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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど

1 :通常の名無しさんの3倍:2019/07/24(水) 00:50:40.43 ID:XfFrIQoe0.net
小説書いたこともなければスレッド建てるのも初めてなんだけど、もし誰か見てるなら投稿してみる

738 :◆tyrQWQQxgU :2020/01/24(金) 21:48:39 ID:oR7mXlEL0.net
>>735
ロングホーン大佐は割とお気に入りです。
体たらくな連中が多いので、しっかりした人物も居てほしいなと…。笑
拳で語り合うのはやっぱZでは必須ですよね!笑

僕の中で、もしカミーユが女の子だったら?とか、周りの大人にしっかり者が居たら?っていうifも含んだ構成にしています。
それと、前作主人公の扱いって難しいですよね。
某准将とかに比べるとアムロは上手く立ち回った方だと言われる事も多いですが、個人的には主人公にしてはあまり活躍しなかったという印象も強くて。
(本編前からの扱いですが)Xのジャミルくらいが理想的かなと思うので、そういう塩梅でワーウィック大尉には頑張ってほしいです。

ガンガンぶっ壊すのも前作からの伝統です!笑
とはいえキチンとデータは持ち帰ったので…?
これからの展開にも期待してください!!

739 :◆tyrQWQQxgU :2020/01/24(金) 21:54:17 ID:oR7mXlEL0.net
>>736
>>737
第2部ではアクシズ勢はそこまで出さない予定です。彼らとのイベントはワーウィック大尉が中心になり過ぎるので。
最初は2部で終盤まで書くつもりでしたが、色々やりたいことを考えたら3部構成が必要な気もしています。
1部と2部で書いたことの集大成として、最終章を書くのも良いかと。

まだまだ僕自身も展開が読めない部分が多いので、登場人物達がどう動いていくのか楽しみです。

740 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:27:24 ID:35+2VBiK0.net
お待たせしてすみません!
最近忙しかったので筆があまり進んでおらず…。
ずっとお待たせするのも何なので、とりあえず3話だけ公開しておきます!

741 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:29:15 ID:35+2VBiK0.net
 ウィード少佐の脱出ポットを回収し、オーブ中尉のガルバルディαが帰還した。それを確認したアレキサンドリアは、船速最大で宙域を離脱する。敵はこれ以上追ってこない様だ。
 戦況をブリッジからモニターしていたドレイク大尉はほっとひと息ついた。
「危なかったわね…」
『どんどん敵の動きが良くなってる…』
 オーブ中尉が悔しそうにモニターから目を逸らしていた。

 ソニック大尉を連れ帰ったのも束の間、月を離れたところをすぐに追撃された形だった。彼を取り戻し撤収に成功はしたものの、使える機体は尽く潰えている。ガルバルディも稼働こそするものの、戦場には出せる状態ではない。
 辛うじてテストのデータだけは持ち帰ることができたが、ニュンペーも失ってしまった。
「ごめん、機体は持ち帰れなかった」
 ウィード少佐がブリッジに戻った。傍にオーブ中尉もいる。
「あなたが帰ってきただけマシよ。データだってほら」
 ドレイク大尉は落ち込む少佐の肩を軽く叩いた。オーブ中尉も唇を噛んでいる。
「ラムはどうしてる?」
 顔を上げたウィード少佐が聞いた。
「まだ寝てるわ。あっちじゃまともに寝れてなかったみたいだしね…。レインメーカー少佐も今さっき自室に戻ったわ。かなり神経削がれてたみたいだから、今は休ませてあげましょ」
「皆ボロボロだけど、まだこれからが勝負よね…!もう負けられない」
 オーブ中尉が拳を固く握りしめながら言った。ドレイク大尉も同じ気持ちだった。

742 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:29:56 ID:35+2VBiK0.net
「これからどうする?シロッコ大佐にデータを届けるんだったら、ドゴス・ギアだかジュピトリスだかに出向くのがいいかしら」
 近辺の宙域をマップで確認しながらドレイク大尉は話題を変えた。今は前向きに進むしかない。
「…ニュンペーを失った以上、通信で済ませるのは大佐に無礼だからね…。正直顔向け出来たもんじゃないけど、顔出さなきゃ」
 ウィード少佐が椅子に腰掛けながら溜息をついた。彼女も憔悴している様だった。
「ま、今のうちにあなたも休むと良いわ。私が後は見とくから」
「ありがとう。そうする…」
 最低限の確認事項を擦り合わせ、ウィード少佐はブリッジを後にした。その後ろ姿をオーブ中尉と2人で見送っていた。
「お嬢さんは休まなくていいの?」
「何言ってんのよ。フリード独りに任せる訳ないでしょ?」
「頼もしいわね」
 そういってオーブ中尉の頭を撫でた。彼女は腕を組んでふんと鼻を鳴らしたが、特に抵抗するでもない。

 それからしばらくして、友軍の通達が入った。
「うそ…!」
 ドレイク大尉は思わず声をこぼした。フォンブラウン市がエゥーゴに奪還されたとの報せだった。
「アポロ作戦は成功したんじゃ…?」
 オーブ中尉も焦りを隠さない。友軍によれば、ティターンズが地を固めるより早くエゥーゴがライフラインを抑えたという事だった。幸い旗艦含め損害はそれほど出ていない様だが、このまま引き下がる訳にも行くまい。
「やはり…性急過ぎたのでしょうな」
 後ろからレインメーカー少佐の声がした。
「良いのですか?もう少しお休みになられた方が…」
「いやいや、まだ若い者に任せる訳にはいきませんのでな。それにこの通り」
 そういって少佐は両腕の力瘤を見せる様にして笑った。
「ラムに比べたらまだまだねー」
 オーブ中尉が茶化す。そのソニック大尉はまだ休んでいる様だ。
「ソニック大尉程は無理ですなぁ…。その代わりと言っちゃなんですが、知恵はありますよ」
「その知恵を今後もあてにしてますわ」
 ドレイク大尉は腰に手を当てながら微笑んだ。

743 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:30:37 ID:35+2VBiK0.net
「なるほど。なかなか渋いですが…」
 レインメーカー少佐を中心に、ブリッジの3人で戦況を確認していた。結局、主だった拠点は元通りエゥーゴの傘下にあると言っていい。
「何だかんだ言って、フォンブラウンを叩くにはグラナダやアンマンが目の上のたんこぶって感じね」
 オーブ中尉がペンを鼻の下に挟んで椅子と一緒にくるくる回っている。
「確かに、敵の主力をあまり叩かずに拠点だけ抑えたからグラナダの巻き返しも早かった…とも言えるわね」
「楽しちゃ駄目ねやっぱ!まずは裏側から抑えておかないと結局遠回りよ」
 そうしてドレイク大尉達が話しているのを、少佐は静かに聞いていた。
「じいさまはどう思う?」
「私ですか。ふーむ…」
 回るのをやめた中尉の問いにも、変わらず思考を巡らせている。
「…そうですな。お嬢さん方の言うとおり、グラナダ辺りを叩くのが良いでしょう。恐らく上層部もそのつもりかと。…しかし、上の連中は正攻法では仕掛けないと思いますがね…」
 レインメーカー少佐の笑みに、何か黒いものを感じた。

744 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:31:35 ID:35+2VBiK0.net
「…何にせよ、今は報告と補給が必要だわ」
 声の方を振り返ると、ウィード少佐とソニック大尉の姿があった。
「皆…済まなかった…!俺の力不足がなければ…」
 ソニック大尉は戻った時と相変わらずうなだれている。
「もう!いいのよそれは!ラムって意外と引きずるのよねー」
 オーブ中尉が意地悪く笑っていた。
「ラムが粘ってくれなきゃ全滅してたわ。あなたのおかげよ」
 ドレイク大尉も彼を励ました。実際彼が殿を務めてくれなければかなり際どいところだったのだ。
「皆揃った事だし、そろそろ目的地を」
 そういいながら、いつもの椅子へウィード少佐が座る。その側にレインメーカー少佐も立つ。変わりない光景だった。
 この艦の行き着くところに楽園があればいいが、我々の手はあまりに血塗られてはいないだろうか。ふと、ドレイク大尉は自らの両の掌を見つめた。

23話 行き着くところ

745 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:32:15 ID:35+2VBiK0.net
 アイリッシュ級に帰還したものの、スクワイヤ少尉はコックピットハッチを開けられなかった。
『大丈夫か!?』
「大丈夫です…。大丈夫なんですけど…」
 ワーウィック大尉の呼びかけに応えながら、少尉は自分の身体が自分のものでない様な感覚に襲われていた。あの時感じた恐怖を、身体が跳ね除けられずにいる。コックピットの中で、小さく丸まる様にしてうずくまった。
 しばらくしてコックピットが外から開けられた。覗き込み、様子に気づいた大尉が近づく。
「…どうした」
「わかりません…。ただ…恐ろしくて…」
 大尉はそれ以上は何も言わず、少尉が落ち着くまでそのまま傍に居た。

「光に包まれた時…死ぬんだと思いました。いや…身体がそう思ってしまったっていうか」
 少尉は、僅かに震える肩を手で抑えた。
「今までは被弾したって何てことは無かった…。高を括ってたんです…きっと。まさかこんなとこでやられるはず無いって。自惚れてたんです…!」
 そこまで言って、少尉は今までの自分が酷く矮小に思えてきた。噛み締めた唇から血が滴る。
「怖かった…!何も出来ないまま唐突に…!理不尽でどうしようもなくて!!頭より身体が…それを受け入れようとしたのが…どうしようもなく…怖くて…」
 昂ぶった気持ちが、喋りながら萎んでいった。涙が溢れ出す。
「死にたがりが聞いて呆れますね…」
 血と涙を拭いながら、上手く笑えない頬が引きつった。

746 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:33:10 ID:35+2VBiK0.net
「そうか」
 大尉はぽつりと言った。
「前にも少し話したが…私の話を聞いてくれるか?」
 少尉が小さく頷くと、大尉はその場に座り込んだ。
「きっと、全く同じ様に感じたということは無いんだろうが…。私もある時までは自分がやられるなんて思ったことはなかった。一年戦争を戦い抜いたし、頼れる仲間も居た」
 少し上を仰ぎ見る様に、大尉は回想した。
「ニューギニア基地での戦い…ほんの少し前の話だがな。そこに至るまでの間、交戦の機会が何度かあった部隊がいた。その隊長格と決着をつけなければならなかったんだ。私は乗り慣れたマラサイ、僚機は…ガンダムだった」
「例のニュータイプの…?」
「まぁな。本人は否定的だが、私もニュータイプだと思っている。そんなやつと2人掛かりだったのに、たった1機のジムクゥエルにやられかけた。恐ろしく強くてな…」
 ニュータイプの乗るガンダムとワーウィック大尉が2人掛かりで苦戦するジムクゥエルというのは、正直イメージが沸かなかった。

「倒せたと思った時、背後からサーベルで貫かれた。火傷はその時のものだよ。あの時、まさしく死んだと思った。でも私は死ねなかった…仲間が帰りを待ってたからな」
 大尉はやや恥ずかしそうに鼻を擦った。
「かつての私は、恐怖などよりとにかく戦う事しか頭に無かった。だが日々の戦いの中で明確に変わっていったのは…自分の為の戦いから、仲間の為の戦いになっていった事だと思う。
 最後の最後、やつを倒した私を支えていたのは…やはり仲間の存在だったよ」
 そこまで言うと大尉は立ち上がり、少尉の正面に立った。少尉は赤くなった目でそれを見上げる。
「恐怖と向き合うことで、きっと少尉はひとつの答えを手に入れると思う。それがどんな答えなのかは私にもわからん。だがな、その過程の苦しみは私達も一緒に分かちあえる筈だ。幾らでも私達を…仲間を頼れ」
 少尉の肩を軽く叩くと、大尉は出ていった。叩かれた肩から、少しだけ荷が降りた様な気もする。しばらくコックピットの中で大尉の言った事を反芻していた。

747 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:33:41 ID:35+2VBiK0.net
 これ以上の追撃は月を離れすぎてしまう為、一時中断となった。艦長達は、敵を追い払うにはこれで十分と判断した様である。少尉が気持ちを落ち着かせて表に出た頃には、もう艦が再びアンマン市へ入港するところだった。
「もういいのか?」
 機体を降りて格納庫を眺めていると、フジ中尉がやってきた。
「すみません、取り乱して…」
「気にするな。そんな時もあるだろう」
 珍しくフジ中尉の言葉には棘がなかった。
「大尉は勿論だが、艦長も心配していたぞ。後で顔を出してやるといい」
 そういいながら中尉がドリンクを手渡す。受け取りながら少尉は小さく会釈した。思い返せば、いつも中尉はぶっきらぼうでも彼女を気遣っていてくれた様に思う。
「私が思っていたより…死ぬのって穏やかじゃないかもしれません」
「それはそうだ。穏やかに死にたければベッドの上が良いに決まっている」
「確かに」
 2人はすこし笑った。わかりきったことではあったが、それを真に実感するのは難しいことかもしれない。
「…死んでいった者達の多くは…それを望んだり、望まれていた訳ではあるまいよ。敵ですら、殺したくて殺している訳ではないだろう。例えそれがエゥーゴとティターンズの関係であってもだ」

748 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:34:17 ID:35+2VBiK0.net
 遠い目をしたフジ中尉を尻目に、少尉もふとこの戦いの不毛さに思いを馳せた。
 彼女は志願兵である。何故志願したのか。それを振り返るには避けて通れない男がいる。その顔が浮かぶだけで、暗い気持ちも一緒に浮かび上がってきた。
「…私、実は」
 少尉が過去について少し口にしようとしたその時、艦内放送で緊急の呼び出しがかかった。
「…何だ?」
「また後で話します」
「そうか。とりあえず行こう」
 放送に従う様にして、2人はブリッジへと向かった。

 ブリッジに到着すると、そこにはアイリッシュ級の面々が揃っていた。
「おう!元気か?」
 椅子から身を乗り出したグレッチ艦長が目に入る。
「ご心配をおかけしました」
「全くだ!次同じ様なことがあったら無理矢理でも呑ますからな!覚えてろよ」
 艦長がニヤリとしながら言った。皆の優しさが身に沁みる思いだった。
「それで?何の呼び出しです」
「それがな…」
 フジ中尉の問いかけに、モニターの前に居るワーウィック大尉が答えた。
「連邦議会でティターンズの権限を強化する法案が可決されたそうだ。これから我々の立場は尚の事厳しくなるだろう」
「馬鹿な!?只でさえ連中は軍内に幅を利かせているというのに、それだけでは物足りないと?」
 フジ中尉が少々声を荒げて詰め寄る。
「月での影響力拡大に失敗したばかりだからな。地球でも拠点を失っているし、権勢を保つには議会を抱きこむ必要があるのだろう」
「大尉の話はわかります…。しかし、エゥーゴは何の抗議も出来なかったのですか!?」
「当然、毅然とした立場で発言しただろう。我々の働きを知る官僚達も決して少なくはない。だが…」
 そこまで言って、大尉は視線を落とした。皆次の言葉を待った。
「…ブレックス准将がお亡くなりになられたそうだ」
 皆、言葉を失った。

749 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:34:51 ID:35+2VBiK0.net
「正直言って、俺は彼の信奉者でも何でもない」
 グレッチ艦長が腕を組んだまま口を開いた。
「エゥーゴにいるのも成り行きだ。思想的に共感したとか、大義があるとか、そういうのは無い。…言わなくてもわかってるか」
 そういって今度は髭を弄りながら艦長が続ける。
「だがな、筋の通し方ってもんがあるよな?言いたいことがあるならはっきり言や良いんだ。間違っても、自分の言い分が通らねぇからってトップを殺して…文字通り黙殺する様なやり方はよ…筋が、通らねぇんだ」
 珍しく艦長の言葉には熱がこもっていた。少尉を始めとして、皆の視線が艦長に集まっている。
「准将をやったのはティターンズだ。ジャミトフだろうがバスクだろうが知ったこっちゃない。俺は許せん。
 もうこれからは連邦の内紛なんかじゃ収まりきれない様な…全面戦争が始まると思う。だからな、ここではっきり皆に伝えておきたい」
 椅子を降りた艦長がブリッジの窓を背にして皆を振り返った。
「この艦は俺達の新しい家だ。俺が…その…父親みてぇなもんだ。大したことはしてやれなかったが、気づいたらそうなってた。お前達の為に、俺はこれからもっと…頑張る!だから、お前らも頑張れ!」
 言葉を選びながらも艦長は話し切った。静まり返ったままのブリッジで、艦長が固まっている。
「何言ってるんです今更…。こうなってしまった以上、あなたに皆付いていきますよ」
 腰に手を当てて、呆れ気味にフジ中尉が溜息をつく。
「私も艦長に拾われた身ですからね。より一層尽力いたします。なあ少尉?」
 ワーウィック大尉がにこやかに言った。
「えっと…。そうですね、頑張ります」
 苦笑いしながらスクワイヤ少尉も応えた。
「おお…お前ら…!」
 艦長が感動した様に咽び泣く。それをグレコ軍曹たちブリッジクルーも和やかに迎えていた。

750 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:35:31 ID:35+2VBiK0.net
「ぐぬ…!よし!じゃあ今から鬼大佐にしっかり報告してくる!大尉も来い!」
「了解しました」
 鼻をすすりながらドカドカと退出していく艦長に、大尉も続いて出ていく。ざわつきながら持ち場に戻っていくクルー達の中、少尉は自らが生き延びた意味を思案した。
 エゥーゴの指導者が倒れ、一兵卒の彼女は生き延びた。そこに明確な差や理由などない。だが、そこに意味を見出すことが彼女にとっては必要だった。

24話 意味

751 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:36:02 ID:35+2VBiK0.net
「それで…。連中を取り逃がしたのか?」
 ロングホーン大佐が腕組みしながら椅子に座る机越しに、ワーウィック大尉を伴いグレッチ艦長は直立していた。嫌な汗が背中に流れるのを感じる。
「も…申し訳ありません…!力及ばず…」
 頭を下げる艦長に続いて、傍で大尉も頭を下げた。
「例の試作機は自爆しましたが、恐らくデータは回収されたものかと…」
「まあいい。諸君の働きには感謝しているとも。不十分な補給にしてはよくやった」
 椅子を回し、背を向けながら大佐が静かに言った。
「ブレックス准将亡き今こそ、我々は試されている。指揮系統の再編が必要なこのタイミングを連中が見過ごすとも思えん…。次の指示を待つんだな」
「はっ」
「報告はもういい。持ち場に戻れ」
 敬礼の後、踵を返して司令部から退出した。

752 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:36:34 ID:35+2VBiK0.net
「…ふいー。やっぱおっかねぇぜ」
 ドアを閉めるなり艦長は呟いた。クルー達には見栄を切ったものの、やはり性分はそう容易く変わるものではない。
「しかし、大佐の言うとおり敵の動きは気になりますね」
 大尉は肝が座っている。彼を伴うと幾らか自分も落ち着いていられる気がした。2人はアイリッシュ級の待つドックへと足を向けた。
「そうさなぁ。例のテスト部隊のデータで何をしでかすつもりなのか知らんが…」
「月面で再び戦闘があるとすれば、間違いなく我々は狙われるでしょうね」
「フォンブラウンが本命にしても、アンマンやグラナダは目の上のたんこぶだからな」
 2人は話しながら歩いた。すると、向かいから1人の士官らしき男が歩いてきているのが視界に入った。ワーウィック大尉の足が止まる。
「あ…?アトリエ中尉…?」

「お!?まじか…元気かよ…!?」
 金髪を短く刈ったその男は、砕けた制服の着こなしに耳のピアス、見るからに柄の悪い男だった。
「すみません、彼はベイト・アトリエ中尉。例のガンダムパイロットです」
「今は大尉っつってんだろ!…いや、申し訳ない。ベイト・アトリエ大尉であります」
 ワーウィック大尉に促された彼はびしっと敬礼してみせたが、それを解く仕草といい不遜な雰囲気は隠しきれていない。
「私はグレッチ少佐だ。アイリッシュ級で艦長をやっている。噂には聞いていたが…」
「少佐殿、以後お見知りおきを。今はネモのしがないパイロットですがね」
 頭を掻きながら彼は笑った。
「こんなとこで何をしてるんだ?」
 ワーウィック大尉が聞く。初めて見る親しげなニュアンスだった。
「ああ、補給に立ち寄ったところでな…まさか大尉に会うとは。そっちは順調か?」
「まずまずかな。敵もよくやる」
「全くだ。うちの部隊もジリ貧でよ…また一緒に戦いたいもんだぜ。来いよ?」
「馬鹿言うな、うちだってギリギリだ」
 談笑する2人に独特の距離感を感じ、なるほど彼らが組めば強かろうと艦長は感心していた。

753 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:37:32 ID:35+2VBiK0.net
「噂のニュータイプにお会いできて光栄だ」
「そんな大層なもんじゃありません」
 グレッチ艦長はそういうアトリエ大尉と握手を交わす。
「しかしネモとは勿体ない。うちはガンダムがあるが、君の様なパイロットにも支給すべきだと思うがな」
「お、ガンダムがあるんですか。そいつはいいね…。今は誰が乗ってるんです?ワーウィック大尉?」
「まさか。私はガンダムには乗らん。スクワイヤ少尉という女性だ。彼女もなかなかの腕だよ」
「ほう…?」
 アトリエ大尉が不敵な笑みを浮かべた。
「今回の補給で新しい機体も受領予定なんですが…そういう事ならちょっとした遊びでもどうです?」
「遊び?そんな暇は無いぞ。色々と聞いてないのか?」
「相変わらずだな大尉は。糞真面目だぜ」
「ふん、構うな」
「そう言うなって。…グレッチ少佐、どうです?その女パイロットと1戦交えてみたいんですが。勿論模擬戦で構いません。…俺が勝ったらそのガンダムをうちにくださいよ」
 アトリエ大尉が目をギラつかせながら言った。好戦的だがそれに見合う能力も持ち合わせているのだろう。艦長も少し興味が湧いてきた。

「馬鹿な事を言うな。全く、久々に会ったと思ったら…」
「俺がガンダムを上手く使えるのは知ってるだろ?適材適所って知ってる?」
「スクワイヤ少尉も負けてないがな」
「だったら心配要らねぇって!俺のことも打ち負かしてくれるさ」
「艦長、この男はどうもこういうところがありまして…。真に受けなくて良いですよ」
「ふーむ…」
 グレッチ艦長は腕組みした。好奇心で彼の腕前を見たいという気持ちもある。
「少尉はなんていうかな」
「…!本気ですか…?」
 ワーウィック大尉が案の定慌てる。
「よし!その女パイロットがオーケーならすぐにでもやりましょうよ!どうせ補給はまだ少しかかるし、丁度いいでしょ」
「聞いてみようか」
「はあ…。まあ聞くだけなら私も止めませんが…」
 成り行きで3人一緒にアイリッシュ級へ向かった。

754 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:37:56 ID:35+2VBiK0.net
「ん…?なんです?」
 丁度メカニックと格納庫で打ち合わせ中のスクワイヤ少尉を見つけた。帰還時には取り乱していたものの、今はすっかり落ち着いた様子である。
「こういう申し出があってな…。彼はベイト・アトリエ大尉」
 グレッチ艦長は事の顛末を彼女に伝える。
「へぇ…!彼が隊長の言ってたニュータイプ」
「このガキンチョがガンダムの?ZもMk-?のガキが乗るって聞いたが、ガンダムってのはそういうもんなのか?」
 アトリエ大尉が茶化すと、少尉はムッとした表情を見せた。
「…マンドラゴラは私の機体です。誰にも渡せません。それに私、大人です」
「言っただろ。そんなポンポン回せるもんじゃない」
 ワーウィック大尉がやれやれとアトリエ大尉の肩を叩く。
「折角の玩具を取り上げる訳にはいかねえか!悪い悪い。代わりにワーウィック大尉でも貰っていくかな」
「誰が貰われてやるか」
「へいへい」
 両手を挙げたアトリエ大尉が彼女に背を向ける。

755 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:38:24 ID:35+2VBiK0.net
「誰も勝負しないとは言ってませんよ」
 彼の背を睨みながら少尉が言った。ワーウィック大尉が驚いた。
「おい少尉!」
「ほんとにこの子が私に相応しいのか…試すには良い機会です」
 スクワイヤ少尉は機体を見上げた。残っている先の戦闘での目立つダメージは外装くらいのものだ。
「度胸はあるみたいだな…気に入ったぜ。お前はガンダムでいい。俺は…あれを借りる」
 背を向けたままのアトリエ大尉は、百式改を指差した。
「どうせあれが大尉の機体だろ?チューンナップしてあるなら丁度いい」
「待て待て、ほんとにやる気か?艦長もなにか言ってやってくださいよ」
「うーん、俺はアトリエ大尉の腕前を見てみてぇな」
「艦長!」
 ワーウィック大尉の心配っぷりを見るに、アトリエ大尉は相当に腕が立つと見える。スクワイヤ少尉のガンダムでもサシで歯が立たないとなればかなりのものだ。
「ガンダムをどうするかは俺達の一存で決められんかもしれんが、まあやるぶんにはいいんじゃないか?」
「少佐殿、流石の御判断であります!」
 あからさまにアトリエ大尉が姿勢を正す。どうせ時間も余っていたところだ。
「ロングホーン大佐に知れたら何て言われるか…」
「ははっ、意外と大尉も心配性なんだな」
 思っていたほどワーウィック大尉も完成した人物ではないようで、どこか親近感が湧いた。
「そうと決まれば早速やろうぜお嬢さん」
「ガンダムは渡しません。勿論隊長も」
「ほーう?」
 アトリエ大尉がニヤニヤしながらワーウィック大尉を細目で見る。
「しょ…少尉!無理は禁物だぞ!」
「わかってます。…ありがとう」
 そういって少尉が笑った。ワーウィック大尉はいささか顔を赤くしている。

756 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:39:27 ID:35+2VBiK0.net
「よし、俺はブリッジから観戦しよう。久々に酒でも飲むか!大尉、何かつまみは持ってますかな?」
「そういうことならちょっとしたやつがありますよ!持ってきましょうか」
「お、いいねぇ」
 アトリエ大尉とは気が合いそうだ。彼こそ引き入れたいくらいである。想像していた様な浮世離れしたニュータイプ像とはだいぶ違う。
「ニュータイプって一口にいっても、こんなチンピラみたいな人もいるのね」
「仮にも上官だぞ?これだからガキは」
「なんです?止めときます?」
「いやー、ガンダム楽しみだなー」
 スクワイヤ少尉がアトリエ大尉と火花を散らしているのが目に見える様だ。
「こんなことにはなるとは…。アトリエ大尉、やり過ぎるなよ」
「わかってる。俺も馬鹿じゃねぇさ」
「いやいや、馬鹿なのは違いない」
「一理あるな…っておい。言うようになったなおい。おい」
 旧知の2人のやり取りを背で聞きながら、グレッチ少佐は酒を取りに自室へ向かった。

25話 性分

757 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/05(水) 11:40:41 ID:35+2VBiK0.net
今回はここまで。
引き続き投下しますんで、よろしくお願いします!

758 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/05(水) 22:49:32 ID:mlzz7NBW0.net
乙!

759 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/07(金) 18:37:51 ID:AfaOzt6o0.net
お疲れ様です!

ウィード隊、ついにパプテマス・シロッコと接触ですか。
ドゴス・ギアでもジュピトリスでも、規模のわりにクローズアップされにくい舞台に思えるので、楽しみです。
木星帰りよ、こんな善いお嬢さん達をお持ち帰りするんじゃないぞw(いざという時はラムなり爺なりが動くでしょうけど)

ワーウィックの取り合いw
なんでしょ、アトリエは何だかんだで「歴史書には書きにくいけど結構ガンダムに乗ってた人」になりそうですね(笑)
それはそれとして、最初はぼんやりしていたスクワイヤがすっかり戦う気になってるのは好印象です。
なかなかいい切欠になるんじゃないでしょうか、頑張れ新主人公!

760 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/07(金) 21:12:01 ID:7x6KpfI00.net
お疲れ様です
小説書いた事ないらしいけどめっちゃ読みやすい

761 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 22:24:11 ID:aXIempxZ0.net
>>758

>>759

皆さんこんばんは!

シロッコ好きなんですよねー!笑
傍観者だの何だの言って大物感出してる割にシャアとハマーンの痴話喧嘩劇場に付いてきて結果艦隊壊滅させちゃったり…これでは勝てん!じゃないよ…笑
他のZ本編キャラよりは描写多めにしたいと思ってるのでご期待ください!

>>760
ありがとうございます!
読んでたのは村上春樹とか北方謙三とか、親の持ってた小説を読んでた感じですね!雑食です!笑

762 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:42:42 ID:aXIempxZ0.net
アトリエ大尉を登場させるべきかは悩みましたが、彼がいると話が動かしやすいもので…つい頼っちゃいますね。笑
スクワイヤ少尉もようやく主人公らしくなってきたので、他の面子共々引き続きよろしくお願いします!

さて、更新ペースが落ちてきているのでやっぱり小出しにしていこうと思います!笑
こっちが連載でpixivが単行本みたいな感覚で読んでいただければ良いかなと。
2話ほど投下しますので、よろしくお願いします。

763 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:43:11 ID:aXIempxZ0.net
「ったく…。大丈夫なのか?」
 ワーウィック大尉が覗き込むコックピットの中、スクワイヤ少尉は模擬戦の準備に取り掛かっていた。
「急でしたけど、私がこの機体に見合うパイロットなのかはずっと疑問でしたし」
 まともに戦績もないままに託されたガンダム。表沙汰に出来ないデータが使用されているとは言うが、それにしても優先順位がある筈だった。アトリエ大尉の様な人物が居るならば、本来そちらに回されるものではないのか。
「私を評価してくださるのは有り難いんです。でも、自分で納得できてない部分があって。この模擬戦で何かしら答えが欲しいんですよ」
「わからんではないが…」
 困った様に大尉が頭を掻く。
「それに…隊長は私の事信頼してくださいよ。彼は戦友なんでしょうけど」
「!…そうだな。折角の機会だし…あんなやつ、打ちのめしていいぞ」
 ハッとした様に大尉が笑った。ワーウィック大尉が任せてくれるならば、出ない力も出せる気がした。

764 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:43:32 ID:aXIempxZ0.net
 大尉が離れて独りになったコックピットで、スクワイヤ少尉は準備を終えた。通信が入る。
『聞こえるか少尉』
 フジ中尉からだった。
「聞こえてます」
『模擬戦だそうだな。例のガンダムパイロットと手合わせなんて、なかなか無い機会だ。しっかり勉強させてもらえ』
「あっちにこそ勉強させてやりますよ」
『ほう…また強気だな』
 ひと通り支度してヘルメットのバイザーを下ろす。映し出されたモニターには模擬戦の作戦範囲が表示されている。
『表示の通り、基地周辺の月面試験場が指定場所だ。適度な量のコロニー残骸、凹凸のある地形…低重力とも相まってMSの操縦技量を確かめるには良いフィールドといえる』
 いつもの様に中尉が解説する。確かに色んなことが出来そうだ。
『今回使用する装備は模擬戦用のライフル1丁とジムシールドのみだ。ペイント弾で被弾位置を確認出来る。サーベルは使用出来る状態だが、間違っても抜くなよ』
『俺は抜いても構わんぜ』
 中尉との通信にアトリエ大尉が割り込む。彼も準備が済んだようだ。
「私、接近戦が得意なんですよね」
『奇遇だなぁ!俺もだぜ』
『2人とも、サーベルは禁止です。いいですね?』
『ワーウィック大尉より堅いやつがいるな、この艦は』
『当然の事をお伝えしたまでです』
『あいよー』
 火を見るより明らかだが、この2人は相性が悪そうだ。

765 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:43:59 ID:aXIempxZ0.net
『さーて!やろうか!アトリエ大尉、百式改…出るぞ』
 先にアトリエ大尉の百式が出る。少尉は、ワーウィック大尉の機体に彼が乗っているのも癪に触った。
「スクワイヤ少尉、マンドラゴラ出ます」
 続くようにして少尉も出る。すっかり見慣れた月面だが、気付くとアトリエ大尉の姿が見えない。スクワイヤ少尉も近くにあった岩場に身を潜める。
『それでは模擬戦を開始します。致命傷の被弾を確認するかどちらかのリタイア、或いはタイムアウトまで続けます。いいですね?』
「了解」
『では…これより開始します』

 静寂。照明の類、それとデブリが漂う以外は動くものもなく、まるで時が止まったかのようだ。
 しばし時間を置いてスクワイヤ少尉が機体を動かしたその時、早くも被弾した。背後から右肩を撃たれた様である。
「うそっ!?何処から!?」
『ちんたらやってんじゃねえよ!』
 振り返るとアトリエ大尉の機体が見えた。彼の機体は、先程出撃に使ったカタパルトのすぐ傍に立っていた。出撃してすぐ身を翻していたのか。
『お前がケツ丸出しで隠れてんのは初めから見てた』
「卑怯な…!」
『卑怯もへったくれもあるかよ!』
 すぐに百式へ標準を合わせるも、バーニアを吹かした百式の動きは流石に早い。飛び回る大尉に追いすがる様にして少尉も食い下がった。
『流石ガンダム!これについてこれるんだな!』
「馬鹿にして…!」
『!』
 少尉は更に出力を上げ、百式を追う。慌ただしく姿勢制御をこなし、完全に百式を追い抜く。抜きざまに一瞬だけ速度を合わせると、ライフルを放った。ペイント弾が左肩を掠める。

766 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:44:27 ID:aXIempxZ0.net
『やるじゃねぇか。だが…』
 追い抜いたのも束の間、視界から百式が消えた。位置に気づくよりも早く、下からの弾丸。咄嗟に後退すると、機体の目の前を弾が通り過ぎた。
『まだまだぁ!』
 そのまま急上昇してきた百式に背後を取られた。
「く…!」
『これに頼り過ぎなんだよ』
 ライフルを交わし損ねポットにペイント弾を浴びる。どうにか振り払おうともがくと、あっさり百式は距離を離した。
『寝ぼけてんのか?』
 正面で向き合う形になり、百式は腹部目掛けて強烈な蹴りを見舞った。弾き飛ばされたマンドラゴラはそのまま地面に叩きつけられる。
『終わりかな』
「げほっ…誰が…!」
 向けられた銃口に気づいた少尉はすぐさま機体を立て直し、隆起した地形に隠れた。百式は追ってこない。

「はぁ…はぁ…」
『このまま続けても埒が明かねえ。実戦だったら今頃ガンダムはオシャカだぜ』
 身を隠したまま百式の出方を窺いつつ呼吸を整える。マンドラゴラのショックアブソーバーでなければ無傷では済まなかっただろう。
 やはりニュータイプどうこう以前にそもそも操縦技術が高過ぎる。それに加えて何をやろうにも後の先を取られている様な感覚だ。
「(くそ…考えろゲイル…!)」
 手の内にあるものをとにかく確認した。ガンダム…コロニー残骸…ペイント弾…模擬戦…。開幕早々の被弾といい、アトリエ大尉もあるものは何でも使うだろう。
「…!」
 スクワイヤ少尉は策を閃いた。
『そろそろこっちから仕掛けさせてもらうぜ』
 ほぼ同時に百式も動き始める。策を試せるのは1度きり…スクワイヤ少尉は腹を括って息を吐いた。
『…ケツを隠せと言ってるんだがな』
 こちらの動きに気づいた様だ。
『もらった!』
 百式がコロニー残骸から姿を現しライフルを撃った。ガンダムの背にそれが直撃する。

767 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:44:56 ID:aXIempxZ0.net
 しかし、そこにあったのは自立して飛ぶバーニアポットだけだった。
『なっ…!』
 恐らくアトリエ大尉にはバーニアの残光が見えていたのだろう。いや、見逃すはずがないと少尉は確信していた。
「喰らえッッッ!!!」
 振り返った百式の正面からライフルを放つ。
『んなもん喰らうかよ!』
 百式はシールドでそれを防ぐ。ここまで少尉の読みどおりだった。
「防ぐのはわかってた。でも気にするべきなのはそっちじゃないわ」
『あぁ?』
 百式の足元に背後から大きな影が落ちる。彼が背後を振り返った時、そこには倒れてくるコロニーの外壁があった。
『さっきのポットか!?』
 通過したポットはそのまま直進を続け、そのままぶつかったコロニー外壁の根本をひたすら押していたのだ。中途半端に刺さっているだけの残骸も多い事は知っていた。
『うおっ!』
 倒れてくる外壁を両手で支える百式。ライフルもシールドも手放さざるを得ない。
「今度こそッッッ!!!」
 少尉は必要なアポジモーターとサブスラスターを全開にして突っ込んだ。
『甘いぜッッッ!!!』
 突っ込みながら放ったペイント弾を数発浴びながらもアトリエ大尉は吠えた。百式は片手を外壁から離すと、瞬時にビームサーベルを抜き外壁を切り刻んだ。崩れた残骸によって巻き上げられた砂埃が辺りを包む。

768 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:45:21 ID:aXIempxZ0.net
『ちぃ…何も見えねぇ』
 一旦場所を変えようと百式がバーニアを吹かしたその瞬間を彼女は逃さなかった。咄嗟に位置を把握した少尉は、百式の足を掴みそのまま砂塵に引き摺り戻す。
『ぐおっ!』
「そっちこそ…甘かったわね…」
 辺りの視界が開けてきた時、マンドラゴラは叩きつけた百式の両肩を抑え、上から跨っていた。ブリッジからの通信で歓声が聞こえる。勝った。
『やるじゃねぇか…スクワイヤ少尉』
「模擬戦だったからですよ…じゃなきゃやられてた」
『それは違うな』
「え?」
 聞き返したその時、マンドラゴラのコックピットがペイント弾に塗れた。完全に砂埃が落ち着くと、いつの間にか百式が懐にライフルを手にしているのが見えた。
『模擬戦も俺の勝ちだぜ、嬢ちゃん』
「馬鹿な…!一体いつ…」
『組み敷かれた時にお前から奪ったんだ』
 ハッとして確認すると、確かにそのライフルはマンドラゴラのものだった。百式を抑え込むので必死になってそんなことにも気付いていなかったのか。
『ま、筋が良いのは認めるけどな』
「う…」
 少尉は肩を落とした。最後まで出し抜けなかった。
『…マンドラゴラ撃墜を確認しました』
 フジ中尉の声が聞こえる。少尉はただうなだれるしかなかった。

769 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:46:46 ID:aXIempxZ0.net
 その後帰還した両機はメンテナンスを開始した。機体を降りた少尉はトボトボと格納庫を歩く。
「嬢ちゃん!良かったぜ」
 後ろから乱暴に背を叩いたのはアトリエ大尉だった。
「あそこまでやって駄目なんて…」
「相手が俺じゃなきゃ上手くいったかもな」
 笑うアトリエ大尉にはまだまだ余裕が感じられた。仮に作戦が上手くいったとしても、何かしら対策を打たれていた様に思える。完敗だった。
「執念を感じる戦いぶり…。まるでいつかの俺達の様な。そうだろ?アトリエ大尉」
 そう言ったのは、出迎えたワーウィック大尉だった。傍にはフジ中尉も居る。
「敵の力量を測り、尚且つ機体特性や地形条件も活かした作戦。そして何より、失敗の許されない作戦を咄嗟に実行する胆力…。模擬戦である事を開き直って、使えるものを使った大胆さもありました」
 フジ中尉が眼鏡を掛け直しながら言う。
「えらい少尉を褒めるじゃねぇかよお前ら」
「素晴らしい内容だった。アトリエ大尉が1番それを実感しただろうに」
 ワーウィック大尉が苦笑いしている。
「結果が全てだぜ?」
「アトリエ大尉、最初に私が説明した事…覚えてらっしゃいますか」
「ん?」
 フジ中尉が不敵な笑みを浮かべていた。固まるアトリエ大尉。
「サーベルの使用は禁止と言った筈です。よってこの模擬戦、勝者は少尉です」

770 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:47:08 ID:aXIempxZ0.net
「ちょっと待てよ!別にガンダムにサーベル向けた訳じゃないぜ!?」
「ルールはルールだ。それに、あの状況でサーベルを使わざるを得ない形に追い込んだのは流石と言う他あるまい?他に手が無かったんだろ?」
 ワーウィック大尉がニヤニヤと意地悪く笑っている。
「ちぇ、アウェーでやるもんじゃねぇな」
 アトリエ大尉がやれやれと両手でジェスチャーした。
「それじゃ…」
 恐る恐る少尉は切り出した。
「おう。ガンダムは置いていってやるよ。お前の勝ちでいいぜ…変に粘っても格好がつかねえ」
 腕組みしたアトリエ大尉がフンと鼻を鳴らした。
「やった!」
 スクワイヤ少尉は思わずその場で小さく跳ねた。
「まあ、確かにあれだけ技量があればガンダムも本望だろうよ。俺ほどじゃねえけど」
「素直じゃないな。あんな楽しそうなところは久しぶりに見た」
「会ったの自体久々じゃねぇか!」
「一理あるな」
 2人が笑うのにつられて少尉も笑った。

771 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:47:51 ID:aXIempxZ0.net
「楽しそうなところ申し訳ないが」
 格納庫の入り口からの声に場が凍りついた。ロングホーン大佐である。
「お前達…何をやっている?」
「その、模擬戦を…」
「見ていたよ。私は各部隊に待機を命じていた筈だが、何やらドンパチ騒ぎを起こす連中が目に入ったものでな」
 アトリエ大尉の声を遮りながらロングホーン大佐が言った。カツカツと靴を鳴らしながら少尉達の前までやってくる。
「アトリエ大尉!歯を食いしばれ」
「へっ…?はっ!」
 言うなりロングホーン大佐はアトリエ大尉を殴り飛ばした。大尉は派手に尻餅をついた。
「これで不問とする。全く…よその部隊にけしかけて模擬戦などと。只でさえ問題が多いのだぞ貴様は」
「何で…俺ばっかり…」
「なんだ?まだ修正が足りんか」
「いや…結構です…」
 呆気に取られている少尉達をよそに、ロングホーン大佐は来た道を戻っていく。格納庫を出ていく時、またこちらを振り返った。
「2人共、いい勝負だった。戦果を期待しているぞ」
 大佐はニカッと笑うと、踵を返して去っていく。その場には、立ち尽くす少尉達と頬を擦るアトリエ大尉が残されていた。

26話 ドンパチ騒ぎ

772 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:48:30 ID:aXIempxZ0.net
 アレキサンドリアの面々は、ジュピトリスに到着していた。ジュピトリスはパプテマス・シロッコ大佐が木星より伴った超大型艦である。MSの整備のみならず、開発設計までも行える工蔽を備えている。
 艦同士の船体を接続し、司令部へと足を運んだ。
「ウィード少佐以下、只今帰還致しました」
 ウィード少佐を筆頭に、ドレイク大尉とソニック大尉、オーブ中尉やレインメーカー少佐も伴っていた。

「戻ったか」
 紫の髪を束ねた秀麗な面持ちの男、パプテマス・シロッコ大佐が振り返る。傍には若い女性士官を連れている。
「事前の報告の通り、機体を失いました。申し訳ありません」
 ウィード少佐に続き面々は頭を下げた。
「仕方あるまい。データを持ち帰ったならそれで良い…その為の試験だ。それに…」
 彼はウィード少佐の前に立つと、彼女の顎に軽く指を添え顔を上げさせ眼差しを合わせた。
「君のような優秀な女性を、この程度の戦局で失う訳にはいかん。君に続く多くの人間は、この先の…まだ見ぬ世界を待っているのだからな」
 ウィード少佐は、淡い色をした彼の瞳に吸い込まれる様な心地がした。控える女性士官の眼差しに気付き、ハッとした様に目線を逸らす。
「…新たな世界を築くのは君たちだ。私はあくまでも導くだけ…。その事を忘れないでくれ。私にも、輝かしい未来を見せてくれると嬉しい」
「はっ」
 ウィード少佐は再び姿勢を正し敬礼した。彼はいつも自らは一歩下がったところに居てくれる。自信が湧いてくるのは、そうした彼の指導の仕方による部分が大きい。

773 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:48:54 ID:aXIempxZ0.net
「既に機体のハードはあらかた完成しつつある。ソフト面で諸君のデータを活かす事になる予定だ」
「ありがとうございます…!しかし、相変わらず製作がお早いですね」
「時代は常に動いている。手を止めている暇は無いのだよ。新たな機体は再びエース用の機体として組み上げている…パラス・アテネとでも名付けようか」
 そう言いながら彼はモニターに機体のデータを映し出した。シルエットこそニュンペーと酷似しているが、緑主体のカラーリングと様々な武装オプションによりまた違った印象を受けた。
「アテネ…女神ですか。大佐らしい御命名です。量産型はまだ先送りになるのでしょうか?」
「いや、同時進行で開発を続けたい。その為の豊富なオプション群でもあるからな。エース機と量産機で規格を共通化することで、現場の整備性も向上する。アテネの元に集うニュンペー…実に美しい隊列になるだろう」
「早くお目にかかりたいものです」
「君達の働き如何だ。引き続き頼まれてほしい」
 そういってシロッコ大佐はウィード少佐達面々を振り返った。実際に量産へ漕ぎつければエゥーゴなど敵ではない。ジオン残党の駆逐も容易い筈だ。
「「はっ」」
 姿勢を正し再び敬礼する。これからの事を打ち合わせ、ウィード少佐達はジュピトリスを後にした。

774 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:49:17 ID:aXIempxZ0.net
「ドラフラって、ああいう男がいいのね…?意外だわ」
 ドレイク大尉が天井を仰ぎながら言った。一行は補給物資が積み終わるまでアレキサンドリアのブリッジで小休止といったところである。
「別にそういうんじゃ…」
「うっとりしてたじゃない?」
 からかうドレイク大尉。顔が熱くなるのを感じた。
「ああ見えて野生的な強さを持っているのがわかる…俺と同じだな」
「どこがあんたと一緒なのよ。目まで筋肉になったんじゃないの?」
 ソニック大尉とオーブ中尉が一緒に絡んでくる。
「あの若さで先見の明を見抜いているあたり、やはり木星というのは未知の環境なのでしょうなぁ」
 うんうんと頷きながらレインメーカー少佐が感心している。
「確かに素晴らしいお方だけど、私一人を目に掛けてくださっている訳じゃないわ。私はただの部下よ」
 ウィード少佐がため息をつく。
「叶わぬ恋ってやつかぁ…」
 オーブ中尉がわざとらしく悲しそうな顔をしてみせる。確かに彼には魅力を感じるが、親しみを覚えるにはいささか超然とし過ぎていた。胸に渦巻いているのは憧憬に近い感情なのかもしれない。
「でも彼、女たらしな感じはあるわね」
「もう!その話は終わり!」
 悪ノリを続けるドレイク大尉達を制した。

775 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:50:35 ID:aXIempxZ0.net
 しばらくしてアレキサンドリアは再びジュピトリスから離れた。パイロット達に機体のチェックをさせている間、ブリッジにはウィード少佐とレインメーカー少佐が残った。
「行き先は再び月ですな。作戦指示があるまでは宙域で待機とのことですが、本隊は何やら企んでおるのでしょう」
 レインメーカー少佐が腕組みしながら艦橋からの景色を眺めている。遠くに映る月は変わらず静かな光をたたえている。
「今度こそ連中を叩く…。それに変わりは無いわ」
「いかにも」
 ジュピトリスでは失った機体の補給も済ませてきた。試験用に用意していた予備パーツから組み上げたニュンペー2号機を始め、ガルバルディ隊も新たな武装を受領した。
「まだ月までは掛かりそうね…。…!!」
 シートにもたれたその時、ウィード少佐はモニターに映った物に気付き身を乗り出した。
「これは…!?」
「…やはり考えるスケールが違いますな、上層部は」

776 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:51:11 ID:aXIempxZ0.net
 そこには、本来そこにある筈のないコロニーが写っていた。アレキサンドリアからは随分遠い場所にいる様だが、それでもどうにか視認出来る距離だった。
「ただの移送…ではないわね。…まさか」
「落とすんでしょうな、月へ」
 事も無げに言うレインメーカー少佐を見た。彼の表情は変わらない。
「いくらなんでも…それに我々は何も聞いていないわ」
「あくまでもティターンズは特殊部隊から始まった軍隊ですからな。必要以上に情報は漏らさんでしょう」
 飄々としたレインメーカー少佐に、彼女は一抹の不安を覚えた。
「しかし…」
「知ったところでどうなさるんです。ニュンペーで敵を撃つのか、コロニー落としで殲滅するのか…そこにどれだけの違いが?」
「違い過ぎます…」
「まだまだウィード少佐はお若い。大局はこうやって動く事もあるのだと知っておくいい機会です。先の大戦でも、ソロモンを焼いたのはソーラ・システムという戦略兵器ですからな。決してこれが特例という訳でもありますまい」
「そんな…」
 思わず拳を握り締めた。確かに戦局は動くだろう。しかし、義のある戦いにおいて本当に許される手段なのか。コロニーの住民は何処へ行ったのか。月の一般市民達はどうなるのか。
「知れば悲しみ、知らねば顧みず…。その程度の感傷で世界は動いておらんのです。どうか、ここは耐えてください」
 察した様にレインメーカー少佐が言った。目を細める彼には一体何が見えているのだろうか。ウィード少佐には考えが及ばなかった。
 少しずつ大きくなっていくコロニーの姿に、自らの業を見た気がした。

27話 静かな光

777 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/11(火) 03:01:31 ID:GcXeF8+D0.net


778 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/14(金) 19:26:29 ID:lJZVDjL30.net
お疲れ様です!

マンドラゴラ、ブースターポッド飛ばせるんですか!
そして(爆発四散してるにせよ)コロニー外壁を押し退ける推力と剛性、どっちかと言えば『拳』、キャラが立ってるw
百式のバックパックが羽と推進器の二段階で分離させたり、ディアスやZZのバインダーを外して使えるAEらしい設計で
Vガンダムの半分はアナハイムで作ったと言われても、分かる話ですね
(この物語には出てこないでしょうけど、サナリィに部品を切り離して使い捨てにするセンスは感じません)。
実戦と模擬戦を使い分けるアトリエはまだまだですね、スクワイヤもアツくなってて気づかなかったけどw

ウィード少佐はシロッコに惹かれてるんですね、少し意外でした(>>687の段階ではもうちょっと警戒してるかなー、と)。
ソニックが自分に近い波長を感じてるのは、(木星帰りが)何故かヤザンと意気投合したあの感じですかね、これも意外。
ドレイクは距離を取って考える......ミサイル付シールドを上手く使う(>>661参照)といい、実戦的な知性派なんですね。
レインメーカー爺さんは前者2人のようなベタ誉めではなく
よく分からないけど成果は挙げてる輩に感心しつつ、内心しっかり警戒してると見ましたw
或いはふと自分もかつては見果てぬフロンティアを夢見ていたと思ったのか、でしゃばらず良い感じです

これからはアイリッシュ隊の内幕が描かれ、アレキサンドリア隊もリニューアルして新たな戦いに臨むと。
いよいよ本番・決戦という感じですね、ご健闘を!

779 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/15(土) 15:19:28 ID:ESK3Cyhb0.net
>>778
いつもありがとうございます!

おー!その辺まで考察していただけるとは!頑張って考えた甲斐があります!笑
分離機構はアナハイムガンダムにはあって然るべきだと思うんですよね、劇場版ZのラストでもZのバインダー外してましたし。

何かと毎度ぶん殴られるのはアトリエ大尉の仕事…笑
模擬戦でしか通用しない戦術は、技術が向上した故の彼なりの手加減だったんですが、サーベルに関してはほんとに追い込まれて素が出ちゃった感じですね。フジ中尉の説明もまともに聞いてなかったし…笑
彼も言っていた通り実戦だったらポットも破壊されてその時点で決着は着いてますが、アトリエ大尉の戦い方からそこを割り切って考えたスクワイヤ少尉が勝った感じです。ただ、やっぱ腕は完全にアトリエ>スクワイヤですね!

アレキサンドリア隊はシロッコの元で動いているので何かしら共感している部分があります。
ドレイク大尉はマウアー的なとこもありますね…シロッコみたいなデキる男よりダメ男が好きそう…笑
彼らのこともまだまだ掘り下げたいので、それも追々。

1つの山場を迎えますんで、引き続きよろしくお願いします!!

780 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:46:19 ID:98Jcq17H0.net
お待たせしてます!
最近あまりにも忙しいもので…
多少書き溜めてるのでちょこちょこ出しときます!!

781 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:52:24 ID:98Jcq17H0.net
「そんじゃま、元気にやれよ」
 頬に湿布を貼ったアトリエ大尉。補給が終わり、再び月を立つとの事だった。しばらく月に滞在する事になるスクワイヤ少尉とワーウィック大尉は、2人で彼を見送っていた。
「ニュータイプって、信じます?」
「あぁ?MSの操縦がうまけりゃそう呼ばれるのさ。お前も、ワーウィック大尉もニュータイプなんじゃないか?」
「また適当な事を言って」
 ワーウィック大尉が呆れる。しかし案外アトリエ大尉の言うことも的外れではない気がした。
「人と深く解り合えるんでしょ?最初のガンダムに乗ってたアムロ・レイが随分前に前テレビで言ってました」
「ああ、あいつか…訳のわからん事を言うから軟禁されてたんだろ。俺を見てみろ、解り合えそうか?」
「うーん確かに」
 首をひねった少尉の頭に、ムッとしたアトリエ大尉が拳骨した。
「お前も生意気だが、まあそういうこった。俺がニュータイプでないか、ニュータイプ自体が幻想か…。どっちにしろ関係のない話だぜ」
「メアリーとお前は解り合えなかったのか?」
 そういってワーウィック大尉は、アトリエ大尉の胸元に光る石を指差した。翠の美しい光を放っている。
「ふん、あいつは特別だ。…そろそろ行くぜ」
 バツが悪そうにアトリエ大尉が歩きだした。
「え、なに?彼女かなんかですか?」
「まあ、だとしたら犯罪だな」
 ワーウィック大尉が笑う。
「だーれがロリコンだ!」
「いや、そこまでは言ってない」
 振り返ったアトリエ大尉にワーウィック大尉が胸の前で手を振ってジェスチャーする。
「けっ、その調子なら大丈夫そうだな!あばよ」
「…ほんとに、ありがとうございました」
 スクワイヤ少尉は頭を下げた。
「…マンドラゴラだっけ?あれはいい機体だ。お前なら乗りこなせるだろうよ」
 背を向けて歩きつつ、アトリエ大尉が軽く手を挙げる。姿が見えなくなるまで、少尉達はその背中を見つめていた。

782 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:52:54 ID:98Jcq17H0.net
「…戻るか」
「そうですね」
 少尉達もその場を後にする。彼女達の機体も補給が終わり、次の作戦を待つだけだった。とりあえずアイリッシュ級の元へと帰る。
「アトリエ大尉…彼って本当にガンダム貰う気だったんでしょうか」
「どうだか。私が思うに、少尉の事が気になったんだろう」
「私?」
「ああ。ガンダムに思う所はあるだろうからな。どんなパイロットなのか自分で確かめたかったんだと思う。恐らく、お眼鏡にかなったんじゃないか?」
「それなら良いですけど。でも正直、私なんかより彼の方がガンダムに似合う気はしてます」
「あいつは何に乗っても戦果を挙げるさ。それに…」
 言葉を切った大尉が足を止めた。気付いた少尉も振り返る。
「私は、少尉を信頼している」
 柔らかな表情で言う大尉と目が合った。少尉もニュータイプだったら、彼の気持ちが見えるのだろうか。
「ふふ」
 恥ずかしくなった少尉はまた足早に歩きだした。

「見送りは済んだのか」
 艦に戻るとグレッチ艦長がブリッジで出迎えた。
「はい。今頃艦も出港する頃でしょうね」
 大尉が応える。彼に並ぶ様にして少尉も顔を出した。
「いやー、惜しい男だった。ああいうやつが一人いると俺も楽しいんだがなぁ」
「ずっと居られるとそれはそれで苦労も絶えませんよ」
 苦笑いするワーウィック大尉だが、どこか寂しそうでもある。
「それはそうとゲイルちゃん!腕を上げたな。俺も艦長として鼻が高い」
 艦長が少尉を覗き込む。観戦しながら呑んでいたところをロングホーン大佐からどやされたと聞いたが、あまり悪びれている様には見えない。
「艦長のおかげでガンダムを持っていかれるところでしたよ」
「いやいや!俺はゲイルちゃんならお茶の子さいさいだろうと思ってな!」
「都合いいなぁ…」
 呆れつつも、模擬戦の機会をくれた艦長には感謝していた。アトリエ大尉との戦いで、足りなかった何かを得た気がする。
「何か指示があったら伝達してやるから、お前達も休むといい。また働いてもらうことになるからな」
 そういって艦長が帽子をかぶり直した。少尉はその言葉に甘えて自室へと戻った。

783 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:53:32 ID:98Jcq17H0.net
 スクワイヤ少尉は味気ない部屋へと帰ってきた。サラミスの時より広い自室になったものの、相変わらず置くものがないせいで余計にその広さが味気なさを強調していた。いつもの様に支度を済ませると、ベッドへ寝転がる。
 模擬戦だったとはいえ、アトリエ大尉との戦いは鬼気迫るものがあった。あれこれ余計な事を考える暇もないほど追い立てられたし、彼を倒すこと以外は考えられなかった様に思う。
 少尉は天井を見つめながら思考を巡らせた。死への恐怖も、そして好奇心も変わらずある。しかし、それを傍らに置くことが出来ればいいのではないかと思えてきた。
 無理に克服したり、押さえつけたりしなくてもいい。目の前の事に必死になれる自分をようやく見つけられたのかもしれない。
『…ゲイルちゃん!寝てんのかー?』
 しばらくうつらうつらしていたところに通信が入った。身を起こすと、目を擦りながらモニターを触る。
「む…。どうしました?」
『大変なことになった。すぐブリッジに来い』
 そういって艦長は通信を一方的に切った。何事かわからないまま、バタバタと部屋を出る。

 程なくしてブリッジに到着すると、皆集まっている様だった。一様に表情は硬い。
「なんなんです?」
 少尉が声を掛けると数人が振り返った。
「まずい事になってる」
 組んでいた腕を解いたフジ中尉がモニターを指す。そこには見慣れた形のスペースコロニーが写っていた。
「コロニーがどうしたんです」
「これがグラナダに向かってきてる」
「へ?」
 つい間抜けな声が出た。別のモニターを見ると、月との距離を観測している様な図面が映っている。
「信じられんのは無理もないが、奴らはもう手段を選ばん様だ」
 艦長がシートに沈み込みながら言った。深く被った帽子で表情は読み取れないが、声色から怒りが滲んでいた。
「ジオンの時にあれほど被害を受けておきながら、今度は同じ事をやる」
 ワーウィック大尉もモニターを見つめている。
「…前から気になっていた事があります。今言うべき事かは私にもわかりません」
 フジ中尉が改まってワーウィック大尉を見た。大尉もモニターから中尉へと視線を移した。

784 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:54:06 ID:98Jcq17H0.net
「大尉は…ジオン公国軍に所属されていたのではないですか」
「…ああ。元々私は君達の敵だった」
「…そうですか」
 ワーウィック大尉が静かに応え、中尉もまた静かだった。スクワイヤ少尉は知らなかった事だ。驚きを隠せず、大尉を見つめた。
「大尉もコロニー落としを?」
「…良い機会かもしれないな、少し話そう。私は地球降下作戦から従軍して、そのまま地上で終戦を迎えた。ルウムまでの事はサイド3で伝え聞いていただけだ…。戦後、デラーズ紛争にも加わらないままだったよ」
「私は…宇宙生まれです。ジオンに占領された連邦寄りのコロニーで父を失いました。母が言うには真面目な男だったようで、最期まで職務を全うしたのだと。私と母や兄弟は父の伝で地球にいて難を逃れましたが」
 2人の話に気付き、周りも少しずつ静かになっていた。
「…ジオン公国のやり方は間違っていた。私もそう思っている」
 ワーウィック大尉はフジ中尉を見つめた。しかし、中尉は彼から目を逸らした。
「何故そう言い切れるんです…?あなたはそれでも終戦まで戦っていた筈です」
 中尉が拳を強く握り締めるのが見えた。
「…ジオンにいた私を許せないのなら、それも仕方ない」
「大尉に何か伝えて事態が変わる訳じゃないこともわかっていますよ…!しかし…」
 中尉は再び大尉に詰め寄った。
「コロニー落としなんてものをやるティターンズは当然許せません…。しかし…そのティターンズが生まれたのはジオンのせいでしょう!?何故ジオン軍人だったあなたが此処にいるんです!?…やはり…私には割り切れない…」
 そういって中尉はブリッジを飛び出した。
「フジ中尉!」
 慌てて追いかけるワーウィック大尉をスクワイヤ少尉も追った。コロニー落としが行われると言われても正直実感は沸かない。大尉がジオン出身だったことも知らなかった。気持ちの整理がつかないまま、とにかく彼らの後を追った。

28話 解り合える

785 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:55:54 ID:98Jcq17H0.net
「ここにいたのか」
 ワーウィック大尉がフジ中尉に声をかける。格納庫に立つEWACネモの前に彼はいた。
「…申し訳ありません」
「いや、気にするな」
 スクワイヤ少尉は、彼らと一緒にしばらく黙っていた。

「…この機体、本当にに良く出来ています」
 中尉がネモを見上げる。完全に修復作業を終えた機体は、傷が癒えたフジ中尉が再び乗り込むのを待っている。
「私もこの機体と一緒で、情報収集が得意ですから。…大尉のことも色々と拝見しています。そもそも最初に見たエゥーゴの資料に違和感がありましたしね」
 大尉が着任してくる時に見ていたあの資料のことか。少尉は結局見ないままだった。大尉はただじっと話を聴いている。
「いくつかの資料に目を通して、あなたがジオン出身だと気付きました。嘘と正直が混ざった様な経歴でしたが、エゥーゴにそういう人間が居るのはごく自然です。それでも、実際にそれが判ると…私個人には引っ掛かるものがあるのも事実で」
「流石は中尉だ。私も隠すつもりは無かったが…」
 ワーウィック大尉が腕を組んで壁に寄りかかった。中尉はMSの前の柵を両手で掴んでいる。少尉はただその間で立ち尽くしていた。
「今は共に戦います。しかし、全てに納得出来ている訳ではありません」
「ああ。中尉の言うことはもっともだと思う…。今は私を…信じてくれ。何としてもティターンズを止めなければならない」
 ワーウィック大尉とフジ中尉が向き合った。
「…その気持ちは私も一緒です」
 2人の目には、確かな意思が感じられた。

786 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:56:23 ID:98Jcq17H0.net
「…中尉は私の事も調べたんですか?」
 思わずスクワイヤ少尉は聞いた。
「まあ調べはしたが…少尉は志願兵だろう?後地球出身ってことくらいは」
「よくご存知で」
 そう聞いて内心少しホッとした。それ以上の事は踏み込まれていないらしい。
「中尉の気持ちも勿論わかります。けど…今は喧嘩してる場合じゃないです。ティターンズ、止めに行きましょ」
「ふふ…少尉に諭される日が来るとはな」
 フジ中尉が自嘲気味に笑った。
「そりゃまあ、チームプレーが大事ですから」
 そういって彼女も力なく笑う。いずれ、少尉も自身の事を話さねばならない時が来るだろう。

 その時、格納庫へと通信が入る。
『ワーウィック大尉達、そこに居るんだろ?』
 近い通信機器のモニターいっぱいに映っていたのはグレッチ艦長の顔だった。
「申し訳ありません。ご心配をおかけしました」
 大尉が応答する。
『全くお前らは…誰かに何かあったと思えば今度はまた違う誰か…いい加減落ち着け!』
「いやはや、仰る通りで…」
 珍しくワーウィック大尉が辟易していた。
『まあいい。今はそれどころじゃねぇからよ…。コロニー迎撃に出る必要があるのは判ってるな?』
「はい。司令部はなんと?」
『とにかく出港しろとさ。既にアーガマやラーディッシュは出ているそうだ』
「やけに動きが早いですね…」
『何でも密告者がいたらしい。やはりティターンズも一枚岩ではないな』
「なるほど。我々もこうしてはいられませんね」
『おうよ!さっさと支度しろ!』
「はっ」
 手早く通信が切られた。最近のグレッチ艦長は貫禄が出てきたというか、艦長らしくなってきた。たった1ヶ月やそこらで人は変わるものなのか。いや、本来の一面が隠れていただけかもしれない。
「よし。早速準備だ」
 ワーウィック大尉が2人を振り返る。
「今回から私も復帰しますので、演算の類はお任せを」
 そういってフジ中尉はヘルメットを脇に抱えてリフトへと急いだ。
「…中尉、大丈夫ですかね」
「彼ならきっちりやってくれる」
 ワーウィック大尉の心境は複雑だろう。彼も自身の過去にはきっと苦しんだ筈だ。
「大尉も無理はしないでくださいね」
「ああ…ありがとう。背中は任せた」
 大尉も百式の元へと駆けていった。

787 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:56:47 ID:98Jcq17H0.net
 程なくしてアイリッシュ級は出港した。パイロットである少尉達は機体のコックピットで待機している。
『お前達、コロニーは目視できているか?』
 再び艦長からの通信が入る。
「でっかいですね。このコロニー…無人でしょうか」
『みたいだな…恐らくは一年戦争で廃棄されたものの一つだろう。多少弾が当たっても大丈夫だろうが、破片は飛ばすなよ』
 モニターに映るコロニーは核パルスエンジンを除いて光も灯っておらず、見慣れていた姿からすると幾らかおぞましさすら感じる。
『こっからはグレコ軍曹に指示を出させる。俺も忙しいからな…よく聞いとけよ』
 そういうと、艦長と入れ替わりでグレコ軍曹が節目勝ちに現れた。おかっぱの前髪で目元が見えないが、相変わらずもじもじしているのはわかる。
『フジ中尉がパイロットに復帰されましたのでこれからは私が…。先遣隊が軌道を変える為にコロニーへ接近、核パルスエンジンを破壊します。皆さんはその援護をお願いします』
『わかった。因みに敵はどの位出てきている?』
『えっと…』
 ワーウィック大尉が訊ねると、グレコ軍曹が慌てる。
『…すみません、4隻ほど護衛に就いている艦があります。アレキサンドリア級2隻とサラミス改が2隻。既にアーガマとラーディッシュがコロニーへ砲撃を開始していますので、皆さんは反対側から敵を引きつけてください』
『よし。しかし、まさかの旗艦と共同戦線か…』
 ワーウィック大尉の声には期待と焦りがみえた。少尉もアーガマの姿を実際に見るのは初めてである。
「例のニュータイプの少年もいるんでしょうか?」
『少尉、我々は何も気にせずいつもどおりやればいい。…行きましょう』
 少尉の問いにフジ中尉は淡々と応えた。彼に従って出撃準備にかかる。

788 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:57:35 ID:98Jcq17H0.net
 既に交戦が始まっている真っ只中へMS隊は飛び込む。やや離れた場所にアーガマとラーディッシュが見える。
 ラーディッシュは同じアイリッシュ級ということもあってスクワイヤ少尉達の母艦とそっくりだが、アーガマはもう少しこざっぱりとしていて、資料で見たペガサス級と何処か似ていた。
『あっちはあっちでやってる様だ。我々は横槍が入らないよう敵を抑える』
「了解」
 ワーウィック大尉指揮の元、百式改とマンドラゴラが両翼に展開し、その後方中央をネモが陣取る。
『前方に敵。サラミス改1隻と、マラサイが2機、ハイザック2機…。更に後方にアレキサンドリア級』
 フジ中尉が的確に状況を伝える。
『まずは手始めにサラミスの取り巻きを落とす。離れすぎるなよ』
「どう出ます?」
『そうだな、少尉から仕掛けろ。私も合わせる』
「わかりました…!」
 返事とほぼ同時にバーニアを吹かし速度を上げた。百式も横に付いてきている。
『私のことは気にせず突っ込んでください。2人の機動力を活かして道を拓く。そこからネモで情報を集めながら敵陣に入り込んでいきましょう』
 やや遅れながら中尉が言う。言葉通り、お構いなしにマンドラゴラは敵との距離を詰める。同じくこちらを捉えた敵部隊も布陣を完了している様だ。上下にマラサイ、両翼にハイザックといった具合に十字の陣形を組んでいる。
『行くぞ!』
 大尉の声がこだまする。十字の陣形の中央から敵艦の砲撃が届く。それを躱しつつ、迎え撃つ敵陣へと身を投じた。

29話 道を拓く

789 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:59:39 ID:98Jcq17H0.net
「ちぃ…!すぐそこにアーガマが居るのに!!」
 オーブ中尉はコックピットの中で拳を握り締めた。アレキサンドリアの面々はコロニーの護衛にあたりながら迎撃したエゥーゴと交戦に入っていた。先鋒のサラミス隊が例のバッタ達と戦闘に入った様だ。
『焦らないの。あっちはヤザン大尉達がやってるから』
「あの柄悪いおっさんでしょ?いけすかないわ」
 なだめるドレイク大尉に毒を吐く。ヤザン・ゲーブル大尉とはそんなに面識はないが、禄な話を聞かない為あまり良い印象は持っていない。
「ドラフラ、アーガマを落とせればシロッコ大佐も喜ぶよ〜?」
『そんな単純な話じゃないんだから』
「ふん、まあ良いわ。バッタどもには借りもあるしね」
 ブリッジから指揮を取るウィード少佐をからかいつつ、出撃準備にかかる。ジュピトリスでの改修作業でそれぞれの乗機には新たな試験装備を施した。
 オーブ中尉のガルバルディαには、メッサーラに搭載したブースターと同等のものを外付けしてある。TMAで使用した技術をMSへ落とし込む運用試験である。
 最早ガルバルディである必要性はかなり薄いが、パイロットである彼女らに転換訓練を受けさせる手間を省く為と言っていい。

790 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 16:00:20 ID:98Jcq17H0.net
『ここらで腐れ縁とおさらばしたいのは俺も同じだ。トレーニングに集中したいしな』
「あんたの本業はどっちなのよ」
 相変わらずのソニック大尉には呆れる。とはいえ一度囚われた彼にとってみればまさしく腐れ縁だろう。彼のガルバルディγは完全に装甲材そのものを取り替えた。
 その影響で機体がドム系列の様に大型化したが、各所にアポジモーターを併設することで重量級でありながらも機動性・運動性を確保している。これには、重量バランスに対する推力の必要量を検証する意味合いがある。
『あの調子だと、どうせ先鋒は持ちこたえられないでしょうね…。そろそろいきましょうか』
 ドレイク大尉のガルバルディβは、外観に大きな変化がない代わりにシールドを持ち替えていた。パラス・アテネのオプションの一つで、多数のミサイルを装填してある。
 シールドラックのグレネードを多用していた彼女にはうってつけだ。これに限らず様々なオプションを換装出来る様、各部にラッチを増設している。

 アレキサンドリアから出撃したMS隊は、母艦を離れ過ぎない位置で展開する。先鋒の隊列は乱れ、既に数機撃墜されている様だ。
「どうする?援護に入る?」
『そうね…引きつけるのがお互いに仕事みたいだけど、こっちは連中さえ片付けばアーガマを叩けるからね。早く叩くに越したことはないわ』
 何だかんだと言っても、ウィード少佐もアーガマが気に掛かるらしい。
『準備運動は済んでる。後は負荷をかけるだけだ!』
『はいはい。それじゃ、何かあれば呼び戻すから。行ってきな』
『「了解」』
 ソニック大尉とのいつもの問答を流しつつ、オーブ中尉が先頭になって友軍の元へと急いだ。ここから見えるだけでも、敵の動きが当初とはまるで違うのがわかる。連中にしても、初めての遭遇戦から今日に至るまで伊達に戦ってきた訳ではあるまい。

791 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 16:00:57 ID:98Jcq17H0.net
 お互いが射程距離に入るまでそう時間はかからなかった。こちらの接近を掴んでいたと思われる敵部隊だが、先手は打ってこない。
 友軍のマラサイが放つライフルを躱しつつ、バッタを筆頭に小さく纏った隊列を3機で組んでいる。
「いつもより大人しいじゃん…?それなら!」
 オーブ中尉は背中のバーニアを前傾にすると、2門のメガ粒子砲を放った。固定兵装なだけあって非常に高い威力を有している。それを受けた敵は一転、大きく散る様にしてビームを避けた。両側に跳んだガンダムとバッタがそれぞれオーブ中尉に迫る。
「あたしが1番叩きやすいとでも!?」
 ガンダムのライフルを躱し、更に振りかぶったバッタのナギナタを両腕のサーベルで受ける。
『こっちは俺が抑える!』
 間に割って入ったソニック大尉がガンダムを牽制する。その隙に中尉はバッタを押し返すと、再度メガ粒子砲を放った。しかしこれもまた当たらない。

「発射角が不自由ね…!」
 唸るオーブ中尉だったが、敵は待ってくれなかった。再度斬りかかるべく一気に距離を詰めてくる。
『独りでやろうとしなくていいの!』
 ナギナタの斬撃を遮る様にして、ドレイク大尉が放ったミサイル群が敵を襲う。バッタはそれを器用に切り払いながら尚も進撃を止めない。爆炎の中から敵のバイザーの光が赤く漏れる。
「何なのこいつ…ッッッ!!!」
 狼狽えながらもオーブ中尉はサーベルを構えた。1度、2度と切り結ぶうちに段々押されていく。敵の得物は長物の筈だが、こちらのサーベル二刀流の手数にも難なく付いてきた。
「腕をひけらかしてさ!そういうの嫌いなんだよね!」
 斬り合いの間を読みサーベルを収めると問答無用で敵の両肩を掴み、敵の胸元へ片方のメガ粒子砲を押し付ける。
「そらぁ!!」
 巻き添え覚悟の零距離でビームを放つ。こうでもしなければ命中させられないと踏んだ苦肉の策だった。
 しかし、放ったビームは敵を捉えられなかった。砲を押し付けた直後に互いの身体の間へ脚を挟み込まれ、ビームを放つよりも先に強力なバーニア噴射で機体を引き剥がされた。
 ビームは敵を掠めるだけに留まり、蹴り飛ばされる形になったオーブ中尉の全身に強い衝撃が走る。
「きゃあああ!!」
『言わんこっちゃないわね…』
 間髪入れず庇うようにしてドレイク大尉がバッタの前に立ち塞がるのが見えた。

792 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 16:01:28 ID:98Jcq17H0.net
「フリード!」
『連携しろっていってるでしょ!』
 再び距離の開いたバッタに、ドレイク大尉がライフルで牽制をかける。しかし、その合間を縫う様に援護に入ってきた友軍のマラサイが脈絡もなくバッタに接近しようとしていた。
「あっ…馬鹿っ!」
 敵がこれを見逃す筈もなく、サーベルを振りかぶるマラサイの後の先を取ったバッタは、容赦なくこれを袈裟に斬り捨てた。
『下手に飛び出すから…!ああなりたくなかったら言うこと聞きなさい!』
「ちぇ…了解」
『いい子ね…。…ラム?』
『おう!呼んだか!』
 呼び掛けに応じ、2人はドレイク大尉の元へ集う。ソニック大尉を追っていたガンダムも流石にこちらへ突っ込むことはせず、バッタの傍へピタリと付いた。
「…あれ?おかしい…」
 オーブ中尉は今になって気付いた。敵は3機居なかったか。これでは1機足りない。
『何だ?』
「後1機いた筈よ。こないだは居なかったけど、さっきは確かにもう1機…」
 辺りを探すが見当たらない。間違いなく3機いた筈だ。
 すると、急にバッタとガンダムが動いた。ドレイク大尉達には目もくれず彼女らの背後にいるアレキサンドリアへ向かい始める。
「何なの!?」
『いいから追うわよ…うわ!?』
 敵の背後を取ろうとしたドレイク大尉が狼狽える。先程まで無かった筈の大量のデブリが一帯に流れ込んできたのである。行く手を遮られたMS隊は大きく出遅れてしまう。
『一体何処から!?』
「…!」
 バッタ達の進む背後にネモ隊が合流するのが見えた。
「あいつらが運んできたの!?」
 よく見ると幾つかのデブリにノズルが取り付けられている。簡易的な衛生ミサイルの様な代物らしかった。大きなデブリに小さなデブリがワイヤーで連結されており、牽引出来る様になっている。
『私達を分断する為にわざわざ仕掛けを…』
「何でこんなちゃちい仕掛けでピンポイントに狙えるのよ!これじゃ軌道修正なんて出来ない筈なのに!」
『…あいつか』
 ネモ隊の最後尾にレドームを搭載した機体が付いていく。見るからにデータ収集や通信機能を強化されているのがわかる。
「あれよ!最後の1機!」
 気付いたものの後の祭りだった。今からデブリを掻い潜ったのではもう追いつけない。

793 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 16:01:57 ID:98Jcq17H0.net
「くそ!くそ!」
 手当たり次第にデブリを砕く。
『不味いわね…。いくらニュンペーでもあの敵全てを捌くのは無理よ。私達がこうも足止めされたんじゃ…』
『いや、まだ方法はある』
 そう言ってソニック大尉が指し示したのは、護衛していたコロニーだった。
「あれが何なのよ!このままじゃ核パルスも破壊されちゃう!」
『落ち着け。焦っても筋肉は育たん』
「何なのよほんとに…」
『まあ聞け。大した事ではない』
 オーブ中尉は肩を落とし次の言葉を待つ。今は彼の作戦を聞くより他に選択肢は無かった。

30話 苦肉の策

794 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/29(土) 11:23:38.42 ID:hwNtXCly0.net
乙!

795 :◆tyrQWQQxgU :2020/03/03(火) 00:01:31 ID:v0Qdf/Si0.net
>>794
いつもありがとうございます!
また投下しますんでお楽しみに!

796 :通常の名無しさんの3倍:2020/03/07(土) 13:58:56 ID:UCYNFzkY0.net
お疲れ様です!

アトリエのNT観はF91の時代に通用するやつですね。
これで新生ネオジオンにでも入ったら「何があった?!」ですよw
しかしロリコンは自己申告なのか......スクワイヤ少尉、こんな男と解り合うことはありませんぜ(爆)

互いの出自で小さくヒビの入りそうなフジとワーウィック(フジファブリックではないw)。
今はコロニーという大きな敵に一緒に戦ってますが、果たして彼らは和解できるのか......まぁ双方ティターンズ堕ちはしないでしょうけど。
ティターンズ側の内通者の話が出て、(当然ながら)スクワイヤも止めるという点で合意。なんかこの感じ、いいですね!

さてウィード旗下アレキサンドリアはPMX系装備を受領、と。
実質旧ジオン機のガルバルα(オーブ機)にメッサーラのブースターとは、攻めましたね。
ここでマッチングすれば以降のティターンズ系にも合わせていけそうなわけで...
特性としてはシュツルム・ディアスやVダッシュに近そうですが、現時点ではまだまだジャジャ馬の模様。
そういえばオーブ機はボックス・ビームサーベルとのことですが、両方ともそれで二刀流にしているのでしょうか?
ソニックのγ(ガンマ)は......動けるデブに乗る筋肉もりもりマッチョマン、濃いですねw
ドレイクのβラッチ多用モデルが最も生き残りそうですね、バーザムの変なライフルなんかもいざって時に使えるかと(笑)
しかし友軍のマラサイ、仮にも旧主役機なのに...パイロットってやっぱり大事ですね。

しかし、コロニー落としを批判する一方で似非衛星ミサイルを使うフジ中尉、地味に腹黒では?
ガンダムで言っても仕方ない気がしますが、「破片を飛ばすなよ」と言われている戦場に大量のケスラーシンドロームの種を投入するわけで
仮に他のコロニーにでも跳んだら迎撃で落とし切れるかどうか...ある意味エゥーゴらしいかも(苦笑)

では手洗いうがいなど気をつけて、続きを楽しみにしてます!

797 :◆tyrQWQQxgU :2020/03/18(水) 10:46:09 ID:nuO8ydDJ0.net
>>796
いつもありがとうございます!

一般的にはNT論なんてそんなものだと思うんですよね、一部の人間にしか認知されてないと思いますし。

エゥーゴの面白いところは、地球連邦であり反地球連邦であり、その上ジオンの人間も居るってとこなんですよね。
そのエゥーゴが同じ連邦内のティターンズと内ゲバやってて、アステロイドベルトからアクシズまでやってくるという混迷ぶり…。
それで裏切るやつまで出てくる訳ですから、その中で信じられるものって何かあるの?というのもテーマの1つです。

ティターンズって機体の繋がりが滅茶苦茶なので、ミッシングリンクを考えるのは楽しいです。AOZみたいな企画が立ち上がるのも納得です。
ジュピトリス系列はあまり触れられていない印象なので、そこに切り込んでみた次第。

いよいよって時の為にこの手の兵器はあるだろうと思いました。
大気圏が無い月だとそのまま破片が降ってくるかと思いますが、フジ中尉ならある程度計算した上で運用してると思います!笑

798 :◆tyrQWQQxgU :2020/03/18(水) 10:47:57 ID:nuO8ydDJ0.net
>>797
あとオーブ機は両手ともボックスタイプのビームサーベルです。
篭手みたいな形をイメージしてます!

799 :通常の名無しさんの3倍:2020/05/02(土) 07:07:56 ID:NWG27T9L0.net
ご無沙汰してます!
ふとエゥーゴ側の制服が気になったのですが...

ワーウィック→サエグサやシーサーが着ていたようなチョッキ+シャツ
フジ→カツが着ていた緑系
スクワイヤ→レコアが着ていた露出の少ない方
グレッチ→グレーの正規軍服、前を止めずに着崩してる感じ(ヘンケン用だと襟から下が開かないんですよねw)

おおよそこんなところでしょうか?
ワーウィックはカミーユみたいにするほど青くないし、かといって連邦グレーを着こなすのも変かとこうしましたw

800 ::2020/06/03(水) 15:26:58.63 ID:6Hz5WWbB0.net
大変お待たせしました!
コロナだの副業準備だのでバタバタしてました…。
頻度は落ちるかもしれませんが、また投下していきます!!取り敢えず書き溜めていた分を落としますね!

>>799
制服とはまた良いところに目をつけましたね!
イメージでは、
・ワーウィック→ヘンケンみたいな黒で襟の裏地が緑+シャツ
・スクワイヤ→エマさんみたいな緑+黒のレギンス
・フジ→お堅いベージュの連邦カラー
・グレッチ→フジと同じく連邦標準制服を適当に着崩した感じ

…こんな感じでしょうか??

801 ::2020/06/03(水) 15:28:15.48 ID:6Hz5WWbB0.net
「どうにかうまくいきましたか…」
『よくあんなの思いつきますよね中尉』
『機転が利くのも中尉のいいところだ』
「全体の動きを把握出来ていて良かったですよ。2人が敵を引きつけていたからこそです」
 フジ中尉達は敵MS隊をうまく撒くと、アレキサンドリア級強襲へと向かった。
 当初はコロニーへの攻撃用で用意していた衛生ミサイルだったが、目標を変えて敵の分断に使用したのである。思いの外味方主力の進軍が早く、丁度遊ばせていたところだったのが功を奏した。
 友軍のネモ隊も急な申し入れによく対応してくれたと思う。そのネモ隊にサラミスを任せ、中尉達は指揮艦を叩く。

『今なら殆ど裸に近い筈だ。さっきの連中が戻ってくる前に速攻をかける』
 ワーウィック大尉が指示を出す。彼がジオン出身である事が確定したが、だからといって彼への信頼が揺らぐ訳ではなかった。ただただ心のしこりが疼くだけだ。今は考えるべきではない。
『私から行きます。ただ…』
「ああ、まだ後1機出てきていないのが気になるな。どう思われます?大尉」
 アレキサンドリアの砲撃を躱しつつ、中尉もスクワイヤ少尉と同じく懸念を抱いていた。
『前回テスト機を撃破したとはいえ、さっきのガルバルディ隊を見るに補給は済んでいる筈だな。まだ何か出てくるかもしれん』

802 ::2020/06/03(水) 15:28:55.36 ID:6Hz5WWbB0.net
「そろそろ出てきてもおかしくはありませんね…」
 敵艦の機銃をライフルで潰しながら周囲を索敵したが、まだ変化は無い。この戦況で正面のカタパルトを開くのは敵としてもリスクが大きい筈だ。
『とにかく大元を叩いてしまえば!』
 機銃を潰され砲火が手薄になった敵の横腹に少尉のガンダムが接近する。迎撃する主砲が彼女へ照準を合わせようとしていた。
『そうはさせんよ』
 まだ弾幕の厚い敵艦前方を掻い潜り、ワーウィック大尉の百式が主砲にナギナタを突き立てる。彼が瞬時に離脱すると、装填済だったとみえるメガ粒子と共に主砲が爆発した。
『大尉!』
 少尉が、大尉へ狙いを定める機銃を破壊しながら叫ぶ。
『構うな!敵をよく見て動け!』
 少尉を叱咤しながらも、2人は綺麗に連携している。まさに背中を預けあっているといっていい。中尉はその2人の連携が乱れぬ様、彼らの更に先を見る。

 ようやく敵艦に取り付いたその時、先程の爆発の裏に反応を見つけた。
「大尉!来ました…例のやつです!」
『また同じ機体…量産に入っているのか?』
 気取られたのを察知してか、敵がその姿を露わにした。その曲線的なフォルムと淡い体色は紛れもなく例の試作機だった。
『よし、やつは私が叩く。2人は引き続き敵艦を破壊しろ』
『しかし…』
 少尉が食い下がる。
「私が随時状況は共有する。少尉が危ないと思ったら動けばいい。まずは大尉に任せよう」
『…了解』
 渋々従う彼女を確認すると、大尉の百式は軌道を変えて試作機へと向かった。砲火を嫌ってか、敵は艦から距離を置こうとしている様に見える。
「ふん…艦を捨ててでも決着を付けにくるか」
 百式の動きも捉えつつ、少尉のガンダムの支援を続けた。

803 ::2020/06/03(水) 15:29:22.09 ID:6Hz5WWbB0.net
 護衛のない戦艦は殆ど的と言って差し支えなかった。機銃や主砲を失った片側の船体は最早こちらの進軍を止める手立ても無い。
「少尉!いけそうか!?」
『やってみます…!!』
 遂に少尉は敵の艦橋目掛けてバーニアを吹かす。しかしその時、ミサイル群がガンダムを襲った。身を捩りどうにか躱すが、艦橋は叩き損なってしまった。
『!?…もう追いつかれた!?』
 ミサイルの発射地点を辿ると、そこには撒いた筈のガルバルディ隊。
「まだ余裕はあった筈だぞ…?一体何処から…」
 中尉達の後方を追ってきたわけでは無さそうだった。しかし大回りしていては到底間に合わない。
「…!そうか、コロニーか!」
 どうも連中はコロニーの外壁を破り、その中を一直線に引き返して来たようだ。容易く機体の進路は作れないと思ったが、恐らく例のデブリを利用したのだろう。衛生ミサイルを流用した事が仇になった。
『これは大尉の援護どころじゃなさそうですね…』
 戦艦を叩くのは中断し一旦距離を取る。ガルバルディ隊もこちらを追うようにしてアレキサンドリアから離れた。
「ここが正念場だ!抜かるなよ!」
『了解!』

804 ::2020/06/03(水) 15:30:04.00 ID:6Hz5WWbB0.net
 中尉が激を飛ばすと、応えた少尉のガンダムが敵の隊列に突っ込んだ。行く手を阻むのは先程の大型タイプである。
『さっきからしつこい!』
 その巨躯に見合わず、しっかりとガンダムの動きに付いてくる。お互いにライフルで牽制し合うも、付かず離れずの読み合いが続いていた。その隙を狙う様にブースターを背負ったガルバルディが砲撃を放つ。
 これをガンダムは宙返りして躱すが、無防備になった所を残る1機が強襲する。
「こっちは無視か?」
 すかさず中尉はライフルで敵を牽制した。それでも3機は徹底してガンダムを狙っている。
「各個撃破は作戦として正しい。だが、戦力を甘く見積もるのは感心しないな」
 ネモの背中に背負ったバックパックはレドームのみではない。有事に備えたサブジェネレーターも搭載している。
 本来は友軍機への供給が主な用途だが、中尉はこれをライフルに直結すると、オーバーヒートさせながら敵へ放った。
 流石に想定外だったのか、躱しきれなかったブースター搭載機の左半身が吹き飛んだ。それに気を取られた万能機へガンダムが斬りかかる。
 敵は正面から斬りかかったサーベルをシールドで受けようとした。少尉は咄嗟にサーベルを逆手に持ち替えシールドを空振りさせると、ガラ空きになった腹を横一文字に凪ぐ。
 サーベルは完全にコックピットを捉えていた。真っ二つになった敵機は爆散する。
 僚機が2機損壊したのを見て、残る大型機がなりふり構わず中尉へ迫った。迎撃しようにもライフルは先程のオーバーヒートで使い物にならず、携行していた右腕も電装系に異常をきたしている。
『中尉!任せて!』
 スクワイヤ少尉のガンダムが割り込む。すると敵機はガンダムの頭部を掴み、膝蹴りと挟み込む様にして叩きつけた。
『うわっ!!』
 頭部全壊とはいかないまでも、内部の機器は破壊されただろう。今度は受け身が取れないままのガンダムを前に、敵がサーベルを抜いた。

805 ::2020/06/03(水) 15:30:41.43 ID:6Hz5WWbB0.net
『させんと言っているだろう!』
 ワーウィック大尉だった。敵は背後からのナギナタを咄嗟にサーベルで受けると、形勢不利を悟って後ろへ下がった。半身を失ったガルバルディに肩を貸しながら撤退していく。
「試作機はどうです?」
 こちらも直ぐ様追える状態ではなく、敵を見送りながら大尉に声を掛けた。外観を見る限り百式に大きな損傷はみられない。
『中尉達を艦から引き離してからは母艦の支援に回っていたよ。私もそこを攻めあぐねていたところでこっちに合流させてもらった』
 そう言いながらガンダムの手を引く大尉。
『すみません、モニターが死にました』
「じきにサブが復旧するだろう。よくやった」
 かなり敵の戦力を削ぐ事に成功した。報告を流し見る限り、先程のネモ隊もサラミスを落とした様である。後は主力がどうなっているかだった。

『遅くなったな!ちょっくら主力の手伝いをしてきたもんでな』
 アイリッシュ級のグレッチ艦長だった。ようやくこちらに追いついたらしい。
「あっちはどうです?」
『依然交戦中だ。しかし例のニュータイプ、凄いなあれは』
「アーガマのパイロットですか」
『ああ、とても子供が乗ってるとは思えん。おかげでかなり優勢だぞ。…あれ?ゲイルちゃん、顔どうした』
『その言い方やめてくださいよ…』
 スクワイヤ少尉が溜息をつく。
「!…あれは」
 コロニー後方で大きな光が見えた。あの位置には核パルスエンジンがある。
『やったか!』
 ワーウィック大尉の言う通り、エンジンの破壊に成功した様だ。ジワリジワリとコロニーが失速していく。フジ中尉は落下予測を概算で試みた。これならグラナダへの直撃は避けられるはずだ。
「作戦成功ですね…」
 中尉はほっと胸を撫でおろす。ティターンズの凶行をなんとか防いだ。もうコロニー落としの悲劇など目にしたくなかった。
 しかし、同じ連邦であるティターンズの士官には、コロニー落としに嫌悪感を示す人間もいる筈だ。一部の将校が強硬手段に出たのではないかとすら思える。とはいえ、エゥーゴも仇敵であるジオンを抱き込んでいる以上、お互い様かもしれない。
 敵も味方も、正義も悪もない。混沌としたこの地球圏で、自らの信念を何処まで貫いていけるのだろうか。今はただ、安堵する気持ちに浸っていたかった。

31話 正念場

806 ::2020/06/03(水) 15:32:57.08 ID:6Hz5WWbB0.net
 敵襲は去った。しかしアレキサンドリアの艦内は戦闘中と何ら変わりなかった。
「状況は!?」
 帰投するなりヘルメットを投げ捨て、ウィード少佐はモニターに向かって怒鳴った。
『お戻りですか。乗組員は閉鎖したブロック周辺の消火作業にあたらせています』
 ブリッジからレインメーカー少佐が応えた。
「わかりました。コロニーは?」
『核パルスエンジンを破壊された様ですな。近辺でガンダムMk-Uらしき機影も確認しています』
「ちぃ…!よりによって盗まれた機体に邪魔立てされて…!」
 開いたコックピットから格納庫を見渡しながら舌打ちする。まだガルバルディ隊は戻っていない様だ。
『そろそろガルバルディ隊も戻りましょうが…』
「連中の補給も急がせる」
『しかし…』
「…?どうしたんです」
『フリード・ドレイク大尉が戦死なさいました。オーブ中尉も重傷です』
「は…?」
 途端に全身から力が抜けた。
『とにかく早くブリッジへお戻りを』
「…わかりました」
 返事をしながらも、ウィード少佐の視点は高い天井を見上げていた。

807 ::2020/06/03(水) 15:33:45.18 ID:6Hz5WWbB0.net
 ウィード少佐がブリッジに入った時、モニター越しの格納庫に丁度ガルバルディ隊が帰還するところだった。
 しかしそれは最早部隊などと呼べる様相ではなかった。オーブ中尉のガルバルディαは殆ど原型を留めておらず、単独では着艦すらままならない。
 それを支えるγは欠損こそないが、各部の塗装が剥がれ激戦だったことが伺える。そして何より、βの姿がそこには無かった。
「…!脱出ポットは見当たらないのか!?」
「機体は完全に撃墜されております」
「だとしても、直前に脱出しているかもしれんでしょう!」
「それは…」
「いいから探せ!!探すんだよ!!」
 力任せに壁を叩いた。何度も叩いた。
「…ウィード少佐…お気持ちは痛いほどわかります…」
「頼む…探してくれ…探して…ください…」
 ウィード少佐はその場に崩れ落ちた。駆け寄ったレインメーカー少佐が肩を抱いたが、その暖かみすら自らの冷えていく体温が際立つだけだった。

 その後オーブ中尉は半壊した機体から救出され、緊急治療室へ運び込まれ、ソニック大尉も軽傷ながら治療を受けさせた。ウィード少佐も休むよう促されたが、頑として聞かなかった。
 結局ドレイク大尉の捜索は行わなかった。ソニック大尉の証言によれば、ガンダムのビームサーベルは間違いなくコックピットを焼いたのだという。何度聞き返しても、彼の答えは変わらなかった。
 軌道が逸れたコロニーはグラナダから遠く離れた未開拓の区域に落着し、それを捨ておいたティターンズ艦隊はそれぞれに撤退した。
 今回の作戦は現場の暴走として片付けられたが、核パルスエンジンが通常の作戦で持ち出されることなどまずない。どう考えても司令であるジャマイカン・ダニンガンの指示である。
 そもそもウィード少佐達に護衛の通達が来た時点で、上層部が容認していたとしか思えない。
 アレキサンドリアの損傷も著しく、応急処置を施しながらコンペイトウへ向かう事となった。それまでに機体のデータをまとめなければならなかったが、とてもそんな気分にはなれない。ウィード少佐は自室に籠りがちになっていた。

808 ::2020/06/03(水) 15:34:48.46 ID:6Hz5WWbB0.net
「…よろしいですかな?」
 断りを入れて入室してきたのはレインメーカー少佐だった。
「何か航行に問題でも?」
 書類をめくりながら平静を装うウィード少佐だったが、きっと内心の乱れにも彼は勘付いているのだろう。
「いえ、報告がひとつ」
「…?」
 ウィード少佐は書類に触る手を止めた。
「コロニー落としの一件ですが…。どうも内通者がいたとか」
「そんな馬鹿な」
 ペンを机に置き、ウィード少佐は立ち上がった。もし事実なら遠回しにドレイク大尉を殺された様なものだ。確かにエゥーゴ主力艦隊の対応には目を見張る迅速さがあった。
「…シロッコ大佐腹心の若い女性士官が居るのですが、憶えていらっしゃいますでしょうか」
 はっきり憶えていた。前回帰還時に彼の傍に立っていた少女のことだろう。
「彼女がなんだと言うんです」
「アーガマと接触していた疑いがあります」
 レインメーカー少佐は表情を変えなかった。それどころか耳を疑うような事を続けた。
「しかし、それだけではありません。同じくシロッコ大佐麾下の我々にも疑いの目が向けられている様です」
「…!」
 思わず言葉に詰まる。良心の呵責に耐え、ドレイク大尉を失い、オーブ中尉もまだ予断を許さない状況だ。そこまでして戦った結果が裏切りの疑惑なのか。
「…私には、バスク・オム大佐達上層部による、シロッコ大佐への当てつけとしか思えません」
 ウィード少佐の心境を察してか、レインメーカー少佐が静かに言った。
「アポロ作戦にしても、シロッコ大佐が指揮権を手放した直後にエゥーゴの巻き返し。その後のコロニー落としも失敗しました。バスク達にしてみればまあ面白くないでしょうからな。
 ブレックス准将の暗殺も一枚噛んでいると聞きます」
 レインメーカー少佐の言う通り、シロッコ大佐が目をつけられるのも無理はない。まして彼は聡明な男だ。野放しにしておけば取って代わられる恐れすら感じるだろう。
「…それで彼らが話をでっちあげていると?」
「少なくとも我々は裏切っておりません。シロッコ大佐にしても我々を差し向けている以上、作戦に参加している身と言って良いでしょう」
「こんな時に派閥争いなどと…!」
 ウィード少佐は憤りを隠せない。あまりに馬鹿馬鹿しい話だった。身を粉にする思いで革新を成そうとしているシロッコ大佐が裏切りなどするはずがない。
「上層部にはお気をつけください。信じられるのは身近な人間だけです」
「ご忠告、胸にしまっておきます」
 そこまで話してレインメーカー少佐は退室していった。

809 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:35:32 ID:6Hz5WWbB0.net
 しばらくしてオーブ中尉の治療が終わったと報せが入った。一命は取り留めたとのことだ。しかし彼女はもう戦線復帰は絶望的という。ドレイク大尉ももう居ない。彼女達という両腕をもがれ、立ち上がることも出来ずに地を這っている様だった。
「…済まない」
 オーブ中尉の治療について報告へ来たソニック大尉は、小さくそう言った。
「どうしてあなたが謝るの?」
「俺は皆に助けてもらって今ここにいる。だが…俺は…何も…」
 彼が目頭を抑える。
「何も…してやれなかった…!!」
 大きな身体を、小さく震わせていた。その悲痛な姿がウィード少佐には耐え難かった。
「できる事はやった…。だからそんなこと言わないで…」
 ウィード少佐達が同じ配属となった後、レインメーカー少佐はお目付け役としてやってきた。そんなウィード少佐には、真に頼れる者はソニック大尉しか残されていなかった。
「…私にはまだ、あなたという脚がある。これからも支えてほしい」
「…ああ!わかっているさ」
 顔を拭うと、ソニック大尉はいつもどおりの笑顔を見せた。彼にはこれからも辛い思いをさせるかもしれないが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 あまりにも大き過ぎる犠牲を払いながら、ウィード少佐は決意を新たにした。エゥーゴを徹底的に叩く。その上で現ティターンズの上層部も潰す。その為にはやはりシロッコ大佐の力にならねばならない。
 ドレイク大尉やオーブ中尉が身を呈して守った理想の為、ウィード少佐もシロッコ大佐の理想を守りたいと強く願った。

32話 大き過ぎる犠牲

810 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:39:06 ID:6Hz5WWbB0.net
 オーブ中尉が目を醒ました時、白衣の医師達が彼女を囲んでいるのがぼんやり見えた。状況もわからず、ただ自分が生きている事だけを自覚する。医師達は彼女の意識確認を行うと、何やら話しながら作業を始めた。
 何が起きたのか思い出すのにも時間が必要そうだ。機体が被弾したその後の映像が断片的に頭をよぎる。そのひとつひとつを結びつけようとしたが、どうも覚束ない。
 ベッドごと上体を起こされている様だが、首を固定されているらしく視線くらいしか自由が利かない有様である。今回は手酷くやられた様だ。
「目が醒めたのね」
 部屋にこぼれた光と共に聞こえてきたのはウィード少佐の声。
「…ん…よく思い出せてないんだけど…」
 借り物の様な心地がする喉を動かし、なんとか声を出した。
「無理に喋らなくていい。ゆっくり治せばいいんだから」
 そう言う彼女の声が近づく。目を開くのも億劫になり、再び目を閉じた。
「負けたの…?」
 目を閉じたまま訊く。
「…まだ終わってないわ。むしろこれからよ」
 表情は見えないが、声色に気負いを感じた。恐らく、コロニー落としには失敗したのだろう。

811 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:39:35 ID:6Hz5WWbB0.net
 意識がはっきりしてくるにつれて、何となく思い出してきた。あの時、ネモのライフルを機体に受けた。その瞬間にコックピット内に鮮血が飛び散ったのを思い出す。火花を走らせながら半壊したモニター。
 それらに挟まれて途切れ途切れの意識の中、確かに見た。あるはずのものが、そこには無かった。
「…ドラフラ、あたし…もう戦えないんでしょ?」
 オーブ中尉の問いにウィード少佐は応えなかった。いや、それが答えだった。医師が止めるのも構わず、固定された首を半ば強引に動かし自らの左腕を見る。思った通り、彼女は肘から下を失っていた。
「そんな気はしたのよ。こんな…仰々しく…」
 言葉を切って少し休む。押し寄せる現実に気持ちが昂ぶり、呼吸が乱れた。周りが少し慌ただしくなる。
「!…無理しないで」
 ウィード少佐が肩に手を添えた。オーブ中尉は深呼吸して、最後に溜息をつく。
「少しまた寝る…。ドラフラも無理しないで…」
「わかってる。リディルもね」
 ぽんぽんと胸元を叩かれた。すぐにオーブ中尉の意識は再び遠のいていった。

812 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:40:00 ID:6Hz5WWbB0.net
 それからしばらくして、オーブ中尉負傷後に何があったのかを聞いた。コロニー落とし失敗や、ドレイク大尉の戦死。今居るのはコンペイトウであることや、アレキサンドリア隊への疑惑。身体を少しずつ慣らしながら色んなことを聞いた。
「しっかし変な感じね!無いのに有るような気がする」
 容態が落ち着いて散歩程度なら許されたオーブ中尉は、ソニック大尉を伴って病棟を歩いていた。身体のバランスにまだ不慣れだが、失った腕の感覚が残っているのはよくある事なのだと言う。
「人間の身体というのはまだまだ未知数だからな。…困ったら何でも聞け。俺ももっと学ぶとしよう」
「ラムはそういうの詳しそう」
 彼に目立った負傷が無かったのは不幸中の幸いだった。
「これからどうするの?あたしはMSには乗れないだろうし、かといって人員も足りてないでしょ」
「ガルバルディ隊は解散だろう。お前もまだ治療が必要だし、俺ひとりというのもな」
「そうね…。フリードも居なくなったんだもん」
 ドレイク大尉は最期までオーブ中尉を呼んでいたのだという。彼女の言う通りもっと自分を制していれば、結果は違ったのだろうか。
「…少なくとも、彼女は俺達に止まって欲しくはないだろうな。救われたこの命…遺された使命の為に使わなければ」
「くっさ!ほんとあんたは相変わらずだわ」
 そういってオーブ中尉は笑った。正直言ってオーブ中尉としてはまだ失ったものへの実感は薄かった。どことなく高揚した気分が続いている。
「リディルが居ないと俺も締まらない。トレーニングには良いマネージャーが必要だからな」
「はいはい。今から会議でしょ?くだらない事言ってないで早く行きなさいよ」
 ソニック大尉を送り出し、彼女はひとり病室へ戻る。ウィード少佐はじめ、彼にも苦労をかけた。オーブ中尉も自分に出来る事を考えなければならなかった。

813 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:40:32 ID:6Hz5WWbB0.net
 病室へ戻ると人影を見つけてぎょっとした。よく見るとレインメーカー少佐だった。彼はベッドの傍のチェアーに腰掛けていた。
「もう!びっくりしたじゃん!」
 薄暗い部屋に照明をつける。
「失礼失礼。ここで待てば会えるかと」
 そう言って彼は立ち上がり、軽く会釈した。
「爺は会議出ないの?」
「私はお呼ばれしておりませんで。少し手が空きましたから、お嬢さんとお話でもと」
「暇なら相手してもいいわよー」
 からかう様な笑みを浮かべながら彼女はベッドに腰掛けた。彼も再び座る。
「大変でしたね」
「まあね。でもしゃーないでしょ、よくあることだわ」
 本当は割り切れるものではない。しかし、クルー達にこれ以上心配を掛けたくないという気持ちの方が強かった。少なくとも彼らの前ではいつも通り振る舞うと決めていた。
「まだお若いのに、苦労をかけさせてしまって私も申し訳ない」
「何言ってんだか。いつもは若いうちに苦労しろとか言ってるくせに」
「いやはや、歳になるとどうも説教臭くなるものでしてな」
 困った様に少佐が頭を掻く。
「そういえば、なんか疑われてるんだっけ?内通者がどうたら」
「上層部は本当の前線を知らんですからな。戦艦に同乗して喚いていればそれが前線だと思っておりますから」
「いっぺんその辺にほっぽり出してやりたいわ。そんな余裕無いわよこっちは」
「彼らは彼らなりに任務を遂行しておるのでしょう。それぞれに事情があります」
「また説教ー?」
「これはいかんですな。言ったそばから」
 そういって2人は笑った。

「…爺、あたしこれからどうなるんだろうね」
 少し和やかになったところで正直に訊いてみた。
「…通常のMSパイロットとして戦うのは難しいでしょうな。様々な技術はありますが、どれもまだ実用的ではありません」
「様々な技術?手が無くもないってことか」
 失った左手をまじまじと見つめながら自嘲気味に笑った。
「義手とかは慣熟するまでかかるんでしょ?そんなの待ってられないわ」
「元々使った事があれば別ですが、使ったことのないものですから。サイコミュなどもそうでしょうが、身体に無いものを動かすというのはもっと難しい」
 身体に無いものを動かすと言われハッとした。無い筈の左腕を動かしているこの感覚はまさしくそれだった。
「…サイコミュってさ、操縦桿が無くても動くわけ?」
「…ええ。極まると遠隔操作すら出来ると聞いておりますな」
 聞いたことがあった。ジオンのMAは勿論だが、連邦もサイコガンダムなどで実際に戦闘を行っている。
「つっても動かしてるのは皆ニュータイプだもんね。あたしには関係ないか」
 そういってオーブ中尉はベッドに身を投げ出した。
「そう焦らずとも良いでしょう。時間はあります」
 そういってレインメーカー少佐が微笑んだ。それから他愛もない話を幾つかしたのち、どうやら暇を潰せたらしい彼は、お辞儀して病室を出ていった。

814 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:40:58 ID:6Hz5WWbB0.net
 部屋でぽつりと独りになったオーブ中尉は外に目をやる。少しでも気晴らしになるよう窓があったが、地下に建設されたこの病棟では晴れやかな景色が見られる訳ではない。ごつごつとした岩に囲まれて作業に勤しむ人々が見えるだけだ。
「サイコミュか」
 オーブ中尉は何となく呟いた。ニュータイプ的な閃きなどとは無縁な彼女だったが、無いものを動かす感覚というのは今まさしく体感していた。この延長線なら想像ができる気がしている。
 きっと会議の中でこれからの事を話しているはずだ。何もかもを自分で決められる訳ではないとはいえ、このまま引き下がる気も彼女には毛頭無かった。
 オーブ中尉は確かにある右手と、無い筈の左手を強く握り締めた。

33話 無い筈の

815 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/04(木) 23:50:12 ID:iOusxWeO0.net
君は刻の>>814乙を見る

816 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/06(土) 11:33:14 ID:BN3jfH6V0.net
乙です!
もしやコロニーより高いところまで行ったんじゃないかと心配してたので、一先ず安心しました!(待てやコラ)

機銃や主砲を近接武器で潰していくのは、メガバズーカランチャーの戦績の悪さが広まった結果でしょうか?(笑)
ワーウィックの心配をするスクワイヤも、大尉の意を汲んでフォローするフジも、いい感じに成長してますね!
ネモ隊もガルバルディ隊もミサイルを撒いて戦場に仕切りを作る、こういう集団戦描写とても好きです

フジのEWACネモ→改造ガルバルディα(大破、オーブは強化フラグ...?)
スクワイヤのマンドラゴラ→改造ガルバルディβ(ドレイク死亡、爆散)
ここでキルスコアとは...
正直、原作の展開はやらかしたことのスケールの割に話が動かなかったので、ピッタリ嵌まった感じがあります。
ジェリドは悔しさ第一みたいなキャラなのでシドレの死を軽く描写させられてしまいましたが
ウィード、ソニック、レインメーカーはシロッコ達とどう向き合っていくのか...
あらら、シロッコの小手先の悪影響が旗下の部隊にまで波及しちゃってまぁ...
ティターンズ内での疑惑に向かっていく導線、ぜひ辿らせてください!(悪趣味)

ソニックのγ、パワフルですねぇ。
高トルクパックとかF90Bとか、最近は何となく大柄な機体の格闘ぶりに燃えてきちゃう話が多くて好きです

単機でアレキサンドリアを守りきったウィードも立派、帰る家が無きゃ誰も戦えません。
でもそのせいで部下たちがボロックソにされてるのに気づけなかったんですよね......抱きしめてあげたい!(下心なし)
しかしこの件でいよいよウィード隊の依存を強めてるシロッコは不気味ですね、こっちでもひっぱたかれないかな(笑)

お、コンペイ島!ジオン共和国と並んでZ作中じゃちっとも描写のなかったコンペイ島じゃないですか!w
ジョニ帰のミナレット欲しかったおじさんとかガンダムTR-1とか、外伝では優遇されてる感じですが
今作ではどれほどゼダンやグリプスを使った大喧嘩に関わることやら......続き待ってます!

817 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:39:39 ID:vuolscyX0.net
>>815
>>816
ありがとうございます!
ちと忙しかったので筆も止まっていたのですが、余裕が出来たので息抜きに再開しました!

前作では1対多数や個別の戦いが多かったので、描写が難しいですが多数対多数に挑戦しているところです。楽しんでもらえているなら何よりです!

これだけ成長している彼らがいつまでもガルバルディに苦戦するはずもなく…
一応操縦スキル自体はガルバルディ隊の中ではソニックが1番高い設定です。伊達に脳筋ではありません。
ガルバルディ隊が連携してガンダム達と渡り合っていたところを、その有利さえ覆ってきたなら…こうなるのは自明かなというところ。

シロッコの急進的なやり方には齟齬が出ないとおかしいと思ってたんですよね。
そのしわ寄せが何処かに行くとすれば、彼のような人たらしなら…わからないように何処かに押し付けていてもおかしくはないかなと。
テーマの1つなのでしっかり描写していきます。

あれだけ1年戦争で重要な拠点だったソロモンが、何故グリプス戦役では放ったらかしなのか…ガトーのせいでしょうか。笑
ア・バオア・クーは名前まで変えてばっちり最終戦に絡んでいたので、僕の話ではコンペイトウも噛ませて行こうかなと思っています!

818 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:42:30 ID:vuolscyX0.net
「ちょっと見てみろ」
 そういうグレッチ艦長の声に、スクワイヤ少尉達MS隊の面々はモニターを覗き込んだ。次の出撃指示もなく、皆ブリッジに集まっていたところだった。
 コロニー落としの一件から1ヶ月と経たず、エゥーゴとティターンズは変わらぬ小競り合いを続けている。
 アンマン市やグラナダも例外ではなく、ちょっかいをかけてくる敵部隊との戦闘が頻発していた。アポロ作戦やコロニー落としの事もあり、相手が偵察部隊であっても決して気が抜けない状況である。

「これ、どう思うよ大尉」
 モニターに表示されたその報告には、旧ジオン軍残党の最大拠点アクシズが地球圏へと接近しつつあることが記されていた。
「私はアクシズのことは何も。ただ、デラーズ紛争の敗残兵も抱きかかえた事を考えれば…それなりの規模になっている筈です」
 考え込む様に右手を顎に当てながらワーウィック大尉が応える。
「彼らが地球圏に…。もしエゥーゴと手を組んだらティターンズも危ういんじゃ?」
 スクワイヤ少尉は単純に好機だと思った。ジオン狩りのティターンズと、反地球連邦のエゥーゴ。どう考えても利するのはエゥーゴの筈だ。
「これがそうとも言えん。発想がわかりやすくて説明し甲斐があるな少尉は」
 眼鏡を掛け直しながらフジ中尉がニヤリと笑った。
「む…何だっていうんです」
「ティターンズはこれまで失敗続きだ。それも、なりふり構わずやってきたせいで市民含め敵は多い。
 そもそも論としてエゥーゴにしても地球連邦軍の一部であることを考えれば、我々と同じく彼ら残党軍を戦力として欲してもおかしくはあるまいよ」
「そんな!だってティターンズはジオンの残党狩りが名目の組織でしょ!?」
「ああ、"名目"はな。連中のやっている事を顧みれば、そんなものは方便だとわかるだろう」
「うーん…そう言われてみればそうなんですかね…」
 少尉は思わず唸った。とはいえ、残党狩りが残党と手を組むなどおかしな話である。
「問題は…彼ら残党軍自身がどういうつもりで地球圏帰還を決行したのか」
 中尉の問いかけにも、変わらず大尉は考え込んでいる。
「正直、我々がこれ以上考察を続けてもあまり得るものは無いな。私にも真意が掴めん」
 大尉は考えるのをやめた様だった。
「お前らの意見はわかった。俺もイマイチ状況が読めなくなってきたからなぁ」
 大きく溜息をついた艦長が髭をいじる。
「アーガマが接触を試みるそうだが、どうもティターンズ側にも動きが有るようだ。…とはいえ、俺達がやることは特にない」
 そういって艦長はお開きだと言わんばかりに手を叩いた。皆それぞれの持ち場へと戻っていく。

819 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:43:32 ID:vuolscyX0.net
「このまま放ったらかしですかね?私達」
 整備の為格納庫へ向かいながら、パイロットの3人で並んで歩いた。
「そうもいくまい。そろそろ局面が動く」
 ワーウィック大尉が難しい顔で言った。
「ティターンズだけでも手一杯な今、更に敵が増えるのは避けたいところですが…」
 フジ中尉はこの間の件といい、いくら戦局が厳しくなるとはいえやはり残党と表立って手を組むというのは抵抗もあるだろう。
「色々と条件もある。いくらエゥーゴが反地球連邦といっても、ザビ家再興などを掲げているのであれば力を貸すわけにはいかないだろうしな」
 そうは言うが、大尉はもうジオンに未練はないのだろうか。
「ザビ家って全滅したんじゃ?」
「いや、ドズル中将の娘がいる。彼女自身はまだ幼いが、マハラジャ・カーンの娘が摂政としてついている筈だ。その位は伝え聞いたが、それ以上の事は何も」
「ザビ家かあ…イマイチ実感湧きませんね。なんか、そこだけ時間の流れが私達と違うみたいです」
「小惑星などに引き篭もっていればそうもなるさ」
 ワーウィック大尉はやや不機嫌そうに鼻で笑った。

 スクワイヤ少尉達が整備を進めている間にも、上層部は今後の事を話し合っているはずだった。ひと通りの作業を終えて休憩していた面々に再び招集がかかる。
 拭った煤が頬についたままの少尉を始め、バタバタとブリッジへ皆が集まった。
『諸君、調子はどうかね』
 1番大きなモニターにロングホーン大佐の姿が映った。相変わらずの仏頂面である。腕組みして椅子にふんぞり返っている。
『揃った様だから始めるが…。今現在我々は、接近しつつあるアクシズの対処に追われている。今頃はバジーナ大尉達が接触している頃かな』
 ブレックス准将の死後、アーガマのクワトロ・バジーナ大尉が後継者としてエゥーゴを背負って立つ事になった。その彼が直接交渉に出向いたということか。
 しかし、何故ロングホーン大佐やブライト・ノア大佐ではなく彼が後継者として選ばれたのかはわからない。
「アーガマの報告待ちということですか?」
 フジ中尉が問う。
『いや、こちらも待ってばかりでは居られまい。ある意味で彼らは敵地に乗り込んだ様なものだからな。諸君には彼らの出迎えをやってもらいたい』
 大佐は組んでいた腕を解くと、身を乗り出す様にして両手を机についた。
『アーガマの出迎えとは言うが、実際のところ逆に敵の出迎えに遭遇する可能性もある。アクシズの連中に歓迎されるとも限らんし、アーガマがティターンズに出し抜かれていることも考えられる。…危険だが任されてくれ』
「了解しました。すぐにでも出港します。…最後に1つだけお伺いしても?」
 珍しくグレッチ艦長が一言添えた。
『なんだね?』
「アーガマの交渉が破談していた場合、今後エゥーゴはどう動くので?」
『…ふん。いずれにせよ最後に勝つのは我々でなければならない。それだけだ』
 ロングホーン大佐はそれだけ言うと一方的に通信を切った。それを聞いたグレッチ艦長は帽子を深く被り直す。

820 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:44:32 ID:vuolscyX0.net
「さて、お前達!聞いたとおりだ。さっさと準備にかかれ」
 振り返ったグレッチの艦長の一声で皆作業を再開する。ぞろぞろと退出するクルー達に置いていかれる様にして、スクワイヤ少尉はひとりその場に残っていた。
「ん?どうかしたのかゲイルちゃん」
 気付いた艦長が首を傾げた。
「…今の話、何か引っ掛かるんですか?艦長」
「そうさな…他所さんと同じでうちも一枚岩じゃねぇだろ。アクシズと接触して、古巣に戻るやつらも出る筈だ。そうなった時、ほんとに上層部が言うほど事が上手く運ぶとは思えねぇからよ」
 髭を気にしながら、艦長は神妙な面持ちで言う。
「艦長にしては真面目な考察」
「悪いかよ!早くお前も持ち場に戻れやい」
「はいはーい」
 少尉は頭の後ろで手を組みながら大股でブリッジから退出した。歩きながら艦長の言葉を反芻する。
 確かに彼の言う通り、これまで以上に複雑な戦況が予想されるだろう。確かに、ワーウィック大尉の様に割り切っている人間ばかりではあるまい。加えて、フジ中尉の様にジオン出身者へのわだかまりを抱えている人間も居るはずだ。
 ノンポリシーな少尉からするとあまり実感は湧かないものの、この組織は思っている以上に繊細で脆いのだと改めて認識していた。

34話 アクシズ

821 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:45:28 ID:vuolscyX0.net
 スクワイヤ少尉達アイリッシュ級は、ロングホーン大佐の指示から程なくしてアンマンを立った。月を離れ、小惑星アクシズの方向へと進路をとる。パイロット達は機体のコックピットの中で待機を続けていた。
「アーガマからは音沙汰ないみたいで」
『もう会談の終了予定時刻は過ぎていますね。もしかすると…』
『ああ。交渉決裂したか、頭をティターンズに叩かれたか…。いずれにせよ我々の出番だな』
 スクワイヤ少尉達が危惧しているところに丁度通信が入る。
『待たせたな。アーガマの出迎えはティターンズがしてくれたみたいだぜ。おかげであっちは今混戦状態だ』
 グレッチ艦長が溜息混じりに言う。
『交渉は?』
 フジ中尉が問う。
『さあ。今んとこ何とも言えねえわな。とにかく撤収するアーガマと代わりばんこで俺達が壁になる。すぐ出れる様にしとけよ』
『『「了解」』』
 敵がティターンズだけなら良いが、最悪の場合アクシズとも交戦しなければならない。スクワイヤ少尉は気を引き締めた。

 アイリッシュ級が敵艦を捉えたとの報告が入る。既に砲撃を開始した様だ。
『み…皆さん!聞こえますか!』
 珍しく少し声を張ったのはグレコ軍曹だった。それでも人並みの声量しかない。
「なんです?」
『あ、少尉!アーガマから戦闘宙域を抜けたとの報告がありました。一部の敵をこちらが引き付けたのでどうにか…。交渉は決裂した模様』
『それはそれは。我々も出るので?』
 フジ中尉も通信に応答する。
『お願いします。ムサイ改が2隻、加えてMSも多数…』
『それだけ判れば十分だ。2人とも、行くか』
 話を切り上げたのはワーウィック大尉だった。ほぼ同時に前方カタパルトハッチが開く。少尉達は直ぐにアイリッシュ級前方へと展開を開始した。

822 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:46:50 ID:vuolscyX0.net
 戦火の行き交う宙域を、3機は縫うように進んだ。ムサイ改を背後にして、数機のハイザック、通常仕様のガルバルディβと共に見慣れない機体も見える。
『あの黒い機体…データにはありません』
 特段慌てた様子は無いものの、フジ中尉が口を開いた。
「新型ですかね?変な鶏冠!」
 2機ほど確認出来たその黒い機体は、頭部の突起を始めとして各部に黄色の配色が見える。シルエットもいささか異形である。専用のライフルを携えているようだ。
『全く、次から次へと…。戦力は見誤るなよ!鶏冠付きは後回しにして、叩きやすいところから叩く!』
『「了解」』
 ワーウィック大尉の指示を受け、各機は速度を上げた。
「まずは…1匹」
 迎撃するハイザックのマシンガンを躱しながら放ったマンドラゴラのビームライフルが敵の腹部に直撃、機体は爆散した。その下から上がってくる様にして別のハイザックが迫る。
 そちらを捕捉した時、別方向からのガルバルディの射線も少尉の方を向いた。
「数が多い!」
『慌てるな。新型はさておき、他の連中よりはこちらの方が機体性能は勝っている』
 そう言いながらフジ中尉のネモは、少尉を狙ったガルバルディの頭部を撃ち抜く。しかし、更に先程の新型の1機がネモに急接近していた。
『流石に新型は動きが良いな…』
 迎撃するネモが抜きざまに振りかぶったビームサーベルを、敵の新型はステップする様に躱しつつ中尉の背後を取る。
『ちぃ…!』
 至近距離でのライフルを受けそうになるも、中尉はその銃口をマニピュレータで掴み強引に逸した。しかし敵は更にサーベルを抜く。
「このッ!」
 あわやというところで少尉のマンドラゴラが追いつき鶏冠付きを蹴り飛ばした。制御を失った機体を尻目に、今度はもう1機の鶏冠付きがハイザックと共に威嚇射撃を繰り出してくる。
『流石にきりが無いな…!』
 別のガルバルディをナギナタで斬り捨てながら大尉がこぼす。併せて3機ほど落としたにも関わらず尚敵の勢いは衰えない。MS部隊に加えて敵艦の砲撃も止む気配はなさそうだった。

823 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:47:43 ID:vuolscyX0.net
『後どれ位だ!?』
 珍しくワーウィック大尉が声を荒げる。月面では鬼神の如き働きをみせた大尉だったが、上下の概念がない宙域で近接戦闘を継続するのは流石に消耗するらしかった。加えて、後続から別のムサイ改もMSを発進させているのが見える。
『増援含め…ハイザック4機、ガルバルディβ3機。新型が2機です』
 冷静に見えるフジ中尉だが、恐らく彼も焦り始めているだろう。そうこう言う間にも敵の砲撃は激しさを増し、初めは攻勢にあった少尉達も次第に防戦一方になっていく。
「なんだって敵は私達にこんな戦力を…!?」
 シールドで敵のライフルを弾きながら少尉も狼狽えた。
『どうだろうな!本来はアーガマを潰したかったのかもしれんが…』
 やり取りもそこそこに、再び単身敵陣へ走った大尉は、阻むハイザックを頭から真っ二つに断った。出遅れて迎撃しようとする周囲の敵を残る2人で牽制する。
 大尉の駆る百式改はバーニアの青い軌跡を曳きながら敵の最中を斬り抜ける。疲れをみせた大尉の言葉とは裏腹に、1機、また1機と落とす中でその動きは研ぎ澄まされていく様だった。
 敵を翻弄しつつも無駄の少ない所作には感嘆を禁じ得ない。その彼の後ろに、かつて背中を預けあったというアトリエ大尉の影が浮かんだ。
「そこは…私の席なんだから」
 影を打ち消す様にして、少尉はマンドラゴラと共に大尉の後へ続く。
「だからさァ…邪魔しないで…ッ!」
 敵の新型が行く手を遮ったが、マンドラゴラは加速して突き進む。敵が動揺した一瞬にギリギリで身を捩ると、回転しながら擦れ違いざまに腹から両断した。勢いそのまま更に敵中深く潜り込んでいく。

824 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:48:24 ID:vuolscyX0.net
『大尉!いくらなんでもこのままでは!』
『ちぃ…!』
 流石に被弾も避けられず、各機動きが鈍くなってくる。マンドラゴラはシールドを失い、百式のナギナタも明らかに出力が落ちているのが見て取れた。
 支援に回っている中尉のネモでさえライフルの残弾が尽き、近接戦闘を余儀なくされている。
 戦いが尚も続きいよいよという頃、敵の動きが変わった。各機適当なところで砲撃を切り上げると、そのまま撤退し始める。
『なんだ…敵が引いていく』
「はぁ…はぁ…追撃…しますか?」
 驚いた様子の中尉と同じく、少尉も状況が読めない。
『いや、よそう。これは…』
 撤退していく敵部隊の進路の先にはアクシズの大きな影があった。
『…まさか』
『ああ、そのまさかかもしれんな』
 2人は何かを察した様である。
「どのまさかです?」
『ティターンズとアクシズが手を組んだのかもしれん。ティターンズを残党が受け入れたのか…』
 確かにティターンズ艦隊はアクシズの方向へと退いていく様に見える。出迎える様にして現れたのは見慣れないMS群だった。
「あれは…」
『ガザか…?作業用でも数を集めて運用すればどうにかといったところか。残党なりによくやるようだな』
 大尉がガザと呼んだ桃色の機体が大量に群れる様子は、いささか不気味でもあった。
『これはアーガマも逃げ帰る訳だ。流石にこの物量で追い立てられれば無事では済みません』
『そうなる前に我々も帰れということだろう。撤退するぞ』
「エゥーゴと交渉決裂して…ティターンズとは組んだってことですか…?」
 スクワイヤ少尉は2人に割って入るように言った。フジ中尉から聞いた理屈はわかるが、実際に残党と残党狩りが手を結ぶなどということがあっていいのか。
『…信念などないのかもしれんな』
 思いにふけるようにしてワーウィック大尉が呟く。
『皆さん!戻るなら今しかありません!ここで退かないとアクシズが来ます』
 グレコ軍曹からの通信だった。敵MSを寄せ付けなかったとはいえ、アイリッシュ級も敵の砲撃を受けて少なからぬ損害を被っている様だ。満身創痍のMS部隊は母艦へと帰還する。

825 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:49:05 ID:vuolscyX0.net
 着艦後スクワイヤ少尉がコックピットを出てヘルメットを脱ぐと、案の定艦内は騒然としていた。
「やはりエゥーゴは勢力争いから取り残された様だ」
 一足先に機体を降りていたらしいワーウィック大尉が出迎える。整備スペースのレールを掴み、少尉も機体から離れた。
「もしそうだとして、どうするんでしょうね。今までみたいに散発的な攻撃を繰り返したって埒が明かないでしょうし」
「いよいよ板挟み…連邦もジオンも敵だなんて信じられませんがね」
 呆れたようにそう言ったのはフジ中尉だった。彼もふわりと足場へ着地すると、そのままレール伝手にこちらへやってくる。
「エゥーゴも不沈船と言うわけではないからな。このままどてっぱらに穴でも開けられようものなら…皆宇宙で溺れることになる」
 大尉の表情からは何も読み取れない。
「大尉は、ジオンとも戦えるんですか?」
 ワーウィック大尉の胸のうちがどうしても気になり、少尉は恐る恐る聞いた。
「…亡者とは戦うさ。信じられるのは自らの信念を固く持った…今を生きる人々だけだ」
 そういうと、大尉は少しだけ微笑んだ。
 彼の言葉に少尉は、地球圏の様々な意志が渦巻くこの宇宙で、やっと見つけた自分の戦う意義だけは離すまいと誓った。

35話 信念

826 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/07(日) 17:37:44 ID:1Ji+WYmX0.net


827 ::2020/06/10(水) 15:01:11.68 ID:A9l4MSXN0.net
>>826
ありがとうございます!

また溜まってきてるので少しずつ投下します!

828 ::2020/06/10(水) 15:07:14.95 ID:A9l4MSXN0.net
 フジ中尉はブリッジへと向かっていた。
「どうかしたんですか?」
 自室からひょっこり顔を出したスクワイア少尉が歩く先に見える。
「ああ。今後の作戦について進言が欲しいと艦長から言われていてな」
「なんですかそれ、私そんなこと一言も言われなかったんですけど」
 少し不服そうに少尉が言う。フジ中尉は鼻で笑ったまま彼女の前を通り過ぎ、足を止めずに歩いた。
「ちょっと!…私も行きます」
 後ろでバタバタするのが聞こえたあと、スクワイア少尉も付いてきている様だった。

 ブリッジに到着すると、そこにはワーウィック大尉と話し込むグレッチ艦長の姿があった。
「おお、来たか2人とも」
「2人ともって、私何も聞かされてなかったんですけど」
 いつも通り艦長に少尉が噛み付いている。
「それで…何か進展は?」
「どうもアクシズはゼダンの門を目指しているらしい。エゥーゴ主力はそっちに気を取られているな」
 フジ中尉の問いに応えたのはワーウィック大尉だった。
「こないだの動きからして、ティターンズとアクシズは手を組んだとみえる」
 少尉をなだめ終わったのか、艦長が髭をいじりながら言う。
「じゃあ私達は主力と一緒に奴らを追うんですか?それともまた留守番?」
 やや不機嫌な少尉が腰に手を当て艦長を見る。
「どうだかねぇ。流石に留守番ってこたぁ無いだろうが、ロングホーン大佐も決め兼ねてる。アンマンにしろグラナダにしろ、相変わらず狙われてるからな…中尉は何か考えたか?」
「そうですね…」
 中尉は少し間をおいた。考えはある。
「コンペイトウ…旧ソロモンを叩くというのはどうです?」
 言った中尉に同意する様にワーウィック大尉が頷く。少尉はピンときていない様子だ。

829 ::2020/06/10(水) 15:07:42.14 ID:A9l4MSXN0.net
「…1年戦争時、連邦はソロモンを叩いた後にア・バオア・クー…現ゼダンの門を決戦の地に選びました。グラナダを叩く選択肢も残しながらです。
 今はむしろその逆…我々が駐屯出来るのはグラナダを残してコンペイトウもゼダンの門もティターンズの拠点と化していますよね?」
 いつもの様にスラスラと中尉が述べると、ワーウィック大尉がその後を引き継いぐ。
「その通りだ。ここでゼダンの門を叩きたい主力を掩護する意味でもコンペイトウ攻略は正しい判断だよ。上手くすれば挟撃する形でやつらを叩ける。…どうなんです?艦長」
 ワーウィック大尉がグレッチ艦長を見上げると、釣られて皆艦長の方へ視線を移した。
「お前らがそう言っても、上層部がなんていうかはわからんさね。だがまぁ、選択肢としては有力だな」
 帽子のつばをつまみながら艦長が言う。
「とはいえ…第一に、敵に対して俺達の艦隊戦力じゃ拠点1つ潰すのもひと苦労だぜ。殆ど総力戦だ」
 そういって深く椅子へ座り直す艦長。丁度その時アンマンの基地司令から通信が入る。
『…少しいいかね?』
 ロングホーン大佐からだった。
「はい。…お前ら、来てもらったばっかりで悪いが、ちと外してくれ。作戦案は俺から大佐にちゃんと伝えとくからよ」
 艦長に手であしらわれた中尉達はそそくさとブリッジを後にした。

830 ::2020/06/10(水) 15:08:16.49 ID:A9l4MSXN0.net
「結局どうなるんでしょーね…」
 ブリッジのドアが閉まるなりスクワイヤ少尉が腕を組みながら言った。
「わからんな、こればかりは」
 そういってワーウィック大尉が歩き出すと、中尉達もその後に続く。
「…ああは言いましたが、私としてはこの機会にジオンを叩きたいんですよ本当は」
 中尉は思わず口に出した。決してワーウィック大尉に当てつけるつもりでは無かったが、そう取られても仕方がないと気付いたときにはもう遅かった。
「フジ中尉、そんなに大尉がジオン出身なのが気に入らないんですか?」
 苛立ちを隠さずスクワイヤ少尉が詰め寄った。彼女はかなり大尉に肩入れしている。
「すまない。そういうつもりではないんだが…。大尉、あなたもそうでしょう?結局こないだは残党とは接触出来ずじまいでしたし」
 少尉に睨まれながら大尉へと話を振った。
「…いや、いいんだ。今更連中と話が出来たところで何にもなりはしないさ。バジーナ大尉が駄目だったのなら余計に。それに、さっきの中尉の策は私の考えていたものと同じだったしな」
 変わらず冷静な大尉の横顔には、何処か諦めのようなものも感じられた。

「そういえば、なんでバジーナ大尉がエゥーゴの後継者なんです?エースって言ってもパイロットのひとりですよね」
 中尉を睨むのに飽きたスクワイヤ少尉が聞いた。本当に何も知らないらしい。
「彼の正体は旧ジオンの赤い彗星との噂だがな。ただのパイロットではないよあの男は」
 腕を組みながら、感慨深そうに大尉が言った。
「え!赤い彗星って、ホワイトベース隊を追っかけ回してたっていうあの??生きてたんですか」
 目を丸くした少尉があからさまに驚く。
「よく知ってるな少尉。珍しく話がわかるじゃないか」
 思わず中尉は鼻で笑った。彼女は何も知らないようで、たまにピンポイントでものを知っている事がある。それがおかしかった。
「知ってますよそのくらい!…でも仮に赤い彗星だとして、なんでエゥーゴの代表になるんです?」
 そんな事を話している内に随分歩いていた。その時艦内に放送が入った。
『クルーの諸君、我々の次の作戦が決まったぞ?至急ブリッジへ集まれ』
 グレッチ艦長の声だった。

831 ::2020/06/10(水) 15:09:02.60 ID:A9l4MSXN0.net
「まったく…歩き疲れたんですけど」
 再びブリッジに着くなり少尉がボソッと愚痴を漏らす。
「仕方ねぇだろ!大佐が急に通信してくるのが悪いんだ!文句ならあっちに言えや!」
 いつもの調子で艦長と言い合いを始めた。この辺のやり取りは大尉の着任前と何ら変わりない。
「くそ…まあいい!集まったな?」
 そういって艦長はブリッジを見渡す。
「フジ中尉からの進言もあり、諸々の情勢もあり…。我々はコンペイトウを叩くことになった!まーた主力と違う作戦かと思うかもしれんが、今回はちょっと違うぞ…?とりあえずこれを見ろ」
 そういって艦長が手を挙げると、グレコ軍曹が慌ててスクリーンを映す。そこにはアンマン・グラナダから伸びるコンペイトウへの進路、そして別艦隊の進路。それらが別々の目的地からゼダンの門へと合流する様子が示されていた。
「この図の通りだ。エゥーゴは最終決戦をゼダンの門に定めた」
 艦長はその場に立ち上がると、鼻から大きく息を吐いた。
「決戦は宇宙ですか」
 ワーウィック大尉がスクリーンに注視したままこぼす。
「実際にどうなるかまではわからん。キリマンジャロ攻略も実行段階にきているが…。ただ、ティターンズも手をこまねいているわけではない。
 地上の連邦議会も実質連中が抑えたままであるし、グリプスでもなにやらやっている様子だ。我々の作戦はその辺の動きを鈍らせる目的も兼ねている」
 以前とは違い、随分と艦長も情勢に詳しくなったものだ。立場がそうさせる部分も大いにあるのだろうが、一度切った啖呵もある。あれから全力で戦っているのがわかった。
「出来れば今度の議会でティターンズがまたおかしな法案をでっち上げるより早く、戦力的にぶちのめしておきたい。地上も宇宙もどっちもだ!その片方を任されたんだぜ?もう裏方とは呼ばせねぇわな」
 グレッチ艦長も閑古鳥なりに思うところはあったのだろう。今は気概に溢れている。
「それで、具体的にはどう動くんですか」
 中尉は一応聞いてみた。
「エゥーゴは大きく3つの艦隊に分散する。1つは地上のカラバと連携してキリマンジャロを叩く部隊。主にアーガマのパイロット達だな」
 艦長は椅子に座り直し、ぐるりと椅子を回してスクリーンを背にした。
「そっちにバジーナ大尉も?」
 さっき話したばかりの話題だからか、珍しく少尉が口を挟む。
「ああ、ジオンは一旦放ったらかしだ。どうせ交渉も出来んしな。そっち側の牽制はまた別の部隊だ…例のアトリエ大尉達がそれをやる」
 艦長の口からその名を聞いて、彼女の目が少しギラついた。
「そして、残る部隊がコンペイトウへ向かう訳だな…」
 後ろからの声。皆が振り向くと、そこにいたのはロングホーン大佐だった。
「諸君…」
「警戒し、守る戦いはここまでだ。これからは打って出る。叩き、追い立て、息の根を止める」
 腕を組んだ大佐が、珍しくその口元に笑みを浮かべていた。

36話 打って出る

832 ::2020/06/10(水) 15:09:38.45 ID:A9l4MSXN0.net
 ロングホーン大佐はアイリッシュの面々の視線を受け止めながら話し始めた。
「今回の作戦からは攻めに徹する。このまま状況が膠着してしまえば我々は勝てん」
 カツカツと靴を鳴らしながら艦長の側へ歩み寄る。
「しかし、アンマンやグラナダの戦力はどうなるので?」
 フジ中尉だった。
「その点なら心配は及ばん。我々のスポンサーがうまくやるさ」
「…なるほど」
 察しが良いようだ。今エゥーゴが生産拠点のグラナダやアンマンを失う事で最も困るのはアナハイムである。
 この戦いの構図がなければ連中の商売もうまくいかなくなる。ましてジオン残党が台頭してくるとなると、今のままでは彼らも計画が狂うのだろう。死の商人とはよく言ったものだ。
「その関係もあってエゥーゴは今回艦隊戦力を増強して作戦に挑む。諸君は私の元でコンペイトウ攻略作戦において旗艦として働いてもらう」
 この作戦に失敗すればエゥーゴはここまでだ。大佐自身ももう基地に籠もっている余裕はない。
「諸君が思う以上に状況は切迫している。私が指揮を取り、現場の動きをグレッチ・ファルコン少佐が仕切る。これまでよりもダイレクトな指揮系統になったと考えてくれたまえ」
 そのまま詳しい予定を各員へ伝達すると、場を解散し持ち場へと戻らせた。

833 ::2020/06/10(水) 15:10:04.84 ID:A9l4MSXN0.net
「…まさか大佐がこの艦にお越しになるとはついぞ思ってもみませんでしたわ」
 頬を掻きながらグレッチ艦長が苦笑いしている。
「私自身もだ。もうデスクでふんぞり返っているだけでは居られまい」
 出港準備で慌ただしくなる周囲の様子をブリッジの窓から眺める。これまでは基地の方からこれを眺めていたものだ。
「この間の捕虜の件な…。久しぶりに痛みを感じて、つくづく私は鈍っていたのだと文字通り痛感させられたよ」
 そういいながら大佐は腕を擦った。もう痛みは引いたが、もっと精神的な何かが疼いたままだ。
「お怪我と捕虜と、何か関係が?」
「いや、気にするな。こっちの話だ」
 訝しがる艦長をよそに、大佐は思わず笑みが溢れた。自らの気が充実しているのを感じている。
「それはそうと…。パイロット達の様子はどうかね?コロニー落としの一件といい、アーガマの連中を退かせる時にも随分と働いてくれたが」
「ええ、よくやっとります。フジ中尉は相変わらず頭が切れますし、スクワイヤ少尉も最近元気ですしな。何よりワーウィック大尉がしっかりまとめてくれていますよ」
 彼らの働きは目を見張るものがあった。ニューギニア攻略でも戦功を立てた大尉はともかく、他2人を月の哨戒などに充てていた自らの見る目のなさに辟易するほどだ。
「経歴を見たときはいささか心配だったがな…。ジオン出身の隊長と、エゥーゴの癖にジオン嫌いの参謀。それに何よりあの娘は…」
「まあいいじゃねぇですか。あいつら自身の問題です。何だかんだハートも強いですよ、連中は」
 元々問題を抱えた人材だからこそ彼女を仕舞い込んでいたところはあった。まさかガンダムに適正があるとは思いもよらなかったが、彼女がパイロットというのも面白い話だった。
「これからの情勢如何では彼女も肩身が狭くなるだろう。しっかり支えてやれ」
「はい。この事を知っているのは私だけですからな。彼女自身、私が知っているという事は恐らく知りませんがね」
 それからも艦長と共に港を眺めながらいくつか言葉を交わした。

834 ::2020/06/10(水) 15:10:53.17 ID:A9l4MSXN0.net
 暫しの休息も終わり、他の艦と作戦の会議を行ったりしているとまたたく間に時間は過ぎた。通信士のグレコ軍曹に支度をさせると、艦内へ通告を行った。
「聞こえるかな諸君。これより出港だ」
 一度言葉を切り、心なしか興奮している自分を抑えた。こんな形で基地を出るのはいつ振りか。
「…私は久しく現場を離れていたが、諸君の働きがあれば死ぬことはないと思っている次第だ。身勝手な理屈に聞こえるだろう。そう思ってもらっても構わん。
 ただ、これは信頼の証だと受け取ってもらえると私は嬉しい。諸君の力を持ってすればこの作戦、必ずや成功するだろう。私の命は皆に預ける。その代わり、私が諸君の未来を預かろう。…励んでくれたまえ」
 通信を切った。振り返ると、艦長がぱちぱちと手を叩いている。
「いやはや、お上手ですな大佐」
「君のおべっかが心強く感じたのは初めてかもしれんな」
 恥ずかしそうに頭を掻く艦長。案外、この艦で1番変わったのは艦長かもしれない。少し前なら彼の評価はただの腰の低い親父だったろう。
「これから苦労も余計にあるだろうが、よろしく頼む」
「いやいや、大佐がおられればクルーにももう少しまともな指示が出せますよ。私も安心できます」

 港のゲートが開き、月面と宇宙のコントラストが水平線を描くのが見えた。海底から水面を目指す魚の様に、艦はゆっくりとその腹を岩場から離していく。
 宇宙は膨張を続けているという説もあるが、ならば我々はいつまでたってもこの海を泳ぎ続けるということだろうか。終わりのない潜水を続けながら、その片隅で喧嘩をするくらいしか能が無いちっぽけな魚だ。
 できることならば、少し先の未来が見てみたい。その思いをこの海が汲み取ってニュータイプなる人種が生まれたのなら、それも1つの道理だ。我々には自らを変える力がある。適応し、進化していくのだ。
 星が点々と瞬く宇宙に艦を進めながら、ロングホーン大佐は瞼を閉じて自分の感傷に別れを告げた。そうして再び目を開けた大佐には、もう作戦の事しか頭に無かった。襟を正し、今後自室となる執務室へと向かった。

37話 適応

835 ::2020/06/10(水) 15:11:26.30 ID:A9l4MSXN0.net
 ソニック大尉は自らの乗機の前で腕を組み物思いに耽っていた。
「…ガルバルディが恋しいですかな」
 そう言いながら大尉の方へ歩いてくるレインメーカー少佐が目に入る。
「いえ、確かに思い入れはありましたが。この機体は更に上を行く機体ですよ」
 原型を留めなかったガルバルディ隊はその後、試験データを一部取り直したところで全機解体となった。死傷者が出た試験部隊もまた、再編成がなされたばかりである。
 ソニック大尉は新たな機体を見上げた。ゼク・アインと呼ばれるその機体は、かつてのジオン公国において基礎設計がなされた点においてはガルバルディに通ずるものがある。
「ペズン駐留の教導団がテスト運用している機体を回してもらったと聞きましたが、信用出来るんでしょうかね」
 髭に手を添えながら訝しむ少佐だったが、この機体の完成度はそれを払拭するだけの説得力があった。
「私はどうも細身の機体が苦手でして。こういうガッシリとした機体にこそ安心感を覚えます。全重を支える骨格と、それを覆う強固な装甲。ムーバブルフレームを発案した開発者は人体への敬意を忘れていない様で感心致します」
「そうか…」
 やや呆れ気味に少佐が笑う。そろそろ老齢になろうという彼だが、いささか筋力が足りていない様で心配になる。
「少佐、もしお時間がある様でしたら一緒にトレーニングでも?」
「いや、私は野暮用があるのでね。それに大尉のトレーニングについていける自信もありませんでな」
 そういってレインメーカー少佐はそそくさとその場を後にした。ソニック大尉は仁王立ちで後ろ姿を見送った。

836 ::2020/06/10(水) 15:11:53.97 ID:A9l4MSXN0.net
 機体のチェックをひと通り終えた大尉は、いつもの様に病室へと向かった。
「あ、ラム!」
 退屈そうにベッドで雑誌を読んでいたオーブ中尉が飛び起きた。
「おっとと…」
 ベッドから立ち上がった彼女だったが、ややバランスを崩してベッドの枠を掴んだ。
「あまりはしゃぐな。まだ万全じゃないだろう」
「もう大丈夫だって医者も言ってるわよ。ぼちぼち復帰ね」
 そう言って笑う中尉だったが、ソニック大尉は複雑な心境だった。
「中尉はもう戦わなくていい」
「あたしが片腕じゃ使い物にならないって言うんでしょ」
「…そうだ」
 その場に立ち尽くしてムッとしている中尉を尻目に、近くにあった椅子へ腰掛けて俯いた。
「フリードも失った。俺は…これ以上仲間が傷付いていくのを見たくない」
「何メソメソしてんのよ。こうしてる間にも大勢が戦ってるわ。戦ってる分はまだいいわよ…戦う術がない人々もそれに巻き込まれてる」
 中尉の言う通りだった。しかし、彼女もまた戦う術を失った1人ではないのか。
「…あたし、裏方で出来ることやろうかと思う。別にMSに乗るだけが戦いって訳じゃないわ」
 静かな彼女の声を聞いて、大尉はゆっくり顔を上げた。
「それがいい。」
 いつもより聞き分けの良い中尉に若干の違和感がありつつも、しばらく話してからソニック大尉は病室を後にした。

837 ::2020/06/10(水) 15:12:40.19 ID:A9l4MSXN0.net
「これからのことは聞いた?」
 通路で向かいから歩いてきたのはウィード少佐だった。元より軍人にしては比較的細身だった彼女だが、コンペイトウに来てからは前にも増してやつれて見えた。
「聞いたよ。オーブ中尉とも一旦お別れだな」
 そういって大尉は腕を組み、壁にもたれた。
「彼女の為よ。人員の補充はあるけど、新しい部隊長はラムで正解よ」
「俺が隊長か?柄じゃない」
 思わず大尉は溜息をついた。抗うつもりも無かったが、とはいえ納得したわけでもなかった。
「…もうフリードは居ないんだから」
 小さく零したウィード少佐の目に、光は失せていた。
「わかってる。俺なりにしっかりやるさ。まあ…新入共を戦える身体に鍛えるのは俺にしか出来んからな」
 そういって笑ってみせた大尉だったが、彼女は力なく笑うだけだった。
 無理もない。先日のコロニー落としの一件で、この部隊は艦ごと左遷が決まったのだった。オーブ中尉はゼダンの門でリハビリを兼ねて別の部署へ、そしてアレキサンドリアはもうじきコンペイトウへ正式に異動することになっている。
 シロッコ大佐麾下の技術試験部隊としての役目もそれに伴い終了し、文字通りお払い箱にされた様なものだった。疑いを少しでも晴らす為とはいえ、これではトカゲの尻尾切りではないか。
「しかし、ジオンの残党共が動き出してるんだろう?いくらなんでも俺達をコンペイトウなんかに回してる余裕があるのか?」
「上層部がうまく立ち回ってる。一時的に手を組んだなんて話も聞いたけど…信じられないわね正直」
 ティターンズは一体何処へ向かっているのか。それを良しとするジオンもジオンである。もう何が何だかわからなくなりそうだった。
 そのまますれ違う様にして背を向けたウィード少佐を見ながら、ソニック大尉は拳を握りしめた。
「…エゥーゴ…ただでは済まさん」
 小さく独りでこぼすと、彼もまた歩き始めた。

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