FFDQバトルロワイアル3rd PART20
- 1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:06:52.97 ID:g0znu/HZu
- ━━━━━説明━━━━━
こちらはDQ・FF世界でバトルロワイアルが開催されたら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。
参加資格は全員、
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
sage進行でお願いします。
詳しい説明は>>2-15…ぐらい。
前スレ
FFDQバトルロワイアル3rd PART19
http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/ff/1445944627/l50
- 2 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:07:35.28 ID:g0znu/HZu
- +基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員に、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン>が支給される。
また、ランダムで選ばれた<武器>が1〜3個渡される。
<ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る。
・生存者が一名になった時点で、主催者が待つ場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。
+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・日没時に発表される『禁止技』を使うと爆発する。
・日の出時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても爆発する。
・魔法や爆発に巻き込まれても誘爆はしない。
・首輪を外しても、脱出魔法で会場外に出たり禁止魔法を使用することはできない。
+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。
- 3 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:08:16.67 ID:g0znu/HZu
- +ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。
+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ
+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイアルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。
現在の舞台は闇の世界(DQ4)
ttp://www43.atwiki.jp/ichinichiittai?cmd=upload&act=open&pageid=16&file=%E9%97%87%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C.PNG
地図CGIはこちら
ttp://r0109.sitemix.jp/ffdqbr3/
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
- 4 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:09:13.25 ID:g0znu/HZu
- 書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
- 5 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:09:50.07 ID:g0znu/HZu
- 書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
(今までの話を平均すると、回復魔法使用+半日費やして6〜8割といったところです)
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
+修正に関して+
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、
「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」
以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
- 6 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:10:15.44 ID:g0znu/HZu
- +議論の時の心得+
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
+読み手の心得+
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・嫌な気分になったら、モーグリ(ぬいぐるみも可)をふかふかしてマターリしてください。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
- 7 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:10:41.38 ID:g0znu/HZu
- 参加者名簿(名前の後についている数字は投票数)
FF1 4名:ビッケ、スーパーモンク、ガーランド、白魔道士
FF2 6名:フリオニール(2)、マティウス、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:ナイト、赤魔道士、デッシュ、ドーガ、ハイン(2)、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス(2)、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス
DQ1 3名:勇者、ローラ、竜王
DQ2 3名:ローレシア王子、サマルトリア王子、ムーンブルク王女
DQ3 6名:オルテガ、男勇者、男賢者、女僧侶、男盗賊、カンダタ
DQ4 9名:男勇者、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン(2)、主人公(2)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、王子、王女、ビアンカ、はぐりん、ピエール、マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー(2)、ミレーユ、主人公、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア(2)、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ
FF 78名 DQ 61名
計 139名
- 8 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:17:26.71 ID:g0znu/HZu
- 生存者リスト (名前に※がついているキャラは首輪解除済み)
FF1 0/4名:(全滅)
FF2 0/6名:(全滅)
FF3 1/8名:ザンデ
FF4 0/7名:(全滅)
FF5 2/7名:バッツ、ギード
FF6 4/12名:※リルム、※マッシュ、ロック、ケフカ
FF7 1/10名:セフィロス
FF8 3/6名:※スコール、アーヴァイン、サイファー
FF9 0/8名:(全滅)
FF10 0/3名:(全滅)
FF10-2 1/3名:リュック
FFT 2/4名:※アルガス、ラムザ
DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 0/3名:(全滅)
DQ3 1/6名:セージ
DQ4 2/9名:ソロ、※ロザリー
DQ5 2/15名:ヘンリー、※プサン
DQ6 0/11名:(全滅)
DQ7 0/5名:(全滅)
DQM 0/5名:(全滅)
DQCH 0/4名:(全滅)
FF 13/78名 DQ 5/61名
うち首輪解除済み:6名 会場外:1名
計 12(19)/139名
- 9 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:18:34.58 ID:g0znu/HZu
- ■過去スレ
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1099057287/ PART1
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101461772/ PART2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1105260916/ PART3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1113148481/ PART4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1119462370/ PART5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1123321744/ PART6
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1128065596/ PART7
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1130874480/ PART8
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142829053/ PART9
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1143513429/ PART10
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1157809234/ PART11
http://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1179230308/ PART12
http://game13.2ch.net/test/read.cgi/ff/1208077421/ PART13
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1218211059/ PART14
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1249315531/ PART15
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1295278544/ PART16
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1348887405/ PART17
http://wktk.2ch.net/test/read.cgi/ff/1377534553/ PART18
FFDQバトルロワイアル裏方雑談スレPart14
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1225283405/
※part13以前の裏方雑談スレログはまとめサイトに保管されています
- 10 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:19:42.52 ID:g0znu/HZu
- ■現在までの死亡者状況
ゲーム開始前(1人)
「マリア(FF2)」
アリアハン朝〜日没(31人)
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」
「マリベル」
アリアハン夜〜夜明け(20人)
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」「ラグナ」「エーコ」「マリア(DQ5)」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」
アリアハン朝〜終了(6人)
「アイラ」「デッシュ」「ランド」「サリィ」「わるぼう」「ベアトリクス」
浮遊大陸朝〜日没(21人)
「フライヤ」「レオ」「ティファ」「ドルバ」「ビアンカ」「ギルダー」「はぐりん」「クジャ」「イクサス」「リノア」
「アグリアス」「ロラン」「バーバラ」「シンシア」「ローグ」「シド」「ファリス」「エッジ」「フルート」「ドーガ」
「デール」
浮遊大陸夜〜夜明け(19+1人)
「テリー(DQ6)」「トンベリ」「ゼル」「レオンハルト」「ゴゴ」「アリーナ2」「わたぼう」「レナ」「エドガー」「イザ」
「オルテガ」「フリオニール」「ユフィ」「リュカ」「ピエール」「ハッサン」「ビビ」「ブオーン」「ジタン」「ライアン」
浮遊大陸朝〜終了(7人 ※うち脱落者1人)
「アルス」「ギルガメッシュ」「ウネ」「ウィーグラフ」「マティウス」「アリーナ」 ※「ザンデ」(リタイア)
闇の世界朝〜日没 (13人)
「サックス」「タバサ」「テリー(DQM)」「ルカ」「パパス」 「フィン」「ティーダ」「スミス」「カイン」「ピサロ」
「ターニア」「エリア」「サラマンダー」
闇の世界夜〜 (3人)
「クリムト」「ザックス」「ユウナ」
- 11 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:28:11.17 ID:AA2ZTZWEL
- ■その他
FFDQ3rd避難所
https://ffdq3rd.wiki.fc2.com/
FFDQバトルロワイアル3rd 編集サイト
http://www.geocities.jp/ffdqbr3log/
FFDQバトルロワイアル3rd 旧まとめサイト
http://www.geocities.jp/ffdqbr3rd/index.html
1stまとめサイト
http://www.parabox.or.jp/~takashin/ffdqbr-top.htm
1st&2ndまとめサイト
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/
携帯用まとめサイト
http://web.fileseek.net/cgi-bin/p.cgi?u=http%3A%2F%2Fwww.geocities.jp/ffdqbr3log/
FFDQバトルロワイアル保管庫@モバイル(1st&2ndをまとめてくれています)
http://dq.first-create.com/ffdqbr/
番外編まとめサイト
http://ffdqbr.fc2web.com/
1stまとめ+ログ置き場 兼 3rdまとめ未収録話避難場所
http://www11.atwiki.jp/dqff1st/
保管庫
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/2736/1201201051/
したらば
http://jbbs.livedoor.jp/game/22429/
あなたは しにました(FFDQロワ3rd死者の雑談ネタスレ)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/22429/1134189443/
ロワらじ
http://jbbs.livedoor.jp/game/22796/
お絵かき掲示板
http://www16.oekakibbs.com/bbs/FFDQ3rd/oekakibbs.cgi
現在の舞台は闇の世界(DQ4)
ttp://www43.atwiki.jp/ichinichiittai?cmd=upload&act=open&pageid=16&file=%E9%97%87%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C.PNG
- 12 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:31:36.76 ID:JzvwCRGcp
- >>1
乙です!
- 13 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:31:47.74 ID:AA2ZTZWEL
- 一旦保守
- 14 :Dead Heat Heart Beat 9/16:2021/06/09(水) 22:34:10.57 ID:g0znu/HZu
- 覚悟を決めろ。
勝算はゼロじゃない。
握りしめたこの剣が伝えてくれる。
遥かに遠き異界の戦い、俺の知らない異国の皇帝。
重ねた歴史は幾星霜、破るは堕ちた英雄たち。
矜持ゆえに使われなかった最後の切り札を、今こそ。
*****************
隙を見極めろ。
希望を穿て。
片腕とてこの身が覚えている。
扱い慣れた愛用の刀、数多の戦いにて磨いた技。
敗れる道理は在り得ず、重ねるは愚者の躯のみ。
新たな力を得て再び全てを始めるために、今こそ。
*****************
叫ぶその名は終焉の誓い。
命に代えて誰かを守る、全てを犠牲に敵を討つ。
数多の想いを刻んだ魔剣の、究極にして終極の技。
*****************
呟くその名は必滅の誓い。
遍く命を切り捨てる、全てを得るため敵を消す。
戦いの日々の果てに編み出した、孤高にして至高の技。
*****************
「ファイナル――」
「――八刀」
「――ストライク!!」
「一閃――」
*****************
瞬間、視界が白に染まる。
叫びと共に砕け散った刀身と魔力の奔流。
スラリンの灼熱炎すら上回る圧倒的な熱量が、星屑のような無数の刃と共に光の川、いやさ洪水となって、希望の祠もろともセフィロスを飲み込む。
破滅の美学を形にしたらこうなるのだろうと断言できる、現実味を遥か彼方に置き去りにした美しさ。
なんだこれワケわかんねえ。
いややったのは俺だよ? 俺だけどさ?
剣の魔力が『一発だけ強い技出せるよ!』って教えてくれただけで、だからって武器版メガンテってそんなのアリか?
もうメガンテの剣とかに名前変えてくれよ。なんだっけ名前司る神様、マーリンだっけマリリンだっけ?
未だ消えざる輝きに呑まれた頭に浮かぶのはどこまでも益体のない思考。
それを打ち切ったのは、薄れゆく光の彼方に垣間見えた有り得ない光景。
******************
- 15 :Dead Heat Heart Beat 10/16:2021/06/09(水) 22:36:06.09 ID:g0znu/HZu
- 忌々しい星の裁きを思わせる一撃だった。
狙いがもう少し正確であったならば、さしもの私といえども膝を屈したかもしれない。
だが、ヘンリーの腕では"剣に使われる"のが精一杯だったのだろう。
おかげで下方に隙が生じ、活路を見出せた。
無論、無傷とはいかない――防ぎきれなかった熱波による火傷、飛んできた破片による無数の擦過傷、恐らく正宗も刃こぼれが生じているだろう。
コピーを回収したら即座に旅の扉を潜る方が賢明だと判断せざるを得ない程のダメージ状況。
それでも戦闘に支障はない。肩にかけていたザックもどうにか守り切れた。
問題はない、最早何も問題はない。
剣が砕け散った今、ヘンリーが己が身を守る手段はないのだから。
さあ、予想以上に手こずらせてくれた礼をくれてやれ。
絨毯の上で呆けているヘンリーだけを視界に収め一直線に駆け寄りながら愛刀を握る片腕に力を込める。
地を蹴り、天に昇る、太陽を切り捨てるように全力で放つ――
「――天照ッ!!!」
*****************
白亜を切り裂く銀の輝き。
斬撃の壁で刀吹雪混じりの閃光を捻じ曲げる、セフィロスの姿。
俺の眼なんかじゃ到底見切れないほどのスピードで空間ごと全てを切り阻んでいた輪郭がぶれる。
残像が出来るほどの圧倒的なスピード。
屈みこみながら髪や服が破片に削られ燃え上がるのも構わず駆け抜け、
瞬きより早く間合いを詰め真下まで迫りダメだ無理だこれは避けられない防げない守り切れない――
******************
勝利を確信する。
これは避けられまいと。
盾で防ごうとも弾き飛ばして叩き斬る、魔法を唱える時間など与えない。
ヘンリーの一挙一動のみに集中、絶対に逃がさない、これ以上何もさせない、ここで殺す。
絶対の殺意だけを宿して刀を振り抜く。
******************
ああ、これは死んだわ。
せめて一撃食らわせる余裕があればいいなと思いながら手を突き出し意識を集中させてはみるけれど、身体が半ば反射的に目を閉ざしてしまう。
ぶわっと溢れかえる走馬灯。
コンマ数秒の上映会。仲間達、家族、親友、懐かしい影はあっという間に通り過ぎて、最後に浮かぶのは赤い文字。
【ヘンリー 死亡】
- 16 :Dead Heat Heart Beat 11/16:2021/06/09(水) 22:36:49.23 ID:g0znu/HZu
- ******************
「させるか、愚か者」
******************
バギィン!
【ヘンリー|
|死亡】
……え?
何かを真っ二つにへし斬ったような妙な金属音。
恐る恐る目を開けた俺の視界にまず映ったのは、風切り音とともに明後日の方角へ飛んでいく銀色のブーメラン。
次に見えたのは、すっげえ速さで打ち合うセフィロスが二人。
いや何言ってんだ俺。セフィロスは一人だろ?
でもじゃあ目の前の光景は何なんだ俺。
黒い翼生やした銀髪が二人向かい合ってギンギン刃鳴り散らしてるんだが?
待て待てよく見ろ俺。
片方は確かにボロボロの黒いコート着てるし折れた刀を持ってるけど、もう片方は服が白っぽいし武器も刀じゃなくて長剣だぞ。
「――ってアーヴァイン!!?」
え、どういうことどういうこと????
あいつ再洗脳されかけて今にも死にそうなほどぐったりしてたよな?
だけど俺の横にいないのも確かなんだが?? どう見てもセフィロス相手に切り結んでるんだが??
何が起きた?
混乱しすぎてハテナマークが大量乱舞、大根持った妖精と共に頭の中でダンサブルに踊りだす。
そんな俺を叱咤するように、アーヴァインが飛び退きざまに俺の方をちらりと見やった。
銀の髪から透けて見えた、紅玉のように赤い瞳は、まるで――
……――あっ。
*************
何が起きた?
地を滑る私の剣に合わせるように天から撃ち込まれた一撃。
折られ、撥ね飛ばされた正宗の切っ先を目で追う暇もなく、飛んでくる二撃目。
目の前にいるのは紛れもなくコピーでしかないはずなのに、私の知らぬ太刀筋を振るう。
何故だ?
何故コピーがここに至って私に逆らえる!?
血も新たに撃ち込んだ、そもそもこの至近距離だ、私の思念を振り切れるはずがない!
なのに、
「何故……ッ!」
意図せず口からこぼれた疑問に、コピーは能面のように表情を変えぬまま、掠れた声音で答える。
かつて――そう、かつて何も知らぬヒトであった私が、友と呼んだ男にそうしたように。
- 17 :Dead Heat Heart Beat 12/16:2021/06/09(水) 22:37:48.75 ID:g0znu/HZu
- 「知る必要はない。
潔くこの地で朽ち果てろ」
コピーであるが故に人間としての私を再現し刃向かっている?
否、それならば動きもまた『ソルジャー1stセフィロス』の模倣にしかならぬはず、こんな剣技は扱えまい。
それにこの真紅に染まった瞳はなんだ?
進化の秘法の影響?
確かにこのコピーはそのために作り上げたものだが――
半ば反射で攻撃を捌きながら思考を巡らせるが納得のいく答えは見つからぬまま。
一刻も早く攻めに転じねばヘンリーやソロの妨害が飛んでくる、だが、ここにきて積み重なったダメージが重くのしかかる。
片腕、失血、疲労、火傷、裂傷、折れた刀身、何もかもが私を理想から遠ざける。
思い通りにいかぬ現実が私に焦燥と憤怒を強いる。
冷静さが奪われ、思考が狭まり――状況すらも見誤る。
「頃合いか」
呟きざま、コピーが大きく飛び退いた。
精神支配に抗いきれなくなったというわけではないだろう。
僅かに動いた瞳、その視線の先にいるのは呆けたような表情のヘンリー。
だがそれも一瞬のこと、緑の眼差しに力が宿る。
翳したその手に吸い込まれるように、私の手元から魔力の輝きが浮かび上がる。
忘れるはずもない、今までに何度も見た光景。
コピーが私の腕を凍り付かせた時、忌々しいカッパの呪縛を解いた時と同じ――
危険信号が脳を満たすと同時に、ヘンリーが叫んだ。
「ドロー!! いっけええええええええええええええええ!!」
手元に収束した魔力が解き放たれる。
それは吹き荒れる竜巻と化し、私を襲う。
コピーが使った時と同様に規模や風速は落ちている、だが予想外の攻撃だったが故に避けきれず、動きを阻まれる。
元より擦り切れていたコートが千々にちぎれ、焼け焦げていた髪が砕け、裂かれた皮膚から滲む血と共に中空へと舞いあげられる。
そしてザックの肩ひもも風の刃に切り裂かれ、外れて、――
「――ッ!」
天空へと意識を逸らした、その瞬間が、致命的な隙となった。
「セフィロス――」
いつの間にか追いついてきたソロが、当然のように烈風を踏み越えながら私に向かって体当たりをし、押し倒しながら魔法を唱え切る。
「――アストロン!!!」
それがどんな効力を持っていたのか、正確なことは判断しきれない。
ただ、私の視界に映ったものは、溶岩を照り返す地底の空に消えていく竜巻と、風に攫われたザックから投げ出され墜ちていくアンジェロの姿。
ソロを跳ね除けようにも身体が動かず、叫ぼうにも息すら出来ない。
それなのに意識だけは奪われることなく――
***************************
- 18 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:38:31.16 ID:AA2ZTZWEL
- 一応ほしゅ
- 19 :Dead Heat Heart Beat 13/16:2021/06/09(水) 22:39:01.19 ID:g0znu/HZu
- なんだこれ。
いや本当になんだこれ。
白昼夢を見た時に、一緒に託されたガーディアンフォースの力を使ってみたら、なぜかバギクロスみたいな魔法が出て。
戻ってきたアーヴァインは絨毯の上でばたーんとぶっ倒れて。
ソロがセフィロスにタックルしたかと思えば二人そろって鉄の塊になって。
そんで空からアンジェロの遺体が降ってきて、ミステリーサークルみたいに刈り取られた地面の上にどさりと墜落して。
いや断片的にはわかることもあるよ?
アンジェロが落ちてきたのはセフィロスが遺体を持ち去った張本人だったから。
二人が鉄の塊になったのはソロが伝説の防御呪文アストロンを唱えた上で、なんでかセフィロスを巻き込めたから。
そこらへんはわかる、辛うじてわかるけど、全体的にはワケわかんねえこの状況。
(落ち着け)
ふっと心に浮かぶ――……否、頭にするりと入り込んでくる思考。
ぼんやりしてたら自分自身の考えだと思いそうになるし、実際今までそう受け取っていたわけだが。
ええと、お前ピサロだよな?
なんでここにいるの? 一体いつから?
額に指を当てながら意識を集中してみると、やはり思念がぶわっと流れ込んでくる。
言葉や文章ですらない、文字通り"考え"そのものだ。
(現状、ロザリーの身に危険が及ぶ可能性は極小。
ザンデ、マスタードラゴン、どちらも信頼はできぬが信用はできる。
故にロザリーの身を守る者を助け、害す者を始末すべき。
さすがに長距離を移動するには誰かに憑かねばならぬ、天空の勇者たるソロとは相性が悪い、他の二人は守る必要がない)
アッハイ。今朝がた祠を出た時からずっと一緒にいたってわけか。
一番弱い奴を守る、守れるところを守る、それはそう。
ところでソロはこのことを……いやさすがに知ってるか?
(知らなければこの戦いに貴様を連れてくるはずがなかろう。
隠し通せるようになったことは驚いたがな。どこで口を滑らすか、案じていたのだが)
確かに。
いや本当、『確かに』すぎて何も言えない。
あんなはぐれキング野郎、俺じゃあ何百人いたって太刀打ちできないし肉盾にしかならないって。
ピサロってお守がいなかったら、ソロでも誰でも絶対偽タバサの申し出に便乗してラムザ達に押し付けて次の世界にバイバイさせるって。
だいたいあの強さで進化の秘法とかいる?
カッパ化を解くためにアーヴァインを狙ったのはわかるけど、その先はもういらないだろ?
(強者は強者であるが故に更なる高みを目指すもの。
無論、正当な手段で進化の秘法を行うには相応の時間と設備、膨大な魔力が必要。
だが現状、魔力の供給手段を用意した上でアーヴァインを利用すれば、短時間でも不完全な進化は可能。
手駒にした時に奴の異常性に気付いたか、あるいは単純に【闇】との親和性に目をつけたか)
なるほどなー、と言いたいけれど……異常性って何だ?
【闇】の影響とは別になにかあるのか?
(魔物化した人間は血液嗜好や食性の変化が起こる。
アーヴァインは今朝、私の傷を手当てした。相当量の出血に触れ、指についた血を舐めていた。
そして私が死んだ場所でも、上位種以上の存在に進化したドラゴンライダーの内臓を喰らっていた。
通常の動植物ならまだしも我らは魔族、血肉には魔力や瘴気と共に情報が――経験が宿る)
えっ、何それは。
いや確かにドラゴンやら魔物やらは食べたことがあるとかレーベで話してたけど、ピサロの血って一応ガチ魔王の血ってことだろ?
やばすぎない?
- 20 :Dead Heat Heart Beat 14/16:2021/06/09(水) 22:50:23.54 ID:g0znu/HZu
- (そうだ。私の身体はロザリーの祈りによって在りし日の姿へ回帰したが、進化の秘法を用いたという事実は覆らぬ。
二度と引き出す気はないが、それでも私の血肉にはしかと進化への道程が残っているだろう。
だが進化の秘法の本質は、望みに応じた力を揮えるように身体を作り替えるもの。
その点においては、アーヴァインはまだ身の程を理解している。人の心や姿を捨てるほどの野心も覚悟もない。
しかしセフィロスやケフカは違う。不完全であっても躊躇わぬはず、渡すわけにはいかない)
想いが強まる。流れ込んでくる情報が鮮明さを増す。
完全な進化の秘法、それは自我と記憶を保ちながら望む姿と能力を手に入れて完全な生命体に近づくためのモノ。
不完全な進化の秘法、それは脳細胞すらも進化に巻き込み、己を見失い、やがて際限なく高まる力を暴走させ破滅を振りまく魔王と化すモノ。
そして防御呪文でしかないアストロンがセフィロスに通じた理由、それは不完全な進化からセフィロスの人格を守りたいという意識がソロにあったから。
呆れ。怒り。諦め。……その奥にある、深い信頼。
混ざる感情。溢れる思考。
どこまでがピサロのものでどこまでが俺なのか、だんだんわからなくなってくる。
頭痛、吐き気、眩暈――そんな俺の異変を感じ取ったのか、急にピサロの意識が薄れた。
(これ以上は危険だ。しばし休む、話しかけるな)
何だかんだ親切というか、気を使ってくれるあたり、やっぱりピサロはピサロだなあ。
そんなことを思いながら俺は頭を振り、アーヴァインを抱え起こす。
「大丈夫か?」
「う"ぅっ……え"、いー……ぁ」
ヘンリーさん、と口は動いているけれど、声は出せていない。
そもそも苦痛のあまり呼吸すら覚束ない様子で、ぜひぜひと細かい咳を繰り返している。
アストロンの効果も無限に続くわけじゃないだろう、早い所おさらばしないと――
そう考えた時だった。
「アンジェロを助けろ」
異様に鮮明な、絶対にアーヴァインのものじゃない声が、青ざめた唇からこぼれる。
驚いて目を見つめれば、そこにあるのは底知れない虚無を湛えた翡翠の輝き。
異形の腕が俺の胸に当てられる、妙な魔力が流れ込んでくる。
これは――蘇生の、魔法?
「あ"、あ"――――ッッ!!!」
呆けた俺の意識を引き戻す、声にすらならぬ絶叫。
気づけばアーヴァインが首を何度も横に振っている。
最初は小さく、次は大きく、こめかみを抑え身を震わせながら。
一体何が起きているのか、今の俺ならわかる。
思念を直接頭の中にぶち込まれる――ピサロは配慮してくれていたが、セフィロスにそんな気遣いがあるはずがない。
それこそアーヴァインの自我を壊す勢いで大量の感情と命令を送り込んでいるはず。
しかもタチが悪いことに、『アンジェロを助けろ』ときた。
アンジェロの飼い主はスコールの彼女、だったらアーヴァインにとっても友達の飼い犬に当たる。
命令なんかされなくたってアンジェロを助けたい気持ちはあるだろう。
だけどそれを認めてしまったら、セフィロスの命令を受け入れるも同義。
逆に命令を拒むのであれば、それはアンジェロを見捨てるに等しい。
どっちを選んでも心を折りにくる、実に悪辣なやり口だが……逆説的に、それが限界なのだろう。
俺を殺させることもできなければ、アーヴァインにG.F.を奪わせて直接魔法を使わせることもできない。
当たり前だ。
俺の目の前にいるのはセフィロスの操り人形なんかじゃない、アーヴァインというただの人間――
- 21 :Dead Heat Heart Beat 15/16:2021/06/09(水) 22:52:51.39 ID:g0znu/HZu
- ……いや、ちょっとだいぶ色々ヤバイ要素を積み重ねたド級の歩く厄ネタだけど。
一応、一応ね? 人間だからな、うん。
「大丈夫だ、アーヴァイン。
アンジェロは俺の仲間みたいなもんだし、これ以上はぐれキング野郎にストーキングされるわけにもいかないからな。
俺がやるだけやっておくから、あとはソロに任せておこうぜ!」
普通の参加者に蘇生呪文が通用しないことはソロが実践済み。
魔法を持ち逃げしてもセフィロスに追われる要因になるだけ、有効活用なんてできっこない。
無論セフィロスの狙いはわかる――アンジェロに蘇生が有効だったなら、アーヴァインにしたことをアンジェロにやるつもりだろうよ。
心を乗っ取って身体を造り替えて蘇生可能な分身に仕立てあげることが出来たならそんなの勝ち確もいいところ、偽タバサもびっくりのチート野郎が爆誕だ。
だけど、俺はそうなる可能性を追わない。
ソロがいる、サイファー達がいる、計算には入れたくないがケフカだって邪魔をするに決まってる。
アンジェロが本当に生き返るかどうかもわからないし、復活したならしたで、セフィロスの成すがままにされるわけがない。
だからこんなものは選択肢ですらない。最初から決まり切ってて、わかりきってることだ。
「アレイズ!」
小さな遺体に向けて魔法をぶっぱなし、すぐさま絨毯を始動、旅の扉に一直線。
結果なんざ当然見届けない。
アストロンの効果時間がわからない以上悠長に眺めてる余裕はないし、そもそもアーヴァインに必要なのは『アンジェロを見捨てたわけじゃない』という事実だけだ。
助かったと知ればセフィロスの意に加担したことになる、助からなかったとわかれば無力さに打ちひしがれるだけ。
最低でもアーヴァインの心が落ち着くまでは、白黒つかない方が都合がいい。
「先に行く! 信じてるからな、ソロ!!」
聞こえることを祈りながら声を張り上げ、はぐれないようアーヴァインをしっかりと抱えて絨毯もろとも青い光にダイブする。
置いていきたくないという本音を、胸の奥に封じ込めて。
皆の分まで守り抜くという覚悟を、心に命じ直しながら。
***************************
視界は岩肌の空に塞がれたまま。
ヘンリー達が逃げ去った今、聞こえる音も葉擦れのみ。
アンジェロの蘇生に成功したのかどうかもわからなければ、この戒めがいつ解けるのかもわからない。
敗北といえば敗北だ――が、認めるつもりはない。
何故なら、最後に笑うのは私だという確信があるからだ。
ジェノバの力は再統合<リユニオン>だけではない。
その前段階――分離もまた、重要な能力。
大元たる母から別れ、旅立ち、増えて地に満ち、再び集う。
コピーは確かに次の世界へと逃げ去った。
だが、"コピーから分かたれたモノ"は未だこの地にある。
見えずともわかる。
私には感じ取れる。
ヘンリーに切り落とされたコピーの触手が蠢きながら混ざりあい、ジェノバとして在るべき姿に戻ろうとしていることが。
下らぬ自我に縛られぬ、真なる我が分身として、私の元へ還ろうとしていることが。
何度でも言おう。
敗北など認めない。
最後に笑うのは、この私なのだから。
- 22 :Dead Heat Heart Beat 16/16:2021/06/09(水) 22:54:05.97 ID:g0znu/HZu
- 【ソロ(MP微量、真実の力を継承、アストロン)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ひそひ草、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション
第一行動方針:セフィロスを止める
第ニ行動方針:仲間と合流し、旅の扉を目指す
第三行動方針:ケフカを倒す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【セフィロス (HP:1/10、右腕喪失、アストロン)
所持品:E正宗(折れ)、ふういんマテリア
第一行動方針:【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
第二行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
第三行動方針:旅の扉をくぐる
第四行動方針:首輪を外す
第五行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:希望の祠・外】
※セフィロスのザック及び中身が祠付近に散乱しています。
【村正、奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、アンジェロ(生死不明)】
※希望の祠北の草原にランスオブカインが放置されています。
その近くに小型のジェノバが存在しています。
【アーヴァイン (HP1/3、MP1/4、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、混乱、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、リュックのドレスフィア(シーフ)、
ちょこザイナ&ちょこソナー、ラグナロク、変化の杖、祈りの指輪(ヒビ)、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9
第一行動方針:????
最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
・セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があります。
・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【ヘンリー
所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、G.F.パンデモニウム(召喚×)、魔法の絨毯、リフレクトリング(E)、
銀のフォーク、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ、メガポーション
ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック、
レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
第一行動方針:アーヴァインを保護する
第ニ行動方針:仲間と合流する/セージを何とかする
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:次フィールドへ】
- 23 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/09(水) 22:56:46.23 ID:g0znu/HZu
- 以上で投下終了です。
前スレ容量オーバーさせてしまい申し訳ありませんでした。
- 24 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/10(木) 01:05:25.40 ID:n2E9MiuTG
- 投下&新スレ乙です!
ヘンリーが見事に逃げきったなあ
死ぬか生きるか本当に分からなかった。
絶体絶命からの逆転ゴール決めたみたいで興奮しました
ソロがセフィロスを完全に敵視しなかったことがアストロンの道連れにつながって、
ヘンリーがGFの訓練をやってたことがドローからのトルネドにつながって、と、
決め手の部分がこれまでの積み重ねになってるのが感慨深い。
今回は完敗だけれども、それでもあきらめないセフィロスの執念と自信、
まだまだ何をやってくるか分からなくて怖いところありますね
- 25 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/06/11(金) 00:13:17.50 ID:uFGHNKv/g
- 投下・スレ立て乙です!
ヘンリーどうなるんだ!?大丈夫なのか!??と文字通り手に汗握り息をのんで一気に読んでしまった。
逃げて追われて振り切っての、一瞬一瞬の攻防戦がそれぞれすごくキャラクターらしくて素晴らしかった。
頭を回し続け、とっさの判断で間違いのない行動を選び続けるヘンリーに、
不利な状況においても戦況をひっくり返しまくって圧倒的な力で食らいつくセフィロス、
ヘンリーを助けセフィロスを止めるため死力を尽くしアストロンを切り札に身体を張るどこまでも勇者なソロ、
時間にして数分もないスピード感のある描写にぐいぐい引き込まれた……
ピサロの助けを得てヘンリーがセフィロスに勝ち逃げする流れが本当に見事です。
面白かった……
一安心かと思いきや、まだまだ諦めていないセフィロスだったり、残された小さなジェノバであったり、
もう一波乱ありそうでドキドキするなあ……相変わらず展開に全く予想がつかない……
続きが本当に楽しみです! 応援しています!
- 26 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/07/16(金) 00:05:09.26 ID:O+aV9KnTa
- FFDQ3 757話(+ 1) 19/139 (- 0) 13.7
- 27 :innocent avatar 1/12:2021/08/08(日) 21:09:15.08 ID:zhfTbsuSd
- ※※※※※※※※※※※※※※※※
いま、新たに生まれ出た命がひとつ。
それは決して、かわいらしい赤ん坊などではない。
星を渡り、喰らい尽くし、母船へと作り替え、新たな星へと渡っていく怪物にほかならない。
元の身体から切り離され、びちびちと跳ねていた何本もの太い触手は、
お互いにしゅるしゅると絡みつき、ねじれ合い、より奇怪な姿へと変じていく。
頭蓋骨を思わせる頭部、その口腔から耳を突き刺すような奇怪な産声をあげ、
眼孔の内部では濁った瞳がぎょろぎょろとせわしなく動いている。
内臓と神経と筋肉をむき出しにしたような胴体部分は、あらゆる生物に対して嫌悪感を刺激するだろう。
人体に換算したとき、脇腹にあたる箇所からは、はらわたを思わせる無数の触手が飛び出して、うねうねと動き回る。
その触手の一本は裏切者の名を冠する槍にぎちぎちに巻き付き、決して手放すことはない。
ホラー映画やSF小説、都市伝説等に登場するような、理不尽の権化といった様相の怪物。
仮に心の準備もなく、ばったり遭遇しようものなら、どれほど勇猛な戦士であろうと踵を返して逃げ出すに違いない。
自身の姿が他者の警戒を呼び起こすことは本人も理解しているのだろう。
その醜悪な正体をただちに矯正しようとする。
怪物は、目的を果たすにふさわしい姿を探し求め、あらゆる記憶を読み取る。
老若男女有機物無機物生存死亡……検索条件は問わない。
かつてこの地に息づいたもの、今この地で殺し合っている者――
悪魔の王子、翼竜の王、魔城の親衛隊、仮面の悪魔、血塗られた鎧、偉大なる騎兵、姿を偽る悪霊、鉄球を振り回す魔人――
天空の勇者、闇の世界を統べる黒衣の魔王、裏切者の竜騎士、自らを統率する銀髪の魔人、白翼の魔女、魔女の愛犬――
あらゆる物質、歴史、生命体、事象を検索し、この場にふさわしい姿を探し出し、かたどる。
ざざ、ざざ、と、テレビ画面の砂嵐のようなノイズ――スノーノイズが怪物の身体を覆い、そして銀髪の美丈夫へと変わった。
- 28 :innocent avatar 2/12:2021/08/08(日) 21:14:07.62 ID:zhfTbsuSd
- ※※※※※※※※※※※※※※※※
「先に行く! 信じてるからな、ソロ!!」
そう言い残し、次の世界に向かったヘンリーとアーヴァイン。
二人は、ピサロが付いてきていないことには気付いただろうか。
『しばらく話しかけるな』とピサロから念を押した以上、しばし時間がかかるかもしれない。
そもそも、今ここに存在するピサロとは何か?
それは、意志を持った呪いに近しいものだ。
死に際に、対峙していた敵の動きを止め、抵抗力を激減させる呪いの一種。
方向性は違えども、ユウナが死に際に遺した呪いもほぼ同質のものと体系づけてよいだろう。
モンスターが余さず体系化され、宇宙にすら進出するほどの超科学力を有した世界では、『根に持つタイプ』という身もふたもない呼称がついた特性。
その素質がピサロにはあった。
だからこそ、死に際に魔力を総動員して自我を保つことに成功したのだ。
闇の世界はピサロの領域。
ピサロは完全なる進化を遂げたエビルプリーストにも打ち勝つほどに研鑽を積んだが、その能力を最大限に発揮できる世界だ。
ただし、それは裏を返せば、次の世界に移動すればどのような影響が出るのかは分からないということでもある。
自我を保ったまま何も起こらないかもしれないし、ほかの【闇】のように憑いたものを狂わせる何かに成り下がるかもしれない。
プサンが警戒していた通りのことが起こったかもしれない。
だからこそ、夢の世界には一度も足を踏み入れなかった。
だからこそ、セフィロスの悪足掻きがなかろうとも、ピサロはギリギリまで闇の世界に残ることは考えていた。
自我を確実に保てる領域で、できる限りのことはしておきたかった。
目下、アンジェロの蘇生を、『はいそうですか』と素通しすることはできない。
蘇生に失敗した、あるいは成功していても、アンジェロ本人の意志があるなら問題ない。
しかし、質の悪い【闇】と魔女の意志の混合物が入り込めば目も当てられない。
最悪なのは肉体だけが復活し、廃人のように佇んでいる場合で、新たなるセフィロスコピーの素体とされる可能性がきわめて高い。
アンジェロの肉体に入り込もうとする質の悪い意志を排除するため、セフィロスの目論見を完全阻止するため、
生命魔法アレイズの発動と共にピサロは自らがアンジェロの肉体へと入り込もうと試みた。
そして、ピサロの試みは失敗に終わった。
相容れない者が既に入り込んでおり、自身が阻まれた。
もっとも能力を最大限発揮できる領域にいながら、ピサロという呪いは、アンジェロの身体からはじき出されたのだった。
- 29 :innocent avatar 3/12:2021/08/08(日) 21:15:10.27 ID:zhfTbsuSd
- ※※※※※※※※※※※※※※※※
ここは、崩壊した希望の祠から漏れ出た聖なる気が、闇の世界の邪悪なる気とちょうど混ざり合う狭間の領域。
その遺体は、聖なる光に包まれた。
光を伝って天使が舞い降り、遺体へ祝福をかけた。
もはや動くことなどないはずのその身体が、ぴくりと反応したのだ。
肉体から精神と魂が抜けきる前であれば、適切に処置をすれば蘇る可能性はある。
ただし、それにしても、参加者各々の暮らしていた元の世界での話だ。
処置の有無にかかわらず、あるいは死後の時間経過にかかわらず、この世界において死者は蘇らないはずだ。
では、この光景はなんだというのか。
ぴくり、ぴく、ぴく、ぷる、ぷる。
彼女は目を閉じたまま、生まれたての子鹿のようにゆっくりと立ち上がった。
蘇生の生命魔法は、魂と精神を肉体へと引き戻す。
しかしこの戯獄において、その魔法は参加者には効果を為さない。
では、参加者でなければ効果があるというのか?
答えは、半分は正で、半分は否。
たとえ参加者でなくとも、この戯獄の中で死を迎えてしまえば、例外なく精神の死から逃れられない。
他の参加者と同じように、肉体の死と同時に呪法が発動し、精神の墓場へと意識が引きずり込まれ、魂は会場へと放逐される。
そのような環境で蘇生の魔法が効果を為したとして、再度立ち上がるものは、生前の姿とはかけ離れた存在であろう。
暗く澱んだ目を持ち、ガラガラと擦れるような声を出し、決して癒えぬ生への渇きに囚われた、
憎悪のままに目の前の生者を食らわんとする、生きた死体となるのが摂理というものだ。
その摂理を覆すほどの強烈な妄執も、あるいはその摂理を撥ね退けるほどの特殊な出生も、この遺体の持ち主には存在しない。
賢者のような強烈な使命感も、召喚士のような憎悪も、この遺体の持ち主には無縁なのだ。
では、立ち上がった彼女は、無意識のまま生者に害を為す肉人形にすぎないというのか。
銀髪の魔王の領域で、夢の魔女に連なる竜神の加護を得たこの地で、そして白翼の魔女が祈り続けるこの地で。
起こりうる可能性は、本当にそれだけなのか?
開かれたその目に、意志はなくとも澱みはない。
口からこぼれたその声には、感情はなくとも憎悪もない。
彼女は、例外を引き当てたのだ。
- 30 :innocent avatar 4/12:2021/08/08(日) 21:17:54.17 ID:zhfTbsuSd
- ※※※※※※※※※※※※※※※※
それは例外中の例外だった。
魔女はチカラを継承するまでは死ねない。
もはや呪いの領域に達しているその理は、殺し合いを目的としたこの世界においてすら正常にはたらいた。
大勢とともにこの世界に召喚された白翼の魔女は、やはり大勢と同じく、その命を散らし、そして夢の魔女へとチカラを継承した。
夢の魔女は、自身の莫大な魔力と、継承し上乗せされた魔力に耐え切れず暴走し、結果的に息絶え、魔女のチカラは主催者たる時空の魔女が回収した。
ここに一つ、時空の魔女にとっての誤算があった。
肉体の死をトリガとし、精神の死を引き起こす呪法がこの世界に施されているというのは、知を求める魔王の解析だ。
白翼の魔女の死においても、例外なくその呪法は発動した。
だが、その呪法ははじき返された。
異世界の竜神王の呪いがほかのすべての呪いをはじき返すがごとく、魔女の理もまた、この世界に施された呪法をはじき返したのだ。
夢の魔女については、時空の魔女が直接出張ってきたために、あらためてほかの参加者と同じく精神の死を迎えることになったのだが……。
ともかく結果として、白翼の魔女の意志だけは例外的に会場内に取り残されたのだ。
ちっぽけな意志など、この世界に蔓延る時空の魔女の意志にすぐに覆い隠されてしまうだろう。
けれども、夢の魔女からあふれ出た最期の魔力にあてられ、わずかに混じり合ったことが功を奏したのか。
白翼の魔女の意志はかき消えることなく、自身を保ち続けた。
できることなどほとんどなかったが、感情はときに届いた。
魔女の騎士にすら言葉は届かなかったが、それでも言葉に乗せた感情はときに届いた。
もし、彼女が必死に呼びかけていなければ、騎士は王子を救わず、巡り巡って狙撃手が救われることもなかったかもしれない。
だから、彼女がおこなってきたことは決して無駄にはならなかったのだ。
次に降り立った場所……闇の世界は、夢の魔女のチカラを宿す竜神が天空から仔細を眺められなかったように、
白翼の魔女も希望の祠の周辺以外はほとんど認識できなかった。
旅の扉の事故によって離れ離れになった騎士や愛犬、かつての恋人たちを探しに行くこともできず、祈り続けるだけの時間。
ときおり、彼女を認識できる者たちも現れはしたが、やはり呼び掛けることしかできず、ただただ無力に苛まれる時を過ごした。
ふらふらと自身の元へと引き寄せられた魂……愛犬の魂を見つけて、その死を悼んだ。
できることなどほとんどなかったが、彼女は祈り、そして仲間へと呼び掛け続けた。
生き延びている仲間たち、そして今も生きている騎士のチカラになる、そんな役割を果たせることを信じて。
そして――
- 31 :innocent avatar 5/12:2021/08/08(日) 21:19:43.93 ID:zhfTbsuSd
- ※※※※※※※※※※※※※※※※
(まさか、肉体を失いながら、明確に意識を保っている者が、他にもいたとはな)
"ええと、ピサロさん、だっけ。ロザリーさんからちょっとだけ話聞いたことはあるんだ。
あ、私はリノア。よろしくね。それから、この子はアンジェロね"
心と心で言葉を交わすのは、白翼の魔女と黒衣の魔王。
聖人の名を冠する魔女の愛犬の肉体を媒介に、二人の意志が思念を交わしているのだ。
(ピサロだ。悪いが、自己紹介は省略させてもらおう。
今の状況、貴様はどこまで理解している?)
"セフィロスがアーヴァインを改造したことと、アーヴァインが無事に逃げ出せたことまでは分かるわ。
だから、今度はアンジェロを生き返らせて同じことをしようとしてたんだよね?
セフィロスの思惑通りにさせるわけにはいかないわ"
(十分だ。この犬――いや、アンジェロを速やかに奴から逃がさねばならんが、アンジェロに意識はあるのか?)
"アンジェロは……私の言うことはちゃんと聞いてくれるみたいだけど、意識はほとんどないのかな……。
呼びかけても返事もしてくれないし、全然甘えてくれないのよ"
比喩ではなく、まさに、心ここにあらずといった様相。
あるのは魂に由来する無意識だけだ。
もっとも、不幸中の幸いか、リノアとアンジェロは一心同体になって敵に立ち向かうほどの、気心の知れた仲だ。
召喚獣と召喚師のような強い絆で結ばれた関係だと言い換えてもいいだろう。
記憶が洗い流されていても、魂そのものに刻まれた絆があるからこそ、彼女の言うことだけは聞いてくれる。
(指示が通じるのであれば、今は飼い主として愛犬を守る義務を果たせ。
それができないのであれば、私が一時的にでも、この肉体の主導権を握ることも試みなければならん。
セフィロスの手先へと変わる可能性を考えれば、到底捨ておくわけにはいかんのでな)
"もう! 言われなくてもそれくらいはやります!
さ、行こう、アンジェロ"
アンジェロは無言のまま、指示通りにトコトコと早足で歩き出す。
極めて反応の薄いその様子に、リノアは寂しさを覚えつつも、今は仕方がないと割り切り併走する。
- 32 :innocent avatar 6/12:2021/08/08(日) 21:21:42.81 ID:zhfTbsuSd
- (セフィロスの鉄化が解ける前に、旅の扉にて次の世界に向かえ。
諸々の問題は、無事に逃げ切ってから考えろ)
"なんか任務中のスコールみたい。
スコールより、ちょっぴり偉そうだけど"
(無駄口をたたく暇があったら、周囲の警戒でもしていればどうだ)
"はーい、善処します。アンジェロ、無理はしなくても大丈夫だからね"
思ったことを物怖じせずに口に出してくるリノアを相手に、ピサロは軽くため息をつく。
小言を言えばマーニャのようにニ倍の言葉で返してきそうだと考えれば、口に出す気にもなれない。
アンジェロの移動速度は決して速くはないが、アストロンが解けるまでには十分時間があるため、口出しをする必要もないのだが。
旅の扉までの道中に特に障害はない。なんの苦労もなく次の世界へとたどり着けるだろう。
旅の扉への直線上からは少し外れたところに、様々な道具や武器が落ちていることに気付く。
アンジェロと一緒に、ザックの中からバラまかれた支給品の数々だ。
装着する者の正気を疑うような茨で編まれた冠が転がり、業物と分かる刀は地面へと突き刺さっている。
回収してセフィロスの戦力を削げないかと思考していると、不意に不快感を覚える煌めきが目に留まった。
支給品と同様に地面に転がっているザック、その口から竜の意匠をかたどった宝玉が半分姿を覗かせていたのだ。
(あれは……プサンが探していたドラゴンオーブか?)
マスタードラゴンのチカラを封じたという宝玉。
犬の身で地面に突き刺さった刀を持ち去るのは難しいが、こちらならばザックごと回収できるだろうか。
(リノアよ、悪いが向こうに転がっているザックの回収を頼めないか?
魔女アルティミシアに対抗する切り札になるかもしれん)
"それはいいけど、ね、その前にひとつ質問いい? ピサロって、実は生きていたりとか、する?"
(見れば分かるだろう? 私の命はすでに失われている。
この身体は霊体、いや、いっそ呪いに近しい存在だ。
なぜそのようなことを聞く?)
"だよね、変なこと聞いてごめんなさい。
じゃあ……それじゃあね? あれって何?"
リノアが後方、ソロとセフィロスよりもさらに後方を指し示す。
視界に映るのは、銀髪に赤い瞳が印象的な魔族の男だった。
- 33 :innocent avatar 7/12:2021/08/08(日) 21:22:37.49 ID:zhfTbsuSd
- リノアは直接ピサロと会ったことはないが、キーファと共に攻略本で容姿を確認したことはある。
ロザリーの探し人として情報の共有もおこなっている。
今、ずず、ずず、と草を踏みしめ近づいてくるのは、ピサロ以外に考えられない。
アンデッドと呼んでも差し支えないほどに生気がなくて、操り人形のようにぎこちなく動いていて、
そもそもピサロの肉体は爆発に巻き込まれ消滅した、という事実を無視するのであれば、だが。
(アーヴァインから切り離された魔物の一部……セフィロスの手先か?
かりそめといえども、私の姿をかたどるとは、愚弄しているつもりか?)
ピサロの声にいら立ちが混じる。
もっとも、ジェノバにしてみれば、そのような意図は到底ない。
素体だったアーヴァインがピサロの魔力を吸収しており、意識を持って漂うピサロの呪いがここにあり、そしてランスオブカインに付着したピサロの血がある。
その姿を選ぶのは当然のことだろう。
ピサロの姿をしたジェノバは、ランスオブカインを手にしたまま、無表情で駆け寄ってくる。
仮面のように、その表情はぴくりとも動かない。
小型化したことによるリソースのなさの表れだが、対峙する相手には恐怖を煽るだけだ。
その奇抜な動きや変わらない表情に阻まれて、リノアどころかピサロでもジェノバの考えを読むことはできない。
だが、それでも狙いは分かる。
ジェノバ細胞によるアーヴァインの改造手術がセフィロスにより執り行われたのは、まさにここ、希望の祠だったのだから。
呼び掛けも届かず、アーヴァインが苦しみ続ける光景を見せ続けられた苦い記憶は、いまだリノアの精神に焼き付いているのだから。
"いっそ、やっつけちゃおうよ!?
アーヴァインのときみたいに、セフィロスの姿を借りて追い払ったりとか!"
(あれはあの怪物の特性を利用しただけで、ほかの肉体では不可能だ。
加えて、あれの生命力が想定を上回った場合、逆に窮地に追い込まれかねん)
"うーん、これ一個でサクッと解決!みたいなのはないですかあ"
(暢気なことを言っていないで、集中しろ! 来るぞ、決して捕まるな!)
"分かってる! セフィロスがどんなことしたか、私はずっと見てたから!
アンジェロ、走って! こんな暗い世界とはさよならして、次の世界にいこう!"
生前であれば、元気な声でワン!と一鳴きするのだが、アンジェロからは反応はかえってこない。
それはもう仕方がないと割り切るしかないのだが、今度はその場から動くことすらない。
空間から切り離されたように、アンジェロの動きが止まっているのだ。
- 34 :innocent avatar 8/12:2021/08/08(日) 21:23:35.76 ID:zhfTbsuSd
- "アンジェロ? どうしたの? この先に行くのが怖くなっちゃった?"
(いや……この地面の渦、魔法陣になっているのか!?)
リノア、そしてピサロに焦りの色がさっと浮かぶ。
草地に紛れるように描かれた黒い渦。
闇の世界の暗さが陣を絶妙にカモフラージュし、踏み抜くまでまるで気付かなかった。
ピサロは知る由もないが、この陣にかかっている魔法はストップ。
胎動、そして生誕の名を持つジェノバが獲物を確実に仕留める際に多用するトラップだ。
鉄となったソロとセフィロス――二人が元に戻る様子はない。
この短時間でサイファーたちが追い付いてくるなどさらにありえない。
自分たちでなんとかするしかない。
(ヤツの目的を推測するに、再び殺されることはないはずだ。
一度だけなら私が奴の動きを止めることもできよう。
それ以上は自力でなんとかしてもらうしかない)
"一度限り、か。アンジェロ、聞いた?
大丈夫。怖くない、怖くないよ"
リノアは反射的に、アンジェロを落ち着かせるため普段のように声をかける。
そして、アンジェロからの答えが返ってこないことで、彼女の意識がここにないのだと嫌でも思い起こさせられてしまう。
ストップにかかっているから答えられないだけ――そう思いこむことができればどんなによかっただろうか。
アンジェロの死に際して、目を閉じて眠る彼女の魂を抱えていたとき、心にぽっかりと穴が開いたような寂寥感が心を冷やしていった。
ひるがえって今は、乾いた寒風が心を少しずつ切りとっていくような、そんな心の痛みを感じる気がした。
耐えられないほどではないけれど、ずっと晒されているとつらい。
優しくない現実は余裕を少しずつ削っていく。
後ろから迫りくるジェノバがそうであるように、
ここにいるのは、ただ指示に従うだけのアバターなのではないかという思考さえ、頭の中をよぎってしまう。
現実は待ってくれない。
感傷に浸れるのはここまでだ。
後方からやってくるモノに全集中を割かざるを得ない。
ざ、ざ、ざ、と足音を立てながら、ジェノバがにじり寄ってくる……!
- 35 :innocent avatar 9/12:2021/08/08(日) 21:26:18.05 ID:zhfTbsuSd
- (この魔法、時間経過で解けるのだったな?
ならば、ギリギリまで引き付ける。停止の効果が切れたところで一気に仕掛けるぞ。心の準備をしろ)
"それは分かったけど……ピサロが動きを止めるってことは、ピサロはここに残るつもりなんだよね?"
(そもそも、今貴様らに協力しているのは、この場から一人でも足手まといを減らすためだ。
セフィロスに加えてケフカもいるというに、この私がソロ一人を残し、尻尾を撒いて退散するなど、ありえぬ)
素直にみんなが心配って言えばいいのにな、とため息をつきたくなる。
ジェノバが追ってきていなければ、口に出すくらいはしたかもしれないが。
"ね、それじゃあ、残るついでに、サイファーのこともお願いできない?
アーヴァインは無事に逃げ切ったけど、そういうの抜きにしても、あいつ今一番危なっかしそうだもん"
(サイファー……ロザリーを守っていたという男か。考えておく。
だが、貴様はまず目の前に迫っている危機を切り抜けることを考えろ。
そろそろ追いついてくるぞ)
足音はすぐ後ろまで迫った。
ピサロの姿をしたジェノバは、アンジェロに後ろから近づき、しゃがみこみ、腰と胴に手をまわして抱きかかえる。
逃げ出さないようにがっちりと、しかし優しく包み込むように持ち上げるその様には、乱暴さではなく、毛並みさえ乱さない気遣いと丁寧さを感じた。
もっとも、希少な研究用のサンプルを丁寧に取り扱うようなものだと考えれば、やはり気を許すわけにはいかないのだが。
そして、ピサロの魔力のほうにも、わずかながら変化が生じる。
(これは、私が引き込まれているのか?)
【闇】に魅入られた者は多かれ少なかれ身体に【闇】が入り込んでいくものだが、
ピサロがふと思い浮かべたのは【闇】を引き受ける体質となったアーヴァインのことだった。
そして、おそらくはアーヴァインから分かたれたこの怪物にも、その素養が受け継がれているのだろうと理解する。
早急に事を為さねばならない。
アンジェロの身体がぴくりと反応する。
動きを縛っていたストップの魔法が切れたのだ。
(いくぞ。あとは貴様らでうまく逃げきれ)
"うん、色々とありがとうね"
再び立ち上がるために腰を浮かせ、重心を移動させるその過程。
停止の魔法が効力を失い、自由を取り戻した腕の中の一匹に生物に細心の注意を払って立ち上がるその瞬間に、
ピサロは正しく呪いとして浸透する。
「!!」
ジェノバにとっていかに【闇】が養分であっても、短期間での過剰な摂取は身体に悪影響を及ぼす。
呪いは全身に巡り、ジェノバの身体の自由を奪う。
中腰の状態、かつアンジェロの肉体という別の重さが体幹を崩す。
"アンジェロ! 行くよ!"
リノアのかけ声に対して、アンジェロは相変わらず無反応だ。
けれども、一心同体のフォーメーションは本能が覚えている。
今このときだけ、リノアとアンジェロは一心同体となって突き進む。
彗星のように空間を突き進み、何事もなく旅の扉へとダイブした。
"アンジェロにスコール、次の世界にはいなくても、もう一度会えるのかな……"
そんな想いを胸に、リノアはアンジェロと共に青いワープホールを潜り抜けていった。
- 36 :innocent avatar 10/12:2021/08/08(日) 21:27:57.35 ID:zhfTbsuSd
- ※※※※※※※※※※※※※※※※
動くものが誰もいなくなった舞台で、ジェノバは粛々と物品を回収する。
ドレスフィアと言われていた球体。
あるいは、ユウナの『心』と言い換えてもいい。
マスタードラゴンのチカラを封じた宝玉。
呪いが肉体を阻害しても、その回収を封じる術はピサロにはない。
常人であれば即座に【闇】に魅入られるほどの呪物。
だが、意志薄弱なジェノバに、どれほど効果があろうか。
呪いを振りまくほどに強い魂のエネルギーは、ときおり動きを阻害すれども、いずれ糧としてジェノバの身に取り込まれるのみ。
ドラゴンオーブという宝玉。
あるいは、マスタードラゴンの『心』と言い換えてもいい。
通常のモンスターがこの宝玉に宿ったチカラを解放しようものなら、その強大さにあてられて暴走を始めてしまうだろう。
だが、ドーガの魔力を取りこみ、闇のドラゴンの血肉を取り込んだジェノバの格はオーブのチカラを制御するには十分だ。
まして、このジェノバは熾天使として降臨したセフィロスの落とし子。
神に限りなく近づいた存在が、どうして扱えないことがあろうか。
ドレスフィアも、ドラゴンオーブも、捕食し、その肉体に取り込む。
躊躇なく強大なチカラを取り込まんとするその貪欲さ。
それは、復讐鬼としてチカラを求め続けた経験のあるピサロですら戦慄させるほどだ。
アーヴァインに憑いたとき、セフィロスが彼をどうするつもりだったのか。
ピサロはその意図をアーヴァイン本人から受け取った。
アンジェロを作り替え、代用するという手も封じた。
それでも、あらゆる手を使ってジェノバ――セフィロスはチカラを求める。
ジェノバ以外の肉体が何ひとつない状況で、ピサロができることはもはや何もない。
だが……
(これでいい。
セフィロスが求めているのが進化の秘法ならば、私の魔力は毒となるはずだ)
不完全な進化の秘法を用いて暴走した記憶。
そして、不完全な進化をルビーの涙を用いて打ち消した記憶。
ピサロの魔力にも血肉にも、その記憶がしかと刻まれている。
呪いも、退化の記憶も、すべてセフィロスへと流し切る。
この世界に遺した魔力すべてを使い切る覚悟すら持って、ピサロは正しく呪いとしてジェノバの内部に潜んだ。
- 37 :innocent avatar 11/12:2021/08/08(日) 21:32:17.98 ID:zhfTbsuSd
- ※※※※※※※※※※※※※※※※
思い返せば、コピーは確かに【闇】が見えていた。
その素質は、分かたれた新たな命もしっかり受け継いだようだ。
私にリユニオンされるためだけに生まれたその命は、私に意志を送り続ける。
思念を読み取り、ふさわしい姿へと変化していくジェノバの生態そのものが、進化の秘法と相性抜群だろう。
さらなる高みへと昇るための二つの秘宝――【闇】のマテリアとドラゴンオーブの回収命令を下す。
【闇】の動きだけがサーモグラフィを通した映像のように私に送られてくる。
一見すれば、ただ【闇】が一か所に集まるだけの映像。
だが、不愉快極まりない事実に気付いた。
こともあろうにアンジェロの肉体を侵そうとしている状況なのだと!
想定していたことではある。
【闇】とは魂に魔女の意志という不純物をブレンドしたものだ。
アレイズには間違いなく効力はあったのだろう。
ただ、水中で空の容器の蓋を開ければ水が流れ込んでくるように、
【闇】の蔓延るこの世界でアレイズを使えば、【闇】が浸透しようとしてくるのもまた必然だったのだ。
アンジェロを殺害し、死後もしつこく私に纏わりついた着ぐるみの女を思い起こす。
存在そのものがアンジェロへの冒涜。害悪の化身でしかない女。
アンジェロは冷静かつ聡明な犬、あのような人間ごときに打ち負ける道理はない。
だが、あれが私を――本調子ではなかったとはいえ――惑わし、傀儡へと変えようとしてきたことは忘れん。
コピーやら死にぞこないやらをあてがった隙に、ジェノバ細胞の糧としたことで一時的には消失したが、
今も隙あらば復活し、魂と肉体を汚そうとしているのだろう。
ただし、恐れる必要は何もない。
アンジェロに【闇】が纏わりつこうが、私の方針に一切の変更は不要だ。
対策は既に私の手の内にあるのだから。
コピーが後天的に得たという、【闇】をその身に引き受ける体質。
ジェノバが【闇】――魂――ライフストリームのエネルギーを糧とし成長していく性質。
マテリアも、アンジェロに憑こうとする【闇】もすべて糧とし、新たなチカラへの礎としよう。
アンジェロを決して傷付けずに【闇】だけを回収するよう、
そしてアンジェロを無事に次の世界へと逃がすよう、私は思念を送った。
- 38 :innocent avatar 12/12:2021/08/08(日) 21:41:54.00 ID:zhfTbsuSd
- ソロがアンジェロを害すなどありえない。
それどころか、今の局面であれば、アンジェロはソロと共に私に剣を向ける可能性が高い。
ソロは奴の誇りにかけて退くことなどないだろうし、そうなれば私がこの手でアンジェロの命を絶つことになりかねない。
もっとも、その程度の状況であればいくらでも回避のしようはある。
真に危惧しているのは、この世界にはまだケフカがいるということだ。
直ちに次の世界へと逃がすことで、私との関係が広まることはないはずだった。
しかし様々な悪条件が重なり、アンジェロとケフカが対峙する可能性が高まった。
私がアンジェロを復活させたという事実を奴が知れば、必ず悪用する。
そしてアンジェロ自身も、ルカを殺害したケフカを決して許さないだろう。
アンジェロはザックスと共にユウナを討ち、散った。
そして、ソロと共に誇りをかけてケフカを討ち、再び満足気に逝く、その光景を幻視する。
私はアンジェロの名を聞き、確かにアンジールを重ねていた。
仮にアンジールがこの場にいれば、やはりソロと通じ合い、共闘を選ぶはずだ。
まったくの別人格だと理解していながら、一度重ね合わせてしまった以上、その幻想は付きまとう。
かつてソルジャー1stとして微睡みのまま過ごしていた日々の追憶が、亡霊のように私に付きまとう。
それは、大いなる目的のためには明らかに不要な感情だ。
ただ……その感情に気付いた時に安堵した私がいる。
理性に反して増大したこの情動は、私がジェノバの擬態ではなく、魂までもがセフィロスであるという証左であろうから。
未だ鉄化は解けない。
だが、ジェノバが【闇】を取り込んだことだけは分かる。
そして、その瞬間に地を強く蹴りつけるような一匹分の足音が響いたのも聞こえた。
アンジェロへの蘇生は確かに成功し、そして無事に次の世界へと進んだ確信を得たのだ。
(これでいい。
元より戦いに加えるためによみがえらせたのではない。
お前は次の世界で生き延びろ)
鉄と化した私の表情はぴくりとも動かないが、それでも口元が緩んだ気がした。
【セフィロス (HP:1/10、右腕喪失、アストロン)
所持品:E正宗(折れ)、ふういんマテリア
第一行動方針:【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
第二行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/ドラゴンオーブの力を手に入れる
第三行動方針:旅の扉をくぐる
第四行動方針:首輪を外す
第五行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:希望の祠・外】
※アンジェロの肉体にリノアの精神が宿っています。
※小型のジェノバにピサロが呪いごと憑りついています。
※セフィロスのザック及び中身はジェノバが回収中です。
【村正、奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ】
- 39 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/08/08(日) 23:00:28.64 ID:qmZ1p8uv6
- 投下乙です!
リノアきた!今までも色々やっててくれたけど、ここで本格復帰は心強すぎる!
ピサロも相変わらず頼りになるけど、こっちは逆にセフィロスもろとも自爆しそうで怖いなあ。
そして真意を誤解されてるセフィロス、仕方ないとはいえアンジェロ本人にももはや永遠に伝わらないの悲しいね…
色々アカンやつを大量に取り込んだピサロ型ジェノバとのリユニオンは果たしてどうなるのか、続きが楽しみです!
- 40 :innocent avatar 10/12 訂正:2021/08/08(日) 23:19:05.33 ID:zhfTbsuSd
- 不要な文章の消し忘れがありました。
失礼しました。
ドレスフィアと言われていた球体。
あるいは、ユウナの『心』と言い換えてもいい。
マスタードラゴンのチカラを封じた宝玉。
呪いが肉体を阻害しても、その回収を封じる術はピサロにはない。
↓
ドレスフィアと言われていた球体。
あるいは、ユウナの『心』と言い換えてもいい。
呪いが肉体を阻害しても、その回収を封じる術はピサロにはない。
- 41 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/09/15(水) 00:21:34.33 ID:ZUiyEckMZ
- FFDQ3 757話(+ 1) 19/139 (- 0) 13.7
- 42 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/10/02(土) 08:08:16.31 ID:iOZo0r3ke
- 遅ればせながら投下乙です!
アンジェロの復活はこう来るか!!と、今まで見守ってきてくれたリノアの行動もあって胸が熱くなりました。
ピサロとリノアの会話が、緊迫した状況なのにテンポが良くて和ませてくれるのがいい……
切り離されたジェノバがピサロの形を取るのは状況からしても納得だけど、見た目からして全く勝てるビジョンが浮かばなくて震えるしかない。
そんな中アンジェロへ向かうセフィロスの想いが鮮やかで、アンジェロの精神が失われていることを知ったらどう思うのか気になるなあ
旅の扉の目の前で繰り広げられる修羅場の数々に、やっぱり続きが楽しみで仕方がないです! 応援しています!
- 43 :Black in truth 1/15:2021/10/05(火) 01:10:27.32 ID:x7CNOrQIv
- ざり、ざり、と草を踏みしだく音が近づく度に、悪寒が背筋を駆け抜ける。
ヘンリーさんはアーヴァインを連れて逃げ切った。アンジェロらしき気配は数秒前に旅の扉へと消えた。
ピサロが残ってくれた可能性はあるけれど、今のあいつには実体がないのだから足音なんかするはずがない。
だったら、そこにいるのは誰なのか?
僕と同じく鋼鉄に変じているはずのセフィロス、その唇が一瞬歪んだ気がする。
(ダメだ!)と直感が警鐘を鳴らし、動揺の波が心を揺らす。
集中が乱れた――そう気づいた時には呪文は解けてしまっていて、その事実を理解するよりも早く身体が蹴り飛ばされる.
鎧を突き抜けて伝わった踵の衝撃が肺の中にあった空気を全て押し出し、それでも身体は反射的に受け身を取る、けれど。
「ククッ」
耳朶を打った笑い声は、すでに遠く。
体勢を立て直すどころか呼吸をする時間すら与えてはくれないのだと、わかりきっていたことを再認識。
「残念だが、私の勝ちだ」
投げかける言葉すら置き去りにして、銀色の髪と流れ出る赤い血をなびかせて。
翼を背負った黒影は、ふらふらと歩いているピサロの姿をした何かへと駆け寄っていく。
(ダメだ――ダメだダメだダメだダメだ!!)
死者の姿を騙るアレが何なのか、これから何が起こるのか、この湧き上がる不安と絶望感は何なのか。
あらゆる疑問を覚えるより先に、答えが頭の中で像を結ぶ。
真実を見通す力。いつか来る悲劇――きっと、今のこの瞬間のために、クリムトさんが遺してくれた力。
だけど、間に合わない。
間に合わないとわかっていても手を伸ばす。
止めたい、助けたい、救いたい、その一心で息を吸う。
"案ずるな、ソロ。最悪の事態は私が防ぐ"
本物のピサロの声が、偽りのピサロの中から響く。
やっぱり残っていてくれたのか、と安堵する余裕などない。
あいつのことだから無策なんかじゃないのはわかってる。
こんな状況でなければ間違いなく信じて任せられた。
だけどダメなんだ。
それじゃあダメなんだ。
説明する時間も首を横に振る時間も何もかもが足りない。
セフィロスもピサロもどうしようもなく見誤っていて、そのことに気づいているのはきっと僕と――
「――」
睨みつけた僕の眼差しに気付いたのか、偽物のピサロの瞳が動く。
交錯したのはほんの一瞬、だけど僕の眼には確かに映った。
感情も知性も心も魂も感じさせないほどに何もかもを塗り潰す、虚無と見紛う漆黒が。
人の尺度では理解しきれないほど強大で、【闇】よりも遥かに純粋な――絶対的な"悪意"が。
- 44 :Black in truth 2/15:2021/10/05(火) 01:11:46.93 ID:x7CNOrQIv
- 掴み取った。
ままならない現実に何度も煮え湯を飲まされて、私らしくもない回り道をさせられた。
それでも諦めずに死力を尽くし、時には策まで弄して、ようやく勝ち取った権利。
コピーから切り離されたジェノバが見慣れぬ男の姿をしていた事も、疑問を抱くには至らない。
どんな姿をしていようがそこにいるのは間違いなくジェノバであり私の支配を完全に受け入れている。
闇の力を宿す物体、夢と現実を分かつというドラゴンオーブ。
私が命じた通りにアンジェロを逃がし、私の望んだ通りに二つの相反する力を吸収し、リユニオンのために馳せ参じたのだ。
疑いなどあるはずもなく、己が意志のまま、進化の夢に背中を押されるままに。
私はついに、その手を掴み取ったのだ。
リユニオンはすぐに終わる。
掌の感触から、細胞、意識、思考――存在の全てが繋がり、私の意志の元に統合され、一つになる。
今まではそうだった。
この時もそうなると思った。
だが。
そう、ならなかった。
「――かはっ……?」
ずぶり、というくぐもった衝撃と共に、意図せぬ呼気が口から溢れ出る。
掴み返されたジェノバの手から、リユニオンでは有り得ない、得体の知れない"何か"が流れ込んでくる。
暗く冷たい魔力と強烈な殺意。
いつかの夢にまで現れた女の亡霊にも似た、悍ましいまでに強い呪詛。
一体何が、と問い返そうとしても、腹から喉まで逆流する鮮血が邪魔をする。
視線を落とせば、そこにあるのは長柄の槍。
腹に切っ先を鎮めるどころか、私の身体を背まで貫き通して、片翼が捻じれながらどろりと溶けて――なんだ、これは?
「私を操れると思ったか?」
聞き慣れない声。
それが目の前にいるジェノバから発せられたものだと気づく前に、全く同じ声が私の脳裏を過ぎる。
"待て、これは――何が起きている!?"
それを聞きたいのは私だ、と心底思いながら、崩れ落ちそうになる足を抑え込み、ジェノバを突き飛ばそうとする。
だが、急速に抜けていく力が……――流れ落ちる血よりも増して、奪われていく何かが、それを許さない。
何をされた? 誰の仕業だ?
混乱する思考を遮るように、いち早くソロが魔法を解き放つ。
「イオラ!!」
爆発はジェノバの足元で炸裂し、ついでのように私の身体も吹き飛ばした。
炭化しながら飛び散る大量の雑草、引き抜かれた槍の後を追うように血が噴き出すが、それを気にする余裕すらない。
何とか受け身を取り、せめて立ち上がろうと膝に力を入れる。
己が無様さを嘆く余裕も嗤う暇もなく、間髪入れずに鳴り響く剣戟の音。
顔を上げれば、切り結んでいるのはソロとジェノバ。
白銀の剣を槍で受け流し、あるいは演舞のような足さばきで躱しながら、ジェノバは苦々しく表情を歪め、まるでソロの知己のように声を発する。
- 45 :Black in truth 3/15:2021/10/05(火) 01:14:29.26 ID:x7CNOrQIv
- 「どういうつもりだ?
それはロザリー達が命を賭して追っていた敵、断罪すべき殺人者だ。
庇い立てする道理がどこにある?」
"……なんだこれは。私の真似をしているのか?
これもこの男の計画の内なのか?"
そんなわけないだろう……!!
心の内で吐き捨て、乱れる呼吸を整えて、苦痛を抑え込みながら思考する。
さっきから煩い独り言をまき散らしている謎の声。
その言葉を信じるなら、ジェノバの擬態した姿と声の主は同一人物のモノ。
ソロとロザリーの縁者であるなら、それは十中八九この領域の主――……魔王ピサロだろう。
狂った女ですら亡霊としてこの世に留まっていられたのだから、魔王を名乗る男ならばそれ以上の芸当が出来てもおかしくはない。
正宗をへし折った時のコピーの動きも、ピサロが憑依して操っていたのだと考えれば多少なりとも納得がいく。
そして今、魔王ピサロの声が聞こえるということは、私の身体に潜んでいると考えていいはずだ。
何のために? ――それはもちろん、進化の秘法の完成を阻むため。
推測しか出来ないが、恐らくこういうことだ。
コピーから離れたピサロは、直接私に憑依するのではなく、分かたれたジェノバに潜み直していた。
強い意志を持つ私に憑り付けば違和感に気付かれ取り込まれる危険があるが、自我を持たないジェノバ相手ならばそのリスクも低い。
そんな魔王の意図に気付かぬまま、迂闊にもジェノバとリユニオンしようとしたことで、奴は私の身体に難なく入り込んだ。
そして"進化の秘法"ならぬ"反進化の秘法"を私の体内で発動したのではなかろうか。
その結果がジェノバS細胞の退化による翼の消失であり、この異常な虚脱感――………
……いや、それだけではジェノバの行動が説明しきれない。
それに、先ほど私の身体から抜けていった感覚は……
「ああ、そういえば殺人者でも情けをかけるのが貴様の流儀だったか。
相変わらず甘いな、ソロ。
この男は我々に仇なすだけの存在、ここで禍根を断つべきだ」
止めろ、と命じても指示を聞かず、私を殺せと嘯き続ける。
ピサロの擬態としては正しいのだろうが、何故それを続ける?
そもそもどうして擬態の精度を上げる必要がある?
いくらジェノバといえど、コピーから切り離された肉片でしかないのに、どうやればここまで自立行動をしていられる?
つい先ほどまでは確かに私自身の手足のごとく、唯々諾々とアンジェロを逃がし、必要な道具を回収していたはず……!!
「貴様一人の勝手なエゴでサイファー達の願いを裏切るのか?
それとも今さら私が信用できなくなったのか?
憎しみを捨てられないならば、最初から赦しなどしなければ良かったではないか」
"どの口でそれを言うか……!!
図々しくも我が姿を真似ただけの怪物がッ!!"
うるさい。
特に亡霊の方、いつまで私の身体にしがみ付いているつもりだ。
そうやってぎゃあぎゃあと喚いているからジェノバも貴様に擬態していると考えないのか?
苛立ちをぶちまけたくなるが、この状況では迂闊に動くこともできない。
反進化の影響か、ジェノバ細胞の修復能力も全く働いていない。
呼吸で苦痛を抑えるのが精々だ。
- 46 :Black in truth 4/15:2021/10/05(火) 01:15:45.90 ID:x7CNOrQIv
- 「――」
一方ソロは無言のまま剣を振るい続けている。
会話など意味がないと見抜いているのだろう。
ジェノバの擬態はあくまでも生存のための能力であって相互理解の能力ではない。
相手を油断させるためだけに、読み取った記憶を元にして、意味があるような言葉を作り上げ発音しているだけだ。
人間的感情など介在しない、純然たる生存本能の発露。
だからこそ、有効でないと判断すれば、一切躊躇わずに別の手段を取る。
「わーん、待ってホント待って!」
情けない声音と共に魔王ピサロの姿が歪む。
ノイズめいた変貌の後に現れたのは、コピー本体-――アーヴァイン。
先ほどまで見ていたのと全く同じ、銀色に染まった髪とちぐはぐな翼を背負った恰好で、仕込み靴や首輪まで再現している。
違いといえば、明瞭な声と、擦り切れた白いローブに土汚れがついていないことぐらいだ。
「悪かったよ〜悪ノリして〜!!
許してよ〜〜!! 怒らないで〜〜!!」
ソロの太刀筋をよけながら槍を放り投げ、薙ぎ払いをスライディングで掻い潜りつつ土下座。
一見すれば滑稽だが、ソロのような人間にとってはそれなり以上の効果があるだろう。
「ねえ、ソロ、話聞いてってば!
僕、頑張って演技してただけなんだよ!!
セフィロスだけは絶対にやっつけないと大変なことになるから!!
だからこう油断させてグサってやるしかないな〜って!!
調子乗ってピサロの真似までしたのは悪かったよ〜〜! お願い信じて〜〜!!」
ぴぃぴぃと泣きわめいた所で意味はない、と言いたいが。
それは相手が私の場合であって、ソロには当てはまらないだろう。
正しい対処を知っているはずなのに剣を止め、苦々しくも口を開いてしまったのがその証左。
「お前は……アーヴァインじゃない。
誰でもない怪物だ」
「そんなことないよ!! 僕は僕だし記憶もちゃんとあるよ〜!
お願い信じて! レーベでご飯作ってくれたじゃないか!
そんでふわふわパンケーキとか持たせてくれてさ〜! 結局リルムが食べちゃったけど〜!」
わかっているはずだ。
どんな内容を喋ろうとも、どれだけ本人しかわからないことを話していようとも、そこに本物の精神は宿っていないと。
老いぼれから受け継いだ、カッパ語すら聞き分ける真実の力とやらで、確信まで持てているはずだ。
- 47 :Black in truth 5/15:2021/10/05(火) 01:19:47.47 ID:x7CNOrQIv
- "さっさと叩き斬れ、ソロ!!
本物のアーヴァインは逃げ切った、ヘンリーが伝えただろうッ!!"
まだ消えていなかった亡霊が、殺気もあらわに喚き散らす。
その思念に反応したのか、ジェノバはすっと顔を上げて、私に向かい小首をかしげてみせた。
「ピサロ〜、そういうあんたは正気だって証明できるの?
【闇】に当てられて狂ってないってどうして断言できるの?
僕が言うのもなんだけど、まともな判断じゃないよ?
進化の秘法の完成を阻むなら真っ先に僕を呪い殺すべきだったのに、わざわざそっちを退化させるなんてさ」
それはそうだ、と思う気持ちが半分。
肉塊が変形しただけの人形が私を陥れるなぞ予想できるわけがない、と思う気持ちが半分。
ともあれそれなりに痛い所を突かれたのか、煩わしい気配が少しだけ弱まる。
「ピサロは本物だし【闇】に染まってもいない。
僕の仲間を侮辱するな」
ソロが吐き捨てた。
だが、なおも手は動かない。
切っ先だけは真っ直ぐジェノバに向け続けているが――……
「真実を見抜く力をもらったから自分にはわかるって?
すごいよねえ。過程も理屈もすっ飛ばして自分にだけわかるってカンニングもいいところだよ〜。
でもそれ、今のソロにはそう見えてるってだけだし、"その真実"が真実だって証拠はどこにあるの?
こうやって喋ってる僕に、僕の心が宿ってないなんてどうして断言できるの?
人からもらった力は無条件で信じて、こうして実際に喋ってる僕は信じないって、その理屈はおかしいんじゃないかな〜?」
澄んだ青の瞳が僅かに陰る。
ソロの力は老いぼれから受け継いだもの、自力で辿り着いた境地ではない。
まして心や魂など、元より常人の眼には映らない。
"心が無い"と証明するなど無理難題。そう判断した根拠すら、当人以外には説明不能。
真っ当な反論は不可能な上に、思考すればするほど揺らいでくるだろう。
そもそも論破する必要などなく、黙って殺すのが正解なのだが。
「ねえ、冷静に考えてよ〜。
僕のやったことって、セフィロスをやっつけようとしただけだよ?
ソロ以外の皆がセフィロスを殺そうって頑張ってきて、ピサロもそのために残ったわけだろ?
それなのになんでソロは僕のこと分かり合えない敵扱いすんの?
納得がいかないっていうなら、聞いてくれればなんでも全部説明するよ?」
「……必要ない。お前の企みはわかってる。
セフィロスさんを殺して、僕を利用して、皆を殺して取り込むつもりなんだろう。
根本的に捕食しか考えていないモンスター、それがお前だ」
ここに至っても語気を維持できているだけ、ソロの精神力を認めるべきか。
だが肝心の行動が伴わなければ無意味もいいところ。
何もかもを諦めて私自ら口火を切るか?
出血は未だ止まらない、ジェノバを再掌握する方法は思い浮かばない。
生き延びるという一点を目的に据えるなら、恥を覚悟でソロに協力し、この狂った分体を始末して、共に旅の扉を潜って手当をするしかないだろう。
そう考え、正宗の束に手を伸ばした時だった。
ジェノバが明確に嘲り笑いながら、私の方を見やったのは。
- 48 :Black in truth 6/15:2021/10/05(火) 01:21:32.31 ID:x7CNOrQIv
- 「なんでそんなに僕を信用しないのかなぁ?
三流科学者の道具に入れ込んで他の皆を敵に回すなんて、ほんと〜理解できないな〜」
――瞬間、頭に血が上った。
この出来損ないの人形は、今、何と言った?
「英雄だの星の支配者だの、自称は立派だけどさ。
正体はただの実験体、三流科学者の夫婦が胎の中から仕込んだ出世のための道具さ。
そりゃ〜世の中全てを呪うってもんだけど、だからって同情しても何の意味もないよ〜」
「何を囀るッ!!
コピーの、細胞ごときの分際でッ!」
気づけば私は叫んでいた。
体力の浪費も生存欲求すらも忘れ、腹の奥から湧き上がる怒りと血と胃液を声に混ぜながら吠えていた。
「私の元に還れッ!!
貴様は、そのためだけに作られた、人形だろうがッ!!」
そんな私を、ジェノバは「や〜だね」と軽く呟きながら鼻で笑い――
その輪郭が、姿が、何よりも見慣れたものへと変化する。
「愚かだな。
宝条に抱かれた股の緩い女から生まれた実験体風情が、"私"に指図するとは」
鏡のように、あるいは思い出のように。
片翼を背負い刀を携えた"私"が、両腕を広げながらクックッと喉を鳴らす。
ソロが反応できない速度で私の眼前に立ちふさがる、その足運びさえも私自身と何ら変わらない。
「自分に都合のいい仮説ばかり信じ込むのも父親譲りか。
だが、残念ながらお前は"私"ではない。
我が母の細胞を取り込み、人間ですら扱えるような不完全な存在へと貶めた、呪わしき胎児だ。
母の身体を利用し、傲岸不遜にも神の座を夢見た、忌々しい人間だ。
ジェノバたる"私"の器でしかない、神羅が造ったソルジャーだ」
突きつけられた声はどこまでも冷酷で、否定したくてたまらない言葉の羅列。
だが……同時に、理解してしまう。
どれほど認めたくなくても、それは――それは、確かに、真実なのかもしれないと。
何故ならアンジェロが蘇生して旅の扉へ逃げた時、安堵したのは紛れもない私だったからだ。
私には私自身の意志があるのだと。ジェノバが擬態した人格ではないのだと。
『私がジェノバでないこと』に安心したのは――
他の誰でもない、私自身だったからだ。
- 49 :Black in truth 7/15:2021/10/05(火) 01:23:01.58 ID:x7CNOrQIv
- 「星を駆る夢も、母を渇望する心も、コピーを利用する力も、全ては"私"のもの。
お前は"私"の意志を己のモノだと思い込んでいただけの、空っぽの存在だ。
ザックスを遠ざけ、雌犬に情を注ぎ、ソロに絆される、下らない人間だ。
偉大なる我が母を、愚かしくも古代種ごときと混同したまま、ソルジャーにもなれなかった一般兵に殺された人間だ」
頭を殴り付けるように、"私"が嘲り笑う。
心臓が握りしめられたように冷えていく。
視界が揺らぎ、上下の感覚が消えていく。
それは果たして失血のせいなのか、精神の問題なのか……わからない。
「コピーに根付いた"私"の細胞が先祖返りを起こした時から、お前の中でずっと考えていたことだ。
【闇】による進化を利用すれば、お前のせいで劣化した"私"も、母たるジェノバそのものに近づけるのではないかとな。
クックック……まさか魔王とやら直々に、最も都合のいい進化をもたらしてくれるとは思いもしなかった。
感謝しよう。おかげで"私"はジェノバの力全てを取り戻し、不要な人間を切り捨てることができたのだから」
指先が震える。
胃酸に焼かれた喉の痛みが煩わしい。
信じていたものが崩れて無くなるなんてもう何度目のことか、数える気にもなれないのに。
どうして今さら、こんなにも、息が苦しくなるのだろう。
「安心しろ、セフィロス。お前の名と姿ぐらいは使い続けてやるさ。
何せ親子二代に渡って苗床を用意し、"私"を育ててきたのだ。
家族全員で、実に滑稽な勘違いをしたままな」
勝ち誇ったように"私"が嗤う。
ジェノバである以前にセフィロスでありたいと願った私を見捨て、セフィロスである以前にジェノバであることを選んだ"私"が。
かつて私自身が神羅の英雄であることを切り捨てたように、今度は私がそうされる。
それだけのことで、けれど――けれど、けれど、けれど……!!
「さあ、お前の役割は終わりだ。
母の悲願もセフィロスという存在も"私"が受け継ぐ。
この滅びゆく地で安らかに眠れ、愚かな神羅の英雄よ」
「いいや、滅びるのは貴様だッ!」
怒号と共に白刃が風を切る。
ソロだった。
今まで頑ななまでに剣を振り下ろせなかったのは何だったというのか、顔を赤く染め歯を食いしばりながら斬りかかる。
"私"は焦る素振りもなく一撃目を躱し、懐に入り込みながら村正を操りソロの攻撃を弾こうとする――が。
「何もない怪物がッ、好き勝手に喋るなぁッ!!
人を真似するしか能のない、悪意以外に何もない、空っぽな存在がッ!!」
激情が、実力を超えた力を発揮させたのか。
咆哮と共に放った鋭い切り上げが、奴の身体を一気に押しのけ、刀を天へと弾き飛ばす。
しかしてやはりというべきか、"私"は飛び退りながら表情を歪め、すぐさまその姿を変える。
- 50 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/10/05(火) 01:24:01.81 ID:Ep/ekNS+c
- 連投回避
- 51 :Black in truth 8/15:2021/10/05(火) 01:25:07.44 ID:x7CNOrQIv
- 「ソ、ソロ〜〜!! 本当にどうしたの!?
なんでそいつやっつけるの邪魔するの〜!?
いい加減にわかってくれよ〜、そいつは倒さなきゃいけない敵なんだって!!」
ジェノバには誇りなどない。人間的な尺度もない。
感情も態度も全ては手段。
殺しにくい姿を、油断を誘う言動を――相手にとって『一番最悪の行動』を、思考を読み取りながら再現し擬態する。
"……ドラゴンライダーの技能か?
アーヴァインが喰らった時は既に別の魔物に転身していたはずだが、身に沁みついた経験は残っていたのか?"
一瞬図りかねた魔王の独り言も、すぐに記憶に結びついた。
心を読み、人を操り、魔術師を喰らい、【闇】によって進化したという黒竜。
湖畔の森で話を聞きだした時は【闇】にばかり興味が行ったが、思い返せばその生態はジェノバに近しいものがあった。
あの竜の血肉を、間接的にでもジェノバが取り込んでいたのなら……
確実に、私以上に心を攻撃する技術を身に着けているだろう。
実際アーヴァインの姿は、ソロにしてみれば必死になって助けようとしたばかりの仲間だ。
先ほどまで斬りかかるのを止めていたほどなのだから、最も殺しにくいと判断してもおかしくはない。
だが、憤怒に駆られているソロには逆効果だとわからないのか?
それともわかっていてなお、その姿を取っているのか――?
「分かり合う必要なんてない!!
お前は僕たちの感情を読み取って、言葉を喚いているだけだ!
僕には無抵抗な相手に見えるように。セフィロスさんには生きる気力を失うように!
ピサロには道理に聞こえるように、その時一番強い殺意を向けた相手に反応しているだけのマネマネもどきだ!」
呆気なく断じられ、唐竹割りにせんとばかりに大上段から斬りかかる。
その一撃を「うわぁっ!」とギリギリでかわし、怯えたように飛び退ったジェノバは、わざとらしく悲し気に呟いた。
「そっか……そんな風に思い込んで、僕を殺すつもりなんだね」
もちろんそんな言葉で今更ソロも手を緩めたりはしない。
それでも身軽に――当たり前のように本物のアーヴァインよりも素早い動きで――避けていくジェノバ。
「君には何もしてないのに、こんなに話し合おうとしてるのにね。
君の正義は、そうやって人を決めつけて、一方的に殺すことなの?」
この期に及んで聞く耳持たず。
剣は脇構え、間合いを詰め、居合のごとくに薙ぎ払う。
その攻撃もかわしながら、ジェノバはため息とともに言葉を紡いだ。
「わかったよ。今の君が、シンシアさんが命を捨てて願った勇者の姿だって言うなら諦めるよ」
- 52 :Black in truth 9/15:2021/10/05(火) 01:27:14.68 ID:x7CNOrQIv
- 「――え?」
引き合いに出された知らぬ名に、ソロの動きが止まる。
その目の前で、ジェノバの姿が揺らぐ。
尖った耳、どこかあどけなさを残した顔立ちの、見覚えもない少女。
「ソロ。それが貴方の正義だというなら、私を殺せばいいわ。
見殺しにしたあと、蘇らせてもくれなかったんだもの。
もう一度殺すぐらい、どうってことないわよね?」
「――!!?」
ギリ、と歯噛みの音が聞こえた気がした。
ソロのものではない。
奴は小さく息を呑んだまま、完全に動きを止めてしまっている。
……―ーいや、手だけは、細かく震えている。
「遠慮なんて――……あ〜やっぱり無理だ。
知らない女の子だし、うわキツもいいところっていうか、上手くできなくてごめんね〜。
ほら、無抵抗な相手を殺す以上、せめて殺しやすい姿になってあげるのが君のためかなって思ったんだ。
二度も三度も見殺しにした子なら、もう一度殺しても痛む心なんてないだろうな〜って」
言葉の途中でジェノバがアーヴァインに擬態しなおしても、鼻先まで顔を近づけられても、ソロは固まったままだ。
真実を見抜く眼を持ってしても、その少女の姿を使われることは予想外だったのだろう。
致命的な弱点を不意打ちで抉られ、動揺のあまり無防備になった獲物を逃すジェノバではない。
「でも僕の勘違いだったね、ごめ〜ん。
僕の姿になった時、君、思い〜〜っきり! ホッとしたもんね〜!
わざわざ二度も助けた僕の方が、シンシアさんより殺しても心が痛まない相手だなんて思わなかったよ〜!
殺してもヘーキな相手を助けて、死なせたくない子を何度も何度も見殺しにしなきゃいけないなんて、勇者って大変なんだね〜。
あ、でももっと殺しやすい相手がいるみたいだね〜!」
耐えがたいほど屈託のない笑顔で空とぼけながら、ジェノバは別の姿を取る。
一番最初にしていた擬態、魔王ピサロ。ソロの元よりの知己。
私にはそれ以上のことはわからない、が。
「――さあ、今度こそ貴様にとって一番殺しやすい姿になってやったぞ。
自ら見殺しにした女の仇だと存分に吠えるがいい。
正義を騙る勇者の正体は復讐に狂った一人の男だったと、思うさま証明するがいい。
貴様にはそうする権利があるのだろうし、私も今更抵抗などするものか」
真実が見えていても。
偽りだと頭でわかっていたとしても。
私の中で激しい怒りを燃やす魔王本人の亡霊に気付いていたとしても。
演じられているのはソロが最も忌避する悪夢で、抉られているのは心の傷だ。
真偽に対する判断力と、精神を揺さぶり崩す攻撃に耐えられるかどうかは……残念ながら、全く別の話。
- 53 :Black in truth 10/15:2021/10/05(火) 01:29:21.20 ID:x7CNOrQIv
- 「どうした? 話し合いにも応じずに断罪するつもりでいたのだろう?
それとも――やっぱり私を殺す方がやりやすいの?」
魔王から少女へと揺らぐ姿が一歩近づき、ソロが一歩後ずさる。
かつてジェノバによって駆逐された数多のセトラの民のように、思い出を凶器にされて。
身体ではなく心を切り刻まれ、絶望に沈んでいく。
感情に足をからめとられて動けなくなれば、後はただ喰われるだけ。
魂は餌となり、血肉は器となり、記憶と声と姿形は新しい武器としてどこまでも利用され尽くす――
……――"認められるか、そんな結末ッ!"
吐き捨てたくなった言葉と頭の中の声が一致した次の瞬間、身体が勝手に動いた。
正宗を投げつけ、気を逸らすと同時に地に転がっていた村正を蹴り上げ手中に収める。
ただ切り捨てる、その一心でばねのように大地を蹴って飛び掛かり――だが、
「チィッ!」
舌打ちと共にジェノバの姿と手が変形した。
狙撃手アーヴァイン、その右手首からシームレスに繋がる血管の浮き出たコルトガバメント。
かつて抜き取り持ち去った弾倉のことを思い出した時には、血肉で出来た撃鉄が鳴り実弾が撃ち出されていた。
けれども元よりジェノバに見捨てられ、失血死を待つだけの身体。
足など止めてやるものか。逃がす暇を与えるものか。
脇腹に弾を受けた程度で崩れ落ちてやるものか!
「あああぁぁああぁぁぁぁぁあッ!!」
出し惜しみをする気は毛頭ない。
片腕だろうと万全ではなかろうと、渾身の力を込めて居合一閃。
真空をも生み出して草原を薙ぎ払う一撃を、しかしジェノバはひらりと宙に飛んで身を躱す。
拳銃では戦いきれないと踏んだのだろう、手を人間のものに戻すと異様に素早い身のこなしで放り捨てていた槍を拾い上げ――
「"させるか!!"」
奴が構え終わる前に、魔王の意志に突き動かされた足が回転蹴りを放つ。
槍を取り落させるための蹴りは、しかし槍どころかジェノバごと大きく跳ね飛ばした。
その手ごたえ、もとい足ごたえは私にも伝わり――奴の行動の意味を理解する。
私を殺そうとした理由、ソロを懐柔しようとした理由、やたらと素早い理由、全てに結び付く極めて単純な答えでありジェノバの弱点。
けれどもその弱点をどう突くか、思索を巡らせる暇もなく事態が動く。
「くそっ!」
くるくると器用に宙を舞っていたジェノバが突然、あらぬ方向へ槍を投げ踵を返す。
一体何を、と問うまでもなく、
「――ギガデイィイイイイイイイイイイイイイイン!!」
獣の慟哭にも似た絶叫と共に大気が震え、紫電の雷光が視界を染め上げた。
- 54 :Black in truth 11/15:2021/10/05(火) 01:30:40.23 ID:x7CNOrQIv
- つんざく轟音が耳を焼く。許容量を超えた感覚を一気に叩き込まれた意識が瞬間動きを停止する。
今まで私に向けて使った魔法は何だったのかと首をかしげたくなるほどに、桁の違う破壊の雷鳴。
切り払われてなお残っていたはずの雑草は跡形もなく蒸発し、雷を引き寄せた槍は煙を立ち昇らせながら地面に落ちた。
――けれど。
開かれた地平、彼方で生い茂る草原の合間に、異形の影が一つ遠ざかっていく。
"これでも逃げ切るか……厄介な……!!"
憎悪も露わに歯ぎしりする亡霊の呟きが、聞こえたのかどうか。
肩で息をしていたソロは、膝からゆっくりと崩れ落ち、瞳から涙を溢れさせる。
「うあぁ、わぁああああああ……
ああぁああああああああああああああああ……!!」
倒さなければならない敵を逃してしまった後悔か、大切な思い出を踏みにじられた嘆きか、救えなかった誰かへの罪悪感か。
心に受けた傷の深さなど、本人にしかわからない。
だからといって泣きじゃくっている時間などないだろう。
あのジェノバは、軽かった。
子供ほどの体重もない――感覚での判断になるが、6kgあるかどうかというところ。
それもそのはずだ。
誰に擬態しようとも奴の正体は、アーヴァインから切り離された触手と私から分離したジェノバの融合体でしかないのだから。
いくら【闇】を宿す宝玉やドラゴンオーブから無尽蔵のエネルギーを得られようとも、ジェノバがジェノバである限り、寄生生物という生態からは逃れられない。
読心と擬態、分離と統合を駆使しながら他生命体の肉体を簒奪・利用することに特化した代償は、ウイルスに例えられるほどの自己増殖能力の低下。
だからこそジェノバは私を始末し、ソロを懐柔しようと必死だった。
軽いが故にスピードこそあれど、軽すぎるが故に破壊力を生み出せず、衝突すれば容易く吹っ飛ばされる。
剣だろうが槍だろうが接近戦になれば勝ち目がなく、魔法で戦おうにもソロには容易く完封される。
擬態で仲間になりすまそうにも真実を見抜く力がある以上一目で見破られ、人望の高さゆえに周囲を扇動して陥れることもできない。
そんな相手に私が持つジェノバの知識が渡ろうものなら、完全に天敵だ。
――そして天敵への対処を諦めて逃げ惑うほど、ジェノバは愚かしい生き物ではない。
「……草、を、出せ」
地面に突き立てた刀身で体を支え、それでも立っていられずに腰を落とし。
何度か血でむせりながら、声を絞り出す。
さすがに無理をし過ぎている自覚はあるが……何もせず助かるのを待つだけなど、それこそ私らしくもない。
やりたくもない仕事ならともかく、やりたいと思ったことぐらいは、やってもいいはずだ。
「ひそひ、草……あれで、伝えろ」
最低限の片言でも意味は理解できるだろう。
逃げたジェノバの行き先は、確実にサイファー達のグループだ。
若造共は全員簡単に騙せそうだし、先ほど切り落とされた片腕も残っているだろうし、何より一番ジェノバに関わらせたくない最低最悪の狂人もいる。
先手を打って連絡を取り、警告しなければ、どんな事態が引き起こされるかもわからない。
私の言葉に、ソロは顔を青ざめさせたまま、わたわたと懐を探り――
- 55 :Black in truth 12/15:2021/10/05(火) 01:32:20.43 ID:x7CNOrQIv
- 「あ……無い、無い、な、なんで?!
だってここ、僕、ここに仕舞って……!!」
完全に取り乱したその有り様に、思わず頭を抱えた。
最悪だ。
よりにもよってひそひ草を掏り取られたか。
いや、思い返せば『殺してみせろ』と煽っていた時、ジェノバは執拗に距離を詰めていた。
あの時すでに失敗した時の保険をかけていたということか。
こうなれば、サイファー達はむしろ敵と認識した方が良い。
……いや、元より私は敵だろうが、ソロ単独であっても合流するのは危険という意味だ。
"落ち着け!
無いなら無いでやることはあるだろう!!"
「あ、……そ、そうだ、手当、手当しないと!!
扉、旅の扉、立って! すぐそこだから!!」
ピサロの言葉に何を考えたのか、ソロは顔も拭かずに私の身体を強引に引き寄せ、背負いながら立ち上がった。
さすがにそういう意味ではないだろうと呆れるまでもなく、亡霊が苛立たしげに声なき声を荒げる。
"違う! そんな輩は放っておけ!!
貴様一人で次の世界に行ってヘンリー達と合流しろ!!"
「放っておけるわけないだろ!!
何で見殺しにしなきゃいけないんだ!!」
"助かる傷でもなければ助けるべき相手でもないだろうがッ!!
このまま死なせた方が余程役に立つッ!!"
「助かるかもしれないじゃないか!!
何もしないで諦めるなんて嫌だ!!」
どいつもこいつも――……
人の意志も無視して、ずいぶんとまあ好き勝手に言い合ってくれるものだ。
嫌味の一つも言ってやりたいが、長台詞を吐こうにも、そこまで息は続かない。
思考を働かせる余力も、そろそろ底が見えてきた。
それでもざりざりと引きずられるつま先の不快感はわかる。
崩れかけた壁を乗り越え、青い輝きがどんどん近づいていることも見て取れる。
どうやらソロは本気で私と共に旅の扉を潜るつもりでいるらしい。
馬鹿か、と思う。
阿呆か、とも思う。
それがやりたいことだというなら、……本当に、どうしようもない。
地面の感触が土のそれから石畳に変わる。
旅の扉から漏れる光が水面に反射し、向こう側にある祭壇を厳かに照らす。
あと十数歩も引きずられれば、新たな異世界に放り出されるのだろう。
だから、その前に。
- 56 :Black in truth 13/15:2021/10/05(火) 01:35:43.32 ID:x7CNOrQIv
- 「ソロ」
意を決して口を開く。
わかりきっていたことだが息を吸うだけで激痛が走り、吐き出そうとすれば血が喉に絡みつく。
加えて、身体から失われていく熱の感覚と募りゆく脱力感――
「手を、ゆるめ、ろ。……いた、い」
全くもって私らしくない台詞を、なんとか声に変える。
いくら混乱していても、こう言えばお人よしのソロは……腕を離し、足を止めて謝ろうとするだろうという確信があった。
「あ……す、すみません!」
予測通りの返答。期待通りの行動。
それでいいし、これでいい。
旅の扉を背にして私に向き直ったソロ、その胸に村正を押し当てて、残った力を振り絞って刀もろともに突き飛ばす。
自分までよろめかないように、気を付けて。
「――え?」
「お前は、先に進め」
驚愕で見開かれた瞳も、涙で濡れたままの顔も、伸ばされた腕もバランスを取ろうとした足も。
澄み渡った天空を思わせる輝きの中に消えていく。
一応別れの言葉ぐらいは告げてやろうと、肺と喉と口を動かしてみたものの、聞こえたかどうかはわからない。
それでも、きっと――
「これで、いい……そう、だ、ろう?」
"……そうだな"
独り言のつもりでこぼした言葉に、想定外の相槌が入った。
ソロと一緒に行かなかったのか。この厄介で面倒で口うるさい亡霊は。
それとも、あるいは――私にまだ用があるのか。
「……なにを、すれば、いい?」
遠のきそうになる意識を引き止めながら、記憶の糸を手繰る。
さっきピサロがソロと口論していた時、奴は『死んだ方が余程役に立つ』などと言っていた。
ただ死んでほしいだけなら、普通、そういう言い回しはしない。
死んだ方が嬉しいとか、ありがたいとか……そういう表現になるはずだ。
死体か、魂か、それとも【闇】か。
何をどう、役に立たせるつもりかはわからないが……聞くだけ、聞いてもいいだろう。
それを実行するかどうかは、内容にもよるが。
"――奥に祭壇がある。そこから水に身を投げろ"
……水に?
昨夜、死にぞこないの小僧に、蹴落とされた記憶はあるが……それに、何の意味がある?
疑問に思いながら、ゆっくりと足を動かす。
まともに歩く体力は、もう、残っていない。靴底を引きずって、片足ずつ進むのが、精一杯だ。
- 57 :Black in truth 14/15:2021/10/05(火) 01:38:02.38 ID:x7CNOrQIv
- "ここ、希望の祠はこの世界で唯一天空の祝福を得た聖地だ。
そしてあの祭壇はマスタードラゴンに選ばれた魂を留め置く場であり、訪れた者に力を分け与える魔法陣が刻まれている。
だが、天空に由来する力故、魔族たる私では扱いきれない。
その道理を捻じ曲げるために、貴様の死によって生まれる【闇】でこの場を汚染したいのだ"
丁寧な説明……なのだろう。
半ば朦朧とし始めている意識で、異世界の理論を説かれても、聞きとりようがない、というだけで。
まるで、死出の経を、聞いている……そんな気分になりながら、隻腕で腹を抑え、旅の扉を避けて進む。
眩暈が酷いが、万が一にも、ここでふらついて……扉に、落ちて、しまったら、台無しだ。
意識を、保って、――……祭壇、へ。
"断っておくが、貴様の【闇】は私が利用するのみだ。
貴様の意志など残すわけにはいかんし、そんな余地もない。
この魔法陣に刻み込むのは私の魂と力だけで、それも誰かに引き継がせる。
ロックか、リュックか、サイファーか……誰でもいい。
あの怪物やケフカ、それに魔女と戦う意思がある者ならばな"
亀は……候補に、入れないのか。
忘れて、いるのか。単純に、面識がない、だけかもしれない、が。
……どうでも、いい、か。
呼吸が、いよいよ辛く、なってきた頃……ようやく、祭壇に、ついた。
始めに見た時は、薄紅に染まっていた、水面も。
今は、底が、見えるほど、澄み渡っている。
"……――まだ、口は利けるか。
言い残したいことがあるなら、一応は聞いてやる"
なんだ、それは。
私の、意志など……残すわけには、いかないんじゃ、なかったのか。
やっぱり、こいつも、ソロの……仲間、だな。
呆れるほどの、お人よしに、感化された……自覚すら、ない、男。
もう一度、顔を、見てやろうと、振り向いて、みれば。
祭壇の、真ん中で……おぼろげに、揺れる、【闇】が、あるだけだ。
仕方ないな、と思いながら……一応、願いを、口にする。
「アンジェロを、守ってやってくれ」
ソロには、悪いが……別に、頼まなくても、守るものは、いるだろう。
この亡霊とか、ヘンリーとか、な。
だから……アンジェロ、だけが、心残り、で。
せっかく、蘇った、命を……二度と、消さないで、ほしかった。
"………………わかった"
らしくない、とでも、思って、いたのか。
少し長い沈黙の後に、続いた……承諾の、言葉に。
私は、満足し、床を蹴る。
鼓膜を、揺らす、水音も。
再び、赤く、染まっていく、水面も。
肺の中に、残っていた、空気も。
身体の、感覚さえも。
何もかもが、泡になって――……闇の向こうに、消えていった。
- 58 :Black in truth 15/15:2021/10/05(火) 01:40:22.18 ID:x7CNOrQIv
- 【ソロ(MP0、真実の力を継承)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、
ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション、村正
第一行動方針:??????
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【現在位置:次フィールドへ】
【ジェノバ
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:サイファー達と合流し、利用する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置:希望の祠・外→北東へ】
【セフィロス 死亡】
※折れた正宗とランスオブカインが希望の祠・外に落ちています。
※ピサロの魂が希望の祠に留まっています。
- 59 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/10/05(火) 08:16:13.16 ID:s9U45p+4b
- 投下乙です!
分かたれたジェノバがここで反逆してくるのは完全に意表を突かれた。
本人からの分体がオリジナルに反逆するのはアリーナ2を思わせるのだけれども、アリ2、スミス、セフィロスの混ざったやばいものができあがってしまったね。
ソロの勇者としてのアイデンティティが崩されていく部分は見ていてつらかった。
700話以上、完璧に勇者をやってくれていたので、読者としてソロの勇者性に信頼してたんですわ。
取り乱して年相応の子供のようになるソロの姿が痛々しくて、汚してはいけないものが汚されてしまった、そんな感傷がある。
最後のピサロとセフィロスのやりとりも、好きかも。
結果だけみればセフィロスの自爆なんだけど、
> 呆れるほどのお人よしに感化された自覚すらない男
とか、どう考えても自分のこと言ってるよね?
そして、セフィロスの遺言をピサロが聞いたわけだけど、ピサロはアンジェロがどうなってるのか知ってるから、
最後の『わかった』にどれくらいの感情を押し込めているんだろう……と思うと。
- 60 :Black in truth 修正:2021/10/05(火) 09:59:34.25 ID:ATnn4m4yd
- 一部文章の抜けと訂正箇所が見つかりましたので修正します。
>>55
"落ち着け!
無いなら無いでやることはあるだろう!!"
「あ、……そ、そうだ、手当、手当しないと!!
扉、旅の扉、立って! すぐそこだから!!」
↓
"落ち着け!
無いなら無いでやることはあるだろう!!
早く旅の扉で――"
「え、あ、……そ、そうだ、行かないと!
安全、安全なところ! て、手当、手当しないと!!
扉、旅の扉、立って! すぐそこだから!!」
>>58
状態表のうち、ジェノバの現在位置の方角が誤っておりました。
【現在位置:希望の祠・外→北東へ】
↓
【現在位置:希望の祠・外→北西へ】
以上となります。
- 61 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/10/05(火) 23:46:57.39 ID:AR3jxQn+7
- 投下乙です!
ああ……ああ……ここでか……!
何度も盤面をひっくり返しまくったセフィロスが、セフィロスとして在るが故にジェノバに立場をひっくり返されるのは、
流れを紐解けば納得出来るけどあまりにも予想外で本当に吃驚した。
あんなに恐ろしく勝ち目が見えないように見えたセフィロスの命の灯火が消えていくのが、
1人称視点の語り口からリアルに伝わってきて、苦しくて泣きそうになってしまった。
遺言もあまりにも……最後の最期まで、セフィロスは自分自身であることを貫いていったんだということが伝わってきて、
つらいけどかっこよくて……とても好きです。
ソロに対するあまりにもむごすぎる仕打ちは、ピサロやセフィロスと同じタイミングで怒りが燃えてしまうほどだった。
取り乱しながらもセフィロスを助けようと諦めない姿にまた涙しました。つらすぎる。
そしてジェノバの言動はなんだかもう悪趣味すぎて読んでるこっちまでショックでくらくらしてくる。
そんなやばいのがサイファーたちのもとへ向かったとなると今後が怖くて怖くて仕方がない……
ふるえて続きを待ってます。応援しています……!!
- 62 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/10/06(水) 19:36:54.59 ID:7y4NFBKdS
- ああああ南西組がまた修羅場あああ!
良くも悪くも眼中になかったから無事だったのにクソみたいな愉悦ジェノバとケフカがかち合うとか完全に悪夢の始まりじゃーん!
一方でソロはほんま頑張った。お前が折れずに勇者だったからこそセフィロスとピサロとかいう2凶が希望に繋がるんだマジでおつかれさま次の世界でも頑張って
セフィロスはいつからか揺らいで迷走してたと思うけどジェノバが悪意の純マーダーを引き継いだ今はあの人間味を惜しんで見送れる
ジェノバはほんとこのロワの今までの悪意とフラグが凝縮された感じで胃が痛みつつわくわくするなぁー… 特にあの煽りがスミス思い出すわぁー…
- 63 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/11/03(水) 15:19:19.23 ID:gdFm0QSiy
- 泉に沈んでいくのがエアリスと同じで泣いた
- 64 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/11/07(日) 10:07:53.06 ID:C60fdVfvG
- まだこのスレ続いてたのか
10年前くらいまで少し投稿させてもらってたけど再発見して凄い感動。
セフィロス退場とか着実に前進してますね。ぜひ完結を期待してます。
- 65 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/11/15(月) 00:39:44.14 ID:BrVPZ0rtc
- FFDQ3 759話(+ 1) 18/139 (- 1) 12.9
- 66 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 1/9:2021/11/30(火) 23:17:01.16 ID:hcJXaVA0D
- 指一本動かねえ。それどころか、一言紡ぐことすら不可能だ。
当然だ。ただの石像は動いたり返事をしたりはしない。
頭のてっぺんからつま先まで、俺の身体はカチカチに固まってる。
唯一できることといえば、ストリーミング配信のように流れてくる戦況を目に焼き付け、思考することだけだ。
あのアホみたいに長い刀をセフィロスにむざむざ奪われた挙句、仲間が次々と打ち倒されていくのを眺めるしかできなかった。
アーヴァインから感情という感情が抜け落ちたあのとき、一言呼び掛けてやることすらできなかった。
セフィロスが俺を足手まといに仕立て上げて悠々と退場していったとき、吼えることだにできなかった。
もし石化が解けて、身体を自由に動かせるようになったら?
セフィロスを追い、ぶっ殺す。それ以外にあんのか?
ロックたちは俺を止めるかもしれねえが、関係あるか。
俺が追って、アーヴァインを救ってやらなきゃならねえんだ。
アイツのツラ、見てたか?
アイツはよ、生きたいって俺に言ったんだよ。
本心だったのか、おトモダチやらまわりのヤツらに気を遣ったのか、最初は推し量れなかったさ。
殺してやるほうがアイツの救いになるんじゃねえかって考えは、何度も湧き出してきたくらいだ。
だけどな、アイツ、俺がちょっと気を遣って優しく話しかけてやったら、自分が殺されると誤解して泣きわめいて取り乱してたんだよ。
声を詰まらせて、滝みたいに汗を垂らしながら俺に命乞いをして、いっそ哀れになるくらいみっともねえ姿だったよ。
誤解もいいとこだが、あんな醜態さらしたら俺なら一晩は部屋から出られねえな。
ただ、生きたいって意志だけは誰に言わされてるでもない、アイツの本心だって思ったよ。
テメェが正気を無くしたら、誰が何と言おうと切り捨てる、そう約束はしたさ。忘れちゃいねえよ。
なら、正気のまま、身体だけが狂ったらどうすりゃいいんだ?
俺を石化させたとき、アイツは全部諦めたようなカオをしてたんだ。
何を企んでんのか分かんねえようなのらりくらりとした態度を取って、
まわりを油断させてくるようなヤツが、仲間にさえ本心を悟らせないようなヤツが、
そんでもって、ピンチになれば恥も外聞もかなぐり捨てて命乞いして生き延びようとするヤツが、
生きることを諦めたようなカオをしてたんだよ!
「サイファー君は間違いなく、ええま・ち・が・い・な・く! セフィロスの奴に殺されるでしょう。
操られてはいても、今だ自意識が残っているアーヴァイン君の目の前で、それはそれは無残にねェ」
俺の心の中でも覗いてやがったのか、イカれたクソピエロが嫌味ったらしく挑発してやがる。
セフィロスが怖いから、セフィロスに殺されるかもしれないからアイツを見捨てるってのか? 冗談じゃねえぞ!!
もちろん、俺に向けたものじゃねえってことくらい分かる頭は残ってんだよ。
俺をダシに出してヘンリーとソロをおちょくってるだけだ。
テメェの思惑なんざ知ったことか! ナメたクチ叩いてんじゃねえぞ!
ケフカの襟元をつかんで持ち上げ、ガンを飛ばして罵しる――どんなに固く決意したところで、結局そんな未来は訪れなかったがな。
- 67 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 2/9:2021/11/30(火) 23:18:52.91 ID:hcJXaVA0D
- 俺はアルティミシアの尖兵となって、軍事大国ガルバディアを率いた。
ガーデンに戦争を仕掛け、バラムを占領し、エスタに攻め入り、と、デリングと同等かそれ以上の非道をはたらいた。
だが、意識はあったんだ。俺自身が気づかないうちに魔女に洗脳されていたって話は聞いていたが、それで納得できるわけねえだろ。
あれだけのことをしておいて、ガーデンに居場所なんてあるわけねえ。
母校を兵士率いて襲撃したやつが、どのツラ下げて再入学できるかってんだ。
かといって、魔女の騎士の夢は潰えた。
俺は騎士でもなけりゃ、英雄でもなかった。
テメェに都合のいい思い込みで人様に迷惑かけてるだけの、ただの道化だった。
居場所も、誇持も、夢も、何もかもを失って、心がガラスのように砕け散る。
そうなると思った。
けど、そうはならなかった。
スコールたちの俺への態度が、ガーデンでバカやってたころと変わらなかった。
退学処分を受けていたはずなのに、謹慎処分という形で復帰を許されていた。
雷神や風神から、バケーションの誘いが来たりもした。
――まあ雷神が俺に気を遣ってたのはバレバレだったがよ。風神にケリも入れられてたしな。
魔女討伐班のやつら、風紀委員のやつら、アイツらがいなけりゃ、俺はどんな大人になってたか。
心は砕けて、辛い日々に押しつぶされたまま、生きているのに死んでいるような大人になってたか、
そうでなけりゃ日の当たらない裏通りに潜んで、糧のために平気で他人を犠牲にするモンスターのような男へと堕ちていただろう。
アイツらがトクベツに何かをやってくれたってわけじゃない。
実際はやってくれてたんだろうが、少なくとも当時はそんなことはおくびにも出さなかった。
でも、アイツらの態度にただただ救われたんだ。
俺はもう戻れないって思っていた、どこにも行けないと思っていた。それはただの幻想だったと思い知った。
だからこそ、魔女の騎士への憧れも夢も、バカバカしいとすっぱり諦めることができたんだ。
今度は俺が救ってやらなきゃならねえ。
今のアイツはあのときの俺の鏡写しだ。
お前は戻れるんだって証明してやる。
もう戻れないだの、どこにも行けないだの、うじうじ悩んでたら、いの一番に襟首つかんで罵倒してやる。
諦めと絶望に染まり切ったあの表情を塗り替えてやる。
それでも肉体が限界で、ここで終わらせてほしいって懇願されたんなら……それも叶えてやる。
だから、俺はここで棒立ちしてる場合じゃねえんだよ!
まだやれる、やらないといけない。
なんで動かないんだ! 運命の神サマってやつは、そんなに俺だけを生かしたいってのか!?
使命感と蛮勇と劣等感とがごちゃまぜになった激情が俺の中をごうごうと流れ、俺の心をずたずたに引き裂きにくる。
もし、魔女の騎士を夢見てたころのように、感情に任せて前だけ見て突っ走れるならどんなに楽だったか。
これだけの熱が心の奥底から湧き上がってきても、俺の理性も正気も、どうやらまだ失われないらしい。
- 68 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 3/9:2021/11/30(火) 23:19:24.53 ID:hcJXaVA0D
- ここ数日、俺は大勢の人間を仕切って取りまとめてきたと思う。
この世界は英雄に匹敵する猛者もいりゃあ、ロザリーを筆頭に女子供やお坊ちゃんだって大勢混じってた。
最初こそ、バトルロイヤルで一人勝ち残るチャンピオンにはロマンがある、そう考えてたが、そんな甘い見通しは一日で吹き飛んだな。
俺は人間狩りなんて三下以下のゲスどもがやるようなことしたいワケじゃねえんだよ。
正Seedの指示もなく、あるいは魔女からの指令もないまま、傭兵どころか、戦ったことすらない女子供をもまとめて面倒見る数日間だった。
心を壊したやつも、理不尽さに泣きわめくやつも、救いなく死んでいくようなやつも、大勢見てきた。
Seed候補生が受けていたSeed選考実地試験ってのは、本当にお坊ちゃんお嬢ちゃんに向けたテストに過ぎなかったらしい。
戦争に匹敵する過酷な経験は、俺の心も例外なく揉んでいた。
頭ン中に怒涛のように流れてきた感情が、行き場を失ってそのまま失われていく。
ナメきった格好をしたクソピエロに、ナメきった声色で使命を否定されておきながら、
最近頭をもたげてきてた『大人』の俺は、ケフカの挑発も一理あるだろうなとつぶやくんだ。
一つのミスが死に直結する環境で、生き延びていけるように俺自身が成長したのか、それとも単にスレちまっただけか。
あるいは、身体が石になって動けないからこそ、そういう思考が湧いてくるってだけかもしれねえが……。
心当たりは山ほどある。
ティンバーのテレビ局、ガルバディアガーデンの大講堂、ルナティックパンドラ。
クソったれな殺し合いにありがたくも選抜されてからであれば、カナーンの件やデスキャッスルへの独断専行の件か。
湧き上がる使命感に高揚して、無力さから逃れたくて、思うがままに行動して、――その結果どうなった?
誰を失ったか、誰が悲惨な目に遭ったか、俺はそれを思い知らされた。
石化が解けると同時に、一人アーヴァインたちの元へ走り出す……
その選択を取りたいのに、それが俺もアーヴァインも破滅させるものだと分かってしまった。
そして、石のままであるからこそ、何の感情も吐き出せない。
嗚咽することすら許されない。
「まあ皆皆様が愚かしくも私の言葉を信じられない気持ちはよーーくわかりますよ?
でも、今現在に限っては、お前らを殺すよりセフィロスを絶対に仕留めることを優先しなきゃイカんのです。
だからジンマシンが出そうなほどまともで正確な情報を流すようにしてるし、提案してやってるんだよ。
まあ僕ちんを信じるよりだいしゅきなセフィロスにぶっ殺される方がマシ! だと仰るなら止めませんがね」
結局、今クソピエロの言っていることはぐうの音も出ない正論だ。
今現在に至っては、俺の矜持よりもセフィロスを仕留めることを優先しなきゃならねえ。
だが、だからといってあいつらを追わないのはありえねえんだ。
俺は動けない。だったら、動けるようになったときにすぐ行動できるように、今は考えやがれ。
ソロやヘンリーに助太刀して、セフィロスを討ち、アーヴァインを無事に救出するプランをだ。
- 69 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 4/9:2021/11/30(火) 23:19:53.96 ID:hcJXaVA0D
- 「サイファーや、すまぬがもうしばらく待っておくれ」
体感ベースではようやく――それでも実時間ベースで考えれば相当短い時間なんだろうが――ギードが石化の治療を開始する。
長く感じるのはひとえに、ひそひ草を通して、リアルタイムにソロたちの戦況が聞こえてくるからだろうな。
細かな会話は聞きとれねえが、ときおり耳をつんざくような轟音がひそひ草と南東の方角から響いてくる。
音とほぼ同時に光が見えたかと思うと、数秒遅れて同じ音が響いてくる。
石化した身体に汗なんて流れるわけないんだが、全身の毛穴という毛穴から水分が汗となって抜け落ちてくような感触を覚える。
目の奥がヒリヒリと痛み、舌の上がカラカラと乾いていくような錯覚を覚える。
流れ落ちる汗が石となった肉体を侵食していくような不快感を覚える。
余裕が集中力とともに失われていく。
ホネなしチキン野郎か俺は、と悪態もつきたくなる。
が、どうやらビビってるのが俺だけってこともないらしい。
ロックとリュックも、南東の方角にときおり視線を向けてる。
この位置からもはっきりと見えるくらいクソでかい雷と爆発――アリアハンでクジャがぶっ放してきたフレアスター級の閃熱――が炸裂し、直後に消滅したときには、
ギードやケフカですら手を止めてマジな表情を浮かべてたほどだ。
もっとも、他人のことを考えても慰めでしかないが。
別にケフカやギードがマジな顔してたからって、状況が良くなることは何ひとつないだろうよ。
せいぜい――ほかに慌ててるやつがいるから冷静になれるかもしれねえな? ってくらいのくだらない影響しかない。
「アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! セフィロスくん、今のお気持ちはどうでちゅか〜?
判決は死刑以外ありえないからサクッとバシっとクリティカル、にんじんで首を撥ねられて死にやがれーー!!」
ケフカの不快な――だが間違いなくソロたちの命を繋いだであろう口上がバックミュージック。
ケフカはケフカで、さっきの爆発で割と危機感を持ったのかもしれねえな。
ケフカの存在は猛毒だ。
ぶっ殺す以外の選択肢はない外道だが、ケフカへの警戒すら今は雑念と割り切るしかない。
石化が解けたとき、何もプランがなければ、いよいよ進退窮する。
セフィロスは攻めも守りも最高の水準、近接・魔法共に隙なし。
さっきのデカい爆発――おそらくフレアだが、G.F.を通して扱うフレアよりも規模が大きい。
そして、その後も断続的に戦闘音が聞こえるってことは、それですら決定打にはならないってことだ。
一時的に優位に立てたことはある。
パウロのように命と引き換えに超常のチカラを身に宿すなり、ドローのような初見の技術を用いるなり、
セフィロスの想定を大幅に上回れば一時的には押し込める。
ただし、二・三発撃ち合うだけで対応してくるってのも確かだ。
一度見た技は通用しない……映画とかに出てくる悪党の親玉がよくやってくるが、挑む側からすれば理不尽極まりねえよ。
まあ、見た目も強さもワケの分からん血とやらも全部ひっくるめて、セフィロスそのものが映画から飛び出してきたようなフィクション野郎なんだが、
とにかくそんなインチキな戦闘センスを持ってる以上、十数人の手練れで囲んで体力切れを狙うか、短期決戦を挑んで必殺の一撃をぶち込むしかないんだろう。
バイトバグやグラット程度ならともかく、セフィロス相手にクリーンヒットを決めるのはあまりにも高いハードルだがな。
- 70 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 5/9:2021/11/30(火) 23:20:16.75 ID:hcJXaVA0D
- 「あっ、すごい光……ごめん、ちゃんと集中する」
「ヘンリーがあれだけ自信たっぷりに宣言したんだ、向こうはうまくやってくれてるって俺は信じてるぜ」
「そうだね……まだ光ってるってことは、ソロもヘンリーもがんばって戦ってるってことだよね」
「クェ〜〜」
ボビィのどこか間の延びた鳴き声に、どこか暢気なロックとリュックの会話が聞こえる。
お前ら気が緩みすぎなんじゃねえのかって考えと、その通りっちゃあその通りだなという考えの両方が浮かぶ。
実際、ソロとヘンリーはうまくやっているんだろう。
それをいとも簡単に覆してくる相手である以上、余裕とは程遠いんだが。
そういえば、超常のチカラ……候補はある。
ロックの持つキューソネコカミ。
その効能はまさに切り札の中の切り札、セフィロスですらひとたまりもないだろう一撃をセフィロスに気付かれずに繰り出せる。
ただし、よりにもよって、その発動条件を満たしてんのがケフカしかいねえ。
瀕死からの大逆転はロマンだが、死にかけてるのがケフカって時点でプロット赤点、ロマンは0点だ。
「おいそこのドロボー、また陰謀論流してぼくちんを悪党に貶めてるんだろ?
いくら俺様が世界の表も裏も牛耳ってるからって、影で誹謗中傷するなんて、なんて卑劣なんだ!
その口止めよう、ついでに息の根も止めよう!」
「いきなり因縁付けてくんじゃねえよ! 今は何も言ってないだろ!」
ロックがケフカを一瞬だけでも視界に入れたのか。それをケフカは目ざとく察知し、絡んでいく。
イチャモンとしか思えねえが、妙なところで勘が鋭いのか。
ケフカにキューソネコカミ、悪手の中でもダントツの最悪手。
察されることすら致命的だ。
仮に俺が使うにしても、セフィロスの警戒を呼び起こせばどうしようもない。
キューソネコカミは発動してくれれば儲けものなオプションとみなすしかないだろうな。
死なない程度に瀕死になる――そんな戦法を意識的に取っていれば何かあると絶対にバレる。
セフィロスの実力が高すぎて見落としがちだが、あいつの戦法自体はお手本通りで教科書そのもの――要するに合理的だ。
多数相手なら、初撃で必ず不意を突いて陣形を乱し、混乱させる。
最も突き崩しやすい相手を狙い、心理的な揺さぶりをかけ、流れに乗って突破口を開く。
撤退時には、必ず自分を追えない状況を作りあげて、悠々と退場する。
アリアハンでも、先ほどの戦闘でもそうだった。
俺を石化させてからの撤退までの流れはため息が出るくらい鮮やかだった。
なぜ俺を殺さなかった? 決まってる、俺を使って時間稼ぎをするためだ。
この世界で目的を果たすための時間を稼ぐためだ。
アーヴァイン、あるいは【闇】を使って何かしらの悪だくみを実行に移すためだ。
そのためには、あのケフカを無視する決断すら下せるということだ。
そんなやつなら、非合理的な行動を取れば何かあると確実に察知してくる。
奥の手があると悟らせてしまえば、そこでバトルは終了する。
迷わずアーヴァインを連れて次の世界へと逃げるだろう。
ヘタすりゃ、ケフカが姿を現すだけで、撤退していく可能性すら考えられる。
逃げられれば、俺たちの敗北だ。
- 71 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 6/9:2021/11/30(火) 23:20:54.75 ID:hcJXaVA0D
- ……。
……。
逆にだ。
俺たちが対処可能だと思わせておけば、セフィロスはアーヴァインと共にこの世界に留まるんじゃねえか?
今はソロやヘンリーと戦っているが、たとえば向かったのが俺一人なら、まだ粘るんじゃねえか?
連携も何もかもぶっちぎって、やることといえば攻撃一辺倒、最後には仲間の足を引っ張る無能――俺はセフィロスにはそんな風に見られているはずだ。
我ながら憤慨したくなる低評価ではあるが、別に試験やってるわけじゃねえんだ。敵方からの評価が低いなら、それは好都合だ。
力及ばず二度も敗れた難敵、絶体絶命の淵にある友人。
その強大な敵の必殺の大技を見切ってカウンターを叩き込み、一息に切り捨て、友を救い出す。
俺好みの理想の展開だが、現実は程遠い。
俺は泥臭い足止めに終始し、MVPはリュックかロックかボビィかソロかヘンリーか、俺以外の誰かにまわるだろう。
かまわねえ。
俺の中で駄々をこねるガキの性分を置いていく。
俺を苛んでいた焦りも弱気も、そしてプライドもいったん過去に置いていく。
「どうかの、サイファー? 身体に違和感はないかな?」
指を握る。思い通りに動く。
足をあげる。慣れ親しんだ己の身体だ。
首をまわす。違和感なくしっかり動く。
「ああ、問題ねえ。ありがとよ」
ギードに礼を言いながら南東の方角に視線を向けると、ちょうど中規模の竜巻が現れていた。
「サイファー! 大丈夫? 今、何がどうなってるか分かる!?」
「ああ、全部理解してるぜ」
「なら……」
リュックはしっかりと治療をしてくれとでも言いかけたのか、それとも追走の準備は万端だとでも言いかけたのか。
それは分からない。
俺がその先の言葉を遮ったからだ。
「ロック、リュック!
今すぐだ! 今すぐアーヴァインたちを救出に向かう!」
- 72 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 7/9:2021/11/30(火) 23:21:36.26 ID:hcJXaVA0D
- 俺は今、一人で真っ暗な茂みを走っている。
俺の傍で並走する人間はいない。
足場の悪い湿地帯の茂みを、死地に赴く決死兵のように一人で駆け抜ける。
湧き上がるのは高揚感。
劣等感や無力感はどこにもない。
結局俺がやるべきなのは、セフィロスに食らいつくことだけだ。
あとは、もしアーヴァインが死んだ目をしてやがったら、ケリ入れてやるってだけだ。
もし何も知らないやつが見れば、またサイファーは一人セフィロスに突っ込んだのかと揶揄されるんだろう。
見る目のあるやつなら、仲間との合意の下で突っ込んでいることに気が付くだろう。
プロテス、シェル、そしてブリンク。
ギードにはありったけの防御魔法をかけてもらった。
これだけありゃ、サシでも1分は渡り合えるはずだ。
俺の仕事は、少しでもセフィロスに食らいついて、ヤツの動きを封じることだ。
アーヴァインから少しでもヤツを引き離すことだ。
キューソネコカミは借りちゃいるが、これに頼るつもりはない。
ロックはロックで、どうやって俺の独断専行を引き留めるか考えてたらしく、奥の手があることをほのめかしてきた。
クイックと魔石バハムート。
ヘイストよりもさらに時の流れを加速させる魔法と、ティアマトに匹敵するほどの強力な召喚獣。
セフィロスの対応力を上回りうる一手だ。
まず、俺が特攻隊長として突っ込んで、ソロに加勢してセフィロスの相手をする。
セフィロスを崩し切ることはできなくても、周囲への警戒をおろそかにしてくれれば上々だ。
ロックたちには茂みや周囲の木々に紛れて希望の祠に近づいてもらってるところだ。
ボビィにありったけの時空魔法をかければ、セフィロスの隙をついてアーヴァインを強引に引きはがすことだってできるだろう。
重装備のリュックなら、仮にアーヴァインが暴れても抑え込めるだけの力はある。
認知外のままアーヴァインを取り返せば間違いなくセフィロスの動揺を誘えるし、それで隙を見せれば満を持してバハムートの出番ってワケだ。
だから、俺は派手に暴れるくらいでちょうどいい。
考え無しの狂戦士が、仲間の制止も振り切って暴走してきたと思われるくらいでちょうどいいんだ。
もちろん、ケフカはお留守番だ。
セフィロスに加勢するなんざありえねえと言いたいが、何をしでかすかは分からん輩だ。
あいつの一手はプラス・マイナスどちらの面でも、影響がでかい。
予想外の行動を取られて足を引っ張られるくらいなら、ギードに監視してもらうほうがいい。
殺す選択肢もあったが、あれほどの狡猾なヤツが、逃げる算段をつけていないとは考えなかった。
どっちにしろ、一秒たりとも無駄にしたくはない。
だから徹底的に蚊帳の外に置いて、干渉は許さねえ。
もちろん、粗はいくつもあるだろう。
ソロが無事だって前提がまず楽観的だ。
けど、根拠がなかったわけじゃない。
出発の直前、ひそひ草から聞こえてきたヘンリーの声色は明るかった。
何が起こったのか分からない以上、行かない選択肢はないが、
もしかしたら肩透かしの結果になるかもしれねえ、そう思わせるくらいには希望のある声色だった。
それならかまわねえ。また風紀委員サマが空回りしていらっしゃる、これだけで済む話だ。
そして、この楽観的な予想は南方に現れた特大の雷雲の前に木端微塵に崩れ去ったんだが……。
- 73 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 8/9:2021/11/30(火) 23:23:02.38 ID:hcJXaVA0D
- 背の高い茂みを抜けた。ここから祠までは一直線だ。
鎮火していない炎がちろちろとゆらめき、煙臭さが鼻を突く燃えさしの原っぱを駆け抜ける。
セフィロスのフレアかソロの雷か、とにかく強力な魔法がここでぶっ放されたらしい。
不吉さを拭えないながらも、アイツらの無事を祈りながら俺は希望の祠へと急ぐ。
茂みを抜けて、体感では五分以上、ヘイストの分を考えると実時間では三分くらいか?
正面に見える懸け橋の塔はどんどん近づいてくるが、その傍にあるはずの祠が見えない。
それについさっきまで、派手な魔法の応酬が続いていたってのに、あの雷を最後に今や何の音も聞こえてこない。
「全部終わってやがんのか……?」
あたり一面に広がる炭化した植物、屋根も壁も消失して土台だけ残った祠。
どれほど激しい戦闘がおこなわれたのかは一目瞭然。
だが、誰もいない。誰一人、姿が見えない。
ソロ、アーヴァイン、ヘンリー、そしてセフィロスも。
(ソロ! アーヴァイン! どこだ、どこにいる!?)
叫びたい気持ちを抑えて、慎重に歩を進める。
もはや廃墟と化した希望のほこらに残るのは、蒼々と光る旅の扉と、濁った泉。
そして未だ形を保っている祭壇だけだ。
イヤな予感がぬぐえない。
誰もいないということは、次の世界に進んだということだ。
つまり、俺たちを待てない理由があったということだ。
ソロやアーヴァインの死体が残っていないのだから、セフィロスが三人を殺して終わったという線はない。
旅の扉に落ちないように、廃墟へと歩を進める。
一方でセフィロスの奇襲への警戒は怠れねえ。
あのカッパ野郎なら、水中からいきなり飛び出してきても驚かねえ。
まわりの泉に視線を移したところで、泉に赤黒い点が引かれているのが分かる。
よく見れば、俺のいる少し後ろから途切れ途切れ続いている。
(こりゃ、血痕か……?)
無意識のうちに処理していたが、聖域の泉が濁っているというのは確かに不自然だ。
だから、血痕はそういうことなのだ。
誰だ? 誰の血だ?
じわりと噴き出してくる汗が目に入りかけるのを手でぬぐい、意を決して泉の中を覗き込む。
「セフィロス……!? そうか、あいつら、やったのか」
張り詰めた緊張が解けて、せき止められていた汗がぶわりと流れだす。
「なら、なんであいつら先に行っちまったんだ?」
理由がまるで思いつかないってわけじゃない。
これから来るであろうケフカに警戒したというのが最もありうる理由だ。
負傷したとして、この場所で治療するにはあまりにタイムリミットが近く、しかも確実にケフカと出くわす。
なら、次の世界に行ったほうがまだ安全だろう。
であれば今すぐにでも旅の扉に入って追いかけたいのは当然の情だが、その情には封をする。
ロックやリュックを放って一人だけ次の世界に向かう道理はないし、やはり近くに身を隠しているという線も捨てきれない。
あらためて、辺りを注視する。
近くに人がいる気配はないが、祭壇の上に魔力が濃縮されているのに気づいた。
「なんだ、ドローポイント?」
- 74 :大人と子供、狭間で揺れるティーンエイジャー 9/9:2021/11/30(火) 23:23:42.08 ID:hcJXaVA0D
- 炎の洞くつの内部や、森の中の川辺のような自然エネルギーが集まる場所。
または、ミサイル爆発地点のような人工エネルギーの集約地。
そういう場所では魔法をドローできるところは確かに存在する。
遠くからも目視できるほどの激戦がついさっきまでおこなわれていた。
戦いのエネルギーが残っているということなのだろうか。
利用できるなら、利用するに越したことはない。
「ドロー」
手慣れたドローに、手間などかからない。
祭壇に集まるエネルギーに向けて手をかざし、俺は魔力を取りこんだ。
【サイファー (右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ、【???】
第一行動方針:ロックらを待つ/ソロたちを探す
第ニ行動方針:旅の扉へ向かう
基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:希望のほこら祭壇】
【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣、チョコボ『ボビィ=コーウェン』
第一行動方針:希望のほこらへ向かう
第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:希望のほこらへ向かう
第二行動方針:ケフカを警戒する
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:希望のほこら北西の茂み】
【ギード(HP1/2、MP:1/5)
所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
第一行動方針:ケフカを見張りながら希望のほこらへ向かう
第二行動方針:セフィロスを阻止する
第三行動方針:旅の扉へ向かう
【ケフカ (HP:1/10 MP:残り僅か 左腕喪失・左肩凍結)
所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕、セフィロスの右腕、ひそひ草
第一行動方針:ジェノバ細胞を利用してセフィロスを殺す/その前にシャワー浴びたいじょー
第二行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
第三行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
第四行動方針:旅の扉へ向かう
基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み】
- 75 :ケーブルのない通信機の向こうでは 1/9:2021/11/30(火) 23:24:55.69 ID:hcJXaVA0D
- わたくし、亀さんの背に乗って絶賛ぶらケフカでございます。
ソロの元に向かったサイファー君たちをカメの歩みで追いかけてます。
「ケフカよ、そなた何を企んでおるのだ?」
口うるさいご老人はいつの時代も厄介なものですねえ。
何を企んでおると聞かれて、何々を企んでおると白状する者がいますか?
と言いたいですが、今回はトクベツに白状してあげましょう! 別に大した理由じゃないしな。
「なぜもナスビもパプリカもありますか。
サイファーくんがこう言いのけたのですよ。
『ケフカは置いていく。はっきり言ってこれからの戦いには連れていけそうもない』と」
スポット参戦というのがどれほどブラックなポジションなのかは理解しているつもりです。
やれ一人で一国の軍隊相手に延々と魔法補給をおこなわされたりだの、
やれ背後から高級な装備を全部盗み取られた挙句自爆させられたりだの、
やれ装備をすべてはぎ取られた挙句アイテム係にされて滝つぼに放逐だの、
やれ一人だけポーションやらハイポーションやらエクスポーションを湯水のごとく使わされまくったりだの。
こんなのこなせるの、脳みそまで筋肉の詰まった体力バカか、金の成る木を所有した資本主義の豚か?
ぼくちんのような世界を崩壊させただけの天才魔導士の身には余りますよネェ。
「それに、サイファーくんもロックも勝算があるから我々を残して行ったんでショ?
たとえば、ワタシにはとても見せられない切り札があったとかねえ。
私を気にして戦えない、大いにありうることです。
だからこそ私は苦渋の決断で、ここは留まったのですよ。
……それに、ドローとやらを使われて、アルテマをぶっ放されようものなら、甚大な被害が出かねませんからねえ。
お互いに魔法を奪われたもの同士、そこに異論はないよな?」
「う、うむ……」
歯切れの悪いカメですね。
あーでも、思い返すとまた腹が立ってきたんだじょ〜。
ソロの野郎といい、ヘンリー王子といい、アーヴァインやサイファーといい、魔導士にメタ張った人間が多すぎじゃありませんかね?
ギード氏、あなたと私で虐げられる魔導士の会を結成しませんか?
他の被害者も巻き込んで、全国規模の会に育てあげましょう。
そして首輪を通して運営の皆さんも巻き込み!
レベルを上げて物理で殴るのが最強だよねチカラこそパワー! と動画を見ながら片手でオート操作をしている厚化粧ババアに
ぼくちんの信者342万人分の署名でもって鉄槌を下すのだ!! アヒャヒャヒャヒャ!!
ツマラン。
- 76 :ケーブルのない通信機の向こうでは 2/9:2021/11/30(火) 23:25:32.81 ID:hcJXaVA0D
- 痛いところを突かれたギードもだんまりを決め込んでますし、話を続けますか。
「無論、機関車サイファーくんが頭から蒸気を噴出しながらセフィロスの元に走っていくなら、さすがにわたしも諫めます。
けれど三人仲良く出発できるのなら問題ありません。
それぞれがセフィロス討伐の計画を練ってはいたようですからねえ」
どこぞの偉人は三人寄れば神の知恵という言葉を残しました。
三人もいれば俺様くらいの常識的な判断は下せるんじゃないカナ。
……仮に行かせたくないのなら、サイファーの治療を後回しにすればよかったし、チョコボの治療も遅らせればよかったのです。
サイファーが一人で突っ走る可能性を確実に潰せないのなら、一人で突っ走っても被害が出ないようにする。
これが正しいリスクヘッジですよねえ。
私もロックもギードも、思惑は一致していたんです。
決して、あいつらを鉄砲玉にして監視が薄まった隙に、セフィロスくんの右腕にオペをおこなおうなどとは考えてはいませんよ?
だから、ことあるたびにチラッチラッとこっちを見るのはやめてくれませんかね?
さすがに失礼だと思いますよ?
あと、気に入らないけどソロのやつが優勢の可能性はあります。
忘れもしませぬ、あれはぼくちんがセフィロスのトラウマを刺激してソロを救ったときのこと。
思わず魅せられるほどの強烈なハカイの奔流が希望の祠に降り注いだのを確認しました。
希望をハカイ……ん〜、なんとも甘美な響きですが、その後ピーマンくさい声が聞こえましたから、まあ二人とも無事でしょう。
ソロが勝ちを拾ったなら、それは100%俺様のスーパーナイスアシストのおかげなんだから、
ソロには三跪九叩の礼をおこなっていただき、そのまま地中に顔をうずめてほしいものですね。
ちなみに一番最悪なのは、なんとセフィロスは起き上がり仲間になりたそうにソロのほうを見ている! からの、
八人と一匹でかわいそうなぼくちんをリンチする展開です。
サイファーくんには最低でもきっちりとセフィロスを潰していただきたいものです。
というか私がサイファーくんに一番期待している役割はこれですので。
もちろん、ソロの野郎と一緒にまとめて切り捨ててくれるのは大歓迎ですことよ?
- 77 :ケーブルのない通信機の向こうでは 3/9:2021/11/30(火) 23:25:58.65 ID:hcJXaVA0D
- 「さて、私たちもそろそろ出発しましょうか。
サイファーくんはここで待ってろと言っていましたが、万が一があったときに対処できないのは困りますからねえ」
「そなたの対処がどういう意味かは疑わしいが、移動に異論はない。
サイファーはひそひ草で連絡をすると言っておったが……セフィロスに奪われるリスクもゼロではないからの」
ギード氏もなかなかお堅いですねえ。
ここに残ってるのはわたしとあなたの二人しかいないんですから、もっとざっくばらんに言ってくださってもかまわないのですよ?
――ソロがセフィロスに殺されて支給品を奪われるリスクがある――とかね?
『イオラ』
あっ、ソロくんのことばっかり考えてるせいで幻聴が聞こえてきちゃったじょ〜。
ソロくん! ここぞとばかりに僕はまだ死んでいないぞってアピールはいりません!
ホント、空気読めよなー。
『……? ……、……。……?』
誰かが話しているようですが、よく聞こえません。
この草、ザックにしまわれているとほとんど外の声を拾わないんですよね。
ビックリマークが二つつくくらい声を張り上げてれば多少は拾えるかもしれませんが。
『……、……。……、……。……、……』
『……? ……? ……、……』
うーん、ひそひ草から漂う雑草のつーんとした香り。
パセリ臭さはありませんね。今ボソボソとくっちゃべってるのはセフィロスくんかな?
空気読めって言いましたけどね、話してる内容が相手に伝わらないと意味がないんですよ。
そんなだからお前ら陰キャのコミュ障って言われるんです。
陽キャでコミュ強で教祖系でパリピでマルチのカリスマなこの私を見習っていただきたいものですね。
さてさて、セフィロスくんが一方的に話してるとなれば、命乞いでもしているんでしょうか?
アイツの声なんて聞きたくないけど、命乞いの言葉だけは別耳です。
さあ! 無様な命乞いを披露してぼくちんの耳を満たすのだ!
- 78 :ケーブルのない通信機の向こうでは 4/9:2021/11/30(火) 23:26:32.67 ID:hcJXaVA0D
- 『……、……。
悪かったよ〜悪ノリして〜。
許してよ〜〜。怒らないで〜〜』
む?
おかしい、これはおかしいです。
このふにゃっとした低い声はアーヴァイン君ですね?
ケフカイヤーが誤認したんでしょうか?
「アーヴァインの声? どういうことじゃ?
戦いは終わったのか?」
ていうかギード氏、ちゃんと聞いていたんですね。
さてはて、セフィロスを倒したあとアーヴァイン君がふざけていたのか、
それともセフィロスがアーヴァイン君を装っているのか、
はたまたアーヴァイン君が完全にセフィロスに操られてしまったのか。
『……、……、……。
僕、頑張って演技してただけなんだよ。
セフィロスだけは絶対にやっつけないと大変なことになるから。
だからこう油断させてグサってやるしかないな〜って。
……。お願い信じて〜〜』
『…………。……』
『そんなことないよ。……。……。……。……。……、……』
また声が遠くなったじょ。
この草、ナナメ45度からバンバン叩いたらもっと聞こえるようになりませんかね?
ギード氏も意味不明さに困惑しているようですが、私に相談してくださっても構わないのですよ?
ついに涙を呑んで親友セフィロスを討ったソロ!
しかし【闇】がソロを呑み込み、次なる生贄に選ばれたのはアーヴァイン!
果たしてアーヴァインはソロの毒牙から逃げ切ることができるのか!
というストーリーを披露して差し上げましゅ。
『何を囀るッ。 …………!』
『私の元に還れッ。
貴様は、そのためだけに作られた、人形だろうがッ』
『…………』
だから空気読めって言ってんだろ。
せっかく俺様がお前の死を有効活用してやると言ってるのに、本人がのこのこ出てきちゃ意味ないんだよ!
- 79 :ケーブルのない通信機の向こうでは 5/9:2021/11/30(火) 23:27:04.68 ID:hcJXaVA0D
- てか、これはアレですか?
もしかしてセフィロスくんが俺様を出し抜いて、意気揚々と進化の秘法を使ってみたら、
アーヴァイン君のほうが進化しちゃって反逆をくらったってパターンですか??
まさか、三闘神と同レベルのオモチャすら御せないとは……。
セフィロスくん! 私はどうやら君のことを見誤っていたようだ……。
私を脅かす数少ない敵として、キミのことは評価していたんですよ。
それこそ、ロックとすら手を組み、いつもの一人芝居を封印するのもやぶさかではないと言えない事もなくはない勢いで!
それなのに、肝心要なこのタイミングでコケるだなんて、君はあれかな? 頭ガストラかな?
言いたいことは山ほどあるんです。
けれども、わたくしTPOをわきまえている男でして、壁耳してる人の隣で騒がない程度の常識はあります。
ですので心の中で慎ましやかに、一言、一言だけ、かつて好敵手であった君に言わせていただきたい。
ヒッヒッヒッ、ヒィーッヒッヒッヒ!
ヒャッヒャッヒャ、アーッヒャッヒャッヒャッ!!
ブヒャーーッッヒャッッヒャッッヒャッッヒャッッヒャッッヒャッッ!!!!
もうちょっと笑いたいけど、笑いすぎると傷に響きますからね。
今日はこれくらいにしておいてやりましょう。
どれどれ、向こうはどうなっているかな?
『何もない怪物がッ、好き勝手に喋るなぁッ。
人を真似するしか能のない、悪意以外に何もない、空っぽな存在がッ』
『ソ、ソロ〜〜。本当にどうしたの。
なんでそいつやっつけるの邪魔するの〜。
いい加減にわかってくれよ〜、そいつは倒さなきゃいけない敵なんだって』
『分かり合う必要なんてない。
……。……。……』
気になる点が数点ありますが、愚かにも手痛い反撃をくらったセフィロスに代わり、
仲良しのソロがアーヴァイン君を始末しようとしているという構図……なんですかね?
アーヴァイン君に味方してソロの野郎もセフィロスも殺すのが大正義なのでは?
そのあとで、アーヴァイン君はわたしが美味しくいただきますが。
- 80 :ケーブルのない通信機の向こうでは 6/9:2021/11/30(火) 23:28:30.03 ID:hcJXaVA0D
- 「そういえば、ソロのやつ、やたらと進化の秘法を警戒していましたねえ。
ぼくちんもあのチカラには非常に興味があるのですが、ソロのやつにロックオンされるとは怖い怖い。
それとも、まさかソロがセフィロスに洗脳されているとか?
いくら進化の秘法が危険だといっても、あのソロくんが問答無用で仲間を殺そうとするなんて思えませんしね」
「まだ向こうの話が終わっておらぬ。
そなたの妄言は、後でゆっくりと聞こう」
ぼくちんのさりげないアシストに、ギード氏は顔をしかめます。
取り付く島もない、という雰囲気を醸し出していますが、本当に一笑に付して流せるんでしょうか?
「いえいえギード氏、賢明なあなたを私ごときが啓発できるとは思っていませんよ。
ただ、ソロくんは私に表明しました。
その手は人を殺すためではなく、その手は人を殺すためでなく、手を繋ぐため。
その口は人を貶めるためではなく、平和を語るため、と。
そんなソロくんが、理性的なアーヴァイン君を殺そうとするのですから、よほどの脅威なのでしょうね。
私には、セフィロスに入れ込みすぎて視野が狭くなっているようにしか思えませんが」
『あああぁぁああぁぁぁぁぁぁッ』
『ギガデイィィィィィィィン』
ギード氏を啓発しようとしたところで鳴り響いたのは、淑女の皆様お待ちかねソロの野郎とセフィロス夢のダブルクライ。
勇者の雷という触れ込みながら、まるで裁きの光を思わせるドでかい雷。
いかにもいい子ぶったソロの本性をさらけ出すかのような、豪快なハカイのチカラです。
「ギードさん、どうしましたか?
ずいぶんと険しいお顔ですが?
あっ、わたくしカメのお顔は分かりませんでした」
ギードの余裕が消えているのは確実です。
彼、余裕がなくなると乗り心地が悪くなるんですよね。
さんざんケツの痛い思いをさせられてきたので、その辺の加減はよーく分かっておりますとも!
ソロとアーヴァインが交戦していたのは間違いありません。
ソロにつくべきなのか、アーヴァインにつくべきなのか、どっちも叩きのめすべきなのか、判断材料がない。
ぼくちんとしては、アーヴァインについて恩を売るべきだと思いますが、よく分からない点もあります。
一番訳が分からないのは、ソロでもセフィロスでもアーヴァインでもない、女の声が聞こえたことでしょう。
実は男のほうの声もちょっと自信がありません。
どこぞの賢者様か、あるいはこの俺様のように、そういう魔法を使ったという可能性もゼロではありませんが、ちょっと不可解なことが多すぎますね。
それとも、進化の秘法は三闘神の像みたいに、いろんな人間がくっついてごちゃまぜになっちゃうのかな?
ところで、考えごとをしている最中に鳴ってくる通話というのはイラッ☆彡と来ますよねえ。
お相手は、あー、ソロ君ですか。
- 81 :ケーブルのない通信機の向こうでは 7/9:2021/11/30(火) 23:29:42.82 ID:hcJXaVA0D
- 『ソロです! 聞こえますか!?』
いつもお世話になっております、株式会社ガレキの塔でございます。
お客様、恐れ入りますが御名前をご教示願えますでしょうか? ソロ様でございますね。
大変申し訳ございません、ただいまサイファーは外出しております。
恐れ入りますが、翌月改めてご連絡いただけますでしょうか。
「ケフカ、ワシに代われ!
……ソロか! ギードじゃ!」
『ギードさん!? 繋がってよかった』
「その声、無事なのじゃな?」
『はい、なんとか勝利を拾いました』
「そうか、いや、安心したわい」
『ギードさん、お願いがあります。
アーヴァインを守ってあげてほしいんです』
「アーヴァインをか? 傍にはおらんのかな?」
『はっきりと断言はできませんが、アーヴァインは無事なはずです。
彼はセフィロスさんを振り切って、離脱できましたから。
……セフィロスさんは瀕死ながら、まだ生きています。
サイファーたちには悪いけれど、僕は彼を説得することを諦めていません。
だから、彼を連れて次の世界に向かうつもりです』
「そやつがこれまで何をしてきたか、分かっておるのか?」
『はい、十分に理解しています。そのうえで、僕は彼も救い出したい。
……いや、救うというのは差し出がましいですね。
彼の傷に、少しでも寄り添ってあげたい、そして少しだけでも力を貸してほしいと、そう思っているんです』
「……ワシ個人は、セフィロスを説得できるなどとは思えぬが、それをやり遂げるからこそ勇者と言われるのかもしれんのう。
アーヴァインのほうは任せておくがいい。
十分に面倒を診ておく」
『ありがとうございます! それと、もし再会できれば僕のところに連れてきていただけませんか?』
「……それは看過できん。
セフィロスがいないならば断る理由はないが、のう」
『いえ、確かにその通りです。少し気配りが行き届いていませんでした。
では、僕らは先に向かいます。次の世界で会いましょう』
「ああ、そなたとは、無事に再会できることを祈っておるよ。
ところでソロよ。できればひそひ草はザックに戻さずに、そのままに持っておいてもらえんかのう?
そのほうが、合流も早いでな」
『………………』
「………………」
- 82 :ケーブルのない通信機の向こうでは 8/9:2021/11/30(火) 23:30:19.03 ID:hcJXaVA0D
- ギード氏、案外演技派ですねえ。
カメのようにどっしりと構えていますよ? あっ、カメでしたね。
さてさて、先ほど通話してきたのは果たしてソロなのか?
ぼくちんを呼び捨てるくせに銀髪クソ野郎のセフィロスには『さん』付けを徹底し、
安っぽいラブ&ピースを高々と謳いあげた挙句に、
勇者はすべてを救うんだとばかりにいい子ぶりやがったあの言動はいかにもソロだと思いますよ?
通話の内容だけを聞けば、頭のおかしなソロらしい、世界お花畑計画な内容でした。
うわお、ぼくちん鳥肌が立ってきましたワ。
実はソロはもうとっくにセフィロスに洗脳されてたりして。
その手は人を殺すためでなく、手を繋ぐため。
その口は人を貶めるためではなく、平和を語るため。
そして伝説装備エラそうな勇者の剣で守護神ケフカを殲滅だ。
あー、ソロの言いそうなフレーズですね。
言ったそばから矛盾していますね。
う〜ん、やはりこれは確実にセフィロスに洗脳されてます。
そもそも、なぜアーヴァインを連れていく必要があるのでしょう。
愚かしくも逃亡した被検体のアーヴァインを確保するため、でしょうか?
けれども、さすがに馬脚を露すというにはお粗末すぎますか。
アーヴァイン君に化ける道具もありましたし、あれを確保したならソロにも化けられるのでしょう。
ソロが洗脳されてると見せかけることで、何かとお節介なソロを我々に排除させようというセフィロスの汚い魂胆なのかもしれません。
曲者たちが裏で謀略をめぐらしているのは怖いですねえ。
ぼくちん温室育ちなので、魑魅魍魎の跋扈する頭脳戦ってやつにはまるっきり向いていないんです。
恐ろしい策略の中、ぼくちん震えて眠るしかできません。
圧倒的に情報が足りんので、ひとまず全部ソロの野郎が悪いとしておきましょうか。
ところで、ひそひ草の向こうから全然返事がありませんねえ。
ザックにでも入れたのか、通話が途絶えてそれっきりです。
通話マナーを無視したあまりの無礼さにギード氏も激おこのようですね。
皺を刻みすぎてどこが目だか分からなくなってしまいましたワ。
お尻の振動シグナルと歩行速度から察するに、ギードの警戒も私から逸れはじめているようです。
セフィロスの右腕への仕込みも、ぼちぼち始めていきましょうかね。
- 83 :ケーブルのない通信機の向こうでは 9/9:2021/11/30(火) 23:30:48.73 ID:hcJXaVA0D
- 【ギード(HP1/2、MP:1/5)
所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
第一行動方針:ケフカを見張りながら希望のほこらへ向かう
第二行動方針:セフィロスを阻止する
第三行動方針:旅の扉へ向かう
【ケフカ (HP:1/10 MP:残り僅か 左腕喪失・左肩凍結)
所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕、セフィロスの右腕、ひそひ草
第一行動方針:ジェノバ細胞を利用してセフィロスを殺す/その前にシャワー浴びたいじょー
第二行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
第三行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
第四行動方針:旅の扉へ向かう
基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:希望のほこら北北西の茂み】
- 84 :思い出クラッキング 1/5:2021/11/30(火) 23:32:28.13 ID:hcJXaVA0D
- 俺たち二人と一羽は、なるたけ背を低くして、茂みを駆け抜けていく。
岩山に沿って南へ向かい、森に身を隠して希望の祠に近づき、背後から急襲する。
サイファーが一人セフィロスの元に向かった。
ソロたちと合流する算段はあるとはいえ、俺たちが迅速に事を為すのは絶対だ。
俺はリターナーの活動で、こういう足場の悪い場所での行動も慣れてるし、
リュックがどうかは分からないがチョコボに騎乗すれば十分に踏破できる環境だ。
ヘイスガをかけているため、そうそうトラブルもなく希望の祠にたどり着けるだろう。
そう思っていた。
「ぅ、ぁぁううぅぅ……」
聞こえるはずのないやつの声が聞こえた。
だってそいつはセフィロスに連れていかれてるはずで、セフィロスに操られて自由に動けないはずで……。
けれども、たった十数分前まで一緒にいたやつの声を聞き間違えるはずがない。
俺たちは草をかき分け、声の聞こえたほうへと進む。
「あっ!?」
「クエ!?」
ウソだろ!?
捉えたその姿に、ボビィは驚き足を止め、リュックは思わず息を呑み、俺は絶句する。
「ぅ、ろっ、く……、りゅ……く」
茂みの中に座り込んでいるのは、確かにアーヴァインなのだろう。
茶髪が銀色に染まり、瞳の色が半身だけ青から淡い緑色に変わり、右半身はモンスターそのものといった容貌。
これだけでもだいぶひどいが、ここまでなら今朝と同じだ。
ただ、他の部分が輪をかけてひどくなっている。
竜のような漆黒のウロコと黄金のウロコがまだら模様のように右腕を覆っている。
ツメは見た目だけなら、鉄ですら簡単に引き裂けそうな凶悪極まりないものだ。
元々背中からは黒い翼のようなものが生えていたが、皮膜の色が右腕と同じく黄金色のようになっている。
脇腹に生えていた触手こそ短くなっているものの、左右が極端にアンバランスなその姿は、実験体の成れの果てという容貌だ。
仮にアーヴァインの左半身を隠して事情を知らない者に見せれば、そこにいるのは小型の邪悪なドラゴンだと答えてもおかしくはないだろう。
「ぼく……、ぁー、ヴァ……イン、だよね?
化け……物、じゃ、ないよね?」
別れてから、まだ10分かそこらだろ!?
いったいセフィロスの野郎はどんな実験をしやがったんだ!?
- 85 :思い出クラッキング 2/5:2021/11/30(火) 23:32:53.21 ID:hcJXaVA0D
- 「アーヴァインだよ! 360度どっから見ても、アーヴァインです!
化け物なんていう薄情者がいたら、Fleshカモメ団がお仕置きしちゃうんだから!」
「アイツ、ぼくに゛、進化の秘法。それ、で……ソロが封じる、って……」
「封じるって……あんたに言ったの?」
リュックがボビィを駆って、アーヴァインにゆっくりと近づいていく。
『ソロが封じる』、確かにその言葉だけが異様にクリアに聞こえたような気がした。
ソロが元の世界でそういうふうな役割を果たしたのは推察できるが、まさかアーヴァインを物理的に封じるって意味じゃないだろうな!?
いや、ソロに限ってそんなことはないか……。と同時に、もう一つのイヤな可能性が浮かんだ。
目の前の『アーヴァイン』がアーヴァインではない可能性。
「リュック! そこで止まれ!」
それを俺は小声ながら、鋭い声で制止する。
たとえどんな姿になっていても、再会自体は喜ばしいことだ。
もしセフィロスから逃げてきて、セフィロスの意思に懸命に抗ってるってんなら、しっかりしろ! と声をかけ、少しでも意識を引き戻してやるべきだ。
そうしたいのは百も承知だ。
その気持ちを理性で抑え込み、『アーヴァイン』が襲い掛かってきても対応できるだけの距離を保つ。
「確かめておかなくちゃいけない。
俺たちの目の前にいるのが、本当にアーヴァインなのかどうかを」
「アーヴァインなのかどうか!? ……洗脳されて襲い掛かってくるんじゃないかってこと言ってる?」
俺の意見に、リュックが半ば反射的に声を荒げるが、すぐにその声はか細くなる。
俺もリュックも、十分すぎるくらいにその可能性に心当たりはあるんだ。
アーヴァインが過去にどれだけバカをやって、そんでどれだけ償おうとして、どれだけ悔いてきたのかは知ってる。
その俺たちの情を、セフィロスはいとも容易く利用してのけたんだから。
どれだけ哀れに見えても、どれだけ助けを求めていそうに見えても、心を鬼にして確かめないといけない。
「俺だってやりたくねえさ。
でもアーヴァインを連れて行ったやつはそういうコトができて、アーヴァイン本人もそれができる道具を持ってるんだ」
「ぃいよ、答え、る、がら。げほ、げほ……」
「大丈夫、簡単な質問を一つするだけだ。リュックとソロは周りにソロかヤツがいないことを確かめてくれ」
「クエ……」
「OK。ごめんねアーヴァイン。大丈夫、もうちょっとの辛抱だかんね!
もし悪いヤツがのこのこ現れたら、うんと思い知らせちゃうよ!」
こういうときにすらすらっと前向きな言葉が出てくるの、正直羨ましいよな。
そんなことを考えながら、アーヴァインが絶対に覚えていて、絶対にセフィロスが答えられない問いを投げかける。
「簡単な質問といっても、大事なことだ。
昨日、デスキャッスルでプサンがサイファーに何をやったかを答えてくれ。
俺がケフカの化けた偽物じゃないって証明に使った質問だから、アーヴァインなら答えられるはずだな?」
「え゛゛……さいふぁー、怒る……んじゃ? 二度ど、ぞの話、やるなって」
「アーヴァイン、疑ってすまんかった! ああ、その答えで正解だよ!
アイツが他のルートから聞きだしてる可能性も、まぐれアタリする可能性も、どちらもありえない質問がこれしか思い浮かばなかったんだよチクショウ!」
- 86 :思い出クラッキング 3/5:2021/11/30(火) 23:33:29.22 ID:hcJXaVA0D
- 「ロック、まわりには誰もいないよ! ソロもヘンリーも、それにアイツもいないみたい!」
リュックがボビィから降りてきて、簡易偵察の結果を伝えてくる。
アーヴァインは一人で逃げてきたんだろうか?
気になることが多すぎるが、まずは移動が最優先だ。
「よし。ボビィ、アーヴァインを乗せられるか?
アーヴァイン、肩貸すぞ!」
「ロックは左側。あたしは右側から支えるから!」
「だいじょ……ぶ。立て、る。
女の子……、背負われるの、カッコ悪いし」
座り込んでいる姿からは重傷者にしか見えなかったが、案外肉体は健康なのだろうか。
息も絶え絶えといった様子で軽口らしきものをたたき、俺たちの助けは借りずによろりと立ち上がって、
ぬるりと寄りかかるようにボビィの鞍へとしがみついた。
そりゃ、一人で動けるんならそれに越したことはないんだが……。
「クエ? ……クエ??」
ボビィはアーヴァインが乗ってくる瞬間に覚悟を決めたような、気張ったような顔をしていたが、
そこから一転、きょとんとした表情に変わる。
ゴツい見た目に反して軽かったりするのだろうか?
「なあ、『お前を連れて行ったあの野郎』はどうしたんだ?
まさか、ソロが倒したとか?」
「ぅ、進化の……秘法で、アイツの意思……小ぃさぐ……なっだ。
僕、持っ……てた槍、刺した……けど、……すごい【闇】、溢れ……て、からだ、こんなに……なっで……。
ぼく、は、大丈夫だよ……って、振る舞った……けど、……そろ……が、すごい顔、して……」
アーヴァインが言葉を詰まらせる。
どうも、セフィロスはアーヴァインを使って進化の秘法を実験したらしい。
確かに、それなら俺たちを誰一人殺さずに時間稼ぎに徹したのも理解できるが……。
「あと……は、必死で、逃げた……から、分かん……なぃ。
振り返っ……たら、そろ、アイツ背負って……た」
アーヴァインの言うことを整理する。
セフィロスがアーヴァインに進化の秘法を使ったことで、セフィロスの意思が弱まった。
あるいは、セフィロスの意思に耐えられるように進化したのかもしれない。
ヤリでセフィロスに不意打ちをくらわせたが、致命傷か溜め込んでいたのか、セフィロスが【闇】をあふれさせた。
それがアーヴァインやソロに影響を与えて、アーヴァインは必死で逃げてきた。
一方、ソロはセフィロスを背負っていった……治療か、次の世界に向かったってことだろう。
アーヴァインの言い分ではソロが【闇】に侵されたというが、俺の個人的な見立てでは、その可能性は低いとは思う。
ただ、万が一はあるし、分からないことも多すぎる。
- 87 :思い出クラッキング 4/5:2021/11/30(火) 23:35:26.32 ID:hcJXaVA0D
- 「希望の祠まで行ったほうがよさそうだ。
もし【闇】が過剰に溢れ出たってんなら、サイファーが危険かもしれないしな」
「だいじょぶ? アーヴァイン連れて行っても」
「無責任に大丈夫とはいえないけど、次の世界に行くには、結局希望の祠から旅の扉をくぐるしかないからな」
ギードに見てもらう案もあるが、ケフカがいやがる。
そもそもサイファーの無事を確認していないのだから、ここで戻る選択肢はない。
僅かな時間にここまで変貌したアーヴァインを見れば、大して時間が経ってないから大丈夫なんて口が裂けても言えない。
こんなことなら俺がケフカを見張ってたほうがよかったか? との考えもよぎったが、これは結果論だ。
あの状態のアーヴァインが体調を悪化させて一人で逃げてくる、なんて考えに賭けることはできなかった。
「覚悟を決めるしかないだろ。
ボビィ、もしヤバそうだったら旅の扉に全力で飛び込め!」
「クエエエエ!!!」
「大丈夫、何があってもあたしたちが守ってあげるからね!
だから、大船に乗ったうえでどーんと身を任せなさい!」
「クエ! クエ!!」
「あり……が、と」
アーヴァインがか細い声で答える。
軽口をたたく元気があったと思っていたが、実際のところアーヴァインがどれほど侵されているのかは分からない。
ただただ、何の根拠もない不吉な予感がするのが嫌な感じだ。
「ろっく……」
「どうした、アーヴァイン」
「ごめ……ん、ごめんね。
仲間……殺したこと……、謝んなきゃ」
「償いはいらない、とまでは言わないが……お前、ほんとどうしたよ?」
「今、言って……、おかないと、この先……」
「その先は言うな。絶対にそうはならない。そうさせないからよ!」
「そうそう、あたし約束したでしょ! あたしが生きてる限り、絶対アンタを殺させやしないって!」
「クエッ!」
「ぅぅ……」
アーヴァインの弱気に覆いかぶさるように言葉を吐き出せば、リュックとボビィも乗っかってくれる。
だが、それでアーヴァインの不安を鎮められたかどうか。
セフィロスの脅威はだいぶ薄れたというのに、不吉な予感はいつまでも、いつまでも消えなかった。
- 88 :思い出クラッキング 5/5:2021/11/30(火) 23:36:32.84 ID:hcJXaVA0D
- 【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣、チョコボ『ボビィ=コーウェン』
第一行動方針:希望のほこらへ向かい、サイファーと合流する
第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:希望のほこらへ向かい、サイファーと合流する
第二行動方針:ケフカを警戒する
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:希望のほこら北西の茂み】
【ジェノバ@重度ジェノバ化アーヴァインのすがた
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:ロック達の情を利用する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置:希望の祠・外→北西へ】
- 89 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/12/01(水) 23:09:00.77 ID:PLHgBYC8E
- 投下乙です!
三作も来て一気に事態が動いた!
敗北と屈辱をばねに成長したサイファーが圧倒的に頼りになる。
これでピサロの遺志を継ぐなら、普通はもう安心しかないし勝ちましたわって断言できるレベルなんだけど…
ジェノバのやり口が本当に悪辣かつ狡猾で、それ以上に狡猾なケフカも乗っかっていく姿勢のせいで不安と絶望しかない。
ギードもロックもリュックも見事にドハマりしているし、どうなっちゃうんだろう
サイファーがMVPになってくれることを信じたい…!!
- 90 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/12/02(木) 22:03:15.34 ID:7nbsXtRBa
- 投下乙です!
原作とこの過酷すぎる3日間を経たからこそ変化しつつあるサイファーに涙……
「我ながら憤慨したくなる低評価ではあるが、別に試験やってるわけじゃねえんだ。敵方からの評価が低いなら、それは好都合だ。」
って部分が、原作でSeeD試験に落ち続けたサイファーらしい言い回しですごく好きだ……
ドローしたのはピサロの魂と力に類するものでいいんだよな!?と確認したくなるほど、不安要素が拭いきれない状況で安心しきれない……!
どうか前向きな方向へ行って欲しいと思いつつも、ジェノバの計略もケフカの思惑もあるしで全くもって油断できない状況で、
そんな中南西の祠でのできごとによる情があるからこそ利用されてしまいそうなロックたちが心配で仕方がない。
闇の世界に残っているのはジェノバ含め6人だけなのにどんどん膨れあがる不吉さにゾクゾクします。
もうどうあっても続きが楽しみすぎる……!! 応援しています!
- 91 :心に銀の弾丸を 1/14:2021/12/26(日) 01:48:37.13 ID:tXUy9mjeB
- 「アーヴァインといい、貴様らの世界には人の話を聞くという概念がないのか?」
はぁ? と声を荒げなかったのは俺が大人だったからじゃあねえ。
何もかもがいきなりすぎて、理解がワンテンポ遅れたからだ。
祭壇から魔法をドローした――その次の瞬間には眼前に不機嫌そうな男が立っていて、一方的に吐き捨ててきたんだからよ。
銀髪猫目に黒い服、というエッセンスは嫌でもセフィロスを連想させるが、観察するまでもなく差異の方が目立つ。
赤いバンダナと腰布、トゲ付きの肩当、スコールが好きそうな暑苦しいマントに、デカイ骸骨のマント留め。
全体的に趣味が悪すぎて常人なら絶対に着こなせねえ衣装だが、どういうわけかこの男には似合っているように思えてしまう。
もちろんこんな奴に直接会ったことなどない。
……だが、それでも俺はこの男のことを知っている。
「ピサロ、だったか?
ロザリーの彼氏が何でこんなところにいやがるんだ」
少しでも気を落ち着かせるために、剣の峰で肩を叩きながら軽く周囲に目をやる。
どうにも陰鬱な石造りの壁に赤い絨毯、整然と並んだ衛兵のような飾り鎧。
ピサロの背後にあるのも祭壇なんかじゃあなくて、古めかしくも重厚な玉座だ。
朽ち果てた祠の面影はどこにもない。
……それこそ、完全に別の場所だと確信できるぐらいに。
未だ状況を測りかねている俺の焦りを見通しているのかいないのか、ピサロは淡々と言葉を紡ぐ。
「無論、ロザリーを害する者を討ち滅ぼすため。
私に出来ること、その全てを成し遂げるために」
魔王という肩書には全く釣り合ってねえ私情100%の目的だが、俺としては嫌いでもない。
ああだこうだと建前ばかり並べ立てて本音を見せやがらないどっかのヘタレ馬鹿とかタヌキ親父よりかは、わかりやすくていいからな。
だがどっかのスコールそっくりな、愛想って概念をまるっきり知らないみてぇな仏頂面とスカした態度はマイナスだ。
喧嘩売るほど暇じゃあねえから口には出さないが。
それに人の話を聞けと皮肉たっぷりに言われたばかりでわざわざ茶々を入れるほど、俺はガキじゃねえ。
「さて、貴様がどこまで知識を持っているかは知らぬが、一応話しておこう。
私が成すつもりだったのは、我が心の物質化。
進化の秘法の大元となった技術の一つ――マスタードラゴンよりも古き時代の、命の神に由来する業だ」
説明されたってわかるわけねえだろ、と思う間もなくヤバいワードが出てきやがった。
さすがに聞き流すわけにはいかず、俺は眉を潜めながら尋ね返す。
「進化の秘法だぁ?
心の物質化ってのも良くわからねぇが……
その心で誰かを操ってどうこうだとか、他の銀髪野郎みたいに手に負えねえ化物を作ろうって話じゃねえだろうな?」
ロザリーやソロから聞いた人物像を信じるなら今さらそんなことはしねえだろ、とも思うが……
曲がりなりにも『魔王』なんて呼ばせてる以上、人道だの倫理だのは知ったこっちゃねえはずだ。
しかし俺の短絡的な考えをせせら笑うようにピサロは首を横に振る。
- 92 :心に銀の弾丸を 2/14:2021/12/26(日) 01:49:53.89 ID:tXUy9mjeB
- 「この身に血が流れていれば……あるいは貴様が魔物であったならば、強力な魔物に"転身"させることも叶ったがな。
人間が相手では、記憶を通して知識や技術を与える程度がせいぜいだ。
貴様に才能があれば私と同じ技を扱えるようになるかもしれんが、それで何を成すかは貴様次第だろう」
「……良く分からねえが、リュックやバッツのジョブチェンジみたいなもんか?
アレも確か、大昔の人間の思い出やらクリスタルに宿る勇者の心やらから力を借りてるって話だったが」
「そうだ。ただ、連中ほど自由自在に技能を使い分けることはできんだろう。
素の己自身には戻れない、完全な"転職"だと思え」
転職、ねえ……
魔女の騎士も革命家も廃業して、何だかんだでようやく謹慎中の学生に戻ったってのに、その次が魔王サマの後継者ってか?
下らねえ、と吐き捨てる拗ねた子供の俺がいる。
その一方で、別に悪くねえ話だろ、と冷静に判断する大人の俺もいる。
いくらセフィロスが死んだといっても、ケフカもアルティミシアも残ってるんだ。
どう考えたって激戦は避けられねえ、だったら悪役めいていようがなんだろうが、戦いの手札は多い方が良いに決まってる。
それにアーヴァインを助けるって目的もある以上、ピサロの知識は絶対に必要だ。
服装センスだけはお断りだがな。
だが――
「一応聞くが、お前は俺でいいのか?
俺はお前の嫌いな人間だし、一応アーヴァインとは同郷だ。
状況次第じゃ、ソロよりアーヴァインを優先することもあるかもしれねえ」
「構わん――とは言えん。
そもそも話を聞く前に、人が心を物質化させようと集中している時に魔力ごと全部吸収しておいて、いいのかも何もないだろう」
…………そういえば最初に言っていたな。
初対面でいきなり軽くキレてるなんざどういうことだと思っていたが。
「そりゃあ邪魔して悪かったな。
だが俺は真実を見る目なんて便利なモンは持っちゃいねえんだ。
だいたい世話焼きの魔王サマが、ロザリーにもソロにもついていかねえで居残りキメるなんて予想できるかよ」
「だろうな」
厭味ったらしく蒸し返してきたものの、わざとやったわけじゃねえってのはピサロ自身もわかっているのだろう。
ため息を一つついたあと、奴は改めて俺を値踏みするようにひとしきり睨めつけ――苦々しく呟く。
「……どのみち、生き残っているのは人間ばかり。
曲がりなりにもロザリーを救ってもらった恩義もある。
成り行きとはいえ、貴様の縁者に頼まれ事もされている。
何より状況も差し迫っている以上、貴様に全て託すのが最良なのだろう」
「俺の縁者?」
アーヴァインの事だろうか。あるいはスコールか?
それに時間が迫ってるたぁ何の話だ?
旅の扉のタイムリミットってなら、まだ数十分は余裕があるはずだが……
首をかしげているよりも、いっそ素直に聞いた方が良いかと俺が思い至った、その時。
ピサロの眼が、すっと細まった。
「……――ここで戻ってくるか。
貴様の早計も、あながち悪手ではなかったのかもしれん」
明確な敵意と殺意がこもった呟きだった。
俺に向けられたものじゃねえとわかっていても、思わず背筋が竦むほどだ。
それでも気力を振り絞り、「何があった」と聞いてみる。
ピサロは問いには答えず、代わりにこっちへ向き直ると、右手を俺の胸に当てた。
- 93 :心に銀の弾丸を 3/14:2021/12/26(日) 01:54:12.12 ID:tXUy9mjeB
- 「時間切れだ。
余った魔力も私の心も記憶も、残せるものは全てくれてやる。
後で思い返すがいい」
まるで水面に突っ込んでいくように。
尖った爪先が、手首が、腕が、俺の身体に沈んでいく。
同時に俺の知らない光景が流れ込んでくる。
断片的で、継ぎ接ぎされて、まるで映画の予告映像のように脈絡のない幾つもの記憶――
森の中、帽子をかぶった子供が言う。
『ボクは戦いたくないよ。なのに、なんでこんなことしなくちゃいけないんだろう……』
焼け落ちた街を背景に、桃色の髪の女がすすり泣く。
『姉さん……バッツ……私……私ぃ……』
岩だらけの山の中、ターニアが無表情のまま駆け寄る。
爆発。熱風。飛び散る身体。己の手で切り伏せてしまったイザ。そして、二度目の爆音。
半透明のリノアが、どこか生気のないアンジェロに寄り添いながら、いつもと全く同じ調子で頼みこむ。
『ね、それじゃあ、残るついでに、サイファーのこともお願いできない?
アーヴァインは無事に逃げ切ったけど、そういうの抜きにしても、あいつ今一番危なっかしそうだもん』
朽ちた祠の祭壇で、誰にも想像できないほど柔和な微笑みを浮かべながら、セフィロスが呟く。
『アンジェロを、守ってやってくれ』
空飛ぶ絨毯に乗ったヘンリーがアーヴァインを抱きかかえたまま祠の中へ消えていく。
自由自在に他人の姿を真似る"何者か"が、文字通りに"手"を変えて銃弾をぶっぱなす。
泣き叫ぶソロがセフィロスに突き飛ばされて、蒼く輝く旅の扉に落ちていく。
そして夢の中で祈るロザリーと、目を瞑りながら首輪を外されるロザリーと、
ザンデの助手をするロザリーと、イザを抱えて必死で訴えるロザリーと、アリーナのために紅玉の涙を流すロザリーと、
ソロ達と一緒に旅するロザリーと蘇り進化の秘法を止めに来たロザリーと死に逝くロザリーと人間に追われるロザリーと
知ってるロザリーと知らないロザリーの記憶が津波のように溢れかえって――
『―――――、――――――――――――――。
――、―――ー……――――――――、――――――――――――』
ピサロの声が遠くで聞こえた、と思った瞬間。
唐突に、全てが【闇】に包まれた。
****************
「クエックエックエクエ〜クエックエックェ〜〜」
サクサクと軽快に草踏む足音に、歌うような鳴き声。
緊張感の欠片もないボビィの仕草に、俺は思わずぼやいてしまう。
「ボビィ、さっきから妙にご機嫌だな?」
「アーヴァインが見つかって嬉しいんだよね、きっと。
わかるよーその気持ち!」
リュックまでもが機嫌よく答えるけれど、いくらなんでも浮かれすぎだ。
仮にアーヴァインの言い分が――ソロがセフィロスを背負っていったってのが本当だとしても、旅の扉を潜ったって保証はないんだ。
最低限の警戒心は持っておくべきだろう。
- 94 :心に銀の弾丸を 4/14:2021/12/26(日) 01:55:18.37 ID:tXUy9mjeB
- けれど不安がる俺の方がおかしいと言わんばかりに、ボビィは「クエッ?」と首をかしげる。
その眼差しときたら、それこそガウにバンダナを薦めた時のエドガーやリルムやセリスととてもよく似ていて……
だから魔獣語もチョコボ語もわからない俺でも、その意味だけはわかった。
「クエ〜?」(何言ってんの、このオジサン?)
……、……、OK。落ち着け俺。
嫌な思い出を刺激されて殴りたい気持ちが湧いてきたのは確かだが、相手はチョコボでしかもまだ子供だ。
きちんと説明すればわかってくれる。
深呼吸深呼吸、すーはーすーはー。
「……あい、がわらず……へ"んな……こと"、してる"……」
「しょうがないよロックだもん」
「クエックエークエ〜〜〜」
「聞こえてるぞお前ら」
畜生、みんな好き勝手言いやがって!
重傷者と女の子だから殴られやしないと思ってるんだろ!
その通りだよ! 例え冗談だとしても手なんて上げられるかバカヤロー!
――そんな思いを心の奥に必死に押し込めながら、俺は平静を取り繕う。
「そりゃあ、一応アーヴァインが無事で嬉しいってのはわかるけどさ。
浮かれすぎるのは危険だって話をしたいんだよ、俺は。
サイファーだって『気が緩み過ぎだテメェら!』って怒ると思うぞ」
人をダシに使うのは良くないかもしれないが、言うか言わないかでいえば言うだろ?
現にリュックとアーヴァインも、簡単に想像がついたのか「あ〜……」と軽くこめかみを抑える。
「クエー……」
「で、でも、ダイジョブダイジョブ!
アーヴァインの話じゃ、セフィ……じゃない、えーと、アブナイ奴はもう近くにいなさそうじゃん?
安全だってわかってるんだから、ちょっとぐらいはしゃいでもヘーキだって!」
「クエ〜クエクエクゥエーー、クエックエックー」
「いやそりゃ俺達にはわかってるってだけで、サイファーはまだ知らないわけでさ。
絶対キレ散らかすぞアイツ。
アーヴァインも煽り散らすだろうし」
今度はリュックだけが「あー、あーーーー」と頷く。
そして当のアーヴァインはと言えば、自分に矛先が向けられると思っていなかったのか、「くぅ?!」と妙な調子で言葉を詰まらせる。
困惑の表情を浮かべて俺達二人を交互に見やり、何故か腕を組み、あらぬ方向を見つめて数秒。
観念したように絞り出した言葉は、
「え、と……しな、いよ? くうき、ぐらい、よむよ……?」
例によって例のごとく説得力ゼロで、予想通りすぎる台詞。
「いーや、お前って奴は読んだ上で読まないし、しないって言った上でするからな」
「……りゅっく、たすけて」
「え、あー、えっと、ノーコメントで」
「ひど、い"……」
- 95 :心に銀の弾丸を 5/14:2021/12/26(日) 01:56:10.79 ID:tXUy9mjeB
- がっくりとうなだれる臨時の主を気遣うように、ボビィが「クエー」と鳴く。
「うう、ぼびぃ、だけだよ……ぼくのみか"た"ぁ……」
ぴぃぴぃと鼻をすすりながら、アーヴァインは黄色い羽毛に顔を沈め、首筋をふわふわと撫で回す。
その恰好が普通の人間のものであったなら、きっと、微笑ましいだけの光景だった。
けれど今のアーヴァインの姿では、痛々しさが増すだけだ。
身体はどんどん人間ではない別の何かに成り果てていって、心もいつ壊れるかわからない。
それでもいつも通りに振る舞おうとするのは、こいつなりの必死の抵抗なのだろう。
もちろん俺だって何か出来ることはないか考えちゃいるさ。
でも、何もない。
解決策どころか、それを探る術すら持ってない。
結局、少しでも傷つけないように今まで通り接してやることか出来なくて―ー……
……やっぱり、早く次の世界に行って首輪を外してやらなきゃダメなんだ。
首輪さえ外せば、夢の世界に連れて行ってザンデ達に診せられる。
セフィロスやケフカに襲われる心配も無くなる。
リュックもサイファーも安心できるし、いいことづくめだ。
問題は今のアーヴァインに【闇】の操作が出来るかどうかって話だが――
アーヴァイン自身が素で【闇】を寄せ付ける体質になっているのだから、わざわざ【闇】を操作しなくても何とかなるんじゃないか?
もし無理だってなら、さすがにバッツを探しに行くしかないが。
森は既に途切れ、朽ちた祠の壁も、大きな亀裂から零れた蒼い輝きも見え始めた。
サイファーと合流したら、ケフカが来る前に今後の算段を相談しないとな。
現状だと、アーヴァインとリュックとサイファーを先に次の世界に行かせて、俺が居残ってギードと協力してケフカを監視するのが一番良さそうだ。
ケフカの動きさえ封じれば、不安要素はセフィロスとソロと自称タバサのセージぐらいだし――……
………いや多いな。不安要素。三人もいるのか。
まあでもソロに関してはアーヴァインの幻覚や誤解って可能性の方が高いだろうし、万が一全部マジだったとしても俺達全員で説得すればきっと何とかなるはずだ。
タバサセージもバッツとラムザが同行してるって話だから、ラムザが得意の口車でどうにかしてくれるだろう。
うん、大丈夫。多分恐らく大丈夫だと信じたい、頼むから信じさせてくれ………
「クエーーー!!」
「あ"っ!?」
ドツボにハマりゆく思考を遮ったのは、甲高い鳴き声と短い悲鳴。
「ど、どうした?!」
「どしたの!?」
俺とリュックが問いかけるより一瞬早く、ボビィが勢い良く走り出す。
その背にしがみ付いたまま、アーヴァインが掠れた叫びを上げた。
「さ、さい"ふぁー!?」
一体何が見えたのか。
いや、それよりも何が起きたのか。
混乱している場合じゃないと悟った俺達は、「クエックーエー!!」と喚くボビィの後を追う。
黄色い巨体はスピードを落とさないまま祠の入り口に辿り着き、そのまま中へ。
見事なコース取りで中央に煌めく旅の扉を避け、大ジャンプで一気に祭壇の上へ――……と、ボビィの姿を必死に収めていた視界に、一際不自然なものが映った。
(なんだアレ!?)
祭壇の上に凝り固まった人型の黒い靄と、その足元に倒れている誰か。
サイファーか?と 確認する暇すらなく、靄が濃さを増していく。
しかしその意味を理解することも注視することも俺達にはできなかった。
- 96 :心に銀の弾丸を 6/14:2021/12/26(日) 01:57:18.54 ID:tXUy9mjeB
- 「さい、う、うわぁあああ!!」
「キュエエエエエエエエエエ!!!!???」
着地点をミスしたのか、単純に足を滑らせたのかは分からない。
ドッボォオオオン!! という水音がして、反射的に顔を上げれば、赤い飛沫と水柱。
アーヴァインごとボビィが祭壇の奥の水場に落ちたんだ、と悟るのに時間は要らない。
「クエーーー!? クエーーー!!」
「おいおい、何やってんだ!?」
「早く引っ張り上げよう! アーヴァイン、ほらこっち!」
サイファーも不安だけど、あっぷあっぷと藻掻いている一人と一匹を放っておくわけにもいかない。
とりあえずアーヴァインだけでも引き上げようとリュックが走って手を伸ばす、が、アーヴァインが大きく首を横に振る。
「ぼ、ぼくよりさ"きに、サイフ"ァーとボビィを!
ぼく、水の中から、ぼびぃ、押すから!」
そんなことしなくてもお前を引き上げてから三人がかりでボビィを助けて最後にサイファーを介抱すればいいんだよ――
と言う前に、アーヴァインは水中に潜ってしまった。
あいつなりに考えての行動なんだろうが、人の話は聞けと思う。
だが説教する場合でもなければ時間もないのは確か。
「リュック! 俺がボビィとアーヴァインを引き上げる!
お前はサイファーを介抱しろ!」
「オッケー! 任せて!」
手短に出した指示に、リュックはびしっと親指を立てて頷く。
力なら俺の方が強いはずだし、回復魔法はリュックの方が得意みたいだからな。
ともあれ早くボビィを引き上げないと、アーヴァインがマジで溺れかねない。
「ク、クエェ〜〜」
「大丈夫だ、大丈夫だから暴れないでくれよ」
ボビィに声を掛けながら浮かんでいる手綱の端を掴み、ゆっくりと手繰り寄せる。
チョコボは確かに泳げないが、羽毛がたっぷり空気を含んでいるから、水には浮きやすい。
沈んでいかないことに気づいたのか、俺の言葉を理解してくれたのか、ボビィも少し大人しくなった。
くいくいと引っ張って、首筋や胸元に直接触れるまで近づけさせれば、あとは簡単だ。
「よし! いいか、引き上げるぞ!」
「クエーー!」
両腕を翼の下に回し、勢いよく持ち上げながら後ろに下がる。
ざばぁん! と激しい水音と共に、鉄錆じみた異臭と真紅の雫が飛び散るが、文句を言っている場合じゃない。
「クエー!」
「わかってる! アーヴァイン、次はお前だ!
早くつかまれ!!」
俺の叫びが届いたのか、アーヴァインが「げほっげほっ」とせき込みながら浮かび上がってくる。
けれど俺の手を取るまでもなく、自力で泳いで這い上がってきた。
見た目よりは体力が残っているのかもしれないが……やっぱり、動きは緩慢だ。
「うええ……げぼっ。げぼっ」
「大丈夫か? ヤバイ色してるからな、この水……」
のろのろと四つん這いで進みながら赤く染まった水を吐き戻すアーヴァイン、その背中を撫でさすりながら俺は揺れ動く水面に目をやった。
心なしかさっきよりも赤さが増しているように思える。
アーヴァインやボビィは気づいていないようだが、水底で誰かが死んでいるのかもしれない。
本音を言えば引き上げてやりたいが、そんな時間も余裕もないよな――
そんなことを考えた矢先、アーヴァインがぽつりと呟いた。
- 97 :心に銀の弾丸を 7/14:2021/12/26(日) 01:58:41.34 ID:tXUy9mjeB
- 「う、み、水、より……
せ、せなか、いたい。あ、あしば、がわりに、なったから」
「え?」
「つ、つばさ、ひろげて。
ボビィ、あし、つけば、みずのそと、出れるとおもって」
は?!
何やってんだ?!
いや理屈はわからなくもないけど、チョコボの足場になるってそれチョコボキックくらってるようなもんだろ!?
「危ねえだろそれ! 何考えてるんだ!!」
サイファーが起きたらリュックに回復してもらえ、と言葉を続けるつもりだった。
そうしなかったのは、背後から不機嫌そうなサイファーの声が聞こえたからだ。
「うっせえな……何騒いでるんだテメェら」
「さいふ"ぁー! さいふぁー!!」
舌打ちとため息を遮って、アーヴァインが嬉しそうに叫ぶ。
良かった、と思いながら俺も振り向き――
「なんだその服」
言おうと思っていたあらゆる台詞が吹っ飛んで、出てきたのがそれだった。
何せ見慣れたボロボロのコートじゃなくて、どういうわけか真新しい漆黒のコートを着ていたんだ。
肩にはケープのような飾り布がついていて、首元や裾には白いファーがあしらわれている。
さらに言えばインナーもいつものヤツじゃなくて、黄色のネクタイと黒いシャツに紫のベストと、フォーマルなものに代わっている。
「はぁ?」
着ているくせに気づいていなかったというのか。
サイファーは眉をひそめ、胸元や袖口に目を落とした。
数秒間の沈黙。
そして、腹の底から絞り出された静かな咆哮。
「はあぁあああああああぁぁぁぁぁ!!!?」
耳を塞ぎながら、俺はこっそりとリュックを見やる。
渦巻く瞳と目が合い、しかし彼女の首と手は、当然横にブンブンと振られた。
……まあそりゃそうだよな。
リュック自身が着替えるならまだしも、サイファーに服を着せたって仕方ないもんな。
「おいおいおい! ざけんじゃねえ、一体どういうことだ!?
こんな頭スコールな奴が選んだみてぇなコート、どうして俺が着なきゃいけねえんだよ?!
リュック、テメェの仕業か!?
そのドレスフィアって奴、服装変えて遊べる道具なんだろ!?」
頭スコールってなんだ? と思ったけれど、言われてみればスコールのジャケットとデザインが少し似ている。
でも、どちらかといえばセフィロスが着ていたコートの方が近いような気もするし……
さりとてじっと見つめてみると、何故かピサロの姿が思い浮かぶ。
この素振りだとサイファー自身が着替えたってわけじゃなさそうだけど、リュックじゃないって言ってるんだよなあ。
「あのね、遊びじゃないから!
ドレスフィアはジョブの力を使うための大事な道具なんだかんね!?
……あ、でも、ドレスフィアかもしんない」
なんでそこで認めるんだよ!?
俺が突っ込むより先に、リュックは再び右手を横に振りながら言葉を続けた。
- 98 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/12/26(日) 01:59:26.87 ID:guC2fYT27
- しえん
- 99 :心に銀の弾丸を 8/14:2021/12/26(日) 02:00:20.85 ID:tXUy9mjeB
- 「そりゃーもちろん、あたしがやったワケじゃないケドさ。
スフィアって元々水から出来てるんだよね。
で、ここ、水場だし、結構大きめの魔力感じるし、濁ってるのも誰かの血っぽいから……
ぶわっとしてた【闇】と混ざって、ドレスフィアが出来て、そんでサイファーの服を変えちゃったのかも」
なんだそれ。
実質、ここで死んだ誰かの遺品みたいなもんってことか?
だとしたら――"それ"は誰なんだ?
「なんだそりゃ……
言っとくがあのコートはな、大事な大事な俺のトレードマークなんだぞ?
どうにか元に戻せねえのか?」
「えっと、自分の服を記憶させたドレスフィアを使えばいいだけなんだけど……
サイファー、持ってる?」
「持ってるわけねえだろ!!」
俺の不安を他所に、サイファーは普段と変わらない態度でリュックに?みついている。
どっからどう見ても正気に見えるが、それでもここで倒れてたって事実は変わらない。
「サイファー。服以外の調子は大丈夫なのか?」
「あ、そ、そうだよ!
さっきまで【闇】がぶわーってなってたんだけど、ダイジョブなの!?
狂暴化してたりなんか壊したくなってたりしてない!?」
「ああ? 別になんもねえよ。
夢を見ただけで――……」
サイファーは怪訝な表情で吐き捨てた。
しかしすぐに首を横に振り、祭壇を見やると、何故か言葉を濁す。
「いや……なんでもねえ。
それよりアーヴァイン、テメェだよテメェ。
ずいぶん派手なナリをしてるが、身体の調子はどうなんだ」
「あ"、う、うん……だいじょ、ぶ。
せ"なか、い"た"い、だけ」
あっ。
そうだこいつ、ちっとも大丈夫じゃねえよ!
危うく忘れかけた俺が言うのもなんだが!!
「リュック! アーヴァイン見てやってくれ!
こいつ、溺れたボビィの踏み台になったらしいんだ!」
「ええ?! それ全然ダイジョバないじゃん!
交代、こうたーい!!」
「えぇ"……そ、そんな心配し"なく"てもいい"よ〜……
ま"えにも言っだじゃん、回復とか"……ゲホッ、……要らないって」
「そんなの時と場合によるでしょ!」
ガチャガチャと鎧を鳴らしながらリュックがアーヴァインの元に駆け寄る。
入れ替わりで、俺はサイファーの傍に向かう。
アーヴァインの話がどこまで本当かはわからないが、話しておいた方がいいと思ったのもあるし――
水の中で死んでいるであろう"誰か"の姿を見なかったか、念のために聞いておきたかったからだ。
「サイファー、ちょっと向こうで話をしたいんだが」
「いいぜ。俺も聞きたいことがあるしな」
セフィロスの名前を出す必要がある以上、アーヴァインの近くで話は出来ない。
さすがに視界から外れるのは良くないだろうから表には出ないが、入り口近くまで距離を取る。
- 100 :心に銀の弾丸を 9/14:2021/12/26(日) 02:01:25.23 ID:tXUy9mjeB
- 「クエークエーックッエ〜〜〜」
ボビィの鳴き声が背後から聞こえた。
"気を付けてね"、とでも言っているのだろうか。
「……ボビィの奴、妙にうっせぇな。
だいたいなんであんな所で溺れてたんだ?」
「多分アーヴァインが無事で嬉しいんじゃないか?
あと溺れてたのは、倒れてるお前に駆け寄ろうとして、旅の扉避けてジャンプした時に足を滑らせたんだ」
「はぁ? アホか?」
サイファーの当たりがやたらときつい。
十中八九、お気に入りのコートがなくなって気が立ってるんだろうが……ボビィに八つ当たりしても仕方ないだろう。
呆れる気持ちはあるが、別に俺はこいつの教師でも保護者でもないんだし、話をこじらせる趣味もない。
さっさと必要な情報――アーヴァインを回収した経緯、それにあいつから聞いた話――を、手短に伝える。
「……と、まあ、そういうわけなんだけどさ。
俺としては、ソロが【闇】の影響を受けたってより、アイツの記憶が混乱してるようにも思えるんだよな。
そりゃあソロならセフィロスとだって話をしようとするかもしれないが、被害者側のアーヴァインを切り捨てるなんて納得いかないんだ。
それよりレーベでの記憶なんかが混ざって、助けようとしたソロを、襲ってきたって思い込んだとか有り得そうだろ?」
「………」
眉間の皺、三本。瞼は閉じたまま。
つま先も肩に担いだ剣も、どっちもトントンとリズムを刻んでいる。
付き合いが短い俺でも(機嫌悪いんだな……)とわかるのは、良いことなのか悪いことなのか。
「ああ、一応言っとくけど、セフィロスに操られてる気配はない。
見た目はともかく、意識は間違いなくアーヴァイン本人で間違いないぜ。
だけど身体があそこまでおかしくなってる以上、精神面に影響が及ぶのは当たり前だと思うんだ。
無理に元気に振る舞ってるようだけど、出来るだけ早く落ち着ける場所に連れて行って休ませてやった方がいい」
「……」
「………サイファー?」
何が納得できないというのか。
図りかねる俺に対し、サイファーはただ眉間の皺を一本増量しただけで沈黙を続け――十数秒後、口を開きかけた、その時。
「う"わあ"あ"あああ"あああ"ああああああああ!!」
「ど、どうしたの?!」
絶叫が二つ、響いた。
驚き振り向いた俺達の目に映ったのは、暴れながらボビィの背にしがみ付くアーヴァインと、必死で宥めようとするリュック。
「ゆうな、ゆう"な、いやだ、ごめん!!
たすけて、たすけてたすけてたすけてええ!! ぼびぃ、はしってえええええええええ!!」
「え、ちょ、ちょっと! ダメ、落ち着いて!!」
「クエーー!」
- 101 :心に銀の弾丸を 10/14:2021/12/26(日) 02:03:37.27 ID:tXUy9mjeB
- アーヴァインの身体を乗せてボビィが走り出す、リュックが手綱を掴んで引き止めようとする、そのつま先が宙に浮く。
走らせて、走って、引きずられて――何もかもが一瞬で、渦巻く青い輝きは無情なまでにそこに佇んでいて。
「アーヴァイン!! おい待て!」
声を張り上げたところで、ボビィを止めるには間に合わない。
考えるより先に足が動く。
全速力で走ってボビィと同時に旅の扉を潜る――アーヴァイン達を見失わない術はそれしかない!
だが。
急に『何かの力』が働いた。
足は前に出ようとする。
胴体が真後ろに引き寄せられる。
バランスが崩れ、倒れ、目まぐるしく動く視界の中でボビィ達の姿が消えていく。
俺は呆然と後ろを振り向く。
俺の服を掴んで止めていたのは、サイファー。
『何をするんだ!』と喉元まで出かかった叫びは、しかし口から出ることはなかった。
何故なら先に、サイファーが吐き捨てたからだ。
「アレは、アーヴァインじゃねえ」、と。
*********************
都合のいい夢を見たのだと思った。
リノアが幽霊になってアンジェロのそばにいるだとか、セフィロスの奴が笑って死を受け入れるとか、どっちも現実味がなさ過ぎた。
アーヴァインを連れ去り俺達を見逃した理由が犬一匹のためで、遺言がソレだったってのも納得できる要素がなかった。
それにリノアの代わりにロザリーを詰め込んだスコールみたいな魔王サマが、当のロザリーを放っておくわけねえ。
おまけに目が覚めた時、アーヴァインとリュックがいてロックもいたんだ。
ロックは落ち着きがねえしリュックはアホだが、セフィロスに操られまくっていたアーヴァインの精神状態を確認しないほど馬鹿じゃあねえだろうと信じていた。
姿こそ変わり果てていたが、俺の名前を連呼した時のアーヴァインの表情も……泣きたいのか笑いたいのかわかりゃしない、にへらとした面も記憶の中にあるアイツと全く同じものだった。
服の件もリュックの理論が正解なのかもな、で納得しちまった。
意味深な夢と、目の前にある現実。
どっちを信じるかと聞かれて、現実を信じねえ奴はいない。
俺の中の大人はそう主張し――けれど、子供の俺が反発した。
安直に現実を信じてしまって、それでいいのか。
そんな理屈ですらない情動が、違和感に気付かせた。
最初は、やたらと長いボビィの鳴き声。
まるで何かの指示を出しているような、それこそ誰かがボビィの声を真似して喋っているような不自然さ。
次に気になったのは、アーヴァインとボビィが揃って溺れていたということ。
いくら子チョコボといえどそこまで馬鹿な個体じゃない、足を滑らせるような場所に着地すると思ったらホバリングして軌道修正ぐらい出来るはずだ。
そしてそれ以上に首を傾げたのは、ロックの話。
ソロがセフィロスを連れて行ったなんて有り得ない。
何せセフィロスは水の中で死んでいる――
そこまで詰みあがった状況証拠が、俺にある仮説を閃かせ。
けれど同時に、"奴"が行動を起こした。
錯乱してボビィに騎乗し、追いすがろうとしたリュックごと逃げ去っていった。
だがそれこそが、奴がアーヴァインじゃないという何よりの証拠だった。
- 102 :心に銀の弾丸を 11/14:2021/12/26(日) 02:05:15.25 ID:tXUy9mjeB
- 「いいか、ロック。
本物のアーヴァインだったらあんなに騒いで逃げねえよ。
少なくとも今、この状況だったらな」
思い出す。
初めてユウナの幻覚を見たと怯えた時、あいつは悲鳴を上げて後ずさりするだけでまともに動けなかった。
『思い出せる』。
レーベの夜、戦いの最中に引き際を見極めたカインと違って、あいつは追い詰められた末に何もかも諦めてしまった。
本物のアーヴァインは、そういう奴だ。
都合のいい夢も無限の可能性も信じない現実主義者。
だからこそ奇跡や偶然の救援を計算に入れられず、窮地に陥れば陥るほど自分自身でどうにかする手段を考えずにはいられない。
考えて、考えて、考えて、逃げ遅れて、固まって動けなくなって最後の最後になってからようやく無理矢理動く――そんな大馬鹿野郎だ。
「え、で、でも、やばくなったら逃げろって言っておいたんだ。
俺達が、あいつに。
だから、それで混乱して逃げただけで……え、あいつ、アーヴァインだろ?」
混乱してるのはテメェの方だろ。
口から出かかった茶々を飲み込みながら、俺は旅の扉に目を向ける。
記憶の糸を手繰り寄せれば、やはり簡単に想起できた。
俺が見ていないはずの光景。
身体を無くした魔王が見届けた一部始終。
思い出そうとすれば思い出せる。
思い出そうとしなければ忘れたままで、切っ掛けがなければ浮かび上がりもしてこない。
――記憶ってのはそんなもので、そういうものなんだろう。
「あいつがマジで逃げるなら黙って逃げるし、助けてくれって喚くなら俺達を置いていかねえって話だよ。
だいたい不自然な点は他にも山ほどあるじゃねえか。
ソロとヘンリーが一緒にいたのは間違いねえのにヘンリーが出てこねえし、アーヴァインもソロも置いてヘンリー一人で先に行ったってのか?
それに水に落ちたなら沈んでる死体に気付くはずなのに、何も言わねえなんてことあるか?」
「そ、それは……」
ロックの返事を待たず、俺はさっさと真っ赤な水に飛び込んだ。
いつものコートだったら変な色に染まっちまうから絶対にやらねえが、そもそも趣味じゃねえ服なら気兼ねなく汚せるってもんだ。
視界の悪い中、手探りで"そいつ"を見つけ出し、引き上げる。
「ッ!?」
ロックが息を呑むが、それも当然だろう。
俺だって想定してはいたが、予想通りとはドヤりたくねえ惨状だ。
「だ、誰だ……これ……?」
「セフィロスだ。
少なくとも俺が眠りこける前までは、片腕以外全部揃ってた」
言ってはみたものの、知らなかったら信じられるか?――と問われれは難しい。
何せ、残っているのが穴の開いた胴体と足の半分だけだ。
嫌になるほど澄ました顔も、目立つ服も、片腕も、ブーツもその中身も。
おおよそセフィロスと特定できるパーツは全て、奪われて持っていかれている。
いくら散々煮え湯を飲ませてきたクソみたいな殺人鬼でも……こんな死に様を晒すほどの謂れはないだろう。
同情する気はねえが、さすがに不愉快だ。
頭を冷やすため――ではなく顔を洗い流すためだが、飲料水を一瓶、頭から被る。
それでも気分は落ち着かない。落ち着くはずもない。
- 103 :心に銀の弾丸を 12/14:2021/12/26(日) 02:06:55.67 ID:tXUy9mjeB
- 「ソロが連れて行ったはずのセフィロスがこんなところでくたばってたら、矛盾もいいところだ。
だからあの偽アーヴァインは、ボビィを突っ込ませて一緒に溺れたんだ。
死体の真上でボビィをばたつかせて目くらましにしつつ、自分は潜って解体ショーをやりやがったんだよ」
「……い、いや、待ってくれ。
アーヴァインが潜ってた時間は一分もなかったはずだ。
そんな短時間で死体をバラバラになんて人間業じゃないし、持ち去ることだって――」
「人間じゃなきゃ出来るだろ。
頭に腕一本に膝から下の足二本、それにコートぐらいなら、腹の中に収められるんじゃねえか」
ピサロの記憶と、以前アルガスが見せてきた攻略本に記載されていた情報。
二つ合わせりゃあ、偽アーヴァイン――ジェノバの生態も見えてくる。
他人の記憶を読み、擬態を駆使して他の生物に寄生し、同化して増殖し、やがては星の生命そのものを喰らい尽くす宇宙由来のモンスター。
人間の姿を取れるなら、怪物の姿にだってなれるだろう。
実際、本物のアーヴァインにはないはずのドラゴンみたいなパーツをくっつけてたわけだしな。
「いいか? ヘンリーが明るい声で『先に行く』とか言ってたのは、本物のアーヴァインを保護できたからだ。
ここはもう確実だ。他に理由がねえからな。
で、この先は完全な推測になっちまうが……
セフィロスは進化の秘法を諦めきれず、アーヴァインの血か肉片を使って自分の身体で実践しようとしたんだろう」
本当は推測でもなんでもねえが、ピサロの記憶云々については一切説明したくねえ。
迂闊に口に出してケフカやアルティミシアに漏れてもいいことなんざないし、俺の知らないところでクソジェノバに把握されても困る。
「で、適当にやった進化の秘法もどきのせいで、ヤツの身体に寄生してた宇宙生物が自我に目覚めて離反した。
そんな場面に居合わせりゃあ、あの甘ちゃんのソロならセフィロスを助けようとするだろうさ。
だから偽アーヴァインはソロ達を始末するために、自分が被害者に見えるようにお前らに情報を吹き込んだ、ってところだろう」
「えっと、じゃあ……
さっきのアイツは、自分がアーヴァインだと思い込んでるモンスターだって言いたいのか?」
そんな大人しいタマなら楽だったがな。
「思い込んでるだけなら、こんなエグい証拠隠滅なんざしねえよ。
それじゃなくても"あの"ソロが即座に殺しにかかってるんだ。
十中八九、セフィロスとアーヴァインの悪い所だけを煮詰めてケフカ並みの悪辣さを足したクソモンスターってことだ」
俺の言葉に、しかしロックはどうやっても納得できない様子で首を横に振る。
「悪い、サイファー、お前のことを信じないわけじゃないんだ。
だけど……さっきアーヴァインは、アーヴァインしか知らないはずのことをきちんと答えられたんだ。
それに俺に謝ったりとか、強がったりとか……偽物だとは、とても……」
ああ、そりゃそうだろうな。
実際に触れ合って、本物しかしないことをやってるように見えたなら――
そうやって一度心を許してしまったなら、疑いなんざ向けきれない。
だが、それに対する回答を俺は持っちまってる。
「残念だがな、ロック。
例の宇宙生物――ジェノバってヤツは、周りにいる人間の心を読んで擬態するって話だ。
お前が答えを知ってる限り、その答えをそのまま再現することなんざ、ヤツには朝飯前なんだよ」
「は……はああああああああああああああ?!」
- 104 :心に銀の弾丸を 13/14:2021/12/26(日) 02:08:50.53 ID:tXUy9mjeB
- 顔を上げて叫んだと思えば、両手で頭を抱えてよろよろと後ずさり、なんでかくるくる回りだす。
本ッ当に落ち着きねえなコイツ。
これで俺より年上で成人済みとかマジか? スコールの奴と年齢交換してきたらどうだ?
なんてことを考えていると、急にロックが俺に向き直った。
「そんなのアリかよ!!? じゃあどうやって見分けろってんだ!!
リュックとヘンリーが入れ替わったらどうすんだよ!
貴方が落としたのは金のアーヴァインですか銀のアーヴァインですか? わからないけど本物のアーヴァインです、で済む話じゃないだろ!」
「お前が何言ってるのかの方がよっぽどわかんねえが、とりあえずライブラ使えよ。
洗脳されてるかどうかの判断には使えなくても、単純に本物か偽物かって話なら一発で見抜けるだろ」
「あっ」
ロックはぽん、と手を打ち、それから何故か俺に向かってライブラを放つ。
「なるほど、確かにお前は本物だな」
「どういう意味だテメェ」
「いや、実はお前の方がトンデモ説を主張してる偽物って可能性もあったりなかったりしないかなって」
「ねえよ、ンな可能性」
呆れてため息を吐きながら、俺は奴についての情報を整理する。
ソロに敵意を向け、セフィロスをポイ捨て。
アーヴァインの姿を真似て、リュック一人を連れて次の世界に逃げていった。
これらの行動と今までの経緯から推測できることは、三つ。
一つは、死体には寄生できないらしいということ。
もし死体を利用する術を持っているなら、セフィロスの死体を壊すよりもそのまま乗っ取り直して使ってるはずだ。
二つ目は、ある程度の精神力を持っている相手は乗っ取りきれないということ。
アーヴァインが何度もセフィロスに刃向かってた事からしても、こいつはもう間違いない。
で、三つめは、どうもソロを追い詰めたがっているということ。
単純に天敵レベルで相性が悪いから殺しておきたいのかもしれないし、何とか心を壊して乗っ取ろうとしているようにも見える。
どっちにしてもリュックを連れ去ったのは、ソロを攻撃する武器として利用するためかもしれない。
いくらソロでも、煽られて勘違いしたまま突っ込んでくるカモメ女相手に剣は向けられないだろう。
「……なあ、サイファー。
どうするんだ?」
漠然とした問いかけだったが、その意味するところはすぐにわかった。
ロックの視線は旅の扉ではなく、祠の入り口に――その彼方にある草原へと向けられていたからだ。
この世界に残っているのは俺とロック、そしてギードとケフカ。
ギードは見た目こそアダマンタイマイのデカブツだが、賢者と名乗るだけあって有能で貴重な協力者だ。
当然、ジェノバのことは余さず伝えたい。
だが、ケフカは違う。
見えている地雷であり、可能ならば早急に排除した方がいい危険因子。
セフィロスが死んだ今、ケフカの抹殺は選択肢に十分入ってくる。
しかし、問題もある。
旅の扉は単独で潜りさえすれば確実な逃走手段になるし、そもそもタイムリミットが迫っている。
うっかり逃がすだけで目も当てられない事態になるだろうし、ケフカに構っていたら時間切れで全員爆死、なんてとてもじゃないが笑えねえ。
切るメリットは大きいが、それを踏まえても失敗した時のリスクがデカすぎる、といったところだ。
- 105 :心に銀の弾丸を 14/14:2021/12/26(日) 02:10:42.65 ID:tXUy9mjeB
- それにケフカに利用価値が残っていないかといえば、なくもない。
悪辣クソ野郎なら悪辣クソモンスターのやり口も想定できるだろうし、潰し合う余地はある。
そもそもアーヴァインの姿を使ってるってだけで、ジェノバの本質はどこまでいってもセフィロスの中身でしかない。
そいつがソロを狙い撃ちして乗っ取りを企んでるなら、いくらケフカでも到底歓迎できないだろう。
頭と剣術はセフィロス、魔法防御と体格はソロ、狙撃術と演技力はアーヴァイン、ついでに読心能力と擬態能力がついてくる――
そんな怪物が生まれたら、ケフカ一人じゃ対処しようがねえはずだ。
もちろんソロ単独でもケフカにとって天敵だから殺しに行く可能性はあるが、このまま監視を続けりゃ防げる話。
……けれど、それはそれで甘い見通しだろう。
俺自身、ケフカの狂気度合いや頭脳面を図り切れてねえからな。
理屈を度外視して横紙破りを噛ますかもしれねえし、俺達が気づかない勝ち筋を見つけてくるかもしれねえ。
それこそ件のジェノバを自分から取り込むとかな。
「……――」
考えろ。どうするのが最善だ?
どうしたら俺は仲間を守れる?
セフィロスはソロのために自死を選んでみせた。
ピサロは魂も魔力も投げうって、俺に心を預けて逝った。
二人だけじゃねえ、アーヴァインも、ヘンリーも、ソロも、リノアも。
皆が皆、必死に覚悟キメて戦ってるんだ。
失敗なんてダサイ真似は、もう許されねえ。
――"所詮は人間、期待を寄せる意味などないのだろう。
だが、それでも……願わくばソロの盟友、ロザリーを守る騎士であれ"――
脳裏を過ぎった言葉に、俺は(わかってるんだよ)と呟き返す。
握りしめた拳に、コートから染み出た赤い水が、ルビーの涙のように伝い落ちた。
【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣、チョコボ『ボビィ=コーウェン』
第一行動方針:アーヴァイン(ジェノバ)を保護しつつ仲間と合流する
第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ジェノバ@重度ジェノバ化アーヴァインのすがた
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:リュックの情を利用する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置:次フィールドへ】
【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ
第一行動方針:ケフカを対処する
第ニ行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す
基本行動方針:全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ケフカを対処する
第二行動方針:仲間と合流し、ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:希望のほこら】
- 106 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/12/26(日) 11:13:46.68 ID:PjY85e0St
- 投下乙です。
サイファーにすごい強キャラ感が出てる。
理想主義と現実主義とが絶妙なバランスで混じり合ってて、数々の戦場で生き残ってきた猛者みたいな感じ。
ロックが混乱してて落ち着きないから余計に対比されてるよなあ。
ソロとは別の方向性で、ジェノバを打ち破る天敵になってそう。
ピカレスクコートってサイファーに似合うと思うんだけど、サイファー本人が元の服装のことめちゃくちゃ引きずってるんで見えてる地雷だなあ。
普段はとても頼りになるのに服装に触れられた時点でキレ散らかしそうで、アーヴァインとスコールはそれ分かったうえで煽ってきそうw
ジェノバがユウナのことを口実に旅の扉に飛び込むシーンが、
過去のシーンを録画して切り取って再生してるだけのような無機質さがあって不気味に感じた。
やってる所業も精神攻撃もいちいちエグくて、でも弱点を一つずつ潰していってるのも確かなんでじわじわと侵食してくるような怖さがある。
リュックとボビィが真実を知らないままジェノバのほうについていってしまったし、
どちらがより早く多くの協力者を確保するかの競争にもなりそう。
そこで一発目にケフカが出てくるのは本当に先が読めんね。
- 107 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2021/12/26(日) 11:54:11.88 ID:KzgwyV7G4
- 投下乙です!!
子どもと大人の間で揺れるサイファーだからこそのバランス感覚の描写がとても良くて、
前話に引き続き成長を感じていいなあ……
でもコートへのコメントは子どもというか、本人らしい拘りがあるままで安心するわ。
頭スコールは笑った。服装センスだけはお断りって言ってるのにモロ受け継いでるのも笑った。
初登場時にロザリーを守ると決めたサイファーがこの局面で他でもないピサロから意志を託されるのは、
今までのサイファーの選択の積み重ねを感じさせてすごく好きだ……最後に贈られた言葉に思わずうるっときてしまった。
ジェノバの行動はひたすらに悪辣で狡猾で、アーヴァインへの情を巧みに利用しているのがいやらしくて、
本当なら微笑ましいはずのロックやリュックとの会話も不吉さに溢れてて、
その結果のセフィロスの遺体の証拠隠滅や分断は最悪すぎてしてやられた!と思わざるを得なかった。
真実を知らないまま同行することになってしまったリュックとボビィがひたすら心配だし、
ケフカの対処もどうにかしないといけないし、ここに来て分断されまくっていることへの不安がどんどん膨れあがってて、
もうどう足掻いても続きが楽しみすぎる……!!
来年も応援してます……!!
- 108 :それを知るべきではなかったのか 1/7:2022/01/01(土) 23:31:21.40 ID:pO7QJx4Db
- 結論としてはシンプルだ。
「やっぱり、次の世界まで持ち越すか?」
「チキンな選択だがな。一応セフィロスの始末をつけるまでは中立って建前はあるんだ。
有無を言わさず旅の扉に飛び込まれるのはないだろうよ。
だから気取られないように、楽に構えとけ」
仮にこれからやってくるのが見習い戦士程度であれば、この場で決着をつける選択もあっただろう。
だが相手はケフカだ。
たとえ毒にまみれていようとも、片腕一本失っていようとも、必ず一矢報いてくると考えるのが自然だ。
ごく短い時間だが、二人はシミュレートをおこなった。
問答無用で抹殺を選んだ場合にありうるのは、ギードに阻止され、その隙にケフカの逃走を許してしまうというパターンだ。
【闇】という要警戒のギミックが存在するのだ。
サイファーらの行動がそこに端を発した凶行だとギードにみなされれば、必ず阻止を試みられる。
おあつらえ向きにサイファーの衣装が黒い服に変わってしまった以上、警戒は免れず、ケフカもここぞとばかりに煽ってくるだろう。
だから、抹殺を完遂するならギードを納得させる最低限の建前が必要になる。
しかしその場合、この場にいない者たちに言及せざるを得ず、必然的にジェノバのことに触れざるを得ない。
聞き逃げや悪用の可能性を考えると、ケフカにはあまり知られたくはない情報だ。
ウソを混ぜる手もあるが、残り時間は長くとも残り十分程度だ。
その短時間でケフカ相手の想定問答を洗い出し、どの真実を伏せ、どこに虚実織り交ぜて回答するかを決めるのはあまりに危険。
少し突いただけでも崩れるような、粗だらけの討論会となるだろう。
その粗をケフカに看破されれば、ギードからの信頼もろとも切り崩し、ケフカは嬉々としてギードと二人で旅の扉に飛び込むだろう。
さいわい、知られないほうがいいというだけで、ジェノバについては知られて致命的な類のものではない。
疑念を抱かせるくらいであれば、説明してしまってかまわないだろう。
それよりも致命的なのは、ケフカの支給品をすべてあらためてはいないことだ。
サイファーらにキューソネコカミという奥の手があるように、ケフカも奥の手を隠し持っているというのは十分考えられる。
セフィロスにいいようにやられた以上、攻撃を防ぐバリアやエリクサーなどは持っていないだろうが、
たとえばエリアの持っていたスタングレネードがまわりまわってケフカの手に渡っている、などは現実的なラインだ。
サイファーはまさにスタングレネードを使われてエリアに振り切られた以上、これを想定から外すことはできない。
ならばいっそ処遇は次の世界に持ち越す。
これは決して悪くない判断。
ケフカが大怪我を負って動きに制限がかかる以上、次の世界で一度テレポを使われることは逃走の決定打にはなり得ない。
ガレキの塔ほどの複雑怪奇な建造物ならばともかく、この残り人数でそのような会場を選ぶとも思えない。
スタングレネードを使われても、次の世界なら巻き返すことは可能だ。
だから、ここで取り逃がさないことを重視し、サイファーとロックはギードとケフカを待つ。
- 109 :それを知るべきではなかったのか 2/7:2022/01/01(土) 23:32:07.67 ID:pO7QJx4Db
- 「つってもさ、ギードたちはいつ来るかなあ。
ひそひ草で連絡するつもりだったけど、結局ソロが持って行ったんだよな」
「セフィロスかソロが次の世界に飛んだ時点で詰みになると考えて行動してたんだ。
さすがに今回のケースは想定できねえよ。俺も、お前も、ケフカですらもな」
ロックは失敗したな、というような軽い口調で話すが、
ひそひ草はソロが持って行ったのではなくジェノバに奪われたというのが事実だ。
その真実はピサロの記憶を通して知ったがゆえに、サイファーは言葉には出せなかった。
(けど、近くで爆発の音なんざ拾えば、これを元に居場所を特定されることもあるってことか。
なら、機を見て伝えるべきなんだろうな)
「ん? サイファー、どうしたんだ?」
「なんでもねえよ。
それでだ、二人ともガキじゃねえ、危ないと思ったら自分の判断でこっちに来んだろ。
ましてや、ギードとケフカだぞ?
俺らが心配するとしたら、ケフカが一人で扉に飛び込む仕込みをしてないかってところだろ」
「そりゃそうか。
もしケフカがバニシュで姿を消したら、俺が引きずり出すわ。
……おっと、噂をすれば、なんとやらってやつだ」
思ったよりも早く、大亀とそれに乗った人影が草原の向こうに姿を現した。
のしのしというよりはドカドカと歩むその姿には、どことなく余裕のなさが垣間見える。
そして向こうもサイファーたちの姿を視認し、一時だけ足を止め、再びのしのしと歩み出した。
それに呼応して、サイファーたちもギードを迎えにあがることにした。
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- 110 :それを知るべきではなかったのか 3/7:2022/01/01(土) 23:32:59.69 ID:pO7QJx4Db
- 相当に目立っていたサイファーの純白のコートは、遠目でも分かるくらいに黒く染まり、濡れそぼっている。
ファッションとして見ればおかしな出で立ちではなく、むしろ似合っているくらいだが、この期におよんで着替えたと考えると不自然だ。
そしてギードとケフカは、その変化に見覚えがあった。
サイファーの漆黒のコートは、セージの着ていたドレスを想起させる。
セージは結果的には落ち着いたものの、だからといって半日前の危機的状況を忘れるほど耄碌してはいない。
ロックがいるからといって、全面的に信用するには尚早だと考えた。
だから、一息で踏み込めない距離を保って立ち止まった。
「サイファーよ、ひとまず無事のようじゃの」
「俺たちが来たときには何もかも終わってやがったよ。走り損ってやつだ。
……お前らがまず聞きたいことは分かってんだよ。
この服は俺だって不本意なんだ」
「リュックの見立てだと、あの祠でドレスフィア……ああ、リュックの使ってる服装変えるアイテムだが、
あれが自然発生してサイファーの姿を変えたんだろうってことさ。別に実害はないぜ」
自然発生ってなんだ、との疑問は浮かぶものの、サイファーとロックの返答にごまかしはないことは見て取れる。
少し会話を交わしただけではあるが、【闇】の影響で狂っていたり、
変化の杖で二人に化けたセフィロスと洗脳済みアーヴァインが正体を現して襲い掛かってくるようなことはないと確信した。
「ホッとしたわい。
そなたが【闇】に染まってしまったのかと戦慄した。
セージのような変化をしておったでな」
「ハッ、バカ言ってんじゃねえ。俺は俺だ。
変な囁きが聞こえたりもしなければ、どこぞの銀髪野郎に操られもしねえよ」
「ヒャヒャヒャ……私はてっきりセフィロスか洗脳済みのソロくんあたりに良いように使われているのかと思いましたよ。
ギードさん、念のためライブっときませんか? デスペルかけてみるのもいいかもしれませんよ?」
「待て待て、いやライブラくらいならどっかの魔王もやってきたから構わないけど!
なんでそこでソロの名前が出てくるんだよ?」
ケフカがソロに死んでほしいと思っているのは今さらの話だ。本人が以前盛大にぶちまけている。
だが、ギードがアーヴァインではなく、ソロの洗脳というワードに対して否定の意を見せない。
トラブルの予感をひしひしと感じつつ、ロック達は深掘りしていく。
「すまぬ、先に問いたいことが多かったというだけで、隠す気はないのだ。
ひそひ草を通して、ソロから連絡があったんじゃよ。
アーヴァインがセフィロスから逃げおおせたので連れてきてほしい、とな」
ロックがサイファーと思わず顔を見合わせる。
本物のアーヴァインはヘンリーと一緒に旅の扉をくぐっているのだ。
となれば、ギードに連絡したのは絶対にソロではない。
それが何者なのか、そのようなことができるのは誰か、半ば確信しているのだが。
- 111 :それを知るべきではなかったのか 4/7:2022/01/01(土) 23:33:55.03 ID:pO7QJx4Db
- 「……それで、どう返答したんだ?」
「断ったわい。
何せソロはセフィロスと同行すると言っておったからのう。
じゃが、果たしてあれは本当にソロだったのか……」
「私はソロ君がセフィロスに完全に洗脳されたのだと思ってますけどねえ。
たとえばサイファーくんがセフィロスを仕留めようとしたら、『やめろぉぉぉおお!』とか言いながら妨害してくるのがソロくんでしょ?
アーヴァインくんはどうやらロクに言うコト聞かないような、ツンデレ通り越したツン塩のお人形さんだったようですし、
チェンジは当然ですね? お人形遊びのプロの見立てですからこれは200%間違いありませんです」
サイファーがギリリと歯噛みする。
ジェノバの先手により情報が錯綜し、ソロへの疑念が生じているようだ。
元々ソロに擬態するつもりだったのか、それともわざとソロへの疑念を発生させていたのかは推し量れないが、ロクなことを考えていないことだけは明らかだ。
「そして不吉な予感を覚えたぼくちんたちが急ぎ駆け付けてみれば、伊達ワルなイメチェン始めたサイファーくん。
ついでにいるはずのリュックちゃんとチョコボがいない。
サイファーくんは全身ずぶぬれですし、私でなくても何かあったんだと察しますよネエ」
既にジェノバからコンタクトを受けたことで、こちらの状況を――当然ジェノバの都合のいいように歪められているだろうが――知っているのだ。
ケフカの言わんとすることは分かった。
「ところで、サイファーくん。どうやらアナタは祠で水浴びしてきたようですが、うっすらと血がついているようだ。
いったい誰がケガを負ったのでしょうか。それとも、死んだかな? ねえギードさん?」
ギードの目も細くなり、人間でいうところの額に皺を寄せた状態になっているのだろう。
できればケフカにジェノバのことを知られないままに始末をつけたかったが、
そううまくいくはずもないかと切り替える。
だから包み隠さず話す。
セフィロスが死んだことも、
ジェノバが動き出したことも、
アーヴァインのフリをしてボビィとリュックを連れて行ったことも、
そのジェノバがひそひ草を通してコンタクトを取ってきたであろうことも。
ジェノバがソロを執拗に狙っているらしいことと、サイファーがピサロから力を受け継いだということは伏せて。
「おやおや、まったくセフィロスの一味は最後までしぶとくワタシたちの邪魔をするようだ。
しかし、サイファーくん! キミは本当に幸運な男です。
俺様がお前らの代わりにそのジェノバとやらを殺してやろう。
ナニ、お代はいらない。大船に乗った気でいたまえ」
「ああ? テメェ何ほざいてやがる。
あのクソモンスターは俺が殺すに決まってんだろが!」
「ヒャヒャヒャ……怖い怖い。
けどね、キミたちはぼくちんの提案に頷かざるを得ないんですよ。
なぜならセフィロスの謎細胞……ジェノバのやつは、お前ら仲良しグループの目論見をぜ〜んぶ台無しにする腹案を持っているに違いないからな!」
「なんだと?」
- 112 :それを知るべきではなかったのか 5/7:2022/01/01(土) 23:34:46.03 ID:pO7QJx4Db
- グループのすべてを台無しにする腹案。
仮にハッタリだとしても、到底聞き逃せない単語に、思わず反応を返してしまう。
「お前らの安心安全にもかかわることだから、耳の穴しっかりかっぽじってよく聞きタマエ。
私は私で、セフィロスをなんとか倒せないかと調査をしておりましてねェ。
その過程でジェノバのことにもたどり着いたのですよ。
そして確信しました。お前らは今後、ジェノバに近寄ることすらできなくなるってねェ!
今お前たちが無事なのは、よっぽどジェノバがバカだったか、余裕綽々だったのか。
ワタシがジェノバの立場なら、お前ら全員、仲良くぽーんと生首飛ばしてますね」
「あぁ? なんだそのナメた言い様は?
俺らがあのクソモンスターに手も足も出ないとでも言いたいのか?」
「ヒャヒャヒャ、残念ながらハ〜ズレ!
もっとも、答えを教えてあげるほどワタシは優しくはありませんからね。
なぜお前たちが生首飛ばされるのか、それは自分でたどり着きタマエ。
けれども、そうですね、慈愛に満ちたぼくちんですから、ヒントくらいはあげようか。
サイファーくん! アーヴァインくんからのお手紙は、ちゃんと肌身離さず持っていますか?
ぼくちんがロックの代わりにうっかり読んじゃったアレですよアレ! ヒッヒッヒッ……」
「手紙? 俺の代わりに読んだって、なんだそりゃ?
なあ、サイ……ファー?」
そんなヒントで分かりっこないだろ、そう同意を得ようとしたロックがサイファーのほうを向くと、
サイファーは目を見開き、怒りなのか苦悩なのか分からない表情でぐっと拳を握りしめていた。
「そういう……そういうコトかよ!!」
サイファーは気付いてしまったのだ。ケフカのいうすべてを無に帰する腹案に。
自身が気付かない勝ち筋をケフカが見つけてくる……その覚悟はしていたが、
想定もしていない完敗のシナリオを提示される、その覚悟はなかった。
「え、今ので分かったのか!? 俺、何にも分かんないんだが!?」
「ワシも何が何やら……ワシらにも分かるように言うことはできるかね?」
「言えねえ」
「いや、肝心なことだろ? 言えないって……」
「言えねえんだよ! テメェで気付くなら仕方ねえがよ、俺からは言えねえよ!」
「ジェノバを殺せない理由を言えないって言われても、なあ。
……えっ? あっ! ウッソだろ!? どーすんだこれ!?」
ロックもサイファーとケフカの言わんとすることに気付き、頭を抱える。
最悪の中の最悪のシナリオに、サイファーもロックも気付いてしまった。
「ワシには見当もつかんのじゃが……」
「ギード氏、ワタシはどうかあなたに今のピュアなあなたのままでいてほしいのです。
……ジェノバに付け入らせる隙はこれ以上作らないほうがよいのでネェ」
- 113 :それを知るべきではなかったのか 6/7:2022/01/01(土) 23:35:18.48 ID:pO7QJx4Db
- ジェノバは相手の心を読んで、最も殺しにくい姿に擬態する生態を持つ。
だが、仮に追い詰められてなりふり構わなくなった場合、どんな行動に出るか。
当初の想定のはるか上を行く最悪のシナリオがケフカから提示されたのだ。
それすなわち、ジェノバが首輪の解除方法と夢の世界の存在を盗聴器を通してアルティミシアに伝えるという悪夢のシナリオ。
実行された場合、その被害の大きさは未知数。
サイファーやロックの首輪が爆破されるだけならまだマシなほうだ。
悪いほうに振れれば、スコールやロザリー、ザンデすら含めて一度に破滅する最悪手。
普通なら自爆以外の何物でもないし、言った本人もアルティミシアに目を付けられる狂気の沙汰だ。
だが、ジェノバは参加者ではない。
首輪などないから、行動を縛られない。
ましてや、人間の理を超越した宇宙生物に狂気もへったくれもないだろう。
ケフカが言っているだけで、当のジェノバ本人は気付いていないだけなのかもしれない。
あるいは、生きている参加者にこそ用があるから何もしていないだけなのかもしれない。
しかし追い詰められてなりふりかまわなくなったジェノバが相手の心を読めば、この奇策にたどり着く可能性は決して低くはない。
首輪の仕組みも夢の世界も知らない三名――ギード、ケフカ、そしてセージの三人以外はうかつにジェノバに近づくことすら危険が伴うことになる。
それどころか、リュックがついていった以上、既に首輪解除のカラクリや夢世界の存在が割れているなら最悪だ。
そして何より、この破滅的なシナリオを意識してしまった以上、サイファーとロックはジェノバと対峙する危険度が極限まで跳ね上がった。
(ケフカ、やっぱテメェはどこまでも敵ってコトかよ……!)
心の中で悪態をつくも、口八丁だけでサイファーらの優位性を完全に封じ、自身の価値を飛躍的に高めたケフカの頭脳には舌を巻くしかない。
少女の姿でなりきりを演じるセージには話が通じるかすら不明で、ケフカ以上に信用できない。
だからといって、ギードただ一人でジェノバに対峙させるのはあまりにも危険すぎる。
必然的に、ケフカには大きな価値が生まれてしまうのだ。
ケフカがジェノバの手札をすべて知っているとは思えない。
それでも、暴力も魔法も道具も使わず、わずかな情報から引き出した推論ひとつでサイファーとロックの動きを縛ったのだ。
新たなチカラを披露することすら許さず、どんなに強固な結界があろうと防ぐことが不可能な、攻撃にも満たない一手。
夢の世界を知らず、首輪の解除方法を知らず、サイファーたちの仲間にもなりえないという不利を有利に変えて、立場を築き上げたのだ。
他方、何も気づかずにジェノバに対峙していれば、破滅をもたらしていた可能性を予め摘んでおく慧眼。
ケフカの危険度は測り知れず、けれども毒と分かりながら飲み続けるしかないのだと思い知らせた。
「ヒッヒッヒッ、サイファーくんがワタシの有用性を思い出してくれたようでなによりです。
いやー、セフィロスが死んだと聞いた時は、次はよもやワタシの番かと戦々恐々としましたよ。
まだまだ、仲良くやっていけそうですね?」
- 114 :それを知るべきではなかったのか 7/7:2022/01/01(土) 23:35:40.02 ID:pO7QJx4Db
- サイファーとロックは押し黙り、ギードはただただ困惑するのみ。
四人はもはやこの世界に留まる理由もなくなり、誰ともなく、旅の扉へと足を進めていく。
静寂の支配する闇の世界に響くのは、ただただ道化の笑いのみ。
サイファーの成長も、ピサロの覚悟も、セフィロスの無念も、ソロの悲嘆も、すべてを嘲笑い踏みにじって道化が歩む。
4人の姿が旅の扉に消えた後も、その笑い声だけは、いつまでもいつまでも闇の中に響いていた。
【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ
第一行動方針:ジェノバに脱出計画を広められないように立ち回る
第ニ行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す
基本行動方針:ケフカを除く全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ジェノバに脱出計画を広められないように立ち回る
第ニ行動方針:仲間と合流し、ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ギード(HP1/2、MP:1/5)
所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
第一行動方針:サイファーたちからジェノバの情報を得る
第ニ行動方針:ジェノバを倒す
【ケフカ (HP:1/10 MP:残り僅か 左腕喪失・左肩凍結)
所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕、セフィロスの右腕、ひそひ草
第一行動方針:シャワーを浴びながら優位性を確保する
第二行動方針:ジェノバ細胞を利用する
第三行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
第四行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:新フィールドへ】
- 115 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/02(日) 02:32:39.80 ID:YMBDt4c8q
- 投下乙です!
新年早々に新作が来るなんてめでたいのに、提示された最悪のシナリオが最悪すぎる…
さすがはケフカ、そこに気づくとはやはり天災か、って言いたくなる
行動方針からも余裕綽々なのが伝わってくるけど、そういやまだ毒沼まみれなんだっけ
一方、ギードは振り回されすぎて余裕がなくなってるけど、
ソロへの誤解も解けただろうしケフカに出し抜かれないよう頑張って欲しい
サイファーとロックは……こうなると力や意志力じゃどうにもならないよね
それでも仲間を救出したり、読心されない遠距離からの攻撃とかで
どうにかジェノバに一矢報いてほしいな
そしてこれで全員移動終了か、次は闇の世界崩壊&次ステージ登場になるのかな?
それとも最後にブラック企業と化した裏方達、もしくは夢世界組が来るのかな?
今年も続きが楽しみです!
- 116 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/02(日) 13:22:27.73 ID:JDQY8kl6u
- 今回の話が問題なく通ったうえで、他パート書く人いなそうであればフィールド消滅回のあと次世界ですかね。
来週の土曜時点で他パート書きたいという人がいなければ消滅回、と期限つけてしまえばいいでしょうか?
過去の雑談スレ見た感じ、次フィールドはバラムガーデンで問題ないですかね?
- 117 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/03(月) 09:13:42.34 ID:7W7pJAFlV
- バラムガーデンで問題ないと思います。
とうとうこのロワも第4ステージに突入するのか、感慨深いな
- 118 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/04(火) 02:04:43.37 ID:HySVWItR4
- 投下乙です! 新年早々新作を拝めるとはなんて良い一年のはじまりなんだ……。
ジェノバが首輪解除と夢世界について知ることで起こりうる敗北の一手は予想もしていなくて驚いたけど、確かに可能性としては十分すぎるほどあってゾッとした。
夜明けから今まで怒涛の展開だったけれど、例えばアンジェロの身体に宿ったリノアだったりピサロの意志を継いだサイファーだったり、
希望に繋がるできごとも沢山あったこの状況で、
さらに最悪すぎる展開が生まれてくるなんて、改めてこのロワに降り立ったジェノバの恐ろしさに震えた……。
自分の策略を巡らせサイファーたちが辿り着かなかった危険性を指摘し、自分を安全圏に押し上げるケフカの言動はまさにトリックスターで、
瀕死の状態の筈なのにそれを感じさせない格があっていいなあ……
サイファーもロックもギードも、最悪の状況の中思うように動けないかもしれないけどどうにか頑張って欲しい……!!
そしてとうとう全員次ステージへということで、第4ステージでどうなるのかが楽しみすぎて待ちきれない!
今年も心から応援しています。
- 119 :闇の世界消滅:2022/01/08(土) 23:59:32.07 ID:OyqQPPL9I
- 初めに、天が割れた。
天空の竜神の千里眼すら通さない重厚な岩盤があっけなく割れて砕けた。
次に、地が裂けた。
灼熱のマグマの侵食に抗い続けた大地があっけなく崩れ落ちた。
そして煮えたぎる溶岩もまた、空間の裂け目に流れ落ち、冷えた石くずとなって散らばり、塵となってただよう。
光の届かぬ闇の世界。
世界を閉ざす地殻が割れ、そこから差し込むのは光ではない。
それは無。
闇すら塗り潰す無、無、無。
この世界で勃発した争いがどれほどちっぽけなものだったかを体現するような、圧倒的な無。
闇も、光も、死も、生も、魔も、天も、邪も、聖も、すべては消失し、原初のあるべき姿へと戻る。
無が闇の世界を呑み込み尽くした後、そこに残るのは、ただ静寂のみであった。
【闇の世界 消滅】
- 120 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/09(日) 01:04:44.46 ID:kNYA0Otu+
- 投下乙です!
とうとうさよなら闇の世界か、本当に長かったなあ
思い返せばピサロやセフィロス以外にも、
名物マーダーだったカイン&スミスとか、サラマンダー卒業したサラマンダーとか、
ルカとパパスとか、エリアとサックスとか、子テリーとかクリムトとかザックスとか
死んだカウントに入れていいのか微妙なティーダとU菜様とか
たくさんのキャラが散っていったんだなって…
でも首輪解除に成功して脱出フラグも着実に進んだのも確か
バラムガーデンでは果たして何人生き残るんだろうか、スコールの作戦は成功するんだろうか
次の話が楽しみです!
- 121 :反撃の始まり 1/6:2022/01/09(日) 01:36:44.16 ID:GJzIhdDnU
- 「アービンとの感覚が繋がった!
まだちょっと混乱してるみたいだけど、無事に次の世界まで逃げ切ったみたいだ……。
みんな、ありがとう。本当に助かった!」
化け物は結局のところ無事だったようだ。
それを感じ取ったらしいティーダのバカは、興奮してガキのようにはしゃいでいる。
当然ガキのところにはガキが集まるらしく、リルムも騒いでいるようだ。
ああ、別に結果に文句を言うつもりはない。
化け物が死んだ代わりにセフィロスが強化されるなんて結果はこれっぽっちも望んじゃいないし、
何より今、この肝心な状況でスコールのモチベーションに悪影響を及ぼすことがあれば、ふざけるなって話だ。
俺にとっては今すぐ死んでほしい化け物であっても、スコールにとっては友人であることに変わりはないからな。
個人的な感傷を引きずるような男ではないと思うが、影響がないとはとても言い切れない。
しかしだ。
セフィロスの目論見を阻止した時点でこの話は終わる。
これ以上はこちらから干渉できることはないし、干渉する時間もない。
お前らが茶番劇を演じている間に、作戦の時は刻一刻と近づいてきているんだ。
アルティミシアが眠ったら即座に開始なんだぞ?
理解しているのか?
万歳をしている二大バカを尻目に、俺は魔女のことを思い浮かべ、念じる。
……まだ魔女の扉はかけらも出てこない。
戦いが終わって向こうへの関心が薄れたところで魔女は床に就くと考えていたが、旅の扉前での攻防がまだ続いているのか。
状況を確認しようがない以上、考えても仕方のないことだが。
他の連中を見渡せば、魔王ザンデと竜神プサンとが仲良く話し込んでいるのが見える。
一人はもっともらしい言葉を発して俺たちを煙に巻き、
一人は難解な単語や理論をなだれ込ませて俺たちを煙に巻いてくる、どちらも個人的には信用ならない人物だ。
とはいえ、二大バカほど話が通じない相手ではないし、能力についても信用はしている。
魔女の城へ旅の扉を繋げ、スコールが乗り込んで相手の作り出した仕組みを破壊する作戦。
俺たちの切り札ともいえる作戦だが、俺自身が密にかかわることはない。
ラムザたち居残り組は新しい会場で拠点を確保し、夢の世界のほうにコンタクトを取ってくるだろう。
そのときに全員起きていたので夢の世界に来れませんでした、では話にならない。
だが、仮にその役割がなかったとして、やはり関わりたくはない。
儀式自体は現実の世界でおこなう以上、ウネのばあさんとバカの参加は不可能だ。
スコールは潜入工作に備え、ギリギリまで身体を休ませておくべき。
残りはマッシュとロザリー、プサンとザンデ、それにリルムのガキになる。
当然成功してもらわなければ困るが、あの連中の輪の中に好き好んで入る理由などどこにもないだろう?
- 122 :反撃の始まり 2/6:2022/01/09(日) 01:47:45.57 ID:GJzIhdDnU
- さて、二大バカもようやく落ち着いたらしい。
やや離れたところで、スコールが椅子に座って身体を休めている。
「おい、スコール。お前、着替えは?
まさか、そのままの格好で突入する気なのか?」
「着替え……?
ああ、変装をしろということか。
確かに服は一着持っているが、あれは目立つんじゃないか?」
そりゃ目立つだろう。
服が人を作る。
貴族の服ってからには、平民どもの服とは一線を画す仕立てとなっていて当然だ。
貴族に限ったことじゃないがな。
仮にアルティミシアがそこらの村娘のような麻の貫頭衣なんか着てたら、誰も邪悪な魔女だとは思わないだろう。
……話がそれた。
俺が言いたいのは、スコールの服装はSeedだったか? その正装じゃないのか?
魔女を倒したときの服装なら、それは正装だろう?
それはマズいんじゃないのかってことだ。
「その服装は、一目見ただけでも訝しがるやつはいるだろうよ。
あの服が目立つってんなら、赤いベストやマントだけ外すとか、やりようはあるだろ。
別にパーティに呼ばれてるわけじゃないんだからな。
着替えたところで、サイファーよりは目立たないだろ」
「確かにあの白いコートで潜入するのはあり得ないが……」
俺はあらためてスコールの服装を眺める。
毛皮のついた高級そうななめし皮の外套に、鎖やファスナーがジャラジャラとついた上下。
そしてとびっきりのトレードマークが、獅子の紋章を象った銀の装飾品だ。
ラーグ公、ゴルターナ公の二大有力貴族の紋章にも使われている獅子はことさら記憶に残りやすいのかもしれないが、
それを差し引いてもアルティミシアの陣営でも十分に周知されていることだろう。
スコール・レオンハートの死亡に疑念を少しでも抱かれれば、敵の警戒レベルが一気に跳ね上がる。
「お前が生きてることがバレりゃ、全員の生死が総ざらいされるかもしれない。
最終的にバレるにしたってだ、できるだけ遅らせたほうがいいだろ」
警戒レベルが『スコール・レオンハート』になるよりは『謎の不審人物』へと格下げされるほうが都合がいい。
本当は顔を隠せるのが一番いいんだがな。
俺は建設的な提案をしているつもりだが、スコールは額に一本皺を寄せる。
有能な男だがこだわりが強すぎるのが玉にキズなんだよな。
まあ、最後は本人の判断だ。それを尊重するさ。
ふと時計を見れば、まもなく8時だ。
全員無事なのか、それともこの期に及んで脱落者が出たのかは分からないが、闇の世界には誰もいないはずだ。
もう一度アルティミシアのことを思い浮かべたところ、今度は真っ黒な扉が浮かび上がった。
「おい寝坊助ども、起きろッ! 魔女サマがご就寝だ。これより、魔女の城への突入作戦を始めるッ!」
■■■■■■■■■■■
- 123 :反撃の始まり 3/6:2022/01/09(日) 01:59:21.87 ID:GJzIhdDnU
- 魔女の城への道を作り出す第一段階。
担い手は私、プサンを含めて5人だ。
「各々の役割については理解していますね?」
「俺は命のリングを着けて、祈ればいいんだよな?
もっと魔法が得意そうなやつに頼むんだと思ってたから、意外な人選だよな。
いや、みんなの力になれるんなら喜んでやるけどさ」
「溢れ出す生命の輝きに満ち溢れた者。
燃え盛るほどの情熱と輝かしい程の魔力を内に秘めた者。
明鏡止水のように静かな心と叡智でもって未来を見通す者。
三つの指輪のコンセプトです」
「ってことは、俺が生命力担当か。
はは、確かに心当たりはあるなあ。
たとえ大地に挟まれようとも、俺の力でこじ開ける! ってか」
もはやその由来は人間界では失われたが、海の神殿の三つの女神像は、導かれし者たちを模した形代だ。
命のリングをその指に通す女神像はサントハイムの姫アリーナを。
水のリングをその指に通す女神像は占い師ミネアを。
炎のリングをその指に通す女神像は踊り子マーニャを。
それぞれ模している。
マッシュの生命力はアリーナをしのぐ。
腕を失い、幾分か失われたとはいえ、命のリングを扱うには適任だ。
「炎のリングはリルムで、水のリングはザンデ、だっけな」
「ええ、そうです。リルムさんには、魔力を一点にそそぐことに注力してもらいます。
いまだ未熟なところがあるようですが、彼女の魔力は賢者や大魔導士に匹敵するものを秘めていますからね。
存分に発揮してもらいましょう」
「あたしがそっちに行ければ、うんと魔力を注いでやったんだけど、ここは若い衆に花を持たせるとするさ。
それにしても、ザンデのやつが明鏡止水の心だの叡智だの、その評価にむずがゆくなるよ」
「ザンデさんほどの古今東西あらゆる知識を取り入れてきた方であれば、
不測の事態にも冷静に対処し、その圧倒的な知識量でもって未来を手繰り寄せることもできるでしょう。
元々の水のリングの担い手は物静かな占い師でしたが……未来予知と未来予測、その本質こそ違えど、適正はあるかと」
「ずいぶんと高く買ってるじゃないか。
ほらザンデ、プサンもこう言ってるんだ。
万が一足を引っ張ったら承知しないよ!」
「ファファファ……万が一などあるものか。
魔方陣、触媒、装飾……あらゆる準備はぬかりなく終えておる」
そう。あとは実行のみだ。
心地よい緊張感が精神を支配する。
アルガスの持つ腕時計とリンクしたアンティークな柱時計は、ちょうど午前八時をまわったところだ。
「おい寝坊助ども、起きろッ! 魔女サマがご就寝だ。これより、魔女の城への突入作戦を始めるッ!」
アルガスが声を張り上げ、柱時計の鐘が鳴る。
「時間です。いきましょう」
夢から覚め、我々は現実へと意識を下ろしていく。
■■■■■■■■■■
- 124 :反撃の始まり 4/6:2022/01/09(日) 02:00:11.45 ID:GJzIhdDnU
- 次元の狭間に建てられたコテージの一室。
決して大きくはないその一室に、集った六人。
部屋の中央に立つのはロザリー。
彼女を中心に、床には大きく複雑な魔方陣が刻まれている。
これはギードとクリムトが書き残し、プサンとロザリーに託したもの――
この空間と次元の狭間のどこかにある魔女の城、二空間の隔たりを穿つ旅の扉を作り出すためのものだ。
本来なら決して交わることのない世界を人の手でつなげることができる空間魔法。
悪用すれば、アルティミシアの脅威を全異世界に広げることすらできてしまう。
ひとつの世界を預かる神の立場であれば、外に持ち出すことを決して許してはならない禁呪といえよう。
昨日の朝、ロザリーはザンデと共に、まさに今立っているその座標に転移で飛ばされた。
ゆえに、魔法陣の中央の座標には空間の歪みが今も残っている。
この場所から、この儀式魔法を発動させれば、必ず魔女の城への道は開ける。
勝利を導く宝石、ルビーをあしらった装飾品をいくつも身に着け、ロザリーは宝剣を手に静かにたたずむ。
緊張でわずかに身を震わせているのが分かるが、私は何も心配してはいない。
三つのリングは人間界と魔界とをつなぐ膨大な魔力を生み出すものだ。
導かれし者たちを人間側のカギとしたなら、ロザリーは魔族側のカギとなる人物。
三つのリングが共鳴しないはずがない。彼女の力にならないはずがない。
そして、精霊神ルビスの加護を宿し、異世界の黄金竜グランドラゴーンの力を込められた剣が必ず正しき道を指し示してくれるだろう。
三人の術者が所定の位置に立ち、静かに祈りを捧げる。
淡い緑の光が、燃えるような赤の光が、静かにゆらめく青の光が三人の身体からふつふつと立ちのぼり、魔方陣の中央へと吸い込まれていく。
わずかながらロザリーから立ちのぼる魔力は、夢の世界に生きる彼ら彼女らからの協力だろう。
吸い込まれた魔力は陣へと還元され、炎が燃え伝っていくように構成する線の一本一本にまで魔力が通されていく。
かと思えば、それをはるかにしのぐほどの魔力が中央に集まりだし、ひときわ輝きだした。
ロザリーと目が合う。
私がおもむろに頷けば、ロザリーは意を決して、その陣の中央へとルビスの剣を差し込んだ。
その場所にすべての魔力が集まったかと思えば、今度は床の裂け目から青い光があふれだす。
青い泉が湧き出たかのような、こんこんと静かに光をたたえるそれこそが、時空を穿つ旅の扉だ。
- 125 :反撃の始まり 5/6:2022/01/09(日) 02:00:59.69 ID:GJzIhdDnU
- 今まで陣の外でその様子を見守っていたスコールが、一歩ずつ、一歩ずつゆっくり床を踏みしめ、進んでいく。
ロザリーは剣を鞘に納め、まるで主演を交代するかのように、おもむろに後ろ足で陣の外へと下がった。
スコールの服がいつもの黒いジャケットではなく、貴族が着るような豪華な仕立てのものとなっているからこそ、余計にそのような錯覚にとらわれる。
もっとも、目立つ赤いベストとマントは装着していないようだが。
スコールは最後に各々を見回す。
マッシュと目を合わせれば、マッシュはにかっと笑顔を返し、
ザンデと目を合わせれば、ザンデは不遜な笑みを浮かべる。
リルムと目を合わせれば、リルムは空中でスコールとハイタッチ……をしようとして、失敗。
スコールが気まずそうにうつむく。代わりにティナの魔石が淡い光を放ち、その光でもって彼女の心に語り掛けていた。
私の手元にあるのは、この悪夢の催しで命を落とした参加者の記憶の結晶だ。
ザンデが幾多の参加者の中から見繕った、赤いローブの魔導士らしき老人の結晶だ。
私がおもむろに頷いたのを合図に、スコールが手を翻す。
記憶の結晶から魔力の輝きが浮かび上がり、その手に吸い込まれていく。
言葉を発することが許される状況であれば、『ドロー』と力強く言葉が発せられていたであろう。
旅の扉に重なるように現れた空間を穿つ穴、その向こうに映るのは何の飾り気もない部屋だ。
これこそがアルティミシアの城の一室なのだろう。
アルガスからスコールが借り受けたももんじゃのしっぽ。
それは、まっすぐに空間の穴を指し示す。
この導きのままに旅の扉をくぐれば、必ず無事に出口まで導いてくれる。
マッシュの、ザンデの、リルムの、ロザリーの、そしてプサンの視線を一身に浴びる中、
スコールは振り返らず、一息に空間の向こう側へと飛び込んでいった。
魔法陣に通された魔力が消え、二点をつなぐ空間が閉じていく。
その閉じる瞬間に、空間の向こう側にスコールの姿が映る。
スコールはついにアルティミシアの城に突入した。
作戦の第一段階は無事に成功した。
これより、魔女への反撃が始まる。
- 126 :反撃の始まり 6/6:2022/01/09(日) 02:01:35.21 ID:GJzIhdDnU
- 【スコール (首輪解除、貴族の服で変装中)
所持品:(E)ライオンハート、(E)貴族の服、エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×)、ももんじゃのしっぽ
吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、ファイアビュート、写真、Gメガポーション×9、メガポーション×10、仲間からドローした魔法をいくつか
第一行動方針:脱出計画を遂行する
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルティミシアの城】
【プサン(HP4/5、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、ミスリルシールド、メガポーション
第一行動方針:現実世界の監視????
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【マッシュ(HP1/2、右腕欠損、首輪解除)
所持品:(E)命のリング、エリクサー、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3
最終行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルガスの夢の世界→会場外・コテージへ】
【リルム(右目失明、HP9/10、MP1/2、首輪解除)
所持品:(E)絵筆、(E)炎のリング、フラタニティ、不思議なタンバリン、エリクサー、レーザーウエポン、グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
第一行動方針:ティーダに協力する
最終行動方針:ゲームの破壊】
【ザンデ
所持品:(E)水のリング、ドライバーに改造した聖なる矢、静寂の玉、メガポーション
基本行動方針:ゲームを脱出する】
【ロザリー(首輪解除)
所持品:(E)ルビスの剣、(E)守りのルビー、(E)力のルビー、(E)しっぽアクセ、破壊の鏡、クラン・スピネル、ウィークメーカー、
妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン、メガポーション、Gメガポーション×5
最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:会場外・コテージ】
【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠)
所持品:E.インパスの指輪、E.タークスの制服、E.高級腕時計、草薙の剣、カヌー(縮小中)、天の村雲(刃こぼれ)、ウネの鍵、メガポーション、コテージ×3
第一行動方針:夢の世界を開くために眠る
第ニ行動方針:立場の確保
第三行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:会場外・コテージ/アルガスの夢世界】
- 127 :反撃の始まり 6/6:2022/01/09(日) 15:38:18.63 ID:GJzIhdDnU
- G.F.カーバンクルがコマンド×になってるのを見落としていました。
>>121-126をいったん取り下げます。
- 128 :反撃の始まり 3/7 修正:2022/01/09(日) 18:28:28.42 ID:GJzIhdDnU
- 魔女の城への道を作り出す第一段階。
担い手は私、プサンを含めて5人だ。
「各々の役割については理解していますね?」
「俺は命のリングを着けて、祈ればいいんだよな?
もっと魔法が得意そうなやつに頼むんだと思ってたから、意外な人選だよな。
いや、みんなの力になれるんなら喜んでやるけどさ」
「溢れ出す生命の輝きに満ち溢れた者。
燃え盛るほどの情熱と輝かしい程の魔力を内に秘めた者。
明鏡止水のように静かな心と叡智でもって未来を見通す者。
三つの指輪のコンセプトです」
「ってことは、俺が生命力担当か。
はは、確かに心当たりはあるなあ。
たとえ大地に挟まれようとも、俺の力でこじ開ける! ってか」
もはやその由来は人間界では失われたが、海の神殿の三つの女神像は、導かれし者たちを模した形代だ。
命のリングをその指に通す女神像はサントハイムの姫アリーナを。
水のリングをその指に通す女神像は占い師ミネアを。
炎のリングをその指に通す女神像は踊り子マーニャを。
それぞれ模している。
マッシュの生命力はアリーナをしのぐ。
腕を失い、幾分か失われたとはいえ、命のリングを扱うには適任だ。
「炎のリングはリルムで、水のリングはザンデ、だっけな」
「ええ、そうです。リルムさんには、魔力を一点にそそぐことに注力してもらいます。
いまだ未熟なところがあるようですが、彼女の魔力は賢者や大魔導士に匹敵するものを秘めていますからね。
存分に発揮してもらいましょう」
「あたしがそっちに行ければ、うんと魔力を注いでやったんだけど、ここは若い衆に花を持たせるとするさ。
それにしても、ザンデのやつが明鏡止水の心だの叡智だの、その評価にむずがゆくなるよ」
「ザンデさんほどの古今東西あらゆる知識を取り入れてきた方であれば、
不測の事態にも冷静に対処し、その圧倒的な知識量でもって未来を手繰り寄せることもできるでしょう。
元々の水のリングの担い手は物静かな占い師でしたが……未来予知と未来予測、その本質こそ違えど、適正はあるかと」
「ずいぶんと高く買ってるじゃないか。
ほらザンデ、プサンもこう言ってるんだ。
万が一足を引っ張ったら承知しないよ!」
「ファファファ……万が一などあるものか。
魔方陣、触媒、装飾……あらゆる準備はぬかりなく終えておる」
そう。あとは実行のみだ。
心地よい緊張感が精神を支配する。
アルガスの持つ腕時計とリンクしたアンティークな柱時計は、ちょうど午前八時をまわったところだ。
「おい寝坊助ども、起きろッ! 魔女サマがご就寝だ。これより、魔女の城への突入作戦を始めるッ!」
アルガスが声を張り上げ、柱時計の鐘が鳴る。
- 129 :反撃の始まり 4/7 修正:2022/01/09(日) 18:30:44.74 ID:GJzIhdDnU
- 仲間たちが次々と夢から醒め、現実へと意識を下ろしていくのを感じながら、私はスコールへと歩み寄る。
渡しておくものがあるのだ。
「スコールさん、ザンデさんが作成した、例の道具です。
ザンデさんは多忙ですので、私からお渡しします」
「魔石のかけら、か。俺の知っているものとはまったく質が異なるんだな。
できれば召喚士の補助が欲しいと言っていたのは、これを使うからなのか?」
祈り捧げることで、幻獣を召喚することができるという魔石のかけら。
かけらの正体は、この悪夢の催しで命を落とした参加者、その記憶の結晶を加工したものだ。
ザンデが赤いローブを着た魔道士の記憶を元に作り出した極小の魔石だ。
「あのクローンとかいうロクでもない技術をこう応用するとは、驚いたけどねえ。
精神のカケラを混ぜ込むこんで作り出すことで、より本人に近い複製を仕立て上げるなんてね。
いや、これはもう、本人なのかねえ?」
ウネは感心八割、嫌悪二割の微妙な調子でつぶやく。
おそらくは邪法に属する技術を使ったのだろう。
進化の秘法とまではいかないまでも、個人を勝手に複製するなど真っ当な技術とはいいがたい。
だが、その召喚の媒体としての効果は確かなものだ。
猜疑心の強さからか、アルガスも少し前まで魔石のかけらをインパスの指輪とやらで鑑定していたが、やはり確かな効能があることは認めた。
「スコール、あんたは何も気にせずに使えばいい。
質は保証できるし、あたしの違和感は個人的な事情からくるものだからね。
これが最良だと選択したのはザンデだし、あんたたち若い命を救うのであれば、ドーガもきっと許してくれるだろうさ」
おそらく複製された者がドーガで、ウネやザンデと深い関係にあったのだろう。
これは私たちが首を突っ込む話ではないのだ。
「魔石の扱い方はティナさんやリルムさんに教わった通りで大丈夫でしょう。
スコールさんはみなを信じて、大船に乗った気でいてください」
「ああ、よろしく頼む」
「さあ、時間です。我々もいきましょう」
アルガスとティーダ、ウネを夢の世界に残し、我々もまた現実へと意識を下ろしていく。
■■■■■■■■■■
- 130 :反撃の始まり 5/7 修正:2022/01/09(日) 18:31:48.99 ID:GJzIhdDnU
- 次元の狭間に建てられたコテージの一室。
決して大きくはないその一室に、集った六人。
部屋の中央に立つのはロザリー。
彼女を中心に、床には大きく複雑な魔方陣が刻まれている。
これはギードとクリムトが書き残し、プサンとロザリーに託したもの――
この空間と次元の狭間のどこかにある魔女の城、二空間の隔たりを穿つ旅の扉を作り出すためのものだ。
本来なら決して交わることのない世界を人の手でつなげることができる空間魔法。
悪用すれば、アルティミシアの脅威を全異世界に広げることすらできてしまう。
ひとつの世界を預かる神の立場であれば、外に持ち出すことを決して許してはならない禁呪といえよう。
昨日の朝、ロザリーはザンデと共に、まさに今立っているその座標に転移で飛ばされた。
ゆえに、魔法陣の中央の座標には空間の歪みが今も残っている。
この場所から、この儀式魔法を発動させれば、必ず魔女の城への道は開ける。
勝利を導く宝石、ルビーをあしらった装飾品をいくつも身に着け、ロザリーは宝剣を手に静かにたたずむ。
緊張でわずかに身を震わせているのが分かるが、私は何も心配してはいない。
三つのリングは人間界と魔界とをつなぐ膨大な魔力を生み出すものだ。
導かれし者たちを人間側のカギとしたなら、ロザリーは魔族側のカギとなる人物。
三つのリングが共鳴しないはずがない。彼女の力にならないはずがない。
そして、精霊神ルビスの加護を宿し、異世界の黄金竜グランドラゴーンの力を込められた剣が必ず正しき道を指し示してくれるだろう。
三人の術者が所定の位置に立ち、静かに祈りを捧げる。
淡い緑の光が、燃えるような赤の光が、静かにゆらめく青の光が三人の身体からふつふつと立ちのぼり、魔方陣の中央へと吸い込まれていく。
わずかながらロザリーから立ちのぼる魔力は、夢の世界に生きる彼ら彼女らからの協力だろう。
吸い込まれた魔力は陣へと還元され、炎が燃え伝っていくように構成する線の一本一本にまで魔力が通されていく。
かと思えば、それをはるかにしのぐほどの魔力が中央に集まりだし、ひときわ輝きだした。
ロザリーと目が合う。
私がおもむろに頷けば、ロザリーは意を決して、その陣の中央へとルビスの剣を差し込んだ。
その場所にすべての魔力が集まったかと思えば、今度は床の裂け目から青い光があふれだす。
青い泉が湧き出たかのような、こんこんと静かに光をたたえるそれこそが、時空を穿つ旅の扉だ。
- 131 :反撃の始まり 6/7 修正:2022/01/09(日) 18:33:18.06 ID:GJzIhdDnU
- 今まで陣の外でその様子を見守っていたスコールが、一歩ずつ、一歩ずつゆっくり床を踏みしめ、進んでいく。
ロザリーは剣を鞘に納め、まるで主演を交代するかのように、おもむろに後ろ足で陣の外へと下がった。
スコールの服がいつもの黒いジャケットではなく、貴族が着るような豪華な仕立てのものとなっているからこそ、余計にそのような錯覚にとらわれる。
もっとも、目立つ赤いベストとマントは装着していないようだが。
スコールは最後に各々を見回す。
マッシュと目を合わせれば、マッシュはにかっと笑顔を返し、
ザンデと目を合わせれば、ザンデは不遜な笑みを浮かべる。
リルムと目を合わせれば、リルムは空中でスコールとハイタッチ……をしようとして、失敗。
スコールが気まずそうにうつむく。代わりにティナの魔石が淡い光を放ち、その光でもって彼女の心に語り掛けていた。
魔方陣の中央、旅の扉の前にスコールが立つ。
私がおもむろに頷いたのを合図に、スコールは魔石のかけらを捧げる。
それが砕けると同時に呼び出されたのは、記憶にあった赤いローブを着た老人だ。
老人は旅の扉に重ねるように魔力を放出し、空間を穿つ――その向こうに映るのは何の飾り気もない部屋だ。
これこそがアルティミシアの城の一室なのだろう。
老人が振り返る。
その視線の先はザンデだ。
ザンデが若干気恥ずかしそうな、気まずそうな、なんともいえない表情で目をそらす。
巨悪の本拠地に、仲間を希望とともに送り出すその姿に、老人は何を思ったのか、穏やかな笑みを浮かべる。
直後、老人を構成する魔力が消えて、その姿は霧散した。
アルガスからスコールが借り受けたももんじゃのしっぽ。
それは、まっすぐに空間の穴を指し示す。
この導きのままに旅の扉をくぐれば、必ず無事に出口まで導いてくれる。
マッシュの、ザンデの、リルムの、ロザリーの、そして私、プサンの視線を一身に浴びる中、
スコールは振り返らず、一息に空間の向こう側へと飛び込んでいった。
魔法陣に通された魔力が消え、二点をつなぐ空間が閉じていく。
その閉じる瞬間に、空間の向こう側にスコールの姿が映った。
スコールはついにアルティミシアの城に突入したのだ。
作戦の第一段階は無事に成功した。
これより、魔女への反撃が始まる。
- 132 :反撃の始まり 7/7 修正:2022/01/09(日) 18:34:00.54 ID:GJzIhdDnU
- 【スコール (首輪解除、貴族の服で変装中)
所持品:(E)ライオンハート、(E)貴族の服、エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×)、ももんじゃのしっぽ
吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、ファイアビュート、写真、Gメガポーション×9、メガポーション×10
第一行動方針:脱出計画を遂行する
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルティミシアの城】
【プサン(HP4/5、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、ミスリルシールド、メガポーション
第一行動方針:現実世界の監視????
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【マッシュ(HP1/2、右腕欠損、首輪解除)
所持品:(E)命のリング、エリクサー、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3
最終行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルガスの夢の世界→会場外・コテージへ】
【リルム(右目失明、HP9/10、MP1/2、首輪解除)
所持品:(E)絵筆、(E)炎のリング、フラタニティ、不思議なタンバリン、エリクサー、レーザーウエポン、グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
第一行動方針:ティーダに協力する
最終行動方針:ゲームの破壊】
【ザンデ
所持品:(E)水のリング、ドライバーに改造した聖なる矢、静寂の玉、メガポーション
基本行動方針:ゲームを脱出する】
【ロザリー(首輪解除)
所持品:(E)ルビスの剣、(E)守りのルビー、(E)力のルビー、(E)しっぽアクセ、破壊の鏡、クラン・スピネル、ウィークメーカー、
妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン、メガポーション、Gメガポーション×5
最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:会場外・コテージ】
【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠)
所持品:E.インパスの指輪、E.タークスの制服、E.高級腕時計、草薙の剣、カヌー(縮小中)、天の村雲(刃こぼれ)、ウネの鍵、メガポーション、コテージ×3
第一行動方針:夢の世界を開くために眠る
第ニ行動方針:立場の確保
第三行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:会場外・コテージ/アルガスの夢世界】
- 133 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/09(日) 20:39:05.03 ID:kNYA0Otu+
- 投下乙です! 立て続けに投下が来て嬉しい〜
修正前も良かったけど、修正後はノアの弟子3人揃うのが熱すぎる!
今までスミス経由でしかスポットライト当たってこなかったからなあ…
ウネは複雑だろうけど、今のザンデと一瞬でも会えて本当に良かったよ
アルガスは相変わらずだけど、貴族の服を着せたのはイイ仕事したねw
早朝開始時に写真撮ってたけど、今のスコールとサイファーでツーショット撮らせたくなるww
そのためにもなんとか作戦成功して生還までこぎつけるといいなあ
- 134 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/10(月) 23:14:13.48 ID:q7tkXmd3M
- 舞台設定絡みの話になるので、避難所に一話あげました。
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/22429/1115085648/247-255
主に黒いクリスタルと舞台の大元にグリモアの書(FFTAのアレ)を持ってきてしまっていいか、ということですが、
問題なさそうか確認をお願いします。
- 135 :――中枢にて 1/9:2022/01/15(土) 00:14:58.05 ID:TQ9Z8hDHo
- *☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆
最後の旅の扉の終着点、アルティミシア城のエントランス。
そのエントランスで、スフィンクスが使い魔たちを整列させている。
「以前は来客六人を私一人で出迎えた結果、こってり絞られたものだよ。
まったく、我ながら礼を失したものだっ。
同じ間違いは繰り返さない。今回は全員でお出迎えだ。
何よりこの戦いをただ一人勝ち上がってきた参加者だ、VIPとして接するように。
全員、返事は?」
「ヨシッ!」
「ヨシッ!」
「ヨシッ!」
「よしっ!
とはいえ、まだ時間があるからね。
楽にしていていいよ」
*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆
- 136 :――中枢にて 2/9:2022/01/15(土) 00:16:11.94 ID:TQ9Z8hDHo
- アルティミシア城への直通トンネルを作り出す儀式。
そこから、時は少しだけさかのぼる。
アルティミシア城、その城内に用意された、ゲームの中枢を司る機構。
黒いクリスタルがあったはずの場所には、【闇】の溢るオーブが配置され、舞台の制御装置としてを淡々と動力を送り続ける。
「ふむ……仮に脱落のペースが鈍化したとしても、運用に問題はなさそうだな。
施設ひとつ程度であれば、明日一日、問題なく稼働するだろう」
機構の正面に鎮座し、端末を操作しているのは紅いオーラをまとわせた黒き魔獣。
その獰猛な見た目に反して、アルティミシアの下僕の中でも一・二を争う高い知能をもつ怪物、カトブレパスだ。
そしてかの魔獣の目の前に浮かんでいるのは、グラン・グリモア――あるいは究極の幻想と呼ばれる重厚な古文書。
これこそが、舞台を支える端末となるものだ。
次元の狭間に存在するクリスタル――今はアルティミシア城に安置されたユウナ由来のオーブだが――を楔に世界を作り、
会場に制限――すなわちロウ――を巡り渡らせ、
そしてこの城を次元の狭間につなぎ止める――
そのような制御を一手に担う究極の魔導書だ。
今まさに開かれたページには、一つの島が描かれている。
ゲームの参加者たちは、この島がどこであるのかを一目見て理解するだろう。
赤い溶岩の海に囲まれた左右対称の小島、すなわち闇の世界の地図にほかならない。
そのページがひとりでにパラパラとめくれ、とあるページを開いて止まる。
何も書かれていない、白紙のページだ。
その白紙に、白、銀、黒、青、黄と様々な染みが湧き出たかと思えば、
それらは互いに混ざり合い、やがてはっきりとした輪郭を浮かび上がらせていく。
その全体像が鮮明になるにつれて、楔となったオーブがひときわ強い波動を放つ。
身の毛もよだつおぞましい気配がオーブから広がるが、その実は創世活動だ。
カトブレパスや、ましてアルティミシア城に何か影響があるはずもなく、やがて収まる。
- 137 :――中枢にて 3/9:2022/01/15(土) 00:16:58.88 ID:TQ9Z8hDHo
- 「例の人間の思念か? 人間の分際で、肝が冷えるほどのオーラを放ちおって……。
アルティミシア様の御力がある以上、死にぞこないの思念ひとつで何かが起こるはずもあるまいが」
自分に言い聞かせるように独り言をつぶやく。
何も起こらないと分かっていても、鱗は逆立つ。
まして、たった数時間前に同僚三体を消しとばしたという事実を知っていればなおのこと、だ。
もちろん、完璧な装置に不備などあるはずもなく、順当に新たな舞台は完成した。
手筈通りに、トライエッジを呼び出して、他のしもべたちへと連絡をさせて作業終了だ。
「報告! 報告! 新タナ舞台ノ構築が完了シマシタ!」
ときおりトライエッジの無機質な声が遠方で響くのがはっきりと聞こえる。
オーブは静かに闇をたたえている。
グラン・グリモアの、ぱらぱらというページが切り替わる音だけが鮮明に空間に響いている。
退屈は人をも殺せるというが、それは人に限らない。
高い知能を持つカトブレパスだからこそ、退屈というのは耐えがたいものだ。
人間をつまむなり、痛めつけるなりして暇を潰せるのであればまだしも、
ここにあるのはみだりに触れるなど論外な危険物か、がらくたばかり。
グラン・グリモアの書や中枢機構のオーブ、そして水晶の板に封印された棺に触れてはならないことなど、ケダチクですら理解できる。
グランドピアノや長椅子など、カトブレパスの巨体で使用などできるはずもない。
仮に使用できたとして、邪悪なオーブが稼働するこの空間で平気でピアノを弾いたり祈りを捧げる胆力のある知的生命体などいようものか。
そして埃をかぶった仮面や家具、インテリア以上の役目を持たない箱や棚や絨毯でどう暇を潰せというのか。
そもそも稼働監視の任の途中で暇つぶしなど論外なのだが、
さっさと退室して自室でくつろぎたいというのが偽らざる本音である。
たっぷり十分間、中枢機構を注視する。
機構の正常な動作を確認。異常は何もない。
「よしっ、問題あるまい。仮にここから何か異常が起こったところで、すぐに感知できるであろうよ」
そうして、カトブレパスは退室した。
中枢部は再び、動くものはひとつたりともない静謐な空間に戻った。
仮にもうしばらくカトブレパスがここに留まっていたならば、その後の展開は大きく変わっていただろう。
- 138 :――中枢にて 4/9:2022/01/15(土) 00:17:35.56 ID:TQ9Z8hDHo
- 誰もいなくなった静謐な空間。その空間に歪みが現れる。
歪みは次第に大きくなり、そして青い光が漏れだす。
青い光は渦を巻き、人が一人通れるほどの大きさにまで広がり、その中央を貫くように黒い大穴が口を開く。
そこから、高級な衣服に袖を通した若い男――スコール・レオンハートが姿を現した。
(転移は無事に成功したか? いや、後ろに誰かいる!?)
宝石のような青と緑の光が暗闇の中浮かび上がるイメージが脳裏に強烈に浮かび上がる。
躊躇なく全力で前方に飛びこむ。
身体をひねり、空中で半回転。
距離の確保、そして抜剣。
結論を言えば、無意味な行為だった。
背後にはアルティミシアの部下どころか、生き物すら存在していない。
そこには不吉な光を放つ黒いオーブ、そしてその奥に謎の棺が静かに佇んでいるだけだった。
ティアマトが復活していたのだから、アルティミシアの下僕が復活していると考えるのは当然だ。
だが、技能がすべて封印されているような感覚がない。
少なくとも、アイテムと魔石の使用に問題はない。
(いきなりスフィンクスと一戦交える可能性も考慮していたが……今のところ必要はなさそうだ。
あるいは、すべての部下が復活しているというわけでもないのかもしれないな)
落ち着いたところで、スコールは異様な存在感を放つ宝玉を凝視する。
(アルガスの言っていた黒いクリスタルはこれか?
ムービーで見たものとは形が違うのが気になるな……。
ただのイメージ映像だったというオチはつかないだろうが……)
すべての光を吸い込まんとする禍々しい宝玉。
世界を闇で覆いつくそうとするかのように、重く底冷えのする光を放っている。
本能的に危険を感じ取ったのも納得の禍々しさだ。
宇宙空間のどこまでも広がる闇を彷彿とさせる黒。
光すら吸い込むというブラックホールを観測できたとすれば、それは目の前にあるこの宝玉のようなものなのだろう。
事前情報とは形こそ違っているが、やはりこれが例のクリスタルだとスコールは確信した。
- 139 :――中枢にて 5/9:2022/01/15(土) 00:20:18.41 ID:TQ9Z8hDHo
- 黒いクリスタル。それはこのデスゲームの源だ。
破壊できれば、アルティミシアの野望は打ち砕かれるだろう。
だが、殺し合いがこのクリスタルの内部でおこなわれているのであれば、残った仲間たちもろとも砕いてしまうことになる。
そもそも、仮にスコールがこの場で簡単に破壊できるなら、それ以前の主催者やそれに反抗する者たちがすでに破壊していただろう。
極めつけに、仮にクリスタルへ危害を加えるものに対する防衛装置などが存在した場合、
ヘタに手出しすれば一気に窮地に追い込まれかねない。
なにより、これほどの重要な装置にそのような防衛装置を用意していないなど考えられない。
ゆえに、スコールはこの場でクリスタルを破壊するという選択は取らなかった。。
クリスタルを飛び越えて、そのさらに奥へと目を向ける。
そこにある棺はただのインテリアにも思えるが、アルティミシアの下僕の中には良識を疑う場所をホームとしている者もいた。
触らぬ神に祟りなしだ。
ただ、その傍に古びた白い仮面がいくつか配置されているのが目についた。
アルガスから『ハンディムービーカメラ』で見せてもらった映像に出てきた、前主催者の着けていた仮面のようにも思える。
「ティナ。この仮面はあんたの目から見て、どうだ? 何か魔法や呪いなどがかかっていたりするか?」
魔石からは温かい光が放たれ、そして否定の文言が脳裏に流れ込む。
人間の常識からすれば、貴族の服を着て白い仮面を着けた人物などミュージカルに出てくるような怪人以外の何者でもないが、
人外だらけのこの城ならば人間丸出しの格好よりは目立たないだろう。
ましてや、その人間がスコール・レオンハートだと知れれば、城内全域に緊急事態宣言が出されても何もおかしくはない。
スコールの使命は、正体を知られる前に速やかに首輪の解除と旅の扉のハックをおこなうことだ。
さいわい、視界も呼吸も邪魔はしないサイズ感。
この格好で死にたくはないな、と、ある意味暢気な思考が浮かび上がるが、
実際に恥ずかしいのだから仕方がない。
そんな横道に逸れた思考を振り払うかのように、周囲を見渡して情報を摂取する。
- 140 :――中枢にて 6/9:2022/01/15(土) 00:21:27.06 ID:TQ9Z8hDHo
- 荘厳なステンドグラス。
巨大なグランドピアノ
天井を見上げれば、魔女が人間に火あぶりにされるシーンを描いているのであろう宗教画が地上を歩む者を圧倒する。
他方、出入口のほうを見れば、激しい戦いがあったかのように壁が抉れ、床が削れ、燭台や家具が飛び散っていた。
(アルティミシア城の礼拝堂の一部、か?
エントランスか、ホールか、あるいは城を支える鎖の途中の扉に出るかと思っていたが……)
転移先にあたりはつけていた。
入り口として機能するエントランス。
侵入口として機能する鎖の途中の扉。
おそらく最初に集められていたであろう大ホール。
だが、転移先はそのいずれでもない、礼拝堂。
(イレギュラーな転移だからこそ、例外的にこの場所に転移したのか?
正門に転移するよりはよほど潜入はしやすいが……)
スコールの入城は、いわば裏口入城だ。
クリスタルの近くに転移してきた理由は分からないが、
たとえば会場が黒いクリスタルの中に広がっていたのであれば、その近くに脱出するということは不自然ではないし、
単にこのクリスタルを目標にワームホールを作りあげたのかもというだけかもしれない。
周りに首輪を制御していそうな装置は存在しない。
少なくともよほどスペースに困っていない限り、礼拝堂にガルバディア製の機械を置くなどという無粋なことはしないだろう。
それでも見落としがないか確認していると、ぱら、ぱらというかすかな雑音が一定の間隔で鳴り響いているのに気付いた。
これは図書館で聞こえてくるような、紙と紙がこすれる音だ。
あらためて注意深くあたりを見回せば、得体の知れない書がふわりと宙に浮いているのが見える。
誰もいないのに、ひとりでにページがめくられている。
余計な刺激はしないよう、細心の注意を払って観察する。
(グラン・グリモア……?)
- 141 :――中枢にて 7/9:2022/01/15(土) 00:22:01.99 ID:TQ9Z8hDHo
- 宝石箱を思わせる表紙に、パズルを思わせる複雑で高級そうな縁取りで飾り付けられた、いかにも魔女が好みそうな分厚い書だ。
禁書というのはこういう本のことをいうのだろう。
この場に配置されている以上、殺し合いに無関係とは考えられない。
だが、機械や疑似魔法ならばともかく、本物の禁書についてはさすがに専門外だ。
数秒ほど、ゆっくりとめくられていくページを眺めていたが、ふと、見覚えのある施設が目に入る。
(バラムガーデン?)
稼働するバラムガーデンの絵が描かれていたのだ。
なぜわざわざバラムガーデンを? と疑問に思うも、
ふわりとしたひらめきの導くままにザックから地図を取り出す。
開いた地図には、推測通り、バラムガーデンが描かれていた。
(そういえば、この地図もひとりでに書き換わっていた。この本がベースなのか?)
壊れかけた魔石を取り出し、本の前に掲げ、質問を投げかける。
「ティナ。この本、心当たりはあるか?」
魔石は、淡く温かい光を放つ。
スコールに流れ込んできたのは、この本のことは分からないという情報と、
魔法の根源に近いものではないかという推測のみだった。
「分かった。後で専門としていそうな仲間に聞こう」
得体の知れないものをうかつに弄って、万が一のことが起きれば取り返しがつかない。
ここは後回しにして、ザンデに任せるのが適切だろう。
もっともザンデであれば、依頼するまでもなく、この本を見つけだして強く興味を持つ光景がありありと浮かび上がるが。
首輪がガルバディア製である以上、統括するのは機械だ。
礼拝堂が魔術的・宗教的な意味を持つとすれば、首輪を統括する機械はここには存在しない。
首輪の維持・管理・盗聴などの運営は、別の部屋でおこなっているはず。
そう結論づけ、礼拝堂を後にすることにした。
- 142 :――中枢にて 8/9:2022/01/15(土) 00:23:30.62 ID:TQ9Z8hDHo
- 礼拝堂入口の大扉の前に身を寄せ、扉を半開きにして外をうかがう。
正面には荘厳なアルティミシア城の本館が、空を見上げれば無数に広がる宇宙のような星空が広がっていた。
人類の想像を超えるほどの神秘的な光景だが、それをぶち壊すのが耳障りな音声だ。
「連絡! 連絡! 朝ノ部ガ始マッタ!
担当ハ、速ヤカニ持チ場ニ直行セヨ!
繰リ返ス! 担当ハ、速ヤカニ持チ場ニ直行セヨ!」
どうやら、交代の時間にかち合ったらしい。
アリニュメンたちがあわただしく行き交い、ときおりトライエッジらしき号令が響きわたる。
交代というからには、ある程度待てば落ち着くのかもしれないが、それでもある程度の巡回はありそうだ。
潜入破壊工作である以上、何度も見張りの機械兵に見つかっていては話にならない。
スコールは大扉を一旦閉めて、礼拝堂を奥へと突っ切る。
階段を昇り、通用口から、音を立てずに外に出れば、そこにあるのは時計塔と礼拝堂を繋ぐ長い板張りの橋だ。
遥か下は奈落……ということはなく、堅牢な石造りの水路が水を湛えている。
橋を渡り切った先に見えるのは、天をも貫かんとする荘厳な時計塔と、水路に降りるためのこれまた長い梯子だ。
梯子を下りた先の足場から水路までは若干の高さはあるが、飛び降りるのが不可能なほどの高さではない。
「この城の、礼拝堂から本館へ向かうルートは二つある。
中庭を経由して本館の大広間に向かうルートと、水路を経由して地下の牢獄から侵入する経路だ。
俺たちは、地下の牢獄から本館へ向かうことにしよう」
単純に正面から堂々と入るのは目立ちすぎるというのもあるが、
サーバー室のような部屋があったとして、果たして大広間やホールなど、来客に見せるような部屋が並ぶエリアに置かれるだろうか。
あるとすれば、牢獄や武器庫、兵舎のような裏方業務を担うエリアに置かれているのではないか。
ティナに説明をしながら、スコールは橋へと足をかける。
橋脚も橋台もなく、橋桁だけで支えられているこの橋は、一歩踏み出すたびにギィギィと足場が軋み、非常に心臓に悪かったのを覚えている。
風こそないが、何かの拍子にバランスを崩して落下すればミッション失敗は間違いないだろう。
慎重に、かつ速やかに橋を進むべき。そう考えたところで、突如時計塔の扉が開いた。
「ティアマトメ、ネチネチト重箱ノ隅ヲ突クヨウナ話バカリシオッテ……!
問題ガナカッタノダカラヨイデハナイカ……」
こちらに気付いた様子すらなく、重い足取りでとぼとぼ歩いてくる紅い鎧の巨人。
アルティミシアの僕、ウルフラマイターだ。
前方をよく確認していないのか、スコールに気付かぬままに橋の上に身を乗り出す。
戻って礼拝堂に隠れるべきか、
周りに誰もおらず、まだ気づかれていない利を生かして、今のうちに倒すべきか。
スコールに最初の選択が委ねられた。
- 143 :――中枢にて 9/9:2022/01/15(土) 00:24:10.51 ID:TQ9Z8hDHo
- *☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆
―― 一方そのころ ――
「それにしても、ただ待つのも退屈なものだね。
なにか目の玉飛び出ちゃうくらい、面白い話でもないかなっ?」
「ナシッ!」
「ナシッ!」
「ナシッ!」
受付一同、ゲーム参加者の侵入を許すという大目玉な事態に気付かないまま、暇を持て余してダラけていた。
*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆
【スコール@変装中 (首輪解除)
所持品:(E)ライオンハート、(E)貴族の服&仮面、エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×)
吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、ファイアビュート、写真、Gメガポーション×9、メガポーション×10
第一行動方針:ウルフラマイターをどうにかする
基本行動方針:ゲームを止める】
※ガルガンチュア、コキュートス、ドルメンの封印が解除済ですが、状態表には反映していません。
一部制限が解除されているかもしれません。
【現在位置:アルティミシアの城・礼拝堂裏の橋手前】
- 144 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/15(土) 00:31:47.73 ID:TQ9Z8hDHo
- 特に問題なさそうだったので避難所から本投下しました
- 145 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/15(土) 19:19:27.12 ID:CgwAIRI4y
- 少し見ない間に3話も! 投下乙です!!!!
闇の世界編もとうとう終わりか……
当たり前だけど、当初闇の世界編の冒頭を読んだときには想像も出来ないような展開や動きの連続で、
生存者も脱落者もそれぞれにドラマがあって本当に印象深い舞台だった……いやあ面白かった……
そしてとうとうアルティミシア城に突入……!
アルガスらしい思考から変装を提案するのいいな〜服装にちょっと拘りがあるスコール、魔剣士服嫌がってたサイファーを思い出してやっぱ似たもの同士だなと思った。こういう所で年相応さが見えるのは嬉しい。
参戦作品のそれぞれのアイテムや理が、アルティミシア城への旅の扉を文字通り綺麗に編み上げていく描写が美しく印象的だった。
スコールを見送る夢世界組のそれぞれの反応が、信頼に溢れていていいなあ……
修正も乙でした!
さっそくの突入の話もドキドキしながら読み進めてしまった……というかここでまさかFFTAのグリモアの書が出てくるとは思わなくて、
設定の絡め方に舌を巻く……アルティミシア城の雰囲気にもピッタリですばらしい
スコール単独の潜入どうなるのかハラハラしていたけれど、スコールらしい慎重さとティナの魔石のサポートもあって安心感があって良かった……
今後これからどうなるかはわからないけど、こっちの動きも楽しみすぎる!
あとあくせく働くアルティミシアのしもべたちの描写が楽しい。癒やし。
これからも応援しています!!
- 146 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/15(土) 23:56:59.68 ID:s8hO+BLQ9
- 投下乙です!
やっぱりスコールは頼りになるというか、見ていて安心感があるね
恰好は怪しくなる一方で、そのうちアルティミシア城の怪人として噂になりそうだけど…
是非ともサイファーやリノア、マッシュ、リルムあたりからのコメントを聞いてみたいね
逆にしもべたちは良くも悪くも間が抜けてるねw
いやかわいいんだけど、アルティミシアに見つかったら大目玉じゃすまないぞってなっちゃう
スコールもだけど、ウルフラマイターの今後が気になるなぁw
- 147 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/16(日) 00:12:30.89 ID:53qHLqn/I
- FFDQ3 767話(+ 8) 18/139 (- 1) 12.9
- 148 :君と彼らと透明になれない僕 1/8:2022/01/21(金) 00:46:46.04 ID:kLsfa2VzS
- ふわふわと続く浮遊感。
中々途切れない光の海に、珍しくラムザが表情を曇らせる。
「……なんだか、長くないですか?」
小さな手を震わせながら、"タバサ"が呟く。
旅の扉を潜ってから数分は経っているはずだが、未だ新たな大地は見えてこない。
「うーん、ちょっと長い気はするけど……
案外、次の世界を作るのに手間取ってるんじゃないか?
今までよりでっかくてすっごいお城がどどーんと出てくるとかさ」
能天気な意見を出したのは、もちろんバッツ。
"タバサ"を気遣ってくれたのか、単純に思ったことを口にしただけなのか……どうにも判断がつきかねる。
悪人でないことはわかっているし、嫌いというわけじゃないんだけど、彼みたいなタイプは少し苦手だ。
もちろん『僕が』であって、『"タバサ"が』ではない。
むしろ"タバサ"はバッツのことをかなり好意的に受け取っている。
明るくて優しい、それでいて真剣な時は茶化さずに話をしてくれる、頼りになりそうなお兄さんだって……うん、まあ、それはそれで正しい評価なんだろう。
逆に――
「あまり喋らない方がいいですよ。
以前、それで仲間とはぐれたことがありましたし」
「は、はい……」
バッツを怒鳴ったり、ソロ達とかなりギスギスした会話をしたせいだろうか。
ラムザのことを少し怖がりはじめているようだ。
僕からすれば、真面目な時のアルスのように正論を突き付けているだけだと思うけれど……
でも、僕の考えなんてどうでもいいことだ。
優先すべきは"タバサ"、その彼女が怯え始めているなら頃合いを見て離れた方がいいのかもしれない――
……いや、ダメだ。
その判断を下すべきなのも僕じゃないはずだ。
"タバサ"は僕よりもずっと賢くて、優しくて、正しい子だ。
最善は何かぐらい、自分自身で選び取れる。
僕の浅慮で……これ以上、"タバサ"の生き方を汚すべきじゃない。
「あっ!」
バッツが声を上げる。
我に返った僕の――"タバサ"の視界に、今までとは異質な色彩が映る。
旅の扉の終着点。
四つ目の世界の始まり。
ごくり、と誰かが唾を飲む。
青い輝きが消え去り、足が地面を踏みしめ、そして――
「―――」
僕も、"タバサ"も、ラムザもバッツも。
誰もが声を失った。
- 149 :君と彼らと透明になれない僕 2/8:2022/01/21(金) 00:48:52.73 ID:kLsfa2VzS
- そこは、静謐という言葉を具現化したような空間だった。
床は磨き抜かれた白とグレーの大理石が美しく配置され、天井へと伸びる円柱もまた顔が映りこむほど滑らかな石材で造られている。
青く塗られた壁を彩るのはこれまた精緻な菱形の文様と、植え込みから生き生きと葉を伸ばす植物達に、蒼天を映す高窓。
十数個のテーブルも、その四倍ある椅子も、木ではなく何かの金属と石で出来ていて――
金も、銀も、宝石も、華美なものは何一つ使われていないのに、圧倒的な美を持って佇んでいる。
もしも僕が敬虔な僧侶であったなら、跪いて祈りを捧げてしまっていただろう。
(セージお兄さん……ここ、何なのかな?)
"タバサ"の問いかけにも答えられない。
隔絶した技術で作り上げられた神殿に思えるけれど、テーブルと椅子の意味がわからない。
きっと他の二人に聞いたって、僕と一緒で首を横に振ることしかできないはずだ。
「すっげえーー!! ここ食堂!?」
僕の考えを裏付けるようにバッツが叫ぶ。
そうここは食d―――……………えっ?
「食堂って、バッツさ……」
呆れながらに振り向いたラムザの言葉が途中で止まる。
さすがに気になったのだろう、"タバサ"も二人の視線を追いかけた。
そして"タバサ"と僕の視界に飛び込んだのは、案内板と張り紙でデコレーションされたカウンター。
『食券レジ』『パン専用レジ』『サラダ&デザート』『スープ』『ライトミール』『セット』『返却口』
『今日のピザ;バラム風シーフード、シュミ風ポテト&オニオン』『今日のカレー:コヨコヨ盛りビーフカレー』
『数量限定☆ププルンプリン』『おしぼりは一人一個まで』『食堂食事利用者優先、勉強者利用配慮求。食事終了後必食卓清掃、礼儀順守。風紀委員会』
…………。
うん。
食堂だね、これ。
え? マジで食堂? どういうこと?
ドッキリとかそういうアレじゃなくて?
何もかも飲み込めず困惑する僕らを他所に、バッツは迷うことなくカウンター内に入り込み、ごそごそと色々漁り始める。
「おしぼりってこれだよな。これが皿で、パンがここで、……だったらスープはこの鍋だよな。あ、でも空だ。
サラダとデザートってはどう見てもこの中のヤツだけど……おっこのケース開くぞ! よーし!
ピザは……ああ〜焼く前かあ。どうやって焼けばいいのかな……まあパンあるからいっか!」
ローグ並み、あるいはルイーダさん並みの手際の良さだった。
バッツは瞬く間にカウンターの上にトレーと食器を並べ、食事を盛り付けていく。
「ラムザー、先にそっちのトレー持ってってくれー」
「あ、は、はい」
常識的なツッコミ役、僕にとってある意味頼りの綱に成りえたラムザすら、唯々諾々とバッツの言葉に従うだけ。
あれよあれよという前に、テーブルの上には山盛りのパンが置かれて。
紙の器に入ったコールスローサラダと得体の知れないゼリーとプリンが置かれて、ガラス瓶に入ったジュースとおしぼりらしき薄手のタオルが置かれて……
ものの五分もしないうちに、あまりにも立派過ぎる朝食セットが完成してしまった。
「こんだけありゃ十分だろ!
悪い奴らが来ないうちに、食べられるだけ食べとこうぜ!」
無邪気な満面の笑顔で言われても、"タバサ"も僕も手を動かせない。
状況がまっったく理解しきれないからだ。
もしわかるって人がいるなら連れてきてほしい。フルート以外で。彼女だけはきっとこの状況に適応できてしまう。
- 150 :君と彼らと透明になれない僕 3/8:2022/01/21(金) 00:50:00.84 ID:kLsfa2VzS
- 「ええと……これ、大丈夫なんですか?
殺し合いなんてものを楽しんでいる魔女のことですから、食料に毒ぐらい入っていてもおかしくは……」
つんつんとサラダの容器をつつきながら、ラムザが至極真っ当な疑問を口にしてくれるが……
バッツは「ははっ」と朗らかに笑い飛ばす。
「いやあ、そりゃないだろ。
アリアハンでもウルでも食料調達したけど、どれも大丈夫だったしな」
なるほど、今までも色々な街で現地食材を回収していたのか。
だとすれば彼の警戒心の薄さにも多少納得は行く。
納得は行くけれど………それにしたって、この状況で食事する気になれる?
そりゃあ僕達が旅の扉一番乗りみたいだし、他の人たちはあの忌まわしい魔物を引き連れた元カッパと戦ってるんだろうから、多少なりとも時間はあるだろうけどね?
でも絶対この人そこまで考えてないよね? 食事できそうだからしとこうレベルだよね?
(あ、あの、セージお兄さん……そんなに考え込まなくても……)
心配して声を掛けてくれる"タバサ"には悪いんだけど……とっても頭が痛くなってきた。
そんな僕の気持ちをほんのちょっぴり汲み取ってくれたのか、バッツは苦笑しながら一番得体の知れないパンを手に取った。
ホットドッグに似てるけど、挟まっているのはソーセージじゃなくて茶色い妙なパスタ。
しかも妙に真っ赤で細長いナニカが何本もトッピングされている。
「まあ気になるなら俺が先に食べるよ。いっただっきまーす!」
威勢よく挨拶すると、彼は大きく口を開けてがぶりと噛り付き咀嚼する。
ラムザと"タバサ"が手に汗を握りながら見守る中、バッツは不意に目を見開き――
残りのパンを、それこそ口の中に押し込むような勢いで食べ始めた。
「バ、バッツさん……?」
"タバサ"が恐る恐る声を掛けると、彼はすさまじく真剣な面差しで、親指を立てながら何度も頷く。
「ふぇっひゃふまい!!」
……めっちゃ美味い、って言いたいんだろうなあ。
どうやら安全な食料みたいだけど、この人の言葉を信じていいんだろうか。
そもそもこのまま彼と一緒に行動していていいんだろうか?
こんな気持ちになったのはアルスの趣味を知った時以来だよ。
え? 教育的見地からしたら官能小説朗読勇者の方がよっぽどヤバイ? 能天気なだけの冒険者なんて大した問題じゃない?
それはそうかもしれないけどさ……
「食べて食べてマジ美味いこれ」
掛けられた声に我に帰れば、目の前に置かれた謎パン。
当然のようにラムザの前にも、何故かバッツの前にも一個ずつある。
そんなに気に入ったの? だったら尚更、君一人で食べればいいだろ?
(え、えっと、きっと本当に美味しかったから……じゃないかな?
私も、美味しいものは分け合って食べたくなるから)
ああ"タバサ"、やっぱり君って天使だなあ。
僕みたいなひねくれ者と違って素直に好意を受け取れるんだから。
でもこんな見るからに怪しいパンなんて、無理して食べなくていいんだよ?
(ううん、大丈夫。
私、バッツさんのこと、信じたいから……)
- 151 :君と彼らと透明になれない僕 4/8:2022/01/21(金) 00:50:52.62 ID:kLsfa2VzS
- 「――い、いただきます!」
「いただきます……」
意を決した"タバサ"と、ついでにラムザが謎パンを口に運ぶ。
もぐもぐと味わった二人が発した言葉は、全く同じ。
「「お、おいしい……!?」」
「だろー!? なんだかわかんないけど美味いよなこれ!」
そんなに美味しいの? と首を傾げていると、急に"タバサ"が僕を引っ張り出す。
(食べて、セージお兄さんも食べてみて!!)
……そこまで?
多大な疑問こそあれど、ほんの少しの好奇心と、何よりも"タバサ"の意志に背を押され。
僕も覚悟を決めて、謎パンを一口食べてみる。
「……ソース?」
甘酸っぱくてコクがある茶色いソースパスタと、その下に隠れているマヨネーズと、ふわふわ柔らかくてバターが香るパン。
真っ赤な物体もシャキっとした歯ごたえとクセになる辛みがあって、いいアクセントになっている。
料理名すらわからないけれど、確かに美味しい。
これと比べたら、この数日間食べ続けていた支給品のパンは木材かなんかだ。
「他のパンも、美味しいですね……
サラダも……何もかも……」
「うまいしか言えないよな! あーもうこの世界に住みたい!
そうだ、このパン全員に食べさせたら殺し合い終了に持ち込めるんじゃないか!?
こんだけ美味しけりゃ、戦ってるなんて馬鹿馬鹿しいって説得できるって!」
「それはさすがに言い過ぎでは……?」
ラムザは苦笑しているけれど、バッツの言い分もわからなくもない。
美味しい食事には、人を幸せにする力がある。
ルイーダの酒場に冒険者が集まるようになったのも、元を糺せばそこに上等な酒と料理があったからだ。
数十粒の黒胡椒と船一隻なんてトレードが成り立ってしまうのも、胡椒を使った料理が美味しいからだ。
味を楽しみ、腹を満たす――どんな職業についていようと、王様だろうと平民だろうと、子供だろうと大人だろうと、等しく共有できる幸福のカタチ。
今生き残っている十数人全てが真っ当な人間であったなら………分かち合うこともできたのかもしれない。
でも、残念なことに、現実は優しくない。
巨鳥に跨った、怪物の姿を思い出す。
アンバランスな翼に触手、目玉だらけの腕、それでいて中途半端に人間の姿を残した悍ましい魔物。
"タバサ"を傷つける許しがたい存在――だというのに、よりにもよってそいつを助けろと嘯く連中までいる。
元カッパの男、セフィロスに操られて洗脳されただけだから。
やりたくないことをやらされているだけだから。
どこまで本当かもわからない戯言を盾に、加害者でしかない魔物を被害者に仕立て上げて、本当の被害者である"タバサ"の意志と魂を踏みにじろうとする――
僕は、そんな連中を真っ当な人間としてカウントしたくない。
一緒に食事をしたいとも思わない。
"タバサ"に余計な苦痛を強いる前に、あの魔物もセフィロスもそいつらも、全員まとめて死んでくれとすら思う。
……もちろん、思うだけだ。
この身体は"タバサ"のものなのだから。
愚かな亡霊の恨みつらみで、穢れなき"彼女"の手を血で汚すなど、それこそ許されざる大罪だろうさ。
だから………僕は、早く消えるべきなんだ。
- 152 :君と彼らと透明になれない僕 5/8:2022/01/21(金) 00:51:29.83 ID:kLsfa2VzS
- ("タバサ"。僕はもう十分だから、後は君が食べるといい。
そっちのプリンとかさ。君、そういうの好きだろ?)
この澱み切った感情が一片たりとも残らないよう祈りながら、僕は"タバサ"に身体を譲る。
"タバサ"は少し不安げだったけど、プリンの誘惑には勝てなかったようで、ちゃんと表に出てくれた。
瓶に詰まった黄色い生菓子、その表面をスプーンで一すくい。
僕の眼には決して映らないけれど、きっと"タバサ"は満面の笑顔を浮かべたのだろう。
「おいしいー!」
「あはは、良かったね」
意外なことに、ラムザが"タバサ"の髪の毛をくしゃりと撫でた。
彼がそういうことをするとは思わなかったのだろう、"タバサ"どころかバッツまでが驚いた様子で彼を見る。
ラムザははっと我に返ると、これまた予想外にも、照れくさそうに頬を掻いた。
「あ、す、すみません。
妹を思い出したもので、つい」
妹――……
「ラムザさん、妹さんがいるんですか?」
「ああ、アルマっていうんだ。
僕と一歳しか離れていないから、もう"タバサ"ちゃんほど可愛らしくはないんだけどね」
「へぇー。確かにラムザ、長男! って感じするよな。
しっかりものっていうかさ」
「あの、バッツさん、僕は三男ですからね?
年は離れていましたが、上に二人いましたからね?」
「四人も兄弟いるのか!
ちょっと羨ましいな、俺は一人っ子だったからさ」
「でしょうね。兄弟がいたら貴方ほどフリーダムな性格にはなりませんよ」
「ええ? そんなことないと思うけど……」
………ほら。
やっぱり僕なんて必要ないじゃないか。
真面目で頼りになるラムザお兄さんと、ネアカで優しいバッツお兄さん。
"タバサ"の保護者は、彼らで十分だろう?
それとも何? ちょっと二人に褒められたからって――……ちょっと"タバサ"に頼られたからって、僕の存在が許されたとでも思ってる?
新しい世界。美味しい食事。優しい仲間。これだけ揃ったんだから今からでもやり直せるとでも?
そんなわけ――
(セージお兄さん? どうしたの?)
"タバサ"の声。
消えてしまえばいい僕を必死で引き止める、心優しい少女の声。
「……セージさん。"タバサ"ちゃんに食べさせてあげたい気持ちはわかりますが、貴方もきちんと召し上がった方が良いですよ。
食事というものは口にするだけでも生きる活力になりますし、沈んだ気分も癒してくれますから」
「そーそー! 悩むのはいつでもできるけど、安心して朝飯食える時間ってのは今しかないからな!
面倒なことはあとまわしにして、今は思いっきり休んで元気を蓄えておこうぜ!」
昔の僕みたいなことを言うラムザ。
ローグと裏フルートを足して割った後、表フルートの優しさを混ぜ込んだら出来上がりそうな励まし方をしてくるバッツ。
……―――やめてくれ、と跳ね除けられたなら良かったのに、縋りついてしまう自分がいる。
流されるまま流されてしまいたくて、でもそんなの間違っていて、だったらじゃあ何が正しい?
僕の存在は根本から過っていて、タバサの意志は絶対的に正しい。
だからタバサは僕を否定しないといけないのにタバサは――
- 153 :君と彼らと透明になれない僕 6/8:2022/01/21(金) 00:52:21.25 ID:kLsfa2VzS
- (セージお兄さん、消えないで……!!)
止めてくれ。
「大丈夫ですよ、セージさん。
"タバサ"ちゃんのことも、貴方のことも、僕達は受け入れますから」
否定してくれよ。
僕なんか要らないって言えばいいだろ。
「心配するなって、どうにかなるなる!
ならなかったらなるように俺もラムザも頑張るからさ!」
どうしてそんなこと言うんだよ。
どうにもならないことばかりだから僕はこうなったんだよ。
わかってるだろ!
わかってるくせに!!
僕にそんな価値なんてないんだって――……
……――ああ。
そうだった。
僕に価値なんてないんだった。
あはは。馬鹿だなあ、僕は。
僕の意志なんて関係ないってわかっていたつもりなのに、まだ、僕を捨てきれてないからこんな勘違いをするんだ。
僕はただの亡霊。
僕は"タバサ"をサポートするためだけの残滓。
だから、脅威が去って"タバサ"が安心するまでは傍にいないといけない。
二人が声をかけたのも、僕のためではなく"タバサ"のため。
僕の意志に価値はない。
僕の感情に意味はない。
価値があるのは、意味があるのは"タバサ"で、みんなは彼女の存在を完成させるために必要なことをしただけ。
それだけの話。
「……心配しすぎてるのはそっちじゃないか。
僕は単に、少し考え事をしてただけだよ。
"タバサ"にまで心配をかけたのは悪かったけど、いつあの魔物やセフィロスとやらに会うかわからないんだ。
"タバサ"が食事をしてる間に最低限の対策を練っておきたかったんだよ」
僕はただ、システムであればいい。
"タバサ"を守ることにだけ意識を割いて、"タバサ"を安心させるためだけに全てを費やせばいい。
食事も、会話も、思い出も――僕には、愛おしむ権利なんてないのだから。
「ご、ごめんなさい!
急にセージお兄さんの声が聞こえなくなったから、どうしたんだろうって不安になってきて……」
俯く"タバサ"を宥めるように、今度はバッツが頭を撫でる。
悪戯っぽい微笑みを浮かべながら、優しい手つきで――かつての僕が、"タバサ"にそうしてきたように。
「謝らなくてもいいって、"タバサ"。
俺だって急にラムザが無口になったらビックリするし慌てるよ。
変なモノ食べた!? それともサイレス喰らった!? って」
まさか自分が引き合いに出されるとは思っていなかったのだろう。
ラムザは「ごほっ!?」とむせかえり、しばし呼吸を整えてからジト目でバッツをにらみつける。
- 154 :君と彼らと透明になれない僕 7/8:2022/01/21(金) 00:53:35.53 ID:kLsfa2VzS
- 「どういう意味ですバッツさん?!」
「いやあ、だってラムザって本気出したらすっごいお喋りじゃん?
それこそどんなヘンテコな話題でも、数時間単位でトーク繋げられるしさ」
「その気になれば喋っていられるというだけで、僕だって黙る時はありますッ!!
そもそも僕の話術はあくまで訓練の結果身に着けた技術であって、生来のアビリティじゃありませんッ!!」
「ほんとかなー? どう思う、"タバサ"?」
「えっ!? ……えっと、ラムザさんがいきなり静かになったら、やっぱり驚いちゃうと思います」
「クッ……!」
「でも、バッツさんが静かになったらもっともっと驚きます」
"タバサ"はくすくすと笑いながら二人の青年を見やる。
きっと彼女は屈託のない笑顔を――天使の微笑みを浮かべているのだろう。
もちろん、僕という穢れ切った亡霊に見る権利などあるわけない。
「あっははは、そりゃそうだろうなあ。
俺はこのパーティのニギヤカ担当だからな!」
「なんですかその担当」
「いやあ、昨日リュックが言ってたんだよ。
カモメ団はだいたいリーダー担当、クール担当、ニギヤカ担当で出来てるってさ。
ちなみに俺とスコールとリュックの時は俺がリーダーで、スコールがクールで、リュックがニギヤカだって」
「スコールさんがリーダー兼クールでお二人がニギヤカの間違いでは?
あとカモメ団って何ですか」
「えっと、世界を二度救ったスフィアハンターとかなんとか言ってたな。
でも肝心のリュックがいないし、俺達は別のチーム名名乗ろうか?
ラムザ騎士団とかタバサ世直し団とか」
「却下です却下ッ!! ネーミングセンスが上がるジョブになって出直してきてくださいッ!!」
わけのわからない会話と"タバサ"の笑い声を聞きながら、僕は思う。
早く僕の存在が必要なくなって、こんな風に彼女が笑って過ごせる日々が訪れればいいと。
それと――
「……タバサ世直し団、いいじゃないか」
「セ、セージお兄さん!?」
うっかり口から出てしまった言葉に、タバサが顔を真っ赤に染める。
自意識過剰な上に主張の激しい亡霊がいたもんだね? と自己嫌悪してみたところで、失言は取り消せない。
必死になって弁解するタバサの影で、僕はただ、本ッ当に早く消えたいなと願うばかりだった。
- 155 :君と彼らと透明になれない僕 8/8:2022/01/21(金) 00:54:18.78 ID:kLsfa2VzS
- 【セージ(MP3/5、人格同居状態)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
第一行動方針:"タバサ"を害する存在に対処する
基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
最終行動方針:"タバサ"の安全を確保した上で、自分は消える】
"タバサ"(人格同居状態)
第一行動方針:バッツ・ラムザと一緒に行動する
第ニ行動方針:ギードたちと合流して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
基本行動方針:セージを助ける
最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】
【バッツ(MP2/5、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得、左足微傷)
所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
第一行動方針:ソロ、ギードたちと再合流する
第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)
所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
第一行動方針:ソロ、ギードたちと再合流する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:バラムガーデン・学生食堂】
- 156 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/22(土) 02:19:18.33 ID:FJ8qbPJ50
- 投下乙です!!
セージ視点のバラムの食堂の描写が神々しすぎて、こういう文化や出身世界の違いによる描写が、キャラクターらしくてすごく好きだ……やきそばパンは馴染みなかったらそりゃ怪しいものに見えても仕方がないな……速攻適応するバッツは流石すぎる……!
3日目は結構食糧難だった印象があるから、なんというか美味しそうに食べる描写が嬉しいなあ……ラムザが"タバサ"を撫でるのも少し気を緩めることができたんだろうなと思えて……束の間の癒やしだ……
一つの身体の中で交わされるセージとタバサの会話も、まだ二人が出会ったばかりの比較的平和な頃の話が思い起こされて、
そんな中消えよう消えようと思考するセージのモノローグが、
バッツとラムザと"タバサ"の会話が明るいのも相まって痛々しくて苦しい……どうなっちゃうんだ……
とうとう第4舞台の内での話も始まって、ますます続きが気になって仕方がない!! 応援しています!!
- 157 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/01/22(土) 10:21:15.05 ID:biz5FOtvF
- 投下乙です。
読んでてニヤニヤしてしまった。
バラムガーデンの食堂情景がいい感じに浮かんでくるの好きだし、焼きそばパン美味そうだし、
没ネタにタバサ世直し団があったこともよく覚えてるのでなおさらに。
セージの心中はかなり複雑ではかりきるのは難しいけれど、諦めとか義務感とかのほかに望郷の念がありそうだなあ。
今のパーティにかつての勇者パーティの面影を重ね合わせてるようだし、ラストの大失言もそこから連なってくるものだと解釈してる。
なればこそ、新しい関係性を作れるのか、そうはならないのか、まだまだどちらの可能性もありそうだよなあ。
- 158 :Wandering Angels 1/4:2022/01/31(月) 23:21:45.55 ID:VNArBNPu8
- ガイン、と甲高い金属音。
アンジェロの爪が床に当たったんだ、と気づくのに時間はかからない。
青空の下に似つかわしくない鈍色の金網床から透けて見えるのは、謎の機械と不自然な木々。
顔を上げれば、巨大なファンが風を切りながら静かに回り続けている。
"どこだろ、ここ。
ね、アンジェロ、わかる?"
声を掛けてみても、返事はない。
頭を撫でようとしても、茶色の毛を梳こうとしても、当然のようにすり抜けるだけ。
私にちゃーんと身体があったなら、『ハァ〜〜〜〜〜〜』って盛大なため息をついて、それからアンジェロをハグハグしてたんだろうなあ。
残念だけど今の私にはそんなことできないから、思いっきり肩を竦めて、仕方なしにあたりを見回す。
そしたら、見えちゃったんだ。
青空に良く映える、水色のウェディングケーキみたいな、段々重ねのUFOみたいな、特徴的過ぎるシルエット。
その天辺付近でぐるぐると回り続ける巨大な輪っか。
こんなの、他の世界を捜し歩いたって、二つも三つもあるわけない!!
"バ……バラムガーデン!?"
アルティミシアの性格が悪いのは知ってたけど、いくらなんでもこれはないんじゃないの!?
私たちの思い出を何だと思ってるの!!
あーもう、こんなことされたらいくら私でも絶対に許せないよ!
ギッタンギッタンのバッコンバッコンだよ!
それこそスコールやみんなの分まで――……
……スコール。
ちょっと前の放送で名前が呼ばれたのは覚えてる。
そんなことあるわけないでしょ! って怒鳴りたかったけど、かくいう私だって死んじゃってるワケで。
スコールより強いやつなんているわけないでしょ! って主張するには、セフィロスっていうヤバヤバつよつよ殺人鬼がいるワケで。
『俺は特別な人間じゃない。だいたい俺より先に死んだ奴に言われたくない』って呆れる素振りが、それはそれは正確にシミュレートできちゃうんだよね……。
で! も!
だからと言って、スコールが死んだなんて認めない!!
きっとスコールのことだから、首輪を外す方法とかアルティミシアをやっつける方法とか全部見つけて、自分が死んだと見せかけただけ!
それ以外考えられない!
……だって、だって、もしそうじゃなかったら。
もしスコールが本当に死んじゃってたなら、……絶対、私のところに来てくれるはずだもの。
アンジェロが魂だけになっても来てくれたみたいに――……スコールが来ないなんて、有り得ないもの。
ね、アンジェロだって、そう思うよね?
この世界にいなかったとしても、スコールは生きてて、また会えるはずだよね?
「………」
……いつもならワンワンって鳴いたり、私の顔をのぞき込んだりしてくれるのに。
生きてるのは間違いなくて、魂もちゃんと身体に戻ってるのに、一体どうしちゃったんだろう。
こんな目の前にいるのに、元気なアンジェロにいつか会えるといいななんて思わなきゃいけないなんて――
でも私のことはわかってるみたいだから、単純な記憶喪失ってわけじゃないみたいだし……
心だけがすっぽり無くなっちゃったらこんな風になるのかもしれないけど、そんなこと、ある?
実はこれもセフィロスの仕業? それともアルティミシアの嫌がらせ?
もしくはアレイズが致命的大失敗しててトンデモないことになった結果とか?
うーん、うーん、うーむむむむむむ……
- 159 :Wandering Angels 2/4:2022/01/31(月) 23:23:43.79 ID:VNArBNPu8
- "……考えてもわかる気がしないし、とりあえず誰かいないか探してみようか。
アーヴァインもサイファーも心配だしね"
私の提案に反応してくれたのか、アンジェロはとことこと歩き始める。
カンカンと音を立てながらテンポよく階段を下りて、通路を渡って、開きっぱなしのゲートを潜り抜けて。
数分もしないうちに、私たちは熱帯雨林のような、洞窟のような、何とも言えない場所に出た。
"ええっと……ここ、訓練施設だよね"
スコールと一緒に、何度か来た記憶がある。
最初は、女の子をモンスター退治に誘う男がどこにいるー! ここにいたわ……って思ったんだけど。
『秘密の場所』っていうデートスポットがあるってゼルに聞いてからは、今回はそこに連れてってくれるのかな? ってワクワクするようになったんだよね。
でもスコールの目的はいつもCC団のジョーカーで――デートだなんて考えてすらなかったみたいで。
結局『秘密の場所』はわからずじまいだったんだよね。
…………って。
もしかして、さっきのところ、『秘密の場所』?
あああ、ありそうー!!
こんな状況だし、まだ朝だから「ふーん」って感じだったけど!
夜だとガーデンがライトアップされるじゃない? で、森みたいに広がってる訓練施設や中庭も一望できるわけじゃない?
それって絶対綺麗だしロマンチック!!
あーもー、もったいない!!
スコールと一緒に秘密の場所デビューしたかったー!
「………」
あっ、アンジェロごめんね。
そうだね、アンジェロとは一緒に秘密の場所行けたもんね。
こうなったらサイファーとアーヴァインに、アンジェロとデートしてきたぜ! って自慢するしかないよね。
……………って、私の声、あの二人に聞こえるのかなぁ?
ピサロとは話が出来たけど、それは向こうも私と同じような境遇だったから……だよね。
他に似たような感じの人って言ったら――アーヴァインを助けてくれた、体育会系っぽい男の子ぐらいしか思いつかない。
そもそも私自身、自分がどうなってるのか良くわかってないんだよね。
何せ、どうして死んだのかも覚えてないぐらいだし。
ジタンと別れて、リュカさんの仲間のモンスターを弔って、それからお城に行こうとしたことはうっすら思い出せるけど……
気づいたら頭がぱーんってなって、目の前が真っ暗。
それから魔女の力を使ってる時みたいにふわふわーってなって、自分がどこにいるのかもよくわからなくなって。
赤い髪の女の子とか、スコールとか、アンジェロとか、大怪我した男の子とか、しっちゃかめっちゃかにジャンクションしたり途切れたりして。
それでも祈ったり、引き止めたり、叫んだり、励ましたり、出来る事は色々やった……と思う。気がする。多分。
で、『はっ!』って我に返った時にはもう希望の祠にいて。
意識がはっきりしたのはいいけれど、今度は祠から半径数百メートルぐらいしか出歩けなくなってて。
祠に来た人に話しかけたり、祈ったり放送聞いたりしか出来なくて、そうこうしてるうちにアーヴァインがひっっどい目に合わされて――
……うーん。
思い返せば思い返すほどわからなくなるって、逆にすごくない?
私を殺した犯人どころか、死因だって謎すぎるし!
旅の扉をいつ潜ったのか――あ、もちろんさっきの事は覚えてるよ? そうじゃなくて昨日の朝のこと――も、ボンヤリどころかすぽーんって抜けてるし。
それに何より、どうして私は『希望の祠』のことを知っていたんだろう?
- 160 :Wandering Angels 3/4:2022/01/31(月) 23:25:07.84 ID:VNArBNPu8
- おかしいんだよねえ。
『天空の神様が、勇者を導かんとする魂を守るために作った聖地、希望の祠』――なんて、私にわかるわけないことばっかり。
だけど知ってるし、覚えてる。
そんでそんで、もっと言えばふわふわヴァリー状態の私が、たまたま旅の扉まで辿り着けて、着いた先が都合よく希望の祠だったなんて……有り得る?
落ち着いて思い返してみよう。
息を吸って〜、吐いて〜、身体ないから深呼吸意味ないでしょってツッコミは厳禁でー。
覚えていないだけで、多分、きっと、誰かが近くにいたはず。
そうじゃないと説明できない事だらけだもの。
私を希望の祠へ導いて、そこがどういう場所なのか教えてくれた、誰かがいたはず。
思い出せ、私!
ほわんほわんほわんりのりの〜って感じで! ボタンとかコマンドとか色々連打で! おもいだせー!!
おもいだ〜す! もっとおもいだ〜す!! ふか〜くおもいだ〜す!!!
―――――。
―――――。
――――はっ! 見えた!
青いツンツンヘアーの男の人!
愁いを帯びた面差しはリュカさんそっくりで、髪の色合いはイザそっくりで、でも髪型はもっとこう――それこそクラウドって人やリュカさんの息子さんぐらいツンツンで……
……って待って待って私。
それは単に、記憶に残ってる人の姿をほどよくブレンドして脳内合成しちゃっただけでは?
参加者リストは初日にしっかりばっちり読み込んだけど、プリヌラよりも濃い青なんてあんな珍しすぎる髪色、それこそ当のイザと妹さんしかいなかったよ?
そりゃあもちろん、殺し合いの参加者じゃない幽霊がうろうろしてるって可能性、なくもないけど……
生きてる人は確かに居なかったけど、鳥とか虫とかはいたから、既に幽霊になってた人をうっかり巻き込んで召喚しちゃってたとかね。
だけど、たまたま親切にしてくれた通りすがりの一般幽霊がいたとして、今度はそれがどうしてリュカさんに似てるのって疑問が湧いてくるし……
うーん、うーん……わっかんない!
ギブギブ、ギブアップ。
思い出せないことが多すぎだぁ。
ちょっと死んだだけでこんなに記憶が曖昧になっちゃうんじゃあ、そりゃ〜ライフフォビドンになっちゃう人がいるわけだよ。
私も気を付けて、これ以上大事なことを忘れないようにしないと。
何せやらなきゃいけないこと、いっぱいあるんだもん!
スコールの分まで頑張って、アーヴァインを助けて、サイファーも回収して、アンジェロをちゃんと治してあげて。
そして皆の怒りを乗せたウィッシュスターでアルティミシアをどかーんとやっつける!
どれもこれも失敗の許されない超重要ミッション!
もちろん『声聞こえるか問題』の壁は立ちふさがってるけど――大丈夫!
通じようが通じまいが、頑張るっきゃない!!
- 161 :Wandering Angels 4/4:2022/01/31(月) 23:27:46.55 ID:VNArBNPu8
- 「………」
ん? どしたの、アンジェロ。
急に立ち止まって、耳と鼻がぴこぴこしてるけど……――もしかして、誰か生きてる人が近くにいそうなの?
もしそうなら、案内してほしいな。
あ、でも、セフィロスだったら案内しなくていいからね!
あんなアブナイヤツにアンジェロを会わせるなんて、誰が許してもこの私が許さないから安心して!
「………」
……うう、やっぱりさっぱりリアクションしてくれない。
元気なアンジェロなら、『リノアってば心配性ね』と言わんばかりに小首を傾げてくれるのに。
わかっているのに寂しくなっちゃう………
でも、私よりアンジェロの方がもっと寂しくて辛いはず、だよね。
『飼い主の責務を果たせ』ってピサロにも言われたし、頑張って守らないと。
そのためにも、早くセフィロス以外の人と合流しないと!
もちろん出来れば私の声を聞き取ってくれて、アンジェロの治療に協力してくれる、犬好きな優しい人がいいな!
……え? その条件だとサイファーが入らないって?
うーん。それは困りましたねえ。
そもそもなんでアイツ犬嫌いなんだろうね。
アンジェロはこーんなに可愛いのにね。
ね、アンジェロ!
「………」
………ううっ、うわーん。
【アンジェロ(リノア) 所持品:風のローブ
第一行動方針:近くにいる人物と接触する
第二行動方針:サイファー、アーヴァインと合流
第三行動方針;アンジェロの心を蘇らせる手段を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒し、スコールと再会する】
【現在位置:バラムガーデン・訓練施設】
- 162 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/02/01(火) 21:37:13.41 ID:ueUahotnu
- 投下乙です。
考え込んでるリノアがかわいい。
ツンツンヘアーの青髪の男の人は、実在してるとすればやっぱりイザっぽいイメージなんだけどどうなんだろう。
おもいだす三段活用してるせいでDQ6に引っ張られるのもあるんだろうし、
そしてリノアが言うと好きにな〜るの類似語録に見えるんだよなあ。
プリプリ怒ってるリノアかわいい。
一回死んで吹っ切れてるのか、四日目とは思えない微笑ましい思考してるのが癒しだわ。
何の反応もないアンジェロとあまりに対照的だけど、アンジェロ生きてればそれはそれで対照的なコンビだったんだろうな。
- 163 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/02/09(水) 03:06:47.10 ID:yEAqqQoSD
- 遅ればせながら投下乙です!
死亡済かつ4日目にしてこのテンションは読む側としても救われるものがある……
いやもう死んでしまってはいるのが悲しいが……
そんな中でもアンジェロに話しかけたり、反応を期待する姿が寂しくてならないなあ……
スコールが死んでいないと信じる根拠が、
「死んじゃってたなら絶対自分の所に来てくれるはずだ」っていうのが、
本当にリノアらしい思考で良い……
端から見れば合理性のない根拠でも、原作での二人をふまえると
これ以上のものなんてないぐらいの確固たる根拠で、すごく好きだ。
どうにか二人に再会してほしいと願ってしまうけど、
スコールは敵地で単独潜入中だし付近の人物との接触がどう転ぶか解らないしで、まだまだ先がわからなくて気になりすぎる……!
今後とも応援しています!
- 164 :僕らを欠いた日々のまぼろし 1/11:2022/02/11(金) 19:51:30.56 ID:NADkUI6/m
- 知らない天井だ。
――ゴメンナサイ、ウソついたかも。
知ってる天井かもしれない。
背中を沈み込ませてるのは、固くもなくふかふかでもない、オーソドックスなベッド。
真正面に見える翡翠色の天井には、LED蛍光灯が二セット取り付けられてる。
視界の右手側にはベッドライトが写り込んでいて、
目玉を上に寄せれば、色の薄いカーテンがわずかに揺れて、ちらちらと視界の内外を行ったり来たりしてる。
カーテンの裏側、引き違いの採光窓からは日の光がまっすぐに差し込んできて、すぐ外では植え込みが風に吹かれてささやく。
どこからともなく漂ってくるのは薬品の匂いで、好きな匂いじゃないけど今となってはずいぶん懐かしく感じる。
感慨を抱くくらいお世話になったわけでもないけどさ。
病院の病室に近いけど、そこまで仰々しいものじゃない。
もっともっと僕にとって身近な場所、そう、保健室。バラムガーデンの保健室だ。
あれ、僕、今まで夢見てたんだっけ?
アルティミシアが復活したのも、仲間同士で殺し合ってたのも、ヤツに身体を作り替えられたのも、夢だったんだっけ?
みんなみんな夢で、本当はムリして体調崩して、バラムガーデンの保健室に運ばれただけだったんだっけ?
脳皮質がそのまま頭蓋骨にべたーっと粘着しているかのような、ぼやぼやっとした鈍い意識。
ガルバディアの繁華街で深夜まで遊んだ後の次の日の朝みたいな、眠くて無気力なままに、何気なしに首をごろんと右に倒す。
ベッドの右手に鏡が取り付けられていた。
そこに映っていたのは、銀髪で緑の目をした男。
「うぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!!」
ゴトン!
ガシャアアアアァァァァン!
脳皮質にまで刻み込まれた恐怖に、頭の中が真っ白になる。
思考を置き去りにして、ベッドから身を翻そうとしたけれど、鋭い痛みがわき腹から胸にかけてザクリと差し込まれてきて、中途半端に硬直してしまう。
バランスを崩してベッドから転げ落ち……まではしなかったけれど、
思わず振り抜いた左腕――怪物としての左腕が、ベッドの左手に置かれていた瓶をなぎ倒してしまった。
痺れるような衝撃がその接触面からじわじわと熱を持って広がる。
倒れた瓶はそのまま転がり、床に叩きつけられて砕け散った。
痛みと音とで、半分夢見心地だった意識は一気に覚醒。
シャワーの最中にお湯が水に切り替わったかのように、心地よさでぼやっとしていた思考が一気にシャキッとなる。
ぶわーっと霧が晴れたように頭の中がクリアになった。
ガシャアアアアァァァァン!
そして僕が瓶を割って一秒後、カーテンの向こうからも同じような音が鳴り響いてきた。
あ〜あ、薬瓶たくさん割っちゃったかな〜、と暢気に構える僕とは対照的に、
「アーヴァイン!
ヤツはもうここにはいない!
だから、気をしっかり持つんだ!」
そんなことを言いながら、慌てて飛び込んできたのはヘンリーさんだ。
ヘンリーさん、僕より絶対慌ててるよね。
- 165 :僕らを欠いた日々のまぼろし 2/11:2022/02/11(金) 19:52:49.38 ID:NADkUI6/m
- 「ごめ゛ん、ちょっと悪い夢、見だだけ」
日の光を反射して輝く銀髪、汚れた川のように深い緑色をした目、ネコみたいな縦長の瞳孔。
ひとつひとつのパーツはヤツにそっくりだったけど、鏡に映っていたのはまぎれもない僕自身だ。
だいたい、今回は鏡だったけど、そうでなくても隣にヤツがいるわけないじゃん。
僕が隣を向くまで息をひそめて潜んでるとかありえないだろ。
そんなヒマあったらヤツはさっさと僕を改造してるって。
それに、いかにもシャンプーを一日一本使ってます、みたいなカオしてるヤツが、
『寝起きだり〜』みたいなぼけーっとした表情を人前で晒すわけないでしょ。
イメージ崩落もいいところだろ?
事務所とか放送業界から契約打ち切りが届くレベルの醜態だぜ〜?
ヤツがイメージキャラクターやるかどうかなんて知らないけどさ。
ということで、ヨダレ垂らした寝起きの顔で鏡に映っていた銀髪はまぎれもない僕自身でした。
心臓はまだバクバク鳴ってるし、汗もダラダラ流れてるけどね。
ちょっと考えれば分かるでしょって意見はごもっともだけどさ、本当にビックリしたんだよ〜!
――殺し合いがただの夢だったらよかった、もちろん、そう思う。
仲間たちを裏切り、ヤツの手下に成り下がって消えていく、あれがただの悪夢ならどれだけよかっただろう。
そんなわけない。目を覚ましたときから心の奥底じゃ分かってたことじゃん。
ティーダと繋がってるのが心で理解できる。
顔の正面にふたつ付いてる自前の目以外から送られてくる視界がある。
心もカラダも変わってしまったことはとっくに分かってたのに、欲望と本能に負けて、都合のいいコトだけを見て無様を晒すなんて、ほんとカッコ悪い。
ただ、操られていたときとの断絶が大きすぎて、どちらが現実だったのか分からなくなって迷走したのも本当だ。
感情や仲間の記憶を失いかけていたのがリセットされた、そう言えばいいのかな。
ヤツに操られて、心も思い出も何もかも消えてしまいそうだったコトこそが幻想だったかのように、晴れ晴れとした気分だ。
スコールたちが石の家を再訪したことでG.F.によって忘れていた思い出を再認識したように、
バラムガーデンを模した世界になったことで僕の記憶も消えずに踏みとどまったのかもしれない。
今朝からしばらく付きまとっていた、耳元で囁かれるような感覚もきれいさっぱりなくなってる。
単純に世界をまたいでまで影響を及ぼせないのか、それとも向こうに余裕がないだけなのかも?
だからといって、現実がリセットされるわけじゃない。
ヤツが再度動き出す前に、準備を整えないと。
- 166 :僕らを欠いた日々のまぼろし 3/11:2022/02/11(金) 19:55:13.67 ID:NADkUI6/m
- 「ヘンリーざん、変化の杖、ある? あと、できたらG.F.も」
「ちょっと待ってろ」
ヘンリーさんはすぐに妙ちくりんな形の杖を取り出してくれた。
受け取るために、ベッドから起き上がろうとしたけど……
「ううっ!」
痛みに怯んで、腹筋の筋トレに失敗したみたいに背中からベッドにドスンと倒れ込むことになってしまった。
胴をケガしてるの、分かってたじゃん。何、短時間で同じ失敗繰り返してんのさ。
空回りしすぎだろ〜、落ち着けよ、僕。
「おい、大丈夫か!?」
「だい、じょぶ……」
ヘンリーさんの呼びかけに返事をしつつ、視線を脇腹――もうほぼ魔物化してしまった左半身の脇腹に集中する。
じくじくと熱を持って主張しているとおり、結構なケガをしているらしい。
内臓が飛び出したかのような触手はほぼ切断されていて、左の胴がずいぶんすっきりとしている。
これはこれで、以前のように勝手に動きだしたりすることはなさそうではあるけれども。
――というか勝手に動き出すこと自体がおかしいんだけどさあ。
それで、触手の代わりにというかなんというか、これでもかってほど包帯まみれになってた。
この身体がどういう造りをしているのかは分からないけど、さすがにこれで完全回復なはずないよなあと思いながら、再度枕に頭を乗せる。
そういえば前の世界に降り立った直後に、ピサロも同じように機嫌悪そうに寝てたのを思い出しちゃった。
あの時のピサロの気持ちが、今の僕の気持ちと同じものかというと、絶対違うと思うけどね。
あの流れを当てはめると、ヘンリーさんは僕を利用するために助けて、ヘンリーさんはぶらっと外に出てあ〜わざわざ思い出したくない七三の顔思い出しちゃった。
別に今すぐ誰かの目玉抉って壊したいとか言わないけど、ほんと余計なコト考えるのやめようぜ〜?
身体を横たえたまま、僕は渡された変化の杖を振るう。
元の姿に化けても痛みは消えないし、体力も戻らない。
けれど、見た目だけでも慣れ親しんだ自分の身体である、その事実だけで元気は少し戻ってくる。
馴染みのある建物にいるという事実が、余裕も少しだけ取り戻してくれる。
- 167 :僕らを欠いた日々のまぼろし 4/11:2022/02/11(金) 19:56:55.58 ID:NADkUI6/m
- 「ねえ、念のために聞くんだけどさ、とっくにアルティミシアを倒してたりしない?
実は僕は元の世界に戻ってきてずっと寝込んでて、ゲホゲホ、みんなは実はパーティ会場で魔女討伐パーティやってるとかさ〜?
ドアの向こうでニヤニヤ笑いながらカメラ回してたりしない?」
とりとめもない軽口をたたく。
割と思考はすっきり整理できて来たんだけど、全然喋ってないからヘンリーさんとの温度差がひどくなってるっぽい。
いや、確かに死にそうな声出してたけどさあ。
リュックには言ったけど、声帯変わってるから仕方ないんだってば。
『死ぬな、アーヴァイン!』って感じで看病してくれてるその空気はさすがに居たたまれなくて、
そこまで必死にならなくても僕は元気だよ〜ってアピールしておこうかなって。
その辺通じたのか、ヘンリーさんは額を手で抑えて、疲れたような落ち着いたようなため息をついてるけど……。
「残念ながら、俺たちはまだ殺し合いの真っ最中だよ。
ここは次の世界……バラムガーデンっていうでかい建物の中さ」
「あ〜、もうちょっと景気のいい返しを期待してたんだけどな〜。
ほら、一日ぶりに太陽の下に出てきたんだし?」
「お前が寝坊しただけの健康体だったら、俺だってモーニングジョークの一つや二つは思いついたかもしれないけどな。
怪我人は安静にしてろ!」
うん、やっぱりそれくらいの距離感が一番いいと思うよ?
ほら、僕ら一応、対外的には敵対関係だったはずだし。
「安静にしておきたいのはやまやまだけど、この場所って保健室っていうんだよ。
ヤツは僕がケガしてるって知ってるワケで、来訪箇所の候補筆頭なんだよね〜。
準備を整えたらすぐに動かないといけないと思うよ?」
「保健室? 医務室のようなものか。
なんか都合よく消毒液や清潔な布がそろってると思ってたけど。
ソロが時間を稼いでくれてるとはいえ、ここに留まるのは危険だよなあ。
次から次へと、せめて小一時間くらいは休ませてやれってんだ!」
ヤツに悪態をつきながら、ヘンリーさんは保健室の奥へと歩いていく。
かと思うと、いくつかの食料を抱えて戻ってきた。
「食っとけ。食料棚の中に色々入ってた」
それ食料棚じゃなくて冷蔵庫って言うんだぜ?
ヘンリーさんが出してくれたのは、ヨーグルトやミルク、プリンにゼリーに食堂のパン。
肝油とか氷砂糖なんかもある。
保険の先生の朝食? それとも、保健室で寝てる生徒用のおやつか栄養食かな?
僕への扱いが完全に病人向けだけど、本来ならベッドで点滴打って一日中寝てるべきだろうしね。
それともモルヒネでも打ってむりやり身体を動してみる?
まあ、患部を庇って気を付ければ動けるんだけどさ。
……これ、見た目ほど傷は深くないのかな?
というか、冷静に考えてみれば、脇腹のあの切断具合だと割と生死の境をさまよってそうなんだけど……。
- 168 :僕らを欠いた日々のまぼろし 5/11:2022/02/11(金) 19:58:09.53 ID:NADkUI6/m
- 「ねえ、もしかしてエリクサーとか使った?」
「使ってたら、お前は今頃ピンピンしてるだろうよ」
「だよね〜」
軽口を交えながら、ストローを使ってずるりとプリンを吸い込む。
やばい。冷たい。甘い。
サウナの中でしなびたチーズとぬるい水だけを摂取する生活からの格差がものすごい。
「使えるものは全部使ったけどな」
ヘンリーさんがごく自然とつぶやく。
そりゃ消毒薬とか包帯とかは潤沢に備蓄されてただろうしね。
ガーデンの実習って怪我が絶えないし、訓練施設で大怪我するやつもいるから、保健室ってそこらの医院よりずっと設備整ってるんだよね。
ポーションが常備薬として備蓄されてればそれも使ったのかな、という考えたけれど、そういえばメガポーションあったような?
プリン吸引作業がぴたりと止まる。
僕がぱちぱちと目を瞬かせると、うんうんとヘンリーさんはうなずく。
レーベで暴れて記憶無くしたり、記憶取り戻してタバサごと撃ち抜いたり、今日のこれもそうだけど、
この四日間さあ、毎日めちゃくちゃ迷惑かけてない?
この人見てて危なっかしいし大丈夫かな〜って思ったこともあるけど、
実は全部、敵からは侮られやすくて味方からは親しまれやすい王族のイメージ戦略ってやつで、実はめちゃくちゃ仕事できる人だったりしない?
実際そうなんだろうな。そろそろ本気で頭あがらなりそうなんだけど?
「ねえ、なんで僕を助けてくれたの?」
ふと、そんな言葉が口を衝いて出る。
いや、口に出すつもりはなかったんだけどさ。
それでもあからさまに何言ってるんだコイツみたいな顔されても傷つくんだよ〜。
結構真面目に疑問に思ってるんだよ?
絶対この人ソロに影響されてるだろ〜。
「……僕が何人も殺したの、もう知ってるよね」
一応、僕とヘンリーさんは南東の祠で決別したっきりのはずだ。
補足で合点がいったらしく、ヘンリーさんは、ああ、と小さく声を漏らした。
「そりゃあ、まだ数百人残ってて、心のキレイなやつとだけ手を結ぶ余地があるってんならともかくだ。
もう誰が好きとか嫌いとか、誰なら殺してよくて、誰なら助けるなんて段階はとうに過ぎてるだろ。
少しでも話が通じそうなら私情は押し殺して和解して、
少しでも時間を稼いで、脱出に繋がる手がかりを見つけ出すしかないだろうよ」
「話が通じる? この僕が? 何を根拠に?
そんな甘いこと言ってると、肝心なところで後ろから撃たれちゃうかもよ?」
「別にお前が聖人君子だとはこれっぽっちも思ってないさ。
けど、悪意を持ったままなら、ソロがお前を俺に任せるはずもないし、
それにお前、さっきまでサイファーと一緒にいたんだろ?
アイツに殺されてないってことは、まだ手を組める余地はあるんだろうさ」
予想よりもガチ目な根拠が出てきちゃったな〜。
サイファーに殺されなかったという事実だけで、千の言葉より説得力があるよね……。
あの場にリュックがいなかったら問答無用で殺されるパターンに入ってただろうけどさ。
ひとまずアルティミシアに対する、僕らが一緒にいるアピールとしては十分かな。
ところで、ソロもソロだけどヘンリーさんもヘンリーさんだとは思うよ?
- 169 :僕らを欠いた日々のまぼろし 6/11:2022/02/11(金) 20:01:57.08 ID:NADkUI6/m
- 「いいよ、今は休戦しよう。
もしかしたら、脱出の手がかりあるかもしれないから。
机の上とかにノートPC置かれてない? 分厚い板で、開くとボタンがいっぱい付いてる機械。ちょっと持ってきてほしいんだけど」
「ノートパソコン……? これか?」
「そそ、それだよ。
……この首輪ってガルバディア製なんだよね?
なら、インターネットで調べたら手がかりがあるかもしれない。
僕、元々ガルバディアガーデンに通ってたしね」
インターネットに国家機密情報が転がってるとか、我ながら頭悪すぎる発言だと思う。
ガルバディアガーデンのネットリテラシー教育はどうなってるの?と揶揄されても仕方がないくらいアホなこと言ってる。
だからヘンリーさん、『お前そんなこと口走って大丈夫か!?』みたいな顔しなくていいからさ。
黒いフードかぶった凄腕ハッカーじゃないんだから、たった一日でプライベートな領域にアクセスできるワケない。
一応未来のハイテク技術にも触れてる魔女なんだから、それくらいの知識はあるよね。あるよね?
万が一ガルバディアのセキュリティがガバガバで、首輪の構造が本当にインターネットに転がってたとしても、
魔法を打ち消して電波を遮断しないとダメだなんて情報は見つかりっこない。
だけど、僕が敵対しているはずのヘンリーさんと手を組む口実にはなる。
「それにインターネットが繋がってなくても、ガーデンネットワークがつながってるなら、ガーデンのみんなに助けを呼べるかもしれないしね」
こっちが本命だ。
もちろん、元の世界と通信できるなんてありえないことは、ちょっと考えれば分かる。
非常電源に切り替わりでもしたのか、電気は使える。
イントラネットも生きてるようだ。
でも、ここは魔女が創りあげた世界。
僕のいた世界を模した謎世界で、僕のいた世界そのものじゃない。
ネットワーク上で繋がってるなんてことがあったら、それこそ仰天するよ。
魔女が本気で取り組めば繋げられるのかもしれないけど、そんな巨大なセキュリティホールを手間暇かけて作ったりはしないでしょ。
僕が助けを呼ぶのは元の世界のガーデン生じゃなくって、サイファーだ。
ガーデンネットワークはガーデンの関係者なら容易にアクセスできて、端末さえあればどこからでも閲覧できる領域だ。
ヤツやケフカがどんなに頭が良くても、パスワードを知らなければ閲覧できない空間だ。
サイファーが見ない可能性もあるけど、リスクと手間に対するリターンを考えればやる価値はある。
まずは、電源をONだ。
ゲスト用アカウントで起動して、ガーデンネットワークにアクセスする。
- 170 :僕らを欠いた日々のまぼろし 7/11:2022/02/11(金) 20:02:55.41 ID:NADkUI6/m
- ―――――――――――――――――――
予習・復習
TUTORIAL
知っておきたいこと
THE BASICS
みなさんのガーデンについて
ABOUT GARDEN
ガーデンからのお知らせ
A MESSAGE FROM GARDEN
ガーデンスクウェア
GARDEN SQUARE
学祭実行委員からのお知らせ
THE SCHOOL FESTIVAL COMMITTEE
―――――――――――――――――――
伝言を残すなら、ガーデンスクウェアだ。
けれど……。
魔が差した。
クリックしようとしたらカーソルが滑った。
ネットの深淵にはじめてアクセスしたことがバレた子供のような言い訳が頭に浮かんだ。
――――――――――――――――――――――――――
Make the Garden Festival a success!
みんなでガーデン祭を盛り上げよう!
学祭実行委員会からのお知らせ(委員募集もね!)
The Executive Committee (Applications Welcome!)
お友だちコーナー
pals
実行委員長の公開日記 New!
The Prez
ラグナ様ページ
<| BACK Laguna's Page
――――――――――――――――――――――――――
見るな。覗くな。進むな。
カーソルを外せ。フォーカスを当てるな。
New!がどうした。生き残る役には立たない。
もし彼女が悲嘆に暮れていて、僕に何ができるというんだ。
冷や汗がぶわりと滲む。
怪我の痛みが再発するような感覚に襲われる。
こころの警笛に気付きながら、それでも指は止まらなかった。
- 171 :僕らを欠いた日々のまぼろし 8/11:2022/02/11(金) 20:06:17.55 ID:NADkUI6/m
- ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【情報求む!の日】
知ってる人もいるかもしれないけれど、私たちの班長、スコールがしばらく姿を見せていません。
他にも何人かお友だちがいなくなってて、ちょっとアンニュイかも。
どうして私に声をかけてくれなかったんだ〜!?
キスティスはすっごく心配しています。
みんなの行き先、ほかの人にも聞かれたりするんだよ。
私は実行委員長だし、何かのイベントの下準備か!? って聞きに来るのは分かるんだけど、今回は本当にノータッチ。
私は大丈夫だと思ってるよ。
なんたって我らが班長がついているんだしね。
けど、いろんな人が心配してるのを見ると、私もちょっと心配にはなるのね。
バラムガーデンにはいないかもだけど、もし見てたならこっそり返事してよ〜。
(Seedの極秘任務だったら返事しなくていいからね〜)
読者のみんなも、スコールたちのこと見かけたら、こっそり教えてね!
アーヴァインと、ゼルと、リノアと、あとサイファー。
たぶん、みんな一緒にいると思います!
情報お待ちしています!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そりゃそうだよね。
僕らを欠いたまま進んでいった日常が、向こうでは変わらず続いていた。
ガクリと力が抜けたけれど、らしいといえばらしい日誌だった。
一週間、二週間ならともかく、
クラスメートを一日二日見かけなかったくらいで気を詰めたりはしないか。
年少クラスじゃないんだし、彼女が僕のママってわけでもないんだからさ。
「アーヴァイン、どうしたんだ?」
「なんでもないよ、頑張って手がかりを探してただけ。
それと、みんなをアルティミシアの魔の手から守りたいなってあらためて思い直しただけさ〜」
いや、そんな白々しい目で見ないでよ。
会話だけ追えばめちゃくちゃ白々しいこと言ってるけどさあ。
コホンと咳ばらいをして、BACKボタンをクリックして、ガーデンスクウェアのページを開きなおす。
- 172 :僕らを欠いた日々のまぼろし 9/11:2022/02/11(金) 20:08:30.81 ID:NADkUI6/m
- ――――――――――――――――――――――――――
*ここ数日、図書館も閉まるの早いよな。
*CC団しばらく休業だって。
スコール委員長も極秘任務に就いてるって噂もあるし、なんかあるんじゃない?
*やることなくてヒマなんで飯食って寝るわ
*↑YOUは何しにガーデンへ?
*↑↑なぜ君はSeedになれないのか
*トゥリープ様なんて昨日から寝てないんだぞ!
*マスターを追い出した学園長を許すな!
*↑↑お前なんでそんなこと知ってるんだよ・・・
*私は委員長派!
*うるせえアルケオダイノスぶつけんぞ
* _人人人人人人人人人人人人_
> グ ラ ッ ト 1 匹 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
――――――――――――――――――――――――――
バカみたいな書き込みだ。というかまた荒れてるの?
けれども、平和なガーデンの日々ってこんな感じだったっけ。
日常が垣間見える。
最後の書き込み時刻は今日の黎明で、まるで世界をその日時で切り取ってコピー&ペーストしたみたいだ。いや、したんだろうな。
扉を開けて廊下に出れば、クラスメイトの歓談さえ聞こえてきそうだけど。
僕がいるのは日常じゃなくて、戦場だ。
生き延びるために必要なことをやろう。
Endボタンで一番下まで一気にスクロールして、サイファーへの連絡を書き込む。
『*風紀委員長へ。一限後の休み時間、秘密の場所で待つ。
I・K』
仮にヤツがまかり間違ってこの書き込みを見たとしても、場所も時刻も特定されることはないはずだ。
風紀委員長も一限後の休み時間も秘密の場所も、ガーデン生にしか通じない用語だから。
なんだか果たし状みたいな伝言になっちゃったけど、秘密の場所に来てくださいとか丁寧な言葉を使うと、
サイファーをデートに誘ってるとかのとんでもない誤読をされそうなんだよ〜。
呼び出したのそういう場所だしね。
スコールとか真顔で煽ってサイファーをキレさせそうじゃん。
え、なんで他校出身なのに秘密の場所を知ってるのかって?
いや、真っ先にチェックするでしょ。
これから女の子に声かけまくろうってやつが秘密の場所を知らないなんて、
それこそ定番のデートスポットを一つも知らずに女の子をデートに連れて行くような愚行だろ〜?
- 173 :僕らを欠いた日々のまぼろし 10/11:2022/02/11(金) 20:09:33.01 ID:NADkUI6/m
- 書き込み日時は0年0月0日の2時台。明らかにバグってる。
この世界が創られてから、二時間しか経っていないということなのかもしれない。
ともかく、ヤツに見つかる前に仲間と合流しなければ話にならない。
今のまま出くわせば、ヘンリーさんは出会い頭に一太刀で切り伏せられて、僕はそのまま捕まってGAMEOVERだ。
セキュリティが厳重そうで、防衛装置とか監視カメラとか備わってそうな部屋といえばマスタールームか学園長室だけれど、
部屋の名前が目立つ上にエレベーター一個でたどり着けちゃうんだよね。
地図――というか建物の案内図にもご丁寧にでかでかと載ってて、レーベとかカズスとかデスキャッスルばりに人を集めそうだ。
『チン!』って機械音声が鳴るとともにエレベーターのドアが開いたと思ったら、
そこには獰猛に笑う銀髪が立ってました、とか冗談じゃない。
『閉』ボタン必死で連打して扉が閉まろうってところに刀差し込んできて、エレベーターのドアこじ開けてきそうだし?
そういう三流ホラー映画みたいな展開は悪夢の中だけで十分だぜ〜?
あとは入口の守衛室なら監視カメラ見れるかもしれないけど、誰か来たときに逃げ場所ないんだよな〜。
食堂や保健室はそれこそ食料とか薬の確保でいろんな人がやってくるはず。
だからといってMD層なんて指定しちゃうと、僕が迷っちゃう。
MD層の構造なんてよく分かんないしね。
ミサイル発射妨害工作班だったから、そっちには疎いんだよ〜。
ということで、地図に載ってなくて隠れ場所も多い秘密の場所をピックアップしたってワケ。
僕とサイファー以外は知らない場所、かつ隠れ場所が多い訓練施設の中で、高所だから敵にも気づきやすい。
逃げ回るだけってのも悔しいけどさ、ヤツ相手には足を引っ張ることが確定している以上、こうするしかない。
「どうだ? 進展はありそうか?」
「うーん、やっぱり時間がかかるかも。
せめて、ってことでガーデンスクウェアに救助要請の書き込みはしといたから。
それじゃ、場所を移ろう」
「分かった。なら案内を頼むわ」
ともかく、今朝は逃げ切れたけれど、ヤツの脅威はまだ終わってない。
これからスコールの計画が実を結ぶまでの間、僕たちは犠牲者を出さずに逃げ切らないといけないんだ。
ログアウトをしようとしたところで、ふと魔が差した。
再び、実行委員長の公開日記を開いて。
『*必ず、戻ってくる
I.K』
彼女は決して見られない日記のコメント欄。
自己満足以上のなにものでもない書き込みをひとつ残し、僕はノートPCの蓋を閉じた。
- 174 :僕らを欠いた日々のまぼろし 11/11:2022/02/11(金) 20:11:07.35 ID:NADkUI6/m
- 【アーヴァイン (HP2/3、MP1/4、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、混乱、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
所持品:G.F.パンデモニウム(E、召喚×)、変化の杖(E)、ビームライフル(E) 竜騎士の靴(E) 手帳、リュックのドレスフィア(シーフ)、
ちょこザイナ&ちょこソナー、ラグナロク、祈りの指輪(ヒビ)、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、食料
第一行動方針:セフィロスから逃げ切る
最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【ヘンリー
所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、リフレクトリング(E)、魔法の絨毯、
銀のフォーク、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ
ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ガーデン保健室の救急セット・医療品、食品)、
レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
第一行動方針:アーヴァインを保護する
第ニ行動方針:仲間と合流する/セージを何とかする
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:バラムガーデン・保健室】
※メガポーションは使用しました。
- 175 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/02/12(土) 18:41:54.20 ID:ukw2d+oIQ
- 投下乙です!
思ったよりアービンが元気そうで良かった、ツッコミもボケも切れ味良くて笑うw
ヘンリーも相変わらず落ち着きが無いようで、意外と頼れるところもしっかり見せてくれてるね
何も知らないとはいえ、バラムガーデンの生徒たちのほのぼの感も微笑ましいなぁ
でもキスティス以外そこまで慌ててないといえ、帰りを待ってくれる人がいるって再認識できたのはアービンにとって大きいんだろうな
最後のコメント通り、本物のガーデンに帰れるといいね
- 176 :僕らを欠いた日々のまぼろし 1,3/11:2022/02/14(月) 18:58:30.87 ID:2mOg1wqr1
- アーヴァインの魔物化した半身が左右逆でした。
以下のように修正します。話の流れは変わりません。
>>164
脳皮質にまで刻み込まれた恐怖に、頭の中が真っ白になる。
思考を置き去りにして、ベッドから身を翻そうとしたけれど、鋭い痛みがわき腹から胸にかけてザクリと差し込まれてきて、中途半端に硬直してしまう。
バランスを崩してベッドから転げ落ち……まではしなかったけれど、
思わず振り抜いた左腕――怪物としての左腕が、ベッドの左手に置かれていた瓶をなぎ倒してしまった。
痺れるような衝撃がその接触面からじわじわと熱を持って広がる。
倒れた瓶はそのまま転がり、床に叩きつけられて砕け散った。
痛みと音とで、半分夢見心地だった意識は一気に覚醒。
シャワーの最中にお湯が水に切り替わったかのように、心地よさでぼやっとしていた思考が一気にシャキッとなる。
ぶわーっと霧が晴れたように頭の中がクリアになった。
↓
脳皮質にまで刻み込まれた恐怖に、頭の中が真っ白になる。
思考を置き去りにして、ベッドから身を翻そうとしたけれど、鋭い痛みがわき腹から胸にかけてザクリと差し込まれてきて、中途半端に硬直してしまう。
バランスを崩してベッドから転げ落ち……まではしなかったけれど、
思わず振り抜いた左腕が、ベッドの左手に置かれていた瓶をなぎ倒してしまった。
痺れるような衝撃がその接触面からじわじわと熱を持って広がる。
倒れた瓶はそのまま転がり、床に叩きつけられて砕け散った。
痛みと音とで、半分夢見心地だった意識は一気に覚醒。
シャワーの最中にお湯が水に切り替わったかのように、心地よさでぼやっとしていた思考が一気にシャキッとなる。
ぶわーっと霧が晴れたように頭の中がクリアになった。
>>166
ヘンリーさんの呼びかけに返事をしつつ、視線を脇腹――もうほぼ魔物化してしまった左半身の脇腹に集中する。
じくじくと熱を持って主張しているとおり、結構なケガをしているらしい。
内臓が飛び出したかのような触手はほぼ切断されていて、左の胴がずいぶんすっきりとしている。
これはこれで、以前のように勝手に動きだしたりすることはなさそうではあるけれども。
――というか勝手に動き出すこと自体がおかしいんだけどさあ。
↓
ヘンリーさんの呼びかけに返事をしつつ、視線を脇腹――もうほぼ魔物化してしまった右半身の脇腹に集中する。
じくじくと熱を持って主張しているとおり、結構なケガをしているらしい。
内臓が飛び出したかのような触手はほぼ切断されていて、右の胴がずいぶんすっきりとしている。
これはこれで、以前のように勝手に動きだしたりすることはなさそうではあるけれども。
――というか勝手に動き出すこと自体がおかしいんだけどさあ。
- 177 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/02/24(木) 03:48:16.72 ID:whe/KE8W4
- 遅れ馳せながら投下乙です!
アーヴァイン、4日目朝は大波乱だったけど、3日目夜レベルには落ち着いたようで、
ずっと取り乱してる姿を見ていたからこの調子が帰ってきて少し安心する。
(セフィロスはもう居ないけど)鏡に顔が映るだけで想起せざるをえないのはキツそうだ……
そんななか思わず公開日記覗いちゃったりするのはいかにもアーヴァインらしくて和んだ。
ヘンリーはアーヴァインとはなんだかんだ1日目からの縁なんだなあ。思い返すと今この状況が尚更感慨深い。
メガポーションだけじゃなく慣れない物資を駆使してなんとか看病したんだと想像できてしまうほど、善良な大人としてのヘンリーが頼もしくていい……
ガーデンスクウェアの描き込みが温度差ありすぎて笑うのに、手の届かない日常に切なくもなる……
この二人はセフィロス脱落を知らないからこそ、予想外のことに巻き込まれそうでまだまだ油断ができないなあ……! 無事サイファーに気付いてもらえるといいけど……
今後とも応援しています!!
- 178 :侵入者ヲ撃退セヨ 1/5:2022/02/27(日) 21:36:44.77 ID:PibOaskp3
- 『必ず朝昼夜には我に状況を報告せよ。
言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢ではアルティミシア様のご期待には添えんのでな』
オレ様、ウルフラマイターは、ティアマトからの障害再発防止策実施の大号令を思い返しながらとぼとぼ歩く。
同僚が文字通り蒸発し、クアールの手も借りたい状況となったにも関わらず、仕事の総量が増えたのだ。
「ハァ……」
時計塔と礼拝堂を繋ぐ橋を、寒風吹きつける中渡っていく。
朝っぱらからオレは何をしているのだと自問自答してしまえば、呼吸など必要ないオレですら、思わずため息が漏れ出てしまうわ。
ナニ? 風など吹いていなかったのではないかだと?
オレの繊細なハートに、冷たい隙間風が吹き付けているのだ!
アルティミシア様への鋼の忠誠心は揺るぎなどせぬ。
少々の理不尽で動じるほど、オレの鋼鉄の精神力は脆くはない。
それでもふと、不満を叫び出したいことはある。
(ティアマトヨ、セメテ時計塔ノ自室デナク、現場デ待機シテクレナイカ?)
ヤツはいったい何を考えているのか、時計塔の途中に私室を構えている。
……忠臣であるからこそ、すぐに駆け付けられるところに居を構えているのだという答えが嫌味と共に返ってくるのだろうが。
そのおかげで、歩くたびにギィギィ軋む細い橋を渡り、何十段もの急な階段をのぼり、時計塔の振り子に捕まって宙を移動しなくてはならない。
オレの鋼鉄の精神力を以ってしても、肝が縮み上がる難所だ。
幹部ともなれば、当然時間外であろうが手当など出ぬ。
幹部でなくとも出ぬが。
オレ様を以ってして過酷な業務だ。
日に四回。
往復で八回。
その心労は察するに余りあるだろう?
きめ細かくデリケートな、オレ様自慢のツヤツヤタマゴ肌、いまやそこからウル艶が失われてしまっている。
明るくまぶしい光を放っていたこの肌は、どんよりと重く暗い光を放っている。
このままではウル艶の意味が、『オレ様の明るくきめ細かくツヤツヤな光沢』から、『どんよりとした鈍い光沢』へと変わってしまうわ。
- 179 :侵入者ヲ撃退セヨ 2/5:2022/02/27(日) 21:38:39.65 ID:PibOaskp3
- 「ムム?」
橋を幾分か渡ったところで、ふと顔をあげれば、橋の対岸から向かってきているやつがいる。
(コンナトコロニ、何ヲシニ来テイルノダ?)
時計塔は文字通り時計を高所に掲げるための建物だ。それ以外に用途などありはせぬ。
私室にしているティアマトがオカシイだけだ。
立入禁止だし、用なく立ち入る場所ではない。
そもそも、この橋を渡るのは危ないぞ。
「アア、オレ様ヲ呼ビニ来タノカ?」
自慢じゃないが、オレは他部署の部下との仲も良好だ。
特にドルメンのところの部下はオレをよく慕っている。
ほかにはない、人望がにじみ出ているのだろう。
ティアマトが激怒するような報告はだいたいオレに一言相談が入る。
その後なぜか殴られるのはオレだが、代わりにオレの仕事を手伝ってくれるのでお互い様だ。
一発殴られるのもイタイが、頭を使い続けるよりはマシだ。
きっと、またトラブルが起こったのだろう。
ただ、この一本橋の上で報告を受けるのは勘弁させてもらうぞ。
風邪をひきそうだ。
あと足踏みして橋を揺らしてくれるな。ジャンプをするな。
こんなところで報告を受けたところで、揺れが気になってロクに内容を聞き取れぬわ。
オレはこのままバックするのは怖い。
橋を渡り切ろうと足を動かすが、困ったことに向こうはその場を動かぬ。
バックするのが怖いのは分かるが、ちゃんと下がるのだ。
狭い道では互いに譲り合う。
すれ違えない道幅なら、道幅が広いところまでバックする。
これがマナーだぞ?
それでも仮面はその場から動かず、小さな石を取り出し、新たにピンクのモンスターを呼びつけた。
そして炎のような鞭を仮面から受け取るピンク。
仮面本人は、ピンクと短い会話を交わし、石にポーションのようなものを振りかけたかと思えば、
氷のような青い剣を取り出して構えていた。
オカシイ。
オレを通さないとでも言うのだろうか。
そういえば、どちらも見覚えがない連中だ。
仮面を着けていてモンスターを呼べるのなら、スフィンクスの部下かと思っていたが。
「マサカ、侵入者カ!?」
- 180 :侵入者ヲ撃退セヨ 3/5:2022/02/27(日) 21:40:48.14 ID:PibOaskp3
- オレの言葉を皮切りに、ピンクが魔法を放ってくる。
その魔法は、オレ様唯一の弱点だった重力魔法。
まさか、オレの個人情報が漏れているのか?
だが……。
「グハハ! 重力攻撃ナド、最早キカヌワ!」
かつて、オレが重力魔法には弱かったのは否定せぬ。
だが、弱点をいつまでも弱点のまま放置するものか!
一発程度は耐えられるように鍛え直したのだ!
「大人シク降伏シロ! 今ナラ悪イヨウニハシナイ!」
命はもらうが。
「どうするの!?」
「かまわない! 続けてくれ!」
続けられたら困る。諦めるべきだ。
「無駄ダ! 先ニタタキ切ッテヤロウ……ヌッ!?」
大太刀を抜き、まとめて薙ぎ払おうとしたところで、ミシミシというイヤな音が足元から響く。
オレは超重力に耐えきった。だが、橋板は耐えきれなかった。
オレの気がそちらに逸れた隙に、ピンクは卑怯にもさらなる攻撃に転じる。
炎のようなムチを振るって火球を作り出し、オレを燃やし尽くそうと企んだのだ。
「ソンナ魔法ハ放ツダケ無駄ダ!」
オレのカラダに炎が直撃し、燃え上がる。
有象無象のモンスターであれば、炎に捲かれて倒れ伏すだろう。
だが、オレにとってはアツくて視界を遮られるのが鬱陶しいだけだ!
その程度の貧弱な魔法など、何万回繰り返そうが、オレの膝を付かせることすらできはしまい!
「オオオオオオオオ!!」
大太刀を両手に構え、前方へ突撃する。
それまで立っていた橋板が割れて下へと落下したようだが、その数瞬前には既にオレの足は離れている。
その小さなカラダで、オレを受け止められると思っているのか!?
そうして次の一歩を踏みだした時、オレは膝を付いていた。
アレ?
ずるっと滑った。そうとしか言いようがなかった。
踏み出した足は想定よりも前方に伸び、股を前後に開くようなカッコ悪いポーズで止まる。
身体を支えようにも手をつく場所がない。
悪の魔女の拠点の橋に、手すりや欄干などの生ぬるい付属品は要らぬだろう? などという同僚との雑談を、こんなときに思い返してしまう。
足の裏だけが妙に冷たい。
溶けかけた氷を無警戒で踏み抜いたのか? なぜ?
仮面が持っていた剣。冷気の魔力が立ち上っていた。
ピンクの炎。氷は少し溶ける。
なるほど。
- 181 :侵入者ヲ撃退セヨ 4/5:2022/02/27(日) 21:42:55.43 ID:PibOaskp3
- 「ヌゥッ!」
ほぼ直感だけで太刀を頭上に掲げる。
さすがにこの格好のまま無防備に殴られれば、後ろに倒れてそのまま落ちる可能性だってある。
それは避けないとダメだ。
太刀の物打で十分に体重が乗せられた一撃を受け止める。
武器と大刀とがかち合い、ギィン! と鈍く鋭い音が響き渡った。
だが、当然だがこんな格好でキレイに一撃を受け止められるわけがなかった。
衝撃を殺し切れず、太刀を取り落としてしまう。
それでも倒れない程度に姿勢を正したオレに対し、仮面は上から串刺しにしようとする。
「ソノ程度ノ攻撃デオレヲ倒セルト思ッテイルノカ!? ナメルナ!」
上空からの突きを受け、ゴゥン、とドラム缶を鈍器で叩きつけるような音が響き渡る。
そこに、ピンクから二回目の重力魔法が放たれた。
いつもはミシミシとイヤな音を出しながらも、オレのカラダをしっかりと支えきる橋。
それが、今に限ってはパキパキ、ブチブチと明らかに異常な音を鳴り響かせる。
「オオ、オオオオオオオオ!!?」
重力魔法を苦手としていたのは、オレ自身の重さにオレのカラダが耐えきれなくなるからだ。
転んだときや落下したときとて、同じことが起きうる。
下は水路。高さが何十メートルあるかなど覚えていない。
そんなところから叩きつけられれば、最低でも行動不能、最悪スクラップだ。
なんとか起き上がろうと片足に体重をかければ、その足が脆くなった橋板をぶち抜いた。
「ウウウゥォォォオオオオヲヲヲヲ!!」
身体をひねり、なんとか落下だけは免れようとする。
だがしかし、侵入者がそんなことを許すはずもなく。
オレを踏み台に時計塔側にわたっていた仮面が剣を振りかざす。
冷気が鎧の関節を固め、オレの動きをわずかに遅らせる。
同時に、バキリと木材の折れる音が響き渡る。
折れた橋板とともに身体は空中に投げ出されてしまう。
(アア、落チタナ)
そんな事実だけを認識した数秒後、衝撃が全身を突き抜け、オレはついに意識を手放した。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
- 182 :侵入者ヲ撃退セヨ 5/5:2022/02/27(日) 21:51:23.56 ID:PibOaskp3
- まわりに誰もいないことを確認すると、俺はすぐに梯子を伝い、牢獄へと続く水路へ降り立った。
身体が半分地面に埋まったウルフラマイターが再び動き出さないかを注視したが、無事に戦闘不能に追い込んだようだ。
近づける道がないため、しばらくは発見されまい。
「大丈夫か?」
俺の言葉に、ティナの魔石は淡く発光して返事をする。
召喚時に一回、武器を振るった後に一回、魔法を使うたびに一回。
砕け散りそうになる魔石に対して、Gメガポーションを毎回、合計四個使うことで、崩壊を防いだ。
自転車操業、ドーピングという言葉が浮かぶ。
ウルフラマイター相手に物理攻撃のみで対峙するのは自殺に等しい。
本来なら召喚後、魔法を一回程度しか撃てないのを、G.F.専用の特殊な回復薬で強引に引き延ばしたのだ。
出会わないのが一番だったが、出会った以上、そんな強引な手段を使ってでも、無力化すべき一体だった。
グラビガで足場を落とし、ファイアビュートの炎で視界を狭め、吹雪の剣の魔力で足場の安定を奪い、体勢が崩れたところへ再度グラビガを叩き込む。
狙いは落下ダメージだ。
橋の上を慎重に歩いていたからこそ、こちらは効果があるとは思っていた。
そもそもは最初のグラビガで勝負がつけばよかったが、克服していたのは想定外……いや、考えが足りなかっただけか。
(一度倒した相手だ。だからこそ、弱点を克服してくるのは当然か)
本人の言うとおりに重力系の魔法をも克服したなら、追撃してトドメを刺すのは時間がかかりすぎる。
まだ顔は見られていない。
ライオンハートも使っていないため、武器や服装からバレることはないだろう。
警戒レベルがどれくらい上がるかは分からないが、あまり余裕がなくなったのは間違いない。
分かってはいたが、ミッション達成の困難さには眩暈がしそうだ。
だが、もう後戻りはできないんだ。
長く暗い水路を進み、俺はついにアルティミシア城本館へと足を踏み入れた。
ここからが正念場になる。
【スコール@変装中 (首輪解除)
所持品:(E)ライオンハート、(E)貴族の服&仮面、エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×)
吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、ファイアビュート、写真、Gメガポーション×5、メガポーション×10
第一行動方針:ウルフラマイターをどうにかする
基本行動方針:ゲームを止める】
※ガルガンチュア、コキュートス、ドルメンの封印が解除済ですが、状態表には反映していません。
アイテム、魔石召喚(G.F.含む)解除済みです。
【現在位置:アルティミシアの城・牢獄】
- 183 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/02/28(月) 02:23:02.46 ID:ULkvyBBIn
- 投下乙です!
貴重な良心的上司兼癒し枠のウルフラマイターさんが見事にメガトンコインしてしまった…
ウル艶とかマナーとか他部署の部下を庇ったりとか、読者的にな好感度ストップ高なんだけどなあw
弱点を克服してたのも立派だったんだけど、状況を利用したスコールが1枚上手だったね
そしてティアマトの株が下がる下がる…www
あんな辺鄙な場所に呼びつけて説教するのはいかんでしょw
ともあれウルフラマイターの今後とスコールの作戦がどうなるか、期待してます!!
- 184 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/03/02(水) 20:30:41.26 ID:24BIo4eEG
- 投下乙です!
ブラックな環境でわりとまっとうに頑張ってるウルフラマイター、一人称視点の語りが活き活きしてて愛着わいてしまう……w
あの巨体で一生懸命振り子に乗って移動するウルフラマイター想像して和んだ。
グラビデ対策してるの健気でかわいいなあとか思ってしまったけど、完全に場所と相手が悪かったなあ……
アイテムの出し惜しみをせず戦闘不能に押し込んだスコールとティナは流石!
ウルフラマイター目線でスコールとティナの動きが語られるのも新鮮で面白かった!
歩く武器庫とまで言われたスコールが色々な武器を駆使して戦っているのを見ると、色々なものが報われるような思いになった……いいなあ
こっちの状況も着々と進んでいて、やっぱり目が離せない! 応援しています!
- 185 :The Thing thinks 1/5:2022/03/05(土) 22:58:10.70 ID:u1IZxFjwX
- 「クエ―――――ッ!!」
「わ、わわわわっ!」
ライフストリームとは異なる人工的な蒼輝の奔流。
鳥と女、二つの悲鳴が歪む時空に響いては消えていく。
「うう……たずけ"、だず、けでぇ……!」
黄の羽毛に覆われた首に抱き付きながら『僕』は掠れた声を上げる。
それに反応して、鳥と女の意識が激しく揺らぐ。
(だいじょうぶだよ! こわいひと、ちかくにいないよ!)
(もー、ケバケバおばさんといいカッパといいどうしてこんなひどいことばっかり……!
絶対、ぜーったい助けてやるんだから!!)
炎のような熱を帯び、泉のように吹き上げる思念――
かつて存在した『私』、即ち『セフィロス』であればそれは"怒り"と判断するだろう。
今ここにいる『僕』、つまり『アーヴァイン』だったら"同情"にカテゴライズするだろう。
どちらにしても悪い兆候ではない。
この身体を本物のアーヴァインと認識しているからこそ発生する感情パターン。
二体とも、当面の間は有効に利用できるだろう。
「わっ……ひゃわわわわ!」
「クエッーー!?」
突然、下方から風が吹き上げた。
同時に周囲の色彩が変化し、二体が希望と困惑の混ざった叫びを上げる。
床より数十センチ高い位置に投げ出されたが、それでも無事に着地したのは個々の経験によるものか。
ともあれようやく辿り着いた新たなる世界は、過去三日間の舞台とは明らかに趣を異にする建築物の内部。
『私』が生まれ育った文明レベルに近く、そして『僕』にとっては明確に見覚えのあるホール。
「ば、ばらむ"……がーでん!?」
「えっ!? こ、ここ、知ってる場所なの!?」
体勢を立て直した女が『僕』の呟きに食いついてくる。
複写した記憶情報と思考パターンに基づいて構築した偽装人格である『僕』は、女の感情に合わせた微調整を行いながら『アーヴァインの言動』を出力する。
「う、う"ん……こご、ス"コールとサイ"ファーが通ってる、がっこ"う。
ぼくも、さいき"んは、ここのがくせい"り"ょう、泊ま"ってた」
「スコール達の学校って――そんな場所、殺し合いの舞台なんかにする!?
あーもう、本当にサイテー! 信じらんない!!
あんのケバケバ化粧おばさん、シーモアより根性ねじ曲がってるんじゃないの!?」
女は大声で喚き散らす。
思考を読むまでもなく警戒心が欠如している行動だ。
最も、現状においてはこの二体以外の音声は感じ取れない。
この身体の感知能力はさほど高くない――いわゆる五感は擬態元と同レベルであり、読心範囲も半径3?といったところだ――が、近隣に他生命体が居ないと判断しても問題ないだろう。
無論、『僕』は神経質だから咎める言動を取るが。
- 186 :The Thing thinks 2/5:2022/03/05(土) 23:05:16.88 ID:u1IZxFjwX
- 「リュッグ、こえ、おお"きい"よ。
こご、けっごう、おと、ひびく"んだよ……」
「あっ! ゴメンゴメン。
……それにしても、ここ、なんの部屋なの?
大広間! ってカンジだけど」
「そのどおり、ホール"だよ。
SeeD"の、しゅう"にんしき、と"か……ゲホッ、パーテ"ィした"り、ダンス"、したり、ずるの」
「へぇ〜。スコール達のダンスかあ、ちょっち見てみたいかも……
……でも、さすがにこんな見つかりやすそうな場所にいるのはマズイよねぇ」
「ぞれな"ら、ぢかくの、ぎょうじつ"、かぐれ"る?
あっぢのろう"か、でて、すぐとな"り……ねんじょう"ク"ラス"の、きょう"しつ、だっだはず」
「オッケー! そっち行こう!」
女が威勢よく立ち上がる。
『僕』は頷き、鳥の背によじ登る。
身体の内側に隠している冷え切った死肉が行動を阻害するが、体調不良を起こしているという先入観があるためか、鳥も女も疑問を覚える様子はなかった。
だからといって、いつまでもこの状態でいるのはマイナスの要素が大きい。
純然たるジェノバ細胞で構築しているこの身体は、有機体を消化吸収する機能など備えていない。
生命活動を継続しているパーツがあったならば取り込んで酸素供給等を補い、電気信号を与えて動かすこともできるが、全ての細胞が死滅していてはそれも無理だ。
消化器官を持つ他生命体――例えば今騎乗している鳥――に一時的に寄生して捕食させれば死肉をエネルギーに変換することは可能だが、そこまでする必要性も感じない。
漆黒の球体とドラゴンオーブがある限り、活動に必要なエネルギーは十二分に得られる。
血液や体液は血糊などに利用できるが、それ以外の不要箇所は折を見て捨てるべきだ。
問題は、その"折"がいつ巡ってくるか……
複数体に分離して行動することは出来ない。
正確に言えば、分裂自体は可能だが擬態精度にも思考能力にも多大な支障が生じるため、例え逃走時であろうとも実用に値しない。
女に付き合う『僕』と、廃棄物を処分する『僕』ないし『私』に別れることが不可能である以上、どこかのタイミングで女の眼を盗んで行動する必要がある。
……この女の思考レベルであれば、単純に排泄行動を取りたいからトイレに行く、という発言でも納得するかもしれないが。
さりとて死肉をそのまま放置すれば、頭部形状から想定よりも早くセフィロスの死が露見するリスクが付きまとうし、破壊して水に流すとしても騒音が発生する。
やはり、後で廃棄計画を考慮した方が良い。
だが現状において思考リソースを割くべきは、それについてではなく――
「うわぁ〜! すっごいすっごい、見たことないマキナばっかりだあ!
ね。ね、ナニコレ!? 同じのいっぱいあるけどこれナニ!?」
『年少クラスの教室』なる部屋の扉を開けた女は、鳥の手綱から手を離し、騒ぎ立てながらモニターに駆け寄る。
『僕』はため息をつきながら記憶を辿り、答える。
「がくじゅう"ようの、パソ"コン……
これ"つかっで、べんきょう"しだり"、……ゴホッ、おしら"せ、み"た"り、する"の」
「へえ〜! ね、ね、動かせる?」
「う"ん……ゲスト"、ア"カウ"ンド、つ"かえば」
- 187 :The Thing thinks 3/5:2022/03/05(土) 23:07:51.57 ID:u1IZxFjwX
- 急かされるまま『僕』は電源ボタンを押し、パソコンを立ち上げる。
現れたログイン画面、キーボードで文字列を入力し、ガーデンスクウェアへとアクセス――しない。
この女は機械に興味があるだけで、これで何が出来るかなど全く知らないのだ。
そして逆に、『僕』が知っていることは本物のアーヴァインも知っている。
アーヴァインがこれと同様の機械を目撃した場合どのような行動を取るか、『僕』には簡単に想定できる。
『僕』は『アーヴァイン』だからだ。
そして、この女にはもうしばらくの間信じ続けてもらう必要がある。
『僕』こそがアーヴァインであり、『僕』だけがアーヴァインなのだと。
そのためには絶対に本物のアーヴァインに接触させるわけにはいかない。
姿はおろか影の一片、一語の文字すら見つけさせてはならない。
「あ"……ごれ……」
思い出の糸を手繰り、縋る、哀れな男として、『僕』はリンクを辿っていく。
"学校からのお知らせ"。"魔女討伐記念パーティを開催しました"。
そして"学園祭実行委員提供、パーティ撮影動画はココをクリック!"という文字列を画面越しに押せば、やるべきことは終わりだ。
『まみむめも! セルフィでーす!
今日は、なななんと! アルティミシア討伐記念のパーティに来ています!』
切り替わった画面と流れ出した音声に、女の表情が変わる。
その胸中に渦巻いているのは困惑一色。
『おっ、早速魔女討伐班員発見〜! アービンがキスティスに絡んでますね〜。
ちょっとレアな組み合わせだけど、どういう風の吹き回し〜?』
『……ちょっとストップ。
セルフィ、カメラ係やってるの? それなら綺麗なところも見せておかないと』
『えっ? 僕も映してよ!
せっかくだしツーショットしようぜ〜、いえ〜いトゥリープファンクラブのみんな〜!』
『止めなさい! それ冗談じゃ済まなくなるから!』
『あいてっ!? ……う〜ん、振られちゃったか〜。
あ、もちろんジョークだからセフィもみんなも怒らないでね?』
(なにコレ……なんでユウナの声がするの?
どういうことなの?)
『アービンはほっといて〜、キスティスは〜っと……おっと学園長に話しかけにいった〜。
こうしてるとやっぱキスティスって大人やんな〜、先生経験は伊達じゃないな〜って感じするよね〜。
……あっ! あれはもしかして、もしかして〜〜……まま先生だ〜〜!
うわ〜〜!! これこれ、これが本当のまま先生やんな!! うわ〜懐かし〜〜!!
あっアービンも来た……って帽子取った! アービンが帽子取った、これはスーパーレア映像だ〜〜!!』
『セルフィってば、も〜……交代交代!
ほら帽子あげるから、キスティスと一緒に映って、ね?』
『そうね、セルフィとならツーショットも悪くないわね』
『むむむ、そこまで言われちゃ〜映るしかな〜い!!
ね、ね、可愛く撮ってね!!』
『もっちろん〜、僕にお任せあれ〜!』
――ここまで見せれば十分だろう。
『僕』はそれらしい表情を象りながら、動画を止める。
「………ごめ、ん"。
な"んで、こ"んな"の、見せち"ゃったん"だろ……」
死体の頭部から採取した無色の体液を、目に模した個所から排出する。
全体を小刻みに震わせながら、女の感情が哀れみに変化していくことを確認する。
- 188 :The Thing thinks 4/5:2022/03/05(土) 23:09:02.19 ID:u1IZxFjwX
- 「……ダイジョブ。ダイジョブだよ。
絶対に元の世界へ帰してあげるから」
(こんなのって、ないよ……
大切な友達の声と、ユウナの声、こんなにそっくりだなんて……
そんなの、傷つくに決まってるじゃない……!!)
「リ"ュッグ………う"あ"、あ、ああ……」
背に触れる華奢な手から伝わる思念。
ああ、その調子だ。
『僕』に同情しろ。
『僕』を信用しろ。
『僕』が守るべき対象だと認識しろ。
「ダイジョブだから。
あたしも頑張るし、みんなもきっと協力してくれるから……」
(ソロを説得して、セフィロスをやっつけて……
ううん、その前に首輪を外して逃がしてあげた方がいいのかな……でも今のアーヴァインには無理強いできないだろうし……)
――唐突に女の思考が想定とズレた。
首輪解除。夢世界。
既に『僕』が知っている情報ではあるが、それらを利用されるのは問題だ。
この『首輪』は擬態の一部で中身はほぼ空洞だし、夢世界にいる生存者は殆どが何らかの形で人類種の平均値から逸脱した観察力を持っている。
分析魔の魔導士、本物のアーヴァインの夢から再誕した召喚獣、夢の管理者たる老魔女、姿形だけでなく心さえも絵に描くピクトマンサー、突出した警戒心と生存欲求を持つ剣士。
『アーヴァイン』の再現精度はそれなりに高いと考えているが――それでも現時点の身体と情報で夢世界にいる生存者全員の目を同時に欺くことは、ほぼ不可能だと判断する。
女が余計な行動を取らないよう、修正を図らなくては。
「……ごわ"い。リュック、こ"わ"いよ……!
あい"つ、まだ、ぼぐ、み"でる……ねらっでる……!
ゾロ"……どうし"て"……!? わ"がんない、わがんないよ……!」
「お、落ち着いて!
アイツ、近くにいるの!?」
(やばいやばいやばい! 今襲われたら大変だぁ!
まずは逃げてサイファー達と合流してそれからそれからえーとえーと、とにかく首輪解除は後回し!!
セフィロスとソロをどうにかしないと!!)
そうだ、それだ。
今はただ、ソロを止める方法を考えろ。
ソロの言葉から耳を塞ぐほどに『僕』を信じろ。
"止める"が"倒す"に変わるまで『僕』を守る決意を固めろ。
純粋な意志で、勇者ソロに敵対しろ。
「アーヴァイン、安心して!
あたしが絶対、ぜーったい、めちゃめちゃぜーーったい!!
安心な場所探して、守ってあげるから!
どこの誰にも悪いことなんかさせないから!」
「う、う"ん……ごめん"、お"ねがい……
だず、げて……」
女の言葉に、『僕』は震えながら縋りつく。
全てはこの女をどれほど篭絡できるかに掛かっている。
寄生して操る手段は取れない。
もちろん精神強度の問題もあるが、それ以前に、この女に関しては完全な正気でいてもらわなければならない。
何故ならソロの精神を――勇者としての存在意義を破壊できるのは、曇りなき善意と正義の刃だけだからだ。
- 189 :The Thing thinks 5/5:2022/03/05(土) 23:11:33.30 ID:u1IZxFjwX
- 勇者ソロは天敵足りうる生命体だ。
星の防衛機構<ウェポン>ならぬ人類種の防御機構<勇者>、星の大海をも超えるジェノバの身を焼き尽くす雷撃を放つ恐るべき相手。
しかしそれ以上に対処しなければならないものこそ、真実の力。
あらゆるまやかしを、擬態を、欺瞞を、汚染を、真意を――
ジェノバという種が?栄するために身に着けたあらゆる能力を、ただ一瞥のみで見破ってしまう、最低最悪のアビリティ。
"ソレ"がソロ個人に由来する異能であれば、ここまで警戒しなかった。
異世界の人類種のうち一匹が、出生時に突然変異的に持ち得た能力でしかなかったのなら、奴を殺せば消えると断じることができたからだ。
だが、ソロはただ受け継いだだけ。
真実の力のオリジナルはクリムトという人類種の一個体であり、死に際して譲られたものだと『セフィロス』の記憶に刻まれている。
他者に継承できる代物である以上、ソロを殺したところで力そのものは消えない可能性が高い。
それこそ『僕』が記憶している魔女の力のように、生存中の人類種のみに移動する性質があるかもしれない。
故に、ソロは生かす。
女と戦わせ、その手で殺めさせ、生かしたまま心を折り、新たな器に変える。
奴の精神もろとも、忌々しい真実の力を握り潰す。
誰にも、何にも、未来永劫継承などさせない。
そしてその為に、この女に『僕』という弱者を救わせる。
誰にも冒されず、何にも汚されていない、純白の心で守らせる。
勇者ソロに剣を向け、殺し合い、息絶える、その時まで――
「――だよりに、じでるから」
「まーかせて!」と笑う女を見て、『僕』は本物のアーヴァインと同じように、薄い笑みを形作った。
【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣、チョコボ『ボビィ=コーウェン』
第一行動方針:アーヴァイン(ジェノバ)を保護しつつ仲間と合流する
第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ジェノバ@重度ジェノバ化アーヴァインのすがた
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:本物のアーヴァインに発見されないうちにリュックを信用させ、ソロと殺し合わせ、ソロの心を折る
第二行動方針:ソロに寄生して乗っ取り、真実の力を掌握する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置;バラムガーデン2F・年少クラス教室→移動】
- 190 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/03/06(日) 00:03:40.95 ID:owAA9xcSw
- 投下乙です。
セルフィとユウナの声が一緒ってのはなんとなく知ってたんだけど、
呪詛かけてくる声がセルフィの声と同じだったことをあらためて文字に起こされるとめちゃくちゃきつい。
魔女討伐パーティのビデオ見せるところとか、これ成りすましの別人がやると本人の尊厳を踏みにじってるみたいでめちゃくちゃ嫌悪感ある。
人間のデリケートな感情と思い出を道具に、人間を道具とするために篭絡する行動、神の視点から見るとドン引きの行動ですわ。
ただ、ジェノバ視点ではしっかり筋が通ってるけど、割と会ってはいけない相手だらけ。
意外とカツカツでめっちゃ苦労しそうだけど、この苦労を背負うのも今のままだとリュックになるんだろうなあ。
嫌悪感あるけど彼らの道中は正直なところ面白そうに感じてしまった。
> 人類種の平均値から逸脱した観察力を持っている。
> 突出した警戒心と生存欲求を持つ剣士。
ごめん、笑うわ。
ジェノバから評価されるレベルの警戒心と生存欲求って面白すぎる。
- 191 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/03/06(日) 01:48:28.70 ID:ERg1GBDWg
- 投下乙です!
本物のアーヴァインと似たようなことやってて笑ったけど、思い出を踏みにじって利用するようなやり方で、
セルフィの声をユウナの縁者のリュックに聞かせるのも本当に本当にいやらしい……!!
というかやっぱりパスワード突破できちゃうのか……そしてガーデンスクウェアに書き込んだであろうことが把握されている……
リュックの感情がジェノバを通じて描写されている分、ジェノバの行動方針の悪辣さが際立ってハラハラせざるを得ないし、
現状はジェノバにとって極端に有利な状況じゃないとはいえ、ソロが乗っ取られてしまったときのことを考えると絶望しかない
旅の扉をくぐった時点でソロが単独だっていうのも不安要素だなあ……どうなるんだろう
どうにかなんとか撃退してほしいと思いつつも、ジェノバがどういう風に動くのか楽しみな気持ちもあって……今後とも応援しています!
- 192 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/03/14(月) 10:57:24.21 ID:Ovf1f9iwA
- 投下乙です。
2か月で第一話から最新話まで一気読みしたクチです。
読んでる当初は当たり前のようなズガンとか、一部のマーダー無双に対主催陣営大丈夫かなと思ってましたが、
無事に終盤まで来られたのはひとえに書き手の方々の力だと思います。
特に印象に残ってるのはセフィロスです。
原作未プレイですが、リスペクトを感じられました。
カッパになったところが一番のターニングポイントで、アンジェロやソロと出会ってヒトとしてのセフィロスを
取り戻していく(?)描写が、あり得たかもしれないIFとして描かれていて、とても好きになりました。
今後も応援してます!
- 193 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/03/15(火) 00:10:05.14 ID:u47cWWsbx
- FFDQ3 772話(+ 5) 18/139 (- 0) 12.9
- 194 :過ぎ去りし未来と廻りまわる後悔 1/5:2022/04/11(月) 10:13:04.06 ID:9ouCVQiwc
- 死んだ空気。
そんな言葉が頭に浮かんだのは、ぬめついた石段を駆け下りた先にある光景を覚えているからかもしれない。
肌にまとわりつく湿気すら、何者かの怨念ではないかと思えてくるほどだ。
無論、その程度のことで足を止める気はないが。
この先にある牢獄は、ウルフラマイターの縄張りだ。
人目に付きにくいのは確かだが、ガルバディア製の機材運用という観点においてはあまり適切な空間ではない。
水路が近すぎて湿度が高いし、明かりは天井の採光窓だけ。
普通に考えれば、目当ての部屋である可能性は低いだろう。
最も、アルティミシアの考え方が普通の範疇に収まるかは疑問だし、巡回と鉢合わせることも有り得る。
俺は警戒を怠ることなく長い階段を下り切り、牢を閉ざす分厚い鉄扉に耳を当てた。
物音は――しない。
アリニュメンの駆動音も、トライエッジの機械音声も。
念のため、壁際に身体を隠しながら扉を叩いてみるが、反応なし。
やはり首輪の制御室としても、休憩室等としても使われていないらしい。
だが、敵の気配が無いといっても、"今現在は"という但し書きがつくことは百も承知だ。
(焦らず冷静に、危険を感じたら即離脱……だったか)
授業で習った潜入任務の鉄則を思い返しながら、俺は牢の鍵穴を探す。
アルティミシア城の牢獄は、外で捕らえた罪人を繋ぐ場所ではない。
のこのことやってきた迂闊な侵入者を閉じ込める罠であり、処刑場だ。
だからあらかじめ鍵を開錠しておく必要があり、手持ちの道具やアクセサリパーツを駆使してどうにかこじ開ける気でいた。
――いたのだ、が。
「…………」
まさか鍵を差しっぱなしにしているとは思わなかった。
いや、思い返せば以前も牢獄の中に鍵が置いてあったが。
ウルフラマイターが待ち構えていたことを差し引いても、牢に繋がれたミイラに鍵を持たせていたら閉じ込めた意味がないだろうとは思っていたが。
いくらなんでもセキュリティ意識が低すぎる。
それとも侵入者を絶対に発見して始末する自信に溢れているのか?
アルティミシアならそれも不可能じゃないのかもしれないが、だったらこんな牢獄、そもそも作る意味ないだろ?
……いや、もういい。
どうせここは敵地だ。防護意識がないのは、こっちにとって好都合なだけだ。
俺はさっさと鍵を回収し、そのまま扉を開ける。
やけに疲れた気がして、目を伏せ、息を吐く――次の瞬間、異臭が鼻をついた。
もはや嗅ぎ慣れた、錆びた鉄の臭い。
(……血?)
仮面の奥で眉を潜めながら、俺は素早く周囲を見回す。
記憶と異なる箇所は、すぐに見つかった。
鍵置き場になっていたミイラが無くなっている。
床の一角に何かの液体がたまっている。
そして何より……壁から垂れ下がる手鎖に、記憶にない人影が二つ繋がれている。
- 195 :過ぎ去りし未来と廻りまわる後悔 2/5:2022/04/11(月) 10:15:00.10 ID:9ouCVQiwc
- ごくり、と唾を飲みながら、俺は支給品のランプに火を灯した。
床の液体――乾いていない血だまりを踏まぬよう気を付けながら、そっと壁に近づく。
小さな明かりで照らしてみれば、影の片方は、心臓を剣で串刺しにされた青髪の青年。
そしてもう片方は、顔を焼かれ腹を抉られた、SeeD制服を着た女。
(これは……アルティミシアの夢に出てきた連中、か?)
アルガスが夢のハンディムービーカメラに記録していた光景は、俺も覚えている。
殺し合いの前主催者たる仮面の男と戦い致命傷を負わせるも、先に力尽き息絶えてしまった二人組。
その遺体をわざわざ牢に繋ぎ晒しものにするなど、悪趣味にも程があるが……
アルティミシアならやるだろう。
悪の魔女らしく、という自己満足のために。
あるいは――
(前主催者のための見せしめ……なのかもしれないな)
夢の内容もだが、礼拝堂内で見た棺や、飾られていた仮面のこともある。
アルティミシアが前主催者の男に対して強烈な執着心を抱いていることは間違いない。
だからこそ前主催者を殺めた二人を『罪人』として扱っている――そう考えれば、この光景も理解できなくはなかった。
決して納得したくないが。
(……どうする。
時間は惜しい、が……それでも調べるべきか)
アルガスが盗み見た夢が、全て真実とは限らない。
しかし少なくとも、この二人を殺めたのは前主催者であるはずだ。
そしてアルティミシアの言動を考えれば――
(前主催者は死んでいる……とはいえ、あの魔女なら容易く蘇生できるだろう。
あるいは俺の心からグリーヴァを召喚したように、アルティミシア自身の思い描く最強の存在として召喚するかもしれない。
"魔女には騎士が必要"だからな)
魔女の騎士。
その本当の存在意義を、アルティミシアは知らない。
だからこそ悪しき魔女として、死せる男に騎士の役割を押し付けて、己が傀儡とするはずだ。
これはもう可能性だとか推測だとか、そういう段階の話ではない。
確信だ。
アルティミシアならそうする、という絶対的な確信だ。
故に、数分という貴重な時間を引き換えにしても、調べるだけの価値はある。
正体不明の男がどうやってこの二人を殺めたか――言い換えれば、未知の敵がどのような戦い方をするのか。
それを知ることができれば、前もって対策を立てられる。
(………悪いが、恨むならアルティミシアを恨んでくれ)
胸底から湧き上がる不愉快さを噛みしめつつ、俺はまず男の遺体に手を伸ばした。
年は俺と同じぐらい。青髪にボロ布のような服とマント。
瞳孔の開いた碧眼は虚空を見つめ、血の気はとうに失せ、周囲の石壁のように冷たくなっている、が。
不思議なことに、肌の感触自体は生きているかのように柔らかく、ハリさえある。
(腐敗の兆候はない。血も乾燥していない……)
下半身の鬱血や床の血だまりを鑑みれば、吊り下げられた期間はそれなりに長いはずだ。
しかし、死体そのものはたった今息絶えたとしか思えない。
『主催者の居城では時が流れていないのかもしれない』と、アルガスは危惧していたが――その恐れはきっと正しいのだろう。
(文字通り、永遠の虜囚か……ぞっとしないな。
……ん?)
- 196 :過ぎ去りし未来と廻りまわる後悔 3/5:2022/04/11(月) 10:17:48.15 ID:9ouCVQiwc
- 観察を続けていた俺の眼に、ふと白銀のきらめきが映った。
切り裂かれた服の奥からだ。
目を凝らせば、黄金の装飾も僅かながら覗いている。
(中に鎧を着ているな……このデザイン、ソロの装備によく似ているが……
それに、突き立てられたこの剣も……)
彼の命を奪ったであろう刀身は、胸元から背中まで鎧もろとも貫いて、項垂れた首の代わりに切っ先を天へ向けている。
翼を思わせる優美な形状は、やはりソロが携えている剣によく似ていたが、明確に違う点もある。
束の装飾だ。
ソロの剣は明確に竜を模した、左右非対称のデザインだったが――
目の前にある剣は、金の翼を広げた鳥をモチーフにしている。
それこそ、リュックに渡した剣のように。
(……そういえばどっちも伝説の勇者の剣、だったな。
この男も勇者だとしたら、同じような剣を持っていてもおかしくないか)
アルティミシアのことだ。
悪の魔女らしく、持ち主自身の武器で遺体を傷つけ飾り立てるぐらいのことはするだろう。
それともあるいは――……
(もっと単純に、前主催者の帯剣――という可能性もなくもないな。
勇者と祭り上げられた人間全てがソロ並みのお人よしとは限らないだろう。
だが、どちらにしても……この剣は回収しない方が良さそうだ)
俺だって時と状況は弁える。
こんな目立つ剣を引き抜いて持って行くなど、侵入者がここを通りましたと教えてやるようなものだ。
さらに言えば、あからさまに装備できなさそうな武器を、緊急事態にも関わらず持ち去る奴だと主張するも同然なわけで――
さすがにリスクが大きすぎる。
(せめてドローが使えれば、何か魔法が回収出来たかもしれないが……
無いものねだりをしても仕方がない。
残念だが、ここは情報収集に徹しておこう)
俺はそう結論付けて、女の遺体の方へ近づいた。
青年の遺体に比べてずっと損傷が激しいが、やはり腐り始めているような気配はない。
それでも顔面はほぼ炭化しているといって良い状態で、元の容貌を突き止めることはできそうになかった。
(確か、セルフィに似てはいたが……ヘンリーぐらいの年代の女だったな。
あの夢が正しければ、だが)
ため息をつきたい気分に駆られながらも、服や手足の状態を確認する。
大きく焼け焦げているのは顔と足先だけで、あとは首筋に紐のような火傷痕が残っているだけだ。
(……服が無事ということは、炎じゃないな。
顔を掴まれた状態でサンダガ級の雷撃を打ち込まれた……そして接地していた足先から電流が流れて焦げた、といったところか?
腹部の傷も致命傷に近そうだが――傷の形状から見て、普通の剣によるものではなさそうだ。
少なくとも大きな"かえし"がついた刃物のようだが……)
そこまで考えて、俺は真横に目をやった。
ちょうど条件に当てはまりそうな凶器が、そこにある。
- 197 :過ぎ去りし未来と廻りまわる後悔 4/5:2022/04/11(月) 10:19:12.72 ID:9ouCVQiwc
- (雷撃使い……剣士……
そういえば、確かソロも雷撃魔法が得意と言っていたな。
……前主催者の男、本当に元勇者じゃないだろうな?)
「勇者なんて肩書、バーゲンセールするものじゃないだろ……」
と、半ば無意識にぼやきを口にしながら、俺は視線を元に戻した。
調べておきたいところが、まだ一か所残っている。
(首の火傷……多分、チェーンネックレスの痕だ。
もしかしたらドッグタグを引っかけていたかもしれない)
この遺体は『誰』なのか。
もっと遠い未来でSeeDになったセルフィの縁者なのか、似ているだけの全くの別人なのか。
あるいは……考えたくはないが、未来のセルフィ本人なのか。
彼女に会いたいがあまり大暴走した大馬鹿野郎のことを考えれば、知っておかねばならないことだ。
俺は覚悟を決めて襟の中に手を入れ、首の裏を探る。
するとすぐに細い鎖の感触が指先に触れた。
そのまま手探りで鎖を外し、服の中から引き出す。
黒く焼けたネックレスに繋がれていたのは、やはり煤けたロケットと、変色した二枚の金属板――ドッグタグ。
(………)
知らない名であることを祈りながら、俺ははタグの表面を指でなぞる。
楕円形の金属に刻印されていたのは、L、a、g、u、n、a――
"ラグナ=レウァール"。
「……え?」
頭いっぱいに宇宙空間が広がるのを感じながら、俺はロケットを開けた。
満面の笑顔に年甲斐のないダブルピースを翳しているのは、やはりラグナだ。
記憶よりも――三日前、マッシュたちと一緒に埋葬した時よりも、ずっとずっと白髪も皺も増えていたが。
(…………なんだよ、これ)
眩暈がする。
意味がわからない。
なんでこんなものがここにある?
ラグナのドッグタグは、今もまだラグナの首にかかっているはずだ。
本来の用途を考えれば片方だけでも持ち帰るべきだった金属板は、だけど、二枚とも持ち主の元に置いてきてしまった。
だからこのドッグタグはラグナのものではないし、そもそも死んだラグナよりも年を重ねたラグナの写真など存在するわけがない。
それこそラグナが殺し合いに巻き込まれず、生き続けた未来がない限り――
(――……ああ、いや、そうか。
"そんな未来"からやってきた……そういうことか?)
並行世界。
大元は同じでも、どこかで誰かが違う選択肢を選んで、その結果全く別の未来に辿り着いた世界。
俺にとっては映画や小説に出てくる概念でしかなかったが、実際に存在するという話はプサンやザンデから聞いていた。
この殺し合いにおいて『先祖』が死んでも『子孫』が消滅しない理由として、だが――
(俺達はアルティミシアが開いた殺し合いに巻き込まれた。
それとは別に、アルティミシア以前の――……前主催者よりもさらに前の、何者かが開いた殺し合いがあった。
その殺し合いにはラグナが巻き込まれず、セルフィが巻き込まれて……別の未来を歩んで、こうなった。
そういうこと……なのか?)
- 198 :過ぎ去りし未来と廻りまわる後悔 5/5:2022/04/11(月) 10:20:34.71 ID:9ouCVQiwc
- 問いかけても答えはない。
ただ、俺の知るセルフィであれば――これから死地に向かうとなれば、憧れのラグナにお守りの一つや二つ、ねだりそうに思えた。
そして俺の知るラグナであれば、『ちゃんと返しに来てくれよ』と笑いながらドッグタグを渡しそうに思えた。
写真だってサービスで撮らせるだろう。
さすがにダブルピースはどうかと思うが、それさえラグナらしいといえばラグナらしい。
(生きていたら……あんたはこんな顔になってたのか?)
写真の中の『ラグナ』と、エーコと共に死んでしまったラグナは、別人だ。
ピクニックセットを広げて呑気なことを喋っていた俺の父親は、もう二度と笑わないし、年を取ることもない。
ドッグタグだって、別物だ。
俺が置いてきてしまったドッグタグは、焦げてなんていなかった。
ただ、血がついていただけだ。
ラグナのものかエーコのものか、あるいは襲撃者の返り血か、誰のものかもわからない血がついていて。
それを持ち帰ってエルオーネに渡す自分の姿と、持ち帰れないままどこかでラグナと同じように死ぬ自分の姿、どちらも想像してしまって。
何よりラグナが持つべきドッグタグを自分が持つという事実自体が、どうしようもなく認めがたくて。
マッシュもアイラも、何も知らない二人が何も言わなかったのを良いことに、持ち主と一緒に土の中へ埋めて――
――……だから、別人だ。
別の未来だ。
別のドッグタグで、別の写真だ。
頭ではわかっている。
全部、全部わかっている。
けれど、なのに、どうして。
"そうピリピリすんなよ。
よく言うだろ。急ぐと計算間違えるとか腹が空いたら勉強できないとか"
"どんな最悪の時でも、こうやってゆっくりすることは必要だと思うぜ。
最良の選択ってやつをするためにはな"
明るい森の中で聞いた声が、聞こえた気がして。
暗い森の中に置いてきてしまったラグナの声が、聞こえた気がして。
そして何より、始めてエスタで会った時の、悪げなく無邪気に笑ったラグナの声が、聞こえた気がして――
"お前、ほんと思い詰めたカオしてんなぁ"
「………誰のせいだと思ってるんだ!」
俺は思わずドッグタグを握り締めた。
叫んでしまったことに気付いたのは、十数秒経ってからだった。
【スコール@変装中 (首輪解除)
所持品:(E)ライオンハート、(E)貴族の服&仮面、エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×)
吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、リノアのネックレス、ティナの魔石(崩壊寸前)、
ファイアビュート、写真、Gメガポーション×5、メガポーション×10、牢獄の鍵、『ラグナ』のロケット付きドッグタグ
第一行動方針:首輪の制御装置がある部屋を突き止める
基本行動方針:ゲームを止める】
※ガルガンチュア、コキュートス、ドルメンの封印が解除済ですが、状態表には反映していません。
アイテム、魔石召喚(G.F.含む)解除済みです。
【現在位置:アルティミシアの城・牢獄】
- 199 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/04/12(火) 20:04:03.64 ID:ccoHQ2ApD
- 投下乙です。
どことなく脱出系のホラーゲームみたいだ。
血と怨念で彩られた地下室、主催者に楯突いた罪人を永遠に幽閉する牢獄、そんな感じのダークさが文章のそこかしこから漂ってくるし、
かつスコールの遺体調査も推理もなんか堂に入ってるので。
遺体の状況も牢獄の雰囲気も綿密に描写されてて、その中でスコールが動いて考えてるシーンがありありと浮かんでくるんですわ。
そしてラグナのドッグタグは不意打ちくらった気分になった。
何の覚悟もないままにこれが出てくると本当に衝撃を受けるよなあ。
一日目のラグナのセリフを使ってるのに、そこにいるラグナと会話してるように感じるのは技巧だと思う。
前主催者はかなり謎な存在だったんだけど、ここに来て一気に正体がクリアになってきたなあ。
それと同時に最終決戦までの布石も色々張られてきて、続きが楽しみです。
- 200 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/04/22(金) 03:21:42.87 ID:DugLkqpuz
- 遅れ馳せながら投下乙です!!!!
あの愉快なウルフラマイターが待ち構えていた牢獄に、前主催者を打ち倒した二人の遺体が吊られてる光景を想像すると雰囲気ありすぎてゾッとする……
淡々とやるべき事を行なって考察を重ねるスコールの思考が、ドッグタグの名前を見た瞬間からどんどん乱れて動揺した語り口になっていくのがとても苦しい……
今元の世界でちゃんと生きているはずの仲間の死に顔と、
もう見ることの叶わない筈の父親の歳を取った顔を見るのは辛すぎるなあ……
1日目の回想の描写もあって、スコールがこのロワで積み重ねてきた選択がずっしりと重く感じられた。
今のところアルティミシア城攻略は安定しているイメージだったけど、スコールの心情面がすごく心配になってきた……どうにか無事に任務完了できるといいなあ。
とにかく続きが楽しみです! 応援しています!
- 201 :Emotional overload 1/9:2022/04/24(日) 22:39:34.11 ID:GP2PpgYsa
- 旅の扉を潜るのは初めてではない。
広い世界をめぐるにあたって、旅の扉を利用したことはあった。
殺し合いに巻き込まれてからは、旅をしていたころをはるかにしのぐ頻度で利用している。
けれど、これほど……これほどまでに、その旅路を長く感じたことがあっただろうか。
セフィロスの心中は人間への憎しみに満ちていた。
個人の問題ではなく、より大きな括り――たとえば人間と魔族のような、より包括した括りで相容れない存在なのだということは察していた。
セフィロス本人の立ち振る舞いも、決して好ましいとは言えない。
立ちはだかる者も逃げ出す者も、等しく戦いに巻き込む姿勢は、むしろソロが率先して打ち砕かなくてはならないものだ。
けれども、彼の中に確固たる気高さと誇りが残っていることもまた、ソロは感じ取っていた。
決して相容れないはずの存在と、――魔族の王ピサロのように、共に手を取り合える可能性を視た。
憎悪が幾重に重なっていようとも、ひとつひとつ解きほぐしていくことができるはずだ。
たとえすべてを分かり合うことはできなくても、人間と魔族のように、隣人として存在することはできるはずだ。
そんな未来をつかみ取れるのだと、そう信じていた。
「あ、ああああ、うわああああああああっっっっ!」
心の奥から漏れ出すかのような後悔と嘆きは、誰にも伝わることはなく、ただただ異空間へと霧散していく。
もう戻ることはできないのだ。
同じ道を歩む可能性は潰えたのだ。
セフィロスは闇の世界に骨をうずめるのだろう。
命を賭して為すべき何かを為すのだろう。
それが彼が選んだ道であり、最期まで手放さなかった一片の誇りに連なるものなのだと理解してしまったのだ。
- 202 :Emotional overload 2/9:2022/04/24(日) 22:41:07.90 ID:GP2PpgYsa
- 「ぁぁぁああああっ、うぐぅっ!!」
ソロはいつの間にか青い旅路をくぐり抜けて、薄暗い地下室のような場所に投げ出されていた。
床……ではない、弾性に富む鉄板のようなものに、受け身もとらないまま背中をしたたかに打ち付ける。
わずかに肺に残っていた空気はすべて排出し、赤ん坊のように背中を丸めて横向きに丸まる。
少し遅れて、セフィロスから半ば強引に託された村正が、すぐそばの石床にぎぃんと突き立った。
「う、ううう……」
普段のソロならば墜落と形容できるような無様な着地はしなかったし、
仮にしてしまったとしても、すぐに体勢を立て直していただろう。
しかし今、ソロは力無く倒れ込んだまま動かない。
白い光を放ってあたりを照らしているランプのような筒型の照明、それを焦点も合わせず漫然と網膜に映すのみだった。
そのままたっぷり30秒ほど、時が止まったかのようにソロは静止していた。
生きている以上、無意識のうちに肉体への負担を避けるのは当然のことだ。
暗い暗い闇の世界から一転して、いきなり強い白色光を目に入れれば、それは強い負担をかけてしまう、
瞳孔を絞り切れていないがために、大量の光に目がくらみ、顔を背けた。
視線の先にあるそれが目に入った。
「あ……」
床にまっすぐに突き立った村正。
持ち主を失った後でも、村正は正しく武器として――生物を斬り捨てるための道具として、堂々たる風格を漂わせている。
悍ましくも美しい刀身は、実際に幾人もの血を吸ってきたのだろう。
安易に触れれば、その指ごと失いかねない危険な輝きだ。
与えられた使命のままに、決して引かず、折れず、曲がらないその様は、ソロともどこか通ずるものはあった。
そして、己の在り方を決して曲げず、孤高のままに戦い抜いたセフィロスの姿ともリンクする。
ここで膝を折るのか?
この程度で諦めるのが天空の勇者なのか?
自分の思い通りにならなかっただけで、すべてを投げ出せるほどに安い称号なのか?
そんな言外の問い掛けを読み取り、まだ折れるわけにはいかないと、ソロは再び勇者として立ち上がる――そのはずだった。
- 203 :Emotional overload 3/9:2022/04/24(日) 22:43:18.20 ID:GP2PpgYsa
- 潰走に等しい無様を晒して、独りで未知の世界に投げ出されて、彼の傍には誰もいない。
彼を勇者足らしめる仲間も、好敵手も、そして巨悪もそこにはいない。
今このときだけは、ソロは勇者ではなく、ただ一人の青年だ。
今、隣に一人でもいればどうだっただろうか。
――おいおい、ジェノバだかジェリーマンだか知らないけど、人間の声マネして嬉しがってるだけのエビルプラントもどきなんか気にするなって。ガンガンいこうぜ!
――いや、いのちだいじにのほうがよかったか? いやー、現場の作戦は仲間とか家臣に任せてたからさ。
ヘンリーがいれば、おどけた言動で張り詰めたソロの気持ちを紛らわせ、かつソロの庇護欲を呼び起こしていただろう。
――どこまで人をコケにしやがれば気が済むんだ、あのクソモンスターはよ!
――絶対に許さねえ! 何が何でも探し出して、その首刎ね飛ばしてやらあ!
サイファーがいれば、ソロの分まで憤りを吐き出し吼え立て、それに反比例するようにソロの気持ちが凪いでいただろう。
――ソロ、お前ともあろう者があのような輩相手に膝を折るつもりではあるまいな?
――何をすべきかは理解しているのだろう。あまり私を失望させるな。
ピサロがいれば、好敵手に無様な姿は見せまいという一心で、一時は取り乱そうともすぐに平静を取り戻しただろう。
――ヒッヒッヒッ、無様だねえ、ソロ。いい子ぶりやがったお前のそのツラが歪む様を見ると、私の心は四海にあまねく晴れ渡るかのようだ。
――ぼくちんを散々バカにしてきた報いを今こそ思い知ってもらいましょう!
ケフカと出くわせば、こんな巨悪を前にしてふさぎ込んでいる場合じゃないと、正義の心に炎を灯し、立ち上がっていただろう。
――。
――。
ソロのまわりには誰もいない。
誰もいない以上、語り掛けてくる声などないのは自明のことだ。
けれども、ソロの心に声が響き渡る。
- 204 :Emotional overload 4/9:2022/04/24(日) 22:45:08.06 ID:GP2PpgYsa
- ――殺してもヘーキな相手を助けて、死なせたくない子を何度も何度も見殺しにしなきゃいけないなんて、勇者って大変なんだね〜。
悪夢のような体験が記憶という媒体に乗り、追想という形で再びソロを蝕む。
――見殺しにしたあと、蘇らせてもくれなかったんだもの。もう一度殺すぐらい、どうってことないわよね?
ジェノバによってソロの意識に刻まれた傷が再生され、エコーチェンバー現象を起こすかのように彼の意識下で反響する。
――正義を騙る勇者の正体は復讐に狂った一人の男だったと、思うさま証明するがいい。
その反響によって勇者という鎧が削り取られ、剥き出しとなった感情は溢れてきてソロ自身で御しきれない。
アーヴァインの声で、シンシアの声で、そしてピサロの声で、未だに脳裏に呪いのように響き渡るジェノバの嘲笑。
さらに今のソロにとって、目の前に床に突き立った村正は、持ち主の生き様を連想させるようなものではなかった。
そこに突き立っていたのは、セフィロスの墓標でしかなく、悔恨の象徴でしかなかった。
昏い感情が独り投げ出されたソロをじわじわと蝕んでいく。
けれども、あくまで追想は追想だ。
やがて終わりが訪れる。
――違う! そんな輩は放っておけ!!
――貴様一人で次の世界に行ってヘンリー達と合流しろ!!
(あ……。そうだ、僕がしっかりしないと……)
――お前は、先に進め。
「そうだ、僕がみんなを守らないと! アイツの手から、守らないと!」
闇の世界に残った者たちや、先行した仲間たちのことを思い出し、ようやく身体を起こす。
ベッドの代わりに横たわっていた鉄板……車体のボンネットから飛び降り、アスファルトの地面に降り立つ。
この三日間、苦楽……いや、あらゆる苦痛を共に乗り越えてきた仲間たちはこの世界に確かにいる。
それがソロが再起する原動力になり、しかし同時に、ソロの脳裏を悍ましい未来予想が駆け抜けていく。
- 205 :Emotional overload 5/9:2022/04/24(日) 22:46:24.81 ID:GP2PpgYsa
- ヘンリーにはデールという仲のいい弟がいた。
ヘンリーはデールの最期に立ち会い、絶対に死ねなくなったと静かにソロに呟いたことがある。
その後も何度も絶体絶命の危機に瀕しながらもヘンリーは生き延びてきたが、その誓約の影響は決して小さくはなかっただろう。
ジェノバは、デールに化け、マリアに化け、コリンズに化け、そしてソロに化け、ヘンリーの決意も誓約も無惨に踏みにじるだろう。
アーヴァインには、とても大切な友人がいると聞いている。
彼が殺し合いに乗ることを決意した理由の一端だと聞いているが、実際に何人も殺害した結果、アーヴァインは心身ともに大きな傷を負ったと知っている。
ジェノバは、その友人やスコール、サイファーを真似て身勝手な言葉を語り、肉体精神を問わずアーヴァインの傷を抉り出すだろう。
バッツはいつもお気楽でご機嫌なように見えるが、レナの死を目にしたとき、彼は命すら置き去りにして呆けていた。
怨恨などとは無縁のように振る舞うが、けれども仲間がアーヴァインによって殺されているのだ。
彼の後を引かない感情の裏には、どれほどの葛藤があったのかは想像もできない。
ジェノバは、レナを騙り、他の仲間たちを騙り、アーヴァインの姿を騙り、バッツの怨恨や後悔を呼び起こそうとするだろう。
三人だけではない。
ラムザも、サイファーたちも、そしてセージにだって、大切な人間や信念の根本となった出来事、そして心の傷はあるはずだ。
それこそサイファーにはスコールがいるし、セージにはタバサがいた。
ラムザだって仲のいい妹がいると耳にはさんだ。
ケフカを除く全員に、その人生を為す根幹があるはずだ。
それがある限り、ジェノバの毒牙からは逃れられない。
あの孤高を貫き、完全無欠に思えたセフィロスも、
ごく一部を例外とすれば冷静極まりないピサロですら、ジェノバの前では大きく取り乱したのだから。
「い、急がなきゃ! はやく、みんなと合流しなきゃ!」
突き刺さった村正を抜き去り、ソロが動き出す。
この程度の絶望で、ソロが【闇】に堕ちることはないし、復讐に囚われることもない。
ここで勇者としての矜持も失って堕ちてしまうようなら、ピサロを救うような行動もとらなかったし、
そもそも旅立った直後に裏切りの洞くつで心を壊され、独り屍を晒していただろう。
けれども、しかし、万全とは程遠い。
体力が足りない。冷静さが足りない。想像力が足りない。危機感が足りない。
何もかもが足りないまま、ソロは地下室をかけめぐる。
- 206 :Emotional overload 6/9:2022/04/24(日) 22:48:37.30 ID:GP2PpgYsa
- かなり広い地下室だ。
一定の間隔をおいてランプが配置されており、その傍には鉄でできた箱のようなものがいくつも配置されている。
その箱は白、赤、黄、黒と様々な色をしており、形もばらばらで、だがいずれも黒い車輪のようなもので支えられている。
というより、実際に車輪なのだろう。
黒い床には白い模様が書かれており、これも意味はあるのだろうが、今考察する必要はまったくない。
自分のいた世界よりも文明の進んだ世界、その幌馬車の車部分の保管倉庫。それ以上の情報は要らない。
それよりも仲間の安否だ。
「誰か!? 誰か、いませんか!?」
その姿は、バトルロワイアルを四日目まで生き抜いたにしてはあまりにもお粗末だと言わざるを得ないだろう。
ケフカもジェノバもまだこの世界には降り立っていない時刻だが、それはたまたまに過ぎない。
「ヘンリーさん!? バッツさん!? 聞こえていたら、返事をしてください!」
ソロは声を張り上げて仲間の名を呼ぶ。
その姿は一種の狂乱と呼ぶべきものだった。
声をケフカに聞かれてしまったらどうなるだろう?
ジェノバが先にヘンリーたちを篭絡していたらどうすればいいだろう?
そのような視点がすっぽり抜け落ちていることに気付いていない。
セフィロスを全力で追跡し、交戦し、ジェノバに渾身のギガデインを放った。それがほんの十数分前だ。
ろくに休むことなく、地下室をかけずりまわり、肉体をより酷使したことで、精神力も体力もより擦り減っていく。
地上に出ると思われる坂道は大きな鉄のシャッターで閉じられていたが、
部屋の角、柱の向こう、車体の影、探索場所はいくらでもある。
あらゆる場所に人影がないか、動くものがないか必死で見渡す。
(いない、いない!!
こっちにも、いない!!)
そうやって駆けずり回って数分だろうか。
じくじくとした胸の痛みや、めまいなど、息切れに伴う症状を自覚したころに、ひときわ柔らかい光を放つ部屋を見つけた。
粘ついてきた口腔を水で潤しながら、扉を開けてその先の廊下……バラムガーデンの本棟への廊下を走り抜けていく。
- 207 :Emotional overload 7/9:2022/04/24(日) 23:01:07.60 ID:GP2PpgYsa
- バラムガーデン本棟。
生徒の自主性を重んじる比較的自由な校風を掲げている一方で、世界に名だたるSeedを輩出するガーデン、その筆頭。
教育機関として充実した機能で生徒たちをサポートする一方で、その政府機関をも凌ぐ施設の充実ぶりと豪華さは訪れる者に財力を誇示しているかのようだ。
建造物はそのオーナーの性格を反映するものだが、まさに学園長とマスターの指針の両方を反映し、融合させた建造物といえよう。
ソロとて、地下室――駐車場を探索していたときから文明のレベルの高さには薄々気付いてはいた。
だが、ソロの世界とは隔絶したレベルの巨大建造物を目にすれば、やはり息を呑まざるを得ない。
呆けずに済んだのは、スコールの夢の中で似たような文明……というより、まさにこのガーデンの一部を先行体験していたからにほかならない。
まず目を引くのは、中央の吹き抜けを貫く巨大な柱だ。
一体何を支えているのだろうと柱を追って顔を上へと向ければ、天窓を通して巨大なリングが一定の速度をもってくるりくるりと回転しているのが見える。
他方、周囲に目をやれば、膨大な水を潤沢に湛えたホールは神殿と呼んでも差し支えなく、
植え込みや噴水等のインテリアにしても、高い職人技術で組み上げられ、一流のデザイナーによって配置されたものだと一目でわかる。
剪定が行き届いているのをみるに、メンテナンスにも決して手を抜いていないようだ。
資材の確保から実際の建築の手配まで、どれほどの財力が必要だったのか、ソロでは皆目見当もつかない。
別の棟に続くと思われる廊下が確認できるだけで6つ、それに加えて二階もあるようだ。
魔王の居城であるデスパレスやデスキャッスルすら凌ぐその広さ。
果たしてジェノバより先に仲間を探し出すことができるのかという不安がよぎるのは当然のことだろう。
(いや、気圧されてる場合じゃないだろうっ!)
気持ちを奮わせ、活を入れ直す。
本棟に来ても行動方針は変えない。
「誰か、誰かいませんか!?」
エントランスで声を張り上げるも、何の反応もない。
たっぷり一分ほどまわりの様子に気を配るが、奇妙な魚を模した彫像から吐き出される水がどぼどぼと着水する音が響くだけだ。
ちょうどバッツたちは食堂で朝食を取り、
ヘンリーは保健室でアーヴァインの治療をおこない、
リノアとアンジェロは慣れない動きで訓練施設を歩き回り、
ジェノバやリュックは防音性に優れた大ホールに降り立ったばかり。
サイファーたちに至っては、まだこの世界に降り立ってもいない時刻。
エントランスにはソロしかいないのだ。
(はやく合流しないと!)
誰も近くにいないと判断するや、ソロは左隣の廊下を駆け抜け、その先の別棟へと進む。
駐車場やエントランスとは打って変って、何か出そうな不吉な感じのする廊下だ。
その雰囲気は、それまで声を張り上げて叫んでいたソロの警戒すら呼び起こすものだった。
だが、ソロがそう感じるのであれば、ヘンリーやアーヴァインだって不安に駆られているはずだ。
マイナスの感情を振るい落とし、より速度をあげて進んでいく。
- 208 :Emotional overload 8/9:2022/04/24(日) 23:03:30.56 ID:GP2PpgYsa
- 廊下を抜けた先は巨大な植物の生い茂る空間だった。
途中の案内板に訓練施設とあったため、森での戦闘や野営の訓練場なのだろうと推測はできる。
仲間に呼びかけようとするが、その前に耳が異質な音を捉えた。
訓練施設のどこかを流れる水の音にかき消されそうな小さな音だが、耳を澄ませば確かに草や金属製の床を踏みつける音が聞こえる。
すぐ近くの金属製の扉、その向こうを誰かが歩いているのだ。
逸る気持ちのままに歩を進め、金属の扉を開けてその音の主と対面する。
そして。
(えっ?)
目の前の人物に、頭の対処が追い付かない。
想像していた仲間たちの姿じゃない。さりとて、ケフカやジェノバでもなく、かといって昨夜見たような亡霊でもない。
青いカジュアルな服を着た、黒髪の女性だ。
なぜか見覚えがあるが、その理由も思い出せないし、そもそも彼女がこんなところにいる理由も分からない。
"おハロー"
ソロが次のアクションに踏み出せないまま固まっていたところ、女性の側が話しかけてくる。
おハローとはなんだ?
上半身を5度ほど傾けて、手のひらを軽く正面に向けて、斜め下からのぞき込むそのポーズはなんだ?
"う〜ん、やっぱり聞こえてないかな"
混乱、そしてどこか気まずいままに視線を下に向けると、もう一頭いたことにはじめて気づいた。
気配がほとんどないので気づくのが遅れた。
セフィロスに持ち去られ、ヘンリーによって蘇らされた一頭、アンジェロだ。
生き返ったことは分かっていたが、それでも実際に動いているのを見ると面食らう。
というより、真実の眼に女性が見えるということは、おそらく彼女がアンジェロだということで。
「え、ええっ????」
"あれっ、やっぱり聞こえてるんじゃないの?
……もういっぺん、おハロー?"
(えっ、いや、あの……)
たった数十分、それなのに理解の許容量を超えてくる出来事があまりに多くて。
脳を伝わる電気信号ももはやオーバーヒート寸前で、それでもひねり出した結論は。
「お、おハロー??」
爽やかな朝、緑あふれる校内に、ごきげんようと朝の挨拶が響き渡った。
- 209 :Emotional overload 9/9:2022/04/24(日) 23:04:15.94 ID:GP2PpgYsa
- 【ソロ(MP0、真実の力を継承)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、
ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション、村正
第一行動方針:リノアとコミュニケーションをとる
第ニ行動方針:ジェノバの魔の手から仲間を守る
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【現在位置:次フィールドへ】
【アンジェロ(リノア) 所持品:風のローブ
第一行動方針:ソロとコミュニケーションをとる
第二行動方針:サイファー、アーヴァインと合流
第三行動方針;アンジェロの心を蘇らせる手段を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒し、スコールと再会する】
【現在位置:バラムガーデン・訓練施設】
- 210 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/04/25(月) 23:23:52.09 ID:tuhgVjQXI
- 投下乙です!
ソロ大丈夫かな、ってハラハラしながら読んでたけど
ピサロとセフィロスの言葉を思い出して立ち上がる姿や、自分の身ではなくどこまでも仲間のことを心配するあたり
本当に根っからのぐう聖お人よし勇者なんだなと改めて認識させられたなぁ。
狙われてるのがソロ本人と気づいていないのは不安要素ではあるけど、
リノアンジェロと合流できたのは間違いなくプラスだし、
ヘンリー達も訓練施設に向かってるので、何とか事態好転に向かうといいなぁ。
あととりあえずおハローを試すリノアがかわいい。これはヒロインの風格ですわ
- 211 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/05/15(日) 17:00:01.21 ID:KYYrNLEzO
- 投下乙です!
バラムガーデンの駐車場で一人嗚咽するソロが辛すぎて見ていられない……
次々に傍に居ない仲間達の顔が浮かぶのは、今のソロの孤独さを強調するけど、
それでも彼が今まで歩んできた道のりを、ソロの性根の優しさを示すようで、苦しいけどいい描写だなあ……
警戒も忘れて仲間を探して叫ぶ姿が必死すぎるし、文字通り勇者でも何でもないただの青年の素を感じさせて痛々しい……
その分、アンジェロ(リノア)との出会いはまるで1日目のように朗らかな雰囲気さえ感じさせてすごく安心した……おハロー和むわあ
アンジェロ(リノア)にとってもソロにとっても、互いにかなり前向きな展開を思える合流で、どう動いていくのか楽しみです!
今後とも応援しています!
- 212 :声なき激情を抱いたままに 1/6:2022/06/19(日) 18:01:51.90 ID:qOIq3Z4cy
- 旅の扉を潜るのはこれで四度目だ。
昨日はにわか雨にでも降られたかのような荒れ具合だったが、
今朝は打って変って、雲一つなく晴れ渡った空のような穏やかさを見せてる。
――だが、俺の心は穏やかさとは程遠い。
(アルティミシアにチクられるのが怖くて逃げ回ってました、だぁ?
ざけんなよ……! んなダセェ真似ができっかよ!)
怒りの感情は六秒で収まるとか、誰がほざいたんだ? ああ?
怒りを抑えるべきだってことくらい分かってらあ。
だがな、今後の展開をシミュレートすればするほど、怒りの感情がマグマみてぇに次から次へと噴き出してくんだよ。
セフィロスに――正直認めたかねえがボコボコにされた。
ソロたちとの戦いには――別に悪い結果じゃなかったとはいえ、俺は間に合わなかった。
散々醜態をさらした俺に、雪辱を果たせと言われてるかのように降って湧いたチャンス。
見た目は趣味じゃねえとはいえ、ピサロから譲り受けた新しいチカラはそれほどのものだ。
それに、一応は人間代表として激励を受けてる。
クソモンスターは、よりにもよってアーヴァインに化けて俺たちをおちょくり、リュックを連れ去った。
偶然にも得られた強力なチカラに強い因縁、ヤツをこの手でぶった斬れと言わんばかりの状況。
ここで結果を出せねえならSeed以前にヒトとして終わってんだろ。
なのにだ、ここまで俺の士気を高めておいて、これほどまでにお膳立てしておいて、最前線から外すたぁどういうこった?
俺が出るとアルティミシアにチクられて困るんで大人しくしておいてくださいだと?
何様のつもりだ?
盛大に梯子を外しやがって……運命の女神様とやらがいるなら、今すぐ釈明してもらいたいもんだなオイ?
ジェノバをこの手で叩き斬れねえのが気に入らねえ。
致命的な相性の悪さを、よりにもよってケフカに指摘されたのも気に入らねえ。
何より、アルティミシアから尻尾を撒いて逃げ回る構図が気に入らねえ。
アレか? 結局オレ様の愛用のコートが黒くなっただけってか?
どこまでもふざけやがって!!
- 213 :声なき激情を抱いたままに 2/6:2022/06/19(日) 18:02:53.85 ID:qOIq3Z4cy
- ここがガーデンなら、スコールを相手に模擬戦でもして憂さを発散したんだろうが、
そもそもここはガーデンじゃねえし、今模擬戦なんてやるヒマもなければ、そんな相手もいねえ。
ぼこぼこと湧き上がって溜まっていくこの鬱憤にむりやり蓋をして、ジェノバへの対策を立てるしかねえ。
「次の世界のようじゃな」
考えを整理している間に、次の世界に降り立ったようだ。
今までの三つの世界とは打って変って、巨大な機械やガラスの窓、鉄でできた足場に囲まれた空間。
文明という意味では俺たちの世界と同程度か、それともそれ以上か。
「あーヤダヤダ、ただでさえドブ臭いニオイが染みついてるというのに、油臭さまでミックスされるなんてシンジラレナーイ!」
「何かの工場か? でも、稼働中の工場にしては、妙に暗いなあ」
いや、待て。この施設、見覚えがあるぞ。
ガルバディアガーデンを動かすために進入した場所が、確かこんな構造だった。
まさか……。
(〜〜〜!!!!)
地図に描かれているのは、三段重ねのケーキみてえな特徴的な形の建物。
ヘタすりゃスコールの顔より見たでけぇ天輪。
間違いねえ。ここは……。
「サイファー? どうかしたのかね?」
「おー怖い怖い、そんなにぼくちんが信用できないのかな? ヒャヒャヒャ……」
無意識に、ぐしゃりと地図を握りつぶしていたらしい。
つくづく思うんだが、主催のクソ共は俺を標的に嫌がらせをかけてんじゃねえか?
「やりきれない気持ちは分かるけどさ、カッカしてもどうしようもないぞ……」
ケフカの戯言は聞き流すとして、ロックもギードも俺を心配して声をかけてくるが……。
そうじゃねえ。ゼロとは言わねえが、そうじゃねえんだ。
不機嫌を隠しきれないまま、俺は喉を震わせながらクソデカいため息をつく。
「ああ、そうだな。ジェノバがあまりにクソすぎて態度に出ちまったらしい。すぐ戻る」
「すぐ戻るってお前……」
「大丈夫だっつってんだろうが! G.F.もあるんだ、不意打ちは喰らわねえよ」
- 214 :声なき激情を抱いたままに 3/6:2022/06/19(日) 18:03:33.95 ID:qOIq3Z4cy
- ギードやケフカからはやや離れた場所まで足を運ぶ。
とはいっても、向こうから見えないところまで足を運んでるわけじゃねえ。
『けいかい』はあるから、先手は取られない。
万が一誰かが来たなら、即座にギードたちの合流して対処する。
ジェノバがアーヴァインを演じてようが、セージの野郎がままごとに夢中になってようが、俺一人では対処せずに引き返すくらいの分別は残してるつもりだ。
柱に手を当てて、大きく深呼吸して、気持ちを落ち着ける。
近くに誰もいないことが分かってりゃ、そこらの鉄柱でも殴りつけるか、床の鉄板を思い切り踏みつけてたかもしれねえが。
荒い息を吐きながら、柱を握りつぶさんばかりに手にチカラを込め、頭が冷えるのを待つだけだ。
隠れ場所なんていくらでもある構造な上に、ジェノバのクソ野郎がひそひ草を持ち去ってる。
ヘタに音を拾われて俺たちの居場所がバレるリスクを考えれば、迂闊に大きな音すら出せない。
「おい、サイファー!」
ロックが俺を追ってきた。
大丈夫だっつってんのに来たのか。
確かに、いつぞやの放送では頭冷やしにノコノコ一人で出歩いて、見事に俺一人別の場所に飛ばされたわけだがよ。
一人で出歩いて、ロックと尾行してきたイカレ野郎を拾ったこともあったな。
さすがに二度三度も同じ間違いを繰り返すわけねえだろ!
「静かにしろ……!
ジェノバのやつはひそひ草を持ち去ってるはずだ。
迂闊にデケェ声張り上げるのはご法度だから、そこ気を付けとけ」
ロックに当たるのはとばっちりだってのは分かってんよ。
単に俺が激情を制御しきれないってだけだ。
ああ、クソ……!
仮にスコールならどうするんだろうな?
アイツならこんなときでも私情を抑え込んでお手本通りの行動を取れるのか?
いや、アイツはアイツで限界を超えるといきなり叫び出すんだったな。
お前を手本にしようとした俺様がバカだったよ。とばっちり? 知るか!
俺様は今機嫌が悪いんだ!
「それで、なんだよ、ロック?」
ぐしゃぐしゃと頭を掻き、不機嫌さを隠しきれないながらも努めて冷静な声で問い返す。
「いや……でかい声出したのは悪かった。けど、なんかいいアイデアがあるんだろ?
ケフカはギードに見張ってもらってるから、話してくれないか?」
「……は?」
お前は何を言ってるんだ?
「……ん? ケフカに聞かれたくない話があるから離れたわけじゃないのか?
イラつくのは分かるけどさ、それ以外にもなんか考えがあったんじゃねえの?」
「高い評価ありがとよ。あのなあ、そんなすぐにいい考えが思いつくワケねえだろ……」
「敵の魔法を全部無効化したりとか、そういうのできるようになったワケじゃなくて?」
「どっからそんな新アビリティが湧き出てきたんだ、テメェ」
「いや、さっきライブラしたときに、ジョブだっけ? それっぽいものが見えてたからさ。
なんだっけ? 戦士……? 名前は覚えてないけど、ルーンナイトみたいなそれっぽいジョブだったはずだ」
「だとしても、ねえよ。だいたい、敵の魔法を無効化ってどんだけ反則なんだよ?」
なんでそんなにキョトンとしてんだよ!
いや、ソロはできるのか。
けどな、言葉は魔法じゃねえ。それこそ、口そのものを開けなくするような変な魔法でもなけりゃ……
愚痴にも等しい考えが脳裏をめぐり、そこでふと思い出す。
その変な魔法、俺は知っている。
- 215 :声なき激情を抱いたままに 4/6:2022/06/19(日) 18:05:21.75 ID:qOIq3Z4cy
- ――ロザリーーーーー!!! 無事かッ!!!?? 居るなら返事をしろッ!!!
――サ、サイファーさん!?
――サイファー? ……えっと、カナーンで、一緒にいたっていう?
――お前、確かザックスだったな。
――ああ、あの時はまともな自己紹介もできなくて悪かったな。
いや、違う。もっと前、もっと前の記憶だ。
――彼は先ほどの戦いの折に、口がきけなくなったようでしてな。そのようなアイテムが支給されているらしい。
――口がきけない、ですか? 静寂の玉のようなものでしょうか。
――静寂の玉?
――はい、私の護衛の方がピサロ様より預かっている魔石ですが、声を奪って魔法を使えなくしてしまうんです。
――はるか昔、地獄の帝王を倒した一行がそのようなアイテムを持っていたとか。現物ではなくとも、似た魔法が込められた支給品という線はあるでしょうな。
――声を奪える魔法か。悪用方法はいくらでも思いつくね。それこそ、悲鳴を消してしまえば一人ずつ暗殺できるわけだろう?
――待った。警戒はしておくべきでしょうが、配られているかどうかも分からないアイテムの話ばかりしていても仕方あるまい。それよりも、彼のことを頼めるかな?
ザックスにかかっていた魔法が、まさにその口をきけなくする魔法だ。
そして、カナーンでイザやオルテガたちと情報交換をしたときに出てきた、声を取り去るという静寂の玉。
思い出す。
ピサロの記憶を手繰り寄せる。
――貴様にロザリーを任せる。この塔に侵入した人間は決して逃すな。
――仰せのままに。して、この宝玉は?
――相手の声を打ち消し、呪文を封じる宝玉だ。
白兵戦に持ち込まれた時点で、貴様に勝てるものなどこの世におるまいよ。
――勿体ない評価でございます。
――謙遜はするな。剣に限れば、貴様は私より強いのだからな。
思い出したのは、新緑の鎧に身を包んだ騎士に宝玉を手渡すピサロの記憶だ。
青紫の水晶玉を緑色の腕がつかんでるデザインの、オカルトの呪物のように趣味の悪いネックレス。
ここ数日、このネックレスをどこかで見たことがある。
俺自身の記憶か、ピサロの記憶か……。
――ロー……グ……?
――残念な事だが女は見つからず、この男が死んでいるのを発見した。特徴は合っていると思うが。
――合ってるよ。合い過ぎて……反吐が出る………。
――おい、次の世界に行く前に、お前らも自分の袋の中身は確かめとけ。毒入りのポーションが紛れ込んでるかもしれないからな。
――そう、ですね。毒でなくても、使い方のよく分からない道具をうっかり触って呪われる、などということもあるかもしれません。
――呪われてる、かあ。この変なネックレスとかそれっぽいよな?
――それは呪われてはいませんよ。ただ、自分にうっかり使うとしばらく声が相手に届かなくなるので気を付けてください。
盗賊風の男の遺体とバッツが対面し、ソロがその男を埋葬する、そんなピサロの記憶。
そして昨日旅の扉を潜る前、サックスの置き土産がないかさらりと確認をした俺の記憶。
はっきりとは思い出せねえが、確かに静寂の玉はどこかにあったはずだ。
- 216 :声なき激情を抱いたままに 5/6:2022/06/19(日) 18:06:56.81 ID:qOIq3Z4cy
- 「なあ、ロック。お前、静寂の玉って知ってるか?」
「静寂の玉? 聞いたことあるような、ないような……」
「これはソロから聞いた話なんだがよ、敵の声を奪う道具があるらしい」
「それって……!?」
ああ、そうだ。
ジェノバの読心能力は防げねえが、ヤツの声は防げる。
アルティミシアへのチクりも、ソロやセフィロスに対してやってたような胸糞悪い煽りも、声さえ封じてしまえばこちらには届かねえ。
一回こっきりのチャンスだが、確実にヤツを切り伏せためのチャンスを作れるんだ。
「ジェノバのクソ野郎の胸糞悪い命乞いや煽りを聞かずに済む。
アイツがたとえ俺たちの心を読んでいようが、言葉さえ聞こえなけりゃ惑わされずに済む」
「そうだよな、このまま黙って引き下がるわけにはいかないもんな。
あと、ケフカには絶対に聞かせられないな」
魔法を声ごと封じるような支給品、ケフカにとっても大敵だ。
アイツはアイツで、虚言真実両方織り交ぜて、巧みに俺たちに取り入ってきやがる。
アイツが何を喚こうが、聞こえなけりゃ意味はない。
ジェノバへの対策を取れるきっかけを作ったケフカだが、それを理由に手を緩めるワケにはいかないだろう。
「仲間の誰かが静寂の玉を確かに持ってるはずだ。
でないと、俺がそんな道具の話を知ってるはずがねえからな。
だから、まずは合流するぞ。ソロも心配だが、何も知らねえラムザとバッツには一刻も早く知らせねえとまずい」
「でも、新しい世界に降り立ったばかりだぞ? アテはあるのか?」
「この建物は俺の庭のようなもんだ。ここは俺のいた世界だからな」
バッツやラムザはともかく、アーヴァインなら候補は絞れる。
保健室や食堂、アイツの自室は真っ先に探索すべき場所だ。
あるいは、イントラネットの上に目的地を残している可能性もある。
それに、ラムザたちのほうだってアテがないわけじゃない。
ガーデンには当然監視カメラがある。
解析をおこなえば、ジェノバも含めて位置は分かるだろう。
問題は、ジェノバ本人とかち合わないかというところだが……。
「分かった、指示は任せる。斥候とか隠密とかが必要な場面になったら、俺にやらせてくれ」
「ああ、コキ使ってやるから覚悟しとけ」
激情はいつの間にか収まっていた。
心の奥から湧いてくるのは決して消えない闘志だ。
どんな逆風に晒されようとも、必ず踏み越えて勝利をつかみ取る、そんな静かな決意だ。
(俺がお行儀のいい優等生のまま終わると思ってんじゃねえぞ。
ケフカ、ジェノバ。テメェらが何を企んでやがろうと、丸ごと食い破ってやる)
- 217 :声なき激情を抱いたままに 6/6:2022/06/19(日) 18:08:10.01 ID:qOIq3Z4cy
- 【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ
第一行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第ニ行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す
基本行動方針:ケフカを除く全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第ニ行動方針:ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ギード(HP1/2、MP:1/5)
所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
第一行動方針:サイファーたちからジェノバの情報を得る
第ニ行動方針:ジェノバを倒す
【ケフカ (HP:1/10 MP:残り僅か 左腕喪失・左肩凍結)
所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕、セフィロスの右腕、ひそひ草
第一行動方針:シャワーを浴びながら優位性を確保する
第二行動方針:ジェノバ細胞を利用する
第三行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
第四行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:バラムガーデン・MD層】
- 218 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/06/22(水) 23:15:26.90 ID:fnMKAC+pi
- 投下乙です!
どこまでも株を上げるサイファーと、天然ボケをかましつつもナイスアシストするロックのコンビが頼もしい。
しかしMD層だと合流できそうなメンバーがいないのがネックになりそう。
最深部で操作デッキ浮上させて学園長室に直行するにしても、エレベーターで地下や1Fに戻るとしても、多分一番近いの当のジェノバとリュックだよね。
せっかく逆転の策が思いついたんだし、なんとか頑張ってほしいな。
- 219 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 1/11:2022/06/30(木) 23:57:36.52 ID:tAADUChHX
- 灯る炎がないにも関わらず、スイッチ一つで煌々と輝く照明。
氷塊も入っていないのに、ひんやりと冷たい食糧庫。
レバーをひねるだけで水どころかお湯まで自由自在に出すパイプ。
何もかもが超技術で出来ている世界で、けれど"それ"は俺が知っているものとさほど変わらない仕組みで出来ていた。
「ごめん、ヘンリーさん」
げほげほとアーヴァインが咳き込む。
その足元で、きいきい、と軋む車輪が小石を弾き飛ばす。
青空を流れていく雲とくるくる回る巨大なリングを眺めながら、俺は押し手を握ったまま足を進めた。
「仕方ねえよ。お前を背負って歩くのに比べりゃ、これぐらい大した事ないしな」
怪我人のおとも、ザ・文明の利器――車椅子。
部屋の隅っこでぺったんこに折りたたまれていたのには驚いたが、広げてしまえばちゃんと見たことのあるフォルムになった。
こいつを使えば俺一人でも楽々アーヴァインを運べるし、魔法のじゅうたんじゃあ通れないような場所でもスイスイ行けるって寸法だ。
さすがに全自動で動いてくれるわけじゃないし、俺の手も塞がる分、奇襲には弱くなるが……
今の状況で襲ってくるとしたらはぐれキング野郎しかいないし、アイツ相手じゃ魔法のじゅうたんの機動力も俺の戦力も誤差でしかない。
アラームピアスがあればよかったんだけどな……いやいや、無いものねだりしても仕方がない。
「もうちょっと、歩けると思ったんだけど。
やっぱり、傷、痛むんだよね〜」
あはは、と空笑いを浮かべてはいるものの、声がどうしようもなく強張っている。
それもそうだろう。
手を尽くして治療したとはいえ、怪我だけでも数日間寝込まなきゃいけない程度の重傷を負っていたんだ。
おまけに魔物化だの洗脳だの、助けてもらったとはいえピサロに身体を貸すだの、どれもこれも負担がハンパないに決まってる。
「無理して頑張る必要なんてないだろ。
あるものはなんでも使ってラクして生きる、これが大人の知恵って奴だ」
「う〜ん……ヘンリーさんが言っても、説得力ないな〜。
それこそ無理しかしてないヒト、代表っつ〜か〜?」
……そんな風に言われたら何も言い返せないんだよな。
いや、正確に言えば『お前が無理させたんだろ』とか思う事もなくもないけど、さすがにそれを口に出すわけにいはいかないしな。
致し方なく、俺はゴホンと咳払いしてから、話題を変える。
「ま、まあ、そんなことより。
目的地ってのは結構遠くなのか?」
「うん。このまま進んで、正門を超えて、ぐるっと回って、図書館の先〜。
反対側まではいかないけど……外から回り込むと、距離、あるんだよね」
アーヴァインは説明をしながら、ごそごそとザックをまさぐり地図を差し出した。
俺は片手でそいつを受け取り、歩きながらざっと目を通す。
描かれているのは、建物部分の正面図と敷地全体の平面図。
さすがに各部屋の内部構造などは省かれているが、それでも主だった施設の配置はわかる。
(こうやって見ると、中を突っ切っちまった方が良さそうにみえるけどなぁ)
『遠回りでも外から行った方がいい〜!』とこいつが主張したものだから、わざわざ建物から離れた、さほど背の高くない木立の中を進んでいるが――
移動距離という点でも、見つかりやすさという点でも、ガーデン本体の中を進んだ方が安全に思えてしまう。
そんな俺の考えを読んだのか、アーヴァインは咳き込みながら答えた。
- 220 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 2/11:2022/06/30(木) 23:59:15.91 ID:tAADUChHX
- 「ガーデンの中ね、すっご……ゲホッ、すんごい、見通しいいんだよ。
二階のエレベーター前とか、下、全部見えるし……監視カメラもあるし。
それに……ゲホッゲホッ、道、広いって言っても、限度があるから」
なるほど。
構造的に見つかりやすい上に逃げ道が少ないのか。
だが――
「でも、外は外で見つかりやすくないか?
これだけの建物なら窓だってあるだろ?
上から見られたら一発でバレると思うが……」
「それがね。ガーデンって天窓ばっかりで、普通の窓、少ないんだ。
中から外の様子を見れるの……ゴホッ、保健室と、学生寮ぐらい。
あとはデッキとか、バルコニーとか、半分外に出る場所だけなんだ。
で、デッキからは、こっち側、見通せないはず〜」
なんだそりゃ。見た目以上にヘンテコな造りしてるんだなあ、この建物。
いくら文明が進みまくってる世界といえ、天窓じゃあ簡単に開け閉めできないだろ?
仮にホイホイ開けられるとしても風通しが悪すぎて、湿気がこもったり空気が澱んだりして息苦しくなるだろうに。
「……あのさ、ヘンリーさん。さすがに空調設備、あるから。
エアコンとか、換気扇とか。
排気ダクトとかも、校務員のオジサン達が……ゲホッ、しょっちゅう点検してるし」
「えあこん? カンキセン?」
「…………ええっと。
部屋の湿気取ったり、あっためたり、涼しくしたりする機械と、部屋の空気、入れ替える機械があるの」
「はえ〜」って声が口から出た。
魔法でも難しいことを機械でやってのけるなんて、やっぱり俺の理解できるような世界じゃないんだな。
「さすがに、これがフツーってわけじゃないけどね〜。
ガーデンって、セントラ文明のすっごいシェルターを、フィッシャーマンズ……ゲホッ、ホライズンの人達が改修して作ったものだから。
昔と今の、サイコ〜の技術の結晶ってヤツなワケで……まあ、エスタ本国には負けるかもだけどさ〜」
謎の単語を並べるな、と言いたいが、アーヴァイン視点から見てもハンパない技術が使われてるってことはわかった。
ただ、そんなことがわかっても何かの役に立つわけじゃない。
むしろ俺が知らなきゃいけないのは――
「で、バルコニーってのはどのあたりにあるんだ?
そこからだと、俺達が見つかる可能性はあるのか?」
俺の問いに、アーヴァインは俯いた。
ふわりと通り過ぎた風に、かすかなため息が溶けて散っていく。
「うん。2階のダンスホールにあるんだけど……正門のあたり、まるっと見えるようになってるんだ〜。
真正面じゃなくて、保健室側と、図書館側に寄ってるんだけど……
そこに誰かいたら、さすがに見つかっちゃうと思う〜」
「ふむ……」
- 221 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 3/11:2022/07/01(金) 00:02:09.99 ID:ajsTxXzT1
- 地図を見返す。
確かに2階に大きなホールがあるな。配置も正門の真上だ。
ここからじゃあ全くわからないが、左右に一つずつバルコニーがあるってことだろうな。ここからじゃあ全くわからないが。
……というか、形状が独特すぎる上に高さがありすぎるんだよな、この建物。
三階建て、って平面図ではそうなってるけど、本当にそうかあ? って首を傾げざるを得ない。
横だってラインハット城が収まる程度の広さがあるけど、高さは間違いなく倍以上……下手すると3倍はあるぞ?
「ああ、バラムガーデンって、1階の天井がめっちゃ高いんだよね〜……真ん中、吹き抜けになってるし。
2階とか3階は、まだ普通に思えるけど……多分、天井、色々な配管が通ってるんじゃないかな?
床下……っつ〜か、天井裏かなぁ。とにかく、各階の間に、点検用のスペース、あると思うよ。
それこそワンフロア分ぐらいの……ゲホッ、ゴホッ」
配管、ねえ……まあ、保健室に水を出すパイプがあった以上、飲料水を運ぶ仕組みはあるはずだよな。
それに窓がない場所で空気の入れ替えをするなら、空気専用の通り道みたいなものも必要だろう。
あとは各種機械の動力源、か。どれもこれも魔法じゃなくて、電気で動いてるとか言っていたが。
「そうそう。水道と、換気と排気のダクトと、電線と、イントラネット。
それと、ダストシューターと……シークレットシューターも通ってるはずだけど」
「シューター……ゴミ捨て用はまだわかるが、シークレットってのは?」
「なんか〜、敵に取られたら困るもの、入れるらしいよ。
スコールが、前に食堂のパン、集めて入れろって言ってたし……ゼルがはりきって入れてたし……
確か……地下のマスタールームに届くって、聞いたけど〜」
「……パンを?
包囲されて補給路断たれでもしたのか?」
「ええっと、包囲はされてなかったけど。
アルティミシアに操られたサイ……いや、ガルバディア軍に乗り込まれて、ちょ〜ピンチだったんだ」
なるほど。籠城戦になったから食料の略奪を防いだのか。
やっぱ優秀な指揮官なんだな、スコールの奴。
顔立ちもそうだが、17歳には見えないぞ。
――しかし話を聞く限り、相当複雑な構造してるな、この建物。
「その、シューターとか使って逃げ回ったりとか、点検用スペースとやらに逃げ込むとかは出来ないのか?
地図に載ってない場所なら気づかれる心配も少ないし、サイファーならわかるだろ?」
「う〜ん……シューターは一方通行だし……点検口らしい扉は見たことあるけど、さすがに鍵がかかってると思うよ。
それに、例のアイツ……壁とか、床とか、天井ぐらい、ぶちぬいてエントリーしてきそう」
「……あ〜」
有り得る。
『そこだ!』って、気配だけで察知して壁貫通して攻撃してくる奴だよな。あのはぐれキング。
というか壁を斬って入り口作って不法侵入してくるタイプでもあるよな。あのはぐれキング。
「はぐれキング……?」
「早くて強くて銀色でヤベー奴だからな、アイツ。
つーか、さっきから俺の心を読んだみたいに答えてくるな?」
「え? ヘンリーさん、めっちゃ喋ってたけど」
……え?
- 222 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 4/11:2022/07/01(金) 00:04:30.14 ID:ajsTxXzT1
- 「独り言なのか尋ねてるのか、さっぱりわかんないから……とりあえず答えてたんだけど」
「えっ?」
俺が目をぱちくりさせると、アーヴァインは珍しく自然な笑い声をを上げた、
しかしそれも束の間、すぐに顔をしかめて腹を抑える。
「あいでで……なんか、妙に、痛むなあ。
これならホントに、モルヒネ探せば、良かったかなあ……」
「モルヒネ?」
「えっと……めっちゃ強くて、ちゃんと使わないとアブナイ鎮痛剤」
「ああ……いわゆる"クスリ"か。
薬瓶ぶちまけちまった俺が言うのもなんだが、さすがに学校にそんなもんは置いてないと思うぞ。
バカが盗んで乱用したらそれこそ危ないだろうし」
「だ〜よね〜……いっづづ……」
喋っていられるから多少なりとも余裕はあるんだろう、が。
これだけ苦しんでいるとなると、傷が開いたか、化膿している可能性がありそうだ。
調べてやりたいところだが――あとちょっとで木立が途切れて、開けた場所に出る。
なんだか妙ちきりんなオブジェとか、橋のような形のゲートとか見えるし、恐らくあのあたりが正門だ。
だとすれば、下手すりゃ今でも俺達は2階のバルコニーとやらから見える位置にいるってことで……あんまり長居している場合じゃない。
隠れられそうな場所を探すというのも手ではあるが――
「あ、ああ、大丈夫。そんな、血がドバーみたいな、痛さじゃないから」
……また俺、声に出してたのか?
そんなつもりないんだが……いや、でも、ソロも言ってたっけな。
最初に出会った時、焦点の合わない目でずーっと独り言呟いてて『うわこの人アブない』と思ったとか。
ヤバイな。そろそろあのマスドラ様に独り言王扱いされそうだ。
誤射王とどっちがマシかなー、ってどっちも嫌だよこの野郎。
――なーんて考えている俺を他所に、アーヴァインは「えーと、ええと」と、杖を握りしめたまま両手の人差し指を突き合わせる。
「なんかズキズキっていうか、熱っぽいっていうか……
"闇"にジャンクションしたあとの、反動みたいな痛み方、っつ〜か〜」
「なんだそれ」
「せ、説明しづらいんだけど……
"闇"に飲まれてる間は、痛みとか感じないんだ。
で、そっから、正気に引き戻されると、一気にぶわってきて。
その"ぶわー"が、弱めに続いてる感じ?」
しづらいどころか、殆ど説明になってないんだが?
"闇"って例のアレだよな?
要するに、発狂して暴走してる時の話を引き合いに出してるってことだよな。
……あまり思い出したくはないが、確かにデールも痛みを感じてる様子がなかった。
その発狂状態が急に治まって、痛みを感じるようになった……ってことか?
そもそもこの世界に来る直前まで、はぐれキング野郎だのピサロだのに散々干渉されてたんだしな。
似たような症状が出てもおかしくはない……のかな。わからんけど。
- 223 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 5/11:2022/07/01(金) 00:06:33.75 ID:ajsTxXzT1
- 「まあ、手当したとはいえ、ありあわせの間に合わせだからな。
普通の人間なら痛んで当然の怪我だし、仕方ないさ。
どうしても我慢できなくなったら休める場所を探すから、我慢してくれ」
「は〜い。……っつても〜、こんな身体でフツーの人間なんて、ひどい冗談だよ」
アーヴァインが力なく笑う。
思いっきり失言だったな、今の。
そのうちマスタードラゴンだけじゃなくピサロにも呆れられそうだ……――
――いや、待てよ?
「……案外、本当に普通の人間に戻ってきてるのかもしれないぞ?」
「えっ?」
アーヴァインが俺を見上げようと身体をひねり、「いっづ〜!」とうずくまる。
脇腹部分を怪我してるんだから、そんなポーズを取ったら痛むに決まってるだろうに……
俺は呆れながらも、どう伝えたものかと思考をフル回転させる。
幽霊になったピサロとの会話は、一種のテレパシーのようなものであって、音声によるものじゃなかった。
逆に言えば、音声しか盗み聞けない主催者側にとっては、死んだピサロが俺達と一緒にいたなんてわかりっこない。
俺が知りえるはずのなさそうなことを迂闊に口走って主催者に聞かれたら、"どこでその情報を手に入れたのか"という疑念がついて回る。
"幽霊が同行していた"って正解に辿り着かれるならまだいいが、邪推されまくった挙句、夢世界の存在に思い至られたら最悪だ。
「ええっと、ほら。昨日俺達がいた場所って、ピサロのお膝元の闇の世界なんだと。
で、お前、俺と出会う前はピサロと一緒にいたろ?
その時に何かやってないか? 傷の手当した時に指に着いた血舐めちまったとか、冗談でも部下にしてくれとか言ったとか」
「ふぇ!? な、なななな!?
ななななな、そそそ、そんな、ソンナコト、シテナイ、よ〜?」
……こんなにわかりやすくしらばっくれるのも珍しいな。
というかピサロ本人から聞いたから、ごまかそうったって無駄なんだが。
「やったんだな?」
「……うん。僕の事、【闇】のせいで、魔物化してるって、言ってきたから。
だったら、魔王様なんだから手懐けろよ〜って」
そっちかよ!
いやそれはそれで宜しくないんだが。
「あのなあ……魔王ってのは、自分に魂を売り渡した人間を魔物にする力があるんだよ。
血を使った契約とか特殊な儀式とかで、邪気を注いで頭も体も丸ごと全部魔物に変えちまうんだ。
ほら、まどうしとかランスアーミーとかさ。どっからどう見ても人間なのに襲ってくる連中、見たことないか?」
「ないない、ないよ〜。
っつ〜か僕の世界、魔法、魔女しか使えないんだけど。魔導士とかいるわけな〜い」
……そういえばそんな話だったな。
さすがにこれは俺の例えが悪かった。
- 224 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 6/11:2022/07/01(金) 00:08:33.66 ID:ajsTxXzT1
- 「と、とにかく……魔王相手に自分を手懐けろなんて、魂売るから買ってくれって言ってるのと変わらねえよ。
ピサロだからはっきり配下にするつもりはなかっただろうが、いつ暴発するかもわからないお前を野放しにはできない、ぐらいのことは考えていただろうしな。
それで中途半端に契約が成立して、ピサロの持ってた邪気がお前に流れたんじゃないか?
その結果、魔物化が一気に悪化して、キレやすくなったり痛みが麻痺したり【闇】の影響を強く受けたりするようになったと」
「そ、そんな〜……」
そんなつもりじゃあ、とアーヴァインはぐずりながら俯く。
俺はその背から目を逸らし、朝日を浴びて青く煌めくガーデンを見上げた。
「安心しろよ、俺が言いたいのはこの先だ。
つまりな、ピサロがいなくなって闇の世界からも離れたから、あいつ由来の魔物化が治りつつあるんじゃないかってことさ」
こんなのピサロに聞かれたらさすがに怒られそうだけど……ずっと静かだし、寝てるみたいだから大丈夫だろ。
万が一聞いてたら許してくれ。お願い。マジで。
「何かの悪影響で痛むようになったんじゃなくて、身体が人間に戻りつつあるから、普通の人間と同じように痛みを感じるようになった。
そういうことなんじゃないか、ってな」
俺の言葉に、アーヴァインは青い眼をぱちくりとしばたたかせる。
もちろんそれは変化の杖が齎したもので、本当のこいつの眼は不気味に澱んだ緑色に染まってるってわかっているけれど。
それでもその仕草は、こいつがこんなことになる前――いつかのレーベで見た時と、何ら変わらなかった。
「そんなこと、あるのかな〜……」
諦めたような台詞とは裏腹に、声音はどこか弾んでいる。
少しでも希望を持ち続けてくれることを願いながら、俺はさらに後押しを重ねら。
「あるさ。
生まれつきの魔物だって人間になれるんだから、人間のお前が元に戻れない理屈なんてないだろ」
昔馴染みの仲間――伝説を追いかけてリュカの仲間になったホイミスライムの姿を思い浮かべる。
しかもソロやマスタードラゴンの話じゃあ本当にあったことだったらしいから、期待してもいいだろう。
「それに――」
もっともっと励まして発破をかけてやろうと口を開いた、その矢先。
ゴーン、ゴーンと、かなり巨大な鐘の音が辺り一面に響き渡った。
さすがにびくっと身をすくませると、アーヴァインがくすりと笑う。
「ああ、始業のチャイムだよ〜。
8時半になると鳴るんだ。一時間目、始まるよって〜」
……そういえばここ、学校だったな。
はあ、と出かかったため息を、今度は地鳴りが遮る。
近くではないが、そう遠くでもない。
ガーデンではなく、むしろ外側から響いてきたように聞こえたが――まさか誰かいるのだろうか?
「いやあ、駐車場のシャッターじゃないかな?
ゲホッ、ゴホッ……正門の近くに、地下駐車場の入り口、あるから。
ここ学校だけど、傭兵、派遣する仕事も……ゴホッ、してるからね」
「そんな呑気に説明してる場合か!?
シャッターを開けた奴がいるってことだろ!?」
「だから〜、オートだってば〜!
タイマーで、8時半になったら、勝手に開くようになってるの〜!」
……なんだそれ。そんなのアリかよ。
誰もいなくても開くシャッターなんて、俺の理解力じゃあ追いつかない。
いやでも良く考えたらスコールの夢の中でも勝手に開く扉があったな。
きかいのちからって すげー。
- 225 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 7/11:2022/07/01(金) 00:10:33.62 ID:ajsTxXzT1
- 「思考停止してないで〜、早く行こうよ〜」
至極もっともなツッコミを入れられた俺は、今度こそため息を吐いてから車椅子を押し始める。
どうやら周囲には誰もいないらしく、開けた前庭には人影一つ見当たらない。
目を引くものといえば、見事に切り揃えられた並木と、ガーデンの前でちらつく赤と青の光だけだ。
「なんだありゃ?」
「あれは、正面ゲート……えっと、守衛室、横にあって〜、変な人入らないように見張ってるんだよ。
……でも、誰もいなそうなら、覗いてもいいかも」
「守衛室ねえ……何かあるのか?」
「監視カメラ、見れるかも。
長居は危険だけど……確認できるなら、したいなあ……ゲホッゲホッ」
監視――他の場所の様子が見れるってことか。
そういうことなら寄った方がいいだろうな。
万が一、訓練施設とやらにはぐれキングが待ち構えていたら最悪だ。
「あ〜……その可能性もあるよね〜……
見なきゃダメだな〜……」
思いついてなかったのかよ!?
こいつ、抜け目ないように見えて妙なところで抜けてるからタチ悪いよなあ。
「余計なお世話〜!」
おいおいちょっと待て、今のはさすがに声に出してないぞ!
こいつ本当に心読んでるんじゃないだろうな?
それとも顔に出てたとかか? いかん、ポーカーフェイスポーカーフェイス……
「も〜、遊んでないで〜。
早く、連れてって〜」
くっ、遊んでるつもりはないんだけどな。
ともあれボヤボヤしてても仕方がない。
極力音を立てないよう細心の注意を払いながら、しかし速度を落とし過ぎない完璧な車椅子捌きで、俺達は無事守衛室へと到着する。
え? 誰もいないんだから無事なのは当たり前?
言うな。
「誰もいないんだから〜」
「言うなって」
さすがに車椅子に乗ったまま通れるほど、入り口の扉は大きくない。
アーヴァインに肩を貸してやりながら中へと入る。
「結構狭いな。それにでっかい窓があるし、確かに居座るのには向いてなさそうだ」
先ほど聞いた話の通り、恐らく普段はこの窓からガーデン本体へ出入りする人間を監視しているんだろう。
で、それとは別に監視カメラとやらをつかって校内の安全を確保しているんだろうな。
- 226 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 8/11:2022/07/01(金) 00:12:37.62 ID:ajsTxXzT1
- 「ヘンリーさんってミョ〜なところで理解力高いっていうか、話、早いよね〜。
……よっと、切り替えはこれで、拡大はこれか」
アーヴァインは右手で杖を握りしめたまま、左手でガチャガチャと"のーとぱそこん"に似たパネルをいじり回す。
そしてその操作に連動して、パネルの斜め上にあるガラスに、いくつもの四角い画像が映し出された。
縦に4個、横に4個――16分割されていて、かなり見づらい。
それにどの画像も妙に不鮮明だ。
いくつかの場所で人影らしきものがうごうごと蠢いているが、顔どころか服も判別しにくいな。
あとなんか、一か所だけでかでかと黄色い四角が出来てるな。
「……これ、ボビィかな〜?
拡大して……」
ボビィ……チョコボとかいう騎乗用の鳥だっけか。
どうも監視カメラとやらの真ん前に立っているようで、大きくなった映像はすっかり黄色で埋め尽くされている。
羽軸が上に伸びているようだから、多分尾羽なんだと思うが……なんでケツ向けてるんだ?
「ボビィの身長は、確か……で、お尻が映るなら、画角は……これ、カメラ、天井じゃないな……多分、鉢植えだ……
鉢植え……鉢植え……1階かな……いや、それならあっちのカメラにも映るから……
どこだろ……2階の廊下……図書室……駐車場……学生寮……」
アーヴァインはぶつぶつ呟きながら映像を小さくしたり大きくしたりしていたが、考えても埒が明かないと判断したようだ。
「ふぃ〜」と大きなため息をついてから、頭を横に振って元の画面に戻した。
「ダメだ、わかるところさがそう〜……
ええと……多分、ここと、ここにいるから……
食堂と、訓練施設かな?」
「訓練施設!? それヤバくないか!?
誰がいるのか判断できないか!?」
「ちょっと待って〜。拡大してみる〜」
アーヴァインがパネルを叩くと、大きな映像が1枚だけ映し出される。
テルパドールでしか見かけないような木が何本も生い茂り、巨大な葉が揺れるその向こうに、誰かが座っている。
顔は見えないし、そもそも頭がどこにあるのかもわかりにくい、が。
白っぽくて、飾りがついた鎧のようなシルエットは不思議とはっきり判別できる――って、飾り付きの白い鎧?
「……ソロか? これ」
「っぽいね〜? サイファーなら、もっと形すっきりしてるし……
ソロなら髪、緑だから〜、頭、見えにくいのトーゼンだし」
アーヴァインも俺と同じ意見。
だったらソロで確定だな。なんだ大勝利じゃないか!
「ソロと合流できるなら願ったり叶ったりだ!
すれ違いになる前に早く行くとするか!」
「ま、待って。食堂も確認したい〜」
アーヴァインは慌てながらカチャカチャとパネルをいじる。
映し出されたのは、………なんだかわからないが、四角いテーブルと椅子がたくさんある場所だ。
真ん中あたりの席に二人の男が差し向かいに座っていて、そして――
- 227 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 9/11:2022/07/01(金) 00:15:11.91 ID:ajsTxXzT1
- 「ひっ!?」
植木を触っている少女の姿に、アーヴァインが短い悲鳴を上げる。
俺は歯ぎしりしたい衝動を抑え込みながら、前に回り込んで視界を遮りつつアーヴァインの肩を掴んだ。
「大丈夫だアーヴァイン、アレはタバサちゃんじゃない!
アレは自分がタバサちゃんだと思い込んで成りすましてる狂人だ!
見た目だけは取り繕ってるが中身はセージっていう男で、正真正銘の別人だ!
だから安心しろ!!」
目を真っ直ぐ見ながら必要な情報を一気にまくし立て、反応を伺う。
混乱して暴れ出してもおかしくないと思っていたが、俺の剣幕に圧されたのか、俺の言葉の意味が理解しきれなかったのか、アーヴァインは呆然とした表情で固まっていた。
それも仕方のないことだ。
アーヴァイン視点じゃあタバサは極悪人のままなんだから、成りすます他人がいるなんて想定できないだろう。
あの子に対する誤解を何とかして解きたい気持ちはあるが……今は、セージのやらかしを説明する方が先だ。
「大丈夫か? ホントにアレはタバサちゃんじゃないからな?
動揺するのはわかるが、幽霊でもゾンビでもないから、安心していいんだぞ」
「あ、あ、あんしん、しろ、ったって……
お、男? セージ? あ、あ、あああ、アレが?」
「そうだ。大方、モシャスでも使ったんだろ。
中身はお前よりも年上そうな、青髪の優男だよ。
自分をタバサちゃんだと思い込んでいるからそれっぽいことばかり言っているが、セージが知ってることしか知らないから、大丈夫だ」
「え、あ、え」と、アーヴァインは画面と俺を交互に見やる。
さすがに、すぐには飲み込めないか……それでも多少落ち着いてはきたようだ。
「え、ええと……あのタバサは、偽物?
でも、僕、見た時、襲ってきて……」
……なんだそれ。
そんなこと、ラムザたちは一言も言って……いや、タイミング的に二人が合流する前にやらかしたのか。
思い返せば『私を襲った魔物がいる』って言ってたな。
てっきりカッパの姿をしてたはぐれキング野郎のことを指していたんだと思っていたが、アーヴァインのつもりだったのか?
だが他の仲間がアーヴァインとタバサの件をセージなんかに話すはずがない。
だとしたらどこでそのことを知った?
タバサの遺体か?
確かにあの子を埋葬する余裕はなかった。
アーヴァインのこともあるが、リルムまで攻撃されていたし、ピサロも『捨て置け』と主張したからだ。
出来たのは極力人目につかないよう草むらの影に寝かせてやることだけで、だからセージがあの子の遺体を見つけたとしても何もおかしくない。
そしてあの子の死因になったのは胸を貫いた銃弾だ。
アーヴァインが狙撃手で銃が得意って話だけなら今生き残っている仲間以外の連中も知っていただろうし、その一方で銃自体は極めて貴重で珍しい武器だ。
その推理と、魔物化した外見や錯乱っぷりから決め打った――ああ、そうだ。それ以外に有り得ない。
- 228 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 10/11:2022/07/01(金) 00:16:52.56 ID:ajsTxXzT1
- 「偽物でもお前を疑うことは出来るからな。
それに実際タバサちゃんを死なせたのはお前だし、態度でバレることもあるだろう。
だがな、それはあくまでもセージっていう、生きてる人間の恨みつらみだ。
死んだあの子が蘇ってどうこうって話じゃない」
「………」
「何度でも言うが、アレはタバサちゃんじゃない。
どれだけそれっぽく見えても、中身は別人だし、ちゃんと生きている人間だ。
だから、お前はこれ以上手を出すな。
あんな頭のおかしい奴相手に、お前が罪を重ねる必要なんてない」
セージのことは嫌いだが、アーヴァインに殺させるわけにはいかない。
ピサロの影響が無くなったといえ、魔物化が始まった最初のきっかけは【闇】なんだ。
せっかく人間に戻ってきてるかもって時にあんな奴と関わらせて、症状を悪化させてどうするってんだよ。
「幸い、あいつはラムザ達と一緒にいる。
今だって――あのテーブルで話し込んでるの、ラムザとバッツだろ。
だから例えあいつに見つかったとしても、俺と二人とで全力で説得して引き離してやるからさ。
お前も自分から攻撃はするな。言い返したりもしないで、俺の後ろに隠れてじっとしてるんだ、いいな?」
本当なら手早く逃がした方がいいんだろうが、昨夜の変な三枚鏡を使った攻撃とか、出が早いうえに範囲も広かったからな。
あの野郎を刺激するような行動は慎ませて、俺が盾になってやった方が、アーヴァインが助かる公算は高いはずだ。
「う、うん……わ、わかった〜……」
震えながらも頷いたアーヴァイン、その髪をぽんぽんと撫でてやりながら、俺は親指を出口へ向ける。
「大丈夫、大丈夫だって。あいつらは食堂にいるんだしさ。
それこそ旅の扉みたいなワープルートがない限り、訓練施設までは会うこともないはずだ」
……言っといてなんだけど、ないよな。ないよな?
「う、うん、そうだよ、ね。
早く、行けば、大丈夫、だし、ソロとも、合流、できるよね」
片足を引きずりながら歩いていたアーヴァインは、思いっきり震える声で、わかりやすい作り笑いを浮かべながら車椅子に座った。
セージに限らず、はぐれキング野郎の居場所とかケフカの動向とか、不安点はなくもない。
だがソロの居場所がわかったし、こっちにはピサロもいるんだ。
訓練施設まで辿り着けさえすれば俺達は勝ったも同然――!
「……ピサロ、いないよ?」
「え?」
ぽつりと呟かれたアーヴァインの一言に、俺の士気は身体の動きごと固まったのだった。
- 229 :朝凪の一時は見えざる嵐の先触れ 11/11:2022/07/01(金) 00:18:46.59 ID:ajsTxXzT1
- 【アーヴァイン (HP2/3、MP1/4、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、混乱、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
所持品:G.F.パンデモニウム(E、召喚×)、変化の杖(E)、ビームライフル(E) 竜騎士の靴(E) 手帳、リュックのドレスフィア(シーフ)、
ちょこザイナ&ちょこソナー、ラグナロク、祈りの指輪(ヒビ)、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、食料、折り畳み式車椅子
第一行動方針:セフィロスから逃げ切りつつ、訓練施設奥の秘密の場所を目指す
最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【ヘンリー
所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、リフレクトリング(E)、魔法の絨毯、
銀のフォーク、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ
ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ガーデン保健室の救急セット・医療品、食品)、
レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
第一行動方針:アーヴァインを保護しながら訓練施設を目指す
第ニ行動方針:仲間と合流する/セージを何とかする
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:バラムガーデン正面ゲート・守衛室付近】
※駐車場⇔正門のルートが開通しました。
- 230 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/07/01(金) 00:58:46.13 ID:qVytzRa2m
- 投下乙です。
二人がセフィロスとピサロに言いたい放題なのちょっと笑ってしまう。
引き続きバラムガーデンの施設描写の解像度が非常に高くて、校庭を車いすで行く一人と一人の光景をありありと描写できるのがいい感じ。
そのうえで魔物化が元に戻ってきている考察なんかは、アーヴァイン本人の未来が閉じられていない描写になってるので、一筋の希望が見えてる感じだなあ。
アーヴァインがタバサ絡みでパニックなるところだって、ヘンリーがしっかりフォローしてくれて安定してる。
闇の世界ってずっと陰鬱なイメージ付きまとってたんで、光の世界に戻ってきたって感じ。
ただ、アーヴァインにヘンリーの心の声が漏れてるのは、ジェノバから影響を受けてそうでものすごく怖いなあ。
全部読み終わるまで、実はこっそり入れ替わったんじゃないかとすら思ったほど怖かった。
まさに嵐の前触れ。
入れ替わりはなさそうだけど、それでもジェノバの位置が不明なのは本当に恐怖だわ。
二人とも急げーって言いたくなるね。
- 231 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/07/02(土) 01:28:06.55 ID:zv4zO28DK
- 投下乙です! 短い期間に2話も読めるなんて嬉しいなあ。
サイファー一行のお話は、ケフカに提示された最悪の事態を念頭に置きながらも、
反撃の機会を虎視眈々と狙うサイファーがかっこいい。
ピサロの記憶をたぐり寄せる描写も、サイファーが受け継いだチカラを有効に使っているのが解って良いなあ……
サイファー、状況のお膳立ては何回もされてきたけど、思い返せば思う存分暴れられたことってそんなにないんだなあと思い出しつつ、
色々言動見てると本当に「大人」になったなあと感慨深いなあ……その傍らでスコールのこと思い出しては理不尽な事考えてるのはやっぱりサイファーらしいわあ……
あとやりとり見てると、なんだかんだロックとサイファー相性いいんじゃないかと言う気がしてきたわ……噛み合ってないんだけど、最終的にちゃんと収まる感じが地味に安心する。
道具は夢組が持ってるはずだから難易度は高いんだけど、是非ここで文字通り噛みついて一矢報いてほしいと応援してしまう!
MD層なのがキツそうだけど頑張って欲しいなあ
ヘンリー・アーヴァイン組は、全体的に平和な雰囲気が漂っているように見えて不穏があちこちにあってゾクゾクする……
人間の身体に戻る可能性を示唆されたわけだけど、どっちかというと心を読み取るとかはジェノバに近付いているんじゃ……?
会話がほのぼの寄りな分不吉さが際立ってたまらない……
あとこの二人は文明度にギャップがあるから、その辺りの会話が毎回すごく面白くて好きだなあ。
あとヘンリーの子を持つ親としての頼りがいというか、アーヴァインへの対応見てると危なっかしくて無茶しがちでもお父さんなんだなあって感じがする。かっこいいわあ……
心なしかアーヴァインも年相応っぽい態度な気がして、本当に色々因縁やらなんやらある二人だけど、見ててどこか気が抜けるような、ほっとするような雰囲気がいい。
とはいえ無事にソロとリノアンジェロと合流するには油断を許さない状況と、
そこかしこにただよう不穏さが恐ろしすぎる……!
今後が楽しみで仕方がない! 引き続き応援しています!!
- 232 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/07/15(金) 03:51:04.78 ID:RWw+1HXsG
- FFDQ3 776話(+ 2) 18/139 (- 0) 12.9
- 233 :ガーデンオリエンテーション 〜見学生歓迎します〜:2022/08/21(日) 20:56:11.85 ID:V/nO4cqXV
- "は〜、よかったあ〜〜。
私の声が誰にも聞こえなかったらどうしようって思ってたところだったんだよ。
ね、ソロ? 私の声……聞こえてるよね?"
「あっ、はい。僕はそういう能力を受け継いでいて、貴女の言葉もちゃんと聞こえています」
ありゃりゃ、とんっと棒読みだぞ?
ソロ、ほんと大丈夫?
さっきから顔の筋肉が強張ってるよ?
う〜ん、ソロに余裕がないの、理由は想像つくのよ。
ピサロとタッグを組んで、セフィロスに華麗なる大勝利をおさめたのなら、二人は一緒にいるはずじゃない?
なのにピサロがいなくて、ソロはずっとそわそわしてる。
つまり……実質初対面の私が察せられるくらいによくない何かがあったってことなんだよ。
いや、それ以前にソロはピサロがいたこと知ってたんだっけ?
私とピサロは話せたけれど、ソロとピサロが話せてたとは限らないもんね。
うーん、このへんの真相は本人に直接聞かないと分からないけれども。
ピサロには大変お世話になりました。
お返しに、ここは私が力を貸して差し上げましょうってね!
"よし、決めた! ね、私も連れてってくれない? いいでしょ?"
「えっ?」
いえいえ、これは決定事項です。
仮に『いいえ』って断られても、『はい』って返事くれるまでお願いし続けるもん。
誰ともお話できないまま、寂しく待ち続けるだけの人生なんて、もうたくさん〜。
……ベンメイするけど、ピサロやアーヴァインのことがなくても、言葉通じない問題がなくても、ちゃんとソロの力にはなるつもりだったからね!
「あ、いや、急な話に驚いただけで、同行自体はもちろん歓迎です。
むしろ僕のほうからお願いするつもりでした」
おや? あれあれ?
ソロのほうから私たちを誘うつもりだった? だいぶ意外かも。
こっちから押せ押せ〜って感じでぐいぐいいかなきゃいけないタイプだとばかり。
私を連れていくナイスな売り込み文句まで考えてたんだよ?
「少なくとも、貴女は狙われているはずですから」
……ごめん、ちょっと真顔になった。
- 234 :2/6:2022/08/21(日) 20:57:02.42 ID:V/nO4cqXV
- え、なになに? 私たちいきなり狙われてるの?
そんな心当たりは……。
「……」
そうだね、アンジェロ。
おっき〜な心当たりがあるね。
私たち、思いっきり狙われてたわ。
"分かった! セフィロスでしょ! さっきも捕まりそうになったのよね"
「……」
心なしか、アンジェロもプリプリ怒ってるような、怒ってるような……気のせいか。
でも怖かったんだもん。ねー。
「いや、セフィロスではないです。『ジェノバ』で分かるでしょうか?」
セフィロスじゃないの!?
ジェノバってまったく心当たりがないんだけど。
……いや、でも聞いたことあるような?
おもいだせ〜、おもいだせ〜。
そうだ、みんながアーヴァインに向かって届け届け〜って送ってた言葉の中に混じってたような?
だいたい、私たちを狙ってるようなヤツなんだから、セフィロスじゃないならアイツかな?
"手下のモンスターのほう?
あ〜、アイツも怖かった!
人形みたいなのっぺりした顔でふらふら近づいてきて、いきなり手を伸ばしてきて捕まえようとしてきたのよ?
ピサロのおかげで助かったけれど、そうでなければ今頃アブない実験されてたかも……"
「ピサロが、ですか?」
ソロがぽつりとつぶやいた。
ああ〜〜!
よくよく考えたらあのモンスターってピサロの姿してたし、そのジェノバがピサロの顔してなにかしたんじゃないの?
考えてもみなさいよ30秒前の私よ!
ソロからしたら、死んだピサロが体を操られて襲い掛かってきたようにしか見えないわけだよ?
偽アンジェロが襲いかかってきたら、たとえそれが偽物だと分かってても、私だったら絶対ショック受ける自信があるよ。
あれはピサロの顔をしたニセモノなの!
そこんところははっきりさせとかないと!
"そう、本物のピサロが私たちを逃がすために色々助けてくれたんだよ!
あの後ソロが話せたかどうかは分からないけど、
『ソロ一人にすべて任せるのは私のプライドが許さん!』みたいな感じで、あの場にずっと残ってたからね?
そのジェノバってヤツがピサロの顔して何したのかは分からないけれど、
ピサロはできる限りソロの助けになろうとしてたし、そこのところはビシッと信じてあげなよ!"
はっきり言って私は部外者だし、多分に見当違いのこと言ってるかもしれないけど、ここは押す。勢いで押す。
こういうのは、ウジウジ悩むと余計にドツボにハマるの!
これこれこうだとビシッと決めたら、あとはバシッと信じる!
ココロもカラダも元気なら何を当たり前のこと言ってんだって感じだけれど、
落ち込んでるときはちゃんと顔を前に向けてあげないと!
- 235 :ガーデンオリエンテーション 〜見学生歓迎します〜:2022/08/21(日) 20:57:42.62 ID:V/nO4cqXV
- ガチガチだったソロはうってかわって、困ったような微妙な苦笑いを浮かべる。
「……そうですね。彼は最期まで僕を信頼してくれました。
だから、僕も彼の期待を裏切らないようにしないと、ですね。
そのニセモノの手下――ジェノバがさらなる悲劇を生まないように、僕はほかの仲間にも急いでそのことを伝えなければなりません。
貴女も含めて、これ以上ジェノバの犠牲は増やしません。
貴女はピサロとも縁があるから、なおのことです。
よろしくお願いしますね」
"こちらこそ、不束者ですが、よろしくお願いします"
こういう指摘されたとき、スコールだと、
『ああ、そのとおりだ』
って感じで一言で総括しちゃうんだよね。
あるいは、大したことがなければ、
『別にそこまで深刻に捉えちゃいない。だからあんたも気にしすぎるな』
って感じで話が大きくなるのを抑えたりするんだけれど、ソロは想像以上にマジメで素直だね。純真だ。
変なこと教えたらそのまま信じちゃいそうだわ。
ちゃんとお話しよう。
"そういえば、私はソロのこと知ってたけれど、私たちの自己紹介がまだだったよね。
私の名前はリノアで、この子はアンジェロね"
「えっ? えっ??」
……???
わたくし、何かおかしなことを言いましたでしょうか?
その反応はなにゆえに?
「す、すみません。オーケーです。
てっきり、アンジェロがそういう魂の形なのだと……」
目を二回くらいぱちくりぱちくり。
ん?
んんん?
そっち!?
そこなの!?
- 236 :4/6:2022/08/21(日) 20:58:39.00 ID:V/nO4cqXV
- 傍らに佇む私の大切なパートナーに目を向ける。
アンジェロは焦点を合わせずに正面の景色を目に映してるだけで、目も合わせてはくれないんだけどね……。
うーん、にしてもその勘違いは……いや、私がアンジェロに入り込んだ形になってるってことはピサロも言ってたっけ。
じゃあ、アンジェロの中の人ってのは合ってるのか。
ずっとアンジェロと話してるつもりだったのかあ。
うー、でも、その誤解はやっぱり不本意〜。
しっかり話そう。いや、本当に。
"一応、顔写真付きで名簿にも載ってるんだよ。
ほら、ページめくって。
そこ、そう、その次のページの、ここ。
ここに映ってるでしょ?"
ソロは私の写真を見て、あっ、と気まずそうな顔を見せる。
そして隣に映ってるスコールの写真を見て、喉のつかえがとれたようなすっきりとした表情を見せる。
けれど、いったんすっきりとした表情から一転、また徐々に皺が増えていって、しかめっ面のような、苦悩のような、考える人のような、そんな表情へと変わっていく。
お〜い、百面相やってるわけじゃないんだぞ〜?
そして、意を決したように投げかけられた言葉は、私にとっては意味不明なものだった。
「アンジェロ、大丈夫です。
必ず飼い主……の友人の元に帰れるようにしますから」
ん?
んん?
んんん?
あのー、飼い主って私なんですけど?
ツッコミどころしかないんだけど……。
まず聞きたいのは。
"飼い主の友人ってだれ?"
「s――アーヴァインです」
いま、絶対アーヴァインじゃない名前言おうとしたよね?
s……ア……サ……サイファー?
いや、あいつ犬嫌いでしょ。
でもその前にも変な間があった。
……s。
セルフィやシュウのことをソロが知ってる?
名前はアーヴァインとかから聞いたかもだけれど、このタイミングで彼女たちはないよね?
……s。
……s。
……スコール?
名簿のスコールの写真をそれとなく指さしてみたら、ソロもそれとなくうんうんと頷いた。
- 237 :ガーデンオリエンテーション 〜見学生歓迎します〜:2022/08/21(日) 21:03:13.36 ID:V/nO4cqXV
- そうよ、そのとおりじゃない。
スコールが私を一人残していくなんてありえないよ。
金髪の男の子とか、ピサロみたいにこの世界に留まってるかもしれないし!
少なくとも、ソロが知ってるくらいには元気にやってるってことなんだよね。
もしかしたら、アルティミシアを欺いてまだ生きているのかもしれない。
……あー、もしかして?
だから言葉を濁したのかな?
スコールが幽霊になってでもこの世界に残ってるなら、アルティミシアは血眼になって探しに来るに決まってる!
前の世界でもう一人の魔女の力を回収したときのようにね。
かくいう私にだって同じことが言えるのか。
死んでるのにうろうろしてる魔女なんて、アルティミシアにとっちゃ異分子以外の何者でもないもんね。
"つまり、私はこれからしばらくアンジェロですかあ"
「すみません、しばらくの間は容赦していただけないかと」
うーん、すごくバツの悪そうな顔してる……。
いや、別に本気でイヤがってるワケじゃないんだし、
キミはもっと肩のチカラを抜いたほうがいいぞ?
"容赦します。じゃあ代わりに、私の人探しも手伝ってよね?"
「ええ、もちろんです。
ジェノバが本格的に動き出す前に、できる限りのことをしましょう」
よし、オーケー。取り巻く状況はちょっと分かった。
ジェノバってのが、ピサロに化けてたセフィロスの手下で、今一番悪いヤツ。
というかセフィロスは最低でも動けないっぽいね。
ジェノバがピサロに化けられるなら、ほかの人に化けてやりたい放題しててもおかしくない。
ソロはそんなヤツが暴れ出す前になんとかしようとしてるってことね。
けれども、がむしゃらに探すだけじゃすれ違って終わり。
だから、ここで私の出番。
"ちょっと待った! ガーデンは広いから、やみくもに探し回るだけじゃ日が暮れちゃうよ!
ここはこの私が案内をしてしんぜよう!"
「……! お願いします!!」
食いつきが初々しいぞ。愛いヤツめ。
どーんと私に任せなさい!
あ、これデートじゃないからスコールは誤解はしないでね?
新入生へのオリエンテーションです。
この程度で怒るわけないだろ、とか呆れ気味な声が聞こえそうだけど。
まあスコールって結構ガーデンの案内してるもんね。
セルフィの案内したとき、丁寧だけどぶっきらぼうだったって聞いたんだぞ?
ゴホン、ゴホン。
- 238 :6/6:2022/08/21(日) 21:05:36.44 ID:V/nO4cqXV
- "OK、じゃあまずはガーデン全体のことを話したほうがいいかな。
ガーデンっていうのは傭兵を育てるための学校です。
全寮制だから、普段の生活だってガーデンの中で完結しちゃう。
アーヴァインやサイファーも、ガーデンで学んでるわけね。
それで、超大雑把に言うと、教育機関としての機能はだいたい中央の本棟に集中してて、
戦いや普段の生活、あと専門分野に関する施設は別館って感じ。
この訓練施設も別館の一つってワケ。
それにガーデンは戦闘訓練もがっつりやるから、保健室や食堂なんかも相応に大きくて別館にあるわけね"
概要をかいつまんで話をしながら、訓練施設から本棟に戻る通路を堂々と歩いていく。
ちょっと前までスコールに案内してもらう側だった私が、今やガーデンを案内する側。
この通路もはじめは不気味だったけれど、何回も往復するうちに慣れたなあ。
月日が経つのは早いねー、とか言ったらちょっとババくさいけど、感慨深さはある。
いや、私Seedじゃないし、そもそもガーデンの生徒ですらないから、何生徒ぶってんのと言われたらショックだけどね。
スコールにまた会える可能性を視たからって、私ちょっと浮かれすぎか。
落ち着こう。反省、反省。
"人を探すのなら、人の集まる場所に行くのが鉄則。
今までの世界でも、生活に便利な町や村に人が集まってたじゃない?
物資や食料も必要だしね。
だったら、ガーデンでもそういうところに足を踏み入れるんじゃないかな?"
「なるほど、確かに僕らもレーベやウルで拠点を築いていました。
可能性はありそうですね」
"でしょ? じゃあ、探してる人たちはどんな場所に行きそう?
まずはそこから重点的に探していけばいいんだよ"
「となると、保健室、食堂、学生寮……でしょうか。
駐車場は最初に探しましたし、訓練施設には誰もいなさそうですし」
"仮に誰もいなかったとしても、注意書きのメモを置くくらいはできると思うしね"
アンジェロの耳がぴこぴこ動く。
仮に行き先に誰かがいるなら、先にアンジェロが見つけてくれる。
セフィロスくらい強いと不安だけれど、どうもジェノバという悪者はそういうのではないらしい。
だから、こそこそせずに堂々と歩を進める。
魔女のせいで回りくどい聞き方しかできないけれども、
ソロから聞いた情報は希望を持つには十分。
ソロに垣間見えていた焦りはいつの間にか収まってる。
穏やかで晴れ晴れとした、希望に満ちた朝。
このまま、何もかもうまく行くといいな。
【ソロ(MP0、真実の力を継承)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、
ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション、村正
第一行動方針:ジェノバの魔の手から仲間を守る
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ(リノア) 所持品:風のローブ
第一行動方針:サイファー、アーヴァイン、スコールなどのソロの仲間と合流
第ニ行動方針:アンジェロの心を蘇らせる手段を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒し、スコールと再会する】
【現在位置:バラムガーデン・訓練施設→ロビー】
- 239 :悲哀に咽ぶ生き人形 1/4:2022/08/21(日) 21:07:57.12 ID:V/nO4cqXV
- それは突然のことだった。
「リュッグ、ふせで! ボビィも゛!」
二階の渡り廊下に差し掛かったとき、アーヴァインが唐突にものすごい力であたしの身体をがばっと押さえつけてきた。
「クェッ!?」
「こえ゛も、ださないで……!」
『何すんの!』とか、『髪型崩れるってば〜』とか、そんなこと到底言い出せる雰囲気じゃない。
そのあと、追い立てられるように、そろりそろりと壁際まで歩いていく。
アーヴァインは廊下の先に誰か――いや、誰かじゃない。
きっとソロかセフィロスを見たってコトだよね?
「アイツ゛、ソロと、なかよさ゛そ゛うに、あるい゛てた。
ソロ、アイツのしょうたい、わかって゛るはずなのに」
その瞬間が、あたしの予想以上に早くおとずれた。
覚悟なんてこれっぽっちもできてないのに、現実は待ってくれないんだ。
ソロがいるのは渡り廊下の先ではなくて、そこから見下ろせる一階のほうらしい。
気付かれないよう慎重に、細心の注意をはらって階下を覗いた。
中央から枝のように八方に伸びる廊下。
歩いてくるのは間違いなくソロだ。
そしてその隣を歩いているのは、セフィロス……じゃない?
愛くるしくて、人懐っこそうで、そしてとっても賢そうなワンちゃん。
今ここにいるはずがない、私たちの仲間。
アンジェロは命を落とした。
ヘンリーさんがそう言ってたし、プサンのおじさんやロザリーさんの話とも一致する。
こんなところにいるはずがない。
それじゃ、あの犬が、セフィロス?
私の疑問に答えるかのように、アーヴァインが口を開く。
「アイツ゛がぼくをさらったの、……ゲホ! ぼくのからだをの゛っとるためだったんだ。
ぼくのこころが消されて、アイツの゛記憶がかわりにながれてきて、アイツになりかわっちゃうんだ」
「クエエ!?」
「じゃあ、今のアイツはアンジェロの身体をムリヤリ使ってるってコト?」
「そう、ぼくをつかって゛、アイツはギードからアレイズをドローし゛た。
ぼくをの゛っとるのにしっぱい゛したときの、ゴホ、かわりの゛手駒を確保するために」
犠牲者が出ることだけは避けられたけれど、それ以外何もかもサイアクだった今朝の戦い。
当時はセフィロスの目的はさっぱり分からなかったけれど、その悪辣さと周到さにあらためてぞっとする。
アーヴァインはセフィロスに操られて、あたしたちに刃を向けた。
セフィロスはアンジェロの身体を使って、懲りずに非道を繰り返してる。
ヒトの身体を強引に乗っ取って、人形のように操り、無限に哀しみを生み出すその生態はどこかエボン=ジュを思い起こさせる。
少なくともあたしの知ってるソロは、そんなことを見過ごしはしないし、体を張って止めようとするはずだ。
なのに、なんで何事もないようにセフィロスと一緒にいるんだろう。
- 240 :悲哀に咽ぶ生き人形 2/4:2022/08/21(日) 21:08:58.12 ID:V/nO4cqXV
- あーもう、そういうネガネガしたことばっかり考えちゃダメだよ!
悪いことばかり考えてると、幸運もチャンスも逃げちゃう!
そうだよ、私だってアーヴァインの話がなければ、アンジェロが実は生きていたのかなって思っちゃうよ。
アンジェロの中身がアイツだったとして、ソロがそれに気付いてない可能性だってあんじゃない? きっとそう。
だから元凶の悪いヤツをぶっ飛ばせばそれでミッションコンプリートなんだって!
「ゴホゴホ、ソロはね、真実を゛見抜ける゛眼を持ってるんだ」
あたしの浅はかな考えは、その指摘でガラガラと崩れ去っていく。
「アイツに注入された知識だけどね゛。
クリムトから゛そういうアビリティを受け継いだんだよ。
たぶん、変化の杖をつかってても、ぼくのすがたが見える゛みたいな、そんなアビリティ」
真実を見抜ける眼。
ロックからの又聞きだけど、あたしも確かにそんなことを聞いた覚えがある。
そんなアビリティを持っているのにセフィロスと一緒にいる。
何かの間違い。そう思いたい。
けれど、現実にソロはアンジェロの中に入ったセフィロスと一緒に歩いてる。
だったら……。
「アイツがかいしん゛するなんて、ありえない゛。
だって、こんなにも、ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」
「疑ってないっ! あんたの言うコトはこれっぽっちも疑ってないから!」
「クエ! クエ〜!!」
「ごめ゛んね、ソロのこと、しんじたい、よね。
ぼくのいうこと、しんじたく、ないよね。
でも、ぼくだって、ソロが自分からアイツと゛いっしょにいるなんて、しんじたくないよ……」
その咽ぶように絞り出した声は、言葉は聞くに堪えなかった。
あたしの心は、そんな言葉を聞いちゃダメだと拒絶する。
そうやって目の前の出来事をまっすぐに見れなかった結果、死んでいった人たちはたくさんいるのに……。
「……え、あれ、もしかして、そういうコトなの?」
「何か、分かったの?
めいいっぱい力になるからさ、分かったこと教えてよ!」
喉を詰まらせるかのように咽び泣いていたアーヴァインの声のトーンが変わる。
まだイイことなのかワルいことなのかも分からないのに、あたしはソロが裏切っていないという可能性に期待してしまう。
別の可能性が語られることを期待してしまう。
- 241 :悲哀に咽ぶ生き人形 3/4:2022/08/21(日) 21:09:57.20 ID:V/nO4cqXV
- 「ごべんね、やっぱりソロが裏切ったんじゃなかった。
全部ぼくのせいだったんだ」
アーヴァインがさらに悲痛な表情で、自分を責め立てる。
アーヴァインのせいだなんてことはありえない。
でもソロのせいだとも信じたくない。
だから、あたしはその話の先を求めてしまう。
だって、何が起こったのか言ってくれないと分からない。
けれど、何が起こったのかは聞きたくない。
そんな相反する感情を知ってか知らずか、アーヴァインは話を続ける。
「ぼく、アイツに゛たくさん血をながしこまれたんだ。
そしたら、アイツの声がぼくの中にひびきわたってくるようになった。
アイツの血をあびると、こころを゛乗っ取られるんだ。
……ソロは、ぼくをたすけるために、たたかってくれた。
けれど、そのときに゛、ぼくをたすけようとして、血をたくさんあ゛びて……ぼくのせいで……」
「言っちゃダメだよ! アーヴァインもソロも悪くない! 全部アイツ! アイツのせい!」
それ以上は聞きたくなかった。
ソロがどれだけ必死でアーヴァインを助けようとしていたのか、アーヴァインがセフィロスの支配からどれほどの想いで脱しようとしていたのか。
希望はすべて裏返って、心がひび割れて壊れていく。
これ以上、アーヴァインにその悲惨な記憶を語って自分を自分で追い詰めてほしくはなかった。
「……自分を責めちゃダメだよ。自分を責めたら、ソロだってきっと悲しむよ。
考えようよ。ソロを助ける方法をさ。
アイツの呪縛から、みんなを救い出す方法をさ!」
ボビィの目がうるうると涙ぐむ。
アーヴァインの眼から、ぽろりぽろりと涙がこぼれる。
もらい泣きなのか、あたしの視界までぼやけてくる。
けれど、ここで折れることだけはありえない。
今までだって、どんな絶望的な状況でも諦めなかった。
どんなに絶望的な状況になっても、諦めなかったからこそ永遠のナギ節は訪れた。
そして、あたしのドレスに宿った誰かの想い。
勇者とは、最後までけっしてあきらめない者のことだ。
そんな言葉が、スフィアの記憶に乗ってあたしに流れてくる。
その言葉が、あたしを奮い立たせてくれる。
だから、ソロ。まってて。
あたしが、絶対に助けてあげるからね。
- 242 :悲哀に咽ぶ生き人形 4/4:2022/08/21(日) 21:11:31.06 ID:V/nO4cqXV
- 【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣、チョコボ『ボビィ=コーウェン』
第一行動方針:アーヴァイン(ジェノバ)を保護しつつ仲間と合流する
第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ジェノバ@重度ジェノバ化アーヴァインのすがた
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:本物のアーヴァインに発見されないうちにリュックを信用させ、ソロと殺し合わせ、ソロの心を折る
第二行動方針:ソロに寄生して乗っ取り、真実の力を掌握する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置;バラムガーデン2F・廊下】
- 243 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/08/22(月) 23:29:10.37 ID:dHgw4ebKN
- 投下乙です!
押せ押せムードでぐいぐい引っ張ろうと頑張るリノアが微笑ましいなぁ
ソロも落ち着いて頭が回り始めてきて、これなら安心かなー!
と思ったら先にジェノバに気付かれてヤバイヤバイ
上手いことリュックは言い包められちゃうし、ソロ達逃げてー超逃げて―って気持ちになりました。
ヘンリー達ともすれ違ってしまいそうだし、現状ジェノバの方が有利で怖いけれど、続きが楽しみです!
- 244 :Mr.Trouble Maker 1/11:2022/09/09(金) 22:34:40.58 ID:yJUXfGifN
- 「ごちそうさまーっと!」
「おいしかったあ! おなか一杯!」
「ごちそうさまでした。
久しぶりにまともな食事を出来たのはいいんですが、ちょっと食べ過ぎたかもしれません……」
上等すぎる朝食を終えて、ニコニコ笑顔のセージとお腹を撫でながら反省の言葉をつぶやくラムザ。
そんな二人の分まで食器を片付けていると、厨房の奥に扉があるのが見えた。
もしかしたら店員の住居スペースとか休憩室とかがあるのかもしれない。
美味しいパンをたくさん食べたおかげか、左足の痛みもほとんど無くなってきたし――
「なあラムザ。トイレ探すついでに、ちょっと奥の方を調べてきていいか?」
「一人で? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。これだけ静かなら俺達以外人がいるとは思えないし」
「それもそうですね」と頷くラムザ、その向かいでセージが軽く小首を傾げる。
「バッツお兄さん。
お手洗いはあっちだと思いますよ」
「えっ?」
彼女、というか彼の眼差しの先には、天井から吊り下げられた矢印つきの看板。
"Toilet"という文字と一緒に男女を表しているらしいマークも描かれている。
「すごいなあ」
ぼやきながら男子用と思われるトイレに入って用を済ませる。
めちゃくちゃ綺麗だし勝手に水が流れるし、こんなところまでカルチャーショックを受けるとは思わなかった。
ロンカ文明が全盛期の頃はこういう感じだったのかな?
空に浮かんだ要塞や飛空艇のカタパルトを思い返し、そのついでに"あほがみ〜るぅ〜"って落書きのことまで思い出し、ちょっとだけもやもやしながら食堂に戻る。
他に何か看板がないかと天井の方を見上げると、入り口近くに時計がかかっていたことに気づいた。
今の時間は8時20分ほど。
俺達は早めに旅の扉を潜ることができたから、比較的ゆっくり食事をしていられたが――
もう生存者全員が旅の扉を潜り終わって、この世界を探索し始めているはずだ。
立てこもるにしても移動するにしても、そろそろ気をつけないといけないな。
「本当にすごい技術力ですね……」
いつの間にかラムザがカウンター周辺を調べ始めている。
良くわからない機械が多いから触ってないけど、ラムザはそういうのにも詳しいんだろうか?
そんな俺の期待混じりの視線に気づいたのか、彼は苦笑しながら肩を竦めた。
「どれもこれも僕が知っているような機械じゃないですからね。
アンジェロがいた世界の人間なら動かせるのかもしれませんが」
……アンジェロって、スコールの彼女の飼い犬だよな?
もしかして、ここがスコール達の世界だってアタリをつけているんだろうか。
確かに雰囲気はなんかそれっぽいような気がしなくもないけど……
- 245 :Mr.Trouble Maker 2/11:2022/09/09(金) 22:37:55.78 ID:yJUXfGifN
- 「うわぁ、やっぱり全部本物だぁ!」
歓声に振り向いてみれば、目をキラキラ輝かせながら壁際の植物を調べている少女の姿。
こうやって眺める分には間違いなく女の子に見えるんだけど、でも本当は俺と同年代の男なんだよな。
ローグから聞いた話と顔写真、それにツンケンしてる口調しか知らないから、セージ本来の姿ってのがどんな感じなのか今一つピンと来ない。
えーっと確か、"プライドが高くて自信家で、頭良すぎて何考えるかわからないけど実力は確かで、めんどくさいところはあるけど一応正義感はある善人"だったっけか。
アルガスとサイファーとスコールとヘンリーを足して四で割ればいいのかな?
いやまあ、そもそも今は"タバサ"として扱うしかないんだけどさ。
念のため、もう一度二人に声をかけてから厨房の奥に進む。
金属製の扉を開けると、ちょっとした廊下に『休憩室』と書かれた扉が一つ、『ロッカールーム』と書かれた扉が一つ。
それに内鍵のかかった扉が一つ――どういう仕組みかわからないけれど、『非常口』と書かれたプレートが扉の上でぺかぺかと赤く光っている。
鍵を捻って開けてみると、普通に屋外に繋がっていた。
刈り揃えられた植え込みに挟まれる形で、人間二人が並んで通れるぐらいの道が整備されていて、ドーム状の屋根が特徴的な建物へと続いている。
それとは別に、右手側にとてつもなくデカイカタツムリのバケモノみたいな建物と、天辺でぐるぐる回っている巨大な輪っかが見えた。
思わず地図をザックから取り出して広げてみると、今までのような大陸地図じゃなくて、建物の見取り図になっている。
『学生食堂』と記された建物に、『学生寮』と『校舎』が隣接しているが……
配置的にドーム屋根が学生寮で、水色の巨大カタツムリが校舎なのだろうか。
(……というか、学校なのか、ここ?)
好奇心は刺激されるけれど、さすがにラムザに相談なく移動するわけにもいかないだろう。
一旦引き返して鍵を閉め直し、他の場所を調べることにする。
まずはロッカールーム。
金属製のロッカーが十個ほど並んでいて、全身が映るサイズのスタンドミラーとベンチが置いてあった。
多分仕事着に着替えるための場所なのだろう。
一番手前側のロッカーを開けると、予想通りコックコートと名札らしきものが仕舞われていた。
それとは別に、扉の内側に小さな紙が貼ってある。
"ID:COOKS029 PASS:TREPEFC114"と書いてあるけれど……意味がわからない。
まずアイディーってなんだ? パスってのも……通る? どっかの場所の合言葉か?
あとでラムザに見せてみようか、と紙を剥がしてポケットにしまう。
それからついでに名札を見てみると、持ち主の名前以外に"バラムガーデン・調理スタッフ"と書かれていた。
(バラムガーデン……)
やっぱりここはスコールやサイファーが通ってたっていう学校らしい。
俺の知ってる学校とはスケールから何から全然違うもんだから、羨ましくなるどころかため息しか出てこない。
まだ食堂しか見てないし、ちゃんとした広さは地図だけじゃあわからないけれど……古代図書館どころかロンカ遺跡よりでかいんじゃないか?
ミドに見せたら驚くかなあ、なんて勉強家の子供の顔を思い出しながら、俺は休憩室の方に向かった。
- 246 :Mr.Trouble Maker 3/11:2022/09/09(金) 22:40:53.35 ID:yJUXfGifN
- 「はぁ〜……」
想像以上に立派過ぎた内装に、思わず変な声が出る。
ちょっと大きめのダイニングテーブルに、向かい合わせになった六脚の椅子。
金属製のシンクにはコンロとよくわからない箱形の機械が備え付けられていて、透明な紙で包まれた白いフォークやスプーン、それに紙製のコップが数十個単位で置かれている。
本棚には薄い本が何冊も詰め込まれ、その上には0から9までの数字のボタンがついた謎の装置とメモ帳とペンが置かれていて。
壁には色々な張り紙や額縁に入った文章……それに掌より二回りほど大きいサイズの、おしゃれな壁掛け時計が飾られていた。
(とりあえずメモとペンは貰っていくとして――
この時計も外せそうだな……持って行っちゃおうかな?)
俺の知ってる時計とは違ってメチャメチャ薄く、壁から外してみても手鏡程度の重さしかない。
持ち運びしようと思えば持っていけるサイズ感だし、詳しい時間がわかるっていうのはやっぱり便利だ。
俺はいそいそと時計をザックの中に仕舞いこみながら、ついでに他の張り紙を見る。
"ガーデン納涼カード大会開催"。優勝者は前回優勝者ニーダとのエキシビジョンマッチが云々。
"学園祭にご協力ください!"。なんか屋台とか出したいらしい。協力してくれる人はセルフィ=ティルミットまでご連絡ください、だって。
"感謝状"。……これだけ他の張り紙より黄ばんでるな。いつも掲示物の張り出しに協力していただき感謝します、という内容と風紀委員長名義でサイファーの署名が入っている。
"ガーデン映画上映会"。"さよならププルン"実写化記念と書かれていて、可愛らしい妖精の絵が描かれている。
(ププルン……そういや食堂のメニューにププルンプリンってあったっけなあ。
単にプルプルしてるからそういう名前なんだと思ってたけど、この妖精みたいのがププルンってことなのかな?)
――そんなことを考えていると、突然『ゴーンゴーン』と鐘の音が鳴り響いた。
驚いた俺は慌てて食堂へ戻る。
ラムザが時計を見つめ、セージがびっくりした表情であたりを見回していたが……――特にも何も起こらない。
「どうやら始業の鐘みたいですね。
ここは学校のようですから、時間になったら鳴る仕掛けが作られているんでしょう」
落ち着き払ったラムザの言葉に、俺とセージはほっと胸を撫でおろす。
それはそれとして、せっかくだから一度わかったことを共有しておいた方がいいかもしれない。
ラムザが席に座ったのを見て、俺もテーブルへ戻る。
セージだけは植木鉢をつつき回しているが、食堂の外へ飛び出すような素振りでも見せない限り、わざわざ呼ぶ必要はないだろう。
「何か見つけましたか?」
「ああ。裏口と休憩室、それに着替え用の部屋があった。
で、この変なメモを見つけたんだけど……これ、何かわかるか?」
謎の文字列を見せると、ラムザは眉を潜めながら首をひねる。
「ううん……僕もあまり詳しくはないんですが、恐らく何かの機械を動かすための起動コードじゃないですか?
機工都市の発掘品や秘境の古代遺跡で、たまに起動者名とパスワードを求める機械が発見されますから」
「へぇー! なるほどなあ!
どこかの合言葉か、隠し通路の配置を暗号にしたのかなって思ってたよ」
「ああ、そういう線もあり得そうですね。
繰り返しますけど、僕もあまり高度な機械には詳しくないですし、ましてやこの世界の文明や技術力は理解できる気がしませんから……」
- 247 :Mr.Trouble Maker 4/11:2022/09/09(金) 22:43:04.04 ID:yJUXfGifN
- ラムザはため息をつきながら天井を仰ぎ、机の上にばさりと何かを放り投げた。
十ページもなさそうな薄い本だ。
巨大カタツムリ改めバラムガーデン校舎を表現した精緻な絵が目を惹くが――これ、アルガスが自慢してた"でじかめ"みたいな機械で作ったのかな?
「ガーデン入学希望者への案内だそうです。
『ご自由にお持ちください』なんて、同じ冊子が何部も置いてありましたけど……
普通、こんなの作れませんよ」
ラムザの言う通りだ。
こんな綺麗な多色刷り、一枚作るのに何日かかって何ギルになるか見当もつかない。
でもそれはあくまで俺やラムザにとっての常識であって、この世界だとこんなものをタダで配っても採算が取れるってことだ。
とんでもないなあ、と思いながら中身に目を通す。
「"バラムガーデンは傭兵育成機関ガーデンの本校であり、最も自由な校風を誇っております"……
"軍属を見据えた教育を主眼とするガルバディアガーデン・トラビアガーデンと異なり、オールラウンダーな傭兵を輩出するべく幅広い教育を行っております。
ガーデンが誇る精鋭傭兵部隊SeeDも、バラムガーデンで試験を行い選抜しております。
貴方もSeeDを目指しませんか? 入学は5歳から受け付けており、20歳まで在籍が可能です"…………って、俺ダメじゃん!!」
「いや、そこじゃなくてこっちですよこっち」
ラムザが文章の後ろに添えられた絵を指さす。
そこに描かれているのは太ったおっさんと、その後ろに整列している軍服姿の四人の男女だ――……っていうか、これ。
「この顔、スコールじゃないか?」
「そうなんですよ!
参加者リストで見ましたが、この額の傷、彼で間違いないですよね!?」
いや参加者リストも何も会ってるじゃん――って思ったけど、良く考えたらラムザって『スコールが死んだ後に合流したから生きている姿は知らない』ことになるのか。
難しいなあ。わかってることをわからないフリしなきゃいけないとか、頭がこんがらがりそうだ。
とりあえずラムザがいる間は話を合わせていけば問題ないだろうけど……
「この建物がスコールさんの通っていた学校なら、サイファーさんも知っているはずですよね。
アンジェロから聞いた話だと、二人は昔からのライバル同士とのことでしたから」
「あー、うん。そうだと思う。
俺もさっき休憩室で、サイファーのサインが入った張り紙見つけたし」
「やっぱり! だったら、下手に動き回るよりはこの場所で守りを固めた方が良いかもしれません。
サイファーさんが生きてこの世界に辿りついてくれれば、この場所は必ず訪れるはずです。
安全な食料が豊富にあるとわかっているんですから」
……と、ラムザは言っているけれど、その視線は思いっきりセージの方に向けられている。
きっと会わせちゃいけない相手が多すぎるから、下手にうろつくよりもサイファー達が見つけてくれることを期待してここで籠城した方がいいんじゃないか? って言いたいんだろうな。
もちろん俺もその方針自体は賛成なんだけど――
「ギードがいるんだからサイファーも石化解いてもらっただろうし、ここの建物を知ってる奴なら、安全なルートとかわかってるだろうしな。
ただ、危ない奴が近づくといけないし、俺だけでさくっと外の様子を探りに行ってもいいか?」
「えっ? ………危険ですよ?」
ラムザが首輪を叩きながら眉を潜めた。
首輪の解除が出来なくなるのを危ぶんでいるんだろうか?
もしかしたら、セージの首輪を外すことまで考えてたのか?
- 248 :Mr.Trouble Maker 5/11:2022/09/09(金) 22:45:57.93 ID:yJUXfGifN
- 「ええっと……」
さすがに上手い聞き方が思いつかない。
俺は休憩室で回収したメモ帳を取り出し、さっと書き記す。
『セフィロスとケフカとアーヴァインが近寄ったらまずいから、近場だけでも見回りに行きたいんだけど。
先にセージの首輪を外した方がいいか?』
その文章を見たラムザは、小さく首を横に振る。
ペンを渡すと、下の一行を黒塗りにして消した。
「いえ、タバサちゃんの身を危険に晒すのは良くありませんね。
この先何があるかわかりませんし、タバサちゃんとセージさんの気持ちも考えるべきです。
リルムのような目に合わせてはいけませんしね」
……なるほど。
そういやリルム、本物のタバサに襲われてケガしたとか言ってたっけ。
確かに今の不安定なセージには合わせられないなあ。
まさか"この子はタバサじゃなくてタバサセージお兄さんちゃんです"って紹介するわけにもいかないし。
「ただ、一つ約束してください。
どこで誰と会ったとしても、戦おうとは考えずに逃げに徹して下さい。
バッツさんの代わりになる人はどこにもいないんですから」
「ああ。もちろん無茶はしないさ。
またシーフにジョブチェンジして、警戒しながらちょこまか動いて適当なところでとんずらするよ」
答えながら、俺は瞼を閉じて意識を集中する。
リュックみたいに早着替え感覚で――とまでは行かないけど、何分もかかるもんじゃない。
身体が一気に軽くなったのを感じながら目を開けると、いつの間にかセージが近寄ってきていた。
「あの、バッツお兄さん……」
「ああ、話聞いてたのか?
大丈夫だって、無茶しないからさ。
タバサ世直し団隊員として、見回りに行って来るだけだって」
不安がらせないように笑いながら答えると、セージは"ボンッ!"と音を立てそうな勢いで顔を真っ赤に染める。
「ほ、ほほ、本当にその名前使っちゃうの!?」
い、いくらセージお兄さんが気に入ってるからって……は、は、はずかし……」
両手を上下に振りながら必死で訴えるセージ、その雰囲気が急激に変化する。
困惑の表情は虚無へ、しどろもどろとした子供らしい口調は冷徹な大人のそれへ。
「あの、口が滑らせた僕が全面的に悪いんだけどさ。
"タバサ"をからかうのは止めてほしいんだよね」
本来のセージの人格が、嫌そうに眼を細めて俺をにらみつけた。
顔はタバサのままで何も変わってないけど、入れ替わったのはすぐにわかる。
「え? 俺も普通に気に入ってるんだけど、ダメか?」
「"タバサ"が恥ずかしがってるからダメだよ。
別の名前にして、別の名前」
「じゃあセージ世直しd」
「却下!! 絶対却下!! もう人名入りは禁止!!!」
うーん。"タバサ"モードの時と違って圧が強い。
俺が「ええ〜……」と肩を下げると、ラムザが呆れたように呟いた。
- 249 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/09/09(金) 22:46:53.91 ID:iIW303Q3x
- しえん
- 250 :Mr.Trouble Maker 6/11:2022/09/09(金) 22:50:33.29 ID:yJUXfGifN
- 「バッツ世直し団でいいじゃないですか、もう」
「採用! それで!」
人名禁止とはなんだったのか。
ラムザの投げやりな提案に即答するセージをジト目で睨んでやろうかな、と思ったけれど、その名前でいいならいっか、と考え直す。
バッツ世直し団、俺がリーダーっぽくってカッコいいしな!
「じゃあ改めて、バッツ世直し団行ってくる!!」
リュック仕込みのポーズをバシッと決めてから、俺はダッシュで出口に向かう。
扉を押し開ける直前、ラムザの声が背中越しに飛んできた。
「本当に気を付けてくださいねッ!!
あとあまり遠出しないで、適当なところで切り上げてきてくださいッ!」
「わかった、昼前には戻ってくるさ!」
俺だって無茶する気はないし、時計だってあるからな!
「二人ともちょっと声大きいんじゃない?」ってセージのぼやきが聞こえてきたけれど、まあそれはそれ。
こっから先は華麗な忍び足でこっそりと行動だ!
――そんなわけで、ササッと渡り廊下を通って巨大カタツムリな建物へ向かったわけだけど。
(はぁ〜……)
やっぱり、スケールも構造も何もかもがとんでもなさすぎてため息しか出てこない。
外壁部に身を隠しながらそっと覗き込んだ視界で、まず目についたのは中央を貫く巨大な柱。
それ単体で塔と見紛うほど太い上に、青く輝く半透明のパイプが天井へ向かって伸びている。
そしてそのパイプは他の場所にも配置されているらしく、端の方からも青い光が漏れているのが見て取れた。
さらに言えば、恐らく二階に当たる高さのあたりで、パイプの途中から伸びるように通路が配置されている。
俺が知ってる奴とは全然違うし、確信は持てないけど……もしかしたらエレベーターなのかもしれない。
で、視線を下へ移してみると、今度は噴水。
魚を模したらしい石像の口から、もうウォルスの城か? ってぐらい水がどぼぼぼぼって流れてる。
そして透き通った水はホールを囲むようにたっぷりと称えられていて――
……やっぱりウォルスだってコレ。水のクリスタルがどっかにあるだろ。
ひぇー、と言いたくなるのをぐっと堪えながら、俺は静かに周囲を見回す。
誰もいない――と思った矢先、視界の端で青い光が僅かに揺らめいた。
(……正面側の、上?)
さっき見た地図と学生食堂の配置を思い返す。
もし今の光の変化がエレベーターの動きによるもので、誰かが二階より上に向かったのだとしたら?
ガーデンの正面側の奴が作動したなら、位置的に俺の姿はまず見えないと思うけど……降りてくるときに気付かれたらまずい。
通路自体は円形になっているようだから、学生寮側から回った方がいいかもしれないな――
――なんて思った矢先、水音に混ざって誰かの声が聞こえることに気が付いた。
耳を澄ますと、やはり正面側から響いているようだ。
「………んしつで……――…し…くど…………がくせ――……」
(んん?……この声、ソロか?!)
いきなりラッキーだ。ソロなら信用できるし心強い。
そう考えた俺は足音を立てずに走り出し――
何かの板の向こうに、見覚えのある緑髪を垣間見たその時、ホール全体にノイズ混じりの叫び声が響き渡った。
『――みんな、聞こえる!? お願い! 聞こえて!!
あたし、リュック! 今、大変な事が起きてるの!!
1階のホールで、セフィロスがアンジェロの身体を使って、ソロを操ってる!!
ソロ達に近づかないようにして!! 近くにいたら逃げて!! お願いっ!!』
- 251 :Mr.Trouble Maker 7/11:2022/09/09(金) 22:57:01.91 ID:yJUXfGifN
- *****
――3階、学園長室にて。
放送機材のスイッチを切ってから、女は額の汗を拭う。
「……これで大丈夫だよね?
建物の中にいる人には、みんな、聞こえた……よね」
残念ながらバラムガーデンの放送機材については『僕』の知識にも詳細は記憶されていない。
だが、学園長が使用する設備である以上、少なくとも学校運営に関わる建築物内部には響くはずだ。
あるかどうかもわからない例外を考慮するつもりはないし、女もそのような言葉を求めてはいない。
『僕』は女の望み通り、素直に礼を述べる。
「う、うん……あり"がと、リュ"ック"」
「いいっていいって! これでセフィロスに近づく人は減るハズだから!
あとはあんたを安全な場所に隠して、セフィロスをやっつけてソロを助けるだけっ!
……あ、あと、ボビィを迎えに行ってあげないとね」
「エ"レベーター、乗せ"られそう"に、なかったからね"……
さっき"の、うえきばちのま"えで、まって"て、くれ"る"とは、お"もう"けど」
「あたしたち二人とも羽に埋もれちゃいそうだったもんねぇ……
モフモフぐらいで済めばよかったのに、ギュムギュムのギュー! ってカンジだったし。
でもいつまでも一人にさせるなんて可哀そうなこと、カモメ団のポリシーに反しちゃうからね!」
女は笑いながら意気込んでいるが、その心には不安が渦巻いている。
現状を危険だと認識し、窮地を脱することが先決だと意識して思考リソースを割いている。
"精神的余裕がない"と言い換えても良い。
『自分が頑張らないといけない』『助けてあげないといけない』
そうやって自分自身を追い込み、負荷をかけている。
だから『僕』は感謝の言葉を述べ、縋ってやる。
『君の頑張りに救われている』『君だけが僕を助けてくれる』
努力に報いる形で承認欲求をくすぐり、満たして、依存させる。
これだけで自分の意識で動いているつもりの人形に成り果てるのだから、楽でいい。
「ところでアーヴァイン……
こっからどうやって安全な場所に移動したらいいかなぁ。
エレベーター使うのはさすがに危ないよね? タイミング良くセフィロスとソロが載ってくるかもだし」
「え……?」
女に問いかけられ、『僕』はアーヴァインの記憶を引きずり出す。
バラムガーデン3階は基本的にエレベーターでしか行き来したことがないが、曲がりなりにも主要人物が日常業務を行う部屋がある高層階だ。
本来移動式シェルターとして設計された建物だという情報と照らし合わせても、電源不要で地上に移動できる避難経路が無いとは考えられない。
「あっ、もしかしてこの部屋に立てこもるのが安全だったりする?」
「う、うう"ん……ここ"、あい"つに、バレてるか"も"、だから。
なん"とがして、そと、行こ"う。
どこかに、きっ"と、非常口、ある"はずだから"」
「非常口ね! オッケー、パパッと探してみる!
あんたは休んでていいからね!」
「あ、あり"がと……ごめん"、ち"ょっと、すわ"っでる……」
面倒な捜索活動は女に任せ、『僕』は学園長の椅子に座りこむ。
放送を聞いていたのならば、サイファーと本物のアーヴァインはこの場所に女がいると理解する。
特に竜騎士の靴を装備している後者が問題だ。
屋外から2Fデッキに飛び上がれば1Fホールを経由せずにエレベーターへたどり着ける以上、留まるという選択肢はない。
- 252 :Mr.Trouble Maker 8/11:2022/09/09(金) 23:01:34.51 ID:yJUXfGifN
- 無論、かつてのセフィロスのようにアーヴァインの言動を操ることが出来れば打つ手は増えるだろう。
だが――
『僕』は不要な感覚を遮断し、意識を集中させる。
しかしやはりアーヴァインの気配はぼんやりとしていて、支配どころか感覚の接続すらできない。
単純に距離が遠すぎるせいか。
人間としての自我を固定する死にぞこない共の思念や理性の種の影響か。
あるいは原種のジェノバ細胞へ退化した『僕』と、S細胞をベースとしたまま変異を重ねる一方のアーヴァインで、別種化しつつあるのか。
原因は特定できないが、ともあれ現在の状況ではアーヴァインがいる方角を察知することしかできないようだ。
接触しないように動くというだけであれば、この程度の感知能力でも問題はないのだが……
……いや、無いものねだりをしても仕方がない。
この女を都合よく動かせただけでも十分とすべきだろう。
己の死因となる放送を、必死になって流してくれたのだしな。
「うーん、隠し扉とかはなさそうだから、やっぱりエレベーターホールとか通路にあるのかなぁ。
ちょちょいって見てくるから、どっか行ったりしないようにね!」
一方的に言い切って部屋を出ていく愚かな女は、未だ気づいていないようだが……
いくら切羽詰まった声音で訴えたところで、普通、こんな放送を鵜呑みにする生存者はいない。
――アーヴァインは変化の杖を持っている。
仮にセフィロスに操られたままならば、リュックに化けて偽の放送を流してしまうことも有り得るはずだ。
――ケフカはロックに成りすましてアーヴァインから情報を奪った事がある。
あの性悪魔導士ならばソロを追い詰めるためだけに偽の放送を流すだろう。
――セージは何らかの方法でタバサに成り代わった。
本物のタバサもセージもどういうわけかソロを拒絶していたというのだから、自らの手を汚さずに始末するべく、更なる変身を重ねて他人の声音で陥れるかもしれない。
――放送を流したのはリュック本人かもしれない。だが彼女は単純な上に勇み足も踏みやすい。
何かを勘違いしたのかもしれないし、ケフカか誰かに騙されたのかもしれない。
――当然ながらリュックが真実を伝えている可能性もある。
無条件で信じるべきではないのと同様に、無条件に否定するべきでもない。
一定以上の思考能力を持っている知的生物であれば、必ず考え付く限りの可能性を検討する。
その上で消去法を用いて真偽を判断するものだが、真実に辿り着くにあたって必要十分な情報を得ている生存者はソロ以外存在しない。
もちろんソロ自身は放送内容が嘘だとわかっているし、だからこそリュックと同様に騙される者が現れると考えるだろう。
そういったソロへの精神的影響――人間不信や被害妄想、それに伴う孤立が発生すれば好都合ではある、が。
あくまでもそれは副次的効果にすぎない。
重要なのは。
最も重要なのは、『リュックがソロとアンジェロを敵視しているかもしれない』と全生存者に認知させること。
そしてその事前情報を与える事で、女の死体が生じた後にソロへの疑いを緩和させることだ。
- 253 :Mr.Trouble Maker 9/11:2022/09/09(金) 23:06:09.15 ID:yJUXfGifN
- 仮に放送を行わず、首尾よくソロにリュックを殺させた上で『僕』がソロの身体を手に入れたとしよう。
他の生存者がリュックの死体を見つけ、それがソロの仕業だと考えた場合、果たしてどのような行動を取る?
ソロが他の生存者に信用されているのと同程度には、この女も信用を得ている。
恐らくケフカ以外の生存者達は可能性を察知した段階でソロへ不信感を抱き、敵対的な行動を取るはずだ。
それでは意味がない。
真実の力に邪魔されずに生存者共を取り込みたいからこそソロを狙っているのに、その結果生存者から一斉に排除されては何の意味もない。
だからこそ必要なのだ。
理由が。
死因が。
誰もが知る形で、事前に。
『リュックさんが突然襲い掛かってきたんです。
説得しようとしたけれど聞く耳をもってくれなくて、アンジェロが僕を庇って……それでも止まってくれなかった。
殺したくなんてなかった、でも死ぬまで止まってくれなかった。
仕方なかったんです』
――何の前提もなければ苦しい言い訳にしかならなくとも、前もって手に入れた情報と合致するのならば納得するしかないだろう?
万が一放送内容を全て信じ込むような思考能力の低い生存者がいたとしても、犬を死なせておけば弁解できる。
そのためにセフィロス役を犬の方に設定したのだ。
女もそうだが、何かの手違いでソロを殺されるようなことになり真実の力が移動してしまったら目も当てられないからな。
しかしながら、この計画にはまだ手落ちがある。
ソロが女を殺すに至るか、という点が足りていないのだ。
犬がセフィロスだと信じる限り、女は先に犬を狙う。
たかが犬一匹とはいえ守れなかったという現実を突きつければ、ソロとて激昂するだろうが――
それでも女が『僕』に騙されているのだということは簡単に予想できる以上、止めまでは刺さない可能性が高い。
アーヴァインの意識を掌握して言動を操作できたのならば、この問題もクリアできた。
アーヴァインを通じてヘンリーを言い包め、女を射殺してソロを助け出すよう唆せば良かったのだから。
自分のせいで犬が死に、自分のせいで無辜の仲間が手を汚し、自分のせいで女が死ぬ。
そこまで状況を整えてやれば、ソロという人間の性質上、直接女を殺めたのと同等のダメージを与えることができたはずだ。
……しかし現状ではそれが実行不可能である以上、別の手段を考えなければならない。
女をさらに扇動してソロが見過ごせないほどの行動を取らせるか。
女と別れ、別の姿に化けてヘンリー達に接触するか。
ヘンリーの役目を別の生存者にやらせるか――……
「……イン……アーヴァイン!」
身体を揺さぶられる感覚に気づき、反射的に手を払う。
いつの間にか女が眼前に立っていた。
これは、良い状況ではない。
『僕』としたことが思考能力にリソースを割り振りすぎたようだ。
それでなくてもこの身体を構成している細胞は通常よりも極めて少ないというのに。
「あ……リュ"ック?
ご、ごめん……ち"ょっと、あた"ま"、ぼうっと、し"て"て……」
一応演技を続けながら必死で心を探る。
もしも体重について違和感を覚えたりしていたら、女を切り捨てる事まで視野に入れなければならない。
ここまで便利で扱いやすい駒を、こんなことで手放したくはないのだが……
- 254 :Mr.Trouble Maker10/11:2022/09/09(金) 23:07:47.07 ID:yJUXfGifN
- 「あ、ううん、こっちこそごめん!
いきなりで驚かせちゃったよね」
(……ってゆーか頭がぼーっとするって絶対大丈夫じゃないよね?
やっぱりセフィロスの影響を受けてるんだ! 早くここから逃がさないと!)
…………心配無用だった。
ここまで何も気づかないというのも一種の才能だな。
「それよりさ、非常口見っけたよ!
エレベーターホールの横にあったから、そっから下に降りれると思う!
肩貸してあげるから、立って! 一緒に行こ!」
「あ"、だ、だいじょぶ……ひ"とりで、たて"るし、あ"るけ"る"、から"」
『僕』の言葉と形作った微笑みに、女は一瞬だけ心配そうな表情を浮かべる。
けれどすぐに能天気な笑顔を浮かべ、「よ〜し、行こ行こ!」とはしゃぎながら歩き出した。
『僕』の思考も真実も、何一つとして見抜けないままで。
【セージ(MP4/5、人格同居状態)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
第一行動方針:"タバサ"を害する存在に対処する
基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
最終行動方針:"タバサ"の安全を確保した上で、自分は消える】
"タバサ"(人格同居状態)
第一行動方針:ラムザと一緒に行動する
第ニ行動方針:ギードたちと合流して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
基本行動方針:セージを助ける
最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)
所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
第一行動方針:食堂内に籠城しセージを保護する/ソロ、ギードたちと再合流する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:バラムガーデン・学生食堂】
- 255 :Mr.Trouble Maker11/11:2022/09/09(金) 23:09:42.02 ID:yJUXfGifN
- 【バッツ(MP3/5、ジョブ:シーフ 青魔法【闇の操作】習得)
所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
おしゃれな壁掛け時計、IDとパスワードのメモ、メモ帳と筆記用具
第一行動方針:?????/危険人物が近くにいないか調べる
第二行動方針:食堂に戻ってラムザ達と合流する/機会を見て首輪解除を進める
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置;バラムガーデン1Fロビー・中庭への通路と保健室への通路の中間付近】
【ソロ(MP0、真実の力を継承)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、
ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション、村正
第一行動方針:?????/ジェノバの魔の手から仲間を守る
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ(リノア) 所持品:風のローブ
第一行動方針:サイファー、アーヴァイン、スコールなどのソロの仲間と合流
第ニ行動方針:アンジェロの心を蘇らせる手段を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒し、スコールと再会する】
【現在位置:バラムガーデン1Fロビー・案内板前】
【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣
第一行動方針:アーヴァイン(ジェノバ)を安全な場所に避難させる/セフィロス(アンジェロ)を倒しソロを正気に戻す
第ニ行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ジェノバ@重度ジェノバ化アーヴァインのすがた
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:本物のアーヴァインに発見されないうちにリュックを信用させ、ソロと殺し合わせ、ソロの心を折る。必要であれば他の生存者も利用する。
第二行動方針:ソロに寄生して乗っ取り、真実の力を掌握する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置;バラムガーデン3階・学園長室→移動】
*チョコボ『ボビィ=コーウェン』はバラムガーデン2F廊下に待機しています。
*リュックが校内放送を流しました。
スピーカーがなさそうな場所など、一部区域には放送が聞こえていない可能性があります。
- 256 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/09/09(金) 23:36:01.84 ID:8OhpIGzHV
- 投下乙です。
タイトルからして、てっきりセージがロクでもないことやらかすのか、バッツがトラブル呼び込むのかと思ってたけど、まさかの館内放送は意表を突かれた。
ラムザ&バッツ組とヘンリー組、ともにアンジェロの死体がなくなってることを知ってるから、これは効果的な一手だよなあ。
しかもよりにもよってセージ(&バッツ)が邂逅しそうでやばいやばい。
あっさり合流できるかというところにひと悶着起こりそうで楽しみ。
それとは別に、引き続きガーデン施設の解像度がものすごいなあ。
近未来設定のFF8と中世設定のFFT&FF5、機材ひとつひとつへの反応が大きくて読んでて楽しかったです。
バッツ世直し団w
- 257 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/09/15(木) 02:53:00.20 ID:QfLweLO/m
- FFDQ3 779話(+ 3) 18/139 (- 0) 12.9
- 258 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/09/18(日) 19:55:21.50 ID:ipWg9v7pN
- でもやっぱりプラチナだろ
- 259 :重責に身は強張る 1/10:2022/10/12(水) 00:41:52.43 ID:vdi51sADm
- バラムガーデンMD層。
かつては、どこからか入り込んだモンスターたちの巣窟となっていた地下迷宮だ。
オイルシッパーがオイルをあちこちに塗りたくり、ハウリザードがネジを持ち去り、
プリヌラがぺたぺたと這いずって鉄材の腐食を早め、トライフェイスが酸で金属を溶かす。
そんな状態が長年続き、メンテナンスもロクにされなければ、当然荒れ果てる。
エレベーターが止まるなど序の口だ。
ゲートを開けるためのハンドルなぞ、肉体を鍛えあげた若い男の腕力でようやく動かせるほどにまで錆びついていた。
極めつけに、金属製の梯子が半ばからぽっきり折れるという、通常ならあり得ないインシデントまで発生していた。
ミサイルが飛んでくるという緊急事態にもかかわらず、スコールたちはムダに回り道をして悪戦苦闘する羽目になったのだが……。
サイファーたちもスコールとは違った意味で回り道をさせられる羽目になった。
足場が落ちたり、梯子が折れたり、などというイレギュラーは発生していない。
ガーデンが漂流教室となっているあいだに、生徒たちによってMD層のモンスターはすでに一掃された。
そして、漂流先のFHで技術者集団によるメンテナンスがおこなわれ、内部をまともに歩ける程度には復旧している。
行く手を阻むのはイレギュラーとはまた逆、セキュリティによって阻まれているのだ。
そもそもの話として、MD層に突然に人が転送されてくることなど、製作者は想定していない。
長らく放置されていたとはいえ、MD層はバラムガーデンの中枢に通じる紛れもなく重要なエリアなのだ。
侵入者防止以外にも、湿度や温度を保つために何重ものゲートやシャッターで仕切られている。
誰も用事がないならば、当然、扉もシャッターも閉め切られる。
金網の階段の先に長い長い梯子があったが、スライド式の蓋のような天井に阻まれていた。
下り梯子は、中蓋のようなでかい鉄板で阻まれていた。
支柱の脇にリフトを見つけたが、電気が通っていなかった。
短時間でMD層脱出の目途がついたのは、ガルバディアガーデンのMD層に入った経験があるサイファーと、
様々な場所への潜入任務をこなしてきたロックがいたからこそ、だ。
仮にソロが一人でここに転送されれば、次の放送までここから出られないと言っても過言ではないだろう。
サイファーとロックは梯子をつたって支柱を登り切り、サイファーがその先の端末室で非常電源のスイッチを入れる。
電力はMD層全域に行き渡り、今はちょうどケフカがリフトに乗り込んで、上へ引き上げられているところだ。
- 260 :重責に身は強張る 2/10:2022/10/12(水) 00:43:27.88 ID:vdi51sADm
- 「おはようございます、8時を過ぎました。ガレキの党報道特集です。
本日の司会はぼくちん、解説はオレ様、インタビュアーはこのわたくしでお送りします。
また、特別コメンテーターとして、ギード氏とロック。
なお、サイファーくんは出しゃばりすぎて今日から謹慎処分となりました」
「うるさいぞケフカ! というかお前が一人でしゃべるのはいいけど、俺にまでコメントを求めるなよ」
「おおっと、早速コメンテーターから手厳しい一言が。
盗聴者の皆様、朝から失礼しました。それでは本日も一日がんばっていきましょう。
現場のケフカさん、四日目の新世界はどうでしょうか?
はい、現場のケフカです。え〜、こちらをご覧ください。
わたくし現在、安心安全で静かに稼働する全自動リフトで大事に大事に引き上げられています。
これぞ、THE・先進文明という感じがしますね。
もちろんぼくちんの豪邸には劣りますが、ムダに長い回廊だらけで上下移動にロープを使ってたどこぞのアナログ魔王城とは雲泥の差です。
あっ、向かいのお部屋からサイファーくんがこっちを見ていますね。
手でも振っておきましょうか? ホレ、ひらひら〜」
「サイファーは向こうの部屋で作業をしてんだって! 集中力を乱すようなマネはやめてくれ」
ケフカの唐突な一人芝居に、ロックは思わず口を半開きにして、ため息を漏らす。
ちゃんと声を張り上げないと聞こえづらいのが余計に疲れる。
「ロックや、ケフカのペースに乱されてはいかんぞ。
ロクでもないことを企んでいるかもしれんのでのう」
「分かってるって。俺らがうんざりして監視が緩んだ隙に小細工始める可能性だってゼロじゃないしな」
「ちょっと、いくらなんでも信用なさすぎじゃないですか?
こんなか弱い魔導士一人をよってたかって拘束するなんて、ぼくちん悲しい」
「言ってろ」
ケフカが素っ頓狂なことを言いだせば、だいたい裏でロクでもないことを考えてる。
それがサイファーたちの共通認識。
なんかそんなデータがあるんですかと言われたらそんなものはないが、確信はある。
(ちっ、三方から監視とはねえ。迂闊にヘタな動きはできませんか。
三闘神の力を謎細胞に食わせるまでは成功したけど、より深く洗脳魔法を練り込めなければ意味がないんだよ。
あーあ、またトカゲが血管切りながらくだらない放送流して、ヤツらの注意を引いてくれませんかね?)
三人全員の警戒網を潜り抜けるのは容易ではない。
MD層の出口を探すときも、誰かしらはケフカに注意を向けていた。
できたことといえばせいぜい、魔力がなければジェノバに対抗できないと説得し、アレイズのドローポイントで魔力を回復できた程度だ。
積載荷重という物理的な仕様を盾にギードとは分かれてリフトに搭乗してみたが、やはり警戒に穴は開かない。
(しばらく身体を休めますか。
ジェノバは確実に事を起こすでしょうし、そのときには私の監視も緩くなるでしょう。
しかしこの油くささ、ガストラのやつに牢屋に監禁されていたころのことを思い出しますね。
ツマラン帝国暮らしの日々でも、特級にツマラン日々だったな。思い出すだけでも腹が煮えくり返るわ。
あーあ、早く何かイベントが起こらないかなー)
ケフカは一旦『見』にまわり、体力と魔力に回復に専念する。
向かいの部屋からにらみつけるサイファーをあしらうかのように、ひらひらと手を振り返した。
- 261 :重責に身は強張る 3/10:2022/10/12(水) 00:46:07.81 ID:vdi51sADm
- 「気色悪ぃ。彼氏彼女じゃねぇんだぞ」
サイファーに向かって手を振るケフカ。
そうそう悪巧みはできないとは踏んでいるも、だからといって目は離せない。
もちろん、端末室に来た目的はケフカの監視ではない。
サイファーの視線の先には大型のモニターが鎮座している。
そのディスプレイに描き出されるのは、MD層全域の3D図面だ。
非常電源を入れたことでこの部屋からおおよその機器を操作できる。
プロテクトを解除して最深部へ進めば、コックピットを起動させて一気に学園長室まで進むことができるようだ。
サイファー自身、ガルバディアガーデンMD層で経験した。ゆえに間違いはない。
一方で、単純に徒歩で昇っていく選択肢もある。
経路は二パターン。
地下階に繋がり、そこからエレベーターへ向かう正規ルートと、エレベーター直通の非常ルート。
もっとも、非常ルートは途中で長大なハシゴがあるため、ケフカやギードの移動にとことん向かない。
そのほかにもバルブのようなハンドルをまわす必要があったり、ダクトを進むことになるなど、明らかに普段人が通る想定をしていない。
ゆえに、昇りであれば正規ルートを選ぶべきだ。
ロックが陣取る支柱、そこから伸びた通路を通って、上へ上へと昇ればよい。
すべてのゲートを解除していますというダイアログと共に、
インディケータはくるくる回り、表示されたプログレスバーが徐々に100%に近づいていく。
連動して、MD層のどこからか、ガチャン、ガチャンと金属や車輪がこすれる音が響く。
「ふぅ、これでようやく動ける。いま何分経った? もう一つの確認もさっさと終えたほうがいいな」
やるべき仕事をひとつ終え、あらかじめ起動しておいた別の端末の操作に取り掛かる。
それは大型モニターの脇に備え付けられた管理用の旧式のPCだ。
OSはとっくにサポート対象外。
フロッピーディスクの差込口すら付いている化石級の端末だ。
それでも、ガーデンネットワーク越しにセキュリティアップデートをおこなう運用をしていたために、
イントラネットを通じてネットワークに接続することはできた。
自アカウントのIDとパスワードを入力する。
向かう先は、ゲストアカウントでも書き込みを残せる場所、すなわちガーデンスクウェアの掲示板。
アーヴァインはまだジェノバの存在を知らない。
存在を知られるリスクを侵してまで、ジェノバがアーヴァインの名前で痕跡を残す可能性は低い。
もしサイファーを装った書き込みがあればジェノバの成りすましだが、そうでなければアーヴァイン本人の書き込みだ。
(ビンゴ…!)
イニシャルI.K。
痕跡を確かに見つけた。
ちょうど、モニターのプログレスバーが右端まで到達し、インディケータも消え去る。
プロテクト解除。
シャッター稼働。
ゲートオープン。
端末室の窓のすぐ下では、下層との行き来を塞いでいた大型シャッターが開き、その向こうでは並々と注がれたオイルが黒々とした光沢を放っている。
支柱のほうではロックがギードを乗せたリフトを引き上げているところだった。
仲間との合流。静寂の玉の確保。ジェノバの討伐。ケフカの監視。
やることの多さに、めまいがしそうだ。
誰に何を割り振ろうか。思案の海に沈み込んだところに、それは飛び込んできた。
- 262 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/10/12(水) 01:06:18.62 ID:npVwl6Zec
- エラーになるのでひとまず支援
- 263 :重責に身は強張る 4/10:2022/10/12(水) 01:07:06.91 ID:vdi51sADm
- 長年の間無事故で稼働していたとはいえ、MD層という区画は精密機器の塊だ。
加えて、可燃性のオイルなどの危険物も存在する。
危険なガスが発生しました、けれど連絡が取れませんでした、など、間違っても起こしてはならない。
故に、作業の拠点となる端末室にスピーカーが取り付けられている。
そのスピーカーを通して聞こえてくるのは、今朝連れ去られた仲間……リュックの声だ。
ひっくり返って、息切れて、それでも絞り出すように発せられた声は、
何の前情報もなければ、今朝までの彼女と本当に同一人物なのかと疑ってしまうほどに、サイファーの記憶からかけ離れている。
「………………!」
歯をぎりりと噛み締める。
別れてからまだ一時間経ったかどうか、そのわずかな期間のうちにこれほどまでにリュックを陥れ、ソロを陥れるまでに至った黒幕の悪辣さに。
(予想以上に行動が早ぇ! どうする? どう動くべきだ?)
MD層に隔離されていなければ、今すぐソロを救出しに向かっていた。
だが、この位置からでは接触はとても間に合わない。
MD層でこの放送を聞いたのはサイファー一人だ。
だが、ヘンリーやアーヴァイン、ラムザやバッツ、それにソロとアンジェロ――いや、ピサロの記憶を信じるのであればリノアか。
MD層にいない限りは、彼ら全員、今の放送を耳にしたはずだ。
(ただでさえ後手に回っちまってる。
考えろ。放送の意図は?
アーヴァインを隔離したいのか、ソロを誰かに殺させたいのか、それとも俺たちを呼び出したいのか?
放送したのは誰だ? リュックか? それともジェノバか?
放送はどこから流した? 順当に考えるなら学園長室、だがほかの部屋にも機材はある。
ヤツはどう動く? アーヴァインを装い工作に徹するか、それともそのままソロを殺しに行くのか、ほかの誰かに接触するのか。
アーヴァインはどうする? アイツはセフィロスが死んだとまだ知らねえ。訓練施設に留まるのか? それとも移動をするのか?
ソロとリノアはホールだ。あいつら、突然セフィロスに操られてると吹聴されて落ち着いていられるか?
静寂の玉の確保はどうする? 誰かが持っていればそれでよし、だが夢世界の誰かが持っているなら眠る必要があるぞ?
俺たちはケフカも入れて4人。誰のところに誰を遣る? 誰と接触すべきだ?)
選択肢は膨大、しかし手駒は限定され、与えられた時間はごく僅か。
銀の弾丸はなく、致命的な選択を避けようにも、重みを付けようにも、そうするための情報が足りない。
スコールはいつもこんな重責を背負っていたのかという素直な感想と、そんなこと考えてる場合じゃねえだろという正論が同時に脳裏に湧き出してくる。
CPUが上限に張り付いたコンピュータの冷却ファンのように、脳が熱を噴き出す錯覚を覚えつつ、サイファーは端末室を後にする。
選択の時間だ。
選択肢はいくらでもある。
やるべきことも山ほどある。
その中から、解を見つけ出さなければならない。
これまでもおこなってきたことだ。
けれど、立場が変わるたびにその重責は大きく重くなっていく。
闇の世界のような暑さはないのに、サイファーの額から大粒の汗が流れ落ちた。
- 264 :重責に身は強張る 5/10:2022/10/12(水) 01:10:12.77 ID:vdi51sADm
- ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
きゃり、きゃり、きゃり。
ごり、ごり、ごり。
ざく、ざく、ざく。
木立の中、そよ風の音にさえ吹き消されそうな小さな駆動音。
まばらに生えた草を引き倒し、土砂を踏みしめ、ゆっくりゆっくり進んでいく。
アーヴァインとヘンリーの二人は、人のいない静かな校庭を行く。
一限目が始まっておおよそ20分強。
もうすぐ九時をまわろうかという時刻だ。
元となった世界であれば、教師に率いられた年少クラスが校庭ではしゃぎながらスポーツに取り組んでいる時間帯だろう。
あるいは、高等クラスが教官の指導のもと、戦闘訓練を積んでいるころかもしれない。
車椅子の駆動音一つと大人の足音一人分など、子供たちの喧噪か、模擬戦でぶつかり合う青年たちの気迫でかき消されているに違いない。
けれども、今、二人のほかには人っ子ひとりどころかネズミ一匹いない。
廃校のように静まり返った校庭、声一つない静寂の空間。
ときおり思い出したように風が吹きすさんで校庭を囲う樹木を揺らし、しなった枝葉同士がさらさらとこすれる。
そんななかを、車椅子を押しながらゆっくり進む気品ある成人男性と、目を閉じて静かに呼吸を繰り返す車椅子に乗った青年。
ともすれば、絵画の素材にもなり得る光景であろう。
そんな光景とは裏腹に、彼らの内心は混乱の極みにあった。
- 265 :重責に身は強張る 6/11:2022/10/12(水) 01:11:57.11 ID:vdi51sADm
- 『やばい、やばいぞ、ピサロがいなくなってただなんて思いもしなかった。
万が一はぐれキング野郎が襲ってきたら完全にお手上げだぞどうするんだ俺。
よくよく考えたら当然じゃないかバカ野郎、ピサロがソロを放って俺とアーヴァインについてくるわけないだろバカ野郎、
アストロン解除したらソロははぐれキング野郎と真正面からご対面なんだぞ俺が幽霊になってても残るわそのくらいは考え回しとけよバカ野郎』
(うわ、『焦点の合わない目でずーっと独り言呟いててこの人アブない』ってこれのことか〜。
もしかして、ヘンリーさんって調子に乗ってたほうがうまく行くタイプの人だったり?
ピサロがいないこと、言わないほうがよかったかなあ?)
『いやいや待て待て落ち着け俺、ピサロとソロが揃ってんだ。
なんなら光と闇があわさって史上最強の絶対勇者ソロが誕生するフラグだろ?
光と闇の協調で、はぐれキング野郎には究極の伝説魔法ミナデインをお見舞いするフラグだろ?
エセはぐれメタルをぶっ飛ばして爆速レベルアップ、
アルティミシアにはギガソード、いやいやみんなで見舞おうミナソードだ。
うんうんこれなら倒せるなんだなんだ、やっぱり大勝利じゃないか。
よしよし、落ち着いてきたぞ。よくよく考えりゃ、あと十分もすりゃソロと合流だ。
ちょっとピサロに苦言の一つでも呈して、それで円満解決と行こうじゃないか!』
(僕より一回りも年上なくせに、なんで今頃遅れてきた厨二病みたいになってんのさ〜?
……声漏れてるよーって言ってあげたほうがいいのかな?
いやいや、変なコト考えるな僕、その行為は絶対トドメを刺すぜ〜?
ヘンリーさん、今絶対僕の後ろで顔芸してるだろ〜?
振り向いて変顔してたらどうしよ?
光と闇が両方備わって最強みたいなこと、イマドキ年少クラスで卒業でしょ。
助けてくれてたこととか、セージの件とかありがとうと思ってたのに、この人なんでこんなにギャップ激しいかな〜)
内心はパニックコメディのように混沌とした様子で、傍目には朝の散歩のように落ち着き払った様子で、けれども正しく平穏の域のまま、
ヘンリーは一定の速度を保ちながら車椅子を押して進む。
そのまま、図書館棟を越えて、何事もなく訓練施設のほうへと到達するはずだった。
- 266 :重責に身は強張る 7/11:2022/10/12(水) 01:15:26.61 ID:vdi51sADm
- それは、唐突な出来事だった。
自分たち以外の何者も感じ取れなかった静謐の空間で、突如大音量が響き渡る。
それは、今手押ししている車椅子の軋みが数百倍になったような不快な音だった。
始業の鐘よりも駐車場のシャッター音よりも大きく、キーンと響くような耳障りな音。
それが校庭全体、いや、ガーデン全体に響き渡る。
「な、なんだ!? 今度こそ敵か!?」
「ゲホ、これ、校内放送。周波数合ってないんだよ……って周波数じゃ分からないか。
とにかく、誰かが放送しようと動かしてるんだと思うけど……使えるとしたらサイファーかな。
ゲホ、ゲホ、あー、僕の残したメッセージ、まだ見てないかな〜?」
校庭やゲート外にまで届く放送回線。
校内や本館、あるいは別館限定の回線は当然存在するが、校舎外にまで音を届かせる回線も然りだ。
地震や水害等の自然災害に襲われたときに、この回線から避難の指示を出すこともあろう。
モンスターの突発的な襲撃に備えて、校庭や正面ゲート付近にいる人間たちにいち早く帰寮を促すことだってある。
あるいはもっと単純な理由、すなわち校庭にいるかもしれないSeedの誰かを名指しで呼び出すことだって当然あるのだ。
可能な限り多くの人間に内容を知らせたいのであれば、放送主がこの回線もONにするのはごく自然な選択だろう。
しかしバトルロワイアルにおいて、放送が運んでくるのはいつだってバッドニュースだ。
聞いた人間に絶望を植え付け、希望の芽を摘み取る。それがバトルロワイアルの放送だ。
たとえ放送主が誰であろうとも、その法則からは免れ得ない。
- 267 :重責に身は強張る 9/12:2022/10/12(水) 01:20:23.65 ID:vdi51sADm
- 「ソロが!? ウソだろ!?」
ヘンリーの歩みが止まる。
ゆっくりながらも着実に前に進んでいた、その歩みが確かに止まる。
ヘンリーは動揺を隠せない。
『……俺が間違えたのか? アンジェロに蘇生魔法をかけるべきじゃなかったのか?
それとも、あの野郎に付け狙われるリスクを負ってでも、蘇生魔法を持ち去るべきだったのか?
くそ、後悔なんてするんじゃねえよ!
じゃあ何か? コイツを一人放り出して俺が残るべきだってか!?
落ち着けよバカ野郎、足手まといが一人増えて何になるってんだ!
思い上がるなよバカ野郎、俺はさっきの放送内容を否定したくて、もしもやり直せたらを並べてるだけだろ!
まだ放送の内容が真実だと決まったわけじゃない、落ち着け、落ち着けよ俺』
アンジェロの死体を目撃していなければ、セフィロスと交戦していなければ、ピサロやセフィロスが実際にアーヴァインを操ってみせなければ。
そんなことはあり得ない、リュックが先走っただけだと一蹴しただろう。
心の奥底で気には留めながらも、動揺することはなかっただろう。
だが、その放送が真実ではないかと推測できるだけのピースがそろってしまっている。
セフィロスがアンジェロを利用する可能性を挙げたのはヘンリー自身で、
実際にアレイズを使って蘇生を試みたのもヘンリーだ。
この放送主がケフカやセフィロスであれば、バカを言うなと一笑に付しただろう。
だが、リュックは志を共にする仲間の一人で、人格面も信頼のおける相手だ。
『アーヴァインがセフィロスに乗っ取られかけてた。早急に治療を始めないと危険だった。
だから長居はしちゃいけなかった。
俺の選択は、あのときの最良の選択だった。
けど、本当にソロが乗っ取られてたとしたら……』
アーヴァインが人間に戻りかけているのではないかという仮説でさえ、
セフィロスがソロを操ったことによる副作用ではないか。
そんな考えすら浮かび上がってくる。
セフィロスの痕跡を見逃すまいと、一挙一動には慎重に慎重を重ねたつもりだ。
ソロの痕跡を見つけだし、正直に言えば高揚したところもあった。
セフィロスが絶望的なまでに強くとも、どれほど卑劣な策を重ねようとも、
それを打ち砕き希望を紡ぐ、そんな大きな流れの中にいるのだとさえ思っていた。
死角からぶん殴られるような形で唐突に流されたその放送は、そんな高揚感をごっそり奪い去るには十分すぎた。
放送主はリュックで、彼女は純粋な善意からみんなに放送を流したはずだ。
けれども、その内容は魔女の定期放送に負けず劣らず、希望を嘲笑い、絶望を植え付けるものだった。
- 268 :重責に身は強張る 10/12:2022/10/12(水) 01:23:23.64 ID:vdi51sADm
- 「あの……ヘンリーさん?」
ヘンリーに比べればアーヴァインは比較的冷静さを保っていたと言えるだろう。
とめどなく流れ込む、ヘンリーの激情が強すぎたがゆえに、アーヴァインは相対的に落ち着いていた。
身体に負担をかけないように細心の注意を払いつつ、アーヴァインは後ろに振り向いてヘンリーの顔色をうかがう。
まばたきも忘れて見開いた目と強張った口元、しかしアーヴァインの声は届き、はっとした表情でいつもの飄々とした雰囲気を取り戻す。
「いや、悪い。大丈夫だ、たとえリュックの忠告でも、俺がソロを信じてやらなくてどうするんだってな。
お前はしっかり目的地まで届けてやるから、安心してくれ」
(違う、ヘンリーさん全然大丈夫じゃない。
そりゃ、当初の目的地は訓練施設だったし、ソロとはすれ違ったわけだからあそこは当分安全だよ?
けど、そんなニュアンスで言ってないよね? だいたい、ヘンリーさんってそんな後ろ向きで慎重なキャラしてないでしょ)
訓練施設を目指したのは、他の敵対勢力に気付かれずに、サイファーと合流できる可能性が最も高いからにすぎない。
そもそもリュックはサイファーと一緒にいた。
ゆえに放送を流した場所――たぶん学園長室――そこを目指す選択肢だって挙がってくる。
さっきの放送でほかの仲間も大きく動くはずだから、もう一度守衛室まで戻って監視カメラを覗くのも当然アリだ。
(もちろん、アイツが学園長室を目指す可能性だってあるんだけど、
どこだろうとアイツとソロが一緒に襲ってきたりなんかしたら、もう絶対に逃げられないんだからさ……!
そもそも、アイツのことを意識したら引き寄せられそうになるわけで、会ったら簡単には逃げられない……って、あれ?)
はじめは小さな違和感だった。
「セフィロス。セフィロス。あれ?」
「うん? どうした?」
この世界に来てから、セフィロスからの思念は届かない自覚はあった。
セフィロスの名前を聞いても、姿を思い出しても、自我を奪われるどころか、干渉の一つもないのだと気付いた。
「平気なんだ。アイツの名前を聞いても、顔を思いだしても、平気なんだ」
「よかったじゃないか。
あのはぐれキング野郎の支配を抜け出したってことだろ?」
「うん、それはそうなんだけど……」
最初は、セフィロスがまだ闇の世界にいるからだと思っていた。
セフィロスの支配は世界をまたぐことはできないだけだと思っていた。
けれども、もう九時をまわる。とっくにセフィロスはこの世界に降り立っている時刻だ。
この仮説は否定される。
であれば、ソロを操って満足したからだろうか。
それともアンジェロの肉体では、アーヴァインに思念を流し込み、操るような芸当はできないのだろうか。
人間に戻る作用のために、セフィロスの呼びかけも届かなくなったのだろうか。
もちろん、どれも可能性としてはゼロではない。
けれども、些事だ。
問題なのはそこではない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どうして、アーヴァインたちはソロがセフィロスに操られていると知ったのか。
- 269 :重責に身は強張る 11/12:2022/10/12(水) 01:27:21.46 ID:vdi51sADm
- お前は何を言っているんだ?
ちゃんと起きてた?
第三者がいれば、こう揶揄されても仕方がないくらいに、答えは単純明快だ。
そういう放送があったからだ。
リュックが、『セフィロスがアンジェロの身体を使って、ソロを操ってる』と放送したからだ。
セフィロスの名を聞けば、セフィロスのことを思い出せば、アーヴァインがアーヴァインじゃなくなりそうになる。
それを知っているリュックが、放送でそう言ったからだ。
もうその段階は通り過ぎた?
その通りだ。セフィロスの名を聞いても、セフィロスの姿を思い返してもアーヴァインは平気だ。
リュックはそれを知らない。
セフィロスに思いっきり操られたのだから、もう考慮する必要なんてない?
そうかもしれない。アーヴァインは一度は完全に操られ、リュックたちに危害を加えたのだ、名前の一つや二つを出すくらい、今さらだ。
――でもね、アーヴァイン。こーゆー約束ならしたげる。
――この先何があっても、サイファーにあんたを殺させたりしない。
――サイファーやティーダの前であんたを死なせたりもしない!
――あたしが生きてる限り、何があっても絶対に!
アーヴァインに正面から向かい合って、生きろと言ってくれるような人間が?
アーヴァインを殺すことを拒絶して、代わりに生かす約束をできる人間が?
「ヘンリーさんもたぶん察してたと思うんだけどさ、
僕、アイツの名前を聞いたり姿を見るだけでも操られそうでヤバかったんだよね」
「あ、ああ。まあアイツの名前なんて聞きたくもないだろうなっては思ってたからな」
セフィロスの名前を出したらまずい、これは夢の世界を経由して聞いた話だ。
まずいはまずいが、それを糾弾する雰囲気でないことくらいはヘンリーにも分かる。
だが、何を言いたいのかはまだ分からない。
「リュックやサイファーとは一緒にいたからさ、そのことはちゃんと伝えてあるんだ。
ねえ、さっき放送流したの、本当にリュックなのかな。
リュックだとしたら、なんでセフィロスがアンジェロに入ってるって分かったのかな。
こう言っちゃ悪いけど、リュックもサイファーも、いきなり敵にライブラかけるようなキャラじゃないと思うんだよ。
それで、最後に見たとき、ケフカも一緒だったんだよね」
「……つまりどういうことだ?
ケフカの野郎が、ソロを孤立させるためにデマをバラまいてる可能性だってあるってことか?」
「あるいは、リュックのほうにこそセフィロスがいるのかもしれない」
「……だから、どうするってことか。
ソロに会うか、他の仲間に会うか、それともリュックに会うか?」
ソロが操られている。
ソロは操られておらず、偽物のリュックがデマを流している。
リュックの傍にこそセフィロスがいて、リュックを操っている。
考えられ得る限りの複数の可能性、そしてそれに伴う指針はいくつもある。
選択の時間だ。
信じたいことはいくらでもある。
信じられないことも山ほどある。
それらをすべて横に置き、最良を見つけ出さなければならない。
それこそ、非情な現実を突き付けられたとしても、乗り越えて進めるような選択を。
これまでも何度もおこなってきたことだ。
けれど、いまだに慣れない。
日は高くのぼり、木立の合間からヘンリーを照らす。
彼の頬から、一筋の汗がつうっと流れ落ちた。
- 270 :重責に身は強張る 12/13:2022/10/12(水) 01:28:26.11 ID:vdi51sADm
- 【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ
第一行動方針:放送に対応する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す
基本行動方針:ケフカを除く全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第ニ行動方針:ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ギード(HP1/2、MP:1/5)
所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
第一行動方針:サイファーたちからジェノバの情報を得る
第ニ行動方針:ジェノバを倒す
【ケフカ (HP:1/10 MP:残り少量 左腕喪失・左肩凍結)
所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕、セフィロスの右腕、ひそひ草
第一行動方針:シャワーを浴びながら優位性を確保する/体力・魔力の回復
第二行動方針:ジェノバ細胞を利用する
第三行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
第四行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:バラムガーデン・MD層】
- 271 :重責に身は強張る 13/13:2022/10/12(水) 01:29:09.85 ID:vdi51sADm
- 【アーヴァイン (HP2/3、MP1/4、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、混乱、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
所持品:G.F.パンデモニウム(E、召喚×)、変化の杖(E)、ビームライフル(E) 竜騎士の靴(E) 手帳、リュックのドレスフィア(シーフ)、
ちょこザイナ&ちょこソナー、ラグナロク、祈りの指輪(ヒビ)、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、食料、折り畳み式車椅子
第一行動方針:セフィロスから逃げ切りつつ、訓練施設奥の秘密の場所を目指す or 向かう先を変える?
最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【ヘンリー
所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、リフレクトリング(E)、魔法の絨毯、
銀のフォーク、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ
ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ガーデン保健室の救急セット・医療品、食品)、
レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
第一行動方針:アーヴァインを保護しながら訓練施設を目指す or 向かう先を変える?
第ニ行動方針:仲間と合流する/セージを何とかする
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:バラムガーデン校庭・図書館棟付近】
- 272 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/10/16(日) 16:02:09.86 ID:eWhbDtOTa
- 投下乙です!
サイファーとヘンリーがめっちゃ動揺してるなあ
サイファーには情報アドバンテージが、ヘンリーには本物のアーヴァインがいるから一方的不利ではないんだけど
さすがにリュックの放送だけでジェノバの目論見を正しく推測するのは難しそうだ
ケフカはケフカで今は大人しくしているだけでいずれやらかす気満々だし、アーヴァインも自分の能力に未だ無自覚なのがちょっと怖い
果てしなく不安だけどこの先どうなるか楽しみです!
- 273 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/11/15(火) 00:21:12.68 ID:P6Mj88RwE
- FFDQ3 780話(+ 1) 18/139 (- 0) 12.9
- 274 :☆なにかんがてるの 1/11:2022/11/17(木) 18:22:42.89 ID:MNlUydAve
- 晴れ渡る空を雲が流れていく。
天をかき混ぜるように回り続ける巨大な円環、その煌めきが一瞬だけ俺の眼を焼いた。
目を覚ませ、と叱りつけるかのように。
頭では理解しているつもりだった。
足を止める間にも時は過ぎていくのだと。
俺は一息大きく吸い込み――意を決し、車椅子を押して歩き出す。
理論上の最適解と感情由来の衝動が食い違うなんて良くあること。
どれほど不穏な状況であろうとも……
いいや、こういう時こそ優先順位を見誤ってはいけない。
そもそも俺が真っ先に守らなきゃいけないのは誰だ?
ソロか? リュックか?
違うだろ。
今、守らなきゃいけないのはアーヴァインだ。
セフィロスに狙われて、セージにも目をつけられて、多分ケフカも隙あらば利用しようと考えている。
それに首輪を解除するために必要な能力を持ってるのは、こいつとバッツだけ。
何よりリルムとティーダ、スコール、サイファーにとってはかけがえのない仲間だろう。
そりゃあ俺個人としては散々やらかされた記憶の方が多いけど、それはそれでこれはこれ――……
「うっ……」
「どうした? 傷が痛むのか?」
「う、ううん、そっちじゃなくて……ご、ごめんなさ〜い……」
「いや、無理して強がらなくていいって。
見張っててやるから、目的地についたら横になって休んどけ」
「だ、だけど……」
「大丈夫だって。お前の言う通り、あの放送は怪しいからな。
あれが全部嘘で、ソロが正気ならそこまで問題はないんだ。
あいつだって馬鹿じゃない、どっかに隠れてやり過ごすことぐらい考えるさ」
そうだ。アーヴァインの指摘通り、放送の内容が嘘だって可能性は十二分にある。
何せ俺はソロを助けたい。アーヴァインをセフィロスに近づけるわけにはいかない。
俺達の分断を誘い、ラムザ達やサイファー達を動揺させ、セージやケフカがソロを狙うことを正当化する。
一石二鳥どころか三鳥の策だ。
仕掛け人がセフィロスであろうとケフカであろうと、思いついたらやるだろう。
……というか、冷静に考えたらケフカの仕業ってセンの方が高いよな。
仮に銀髪はぐれキング野郎があの後ソロに出し抜かれてメチャクチャ逆恨みしたとして、それでアンジェロまで一緒に陥れようとするか?
「ヘンリーさんって……ゲホッ、スコールの上位版みたいなところ、あるよね」
「なんだ、急に?」
あまりにも唐突な呟きに、俺はアーヴァインの言葉を反芻する。
上位版って、俺がスコールより頭いいとか頼れるとかそういうことか?
ずいぶんと回りくどい褒め方だが……まあ、悪い気はしない。
「いや、ずーっと喋り倒してるから……でもスコールみたいに突然叫ぶよりはマシかなって」
って、口数の問題かよ!
そりゃ、スコールは必要なこと以外あんまり喋らないタイプだからな。
会話量を比べたら俺の方が喋り倒してるに決まってる。
なんだよもう、照れて損したぜ。
- 275 :☆なにかんがえてるの 2/11:2022/11/17(木) 18:24:36.82 ID:MNlUydAve
- 「あのな、その基準なら最上位はラムザかケフカだろ。
いくら俺でも、あの二人に勝てる気はしないぞ」
「う、ううん……そうかな……そうかも……」
ごにょごにょと言い淀むアーヴァインを他所に、俺は再び思考を巡らせる。
現状、アーヴァインが操られているような素振りはない。
たまにヘンなことを口走ったり、やたらとこっちの心を見透かしたような会話を投げかけてきちゃいるが……
アーヴァインが違和感を訴えられないレベルでセフィロスに言動を掌握されているなら、そんな隙は見せないだろう。
むしろ俺の注意を惹かないように大人しくさせるか、じゃなきゃ俺を遠ざけるために徹底的に拒絶する態度を取らせるはずだ。
だからアーヴァインの意見自体は信じていいい、信じていいんだが――
その上で、こいつの判断が誤ってる可能性が、まだ残っている。
そもそもアーヴァインが放送を偽物だと思った根拠は二つ。
一つは、リュックやサイファーがソロとアンジェロの正体を見抜くに至った経緯が想定できないということ。
もう一つは、リュックが放送でセフィロスの名前を出すとは思えないということだ。
しかしそれらを崩せる仮説がある。
リュックが一人で、あるいはサイファーと二人きりで行動しているとは限らない。
少なくとも旅の扉を潜る前まで、ギードとロックとケフカが近くにいたはずだ。
単純に五人で旅の扉を潜り、五人のままソロ達と出会い、ギードやケフカがライブラとやらを使ったら?
これならリュックだけを先に逃がして、機械を動かして放送を流すように指示できるはずだ。
そして仲間が現在進行形で戦っている状況なら、リュックが焦りのあまりセフィロスの名前を隠し忘れてもおかしくはない――
「それは……ゴホッ、そうかも」
「えっ?」
「ケフカがソロ見っけて騒いで、ゲホゲホ、ギードが念のためにライブラかけるっての、有り得るっちゃ〜有り得ると思う。
だからそ〜ゆ〜可能性は否定できないけど〜……でも、それでも、だったらサイファーが自分で放送を流しに行けばいいじゃん?
だってサイファーの方が学校の中とか機械とか、絶対詳しいわけでさ〜……ゴホッ、ゴホッ。
ここにある機械を、リュックが使えるって確証がない限り、任せるとは思えないよ」
まーた俺、口に出してたのか? マジでか?
いやまあそれはそれとして、アーヴァインの指摘はもっともだ。
「放送に使うキカイってのは、そんなに複雑なのか?」
「ううん……学園長室にあるやつは、マイクとか音量スライダーとか見たことあれば、難しくはないけど〜。
でもヘンリーさんやソロが初見で動かせるようなものじゃ〜ないよ」
そりゃ俺達は無理だよ!
扉を開けると明かりがつくひんやり冷たい食糧棚とか、伝言を残せるノートパソコンとか、監視カメラとか、何一つわかる気がしないからな!
だけどリュックは首輪をチョチョイのチョイで分解できちまうようなやつなんだぞ?
「お前から見て、リュックでも無理そうなのか?」
「う〜ん……リュックなら行けちゃうかもしれない〜。
放送機材だってわかれば、だけど」
じゃあやっぱりサイファーがリュックの能力を信じて逃がす判断を下す可能性もあるんじゃないか?
あいつ、女子供には優しいところあるし、危険な状況なら自分が前線に立つと思うんだよな。
さすがにアーヴァインには言わないが。
さっきからどんどん表情暗くなってるからなあ、こいつ。
- 276 :☆なにかんがえてるの 3/11:2022/11/17(木) 18:26:11.51 ID:MNlUydAve
- 「ね、ねえ、ヘンリーさん。
言いたいことは、ゲホッ、わかるんだけど……で、でも、でも、やっぱり、あの放送は、に、ニセモノだと思うんだ。
ほ、本当に、本当に、リュックが、あ、あん、あんな言い方するなんて、おか、おかしいんだよ〜!」
アーヴァインが振り向き、縋るような視線をこちらに向けた。
杖を握りしめている手は小刻みに震え、今にもぶっ倒れそうなほど浅い喘鳴を繰り返している。
それでもつかえながら必死に喋ろうとするあたり、自分の意見を――引いてはソロとリュックを信じてほしいのだろう。
「……そうだな。俺もそう思う」
俺だってソロを疑いたくなんかない。
こんなこと考えるだけで嫌になるし、ケフカの偽情報で終わりって事にしてアーヴァインを守ることに集中した方が良いとすら思いたくなる。
それでも――それでも。
俺が最悪の可能性を想定しておかないと、マジで最低最悪の事態を引いた時に対処できなくなっちまう。
ここにいるのは俺だけで、アーヴァインを守ってやれるのも俺しかいないんだ。
だから、俺だけは放送の内容がマジだってパターンも追わないといけない。
だが、アーヴァインにはこれ以上考えさせない方がいいのも確かだろう。
ただでさえ危険人物トップ3共に目をつけられて参ってるってのに、命の恩人や友達の仲間に疑いを向けるなんて、絶対ストレスで倒れちまう。
じゃなきゃハゲるか胃に穴が空くかだ。
それに黒幕ケフカ説にも一定の理があるわけだしな。
「ヘ、ヘンリーさん……だ、大丈夫だよ。
ぼ、僕だって頑張れるし、ティーダもいるから。
――あっ! そ、そうだ! ティーダ読んで、話聞いてみるよ!!」
「……は?」
一瞬、聞き咎めるのが遅れてしまった。
アーヴァインの言葉の意味を理解し、「ま、待て!!」と止めた時にはもう遅い。
「ティーダ!! 話があるんだ、来て!」
杖を持ったまま組み合わせた両手から七色の光が蛍のように舞い上がる。
その輝きが一際強くなったかと思うと、次の瞬間にはティーダの奴が実体化していた。
『アービン!? どうしたんだ?!
何かあったのか!?』
車椅子に乗っていることに驚いたのだろう、ティーダは俺に目もくれずアーヴァインの肩を揺さぶる。
傷が開くかもしれないから止めてやれ! とか、そもそも急に呼ぶな! とか言いたかったが、俺が口にすべき言葉はそれじゃない。
「うわあ! な、なんだ!」
現実世界で俺はティーダと会ったことなんてない。
夢世界で散々顔を合わせて話を聞いてるけど、それは主催者側に隠し通さなきゃいけないトップシークレットだ。
だから驚いたフリをしなきゃいけないし――
『え? なんで驚いて……あっ、そっか!
えーと、アービンの友達の召喚獣ティーダ、参上ッス! 以上! で、何があったんだ!?』
うんうん、ティーダの奴も一応乗ってくれたな。
かなりわざとらしいけど、ソロよりはマシだしオッケーとしておこう。
ところでアーヴァインが何でかオロオロしてるけど、呼んじゃった事は仕方ないから早く話を進めてくれよ。
俺から話すの不自然だろ。
- 277 :☆なにかんがえてるの 4/11:2022/11/17(木) 18:28:31.72 ID:MNlUydAve
- 「あ……あ、あの、ティーダ。今、リュックの声で変な放送があったんだ。
セフィロスがアンジェロに取りついてソロを操ってるって内容だったんだけど、僕には本当だとは思えないんだ。
この世界に来てからセフィロスの声も聞こえないし……ゴホッゴホッ、こうやって、名前を呼んでも何ともなくなってて……」
『は? え? そ、それってどういうことッスか!?』
うーん、この困惑っぷり。
残念ながら当然というか、まだ誰も夢世界に話をしに行ってないな。
単純に寝て情報収集しようって発想が出ないだけなのか、それとも全員寝られる状況じゃないのか……
それこそ俺達以外全員エントランスに大集合してソロを囲んで問い詰めてるまであるか?
……――いやいやないな。
ソロだって馬鹿じゃないんだぞ、放送聞いた時点で速攻逃げるって。
地図を見た限りでも、やたらだだっ広くて色々なエリアに繋がってるんだから、その気になれば逃げ放題のはずだ。
何なら訓練施設に戻ってきてくれたら合流出来てバンザイ! 俺達大勝利! ってなるかもしれない。
もちろん放送が偽物で、正気ソロと普通のアンジェロが一緒にいた場合だけど。
万が一の洗脳ソロと中身セフィロスのアンジェロだったら俺達が詰むんで丁重にお引き取り願うぞ。
……と、それはともあれ。
「俺にもわからんが、"アーヴァインは"偽情報の可能性が高いって踏んでるみたいだ。
ええと、お前、召喚獣なんだよな。
もし"他の奴に召喚されたり話をする機会があったら"、上手いこと情報交換してほしいんだ」
こっちの意図を組んでくれることを祈りつつ、俺はジェスチャーを交えて言葉を紡ぐ。
アーヴァインの手前こう言うしかないとはいえ、正確には偽情報だって断言しきれる状況じゃない。
しかし仮に中身ケフカの偽リュックが放送を流したなら、本物リュックが別にいるわけで、それなら夢世界に連絡を取る可能性は高いはずだ。
あるいはリュックがケフカやらセフィロスやらに操られて攫われているなら、サイファー達がその情報を伝えようとするかもしれない。
そうやって夢世界経由で情報を集積できれば、いずれ真実を確定できる。
あと、単純にラムザ達が情報を求めてひと眠りするかもしれないし。
「う、うん。ギードもロックも、召喚魔法使ったことあるって言ってたし、リュックだってユウナの従妹だもん。
みんな、僕がティーダを呼んでるの見たし、きっと、呼ぼうって、考えて、くれるはず。
だから、どうにか皆の話……聞いて、本当のこと、探ってくれると嬉しいなって――ッ、あっ、ガァッ!!」
『ア、アービン!?』
突然、アーヴァインが右胸を押さえるようにうずくまった。
同時に変化の杖が取り落され、取り繕っていた姿が元に戻ってしまう。
銀色に塗り替えられた髪、歪んだ黒翼と蠢く皮膜、目玉だらけの腕――
ティーダが慌てて肩を揺さぶるが、掠れ切った呻き声が上がるばかり。
いや、それどころかカパーラナーガとバブルスライムがこね回されているような、人間の身体から響いてきちゃいけない音まで聞こえてきている!
「アーヴァイン! 召喚を止めろ!!」
きっと原因はそれだ。
魔力の使い過ぎによる身体への負担がセフィロスの侵食を推し進めるんじゃないか――そんな話をスコールから聞いた記憶がある!
俺の言葉にティーダが顔を跳ね上げ、アーヴァインも縋るような視線を向けてきたが、首を横に振ってから頷き返すしかない。
友達と一緒にいたい気持ちはわかるが、友達だったら尚更相手を傷つけちゃいけないだろ!
- 278 :☆なにかんがえてるの 5/11:2022/11/17(木) 18:30:18.49 ID:MNlUydAve
- 『わ、わかったアービン!
何が起きてるのか、俺がバシッと探っておくから!
ヘンリー、アービンのこと頼んだ!!』
「ああ、任せてくれ。ちゃんと安全なところを探して休ませておくから。
俺が見張れば"少しぐらい眠っても大丈夫"だからな、安心しろ、アーヴァイン!」
会いたかったら夢世界で話せばいいんだ。
今、無理する必要なんかない。
――そんな俺の気持ちを汲み取ったのか、アーヴァインは力なく項垂れた。
直後、時を巻き戻すかのようにティーダの姿が光の粒に変わり、異形の身体を抱きしめるかのように消えていく。
俺は一つ大きく息を吐くと、地面に転がった杖を拾い上げ、アーヴァインの左手に握らせる。
「……ぎぃ、ぁ……ぃ、ぁ」
ティーダ、と唇は動いているが、絞り出される声は掠れ切ったノイズにしかなっていない。
まだ人の形を保っている指は泥と垢と乾いた血に塗れ、虚空を彷徨うひび割れた瞳には憔悴の色が滲んでいる。
かつて奴隷生活の八年間で何度も見てきた――……そう言いたくなる程度には、見覚えのある表情をしてしまっていて。
そんな言葉で片づけてしまうには、あまりにも酷すぎる容体だ。
何とかしてやりたくても、魔物化の進行を抑える薬なんて便利なものはない。
俺じゃなくてソロやリュカだったら回復呪文で苦痛を和らげられたかもしれないってのに……ああ、くそっ、ないものねだりをしても仕方ないだろ俺!
幸い、目的地らしき場所は見えてきている。
行く手にさっき通り過ぎた図書館より三倍ぐらい大きな建物があるから、きっとあれだ。
早く連れて行って休ませてやろう。俺にはそれしかできない。
「大丈夫、大丈夫だ。
もしかしたらサイファーも来てるかもしれないしな」
もうちょっと可愛げがあった頃のコリンズをあやす時のように、俺はアーヴァインの頭をそっと撫でてから、車椅子を再び押し始める。
返事こそなかったが、我に返ることはできたのか、アーヴァインは杖を握りしめて元の姿に戻り直した。
……いや、よく見ると服が違う。
ついさっきまではソロがレーベの村で拾った時に着ていたコートだったが、今度は昨日着ていた白ローブ姿だ。
そういえばティーダに貰った服だと言っていたな。
正直、茶色のコートほど似合ってはいない――が、そちらを選ぶ理由もわかる気がする。
俺だって普段はちゃんと仕立てた服を着ちゃいるが、リュカとサシで話していると奴隷時代の服が無性に懐かしくなったりするからな。
ごわごわ硬い肌触りで、そのくせ所々が擦り切れてて、汗臭さも染みついた、着心地がいいなんてお世辞にも言えないようなボロ布の服であっても、だ。
……不思議だな。
あれほど嫌で嫌で仕方なかった辛いだけの日々でも、気づけばこうして思い出の一つになってしまっている。
この最低最悪な殺し合いだって――……生きて帰れたなら、いつか"こんなこともあったな"って思い返すだけの記憶に変わるのかもしれない。
マリアやデール、リュカにこんなこと言ったら、『薄情者!』って怒るだろうか。
パパスさんに知られたらぶん殴られるだろうか。
レックスやタバサ、ピエールにバレたら軽蔑されるだろうか。
………もちろん、問いかけてみたって答えは返ってこない。
みんな死んでしまった。
胸の奥はまだぽっかりと穴が空いたまま――それでも、やることがあるから目を逸らしていられる。
- 279 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/11/17(木) 18:31:02.65 ID:U03KK0OYo
- しえん
- 280 :☆なにかんがえてるの 6/11:2022/11/17(木) 18:40:05.32 ID:MNlUydAve
- アーヴァインを守らなきゃいけないし、ソロを助けないといけない。
魔女を倒さないといけないし、コリンズだって待ちくたびれているだろう。
それにデールがいなくなった以上、ラインハットを治めるのも俺の役目になるわけで。
やらなきゃいけないことだらけで、感傷に浸りたくとも明日と仕事はやってくる。
それが人生だ。
そして、生きていれば存外どうにかなるのも人生だ。
どうにもならない時はどうにもならないのも確かだが――……それでも生きてさえいれば、いつかどうにかなって、過去になる時がやってくる。
「ヘンリー、さん……」
「ん? どうした?」
アーヴァインが上半身をよじり、不安げに俺を見つめる。
けれどすぐに目を逸らし、首を横に振った。
震える肩と丸まった背中が、小さな子供のそれに重なる。
「………」
何を考えて何を尋ねたかったのかはわからないが……そっとしておいた方が良さそうだ。
俺は黙って車椅子を押し歩く。
幸い、建物の入り口はすぐに見つかった。
奇妙な白い絵が描かれた緑のランプが点滅してなかったら、もっと手間取ったかもしれない。
扉自体の幅も十分にあるから、車椅子ごと通れるだろう。
しかし今のアーヴァインに扉を開けさせるのは難しそうだな。
中も探った方がいいだろうし、俺が開けるか――と、アーヴァインに背中を向けた時。
くぐもった、すすり泣くような声音が投げかけられた。
「ぼ、僕も、……お、お、思い出に、なる?
か、かえっ、かえ…ぇ…っ、ぁっ、あ、たらっ、お、おもっ、……で、な、なれっ、いっ、っあ、ぁ」
つっかえている上に声が震えすぎてて全然わからん――が、色々な不安で一杯なんだろう。
俺は振り向いて、そっと肩に手を置きながら答えてやる。
「大丈夫だ、大丈夫だって。
いつかきっと、人間に戻って、身体に負担をかけずにティーダを召喚できるようになって、サイファーと一緒に学校生活できるようになる日がくるさ。
そうしたら今日のことだって思い出になるだろうよ。
『あの時は超絶親切で優しくてかっこいいヘンリーさんがいっぱい助けてくれたんだったなー! ヘンリーさんに会えて良かったー!』ってな」
「……」
おい。
泣きそうな顔のまま"何言ってんだこいつ"みたいな視線を向けるな。
実際、俺は超絶親切で優しいだろ?
それとも比較対象がソロとかティーダなのか? だったら負けるのも仕方がないけど。
「い、いやっ、そうじゃっ、なくて……
そりゃ、ヘンリーさん、お人よしっ、だけど……そ、その、そうじゃなくて……」
「??」
歯切れが悪いな。まさかやっぱり人間に戻れないかもとか悩んでるのか?
そんな心配しなくたって、こっちにはマスタードラゴンってガチ神様に分析魔のザンデがいるんだぞ?
ギードだって協力してくれるだろうし、何ならソロがマトモなら真実を見抜く力でズバッと治す方法見つけてくれるかもしれないし。
仮に百億万歩譲って、身体が治らなかったとしても、スコールやサイファーなら全力で助けてくれるだろ。
人殺しに乗るって決断を下したって、発狂した演技をぶちかましたって、友達辞めるより友達として止めようとする方向で動いてた連中だぞ。
普通に匿うって絶対。
もし匿えないとか言い出すなら、潔く俺がラインハットで――……ってそれだとこいつが大切な子に会えなくなるからダメか。
やっぱりスコールとサイファーが何とかするしかない。嫌なら俺と説得勝負だ!
- 281 :☆なにかんがえてるの 7/11:2022/11/17(木) 18:41:43.60 ID:MNlUydAve
- 「あの、違………ううん、もういい、なんでもない。
ヘンリーさんに聞こうとしたの、間違ってた」
アーヴァインはそう言って顔を背ける。
横を向いたその表情は、やっぱり泣いているようで、どうしてわかってくれないのか怒っているようで、そのくせ呆れ果てて苦笑しているようにも見えて――
結局、よくわからない。
『父上なんかに聞いたのが間違いだった!』ってコリンズにもよく言われるけど、あいつみたいに反抗期ってわけじゃないだろうし。
うーん……もしかして、茶化されたと思ったんだろうか。
自分で超絶親切とかいう奴が真面目に話を聞いてるとは思えない、とか言われたらさすがに反論できないしなあ。
別に冗談のつもりじゃなかったんだが、一応謝っとくか。
「悪いな、気の利いた事言えなくて」
「……逆、逆だよ……言い過ぎなんだよ。
そんな風に、言われたら……僕が、馬鹿みたい」
「え?」
言い過ぎってほどか?
それとも『超絶親切で優しくてかっこいい』って部分の話か?
言い過ぎじゃないんと思うんだが?
え? 自分で言ってたらダメ? そんなー。
「ヘンリーさんて、本当に……ゴホッ、変な人だよね。
ずーっと、喋ってるし……でも、元気づけようと、してくれて、ありがと」
?????
頭の中でハテナマークが分裂してぴょんぴょん飛び跳ねる。
元気づけようとしたのは確かだが、『ずーっと喋ってる』ってほど話してないが?
スコール比って意味か? だから比較対象が悪すぎるだろソレ。
せめてソロ比かサイファー比にしろ。それなら俺はフツーだぞフツー。
疑問に思いながら、俺は扉を開けて先の空間を覗き込む。
水の音。葉擦れの騒めき。むせかえるような土と草の匂い。
「な、なんだこれ!?」
俺は思わず、外に出て建物の外観を確認した。
どこからどう見ても金属で出来た壁がずーっと向こうまで続いている。
で、もう一度施設へ顔を向ける。
どう見ても辺境の地、密林地帯です。
え? マジでどうなってんだ?!
そりゃ確かに監視カメラには森が映ってたけど、いくらなんでも建物の中とは思わなかったぞ!?
「ええと、訓練施設、だから……ゲホッゲホッゴホッ!
野生の、魔物、放し飼い……ゲホッ、できるように、森、再現、してるん、だって。
でも、施設の外、逃げると、いけな――ゴホゴホッ! ……いけない、から、建物、厳重に、してるって」」
「いや再現してるで再現できるもんじゃないだろコレ!
あと野生の魔物って人慣れしてないってことか? そんなもん放し飼いにすんな!」
何だよそれ、この学校頭おかしいだろ! どっかの偽太后みたいな真似するなよ!
ドラゴンキッズどころかグレイトドラゴンが出てきそうな広さだし……
「う、うん、アルケオダイノス、って、恐竜も、いるから……
だから、非常口、担架や車椅子、通れるように、なってるって……ゴホッ、聞いたこと、あるよ」
この学校頭おかしいだろ!?
重傷者出すこと前提の訓練施設なんか作るな!!
そりゃスコールもサイファーもこいつも、年の割にやたら強かったり妙に覚悟決まってたりするわ!
- 282 :☆なにかんがえてるの 8/11:2022/11/17(木) 18:42:54.50 ID:MNlUydAve
- 「あ、あの、僕、まだ、ここの、生徒じゃ、ないから……
あの二人と、いっ、一緒に、するのは、や、止めてほしい……」
……そういやそうだっけか。
こいつが通ってたのは姉妹校のガルバディアガーデン、だっけ?
レーベの村や保健室でちょろっと聞いた気がする。
「お前が通ってた学校はもう少しマトモだったのか?」
「まぁ……うん…………一応、軍の、士官、学校、兼ねてた……から。
厳しくて、うるさくて………ゴホッゴホッ! ……体育、会、系で…………まあ、マトモ、だったよ」
「そんな顔を逸らして言われても説得力ないんだよなあ」
俺はため息をつき、何気なしに口元に手を当てる。
とりあえずこの奥にあるっていう秘密の場所を目指して、アーヴァインを一旦休ませる。
この先どんな放送が流れようと、ここまでは絶対に確定だ。
で、早めにサイファーがアーヴァインのメッセージを見つけて合流しに来てくれれば一旦分かれてソロを探しに行ける、が……
放送がマジだった場合に、俺じゃあ圧倒的に力不足だってのが問題なんだよな。
偽情報の被害者ソロとただのアンジェロだったら、俺の話術で誤解を解く自身があるんだが。
万が一洗脳ソロとわんわんセフィロスが練り歩いていたら――
「ゴフォッ! ……あ、あの、わんわんセフィロスって、ナニ?」
「え?」
咳と痛みと笑いを同時に堪えているようなアーヴァインの呟きに、俺は思わず眉を潜める。
おかしい。
俺は今、口を手で押さえたまま考え事をしていたんだ。
今度という今度は、絶対に、声を出してない。
「えっ……?」
アーヴァインが首を傾げながらこちらを振り向こうとし、「ッあっ!!」と呻きながら脇腹と胸を押さえる。
「大丈夫か!? 無理するな!」
俺は慌ててアーヴァインの前に回り込み、容体をうかがう。
杖こそ取り落していないが、額には脂汗が滲み、息が激しく乱れている。
幸い、周囲に人の気配はない。
俺は呼吸だけでも楽になるようにと背中をさすりながら、出来る限り優しい声音を作って声をかけた。
「色々あったからな、疲れてるんだ、きっと。
目的地ももうすぐそこだし、この辺りで一旦休憩しよう。
約束の時間っていうのは、次の鐘が鳴った後なんだろ?
サイファーだってまだ来てないかもしれないし、例の場所に行くのにここを通らなきゃいけないなら、入れ違いも起きないはずだ」
「…………」
返事はない。
アーヴァインはガタガタと震えるばかりで、頷いているのか首を横に振っているのかもわからない。
何かに怯えているようだ。
――そして、何に怯えているのかと考えれば、思いつく答えが一つだけある。
こいつが、本当に、俺の心を読めるようになっていた可能性だ。
俺がそう考えたと同時に、アーヴァインの肩がびくんと跳ね上がった。
これはもう……確定と見ていいだろう。
- 283 :☆なにかんがえてるの 9/11:2022/11/17(木) 18:44:33.32 ID:MNlUydAve
- 急に、なんでだ?
……いや、それは今考えるべきじゃないな。
それじゃなくたってセフィロスの血を追加で撃ち込まれたり、ピサロに身体を貸したりしてたんだ。
何ならピサロ曰く進化したドラゴンライダーを食べてたって話もある。
ドラゴンライダーってアレだろ? レナを唆して俺を殺させようとした張本人の、読心能力を持つ竜の魔物ってヤツだろ?
そりゃ影響あるだろ――ってアーヴァインがめっちゃガタガタ震えてるんだけど!?
なんで!? ってアホか俺、思いっきり考えてるじゃねえか俺!
と、とりあえずなんとか落ち着かせないと……って、何からどう話せばいいんだ?
別に俺の心読んだところでやましいことは考えてないから怒ったりしないぞ、とかか?
それとも人の心を見通す奴なんて珍しくないから心配するな、とかの方がいいか?
実際リュカなんて嘘を見抜くのメチャクチャ上手くて心を読んでるんじゃないか、って思うことだらけだったしな。
ソロだって真実を見抜く力とやらを受け継いで使いこなしてるし、マスタードラゴン様っていうガチでチートな神様だっているわけだし……
「だ、大丈夫、大丈夫だ」
頭の中でどれだけ必死に考えても、口に出てくる言葉は「大丈夫」にしかならない。
だって何を言えば安心してくれるのか、全くわからないんだ。
それに最初から怯えてた理由もわからない。
確かに俺はちょいちょいヘンなことを考えてたかもしれないけど、こいつを傷つけるようなことは一度たりとも……――
……いやこいつにやられたこととか結構考えてたァァァァ!!!
バカか俺! レーベの一件もタバサの件も全部地雷に決まってるだろ俺!
すし詰めになった爆弾岩の上でタップダンス踊ってメガンテ唱えられてるようなもんだぞ俺! 爆発してるぞ俺!
命の石があったから無傷だったってのか?! じゃあその命の石アーヴァインにくれてやれよ!!
いやホント違うんだって、今更傷つけるつもりはないんだって!
だからそれを言語化しろ俺! 言わなきゃ伝わらな――あれ?
「えっ?」
急にアーヴァインがしがみついてきた。
同時に、気づいたことがある。
心が読めてるなら、言わなくても全部伝わってしまってるんじゃないか?
俺の考えに、アーヴァインは今度こそこくこくと頷く。
そして面を上げ、何かを言おうと口を動かすが、全然言葉になってない。
それに呼吸も異常に早い。多分過呼吸を起こしていそうだ。
「……っ、大丈夫だ。無理に喋らなくていい。
今更見放したりなんかしないから、落ち着いて、深呼吸するんだ。
ほら、吸ってー、吐いて―」
「ひっ、ぁ、す、すす、すっ、は、ははは、はっ?」
「あー、うん、大丈夫。出来てる出来てる。
もうちょっとゆっくり、すーーー、で吸って、はーーー、で吐こうな」
「っ、す、す〜、はっ、は、は〜?」
「よーしよしよし、その調子だ」
――と、結局数分かけて深呼吸を繰り返させた。
気長に付き合った甲斐あって、アーヴァインもぶっ倒れる前に落ち着きを取り戻してくれたようだ。
それでもやっぱり困惑は拭いきれないらしく、俺を見ては目を逸らしを繰り返している。
- 284 :☆なにかんがえてるの 10/11:2022/11/17(木) 18:46:24.59 ID:MNlUydAve
- 「あ、あっ、あの、その、えっと、……ゴホッゴホッ」
「だから無理して喋らなくていいって。
自分でも何が何だかわかってないんだろ?」
「う、うん……ずっと、ずーっと、独り言、しゃ、喋ってるって、思ってた」
そんなわけないんだよなあ! って言いたいけど、こいつずっと車椅子に乗ってたからな。
俺が後ろに立って押してた以上、俺の口元は見えないし、声だけ聞こえてたなら『喋ってる』と勘違いするのも無理はない。
むしろあれほど心を見透かした会話を投げられて、今の今まで気づかなかった俺の方が超ド級のニブチンなのでは?
『誤射王の次は鈍感王の座を狙うんですか?』って脳内マスタードラゴン様が呆れ返ってるんだが?
多分本物マスタードラゴン様にも言われる奴なんだが?
どっちも嫌なのに言い返せない! 畜生!
「だ、大丈夫、鈍感なの、ティーダの方が、上だから」
気ぃ使わなくていいよ……ってティーダの奴そんなに鈍感だったのか?
いや深く突っ込むのは止めておこう。何となく世にも恐ろしい気配の怒りに触れてしまいそうな気がする。
俺はとりあえずアーヴァインの頭をぽんぽんと叩き、真っ直ぐ顔を覗き込んだ。
「まあ、何はともあれ少しは落ち着いたようで良かったよ。
何度でも言うけど、ちょっと心が読める程度で見放したりとかするわけないから安心しろ。
リュカやソロも似たような力を持ってるし、珍しいってだけでできる奴はできるからな」
「……ほ、ほんとに、いいの?
き、き、きもち、わるく、ない?」
「いや全然」
読まれて困るようなこと、考える予定なんてないしなぁ。
親友の娘に成りすまして生きていこうとしてる不審な成年男性と比べれば、余裕で許容範囲だ。
むしろ俺より、アーヴァインの方が迷惑を被る可能性を危惧した方がいいまである。
俺ってこれでも想像力が豊かな方だからな。
セフィロスに乗っ取られたアンジェロってフレーズから人面犬と化したわんわんセフィロスとかついつい考えちまうし――
「ゴフォッ!? ゴッフォゴホッゴホッ、ゴホッ、かひゅっ、ゲホッゲホゲフォッ!!」
「うわぁっ!? お、落ち着け!!」
言った傍から流れ弾を喰らってるじゃないか!
俺はドツボにハマって咳き込み出したアーヴァインを介抱しながら、多難すぎる前途に思いを馳せたのだった。
- 285 :☆なにかんがえてるの 11/11:2022/11/17(木) 18:47:12.37 ID:MNlUydAve
- 【アーヴァイン (HP2/3、MP0、半ジェノバ化(重度)、右耳失聴、一時的失声、混乱、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
所持品:G.F.パンデモニウム(E、召喚×)、変化の杖(E)、ビームライフル(E) 竜騎士の靴(E) 手帳、リュックのドレスフィア(シーフ)、
ちょこザイナ&ちょこソナー、ラグナロク、祈りの指輪(ヒビ)、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、食料、折り畳み式車椅子
第一行動方針:セフィロスから逃げ切りつつ、訓練施設奥の秘密の場所を目指す
最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【ヘンリー
所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、リフレクトリング(E)、魔法の絨毯、
銀のフォーク、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ
ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ガーデン保健室の救急セット・医療品、食品)、
レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
第一行動方針:アーヴァインを保護しながら秘密の場所を目指す
第ニ行動方針:仲間と合流する/セージを何とかする
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:訓練施設・入り口付近】
- 286 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/11/17(木) 21:22:30.79 ID:WlAKdLYpE
- 投下乙です。
ヘンリーが本当に頼れる大人をやってるなあ。
激動の人生を生き抜いてきた年長者のナマの哲学は、アーヴァインが未来へと生き抜く指針の選択肢に入るんだろうね。
賢者とか英雄といった人種とは違って、一見だけでは飛び抜けた異才がなさそうに見えるからこそ、すぅっと心に浸透してきそう。
人間から遠ざかっていく不安と、異物扱いされて壁を作られる不安とで、アーヴァインは大きく動揺したけれども、
心が全部読めてしまうからこそ、ヘンリーのおおらかさと真摯に向き合う姿勢には救われたんだろうなあ。
わんわんセフィロスが一番インパクト強いんですけど、
世にも恐ろしい気配の怒りだの、親友の娘に成りすまして生きていこうとしてる不審な成年男性だの、妙に言葉の圧が強いのは読んでて楽しいんですわ。
アーヴァインの心がひび割れそうなシリアス展開だったのに、ヘンリーの怒涛の語彙力が不安ごとシリアスを押し流していった感じでなんか安心する。
- 287 :采配 1/7:2022/12/04(日) 21:53:03.50 ID:5lhl+BiI7
- 大きく息を吸い込む。
目を閉じて、数秒だけ心を落ち着かせる。
俺たちが地下でうだうだやってる間にジェノバはやりたい放題だ。
だが、情報がねえ。圧倒的に足りねえ。
上の状況の把握に関しては、はっきり言って周回遅れもいいところだ。
ロック達と話合うにしても、結論が出ないままケフカの茶々が入ってグダグダに終わる結果が見えちまう。
また、間に合わないのか?
苦汁をなめることになるのか?
だがよ、ちょっと待てよ。
なに、お利口なインテリぶってんだ?
ピサロやスコールじゃあるまいし、スカして大人ぶって最初からあきらめるような物分かりのいいキャラじゃねえだろ。
行動あるのみだろ。
何すりゃいいのか、アテなんて一つもねえが、その方針を立てるためのアテならある。
確かめたいことがある。
悩むのはそのあとでいい。
「テメェら、緊急事態だ! 四の五の言わずについてこい!」
おい、どうした? と言いかけたロックの言葉の先を制する。
ケフカの嘲弄をガン無視して走り抜け、ブーイングを右耳から左耳へと素通りさせる。
ワケも分からないままついてくるハメになったアイツらには悪いが、説明する時間はない。
バラムガーデンのMD層は全体を俯瞰すれば一大ダンジョンといってもいい。
だが正規ルートで一階に戻るだけならばそう難しくはねえ。
中央の支柱を起点に、端末室へ延びる通路の反対側に、上層へと続く階段がある。
非常ルートは梯子を上ったりダクトを通ったりと地下迷宮そのものだが、正規ルートにそんな障害はないし、障壁はさっき全部取り払った。
上層まで駆け上がれば、目と鼻の先に三階まで移動できるエレベーターが設置されているワケだ。
一階に到着するまでどんなに急いでも数分はかかるだろうな。
それだけの時間がありゃ、ジェノバがソロと接触するには十分すぎる。
俺が地上階に戻ったときには、もう殺し合いが終わっていました、なんて可能性もゼロじゃない。
だが、そうじゃない可能性だって十分残ってる。
ソロは、ジェノバは、今どこにいる?
何をしようとしている?
どう動くにしろ、知っておかなきゃならねえ。
- 288 :采配 2/7:2022/12/04(日) 21:53:56.58 ID:5lhl+BiI7
- オートヘイストを維持したまま、金網の廊下を全力疾走。
ガーデン生なら絶対に立てないだろう、ガンゴンガンゴンとデカくてみっともねえ足音がMD層に響き渡る。
床が凹んでそうだが、お上品に小走りをする余裕なんざねえ。
コーナーをほぼ直角に曲がり、一段飛ばしでドカドカと階段を駆けあがり、目的のものはたどり着いたそこにあった。
ガーデン地上階の中央の柱まで連結している、エレベーター。
その扉の上部で点灯している、階層ランプだ。
地下一階、一階、二階、……三階!
三階に停まっているエレベーターがある!
落ち着け、頭を回らせろ。
これが意味するところはなんだ?
学園長室に直行するエレベーターは南向きの一機のみ。
つまり、誰かが今、三階にいるってことだ!
となれば、放送を流した場所はやはり学園長室。
それを確認した俺は、すぐさま昇りボタンを押し、MD層へとエレベーターを呼び出した。
待ち時間がじれったい、少し前までの俺ならそんなことを考えていただろう。
だが、今はその数十秒が貴重な思考時間だ。
考えろ。
少し前までの俺なら、あんなナメた放送を全校に流されれば、静止を振り切って学園長室に乗り込んでいただろう。
だが、それは過去の俺に限った場合で、他のやつらには当てはまらない。
スコールの野郎なら間違いなく罠を警戒してワンクッション挟む。
じゃあ、ソロならどうだ?
俺はスコールほどはソロのことを知らねえ。
だが、知ってるやつはいる。
思い返す。
ソロやピサロには悪いが、思い出させてもらう。
俺の中に、知らない記憶がよみがえる。
エビルプリーストを討伐するため、奪われた城への潜入を果たしたときの記憶だ。
変化の杖でエビルプリーストの手下に化け、偵察兼情報収集をしてたときの記憶だ。
超が付くほど慎重に敵兵士と接触し、周囲を警戒する姿。
どこのチキン野郎だと言いたいが、敵のふところに飛び込むならこれくらいがちょうどいいんだろう。
調子に乗ってアームライオンの姿で人間を驚かすマーニャを引きずり、苦言を呈する姿。
姿を見るだけだからと玉座の間に立ち入ろうとするマーニャを止める姿。
……ピサロが額に手を当ててる姿をありありと想像できそうだ。
これ以上この記憶を探るのはやめておこう。
別の記憶を思い返す。
俺の中に、知らない記憶がよみがえる。
レーベにて、アーヴァインの襲撃……知っちゃいたがアイツ、こんなことやってやがったのか。
慎重、というよりピサロやヘンリーの勢いに呑まれているような印象だ。
ビビやヘンリーに一切の手出しはさせまいとする姿は頼もしいが、自分から積極的に敵を狩りに行く形ではない。
レーベでもウルでもそうだが、まずは守りを万全に固めるタイプでいいのか?
ソロのこれまでの行動と照らし合わせても、アイツが安易に敵のふところに飛び込むとは思えない。
俺の見立てでは、ソロは三階にカチコミをかけちゃいねえはずだ。
- 289 :采配 3/7:2022/12/04(日) 21:54:49.62 ID:5lhl+BiI7
- ……他人の記憶を覗くってのは気持ち悪ぃもんだ。
自我の境界がおかしくなりそうだが、ここで休憩する暇はない。
他のメンバーはどうだ?
アンジェロ――リノアはソロと一緒にいる。
行動力はあるが、さすがにソロを振り切ってのこのこ出向いていくようなことは考えられねえ。
アーヴァインは自力では動けないくらいに怪我を負ってる。
これもピサロの記憶だが、セフィロスから逃げ切るときにアイツの身体に相当負担をかけたようだしな。
アーヴァイン本人は真相を確かめたがるかもしれねえが、ヘンリーが許すか?
あとのメンバーは、学園長室に用はないはずだ。
放送機材が学園長室に機材があることを知っているのはガーデン関係者しかいねえ。
ジェノバとリュックがいまだ三階に留まっている、という理解で九割がた間違いねえだろう。
となれば、ジェノバが何かしらの罠を張っていると考えるのが自然だ。
いや、待て。
ジェノバ単独ならそうだったとしても、ソロとセフィロスをアーヴァインと二人で迎え撃つか?
さすがにリュックは止めるんじゃねえか?
ほかの可能性はどうだ?
「そういや、非常階段もあるはずだな……!」
三階から脱出する別解に気付いたところで、バタバタと二つの足音が近づいてきた。
「サイファーよ! いくらなんでも急ぎすぎではなかろうか!」
「いくらなんでもいきなりダッシュして、四の五の言わずに着いてこい、はないぞ!?」
「何かあったのは分かるが、せめて説明はしてほしいもんじゃのう……」
ロックたちが追い付いてきた。
苦言を呈されるが当然だ、俺はまだ何も伝えてねえ。
ただ、ピースは少しずつ集まっている。
- 290 :采配 4/7:2022/12/04(日) 21:56:08.78 ID:5lhl+BiI7
- 「悪ぃが、時間がねえから手短に伝えるぞ。
制御室のスピーカーを通して、ソロがセフィロスに操られたってデマが飛びこんできやがった。
のんびり地上に上がったらもう殺し合いが始まってましただなんて笑えねえ。だから、急いだんだ」
「あー、それわたしたちも知ってます。
ソロ野郎、今朝もセフィロスに操られたかのような怪しい連絡を取ってきましたしね。
まあ野郎は実質セフィロスのおトモダチですし、本人も喜んでいるんじゃないですかね?
ほっといていいと思いますが、サイファーくんが行きたいのなら止めませんよ。
どうせ、その程度でくたばりはしないしな」
「ソロがそう簡単にくたばらねえってのは俺も同意見だ。
だがな、だからと言って、アイツが追い詰められるのを眺めてる理由もねえんだよ」
そう、ソロの安全という点で言えば、さほど影響はないかもしれない。
ケフカは裏で煽りだすにしても、ヘンリーはソロを信じる方向に傾きそうだし、
ラムザやバッツは首輪解除の要員だからこそ、リスクを避けてソロとの接触はひかえる方向に動くだろう。
だが、ここ今の状況に至っては、もう一つ意味がある。
ジェノバのいる位置が分かったってのがデケぇんだ。
ヤツが最上階でふんぞり返ってる間に、ガンガン攻めていけるってのがデケぇんだ。
ケフカは予想に反して理解を示した。
どうせ監視が緩むことを期待しているんだろうし、実際に四人で行動しない限りはどうしても監視は緩む。
だが、新しい監視役のアテはあるんだよ。
いったん整理だ。
ソロは一階のホール。
あるいはすでにそこから移動している。
ジェノバはリュックと共に三階、ボビィもそこか?
あるいは非常階段を使って二階以下に降りてきている。
ジェノバはアーヴァインの姿を未だに使っているはずだ。
もちろん、最悪を想定するなら、リュックもボビィも殺してジェノバが成り代わっているパターンだが、
これを前提に動くのはさすがに段階を飛ばしすぎだ。
最悪を想定するのは大事だが、別に最悪の事態を大前提にした作戦を立てるってわけじゃねえからな。
本物のアーヴァインは、おそらくヘンリーと共に訓練施設にいるはずだ。
あれがジェノバによる誘導じゃないなら、そしてさっきの放送で進路を変えない限り、という注釈付きだが。
バッツとラムザ、タバサだけがどこにいるのかが分からない。
最も放送の悪影響を受けやすい立場にある三人だが、ここの動向は予想のしようがない。
ただ、ジェノバが三階にまだ陣取っていやがるなら、低層階にいるやつらには先んじて接触ができるはず。
だから、次の確認候補は守衛室の監視カメラだ。
そのとき、ブゥルルルルルルルルルルルルル、というちょいとばかり耳障りな音が徐々に近づいてくるのに気づいた。
すぐに、ピィン、と軽快な音が鳴り響き、カシュっという音と共にエレベータの扉が開いた。
- 291 :采配 5/7:2022/12/04(日) 21:57:10.96 ID:5lhl+BiI7
- 「ロック! お前は一階で仲間の捜索だ! 俺も行く!
ギード! 二階の捜索を頼む! ケフカを連れて向こうのエレベーターで二階に上がれ!
『2』のボタンを押せば勝手に運んでくれる!
ただし、ケフカには気を付けろ! どうせ監視の目が緩んだ隙に、好き放題するに違いないからな!」
スピーディというよりいっそ一方的な指示だが、狙いをすべて伝える時間はない。
というより、ケフカに伝えちまうと裏をかかれかねないからな。
そうならないように、最低限の動きだけを伝える。
「それからケフカ!
テメェまだひそひ草を持ってるよな!?
素直に渡すか、ザック丸ごと没収か、どちらか選べ!」
「いやいや、ひそひ草はワタシが持ってこそ、最も有効活……」
「ロック、ぶんどっていいぞ!」
「分かった」
時間があるなら最後まで御託を聞いてやる余裕もあったが、恨むならジェノバを恨んでくれ。
「ま、待ちナサイ!! ワタシだってドロボーされるのは抵抗しますよ!
あー、ワタシもジェノバに肩入れするつもりはないんです。
だから特別大サービスで返してやるよ! ホレ!」
「素直に渡しゃあいいんだよ。すぐに出発するぞ」
「前から言おうと思っとったが、人の背中で暴れるのはやめてくれんかのう?」
「こっちだってやりたくてやってるわけじゃねえんだよ……。
とにかく、そっちはケフカにとにかく気を配っといてくれよ!」
ギードに再度念を押して、すでにロックが待つエレベーターへと乗り込む。
ギードも素直にほかのエレベーターへと向かった。
ひそひ草を回収したのは、ジェノバが要らねえことをケフカに吹き込まないためのリスク管理だ。
ケフカがやけに素直に渡したのは気になるが、予想通りほかに何かの切り札はあるんだろう。
いま、検めることはできないがな。
何かがあるということを心の隅においておくだけだ。
そしてひそひ草は、ザックの奥深くにしまいこむ。
これから話すことは、ジェノバには絶対に聞かせられないからな。
- 292 :采配 6/7:2022/12/04(日) 21:59:07.57 ID:5lhl+BiI7
- 「アーヴァインから連絡があった。訓練施設の秘密の場所にいるらしい。
要は訓練施設の見晴らし台だな。
ロック、お前はアーヴァインと接触してくれ。
監視の目がある可能性もあるから、注意してホールを抜けてほしい。バニシュを使ってもかまわねえ」
「そりゃかまわないけど、お前はいかないのか?」
「行ってもいいが、俺にも用はあるし、大勢で押しかけても困るだろ。
ただでさえ、セフィロスに好き勝手やられて、今『休んでいる』可能性が高いわけだしな」
「なるほど、な」
「守衛室の監視機具で、ソロやバッツたちの足取りを追う。
先にこちらから接触しちまえば、ジェノバの目論見はあらかた潰せる。
万一、徒歩で下に降りてきたとしても、ギードたちが足止めを果たす。
なんせ、ヤツはアーヴァインに化けてリュックを騙してるからな」
そう、ケフカがジェノバの足止めになる。
本来、ジェノバとケフカの接触は最優先で回避すべきだ。
ヤツらがヤツらのまま接触すれば、もはや予測不能なまでによくない何かが起きるだろう。
だが、例外がある。
ジェノバはアーヴァインに化けてやがる。
そして、アーヴァインの姿で、リュックに取り入ってやがる。
アーヴァインの姿である限りリュックはケフカを警戒する。監視する。
ケフカがいる限りジェノバはギードたちとは距離を取らざるを得ない。
ケフカにとって、アーヴァインは喉から手が出るほど欲しいサンプルだ。
リュックが、ギードが、アーヴァインとケフカの接近を許すわけがねえ。
そして、アーヴァインである限り、ジェノバは速やかに一階に戻ることもできない。
重症のアーヴァインがリュックや俺たちの要らぬ不信を買うような動きをするはずがねえ。
体重を偽っているジェノバは、リュックの手助けは決して借りない。
ボビィに乗る可能性にしても、非常階段は本来チョコボが通る造りにはなっちゃいねえ。
のろのろと移動するしかできねえんだ。
だからこそ、今が一番自由に動ける時間になるんだ。
とはいえ、時間をかければかけるほど、ヤツらも動くだろう。
だから、これからも時間との勝負になる。
ピィン、と軽快な音が響いた。
エレベーターの扉の向こうにあるのは、見慣れたホールの風景だ。
バラムガーデンのホールへと、俺たちは踏み出した。
- 293 :采配 7/7:2022/12/04(日) 21:59:49.72 ID:5lhl+BiI7
- 【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ、ひそひ草
第一行動方針:仲間の動向を確認する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す
基本行動方針:ケフカを除く全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷、透明状態?)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:訓練施設に向かう
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:バラムガーデン・1Fホール】
【ギード(HP1/2、MP:1/5)
所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
第一行動方針:ケフカ・ジェノバに警戒しながら、地上階で仲間を探す
第ニ行動方針:ジェノバを倒す
【ケフカ (HP:1/10 MP:残り少量 左腕喪失・左肩凍結)
所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕、セフィロスの右腕
第一行動方針:シャワーを浴びながら優位性を確保する/体力・魔力の回復
第二行動方針:ジェノバ細胞を利用する
第三行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
第四行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:バラムガーデン・MD層→移動】
- 294 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/12/07(水) 22:12:41.30 ID:3iiLJWP9N
- 投下乙です!
サイファーが本当に頼もしくてカッコイイなあ。
しっかり考えつつも即行動、これはリーダーの器ですわ。
逆にケフカは何を考えているのか読み切れなくて怖い。
毒舌を吐きつつも素直に意見を聞きいれてるのが、絶対よからぬ事を考えてるフラグにしか思えない…!
それにしてもマーニャは一体何をやってたんだろうwww
参加者から非参加者へのキャラ評は貴重だから機会があればまた触れてほしいなwww
- 295 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/12/31(土) 23:35:59.61 ID:D2fV5sf3/
- 遅ればせながら投下乙です!
「ガーデンオリエンテーション 〜見学生歓迎します〜」「悲哀に咽ぶ生き人形」
盗聴を警戒しつつもリノアと現状すり合わせをするために慣れない演技をするソロの表情が見えるようで、めちゃくちゃ応援したくなる
リノアがいると雰囲気が明るくなっていいなあ。先輩風吹かしているのが可愛い
最後の一文に、上手くいくといいねなんてうんうん頷いてたら、続く話で一気にほのぼの気分が吹き飛んだ…
現状は比較的落ち着いてるグループが多い中、ジェノバに利用され続けてるリュックが辛すぎる
アーヴァインとの絆丸ごと踏み躙るようなジェノバのやり口、相変わらず悪辣すぎて最悪だけど次の展開がどうなるか楽しみになってしまうのがずるいわあ
「Mr.Trouble Maker」
食堂組の話は、相変わらずこの組はほのぼのしてるなあなんて思いながら読むほど余裕があって、
やっぱり文明度の違いからくる認識の差異が面白い!
FF8本編では見えなかった部分の描写が細かくて、解像度がぐんぐん上がっていくのが読んでて楽しかったし、
本物のバラムガーデンからそっくりそのままコピーされた世界だということが強調されて物悲しくもなった
地味に対主催会話をさらっとできるラムザが心強すぎるなあ
そこから無事にソロたちと合流できるぞ!って思った瞬間の急転直下感、たまらなく絶望的……
ジェノバの計画が悪辣すぎて読んでるこっちまで怒りがわいてくるのは純粋にすごい……
利用されまくってるリュックがものすごく痛々しくて悲しくて、でも今までの話を踏まえればそりゃそうなるとも思って、もどかしくて仕方がない……
- 296 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2022/12/31(土) 23:36:23.36 ID:D2fV5sf3/
- 「重責に身は強張る」
次のお話ではMD層組と校外組が描かれていたけど、この4日間を生き抜いてきたサイファーとヘンリーだからこそ実感としてのしかかる選択の重みが痛いほど伝わってきて、こっちまで手に力がこもってしまった
スコールの重責を想像するサイファーに、まさにこのロワを通した成長が見て取れてかっこいい
あとリフトで引上げ中実況中継するケフカの脳内再生が余裕すぎて笑った
ヘンリーはヘンリーで、ただでさえ自分とアーヴァインを守る手段すら足りてないのに、ソロを信じたい気持ちといくつもの可能性に迷っちゃうよなあ……と、文章から伝わってくる焦りに同情してしまう
リュックとの絆を根拠に放送を疑うるアーヴァインがすごくいい……まあその絆を今最大限踏みにじられ利用されているんだが……
サイファーとヘンリーにのしかかる重圧の描写に、この局面の選択の重要性を改めて突き付けられたようで好きだった
「☆なにかんがえてるの」
前話からのヘンリー・アーヴァインパートの続きで、守りたいものや助けたいもの、信じたいものは山ほどあれど、
優先順位を決めて、いくつもの可能性を念頭に置こうと努めるヘンリーがめちゃくちゃかっこいい話だった……
一応年齢で言えばまだ子どもに分類できて様々な要因で弱っている現状のアーヴァインの言動も相まって、ヘンリーのノリは明るいけど大人の貫禄がうかがえるちょっとした描写が良すぎる……
ジェノバの読心能力はうまく使えば切り札にもなれそうな気はするが、今のところは不穏しかなくて怖いな〜
心が読めることが気持ち悪くないのか、と問うアーヴァインに、なぜかFF8本編のリノアの言動を思い出した。読心能力に最初に気づいたときにそばにいたのがヘンリーでよかったなあ……
人面犬わんわんセフィロス、想像して後悔した
「采配」
大人と子どもの狭間にいるサイファーが、4日間を経験したうえで、状況によって自分の立ち位置を使い分けているのがめちゃくちゃかっこいい……
ピサロから継承したものを的確に役立ててるのもしびれる。横道にそれた記憶もサルベージしてるのが手探り感があっていいわあ……
いろいろあったけどロックとサイファーがすっかり信頼し合ってるのも積み重ねを感じて好きだ
今はおとなしいとはいえ、ケフカの監視の目が減るのが懸念と言えば懸念だがどうなるか……
がっつりそれぞれが動き出す展開に、相変わらず続きが気になって仕方がない!
今年もたくさんの話が読めて幸せでした、来年も応援しています!!
- 297 :an unexpected turn 1/8:2023/01/02(月) 19:21:46.57 ID:3WqtBUJse
- 『1階のホールで、セフィロスがアンジェロの身体を使って、ソロを操ってる!!
ソロ達に近づかないようにして!! 近くにいたら逃げて!! お願いっ!!』
リュックの声が、スピーカーを通してホール内に反響する。
『どこで誰と会ったとしても、戦おうとは考えずに逃げに徹して下さい。
バッツさんの代わりになる人はどこにもいないんですから』
ラムザの忠告が俺の頭の中に反響する。
(やばい!!)
そう思ったのと、俺の身体が動き出したのはほぼ同時だ。
わき目もふらずにとんずらこいた、っていえばいいのかな。
もっと分かりやすく例えるなら、そう、チキンナイフを持ったまま敵と出くわしちまった! ってヤツだ。
地面すれすれまでに身体を沈めて、廊下にずずっとせり出してる噴水の縁までダッシュ。
ソロからの視線を切るように、ベンチとの隙間に滑り込んだ。
噴水のどぼぼぼぼぼ!って音がやけに鮮明に聞こえるし、心臓がバクバクいってる自覚があるし、
こんな涼しい場所なのにぶわっと汗が吹き出て服が張り付く。
(まだ見つかってないよな?
ソロは看板の向こうにいた。あの位置からじゃ見えない。
足音は消したし、噴水の音が大きいし、大丈夫だよな?
ここじゃ向こうの声も聞こえないくらいだし)
めっちゃ汗かいて、さっき食べたばっかりだってのに、喉がカラカラになったいみたいだ。
どぼどぼと流れる水の音を聞いて、口ゆすぎたくなるなあ、とか思ったりするのはしょうがないだろ。
ウォルスでさえ噴水の水は口に入れられないって聞いてるからしないけどさ。
なにはともあれ、雑念を抑えて、噴水の縁の裏から顔を出し、向こうの様子を凝視する。
流れ落ちる水が、ちょうど俺とソロの間の視線を遮っている。
ソロはここに俺がいることにまだ気付いてない。
仮に目に入ったとして、目を細めて二度見するくらいのアクションはするはずだ。
だから、冷静にソロの様子をうかがって、……そして見てしまった。
ソロらしからぬ、目をつり上がらせて、体を震わせて、憤怒の表情を浮かべた様子を。
思わず、目を細めて二度見をしてしまう。
断じて俺の気のせいなんかじゃない。
俺だって、ソロの人となりをすべて知ってるわけじゃない。
けど、あの放送がまったくのデタラメなら、激怒するよりもむしろ困惑するだろ?
放送してるのがケフカとかならまだしも、声も調子も間違いなくリュックだった。
ニセモノって線は成り立たない。
むしろ、あの放送に心当たりがあるってことなんじゃないのか?
(……どうする?)
逃げるだけなら実は簡単だ。
中央の、塔みたいなでかい柱を軸に、
セフィロスたちのちょうど反対側を位置取るようにちょこまか動く。
それで隙を見て別棟に飛び込めば切り抜けられる。
最初はそうしようと思ったんだけど、ふと思い立ったんだ。
このまま放っておいたら、ソロとセフィロスはどこに行く? ってさ。
保健室や中庭は確認してない。誰かいるかもしれないし、いないかもしれない。
ただ、その先は、食堂には行かせちゃダメだ。
ラムザやセージがいる。
逃げるべきじゃないか?
まだ気づかれていないうちにほかの場所に誘導すべきじゃないか?
相反する二つの指針を選びきれないまま、奥にある鉄の箱(ゴミ箱か、これ?)の影に身を滑り込ませ、方針を練り直す。
- 298 :an unexpected turn 2/8:2023/01/02(月) 19:23:13.57 ID:3WqtBUJse
- セージはセフィロスに狙われてる。
絶対に会わせちゃいけない二人だ。
それこそ、ケフカがいの一番に逃げを打つことを勧めてくるレベルに会わせちゃまずい二人だ。
セフィロスと"タバサ"が合体だのなんだの言ってたけど、要するにとんでもないパワーアップを遂げるってことだよな。
オメガとかしんりゅう級に強くて、逃げの一手を打つしかないようなセフィロス――ネオセフィロスなんてのができあがるってことか?
うわ、これはマズいだろ。
そんなのが爆誕するっていうんなら、絶対引き合わせちゃいけない。
しんりゅうとか追ってこなかったからよかったけど、あんなのが追いかけてきたら命いくつあっても足りないぞ。
ラムザだって俺と同じこと考えてると思う。
ラムザならそうそうヘタは打たない、というか俺よりしっかりやってくれそうだよな。
リュックの放送も届いているだろうし、それで俺がすぐに戻らなければ、何かあったと察してくれるだろ。
(そういえば、今も演技続けてるのかな。
だとしたら、今めちゃくちゃソロにキレてるんだろうな。
うわ、あいつの演技って本心と見分けつかないから、ちょっとだけ戻りたくなくなってきたぞ……。
頼むから俺が戻るまでには落ち着いててくれよ?)
まあそれはともかくとして、向こうはラムザがいれば大丈夫だ。ただ……。
(問題なのはやっぱりセージ――いや、"タバサ"、なんだろうなあ)
俺はラムザほど人の心に聡いわけじゃないけど、セージの気持ちになって考えてみよう。
表に出てるのがセージならば、俺を探すよりもセフィロスから逃げることを優先するだろ。
リスクを承知で、自分から飛び込むような人格じゃない。
けれど、"タバサ"はどう出るか分からない。
ラムザと一緒に逃げてくれるかもしれないけど、俺を探そうと言い出すかもしれない。
(希望のほこらでヘンリーを引き留めようとしたときとか、正体知ってても、すごくいい子に思えてしまったしなあ。
ヘンリーが来なかったのは、ヘンリー自身が"タバサ"をうまく説得したからだし……)
……。
ラムザがうまく説得してくれそうだな。大丈夫だ。
いや、いや、待て。甘い、甘いぞ。
"タバサ"が俺を探そうと言い出しでもしてみろよ。
次はセージが"タバサ"の要望を叶えるために勝手に動き出すかもしれない。
うわあ、このパターンありそうだ。
ラムザを振り切ってでも、"タバサ"の最初の要望に従ってこっちに来るセージ。
運悪くホールをうろついていたセフィロスと鉢合わせる。
想像できる、できるぞ……!
最悪の事態まっしぐらだ。
逆に、セフィロスが何の障害もなく食堂にたどり着いて、ラムザたちが逃げる間もなく鉢合わせる可能性もありうる。
この場合はラムザがいようがいまいが、向こうから来るんだから関係ないよなあ。
食堂に非常口はあったけど、セフィロスに見つかる前にそこに飛び込めるのかって話だ。
食堂の入り口の扉もカギはあったけど、まだ開けたままだよな。
セージなら容赦なくカギかけてるかもしれないけど。
うわ、合言葉決めておくべきだった。
せっかくバッツ世直し団立ち上げたのに、ぬかったなあ!
『のばら!』とか秘密組織みたいでかっこいいもんなあ。
いやいや、脇道にそれるな俺。
結論!
ソロとセフィロスの二人に見つからないように、うまく二人を食堂以外に誘導したほうがいいんだよな。
- 299 :an unexpected turn 3/8:2023/01/02(月) 19:24:20.99 ID:3WqtBUJse
- ★★★★★★★★★★★★★★★★★★
"ちょうど案内板の向こうにあるのがエレベーターね。
保健室はこのまま正面に進んで、最初の分かれ道を左に行ったところ。
食堂は、ぐるっとまわったさらに先にあるわ"
リノアさんの案内に従い、仲間を探して広いホールを歩んでいく。
最優先で探すべきはやはりアーヴァインだ。
ヘンリーさんが同行しているとか、リノアさんの縁者であるとか、そういうのはまったく関係なく。
最も深い傷を負っていて、自力で動けない可能性が高い以上、誰よりも優先して合流すべき。
あれだけ身体を酷使しているんだ、保健室にはいずれ訪れるだろう。
それに、この世界の治療がどういうものかは推し量れないけれど、これだけ進んだ文明だ。
治療器具を持ちだせるなら、メリットは大きい。
この場でいますぐ眠ることはできないけれど、いずれザンデさんやアルガスに確保した医薬品を鑑定してもらう方法もあるだろう。
だから、最初に目指すのは保健室だ。
ジェノバとの戦いはきっと時間との勝負になる。
それだけは確信できるのだけれど、情けない話、ジェノバがどう動くかは僕には読み切れない。
他人に化けるという異能。
悪用の仕方はいくらでも思いつく。
僕自身、変化の杖を使ってデスパレスに潜入したこともあるし、
……あとマーニャさんがデスパレスに捕まっていた人にいたずらしていたのをどうしても思い出してしまう。
アームライオンがニヤニヤ笑いながら牢に入ってくるのは恐怖以外の何者でもなかっただろう。
最初のデスパレス侵入の時だけじゃなくて、エビルプリースト征伐の下調べのときにも驚かしに行ったのはあれなんなんですかね?
コホン。
とにかく、姿を変えて誤認させるという行為はそれだけで脅威だ。
ヘンリーさんに成りすまして、セフィロスとの戦いの一部始終の目撃者を気取り、デマをバラまくことが可能だろう。
僕に成りすまして、アーヴァインへの疑心を深める方向にみんなを誘導することだってできると思う。
アーヴァインに成りすまして、哀れな被害者として仲間たちに取り入ることも容易いだろう。
あるいはセフィロスに成りすまして、非好戦的な仲間たちを追い詰めるなんてこともできると思う。
僕より後に旅の扉を目指していたメンバー――サイファーやギードたちにジェノバは接触したはず。
仲間を疑いたくはないんだけれど、あの底知れない悪意の塊がサイファーたちを見逃すなんてことはあり得ない。
それは予測とか推測なんてものじゃなくて、確信だ。
ジェノバの悪意に取り込まれる前に、みんなを見つけ出して真実を伝えなければならない。
だから、はやく、はやく合流しなければならない。
そんな僕の想定は、あまりに甘すぎた。
- 300 :an unexpected turn 4/8:2023/01/02(月) 19:26:02.87 ID:3WqtBUJse
- ホール全体に、仲間の悲痛な想いが響き渡る。
もはや聞きなれてしまった放送、けれども放送を流しているのはアルティミシアでもティアマトでもなく、僕の大切な仲間の一人。
僕らの無事を祈り、僕の身すら案じながら、リュックが精いっぱいの想いを乗せて言葉を紡ぐ。
それは晴天の霹靂だ。
快晴の空から突如降り注いだ落雷のようなものだ。
晴れ渡り、澄み切っていた空は嵐の前の静けさに過ぎず、わずかに差し込んできた希望は黒雲に遮られる。
リュックの心からの善意をまともに浴びせられ、僕の思考はたっぷり数秒、瞬断した。
開けた天空が凶星に覆われていくかのような光景を幻視して、僕はしばらく呆けることしかできなかった。
地獄への道は善意で舗装されているという。
分かってしまうんだ。
リュックの言葉は、紛うことなき本心だってことに。
彼女はもう、これ以上誰も犠牲にならないことを心から願っていると、分かってしまうんだ。
そのリュックの善意、それを裏から操る透き通った悪意を感じ取ってしまう。
エビルプリーストやケフカのようなドス黒さとは質がまるで違う。
人の心を目的を果たすための手段のひとつ程度にしか捉えておらず、それをこねくり回してゆがめることに何の躊躇もない、透明な悪意だ。
ただただ効率的に僕を追い詰めることだけを考え、そのために人の心を蹂躙することを厭わない、純粋で透き通った悪意だ。
ヤツの所業は、文字通りスケールが違った。
どこに向かおうか。どう伝えようか。
僕のそんなささやかな選択肢を一息に踏みにじり、ヤツは会場にいる全員に一斉に魔の手を伸ばしたんだ。
奥歯がギリリと悲鳴をあげる。
拳がギシギシとイヤな音を立てる。
目の前が真っ赤になったかのような錯覚に駆られる。
ジェノバの行動は、そのすべてが毒のようなものだ。
言葉も行動も――リュックという個人を通して受け取ったものであってすら、他者への害意へと集約する。
こころの隅にひそかに張り付き、何かの折にじわりじわりと精神を蝕み、肉体を破滅へと導いていく猛毒だ。
一人なら、またも醜態をさらしたかもしれない。
今朝、この世界に降り立った時のように、激情に流されるまま一人でジェノバの元に乗り込んでいたかもしれない。
ジェノバが大口を開けて待っているところに、自ら飛び込みにいったかもしれない。
けれど。
- 301 :an unexpected turn 5/8:2023/01/02(月) 19:26:54.07 ID:3WqtBUJse
- "ソロ! ソロ! 落ち着いて!
顔がすごく怖いことになってるよ!
ほかの人に遭ったら、みんな逃げちゃうって!"
はっとして、手を口に当てる。
掌が口元に張り付くと同時にバチンと音が鳴り、その軽いショックが僕の赤くなりかけた感情を揺さぶっていく。
力ませていた筋肉を緩めて、肺の中で澱んだ空気を新鮮なものへと入れ替え、溜まりに溜まった熱を外へと逃がしていく。
"きっと大丈夫よ!
そんな、放送一つでみんなが一斉に敵に回ったりはしないって!
少なくとも、スコールならちゃんと誰も傷つかない方法を考えるし、
サイファーは……ちょっと心配だけど、それでもいきなり襲い掛かってきたりはしないはず!
だから、落ち着いて、どうするかしっかり考えよっ! ねっ!?"
「そうですね、ヤツの仕掛けた罠にまたもやかかってしまうところでした。
怒りを煽って感情を煮立たせ、理性を押し込める。
それがヤツの手口だと分かっていたはずなのに……」
"そうそう、そのジェノバとかいう悪者の言うことに説得力なんて持たせちゃダメ!
もちろん、私だって怒ってるんだよ!
私はセフィロスじゃないし、ソロを洗脳なんてしてません!
アンジェロをむりやり動かしたりもしていません!
お互いに納得の上で同行しています!
そこんところ、放送流したコにもちゃんとお分かりいただかないとダメなんだよね"
ジェノバの脅威を分かっているのかいないのか、
――すべてを話しきれたわけじゃないから事態の認識に差異があるのは当然なのだけれど、
それでもどこかのほほんとした言葉に毒気を抜かれる感じがする。
状況的にはかなり深刻なのだけれど、激情に蝕まれていた心が浄化される感じがする。
なんとなく、マーニャさんの雰囲気を思い出す。
即席の連携でエビルプリーストに挑むのは危険だと、ピサロと共にもう一度世界をまわっていたころのことだ。
地上の町に訪れるたびにピサロが顔に皺を刻んでは小言を言い、それをマーニャさんが茶化しては呆れられるのは恒例行事と化していた。
彼女の場合、パーティ内で確執を生まないように敢えてそう振る舞っていたのか、ミネアさんに気を負わせないように日常を演じていたのか、それとも素なのか。
本人に聞いてもはぐらかされるだけだろうけど。
彼女自身、魔族にはだいぶ負の感情があったはずなのに。
考えがちょっと逸れすぎた。
というか性別つながりでマーニャさんを思い出しただけで、より性質が近いとすればヘンリーさんだろう。
『敢えて』とった態度に素が見え隠れするあたりが、特にそれらしい。
余計なことを色々考えられるのは、少しだけ余裕が戻ってきたということかもしれない。
- 302 :an unexpected turn 6/8:2023/01/02(月) 19:30:55.65 ID:3WqtBUJse
- 「さっきの放送は、どこから流されたんですか?」
"たぶん、3階の学園長室ね。
そこのエレベーターから行けるけれど……。
まさか、いきなり乗り込む気!?"
「いやいや……! さすがに対策もなしに乗り込みはしませんよ!?」
行きたいのはやまやまだけれど、後手にまわった今の状況で乗り込むのは危険だ。
建物全体に放送を流したのだから、乗り込まれるのも当然想定しているはず。
そうではなくて、僕は偶然奴と鉢合わせるのを避けたかった。
だから放送室の場所を聞いた。それ以外の理由はない。
アンジェロがセフィロスで、僕はセフィロスの手先。
僕を仲間たちから切り離す、悔しいが芸術的なまでに見事な一手だ。
だが、それに輪をかけて恐ろしいのは、僕の動向がすでに知れ渡っていることだ。
僕とアンジェロが一緒に行動した時間はごくわずかな時間でしかない。
その時間で『お前を見ているぞ』とばかりに策を強行した。
そして、放送をおこなったのはリュックだという事実。
ごくわずかな時間で彼女からの信用を盗み取り、
僕がセフィロスに操られているとリュックに信じ込ませた。
なんてすさまじい話術と胆力、実行力だろう。
底知れない。
怖気づいたわけではないけれど、今すぐ乗り込むのは蛮勇。
そして、もしうっかり鉢合わせてしまえばそれこそ惨憺。
この建物の設備を利用していたにしても、僕は何をどうやれば動かせるのかすら分からない。
情報の格差が大きすぎる。
すべてを解決する魔法の杖なんてものは存在しないだろう。
やるべきことはやはり、仲間との合流と情報収集、そして説得という実直な方法しかないんだ。
"ソロ。静かに聞いてね。近くに誰かいるかもしれない"
リノアさんが、声のトーンを落として話しかけてくる。
目線だけで頷き、まわりの気配を探ってみるけれど、人の気配は感じない。
聞こえてくるのも流れ落ちる水の音だけだ。
"アンジェロの耳がぴこぴこしてるのね。
もしかして、誰か近くで私たちのこと見てるんじゃないかなって"
気配を探るも、感じ取れない。
もっとも、相手方の立場からすれば、安易に僕らと接触ができないと考えるのは当然のことだろう。
「その人は、どこに?」
"ホールの西側ね。保健室や食堂のある方向、って言ったら分かるかな"
「疑心暗鬼に陥らないためにも、僕たちは堂々と姿を見せたほうがいいでしょうね。
こちらから出ていきましょう。
念のため、リノアさんは僕の後ろに」
コンタクトを間違えれば関係が一気に崩れかねない。
頭痛に苛まれそうな不安の中、僕は盾を片手に、緊張した足取りで歩を進める。
だから、というのは言い訳でしかない。
周囲への警戒が疎かになっていたのは確かだ。
- 303 :an unexpected turn 7/8:2023/01/02(月) 19:32:18.70 ID:3WqtBUJse
- ホールにいるはずの誰かに向かって声をかけようとしたまさにそのときだった。
ピィン、と軽快な音がホールに鳴り響いた。
正面のエレベーターは三階――学園長室と直通しているエレベーターだ。
その扉がカシュッという音と共に開いた。
そちらに集中をすべて持っていかれてしまったのは仕方のないことかもしれない。
極度の緊張感の中、思わず剣の柄に手をかけ、ぐっと握り込んだ。
そこから現れたのは、真っ黒な服に身を包んだ人物。
ジェノバでないことだけは確かだ。
けれども、僕は一瞬だけ認識が追い付かなかった。
サイファー、ピサロ、ロック。
目に見えるのは一人なのに、三人のイメージが浮かんだことに困惑してしまった。
空白の時間が生まれた。
「サイファーーッ!!
ソロに狙われてるっ!!
今すぐにそこから離れてぇっっ!!」
何もかもが予想外の言葉だった。
死角から殴りつけるように飛んできた言葉は、間違いなく僕の思考を瞬時に吹き飛ばした。
数瞬ののち、二階から、リュックが悲鳴じみた声を張り上げ叫んだのだと理解した。
怒りと、困惑とが混じり合ったような表情で、サイファーが虚空を睨みつけていた。
【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣
第一行動方針:サイファーとバッツを殺させない
第ニ行動方針:アーヴァイン(ジェノバ)を安全な場所に避難させる/セフィロス(アンジェロ)を倒しソロを正気に戻す
第三行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ジェノバ@重度ジェノバ化アーヴァインのすがた
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:本物のアーヴァインに発見されないうちにリュックを信用させ、ソロと殺し合わせ、ソロの心を折る。必要であれば他の生存者も利用する。
第二行動方針:ソロに寄生して乗っ取り、真実の力を掌握する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置:バラムガーデン2階】
【バッツ(MP3/5、ジョブ:シーフ 青魔法【闇の操作】習得)
所持品:(E)アイスブランド、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アポロンのハープ、メガポーション
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
おしゃれな壁掛け時計、IDとパスワードのメモ、メモ帳と筆記用具
第一行動方針:ソロとアンジェロを食堂以外に誘導し、逃げ切る?
第二行動方針:危険人物が近くにいないか調べる
第三行動方針:食堂に戻ってラムザ達と合流する/機会を見て首輪解除を進める
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【現在位置:バラムガーデン1Fロビー・中央水路の瀬理の縁】
- 304 :an unexpected turn 8/8:2023/01/02(月) 19:33:28.02 ID:3WqtBUJse
- 【ソロ(MP0、真実の力を継承)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、
ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション、村正
第一行動方針:この場に対処する
第ニ行動方針:ジェノバの魔の手から仲間を守る
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ(リノア) 所持品:風のローブ
第一行動方針:この場に対処する
第ニ行動方針:サイファー、アーヴァイン、スコールなどのソロの仲間と合流
第三行動方針:アンジェロの心を蘇らせる手段を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒し、スコールと再会する】
【現在位置:バラムガーデン1Fロビー・案内板〜保健室間の通路】
【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ、ひそひ草
第一行動方針:この場に対処する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す
基本行動方針:ケフカを除く全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷、透明状態)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:訓練施設に向かう?
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:バラムガーデン1Fロビー・エレベータ前】
- 305 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/01/07(土) 00:17:29.08 ID:6T7SZFA5L
- 新年早々投下おつです!
ピタゴラスイッチのように事態が悪化してる…やべえよやべえよ
せっかくサイファーたちの目の前にソロがいるのに
タイミング悪いバッツともっとタイミング悪いリュックを切り抜けないといけないとか難易度高すぎる
ジェノバとついでにケフカの高笑いが聞こえてきそうだぁ
それはそれとしてまたもネタにされるマーニャに笑ったw
- 306 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/01/15(日) 00:40:37.17 ID:OP7yYMdDx
- FFDQ3 783話(+ 3) 18/139 (- 0) 12.9
- 307 :希望は予想よりも近くに、―― 1/16:2023/01/29(日) 11:20:58.66 ID:rHssY7SEM
- どうにかできるはずだった。
ちゃちゃっと隠れながらソロとセフィロスを別の場所におびきよせる。
一見難しそうな注文だけど、それにうってつけのジョブは十数秒前に思いついていた。
なのに――まさかこんなことになるなんて!!
(あああああああああああサイファーーーーーーーーーーーーーー!!??)
全力で叫びたくなるのを堪えた俺は偉いと思う!
そして俺の代わりにどっかから事態に気付いて叫んだリュックも偉いと思う!!
でもな! いくら状況を教えたところで、肝心のサイファーに逃げ道がないんだよなあ!!
エレベーター乗り場の周囲は深い水場に囲まれてるし、唯一の脱出路である階段のすぐそばにソロ達が待ち構えてるんだ!
逆にエレベーターに引き返そうにも扉がもう閉まっちゃったから、開いて乗って閉めるまでに相乗り待ったナシだぞ!?
一つだけ手があるけど――くそっ、頼む、あとちょっとだけどうにか時間を稼いで……!
「アーヒャッヒャッヒャ!! アーーーヒャッヒャッヒャ!!!」
「――ケフカ!?」
天の助けというには物騒すぎる、頭上から響いた二つの声。
けれどソロとサイファーは二人とも気を取られ、険しい表情で上を見上げた。
そのおかげでこっちの準備がなんとか間に合う。
俺は大きく息を吸い込み、ザックから取り出したハープを構え、ソロとセフィロスに向けて爪弾いた!
「――"ああ忘れ難き君よ、過ぎ去りし我が愛よ!
悲しみは未だ癒えず、時は私を置き去りにする――!"」
伝説の十二の武器の一つ、アポロンのハープ。
アンデッドを祓い竜をも退けるその音色は、上手く奏でれば狙った相手だけに届けることができる。
で、その音に乗せて歌を歌えば、どれだけ声を張り上げようともサイファーを巻き込むことなく、ソロ達にだけ効果を及ぼすって寸法だ!
「"行き場なき想い、有り余りて涙となり、耐え難き痛みを胸に刻み――
色褪せた明日よりも、輝ける在りし日に、我が心は縛られる――!"」
聞いてるよな? 効いてるよな?
冷汗が背筋を伝うけど、演奏を中断するわけにはいかない。
こちらを振り向きかけたまま動きを止めたソロとセフィロスを見つめたまま、俺は一気に最後の楽章を奏でる。
「"ああ忘れ難き君よ、貴方の時間は止まったまま、いつか置き去りにするその日まで――
私の時間は止まったまま――この悲しみが癒えた時、初めて動き出す――!"」
愛の歌。
あのオメガさえも足止めする、正真正銘のとっておきだ。
吟遊詩人へのジョブチェンジが間に合って助かった!!
リュックが叫んでくれなかったら、今頃サイファーが殺されてたかもしれないもんな。
――って、サイファーだよ!
なんであいつまだ逃げないんだ!? 俺の方睨んで棒立ちしてるって――まさか、歌に巻き込んだ?
それとも状況が把握しきれなくて固まってるだけなのか?!
- 308 :希望は予想よりも近くに、―― 2/16:2023/01/29(日) 11:23:42.25 ID:rHssY7SEM
- 「サイファー!! 早く逃げろ!!
そんな長い間足止めはできないぞ!」
とりあえず全力で叫んでみる。
するとようやく我に返ったのか、サイファーはただでさえ悪い目つきをさらに険しくしながら、ソロ達の脇をすり抜けて俺の方に駆け寄ってきた。
……なんか見慣れない服着てるけど、さすがに今はそこに突っ込んでる場合じゃないな。
ともあれ、俺と一緒に逃げるつもりだってならそれはそれで悪くない。
「こっちだ!」
俺はサイファーが辿り着くのを待たず、手近な――『校庭』と書かれた看板がある通路へ向かう。
何せセフィロスが使ってるのはアンジェロの身体だ。
匂いを辿られることを考えたら、食堂に向かうわけにもいかない。
外に出て、階段を駆け下り、ベンチの並んだスペースを走り抜ける。
とにかく少しでも隠れられそうな場所へ――と思った矢先に、よくわからない機材が積み上げられたステージが視界に入った。
ちょうどいい。
一旦物陰に隠れて、息を整えながらサイファーが追いついてくるのを待つ。
冷汗で背中がびっしょりだ。
食堂にいた時にタオルを探して持ってくれば良かったな――……などと考えていると、背後から不機嫌そうな声が響いた。
「何やったんだ、テメェ。
まさかあんな放送を頭から信じ込んでんじゃねえだろうな?!」
そんな言い草はないだろ……、と思いながら振り向けば、そこにはやっぱり変な服を着こんだサイファーの姿。
「信じるも信じないも、本当だったらヤバイだろ?
リュックが嘘をつくわけないし、それに……さっきのソロ、あんまりまともに見えなかったぞ」
声を潜めながら反論してはみたものの、エレベーターから降りた途端に大騒ぎになったものだから、ソロの表情を見ている余裕なんてなかったんだろう。
サイファーは眉間に皺を寄せたまま肩を竦め、舌打ちしながら吐き捨てる。
「ああ? テメェの眼が腐ってんじゃねえのか?
それともコンフュでもかけられたんじゃねえだろうな」
苛立たしそうに言い切ると、サイファーは俺に向けて手をかざした。
放たれたのはとても見覚えがある魔法――ライブラだ。
「おいおい、ザンデの真似か?
せめてエスナとかにしてくれって」
呆れ半分に呟いて、右手をひらひらと降った、ちょうどその時。
空の彼方から「クエーッ!」と、これまた聞き覚えのある鳴き声が響き渡ってきた。
どういうわけかサイファーは大きく舌を打ち、なぜか俺の胸を掴み上げる。
「話は後だ。ラムザ達はどこにいる?」
「え? あ、しょ、食堂だけど?」
「――だったらこっちだ、来い!!」
今度は腕をひっつかまれて、そのまま走り出されてしまう。
俺は思いっきり引きずられながら、困惑の声を上げた。
- 309 :希望は予想よりも近くに、―― 3/16:2023/01/29(日) 11:25:54.43 ID:rHssY7SEM
- 「は? え、うわあ! 待ってくれよ、そっちは逆――」
「わかってんだよ! 面倒な奴が後を追ってくるかもしれねえってのに、素直に案内できるか!!」
そ、それもそう……なのか?
サイファーが合流すれば四対二になるから勝てるんじゃ――とか思ったけど、考え直す。
よくよく思い返せば、サイファー達は六対一でセフィロスと戦ってたはずだ。
いくらアンジェロの身体になっているからといって、向こうにはソロがいるんだし……甘く見ていい相手じゃないよな。
「あっちに保健室がある、一旦そこに立てこもるぞ!」
「わ、わかった!」
態勢を立て直しながら俺が答えると、サイファーは足を止めることなく器用に木立の間を抜けていく。
完全に建物の配置が頭の中に入ってるって感じだ。
頼りになるといえばなるんだけど、……さっきから妙に当たりが強いんだよなあ。
なんでだ?
ソロを足止めしたからか? もしかしたらリュックの放送を聞いてなかったとか――
……――って、有り得るなあ!
はっきりとは見てなかったけど、あのエレベーター、降りてきたわけじゃなくて地下から上がってきてたのかも……
だとしたら、俺とリュックが謎のイチャモンつけてソロをハメたようにしか見えなかったりするのか?
さすがにそれは誤解だって!
ラムザとセージは不安がっているかもしれないけど、ここはサイファーとちゃんと話して、一緒にセフィロスを迎え撃たないと!
***************
最悪だ、と思った。
エレベーターから降りた途端にリュックの声、目の前にソロ。
もちろん俺もサイファーもソロを疑う気なんてないけれど、あっちはそうもいかないだろう。
おまけに間髪入れずケフカの耳障りな笑い声が響いてきたせいで、ガッチガチの警戒態勢。
剣を握りしめ、頭上を見上げるその表情は、サイファーともどもメチャクチャ険しい。
リルム以外の子供が見たら泣きそうだし、知らないヤツが横から見たらそれこそ悪人面と評されても文句は言えない。
――だから、だったのだろう。
予想外の方角から、妙に透き通った音色がそよ風のように響いてきた。
ソロとアンジェロは音を辿るように顔を背け――不自然に動きを止める。
見ればバッツが竪琴を奏で、何かの歌を歌っていた。
どういうわけか、俺達には歌詞は聞き取れないが……
「何やってんだ、アイツ……!」
周囲の異常に気付いたサイファーが、ギリッ、と歯噛みする。
俺はバッツやソロに悟られないよう、小声で耳打ちした。
「待てよサイファー、多分バッツはお前を助けようとしてるのかもしれない。
例の放送ってヤツをちゃんと聞いてて、今のリュックの叫びまで聞いたら、マジに受け取るのも仕方ないだろ」
「チッ……単細胞過ぎるだろ、どいつもこいつも!」
「怒ったって仕方ないって。
俺がソロを介抱して逃がすから、お前はバッツと一緒に行って事情を説明してくれよ」
- 310 :希望は予想よりも近くに、―― 4/16:2023/01/29(日) 11:29:22.83 ID:rHssY7SEM
- サイファーを宥めながら、俺はソロ達に近づく。
とにかく正気づかせようと肩に触れ――
「――?」
歌声を、聞いた。
竪琴の調べに乗せて、レイチェルが歌っている。
懐かしいコーリンゲンの村、彼女が住んでいた家の中。
でも、同時に花に囲まれたベッドが見える。
横たわる冷たい体の、硬くなった指先の感触。
激動の日々で薄れかけていた記憶がどこまでも鮮やかに蘇り、太陽のように笑う彼女と、氷のように眠る彼女が、幾重にも重なる。
息が止まり、時間も止まる中、やがて歌声は虚空に溶けていき――
――やがて、はっと我に帰る。
慌ててあたりを見回せば、サイファーとバッツの姿は消えていた。
リュックやケフカの声も聞こえない。
ただ、ソロとアンジェロだけが、呆然と立ち尽くしたまま俺の方を見つめている。
その表情が悲しげなのは、きっと俺の気のせいなんかじゃないだろう。
「――ソロ、大丈夫か?」
「………ロック、さん?」
瞬きを繰り返しながら俺の名を呼ぶ、その声音にも覇気がない。
多分動きを止めている間、ずーっと俺が見たのと同じような幻覚に囚われていたんだろう。
全くバッツの奴、いくらなんでも趣味が悪いってレベルじゃないぞ?!
ほんのりでは済まない怒りを覚えながらも、俺は人差し指を口に当てつつ小声で言葉を紡ぐ。
「大丈夫、俺とサイファーはお前の味方だ。
アーヴァインの偽物がいて、そいつがリュックを騙してお前を陥れようとしてる。
成り行きでギードと……ケフカもそのことを知ってる」
「ケフカ――」
「おっと、大声は出さないでくれ。
お前にどう見えてるかはわからないけど、一応、俺は今姿を隠してるんだ」
魔法を喰らえばバニシュは解ける、そのはずなのにどういうわけか俺の透明化はまだ切れていない。
さっきのバッツの歌は魔法じゃなくてただの歌ってことなんだろうけど――あんな精神攻撃みたいな歌があってたまるか!
静寂の玉を見つけたら絶対アイツにも使ってやるからな!
「ケフカ達も俺がここにいることは知らない。全部知ってるのはサイファーだけだ。
本当はアイツがお前を探して、その間に俺がアーヴァインを保護する予定だったんだが……まあ、バッツがいるとか予想できっこないからな。
あ、ケフカはギードがきっちり監視してるから大丈夫だ。
それにリュックのことも――ギードなら上手く丸め込んでくれるだろうから、もう心配いらないぞ」
少しでも安心させようとおどけた仕草と声音を作ってみるが、果たしてどれほど効果があったのだろう。
ソロはきゅっと口を固く結び、両手を握りしめ――真っ直ぐ顔を上げた。
いつものように凛とした表情ではなく、恐怖に耐える子供のように、瞳をわずかに潤ませて。
「ロックさん、は……サイファーは、僕達を、信じて、くれるんですか?」
「当たり前だろ」
- 311 :希望は予想よりも近くに、―― 5/16:2023/01/29(日) 11:32:21.34 ID:rHssY7SEM
- そりゃあ俺はサイファーからしか事態を聞けてないし、アイツが何か隠し事してるっぽいのもわかってる。
だけどサイファーが俺達に嘘をつく理由なんて思いつかないし、こんなに傷ついてるソロが操られてるようにも見えない。
何よりこんなに大人しくお座りしてるアンジェロがセフィロスだなんて、到底思えないんだよ。
だから俺はサイファーを信じるし、ソロを信じる。
「だいたいあのセフィロスが犬の身体で満足するわけないし、お前があっさり出し抜かれるはずないだろ。
サイファーも愚痴ってたけどさ、リュックもバッツも純真通り越して単細胞過ぎるんだ。あいつらを基準に考えたらダメだぞ」
「そ、そこまで言わなくても……」
「いいんだよ。二人とも、あんなコロコロ騙されやがって。
ガウやウーマロだってもう少ししっかりしてるぞ?
お前が怒らないってなら、俺がお前の分まで怒ってやるってんだ」
「は、はは……」
ようやく、少しだけ笑ってくれた。
さすがにまだ朗らかさはないが……このまま元気を取り戻してくれると良いんだけどな。
「それよりソロ、走れるか? あとアンジェロも体の調子は大丈夫なのか?」
「僕は、はい、大丈夫……です。
アンジェロも……――大丈夫だって言ってます」
「オーケー、だったらここから離れよう。
本当は訓練施設に直行したいんだが、上から見られてるかもしれないから、他の場所から回り込むぞ」
ソロの姿を隠すことはできるけど、偽アーヴァインがどこに潜んでいるかわからないからな。
バニシュを使っていることを気づかれて、上から魔法攻撃されたら最悪だ。
だから別の通路から外に出て歩いていけば、目的地を悟られにくくなるはず――
「く……訓練施設、ですか?」
??? なんでそこでそんなに驚くんだ??
「なんか、訓練施設の奥に秘密の場所って所があるらしいんだ。
そこでアーヴァインが待ってるって伝言があったって、サイファーから聞いてるんだが」
「秘密の、場所……―――あ、ああ、そう、なんですか。
そういえば、アーヴァインも、サイファーも、この建物、詳しいんですよね。
二人とも……そりゃ、そうですよね」
今度は頭を抱えだした。どういうわけかアンジェロの方からも『あーあ』って女の子の声が聞こえてきた気がする。
だからなんで??
「……い、いえ、大丈夫です。
わかり、ました。………ええと、だったら、図書館側から行きましょう。
正面からだと、遠回りすぎるって、リノ――リノアさんから聞いたと、アンジェロが、言ってます」
リノア……って、飼い主の子か。
確かアーヴァインの奴の友達で、ティーダ達と一緒に埋葬したって話だっけ?
で、アーヴァインが例によって錯乱したからリルムと一緒に留守番させてたらテリーと一緒にアリーナに襲われたとかなんとか――そんな話を聞いた記憶がある。
……もしかしてアーヴァインとアンジェロを引き合わせるのって結構マズかったりするか?
いやいや、さすがに飼い犬を見ただけでトラウマスイッチオンにはならないだろ。
……………ならない、よな? ならないよな? 信じていいんだよな?
と、と、とにかく……
- 312 :希望は予想よりも近くに、―― 6/16:2023/01/29(日) 11:34:29.56 ID:rHssY7SEM
- 「図書館側からだな。となると、あっち側の通路か」
大き目の看板が設置されているおかげで、迷う心配がないのはありがたい。
土地勘がないとはいえ、地図は頭に叩き込んであるし、先導ぐらいはできるだろうと思った矢先――
「ええと、ロックさんの透明化の魔法って、確か呪文に弱いんですよね?
僕が先に行きますから、ロックさんは後ろを警戒してもらってもいいですか?
それで、アンジェロには申し訳ないんですが、目的地まで案内してほしいんです」
存外、落ち着きを取り戻していたらしい。
表情こそまだ曇っているが、とても真っ当なソロの提案に、アンジェロはすっと立ち上がると軽快なテンポで走り出す。
そういえばアーヴァインも『人見知りはするけどものすごい賢くて可愛いわんこだよ〜』とか言ってたっけな。
俺より数倍頭がいい、なんて余計な枕詞も付けてくれていたが――確かに吠えないし、人の言葉をきちんと聞き取ってるようだし、本当に頭のいい犬なんだろう。
「行きましょう、ロックさん」
ソロの言葉に、俺は「ああ」と頷いてから、足音を立てないよう気を付けて走り出す。
リュックとバッツの事は心配だけれど、ギードとサイファーが上手くやるだろう。
大丈夫大丈夫。結果オーライ、なんとかなるさ!
***************
「あーあー、最近のバカモノは本当に乱暴で嫌になりますねえ!
ロックはパシリだしサイファーくんはえらっそーだし、オシャレセンスどころか思考回路までピサロとセフィロスにインスパイアされてるんじゃないですかァ?
ヤダヤダ、頭空っぽにして夢詰め込んでそうないつまで経っても大人になれない青二才の分際で!
ぼくちんにカツアゲかますなんて、もーーーこれだからレオみたいな目つきの悪い金髪の男は滅びるべきなんだじょーー!!」
カメの背中に乗ったまま、とっても狭くてクッサイエレベーターに詰め込まれたぼくちんは地団太を踏みながら吐き捨てます。
ホントにホントにほんとーにもう、サイファーのやつ!
ひそひ草という俺様のためにあるような超絶面白グッズを奪いやがって!!
だいたいこういう場所なら風紀委員とかいないのか? さっさと取り締まれ、コワイコワイ老け顔の不良がいまーす!!
「甲羅に響くからやめてくれんか?
それとボタンとやらを押してほしいんじゃが」
「アッハイスミマセン」
怒られちゃった。てへっごめんちゃーい。
ついつい、いつものクセでやっちゃったんですよね。
本当に臭いからねえ〜ここは、こんな綺麗なのに瓦礫の塔のトイレよりクッサイってどーゆーこと?
え? ぼくちんがクサイだけだって?
毒沼ドボンしてからお風呂も入らず石油プール空間を歩いてきたら、かぐわしいカホリがかもされるに決まってるって?
う、うるさいっ! 正論をいう奴はケフカ様の機嫌を損ね罪で死刑だーー!
それにしても、ヨヨヨ……
道具は奪われ魔力もスカンピン、おまけにクサクサ扱いなんて可哀そうなぼくちんでしょう。
こんな場所にいられるか! 俺様はシャワーを浴びるんだ!
ところでこれあと何回言えばフラグ成立するんでしょうか? マンネリ化とか嫌なんですけど?
- 313 :――絶望は予想外の死角に 7/16:2023/01/29(日) 11:37:55.98 ID:rHssY7SEM
- じゃ、とりあえず1階でも押そうか――ってサイファーくんに見つかってげんこつが落っこちてくるだけですね。
だったら3階――はジェノバ君とご対面する可能性がひっじょーーーーに高いですよねえ。
結局2階しか行けないじゃないですかーーーー!!
ギブミーフリーシナリオ!! えっこのシリーズにそんなシステムはない? そんなァー!
あーあー、オープンワールドが当たり前のこのご時世で一本道なんて古臭すぎますよォ。
それじゃなくても決まったレールに沿うしかない人生って空しくて嫌になりません?
そんなモノはボカーンとドカーンとこの建物ごと破壊すべきではないでしょうか。
まあそれをするとぼくちん一生シャワー浴びる機会がなくなるんですけどね。
つめたーいお水で我慢するなんてどこぞのフィガロの熊野郎じゃあるまいし。
じっくりゆったりのーんびり、暖かいシャワーと広い湯舟で皆様へのサービスシーンをお送りしながら有象無象の死に様を存分に実況したいものです。
「お主を乗せたままだとボタンを押せんのじゃが……
振り落としてもいいかの?」
「ちょ、ちょちょちょっと止めてクダサイ! 今押しますよ!
最近の年寄りカメは気が短くて困りますねえ!!!!
それとも冬眠不足かな? しっかり寝て脳トレしてアンチエイジングに励まないとボケ老人になっちゃいますよ?
ストラゴスのジジイみたいに! ストラゴスのジジイみたいに!!」
「………」
アラヤダ、ギードさんったら眉間にしわが寄ってますねえ。
サイファーくんみたーい、アヒャヒャヒャヒャ!!
――って口に出したら本当に振り落とされそうなので、ここは素直に2階へのボタンを押しておきましょう。
ホレぽちっとな。神たる私はギリギリで空気を読むこともできるのです。
え? いつも読め? そうはイカん! タコん! オウムガイん!!
俺様がキレのいいポーズを繰り出していると、エレベーターがガクンと動き出しました。
やはりというか魔力の気配は感じないのでここもオール機械式なんでしょうが、ヒッジョーに静かですねェ。
いーい仕事してますねぇ。おもわずろくろ回しのポーズで高評価しちゃいます。
「………」
ギード氏も静かですね。
ここは『ワシの世界にも科学技術はあったがここまでは発展しておらんかったのう』みたいな当たり障りのないコメントをする場面でわ?
そんな露骨にオマエと喋りたくないって顔をしなくてもいいのに……ケフカちん寂しいっ。
まあしかし――冗談抜きでヤバイ科学技術の結晶だな、この建物。
ここに比べたら、フィガロご自慢の砂に潜れる玩具だってただのガラクタ以下だ。
何せ建材のほとんどがミスリルと何かの合金製。
壁の厚さと合わせて考えると、デスキャッスル君を見事ハカイしたホーリーですら通用しない可能性が高い。
しかしいくら傭兵学校とはいえ、ここまで頑丈な造りにする必要ってありますゥ??
十中八九、別の目的で造られた建造物――移動要塞かシェルターを改装したんじゃないカナ?
だとしたら、この建物を破壊するには物理的な破壊力が求められますよね。
私の常識をも凌駕するとってもデッカいミサイルとか、キノコ雲がチュドーンするような爆弾君とか。
で、そういうヤツの代わりになる魔法といえばメテオ君しかありません。
それもフツーの奴じゃダメですね。対応するマテリアで増幅すればワンチャンあるかもってところです。
- 314 :――絶望は予想外の死角に 8/16:2023/01/29(日) 11:40:00.10 ID:rHssY7SEM
- ヒッヒッヒ、やはり力こそパワー! 魔法なんてオワコン!
バーサーカーを徹底的に強化して相性差をぶち抜くクリティカルで殴るのが最もクレバーな戦術ということですね!!
――だから! なんで!!
ぼくちんのとくいわざを封じるNOOOOOOOOOOOOO!!!
うっきゃーーー、魔導士差別ハンターイ!
ポイポイポイポイ魔法無効アビリティとか魔法破壊耐性建築物を出さないでくだしゃーーい!!
おい主催のケバケバババァ、お前も魔女名乗ってるならこーゆー奴らは天敵だってわかるだろ!!!
え? 自分はつよいから魔法無効化を無視して攻撃できる? 毎度毎度の殺し合い名物・建築物破壊もできない雑魚の言い分なんて知らない?
う・ぎ・ぎ・ぎ・ぎ………バランス調整班仕事しろーーーー!!!
高難易度を面白がる時代は氷河期の到来と共に終わったんだじょー!
ぼくちんを人権にしないなんてサービス終了待ったナシだってわからんのかー!
頭の中で超高速地団太をドドドドドと連打しギードの甲羅をかちわるシミュレーションを行っていると、「ポーン」と軽快な音が頭上から響きました。
どうやら目的の階に到着したようです。
仕方ありません、さすがにここからはシリアスに動きましょうか。
何せジェノバくんを放っておいたら、いつ首輪が爆破されるかもわかりません。
ソロの野郎を追い詰めようとする動き自体はヒジョーに評価に値するのですが――
所詮はセフィロスの中身なので死刑です。当然ですね。
まぁ……あえて言えば、ソロが死ぬまで生かしておく手もなくもないのですが。
本当にソロを殺してくれるかって大問題があるんですねぇ、これが。
何せ元々が人間に寄生する宇宙生物なんだから、リュックを利用してソロを弱らせて乗っ取ってばんじゃーい! って路線で動いてる可能性が500億%ぐらいあります。
もしくはソロすら囮で、みんながソロくんを助けに行こうとする隙を狙ってアーヴァインやセージを捕りに行くとかね。
どう転んでも厄介なのでやっぱりジェノバ殺しましょう! 俺様を褒めたたえましょう!
Wヒロインなど愚の骨頂、この世にアイドルは一人でいーのだ!!
そ・う・い・う・ワケでぇ?
うざったいジェノバ本体ををサクッと始末し、その後で悠々とステキ細胞を支配下に置き、アーヴァインを操って首輪を外させる!
ついでにタバサセージお嬢お兄さんちゃんをキャッチ&リユースして進化の秘法でテラキョダイメガシンカ!
そして一旦身を隠し、生存者軍団が厚塗り化粧おばさんをぶち殺すまで待つ!
後は勝利に酔い痴れる連中の頭上からメテオとフレアとホーリーをどっかーん!
ケフカちんのドッキリハカイ大成功! みんなの屍をていねていねていねいに積み上げてからのベストスマイルで俺様がチャンピオンだ!!
と、こーんなカンジでトゥルーでベストでバッドでサッドでハッピーなケフカゴッドエンディングを目指しましょうねェーー!!
うーんステキ! 思わず笑いが零れちゃいますワッ!
……そう、マジで零れちゃったのよね。
「アーヒャッヒャッヒャ!! アーーーヒャッヒャッヒャ!!!」
駆動音と共に開いたエレベーターの扉。
その向こうには嫌になるほど綺麗な通路。
外壁に沿って続くであろう廊下に繋がった空中回廊はどこまでも見通しよく――
「――ケフカ!?」
開けた空間に響き渡った高笑いに、反応する声が遠くから。
あれ? あれあれ?
いいい、いまの声、とってもとーーっても聞き覚えがあるよおな……
- 315 :――絶望は予想外の死角に 9/16:2023/01/29(日) 11:41:41.66 ID:rHssY7SEM
- 「クエー!」
あっこれまた聞き覚えのあるチョコボイス。
いつぞやのチョコボちゃんたらぼくちんを待っててくれたのかな?
……って、んなわけあるかーーい!!
ギードがエレベーターから飛び出し、俺様も声の方へ顔を向ける。
けれど右斜めヨコに見える別の通路上には人影も鳥影も見当たらない。
ただ、床を蹴りつけるチョコボ特有の足音が遠ざかっていくことだけはわかる。
そうこうしている間に最初の声の主が姿を現しそうな気配を感じた俺様は、機先を制するべく口を開きました。
「どおじでこんなわっかりやすい場所にいるんですかァ!!
お前の辞書に隠れるって言葉はないのか!? 友達とかくれんぼ遊んだことない引きこもりぼっちかァ!?
せめて部屋の中にいるぐらいしろーーー!!」
「う、うるさい! あんたなんかに言われる筋合いないんだから!!
それよりっ! ギード、ロックは一緒にいないの?!」
ドドドドと無駄に素早い動きで現れたリュックちゃんは、ぼくちんを見るなり剣を構え、下にいるギードに視線を移すなり切っ先を下げます。
え? ぼくちん一人だと思ったの? 一人でぶらケフカしてたら殺る気でいたの?
最近の女の子ってコワ〜……てか私が知り合う女って全員俺様のこと殺そうとしてません?
え? ユフィちゃんは違っただろって? 誰だったっけソレ。
「う、うむ。ロックとサイファーは――……今朝がた、先に旅の扉を潜ってしもうての。
てっきりお主と一緒におると思っておったんじゃが、その様子では違うようじゃの」
「あっ……! そ、そっか!
そうだよね、二人ともあたしたちを追いかけちゃうよね」
おっとギード氏、ここであえてウソを付きますか。
そしてアッサリ騙されるリュックちゃん。君ってば本当にカモよね。
長ネギ見つけたら差し上げましょうか? それでソロくんの急所を三回つついて殺してくれていいのよ?
「そ、それより大変なの!
たった今、下の階でサイファーがセフィロスとソロに鉢合わせしてて!
思わず大声出しちゃったんだけど、今のでセフィロス達にあたしの居場所バレちゃったと思うの!!
だからアーヴァインだけでも何とか逃がさないといけなくて――」
あ、ああ、うん、そう……
どっから突っ込んだらいいかわからなすぎて、これにはケフ神も半笑いの嘲笑い。
えーと、『まず大声を出すな』。
『逃げなきゃいけないならこんな所うろうろしてないでもっと別の場所に行け』、『保護対象から目を離すな』ですかね。
そうそう、『そもそもお前と一緒にいるのはアーヴァインじゃねェよ』もありましたね。ダメじゃん。
- 316 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/01/29(日) 11:42:12.97 ID:J0oiJje3u
- しえん
- 317 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/01/29(日) 11:45:25.64 ID:t25mGF51v
- しえんもう一発
- 318 :――絶望は予想外の死角に 10/16:2023/01/29(日) 11:49:24.92 ID:rHssY7SEM
- 「う、うむ……確かに大変じゃな」
ギード氏も困惑。残当ですね。
それじゃなくたってぼくちん達はリュックちゃん渾身の放送とやらを自分の耳で聞いていないのです。
いくらサイファーから内容を聞いたといえど、あの不良少年が自分に都合よく話を歪めている可能性は否定できません。
ましてや人がエレベーターに乗っている間に面白イベントを起こされても、ワケがワカメになるだけです。
そもそも主人公が行動するまではどんなイベントも進まないというのがセオリーでしょうゆ?
神たる私以外の凡人は基本に忠実でいた方が良いですよォ?
「……すまんがリュック、ワシらは今の今まで地下におってな。
セフィロスとソロが一緒にいるとはどういうことじゃ」
おっとギード氏、わかっていることを改めて聞くスタイルですか。
サイファーくんの言葉を疑ってるのカナ?
まぁいきなりチョイ悪ファッションに着替えてますし、隠し事も多いですから信用できないのはしょうがないですよねえ。
それともリュックに怪しまれるほうがマズいから、何も知らないフリを続けた方がいいと判断したのかしらん?
あるいは――……これが本命だけど、一度リュックとジェノバを完全に引き離した方が良いって考えたのかもしれません。
ジェノバに逃げられるリスクはありますが、二人一緒にとっ捕まえようとしてリュックちゃんを肉盾にされる方が面倒クサーイですからね。
普通ならこんなカモネギ女、背中から切り捨てられようが真っ向からぶつ切りにしようがミンチにして煮込まれようが困らないんですけど――
こいつも実は首輪解除に必要な人員って可能性があるから、今は殺したくないんだよな。
目の前でピーチクパーチクお喋りしてるヤツが、本当に本物のリュックならな。
「え? もしかして、放送聞いてない?」
「当たり前ですよォ!
いくらぼくちんが全知全能の神で地獄耳のケフカイヤーの持ち主でも、スピーカーのない地下でどーやって放送聞けるっていうんですかァ!
ゆるゆるフワフワなのは髪と服と脳みそだけにしてもらいたいものですねェ!!」
「ケフカの戯言は聞き流していいぞ、リュックよ。
ただワシらが通ってきた場所でお主の声を聞かなかったことだけは事実じゃ」
一生懸命喋ってるギードが認識してるかどうかは知らないが、実はこいつがジェノバって可能性もある。
だとしたらぼくちんとギードの考えは絶賛現在進行形で全部すっぱ抜かれてるわけだが――……
あー、ライブラ使いたくないなー。私の魔力は来るべき時のためにしっかりと貯めこんでおくべきだと思うんですけどォ。
そんな感情を込めて、俺様はゲシゲシとギードの甲羅を蹴り飛ばします。
「やめてくださいよォ。ぼくちんの話も聞く価値があると思いますよ?
例えば頭ゆるふわのリュックちゃんこそがセフィロスに操られて偽情報触れ回ってる可能性だってあるじゃないですかァ。
じゃなきゃ実はお前がセフィロスだとかな。
アーヴァインくんってば外見を取り繕う手段持ってましたよね? それを使えばセフィロスだってピチピチギャルになれるんじゃないカナ?」
「なっ……! そんなわけないでしょ!!」
アラアラ、名誉棄損されて激おこリュックちゃん。
君の気持ちはわかるようでわからないほんのちょっとわかる気がする程度のアレだけど、私の言動はあくまで計算ずくなのだ。
ホラホラアシストしてやったんだからさっさとライブラ唱えろカメェーーーーー!!
- 319 :――絶望は予想外の死角に 11/16:2023/01/29(日) 11:50:52.56 ID:rHssY7SEM
- 「ぬうぅ……すまぬ、リュック。
お主を疑いたくはないんじゃが、念のためにライブラをかけさせてはもらえんか?
何せセフィロスはワシら全員を出し抜きアーヴァインを操った技量の持ち主じゃ、お主が何かされていないという証拠がワシらにはないでのう」
「う……ううん、さすがにちょっち心外だけど……
でもギードの言い分もわかるから、いいよ。
ササッとパパッとやっちゃって!」
あっ、この無抵抗具合は本物リュックちゃんですね。
じゃあもう細かい話を聞く必要はなさそうです。
服を着替えてからピサロみたいに尊大になりやがったサイファーだが、俺様一人を騙すためだけにロックとギードを巻き込んで偽情報を流す理由はないからな。
――そ・れ・に。
これだけ騒ぎ立ててるのに姿を現さないジェノバくんの方が、よーーっぽど気になります。
ソロとリュックをぶつけるように動いておきながらここで監督を放棄するというのなら、何か別の狙いを見つけたのか?
それともぼくちんの偉大なるケフカアイを?い潜って潜伏し、現在進行形でこの女の言動を監視しているのか?
あるいはリュックの思い込みを壊さないように、あくまでもアーヴァインを演じて離脱しただけなのか?
そもそもジェノバの狙いはソロを殺すことなのか? 生かして利用することなのか?
そう思わせたがっているだけで、真に狙っているのはアーヴァインなのか? セージなのか?
それともまさか、ワ・タ・シ?
……――ちょーっとここは見誤りたくないですねェ。
幸いギードの意識はノータリンのリュックちゃんに注がれていますし、こっそりじっくりと考えさせてもらいましょうか。
最後に笑うのは、私でありたいのでねェ……ヒィッヒッヒッヒ!!
****************
度し難い。
『僕』のエミュレートが不完全である可能性も検討して、念のため『私』の人格でも判定を行ったが、やはりあの女の行動には合理性がない。
理解不能と評するのは『僕』の能力不足のようで好ましくないけれど、呆れ返る以外に出力できる反応が存在しないのも確か。
そもそも『僕』の説明が真実だと認識しているならば、『僕』をソロ達から逃がすことが最優先になるはず。
そのためにわざわざ非常階段を利用して、ここへ――2階のデッキまで降りてきたのだ。
あとは地上へ降りる手段を探すだけで良かった。
そうすれば学生寮へ逃げ込むことができたのだから。
「――……」
理解できない。
何故、このタイミングでチョコボを回収しようとする?
何故、このタイミングでソロとサイファーの遭遇場面を目撃する?
何故、このタイミングで大声を出す?
『僕』を守りたいのに『僕』を危険に晒す、圧倒的矛盾。
その結果強いられることになる計画の変更。
予想しようがなかった事態によって思考リソースが圧迫されるのを感じる。
他生物の感情に照らし合わせて表現するならば、強いストレスによる怒りと不満となるのだろう。
だが――『僕』の判断力が正常に戻るよりも先に、奇妙なシグナルが意識に流れ込んできた。
- 320 :――絶望は予想外の死角に 12/16:2023/01/29(日) 11:53:54.05 ID:rHssY7SEM
- 「……???」
純粋な同種ではない、劣化した細胞の波長。
一瞬、本物のアーヴァインが近づいてきたのかとも思ったが、アレであるならばここまで強い違和感は覚えないはずだ。
この反応はむしろS細胞そのもの――……
そこまで認識したところで、『私』が思い出す。
『私』がこの身体を得るより前、セフィロスはサイファーに片腕を切り飛ばされていたことに。
誰かがセフィロスの腕を持ち歩いている――……その誰か、とは?
答えは呆気なく判明した。
未だ建物内でまごまごとしていた女がまたもや叫び声を上げ、教えてくれたからだ。
ケフカ。
破壊欲に憑かれた魔導士、ケフカ=パラッツォ。
なるほど、奴ならばジェノバの力を得ようと考えるだろう。
『僕』が納得している間に、鳥だけが廊下を駆けてこちらへやってきた。
どうやら女が『僕』を逃がすために寄こしたようだ。
今までの行動に比べれば、多少は妥当な判断ではあるが――
「クエックー!! クエックエッ!」(お兄ちゃん! 先に逃げてだって!)
……どうしたものか。
本物のアーヴァインであれば鳥の言葉を無視して女を救いに行くであろう場面だが、『僕』としてはケフカの前に姿を晒したくなどない。
何せ奴は狂人だ。
精神構造が一般的な生命体のソレから逸脱している可能性が高いし、思考強度もわからない。
あまりに強烈かつ破綻した思考パターンを読み取ってしまうと、『僕』や『私』の人格構造が汚染される危険がある。
事実、セフィロスの腕を発信源としているはずの波長も本来のS細胞とはかけ離れているのだ。
こちらからリユニオンを促すシグナルを送信しても、分析不能な応答しか戻ってこない。
まるで出来損ないのコピーのように。
「……クエック。クエックエー」
(ボビィ、ちょっとだけ待って)
擬声を用いて呼びかけてから、全感覚を遮断し演算に集中する。
十中八九、ケフカはS細胞を取り込んで、本物のアーヴァインを掌握しようと企んでいる。
さすがにまだ『僕』の存在には気づいていないはずだ。
首輪を解除させるためにアーヴァインを操り、ついでに進化の秘法を用いて生存者を殺戮する――そのような企みであるはず。
現状の生存者のうち、位置が判明しているモノは?
まずソロとアンジェロ、サイファー。
この三人は一階のホールにいる。交戦になればそこでお互いに足止めされるし、会話で終わるのならば2階へ上がって来るだろう。
リュックとケフカは二階。さすがに監視の目を緩める理由がない以上、亀も一緒にいるはずだ。
アーヴァインは恐らく近くにはいない。
おおよそ東側にいるような感覚があるだけだが、駐車場・訓練施設・図書館のいずれかに潜伏していると推測可能。
ヘンリーはアーヴァインと、ロックはサイファーと一緒にいる可能性が大――……否、リュックが名前を呼ばなかった以上ロックは単独行動を取っている。
では、このままケフカを放置した時にソロが死亡する確率は?
あの男のことだ、奴は必ずリュックを煽り立ててソロにぶつけようとするだろう――が、ケフカ自身は魔導士でしかない。
魔法を完全防御できるソロにとって、奴の加勢は考慮に値しないだろう。
またサイファーのみは完全なセフィロスの肉体を目視するチャンスがあった。
さすがに証拠隠滅と女の誘導を優先したため奴の思考は読み取れていないが、他の生存者よりも放送を疑う確率は高いはずだ。
そして本物のアーヴァインはセフィロスの不在を理解しているだろうから、確実に放送を否定する……
- 321 :――絶望は予想外の死角に 13/16:2023/01/29(日) 11:55:50.14 ID:rHssY7SEM
- ――思考終了。
計画変更を決定。
「クエック、クエックー。クエックエックークエー、クエェクエックックー」
(ボビィ、お願いがあるんだ。あそこから飛び降りて、建物の前で待っててほしいんだ)
『僕』は転落防止柵の向こう側、学生寮へと繋がる渡り廊下の屋根を指し示す。
人間であれば転落死の危険があるが、チョコボならば十分降りられるだろう。
ついでに言えば本物のアーヴァインも利用可能なルートだ。アレには竜騎士の靴があるからな。
「クエッ?」(えっ?)
不安げに首を傾げる愚鈍な鳥に、『僕』はそっと羽を撫でながら穏やかな声音を作る。
「クエークエエックェエエ〜、クワックェッククッククー」
(僕はリュックを助けに行く、後から追いかけるから先に行って)
これなら納得に足る理由であるはずだ。
早く行け。
「ク、クエーッ!」
『わ、わかった!』とようやく頷いた鳥は、『僕』が教えてやったルートを使って走り出した。
『僕』は念のため、セフィロスの血を少量使って鳥の足跡を残し直しておく。
これであの女がケフカを連れてこちらへ戻ってきても、『僕』は鳥に乗って予定通り学生寮に向かったと思わせることができるだろう。
アーヴァインの記憶によれば、あの寮は百人以上が寝泊りできるようになっている。
一般生徒用の相部屋、SeeD用の個室、依頼人や他校生徒用のゲストルーム、食堂、キッチン、シャワールーム、大浴場、トイレ、共有ロビー、管理人室。
捜索には相応の時間を要するだろうし、その間はケフカを釘付けにすることが出来るはずだ。
――だが、それでも急いだほうがいいことには変わらない。
『僕』は非常階段へと踵を返し、音を立てないように階段を上り始める。
ソロの動きは読めないが、アンジェロに憑いているリノアという女はアーヴァインの知人であるはずだ。
ならばリュックが叫んだ場所が二階であることは理解できるだろうから、三階へ上がってくることはないだろう。
無論、サイファーがソロと和解した場合でも結果は変わらない。
故に学園長室の設備を利用することは可能と判断する。
金属製の扉を押し開け、廊下に戻る。
手始めに『僕』は監視カメラの死角であることを確認しながら、ダストシューターを用いて邪魔な物体を捨てた。
己よりも重い肉塊をいつまでも抱え込んでいては、移動能力に支障が生じるからだ。
今まではアーヴァインに擬態していたからデメリットにも目を瞑れたが、今後はそうもいかない。
偽装用の血液のみはある程度残しておいたが、それでも身体は随分と軽くなる。
『僕』は満足感を覚えつつ、肉体を再構成し直す。
溺れたフリをして介抱された時に採取した皮膚片を元に、大まかな基礎を形成。
その上からセフィロスとアーヴァインの記憶を用いて、可能な限り衣服を再現する。
銀色の髪。鳶色の瞳。バンダナ。シャツ。ベスト。ボトムス。細かな装飾品類。
ある程度の擬態が完了したところで、腕を模した末端部に視神経を構築し、完成度を確認する。
――問題なし。
- 322 :――絶望は予想外の死角に 14/16:2023/01/29(日) 11:59:05.52 ID:rHssY7SEM
- 「あー、あー、さてっと、一仕事するか!」
発声テストもクリア。
あとは腕を人間の形に整え直し、衣服部の質感を微調整して終了だ。
これでソロ以外の生存者には、ロック=コールの姿に映るだろう。
――とはいえ。
アーヴァインやセフィロスと違って、偽装人格の構築ができるだけの情報は集まっていない。
現状で実行可能なのは『アーヴァインが自分の認識に基づいて演じるロックの再現』だ。
一応、他生存者と遭遇しても相手の思考を読み取れば適宜修正は可能だが――
即座に見破られてしまった場合はそうもいかない。
それと監視設備の一環として盗聴器類が仕掛けられている可能性も否定できないし、守衛室に誰かいる可能性もある。
しばらくは擬態行動を続けておこうか。
「全く、サイファーもアーヴァイン達もどこに行ったんだ?
妙な放送は流れるし……アレ、本当にリュックなのか?
何とか皆の居場所を確認して合流しないとヤバイぞ」
『僕』が演算した『ロックの喋りそうな独り言』を出力しながら、学園長室へ再び足を踏み入れる。
目的は監視用モニターの捜索。
アーヴァインの認識によれば、確実に存在するのは学園入り口の守衛室だが、学園長室やマスタールームにもあるかもしれない――となっている。
ここを探して見つかるのならばそれが一番楽でいいが、見つからなかったとしてもシークレットシューターを使えばマスタールームに辿り着けるから問題ない。
最悪、地下からエレベーターで一階に戻り守衛室に向かえばいいのだし。
とにかく生存者の位置を把握する。
現状、最優先すべきはソレ。
もはやソロに固執する必要性は下がった。
愚かな道化のおかげで。
もし『私』がセフィロスであったならば、上機嫌に笑っていただろう。
もし『僕』がアーヴァインだったなら、口笛の一つでも吹いていたと思う。
それぐらいケフカは――あのセフィロス同様に神気取りの愚者は、良い仕事をしてくれた。
アーヴァイン以外の生きているS細胞を、この世界に運んできてくれたのだから。
ケフカの影響を受けているとはいえ、S細胞はS細胞。
影響元を取り除いて再調整を命じれば、本来のパフォーマンスを発揮するだろう。
即ち自我を衰弱させた生命体に組み込めば同化支配とリユニオンが可能であり――
そう、どこぞの三流科学者の言を借りるならば"セフィロスコピーを作り出す材料となる"わけだ。
そしてもう一人『僕』を作れるということは、『私』自身でソロを支配する必要がなくなったということ。
ケフカを殺すという条件こそ課されるが――
それさえ飲んでしまえば、生存者の誰かを事前に取り込み自己強化を図れる。
もちろん、狙うべきでない対象はいる。
真っ先に候補から消えるのはあの女、リュック。
アレには既に役割があるのだし、擬態用の情報は十分集めたから不要だ。
そしてアーヴァイン。
いくら変異を重ねようともアレが『僕』の苗床であることには変わらないし、今ここにある『僕』という個が失われる場合を考慮して保全しておく必要がある。
当然ながらケフカも論外だ。
それにギードだったか、あの老いた亀も妙に嫌な気配を纏っている。
精神力の高さ故か、あるいは"星の防衛機構"ウェポンに類する存在なのか……どちらにしても、ケフカともども殺した方が良さそうだ。
- 323 :希望は予想よりも近くに、絶望は予想外の死角に:2023/01/29(日) 12:02:48.58 ID:rHssY7SEM
- となると、残るは六人。
まずヘンリー。ソロの精神を折るという目的においては極めて有用であり、攪乱魔法も利便性は高いが、肉体的には最も貧弱だ。
次にサイファー。ヘンリーほどではないがソロに与えられるダメージはそれなりに多いだろうし、戦闘能力も申し分ない。
それからロック。生存者の中ではあまり特筆する要素がないが、単独行動をしている可能性が最も高く、それだけで狙い目ではある。
あとは――セージ。進化の秘法のカギとして利用できうる素質と、乗っ取りやすい病んだ精神。戦力増強という観点では最優だろう。
それとラムザ。3対1とはいえセフィロス相手に善戦した技量は評価に値するし、リルムからコミュニケーション能力が非常に高いと聞いている。
最後に……確か、バッツ。リュックのドレスフィアに似た技術を持っているということしか知識にないが、恐らく汎用性に秀でた能力の持ち主であるはずだ。
「いかん、焦るな焦るな。
こういう時こそ落ち着いて、どうにかしてどこに誰がいるかを確かめないと。
ええっと――とりあえず動かせる機械がないか探してみようか。
あーあ、こういう時に……――こういう時にエドガーとかサイファーとかがいてくれればなあ!」
……――やはり、再現度が劣るな。
ロックについての知識が足りないのだから仕方ないが、複数の生存者と同時に遭遇することは避けた方がいいかもしれない。
女やアーヴァインの姿よりは警戒されにくいというだけで、違和感を持たれてライブラやそれに類する能力を使われたら終わりなのだから。
「――まあいいさ。
とにかくやれるところまでやってやろうじゃないか!」
『僕』は笑顔を作る練習をする。
少しでも多くの生存者を騙すために。
【バッツ(MP3/5、ジョブ:吟遊詩人 青魔法【闇の操作】習得)
所持品:(E)アポロンのハープ、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アイスブランド、メガポーション
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
おしゃれな壁掛け時計、IDとパスワードのメモ、メモ帳と筆記用具
第一行動方針:保健室に立てこもり、ソロとセフィロスを迎え撃つ
第二行動方針:サイファーと情報を交換する
第三行動方針:食堂に戻ってラムザ達と合流する/機会を見て首輪解除を進める
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ、ひそひ草
第一行動方針:保健室に移動し、バッツに事情を説明する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す
基本行動方針:ケフカを除く全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【現在位置:バラムガーデン1F校庭→保健室へ】
- 324 :希望は予想よりも近くに、絶望は予想外の死角に:2023/01/29(日) 12:05:19.87 ID:rHssY7SEM
- 【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷、透明状態)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、レッドキャップ、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ソロ達と一緒に訓練施設に向かい、本物のアーヴァインと合流する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ソロ(MP0、真実の力を継承、軽度の精神ダメージ)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、天空の兜(E)、天空の鎧(E)、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、
ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション、村正
第一行動方針:ロックと一緒に本物のアーヴァインと合流する
第ニ行動方針:ジェノバの魔の手から仲間を守る
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ(リノア) 所持品:風のローブ
第一行動方針:図書室を経由して訓練施設奥の秘密の場所へ案内し、本物のアーヴァインと合流する
第ニ行動方針:サイファー、スコールなどのソロの仲間と合流
第三行動方針:アンジェロの心を蘇らせる手段を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒し、スコールと再会する】
【現在位置:バラムガーデン1Fロビー→図書館へ】
【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣
第一行動方針:ケフカとギードに対処し、アーヴァイン(ジェノバ)とボビィが逃げる時間を稼ぐ
第ニ行動方針:アーヴァイン(ジェノバ)を安全な場所に避難させる/セフィロス(アンジェロ)を倒しソロを正気に戻す
第三行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ギード(HP1/2、MP:1/5)
所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
第一行動方針:ケフカ・ジェノバに警戒しながら、リュックを説得する
第ニ行動方針:仲間を探し、ジェノバを倒す】
【ケフカ (HP:1/10 MP:残り少量 左腕喪失・左肩凍結)
所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、左腕、セフィロスの右腕
第一行動方針:リュックを利用し、優位性を確保する/シャワーを浴びながら体力・魔力の回復
第二行動方針:ジェノバ細胞を利用する
第三行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
第四行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:バラムガーデン2F・エレベーター前通路】
- 325 :希望は予想よりも近くに、絶望は予想外の死角に:2023/01/29(日) 12:05:49.73 ID:rHssY7SEM
- 【ジェノバ@ロックの姿
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:生存者の居場所を特定するために監視設備を探す
第二行動方針:利用できそうな生存者に寄生し、ケフカを殺してセフィロスの腕を入手する
第三行動方針:ソロをセフィロスコピーに変えて操り、真実の力を掌握する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置:バラムガーデン3F・学園長室】
*チョコボ(ボビィ)はバラムガーデン1F・学生寮入口前に待機しています
最後、本文が長すぎてエラーが出たので分割しました。
投下終了です。支援ありがとうございました。
- 326 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/01/29(日) 13:05:08.14 ID:t25mGF51v
- 投下乙です。
それぞれのキャラクターたちの思惑が交差してますます混迷してるなあ。
ジェノバが一番危険だけど見誤りも多くて、
ケフカはジェノバの狙いをまだ読み切れておらず、
そしてジェノバの計画変更には誰も気づいていない。
本当にどう転がっていくかが読めなくて楽しい。
人によって愛の歌で思い起こす想景が違うとか、そういう細やかな設定がなんかいいよね。
サイファー相手に風紀委員への陳情を訴えたいケフカとか、
とりあえずエレベーターでダメな選択肢を試したがるケフカとか、この辺は笑ってしまった。
超高速地団駄とかほんと好き。
- 327 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/01/30(月) 19:07:00.84 ID:zoKJjc8zV
- 投下乙です!
「an unexpected turn」
一つの場所でそれぞれの思惑が交錯するのが面白い!
ソロは前から目つきが悪いって描写されていた分、ここで激情の表情を見てバッツがヤバイと思うのも容易に納得できていいなあ
アンジェロをセフィロスだと断定して考えている分思考がから回ってるのは仕方ないけど、いろいろな可能性を考えて切り抜けようとしているバッツがかっこいい
そしてジェノバに怒りを向けながら、それでもリュックやみんなを思うソロの勇者っぷりが一貫していて逆につらい……リノアンジェロがそばにいてくれて本当に良かった
アンジェロをかばいながら進もうとするソロに、冷静さが戻ってきたみたいで安心だなんて思ってたら、最後に大集合する展開にひっくり返ってしまった
サイファーと透明状態のロック、そしてサイファーに引き継がれたピサロの意思、全部目の当りにしたらそりゃソロだってそうなるし、そこにリュックの声が聞こえればなおさら混乱する
展開の混乱っぷりもそうだけど、広大とはいえ一つの施設に過ぎないバラムガーデンで半数近い生存者の現在地がバレたの、致命的なのでは?と思ったりした
「希望は予想よりも近くに、絶望は予想外の死角に」
そんなことを思ってたらみんなさらにバラバラになっては合流してで展開がどんどん転がって行ってハラハラしすぎた!
いろんな要因が文字通りピタゴラスイッチのようにつながっていくのが気持ち良い!
ジェノバの正しい情報がバッツに渡りそうなのは幸先いいなあ、ラムザたちと離れるのはちょっと不安だけど、保健室となら近いから再合流も難しくなさそう
ロックはロックで臨機応変に対応してるのやっぱり大人だなあと感じた。愛の歌で見せられた情景が、描写されているロックはもちろん、ソロのそれも察せられるのすごくいいなあ……
ソロからしたら自分を信じてくれる人がいるの、この状況において本当に心強いだろうし、ロックと合流してくれてよかったなあ……
そんなしみじみとした心あたたかな感想を粉々にするようなタイトルの変化に震えた。
ケフカの笑い声、セフィロス戦と同じく意図的なものかと思ったらうっかりでちょっと笑った。ここにきてのケフカのギャグとシリアスの使い分け、しびれるほどかっこよくて好きだな
ギードはギードで経験を感じさせるような立ち回りで、ここにきての安心感が揺るがないのはやっぱりすごい
そしてジェノバパート、登場の度に最悪を更新していくのがすごすぎる。
ジェノバ一人に今これだけ引っ掻き回されてるのに、セフィロスの腕が持ち込まれたせいでターゲットがソロ一人から拡大したのがやばいなあ……
リュックとジェノバを引き離すことができたのは良いことのように思うけど、ここでジェノバの行方や現在の姿を把握してるやつがいなくなってしまったのが本当に怖い
ジェノバ情報は着々とみんなに行き渡りそうだし、その中でどうなっていくのか予想がつかなくて、楽しみすぎる……!!
二転三転していく展開に新年からはらはらさせてもらいました。今年も応援しています!!
- 328 :彼方の存在証明 1/10:2023/02/21(火) 15:37:34.17 ID:f73jwN581
- くそったれ、と吐き捨てたくなる気持ちを堪えながら鍵をかける。
乱れた息を整える暇さえも惜しい。
バッツと手分けしながら全ての窓と扉をチェックし、カーテンを閉め、ブラインドを下ろし、外部からの視線と侵入をシャットアウト。
ついでに殺虫剤も撒いておくか――とテーブルの上に視線を移したところで、ようやく俺は室内の様子に気がついた。
「これ……誰かいる、ってか、いた……よな?」
バッツも見咎めたのだろう。
床に残っていたガラスの破片を、部屋の片隅に立てかけられた箒に向かって蹴り飛ばす。
穂先の影に隠れているが、どうやら先客はそれなりに片づけを試みていたらしく、ひとところに纏められた砕片がきらきらと光を反射していた。
こういう几帳面なことをする奴といえば――
「ソロ……じゃねえな。ヘンリーとアーヴァインだ。
連絡用の端末を使った形跡がある」
カドワキの机に置いてあるはずのノートパソコンが、派手に汚れたベッドの真横にあるテーブルに移動している。
一応、リノアの手ほどきがあればソロでも使えなくはないだろうが……
ご丁寧に蓋を閉ざしてあることや、血痕から想定できる怪我の度合いを鑑みると、アーヴァインがガーデンスクウェアに書き込むために利用したと考えるべきだろう。
ついでに言えば、アイツならガラス瓶を割りまくった理由も想像がつく。
何せベッドの真横に鏡があるからな。
どうせ目を覚ました時に自分の姿を見て――セフィロスそっくりに染まった髪と眼を見てパニックになったんだろう。
書き込みの内容から、ある程度落ち着きは取り戻せたとばかり思っていたが………
やっぱ大丈夫じゃねえよな、あの野郎。ヘンリーに思いっきり負担をかけてそうだ。
「アーヴァイン? あいつ、リュックと一緒じゃないのか?」
……そういやコイツにもまだ状況を説明していなかった。
小首を傾げるバッツに、俺は舌打ちしながら後ろ髪を?き上げる。
ソロと合流できるって時に、あまりにタイミング良く邪魔をしてきたからこいつがジェノバじゃないかとライブラを掛けてみたが、本物だったんだよな。
全く、面倒くせえことしやがって。
「俺さ、さっきリュックが流した放送を聞いたんだ。
で、"あんな放送真に受けて"みたいなこと言ってたから、お前も知ってるもんだとばかり思ってたけど……
もしかして、お前が言ってる放送ってティアマトが流した放送のことだったりする?」
「はぁ?」
おろおろしながら尋ねてきたバッツに、俺は思わず睨み返す。
どういう解釈すりゃそんな考えが出てくるんだよ。
「いや、だって、リュックの放送聞いてたら、放送の内容が本当かもって考えるだろ?
だから俺、歌でソロ達の動きを止めたんだけどさ。
なのにメチャクチャ不機嫌だから、俺とお前でとんでもない考え違いがあるんじゃないかって」
――馬鹿か、と言いたいが、バッツの立場からすりゃそうなるのか。
リュックの放送を否定する材料がない以上、最悪の事態を避ける最善の策として、ソロ達を傷つけずに足止めする……
そう考えればリュックよりかはまともな判断してるワケだし、これ以上当たり散らしても仕方ねえ。
俺はため息をつきながら、ノートパソコンを回収してカドワキの机にあるケーブルに繋ぎ直す。
ジェノバが近づいて様子を伺っているかもしれない以上、窓辺には居たくねえからな。
怪訝な表情で俺のやることを眺めていたバッツも、途中で思惑を察したらしい。
こっちが手招きする前に、部屋の真ん中にある処置用ベンチに腰を掛けた。
- 329 :彼方の存在証明 2/10:2023/02/21(火) 15:39:16.48 ID:f73jwN581
- 「なあ、サイファー、何やってんだ?」
「お前の言う通り、とんでもねえ考え違いがあるからな。
証拠……ってほど大したものじゃねえが、見せたいモノがあるんだよ」
言いがてら、ノートパソコンを開く――ってあのガルバディア野郎、電源ごと落としてるじゃねえか!
スリープにしとけよ! OSの起動に時間かかるだろうが!
くそっ……仕方ねえ。
立ち上がるまでボケっとしてるのもアホらしいし、先に話を進めるとするか。
俺はバッツに向き直りながら、軽く肩を竦める。
「で、俺が不機嫌な理由を聞きたいんだったよな?
どうせ信じられねえだろうからかいつまんで話すぞ」
「いや信じるって!
なんでそんな俺の事疑うんだよ?」
ふてくされるのも当然だが、俺がバッツの立場なら絶対信じねえ内容だからな。
釘の一つや二つ刺したくももなる。
「いいか? まず最初に、本物のアーヴァインはヘンリーと一緒にいる。
次に偽物のアーヴァインがリュックと一緒にいる。
で、その偽物に思いっきり騙されてるリュックが流した放送は、当然全部大嘘だ」
「……は?」
バッツがぽかんと口を開けた。
そりゃそうだ。アリーナが分裂して二人いるって寝言を聞かされてるようなもんだ。
だが実際にアリーナは分裂して二人いたんだから、色々諦めてさっさと受け入れてくれとしか言えねえ。
「えっと、待って、待ってくれ。
偽物ってなんだ? セフィロスがアーヴァインに成りすましてるとかそういうこと?」
だいたい合ってる――と言いたいが、さすがにあの野郎だって濡れ衣は着せられたくないだろう。
最後に浮かべていた表情と水底から引き揚げた死体を思い返しながら、俺はため息がてらに経緯を正す。
「そっちの方が楽だったってぐらいには面倒くせぇことになってるな。
あと先に断っておくが、俺だって全部知ってるわけじゃねえ。
推測だらけになるが――」
そう前置きしてから、俺はロック達にしたのと同じような説明を行う。
毎度のことだがピサロの記憶やらリノアやら、あとついでにロックの居場所については触れないように心掛ける。
それでなくてもアルティミシアへの監視対策だって終わってないんだ。
ヘンリーが片づけてくれてりゃいいが――カドワキも殺虫剤ぐらい目立つところに置いておけよ。
「……――というわけだ。
だからリュックがどれだけ大マジでも、放送の方はデタラメだとしか言えねえんだよ」
「というわけだ、って言われても……」
バッツが頭を抱えて「うーんうーん」と唸る。
言ったじゃねえかよ。信じられねえだろって。
- 330 :彼方の存在証明 3/10:2023/02/21(火) 15:40:27.60 ID:f73jwN581
- 「い、いや、サイファーのことを疑ってるわけじゃないんだ。
ただ、さっき見たソロの顔、どうにもあいつらしくなかったからさ」
「そりゃ偽物に手玉取られた仲間に根も葉もないデマをバラまかれてるんだぞ?
いくらソロだってブチギレるだろうがよ」
「そ、それもそう、か……そうかも……」
度を越えた聖人君子みたいな性格してるとはいえ、ソロだって人間だ。
あんなことをされて平静でいられるワケがねえ。
ピサロが見た胸糞悪い光景を思い返しながら、俺は言葉を重ねる。
「だいたい俺が言ってることだって推測ばっかりなんだ。
何が起きてどんなことをされたのか、全部知ってるのはソロしかいねぇ。
俺やお前が想像できねえぐらい酷い目に合わされた可能性だってゼロじゃねえだろ」
「そ、そう、だよな……」
……ちょっと強く言い過ぎたか?
がっくりと肩を落としたバッツ、その表情はどんどんと落ち込んでいき、真っ青な顔色からは"どよんど"という効果音すら聞こえてきそうだ。
「まあ……ソロだから、テメェを恨んだりはしねえだろうよ。
次会ったら謝っとけ」
「そ、そうする……うわ〜、ソロ、マジごめん……
やらかした、俺ぇ……」
ここで謝ってどうすんだよ。
毒気を抜かれた俺はやれやれと首を振りながら、ノートパソコンのモニターに向き直った。
当たり前だがOSの起動はとっくの昔に終わっていて、見慣れたログイン画面が表示されている。
「あっ!」
頭を抱えたまま背を後ろに逸らしていたバッツが、妙な声を上げた。
何事かと思えば、懐からメモ用紙を取り出し俺に見せる。
「なあなあ! もしかして、これってこの機械に使う奴じゃないか!?
食堂の奥で見つけたんだけどさ!」
「……まあ、そうだな。調理師のアカウントだな、このIDだと」
名誉挽回のチャンスとでも思ったのだろうか。
鼻息荒く差し出された紙片を受け取りながら、俺は極力呆れを押し殺して答えた。
ログイン情報をメモ紙に残すなよ、と愚痴りたいところではあるが――
さすがにガーデン丸ごとコピーされて20歳児に家探しされるとか想定できるわけがねえ。
だいたい食堂の奥ってことはロッカールームかなんかだろ。
パソコンも何も知らない世界の人間じゃあこんなモン意味不明な文字列でしかないだろうに、良く持ってきたな。
「やった! じゃあこれ使って――」
「俺専用のアカウントがあるから要らねえよ」
「えー!? そんなぁ」
そんなと言われても、わざわざ他人のID使ってアクセスするかよ。
それに俺のアカウントはどういうわけか風紀委員用の権限が付与されたままだ。
委員会用のページの編集だとか、風紀に反する書き込みの非表示化だとか教師への通報だとか、ゲストや一般生徒に比べて少しだけ出来ることが多くなってる。
さっさとガーデンスクウェアを開いて、アーヴァインの書き込みを見せてやろう。
そう考えながらリンクをクリックし、スクロールを最下段まで一気に移動させる――が。
- 331 :彼方の存在証明 4/10:2023/02/21(火) 15:44:02.07 ID:f73jwN581
- 「……はぁ?」
見当たらねえ。
いや、そもそもこの書き込みは……なんだ?
――――――――――――――――――――――――――
* ※Non-Display!※
*↑おいバカ止めろ
*↑↑不謹慎投稿不許可、次同様発言確認次第教員報告実行。
*調子乗りましたすいません。許してくださいなんでもしますから!
*↑ん? 今なんでもするって言ったもんよ?
*人の真似してからかうのは良くない。怒られるのは誰だと思ってるの?
*↑ごめんて^^;
*雷神は書き込みの時もんよ使わないもんよ。にわか乙だもんよ
*むしろ風神が書き込みでも徹底してるのがこわい
*↑雷神、後程校舎裏出頭。説教。
*↑↑バレテールwww無茶しやがって…(AA略
――――――――――――――――――――――――――
「えっと……どれがアーヴァインの書き込みなんだ?」
「どれでもねえよ」
焦りながら俺はとりあえずページを上にゆっくりとスクロールしてみる。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ――あった!
――――――――――――――――――――――――――
*風紀委員長へ。一限後の休み時間、秘密の場所で待つ。
I・K
*おっ果たし状か? 決闘か?
*よーし俺もこっそり行って隠れてようっと
*↑↑↑つかお前書き込み時間すげーことになってるwww
*そういや今の風紀委員長 is 誰
*さすがに風神じゃない? サイファーってまだ謹慎中でしょ?
*↑否、風紀委員活動復帰済。問題、現在サイファー不在
* ※Non-Display!※
――――――――――――――――――――――――――
「I.K……ああ、これか? 風紀委員長って言ってるし」
「ああ」
生返事を返しながら、俺はアーヴァインの書き込み――ではなく、その下に続く書き込みを凝視する。
どういうことだ、これは?
"↑↑↑つかお前書き込み時間すげーことになってるwww"
この指摘通り、アーヴァインの書き込みに付随したタイムスタンプだけが異常な数値を示している。
以降の書き込みは全て9時台――要はロングホームルームが終わって自習を命じられた連中が出てからだ。
- 332 :彼方の存在証明 5/10:2023/02/21(火) 15:52:34.05 ID:f73jwN581
- それでなくてもガーデンの朝は6時の起床から朝食、清掃、武具点検、点呼とスケジュールが詰まってる。
6時手前に書き込みが途絶えてから、自習時間と暇をはき違えたアホが湧いてくるまでの時間に書き込む奴はまずいない。
だからアーヴァインも俺も気づかなかったんだろう、が……
そもそもそれ以前に、
「どうしてこいつらの書き込みが……?」
ここはアルティミシアが複製した空間、言わばバラムガーデンの模造品であるはずだ。
事実、1階のホールにも俺達以外の人間はいなかったし、食堂に見知らぬ誰かがいたならバッツだって真っ先に教えてきただろう。
なのに、何故、他の生徒が書き込んだとしか思えない文章がガーデンスクウェアに残されているのか。
それもアーヴァインの投稿を認識している状態で。
「なあ。このがーでんすくえあ? とかいうの、お前とアーヴァインしか見れないよな?
じゃあ、アーヴァインの文章の後に書いてるのって誰なんだ?
もしかして、これがジェノバって奴の仕業なのか?」
ジェノバ……――確かに、あの怪物ならアーヴァインの記憶を利用して端末を使いこなせるかもしれねえな。
だが、ゲストアカウントでログインしたところでタイムスタンプをいじることは不可能だ。
ガーデンスクウェアそのもののプログラムを修正しなきゃいけねえんだから、上位の管理者権限を使ってサーバーにアクセスする必要がある。
いくらやりたい放題の宇宙産モンスターでも、この世界にいないタヌキ親父やらノーグやらを真似ることは出来ねえだろう。
「ジェノバじゃねえ。
魔女の仕業か、偶然本物のバラムガーデンに繋がっちまってるのか……」
「えっ!?」
呟いてはみたものの、確証はない。
アルティミシアならば俺やアーヴァインへの嫌がらせ目的でこういうことを仕込みそうではある、が……
魔女の意図ではない、一種のバグだって可能性も否定できない。
魔術的に精巧に作った偽物を用いて本物に影響を与えたり逆に危険から守ったりする――そういう呪術があったって話は歴史の授業で習った記憶がある。
藁人形の呪いとか、魔除けのスケープドールとかな。
さすがにマジで効果がある奴なんか見たことなかったし、どうせ古代人の迷信だろうとばかり思っていたんだが――
念のためピサロの記憶を思い起こしてみると、どうやら魔法がメジャーな世界では普通に起こりえる現象らしい。
――ご覧ください! 命の石を核とすることで即座に侵入者と同調し、あらゆる動きを完全にトレースする最新型の罠人形でございます!
――この機構の最大のメリットは、本来術者しか対象に取れない呪文を侵入者対象にすり替えて強制発動することができるということでして。
――例えばリレミトを付与すれば、侵入者の行く手を自動で塞ぎ、接触次第外部へ放逐する完全なセキュリティが――
……ってこれ、昨日俺達がいた祠にあった人形じゃねえか!
どれもこれも動いちゃいなかったが、そういうセキュリティだったのか。
だが同じ動きをするってなら、壁に引っかけりゃ通れるようになるんじゃねえか?
少なくともソロ達が突破したってことはそういうことだよな。
他人の部下をどうこう言うべきじゃないのかもしれねえが、変なところで間が抜けてるあたり、ガルバディア軍の連中を思い出すぜ。
魔族って奴も人間と大して変わらねえな。
「なあなあ! もし本物のバラムガーデン? に繋がってるなら、助けとか呼べるんじゃないか?!」
「アホか。呼んだって来れるわけねえだろ」
- 333 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/02/21(火) 15:53:16.69 ID:t+ZyVSJ5w
- しえん
- 334 :彼方の存在証明 6/10:2023/02/21(火) 15:56:13.60 ID:f73jwN581
- バッツの能天気な言葉に、俺は首輪を叩きながら眉を潜める。
夢世界でならまだしも、現実世界じゃ盗聴器が生きてるんだぞ? 迂闊なことを口にするんじゃねえよ。
……まあ、あの魔女ならこっちの技術レベルは把握してるはずだから、ギリギリ誤魔化せるとは思うが。
「俺達の技術じゃ、どんなに頑張ったって宇宙空間に辿り着くのが精々だ。
次元間やら平行世界間やらの移動技術なんて便利なモンは存在しねえし、そもそもここが"どこの次元にあるどこの世界のどこなのか"って根本的な事すらわからねえだろ。
現在地の説明も座標データもないのにSOSだけ送ったところで、千年かかっても見つけられねえよ」
「そ、そうか……こんなすっごい機械だらけなんだからイケるかもって思ったんだけどな。
やっぱり何とか俺達だけで頑張るしかない……んだよな」
バッツはがっくりと肩を落とし、再びベンチに座りこんだ。
こいつでもこんなに凹みっぱなしになることがあるんだな――と思いながらも、俺はモニターに視線を戻す。
スクロールバーをドラッグして一番下へ移動、そして更新ボタンをクリック。
――――――――――――――――――――――――――
*むしろ風神が書き込みでも徹底してるのがこわい
*↑雷神、後程校舎裏出頭。説教。
*↑↑バレテールwww無茶しやがって…(AA略
*わたしも秘密の場所行ってみる!
んでんでビデオカメラ持ってってこっそり撮影してくる!
*↑じゃあ俺も俺も
*じゃあ俺は校舎裏でかわいそうな雷神を撮影してくる
*止めて差し上げろ(震え)
*学園内盗撮禁止。発覚次第赤紙発行。
*風神先生、秘密の場所は学園内に入りますか?
*秘密場所建物外、撮影許可。尚盗撮禁止。
*なるほど〜。正々堂々と撮影してきます!
――――――――――――――――――――――――――
ほんの2〜3分でどんだけ盛り上がってるんだこいつら、と呆れたい気持ちしかないが、この阿呆みたいなゆるさはいかにもバラムガーデンらしい。
しかもこの秘密の場所に行こうとしてる奴、セルフィじゃねえか?
あいつならイニシャル見りゃアーヴァインだって気づくだろうし……――
……いや、もしかして、ガルバディア野郎のことだから学園祭実行委員会のコメント欄にもメッセージを残してたとかか?
思い付きのままにページを遷移してみると、予想的中。
一体どんな気持ちで書き込んだのか、短いくせに生存意欲丸出しな文章と、何も知らないお気楽な返事が一つ。
――――――――――――――――――――――――――
*必ず、戻ってくる
I.K
*何してるん? ちゃんとあとで話聞かせてね〜!
――――――――――――――――――――――――――
カッコばっかりつけやがって。馬鹿か。
そう言いたくなるのを抑えつけて、ガーデンスクウェアに戻る。
アーヴァインだって自分の書き込みを俺以外の誰かが見るとは思っていなかったんだろう。
……いや、そもそもこれが本物のセルフィだって保証すらない。
アルティミシアの力をもってすれば、それっぽい文章を書きこむだけの使い魔は作り出せるだろう。
あるいは対話能力を持つAIとかな。確かエスタじゃもう実用化されてたはずだ。
偽物のメッセージに舞い上がる俺達を見て、愉悦に浸る――そういう趣味の悪い嗜みの持ち主だ。あの魔女は。
だが――
もしも本当にバラムガーデンと繋がっているとしたら……
- 335 :彼方の存在証明 7/10:2023/02/21(火) 15:59:06.86 ID:f73jwN581
- 「……やってみる、か」
「ん?」とバッツが背後で声を上げるが、あえて無視して別のページを開く。
『風紀委員会からのお知らせ』。
俺と風神雷神だけが編集権限を持っているページだ。――とは言っても、セルフィほど活用しちゃいなかったが。
「なあなあ、何してるんだ?」
わざと黙殺してたってのに、好奇心旺盛な20歳児が首を突っ込んでくる。
仕方なしに俺はバッツでもわかるよう、画面に文字を打ち込む。
『助けは呼べないだろうが知識を借りることはできるかもしれない。
ただ、書き込みをしている連中が本物かわからないから、判別できるようにコンタクトを取る。
盗聴されて対応されたらまずいから適当に話を合わせろ』
「――守衛室の監視カメラにハッキングできねえか試してるんだよ。
クソジェノバがどこにいるのか調べねえと安心できねえ」
「そ、そっかー。良くわからないけど頑張ってくれよー」
バッツは親指を立てながら、引きつった声で呟く。
雑な演技だが、盗聴器越しでならどうにか騙せるだろう。
俺は筆談文を消してから、新しい文章を一気に打ち込む。
――――――――――――――――――――――――――
『戦況報告:
状況:本戦闘行為発生は四日前の早朝。
SL、ZD、IKと共に、アルティミシアを名乗る魔女の手により閉鎖空間内に監禁。
民間人のR.H氏、L.L氏、また時代不明の兵士・民間人・亜人種・知的生物を含めた139名が、ガ式囚人管理装置P-668を装着されお互いに殺し合うよう強要された。
SLはアルティミシアを本人と断定。魔女討伐のために協力者を探していたが、昨日、戦闘に巻き込まれそのまま連絡不能となった。
現在、報告者はバラムガーデンを複製した施設の保健室にて籠城を実行中。
現時点で生存が確認できるのは報告者を含めて11名。
状態:報告者は健常。
IKは重傷を負っており協力者と共に避難中。また異常性質を持つ寄生生物に感染している。精神は現時点では正常と思われる。
SL、ZD、R.H氏、L.L氏はMIA。確認は取れていないが死亡している可能性が高い。
要請:
・本日のみ一般生徒のガーデンスクウェアの利用・閲覧を制限されたし。
理由は、IKとの連絡に使うため。
・ガーデンスクウェアのサーバーの設置場所について情報を求む。
理由は、敵襲によるネットワークの喪失を防ぐため。
・メテオパラサイト、またはジェノバと称される、宇宙由来の星間寄生体について情報を求む。
理由は、治療に必要なため。
・本報告書全てを学園長に代理提出し、指示を仰げ。
指示がない場合は通常通り、風紀委員会からの知らせとして公開しろ。
救援は不要だ。
風紀委員はSeeDに全面協力し、ガーデンの安全を確保することに努めるように。
報告者:サイファー・アルマシー』
――――――――――――――――――――――――――
- 336 :彼方の存在証明 8/10:2023/02/21(火) 16:04:30.06 ID:f73jwN581
- だいぶ雑だが、こんなもんでいいだろう。
仮にアルティミシアに検閲されたとしても、それなりに妥当な内容に見えるはずだ。
スコールの生死をあからさまに伏せているのだって、俺様が向こう側にいる連中に何の配慮もしねえほうがおかしいだろうがよ。
あとはこれを"下書き"で保存して、ガーデンスクウェアに戻り、書き込みを残す。
――――――――――――――――――――――――――
*朝から遊んでるんじゃねえよ。
風神に雷神、新しい知らせを書いておいたから学園長に承認もらってこい。
あと人の呼び出しを勝手に盗撮するな。消しとくからついてくんなよ。 アルマシー
――――――――――――――――――――――――――
最後にアーヴァインの投稿を一時非表示にしておしまいだ。
完全削除の権限は教師陣しか持ってねえが、非表示化は風紀委員でもできるからな。
こうしとけば俺がやったって証明になるだろう。
もしも書き込みを残してる奴らが偽物だったなら、風紀委員会しかアクセスできないページを見ることはできない。
万が一魔女が気を利かせて管理者クラスの権限を与えていたとしても、タヌキ親父の指示なんざ仰げない以上、下書きをそのまま公開しちまうはずだ。
だから逆に……今書いた文章が公開されず、ガーデンスクウェアの書き込みが止まったなら、本物のバラムガーデンと繋がっていることが確定する。
ただし、それはこのノートパソコンじゃねえ。
この学校のどこかにあるサーバーだ。
教室の端末にしろ教師用のノートパソコンにしろ、こいつらクライアント端末がやってるのはデータの送受信だけだ。
投稿した文章データをサーバーに送って、サーバー上で端末に表示させたいページを作って、送り戻されたソレをモニターに映す。
当然タイムスタンプも、データを受信したタイミングで、サーバー側の時刻を元に生成されるようになってる。
こんな"0日の3時18分"だなんてバグりまくったタイムスタンプが表示されるってことは、異常が起きてるのはサーバーしか有り得ねえ。
で、サーバーがマジに本物のバラムガーデンと繋がっているなら、そこには絶対に次元のゆがみか何かがあるはずだ。
もちろん魔女を倒せば自動で元の世界に帰れるかもしれないし、アルガスの見た夢がマジなら"黒いクリスタルの装置"を使えばいいだけかもしれない。
だがそんな甘っちょろい見通しでどうにかなるとか寝言ほざいてられるほど、俺はガキじゃねえ。
それじゃなくたってアーヴァインの容体もある。
出来るだけ早く元の世界に戻る道筋を見つけた方が良いに決まってる。
だから――本物であってほしい。
この書き込みの向こうにいるのが本物のあいつらであってほしい。
確証が取れてサーバーの場所がわかれば、確認なり回収なりにいける。
こっちには魔女が直々に配ってくれた、"長すぎる刀でも軽トラでも文字通り何でも入る"物理法則をガン無視したザックがあるんだ。
サーバーラックに非常電源がどんなにデカイ代物でも、ザックの中に押し込むことさえできりゃ持ち運べちまう。
それに解析だって、ライブラ狂のザンデとマジモンの神だっていうプサンのオッサンがいる。
我ながら他人に丸投げってのはどうかと思うが……あの二人ならきっと、俺達の世界に繋がる手がかりを見つけ出してくれるはずだ。
俺は何気なしに目を閉じ――その直後、鐘の音が鳴り響く。
顔を上げて時計を見れば、時刻は9時20分。
一限目の終業ベルだ。
- 337 :彼方の存在証明 9/10:2023/02/21(火) 16:06:37.07 ID:f73jwN581
- 「サイファー。そろそろ食堂に戻った方が良くないか?
ここまで襲ってこないってことは、偽アーヴァインも別の場所に向かったのかもしれないしさ。
それにラムザとセージにも説明しなきゃまずいだろ」
「……そう、だな」
頭を振って、思考を切り替える。
さっきバッツを追って校庭に飛び出した時、確かにボビィの鳴き声を聞いた。
あれだけ声が響くってことは2階のデッキにいたんだろうし、アーヴァインの真似をしているクソジェノバも背に乗っていたはずだ。
俺達の動向は筒抜けだ――そう判断するしかない状況だったからこそ保健室に籠城してみせたってのに、奴らしき存在は姿を現さない。
やっぱりソロだけを狙ってやがるのか?
それともアーヴァインの方にちょっかい出してるのか?
……考えても目的や計画は読めないし、居場所もつかめる気がしねえ。
ただただ嫌な予感だけが広がるばかりだ。
だが泣き言をほざくぐらいなら、行動した方がマシだろうな。
ラムザはともかく、一人芝居の青髪野郎には会いたくねえが……
そもそも何がありゃあ俺より年上の男が『私タバサです』なんて言い出すようになるんだ?
わけがわかんねえし、もっとわけのわからない理由で襲ってこられても溜まったもんじゃねえんだよ。
「どうしたんだ? 64ページみたいな顔して」
「何の本の例えだよ。
――嫌そうな顔だってなら、青髪野郎のせいだ」
「えっ? サイファー、セージと会ったことあるのか?」
「昨日、ロックの奴を回収した時に一方的に襲ってきたからドローした魔法で遠くに吹っ飛ばしてやったんだよ。
あん時みたいに逆恨みして因縁つけてきやがったらキレねえ自信がねえな」
「うわ、そんなことが……
……あ、でも、タバサの方はフツーに大人しい女の子だし、今のセージはそんなに自己主張したがらないから大丈夫じゃないか?」
「全く大丈夫に思えねえ説明ありがとよ。
で、その大人しい女の子のフリをした青髪はガルバディア野郎のことも根に持ってねえってか?」
「あー……うーん、そういや結構な勢いで嫌ってる感じっぽかったなあ。
今朝も『あんなモンスターに近づきたくない』ってなって、それでロックやギードと揉めたって言ってたし。
ヘンリーに対しても『悪い魔物がいる』って言ってたから――まあそれはセフィロスのことかもしれないけど」
クソが、と言いたくなるのを何とか堪える。
百万歩譲って、俺に対して戯言を喚き散らすのは見逃してやってもいい。
だがアーヴァインやロックに危害を加えるつもりなら、マジで切り捨てることも考えなきゃいけねえ。
そんなふうに眉根を寄せていたせいか、バッツがあたふたと言葉を継いだ。
「あのさ、本当に、言うほどヤバイ奴じゃないんだ。
そりゃあ自分がタバサですって思い込んだままってのは良くないだろうけどさ。
でも、ローグ――あ、俺の仲間でセージの友達だったんだけど、そいつの話じゃ頭が良くて正義感もあって悪い奴じゃなかったって。
だから、アーヴァインとロックのことは俺からも説得してみるから、見捨てないでやってくれないか?」
……どいつもこいつも底抜けのお人よしばっかりか?
そりゃあ人間嫌いの魔王サマが毒気を抜かれっぱなしになった挙句、俺で妥協する気になれたわけだ。
天然記念物級のソロと同レベルの奴らがそこらにゴロゴロしてるんじゃあ、いちいち疑るのもアホらしくなってくるだろうよ。
- 338 :彼方の存在証明 10/10:2023/02/21(火) 16:08:54.44 ID:f73jwN581
- 「――ったく、わかったよ。
向こうが暴れねえ限りは見逃してやる。
だが万が一、ロックや本物のアーヴァインに襲い掛かったりしたら問答無用で切り捨てるからな」
「わかった、そうならないように頑張るよ」
俺はバッツの返事を聞きながら、ノートパソコンの電源を落とした。
有線接続式だからこれ単独じゃイントラには繋げねえが、食堂ならレジシステム用のネットワーク機材があったはずだ。
まずは食堂に行ってジェノバの件をラムザに説明する。
そしてラムザとバッツからセージに説明させて、その間にもう一度ガーデンスクウェアをチェックする。
今後の動きを決めるのはその後だ。
とにかく現状をラムザ達に伝えた上でセージが暴れないよう手を打たせるのと、書き込んでる連中の真偽を確かめてからじゃねえと、どうしようもねえ。
俺は気合を入れるべく、立ち上がりながら肩を回し――
「よーしバッツ世直し団再始動だ!
行こう、サイファー!」
……――意気込みが明後日の方角へすっ飛んでいくのを感じながら、「なんだそれ」と呟いた。
【バッツ(MP3/5、ジョブ:吟遊詩人 青魔法【闇の操作】習得)
所持品:(E)アポロンのハープ、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アイスブランド、メガポーション
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
おしゃれな壁掛け時計、IDとパスワードのメモ、メモ帳と筆記用具
第一行動方針:サイファーと協力してジェノバに対処する/ソロに会ったら謝る
第二行動方針:食堂に戻ってラムザ達と合流する/機会を見て首輪解除を進める
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ、ひそひ草、ノートパソコン
第一行動方針:ラムザ達と合流し、状況を説明する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す/バラムガーデンと連絡が取れたならサーバーを確保する
基本行動方針:ケフカを除く全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【現在位置:バラムガーデン・保健室→食堂へ移動】
- 339 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/02/22(水) 23:32:21.05 ID:leUVZpUap
- 投下乙です!!
う〜んやっぱりサイファーかっこよすぎるなあ……
ここしばらくロックとのコンビの印象が強かったけど、対バッツだと毒気を抜かれるような描写が多いのが印象的だった。
バッツの見つけたIDPWは無駄になってしまったように思うけど、サイファーとアーヴァイン以外がアクセスできる可能性が残ったままなのは地味に怖いな
そして本物のバラムガーデンにつながっている説!!
画面一つ隔てた向こう側で元の世界の日常が続いているだけじゃなくて、こっちのバラムガーデンの影響も出てるの、不可思議ですごくゾクゾクした
風紀委員権限を最大限使ってできることをしようと頭をまわすサイファーかっこいいわあ……
この4日間での心境の変化というか成長っぷりがすごすぎて、ガーデンスクエアの書き込み方からもそれがわかるような気がして、風神と雷神びっくりするんじゃないかな……なんて思ってしまった
「この書き込みの向こうにいるのが本物のあいつらであってほしい。」って台詞が、良い意味でサイファーらしくなくて、すごくグッときて、ますます応援したくなった!
新たな帰還手段が見つかるのか、吉と出るのか凶と出るのか、今後とも楽しみにしています!!
- 340 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/02/23(木) 16:29:47.22 ID:N0DLujVS8
- 投下乙です。
サイファーが主人公ポジションになってるのはもう固定みたくなってるけど、バッツがほんとに癒しだ。
バッツ世直し団続けてるのも好きなんだけど、IDパス差し出して名誉挽回狙うとか、サイファーからの事実公開を疑わずに全部信じてヘコんでるところとか、すごくかわいい。
アーヴァインの呼び出し書き込み、本物のガーデンとは繋がってない前提だったわけだから、友達限定FB大公開みたいな趣があってお気の毒w
ぼく自身は、ここまで条件揃ってると書き込みは本人としか思わないんだけど、きちんと魔女の罠だと疑えるあたりの慎重さはさすがというか。
こういうところ、本当に頼りになるよね。
そして画面の向こうにいるキャラたちが懐かしくなってくるというか。
地味ながら、戦況報告の出来がめちゃくちゃそれっぽくて好き。
自力で戻る手段をきっちり確保するというのはサイファーの立場からすれば当然であり、かつ意表を突かれた感じがある。
そうだよね、魔女倒せば1stみたいに元の世界に戻れるというのは神の視点だよね。
首輪解除、主催者の拠点直行に加えて、元の世界への帰還の手がかりもでてきて本当に終盤感が増してきた。
- 341 :待ち人同士のすれ違い 1/11:2023/03/14(火) 18:17:32.92 ID:UFirvFdB6
- 一歩一歩踏みしめる度に金属音が鳴り響く。
晴れ渡る空には不釣り合いな音色だと思いながら、俺は一人階段を上っていく。
息が切れるほどの長さではない。
普通の建物に換算すれば二階分程度――ちょっと面倒だなあ、と思う一歩手前ぐらいの距離だ。
「……誰もいない、か」
上りきる直前に視界は開けていて、そこに何の影も形もないことは見て取れた。
それでも足を止めなかったのは、わかりやすく見晴らしのいい場所だったからだ。
彼方には森が広がり、鳥らしき影が羽ばたいている。
こうしてみれば自然の姿はラインハットとさほど変わらず、けれどもあの鳥達が魔女の生み出した"目"だとしたらあまり安心できるもんじゃない。
興を削がれた気分になりながら、踵を返し――
「おー……すっげぇ」
思わずため息が出た。
森に囲まれているように見える、陽光の下で煌めく独特すぎるシルエット。
自然物と人工物が見事に調和した絶景だが、それ以上に驚いたのは、あのバカデカいバラムガーデンが異常に小さく見えることだ。
光を利用した迷彩効果がどうのこうのって、説明じゃあイマイチ理解できなかったが。
「"距離感のバグった風景"ってこういうことか……いやこいつはすげーわ」
階下に待たせている同行者の言葉を思い返す。
硬直しきった表情筋を力づくて歪めたような作り笑顔で、相変わらずひどく咳き込みながら、『少しゆっくりしてきてもいいよ〜』と。
その言葉に甘える気はなかったが――……まあ、こんな珍しい風景を見ることは二度とないことも確かだ。
そんなことを考えながら、俺はわざと背伸びし、無防備な姿を晒す。
もし誰かが隠れているならこれで出てくるかもしれないし、敵がいたなら襲ってくるかもしれない。
こっちにはリフレクトリングがあるからセフィロス以外はなんとかなる。
わんわんwith洗脳ソロは全力でお引き取りください。
「……」
はい。
特に何も起こらなかった。
まあこんなところでフラグが立っても困るからな。
俺は後ろ髪をかきながら、同行者――アーヴァインのことを考える。
"痛みを感じやすくなった"ってだけで"人間に戻ってるのかも"、なんて……甘い見通しすぎた。
中途半端に希望を与えられた後で、実は魔物化が進行してたっていう、どうしようもない現実を突きつけられたんだ。
誰だって絶望する。俺だって絶望する自信しかない。
- 342 :待ち人同士のすれ違い 2/11:2023/03/14(火) 18:19:14.88 ID:UFirvFdB6
- そりゃあ確かにこっちには最終兵器マスタードラゴン様がついてるしケツ持ってくれると信じてるよ?
でも魔物化って、一度進行しきると邪気を祓っても死んじまうってモンスター爺さん達から聞いたことがあるんだよなあ。
確か……邪気には生命力と結びつく性質があって、理性と良心を奪う代わりに無理やり潜在能力を引き出す効果があるとかで。
だから良心が残ってる=邪気に侵されてない生命力が残ってるモンスターは生きたまま正気に戻すことができるけど、そうじゃない魔物は邪気もろとも生命力を失って死ぬ。
もちろん、アーヴァインの魔物化が俺の知ってる理屈と違う可能性は残ってるが……
それでもきっと、残された猶予は長くないはずだ。
もし間に合わずにあいつが完全に魔物化してしまうようなことになったら――
" きっとあいつは他の人たちも殺してヘンリーさんも殺します "
――不意に、クソ野郎の声が脳裏を過ぎった。
迂闊に最悪の可能性なんてのを思い描いちまったせいだろう。
理性が慌てて意識を切り替えようとしたけれど、手遅れだ。
" ヘンリーさんが死んだら、悲しむ人たちがいっぱいいて、……私も、そんなの、嫌なんです "
うるさい。黙れ。
他人に成りすます偽物野郎が、タバサの声で訳知り顔するんじゃねえよ。
それに『私』じゃねえだろ。
中身の『お前』は俺の事なんざ何とも思っちゃいねえだろうがよ。
瞬間的に吹きあがった怒りが胸をかき乱し、いつかの記憶を呼び起こす。
俺がこの世で一番か二番目に憎んでる奴のことを。
デールの母親に成り代わって悪政を続けた悍ましい魔物、偽太后――そいつが遺した傷跡を。
小さいころ、俺のいたずらを良く叱っていた兵士長が亡くなっていた。
サンタローズの村を焼いた罪悪感に耐え切れず自死したのだと、遺された妻に聞いた。
小さいころ、城の外に抜け出した俺に果物を分けてくれた農家がいなくなっていた。
後で調べたところ、圧政に苦しみ減税を願ったせいで家族全員が打ち首にされていた。
小さいころ、少しだけ俺に優しくしてくれていたメイドも死んでいた。
俺の行方を探ろうとして地下通路に迷い込んでしまい、本物の太后を見つけたところで魔物に食われたのだと、一部始終を見ていた彼女が詫びながら教えてくれた。
俺だけじゃない。
ラインハットの民もサンタローズの人々も、あの魔物一匹に蹂躙された。
そのくせ、あの魔物は――偽太后は最後に言いやがったんだ。
"おろかな人間どもよ……オレさまを殺さなければ、この国の王は世界の王になれたものを"
ふざけんなよ。
ラインハットのためでも、デールのためでもねえだろ!
全部テメェの薄汚い欲望と愉しみのためにやりやがったんだろうが!
それを、他人のためにやってやったんだみたいに言いやがって――!!
だから、どうせあの野郎も同じだ。
他人に成りすまして人生を奪う偽物。
動機を借りた体で責任だけをなすりつけるクソ野郎。
タバサのためにやったんだと嘯きながら、その実自分のことだけ考えて……アーヴァインの奴を殺して、きっと、他の奴も殺そうとする。
ソロやギードを攻撃した時みたいにな。
- 343 :待ち人同士のすれ違い 3/11:2023/03/14(火) 18:20:06.18 ID:UFirvFdB6
- 本音を言えば、死んでほしい。
もっとぶっちゃけるなら、殺せるなら殺したいまである。
だけど、それはダメだ。
【闇】にとり憑かれたくないからとかじゃない。
こんな感情、俺の勝手な逆恨みでしかないってわかってるからだ。
……ああ、わかってる、本当にわかってるんだよ。
俺がタバサを正気に戻せていれば――せめてソロ達と一緒に保護できていたなら、誰も傷つかずに済んだってことは。
セージがクソ野郎になることもなかった。アーヴァインが手を汚すこともなかった。
リルムが怪我をすることもなかった。ターニアが錯乱して逃げ出すこともなかった。
それを全部無視して身勝手な理由でセージを殺したら、それこそあの野郎に責任をなすりつけてるだけだろうが。
あらゆる意味で俺が俺であるためにも、あのクソ野郎は殺さない。
この先どれほどムカつくことを言われようと、どれほど心を踏みにじられようともだ。
顔を上げる。
視界には代わることのない絶景。
深呼吸をし、心を落ち着かせてから、一歩一歩静かに階段を下りる。
こんな感情で頭をいっぱいにしているわけにはいかない。
それでなくても今のアーヴァインは俺の心を読めちまうんだ。
もしあいつがマジで自分の事しか考えないタイプだってなら、まだ安心できたが……
スコール達からの評価や記憶喪失直後の反応からして、あいつの本性はむしろ真逆。
他人の事ばっかり考え過ぎて、最終的に自分が犠牲になってどうにかすればいいって思い込んでるタイプだ。
言ってしまえばピエールとデールのハイブリッド。
だからみんな殺し合いに乗ったんだ――って止めてくれ俺、その考えは俺にメッチャ効く。
そんなわけで、平常心平常心。
セージのことだの殺意だのは全部忘れて、これからのことを考えよう。
まずセフィロスとセージに気を付けて……ってダメだ絶対セージが入ってくる! チクショウあの野郎!
だけどあんまりのんびりしてると本当にセフィロスとかセージとかが訓練施設にコンニチハしてくるかもしれない。
一応アーヴァインは車椅子ごと木陰に隠して座らせているから、すぐに見つかるってことはないはずだが――
そんなことを考えてるうちに、リーンゴーン♪と巨大な鐘の音が響き渡った。
まっずい。これ授業の終わりの合図だよな?
早くセージの事を頭から消して、アーヴァインのところに戻らないと。
――そうだ。いっそ、殺し合いと全く関係のない事を考えよう。
面白いギャグとかいいかもしれない。俺の精神衛生にも役立つし。
昔読んでた面白一発ギャグ集を思い出して――教会に行くのは今日かいとか、スライムナイトぐらい当然スラナイトとか……
……って、教会とかスライムナイトとかこの世界にあるのか?
いやいやいやいや、さ、さすがに教会はあるだろ………
でもこれだけ大きな学校で学生寮まであるってのに、アーヴァインの奴、一言も教会って言ってなかったよな……
ダメだ。どんなバカウケギャグでも単語の意味が通じなかったら身内ネタにしかならない。
どうしたら笑わせられるかなあ……
ちくしょう! 俺、王子であって笑わせ師や旅芸人じゃないから!!
いや諦めるな俺、こうなったらわんわん並みにインパクトのある光景を今までの人生から引っ張り出して――!
- 344 :待ち人同士のすれ違い 4/11:2023/03/14(火) 18:24:01.68 ID:UFirvFdB6
- **************
拝啓、ドドンナ学園長。
フィッシャーマンズホライズンでお会いした後いかがお過ごしでしょうか。
正直、僕は学園長の事をとってもカッコわるい大人だなあと思っていました。
だけど今となっては、あなたの気持ちが良くわかる気がします。
………――あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
穴があったら入りた〜〜〜い! 自分が恥ずかしすぎて死にそう〜〜〜!!
顔を覆ってジタバタジタバタ。
車椅子に座ったまま一人ぼっちで奇行をしている自覚はあるけれど、一人だから許されるって思ってる。
っつ〜か、正直ヘンリーさんが戻ってきても、しばらくまともに顔を見れる自信がない。
なんでかって?
そりゃあ当然、ヘンリーさんがイイ人過ぎるからだよ!!
本当にさ〜、僕の身になって考えてみてよ〜!
ここに来るまでの間、ヘンリーさん、今までの事をチクチク蒸し返して来てたように聞こえてたんだよ?
『調子に乗るなよ』って釘刺してるんだな〜、って思うじゃん?
ソロと違って善意1200%ってワケじゃないんだぞ、打算があるから助けてるんだぞ、って主張してるんだなーって思うじゃ〜ん!
なのに本当は口に出してなんかいなくて僕がいつの間にか心を読めるようになってただけ!
トンデモすぎる新アビリティを意識した途端、上がっちゃう精度!
頭の中に流れ込んできた、人面犬になったセフィロスとメチャクチャ偽勇者っぽい三白眼で無表情のソロがお送りするふしぎなおどりダンスムービー!
呼吸困難になるまで咳き込んで、介抱してくれてる間ずーっと聞こえ続ける労りと励ましのメッセージ!
こんなのさあ……こんなのさあ〜〜!
腹筋も情緒もズタズタのボロボロだよ! ボロ雑巾の方が絶対マシなやつだよ!!
どうしたらいいの僕は! 教えてティーダ! 今呼べないけど!
……はぁ。
こんなイイ人を二度も三度も殺そうとしてたヤツがいるってマジ?
そしてそんな悪い奴相手にここまで親身に接してくれるってどういうこと?
いやホント、善意が眩しすぎて灰になりそう。むしろ塵とか砂になりそう。
そんでドドンナ学園長の真似しちゃう〜〜。
『私は、今までの自分が、恥ずかしいぃーっ!!!!』って。
……ホント、恥ずかしい。
スコールに指摘されるまで気づけもしなかった、どうしようもなく馬鹿な思い込みで、ヘンリーさんや皆を殺そうとしてさ。
それなのに何度も助けてもらってさ。
助けてもらったってのに、人の善意を過小評価して、打算も入ってるなんて決めつけて、勝手に安心してさ。
馬鹿じゃん?
本当に、馬鹿じゃん。
なのに、優しくしてもらって、励ましてもらってさ。
色々手を尽くしてもらって、貴重なメガポーションまで使わせてさ。
それだけやってもらってるのに、人間に戻るどころか読心能力まで得て魔物化に磨きがかかってさ……
- 345 :待ち人同士のすれ違い 5/11:2023/03/14(火) 18:25:09.14 ID:UFirvFdB6
- ああ、ダメだ。すっごい泣きたい気分になってきた。
だけど涙が出てこない。
ずっとそう。鼻水すら出てこない。
そのくせ、完全に自暴自棄になりそうって手前でスゥーっと頭が冷えていく感覚がある。
多分、理性の種の効果がまだちょっとだけ残っているんだろう。
こんなすごい強力な薬をくれたのはユウナとティーダで、だから、二人のおかげ。
僕が死なせた、二人のおかげ。
「………」
左手に目をやれば、虹色の光がふわふわ漂っている。
幻光虫。僕がつなぎとめられたティーダの身体。
夢見る友達の、欠片。
人の心が読めるというのなら、ティーダの声も聴けるだろうか。
召喚することができなくても、他の誰かと話す彼の言葉が聞こえるだろうか。
そんな下らない、ちっぽけな希望を胸に、僕は目を閉じ意識を集中する。
左耳から聞こえる、一限目の終わりを告げる鐘の音。
空調のファンと水場のせせらぎ。
心臓から響く鼓動。右肩の下で蠢く脈動。
口の奥で反響する呼吸音。脇腹から足にかけて沸き立つ得体の知れない蠕動音。
そして後ろの方でかさりという音が聞こえ――突然、頭の中に鮮明な映像が広がった。
"「ほーらほらコリンズ様、ベーろべーろばぁー!」"
"「ううむサイモンよ、見事な工夫だ! しかし私も負けんぞ! ベェーロベェーロバァー!」"
"「ピエールよぉ、それ絶対見えてねえって。それにしてもめんこいお子さんだ、レックス様たちにも負けてねえな!」"
「ごっふぃげふぃぶふっ!? ゲフォッ、こひゅっこひゅっゲフュフォッッッ!!??」
もう自分でもなんだかわからない笑い声と咳が喉から飛び出す。
なにこれ?????????????
食堂のおばちゃんに似た声で喋る全身真っ青覆面マントのパンツ一枚マッチョメンが一歳ぐらいの赤ちゃんを抱っこしてるんだけど?
そんで同じく青い全身鎧が福笑いみたいな面白顔描いた紙を兜の前にかざしたり遠ざけたりしてるんだけど?
しまいにはあのピエールが、今までのイメージを全損する勢いで下のスライムにすさまじい変顔させてるんだけど???
いやこれティーダの心とかじゃないよね!?
ピエールが出てきてる時点で絶対ヘンリーさんだよね!!?
「なぁ、あっ、ごふっ、ひぐっ、な、げほっごほっ、あっ、あーー!!」
『何してるのヘンリーさん!?』って怒鳴りたいんだけど、まともな声が出てこない。
ぶっちゃけ息が苦しすぎて咳もヤバイ。
「だ、大丈夫か!?」
駆け寄って前に回り込んで背中さすってくれてるけど、ちっとも大丈夫じゃないんだよ。
なんでこんな光景考えてたの?
僕だけ絶対に笑ってはいけないバラムガーデン24時開催させるつもりなの!?
- 346 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/03/14(火) 18:25:53.91 ID:6JYNwKX+y
- しえん
- 347 :待ち人同士のすれ違い 6/11:2023/03/14(火) 18:26:48.90 ID:UFirvFdB6
- 「あー、げほっげほっ、あー、うー、あー……! ごほっ、ごほっ!」
ダメだ。完全に言語化する余力がない。
とりあえず右腕を上下させて抗議の意を示してみる。
「い、いや、悪かった。
なんかお前を笑わせられそうなことないかなって考えてたもんで」
(ここまでドツボにハマるとは思わなかった……)
確信犯じゃん。事故とかじゃなくて故意じゃん。
つっこみたい、めっちゃつっこみたい。でもその前に肺と胸と喉が危険域。
と、とにかく呼吸、呼吸だ。息を、呼吸を整えて……
「ゲホッゲホッ、ひぐっ、あっ、や、やめてよっ、……ぼ、僕で、ゲホッ、あ、遊ぶの……」
ヤバイ、やっとまともな声が出せた。
このまま笑い死んで【アーヴァイン 死亡】ってテロップ出ちゃうのかと思ったよ。
でもさあ。なんなの、あの光景?
「ね、ねえ、ヘンリーさん、何、あの怪人青パンツマスク」
言った後で『違うそうじゃない』と一人ツッコミしてみるけれど、ヘンリーさんには通じない。
「あ、ああ、リュカの仲間のエミリーさんだな。
エリミネーターって魔物で、元は人間の女性だったそうだ」
エ、エミリー、さん……? た、たしかに女の人の声だったけど……
っつ〜か、ちょっと待って? エリミネーターってアレだよね?
ピサロが挙げてた、ワンチャン僕がなってたかもしれなかったモンスターだよね!?
え、やだ。アレはちょっと……ムキムキマッチョ覆面パンツマン化はさすがに……
正直今の姿の方が全然マシ……いやこれはこれでイヤだけど………でもアレとコレならコレの方が………うーんうーん……
「えっと、その……コリンズが一歳になった時のお祝いにさ。
リュカの仲間たちが贈り物を用意してくれたことを思い出してたんだよ。
ほら、元の世界を懐かしみたい気分になったっていうか」
(さすがにあの面白変顔っぷりならピエールが出てきても許されるんじゃないかと思ったんだが……
ちょっとこれ別の意味で許されないんじゃないか? リュカ、マリア、助けて俺ピンチ!)
あのヘンリーさん、心の声バッチリ聞こえてるんだけど。
え? 何? 面白変顔ってマジで僕を笑わせたかったの?
なんで??? 秘密の場所で何があったの????
「あー……うん、すまん。
できるだけ面白いこと考えていようと思って、それで」
(やっぱアレだな、人間素直になるのが一番だ。
そういうわけで許してくれって、頼む)
う、うん……? やっぱりよくわからない。
車椅子じゃあ秘密の場所まで上がっていけないから、さくっと一人で見てくるって言って。
ほんの数分――体感だから断言はできないけど五分も経ってないはず――で、戻ってきて。
特に何も起こらなかったっぽいのに、なんで僕を笑わせる必要があったんだろ……?
うーんうーん……アレかなあ。
僕がパニくって、魔物化の進行に怯えまくって、必要以上に塞ぎこんでるように見えたのかなあ。
- 348 :待ち人同士のすれ違い 7/11:2023/03/14(火) 18:28:03.68 ID:UFirvFdB6
- 「あ、あの、僕、そんな、へこんで……た?」
実際ベッコベコに凹んでたけど、そんな心配はかけたくない。
ただでさえ迷惑かけまくって、手間もかけさせてるってのにさ。
「いや、その、……まあな」
(この反応って、どう見ても凹んでるよなあ。
俺がコイツだったら多分もっとキレてるし何ならぶん殴ってるぞ。
ソロでも怒るだろうし、サイファーだったら半殺しにされても文句言えない)
……そりゃ、そうだ。
さすがに殴りはしないけど、元気だったらフツーに怒鳴ってたと思う。
けれど――……どうしていいか、わからない。
自分のしたことが恥ずかしすぎて合わせる顔なんてないのは確かで。
これ以上迷惑をかけたくないことも、心配をかけたくないことも確かで。
だけどこれ以上自分じゃないナニカになっていくのが怖かったのも確かで。
いっそ何もかも壊して壊れてしまえば楽になれるのかなって、そんな考えさえ過ぎっちゃったりするのも確かで。
方向性はバラバラで定まりそうにない感情ばっかりだけど、全体としては沈んでいって、自力では上がれそうもない。
「もっと頼っていいんだぞ、ってカッコつけてやりたいけど、俺ができることなんてたかが知れてるからな。
だからせめて、少しでも気を楽にしてやりたいって気持ちはあったんだ。
ま、ちょっと強引すぎたな。悪かったよ」
そう言って、ヘンリーさんは苦笑した。
どこかシド学園長を思わせる、人当たりの良さそうなオトナの表情で。
……ああ、そっか。
オトナなんだ、この人。
それこそシド学園長やまま先生と同じ。
特別な力なんてあってもなくても、経験で子供の心を読んで、先回りして対処できちゃう人。
本当に頼っていいのかな。これ以上縋っていいのかな。
……迷惑をかけ続けて、いいのかな。
僕は目をつぶり、呼吸を整える。
正直、混乱しっぱなしで、考えがまとまる気がしない。
それでも先に感謝の気持ちぐらいは伝えた方がいいだろうと思って、なんとか言葉を絞り出そうとしてみる。
だけど――
(うわ余計落ち込んでる。俺やらかした? 変顔でもピエールってわかるやつはダメだった?
やっぱり面白一発ギャグ集を信じるべきだったか?
それともピエール関係ない面白エピソードを……いやあいつら来る時って絶対ピエールとサイモン居るんだよなぁ……
宿屋に餌付けされてるし……ラインハットのタバコとかグランバニアで買えるわけねえからって……
そりゃ公的には絶賛断交中だから……リュカ一家以外の人間来たことないし……パパスさんとサンタローズの件があるし……
マジでピエール達が教えてくれなかったらリュカ失踪の件だってわからなかったし――……
あ、っていうか今度はリュカ達全員死んだことをグランバニアに伝えないといけないんじゃね?
うわあああああああヤバイヤバイ考えたくねえ! けどやらなきゃいけねえ!
いかん俺の胃が死ぬ爆発する、誰かザオリクかけてくれ!!)
- 349 :待ち人同士のすれ違い 8/11:2023/03/14(火) 18:29:09.46 ID:UFirvFdB6
- …………あの。
どんどんコメントしにくい方向に考えを飛ばさないでほしいんだけど。
いったいどんな変顔してるのかと上目でチラ見すれば、そこには見事に平然とした表情を取り繕ってるヘンリーさん。
これがオトナのポーカーフェイスなんだね〜、すっご〜い。
「あ、あの、心配してくれてありがと。
でも、僕、本当に、大丈夫だから、……ゴホッ、無理に、笑わせるのは、止めてよ。
あと言いにくいことは、他の人に、丸投げすれば? 王子様なんだから、自分で行く必要、ないでしょ」
「あ、ああ」
(その手があったか!)って心の声が聞こえた。
ついでに、映画に出てきそうな古めかしいスタイルの王様と、ペコペコ頭を下げまくる金ぴかドラゴンの映像が流れ込んでくる。
なんでドラゴン? もう突っ込むのも疲れてきたよ。
この心読む能力、オフにできない?
できないかな。……できないよね、うん。知ってた。
「まあ、確かにやりすぎだったな。悪かったよ。
変にくよくよするぐらいなら、笑った方がいいって思ってさ」
(……こいつが爆笑し出したの、剣の間合いに入るかどうかってところだったな。
変な事考えそうになったらちょっと距離取るようにするか)
「うん。そうして。マジで」
いくら気を使われた結果でも、毎回抱腹絶倒おもしろムービーを強制視聴させられたら、心より先に身体が――主に腹筋と肺が持たないよ。
僕が真顔で答えると、ヘンリーさんは何故か小首を傾げる。
「え? 面白いこと考えたほうがいいのか?」
「距離取ってって方に決まってるでゴホゴホゲホッ!! 」
思わず叫んでしまったけどやっぱり喉に突っかかって咳き込んでしまう。
呼吸が苦しくて酸素が足りなくなったせいか、ヘンリーさんの能天気でピントのズレた言動が記憶を刺激したせいか――
一瞬だけ、鮮明な映像が脳裏を過ぎった。
まるで目の前にいるみたいに、ヌンチャクを持つ『彼女』が笑っている――そんな場面が。
反射的に胸を押さえながら、目を閉じる。
やっぱり、帰りたい。
どれだけ苦しくったって、どれだけ辛かったって、どれだけ沈んでたって……その気持ちには、嘘をつけない。
情けなくて恥ずかしくても。迷惑かけて心配かけても。
人間じゃなくなって、魔物に成り果てても。
全て壊したくなる衝動を永遠に消せないまま生きていかなきゃならなかったとしても。
それでも会いたい。
どんなに諦めた方が良くたって、諦めたくない――!
「だ、大丈夫か?!」
(胸? 心臓!? まさか苦しいのか!?
ヤバイヤバイ怪我ならともかく胸の病気とか異常とか俺の手に負えないんだけど!?)
「……あの。違うから。大丈夫」
人の決意を塗り潰すような勢いで流れ込んできたヘンリーさんの声と思考に、僕は引きつり笑いを浮かべながら否定する。
いや確かにそう見えちゃうのもわからなくはないし、心配してくれるのはありがたいんだけどさ〜……
ツッコミ役が足りないって想像以上に疲れるっつ〜か。
……サイファー、早く来てくれないかなぁ。
- 350 :待ち人同士のすれ違い 9/11:2023/03/14(火) 18:31:45.45 ID:UFirvFdB6
- **************
「う〜ん、やっぱりイタズラなんかなぁ?」
ぐーっと背伸びして、すとーんと肩を落とす。
一応ムービーカメラは回したままだけど、多分フツーの風景しか映ってないやろな〜。
誰もいない"秘密の場所"を後に、あたしは階段をとんとんっと降りていく。
ガーデンスクウェアで見つけたフシギな書き込み。
もしかして〜と思って学園祭実行委員会のページを見たら、やっぱりあったコメント。
イニシャルも一致してるし、これは絶対ぜ〜ったいアービンしかおらへん〜! ってなったから、教室を早めに出てきたんやけど。
もうすぐ一限目終わりって時間になっても、影も形もな〜い。
サイファーが来る様子もな〜〜い。
誰かが遊びで書いたのかな。
それとも、"秘密の場所"ってのが秘密の場所じゃないってオチかな?
そう、実はアービンとサイファーだけの秘密の場所!
ガルバディアガーデンとか! D地区収容所とかとか〜!
……うん、ないわ〜。
ガーデンスクウェアで連絡してるんだから、一限目終わるぐらいの時間にはいける場所ってことやもんな。
だからガーデンの中しか有り得んくて〜……うーん、サイファーかアービンの部屋とか?
その二択ならアービンが使ってる部屋、だよねえ。
サイファーの部屋には行ったことないけど、フツ〜に一般生徒用の二人部屋でしょ?
だったらアービンが使ってるゲストルームの方が可能性高そうだけど、それなら素直に自分の部屋って言うんと違う?
うーん、うーん……
「お、セルフィ!」
急に名前を呼ばれて、はっ、と目を開けて階下を見る。
アービンじゃないのは声でわかってたからガッカリはしないけど、予想外といえば予想外。
「ニーダ! ニーダもアレ見とったん?
でもな、上、だーれもおらんよ〜」
「えー? マジかぁ。
俺もカメラ持ってきたんだけどな」
そう言ってニーダは首に吊り下げたデジタルカメラを指さす。
結構新しめの機種だ。あたしも買おうかどうか悩んだことあるもん。
「ニーダって写真派なん?」
「まあな。動画もいいけど、密会の証拠を押さえるったらやっぱ写真だろ。
俺はこいつで、面白ツーショットをバチッと撮ってやろうと思ったワケよ」
「なるほど〜。
でも残念ながら、当の被写体二人がどこにもいないんだよね〜」
あたしが肩を竦めると、ニーダは「だろうな」と苦笑した。
「サイファーだったらともかく、アーヴァインだもんな。
秘密の場所がここって知らない可能性もあるし、ガルバディアガーデンの秘密の場所と掛けてる可能性もある。
それに素直な内容の伝言なんて残すタイプじゃないだろ、アイツ」
- 351 :待ち人同士のすれ違い 10/11:2023/03/14(火) 18:33:21.67 ID:UFirvFdB6
- 「うーん、まあそうやんな〜。
確かにアービンならもうちょっと回りくどくするか〜。
それこそ目印つけるとか、えっちい本を置いてメモを挟んどくとか……でも本とか雑誌とか無かったしな〜」
「えっちい本?」
「うん、となりのカノジョって雑誌〜。アービン、たまにこそっと読んでるし〜」
「……それ、アーヴァイン本人の前で言わないでやってくれよ」
「?? うん、わかった〜」
なんでだか、「なーむー」と両手を合わせはじめたニーダを横目に、訓練施設に引き返す。
来るときにそこそこモンスターを倒してきたとはいえ、やっぱりニギヤカだ。
あたしはヌンチャクを取り出し、気持ちをバトル方面にスパっと入れ替える――
……――っと、いっけな〜い。
バトルの前に、ちゃ〜んとムービーカメラ仕舞わんとなあ。
手首にしっかりベルトまいてるから手を離してもダイジョーブ! じゃないんよ。
えっへへ、と誤魔化し笑いしながらカメラを取り外してっと。
そんでボタンいじって、撮影モードをオフに……
「……え?」
突然で、一瞬だった。
ムービーカメラのモニター、そこに映っていた映像が、バリバリバリっと音を立てながら大きく乱れたのは。
あたしが硬直してる間にすぐ元に戻って、目の前にあるのと全く変わらない訓練施設が映るようになった、けど。
「セルフィ? どうしたんだ?」
後ろから歩いてきたニーダが声をかける。
あたしは自分の眼の錯覚かも〜、と思って、カメラのメニューをいじって撮影されたばかりの映像を再生させた。
あたしと肩越しに覗き込んできたニーダの目の前で、やはり画面は突然乱れ――
もう一度巻き戻して、乱れている最中で画面を止めてみる。
「……なんだ、これ」
ニーダがゴクリと唾を飲んだ音が聞こえた。
ノイズで歪んだ風景の中、木立の影に隠れるように、背の低い白い人影が映りこんでいる。
何かに座っているように見えるけど……こんなとこに座れる場所なんて、ない。
「こ、これ、噂の『白い男』じゃないか?!」
「え?」
何か知ってるの!? と振り向いたあたしに、ニーダはしどろもどろになりながら話を続ける。
「最近、流行ってる怪談があるんだ。
真夜中に新任予定の女教師が訓練施設に迷い込んで、魔物に追われて、逃げた先で『白い男』に連れ去られて消えたって。
だけどガーデンは公にはできないから、そんな教師はいなかったことにされたって……怖くね?」
「う、う〜ん、怖いっていうか、学園長がそんな握りつぶし許すとは思えへんけど〜……
……っていうか、それ白いSeeDの人達ってオチなんじゃないの〜?」
「え? 白いSeeDってガーデンに来たことあるのか?」
「うん。エルオーネ迎えに来た時に、訓練施設まで探しに来てたって、スコールから聞いたことあるよ〜。
…………そういえば〜、その時に魔物に襲われてたからスコールとキスティスが助けた〜って……」
「それじゃん!
なんだよー、せっかく本物の『白い男』を見たって自慢できると思ったのに!」
- 352 :待ち人同士のすれ違い 11/11:2023/03/14(火) 18:35:50.36 ID:UFirvFdB6
- 「はぁ〜あ」って大っきなため息をつきながら、ニーダががっくり肩を落とす。
エルオーネがそんな怪談になってるって、当の本人とかスコールとか知っとるんかな〜?
スコールは怒りそうな気もするな〜〜。エルお姉ちゃんを勝手に殺すなー! って。
でもエルオーネは面白がりそうやんな〜。自分から懐中電灯使って、下から照らして驚かしたりしそ〜う……
「幽霊の正体見たりサボテンダーってやつやんな〜。
……で、肝心のこっちの人影はなんなん?」
「いやわからん。マジの幽霊とか?
ほらよく言うじゃん、カメラは時折あの世とか異界とかの風景を映したりするってさ。
その結果出来上がったのが心霊写真! 謎の手が肩に乗ってたり虚空に子供の顔が映ったりしてるやつ!」
「……ニーダってオカルトファンとか読む人〜?」
「むしろ一度読みたいんだよな。昔うちの図書館にあったらしいけど、誰も借りてないのにいつの間にか消えたらしいんだ」
とまあ、長々話をしたけど結局なんにもわから〜ん。
何かに座ってて、足元まで届く白い服を着てて、ぼさぼさの長い髪で顔隠れてる、俯いてる人……に見えるんやけどな〜。
でも、そこに誰かおるん? って聞かれたら、だ〜〜〜れもおらんのも確かなんよな〜。
こうなるとやっぱり幽霊なのかなぁ。白い服って、イカニモって感じやし。
それともカメラの故障かな〜? だったら困る〜、保証期間過ぎちゃったもん〜。
あとでキスティスかシュウに見てもらおっかな。
映像解析できたら、幽霊の謎も解けるかもだしね〜。
**************
【アーヴァイン (HP2/3、MP0、半ジェノバ化(重度)、疲労、右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
所持品:G.F.パンデモニウム(E、召喚×)、変化の杖(E)、ビームライフル(E) 竜騎士の靴(E) 手帳、リュックのドレスフィア(シーフ)、
ちょこザイナ&ちょこソナー、ラグナロク、祈りの指輪(ヒビ)、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、食料、折り畳み式車椅子
第一行動方針:サイファーが来るのを待つ
最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【ヘンリー
所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、リフレクトリング(E)、魔法の絨毯、
銀のフォーク、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ
ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ガーデン保健室の救急セット・医療品、食品)、
レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
第一行動方針:誰かが来るまで待つ
第ニ行動方針:仲間と合流する/セージを何とかする
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:訓練施設・秘密の場所への入り口前】
- 353 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/03/15(水) 20:47:27.35 ID:iIZEgR3wy
- FFDQ3 786話(+ 3) 18/139 (- 0) 12.9
- 354 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/03/17(金) 18:55:56.77 ID:AKnglPuRm
- 投下乙です!
一応タバサの魂は本物?のはずだけど、それが伝わってないのも、伝わるわけがないのも切ないな……
安定感のあるヘンリーが珍しく見せる激しい感情や危うさが心配……
でもそのあたりの感情を抑え込んで、自分の責任にできるのがやっぱりオトナなんだなあ……とアーヴァインと同じ感想を抱いた。かっこいいな……
ドドンナのこと思い出すの、FF8本編を経ているのがわかって、細かい描写だけど好きだ
笑わせようとするヘンリーと笑いすぎやら気を使われてつらいやらなんやらのアーヴァインとのすれ違いコントがほほえましいけど、
心を読めちゃう状態はシンプルにしんどそうだ。
魔物になろうと会いたいという気持ちがひたすらに切ない…その上実際に会う前にセルフィにその姿を見られたかもしれないのか……
もしかしたらコンタクトを取れるかもしれないけど、
それがどう転ぶかわからなくて、うっすらとした希望と不安が入り混じっているのが怖い!
今後の展開も楽しみにしています!!
- 355 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/03/31(金) 22:34:07.30 ID:usH66VzQB
- 遅ればせながら投下乙です。
一人悩んで袋小路に陥ってるところでぐいぐい世話焼いてくれる存在ってやっぱありがたくて、
だからアーヴァインにはもっともっと頼れ〜って言いたくなっちゃう。
そのヘンリーの『殺さない覚悟』は一線を画してるような気がする。
ソロが天然の聖人なら、ヘンリーは叩き上げの聖人?
家族知り合いまわりで過酷な状況叩きつけられ、自身も何回も死線をさまよった結果、絶対折れない精神性が芽生えたって感じ。
もうどんなつらいことが降りかかっても耐えられそうだけど、セージにタバサの残骸が降りてることを知ったらまた心が抉れそうだなあ。
今までの厭悪ポイントが跳ね返ってくるのはきついぞ。
セルフィとニアミス来たかー
構図の真ん中に縦棒一本引っ張って、右と左でトーンが違う絵柄が浮かんでくるなあ。
向かい合ってるのに見えていない、すぐそばにいるのにこんなにも遠いって感じがやきもきするね。
秘密の場所から見たガーデンの異様な遠さがちゃんと説明されてるのちょっと笑った。
あれ明らかに距離感おかしいもんなあw
- 356 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/07/10(月) 22:00:30.19 ID:OOhZqkYqg
- 保守
- 357 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/07/10(月) 22:09:12.34 ID:unmqhyAUP
- ほっしゅマリム
- 358 :生き足掻く罪過の代償 1/10:2023/07/16(日) 00:02:17.12 ID:KshVSYi1F
- 繊維の一本一本までほどかれて引き延ばされた毛糸を、再び紡いで玉の形へと巻き戻すように。
握りこんだ掌の奥、神剣の束から伝わる力を借りながら、散り行く魔力を集め直す。
「ほう……」
背後より感嘆混じりのため息が聞こえても、応えるような余裕はない。
何せこの場には未だ生きている盗聴器がある。
それにやっていることの内容が内容だ。
狭間の空間と魔女の城。
二点を繋いだ旅の扉はひとまず役目を終えた。
しかし何も手を打たねば、空間を歪め繋げていた魔力の流れが痕跡として残ってしまう。
万が一この場所が露見すれば、確実に魔女に襲撃されるだろう。
そして蹂躙に耐えきれるだけの戦力が我らにあるかと問われれば、否。
ザンデは首輪を外せておらぬし、マッシュ・リルム・アルガスは身体に欠損を抱えている。
ピサロの加護無きロザリーに戦える道理はなく、ドラゴンオーブ無き我が身は只人に等しい。
無論、戦うのではなく、夢世界に逃げ込んで魔女の追及を躱すことも考えたが――……
ウネの鍵によって保持されている夢は、かつての幻の大地のように独自の世界として具現化しているわけではない。
現実の物体を引き込めるだけの強度を持ってはいるが、あくまでも『鍵の持ち主が見ている夢』。
仮にザンデの首輪を解除できたとしても、夢の主だけは自分自身の身体を夢世界に持ち込むことができない以上、最低一人は絶対にこの空間から逃れられない。
だからこそ、旅の扉が存在したという痕跡の一切合切を消し去る必要があった。
無論竜神ならぬ我が身では難しい業であったが、幸いなことにこちらにはルビスの神器がある。
アレフガルドの創造神であり、勇者を守護する女神であり、大地に生きる人々を導く精霊神。
その偉大なる力と今の私が操れる唯一の権能を元に、限りなく現在に近い過去の、辿り切れる限界まで意識を飛ばす。
途切れぬように。取りこぼさぬように。
静かに魔力を手繰り寄せる、ただそれだけを続ける。
他人ならぬ他神の道具を駆使しつつ、手抜きも失敗も許されぬ、繊細で集中力を要する作業を――……
「ううむ………うむ、うむ……ほう……ふぅむ………」
…………ちょっと静かにしてくれないか?
私だってこんなこと生まれて初めてやってるんだが?
ルビスの力だって借りたのは初めてなんだが?
自分の力じゃないものを引き出して元々の用途からかけ離れたことに利用するのがどれぐらい面倒か魔導師ならわかってるだろう?
それに失敗が許される状況でもないが?
万が一の事態が起きた時に最初に犠牲に成り得るのは其方なのだが?
単語を喋ってるわけではないから大丈夫だとでも?
いやまあ確かに首輪が爆発していない以上は大丈夫だという証明に他ならぬのだろうが、こちらとしては気が気でないのだがな?
- 359 :生き足掻く罪過の代償 2/10:2023/07/16(日) 00:03:34.17 ID:KshVSYi1F
- ため息をつきたくなる衝動を抑え込み、再度意識を研ぎ澄ます。
終わりが訪れたのは、一刻半ほど後の事。
本当はもう少し早く終わる予定だったんだぞとぼやきたかったが……まあ、我慢しておこう。
「ふー」
声を拾われぬ程度に小さく息を吐き、額に浮かんだ汗をぬぐいながら、私は皆に向き直る。
ロザリーに神剣を返しながら『これで大丈夫だ』と目配せすると、愛らしい女性陣は満面の笑みを、筋骨隆々の男性陣は満足げな微笑みを浮かべた。
しかしここではろくな話もできないから、一旦夢世界に移動した方が良いだろう――
――と、私の意を汲むまでもなく、ザンデが大きな独り言を呟く。
「やはりここは興味深い空間だな。
だがいささか骨が折れる情報量だ。疲れが溜まる前に、少し眠るとするか」
盗聴器の向こう側で聞き耳を立てているであろう魔女一派に建前を語りながら、彼は眠りの魔法を自分にかける。
数分後、眠っていたアルガスが目覚め、不機嫌そうに隻眼を細めながらザンデを指さした。
最初にリルムが、次にマッシュが。そしてロザリーが夢見る大魔導士の身体に触れ、姿を消していく。
そして私が"お先にどうぞ"とジェスチャーすると、アルガスもまた躊躇いなくザンデの夢世界へと移動した。
私もその後に続くべき、なのだが……
「……」
どうにも不安が拭えぬせいか、足が止まる。
神らしからぬ感情の理由を分析すれば、浮かぶのは"彼女"の姿。
それはこの死に溢れた世界で無力な人間を演じる私を気にかけ、何の得もないのに同行し続けてくれた心優しき人物であり――
狂気に墜ちた末に【闇】に染まり、死を振りまく呪いと化したモノ。
私に神たる視座があったならば止められていたはずの悲劇が、慙愧となって我が心に影を落とす。
そしてその影が囁き続けるのだ。
"ユウナの絶望を見過ごしてテリーとティーダの死を招いたように、今もまた、取り返しのつかない何かを見落としているのではないか"と。
「…………」
私一人であれば、存分に悩み抜くこともできただろう。
だが――輝ける未来を掴み取らんと、全力を尽くしている若人達がいる。
仲間を信じ、成功を信じる人間達の前で、どうして神たる私が泣き言をこぼせるというのだ。
私は深呼吸をし、笑顔を作り直す。
これ以上待たせては皆を心配させるだろうし、アルガスに手厳しい文句を言われかねない。
適当な言い訳を考えながらザンデの身体に触れると、すぐさま夢の輝きが視界を包んだ。
- 360 :生き足掻く罪過の代償 3/10:2023/07/16(日) 00:04:44.66 ID:KshVSYi1F
- 塗り替えられていく風景は、古代の図書館もかくやと思わせる本棚の塔。
その中央にザンデが立ち、傍らにはアルガス、ウネ、ティーダ、ロザリーがいる――……
……ん?
「あの、リルムさんとマッシュさんは?」
「やかましいから隔離させたんだよッ!
魔力と喚くこと以外に取柄のないガキなんざ、会議の邪魔にしかならないだろうがッ!」
「……あー、はい」
本当に仲が悪いな。
性格面でも思想面でも境遇面でも一切合わないとなれば仕方のないことだろうが、とばっちりを受けたマッシュには同情を禁じ得ない。
本棚の一部にペタリと張り付けられたような奇妙な扉を見やりながら、私は小さく肩を竦めた。
「それより、何かあったのか?」
アルガスが微妙な表情でこちらをねめつける。
目つきこそ険しいが、思っていたよりかは静かな剣幕だ。
我々が起きている間にウネから事を荒立てない対応を学んだ――……というわけでもなさそうだな。
恐らく私の正体を知っているせいで、どんな態度で接すればいいのか判断しかねているだけだろう。
「大したことはありませんよ。
単純に、皆さんが全員夢の世界に隠れ終わるのを確認してから行こうと思っただけです」
「……」
ううむ……"そりゃあ俺を信用してないってことかッ?"って言いたげな顔をしているな。
「そりゃアルガスを最後にしたら何するかわかんねーっつーか。
ザンデの持ち物とか漁るかもしれないし、オッサンが心配になるのも当然じゃないか?」
「なんだとッ!? 誰がそんな野盗みたいな真似するかッ!」
ティーダが要らぬ口を挟んだせいでアルガスが興奮しだした。
この二人はこの二人で、本当に仲が悪いな。
マッシュじゃなくてティーダとリルムを同じ部屋に隔離すべきではないのだろうか。
……――などと考えていると、ウネが大きな杖をくるくると回して『ポカリ!』と若人二人の頭を叩いた。
「ほらほら、いちいち喧嘩を売ったり買ったりするんじゃないよ。
それよりティーダ、皆に相談したいんだろ?」
「あ、そ、そうだ!!」
ああ、なるほど。
共有すべき情報があるからアルガスも譲歩したのか。
彼の相談となればアーヴァイン絡みだろうな。
私の予測を裏切ることなく、ティーダはおろおろと話を始める。
- 361 :生き足掻く罪過の代償 4/10:2023/07/16(日) 00:06:29.79 ID:KshVSYi1F
- ――曰く、アーヴァインから相談を受けた。
――曰く、リュックが『ソロとアンジェロがセフィロスに操られている』と放送を流したらしい。
――曰く、アーヴァインは旅の扉を潜って以降セフィロスの気配を感じておらず、リュックの言葉を疑っている。
例によって言葉足らずではあるが、先ほどと比べれば普通に理解できる説明だ。
念のためティーダの魔力を通して過去を覗き見てみるが、ヘンリーの存在以外補足すべき点もない。
「なあ、死んだ奴の記憶ってザンデがいる場所に集まるようになってるんだろ?
それでセフィロスが生きてるのか死んでるのか調べることはできないのか?」
ティーダの言葉に、ザンデは「ふむ」としばし瞼を閉じ――やがて首を横に振る。
「記憶の結晶の有無を調べることは可能だが、生死の判定に使えるとは限らぬな。
例えば貴様やウネ、ピサロのように、精神体となって存在している者達の記憶は結晶化しておらぬ」
「無いから死んでいると決めつけられないってワケか?
だが、あるなら死んでると判断できるだろうッ?」
「それも難しいな。
アルガスよ、貴様が持っていた攻略本とやらを信ずるなら、セフィロスの身体を構成するジェノバ細胞とやらはリユニオンなる能力を備えている。
セフィロスたる部分を切り離し、ジェノバ細胞のみで他生命に寄生すれば……
恐らく『セフィロスとしては死んでいて記憶も結晶化しているが、実質的な意志は生きている』という状態に成りえるだろう」
「え、でも、それならアービンだって気づくんじゃ……」
「あの小僧の感知能力は分析しておらぬが、奴は元々セフィロスの手駒となるように改造されたのだろう?
セフィロス本人であっても奴の後継であっても、故意に支配を弱めて気配を悟らせぬようにするぐらいは十分可能なはずだ」
「なるほどな。だったらこういう可能性もあるってわけだ。
あの化物こそが完全にセフィロスに頭を持ってかれてて、そこの馬鹿にリュックを疑うよう吹き込んだ――ってなッ」
「はあ!? そんなことあるわけねぇっつーの!!
アービンは絶対正気だったし、ヘンリーだってピンピンしてたかんな!」
さすがにティーダの言う通り、アルガスの当てこすりめいた仮説が的中しているとは思わないが……
ザンデの話については否定できる要素がない。
さりとて、いかに『念晶体』と並びかねない大災厄と聞き及ぶ『寄生体』であっても、"あの"勇者ソロを易々と支配できるとは思えぬ。
「あの、ザンデ様。
いかに相手がセフィロスといえども、ソロ様ほどの方を操るなど難しいと思うのですが……
あの方は天空の勇者にして曲がりなき意思と曇りなき御心の持ち主、邪悪な意思にみすみす支配されるような方ではありません」
「あたしも同感だね。
ここで少し話を交わしただけだけど、ライアンやアリーナが言っていた通り真っ直ぐな子だったよ。
あの意志力はギルダーやサックスよりも上……何ならあの子ら四人全員集まっても勝てないぐらいじゃないかい?」
ロザリーとウネの主張に、男性陣の目が私へと向けられる。
「私の意見もお二人と同じですよ」、とおどけながら答えると、ザンデは「ふん」とどこかつまらなそうに鼻を鳴らした。
- 362 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/07/16(日) 00:07:14.51 ID:WDRVMfUPH
- しえん
- 363 :生き足掻く罪過の代償 5/10:2023/07/16(日) 00:09:27.89 ID:KshVSYi1F
- 「はんッ、人望があって羨ましい話だよッ。
だがな? 不測の事態ってのは、誰も予想できないから不測なんだッ。
盲目的に信仰するだけならそこの馬鹿でも平民でもできるッ、可能性ぐらいは頭に入れておけッ」
唯一アルガスだけが納得していない様子で言い放つ。
刺々しい言葉はしかし、私の犯した過ちを的確に射抜く。
ユウナに対して絶対の信頼を勝手においてしまったからこそ、異変の兆候を見落とした。
アーヴァインは気づいていたというのに、彼の行動に別の理由をつけてしまった。
そして盲目の信仰がもたらした事態は、私では対処できなかった。
認めたくなくとも、認めなければいけない正論だ――……が。
「まあ、あんたの言い分も正しいけどね。
それでも考え方は人それぞれだし、向き不向きもあるもんさ。
あたし達はソロを信じる路線で行くから、あんたが疑う路線を考えればいい。
知恵を出し合うのも人間の強さ、ってね!」
暗澹とした思考を吹き飛ばすように、ウネがカラカラと威勢よく笑う。
アルガスは呆れたように肩を竦め、「俺一人に押し付けやがって……」とぼやきをこぼした。
ほんの少しだけ雰囲気が和らいだのも束の間のこと。
例によって空気を読まずにザンデが口を開く。
「しかしいかに可能性を考えようと、所詮は机上の空論だ。
それに我らがここで何を論じようとも、リュックとやらを呼べるわけでもあるまい。
何より現世に留まっている連中とて赤子ではないのだから、この夢世界を利用することぐらい考え付くはずだ。
眠ったもの達と随時情報を交換し、真実を導き出した上で対処すべきだろう」
これまた正論ではある。
あるのだが…………割と難しいのではないか?
確かに現世に留まっている者達が眠ってくれれば我々と情報交換はできるが、そもそも"眠れる状況にあるのか"という大問題がある。
当たり前だが殺し合いの最中で夢を見るとなると、よほど安全な場所に隠れるか、仲間に見張ってもらって寝るしかない。
しかして今は世界を移動した直後、安全な場所を見つけ出せるほどの時間は経っておらん。
それにヘンリーとアーヴァイン、ソロとアンジェロ以外、誰が誰と行動しているかも不明だ。
最悪、旅の扉で全員バラバラにされて、先の三人+一匹以外全員単独行動を取っている可能性すらある。
よしんば複数名で行動できていたとしても、ケフカやセージが同行しているグループは寝る余裕などないだろう。
「ああ、正論だ。全くもってその通りだ。
物騒極まりない放送を聞いた後にいったい誰が眠りこけてくれるってのか、俺にはとんとわからないがなッ」
「アービンは寝ると思うッスよ? 俺呼ぶのに無理してたし、ヘンリーも後で眠らせるみたいなこと言ってたし」
いつもの調子で直球の皮肉を口にするアルガスに、ティーダがジト目を向けながら言い放つ。
しかし一瞬で顔を青ざめさせた相手の表情を見て気勢を削がれたのか、素直な方の若者はきまり悪そうに後ろ頭をかいた。
- 364 :生き足掻く罪過の代償 6/10:2023/07/16(日) 00:10:31.05 ID:KshVSYi1F
- 「はぁ……ザンデのオッサン、悪いけどベッドルーム作ってもらえないッスか?
さっき見たアービンはまだ元気そうだったけど、夢世界でどんだけ怪我してるかわかんねーし……
前みたいに大怪我してたら、リルムと同じ部屋に運び込むのもマズいっつーか」
「良かろう」
ザンデが夢の鍵を掲げると、既にあった扉の横に、別の扉が作られる。
やはり本棚に張り付いたような、いささか不格好な扉だ。
「いまいち使いこなせてないねえ、あたしの鍵。
アルガスの方が上手じゃないか」
「致し方あるまい! 私はお前と違って夢の世界など譲り受けておらんのだ!」
からかうウネと噛みつくザンデの剣幕に、巻き込まれてはたまらないと思ったのか。
「あ、ありがとなっ!」と短く礼を言ったかと思えば、ティーダはさっさと新しい部屋の中に逃げ込んでしまう。
残された我々三人は、お互いに顔を見合わせ――
アルガスは「はぁあああ……」と大きなため息をつき、ロザリーは「ふふ」と困ったような微笑みを浮かべた。
「あーあー、婆さん、話をややこしくするのは止めてくれよ。
それより魔女はまだ寝てるんだよな?
そこも逐一調べておいた方がいいんじゃないか?」
「む」
アルガスの指摘に、ザンデはすぐさま鍵の力を振るう。
すると今度は何もない空間に、奇妙な装飾のついた扉が現れた。
何度見ても慣れぬ、形容しがたい美しさと禍々しさが同居した夢の形。
私と同様、胸を撫でおろすアルガスに、どういうわけかウネがこつんと杖を向ける。
「アルガス、何度も釘を刺すけど今は絶対に中を覗くんじゃないよ」
「わかってる、わかってるってッ。
覗かれてる気配を感じ取られたら目を覚ますかもしれないってんだろッ。
俺はボケた爺さんじゃないんだッ、そんなに何度も注意されなくたってわかってるよッ」
常に一言多いことを忘れない若者は、手をひらひらと振りながら、うっとおしそうに顔を歪めていたが――……
何を思い出したのか、急に真剣な表情になって口元に手を当てた。
「どうしたんだい? スコールの真似かい?」
「そんなわけあるかよッ。
それより婆さん、俺の代わりに"でじかめ"を出せたりしないか?
せっかく他所の世界の神サマとやらに魔王の恋人様がいるんだ、例の事を聞いた方がいいだろう?」
「"でじかめ"……ああ、アレかい。
あんたの世界にある道具でもなかろうに、随分と気に入ってるんだねえ。
新しい物好きなんて、意外とかわいい所があるじゃないか」
「いちいち茶化すなッ! そんな性格だからうっとおしがられるんだろうがッ!
だいたい重要な話だってことは婆さんもわかってるだろッ、真面目にやってくれッ!」
……苛立ちを露わにする若者の背後でザンデが大きく頷いているのは、まあ、見なかったことにしておこうか。
- 365 :生き足掻く罪過の代償 7/10:2023/07/16(日) 00:11:47.28 ID:KshVSYi1F
- 「はいはい、最近の若いもんはこらえ性がないねえ。
さすがに"でじかめ"は無理だけど、あたしの見たものを映し出すぐらいはできるさね。
ほーれほれっと!」
軽快なウネの掛け声に合わせ、オウムがばさりと羽ばたく。
赤で彩られた翼は窓を形作るかのように宙を駆け、虹色に輝く軌跡を残して主人の肩へと戻った。
そして水面のように光が揺れたかと思えば、異様な光景が映し出される――
「こ、これは……」
ロザリーがごくりと唾を飲む。
幼き魔女。仮面の男。黒い水晶。数多の殺戮劇。
ザンデがこの映像の出典を問えば、昨日アルガスが覗き見た魔女の夢だという。
「ウネよ、心当たりは――」
「あんたにないものがあたしにあるわけないだろう?
それにこんなもの、ノアですら知らないって胸を張っちまうよ」
「……むう。確かに。
この水晶自体は、一昨日見かけた紛い物のクリスタルとよく似ておるが……
付随する装置部分は古代の技術とも現代式とも一致せぬな」
「紛い物のクリスタル? 風の祭壇にでも飾ってあったのかい?」
大魔導士の弟子達による語らいに口を挟む余地はない。
それどころか耳を傾ける余裕すらない。
何故ならあの水晶は――否、水晶の台座のごとく佇む装置は――……
「心当たりとかないのか?」
アルガスの声に肩を跳ね上げなかった己を褒めたい気分だ。
柄にもない自画自賛を考える私の横で、問いかけられたロザリーがしゅんと俯く。
「ええ……すみません。
ピサロ様なら少しはお判りになったかもしれませんが、ロザリーヒルではこのようなもの、見かけたこともなく……」
「役に立たッ……いや、仕方ないか。
魔女よりかは倫理観がまともな魔王サマだったってことだろうしな」
「え。……え、ええ。ピサロ様は本当はお優しい方ですから」
戸惑いを隠しきれぬ様子でいるのは、あのアルガスがすんなりと引いたからか、勇者ソロと和解する前のピサロの事を思い出したからか。
ともあれ愛想笑いを浮かべるロザリーに対してはそれ以上追及する気がなかったようで、若者の目は私へと向けられる。
「で、どうなんだ?」
猜疑心に満ちた眼差しは『仮にも神だというのに心当たりが無いなんて言わせないぞ』と主張している。
正直、『ロザリーに対する優しさを半分ぐらい分けてくれませんか』とおどけて答えたいところなのだが……
最低限の空気は読んでおくとするか。
- 366 :生き足掻く罪過の代償 8/10:2023/07/16(日) 00:13:41.53 ID:KshVSYi1F
- 「さて、難しいですね。
心当たりがないといえば嘘になりますが、あるとも言い難い」
「ふざッ……どういう意味だ?」
無理に気を遣わんでも構わんのだがね。
ふざけてこそいないが、煙に巻くつもりでいるのは確かなのだ。
「いやあ、私は少々長く生き過ぎておりますのでね。
端的に言えば、心当たりがあまりにも多すぎて絞り込める気がしないんですよ」
「多すぎる、だと?」
これ自体は別に不自然な話ではなかろうに――……いや、人の子からすれば理解しがたいか。
「アルガスさんが大事になさっている攻略本、あのコラムにもいくつか類似例が乗っていたでしょう?
人の絶望を糧とする魔王や邪神は数多いですし、真っ当な神であっても必要ならばやるという者はいます。
それに一介の人間や魔物に過ぎずとも、神に等しい技術を得て神のごとく振る舞う者も多いのです。
まあ私とて、その映像にある黒い水晶は見たことがありませんが……作りそうな者を上げるより、絶対に作らない者を上げる方が圧倒的に早いですよ」
アルガスに目を向けたまま、つらつらと言葉を並べたてながら、私はザンデに意識を注ぐ。
すでにウネとの会話を取りやめ虹彩無き魔眼をこちらに向けている、異界にて魔王を名乗りし男。
彼を信頼していないわけではないが、今回ばかりは信用できぬ。
攻略本に書かれていた内容――"永遠の命を求めて世界の時を止めた魔導師"という記載が真実であるならば。
「そう、なのですか……マスタードラゴン様には申し訳ないのですが、あまり想像できません。
私の知っている魔王はピサロ様とザンデ様ぐらいですし……」
「ロザリーさんが知っている神は私だけでしょうからね。
あくまで私が生まれる以前の話や、そもそも別の世界を治めている神から聞いた話も含めての事ですよ」
「なんだそりゃ。
同じ世界ならまだしも、わざわざ他所の世界に行って神サマ同士で交流してるってのか?」
「ええ。さすがに私は精霊達の世界や知人が治める世界へ散歩に出かける程度ですがね。
観光に来る神もいますし、遊び場所を借りに来る神もいますし、のっぴきならない事情で助けを求めにくる神もいます。
そういう友好的な神とは話をすることも多いので、ある程度は別の世界についてもわかりますよ。
最も夢幻世界――攻略本で"幻想世界"と括られている世界に関しては情報源が一柱に限られますので、さほど詳しくはないですが」
「ほう。その一柱とはどのような存在なのだ?」
上手いこと興味を引くことができたのか、ようやくザンデが口を挟んできてくれた。
してやったりと言いたいところだが、まだまだ油断はできない。
このまま話を続けて、ザンデの関心をあの装置から引きはがさねばな。
「光を司る幻獣の王であり、数多の世界を作り出した創造神でもある方です。
この方、神として地上に干渉するような真似は滅多にしないのですが、とある飲み物を嗜むことがお好きでしてね。
ルールの範囲で観光する分にはセーフと仰って、人間の姿でしれっと町中を歩いていたりするんですよねぇ」
「はあ……そのような神様もいらっしゃるのですか。
あ、もしかしてマスタードラゴン様のお姿は、その方に影響を受けて……?」
「いやあ、ははは」
- 367 :生き足掻く罪過の代償 9/10:2023/07/16(日) 00:15:03.80 ID:KshVSYi1F
- 「笑ってすまされても困るんだがなッ。
異教どころか異世界の神がそこらをうろついていているだなんて、教会に喧嘩売ってるようなもんだろッ。
異端審問に引っかかったらどうするんだ?」
「ああ、アルガスさんの世界はそういう所なんでしたっけか。
私は行かないから大丈夫ですよ。ええと、聖アジョラの御名において誓いましょう、ファーラム」
「おいッ。おいッ!」
――などと益体のないやりとりをしつつ、私は考えを巡らせる。
黒い結晶は見たことがない。それは事実だ。
だが、実のところ"装置そのもの"については心当たりがある。
それは我が永き生を持って尚、神話の時代としか表現できぬほどの太古。
もはや名を忘れられて久しく、勇者の称号にのみその片鱗を残す伝説の聖地に在ったという塔。
かの"装置"はその中にあり、失われし時の化身達が身を捧げ、時のオーブを紡いでいたという。
そして、そのオーブが勇者の剣によって砕かれし時、砕いた者のみが運命の軛より逃れ有り得ざる未来を切り開いたとも――……
……無論、魔女の夢の"装置"と聖地の"装置"は明らかに別物だ。
片や時の化身達に時そのものたる白き宝珠を紡がせるためのもの。
片や死者の魂によって黒き結晶を満たすためのもの。
根本的に設計思想が異なっている。
さりとてたまたま類似しただけの品かといえば、そうとも思えない。
魔女の夢に出てきた仮面の男が携えていたのは旧き勇者の剣であったし、己が望みのために結晶を砕こうとしていた。
特徴的かつ奇妙な共通点を、偶然の一言で片づける気にはなれぬのだ。
ならば、アレは何か。
私自身が最も納得のいく推論を述べるならば、アレは『聖地の"装置"の紛い物』だ。
何らかの理由で時を人為的に紡ぐために造られた模造品であり、死者の魂を燃料としなければならぬ欠陥品。
しかも前主催者とやらの様子を見る限り、その時は決して未来へと向かわない。
魂を捧げ続ける限り、繰り返さぬだけの今日を無限に続けるというだけの代物であるはずだ。
無論こんなものを使おうものなら、輪廻の輪に還るべき魂すら消費しつくして、世界の滅びを早めるだけだが……
既に滅びゆく世界であれば話は別だろう。
闇の氾濫か光の氾濫か、制御を失った元素に大地も空も神も魔も人も染め上げられ、時は滞り、新しい命が生まれず、全てを飲み込む無が迫る――
そんな状況ならば、異界の民を犠牲にしようとも足掻くことを選んだ者がいてもおかしくはない。
……それが神か魔王か人間かはわからぬがな。
もちろんこれらは推測でしかない。
私とて、神として知識を持っているというだけで、時のオーブや装置の実物を見たことは一度もないのだから。
それでももし、私の考えが的を射たものであったならば――
"永遠の命に焦がれるあまり世界中の時を犠牲にした男"が、"停滞した時を紡ぐためだけに数多の魂を犠牲にする装置"を悪用しないなどと、どうして言える?
- 368 :生き足掻く罪過の代償 10/10:2023/07/16(日) 00:17:21.26 ID:KshVSYi1F
- 魔女に反逆する志を持つという一点において、ザンデは信頼に足る人物だ。
たかが数日という限られた時間で旅の扉を魔女の城へ繋ぐ術式を開発し、スコールを送り出した手腕も認めよう。
けれどもこれは……こればかりはどうやっても、信用が置けぬ。
置きたくとも置けぬのだ。
だからこそ、装置そのものに意識を向けさせぬように。
その存在理由に思考を至らせぬように。
私が知っているという事実を気づかせぬように、言葉を紡ぐ。
――"あるいは、この判断こそ過ちかもしれぬ"という怖れを胸の奥に秘めながら。
【ザンデ(睡眠)
所持品:(E)水のリング、ドライバーに改造した聖なる矢、静寂の玉、メガポーション
第一行動方針:情報収集
基本行動方針:ゲームを脱出する】
【現在位置:会場外・コテージ】
【プサン(HP4/5、左腕負傷のため使用不能、首輪解除)
所持品:解除した首輪、錬金釜、隼の剣、黒マテリア、ミスリルシールド、メガポーション
第一行動方針:黒いクリスタルの装置について、情報を秘匿しつつ破壊手段を考える
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ロザリー(首輪解除)
所持品:(E)ルビスの剣、(E)守りのルビー、(E)力のルビー、(E)しっぽアクセ、破壊の鏡、クラン・スピネル、ウィークメーカー、
妖精の羽ペン、脱出経路メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、ブラスターガン、メガポーション、Gメガポーション×5
最終行動方針:ゲームからの脱出
※脱出経路メモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【アルガス(左目失明、首輪解除)
所持品:E.インパスの指輪、E.タークスの制服、E.高級腕時計、草薙の剣、カヌー(縮小中)、天の村雲(刃こぼれ)、ウネの鍵、メガポーション、コテージ×3
第一行動方針:黒いクリスタルの装置について対策を考える
第ニ行動方針:立場の確保
第三行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:会場外・コテージ/ザンデの夢世界】
【マッシュ(HP1/2、右腕欠損、首輪解除)
所持品:(E)命のリング、エリクサー、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3
第一行動方針:リルムの面倒を見る
最終行動方針:ゲームを止める】
【リルム(右目失明、HP9/10、MP1/2、首輪解除)
所持品:(E)絵筆、(E)炎のリング、フラタニティ、不思議なタンバリン、エリクサー、レーザーウエポン、グリンガムの鞭、暗闇の弓矢、ブロンズナイフ
第一行動方針:ティーダに協力する
最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:会場外・コテージ/ザンデの夢世界・隔離部屋】
- 369 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/07/16(日) 02:38:18.52 ID:9Kg585Wb2
- 投下乙です。
各種会場設定が着々と明かされていって、ラストバトルの布石を配してるって感じだなあ。
クリスタルではなくて装置のほうに着目して、とこしえの神殿との関係性を補強してくるのは着眼点がうまい感じ。
ザンデはもう完全に味方側ポジションだろと思ってたから、プサンのスタンスには納得しつつ、そうかそういう考え方もあるのか、と思ってしまった。
ユウナがあれだけ変貌したのなら、どうしてザンデが大丈夫と言えるのだというのは、いや、そうですね……としか。
言うほどユウナが変貌したかというと、そうか? ともなるのだけれども。
経歴的に信用されないのはまあ残当として、でも今回結構マスコットと化しているよね。
アルガスの背後で頷くのとか笑ってしまうわ。
アルガスはアルガスで、強い言葉を放とうとして言葉を選んでるのに笑ってしまう。
というか今回もアルガスは目の付け所が聡いね。
アルガスの『まず疑う』路線はこのメンバーの中だと本当に貴重だなあ。
- 370 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/07/17(月) 22:30:24.29 ID:tblvT00RT
- 投下乙です。こないだFF3クリアしたばかりだから色々と刺さるものがある…!
ウネさんほんと若い衆のおばあちゃんw
ザンデもモーグリ達に慕われる人柄だったんだよなぁ。
もし人の命で寿命がマッハにさえなっていなければFF3の世界はどうなってたんだろう?
アルガスの警戒心はバトロワという非常事態にはある意味大切なんだけど
態度と言葉さえ改めれば少しは信頼を得られるとは思うんだが
そうなっちゃったらアルガスの良さがなくなってしまうんだよなぁw
ウネさんが叱ったり、スコール班長が手綱とってくれてこそのアルガス。
- 371 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/08/05(土) 23:58:44.70 ID:OPckJOguP
- 遅ればせながら投下乙です!
興味深さを抑えられていないザンデに内心突っ込みまくるプサンが、本人の存在の大きさとのギャップがあって和んだ……
やってることはとんでもないのに、どこか安心感があるのがさすがとしか言いようがない。
内心の真面目な思考と、ちょっとフランクな思考が混ざり合ってるのが、臨場感を感じさせて好きだ〜
FFとDQの公式のクロスオーバー=神々の交流があるはず、というのは確かにという感じで、想像して楽しくなった!
舞台設定の絡み合いといい、クロスオーバーロワの醍醐味でイイ……!!
ザンデへの懸念は、彼が原作でしたことを考えれば確かにもっともだなあと目から鱗。
ユウナに関して見過ごしてしまったからこそ慎重になるプサンの判断が、吉と出るか凶と出るかわからなさ過ぎて怖い!!
毎回わくわくする展開をありがとうございます、今後とも応援しています!!
- 372 :Homines id quod volunt credunt 1/15:2023/09/29(金) 16:18:24.70 ID:8Gnv14aDb
- 「よーし、大丈夫。
近くには誰もいなさそうだ」
額に手をかざし、目を凝らしていたバッツが親指を立ててサインを送る。
俺は頷き返しながら木立の影を走り抜ける。
保健室から食堂へ。
中庭を突っ切れさえすればほんの数分で到着するような距離であっても、気が抜けねえ。
何せ放送が流れてから二十分以上……いや、もう三十分近く経っている。
ジェノバの野郎がどこにいるのか、そもそも誰の姿をしているのか――確定できる情報がない以上、慎重に行動せざるを得ない。
……結果論になるが、先に本物のバッツと合流できたのは良かったのかもしれねえな。
俺のG.F.――ケルベロスも不意打ちに対する『警戒』はできるが、殺気を嗅ぎ取るだけだから確実性に欠けるってデカすぎる欠点がある。
素直に襲い掛かってきてくれりゃ九割がた気づけるだろうし、それならまだ先手を取って戦略的撤退って手を打てるだろうが……
情報収集に徹されたらお手上げだ。
殺気も抱かず遠巻きに観察してくる相手まで吠えてくれるほど気の利く犬じゃねえ。
――もっとも、犬じゃなくてパンデモニウムだったとしても同じ欠点を抱えてるんだがな。
だが、ジョブとアビリティを使い分けられるバッツなら対応しきれる。
本職のシーフになりきっての卓越した斥候能力。
青魔導士とかいう魔物の技を覚えることに特化した魔道士、その眼力による『見破る』技術。
殺意や敵意に反応するだけのG.F.とは違う、鍛え抜いた人間の索敵術って奴だ。
現状においては掛け値なしに心強えし、逆にこんなチート能力がジェノバにパクられてたら最悪だった。
「それにしても走りにくいし、隠れる場所も少ないよなあ。
だいたいこの階段さえなければ普通に真っ直ぐ走っていけそうなのに、なんでこんな造りにしてるんだ?」
ベンチの裏から階段の真横へ、周囲を見回しながら移動するバッツがぼやく。
割と大きな声だが、こいつはリュックほどバカじゃねえ。
"間違いなく誰もいない"という自信と前提ありきでやってるんだろう。
俺は昔を――風紀委員時代を思い返しながら答えた。
「単に食堂側へ突っ切ることを想定してねえだけだ。
元々この建物はバカでけえ飛行型シェルターだから、浮いた時に取り残される場所がいくつかあるんだよ。
だからここの生徒も教師も、普段は通路を使って移動しろって厳命されてんだ」
ミサイル攻撃みたいなガチの有事が起きたら、いちいち校内に避難させてる余裕なんてねえしな。
通路にいれば急に飛行状態になっても助かるから、この校則だけは守るよう取り締まってくれって――
あのタヌキ親父の学園長が珍しく真顔で言ってきたもんだから、良く覚えてる。
- 373 :Homines id quod volunt credunt 2/15:2023/09/29(金) 16:19:34.83 ID:8Gnv14aDb
- 「まあ、さすがに外や訓練施設で重傷者が出たら悠長な事も言ってられねえから、保健室周りは出入りしやすくなってるけどな。
……ああ、あと学食も学生寮側に繋がる道はあったはずだし、駐車場も拡張されてっから夜までは正門側へ抜けられるな。
戦争も何もねえときに不便すぎると、それはそれで生徒や依頼人が減って困るだろって」
これはノーグ側の発案だったはずだ。
寮暮らしの生徒やSeeDはもちろん、教師や警備員も賛同したから言い返せなかったみてぇだが、シドだけは不満たらたらで愚痴をこぼしてた。
……俺? 俺は当然歓迎側だったぜ。
なんで寝起きで朝飯食いに行くのに、わざわざ校舎を通らなきゃなんねえんだよ。
パン食いたさにTボード持ち込んで爆走して植え込みに突っ込んだ、頭までチキンなバカ野郎以外は注意したこともねえな。
「なるほどなー……まさかこんな事になるなんて、作った奴も想像してないだろうしなあ」
「想像できる奴がいてたまるか」
などと言い合いながらも、俺達は学食前の通路までたどり着く。
普段は深夜以外開きっぱなしになってる両開きのガラス扉――だが、今は二枚とも硬く閉ざされていて、いかにも中で誰かが立てこもってますって風情だ。
バッツは首を伸ばしながら中を覗き込み……
「あれ? ラムザ達、いないな?」
と、首を傾げた。
セージの野郎はともかく、ラムザって奴は慎重な性格みたいだから、外から見えない場所に隠れてるだけかもしれねえが……
俺と同じく嫌な予感に駆られたのか、バッツは珍しく真顔になって扉に近づく。
だが、開けようとしてもカギがかかっているのかガチャガチャと音がするばかり。
「ああ、くそっ」とバッツらしからぬ悪態をつきながら、コンコンと小さいノックを繰り返す。
「ラムザ? タバサちゃん? いないのか?」
大きくはない、しかし強張った声を発しながら、焦った様子で語り掛けても反応はない。
いっそぶち破るか――? と俺が考え始めたその直後、ようやく一人の男がレジの奥側から姿を現した。
「すみません、ご無事でしたか」
アホ毛としか表現できない前髪と、それに反して聡明な顔立ちをした、俺と同年代の金髪の男。
間違いなくラムザだ。
扉越しに声をかけつつも、俺を見て険しい表情を浮かべていやがる、が……
(……考えるまでもねぇ。"初対面"なんだよな、俺は)
こっちはアルガスから散々話を聞いているし、何ならピサロの記憶もある。
顔だってリストで見てる上に、れっきとした協力者だって話も聞いてる。
だが、そんなもんはどこまでいっても俺の主観にすぎねえ。
スコールの奴も確認を取ってきたし、ご丁寧に釘を刺してきたけどな。
俺とこいつは、『マジで今まで一度も顔を合わせたことなんてねえ赤の他人』なんだ。
だからラムザの"態度"は正しい。
こんな暑苦しい上に、ただでさえ半乾きで生臭いってのにオイル臭まで吸い込んだダセェコート着てる野郎を初見で信じるバカはいねえ。
例えバッツやロックや亀から多少話を聞いていようとも、"みんなのなかまのサイファー"と目の前にいる俺がすぐに結びつくはずもない。
- 374 :Homines id quod volunt credunt 3/15:2023/09/29(金) 16:20:48.61 ID:8Gnv14aDb
- 「おい、バッツ。こいつがラムザって奴だよな」
「え? そんなの」
「ラ・ム・ザ、だよな?」
『サイファーだって知ってるだろ』とか寝言を言いそうな気配を察知した俺は、わざと語気を荒げて被せる。
それでバッツも理解したのか、狼狽えながらも調子を合わせた。
「あ、ああ。そうそう。
俺の仲間のラムザだ、"間違いない"」
どん、と自分の胸を叩きながらウィンクする。
もうちょっと自然にできねえのかと思ったが、まあ、本物なら大根芝居でも咎めることはないだろう。
そんな俺の予測通り、ラムザはあくまで俺に怪訝な視線を向けたまま、少しだけ警戒を崩して尋ね返す。
「バッツさん、そちらの方は?」
「安心しろって、俺の知り合いのサイファーだ。
顔は怖いけど信用できる奴だから心配ないぞ。顔は怖いけど」
いちいち二回言うんじゃねえよ。
スコールかテメェは。
「こんな状況でニコニコできるかよ。
……他の連中から多少は話を聞いてる。一昨日の夜、亀と一緒に人助けして回ってた奴だってな」
さすがに仲良くやろうってなら最低限前フリが必要だろう。
かがみこんで鍵をカチャカチャ開けてくれているラムザに話しかけると、少し驚いたように目をしばたたかせた。
「え? ……あ、え、ええ。
そういえば、そんなこともありましたが……僕は結局、最低限の手伝いをしただけで」
「その手伝いがなきゃ死んでた奴もいたはずだ。
……一応、代わりに礼を言っとくぜ」
ガルバディア野郎のことだ。夢の中ですら寝込んでるような奴に、頭を下げるタイミングなんざなかっただろう。
もちろん俺個人としちゃ、真人間だったうちに死んだ方が良かったんじゃねえかと思う気持ちはあるが――
それでもラムザとギードが救命措置をしないでアーヴァインが死んでいたら、この忌々しい首輪を解除する方法が一生闇の中だったことも事実だ。
「い、いえ。本当に大したことはしていないので……」
頭を下げ合う俺達を他所に、バッツは開け放たれた扉をくぐってずかずかと歩き、植え込みの縁に腰かける。
「ふー、疲れたぁ。
ところでラムザ、セージはどうしたんだ?」
いくらでも椅子があるんだからそっちに座れ――と言いたくなる気持ちを抑えながら、俺は食堂の中に入る。
ラムザはすぐに鍵をかけ直しながら、バッツの問いに答えた。
- 375 :Homines id quod volunt credunt 4/15:2023/09/29(金) 16:22:25.17 ID:8Gnv14aDb
- 「奥の小部屋に隠れていますよ。
セージさん本人が……というより、タバサちゃんとしての人格が強い恐怖を感じているようです。
先ほどの放送があったでしょう?
アーヴァインだけでなく、ソロさんまでも操られてしまうのであれば、次は自分が狙われるのではないかと非常に怯えていて……」
――なるほど。悪い判断じゃねえな。
俺としてもあの野郎に因縁つけられたくねえから、ロッカーの中でもベンチの下でも好きな場所に引っ込んでいてくれた方がいい。
「そんなに怖がってるのに一人にして大丈夫なのか?」
「そりゃ本当は大丈夫じゃないでしょうけど、外を見張っておかないといざというときに逃がせなくなりますからね。
それより、さっきの放送は何だったかわかりますか?
セージさんを呼ぶ前に、詳しい事情を把握しておきたいですし……ああ、それにサイファーさんにもこちらの状況を説明する必要がありますよね」
入り口の鍵をかけ直しながらも、チラチラと俺を見やりながら答えるラムザ。
その様は、知人の知人だから表向きは信用するが内心では警戒を崩さない――って態度そのものだ。
ロザリーやリルムが『演技力高すぎてバッツやソロとは比べ物にならない』と評していただけのことはある。
………いや、まあ、バッツはどっからどうみても大根だしソロも同レベル以下だからそもそも比べる方が間違ってるんじゃねえかって気もするが。
「とりあえず、あちらで座って話しませんか?
入り口から見えるところに固まるのは危険ですから」
ラムザは最もなことを言いながら、パーテーションの陰にあるテーブルを指し示す。
……って、ボヤキ三人衆の専用席じゃねえか。
こんな席に座るぐらいなら、さっさとレジ用のネットワーク機材を使ってノートパソコンを繋ぎ直したかったが……さすがに俺が会話に加わらないのは不自然すぎるだろう。
それにバッツ一人でジェノバ関連を説明できるとも思えねえ。
「わかった。ただ、俺はセージには会いたくねえし、ここでやらなきゃいけないこともあるからな。
色々めんどくせえ事態になってるが、野郎への説明はお前らだけで済ませてくれよ」
『気が進まねえ』という気持ちを押し殺し、俺は手を振りながらどっかと椅子に腰を下ろす。
ラムザはわずかに気圧された――ような演技をしたのだろう。
「え、ええ、わかりました」
苦笑交じりに頷いた頭の上で、跳ねた前髪がぴょこりと揺れる。
その動きに何となくスコールのうざったい髪を思い返した俺は、ため息を吐く代わりに顔を逸らしてカウンター側へ向けた。
食堂のおばさん達が書いてるメニューと、風神の注意書き――
嫌になるほど見慣れた文字が視界に入っちまったせいで、気づいた時には我慢したはずのため息がこぼれていた。
- 376 :Homines id quod volunt credunt 5/15:2023/09/29(金) 16:23:35.45 ID:8Gnv14aDb
- **************
『――みんな、聞こえる!? お願い! 聞こえて!!
あたし、リュック! 今、大変な事が起きてるの!!
1階のホールで、セフィロスがアンジェロの身体を使って、ソロを操ってる!!
ソロ達に近づかないようにして!! 近くにいたら逃げて!! お願いっ!!』
平穏な時間を打ち砕くように流れた放送が、僕の思考をひどく揺さぶる。
心臓の音だけが高らかに響く沈黙は、果たして何秒間だったのか、何分間だったのか。
内容だけを取ればあまりにも信用しがたく、しかし響き渡った声は悲壮ともいうべき必死さで満ちていた。
もしもこれが偽物であるなら超一流の役者に間違いないが、それよりは放送者が――リュック本人が『誰か』に騙されていると考えた方がよほど納得がいく。
その『誰か』として最も可能性が高いのは――……
「ラムザお兄さん、ど、どういうこと!?」
静寂を破ったのは少女の声。
振り向けば、『タバサ』の人格が狼狽えながら僕を見上げている。
その幼子然とした素振りからは、セージの思考など全く読み取れない。
だが、表出していないからといって彼本来の精神が眠りについているわけではないというのは、今までの態度からして確定的。
恐らく『タバサ』の影で熟考しているのだろうが――曲がりなりにも賢者を名乗っている彼である。
既に僕と同じ推論に辿り着いているかもしれない以上、早急に対応しないといけない。
「落ち着きましょう、タバサちゃん。
この放送が本物とは限りません。
もしこの放送が偽物だとすれば陥れられているのはソロさんですから――そうですね、疑わしきはケフカさんということになる」
「えっ、ケフカさん? ……そっちなの?」
あどけない少女の面差しに、突然似つかわしくない影が差した。
セージの人格だ。
不信に満ちた眼差しで僕を見上げているあたり、やはり彼はアーヴァインを疑っていたのだろう。
それも致し方ない。
他人に化ける道具を持っていて、セフィロスに操られているという実績がある上に、本物のタバサを殺した張本人なのだ。
僕ですら真っ先に脳裏に浮かんだというのに、彼が疑わないはずもない。
とはいえ、だ。
セージにとって不倶戴天の敵であっても僕達にとっては協力者の一人。
フラットな視線で考えれば怪しいことは確かだが、首輪解除の件まで考えれば、断じて早計に切り捨てていい人材ではない。
暴走される前に、何とか言い包めておく必要がある。
- 377 :Homines id quod volunt credunt 6/15:2023/09/29(金) 16:24:57.20 ID:8Gnv14aDb
- 「僕の知る限り、ソロさんという人物は極めつけの理想主義者で平和主義者です。
セフィロスにもアーヴァインにも説得を試みたソロさんが対話不能と断じたのはケフカさんただ一人。
ですから、逆説的にソロさんを消すメリットがあるのも彼だけでしょう」
「はぁ? あんな化物と話すなんてそんな奴――……
……ああ、うん、まあ、世の中広いし……たまにはいるかもしれないけどさぁ……いや、割といるかな……いるかも……」
……なんだかすごい歯切れが悪いな?
まさかいるんだろうか。他にも。ソロみたいな人が。
いや、誤解のないように言っておくと演技として当たりを強くしているだけで、僕個人としては彼のように理想のための努力を積み重ねている人は嫌いではない。
むしろ好ましいとさえ思う。本当は。
……本当だよ?
「ああいや、フルートとかリュカさんのことは置いておいて。
それより放送が本当だとは考えないの?」
ポロっと名前が出てるけど触れないでおこう。
「さすがにないですね。
セフィロスがそんなことをするメリットがどこにもない。
いえ、正確に言えば不意打ちの手段にはなるでしょうが、それを差し引いてもデメリットが大きすぎる」
これは断言できる。
セフィロスという男は利と理によって動く人間だ。
あまりにも常軌を逸した強さと冷徹さ、加えて人間を魔物に変えるという能力故に狂鬼めいて見えるが――
しかしウィーグラフの幻影に動揺し、プサンとの交渉に乗り、無害なカッパのふりをして潜伏することを選べる人間だ。
「いいですか? まずセフィロスがアンジェロの身体を乗っ取る理由がありません。
そもそもアンジェロは犬なんですよ?
セフィロスの強さは剣聖すら超える剣技と体術、それを支える身体能力だというのに、なんで全て捨てるんですか。
仮に瀕死に追い込まれて他人の身体を乗っ取る必要が生じたというなら、それこそソロさんやアーヴァインを直接乗っ取ればいいでしょう」
「え? 犬なの??
アンジェロって名前の人……じゃなくて?」
………そこからかあ。
珍しく驚きを隠さないセージの表情に僕は心の中で頭を抱える。
バッツとプサン以外、心配する人がいなかったから薄々思っていた事だけれど――……この人の交友関係、多分すごく偏ってるよね?
少なくとも僕ら以外でアンジェロのことを知っている人物とは、誰とも友好的に会話してないことが確定したわけだし。
「ええと、あの子は人間でもなければ魔物でもないしそもそも参加者ですらない、支給品扱いのペットですよ。
どうも飼い主の女性が殺し合いに巻き込まれたから一緒に拉致されたんじゃないか、って話でした。
確かに躾けも行き届いていましたし、犬とは思えないほど賢いし、無駄吠えもしない良い子でしたけど……
セージさんだったら、かわいいワンちゃんの身体を乗っ取りたいと思います?」
「なんでそこで僕に振るの……
やらないよ、好き好んで犬になるなんて」
ですよねー。
- 378 :Homines id quod volunt credunt 7/15:2023/09/29(金) 16:26:20.81 ID:8Gnv14aDb
- 「ああもう、からかわないでくれ……
タバサまで笑ってるし……いやそれはいいことだけど……
わかった、わかったよ、とにかく今の放送は信じなくていいってことはさ」
やったッ。
心の中でガッツポーズをとりつつ、僕は畳みかけるように言葉を紡ぐ。
「それにですね、そもそも今の声が本当にリュックさんだとも断言できません。
普通に会話しているときの声ならまだしも、叫び声なんて聞いたこともないですしね。
もちろん今生き残っている女性はタバサちゃんとリュックさんだけですが、それを逆手にとって女性の声音を使ったとも考えられます。
そしてリュックさん以外の誰かが偽名で怪情報をばらまいているのだとしたら、その目的は僕らの動揺を誘う事に他ならない。
僕は先ほど言った通りケフカさんを疑っているわけですが……
しかし誰の仕業であろうと、今は敵襲にのみ警戒を払って、あとは慌てず騒がず大人しくバッツさんの帰還を待つべきです」
タバサちゃんを不安にさせないためにもね――と付け加えると、セージも納得してくれたのか、冷たく澱んだ気配がすっと引っ込む。
入れ替わりに現れた少女は胸に手を当て、少し心苦しそうに俯いた。
「あ、あの、ラムザさん。
……本当に、ここで待ってて、大丈夫なんですか?
バッツさんを助けに行ったりしなくていいんですか?」
きっとそれは純粋に心配の念から出た言葉だったのだろう。
しかし残念ながら、僕としては彼女の意見を受け入れるわけにはいかない。
「大丈夫。バッツさんはああ見えてとてもすごい人だからね。
それに軽率に僕達がここを離れたとして、その間にバッツさんが戻ってきたら、逆に心配をかけちゃうだろう?
ついでに言えば、もし入れ違いが重なっちゃったら合流できなくなっちゃうしね。
何よりここは入り口と裏口があるから逃げ道も確保できるし、建物自体も頑丈そうだし、食料も飲み物も揃ってる。
どう考えても他より安全な場所だから、ここで待っていた方がずっといいよ」
見た目は幼くとも彼女は賢しい子――という設定のはずだ。
あえて簡単な言葉は使わず、大人の女性に接するようにしっかりと説得する。
『タバサ』は青い瞳を僕に向け、じっと耳を傾けていたけれど、やがて渋々といった様子で頷いた。
「ううん……セージお兄さんも、ラムザお兄さんに賛成するって。
でも、戸締りして、外や窓から見えない場所にいた方がいいんじゃないか、って言ってます」
なるほど。もっともな意見だ。
「じゃあ、厨房の方に隠れようか。
注文口側との境にいれば入り口もギリギリ監視できるし、万が一裏口から扉を入って破ってこられてもすぐに逃げ出せるからね。
鍵は僕がかけてくるから、タバサちゃんは何か飲み物を用意しておいてほしいかな。
なにせたくさん喋ったから、喉が渇いちゃってね」
- 379 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/09/29(金) 16:27:28.67 ID:kGTU1or9d
- しえん
- 380 :Homines id quod volunt credunt 8/15:2023/09/29(金) 16:31:15.44 ID:8Gnv14aDb
- 話術士になるとどうも必要以上に多弁になるんだよね。
今回ばかりはセージが独走しないよう説得する必要があったのも事実だけど――十分近く喋ってたんじゃないか?
喉をさする僕に、『タバサ』は可愛らしく笑いながらきゅっと両手を握る。
「ふふ、わかりました!」
朗らかな女の子らしく――しかしまあ、中の人のことを考えるとそれでいいのかなあと思いはあるけれど――微笑む姿に見送られ、僕は裏口へ向かう。
いくらすさまじい技術力の世界とはいえ、さすがに内鍵は複雑な造りじゃないだろう。
そんな僕の予想通り、ドアノブの上についたつまみを捻るだけで無事に施錠できた。
数秒もかからない単純作業だが、なんとなく「ふぅ……」と息を吐いた――その時。
どん。
と、少し離れた場所から物音がした。
竜騎士の着地のような重量感はない。
さりとて小石のような硬質感もない。
例えるなら、大き目の猫や小型犬が屋根に飛び降りてきたような――
……そういえば、今までの世界にも鳥や虫といった小動物はいたっけな。
魔女が監視の目とするためにわざと放った可能性があると言われたから、今朝からは見つけ次第殺すようにしていたけど……
セージにはどうやって説明しようか。
虫だったら昨日ヘンリーが使った言い訳を流用させてもらえば問題ないけれど、さすがに犬や猫だとなあ。
狂犬病の疑いがーーとか言うしかないかな? ところで狂犬病って言ってわかってもらえるのかな?
そんなことを考えながら厨房に戻る。
中央に鎮座する大きな調理台の上にコップが二つ置かれていて、リンゴのジュースらしき液体がなみなみと注がれている。
……いや、正確に言えば片方は少しだけ減っている。
しかしそれを咎めるのも宜しくないだろうな。
僕は不自然に唇を濡らし、目を逸らしている『タバサ』には何も言わず、入り口に向かう。
ほっ、と胸を撫でおろす音が背後から聞こえ――
その直後、渡り廊下の天井に人影が落ちた。
- 381 :Homines id quod volunt credunt 9/15:2023/09/29(金) 16:33:40.62 ID:8Gnv14aDb
- 「!?」
僕は半ば反射的に剣を構える。
採光用にはめ込まれたであろうガラスの天窓、そこからこちらを覗き込むヘーゼルの瞳と銀色の髪。
その人物が誰か僕が思い至るよりも早く、彼は音も立てずに地上へと飛び降り、嬉しそうな顔をガラス戸越しに向けた。
「ラムザ! 良かった、無事だったのか!」
「……ロックさん?!」
鍵をかけるはずだった扉を開け、彼を中に迎え入れる。
シーフを思わせる身軽そうな服にバンダナ。
今朝見かけた時と変わらない姿だが、あの時ほど切羽詰まっていないせいか、心なしか整っているように思える。
しかし当の本人はガリガリと頭を掻き、せっかくの服装が乱れるのも構わずにシャツの胸元を使って顔を扇いだ。
「ああ〜マジ焦ったぜ。
間に合わなかったらやばいどころか大戦犯だからな、俺」
いったい何があったのだろう、ひどく焦っているようだ。
しかし僕が問いただすより早く、『タバサ』が奥から声を上げる。
「あ、あの……ロックさんって、あの化物を助けに行った人ですよね?
いったい何しに来たんですか?」
震える声音は怯えや警戒を通り越して敵意に近い。
まずいな。
何とか宥めすかしたいけど、今は彼の話を聞くことを優先しないと。
「大丈夫、落ち着いて。ロックさんは悪い人じゃないよ。
それより何があったんですか? あの放送は一体?」
あえて扉を閉め、鍵をかける。
アーヴァインさえ近くにいないとわかれば、セージも多少は落ち着くだろう。
念のため、タバサに近づきすぎないようロックにも目配せを送る。
彼は軽くうなずくと、注文口のカウンターに身体を預けた。
「ああ、安心しろ。俺は一人だし、今はお前らを助けるために来たんだ。
――っつってもどこから説明すればいいか……
とりあえず結論から言うけど、あの放送はデタラメなんだ」
そう言いながら、首を伸ばして中を覗き込んだ彼は「あ、いいものあるじゃん。俺にもそれくれ」とジュースを指さす。
固まる『タバサ』に、僕は仕方ないなと思いながらも厨房に入った。
- 382 :Homines id quod volunt credunt 10/15:2023/09/29(金) 16:36:00.26 ID:8Gnv14aDb
- 「ねえタバサちゃん、僕達が話している間、裏口側を見張っていてもらえないかな?
もちろん入り口側は僕とロックさんで見張ってるから大丈夫。
何か物音がしたら教えてくれれば一緒に逃げるし、逆にあっちから敵が来たら教えるから先に逃げていいからね」
「は、はい」
『タバサ』に飲みかけのジュースを渡し、裏口側の通路近くに移動させてから、ロックを招き入れて僕の分だったジュースを渡す。
いつまでも入り口から丸見えの場所に立たせていたら、隠れている意味がないだろう。
それにセージだって彼の話を聞く重要性は理解しているはずだから、ある程度の距離と逃げ道が確保できている状態ならそうそう暴れ出したりはしない――と信じたい。
「ありがとな! ……ぷはー、生き返るぜ!」
ロックは遠慮なくジュースをごくごくと飲み干し、口元を拭う。
そしてすぐさま天井を仰ぎながら話し出した。
「あー、どれだけ余裕があるかもわからないから、まず要点だけ言うぞ。
絶対わけわからねぇと思うが、俺にもよくわかってないからツッコミは後にしてくれ。
まず、セフィロスは死んだけど、アーヴァインの偽物がいる。
そいつがリュックを騙してて、本物のアーヴァインは多分ヘンリーと一緒にいる」
……ん?
「偽アーヴァインはソロに成りすますこともできるみたいだ。
下手すると二人以外の……それこそ俺やサイファーやリュックに化ける可能性もあるかもしれない。
で、奴の目的は全くわからない。でもセフィロスが進化の秘法かなんかを使って作った魔物なのは間違いない。
放送の内容からして、ソロを殺す気なのも間違いない」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」
さすがに予想外が過ぎる。
思わず口を挟んでしまった僕に、ロックは大きく肩を竦め、一方で『タバサ』もといセージが「本当にわけのわからない説明をしないでくれる……?」とこぼす。
「あの、まずソロさんに成りすませるアーヴァインの偽物って何ですか?
なんで本物のアーヴァインがヘンリーさんと一緒にいると?」
ひそひ草で連絡を取ったなら、"多分"なんて表現はしないはずだ。
僕が疑問の根拠を口にするより早く、ロックが答えた。
「ええと、サイファーが石化されたって話は――ああ、あの時いたのはヘンリーだけか」
「いや、その話は僕達も一緒にいたから聞いてます」
「あ、そうなのか? じゃああの後、サイファーを治療している間にソロとヘンリーがセフィロスとドンパチを始めたんだ。
つっても結構離れてる場所だったから、祠に向かいながらすっげぇ魔法を連発して戦ってることしかわからなかったんだけど。
でも一度静かになって、その時にひそひ草からヘンリーの声が聞こえたんだよ。
『先に行く! 信じてるからな、ソロ!』ってな」
似せる気がないとしか思えない声真似を披露した彼は一息つくと、ちらりと入り口の方を見ながら言葉を継ぐ。
- 383 :Homines id quod volunt credunt 11/15:2023/09/29(金) 16:38:30.64 ID:8Gnv14aDb
- 「で、それからしばらくしてサイファーの石化がやっと解けたってところで、祠の近くに超デカイ雷が落ちた。
さすがにヤバイ感じだったから、サイファーだけ先に行って、俺とリュック、ギードとケフカの順で分かれて祠に向かうことにした。
そしたら、祠の近くで、半身が竜みたいになったアーヴァインがうずくまってたんだ。
そいつはセフィロスに進化の秘法を使われて、支配が緩んだ隙にセフィロスを殺そうとしたけど、ソロに襲われて逃げてきたって言ってきてさ」
「……その、あからさまに怪しい化物の言うことを信じたの?」
思いっきりジト目で睨んでいるのが容易に想像できるセージの声に、ロックは「だってさ」と後ろ髪を掻きむしった。
そしてオーバーリアクションな仕草でため息をつくと、僕に助けを求めるような視線を送りながらまくしたてる。
「そりゃセフィロスの目的が元から進化の秘法だったわけだし、本物のあいつ自身、必死に洗脳に抗ってたんだぜ?
有り得ると思っちまったわけだよ、俺もリュックも。
だけど希望の祠に着いてサイファーと合流した直後に、そいつが突然怯えだしてリュックを連れて旅の扉を潜られて――
で、追っかける前に水の中見たら、当のセフィロスが死んでるし。
ギードとケフカはひそひ草でソロと話したっていうけど、そのソロはセフィロスと一緒に旅の扉を潜るって伝えてきたっていうし」
……なるほど。
確かにあまりにもよくわからない状況だけれど――
「ひそひ草で話したソロさんが偽物で、リュックさんを連れ去ったアーヴァインも偽物だと考えれば辻褄が合う、と?」
「そういうこと。
ヘンリーの性格からして、ソロを置いていくならそれ相応の理由があるはずだしな」
確かに、ヘンリーが本物のアーヴァインを救出した後に偽アーヴァインが生み出されたと考える根拠にはなる。
しかし……偽アーヴァインがソロに成りすませる、と判断した理由はなぜだろう。
単純に偽アーヴァインと偽ソロが別々に存在する可能性もあるし、そちらのほうが脅威は高いと思うのだけれど。
――そんな僕の考えを読んだように、ロックは"ちっちっ"と指を振った。
「それにもし偽ソロと偽アーヴァインが別々にいるなら、わざと殺し合うフリしてそれぞれに味方を作るだろってケフカが言ってきてさ。
ついでに言えば、偽ソロは突然連絡を打ち切って、そのタイミングがどうも俺達が偽アーヴァインを発見した時だったらしい。
そういうわけで偽アーヴァインはあくまで一匹で、ソロの声とアーヴァインの姿を使い分けてるんじゃないかって結論になったわけだ。
まあソロの声マネしかできない可能性もあるっちゃあるけど――他人の姿に化けられる可能性まで考えておいた方が、最悪の事態の備えになるだろ?」
……それはまあ、確かにそうだ。
敵の能力を甘く見積もるよりは、穿ちすぎなぐらいに考えておいた方が、往々にしてフォローが効く。
「しかし、ロックさんはどうしてここへ?
さっきの口ぶりだと、僕達がここにいることを知っていたようでしたが」
夢世界で連絡を取る暇はなかったから、ここに僕達がいるということを知っているのはバッツだけだ。
もし彼と先に接触したなら一緒に戻ってくればいいはずだ。
そんな僕の予想を笑い飛ばすように、ロックはニヤリと口の端を歪ませた。
- 384 :Homines id quod volunt credunt 12/15:2023/09/29(金) 16:40:54.09 ID:8Gnv14aDb
- 「そりゃサイファーのおかげだよ。
この建物、バラムガーデンって言ってあいつが通ってる傭兵学校なんだよ。
だからそこかしこに監視カメラってのがあって、守衛室とか学園長室とか、いくつかの場所で色々なところの映像を見れるんだ」
「「えっ!?」」
僕と『タバサ』の声が重なり、一瞬後、パリンとガラスが砕ける音が響く。
きっとコップを取り落したのだろう――が、さすがに『タバサ』を責める気にもなれない。
まさかそんなものがあるなんて……これ、隠れても無駄なんじゃないか?
「さすがにカメラではっきりどこにいるかわかったのはお前ら二人と、アーヴァインとヘンリーだけだったけど。
リュックが放送流しただろ? あれでソロの居場所と、ついでにリュックの居場所も絞りこめたからさ。
サイファーはソロと本物のアーヴァインを助けに行って、ギードはケフカを連れてリュックを止めに行ったんだ。
で、俺はお前らに情報を伝えに行くよう頼まれたってワケ。
偽アーヴァインの狙いがソロだけならまだいいけど、セー……じゃない、『タバサ』だって狙われるかもしれないだろ?
実際セフィロスもケフカも隙あらば利用する気満々だったわけだしな」
「そ、そんな……」
『タバサ』がぶるっと身を震わせる。
まずい。下手に怖がらせすぎるとセージがどう動くかわからない。
「ああ、そんなビビらなくても大丈夫だって。
そうさせないために俺がすっ飛んできたんだからな。
いやー大変だったんだぞ? 偽アーヴァインに絶対に見つからないルートを使わないといけなかったからさ。
最上階の窓から外に飛び出てロープ無しの逆クライミング! いやさもうラぺリング?
飾りだらけな上に良い感じに傾斜の付いた構造だからいけるかもって思ったけど、途中でやらなきゃよかったって思ったね」
何やってんのこの人。
いや本当に何やってんの?
「ま、まあ、俺の華麗な技のおかげで圧倒的な短縮ルートを開発できたんだ。
大丈夫。俺の伝説、城大爆発からの超速射出ギードでスタイリッシュ着地よりはまともだから大丈夫」
何やってたのこの人。
ギードってあのギードだよね?
彼って超速射出させられるものだっけかな?
ちらと『タバサ』の様子を伺えば、心なしかげんなりしているように思える。
いやあの目つきはセージの方かな……何だろう、まさか件のスタイリッシュ着地とやらに心当たりでもあるんだろうか?
「あんな高速飛行ガメゴンよりトンチキな移動手段開発されても困るよ……」
……なんか、あったっぽいなあ。
僕は額を抑えたい気分に駆られながらも、平静を装って別の話を振る。
- 385 :Homines id quod volunt credunt 13/15:2023/09/29(金) 16:41:44.43 ID:8Gnv14aDb
- 「ええと、だいたいの話はわかりました。
ですが、どうします?
僕としてはバッツさんが戻ってくるまでここで持ちこたえたいですが、居場所がバレているかもしれないとなれば話は別です。
ここを放棄すべきか、引き続き立て籠もるべきか……ロックさんの意見を聞きたいのですが」
本当はアーヴァインの居場所を聞きたいのだけれど、セージの前で直接それを話すわけにはいかない。
そんな僕の意を汲んでくれたかどうかはわからない――が、ロックは入り口と『タバサ』を交互に見やりながら頬を掻いた。
「あ、ああ。まあ、そうだな。
……今はまだ、立て籠もってもいいんじゃないか?
ここ、訓練施設とは反対側だしな」
……訓練施設?
そこにアーヴァインがいるんだろうか。
なんとかもう少し詳しい話を聞けないか、僕が言葉を考え出した、その矢先。
急に、ロックの視線が一か所に止まった。
「ロックさん?」
入り口を見つめたまま表情が消えた彼、そのただならぬ様子に僕もまた視線の先を追う。
木立の影からきょろきょろと顔をのぞかせているのは、バッツと――
「……サイファー?」
思わず声を上げた僕の口に、ロックの手が伸びる。
大声を出すなと言わんばかりに制止する手――そして彼は、強張った表情のまま鋭い声音で囁いた。
「違う。サイファーはソロと一緒に訓練施設に向かったはずだ。
あいつらを放ってこっちに来るわけない」
「――!!」
たった今聞かされたばかりの偽アーヴァイン。
"他人に成りすませるかもしれない怪物"という情報上の存在が現実となって近づいてきたという事実に、思考がパンクしそうになる。
ダメだ。
冷静になれ。
まずはセージを無事に逃がさないと。
そう思って振り返ってみれば――小さな姿が消えている。
そして同時に、遠くで『カチャリ』と鍵の開く音。
- 386 :Homines id quod volunt credunt 14/15:2023/09/29(金) 16:42:48.35 ID:8Gnv14aDb
- 「……は? え? マジか?」
『呆気にとられた』としか表現しようのない声で呆然と呟くロック――彼も焦っていたのだろう。
そもそも僕がここに来るはずのない人物の名前を出した時点で、ある程度頭の回る人物なら事態は察せられる。
そしてセージは心を病んでいても聡明なことには変わりない。
偽サイファーに見つかる前にさっさと逃げる――ああ、半ば方便とはいえ事実として僕もそれを勧めたわけだし、正しい判断ではあるのだろう、けれど。
「くそ、あんなイカレ野郎一人に出来るかよ!
俺がセージを追いかける!
ラムザ、お前は偽サイファーを食い止めて、バッツを何とか助けてやってくれ!」
反論を挟む余地も暇もなく、ロックは裏口へと駆けていく。
すさまじい無茶ぶりではあるけれど……これもまた正しい差配だ。
三人で逃げるより、誰かが足止めをした方が時間を稼げる。
そして偽サイファーの目的を探るにも、バッツを説得して引き離すにも、話術士である僕の方が適役だ。
遠ざかっていく足音を背に、僕は大きく息を吸う。
そして意を決して入り口に近づき、ガラス戸越しに手を振るバッツに声を掛けた。
際限なく高鳴る心臓の音に気付かれないことを祈りながら。
「――すみません、ご無事でしたか」
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)
所持品:(E)アダマンアーマー、(E)テリーの帽子、(E)英雄の盾、(E)ブレイブブレイド、エクスカリパー、ドライバーに改造した聖なる矢、
スタングレネード×1、ドラゴンテイル、バリアントナイフ、メガポーション
第一行動方針:セージ達が逃げる時間を稼ぎつつ、バッツと偽サイファーを引き離す/ソロ、ギードたちと再合流する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【バッツ(MP3/5、ジョブ:吟遊詩人 青魔法【闇の操作】習得)
所持品:(E)アポロンのハープ、(E)キャットガーダー、うさぎのしっぽ、アイスブランド、メガポーション
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)、ドライバーに改造した聖なる矢
おしゃれな壁掛け時計、IDとパスワードのメモ、メモ帳と筆記用具
第一行動方針:サイファーと協力してジェノバに対処する/ソロに会ったら謝る
第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
備考:首輪の解体方法を覚えました】
【サイファー (職業:魔剣士 見た目:ピカレスクコート(黒)@DQR 右足微傷)
所持品:E破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、キューソネコカミ、ひそひ草、ノートパソコン
第一行動方針:ラムザに状況を説明する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ソロやアーヴァイン達を保護し、ジェノバを倒す/バラムガーデンと連絡が取れたならサーバーを確保する
基本行動方針:ケフカを除く全員の生存を優先/マーダーの撃破
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ピサロの記憶を継承しています】
【現在位置:バラムガーデン・学生食堂】
- 387 :Homines id quod volunt credunt 15/15:2023/09/29(金) 16:44:08.07 ID:8Gnv14aDb
- 【セージ(MP4/5、人格同居状態)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、ボムのたましい
イエローメガホン、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、
聖なるナイフ、マテリア(かいふく)、陸奥守、マダレムジエン
第一行動方針:"タバサ"を害する存在に対処する
基本行動方針:セージではなく"タバサ"が生きているという正史≠紡ぐ。基本的に"タバサ"に任せる。
最終行動方針:"タバサ"の安全を確保した上で、自分は消える】
"タバサ"(人格同居状態)
第一行動方針:逃げる
第ニ行動方針:ギードたちと合流して、セージを【闇】の大元へ連れて行く
基本行動方針:セージを助ける
最終行動方針:セージに復帰してもらい、自分は消える】
【現在位置:バラムガーデン・学生食堂→???】
【ジェノバ@ロックの姿
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:セージを追う
第二行動方針:利用できそうな生存者に寄生し、ケフカを殺してセフィロスの腕を入手する
第三行動方針:ソロをセフィロスコピーに変えて操り、真実の力を掌握する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置:バラムガーデン・学生食堂→???】
- 388 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/09/30(土) 12:36:46.67 ID:zSmrSyw/n
- 投下乙です!!!!!!!
いや〜何事もなくサイファー・バッツとラムザ・セージ合流できたようでよかったよかった、
ラムザの演技さすがだなあなんて思っていたら後半全部の印象をひっくり返されて驚いた!
視点の違いで印象とか解釈が異なるのは当たり前だけど、自然に騙されてしまった……
読み手もここまで生き抜いたキャラたちの思考や前提をある程度把握しているからこそ、
視点の違いをはっきり理解できるのがすごく面白い!
前半は演技だと思っていたラムザの表情の硬さが、実際は取り繕えないほど本気だったことがわかるのゾクゾクするなあ……
ラムザは冷静で有能で頼れるけど、ジェノバのほうが先手とったかーうわー!と叫んでしまった。
偽物だと思ってるサイファーを留めるために時間稼ぎに会話をするだろうけど、
その間にセージとジェノバがどうなってしまうかもわからなくて……
ここにきてぐっとジェノバが攻勢を仕掛けた感じがあって、これからどうなるのか更にわからない!!
めちゃくちゃハラハラしました! 今後とも応援しています!!!
- 389 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/09/30(土) 22:17:07.67 ID:GGxXT6bpO
- 投下乙です。
いや、これはすごい。
初対面のラムザの態度、そういう意味なのかと印象がひっくり返る。
ちょうどFF8世界だから例えれば、アーヴァインの魔女暗殺ミッションで『撃てない』理由が後からひっくり返ったような、そんな精巧なレトリックが使われている感じ。
前半のパートでは、サイファーが『現実の世界ではちょっと話聞いただけの初対面だから警戒して当然だろう』という思考に至っている、これまでの積み上げからも自然な心情描写をおこなっているのに対して、
後半のパートでは『すでにジェノバに会っており、先に偽情報を掴まされていたからこその警戒』という補強があり、見事に一話の中で伏線が機能している。
さらにジェノバ本体の話の内容も、ラストのサイファーの位置関係以外はほぼ正確なので、
784話でロックに化けたのもあって、さてはここで読者を騙そうとしているんだな? と穿って読んでしまう。
これがさらに偽装になって、ラムザの態度のほうまで考えが回らなかった。
二重の隠蔽と情報開示による一話内での伏線回収、見事でした。
内容的には、ジェノバはすごくうまくやってるが、セージが外聞もなく逃げ出したのは想定外なんだろうなあ。
ただ、そのおかげでセージと一対一になるチャンスとサイファーの計画を知れないリスクが同時に生まれてしまったわけで、事態がさらに混迷してきた感じ。
ガーデンまわりの建築とか校則のらしさ描写も引き続きうまく、読み応えのある一作だった。
セージの友好関係どうだったかなと見返してみると、確かに遭った人は意外と少ない。
みんな死んでしまったんだよなあ、とも言えるのだけれども。
- 390 :トラウマスイッチ(連鎖式) 1/15:2023/12/06(水) 16:54:22.60 ID:5n+/hRHYp
- "うーん、まさか秘密の場所に目をつけるなんて思わなかったなぁ。
私としたことがふ、不覚〜……"
虚ろな足取りのアンジェロに寄り添い歩きながら、リノアさんが大げさな身振りで頭を抱える。
もちろん彼女の姿や声が聞こえているのは僕だけ――のはずなのだけれど、
「そういやソロ、お前ら今までどこにいたんだ?
もしかして訓練施設から歩いてきてて、ヘンリー達と行き違いになったとか?」
"もしかしなくてもそのとおりで〜す"
タイミングと察しの良すぎるロックさんの発言に、リノアさんが応えるものだから、会話が成立しているように錯覚してしまう。
さすがに笑ったりできるほどの余裕はないけれど……
圧倒的な窮地の中、味方になってくれる人がいる。
今は、その事実が何よりもありがたい。
「そうです。僕は、駐車場っていう……こう、金属製の馬車みたいな乗り物がいっぱいあるところに飛ばされて」
"……えっと、たぶん自動車のこと言ってる?"
「あ、はい。ジドウシャっていう乗り物みたいです。
で、そこから出て、とりあえず近くの場所を探そうと訓練施設に入ったところ、アンジェロに会いました。
それで僕と出会う前にアンジェロがいた場所が、件の『秘密の場所』だそうです」
「なるほどなー……そりゃお前も驚くわ。
だいたいホールで繋がってる構造なのにどうやって入れ違うんだ? ってなるよな。
まあ外から回り込んだんだろうけどさ」
"気持ちはわかるけど、正々堂々と向かってきてほしかったなあ。
あ、でもそうするとジェノバのヤツがアーヴァインにちょっかいかけてたかもしれないのか……
あーもう、あのニセモノモンスター! 人に化けるなんてどこの影武者よ! 次会ったらフェニックスの尾ぶっつけてやるんだからね!"
ふぇにっくすのおってなんだろう……?
よくわからない道具の姿を想像しながら足を進めるうちに、僕達は何事もなく図書館へ辿り着く。
――『図書館』だ。『図書室』ではなく。
「はぁー……これまたすごいな」
扉を開けて館内に足を踏み入れたロックさんが、唖然とした表情のまま首を横に振る。
僕だって、天空城の蔵書室を見たことがなかったら彼のように圧倒されていたかもしれない。
なにせ本棚の一つ一つが、あまりにも常識はずれな大きさなのだ。
横も縦も僕の身長の倍はある。
サイファーだって、本気でジャンプしない限り最上段の本は手に取れないだろう。
そんな棚の怪物とでもいうべき代物が二つ横並びになって、背中合わせにもう二つあって、その塊が全部で三つもある。
それなのにどの棚も本が隙間なく収まっていて整然と整理されているのだから凄まじい。
こんな場所、それこそ天空城しか比較対象に出せないぐらいだ。
……でも、リノアさんの話によれば、ここは傭兵を育てる学校でしかなくて――
- 391 :トラウマスイッチ(連鎖式) 2/15:2023/12/06(水) 16:55:57.93 ID:5n+/hRHYp
- 「これだけ本を揃えて天窓付けるってのもどうかと思うが……
どうせパッと見でわからないってだけで、日光対策とかしてるんだろうな」
"おおっと鋭い。
ここの窓はぜーんぶUVカットガラス使ってるから日焼け対策は完璧なのです。
空調もしっかりしてるからとっても過ごしやすいし、本もいろんなジャンルが揃ってるから私的にはイチオシスポット!
……でも食料とか飲み物がないんだよねえ。図書委員さんがいればこっそりおやつ分けてもらえるんだけど"
ゆーぶいかっとがらすってなんだろう……??
ジドウシャもだけれど、この世界、色々なものがすごすぎて理解できないことが多すぎる。
……そういえばアーヴァインもレーベでこぼしてたっけ。
『どこのド田舎か知らないけど、ちょっとこれは田舎すぎてついてけな〜い』って。
王侯貴族でもないのに火打石とか薪とか竈とか一切使ったことないなんて、どういう暮らししてたんだろうと思ったけど……
これが基準なら仕方ないな、としか言えない。
"それにしても不思議だよね"
「そうですね」
"声はするのに姿が見えないなんて、映画か小説の中だけだと思ってたのに。
透明人間は実在した! ってオカルトファンに投稿したら採用待ったナシだよね"
……あ、そっちなんだ?
てっきり図書館やこの世界の技術のことを指しているのかと思ったから頷いたのに、ロックさんのことだった。
僕からしたら、透明になる呪文の方がまだまだ全然有り得る気がするんだけどなあ。
「アンジェロ、なんて言ってるんだ?」
ロックさんが怪訝そうに尋ねてきた。
僕が相槌を打ったから、会話してるって気づいたんだろう。
「透明化の呪文に驚いてるみたいです。
そういえばアーヴァインもスコールさんもサイファーも、僕達が呪文を扱えることを珍しいって言ってましたから……
呪文自体が馴染み薄くて、代わりに技術が非常に発達した世界なんですかね、ここ」
"そのとおーり! ソロに百点あげちゃおう!"
………リノアさんがぴょんぴょん跳ねながら満面の笑みを浮かべる。
本当にこの人幽霊なんだろうか。
いやまあ、生前と変わらなすぎるって意味ではピサロも似たようなものだったけれど。
「なるほどなー。俺もアンジェロの気持ちちょっとわかるぜ。
何せ魔石の事を知るまでは、幻獣も魔法も伝説とかおとぎ話の中の存在だったからな。
ティナが使ってたのが魔法だって言われた時は、そりゃもう目玉飛び出すぐらい驚いたのなんのって……
……つーか誰も来てないみたいだし、そろそろ解いてもいいかもな」
- 392 :トラウマスイッチ(連鎖式) 3/15:2023/12/06(水) 16:56:50.93 ID:5n+/hRHYp
- そう言うと、ロックさんは「ケアル!」と魔法を唱えた。
僅かな癒しの輝きと共に、懐かしささえ覚えるバンダナ姿が露わになる。
"おおー。思ってたよりワイルドな感じのお兄さん。
独特な着こなしだけどこれはこれでかっこいいというか、映画俳優みたいだよねえ。
『俺が守ってやる!』とか言ったらすっごい似合いそう。もしかしてホントに映画に出てたり……する? しない?"
……リノアさんがマーニャさんみたいなこと言ってる。
そして好き放題に言われている当の本人は、ぼやきながら後ろ髪を描き上げ、ちらりと僕らの方を見た。
「くそー、わかってたけどあんまり回復しねえ〜。
なあソロ、お前とアンジェロの体調も魔法で確認させてもらっていいか?
正直俺も本調子じゃないし、お前らにどれぐらい戦う余力があるのか知っておきたいんだ」
「もちろんいいですよ。
僕も魔力が尽きている感覚がありますし、リ……っつぱに元気に見えてもアンジェロも本調子ではないかもしれませんしね」
うっかりリノアさんの名前を出しそうになってしまったけど、なんとかごまかす。
"いや立派に元気って無理があると思うなあ。
かーなーり、無理だと思うなあ"
……大丈夫。多分ごまかせてる。ごまかしたはず。
僕の祈りが通じたのか、ロックさんは首を傾げることもなく詠唱を始めた。
「悪いな、じゃあライブラっと。
……ってマジで魔力空っぽじゃんお前。後でちゃんと休んだ方がいいかもな。
で、アンジェロにもライブラって……うんうん、こっちは健康みたいだな。
死んだって聞いてたけど本当は仮死状態か何かだったのか? アンデッドとかになってなくて良かったな!」
"いや本当に死んじゃってたんだけどね……ぼんやり状態も治せないし、不甲斐ない飼い主でごめんね。
でも身体だけでも元気で良かった。本当に良かったよう……!"
リノアさんはアンジェロにぎゅっと抱きつき、何度も頭を撫でる。
そんな彼女の姿は見えていないはずなのに、分析魔法が何かを伝えたのか、ロックさんはぼやくように呟いた。
「しかしまあ、こいつ飼い主のこと大好きなんだな。
弱点が『リノアによわい』とか『リノアのおねがいによわい』とか『リノアのねおきによわい』とか初めて見たぞ。
あと『ホワイトチョコレートとおすしとリンゴとヨーグルトとピーナッツバターによわい』ってなんだ? 嫌いな食べ物?」
"あ、それ好きな食べ物!
こんなぼんやり状態でも好きなモノは忘れてないんだね〜、よしよし。
でも私にもよわいって堂々と言われると……て、照れるぜ"
- 393 :トラウマスイッチ(連鎖式) 4/15:2023/12/06(水) 16:58:01.31 ID:5n+/hRHYp
- 恥ずかしそうに、けれど明らかに嬉しそうに、リノアさんの顔がにやける。
心の奥がほんのり暖かくなるのを感じながら彼女の説明を伝えると、どういうわけかロックさんは不可解そうに首をひねった。
「犬ってチョコ食わしちゃダメなんじゃなかったっけ?
リルムがシャドウに注意されてたの聞いた気がするんだが」
"黒いチョコはダメだけど、犬用のホワイトチョコなら大丈夫。
ペットショップで売ってたの、珍しいと思って買ってあげたら気に入っちゃったんだよね。
ね、アンジェロ!"
「………」
アンジェロの眼差しは相変わらず虚無に満ちたまま、感情の欠片も見て取れない。
それでもきっと、全ての記憶が失われているわけではないのだろう。
いつかアンジェロ自身の心が戻るといいと願いながら、僕はロックさんに話しかける。
「どうやらペット専用の店があって、そこで犬でも食べられるチョコが売ってたみたいですよ」
「ああ、なるほどなー。……いやもう、この世界のこと理解できる気しないんだが。
無駄に無駄のない無駄に洗練された無駄な技術でも誇ってんのか、って感じだ」
はぁー、と大げさにため息をつきながら、ロックさんは乱れて目にかかった前髪を払いのけた。
ついでに色々気になったのか、バンダナを手早く巻き直して服の汚れを軽く払う。
それでも匂いはどうにもならないようで、袖口や襟を鼻先に近づけては顔をしかめた。
「どうせなら、服を着たまま汚れを落とせる機械とかありゃいいのにな。
こうぶわーっとお湯が落ちてきて、ふわーっと暖かい風で乾かすとか」
"うーん。デオドラントスプレーぐらいなら誰かしら持ってるだろうし、ロッカーとか机の中とか探せば出てくるかもしれないけど……
さすがに身体を綺麗にするのは普通のシャワーかお風呂しかないし、服を綺麗にするなら洗濯機使わないと無理だと思うなあ。
アーヴァイン達拾ったら、みんなで学生寮行ってみる? あそこならドライヤーもあるよ?"
ロックさんの軽口めいた独り言にリノアさんが答えてくれたけれど、さすがにそこまで魔法のような機械はないらしい。
……でもきっと、お風呂もシャワーも魔法みたいな機械で出来ているんだろうな。
洗濯機っていうのも、どうせ僕が知ってるような板とかバケツじゃないってオチだろうし。
「えっと、学生寮にシャワーとお風呂と洗濯場があるみたいです。
安全かどうかはわかりませんが、後で行ってみますか?」
「あー……いや、いいよ。
あまり動くとサイファーと会えなくなるかもしれないし、何よりケフカの奴もシャワー浴びさせろシャワー浴びさせろってうるさかったからな。
あの野郎、セフィロスの奴に毒沼ドボンさせられたから珍しくマジギレしてたんだぜ。ざまぁみろ」
「ケフカ――……」
ジェノバとは別ベクトルで邪悪な――……いやよく考えたら似たり寄ったりしれないけど――、倒すべき存在の名に、思わず拳を握りしめる。
切実な想いがあるわけでもなく、誇りや矜持があるわけでもなく、ただ己の快楽のために人を利用し傷つけることしか考えていない男。
リノアさんとロックさんのおかげでだいぶ救われていた心、その中にずしんと重い影がのしかかる。
思い出してしまった笑い声はどこまでも不愉快で――
- 394 :トラウマスイッチ(連鎖式) 5/15:2023/12/06(水) 16:58:50.24 ID:5n+/hRHYp
- "ソロ? 大丈夫?"
不安げながらも優しい声に顔を上げれば、そこには僕を覗き込むリノアさんの姿。
そしてその真後ろには、ばつが悪そうに頬を掻くロックさん。
「わ、悪りぃ。あの野郎はギードが監視してるから大丈夫だ。
本当は俺だってあんな奴生かしておきたくないんだが、ジェノバの野郎が人の心を読む反則生物だっていうからな。
矢面に立たせても大丈夫な奴が必要なんだ」
彼はしどろもどろと弁解しながら、指先を下ろしてつうっと首輪をなぞる。
夢世界や首輪解除の件がバレることを恐れているのだろうか?
それにしたって、リュックが近くにいる以上は既に露見していると思うのだけれど。
「……あー、いや、正確に言えば『俺とサイファーにとっては』だな。
そこらへんのことはヘンリー達と会ったら詳しく話すよ」
「は、はぁ……」
どういう事なんだろう?
思わずリノアさんの方を見たけれど、彼女も首を捻っている。
"ううん……アーヴァインなら、あのモンスターと会わせちゃマズイのはわかるけど。
この人とサイファーも正面切って会ったらマズイってどういうことなんだろ?"
そんな僕達の疑問や不安に感づいたのか、ロックさんは慌てて両手を振った。
「ああ、いや、そんな心配しないでくれ。
単純に話がややこしくてめんどくさいから、アイツらにもまとめて説明したいだけなんだ。
それと早くアイツらの無事を確かめたいってのもあるしな」
ややこしくてめんどくさい理由?
よくわからないけど、……ヘンリーさん達と合流する方が先だろう、って言われたら頷くしかない。
"それもそうだね。
アーヴァイン、迷惑かけてるといけないし。
非常口、こっちだから着いてきて!"
リノアさんとアンジェロがとことこと歩き出す。
僕も後を追おうとして、ロックさんに追い抜かれる。
足を踏み出しているはずなのに、二人と一匹の背が少しづつ遠ざかっていく。
- 395 :トラウマスイッチ(連鎖式) 6/15:2023/12/06(水) 16:59:51.73 ID:5n+/hRHYp
- ――ダメだ。もっと早く歩かないと。
心は急かすけれど、身体がついていかない。
胸がぎゅっと苦しくなって、冷汗が首筋から背中に流れ落ちる。
考えたくもない光景と、思い出したくない映像が、頭の中で浮かんでは消えてまた浮かぶ。
これが初めてってわけじゃないのに。
人に化ける魔物に襲われたこと、マーニャさんとミネアさんの顔で嘲笑われたこと、本物のマーニャさんにまで敵意を向けられたこと……
ああ、でも、あの時はミネアさんがいてくれた。
同じように魔物に陥れられたのに僕を信じてくれて、マーニャさんを説得してくれた。
けれど、その彼女は死んでしまって……――
シンシアも死んでしまって、アリーナも死んでしまって、僕は誰も守れなくて、そんな僕を誰がどうやって信じれる?――
とめどない感情が思考をどんどん暴走させて、僕の心を追い詰めていく。
"ソロ? どうしたの?"
最初にリノアさんが気づき、アンジェロが足を止めた。
振り返ったロックさんが僕の傍へ駆け寄ってくる。
肩に触れる大きな手の感触に、妄想に囚われかけていた考えは一気に現実へと引き戻され、それでも息苦しさは治まらない。
指先が震えて止まらない。
――いつかの日、血だまりで出来た沼の中で羽帽子を拾い上げた時のように。
「おい、大丈夫か?」
「……え、ええ。平気、です」
「いやいや、顔真っ青だぞ。
さっきの歌の後遺症かもしれないし、少し休んでいくか?
誰も後を追ってきてなさそうだし……ちょっとぐらい大丈夫だろ」
さっきの歌。
バッツさんが奏でた、あの曲。
そういう魔力が籠っていたのか、単に思い出を蘇らせるだけのものだったのかはわからない。
ただ、あの物悲しい旋律を聴いた途端、鮮明に思い出した。
村が焼き滅ぼされたあの日、シンシアを見殺しにしたこと。
参加者リストの中にシンシアの顔写真を見たこと。
彼女を助けるどころかもう一度会うチャンスすら掴めなかったこと。
どうしようもない後悔と……それ以上に、もっと彼女と一緒に居たかったという切望が溢れて止まらなくなった。
でも、本当に傷ついたのは、思い出のせいだけじゃなくて――
「違います……バッツさんの、せいじゃ、ないんです。
僕が、……僕が、臆病な、だけで」
頑張って口に出してみるけれど、途中で詰まってしまう。
それでも幸いなことに、ロックさんは理解してくれたらしい。
- 396 :トラウマスイッチ(連鎖式) 7/15:2023/12/06(水) 17:01:19.39 ID:5n+/hRHYp
- 「あ……そうか、そうだよな。
そりゃあんなことした奴が居たら、お前じゃなくたって不安になるよな。
ヘンリーはバッツほどアホじゃないと信じたいけど……今の状況じゃあ、な」
そうだ。そうなんだ。
僕だってヘンリーさんのことは信頼しているけれど――……こんな事を考えたくすらないけれど。
ヘンリーさんだって、僕を信じてくれるとは限らない。
"ええっと、ヘンリーさんってリュカさんの親友……だよね。
リュカさんはすごく落ち着いた佇まいの、大人ってこうあるべし! って感じの人だったけど……
ヘンリーさんの方は騙されやすいタイプだったりするの?"
「いえ……多分、ヘンリーさん一人だったら、僕を信じてくれる……って、思いたいです。
でも、アーヴァインを守るので手一杯だろうし……そんな時に、僕を、信じて、くれるか、どうか……
落ち着きも……あまりないですし……」
リノアさんの質問に精一杯答えてみるけれど、考えれば考えるほど、無理だと判断できてしまう。
だってジェノバが動き出したのはヘンリーさん達が旅の扉を潜った『後』だ。
アーヴァインから切り離された身体の一部が魔物になって動き出した上に、本来の宿主だったセフィロスを裏切って殺し、アーヴァインに成りすまして動いてるなんて……
いくらヘンリーさんが奇抜な発想力と行動力の持ち主だからって、こんな状況、想定できるわけがない。
それにああ見えて優しくて責任感の強い人だから、『重傷を負っているアーヴァインを守る』ことを優先するに決まってる。
ロックさんですら僕と同意見のようで、「ヘンリーだもんなあ……」と頭を抱え出した。
それに他にも問題がある。
まずアーヴァインがどれぐらいジェノバの影響を受けているのかわからないということ。
極端な話、ジェノバが彼の意思や言動を完全に掌握していて自在に操作できるのだとしたら……それこそヘンリーさんに虚言を吹き込んで僕を襲わせようとするだろう。
次に、ヘンリーさんの用いる戦法はメダパニやマヌーサを主軸にした攪乱だということ。
今の僕に――どうしようもなく乱れて落ち着かない精神状態で、果たしてメダパニに耐えられるのか。
もちろん天空の盾であらかじめ反射障壁を張ることはできるけれど、それがヘンリーさんやアーヴァインに直撃して、二人が防げなかったらどうなるか。
本当は信じたい。
アーヴァインは操られてなどいなくて冷静にヘンリーさんを説得してくれて、ヘンリーさんも僕を信じる方に傾いてくれると願いたい。
けれど、都合の良すぎる考えに甘えたら……それはもう『信頼』じゃなくて『現実逃避』なんじゃないかって思えてしまう。
クリムトさんから真実を見抜く力を譲ってもらって、ロックさんやリノアさんに協力してもらって、ヘンリーさんより多くの情報を知ってるはずの僕自身がそういう考え方になってしまうんだ。
最悪の事態を考えずに仲間を信じる――自分にも出来ないことをヘンリーさんに求めるなんて、卑怯に過ぎる。
「アーヴァインが正気ならワンチャン……いや、でもあいつはあいつで俺がいるってだけで警戒解くほど純真じゃないよな。
何ならケフカが俺に化けてるとかまで考えるかもしれない。
あの野郎、マジでやりやがった前科があるからな……仲間なんだから素直に信じろって言いたいが…
正直、俺も人の事は言えた義理じゃないしな……むしろガチでやらかした方だし……ああ〜思い出したら腸煮えくり返ってきた、ケフカの奴許さねえ……」
- 397 :トラウマスイッチ(連鎖式) 8/15:2023/12/06(水) 17:03:12.67 ID:5n+/hRHYp
- ロックさんは独り言のように呟くと、額に手を当てて天を仰いだ。
その一方でリノアさんはおろおろと僕達を見回していたけれど――塞ぎこんだ空気に抵抗しようとしたのだろう。
"えーい! 暗い顔ばっかりしちゃダメっ!"
両手を真上にあげ、背を伸ばしたまま飛び跳ねたかと思うと、思いっきり大声で叫び出した。
彼女が幽霊じゃなかったら間違いなく図書館中に響き渡っていただろう。
――というかロックさんが「え!? 何? リルム!? 幻聴!?」ってビックリしてるんだけど……物理的な音、出てないよね?
"恐れられたり嫌われたり、そういうの怖くなる気持ちはわかるよ!
わかるけど、すごくよくわかるけど、それでも疑心暗鬼になったら相手の思う壺でしょ!
皆が怖がってるのはウソの放送が本当だったらどうしようって可能性であって、ソロ自身のことを怖がってるわけじゃないはずだもん!"
……!
"仲間なんだから、ちゃんと話せば信じてくれる!
もしアーヴァインが操られてたり、二人揃って話を聞こうとしなかったら、膝の裏蹴っ飛ばしてアンジェロにどっかーんと投げ飛ばしてもらって頭冷やさせるから!
諦めるのは後でもできるんだから、今はどーんと当たって砕けに行こう!"
明るくも勇ましい言葉が、挫けかけた心にほのかな火を灯してくれる。
屈託のない笑顔は本物の天使のようで――……スコールさんが好きになるわけだと否応にも納得してしまう。
「な? 何だ? アンジェロが何か言ってるのか?」
「あ、はい。ちゃんと話せばわかってくれるはずだって……」
過激な部分以外を要約して伝えると、ロックさんは唸りながらしばし目を閉じた。
ややあって、「……それもそうだな」と頷く。
「アーヴァインの状態がどうであれ、あいつは手負いのはずだし、ヘンリーも別段強くはなかったよな。
だったら俺が初手で武器を取り上げちまえば、安全にオハナシできるはずだ。
よーし、ここはいっちょあいつらに俺の盗みの腕を見せてやるぜ! それこそ服ごと全部ひん剥いてやる!」
「いやダメでしょう服は」
武装解除しようってところまではわかるけど、服まで奪ったら素っ裸じゃないですか……
いくらなんでもそれはひどい。
あと武器を奪ったところで呪文対策にはならないし。
ロックさんが混乱して自分ではだかになっても責任取れませんよ?
"話を聞いてもらう姿勢……それよ、それ!
ねえソロ、フツーの服とか持ってない!?
ガチガチの鎧一式っていういかにも戦闘準備完了! って恰好より、無害な一般人で〜すって感じの服の方が、話もしやすくなるんじゃない?"
「え?」
「どうした? またアンジェロのお役立ちアドバイスか?」
- 398 :トラウマスイッチ(連鎖式) 9/15:2023/12/06(水) 17:12:40.56 ID:5n+/hRHYp
- ささっとリノアさんの言葉を代弁すると、ロックさんは「それだ!」と目を輝かせた。
……なんか嫌な予感がする。
「いっそガチガチに変装しようぜ!
そうすりゃリュックやジェノバに見つかっても気づかれにくくなるし、一石二鳥だ!
着替えとか持ってるか? なけりゃ俺の上着や帽子で上手くコーディネートしてやるけど」
「あ、え、ええと、ティーダの、遺品に、いくつか服が……」
剣幕に圧されて素直に答えてしまったけれど、そんな変装程度でどうにかなるかな……?
それにケフカとかが横から殴りこんできた時を考えたら、鎧や兜を脱ぐのはマズイと思うんだけど……
でもロックさんがノリノリで服を引っ張りだしてるし、リノアさんもキラキラした目で覗き込んでる……
せ、せめて剣と盾は死守しないと……できれば兜も……っていうか羽がついた帽子多くない? 今はあんまり被りたい気分じゃないのに……
「おおー! 色々あるじゃん!
バンダナがないのが惜しいけど、これだけありゃ変装し放題だ!
せっかくだし俺も着替えようかな!」
"へぇ〜。これが別の世界の服ですかあ。
いいんじゃない? ファンタジーって感じで!"
「あ、あの……」
「大丈夫大丈夫! このロックさまに任せとけ!」
"任せまーす! ビシっと決めてあげて!"
……なんで一方通行でしか聞こえてないはずなのに、こんなにも息ぴったりなんだろう。
盛り上がる一人と一人を前に、僕はアンジェロと同じようにひたすら遠くを見つめる事しかできなかった。
***********
「へっきゅしゅん!」
はー、なんか背筋がぶるっとする。風邪引いたか?
「だ、大丈夫〜?」
「いや、何でもない。きっと誰かウワサしてるんだろ。
それよりお前、ちゃんと隠れてろよ」
せっかく見つかりにくく逃げやすいマストなポジションを見つけたのに、声出したらバレちまうだろ。
振り返らずに咎めてみても、背後から投げかけられるのは反省の欠片もないのらりくらりとした言葉。
「これぐらい、ヘーキだよ〜。
空調も、浄水装置も、動いてるし……話し声や、オジサンのクシャミぐらい、紛れるって」
「……そりゃそうかもしれないが」
- 399 :トラウマスイッチ(連鎖式) 10/15:2023/12/06(水) 17:29:29.55 ID:Lw9pF3u+m
- 空調とやらも浄水装置とやらも俺にはさっぱりわからない、が……この空間、確かに『音』で満ちている。
緩急入り乱れて吹く風。生い茂る草木の葉擦れ。流れる水のせせらぎ。
どれ一つとっても本当に密林の自然そのものだ――って言いたいのに、キラーマシンめいた複数の駆動音が蒸し暑い空気に反響し続けているせいで雰囲気ぶち壊しだ。
ついでに言えば棘の付いた鉄線のフェンスだとか灰色の壁と天井だとか、自然には有り得ないもので囲まれているから見た目でも頭が混乱する。
「それよりさぁ、オジサンの姿勢の方が、……ゴホッ、辛そうなんだけど。
そんな、へばりつかなくても、ゴホッ、角度……、あるから、入り口からは、見えないよ」
「そうは言ってもなあ。念には念を入れた方がいいだろ」
カエルの気持ちになって隠れる――
これぞ悪ガキだったころに極めたかくれんぼ術だ。
秘密の場所への道を阻むかのように倒れた巨大すぎる石柱、その上にぺったりと腹ばいで貼り付いて、折れた木の枝を持ってカモフラージュ。
もう絶対に見つからない! 見つけられるわけがない!
「だから、最初から、見えないって。
ここ、入り口の方が低いし、ゲートも、あるし……真ん中、モンスター用の、生活エリアで、……森、っぽく、なって、見通し、悪いんだから。
逆に、秘密の場所側から、回り込まれたら、全部丸見えだし〜……」
「そういうこと言うのは止めてくれって」
さすがに旅の扉からコンニチハできる時間も過ぎ去ったし、空を自由に飛べる奴がいるとは思いたくない。
ついさっきセフィロスが空を飛んで希望の祠前に回り込んできたような気がする? ナンノコトカナー。
などと冗談はさておき、アンジェロの身体を借りているのだとしたらそこまでぴょんぴょん飛べないだろう。
空飛ぶ犬なんて聞いたこともないし。
あ、でも大昔には耳で空飛ぶネズミがいたらしいなあ。ソロなら知ってるかな?
――ってだからそのソロがヤバイかもしれないんだって。
あー、信じたくねえ。
アーヴァインは信じなくていいって言ってるけどそうもいかないし
「信じなくていいって〜」
「はいはい」
相変わらず心読まれまくってるけど、今ばっかりはしょうがない。
何かあった時、すぐに車椅子を押して逃げられる距離にいないとまずいからな。
そういうわけでアーヴァインには俺がよじ登ってる柱の影――恐らくは通路として切り取られたであろう隙間に隠れてもらっている。
幸い、この訓練施設は円状に道が繋がっている上に、入り口側だけが左右二つのゲートで区切られている。
万が一敵が来ても、どっちのゲートを開けてこっちに向かってくるかがわかれば、反対側から逃げられるって寸法だ。
さすが現地の民。完璧な地の利じゃないか。
レーベで散々引っ掻き回しただけあって、敵にすると果てしなくめんどくさいけど味方になると頼もしい。
これでもう少しめんどくさい部分が減ってくれればなあ……
色々考え込んでる割に、思考をロクに開示しないし、ギリギリまで相談もしないし、必要にならないと他人を頼ろうしない。
自分に出来ることは全部自分で片づけようとして、そのくせ友達とかが困ってたらそのトラブルまで抱え込もうとして、キャパオーバーでぶっ倒れるタイプっていうか。
- 400 :トラウマスイッチ(連鎖式) 11/15:2023/12/06(水) 17:38:13.72 ID:Fm9QoNgCM
- スコールも、ついでに言えばピサロとかもそういうところあるけどさぁ。
何ならピエールも似たようなもんだし、うちの城の隊長格にも何人かいるけどさあ。
お前ら全員ちゃんと言え、ちゃんと。
そんでちゃんと頼れ、人を。
俺だって誰だってエスパーじゃないんだ。
言葉に出してくれなきゃ何もわからないし、突然倒れて寝込まれても困るんだぞ。
せっかく景気対策とか色々やって活気あるラインハットを目指しても、警備隊長がぶっ倒れましたー理由は過労でーすとかブラック国家まっしぐらじゃねえか。
コリンズにはホワイトな国を継がせたいんだってマジで。
……でも警備隊長がぶっ倒れた理由はそのコリンズが城から脱走したからなんだよなあ。
どうしたらいいんだ俺。
マリアもデールももういないし、他の身内はコリンズとババアしかいないんだけど……あの女に頼ることになんの?
いや確かに和解したけどさあ。昔の事は水に流してやったけどさあ!
デールが死んで俺が生き残りましたなんていったらあの女絶対半狂乱になるだろ!?
アアーッ頼りたくねえ! 大臣助けてくれーッ!! この際マスタードラゴン様でもいいからァーッ!
「あ、あの、ご、ごめ……ん? ……なさい??」
「あ、いや、そういうわけじゃなくてだな……」
いやいたわエスパー。いるんだわエスパー。
俺の考え、誰かに読まれて困るってことはないんだが……読んだ方が困るってのはどうしようもない。
ずーっと無心でいるっていうのも難しいしなあ。
マリアなら出来るかもしれないけど。
確か修道院でそういう修行があるって言ってたよな。
毎日何時間か神様に祈りを捧げるんだけど、何かを願うのは私利私欲に繋がるから、純粋な祈りになるよう無心の境地に至らないといけない――とか。
うん、俺には無理。向いてない。
それにいつ誰がやってくるかわからない状況で無心でいたら逆にマズイだろ。
アーヴァインの目論見通りサイファーが来てくれればそりゃあ勝ち確待ったナシだけど、世の中そんなに上手くいったりしない。
どんな計画だろうと、たいてい予想外のことが起きて簡単にひっくり返されるもんだ。
まあ、一生に一回ぐらいは豪運が味方することもあるけど――……俺、絶対その『一生に一回』使い切ってるしなぁ。
何せ樽の中に三人詰まって山の上から海へダイビングしたら良い感じに海流に乗っかれて修道院の近くに無事漂着、生涯の友と未来の妻と仲良く生還したんだ。
修道院長やマリアは『マスタードラゴン様のお導きだろう』って信じてたのに、本人に聞いたら『そのころはトロッコに乗ってたので関与してないです』って返ってきたし。
数年間信じ続けて、ようやく礼を言う機会が巡ってきたと思ったら、マジモンの神様に『知らん……何それ……怖……』って顔された俺達の気持ち考えて?
「……ヘンリーさん、ホント、どんな人生送ってるの?
雑誌まるまる、一冊使って、特集記事とか……そ〜ゆ〜、レベルなんだけど……」
「俺に聞くな。正直自分でも波乱万丈すぎて眩暈がしてるんだ」
それでなくてもこんな殺し合いに巻き込まれるし、厄介な連中に死ぬほど迷惑かけられまくる――ってそれ思い出すのはダメだろ俺。
でも実際厄介なんだよなあ、驚異のはぐメタキング野郎。
- 401 :トラウマスイッチ(連鎖式) 12/15:2023/12/06(水) 17:44:08.51 ID:Fm9QoNgCM
- もう今なら本物のはぐれメタル見ても逃げ出せる自信があるわ。
いや放送を真とするならアンジェロになりすましてるんだから、犬見たら逃げた方がいいのか?
でもなあ。あの野郎、マジで無法の化身だからなあ。
放送は嘘でアーヴァインに悟られぬよう気配消してただけでした、なので対戦よろしくお願いしますって人間の姿でやってきても驚かねーわ。
……いや嘘ついたな俺。そんなことされたら心臓が口から飛び出て死ぬ。
「だから、あいつなら、大丈夫だってば〜……僕、気配探るとか、そういうの、自信あるし〜……」
ありがとうアーヴァイン、その言葉信じるよ。
信じるからなマジで。
でも気配わかるほど近づいたら先に操られたりしないのか? って素朴な疑問も湧いてくる。
「……う、うーん……さ、最悪、ティーダ、呼ぶから、ダイジョブ」
「いや大丈夫じゃねえだろ。
呼ぶなよ、絶対呼ぶなよ」
俺もスコールも言ったよな? 魔力の使い過ぎで身体の負担が魔物化進む原因かもって!
そりゃ友達に助けてほしくなる気持ちはわかるけどさぁ。
俺だって『助けてリュカーーー!!!』って絶叫したらすごく強い装備でガチガチになったリュカに出てきてもらって、超強い呪文で敵を薙ぎ払ってもらってほしいけどさ。
右手にバギクロス、左手にバギクロス、二つ合わせてグランドクロスとかバギムーチョとかそんな感じのつよつよ必殺技でセフィロスもケフカも一撃だ! みたいな。
「…………みたいな。じゃ、なくてさ……
ヘンリーさん、あたま、だいじょぶ?」
なんで『あたまだいじょぶ?』な真似を実現した当の本人がげんなりした声出すんだよ。
だいたいこれぐらい誰でも考えるだろ。なあリュカ?
心の中の親友に尋ねてみるといつものニッコリスマイルで、
『ヘンリー。僕に聞かれても困るから止めてくれないかな。
あと合体呪文なんて存在しないもの使えるわけないからね?
せめてモンスターのみんなを呼ぶ程度にしてくれない?』
と、視線だけは冷ややかに答える様子がまざまざと浮かんでしまった。
博愛主義者の割に、妙なところで現実的なんだよなぁ、アイツ。
ロマンを解さないっていうか、カジノに連れて行っても安牌なところにチマチマ賭けるタイプっていうか。
格闘場も1枚賭けばっかりだったしな。ああ、でもレースで1−2が10倍の時だけは99枚賭けてたか……何だったんだろう、あの賭け方。
「なんか……サイファーと、ウマ、あわなそ〜……」
「あ〜」
そういやサイファーも言ってたな。
アリアハンだっけ? 最初の旅の扉を見つける前に、リュカが家族を探したいって言い出したから別れたって。
正直、セフィロスの強さを目の当たりにしてたんだったら皆まとまって行動しろよって思ったけど――性格的に合わないって部分もあったんだろうなあ。
ちなみにリュカの探し人は家族とピエール、はぐりんだけで、俺のことはノーカンだったらしい。なんでだよ。
「だってヘンリーさん、殺しても、死なないじゃん」
「そんなわけあるか」
- 402 :トラウマスイッチ(連鎖式) 13/15:2023/12/06(水) 17:45:42.09 ID:Fm9QoNgCM
- 俺を何だと思ってるんだコイツは。
たまたま運よく生き残っただけで、殺されたら死ぬに決まってるだろ。
それじゃなくてもレーベでこいつらに狙われるしおかしくなったデールに殺されかけたし、
ウルで錯乱したレナに刺されるし、デールに狙われたし、サラマンダーに井戸に落とされたし、
昨日は昨日でおかしくなったタバサの説得に失敗するし、こいつにもろとも撃たれたし、自称タバサのセージに襲われるし、セフィロスと追いかけっこするハメになるし……あれ?
「普通は、死ぬんじゃ、ないかなあ……」
「………」
二回ぐらい殺しかけてきた張本人に言われるのは釈然としなさすぎるが……つくづく良く生きてるな、俺。
はぁ〜〜、と大きくため息をついた、その時――かすかな物音が聞こえた気がした。
俺の気のせいか、と思う暇もなく、強張った声音が背後から投げかけられる。
「ヘンリーさん、非常口」
その言葉に、俺は手を握りしめながら斜め下を凝視した。
木々の隙間からわずかに垣間見えるゲートに挟まれた広場、そこに何者かが入ってくる――
――最初に見えたのは、緑。
帽子だろうか、白い飾りが大きく揺れている。
服も緑だし、全体的に狩人を思わせる出で立ちだ。
次に気づいたのは、赤。
こっちは全身真っ赤。派手。
胸のあたりで白いのがヒラヒラしてる。多分ジャボつけてる。派手。
でも何故か違和感があるな。
帽子か? 何となく服に比べて優雅さが欠けてるような……くそっ、さすがに細かい形までは良く見えないな。
最後に、黄色のトンガリ帽子。
これはデカイ。ビビ並みにデカイ。つーか背が低い。ビビか?
でもよく見たら青いローブ着てるっぽいし、そもそも四つん這いになってる? ビビが?
何アレ? ビビ? 違う? え? 何?
つーか、全体的に誰だアレ???????
全身緑と全身赤って誰かいたっけ????
「え、ええ〜……誰?」
アーヴァインも頭抱えてる。だよなー。
しかしこういう時は俺が落ち着いて考えないといけない。
何も考えず逃げるってのもアリアリのアリな気がするレベルで怪しい連中だが――
てか四つん這いの時点でアンジェロじゃないか? あのビビもどき。
よく考えたらあの犬、ローブ着てたし。
でもこんなシンプルな形じゃ無かった気がするんだよなあ。
帽子といい、どこで調達した? ああいう服、この世界ならどこにでもあるとか?
- 403 :トラウマスイッチ(連鎖式) 14/15:2023/12/06(水) 17:47:16.32 ID:Fm9QoNgCM
- 「ないない、ないよ〜」
ないのかー。だよなー。
だがどうする? 俺達がまごまごしてる間にも、あいつら動いてるぞ?
ビビもどきがアンジェロとして、赤緑の片方がソロとして、もう一人は誰だよ?
まさかサイファー?
放送が嘘で、無実のソロとアンジェロを保護してるとか?
無いとは言い切れない……けど、サイファーが変装とか考えるか?
アイツ、どっちかっていうと堂々と向かってきて当たって砕けろする方だろ。
変装とか好きそうなのって、サイファーよりロックの方じゃないか?
あいつウルでソロと話してたよな。
俺がガーディアンフォースの練習してる時に、トレジャーハンターと盗賊の違いについてとか、潜入工作がどうとか変化の杖が羨ましいとか!
もしくはバッツかラムザ?
……ラムザはわからんが、バッツはやりそうだなあ!
で、アンジェロっぽいのはアンジェロじゃなくて今度は自分を犬と思い込んだセージとか……いやないか。ないよな。ないと言ってくれ。
だいたいそれならギードの方が有り得るだろ。
ローブ着て三角帽子被って魔法でスリムになったギード。
小人になったりカエルになったりカッパになったりする魔法があるなら、スリムになる魔法もあるんじゃないか?
この建物、狭い通路とか細長い扉とか、ギードの横幅じゃ通りにくい場所もいくつかあったしな。
だとするとあの派手派手真っ赤の化身はケフカ?
じゃあ緑は誰だよ。ロック? サイファー? リュック?
まさかまさかのセフィロスさんご本人とかァ? ケフカとセフィロスが手を組んで、アーヴァインに気づかれないよう魔法で気配を消して接近中とかァ!?
ドーモギードじゃなくてアンジェロです、ケフカです、セフィロスですってアイサツされちゃうのォ!?
えええ詰む詰む、詰むって!! アイサツ返す前に死ぬってばァ!!
「う、ううん、さすがに、最後のは、ないと、思う〜……けど……ど、どうする〜?」
俺に聞かれても正直困るって言いたいけど、この場でどっちが決断すべきかって、そりゃ俺だよなあ!
頼む待ってくれ、あと三十分ぐらい時間をくれ……って、緑と赤が両方のゲートを開けようとしてるー!?
待て待て待て待てまさかの挟み撃ち!?
それはさすがに予想してねえ! どどどどどどどどどどーしよう!!
……ってどっちも中央に戻った? 『なんかゲートがあるなあ〜』って見てただけ?!
何そのブラフ!? 俺の心臓止めるチャレンジで遊んでるのか?!
止めてくれよ――ってアーッ! やっぱり左右のゲート両方開けに行ったーッ!!
「お、落ち着いて……」
「大丈夫だ。俺に任せとけ」
こんな時でも崩さないポーカーフェイスを褒めてくれ。マジで。
だが冷静さは取り繕えても時間がない!!
考えろ、考えろ俺ェ! 謎トリオが誰であれセーフな方に賭けるか、安全策を取って逃げるか!!
今ならまだ秘密の場所側から外に出るとか、水中に隠れるとか、片方を強行突破するとか、逃げ道自体はある!
そもそも『きれいなソロとアンジェロにロックかサイファー』っていう安全トリオの可能性だって十分あるっちゃある!!
何が正解でどうするのがベストなんだ!!??
うおおおおお、考えろ、考えるんだあああああああああ!!!
「あの……先に、そこから、降りた方が、いいんじゃ、ないかなぁ……」
- 404 :トラウマスイッチ(連鎖式) 15/15:2023/12/06(水) 17:48:31.22 ID:Fm9QoNgCM
- 【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)(変装中@狩人もどき)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ソロ達と一緒に本物のアーヴァインと合流する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ソロ(MP0、真実の力を継承、軽度の精神ダメージ)(変装中@赤魔道士もどき)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、レッドキャップ(E)、天空の兜、天空の鎧、ケフカのメモ、着替え用の服(残り一着)、
ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション、村正
第一行動方針:ロックと一緒に本物のアーヴァインと合流する
第ニ行動方針:ジェノバの魔の手から仲間を守る
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ(リノア)(変装中@黒魔道士もどき)
所持品:風のローブ
第一行動方針:秘密の場所に向かって本物のアーヴァインと合流する
第ニ行動方針:サイファー、スコールなどのソロの仲間と合流
第三行動方針:アンジェロの心を蘇らせる手段を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒し、スコールと再会する】
【現在位置:バラムガーデン訓練施設・入り口→奥へ】
【アーヴァイン (HP3/4、MP0、半ジェノバ化(重度)、疲労、右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
所持品:G.F.パンデモニウム(E、召喚×)、変化の杖(E)、ビームライフル(E) 竜騎士の靴(E) 手帳、リュックのドレスフィア(シーフ)、
ちょこザイナ&ちょこソナー、ラグナロク、祈りの指輪(ヒビ)、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、食料、折り畳み式車椅子
第一行動方針:サイファーが来るのを待つ
最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【ヘンリー
所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、リフレクトリング(E)、魔法の絨毯、
銀のフォーク、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ
ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ガーデン保健室の救急セット・医療品、食品)、
レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
第一行動方針:逃げるorやってきた人物と接触する
第ニ行動方針:仲間と合流する/セージを何とかする
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:訓練施設・秘密の場所への入り口前】
- 405 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2023/12/08(金) 22:37:09.04 ID:uKcULI11P
- 投下乙です。
喋らない犬となぜか会話しているように聞こえるソロ←まだ分かる
思考に言葉で返すアーヴァイン←まだ分かる
アーヴァインの言葉に思考でありがとうと礼を言うヘンリー←??? ???www
なんか横着して思考で返事するシーンが混ざってきてるの草なんよw
アリニュメン「こいつら何独り言言ってるんだ?」
ソロはマジメなのでリアクション役としては力不足、ロックならいい感じに反応してくれそうなリノアの話題がことごとく不発の残念さがあるなあ。
フェニ尾も、俺が守ってやる! も、目の前で言われたら本人絶対いい感じに反応してくれるのになあ。
リノアがエモーション豊かに話すけれど、ソロは意味要約で通訳するのでコミュが消されてしまっているw
> 透明人間は実在した! ってオカルトファンに投稿したら採用待ったナシだよね" → >透明化の呪文に驚いてるみたいです。だもんなあ。
過激な部分が大事なんだぞ!
このエモの絞られっぷりは読めば読むほど、なんか味が出てくる感じがあるw
シンシアに化けて心の傷を抉るジェノバ→愛の歌であの頃の思い出を蘇らせるバッツ→羽根帽子を変装用服装に持ち出してくるロックとリノア
これが連鎖式トラウマスイッチ……!
ジェノバこそ悪意だが、バッツは合理的な生存選択のため、ロックたちに至っては善意なので跳ね除けることもできずにソロのメンタルだけがごりごり削れる。
リノアはコーディネートには一家言ありそうだし、ロックはガウのノリノリ着せ替えイベントにサウスフィガロの変装イベントがあるのでそういうの好きそう。
ソロのトラウマファッションが混ざってることなんて知り様がない二人、とても楽しそうなので、こいつら……w
> ヘンリーさん、殺しても死ななそうだし
ようやく気づかれましたか。
一生に一回の豪運を使い切ってるとかどの口が言っているんだw
そして彼は原作でもお家騒動・誘拐・奴隷・タル脱出と結構修羅場くぐってたのだが。いやほんとにどの口がw
ヘンリーとアーヴァインが思考と言葉で会話するという謎の特技を身につけているのが衝撃的……!
お前ら横着せずにちゃんと会話をしろw
この人、心を読む敵に対抗するには、相手が読みとれないくらい大量のことを考えるんだ! みたいな独自の対抗法でも編み出そうとしているのか?
完全に変装のせいで妙なことになってるんだが、これ変装してるのとしてないのとだとどっちがマシなんだろう?
というかロックは変装しないほうがよかったのでは……?
サイファーが変装とか考えるか? → ピサロのコスプレ見せてあげたい
不穏なタイトルではありながらわちゃわちゃしまくってて面白かった。
- 406 :自分の尺度で人をはかってはいけません 1/15:2024/01/31(水) 23:17:20.32 ID:cdLFgoRpB
- 全宇宙の皆様長らくお待たせしましたーァ!
あーもうホントのホンットゥぉ〜〜に長すぎて、オシメの取れない赤んぼが醜いオトナになっちゃうぐらい待たされた気がしますねぇ!
しかぁーしご安心ください! やってまいりました、念願の! 期待の! 大出血サービスタイム!!
そう! ケフカ様本人による、魅惑のシャワーシーンでございます!
……え? 過程がわからん?
ハァ〜〜。これだから凡人は困りますねえ。
どうせお前ら広告は全部スキップ、つまらんイベントもスキップ、戦闘は常に二倍速、何でもかんでも飛ばしに飛ばしまくってるんだろ?
そんな諸君に些細な過程を気にする資格があるとお思いですかァ!? この半チクの三角形野郎どもが!
そ・れ・に!
ぼくちんのシャワーに比べたら、移動シーンだのリュックちゃんの説得シーンだのなんてど〜〜〜でも良すぎて屁が出ると思わんのか?
ツマランツマラン! 実にツマラーン!
細かいことをイチイチぐちぐち気にしてるからお前らは負け犬なんだじょー!
勝ち神になるコツはただ一つ! 俺様のように時に大胆に、時にふてぶてしく、あらゆる手段でのし上がることだー!
あっハイ、スミマセン。
君たちみたいな個性無き一般無能凡人が私のように成りあがるなどできるはずがありませんでしたね。
残念無念! 来世に期待してねって言いたいけど世界はぼくちんがハカイしちゃうからどうしようもナーイ!
諦めて俺様のシャワーシーンを堪能したまえ!
――と言いたいところだが……お前らに見せるのはもったいなさ過ぎる気がしてきたじょー。
そういうわけで今世紀最大最後のスペクタクルショーはお預けだ!
お前らは指をくわえながらツマラン回想シーンを等速で眺めてろー! アーヒャヒャヒャヒャ!
……ところでこのシャワーどう操作するの?
アッヒャー! ツツツ冷たーーーい! ヒィッお湯! お湯プリーズ!
チクショウこれか? このボタンか!?
……え、なにこの数字。60?
ななななーんか嫌なヨ・カ……ンーーーーーーッあっづーーーーーい!!!!
ギャーーー! 傷口溶けるとける染みる染みる、骨身に〜し・み・る〜〜ーーー!!
チクチクチクチクチクショー! なんでこんな機械まみれなんだよエドガーの奴ぶっ殺してやるって思ったけどもう死んでたっけなァ!
あーじゃあマッシュでいいよもう! どうせあの暑苦しい熊男――だからあづいんだって! 温度調整しとけバカ!
あといつまで見てるんだよおまえら! 早く回想に入りなサーイ!
ホーレホレ! ホワッホホワッホホワッホホッホけふけふ〜〜〜!!
**********
(これまでのあらすじ)
みんなのアイドルケフカちゃまはキラキラかわゆいハカイの神!
だけどとってもわるーい年増の厚化粧魔女に囚われたり、勇者気取りのクソ野郎にインネンつけられたり、しつこい銀髪ストーカー男に襲われたりでたーいへん!
おまけにいっしょうけんめいぶっ殺したストーカー男からじゃあくなエイリアンが誕生してもうしっちゃかめっちゃか!
魔力もカラッケツでハカイの力には頼れなーい、大・ダイ・DIEピーンチ!
でも大丈夫! ケフカちゃまにはそうめいな頭脳とストーカー男からもぎとったエイリアンの腕、あとのりもののギードがあるもんね!
さあ、のりものと一緒にエイリアンに騙されてるド低noげふんげふん純真無垢なリュックちゃんを説得してあげよう!
*********
- 407 :自分の尺度で人をはかってはいけません 2/15:2024/01/31(水) 23:27:04.42 ID:cdLFgoRpB
- ――はい、というわけで。
毎度おなじみバラムガーデン二階より、私ことケフカ様が実況いたします。
それにしてもギードもリュックもいつまで廊下でくっちゃべってるんだ?
ダラダラ青春溜まり場やってる場合か?
百万歩譲ってやって亀はソロがあんしんあんぜんと信じてそうだからわからなくもないが、リュックちゃんは違うデショぉ?
「ふむ……なるほど、そういうことじゃったか。
しかしお主には済まんが、にわかには信じがたいのう。
ワシには、セフィロスほど強大な剣士が犬に身をやつすなどという手段を取るとは思えんのじゃ」
「でもでも! それでもアーヴァインがウソついてるとも思えないんだってば!!
それに瀕死の重傷でなりふり構わなくなったとか、ギードの裏を掻くためとか、そういうことまで計算してるかもしれないし!」
そーんな本気で主張しちゃってェ。
真下にセフィロスwithソロがいると思ってるんなら、なおさら早く逃げたらどうなのォ?
それともわざと見つかって偽アーヴァインくんが逃げる時間を稼ごうとでも思ってたり……する?
ギードとぼくちんを肉盾もとい生贄に捧げて追加ターンを召喚! 自分は降参してスタコラサッサー! とか。
いけません、いけませんねぇ〜。
私そういう忍者みたいに汚い卑怯戦法は許せませんことよ?
戦士たるもの正々堂々と戦ってケフカ様の完全性と己の出来損ないっぷりに気づいてから自ら命を断つべきそうすべき。
ところでこの子ジャンル的には何なんでしょうかね。脳筋戦死?
「リュックよ、落ち着かんか。
ワシとてアーヴァインが自分の意思でお主を騙すとは思っておらん。
じゃが、彼がセフィロスに操られとる可能性は本当に無いのかの?」
「え……そ、それはないよ!
すんごい必死に抗ってたし、ロックの質問にもちゃんと答えてたし、間違いなくアーヴァインは正気なんだって!」
「はい単細胞発見〜。
純真無垢なリュックちゃんに、精神操作のエキスパートたるぼくちんが一つ講義をしてあげまショー!」
正直なところ、俺様としてはこのまんま勘違いしていてくれた方が嬉しいんだけどねェ。
この流れだと絶対ギードが解説するし、それだとおバカなリュックはあっさり鵜呑みにするだろ?
なので信用度最低の私が直々に話す必要があるんですね。
「ケフカ――」
「ギードばっかり話させてもぼくちんヒマでヒマでショーガないんですよねー。
さてリュックちゃんは勘違いしてるみたいだけど、人を操ると一口に言っても色々な手法があるのでございます。
ぶっちゃけお前が考えているような、自我を掌握して人格を封鎖し肉体を操作するってのはメチャクチャ強引な方法でしてね。
ありゃ確かに意識障害に記憶障害、あるいは感情や人格の欠損といった後遺症が出るからアホのロックや君でも見りゃわかるってのはそのとーりなんだ・け・ど――」
これは操りの輪で実践済みだからな。
ティナみたいに単純な戦闘兵器として運用するならまーったくデメリットにならんが、工作兵やら人質やらに使うにはちょっとだいぶ不向きだ。
やっぱり肉盾は本人の意識があってこそよねー。アーヴァインくんも『サイファー逃げて!』とか言ってたしねー。
- 408 :自分の尺度で人をはかってはいけません 3/15:2024/01/31(水) 23:28:33.65 ID:cdLFgoRpB
- 「しかししかししっくわぁーし!
別に意識を乗っ取ったりしなくても、アルコトナイコト言わせるだけだったらできるんだじょー!
例えばリュックくん! 君はぼくちんを残虐非道なヤカラだと思っているようだがね!
それはロックとかマッシュとかにナイアルコトコト聞かされたからじゃないのかー!?」
「そんなわけないでしょ! だいたいアーヴァインに思いっきりヒドイことしてたじゃない!
魔力流し込んで魔物に変えてやるとか脅してさ!」
あっ。
そおいえばそんなこともあったっけ。
ケフカちゃまってばすっかり忘れてましたわ! テヘペロ。
「はい、それは一旦横に置いといて」
「置けるわけないでしょ!」
「じゃあ下に捨てておいてください。
私が言いたいのは、アーヴァインが虚偽の認識を与えられているカモカモネギカモって話なんですね。
"あやつる"とか"誘惑"とか使ったことございません? まっその貧相なボデーじゃ無理かもですけどォ、アーヒャヒャヒャ!」
「え?」
あっ、これはマジでご存じでない奴ですね。
勉強不足だじょー。ちゃーんと予習してこーい!
しかしケフカ先生はエライので赤点生徒にも教えてあげることを前向きに検討……
「"あやつる"は魔獣使いのアビリティで、"誘惑"はラミアどもの得意技じゃな。
どちらも対象に好みの相手の幻覚を見せて魅了し、自分の主人と誤認させて意のままに操る技じゃ。
思えばお主たちと合流する前、アーヴァインを乗せておったチョコボも奇妙な動きをしておった。
あれはロックが元凶の道具を見破って、見事打ち破ったようじゃったが……」
おいカメェーーー!! 勝手に教えてるんじゃねー!!
あーあーせっかく俺様がめずらしーく教えてやろうと思ったのになー! あーあー!
「察するにケフカよ。
アーヴァイン本人は正気じゃが、セフィロスによって一種の幻覚を与えられたと言いたいのかの?」
「あーあー、そうですよ! ケッ!
ソロと犬がたまたま近くを通りがかったタイミングで、別の場所にいたセフィロスがアーヴァインに毒電波をビビっと送信!
カワイソーなアーヴァインくんは毒電波による偽情報を自分自身の感覚だと誤認してしまった! ってね。
で? そこのおバカリュックちゃんはそういう可能性が無いって言えるのカナ? カナァ? カーナーァー!?」
ぷんぷんおこおこ真っ赤っかだったタコリュックの顔があっという間に青ざめていきます。
いいですね。そういう表情、ぼくちんだーいすき!
アーヒャヒャと気分良く高笑いしたいところですが、ここはぐぐっと堪えて解説を続けます。
- 409 :自分の尺度で人をはかってはいけません 4/15:2024/01/31(水) 23:29:50.73 ID:cdLFgoRpB
- 「アーヒャヒャヒャヒャ! 虚偽の情報や認識を与えるだけなら精神的な負担も低いんだじょー!
そうそう障害も起こらんし、本人は本気でそう思ってるからウソをついてる自覚もない!
さらに催眠術と合わせると効果はばつぐんだ!
いやー思い出しますねえ! ぼくちんをロックだと思い込んだアーヴァインくんは実に素直でしたっけ!」
「――ッ」
あら〜。今度はまた真っ赤に戻りましタワー。
一昔前に流行った映えるお茶かなんかか? 大丈夫? 重曹ぶっかけとく?
「いい加減にせんかっ!
リュックよ、こやつの安い挑発に乗るでないぞ」
あらら、ギードまでぷんぷんしちゃったじょ。
でもカメだから怒っても緑のまんまでツマラン。大丈夫? 赤チンぶっかけとく?
え、もう生産終了した? 最近の子にはわからない? そんなー。
「だ、大丈夫。
どうせこいつのことだし、テキトーなこと言ってあたしのこと騙すつもりに決まってるもんね!」
よーしよしよし、いい子ですねリュックちゃん。
私の言い分を信じない方に傾けば傾くほど、ギードが説得してもソロを疑おうとするでしょう。
計算通り――と心の中でほくそ笑むぼくちんに、ギードがジロリと睨んでくるけどもう後の祭りだーい。
アーヒャヒャヒャヒャ! ジェノバの思惑はどうあれ、ぼくちんだってソロは邪魔なのだー!
「うむ……しかし、こやつの言い分にも理がないわけではない。
念のため、アーヴァインを保護したら一度ライブラを掛けてみた方がええじゃろう。
ケフカが言うような催眠術や幻覚魔法を仕込まれているなら、それで判別できるはずじゃ」
あ、まずいやめろ。
それ一発で偽アーヴァインって見破れる奴じゃないですかーやだー!
ギードさんったらなにかんがえてるの?
もしかしてジェノバの本性をむき出しにするためにリュックちゃんを生贄もとい見殺しにする気なんですかァ?! このヒトデなし―!
……ってカメだわこいつ。このカメデなしー!
「う、うん。ギードがそういうなら……」
そして秒で信じるカモである。
ネギどころかコンロと鍋とダシとソバまで持参してそうだなこのリュック。
何でもかんでも信じちゃいけないっておとっつぁんに習わなかったのかな?
それとも若死にしちゃったとか? 本人が? それとも毛根が?
- 410 :自分の尺度で人をはかってはいけません 5/15:2024/01/31(水) 23:31:59.93 ID:cdLFgoRpB
- 「あ、でも、あたしライブラ使えないんだよねぇ。
"みやぶる"なら着替えれば使えるんだけど……」
「ふむ。それならワシらと一緒に行動せんか?
ケフカが不安なのはわかるが、こやつは下手に目を離すよりも二人で監視した方が安全じゃろう。
正直、ワシも手に余りかけておるでな。
アーヴァインの無事が確認できれば、改めて互いに別行動したらええ」
おい。勝手に話を――
「う、うーん……その方がいい、かなあ。
確かにギード一人じゃ大変だろうし……」
「だーれがコイツですかこいつ!
ぼくちん反対でーす! アーヴァインくんは私とギードで保護した方がいいとおもいまーす!」
「一緒に行く!」
ぬわぁーんで即決に変わるのォ!?
え? ぼくちんの信用度が最低だから? そっかーそりゃ仕方……あるわー!
「しっしっしっしっ! 着いてくるんじゃねー!
ぼくちんペットはカメさんだけでじゅーぶんなんですぅー!
ピーチクパーチクやかましい金髪女なんて飼ってる余裕はありません!
ナルシェのカナリアに生まれ変わって毒吸ってから出直してきてチョーダイ!!」
「うむ。お主が来てくれれば助かるわい。
何分こやつはうるさすぎてのう。
最低限の魔力しか回復させておらんとはいえ、どこで何をしでかすかもわからんし……色々な意味で気が休まらんのじゃ」
だから何考えてるんだよこのカメは!
……え? 特に裏表なくマジで俺様の監視が大変すぎて疲れてるだけ説?
そんなことありゅ〜? いやですねー、これだから年は取りたくないものです。
「だよねぇ〜……殺すってのも気が進まないけど、役に立つかっていうと絶対ぜーーったいマイナスだし。
魔力を強制的にゼロにするアクセサリみたいなのがあればいいんだけどね」
「や、やめたまへ! ぼくちん一応セフィロスくんをぶっ殺す気はあるんだじょ!?
ここは共闘しましょうよ共闘!
いくら君がバカを超えたバカだからって今回のレイドボスなセフィロス君は一人で倒せる相手じゃないって学習したでしょォー!?」
リュックちゃんも物騒なフラグ立てるの止めてくれませんかね!?
この世界の技術力だと本当に実在しそうで嫌なんだけど!!
稀少なケフカ様をいじめてはいけませんって学校で習わなかったのか?!
お前みたいなやつがサンマやウナギを取りつくして絶滅させるんだ!
守ろうケフカ様! そのためにもお前らのような危険生物は迅速に死にたまへ!
……ってやりたいのに、マジで何もできない俺様であった。
しょうがないね。例の謎細胞に洗脳魔法をねりねり練りこみ続けてるから、回復した端から魔力消費せざるを得ないのよ。
う〜ん世知辛いですねぇ、渡る世間はカメばかり……カモもいるけど。
- 411 :自分の尺度で人をはかってはいけません 6/15:2024/01/31(水) 23:35:01.98 ID:cdLFgoRpB
- 「魔力を封じる、か……確かにそんなものがあれば楽じゃな。
それよりリュックよ。お主、少し怪我を負っているようじゃが大丈夫かの?」
「え? あ、ああ、ダイジョブダイジョブ。
さっきの戦いでカスリ傷負っただけだから、ツバつけとけば治るって!」
この女が元気なのは見ればわかるんだよなあ。
なんで片腕が切り落とされている見るからに重傷の私を心配しないのか、コレガワカラナイ。
「そうもいかんじゃろ。
もしトルネドで負った傷なら、毒沼の水が巻き込まれている可能性もあるしの。
放置して悪化すると大変じゃ」
「えっ……あ、そ、そういえばクサクサ沼があったっけ……
で、でも、熱っぽくもないし最悪自分でポイゾナとケアル使うからダイジョブ!」
「だったらぼくちんに使ってくれませんかね?
それでなくても腕切られて毒沼ドボンなんですよ? 俺様を肉盾にして使い捨てるつもりだから治さなくていいってか?」
ぷるぷる、ぼくちんはわるくないケフカ様だよ! そろそろ優しくいたわって手当してくれないと手間暇かけて殺してやるぞ。
……ってしまったーァ! ついついうっかり建前と本音を逆に言っちゃったじょー!
いやーさすがに天より息苦しく海より暗い心の持ち主たるぼくちんといえども、イライラが溜まってリミットゲージがオーバードライブしちゃってますね。
だからいつまでこんな不用心な場所で喋ってるつもりなんだよ! 近くに部屋あるだろ!
………と思ったけど未だに偽アーヴァイン君が釣れるかどうか確認してるとか……あります?
もう十分じゃない? そろそろ移動しましょ?
だいたいアーヴァイン君より先にソロ君が釣れたらどーすんだ?
責任取ってソロもろとも爆発四散してくれるってのか?
「そんだけ喋ってるならダイジョブでしょ」
「そもそも傷口ごと見事に凍っとるからのう。
肩を縛って血が飛び出んようにしてから水で洗い流せば問題なかろうて」
「ああん冷たぁーい! せめて水じゃなくてほどよい暖かさのシャワーを要求しますですことよ!
あとそれならちゃんと止血しろー! いくら俺様がエラくても一人で結べるわけあるかー!」
「う……うーん、まあそれぐらいならやったげてもいいけど……いい感じの布、見っけたらだけど」
バカは反応しなくて――って手当してくれるんですかァ!?
ありがとうございます! 優しいリュックちゃんにはケフカ様ポイントを1点差し上げましょう!
十点貯めるとケフカ様プロデュース瓦礫の塔ツアーと死をプレゼント!
そこのカメもバカを見習ってしっかり稼いでくださいね〜!
「ところでお主、チョコボを使ってアーヴァインを先に逃がしたようじゃが……
合流するアテはあるのかの?」
「うん、一応ね、三階から降りてくる時に『学生寮に逃げ込んでサイファーが来るまで立て籠もろうか』って話をしてたんだ。
だから多分、そこにいると思うんだけど……」
- 412 :自分の尺度で人をはかってはいけません 7/15:2024/01/31(水) 23:37:00.42 ID:cdLFgoRpB
- って、俺様を無視して話を進めてるんじゃねー!
……でも、学生寮、ですかァ。
正直偽アーヴァイン君が本当にそこで待ってるとは思わんが――
「学生寮ってことはタオルやシャワーぐらいありますよねェ!?
いいじゃないですか! そうと決まればギードさん、リュックさん、行きますよ!
そろそろ桃のカホリのボディーソープでツヤツヤキレイな卵肌にならないと、あのカッパ野郎のツルペタ鼻が折れ曲がって気づかれちゃうカモしれませんからね!」
「ま、まあ、確かにクッサイから……いっぺん洗わせた方が良さそうかも……
セフィロスがアンジェロの身体使ってなかったとしても、フツーに気づかれそうなぐらいヤバヤバな匂い方してるし」
キーッ! なんてヒドイことを言うんだリュックちゃんよォ!
どこのダーーーレがオヤジクサイだってェ!?
ぼくちん自分で言うのは許しますが他人に言われるのは我慢がならないんだ!
「ううむ……さすがにこの臭さは宜しくないか。
ざっと学生寮を探してアーヴァインと合流できたら、交代でシャワーを浴びるべきかのう」
おい止めろそこのカメ。
本当に偽アーヴァインがいたらシャワー浴びてる余裕がなくなっちゃうデショ。
まあどこまで本気で言ってるのか、ショージキ怪しいですけど……
ギードはギードで何か企んでいるのかもしれません。
どうせリュックのお目目を覚ましつつ、ぼくちんとジェノバを共倒れさせる方法とかだろうけどな。
このカメ、ジジイでハゲの爬虫類のくせにそこそこ頭が回る。
コイツ視点で現状の最善手は、間違いなく『速攻でジェノバを見つけ出してぶっ殺す』だ。
何せジェノバはジャアクでインケンでネクラな宇宙生物、あーゆー手合いに時間を与えるのは愚の骨頂。
話し合いなんて野蛮な小細工をするよりも、穏便に暴力で済ますのが一番だとケフ神も仰っています。
あ、もちろんぼくちんは例外でお願いしまーす――って言いたいけど、このカメはそこまで甘くないよね。
そもそも俺様のGOODでGODなアドバイスによりサイファーとロックが戦線離脱してしまったわけですし?
リュックや他の生存者に余計な事を吹き込まれて戦闘不能者が属州したら困るということは猿でもカメでも思い至るでしょうねえ。
故に速攻。考えるより先にぶっ飛ばす、これが大正解……って考えてるんじゃないカナ?
でもその場合『ファファファ、ジェノバは倒れ貴様は用済み死ね』って襲ってくるのでナントカ倒さないとゲームオーバーになるんですよねわかります。
実に面倒くさい。
私とて時間は必要です。
ジェノバの狙いもソロの殺害であれば許容範囲ですし、ヘンリー、ラムザ、バッツあたりは一人ぐらい間引かれてもどうにかなるでしょう。
しかしソロへの寄生なら絶許案件、奴が事を成し遂げる前に速攻でぶち殺さないと超・超・チョーーーマッズーイ! のも動かざる事実でェ……
でもでもあんまり早く討伐成功しちゃうとぼくちんの計画どころか命が危なくってェ……
そう考えるとやっぱりジェノバとギード達、双方の足を適度に引っ張りつつ、どうにか魔力の回復手段を調達しないとナァ。
最低でも俺様の計画を完遂して、アーヴァインを支配下に置いて人質にしないと私の命が保証外!
シンジランナーイ! ケフカ様の君臨に対して三千世界保証を怠るなんてとんだ怠慢だぞー! ムキーッ!
- 413 :自分の尺度で人をはかってはいけません 8/15:2024/01/31(水) 23:39:02.48 ID:jfEMy+iHx
- まあ別に人質になるならソロ以外の誰でもいいっちゃいいんですが……
暴れずに大人しく人質になってくれそうな殊勝な輩がいないんですよねェ。
全く、かわいそうなアーヴァインくんを助けるために『俺が代わりに人質になる』とか言えんのかね!
ドイツもコイツも見下げ果てた奴らだ! そう思わんかおまえら!
それと偽アーヴァインことジェノバ野郎が、どういう形で誰に成りすませるのかイマイチわからんのも問題ではある。
本物アーヴァインやセフィロスの腕を解析した限りだと、そこまで自由自在に擬態するような能力はないはずだが……
恐らく進化の秘法パワーでセフィロスに反逆したところまでは確実、それ故に俺様のサンプルとは多少異なる性質を得ている可能性が高い。
あるいは人間種との融合寄生で退化していた能力を、どういうわけか進化で取り戻したってカンジかもしれないけど――わからんでちゅ。うきゅ。
現時点で確定しているのは、少なくともリュックとロックのダブルバーカーコンビを騙せる程度にはアーヴァインに成りすませることと、ソロの声を出せること。
しかし例えばセフィロスやソロの姿を取ったりできるのか?
リュックは? ロックは? サイファーは?
何でもアリアリ無法の化身なのか? それとも何らかのルールがちゃーんとあるのか?
………――うっきゃーー!!
こんなもん考えたってわかるわけないだろチクショー!!
ああもう、ウンウン唸ろうが頭捻ろうがわからんことは捨て置く!
はい、テストの解き方の鉄板ですね!
こういう時はとにかく何が起きても大丈夫なように準備を整えておくのが正解です! 正解ったら正解でーす!!
な・の・で! シャワーにかこつけてセフィロスの腕をいじくりーのくっつけーの――
……って言いたいけど先述した通り魔力がだいぶ足りません。
しかしこのままリュックが本格参戦して実質2対1となれば、手が空いたタイミングで抜き打ち荷物検査される可能性がぐぐっと上がりますからねえ。
見つかっても『これはぼくちんの左腕だじょー』って言い張れるように、ニコイチ修理は済ませておきたい。
問題は手首を切り落とせる武器が俺様の手持ちにないってことだが……
まあ学生寮って言うからには、包丁かナイフかノコギリのどれかはあるだろ。……あるよね?
それにクサくない着替えだって必要だし、化粧も治したいし、アーヴァインを探すという名目もある。
隙を見てくすねること自体は難しくない――……ない、けどォ〜。
こんなコソドロめいたこと、ぬわぁーんで俺様がやらなきゃいけないんだろうなー。
そりゃコソコソコソコソ何かやるのは俺様の得意技だけど、盗みは違うデショ。
こういうのはロックの役目だと相場が決まっているんだから、俺様の元に馳せ参じて素直に働かんかー!
はーつっかえ! ケッ! ロックなんかキライだー!
「じゃあ行こっか。
あっちのデッキに避難経路があるはずだから、探してみよう!」
……――と、人様の気も知らずに勢い込むリュックちゃんと一緒に、渋々デッキに出て色々探したのはいいけれど。
見つかったのはチョコボの足跡と避難用のはしごだけ。
脚立じゃないよはしごだよ。
ところで俺様片腕無いんだけど? あとカメがはしご使えるなんて聞いたこともないんだけど?
ひゅるりらーと風が吹く中、リュックちゃんが困ったように首を傾げます。
- 414 :自分の尺度で人をはかってはいけません 9/15:2024/01/31(水) 23:41:46.33 ID:jfEMy+iHx
- 「ううん……ギード、これで下まで降りれる?」
いや無理だろ。
見てわからんのかこのバカチンがー!
「ううむ、ワシ一人なら飛び降りれなくもないんじゃが……
こやつを連れていくとなると難しいのう」
あらやだ意外と肉体派。
だが俺様をお荷物みたいに言うんじゃねー! カメのくせにー! ムキー!
「ここは素直にエレベーターで一階に戻ったほうがええじゃろ。
お主がソロを警戒する気持ちはわかるが、ワシらが話している間に戦っているような物音は聞こえんかった。
幸い吹き抜けになっておるんじゃし、下に降りる前に覗き込んで確かめればええ」
「そうしよっか」
そんなこんなで私とフユカイな下僕どもは何事もなく一階に降りて特に襲撃もなく通路をノコノコと練り歩くのだった。
え? さっきのデッキ捜索といいカットが多すぎる?
まぁーじで誰もいなかったし何も無かったんだから仕方ないデショ。
こんなだだっぴろい通路をぐるりと回る間、俺様のキレッキレトークだけで場を繋げってか?
しかたないにゃあ、ソロの命で手を打とうじゃーないですか!!
あ? 無理だぁ? じゃあ黙って死んどけ! シッシッ!!
「それにしても広いのう。
地下に降り立った時はロンカ文明の要塞にでも飛ばされたとばかり思っておったが、これが学校とは信じられんわい」
「そうだよねえ。こんなマキナばっかりで全部ちゃんと動いてるって、それこそティーダが言ってたザナルカンドみたい。
……あっ、もしかして、だからトモダチになったのかな?
ティーダって前にも、聞いたことも見たこともないような機械の話して『やっぱ色々不便ッス』ってぼやいてたし……」
「あーあーありますねぇ。田舎生まれの奴が都会に出てきても周りと話が合わなくて結局田舎モン同士で集まっちゃう奴。
まあ話を聞く限り逆パターンみたいですけど。
都会の生活に疲れて彼女がいる田舎に移住したけど、どいつもこいつも不便な生活に慣れ切ってるから全然苦労をわかってもらえなくてェーー。
そんな時に都会出身のオトモダチが出来ちゃったもんだから意気投合して連日一緒に遊び回ってたら、彼女にキレられてぶっ刺された、みたいなー」
「どういう例えよ!? ユウナんがそんな心狭いわけないでしょ!
ね、ギード!」
「…………う、うむ」
思いっきり目を逸らしてますがこのカメさん。
そもそも心が広い奴なら、たかが殺し合い程度で発狂とかしないと思いマース。
「そ、それより、先の戦いでアーヴァインはティーダを召喚しておったが……
今のアーヴァインも同じようにティーダを呼んだりしたのかの?」
「え?」
「いやさ、それが真実であれセフィロスめの罠であれ、お主らはソロを見かけて危険だと判断したんじゃろ?
ティーダを呼んで助けてもらったりはせんかったのか、と思うての」
「うーーん……多分、今のアーヴァインには難しいと思うんだよね。
他の魔法と違って召喚魔法はポンポン使えるものじゃないし、アーヴァイン、元々魔力とかわかんないって言ってたから。
多分魔物化の影響で魔力が使えるようになって、そんでティーダを召喚できるようになったけど、使えば使うほど魔物化も進むみたいで……」
- 415 :自分の尺度で人をはかってはいけません 10/15:2024/01/31(水) 23:44:12.38 ID:jfEMy+iHx
- まあ、でしょうね。
あんなガキが魔石ナシで召喚魔法使えるほど魔力や魔法がありふれた世界なら、こんな科学一辺倒の建物を作ろうって気にはならんだろ。
それでいて対魔法を意識した構造も使われてるあたり、一部の魔物や特別な人間だけが使える――
ぶっちゃけぼくちんの世界に近い仕組みなんじゃないカナ?
まあ私の世界は既に破壊されることが決定してるので、ここが未来の世界ってこともないでしょーけど。
「お主が代わりに呼んでやることはできんのか?」
「ムリムリムリムリ! あたし召喚士じゃないもん!
そりゃティーダとの絆はバッチリあると思うけど、どうやればいいのかもわかんないし……ムリだよぉ〜」
「そ、そうか……」
しかしなんでこのカメ死にぞこないを呼ぶことにこだわってるんだ?
アレか? ライブラってもリュックちゃんが信用しない時のことを考えてるってか?
あの都会派体育会系男、俺様が知ってる幻獣とはだいぶ違ってアーヴァインの精神に強く依存しているような感じだったからな。
本物か偽物かを見分ける基準に使える〜……とでも思ってるのカ・モ・ね。
ですがそんなまだるっこしいことしないでも、ズンバラリンと首刎ねて死ななかったら偽物ってことで良くないですかね?
本物だった時に困る? それはそう。
「――――ェーー……」
ん? 何ですか、今のチョコボイスは。
ケフカイヤーが地獄耳すぎて遥か遠くの声を拾ってしまいましたかね?
「え? この声、ボビィ?」
おいおいバカにも聞こえてるじゃねーか。
じゃあマジでチョコボが鬨の声上げてるって……コト?
誰かが無礼にも俺様に断りなく乗り込んだのかな? それとも何かに驚いて逃げただけ?
「ねえギード、今の声聞こえたよね!?」
「うむ、急いだほうがいいかもしれんな」
バカとカメが頷き合うと、結構なスピードで走り出しました。
俺様は楽ちんちん……といいたいけどケツがバウンドしまくってとってもイッターーイ!
うーん乗り心地最低! 星0ですねこれは!
星1からしか評価できないシステムごと破壊したいところですが貴重な乗り物なので我慢する私ちょーエラーイ!
しかしそんな俺様の努力は長く続きませんでした。
何せ渡り廊下に差し掛かったところで、バカメコンビが急に足を止めたのです。
おかげでカワイソーな私は慣性の法則によりスポーンと吹っ飛び――……とはなりませんでしたがね。
ケフカアイには視力が備わっておりますので、ソイツの姿にはちゃーんと気づけておりました。
ええおりましたとも!
まーーーったく、なんでコイツがこんなところにいるんだか!
お前はサイファーと一緒にどっかで野垂れ死んでりゃいいんだよ! ペッ!!
- 416 :自分の尺度で人をはかってはいけません 11/15:2024/01/31(水) 23:48:41.71 ID:jfEMy+iHx
- 「「ロック!」」
「あああ、ギードにリュック!?
ああいや、話は後だ!
セージってかタバサってか、とにかく金髪の子供見なかったか!?」
見慣れたくもない銀髪に、相も変わらず貧乏くさくてダッサイバンダナ。
植え込みから飛び出しあわやギードにぶつかりかけたバカ二号は、出会い頭にいきなりわけのわからんことを聞いてきました。
なぜか足踏みを続けていますし、ぼくちんに向かっていつもよりも数倍イヤそーな顔をしてますが……いつ見ても落ち着きのない男ですねえ!
少しはぼくちんを見習って、大人の物腰を身に着けようとして叶わず絶望して自死していただきたいものです。
しかしこの言い方だと、タバサセージくんちゃんを探してるってコト?
エレベーターに乗ってる間、サイファーに保護を頼まれたのかしらん?
そりゃあ確かにソロと真アーヴァイン君に次いで狙われそうなところであるし、妥当な一手ではあるが。
でもでも、俺様からしたらチョー迷惑!
あーこいつがジェノバくんでぶっ殺していいってオチになんねーかなー。無理かなー。
「いや、見ておらんが……」
「わかったサンキュー!
ジェノバの奴、サイファーに化けてセージ狙ってる! 気を付けろよ!」
それだけ言うと、ロックはバビュンとすっ飛んでいきました。
メチャクチャ焦ってましたけど、保護対象に逃げられたみたいですね。
アーヒャヒャヒャヒャヒャ、ざまぁ!!!
その一方で、バカ一号はしきりに首をひねっています。
「ううん……ジェノバって、誰?」
「……それは後で話すわい。
今は――……アーヴァインと、念のためセージを探すとしよう。
もしかしたら二人ともこの建物に逃げ込んでおるやもしれぬし、セージはアーヴァインを敵視しておる。
かち合ってしまったら大変じゃ」
うーん無理やりな誤魔化し具合ですこと。
いい加減素直に話してもいいのにネー。
でも話したらリュックちゃんもバビュンとすっ飛んでいくに決まってますね。
それはそれでせっかくのシャワータイムが遠のくので空気を読む俺様であった。
「わかった! じゃあ皆で手分けして――」
「いやぷー!! シャワー浴びりゅんだじょー!!」
「……あたしが探して回るからギードは見張りを――」
「あっでも着替えとお化粧グッズは欲しいからお部屋の中は探すの手伝ってもいいじょー!
それが終わったらシャワー! シャワー! シャーワーーー!!」
「………」
「ああもうわかったわかった、探し終わったら存分に浴びるがええ!!」
やったー! いやー駄々っ子した甲斐がありましたね!
ところでリュックちゃんどうしてプルプルしてるの?
お花摘みの時間かな? 早くいっトイレ。
- 417 :自分の尺度で人をはかってはいけません 11/15:2024/01/31(水) 23:50:55.56 ID:jfEMy+iHx
- 「……ギード、ついでに胃薬も探そっか」
「ウム……一瓶ぐらいあるとええのう」
あらやだ不健康。
私の止血が終わるまでぶっ倒れないでほしいものですね。
胃痛のあまり胴体に穴が空いて失血死とか間抜けな死に様晒すのはセフィロス君だけで十分ですよ。
「とりあえず、上の階はあたしがざーっと探してくるよ。
ギードは一階のあっち側だけでも見てもらっていい?」
「任せい。それよりお主も気をつけてな」
バカメったら勝手に話進めてますね。
しかし一階のあっち側、って言われても――……ああ、なるほど。共用設備と小部屋の区画で別れているのか。
そういうことならお部屋探訪させてもらいマショ!
もちろんこれはセージ探索の為であり道具の調達が目的ではなく実際怪しくない。
うーん完璧な偽装ですね! スンバラシーイ!
……それにしても、サイファーの姿でタバサセージくんちゃんを狙う、ねえ。
確かにソロへ注意を向けておけばセージへの警戒は手薄になるし、サイファーの性格を踏まえれば多少強引な言動を取っても怪しまれません。
中々嫌らしい手を打ってくるじゃあないですか。
セフィロスの中身じゃなければ利用してやっても良かったが以下略。
これ以上、首輪解除要員や対魔女おばさん用の肉盾を削られるのも困りますしね。
最も、今会ったロックの方がニセモノだという可能性もあることはある。
あるっちゃあるんだが――ま、ないわな。
あそこでジェノバって呼び名を出したらリュックちゃんでも違和感に気付くなんて、それこそ単細胞生物でも謎細胞生物でもわかります。
せっかく騙されてる相手がいるのに、わざわざ目を覚ます手がかりをくれてやる必要はない。
それに『例のヤツ』とか曖昧な言い方で誤魔化せば、ギードもリュックも『ああジェノバか』『ああセフィロスか』って思い込んだまま話が進むデショ。
嫌らしくも空気を読んで色々な罠を仕掛ける小賢しいジェノバくんが、こんなツマランミスをするとも思えません。
よってあれは九割の確率でロックだ。
え? 残り一割引いてたらどーすんだって?
別に何の問題もありませんことよ。
ジェノバが化けているのがサイファーだろうとロックだろうと、奴が狙っているのはソロではなくセージだってことは変わらないだろ?
ぼくちんにとって一番厄介なソロへの寄生、即ち魔法耐性ガン積み物理特化構成を諦めてくれるなら勝算を立てやすくなります。
ついでに言えばセージを確保できていないことも確定的に明らかですから、焦らない焦らない、一休み一休みだじょー。
……しかしそうなると、ジェノバくんの目的は結局進化の秘法ってことでいいのかしらん?
リュックを誘導してソロを抹殺する! と思わせてェー。
けなげなワタシが慌てて対処する、その隙をついてセージを取り込んで、進化の秘法を重ね掛けしようって魂胆でいらっしゃる?
- 418 :自分の尺度で人をはかってはいけません 13/15:2024/01/31(水) 23:56:14.75 ID:jfEMy+iHx
- まー、なんてヒドイ!
セフィロス産の害悪生物が、舐めた真似をしてくれるじゃあないですか!
あーー許せません、許せませんねぇえええ!!
私の怒りが限界突破でステータス欄から絶賛はみだしバグまっさかり!!
わかる〜ジェノバうざいよね〜って皆の声もろともに裁きの光でビガーーっと蒸発させたーーい!!
そしてホットプレートの上にのせて絶妙な温度調整で世界ごとハカイしてやるんだじょーーー!!
ぜーはーぜーはー……しかしまあ、タバサセージくんちゃんも必死に逃げているはずです。
ロックに会う直前、確かにチョコボの声が聞こえたのに、肝心の黄色いチョコボちゃんの姿が見当たらなかったわけですからね。
十中八九、セージがチョコボに乗って逃げたと考えていいでしょう。
え? そう思わせるためにチョコボをテキトーに走らせて、自分は建物の中に隠れるっていう逃走術を使ったんじゃないかって?
はいはい、ギードもそっちの路線を考えたんでしょうね。
ぶっちゃけぼくちんはナイワーと思ってるんですけど、学生寮を探す旨味は捨てがた……ゲフンゲフン。
本当にセージがここにいるなら保護してバカメの隙をついて利用すればいい。
いないならいないで、チョコボに乗って逃げたならジェノバの追跡ごとき逃れられるはずだ。
よって何も問題ありません。
心置きなくシャワーでキレイキレイになりつつ二本の腕をガッチャンコしましょ!
ところでいったいぜんたい何部屋ぐらいあるのかな〜、カメさん一緒に参りましょっと………
「うげ」
「ううむ、学校部分の広さからある程度覚悟はしておったが――
この区画だけでも下手な宿屋を上回る規模じゃのう」
カメが呑気にコメントしてますが、いやーひどい。
部屋も多けりゃ中も割としっかりした造りで、格差社会を感じます。
これに比べたら帝国の隊舎はうさぎハウスどころか部屋中ぜんぶすみっこ、すみっこ専用生き物ハウスですね。
……もう探索とかメンドクサイからカットしていい?
え? ダメ? そんなー。
じゃあせめて巻き進行でいきましょ。
そーれイートーマキマキイートーマキマキっとぉ!
――というわけで、色々ありました。
結論から申し上げますと、必要な道具に関しては最低限揃いました。
包丁はなぜかゲストルームっぽい部屋の机の上にトンべリ柄のカードやらサボテンダー柄のカードやら弾薬やらと一緒に置いてありましたし……
それなりに綺麗なベッドシーツも見つかったので、包帯の代わりに何枚か頂戴しました。
小娘どもが使っていたらしき部屋もそこそこあったので、メイクグッズやクレンジング類も無事調達成功。
……どういうわけか白塗りのドーランがなかったけど。なんでェ?
あ、服は残念ながらありませんでしたね。実にツマランデザインの制服や下着ばっかりだ!
――……でもクサクサドロドロ汁に浸かったボロ布よりかはマシですから、サイズが合う奴は貰ってやりましたよ。感謝しろ、ケッ!
- 419 :自分の尺度で人をはかってはいけません 14/15:2024/01/31(水) 23:57:30.04 ID:jfEMy+iHx
- えっ? セージ?
当然のごとく見つかりませんでしたね。そもそも俺様探す気ないから当たり前の話なんだけど。
ともあれカワイソーなぼくちんはギードともどもヘトヘトになりながらエントランスに戻り、やっぱり空振りだったリュックちゃんと合流しました。
そして絶対血が出ないどころか鬱血待ったナシな勢いで肩をギュギュっと縛ってもらい、護身のためだと言い張ってザックを持ち込み、シャワータイムと相成るわけでございます。
さすがにバカメコンビは脱衣所前のラウンジに陣取ってオハナシしてるんで、カレイなる脱出マジックはできないんですけど問題ナシ!
そういうわけで回想終わり、現在に戻りましょう。
そーれ、ホワーホッホッホッホッホ〜〜
**********************
アーーーーッあづいあづい温度調整どぼやるのぉーーー!?
しかも回想終わるの早すぎィ!
え? 全然早くない? むしろめちゃんこ長い?
うるうるうるうるうるちゃーい! 俺様が早いったら早いんだよ!!
しかしまあこれだけ大暴れすれば手首ぶった切り音も誤魔化せるはずです。
別に暴れたくて暴れてるんじゃないんだケドね! ヒィーッ!
……あ、これか? これで……ああ〜ほどよい暖かさ!
これにはケフカ様もニッコリ。
だが最初から設定しとけカスが!
さて、落ち着いたところで取り出しましたるは凍り付いた腕二本。
片足で床に押さえつけたら、手首をトンベリっぽい包丁でザクッとな!
骨に当たらないよう関節部分を狙いつつ空いてる方の足で湯桶を蹴飛ばして切断音を上書きするのがコツですわよ奥様!
で、この左手首をセフィロスの腕にくっつけて回復魔法を……ああんまた魔力切れたじょー……
ショーガないからシーツ巻いて保持して……でっきあがりぃ!
これで要らん部分をどっかにポイすれば、荷物を改められてもダイジョーブ!
あとは適当にジェノバを邪魔しつつ魔力を回復させて、計画の最終段階へと移りましょう!
それまでどいつもこいつも無駄な努力を重ねてろ。
最後に笑うのは私だと教えてやるよ……ヒィッヒヒヒヒ!
- 420 :自分の尺度で人をはかってはいけません 15/15:2024/01/31(水) 23:59:49.50 ID:jfEMy+iHx
- 【リュック (パラディン HP:9/10)
所持品:メタルキングの剣、ロトの盾、クリスタルの小手、ドレスフィア(パラディン)、
マジカルスカート 、ドライバー×4、未完成のドライバー×1、ロトの剣
第一行動方針:ケフカの監視をしつつギードの話を聞く
第ニ行動方針:アーヴァイン(ジェノバ)を安全な場所に避難させる/セフィロス(アンジェロ)を倒しソロを正気に戻す
第三行動方針:皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す
備考:パラディンのドレス着用時のみ闇化耐性があります】
【ギード(HP1/2、MP:1/5)
所持品:首輪、アラームピアス(E、対人)、りゅうのうろこ(E)、ジ・アベンジャー(爪)、スタングレネード、ねこの手ラケット、血のついたお鍋、雷鳴の剣、風魔手裏剣(3)
第一行動方針:ケフカ・ジェノバに警戒しながらリュックを説得し、セージを保護する
第ニ行動方針:仲間を探し、ジェノバを倒す】
【現在位置:バラムガーデン学生寮1F・ラウンジ】
【ケフカ (HP:1/10 MP:0 左腕喪失)
所持品:魔法の法衣、E:ソウルオブサマサ、やまびこの帽子、魔晄銃、アリーナ2の首輪、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器、波動の杖、
腕の残骸、セフィロスの右腕(左腕に偽装済)、包丁(FF8)、バラムガーデン制服、メイクグッズ一式
第一行動方針:シャワーを浴びる/体力・魔力の回復
第二行動方針:ジェノバ細胞を利用する
第三行動方針:アーヴァインを利用して首輪を外させる/脱出に必要な人員を確保する
第四行動方針:"タバサ"を手駒として確保する
基本行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ主催者含む全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:バラムガーデン学生寮1F・バスルーム】
【ジェノバ@ロックの姿
所持品:奇跡の剣、いばらの冠、筆記具、ドラゴンオーブ、弓、コルトガバメントの弾倉×1、ユウナのドレスフィア、スコールの伝言メモ、ひそひ草
第一行動方針:セージを追う
第二行動方針:利用できそうな生存者に寄生し、ケフカを殺してセフィロスの腕を入手する
第三行動方針:ソロをセフィロスコピーに変えて操り、真実の力を掌握する
基本行動方針:全生命体を捕食し、自己を強化する】
【現在位置:バラムガーデン・学生寮→???】
*チョコボ(ボビィ)が学生寮前から移動しました。
移動先及び、セージが騎乗しているかは不明です。
- 421 :訂正:2024/02/01(木) 15:00:19.22 ID:PKN/fnf8U
- >>412
リュックや他の生存者に余計な事を吹き込まれて戦闘不能者が属州したら困るということは猿でもカメでも思い至るでしょうねえ。
↓
リュックや他の生存者に余計な事を吹き込まれて戦闘不能者が続出したら困るということは猿でもカメでも思い至るでしょうねえ。
誤字がありましたので訂正いたします。
- 422 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2024/02/23(金) 21:39:18.70 ID:TECHGgj+G
- 今さらながら投下乙です。
こういうこと書くと第四の壁を超えてケフカから煽り散らされそうなんだけど、ケフカって味方につけると頼りになるのがまたずるっこいなあ。
機械知識や魔導の知識の豊富さもあるが、倫理がないので話澱むようなことも全部ぶちまけられるのが強い強い。
リュックとギードで孫娘とお爺ちゃんポジションやってるのでほのぼのする? ほのぼのするか……?
ケフカとのコンビだと割と黙りこくってたギードが、ニギヤカ担当のリュックに触発されてしゃべくりまくるので見てて面白いのよ。
リュックがいい感じの潤滑油になってて会話がすすむすすむ。
リュックの直情ムーブのおかげでケフカがボケもツッコミも両方できるようになるので、ギャグのキレが増すんだよね。
ただ、ギードはともかくリュックは割とケフカに絆されてしまっているのでは……。
そいつセフィロスを超える危険人物だぞ?
ケフカの外道行為を言伝でしか聞いてないうえに、今のケフカが表面上あまりにニギヤカなので、危険度を測りきれていないのではないかと思ってしまう。
片腕で接合手術するケフカ、めちゃくちゃ器用で笑ってしまったけど、
普段あまりにも適当に騒いでるせいで、クリティカルなこと裏でやっててもまた騒いでるで済まされてしまうの、紛れもない脅威でしょ。
ジェノバは一瞬だけ出番が来たな。
最初なんでケフカがライブラ使わずに悠長に構えてたのかと思ったんだけど、そうかMPが空だったから使えなかったのか。
それでなくても、正体バレと、切り札用意する前の局地戦、お互いに望んでなさそうで、結果的にジェノバもケフカも首の皮一枚繋がった感じがある。
というかケフカはケフカで、ジェノバを高く見積もりすぎではありそうね。
意外とジェノバは抜けてるところがあるというか、感情先行の想定外行動を食らったときに結構弱い感じがあるw
その生体上、複数人いたときに余計な影響を受けやすいんだろうね。
ケフカは毎回すさまじい語彙力のトークを繰り広げてくれるなあ。
私見ながら、今までの話で一番ネタが多いんじゃないだろうか?
少し進むと腹がよじれるような強烈なネタが飛び出してくるし、ネタのリレーやってるのもかなり笑わせられる。
なお告白しますが、ケフカは死ぬまでシャワー浴びられないと思ってたw
浴びられて本当によかった、が、制服ケフカってスーツアルガスよりも想像できないなw
- 423 :薄氷を踏む、その背を押して 1/10:2024/04/08(月) 16:39:39.56 ID:iNF9KTSg/
- 「ロックさん、大丈夫でしょうか……」
ソロ、やっぱり元気なさげ。
仕方ないっちゃ仕方ない――むしろ仕方なさ過ぎてどうしようもなーいって話なんだけどね。
それでも私としては、いつまでも暗い顔でいるのは良くないぞって思っちゃうんだなあ。
『こっそり様子見てこようか?』
「え? そ、それは……」
『大丈夫大丈夫。
こんだけ完璧な変装してるし、こそっと隠れて進めば見つからないって!』
ソロが不安なのって、もちろんヘンリーさんって人の事が一番大きいとは思うけど――
私とアンジェロのことを守らなきゃって気を張ってる部分もあると思うんだよね。
だから私がビシッと活躍すれば、ソロも肩ひじ張らなくて良くなるじゃない?
ね? アンジェロ!
「………」
うーん、やっぱりぼんやり状態。
でもでも! ここは華麗にミッションをこなして、頼れるリノアさんってところを見せてあげたい!
そういうわけで――
『行くよ、アンジェロ!
SeeD仕込みの潜入術、ソロに披露してあげよう!』
「あ、ちょ、ちょ……」
うろたえるソロの声を背に、私達はバビュンとゲートを潜り抜ける。
それから倒れてる木を足場にして有刺鉄線を飛び越え、苔むした石の上に着地。
あとは足音が出ないように、草の生えてない地面を指示しながらぴょいぴょいっと移動してもらう。
うんうん、さっすがアンジェロ! カンペキすぎてこれならSeeD試験も一発合格間違いナシ!
本物のバラムガーデンに帰ったらシドさんに認定してもらってサイファーに自慢しようね!
……って褒めてる場合じゃない? ごもっとも。
ロックさんの後姿が見えてきたし、ここからはもっとソロリソロリと近づかないとね。
本当は私だけふよふよ〜って幽霊みたいに近づければいいんだけど――……今のぼんやりアンジェロから離れるのは良くないって、感覚的にわかる。
だから一緒に行こう。
大丈夫、家出する時に二人でいっぱい練習したもんね。
抜き足差し足しのびあし〜って。
あの時と同じぐらい慎重に、けれど時に大胆に、スススススーっと……そうそう、アンジェロ、上手上手!
おやついっぱい上げちゃうぞ〜! ……って持ってないや。
あとでソロに分けてもらおうね。
- 424 :薄氷を踏む、その背を押して 2/10:2024/04/08(月) 16:40:54.11 ID:iNF9KTSg/
- 「――アーヴァイン! 無事か!? お前ひとりか?!」
おっ? 突然ロックさんが走り出した。
アンジェロには木陰に隠れてもらいつつ、私だけなんとか身体を伸ばして通路の方を見やる。
具体的には左足のつま先だけアンジェロのところに残して思いっきり斜めに背伸び!
どう考えても無理がありすぎる姿勢なんだけど、幽霊だからか腕をぐるぐる回さなくてもしっかり安定してる。
意外と便利な幽霊ライフ。いやありがたがってる場合じゃないけどね。
「あ、ああ……なんだ、ロックさんかぁ。
おどかさないでほしいなぁ〜」
がさがさ音を立てながら現れたのは、コスプレみたいなローブを着て変な杖を持ったアーヴァイン。
どういうわけか服装以外はフツーの恰好をしている。
……アイツ、もっととんでもない姿に魔改造されちゃってたよね?
少しばかり首を傾げたけど、記憶を手繰っているうちに思い出した。
そういえばセフィロスから逃げる時、ヘンリーさんって人があの杖を使ってアイツの姿に化けてたっけ。
じゃああれはヘンリーさんなのかな?
それとも本当にアーヴァインで、人間だったころの姿に化けてるだけ?
(アンジェロ、わかる?)
頭を撫でながら聞いてみると、アンジェロはすぐにくんくんと鼻をひくつかせ、道から離れた木陰の方を指し示した。
どうやらあっちの方にいるのが本物のアーヴァインで、ロックさんと話してるのはヘンリーさんみたい。
うーん、バリバリ警戒されてますねえ……
「おどかすも何も、ちゃんと堂々歩いてきてるだろ。
俺が敵だったらこんな目立つ格好しないで、バニシュ使って近づいてるっての」
「"ばにしゅ"って……止めてよ〜。
それより〜、ロックさんこそ一人なの〜?」
即興にしては中々レベルの高い物真似なんだけど、ちょっと間延びさせすぎかな。
本物のアーヴァインはセルフィに合わせて話してるだけだから、余裕がある時でもセルフィ度50%ぐらいの口調なんだよね。
そんで今みたいな、どう考えても余裕のない状況ならセルフィ度はゼロのはず。
『どれぐらいヤバイ状況か』の判断に使うといいってキスティスも言ってたし――あれじゃあセルフィ度は70%以上、みんななら一発で見破っちゃうよ。
だけどロックさんはアイツとそこまで仲良しってワケじゃないかもしれないし、騙されちゃうかなあ……
騙されたところでどうこうってコトは起こらないと思いたいけど。
「いいや、ソロとアンジェロを保護してる。
さっきリュックの声でメチャクチャな放送が流れただろ?
あんなデマをバラまかれたらヘンリーにも疑われるんじゃないかって泣いて落ち込んでるから、ゲートの方で待ってもらってるんだ」
「あ、ああ、そう……」
ロックさんの言葉に、偽アーヴァインこと恐らくヘンリーさんは思いっきり顔を逸らし――つまりバツが悪そうな表情をこちらに向ける。
たまたまこっち向いただけで、気づいたってワケじゃなさそうだけど……先に出ていった方がいいかな?
仮にあんな放送を信じかけちゃってるんだとしたら、ソロと一緒にいないところを見せた方が疑いが解けるかも……だよね?
そんな私の考えに賛成してくれたのか、アンジェロはぴょいんと飛び跳ねて木陰から躍り出ると、有刺鉄線を華麗に飛び越えて走り出した。
それも結構本気のスピードで、だけど――ちょ、ちょっと、速すぎるような……!
- 425 :薄氷を踏む、その背を押して 3/10:2024/04/08(月) 16:42:25.04 ID:iNF9KTSg/
- 「わっ!?」
「アンジェロ?! どうしたんだ?!
ソロに何かあったのか?!」
ああー。そうなるよねえ。
私が急ブレーキをかけたところで、あとの祀り。
アンジェロラッシュでも仕掛けるのかってぐらい弾丸ダッシュしちゃったもんだから、ロックさんもヘンリーさんも警戒態勢取っちゃってる。
ううーん、まずいなあ。
特に何も起こってないけど、私達だけついてきただけですよーってなんとか伝えないと。
えーと、えーと……とりあえずアンジェロ! ゴロン!
「「………ええ、っと?」」
お腹を出して寝そべった、とっても可愛くて敵意ゼロのポーズに、二人は揃って困惑の声を上げる。
よし! 次はフェイスだよフェイス!
キュートなお鼻を撫で回して、可愛さでノックアウトしちゃおう!
えーと、それからそれから……おすわり! 伏せ!
「えっと――お手、おかわり、おまわり」
私達の意を汲んでくれたのかロックさんが芸のリクエストをはじめる。
うんうん、もちろんうちのアンジェロは全部こなせますとも! 一生懸命練習したもんね!
こんな天使みたいにかわいいアンジェロがセフィロスなわけないでしょ! どうだ参ったか!
「………あのさ。
急に芸をし始めるとか、怪しくないか?」
えっ!? そ、そんな観点があるの!?
なんで!? こんな可愛いのに!
「そうか? この犬メチャクチャ賢いみたいだし、お前が警戒してるから知ってる芸全部見せようとしただけじゃないか?」
「そうか? ……な?」
そうだそうだ! さすがロックさん頼りになる!
……あ、でも、よーく考えたらやっぱりおかしいのかな?
だって犬なのに本物アーヴァインと偽アーヴァインの見分けついてない――って思われてたらマズイよね。
ね、アンジェロ! ちょっと本物アーヴァインの方に向かって吠えてみて!
「ワン! ワンワン!」
「ちょ、ちょ……!」
おお、慌ててる慌ててる。
ヘンリーさんだけ。
- 426 :薄氷を踏む、その背を押して 4/10:2024/04/08(月) 16:43:30.08 ID:iNF9KTSg/
- 「あー、やっぱそっちか。
本当に賢いんだなお前。インターセプタ―にも引けを取らないぞ」
ロックさんがアンジェロの頭を撫でまわす。
そうこうしているうちに、アーヴァインがいるはずの木立からガシャン! ガサッ! と動き――動き………うごき?
「ああもう、出てくんなって言っただろ!」
偽アーヴァインが杖を振ると、ぼわんと音を立てながらピンク色の煙が舞い上がった。
現れたのは、参加者リストでよーく覚えた顔。
エメラルドみたいな色のおかっぱヘアーなんてへんてこな髪型にも関わらず、端正な顔立ちと立派な服もあって全力で王子様感を出している男性――
間違いなく、リュカさんの友達のヘンリーさんだ。
で、本物のアーヴァインはといえば……まだ出てこないし、ガサガサやってる。
何ならすっごい勢いで咳き込んでるけど――何か言おうとしてるのかなぁ。
「あー、悪い。
今のアーヴァイン、一人で歩けないから車椅子に乗せてるんだ」
「ああ、それで転んで立てなくなってるのか……
肩貸してやらないと、あれ無理だろ」
「言われなくてもわかってるって。
俺がアイツ起こしてる間に、お前らはソロを連れてきてくれよ。
色々話をすり合わせないとお互いマズそうだ」
なるほどなるほど。そういうことなら私達におまかせあーれ!
アーヴァインって体格いいからきっと重たいだろうし、ヘンリーさん一人じゃ大変でしょ。
ソロは私が呼んでくるから、ロックさんはお手伝いよろしくね!
「ワンワン、ワオン」
「ん? どうした?」
よーしよし。アンジェロも伝えようとしてくれたんだね。
……どう見ても伝わってる気がしないけど、こうなったらさっさとソロのところに行っちゃおう。
バビュッと連れてくればソロが通訳してくれるしね!
そういうわけでアンジェロ、全力ダッシュでゴーゴー!
ふわふわ背中に乗っかって緩やかな坂を駆け下りて、気分はウィッシュスター!
でもうっかりソロに体当たりしないように気を付けてね! あの威力、冗談じゃすまないからね!
『おまたせー、ソロー!
ヘンリーさん達、いたよー!』
ゲートの先、赤いシルエットが視界に映ったあたりで思いっきり大声で叫んでみる。
正直今の私が叫んだところで聞こえるかどうかわかんなかったけど、どうやらちゃんと伝わったようだ。
ソロはぐしぐしと顔をこすりながら、笑顔を作ろうとして取り繕いきれなかった表情をこちらに向ける。
- 427 :薄氷を踏む、その背を押して 5/10:2024/04/08(月) 16:45:00.11 ID:iNF9KTSg/
- 「リッ……あっと、アンジェロ、無事で良かった」
『無事も何も、フツーに落ち着いてたからねえ。
さすがにアーヴァインは隠れてたけど……なんか車椅子から転げ落ちてジタバタしてたけど』
「え……? だ、大丈夫なんですか?」
『んー、まあアーヴァインだし平気でしょ。
それより、向こうは向こうで何が起きてるのかさっぱりだろうし、私達とロックさんも完全には情報交換できてないでしょ?
何がなんだかワケわかんないから、一度集まってちゃんと話をしようってさ』
「そう、ですか。
……誤解が解けたなら、良かったです」
そう言いつつも、ソロの顔は晴れないまま。
覇気がないっていうか、生気もちょっと足りてないっていうか……サイファーと風神に揃って叱られた時の雷神よりもしょげかえっているっていうか。
顔を隠そうとしているかのようにロックさんから借りた帽子の鍔を何度も触りながら、それでも歩き出そうとする姿は、かなり痛々しい。
……でも、そうなっちゃうソロの気持ち、わかるんだよね。
恐れられたらどうしよう。嫌われたらどうしよう。
自分が魔女になったって気づいた時、真っ先に浮かんだのはそんな思考。
魔女イデアの暗殺指示を出したように、お父さんは私を殺せって依頼を出すのかな、とか。
アーヴァインが私を撃つのかな、とか。
キスティスや、セルフィや、ゼルも、私を殺せって言われちゃうのかな、とか。
ワッツとか、ソーンとか、森のフクロウのみんなにも逃げられちゃうのかな、とか。
――スコールに、剣を向けられるのかな、とか。
みんなはそんなことしないって信じたい気持ちも、当然あったけど。
でも、変わっちゃうのが私なら――……いつか『今ここにいる私』がいなくなって、『恐れられて当然の魔女』が残ってしまったなら。
そんな未来が怖くて、そうなる前に消えたいって、本気で願ってた。
スコールが『魔女でもいいさ』って言ってくれるまで、ずっと。
今のソロは、あの時の私よりももっと悪い状況にいる。
だって私は自分が魔女だってわかってたけど、ソロは完全に濡れ衣なんだもの。
なーんも覚えがないのに、敵の嘘だってわかってるのに、一方的にみんなから魔女だって恐れられるようなもので――
それってものすごく怖いし、絶望しちゃうよ。
おまけに変な歌で幻覚は見せられるし……アレ、私にはママの幻が見えたけど、多分親しい人の思い出が見えるとかそういうヤツだよね?
歌ってるママとか、交通事故とか、お葬式の時とか、鮮明に思い出して――人の心を弄ぶような幻のオンパレードだったもん。
それを仲間にやられたんだから、そりゃ辛いでしょ!
もうもう、すんごいつれぇわでしょ!
だから――今度は私が"スコール"にならなきゃいけない。
大丈夫だって言って、全力ではぐはぐして、安心させてあげられる、あの時のスコールみたいな拠り所になってあげなきゃ!
『未来って思うより悪いことばっかりじゃないし、人の気持ちってそんなにヤワじゃないの。
それにみんなソロの味方だから。
不安なら、私をスコールだと思って! "俺のそばから離れるな"!』
「………」
あ、あれ?
ソロが目をまん丸くしてこっちを見ている。
口もぽかーんと空いてるし……あれ? 私、良いこと言ってるよね?
- 428 :薄氷を踏む、その背を押して 6/10:2024/04/08(月) 16:46:31.56 ID:iNF9KTSg/
- 「あ、あの……その、す、すみません。
あまりにも似てない物真似――あっ、いや、その、リノアさ……あっ!
ああっと、えっと、その、リノアさん直伝の物真似なんでしょうけどアンジェロが似せられるのは無理がありますよね犬ですし!」
お、おおう……これまたダイナミックに口滑らせてるけど、大丈夫?
そして渾身の物真似だったのに似てない判定。ショ、ショック〜!
いやいや、きっとソロがスコールを良く知らないからだよね?
アーヴァインに見せたら似てる判定もらえるよね? ……ってソロ以外の人に見えてないんだった、私。
『と、とにかく、行こう、ソロ。
ヘンリーさん、意外と普通に話聞いてくれてたから大丈夫大丈夫。
もしアーヴァインが暴れたりしても、私が膝裏キックして態勢崩すから、その隙にスリッパか何かで頭叩けば大丈夫。
こう、ハリセンみたいに振りかぶってスパーンって! 勢いよく斜め四十五度から叩くのがコツだから!』
「ええ……? い、いや、はい……とにかく、行きましょうか」
******************
アンジェロの声を聞いた時、反射的に身体が動いた。
もっとも僕の意思でそうなったというよりは、『誰か』の動きに引っ張られたような感じで。
その『誰か』は間違いなくあの陰険根暗はた迷惑の化身、ヘンリーさんが言うところのはぐれキング野郎なんだろうけど、どういうわけか今までみたいなムリヤリ感は覚えなかった。
それはそれとして、絶賛ボロボロ重体中な僕の身体を省みてくれなかったのも確かで。
(あれ? なんで僕立ち上がっちゃってるの?)と思った瞬間には地面に倒れこんでいたんだからどうしようもない。
だいたいさあ、忘れてるのかもしれないけど、僕って右耳もぶっ壊されてるんだよ?
いきなり立とうとしたって転ぶに決まってるんだよね〜。
それに加えて脇腹も治り切ってないわけだし……
変化の杖をヘンリーさんに渡していなかったら、それこそ『オンギャーーーース!!』って叫び声を上げてたね。
残念ながら、喉がかすれて「かふっ、ひゅーー」って音しか出ないんだけど。
包帯の下からじわりと滲む血の感覚に辟易しながら立ち上がろうとしても、お腹に力を入れず傷口を庇うとかすんごい難しいし……
転がって車椅子にしがみ付きなおせないかとか、木にすがりついて上半身だけでも起こせないかとか、色々ジタバタしているうちにヘンリーさんがすっ飛んできた。
「おい、大丈夫か?!」
(いきなり吠えられて驚いたんだと思いたいけど、セフィロスの影響とかじゃないよな!?
まさかあのロックまで操られてるとか考えたくないんだが?!
でもなー、マジで放送が嘘ならソロが傷つくのは当然を超えた当然だし、俺だって無実のアイツを傷つけたくはないわけで――)
喋ってるのはたった一言、でも頭の中ではマシンガントークがババババって炸裂してる。
(とりあえずロックはついてきてないな。ヨシ!
はぐれキング野郎の影響が無くなったっぽいと言っても、あんまり銀髪見せたくないしな。
ここでこっちの話を聞かないようだったらニセモノ断定待ったナシだったけど――いやいや、まだ油断できないか。
それに本物だったとしても、ロックの心を読んだら全方位地雷まみれで大爆発! 脳みそボーン! とかになったら目も当てられねえ)
- 429 :薄氷を踏む、その背を押して 7/10:2024/04/08(月) 16:48:02.49 ID:iNF9KTSg/
- ……うん。そーゆー危惧を抱くのはわかる、わかるよ〜?
でもイメージの中とはいえ、人の頭をクラッカーに例えるのは止めてほしい。
僕ののーみそにはリボンもテープも火薬も入ってないっての。
突っ込む気力も、ついでにもがく気力も失せて大人しく地べたに寝っ転がっていると、思いっきり勘違いしたヘンリーさんに抱え起こされて頬をぺしぺしされた。
(えっまさか目を開けたまま気絶してる? てか腹と足の包帯赤くなってね? やべぇ!!)
「アーヴァイン!? しっかりしろ!!」
大丈夫じゃなさそうに見えるならもうちょっと優しく扱ってほしい。
そんなことを思いながら、僕は小さく頷く。
声がしっかり出せたなら「大丈夫だから止めてよー! もー!」って猛抗議してるんだけど……
ゆっくり口パクして読んでもらうしかないよね。
(『大丈夫?』 ……本当か?
えっと……『アンジェロの声がしたから、思わず動いただけ?』)
おおー、ちゃんと伝わってる伝わってる。
もしかして読唇術の心得があったりする? 例の奴隷時代に反抗目的でマスターしたとかそういうエピソードがあるやつ?
(本当かなあ……解読が合ってたとしても、絶対強がりだよなコレ。
とりあえず変化の杖は返しておいて、車椅子に座らせて運ぶとして……
ロック達に怪我を治してもらうか、変な心読まないように俺だけで手当てするか………)
脇の下に腕を差し込まれてずりっと持ち上げられる、その間にも頭の中に二つのイメージが浮かぶ。
妙にデフォルメされたロックとソロが『良からぬこと』を考えながら僕に回復魔法を使う場面と、本物よりだいぶ盛ったイケオジヘンリーさんが半泣きの僕を治療する場面だ。
まぁ、何が起きてるのかサッパリわかんない以上、僕にとっての地雷を警戒してくれるのはいいんだけど……
良からぬことのイメージに、マジで『良からぬこと』って文字をそのまま使っちゃうのはどうかと思う。
もっとこう、具体的にあるじゃん。
レーベのこととか、サイファーのこととか、セフィロスのこととか。
色々突っ込みたくてやきもきしてきたところで、僕を車椅子に乗せ終わったヘンリーさんが「ほら、使えって」と、念願の変化の杖を渡してくれた。
ぼわん、と早速一振り。
今回はスタンダードな僕、茶色コートに帽子の姿をチョイス。
やっぱりアンジェロが無事に生き返ったっていうなら、一番慣れ親しんだ姿で会いたいからね。
「ありがと――ゴホッゴホッ」
心配され過ぎないよう元気なところをアピールしたかったんだけど、やっぱりむせる。
痛みと息苦しさの悪循環。万が一吐血しちゃっても誤魔化せるように口だけはしっかり押さえて、呼吸が整うのを待つしかない。
「だから無理に喋るなって」
(どうしたもんか……やっぱり俺だけ話を聞いて、休ませた方がいいか?
でも俺の心読んだら結局伝わるんだから――でもなー、身体が弱ってる時にショッキングな話聞かされるのマジ良くないからな。
親父もそれでポックリ逝っちまったみたいだし……奴隷仲間でも絶望して衰弱して死んでった奴多かったし……)
- 430 :薄氷を踏む、その背を押して 8/10:2024/04/08(月) 16:49:17.21 ID:iNF9KTSg/
- お、重い……重すぎるってば〜。
すんごい絶望感と、実際不衛生で劣悪極まりない中うわごとを呟いて死んでいく人たちの姿が頭の中に流れ込んできて、僕の心までペシャンコになりそう。
本当にこのオジサン、どんな人生歩んできてるの?
王子様ってもっと『立派な王様になるように大事に大事に育てようね〜』って周りからちやほやされて育つものじゃないの?
僕より自分を救った方がいいんじゃないの? マジで、マジで〜!!
「だ、大丈夫だって。みんなの、話、聞こう。
で、でも――僕の、ことは、ナイショで、お願い」
僕の言葉に、ヘンリーさんの表情がますます曇る。
うん、そりゃ心配するよね。わかるよ〜。
「……気持ちはわかるが、ずっと黙ってるのは難しいと思うぞ」
(いやいやいや無理だろ、俺がちょっと変な事考えただけで噴き出すってのに。
それに俺みたいな面白思考のヤツばっかりじゃないんだぞ?)
自覚してるなら止めてほしいんだけど。
「特に、今のソロは真実を見抜く力みたいなのを持ってるからな。
お前の本当の姿を見てショック受けて、その思考をお前が読んで――って悪循環になるかもしれない」
(ピサロのことも見抜いてたしな)
「えっ、マジ?!」
なにそれ初耳なんだけど!?
んー、でも良く考えたらその話聞いたことあるような……それにカッパをセフィロスと見抜いてたりとか……あれ? これ誰の記憶?
うわうわ〜、なんか変な思い出が混ざってる気がする〜……!
これってセフィロスと、多分ピサロの影響だよね……ヘンリーさんが危なくなった時に『身体貸せ』って半ば無理やり乗っ取られたし……
「マジだって。それにその能力が無くたって、突然爆笑したり凹んだりしたら一発でバレるだろ。
一応、アッチの出方を伺うために最初の内だけ黙ってるのはアリだと思うが……
安全だって確証が取れたならすぐに話した方がいいぞ。
お前、お前が思ってるより数倍は挙動不審だからな?」
挙動不審の原因作ってる張本人がそれ言っちゃうの……?
釈然としない気持ちはあるけど、発言者に目を瞑ればもっともなアドバイスではある。
どうせ見た目も中身もとっくに化物なんだし、そもそも人を殺してる時点で嫌われて避けられるのは当たり前。
相手に悟られず一方的に情報を抜き取れるという利点はあるけれど、ヘンリーさんの指摘通り、ノーリアクションを貫けないなら速攻バレるし意味がない。
僕、演技力には自信がある方だけど……それだけじゃどうにもならないよね。
必要なのって何事にも動じない鉄の表情と精神力とかだよね。
ぶっちゃけスコールや、それこそヘンリーさんの方が得意なヤツ。
でも――……
「わ、わかってるよ〜。
ただ、ソロも、ロックも、本物でも……ゴホッ、僕を気遣って、隠し事、するかもしれないから。
だから、先に、知っておきたいんだ。
あの後、何が起きて、……ゲホッ、サイファーと、リュックが、どうなったのか」
- 431 :薄氷を踏む、その背を押して 9/10:2024/04/08(月) 16:50:41.55 ID:iNF9KTSg/
- 大丈夫だと思っていたかった。
リュックもギードもロックもいるんだから、石化なんてパパっと解いてるって。
そしてサイファーがいつものように眉間に皺を寄せながら、僕の胸倉を掴んで怒鳴りつけてきて。
リュックが止めに入って、言い合いになって……そんなニギヤカな二人の姿を見れるはずだって、信じていたかった。
だけど――……
「サイファー、元気なら……ロックに、任せないで、自分で来ると思うんだ。
だって、僕に、言いたいこと、いっぱい、あるはずだから。
それにリュックも……あの放送、ニセモノなのか、本物なのかも……ゲホッ、わからないしさ」
「……そうか」
(って納得してやりたいけど――どうなんだ?
ソロもロックも黙るような事実があったとしたら、それってやっぱり聞かない方が良くないか?)
……まあ、そう考えるよね。
だからこそ、無理やりにでも知りたいんだけど。
「覚悟、したいんだよ。
何も知らずにいたって……散々振り回されて、フラフラに、なってから、現実を……ゴホッ、突き付けられる、だけだから」
だったら、少しでも、余裕があるうちに……知って、おきたいんだ」
僕の言葉に、ヘンリーさんは口元を抑え――しばらくしてから、観念したように「わかった」と頷いた。
それでも心の中では結構グチグチ言ってたんだけどね。
こんなに心配してくれてるんだから素直に聞き入れた方がいいのかなとか、ちょっとだいぶ申し訳ないなって気持ち、そりゃあるけど……
事態が好転して僕のメンタルが回復する可能性と、事態が悪化してどうしようもなくなる可能性だったら、ぜ〜〜〜ったい後者の方が高いに決まってる!
故に、今聞いた方がマシ!
どんな最悪な事が起こってたとしても……例えばケフカが裏切ってリュックを操ってサイファーが殺されたとかそういうレベルだったとしても、とにかく覚悟するしかな〜い!
大丈夫、僕ならできる、僕ならできる、僕ならできる……
「よいしょ、っとぉ!」
車椅子が力強く押されて、草むらをかき分ける。
その間にも僕はひたすら深呼吸しまくって、自己催眠かけまくって、ありとあらゆる悪い想像をしまくって。
とにかく何が起きても耐え抜いて見せる――つもり、だった。
「――お、大丈夫か?」
どうしようもなくすんごい似合わないカッコのロックと、
「ヘンリーさん……!」
血の気が引くほどすっごく見覚えのある帽子をかぶったソロと、
「……」
作りものみたいに静かなアンジェロを守るようにまとわりついた、キラキラした光のもやを見るまでは。
- 432 :薄氷を踏む、その背を押して 10/10:2024/04/08(月) 16:51:28.13 ID:iNF9KTSg/
- 【ロック (MP3/4、HP:9/10、左足軽傷)(変装中@狩人もどき)
所持品:クリスタルソード 魔石バハムート、皆伝の証、かわのたて、2000ギル、メガポーション、デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ソロをフォローしつつ、ヘンリー達と情報交換する
第ニ行動方針:仲間と合流し、静寂の玉を手に入れる
第三行動方針:ジェノバをどうにかする
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ソロ(MP0、真実の力を継承、軽度の精神ダメージ)(変装中@赤魔道士もどき)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣、E)、天空の盾(E)、レッドキャップ(E)、天空の兜、天空の鎧、ケフカのメモ、着替え用の服(残り一着)、
ドライバーに改造した聖なる矢、メガポーション、村正
第一行動方針:ヘンリーとアーヴァインにジェノバの事を説明する
第ニ行動方針:ジェノバの魔の手から仲間を守る
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ(リノア)(変装中@黒魔道士もどき)
所持品:風のローブ
第一行動方針:ソロをサポートする
第ニ行動方針:サイファー、スコールなどのソロの仲間と合流
第三行動方針:アンジェロの心を蘇らせる手段を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒し、スコールと再会する】
【アーヴァイン (HP3/4、MP0、半ジェノバ化(重度)、疲労、右耳失聴、一時的失声、呪い(時々行動不能or混乱or沈黙)
所持品:G.F.パンデモニウム(E、召喚×)、変化の杖(E)、ビームライフル(E) 竜騎士の靴(E) 手帳、リュックのドレスフィア(シーフ)、
ちょこザイナ&ちょこソナー、ラグナロク、祈りの指輪(ヒビ)、召喚獣ティーダ、飲料水入りの瓶×9、食料、折り畳み式車椅子
第一行動方針:????
最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
備考:・ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化がさらに進行します。
・ユウナ?由来の【闇】の影響で呪い効果を受けています。会場内にいる限り永続します】
※ティーダの所持品:ユウナのザック(官能小説2冊、ライトブリンガー、スパス、ビーナスゴスペル+マテリア(スピード))、ガイアの剣
【ヘンリー
所持品:水鏡の盾(E)、君主の聖衣(E)、キラーボウ(E)、リフレクトリング(E)、魔法の絨毯、
銀のフォーク、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ、チキンナイフ、果物ナイフ、筆談メモ
ザックスのザック(風魔手裏剣(5)、ドリル、官能小説一冊、厚底サンダル、種子島銃、ミスリルアクス)
リュックのザック(刃の鎧、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢)、サイファーのザック(ガーデン保健室の救急セット・医療品、食品)、
レオのザック(アルテマソード、鍛冶セット、光の鎧)
第一行動方針:アーヴァインをフォローしつつ、ソロ達と情報交換する
第ニ行動方針:仲間と合流する/セージを何とかする
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:訓練施設・秘密の場所への入り口前】
- 433 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2024/04/17(水) 21:41:46.46 ID:1LuEbQZpc
- 投下乙です
ソロとアーヴァインはやばかったが相方に恵まれたなあ。どっちも爆発しててもおかしくなかった
- 434 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2024/04/18(木) 22:32:54.90 ID:zUqKPZkz6
- 遅まきながら投下乙です。
アーヴァインの解像度たっか……というかセルフィ度で状況判断できるってマジもの?w
しかもキスティスにも知られてるってことは、まわりはみんな知っててアーヴァイン本人だけがバレてないと思ってるパターンでしょ。
やばい昔書いたアーヴァインがジェノバ認定されてしまうかもしれない。
魔女になった瞬間をクローズアップして、ソロの孤独と不安をここに絡めて共感するところはおおっと思った。
FF8、行間読んでないと割とするっと進んじゃうんだけど、確かに不安と恐怖が渦巻いておかしくなりそうだもんな。
『恐れられて当然の魔女』にも言及して、きっちり顛末を対比してるのが丁寧よね。
そして、『恐れられて当然』はアーヴァインのほうにもかかってくるわけで。
孤独で、不安で、恐れられて、お茶目な年上のオジサンに連れられてて、言葉がなくても相手のことがなんとなく分かって……
なんでソロとアーヴァインが似た者同士みたいなポジションになってるんだろうな。
二人とも、接触したら緊張とともに身体中の力が全部抜けるんじゃないか?
ところで、リノアはここぞとばかりに先輩やってますねえ。
ガーデンではじめてできた後輩にかまいまくる世話焼きの先輩ポジションじゃん。
でもはぐはぐはやめよ? 概念はぐはぐと概念スコールなのは分かってるけど、言葉自体のインパクトが強すぎてそちらに持っていかれてしまうw
もし物理はぐはぐが手段に含まれてるのなら別の意味で魔女になってしまうわw
この辺のフリーダムな表現、スコールが好きそうかつ、同時に頭抱えそうなところなんだよなあ。
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