どんなスイカも種なしに　日本発の花粉技術　韓国で人気 [きつねうどん★]

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　スイカの生産量が日本の1・7倍に上る韓国で、種なしの高級スイカを生産する農家が増えている。食べる際に種を取り除く手間がいらない上に一般的な種ありスイカより甘く、人気も上々という。韓国のスイカ農家を陰で支えているのが、日本で開発され、福岡県の農機具メーカーが作る特殊な花粉の技術だ。

　花粉は日本政府の研究機関である国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構（農研機構）が1997年に開発した。種ありスイカの花から採取した花粉に「軟X線」と呼ばれる透過力の弱いX線を照射することで、種を作る機能を低下させる。冷凍保存することも可能で、この花粉を使って受粉させると、どんな品種のスイカも種なしになるという。「しいな」という白くて薄い種が残るが、黒い種のように取り除く必要はなく、そのまま食べられる。

　「種ありと種なしのスイカを食べ比べると、種なしの方が食べやすく、甘さも上品なのが分かると思います」。農研機構から特許許諾を受け、2013年から花粉の生産と販売を始めた福岡県広川町の農機具メーカー「オーレック」の命婦（めいふ）江里子さん（43）が胸を張る。命婦さんは以前勤めていたベンチャー企業でかんきつ類や柿などの種なし果物の研究・開発に取り組み、オーレックでは種なしスイカの花粉生産を担当。種なしスイカは、種に使われるはずの養分も実の成長に向かうため、一般的なスイカより糖度が0・5度～2度以上高くなるという研究結果がある。

　ただ今のところ、国内の農家でオーレックの花粉を利用しているのは数軒にとどまる。ネックは受粉に手間がかかることだ。種ありスイカの受粉はミツバチ任せだが、種なしスイカを作るためには解凍した花粉を一つ一つ手作業で雌花に付けて受粉させなければならず、人手が必要な分、スイカの販売価格も高くならざるを得ない。高齢化でそもそもスイカ農家が減少している。

　一方、人口は日本の半分以下なのに需要が日本以上に多い韓国では、多少高くなっても種なしスイカが受け入れられる素地があった。14年に韓国国内でスイカ生産量1位の咸安（ハムアン）郡がオーレックの花粉を購入したのを皮切りに、16年からは西部・井邑（チョンウプ）市の農協が主導して地域全体で生産を始め、ブランド化にも取り組んでいる。

　オーレックが花粉出荷量から算出する種なしスイカの生産量は13年の約3万個から20年には20万個以上に増え、そのうちの約9割は韓国での生産という。井邑市農協によると、今年のスイカ生産量の2～3割が種なしで、取引価格は種ありの1キロ当たり日本円で150～180円程度に対し、種なしは同250～270円。スーパーなどの店頭では1玉2000～3000円程度で並ぶ。

　実は戦時中の1942年に、遺伝学の権威で京都帝国大（現京都大）農学部の教授だった木原均博士が品種改良によるスイカの種なし化に成功している。人件費の安い東南アジアなどでは種なしスイカの生産が広がったが、国内では栽培の難しさやコスト高などもあってあまり普及しなかった経緯がある。

　だが、命婦さんは花粉を使った新しい種なしスイカの技術は今後、国内でも広がると期待する。「少子化で家族の人数が減ったことや、高齢者だけの家庭が増えたことで、近年はカットして販売されるスイカが増えた。種なしスイカはカットしても種の部分から実が崩れて果汁が出ることがなく、見た目もきれい。種なしスイカの味や食べやすさを知ってもらえれば需要は伸びるはずです」

　花粉はオーレックのホームページから個人でも購入でき、家庭菜園で毎年栽培に取り組んでいる人もいるという。命婦さんは「種ありと種なしスイカを作って食べ比べてみるのも楽しいと思う」と話した。【末永麻裕】

https://mainichi.jp/articles/20210909/k00/00m/040/085000c

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