行動方針:セフィロス・ソロを初めとする、邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第五行動方針:アーヴァイン/"タバサ"らを使って首輪を解除する
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:デスマウンテン中腹】

【セージ(MP2/5、人格同居状態)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
     イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
 最終行動方針:"タバサ"に復活してもらい、自分は淘汰される
 "タバサ"(人格同居状態)
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第ニ行動方針:ギードたちに協力して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
 基本行動方針:セージを助ける
 最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】

【現在位置:デスマウンテン麓の毒沼】

604 :確かにそこにいた 1/4:2020/03/08(日) 00:45:56.35 ID:SoFMbIe2f
闇の世界の南東部。
日の届かない地底にすら適応し、ぼうぼうに繁殖した背の高い草をかき分けて、二人の男が進んでいく。
掘り返されたような黒い土の跡、その下には犠牲者がいるのだろうと、男の片割れ――ラムザが祈りを捧げた。
爆心地を過ぎ去るときに、もう一人の男――バッツが犠牲となった知人の少女へと祈りを捧げた。
爆心地にて進路を変更し、デスマウンテンを正面から右手に眺めながら進む。
その麓で威容を誇っていたはずのデスキャッスルは、今は影も形も見えない。
他方、雑草の隙間からときおり覗いていた架け橋の塔は、徐々に拡大していく。


ヘンリーが夢を通してザンデのところに人を送っている。
ソロとの仲が決裂したことを演じた以上、ソロと共に行動するのは不自然ではないか。
そういった事情から、ラムザとバッツは先行して旅の扉へ向かっているのだ。
旅の扉がひとつである以上、他の仲間は確実に合流する。
ギードとはもちろん合流する予定だ。
彼が監視しているというケフカやセージについても、ソロと決裂したという建前を保っていればある程度は穏当に接触できるはずだ。
ケフカについて、その危険性はラムザもソロと共有した。
ラムザとバッツは、ケフカとは直接対立はしていない。
緩衝材的な役割、あるいはギードと交代して監視を担うこともできるだろう。


さて、爆心地から歩くこと十分ほどだろうか。
ぼうぼうの茂みの中、そこだけ草花が焼き払われ、煤けた土が露出する箇所があった。

南東のほこらから希望のほこらへの道中において、惨劇の舞台となったのは四箇所。
三つ目の惨劇の舞台へと到達したのだ。


「なあ、ラムザ。ソロが言ってた黒い影って、この辺じゃなかったか?」
「バッツ。あなたも彼の妄言を信じているのか?」
(うわぁ、話しかけたくないぜ……。演技なのは分かってるんだけどさ。
 もしかして、本当に機嫌が悪いのかな? このへん、蒸し暑いもんなあ)

ラムザはたいそう不愉快げに言い放つ。
その過剰とすら言える演技には、さしものバッツも顔を引き攣らせてしまう。
もっともラムザ本人はバッツのことを、ムスタディオやラッドのように、気兼ねなく話ができる友人だと認識してはいるのだが……。

605 :確かにそこにいた 2/4:2020/03/08(日) 00:47:33.51 ID:SoFMbIe2f
(ソロはいないんだし、いつもどおりでいいと思うんだが、マジメだよなあ)

バッツは内心呆れつつ、
「ソロの言ってることが本当なのかどうかはどうでもいいけどさ。
 少し歩くスピードをあげないか?」
さっさとここを立ち去ることを促す。

「まあそれはそうだね……。
 余裕をもって旅の扉を見つける必要はあるし」
ラムザも演技をしているだけで、そのこと自体には反対しない。


茂みが焼き払われていることもあり、この一帯は若干歩きやすい。
動くものは、いまだに視界の端でちろちろと燃える炎だけ。
周囲の様子から、雷の上級魔法を使ったのだろうと判別できた。


ソロから黒い影については聞いた。
ただ、ユーグォの森や船の墓場の亡霊たちのように、向こうから襲ってくるのであればともかく、
佇むだけなら無視して先に進んでしまえばいい。
仮に今、ラムザたちの眼前にその亡霊がいて、正面から顔を覗き込まれていたとしても、意識しなければ大抵諦めてくれるものだ。


戦場で倒れた仲間を葬る時間すらないのは、イヴァリースではままあった。
そして、戦友たちの死には必ず区切りをつけてきた。
名前すら呼ばれなかった彼女だが、確かにラムザの仲間だった。
二つの死体を遠目に、その傍らに横たわっているアンジェロの姿を目に留めようとし、足が止まる。

606 :確かにそこにいた 3/4:2020/03/08(日) 00:48:28.88 ID:SoFMbIe2f
「おーい、ラムザ、どうしたんだ? 早く行こうぜ」
「バッツ、少し慎重に進もう」


ラムザの顔に警戒の色が浮かんでいる。
「……少し悪い予感がしてね」
「悪い予感? 何か見つけたのか?」
「ヘンリーさんの話では、ユウナさん、ザックスさんと、アンジェロの遺体があるはずなんだ。
 彼は簡易ながら、確かに弔ったと言っていた。けれど、遺体は二つだけ。
 アンデッドになった可能性を除けば、何かの意図で動されたということだよ。
 そして、それをおこなったのは僕たちの知らない誰かだ」
「知らない誰か……?
 ギードたちはデスマウンテンにいるんだろ?
 それに、サイファーやリュックはアーヴァインをとっ捕まえてどこかで保護してるんだっけ? となると……」
「ロックさんか、セフィロスのどちらかということさ……」
ラムザは断言し、希望のほこら方面のルートを重点的に注視する。


バッツは後ろを振り返る。
(雷に打たれて仮死状態になってただけとか、単純に人間より小さくて見逃しただけとか、そういう線もあるんじゃないかなあ)
ただ何となしに、残された二つの遺体の周辺に目を向ける。
黒髪のツンツンヘアの男に、大きなきぐるみに身を包んだ女。

どちらも死体だ。動かない。動くはずがない。
なのに、今にもきぐるみが動き出しそうに思えるのは気のせいだろうか。
モーグリを模した無邪気な笑顔のマスクをつけて、立ち上がって来そうに思うのは物語の読みすぎだろうか。
銃を固く握りしめた手を、今にもこちらに向けてくるのではないかという恐怖は、この世界の空気にあてられてしまっただけだろうか。
きぐるみは光を吸い込んでしまうほどに黒く、視線も、心も吸い込まれてしまいそうで……。
バッツの正面に、彼を真っ直ぐに覗きこむ何者かが……。

607 :確かにそこにいた 4/4:2020/03/08(日) 00:49:30.65 ID:SoFMbIe2f
「うわっ!」
「バッツ! バッツ!」

呆けていた。
ラムザが心配げにバッツの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫かい?」
「あ、ああ、ごめん。ちょっとぼうっとしてただけだ」
「それだったらいいんだけど……。
 それより、痕跡を見つけたよ」

ラムザの指し示す方向には、草を掻き分けた痕跡と、そこに付着したまだ乾いていない粘液のようなもの。
自身がカッパになった経験を持つラムザは、それが何を意味するかをよく知っている。


セフィロスが待ち構えている可能性は高い。
前の世界でも、セフィロスはラムザとリルムを殺害するために旅の扉の前で待ち構えていた。
銀髪鬼や雷神シドすら凌ぐ戦力、味方にできれば心強いが、衝突は避けられないのではないかと考えている。
カッパになったことがどれほどの安心材料になろうか。
このまま二人でセフィロスと相対する事態だけは避けたい。


ラムザは速度を落とし、あらゆる兆候を見落とさないように慎重に進む。
バッツはもう一度振り返るが、そこにはやはり焦げた大地に二つの死体が転がっているだけだった。

【バッツ(MP1/5、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得、左足微傷)
 所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
     マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第ニ行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(MP9/10)
 所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
     スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:デスキャッスル南南東の茂み】

608 :それは大きなミステイク 1/3:2020/03/08(日) 01:04:43.98 ID:SoFMbIe2f
「誰もいない?」
希望の祠は、もぬけの殻だった。
殺人鬼がいるとは思えない神秘的で静謐な空間。
視界内で動くものは、水にきらめく熔岩の照り返しだけ。
その奥には、旅の扉が静かな光を湛えている。


「まだ来てないのか。
 それともまさか、次の世界に行ったのか?」

セフィロスの残忍かつ好戦的な性格はサイファーやギードから何度も聞いた。
その情報から推測するに、唯一の旅の扉の前で必ず待ち構えていると考えた。


次の世界へ行ったなら、脅威は大きく遠ざかる。

だが、あまりにうまくいきすぎている気がする。
根拠などない。ただの勘だ。

『今考えていることの逆が正解だ。でもそれは大きなミステイク』

トレジャーハンターとギャンブラー、職種こそ違えども、勘を当てにする者。
何故か、その言葉が今、脳裏を過ぎった。



「くそっ!」

ロックは来た道を逆方向に走り出す。

強大な武力をほこる殺人鬼というイメージに縛られてすぎていたのだ。
あるいは、セリスの仇だと、逸る気持ちもあったのかもしれない。

アーヴァインはセフィロスに近付くにつれて、自我を奪われる。
だからこそ、ロック自身が囮となってセフィロスを祠から引き離そうと考えた。

セフィロスに行き先など告げていない。
旅の扉の発見は最優先事項とするのが常識だ。
仮に当たりをつけるにしても、当初の集合場所たる東のほこらこそが最も可能性が高い。
ピンポイントで西側にヤマを張るなど非合理的。
だから、祠への道中に大きな障害はないというのが正解だ。

だが、その正解を逆手に取ることだってできるだろう。
旅の扉そのものを、こちらを分断するための囮として使うことだってできる。
アーヴァインの居場所だって、知る方法はあるのかもしれない。
来た道を全力で駆ける。

609 :それは大きなミステイク 2/3:2020/03/08(日) 01:05:17.14 ID:SoFMbIe2f
水棲生物のそれに変わってしまえども、その聴力は衰えない。
旅の扉前の奇襲は常套手段だ。
今とて有効だが、そればかりも芸がない。
いの一番に旅の扉を見つけ、周囲の地形を記憶すると、周囲の森に沿うように動いた。
コピーの位置はまだ北西。
斥候なのか、銀髪の男がきぼうのほこらへ向かっていくのを確認、それをやり過ごしてコピーの元へと向かう。

しばらく身を潜めれば、ガサ、ガサ、と草を掻き分ける音と、トッ、トッ、と軽快な足音。
見覚えのあるチョコボ。
騎乗するのは、片手でたずなを持ち、もう片方の手では奇妙な杖を抱えた男。
探していたコピー。
無防備にやってきたそれを視界に捉え、河童はほくそ笑んだ。


【ロック (MP3/4、左足軽傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 レッドキャップ、2000ギル、メガポーション×2
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:サイファーらのもとへ戻る
 第ニ行動方針:できればギード、ラムザ達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
 【現在位置:希望のほこら】

610 :それは大きなミステイク 3/3:2020/03/08(日) 01:06:16.22 ID:SoFMbIe2f
【セフィロス (カッパ HP:1/2)
 所持品:ルビーの腕輪(E、半壊)、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
 第一行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 第五行動方針:アンジェロの蘇生を試す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み】

【アーヴァイン (変装中@白魔服、MP1/4、半ジェノバ化(中度)、
 右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、空き瓶×1
 第一行動方針:旅の扉に向かう
 第二行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・理性の種を服用したことで記憶が戻っています。
    ・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み】

611 :形勢瞬転 1/5:2020/03/08(日) 23:53:40.13 ID:SoFMbIe2f
タッタッタッと、足音が響き渡る。
旅の扉に向かって走駆するのはボビィ・コーウェン。
そして、その上にまたがっている男こそ、セフィロス・コピーこと、アーヴァイン・キニアスだ。
背の高い草に小柄な体躯を隠し、忍び寄るのはカッパことセフィロス。
草陰からエモノを狙うカマキリのように、静かに静かに、そして素早く忍び寄っていく。


セフィロスが狙うのは、ボビィの脚。
足さえ奪えば、あとはいくらでも料理できる。
小柄な体躯が疾走するさまは、まるで弾丸。
瞬く間に接近し、その脚の付け根を狙って手刀一閃!


「クェエエ〜!!」

本来ならば、それはボビィの悲鳴となるはずだった。
だが、ボビィは走行こそ止めたものの、まったくの無傷。
セフィロスは攻撃をキャンセルし、バックステップで飛びのいたのだ。
その直後、セフィロスの進行方向、その横軸に対して、炎が舐めるように這い進む。


「ふふっ、ざんね〜ん!」
「クエッ!!」


ボビィから飛び降り、にたっと笑うセフィロス・コピー。
だが、それはすぐに誤りだと分かった。
コピーの反応は先程の場所……ボビィの上から動いていないのだ。
セフィロスは一瞬、コピーの人間部分だけが分離したように錯覚したが……。

「カァ〜……カァ、カァ」
(貴様は……なるほど、偽物か?)


偽物はセフィロスの問いには答えず、白いローブを脱ぎ捨て、持っていた杖をボビィのほうへと投擲する。
ぽわわんと気の抜ける音と共に、白いローブを着た茶髪の男は、金髪の女へと変化した。
そして、投げられた杖は空中でぬちゃりと音を立てたかと思うと、その空間に固定された。


セフィロスは即座に銃を取り出し、弾丸のごとき鋭さでボビィに向かって投げつけようとするが……。
「そうはいかないッスよ!」

ボビィの上で、宝飾品のきらめきのようなものがあったかと思うと、セフィロスにとっては見覚えのある男が現れていた。
服こそ違っているが、コピーとのリユニオンの際に乱入し、邪魔をしてきた忌々しい死にぞこないだ。

祈りの指輪の魔力を以って、自己の魔力に負担をかけずにアーヴァインが召喚をおこなった。
指輪にはヒビが入るが、砕け散るほどの破損はない。
故に、ジェノバ化の進行もない。

612 :形勢瞬転 2/5:2020/03/08(日) 23:55:09.05 ID:SoFMbIe2f
セフィロスは新たな登場人物に舌打ちすると、放たれるであろう一撃を予見して、その男の正面空間から即座に離れる。
そして、かわし切ったと思ったそのときが最大の隙だ。何より、敵は一人ではないのだから。
重い甲羅を背負っているとは思えない見事なバック転を披露し、その場から離脱する。
不意の一撃を紙一重で効果を為さず、続けざまに放たれた不可視の横なぎの斬撃も刃の腹を滑るかのごとくぬるりと回避。
回避の際にすっぽ抜けたかのようにセフィロスの手を離れた銃は、放物線を描いてボビィの上へくるくるくると飛んでいき、
やはりぬちゃりという音と共にボビィの上で止まった。


「うえっ、マジっスか……。早え〜」
「カッパじゃなくて実はサボテンダーの親戚じゃないの?」
その敏捷さに苦虫を噛み潰したかのような顔をする金髪の二人。

その後ろで、本物のアーヴァインがカチャッ、カチャッと引き金を引くが、不発。
当然、投擲物として使用しようとした銃に弾など入っていない。
小さな舌打ちが聞こえたかと思うと、ボビィのたずなが宙に浮き、そのままボビィが走り出す。
即座に手放した銃は触手にでも引っかかったのだろうか、ぷらんぷらんと空中で揺れていた。


「ボビィ! ありがとっ!」
「あとは俺たちに任せとけっ!」
「クェ〜〜!!」


セフィロスは離脱するボビィを追わず、大きく距離を取る。
ボビィとの距離はますます離れるが、焦りはしない。
あらためて戦況を確認する。


やたらとうるさい金髪の二人組。
それ以外には誰もいない。何も見えない。
だが、一部の風景がぼやけているのが分かる。
陽炎ではない。そこにだけ透明度の高い水が佇んでいるような、そんな違和感があった。

613 :形勢瞬転 3/5:2020/03/08(日) 23:57:07.85 ID:SoFMbIe2f
逡巡するまでもなく、現象の正体はすぐにつかめた。
そしておそらくは、コピーにも同じ魔法がかかっていたことも理解した。
ケフカの使っていた透明化の魔法、バニシュだ。
光源が少なく、温度も湿度も高い世界。
加えて、二人がこれ見よがしに騒ぎ立てているのは、その発見を少しでも遅らせようという魂胆だろう。


誰もいない空間、だが確かにそこにいる人物に対して、セフィロスは指をさして話しかける。

「カァ〜……。カァカァカァ??」
(いい加減、しゃべったらどうだ?
 正体が割れていて、隠し続ける必要もあるまい?)

対する人物も、自分に向かって話しかけられたのは分かっているのだろう。

「バレちまったってのかよ」
誰もいないところから響く声。
一度は敵対し、一度は共に行動したことのある男だ。


「カァ……。カァ〜〜〜カァ」
(私のほうこそ聞きたいな。何故バレていないと思った?)
チョコボへの一撃を邪魔した炎。
ティーダと合わせるように繰り出してきた斬撃。
目の前の二人とは違う、仕掛け人の存在は勘付いていた。

「久しぶりだなあ、クソ野郎!
 ガルバディア野郎にご執心のところ悪いが、ちょっとは俺たちと付き合ってくれよ!」

姿こそ見えないが、剣を前方に突きつける独特の構えをとっているのだろう。
サイファーが大声で吼えた。

614 :形勢瞬転 4/6:2020/03/09(月) 00:03:28.10 ID:H4JVv5G4n
ロックが先行して斥候をおこない、旅の扉周辺での待ち伏せを探る。
しかし、会場は広い。ばったりと敵、特にセフィロスに出くわす可能性はあるだろう。
そこで保険として、ロックからドローしたバニシュと、変化の杖によってアーヴァインを二重に隠蔽した。
オートヘイストのかかったサイファーがボビィと併走していれば、さきがけによって魔法の不意打ちも防ぐことができる。
そして、それはそのまま、一対一を狙った襲撃者に対して一対三で対峙できるという形勢逆転につながる。


サイファーは扱いなれた魔力剣を手に、戦意をむき出しにする。
リュックは超硬度の剣と盾、小手を構え、鉄壁の防御を見せる。
セフィロスは知る由もないが、彼の持つドラゴンオーブは、ティーダが近くにいる限り彼を現世に留め続ける。


だが、セフィロスは焦らない。
アーヴァインの右半身、意志あるようにしゅるりしゅるりと動く触手に絡み取られたウィンチェスター、そのマテリアが淡く光る。
セフィロスの耳元でしつこくささやき続けていた亡霊の声が収まっていることに対して、セフィロスはほくそ笑む。
あれほどの妄執が、そう簡単に霧散するはずがないという確信を持って。


緒戦はサイファーらに形勢が傾いた。
けれども、緒戦だ。
状況は未だ予断を許さない。

615 :形勢瞬転 5/6:2020/03/09(月) 00:04:11.03 ID:H4JVv5G4n
【アーヴァイン (透明状態、MP1/4、半ジェノバ化(中度)、
 右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、空き瓶×1、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)
 第一行動方針:セフィロスを振り切って、旅の扉に向かう
 第二行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み→希望のほこらへ】

616 :形勢瞬転 6/6:2020/03/09(月) 00:05:07.97 ID:H4JVv5G4n
【セフィロス (カッパ HP:1/2)
 所持品:ルビーの腕輪(E、半壊)、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
 第一行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 第五行動方針:アンジェロの蘇生を試す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

【サイファー (透明状態、MP3/4、右足微傷)
 所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗、スコールの伝言メモ、メガポーション×2
 第一行動方針:セフィロスを倒す
 第ニ行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リュック(パラディン)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣
 第一行動方針:セフィロスを足止めする
 第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
※元の服に着替えました
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み】

617 :二人乗り 1/10:2020/03/09(月) 21:09:27.72 ID:H4JVv5G4n
思念が少し強まった。
朝起きて、すぐにそう感じた。
眠る前は過剰に意識しなければ耐えられるくらいだったのが、朝になって積極的に呼びかけてくるようになった。
何がきっかけか。思いついたのは、旅の扉が一箇所しかないということだ。
唯一の出口、そこで一気に決着を着けようということなのではないか、と。


朝になったら首輪の解除をする計画があった。
だが、解除以前にジェノバに身体を乗っ取られかねない状況となった。
祈りの指輪を使えば魔力を肩代わりできるが、待ったをかけたのはサイファーだ。
首輪のほうはどうとでもするから、今はテメェの心配をしておけ。
言葉には出せずとも、そう伝えてきたサイファーの表情は、随分とすっきりしていた。
首輪を外すためではなく、ティーダを、信頼できる仲間を呼び出すために温存した。
そして、カッパに【闇】が取り付いていたのを認識した以上、出し惜しみはできないと理解した。


――どこへ行くつもりだ?
――お前の向かう方向は、そちらではないぞ?

(うぁ、これ結構やばいかも……! 頭に大音響のスピーカーが付いてるみたいだ……!
 早く、早くあいつから離れないと!)
「クェ〜……?」
「ボビィ。ぼぐのごとはだいじょーぶだがら゛、い゛ぞいではじっで」
「ク、クェ〜!!」

セフィロスが近付くにつれて、思念が強まる。
セフィロスから離れて、ほんの少し思念が弱まる。
セフィロスの襲撃に対応できたのは、サイファーと自身のさきがけだけがすべてじゃない。
道中での襲撃が予想外にしても、接近自体は思念の強さを通じて感じ取った。
だからこそ、襲撃時に一丸となって対応できたのだ。

少しでも気を抜けば、そのまま意識を乗っ取られてしまう。
セフィロスと戦うことはとてもできない。お荷物まっしぐらだ。
変化の杖やウインチェスターをザックに戻すのも後回しに、
少しでも早く、少しでも早くセフィロスから離れるべく、ボビィを駆る。


――その身体では、思ったように動くこともできまい。
――私が代わりに駆ってやろうか。


(冗談……! あんたのドライビングテクニックなんて信用できないね!
 レースゲーム初心者みたいに崖にぶつかりまくる光景しか見えないぜ〜!
 大人しく僕とボビィのコンビネーションを見てろって!)

618 :二人乗り 2/10:2020/03/09(月) 21:11:08.26 ID:H4JVv5G4n
びくり、びくりと腕は波打ち、
ぎょろり、ぎょろりと目玉は回る。
しゅるり、しゅるりと触手が伸びて、その先はたずなのほうへ……。


(うわ、勝手に動いてる〜!?
 人の操縦を横から奪うのってそれマナー違反だって〜!)
「ボビィ……! い゛ぞいで〜!
 無事にがえれだら、ギサールのやざいでもなんでも奢ってあげるがら゛ざあ……」
「クェ!! クェクェクェクェクェ、クェ〜〜〜!!!!」

ボビィは気合を入れて全力疾走。
空気抵抗をもろに浴びた触手は後方へと吹かれて、たずなの争奪戦はリセットだ。
だが、今度は翼がボビィの脚に絡みつこうとする光景を、腕の目玉を通してみることができた。
(あーもう、そーいうこそこそしたやり方、やめろよな〜!)
身体そのものを左に倒して、翼と脚の距離を少しでも離す。


わさ。わさわさ。
ばさりばさりばさり。
しゅるしゅるしゅるしゅる。
ばたばたばたばたばたばたばたばた!

(くそっ、言うこと聞け! 言うこと聞け〜! 僕の身体だろ〜!?)
「クエ〜!? クェー! クェ!? クェ!!?」
右半身が暴れる。
騎乗バランスが大きく崩れる。
バランスを取り直そうとたずなを握ったとき、右の耳元でそれが聞こえた。

――……。
(くそっ、しつこいんだよ〜!
 あんたに振り向く物好きなんていないからさ、いい加減ストーカーなんて実りのないことやめろって)




    に



         が



              さ



                   な



                        い

619 :二人乗り 3/10:2020/03/09(月) 21:13:39.93 ID:H4JVv5G4n
「!!!!!!」
「ク、クゥェエエエエエ!!!!」

聴力を失った右耳に、ダイレクトに響き渡る呪いのことば。
力加減を忘れてたずなを引っ張り、ボビィの頭が後ろに大きく引っ張られる。
突然の頭への衝撃、ボビィにパニックが伝染する。
体勢が大きく崩れ、アーヴァインの肉体の左右バランスの悪さもあり、右へ大きく重心が傾く。

(やばいやばいやばいやばい! 落ちる落ちる落ちる落ちる!)
急いで体勢を立て直さないと落鳥してしまう。
身に迫る危機を前に、焦燥がぐるりと回転して冷静さを取り戻す。
ボビィより一足先にパニックを振り切り、どうにか正しい乗り方へと姿勢を戻す。
ボビィの気持ちを収めようとして、左手に意識を集中して、気付いた。見破ってしまった。

左手に添えられた、左手。
女の子みたいな、しなやかで細い左手。
姿を消しているのに、目にはっきり映る左手。
けれども右手の目には映らない、彼だけに見える左手。


乗客は一名。けれど、乗客は二名。
後ろから見つめる何か。


――つかまえた。
――もう逃がさないよ、■■■■■■


「ボビィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!! いぞいで〜〜〜!!!!」
「クエ、グエ、グエ〜〜〜!!!」


大波に揺られて転覆する小船のごとく、
操縦桿の壊れた飛空挺のごとく、為すがままに進む。
止まれば後ろから怪物が追ってくる。途中下船はできない。


――約束の場所へ……。
――お前の心は、解放される。


ぐちゃぐちゃにこんがらがる思考の中、クリアに示される目的。
(ボビィ! お願い、もっと速く! あっちだ、あっちだ、あっちに行くんだ!)
彼女の来ないところへ、彼女の来ないところへ、すがるようにたずなを握りしめてボビィをあやつる。

ジェノバはリユニオンする。
触手の先に引っかかるように固く握りしめられた銃は淡く黄色い光を放ち、ボビィへ行く道を指し示す。

「おいボビィ! 何があった!? 俺だ、止まれって!」
銀髪の盗賊が彼らを見つけて、追ってくることにすら気付かず、走り続ける。

620 :二人乗り 4/10:2020/03/09(月) 21:18:32.50 ID:H4JVv5G4n
ボビィの走りは安定していた。
右半身も、大人しい。
(振り切った? なんとか振り切ったのか?)

どれくらいの時間、我を忘れていたのだろう。
だが、右半身を抑えられるくらい距離を離したなら、旅の扉はもうすぐだ。
正面を向く。立派な火山が見えた。


(なんで? ……なんで、なんで、なんで!?)
後ろを映す右手の目には、徐々に小さくなっていく架け橋の塔。

「ボビィ! ボビィ!
 逆走しでるよ゛! そっぢじゃないよ゛!」


返事がない。
ただのしかばねのように返事がない。
あれほど感情豊かに相槌を打ってくれた相棒が、感情を失ったかのように走り続けている。

「どうじだんだよ゛〜、ボビィ?
 あ゛っ、さっぎはホントにごべんね! 痛がった? お願い゛だから怒んないでよ〜」

返事がない。
ただのしかばねのように返事がない。
なんとか方向を変えようと、左手に力を込める。
力が入らない。何か腕に重石がついたかのように、腕が動かない。

(どうしたんだよ、僕の左腕! 動け、動け、動け〜〜!)

蒸し暑いはずのこの世界、なのに首筋にはひんやりと冷たい感触があって。
首に後ろから手を回されて、徐々に締め上げるような感触があって。
そして聞こえないはずの右耳に、ささやかれる。




    お




          か




                 え




                         り

621 :二人乗り 5/10:2020/03/09(月) 21:19:25.33 ID:H4JVv5G4n
「クエエエエ!???」
ボビィは、またしても大きく首を引っ張られる。
痛撃によって正気を取り戻し、意志に反して逆方向に進んでいた脚を止める。
けれども、アーヴァインの混乱は収まりきらない。
荒い息遣いが収まらない。


「ごめ゛ん、ボビィ。まだちょっど、しっちゃかめ゛っちゃかでさ。
 大丈夫だよね、ティーダだちががんばってくれでるから」
なぜ逆走したのか分からない。
何をすればいいか、どうすればいいのか、困惑しているところに声が聞こえた。


「あの鳴き声、チョコボですよねえ?」
「チョコボ? って、なんですか?」
「かーっ、最近のガキはチョコボすら知らないのか!?
 義務教育受けてるんですか!?
 カメの背中に乗ってぬくぬく育てられてるからそんな常識のない子に育っちゃうんですよ!
 お母さんは悲しい! アッヒャッヒャッヒャ……」
「ケフカよ、少し口を閉じてくれんか」

(あの声はギードさんに、いつぞやのコソ泥!
 コソ泥はともかく、ギードさんなら頼りにできるはず……!)


知り合いの声が聞こえたことで、少しだけ心が落ち着く。
けれども、半魔物化した姿では誤解を与えてしまうかもしれない。
変化の杖を振るい、本来のアーヴァイン・キニアスの姿へと変化する。
同時に杖の魔力によって、透明化は解け、男の姿が現れる。
触手から離れ、鞍の上に落ちた銃は、なんとなしにホルダーで固定した。


がさ、がさと草が揺れる。
草の隙間から、緑色の肌と、金色が二つ。
(そういえばもう一人、誰だ?)


来訪者の会話は続く。
「チョコボということは、近くにアーヴァインがおるのじゃな?」
「アーヴァイン? ■■■■■■……?」


高い声の持ち主が、アーヴァインの名前を呼ぶ。
彼女のように、アーヴァインの名前を呼ぶ。
草の隙間から、顔が覗いた。
金色のおさげ。青い瞳。黒と桃を基調にした服。まだ幼い少女。
彼自身がその手で殺した少女。

アーヴァインを捉えたその瞳は、果てしない闇へと変わっていて……。
その少女ではない、誰かがアーヴァインを見つめていた。
少女の口が開く。
右耳に声が、大人の女性の声が届いた。


――にがさないって、言いましたよね?

622 :二人乗り 7/10:2020/03/09(月) 21:20:27.20 ID:H4JVv5G4n
「来ないで、来ないで、来ないでええ゛え゛゛゛゛!!」
「クエエッ! クエッ! クエッ!!」

ボビィが必死にアーヴァインを説得するが、彼の耳には届かない。
目の前の死者を必死に拒絶する。
死者が恨みを晴らしにきたんだと思った。
そこにいるのがタバサなのだと分かってしまった。
ギードの存在すら一瞬忘れて、ザックの中に入ったビンを、"タバサ"めがけて投げつけた。


セージが表出し、冷静に上半身を傾けてそれを回避する。
彼が何をしたのかを知っていた。
彼こそが他人に化けて、人の心を踏みにじる魔物なのだと、小脇に抱えた杖を見て理解した。
また"タバサ"をあの罵倒に晒して傷つけたくはなかったから、自分の意志で交代した。


「マヌーサ」
"タバサ"の代わりに冷静に、その暴力をいなすだけの無力化の呪文を唱えた。
彼女が得意とした、信頼する呪文だ。


「ストップ」
彼にとって、アーヴァインは脱出を有利に進めるコマ。
ここで確保できるなら万々歳だ。故に、一切の傷付けず、ただ動きだけを止める魔法を唱えた。


果たして、アーヴァインは幻に包まれた。動きが止まった。
金髪の女の子。青髪の女の子。黒髪の女の子。
それは幻惑で、それは幻聴だ。
けれども、アーヴァインにとって、それは目で見て、耳で聞くもの。
アーヴァインを取り囲んだ少女たちは、一斉に口を開く。

黄色い少女が名を呼ぶ。
「アーヴァイン」

青い少女が名を呼ぶ。
「アーヴァイン」

黒い少女が名を呼ぶ。
「■■■■■■」

「アーヴァイン」「アーヴァイン」「■■■■■■」
「アーヴァイン」「アーヴァイン」「■■■■■■」
「アーヴァイン」「アー■■イ■」「■■■■■■」
「■■ヴァ■■」「■■■■イ■」「■■■■■■」

「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」
「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」
「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」
「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」
「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」
「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」
「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」
「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」
「■■■■■■」「■■■■■■」「■■■■■■」

623 :二人乗り 8/10:2020/03/09(月) 21:25:54.66 ID:H4JVv5G4n
「ケフカ!? お前そこで何やってる!」
混迷極まる状況に、新たな乱入者が現れる。
ギードにとっては待望の協力者、だがセージやケフカにとっては招かれざる客だ。

「げっ! ロック!
 なんでこのいっそがしいときにお前がくるんですかねェ!?」
「それはこっちのセリフだケフカ! お前今何をしてた!?
 アーヴァイン、無事か!? ギード、一体何が起こってるんだ!?」
ロックが目にしたのは、ケフカとセージが何らかの魔法をアーヴァインにかけている瞬間だ。
ケフカは論外。
伝聞ではあったが、セージにしても一人芝居をこじらせてとうとう少女を騙りはじめたイカレ野郎という認識しかない。
ギードがいる以上、最悪の事態ではないとしても、冷静に何かありましたか? と尋ねられる雰囲気にはなれない。


「ロックよ、落ち着いてくれ! こちらも状況を飲み込めておらん!
 アーヴァインと遭ったときから、すでに錯乱しておったのだ!
 【闇】が影響しておるのかもしれぬ!」
「クエエ〜! クェックェックェ〜!」
「いやそれだけじゃない!
 錯乱してたってことは……!」

皆が混乱する中、"タバサ"だけは口をつぐむ。
ただただ、アーヴァインという男には悪寒しか浮かばない。
関わらないで、どこかに行ってほしい、それがすべてだった。

そこに、ぽわん、とあまりに場違いな音が鳴り響く。
ストップの魔法で変身を更新できないまま、変化の効力が解けていた。


「……えっ、何ですか? あのモンスターは!!」
その姿を、本能的に"タバサ"は恐れる。
ジェノバが食するのは、魂のエネルギー。
"タバサ"を構成しているのは、魂のエネルギー。
貪り食われる幻想。悪寒はこれだったのだ。
身を守らなければならない。
高速で詠唱し、小さな氷柱をモンスターに向かって放つ。


「くそっ!」
ロックが瞬く間にその進路に割り込んで、皮の盾で氷柱を叩き落す。
何も知らない人間がアレを見て、冷静でいろというのはムチャな注文だ。
アーヴァインは無傷。
けれども、幻惑に捉われたアーヴァインには、無数の氷柱が自分をめがけて迫ってくるように見えていた。

624 :二人乗り 9/10:2020/03/09(月) 21:29:55.30 ID:H4JVv5G4n
(動け、動けよ僕! 動いて、動いてよボビィ!
 早く、早くここから逃げるんだ!)
アーヴァインの思念にしたがって、再びマテリアが輝きだす。
ボビィにここから逃げ出すように、それだけを命じて。
その行き先は……。


「おっほー、いくらセフィロス君の趣味が悪いからといって、いきなり攻撃はちょっとヒステリックじゃないですかァ?
 もちろんセフィロスデザインのあれに美意識のカケラもないことは認めますことよ、そうですことよ!」
「クエエ……。クエッ!?」
「ケフカ!? カッパの名前はマズい!」


――さあ、いい子だからこっちに来るんだ。
――何人たりとも通さない、我らだけの楽園への道を共に開こうではないか。


ボビィが突然無言で走り出す。
その瞳に輝きはなく、代わりにホルダーに収められたマテリアが黄色い輝きを放っていた。
アーヴァインは錯乱していても、その足となっているボビィはひとまず冷静。
そう思っていた四人は、完全に虚を突かれた形となる。

「ボビィよ、どうしたのだ!? そちらに何がある!?」
「あいつだ! カッパがいる! そうとしか考えられない!」
「追うぞロックよ!」
「イヤです、私はここに残ります!
 あのモンスターには近寄りたくないです!」
「ぼくちん、ここは殊勝にタバサちゃんとお留守番しておきましょうか?」

四人の意見は一致しない。
すり合わせる時間などない。
その間にも、ボビィの姿は小さくなっていく。



セフィロスには、確信があった。
セフィロスすら利用しようという執念。
コピーをみすみす逃がすはずがないという信用。
【闇】が心の弱さに付け入るのであれば、それを利用できるという確信が。
そして、コピーは必ず戻ってくるだろうという信頼が。


果たして、彼の思い描いたとおりか否か、混迷を極めたまま、状況は進む。

625 :二人乗り 10/11:2020/03/09(月) 21:32:25.21 ID:H4JVv5G4n
【アーヴァイン (MP1/4、呪いによって混乱中、半ジェノバ化(中度、進行中)
 右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)
 第一行動方針:【闇】から逃げる???
 第ニ行動方針:旅の扉へ向かう
 第三行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み→北西へ】

【ロック (MP3/4、左足軽傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 レッドキャップ、2000ギル、メガポーション×2
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:アーヴァインを追う
 第ニ行動方針:サイファーらのもとへ戻る
 第三行動方針:できればラムザ達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】

626 :二人乗り 11/11:2020/03/09(月) 21:33:22.20 ID:H4JVv5G4n
【ギード(HP2/3、MP:1/4)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
 第一行動方針:アーヴァインを追う
 第二行動方針:旅の扉へ向かう
 第三行動方針:ケフカと"タバサ"を監視下におく
 第四行動方針:セフィロスが【闇】のチカラを手に入れようとするなら阻止する
 第五行動方針:首輪の研究をする】

【ケフカ (HP:3/4 MP:1/4)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖
 第一行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
 第二行動方針:旅の扉へ向かう
 第三行動方針:魔法を使える程度に魔力を回復する
 第四行動方針:セフィロス・ソロを初めとする、邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第五行動方針:アーヴァイン/"タバサ"らを使って首輪を解除する
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】

【セージ(MP2/5、人格同居状態)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
     イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
 最終行動方針:"タバサ"に復活してもらい、自分は淘汰される
 "タバサ"(人格同居状態)
 第一行動方針:旅の扉へ向かう/アーヴァインは追わない
 第ニ行動方針:ギードたちに協力して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
 基本行動方針:セージを助ける
 最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み】

627 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/03/16(月) 00:12:08.64 ID:Lqs28zLGP
FFDQ3  743話(+ 10) 19/139 (- 0) 13.7

628 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/04/05(日) 20:14:54.89 ID:Me7zsUJwp
保守

629 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/05/04(月) 13:03:52.52 ID:q46KDL3hT
保守
だいたいFF7Rのせい

630 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/05/06(水) 23:21:44.70 ID:QRMEXiCzl
リユニオン

631 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/05/16(土) 00:26:18.37 ID:ewqONwjmp
FFDQ3  743話(+ 0) 19/139 (- 0) 13.7

632 :考える暇も与えてくれない 1/6:2020/06/16(火) 22:35:51.93 ID:zj8V47ZyF
「ほらぁ、怯える子供をここに残していくなんて、そんなのオトナのやることじゃないですよねぇ?
 ですがご安心あれ! ここは真のオトナなぼくちんがタバサちゃんの面倒を見ましょう!
 私とてあのカッパには恨み骨髄に徹しますが、私情を飲み込んで君たちにセフィロスを討つチャンスを譲ってあげようというのだ!
 ホレホレ、ここはぼくちんに任せて先に行け! ヒャッヒャッヒャ……!」
「ケフカッ……!!」
青ざめた少女を保護するかのように傍に控え、ニヤニヤと笑う道化、そして歯をギリリと噛み締める盗賊。

「さっきのアレは、他人に化けて、心を踏みにじる魔物だろう?
 "タバサ"ですら拒否する魔物に近寄るなんて、ごめんこうむるよね」
怯えて縮こまっていたはずの少女の雰囲気が、よりアーヴァインを嫌悪する方向へと傾く。
ロックは彼女の変化にも、その言い分にも違和感を持つが、それを探るような暇などない。

少女はここを動かない。
それだけならともかく、ケフカをそこに残すことは絶対にできない。。
"タバサ"と二人きりにする。
それがどれほどの不幸を招くトリガとなるかは想像もできない。

けれども、アーヴァインを追わない選択肢もない。
彼がセフィロスから逃げ切れるように、サイファーたちは体を張っている。
サイファーらはプランE――万が一急襲を受けた際の打ち合わせ通りに動き、ピンチを凌いでいる。
ロックはそのように信じている。

誰も襲ってこなければプランA――旅の扉前で仲間と合流し、真っ当に次の世界に進めばよかった。
そうならなかったときのオプション――旅の扉から近い順にプランB、C、D、E――も用意していた。
だが、どれだけオプションを用意していても、アーヴァイン自らが逆走するなど、事前に計画のしようがない。
ティーダらの動揺を誘発し、連携が崩れてもおかしくない。


時間はかけられない。
ボビィの年齢、疲労度、あるいは昨夜の転倒――速度が落ちる要素は諸々あるにせよ、ヒトの足でチョコボに追いつくことは難しい。
到達時刻の差が開く。その差がサイファーらの危機に直結する。
ギードを残し、一人で追うのもやむなし、そう結論を出しかけたが、
まったく別の方向から解決の糸口が提示される。

633 :考える暇も与えてくれない 2/6:2020/06/16(火) 22:36:32.49 ID:zj8V47ZyF
「ロックさん! ギードさん!」
「ギード! 久しぶりだな!」
「げえっ、ラムザ!?」
「何が『げえっ!』じゃ、ケフカよ!
 バッツよ、生き延びていてくれて何よりじゃ!」

新たに現れた人物は二人。
ギードはアラームピアスの効力で、第三者の接近に気づいていた。
旧知との再会に、素直に喜色を浮かべる。
一方でケフカは、ギードがアラームピアスをつけているのだから、カッパが来ても不意打ちくらわないだろうと余裕こいていたのが裏目に出た。
それにドロボーの前で堂々と対人レーダーを曝す不用心さは曝せなかった。
結果、嫌いなやつと不意打ち気味の再会を果たすことになり、信じられないとでも驚かんばかりに、
片手片足を上げて大げさにポーズをとるハメになった。


ラムザらは騒ぎの中心となっている少女を見て、何で揉めていたのかをより詳細に理解する。
「状況はおおよそ把握しています。
 この子は、僕たちが引き受けましょう」
「聞き耳立てるつもりはなかったけど、結構声響いてたからな」
ロックは突然の訪問者に戸惑うも、彼らの提案はまさに闇夜に灯火。

「悪い! ここはその言葉に甘える!」
「儂はロックとともにセフィロスの撃退に向かわねばならん。
 ラムザにバッツよ、彼らを任せたいが、よいかな?」
「セフィロス……! わかりました、どうか気を付けて」

634 :考える暇も与えてくれない 3/6:2020/06/16(火) 22:37:04.44 ID:zj8V47ZyF
ラムザとバッツの登場、そこから流れるように役割が再構成される。
ケフカは苦虫を噛み潰したような表情を見せるも、それは一瞬の出来事。
すぐにポーカーフェイスに切り替えて、流れに待ったをかける。
「ちょい待ち! ぼくちんを待機組だと勝手に決めないでいただきたい。
 セフィロス君の討伐に私も参加しますよ」
「今度は何企んでる、ケフカ!」
「企むも何も、あくまで"タバサ"ちゃんの身を案じていただけですヨ?
 ラムザ君がいるのなら私がここに残る必要はないでしょう?
 それにぼくちん、ラムザのおしゃべりには辟易していますし?」
「白々しい……いや、今は時間が惜しい。
 いいか、余計なことは絶対にするな!
 ギード、あんたもこいつからは絶対目を離すなよ!」

「ケフカよ、そなたはここで大人しくしておれ」
ギードがケフカの法衣の襟をむんずとくわえ、甲羅の上まで引っ張り上げ、背に鎮座させる。
ケフカがちょこんとまたがったのを確認すると、ロックがヘイスガを唱えて肉体からまわりの時間を切り離した。

「バッツや、旅の扉で合流しよう!」
「ギード、そっちも気をつけてな!」
別れの挨拶をかわし、ロックは軽快に、ギードはケフカを背に乗せたままどすどすと走り出した。
タイムロスはほんの数分――大事になる前にたどり着ける――そう見積もって。

635 :考える暇も与えてくれない 4/6:2020/06/16(火) 22:38:04.29 ID:zj8V47ZyF
ケフカの座骨に小さな衝撃が伝わる。
乗り心地の悪さは、その持ち主の乗客への悪印象を表すだけではない。
ギードらに、乗客へ配慮する余裕がないことの表れでもある。

ケフカは気を散らされながらも、思考をめぐらせる。
彼の頭脳を以ってしても、状況を完全に理解できてはいない。
目まぐるしく変わる状況、次々と呼びこまれるイレギュラー。
戦況はもはや制御不可能な領域に到達しそうですらある。
ルカを殺害したとき、あるいはそのとき以上に先を見通せない。


彼の方針転換は情報量の違いに起因する。
セフィロスの討伐へ赴くのはギードとロック。待機するのは"タバサ"のほか、ラムザとバッツ。
ケフカにとってロックは明確な敵だが、付き合いが長い分、敵対の一線はわかりやすい。
二日目の夜のように、少なくとも問答無用で攻撃してくることはない。
ギードはケフカをまったく信用していないが、【闇】を殊更に警戒し、殺生を避けようとする。
さらにケフカの魔導士としての才能と豊富な機械知識について認知し、それを必要だと考えている。

一方でラムザとは、多少の絡みはあったとはいえ、お互いに未知な部分が多い。
ソロから余計なことを吹き込まれている可能性に加え、ソロと合流するリスクもある。
バッツにいたっては人物像がさっぱり分からない。
一旦、セフィロスのほうに片を付けるのは悪くない選択。そう判断した。

そして、向こうに"タバサ"を残したとして、二人に懐柔されるとは考えにくい。
いくらラムザがおしゃべりであろうとも、あれほどこじらせた人物を理解し、懐柔するには時間が足りなすぎる。
"タバサ"の人物像を二人が知っているとも思えないのだから。


ギードが一歩進むごとに、硬い甲羅がごつごつごつごつと座骨を打つ。
太い草の茎を避けるたびに、地面が左右に微妙に傾く。

「ちょっ、ちょっと待ちたまえ! おいこらカメ! 待てと言ってるだろうが!」
「待てと言われて待つやつがいるかよ! 時間がない、そのまま話せ!」
「それは私のセリフですよ! じゃなくて、乗り心地をなんとかしろ! ほら、お尻がこすれてケムリが……」
「お前の尻よりアーヴァインが優先だ! 我慢しろ!」
「シ、シンジラレナーイ!」
帰りは自分の足で歩こうと決意するケフカだった。

636 :考える暇も与えてくれない 5/6:2020/06/16(火) 22:38:33.14 ID:zj8V47ZyF
【ロック (MP3/4、左足軽傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 レッドキャップ、2000ギル、メガポーション×2
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:アーヴァインを追い、サイファーらの元へ戻る
 第二行動方針:ケフカを警戒する
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】

【ギード(HP2/3、MP:1/3)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
 第一行動方針:アーヴァインを追う
 第二行動方針:ケフカを監視下におく
 第三行動方針:セフィロスが【闇】のチカラを手に入れようとするなら阻止する
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 第五行動方針:首輪の研究をする】

【ケフカ (HP:3/4 MP:1/3)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖
 第一行動方針:セフィロス・ソロを初めとする、邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第二行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
 第三行動方針:旅の扉へ向かう
 第四行動方針:アーヴァイン/"タバサ"らを使って首輪を解除する
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】

【現在位置:希望のほこら北北西の茂み→サイファーたちの元へ】

637 :考える暇も与えてくれない 6/6:2020/06/16(火) 22:39:03.73 ID:zj8V47ZyF
【セージ(MP2/5、人格同居状態)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
     イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
 最終行動方針:"タバサ"に復活してもらい、自分は淘汰される
 "タバサ"(人格同居状態)
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第ニ行動方針:ギードたちに協力して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
 基本行動方針:セージを助ける
 最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】

【バッツ(MP1/5、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得、左足微傷)
 所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
     マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:ギードたちと再合流する
 第二行動方針:次の世界へ向かう
 第三行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(MP9/10)
 所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
     スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
 第一行動方針:ギードたちと再合流する
 第二行動方針:次の世界へ向かう
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み】

638 :精神対話 1/10:2020/06/16(火) 22:39:52.26 ID:zj8V47ZyF
ギードらの姿が茂みに隠れて見えなくなる。
彼らを見送ったところで、さて、と声を発し、ラムザは新しい同行者へと向き直る。
「自己紹介といこう。僕はラムザで、隣にいるのがバッツ。
 先ほどまで君と同行していたギードの仲間だ」
「自己紹介なんかしても意味あるのかなあ。まあいいけど。セージと"タバサ"。これでいいかな?
 詳細はギードに聞けばわかるよ。今更隠すものでもないし?」


上から目線で、やる気はない口調。
人によっては、鼻につく言い方だ。

もし表に出ているのが"タバサ"であれば、どう答えればいいのか、逡巡していただろう。
事情を伝えられるまでは、仮に『"タバサ"』と呼んでほしいと要求していただろう。
ラムザとバッツはそれに応じ、絡まった糸を解きほぐすように、徐々に事情を理解していっただろう。

だが、セージ本人はどれだけ貶められようとも気にしない。
むしろ、それが当然だと思っている。
貶されれば貶されるほど、自分が不要で"タバサ"こそが必要な存在だという言い分に箔がつく。


「ソロやヘンリーさんからある程度の話は聞いている。
 とはいっても、僕らは彼の主張を無条件に信用するわけではないけれど」
「やっぱり聞いてるのか。あのときからはもう少し話が進んでるけどねえ。
 今、"タバサ"は色々ショックなことが多くてさ、紹介できそうにないんだよね」

ソロの言い分を鵜呑みにしないと明言したことは、事情を把握しているが対立は避けたいということと同意だ。
セージにとってもラムザにとってもマイナスはない。
ただし、ラムザはいくつかの真実を伏せている。
これはセージの問題ではなく、首輪の向こうの監視者に対して、ソロと決裂したことを演じ続ける必要があるというだけだ。
ソロたちの持っていたひそひ草を経由して、ギードから情報は仕入れていたが、そこも口には出さない。
大局に影響はない。

639 :精神対話 2/10:2020/06/16(火) 22:40:46.53 ID:zj8V47ZyF
「今なら安全に次の世界に進むこともできるだろう。
 ただ、僕らは『ほかの』仲間を待ち、旅の扉で移動するつもりだ。
 君は、どうしたい?」

単純にギードらを待つだけであれば、選択を委ねることはない。
ただし、今回はそれ以外のメンバーが含まれることを匂わせた。

セージは、ラムザの問いの意味を受け取り、即座に答えようとしたが、一転、中断する。
静かに目を閉じ、およそ一分ほどの間をおいて、ゆっくりと口を開く。


「もしさっきの魔物が関係するなら、ここにはいたくないんだよね」

アーヴァインとの関係は、いわば捕食者と被食者。
アルガスの心に刻まれた傷が消えないように、タバサの魂に刻まれた嫌悪と恐怖もそう簡単には消えない。
恐怖のままに取り乱すなど、彼女らしからぬおこないだが、その行動を選んでしまうほどに深い傷となっているのだ。
判断は"タバサ"に一任するのがセージの方針。
そして、その前提条件でなお、たとえ"タバサ"本人が希望しようとも、アーヴァインと引き合わせたくはない。


「けれど、"タバサ"が君たちと一緒にいたいらしい。
 一人は嫌なんだってさ。
 だから、僕は"タバサ"の要望に応える」

一方で"タバサ"はセージが一人になることを良しとしない。
彼女の欲求はセージの生存であり、復帰だ。
孤独がどれほど心を蝕むかは『記憶』にはっきり残っている。
彼女が優先するのはセージの心の安定。そこは曲げない。

アーヴァインがいる間は、セージに対応を任せる。その間に、なんとか心を落ち着かせられるようにがんばる。
そう"タバサ"にお願いされたら、そこにどんな意図があろうとセージとしては聞かないわけにはいかないだろう。


セージとは会話がつながる。
それを確認し、ラムザはバッツに目配せをおこなった。


「素直に一緒にいきたいと言っていいんだぜ?」
「素直にって……君ねえ。
 別に、君たち自体には興味はないよ。
 君に探るほどの腹はなさそうだし、一緒にいても危害はないと思うけどさ」
「ほら、あれだ。そう恥ずかしがることはないだろ。
 俺だって一人気ままで生きてきたけど、それでも孤独ってのは怖いしな」
「いや、だからさ……」
「分かった。そういう事情なら歓迎しよう」
「あのさ、君たち会話する気ある?」

640 :精神対話 3/10:2020/06/16(火) 22:42:58.38 ID:zj8V47ZyF
一見すれば、素直になれない女の子が自尊心を守りながらも連れて行ってくれることを期待しているというストーリー。
ラムザもバッツも、程度の深さは除くにしても、セージと"タバサ"の事情は知っていた。
知ったうえで、その事情をぶん投げて会話をする。

「あんたが孤独に呑まれそうになったらしっかり引き留めてやるから安心しとけ。
 ラムザは面倒見いいやつだから、なんかあったら思いっきり甘えりゃいい。
 不安も疑問も悩みごとも、全部こいつにおっ被せとけ」
「ちょっと待ってくれ、全部僕に振るのか?」
「ん? ラムザ、そういうの得意だろ?」

年下の金髪の女の子あやすの得意でしょ?? との言い分に、
ラムザは自分の額に指をあて、軽く頭を抱えるが、"タバサ"の顔を横目に捉え、観念したように小さくため息をつく。
「あー、あー……。分かった。何か抱えていることがあるなら、できる限りの力にはなるよ」
「ほら、本人の了解も出ただろ?」
「はぁ……」

フレンドリーに加えて、マイペースというのだろうか。
表のフルート並みに話が合わない珍妙な雰囲気に、セージはどう接していいか困惑する。
ハリセンはセージのザックに仕舞われているが、仮に元の世界や初日のようにツッコミなんぞ入れようものなら
"タバサ"に身体を譲るという大義が精神とともにガラガラと崩壊してしまうだろう。


第三者からすればシュール極まりない光景だが、バッツたちとてカモメ団のようなノリでテキトーに話を進めているわけではない。

三日目の夜の時点で生き残っているメンバーはおおよそ限られていた。
脱出の光明を見出したからこそ、できる限りの人物の精査はおこなった。
ケフカやサラマンダーの排除はその時点で決めたことだが、
セージについてもその人物像については思い出す限りは共有を試みた。
バッツが提供したのは、初日にパートナーとして共に行動していた盗賊との話だ。

641 :精神対話 4/10:2020/06/16(火) 22:43:32.78 ID:zj8V47ZyF
――姫様の妖魔落ちバッドエンドものだぞ?
――うちのメンバーって、ほかは賢者様に僧侶の女の子だ。
――全員が知ってるわけねーよ。知られてたらドン引きされるか、ぶん殴られてるかの二択だよ。


クルルの死も知らず、まだ楽観的に構えていたころのこと。
大昔に発禁処分受けたという神竜秘蔵のエロ本の話題は、
必然的にお前んとこのパーティメンバーどうなってんのという話題にシフトしていた。


――賢者っていっても、スタンダードな賢者のイメージで考えてたら面食らうぜ。
――あいつはとにかく自信家で、正義感も強いけど同じくらいプライドも高いやつさ。
――困ったやつを見つけると何かと力になろうとするんだよ。
――自分の能力を見せつけようとでもしてんのかってくらいにな。


ローグは誰に対しても毒づく傾向はあったが、それが顕著だったのはセージだ。
何を考えているのかさっぱり分からない、という触れ込みだった。
ただ、嫌悪の表情はなかった。


――自信満々で難題引き受けて、実際に問題解決しちまうんだよな。
――プライド高すぎて自分の悩みは一人で抱えちまうのが悪い癖だけどよ。
――能力は認める。認めるが、そりが合わない。だからあいつに会ったら面倒見るのは任せるわ。


悪態をついていたものの、頼りにしている仲間なのだと、バッツはそう理解した。
結局、ローグが生きている間にセージと再会することはなかった。
その後、ひそひ草やソロの話を通して、彼が大変なことになっているということはバッツの耳にも入った。


セージの位置づけは、仲間が信頼する仲間。
ごくわずかな、無いにも等しい縁だ。
リスクを排するなら、脱出チームから排除することもできる。
でも、可能ならば関係を作るのも悪くはないのではないかと考えた。

加えて、ソロがロザリーやプサンを説得し、見事に仲間に引き入れたのも目撃した。
可能性を見たのは確かだ。

642 :精神対話 5/10:2020/06/16(火) 22:46:17.25 ID:zj8V47ZyF
「ほら、今のうちに言うこと言っといたほうがいいぜ?
 ローグからも、出会ったら面倒見てやってくれって言われたんだよ」
「ああ、君との会話、なんか違和感あるなあと思ったけど、彼の差し金だったなのかな? 変な前評判でも聞いてた?
 無理して慣れないことしようとするのは失敗の元だよ?」

バッツとセージの会話に断絶が生まれる。
ローグの名を出すのは拙速だったなと、反省する。
もっとも、腹芸は向いていないのもバッツ自身がわかっていたことだし、
ラムザにとってもペースに染まってくれればいいな程度の試行だ。
バッツは肺に溜め込んでいた空気をすべて吐き出して、感情をリセットする。


「ぎこちないのは悪かったよ。
 ローグには一日ほど世話になったし、色々恩もある。
 それに、あんたがすごいやつだって話も聞いてる。
 できることなら仲間に迎えられればいいんじゃないかって、少し欲をかいた」

一人で苦しんでいたレナが正気を取り戻すのに、真実はどうあれ、ローグが一役買ったとバッツは信じている。
仮にセージが一人で苦しんでいるのなら、ガラではなくても、手を差し伸べたいと思ったのは事実だ。


「ローグが僕を評価するって寒気がするんだよねえ。盛ってない?」
「彼の言葉に嘘はないさ」
バッツを怪しむセージに対し、ラムザがバッツの代わりにずいと前へと進み出て、フォローをおこなう。


ラムザは、最後には己自身の直感を信じるようにしている。
貴族たちの権謀術数に巻き込まれ、異端者の立場に追いやられたからこそ、そのスタンスを大切にしてきた。
今のセージは話を聞いてくれる。だから交渉の余地はある。
説得、勧誘は話術士の仕事だ。

643 :精神対話 6/10:2020/06/16(火) 22:46:49.63 ID:zj8V47ZyF
「君が力のある魔術師だということ、ローグさんの前評判。そこはバッツから話してもらった通り」
「難題引き受けて解決できるすげー魔法使いだって話は聞いてるぞ」
「それは買い被りって言うんだよ。僕はそんな大層な人間じゃない。
 肩書しかなくて、一人じゃ何にもできやしない。
 だから、これ以上生き恥をさらす前に退場したいのさ」

セージは自己を否定する。否定したい。否定しなければならない。否定させてほしい。
"タバサ"に身体を任せれば、何もかもうまくいく。

「買い被りなものか。
 周りの人間から評価を得たことが、君自身の実績だ。
 君自身が張りぼてに感じていても、君でよかった、と言わせられたなら、まぎれもなく君の功績だ。
 それは君が誇りに思うべきだ」

そしてラムザがセージの想いを知ってか知らずか、打ち砕こうと挑む。
勝算もある。

セージがセージであることを捨てようとする行動。逃避と言い換えてもいいだろう。
ラムザの知識にはそれに該当する現象がある。
極度に臆病風に吹かれている。あるいは、勇敢さが低いと言い換えることもできるだろう。
そうなった者は戦いに身が入らず、やがてチキンとなって逃げ続け、戦場から離脱してしまう。
もちろん、誰もが同一の現象を思い浮かべるとは限らない。現にアルガスは考えすらしていない。
だが、ラムザはその亜種だと当たりを付けた。

そして、対策を一つ知っている。
ほめるのだ。
自信を取り戻すまで、ほめて、共感して、持ち上げるのだ。
真意が怪しかろうと、不確定の事象であろうと、多少盛っていようと、ほめあげるのだ。

644 :精神対話 7/10:2020/06/16(火) 22:47:37.15 ID:zj8V47ZyF
「君が僕をどんなに持ち上げたところで、僕が大馬鹿野郎なのには変わりはないさ。
 すでに人を殺した。身勝手な妄想を並び立てて、無辜の他人を敵に仕立て上げて、そして殺したんだ。
 取り返しのつかないことをしてしまった愚者なのさ。なのに、どうして放っておいてくれないんだい?」
「戦場ではままあることだよ。それどころか、感情を失ったり、心がマヒしてしまったり、考えることを放棄してしまったりする者だって多い。
 あなたは今正気を保っているだろう? 後悔をしているのだろう?
 どれほどの紆余曲折があったのかは分からない。
 けれども、自分のおこないを振り返ることができるなら、きっと大丈夫だ」


過ちを犯している。人を殺している。
ほかにも、とても口には出せないことだって、一つや二つはあるかもしれない。
けれども、それは横にどけておいて、ほめて、ほめて、ほめあげる。
この世界で罪を侵したアーヴァインや、対立していたアルガスですら仲間にいる。
過去の罪や隠し事、わだかまりの一つ二つ程度で排除する道理はない。


「それに、手が汚れているのは僕だってそうだ。
 狂気に呑まれてしまった仲間に手をかけた。誰もやろうとしなかったからこそ、そうせざるを得なかった。
 そして、どんな理由があろうとも、殺人は殺人だと考えている。
 君がその苦しさを共有できるというなら、僕にとってはありがたいさ」

すべてが真実というわけではないが、すべてがウソというわけでもない。
この世界では結果的に手を下していないだけで、ラムザが殺害を前提として交戦した人物はいる。
そもそもラムザは元の世界でアルガスとウィーグラフ、それに実の家族をも殺害している。
綺麗事を求めるような経歴ではないのだ。

そんな彼自身の背景を相手には気にさせない。
対話者の感情に寄り添いながらも、ときに昂らせ、ときに沈め、ときに落ち着かせるメンタルケアの専門職。
それが話術士なのだから。

645 :精神対話 8/10:2020/06/16(火) 22:50:39.70 ID:zj8V47ZyF
「ラムザはともかくとして、それじゃあバッツはどうなのさ?
 僕みたいなやつをどうして受け入れられるんだい?」
「俺か? 俺はラムザみたいに気の利いたことは言えないけど……。
 あんたを蔑むような真似はしないぜ」
セージはすがるようにバッツに問いかけ、バッツが実直に答える。
バッツは演技に自信がないからこそ、相手をよく見て、まっすぐに向き合うしかない。

「そうだな、ここに来て一人殺したことはあるさ。放送で呼ばれた。
 俺の場合は向こうから襲ってきたけど、今考えたらあれは誰かに操られてたんだろう。
 死に際の金切り声……死に怯える目……今思い出してもきついさ。
 それに、仲間が死んで挫けそうになったところを、ほかの仲間になんとか救われたことだってある。
 俺が立ち直れたのは、たまたま近くに仲間がいたからだ。
 たったそれだけの差だと思うんだよ」

二日目の夜、燃え盛る村の中で、レナの死を突き付けられたときのことだ。
心にぽっかりと空いた穴を何かが埋めていくような感覚があった。
もしソロが殴り飛ばしてくれなかったら、心に埋め込まれた情動に身を任せていたかもしれない。
近くにいた者を襲い、殺害する、そんな不幸の火種をバラまいていたかもしれない。

そうならなかったのは、ひとえに仲間のおかげだ。
この世界に限ったことじゃない。船の墓場、バリアの塔、長老の樹、次元の狭間に故郷が呑まれたあの時……。
仲間のおかげで立ち直れたことも、塞ぎ込んだ仲間に手を差し伸べたことも、思い返せばいくらでもある。
あのときの仲間たちはみな死んでしまったけれども、そういう行為は捨て去らずに続けたいと思う。


「僕たちは君を肯定しよう。君の選択を尊重しよう。
 君が僕らを仲間足りえないと判断するなら、それは甘んじて受けるしかないけれど」
「あらためて、だ。一緒に行こうぜ。一人で答えに悩んでても、いいことなんか何もないだろ?」
ラムザが歓迎する。バッツが手を差し伸べる。

アルスとは違う。ローグとは違う。性格も見た目も声も雰囲気も別物。
バッツとローグの口調が少しかぶるくらいだ。
なのに、セージは旅に出たあの日を思い出す。
君の協力が欲しいと、何度も訪ねてきた仲間のことを思い出す。

646 :精神対話 9/10:2020/06/16(火) 22:54:59.51 ID:zj8V47ZyF
セージは無意識のうちに、彼らのほうに一歩ふらりと進み出てしまった。
決めるのは"タバサ"であるべきとの原則に立ち返ったけれども、"タバサ"は何も答えない。
お兄さんが誘われたんだから、お兄さんが答えを出すべきですと、そう言わんばかりに"タバサ"は沈黙を守る。


「そういえば、確認するまでもなく、君たちはギードに僕の護衛を頼まれてるじゃないか。
 それに、"タバサ"だって君たちと一緒に行くと言ってたしね」
セージが勝手に決めるのはいけないことだ。
だからこれ幸いと、最初の状態に立ち返った。
ただ、誘われるのは決して悪い気分ではなかった。

「そうだねえ、"タバサ"が落ち着くまでは相手してあげるし、用事が終わるまでは一緒にいてもいいさ」
相変わらず自虐的、上から目線で、やる気の感じられない物言いだ。

「分かった、今はそれで頼むよ」
ラムザは生暖かげに笑みを浮かべ、セージを迎え入れる。
セージ自身は気づいていないが、申し出には確かにセージ自身の意思が混じっていた。
彼が自分の意志で二人といることを決めたのだ。


【セージ(MP2/5、人格同居状態)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
     イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
 最終行動方針:"タバサ"に復活してもらい、自分は淘汰される?
 "タバサ"(人格同居状態)
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第ニ行動方針:ギードたちに協力して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
 基本行動方針:セージを助ける
 最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】

647 :精神対話 10/10:2020/06/16(火) 22:55:45.60 ID:zj8V47ZyF
【バッツ(MP1/5、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得、左足微傷)
 所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
     マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:ギードたちと再合流する
 第二行動方針:次の世界へ向かう
 第三行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(MP9/10)
 所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
     スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
 第一行動方針:ギードたちと再合流する
 第二行動方針:次の世界へ向かう
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み】

648 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/06/21(日) 23:44:06.87 ID:pB0iVRylH
投下乙です!
ケフカは相変わらず判断が早いしそこが恐ろしいね。
ロックの死亡フラグが積み上がりすぎてそろそろ高度限界に達しそう
色々な意味でギードが頼りになりそうだ

タバサセージお兄さんは丸く収まった……のかな?
ラムザとバッツの力で光堕ちワンチャンあるかもしれないと思えてくる反面、
U菜様パワーとかなんかの拍子でバッツ巻き込み闇堕ちもまだまだありえそう。
どっちも続きが気になるね、乙でした!

649 :時間稼ぎ 1/9:2020/07/11(土) 00:42:05.87 ID:6aC6irt7V
サイファーが破邪の剣から一筋の炎を巻き起こす。
それはセフィロスの頭上を大きく飛び越え後方に着弾した。
逃げ場を塞ぐように燃え広がった炎は、付近に広がる毒の沼にまで達し、
水分を気化させてあたりに不快な臭いを振りまく。

西は炎、北は毒沼、南は岩山。
セフィロスの状況は文字に起こせば袋の鼠、だが実態は窮鼠どころか旧鼠。まるで追い詰められた様子はない。

サイファーの目的はアーヴァインが逃げ切るまでの時間稼ぎ。
だが、時間稼ぎを考えてはいない。倒すつもりでかからなければ確実に返り討ちに遭う。


「ドロー!」

サイファーは奮い立たせるように声をあげ、手のひらを突き出す。
ターゲットは、ずたずたになったセフィロスのザックから覗く宝玉。
漆黒の宝玉でも、金に輝く宝玉でもなく、輝きを失っている緑の宝玉だ。
サイファーの叫びに呼応してそれが輝きを取り戻したかと思えば、そこから光がサイファーへと吸い込まれ……。

「トルネド!」

吸い込まれた光は魔法の竜巻として具現化される。
G.F.ケルベロスは接近戦向き、かつ擬似魔法であるとはいえ、トルネド自体が上級の魔法だ。
直撃すればただでは済まない。


「カァ? カカァカァ、カァ、カァカァ〜」
(ほう? ふういんのマテリアから魔法を引き出したのか?)


もっとも、真正面から小細工なしに放たれた魔法がセフィロスに通用すると考えていたなら、それは過小評価というものだろう。
周囲から空気が集まってくると理解するや、セフィロスは三人との間合いを詰めることを即決した。
直後、引き寄せられた大気がぶつかり四散してごうごうと渦を巻く。
背後の炎は酸素を送り込まれ、さらにごうごう燃え盛る。
踏み込めば生命を削られる領域が完成する。
だが、セフィロスの姿はその領域にはない。


「カァカァカァ〜、カァ〜」
(手品にしてはなかなか面白い。だが、私には通用しない)


魔法の中心を見切り、トルネドの発動よりも先に領域から抜け出し、強襲をかける。
言葉にすればシンプルだが、即座に実行に移すのは容易ではない。

軽く舌打ちをおこなうサイファー。
サイファーを視線で射抜くセフィロス。
両者表情は分からないが、フェーズが進んだことは誰もが理解した。

650 :時間稼ぎ 2/9:2020/07/11(土) 00:42:30.32 ID:6aC6irt7V
「行くっスよ、リュック!」
「オーライ!」

サイファーは竜巻の魔力を制御し収める最中だ。
言い換えれば、上級魔法の反動でとっさには動けない。
彼をカバーすべく、ティーダとリュックが駆ける。
収束していく竜巻を舞台の背景として、ティーダとリュックがセフィロスに向かって、それぞれ左右斜め前から切り込む。

ツメもキバも魔力も使えない丸腰の生物に斬りかかっていく二人。
相手が普通の人間ならば、過剰戦力。
正体を鑑みれば、まだ戦力が足りないくらいだ。
一方、セフィロスは迎撃態勢に切り替えたとはいえ、自然体と言っていいほど悠然としたものだ。
リュックの中段からの斬り上げも、ティーダの中空からのジャンプ攻撃も回避して、鼻でせせら笑う余裕すらある。

「カッカッカ……。カァ〜?」
(ククク……。どうした? その程度か?)

「あっ、今絶対あたし達のこと笑ったでしょ!」
「余裕こいてるのも今のうちだぞ! すぐに突き崩してやっからな!」
「カァァ……」
(楽しませてみろ)

とん、とん、と小ジャンプして身体のリズムを整えると、ティーダは一気に加速。
セフィロスとの間合いを一瞬で詰め、すれ違いざまに袈裟斬りを放つ。
セフィロスは剣の外側に触れるか否かの間合いでひらりと斬撃をかわすが、ティーダは足を止めない。むしろさらにギアを上げる。
身体を横に傾け、西からの強風を利用し30度の急カーブを描くように進路を反転。

回転のエネルギーを乗せて、逆袈裟斬りの追撃。
アスリートとしての身体能力にモノを言わせた猛襲、チャージ&アサルトだ。
地盤が緩く、背丈の高い草が繁茂するというおおよそ走るには適さない地形を、
ティーダは整地されたグラウンドのように縦横無尽に駆ける。


「カァ、カーカーカァ……」
(体育祭の出し物だな)

セフィロスはそれを児戯とでもいうように、軽くいなす。
二回目、三回目。まるで紙人形のようにひらひらと斬撃をかわしていく。
ティーダは勢いを止めずに四回目、斬りつけようとしたところで急にセフィロスが動く。
ルビーの腕輪を剣筋に割り込ませ、軌道を弾いたのだ。
思わぬ方向からの衝撃にわずかに態勢を崩したティーダ。
セフィロスはその背中側に回り込み、『一陣』の風にでもなったかのように飛び上がった。

651 :時間稼ぎ 3/9:2020/07/11(土) 00:42:54.69 ID:6aC6irt7V
「そうはいかないからね!」
リュックがティーダと交差するように飛び出してきて、年季の入った青く輝く盾を掲げ、蹴りの軌道上に割り込んだ。
不意を突かれた格好のティーダだったが、セフィロスの蹴りはティーダには届かなかったのだ。
盾と足が衝突し、鈍く鋭い金属音が鳴り響く。
それは地下空間に反響するほどのものだったが、盾には傷も凹みもない。

「だいじょぶ?」
「サンキュ、助かった」

声を掛け合う二人、そのままセフィロスに反撃しようとする。
だが、まだまだセフィロスの攻勢は止まらない。
セフィロスは盾との衝突の反動を利用し、盾を踏み台にさらにジャンプ。
もう一段、上空に飛び上がったのだ。


「うっそ、そんな動きすんの!?」
「カァ、カーカーカァ……」
(所詮、子供のお遊びだな)

リュックの正面上空からの抵抗力が消える。
勢い余った力はそのまま前方に流れていく。すなわち、体勢が崩れた。
リュックはととと、と正面方向に数歩よろける。
上空では、セフィロスが無刀流ながらも獄門の構えを取っていた。


「リュック、危ないっ!」
ティーダは反転し、セフィロスの落下範囲からリュックを半ば突き飛ばすようにして離れさせる。
けれども、古代種を刺し貫いたこの技は、真下から離れる程度でかわせるものではない。
刀がなかろうとも、付随する衝撃は決してぬるくはない。


「おい、見えねえからって俺を忘れてんじゃねえぞ!」
炎が、落下せんとするセフィロスを襲う。
破邪の剣から放たれた悪を浄化する炎だ。
質量のある物体であれば腕輪で軌道を逸らすこともできるが、炎はそうはいかない。
獄門の構えを解き、身体を丸めて防御態勢をとる。
結果、セフィロスはティーダたちからやや離れたところへと落下した。

652 :時間稼ぎ 4/9:2020/07/11(土) 00:44:00.31 ID:6aC6irt7V
「まさかそれで終わりと思ってんじゃねえだろうな!?」

サイファーが吼える。
破邪の剣から放たれる炎はいわばウォーミングアップ。
本命は炎にひるんだ相手に向かって放つ高速の衝撃波。
縦に高速回転する衝撃波がセフィロスを分かたんと襲い掛かる。

サイファーの始末剣、雑魚散らし。
魔力剣から放つことで炎を纏ったそれは威力も派手さも二割増し、サイファー自身も気に入っている。
さすがのセフィロスといえども、武器も防具もない状況でこの衝撃波を受けきるわけにはいかない。
態勢を立て直す暇もなく、着地するとともに横に転がって回避せざるを得なかった。


「チャンスだ!」

雑魚散らしに同期するように、ティーダが駆け寄り、ロンダートで勢いをつける。
宙返りで回転エネルギーを増し、もう一発回転してスピードを増す。
そのまま相手をたたき切るスパイラルカット。

セフィロスは立ち上がりこそしたものの、迎撃態勢に移りきれていない。
そもそもルビーの腕輪で弾くどころか、腕ごと持っていかれかねない強撃だ。
そこでザックを突きだして、ティーダの斬撃を荷物丸ごと使って受け流すことを選択する。
ザックの中に入っているプレデターエッジやいばらの冠はそうそう叩き切れるような代物ではないし、大量の折れた矢がクッションとなる。
それでも剣の勢いは殺しきれず、鈍い衝撃に思わずセフィロスは顔を歪める。

その場にいるのは三人だ。当然、攻撃はそれだけではない。
地を這うように伸びてきた炎がセフィロスの足を焦がす。
ティーダの影、すなわち死角から炎が放たれ、
宙返りをしたティーダの足元をくぐるような形で迫ってきたのだ。

「カァ……」
(小賢しい……!)
頭上にティーダ、足元に炎。
セフィロスは顔を歪めて炎魔法の術者の方向をにらみつける。
その術者はサイファーではない。リュックだ。
リュックの使った魔法は、サイファーが散々アピールしていた破邪の剣から出てくる魔法と同じもの。
セフィロスの注意がサイファーから逸れた。一瞬だけサイファーを見失った、そうティーダらは確信した。

サイファーが全力で武器を振りぬけるように、ティーダは脚力にものを言わせ、その場から飛びのいた。

「いっけええええ!!」

ティーダの叫びが反響する。

653 :時間稼ぎ 5/9:2020/07/11(土) 00:44:26.69 ID:6aC6irt7V
「あばよっ、ナマモノ!」

サイファーの始末剣、鬼斬り。
一人であれば牽制として炎魔法を使い、準備の時間を稼ぐが、今回はティーダらとの連携だ。

左足を軸足として、右手に掲げた剣を上段から背後へ向かって振り下ろし、その重さと遠心力から生じるエネルギーを保持したまま、身体を半回転。
今度は逆の足を軸足とし、さらにもう一回転。
それを繰り返していくことで、遠心力を何倍にも増幅させた薙ぎ払いを放つという、鬼すら斬り捨てる必殺剣。
そのエネルギーは、カッパ一匹などザックごと容易に上空に巻き上げてしまうだろう。
最高速度となった剣を振りぬかんとする。
その直前、サイファーの背筋に悪寒が走る。


「カーカー、カーカァ」
(なるほど、いい役割分担だ)


「うおおおおあああああああああ!」

本能が警笛を鳴らそうとも、もはや手は止められない。
サイファーは声をあげて自らを奮い立たせる。


一閃。


上空に吹き飛ばされたのはサイファーだった。
セフィロスは小さな体躯を活かしてふところに潜り込み、サイファーを蹴り上げて上空へ吹き飛ばしたのだ。
大きく態勢を崩したサイファーに対して拳の連打を放つ、『閃光』のような流麗な連撃。


「カーカカー、カァカーカァカァカァ?」
(来るタイミングさえ分かれば、カウンターを合わせるのは難しくあるまい?)

戦場は茂み。
それも、毒沼に非常に近く、湿地帯のような環境だ。
透明であっても、草を踏めば茎は折れ曲がる。
柔らかい地面を踏めば、足跡は付く。

もちろん、サイファーたちとてそれを理解していたからこそ、ティーダやリュックと連携をおこない隙を伺った。
だが、出来た隙そのものがフェイント。
渾身の一撃を叩き潰し、優位な戦況を引き寄せるための罠だったということだ。

654 :時間稼ぎ 6/9:2020/07/11(土) 00:44:48.39 ID:6aC6irt7V
「ちっ、身体能力は変わらねえと聞いてたが、マジでその通りらしいな」
「サイファー! 大丈夫!?」
「ああ、ダメージはほとんどねえよ。
 お前らの攻撃がちゃんと通ってたってことだ」
サイファーはそう言いつつ、メガポーションをあおり、口元を拭う。
物理回避の補助魔法、バニシュの効用もあるが、それを口に出してセフィロスに教える義理はない。

戦闘不能になるほどのダメージは負っていない。
だが、こうも綺麗にカウンターを決められては、次の攻めに慎重にならざるを得ない。


お互いにダメージを負い、戦況は再び膠着状態へと戻る。
どちらも決定的なダメージは与えられておらず、しばし様子をうかがう。
ふとサイファーの脳裏に違和感が頭をもたげた。
(なぜセフィロスは今もここで俺たちと戦っている?
 なぜ俺たちを抜いてアーヴァインの元に向かおうとしない?
 アーヴァインを奪いに来たんじゃねえのか?)

積極的にアーヴァインを追わない。
こちらの戦いに律義に付き合う。
あまり積極的に攻めてくることがなく、迎撃を優先する。


自分たちこそが時間稼ぎをされているのではないかという考えが脳裏に浮かぶ。
ただ、この世界の崩壊まで一時間程度しかない。
ここで膠着に持ち込む利が見当たらない。
だが、直感は警笛をびんびんと鳴らしている。


たったったった、と、そこに明らかに異質な音が響く。
軽快な足音だ。
誰もが先ほどまで聞いていた。
サイファーたちに同行していたボビィの足音だ。
(想定していた時刻よりも若干早えが……アーヴァインを旅の扉まで送り届けられたか?
 ロックと合流して戻ってきたって線もあるか?)

リュックとティーダに目配せし、背後を探るように指示を出すサイファー。
彼自身も考えをめぐらすが、眼前のセフィロスからはさすがに目を離せない。
三人とも、背後で起きている最悪の事態など、考えも及ばない。
ティーダにリュックはセフィロスへの警戒を怠らないまま数歩下がり、背後の確認を試みる。

「カカカ、カァカァカァ、クァ〜」
(さて、戯れの時間は終わりにしよう)

セフィロスは、彼らを冷めた目で見つめていた。

655 :時間稼ぎ 7/9:2020/07/11(土) 00:46:14.77 ID:6aC6irt7V
「っ゛げで、ぐる、じゅうなが、おっでぐる」
ボビィの背に乗り、奇妙なうなり声をあげる人物をティーダとリュックは目にする。
「えっ、アービン!?」
「ボビィ、どうしたの!?」

二人は理解が追い付かない。
ティーダの驚愕にアーヴァインは反応しない。
リュックの問いにボビィは答えない。


背後を見られないサイファーにも、のっぴきならない状況なのは分かる。

「おい、何が起こってる!?」
「サイファー、危ない! ぶつかる!」

思わず問いかけたサイファー。それに対して、返ってきたのは危険を知らせる言葉だった。
それもそのはず、ボビィの進路上には透明になったサイファーがいる。
ボビィには姿が見えない、ゆえに速度も落ちない。


「ちぃっ!」
まさか迎撃するわけにもいかない。
よもや蹴り飛ばされようかという寸前にサイファーは真横に転がり、ボビィの進路上から飛びのく。
ボビィに騎乗したアーヴァインがそばを通り過ぎたとき、ぞわりと背筋が凍るような感触を覚えた。


「おい、アーヴァイン! てめぇ、一体何してやがる!?」
「ゆるじて……こないで」
「カーカー」
(いい子だ)

サイファーの声は届かず、そしてボビィの背には、すでにセフィロスが飛び移っていた。
いつかのようにアーヴァインを従え、だが今度は明確な目的と希望を持って、セフィロスはボビィに騎乗する。


希望の祠までの足はボビィに任せればよい。
道中で、セフィロス自身の肉体を【闇】に馴らすため、徐々にリユニオンをおこなうのだ。
セフィロスの目の前で慌て騒いでいる死人――ティーダは希望の祠にてドラゴンオーブのチカラを借り、復活した。
原理は不明だが、『蘇生』の例である。
ドラゴンオーブのチカラをモノにするにしろ、何らかの手段でアンジェロを復活させるにしろ、
最もふさわしいのは希望の祠――闇に覆われた世界に打ち立てられた、唯一の聖域だ。

656 :時間稼ぎ 8/9:2020/07/11(土) 00:47:03.44 ID:6aC6irt7V
「行かせねえよ!」
「アービン! 目を覚ませ!」
「ボビィ、気をしっかり持って!」

セフィロスたちの前にサイファーらが立ちふさがるという構図は先ほどまでと同じ。
だが、状況は180度入れ替わった。
セフィロスは、アーヴァインを奪う側から奪われる側に。
サイファーらは、アーヴァインを守り抜く側から取り戻す側に。


この場に向かっている3人の来訪者、アーヴァインが連れてきた招かれざる来訪者。
怪しく光る闇の宝玉、神々しい光を放つ竜の宝玉。
状況が塗り替わる要素はいくらでもある。戦況は未だ予断を許さない。

【セフィロス (カッパ HP:2/5)
 所持品:ルビーの腕輪(E、半壊)、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
 第一行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 第五行動方針:アンジェロの蘇生を試す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

657 :時間稼ぎ 9/9:2020/07/11(土) 00:47:44.00 ID:6aC6irt7V
【サイファー (透明状態、MP3/4、右足微傷)
 所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗、スコールの伝言メモ、メガポーション
 第一行動方針:セフィロスを倒す
 第ニ行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リュック(パラディン)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣
 第一行動方針:セフィロスを足止めする
 第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣

【アーヴァイン (MP1/4、呪いによって混乱中、半ジェノバ化(中度、進行中)
 右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)
 第一行動方針:【闇】から逃げる???
 第ニ行動方針:旅の扉へ向かう
 第三行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】

【現在位置:希望のほこら北西の茂み】

658 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/07/15(水) 00:08:52.19 ID:qmhig1kN3
FFDQ3  746話(+ 3) 19/139 (- 0) 13.7

659 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/07/22(水) 18:52:47.61 ID:udvrgIbej
欲しい枚数を宣言する競り系カードゲーム「翡翠の商人」。シンプルながらジレンマもある
https://bodoge.org/2019/05/20/hisuinosyonin/
「街コロ」はカードゲームに興味ありな初心者の入門用に最適、サイコロを振って
カードを集めどんどん自分の街を発展させて勝利を目指せ
http://news.livedoor.com/article/detail/10962802/
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http://bged.info/national-economy
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https://futariasobi.com/shinomiria_rule/
風刺画「顧客が本当に必要だったもの」がアナログゲームに
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180513-00000005-it_nlab-life
かわいいひつじを増やして増やして増やしまくれ! “一人用”カードゲーム『シェフィ』
http://www.moguragames.com/entry/shephy/
ゲムマ2018大阪・春での話題作「Liqueur the GAME (リキュール・ザ・ゲーム)」
http://www.comonox.com/entry/boardgames/open/Liqueur-the-GAME
あり得ないほど革命する、 ありそうで無かった大富豪!「太陽と月の王国」
http://boardgame-replay.com/archives/52545717.html
大富豪(大貧民)のようなカードゲーム「ReCURRRing(リカーリング)」
http://www.tk-game-diary.net/recurrring/recurrring.html
『モノポリー』と「人喰いサメ」が融合した『サメポリー』がクラウドファンディングを達成、
5月のゲームマーケットで販売へ。市民を犠牲にしサメの脅威から生き残れ
https://news.denfaminicogamer.jp/news/190412d

660 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/08/23(日) 21:29:52.68 ID:WN2/bKClb
ほかの趣味で忙しいのでしばらく保守

661 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/09/16(水) 00:08:47.14 ID:a8+lrNETv
FFDQ3  746話(+ 0) 19/139 (- 0) 13.7

662 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/11/01(日) 13:14:16.62 ID:IaqdfrpRs
ほしゅ

663 :抵抗 1/8:2020/11/03(火) 19:35:29.26 ID:l2GRVURfv
「スロウガ! 絶対に逃がさねえぞ!」

チョコボを駆り、コピーを抱えたまま突っ切ろうとする私に対して、死にぞこないの男、ティーダが魔法を撃つ。
この私に何度も同じ手は通用しない。
ましてや、スロウはかつてクラウド達に苦渋を味わわされた魔法だ。
たとえ眠っていたとしても、この魔法を通すなどありえない。
もっとも、コピーやチョコボにも耐性を求めるのは酷だった。

乗車中に急ブレーキがかかったときのごとく、身体が前につんのめる。
腕に抱えていたコピーが私の身体を圧迫し、強烈なGがかかったかのような錯覚を受ける。
チョコボとコピーがスロウの魔法の影響下に置かれ、私と空間的な意味で切り離されたのだ。

いかに私といえど、物理法則を完全に無視して行動できるわけではない。
摩擦、空気抵抗、これらが突如狂いだせば当然体勢も崩れてしまう。


サイファーとリュックがこのような隙を見逃すはずがない。
上半身のバネを活用し、身体を大きく後ろに倒せば、案の定、先ほどまで私の頭があった空間を、閃熱が、剣閃が通り過ぎていく。
炎を宿す剣の一閃は顎のすれすれを通り過ぎ、閃光魔法は前髪を軽く焼く。
やつらの精一杯の抵抗だ。


「止まれええぇぇぇ!!!」

その隙にティーダが横からチョコボに飛び移ってこようとするが、それを裏拳で手で叩き落とす。

「うわあっぷっっっ!!」

ティーダはベクトルをずらされて、ダイブするように地面へと激突する。
マット運動のように受け身を取る余力は残っているようだ。
身体を丸めて地面に手をつき、前転してすぐに立ち上がる。
ただちに追跡を再開したようだが、大きく距離は引き離している。

スロウをかけられてもチョコボはチョコボ。
ただの人間とは素の脚力が違う。
ヘイストがかかっていても、その距離は縮まらない。
このままならば、スロウの魔法が切れるほうが早いだろう。

664 :抵抗 2/8:2020/11/03(火) 19:37:32.82 ID:l2GRVURfv
さあ、昨夜の続きだ。コピーの身体を、より強固で完全なものへと作り替える。
コピーの腕をツメで突き刺し、血を、意志を与えていく。
二度と、私に抗うことがないように教育し直していく。

今度は逃げられるわけにはいかない。
旅の扉をくぐるだけなら余裕だが、希望のほこらで色々と試してみたいことがある。
あの祠を覆うチカラは、ドラゴンオーブと同質のチカラではないかと確信に近い推測を立てているのだ。

【闇】が無いはずの私に、なぜ【闇】を扱う下地が発現したのか。
【闇】のチカラを発する宝玉を持って、【闇】のチカラが最も集まる場所にとどまったからだ。
無論、それがすべてと言い切りはしない。
単純に精神を消耗していた。【闇】がないという言葉の意味するものが違っていた。考えられるものはいくつかある。
だが、ピースの一つではあったはずだ。

さて、【光】のチカラに高い親和性を有しているコピーを連れ、ドラゴンオーブを持って希望のほこらにとどまればどうなる?



「あーらよっとぉ!」


私がそれに気づいたのは、あまりに遅すぎた。
殺すためではなく、かすめ取るための一手。それも、最初から私ではなくコピーに向けられた一手。

追撃を振り切れると確信した私は、コピーへ意志を注ぐことに注力してしまった。
故に盗賊の接近に気づくのが遅れた。

殺気があればすぐに気づいただろう、だが、その気配はなかった。
自己の気配を極限まで抑え、最小限の動きでモノを盗む。
盗賊はミッドガルのスラムでもよく見かけたものだが、これほどの腕前を持つものは私の知る限りいたかどうか。
盗賊は先ほど祠の周辺ですれ違った銀髪の男・ロック。その手に握られているのはウィンチェスター。


「へっ、こいつが悪さをしてるってんならよ……」

ウィンチェスターを上空に放り投げて剣を抜き……。

「こうしてやるさ!」

ロックは宙に舞うウィンチェスター目がけて、クリスタルソードを弧を描くように振り降ろす。
切れ味鋭い水晶の剣が、銃にはまったマテリアの見事中心をとらえた。
ぱきり、と小さな音が鳴り響いたかと思うと、宝玉はひび割れ、内包されていた魔力もろとも風に吹かれるようにさらさらと飛び去っていった。
「クエ?」という一鳴きと共に、ボビィの目に理性の光が戻る。
それに呼応し、脚も止まった。

665 :抵抗 3/8:2020/11/03(火) 19:39:20.79 ID:l2GRVURfv
「アービン! 俺だ、ティーダだ! つかまれ!!」
「〜〜、〜〜〜……!」

必死で追いかけてきたティーダが、コピーに呼び掛けて腕を伸ばす。
もはや声にならない声をあげているコピーだが、条件反射のように、ティーダに腕を伸ばしていた。
その腕を起点に、ラグビーボールを奪うかのように、ティーダが私の手からコピーをもぎ取り、抱えて、走り去っていく。

「大丈夫ッスよ、あいつは俺がなんとかする。だから負けんな!」
「ティー…ダ……?」

コピーは未だ私の支配に抵抗している。
何かを求めるかのように必死に腕を伸ばし、死にぞこないの名を呼んでいる。



私は追撃に移ることはできなかった。

「おやおやこれはこれはセフィロスくん。
 こんなところで会うとは思いませんでしたよ。ぼくちんとても心配していたんですよ?
 いやあ、初めて会ったときからずっと変わらない凛々しいお・す・が・た。
 ひっひっひ! ひゃっひゃっひゃ!! アーッヒャッヒャッヒャ!!!」

祠の方向からさらなる乱入者、ギードとケフカの姿が見えたからだ。


ギードの背に乗っているということは、ある程度の懐柔も成功させたということだろう。
他が御しやすいというつもりはさらさらないが、それでもケフカを野放しにしてコピーのほうに向かうのはリスクが高すぎる。


チョコボは正気に戻ったようだが、状況を飲み込めず、あたふたしている。
このボビィとかいうチョコボがはからずも人質として機能しているのか、ロックが突っ込んでくることはない。

あやつるという手段を失ったのは痛恨の極みだ。
……もっとも、私が直接追うことはできずとも、コピーの半身はすでにジェノバ細胞の影響下にある。それは私の支配下と同義。
ケフカやロックに注意を払いながら、私はコピーの半身に、ティーダを排除するよう命令を下そうと試みる。

666 :抵抗 4/8:2020/11/03(火) 19:40:39.26 ID:l2GRVURfv
「あ………?」
ティーダが呆けた声をあげる。
続いて、どさりと重いもの、すなわちコピーの肉体が地面に転げ落ちる音が響く。
後ろ目で見れば、ティーダが膝を付き、動作も緩慢になり、ついには意識を失ったかのように動かなくなる。
ティーダの身体から螺旋を描くように、白く淡い光が放出されているように見える。
一方でコピーの身体からはやはり黒く粘つくような霧が放出されているように見える。
おおよそ期待通りの展開だ。私がまだ排除の命令はくだしていないことを除けば。


「おいティーダ、どうした! クソ野郎! テメェ、何しでかしやがった!?」
「サイファーよ、落ち着け! おそらく、そやつとは別の要因じゃ!」
「ヒャヒャヒャ……。私もこればかりは同意見です。だから、そこのカッパは遠慮なくぶっ殺しちゃって構いませんですことよ?」

ようやく追いついてきたサイファーが吼えるが、ギードやケフカが言うことが正しい。

見当はついている。
ティーダとコピーの身体からそれぞれ放出される黒白の淡い光。
私の見立てだが、ドラゴンオーブと【闇】のチカラがぶつかっている。
実際、今朝から私のザックの中では、ドラゴンオーブと【闇】マテリアが光を放ち、反発しあっている。
似たようなことが、それらに関係の深い二人にも起きているのだろう。
その結果が融合なのか、中和なのか、増幅なのか、変質なのか、そこまでは分からないが。


【闇】と化して纏わりついてきた女は、元々コピーのしぶとい理性を折るのに利用するつもりだった。
放っておけばいつまでも、いつまでも、アーヴァイン、アーヴァインと五月蠅い羽虫のようにぶんぶんと付きまとうだろう。
厄介払いできた上に、向こうの戦力と引き換えにできるのならこれ以上ない手放しどころだ。


個々の展開は悪くない。ただ、やはり状況は悪い。
単純に敵が増えすぎた。

動けるのがサイファー、リュック、ロック、ギード、ケフカの五人。
戦闘不能となっているのがティーダとコピーの二人。
リュックとはまだ距離があるが、他は一息で詰められる距離。


――――。
――――。
――――。


時が止まったかのような静寂が場を支配する。

667 :抵抗 5/8:2020/11/03(火) 19:47:40.78 ID:l2GRVURfv
「クェ? クェ! クェ〜!」
けたたましい鳴き声が静寂を破る。
チョコボがコピーのほうに首を向け、ようやく状況を理解したのだ。
背に乗っているのが私だと気付いたのか、バタバタと暴れて振り落とそうとする。
正気に戻った以上、私もチョコボを移動手段とは別の用途に使うことにした。
チョコボの脚の付け根へと痛打を加え、飛び降りた。


「クェッ!? クェエエエエ!!」
「ボビィ!?」
「テメェ!」



追撃の構えを見せれば、割って入ってこざるを得まい。
ロックとサイファーは私の意図通りに、チョコボを守るための位置へと動き出す。


チョコボは悶絶し、うずくまっているが、使えない脚などもはやどうでもよい。
サイファーやケフカを正面に見据えたまま、後方へ一跳び。再度コピーの確保へ向かう。
追撃に移れば、あるいはそのまま突っ立っていれば、ちょうど直撃していたであろう位置へ、ケフカが氷柱を放ってくるが、いずれも不発に終わった。


ギードは私の意図――チョコボの命をブラフに、再度コピーに接近する――にすぐに気づいただろう。
しかしそのためにケフカに注意を割いてしまった。

ケフカは足手まといと判断した同行者は容赦なく切り捨てるだろう。
取り入っていたはずのルカを直ちに殺害したように。
やつにとってもまだ大いに利用価値のあるであろうコピーや、ただ召喚されているだけのティーダとは違う。
チョコボは切り捨てても割り切れる程度には価値が低く、ゆえに死ねば取り返しはつかない。
だからこそ、ケフカに注意を払わずにはいられなかったはずだ。



果たして、私は何の障害もなくコピーの元へと再度たどり着いた。
ここで終わるなど受け入れられるか。
ようやく、すべてを手に入れる算段がついたというのに。

668 :抵抗 6/8:2020/11/03(火) 19:50:16.50 ID:l2GRVURfv
「ドロー。フリーズ」

想定外の一声だ。
そう、私は見落としていたのだ。
対象から魔法を引き出し使用する未知の技術。
サイファーだけではなく、コピーもそれを使えるということに!


反射的に右腕をかざして身を守ったが、私の右腕は凍り付き、痛覚が、感覚が急速に衰えていく。
劣化しているといえど、フリーズの魔法は私の右腕を凍り付かせるには十分な威力があった。

状況を飲み込む間もなく、直感を信じて右腕をそのままあげて頭を保護する。
衝撃が伝わる。
食い込まんとする剣ごと、ベクトルをずらすように腕を外側へと払いのけた。
現状を認識する前に下手人――透明ではあったものの、確かにそこにいたサイファー――の腹に蹴りを入れ、吹き飛ばす。

肉、そして骨が切断される鈍い音が耳の中に残っている。
私の右腕は半ばから切り落とされていた。
腕から先、水かきの付いた手が、ルビーの腕輪ごと宙を舞い、ジェノバの半身の元へと落下する。



「ざま、み゛ろ……」
コピーが笑う。
心の底から安堵したように笑う。

一瞬で痛覚までマヒしたため、痛みは鈍い。
だが、腕はもう戻らない。

サイファーへのダメージはほぼノーダメージといったところだろう。手ごたえが軽かった。
リュックが追い付き、ロックも前に出てきている。
ケフカは口角を耳まで吊り上げ、るんるんと再び魔力を練りあげる。
ギードは私を怪訝な目でにらみつける。


コピーがシニカルに笑う。
「もう、終わり゛、だね……。ドロー」

コピーは再び魔法を引き出して、私に向かってそれを放った。

669 :抵抗 7/8:2020/11/03(火) 19:51:40.01 ID:l2GRVURfv
【セフィロス (カッパ HP:1/5、右腕喪失)
 所持品:村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
 第一行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外す
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 第五行動方針:アンジェロの蘇生を試す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】


【サイファー (透明状態、MP3/4、右足微傷)
 所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗、スコールの伝言メモ、メガポーション
 第一行動方針:セフィロスを倒す
 第ニ行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リュック(パラディン)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣
 第一行動方針:セフィロスを倒す
 第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】

【ケフカ (HP:3/4 MP:1/3)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖
 第一行動方針:セフィロス・ソロを初めとする、邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第二行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
 第三行動方針:旅の扉へ向かう
 第四行動方針:アーヴァイン/"タバサ"らを使って首輪を解除する
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】

670 :抵抗 8/8:2020/11/03(火) 19:53:39.65 ID:l2GRVURfv
【ギード(HP2/3、MP:1/3)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
 第一行動方針:セフィロスが【闇】のチカラを手に入れようとするなら阻止する
 第二行動方針:ケフカを監視下におく
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 第五行動方針:首輪の研究をする】

【ロック (MP3/4、左足軽傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 レッドキャップ、2000ギル、メガポーション×2
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:セフィロスを倒す
 第二行動方針:ケフカを警戒する
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】

【アーヴァイン (MP1/4、呪い、半ジェノバ化(重度)
 右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9
 第一行動方針:セフィロスを???
 第二行動方針:旅の扉へ向かう
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】

※ウィンチェスターとマテリア(みやぶる+あやつる)は破壊されました。
※ルビーの腕輪は破損しました。
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【現在位置:希望のほこら北西の茂み】

671 :キミの毒気にあてられて 1/10:2020/11/03(火) 19:55:10.50 ID:l2GRVURfv
彼は青年を見ていた。
彼女は彼を見ていた。
彼は彼女を見なかった。

彼女は青年を見ていた。
彼は彼女を見ていた。
彼女は彼を見なかった。



光と闇が重ならないように、彼と彼女もどこまでもすれ違う。
かつては隣で同じものを見ていたはずなのに。


光と闇、相反する二つの要素。

光が強まれば、闇は弱まる。
闇が強まれば、光は弱まる。

元の世界の最も聖なる地で、存分に力をたくわえた光のチカラを宿すオーブ。
この世界の最も邪悪な地で、存分に力をたくわえた闇のチカラを宿すオーブ。

それは太陽の名を持つ彼につながる。
それは夜の名を持つ彼女につながる。


彼は青年を見ている。
彼女は青年を見ている。
お互いがすぐ近くにいることを知らず、青年を見ている。
彼が青年に手を伸ばし、彼女が青年に手を伸ばす。


光が闇に混ざり合う。
闇が光に混ざり合う。
青年に向かって伸ばされた彼と彼女の手は、青年を介して重なる。


過剰な【闇】は光のチカラに中和され、なお過ぎた【闇】は青年に流れ込む。
過ぎた【闇】は青年の身体に取り込まれ、彼と同化する星の支配者に流れ込む。


青年が彼女を狂わせている【闇】を奪いつくし、二人っきりの世界を作る。
青年が昨夜計画するも、道化師の策によって霧散した状況だ。
はからずも今一度、それに近い状況が作り上げられたのは偶然か。
それとも青年が生きている限りは、いつかは起きる出来事だったのか。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

672 :キミの毒気にあてられて 2/10:2020/11/03(火) 19:56:19.52 ID:l2GRVURfv
アーヴァインの精神にはいくつもの異物が入り込んでいる。

アーヴァインほどジェノバと相性のよい肉体であれば、本来リユニオンは一瞬で終わる。
そうならなかったのは、異物があまりに多かったためだ。


セフィロスに植え付けられたジェノバ細胞だけではない。
精神の領域を間借りするガーディアン・フォースと呼ばれる召喚獣。
この世界を漂う怨念、凄まじい量の【闇】。
ケフカによって実験半分に注入された魔導のチカラ。
超魔道師ノアからドーガに与えられ、闇のドラゴンを通して摂取した膨大な魔力。
希望を冠する地に蓄えられた竜神のチカラ。
そして【闇】と化した■■■の意志と、魔女の意志と、セフィロスの意志。
アーヴァインの肉体と精神を舞台に、互いに領域を広げようとせめぎ合う。


常人ならすでに廃人になっていてもおかしくない。
一刻ごとに肉体も魂もぼろぼろにされていく。
それでも生きようと必死で前に進む。
快活だけど、どうしようもなく鈍感で、危なっかしい親友と未来を紡ぎたい。
どうしようもない大馬鹿な自分に手を差し伸べてくれた仲間たちに報いたい。
笑顔のすてきな、あの太陽のような娘にもう一度言葉を伝えたい。

■■■■■■という聞こえるはずのない音が、アーヴァインの背後からはっきりと聞こえる。
こちらへ来るのだ、とアーヴァインを招く言葉が、彼方から聞こえる。
生きるため、生きるために、声のする方向へと近づいていく。
その声が聞こえるたびに、背後から迫る■■■の声が小さくなる。
そして、声に身を委ねようとしたそのとき……。

――アービン! 俺だ、ティーダだ! つかまれ!!

暗闇の洞窟をさまよう冒険者が、入口から差し込む太陽の光に導かれるように、聞こえた声に向かって手を伸ばした。
がっちりと腕をつかまれ、おぼろげになっていた意識を引き戻される。


ティーダは■■■をみて、一瞬だけ驚いた表情を見せる。選択に迷う。
しかし、アーヴァインと無言の会話をかわして、すぐに覚悟の決まった引き締まった顔つきで■■■に向き合った。
アーヴァインの背後からおっかぶさる■■■を呪いごと、ティーダが代わりに請け負っていく。
黒い水底に沈み、溺れていたアーヴァインの意識は水面へ到達し、現実世界へと帰還する。

673 :キミの毒気にあてられて 2/10:2020/11/03(火) 19:59:57.08 ID:l2GRVURfv
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

想いを持った魂が、聖水に溶けこんで形となった。
召喚獣ティーダの成り立ちは、スフィアの組成に近しい。

――ベベルのお祭り騒ぎと孤独。
――夕日に煌めく幻光河と川岸の萌動。
――ビサイド島の穏やかな日々。

――消えた父親の背中を追う日々。
――平穏が崩れ去り、異世界で一人もがき続ける日々。
――ビサイド島の穏やかな日々。


スフィアに目を凝らせば過去を見て取れる。
スフィアに耳を寄せれば過去を聞き取れる。

――召喚士になれた日と、彼に出会った日。
――キーリカの港、キノコ岩の戦場、その惨状。
――望まない婚約とその終焉。

――彼女に出会った日と、ガードになった日。
――キーリカの港、キノコ岩の戦場、その惨状。
――望まない婚約とその終止符。


彼女の記憶は奔流に乗り、その先に在る彼に流れ込む。
彼の記憶は奔流に乗り、その先に待つ彼女に流れ込む。

――反逆者として追われる日々、絶望、そして決意。
――旅の終焉、決断。
――彼との物語の終わり。

――彼女を救う奮闘の日々、そして決意。
――旅の終焉、決断。
――彼の物語の終わり。


彼女の想いは奔流に乗り、その先に在る彼に流れ込む。


――平和になった世界、ビサイド島の賑やかな日々。
――彼の姿を追う日々、彼の手がかりを見つけた日。
――おもしろおかしい日々、彼の痕跡を追い求めて、そしていつもの日々が返ってくる。

――。
――。
――。

――彼を見つけながらも、何を話せばいいかわからなくて、目の前のことだけを見てきた一日目。
――彼と再会して、理想と現実の差に困惑し、それでも理想を追い求めた二日目。
――理想が現実に塗り替えられ、見たくないものを見せ続けられるその苦しみを思い知らされ、絶望した三日目。

――現実に打ちのめされ、目の前のことだけで精いっぱいだった一日目。
――友と出会い、彼女と再会して、現実だって捨てたものじゃないと感じて、理想を追い求めた二日目。
――現実を理想で塗りつぶし、見たいものだけを見続けたその愚かさを思い知らされ、懺悔した三日目。

彼が、彼女が、互いの記憶を以って、互いを認識する。

674 :キミの毒気にあてられて 4/10:2020/11/03(火) 20:01:03.08 ID:l2GRVURfv
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



もしかしなくても、これは夢だ。
ガガゼト山で、祈り子像に触れたときのような、精神の空間だ。
例えるなら、『シン』の体内に広がっていた悲しみの海、その夜景。いわば、明るい暗闇。

本当は迷った。
セフィロスがいる以上、すぐに目を覚ましたほうがいいのではないかと。
けれども、アーヴァインはティーダの迷いを見通したかのようにささやいた。
僕は大丈夫、彼女と言葉をかわしてほしいと、そう言っているのをティーダは理解できた。

夜空の下、なげきの園の雄大な光景を背景に立つ影は、ティーダがいつかは向き合わなければならなかった相手だ。


「なあ、話、しないか?」
「……今さら、何の話?」
  「また私を惑わそうというの?」
    「愛を踏みにじる、この偽物めぇ!」


意を決して声をかければ、いくつもの声が同時に聞こえてくる。
会話に応じる声も、怒りのままに罵倒する声も、もはや何も聞き入れない怨嗟の声も。

「っ!」

何重にも重なった感情をたたきつけられ、ティーダは思わず息を呑む。
以前見たときよりもその影はいささか薄く、輪郭がはっきりと見える。
緑と青のオッドアイが怪しく光る、ユウナと思わしき黒い人影。
それ以上に目を引くのは、まるで水晶のような質感。
魔女の城にあるという黒いクリスタルのような異質な姿。


目の前にいる■■■は、ユウナと定義するにはあまりに多くの異物が混ざり合ってしまったのだろう。
だが、そんなことは百も承知だったではないか。
分かったうえで、心を奮い立たせてティーダは■■■に声をかけたのだ。


「その……謝らなきゃいけないこととかたくさんあるし、逆に聞きたいことだって山ほどある。
 今さら何言ってるんだって言われても仕方ないけどさ。
 けど、言っておかなきゃ、聞いておかなきゃ、またどれだけ後悔するか分からない。
 そんなの、もうたくさんだ。だから、腹を割って、話をしよう」


「もう遅いよ……。私は戻れなくなっちゃったから……」
  「それもこれも■■■■■■、お前が、お前が、お前がいるからぁああ!!」
    「絶対に許さない、絶対に許さないから、■■■■■■!!!!!」

675 :キミの毒気にあてられて 5/10:2020/11/03(火) 20:02:01.24 ID:l2GRVURfv
かつて、彼は『シン』の体内で父親と再会した。
エボン=ジュに支配され、滅ぼされることを望んだ父親には、もはや理性が残っていないはずだった。
巨大な隕石を召喚し、豪快に投げかけようとする絶対絶命の状況。
そのさなか、彼は父親に思いの丈をぶつけた。
もう、あんたには負けねえと心の底から叫んだ。
ほんのワンテンポだけ、父親の動きが止まった。その一瞬が決め手となった。
隕石が投げつけられることはなく、ティーダの剣は究極召喚の胸を貫き、戦いは終わった。
理性を失ったはずの父親、その魂に、声が届いたのだ。
胸を貫かれた究極召喚の最期の表情は、どこか満足げな、穏やかな表情だった。


目の前の■■■にユウナとしての意識はあるのか、それとも怨念や魔女の意志に乗っ取られてしまっているのかは分からない。
けれども、彼女の魂さえ残っていれば、きっと声は届くのだと、ティーダはそう信じている。


「ごめん、ユウナのこと全然見てなかった。
 ユウナのことを後回しにしても、きっと許してもらえるって、小ずるいこと思ってた。
 オトナぶって、カッコつけて、ユウナの心を勝手に推し量って決めつけた。
 ユウナの優しさに付け込んで甘えきった。
 本当に、ごめん」

「言い訳なんて聞きたくないよ……。そんな話、キミの口から聞かされたくなかったよ……」
  「私のこと、どうでもよかったの? 私はこんなにキミを愛しているのに、キミは私のこと、眼中になかったの!?」
    「■■■■■■……! また偽物を作って、私を笑ってるんでしょ? 残念だけど、もうその手は見飽きてるんだ」


ティーダがユウナを見ていなかった。その懺悔は、■■■にとって聞かされたくない事実。
分かっていても、受け入れ難かった事実。
何もかもアーヴァインのせい――そんな偽りの希望を木端微塵に打ち砕く残酷な告白。
それを突き付けられて、それを受け入れるか、激高するか、否定するか……すべて彼女の気持ちなのだろう。


「ああ、何を言われても、受け止める。昨日までの俺はバカだった。
 それでも、ちゃんと謝らないと次に進めないから。
 ――ユウナと話せたら、絶対に言おうと思ってたことがもう一つあるんだ」

676 :キミの毒気にあてられて 6/10:2020/11/03(火) 20:03:04.70 ID:l2GRVURfv
覚悟を決めて、ゆっくりとティーダは近づいていく。
すぐそこにいる彼女のもとへ、近づいていく。

「俺はユウナを、愛してる」

彼女の瞳孔が広がる。
すでに固い水晶の身体が、重ねて硬くなる。

「ここじゃ、言葉しか伝えられないし、愛のカタチとか、証明とか、そういうのできない。
 でも、この気持ちは本当だ」


一歩、一歩、一歩。そして触れる。
背筋まで凍るような冷たい身体。
闇に呑み込まれていくのではないかという錯覚。
それでも、彼女に触れる。抱きしめようと、腕を伸ばす。

「これからは私だけを見てくれるの? そんなわけないよね? 言葉だけじゃ信じられないよ」
  「すぐにほかの人に浮気するよね? どうせ口だけだよね? もう騙されない」
    「嘘つき。大法螺吹き! ■■■■■■が逃げる時間を稼ぐために、調子のいいこと言ってるだけだろうが!」

■■■に伸ばした腕は、■■■にわしづかみにされる。
不信の言葉とともに、これ以上立ち入らせまいという意志を示される。
ティーダは逡巡し、言葉を紡ぐ。
次の言葉は彼女を激昂させるかもしれない。それが分かっていても、言葉を紡ぐ。

「ユウナだけを見る、ユウナしか見ない……それはできない」
腕をつかむ力が強くなる。

「ほら、やっぱり、愛してるなんて嘘だったんじゃない」
  「私の事、適当に言いくるめて、ゴミみたいに捨てる気だったんだね」
    「もうちょっとがんばれば、私も信じてあげたかもしれないのに。馬脚を露しちゃったね」


夜の闇が深まっていく。
冷たい声が返ってくることは覚悟していた。
失望されることは覚悟していた。
だから、ここからが正念場だ。

677 :キミの毒気にあてられて 7/10:2020/11/03(火) 20:04:06.40 ID:l2GRVURfv
「ユウナにウソ言うなんて、できっこない。
 ユウナだけを選んで、他は全部捨てるなんてウソはつけっこない。
 俺は欲張りだ。ユウナを愛してる。でも、友達だって大切にしたいし、仲間にだって囲まれていたい。
 ブリッツボールで結果を残し続けたい、選手としててっぺんに立ちたい、ファンだってたくさんほしい。
 世界中をまわりたいし、いろんな景色を見てみたいし、なんなら平和な異世界にだって行ってみたい。
 俺は欲張りだから、可能性があるなら、全部ほしい!
 オトナぶって、カッコつけて、最初からあきらめるなんてしたくない!
 ユウナを助けたい。仲間にだって生きてほしい。ここは、曲げない」


ウネやロックは、優先順位をつけろとティーダに言った。
ぐうの音も出ない正論だ。
アーヴァインを救う、ユウナを救う、仲間もみんな救う。清々しいまでの欲の張り方だ。
けれども、ティーダはやはりそこで妥協をしたくはなかった。

『シン』を倒す、『シン』を復活させない、ユウナを救う――あのときは足掻いて足掻いて、針の穴を通すようなわずかな可能性をつかみ取った。
ユウナだって、同じ想いだったはずだ。
すべての希望を断つリスクを分かっていながら、わずかな可能性にかけて、最良の未来をつかみ取ることを選んだのだ。


「ユウナにさ、言っておきたいことがあるんだ」
今までは懺悔の時間だった。
けれども、それだけじゃ対等じゃない。

「俺を見ろよ!
 目を逸らすなよ!
 俺はここにいるだろ!」


ティーダは腹に力を込めて、思いの限りを声に乗せる。
一歩間違えれば傲慢で、ナルシストと言われても仕方がない尊大な考え方だ。
でも、これでダメならもう脈はない。不退転の気持ちで彼女に語り掛ける。


「アービンを憎んでいればそりゃ楽さ。何も変わらない。
 あいつをユウナは許さない。あいつは謝り続ける。堂々巡りだ!
 あいつを罵って、傷つけて、憑り殺して、それでユウナの気持ち、変わるのか?
 ナギ節みたいに、たとえその一瞬だけ感情が収まっても、すぐに溢れるんじゃないのか?
 だってさ、ユウナの気持ちは、どこに向いてるんだよ……。
 アービンなのか? 違うだろ!
 溜め込んだこと、飲み込んだこと、全部俺にたたきつけろよ!」

678 :キミの毒気にあてられて 8/10:2020/11/03(火) 20:05:42.00 ID:l2GRVURfv
強い口調のはずなのに、涙の混じる音がする。
糾弾でも叱責でもない、これは懇願の色だ。
ティーダの腕をつかむ■■■の力が緩み、弱弱しく口を開く。

    「なんで、私を見てくれなかったの」
「……ごめん」

反逆者として追われた日、マカラーニャの泉での一夜を思い出す。
張り詰めた糸がぷつりと切れて、弱さをさらけ出した彼女の姿。

  「どうして、私に気づいてくれなかったの」
「ごめん」

もしあのとき、彼女が胸の内を明かせずに溜め込んだままだったら。
いったい、あの旅はどうなっていたことだろう。

「なぜ、私を止めてくれなかったの」
「ごめん」

今の彼女は、そのときのIFなのではないか。
そんな、とりとめのない考えがティーダに浮かんだ。

「「「なぜ、私を置いていなくなっちゃったの?」」」
「本当に、……ごめん」


本当に、不条理な問いだ。
彼にだって彼女にだって、どうしようもなかったことくらい分かっている。
それでも問いかけるしかなく、謝り倒すしかない。
沈黙が二人の間を支配する。


「こうなっちゃったのは、紛れもない私自身が選択した結果なんだよ……」
  「私は戻らない。もう戻ることはできない」
    「殺し続ける。殺して、殺して、殺して、キミへの愛を取り戻す」

「……そっか、じゃあ止めに行かないとな」


ティーダは今一度、■■■へ近づいていく。
腕を広げて、背にまわし、引き寄せて、彼女の体を自分の体に沈み込ませる。

679 :キミの毒気にあてられて 9/10:2020/11/03(火) 20:06:35.94 ID:l2GRVURfv
「俺のしぶとさ、見くびんなよ。
 このくらいで諦めるわけがないっつーの」

一度は消えたが、ティーダは再びユウナの元へ舞い戻った。
一度は死んだが、ティーダは蘇ってユウナの元へたどり着いた。
そんなのは結果論だ。偶然だ。だから、この言葉だってただの勢いだ。
けれども、不条理に振り回され、蓄積し、ついには爆発した感情を塗り替えるのは、場の空気と勢いだ。
ティーダの姿をして、ティーダの記憶を持った男が、ユウナの元に絶対にたどり着くと宣言する。
その意義は果てしなく大きい。


「絶対にユウナの元にたどり着いてやる。
 黒いクリスタルぶっ壊して、その身体覆ってる闇っての? それごと元の場所に還してやるからさ!
 だから、そこで待っててほしい」

這ってでも、蘇ってでも、召喚されてでも、自分はユウナの元に向かう。
精神の世界でダイレクトにつながった二人は、今だけはそれを確信している。


ティーダの胸の中に、■■■が頭を沈み込ませる。
その刹那、スフィアを覗いたかのように、ティーダの脳裏に一つの光景が浮かび上がった。

荒れ果てた広間。
散乱した分厚い魔導書。
壊れた黒いクリスタル。
白い光を放つ黒いオーブ。
壁に埋め込まれた棺と水晶に眠る仮面の男。

ティーダはこの光景を見たことはない。
けれども、これがきっと魔女の城――ユウナの見ている景色なのだろうと、ティーダはそう思った。

【闇】を全部取り払って、ユウナの心を救い出す。
いや、それだけじゃない。みんなの心を救い出す。ユウナも、犠牲になったみんなも。
それが、ただ一人舞い戻った自分に課せられた使命なのだと言い聞かせる。

「待ってる。うん。待ってるよ……」
哀しみと絶望に染まっていたはずの■■■の目に、希望の光が見えたような気がした。
嘆きの園に朝日が訪れたかように、あたりが明るくなる。


そして、抱擁が解かれ、
身体を突き飛ばされた。

680 :キミの毒気にあてられて 10/11:2020/11/03(火) 20:10:39.80 ID:l2GRVURfv
「あ………?」

ティーダは突然のことに受け身を取れず、尻もちをついてしまった。
状況が飲み込めないまま顔をあげると、そこにはいつしか二人の女性の姿があった。
一人は先ほどまで話していた■■■。
そしてもう一人は、表面は無数の血管と触手で覆われていて、悪趣味で奇怪な翼を背負った銀髪の女性だ。
そして、その手……と呼んでいいのかどうかも疑わしい器官に■■■を捕らえていた。


ティーダはその姿に戦慄する。
アーヴァインの魔物化した左半身と酷似した、それ以上におぞましい何か。
アーヴァインの夢の世界、夜の大都市でアーヴァインを追いかけまわしていた怪生物にほかならない。

【闇】を吸収しているのだろうか。
■■■の輪郭が薄くなる。
それと引き換えに、景色は夜明けが来たように徐々に明るくなっていき、怪物の存在感が強まっていく。

夜闇が薄まり、朝日が昇る。
希望を象徴するその光景は、ジェノバが見せる偽りの希望。
昇る朝日は太陽では決してない。
それは、ジェノバが操る星の箱舟。

「ユウナ!」
ティーダは■■■の名を叫び、怪物に斬りかかる。
たとえそこにいる■■■が本体でなくとも、見過ごす選択肢はない。


大地の名を冠する剣が、襲い掛かる触手を切り裂く。
邪魔な一本、二本と切り裂いて、本体と思わしき銀髪の女性の脳天めがけて振り降ろす。
その瞬間、まるで電線のコードが抜けてしまったかのように、ぶつりと接続が切れ、ティーダは暗闇へと放り出された。


召喚士が、召喚獣を戻した。
その結果だった。

681 :キミの毒気にあてられて 11/11:2020/11/03(火) 20:11:51.66 ID:l2GRVURfv
【アーヴァイン (MP1/4、呪い、半ジェノバ化(重度)
 右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9
 第一行動方針:セフィロスを???
 第二行動方針:旅の扉へ向かう
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けます。会場内にいる限り永続します】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
※ティーダはアーヴァインの呪いを引き受け、軽減しました
【現在位置:希望のほこら北西の茂み】

682 :Reverse Sephiroth:2020/11/03(火) 20:12:49.07 ID:l2GRVURfv
召喚獣と召喚士は特別な絆でつながっている。
でも、それがなくとも、ティーダのやるべきことくらい、はかりとれる。
ティーダに彼女を任せたのは、きっと正しい。


アーヴァインは■■■の悪意にひとえに晒されてきた。
だからこそ、降りかかっていた彼女の悪意が薄らいできたのが分かる。
聞こえないはずの耳鳴りが収まっているのだ。
自分の手に重ねて置かれた手が消えているのだ。
どうして? そんなの決まってる。
アーヴァイン、ユウナ、ティーダの三人を破滅へと導く死の三角螺旋は逆巻いて、希望の未来へと動き出すのだ。

スコールが動いている。班長は、今度も作戦をきっと成功させる。
ユウナの心が救われる未来があるのだと、信じることができた。
そしてセフィロスはもはや絶体絶命の状況にまで追い込まれた。


安堵してしまった。
安堵してしまった。
――安堵してしまった。


一瞬の心の隙だった。
ぴんと張り続けてきた緊張が、この瞬間だけ緩んだ。
まだ、ジェノバの件は何も解決していないのに。


(あとはカッパだ……)


【闇】の破壊衝動か、散々セフィロスにささやきかけられてきたその反動か、それとも自身の恨み辛みがそれほどまでに深かったのか。
セフィロスへの思いを抑えきれない。


「もう、終わり゛、だね……。ドロー」

相手にゆかりのある魔法を抽出する技術。

「あひゃ? なんじゃこりゃ?」

アルティミシアにさえ通じるのだ。初見の者に防げるはずがない。
本能に突き動かされるように、セフィロスへ向かってドローした魔法を放つ。





「カッパー」





口角のないはずのセフィロスが、口角を上げたのが見えた。

683 :Reverse Sephiroth:2020/11/03(火) 20:13:30.51 ID:l2GRVURfv
【アーヴァイン (MP1/4、呪い、半ジェノバ化(重度)、コピー
 右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9
 第一行動方針:セフィロスを???
 第二行動方針:旅の扉へ向かう
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けます。会場内にいる限り永続します】


【セフィロス (HP:1/5、右腕喪失)
 所持品:村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、プレデターエッジ、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
 第一行動方針:アンジェロの蘇生を試す
 第二行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉をくぐる
 第五行動方針:首輪を外す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

684 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/11/03(火) 23:28:32.43 ID:feBkkrD92
投下乙!
ティーダが見事ティーダらしい告白をぶつけてこれにはU菜様もデレ不可避
でもせっかくフラグが立ったのに早くもセフィロス復活で暗雲がやばいですね…
ケフカがるんるん唱えてる魔法も不穏だし、誰が落ちるか目が離せなくて楽しみです!

685 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/11/14(土) 23:49:03.90 ID:wNIlzdqTA
FFDQ3  749話(+ 3) 19/139 (- 0) 13.7

686 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2020/12/26(土) 00:13:27.11 ID:bF8qROBTZ
保守

687 :First Priority 1/13:2021/01/04(月) 22:41:54.88 ID:HrzxOofio
「あぎゃああああああああぁぁぁぁっっっっ!!」

ケフカにできたのは、わずかに身をよじることだけだった。
投げつけられたプレデターエッジは、ケフカの心臓へ吸い込まれるように飛んでいき、直前でわずかに身を逸らしたケフカの左上腕を貫いた。
だが勢いはまったく衰えず、それどころか空を割いて飛んでいく広刃剣にケフカは引きずり倒され、後方へとバウンドしていく。


カッパーの使い手はことごとく会場から死滅し、離脱した。
ロックも内側に取り込んだ。
カッパーの解除は不可能。


そんな当初の予測をあざ笑うかのように目まぐるしく変化していく状況は、現状に食らいついていた彼をもついに振り落とし、代わりに脱落が追いついてくる。
セフィロスを確実に葬るために紡いでいた魔法、その詠唱は結実することはない。
プレデターエッジが後方へと一直線に飛んでいき、ケフカはずざざざっと地面を引きずられていく。
どこで間違ったのか、逆恨みもままならぬまま、ケフカはプレデターエッジと共に後方の毒沼へダイブした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

688 :First Priority 2/13:2021/01/04(月) 22:42:25.24 ID:HrzxOofio
「ぼ、ぼくは何をした……?」
カッパのいた場所に入れ替わりに現れたのは、流れるような銀髪を持つ背の高い男だった。
どうして、ケフカからカッパーをドローしたのか。
どうして、セフィロスを元の姿に戻すことになったのか。
どうして、ティーダとのつながりを解除してしまったのか。
自分の事が、分からない。
何もかもが、分からない。


本来、アーヴァインの意識はとっくになくなっているはずだったのだ。
昨日の夜、セフィロスにジェノバ細胞を植え付けられたそのときに。
希望のほこらの場力とティーダの意志によって、均衡は保たれていた。
セフィロスがさらなる意志を送り込んだことで、均衡はついぞ崩れた。

アーヴァインがはっきりと理解したのは、最低の裏切者に堕ちたということだけで。
アーヴァインの半身から色素が消え、輪郭がブレて、壊れかけた古いテレビのディスプレイのように横線がぶつぶつと入る。
瞳の色が魔晄の色へと染まっていく。


『受け入れろ。絶望を』


かつて聞いた、甘美な声がもう一度、アーヴァインの中に響きわたった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

689 :First Priority 3/13:2021/01/04(月) 22:42:47.80 ID:HrzxOofio
「うぅ、うぁぁあ、うあああああァァュュィギィィァァュュュォォォォオオオオオ!!!!」
「アーヴァイン!?」

アーヴァインから、彼のものとは思えない悲鳴とも怒号ともつかない叫びがあがる。
半身が自由意志を持つかのようにうごめく。
それはジェノバの胎動であり、その絶叫は産声だ。


(これが、これがセフィロスの狙いだというのか……! どこまでがやつの思惑だというのだ……!?)
(う〜、どゆことなのさ〜!? 何が起こってるの!? 慌てちゃダメ、慌てちゃダメだって、いったん冷静にならなきゃ!)
(どうみてもセフィロスのせいだよな……。なんとかして、アーヴァインのやつをセフィロスから引きはがせないか……?)
(セフィロスは強い……! だが腕一本は奪ってるんだ。勢いを取り戻される前に叩くしかねえ!)
(クェ、クェェ……)

セフィロスの出現と、アーヴァインの変貌にうろたえる一同、それぞれの内心は一枚岩とは程遠い。


「ぼやっとしてんじゃねえ! セフィロスは病み上がりだ! 今のうちに一気に押し切るぞ!」
サイファーが仲間たちに目を向けて、怒声を上げる。
動揺を察したのかそうでないのか、ともかく強引に作り出した勢いに任せて、状況を取り戻そうとする。
そしていの一番にセフィロスに向かって斬りかかっていくのだ。

690 :First Priority 4/13:2021/01/04(月) 22:43:58.19 ID:HrzxOofio
有事において、冷静な判断をくだし、班員に周知できることは指揮官の必須条件だろう。
セフィロスはつい先ほど片腕を失い、バランスを崩している。
全員で速攻すれば押し切れるという推測は間違っていないのだ。

ただし、その作戦を阿吽の呼吸で実行できる仲間がこの場にいるのかどうか、
そして、その作戦の穴を埋められるような相棒がこの場にいるのかどうかは別の話だ。
その拙速こそが、サイファーがSeedに匹敵する実力と戦闘センスを持ち併せながらも、落第し続けた理由。



スコールがいれば、あるいは風神や雷神がこの場にいれば、この条件下でも即座に連携ができただろう。
しかし、この場にいる歴戦の戦士たちは、あるいは出会ってまだ日も浅く、あるいは共闘の経験も少ない。
まして、サイファーの仕草も感情も仲間の視覚だけでは捉えられない。
なぜなら、彼はまだ透明だから。


結果、サイファーだけが突出してしまった。
リュックはサイファーに遅れて駆け出すが、打ち合わせなしの完全ぶっつけ本番でこの場に立ち会っているギードは明確に出遅れた。
それゆえに、ギードはサイファーが交戦するタイミングに合わせてサポートできるように、遠距離攻撃に切り替える。

そしてロックは、駆け出さなかった。
顔色を変え、サイファーに向けてできる限りの速さで詠唱をおこなっていた。

691 :First Priority 5/13:2021/01/04(月) 22:45:06.30 ID:HrzxOofio
サイファーの怒号が発せられるほんの少し前。
秒でいえば、一秒にも満たない、本当にほんの少し前のことだ。
セフィロスはサイファーらから一度距離を取り、村正を掲げていた。
村正にはめられていたふういんのマテリアから、コピーの肉体へと光が吸い込まれていったのだ。


「クェッ!! クェ〜〜ッッ!!」
ボビィがいち早く気づき、サイファーに警告する。
ドローが完了したときには、既にサイファーは駆け出しており、今さら止まれば大きな隙をさらしてしまう。
ロックが顔色を変え、いちはやく透明を解こうと魔法を詠唱し始める。


アーヴァインの豹変、カッパの解除、ケフカへの無情な不意打ち、サイファーの先行。
これらの出来事が10秒たらずのうちになだれ込んできたのは事実だ。
けれどもカッパが解けた瞬間に、サイファーにケアルでもヘイストでも、なんでもいいから魔法をかけておくべきだったのだ。
なぜアーヴァインの魔法がサイファーらに向かないと思ったのか。
後悔は先に立たない。

「間に合ってくれ……!」
ロックの願いは、しかし虚しく散る。
ドローの光を見てから魔法の詠唱をおこなった。
ロックに早詠みの技能などない。故にこの時点でもう間に合わない。
もっとも、この残酷な事実を知っているのは、魔法とドロー、両方を知るリノアとアルティミシアだけであろうが……。


「うおらああああぁぁっ!!」
サイファーは、回避できないのならばいっそとさらにスピードを上げ、セフィロスへと進撃する。


「あ…あ゛あ゛……だ、メだ……! サイファー、避げて」
身体は澱みなく行動するも、アーヴァイン本人の意思だけは残るという悪辣さ。
いっそ、意志のない完全な化け物であれば迷いなく敵対できただろう。
彼の意識が生きているという事実、それは救い出さんとする側への枷となる。


「あ゛、あ゛……」
サイファーは剣を突き出したポーズのまま、ひとつの立派な石像となっていた。
石像となっても勢いは衰えず、セフィロスへと突き込んだ。
だが、セフィロスは石像ではない、意志を持つ一人の参加者だ。
どれだけ速くとも、愚直な突進を何もせずにくらうなどありえない。
セフィロスの身体をかすめて浅い傷を残し、地面に落ち、ずざざと泥をえぐり、しばらく滑り、そして止まった。

692 :First Priority 6/13:2021/01/04(月) 22:46:24.57 ID:HrzxOofio
「ククク……。ようやく姿を見せてくれたな。もっとも、私の知る姿とは多少異なっているようだが、な」

石化魔法ブレイク。
対象を大きく傷つけ、その傷跡から石化の呪いを振りまく封印魔法。
セフィロスが持っている魔法の中では、最も強烈な行動制限をかけられる。
だが、コピーが放ったブレイクは、ただ相手を石化するだけの魔法へとランクダウンしていた。
コンマ秒の差でロックの放ったヘイストがサイファーにかかるが、もはや何の意味もない。


「やはり効力は落ちるらしい。まあ、予想していた通りの制約というわけだ」
フリーズ、トルネドとてそうだった。フレアもおそらくはそうなるだろう。
魔法の効能を検証し、セフィロスはつぶやく。

その目はサイファーへと向けられてるも、視界の隅からギードたちを外してはいない。
そしてセフィロスは突如、掲げた村正を上空へと放り投げた。


「!?」
「えっ、何してんの?」
ロックとリュックはその奇行に呆気にとられる。
そして村正が弧を描く軌道の頂点に達すると同時に、その地点に雷が現れた。


「どうした? ギード?」
セフィロスの視線は後方へ、ロックとリュックを飛び越えてギードへと向かう。
苦虫を噛み潰したようにギードはセフィロスをにらみつけていた。


ギードにはクイックのような大技を使えるほどの魔力は残っておらず、攻撃魔法を使うにしても魔力は心もとない。
多方、アイテムに関しても、猫の手ラケットは以前の戦いでセフィロスに割れている。
スタングレネードはセフィロスが以前利用していた。
だからこその雷鳴の剣の選択で、そして失策だった。


「残念だったな。その雷の出る武器は一度見た。
 恨むなら、着ぐるみの女を恨め」


村正は雷の収束点を貫き、雷は刀身を辿って拡散する。
肉体はカッパ、得物は矢という、より難易度の高い条件ですら、同じ手段でセフィロスは雷鳴を回避したのだ。
馴染みの肉体を取り戻し、相性のよい武器を携えていて、再現できないはずがない。

693 :First Priority 7/13:2021/01/04(月) 22:47:10.39 ID:HrzxOofio
散らされた雷はあたり一面にめちゃくちゃに降り注ぎ、リュックは思わず足を止める。
「けど、武器がないんだったら!
 これくらいの雷はもうへっちゃら! このまま突き進んじゃうよ!」

ロトの盾で雷撃を弾き、メタルキングの剣で雷撃を斬り払って進撃する。
雷平原でおこなった地獄のキャンプ一週間に比べれば子供だましだ。


村正は雷の膨大なエネルギーを一手に引き受け、未だ宙を舞っている。
当分、セフィロスの手元に戻ることはないだろう。
だが、セフィロスは動じない。不敵な笑みは消えない。
セフィロスはサイファーの石像から、導かれるように、そして確信を持って中の武器を引き抜いた。


「さて、ずいぶん待たせた。
 ようやく私の手に戻ってきたな」

その手に握られているのは刃渡り二メートル近い異様な長さを誇る刀。
セフィロスの身長に匹敵する刀身は人が持つにはあまりにアンバランスで、しかしセフィロスが持てばなぜか絵のように美しい。
セフィロスは腰だめに構えた愛刀から、神速の突きを繰り出す。


「やっば!」
それは直感だっただろう。
リュックが盾を正面に構えた瞬間、すさまじい衝撃が盾から腕を通じて、肩まで突き抜けていく。
ロトの盾でガードしていなければ、あるいはこの盾でなければ、そのまま正宗で串刺しにされ、宙ぶらりんになっていたことが容易に想像できた。
冷や汗が止まらない。


「あれっ?」

盾に対し、直角に突き立てられた正宗を弾くことができない。
それどころか、正宗を突き出したままセフィロスが前進し、リュックが後ろに押されていく。
適度に湿った地面は摩擦を減らし、かつてパウロがセフィロスと切り結んだまま彼を押し出したのをなぞるように、地面に足を付けたリュックを押し出していく。

694 :First Priority 8/13:2021/01/04(月) 22:48:45.75 ID:HrzxOofio
「クエエエ!!?」
「わっ、これほんとヤバいって!」
リュックの真後ろには脚を痛めたボビィ。
このまま押され続ければ最後にはボビィを巻き込んで、リュックは確実に転倒する。


「こっちじゃセフィロス!」
「お前の相手はこっちだ!」
ギードが手足と首を甲羅にひっこめ、その回転する身体を凶器として体当たりをしかける。
ロックがリュックの横から、セフィロスに斬りかかる。

両者の斬りかかったタイミングはほぼ同じ。
奇しくも左右から挟み撃ちする形になる。


ロトの盾を通してリュックにかかっていた圧力は、瞬間的にさらに強い力が加わったかと思うと、それっきり消え失せた。
ギードの体当たりは不発する。
ロックの連撃は一撃目から空を切る。


「クェェェ!!」

遠くから見ていたボビィがいちはやく声をあげる。
正面に遮るもののないロックが、ただちに後ろに退く。
盾で遮ってはいたものの、視界は確保していたリュックがロックに続いて退く。
甲羅に身体をひっこめて、上下の視界を十分に確保できないギードだけが、退くタイミングが遅れた。


「上だギード!」
「ギード、避けて!」

ロックもリュックも地面を蹴って飛びのいている最中だ、だから声を飛ばすしかできない。
ギードは決死の覚悟で甲羅の腹を地面に擦り、地面のわずかな起伏を利用して、転倒するように軌跡を変える。
その瞬間に、ギードの進路上からわずかにそれた地点に、正宗を構えたセフィロスが降ってきた。

「うぉっ!」
「ひゃあっ!」
「ぐぅっ!」

獄門の衝撃は地面に小さなクレーターを作り出し、ギードのみならず、少し離れていたはずの二人まで足元から吹き飛ばす。
地面からの衝撃波はロックやリュックをノックバックさせ、
最も地面に近い位置にいたギードは衝撃波に突き上げられて、泥にまみれてひっくり返る。


「さて、すまないがそろそろ終わりにしたい。
 餞別に、絶望でも送ろうか」


(まずいっ!)
ギードの脳裏に死の一文字が浮かぶ。

そして、サイファーの放ったものとは比べ物にならない風速の竜巻が……疑似魔法ではない、本物のトルネドが吹き荒れた。

695 :First Priority 9/13:2021/01/04(月) 22:50:02.50 ID:HrzxOofio
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

肩口に深く差し込まれたプレデターエッジは、その重みで毒沼の底へとずぶずぶ沈んでいく。
ケフカの肉体も、引きずられるかのように徐々に沈みゆく。
ただでさえ肉と骨を断たれる激痛、そこに沼の毒水が傷口から浸み込むとなれば、『いったあーい!』などとふざける余裕もない。

自らの意志で肉体の一部を切り落とす選択をするしかなかった。
セフィロスがとどめを刺しに来る前に、必死で魔法を総動員して、左腕を斬り落とすしかなかった。
余計な毒が入り込まぬよう、自らの手で傷口を凍らせ、セフィロスと同じような格好をするしかなかった。
左腕を激痛とともに切り離し、みじめなカナヅチのように水面から顔を出し、テレポの魔法を使うしかなかった。


セフィロスの表情を、ケフカははっきりと覚えている。
復讐に燃えるでもない、ケフカを嘲笑するでもない、ただの邪魔な壁を壊すかのような淡々とした表情。
ナルシストの彼にとって、この数分の出来事は屈辱以外の何物でもなかった。


セットした髪型は水に濡れてぐしゃぐしゃになり、汚い沼水がしたたり落ちる。
白い化粧は変色し、メイクではなく汚泥を塗りたくったような汚らしい外見となる。
派手な衣装は濡れそぼり、肌にぺったりと張り付く。
毒沼の異臭は身に纏わりつき、血の匂いをも上書きしてしまう。
なんとか回収した左腕は、とてもくっつけられるとは思えないほど損傷してしまった。

「許さん……絶対に許さん……!」

彼の恨みは夜の闇より深い。
他のすべての参加者を嘲弄していたその眼に、明確に昏い復讐の光が宿る。
今のままでは確実に返り討ちに遭う。
それを分かる頭が残っていても、屈辱を晴らさんとする激情は収まることはない。
かつてカッパが道化に向けていた復讐の光、その向きはついぞ入れ替わった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

696 :First Priority 10/13:2021/01/04(月) 22:53:19.77 ID:HrzxOofio
(初日と同じではないか……)
ギードは苦い記憶を思い返す。怪我人を作り出し、簡単には追えない状況を作り上げてから悠々と撤退する。
脚をやられたボビィ、ひっくり返された自分、そして治療法の限られる石化という状態異常を受けたサイファー。

竜巻が収まったころには、セフィロスもコピーもいなくなっていた。
サイファーは石のまま佇み、ボビィは引かない痛みに涙目をこらえて膝を折っているのみ。


ギードに死の未来は訪れなかった。
代わりに起こったのは、魔力の強奪。
セフィロスコピーに魔力を大きく吸い取られたのだ。


正宗の威力は、セフィロスが万全の状態でなくとも、ギードを切り捨てるに足るものだ。
コピーを操り、ドローをさせて、魔法を一つギードから収奪したということだ。
この場において、賢者ギードからしか奪えない魔法があったということなのだ。

(ワシはあやつに生かされたというのか。何らかの魔法一つのために)




「いたい〜」
「クエエェェ〜」
「すぐ治すからちょっと待っててくれ」
メガポーションを振りまいて、リュックとボビィの傷を治療する。
トルネドが放たれたのは、ロック・リュック・セフィロスを結ぶ三角形の中心の空間だ。
重装備のために比較的動きの遅いリュックが、若干切り傷を作ったものの、命には別条はない。


「見逃された、ってことじゃないよな」
「そんなわけないよ。見逃されたんじゃなくて、あたしたちが追わなかったんだよ……」

竜巻がひいて、セフィロスの姿が見えなかったことに安堵してしまった。
サイファーに続いて死を厭わずに斬りこんでいれば相討ちには持ち込めたかもしれない。
だが、足掻くにしては希望が多すぎた。

アーヴァインとサイファーとで、優劣をつけ、片方を切り捨ててしまったのではないか。
もちろん、このまま放置した場合、先に死ぬのはサイファーだ。
だが、事実としてアーヴァインを追わなかった。
それこそがセフィロスから送られた真の絶望だったのではないかと彼らは思う。

「サイファー治して、急いで追いつくぞ」
「うん……」

己を奮い立たせようにも、覇気が出ない。
心に刻まれた傷跡は、小さいながらも確かに鋭かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

697 :First Priority 11/13:2021/01/04(月) 22:58:23.27 ID:HrzxOofio
負け癖がつくという。
何らかの敗北をトリガーに、その後坂道を転がり落ちるように敗北を重ねてしまう。
どれほどみじめなことか、セフィロスは昨晩身をもって思い知った。
散々味わわされたからこそ、どうやって復讐するかは考えていた。

「元々は、ケフカに敗北を刻み込んでやるつもりだったがな」

結局のところ、その優先度は大きく下がっている。
まだそのあたりをうろちょろしていればとどめを刺すつもりだったが、
移動がてら捜したものの、ギードらとの戦闘中に逃亡したことは分かった。


そもそも、参加者の殺害すら優先度を落としているのだ。
相手の虚を突いた今のタイミングこそ、殺害のベストタイミングだっただろう。
だが、それをすれば追撃は激しくなるし、何より無駄な時間を食ってしまう。
本意ではない。
先ほどの戦闘とて、3分も経たずに切り上げている。


なぜか。
ドローを使えば魔法を強奪できるのだ。
最優先はアンジェロの蘇生以外にありえない。


リュックを押し出したのは、村正、ひいてはふういんマテリアの落下地点を確保して回収するため。
サイファーを石化させたあと破壊しなかったのは、足手まといを作り出して追撃を遅らせるため。
コピーの意識を完全には塗りつぶさないのは、そうするとドローと擬似魔法の精度が落ちると判断したため。
ギードを殺さなかったのは、彼にしか使えない魔法が欲しかったため。


ギードが高位の回復魔法の使い手であることはアリアハンにて既に認知している。
ケアルガを何度も使用できるのであれば、レイズを使える可能性も十分にあった。
フリーズやブレイクのように威力が劣化するのはリスクだが、ドローできたのはアレイズ。十分だろう。


サイファーから奪ったメガポーションをあおり、さらに入っていた紙切れに目を通す。
今さらサイファーらと手を組むなどないだろうが、彼らが何をおこなっているのかを知った。
成果を奪えるのであれば、それに越したことはないだろう。


コピーたるアーヴァインは絶望の光を青い目に湛えて、セフィロスの後ろを歩む。
セフィロスは柄にもなく、希望を胸に足早に歩む。
希望のほこらはもう目と鼻の先だ。

698 :First Priority 12/13:2021/01/04(月) 22:58:48.80 ID:HrzxOofio
【セフィロス (HP:1/5、右腕喪失)
 所持品:E正宗、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
     スコールの伝言メモ
 第一行動方針:希望のほこらでアンジェロの蘇生を試す
 第二行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉をくぐる
 第五行動方針:首輪を外す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

【アーヴァイン (MP1/4、半ジェノバ化(重度)
 右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、アレイズ×1
 第一行動方針:セフィロスについていく
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【現在位置:希望のほこら北の平原】

699 :First Priority 13/13:2021/01/04(月) 23:00:18.44 ID:HrzxOofio
■13
【サイファー (石化、右足微傷)
 所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)
 第一行動方針:石化を治す
 第ニ行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リュック (パラディン HP:9/10)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣、チョコボ『ボビィ=コーウェン』
 第一行動方針:サイファーを治す
 第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】

【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 レッドキャップ、2000ギル、メガポーション
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:セフィロスを倒す
 第二行動方針:ケフカを警戒する
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】

【ギード(HP1/2、MP:1/5)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ひそひ草、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
 第一行動方針:サイファーを治す
 第二行動方針:セフィロスを阻止する
 第三行動方針:旅の扉へ向かう
【現在位置:希望のほこら北西の茂み】


【ケフカ (HP:1/10 MP:残り僅か 左腕喪失・左肩凍結)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕
 第一行動方針:セフィロスを殺す
 第二行動方針:邪魔な人間を殺す/脱出に必要な人員を確保する
 第三行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 第五行動方針:首輪を解除する
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:希望のほこら北西の毒沼】

700 :同じ道 1/4:2021/01/04(月) 23:08:56.32 ID:HrzxOofio
闇の世界の南東部。
日の届かない地底にすら適応し、ぼうぼうに繁殖した背の高い草をかき分けて、二人の男が進んでいく。
爆心地にて進路を変更し、デスマウンテンを正面から右手に眺めながら進む。
その麓で威容を誇っていたはずのデスキャッスルは、今は影も形も見えない。
他方、雑草の隙間からときおり覗いていた架け橋の塔は、徐々に拡大していく。


ラムザとバッツが通過し、おおよそ20分というところだろうか。
彼らが通った道を、ソロとヘンリーも通過していく。



「ソロ。そろそろ例の場所だ。やっぱり、見えるか?」
「……いえ、影が見えません。
 まさか、バッツさんたちについていった、とか?」
「仮にそうなってたとしてだ、何かが起こったなら痕跡の一つや二つはあるんじゃないか?
 それこそ、ほんとにヤバけりゃ一人で無理せずにこっちに戻ってくるだろ」
「それもそうですね。彼らなら何か起こってもそうそうヘタは打たない気がします」

ソロの言葉に動揺は見られない。
ラムザは観察力にも決断力にも長けているし、バッツとて【闇】を操る技術を習得している。
二人がこの程度で窮地に陥ることはそうそうない。この程度の信頼感はソロの中で既に構築済みだ。
だからこそソロは穏やかなトーンで話し、だがふと顔をしかめて、大切なことに気付いたような、はっとした表情を浮かべる。

「そう、僕と違って」

顔をうつむけ、自虐的な言葉を投げ放って関係の決裂を演出するソロ。


「ソロ、別に無理しなくてもいいぞ?」
取って付けたようなその演出に、やっぱり根本的に演技向いてないんだな、とヘンリーの顔に苦笑が浮かぶ。
とはいえソロの性格からしても、つたない演技にはなんの不自然さもない。
仮にラムザと決裂しきれなくても違和感はないのだ。
内部事情的には後で合流するつもりなので、今くらいでちょうどいい。

701 :同じ道 2/4:2021/01/04(月) 23:09:38.38 ID:HrzxOofio
「さぁて、危険がなさそうなら、そのまま突っ切るか」

焼き払われて灰になった茂みと、ちろちろ燃えるボヤ。
ユウナとザックスの遺体が身だしなみを整えられた状態で横たわっている。


「ヘンリーさん、三分だけ、時間をください。
 短い間でしたが、彼とは確かに友人でしたから」
「ああ、そうだな。それくらいなら全然問題ないぞ。
 ちゃんと別れの言葉をかけてこいよ」


タイムリミットまで残り一時間強。
もちろんヘンリーが止めればソロはそれに従うだろうが、
一分たりとも無駄にはできないというほど切羽詰まってもいない。

ソロはザックスとユウナの遺体の前に立ち、十字を切る。
仲間を、友を、必ず元の世界にまで送り届けると胸に誓う。
そして、きょろきょろと辺りを見回し、怪訝な表情のままヘンリーの元へ戻った。


「ヘンリーさん、アンジェロは……」
「俺も気づいた。ひとまず進みながら話そう」
二人の亡骸を後に、彼らは歩を進めていく。

702 :同じ道 3/4:2021/01/04(月) 23:10:40.33 ID:HrzxOofio
「確かに俺はアンジェロも弔った。だから、遺体が残ってないのは不自然だ」
「誰かが持ち去ったんでしょうか? でも、何のために?」
「たとえばケフカなら、死者を操ってけしかけさせるような趣味の悪い術も使えそうだけどな」
だが、その予想はありえない。
ケフカはギードに監視されているからだ。
ギードの監視を逃れて、この場所でアンジェロの遺体を回収するなど不可能だ。
他にありうるのはセフィロスだが、剣士かつ魔法も使えない彼がどうして遺体を持っていくのか。
野生動物はいるようだが、肉食獣や大蛇などは見たことがない。
まったく答えは見えない。


「でだ、俺は別の可能性を考えてる」
「別の可能性? ……なるほど、例の影、ですか?」

そもそもが呪いのような影が佇んでいた場所だ。
強い怨念が死者に結びついて動き出し、ゾンビ系のモンスターとして人を襲う。
この会場ではそのようなものは存在しないはず、というのがザンデの見立てだが、何事もイレギュラーはある。
そもそもすべてが設計通りに動いていれば、彼ら自身が反抗を企てることなどできていないはずなのだから。

「とはいえ、あくまで根も葉もない話だ。
 くさったしたいが動く仕組みだって全然知らないのに、怨念が死者に結びつく理論なんざますますもって分からん。
 だからツッコミ歓迎ってな」
「腐った……死体?」
「おいおい、そこか? 有名なモンスターだろ?」
「……???」
何言ってるんだこのおっさんは、という困惑のトーンに、ヘンリーは数百年の世代ギャップをひしひしと感じずにはいられなかった。

703 :同じ道 4/4:2021/01/04(月) 23:11:24.77 ID:HrzxOofio
「……ひとまず、アンジェロの身体に【闇】が憑りついているという可能性は考慮しておきましょう」
「仮に【闇】に呑まれて復活したとして、まともな意識が残ってるか、だな。
 生きている人間ですら、おかしくなっちまうんだ。
 あまりいい方向には転がらんだろうな」

想定外の事象がいきなり飛び込んでくることと、それが起こることを想定しておくこととでは対応までのスピードが違う。
アンデッドとして復活したとして、不意に噛み付かれて【闇】を直接注ぎ込まれるなんてことがあればとても笑えない。
もちろん、セフィロスや野生の肉食動物が遺体を運んで行ったというケースも想定はしているが、
その場合は倫理的にはどうあれ、脅威は小さいだろう。

「……おっと、そろそろ茂みを抜けるぞ」
「わざわざ魔女が旅の扉を一つしか指定しなかった。
 何かあると考えて、ここからはより慎重にいきましょう」
ヘンリーはうなずいて、よりしっかりとした足取りで希望のほこらへ進む。
世界の崩壊まで、残り一時間を切った。



【ソロ(MP2/5 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 第ニ行動方針:サイファー・ロック達と合流する
 第三行動方針:ケフカを倒す/セフィロスを説得する?
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】

【ヘンリー
 所持品:水鏡の盾(E)、魔法の絨毯、リフレクトリング、銀のフォーク、キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、筆談メモ、
     ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
     リュックのザック(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
     レオのザック(アルテマソード、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧)、メガポーション
 第一行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:希望のほこら北東の茂み】

704 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/01/15(金) 18:46:37.57 ID:9eC7Xmrrt
FFDQ3  751話(+ 2) 19/139 (- 0) 13.7

705 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/02/13(土) 11:27:46.06 ID:I6YjSz6b0
まだ全然書いてないので保守

706 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/03/16(火) 18:19:47.20 ID:lwNlFVxcD
FFDQ3  751話(+ 0) 19/139 (- 0) 13.7

707 :さわやかな朝における狂気の思惑 1/9:2021/03/31(水) 01:11:55.03 ID:k6HVn+ljB
久方ぶりの衝動だった。
殺意が破壊欲を上回り、満たされないはずの心を塗りつぶしていくこの感覚。
酔いそうなほど不愉快で、吐きそうなほどに狂おしく、愛おしいと錯覚するほど憎らしい。
こんな感情を抱くなんて後にも先にも一人しかいないと思っていたが……
おめでとうアナタ、とうとう二人目ができましたわヨ!
いや三人目だったかも?
まあ数なんてどうでもいい、大事なのは質だ。
そう、質。
いい子ぶってるから潰したいとか、そういういつものアレじゃなく。
調子乗ってるから殺したいとか、よくある毎度のことじゃなく。
この私の深遠な智謀と複雑な精神と豊富な語彙をもってしても、たった一言に凝縮するしかない殺意。

 ふ ざ け や が っ て 。

進化の秘法は俺の玩具だ。
使えん三闘神に代わってすべてを破壊するために用意された、俺様のための道具だ。
それを横からかっさらって?
あのイラつくソロの野郎を手懐けてェ??
あまつさえぼくちんを腐りこけた沼地の中に放り込むだぁ???

キーーーーー!!! ゆるせんゆるせんゆるせん!!!
こんなのメチャ許せんに決まってるんだよなあ!!
あーもう、セフィロスのやつなんか大っ嫌いだじょー!
嫌いすぎてむしろ好きになってきちゃったね!!
こんなの! 直々に! 殺しアイするしかないじゃない!!
それはもう鋼の意志で!
鉄より強くてミスリルより弱い鋼の意志で!!
……あれ。そう考えると弱っちいな?
じゃあ撤回からの修正しまーす。
今の俺様を突き動かすのは、セフィロスを何が何でもぶち殺し!
死体に鉄板焼き土下座させて畑の肥やしに撒いてやるという硬い硬いスーパーオリハルコンメンタルなのどぅわーー!
すごいじょー硬いじょーかっこいいじょー!!

……はーー、ツマラン。
ふざけるのはここまでにしますよ。
いくら脳内劇団俺様一人によるコンマ数秒のアドリブ芸といっても、延々やってたら飽きられますしね。
それでなくても、激痛でごまかし切れないほどのドブ臭さ。
怒髪天を衝く前にセットしなおしたい、カワイソーなほど汚れてしまったぼくちんの美髪とお顔。
本当に最悪ですよ。いっそ温水シャワーと温泉がこの場に来ていただきたいものです、が。
日頃の行いの賜物、不幸中の幸い、ツイてる点も二つございます。
一つはちょうど足元に使えそうなアイテムが一個転がっていること。
ご都合主義? いやいや、そんなことはないってば。
そこに落ちてたのは知ってたし、今拾えるか後で拾うかの違いでしかないもんね。

で、二つ目は。
言うまでもなく、ギードやリュックが近くにいることだ。

708 :さわやかな朝における狂気の思惑 2/9:2021/03/31(水) 01:19:30.22 ID:k6HVn+ljB
『おい、おまえらーー…』

逆さまになってじたばたもがくカメさんと、いい年こいて戯れてる男女二人に向かって、何とか声を絞り出す。
大声なんてとても出せないけど、そこはそれ、ぼくちんには拡声器くんって便利な道具があるからね。
ハカイ大好きな僕ちんですが、今に限ってはこいつが壊れてなかったことに喜びの舞を踊らざるを得ない。
あ、もちろんケフカ様主催闇落ちサークル出禁の銀髪クソ野郎に聞かせる言葉なんざないので、音量は調整しております。

「お前にかまってる暇はない!」

うるちゃいうるちゃいうるちゃーい!
お前になんか話しかけてないんだよこの自意識過剰の凡才代表銀髪クソ野郎二号が!
ロックのやつもいつか殺す! け・ど!!
残念ながら今はセフィロス君のほうが圧倒的上位なのでェ!
アワレなランキング外落ち目キャラは黙って次の機会をお待ちください。
それでなくても俺様は今、起死回生の一手が打てるかどうか確かめなけりゃいけないので!!

『どうせお前ら、通信手段持ってるんだろー。
 はやく出せー、遅くなっても知らんじょー……』

こいつぁテキトーでもカマかけでもありません。
絶対的な確信の上で発言しております。
だって皆さん常識で考えてみてくだちゃい。
こいつら、実績豊富な殺人鬼とノータリン系ブロンド娘を使ってステルス対主催のお芝居してたんですよ?
フツー連絡手段の一つや二つ確保して、事故が起きないように連携してるに決まってるじゃないでしゅか。
そしてその連絡先は、これまた常識的に考えて"生存者"グループのブレイン役。
そう、十中八九ヘンリーかラムザのはずなのだー!
ですから無線有線魔導科学有料無料を問いませんので早よ出せ!!

「だから……!」
「この袋の中じゃ!」

ああーいいですね、さすが賢者ギード氏でございますね!!
お前が持ってるのかよ! ってツッコミは今はナシにしておくとして!
ロックとかリュックとか脳が死んでるバカどもと違って、ちゃーんと今が緊急事態であることを把握しておりますね。
逆さになったまま自分のザックを投げつけてくれました。
「いいのかよ!?」とか「ひそひ草渡しちゃって大丈夫なの?!」とか喚いてる奴らは放っておいて――
……っていうかひそひ草ってのが通信手段なの? 草なの? マジで?
さすがのぼくちんでも草は予想外だし、そーゆーことうっかり言っちゃう方がよっぽど大丈夫じゃなくない?
痛いし辛いし時間もないからいちいちツッコまないけどな。

709 :さわやかな朝における狂気の思惑 3/9:2021/03/31(水) 01:21:47.27 ID:k6HVn+ljB
さーて……お、あったあった。ヘンな草。
耳に当てると、微かながら誰かの話し声がボソボソと聞こえますので、これで間違いないですね。
本当なら他の有用な道具も無断で預かりたいところですが、今は一分一秒を争う事態。
やるべきことをやるとしましょうか。
まずはザックの口を広げて、拡声器の音量もちょちょっといじって。
それからひそひ草をいい感じに拡声器の先っちょに添えて、ザックの内側に向けますよ。
音というのは結局のところ振動なのでね。
こうすると、大音量で叫んでもザック内部の不思議空間で拡散してしまうのですねえ。
なお向こう側の声も聞きとれなくなりますが、それはそれ。
ソロやラムザなんかと喋りたくな……ゲフンゲフン。
えー、まずは反論や茶々を入れられることなく言いたいことを一気に伝えるべきですのでェ。
そしてそれをセフィロスに聞かれるわけにもトーゼン参りませんのでね?
ええ、ホントーに悲しいですが、これは仕方もショーガもないことなのです。

「あーあー、聞こえますかー! 聞こえてるよな!!」

そういうわけで俺様の美声を全力で轟かせる。
めちゃんこ傷に響くけど、ぼくちん負けないもんね。

「返事はイラン、手短に伝える!
 セフィロスがアーヴァインを洗脳して祠に向かった!
 金髪男は石化! カメがひっくり返って動けず! 他二人軽症で僕ちん超重症!
 このままだとセフィロスが超強化して全員死亡まっしぐらだ!
 全速力で祠に先回りして足止めしろー!!」

うーん実に簡潔で手短な現状報告!
ホーレンソーが出来ているってはっきりわかりますねえ。
伊達にゴミみたいな帝国の重役やってたわけじゃないんですよ。
さて、一応ひそひ草を取り出して反応をお伺いしましょうか。
なんとなくソロ辺りが出てきて『なんだって! どーゆーことだー!』とか喚いてきそうな気がしますが。

『なんだって!? どういうことだ、何があった!!』

ほーらねー。
あ、でもこの声ヘンリー王子ですね。
あーあー、空気読めよ大人なんだからー。
まあ私は真の大人にして神なので本音を喋ったりはしませんが。
そう、ヘンリー王子が驚かれることも無理はないですが、これは紛れもない真実なのです。
ソロが近くにいるのであれば責任を取っていただきたいものですね。

「今伝えたとおりだよブワァーーーカ!!
 ところでヘンリー、お前がいるなら近くにソロの野郎もいるよなァ!?
 おいお前が逃がしたセフィロスだぞ!!! 責任取って心中しろよ!!」

あっいっけなーい、タテマエと本音が逆になっちゃった。
ぼくちんってばうっかりやさん。
でも本当にソロは死んでね。

710 :さわやかな朝における狂気の思惑 4/9:2021/03/31(水) 01:27:09.68 ID:k6HVn+ljB
「ああ、それと祠にタバサちゃんとラムザ氏とバッツくんがいるかもしれないから、タバサちゃんだけはさっさと逃がして下さいよ!
 闇の三身合体で"私はLV99魔王セフィロス、今後ともヨロシク"とか洒落にならんからな!!」

なんだかんだ必要な情報をしっかりと告げる、エラーイ私。
しかしその背後に魔の手が忍び寄っていたことに気づいたのは、ゴチン! と頭に衝撃が走った後でした。
目の奥でお星さまがグルグル回ってる間に、拡声器とひそひ草セットがひったくられてしまいます。
誰だこんなことをするドロボーは!!
考えるまでもねえ! 一人しかいねえ!!

「ったく、勝手なことばっかり言いやがって……
 ソロ、ヘンリー! 二人とも無事か!?」
「ドロボー! かえせー!!」
「誰がドロボーだ!!」

お前だよお前! ロック、この見境ゼロの三又野郎が!!

『ロックか! こっちは無事だ、っていうか……』
「ああ――信じられないだろうが、ケフカが最初に言ったことはだいたい合ってる。
 サイファーは時間さえかければ問題なく治療できるけど、アーヴァインは……」

信じられないだろうがは余計だよ!
でもまあ私の情報が正しいと評価したことは褒めて――あ、やっぱムリ。鳥肌立つわ。
それはそれとして補足情報をつけてあげましょうね。

「何言い淀んでるんだよボケ!
 ソロが庇いまくったセフィロスくんに予想通り操られて!
 カッパーを解いちゃって、サイファー君を石化させてしまった挙句、誘拐されたってはっきり言えよなー!」
「てめぇ……!」

何で睨むんですかね。このバカドロボーは。

「あーあー、馬鹿の相手は疲れますね。私は間違ってませんことよ?
 セフィロスがカッパから戻ってアーヴァインを支配してるってちゃんと教えなきゃ、死ぬのはヘンリー達でちゅよー?
 利用価値のあるタバサちゃんとか、セフィロスと仲良しこよしのソロなんかは見逃されてもおかしくないけどさー。
 他三名、すなわちヘンリー・ラムザ・バッツは間違いなくズンバラリンと殺されて終わりますね、間違いないです間違いない」

大事なことなのできちんと言いました。
セフィロスを殺すにも肉盾は必要ですし、厚化粧ババアの始末まで見据えるなら尚更戦力の確保は重要です。
ついでにいえばソロの求心力を削いでおく必要もあります。
面倒ですからね、人望のあるいい子ちゃんを殺すのは。
だから、セフィロスの大暴れはソロのせいだという印象を植え付けつつ、警戒して事に当たって貰う必要があるんですね。

「あーもう、そういう言い方とか言い争いとかしてないで!
 早くギードとサイファー治さないと!!」

あらリュックちゃん、君いたの。
影薄いね。
そんな僕ちんの感想を知ってか知らずか、彼女はロックの持っているひそひ草に向かって呼びかけます。

711 :さわやかな朝における狂気の思惑 5/9:2021/03/31(水) 01:29:59.96 ID:k6HVn+ljB
「ソロ! あたしたちもすぐに立て直して追いかけるから!
 だからなんとかアーヴァインのこと助けてあげて!!
 やりたくないこと無理やりやらされて、あんなヤツに酷いことに使われるなんて、あんまりだよ!」

うーん、普通。
そういう言わなくてもわかってるレベルのこと、言う必要あるんですかね。
だから地味ィ〜〜〜な役回りしか回ってこないんですよ。
でもまあ通信相手が同レベルの輩ですから、こんなんでもやる気出してくれるのかもしれません。

『わかってる。後のことは俺たちに任せろ。
 とにかくそっちは治療に専念してくれ。
 無理に助太刀にこようとか考えなくていいからな』

頼もしい言葉です。
セフィロスとの実力差を踏まえて言っているなら大したものですが――十中八九知らずに言ってるんだろうな。
しかし来なくていいと向こうから口にしてくれたのはありがたい。

「そうですねェ。助けに行きたくてもしばらくは無理ですね。
 サイファー君一人を突っ走らせないように、他の皆さんから順序立てて回復していかないと、確実に死人が出ますからね」

ロックとリュックがぎょっとしたように私を見つめる。
"勝手な事言うな!"と怒りたいのか、"何それ聞いてない考えてない"って驚きなのかはわかりませんえん。

『どういうことだ』
「どうもこうもないでちゅ。
 サイファー君はセフィロス君に恨み骨髄、かつアーヴァイン君のお友達デショ?
 身動きできるようになったら状況確認も何もかも後回しにして、一人で祠まで突っ走るに決まってます。
 そんなことになったらサイファー君は間違いなく、ええま・ち・が・い・な・く! セフィロスの奴に殺されるでしょう。
 操られてはいても、今だ自意識が残っているアーヴァイン君の目の前で、それはそれは無残にねェ」

まー本当にそうなったら、中々ユカイな見世物ですけどね。
でもいくら私好みの分岐ルートであっても、セフィロス強化フラグに繋がる現状では諦めるしかありません。
ここでしっかりと釘を刺しておきます。

「まあ皆皆様が愚かしくも私の言葉を信じられない気持ちはよーーくわかりますよ?
 でも、今現在に限っては、お前らを殺すよりセフィロスを絶対に仕留めることを優先しなきゃイカんのです。
 だからジンマシンが出そうなほどまともで正確な情報を流すようにしてるし、提案してやってるんだよ。
 まあ僕ちんを信じるよりだいしゅきなセフィロスにぶっ殺される方がマシ! だと仰るなら止めませんがね」

ひそひ草に向かってひとしきりしゃべり終えた私は、どさりと地面に座り込みました。
キッタナイけど仕方ありません。
割と体力の限界です。
これでも私、片腕欠損魔力枯渇毒沼ダイブの絶賛重傷者なので。

712 :さわやかな朝における狂気の思惑 6/9:2021/03/31(水) 01:32:28.63 ID:k6HVn+ljB
「あー疲れた。
 こんなに真面目に協力してやったんだから僕ちんも回復しろよ」
「「は?」」
「は? じゃないだろ。
 れんらくのレの字も出てこなかった無能オブ無能なお前らに代わって働いてやったんだぞー。
 感謝の気持ちぐらいあってもいいでしょう?
 それにここで私に恩を売っておけばセフィロス戦や魔女戦の役に立つカモかもネギかもですことよ?」

うーん僕ちんってば圧倒的正論。
実際MVPなので褒めたたえられてしかるべき。
……なのになんで全員ジト目でこっち見てるんですかね。
もしかして人の心をお持ちでない?

「……どうする?
 一応、死なない程度に手当てしてあげる?」
「放っておいた方がいいと思うぞ、俺は。
 止血はしてるみたいだし死にやしないだろ」
「うむ……魔力やポーションに余裕があるならまだしも、今は時間すら惜しい。
 ワシの背中に乗せて運んでやるぐらいならいいが」
「ええ? 連れていく気なのか?」
「放っておくよりは監視しておいた方が危険は少なかろうよ」

どいつもこいつも役立たずのカス以下のゴミかな?
それとも殺す気がないだけマシだとか、足になってくれるだけイイとか考えるべきなんですかね?
乗り心地悪すぎるんで嬉しくないけど、この体調で歩くよりはマシなのも事実なので……うーん難しいでちゅ。
まあどんな輩でもソロとセフィロス以外は殺すわけにはいかないので、ここはぐっと我慢の子。
トイレしかない独房に閉じ込められた時のように、おとなしーく耐え忍ぶ時なのです。

「ぷるぷる、僕ちんは無害な魔導士ですよ?
 魔力もナーイ片腕もナーイな稀少で貴重な存在なんだから丁重に保護しろー!」
「保護されたいなら黙ってろ」
「うきゅ」

本当にロックの野郎は塩対応ですね。
一体俺様が何をしたっていうんだ!
心当たりがありすぎてわかんねえよ!!
あーあー、邪険にされるわ真面目に働いちゃったわで本当に疲れちゃったなー。

――だが、それだけの甲斐はあった。

今、この状態の私を殺そうとしないのだ。
心を許していなくとも、監視という形であれども、同行を認めているのだ。
もはや私はロック・リュック・ギード・サイファーのグループに入りこんだも同然。
実質手駒四体、これは大きい、とてもとても大きいです。

713 :さわやかな朝における狂気の思惑 7/9:2021/03/31(水) 01:37:46.53 ID:k6HVn+ljB
そしてヘンリー達に情報を渡せたのも僥倖だ。
"タバサ"達の位置とセフィロスの位置、それに大人数グループが潜伏できる拠点の位置を考えれば、連中の進路に妨害はない。
つまりどう考えても私達より、セフィロス達よりも先に、希望の祠にたどり着くはずだ。
その上で、ソロのいい子ちゃんな性格を鑑みれば、セフィロスとは戦わずに交渉しようとするはず。
そして失敗して戦闘になり、時間を稼ぐことになるだろう。

さて、ここで視点をぐるっと一回転させてセフィロスの立場になってみましょう。
最速で復活した場合のサイファーの短期突撃、それとやけっぱちになった僕ちんの急襲等が読んでしかるべき要素です。
そしてソロとヘンリー、あるいはラムザとバッツ――二人ないし四人によるタバサ防衛戦も、計算に入れておくのが当然です。
しかしここでタバサが次の世界に移動してしまい、その上でソロ達がアーヴァインの救出を目的として立ち塞がったらどうでしょうか?
ハイ。この時点で旨味半減ですね。カロリーカットでおいしさもカットですね。
さらにサイファーも僕ちんも中々突撃してこなくて、なおかつソロ達が頑張りんぐして時間を稼いだらどうなるでしょう。
焦りますよねえ。
何せ私がバニシュを使えることはわかっている。
襲ってきてもおかしくないタイミングなのに姿もなく気配もない。それは隠れているからなのか、本当に居ないだけなのか?
さらにサイファーの行動、ギード達の行動にも思考リソースを割かなければいけない。
旅の扉のタイムリミットもある。
うーん考えることがいっぱいで、のーみそぷーになっちゃうじょー。

とまあ、そうなれば――私に止めを刺さず、サイファーを使って足止めするような、嫌味ったらしく合理的なセフィロスのことだ。
ここまで悪条件が重なれば、この世界での儀式なぞには拘らず、次の世界で相応しい場所を探せばいいとアーヴァイン共々旅の扉に駆け込むだろう。
唖然とするソロたち。
やがて到着する俺様と不愉快な下僕ご一行。
その時、私はこう囁くのだ。
"ソロの奴、わざとセフィロスを逃がしたんじゃないか"――とね。

不和の種を撒くだけ撒いて、私は次の世界に行く。
もちろん肉盾四人と一緒にだ。
そして、そこで魔力を回復し、セフィロスを殺す。
そのための手段も、もうザックの中にあるのですよ。

――ああ、そうだ。
毒沼から抜け出して連中と合流する前に拾ったもの。

"セフィロス自身の右腕"だ。

皆様忘れていないと思っておりますが、僕ちんは大魔導士。
アーヴァインに催眠術をかけた時、ある程度は調べてたんだじょー。
肉体の変貌が血を媒介にした呪いや魔力によるもので、私が介入できるものなのか?
それとも生物学や生理学といった物理的なもので、魔法ではドーにもコーにもならないものなのか?
とても重要なことだからねェ、そこらへんはしっかりとライブラで調べさせてもらったんだよ!
そして裏付けを取るためにセフィロス本人のことも調べた!!
アイツがカッパから元に戻る直前るんるん唱えてた魔法の一つのがソレだ!!
残念ながら本命の方は当たるどころか発動自体を潰されたし、そのせいで腕一本無くすハメになったがな!!
誠に残念デス。デス。デス。
……どうして即死魔法ってこういう時に成功しないんですかね? もっと活躍して?

714 :さわやかな朝における狂気の思惑 8/9:2021/03/31(水) 01:40:26.55 ID:k6HVn+ljB
まあそれはそれ、ライブラの方はどさくさ紛れにナントカ唱え切ったのでェ!
全て理解しましたよ!! アーヒャヒャヒャヒャ!!
セフィロスの正体! アーヴァインの変貌のからくり!!
何もかも、丸ッとカクっとスクウェアにお見通し!!

だからこそ、私はそれを逆用する。

そう! 折を見てセフィロスの右腕をちょちょいと加工して吹っ飛んだ腕の代わりに移植し!
奴由来の謎生物の細胞に、封印されっぱなしでな〜〜〜んの役にも立たない力を三つほどモグモグさせ!!
その上で皆大好き操りの輪のオリジンたる俺様謹製の洗脳魔法をていねていねていね〜に仕込み、謎生物細胞を完全なる支配下に置く!!
そして、セフィロスがアーヴァインを操っているように!!
謎生物細胞の感応能力で! 私が! セフィロスを! お人形さんにしてやるのだーーーー!!!!
あ、もちろん両右手の男にならないよう手首から先は美しいぼくちんのおててを採用です。
その為のセルフ左腕回収です。これで指紋認証も問題ナシ!
さらに言えばセフィロスを操る過程で当然アーヴァイン君も支配できちゃうので、悩みのタネだった首輪問題もスッキリ解決!

素晴らしいですね。
脳が震えるほど完璧ですね。
カンのペキ、即ちパーペキ! んも〜惚れ惚れしちゃう!
僕ちんってば天才かな? そうだよ。

何せ厚化粧ババアに封印されているとはいえ、三闘神の力は紛れもない本物。
それを喰わせれば右腕一本分の細胞とて、セフィロス本体を上回る力を得るだろう。
所詮ぼっちに過ぎないセフィロスの意志力と、三闘神の力を上乗せした俺様のハイパー意志力。
どっちが強いかなんてこれはもう検証するまでもありません。
力こそパワー。
この世の真理に俺様の天災的頭脳が合わさり、正に完全無欠の神!!
かくして事を成し遂げた暁には、セフィロス君に最高の死に様を与えてあげましょう!!
具体的には頭に花を植えて上半身裸にして激辛カレーを喰わせつつバナナの皮で足を滑らせてそのまま高所から飛び降り自殺していただく!
そしてその勢いで妖怪白塗り紫ババアも華麗なスマッシュでぶっ飛ばし!!
この殺し合いの主役は僕ちんだと、徹底的に知らしめてやろうではあーーりませんかァ!!
アーーーヒャヒャヒャヒャヒャ!!

……ところでテンション上がったらなんだか真剣に傷が痛いイタイ死にそう死んじゃうなんですが、誰か早く治してくれません?
僕ちん泣いちゃいますよー。エーンエーン。

715 :さわやかな朝における狂気の思惑 9/9:2021/03/31(水) 01:41:41.61 ID:k6HVn+ljB
【サイファー (石化、右足微傷)
 所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)
 第一行動方針:石化を治す
 第ニ行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【リュック (パラディン HP:9/10)
 所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
 マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣、チョコボ『ボビィ=コーウェン』
 第一行動方針:ロックとギードの怪我を治療してサイファーを治す
 第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す
 備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】

【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて
 レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図、ひそひ草
 第一行動方針:セフィロスを倒す
 第二行動方針:ケフカを警戒する
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】

【ギード(HP1/2、MP:1/5)
 所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
 第一行動方針:怪我を治療してサイファーを治す
 第二行動方針:セフィロスを阻止する
 第三行動方針:旅の扉へ向かう

【ケフカ (HP:1/10 MP:残り僅か 左腕喪失・左肩凍結)
 所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕、セフィロスの右腕
 第一行動方針:ジェノバ細胞を利用してセフィロスを殺す/その前にシャワー浴びたいじょー
 第二行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
 第三行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
 第四行動方針:旅の扉へ向かう
 基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】

【現在位置:希望のほこら北西の茂み】

716 :Idolatry 1/13:2021/03/31(水) 02:05:09.22 ID:k6HVn+ljB
闇の世界にも風は吹く。
マグマによって熱せられた空気が舞い上がり、しかし地上と地下を隔てる岩盤を通り抜けることなど叶わず、いつしか熱気を失い落ちていく。
自由などない、澱んだ風だ。

「ピサロには悪いけど、やっぱりあんまりいい場所じゃないよなあ……」

希望の祠の屋上。
人がよじ登ることを想定していない場所から草原と架け橋の塔を睥睨しつつ、バッツは独り言ちる。
出来ることなら早く次の世界に行きたい。
だが、同時に、仲間たちのことも心配だ。
もしかしたらギード達がセフィロスを制して、上手いこと合流できるかもしれない。
あるいはソロ達が少しでも急いでくれていれば、合流とまではいかなくとも状況は伝えられる。

架け橋の塔という遮蔽物こそあるけれど、基本的に祠の周辺は開けた草原だ。
監視を怠らなければ、近づく人影を視認すること自体は容易い。
事態が最悪の方向に転がったとしても――
例えばセフィロスが全員を出し抜いてアーヴァインを拉致した上でこちらに向かってきても、十中八九先に気付ける。
そして逃げるだけなら簡単だ。
説明など後回しにして、ラムザと"タバサ"を連れて旅の扉を潜ればいいだけなのだから。

(……難しい話じゃないんだけどな。
 あー、でも不安は不安なんだよな)

確かに、祠周辺は開けた草原だ。
だが、その少し先には岩山をなぞるように深い茂みが広がっている。
ラムザですら恐れるセフィロスならば、数百メートルの距離など一瞬で詰められるのではないか?
あるいは透明化の魔法を使われたら?
楽天家のバッツといえど、そんな不安は拭いきれるものではない。
さらに言えば、自称タバサことセージの精神不安定さも問題だ。
逃げるぞ、と促したところで『悪い人は皆やっつけます!』などと"タバサ"が突然張り切り始めるかもしれない。
あるいは『タバサの仇アーヴァインはここで絶対殺す!』なんてノリでセージが大暴走するかもしれない。
できればちゃんと時間的余裕がほしい。

(ローグならもっと遠くまで見えてたんだよなー……
 いいよなあ、あの技。トリの眼だっけ? 便利だよなあ)

かつての相棒の不思議な特技を思い出しながら、青年は小さなため息をついた。
警戒を強めるべくシーフにジョブチェンジしてみたものの、視界は特に変わらないし、心もそれほど休まらない。
そもそも監視中に心を休めてはいけないのだけれども。

717 :Idolatry 2/13:2021/03/31(水) 02:06:29.99 ID:k6HVn+ljB
「あーあ、ボコに乗りたいな……
 こう風をぶわーーっと感じながら、ぐるーっと世界一周してさ」

在りし日の光景に思いを馳せ、ここに居ない相棒の羽を撫でようとした、その矢先。
バッツの視界に、有り得ないものが映った。

(……雷?)

北北西の空を切り裂く稲光。
ギード達がアーヴァインを追っていった方角だ。
数秒遅れて轟く轟音。
距離はある。確実に1km以上。あるいは2kmを超えているかもしれない。
だが3キロは絶対に離れていない。
じわり、と背筋を汗が伝い落ちる。
こんな地底世界で雷が自然発生するはずがない。
そしてサンダーやサンダラ程度の魔法であんな規模の雷撃が起こるはずもない。
サンダガ――ギードなら唱えられるだろう。
多分ケフカも。
あるいはリュックやロック、サイファーだって使えるかもしれない。
そして可能性だけで良いのであれば、当然セフィロスも――

(どうする?)

今わかるのは、サンダガらしき魔法が放たれたというだけだ。
別に皆が負けたとか、そういう話ではない。
それに、逃げるだけなら簡単だ。
ラムザも"タバサ"も天井一枚隔てた足元に――希望の祠の中にいる。
だからこそ、悩む。

下にいるのがラムザだけなら相談するという選択肢もあった。
卓越した演技力にばかり目が行ってしまうが、仲間を案じる心も冷静な判断力もある。
何よりセフィロスの強さを正しく把握している。
しかし現実にはセージもいて、彼をのけ者にして話をすることなど出来ない。
そしてセージの思考回路も、口が裂けても健全とは言えない。
"タバサ"の生存が第一。"タバサ"の敵(主にアーヴァイン)の排除が第二。
それ以外は生きようが死のうがどうでもいい。
そんな思考が見え透いていて――比較的鈍感な部類であるバッツでもわかるほどに見え透いていて。
出てくる結論がわかりきってしまっているから、相談には行けない。

階下の二人に状況を話して、逃げるか。
今はまだ説明せず、誰かが逃げてくるまで待つか。
選べる道は二つに一つ。
そして、選びたい道は――

718 :Idolatry 3/13:2021/03/31(水) 02:08:37.56 ID:k6HVn+ljB
――そこまで考えた矢先に、ラムザの声が聞こえた。
雷鳴を聞きつけて心配してくれたのだろう。

「バッツさん!」
「大丈夫だ、まだ遠い!」

まだ待てる。だから、ここはやはり待ちたい。
言葉にはしなくとも、表情からバッツの意を組んだのだろう。
ラムザは頷き、踵を返して祠へと戻る。
階下からわずかに聞こえる話し声。
"タバサ"かセージかはわからないが、どうやら説得してくれているようだ。

何とか仲間と合流したい。
それが無理なら、せめて状況だけでも伝えたい。
バッツは必死に目を凝らしながら辺りを見回す。
その願いが天に届いたのか――彼の視界に、奇妙な色彩が映りこんだ。
草原と茂みの境界に、点のように小さな、しかし花の咲かない地底の草原には有り得ない色。
赤、あるいは黄色の何かがポツンと現れたのだ。
バッツはすぐに方位磁針を確認し、その正体を確信する。
北東だった。
そちらからやってくるのは、間違いなく二人だけだ。
躊躇は一瞬。
なりふり構っている状況ではないのだから、体裁を取り繕う必要もない。
地面に飛び降り、祠の中に向かって叫ぶ。

「ラムザ!! ソロ達がこっち来てるから話に行く!!
 ヤバくなったら俺置いて逃げてくれ!!」
「え?!」

返答も聞かぬまま、バッツは一直線に走り出した。
シーフの脚力である。
生い茂る草に足を取られるどころか、地上すれすれを飛ぶ鳥のように、自らが風となって駆け抜ける。
歩けば十数分かかる距離も走れば数分。
相手側も自分と同じかそれ以上のスピードで動いていれば、さらに半分以下。
しかしその一方、彼方にて戦況は動く。
天を貫くかのような竜巻。
行く手を阻もうとするかのように余波の突風が吹き抜けていく。
それでも止まらない。
止まってはいけない。
400m、200m、100m、50m。
最早はっきりと視認出来る、空中に浮いた絨毯から、見慣れた人影がひらりと飛び降りる。

「バッツ!!」
「無事でしたか!!」

ヘンリーとソロ。
一芝居打つために今朝がた別れた仲間達は、表情こそ焦りと不安に満ちていれど、傷を負っている様子はない。

719 :Idolatry 4/13:2021/03/31(水) 02:10:03.18 ID:k6HVn+ljB
「こっちの台詞だよ! とりあえず二人とも元気そうでよかった」
息を整えながらバッツはぱちりとウインクをし、希望の祠を指差した。
「あっちにラムザと、えーと、自称タバサのセージがいる。
 とりあえず戻りながら説明するよ」
「ああ、頼む。
 俺は歩くから、お前とソロで乗って行けよ」
「いや、僕が歩きますよ」
と、譲り合う二人を他所に、バッツはいち早く絨毯に飛び乗る。
「おー、こういう乗り心地かあ。
 よーし全速前進だ!」
「待て待て待て一人で行くな!!」
「ヘンリーさん早く乗って!!」
「うわっととと! 押すなっての!!」
ソロに無理やり背中を押されたヘンリーが、半ばバランスを崩しながら絨毯の上に乗り上げた。
絨毯は再びスピードを上げて空中を滑り出し、一拍遅れてソロも走り始める。
ヘンリーは小さくため息をつき、けれどもすぐに首を横に振りながら切り出した。

「なあ、ギードやケフカは見なかったのか?
 セージと一緒にいたと思ったんだが」
やっぱそこからだよなあ、と思いながらバッツは答える。
「ロックと一緒にアーヴァイン追ってったんだ。
 なんか魔物化してて錯乱しててチョコボが暴走してて、多分セフィロスに操られたんじゃないかって」
「最悪じゃねえか!
 いや雷なんて鳴った時点でドンパチやってるのはわかってたけどよ!」
「あ、やっぱ気づいた? 気づくよな、そりゃ」
「アレが聴こえないわけないだろ?
 だから急ごうと思ってコレ使ったんだ」

ボロボロになりながらも懸命に飛び続ける絨毯の上で、少しばかりの情報交換。
けれどそれも長くは続かない。
あと百メートルほど、というところで、祠から飛び出してくるラムザと"タバサ"の姿が見えたからだ。

「ラムザー! こっちこっち!」
「こっちこっちじゃないですよッ!!!」

ラムザが怒鳴る。
さすがに雷ほどではないけれど、反射的に背筋が硬直してしまう程度には大きな声だ。
ついでに言えば、割と本気で怒っているように見える。

「一人で飛び出すなんて危険な真似しないでくださいッ!!
 この二人なら何もしなくても祠にやってくるに決まってるんですからッ、待てばいいでしょうにッ!!」
「あー、うん、悪かったよ。
 少しでも急いだほうがいいと思ってさ」
「あ、あの、ラムザお兄さん……
 バッツさんも悪気があったわけじゃないし、怒らないであげてほしいな」
「はぁ……今回は無事だったからいいですけどッ。
 もう少し危険意識をしっかり持ってくれないと困るんですよ」

"タバサ"の執り成しに、ラムザは渋々といった様子でバッツから視線を外す。
そしてどこからどう見ても猜疑心に満ちた目付きで、ソロをねめつけた。

720 :Idolatry 5/13:2021/03/31(水) 02:11:00.87 ID:k6HVn+ljB
「今更話すこともないですが、お互い生きていて良かったですね。
 人助けしたいならさっさと北の方へ行って、セフィロス退治に協力したらどうですか?」

(う わ あ)
サボテンダーもビックリな、刺々しい言葉をオブラートに包みもせず言い放つ。
無論演技だということはわかっているけれど、『……演技だよね?』と確認したくなってしまう。
ソロもバッツと同様、困惑を隠せないまま立ち尽くすばかりだ。

「そういう言い方はないだろ」

見かねたのか、ヘンリーが前に歩み出た。
腹芸は俺に任せとけ、と言わんばかりに片手を振り、つらつらと言葉を紡ぐ。

「アンジェロの遺体は無くなってるし、誰が戦ってるのかもわからん。
 仮にもしケフカとセフィロスがやり合ってるだけだったら、加勢しに行くだけ無駄だ。
 だからこそ、誰が無事でどういう事態が起こってるのか確かめに来たんだぜ?
 待っててくれたのは嬉しいが、つまらないケチをつけるのは止めてくれ」
「別にお二人を待っていたわけじゃありません。
 錯乱したアーヴァインを追っていったギードさん達と、もう一度合流したかっただけです」
「ああそうかい、だったら――」

ヘンリーが何かを言いかけた、その時だった。
彼の服のポケットから、大音声が響き渡ったのは。

『あーあー、聞こえますかー! 聞こえてるよな!!』

一度聞けば忘れられない特徴的すぎる声。
バッツがその正体に思い至るより早く、状況を察したラムザが"タバサ"の口に左手を当てる。
そして右手の人差し指を自分の口に翳し、バッツに目配せする。
ひそひ草の持ち主であるヘンリーと同行者のソロ以外は黙れ、ということだ。
一方、ラムザの思惑を知る由もない声の主――ケフカは、矢継ぎ早に彼らの現状をまくし立てる。
ヘンリーは「なんだって!? どういうことだ、何があった!!」と相槌を打ちながら、ラムザを見やった。
視線とジェスチャーでの完全なる黙談である。
無論、バッツには二人の意図などさっぱりわからないので、"タバサ"と一緒に静かにしていることしかできない。
そうこうしているうちに、ひそひ草から今度はロックの声が聞こえ始めた。

『ったく、勝手なことばっかり言いやがって……
 ソロ、ヘンリー! 二人とも無事か!?』
「ロックか! こっちは無事だ、っていうか……」
『ああ――信じられないだろうが、ケフカが最初に言ったことはだいたい合ってる』

721 :Idolatry 6/13:2021/03/31(水) 02:13:24.19 ID:k6HVn+ljB
(合ってるんだ……マジか〜……)
さしものバッツも、頭を抱えざるを得ないぐらいには最悪の状況に陥っている。
それからリュックが話し始めたり、ケフカが再度煽ってきたりしたけれど、良いニュースは一つもなかった。
あえて言うなら死人が出ていないことぐらいだろうか。
それだって、アーヴァインを利用して良からぬことをするための時間稼ぎとしか思えない。
やがて会話も終わり、静かになったひそひ草をザックにしまい込んでから、ヘンリーは大きなため息をついた。

「はぁあ……というわけで、状況は最悪中の最悪だ。
 言い争ってる時間も惜しいから、お前らだけでも次の世界へ行ってくれ」
「言われなくてもそうします。
 ケフカさんの言葉通り、あの銀髪鬼に"タバサ"ちゃんを利用されることこそ最悪ですからね。
 どうせお人よしの貴方達は他の皆を助けに行くつもりなんでしょう?」
「まあな。ソロ、お前もそれでいいだろ?」
「は、はい。それは、もちろん。
 サイファー達を見捨てることも、セフィロスさんやケフカを見過ごすこともできません」
「ご立派な事ですね」

険悪な口調は崩さぬまま、ラムザは小さく微笑む。
ともすれば嘲りにも見える表情だが、その本心は、揺るがぬソロの意志力に安堵したのだろう。

「一応聞いておきますが、僕とバッツさんの持ち物で必要なものはありますか?
 さすがにあの銀髪鬼を相手にするというなら多少は融通しますよ」
「いや、十分だ。
 武装なら俺も十分すぎるほど持ってる」

知ってる。
バッツは喉から出かかった言葉を飲み込む。

「なら、せめて鎧ぐらい着こんでおいた方がいいですよ。
 セフィロスの強さの根幹は、何よりも神速の動きと太刀筋です。
 一瞬で間合いを詰めて数多の斬撃で切り伏せてくる以上、それを防ぐ手立てこそ重要かと」
「そうか。……つっても刃の鎧と、クッソ重くて着れない鎧と、鎧みたいな変な服しかないんだよな」
「変な服?」
「これこれ」

そう言ってヘンリーがザックの中から取り出したのは、純白の服だった。
彼の言葉通り、確かに布で鎧を作ろうとしたようなデザインだ。
不思議なことに汚れも傷も何一つついていないが、今まで誰も袖を通さなかったのだろうか?
首をひねるバッツの横合いからラムザがそっと手を伸ばし、生地を触る。
その眉間に小さな皺が寄った。

722 :Idolatry 7/13:2021/03/31(水) 02:15:06.96 ID:k6HVn+ljB
「……色や意匠は全く違いますが、質感や魔力が僕の知っているローブによく似ています。
 何人も傷つけられぬ、穢れ無き君主の法衣ローブオブロード……
 恐らくこれも、同等かそれ以上の……間違いなく伝説級の品かと」
「伝説級? そんな良いやつなのか?
 だったらこれ着とくよ。刃の鎧だと、下手に動くと自分にぶっ刺さりそうだし」

服を受け取りなおしたヘンリーは、早速着込もうとし――その手を途中で止めた。
気づいたのだ。
"タバサ"がいつの間にか近づいていて、微かに身を震わせながら、ぎゅっと拳を握りしめていることに。

「ヘンリーさん……
 こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、でも……
 ……私と一緒に、来てくれませんか?」

「え?」と全員が声を上げる。
予想外の申し出――というわけでは無かった。
少なくとも本物のタバサであればそうしたかもしれない、という行動の範疇ではある。

「あっちには、悪い魔物が……私を襲った魔物がいるんです。
 きっとあいつは他の人たちも殺してヘンリーさんも殺します。
 ……それは嫌なんです。
 ヘンリーさんが死んだら、悲しむ人たちがいっぱいいて、……私も、そんなの、嫌なんです」

眦に涙を浮かべ、鼻をすすりながら訴える姿は、紛れもなく心優しい少女のソレだ。
思わず絆されたバッツは、どうにかヘンリーも同行させられないかと声を上げようとした。
だが、その言葉が喉から出てくることはなかった。

気づいてしまったのだ。
"タバサ"を見つめているヘンリーの、感情の欠片もない能面のような表情と、黒い靄に。

けれど瞬きした次の瞬間には消えていた。
靄などどこにもなく、ヘンリーは寂しげな眼差しを湛えながら"タバサ"の頭を優しく撫でる。
実の親が、子に、そうするように。

「タバサちゃん。悪いけど、それはできない。
 おじさんはリュカの親分だからね。
 タバサちゃんを狙ってる悪者を倒さないと、タバサちゃんもリュカも安心できないだろう?
 大丈夫、おじさんはそう簡単にやられたりしないからさ」
「でも……!」

それでも食い下がろうとする"タバサ"を安心させようと、そっと抱きしめて。
ヘンリーはソロに視線を移し、胸を叩いた。

「大丈夫だって。
 こっちには天空の勇者サマがついてるんだからさ」
「ええ、ヘンリーさんのことはきちんと守りますよ」

ソロも大きく頷き、天空の剣を地面に突き立てる。
その躊躇いなき誓いに、"タバサ"も諦めざるを得なかったのだろう。
ゆっくりとヘンリーから離れ、ソロの視線から逃げるように、ラムザの後ろに隠れる。

723 :Idolatry 8/13:2021/03/31(水) 02:16:09.88 ID:k6HVn+ljB
「……わかりました。
 でも、本当に、気を付けてください。」

その小さな呟きを受けるように、ラムザが言葉を繋ぐ。

「全くですよ。ソロさんはまず自分の身を心配した方がいいと思います。
 無理も無茶も通用しないけれど、理不尽だけはまかり通るのが現状なんですから」

今ここで仲直りするのも不自然だと思ったのだろう。
演技を続けるラムザの言葉は相変わらず皮肉に塗れている。
けれど、"タバサ"以外は皆知っている。
吐き捨てるように言った台詞に紛れた本心を。

「一応、御武運だけは祈っておきます。
 あとはせいぜい、死なないように立ち回ってくださいね。
 ――では行きましょうか、バッツさん」
「あ、ああ」

"タバサ"の手を引くラムザを追いかけようとしたバッツは、しかし途中で足を止めた。
これが今生の別れになるかもしれない。
そうなってほしくはない。
だから、叶うかどうかもわからない約束を口にする。

「えーっと、あのさ、ラムザは多分普通にソロのこと心配してると思うんだ。
 だから、次の世界でまた会おうな!」

そんな彼の気持ちを察したのだろう。
二人は笑いながら、大きく頷いた。

「はい、バッツさん!」
「おーおー、タバサのことは俺の分まで任せたからな!
 二人とも気を付けて、そんでまあ――また会おうぜ!!」

724 :Idolatry 9/13:2021/03/31(水) 02:19:09.01 ID:k6HVn+ljB
祠の中へと消えていく三人の姿を見送ったソロは、絨毯をくるくると巻き上げた。
どの地点にセフィロスがいるかわからない以上、ここより先は全てが死地だ。
幾ら便利であっても、目立ちすぎる乗り物は使えない。
とりあえずヘンリーが持っているザックのどれかに仕舞いこんだ方がいい。
そんなことを考えていたソロの手が止まったのは、聴こえてしまったからだ。
怒りと憎悪に満ちた、小さな呟きが。

「クソすぎるだろ、アイツ」

声の主はヘンリーだった。
もしかしたら彼自身、口に出す気などなかった言葉だったのかもしれない。
服を着こみ終え、やるせない様子で後ろ髪を掻きむしり――
やがて目を開いたまま固まっているソロに気づいたヘンリーは、バツが悪そうに顔をそむけた。

「……ああ、悪い、お前に言ったんじゃない。
 単純に、セージの奴が死ぬほど気に食わないってだけだ」

ああ、とソロは得心した。
"タバサ"として振舞い、本物の彼女に近づくよう努力していても、ヘンリーはその正体を知っている。
そして本物のタバサがどうやって死んでいったのかも――誰よりも、知ってしまっている。
それでも"タバサ"をタバサとして受け入れなければならないのだから、心労も苦痛も相当に募り積もっているだろう。

「ヘンリーさんの気持ちもわかります。
 ただ、セージさんはきっと、タバサちゃんを蘇らせたい気持ちが強すぎて自分を見失ったんだと思います。
 アーヴァインが――」

アーヴァインが召喚獣としてティーダを蘇らせたように、どんな形であってもタバサを引き止めたかっただけ。
そう言おうとしたソロの口を、張り手のように飛んできたヘンリーの掌が塞いだ。
一体何故? と首をひねりかけた矢先、ティーダ達のことは夢世界でのみ知ったことだったと思い至る。
そしてヘンリーもソロの失言をフォローしようとしたのだろう、半ば喚くような調子で一気にまくし立てる。

「あーあーそうだなアーヴァインだ、あいつがタバサを死なせたからややこしくなったんだよ!
 それは確かにそうなんだけど、俺にしてみりゃアーヴァインの方が数段マシなんだよな!」

「ええ?」と塞がれた口の端から声が漏れた。
親友の娘を蘇らせたいと願う人物が許せなくて、親友の娘を殺した張本人の方が許せるなんて、さすがにおかしい。
あるいはこれも演技の範疇で、死なせるわけにはいかないアーヴァインを助けるための方便なのだろうか?
頭の中に疑問符を浮かべるソロの心情を察したのか、ヘンリーは肩を竦めながら喋り始める。

725 :Idolatry 10/13:2021/03/31(水) 02:21:39.83 ID:k6HVn+ljB
「ああ、もちろんアーヴァインもたいがいクソ野郎だよ。
 ただそれはそれとして、タバサが死んだ時に限っては、本当にどうしようもない状況だった。
 何せタバサ自身正気を失ってて、傍から聞けば意味の分からない妄言を話してる。
 ターニアもタバサに対して怯えてた様子があったらしいし、ピサロですら初手から匙を投げてた」

ソロの口から手を放し、丸めた絨毯をひったくるように受け取って、ヘンリーは歩き出す。
希望の祠から離れるように、北へと。

「ピエールの奴に仲間を殺されたのはリルムも同じだって言うし、あの子もたいがい毒舌だろ?
 で、仮にも魔王のピサロがいて、怯え切ったターニアがいて、スコールの偽物までいた。
 その上肝心のタバサが発狂してて、お前相手にすら一方的に攻撃を仕掛けるような有り様だ。
 あの全方位地雷原っぷりじゃあ、アーヴァインがいなかったとしても爆発するに決まってたし――
 ……――『タバサが本当に誰かを殺す』なんて事態にならなかっただけ、きっと、マシだったんだ」

足取りは、少しずつ早くなる。
それでもソロが追いつけなくなる程ではない。
すぐに真横に並んで、歩調を合わせる。

「タバサの仇として責める相手がいるとしたら、それはタバサの心を殺した奴だ。
 あの子を孤独に追い込んで、現実から目を逸らさせた張本人。
 ……まあ十中八九ピエールとリュカがやらかしたんだろうし、二人とも死んでるんだからどうしようもない。
 どうしようもない、はずなんだが……思っちまうんだよ」

ヘンリーの独白は止まらない。
ソロも止めようとは思わなかった。
ただ、代わりに前に進み出て、進路をずらして茂みがある方へと向かう。
先にセフィロスに気付かれないよう、少しでも姿を隠すためだ。

「リュカがいない間、ずっと近くで守っていて、蘇らせたいほど大切に思っていたっていうならさ。
 どんなことがあってもしがみついて、離れないようにすれば良かったんだ。
 ――それを諦めて、そのせいであの子は孤独の果てに心を壊して、狂ったまま俺の腕の中で死んでいったってのに。
 肝心な時に傍に居もしなかったクソ野郎が、一体どういうわけでその子の死も生も踏みにじってんだ?」

怒りと憎悪。ソロの知るヘンリーらしからぬ、暗い感情。
けれどそれこそが本心なのだと知ってもらいたいのだろう、ヘンリーは淡々と話し続ける。
セフィロスとの遭遇戦まで残された時間はきっと僅かで、だからこそ聞いてほしい。
その気持ちを否定することなど、ソロにできるはずもない。

「アイツがこのまま成り代わって、俺が死ぬようなことがあれば、本当のあの子の居場所は誰にもわからなくなる。
 本当のあの子はこんな場所で寂しく眠ってるってのに、誰にも悼まれなくなって、誰もが本物のあの子の存在を忘れていく。
 そしてアイツが成り代わったタバサがタバサとして認められて、他人の記憶に残っていくって考えたらさ。
 知らない男が化けた偽物の王女が、グランバニアの歴史に刻まれて、リュカの血筋として扱われて……そう考えたらさ」

726 :Idolatry 11/13:2021/03/31(水) 02:22:42.66 ID:k6HVn+ljB
ぎり、と歯を食いしばる音がした。
固く握りしめた拳はぶるぶると震えていた。
それでも静かに、けれど思いの丈を込めるように、ヘンリーは吐き捨てる。

「悍ましいったらねえよ。
 あいつの傍にいるぐらいなら、アーヴァインを助けてやったほうが数億倍マシだ」

ソロは、何も言えなかった。
恐らくセージはタバサを蘇らせたいだけで先のことなど全く考えていないだろうとか、タバサが狂った原因を彼に求めるのは酷ではないかとか、思う事がないわけではない。
けれどヘンリーには言えない。
タバサがどんな少女だったのか、彼女が何故死ななければならなかったのか――それを誰より良く知っているのは、セージではなくヘンリーなのだから。
そしてタバサをタバサとして蘇らせるのではなく、自ら"タバサ"に成り代わろうとしているのは、紛れもなくセージの過ちなのだから。

(……天空の勇者、か)

ふと、ソロは思い出す。
つい先ほど、ヘンリーが"タバサ"に言った言葉を。
そして本物のタバサと会った時、彼女はソロにどういう反応を示したのかを。

――ああ、そうだ。
本当に"タバサ"がタバサであったなら、兄以外の天空の勇者がいると聞かされたところで安心するはずがない。
今ならわかる。
ヘンリーは確かめたかったのだ。
もしかしたらティーダのように、強い想いに繋ぎ留められて。
あるいはウネやピサロのように、天性の魔力で自分自身の魂を保っていて。
そんな奇跡が、偽物の"タバサ"を本物のタバサに変えているかもしれないと――彼だって少しは期待していたのだ。

(……僕の眼には、セージさんは前よりずっとタバサちゃんに近づいているように見えた。
 でも……どれほど努力しても、きっと、『近づいている』だけなんだ)

ティーダ。ウネ。ピサロ。
三人に共通しているのは、最初から『本人』だったということだ。
本人しか知らないことを知っていて、本人にしか出来ないことができて、仲間や友人から見ても本人だと理解できて、疑う余地など欠片もない。
何故か?
問うまでもない、本人は本人なのだ。
近づくも遠ざかるも何もない。努力など必要ない。
仮に彼らが本物かどうか疑う人物がいたとしても、あの三人ならば口を揃えてこう断言するだろう。
『疑うなら勝手に疑えばいい、自分は自分だ』と。

727 :Idolatry 12/13:2021/03/31(水) 02:24:04.18 ID:k6HVn+ljB
だが、"タバサ"は違う。
モシャスか何かで姿を真似て、タバサが遺した【闇】と思い出をかき集めて、必死で本物のタバサに近づけようとしている、セージの努力の産物だ。
その根底にあるのはセージの意志であって、本物のタバサの意志ではない。
だから、近づけなければ近づかない。
真似ようとしなければ似せられない。
この先どれほど"タバサ"がセージの思い描くタバサになったとしても、永久に本人には成り得ない。
だってセージにとって、タバサの存在は我が身を捧げたくなるほどに輝かしいものだろうから。
心を壊したりなどしない、狂気に飲まれることもない、絶対的に正しい完全無欠の少女だろうから。

(……ラムザさんなら、上手くやれるんだろうか。
 セージさんにもう一度現実を見せて、元に戻すことが出来るんだろうか)

今、考えることではないのかもしれない。
カッパ化が解けた上にアーヴァインを連れ去っている以上、セフィロスと話し合う材料などないし、十中八九戦うことになる。
無論ヘンリーの身は守り切るつもりでいるけれど、いくら覚悟があろうとそれだけで勝てる相手ではない。
ラムザ達やセージと再会するどころか、この世界に屍を晒すことになるかもしれない。
でも、もしも生きて次の世界に辿り着けたなら、絶対に解決しなければいけない問題だ。

「あー、まあ、セージのことは後で考えりゃいいことだ。
 今はまずセフィロスを止めて、アーヴァインを助けることだけ考えようぜ。
 大丈夫、お前がいりゃあ絶対勝てるからな!」

ソロの思考を見透かしたように、ヘンリーはわざとらしく明るい調子でおどけてみせる。
その手にはいつの間にかキラーボウが握られていて、ベルトに吊り下げられたナイフも一本から三本に増えていた。
さすがにサイファー達をまとめて圧倒するセフィロス相手に、大剣での接近戦は自殺行為だと考えたらしい。

「ええ、そうですね。
 僕もヘンリーさんがいれば百人力ですが――誤射だけは気を付けてくださいね」
「え? お前も俺を誤射王扱いすんの?
 流行ってんの? そのマスタードラゴン直伝天空ジョーク」
「いやジョークも何も本気で心配してるんですが……」

ヘンリーの反応に困惑しながらも、ソロはそっと天空の剣を握り締める。
救わなければならない。
ヘンリーも、アーヴァインも、セージも。
無論、できることならその中にセフィロスの名前も加えたい。
けれどセフィロスにはセフィロスの選択があるのだろうとも思う。
馴れ合いや安寧よりも、果てなき死合いの果てで孤高の極みに一人立つ――
利ではなく、狂気でもなく、誇りゆえの選択が。
ならばいつまでもソロの理想を押し付けるわけにはいかない。
真正面から立ち向かい、阻み、打ち倒す。
それこそがたったひと時といえど行動を共にした、誇り高き英雄への礼儀だ。

携えた武具にも、賢者の力を宿したその瞳にも。
心にすら曇り一つなく、天空の勇者は前に進む。
その後姿が眩しいとでも言わんばかりに、ヘンリーは目を細めながら、後を追った。

728 :Idolatry 13/13:2021/03/31(水) 02:24:53.83 ID:k6HVn+ljB
【ソロ(MP2/5 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
 第一行動方針:セフィロスを止めてアーヴァインを救出する
 第ニ行動方針:仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:ケフカを倒す
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー
 所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、魔法の絨毯、リフレクトリング(E)、銀のフォーク、
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ、メガポーション
    ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
    リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
    レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:セフィロスを倒してアーヴァインを救出する
 第二行動方針;仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:セージを何とかする
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:希望のほこら北西、茂みと草原の境界線→北へ移動】



【セージ(MP2/5、人格同居状態)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
     イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
     聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
 基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
 最終行動方針:"タバサ"に復活してもらい、自分は淘汰される?
 "タバサ"(人格同居状態)
 第一行動方針:次の世界へ行く
 第ニ行動方針:ギードたちに協力して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
 基本行動方針:セージを助ける
 最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】
【バッツ(MP1/5、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得、左足微傷)
 所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
     マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
 第一行動方針:ソロ、ギードたちと再合流する
 第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(MP9/10)
 所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
     スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
 第一行動方針:ソロ、ギードたちと再合流する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:新フィールドへ】

729 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/03/31(水) 06:38:45.67 ID:SVeUGa0Hf
投下乙です!

これは・・・
これは・・・

自分を引き留めるタバサを見て、ヘンリーが真顔になるとこ、読んでるこっちの心が締め上げられるでしょ
タバサの真偽かかわらず、ヘンリーの心の地雷がどこにあるのか気づく手段がないから、
彼/彼女が何かすればするだけ、ヘンリーの心を踏みにじることになるという関係性、本当に救いがなくてつらすぎる


満身創痍の4人に恩を売って取り入り、絶体絶命の大ピンチですらチャンスに変えるケフカの手並み、
こいつ本当に煮ても焼いても食えないなあ
本当に信用できないのに切り捨てるには大義が足りないという、ものすごく嫌なポジションを確保してて
全体の利をはかる裏で自分の欲望をちゃっかり潜ませてるのも、なんというか、後で絶対に災厄招くだろって思えて怖い

730 :にア おいのりをする 1/5:2021/04/01(木) 00:55:32.38 ID:pw1bKcvHj
事の発端は、例によってティーダの奴だった。
突然現れた夢の扉から転がり出るように飛び込んできたと思えば、わけのわからないことを喚きたてたんだ。

「頼む、みんなアービン達を助けてくれ!!
 セフィロスが襲ってきてて、俺も戦おうとしたんだけどアービンがユウナと話してこいって――
 そんでユウナは説得できたんだけど、女の怪物が襲ってきて、召喚が途切れて!!
 アービンのこと呼んでも、返事がないんだ!!」

意味わかるか?
俺には無理だったねッ! ああわかってたまるかこんな戯言ッ!!
無論、他の連中も首を傾げるしかできなかったさ。
約一名を除いて、な。

「ふむ、筋道立てて考えるとこういうことでしょうかね。
 アーヴァインさんはサイファーさん達と一緒にセフィロスと交戦していて、それでティーダさんを召喚した。
 そしてユウナさん由来の【闇】がセフィロスを強化していることに気づいたので、影響を弱めるためにユウナさんの意志を浄化することを優先した。
 しかし途中でセフィロスの意志がアーヴァインさんの意識を乗っ取ってしまい、ティーダさんの召喚を強制解除してしまった――」
「そう! そうそうそう、それそれ多分そうッス!!!
 だからアービンもサイファーもきっとみんなピンチでだから!!」
「早急に手立てを打たないとまずい、ということですね」

ちょび髭生やした小男のプサン、もとい異界の竜神マスタードラゴン。
こいつの翻訳と、ティーダがぶんぶん首を縦に振ったことで、ようやく事態の把握が可能になる。
要するに最悪の方向に事態が転がったということだ。
それでも、というべきか、さすが、というべきか、いち早く動いたのはスコール。
攻略本を素早くめくり、セフィロスについて記載されたページを広げる。
素早く上下に瞳を動かし、やがて一か所に指を止めた。

「……アーヴァインに呼びかける方法はないか?」

そこに書かれていたのは、セフィロスの強さの根幹たる、ジェノバという怪生物について。
自在に分裂し、他者の記憶を読み取って油断を誘う姿に擬態し、隙を見せたものに寄生し、やがて一つに再統合する――実に不気味で悍ましい生態だ。
しかしスコールはその記述に何らかの逆転の目を見出し、プサンやザンデも意図を汲んだらしい。

「ウネだな」
「ロザリーさんですね」

上がったのは別々の名前。
婆さんは何故か得意げに胸を張り、桃髪のエルフはきょとんと赤い目を見開く。
大男と小男は顔を見合わせ、各々の論拠を述べ立てる。

731 :にア おいのりをする 2/5:2021/04/01(木) 00:57:11.07 ID:pw1bKcvHj
「そこの小僧は召喚者の夢によって魂を繋ぎ留められた召喚獣だ。
 夢を支配するウネならば、繋がりを利用して呼びかけることもできよう」
「ロザリーさんの祈りは現実と夢の境界を超えて、遠く離れた場所に鮮明なイメージを届ける力があります。
 つまりお二方の力を合わせれば、よりスコールさんの思惑通りに事を運べるかと」
「は、はあ……」
ロザリーは曖昧に微笑みながらうなずく。
多分、会話の意味がわからず困惑しているだけなのだろう。
そんな彼女の手を、妙にはりきっているウネが引っ掴む。
「任せておおきよ! さあさロザリーにティーダ、こっちに来な!!
 あとザンデ、あんたも手伝うんだよ!!」

正直に言うが、俺にはこいつらが何をやろうとしているのか全くわからないし理解する気もない。
だが、あれよあれよという間にウネとザンデが魔法陣を作り上げ、中央にロザリーとティーダを据えた。
後は周囲に集まって祈るだけでいいらしい。
婆さんに促されるまま、スコールが手を組んで祈り始め、リルムとマッシュ、プサンが後に続く。
当然俺は協力しない。
スコールの手前、さすがに口に出して茶化したりはしないがな。
さっさと死んだほうがいい『化物』がわざわざ助かるように祈る?
冗談じゃないッ!!
――そう心の中で吐き捨てながら、他の連中と距離を取る。

光り輝く魔法陣。
老婆の詠唱と共に舞う赤い鳥。
中央で祈るエルフの少女と召喚獣。
その周りを取り囲んで祈る人々。
何も知らなければ幻想的で、いっそ美しいとさえいえる光景だ。
だがその全てはあの『化物』の為なのだから、どうしようもない。
ドブ川の流れを眺めている方がよっぽど有意義だ。

……ああ、断っておくが、スコールについては仕方ないだろうさ。
化物に成り果てようと知人は知人だろうし、捨てられない感情ってものがあるということは理解できる。
これでティーダみたいに取り乱したり、化物一人のためにハイリスクな手段を選ぼうとかいうなら諫めもするが――
ただ祈るだけで事が済むというならそりゃあ乗るだろうし、俺だって止めやしない。

ロザリーについても、あまりどうこう言う気はない。
祈ることで遠く離れた他人に夢のメッセージを届けるなんて異能を持ってるのは彼女だけだ。
力を貸してくれと乞われて、その頼みを引き受けているだけなのだから、俺が口を挟むのはお門違いだろうよ。
…………それに、下手に文句や因縁をつけると面倒なお守がいる、というのもある。
何故か夢の世界には姿を見せていないが、呼び出せないと決まったわけじゃないからな。

ウネの婆さんも……まあ、ああいう婆さんだ。
良くも悪くも、出来ることなら無条件で協力するタイプの善人。
そして良くも悪くも、自分の中で答えが出ていることに対しては周りが何を言っても聞かない頑固者。
『どこの世界にもいるんだな』としか言いようがない、典型的な老人だ。
どうせ俺みたいな若造が何か言ったって、百万倍の言葉で言い返してくるに決まってるのだから、これはもう割り切るしかない。

732 :にア おいのりをする 3/5:2021/04/01(木) 00:58:35.16 ID:pw1bKcvHj
納得いくのはこの三人ぐらいだ。
あとは呆れるしかない馬鹿――

ティーダ。貴様だよ貴様ッ!!
前々からそうだと思ったが今度こそははっきりわからされたよッ!!
こいつに関心を割くこと自体が無駄だってなッ!
召喚されたってのにロクな戦果を上げないわ、説明もまともにできないわッ!
プサンがいなかったら誰も事態を把握できなかったぞッ!
誰か俺に教えてみろよッ、こいつのどこをどう評価すればいいのかをッ!!

それにマッシュ!
他の連中と一緒になって化物のために祈ってやるとか、一体何を考えてるんだ?
どう考えてもお前はあの化物の被害者側だろ?!
奴に殺されたうちの一人はお前の仲間だって攻略本に書いてあったんだが?
ユウナが発狂してお前の兄貴を殺した原因だって、どう考えてもティーダとあの化物が一枚噛んでるはずだがッ!?
スコールやリルムに付き合って祈ってるだけなのか?
だとしても俺には理解できないなッ!

もちろんリルムの奴も馬鹿枠の一人だ。
『化物』やらピサロやらに平然と懐いて、ティーダと一緒になってぎゃあぎゃあ騒ぐ馬鹿ガキッ。
こんな奴が優秀な魔導士だってんだから、本ッ当に世の中狂ってやがるッ。
いや優秀な魔導士だからこそキワモノに懐くのか?
わからないしわかりたくもないがなッ。
せいぜいそのまま祈り続けて一生黙っていろッ!

はあ、本当にこいつら、視界に入るだけで気が滅入る。
聴こえないよう小さく舌打ちしつつ、俺は残りの二人にも視線を向ける。

魔王を自称する魔導士……というにはあまりにも体格が良すぎる魔人、ザンデ。
俺以外では唯一祈りの輪に加わらず、いつの間にかスコールの広げた本を勝手に読み始めているが――それはもともと俺の攻略本なんだがな?
いつ人の本を読んでいいと許可した?
それに自分が祈る気もないのなら、最初から人員の推薦だの魔法陣の準備だのをしなければこんな茶番は始まらなかったんだが?
………と、色々問い詰めたいところだが。
さすがに、面と向かって口を出す気にはなれない。
こういう何を考えているかわからん手合いとは下手に関りを持たない方が無難だろうしな。
………怖いからじゃないぞッ!! 断じてッ!!

それから異界の竜神の化身、プサン。
胡散臭いという点ではこいつが断トツだ。
存在自体がグレバドスの教えに反してるってのもあるが……いや、その点は目を瞑るとしても。
今の騒動で、俺は確信したね。
絶対にこいつは隠し事をしているってなッ。

だいたいおかしいんだよッ。
なんでティーダの説明をまともに翻訳できるんだ?
何度でも言うが、ティーダの説明はこれだぞッ?!
『セフィロスと交戦中にユウナを説得しようとして女の怪物が襲ってきて召喚が途切れた』、だぞ?
これがどこをどうしたら、
『セフィロスと交戦中にティーダを召喚したけれど、セフィロスを強化しているユウナ由来の【闇】の排除を優先した。
 ティーダは上手くユウナを説得したが、セフィロスの干渉が強まって召喚を打ち切られた』になるんだッ?!

733 :にア おいのりをする 4/5:2021/04/01(木) 00:59:24.84 ID:pw1bKcvHj
なあ。明らかに情報が飛躍してるよなッ?
【闇】がセフィロスを強化していたとかどこから判断できるッ?
"女の怪物"とやらはどこへ行ったッ?!
それに再召喚しない理由だって、単純に"サイファー達がセフィロス撃退に成功したから召喚する必要がなくなった"って可能性もあり得るだろうッ!!
そして一番おかしいのは、ティーダの奴が一切訂正や反論をしなかったことだッ!!
いくら筋道立てた推論だとしても、元々の説明が意味不明な妄言なんだぞッ!!
粗が無いはずがないだろうがッ!!

――ああ、もちろん他にも根拠はあるぜ。
攻略本に書いてあったんだよ。
マスタードラゴンという竜神は、本来天空の城に座しながら地上全てを見守る神だと。
しかしプサンの姿では、強力な魔力の痕跡を通じてそこにまつわる過去を見通す程度がせいぜいだと。

過去とはいつだ?
決まっている。現在でない、過ぎ去った時間全てだ。
一時間前も一分前も一秒前も、体感できぬほどの刹那であっても、現在より以前であれば等しく過去だ。
そして強力な魔力の痕跡というならば、現在進行形で繋がっている魔力経路はどうだ?
魂を持つ魔力の塊である召喚獣と、それを現実世界に呼び出す召喚士。
ロザリーやウネの補助があるとはいえ、メッセージを送り付けられるほどの繋がりがあるというなら、同じように辿れるんじゃないのかッ?
限りなく現在に近い過去を見通して、的確な助言を下すことだってできるんじゃないのかッ!?

何度でも言ってやる。
俺は確信してるんだッ!
この異界の竜神は隠し事をしているッ。
化物とティーダの繋がりを利用して、一人だけ現実世界の動向を監視してるとなッ!
他の誰にも説明しないままにッ!!

……だが、同時にわかってもいるさ。
このことを問い詰めたところで徒労に終わるだろうってことは。
何せ、俺の手札は全て根拠となりえる情報であって、明確な証拠ではない。
『貴方の意見が推論であるように、私もただ知りえた情報から話が通じるように推論を述べただけですが』と言われれば、それ以上追及しようがない。
そして逆に、プサンがすんなり認めたとしても――
『知る必要のないことまで伝えても要らぬ混乱を招くだけです』と主張するに決まっている。
実際に喚きまくっているティーダとリルムがいるのだから、スコールも他の連中も反論することはできないだろう。

結局、俺にできることは不信感を燻ぶらせ、不安を募らせることだけ。
だからといって化物相手に祈りを捧げるなんて――あああ、全く冗談じゃないッ!!
だがしかし、化物が化物以上の怪物に使役されるなんざ、それこそ笑い話にもならないッ!
せめてソロ達に情報が送れれば……
クソッ、なんでティーダのやつ、あの化物としか召喚契約を結んでないんだッ!!
ソロにヘンリーにラムザに20歳児ッ!! 四人もいて一人も召喚士がいないとかふざけてるのかッ!!
全く本当にどいつもこいつも無能揃いで反吐が出るッ!!
おかげで俺まで、最低最悪の事態でないことを祈るしかないなんてなッ!!

734 :にア おいのりをする 5/5:2021/04/01(木) 01:05:25.59 ID:pw1bKcvHj
【スコール (首輪解除)
 所持品:(E)ライオンハート、エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、ファイアビュート、写真、Gメガポーション×9、メガポーション×10
 第一行動方針:脱出計画の準備/対セフィロス戦のサポート手段を考える
 基本行動方針:ゲームを止める】

【プサン(HP4/5、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
 所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、水のリング、炎のリング、命のリング、ミスリルシールド、メガポーション
 第一行動方針:脱出計画の準備/現実世界の監視????
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【マッシュ(HP1/2、右腕欠損、首輪解除)
 所持品:エリクサー、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3
 第一行動方針:脱出計画の準備/スコールに協力する
 最終行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルガスの夢の世界→会場外・コテージへ】

【リルム(右目失明、HP9/10、MP1/2、首輪解除)
 所持品:(E)絵筆、フラタニティ、不思議なタンバリン、エリクサー、レーザーウエポン、グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
 第一行動方針:脱出計画の準備/スコールとティーダに協力する
 最終行動方針:ゲームの破壊】

【ザンデ(睡眠)
 所持品:ドライバーに改造した聖なる矢、静寂の玉、メガポーション
 第一行動方針:スコールに協力する
 基本行動方針:ゲームを脱出する】

【ロザリー(首輪解除)
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、しっぽアクセ(E)、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン、メガポーション、Gメガポーション×5
 第一行動方針:脱出計画の準備/スコールに協力する
 最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
※【闇】の残り魔力は少量です。

【アルガス(左目失明、首輪解除)
 所持品:E.インパスの指輪、E.タークスの制服、E.高級腕時計、草薙の剣、ももんじゃのしっぽ、カヌー(縮小中)、天の村雲(刃こぼれ)、ウネの鍵、メガポーション、コテージ×3
 第一行動方針:アルティミシアを監視する
 第ニ行動方針:派閥の拡大
 第三行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】

【現在位置:会場外・コテージ/アルガスの夢世界】

735 :Paranoid Doll 1/7:2021/04/01(木) 01:25:05.43 ID:pw1bKcvHj
体が、勝手に動く。
歩きたくもないのに、足が交互に草を踏みしだいていて。
見たくもないのに、風になびく銀髪の一本一本が視界と思考に刻み込まれていって。
そのくせ張り上げたい叫びは、壊れ果てた喉に引っかかって出てこなくて。
このまま先に進んでしまえば待っているのは破滅だとわかっているのに、立ち止まることさえできない。

いつだってこうだ。
いつだって僕は肝心な時に役立たずで、無力だった。
魔女との決戦の時だって、僕はその結果を見届ける前に力尽きてた。
レーベでのバトルもそうだ。万全を期したはずの作戦はあっけなく破られて、絶望に沈むことしかできなくなって。
記憶と引き換えに得た、別の道を歩むチャンスも、自分が納得できないからなんて理由で投げ捨ててしまった。
そんな身勝手と無力さの果てが"コレ"だ。
なりたくもないものに成り果てて、自分よりもおぞましい怪物に利用しつくされて、餌として死んでいくだけの未来。

わかってる。
どんなに無駄でも、足掻かなきゃいけないんだってことは。
自分が頑張らなきゃ、何もかもおしまいになっちゃうってことは。
でも、できないんだ。
ティーダに助けを求めようとしても、うまくできない。
頭と胸を貫くような激痛が走って、『止めろ』ってセフィロスの声が響いて、それで――
それで、……ティーダ、てぃーだ……

――頭が、痛い。

助けて。
誰か助けて。
声が響くんだ。
ユウナの声。セフィロスの声。死んだ人の声。殺した誰かの声。
止めて。いやだ。助けて。
頭の中がぐちゃぐちゃで、サイファーが目の前で石になって、『お前は私の人形だ』って笑い声が響くんだ。
殺したはずのタ**が目の前にいて夢の中でユウナが僕を何度も撃って街が光に飲み込まれて消えて
ゼルが死んで僕が※※※の首を切り落としていてテ※ナの吐いた血が腕にかかって
テ※ーが殺されてティーダが死んだって聞こえて目の前が真っ暗なのに闇の奥から赤い目が赤い目が赤い赤い赤い赤い赤い銀色の――

"流されちゃダメ!"

唐突に響く、誰かの声。
それで、幻覚と妄想に囚われてた僕の意識は現実へと立ち戻る。
もちろん体は相変わらず勝手に動き続けていて、我に返ったからといって何かできることもない。
ただ、ぼやけた記憶を手繰って、思い出せないことを理解するだけ。

736 :Paranoid Doll 2/7:2021/04/01(木) 01:26:00.27 ID:pw1bKcvHj
(……でも、聞き覚えはあるんだ……
 ………あれは、誰の、声だったっけ?)

知っているはずで、忘れていいはずがなくて、何度も隣に立っていたはずの、誰か。
ユウナじゃなく、セ※※ィじゃなく、リルムでもなく、キス※ィ※でもない女の子の声。
なんで思い出せないんだろうか。
ティーダが薬をくれたのに、あの時無くした記憶は全部戻ってきたのに、どうしてまたわからないことが増えていく?

"しっかりしなさいよ、この薄情者!"

げしっ、と膝裏を蹴り飛ばされた気がした。
――いや、それこそ体が覚えていた『記憶』だったのかもしれない。
"彼女"が生きていたらきっとそうしただろうという、僕に残された正気が呼び起こした幻覚。
それともあるいは……あるいは、彼女も僕が取り込んだ【闇】の中にいる誰かなのだろうか?
ゼルが居たみたいに彼女も居て――嫌だ。
それはダメだだって彼女がいるべきなのはそこじゃない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う彼女は誰?
僕は何を知っている?
わからないといけないはずのことがわからない。
記憶の輪郭が曖昧になって、現実で自分が何をしているのかもぼんやりとしていて、
ここにいる僕が本当に僕なのか、それさえもどんどんわからなくなっていって……

"あーもう! しっかりしなさいって言ってるじゃない!
 聴こえないの!? みんなの声が!!"

……声?
みんな、の?

彼女の言葉に導かれるように、僕は左手の先を見つめた。
白い羽のようにふわりと舞い上がる、七色の光の欠片。
ティーダの気配を感じると同時に、世界が揺らぐ。
心の奥底から流れ込んできた光景が、現実を塗り潰しながら視界いっぱいに広がって――

737 :Paranoid Doll 3/7:2021/04/01(木) 01:34:30.59 ID:pw1bKcvHj
 『どうか、私達の祈りを聞いてください。
  皆の想いを、願いを、受け取ってください』
 『感じるんだよ、わからなくとも!
  耳を澄ませるように心を澄ませて!
  夢を超える祈りと思いを感じ取るんだ!』

桃色の髪が虚空になびき、真っ赤なオウムが飛んでいく。
ぼんやりとした景色の中、長い睫毛を伏せて、尖った耳を小刻みに動かしながら何かを願っている少女。
その向かいには、ティーダがやはり固く目を瞑りながら祈っていて。
オウムがぐるぐると二人の周りを飛び回り、舞い散る羽と共に複雑な光の軌跡を残していく。
五芒星や六芒星を思わせる模様と得体のしれない文字の組み合わせ、そして数多の円形で構成された光のドーム。
それが何を意味しているのか、理解する余裕なんて無い。
いくつもの聞き覚えのある声と、様々な景色が、ぶわっと頭の中に流れ込んできたからだ。

『ごるぁーー!! カッパなんぞに負けてるんじゃねーぞモヤシヤロー!!
 そんな体たらくじゃティーダもテリーもゼルもがっかりするだろ!!
 ヘンな似顔絵描かれたくなかったら、絶対! 生きて戻ってこーーい!!』

必死になってるのが嫌でもわかる、甲高い女の子の喚き声。
そして、爆ぜる焚火と泣いている棒人間の絵。

『あああ、全く冗談じゃないッ……化物が化物以上の怪物に使役されるなんざ笑い話にもならないんだよッ!
 せめてソロ達に情報が送れればまだどうにか……
 クソッ、なんでティーダのやつ、あの化物としか召喚契約を結んでないんだッ!
 ……どいつもこいつも無能揃いで反吐が出るッ!! 最低最悪の事態でないことを祈るしかないなんてなッ!!』

焦燥と憎悪と苛立ちでいっぱいの、壊したいほど不愉快な男の声。
そして、抉った眼球と指先に絡みついた血。

『祈るってもなあ、……いや、どんな奴でも生きてた方がいいに決まってるよな。
 ティーダもだけど、スコールやリルムだって悲しむわけだしさ。
 あー……あんま気の利いた事思い浮かばないけど、とにかく生きろ! な!!』

割り切れない嫌悪と、誰かへの気遣いと、切り捨てられない同情がぐちゃぐちゃに入り混じった、大人の声。
そして、少女の亡骸が変じた淡く輝く不思議な石。

『星の寄生体メテオパラサイトその中でも擬態能力に秀でた変種ジェノバ。
 ノアすら知らぬ稀少な魔物。実に興味深い是非とも我が目で解析したい。
 ロザリーの力も素晴らしい"祈り"という形に限れども現実と夢の境界を超える力。
 ティーダの存在も面白い死者の夢より生まれ、他者の夢によって蘇った召喚獣。
 千の夜を費やそうとも決して知りえぬ異世界の存在知識技術――
 しかし現状において最も解析し甲斐がありそうなのはやはりあの小僧。
 夢を通じての解析では精神面しか測れぬ肝心なのは様々な要因に汚染された身体の方。
 しかし今行っている儀式もあくまで机上の理論。
 我らの思念をウネとロザリーの力で束ねティーダを通じて投射し擬態能力を逆用して自我と人格を安定化させる。
 理論上問題はないはずだが果たしてどこまで上手く行くものか結果を知りたいがそこの神とやらならばわかるのか』

……あまりに早口すぎて何言ってるかわかんないけど、やたら解析したがってることだけはわかる謎の声。
そして、数多の水晶の欠片に映る、僕が殺した人達の死に顔。

738 :Paranoid Doll 4/7:2021/04/01(木) 01:35:46.35 ID:pw1bKcvHj
『流れを見る限り上手く行っているようですが……どうにか聞こえてはいるようですね。
 アーヴァインさん。貴方の置かれている状況はおおよそわかります。
 きっと自分が誰かわからなくなりかけて、自分の意志で体を動かすことすらできなくなっているのでしょう。
 ですが、こうして我々の声を聞いている貴方は、間違いなくアーヴァインという人間です。
 姿形がどう変わろうと、我々がそうだと信じている限り、貴方はアーヴァインという人間なのです。
 だから、自分の意志をしっかりと持ってください。
 一歩でもいい。一歩、踏み出す気力を取り戻すのです』

不気味なほど全てを見透かしてる、優しいのにどこか身震いしたくなる重圧を秘めた不思議な声。
そして、誰かを轢きかけながら爆走する何かの車の運転座席。

それから――

『アーヴァイン』
『アービンッ!!』

大切な、友達の、声。
僕のために祈ってくれる、二人の姿。

『助けに行けなくて、済まない』
『ごめん!! 俺のこと、呼べなくなってるぐらいピンチなのに、自力で助けに行けなくて――』

どうして謝るのかな。
らしくないったらありゃしない。
どうして泣きそうな声してるのかな。
いつもそうだ、泣いてほしくないから頑張ってるのに。

『どうにか……何とか、時間を稼いでくれ。
 今朝、サイファーとヘンリーが夢の世界を出て行ったのは同時だった。
 だからソロ達が近くにいるはずだ。
 例え先回りして希望の祠に到着していたとしても皆と合流するために待つだろうし、激しく戦っていたなら音や光で絶対に気づくはずなんだ。
 だから――』
『俺にできることは少ないけど……それでもできることはする!!
 祈りが届くなら幾らだって祈るし、忘れさせられそうだっていうなら何度でも思い出させてみせる!!
 そんで、絶対助けに行く!! 無理でも、無茶でも、絶対に助けてみせる!!
 だから――』

そんなに必死になって叫ばなくてもいいよ。
二人が何言いたいかなんて、予想、つくよ。
どうせ、諦めるな、だろ?

『『だから、諦めるな!!』』

ほらね。
わかってるよ。
心配しなくても……忘れさせられても、忘れたり、しない。
二人のことだけは、きっと。

 『私達の祈りよ、どうか届いてください。
  そして願わくば……ピサロ様、私たちに力をお貸しください。
  アリアハンで起きた悲劇を繰り返さぬよう、皆様に力をお貸しください』

桃色の瞳からルビーの涙が零れ落ちる。
その輝きは床に落ちる前に砕け散って、七色の光に変わる。
ぶわっと舞い上がった光は、僕の視界を再び覆いつくし――

739 :Paranoid Doll 5/7:2021/04/01(木) 01:37:00.07 ID:pw1bKcvHj
気が付けば、目の前にあるのは代わり映えのない光景。
暗い空に湿った草原、見たくない男の背中を追いかける自分の体。
全ては白昼夢だ。
ティーダとスコールが、夢世界のみんなの力を借りて、僕を助けようと見せた夢。
一瞬だったのか、数分経ったのか、そもそも歩かされるようになってからどれぐらいの時間が過ぎたのか、何もわからない。
それでも、今何をすべきかだけははっきりわかる、

狙撃手は独りぼっちだ。
でも、僕は一人じゃない。
黒いコートを狙い撃つだけの余力はない。
でも、一歩踏み出すことなら。
皆が背中を押してくれている今なら、きっとできる。

意を決して、勝手に歩く足に力を込める。
止める必要はない。向きを変えることだってできなくていい。
ただ、少しだけ強く、踵で地面を蹴りつける。
それさえできれば、奴との距離は自動で開く。

ガチリ、と足元から起動音が響く。
竜騎士の靴――今まで何度も役に立ってくれた支給品。
その靴底に仕込まれた装置が僕の体を空中へと打ち上げる。
軽く蹴るだけでも3階建ての建物に楽々登れるけれど、全力で蹴りつければもっと高みまで行けるのは実践済み。
それだけ距離を取れば、あいつの意志の影響も薄れ出す。
そして、僕にはスコールがくれた武器がある。
パンデモニウムのアビリティ、"さきがけ"。
時間の流れを局所的に歪めて引き起こす先制攻撃。
一回こっきりではあるけれど、アルティミシアですら覆せない絶対のアドバンテージ。

思い出せ。
薄れた記憶じゃない、体に染みついた経験を。
思い出せ。
激戦の最中で幾度も覚えたあの時。
静止した世界で一人ショットを打ち続ける、あの感覚を。
肺いっぱいに息を吸い込んで集中しろ。
振り向こうとしている標的。風になびく銀の髪。
銃を手に取って、引き金だけを引け。
引け。
引け。
動け。
動かせ。
撃ちたくないなんて幻覚だ、撃てないなんて気のせいだ。
僕は僕だ僕は僕だあいつじゃない撃てる撃てる撃てる撃てる撃つんだ!!
思考を止めろ息を止めろ心臓を止めろ時を止めろ指だけを動かせいつものように撃てるだろ!!
まま先生を撃った時のように指を引くだけだ!!
僕は僕だ。僕は人間だ。僕は狙撃手だ。
僕は馬鹿なバトル野郎だ。僕は狂った殺人鬼だ。僕は恩知らずの化物だ。
それで、それで、僕は――ティーダの友達で、スコールの仲間なんだ!!!
だから!!!

740 :Paranoid Doll 6/7:2021/04/01(木) 01:38:14.46 ID:pw1bKcvHj
「――――!!!」

ありったけの気合を込めて、引き金を引く。
引く引く引く引く撃つ撃つ撃つ撃つ。
銃口は確かに下を向いて、幾条もの閃光が地上に向かって降り注ぐ。
なのに――

「無駄な抵抗は楽しいか?」

気づいた時には、人形のように端正な顔が目の前にあって。
鳩尾に重い衝撃が走る。
何が起きたのか理解するより前に、冷酷に耳元で囁く声が、僕の意識を再びぐちゃぐちゃにかき乱す。

「諦めろ。お前は私の人形だ」

違う、と言いたかった。
口が動かない。
体が落ちていく。
空中だった。
届かないはずだった。
靴の力を借りてやっと辿り着けるはずの高みに、どうやって飛んできた?
浮かんだ疑問の答えは、勝手に頭の中に流れ込んでくる。
何故ならソレはジェノバの末裔だから。
星を喰らい宙を旅するものだから。
重力は枷にならず、片翼でも飛び立てる。
分かれて地に満ち、集って飛び立ち、永遠に虚空を流浪する。
知らない知識。僕のものでない感情。わかりたくない情報。
喉元に激痛が走る。
指が食い込むほどの力で締め上げられ、息ができなくなる。
地面への自由落下が始まる中、もがく右腕に連動して視界が目まぐるしく回る。
溶岩を照り返す岩肌の空。
草原の向こうに佇む希望の祠。
跡形もなく破壊された城の残骸。
石化したサイファーを囲んでいる皆。
生い茂る草むらをかき分けて走る誰かと誰か。
暗い場所に囚われてるユウナ。
【闇】の向こうに佇む不気味な仮面をつけた人影。
ぐったりとした犬を抱えた空色のワンピースの女の子。
そしてこちらに向かって必死に手を伸ばそうとする―――ああ、誰、だっけ?

『しっかりしろ!!』
"しっかりして!!"

誰の声?
誰の言葉?
思い出し切れないまま、指だけが動く。
左手の人差し指。
握りしめたままの引き金が再度引かれ、当たるはずのない光条が雑草を数本穿ち抜く。

741 :Paranoid Doll 7/7:2021/04/01(木) 01:38:51.76 ID:pw1bKcvHj
ぼんやりとした思考をよぎっていったのは、いつか、どこかで聞いた言葉。
『外してもいいから撃て』って――そう、誰かの、声。

あれはいつの話だっただろう?
何で外していいんだろう?
思い出の中の誰かと目が合う。
雨のように深い青。
違う。
太陽が照らす空の色。
違う。
濁った緑と縦長の瞳。
違う。
違わない。
違う。
だって、赤い。
飛んでくる、赤い炎。
草原を切り裂いて――違う、これは現実?――

「いつまで足掻くつもりだ」

地表に激突する寸前、絶望そのものとしか言いようのない呟きと共に、首筋を掴む力が一際強まった。
体が勢いよく振り回されて、背中に衝撃が走る。
焦げる臭いと不快な熱さ、肉に食い込む激痛。
そのまま叩きつけるように身体を投げ出されて、ぽきりと音がして、痛みがさらに深く押し込まれた。
矢だ。見覚えのある。
燃やされながら飛んできた、何かの、矢。
なんで?
誰が?
二人。走ってくる。緑の髪。白い鎧。緑の髪。白い服。
視覚情報を頭が処理するより早く、意識が暗闇に溶けていく。
わからないことも、わかるはずのことも、忘れたくないことも、知りたくないことも、思い出そうとしたことさえも。
握りしめていたはずなのに、掌の中から零れ落ちるように消えていく。
だけど、それでも――――微かに過ぎる、あの声。
あの時の言葉。
暗い空の下で聞いた、誰かの……――

 ――外してもいいから撃て――
 ――俺たちに任せればいい――
 ――ただの合図だ――

ねえ、****。
撃ったよ。
外しちゃったけど。
でも、合図にはなったのかな。
誰だっけ。
誰への、何の、合図だったっけ。
思い出せないや。
思い出せない、けど……

あとは、まかせて、いいよね?

742 :Paranoid Doll 状態表:2021/04/01(木) 01:39:44.23 ID:pw1bKcvHj
【セフィロス (HP:1/5、右腕喪失)
 所持品:E正宗、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
     スコールの伝言メモ
 第一行動方針:希望のほこらでアンジェロの蘇生を試す
 第二行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第四行動方針:旅の扉をくぐる
 第五行動方針:首輪を外す
 第六行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

【アーヴァイン (気絶、HP3/4、MP1/4、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、アレイズ×1
 第一行動方針:????
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣


【ソロ(MP2/5 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
 第一行動方針:セフィロスを止めてアーヴァインを救出する
 第ニ行動方針:仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:ケフカを倒す
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ヘンリー
 所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ、魔法の絨毯、リフレクトリング、銀のフォーク、
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ、メガポーション
    ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
    リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
    レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:セフィロスを倒してアーヴァインを救出する
 第二行動方針;仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:セージを何とかする
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】

【現在位置:希望のほこら北の平原】

743 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/01(木) 07:17:30.09 ID:WKIvF20b3
投下乙です。

英雄たちは、希望や祈りが最後に結実するまで生き抜いてきて、祈りに希望を見出せるのに、
一般人で現実主義者のアルガスだけは祈りなんて通じないことが身に染みているので、悪態をつくしかない。
アーヴァインへの好感度もあるのだろうけれど、英雄と一般人の差が如実に表れてて残酷だなあ。
しかもアーヴァインに内心届いちゃってるのは笑いどころかな?


アーヴァインのほうの状況は、もう満を持してセフィロスとソロが激突したとしか言いようがないなあ。
魔女狙撃で見せた孤独と、それでも寄り添ってくれる人たちがいることを自覚したシーンに絡めてくるのが秀逸すぎるし、
ほぼ全員の応援を一心に受けているとかアツすぎるでしょ。
脱出組だけじゃなくて、読者としても応援したくなってしまう構成がお見事です。

744 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/06(火) 21:59:13.43 ID:laP0a2MoM
投下乙です
久しぶりに読んだら大分話が進んでいて驚いた
今年入って既にこんなに投下があるとは……昨年末にユウナ関連が解決したと思いきやの怒涛の展開に舌を巻く……

たった一手で全ての状況をひっくり返すセフィロスがひたすらに強すぎて、数的不利もなんのそのでサイファー一行を的確に追い詰め、
自分の思惑は遂行し、スコールのメモ含むアイテムまで回収、死者を出さずとも物理的にも精神的にもガッツリ傷跡を残していくのが見事すぎる強すぎる……。
死者を出さない、ア―ヴァインの意識を残すなど、そのあたりのさじ加減にすら思惑があり、完遂するのが完全にしてやられた感があり素晴らしい。
残されたギードやリュックたちの無力感でいっぱいの会話が胸に残った。
直前のティーダとユウナのようやくの再会と希望ある展開……と見せかけての思わぬ一手からの最悪に最悪を重ねた展開に、ひたすらドキドキさせられた。面白かった……。

頑張って演技するソロが、本人は真面目なのに読み手としては少し和んで笑ってしまった。
苦笑で返すヘンリーの顔が目に浮かぶ……お互いを理解しているこの二人やっぱりいいなあ。1日目からの絆を確かに感じてしみじみとしてしまう。
弔おうとするソロがどこまでも勇者として一貫していて……。
緊迫感はありつつも、行動を共にし続けた二人の会話に心地よさをおぼえる話だった!

ケフカは所謂純粋な対主催ではないのにその場その場での動きがかなり的確かつ手回しや画策にも余念がなく頑張ってて応援してしまう。
自身にとっても最悪としか言えない状況でも、次を考えて様々な手を打っているのは流石の一言。抜かりない。つよい。あと言葉選びが愉快すぎて楽しい。
かなりここの4人組の内側に入り込んでしまっている状況でのケフカの企みがどうなるのか、本当に目が離せない……!
あとリュックのアーヴァインへの言葉は、時間としては短いかもしれないけど、
共に狂言の担い手になり、変貌を目の当たりにし、何度も心を寄せたこの一晩の出来事が思い出されて涙ぐんだ……。

バッツがローグのことを思い浮かべてるのが、彼との時間が確かにロワ内であった出来事だと思わせてくれてすごく好きだ。
ひとまずケフカの言うようなセフィロス+アーヴァイン+"タバサ"の状況にはならないようで一安心……はまだ早いか。
二つ前の話でもそうだけど、ずっと行動を共にしていたソロとヘンリーの会話がいいなあ……そりゃあヘンリーは複雑だよ……。
ソロの視点とはまた異なる、ヘンリーにしか感じ得ないセージへの言葉の数々に胸が締め付けられた。
細かい描写にキャラらしさやこれまでの道筋、それぞれの感情の機微を感じられてとても良かった。

745 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/06(火) 22:00:00.39 ID:laP0a2MoM
アルガスの物言いはクセになる良さだな〜と登場する度に感じてしまう。
心の中でとはいえ、ティーダの支離滅裂な訴えやらプサンの超翻訳やら各キャラクターの動向やらにつぎつぎ切り込むのは気持ちよさすらあって、
アルガス一人称視点はその意味でとても楽しい。彼のセリフ自体にこっちがつっこみを入れられるのも含めてたのしい。
「化物」に対する祈りでなくても、状況に対して彼も同じ様に祈らざるをえないというのが、全体の展開を綺麗に纏めててすごいなあ。
こういう状況で呼びかける方法として、文字通り別世界別さ区品のウネとロザリーの2人の名前が挙がり、
両者の力を合わせて展開していくのが、このロワの醍醐味を感じて個人的に好き。

そしてとうとうセフィロスコピーとして操られることになったアーヴァイン視点の話。
直前の話から連なる、様々な感情が入り交じったそれぞれの祈りと記憶の断片の描写に、
ここ最近の話だけじゃなくてこのロワの過去のあらゆる話が実際に脳裏に浮かんで、まるでアーヴァインの見ている光景の追体験をしているような気分だった。
そして行き着く「僕は一人じゃない」の答えに感無量……。
一歩踏み出した彼の、思い通りに行かない身体を動けと命じる、悲痛で必死な心の叫びにこちらまで手に汗握って頑張れ!という気持ちでいっぱいになった。
全体を通して、原作でアーヴァインというキャラクターにとって大きな意味を持つシーンと重ね合わせる演出がアツすぎて、自然と涙がでてしまった。
同じ世界の仲間のリノアがずっと呼びかけてくれるのもすごくよかった……。
最悪の状況でなんとか稼いだ時間でつかみ取ったソロ・ヘンリーとセフィロスの相対。続きがあまりにも楽しみすぎる。

あまりの面白さに感銘を受けた勢いに任せて、今年投下分だけでもと感想をしたためたらちょっと長くなってしまった。申し訳ないです。
放送後からも状況が動きまくり加速しまくりで、誰がどう動くのか全く想像がつかなくて本当に面白い。面白すぎる。面白すぎる……。
今後どうなるか本当に楽しみです。一読み手ながら応援しています。

746 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/17(土) 23:10:36.89 ID:6kwsfQGso
容量関係で投下できなかった場合は以下に投下します
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/22429/1115085648/l50

747 :いたずら王子のメソッド 1/10:2021/04/17(土) 23:17:41.39 ID:6kwsfQGso
あらゆる『決め』において必須なのは、落としどころをどこに持っていくか、だ。
一対一の話し合いですら、その準備が欠けてしまえば、決裂という結果に終わる。

まして、政治の世界においては、あらゆるステークホルダーが満足するような政策をおこなえることはまずない。
利益を享受するのが最も利害関係の強い者であるべきか、最も多くの国民であるべきか、
……それとも関係者全員が薄く不利益を被るものの、決定的に排除されるものが現れないように調整するか。
いずれに決定するせよ、不利益を被る側から激しい非難の嵐にさらされてしまう。
結論を明確にしないまま立法に臨めば、朝三暮四の回答に終始してしまい、
絶対王政の王兄という立場にあってすら、簡単に追い落とされてしまうだろう。


セフィロスに対峙するにあたって、何を目的にするのか。
時間はないが、必ず決めておかなければならないことだ。

仲間たちに尋ねれば、『そんなもの決まっている』と答えが返ってくるかもしれない。
だが果たして、それが同じ答えであるのか?
同じ答えであることは、まずない。


たとえばの例を挙げる。

仮に、サイファーに聞けばどんな答えが返ってくるだろうか。
『セフィロスのクソ野郎をぶっ殺してアーヴァインを救出するに決まってんだろうが!!』あたりだろうか。

では、アルガスであればどうだろう。
『隙を見てアーヴァインを殺せッ! セフィロスの強化を確実に妨害できる方法を取らないバカがどこにいるッ!!』といったところか。

そして、隣にいるソロであれば、どう結論付けるだろうか。
『アーヴァインを救い出し、セフィロスを無力化します』というところか。


本人が本当にそう言うかはともかくとして、仲間であることと、一枚岩であることとに因果関係はないのだ。

748 :いたずら王子のメソッド 2/10:2021/04/17(土) 23:18:48.02 ID:6kwsfQGso
仮に先ほどの草案に、アルガス案、サイファー案、等々、仮の名をつけるとしよう。

アルガス案は最悪の最悪を防ぐためのロスカットだ。
コンティンジェンシープランとして脳の片隅に置いておく意味はあるかもしれないが、この案を採用した時点で敗北だ。


では、サイファー案はどうだろう? セフィロスを殺せるか? 無力化できるか?
ヘンリーがセフィロスの実力を見たのは一度きり。
忌まわしい成り代わり――セージが襲撃してきた一回のみだ。

あのとき、ヘンリーはセフィロスに気を向ける余裕など皆無であった。
ただ、"タバサ"の自称イオナズンを凌ぎ切る身体能力、そして一時の隙を見逃さずにギードの監視から逃れる判断力を垣間見せたことは覚えている。

あらためて、セフィロスを殺せるか? 無力化できるか?
俺には無理だ。そう、ヘンリーには断言できる。
殺すことすら無理だ。無力化など、夢物語だ。

ソロのような剣技はない。セフィロスと一発切り結べられれば御の字、ナイフを三本投げて一発でも当たれば大金星だ。
アーヴァインのような狙撃の腕もない。貴族の嗜みとして、狩猟をおこなえる程度の腕前しかない。
リュカのような回復呪文もない。マヌーサ、メダパニ、ルカナン……あとは低級の攻撃呪文を少々。通用するのはせいぜい一度だ。
ラムザのように盾となることもできない。君主の聖衣と水鏡の盾を信じて、一回肉盾になれるかどうかといったところだ。
それでいて、アーヴァインが洗脳されて逆らえないために、セフィロスをなんとか排除するしかないという最悪の状況だ。


ヘンリーの目的は、アーヴァインを救出すること、だ。
ただ、アーヴァインが洗脳されている以上、セフィロスを倒して排除するしか方法が思いつかないというだけだ。

ゆえに、決定打を与える役割はヘンリーには果たせない。
ソロの邪魔にならないようにひたすらサポートに徹し、
ソロのモチベーションを下げないように虚勢を張るしかない。
ソロにすべてをまかせるしかないと腹をくくって臨んでいた。

749 :いたずら王子のメソッド 3/10:2021/04/17(土) 23:20:12.01 ID:6kwsfQGso
けれども、状況は刻一刻と変化する。
目の前の光景はどういうことだ?
アーヴァインは決死の表情でセフィロスに抗っている。
洗脳され、傀儡になっているようには見えない。
生をあきらめていない。


最大限の準備をしたうえで、不測の状況に直面することだってあるだろう。
それに伴って、方針を変えることは恥ずべきことではない。
よく言えば柔軟で臨機応変な対応、悪く言えばその場凌ぎの根無し草な対応。
どちらの言葉を使うのが正解なのかは、結果が出るまでは分からないが、決断ができることは重要だ。


「ヘンリーさん……!」
「ああ、俺にも見えてる。
 ケフカのやつ、何が『セフィロスがアーヴァインを支配している』だ。全然違うだろ!」
「……きっと、仲間の祈りが届いたんですよ」


『祈りを捧げれば救われます』という考え方はヘンリーも聞いたことはある。
職業柄かお国柄か、それとも光の教団のせいか、あまり好きではない考え方だ。

けれども、今回に限れば、それは信じられる。
ソロが確信をもってそう発言している。
そして何より、ヘンリー自身がティーダを見てきたのだ。

こんなピンチに、ティーダが駆け付けないはずがないのだ。ティーダが何もしないはずがないのだ。
なのに、ここにはティーダの姿がなく、けれども洗脳されていたはずのアーヴァインが自我を取り戻し、セフィロスに逆らっている。

ティーダは夢の存在だ。言い換えるならば、精神の世界の住人だ。
ティーダが『夢』の中で、現在進行形で、アーヴァインの心を救っているのなら――


『現実』でアーヴァインの肉体を救うのは自分たちだ。


セフィロスをその武技で打ち倒すのがソロの役目なら、
手持ちの道具、武装をフルに使って、誰も犠牲にしないための最適解を導き出すのはヘンリーの役目だ。

750 :いたずら王子のメソッド 4/10:2021/04/17(土) 23:21:01.32 ID:6kwsfQGso
「ソロ! アーヴァインを救い出すぞ!
 1分でいい、セフィロスを引き付けられるか!?」
「任せてください!」

ソロに声をかければ、打てば響くような、心地よい程の快諾が返ってくる。
その反応にある種の手ごたえすら感じ、しかし慢心を諫めるように気を引き締め直す。

「よし、任せた!!」
ソロへの回答は、これ以上なくシンプルな信頼の言葉だ。



セフィロスがアーヴァインの喉元に指を食い込ませ、地面に叩きつけようとしている。
牽制の意味を込め、ヘンリーは自動弓につがえた矢をセフィロスに向けて撃ち放つ。
こちらに注意が向かせ、続きはソロが引き受けてくれるはずだ。

カシュンという無機質で鋭い音を立てる弓に、空気をビリビリと引き裂くように飛んでいく矢。
セフィロスが振り向く。
そこまでは狙い通りだったが……。

「げっ!!」
思わず声を漏らしてしまうヘンリー。
それもそのはず、セフィロスは地面を抉るような軌道でアーヴァインの身体を振り回し、彼を盾に矢を受け止めてしまったのだ。
セフィロスは右肩でアーヴァインを担ぎ直す。


出鼻をくじかれたとしか言いようのない状況だ。

「狙い自体は正確でした。アーヴァインの急所にも当たっていないようですし、あとは僕に任せてください」
「いや、本当にすまん……」
かける言葉が見つからないながらも、ソロが懸命にフォローをおこなうが、いたたまれなさは変わらない。
いきなり高い代償を支払うことになったが、しかしそれでもここで立ち止まることはできない。

751 :いたずら王子のメソッド 5/10:2021/04/17(土) 23:22:09.59 ID:6kwsfQGso
「誰かと思えばお前たちか。ソロ、得意の対話はどうした?」
セフィロスはソロへと問いながら、アーヴァインの背中に刺さった矢を引き抜いている。
ヘンリーには一瞥をくれただけで、視線はまたソロへと向く。

「アーヴァインを今すぐ解放してくれれば、何時間でも付き合いますよ」
「済まないが、私用を済ませるのが先だな」

言葉を発しながら、セフィロスは肩にかけていたアーヴァインの身体を地面へどさりと置き、正宗を引き抜く。
長大な刀を突き付け、威圧を隠さずに問いかけるセフィロス。
天空の防具に身を包み、その威圧を涼しく受け流すソロ。
自らへの関心のなさを自覚しつつ、ヘンリーはセフィロスに問いかける。

「私用、ね。で、そのときアーヴァインのやつはどうなってんだ?」
「さて……お前たちについていくか、自らの意志で私と共に行くことを選ぶかは、コピー次第としかいいようがないな」
「つまり、論外ってことだろ」
「クックックッ、元より私の回答を聞くつもりはないのだろう?
 意味のない問答は辞めたらどうだ? 時間稼ぎがしたいのか?
 残念だが、私は雑談に付き合っている暇はないのだ。
 コピーの分際で、この局面で足を止めるなどという愚行を冒し、足を引っ張っているのでな」

セフィロスの返答は、平和的解決とは程遠い。
アーヴァインを助けるには、セフィロスから引きはがすしかないのだ。


「時間がないのは僕たちだって同じですよ。
 アーヴァインが自我を失う前に……。
 セフィロス! 貴方を打ち倒し、アーヴァインを解放させてもらいます!」

752 :いたずら王子のメソッド 6/10:2021/04/17(土) 23:23:07.16 ID:6kwsfQGso
天空の剣に白銀のオーラを立ち上らせ、地を這うようにセフィロスへと肉薄するソロ。
竜を模した白銀の鎧の神々しさと併さり、本物の白竜が襲い来るようにセフィロスは幻視する。
正宗の長大なリーチを生かした先制攻撃は、しかし堅牢な竜鱗のような盾に弾かれ、その内側にある肉を斬り裂くことはかなわない。
次の瞬間には、ソロは正宗のリーチの内側にまで潜り込み、強烈な踏み込みからの鋭い斬り上げを繰り出す。

「ほうッ!!」
まるで竜が、重力をものともせずに飛び立つ様を彷彿させるような力強い斬り上げだ。
不動のまま受け止めるには、いささか重すぎる一撃だ。
顎を引き、上体を反らすも、額の薄皮と銀髪の数本が切り裂かれ、暗き舞台に紅と銀が舞い散る。
当然、その一撃だけで終わるはずもない。
竜の牙が下から、上から同時に襲い来るように、斬り上げから即座に斬り下ろしへと繋ぐソロ。
それを読み、大きく後退してあぎとそのものから離脱するセフィロス。

一瞬の攻防だが、セフィロスとアーヴァインの距離は大きく離れた。
同時に、それは確かにセフィロスがアーヴァインから注意を逸らさざるを得ない瞬間でもあった。


「イオ!」

ヘンリーが扱える最強の攻撃呪文。
地に限りなく近い位置でおこった爆発によって、乾いた土砂が巻き上げられ、砂塵となって空中を漂う。
その上に生えていた草がぱらぱらと舞い散り、緑交じりの茶色い煙が辺りを覆う。
仮にこの呪文が通じてくれるのであれば万々歳だが、そのような期待ははじめからしていない。
これは、セフィロスの視界から切り札を遮るための、ただの目くらまし。

ジェノバ細胞によって肥大化したアーヴァインの肉体を抱えて、旅の扉までの数百メートルの距離を走り抜けることはヘンリーには不可能だ。
たとえそれが可能なだけの膂力を持っていたとしても、セフィロスに追われながら完走することはできないだろう。
ところが、すべてを可能とする切り札がある。
使用者本人のチカラは要らず、ブオーンですら運ぶことができ、歩くよりもずっと速く駆け抜ける魔法の道具。
そう、幾度となく世話になった魔法のじゅうたんだ。

753 :いたずら王子のメソッド 7/10:2021/04/17(土) 23:24:02.59 ID:6kwsfQGso
「奴隷業仕込みのレッドカーペット3秒セット術!ってな」
丸めたじゅうたんを勢いに任せて転がし、土煙が晴れないうちに地面に広げる。
アーヴァインの隣に絨毯が広がりきるまで三秒もかからない。
あとはアーヴァインを転がして、じゅうたんの上に寝かせれば準備は完了だ。


「後ろでこそこそと何をしている?」

セフィロスはソロの猛攻にさらされながらも、ヘンリーの動向を視界から完全に外したことはない。
何かを広げていることだけが分かれば、対策を打つにはそれで十分だ。

「そのまま燃え尽きろ」
セフィロスはヘンリーの小細工を叩き潰さんと、核熱の魔法、フレアを放つ。
ヘンリーに当たればそれで終わり、避けられたとしても、広がった絨毯を燃やし尽くすなどあまりに容易い。
だが、それをソロがやすやすと見過ごすはずがない。

「盾よ!」
「ナイスだ、ソロ!」
天空の盾を構え、ソロが射線に割り込む。
盾から放たれる魔力の霧は、フレアを構成する魔力を霧散させ、ヘンリーにまで届かせない。
その隙に、ヘンリーはアーヴァインを絨毯の上へとごろんと転がした。


ふん、とセフィロスは鼻を鳴らし、大きく跳躍する。
黒翼の機動力を以ったその跳躍には、さしものソロも追いつけない。
猛禽類のように、ヘンリーを目がけて急襲する。

「イオラ! ヘンリーさん、上です!」
セフィロスとヘンリーを結ぶ直線状にソロが一発呪文を放つ。

「どういう動きしてんだよ、あいつ!」
ヘンリーは悪態もそこそこに、考え、行動する。


「イオ!」
絨毯が浮かぶ。大地が爆発する。その身で熱風を感じ取る。
イオラの爆発がセフィロスの推進力を弱め、そしてイオが魔法の絨毯の推進力を高める。
焼け石に水とも言うべき、しかしながらわずかながらでも生存率を上げるための一発だ。
そして、アーヴァインのザックからのぞく道具を目にし、考え付く限りの保険をかけておく。

爆発を切り裂くように、一陣の風となってセフィロスが突き進んでくる。
しかし、ターゲットを目視したセフィロスの勢いが、一瞬だけ弱まった。

そのミリ秒は、運命の分かれ目だっただろう。
二人の『アーヴァイン』を乗せた魔法の絨毯は、紙一重の差でセフィロスの一陣の範囲から脱出した。

754 :いたずら王子のメソッド 8/10:2021/04/17(土) 23:25:33.37 ID:6kwsfQGso
アーヴァインのザックからのぞいていた変化の杖。
アーヴァインがそういう道具を使っていたことをヘンリーも知っていた。
ダメ元で振ってみればしっかり効力を発揮してくれた。

あるいは、その杖を制御していた精神寄生体のおかげだろうか。
彼の弟の精神に住まい、彼自身も一度宿主とし、今はアーヴァインの仲間の精神に住まい、
そして今まさにジェノバに脅かされるその存在が、少しだけ気まぐれにチカラを貸してくれたのだろうか。
それは、分からない。


それに、保険ではあるが、効果は大きくはない
見破るのもすこぶる容易。
ピンピンしているアーヴァインが偽物。
絨毯の上でぐったりしているアーヴァインが本物だ。
すでにセフィロスはヘンリーを見据えている。

「私の虚を突いたのは褒めてやる。
 が……安堵するには少し早かったな?」


着地した、ほぼノータイムでセフィロスは魔法を放つ。
氷結の封印魔法、フリーズだ。
フレアを使えば絨毯ごと、アーヴァインを燃やし尽くしてしまう可能性がある。そうなれば、さすがに少々惜しい。
そんなことをしなくとも、フリーズならば、地と絨毯を凍らせてつなげ、枷にすることで、完全に機動力を奪えるのだ。


「くそっ! せっかくうまく行ってたってのに!!
 ……なんてな」
ヘンリーが腕を突き出せば、その指にはまったリフレクトリングがルビーの光を放つ。
先にソロがフレアの魔法を防いでくれたからこそ、ここで切れる切り札だ。

そして腕を突き出したのは、フリーズを跳ね返すため、だけではない。
「特別プレゼントだ、ぜひ受け取ってくれよ! マヌーサ!」


よくも悪くも、このゲームに巻き込まれて四日目だ。
おおよそ一日に一度の割合で生死の境をさまよった結果、いい加減、自分の領域も強みも明確になってきた。

元、ラインハット王国のいたずら王子だ。二段・三段構えのいたずらなど日常茶飯事。
当時から、自分よりもずっと強くて頭のまわる者たちを知恵を絞っておちょくった。
今だって、到底勝利しえない存在を相手に、ギリギリでペースを握り続けることができている。
仮にゲームに乗っていたとしても、その性質は変わらず、そして大物を殺害して実績をあげるのだろう。
それが彼の領域であり、強みなのだから。

755 :いたずら王子のメソッド 9/10:2021/04/17(土) 23:28:29.26 ID:6kwsfQGso
変化の杖による偽物に加え、幻影が跋扈し、セフィロスの視覚の有用度が大幅に下がった。
ジェノバの本能的なつながりからたどることはできるが、高速で移動する絨毯によって位置がブれ、追走するソロの気迫が集中を乱す。
あやつるのマテリアももうない、コピーはセフィロスの言うことを聞かない。
チカラを得るにも、鏃に付着した血液数滴ではあまりに心もとない。
目的を目近に控えたこのタイミングでの思わぬ邪魔に、ギリリと歯を食いしばり、セフィロスはヘンリーを追う。
そして、ヘンリーたちを旅の扉の向こうへと逃がすべく、ソロが追撃する。



旅の扉までおよそ700メートル―――/直線距離でおおよそ1分半―――
ヘンリーとセフィロスの距離、おおよそ10メートル―――

ここからは撤退戦、そして追撃戦だ。

魔法の絨毯を操り、追ってくるセフィロスから逃げきれるか。
ソロとヘンリーの妨害をものともせず、アーヴァインを奪い返せるか。

地の底にて、地獄のカーペット・チェイス――追走劇が始まった。


【セフィロス (HP:1/5、右腕喪失)
 所持品:E正宗、村正、ふういんマテリア、奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、
     弓、木の矢の残骸、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、アンジェロの遺体
     スコールの伝言メモ、アーヴァインの血液が付着した矢
 第一行動方針:ヘンリーを追う
 第ニ行動方針:希望のほこらでアンジェロの蘇生を試す
 第三行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
 第五行動方針:旅の扉をくぐる
 第六行動方針:首輪を外す
 第七行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】

756 :いたずら王子のメソッド 10/10:2021/04/17(土) 23:29:49.44 ID:6kwsfQGso
【アーヴァイン (気絶、HP3/4、MP1/4、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)
     召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、アレイズ×1
 第一行動方針:????
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
     MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
    ・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
    ・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】

※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣

【ソロ(MP2/5 真実の力を継承)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
 第一行動方針:セフィロスを止めてアーヴァインを救出する
 第ニ行動方針:仲間と合流し、旅の扉を目指す
 第三行動方針:ケフカを倒す
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】

【ヘンリー
 所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、魔法の絨毯、リフレクトリング(E)、銀のフォーク、
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ、メガポーション
    ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、ラグナロク、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
    リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
    レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
 第一行動方針:セフィロスを撒いて旅の扉を目指し、アーヴァインを救出する
 第ニ行動方針:セージを何とかする
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:希望のほこら北の平原】

757 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/17(土) 23:56:07.77 ID:6kwsfQGso
まだ書き込めるかテスト

758 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/18(日) 01:32:40.49 ID:tp5QsdR5r
投下乙です!
ヘンリーがめっちゃまともに活躍してる…!!
相手がセフィロスだから全く安心できないけど、それでもこの2人ならワンチャンありそうな気がしてくるし
みんながんばれーって応援したくなってくる
続きが楽しみです!

759 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/18(日) 02:06:00.63 ID:niCEtLrcm
投下乙です!
ソロのように最前線でばりばり戦えないヘンリーだからこそ考えることを止めず
出来ること使えるものを最大限利用して戦う様がかっこいい!
互いの役割を理解して信頼しているからこその連携だなあと胸が熱くなった。
ヘンリーとソロの間の絆だけじゃなくて、夢世界のみんなとの絆も伺えて、
それまで築いてきたものが実を結んでいる感じがしてすごくいい……4日目、4日目か……。
まだまだいくらでもひっくり返る状況で、やっぱり展開の想像がまったくつかない。
続きが楽しみすぎる……! 応援しています!

760 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/04/20(火) 22:10:12.39 ID:y9aTrGOTG
>>754、文章がだいぶおかしくなってたので訂正します

> 彼の弟の精神に住まい、彼自身も一度宿主とし、今はアーヴァインの仲間の精神に住まい、
> そして今まさにジェノバに脅かされるその存在が、少しだけ気まぐれにチカラを貸してくれたのだろうか。
> それは、分からない。


> それに、保険ではあるが、効果は大きくはない
> 見破るのもすこぶる容易。



かつて彼の弟の精神に住まい、彼自身を一度宿主とし、
今はアーヴァインの精神に住まい、そして今まさにジェノバに脅かされているその存在が、少しだけ気まぐれにチカラを貸してくれたのだろうか。
それは、分からない。


もっとも、保険がはたらいたとはいえ、その効果は長続きしない。
本物を見破るのはすこぶる容易。

761 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/05/15(土) 08:08:56.16 ID:DiI0T7u43
FFDQ3  756話(+ 5) 19/139 (- 0) 13.7

762 :Dead Heat Heart Beat 1/16:2021/06/09(水) 21:51:56.60 ID:g0znu/HZu
魔法都市カルベローナの遺産、魔法のじゅうたん。
ボロボロに汚れ、擦り切れつつあっても、その力は未だ衰えていない。
少なくとも荷台を引いた馬車よりはずっと速く空を駆け、勇者ソロの足をもってしても追いすがるのが精々だ。
だが、今回ばかりは相手が悪い。
ロザリー達が誰よりも危険視した男であり、もしこの殺し合いが賭け事であるなら間違いなく『本命』に値する殺人者、セフィロス。
そして時に事実というものは動かしがたく、残酷だ。

つまり10m先を行く時速30キロの乗り物に対して、時速45キロで走る人間が追いつくまでの時間は――


*****************


「ふっ!!」
瞬きすら許さぬ刹那、一歩強く踏み込み払い抜く。
切り捨てたのは霧に映し出された幻影。
しかし刃の先には僅かに赤い色彩がこびりつく。
掠めたのは頬か、腕か。
考える暇すら惜しいと踏み出した足、しかし。

「ギラ!」

ソロの叫びと共に草原を切り裂く閃光、瞬時に燃え上がる炎壁。
無論この程度の妨害に右往左往するわけもない。
「下らん!」
空気もろとも炎を斬り、進むべき道をこじ開ける。
既に先行く絨毯の繰り手は焦りも露わに魔法を放つ。

「イオ!」

小規模な爆発が鼻先で炸裂する。
しかし怯むには至らず。
いかに範囲が広くとも所詮は低級攻撃魔法、避けることが不可能ならばただ突っ切る。
紫の霧は未だ晴れず、小細工を弄しようにも通用する魔法はない。
追跡者と逃亡者、双方からの攻撃を身体能力のみで凌駕するしかない以上、迷う余地などどこにもない。
幸い、絨毯の速度はほぼ一定。
全速力の自転車や市街地走行のバイクと同程度、追いつくこと自体は容易い。
故に、取るべきは速攻。
距離を離されぬうちに、更なる策を重ねられないうちに、さっさと捉えて切り捨てる。

「そこか?」
ジェノバの気配と風の音を頼りに地を蹴り、一閃。
「くっ!」
ギイン、と響く金属音。
盾で防がれたか、と舌打ちしつつ、そこにいるか、とほくそ笑む。
続きざま、振り下ろす――その手を止めたのは、聞き覚えのある言葉。

763 :Dead Heat Heart Beat 2/16:2021/06/09(水) 21:53:21.20 ID:g0znu/HZu
「ライデイン!」

瞬間、天が蠢き雷鳴が轟く。
忌々しい女や亀が振った剣に呼び寄せられた雷雲と規模はさして変わらない。
とうの昔に見切った技だ――が。
「ちィッ!!」
此度ばかりは余裕など見せていられない。
正宗を投じて雷を散らせども、その動き自体が大きな隙。
リフレクトリングに守られているヘンリーには雷は届かず、数秒間は否応なく逃走を許してしまう。
右腕が使えれば村正を取り出して投げつけることもできたが、それを恨む暇すら無い。
無防備に受けるよりはマシだと歯噛みしながら、せめて射角を希望の祠へと向け、愛刀で雷雲を射抜く。
拡散する雷の雨。
その隙間を縫うようにコピーの気配が遠ざかる。
ご丁寧に正宗の着地点を見切り、そこから距離を取るように、だ。
いっそのこと希望の祠に先回りしてやれないかとも考えたが、それをすれば恐らく奴らは逆行してサイファー達に合流することを選択するだろう。

サイファー達には付け入る隙があった。
カッパの姿に対する侮り、ケフカという異分子、明確な連携不足、干渉を受け付けたコピー。
だが、ソロ達と連中が合流すれば?
元の姿に戻った私を侮るはずもなく、ケフカがいくら策を練ろうとも魔法を無効化すれば恐るるに足らず。
ソロの腕ならサイファーと息を合わせることもできるだろうし、コピーは生意気にもこちらの指示を跳ね除け続けている。
認めたくはないがそうなってしまえば私が不利、故にこの不愉快極まりない鬼ごっこに勤しむしかない。
地面に落ちきる前に正宗を受け止め、ソロの位置とコピーの気配を確認して針路修正。
面倒なことにソロもきちんと追いすがってきている。
直接切り結べる距離まで詰められてはいないが、魔法での妨害はまだまだ可能だ。
しかしながらソロを先に始末するというのは、いかに私といえども非現実的。
サイファーのように攻めに特化し守りが疎かな使い手であれば崩しようがあるが、ソロは明らかに守りにも長けている。
そしてコピーに追いつかねばならぬことも考えれば、今であれば交戦に割ける時間は三十秒程度――賭けに出るにはあまりにも分が悪い。
やはり、狙うべきはヘンリー。
妨害魔法は多少厄介だが、ソロに比べれば御しやすい。
ゴールまで残り600メートル弱、およそ一分と十数秒。
それまでに懐に飛び込み首を撥ねればいいだけの話なのだから。


*****************


いやいや無理無理何これなにこれ何だこれ?!
おかしいおかしい全てがおかしい、足にはぐりんでも付けてるのかそれとも人型はぐれメタルかお前はってぐらい速い!!
おまけにやたらめったら強くてヤバイ、たぶんはぐれキングとかはぐれメタルキングとかそういうアレ!
きっと倒したら経験値いっぱい貰えるんだろうなあってこんなん倒せるかバカヤロウ!!

(落ち着け)、と誰かがツッコミを入れてくれた気がしたが、そう言われたって冷汗が止まらない。
何もかも全てが規格外。
そりゃサイファーとリュックとロックとギードが手玉に取られてケフカまでもが協力しようとしてくるワケだよ。
いやだからおかしくない? フツーその五人に袋叩きにされたら負けるのが筋だろ? 全員俺の数倍は強いんだが?
もう既に『あーぜつぼうてきだ』って天を仰ぎたい気分でいっぱい、それでも逃げ出すわけにはいかない。
いや現在進行形で逃げ惑ってるわけだけど、そうじゃなくてアーヴァインを見捨てられるかって話だ。

764 :Dead Heat Heart Beat 3/16:2021/06/09(水) 21:55:15.20 ID:g0znu/HZu
一応覚悟はできてる。これでも。
できてるんだが――それはそれで、これはこれ。
マヌーサが効いてなかったらまさかの開始3秒で即落ち即死、そんなレベルの相手からどう逃げる?
一撃目はかすり傷、二撃目はどうにか盾で受けきれたけど、あくまでもそれはマヌーサありきの結果。
便利な呪文だが万能でも永続でもない、幻影には影が映りこまないし魔力が切れれば霧も晴れる。
間違っても一分以上持つわけがない。
そしてソロの呪文も足止め以上の役を果たせてはいない。
そりゃあ果たしてくれるだけでもありがたいのは確かだけれど、ライデインなんて伝説の呪文で5秒も足止めできないってどういうことだよ?
大抵の相手は気絶するか死ぬかするだろ? 回避なんてできるもんじゃないだろ?
勇者の雷だぞ雷。いや実はライオネックも覚えるよってリュカが言ってた気もするけど。
――なんてどうてもいいことを考えている間にも煌めく銀髪が迫ってきていてとにかく何とかするしかないという状況。
本当に何かなんか何とかしないと――あ、そうだ。
「メダパニ!」
今まで使っていないことを思い出し、唱えてみた呪文。
相手が『一度見た技は通用しない』理論の使い手であっても、見たことのない技なら通用するだろうという目論見。
星に似た眩惑の光が瞬き、セフィロスがたたらを踏んで僅かに体勢を崩す。
やった効いた、そう思った瞬間には長すぎる刀が器用に閃いた。
瞬きすればそこには全く速度を落とさない人型はぐれキング、もといセフィロスの姿。
なるほど自分を浅く斬って混乱を解除したんだなーすげー、などと納得する時間はない。
ソロも追いすがってきてはいるが、――全身フル装備で振り切られないのもすげえよな、さすが天空の装備with天空の勇者――次の呪文は完成していない。
つまり、次のセフィロスの攻撃はなんとかかんとかどうにかして自力で回避するしかない。
(出来るか?)
自問自答したところで『無理』なんて選択肢は取れない。
一応案はある、理論上はいけるが成功するかは話が別、だけどやれるやれないではなくやるしかない、自信がなくてもやるしかない。
幸いセフィロスは右腕を失っていて軌道だけなら予測はつく。
(攻撃が届く範囲は当然左腕側の方が広い、だから後ろから右側に回り込んでくるはずだ)
思考を高速大回転、無慈悲に迫る影、走馬灯のようにやけにゆっくりと流れていく刹那。

(――今だ)

瞬間、我ながら異様なまでに冷静な声が合図を送る。
俺は斜め右後ろへ振り向き、アーヴァインの身体を押さえつけながら意識を集中させる。

"『前』に進め!!"

魔法のじゅうたんは、結局のところ絨毯だ。
馬車には誰がどう見ても前と後ろがある。
荷車にもある。
天空城だってマスタードラゴンだって、それこそ噂の空飛ぶ学校とやらだってスコールの飛空艇だってそうだろう。
だが、絨毯は違う。
座った人間が前と思えばそれが前、後ろと思えばそれが後ろだ。
そして、絨毯には車輪などない。あるはずがない。

「!?」

セフィロスが眼を見開いたのは、空を薙いだ刃に対してか、それとも理外の軌道に対してか。
仮にも乗り物が、方向転換もせずスピードも落とさず全くの同速で斜め後ろへ進む――
さすがにこいつは対処しきれる動きじゃないだろう?
頼むからそうであってくれ、と祈りつつ、振り落とされないようしがみつきつつ、セフィロスの死角に回り込み全速前進。

765 :Dead Heat Heart Beat 4/16:2021/06/09(水) 21:56:35.26 ID:g0znu/HZu
希望の祠への直線コースからは外れるが仕方がない、今は銀髪はぐれキング野郎からの距離を稼げなければどうしようもない。
これで少しでも立ち止まってくれればと思った途端、ソロの声と共に大気を揺るがし響く轟音。
半ば反射的に背後を見やれば――

「――ははっ」

そこにあったのは、それこそ俺の理解を遥かに超えた光景で。
思わず乾いた笑いが出た。
そして数秒後、すぐに俺は自分の過ちを悟る。
ひそひ草でロック達と話した時、俺たちは土下座してでも『急いで助けに来てくれ』と頼むべきだったのだと。


*****************


何が起きた?
正宗が空を斬り、走り続けていた足はそのまま前に数歩進む、だがそこに獲物の姿はない。
どうやって?
混乱する思考、けれどそこに割くリソースはない。
どこにいる?
とっさに後ろを振り向く、絨毯の影が視界の端を横切る、しかしそれを追わせないと言わんばかりに剣を振りかざす忌々しいソロの姿。

「光よ! 仲間を救う刃となれ!!」

わずかに垣間見た一撃の記憶が蘇る。
恐らくはソロが使い得る中で最大最強の技。
ただの雷ならば金属で散らせる、ただの剣ならば刀で受け止められる。
ならば、雷光束ねた巨大な刃はどう受ける?
回避、相殺、可能な手段、全力で思考を巡らせ閃いたのは神羅での記憶、編み上がるのは机上の空論。
賭けるに足るか検証する時間すらない。
飛び退きざま、マテリアから星の知識を引きずり出し一気に魔法を完成させる。

「――ギガソードッ!!」
「――フレアッ!!」

瞬間、膨大な熱量が大気を焦がし、閃光が網膜を焼いた。
盾の代わりに生み出した超高熱のプラズマ球が収束し、雷剣とぶつかり合う。
甚大な破滅をもたらすはずの異なる二つの光は、しかしお互い喰らい合うように炸裂し、霧散する。
レーザー誘雷の原理。人為的に生み出したプラズマを稲妻の通り道とすることで安全な場所に放電させる。
神羅の技術力でようやく実現に至るような科学の理論だ、ソロには到底わかるまいが、さりとて優越感に浸る暇もない。
いつの間にか厄介な霧は晴れている。空を駆ける絨毯の影は一つきり。

「行かせない!」

若造の分際で、か、若造であるが故に、か。
装備に見合わない素早さで間合いを詰めてきたソロ、その重い一撃を正宗の峰で滑らせ、逆に懐に飛び込む。
刀の束を手放し、軸足を払って転ばせ、崩れ落ちきる前に左拳で顎を撃ち抜く。
無論素直に受けてくれるはずもなく、クリーンヒット寸前に僅かに角度をズラされる、が、脳を揺らし動きを止めるには十分。

「ぐっ!?」
「大人しくしていろ」

既に稼がれた時間は十数秒。止めに割く時間すら惜しい。
ソロを捨て置き走り出す、同時に正宗を拾い上げベルトに固定する。
ザックから"コピー"の血が付着した矢を取り出し、乾ききっていないソレを舐めとる。
リユニオンと呼べるほどの量もなく、望む進化に至るはずもないが、"闇"を吸収したジェノバ細胞が含まれていることは確か。
ほんの少しでも私の能力を強化してくれればそれでいい。
それに私が本当に必要としているのは"矢そのもの"だ。
念のため、他の折れた矢も取り出し、足を止めずに"下準備"をする。

766 :Dead Heat Heart Beat 5/16:2021/06/09(水) 21:58:13.48 ID:g0znu/HZu
「……――待てーーっ!!」

背後から投げかけられるソロの叫び声。
この短時間で立ち直るか。
想像以上に面倒だが、ソロの速度や魔法の射程範囲はおおよそ見切った。
このまま走り続けさえすれば追いつかれることはない。

教え込まねばならない。
ソロにも、ヘンリーにも、出来損ないのコピーにも。
私は連中が思っているほど簡単に出し抜ける相手でもなければ、みすみす取り逃がすほど優しくもないのだと。


******************


「ああああああああああああああああああああああもっと速く走れええええ!!!
 がんばれ魔法のじゅうたん、お前ならもっと風になれる!!!!
 フレ―フレーファイトーーーいっぱーつ!! 走れ走れもっとスピード出してええええ!!」

いやーこんなん叫ぶわ、叫ぶしかないわー。
何だアレ。勇者と魔王の戦いか? これが最後のラストバトルか?
冷汗が止まらないどころか絞りつくされて出てこなくなったんだが?
リュカとミルなんたらだって、それこそソロとピサロだって、あんな大技ぶつけ合っちゃいないだろ。
あー逃げたい逃げたいメチャクチャ逃げ出したい。いや逃げてる真っ最中だけどさ。

――だけど、それでも。

「う"、あ……ぐうっ……」

こんな苦しみ方をしているアーヴァインを見捨てるという選択肢だけは有り得ない。
顔色は蒼白を通り越して薄紫、髪はほとんど銀色に染まっていて茶色の部分を探す方が早いほど。
開けた薄目から除く光彩も濁った緑に変色していて、揺らめく赤光を宿す瞳孔もいつの間にか縦長にひび割れている。
身体も以前の自己申告通り、どっからどう見てもモンスター。
一応左半身は人の形を保っているけど、それがどうしたという話。
(人殺しの裏切者、自業自得)――そんな風に言われても仕方のないことをしてきた奴だってことは重々承知しちゃいるけれど。
同時に、殺し合いに乗ったおおよその理由も、記憶を無くした時の全方位土下座姿も、
ティーダやリルムを助けてきたことも、首輪の解除に協力したことも、全部知ってるんだ。
だから断言できる。
こんな姿にさせられなきゃいけないワケもなければ、あんなはぐれキング野郎に利用されていいわけねえ! ってな。
助ける理由はそれで十分。
問題は――そう、根本的かつ致命的な問題は、助けられるだけの実力が俺に備わってないってこと。

セフィロスがこちらに向けて駆けだしてくる。
ソロが全身全霊を賭けて稼いでくれた距離が瞬く間に溶けていく。
祠までの距離はもうちょっとで半分を切るかどうかというところ。
言い換えればあと半分以上は、……ソロが振り切られつつある今、俺が、稼ぎ切らなきゃいけない。

「イオ!」
進路妨害。
「マヌーサ!」
目くらまし。
全身全霊の早口で成し遂げた俺に出来る最大級の高速詠唱も大した効果を上げることはなく、迫る影は左手から何かを投じる。
矢だ、と理解するより先に身体が盾を振り上げる。
バギン、と音を立てて弾かれ落ちる、その横を、妙に短い矢が掠め飛ぶ。
「あぐっ!?」
しまった、と振り向いた時には、半ばから折れた矢がアーヴァインの足に突き刺さっていて。
同時に気付く――視界の端に映りこんだ、絨毯の上に落ちた一本目の矢にこびりついた、真っ赤な色彩。

767 :Dead Heat Heart Beat 6/16:2021/06/09(水) 22:00:11.46 ID:g0znu/HZu
「う"あ"あああ"アァあ"ああああああアアア"ア"アぁあああ!!!」

眼を見開いたアーヴァインの喉から絶叫が迸る。
撃ち込まれたからだ。
矢じりに付けられた液体を――セフィロスの血を!
それがわかったところで俺に出来ることは、あまりにもわずか!

「アーヴァインッ!! しっかりしろ!! 耐えろ、耐えるんだ!!」
「ぎぃいいあ"ああ"あ"あああ"ああああっ、あ、や"、た、だす、たす"け"、いぎぃい"い"いいい!!」
「助けてやる! 助けてやる、絶対助けてやる!! だから!!」

バタバタともがく異形の翼に邪魔されながら暴れる身体を抱きかかえ、押さえつけながら耳元で叫ぶ。
そんなささやか過ぎる俺の努力を嘲笑うように、アーヴァインの脇腹から伸びた数本の触手がザックをまとめて薙ぎ払い、ぶち撒けられた武器が絨毯の上に転がる。
「う"う"うぎぃうううううううう"うううあ"あ"あ"ああ!!!」
苦し気な叫びと共に、アーヴァインの左手が二振りの剣を俺の手元へ弾き飛ばす。
同時にどこか見覚えのある槍を数本の触手が絡めとり、大きく振り上げる!

「させるか!!」

アーヴァインの意図、必死の抵抗を理解した俺は、滑り込んできた武器の片割れ――ピサロが使っていた剣を拾い上げた。
あとはもう、一瞬。
触手が地面に槍を突き立てる、引きずられて浮かび上がりかけるアーヴァインの身体を抑えつけながら全力で斬り払う、コンマ数秒の攻防。
さすがに無我夢中だった。
気づいた時には冷汗だらだら流しながら絨毯の上にひっくり返っていたぐらいだ。
それでも最悪の事態は避けられた、と思ったのは苦痛に満ちた絶叫がすぐ耳元から聞こえたからで。
いやこれは割と最悪だろ、と気づいたのは、脇腹から血を溢れさせガタガタと痙攣するアーヴァインの姿が視界に映ったからで。
最悪の事態だ、と悟ったのは――後方に見えるものが槍に絡みつきうねる触手と、その向こうから走ってくるソロの姿しかなかったから。

「諦めはついたか?」

その言葉を聞くまでもなく、時は既に遅く。
見たくもない姿と、長大な刃は、すぐ真横。

「冗談だろ」

強がりですらない本心が口から零れる。
あくまでも"どんだけ速いんだよ大概にしろ"って感情しかこもってないコメントだ。
だがセフィロスには別の意味に聞こえたらしく、不愉快そうに、そして見下すように鼻を鳴らし、アホみたいに長い刀を腰だめに構えた。
生存本能が脳をフル回転させ知覚する世界をスローモーション化、コンマ数秒後の未来をシミュレート。
呪文は間に合わない。
距離がありすぎてソロの助力も望めない。
盾を構え直そうにも、多分俺の腕が動くより先に胴体が真っ二つ。
半ば頭が真っ白になりつつ、(奥の手を――)、なんて、なんか奇跡が起きないかと剣を強く握りしめた、その時。

『調子こいてんじゃねえぞセフィロスゥウウウウウウウウウウ!!
 ぼくちんをコケにした罪、思い知りやがれ!!』

マジで奇跡が起きた。

768 :Dead Heat Heart Beat 7/16:2021/06/09(水) 22:02:11.89 ID:g0znu/HZu
「ッ!?」
後方から響いた特徴的過ぎる怨嗟の声がセフィロスの動きを完全に止める。
もちろん周囲にそいつの姿はない。
俺にはからくりがわかった。が、セフィロスからしてみれば――

『お前だけは許さん、もう一度虫けらみたいなカッパになって死ね!!
 くらえカッパーーーー!!』
「ケフカァアアアアアアッッ!!」

自分の姿を消す魔法、相手の姿を変える魔法、転移の魔法、倍速の魔法、どれもこれも操れる恨み骨髄の外道魔導士。
そいつの叫び声が聞こえてきたのだ、隠れ潜みながら近くに迫ってきていた可能性を否定することなど到底できないだろう。
俺だってできない。だってケフカだぞ、それこそ本当に近くまでテレポートしてきたかもしれないじゃん?
故にセフィロスも足を止めて声の方角を切り払う、その時間が、俺たちの命を繋ぐ。
俺がどれほど冷汗を流そうとも、セフィロスが何をしようとも。
魔法のじゅうたんは変わらぬスピードで飛び続け、希望の祠へ向かっていく。

「ぅえ"、う……ヘン、リ"ーさ…………い"、さ……お"………」

浅い呼吸の合間に呻き声を挟みながら、アーヴァインが縋りついてくる。
いくら魔物化しているといったって身体の一部を斬られたんだ、そりゃ痛いだろうし苦しいだろう。
だが悠長に治療している時間はない。

「大丈夫だ、言っただろ、助けてやるって。
 旅の扉を潜ったらなんとか治療してやるから」
「う"ぁ……う……」

眼を閉じ、頷く、その頭を軽く撫でてやる。
瞬間、風が舞い上がって、シャボン玉のような虹色の光がふわりと浮かんだ。
同時に不思議な光景やらメッセージやらがドババババと頭に流れ込んでくる。
そう、祈ってるロザリーとティーダ、それにマスタードラゴンやスコール達の声が――

"私達の祈りよ、どうか届いて下さい"

(……届いているとも)
口に出すまでもない、言葉にするまでもない。
アーヴァインを助ける、セフィロスの野望を阻む、どっちも果たしてみせる。
皆の想いを無駄にするわけにはいかないからな!
――と、決意も新たに、気合十分。
まあ手足はめっちゃ震えてるし、眩暈はするし、心臓はバクバク鳴ってて息も上がる寸前だけど大丈夫大丈夫ヘーキヘーキ。
それに希望の祠まで残り100mを切った、ゴールはもうすぐそこだ。
……なんて、甘い考えを抱いた時だった。
アーヴァインが不意に「う"ああっ」と唸り声を上げ、天を仰いだまま頭を抱える。
何が起きた、と尋ねる前に、空を横切る黒い影に気付いた俺は反射的に振り向き――

「――」
はぁ? と言わなかっただけ俺は偉いと思う。
何を言ってるんだと思うかもしれないが、そうとしか言えないんだから仕方がないし、状況を分析する余裕もない。
頭は絶賛オーバーヒート、焦りと混乱で沸騰どころか、煙もくもく水蒸気爆発。
誰が何を言ってるのかすら全く聞き取れない有り様だけれど、それでも俺に出来ることは――
――否、俺がすべきことだけは、握り続けていたピサロの剣が教えてくれた。

「……やってやろうじゃねえかよ」

その、たった一つの"やるべきこと"を果たすために。
俺は忌々しいはぐれキング野郎の姿をしっかりと見据え、震える手で剣を構え直した。


*****************

769 :Dead Heat Heart Beat 8/16:2021/06/09(水) 22:03:50.03 ID:g0znu/HZu
――失策。

振り抜いた剣に手ごたえはなく、腕や体に変化は起きず。
ひそひ草のことを思い出した時には、しぶとく追いかけてきていたソロが魔法を放っていた。
「イオラ!」
私と奴の間にはまだまだ距離がある、それ故に命中精度の問題をカバーできる広範囲爆発魔法を選んだのだろう。
しかし一度見た技、範囲外にまで退くことは容易く、私の足を止めるには至らない。
そう、至らないのだ。本来は。

『アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! セフィロスくん、今のお気持ちはどうでちゅか〜?
 きっと僕ちんに気を取られてくれたと思うけど、永遠に答えられなくなってるととても嬉しいでーーす!
 だいたいドッカンドッカン煩いんだよ! 俺様への当てつけか?! そういうのは私の専売特許だってケフカ憲法第五条に記載されてるんだけどォー!!?
 判決は死刑以外ありえないからサクッとバシっとクリティカル、にんじんで首を撥ねられて死にやがれーー!!』

どこまでも忌々しい声は止むことなく、ソロと共に追いかけてくる。
あんな屑まで利用するか――と失望に近い感情が湧いてくるが、それさえつまらない八つ当たりでしかない。
ソロがひそひ草を持っているのは当然で、深手を負ったケフカと有象無象どもが協力体制を築くのもまた必然。
想定してしかるべき状況、それを考慮しなかったのは私自身。

何故私は奴に止めを刺さなかった?
決まっている、私自身のプライドのためだ。
私が味わったものと同じ屈辱と無力感を刻み込み、その上で私が遥か高みに至る様を見せつけ、勝利する。
そうしなければならなかった。
侮られ、茶番に付き合わされ、あまつさえソロごときに同情と憐憫を寄せられた私の苦痛を晴らすには他に手段などなかった。
その結果がこの様だ。
悔やんでも悔やみきれないが、しかして後悔や反省に回す時間はない。
希望の祠、即ち旅の扉までの距離はあと僅か。
コピーを奪い返すチャンスは次が最後となるだろう。
ならば悩む理由はない。
全身の細胞に集中する、呑み下した僅かな血の一滴が【闇】と共に広がる感覚を意識する。
今、必要なものはジェノバの力。
私が夢見る星の箱舟、遥かなる宙の彼方へ飛び立つ母のように、黒翼を広げ、重力の軛を断ち切り飛翔する。

「――」

呆けた口を開け、地上から見上げる二対の瞳と目が合った。
同時にコピーから僅かな思念が流れ込む。

"皆に言われるまでもない、あんな輩を放っておけるか。
 協力してもらうぞ。嫌でもな"

それがコピー自身の認識なのか、ヘンリーが実際に口にした言葉だったのかはわからない。
知る必要もなければ理解に費やす時間もない。
私がすべきことはもはや決まり切っている。
私自身の希望を掴み取るために、這うように進む絨毯を一気に追い越し、祠の入り口へと降り立つ。
あとはただ、切り伏せるだけだ。
無謀に向かってこようとも、小癪に退いてみせようとも。

「――斬る」

その呟きが、果たして聞こえたのか。

「――やってやろうじゃねえかよ」

ヘンリーは立ち上がり、剣の切っ先を私に向けた。


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