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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど

1 :通常の名無しさんの3倍:2019/07/24(水) 00:50:40.43 ID:XfFrIQoe0.net
小説書いたこともなければスレッド建てるのも初めてなんだけど、もし誰か見てるなら投稿してみる

775 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:50:35 ID:aXIempxZ0.net
 しばらくしてアレキサンドリアは再びジュピトリスから離れた。パイロット達に機体のチェックをさせている間、ブリッジにはウィード少佐とレインメーカー少佐が残った。
「行き先は再び月ですな。作戦指示があるまでは宙域で待機とのことですが、本隊は何やら企んでおるのでしょう」
 レインメーカー少佐が腕組みしながら艦橋からの景色を眺めている。遠くに映る月は変わらず静かな光をたたえている。
「今度こそ連中を叩く…。それに変わりは無いわ」
「いかにも」
 ジュピトリスでは失った機体の補給も済ませてきた。試験用に用意していた予備パーツから組み上げたニュンペー2号機を始め、ガルバルディ隊も新たな武装を受領した。
「まだ月までは掛かりそうね…。…!!」
 シートにもたれたその時、ウィード少佐はモニターに映った物に気付き身を乗り出した。
「これは…!?」
「…やはり考えるスケールが違いますな、上層部は」

776 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/10(月) 23:51:11 ID:aXIempxZ0.net
 そこには、本来そこにある筈のないコロニーが写っていた。アレキサンドリアからは随分遠い場所にいる様だが、それでもどうにか視認出来る距離だった。
「ただの移送…ではないわね。…まさか」
「落とすんでしょうな、月へ」
 事も無げに言うレインメーカー少佐を見た。彼の表情は変わらない。
「いくらなんでも…それに我々は何も聞いていないわ」
「あくまでもティターンズは特殊部隊から始まった軍隊ですからな。必要以上に情報は漏らさんでしょう」
 飄々としたレインメーカー少佐に、彼女は一抹の不安を覚えた。
「しかし…」
「知ったところでどうなさるんです。ニュンペーで敵を撃つのか、コロニー落としで殲滅するのか…そこにどれだけの違いが?」
「違い過ぎます…」
「まだまだウィード少佐はお若い。大局はこうやって動く事もあるのだと知っておくいい機会です。先の大戦でも、ソロモンを焼いたのはソーラ・システムという戦略兵器ですからな。決してこれが特例という訳でもありますまい」
「そんな…」
 思わず拳を握り締めた。確かに戦局は動くだろう。しかし、義のある戦いにおいて本当に許される手段なのか。コロニーの住民は何処へ行ったのか。月の一般市民達はどうなるのか。
「知れば悲しみ、知らねば顧みず…。その程度の感傷で世界は動いておらんのです。どうか、ここは耐えてください」
 察した様にレインメーカー少佐が言った。目を細める彼には一体何が見えているのだろうか。ウィード少佐には考えが及ばなかった。
 少しずつ大きくなっていくコロニーの姿に、自らの業を見た気がした。

27話 静かな光

777 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/11(火) 03:01:31 ID:GcXeF8+D0.net


778 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/14(金) 19:26:29 ID:lJZVDjL30.net
お疲れ様です!

マンドラゴラ、ブースターポッド飛ばせるんですか!
そして(爆発四散してるにせよ)コロニー外壁を押し退ける推力と剛性、どっちかと言えば『拳』、キャラが立ってるw
百式のバックパックが羽と推進器の二段階で分離させたり、ディアスやZZのバインダーを外して使えるAEらしい設計で
Vガンダムの半分はアナハイムで作ったと言われても、分かる話ですね
(この物語には出てこないでしょうけど、サナリィに部品を切り離して使い捨てにするセンスは感じません)。
実戦と模擬戦を使い分けるアトリエはまだまだですね、スクワイヤもアツくなってて気づかなかったけどw

ウィード少佐はシロッコに惹かれてるんですね、少し意外でした(>>687の段階ではもうちょっと警戒してるかなー、と)。
ソニックが自分に近い波長を感じてるのは、(木星帰りが)何故かヤザンと意気投合したあの感じですかね、これも意外。
ドレイクは距離を取って考える......ミサイル付シールドを上手く使う(>>661参照)といい、実戦的な知性派なんですね。
レインメーカー爺さんは前者2人のようなベタ誉めではなく
よく分からないけど成果は挙げてる輩に感心しつつ、内心しっかり警戒してると見ましたw
或いはふと自分もかつては見果てぬフロンティアを夢見ていたと思ったのか、でしゃばらず良い感じです

これからはアイリッシュ隊の内幕が描かれ、アレキサンドリア隊もリニューアルして新たな戦いに臨むと。
いよいよ本番・決戦という感じですね、ご健闘を!

779 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/15(土) 15:19:28 ID:ESK3Cyhb0.net
>>778
いつもありがとうございます!

おー!その辺まで考察していただけるとは!頑張って考えた甲斐があります!笑
分離機構はアナハイムガンダムにはあって然るべきだと思うんですよね、劇場版ZのラストでもZのバインダー外してましたし。

何かと毎度ぶん殴られるのはアトリエ大尉の仕事…笑
模擬戦でしか通用しない戦術は、技術が向上した故の彼なりの手加減だったんですが、サーベルに関してはほんとに追い込まれて素が出ちゃった感じですね。フジ中尉の説明もまともに聞いてなかったし…笑
彼も言っていた通り実戦だったらポットも破壊されてその時点で決着は着いてますが、アトリエ大尉の戦い方からそこを割り切って考えたスクワイヤ少尉が勝った感じです。ただ、やっぱ腕は完全にアトリエ>スクワイヤですね!

アレキサンドリア隊はシロッコの元で動いているので何かしら共感している部分があります。
ドレイク大尉はマウアー的なとこもありますね…シロッコみたいなデキる男よりダメ男が好きそう…笑
彼らのこともまだまだ掘り下げたいので、それも追々。

1つの山場を迎えますんで、引き続きよろしくお願いします!!

780 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:46:19 ID:98Jcq17H0.net
お待たせしてます!
最近あまりにも忙しいもので…
多少書き溜めてるのでちょこちょこ出しときます!!

781 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:52:24 ID:98Jcq17H0.net
「そんじゃま、元気にやれよ」
 頬に湿布を貼ったアトリエ大尉。補給が終わり、再び月を立つとの事だった。しばらく月に滞在する事になるスクワイヤ少尉とワーウィック大尉は、2人で彼を見送っていた。
「ニュータイプって、信じます?」
「あぁ?MSの操縦がうまけりゃそう呼ばれるのさ。お前も、ワーウィック大尉もニュータイプなんじゃないか?」
「また適当な事を言って」
 ワーウィック大尉が呆れる。しかし案外アトリエ大尉の言うことも的外れではない気がした。
「人と深く解り合えるんでしょ?最初のガンダムに乗ってたアムロ・レイが随分前に前テレビで言ってました」
「ああ、あいつか…訳のわからん事を言うから軟禁されてたんだろ。俺を見てみろ、解り合えそうか?」
「うーん確かに」
 首をひねった少尉の頭に、ムッとしたアトリエ大尉が拳骨した。
「お前も生意気だが、まあそういうこった。俺がニュータイプでないか、ニュータイプ自体が幻想か…。どっちにしろ関係のない話だぜ」
「メアリーとお前は解り合えなかったのか?」
 そういってワーウィック大尉は、アトリエ大尉の胸元に光る石を指差した。翠の美しい光を放っている。
「ふん、あいつは特別だ。…そろそろ行くぜ」
 バツが悪そうにアトリエ大尉が歩きだした。
「え、なに?彼女かなんかですか?」
「まあ、だとしたら犯罪だな」
 ワーウィック大尉が笑う。
「だーれがロリコンだ!」
「いや、そこまでは言ってない」
 振り返ったアトリエ大尉にワーウィック大尉が胸の前で手を振ってジェスチャーする。
「けっ、その調子なら大丈夫そうだな!あばよ」
「…ほんとに、ありがとうございました」
 スクワイヤ少尉は頭を下げた。
「…マンドラゴラだっけ?あれはいい機体だ。お前なら乗りこなせるだろうよ」
 背を向けて歩きつつ、アトリエ大尉が軽く手を挙げる。姿が見えなくなるまで、少尉達はその背中を見つめていた。

782 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:52:54 ID:98Jcq17H0.net
「…戻るか」
「そうですね」
 少尉達もその場を後にする。彼女達の機体も補給が終わり、次の作戦を待つだけだった。とりあえずアイリッシュ級の元へと帰る。
「アトリエ大尉…彼って本当にガンダム貰う気だったんでしょうか」
「どうだか。私が思うに、少尉の事が気になったんだろう」
「私?」
「ああ。ガンダムに思う所はあるだろうからな。どんなパイロットなのか自分で確かめたかったんだと思う。恐らく、お眼鏡にかなったんじゃないか?」
「それなら良いですけど。でも正直、私なんかより彼の方がガンダムに似合う気はしてます」
「あいつは何に乗っても戦果を挙げるさ。それに…」
 言葉を切った大尉が足を止めた。気付いた少尉も振り返る。
「私は、少尉を信頼している」
 柔らかな表情で言う大尉と目が合った。少尉もニュータイプだったら、彼の気持ちが見えるのだろうか。
「ふふ」
 恥ずかしくなった少尉はまた足早に歩きだした。

「見送りは済んだのか」
 艦に戻るとグレッチ艦長がブリッジで出迎えた。
「はい。今頃艦も出港する頃でしょうね」
 大尉が応える。彼に並ぶ様にして少尉も顔を出した。
「いやー、惜しい男だった。ああいうやつが一人いると俺も楽しいんだがなぁ」
「ずっと居られるとそれはそれで苦労も絶えませんよ」
 苦笑いするワーウィック大尉だが、どこか寂しそうでもある。
「それはそうとゲイルちゃん!腕を上げたな。俺も艦長として鼻が高い」
 艦長が少尉を覗き込む。観戦しながら呑んでいたところをロングホーン大佐からどやされたと聞いたが、あまり悪びれている様には見えない。
「艦長のおかげでガンダムを持っていかれるところでしたよ」
「いやいや!俺はゲイルちゃんならお茶の子さいさいだろうと思ってな!」
「都合いいなぁ…」
 呆れつつも、模擬戦の機会をくれた艦長には感謝していた。アトリエ大尉との戦いで、足りなかった何かを得た気がする。
「何か指示があったら伝達してやるから、お前達も休むといい。また働いてもらうことになるからな」
 そういって艦長が帽子をかぶり直した。少尉はその言葉に甘えて自室へと戻った。

783 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:53:32 ID:98Jcq17H0.net
 スクワイヤ少尉は味気ない部屋へと帰ってきた。サラミスの時より広い自室になったものの、相変わらず置くものがないせいで余計にその広さが味気なさを強調していた。いつもの様に支度を済ませると、ベッドへ寝転がる。
 模擬戦だったとはいえ、アトリエ大尉との戦いは鬼気迫るものがあった。あれこれ余計な事を考える暇もないほど追い立てられたし、彼を倒すこと以外は考えられなかった様に思う。
 少尉は天井を見つめながら思考を巡らせた。死への恐怖も、そして好奇心も変わらずある。しかし、それを傍らに置くことが出来ればいいのではないかと思えてきた。
 無理に克服したり、押さえつけたりしなくてもいい。目の前の事に必死になれる自分をようやく見つけられたのかもしれない。
『…ゲイルちゃん!寝てんのかー?』
 しばらくうつらうつらしていたところに通信が入った。身を起こすと、目を擦りながらモニターを触る。
「む…。どうしました?」
『大変なことになった。すぐブリッジに来い』
 そういって艦長は通信を一方的に切った。何事かわからないまま、バタバタと部屋を出る。

 程なくしてブリッジに到着すると、皆集まっている様だった。一様に表情は硬い。
「なんなんです?」
 少尉が声を掛けると数人が振り返った。
「まずい事になってる」
 組んでいた腕を解いたフジ中尉がモニターを指す。そこには見慣れた形のスペースコロニーが写っていた。
「コロニーがどうしたんです」
「これがグラナダに向かってきてる」
「へ?」
 つい間抜けな声が出た。別のモニターを見ると、月との距離を観測している様な図面が映っている。
「信じられんのは無理もないが、奴らはもう手段を選ばん様だ」
 艦長がシートに沈み込みながら言った。深く被った帽子で表情は読み取れないが、声色から怒りが滲んでいた。
「ジオンの時にあれほど被害を受けておきながら、今度は同じ事をやる」
 ワーウィック大尉もモニターを見つめている。
「…前から気になっていた事があります。今言うべき事かは私にもわかりません」
 フジ中尉が改まってワーウィック大尉を見た。大尉もモニターから中尉へと視線を移した。

784 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:54:06 ID:98Jcq17H0.net
「大尉は…ジオン公国軍に所属されていたのではないですか」
「…ああ。元々私は君達の敵だった」
「…そうですか」
 ワーウィック大尉が静かに応え、中尉もまた静かだった。スクワイヤ少尉は知らなかった事だ。驚きを隠せず、大尉を見つめた。
「大尉もコロニー落としを?」
「…良い機会かもしれないな、少し話そう。私は地球降下作戦から従軍して、そのまま地上で終戦を迎えた。ルウムまでの事はサイド3で伝え聞いていただけだ…。戦後、デラーズ紛争にも加わらないままだったよ」
「私は…宇宙生まれです。ジオンに占領された連邦寄りのコロニーで父を失いました。母が言うには真面目な男だったようで、最期まで職務を全うしたのだと。私と母や兄弟は父の伝で地球にいて難を逃れましたが」
 2人の話に気付き、周りも少しずつ静かになっていた。
「…ジオン公国のやり方は間違っていた。私もそう思っている」
 ワーウィック大尉はフジ中尉を見つめた。しかし、中尉は彼から目を逸らした。
「何故そう言い切れるんです…?あなたはそれでも終戦まで戦っていた筈です」
 中尉が拳を強く握り締めるのが見えた。
「…ジオンにいた私を許せないのなら、それも仕方ない」
「大尉に何か伝えて事態が変わる訳じゃないこともわかっていますよ…!しかし…」
 中尉は再び大尉に詰め寄った。
「コロニー落としなんてものをやるティターンズは当然許せません…。しかし…そのティターンズが生まれたのはジオンのせいでしょう!?何故ジオン軍人だったあなたが此処にいるんです!?…やはり…私には割り切れない…」
 そういって中尉はブリッジを飛び出した。
「フジ中尉!」
 慌てて追いかけるワーウィック大尉をスクワイヤ少尉も追った。コロニー落としが行われると言われても正直実感は沸かない。大尉がジオン出身だったことも知らなかった。気持ちの整理がつかないまま、とにかく彼らの後を追った。

28話 解り合える

785 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:55:54 ID:98Jcq17H0.net
「ここにいたのか」
 ワーウィック大尉がフジ中尉に声をかける。格納庫に立つEWACネモの前に彼はいた。
「…申し訳ありません」
「いや、気にするな」
 スクワイヤ少尉は、彼らと一緒にしばらく黙っていた。

「…この機体、本当にに良く出来ています」
 中尉がネモを見上げる。完全に修復作業を終えた機体は、傷が癒えたフジ中尉が再び乗り込むのを待っている。
「私もこの機体と一緒で、情報収集が得意ですから。…大尉のことも色々と拝見しています。そもそも最初に見たエゥーゴの資料に違和感がありましたしね」
 大尉が着任してくる時に見ていたあの資料のことか。少尉は結局見ないままだった。大尉はただじっと話を聴いている。
「いくつかの資料に目を通して、あなたがジオン出身だと気付きました。嘘と正直が混ざった様な経歴でしたが、エゥーゴにそういう人間が居るのはごく自然です。それでも、実際にそれが判ると…私個人には引っ掛かるものがあるのも事実で」
「流石は中尉だ。私も隠すつもりは無かったが…」
 ワーウィック大尉が腕を組んで壁に寄りかかった。中尉はMSの前の柵を両手で掴んでいる。少尉はただその間で立ち尽くしていた。
「今は共に戦います。しかし、全てに納得出来ている訳ではありません」
「ああ。中尉の言うことはもっともだと思う…。今は私を…信じてくれ。何としてもティターンズを止めなければならない」
 ワーウィック大尉とフジ中尉が向き合った。
「…その気持ちは私も一緒です」
 2人の目には、確かな意思が感じられた。

786 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:56:23 ID:98Jcq17H0.net
「…中尉は私の事も調べたんですか?」
 思わずスクワイヤ少尉は聞いた。
「まあ調べはしたが…少尉は志願兵だろう?後地球出身ってことくらいは」
「よくご存知で」
 そう聞いて内心少しホッとした。それ以上の事は踏み込まれていないらしい。
「中尉の気持ちも勿論わかります。けど…今は喧嘩してる場合じゃないです。ティターンズ、止めに行きましょ」
「ふふ…少尉に諭される日が来るとはな」
 フジ中尉が自嘲気味に笑った。
「そりゃまあ、チームプレーが大事ですから」
 そういって彼女も力なく笑う。いずれ、少尉も自身の事を話さねばならない時が来るだろう。

 その時、格納庫へと通信が入る。
『ワーウィック大尉達、そこに居るんだろ?』
 近い通信機器のモニターいっぱいに映っていたのはグレッチ艦長の顔だった。
「申し訳ありません。ご心配をおかけしました」
 大尉が応答する。
『全くお前らは…誰かに何かあったと思えば今度はまた違う誰か…いい加減落ち着け!』
「いやはや、仰る通りで…」
 珍しくワーウィック大尉が辟易していた。
『まあいい。今はそれどころじゃねぇからよ…。コロニー迎撃に出る必要があるのは判ってるな?』
「はい。司令部はなんと?」
『とにかく出港しろとさ。既にアーガマやラーディッシュは出ているそうだ』
「やけに動きが早いですね…」
『何でも密告者がいたらしい。やはりティターンズも一枚岩ではないな』
「なるほど。我々もこうしてはいられませんね」
『おうよ!さっさと支度しろ!』
「はっ」
 手早く通信が切られた。最近のグレッチ艦長は貫禄が出てきたというか、艦長らしくなってきた。たった1ヶ月やそこらで人は変わるものなのか。いや、本来の一面が隠れていただけかもしれない。
「よし。早速準備だ」
 ワーウィック大尉が2人を振り返る。
「今回から私も復帰しますので、演算の類はお任せを」
 そういってフジ中尉はヘルメットを脇に抱えてリフトへと急いだ。
「…中尉、大丈夫ですかね」
「彼ならきっちりやってくれる」
 ワーウィック大尉の心境は複雑だろう。彼も自身の過去にはきっと苦しんだ筈だ。
「大尉も無理はしないでくださいね」
「ああ…ありがとう。背中は任せた」
 大尉も百式の元へと駆けていった。

787 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:56:47 ID:98Jcq17H0.net
 程なくしてアイリッシュ級は出港した。パイロットである少尉達は機体のコックピットで待機している。
『お前達、コロニーは目視できているか?』
 再び艦長からの通信が入る。
「でっかいですね。このコロニー…無人でしょうか」
『みたいだな…恐らくは一年戦争で廃棄されたものの一つだろう。多少弾が当たっても大丈夫だろうが、破片は飛ばすなよ』
 モニターに映るコロニーは核パルスエンジンを除いて光も灯っておらず、見慣れていた姿からすると幾らかおぞましさすら感じる。
『こっからはグレコ軍曹に指示を出させる。俺も忙しいからな…よく聞いとけよ』
 そういうと、艦長と入れ替わりでグレコ軍曹が節目勝ちに現れた。おかっぱの前髪で目元が見えないが、相変わらずもじもじしているのはわかる。
『フジ中尉がパイロットに復帰されましたのでこれからは私が…。先遣隊が軌道を変える為にコロニーへ接近、核パルスエンジンを破壊します。皆さんはその援護をお願いします』
『わかった。因みに敵はどの位出てきている?』
『えっと…』
 ワーウィック大尉が訊ねると、グレコ軍曹が慌てる。
『…すみません、4隻ほど護衛に就いている艦があります。アレキサンドリア級2隻とサラミス改が2隻。既にアーガマとラーディッシュがコロニーへ砲撃を開始していますので、皆さんは反対側から敵を引きつけてください』
『よし。しかし、まさかの旗艦と共同戦線か…』
 ワーウィック大尉の声には期待と焦りがみえた。少尉もアーガマの姿を実際に見るのは初めてである。
「例のニュータイプの少年もいるんでしょうか?」
『少尉、我々は何も気にせずいつもどおりやればいい。…行きましょう』
 少尉の問いにフジ中尉は淡々と応えた。彼に従って出撃準備にかかる。

788 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:57:35 ID:98Jcq17H0.net
 既に交戦が始まっている真っ只中へMS隊は飛び込む。やや離れた場所にアーガマとラーディッシュが見える。
 ラーディッシュは同じアイリッシュ級ということもあってスクワイヤ少尉達の母艦とそっくりだが、アーガマはもう少しこざっぱりとしていて、資料で見たペガサス級と何処か似ていた。
『あっちはあっちでやってる様だ。我々は横槍が入らないよう敵を抑える』
「了解」
 ワーウィック大尉指揮の元、百式改とマンドラゴラが両翼に展開し、その後方中央をネモが陣取る。
『前方に敵。サラミス改1隻と、マラサイが2機、ハイザック2機…。更に後方にアレキサンドリア級』
 フジ中尉が的確に状況を伝える。
『まずは手始めにサラミスの取り巻きを落とす。離れすぎるなよ』
「どう出ます?」
『そうだな、少尉から仕掛けろ。私も合わせる』
「わかりました…!」
 返事とほぼ同時にバーニアを吹かし速度を上げた。百式も横に付いてきている。
『私のことは気にせず突っ込んでください。2人の機動力を活かして道を拓く。そこからネモで情報を集めながら敵陣に入り込んでいきましょう』
 やや遅れながら中尉が言う。言葉通り、お構いなしにマンドラゴラは敵との距離を詰める。同じくこちらを捉えた敵部隊も布陣を完了している様だ。上下にマラサイ、両翼にハイザックといった具合に十字の陣形を組んでいる。
『行くぞ!』
 大尉の声がこだまする。十字の陣形の中央から敵艦の砲撃が届く。それを躱しつつ、迎え撃つ敵陣へと身を投じた。

29話 道を拓く

789 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 15:59:39 ID:98Jcq17H0.net
「ちぃ…!すぐそこにアーガマが居るのに!!」
 オーブ中尉はコックピットの中で拳を握り締めた。アレキサンドリアの面々はコロニーの護衛にあたりながら迎撃したエゥーゴと交戦に入っていた。先鋒のサラミス隊が例のバッタ達と戦闘に入った様だ。
『焦らないの。あっちはヤザン大尉達がやってるから』
「あの柄悪いおっさんでしょ?いけすかないわ」
 なだめるドレイク大尉に毒を吐く。ヤザン・ゲーブル大尉とはそんなに面識はないが、禄な話を聞かない為あまり良い印象は持っていない。
「ドラフラ、アーガマを落とせればシロッコ大佐も喜ぶよ〜?」
『そんな単純な話じゃないんだから』
「ふん、まあ良いわ。バッタどもには借りもあるしね」
 ブリッジから指揮を取るウィード少佐をからかいつつ、出撃準備にかかる。ジュピトリスでの改修作業でそれぞれの乗機には新たな試験装備を施した。
 オーブ中尉のガルバルディαには、メッサーラに搭載したブースターと同等のものを外付けしてある。TMAで使用した技術をMSへ落とし込む運用試験である。
 最早ガルバルディである必要性はかなり薄いが、パイロットである彼女らに転換訓練を受けさせる手間を省く為と言っていい。

790 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 16:00:20 ID:98Jcq17H0.net
『ここらで腐れ縁とおさらばしたいのは俺も同じだ。トレーニングに集中したいしな』
「あんたの本業はどっちなのよ」
 相変わらずのソニック大尉には呆れる。とはいえ一度囚われた彼にとってみればまさしく腐れ縁だろう。彼のガルバルディγは完全に装甲材そのものを取り替えた。
 その影響で機体がドム系列の様に大型化したが、各所にアポジモーターを併設することで重量級でありながらも機動性・運動性を確保している。これには、重量バランスに対する推力の必要量を検証する意味合いがある。
『あの調子だと、どうせ先鋒は持ちこたえられないでしょうね…。そろそろいきましょうか』
 ドレイク大尉のガルバルディβは、外観に大きな変化がない代わりにシールドを持ち替えていた。パラス・アテネのオプションの一つで、多数のミサイルを装填してある。
 シールドラックのグレネードを多用していた彼女にはうってつけだ。これに限らず様々なオプションを換装出来る様、各部にラッチを増設している。

 アレキサンドリアから出撃したMS隊は、母艦を離れ過ぎない位置で展開する。先鋒の隊列は乱れ、既に数機撃墜されている様だ。
「どうする?援護に入る?」
『そうね…引きつけるのがお互いに仕事みたいだけど、こっちは連中さえ片付けばアーガマを叩けるからね。早く叩くに越したことはないわ』
 何だかんだと言っても、ウィード少佐もアーガマが気に掛かるらしい。
『準備運動は済んでる。後は負荷をかけるだけだ!』
『はいはい。それじゃ、何かあれば呼び戻すから。行ってきな』
『「了解」』
 ソニック大尉とのいつもの問答を流しつつ、オーブ中尉が先頭になって友軍の元へと急いだ。ここから見えるだけでも、敵の動きが当初とはまるで違うのがわかる。連中にしても、初めての遭遇戦から今日に至るまで伊達に戦ってきた訳ではあるまい。

791 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 16:00:57 ID:98Jcq17H0.net
 お互いが射程距離に入るまでそう時間はかからなかった。こちらの接近を掴んでいたと思われる敵部隊だが、先手は打ってこない。
 友軍のマラサイが放つライフルを躱しつつ、バッタを筆頭に小さく纏った隊列を3機で組んでいる。
「いつもより大人しいじゃん…?それなら!」
 オーブ中尉は背中のバーニアを前傾にすると、2門のメガ粒子砲を放った。固定兵装なだけあって非常に高い威力を有している。それを受けた敵は一転、大きく散る様にしてビームを避けた。両側に跳んだガンダムとバッタがそれぞれオーブ中尉に迫る。
「あたしが1番叩きやすいとでも!?」
 ガンダムのライフルを躱し、更に振りかぶったバッタのナギナタを両腕のサーベルで受ける。
『こっちは俺が抑える!』
 間に割って入ったソニック大尉がガンダムを牽制する。その隙に中尉はバッタを押し返すと、再度メガ粒子砲を放った。しかしこれもまた当たらない。

「発射角が不自由ね…!」
 唸るオーブ中尉だったが、敵は待ってくれなかった。再度斬りかかるべく一気に距離を詰めてくる。
『独りでやろうとしなくていいの!』
 ナギナタの斬撃を遮る様にして、ドレイク大尉が放ったミサイル群が敵を襲う。バッタはそれを器用に切り払いながら尚も進撃を止めない。爆炎の中から敵のバイザーの光が赤く漏れる。
「何なのこいつ…ッッッ!!!」
 狼狽えながらもオーブ中尉はサーベルを構えた。1度、2度と切り結ぶうちに段々押されていく。敵の得物は長物の筈だが、こちらのサーベル二刀流の手数にも難なく付いてきた。
「腕をひけらかしてさ!そういうの嫌いなんだよね!」
 斬り合いの間を読みサーベルを収めると問答無用で敵の両肩を掴み、敵の胸元へ片方のメガ粒子砲を押し付ける。
「そらぁ!!」
 巻き添え覚悟の零距離でビームを放つ。こうでもしなければ命中させられないと踏んだ苦肉の策だった。
 しかし、放ったビームは敵を捉えられなかった。砲を押し付けた直後に互いの身体の間へ脚を挟み込まれ、ビームを放つよりも先に強力なバーニア噴射で機体を引き剥がされた。
 ビームは敵を掠めるだけに留まり、蹴り飛ばされる形になったオーブ中尉の全身に強い衝撃が走る。
「きゃあああ!!」
『言わんこっちゃないわね…』
 間髪入れず庇うようにしてドレイク大尉がバッタの前に立ち塞がるのが見えた。

792 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 16:01:28 ID:98Jcq17H0.net
「フリード!」
『連携しろっていってるでしょ!』
 再び距離の開いたバッタに、ドレイク大尉がライフルで牽制をかける。しかし、その合間を縫う様に援護に入ってきた友軍のマラサイが脈絡もなくバッタに接近しようとしていた。
「あっ…馬鹿っ!」
 敵がこれを見逃す筈もなく、サーベルを振りかぶるマラサイの後の先を取ったバッタは、容赦なくこれを袈裟に斬り捨てた。
『下手に飛び出すから…!ああなりたくなかったら言うこと聞きなさい!』
「ちぇ…了解」
『いい子ね…。…ラム?』
『おう!呼んだか!』
 呼び掛けに応じ、2人はドレイク大尉の元へ集う。ソニック大尉を追っていたガンダムも流石にこちらへ突っ込むことはせず、バッタの傍へピタリと付いた。
「…あれ?おかしい…」
 オーブ中尉は今になって気付いた。敵は3機居なかったか。これでは1機足りない。
『何だ?』
「後1機いた筈よ。こないだは居なかったけど、さっきは確かにもう1機…」
 辺りを探すが見当たらない。間違いなく3機いた筈だ。
 すると、急にバッタとガンダムが動いた。ドレイク大尉達には目もくれず彼女らの背後にいるアレキサンドリアへ向かい始める。
「何なの!?」
『いいから追うわよ…うわ!?』
 敵の背後を取ろうとしたドレイク大尉が狼狽える。先程まで無かった筈の大量のデブリが一帯に流れ込んできたのである。行く手を遮られたMS隊は大きく出遅れてしまう。
『一体何処から!?』
「…!」
 バッタ達の進む背後にネモ隊が合流するのが見えた。
「あいつらが運んできたの!?」
 よく見ると幾つかのデブリにノズルが取り付けられている。簡易的な衛生ミサイルの様な代物らしかった。大きなデブリに小さなデブリがワイヤーで連結されており、牽引出来る様になっている。
『私達を分断する為にわざわざ仕掛けを…』
「何でこんなちゃちい仕掛けでピンポイントに狙えるのよ!これじゃ軌道修正なんて出来ない筈なのに!」
『…あいつか』
 ネモ隊の最後尾にレドームを搭載した機体が付いていく。見るからにデータ収集や通信機能を強化されているのがわかる。
「あれよ!最後の1機!」
 気付いたものの後の祭りだった。今からデブリを掻い潜ったのではもう追いつけない。

793 :◆tyrQWQQxgU :2020/02/28(金) 16:01:57 ID:98Jcq17H0.net
「くそ!くそ!」
 手当たり次第にデブリを砕く。
『不味いわね…。いくらニュンペーでもあの敵全てを捌くのは無理よ。私達がこうも足止めされたんじゃ…』
『いや、まだ方法はある』
 そう言ってソニック大尉が指し示したのは、護衛していたコロニーだった。
「あれが何なのよ!このままじゃ核パルスも破壊されちゃう!」
『落ち着け。焦っても筋肉は育たん』
「何なのよほんとに…」
『まあ聞け。大した事ではない』
 オーブ中尉は肩を落とし次の言葉を待つ。今は彼の作戦を聞くより他に選択肢は無かった。

30話 苦肉の策

794 :通常の名無しさんの3倍:2020/02/29(土) 11:23:38.42 ID:hwNtXCly0.net
乙!

795 :◆tyrQWQQxgU :2020/03/03(火) 00:01:31 ID:v0Qdf/Si0.net
>>794
いつもありがとうございます!
また投下しますんでお楽しみに!

796 :通常の名無しさんの3倍:2020/03/07(土) 13:58:56 ID:UCYNFzkY0.net
お疲れ様です!

アトリエのNT観はF91の時代に通用するやつですね。
これで新生ネオジオンにでも入ったら「何があった?!」ですよw
しかしロリコンは自己申告なのか......スクワイヤ少尉、こんな男と解り合うことはありませんぜ(爆)

互いの出自で小さくヒビの入りそうなフジとワーウィック(フジファブリックではないw)。
今はコロニーという大きな敵に一緒に戦ってますが、果たして彼らは和解できるのか......まぁ双方ティターンズ堕ちはしないでしょうけど。
ティターンズ側の内通者の話が出て、(当然ながら)スクワイヤも止めるという点で合意。なんかこの感じ、いいですね!

さてウィード旗下アレキサンドリアはPMX系装備を受領、と。
実質旧ジオン機のガルバルα(オーブ機)にメッサーラのブースターとは、攻めましたね。
ここでマッチングすれば以降のティターンズ系にも合わせていけそうなわけで...
特性としてはシュツルム・ディアスやVダッシュに近そうですが、現時点ではまだまだジャジャ馬の模様。
そういえばオーブ機はボックス・ビームサーベルとのことですが、両方ともそれで二刀流にしているのでしょうか?
ソニックのγ(ガンマ)は......動けるデブに乗る筋肉もりもりマッチョマン、濃いですねw
ドレイクのβラッチ多用モデルが最も生き残りそうですね、バーザムの変なライフルなんかもいざって時に使えるかと(笑)
しかし友軍のマラサイ、仮にも旧主役機なのに...パイロットってやっぱり大事ですね。

しかし、コロニー落としを批判する一方で似非衛星ミサイルを使うフジ中尉、地味に腹黒では?
ガンダムで言っても仕方ない気がしますが、「破片を飛ばすなよ」と言われている戦場に大量のケスラーシンドロームの種を投入するわけで
仮に他のコロニーにでも跳んだら迎撃で落とし切れるかどうか...ある意味エゥーゴらしいかも(苦笑)

では手洗いうがいなど気をつけて、続きを楽しみにしてます!

797 :◆tyrQWQQxgU :2020/03/18(水) 10:46:09 ID:nuO8ydDJ0.net
>>796
いつもありがとうございます!

一般的にはNT論なんてそんなものだと思うんですよね、一部の人間にしか認知されてないと思いますし。

エゥーゴの面白いところは、地球連邦であり反地球連邦であり、その上ジオンの人間も居るってとこなんですよね。
そのエゥーゴが同じ連邦内のティターンズと内ゲバやってて、アステロイドベルトからアクシズまでやってくるという混迷ぶり…。
それで裏切るやつまで出てくる訳ですから、その中で信じられるものって何かあるの?というのもテーマの1つです。

ティターンズって機体の繋がりが滅茶苦茶なので、ミッシングリンクを考えるのは楽しいです。AOZみたいな企画が立ち上がるのも納得です。
ジュピトリス系列はあまり触れられていない印象なので、そこに切り込んでみた次第。

いよいよって時の為にこの手の兵器はあるだろうと思いました。
大気圏が無い月だとそのまま破片が降ってくるかと思いますが、フジ中尉ならある程度計算した上で運用してると思います!笑

798 :◆tyrQWQQxgU :2020/03/18(水) 10:47:57 ID:nuO8ydDJ0.net
>>797
あとオーブ機は両手ともボックスタイプのビームサーベルです。
篭手みたいな形をイメージしてます!

799 :通常の名無しさんの3倍:2020/05/02(土) 07:07:56 ID:NWG27T9L0.net
ご無沙汰してます!
ふとエゥーゴ側の制服が気になったのですが...

ワーウィック→サエグサやシーサーが着ていたようなチョッキ+シャツ
フジ→カツが着ていた緑系
スクワイヤ→レコアが着ていた露出の少ない方
グレッチ→グレーの正規軍服、前を止めずに着崩してる感じ(ヘンケン用だと襟から下が開かないんですよねw)

おおよそこんなところでしょうか?
ワーウィックはカミーユみたいにするほど青くないし、かといって連邦グレーを着こなすのも変かとこうしましたw

800 ::2020/06/03(水) 15:26:58.63 ID:6Hz5WWbB0.net
大変お待たせしました!
コロナだの副業準備だのでバタバタしてました…。
頻度は落ちるかもしれませんが、また投下していきます!!取り敢えず書き溜めていた分を落としますね!

>>799
制服とはまた良いところに目をつけましたね!
イメージでは、
・ワーウィック→ヘンケンみたいな黒で襟の裏地が緑+シャツ
・スクワイヤ→エマさんみたいな緑+黒のレギンス
・フジ→お堅いベージュの連邦カラー
・グレッチ→フジと同じく連邦標準制服を適当に着崩した感じ

…こんな感じでしょうか??

801 ::2020/06/03(水) 15:28:15.48 ID:6Hz5WWbB0.net
「どうにかうまくいきましたか…」
『よくあんなの思いつきますよね中尉』
『機転が利くのも中尉のいいところだ』
「全体の動きを把握出来ていて良かったですよ。2人が敵を引きつけていたからこそです」
 フジ中尉達は敵MS隊をうまく撒くと、アレキサンドリア級強襲へと向かった。
 当初はコロニーへの攻撃用で用意していた衛生ミサイルだったが、目標を変えて敵の分断に使用したのである。思いの外味方主力の進軍が早く、丁度遊ばせていたところだったのが功を奏した。
 友軍のネモ隊も急な申し入れによく対応してくれたと思う。そのネモ隊にサラミスを任せ、中尉達は指揮艦を叩く。

『今なら殆ど裸に近い筈だ。さっきの連中が戻ってくる前に速攻をかける』
 ワーウィック大尉が指示を出す。彼がジオン出身である事が確定したが、だからといって彼への信頼が揺らぐ訳ではなかった。ただただ心のしこりが疼くだけだ。今は考えるべきではない。
『私から行きます。ただ…』
「ああ、まだ後1機出てきていないのが気になるな。どう思われます?大尉」
 アレキサンドリアの砲撃を躱しつつ、中尉もスクワイヤ少尉と同じく懸念を抱いていた。
『前回テスト機を撃破したとはいえ、さっきのガルバルディ隊を見るに補給は済んでいる筈だな。まだ何か出てくるかもしれん』

802 ::2020/06/03(水) 15:28:55.36 ID:6Hz5WWbB0.net
「そろそろ出てきてもおかしくはありませんね…」
 敵艦の機銃をライフルで潰しながら周囲を索敵したが、まだ変化は無い。この戦況で正面のカタパルトを開くのは敵としてもリスクが大きい筈だ。
『とにかく大元を叩いてしまえば!』
 機銃を潰され砲火が手薄になった敵の横腹に少尉のガンダムが接近する。迎撃する主砲が彼女へ照準を合わせようとしていた。
『そうはさせんよ』
 まだ弾幕の厚い敵艦前方を掻い潜り、ワーウィック大尉の百式が主砲にナギナタを突き立てる。彼が瞬時に離脱すると、装填済だったとみえるメガ粒子と共に主砲が爆発した。
『大尉!』
 少尉が、大尉へ狙いを定める機銃を破壊しながら叫ぶ。
『構うな!敵をよく見て動け!』
 少尉を叱咤しながらも、2人は綺麗に連携している。まさに背中を預けあっているといっていい。中尉はその2人の連携が乱れぬ様、彼らの更に先を見る。

 ようやく敵艦に取り付いたその時、先程の爆発の裏に反応を見つけた。
「大尉!来ました…例のやつです!」
『また同じ機体…量産に入っているのか?』
 気取られたのを察知してか、敵がその姿を露わにした。その曲線的なフォルムと淡い体色は紛れもなく例の試作機だった。
『よし、やつは私が叩く。2人は引き続き敵艦を破壊しろ』
『しかし…』
 少尉が食い下がる。
「私が随時状況は共有する。少尉が危ないと思ったら動けばいい。まずは大尉に任せよう」
『…了解』
 渋々従う彼女を確認すると、大尉の百式は軌道を変えて試作機へと向かった。砲火を嫌ってか、敵は艦から距離を置こうとしている様に見える。
「ふん…艦を捨ててでも決着を付けにくるか」
 百式の動きも捉えつつ、少尉のガンダムの支援を続けた。

803 ::2020/06/03(水) 15:29:22.09 ID:6Hz5WWbB0.net
 護衛のない戦艦は殆ど的と言って差し支えなかった。機銃や主砲を失った片側の船体は最早こちらの進軍を止める手立ても無い。
「少尉!いけそうか!?」
『やってみます…!!』
 遂に少尉は敵の艦橋目掛けてバーニアを吹かす。しかしその時、ミサイル群がガンダムを襲った。身を捩りどうにか躱すが、艦橋は叩き損なってしまった。
『!?…もう追いつかれた!?』
 ミサイルの発射地点を辿ると、そこには撒いた筈のガルバルディ隊。
「まだ余裕はあった筈だぞ…?一体何処から…」
 中尉達の後方を追ってきたわけでは無さそうだった。しかし大回りしていては到底間に合わない。
「…!そうか、コロニーか!」
 どうも連中はコロニーの外壁を破り、その中を一直線に引き返して来たようだ。容易く機体の進路は作れないと思ったが、恐らく例のデブリを利用したのだろう。衛生ミサイルを流用した事が仇になった。
『これは大尉の援護どころじゃなさそうですね…』
 戦艦を叩くのは中断し一旦距離を取る。ガルバルディ隊もこちらを追うようにしてアレキサンドリアから離れた。
「ここが正念場だ!抜かるなよ!」
『了解!』

804 ::2020/06/03(水) 15:30:04.00 ID:6Hz5WWbB0.net
 中尉が激を飛ばすと、応えた少尉のガンダムが敵の隊列に突っ込んだ。行く手を阻むのは先程の大型タイプである。
『さっきからしつこい!』
 その巨躯に見合わず、しっかりとガンダムの動きに付いてくる。お互いにライフルで牽制し合うも、付かず離れずの読み合いが続いていた。その隙を狙う様にブースターを背負ったガルバルディが砲撃を放つ。
 これをガンダムは宙返りして躱すが、無防備になった所を残る1機が強襲する。
「こっちは無視か?」
 すかさず中尉はライフルで敵を牽制した。それでも3機は徹底してガンダムを狙っている。
「各個撃破は作戦として正しい。だが、戦力を甘く見積もるのは感心しないな」
 ネモの背中に背負ったバックパックはレドームのみではない。有事に備えたサブジェネレーターも搭載している。
 本来は友軍機への供給が主な用途だが、中尉はこれをライフルに直結すると、オーバーヒートさせながら敵へ放った。
 流石に想定外だったのか、躱しきれなかったブースター搭載機の左半身が吹き飛んだ。それに気を取られた万能機へガンダムが斬りかかる。
 敵は正面から斬りかかったサーベルをシールドで受けようとした。少尉は咄嗟にサーベルを逆手に持ち替えシールドを空振りさせると、ガラ空きになった腹を横一文字に凪ぐ。
 サーベルは完全にコックピットを捉えていた。真っ二つになった敵機は爆散する。
 僚機が2機損壊したのを見て、残る大型機がなりふり構わず中尉へ迫った。迎撃しようにもライフルは先程のオーバーヒートで使い物にならず、携行していた右腕も電装系に異常をきたしている。
『中尉!任せて!』
 スクワイヤ少尉のガンダムが割り込む。すると敵機はガンダムの頭部を掴み、膝蹴りと挟み込む様にして叩きつけた。
『うわっ!!』
 頭部全壊とはいかないまでも、内部の機器は破壊されただろう。今度は受け身が取れないままのガンダムを前に、敵がサーベルを抜いた。

805 ::2020/06/03(水) 15:30:41.43 ID:6Hz5WWbB0.net
『させんと言っているだろう!』
 ワーウィック大尉だった。敵は背後からのナギナタを咄嗟にサーベルで受けると、形勢不利を悟って後ろへ下がった。半身を失ったガルバルディに肩を貸しながら撤退していく。
「試作機はどうです?」
 こちらも直ぐ様追える状態ではなく、敵を見送りながら大尉に声を掛けた。外観を見る限り百式に大きな損傷はみられない。
『中尉達を艦から引き離してからは母艦の支援に回っていたよ。私もそこを攻めあぐねていたところでこっちに合流させてもらった』
 そう言いながらガンダムの手を引く大尉。
『すみません、モニターが死にました』
「じきにサブが復旧するだろう。よくやった」
 かなり敵の戦力を削ぐ事に成功した。報告を流し見る限り、先程のネモ隊もサラミスを落とした様である。後は主力がどうなっているかだった。

『遅くなったな!ちょっくら主力の手伝いをしてきたもんでな』
 アイリッシュ級のグレッチ艦長だった。ようやくこちらに追いついたらしい。
「あっちはどうです?」
『依然交戦中だ。しかし例のニュータイプ、凄いなあれは』
「アーガマのパイロットですか」
『ああ、とても子供が乗ってるとは思えん。おかげでかなり優勢だぞ。…あれ?ゲイルちゃん、顔どうした』
『その言い方やめてくださいよ…』
 スクワイヤ少尉が溜息をつく。
「!…あれは」
 コロニー後方で大きな光が見えた。あの位置には核パルスエンジンがある。
『やったか!』
 ワーウィック大尉の言う通り、エンジンの破壊に成功した様だ。ジワリジワリとコロニーが失速していく。フジ中尉は落下予測を概算で試みた。これならグラナダへの直撃は避けられるはずだ。
「作戦成功ですね…」
 中尉はほっと胸を撫でおろす。ティターンズの凶行をなんとか防いだ。もうコロニー落としの悲劇など目にしたくなかった。
 しかし、同じ連邦であるティターンズの士官には、コロニー落としに嫌悪感を示す人間もいる筈だ。一部の将校が強硬手段に出たのではないかとすら思える。とはいえ、エゥーゴも仇敵であるジオンを抱き込んでいる以上、お互い様かもしれない。
 敵も味方も、正義も悪もない。混沌としたこの地球圏で、自らの信念を何処まで貫いていけるのだろうか。今はただ、安堵する気持ちに浸っていたかった。

31話 正念場

806 ::2020/06/03(水) 15:32:57.08 ID:6Hz5WWbB0.net
 敵襲は去った。しかしアレキサンドリアの艦内は戦闘中と何ら変わりなかった。
「状況は!?」
 帰投するなりヘルメットを投げ捨て、ウィード少佐はモニターに向かって怒鳴った。
『お戻りですか。乗組員は閉鎖したブロック周辺の消火作業にあたらせています』
 ブリッジからレインメーカー少佐が応えた。
「わかりました。コロニーは?」
『核パルスエンジンを破壊された様ですな。近辺でガンダムMk-Uらしき機影も確認しています』
「ちぃ…!よりによって盗まれた機体に邪魔立てされて…!」
 開いたコックピットから格納庫を見渡しながら舌打ちする。まだガルバルディ隊は戻っていない様だ。
『そろそろガルバルディ隊も戻りましょうが…』
「連中の補給も急がせる」
『しかし…』
「…?どうしたんです」
『フリード・ドレイク大尉が戦死なさいました。オーブ中尉も重傷です』
「は…?」
 途端に全身から力が抜けた。
『とにかく早くブリッジへお戻りを』
「…わかりました」
 返事をしながらも、ウィード少佐の視点は高い天井を見上げていた。

807 ::2020/06/03(水) 15:33:45.18 ID:6Hz5WWbB0.net
 ウィード少佐がブリッジに入った時、モニター越しの格納庫に丁度ガルバルディ隊が帰還するところだった。
 しかしそれは最早部隊などと呼べる様相ではなかった。オーブ中尉のガルバルディαは殆ど原型を留めておらず、単独では着艦すらままならない。
 それを支えるγは欠損こそないが、各部の塗装が剥がれ激戦だったことが伺える。そして何より、βの姿がそこには無かった。
「…!脱出ポットは見当たらないのか!?」
「機体は完全に撃墜されております」
「だとしても、直前に脱出しているかもしれんでしょう!」
「それは…」
「いいから探せ!!探すんだよ!!」
 力任せに壁を叩いた。何度も叩いた。
「…ウィード少佐…お気持ちは痛いほどわかります…」
「頼む…探してくれ…探して…ください…」
 ウィード少佐はその場に崩れ落ちた。駆け寄ったレインメーカー少佐が肩を抱いたが、その暖かみすら自らの冷えていく体温が際立つだけだった。

 その後オーブ中尉は半壊した機体から救出され、緊急治療室へ運び込まれ、ソニック大尉も軽傷ながら治療を受けさせた。ウィード少佐も休むよう促されたが、頑として聞かなかった。
 結局ドレイク大尉の捜索は行わなかった。ソニック大尉の証言によれば、ガンダムのビームサーベルは間違いなくコックピットを焼いたのだという。何度聞き返しても、彼の答えは変わらなかった。
 軌道が逸れたコロニーはグラナダから遠く離れた未開拓の区域に落着し、それを捨ておいたティターンズ艦隊はそれぞれに撤退した。
 今回の作戦は現場の暴走として片付けられたが、核パルスエンジンが通常の作戦で持ち出されることなどまずない。どう考えても司令であるジャマイカン・ダニンガンの指示である。
 そもそもウィード少佐達に護衛の通達が来た時点で、上層部が容認していたとしか思えない。
 アレキサンドリアの損傷も著しく、応急処置を施しながらコンペイトウへ向かう事となった。それまでに機体のデータをまとめなければならなかったが、とてもそんな気分にはなれない。ウィード少佐は自室に籠りがちになっていた。

808 ::2020/06/03(水) 15:34:48.46 ID:6Hz5WWbB0.net
「…よろしいですかな?」
 断りを入れて入室してきたのはレインメーカー少佐だった。
「何か航行に問題でも?」
 書類をめくりながら平静を装うウィード少佐だったが、きっと内心の乱れにも彼は勘付いているのだろう。
「いえ、報告がひとつ」
「…?」
 ウィード少佐は書類に触る手を止めた。
「コロニー落としの一件ですが…。どうも内通者がいたとか」
「そんな馬鹿な」
 ペンを机に置き、ウィード少佐は立ち上がった。もし事実なら遠回しにドレイク大尉を殺された様なものだ。確かにエゥーゴ主力艦隊の対応には目を見張る迅速さがあった。
「…シロッコ大佐腹心の若い女性士官が居るのですが、憶えていらっしゃいますでしょうか」
 はっきり憶えていた。前回帰還時に彼の傍に立っていた少女のことだろう。
「彼女がなんだと言うんです」
「アーガマと接触していた疑いがあります」
 レインメーカー少佐は表情を変えなかった。それどころか耳を疑うような事を続けた。
「しかし、それだけではありません。同じくシロッコ大佐麾下の我々にも疑いの目が向けられている様です」
「…!」
 思わず言葉に詰まる。良心の呵責に耐え、ドレイク大尉を失い、オーブ中尉もまだ予断を許さない状況だ。そこまでして戦った結果が裏切りの疑惑なのか。
「…私には、バスク・オム大佐達上層部による、シロッコ大佐への当てつけとしか思えません」
 ウィード少佐の心境を察してか、レインメーカー少佐が静かに言った。
「アポロ作戦にしても、シロッコ大佐が指揮権を手放した直後にエゥーゴの巻き返し。その後のコロニー落としも失敗しました。バスク達にしてみればまあ面白くないでしょうからな。
 ブレックス准将の暗殺も一枚噛んでいると聞きます」
 レインメーカー少佐の言う通り、シロッコ大佐が目をつけられるのも無理はない。まして彼は聡明な男だ。野放しにしておけば取って代わられる恐れすら感じるだろう。
「…それで彼らが話をでっちあげていると?」
「少なくとも我々は裏切っておりません。シロッコ大佐にしても我々を差し向けている以上、作戦に参加している身と言って良いでしょう」
「こんな時に派閥争いなどと…!」
 ウィード少佐は憤りを隠せない。あまりに馬鹿馬鹿しい話だった。身を粉にする思いで革新を成そうとしているシロッコ大佐が裏切りなどするはずがない。
「上層部にはお気をつけください。信じられるのは身近な人間だけです」
「ご忠告、胸にしまっておきます」
 そこまで話してレインメーカー少佐は退室していった。

809 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:35:32 ID:6Hz5WWbB0.net
 しばらくしてオーブ中尉の治療が終わったと報せが入った。一命は取り留めたとのことだ。しかし彼女はもう戦線復帰は絶望的という。ドレイク大尉ももう居ない。彼女達という両腕をもがれ、立ち上がることも出来ずに地を這っている様だった。
「…済まない」
 オーブ中尉の治療について報告へ来たソニック大尉は、小さくそう言った。
「どうしてあなたが謝るの?」
「俺は皆に助けてもらって今ここにいる。だが…俺は…何も…」
 彼が目頭を抑える。
「何も…してやれなかった…!!」
 大きな身体を、小さく震わせていた。その悲痛な姿がウィード少佐には耐え難かった。
「できる事はやった…。だからそんなこと言わないで…」
 ウィード少佐達が同じ配属となった後、レインメーカー少佐はお目付け役としてやってきた。そんなウィード少佐には、真に頼れる者はソニック大尉しか残されていなかった。
「…私にはまだ、あなたという脚がある。これからも支えてほしい」
「…ああ!わかっているさ」
 顔を拭うと、ソニック大尉はいつもどおりの笑顔を見せた。彼にはこれからも辛い思いをさせるかもしれないが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 あまりにも大き過ぎる犠牲を払いながら、ウィード少佐は決意を新たにした。エゥーゴを徹底的に叩く。その上で現ティターンズの上層部も潰す。その為にはやはりシロッコ大佐の力にならねばならない。
 ドレイク大尉やオーブ中尉が身を呈して守った理想の為、ウィード少佐もシロッコ大佐の理想を守りたいと強く願った。

32話 大き過ぎる犠牲

810 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:39:06 ID:6Hz5WWbB0.net
 オーブ中尉が目を醒ました時、白衣の医師達が彼女を囲んでいるのがぼんやり見えた。状況もわからず、ただ自分が生きている事だけを自覚する。医師達は彼女の意識確認を行うと、何やら話しながら作業を始めた。
 何が起きたのか思い出すのにも時間が必要そうだ。機体が被弾したその後の映像が断片的に頭をよぎる。そのひとつひとつを結びつけようとしたが、どうも覚束ない。
 ベッドごと上体を起こされている様だが、首を固定されているらしく視線くらいしか自由が利かない有様である。今回は手酷くやられた様だ。
「目が醒めたのね」
 部屋にこぼれた光と共に聞こえてきたのはウィード少佐の声。
「…ん…よく思い出せてないんだけど…」
 借り物の様な心地がする喉を動かし、なんとか声を出した。
「無理に喋らなくていい。ゆっくり治せばいいんだから」
 そう言う彼女の声が近づく。目を開くのも億劫になり、再び目を閉じた。
「負けたの…?」
 目を閉じたまま訊く。
「…まだ終わってないわ。むしろこれからよ」
 表情は見えないが、声色に気負いを感じた。恐らく、コロニー落としには失敗したのだろう。

811 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:39:35 ID:6Hz5WWbB0.net
 意識がはっきりしてくるにつれて、何となく思い出してきた。あの時、ネモのライフルを機体に受けた。その瞬間にコックピット内に鮮血が飛び散ったのを思い出す。火花を走らせながら半壊したモニター。
 それらに挟まれて途切れ途切れの意識の中、確かに見た。あるはずのものが、そこには無かった。
「…ドラフラ、あたし…もう戦えないんでしょ?」
 オーブ中尉の問いにウィード少佐は応えなかった。いや、それが答えだった。医師が止めるのも構わず、固定された首を半ば強引に動かし自らの左腕を見る。思った通り、彼女は肘から下を失っていた。
「そんな気はしたのよ。こんな…仰々しく…」
 言葉を切って少し休む。押し寄せる現実に気持ちが昂ぶり、呼吸が乱れた。周りが少し慌ただしくなる。
「!…無理しないで」
 ウィード少佐が肩に手を添えた。オーブ中尉は深呼吸して、最後に溜息をつく。
「少しまた寝る…。ドラフラも無理しないで…」
「わかってる。リディルもね」
 ぽんぽんと胸元を叩かれた。すぐにオーブ中尉の意識は再び遠のいていった。

812 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:40:00 ID:6Hz5WWbB0.net
 それからしばらくして、オーブ中尉負傷後に何があったのかを聞いた。コロニー落とし失敗や、ドレイク大尉の戦死。今居るのはコンペイトウであることや、アレキサンドリア隊への疑惑。身体を少しずつ慣らしながら色んなことを聞いた。
「しっかし変な感じね!無いのに有るような気がする」
 容態が落ち着いて散歩程度なら許されたオーブ中尉は、ソニック大尉を伴って病棟を歩いていた。身体のバランスにまだ不慣れだが、失った腕の感覚が残っているのはよくある事なのだと言う。
「人間の身体というのはまだまだ未知数だからな。…困ったら何でも聞け。俺ももっと学ぶとしよう」
「ラムはそういうの詳しそう」
 彼に目立った負傷が無かったのは不幸中の幸いだった。
「これからどうするの?あたしはMSには乗れないだろうし、かといって人員も足りてないでしょ」
「ガルバルディ隊は解散だろう。お前もまだ治療が必要だし、俺ひとりというのもな」
「そうね…。フリードも居なくなったんだもん」
 ドレイク大尉は最期までオーブ中尉を呼んでいたのだという。彼女の言う通りもっと自分を制していれば、結果は違ったのだろうか。
「…少なくとも、彼女は俺達に止まって欲しくはないだろうな。救われたこの命…遺された使命の為に使わなければ」
「くっさ!ほんとあんたは相変わらずだわ」
 そういってオーブ中尉は笑った。正直言ってオーブ中尉としてはまだ失ったものへの実感は薄かった。どことなく高揚した気分が続いている。
「リディルが居ないと俺も締まらない。トレーニングには良いマネージャーが必要だからな」
「はいはい。今から会議でしょ?くだらない事言ってないで早く行きなさいよ」
 ソニック大尉を送り出し、彼女はひとり病室へ戻る。ウィード少佐はじめ、彼にも苦労をかけた。オーブ中尉も自分に出来る事を考えなければならなかった。

813 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:40:32 ID:6Hz5WWbB0.net
 病室へ戻ると人影を見つけてぎょっとした。よく見るとレインメーカー少佐だった。彼はベッドの傍のチェアーに腰掛けていた。
「もう!びっくりしたじゃん!」
 薄暗い部屋に照明をつける。
「失礼失礼。ここで待てば会えるかと」
 そう言って彼は立ち上がり、軽く会釈した。
「爺は会議出ないの?」
「私はお呼ばれしておりませんで。少し手が空きましたから、お嬢さんとお話でもと」
「暇なら相手してもいいわよー」
 からかう様な笑みを浮かべながら彼女はベッドに腰掛けた。彼も再び座る。
「大変でしたね」
「まあね。でもしゃーないでしょ、よくあることだわ」
 本当は割り切れるものではない。しかし、クルー達にこれ以上心配を掛けたくないという気持ちの方が強かった。少なくとも彼らの前ではいつも通り振る舞うと決めていた。
「まだお若いのに、苦労をかけさせてしまって私も申し訳ない」
「何言ってんだか。いつもは若いうちに苦労しろとか言ってるくせに」
「いやはや、歳になるとどうも説教臭くなるものでしてな」
 困った様に少佐が頭を掻く。
「そういえば、なんか疑われてるんだっけ?内通者がどうたら」
「上層部は本当の前線を知らんですからな。戦艦に同乗して喚いていればそれが前線だと思っておりますから」
「いっぺんその辺にほっぽり出してやりたいわ。そんな余裕無いわよこっちは」
「彼らは彼らなりに任務を遂行しておるのでしょう。それぞれに事情があります」
「また説教ー?」
「これはいかんですな。言ったそばから」
 そういって2人は笑った。

「…爺、あたしこれからどうなるんだろうね」
 少し和やかになったところで正直に訊いてみた。
「…通常のMSパイロットとして戦うのは難しいでしょうな。様々な技術はありますが、どれもまだ実用的ではありません」
「様々な技術?手が無くもないってことか」
 失った左手をまじまじと見つめながら自嘲気味に笑った。
「義手とかは慣熟するまでかかるんでしょ?そんなの待ってられないわ」
「元々使った事があれば別ですが、使ったことのないものですから。サイコミュなどもそうでしょうが、身体に無いものを動かすというのはもっと難しい」
 身体に無いものを動かすと言われハッとした。無い筈の左腕を動かしているこの感覚はまさしくそれだった。
「…サイコミュってさ、操縦桿が無くても動くわけ?」
「…ええ。極まると遠隔操作すら出来ると聞いておりますな」
 聞いたことがあった。ジオンのMAは勿論だが、連邦もサイコガンダムなどで実際に戦闘を行っている。
「つっても動かしてるのは皆ニュータイプだもんね。あたしには関係ないか」
 そういってオーブ中尉はベッドに身を投げ出した。
「そう焦らずとも良いでしょう。時間はあります」
 そういってレインメーカー少佐が微笑んだ。それから他愛もない話を幾つかしたのち、どうやら暇を潰せたらしい彼は、お辞儀して病室を出ていった。

814 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/03(水) 15:40:58 ID:6Hz5WWbB0.net
 部屋でぽつりと独りになったオーブ中尉は外に目をやる。少しでも気晴らしになるよう窓があったが、地下に建設されたこの病棟では晴れやかな景色が見られる訳ではない。ごつごつとした岩に囲まれて作業に勤しむ人々が見えるだけだ。
「サイコミュか」
 オーブ中尉は何となく呟いた。ニュータイプ的な閃きなどとは無縁な彼女だったが、無いものを動かす感覚というのは今まさしく体感していた。この延長線なら想像ができる気がしている。
 きっと会議の中でこれからの事を話しているはずだ。何もかもを自分で決められる訳ではないとはいえ、このまま引き下がる気も彼女には毛頭無かった。
 オーブ中尉は確かにある右手と、無い筈の左手を強く握り締めた。

33話 無い筈の

815 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/04(木) 23:50:12 ID:iOusxWeO0.net
君は刻の>>814乙を見る

816 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/06(土) 11:33:14 ID:BN3jfH6V0.net
乙です!
もしやコロニーより高いところまで行ったんじゃないかと心配してたので、一先ず安心しました!(待てやコラ)

機銃や主砲を近接武器で潰していくのは、メガバズーカランチャーの戦績の悪さが広まった結果でしょうか?(笑)
ワーウィックの心配をするスクワイヤも、大尉の意を汲んでフォローするフジも、いい感じに成長してますね!
ネモ隊もガルバルディ隊もミサイルを撒いて戦場に仕切りを作る、こういう集団戦描写とても好きです

フジのEWACネモ→改造ガルバルディα(大破、オーブは強化フラグ...?)
スクワイヤのマンドラゴラ→改造ガルバルディβ(ドレイク死亡、爆散)
ここでキルスコアとは...
正直、原作の展開はやらかしたことのスケールの割に話が動かなかったので、ピッタリ嵌まった感じがあります。
ジェリドは悔しさ第一みたいなキャラなのでシドレの死を軽く描写させられてしまいましたが
ウィード、ソニック、レインメーカーはシロッコ達とどう向き合っていくのか...
あらら、シロッコの小手先の悪影響が旗下の部隊にまで波及しちゃってまぁ...
ティターンズ内での疑惑に向かっていく導線、ぜひ辿らせてください!(悪趣味)

ソニックのγ、パワフルですねぇ。
高トルクパックとかF90Bとか、最近は何となく大柄な機体の格闘ぶりに燃えてきちゃう話が多くて好きです

単機でアレキサンドリアを守りきったウィードも立派、帰る家が無きゃ誰も戦えません。
でもそのせいで部下たちがボロックソにされてるのに気づけなかったんですよね......抱きしめてあげたい!(下心なし)
しかしこの件でいよいよウィード隊の依存を強めてるシロッコは不気味ですね、こっちでもひっぱたかれないかな(笑)

お、コンペイ島!ジオン共和国と並んでZ作中じゃちっとも描写のなかったコンペイ島じゃないですか!w
ジョニ帰のミナレット欲しかったおじさんとかガンダムTR-1とか、外伝では優遇されてる感じですが
今作ではどれほどゼダンやグリプスを使った大喧嘩に関わることやら......続き待ってます!

817 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:39:39 ID:vuolscyX0.net
>>815
>>816
ありがとうございます!
ちと忙しかったので筆も止まっていたのですが、余裕が出来たので息抜きに再開しました!

前作では1対多数や個別の戦いが多かったので、描写が難しいですが多数対多数に挑戦しているところです。楽しんでもらえているなら何よりです!

これだけ成長している彼らがいつまでもガルバルディに苦戦するはずもなく…
一応操縦スキル自体はガルバルディ隊の中ではソニックが1番高い設定です。伊達に脳筋ではありません。
ガルバルディ隊が連携してガンダム達と渡り合っていたところを、その有利さえ覆ってきたなら…こうなるのは自明かなというところ。

シロッコの急進的なやり方には齟齬が出ないとおかしいと思ってたんですよね。
そのしわ寄せが何処かに行くとすれば、彼のような人たらしなら…わからないように何処かに押し付けていてもおかしくはないかなと。
テーマの1つなのでしっかり描写していきます。

あれだけ1年戦争で重要な拠点だったソロモンが、何故グリプス戦役では放ったらかしなのか…ガトーのせいでしょうか。笑
ア・バオア・クーは名前まで変えてばっちり最終戦に絡んでいたので、僕の話ではコンペイトウも噛ませて行こうかなと思っています!

818 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:42:30 ID:vuolscyX0.net
「ちょっと見てみろ」
 そういうグレッチ艦長の声に、スクワイヤ少尉達MS隊の面々はモニターを覗き込んだ。次の出撃指示もなく、皆ブリッジに集まっていたところだった。
 コロニー落としの一件から1ヶ月と経たず、エゥーゴとティターンズは変わらぬ小競り合いを続けている。
 アンマン市やグラナダも例外ではなく、ちょっかいをかけてくる敵部隊との戦闘が頻発していた。アポロ作戦やコロニー落としの事もあり、相手が偵察部隊であっても決して気が抜けない状況である。

「これ、どう思うよ大尉」
 モニターに表示されたその報告には、旧ジオン軍残党の最大拠点アクシズが地球圏へと接近しつつあることが記されていた。
「私はアクシズのことは何も。ただ、デラーズ紛争の敗残兵も抱きかかえた事を考えれば…それなりの規模になっている筈です」
 考え込む様に右手を顎に当てながらワーウィック大尉が応える。
「彼らが地球圏に…。もしエゥーゴと手を組んだらティターンズも危ういんじゃ?」
 スクワイヤ少尉は単純に好機だと思った。ジオン狩りのティターンズと、反地球連邦のエゥーゴ。どう考えても利するのはエゥーゴの筈だ。
「これがそうとも言えん。発想がわかりやすくて説明し甲斐があるな少尉は」
 眼鏡を掛け直しながらフジ中尉がニヤリと笑った。
「む…何だっていうんです」
「ティターンズはこれまで失敗続きだ。それも、なりふり構わずやってきたせいで市民含め敵は多い。
 そもそも論としてエゥーゴにしても地球連邦軍の一部であることを考えれば、我々と同じく彼ら残党軍を戦力として欲してもおかしくはあるまいよ」
「そんな!だってティターンズはジオンの残党狩りが名目の組織でしょ!?」
「ああ、"名目"はな。連中のやっている事を顧みれば、そんなものは方便だとわかるだろう」
「うーん…そう言われてみればそうなんですかね…」
 少尉は思わず唸った。とはいえ、残党狩りが残党と手を組むなどおかしな話である。
「問題は…彼ら残党軍自身がどういうつもりで地球圏帰還を決行したのか」
 中尉の問いかけにも、変わらず大尉は考え込んでいる。
「正直、我々がこれ以上考察を続けてもあまり得るものは無いな。私にも真意が掴めん」
 大尉は考えるのをやめた様だった。
「お前らの意見はわかった。俺もイマイチ状況が読めなくなってきたからなぁ」
 大きく溜息をついた艦長が髭をいじる。
「アーガマが接触を試みるそうだが、どうもティターンズ側にも動きが有るようだ。…とはいえ、俺達がやることは特にない」
 そういって艦長はお開きだと言わんばかりに手を叩いた。皆それぞれの持ち場へと戻っていく。

819 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:43:32 ID:vuolscyX0.net
「このまま放ったらかしですかね?私達」
 整備の為格納庫へ向かいながら、パイロットの3人で並んで歩いた。
「そうもいくまい。そろそろ局面が動く」
 ワーウィック大尉が難しい顔で言った。
「ティターンズだけでも手一杯な今、更に敵が増えるのは避けたいところですが…」
 フジ中尉はこの間の件といい、いくら戦局が厳しくなるとはいえやはり残党と表立って手を組むというのは抵抗もあるだろう。
「色々と条件もある。いくらエゥーゴが反地球連邦といっても、ザビ家再興などを掲げているのであれば力を貸すわけにはいかないだろうしな」
 そうは言うが、大尉はもうジオンに未練はないのだろうか。
「ザビ家って全滅したんじゃ?」
「いや、ドズル中将の娘がいる。彼女自身はまだ幼いが、マハラジャ・カーンの娘が摂政としてついている筈だ。その位は伝え聞いたが、それ以上の事は何も」
「ザビ家かあ…イマイチ実感湧きませんね。なんか、そこだけ時間の流れが私達と違うみたいです」
「小惑星などに引き篭もっていればそうもなるさ」
 ワーウィック大尉はやや不機嫌そうに鼻で笑った。

 スクワイヤ少尉達が整備を進めている間にも、上層部は今後の事を話し合っているはずだった。ひと通りの作業を終えて休憩していた面々に再び招集がかかる。
 拭った煤が頬についたままの少尉を始め、バタバタとブリッジへ皆が集まった。
『諸君、調子はどうかね』
 1番大きなモニターにロングホーン大佐の姿が映った。相変わらずの仏頂面である。腕組みして椅子にふんぞり返っている。
『揃った様だから始めるが…。今現在我々は、接近しつつあるアクシズの対処に追われている。今頃はバジーナ大尉達が接触している頃かな』
 ブレックス准将の死後、アーガマのクワトロ・バジーナ大尉が後継者としてエゥーゴを背負って立つ事になった。その彼が直接交渉に出向いたということか。
 しかし、何故ロングホーン大佐やブライト・ノア大佐ではなく彼が後継者として選ばれたのかはわからない。
「アーガマの報告待ちということですか?」
 フジ中尉が問う。
『いや、こちらも待ってばかりでは居られまい。ある意味で彼らは敵地に乗り込んだ様なものだからな。諸君には彼らの出迎えをやってもらいたい』
 大佐は組んでいた腕を解くと、身を乗り出す様にして両手を机についた。
『アーガマの出迎えとは言うが、実際のところ逆に敵の出迎えに遭遇する可能性もある。アクシズの連中に歓迎されるとも限らんし、アーガマがティターンズに出し抜かれていることも考えられる。…危険だが任されてくれ』
「了解しました。すぐにでも出港します。…最後に1つだけお伺いしても?」
 珍しくグレッチ艦長が一言添えた。
『なんだね?』
「アーガマの交渉が破談していた場合、今後エゥーゴはどう動くので?」
『…ふん。いずれにせよ最後に勝つのは我々でなければならない。それだけだ』
 ロングホーン大佐はそれだけ言うと一方的に通信を切った。それを聞いたグレッチ艦長は帽子を深く被り直す。

820 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:44:32 ID:vuolscyX0.net
「さて、お前達!聞いたとおりだ。さっさと準備にかかれ」
 振り返ったグレッチの艦長の一声で皆作業を再開する。ぞろぞろと退出するクルー達に置いていかれる様にして、スクワイヤ少尉はひとりその場に残っていた。
「ん?どうかしたのかゲイルちゃん」
 気付いた艦長が首を傾げた。
「…今の話、何か引っ掛かるんですか?艦長」
「そうさな…他所さんと同じでうちも一枚岩じゃねぇだろ。アクシズと接触して、古巣に戻るやつらも出る筈だ。そうなった時、ほんとに上層部が言うほど事が上手く運ぶとは思えねぇからよ」
 髭を気にしながら、艦長は神妙な面持ちで言う。
「艦長にしては真面目な考察」
「悪いかよ!早くお前も持ち場に戻れやい」
「はいはーい」
 少尉は頭の後ろで手を組みながら大股でブリッジから退出した。歩きながら艦長の言葉を反芻する。
 確かに彼の言う通り、これまで以上に複雑な戦況が予想されるだろう。確かに、ワーウィック大尉の様に割り切っている人間ばかりではあるまい。加えて、フジ中尉の様にジオン出身者へのわだかまりを抱えている人間も居るはずだ。
 ノンポリシーな少尉からするとあまり実感は湧かないものの、この組織は思っている以上に繊細で脆いのだと改めて認識していた。

34話 アクシズ

821 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:45:28 ID:vuolscyX0.net
 スクワイヤ少尉達アイリッシュ級は、ロングホーン大佐の指示から程なくしてアンマンを立った。月を離れ、小惑星アクシズの方向へと進路をとる。パイロット達は機体のコックピットの中で待機を続けていた。
「アーガマからは音沙汰ないみたいで」
『もう会談の終了予定時刻は過ぎていますね。もしかすると…』
『ああ。交渉決裂したか、頭をティターンズに叩かれたか…。いずれにせよ我々の出番だな』
 スクワイヤ少尉達が危惧しているところに丁度通信が入る。
『待たせたな。アーガマの出迎えはティターンズがしてくれたみたいだぜ。おかげであっちは今混戦状態だ』
 グレッチ艦長が溜息混じりに言う。
『交渉は?』
 フジ中尉が問う。
『さあ。今んとこ何とも言えねえわな。とにかく撤収するアーガマと代わりばんこで俺達が壁になる。すぐ出れる様にしとけよ』
『『「了解」』』
 敵がティターンズだけなら良いが、最悪の場合アクシズとも交戦しなければならない。スクワイヤ少尉は気を引き締めた。

 アイリッシュ級が敵艦を捉えたとの報告が入る。既に砲撃を開始した様だ。
『み…皆さん!聞こえますか!』
 珍しく少し声を張ったのはグレコ軍曹だった。それでも人並みの声量しかない。
「なんです?」
『あ、少尉!アーガマから戦闘宙域を抜けたとの報告がありました。一部の敵をこちらが引き付けたのでどうにか…。交渉は決裂した模様』
『それはそれは。我々も出るので?』
 フジ中尉も通信に応答する。
『お願いします。ムサイ改が2隻、加えてMSも多数…』
『それだけ判れば十分だ。2人とも、行くか』
 話を切り上げたのはワーウィック大尉だった。ほぼ同時に前方カタパルトハッチが開く。少尉達は直ぐにアイリッシュ級前方へと展開を開始した。

822 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:46:50 ID:vuolscyX0.net
 戦火の行き交う宙域を、3機は縫うように進んだ。ムサイ改を背後にして、数機のハイザック、通常仕様のガルバルディβと共に見慣れない機体も見える。
『あの黒い機体…データにはありません』
 特段慌てた様子は無いものの、フジ中尉が口を開いた。
「新型ですかね?変な鶏冠!」
 2機ほど確認出来たその黒い機体は、頭部の突起を始めとして各部に黄色の配色が見える。シルエットもいささか異形である。専用のライフルを携えているようだ。
『全く、次から次へと…。戦力は見誤るなよ!鶏冠付きは後回しにして、叩きやすいところから叩く!』
『「了解」』
 ワーウィック大尉の指示を受け、各機は速度を上げた。
「まずは…1匹」
 迎撃するハイザックのマシンガンを躱しながら放ったマンドラゴラのビームライフルが敵の腹部に直撃、機体は爆散した。その下から上がってくる様にして別のハイザックが迫る。
 そちらを捕捉した時、別方向からのガルバルディの射線も少尉の方を向いた。
「数が多い!」
『慌てるな。新型はさておき、他の連中よりはこちらの方が機体性能は勝っている』
 そう言いながらフジ中尉のネモは、少尉を狙ったガルバルディの頭部を撃ち抜く。しかし、更に先程の新型の1機がネモに急接近していた。
『流石に新型は動きが良いな…』
 迎撃するネモが抜きざまに振りかぶったビームサーベルを、敵の新型はステップする様に躱しつつ中尉の背後を取る。
『ちぃ…!』
 至近距離でのライフルを受けそうになるも、中尉はその銃口をマニピュレータで掴み強引に逸した。しかし敵は更にサーベルを抜く。
「このッ!」
 あわやというところで少尉のマンドラゴラが追いつき鶏冠付きを蹴り飛ばした。制御を失った機体を尻目に、今度はもう1機の鶏冠付きがハイザックと共に威嚇射撃を繰り出してくる。
『流石にきりが無いな…!』
 別のガルバルディをナギナタで斬り捨てながら大尉がこぼす。併せて3機ほど落としたにも関わらず尚敵の勢いは衰えない。MS部隊に加えて敵艦の砲撃も止む気配はなさそうだった。

823 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:47:43 ID:vuolscyX0.net
『後どれ位だ!?』
 珍しくワーウィック大尉が声を荒げる。月面では鬼神の如き働きをみせた大尉だったが、上下の概念がない宙域で近接戦闘を継続するのは流石に消耗するらしかった。加えて、後続から別のムサイ改もMSを発進させているのが見える。
『増援含め…ハイザック4機、ガルバルディβ3機。新型が2機です』
 冷静に見えるフジ中尉だが、恐らく彼も焦り始めているだろう。そうこう言う間にも敵の砲撃は激しさを増し、初めは攻勢にあった少尉達も次第に防戦一方になっていく。
「なんだって敵は私達にこんな戦力を…!?」
 シールドで敵のライフルを弾きながら少尉も狼狽えた。
『どうだろうな!本来はアーガマを潰したかったのかもしれんが…』
 やり取りもそこそこに、再び単身敵陣へ走った大尉は、阻むハイザックを頭から真っ二つに断った。出遅れて迎撃しようとする周囲の敵を残る2人で牽制する。
 大尉の駆る百式改はバーニアの青い軌跡を曳きながら敵の最中を斬り抜ける。疲れをみせた大尉の言葉とは裏腹に、1機、また1機と落とす中でその動きは研ぎ澄まされていく様だった。
 敵を翻弄しつつも無駄の少ない所作には感嘆を禁じ得ない。その彼の後ろに、かつて背中を預けあったというアトリエ大尉の影が浮かんだ。
「そこは…私の席なんだから」
 影を打ち消す様にして、少尉はマンドラゴラと共に大尉の後へ続く。
「だからさァ…邪魔しないで…ッ!」
 敵の新型が行く手を遮ったが、マンドラゴラは加速して突き進む。敵が動揺した一瞬にギリギリで身を捩ると、回転しながら擦れ違いざまに腹から両断した。勢いそのまま更に敵中深く潜り込んでいく。

824 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:48:24 ID:vuolscyX0.net
『大尉!いくらなんでもこのままでは!』
『ちぃ…!』
 流石に被弾も避けられず、各機動きが鈍くなってくる。マンドラゴラはシールドを失い、百式のナギナタも明らかに出力が落ちているのが見て取れた。
 支援に回っている中尉のネモでさえライフルの残弾が尽き、近接戦闘を余儀なくされている。
 戦いが尚も続きいよいよという頃、敵の動きが変わった。各機適当なところで砲撃を切り上げると、そのまま撤退し始める。
『なんだ…敵が引いていく』
「はぁ…はぁ…追撃…しますか?」
 驚いた様子の中尉と同じく、少尉も状況が読めない。
『いや、よそう。これは…』
 撤退していく敵部隊の進路の先にはアクシズの大きな影があった。
『…まさか』
『ああ、そのまさかかもしれんな』
 2人は何かを察した様である。
「どのまさかです?」
『ティターンズとアクシズが手を組んだのかもしれん。ティターンズを残党が受け入れたのか…』
 確かにティターンズ艦隊はアクシズの方向へと退いていく様に見える。出迎える様にして現れたのは見慣れないMS群だった。
「あれは…」
『ガザか…?作業用でも数を集めて運用すればどうにかといったところか。残党なりによくやるようだな』
 大尉がガザと呼んだ桃色の機体が大量に群れる様子は、いささか不気味でもあった。
『これはアーガマも逃げ帰る訳だ。流石にこの物量で追い立てられれば無事では済みません』
『そうなる前に我々も帰れということだろう。撤退するぞ』
「エゥーゴと交渉決裂して…ティターンズとは組んだってことですか…?」
 スクワイヤ少尉は2人に割って入るように言った。フジ中尉から聞いた理屈はわかるが、実際に残党と残党狩りが手を結ぶなどということがあっていいのか。
『…信念などないのかもしれんな』
 思いにふけるようにしてワーウィック大尉が呟く。
『皆さん!戻るなら今しかありません!ここで退かないとアクシズが来ます』
 グレコ軍曹からの通信だった。敵MSを寄せ付けなかったとはいえ、アイリッシュ級も敵の砲撃を受けて少なからぬ損害を被っている様だ。満身創痍のMS部隊は母艦へと帰還する。

825 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/07(日) 13:49:05 ID:vuolscyX0.net
 着艦後スクワイヤ少尉がコックピットを出てヘルメットを脱ぐと、案の定艦内は騒然としていた。
「やはりエゥーゴは勢力争いから取り残された様だ」
 一足先に機体を降りていたらしいワーウィック大尉が出迎える。整備スペースのレールを掴み、少尉も機体から離れた。
「もしそうだとして、どうするんでしょうね。今までみたいに散発的な攻撃を繰り返したって埒が明かないでしょうし」
「いよいよ板挟み…連邦もジオンも敵だなんて信じられませんがね」
 呆れたようにそう言ったのはフジ中尉だった。彼もふわりと足場へ着地すると、そのままレール伝手にこちらへやってくる。
「エゥーゴも不沈船と言うわけではないからな。このままどてっぱらに穴でも開けられようものなら…皆宇宙で溺れることになる」
 大尉の表情からは何も読み取れない。
「大尉は、ジオンとも戦えるんですか?」
 ワーウィック大尉の胸のうちがどうしても気になり、少尉は恐る恐る聞いた。
「…亡者とは戦うさ。信じられるのは自らの信念を固く持った…今を生きる人々だけだ」
 そういうと、大尉は少しだけ微笑んだ。
 彼の言葉に少尉は、地球圏の様々な意志が渦巻くこの宇宙で、やっと見つけた自分の戦う意義だけは離すまいと誓った。

35話 信念

826 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/07(日) 17:37:44 ID:1Ji+WYmX0.net


827 ::2020/06/10(水) 15:01:11.68 ID:A9l4MSXN0.net
>>826
ありがとうございます!

また溜まってきてるので少しずつ投下します!

828 ::2020/06/10(水) 15:07:14.95 ID:A9l4MSXN0.net
 フジ中尉はブリッジへと向かっていた。
「どうかしたんですか?」
 自室からひょっこり顔を出したスクワイア少尉が歩く先に見える。
「ああ。今後の作戦について進言が欲しいと艦長から言われていてな」
「なんですかそれ、私そんなこと一言も言われなかったんですけど」
 少し不服そうに少尉が言う。フジ中尉は鼻で笑ったまま彼女の前を通り過ぎ、足を止めずに歩いた。
「ちょっと!…私も行きます」
 後ろでバタバタするのが聞こえたあと、スクワイア少尉も付いてきている様だった。

 ブリッジに到着すると、そこにはワーウィック大尉と話し込むグレッチ艦長の姿があった。
「おお、来たか2人とも」
「2人ともって、私何も聞かされてなかったんですけど」
 いつも通り艦長に少尉が噛み付いている。
「それで…何か進展は?」
「どうもアクシズはゼダンの門を目指しているらしい。エゥーゴ主力はそっちに気を取られているな」
 フジ中尉の問いに応えたのはワーウィック大尉だった。
「こないだの動きからして、ティターンズとアクシズは手を組んだとみえる」
 少尉をなだめ終わったのか、艦長が髭をいじりながら言う。
「じゃあ私達は主力と一緒に奴らを追うんですか?それともまた留守番?」
 やや不機嫌な少尉が腰に手を当て艦長を見る。
「どうだかねぇ。流石に留守番ってこたぁ無いだろうが、ロングホーン大佐も決め兼ねてる。アンマンにしろグラナダにしろ、相変わらず狙われてるからな…中尉は何か考えたか?」
「そうですね…」
 中尉は少し間をおいた。考えはある。
「コンペイトウ…旧ソロモンを叩くというのはどうです?」
 言った中尉に同意する様にワーウィック大尉が頷く。少尉はピンときていない様子だ。

829 ::2020/06/10(水) 15:07:42.14 ID:A9l4MSXN0.net
「…1年戦争時、連邦はソロモンを叩いた後にア・バオア・クー…現ゼダンの門を決戦の地に選びました。グラナダを叩く選択肢も残しながらです。
 今はむしろその逆…我々が駐屯出来るのはグラナダを残してコンペイトウもゼダンの門もティターンズの拠点と化していますよね?」
 いつもの様にスラスラと中尉が述べると、ワーウィック大尉がその後を引き継いぐ。
「その通りだ。ここでゼダンの門を叩きたい主力を掩護する意味でもコンペイトウ攻略は正しい判断だよ。上手くすれば挟撃する形でやつらを叩ける。…どうなんです?艦長」
 ワーウィック大尉がグレッチ艦長を見上げると、釣られて皆艦長の方へ視線を移した。
「お前らがそう言っても、上層部がなんていうかはわからんさね。だがまぁ、選択肢としては有力だな」
 帽子のつばをつまみながら艦長が言う。
「とはいえ…第一に、敵に対して俺達の艦隊戦力じゃ拠点1つ潰すのもひと苦労だぜ。殆ど総力戦だ」
 そういって深く椅子へ座り直す艦長。丁度その時アンマンの基地司令から通信が入る。
『…少しいいかね?』
 ロングホーン大佐からだった。
「はい。…お前ら、来てもらったばっかりで悪いが、ちと外してくれ。作戦案は俺から大佐にちゃんと伝えとくからよ」
 艦長に手であしらわれた中尉達はそそくさとブリッジを後にした。

830 ::2020/06/10(水) 15:08:16.49 ID:A9l4MSXN0.net
「結局どうなるんでしょーね…」
 ブリッジのドアが閉まるなりスクワイヤ少尉が腕を組みながら言った。
「わからんな、こればかりは」
 そういってワーウィック大尉が歩き出すと、中尉達もその後に続く。
「…ああは言いましたが、私としてはこの機会にジオンを叩きたいんですよ本当は」
 中尉は思わず口に出した。決してワーウィック大尉に当てつけるつもりでは無かったが、そう取られても仕方がないと気付いたときにはもう遅かった。
「フジ中尉、そんなに大尉がジオン出身なのが気に入らないんですか?」
 苛立ちを隠さずスクワイヤ少尉が詰め寄った。彼女はかなり大尉に肩入れしている。
「すまない。そういうつもりではないんだが…。大尉、あなたもそうでしょう?結局こないだは残党とは接触出来ずじまいでしたし」
 少尉に睨まれながら大尉へと話を振った。
「…いや、いいんだ。今更連中と話が出来たところで何にもなりはしないさ。バジーナ大尉が駄目だったのなら余計に。それに、さっきの中尉の策は私の考えていたものと同じだったしな」
 変わらず冷静な大尉の横顔には、何処か諦めのようなものも感じられた。

「そういえば、なんでバジーナ大尉がエゥーゴの後継者なんです?エースって言ってもパイロットのひとりですよね」
 中尉を睨むのに飽きたスクワイヤ少尉が聞いた。本当に何も知らないらしい。
「彼の正体は旧ジオンの赤い彗星との噂だがな。ただのパイロットではないよあの男は」
 腕を組みながら、感慨深そうに大尉が言った。
「え!赤い彗星って、ホワイトベース隊を追っかけ回してたっていうあの??生きてたんですか」
 目を丸くした少尉があからさまに驚く。
「よく知ってるな少尉。珍しく話がわかるじゃないか」
 思わず中尉は鼻で笑った。彼女は何も知らないようで、たまにピンポイントでものを知っている事がある。それがおかしかった。
「知ってますよそのくらい!…でも仮に赤い彗星だとして、なんでエゥーゴの代表になるんです?」
 そんな事を話している内に随分歩いていた。その時艦内に放送が入った。
『クルーの諸君、我々の次の作戦が決まったぞ?至急ブリッジへ集まれ』
 グレッチ艦長の声だった。

831 ::2020/06/10(水) 15:09:02.60 ID:A9l4MSXN0.net
「まったく…歩き疲れたんですけど」
 再びブリッジに着くなり少尉がボソッと愚痴を漏らす。
「仕方ねぇだろ!大佐が急に通信してくるのが悪いんだ!文句ならあっちに言えや!」
 いつもの調子で艦長と言い合いを始めた。この辺のやり取りは大尉の着任前と何ら変わりない。
「くそ…まあいい!集まったな?」
 そういって艦長はブリッジを見渡す。
「フジ中尉からの進言もあり、諸々の情勢もあり…。我々はコンペイトウを叩くことになった!まーた主力と違う作戦かと思うかもしれんが、今回はちょっと違うぞ…?とりあえずこれを見ろ」
 そういって艦長が手を挙げると、グレコ軍曹が慌ててスクリーンを映す。そこにはアンマン・グラナダから伸びるコンペイトウへの進路、そして別艦隊の進路。それらが別々の目的地からゼダンの門へと合流する様子が示されていた。
「この図の通りだ。エゥーゴは最終決戦をゼダンの門に定めた」
 艦長はその場に立ち上がると、鼻から大きく息を吐いた。
「決戦は宇宙ですか」
 ワーウィック大尉がスクリーンに注視したままこぼす。
「実際にどうなるかまではわからん。キリマンジャロ攻略も実行段階にきているが…。ただ、ティターンズも手をこまねいているわけではない。
 地上の連邦議会も実質連中が抑えたままであるし、グリプスでもなにやらやっている様子だ。我々の作戦はその辺の動きを鈍らせる目的も兼ねている」
 以前とは違い、随分と艦長も情勢に詳しくなったものだ。立場がそうさせる部分も大いにあるのだろうが、一度切った啖呵もある。あれから全力で戦っているのがわかった。
「出来れば今度の議会でティターンズがまたおかしな法案をでっち上げるより早く、戦力的にぶちのめしておきたい。地上も宇宙もどっちもだ!その片方を任されたんだぜ?もう裏方とは呼ばせねぇわな」
 グレッチ艦長も閑古鳥なりに思うところはあったのだろう。今は気概に溢れている。
「それで、具体的にはどう動くんですか」
 中尉は一応聞いてみた。
「エゥーゴは大きく3つの艦隊に分散する。1つは地上のカラバと連携してキリマンジャロを叩く部隊。主にアーガマのパイロット達だな」
 艦長は椅子に座り直し、ぐるりと椅子を回してスクリーンを背にした。
「そっちにバジーナ大尉も?」
 さっき話したばかりの話題だからか、珍しく少尉が口を挟む。
「ああ、ジオンは一旦放ったらかしだ。どうせ交渉も出来んしな。そっち側の牽制はまた別の部隊だ…例のアトリエ大尉達がそれをやる」
 艦長の口からその名を聞いて、彼女の目が少しギラついた。
「そして、残る部隊がコンペイトウへ向かう訳だな…」
 後ろからの声。皆が振り向くと、そこにいたのはロングホーン大佐だった。
「諸君…」
「警戒し、守る戦いはここまでだ。これからは打って出る。叩き、追い立て、息の根を止める」
 腕を組んだ大佐が、珍しくその口元に笑みを浮かべていた。

36話 打って出る

832 ::2020/06/10(水) 15:09:38.45 ID:A9l4MSXN0.net
 ロングホーン大佐はアイリッシュの面々の視線を受け止めながら話し始めた。
「今回の作戦からは攻めに徹する。このまま状況が膠着してしまえば我々は勝てん」
 カツカツと靴を鳴らしながら艦長の側へ歩み寄る。
「しかし、アンマンやグラナダの戦力はどうなるので?」
 フジ中尉だった。
「その点なら心配は及ばん。我々のスポンサーがうまくやるさ」
「…なるほど」
 察しが良いようだ。今エゥーゴが生産拠点のグラナダやアンマンを失う事で最も困るのはアナハイムである。
 この戦いの構図がなければ連中の商売もうまくいかなくなる。ましてジオン残党が台頭してくるとなると、今のままでは彼らも計画が狂うのだろう。死の商人とはよく言ったものだ。
「その関係もあってエゥーゴは今回艦隊戦力を増強して作戦に挑む。諸君は私の元でコンペイトウ攻略作戦において旗艦として働いてもらう」
 この作戦に失敗すればエゥーゴはここまでだ。大佐自身ももう基地に籠もっている余裕はない。
「諸君が思う以上に状況は切迫している。私が指揮を取り、現場の動きをグレッチ・ファルコン少佐が仕切る。これまでよりもダイレクトな指揮系統になったと考えてくれたまえ」
 そのまま詳しい予定を各員へ伝達すると、場を解散し持ち場へと戻らせた。

833 ::2020/06/10(水) 15:10:04.84 ID:A9l4MSXN0.net
「…まさか大佐がこの艦にお越しになるとはついぞ思ってもみませんでしたわ」
 頬を掻きながらグレッチ艦長が苦笑いしている。
「私自身もだ。もうデスクでふんぞり返っているだけでは居られまい」
 出港準備で慌ただしくなる周囲の様子をブリッジの窓から眺める。これまでは基地の方からこれを眺めていたものだ。
「この間の捕虜の件な…。久しぶりに痛みを感じて、つくづく私は鈍っていたのだと文字通り痛感させられたよ」
 そういいながら大佐は腕を擦った。もう痛みは引いたが、もっと精神的な何かが疼いたままだ。
「お怪我と捕虜と、何か関係が?」
「いや、気にするな。こっちの話だ」
 訝しがる艦長をよそに、大佐は思わず笑みが溢れた。自らの気が充実しているのを感じている。
「それはそうと…。パイロット達の様子はどうかね?コロニー落としの一件といい、アーガマの連中を退かせる時にも随分と働いてくれたが」
「ええ、よくやっとります。フジ中尉は相変わらず頭が切れますし、スクワイヤ少尉も最近元気ですしな。何よりワーウィック大尉がしっかりまとめてくれていますよ」
 彼らの働きは目を見張るものがあった。ニューギニア攻略でも戦功を立てた大尉はともかく、他2人を月の哨戒などに充てていた自らの見る目のなさに辟易するほどだ。
「経歴を見たときはいささか心配だったがな…。ジオン出身の隊長と、エゥーゴの癖にジオン嫌いの参謀。それに何よりあの娘は…」
「まあいいじゃねぇですか。あいつら自身の問題です。何だかんだハートも強いですよ、連中は」
 元々問題を抱えた人材だからこそ彼女を仕舞い込んでいたところはあった。まさかガンダムに適正があるとは思いもよらなかったが、彼女がパイロットというのも面白い話だった。
「これからの情勢如何では彼女も肩身が狭くなるだろう。しっかり支えてやれ」
「はい。この事を知っているのは私だけですからな。彼女自身、私が知っているという事は恐らく知りませんがね」
 それからも艦長と共に港を眺めながらいくつか言葉を交わした。

834 ::2020/06/10(水) 15:10:53.17 ID:A9l4MSXN0.net
 暫しの休息も終わり、他の艦と作戦の会議を行ったりしているとまたたく間に時間は過ぎた。通信士のグレコ軍曹に支度をさせると、艦内へ通告を行った。
「聞こえるかな諸君。これより出港だ」
 一度言葉を切り、心なしか興奮している自分を抑えた。こんな形で基地を出るのはいつ振りか。
「…私は久しく現場を離れていたが、諸君の働きがあれば死ぬことはないと思っている次第だ。身勝手な理屈に聞こえるだろう。そう思ってもらっても構わん。
 ただ、これは信頼の証だと受け取ってもらえると私は嬉しい。諸君の力を持ってすればこの作戦、必ずや成功するだろう。私の命は皆に預ける。その代わり、私が諸君の未来を預かろう。…励んでくれたまえ」
 通信を切った。振り返ると、艦長がぱちぱちと手を叩いている。
「いやはや、お上手ですな大佐」
「君のおべっかが心強く感じたのは初めてかもしれんな」
 恥ずかしそうに頭を掻く艦長。案外、この艦で1番変わったのは艦長かもしれない。少し前なら彼の評価はただの腰の低い親父だったろう。
「これから苦労も余計にあるだろうが、よろしく頼む」
「いやいや、大佐がおられればクルーにももう少しまともな指示が出せますよ。私も安心できます」

 港のゲートが開き、月面と宇宙のコントラストが水平線を描くのが見えた。海底から水面を目指す魚の様に、艦はゆっくりとその腹を岩場から離していく。
 宇宙は膨張を続けているという説もあるが、ならば我々はいつまでたってもこの海を泳ぎ続けるということだろうか。終わりのない潜水を続けながら、その片隅で喧嘩をするくらいしか能が無いちっぽけな魚だ。
 できることならば、少し先の未来が見てみたい。その思いをこの海が汲み取ってニュータイプなる人種が生まれたのなら、それも1つの道理だ。我々には自らを変える力がある。適応し、進化していくのだ。
 星が点々と瞬く宇宙に艦を進めながら、ロングホーン大佐は瞼を閉じて自分の感傷に別れを告げた。そうして再び目を開けた大佐には、もう作戦の事しか頭に無かった。襟を正し、今後自室となる執務室へと向かった。

37話 適応

835 ::2020/06/10(水) 15:11:26.30 ID:A9l4MSXN0.net
 ソニック大尉は自らの乗機の前で腕を組み物思いに耽っていた。
「…ガルバルディが恋しいですかな」
 そう言いながら大尉の方へ歩いてくるレインメーカー少佐が目に入る。
「いえ、確かに思い入れはありましたが。この機体は更に上を行く機体ですよ」
 原型を留めなかったガルバルディ隊はその後、試験データを一部取り直したところで全機解体となった。死傷者が出た試験部隊もまた、再編成がなされたばかりである。
 ソニック大尉は新たな機体を見上げた。ゼク・アインと呼ばれるその機体は、かつてのジオン公国において基礎設計がなされた点においてはガルバルディに通ずるものがある。
「ペズン駐留の教導団がテスト運用している機体を回してもらったと聞きましたが、信用出来るんでしょうかね」
 髭に手を添えながら訝しむ少佐だったが、この機体の完成度はそれを払拭するだけの説得力があった。
「私はどうも細身の機体が苦手でして。こういうガッシリとした機体にこそ安心感を覚えます。全重を支える骨格と、それを覆う強固な装甲。ムーバブルフレームを発案した開発者は人体への敬意を忘れていない様で感心致します」
「そうか…」
 やや呆れ気味に少佐が笑う。そろそろ老齢になろうという彼だが、いささか筋力が足りていない様で心配になる。
「少佐、もしお時間がある様でしたら一緒にトレーニングでも?」
「いや、私は野暮用があるのでね。それに大尉のトレーニングについていける自信もありませんでな」
 そういってレインメーカー少佐はそそくさとその場を後にした。ソニック大尉は仁王立ちで後ろ姿を見送った。

836 ::2020/06/10(水) 15:11:53.97 ID:A9l4MSXN0.net
 機体のチェックをひと通り終えた大尉は、いつもの様に病室へと向かった。
「あ、ラム!」
 退屈そうにベッドで雑誌を読んでいたオーブ中尉が飛び起きた。
「おっとと…」
 ベッドから立ち上がった彼女だったが、ややバランスを崩してベッドの枠を掴んだ。
「あまりはしゃぐな。まだ万全じゃないだろう」
「もう大丈夫だって医者も言ってるわよ。ぼちぼち復帰ね」
 そう言って笑う中尉だったが、ソニック大尉は複雑な心境だった。
「中尉はもう戦わなくていい」
「あたしが片腕じゃ使い物にならないって言うんでしょ」
「…そうだ」
 その場に立ち尽くしてムッとしている中尉を尻目に、近くにあった椅子へ腰掛けて俯いた。
「フリードも失った。俺は…これ以上仲間が傷付いていくのを見たくない」
「何メソメソしてんのよ。こうしてる間にも大勢が戦ってるわ。戦ってる分はまだいいわよ…戦う術がない人々もそれに巻き込まれてる」
 中尉の言う通りだった。しかし、彼女もまた戦う術を失った1人ではないのか。
「…あたし、裏方で出来ることやろうかと思う。別にMSに乗るだけが戦いって訳じゃないわ」
 静かな彼女の声を聞いて、大尉はゆっくり顔を上げた。
「それがいい。」
 いつもより聞き分けの良い中尉に若干の違和感がありつつも、しばらく話してからソニック大尉は病室を後にした。

837 ::2020/06/10(水) 15:12:40.19 ID:A9l4MSXN0.net
「これからのことは聞いた?」
 通路で向かいから歩いてきたのはウィード少佐だった。元より軍人にしては比較的細身だった彼女だが、コンペイトウに来てからは前にも増してやつれて見えた。
「聞いたよ。オーブ中尉とも一旦お別れだな」
 そういって大尉は腕を組み、壁にもたれた。
「彼女の為よ。人員の補充はあるけど、新しい部隊長はラムで正解よ」
「俺が隊長か?柄じゃない」
 思わず大尉は溜息をついた。抗うつもりも無かったが、とはいえ納得したわけでもなかった。
「…もうフリードは居ないんだから」
 小さく零したウィード少佐の目に、光は失せていた。
「わかってる。俺なりにしっかりやるさ。まあ…新入共を戦える身体に鍛えるのは俺にしか出来んからな」
 そういって笑ってみせた大尉だったが、彼女は力なく笑うだけだった。
 無理もない。先日のコロニー落としの一件で、この部隊は艦ごと左遷が決まったのだった。オーブ中尉はゼダンの門でリハビリを兼ねて別の部署へ、そしてアレキサンドリアはもうじきコンペイトウへ正式に異動することになっている。
 シロッコ大佐麾下の技術試験部隊としての役目もそれに伴い終了し、文字通りお払い箱にされた様なものだった。疑いを少しでも晴らす為とはいえ、これではトカゲの尻尾切りではないか。
「しかし、ジオンの残党共が動き出してるんだろう?いくらなんでも俺達をコンペイトウなんかに回してる余裕があるのか?」
「上層部がうまく立ち回ってる。一時的に手を組んだなんて話も聞いたけど…信じられないわね正直」
 ティターンズは一体何処へ向かっているのか。それを良しとするジオンもジオンである。もう何が何だかわからなくなりそうだった。
 そのまますれ違う様にして背を向けたウィード少佐を見ながら、ソニック大尉は拳を握りしめた。
「…エゥーゴ…ただでは済まさん」
 小さく独りでこぼすと、彼もまた歩き始めた。

838 ::2020/06/10(水) 15:13:31.28 ID:A9l4MSXN0.net
 トレーニングの為自室へと向かう最中、レインメーカー少佐が若い男と話しているのが目に入ったので声を掛ける。
「少佐、彼が…」
「そうですよ。新しく配属になった…」
 言いかけた少佐を遮るように若い男は前に出て姿勢を正した。短く切り揃えられた赤髪と、何処か見たことのある目元をした男だった。
「ステム・オーブ少尉です。まだ配属には1日早いですが、ご挨拶だけでも」
 そういってにこやかに笑った彼だったが、どうにも目が笑っていない様に思えた。
「む…?」
 首をひねったソニック大尉に気付いてか、彼はまた口を開く。
「リディル・オーブは私の姉です。まさか同じ隊に入れ違いで配属になるとは思ってもみませんでしたが」
「おお、どおりで。目元が姉上とそっくりだなあ。軍属とは聞いていたが、2人揃ってティターンズのMSパイロットだったとは。…彼女には会えたか?」
「ええ。…あんな姉でも、覚悟を決めて戦っていたはずです。私も同志である大尉に恨み辛みをいう気はありませんよ」
 ステム少尉は軽く息を吐いて腰に手を当てた。
「まあ、これからは彼女の分も弟君が働くということだ。ビシバシ鍛えてやってくれますかな?」
 レインメーカー少佐が人差し指を立てながら言った。
「…では、私はこれで。エゥーゴを叩きのめすには時間が惜しいのです」
 そう言うと、少尉はスタスタと去っていった。
「いささか肩に力が入っている様だが…まあ無理もないか」
「マッサージでもしてほぐしてやってください。大尉はそういうの得意でしょうからなぁ」
 ステム少尉の背を見つめながら、2人はその場に立ち尽くしていた。

38話 トカゲの尻尾切り

839 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/11(木) 02:08:53.97 ID:QK1Q8lma0.net
乙です!
いつもありがとうございます!

840 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/13(土) 08:29:18 ID:P68Y1z0m0.net
お疲れ様です!
ちょっと立て込んでたので、2弾まとめて読ませてもらいました。
アクシズの地球圏接近を素直に好機と見るスクワイヤ...この人、戦闘時はともかく普段は先のことあまり考えてないんじゃ?w
まさか資源衛星1玉の勢力でダカール制圧までやってのけるとは思いませんよね(持続できなくて一月ちょいで撤退したけど)

大尉はハマーンのこと知らないんですね。
まぁぶっちゃけ日本国民も皇族全体を網羅してる人はそういないでしょうし、お付きの家系となれば尚更です。
何故クワトロがって、ロングホーンは内心参謀本部から疎まれてそうですし
ブライトは政治家って柄じゃないですからね(シャアも大概だろとか言わないw)

仮に艦長の推察がフラグだとすると、今度はアクシズに抜けていっちゃうキャラが出るんですかね?
「ぐ、グレコ軍曹!何を......ぐわぁっ!!」(多分こうはならない)
アーガマと代わりばんこって表現なんか好きです、やっぱチーム戦ですね。
ムサイ改キターーッ!! こやつのエンジン左右の羽がアレキサンドリアやエンドラに受け継がれ
最終的にムサカの、そしてクラップやラー・カイラムの特徴的放熱板になるのはロマンですねグヘヘ(性癖)。
そこから出てくるのはハイザックと、モブ敵機に堕ちたガルバルとぉ......バーザム!!
変な鶏冠呼ばわりされつつも動きがいい辺り、TV本編より活躍してくれるのでしょうか。ちょっと期待?(何故か疑問系)

少尉、もはやここにいないアトリエに嫉妬するw いいぞいいぞ!
疲れながらも動きがキレキレになっていくって分かりやすい死亡フラグですから
彼女には今後ともワーウィックをフォローしてほしいですね。
ガザCは不気味...目元はエゥーゴでお馴染みリック・ディアスと同じですし、ピンクの軍団とかキモっ!って感じでしょうか?w
本編だとアーガマ接触時スフィンクスみたいにMA形態で見張りをやってたのが印象的でした

おっ、ついにゼダンの門ですか。
あの壮大な破壊行為はジオン時代から旧式だったチベの改良モデルと
アーガマとの共通項も見られるアナハイム製輸送艦が一緒くたに潰されてるのが印象的でした。
わらわらと出ていく灰色のサラミスも、らしくなくて見ものでしたね!(熱いティターンズ叩き)
会話パートを多く入れることで、この辺の情勢はTVシリーズより見やすくなってていいと思います

そして今度はコンペイトウ、爺たちのアレキサンドリアが今度は出待ちと。
キリマンジャロ、ゼダンの門、アンマン、グラナダ...世界観の拡がりを感じる一方でコロニーレーザーの話が来ないのが何とも不気味です。
アトリエ大尉はまた(この時点では)マイナーな戦線に投入されるんですね、ご武運を。
月面都市はアナハイム側で上手くやる...ウォンさんが乗ってたような武装MWで部隊編成でしょうか?w
大佐乗艦キターーッ!! 戦場の空気云々も大概な死亡フラグ(ジュガン指令)ですが、気持ち的には生き残ってほしいです。
とりあえずスクワイヤは、これまで人殺しエキスパートとしてのニュータイプには見られていなかった、と。
ロングホーン大佐も中々のロマンチストですね

筋肉式ガルバルディγに代わってゼク・アインだと?!
ピッタリだと思う反面、万能機のコンセプトは先日撃墜されたβを思い出して少し不吉に思います。
しかしつくづくジオン系MSを扱う反ジオン組織ですね、ティターンズは(苦笑)。
オーブ中尉は裏方、良い兆し...なのか?
「騙されんぞ(黄色いレインコートのクソガキ並感)」

なんだぁ、新入りは男なのか(期待して損したような顔)。
彼は何に乗るのか(ニュンペーにゼク・アインだから青系でしょうか)、パイロットとしてどんな適性があるのか
一先ず力み過ぎて即墜ちするなよと!

続き楽しみにしています!

841 :◆tyrQWQQxgU :2020/06/17(水) 17:21:57 ID:5skNxF910.net
>>839
>>840
いつもありがとうございます!

まあ中尉にツッコまれてる通り、スクワイヤは戦略的な視点は持ち合わせていません。笑
普通に考えればティターンズの立ち位置は歪ですしね…

ワーウィックは長いこと地球に居ましたので、恐らくアステロイドでのいざこざには疎かったのだと思います。
思想的にもネオ・ジオンは嫌いでしょうし…
あとダカール演説前なので一般兵はシャア=キャスバルだと知りません。クワトロ=シャアまでは普通にバレてるでしょうけど笑

クルー達の会話は基本的には色んな伏線になる様考えています。
この章での伏線とは限りませんが…!
個人的にはバーザム好きなんですよね…笑
早くMG出ないかなと祈っています笑

ワーウィックやスクワイヤはNT的な進化はしていないので、技量で魅せてほしいなと。
ガザCがあの色で群れてると思うと…ゾッとしませんか?笑
虫みたいです…笑

戦いの流れが終盤に向かっているので色んな拠点が出てきます。
勿論コロニーレーザーも出てきますよ!お楽しみに…
0083でもそうでしたが、戦わずとも戦局を動かしているのがアナハイムかなと。
対立構図を維持する様な駆け引きをやってくれることでしょう。

ロングホーン大佐はいつ引っ張り出すか悩んでたのでようやくです。笑
ここから彼も物語にもう少し深めに関わっていきます。

ゼクアインもかっこいいですよねー…笑
ムーバブルフレームが優れている設定もありますし、ドレイク大尉の意志を引き継ぎつつも彼らしいかなと。
オーブ中尉のことは弟共々見守っていてください。笑

842 ::2020/06/17(水) 18:21:31.61 ID:5skNxF910.net
 スクワイヤ少尉は自室から外を眺めていた。機体の整備は万全で、後は哨戒中の部隊の報告待ちである。
「…月があんな遠く。こんなとこまで来ちゃった」
 小さくなった月を眺めながら、更に遠い惑星…地球へ想いを馳せた。彼女は地球のことをまるで知らない。生まれは地球だったのだが、物心付いた頃には宇宙にいたのだった。
 母とコロニーで暮らしながら、たまに帰ってくる父のお土産がいつも楽しみだった。

 父は地球で仕事をしていた。大きくなったら地球の美しさを見せてやりたいと、何度言われたかわからない。土の匂い、雑味のある空気…そのどれをとっても彼女には想像の及ばないものだったし、今もその感覚を知らない。
 そんな父とも久しく会っていない。彼女が軍に入ると言ったとき、最も反対したのは父だった。
 入隊の為に両親の経歴を知っり、父の仕事が地球連邦軍での仕事だと知ったのもその時のことだ。親の仕事を知らぬまま育ったこと自体、今にして思えば不自然だったのだが。
 軍人というのは勲章の付いた制服で華々しく凱旋するものだと思っていたが、彼女の父はそうではなかった。
 軍服姿を見たことは無かったし、いつもビジネスマンの様な出で立ちで帰宅していた為全く気付けなかった。母も、父が軍人であることを口にしたことはない。
 話はもつれ、半ば絶縁の様な形で家を飛び出し連邦へ身を寄せた。宿舎もあり生活には困らなかったが、結局思っていた様な劇的な変化に富んだ生活ではなかった。父の手回しだったのだろう。
 何故か丁重に扱われ、MSパイロットとしての適性を認められたにも関わらず任務に従事することもまともに無かった。退屈な生活から抜け出したい、あわよくば華々しく意味のある死を享受したかった彼女だが、そんなものには当然巡り会えぬまま。
 ティターンズの横暴が目に付くようになり軍内でもその賛否が議論される中、彼女はエゥーゴへと走った。退屈だったのだ。ただ、それだけだった。
 エゥーゴに来てからというもの、やることは山積みの組織ということもあり充実感があった。しかししばらくすると月の哨戒に回された。また元の様な生活に逆戻りである。
 この時にグレッチ艦長やフジ中尉とは出会った。フジ中尉は今よりだいぶとっつきにくい男だったが、グレッチ艦長は当時から何かと世話焼きだったのを覚えている。

843 ::2020/06/17(水) 18:22:09.93 ID:5skNxF910.net
「…入っていいか?」
 扉の向こうからワーウィック大尉の声がした。
「どうぞ!」
 何となくソワソワして、バタバタと彼を出迎えた。彼が着任してからというもの、クルー達の印象はガラリと変わった。頼り甲斐があったし、他の連中の様にやさぐれていなかった。しかし、何となく陰る瞬間があるのを彼女は時折目にしていた。
「落ち着かなくてな。ソロモンを攻めるなんて、昔の自分が知ったらなんて言うかわからん」
 入室した大尉がそう言って自嘲気味に笑う。フジ中尉との一件やアクシズの件もあり、やはり堪えている部分もあるだろう。彼に椅子を寄越し、スクワイヤ少尉はベッドに腰掛けた。
「そうですよねー。大尉って、何でエゥーゴに入ったんです?」
「んー…。そうだなぁ」
 火傷の後を軽く指でなぞりながら少し言葉を濁した。彼は言葉に困ると大体その仕草を見せる。
「言いたくないならいいんですけど」
「いや、ジオンにいた時の自分が情けなかっただけだ。そういう自分や、もっと情けないティターンズが許せなかったからかな、エゥーゴに来たのは」
 彼の言葉を聞きながらドリンクを冷蔵庫から取り出す。
「ジオンにはお友達とかいないんですか?」
「いない事はないが、随分と少なくなったよ。地球に親友がいるが、当分会えそうもない」
「地球かぁ」
 大尉にドリンクを手渡しながら、画像や映像でしか見たことのない地球を思い浮かべた。
「地球ってどんなところなんです?生まれた場所なのに記憶になくって」
「地球は…不思議な場所だよ。何かと振り回されるというか、コロニーの様に整然としちゃいない。人間の所有物というよりは、人間もその一部なんだなと思わせるような…。すまん、難しいな説明するのが」
 大尉が笑った。依然イメージは沸かないままだ。

844 ::2020/06/17(水) 18:22:34.77 ID:5skNxF910.net
「…大尉、もし良かったらですけど…」
「ん?何でも言ってくれ」
 彼からの眼差しが真摯で、思わず目を逸した。
「その…この戦いが落ち着いたら…なんていうか…一緒に地球に行きませんか?…あ!いや!一緒に暮らそうとかそういうんじゃなくって!ほら!行ってみたいなあ…っていうか…」
 しどろもどろになりながら尻すぼみになってしまった。
「…そうだな、行こうか。会いたい人が沢山いるしな」
「言ってた昔のお友達ですか?」
「それもそうだし、前の戦線で一緒に戦った連中が今も地球にいるからな。また会おうって約束はしてたし、良いタイミングになるかもしれん」
「あの…彼女さんとかそういう…」
「?…ああ、俺はそういうのはからきし…」
 言いかけたところで呼び出し音が鳴る。
「すみません」
「いや、気にするな」
 間の悪さに内心舌打ちしながら応答した。

845 ::2020/06/17(水) 18:23:06.79 ID:5skNxF910.net
「はーい」
「なんだその返事は!大佐だったらぶっ飛ばされてるぞ」
 グレッチ艦長だった。相変わらず空気の読めない親父だ。
「で?なんです?」
「お前…。いや、哨戒部隊が戻ったからよ。多分ゲイルちゃんが1番暇してるだろうから掛けてみた」
「失礼な。事実ですけど」
 少尉がぶすくれていると、ワーウィック大尉が割って入った。
「私も暇してますよ、艦長」
「あれ?なんでそこに大尉が?ま…まさか…」
 何故か艦長がわなわなしているのが通信越しにわかる。
「大尉!後で話は聞かせてもらうからな!一緒にブリッジに来い!い…いや!別々に来い!」
「なんでわざわざ別々に行くんです」
「ゲイルちゃんは黙ってろ!全く…最近色気ついてると思ったらそういうことか!」
 思わず顔が熱くなる。
「いやいや、艦長、多分何か思い違いを…」
「いーや!俺は言い訳は聞かんぞ!軍法会議ものだ!俺が審議して俺が判決も出してやるからな」
「さっき話聞かせろって…」
「うるせえ!」
 ワーウィック大尉の静止も聞かず、艦長が怒り狂っている。
「ええい、何でもいいからブリッジだ!作戦指示を出す!」
「「り…了解…」」
 あまりの勢いに圧倒されたまま通信は切れた。その可笑しさに、2人は一緒に笑い声を上げてしまった。
「はあ…。行こうか」
「はい!」
 やや呆れ気味の大尉に付いていく様にして、少尉もブリッジへと向かった。地球に行くならどの辺りが名所なのだろうかと、ぼんやり考えていた。

39話 地球

846 ::2020/06/17(水) 18:24:06.15 ID:5skNxF910.net
「何?エゥーゴだと?」
 執務室で報告を受けたウィード少佐は声を荒くした。正式にコンペイトウの部隊に組み込まれ、まだ公表されていない戦略兵器開発の支援などを準備するところであった。嫌なタイミングだ。
「それも、そこそこの規模でこちらに向かっているようですな。敵の哨戒部隊を追跡したところ、敵艦を数隻確認出来ました」
 口髭を触りながらレインメーカー少佐が言う。
「まだ他の将校たちは知らないのですか」
 身を乗り出したウィード少佐だったが、一度腰を落ち着かせながら言った。最近感情の起伏が激しい様に思う。
「ええ、私の個人的な情報です」
「個人的な情報…?」
 レインメーカー少佐はたまにそういうことを言う。まるで他に手勢があるかの様な言い方だが、未だ謎の多い男だ。
「この拠点に来てから、私も手を尽くしておりますよ。コンペイトウの哨戒部隊は私が抱き込んであります」
「何故そんなことを?」
 問うと、彼は唇を噛んだ。
「…汚名返上の為です。シロッコ大佐の疑いが晴れぬままではシロッコ麾下部隊の名が廃ります」
「…」
 何も言えぬウィード少佐は俯いたまま立ち上がった。レインメーカー少佐が裏で動いている間、私はただ拗ねていただけではないか。
「…単独作戦のご指示を。あくまでも威力偵察と言ったところですが…。ここで敵を足止めし、警戒させることで時間が稼げましょう。
 キリマンジャロの放棄とコンペイトウ陥落が重なるともなれば、如何にティターンズといえども盤石では無くなります。それだけは避けねば」
 レインメーカー少佐の言葉に、彼女は顔を上げた。キリマンジャロ基地の放棄については近々為されると聞いている。まだ現場の兵の多くは預かり知らぬことである。少しでも多くエゥーゴを道連れにして地上から宇宙へと戦線を移行したい考えだ。
 ジャブロー、ニューギニア、キリマンジャロ…。地上拠点を尽く手放すのには何か理由があるのか。ジオン残党との協力といい、今のティターンズの進み方は幾らか歪になりつつある。
「わかりました。…まだ連中にグリプスの件を知られる訳にはいかない。近付かれる前に出鼻を挫き、我々の戦力を友軍に知らしめる良い機会でもあります。…陰口など今のうちに好きなだけ叩かせておけばいい」
 そう伝えると、満足そうに彼は頭を下げた。退出していく姿を見送るでもなく、ウィード少佐はアレキサンドリアの乗員達に戦闘配置の指示を出した。裏切りの汚名はここで晴らす。

847 ::2020/06/17(水) 18:25:05.53 ID:5skNxF910.net
「出撃だな?準備はいつでもいいぞ!」
 執務室を出て格納庫へ向かう彼女と並んで歩くようにソニック大尉が後ろから現れた。
「ええ。ステムはどう?」
 アレキサンドリアには新たにオーブ中尉の弟が部隊に加わっていた。中尉は今頃ゼダンの門に着いた頃だろうか。
「多少自信家の様だが、腕は確かだ」
「リディルと一緒ね。センスがあるのよ。…今回は私も出る」
 今回の様な単艦行動だと、ドレイク大尉の穴を埋める為にウィード少佐自身も出る必要があった。連携自体は隊長であるソニック大尉に任せる。
「ニュンペーの調子はどうだ?データのフィードバックは済んだんだろ?」
「ガルバルディのデータのおかげで改修も進んだわ。パラス・アテネもいい機体に仕上がるでしょうね」
 改修を重ね、ニュンペーはデータ上殆どパラス・アテネと同じ機体性能と言ってよかった。特にγは優秀な近接戦闘データが取れたらしく、シロッコ大佐の専用機にも技術が転用されると聞いている。

「ステムはどの機体に?」
「私ならご心配なく」
 格納庫でステム・オーブ少尉が出迎えた。髪が短くなければもっと姉に似ているだろう。
「機体ごと転属を許されたのは幸いでした。おかげで最低限の訓練で馴染みましたから」
 そういって彼が見上げた先には、見覚えのある機体があった。
「これは…シロッコ大佐が関わっていた…」
「ええ。ガブスレイです。払い下げを貰ったばかりだったので、特別に大佐から許しを頂いてこちらに搬入しました」
 昆虫を思わせる独特なフォルム、そして可変機構を備えた構造は一般兵の扱える代物ではない。大佐が彼を目に掛けたのも納得出来る。そしてその彼を配属にしてくれたあたり、まだアレキサンドリアは見捨てられた訳ではないのだと安堵する気持ちも湧いた。
「連携は取れるのね?」
「はい。大尉にひと通り仕込まれましたからね」
「生意気言うな。まだまだその細腕では完璧には程遠い!」
 ソニック大尉の指導にも熱が入っている様だ。当のステム少尉はあまり堪えていない様子だが。

848 ::2020/06/17(水) 18:25:39.34 ID:5skNxF910.net
「よし…新しい編成で行くのは初めてだ。各員気を抜くなよ」
「「了解」」
 ソニック大尉の声を受けて、皆それぞれの乗機へと急ぐ。ニュンペーを除く2機はまだ実戦慣れしていない。ある程度のカバーが必要だろう。
 少佐は手慣れた動作で機体を動かす。ニュンペーに続いてゼク・アインが、そしてガブスレイが出撃準備に入る。
『選り取り見取りになりましたな!こないだまでガルバルディだらけでしたから…新鮮です』
 レインメーカー少佐がブリッジから通信を入れてきた。今回のアレキサンドリア運用は彼に一任してある。
「機体性能の平均値にバラつきはない筈です。いずれもティターンズ指折りの機体ですからね」
『わかっておりますとも。ご武運を』
「ウィード少佐、ニュンペー出るぞ」
 先頭を切って少佐はカタパルトから飛び出した。ここで戦果を挙げねば死にきれたものではない。そんな逸る気持ちを抑えるには、彼女はいささか平静さに欠けていた。

40話 単独作戦

849 ::2020/06/17(水) 18:26:12.22 ID:5skNxF910.net
『やはり哨戒部隊のカンは当たった様だな』
 ワーウィック大尉の言うとおり、敵が出てきていた。スクワイヤ少尉はそれをモニターで目視しながら指で撫でた。
 大尉と一緒に居た件で勝手に怒っている艦長からブリッジで作戦指示を受け、各員コクピット内で待機しているところだった。
 哨戒部隊は敵の追手に感付き、敢えてアイリッシュに誘導していた。連中が引き返している間に僚艦達は進路を変え、敵の手薄になった拠点を叩く手筈になっていた。
「うまくいきましたね!これなら私達が囮になってる間に少しは敵を家から締め出せるかも」
『そうなればいいが…どうも敵は戦力を小出しにしてきている様だな』
 フジ中尉はまだ敵の出方を伺っている。確かに思ったほど釣れていない。
『とにかく…奴らの相手は我々だ。行こう』
『「了解」』
 いつもの様に百式とマンドラゴラを両翼につけ、やや後方から中尉のネモがついてくる。

850 ::2020/06/17(水) 18:26:36.17 ID:5skNxF910.net
『この辺りのデータはあまり入っていないんじゃないか?中尉』
『ええ、残念ながら。デラーズによる観艦式襲撃の際のデブリも未だに多いですからね』
 2人の言うとおり、中尉のネモは月面周辺の様にはデータの観測を出来ていない。多少手探りにはなるだろう。
『前方に敵影3つ。…流石はネモだな。敵とデブリの判別が早い』
 基本は有視界戦のMSだが、視界に入る情報解析という点ではかなりの技術進歩がある。捉えた物体のモデリング作成とデータ比較などを瞬時に行えるよう、中尉の機体は特別なチューニングが施されている。
「何が居るんです?」
『これは…未確認機体とガブスレイ…それから…例の試作機?』
 腐れ縁というのか。まさかここでも出くわすとは。
「あの水色、行く先々に居ますね…やっぱ量産型?」
『いや、詳細データは未登録のままだ』
『手合わせすれば同じやつかどうかはわかる!こっちから仕掛けるぞ』
 ワーウィック大尉が右に飛ぶのを確認して、少尉は左から敵に回り込んだ。

851 ::2020/06/17(水) 18:27:13.36 ID:5skNxF910.net
 敵に気取られるより先に左右へ取り付き、デブリの影に隠れた。敢えて中尉のネモはセンターを取り、そのまま解析を続けながら囮になる。
『気付かれました。こっちに来ます』
 中尉が威嚇程度に射撃を行う。敵もデブリをうまく利用しながら距離を詰めてくる。
『よし、そろそろ横っ腹を叩く。いいな?少尉』
「いつでも!…って、え?」
『まずい!』
 中尉の声とほぼ同時に、少尉の隠れていたサラミスの残骸が動いた。それを持ち上げるようにして現れたのは、青い装甲の大型機だった。こちらに気付いて1機だけ進行方向を変えたらしい。
「でかい…!」
 驚いたのも束の間、敵はそのまま残骸で殴りつけてきた。飛び跳ねる様にしてそれを避けると、距離を取りながらライフルを向ける。しかし敵は間髪入れずにミサイルランチャーを面で発射してきた。
「ばっ…反則よこんなの!」
 ホーミングしてくるミサイル群を躱しながら、デブリで防ぎつつ状況を確認する。残りの2機を大尉達が牽制している様だが、明らかにガンダムを狙った動きを見せていた。
 やや離れた地点に出てきてしまった少尉だったが、ガブスレイがそれすら追ってくる。
「TMSってやつか…速い」
 敢えてデブリの残骸の中を無軌道に進むが、敵は難なく付いてくる。敵のビームがマンドラゴラの頬を掠った。
「顔直したばっかなのよ!もう!」
 転身した少尉は、ガブスレイを迎え撃つ態勢を取る。しかしその時背後に気配を感じた。
「…!水色ッ!」
 敵のビームサーベルをシールドで受けようとしたその時、敵はサーベルを逆手に持ち替えてそれを避けた。
「こいつ…あの時の…!」
 その動きは、ガルバルディを仕留めた時の少尉と全く同じだった。そのまま繰り出されるサーベルの横凪ぎを交わしきれず、脇腹に斬撃を受けた。間一髪コックピットは避けたものの、明確な被弾だった。
『ちぃ…!』
 僅かに遅れて大尉の百式が薙刀を振るう。間合いが足りない敵機はそれを受け止めず更に距離を取った。
『大丈夫か!少尉!?』
「私は大丈夫です。ただ機体制御が少し…」
 言い終わらぬ間に先程の青い機体が迫る。察知した大尉が間に割り込んだ。ビームサーベルを抜いた敵機に対し、百式も薙刀を短く構える。両者の刃が交差し、力場が反発する際のスパークが煌めいた。
『やるな…!』
 鍔迫り合いになった大尉の足元からガブスレイが急接近する。
『だが、甘い』
青い機体を押し退けた大尉は機体を宙返りさせると、更にガブスレイとのすれ違いざまに蹴りを見舞った。可変機故か、AMBACが利かないガブスレイはそのままデブリに衝突した。
 大尉はそれ以上追撃せず、少尉の傍に付いた。中尉のネモが取りつこうとする敵機を牽制する。

852 ::2020/06/17(水) 18:27:36.35 ID:5skNxF910.net
「こいつら、機体は違うけど…」
『ああ…間違いなく試験部隊の連中だ』
 やや呼吸を乱しながら大尉が言った。
 敵も乱れた隊列を組み直す様にして小さくまとまった。ガブスレイも可変してMSの姿を見せながら、デブリを手で退かす。その傍に降りた水色の機体。そしてその2機の前に壁を作る様にして、青い機体が立ち塞がる。
 暫しにらみ合う様にしてどちらの陣営も動きを止めていた。
『大尉、僚艦からアイリッシュへ通信があったようです。敵は全く布陣を変えていないとのこと…』
『何だと?ではこいつ等は単独で…?』
『作戦が裏目に出ましたね…。これ以上付き合っても意味がありません』
『…しかし…』
 今回は敵の方がうまくやった様だ。しかし、ここで逃がす道理も無い。
「私ならまだやれます!」
『いや、このままの長期戦はこちらが不利だ…。地の利も敵にある』

 すると敵部隊はゆっくりと距離を開け始めた。じわりじわりと牽制する様にも見えるが、時間を稼いでいる様にも思える。
『戻りましょう。敵も消極的です』
「でも!やられっぱなしです!」
『少尉、まだ前哨戦だ。そう焦るなよ』
「む…」
 そうこうしている間に敵も少しずつ引いていく。一定の距離が取れたところで両軍母艦へと退いた。
『また消化不良だな』
 撤退しながら大尉がこぼす。前回の鶏冠戦でも敵を殲滅しきれなかった。
「でも前哨戦ですもんね、次はぶちのめします」
『切り替えが早いのは良いことだ。忘れっぽい所もたまには役に立つ』
「中尉、それ褒めてます?」

853 ::2020/06/17(水) 18:28:04.24 ID:5skNxF910.net
 アイリッシュに帰投すると、メカニック達が直ぐに機体の補修に取り掛かった。各機消耗はいつものことだが、マンドラゴラのダメージはやや大きかった。
「危ないところだった。こうして見るとなかなか傷が深いな…」
 少尉が機体を見上げていると、大尉がやってきた。マンドラゴラは腹部横の装甲が大きく融解し、内部の回路も一部損傷している。
「あの敵…私と同じ動きをしたんです」
「本当か?もしそうなら、かなり優秀な学習コンピュータを内蔵しているのだろうな」
 不思議な感覚だった。同じ戦術を取ったというよりは、癖もそのままにトレースされたという印象だった。自身のシミュレーションのレコードを見ている気分に近い。
「もしそうなのであれば…大尉のデータも取られているでしょうね」
 フジ中尉が合流してきた。
「私のデータに汎用性があるとは思えんがな。薙刀しか遣わんのだし」
「モーション自体をトレースしていれば、他の動作への応用は可能かもしれません。回避運動などはそのまま転用できるでしょうしね」
 ワーウィック大尉の動きまで取り込んでいるとなるとなかなか厄介だった。機体が違うとはいえ、相手も恐らくワンオフの機体だ。下手をすると場合によっては敵の方が動きが良くなる可能性すらある。
「戦う度に手強くなるとはな…」
 大尉が腕組みをして唸る。
「でも、逆に言えば敵はその場では対策出来なかったりするんですよね?だったらやりようはありますよ」
「良いことを言うじゃないか。腹を切られた割には」
「中尉、やっぱり褒めてないですよねさっきから」

41話 トレース

854 ::2020/06/17(水) 18:29:32.32 ID:5skNxF910.net
「いやはや、お見事です」
 帰還したウィード少佐達をブリッジで出迎えたのはレインメーカー少佐だった。
「…情報とは違いましたがね。敵もこちらの動きを読んではいたようですよ」
「そうはいっても、目的通り敵の足止めが出来ただけ上等です」
 彼はウィード少佐の懸念を気にする様子もないが、正直紙一重だった。敵も奇襲を考えていたから良かったものの、これでもしエゥーゴがウィード少佐達の殲滅を優先していたならば…今頃どうなっていたかわからない。
「私は…もっとうまくやれるつもりでした」
 唇を噛んでいるのはステム少尉だった。
「…いや、上出来だ。あのバッタは尋常ならざる敵と言っていい。あれに落とされなかっただけお前は見込みがあるよ」
 そういって少尉の肩を叩くソニック大尉だったが、彼も表情はやや暗い。

「…それで、状況は?」
 ウィード少佐はスクリーンの方へ歩みを進めながら訊いた。
「エゥーゴは再び艦隊を合流させて正面に陣取っております。これでお互いに腹の中は割れた様なものですな。今は膠着しております」
 飄々としているレインメーカー少佐だが、この戦況を作り出したのは彼と言っていい。老獪な男である。
「上は何か言ってきましたか?」
「"ご苦労"とだけ」
「ふん…内心どう思われているかはわかりませんね。独断専行に変わりはない」
「拡げた風呂敷です。勝てば官軍とも言いますから」
 ニコリとしてみせたレインメーカー少佐だったが、ウィード少佐は背中を伝う嫌な汗を止められなかった。
「勝てば官軍…負ければ賊軍ですか。シロッコ大佐からは何も?」
 ステム少尉が口を挟む。彼も落ち着いて居られないようだ。
「何も。…まぁ今は状況が状況ですからな。内通を疑われている以上、我々は我々でやるしかありません。オーブ少尉とガブスレイ、ソニック大尉のゼクが届いただけでも良しとしましょう」
「…致し方ないか」
 ソニック大尉も腕を組んだ。

855 ::2020/06/17(水) 18:30:06.96 ID:5skNxF910.net
 その場を解散し、ウィード少佐はレインメーカー少佐と共にブリッジに居残っていた。パイロット達には少しの補給の後、機体に待機させている。
 しかし、あまり間を置かず戦況が動いた。エゥーゴの艦隊が正面から接近しているという。
「数は?」
「サラミス級が2隻ですな」
「正面か…。焦っているのかな」
「エゥーゴにしてみれば地上との2面作戦ですからな。どちらが先に落とすかといったところでしょう」
「そうはいってもどの道キリマンジャロは落ちるのでしょう?」
「エゥーゴにそれだけの力があれば、の話です。手放しでやるつもりはありませんよ」
 そうこうしている間も友軍からの支持はない。
「将校は何をやってるんです?我々だけで相手をしろとでも…?」
「これまでずっと巣に引っ込んでいた連中ですからな。肝がちいさいのですよ。…少しは自由にさせてくれると思えば、まあ」
「わかりました。駐留軍を少し借りましょう」
「そう仰ると思いましたよ。既に手配済みです」
 そういってレインメーカー少佐は通信機を手渡した。全く準備のいい男だ。それを受け取ると、ウィード少佐はすぐさまムサイ改級を1隻、MS小隊を1つ出させた。アレキサンドリアもソニック大尉達を出し、艦はムサイ改と共にMS隊の後ろについた。
「レインメーカー少佐、そういえば敵は誰が指揮を?」
「今回は直々にロングホーン大佐が出てきた様ですな。油断できませんぞ」
「いつぞやの男か…。ソニック大尉が世話になったとかいう」
 月で会った時、厳格な顔をした男だったのを憶えている。必要以上に敵を大きく見る必要はないが、一筋縄ではいかないのは容易に想像できた。

856 ::2020/06/17(水) 18:30:43.08 ID:5skNxF910.net
『ドラフラ、基地の連中は俺が使っていいんだな?』
 ソニック大尉だった。
「そうよ。どうせ自分では動けないだろうからね」
『了解』
 彼の機体を筆頭に、ステム少尉と共に駐留小隊を引き連れて布陣を敷く。対するエゥーゴもMS隊を発進させている様子が伺える。数はあまり多くない。
「さて…正面はラムに押させるとして…」
「まだ旗艦が見えませんな」
 レインメーカー少佐の言うとおり、アイリッシュがまだ姿を見せていない。バッタやガンダムもそちらに居るはずだ。
「デブリに潜んでいる可能性が高いですね。…警戒を続けて」
 前線は交戦を始めている。索敵班に周囲の警戒を続けさせながら、アレキサンドリアもムサイと共に艦砲射撃を行う。この距離では到底当たるものではないが、敵の進路を狭める事くらいはできる。
「あくまで正面から突破するつもりですな、連中は」
 レインメーカー少佐の言葉の通り、第1陣に続き敵の第2波のMS隊が加わってきた。いずれも機体はネモとGM2の混合部隊の様だが、数においては敵の方が優勢だ。ソニック大尉達で捌ききれなかった分が少しずつ距離を詰めてくる。
「まずいね…いくらなんでもこの物量では」
「援軍を呼びますかな?」
「…!いや、まだです。…ラム!」
『おう!どうした!』
「敵を引きつけながら後退を!」
『気軽に言ってくれる…俺のロードワークについてこれるか若造!』
『よくわかりませんけどついていきますよ!』
 ステム少尉も叫ぶ。2人の息も合ってきた様だ。
「下げるのですか…。どうするおつもりで?」
「まあ見ていてください」
 怪訝そうなレインメーカー少佐をよそに、ウィード少佐の頭の中には描いた絵があった。

857 ::2020/06/17(水) 18:31:23.25 ID:5skNxF910.net
 ウィード少佐の指示通り、ソニック大尉達は敵を引きつけながらジリジリと下がってくる。好機と見たのか、敵は第3波のMS隊を繰り出してきた。
「よし…恐らくこれが全部でしょうね」
「なるほど。後はどう捌くかですな」
 レインメーカー少佐が唸る。
「こちらもまだ手は残しています。…工作部隊に伝達!やれ!」
 ウィード少佐の指示を受け、デブリに機雷を仕込んでいた工作部隊が遠隔で爆破を開始する。あまり広い範囲での仕込みは出来なかったが、前回の出撃で時間を稼げた際に要所だけ機雷を仕掛けていた。
 進軍を始めた敵のサラミス級だったが、囲んでいたデブリが弾けた。中には燃料を残していた残骸もあったらしく、誘爆して派手な花火を打ち上げている。敵艦の1つがそれに巻き込まれて爆炎を上げた。
「ほう、これはたまげた」
 レインメーカー少佐が目を丸くした。
「地の利はこちらにあります。…ラム!聞こえるね!?」
『なんだこれは…!凄いことになってるぞ!』
「でしょうね!今が好機!転身して!」
『承知した!』
 一転して身を翻したソニック大尉達が、混乱した敵部隊を蹂躙する。数で勝るエゥーゴだったが、母艦に気を取られた所を大尉達に反撃を受ける形で隊列を崩し始める。
「各員気を抜くな!爆破したデブリはこちらにも飛んでくるぞ!」
 艦砲射撃を続けながら、自軍の艦隊に近づくデブリも破壊する。しかしながら敵も必死だ。それでも尚前進を止めない。
「やりますなウィード少佐。しかしエゥーゴも退く気は無いとみえる」
 レインメーカー少佐がスクリーンにかじりつきながら言う。
「かなりの混戦になってきましたね。もうひと押ししたいところですが…」
 その時だった。爆炎の中からアイリッシュが姿を現した。

858 ::2020/06/17(水) 18:31:52.98 ID:5skNxF910.net
「!」
「来ましたな」
 敵はやはりデブリに紛れ込んでいた。恐らく爆破で炙り出す形になったのだろう。
「早々に旗艦まで引き摺り出せるとは思ってませんでしたがね…!」
「勝てば官軍…負ければ…。…ウィード少佐?」
 レインメーカー少佐が諌める様に言った。勝てば官軍、負ければ…。
「…レインメーカー少佐。こんな時に私は…。私にはまだまだその境地は見えません」
 興奮気味だったウィード少佐は肩の力を抜いた。ここで下手は打てない。焦ってはならないのだ。旗艦は出てきたが、こちらの戦力も敵MS隊と交戦中だ。半端に動かすと持ち直した敵部隊に挟撃を受ける可能性がある。何より今アレキサンドリアも裸に近い状態なのだ。バッタやガンダムが出てきてしまえば沈められてもおかしくはない。
「全軍に通達!もう十分に敵戦力は叩いた。一旦下がるぞ」
 目の前の餌に今すぐにも喰らいつきたい気持ちを抑えた。
「…少佐、私も殿に出ます。後はお任せしますよ」
「よしなに」
 レインメーカー少佐は微笑んだ。その皺に刻まれたものは幾ばくの経験なのか…。今のウィード少佐には測りしれなかった。

41話 皺

859 ::2020/06/17(水) 18:32:28.17 ID:5skNxF910.net
失礼、42話でした!笑

860 ::2020/06/17(水) 18:33:10.16 ID:5skNxF910.net
「ええい!ここで退くだと!?」
 ロングホーン大佐は思わず拳を肘掛けに叩きつけた。囮にすべくアイリッシュを晒したにも関わらず、敵はそれを無視した。
「し…死ぬかと…思いましたぜ…」
 グレッチ艦長が腰を抜かしている。何せ爆発するデブリの中を突き抜けたのだ。しかし、これだけの事をしても敵は動じなかった。
『どうします?私とフジ中尉は出れますが』
 ワーウィック大尉からだった。修繕が追いついていないガンダムを除いて、出撃準備は出来ている様だ。
「ここで退く訳にはいかん!後続が持ち直す迄アレキサンドリアに喰らいつけ!」
『了解』
 後続のサラミス級達は今頃地獄絵図だろう。
「…舵取りの上手いやつがいるな。だが、逆に言えば奴らさえ始末出来れば…」

 混戦の中を百式達が出撃する。多少の護衛が出てきたが、大尉達は難なく撃退している様だ。
「後続はどうか!?」
「まだ駄目ですな…。かなり数も減っとります」
 グレッチ艦長がやや弱気になっているが、致し方ないとしか言えなかった。
「何が何でも立て直せ!もう敵も手札は切った筈だ!このままでは追撃戦にならんぞ!」
 ロングホーン大佐は叫び続けたが、それで事態が好転する訳でもない事は自身がよく理解していた。
 その間も大尉達が前進を続けていた。デブリが高速で飛び交っているだけに、敵の動きも決して機敏ではない。
『もうじき取り付きます』
「よし。沈められずとも可能な限り叩け」
 こちらも手痛い反撃を受けたが、せめてアレキサンドリアさえ前線から下げられれば、次の戦いを有利に運べる。
 大尉達が敵艦に取り付いている頃、サラミスのMS部隊も落ち着きを取り戻しつつあった。継戦能力の無い機体をアイリッシュに収容しつつ、僅かな手勢で追撃をかける。
 敵のMS隊も母艦と合流しつつあるが、それをさせまいと粘るこちらの部隊が交戦中である。挟撃と言うには隊列が乱れきっており、未だ混戦に変わりはない。
「大尉達はどうかな?」
「敵の試作機とやりあっている様ですな。腐れ縁ですよ全く」
 捕虜の解放交渉に来た敵将校の護衛がまさしくあの機体だった。
「…指揮官はあの爺かもしれんな、食えんやつよ」
 大佐は思わず笑った。グレッチ艦長の言うとおり腐れ縁なのだろう。

861 ::2020/06/17(水) 18:35:01.05 ID:5skNxF910.net
 どうも大尉達は攻めあぐねている様だった。ガンダム抜きではこんなものか。後続のMS隊も敵の殆どを討ち漏らしている。ようやく結果的に追撃の形になってきたが、これではどちらが敗走しているのかわからない。
「弱ったものだな。艦長よ」
 ため息をつきながら戦場を見渡した。グレッチ艦長は唸りながら髭を弄っている。
「敵もよくやります。後続のサラミスが被害状況をまとめ始めてますが、どうしますかね」
「潔く退くのも戦いか。仕方あるまい…追撃は切り上げる」
 大佐は重い腰を上げ、全軍に帰投命令を下した。敵との戦線を押し上げる事には成功したものの、殆ど敗戦というべき戦果であった。

 撤収していく敵部隊を口惜しくも見送り、それからは部隊の建て直しにかかった。サラミス級が1隻轟沈、MS部隊も2小隊は失っていた。残っているのは小破したアイリッシュ1隻とサラミス級1隻、ガンダム達を含むMS小隊が3つといったところだ。機体はいずれも補給が必要な状態である。
「諸君はよくやった。これで終わるつもりはないのは私だけではないのも承知している。…次だ。次で全てが決まるだろう」
 各員に向けた通信を送った。恐らく士気もまだ下がりきってはいない筈だが、唇を噛んでいる者も少なくない。
「…次はどう出ますか」
 ブリッジに帰投したフジ中尉だった。ワーウィック大尉も傍らにいる。
「ご苦労。諸君の働きでアレキサンドリアも無傷ではないな」
「しかし、あの程度ではまだ」
「うむ。とはいえあちらから仕掛けてくるほどの余力もあるまいよ」
 ロングホーン大佐は椅子に深く腰掛ける。グレッチ艦長がその側で各部署の報告を受けている。
「気になるのは他部隊の動きですね。戦力がゼダンの門に集中しているとはいえ、いくらなんでも抵抗が少なすぎます」
 フジ中尉の言うことは道理だった。こちらも必死で仕掛けはしたが、まさかあそこまで徹底的な抗戦に出るとは考えていなかった。
 しかも戦力的にはかなり少数と言ってよかった。まだ温存した戦力があるのだろうが、やはり士気が高いのは一部だけと考えて良さそうだ。
「残る戦力の士気は著しく低いと思っていいだろう。上もそういう判断で我々をこの戦力で派遣している。とはいえ一応月からは直に増援が来る予定だ」

862 ::2020/06/17(水) 18:35:33.84 ID:5skNxF910.net
「大佐…」
「何だ」
 ワーウィック大尉が何やら考え込んだ表情で言った。
「キリマンジャロはどのような状況です?」
「ああ、あちらはかなり順調な様だ。カラバとも上手くやっている」
「やはりそうですか。あくまでも憶測ですが…ティターンズは何か隠しているのではないですか?」
 面白い事を言う男だ。確かにロングホーン大佐も気掛かりなことはある。
「ティターンズにしては地上も宇宙も…どちらも抵抗が薄いものな。まるでこちらの必死さを嘲笑う様だ」
「私もそれを感じます。しかし、そうやって我々の消耗を狙っているのであれば、そこからの勢力図を一気にひっくり返せるだけの何かがなければ…」
「大尉。君の言うことはよくわかる。だがな、今考えるべきはコンペイトウだ。そこを忘れるな」
「はっ」
 彼が改めて姿勢を正した。正直彼の言う大局もあながち見逃していいものではない。ティターンズがコンペイトウを手薄にしているのであれば、ここで手こずっていては今後の作戦の如何に関わる。

「よろしい。また追って指示を出す。諸君は少しでも英気を養いたまえ」
 そういって2人を一度退出させた。グレッチ艦長もひと通りの報告を受け終わった様だ。
「…速攻を掛けるのも手だな」
 ロングホーン大佐は独り言のように呟いた。
「ま…まさか!援軍を待った方が良いんじゃないですかい?」
「敵もそう思っているとは考えられんかな?あの必死な抵抗…意外と突き崩せれば脆いやもしれん」
「そりゃそうかもしれませんがねぇ…。肝心のこっちの戦力がズタボロです」
「私もコンペイトウの戦局は大きく見ねばならんと考えてきた。しかし、意外とそうでもないのかもしれんと思ってな。もっと大きな目でこの絵を見れば、実際には小さな点に過ぎんのかもしれん」
「はぁ…」
 何やら飲み込めないといった様子の艦長だが、ロングホーン大佐の中では殆ど確定的な認識だった。
「こちらが休めばそれだけ敵も休ませる事になる。戦いが長引けば、最終的には増援のないコンペイトウの方が苦しくなる筈だ。今のうちに叩けるだけ叩いて消耗させねばならん」
 大佐は立ち上がり、ブリッジからの眺めを見渡した。同じ連邦の拠点でありながら、それはまるで旧ジオンの拠点ソロモンさながらに立ち塞がっていた。
 思い返せば、あの時もこの拠点は半分捨て駒の様な扱いを受けていたように思う。本来ならば重要な拠点なのだが、旧ジオンは派閥争いの為にここを切り捨てた。その結果、かなりの戦力がア・バオア・クーに集結することとなった。

863 ::2020/06/17(水) 18:36:02.04 ID:5skNxF910.net
「…!…まさか…コロニーレーザーか!?」
 大佐は思わず目を見開いた。旧ジオンはそうやって引きつけた連邦の戦力の殆どをコロニーレーザーで焼き払ったのだった。ソロモンで必要以上の戦力を消耗せず、コロニーレーザーで一気に戦局を巻き返した。実際、最近ティターンズはグリプス2周辺で不穏な動きを見せている。目的は不明だったが、密閉型コロニーはレーザー砲の砲身にするにはうってつけである。
「いや…有り得ん話ではないな…!」
「大佐…もしそうなら…」
 艦長も話に合点がいった様子だった。

43話 合点

864 :通常の名無しさんの3倍:2020/06/20(土) 17:00:16 ID:WW2VzUU20.net
乙です!

ついに明かされるスクワイヤの出自...
スーツ姿の軍属だった父というのは、特務機関の偉い人?
一年戦争(とデラーズ戦役)で消耗した連邦軍がパイロット適性の新人を遊ばせとくとは、普通は考えにくいですね
37話のグレッチ艦長の発言からも、何だかんだエゥーゴは連邦の一部なのだと伝わってくるものがあります

グレッチ艦長、ややスケベ親父だったのがちょいガミガミ親父になってるw
地球のこと考えて浮かれてるスクワイヤ可愛いです、ジオンの亡霊の聖地なんかでタヒぬなよー!

Sさんの考えだとコロニーレーザーは各拠点でパーツ製造しグリプスに運ぶ感じですか
確かにドゴス・ギアもコロニーレーザーも単一拠点で作るのでは非効率的ですね
レインメーカー爺さん、やりますね! もしや......この男こそ特務の上級将校でスクワイヤの父親では?!(多分違う)
陥落前のも含めて地上拠点複数放棄は不可解な話、これではジャミトフの理想は......バスクとシロッコ、どちらの思惑か

ステムは赤毛の中性的美青年ってところですか......カミーユ2Pみたいな(笑) それでガブスレイですか
配備機で力関係が伝わるのも面白いですね、加速ライフルにスマートガンにフェダーインとライフルだけで普通じゃないw
ガブスレイとニュンペーがエゥーゴと交戦し始めた時期は同じくらいだと思うのですが
後者の名前が出ない辺り、前者はサラのリークで多く割れてるといったところ?
虫野郎な可変機は大体ジェリド隊で機能がアピールされてますが、出来たら額バルカンが活躍するところも見たいです!
ソニックのゼクアイン、初っぱなから筋肉式奇襲w ミサイルもライフルも上手く使うし、実はガルバルより合ってる?
ニュンペーの水影心攻撃...ニンフからの連想でしょうか? 隠し腕もあり手数が多そうなのは手強く感じます
スクワイヤはアマクサ戦のトビアみたいなこと言ってる、これも強そう

ウィード隊は案山子よりマシ程度のコンペイトウ隊を引き連れ迎撃
なまじ腕のあるステムの直後だけにガタガタの編成になりそうなのがもうw と思ったら善後策で膠着に持ち込みました
爆炎の中から出てくるアイリッシュのカッコいいこと! 今更ですが緑の百式改は一貫して「バッタ」なんですね(笑)

なるほど、グリプス戦役はどこか戦線だけ大きいイメージがありましたが
エゥーゴはここまで対ティターンズ戦の決定打になる点を見出だせてないと...
一年戦争を振り返りつつ隠し球に気づくのは上手い流れです、が前大戦のは「ソーラ・レイ」なので改稿した方が良いかと

続き楽しみに待ってます!

865 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:48:42 ID:GwywEkd60.net
>>864
彼女の父については重要な部分になるので、今後掘り下げていきます!
艦長や一部の人間は知っている様ですが、ほとんどの人間が知らないことです。
設定としては最初期の構想からの決定事項なので、是非読み進めてもらえればと!
グレッチ艦長は完全にお父さんですね…笑

コロニーレーザーみたいなでかいものを作るともなれば、工廠をもつ拠点の助力は居るかなと。
因みに個人的にはコロニーレーザー(ソーラ・レイ、グリプス2)だと思ってるので、文章ではそう表記してます!括弧内が個別名称という認識です!

ジャミトフの真の目的は地上から人を上げることなので、戦線が宇宙に移行するのは納得です。とはいえそれを前線の末端まで理解しているはずもなく…っていうのがティターンズが負ける敗因のひとつだと思ってます。

ステムは髪型が違うリディルくらいのイメージです笑
カミーユ2Pは想定外でした笑笑
ガブスレイは複数機出てますが、ニュンペーはウィード機のみなので名称不明といったところです。Zみたいなフラッグシップモデルでもないですしね。
量産機に優秀な学習装置を積むっていうのはGMからの伝統なので、それを更に掘り下げようかと。

アクシズもティターンズと結び、今はエゥーゴの厳しい時期です。
ここからどう巻き返していくのか、読み進めてみてください!

866 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:54:19 ID:GwywEkd60.net
 マンドラゴラの修理が終わったのは、攻略戦から少し時間が経過してだった。
 出撃出来なかったこともありスクワイヤ少尉自身も手伝ってはいたものの、他部隊の補給も急がねばならず、ドックは相変わらず慌ただしく人と機材が行き交っていた。
「あ、中尉!」
 格納庫から退出しようとしているフジ中尉に声を掛けた。
「少尉か。ガンダムはどうだ?」
「おかげさまで取り敢えずは。…参戦できなかったのが心残りですけどね」
「そういうな。まだ始まったばかりだろう」
 腕組みしたフジ中尉の横で、手すりに寄りかかりながら辺りを見渡す。サラミスが落ちたことで母艦を失い、アイリッシュに帰投した者も多い。心なしか普段見ない顔が多いように思えた。
「おいお前ら!暇してるんならこっち手伝え!」
 少尉達に気付いたメカニックのひとりが怒鳴った。どこも人手が足りていないのだ。
「はーい!…って中尉何処行くんです?」
「私は大佐とミーティングだ。後は頼む」
「ちょっとー!…む、仕方ないな…」
 そそくさと出ていった中尉にムッとしつつ、少尉はメカニックの手伝いに戻った。

 それから少しの間を置いて、パイロット達がブリッジへと招集された。
「補給もままならんというのに…すまんな」
 グレッチ艦長が皆に頭を下げた。おべっかつかいをやっていただけあって、人の心の機敏には鋭い。この一言だけでも、現場の人間達には響くだろう。
「ここは戦地だ。致し方あるまいよ。…さて、諸君を呼び立てたのは他でもない。奴らへの強襲をかけるためだ」
 グレッチ艦長とは対照的に、ロングホーン大佐はテキパキと作戦指示を始めた。どうも自然と役割分担できているらしい。
「前回は辛酸を舐めさせられたからな。…だからこそ奴らを休ませてはならん。絶えず攻め立てることで我々の攻略への意思が伝わるだろう。絶対に逃さん、とな」
 ロングホーン大佐の低い声はよく響く。それが尚更説得力を増していた。

867 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:55:14 ID:GwywEkd60.net
「しかし、こちらももうボロボロではないですか…」
 合流したパイロット達のうちのひとりが声を上げた。
「案ずるな。月からの増援を予定より急がせている。彼らと入れ代わり立ち代わり攻め立てることで、我々は補給も行えるようになる。苦しいのは今だけだ」
 大佐の説明に皆黙った。
「…わかるぜ。今ここにいる面子は仲間を失ったやつも多いだろう。
 でもな…ここで戦わねぇと、その犠牲も無駄になっちまう。そんで、もっと多くの仲間がやられるかもしれねぇ。今は俺達が先鋒だ。頼まれてくれ」
 グレッチ艦長が言葉を添えた。少尉は艦長のこういうところは好きだった。いらない一言を添えることもあるが。
「…では、作戦の説明をフジ中尉に任せたい。良いかね」
「はい」
 ロングホーン大佐の呼びかけで、中尉が前に出た。彼の分析力は大佐にも買われているらしい。
「今現在、我々はコンペイトウとかなり近い宙域に位置しています」
 そう言うと、スクリーンに周囲のデータが映し出される。
「流石にまだ上陸作戦とはいきませんが、もう少し進軍すれば拠点自体への砲撃も視野に入る距離です。今回、何処から攻め立てるのかですが…」
 喋りながら中尉はスクリーンの元まで歩いた。
「ここからいきましょう」
 彼が指し示した場所は、コンペイトウの上部だった。めぼしい設備も見当たらないような位置である。
「何でそんなところを?」
 少尉は思わず声に出して訊いた。
「いい質問だ。返す質問で悪いが、少尉はここに何故敵の設備が少ないのか解るか?」
「え…そりゃ…石が硬かったんじゃないですかね」
 場から小さく笑い声がこぼれる。悪いことを言った気は無かったが恥ずかしい気分である。
「…ここはな、デラーズ紛争で核攻撃を受けた爆心地近くだ。その時に殆どの戦力を一度失っている。明確な外敵のいないうちは、ここを改めて補強する必要が無かったのだろうな…今もここは手薄なままだ」
 馬鹿にされても都度思うが、彼の説明は非常にわかりやすい。馬鹿にはされるが。
「それで、この手薄な場所から攻め立てるのが今回の作戦だ。抵抗があれば敵の戦力を分散出来るし、抵抗がない場合にはあわよくば上陸できる」
「…そういうことだ。いずれにせよ正面から仕掛けるより分がある。デブリも少ないしな」
 大佐は前回のデブリ爆破で機雷にはウンザリしている。中尉の言うとおり爆心地ならば、デブリも比較的少ないだろう。
「異論はないか?」
 大佐の呼びかけに対し、皆意志は固まっているようだった。
「よろしい。ならば最後に…加えて皆に共有しておきたい事がある。ティターンズは、コンペイトウやゼダンの門だけでなく…更なる拠点を建造中との見方がある。
 その正体はまだ明るみにはなっていないが…私の見立てでは、大量破壊兵器ではないかと考えている。まだ憶測に過ぎんがな。
 その建造物が何であるにせよ、ここでコンペイトウを叩かねばその完成はより早まるだろう。だからこそ諸君の力を、今借りたいのだ」
「大量破壊兵器…」
 少尉に実感は沸かなかった。そこまでして人類は一体何と戦おうというのだろうか。大義名分?生存競争?はたまた単なる意地なのか。

868 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:55:59 ID:GwywEkd60.net
 説明が終わり、それぞれ持ち場へと戻っていく中にワーウィック大尉を見つけた。
「今度こそ私も出れそうですね」
「少尉か。やはり少尉抜きだとなかなか上手くいかんよ」
 頭を掻く大尉と横並びで格納庫へと向かう。
「私がいないんじゃ大尉も実力発揮出来ませんからね」
「まあそんなところだ。ガンダムはもういいのか?」
「あの子だけ一応アナハイムの技師がついてるんで、修理は比較的早いんですよ」
 マンドラゴラは試作機ということで、アナハイムから出向した技師が世話を焼いてくれる。技師の話に依れば、マンドラゴラの元になった機体はデラーズ紛争時にこのコンペイトウで散ったという。
 表沙汰にはなっていない話の様だが、人の記憶・口頭の伝承までは消せはしない。その証人がマンドラゴラとも言える。
「…マンドラゴラの兄弟達がここで戦ったらしいんです。何かの縁かもしれませんよね」
「アナハイムの開発計画が以前もあったと聞くものな。きっとその魂もあの機体は受け継いでいるのさ」
「魂か…」
 モノにも魂が宿るなら、ヒトと何が違うのだろう。自らの魂で訴えかけることが出来る人間が、どれほどいるだろう。

「また追って指示がある。コックピットで待機だ」
「了解!」
 格納庫に到着するなり、少尉はマンドラゴラの元へ駆けた。コックピットにヘルメットを放り込み、自身も搭乗口に手を掛けながら飛び乗る。
 初めの頃は戸惑った全天周囲モニターにも随分慣れた。もっとこの距離感を掴めば、機体の手足がまるで自分のものの様に感じられるだろう。今はまだマンドラゴラとの二人三脚だ。
「あんたの魂…私は感じる」
 コックピットの中、ひとり呟いた。深く深呼吸し、制御アームに手を乗せる。多くの人々の技術と想いの結晶。それが何故少尉に託されたのかは未だにわからない。ただ、その魂が彼女の魂と共振している事だけは確かだった。

44話 爆心地

869 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:56:42 ID:GwywEkd60.net
『そろそろ予定のポイントです。案の定…手薄ですね』
『わざわざこっちまで回り込んでくるとは敵も思うまいな』
 ワーウィック大尉とフジ中尉の通信を聞きながら、スクワイヤ少尉は2人と共に先行して敵の動きを探っていた。
「しっかし…殆ど何もありませんね…」
『そういう場所だからな』
『ですが、上陸して簡易的な拠点でも組めれば腰を落ち着かせて作戦を進められます。
 要塞の設計が変わっていなければ古い工廠もここから近い筈です。整備して補給拠点として使えれば都合も良いのですが』
『敵地で補給か。屯田兵みたいなものだな』
「ドンデンへー?」
 この2人と話していると知らない単語がよく出てくる。
『旧世紀の戦争では、敵地で田畑を耕して兵糧を補給していたそうだ。それをやっていた兵のことさ』
「へー、大尉って物知り」
 そんなことを話しながら辺りを探索する。他所に流れてしまっているのかデブリも比較的少なく、少しずつコンペイトウの岩肌も近づいてきた。

『敵影が3つ。いずれもハイザックですね』
「このくらいなら私達でもやれますね」
『いくらなんでも手薄過ぎないか?そりゃあ全ての防衛ポイントを抑えるのは無理だろうが…。逆に半端な数のモビルスーツが居るのは気になる』
 確かに大尉の言う通り、いくらか不自然な印象も受ける。
『いずれにせよここは抑えなければならないポイントです。我々で突いてみましょう。藪から蛇ってこともありますが…』
「ヤブカラヘビ?」
『少尉は少し黙ってろ』
「中尉も物知り」
 フジ中尉の毒々しい物言いにもすっかり慣れてしまった。彼は彼で少尉の扱いに手慣れてきている気がする。

870 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:57:20 ID:GwywEkd60.net
 敵に気付かれるのを承知で敵のセンサー範囲へ入る。隠れようのない以上、速攻が有効である。
「マンドラゴラ、先行します」
 機動力に優れる少尉のガンダムを筆頭に、百式とネモが続く。こちらの動きに気付いたハイザック達が迎え撃つが、敵も多少狼狽えているのがわかる。
 小さく固まっているハイザックを中尉のネモが撃つ。それを躱そうと慌てて隊列を崩した直後、ガンダムが襲った。
 袈裟斬りにして1機始末すると、返す刃で振り向きざまにもう1機横凪ぎにする。それをシールドで受けたハイザックだったが、その背後で百式の走査線が赤くチラついた。
 背後から押し当てた薙刀に形成されたビーム刃が的確にコックピットだけを貫く。逃げ出すようにして撤退を試みた残りの1機だったが、こちらはネモのライフルで撃ち抜かれた。

「…片付いた感じですね」
 また辺りに静寂が戻った。
『しかし、このまま上陸というのは余りに呆気ないな…』
『或いは、罠かもしれません』
 3機はゆっくりと地表に着陸した。敵は叩いたものの、ここに来て1度足を止める。
『我々だけで判断するのは危険かと。アイリッシュに通信を行いましょう』
『そうだな…』
「む…」
 少尉が溜息をひとつついた、その時だった。コンペイトウに敵影らしきものが映る。

871 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:57:54 ID:GwywEkd60.net
『増援か!?』
『機種不明…こ、これは』
 岩肌から突如茎のようなものが伸び、虫の頭を思わせる形状のユニットがチューリップの様にゆらゆらと揺れ始めた。
「何あれ…気持ち悪い」
 映像が鮮明でないが、極太のワイヤーか何かが先端のユニットを支えているらしい。
『防衛設備のひとつでしょうか?それにしてはあまり見ない形状ですが…』
『フジ中尉は一時退避してアイリッシュに通信を。熱源を見るにこの形は…』
 ワーウィック大尉のいう熱源は大きな菱形に見えた。岩肌の下に感知しているが、異様に大きい。
「うわっ」
 その岩肌がせり上がった。辺りの地表が大きく揺れ始める。宇宙空間では音を発していないが、この振動は尋常ではない。
 先程の茎が生えた辺りを中心に地割れが始まる。岩肌と思われていたこの辺りは、堆積物に覆われたシェルターのようであった。ひび割れた表面の下に人工的なパネルが見え始める。
『大尉!』
『いいから行け!ここは私達で抑える!』
『し…しかし!』
「…来ます」
 シェルターが開き、熱源の全容が徐々に姿を現す。緑色をした大きな物体は各部に砲門のような機構を備えているらしかった。頭頂部に先程のワイヤーが接続されており、生き物の様にうねっている。
『こんなもの…!いくら大尉達でも2人だけでは!』
『だから行けと言っている!増援を寄越すんだ!全滅したいのか!?』
『り…了解!』
 珍しく声を荒げた大尉に押され、中尉のネモは戦線を離脱した。

872 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:58:57 ID:GwywEkd60.net
「…で、どうするんです?これ…」
 思わず少尉は脱力してシートに沈んだ。どう見てもMAである。敵はまだ完全に動ける状態ではない様で、中尉を追う素振りは見せない。
『まさか完成していたとはな…グロムリン』
「知ってるんですか!?」
『ジオンの試作MAだよ。ほぼペーパープランだった筈だが、恐らくはティターンズの連中が組み上げたんだろう…』
 完全にシェルターが開き切り、足元まで確認出来るようになった。全長60mはある。グロムリンと大尉が呼んだその機体は、巨体を支えている一本脚を、ゆっくりと屈めた。
『…来るぞ!』
 大尉の声と殆ど同時に敵はメガ粒子を辺りに撒き散らした。撃つというにはあまりに砲門が多過ぎる。文字通り雨の様に、地表へビームが降り注いだ。
「あはは!笑うしかないでしょこんなの!!」
 少尉はヤケ気味に笑い声を上げた。2人は器用にビームを躱しつつ距離を取る。それを捉えた有線ユニットが少尉目掛けて更にビームを放つ。
「こなくそ…!」
 身を捩り既のところでそれを躱す。しかしそれを躱したところにも容赦なくビームの雨が降る。
『くそ!何処まで保つかわからんな!』
 大尉もうまく距離を取ろうとしているが、敵の攻撃を避けるので精一杯の様だ。
 すると敵は一本脚を踏ん張り、上にそのまま跳ね上がった。
「跳ぶの!?」
 ノズル噴射で機体のバランスを取ると、その一本脚をクローの様にして真っ直ぐ突っ込んできた。
「嘘でしょ…」
 ガンダムは螺旋状に飛ぶと、脚に絡む様にしてそれを躱す。しかし本体を避け切れず接触してしまった。激しい振動が機体を襲う。
「ぐぅ…っ!」
 まるで車にぶつかった子供のように、意に介さぬ敵の装甲にぶつかりながら弾き飛ばされる。
『少尉!』
 ワーウィック大尉の百式が全速力で追う。弾き飛ばされたガンダムを見つけ、速度を合わせてどうにか受け止めた。
「くっ…あんなの規格外ですって…!」
『わかってる。あれは本来対艦用の決戦兵器だ。逆立ちしたって勝てん』
 敵はそのまま大きく迂回し、再びこちらに向かってこようとしている。
『蛇どころか化け物が出てきたな…どうりで手薄な訳だ』
「でもこいつを落とせたら…」
『少尉…本気か?』
 正直言って勝てる気はしない。しかし、ここで死ぬならばそれまでだ。諦めではなく、自ら生を掴みにいきたいと感じていた。
 少尉は初めて、恐怖を手懐けた。

45話 藪から蛇

873 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 14:59:44 ID:GwywEkd60.net
「中尉が戻ってくるまで、落とされる訳にはいかないんですよ」
『その通りだな。しかし、このままではまともに近づく事もできん』
 再び突進してきたグロムリンを迎撃する。厄介なことに、突進しながら砲撃も躊躇なく仕掛けてくる。
『ちぃ!』
 その尽くを躱しながら、今度は大尉が仕掛ける。一定の距離まで間が縮まったタイミングで、百式は一気に逆噴射を行った。そのまま敵の勢いを殺すと、数ある爪の1つを切り落とした。
『く…この程度では…!』
 すぐさま離脱を試みた大尉だったが、追いかける様に敵がそのままグルリと回した脚部に蹴飛ばされる。
『ぐぅ…!!しょ、少尉!!』
 僅かに敵の姿勢制御が乱れた一瞬を突き、少尉はライフルを撃ちながら敵へ突っ込んだ。こちらを向いていた砲門をいくつか潰しつつ、更に接近する。
「うッッッ…とおしい!!!」
 少尉はサーベルを抜くと、破壊した砲門の1つに突き立てた。しかし相当な巨体である。浅く刺しただけでは致命傷にはならず、すぐに旋回した敵にまたもや振り払われる。そのまま地表へと叩きつけられた。

「あーあ、駄目だこりゃ」
 崩れ落ちる周囲の岩に囲まれながら、ガンダムは半ばその場にめり込むように坐礁した。少尉らをあしらった敵は悠々と着地する。
『質量が違い過ぎる。砲撃をいくら避けたところで、これではな…』
 ガンダムは勿論、大尉の百式も相当痛めつけられている。少尉とはいくらか離れた位置で膝をついているのが視界に入った。
 お互い部位の欠損こそ無いが、駆動系も装甲もかなりのダメージを受けていた。しかしそんなことはお構いなしに、敵は尚も飽きることなく砲撃を行ってくる。
『…待てよ』
 軋む機体を動かし、どうにか回避運動を行いながら大尉が呟く。
『あのビグザムでさえ稼働時間は20分しか無かった筈だ。最新技術で組み上げたとしても、あれだけのビームをいつまでも撃っていられるものか?』
「あれだけぶっ放してれば…息切れしてもおかしくない…!」
 少尉のガンダムも、大尉とは反対側からグロムリンに回り込む。
『恐らく…他部隊との連携が取れんからここに配備されているんだろうな。パイロットも乗り慣れてはいないかもしれん』
 言われてみれば、単純なパワーに物を言わせた戦い方である。高度な動きは今のところ見せていない。
『よし。少尉…ここはジワジワと敵の戦力を削ぐ。距離を取りつつ確実に装備を破壊するんだ』
「了解!」
 相も変わらず降り注ぐビームを躱しながら、敵の隙を探り続けた。
「まだいけるよね…マンドラゴラ」
 青い軌跡を残しながら、ガンダムはひたすら駆けた。

874 :◆tyrQWQQxgU :2020/07/01(水) 15:00:15 ID:GwywEkd60.net
 威勢よく返事をしたものの、敵MAは高火力・高機動に加えて兵装の全容はまだ見せていない。適度な距離を保ちつつ狙いを定めるのは並大抵の事では無かった。
「調子に乗って…こいつ!」
 流石のガンダムもガタがきているのか、躱しきれない攻撃が掠め始めていた。砲撃を逸らそうと角度をつけたシールドが、そのままビームに持っていかれる。
「まずっ…!」
 シールドに腕を引っ張られる形で機体が大きく傾き、そこへ更なる砲撃が襲った。幾つかを躱し、しかし幾つかをまた掠めた。
『大丈夫か!?』
「どうにか…!」
 そういう大尉の百式もあちこち装甲を失っている。彼は近接武器しか携行していない事を考えれば、更に攻撃は難しいはずだ。
『敵のシルエットは左右対称だ。両面を相手にせず、一面を2人で叩いて敵の砲撃を散らす』
 言うやいなや、息つく間もなく大尉は半ば囮になるような形で飛び出した。上部から攻める大尉に対して、少尉は足元から敵へ接近する。
 少尉は自分を狙う砲撃を躱しながら、大尉に狙いを定めた砲門から優先して破壊を試みる。そうすることでとにかく大尉の突破口を開く。
 しかし敵も側面を晒し続けることに抵抗を覚えてか、うまく旋回しながらこちらに一面を攻めさせない。敵は再び地表から脚を離すと、今度は有線で脚部そのものを射出してきた。
「くそっ…!」
 避けきれなかったガンダムは正面からクローに掴まれた。そのままクローはガンダムごと地面に突き刺さり、身動きを封じられてしまう。
『すぐ行く!』
 転身した大尉だったが、うねりながらそれを追いかける敵の有線ユニット。すぐに追いつかれ、大尉の百式も腕をワイヤーに絡め取られてしまった。

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