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善子「ヒカリよ、永久に」

1 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:38:49.28
お店から出ると、太陽はとっくに落ち、月が支配する夜へと変わっていた。


もう既に街は布団を敷く準備へ入っているのだが、人間がそれをやめない。人間が街を寝かせないのだ。



仕事帰りなのか、はたまた私のように飲み帰りなのかはわからない


赤色と銀色のごわ、ごわと聴こえる声が響き渡る声の中を私は愛する人が待っているマンションへと向かう。



私は大して面白くなかった飲み会、もといタダ飯とタダ酒で少しはお腹の足しにしてきたが、


あの人はきっとまだ何も食べていないだろうから、帰り道のコンビニで二人分のお弁当と、二人分のビールを購入する。

2 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:39:55.22
玄関のドアを開けるといつもの様に私のじゃないスニーカーが一足、玄関にきっちりと揃えられ置いてあった。


さっき買った二人分のお弁当とビールが入ったビニール袋をキッチンに置き、私は彼女がいるベランダへと向かう。



善子「またあなたタバコ吸ってたのね」



千歌「まずはただいまが先じゃないの? 善子ちゃん」



私の愛する人、千歌に従いただいまとつぶやき、千歌の隣に立つ。

3 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:40:26.48
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1LDKで二十五階建てマンションの二十一階から見えるこの街の景色は


東京と比べたら美しくはないが私たちにはこれくらいがちょうどいいのだ。



善子「ねぇ、タバコ吸ってておいしい?」



千歌「タバコなんて吸うもんじゃないよ」



不思議と喫煙者は口を揃えて皆みなこう言う。


決して安くはないし身体に害があるのになぜ吸うのか私には理解ができない。

4 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:42:16.64
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善子「そのタバコ、なんて言うんだっけ」



千歌「アヘッドのレギュラー九ミリ。似た味でレッドフラッシュがあるけど、あっちとは違って味が硬いのが特徴」



善子「そうそれそれ。ホント好きね」



アヘッドってのは『前方へ進んで』や『これから先に』、『将来に向かって』等の前へ進むといった意味だ。


以前千歌に教えてもらったのだが、船の用語? にも使われているらしい。やっぱり、大切だった幼馴染のことが忘れられないのだろうか。

5 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:42:51.70
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善子「それ吸い終わったら中に入るわよ。ごはん買ってきたから」



千歌「メールしたんだけど見てないの? 私、作っちゃったんだけど」



善子「……ごめん」

6 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:43:16.05
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7 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:44:01.07
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善子「いただきます」



千歌「はい、召し上がれ」



私が買ってきたコンビニ弁当は明日に食べることになり、今日は千歌が作ってくれたごはんを食べることとなった。


メニューは肉じゃがにお味噌汁にホカホカのごはん。そしてほうれん草の白和え。


色のバランスも良く、栄養満点のメニューである。

8 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:44:35.98
千歌「善子ちゃん、今日はいつもより遅かったね」



善子「今日は急に飲み会が入ったのよ。これでも途中で抜け出して来たんだからね?」



千歌「ふぅ〜ん。あっそ」

9 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:45:06.08
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目に見えて分かるように千歌の機嫌が悪くなった。この人は昔っからこうだ。


私が千歌以外の女の人といると露骨に期限が悪くなる。男の人よりも女の人といる時が一番機嫌が悪い。



善子「なに、もしかして妬いてんの」



千歌「そうだと言ったら?」



善子「千歌のそういうところ好きよ」

10 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:45:31.05
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千歌が私以外の女の人を嫌いになったのは高校時代の時。


私が二年生、千歌が三年生に上がる時。


高校時代にスクールアイドルをやっていた私たちは、三年生組が卒業すると共にあたって解散することとなった。


それでも一部のメンバーはまだ活動を続けたが私と千歌はそれに参加する事はなかった。


私はあの九人でやっていたからこそ活動していたのであって、欠けてしまったのであればやる意味はないと感じたからなのだが、


千歌は違う理由で辞めた。解散と同時に、千歌の同級生である梨子さんが千歌の幼馴染の曜さんに告白をし、


二人は付き合い始めたからだ。

11 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:46:05.65
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千歌は付き合い始めた二人の輪の中に入りづらかったんだろう。


幼馴染を梨子さんに取られ、自分が作ったスクールアイドル部ですら居場所がなくなった千歌を心配した私は、


毎日千歌と行動を取るようになった。朝の登校だってそう、お昼のごはん時も、下校の時だって行けるところまでは一緒に行った。


休日は基本的にどちらかの家に泊まることが多かったなぁ。そして今はこうして一緒に暮らしている。


千歌が女の人を嫌いになった大部分は梨子さんのせいだ。


卒業後、梨子さんと曜さんは内浦から東京に引っ越し、私たちと同じように一緒に住んでいる。


千歌は二人どころか当時のメンバーと卒業式以来会ってない。私は時々会うこともあるが、千歌を誘ってみても行かないの一点張りだ。

12 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:46:42.72
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千歌「お風呂、沸いてるから入ってね」



善子「千歌は入ったの?」



千歌「さっき入ったけど、善子ちゃんと一緒に入る」



まだスクールアイドルをやっていた時に千歌の家に遊びに行ったが


彼女の部屋には曜さんの写真もあれば梨子さんと写っている写真がいっぱい飾ってあり、


その時に彼女はタバコといい依存症持ちなのだと私は確信した。

13 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:47:20.81
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曜さんから私に乗り換えたのは気にくわないが、千歌は私の事を大切に想ってくれているし


何よりもそこらの男なんかより素敵でカッコよく、どの女よりもより魅力的でかわいらしいのだ。


そういった部分に惹かれたのもあるが、一番の理由は暗闇のどん底に沈み切っていた私を救い上げてくれた何よりも大切で


かけがえのない人だということ。千歌がスクールアイドルへ誘ってくれなかったら、私の人生がどうなっていたかわからない。


もしかしたら自殺なんてこともしてしまっていたかもしれない。


善子「ごちそうさまでした」


千歌「はい、お粗末様でしたっと。片付けするから、先入ってて」

14 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:47:46.00
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15 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:48:16.10
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千歌「あ〜風呂上がりのタバコはおいしいな」



そう言いながら横でプカプカとタバコを吸う千歌。


せっかくさっぱりしたのに、どうして臭いを付けるような真似をするのか。


まぁそれに付き合って横で買ってきたビールを飲んでいる私も他人のことをそう強くは言えないが。



善子「ねぇ、私にも一本くれない?」



千歌「善子ちゃんがそう言うなんて珍しい。明日は大雪だ」

16 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:48:50.83
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こんな時期に雪なんか降るかっつーの。軽いチョップをし千歌からタバコを受け取り火をつけてもらう。


カキンとジッポライターのいい音がベランダに響き渡り、オイルの悪くない香りが私の鼻を触る。


赤く燃え上がる炎はまるで千歌の怒りと、哀しみ。愛が混じった千歌の渦巻く感情を表しているようだった。



善子「私、これより前にもらったタバコの方が好きかも」



千歌「前にあげたのと言うと、ヒカリコスモスかな」

17 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:49:16.03
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ヒカリコスモスか。タバコには詳しくないけど多分それで合っている思う。


なんだかタバコが苦手な私でも吸えた優しい味と、名前がいいなと感じたんだった。


ヒカリ……千歌は私にヒカリを与えてくれた恩人で、大切で、決して離してはいけない人。


だけど私にヒカリをくれたあの日の千歌はもういない。


与えてくれた恩を返すため、今度は私が千歌にヒカリを与える役目を背負い今日まで生きてきている。


私の生きる意味はこのためにあるのだ。

18 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:49:45.77
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善子「おいしいものではないわね。好んで吸おうだなんて思えないわ」



千歌「善子ちゃんは善い子だからね。そのままでいいんだよ」



タバコの煙を吐きながら、千歌さんはへらへらと笑う。


私はそれに適当に笑い、最後の一口を吸い切り終えて、千歌がベランダに置いてる


ポケット灰皿でタバコの火を消す。今朝中身を捨てたのだが、もう既に中身はいっぱいになっていたことに気づいた。


これではもう立派なヘビースモーカーではないか。

19 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:50:30.99
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善子「あんた、吸いすぎよ」



千歌「私にはこれと善子ちゃんしかいないからね。仕方ないよ」



善子「やめてと言ったら?」



千歌「やめないよ」

20 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:51:00.74
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このやり取りは既に何回もしており、その度に千歌はやめないと答える。


例えヒカリを失っていても、変なところは変わることなく高海千歌であるからズルい。


あの時のように高校生ではなく、大人になっても変わらず、千歌は高海千歌として生きている。


では私は津島善子として生きているのだろうか。自分のことなんて、案外わからないものである。

21 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:51:31.11
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千歌「ねぇ善子ちゃん。大人になるってどういうことなんだろうね」



千歌は今日何本目になるかわからないタバコにまた火をつけ、言葉を続ける。



千歌「私はさ、知っての通り大学へと進み、就職もしたけど今はその仕事は辞めてフリーター生活」



その通りだ。千歌は私と同じ大学、というよりも私が千歌と同じ大学に通ったのだが千歌は無事卒業し、


ある地元の企業へ就職した。今住んでいるこのマンションでお祝いをしたのだから覚えているとも。


思えば千歌と同棲生活を始めたのは千歌が就職活動をはじめる少し前のことだ。

22 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:52:15.82
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千歌「別に好きでフリーターになったわけじゃないけど、毎日無駄な残業、

    .本来発生するはずのない残業代を明細表で見たときに思わず絶句したよね」



善子「あぁ、あの時期の千歌さんは正直怖かったわ」



千歌「あの時は迷惑かけてごめんね。今もだけど」

23 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:52:45.96
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部屋は散らかすわ、エレベーターのドアを思いっきり殴って管理人さんに


後日謝るわもう散々だったのは今となってはいい思い出なのかもしれない。


それから千歌は何日も何週間も私と話し合い、仕事を辞めるという選択肢を取った。


そして今に至るといった感じだ。これは千歌が選んだ道であるし、千歌の想いは尊重したいので、


これに対し私は否定をしなかった。むしろ段々壊れていく千歌を見るのがよっぽど辛かった。

24 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:53:25.52
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千歌「小さいころはさ、よくあの人と将来の夢を語り合っていたよ。実家の旅館を継ぐだとか、船長さんになりたいだとか」



あの人というのは、きっと曜さんのことだろう。



千歌「キラキラと輝いていたよ。高校生の時はスクールアイドルとして、ラブライブの優勝を目指して日々頑張っていた」

25 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:53:56.07
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善子「私もその輝きに引き込まれた一人よ」



千歌「そうだね、あの時間が私の人生の中で一番のピークだよ。毎日がときめいていてそして輝いてた。もうまぶしすぎるくらいに」



私たちは母校を廃校の危機から救うため、九人でスクールアイドルとして活動し、


史上最大の大会である『ラブライブ』に見事優勝をはたして母校を救ったのだ。


それももう、過去の話だ。

26 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:54:21.01
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千歌「廃校の危機から救うという夢を叶えたのは間違いない。けれど、私は夢を失ったわけじゃなかった」



善子「実家を継ぐことよね」



千歌「うん。社会経験として就職したけど、見事現実を叩きつけられたよね。世の中は思っているほど甘くないぞって」



就いた先が悪かったのかもしれない。もしも千歌が少しでもやりがいや達成感を感じられるような職場であったら


また違っていたかもしれない。だけど彼女はどちらも感じられなかったのだ。

27 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:54:46.25
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千歌「時を巻き戻せるなら、高校生に戻りたい。輝いていたあの頃に戻りたいよ」



善子「そうはできないのが、現実なのよ」



千歌「ごめん、らしくないこと言っちゃった。忘れて」



そう言って千歌は私を置いてベランダから出ていこうとする。


いつもあなたは一人で抱えて、悩むのよね。


また私だけを置いて行って、どこかへ行こうとしてしまう……

28 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:55:15.82
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善子「ねぇ千歌。千歌が決めた日にも言ったけれど、私は千歌の判断は間違っていないと思うわ」



千歌「善子ちゃん……?」



善子「千歌が思ったことは当たり前のことだと思うし、イヤなものはイヤと言えない環境を作っているこの社会が悪いのよ」



千歌「そうなのかな」



善子「ええそうよ、千歌の判断は間違っていない。世間一般じゃフリーターってだけでバカにされるけれど

    .立派に生きているじゃない。同じ人間なのにどうして笑い、けなし、見下すのか私には理解できない」

29 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:55:45.90
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そうだ。そんなの間違っている。



善子「さっき千歌は大人になるってどういうことか聞いたわよね。

    .いいわ、私の答えは無理に大人になんてならなくていいの。

    .大人になんてならなくていいから、ただ、ただ『自分』になってほしい」



千歌「『自分』に……なる」



善子「『自分』らしく生きて。私が津島善子として生きるように、あなたは高海千歌として生きましょうよ」

30 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:56:15.92
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千歌「ありがとう善子ちゃん。いつも助けてもらってばかりでごめんね」



善子「それ以上に私はあなたに救ってもらったからいいのよ」



よくわからないやと顔を赤くし頬をかく千歌は久しぶりに見た彼女らしい仕草だった。


やっぱりあなたは、ヒカリを持ち続けているのね。



善子「さ、もう遅いし寝る支度をしましょ」

31 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:56:46.02
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ねぇ千歌。眠りから覚めたら、月が支配する夜ではなく今度は太陽が統べる朝を迎える。


朝は現在いまも、このずっと先の未来に何度もやってくる。私たちは生きている。


朝と夜を繰り返す一日に何度出会えるなんか誰にもわからない。人間は生きている限り死もあるわけだ


いつ死ぬかわからない一度きりの人生を楽しく、そして『自分』らしく生きていきましょう。

32 :◆O9U3WVkzRc:2017/09/27(水) 22:57:54.15
以上で終わりです。見ていただきありがとうございました。

SSって初めて投稿したのですが面白いですね。

ちかよし増えろください。

33 :!ken:11:2017/09/28(木) 23:16:10.00
乙かれさま

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