「愛国者」とは何か　 [疣痔★]

疣痔 ★

「愛党」だけが「愛国」か…中国総局長　吉田健一
2021/03/28

　作家・太宰治の作品に、最近の香港情勢と重なる一節がある。日本留学時代の若き魯迅を描いた伝記小説「惜別」。
太宰はそのなかで、後に中国を代表する作家となる魯迅にこう語らせている。

　〈真の愛国者は、かえって国の悪口を言うものですからね〉

　中国の全国人民代表大会（全人代＝国会）が今月、香港の民主派を政界から排除する選挙制度への見直しを決めた。
「愛国者」でなければ、香港政府トップの行政長官を選ぶ選挙や立法会（議会）の選挙に出られなくなる。

　「愛国者」とは何か。

　「愛国者の基準は、自民族を尊重し、祖国による香港の主権回復を誠心誠意支持し、香港の繁栄と安定を損なわないことだ」

　習近平政権高官は先月、トウ小平が香港返還前に「愛国者による香港統治」を求めたこの発言を引きつつ、
「愛国者は国家の主権や安全を守らねばならない」などと定義するにとどめた。
　あいまいにしたのは、「愛国者」か否かの判断を政権側が握るためなのだろう。

　実は香港の民主派に愛国者を自任する人は多い。天安門事件（１９８９年）の追悼集会を毎年主催する
民主派団体の名も「香港市民支援愛国民主運動連合会」（支連会）と、「愛国」を含んでいる。
　自らのルーツである中国を愛するがゆえに、批判するのだ。

　支連会を長年率いた故・司徒華さんの言葉を思う。

　「祖国は愛するが、国民に銃口を向けた共産党政権を愛する義理はない」。
習政権が言う「愛国者」と、香港民主派の愛国者との根本的な違いがここにある。
　「愛国」と「愛党」の一致を求める習政権は、司徒さんのような「愛国・不愛党」でも許せない。

　先の高官は触れなかったが、トウの言葉はこう続く。

　「これらの条件さえ備えていれば、資本主義者であれ、封建主義者であれ、奴隷主義者であれ、愛国者だ。
彼らが皆、中国の社会主義制度に賛成することを要求しない。祖国と香港を愛することだけを求める」

　いまから見ると、なんと寛容なことか。

　トウが「傑作」と称賛した香港基本法（憲法に相当）は、行政長官、立法会とも普通選挙で選ぶことを民主化の最終目標にうたっている。
候補者に「愛国者」という一方的な枠をはめたことで、民主化は完全に遠のいた。

　選挙制度見直しに関する全人代決定の提案説明にはこうあった。
「『愛国者による香港統治』ができて初めて、香港は中華民族の偉大な復興の実現にしかるべき貢献をすることができる」

　「中華民族の偉大な復興」は、習政権が掲げるスローガンだ。上からの大号令が、「真の愛国者」の憂国の叫びをかき消してゆく。

https://www.yomiuri.co.jp/world/20210328-OYT1T50005/

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