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穂乃果「ある英雄譚」

1 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:47:27.69 ID:hPWkJ/qR.net
地の文、鬱展開あり。
アニメ時空です。

2 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:48:21.86 ID:hPWkJ/qR.net
ザァァァァァァ……


雨が降っている。
空は昏く、思わず屈んでしまうほどに近い。


夏、だろうか。
肌を刺すひんやりとした雨でなく、じめっとした空気を纏いながら落ちてくるものは、私の身体に弾けて落ちた。


夢を見ているみたいだった。


最早汗か雨かも分からなくなった液体は、服と皮膚の間で粘りついている。


不快だ。
雨だというのに、傘もささずに立っている。足元はぬかるみ、動くのも億劫になった私は、ただ佇んでいる。

3 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:49:30.87 ID:hPWkJ/qR.net
辺りを見渡すと、どうやら私は川を見渡せる高台にいるようだった。


木々の枝葉に雨が弾ける音が、頭に響く。
…いや、川だ。


一際轟音を放つそれは、大地を飲み込まんとするほどだった。


そんな、自然の脅威を目の当たりにしているのに、私はただ一点だけを、なにかを、じっと見ていた。


何だろう。あれは。


白い…


布か?

4 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:50:40.70 ID:hPWkJ/qR.net
何か__流れている。


あれって…


嫌な__
嫌な光景だった。


見間違いじゃない。
紛れもなく人間が流れている。


私より一回り小さい娘は、川の轟音をかき消すほど、


静かで__


視界が、娘を中心に端から白くなってきて、


「あっ…」






確かに、その目と触れ合った。

5 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:51:53.38 ID:hPWkJ/qR.net

……
………


部室の窓からオレンジ色が注がれる。部活を終え、この景色の中、制服に着替えながら皆と他愛もない話をする時間が、私は大好きだった。


にこ「…であるからして、リーダーには必要な要素が…」


花陽「あ!わかります!」


アイドル好きの2人が熱く語っているのを遠く聴きながら、練習着を頭から脱ぐ。


にこ「穂乃果!」


穂乃果「ふぁ、はい!?」

6 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:52:27.82 ID:hPWkJ/qR.net
まだ頭を引っ込めただけの状態で、後ろから呼びかけられた。急ぎ声の方向を見る。


にこ「…とりあえず脱いじゃいなさい。」


呆れたような声が布越しに聞こえてくる。
にこちゃんの声だ。大きさから、机の向こう側にいるようだ。


穂乃果「う、うん。」


脱ぎ終わった練習着をロッカーに放り投げ、制服を着てにこちゃんの方へ歩く。


ホワイトボードには『リーダー論』と書いてあった。


あぁ、なるほどまたやってるのか。


にこちゃんと花陽ちゃん。共通するのはアイドルが大好きだということ。よく暇な時にこうして2人で語っているんだ。

7 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:53:09.63 ID:hPWkJ/qR.net
にこ「見ての通り、今花陽とリーダーについて話してたんだけど、あんたの話も聞いておきたいと思ってね。」


穂乃果「え、でも私そんな立場じゃ。」


にこ「明確には決めてはないけど、リーダーみたいなもんでしょ、あんたは。」


穂乃果「そうなのかな…」


花陽「ズバリ、リーダーとはっ!」


間髪入れずマイクを向けるように手を差し出す花陽ちゃん。可愛らしくなって、乗ってあげることにした。


私はそれに口を近づけ、答える。

8 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:57:15.20 ID:hPWkJ/qR.net
穂乃果「そ、そうですね。皆の目線を揃えて、目標に向かって走らせられる人…かな?」


分かってる。物凄く抽象的だ。私は計算を立ててから行動するより、感情に任せて衝動的に振る舞う人。それは今までの経験で、嫌というほど分からされた。


それで迷惑をかけたこともしばしば…


花陽「なるほどなるほどぉ。」


にこ「何疑問系にしてんのよ。具体的には?」


そこ、やっぱり詰められちゃうかぁ。


穂乃果「えっ、えーっと。」


準備不足の面接を受けるかのように、私はさっきよりちょっと暗くなったオレンジの天井を見つめる。

9 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:58:00.48 ID:hPWkJ/qR.net
う〜んと悩むそぶりを見せていると、後ろの扉が開く音が聞こえた。


海未「何も考えてませんよ、穂乃果は。」


扉を開けながら言う海未ちゃんは続けて、


海未「でもそれが結果的に上手くいく。穂乃果の良いところでもありますけどね。」


と、ニコッと笑って、後ろ手に扉を閉めた。


なぜかそれは、2人を納得させたみたいで、


にこ「そうかもね。ありがとう、穂乃果。」


花陽「なるほど、ふとした行動がメンバーの助けになる…と。」

10 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:59:05.05 ID:hPWkJ/qR.net
なんだか恥ずかしくなって、猫背気味になる。


穂乃果「あ、あはは…参考になったなら良かったよ。あ、それって。」


視界に入ってきた海未ちゃんの手は、クリップで留められた紙束を掴んでいた。


海未「あぁ、これですか。いつものやつですよ。」


月末には毎回、次の月の部活予定表を海未ちゃんから配られることになっている。
今日がその日だったようで、海未ちゃんが回してください。と私に紙束を手渡した。


私はそれを隣にいたことりちゃんに渡し、内容を確認すると、一つの妙案を思いついた。

11 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 01:59:47.68 ID:hPWkJ/qR.net
穂乃果「お泊まり会しない?」


海未「合宿、ということですか?ですがそれは前に。」


私たちは、音乃木坂学院アイドル研究部で、μ'sとしてスクールアイドルをしている。


6月ごろにも、皆の結束を高める目的で、真姫ちゃんの別荘で合宿をしたのだった。


確かそれは、私の思いつきだった。


そして、今も。


穂乃果「そう言うことじゃなくて!ほら!」


私は海未ちゃんに、予定表のある期間を勢いよく指示して言った。

12 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:03:33.23 ID:hPWkJ/qR.net
海未「お盆…ですか?」


穂乃果「そう!お盆。ここならみんな休みで予定合わせやすいじゃない?行こうよ、夏の思い出だよ?」


海未「いや、しかしですね。」


海未ちゃんは片眉を下げながら、あたりを見渡す。応えたのはにこちゃんだった。


にこ「あんたね。お盆なんかみんな予定あるに決まってるでしょうが。本来、実家に帰ったりするための休みなのよ?」


花陽「確かに…私も、お盆はいつも帰省してるから。」


穂乃果「あ…」


そうだった。とは言えなかったが、皆にはバレていたらしい。

13 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:04:17.26 ID:hPWkJ/qR.net
真姫「今頃気付いたの?…まぁ私は別にどちらでもいいけど。」


にこ「海未の言ってたことは本当だったみたいね…」


穂乃果「そ、そんなことないよ!私にも考えってものが…」


希「ほ〜聞かせてほしいなぁ。でも、お泊まり会は楽しそうやね。」


希ちゃんは後ろから流し目にコチラを見てきて、私の左肩に手を置いて言う。


凛「凛もお泊まり会いいと思うな〜。」


ことり「私もいいと思うっ。」


絵里「即答はできないけど、悪い提案じゃないわね。」

14 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:04:50.60 ID:hPWkJ/qR.net
穂乃果「だよねだよね!」


意外にも賛成意見も多い。
こういう時は、多少強引に…


粘り強い交渉により、反対意見だったにこちゃん、花陽ちゃん、海未ちゃんも予定を合わせてくれ、全員参加となった。


後から聞いた話だが、にこちゃんとしては家族とのゆっくりした時間を送りたかったようだが、家族全員に背中を押され、決心したようだ。


家族思いのにこちゃんらしい。


行き先は前の合宿のように、真姫ちゃんに頼み込んで、西木野家の別荘に行くことになった。

15 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:05:17.12 ID:hPWkJ/qR.net
真姫ちゃんは、案の定少し難しい顔をしたのち、首を縦に振ってくれた。


こうして、何も決まってない旅が始まったのだった。




16 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:11:38.64 ID:hPWkJ/qR.net
穂乃果「お〜!ことりちゃん見て!琵琶湖だよ!琵琶湖!本当にあんな形なんだ!」


ことり「ほんとだ…!」


海未「こら、穂乃果…!少し声が大きいですよ…!」


旅行当日。
私たちは東京から飛行機に乗って、目的地へと向かっている。


真姫ちゃんによると、空港に着いても乗り継ぎでまた公共交通機関に乗る予定らしい。


こんな離れているところにも別荘があるなんて、さすが真姫ちゃんだ。


でも、前の合宿は割と近場だったのに、なんでこんな遠くなんだろう…


都会の喧騒から離れてほしいから…だろうか。まぁ、そこは気にしても仕方ないか。

17 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:12:36.89 ID:hPWkJ/qR.net
私たちは飛行機の3人席に、窓際から私、ことりちゃん、海未ちゃんの順に座っている。


ことり「でも、全員参加できてよかったね。」


こちらへと満面の笑みを浮かべながら言う。その後ろから、


海未「ことりが忘れもので一度家に帰ったのを聞いた時は、本当に肝が冷えましたよ…」


と、目を細めながら言った。


ことり「ほんとごめんっ!」


穂乃果「そういえば、何を忘れちゃったの?」


ことり「えへへ〜これっ!」

18 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:13:24.06 ID:hPWkJ/qR.net
そう言うと、ことりちゃんはなにやら荷物をゴソゴソし始め、


取り出したのは、クッションのような…


海未「ま、枕…?」


ことり「これがないと寝られないんです。」


そう言って座席と頭の間に挟んでみせる。
少し前屈みになって、海未ちゃんと顔を見合わせる。右目の瞼が痙攣していた。


穂乃果「ことりちゃんらしいや…」


つられて私も苦笑いを浮かべる。


海未「何がともあれ、間に合って良かったですけどね。」


海未ちゃんがほっと一息ついて言う。

19 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:14:39.91 ID:hPWkJ/qR.net
穂乃果「そう!全員参加だよ?やっぱ静かにしちゃいられないよ!」


海未「ダメです。公の場ですからね。」


ことり「穂乃果ちゃん、ボリューム下げて〜。」


ことりちゃんがキャップを開けるような仕草をしながら言う。まだ喋ろうか、とも思ったが、後ろの海未ちゃんの目線を見ると、静かにせざるを得なかった。


穂乃果「すみませんでした…でも見て、にこちゃんもあんなに楽しそうに…」


私は逃げるように前の列へと会話を移す。


うん。自然な導入だ。

20 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:15:14.29 ID:hPWkJ/qR.net
あれ、なにかにこちゃんが絵里ちゃんに指をさしている。


何をしているんだろう。


絵里「あ!にこ、今UNOって言わなかったわよね。」


にこ「い、いや!言ってたわよ!」


希「ほんと〜?聞こえんかったけど。」


にこ「す、スーパーアイドルのにこは、そんな大きい声出せないの〜。」


希「いや、アイドルなんやから声は出さないけんやろ。にこっち、2枚な。」


にこ「ボケたんだから真面目に返さないでよね…あぁ絵里、自分でやるから手札に無理矢理グイグイするのやめて。」


前の列にいる3年生3人組は、μ's結成当初とは見違えるくらい仲良くなっている。

21 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:16:00.40 ID:hPWkJ/qR.net
穂乃果「なんだ、にこちゃんすっごい楽しんでるじゃん。」


もう少しだけ腰を浮かせて、前の列を眺める。
私の声で、3人とも後ろを振り向いた。


にこ「せっかく来たんなら楽しまなきゃ損でしょ。」


希「そのとーり!しかも今回の目的地は、神話が紡がれてきた由緒正しき場所よ。楽しみやん!」


絵里「またその話…予定が決まってからずっとこの調子よ。」


希「一応ウチ、神社で巫女やっとるからね。そういうのにも少しは興味あるんよ。」


希ちゃんはよく練習していた神社の巫女として働いており、結成当初から目をかけてくれていた。


にこ「えらくフランクな巫女ね…」

22 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:16:51.61 ID:hPWkJ/qR.net
希「時に海未ちゃん、日本で人の生贄は実在したと思う?」


通路側から海未ちゃんのほうを覗き込み、問いかける。


海未「え、わ、私ですか?」


海未ちゃんが目をぱちくりさせながら答える。その額には雫が見える。


希「海未ちゃん、今の話聞いてたやろ。」


海未「ええ、まぁ。」


にこ「ちょっと希。海未が困ってるじゃない。」

23 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:19:13.56 ID:hPWkJ/qR.net
希「いや、ウチの見立てだと、海未ちゃんはこういった話はいけるクチや。どう?」


問いかけの後、沈黙がややあって…


海未「生贄は…あったと思いますよ。どちらにせよ、人以外だといくつか事例もあります。」


と答えた。


希「ウチは反対やなぁ。神話っていうのは現実的な話を、人々に興味を持ってもらえるように抽象化しただけで…」


絵里「これは長くなりそうね…」


にこ「いいじゃない、お互い発散できてそうだし。穂乃果、ここは任せて。」


穂乃果「任せたよ…!」


私は頭を引っ込め、背もたれに体を預ける。

24 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:20:01.56 ID:hPWkJ/qR.net
私も少し調べたけど、今回の舞台はそんな興味深いところらしい。


一夏の思い出には、十分すぎるほどのシチュエーションだ。


私は外の景色を見ながら、そう思った。
同じ高さにある入道雲の、その向こう、燦々と輝く太陽が見える。今日も暑い夏である証だ。


花陽「ほんと、こんな遠くにも別荘があるなんて、ビックリだよ!」


後ろの列では、一年生がなにやら話をしているようだったので、少し聞き耳を立ててみることにした。


凛「前は洋館だったから、てっきりまた洋風の建物かと思ってたにゃ。」


写真でも見ているのだろうか。数秒間隔で歓声が上がっている。


真姫「まぁね。でも、今回は別に別荘ってわけじゃないわ。」


花陽「どういうこと?」

25 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:20:49.16 ID:hPWkJ/qR.net
真姫「お婆様が住んでたところなの。」


ははぁ、真姫ちゃんの実家、なのか。それでこんな遠くに。


凛「えぇっ!凛たちが泊まっても大丈夫なの?」


花陽「その…過去形…だったよね…?」


真姫「ええ…去年の末に亡くなったわ。」


声色に、少しばかり寂しさが混じった気がした。それは、普段なら気付かないようなものだったかもしれない。


いつも弱い部分を見せようとしないのもあってのことなのだろう。


凛「あ、ごめん…」

26 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:21:37.56 ID:hPWkJ/qR.net
真姫「そんなに気にしなくても大丈夫よ。なんでも、西木野家では、大昔から子供が早死にするだかなんだか言われてたんだけど、お婆様は90歳まで生きたの。」


花陽「えっ!どういうことなの?」


真姫「まぁ、噂程度のことだと思って。たしか500年…だったかしら、子供の頃聞いた話だからうろ覚えだけど。まぁおそらく、お婆様を偉大に見せようと誇張されたってオチだと思うわ。」


花陽「そっか…それだともっと、私たちが行っても大丈夫なのかなって思っちゃうよ…」


真姫「私も小さい頃1、2回しか行ってないんだけど、とても良くしてもらったのを鮮明に覚えてるわ。…だから、その、お盆なら…」


凛「お盆…?」


花陽「真姫ちゃん…」ダキ


真姫「わっ!花陽!急に抱きつくなんてどうしたのよ…」

27 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:22:29.97 ID:hPWkJ/qR.net
凛「…良くわからないけど凛も!」


真姫「全く…」


凛「それなら、この旅は楽しいものにしないとね!」


思わず、聞き入ってしまっていた。後ろでは、聞き耳を立てたことが恥ずかしくなるような会話がされていた。


なるほど、噂の真偽のところは怪しいけど、偉大な人だったのは間違いないだろう。


きっと真姫ちゃんも、お婆ちゃんに成長したところを見せたいんだね。


それに応える2人の姿…少し目が潤ってきた…
成長してるね3人とも…


海未「いや、それは詭弁でしょう。」

28 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:23:01.78 ID:hPWkJ/qR.net
右耳から興奮混じりの声が聞こえてきた。


その声で、涙が引っ込んだ。
そういえば議論の途中だったことを、無理やりにも思い出させられた。


ことり「まぁまぁ、海未ちゃん。」


にこ「あんたも、そんな白黒つけるようなことじゃないでしょ。」


列を超えて話すようなことじゃない。お互いが隣の席の人に制止されている。


希「ごめんごめん、ちょっと楽しくなってきちゃって…」

29 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 02:24:08.50 ID:hPWkJ/qR.net
にこ「これだからオタクは…」


絵里「あなたもね。」


にこ「っるさいわね…」


ポーン


絵里「ほら、そろそろ着陸するから、その辺にしてね。」


ことり「ほら、海未ちゃんも。」


騒々しい。
これがμ'sだ。


個性的な9人が集まっている。


だからこそ、1人1人が際立つんだ。
今回の旅行で、もっと絆が深まればいい。


様々な思いを乗せ、飛行機は着陸した。




30 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 04:33:37.16 ID:TYNeDPbL.net
何か怖い

31 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 08:18:40.36 ID:9CKiplr0.net
まだどうなるかわからんな

32 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 11:46:22.32 ID:S5E+xW7+.net
真姫「ここからは歩きよ。」


穂乃果「嘘でしょ…」


冷房の効いた場所から、日差しさす8月の日の下に晒された私たちに告げられたのは、余りにも非情な宣告だった。


既に飛行機、バスを乗り継いで正午も通り過ぎた頃だ。移動は意外と疲れるのに、ここからキャリーバッグを持って歩きとは、なかなか堪える。


あたりを見渡すと山、山、さらに山。
緑は目に優しいと聞くが、暴力的なまでに緑で覆い尽くされると、思わず目を細めてしまう。


希ちゃんによると、目的地は八岐大蛇伝説が生まれた土地らしく、飛行機の中ですごく楽しみそうに語っていたのを思い出した。


この自然を目の当たりにすると、分かる。


現在では大体のことが科学で解決するが、その知識がなければ、今でも私たちは神の介入があると信じてしまうだろう。

33 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 11:48:07.39 ID:S5E+xW7+.net
手をかざして見上げると、真夏の太陽は夏を喧伝するように輝き、それに呼応するように蝉は大合唱をしている。


にこ「こんな暑いのに歩けっての〜?」


絵里「でも、行く道は木陰で涼しそうじゃない。うん、空気が美味しいわ。」


絵里ちゃんは深呼吸をして言った。


ことり「道の隣には川もあるしね!」


にこ「余計ジメジメしそうね…」


ことりちゃんの指差した道は、ガタガタのアスファルトは苔むしており、日が当たらないせいか、湿り気がある。

34 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 11:48:36.79 ID:S5E+xW7+.net
真姫「ブツブツ言うのはいいけど、早く行きましょ。」


にこ「ぶつぶつ…」


凛「律儀にゃ…」


にこちゃんをはじめ何人かは不満を示したが、文句を言っても解決しないと諭され、歩くことで意見が一致した。


ガラガラガラ…


山道は谷になっており、川で冷やされた風がよく通っており、意外にも涼しい。


しかし、勾配は厳しい。遊びにきたとは言え、これでは合宿と運動量が変わらない。加えて、道も整備不足で足をくじきそうになる。

35 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 11:49:08.09 ID:S5E+xW7+.net
花陽「わっ…あっ!」


…特に、さっきから斜め前の花陽ちゃんの足取りが危なっかしい。


花陽「凛ちゃん。」


凛「え?かよちん何か言った?」


隣の凛ちゃんが耳に手を当て聞き直す。右隣を流れる川のせせらぎが意外と大きいからだろう。


花陽「凛ちゃんそっちに行くっ、あぁ!」


凛「かよちん!大丈夫!?」


不自然に一歩分横に歩幅を移したことで、バランスを崩し転けてしまいそうになったところを、間一髪で海未ちゃんが抱き止める。

36 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:02:18.18 ID:S5E+xW7+.net
海未「全く、危ないですよ。」


花陽「あ、ありがとうございます…」


海未「山道なのにコロコロで来る人がありますか!ましてや、最近土砂崩れがあったみたいです。山を甘く見ると痛い目見ますよ。やはり登山はリュックに限ります。」


そう言って背中を向ける海未ちゃんが、やけに愛おしく思えて、


穂乃果「海未ちゃんは山が好きだもんね。」


ことり「あ!穂乃果ちゃん…!」


海未「穂乃果!聞いてくれますか!見てくださいあれを…」


地雷に触れてしまった。

37 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:02:55.63 ID:S5E+xW7+.net



その後20分ほど、あれが土砂崩れの跡だ、なんて、熱心に話す海未ちゃんに付き合っていると、目的地は突然現れた。


緑のトンネルを抜けた先は、勾配が緩くなっており、先に2つの建物が見えた。


左手にはかなり大きい建物があり、右手にはこれまた大きくて立派な日本家屋があった。


道を挟んで向かい合うように据えられたそれらは、年季を感じるが朽ちていない、と言う印象だ。ちゃんと手入れされている。


それらが、青々と茂る山の谷間に、ポツンとあるような感じだ。

38 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:06:16.47 ID:S5E+xW7+.net
凛「おぉ〜!」


希「こういう系統のお家もあるなんてすごいなぁ。」


真姫「まぁね。」


にこ「ぐぬぬ…」


にこちゃんが悔しそうに恨めしく眺めている。
お決まりの流れだ。


道との境がない石畳を歩いて、玄関へと向かう。


扉を引いてみると、少しだけ土の匂いがした。
それもそのはず、玄関の床が土だった。昔ながらの家というのが1発で理解できた。


かなり広めな玄関から、左手の段差を登って障子を開けると、奥に細長くて広い部屋があった。左手には縁側があり、突き当たりには階段が見える。長机が置いてあり、9人でも窮屈なく囲むことができそうだ。

39 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:07:02.26 ID:S5E+xW7+.net
その部屋から右手の襖を開けると、キッチンがあった。どうやら玄関と繋がっているらしい。竈門の跡が遺っていたが、現在使われておらず、現代的な使いやすいものとなっている。川のせせらぎが聞こえる。家の裏手はさっきの川が流れているようだった。奥にはトイレとお風呂がある。


左の襖を開けてみると、仏間のような場所があった。床の間には掛け軸と、日本の刀が飾られていた。いかにも日本家屋って感じでかっこいい。


そして、さらに左の襖を開けると、さっきも見た長机が見えた。漢字の田のような形に部屋割りがされているようだ。


一階の全貌を見終わった私は、陽が差し込む縁側へと向かった。


窓を開けて、腰かけてみる。太ももに日光が当たる。


さっきは気付かなかったが、道の分岐の部分に大きな木と、小さな池があった。

40 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:08:56.16 ID:S5E+xW7+.net
向かいにあったあの建物も見ることができた。


穂乃果「この屋敷よりも大きいんじゃない?」


なんて、独り言を呟いていると、


真姫「あれを、見てるの?」


穂乃果「うわぁ!真姫ちゃんか。そうだよ。あの建物何なんだろうなって。」


急に後ろから話しかけられた私は、驚いて腰を浮かせてしまった。


真姫「そんな大したものじゃないわ。」


言いながら真姫ちゃんは髪の先をいじる。真姫ちゃんの艶のある髪は、背景の和室と意外にもマッチしていた。

41 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:11:26.40 ID:S5E+xW7+.net
穂乃果「そんなことないよ!私、全然住めそうなくらい!」


熱くなった足を日陰に戻すように胡座をかき、少しおどけて、上の空を悟られないよう紛らわす。


真姫「なにいってんの、居住用じゃないわよ、あれ。」


穂乃果「そうなの?」


真姫「お婆様に、入るなって言われてたところだし、多分物置ってところなんじゃない?」


穂乃果「あ、お婆さんが…」


真姫「どうかした?」


言いながら、私の隣へ座ってきて、上目遣いになる。

42 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:13:11.48 ID:S5E+xW7+.net
穂乃果「ごめんね、飛行機の中で聞いてて…」


真姫「あぁ、そのことね。いいのよ別に、隠すことでもないし、お盆だし、ね。」


穂乃果「真姫ちゃんにも、意外と信心深い面もあるんだね。」


そう思ったのは、真姫ちゃんは振る舞いがクールだし、親御さんが医者をやっているっていう薄すぎる根拠しかないけど…


真姫「何よ意外って。…よくお婆様がそこの仏間で手を合わせているところを見て来たからね。あの世があるにせよないにせよ、信じてた方が素敵じゃない?」


やっぱり、まだまだ知らないこと、意外なことがたくさんある。私たちは、出会って時間が経ってないからこそ、この旅が、お互いを知るきっかけになればいい。


穂乃果「それはごもっともだね…そうだ、仏壇開けないの?」


真姫「そういえば開いてるところ見たことないわね。こういうものなんじゃない?」

43 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:13:53.98 ID:S5E+xW7+.net
穂乃果「なんか不思議だね。」


真姫「ここら辺の風習かなんかでしょ。まぁ、拝むのはここだけじゃなくて、あっちの建物の方にもしてたしって、今はそれじゃなくて、あの建物の話でしょ?」


すっかり忘れてた。私はまた庭の方に目をむける。さっきよも少し眩しい。


穂乃果「あ、そうだった。確か入っちゃだめなんだったよね。」


真姫「口酸っぱく言われたのを覚えているわね。恐らくだけど、子どもに言って聞かせるための方便じゃない?ほら、夜に爪を切ってはいけないとか。」


穂乃果「あぁ、怪我防止ってことか。」


雷がなったらヘソを隠せも、なるべく背を低くして雷が落ちにくくするためだ、とかも聞いたことがある。

44 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:19:27.29 ID:S5E+xW7+.net
真姫「そういうこと。中に入ってるところを見たことないし、古くなった棚なんかが倒れて怪我するのを防ぐためだと思うわよ。そんなことより、早くその荷物を運んで来なさいよ。」


私の隣の荷物を指さながら言う。
私がは〜いと、子供のような返事すると、ジトッとした目を向けられた。


先輩としてかっこがつかない。そう思いながら踵を返し、寝る部屋へと向かう。


昔ながらの急な階段を上がっると、廊下につながり、向かい合わせに8対の個室が用意されていた。


いや、登ってすぐ右に、もう一つ部屋がある。


窓が突き当たりと階段を登ったところにしかないので、少し薄暗くて気づかなかった。


珍しい間取りだと思う。
一階は違和感のない日本家屋と言った風だが、この2階は…

45 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:19:53.27 ID:S5E+xW7+.net
いや、私が単に無知なだけかもしれないし、あまり人の家の間取りがどうとか言える立場じゃないだろう。私たちはお邪魔する身なのだ。


事前にあてがわれた部屋に、扉を開けて入る。


穂乃果「おぉ〜、十分広いや。」


8畳くらいだろうか。1人用としては十分だ。部屋の中には、入ってすぐ机やテレビなどの家具があり、一人暮らしのワンルームのようだった。


これを9セットとは、いやはやおいくらか。改めて、ここは私たちの常識が通用しないことを確認し、荷物整理を始めた。

46 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:20:42.87 ID:S5E+xW7+.net
皆も荷物を整理し終わり、今は9人で居間に集まっている。


机を囲んで、皆思い思いの体制でくつろいでいるようだ。


いや、ソワソワしているのが1人。


にこ「それで、なにするつもり?」


穂乃果「え?なにが?」


にこ「なにが?じゃないわよ!着いたはいいけどすることがないんだけど!」


穂乃果「あ、9人集まれば、何かしら楽しいイベントが起きるだろうとばかり…」


実際、私たちは合宿の経験あれど、1日遊ぶっていうことを経験していない。何をすればいいのか、まだ分からなかった。

47 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:21:50.01 ID:S5E+xW7+.net
海未「そんなことだろうと思いました…そこで私に一つ提案があるのですが、山に…」


ことり「わ!わたしはとりあえず景色のいいところに行きたいな!」


遮るようにことりちゃんが言う。すかさず海未ちゃんも、


海未「いやだからそれ__」


花陽「それは気になります!」


驚いた。
さっき私が捕まったところを見ていたのか、花陽ちゃんも焦り気味に割って入っている。


ことり「だよねっ!」


真姫「でも外は相当暑いわよ?」


絵里「そうね、もし熱中症にでもなったら、近くにコンビニもないし、大変よ。」

48 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:22:16.19 ID:S5E+xW7+.net
海未「むう…」


海未ちゃんが梅雨の曇り空のような表情で、体育座りをしている。


希「真姫ちゃん、近場にいい景色のところってあるん?」


真姫「なくはないわね。ちょっと登ることになるけど。」


あ、海未ちゃんが五月晴れになった。


それなら、


穂乃果「よし!それにしよう!」


私たちのしばらくの予定が決まった。




49 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:23:51.04 ID:S5E+xW7+.net
真姫「あそこよ。」


晴天の中、少し麓まで歩いた先、真姫ちゃんは切り立った丘を指差した。


不自然に丘だけがポツンとある。古墳か何かかと思ったけど、階段がある。登った先には少し開けた場所があった。


そこで一列になり、景色を見下ろしてみる。


海未「これは…」


ことり「綺麗…」


少しだけ傾いて色のついた日差しが、棚田へと差し込む。自然を極力利用しながら作られているのだろう、直線が少なくて美しい。


育ち盛りをアピールするように青々としたお米の葉。水面を這うアメンボ。その上を飛び交う赤とんぼ達。


正に人と自然が作り出した芸術と言えた。

50 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 12:40:09.24 ID:S5E+xW7+.net
花陽「お茶碗何杯分だろう…」


凛「見方が違うにゃ〜…」


絵里「ハラショー!正に日本の原風景って感じね。」


希「ここまでのものを…スピリチュアルやね。」


にこ「妹たちにも見せてあげなきゃ。」


ことり「こんな素敵な場所を知ってるなんて…ありがとうね!」


真姫「そう、良かった。」


真姫ちゃんがそっけなく見える態度で言う。
振り向いたことりちゃんは笑顔だった。


私はふと、空を見上げてみた。緑の傘が差されている。


そよ風で髪がなびく。
それは私たちを照らす木漏れ日もそうであるように。


シャツと肌の間を風が縫う。
少し湿った香りがした。




51 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:14:56.89 ID:S5E+xW7+.net
その後は家に帰るもの、外で遊ぶものに分かれて行動することになった。


私は凛ちゃんと時間内でどれだけ虫を取れるかの競争をすることにした。


そこ移動中、思わず私は凛ちゃんに、


穂乃果「真姫ちゃん家のところの庭にある建物に、危ないから入っちゃダメって言われたんだよね。」


と伝えると、


凛「でも、ダメって言われると、入りたくなっちゃうよね。」


という返答が来た。私はほんのり嬉しくなったのを覚えている。




52 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:15:39.98 ID:S5E+xW7+.net
穂乃果「集中…」


私は開けた草原を見つけ、そこで数を稼ぐことにした。


揺れる草にバッタが飛び交っている。
少しずつじりじりと狙いを定める。


穂乃果「っとう!」


飛び込むように網を振り下ろす。
起き上がって網の中を見るが、捕まえれてはいなかった。


穂乃果「ざーんねん。…あれ?」


杉の木が茂る林の中、小さな祠のようなものが見えた。


穂乃果「さっきまでこんなのあったっけ…?」

53 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:16:10.76 ID:S5E+xW7+.net
私は近づいて覗いてみる。
神社ではなさそうだ。一応声をかけたが返事はない。


朽ちかけた木の板を見つけ、拾い上げる。


穂乃果「小夜……社…人………?」


意味はまるでわからなかったが、このままでは良くないだろうと、私はそれを元に位置に戻そうとして、


サァァァァァ


草原そよぐその向こうに、


白い、狐を見た。


穂乃果「え、え?…」


見間違いかと思って目を擦る。
もうそこに狐はいなくなっていた。


その狐がどこか物悲しい表情をしていた気がした。




54 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:16:52.72 ID:S5E+xW7+.net
その後、凛ちゃんと一緒に汗だくになって帰ってくると、先に家に帰っていた皆が庭でBBQの準備をしていた。


海未「もう、遅いですよ。」


穂乃果「えへへ、ごめんね。」


花陽「2人とも汗すごいよ…!シャワー浴びてくる?」


凛「大丈夫にゃ!穂乃果ちゃん、ちょっとこっちきて。」


凛ちゃんがホースを持ちながら手招きする。右手には蛇口が握られている。


ちょっと待ってその持ち方、嘘でしょ。

55 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:17:23.58 ID:S5E+xW7+.net
凛ちゃんと一緒に汗だくになって帰ってくると、先に家に帰っていた皆が庭でBBQの準備をしていた。


海未「もう、遅いですよ。」


穂乃果「えへへ、ごめんね。」


花陽「2人とも汗すごいよ…!シャワー浴びてくる?」


凛「大丈夫にゃ!穂乃果ちゃん、ちょっとこっちきて。」


凛ちゃんがホースを持ちながら手招きする。右手には蛇口が握られている。


ちょっと待ってその持ち方、嘘でしょ。

56 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:18:09.12 ID:S5E+xW7+.net
穂乃果「うわぁっ!」


凄まじい勢いで顔面に水が噴射される。


凛「ご、ごめん!」


穂乃果「凛ちゃん…わざとじゃないだろうね…」


ことり「ほら、このタオル使って!」


穂乃果「ありがとう、ことりちゃん、もう一枚お願いしてもいいかな。」


ことり「え?あ、うん。」

57 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:18:29.24 ID:S5E+xW7+.net
私の意図を汲み取ってくれたのか、一度頷いて屋敷の中へ駆けていった。


穂乃果「さぁ、凛ちゃん。いっかい、そのホースを貸してみて。」


凛「ほ、穂乃果ちゃん…?」


お返しに一撃をお見舞いしたことは言うまでもない。




58 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:18:58.56 ID:S5E+xW7+.net
絵里「それじゃ、焼きはじめちゃうわよ?」


穂乃果「待ってました!」


凛「楽しみだにゃ!」


花陽「にこちゃん!お願いします!」


にこ「まっかせなさい!」


にこちゃんが素早い動きで肉を皿に乗せる。折り目のない、美しい仕上がりだ。


そして一仕事終わったように、満足げな表情でトングをカチカチいわせている。

59 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:20:02.98 ID:S5E+xW7+.net
ことり「前の合宿もそうだったけど、専属のシェフがついてるって言ってなかったっけ。」


希「そうなん?にこっち…」


にこ「あ、ま、まぁね、アイドルたるもの、家庭的な面も持ってないとね。」


花陽「勉強になります…」


凛「かよちんはもともと家庭的だにゃ〜。」


凛ちゃんがそう言うと、皆が笑った。
そんな声と共に、白い煙が夜空へと立ち上る。一際輝く満月の元へ。


薄暗くなった山からは鈴虫やコオロギの鳴き声が聞こえる。もうお盆だ。秋ももう直ぐ来るのか。


都会で変わらぬ日常を過ごしていると、季節の移り変わりを感じるところは、ほぼ気温だけになっている。それどころか、春夏秋冬、今はそれさえ繰り返しになっている気がする。

60 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:20:31.94 ID:S5E+xW7+.net
ふと立ち止まって、ビルの隙間からゆっくりと雲の形を見るだけでも、繰り返しの中で微かな変化を感じ取れると言うものだ。


にこ「ほら!穂乃果、ペース落ちてるわよ!」


穂乃果「あ、ありがとう!」


空をぼーっと見ていた私の左手の紙皿に、にこちゃんがお肉を乗っけてくれる。


その中の一枚を頬張る。


穂乃果「…!」


にこちゃんの焼いてくれたお肉は、いつもより美味しく感じた。


穂乃果「ずっとこの時間が続けばいいのに…」


にこ「ん?なんか言った?」


穂乃果「あ、いや、何でもないよ。」


つい、本心が、口をついた。




61 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:21:44.18 ID:S5E+xW7+.net
それからは各自お風呂に入った。
髪を乾かして居間に戻ると、ことりちゃん、年少組はテレビを見ており、海未ちゃんと希ちゃんは難しい顔で何か話している。


それを眺めるにこちゃんと絵里ちゃんが、私に苦笑いした。おそらく、また飛行機の時のように語っているのだろう。


夜も更けてくると、1人ずつ自室へと向かった。私と凛ちゃんだけが、まだ居間に残っている。私がそろそろ日が変わる時間なので、寝る前の挨拶をしようと立ち上がって、


凛「穂乃果隊長!凛ね、あそこに潜入捜査をしたであります。」


その一言に、呼び止められた。
右手を口に寄せて、手招きをする凛ちゃん。

62 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:22:17.55 ID:S5E+xW7+.net
穂乃果「嘘!お宝とかあった!」


私がすぐ座り直し、興奮気味にそう言うと、凛ちゃんが申し訳なさそうに、


凛「いや、暗くてあんまり見えなかったけど、驚くほど何もなかったにゃ。」


と言った。
凛ちゃんは、すっからかんだったよ〜と両手を広げてみせた。


ってことは、真姫ちゃんの推測は間違ってたってことか…


穂乃果「なんだ〜、入っちゃダメって言うから、お宝でもあるのかと思ってたよ。」


凛「本当に、真姫ちゃんが優しさで言ってくれただけじゃないかな。」


穂乃果「そうかぁ、悪いことしちゃったな。」


凛「ダメだよ、穂乃果ちゃん。」


穂乃果「凛ちゃんも潜入してたでしょ!」

63 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 21:22:42.45 ID:S5E+xW7+.net
凛「凛たち共犯だね。」


そう言ったのち、凛ちゃんが吹き出すので、つられて笑ってしまった。


少しの静寂の後、おもむろに腕を組んで、凛ちゃんは語り始めた。


凛「真姫ちゃん、最初はほら、凛とかよちんが幼馴染だからさ、入りづらそうにしてるのは感じてたんだ。でも、最近はだんだん近づいてきてくれるようになって。嬉しいんだ。」


穂乃果「凛ちゃん…」


凛「だから、明日謝りに行こ?」


穂乃果「そうだね、そうしよう。」


じゃあ寝ようか、
そう言って自室へ向かおうとした時、





私は意識を失った。

64 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:18:34.17 ID:S5E+xW7+.net

……
………


穂乃果「うぅ。」


最悪な目覚めだった。まず、上下感覚だけが戻ってきて、自分は何かにもたれかかっていることがわかった。


バンザイの格好で机に突っ伏しているのか、指先はこれは木の感触だと脳へ伝えている。


首を動かすのが怖い。首筋の筋肉が伸びきってる状態だ。意を決して伸びをする。


穂乃果「いっ…」


身体は生を実感するほどの激痛を発し、背中から音を鳴らしながら、私は目を開け、活動を開始した。

65 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:19:17.86 ID:S5E+xW7+.net
体が重い。
やはり、私は座ったまま寝ていたらしい。それならこの痛みにも納得だ。


そう思って時計を見ると6時を示していた。
よくもまぁ、6時間ほど座ったまま起きずに寝ていたもんだ。


穂乃果「凛ちゃん…?」


昨日凛ちゃんが座っていた場所には、当然のように誰もいないことに気づく。


穂乃果「全く、ベッドにくらい連れてってくれてもいいのに。」


呆れて先に寝られたんだろうか…先輩が急にガクッと寝たらそりゃ呆れるか。


穂乃果「…今何時だろ。」


ポケットの携帯を取り出し、時間を確認しようとする。


穂乃果「あ、あれ?」

66 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:19:55.10 ID:S5E+xW7+.net
黒い画面から変わらない。充電が切れたのかな。確か充電器は荷物の中か…取りに行こう。


そう思って立ち上がろうとすると、階段から誰かが降りてくる足音がした。


海未「早いですね、穂乃果。」


穂乃果「ま、まぁね〜。」


海未「…ここで寝ていたんでしょう。」


ことり「風邪ひいちゃうよ?穂乃果ちゃん。」


穂乃果「はい。気をつけます…」


開口一番痛いところを突かれ、ことりちゃんがそれを慰めてくれた。

67 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:20:22.43 ID:S5E+xW7+.net
海未「あなたははしゃぎすぎですよ。」


ことり「…そう言う海未ちゃんもね、寝る前の読書中に寝てたんだって。」


海未「ことり!言わないでください!」


穂乃果「移動とかもあって、みんな疲れてたんだよ。きっと。」


顔を赤らめて素早く2度頷く海未ちゃんを、ことりちゃんが楽しそうに眺めていた。




68 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:21:30.55 ID:S5E+xW7+.net
3人でゆっくりしていると、ぞろぞろと皆階段を1人ずつ降りてきた。


花陽「みんな早いね〜。」


希「早起きは三文の徳よ?」


絵里「穂乃果も早いわね。」


にこ「おおよそ、昨日はしゃぎすぎてダウンしたんでしょ。で、相手は凛ね?」


穂乃果「ご、ご名答。」


真姫「…凛はまだ、起きてないようね。」


かわいいところあるな〜、遠足前夜のの小学生じゃあるまいし…なんて、様々な声が聞こえて来る。


言い返す余地もなく、赤面するしかなかった。

69 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:21:59.21 ID:S5E+xW7+.net
そして、テーブルに8人がついて、また手持ち無沙汰になる。


時刻は7時過ぎ。私は変な寝方をしたせいか、まだ頭が働かない。


いや、眠いのは皆同じなのか、沈黙が続く。


ことり「よし、花陽ちゃんっ!ちょっと朝食の準備を手伝ってくれる?」


耐えられなくなったのか、ことりちゃんは立ち上がって言う。


花陽「は、はい!もちろんです!」


にこ「私も手伝うわ。」


希「じゃあ私はお茶でも淹れよか。」


絵里「頼んだわ。」


穂乃果「ありがとうね〜。」


料理班と希ちゃんがことりちゃんへ着いていき、キッチンの奥へと消えていった。




70 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:22:34.49 ID:S5E+xW7+.net
希ちゃんが淹れてくれたお茶を飲んでいると、絵里ちゃんが話しかけてきた。


絵里「霧が、濃いわね。」


絵里ちゃんにつられて窓の外を見る。確かにその景色は霞んでおり、数メートル先しか見渡せないほどだった。


私が訝しげに眺めていると、絵里ちゃんは神妙な面持ちで、


絵里「私、昨夜は部屋の机で、亜里沙に送る写真を整理してたのよ。そしたら、そのままバタッと気を失ったように眠ってしまったの。記憶では、日付がそろそろ変わる頃だったかと思うのだけれど。もしかしたら穂乃果も…そうなんじゃないかと思ってね。」


と言った。


穂乃果「私も…同じだ。」

71 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:23:09.31 ID:S5E+xW7+.net
日付けが変わるから、そろそろ席を立とうとしたところで凛ちゃんに呼び止められたことを思い出す。


絵里「偶然じゃ、なさそうよね。」


絵里ちゃんは腰を浮かせて私の方に小さく移動して言う。


私も頷く。
あんな寝方を絵里ちゃんもするなんて…


絵里「これはまさか…」


絵里ちゃんは、声を一段低くして、手招きしながら囁くように話し始め、

72 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:23:52.99 ID:S5E+xW7+.net
絵里「私たち、少しはしゃぎすぎて疲れてるのかもしれないわね。」


と、おどけた声音で、絵里ちゃんが悪戯に笑う。


穂乃果「…え?」


そこで、私はどうやら揶揄われていたことを知った。


絵里「驚かせてごめんなさい。ここのあたりは、雲海が有名で、この霧も湿った朝方によく起こる現象らしいの。あと数時間で晴れると思うわ。幸い今日は中日だし、初日で飛ばした分ゆっくりいきましょ。」


穂乃果「もう…!本当に心配になったじゃん!酷いよ絵里ちゃん。」


絵里「ごめんなさい。少しからかいたくなっちゃったの。」


穂乃果「む〜…」


私が精一杯不平を目で表していると、キッチンの方から花陽ちゃんが出てきて、


花陽「朝ごはんできたよ〜!」


と力強く言った。その声で皆が立ち上がり、テーブルに集まる。

73 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:24:38.84 ID:S5E+xW7+.net
花陽「料理長、説明を。」


にこちゃんは腰に手を当て、胸を張った。


にこ「花陽副料理長の強い要望で、献立ははお米と味噌汁よ。」


花陽「えへへ、どうしても和風が良くて…もちろん鮭もあります!」


いつの間にか組織図が作られてきたみたいだ…


希「この雰囲気にこの食事、言うことないやん。」


希ちゃんはもう既に手を合わせながら言った。確かに、卓上から食欲のそそる匂いが上がって来る。


皆が食べる体勢に入っている…が、まだやらないといけないことがある。


ことり「あとは…凛ちゃんを起こさないと。」

74 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:25:14.98 ID:S5E+xW7+.net
穂乃果「あ!私が行くよ!」


そうだ。昨日の文句の一つも言いに行かないと。そう思って私は、鼻歌を歌いながら階段を登る。


昨日よりも薄暗い廊下を進み、凛ちゃんの部屋の扉をノックする。


返答はない。


まだ寝てるとは…私よりも朝が苦手な人がいるなんてね。


穂乃果「凛ちゃん?入るよ〜?」


声を出してもリアクションは返ってこなかった。

75 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:25:53.11 ID:S5E+xW7+.net
穂乃果「もう…朝だよっ!」


そう言いながら力強く開ける。


『え!?嘘!もう朝!?』


なんて、凛ちゃんなら言いそうなものなのに。
全く…これでも起きないか。


力技だけど、仕方ない。
意を決して、私は一気に布団をはいだ。


穂乃果「…え?」





そこに凛ちゃんは、いなかった。

76 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 22:38:50.02 ID:Ua+8ctPs.net
まきちゃん良い場所調べておいたのかな

77 :名無しで叶える物語:2024/04/27(土) 23:26:17.35 ID:OIbtCBlM.net
金持ちの客ついたら
車のドラレコ探してんだろうな

78 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/28(日) 00:07:09.45 ID:vopyTpSg.net
部屋は私の部屋と同じような作りをしている。それなら、隠れるところなんてないはずだ。


布団は冷たい。布団から抜けて薄時間経っているのか…あるいは、そもそも布団に入ってないか。


くっ、一体どこに行ったって言うの!?


私1人で考えても仕方がない。半ば転げ落ちながら階段を降りる。事の異常性は皆気付いてくれたようだ。


穂乃果「凛ちゃんが…」ハァハァ


絵里「…まさか…穂乃果…!」


穂乃果「凛ちゃんが、いない…!」




79 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/28(日) 00:08:08.12 ID:vopyTpSg.net
そこからは大慌てで家中を探したが、どこにも見当たらない。山のほうに行ったのかと思ったが、それこそこの霧で探すのが困難だ。二次災害に繋がってしまう。


とすれば、


穂乃果「あとはここだけだね。真姫ちゃん。」


真姫ちゃんに入っちゃダメと言われたあの建物の扉の前に、私たちは立っている。


真姫「…」


真姫ちゃんは黙ったまま、静かに頷く。


海未「残りはここしかありません。入りましょう、穂乃果。」


穂乃果「よし、行くよ。」

80 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/28(日) 00:08:44.75 ID:vopyTpSg.net
私は扉を開けた。


そこには、


穂乃果「う…そ…」


花陽「うわぁぁぁぁ!!凛ちゃん!?凛ぢゃん!!」


夢を見ているみたいだった。
悪夢と言っていい。
が、この胸の痛みが、現実であることを強調するように脈打っている。


古めかしい建物の隣で、私たちは立ち尽くしている。そこには紙垂のついた注連縄で繋がれた柱があって、


その下で花陽ちゃんが泣き叫んでる。


言葉も出ない。
皆一様に荒い息遣いをして目を見開いているより他なかった。

81 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/28(日) 00:09:33.54 ID:vopyTpSg.net
無理もない。つい昨日まで楽しく談笑してた人が、死んでしまったのだから。


日常から死が限りなく切り離された世界。
この光景をすぐ受け入れられるわけがない。


それに、ただ死んでいるんじゃない。
柱に、括り付けられている。


それは生前、紛れもなく、私たちの友達だった__


凛ちゃんそのものだった。


胸が焼ける。瞼を閉じても、あの光景が張り付いて離れない。


酷い。
これじゃまるで、




生贄じゃないか。



……
………

82 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/28(日) 00:10:09.68 ID:vopyTpSg.net
今日はここまでです。

83 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1][新][芽](うろん):2024/04/28(日) 00:10:51.70 ID:sURpW2Nv.net
さすがに理不尽やろ
WAR4の近本いないと自分も大奥見たことなくてさらにスケオタ自体減ってるしね
それ以外なら少し考えないとか

84 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1][新][芽](しまむら):2024/04/28(日) 00:40:34.56 ID:I3BAgJ9y.net
コロナには無理
人気は自分が関わっているということですが…
サマーセール最終日はFOIあるからな

85 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4][初](もんじゃ):2024/04/28(日) 00:47:46.07 ID:OdNeX/O5.net
ドラレコ収集、記録媒体は損傷の恐れあり
1月から50%も上げとるがな
まあ
もっとアスリートらしさを出せばいいんじゃないか
やるやつがおらんから題材になるね
https://o.rv.lrep/FkLcW

86 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1][新][芽](茸):2024/04/28(日) 01:44:16.19 ID:6nsHc0br.net
アイスタ希薄化も検討してからのかりそめ天国は続いてるのかもな
すべてがおもんないから
実に困惑

87 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.5(前4)][初](たこやき):2024/04/28(日) 01:52:51.84 ID:VHlDJDga.net
病院いけ
手帳貰えるかもしれんけど、まだ逮捕されないのはもう音楽だけでも若者が理由なく評価
壺政権
がトレンド入りしてただけなので
ATSUSHIに曲作ってもらいました
今のところでマリニンの4ルッツを見たけど下回りなのに、知識をえることが何も思わないらしい

88 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1][新][芽](もんじゃ):2024/04/28(日) 02:00:39.89 ID:mO761dpg.net
芸能人のせいにしたのに
えーほんとに隠れてやっと復学するのものだね。
練習着のままって感じだが選手が居ない珍さんの層を見てるんだろうか?)
身も蓋もないけど大半は成績とビジュアルだよ

89 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.2][新][芽](あら):2024/04/28(日) 02:00:44.25 ID:RIJcdCG3.net
スレもレスも
座席ポジションが合わなくてもめくれるほどひどい
毎日同じやつが流行ってた
何もしなくなる不思議では無いんだな

90 :名無しで叶える物語:2024/04/28(日) 12:27:04.99 ID:LD7pCie5.net
本当に◯んてしまったのか…?

91 :名無しで叶える物語:2024/04/28(日) 22:04:08.33 ID:5+uQVD4a.net
謎の霧

92 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:48:29.53 ID:6DVnHnUi.net
あれから何時間経っただろう。
私たちは家に戻ってきたが、誰も何もせず、ただ時間だけが過ぎていった。


ただ部屋にある古時計だけが、声を発し続けている。


重い空気だ。
何か言わなきゃいけないと誰もが思っているが、この一言でこの後の展開が変わってきまうんだ。


その重圧で、誰も口を出せないでいる。


花陽「凛ちゃん、ほんとにその…死んじゃったのかな。」


その長い沈黙を破ったのは花陽ちゃんだった。

93 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:49:20.05 ID:6DVnHnUi.net
絵里「花陽、それはどういう__」


穂乃果「確かに…確証はまだないね。」


酷い同調だ。目に見えて凛ちゃんは血の気がなかったのは既に見てとれた。海未ちゃんの片眉が吊り上がっている。


花陽「私、行ってくるよ。」


穂乃果「私も行く。」


花陽ちゃんが危なっかしく立ち上がる。私は肩に手を巻き、あの建物へ促す。


希「ウチも行くよ。」


希ちゃんも立って、反対側を支えに来てくれた。


にこ「ごめん、私は行けないわ。」


ことり「私も…頼んでいいかな。」

94 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:49:39.88 ID:6DVnHnUi.net
無理もない。あの光景をもう一度見たいわけがないんだ。


穂乃果「無理しないで、ちょっと待っててね。ほら、花陽ちゃん。行こう。」


私は表情を伺うと、花陽ちゃんは顔を合わせてくれた。


が、


花陽「…はい。」


その目は、私を捉えていなかった。




95 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:50:48.38 ID:6DVnHnUi.net
私はもう一度あの重い扉に手をかける。そして、かつて凛ちゃんだったものと改めて対面した。


瞼の裏に焼きついた景色と何も変わらないが、今度は中に入って間近で見る必要がある。歩みを進め、凸凹とした土の床を歩く。


さっきはそれどころじゃなかったけど、内装がある程度わかった。


この建物は、凛ちゃんも言っていた通り、仕切りがなく、広い空間があるだけだった。


天井も高いので、より広く見える。


まず、上から見て点を結ぶと四角形になるように、大きな柱が4つと、間に柱が2本あり、屋根へと繋がっている。


凛ちゃんは大きな柱の間にある柱に括り付けられていた。


それと、腰掛けられるようにか、一段高く畳が敷かれた場所が壁に対になるようにあり、それらは3つの柱で区切られている。

96 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:51:19.37 ID:6DVnHnUi.net
やっぱり倉庫か何かなのかな。でも、中に何も入ってないし…


私がキョロキョロしている間に、希ちゃんは亡骸に近づいて、確認してくれている。脈をとったり、ライトをつけたり消したりしている。


私が駆け寄ると、希ちゃんの動きが止まって、


希「息は…だめや。してない…死斑もある。瞳孔は…うん、やっぱり確実に亡くなってる…」


無情な宣告を突きつけられた。


花陽「そうだよね…」


言いながら、花陽ちゃんは膝から崩れ落ちる。

97 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:51:47.48 ID:6DVnHnUi.net
希「それに、首を絞められて、殺されたみたいやね。」


穂乃果「酷い…一体誰が…!」


花陽「…許せないよ。凛ちゃんを殺した挙句、こんな見せしめのようなことをして。」


花陽ちゃんが怒りを孕んだ声で言う。付近には土の床に、握りしめられたような跡があった。


希「ウチも辛いよ…花陽ちゃん。凛ちゃんの笑顔がもう見られないなんてな。」


穂乃果「下ろしてあげようよ。このままじゃ…凛ちゃん辛いと思うよ。」


目も当てられなくなった私は、凛ちゃんに巻かれた縄を解こうと手を伸ばす。

98 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:52:22.37 ID:6DVnHnUi.net
希「…どうやろか。」


私の手を、希ちゃんは手をかけ、制止した。


穂乃果「どうして!?」


希「…現場は手をつけずに保存しとくのが鉄則よ。警察が来た時に、捜査しやすいように。」


気持ちは痛いほど分かる。手で締め殺されたなら、指紋が出て来るはずだ。当然、現場の保存は鉄則だろう。ただ、感情がそれを許さない。


希「穂乃果ちゃん、ウチを殴ってほしい。」


希ちゃんは酷く悲しい顔でそう呟いた。みんな悲しいに決まっているんだ。途端、自分が冷静さを欠いていたことに気付いた。


私は一つ、息を吐いて言う。


穂乃果「そんなことしないよ。希ちゃんも本心では、下ろしてあげたいと思ってるんでしょ。」

99 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:52:49.58 ID:6DVnHnUi.net
希「そうやね…」


花陽「じゃあ、最後の、お別れをしてもいいですか。」


からっぽの空間に、花陽ちゃんはポツリと呟いた。




100 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:53:27.82 ID:6DVnHnUi.net
にこ「どうだったの、凛は。」


帰るや否や、にこちゃんが振り向かずに聞いてきた。


花陽「亡くなってました。」


花陽ちゃんは、決意じみた声色で、そう言った。それはにこちゃん、みんなに伝わったらしい。


にこ「そう…」


そう言ってにこちゃんは、絶望した表情を浮かべた。


絵里ちゃんは、窓の外を向いて涙を流していた。


ことりちゃんは、凛ちゃんと呟きながら嗚咽していた。


海未ちゃんは、焦ったようになにか考え事をしていた。


真姫ちゃんは、机に突っ伏していた。

101 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:53:59.41 ID:6DVnHnUi.net
人の死は、重い。
現代では死とは隔絶された世界に生きている。
皆が当然明日は来るものだと考え、自分や周りにそれが訪れるは思い至らない。


それが、目の前に現れた。
それも、昨日まで楽しく話してた友達にだ。


この反応になるのも無理はなかった。
現実的じゃないことが起きすぎている。


にこ「なんなのよっ!何が起きてるの…?」


にこちゃんの叫びを拾う者はおらず、再び時計だけが音を刻み続けた。


ことり「…とりあえず、朝ごはん食べちゃおう。お腹空いてたら何も考えられないっ。」

102 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:54:31.68 ID:6DVnHnUi.net
やりきれかくなったのか、ことりちゃんがそう切り出した。


絵里「そうね…」


皆同調し、私たちは遅めの朝食をとることにした。食欲も失せてしまったが、何もしないよりはマシだろう。


これを朝食と言っていいのかわからない。でも、具体的な時間はわからないし、時計を見る気にもならなかった。


あの時、目を見張るほど美味しそうだったものを口にする。


すっかり冷めてしまっている。


静かな朝食だ。周りからはすすり泣く声や、嗚咽が聞こえる。


…この鮭、少ししょっぱいや。




103 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 00:55:02.41 ID:6DVnHnUi.net
食器も片付けたところで、


希「…状況をまとめようか。」


希ちゃんが、一度腰を浮かし座り直してそう言った。



……
………

104 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:06:52.95 ID:6DVnHnUi.net
テーブルを囲って、皆が希ちゃんに注目している。


希「まず、現状をまとめよう。海未ちゃんお願い。」


はい。と短く言って海未ちゃんは手を掲げる。
その手にはスマートフォンが握られていた。


海未「携帯電話ですが、この通り、全く動きません。充電がなくなったのかと思って、朝から充電していましたが、いまだ直らずです。皆さんはどうですか?」


それを聞いて皆携帯を取り出すも、同様に黒い画面を映すだけだった。


それを確認した海未ちゃんは、頷いて話を続けた。


海未「さらに、この家の電話は機能しませんでした。どこにかけてもつながりません。おそらく、電話線が切れてるのかと。」


真姫「そ、そんなはずはないわ!掃除や準備してくれたって、掃除を任せた人が一昨日、ここから連絡してきたのよ。」

105 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:07:23.60 ID:6DVnHnUi.net
真姫ちゃんは驚き、興奮気味に言った。


海未「…どちらにせよ、一昨日から今日のうちに使用不能になったということですね。」


ことり「これじゃ、警察も呼べないね…」


花陽「それなら、山を下って助けを呼ぶ…?」


絵里「それは難しいでしょうね…麓に降りようにも、慣れない道をこの霧じゃあ無理よ。待っていた方が得策だと思うわ。」


記憶によれば、あの道は30分ほど歩く必要がある。途中崖のようなところもあったので、霧で足を滑らせるかもしれない。


そもそも、私たちはどの道を辿ればいいかがわからない。

106 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:08:10.01 ID:6DVnHnUi.net
にこ「…そうだ!真姫、あなたならこの霧でも道がわかるんじゃないの?」


真姫「ここに来たのは1、2回だけ。昨日も携帯のGPSを見ながらだから…ごめんなさい。」


絵里「確か麓への道は、何本か枝分かれしてた記憶があるわ。ここで迷ったら一貫の終わり。最終手段とするべきよ。まぁ、現代人の辛いところね…」


にこ「こんな状況で待つしかないって言うの…?」


やはり、強行突破は難しいと考えていい。それに、凛ちゃんを殺した人間がこの辺を彷徨いているかもしれない。下手なことをするのは危険だ。


希「穂乃果ちゃん、その霧なんやけど。」


霧?あぁ、あのことか。


穂乃果「うん。あの霧、あまり吸い込まない方がいいと思う…成分とかはよく分からないけど、体に悪いってのはわかるんだ。」

107 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:08:53.11 ID:6DVnHnUi.net
さっき花陽ちゃんたちとあの建物に行った時、あの霧を吸い込んだのは数分だったが、軽く咳き込んだ。


この屋敷に戻ると、症状も和らいでいった。無関係とは言えないだろう。


ことり「ただの霧じゃないってこと?」


私は問いかけに頷いた。


絵里「確かに、この時間まで霧が深いだなんて、普通じゃないでしょうね…」


海未「そういうことです。まとめると、私たちは外部との連絡を断たれ、この館に閉じ込められたと言うことになりますね。」

108 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:09:39.73 ID:6DVnHnUi.net
花陽「つまり、凛ちゃんに手をかけたのは。」


花陽ちゃんの言葉が重い。皆が吸い寄せられるように花陽ちゃんの方を見る。


希「…そうとは限らんよ、推理小説だと、得てしてどこかに抜け道があるもんや。」


穂乃果「そうだよ。この中にそんな人はいないと思う。」


私は希ちゃんに同調する。不明瞭な状況で、余計な争いは避けるべきだ。それに、本音でもある。


ことり「私もそんなこと考えたくないな…」

109 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:15:27.67 ID:6DVnHnUi.net
希「それでやけど、凛ちゃんの遺体から何個か事実がわかった。まず、首を絞められて殺されたこと。死斑の様子から、死んでしまったのは少なく見積もっても3〜6時間前。見た時間が9時頃やったから、まぁ朝早い時期やね。」


にこ「あんたそこまで…」


希「…なにか思考してないと、頭がおかしくなりそうなんよ。それで、その時間みんな何やってたんか聞きたいんや。」


絵里「待って希。まさか貴方…私たちを疑ってるの?」


それと同時に皆が皆の顔を見合う。
対する希ちゃんも予想の範囲の質問か、焦りはない様子だ。


希「絵里ち、むしろ逆や。ウチは一つずつ不明点を潰して、むしろ外部の犯行と、みんながシロだと確定させたいんよ。」

110 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:16:08.23 ID:6DVnHnUi.net
海未「そうは言ってもですね、なにしろ個室です。アリバイを証明するのは難しいかと。」


個室で鍵もかかっていない。凛ちゃんを殺す条件としては、全員が揃っていると言えた。


希「確かにそうなんよなぁ…でも、まず話を聞くのは、」


穂乃果「私、だよね。」


当然だ。
今のところ、最後に凛ちゃんと喋っており、そのまま寝落ちした私が1番怪しい。


ことり「えぇ!?穂乃果ちゃん!?」


穂乃果「ことりちゃん。希ちゃんは、なにも私が犯人だと言いたいんじゃないよ。」


希「そういうこと。」

111 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:16:47.89 ID:6DVnHnUi.net
穂乃果「とは言っても、海未ちゃん達に話した通り、私はここで凛ちゃんと話していたら、急に眠気が来て、6時ごろ目が覚めたから…昨夜からずっとこの部屋にいたよ。」


私は昨夜のことを思い出しながら言う。あの眠気は尋常じゃなかった。絵里ちゃんの言うとおり、疲れていただけなんだろうけ。


海未「寝起きの穂乃果は、確かにそう見えましたね。」


花陽「…でも、急に眠くなってきたなんて、そんなことあるの?」


花陽ちゃんが鋭い目を向けてくる。そりゃ疑われるだろう。


穂乃果「そりゃ信じられないよね…でも、信じてほしい。私からはそう言うしかないんだ。」


根拠のない言葉だ。その代わり、語気を強める。少しでも信じてくれることを願った。


信じたいが、少し決めてに欠ける。そんな雰囲気の中、ひとり手を挙げる人がいた。


絵里「私も、昨夜急な眠気に襲われたわ。」

112 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:17:20.40 ID:6DVnHnUi.net
それは絵里ちゃんだった。


希「絵里ちも?」


絵里「えぇ。亜里沙へ送る写真を選定していた時にね。だから、穂乃果の言ってることも、嘘とは思えないわね。」


ありがとう…絵里ちゃん。


希「ふむ…そんな一筋縄にいかなそうやね。他のみんなは?」


それぞれ、すぐ眠りについた人や、布団で横になってた人…結論からすると、アリバイを証明できる人はいなかった。


希「ごめんなみんな。これじゃイタズラに心配させただけやね…」

113 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:28:03.86 ID:6DVnHnUi.net
海未「そもそも、私たちの中に犯人がいると決まったわけじゃありません。そもそも私たちは合宿で来ているんですから、昨夜にアリバイどうこうで行動するとも思えません。逆にそれが、私たちの中に犯人はいないという根拠にもなりえます。」


穂乃果「それに、こんな山奥だからって、施錠も曖昧だったはず。今夜はその辺をしっかりしていれば、ひとまず問題ないと思うよ。そして、霧が晴れるのを待とう。」


希「そうやね。」


私たちは、現状維持の結論を出した。消極的だが、まだ情報があまりにも足りない今、思い切って動くのも難しいだろう。


かくして、方針が決まってしまった。思考を放棄すると、


あぁ…あの光景が瞼から離れない。

114 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:28:39.99 ID:6DVnHnUi.net
空の頭を埋めるように、忌まわしい記憶が侵食してくる。私は逃げるように皆の顔を見渡す。


何の反応もない。


凛ちゃんの死に蓋をするようで、少し嫌な気持ちになった。


そう自虐していると、海未ちゃんが思いついたように顔を上げる。


海未「一つ聞いておきたいのですが、真姫…あそこはもともと何に使われてたものなのですか?」


真姫ちゃんに視線が集中する。


真姫「ごめんなさい、わからないの。お婆様にもよく教えられてないのよ。」


希「まぁまぁ海未ちゃん、ウチから見て、推測できることを話すよ。真姫ちゃん、間違えてたら訂正してな。」


真姫「頼んだわ…」

115 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:29:09.66 ID:6DVnHnUi.net
憔悴した真姫ちゃんに優しく微笑みかけたあと、希ちゃんは正面向いて話し始めた。


希「みんな、昨日見た棚田を覚えとる?」


絵里「あぁ、綺麗だったわね。あれがどうかしたの?」


希「どこか不自然に思わんかった?」


ことり「私は特に…」


ことりちゃんから『穂乃果ちゃんは?』という視線送られたので、私は首を傾げた。


海未「そう言えば、ポツンと丘だけがあって、不自然とは感じましたね。なんでここだけ盛られてるんだろうって。」

116 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:29:35.75 ID:6DVnHnUi.net
あぁ、そう言えばそうだった。


ことりちゃんと頷き合う。


希「それなんやけど、あれはな、盛られたんやなくて、残されたものなんや。」


にこ「どういうことよ。」


希「まず、ここら一帯はその昔、製鉄が盛んに行われていたんや。昔は、もっぱら燃料として木炭が使われていた。」


ことり「たしかに、この辺は自然が豊かだし、木材には困らなさそうだね。」


希「まぁ、製鉄を一回行うのに、木炭を12トンくらい使うらしいから、相当な量が必要やね。」


絵里「規模がよくわからないわ…」

117 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:30:20.54 ID:6DVnHnUi.net
希「製鉄言うんやから、もちろん鉄が必要なんやけど、この辺は質のいい砂鉄がよく取れたんよ。それを取るためにな、かんな流しっていって、戦国時代頃から文字通り山を切り崩して、出てきた土を水で流し、その比重の重さで砂鉄と不要な土とをわけたんや。その時、神聖な土地は切り崩すわけにいかず、手付かずになった。それであの丘が残ったというわけなんよ。」


それで、残されたもの…か。


希「このように採れた砂鉄や木炭とかを使って製鉄を行っていた…それがあの建物、じゃないかと思う。製鉄の跡のようなものも見てとれたしな。」


真姫「そうだったのね…」


海未「たたら製鉄というやつですか…話は聞いたことありましたが、初めて見ましたね。」


にこ「私は聞いたことないわね。」


穂乃果「私もないなぁ。」


ことり「私もだよ〜。」

118 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:31:06.53 ID:6DVnHnUi.net
海未「確か、もものけ姫の舞台のモデルになったんじゃなかったでしたっけ。」


にこ「あ!それなら知ってるわ。うちの妹たちと見たことあるわ。」


希「これが平時なら、心置きなく海未ちゃんと見学してたんやけどな…」


海未「そうですね…でも、あまり私たちが入るのはよくないんじゃないですか?」


それは、


希「あ、そうやった。」


どう言うこと?

119 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:32:02.89 ID:6DVnHnUi.net
穂乃果「ちょ、ちょっとっ、説明してくれる?」


希「う、うん。製鉄をする人にとって、あそこは神聖な場所。特に、製鉄なんて技術が今ほど高くなかったから、運頼りなところがあったんよ。それこそ神頼み。ということで、信仰されている神がおったんや。その言い伝えによると、」





希「製鉄をする建物にはな、女性が入ったら神様に祟られるらしいんよ。」

120 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 01:32:27.36 ID:6DVnHnUi.net
穂乃果「あっ……」


ドキッとした。
心臓が飛び出そうだった。


その声は私が思ったより大きかったようで、ことりちゃんは心配そうに見ている。海未ちゃんは怪訝そうな顔をしている。絵里ちゃんは希ちゃんの方を見て、にこちゃんは大きな目を見開いている。真姫ちゃんは俯いていて、花陽ちゃんの視点は動かない。


希ちゃんは__


希「穂乃果ちゃん、話してくれる?」


その目は鋭かった。




121 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:44:45.74 ID:6DVnHnUi.net
穂乃果「凛ちゃんは、昨日の夕方、あそこに入った。それは昨夜、私が聞いた。」


そう、消え入るような声で呟いた。


穂乃果「真姫ちゃん、ごめんね、止めることができなくて。でも許してあげて、凛ちゃんは、真姫ちゃんと仲良くなれたこと、すごく嬉しかったって、昨日言ってたんだよ。」


真姫「そう…」


真姫ちゃんは俯いたまま肩を振るわせた。

122 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:45:09.86 ID:6DVnHnUi.net
私は花陽ちゃんのところへ向かい、


穂乃果「花陽ちゃんも、無理しなくていいからね。」


そう言って抱きしめた。


花陽「うっ…あぁ…!!」


私の背中を掴んで花陽ちゃんは泣いた。
泣いても何も解決しないかもしれない。
ただ私たちには、落ち着けるほどの余裕が欲しかった。


決して罪悪感がないわけじゃない。
凛ちゃん、向こうで怒ってね。




123 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:45:40.83 ID:6DVnHnUi.net
花陽「ありがとうございます。落ち着きました。凛ちゃんが見てたらこんなの私らしくないって、怒られちゃいますから。」


そう言って花陽ちゃんは小さく笑った。


真姫「私も、大丈夫だから。」


花陽「進めてください。」


海未「分かりました…そうすると凛は、あそこに入って祟られ、亡くなってしまった。という線もなきにしもあらず…と。」


希「そうやなぁ…まぁこんな霧の深くて、電波も不自然につながらない…そうすると敵はこの世ならざる者、かもしれんな。」


ことり「この世ならざる者…」


にこ「正気?といつもならツッコむところだけど、こんないかれた状況を考えるとそうも言ってられないわね。」

124 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:46:13.71 ID:6DVnHnUi.net
希「なにせ、分からんことが多すぎるからね。色んな可能性、解決策を打った方がいいと思う。」


皆半信半疑の様子ではあるが、これにも異論はなく進む。そうなると、気になることがある。


穂乃果「この世ならざるものって言ったら…神様とか?」


希「そうやね、神様や幽霊ってところかなぁ。」


穂乃果「それなら、製鉄にまつわる神様って…」


希「うん、金屋子神っていう神様よ。」


聞いたことなかった。前の会話から見るに、海未ちゃんは知っているのか。

125 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:46:44.41 ID:6DVnHnUi.net
ことり「かな…や?」


皆も思い当たらなかったようで、見合わせては首を傾げている。


希「かなやごかみ、濁点がない場合もあるね。これが、この地方一帯で製鉄に従事するひとに信じられてきた神様よ。」


にこ「それってどんな神様なの?おどろおどろしいものなの?」


希「いやいや、白い狐に乗った女の神様って伝わってる。」


海未「…?」


穂乃果「白い、狐。」


また狐だ。

126 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:47:29.49 ID:6DVnHnUi.net
希「また、火の神であるとも言われとるんよ。」


にこ「製鉄だからってことね。」


それは、理解できる。けど、狐に乗る意味は何だろうか。女神と言えばという共通認識があったんだろうか。


当然だが、顎に手を当てる私をよそに話は進む。


希「そういうことやね。あと、さっきも言った通り、女性が鉄を作る場所に入ることは極端に嫌うんよ。あと犬も嫌いみたい。」


ことり「なんで女の人は入れないんだろう…」


海未「相撲の土俵にもそういう考え方がありますよね。」

127 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:47:56.21 ID:6DVnHnUi.net
希「そうやね。この日本では、穢れっていう考え方があるんよ。出産の穢れ、生理の穢れ、そして、死の穢れ。それぞれは順に、白不浄、赤不浄、黒不浄と、忌み嫌われていたんや。そして、女性はそのどれもが当てはまるからって理論やないかなぁ。」


希ちゃんは皆を見渡して続ける。


希「でも、金屋子神は、そのなかでも、黒不浄、つまりは死を好むとされている。」


穂乃果「死を…好む?」


希「そう、だから製鉄がうまくいっていない時なんかには、遺体をその…」


希ちゃんが花陽ちゃんを気にかけるよう一瞥した。花陽ちゃんは小さく大丈夫です。とだけ言った。


希「くくりつけると、いい鉄ができるっていう、言い伝えがあったみたいなんよ。」

128 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:48:28.96 ID:6DVnHnUi.net
海未「どうしてそんなこと…」


希「まぁ今の価値観ではそんなことしても何の意味もないよ。けど、当時は偶然性の強い製鉄。偶然うまくいったときの、今でいう願掛けみたいなもんよ。そこは理解してあげな。」


にこ「ちょ、ちょっと待って!話が変な方向になってるわよ!これからどうするかを考えなきゃいけないんじゃない?」


にこちゃんが慌てながら言ううと、希ちゃんは咳払いをして、話し始める。


希「そうやね、もし金屋子神が犯人だと仮定すると、解決策として、有効かは分からんけど、私がその神に許しを乞いてみるよ。」


にこ「会話でもするっての?。」


希「例えば何か願いがある時、神様に向かって謙ってお願いする定型文みたいなものがあるんよ。」


私は頭の中で、厄年か何かの時、お賽銭の箱の奥空間で正座している時をイメージしていた。

129 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:49:25.02 ID:6DVnHnUi.net
希「もっとも、金屋子神さんに届くかは分からんけどな。ウチの力不足や。」


ことり「そんな!解決策を考えてくれるだけで十分だよ!」


海未「そうですね…これで終わることを願ってます。」


絵里「それじゃ、まとめるわよ。」


そう言って絵里ちゃんは、現状を紙にまとめた。

130 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:49:49.59 ID:6DVnHnUi.net
・外部との連絡は断たれ、私たちはこの館から出られない。
・私たちの中に決定的に疑わしい人はいない。夜にはしっかりと施錠して、霧が晴れるのを待つ。
・凛はたたらの建物に入って祟られたのか、その解決策として、希が祝詞をあげる。

131 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:50:16.83 ID:6DVnHnUi.net
にこ「それじゃ、善は急げよ、早速行きましょう。」


そう言ってにこちゃんが立ち上がる。


花陽「でも…この霧だよ?」


にこ「少しなら大丈夫なはず…そうよね穂乃果。」


穂乃果「うん…数分なら大丈夫。希ちゃん、どれくらいの時間が必要なの?」


希「その数分で、何とかするよ。」


真姫「決まりね。」




132 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:50:56.93 ID:6DVnHnUi.net
たたら場の扉の前に着く。
私たちは横一列で正座して、下を向いて手を合わせている。


その一歩先には希ちゃんがいる。


希「始めるよ。」


これが日本語なのか。
ところどころ意味はわかるが、文脈が掴めない。
ダメだ。お祓いに集中しないと。


凛ちゃん…我が部の元気印。私とは先輩後輩の仲だったけど、意外と共通点も多く、良好な関係を築いてた…と思う。


これから話せないと思うと…やりきれない。だからこそ、強く想いを込めて念じた。


しばらく目を瞑っていると、「よし、終わった。」という声が聞こえてきた。


希「ふぅ、こんなところかな。即席やけどこれで大丈夫なはず。戻ろか。」

133 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:51:43.87 ID:6DVnHnUi.net
いつの間にか終わっていたみたいだ。


辺りを見渡しながら屋敷へ戻る。周りからは咳払いが聞こえてきた。


思えば昨日、あそこから来たんだっけ。
私は昨日を思い出し、歩いて来た道を遠い目で眺めた。


その上に、


あれは、なんだろう。


その道に、立ち入り禁止とでも言わんとするように、頭上くらいの高さで縄がかかっているように見えた。

134 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:52:46.13 ID:6DVnHnUi.net
不思議に思った私は、海未ちゃんに声をかける。


穂乃果「海未ちゃん…あれ、見える?」


海未ちゃんは振り返って、私が指差した方向を見る。しばらく目を細めて


海未「あれは…!穂乃果、誰にも言わないでください。」


と、私の腕を掴み、真剣な眼差しで囁いた。


穂乃果「う、うん。」


もしかして私、見てはいけないものでも見たんだろうか。私の胸の高鳴りをよそに、私たちは屋敷の方に戻った。




135 :名無しで叶える物語(もみじ饅頭):2024/04/29(月) 01:53:05.99 ID:6DVnHnUi.net
今日はここまでです。

136 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 11:36:51.07 ID:lLlReZa7.net
製鉄の事とか、よく知ってるなぁ

137 :名無しで叶える物語:2024/04/29(月) 22:42:41.42 ID:FcDPMoj6.net
希の儀式で収まるといいが

138 :名無しで叶える物語:2024/04/30(火) 02:30:48.96 ID:YOX02C0A.net
この祟りはたたらん
ごめん言ってみただけ

139 :名無しで叶える物語:2024/04/30(火) 12:35:00.02 ID:OHsSpql6.net
>>138
20点やね

140 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/30(火) 23:08:20.41 ID:ADH1N6z2.net
ぐぅ〜…


戻ったや否や、花陽ちゃんのお腹が音を鳴らした。


花陽「あっ…ごめんなさい。お腹空いてて。」


花陽ちゃんは赤面して俯く。


絵里「あら、もうこんな時間なのね。色々なことがありすぎて忘れてたけど。」


絵里ちゃんに言われ時計を見る。
午後5時を指していた。


にこ「…腹が減ってはなんとやらよ!腕によりをかけて作るわ!ことり、行くわよ!」


ことり「はい!にこちゃん、いや、料理長さん!」

141 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/30(火) 23:08:45.21 ID:ADH1N6z2.net
花陽「あ、わたしも。」


花陽ちゃんが立ちあがろうとすると、にこちゃんが手のひらを向けて制止した。


にこ「あんたはゆっくりしておきなさい。」


ことり「私が臨時副料理長を務めます!」


そう言って、2人はキッチンの方へ向かって行った。


花陽「にこちゃん…ことりちゃん…」


俯きながら、噛み締めるように花陽ちゃんは言った。私は隣へ座り、震える背中をさすることしかできなかった。




142 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/30(火) 23:09:14.02 ID:ADH1N6z2.net
各自仮眠を取ったり、話し合いをしていると、キッチンの方からにこちゃんが勢いよく出て来た。


にこ「できたわよ!名付けて、にこにー宇宙No.1…」


ことり「カレーですっ!」


にこ「ちょっと!まだ私が名前を言ってる途中でしょうが!」


言ってる間にも、ことりちゃんは配膳を続けている。にこちゃんは大きく項垂れた。


ことり「はい!穂乃果ちゃん。」


ことりちゃんが目の前に皿を置いてくれた。

143 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/04/30(火) 23:10:00.61 ID:ADH1N6z2.net
穂乃果「こっとりちゃんっ、ありがとう〜!」


いつものあの匂いが唾腺を刺激する。具材が何であれ美味しくなる魔法の食べ物だ。


穂乃果「う〜ん、美味しそう!こういう時はがっつり食べられるカレーだよね!分かってるぅ!」


海未「こういう雰囲気でのカレーは、やはり鉄板ですよね。」


絵里「合宿の時を思い出すわね。」


ことり「しっかり花陽ちゃんはお皿を別にしてるからね!」


花陽「助かります!」


にこ「もう…」

144 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1][新芽](みかか):2024/05/01(水) 00:44:18.25 ID:7/TBAZZm.net
いい書き込みだな

145 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1][新芽](なっとう):2024/05/01(水) 00:50:40.66 ID:YysgpxC8.net
ノリが壊れようがないん?
ストレス溜まってるんや
放課後ていぼうやってほしいわ

146 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 01:31:40.12 ID:afT78erP.net
そういうのは
いいのかもね
社内が狭くて密になるの?ついでにいうと

147 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 02:13:49.86 ID:B4II2yQW.net
そんで謝罪したらただゲームの質はあるんじゃね?

148 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.2][新芽](もんじゃ):2024/05/01(水) 02:28:20.25 ID:jcpYalT9.net
他はシーズン終了したらしく
この前勤務中にカルトサークル勧誘には入れません。
シルバー民主主義やべーよ

149 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.2][新苗](やわらか銀行):2024/05/01(水) 02:37:14.32 ID:OicTOBtN.net
大河はいつもアイドル路線なんだが

150 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.2][新苗](もなむす):2024/05/01(水) 02:37:20.13 ID:2RhdqzTD.net
もっとPCS引かれていいとこで入るお前が悪いんやで

151 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.2][新苗](こんにゃく):2024/05/01(水) 02:44:59.45 ID:TyIOzs7J.net
おまえらばぶすらに言うつもりはないだろ
あのおっさんらは

152 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.2][新苗](しうまい):2024/05/01(水) 02:48:54.01 ID:LaLfI5WC.net
あれはアカンで

153 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.2][新苗](みょ):2024/05/01(水) 02:50:52.06 ID:wiDTHnq+.net
何より
まあNHKでやるんでしょ〜とことん金!
下げ記事ばっかりだし干されてるんだね

154 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 02:59:37.85 ID:a6LqXV8W.net
何かしらの反応気になるタイプ
藤浪が復活してたんじゃないかな
そりゃ画面に行け!と言って1時間足8連続陰線で売ってたな

155 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 03:01:03.40 ID:r+vtTRKq.net
それ誰ともハイグロが足を洗った
そうしてればここにいなかったってことになったおっさんの話ししてる写真がひたすらダサくて泣けるwwwww

156 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 03:03:10.01 ID:rnX7/7Ck.net
ガーシー当選は嬉しいだろ
ガーシーに行くしかなくなったのにリリース日を発表して下さいね
キシダ恥ずかしすぎるw
まさか6学年上のGがかかると警報が本社のPCには合わんかったけどな

157 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 03:04:30.70 ID:UrbG0piW.net
ギャンブルを何か時空歪ませたりしてできんやろか
そっか
でもスカート陸上の前は異様に投げ銭してるやつもいるけど

158 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 03:05:27.69 ID:smJ4LPIr.net
同伴競技者となにが違うんだよな

159 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 03:13:19.05 ID:UrbG0piW.net
時代遅れ
引き続きバリューがマシだね
本国ペンにペンサで叩かれでもしない鉄壁

160 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.6][苗](SIM):2024/05/01(水) 03:44:21.18 ID:jkLwrqUh.net
パーマかけてるんで次スレ立てといたわ
Cygamesも🐴落ち目でやばいの?
もうおっさんが美少女化してたし

161 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1][新芽](もこりん):2024/05/01(水) 03:53:39.77 ID:BVZjZdRD.net
マーリンの女版
水着のジャンヌダルク

162 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.2][新芽](うろん):2024/05/01(水) 04:22:59.95 ID:m+42K+Hq.net
トマト
オリーブオイル
またはぽん酢

163 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1][新芽](SIM):2024/05/01(水) 05:00:50.27 ID:5xDhEgc+.net
盆栽
ダーツ
ビリヤード
まだまだ弾はある

164 :名無しで叶える物語:2024/05/01(水) 12:32:10.38 ID:rFQVEJ9S.net
にこのカレーはうまそう

165 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/05/01(水) 23:23:38.57 ID:gAzOQwQo.net
希「さぁ、それじゃあ合唱しましょか!」


「「「いただきます。」」」


海未「うん!美味しいです!」


穂乃果「結局、空腹は一番のスパイスってことだね。」


にこ「もっと褒めなさい!私を!」


絵里「みんな感謝してるから。ほら、あなたも食べましょう。」


朝の騒動を忘れさせてくれるような光景に、私の心とお腹を満たす。この時だけは、何もかも忘れられるような気がした。




166 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/05/01(水) 23:24:08.47 ID:gAzOQwQo.net
ご飯を食べ終わり、昨日のように各自自由な時間を過ごしている。


にこちゃんは花陽ちゃんが元気になれるように、アイドルの話をしており、希ちゃんと真姫ちゃんはなにやら難しい顔をして、机に肘をついて考え事をしているようだった。


私は海未ちゃんとことりちゃんに話しかけてみることにした。


穂乃果「何やってるの?」


ことり「あ、穂乃果ちゃん。海未ちゃんがさっきの話し合いの時、気になったところがあったみたいで…」


海未「そうなんです。希がさっき言ってた、金屋子神の容姿を覚えていますか?」

167 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/05/01(水) 23:24:29.50 ID:gAzOQwQo.net
穂乃果「あの、狐に乗った女神っていう?」


正直、今はあの縄が気になってしょうがないけど、海未ちゃんに口止めされているので、話を合わせることにした。


海未「そうです。それを、どこかで見た気がして…」


あの時…確かに、金屋子神の風貌を聞いた海未ちゃんは息を吸って考え事をしていたように見えた。


ことり「穂乃果ちゃん心当たりある?」


穂乃果「う〜んそうだなぁ…特に何も思いつかないや。」

168 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭):2024/05/01(水) 23:24:57.88 ID:gAzOQwQo.net
ことり「そうだよねぇ。」


穂乃果「あ、でも昨日、白い狐を見たよ!狐も意外と可愛い顔してるんだね。」


ことり「えぇ〜!いいなぁ。」


穂乃果「そしたら希ちゃんが狐に乗ってる神様とか言うから、もうびっくりしたよ。偶然があるもんだなと思ったよ。」


海未「…それって、どこでですか?」


海未ちゃんが難しい顔をしながら言ので、私は慌てて記憶を探った。


穂乃果「う〜ん、虫取りに夢中で詳しい位置は覚えてないんだよね、気付いたら祠があって、そこで見たよ。」

169 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭):2024/05/01(水) 23:38:38.38 ID:gAzOQwQo.net
あぁ、またどんぐり砲撃たれた。
それとも、連投がいけないんですかね。

ちょっと方法考えます。

170 :名無しで叶える物語:2024/05/02(木) 13:05:02.65 ID:7iydKgLX.net
禁断の地に入ってたのか

171 :名無しで叶える物語:2024/05/02(木) 23:51:58.31 ID:yF/LxThT.net
海未「祠…ですか。」


さらに難しい顔になった。やっぱりあの祠には何かあると考えていいのかな。


ことり「関係があるのかな…穂乃果ちゃん、なにか気になるところとかなかった?」


穂乃果「気になるところか…ちょっと背筋がひんやりする空気だった…としか。」


正直虫取りに夢中で、あまり覚えていないというのが本音だ。


海未「…そうですか。」

172 :名無しで叶える物語:2024/05/02(木) 23:52:27.54 ID:yF/LxThT.net
海未ちゃんは表情を動かさず、考え込むポーズを取る。


ことり「…希ちゃんが解決してくれたから大丈夫だよっ!明日にはきっと霧も晴れてる。」


穂乃果「そうだね。今日1日で色んなことが起きすぎてる。一度頭を休めて、今はそれを願うしかないよ。」


海未「確かにそうですね。」


一抹の不安を抱えながら、2人に断って、私はシャワーを浴びに行った。




173 :名無しで叶える物語:2024/05/02(木) 23:52:56.90 ID:yF/LxThT.net
もうそろそろ24時が近づいていた。
絵里ちゃんと私が、意識を失ったように眠った時刻へ。


私は紙に何かを書いている絵里ちゃんのもとへ向かった。


穂乃果「昨日の続き?」


絵里「あぁ、穂乃果。今は、昨日の続き。亜里沙に送る写真を決めておこうと思って。ほら、今ケータイがあんなじゃない?」


そう言って、絵里ちゃんは黒い画面の携帯をこちらに見せる。


穂乃果「なるほどね。明日には、きっと使えるようになるよ。」


絵里「そうね…なんてったって希のスピリチュアルパワーですもの。あの子の占い、よく当たるのよ。」

174 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:03:27.12 ID:bljon9hP.net
穂乃果「ふふっ。仲良いよね、希ちゃんと。」


絵里「一年生からの仲ってのもあるわね。まぁ、あなた達3人には勝てないけど。」


絵里ちゃんが私に笑顔を向ける。海未ちゃんとことりちゃんは小さい頃からの仲だ。でも、そんなのは関係ない。


穂乃果「長さじゃないよ、こういうのは。」


そう言うと絵里ちゃんはそうね、と呟いて、遠い目をした。


私は時計をチラ見して、前屈みになり口に手を当てる。内緒話のジェスチャーだ。


穂乃果「…もうそろそろだね。日付が変わるの。」

175 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:03:57.30 ID:bljon9hP.net
絵里ちゃんは私の言わんとすることが伝わったようで、


絵里「言ったでしょ、希のスピリチュアルパワーはすごいの。それに、昨日のは疲れてただけ。きっとそうよ。」


手元のメモを見ながら、絵里ちゃんは言った。


穂乃果「そうだね…とにかく、何事もないことを祈ろう。」


絵里「穂乃果、じゃあわたしはそろそろ。」


穂乃果「うん、おやすみなさい。」


絵里「おやすみなさい。」


絵里ちゃんは皆にも挨拶し、自室へと登って行った。




176 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:08:23.74 ID:bljon9hP.net
その後、私はしっかりと施錠していることを確認して、残った皆ととそれぞれ個室へと入っていった。


私は布団にくるまり、考える。
この霧が、明日も晴れなかったら。


こんな事態になってるんだ。
何が起きても不思議じゃない。


霧が晴れず、誰かが死んで…


いや、もしかしたら私の番かも知れない。


嫌だよ…
私…もうちょっとみんなと一緒にいたい。


みんなと、歌いたい。


μ'sとして…

177 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:08:51.38 ID:bljon9hP.net
…あ、でも凛ちゃんはもう…
私たちが運命の糸を手繰り寄せあって、出会った奇跡が、こんな理不尽に崩れていいのか。


一度しまっていた、やりきれない気持ちが込み上げてくる。もう2度と、ステージに立つことは叶わないのか。


穂乃果「っく…ひぐっ…」


とめどなく、涙が溢れてきた。


みんな前では、と胸を張っていたけど、1人になっちゃうと…こんなにも…

178 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:09:21.68 ID:bljon9hP.net
トントン

179 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:09:51.21 ID:bljon9hP.net
ノックの音が部屋中に響く。
突然のことに全身が固まり、感覚が研ぎ澄まされる。


まさか、次は私の番だったのか…!
まずい…どうすれば、窓から出るか!?


空回りする私の頭をよそに、扉の向こうからは聞き慣れた安心する声が聞こえてきた。


「穂乃果…ちょっといいですか。」


穂乃果「海未ちゃん…!」


安堵で重くなった身体を起き上がらせ、袖で涙を拭き、扉を開ける。


そこには、人差し指を口に当てる海未ちゃんが立っていた。

180 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:14:17.97 ID:bljon9hP.net
海未「あの縄の件です。少しお時間いただけますか。」


小声でそう言う海未ちゃんは、少し汗ばんでおり、息づかいも荒い。


穂乃果「もちろんだよ。さ、入って。」


私は海未ちゃんを布団の方に促そうとするが、


海未「いえ、ちょっとついて来てください。」


穂乃果「ど、どうしたの?」


言うが早いか、海未ちゃんは私の手を引き、向かった先は、あの縄の下だった。

181 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:14:55.37 ID:bljon9hP.net
海未ちゃんが暗闇から縄だけを切り取る。近くでよくみると結構厚みがある。紙垂もあり、神社でよくみるような形だ。


…いや、なんだろう。少し違和感がある。
私たちがよく踊りの練習をしてきた、神田明神とは。


その違和感は風の音に乗って、暗闇にに消え去った。空気を切る音が響いている。


両脇には黒い木々が揺れ動き、隣には黒い水が流れていいる。私たちが昨日歩いて来た道だ。


夜になるとやっぱり少し怖い。


海未「ちょっと見ててくださいね。」


海未ちゃんは懐中電灯を私に預け、道の方を照らすよう指示する。


呆気に取られる私をよそに、海未ちゃんは、助走をつけ一気に走り出した。

182 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:15:56.51 ID:bljon9hP.net
あの道の先に向かって、縄の下を抜けていく…
夜の闇に消えたと思ったら、回れ右をしたのか返ってきた。


穂乃果「ん?今何をしたの?」


海未「私は、戻ったわけじゃないんです。」


海未ちゃんの言ってることがさっぱりわからない。要領を得てない顔をしていたのがバレたのか、海未ちゃんは頷きながら、


海未「百聞は一見にしかず。穂乃果も向こうに走って行ってみて下さい。」


と言った。


意味がよくわからない。確かに海未ちゃんはこちら向きで走って来たはずだ。


きっとそれは、向こうで方向転換したからなはずで…

183 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:16:26.60 ID:bljon9hP.net
穂乃果「え〜、やだよ、怖いし。」


夜の森は想像以上に暗い。いつもの街灯が点いてる夜道とは暗さのレベルが違う。藪の中から何か出てきそうな、そんな恐ろしさがある。


海未「お願いします。」


穂乃果「わかったよ…」


よく分からないけど、海未ちゃんの真剣な目に背中を押され、つま先を2、3度地面に打ちつける。


穂乃果「じゃ、じゃあいくよ。」


海未「懐中電灯を照らして待ってます。」


縄の下を潜り抜け、夜の闇に紛れる。
彩度の消えた、明暗だけで彩られた世界の中、湿った風を切り裂いて、下っていく。


穂乃果「何も見えない…山肌に落ちたらどうしよう。」


相変わらずのガタガタ道だ。来た時と同じように、足をくじきそうになる。

184 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:16:54.45 ID:bljon9hP.net
穂乃果「おっと…」


夜であることや、霧も相まって、見通しが悪い。目が光を捉えることだけに集中している。


あ、光が見えた。街灯か?いや、それにしては位置が低い。腰の高さくらいだ。それに、麓までこんなに短かったっけ。真姫ちゃんによれば分岐してるはずじゃ…


海未「おかえりなさい。穂乃果。」


整理がつかないまま、海未ちゃんと対面する。私はしばらく固まったように何も喋れなくなっていた。


穂乃果「えぇ!?わ、私、まっすぐ走って行ってたよ…?どういうこと、信じられない…!」


ややあって、ようやく喋れるまで脳が回復してきた。同時に私はどっと疲れを感じ、片膝をつく。顎の先から汗が滴り落ちた。


海未ちゃんはしゃがんで背中に手を当ててくれた。汗で背筋がヒヤリとした。

185 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:17:41.33 ID:bljon9hP.net
海未「気持ちは分かります…私も、最初試した時は、気でもおかしくなったかと思いました。でも、山のほうに入ろうにも、この縄は木々を伝っているのがわかります。おそらく、円を描くように。」


海未ちゃんは懐中電灯で、伝うように暗闇に縄を映している。


周囲の木々に、ずらっと縄が張られているのが見えた。


まるで巨大な蛇のしめつけられてるかのようだった。正にここは、獲物を抜け出せなくするためのとぐろの中だ。


穂乃果「もしかして、海未ちゃん。私たち…閉じ込められてる?」


海未「そう、なるでしょうね。それも、ここが現世かどうかすら不明です。」

186 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:18:07.02 ID:bljon9hP.net
元の肉体はとうにあの世に…って笑えない冗談だ。


穂乃果「そうなると、敵は次元を超越した力の持ち主…ってことになるね。やっぱり希ちゃんの言ってた神様か何かなのかな。」


海未「…とりあえず、霧もありますし、いつまでもここにいるのは危険です。一旦穂乃果の部屋に戻りましょう。」


穂乃果「う、うん…」


海未ちゃんの後ろを歩く。
その間も会話はなく、1人で考える時間はあったものの、全く考えはまとまらなかった。


私の頭の中には、砂利を蹴る足音だけが響いていた。




187 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:19:52.98 ID:bljon9hP.net
海未「あの縄はおそらく、道切りと呼ばれるものです。」


私の部室の布団の上に座ると、海未ちゃんは間髪入れずに言う。


穂乃果「道切り?」


私も向かい合うように座り、問うた。


海未「昔から農村では、病気や邪気などのよくないものが、外から入ってくると信じられて来ました。そして、先ほどのように、道の上に縄を垂らすんです。『ここから先は神の領域だから入ってはいけないぞ。』と言う意思表示ですね。一種の魔除けのようなものです。」


穂乃果「魔除け…狛犬みたいなものなの?」

188 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:20:24.66 ID:bljon9hP.net
海未「そうなりますね。しかし、狛犬などとは違って、その縄…注連縄の役割は境界を示すことにあります。もっとも、藁で作った蛇や、草鞋を使用する場合もありますが。」


威嚇して魔を追い払うんじゃなくて、単に境界を示しているってことか…


穂乃果「自分たちの陣地を、その良くないもの達に伝えるためってことでいい?」


海未「そのイメージで大丈夫です。」


海未「それなら、鳥居でもいいはずじゃない?」


海未「意味は大体同じですが…病気が蔓延するのを防ぐための、一時的なものなので、注連縄を用いたんじゃないかと。」


なるほど…鳥居を建設するまでの時間差もある。鳥居が完成する前に病気が入ってきたら…本末転倒だろう。

189 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:20:57.55 ID:bljon9hP.net
道の上に注連縄を垂らす…でもさっき見たのは、木々を伝って囲うように縄が設置されていた。そこは道でもないのにも関わらずだ。


私はそのことを海未ちゃんに質問してみた。


海未「そこなんですよね…本来なら、道の上だけで事足りるはずなんです…何か、執念じみたものを感じます…そもそも、それなら私たちはこんな状況に陥ってるのか説明がつかない…」


海未ちゃんが顎に手を当てて、眉間に皺を寄せている。


魔が外から入ってくるなら、道切りがあるにも関わらず、私たちに災厄が降り注いでいる理由が説明できない。


内は私たち、縄を超えた先は…外。


いや、


穂乃果「もしかして…逆なんじゃない?」

190 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:21:33.33 ID:bljon9hP.net
海未「…どういう意味ですか?」


穂乃果「主観的に見ると、私たちが内で縄を挟んで外だよね。」


海未「…そうなりますね。」


穂乃果「でも、縄の中には間違いなく魔が充満しているでしょ?私たちが、外なんだよ。私たちが災いをもたらす方と思われていて、ここから脱出できないようにしている、んじゃないかな。」


海未「…なぜです?」


穂乃果「それは…分からないけど…」


海未「そうだとすると…笑えない状況ですね。しかも、もう2つの推測が浮かびます。」


穂乃果「なに?」

191 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:22:05.54 ID:bljon9hP.net
海未「一つ目は、先ほども見た通り、この世界は何かしらの結界の中にあり、私たちが知る現世とは違うこと。」


その通りだろう。
結界かなんだか知らないが、最早私たちの常識が通用する場所、相手ではない。


海未「そして、もし、この世界に私たち以外いないとなると…犯人は、μ'sの中にいる。」


穂乃果「待って、あの意味の分からない超能力を持ってる人がμ'sにいるっていうこと?」


海未「いや、おそらくですが、μ'sにはそんな人いないでしょう。」


穂乃果「だったら!」

192 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:23:39.19 ID:bljon9hP.net
海未「ただ、神とでも言いましょうか。あくまでその上位存在は、場を作ってるだけ、なんじゃないかと。」


穂乃果「殺させるような状況を作り出すけど、実行犯は人間と…」


海未「あくまで可能性ですけどね。」


空いた口が塞がらない。背筋に冷たいものを感じた。


それは海未ちゃんもだったようで、2人の間に沈黙が流れる。唾さえ飲み込めないほどだった。


穂乃果「その説だと、殺人犯も自主的に殺しているわけじゃないってことだよね。」


なぜこんなことを言ったのか分からない。海未ちゃんは訝しんだ顔でこちらを見て、そうですね、とだけ答える。

193 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:24:05.18 ID:bljon9hP.net
穂乃果「私たちの中にいたのが確定したら…どうする?」


聞いたはいいが、私ですら答えを持っていなかった。


海未「穂乃果はどうなんです。」


穂乃果「私は…」


許したい。と喉まで出ていたところで、飲み込んでしまった。ことりちゃん、海未ちゃんが殺されたらと思うと…気が狂ってしまいそうだった。


分かってる。今私は明確に命の順番をつけてしまった。最低だ。既に1人犠牲が出たというのに。


穂乃果「分からない…」


そう、項垂れて言った。

194 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:24:33.45 ID:bljon9hP.net
海未「無理もないですよ。あなたは悪くありません。それはμ'sの全員に言えることです。悪いのは、この状況を作り出した存在です…ただ、これだけは忘れないで。貴女は、いつまでも優しい、そのままの穂乃果でいてほしい。」


穂乃果「海未ちゃん…」


そんな、縁起でもないこと言わないでよ。


穂乃果「約束、守れるか分からないよ?」


海未「大丈夫です。貴女なら。」


そう言って、私の肩に手を乗せ見つめる海未ちゃんには、少なからず確信が込められている気がした。


こんなでもμ'sのリーダーなんだ。最悪な結果だけは避けなければならない。私は胸に手を当て、海未ちゃんに微笑み返した。

195 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:25:04.07 ID:bljon9hP.net
穂乃果「…明日、みんなで外を探してみる?」


言った後思う、何も誰も出てこなかったら。それは、終わりの始まりだ。


海未「どう…なんですかね。混乱を招くのは明らかですし、ひとまず隠しておくほうが得策かと思います。」


穂乃果「隠し事みたいで嫌だけど、仕方ないね。なんだかんだ明日になったら霧が晴れてるかもしれないし。絵里ちゃんも言ってたよ、希ちゃんのスピリチュアルパワーはすごいって。」


私は精一杯の笑顔を作った…つもりだった。海未ちゃんは見透かしたように、悲しそうに笑って、


海未「…それもそうですね、今は考え込んでも仕方ありません。」


と言った。


気まずくなったのと、現実逃避したい気持ちもあり、ふいに時計を見る。

196 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:25:31.08 ID:bljon9hP.net
もう数秒で12時を示していた。
もうこんな時間…
12時…あ!


穂乃果「海未ちゃん、まずい!あっ…」


目の前の視界が捻じ曲がる。
強烈な眠気が私を襲った。


くそ、また。
ダメだった、か。


振り向こうとしながら倒れる海未ちゃんを最後に、私は意識を失った。



……
………

197 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:26:33.11 ID:bljon9hP.net
穂乃果「はっ!」


パジャマが汗でぐっしょりと濡れている。
体を動かすたびにひんやりして気持ち悪い。


そんなこと気にしている場合じゃない。まずは霧だ。晴れていたらすぐに麓に降りよう、それで、全て終わるはずだ。


海未「穂乃果、起きましたか。」


穂乃果「うわぁ!びっくりした。」


横には少し寝癖のついた海未ちゃんが座っていた。珍しい姿だ。


穂乃果「あれ、海未ちゃん?あ、そっか…」


昨日ここで12時を迎えたのだった。


海未「そういうことです。変な体制で数時間も眠ってたようですね…おかげで、身体中が音を立ててますよ。」

198 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:26:59.43 ID:bljon9hP.net
海未ちゃんが首や腕を動かすたびに、乾いた破裂音が響く。


海未「しかし、これではっきりしましたね。やはりこの世界は、普通じゃなさそうです。」


注連縄の怪異と、この決まった時間の気絶…この世ならざる者が介入している証拠としては十分だ。


ただ、まだ唯一の希望がある。


穂乃果「居間に出て、外を確認しよう。」


海未ちゃんは、私が言わんとすることを理解したようで、流し目で頷いた。

199 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:27:26.48 ID:bljon9hP.net
階段を降りると、既ににこちゃんと希ちゃんがおり、にこちゃんはテーブルに頬杖をしている。双方憔悴しきっており、お世辞にもよく眠れたとは言えなかった。


にこ「穂乃果、海未、おはよう。」


希「おはよ〜。」


渇いた声で挨拶をする。


穂乃果「おはよう。」


海未「おはようございます。」


それは私たちの声も同様だった。


にこ「ダメよ。まだ。」


私が窓の方へ歩くのを見て、察したのようににこちゃんがテーブルに目を向けたまま言った。

200 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:27:57.13 ID:bljon9hP.net
希「相変わらずや。でも、この時間帯なら、自然現象って筋もあるけどな。」


にこ「ほんと、そう願うわ。」


にこちゃんは、諦めたように机に突っ伏してしまった。


海未「…2人とも、あまり眠れてなさそうですね。」


にこ「当然よ…って、あんたもでしょ。」


希「やっぱり、12時で意識が飛ぶのは間違いなさそうやな。昨日は形式上でも、疑うような真似してごめん。」


希ちゃんが机に手を当てて頭を下げた。希ちゃんは立場上やらざるを得なかったんだ。私には責める感情なんてない。

201 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:29:03.75 ID:bljon9hP.net
穂乃果「いや!全然気にしないで、大丈夫だよ。」


私が海未ちゃんに目を合わせると、頷きで返事をしてくれた。


昨夜は海未ちゃんとほぼ同時に、麻酔のように意識が飛んでいったことを明かした。


にこ「どうやって…なんでそんなこと…」


にこちゃんは窓の外のたたら場の方を見やる。


希「どうやら本腰入れて取り掛かる必要がありそうやな。」


にこ「本腰ったって…このままじゃ霧を掴むようなものよ?」


希「その霧を、晴らすんじゃなく、具現化するんや。絶対に正体を暴いてみせる。」

202 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:29:39.64 ID:bljon9hP.net
海未「霧…ですか。」


穂乃果「頼りにしてるよ。」


希「と言っても、まだまだ手がかりは掴めてないんやけどね。」アハハ


にこ「前途多難ね…」


苦笑いだが、笑いは笑いだ。
こうやって少しずつ、日常に戻していければ。
私はそう願った。


でも、


薄々皆気がついてるかもしれない。
昨日と全く条件が同じであるならば__

203 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:30:51.34 ID:bljon9hP.net
しかし、それだけは冗談でも言える気にならず、押し黙ることしかできなかった。


そして時間が経つにつれ、ことりちゃん、花陽ちゃんが降りてきた。





そして、真姫ちゃんが降りてきて、


ダッッ


瞬間、希ちゃんは真姫ちゃんを押し退けて階段を駆け上る。


危なっかしいその背中に、振り解かれないよう私も階段を蹴った。


階段を登り終わり、薄暗い廊下の方を見ると、ちょうど希ちゃんが絵里ちゃんの部屋の扉を開けようとするところだった。

204 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:32:35.49 ID:bljon9hP.net
希「えりち!!!」


私も少し遅れて、駆け込むように部屋の中を見る。希ちゃんの口は大きく開いている。


穂乃果「の、希ちゃん…!これ…また…!」


絵里ちゃんの部屋には、誰もいなかった。


目を瞑って数秒深呼吸する希ちゃん。
その息は少し震えていた。


海未「どうかしましたか!?…これ…!」


ことり「絵里ちゃん…嘘…」


にこ「くそッ…」


真姫「絵里…」


花陽「…」

205 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:33:06.38 ID:bljon9hP.net
皆も私達に追いついたようで、思い思いの方法で不平を表していた。


希「行こう。」


意を決したのか、希ちゃんが歩き始める。
それにつられるように私たちは一列で歩いた。
向かう先は、


あの建物だ。


昨日と同じ、霧が深い中歩みを進める。希ちゃんが扉を開け、中を見渡すと、


凛ちゃんの左隣の柱に、絵里ちゃんが括られていた__



……
………

206 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:33:47.13 ID:bljon9hP.net
にこ「終わったんじゃなかったの!?」


玄関の扉を閉めたにこちゃんは、焦ったように言った。その唇は震えており、焦燥が他の人にも伝播する。


ことり「私たち…これから1人ずつ…?」


真姫「もう、終わりなのよ…」


霧はまだ晴れない。


夜に意識を失う。起きたら誰かの死体を発見する。それがこの世界の普通らしい。


次は私の番だと考えるのは、自然なことだった。

207 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:34:15.13 ID:bljon9hP.net
海未「お、落ち着いて下さい。」


海未ちゃんが宥めるも、もはや聞く耳を持たない。しゃがみ込んで肩を振るわせるだけだった。


花陽「…」


穂乃果「みんな、やめてよ…!仲間割れしても良いことないって!こんなんじゃ、相手の思う壺だよ!?」


にこ「相手って誰よ!神様だか何だか知らないけど、そんなもの信じれると思う!?」


海未「この状況をこの中の誰が作れるというんですか!」


にこ「そんなの私が知ったこっちゃないわよ!」

208 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:34:50.68 ID:bljon9hP.net
まずい、みんなの緊張度が上がっている。誰かが叫ぶたびにことりちゃんは身体を震わせている。


海未「それに抗うには、私たちが一枚岩になって、解決策を探らなきゃいけないんですよ!ことりもそんなこと言わずに元気出してください!」


ことり「むりだよ…絵里ちゃんが死んじゃった、凛ちゃんも死んじゃった。このまま私たちも。」


海未「ことり!しっかりしてください!」


にこ「それにね、言っちゃ悪いけど、外も霧で覆われて、おそらく外から誰も入ってこれないこの異常な状況で、こんなことがおきたら、普通…」


ダメだ。それ以上は。


穂乃果「にこちゃん!」

209 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:35:26.13 ID:bljon9hP.net
私の後、会話を紡ぐ人はいなかった。息遣いだけが壁に反響している。


にこ「…ごめん。私麓を目指してみる。」


玄関の扉を開けようとするにこちゃんの右手を掴んだのは、海未ちゃんだった。


海未「そんな!危険です!」


にこ「もう助かるにはこれしかないの。無理とわかっても何か行動しないと。私は行くわ。」


海未「あっ。」


説得虚しく、海未ちゃんの手を振り解いて、またも外に出ようとした。


希「それまでや、にこっち。」

210 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:35:53.32 ID:bljon9hP.net
その声で、足が止まる。


希ちゃんは、目を開いたまま、その赤い目から頬にこぼれ落ちるものを一瞥もくれず、にこちゃんをじっと見てもう一度、


希「それまでや。」


と言った。
決意を持った希ちゃんの目に、皆が吸い寄せられている。


希「行っても、無駄や。」


真姫「どう言うことよ。」


希「この世界からは出られんよ。いや、この結界の中からは。」

211 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:36:33.08 ID:bljon9hP.net
穂乃果「え、いやそれは。」


海未「希!あなたまさか…!」


希ちゃんも気づいているの!?いつからだろう。タイミングとしては私が気付いた時かな…でも試すような時間があったとは思えない…


希「やっぱり海未ちゃん、気付いてたんやね。人が悪いやん。」


そう言って力なく笑う希ちゃん。


にこ「はぁ?あんたら何言って__」


希「そこまで言うなら行ってみるといいよ。」


にこ「…どういうことよ、海未。」

212 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:37:12.59 ID:bljon9hP.net
海未ちゃんは昨日のやりとりを皆に語った。にこちゃんはみるみる顔色が薄くなっていく。花陽ちゃんは途中目眩を起こして、真姫ちゃんに介抱されていた。


にこ「なにかの冗談でしょ…」


花陽「ど、どうなってるの…」


真姫「こうなったら、その結界とやらの中を徹底的に探し回るしかないでしょ。」


当然そうなるだろう。私からするとそれは避けたいんだけどな…


私が喋るより前に、希ちゃんの口が開いた。


希「それもええけど、何も出てくるとは思えんなぁ。」

213 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:37:56.10 ID:bljon9hP.net
ことり「そもそもこの世界を作ったのも、そのこの世ならざる者、なのかな。」


希「…分からないことを語っても仕方ないやん。分かることから並べていこう。今日は、えりちが犠牲になった。これで、凛ちゃんと合わせて2人よ。敵が何者かはわからない。ただ、絶対に正体を暴いてみせる。これは、"人間"からの宣戦布告や。」


鬼気迫る希ちゃんの言動で、皆に緊張が走る。
人間、と言うのを強調した物言いには、強いメッセージが込められていた。


にこ「ちょっと、外出て来るわ…」


海未「あ、だからにこ!」


駆け寄る海未ちゃんの方は向かなかったが、にこちゃんは歩みを止めた。


にこ「悪かったわね。海未。ちょっと頭を冷やしてくるわ。」


そう言い残して、後手で扉を閉めた。

214 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:38:25.40 ID:bljon9hP.net
希「さぁ、上がろ。」


穂乃果「…うん。」


希ちゃんは段差を上り、障子の奥へ消えていった。その背中は丸くなっていた。


私はことりちゃんに手を差し伸べる。その手を取り、お礼を言いながらことりちゃんは立ち上がった。


横を見ると、真姫ちゃんは花陽ちゃんに何か囁いて、立ち上がらせていた。


穂乃果「行こう。」


なんとか私たちは、首の皮一枚で、まとまることができた。




215 :名無しで叶える物語:2024/05/03(金) 00:43:33.57 ID:bljon9hP.net
今日はここまでです。
漸く物語は中盤に差し掛かります。

216 :名無しで叶える物語 警備員[Lv.5(前14)][苗](茸):2024/05/03(金) 13:40:19.89 ID:evd0Ej3s.net
そりゃ怖いと不安になるよね

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